柔軟で表面修飾が可能な マシュマロ状シリコーン多孔体 京都大学大学院理学研究科化学専攻 PD 早瀬 元 ○助教 金森 主祥 准教授 中西 和樹 1 従来技術とその問題点 既に実用化されている柔軟な多孔体としては、ポ リウレタンやシリコーンなどの発泡体があるが、 細孔サイズや気孔率の幅広い制御が困難 安定に扱える温度範囲が比較的狭い 表面の化学修飾による物性制御が困難 などの問題があり、これらを改善することにより、 新しい用途展開が可能となる。 2 新技術の特徴・従来技術との比較 • 発泡樹脂と比べて、広い範囲での細孔サイズ および気孔率の制御が可能となった • 気孔率の高いものは柔軟性が高く、非常に柔 らかい • シリコーン組成であるため、およそ−130°C から300°Cまで物性が変化しない(液体窒素 温度でも柔軟性を保持する) • 撥水性が高く、表面修飾により撥油性の発現 も可能となった 3 作製方法 CH3 CH3 CH3O Si OCH3 HO Si OH 加水分解 重縮合 OCH3 OH 湿潤ゲル + + 室温 80 °C CH3 CH3 CH3O Si OCH3 HO Si OH CH3 洗浄 乾燥 CH3 酢酸水溶液、界面 活性剤、尿素 • • • • ワンポットプロセスであり再現性が良好である 溶媒の蒸発を防ぐために密閉条件が必要 作製にかかる時間は8−12時間程度 メチル基以外にもビニル基などで官能化することができる 4 微細構造とゲルの性状 4:6 2.4 : 7.6 0 : 10 2 µm 200 nm CH3 CH3O Si OCH3 CH3 : 20 µm CH3 CH3O Si OCH3 OCH3 • 前駆体のアルコキシシラン比によって細孔のサイズが変化する • それに応じてゲルの透明性や機械的強度などの特性も変化する • 透明エアロゲルは高い断熱性能を示す(後ほど説明) 5 機械的性質 一軸圧縮試験 DMDMS:MTMS 3点曲げ試験 2.8:7.2 3.2:6.8 4.8:5.2 • 圧縮、曲げの変形に対して可逆的に応答し、変形に対する応 力が低く柔らかい • 引っ張ると比較的容易に破断する マシュマロゲルの主な特性 超撥水性 液体窒素温度でも 柔軟性を保つ 油を選択的に吸収 広い周波数領域 で高い吸音性 官能基の導入 同一の合成条件で、メチル基の代わりに以下の官 能基を一定量導入できることが実験により確かめら れた。 • • • • フェニル基 メルカプトプロピル基 トリフルオロプロピル基 ビニル基 柔軟性を保ったまま一定割合導入が可能である。 油も撥くマシュマロゲル 1. ビニル基を含むマ シュマロゲルを作製 (MG1) 2. パーフルオロアル キル鎖で修飾(MG2) ↓↓ 超撥油性が発現 マシュマロゲル開発の元になった 透明エアロゲルについて少し脱線します 透明エアロゲルについて PMSQエアロゲル 一軸圧縮応力に対して約80 %もの線形ひず みを示し、負荷を除いた後はほぼ完全に変 形回復(spring-back)する。 溶媒蒸発による常圧乾燥が可能 (超臨界乾燥が不要) 透明エアロゲルの作製 離型 常圧乾燥により250 x 250 x 10 mm3程 度の大型タイルの作製も可能 PMSQ Xerogel ゾル作製 常圧乾燥 洗浄 溶媒交換 (ヘキサンなど低表面張力溶媒) • 乾燥速度は低く抑えなければならないためプロセス時間は長いが、 試算によるとコストは1/10に抑えられる(超臨界プロセスとの比較) Thermal conductivity/W m K –1 –1 透明エアロゲルの高い断熱性 0.030 0.025 0.020 一般的な断熱材 MSQ xerogel Silica aerogel Nitrogen gas 0.015 エアロゲル 0.010 0.005 0 10-2 10-1 100 101 102 103 104 105 Nitrogen gas pressure/Pa • PMSQキセロゲルとシリカエアロゲルの熱伝導率はほぼ同等 • ポリウレタンフォームなど従来の断熱材と比べ、2倍以上の断熱効果 が見込まれる 透明エアロゲルの成形性 出発溶液がそのまま固まってゲルが生成するプロセスなので、 所望の形状に成形可能 板状(写真は150 x 150 x 10 mm3) 円柱状 粒状(mmサイズ、 真球状(μmサイ ズ、懸濁重合) 乾燥前に破砕) ただし、作製したエアロゲルの切削加工等は今のところ困難であ る シリカエアロゲルとの比較 PMSQエアロゲル シリカエアロゲル SiO2 化学組成 CH3SiO1.5 テトラアルコキシシランなど 原料 メチルトリアルコキシシラン 0.10−0.15 g cm−3 密度 0.10−0.15 g cm−3 >90 % 気孔率 >90 % >90 % 可視光透過率 >90 % ×(疎水化処理が必要) 疎水性 ◎(疎水化不要) ~300 ºC 耐熱性 ~300 ºC 極めて脆い 機械的特性 圧縮強度・柔軟性が大 超臨界乾燥 乾燥方法 常圧乾燥 ~15 mW m−1 K−1 熱伝導率 ~15 mW m−1 K−1 マシュマロゲルの話に戻ります 想定される用途 • スポンジ状の材料であり、表面未修飾のものは疎水・ 親油性で、油状物質を選択的に吸収できる • このため、環境水や排水の浄化、化学分析のための 油状物質の濃縮などに利用できる • 表面修飾により撥油性を付与できるため、防汚材料な どにも利用できる • 優れた吸音特性を示すため、吸音材として利用できる • 低温でも脆化しないため、低温用断熱材としても有効 と思われる 17 実用化に向けた課題 • アルコキシシラン前駆体が高価である • 密閉容器を使ったバッチプロセスなのでプ ロセスコストも高い • コーティング材料ではなく、表面に塗布し て撥液性が得られるものではない • 機械的強度が低く、引張や摩擦に弱い • 表面処理技術を高める必要がある 18 企業への期待 • 製造プロセスの最適化により低コストで量産 化していただける企業との共同研究を希望し ます • 油吸着、防音、断熱、防汚フィルターに限らず、 新しい使い方を提案していただける企業を募 集します 19 本技術に関する知的財産権 • 発明の名称 : シリコーン製モノリス体及びそれ を用いた分離、精製、濃縮方法 • 出願番号 • 出願人 • 発明者 : 特願2012-206388 : 京都大学、ジーエルサイエンス(株) : 中西和樹、金森主祥、早瀬元、 古野正浩、武井義之 ほか未公開特許1件 特願2013-181138 (出願人:京都大学) 20 お問い合わせ先 関西TLO(株) 星安 紗希 TEL 075-753-9150 FAX 075-753-9169 e-mail hoshiyasu@kansai-tlo.co.jp 21
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