2014年 JBCE報告書 2014年4月3日 在欧日系ビジネス協議会 Japan Business Council in Europe (JBCE) Rue de la Loi 82 Brussels, Belgium 在欧日系ビジネス協議会(JBCE)は、EUで活動する日系企業を代表する組織として 1999年に設立された欧州法人である。エレクトロニクス、自動車、化学など幅広い業 種から約70社の多国籍企業がJBCEの活動にメンバーとして参加している。 JBCEの主たる目的は、建設的な方法でEUにおける政策立案に貢献することである。 JBCEは、メンバー企業の専門知識や経験を大いに活用しながら、EUの政策立案に貢 献している。 URL: http://www.jbce.org/ e-mail: info@jbce.org 目 次 1 はじめに ............................................................................................................ 1 2 2014年JBCE報告書の要点 .............................................................................. 2 2.1 日EU政府に対する提言 ................................................................................... 2 2.1.1 日EU共通の規制環境の構築と制度の調和に向けて .............................................. 2 2.1.2 迅速な事業展開を支援 ............................................................................................... 3 2.1.3 投資の成果に対する保障 ........................................................................................... 5 2.2 EUの政策に対する提言 ................................................................................... 5 3 日EU政府に対する提言 ................................................................................ 10 3.1 日EU共通の規制環境の構築と制度の調和に向けて ................................. 10 3.1.1 共通の規制環境実現のために ................................................................................. 10 3.1.2 高い水準の基準やルール作りのための協力.......................................................... 11 3.1.3 化学物質管理政策の共通化 ..................................................................................... 12 3.1.4 科学、技術、イノベーション・プログラムの相互開放...................................... 12 3.1.5 ラベリングを含む環境、省エネルギーに関する規制の調和.............................. 12 3.1.6 AEOのベネフィット拡大 ......................................................................................... 13 3.1.7 偽造品、模造品、密輸品の取り締まりに関する協力の強化.............................. 14 3.1.8 ITA拡大交渉早期締結のための努力の継続 ........................................................... 15 3.1.9 公共調達 ..................................................................................................................... 15 3.1.10 鉄道における安全認証の要件 ................................................................................. 16 3.2 迅速な事業展開を支援 .................................................................................. 18 3.2.1 社会保障掛け金の二重払い解消 ............................................................................. 18 3.2.2 日EU間の労働滞在許可証取得の簡素化、迅速化 ................................................ 18 3.2.3 個人情報保護 ............................................................................................................. 19 3.3 投資の成果に対する保障 .............................................................................. 22 3.3.1 BEPS行動計画 ............................................................................................................ 22 3.3.2 二重課税の防止 ......................................................................................................... 22 3.3.3 移転価格税制 ............................................................................................................. 23 3.3.4 資本参加免税制度 ..................................................................................................... 24 4 EUの政策に対する提言 ................................................................................ 25 4.1 Europe 2020とSingle Market Act .................................................................... 25 4.2 関税引き下げによる域内市場における競争の活性化 .............................. 26 4.3 化学品規制政策 .............................................................................................. 27 4.3.1 REACH規則 ................................................................................................................ 27 4.3.1.1 解釈の統一 ........................................................................................................................ 27 4.3.1.2 実施のための実際的な指針 ............................................................................................ 27 4.3.1.3 直近の登録で明らかになった課題や問題..................................................................... 29 4.3.2 内分泌かく乱物質に対する適切なアプローチ...................................................... 29 4.3.3 RoHS指令.................................................................................................................... 30 4.3.4 CLP 規則 .................................................................................................................... 30 4.3.5 ナノマテリアル ......................................................................................................... 31 4.4 税制 .................................................................................................................. 32 4.4.1 共通連結法人税課税標準(CCCTB) .................................................................... 32 4.4.2 合併指令 ..................................................................................................................... 32 4.4.3 VAT ............................................................................................................................. 33 4.5 会社法/企業の社会的責任 .......................................................................... 34 4.5.1 紛争鉱物 ..................................................................................................................... 34 4.5.2 国別報告 ..................................................................................................................... 35 4.5.3 非財務情報の開示 ..................................................................................................... 35 4.5.4 欧州非公開会社法 ..................................................................................................... 36 4.6 製品の安全性と市場監視 .............................................................................. 36 4.6.1 製品の安全性と市場監視包括法案 ......................................................................... 36 4.6.2 新しい立法枠組における市場監視 ......................................................................... 37 4.6.3 消費者保護 ................................................................................................................. 38 4.7 環境フットプリント ...................................................................................... 38 4.8 競争政策 .......................................................................................................... 39 4.8.1 欧州委員会の公開コンサルテーションに対するJBCEのインプット ................ 39 4.8.2 欧州委員会による情報提供の要請 ......................................................................... 40 4.9 代替燃料インフラの展開に関する指令案について .................................. 41 4.10 貿易防衛手段 .................................................................................................. 41 4.11 解決した問題 .................................................................................................. 42 2014 JBCE報告書 1 はじめに 2050年の日EU関係に向けて 日EU間の包括的なEPA/FTAは、革新と競争を促し、経済成長を生み、民主主義の価値を広 め、消費者にメリットを与えるなどの、きわめて大きな効果を期待できる。JBCEとして は、協定締結に至るまでには、なお多大な努力を要することは認識しているものの、近い 将来に、成功裏に締結されることを期待している。 さらに、日EUのビジネス関係に関わる代表的な組織であるJBCEとしては、長期ビジョン に基づく将来的な問題の検討を始めたい、と考えている。 JBCEが2050年の日EU関係として描いているビジョンには、次の要素が含まれている。 共通の規制環境が、すでに長期間にわたり確立されている。 政策立案者、規制当局、ビジネスや消費者が、共通の規制環境に慣れ親しんでいる。 大企業だけでなく中小企業を含む多くの企業が、一方の地域でビジネスを行うのと同 じ容易さで両方の地域でビジネスを行っている。 新しい政治、経済・社会問題について、政府、学界、社会組織、ビジネスなど幅広い レベルにおいて、両者が密接に協力して、解決を試みたり、解決策を成功裏に実施し たりしている。 両方の経済圏が、高齢化社会、持続可能な経済発展、国際的な標準化などの今日の重 要課題を克服し、先端問題のリーダーとして、その経験を世界全体に伝えている。 日EU関係は、インスピレーションとイノベーションの源として、米国EU、日米、ア ジア諸国間の関係などを強化・改善し、共通の規制環境を、世界的に拡大した。 世界全体がこのような日EU関係の恩恵を受けている。 上記の長期ビジョンを背景に、日EU関係において重要な問題を本報告書で取り上げる。 1 2014 JBCE報告書 2 2014年JBCE報告書の要点 2.1 日EU政府に対する提言 2.1.1 日EU共通の規制環境の構築と制度の調和に向けて 日本とEUの政策立案者は、それぞれの地域における現在の規制および今後制定される 規制の内容および、内外のビジネスに対する影響に関する、互いの理解を深め、新た な規制を制定する場合でも、既存の規制を見直す場合でも、貿易障壁を作らないよう にすべきである。 共通の規制環境を現存する規制に対しても拡大するために、日EU政府は、ベター・レ ギュレーションを推進する共同の戦略を策定し、互いの経験を学び、共通のガバナン ス・システムを作るべきである 両政府は、第三国における保護主義的措置を防ぐため、地域的、二国間での取り組み とともに、特にWTOの下での多国間の、高い水準の基準やルール作りのための協力を 強化するべきである。 両政府はWTOの下で環境物品の世界的な貿易自由化実現に最大限の努力をすべきであ る。 両政府は、国際的な製品基準と認証手続きを採用すべきである 両政府は、化学物質に関し、実効のある規制を行うとともに、産業界の対応コストを 下げるべく、禁止・制限物質の整合化、リスク評価手法の整合化、評価データの共有 等を検討すべきである。 両政府は、科学、技術、イノベーション・プログラムの開放を進め、EUと日本の企業 や研究開発機関が、互いの地域のプログラムに、その地域からの参加者と同じ条件 で、参加し、恩恵を受けることができるようにすべきである。 両政府は、省エネルギーに関する規制とラベリング制度、環境・カーボン・フットプ リント制度について、制度を調和させる努力をすべきである。制度の調和は、日EU間 に限らず、国際的なレベルでの調和を目指すべきである。 2010年6月のAEO (Authorised Economic Operator)プログラムの日EU間相互承認に続き、 政府間の協力を強化することにより、AEOの具体的なベネフィットを導入すべきであ る。 2 2014 JBCE報告書 両政府は、EUと日本の内外における偽造品、模造品、密輸品の取り締まりに関し、こ れまで以上に協力を密にすべきである。 両政府に対し、日EU当局に対し、WTOの場における短期的な交渉期限設定などを通 じ、ITA(情報技術協定)拡大交渉を成功裏に終わらせるよう努力することを求め る。 拡大ITAには、技術発展を取り入れるため、定期的な見直し義務付けの仕組みを組み 込むべきである。 日本、EU、EU加盟国の政府は、それぞれの公共調達市場に対するアクセスの改善を 図るべきである。特に、英語での情報を増やすべきである。 EU当局に対し、次の措置を求める。 国際的な公共調達市場の開放と言うEUの目的が、非立法措置により達成されるこ とを望む。 いかなる措置を採る場合でも、EUの公共調達市場から第三国の製品とサービスを 恣意的に除外することを防ぎ、事業者にとっての法的安定性と予見可能性を確保 するためのメカニズムを組み込むべきである。 いかなる措置を導入するにせよ、その適用範囲と発動条件について、適切かつバ ランスの取れた分析に基づく明確な基準を設けることを求める。 日EU当局は、遵守要件及び現行の認証プロセスについて、オープンにすべきである。 国営鉄道会社に関連する認証手続きについては、双方に十分わかるようにすべきであ る。また変更点について、互いに情報を提供すべきである。 欧州鉄道局と日本の国土交通省は、それぞれのネットワークの認証プロセスの理解を 改善するために作業部会を設置すべきである。 2.1.2 迅速な事業展開を支援 日本政府と、日本とこれまで社会保障協定を締結していないEU加盟国政府は、企業内 派遣者の社会保障掛け金の二重払い問題を解決すべく、社会保障協定締結に向けて一 層努力すべきである。社会保障協定締結までの暫定措置として、受け入れ国による一 方的免除あるいは帰国時の強制年金掛け金の全額払い戻しを実施すべきである。 日EU間のEPA/FTAにおいて、企業内派遣者の異動を大幅に自由化することを求める。 3 2014 JBCE報告書 個人情報保護 日EU政府は、情報種別ごとに明確な利用ルールを定めることにより、データの移 転を可能にし、プライバシーを保護する責任ある方法で、ビッグデータの利用を 容易にする環境を作るべきである。 両政府は、互換性のある個人情報保護法制を導入し、個人情報の保護に隙間がで きないようにし、企業が、異なる個人情報保護制度への対応を懸念することなく 事業を行うことができるようにすべきである。 日本の内閣総理大臣が本部長を務める高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本 部(IT総合戦略本部)が2013年12月20日にパーソナルデータの利活用に関する制 度見直し、2015年1月までに国会に法案を提出する方針を決定したことを歓迎す る。 新法では、現状では分散されている個人情報保護に関する権限を独立した情報保 護機関に集中し、内外の企業にとって、透明性と予見可能性を確保すべきであ る。 EUと日本で制度改革が完了した後、EUと日本の間で、セーフハーバー合意ある いは、EU制度の下での十分性評価適用を検討すべきである。独立した情報保護機 関の問題は、これらのメカニズムの適用に影響を与える可能性がある。 EUの一般データ保護規則案(COM(2012) 11)について、EU当局は、プライバ シー保護とイノベーションのバランスを考慮すべきである。また、国際的なデー タ移転において認知された認定制度の積極的利用、EU域外のビジネスに適用され る場合の条件の明確化、違反の場合の届出期限の柔軟化、従業員データのEU域外 にある本社あるいは本社データセンターへの移転に関する規定の明確化、公平か つ均衡のとれた課徴金とすることを求める。 日EU政府は、他の国及び国際機関との協力を強化し、国際的な制度構築を模索す るための対話を開始すべきである。究極的には、世界各国の個人情報保護制度を 整合させ、グローバル企業が一制度を遵守することにより、個人情報の移転を可 能にすることを目指すべきである。 4 2014 JBCE報告書 2.1.3 投資の成果に対する保障 BEPS(Base Erosion And Profit Shifting:税源浸食と利益移転)行動計画において、企 業の国際的な活動を阻害することのないよう、過度な開示要件や過度な租税回避防止 規定によるリスクを慎重に検討すべきである。 日本政府とEU加盟国政府は、親子会社間の配当、関連会社間の金利、ロイヤルティの 支払いに対する源泉税を廃止すべきである。 日本政府とEU加盟国政府は、二カ国間租税協定を見直し、移転価格税制における対応 的調整と仲裁を可能にする条項を導入すべきである。 日本政府とEU加盟国政府は、日EU間およびEU加盟国間の移転価格に関する書類要件 を調和、簡素化することにより、複数の移転価格税制に対応しなければならない企業 の遵守コスト軽減に努めるべきである。 日本政府とEU加盟国政府は、二国間、多国間事前確認制度(APA)の取得手続きを改 善し、APA取得を容易かつ安価にすべきである。 直接投資を推進するために、事業投資から得られるキャピタルゲインに対し法人税非 課税とする、投資資本参加免税制度を導入すべきである。 2.2 EUの政策に対する提言 単一市場は、EUおよび「Europe 2020」にとって重要であり、EUは、「Single Market Act IとII」で行ったコミットメントを実現するために、最大限の努力をすべきであ る。特に知的財産権、消費者の権利強化、サービス、ネットワーク、デジタル・シン グル・マーケット、税制、事業環境の分野が単一市場にとって重要である。 EUは、化学物質における真の単一市場実現にコミットするべきである。 域内産業の競争力強化のため、オーディオ・ビジュアル製品、乗用車等に対する関税 の引き下げを求める。 REACHについて REACH規則における「成形品」の定義について、サプライチェーンの中の企業が EU市場において国ごとに異なる法遵守を求められることを回避するため、ガイダ ンスで定められている解釈に従わない加盟国に対し、EU当局は迅速な行動をとる べきである。 5 2014 JBCE報告書 フタル酸エステル類の屋内使用に関し、EU当局は、統一された政策をEU全体で 導入すべきである。さらに、その政策が日EU間で調和されることを望む。 高懸念物質に関し、EU当局は、川上のサプライヤーがデータをインプットし、川 下のメーカーが利用できるようなデータベースの設置を容易にするイニシアティ ブをとるべきである。 REACH第8条で定められている唯一の代理人の責務について、EU競争法との関係 も含め、明確化することを求める。 ECHAのホームページに掲載されている、先導登録者から購入した、衛生安全環 境目的のドシエ情報(グローバル製品戦略や安全性データシートなど)は、現在 使用が制限されているが、無料かつ世界中で使用できるようにして欲しい。 CoRAPの下で加盟国に割り当てられた物質の評価の過程で、加盟国当局が、企業 に貢献を要請することがしばしばある。しかしながら、期限近くの要請や、バラ バラな要請では、効果的な貢献ができない。EU当局が、ベストプラクティス・ガ イドを加盟国当局のために作成し、企業が効率的かつ効果的に貢献できるよう助 成することを希望する。 EU当局は、先導登録者の特定が困難なことや、アクセス・レターの費用が不透明 であることなど、直近の登録で明らかになった課題や問題をまとめ、解決策と共 に、次回の共同登録に間に合うように公表すべきである。 EU当局はアクセス・レター費用の透明性や公平な費用分担を確保するために、物 質情報交換フォーラム(SIEF: Substance Information Exchange Forum)参加者間の 合意努力に依存するだけではなく、積極的に関与して実態を把握し、必要に応じ て是正措置を講じるべきである。 EUは、内分泌かく乱物質へのアプローチにおいて、CMR(発がん性物質、変異原性 物質、生殖毒性物質)の様に分類せずに、最善の科学に基づくリスク評価を用いるべ きである。内分泌かく乱物質は、毒性のエンドポイントではないためである。有害性 評価は、WHOで定義される内分泌かく乱物質の mode of action に基づいて有害影響を 特定し、潜在力、先導的毒性、苛烈度、不可逆性を考慮した性格付けをした上で行う べきである。 6 2014 JBCE報告書 EUは、REACH規則における制限と、ELV/RoHS指令における適用除外用途の関係が二 重規制にならないように配慮すべきである。EU当局は、追加制限有害物質の特定プロ セスにおいて、継続して産業界を関与させるべきである。 CLP規則について、輸出者の負担軽減のため、EU通関時においてGHSに従った分類、 表示を受け入れることを求める。また、ATP(技術発展への適応)の段階からGHSを 考慮すべきである。 ナノマテリアルについて EUは、ナノマテリアルに関する政策を今後策定、実施するにあたって、製品から 放出されるナノマテリアルへの曝露の程度を考慮すべきである。 EUは、EUレベルで調和された届出制度を創設するべくイニシアティブを発揮す べきである。 EUは、ナノマテリアルの実用的な計測方法を標準化すべきである。特に、国際整 合化を視野に入れた簡易測定法の開発を希望する。 EUの共通連結法人税課税標準(CCCTB)理事会指令案の早期採択を願うと共に、次 の事項を実現することを求める。 国境を越えたグッドウィル移転の際の課税解消。 CCCTB対象グループ内取引に対する独立企業間原則の不適用による移転価格税制 問題の解消。 利益と損失の相殺。 合併指令(90/434/EEC)に関し、次の改正を求める。 不動産取引税およびその他の無形財産の移転にまで繰延対象を拡大すべきであ る。 課税繰延を受ける条件として一部の加盟国が課している株式の保有義務期間は、 撤廃すべきである。 企業グループが、EU各国のVAT申告事務を、容易かつ費用効率よく、一カ所に集中で きるような新しいVAT制度が迅速に実現することを強く期待する。 7 2014 JBCE報告書 紛争鉱物に関する規則案について、信頼できる輸入業者として自己認証を選択するこ とが容易になるように、自己認証の業務負担を極力軽減することを考慮することを求 める。また、EU当局は、EU外の国々との対話を通じて、世界的に、紛争にかかわら ない、信頼できる採鉱を推進すべきである。 国別報告について、EU当局は、過度な開示要件によって、国際企業の事業活動が阻害 されるリスクを慎重に検討すべきである。 非財務情報の開示について、JBCEでは、欧州委員会が実施することになっている、非 財務情報のKPIを含む非財務情報報告の際の方法論に対する、拘束力を持たないガイ ドライン作成の際のコンサルテーションに寄与したいと考えている。 欧州非公開会社法案が廃案になることは残念である。EU当局は、新しい提案を早急に 作成すべきである。 EU当局は、製品の安全性と市場監視包括法案の審議を慎重に行うべきである。特に、 消費者向け製品の安全性に関する規則案第7条で、原産国の表示を求めている点につ いては、原産地国の表示義務付けを、法制化すべきではない。 新しい立法枠組における市場監視について、欧州委員会と加盟国に対し、調和プロセ スと各加盟国における市場監視の実施状況に関する、すべての情報を公表することを 求める。また、市場監視を調和する枠組作りに、産業界が貢献できる機会を継続する ことを求める。 消費者の権利に関する指令2011/83/EUが採択されたことを歓迎する。次回の制度見直 しの際に、保証期間を2年以上とする加盟国の裁量権のメリット、デメリットを評価 することを欧州委員会に求める。 環境フットプリントについて 比較可能性を客観的に支えるためにも、EUは、グローバルな調和を考慮し、LCA (ライフサイクル・アセスメント)についての議論、手法に関するISO、IEC等で の議論との整合を取るべきである。 EUは、EU域内だけでなく、域外のデータベースとの相互認証を認め、国際的な データベース開発の取り組みに参画するべきである。 セクタールール策定においては、対象となる製品、産業セクターの範囲につい て、組織の環境フットプリント、製品の環境フットプリントの測定方法論とは別 8 2014 JBCE報告書 に、ガイドラインを作成すべきである。さらに、セクターの定義は、意味のある データの比較を可能にするために、十分狭く定義するべきである。 競争政策について 合併規制の簡素化手続きに関し、欧州委員会にとっての事務負担軽減だけでな く、通知を行う企業の事務負担軽減につながるべきである。 少数株主に関して検討されている合併規則の制度改正について、欧州委員会は、 現行の合併規制規則の対象となっていない案件のみならず、現行規則の対象とな る案件についても、EU外におけるジョイント・ベンチャーに対する不釣り合いな 負担を減らす、合理的な仕組みを導入すべきである。 EU当局に対し、「シンプルな情報提供の要請」や「決定による情報提供の要請」 を送る際に、正しくかつ関連性のある宛先に送るべく十分な注意を払うよう要請 する。 EU当局に対し、情報提供の要請の回答期限を設定する際には、回答を準備するた めの十分な時間的余裕を見ることと、回答期限の延長要請に対し柔軟に対応する ことを要請する 代替燃料インフラの展開に関する指令案について、特定の規格に関する、バランスの 取れていない強調を削除すべきである。また、指令において、コンボ2タイプ以外の 急速充電技術も、EUにおいて認可されること、またそのような技術をEU市場から排 除しないことを確認すべきである。 EUの貿易防衛手段を現代化する規則案に関し、企業にとってのプロセスの予見可能性 を改善するために、すべてのステークホルダーとのコミュニケーションは、プロセス 全体を通じて透明であるべきである。また、特に調査が職権により開始された場合な ど、企業に対し不必要かつ過度の協力を強要すべきではない。 9 2014 JBCE報告書 3 日EU政府に対する提言 3.1 日EU共通の規制環境の構築と制度の調和に向けて 3.1.1 共通の規制環境実現のために <提言> JBCEは、日EU間で、共通の規制環境を実現するために必要な、日EU当局間の協力の将来 の方向について提言を行いたい。 日EUの政策立案者は、それぞれの地域における現在の規制および今後制定される規制の内 容および、内外のビジネスに対する影響に関する、互いの理解を深め、新たな規制を制定 する場合でも、既存の規制を見直す場合でも、貿易障壁を作らないようにすべきである。 この目的を達成するために、日EU政府は、毎年の立法スケジュールを早期に交換し、法案 に関する早期警戒システムを作るべきである。共通の規制環境を現存する規制に対しても 拡大するために、日EU政府は、ベター・レギュレーションを推進する共同の戦略を策定 し、互いの経験を学び、共通のガバナンス・システムを作るべきである。 日EU間のEPA/FTAで調和された規制枠組みが導入されていない分野に関し、日EUの規制 当局はそれぞれの技術規則と適合性評価手順を定期的にレビューし、規制調和をさらに進 める範囲を決めるべきである。レビューの結果は、提示された科学技術的証拠を含めて、 両当局間で交換し、産業界からの要求に応じ、公開すべきである。 <背景> JBCEでは、EPA/FTA締結後の日EU関係において重要な問題を検討したいと考えている。 EPA/FTA締結後には、「市場アクセスに対する障害」から、「共通の規制環境を多くのセ クターで構築すること」に、焦点が移ると思われる。JBCEでは、共通の規制環境構築の全 般的な方向は、自由化でなければならないと考えている。自由化が行われることによっ て、日EU間でビジネスを行う際のコスト低減よりも、はるかに大きな経済的恩恵が、多く の分野において実現できるからである。このような共通の規制環境は、両経済圏と双方の 市民の繁栄につながる。また、共通の規制環境の構築は、先進国間で、今後目標とされる 方向であると考えている。 JBCEでは、共通の規制環境の構築は、EUの単一市場における経験が示す通り、困難で、 長期間を要する課題であると認識している。 現存の規制環境を共通化しようとするよりも、新たな政策が考案されているときの方が、 共通の規制環境の構築が容易であることは明白である。たとえば、化学品の規制を例とす ると、EUでREACHが計画されている段階で、日EU当局間で共通の規制環境が構築されて 10 2014 JBCE報告書 いれば、現在、化学業界および下流の業界において、大きな恩恵が得られたはずである。 しかしながら、日EU政府は異なる規制環境を構築した。その結果、双方の化学および関連 業界の企業は、両地域の規制に対応するために、多大な遵守コストを負担しなければなら ないことになった。 3.1.2 高い水準の基準やルール作りのための協力 <提言> 日EU政府は、第三国における保護主義的措置を防ぐため、地域的、二国間での取り組 みとともに、特にWTOの下での多国間の、高い水準の基準やルール作りのための協力 を強化するべきである。 JBCEは二カ国間貿易協定を通じた更なる貿易自由化を支持しているが、WTOの下で の多国間貿易協定を実現するために、日EU政府は最大限の努力を払うべきことも忘れ てはならない。 日EU政府はWTOの下で環境物品の世界的な貿易自由化実現に最大限の努力をすべき である。環境物品に関するWTOの合意はAPECリーダーが関税削減にコミットした、 APECの環境物品54品目を出発点にできるかもしれない。しかしながら、最終製品の 関税を撤廃するだけでは、世界経済が緊急に必要としている、大幅かつ広範囲な関税 削減にはほど遠いものがある。従って、中間製品を含む、広い範囲の製品の追加を検 討すべきである。その際には、環境に配慮した成長と持続可能な発展に積極的に貢献 できるよう、開発途上国が一端を担っているグローバル・バリュー・チェーンを考慮 し、環境物品の分野における他の問題や、将来の技術発展に対応できる、将来を見据 えた合意という枠組みの下に、検討すべきである。 日EU政府は、国際的な製品基準と認証手続きが適用可能な場合には採用し、また、基 準・製品認証の整合化や製品認証の相互承認を推進し、可能かつ適切な場合には、建 築資材、有機製品、化粧品、医療機器、動物用医薬品、自動車、加工食品などの分野 における製品の輸入・販売・使用の申請手続きに関する機能的に同等な規制の相互認 証を推進するよう要請する。 <背景> EU及び日本双方の産業のグローバルな事業活動にとって、新興国市場の重要性は高まって きている。一方、多くの国において、原材料、情報セキュリティ、環境、健康、競争政策 等の多様な分野で貿易関連あるいは規制的措置を含む保護主義的措置が導入されている。 WTOの下での世界的な合意や国際的な標準化を実現するためには、日EU間の協力を強化 することが必要である。 11 2014 JBCE報告書 3.1.3 化学物質管理政策の共通化 <提言> 化学物質に関し、日EU政府は、実効のある規制を行うとともに、産業界の対応コスト を下げるべく、禁止・制限物質の整合化、リスク評価手法の整合化、評価データの共 有等を検討すべきである。 途上国企業が的確な対応を果たせるよう、産業界とも共同し、サプライチェーン管理 の支援政策を実施すべきである。 <進捗状況> 本提言に関する進捗は見られない。 <背景> EUのREACH、RoHS、日本の化学物質審査規制法などの化学物質管理政策は、グローバ ル・サプライチェーンに大きな影響を及ぼす。 3.1.4 科学、技術、イノベーション・プログラムの相互開放 <提言> 日EU政府は、科学、技術、イノベーション・プログラムの開放を進め、EUと日本の企業 や研究開発機関が、互いの地域のプログラムに、その地域からの参加者と同じ条件で、参 加し、恩恵を受けることができるようにすべきである。 そのような協力関係を、日EU企業間における、スマート・グリッド、スマート・シティ、 スマート・コミュニティ、RFID (Radio Frequency IDentification)、生体認証技術などの新技 術の実際的な応用の開発における協力に拡大することが、可能かもしれない。また、新た な国際標準化の推進・普及を促進する、日EU間の枠組を創設すべきである。国際サプライ チェーンのセキュリティ確保とオペレーションの効率化に寄与するモデルとなる、ICTの 利用を促進すべきである。例えば、RFIDタグやセンサー、生体認証などの技術や、単一貨 物識別符号(UCR: Unique Consignment Reference)により、国際サプライチェーンのセキュリ ティを向上させ、可視化が可能になる。 3.1.5 ラベリングを含む環境、省エネルギーに関する規制の調和 <提言> 日EU政府は、省エネルギーに関する規制とラベリング制度、環境・カーボン・フッ トプリント制度について、制度を調和させる努力をすべきである。制度の調和は、日 12 2014 JBCE報告書 EU間に限らず、国際的なレベルでの調和を目指すべきである。少なくとも、製品の 試験方法、製品の使用方法の考え方は、国際エネルギースタープログラム等のラベリ ング・スキーム、IEC/TC108(プリンター、PC)、IEC/TC100(薄型テレビ)、 CEN/TC113(エアコン)等の既存の規格、ラベリング制度に即した形で、統一すべき である。 企業及び製品の環境フットプリントについて、EU、加盟国、日本の当局が、市場の 歪みをもたらさないよう、制度の調和を行うことを強く求める。 <進捗状況> 本提言に関する進捗は見られない。 <背景> ICT製品をはじめとする国際的に流通する製品の環境、省エネルギーに関する規制とラベ リング制度が日本とEUの間で異なることは、ビジネスにとって負担が大きい。また追加コ ストは製品価格の上昇を通じて両国の消費者が負担することになる。 JBCEでは、EU及び日本における企業及び製品の環境フットプリントの計測と報告に関す る政策と方法論の発展の動向を注視している。一部のEU加盟国では、既に一定の報告を求 める法律やイニシアティブが存在している。 3.1.6 AEOのベネフィット拡大 <提言> 通関申告情報やマニュフェスト情報等に関する政府間の電子的な情報交換を実現すべ きである。 2010年6月のAEO (Authorised Economic Operators) プログラムの日EU間相互承認に続 き、政府間の協力を強化することにより、AEOの具体的なベネフィットを導入すべき である。 更なるステップとして世界共通のAEO基準策定に向けた日EUによるイニシアティブを 発揮すべきである。 <進捗状況> 本提言に関しては、一定の進捗が見られた。 <背景> 13 2014 JBCE報告書 2001年9月11日の米国同時多発テロ以降、国際貿易に関する世界的なセキュリティ強化 は、企業に安全なオペレーション実現のための経営資源の負担を強いると同時に、国際サ プライチェーン全体の円滑化を阻害する要因となりつつある。世界税関機構(WCO)にお ける「基準の枠組み」等に基づき、世界各国でAEO制度や、船積前事前データ提出義務等 の制度構築が進められている。しかしながら、要求される船積前事前データや、AEO認定 の手続き・基準は必ずしも共通のものではなく、また過度な規制強化の傾向も見受けら れ、日、EUのグローバル展開企業にとっては、こうした各国間の制度的差違に伴う、企業 負担の増大や円滑化阻害が懸念される。特に景気後退が進行中の経済環境下においては、 新たな非関税障壁として、グローバルな経済活動を停滞させる要因にもなりかねない。 日、EUは協力して、セキュリティと円滑化の両立並びに、官民オペレーションの効率化を 実現するための国際的な制度調和と運用に率先して取り組むべきである。 3.1.7 偽造品、模造品、密輸品の取り締まりに関する協力の強化 <提言> 日EU政府は、EUと日本の内外における偽造品、模造品、密輸品の取り締まりに関 し、これまで以上に協力を密にすべきである。たとえば、両政府は、他の国の当局と 協力を強化し、模造品の取引場所の閉鎖を進めるべきである。 日本政府は、個人消費目的に模造品の個人輸入、持ち込みを認めるループホールを閉 鎖し、すべての模造品の貿易を非合法化すべきである。 2011年5月24日付の税関における知的財産権の執行に関する規則案(COM(2011)285) に対するJBCEの支持を再確認する。同規則案では、手続きの簡素化、正規品輸入者の 財務的負担軽減などのJBCEの提言が反映されている。EUは、正規品輸入者の財務的 負担軽減を一層追求するべきである。 偽造、知的財産権侵害観測所の役割が、2012年4月19日に採択された規則((EU) No 386/2012)に沿って、強化されることを期待する。 製品に関する情報提供の拡大、税関職員の実地トレーニング、世界税関機構(WCO) のIPM(権利者と各国税関とのインターフェース)の利用効果改善のための税関職員 のトレーニングなどを通じ、正規品のメーカーや輸入者が協力を強化することで、税 関当局は検査の効率を改善し、検査対象を拡大すべきである。 <進捗状況> 本提言に関しては、一定の進捗が見られた。 14 2014 JBCE報告書 3.1.8 ITA拡大交渉早期締結のための努力の継続 <提言> 日EU当局に対し、WTOの場における短期的な交渉期限設定などを通じ、ITA(情報技術協 定)拡大交渉を成功裏に終わらせるよう努力することを求める。さらに、拡大ITAには、 技術発展を取り入れるため、定期的な見直し義務付けの仕組みを組み込むべきである。 <進捗状況> 2013年にはミーティングが何回も開催され、ITA拡大を完成させるための真剣な努力がな されたものの、2013年12月にバリで開催されたWTO閣僚会議までに、一部の反対を乗り越 えて合意に至ることはかなわなかった。 <背景> ITAの拡大は、貿易を促進し、関税分類にかかわる不明確を取り除き、すべてのセクター や公共サービスにおける技術的発展を確実にする。公共サービスを含むほとんどすべての 分野における生産性、イノベーション、雇用創設、競争力とサービスの質改善をもたら す、一大産業分野の発展によって、日本とEUは、恩恵を受けることができる。 現在のITAは、1996年以来、対象品目が改定されていないが、定期的な見直しの仕組みが 組み込まれることで、関税を免税されるICT物品の追加が可能になり、現在および将来の 革新的技術発展が、関税分類の不明確な状況に陥るリスクを最小化することができる。 2013年10月7-8日にインドネシアのバリで開催されたAPECでITA拡大の迅速な締結が再確 認されたことを歓迎する。2014年のAPECのホスト国である中国が、強力なリーダーシッ プを発揮し、2014年5月17-18日に中国の青島で開催される予定のAPEC貿易相会議までに、 ITA拡大を成功裏に締結に持ち込むことを期待する。 3.1.9 公共調達 <提言> 日本、EU、EU加盟国の政府は、それぞれの公共調達市場に対するアクセスの改善を 図るべきである。 日本、EU、EU加盟国の政府は、英語での情報を増やすべきである。 特に、英語で作成された入札書類を提出すること、それがかなわなくとも、技術仕様 やコミュニケーションに限ってでも英語を使用することを認めるべきである。 <EU当局への提言> 15 2014 JBCE報告書 国際的な公共調達市場の開放と言うEUの目的が、非立法措置により達成されることを 望む。 いかなる措置を採る場合でも、EUの公共調達市場から第三国の製品とサービスを恣意 的に除外することを防ぎ、事業者にとっての法的安定性と予見可能性を確保するため のメカニズムを組み込むべきである。 いかなる措置を導入するにせよ、その適用範囲と発動条件について、適切かつバラン スの取れた分析に基づく明確な基準を設けることを求める。 <進捗状況> 進捗は限定的である。JETROによる英語情報提供のイニシアティブなどはあるが、全体の 情報が英語で提供されることは稀である。 <背景> EUにおける公共調達法の改正は、2011年4月に採択された「Single Market Act」で規定され た12の重要事項の一つである。その一環として、2012年3月21日に欧州委員会によって 「第三国製品及びサービスのEU公共調達市場へのアクセスに関する規則案」(COM (2012) 124)が発表された。 JBCEは、提案に含まれているEUの公共調達市場を一方的に閉鎖することを可能にする措 置に対して、深刻な懸念を有している。EUが一方的な措置を取ることにより、EUの貿易 相手国が、EUは裁量的に公共調達市場を閉鎖していると認識し、その結果、世界中の保護 主義的措置を連鎖的に誘発するおそれがあるからである。そのような事態になれば、本提 案におけるEUの意図と目的は達成されない。 3.1.10 鉄道における安全認証の要件 <提言> 日EU当局は、遵守要件及び現行の認証プロセスについて、オープンにすべきである。 国営鉄道会社に関連する認証手続きについては、双方に十分わかるようにすべきであ る。また変更点について、互いに情報を提供すべきである。 欧州鉄道局と日本の国土交通省は、それぞれのネットワークの認証プロセスの理解を 改善するために作業部会を設置すべきである。 <進捗状況> ある程度の進捗が見られた。 16 2014 JBCE報告書 双方の鉄道分野のプレーヤーは、EPA/FTA交渉と並行して、過去1年間、双方のシステム の違いに関する理解を深めるために努力した。なお改善の余地はあるものの、双方の理解 は、改善された。 主要なJR会社が、最近、安全信号システムの調達を欧州の会社に開放した。 欧州鉄道局と、日本の国土交通省との間で、鉄道産業対話に関する覚書作成の最終段階に 至っている。 <背景> 1) 日本の鉄道事業者とEUの鉄道会社は、鉄道の安全分野において、長期にわたる成功経 験を持っている。 2) EUと日本の鉄道分野における、法的要件、運営システム、ビジネス慣行は、大きく異 なる。特に、機器システムの安全性と信頼性にかかわる責任について、EUではメー カーが安全認証の取得に責任を持つのに対し、日本では鉄道事業者が安全認証の取得 に責任を持たされている。 3) 安全認証は、多くの鉄道の機器システム調達における決定要因である。 4) 安全に関する問題を検討するにあたっては、双方の産業プレーヤーの間で対話を開始 することが、適切である。その結果、グローバルな鉄道産業の安全パフォーマンスが 相互に強化される。 5) 双方のシステムの違いを理解する努力はなされている。その結果、すべてではない が、初期の誤解の多くが解決された。 6) 2014年3月27日に、EUと日本の鉄道分野のほとんどのプレーヤーを対象とした第1回鉄 道産業対話が、欧州委員会と日本政府の後援のもと、ブリュッセルで開催された。 7) JBCEは、このイニシアティブを支持する。このような産業対話は、相互理解を深める のに役立つため、定期的に開催されるべきである。 8) EUでは、過去数年に渡り、EU加盟国における認証の可視化を改善するために、相当 な努力が行われた。鉄道網の安全運営に関する特定の要件に関するものである。欧州 鉄道局のミッションは、EU加盟国の安全当局の認証をコーディネートすることであ る。第4次鉄道包括法案によって、欧州委員会は、欧州鉄道局による共通の認可手続 きの道を開こうとしている。 9) JBCEでは、産業対話を通じて、両地域内外での、日本とEU双方の鉄道産業の発展を 支援するような解決策が見つけられることを期待している。 17 2014 JBCE報告書 3.2 迅速な事業展開を支援 3.2.1 社会保障掛け金の二重払い解消 <提言> 日本とEU加盟国10か国の間の社会保障協定が結ばれたことを歓迎する。また、以下の要請 を行う。 日本政府と、日本とこれまで社会保障協定を締結していないEU加盟国政府は、社会 保障協定締結に向けて一層努力すべきである。 社会保障協定締結までの暫定措置として、日本政府とEU加盟国政府は、受け入れ国 による一方的免除あるいは帰国時の強制年金掛け金の全額払い戻しを実施すべきであ る。 <進捗状況> ドイツ、イギリス、ベルギー、フランス、オランダ、チェコ共和国、スペイン、アイルラ ンド、ハンガリーの9か国のEU加盟国と日本の間の社会保障協定が発効している。また、 イタリアと日本との協定は署名された。さらにルクセンブルク、スウェーデンと日本の間 で交渉が進行中で、スロバキア、オーストリア、フィンランドと日本の間で交渉のための 準備が行われている。 <背景> 日EU間で派遣される従業員の社会保障制度に対する掛け金の二重払いは、投資を抑制す る。 企業が社員を一定期間国外に派遣する場合、派遣元の国における社会保障制度への加入、 特に年金への加入を継続することが多い。派遣先の国において社会保障制度への加入が義 務づけられている場合、掛け金を二重に支払うことになる。掛け金の二重払いは企業およ び従業員にとって不必要かつ重い負担である。日本とEU加盟国の間で締結が拡大している 社会保障協定は、数年以内の派遣者について二重加入の問題を解消する。さらに年金の通 算規定が含まれている場合、締結相手国に長期間滞在する者の年金通算を可能にする。 3.2.2 日EU間の労働滞在許可証取得の簡素化、迅速化 <提言> 日EU間のEPA/FTAの中で、企業内派遣者に関する大胆な自由化を実現すべきである。自由 化の目標として、次のような制度を検討すべきである。 18 2014 JBCE報告書 企業グループの本社と派遣先加盟国との間で枠組合意(以下、枠組雇用許可)を結 び、企業内派遣者数の上限を定める。この上限内であれば、個別の労働許可証取得を 不要とし、自由に派遣することを認める。 企業グループ本社が複数のEU加盟国で事業を行っている場合、事業を行っている加盟 国すべてと枠組雇用許可を結べば、その枠内で、EU加盟国間の異動が、労働許可証を 取得することなく可能になる。 <進捗状況> EPA/FTA交渉が開始されたため、一定の進捗が見られたと言える。 <背景> 国際企業にとって、幹部要員の迅速な派遣は、事業の円滑・効率的な経営に不可欠であ る。日EU間の企業内派遣者に対する労働滞在許可証取得の要請は、実質的な必要性に基づ いているというよりも、形式上の必要性に過ぎないといえるが、その一方で、企業、派遣 者、家族に対する制約、負担は無視できないものがある。日EU間の労働滞在許可証取得手 続を簡素化、迅速化することは、企業だけでなく、受け入れ国側のリソースの有効利用に もつながる。 欧州議会と理事会は、EU外の国籍を持つ「企業内派遣者」の入国滞在条件に関する指令の 最終的な法文について合意に達した。採択される指令は、EUに従業員を派遣する日系企業 の役に立つと予想される。たとえば、業務が複数の加盟国にまたがるような派遣者を送る ことが容易になる。また、配偶者の就労が可能になる。しかしながら、残念なことにこの 指令は、イギリス、アイルランド、デンマークには適用されない。イギリスにおける日本 人の人口はEU内最大であるが、この指令の恩恵を受けることはできない。従って、日本と すべてのEU加盟国の間の企業内派遣者が、カバーされるよう、日EU間のEPA/FTAの枠組 みの中で、自由化が行われることはたいへん重要である。 3.2.3 個人情報保護 <提言> 個人情報の責任ある収集と利用は、ICT産業のみならず、社会全体にとって重要であ る。 日EU政府は、情報種別ごとに明確な利用ルールを定めることにより、データの移転を 可能にし、プライバシーを保護する責任ある方法で、ビッグデータの利用を容易にす る環境を作るべきである。 19 2014 JBCE報告書 日EU政府は、互換性のある個人情報保護法制を導入し、個人情報の保護に隙間ができ ないようにし、企業が、異なる個人情報保護制度への対応を懸念することなく事業を 行うことができるようにすべきである。 日本の内閣総理大臣が本部長を務める高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部 (IT総合戦略本部)が2013年12月20日にパーソナルデータの利活用に関する制度見直 し、2015年1月までに国会に法案を提出する方針を決定したことを歓迎する。 新法では、現状では分散されている個人情報保護に関する権限を独立した情報保護機 関に集中し、内外の企業にとって、透明性と予見可能性を確保すべきである。 EUと日本で制度改革が完了した後、EUと日本の間で、セーフハーバー合意あるい は、EU制度の下での十分性評価適用を検討すべきである。独立した情報保護機関の問 題は、これらのメカニズムの適用に影響を与える可能性がある。 JBCEでは、EUの一般データ保護規則案(COM(2012) 11)について、EU当局は、プラ イバシー保護とイノベーションのバランスを考慮すべきであると考える。 同規則案第43条において、BCR (Binding Corporate Rule) の利用が、容易になるよ う規定されていることを歓迎する。BCRは、クラウド・コンピューティングなど のグローバルなデータの移転を行う企業にとって、重要である。BCRの利用を一 層容易にするために、EU内外の認知された認定制度への準拠および、認定制度間 の相互認証を、BCRの承認過程で考慮することを提案する。 同規則案第3条第2項が、EU域外のビジネスに対し、本来の目的外の影響を与える ことを懸念しており、適用対象となる場合の条件を列挙することを求める。 同規則案第31条で、個人情報に関する違反があった場合24時間以内に届け出るこ とを義務付けていることを懸念している。違反の性質と範囲を特定する際の複雑 さが異なることを考慮して、届出期限は柔軟であるべきである。JBCEとしては、 「遅滞なく届け出る」とすることで十分であると考える。 EU子会社の従業員データのEU域外にある本社への移転は、同規則案第44条第1項 (a)に基づくデータ対象者の同意、あるいは、第44条第1項(b)データ対象者と管理 者の間の契約履行に基づいて認められると、明確に規定されるべきであると考え る。 同規則案第79条で定められた課徴金の最大額は、企業にとって高額に設定されて おり、事業活動を過度に抑制させることを懸念する。課徴金は均衡がとれている だけでなく公平であるべきである。 20 2014 JBCE報告書 さらに、日EU政府は、他の国及び国際機関との協力を強化し、国際的な制度構築を模 索するための対話を開始すべきである。究極的には、世界各国の個人情報保護制度を 整合させ、グローバル企業が一制度を遵守することにより、個人情報の移転を可能に することを目指すべきである。 <進捗状況> 本提言に関しては、相当な進捗が見られた。 EUの一般データ保護規則案は審議中で、2014年末までに採択される可能性がある。 日本の安倍首相を本部長とするIT総合戦略本部では、日本の個人情報保護制度を見直す決 定を2013年12月20日に採択した。 <背景> JBCEの究極の希望は、世界各国の個人情報保護制度を整合させることにより、一制度の遵 守を基に、グローバル企業内で国境を越えた個人情報の移転を可能ならしめることであ る。複数の個人情報保護制度を遵守しなければならない場合、付加価値を生まないコスト 増であるというだけでなく、ひとつのグローバル組織の中で、同一の問題に複数のルール が適用されるという事態につながるリスクがある。 欧州議会は、2014年3月12日の本会議で、一般データ保護規則案の審議を担当していた LIBE委員会(市民的自由、法務、内務に関する委員会)によって提案された修正案を採択 した。欧州議会による修正案には、企業にとって厳しい条件が含まれている。たとえば、 企業による違反に対する課徴金の上限として、企業の年間全世界売上高の5%あるいは1億 ユーロのいずれか高い方としている、同意と消去に関し複雑な条件を課しているなどであ る。その一方で、欧州議会による修正案には、データの匿名化の定義、個人データを利用 しようとする企業にとって有利な認証プログラムなどが導入されている。 理事会側で合意形成に至っていないため、欧州議会と理事会の間の規則案に関する交渉 が、2014年5月の欧州議会選挙以前に始まる可能性は少ない。 日本政府による個人データ保護制度見直しの決定は、企業のビッグデータ利用にとって、 良い知らせである。IT総合戦略本部の決定によると、見直しでは、独立した第三者機関 (プライバシー・コミッショナー)の体制整備、諸外国の制度との調和、他国への越境移 転の制限、センシティブ・データの取扱いなどが検討される。 21 2014 JBCE報告書 3.3 投資の成果に対する保障 3.3.1 BEPS行動計画 <提言> BEPS(Base Erosion And Profit Shifting:税源浸食と利益移転)行動計画において、企業の 国際的な活動を阻害することのないよう、過度な開示要件や過度な租税回避防止規定によ るリスクを慎重に検討すべきである。 <進捗状況> 本提言は新たな提言である。 <背景> BEPS(Base Erosion And Profit Shifting:税源浸食と利益移転)行動計画は、OECDにより提 案され、2013年7月のG20財務大臣・中央銀行総裁会議で支持を受けた。経済のグローバル 化やデジタル化に対応するために、OECDの非加盟国を含んで現行の国際課税制度の見直 しを図ることは、意義のあることである。しかしながら、他方、BEPS行動計画では、多国 籍企業に対し、関係する全ての政府に、利益、経済活動の世界的な配分、国別の税務情報 を開示することを求めている。このような開示により、企業の事務負担が相当重くなるば かりか、かえって二重課税が発生するおそれもある。JBCEとしては、過度な開示及び租税 回避防止規定は、企業の正当な事業活動を阻害しないよう、導入すべきではないと考えて いる。 3.3.2 二重課税の防止 <提言> 日本とEU加盟国は、2カ国間租税条約を見直し、25%以上の持株関係がある親会社に対す る配当源泉税免除、関連会社間の金利、ロイヤルティ支払いに対する源泉税免除を実現す べきである。 <進捗状況> 本提言に関しては、一定の進捗が見られた。 <背景> 日EU間の直接投資を促進するためには、外国投資に関わるリスクに報いる政策が重要であ る。特に利益に対する二重課税の回避は必須である。2カ国間租税条約などを通した措置 はすでに導入されているが、なお改善の余地がある。 22 2014 JBCE報告書 3.3.3 移転価格税制 <提言> 二カ国間租税条約を見直し、対応的調整と仲裁を可能にする規定を導入すべきであ る。 企業の移転価格税制遵守コストを削減するために、日EU間およびEU加盟国間の書類 要件と解釈を簡素化する方向で統一するべきである。要件の簡素化を重視した上で、 要件の統一を図る方向で日EU間のベスト・プラクティスを確立し、その上で、日本と 各加盟国に普及させるべきである。 日本とEU加盟国間の双務、多国間のAPA取得手続きを改善することで、取得を容易に し、コストを削減すべきである。特に、以下の点に考慮すべきである。 双務、多国間のAPA取得手続きに関する専門家の養成を積極的に行い、経験を蓄 積することで運用の円滑化を図るべきである。 日EU間における双務、多国間事前確認制度(APA)取得手続きに関するガイドラ インを確立すべきである。そのようなガイドラインをすべての加盟国と日本が適 用すれば、日EU間で統一されたAPAの取得手続きが実現するはずである。 <進捗状況> 本件に関する進捗は見られない。 <背景> 移転価格税制についての主要国の考え方は、OECDガイドラインによって、相当収斂して きているが、移転価格税制を遵守するための作業、特に複数の国に対応する作業が繁雑 で、コンプライアンス・コストは企業の負担になっている。 さらに市場規模を考慮すると、日EU間取引にかかわるコンプライアンス・コストは、日米 間取引のコンプライアンス・コストよりも相対的に大きくなる可能性がある。EU加盟国27 カ国の各市場は、日本あるいは米国市場よりも小さいにもかかわらず、各国が独立した課 税権を持っており、さらに欧州事業においては、市場統合に対応するため、欧州本部と販 売子会社のように、複数の加盟国における事業が一取引に関わるケースが増えているため である。 移転価格に関する将来リスクを最小化するために、APAが急速に拡大しているが、国に よって条件が異なるため、企業はすべての関与国における条件に対応しなければならず、 そのための準備コストの負担は大きい。欧州事業においては、販売子会社と、物流・財務 23 2014 JBCE報告書 などの機能を集約した欧州本部のように、複数の加盟国における事業が一取引に関わる ケースが増えている。そのような場合、リスクを最小化するためには多国間APAの締結が 必要である。しかしながら多国間APAはEU加盟国間においても始まったばかりで、取得の ために必要なコストおよび経営資源を考慮すると、容易には利用できない。 日本とEU加盟国政府は、OECDにおける協力を強化すべきである。さらに、日EU間特有の 問題に関しては、二カ国間の改善を図るべきである。 3.3.4 資本参加免税制度 <提言> 直接投資を推進するために、事業投資から得られるキャピタルゲインに対し法人 税非課税とする、投資資本参加免税制度を導入すべきである。 <進捗状況> 本提言に関する進捗は見られない。 <背景> 直接投資を支援するためには、事業への投資から得られる受取配当および売却時の株式譲 渡利益を、法人税非課税とする投資資本参加免税制度が有効である。 投資資本参加免税制度には、日本やEUを経由して、アジアなどへの投資を促進する効果も 期待できる。 24 2014 JBCE報告書 4 EUの政策に対する提言 4.1 Europe 2020とSingle Market Act <提言> JBCEでは、「Europe 2020」を継続して支持する。特に、欧州委員会による単一市場を再発 進させるための「Single Market Act」を支持する。さらに、2014-2020年に渡るEUの研究開 発プログラムであるHorizon 2020の下で、EUと日本の企業、研究機関の間の国際協力が増 加することを期待する。また、欧州委員会が欧州産業ルネッサンスのために即時の行動を 求めたことを支持する。 単一市場は、EUおよび「Europe 2020」にとって重要である。 EUは、「Single Market Act IとII」で行ったコミットメントを実現することに、最 大限の努力をすべきである。JBCEでは、次の重要事項が単一市場にとって重要で あると考えている。 知的財産権 消費者の権利強化 サービス ネットワーク デジタル・シングル・マーケット 税制 事業環境 EUは、化学物質における真の単一市場実現にコミットするべきである。 <進捗状況> Europe 2020およびSingle Market Act IとIIは、進行中である。Single Market Act IIは、2012年 11月に発表された。化学物質における真の単一市場実現は、少しずつ進んでいる。 <背景> グローバルビジネスが繁栄するためには、規制環境は世界中でできるだけ均一であるべき である。それゆえに、単一市場における公平な競争環境は極めて重要である。 25 2014 JBCE報告書 環境政策や社会政策などの社会的目的を持つ政策を、経済政策や産業政策から独立した形 で立案することはできないと考える。これらの政策の間のシナジーが重要である。例え ば、製造部門だけでなく、運輸部門、家計部門にまでわたるエネルギー効率を高めるため には、革新的で、競争力のある製品、プロセスが重要である。また、社会保障制度のよう な老齢化社会の社会インフラを持続可能なものとするためには、企業が成長と雇用を生み 出す必要があることは言うまでもない。 さらに、規制政策の国際協力および政府やその他の政策立案機関同士の緊密な協力は、公 平な競争環境をグローバルに創る上で重要である。 2014年1月22日に、欧州委員会は、理事会と欧州議会に対し、エネルギー、輸送、宇宙、 デジタル通信ネットワークに関する法案を採択し、域内市場を完成させるための法制を執 行することを求めた。さらに、EUの基金を利用して、イノベーション、資源効率化、新技 術、技能、ファイナンスへのアクセスに投資することにより、産業の現代化を図るべきで あると述べている。さらに、法律の枠組みの簡素化、EU、加盟国、地域レベルの行政の効 率改善により、欧州をビジネスに対しより友好的にすることを推進している。他のアク ションには、国際的基準の調和、開放的な公共調達、特許権保護、経済外交を通じ、EU外 の国の市場へのアクセスを容易にする、などが含まれている。 4.2 関税引き下げによる域内市場における競争の活性化 <提言> EUは、オーディオ・ビジュアル製品に対する14%の関税や、乗用車に対する10%の関税な ど、一部の製品に課している高い関税を、ゼロにするか大幅に引き下げるべきである。 WTOにおける貿易交渉が停滞しているため、日EU間のEPA/FTA交渉を通じて、削減を実 現すべきである。 <進捗状況> 日EU間のEPA/FTA交渉が開始されたため、前進したといえる。 <背景> EUでは競争力強化が必要な国際競争の最先端の分野においても、一部製品に高関税を課し て、域内産業を保護しているよう見受けられる。その結果、EUが目標として掲げている産 業競争力強化につながらないどころか、競争力を弱体化する要因となっている。さらに、 その過程でユーザー、消費者が高い代償を払うことになり、一層の悪循環をもたらしてい る。 26 2014 JBCE報告書 4.3 化学品規制政策 4.3.1 REACH規則 4.3.1.1 解釈の統一 <提言> サプライチェーンの中の企業がEU市場において国ごとに異なる法遵守を求められ ることを回避するため、REACH規則における「成形品」の定義について、ガイダ ンスで定められている解釈に従わない加盟国に対し、EU当局は迅速な行動をとる べきである。 フタル酸エステル類の屋内使用に関し、EU当局は、統一された政策をEU全体で 導入すべきである。さらに、その政策が日EU間で調和されることを望む。 <進捗状況> 成型品の定義については、ある程度の進捗が見られる。フタル酸エステル類に関する進捗 は、限定的で不十分である。 <背景> REACHは、EUの「規則」であるものの、加盟国により解釈が異なることがあるため、真 の単一市場を実現していない。EUの当局は、解釈の明確化とEU全体での受け入れを通 じ、単一市場を実現すべきである。 高懸念物質(SVHC:Substance of Very High Concern)に関する届出・情報伝達義務が生じ る閾値0.1%に関し、基準となる成形品(分母)に関する法解釈がEUの加盟国間で未だ統 一されていない。REACH規則の成形品中の物質に関するガイダンスでは、0.1%の閾値は、 生産または輸入された成形品全体について適用される旨が示されている。しかしながら、 5加盟国とノルウェーは、「一度成形品になったものは、いつも成形品である」との考え 方の下、閾値は成形品の最小単位に適用されると主張している。 デンマークでは、欧州化学品庁(ECHA)の反対にもかかわらず、2012年11月30日に官報 で公布した国内法により、フタル酸エステル類の屋内使用を禁止している。ただし同法の 実施は2年間延期されている。さらに、デンマークは、REACHのAnnex XVに基づいて、 EU全体での禁止を提案したが、ECHAの委員会で、2012年6月と12月に否決された。この ような不一致は、単一市場の恩恵を無に帰するリスクがある。 4.3.1.2 実施のための実際的な指針 <提言> 27 2014 JBCE報告書 高懸念物質は絶え間なく増加している。ECHAは、ウェブ上でそのリストを公開 しているが、サプライチェーン中の中小企業にとって、そのような情報を十分消 化するのは困難である。EU当局は、川上のサプライヤーがデータをインプット し、川下のメーカーが利用できるようなデータベースの設置を容易にするイニシ アティブをとるべきである。 REACH第8条で定められている唯一の代理人(Only Representatives;OR)の責務に ついて、EU競争法との関係も含め、明確化することを求める。 ECHAのホームページに掲載されている、先導登録者から購入した、衛生安全環 境目的のドシエ情報(グローバル製品戦略や安全性データシートなど)は、現在 使用が制限されているが、無料かつ世界中で使用できるようにして欲しい。 CoRAPの下で加盟国に割り当てられた物質の評価の過程で、加盟国当局が、企業 に貢献を要請することがしばしばある。しかしながら、期限近くの要請や、バラ バラな要請では、効果的な貢献ができない。EU当局が、ベストプラクティス・ガ イドを加盟国当局のために作成し、企業が効率的かつ効果的に貢献できるよう助 成することを希望する。 <進捗状況> 高懸念物質に関しては、進捗は見られない。 <背景> REACHには、企業にとって実施困難な条項が含まれている。 ORの責務については、REACH第8条では、ORは、輸入数量と販売先に関する最新情報 を、安全データシートの細心のアップデートの供給情報と共に、提供できるようにするこ と、と定められている。しかしながら、この要請に基づき、ORが、間接的なサプライルー トから、顧客名や輸入数量などの、取引先の情報を集めた場合、EUの競争法に抵触する恐 れがある。EUの競争法上、このようなサプライチェーンに関する情報は、重要かつ秘密の 情報とされているためである。さらに、EU競争法への抵触を避けるために、第三者の受託 者を使ってこのような情報を集めることを、各加盟国の権限ある当局が認めるか否かが明 らかではない。すなわち、第8条はORだけを対象としており、ORの責務を第三者に委託す ることを認める記述はREACHのどこにもない。ドイツの権限ある当局は、第三者受託者の 利用を認めないという解釈をしているようである。さらに、第三者受託者の利用は、相当 なコスト増につながる。EUのメーカーは輸入数量情報を集める必要がなく、EU外のメー カーだけが影響を受けるため、市場における公正な競争を歪めている。 28 2014 JBCE報告書 4.3.1.3 直近の登録で明らかになった課題や問題 <提言> EU当局は、先導登録者の特定が困難なことや、アクセス・レターの費用が不透明であ ることなど、直近の登録で明らかになった課題や問題をまとめ、解決策と共に、次回 の共同登録に間に合うように公表すべきである。 EU当局はアクセス・レター費用の透明性や公平な費用分担を確保するために、物質情 報交換フォーラム(SIEF: Substance Information Exchange Forum)参加者間の合意努力 に依存するだけではなく、積極的に関与して実態を把握し、必要に応じて是正措置を 講じるべきである。 <進捗状況> 本提言に関しては、Data sharing disputeの仕組みを運用するなど一定の成果は見られるが、 透明性・公平性の確保に対するEU当局の関与は不十分である。 <背景> 2013年の登録期限に対応した登録および、2018年に新たな登録期限が到来することによ り、SIEFの活動における新たな課題が浮かび上がっている。すなわち、データの少なさ、 ほとんどがサプライチェーン上の中小企業である先導登録者の経験不足、費用負担の重さ といった問題が予想され、SIEFの活動を停滞させる懸念がある。 また、ECHAによる試験提案及び登録文書の評価や、加盟国による物質評価の結果、SIEF 内で再度費用負担の交渉が必要となる。さらには、後続登録者からのLoA提供収入は既存 登録者に還元されなければならない。透明性と公平性を持った費用按分が担保されるに は、EU当局による積極的な関与と監視が必要と考える。 4.3.2 内分泌かく乱物質に対する適切なアプローチ <提言> EUは、内分泌かく乱物質の規制において、CMR(発がん性物質、変異原性物質、生殖毒 性物質)の様に分類せずに、最善の科学に基づくリスク評価を用いるべきである。内分泌 かく乱物質は、毒性のエンドポイントではないためである。有害性評価は、WHOで定義さ れる内分泌かく乱物質の mode of action に基づいて有害影響を特定し、潜在力、先導的毒 性、苛烈度、不可逆性を考慮した性格付けをした上で行うべきである。 <進捗状況> 検討が継続しているため、ある程度の進捗が見られた。 29 2014 JBCE報告書 <背景> EU当局は、REACH, PPPR(植物保護製品規則), BPR(殺生製品規則)などの現存の法制 をレビューしており、政策を検討中である。 4.3.3 RoHS指令 <提言> EUは、REACH規則における制限と、ELV/RoHS指令における適用除外用途の関係が二重規 制にならないように配慮すべきである。 制限有害物質の数は増加して行く。EU当局は、追加物質の特定プロセスにおいて、継続し て産業界を関与させるべきである。 <進捗状況> ある程度の進捗が見られた。欧州委員会は、この問題を重要視している。 <背景> JBCEとして、すでに欧州委員会が、産業界を関与させていることについて、高く評価した い。REACH規則とRoHS指令は、互いに独立している。しかし、両者ともに化学物質を規 制しており、制限と適用除外を定めている。JBCEでは、現時点では、REACH規則の制限 とRoHS指令の適用除外用途に関し、両者の間で齟齬はないと認識しているが、両者がそれ ぞれ複雑な規制であるため、二重規制のリスクを懸念している。 4.3.4 CLP 規則 <提言> 輸出者の負担軽減のため、EU通関時においてGHSに従った分類、表示を受け入れ ることを求める。 EUは、ATP(技術発展への適応)の段階からGHSを考慮すべきである。 <進捗状況> 本提言に関する進捗は極めて限定的で、企業にとって十分ではない。 <背景> CLP規則(物質と混合物の分類、表示、包装に関する欧州議会理事会規則(EC)No 1272/2008)は、EUの製造者・輸入者に適用されるが、EUへの輸出者にも大きな影響を与 えている。CLPは、国連GHSに対応したものであるが、一部採用していない分類やEU独自 30 2014 JBCE報告書 の分類もあり、結果としてEUへの輸出者はGHSとCLPをともに遵守することを求められ る。 4.3.5 ナノマテリアル <提言> 1) 定義 EUは、ナノマテリアルに関する政策を今後策定、実施するにあたって、製品から 放出されるナノマテリアルへの曝露の程度を考慮すべきである。 2) 届出制度 EUは、EUレベルで調和された届出制度を創設するべくイニシアティブを発揮す べきである。 3) 計測方法の標準化 EUは、ナノマテリアルの実用的な計測方法を標準化すべきである。特に、国際整 合化を視野に入れた簡易測定法の開発を希望する。 <進捗状況> ある程度の進捗が見られた。 定義について、EU当局は定義の見直しを行うためパブリックコンサルテーションを実施 し、現行定義の実施状況把握に努めている。報告制度については、加盟各国が独自の報告 制度を実施または計画しているが、EUレベルでの調和化の動きが見られない。測定方法 は、ジョイント・リサーチ・センターが、レファレンスレポート(Requirements on measurements for the implementation of the European Commission definition of the term „ nanomaterial“, 2012)を発行し、測定方法の指針を提供しているが、現場レベルでの実用性 やコストの面で課題が残る。 <背景> 欧州委員会は、2011年10月18日にナノマテリアルの定義勧告(2011/696/EU)を発表した。 複数のEU加盟国において、国内で独自にナノマテリアルの報告制度を制定する動きがあ る。そのような加盟国ごとの制度は、ナノマテリアルの生産者や輸入者がいくつもの届出 を異なる形式で行うことによる不要な負担を強いるものであり、サプライチェーンにおけ る多大な非効率と混乱を招くおそれがある。 31 2014 JBCE報告書 届出などのためのナノマテリアルの計測においては、異なる計測方法が利用されている。 その結果、計測結果が比較可能でなくなるリスクがある。 4.4 税制 4.4.1 共通連結法人税課税標準(CCCTB) <提言> 2011年3月16日にEUの共通連結法人税課税標準(CCCTB)理事会指令案が提案されたこと を歓迎すると共に、早期に採択されることを願う。 EUの共通連結法人税課税標準によって次の事項を実現することを求める。 国境を越えたグッドウィル移転の際の課税解消。 移転価格税制問題の解消。 利益と損失の相殺。 <進捗状況> 本提言に関する進捗は見られない。 <背景> 日系企業の多くは、統合の進む域内市場において競争力を保つために、販売支援機能や会 計機能の集中化のような欧州事業組織の統合と合理化を実施している。 欧州における事業再編において、グッドウィル(のれん、営業権)が国境を越えて移転す ると、課税が発生する可能性がある。EU市場統合を真に利用するために、営業機能の統廃 合などを含む事業再編を行う場合、グッドウィルの国境を越える移転は避けて通れない が、多額の課税が発生する可能性があるため、事業再編における障害となっている。 グループ内取引と税制の関係はビジネスにおける意志決定に大きな影響を与える要因であ る。欧州委員会が2001年10月のコミュニケーションで述べているように、国際的なビジネ スを行う企業にとって、EUにおける法人税申告のために、統合されたルールに基づいてグ ループ全体の連結決算を行うことが可能になることが望ましい。 4.4.2 合併指令 <提言> EUに対し、合併指令による課税繰延の対象を、不動産移転税およびその他の無形 資産等へ拡大することを求める。 32 2014 JBCE報告書 EUおよび加盟国に対し、株式保有維持の義務付けを廃止することを要望する。 <進捗状況> 本提言に関する進捗は見られない。 <背景> 欧州委員会は、2001年10月のコミュニケーションでは、合併指令(90/434/EEC)による課 税繰延の対象を不動産移転税に拡大する意図に言及していた。しかしながらこの点は、合 併指令改正(2005/19/EC)には含まれていない。 合併指令による課税繰延の対象を、不動産移転税およびその他の無形資産等へ拡大するこ とで、企業は組織再編のコストを減らし、競争力を強化することができる。 EUの合併指令(90/434/EEC)は、特定のクロスボーダーの事業再編の際に、法人税の課税 繰延を認めている。但し、加盟国によっては、資産と交換に受け取った株式を何年か持ち 続けることを求めており、資産をすべて株式と交換し、空の会社になった場合でも、株式 を持ち続けるために、会社を維持する必要がある。合併指令では、この持株維持に対する 法的根拠を規定していない。 日系企業にとって、空会社の維持費がかかるだけではなく、二重課税のリスクが高まると いう問題がある。欧州本店の子会社、支店が支払った税のうち、空の子会社経由の配当に 相当する部分は、日本の外国税額控除の対象外になるため、二重課税が発生する。 4.4.3 VAT <提言> EUのVAT制度を抜本的に改正し、単一市場に適合した、簡素化され、効率がよく、強靱な VAT制度を実現するという、欧州委員会の戦略(Com (2011) 851)を歓迎する。 企業グループが、EU各国のVAT申告事務を、容易かつ費用効率よく、一カ所に集中できる ような新しいVAT制度が迅速に実現することを強く期待する。 <進捗状況> 本提言に関しては、限定的ではあるものの、若干の進捗が見られた。 <背景> 日系企業の多くは、統合の進む域内市場において競争力を保つために、欧州事業組織の統 合と合理化を実施している。その際に、コスト削減と効率改善のためVAT申告業務を含む 会計機能の集中化が、検討されることは多い。 33 2014 JBCE報告書 VAT制度はEU共通の制度であるが、現実には加盟国の裁量が大きいため、VAT申告業務の 集中化は相当な財務リスクにつながる。 VAT申告業務を集中化した場合、集中化された会計スタッフは各加盟国のVAT制度に対す る知識が限定的なことが多く、間違いを犯しやすい。反復的な取引において何らかの間違 いを行った場合、修正すべき金額は短期間の内に巨額になる可能性がある。さらに罰金が 科される可能性もある。このようなリスクを避けるためには、それぞれの加盟国に会計要 員を残すか、集中化した会計センターで各国の知識を持つ要員を雇用しなければならな い。いずれにせよ、コスト面での集中化の効果は実現されない。 4.5 会社法/企業の社会的責任 4.5.1 紛争鉱物 <提言> JBCEでは、規則案には、国際的に認められた枠組みの推進、自己認証が任意であること、 信頼できる精錬所のリスト公開など、ビジネスからのフィードバックが取り入れられてい ることを評価する。しかしながら、信頼できる輸入業者の自己認証は、任意であるもの の、自己認証を行うことを選択した信頼できる輸入業者に対する業務負担は、相当なもの があると認識している。自己認証の選択が容易になるように、業務負担を極力軽減するこ とを考慮することを求める。 ジョイント・コミュニケーションで述べられている優遇策に関し、公共調達にかかわる、 OECDデュー・デリジェンス・ガイダンスと「同等」であることの定義を明らかにするこ とを求める。また、産業コミットメントにかかわるレター・オブ・インテントに企業が署 名した際の、責任と恩恵を明らかにすることを求める。公共調達優遇策を実施するにあ たって、内部のコーディネーションを円滑に行うことを求める。 さらに、EU当局は、EU外の国々との対話を通じて、世界的に、紛争にかかわらない、信 頼できる採鉱を推進すべきである。 <進捗状況> 本提言は新しい提言である。 <背景> 欧州委員会は、2014年3月5日に、紛争に影響された高リスク地域を原産地とする、スズ、 タンタル、タングステンと、それらの鉱石、および金の信頼できる輸入者のサプライ チェーン・デュー・デリジェンス自己認証にかかわるEUの制度の創設に関する欧州議会理 事会規則案を提案した(COM(2014)111)。規則案と共に、「紛争に影響された高リスク地 34 2014 JBCE報告書 域を原産地とする鉱物の信頼できる調達 - 統合されたEUのアプローチに向けて」と題す る、欧州議会と理事会に対する欧州委員会と上級代表のジョイント・コミュニケーション が発表された(JOIN(2014) 8)。 4.5.2 国別報告 <提言> EU当局は、過度な開示要件によって、国際企業の事業活動が阻害されるリスクを慎重に検 討すべきである。 <進捗状況> 本提言は、新しい提言である。 <背景> 非財務情報と取締役会の多様性の開示に関し、欧州議会理事会指令2013/34/EUを改正す る、指令案の、欧州議会と理事会によって合意された最終的な法文では、2018年7月21日 までに、国別報告の導入可能性について報告することを求めている。報告書では、OECD における発展と、関連する欧州のイニシアティブの結果を考慮し、大企業に対し、事業を 行っているEU加盟国およびEU加盟国以外の国ごとに、少なくとも、利益、税金、受け 取った公的補助金に関する情報を毎年報告する義務を導入する可能性について検討する。 欧州理事会は、2013年5月22日と12月20日、国別開示の対象を大企業とグループに拡大す ることに言及した。 EU法の下では、すでに金融機関に対し、拠点を持つEU加盟国およびEU加盟国以外の国ご とに、税引き前損益、損益に対する税、受け取った公的補助金に関する情報を2015年以 降、毎年開示する義務が導入されている。また、EU法では、鉱業あるいは林業に従事して いる大企業あるいは公共性のある会社に対し、2016年以降、政府に対する支払を開示する よう、求めている。 OECDは、G8とG20により、多国籍企業が、利益を上げ、納税を行っている世界中の税務 当局に対し、報告を行う際の、標準化された報告書のひな形を作ることを求められてい る。 4.5.3 非財務情報の開示 <提言> 非財務情報と取締役会の多様性の開示に関し、欧州議会理事会指令2013/34/EUを改正す る、指令案の、欧州議会と理事会によって合意された最終的な法文では、JBCEを含むビジ 35 2014 JBCE報告書 ネス界からの懸念事項の多くが取り入れられていることを評価する。たとえば、非財務情 報に関するKPI(主要業績指標)を任意とすること、連結レベルでの報告を認めること、 対象となる企業の範囲を限定したことなどである。JBCEでは、欧州委員会が実施すること になっている、非財務情報のKPIを含む非財務情報報告の際の方法論に対する、拘束力を 持たないガイドライン作成の際のコンサルテーションに寄与したいと考えている。 <進捗状況> 相当な進捗が見られた。 <背景> 欧州委員会は、2013年4月に指令案(COM(2013) 207)を発表した。欧州議会と理事会は、 2014年2月に、非財務情報と取締役会の多様性の開示に関し、欧州議会理事会指令 2013/34/EUを改正する指令案の、次の2点を含む、最終的な法文に合意した。 従業員500人以上の公共性のあるEU企業に対し、少なくとも、環境、社会と従業員、 人権の尊重、汚職と贈賄の防止に関して、会社の方針、結果、主要なリスクに関する 情報を毎年の経営報告書で開示することを義務付けている。 EUの会社による、意味があり、有用かつ比較可能な非財務情報の開示を容易にするた めに、非財務情報を報告するための方法について、拘束力のないガイドラインを、欧 州委員会は作成する。このガイドラインには、一般及びセクター固有の、非財務重要 業績評価指標が含まれる。欧州委員会は、作成の過程で、ステークホルダーとコンサ ルテーションを行う。欧州委員会は、本指令の発効後24か月以内にガイドラインを発 表する。 4.5.4 欧州非公開会社法 JBCEは、欧州非公開会社法案が廃案になることを残念に思う。EU当局は、新しい提案を 早急に作成すべきである。 4.6 製品の安全性と市場監視 4.6.1 製品の安全性と市場監視包括法案 <提言> EU当局は、製品の安全性と市場監視包括法案の審議を慎重に行うべきである。特に、消費 者向け製品の安全性に関する規則案第7条で、原産国の表示を求めている点については、 原産地国の表示義務付けは、消費者にとって必ずしも安全性の向上につながらないが、 メーカーと輸入者に相当な業務負担を強いる可能性がある。従って、原産地国の表示義務 付けを、法制化すべきではない。 36 2014 JBCE報告書 <進捗状況> 本提言は、新たな提言である。 <背景> 欧州委員会は、2013年2月13日に、製品の安全性と市場監視包括法案(製品の市場監視に 関する規則案(COM(2013)75)と消費者に対する製品の安全性に関する規則案 (COM(2013)78))を提案した。消費者に対する製品の安全性に関する規則案第7条では、 メーカーと輸入者に対し、製品の原産国を製品に表示することを求めている。 4.6.2 新しい立法枠組における市場監視 <提言> JBCEは、市場監視の調和に関する欧州委員会と加盟国の全般的な姿勢を支持す る。調和は製品の公正な動きに関する第一歩である。 欧州委員会と加盟国に対し、調和プロセスと各加盟国における市場監視の実施状 況に関する、すべての情報を公表することを求める。 欧州委員会と加盟国に対し、市場監視を調和する枠組作りに、産業界が貢献でき る機会を作ることを求める。 JBCEは、欧州委員会担当総局が産業界を関与させていることを評価する。今後 も、できる限り公開コンサルテーションを通じて、幅広いステークホルダーから の意見聴取を行うべきである。 <進捗状況> 本提言に関しては、ある程度の進捗が見られた。 <背景> 製品の販売に関する認定と市場監視の要件を定めた規則765/2008/ECと、製品の販売に関す る共通の枠組を定めた決定768/2008/ECが2008年に採択された。同規則は2010年1月1日より 適用されている。 同規則と決定は、現行のセクター別の法令において欠けている要素、すなわち認定と市場 監視を扱い、補完している。現行の法令は、改正される際に、本決定に基づいて修正され る。この、いわゆる新しい立法の枠組の目的は、透明かつ調和された市場監視と認定をす べての事業者に対し導入することである。本決定では、定義、事業者の定義、トレーサビ 37 2014 JBCE報告書 リティに関する規定、セーフガードについて定めている。加盟国当局は、市場監視プログ ラムを策定し、2010年1月1日までに欧州委員会に通知をすることになっている。 欧州委員会は、「新しい立法の枠組」のガイダンス「ブルー・ガイド2014」を2014年3月 に発表した。 4.6.3 消費者保護 <提言> 2011年10月25日に、消費者の権利に関する指令2011/83/EUが採択されたことを歓 迎する。さらに、JBCEの提言のうち、2点が実現したことを歓迎する。 しかしながら、保証期間を2年以上とする裁量権を加盟国に認めている点は、従 前通りであり、単一市場の障害になり得ると思われる。次回の制度見直しの際 に、保証期間を2年以上とする裁量権のメリット・デメリットを評価することを 欧州委員会に求める。 <進捗状況> 本提言に関する進捗は見られない。 <背景> JBCEでは、単一市場のメリットを最大化するためには、クロスボーダーの取引に影響を与 える立法はすべて、企業や消費者が、加盟国による実施状況の違いを懸念する必要がない 程度まで調和されるべきであると考えている。 4.7 環境フットプリント <提言> 比較可能性あるいはグローバル・メソドロジーの調和: 比較可能性を客観的に 支えるためにも、EUは、グローバルな調和を考慮し、LCA(ライフサイクル・ア セスメント、例、cLCA-カーボン・ライフサイクル・アセスメント)についての 議論、手法に関するISO、IEC等での議論(ISO14040-14044, ISO26000 (GRI), ISO14025等)との整合を取るべきである。 データベース: EUは、EU域内だけでなく、域外のデータベースとの相互認証 を認め、国際的なデータベース開発の取り組みに参画するべきである。 セクタールール: セクタールール策定においては、対象となる製品、産業セク ターの範囲について、組織の環境フットプリント、製品の環境フットプリントの 38 2014 JBCE報告書 測定方法論とは別に、ガイドラインを作成すべきである。さらに、セクターの定 義は、意味のあるデータの比較を可能にするために、十分狭く定義するべきであ る。 <進捗状況> 日系企業も参加したパイロット・プログラムが2013年に始まったため、進捗している。 <背景> 欧州委員会の、製品と組織の環境フットプリントについてのイニシアティブは、パイロッ ト・プログラムの段階に入った。日系企業はプログラムを通じて貢献している。 4.8 競争政策 4.8.1 欧州委員会の公開コンサルテーションに対するJBCEのインプット JBCEは、2013年6月に、合併規制の簡素化手続きに関するコンサルテーション、同9月に、 少数株主に関するコンサルテーションに、意見を提出した。 JBCEは、企業に直接与える法令を作成する際に産業界の意見を考慮する欧州委員会の 態度を歓迎する。 JBCEの会員企業は、現行の合併規則の下で、頻繁に通知を行っており、会員企業の広 範な経験に基づいて欧州委員会のコンサルテーションに参加できることを悦ばしく思 う。 <合併規制の簡素化手続きに関するコンサルテーション> 欧州委員会の提案により、簡素化手続き(すなわち簡易書式COの使用)の適用対象は 拡大するため、欧州委員会の事務作業の量は減るが、通知する側の事務負担は、減ら ず、欧州委員会が新たに導入しようと考えている情報提供の要件により、むしろ相当 増加すると思われる。JBCEとしては、情報提供要件の拡大は、欧州委員会が述べてい る行政の簡素化と企業負担の軽減という目的に沿っていないと考える。 <少数株主に関するコンサルテーション> 少数株主に関して検討されている制度改正により、通知を必要とする取引が増加する 可能性があると言える。新たに対象となる取引のほとんどは、競争法上の問題が全く ない取引であると予想される。従って、EUの合併規則の対象範囲を拡大するような改 正は、正当化できないと考えられる。企業に対し、義務を追加するような改正は、EU において事業を行うコストを増加させるという副作用を生じる恐れがある。 39 2014 JBCE報告書 現行の合併規制規則の下でも、EEAにおける活動が全くないジョイント・ベンチャー を作る場合でも通知を行わなければならないという事態が生じる。欧州委員会は、現 行の合併規制規則の対象となっていない案件のみならず、現行規則の対象となる案件 についても、EU外におけるジョイント・ベンチャーに対する不釣り合いな負担を減ら す、合理的な仕組みを導入すべきである。 なお、JBCEの提出した意見の全文は、JBCEのウェブサイトで閲覧することができる。 4.8.2 欧州委員会による情報提供の要請 <提言> EU当局に対し、「シンプルな情報提供の要請」や「決定による情報提供の要請」 を送る際に、正しくかつ関連性のある宛先に送るべく十分な注意を払うよう要請 する。 EU当局に対し、情報提供の要請の回答期限を設定する際には、回答を準備するた めの十分な時間的余裕を見ることと、回答期限の延長要請に対し柔軟に対応する ことを要請する。 <進捗状況> 本提言に関する進捗は見られない。 <背景> 競争法を施行するための理事会規則 (EC) No 1/2003第18条あるいは、合併を規制するため の理事会規則(EC) No 139/2004第11条に基づき、欧州委員会は、事件に直接かかわりのない 場合も含め、いかなる企業、企業団体に対しても、「シンプルな情報提供の要請」と「決 定による情報提供の要請」により、必要な情報すべての提供を求めることができる。さら に、理事会規則 (EC) No 1/2003第23,24条、理事会規則(EC) No 139/2004第14,15条では、要 請に従わなかった場合に過料、罰金を課すことができることを定めている。 グループ企業中の、このような要請に対応することができない法人に対し、欧州委員会担 当部署から要請が送られてくることがしばしばある。特に、本部がEU外にある場合、欧州 委員会の担当部署は、送り先が情報提供の要請に対応する権限を持つかどうかを確認せず に送る傾向があるように見受けられる。このような場合、対応することができる部署に要 請が転送された時点で、回答を準備する時間が残されていないことが多い。さらに、回答 期限の延長を企業が要請しても、欧州委員会は延長を認めないことが多い。 40 2014 JBCE報告書 4.9 代替燃料インフラの展開に関する指令案について <提言> 代替燃料インフラの展開に関する指令案で述べられている、代替燃料インフラの展開を促 進する計画を支持する。しかしながら、指令案を次の点で修正することを求める。 特定の規格に関する、バランスの取れていない強調を削除すべきである。 指令において、コンボ2タイプ以外の急速充電技術も、EUにおいて認可されるこ と、またそのような技術をEU市場から排除しないことを確認すべきである。 <進捗状況> 指令案は審議の最終段階にあり、4月半ばまでに、欧州議会、理事会、欧州委員会3者交渉 の合意が成立する見込みである。 <背景> 欧州委員会は、2013年1月24日に、代替燃料インフラの展開に関する指令案(COM(2013)18) を提案した。指令案が欧州議会と理事会によって採択されると、充電器と自動車の接続の 共通技術規格を実施しなければならない。指令案附属書III 1.2において、電気自動車の直 流急速充電器の規格として、相互の接続を可能にするために、2014年に採択される見込み の関連EN規格で定められるコンボ2タイプのコネクタを規定している。 同提案前文(26)では、充電および給油点における相互接続のための技術仕様は欧州の規 格で定められなければならない、としている。しかしながら、そのような規格は、DC急速 充電器については、まだ最終化されていない。従って、特定の技術を欧州規格で定められ ているとするのは、時期尚早である。 さらに、将来の指令においては、現存するDC急速充電器技術とのデュアル規格のコネクタ を選択肢として認めるべきである。なぜならば、現在の指令案のように、近い将来市場化 される技術仕様が指定される可能性があるためである。事実として、欧州では今日、すで に50,000台以上の急速充電器を必要とする電気自動車が走っている。現存する電気自動車 と将来の電気自動車両方に使うことができるデュアル規格の充電器を認めることは、現在 の電気自動車のドライバーの便をはかるだけでなく、電気自動車市場の発展のためにもな る。 4.10 貿易防衛手段 <提言> EUの貿易防衛手段を現代化する規則案に関し、以下の要請をする。 41 2014 JBCE報告書 企業にとっての、プロセスの予見可能性を改善するために、すべてのステークホル ダーとのコミュニケーションは、プロセス全体を通じて透明であるべきである。 特に調査が職権により開始された場合など、企業に対し不必要かつ過度の協力を強要 すべきではない。 <進捗状況> 本提言は、新たな提言である。 <背景> 欧州委員会は、2013年4月10日に、欧州議会と理事会に、規則案(COM(2013)192)を提出し た。この規則案は、欧州共同体加盟国以外の国からのダンピングされた輸入品に対する防 護に関する理事会規則(EC) No 1225/2009と、欧州共同体加盟国以外の国からの補助金を受 けた輸入品に対する防護に関する理事会規則(EC) No 597/2009を改正するものである。 4.11 解決した問題 2013年JBCE報告書に記載された問題のうち、下記の問題が解決されたことに対し、JBCE はEU当局に謝意を表する。 関税分類 IT製品 パワー半導体モジュール HFCs 一元化された特許 企業内派遣者指令案 42
© Copyright 2024 Paperzz