KURENAI : Kyoto University Research Information Repository Title Author(s) Citation Issue Date URL 霊長類進化の科学( p. 40 ) 京都大学霊長類研究所; 松沢, 哲郎; 髙井, 正成; 平井, 啓久; 國松, 豊; 相見, 滿; 遠藤, 秀紀; 毛利, 俊雄; 濱田, 穣; 渡邊, 邦夫; 杉浦, 秀樹; 下岡, ゆき子; 半谷, 吾郎; 室山, 泰之; 鈴 木, 克哉; HUFFMAN, M. A.; 橋本, 千絵; 香田, 啓貴; 正高, 信男; 田中, 正之; 友永, 雅己; 林, 美里; 佐藤, 弥; 松井, 智子; 林, 基治; 大石, 高生; 三上, 章允; 宮地, 重弘; 脇田, 真清; 松 林清明; 榎本, 知郎; 清水, 慶子; 鈴木, 樹理; 宮部, 貴子; 中 村, 伸; 浅岡, 一雄; 上野, 吉一; 景山, 節; 川本, 芳; 田中, 洋 之; 今井, 啓雄 京都大学学術出版会. (2007) 2007-06 http://hdl.handle.net/2433/192771 Right Type Textversion Book publisher Kyoto University から生まれた人類の起源を解明するにはいまだ道遠しの感はあるけれど,今後も 研究者たちのたゆまぬ努力で新しい化石が発見され,科学に新しい知識をもたら すことを期待しつつ本稿を終える。 [1]Groves C(2001)Primate Taxonomy. Washington: Smithsonian Institute Press. [2]荒俣宏(1988)世界大博物図鑑5[哺乳類]. 東京 : 平凡社 . [3]Richmond BG, and Strait DS (2000) Evidence that humans evolved from a knuckle-walking ancestor. Nature 404: 382-385. 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ついて,二つの説が出されている。一つは,原猿類と真猿類とに分ける方法であ る。キツネザル類とロリス類,メガネザル類は原始的な特徴をそなえているので 原猿類(prosimians) としてまとめられ,一方,新世界ザル類と旧世界ザル類, 類人猿とヒトは新しい特徴をそなえているので真猿類(simians)とされる。もう 一つの方法は,系統関係を忠実に反映させようとするものである。メガネザル類 は原始的な特徴をそなえてはいるが,類縁関係を調べると,キツネザル類やロリ ス類よりも,真猿類とより近い関係にあるという。この方法によると,キツネザ ル類とロリス類は曲鼻類(strepsirrhines)として,メガネザル類と新世界ザル類, 旧世界ザル類,類人猿とヒトは直鼻類(haplorrhines) としてまとめられる。生 第 1 章 過去を探る 41 物の進化過程には二つの側面があるといわれている。段階進化(gradogenesis) と分岐進化(cladogenesis) である[6]。原猿類・真猿類という分類は段階進化の 側面を,また,曲鼻類・直鼻類という分類は分岐進化の側面を重視したものと見 なされている。しかし,どちらの説にもそれを支持する資料が出され,論争中で ある[7, 8]。 現生霊長類のまぎれもない仲間が最初に化石として現れたのは前期始新世で, 今から約 5500 万年前のことである。その前の時代,暁新世にはプレシアダピス 類が繁栄していた。今から約 6500 万年から 5500 万年前の頃である。プレシアダ ピス類は歯の特徴が霊長類と似ているため,かつては霊長類に入れられていた。 しかし,目の周りが骨で囲まれていないなど,現生霊長類を特徴づける形質をも たないので,今では古霊長類(archaic primates)とよばれ,現生霊長類のグルー プ(新霊長類 primates of modern aspect)とは区別される[3]。 始新世の霊長類は大きく二つのグループに分けられる。アダピス類とオモミス 類である。そして,アダピス類から曲鼻類が生まれ,オモミス類から直鼻類が生 まれたと考えられてきた。しかし,アダピス類は曲鼻類を特徴づける歯櫛(櫛の ように並んだ下顎の切歯と犬歯)をそなえていないなど,アダピス類とオモミス類 がそれぞれ曲鼻類と直鼻類の特徴を十分にそなえているわけではない。したがっ て,アダピス類とオモミス類がそれぞれ曲鼻類と直鼻類を生み出したとする説が 確立しているわけではない[3]。 現生霊長類は六つのグループに大別されるが,それぞれの直接の祖先が現れた のは後期漸新世から前期中新世で,今から約 2500 万年前の頃である。 ■霊長類の活動パターン 霊長類の活動パターンは,もっぱら昼間活動する昼行性と,もっぱら夜間活動 する夜行性,昼も夜も活動する周日行性の三つに分けられる(表 1)。 真猿類のアザラヨザル( ) とキツネザル類を除く全ての霊長類の 活動パターンは, 夜行性か昼行性といわれている。原猿類のロリス類とガラゴ類, メガネザル類は全て夜行性で,真猿類はヨザルを除き,全て昼行性とされる。ヨ ザル類( )では,アザラヨザルが周日行性で,他は夜行性といわれている キツネザル類は変化に富んでいる。チャイロキツネザル類( 42 第Ⅰ部 形をみる [9] 。 )とジェ 百 万 年 前 キ ツ ネ ザ ル 類 1.8 5 メ ガ ネ ザ ル 類 ロ リ ス 類 新 世 界 ザ ル 類 旧 世 界 ザ ル 類 人大 類型 類 人 猿 と 小 型 類 人 猿 更新世 鮮新世 中新世 24 漸新世 36 始新世 55 暁新世 65 オ モ ミ ス 類 ア ダ ピ ス 類 プ レ シ ア ダ ピ ス 類 後期白亜紀 98 図 1 霊長類の系統関係。Martin(1990)を改変。 ントルキツネザル類( ) ,エリマキキツネザル類( といわれている。ワオキツネザル( )とシファカ( ) は昼行性で,コビトキツネザル( ( ) ,オオネズミキツネザル( ( ),アバヒ( フォークキツネザル( )が周日行性 ) ,インドリ ) と,ネズミキツネザル ) ,イタチキツネザル( ) ,アイアイ( ) , ) は夜 [9] 行性だといわれている 。 ■霊長類の視覚 ここでは活動パターンと関連する色覚とタペタム,中心野,中心窩について議 論する。 □色覚 脊椎動物の色覚には,目の網膜に錐体とよばれる光受容体細胞と,錐体の情報 第 1 章 過去を探る 43 表 1 活動パターンと錐体,色覚,タペタム,中心野,中心窩。 分類群 活動パ ターン 錐体 青 緑 赤 色覚 タペタム 中心野 中心窩 + − ? − ? コビトキツネザル 夜 + + − 2 ネズミキツネザル 夜 + − + 2 オオネズミキツネザル 夜 + − + 2 + ? ? イタチキツネザル 夜 + + − 2 + ? ? アイアイ 夜 + + − 2 + ? ? チャイロキツネザル 周 + + − 2 − − + ジェントルキツネザル 周 + − + 2 + + + ワオキツネザル 昼 + + − 2 + + + 昼/周 + + + 多 − + ? アバヒ 夜 + − + 2 + − ? シファカ 昼 + + − 2 + + ? コクレルシファカ 昼 + + + 多 + + ? インドリ 昼 + ? ? 2 + + ? ロリス 夜 − + − 単 + ? ? スローロリス 夜 − + − 単 + ? ? ポト 夜 − + − 単 + ? ? オオガラゴ 夜 − + − 単 + ? ? ガラゴ 夜 − + − 単 + + ? フィリピンメガネザル 夜 + − + 2 − + + ニシメガネザル 夜 + + − 2 − + + 夜/周 − + − 単 − + + ホエザル 昼 + + + 3 − + + 広鼻類 昼 + + + 多 − + + 狭鼻類 昼 + + + 3 − + + エリマキキツネザル ヨザル 夜:夜行性;周:周日行性;昼:昼行性;+:あり;−:なし;?:不明;2:2 色性色覚; 単:単色性色覚;多:多色性色覚;3:3 色性色覚。 をもとに色の信号を作り出す神経機構が必要である。錐体は視物質をふくんでい る。視物質はタンパク質のオプシンと発色団レチナールから成り立つ。視物質は それぞれ特異的な光の波長吸収極大値をもっている。このような視物質の種類を 増 や す こ と に よ り, 色 覚 が 生 ま れ て く る。 光 の 波 長 吸 収 極 大 値 が 短 波 長 (short-wavelength sensitive) の視物質 S オプシンをもつ錐体は S 錐体とよばれ, 長 波 長(long-wavelength sensitive) の L オ プ シ ン の も の は L 錐 体, 中 波 長 (middle-wavelength sensitive)の M オプシンのものは M 錐体とよばれる 44 第Ⅰ部 形をみる [10] 。 もともと脊椎動物の祖先は 4 種の錐体視物質をもっていたと考えられてい る[11]。2 種の S 錐体と 2 種の L/M 錐体である。現在でも,多くの鳥類や爬虫類 は 4 種の視物質をもっている。しかし,有胎盤類(哺乳類の一つのグループで,単 孔類と有袋類を除いたもの。真獣類ともいう。霊長類はこのグループに含まれる)は 進化の過程でそのうちの 2 種類を失った。その結果,S 錐体と L/M 錐体をそれ ぞれ 1 種ずつもつ 2 色性色覚となった。有胎盤類のなかで霊長類の色覚は特異で ある。3 色性色覚をもつものが現れてきた。一部の原猿類と新世界ザル類,狭鼻 類である。有胎盤類では,霊長類だけが 3 色性色覚をもつ。3 色性色覚の適応的 意義について,現在,盛んに議論されている[11, 12]。熟した赤い色の果実を背景 の緑の葉から選び出す。若葉はおうおうにして赤い色をしている。有害物質が多 い緑の葉の中から若葉を選び出す。雌の皮膚の色により,発情に関する情報を知 ることができるなどである。 霊長類では,S 視物質は常染色体上にある 1 個の遺伝子により支配され,L と M 視物質は X 染色体上にある遺伝子により支配されている。狭鼻類と,新世界 ザル類のホエザル( )は,X 染色体上にある L/M 視物質遺伝子が重複し, L 視物質と M 視物質を支配する 2 個の遺伝子をもつようになった。狭鼻類とホ エザルとの間には,遺伝子重複機構に違いが認められるので,それぞれが独自に 遺伝子重複を行ったと考えられる。このようにして,狭鼻類とホエザルは,S,L, M の 3 種の視物質をもつので,色覚は雄も雌も 3 色性となる。ホエザルを除く 新世界ザル類では,X 染色体上の視物質遺伝子は 1 個である。しかし,この遺伝 子は多型を示し,L から M の異なる視物質を支配する。この遺伝子は X 染色体 上にあるので,異型接合の雌は 3 色性色覚となる。同型接合の雌と,全ての雄は 2 色性色覚となる。このような 3 色性色覚を対立遺伝子型 3 色性色覚(多色性) と呼ぶ。多色性は新世界ザル類だけでなく, 原猿類のエリマキキツネザルとシファ カにも見つかっている[4, 11]。 □タペタム(tapetum lucidum) タペタム(輝板)は,光を反射する装置で,多くの脊椎動物の目に備えられて いる。夜,イヌやネコを懐中電灯で照らすと目が光る。これは,タペタムが光を 反射するからである。タペタムは,脊椎動物では脈絡膜か網膜にある。タペタム は光受容体を一度通過した光を反射し,反射された光はふたたび光受容体で吸収 第 1 章 過去を探る 45 される。このようにタペタムは光受容体が, より多くの光を吸収できるようにし, 暗いところでの視力を高める働きをする。したがって,タペタムは夜行性への適 応と考えられている[13]。 哺乳類では,タペタムに網膜性のものと脈絡膜性のものとがある。網膜性のタ ペタムは有袋類だけに認められ,脈絡膜性のタペタムが一般的である。脈絡膜性 のタペタムはさらに,繊維性のものと細胞性のものとに分けられる。繊維性のも のは,ゾウなどの有蹄類やクジラ類,ネズミの仲間に認められる。細胞性のもの は,原猿類やアザラシ,イヌやネコなどの食肉類などに認められる。細胞性タペ タムは光を反射するが,その有効成分は一様ではなく,亜鉛とかリボフラビンな ど多岐にわたる。このように,有胎盤類(単孔類と有袋類を除く哺乳類)でタペタ ムには多様性が認められるので,その共通祖先はタペタムを備えていなかったと 考えられている。共通の祖先から分化した後に,それぞれの動物群が個別にタペ タムを獲得したと考えられている。 霊長類のタペタムは全て,細胞性でしかも有効成分がリボフラビン(ビタミン B 2 )で,金色に光る。有効成分がリボフラビンのタペタムは有胎盤類では霊長類 に限られる。このように,タペタムが一様で,しかも,その有効成分が特異であ るので,霊長類がタペタムをもつようになったのは,何回かにわたる平行進化で はなく,単一起源によるものと思われる[3]。 タペタムは夜行性への適応と考えられてきた。しかし,タペタムをそなえてい る霊長類は夜行性とは限らない。昼行性や周日行性のものにもみとめられる(表 1) 。 キツネザル類は多様である。夜行性のものはアイアイなど,全てのものがタペ タムをそなえている。昼行性のものもインドリなど,全てのものがタペタムをそ なえている。しかし,周日行性のものは一様ではない。ジェントルキツネザル類 はタペタムをそなえている。しかし,チャイロキツネザル類とエリマキキツネザ ルはタペタムを欠いている。かつてはそなえていたが,その後,失ったと考えら れる。ロリス類は夜行性で, 全てのものがタペタムをそなえている。したがって, 少なくともロリス類とキツネザル類,すなわち曲鼻類の共通祖先はタペタムをそ なえていたと思われる。 メガネザル類は夜行性にもかかわらず,タペタムをそなえていない。新世界ザ ル類と旧世界ザル類,類人猿とヒトは全てタペタムをそなえていない。新世界ザ 46 第Ⅰ部 形をみる ル類のヨザルは夜行性ないしは周日行性であるが,タペタムをそなえていない。 したがって,直鼻類は夜行性であっても全てタペタムをもたないことになる。 このようにみてくると,少なくとも曲鼻類の共通祖先はタペタムをそなえてい たとおもわれる。一方,現生の直鼻類は全てタペタムをそなえていないので,直 鼻類の共通祖先はタペタムをそなえていなかったとおもわれる。霊長類の最後の 共通祖先,すなわち,曲鼻類と直鼻類の共通祖先がタペタムをそなえていたかに ついては,祖先がどちらの特徴をそなえていたかによる。タペタムを獲得したの は, (1) 霊長類の共通祖先の段階か,それとも, (2) 曲鼻類と直鼻類に分かれた後, 曲鼻類の共通祖先の段階かのいずれかと思われる。(1)の場合だと,タペタムを 霊長類の共通祖先はもっていたが,その後,曲鼻類は保持し続け,直鼻類は失っ たと考えられる。この場合, 霊長類の共通祖先は夜間も活動していたと思われる。 (2)の場合だと,もともと霊長類はタペタムをもっていなかったが,曲鼻類の共 通祖先がタペタムを獲得したということになる。この場合,霊長類の共通祖先は 夜間活動していたとは思われない。このように,現生霊長類に関するタペタムの 資料からはどちらともいえない。 □中心野と中心窩 中心野(area centralis)は,網膜の中心部にあり,太い血管が分布しない。黄 色の色素が分布する場合は黄斑(macula lutea)とも呼ばれる。昼行性のもので は錐体が,夜行性のものでは桿体が集中し,他の部分と比べ中心野では視覚の精 度が高くなる。中心野がさらに分化するとその中央部がくぼみ,中心窩(fovea centralis)を形成する。中心窩では血管を欠き, 光受容体が高密度に存在するので, 視力の精度がさらに向上する[3]。 ■化石資料 ロリス類とキツネザル類はアダピス類に由来すると考えられてきた[3]。その 最も古いものの一つがノタルクトゥス( )である。北米の中期始新世(今 から 4 千万年以上前)から知られている。眼球は骨で取り囲まれている。この骨 で囲まれた空所―眼窩(がんか)が小さいことから昼行性だったと考えられてい る。そうだとすると,タペタムはもっと後に獲得されたと考えられる。一方,メ 第 1 章 過去を探る 47 ガネザル類はオモミス類から由来したと考えられてきた。オモミス類の最も古い ものの一つショショニウス( )は,眼窩が大きいことから,夜行性だっ たと考えられている。同時代のものが中国の前期始新世(今から 5500 万年前)か ら発見されている( ) が,眼窩が小さいので昼行性と考えら [14] れている 。オモミス類の活動パターンは一様でなかった。 ■霊長類の夜行性起源説 現生霊長類の共通祖先は夜行性で,その後も夜行性は引き続き多くの原猿類に 受け継がれ現在に至っていると考えられてきた(図 2A)。三つの根拠があげられ る[4, 15]。第 1 は,現生原猿類の多くのものが夜行性である。しかし,原猿類の 全てのものが夜行性とは限らない。インドリとワオキツネザルの仲間には昼行性 や周日行性のものがいる。かつては夜行性だったが,その後,昼行性や周日行性 に変化したと考える。第 2 は,多くの曲鼻類が昼行性のものを含め,タペタムを そなえている。これは,曲鼻類の祖先がタペタムをそなえていたことを示唆して いる。したがって, 曲鼻類の祖先が夜行性だったと思われる。第 3 は体重である。 霊長類で,夜行性と周日行性,昼行性の違いは,体重とも明らかに関連している。 体重の最頻値を比べると,夜行性のものは 315g で小さく,昼行性のものは 5.45kg と大きく,周日行性のものは中間の 1.66kg である。また,夜行性のもので体重 が 2.5kg を超えるものはいない。一方,半数以上の昼行性のものは体重が 5kg を 超える。このように見てくると,初期の哺乳類は小さかったので夜行性だったと 考えられている。霊長類の祖先の体重も小さかったと思われる。したがって,霊 長類の祖先も哺乳類の祖先と同様,夜行性にとどまっていたと思われる[15]。 ■霊長類の昼行性ないし周日行性起源説 夜行性の下では,色覚に関与する S オプシンや M/L オプシンの選択圧が緩和 され機能しなくなることが知られている。ヨザルは S オプシンを失っている。 ヨザルは唯一の夜行性真猿類である。このように,オプシン遺伝子の不活化と活 動パターンとの間には密接な関係が認められる。 これまで,25 種の原猿類が調べられたが,M/L オプシン遺伝子には全く欠陥 48 第Ⅰ部 形をみる 真猿類 原猿類 A ガ ラ ゴ ロ リ ス ア イ ア イ イ ン ド リ ア ネ バ キ ズ ヒ ツ ミ ネ ザ ル イ キ タ ツ チ ネ ザ ル ワ キ オ ツ ネ ザ ル メ ザ ガ ル ネ ヨ ザ ル 新 ザ 世 ル 界 旧 ザ 世 ル 界 類 人 猿 ヒ ト 真猿類の祖先 曲鼻類の祖先 直鼻類の祖先 霊長類の祖先 真猿類 原猿類 B ガ ラ ゴ ロ リ ス ア イ ア イ イ ン ド リ ア バ ヒ ネ キ ズ ツ ミ ネ ザ ル イ ワ メ キ タ キ オ ザ ガ ツ チ ツ ル ネ ネ ネ ザ ザ ル ル ヨ ザ ル 新 ザ 世 ル 界 旧 ザ 世 ル 界 類 人 猿 ヒ ト 真猿類の祖先 曲鼻類の祖先 直鼻類の祖先 霊長類の祖先 図 2 霊長類の夜行性起源説と昼行性起源説。Tan et al.(2005)を改変。 が認められなかった。原猿類の M/L オプシン遺伝子は機能していた[4]。しかも, 広鼻類だけでなく,原猿類のシファカとエリマキキツネザルも M/L オプシン遺 伝子が多型を示すことが分かった。さらに,メガネザルには,M オプシンをも つものと,L オプシンをもつものがいることも知られている[4]。どうやら霊長 類の祖先は,M/L オプシン遺伝子に多型があったと思われる。その後,あるも のは遺伝子に突然変異を起こし,多型性を失ったのだろう。(図 3) 夜行性の原猿類では,S オプシン遺伝子に機能的な緩和が認められ,その結果, あるものでは S オプシンを失った。3 種のロリス類で,S オプシン遺伝子が突然 変異により偽遺伝子となった。一方,キツネザル類では,S オプシン遺伝子はそ の塩基配列の一部に欠損が認められたが機能的であった。メガネザル類では,S オプシン遺伝子には全く欠損は認められず,機能的であった。 このように,S オプシン遺伝子の選択圧が原猿類のロリス類とキツネザル類, 第 1 章 過去を探る 49 オオネズミキツネザル ネズミキツネザル コビトキツネザル アバヒ シファカ インドリ ワオキツネザル ジェントルキツネザル チャイロキツネザル エリマキキツネザル イタチキツネザル アイアイ ロリス ガラゴ メガネザル ヨザル 広鼻類 ホエザル 狭鼻類 単色性 2 色性 多色性 3 色性 夜行性 周日行性 昼行性 図 3 霊長類の系統関係と活動パターン,色覚。現生霊長類の分岐図は Boore(2006)をもと にした。 メガネザル類のあいだで異なり,何ら共通するものが認められなかった。また, 多くの原猿類で機能的な S オプシン遺伝子をもつことが分かった。 したがって,霊長類の祖先は,夜行性ではなく,昼行性か周日行性だったと思 われる。その後,ロリス類が夜行性となり,他の原猿類では,夜行性のものがそ れよりおくれて現れたと思われる[4]。(図 2B) 50 第Ⅰ部 形をみる * 今回,系統関係と視覚にまつわる諸特徴,化石資料にもとづいて,霊長類の共 通祖先がどのような活動パターンをしていたのか,その復元を試みた。 霊長類の共通祖先は多型 3 色性色覚で,タペタムをもっていたと思われる。多 型 3 色性色覚は昼行性への適応と考えられ,一方,タペタムは夜行性への適応と 考えられてきた。共通祖先が夜行性だったとしたら,なぜ多型 3 色性色覚か?昼 行性だったとしたら,現生曲鼻類の全ての昼行性のものがタペタムをもっている のはなぜか?現生哺乳類で一般的な活動パターンである周日行性だったとした ら,周日行性のチャイロキツネザル類やエリマキキツネザルがなぜタペタムを もっていないのか? 曲鼻類の祖先はタペタムをもっていたと思われる。化石で は,曲鼻類の最も古いものがノタルクトゥスで,昼行性だったとされる。このよ うに,これまで夜行性起源だ,いや,昼行性起源だ,はたまた,周日行性起源だ といわれてきたが,まだまだ解決すべき問題が残されている。 [1]Tattersall, I.(1987)Cathemeral activity in primates: A definition. 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