[特別講演] 波動問題の数値解析アルゴリズム ‐Wiener-Hopf 法から Dijkstra 法まで‐ 内田 一徳 福岡工業大学情報工学部 〒811-0295 福岡市東区和白東 3-30-1 E-mail: k-uchida@fit.ac.jp あらまし 過去40年にわたり,電磁波の散乱・伝搬問題を解析するために筆者が用いて来た種々の計算法につ いて概説する.最初に,半無限構造に極めて有効な Wiener-Hopf 法について述べる.次に,Wiener-Hopf 法の有限幅 構造への適用がスペクトル領域での帯域制限に等価であることを述べ,その結果として開発した Spectral Domain 法 のトンネル内伝搬問題と偏波弁別素子による散乱問題への応用について述べる.また,FVTD (Finite Volume Time Domain) 及び DRTM (Discrete Ray Tracing Method) 法について概説し,その応用例として閉じた空間内伝搬,ランダ ム粗面からの散乱及びランダム粗面上の伝搬問題について述べる.さらに,統計的手法であるランダム粗面生成や 基地局配置に有効な PSO (Particle Swarm Optimization) 法について述べる.最後に,最短経路探索に有効なダイクス トラ法をフェルマーの原理に関連付けることによって,波動問題への応用について考察する. キーワード Wiener-Hopf 法,FVTD,DRTM,PSO,Dijkstra 法 [Special Talk] Numerical Algorithms for Solving Wave-Related Problems - from Wiener-Hopf Technique to Dijkstra Algorithm Kazunori UCHIDA Fukuoka Institute of Technique 3-30-1 Wajiro-Higashi, Higashi-ku, Fukuoka, 811-0295 Japan E-mail: k-uchida@fit.ac.jp, Abstract This technical report describes several analytical and numerical methods that the author has used in the past 40 years to deal with electromagnetic (EM) scattering and propagation. First, he deals with the Wiener-Hopf (WH) technique which is very useful for solving semi-infinite boundary value problems. Second, he discusses that the WH technique is equivalent to the filtering operation in spectral domain and the spectral domain method combined with the sampling theorem can be successfully applied to EM propagation in tunnels and EM diffraction from planar gratings. Third, FVTD (Finite Volume Time Domain) and DRTM (Discrete Ray Tracing Method) are introduced and they have been applied to EM propagation in closed space, backscattering from RRS (Random Rough Surface) and propagation along it. Statistical methods such as RRS generation and PSO (Particle Swarm Optimization) are also discussed. Finally, applications of Dijkstra algorithm to wave propagation are described from a view point of Fermat's principle. Keyword Wiener-Hopf Technique, FVTD , DRTM, PSO, Dijkstra Algorithm. 1. ま え が き これまで我が国では,多くの研究者が厳密又は近似 取り上げた課題は,電磁界の基本的な問題がほとんど であった.しかし今振り返ってみれば,その内容は研 的な議論に基づいて,種々の電磁界問題の解析に当た 究に当たった当時の社会の一面をも映し出しているよ っ て き た [1],[2]. 筆 者 は 福 岡 工 業 大 学 に 勤 務 し て 4 0 うに思われる. 年目を迎えたが,ほぼ一貫して電磁界解析に関連する まず第1は,波長に比べて比較的大きい建造物によ 理論的な研究に従事してきた.その解析の対象として る散乱問題解析であった.これはサンシャインビルの ような高層ビルが出始めた頃で,テレビのゴーストに 出 す る フ ィ ル タ リ ン グ 演 算 子 で あ る [3]. 代表される電波障害が大きくクローズアップされた時 代であった. 第2は,無線周波数の有効利用と関連して,偏波弁 別素子の周波数特性を明らかにすること,及び保安用 の無線通信に関連して,トンネル内の電波伝搬特性の 解明を行うことあった.特に後者は,携帯電話の急速 な普及と関連して,地下街や室内等の閉じた空間内の 図 1 実空間とスペクトル領域内演算子の対応 電波伝搬問題の解析へと結びついた. 第3は,リモート・センシングと関連して,レーダ 2.1 半 無 限 問 題 への適 用 波のランダム粗面からの後方散乱断面積の計算を行う さ て 半 無 限 問 題 (a=0) の と き , 実 空 間 は 区 間 [ −∞ , 0] ことであった.特に低グレージング角入射の問題は難 及 び 区 間 [0, ∞ ] の 二 つ に 分 割 で き る .こ の と き ,電 磁 波 しく,解析に色々な工夫を施す必要があった.また, 散 乱 に 関 す る 半 無 限 問 題 は , 次 式 に 示 す Wiener-Hopf センサネットワークの急速な普及と関連して,砂漠や 方 程 式 を 解 く こ と に 帰 着 す る [4]. 丘陵地等のランダム粗面と見做される複雑環境下の電 − + V (ζζζζ ) + G ( )U ( ) + H ( ) = 0 波伝搬特性の解明を行うことであった. 最後は,先の東日本大震災による被害の甚大さに関 連 し て , 津 波 の 予 測 を PC で 済 ま せ る こ と が で き る よ こ こ で U + (ζ ) は 上 半 面 で 正 則 な 未 知 関 数 , (3) V − (ζ ) は下 半 面 で 正 則 な 未 知 関 数 , G (ζ ) は 既 知 の 核 関 数 で あ る . うな簡便なアルゴリズムを開発することであった.こ ま た H (ζ ) は 入 射 波 に 関 係 す る 既 知 関 数 で あ り ,特 異 点 のことによって,津波による被害を少しでも減らすこ として一位の極を有する. とが可能ではないかと考えた訳である.ネットワーク 技術に些かの関心があったためか,電磁界解析の分野 ではなくネットワーク分野で良く知られたダイクスト ラ法の応用へと考えが至った次第である. ま ず , こ の 核 関 数 を 次 の よ う に 因 数 分 解 す る [4]. + − ) =G ( )/G ( ) G (ζζζ ただし上添え字 以上述べた研究テーマに対して,使用してきた種々 の解析手法は,多くの研究者にも良く知られたものが ほとんどである.しかし,それでも筆者なりに色々と (4) ± は ,ζ 平 面 の 上 又 は 下 半 平 面 で 正 則 で あ る こ と を 示 す .こ の 因 数 分 解 は 常 に 可 能 で あ る [4]. こ の と き 式 (3)は 次 の よ う に 変 形 で き る . 工夫を凝らし,解析手法の高度化と多様化を図ってき (5) G − (ζζζζζζ )V − ( ) + G + ( )U + ( ) + G − ( ) H ( ) = 0 た積りである.本稿ではその主要なものを披歴するこ さ て , 式 (2)に お い て a = 0 と お け ば , 区 間 [ −∞ , 0] 及 び とにする.この技術報告が無線通信分野の技術開発を [0, ∞ ] に 対 応 す る ス ペ ク ト ル を 抽 出 す る フ ィ ル タ リ ン 志す若い人達の参考になれば幸甚である. グ 演 算 子 が 得 ら れ る . 式 (5)に そ れ ら 2 個 の フ ィ ル タ リ ン グ 演 算 を 施 し て 結 果 を 整 理 す れ ば ,次 の ス ペ ク ト ル領域における厳密解が得られる. 2. Wiener-Hopf 法 フーリエ変換と逆変換を次式で定義しておく. ∞ f ( z )e F (z ) = ∫−∞ f (z) = − jz z dz + jz z ∞ dz ∫ F (z ) e 2π −∞ 1 (1) + + − + U (z ) = − L (z , z ) G ( z ) H ( z ) / G (z ) 0 − − − − U (z ) = − L (z , z ) G ( z ) H ( z ) / G (z ) 0 (6) ここで次の積分演算子を定義しておく. 2.2 有 限 幅 問 題 への適 用 + jz a − jza e e + ∞ L (z , z ) F ( z ) = dz ∫−∞ F ( z ) a z −z 2π j 1 ∞ sin[( z −z ) a ] La (z , z ) F ( z ) = ∫−∞ F ( z) dz z −z π さ て 有 限 区 間 ( a ¹ 0 ) を 含 む と き , 式 (3)に 対 応 す る (2) − jz a + jza e e − ∞ L (z , z ) F ( z ) = − dz ∫−∞ F ( z ) a z −z 2π j Wiener-Hopf 方 程 式 は 次 の よ う に 書 け る . − jζ a − +V( ) + G (ζζζ )U ( ) e + jζ a + + H( ) = )U ( ) e 0 G (ζζζ (7) こ の と き ,図 1 に 示 す よ う に 式 (2)の 第 1 式 は 実 空 間 の 区 間 [a , ¥] に 対 し て , 第 2 式 は 区 間 [-a ,a ] に 対 し て , こ こ で 整 関 数 V (ζ ) は ,有 限 区 間 に 対 応 す る 未 知 ス ペ ク 第 3 式 は 区 間 [-¥,-a ] に 対 応 す る ス ペ ク ト ル 成 分 を 抽 トル関数である.このとき,因数分解された核関数に よ っ て 式 (7)を 変 形 す れ ば , 次 式 が 得 ら れ る . に対して精度の良い解を得ることができた. − − jζ a − + )e / G ( ) +V( ) / G ( ) + U (ζζζζ + + jζ a − + )e / G ( ) + H ( )/ G ( ) = 0 U (ζζζζ + − − jζ a (8) − )U ( ) e + G ( )V ( ) + G (ζζζζ + + + jζ a − )U ( ) e 0 + G ( )H ( ) = G (ζζζζ このとき,次の形式解が得られる. 3. FVTD 法 Maxwell の 方 程 式 を 微 小 体 積 に つ い て 体 積 分 し , 回 転の項を体積分から面積分に変換すると次式を得る. d σ m dV − − ∫V m H HdV ∫S n × EdS = ∫ i i Z dt Vi c d ε dS = + ∫V σ ZEdV + EdV ∫S n × H ∫ i i dt Vi c (13) こ の 体 積 分 と 表 面 積 分 を 離 散 化 す れ ば , Maxwell の 方 jz a − jza − + − − G (z ) e / G ( z )] − U (z ) = L (z , z )[U ( z ) e a jz a − − + G (z ) e L (z , z )[ H ( z ) / G ( z )] a − 程式に対して次の近似式が得られる. σ mi d H += H i mi dt i − jz a − jza + + + + − −[ e U (z ) = / G (z )] L (z , z )[G ( z )U ( z ) e ]− a (9) − jz a + + − [e / G (z )] L (z , z )[G ( z ) H ( z )] a − jza − − L (z , z )[ G ( z )U ( z ) e V (z ) = ]− a jza + L (z , z )[ G ( z )U ( z ) e ] − L (z , z ) H ( z ) a a ci ∑ ν × E ∆S i iν ∆i ν ∈N iν i σ d c ∆S E + i E = − i ∑ νiν × H i iν ∆i ν ∈N dt i i i i (14) さ ら に , 時 間 微 分 に 対 し て Yee の 方 法 で 離 散 化 す れ ば 次 式 が 与 え ら れ る [10]. n′+1 n′−1 H = Ξ H − Λ A ∑ nin × E ∆S i i i i i inn i n ∈Ni 式 (9)の 解 は 厳 密 で は な く 形 式 解 で あ る .そ の 理 由 は , 式 (9) の 右 辺 が 未 知 関 数 を 含 む 積 分 形 で 与 え ら れ て い E るからである.具体的に解を求めるには,例えば最降 n +1 n −1 =ΩE + Γ B ∑ nin × H ∆S i i i i i inn i n ∈Ni (15) 下法等を用いて,未知スペクトル関数を近似的に求め こ こ で 時 間 間 隔 は Dt で あ り , 離 散 点 は t =n ' Dt な け れ ば な ら な い [5],[6]. n ' =n -1/2 と し て い る .ま た 他 の パ ラ メ ー タ は 次 式 で 定 及び 義される. 2.3 Spectral Domain 法 さ て ,式 (9)の 第 3 式 を 数 値 的 に 解 く 方 法 に つ い て 考 察 す る . 有 限 区 間 [-a ,a ] で 定 義 さ れ た 関 数 の ス ペ ク ト ル関数列 Fn (z ) は次式を満足する. Ξ= exp( −α ), i mi Ω= exp( −α ) i i Λi =Γi =ci ∆t / ∆Vi =c0∆t / ri m ri ∆Vi [1− exp( −α mi )]/α mi , Ai = (10) Φ n (z ) La (z , z ) Φ n ( z ) = = α mi 式 (9)に こ の 関 数 列 を 乗 じ ,積 分 す る と 次 式 が 得 ら れ る . [1− exp( −αi )]/αi Bi = α i σ i ∆t / 0ri σ= mi ∆t / m0 m ri , ∞ ∞ Φ ( )G ( )U − ( ) e − jζ a d − ∫−∞ )V ( ) d = ∫−∞ Φ n (ζζζζζζζ n jζ a + ∞ ∞ Φ ( ) H ( )d − ∫−∞ Φ n (ζζζζζζζ )G ( )U ( ) e d − ∫−∞ n (11) こ こ で , 式 (11) を 満 足 す る 関 数 列 Fn (z )= Yn (z ) 又は Fn (z )¹ Yn (z ) を 用 い て ,未 知 関 数 V (z ) を 次 の よ う に 展 開 しておく. N = V (ζζ ) ∑ Cn Ψ n ( ) n =1 (12) 図 2 TM セ ル と TE セ ル こ の と き , 式 (11)か ら 得 ら れ る 連 立 方 程 式 に よ っ て , 式 (12)の 未 知 展 開 係 数 Cn が 決 定 で き る .従 っ て ,こ の 手法はスペクトル領域における離散化のためのモーメ ン ト 法 又 は Galerkin 法 と 言 う こ と が で き る . 筆者らはこの手法を用いて,十字型分岐を持つトン ネ ル 内 電 波 伝 搬 問 題 の 解 析 [7],平 面 格 子 に よ る 偏 波 弁 別 特 性 の 解 析 [8] , マ イ ク ロ ス ト リ ッ プ 線 路 の 解 析 [9] 図3 FVTD の 基 本 セ ル (16) さ て 微 小 体 積 を 直 方 体 と し , 図 2 に 示 す TM セ ル と 4. DRTM TE セ ル を 重 ね る こ と に よ っ て ,図 3 に 示 す 基 本 セ ル を Wiener-Hopf 法 や Spectral Domain 法 を 用 い れ ば , 精 考える.このときセル表面の電磁界は隣接するセル中 度の良い解を得ることができる.しかし,その適用可 心の電磁界の平均値で表現できる.デカルト座標系に 能 な 散 乱 体 構 造 は ,特 殊 な 場 合 に 限 ら れ て い る .一 方 , お け る FVTD 法 で は ,電 磁 界 及 び 媒 質 定 数 の 値 が セ ル FVTD 法 は , 任 意 の 形 状 を 持 つ 不 均 質 媒 質 に 適 用 で き 内の平均値で与えられるので,この座標系における るという長所を有するが,コンピュータ・メモリの制 FVTD 方 程 式 は 次 の よ う に 簡 潔 に ま と め ら れ る [10]. 限を強く受けるという短所も持っている.従って,こ れらの解析手法については,長距離の電波伝搬問題の 解析には不向きと言う欠点がある. その解決策の一つとして,電波を光とみなして解析 す る 近 似 解 法 が 知 ら れ て い る [1],[2]. 筆 者 ら は , そ の 近 似 解 法 の 一 つ で あ る RTM( レ イ・ト レ ー ス 法 )を 拡 張 し て DRTM (離 散 型 レ イ ・ ト レ ー ス 法 )を 開 発 し , 地 上 電 波 伝 搬 問 題 に 適 用 し た [14]. (17a) 4.1 レ イ の 探 索 と 電 界 計 算 DRTM の レ イ 探 索 で は , ま ず 離 散 化 さ れ た 散 乱 体 表 面 に 代 表 点 を 与 え , 代 表 点 同 士 が 見 え る (LOS)か , 見 え な い (NLOS)か の 単 純 な 情 報 か ら ,図 4 ,5 に 示 す よ うにレイをトレースする.この方法によって,計算時 間 の 大 幅 な 短 縮 が 可 能 と な っ た [14]. 図 4 見通し内におけるレイ探索 図 5 見通し外におけるレイ探索 (17b) た だ し , 上 式 の パ ラ メ ー タ は 式 (16)の 異 な る セ ル 毎 の 平均値である. こ の FVTD 方 程 式 は ,不 均 質 誘 電 体 媒 質 に 対 し て 境 次に,探索されたレイに基づいて電磁界計算を行う 界条件が自動的に満足されているという特徴がある が,この場合の解の精度を確保するため,図6及び7 [10]. そ の 簡 便 さ 故 に 応 用 範 囲 も 広 く , 屋 内 電 波 伝 搬 に示すような半無限及び有限幅の平面導体に関連する に 関 連 す る 任 意 形 状 ト ン ネ ル 内 伝 搬 問 題 [11], リ モ ー Wiener-Hopf 解 と そ の 近 似 解 を 援 用 し て い る . こ の と ト・センシングに関連するランダム粗面による低入射 き の 電 界 計 算 は ,イ メ ー ジ 回 折 係 数 角 電 波 の 後 方 散 乱 問 題 [12], セ ン サ ネ ッ ト ワ ー ク に 付 数 随 す る ラ ン ダ ム 粗 面 上 の 電 波 伝 搬 問 題 [13]な ど , 多 く れ る [14]. の電磁波問題の数値解析に応用することができた. とソース回折係 を 導 入 す る こ と に よ っ て ,形 式 的 に 次 式 で 与 え ら 図8に示している畳み込み法は,粗面の統計量を空間 上で連続的に変化できるので,不均質問題にも有効な 粗 面 生 成 法 で あ る [16]. これまでの粗面生成法では,粗面スペクトルを数値 的 に 与 え て き た [16]. し か し , 一 様 分 布 , ガ ウ ス 分 布 及び指数分布の場合については,次式のガウス分布の よ う に 解 析 的 に 不 均 質 粗 面 の 生 成 が 可 能 で あ る [17]. (21) 図 6 半無限平板による平面波の回折 (22) 5. PSO 法 この手法は,昆虫の大群や魚群の動きを多次元空間 における位置と速度を持つ粒子群でモデル化する.こ のとき,群れのメンバーはより良い位置について情報 図 7 有限幅平板による円筒波の回折 交換し、それに基づくコスト関数によって自身の位置 と速度を調整する.また,最も良い位置にいる粒子が 全体に通知されるので,局所解に陥る可能性が少ない (17) 最適化法である.さらに,コスト関数の微係数を必要 と し な い と の 特 徴 も 有 し て い る [18]. また N 個のレイの長さ次式で与えられ PSO 法 で は ,ま ず 個 々 の 粒 子 の 初 期 解 を 適 当 に 選 び , その中で最適な粒子を全体の最適解としておく. (18) 回折係数 はフレネル関数 を用いて表現できる. (23) 次にランダム変数γとΓを用いて,各粒子の位置rと 速度νを決定する. (19) (20) また次の操作によって,次の段階の各粒子の最適値 ここでは2次元問題の表現式を与えたが,3次元問題 と全粒子の最適値 を決定して行く. に も DRTM は 適 用 可 能 で あ る [15]. (25) 4.2 畳 み 込 み 法 に よ る RRS 生 成 ランダム粗面からの後方散乱問題やそれに沿う伝 搬問題をモンテカルロ法で数値解析する場合,任意長 の ラ ン ダ ム 粗 面 を 連 続 的 に 生 成 す る 必 要 が あ る [16]. 最後に,解が落ち着くまで以上の操作を繰り返せば, 許 容 範 囲 内 で 近 似 解 を 得 る こ と が で き る [18]. 5.1 通 信 距 離 関 数 ランダム粗面に沿う伝搬や市街地伝搬のような複 雑な伝搬環境下で伝搬特性を記述する際,2波モデル を組み入れた1波モデルの表現式が有効である.この モデルは,振幅補正値αと伝搬距離のオーダーβを導 入 し て , 次 の よ う に 記 述 さ れ る [19]. 図 8 RRS(1D)生 成 の 概 略 図 (26) ここで は 入 射 波 で あ り ,例 え ば 微 小 ダ イ ポ ー ル・ア 適化に対して有効な数値シミュレーションの方法であ ンテナを仮定すれば解析的に表現できる.またこのと る [23]. 最 短 パ ス 探 索 は , フ ェ ル マ ー の 原 理 と 密 接 に きの界の整合因子 関係しているので,種々の波動の動きをシミュレート は 次 式 で 定 義 さ れ る [19]. する場合にも,このアルゴリズムは有効である.筆者 (27) こ の モ デ ル は 奥 村 ・ 秦 モ デ ル [20]に 対 応 し て い る . 市街地伝搬に適用できることは言うまでもなく.パラ メータαとβを適当に定めることによって,ランダム らはこれまで,津波の伝搬シミュレーションやルーネ ベルグ・レンズにおけるレイ探索への応用に対して, 良 好 な 数 値 結 果 を 得 る こ と が で き た [24],[25]. さて,チルド符号でノードの集合,添え字 f で固定 粗 面 上 伝 搬 問 題 に も 適 用 で き る [19].こ の モ デ ル か ら , ノード,添え字cで候補ノードとする.まず始点ノー 通信距離が次式によって推定できるので,基地局の最 ドを と仮定して,次の初期化を行う. 適 配 置 の た め の コ ス ト 関 数 と し て 利 用 で き る [21]. (29) (28) ここで,ノード であり, 5.2 基 地 局 配 置 シ ミ ュ レ ー シ ョ ン 先に述べた1波モデルによって通信距離が計算で きるので,コスト関数の微係数を計算する必要のない PSO 法 [18]は , 複 雑 な 伝 搬 環 境 す な わ ち 場 所 毎 に 通 信 は始点ノードに連結するノード はその始点からの総コスト, はそ の近接ノードを示す.この段階では,始点とパスを持 たないノードのコストは∞としておく. 次に候補ノードの中から総コストが最小のものを選 び,次式のようにそれを固定ノードに追加する. 距離が変化する地上での基地局の最適配置の問題に適 (30) 用 で き る [22].図 10 に 仮 想 的 な 通 信 距 離 関 数 の 分 布 を 示 す .ま た ,図 11 に こ の 関 数 を コ ス ト 関 数 と み な し て PSO 法 で 求 め た 3 角 形 メ ッ シ ュ の 基 地 局 配 置 の 例 を 示 この新たに得られた固定ノードに連結する固定ノード す [22]. 通 信 距 離 の 値 が 小 さ い 地 域 で は , 3 角 形 メ ッ 以外のノードに関して,候補ノードでないものは次式 シュの間隔が密になっていることが示されている. のように新たに候補ノードとして追加する. (31) 一方すでに候補ノードである場合,新固定ノード経由 の総コストが小さいとき次の変更を行う. (32) 上の操作を繰り返して,新たな候補ノードがない場 合,すなわち となったとき,このアルゴリズム 図 9 仮想的な都市の通信距離関数 は終了する. 6.1 津 波 のシミュレーション 津波速度は重力加速度 と海の深さ の積の平方根 であり,ノード間の伝搬時間は次式で与えられる. (33) 従って,波源からの津波の伝搬時間を総コストとすれ 図 10 三角形メッシュによる基地局配置の一例 ば,フェルマーの原理によりダイクストラ法に基づい て 津 波 の 動 き を 数 値 的 に 知 る こ と が で き る [24]. 図 8 6. Dijkstra 法 と 波 動 Dijkstra 法 は 連 結 グ ラ フ の 最 短 パ ス を 決 定 す る ア ル ゴリズムであって,計算時間と安定性の両面から,最 に 仮 想 的 な リ ア ス 式 海 岸 を 示 し ,図 12 に 反 復 計 算 回 数 を変えたときの津波波面の動きに関するシミュレーシ ョンの例を示している. 6.2 Luneburg Lens のシミュレーション 不均質誘電体の屈折率を とすると,ノード間の光 路 (Optical Path) は 次 式 で 計 算 さ れ る [26]. (34) この光路をコストに選べば,ダイクストラ法によって レ イ の 軌 跡 を 知 る こ と が で き る [25]. 次 式 は 2D ル ー ネ ベ ル グ ・ レ ン ズ の 屈 折 率 を 示 す . レンズの半径は であり,その中心の屈折率は2の平 方根,周辺ではその値は1となる. ( a) 反 復 計 算 回 数 = 3 万 回 の と き (35) 図 14 に ,こ の 2D ル ー ネ ベ ル グ・レ ン ズ に 対 し て ,各 点 に お け る 光 路 値 を 示 し て い る .ま た 図 15 に ,こ の と きの近似レイ様子を示している. (b) 図 11 反復計算回数=7万回のとき 仮想的リアス式海岸における津波の進行 図 14 図 12 2D Luneburg Lens に お け る 光 路 値 分 布 津波の伝達時間分布 図 15 2D Luneburg Lens に お け る レ イ の 軌 跡 7. あ と が き 過去40年にわたり,筆者が電磁波散乱・伝搬問題 を解析するために用いて来た計算法,すなわち解析的 な 手 法 で あ る Wiener-Hopf 法 及 び Spectral Domain 法 , 数 値 解 析 的 手 法 で あ る FVTD 及 び DRTM, 数 値 的 な 最 適 化 法 で あ る PSO 及 び Dijkstra 法 に つ い て 概 説 し ,そ れらの応用例について述べた.この報告が,電磁界分 野の将来を担う若い研究者にとって,些かでも参考に なれば幸いである. 図 13 津波の被害地域 こ の 研 究 は , 平 成 26 年 度 採 択 の 科 学 研 究 費 補 助 金 (基 盤 研 究 (C))(課 題 番 号 : 24560487) の 補 助 を 受 け て 行 われた.ここに謝意を表する. 文 献 [1] 飯 島 泰 蔵 監 修 :” 電 磁 界 の 近 代 解 法 ” , 電 子 通 信 学 会 , コ ロ ナ 社 , (1979-08). [2] 山 下 榮 吉 監 修 :” 電 磁 波 問 題 の 基 礎 解 析 法 ” , 電 子 情 報 通 信 学 会 , コ ロ ナ 社 , (1987-10). [3] 内 田 :"フ ー リ エ 変 換 の 有 限 幅 を 含 む 電 磁 界 境 界 値 問 題 へ の 応 用 に 関 す る 一 考 察 ",電 子 通 信 学 会 論 文 誌 '85/10, Vol.J68-B, No.10, pp.1215-1216, (10-1985). [4] B. Noble: "Methods Based on The Wiener-Hopf Technique," Pergamon Press, pp.1-47, 1958. 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