産業ガス - みずほ銀行

特集: 2015 年度の日本産業動向(産業ガス)
産業ガス
【要約】
■ 2014 年度のエアセパレートガス販売量は、窒素、酸素、アルゴンともに前年度比
増加を予想する。鉄鋼等オンサイト需要の堅調さとエレクトロニクスの底打ち、造
船等製造業の稼働率上昇が要因。2015 年度についても、基調は変わらず、窒
素、酸素、アルゴンともに同増加するものと予想する。
■ 2014 年度のその他主要ガス販売量は、炭酸ガスが堅調な造船向けを背景に前年
度比増加を予想するものの、圧縮水素、溶解アセチレンは他のガスへの代替もあ
り減少傾向が継続すると予想する。2015 年度については、炭酸ガスは同増加、圧
縮水素は同減小とトレンドを継続すると予想する。他方、溶解アセチレンは、造船
需要や建設工事の進捗が寄与し微増となると予想する。
■ 中国産業ガス業界は、規模・成長率の両観点から魅力的な市場。然しながら、産
業ガス市場の中心である On-site 市場は、既に中国系大手とグローバルメジャー4
社で 9 割超のシェアを寡占しており、日系産業ガスメーカーも中国市場に参入し
ているものの大きな収益には繋がっていない模様。日系産業ガスメーカーは、中
国における競争の状況、リスクを踏まえれば、設備投資を極力抑えながら収益力
を高める、即ちオンサイト事業よりも付加価値のとれる特殊ガスや医療用ガス等の
ビジネスの強化が益々重要となろう。また、日系産業ガスメーカーは未だ参入余
地の見込める東南アジアへの投資を加速している。日系産業ガスメーカーは、限
られた経営資源を東南アジア等の強みを持つエリアに振り向けグローバル化を推
進することが基本戦略と考えられるが、さらなる成長を実現するためには、M&A
の活用による非連続な施策が不可欠となるだろう。
Ⅰ.産業の動き
1.エアセパレートガス販売量
2014 年度の販売
量は、各品目で
増加見込み
2015 年度も堅調
な製造業の稼働
を背景に増加を
予想
窒素販売量は、2014 年度については、エレクトロニクス産業で工場閉鎖のマ
イナス要因があったものの、一部工場では稼働率が高まっていることに加え、
その他製造業の稼働率上昇というプラス要因が打ち消し、前年度比+0.1%の
4,370 百万 m³を見込む。2015 年度については、ユーザーの新規設備投資が
見込みにくい中大幅な需要拡大は難しいものの、景気回復に伴う製造業の稼
働率向上が続く見通しであり、前年度比+1.0%の 4,414 百万 m³を予想する。
酸素販売量は、2014 年度については、鉄鋼や化学といったオンサイト需要が
引続き堅調に推移し、前年度比+1.7%の 1,784 百万 m³を見込む。酸素販売量
はリーマンショック後大きく減少したが、底を打った状況と言え、2015 年度に
ついても、前年度比+2.4%の 1,827 百万 m³と成長が継続すると予想する。
アルゴン販売量は、2014 年度については、シリコンウェーハ向けの増加に加
え、造船等溶接需要が堅調に推移し、前年度比+1.1%の 186 百万 m³を見込
む。2015 年度についても、シリコンウェーハ向けや溶接需要等が継続的に見
込まれ、前年度比+1.9%の 190 百万 m³を予想する(【図表 10-1】)。
みずほ銀行 産業調査部
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特集: 2015 年度の日本産業動向(産業ガス)
【図表10−1】 エアセパレートガス品目別販売量推移
窒素販売量推移
酸素販売量推移
5,000
10%
2,500
4,000
5%
2,000
10%
2.4%
5%
1.7%
1.3%
1.0%
3,000
0.1%
-1.1%
2,000
0%
1,500
0%
-5%
1,000
-5%
15%
300
10%
250
1.9%
1.1%
200
1,000
-10%
0
-15%
06 07 08 09 10 11 12 13 14e15e (FY)
0
-0.1%
100
-5%
50
-10%
0
-15%
06 07 08 09 10 11 12 13 14e15e (FY)
アルゴン
増減率(右軸)
-10%
06 07 08 09 10 11 12 13 14e15e
酸素
増減率(右軸)
5%
0%
150
500
窒素
アルゴ ン販売量推移
-15%
(FY)
増減率(右軸)
(出所)日本産業・医療ガス協会資料よりみずほ銀行産業調査部作成
(注)2014 年度、2015 年度はみずほ銀行産業調査部予想
2.その他主要ガス販売量
炭酸ガスは堅 調
な推移を継続
炭酸ガス販売量は、2014 年度については、主力の造船など溶接向けの需要
拡大が牽引し、前年度比+3.1%の 728 千トンを見込む。2015 年度についても、
造船等溶接向けの需要が見込まれる状況に加え、建設工事の進行等により
需要が拡大する状況にあり、前年度比+1.8%の 742 千トンを予想する。
圧縮水素は、減
少傾向を継続
圧縮水素販売量は、2014 年については、エレクトロニクス向けで底が見えつ
つあるものの、液体水素への代替もあり前年比▲3.3%の 88 百万 m³を見込む。
2015 年についても、減小トレンドは継続し、前年比▲1.2%の 87 百万 m³を予
想する。
溶解アセチレン
は、2014 年度で
下げ止まる予想
溶解アセチレン販売量は、2014 年度については、造船向けが堅調も、低コス
トガスへの移行や建設工事の遅れもあり、前年度比▲0.6%の 11,795t を見込
む。2015 年度については、造船等需要増や、建設工事の進捗等も期待され、
前年度比+0.8%の 11,887t を予想する(【図表 10-2】)。
【図表10−2】 その他主要ガス品目別販売量推移
炭酸ガス販売量推移
(千t)
800
圧縮水素販売量推移
6%
160
20%
3%
120
10%
0%
80
3.1%
600
1.8%
溶解ア セチレン販売量推移
(t)
14,000
9%
12,000
6%
10,000
0.8%
8,000
400
-0.6%
-6%
0
09
10
11
12
液化炭酸ガス
13 14e 15e
6,000
-1.2%
-3%
200
(FY)
増減率(右軸)
40
-10.3%
-10%
-20%
0
09
10
11
12
圧縮水素
-2.2%
0%
-3.3%
13 14e 15e
(CY)
増減率(右軸)
0%
-0.6%
-3%
4,000
-6%
2,000
-9%
0
09
10
11
12
溶解アセチレン
-12%
13 14e 15e (FY)
増減率(右軸)
(出所)日本産業・医療ガス協会資料よりみずほ銀行産業調査部作成
(注)2014 年度、2015 年度はみずほ銀行産業調査部予想
みずほ銀行 産業調査部
84
3%
特集: 2015 年度の日本産業動向(産業ガス)
3.市況
エアセパレートガ
スの平均単価は
上昇傾向
エアセパレートガスの平均単価は、産業ガスのコストの大部分を占める電力
料金の高騰を受け、値上げを実施しており、緩やかに上昇傾向にある。2014
年 度 上 期 に つ い て も 、 ガ ス 、 液 とも に 平 均 単 価 が 上 昇 し て い る( 【 図 表
10-3】)。
主要コストである
電力料金は高止
まり
産業用電力料金については、2014 年度上期の段階では高止まりの状況にあ
り、原油価格低下に伴う電力料金の低下については来年度以降になる見通
し。産業ガスメーカーの収益を圧迫する要因となっている(【図表 10-4】)。
【図表10−3】 エアセパレートガス平均単価推移 【図表10−4】 産業用電力料金平均単価推移
(円/kWh)
(04=1.00)
24
1.15
1.10
1.08
1.07
1.03
1.02
1.05
1.02
1.01
1.00
0.95
0.97
0.97
0.90
0.94
0.85
0.80
04
05
06
07
酸素(ガス)
窒素(液)
08
09
10
11
酸素(液)
アルゴン
12
13
14
1H
窒素(ガス)
(FY)
19.6
21
15%
18
10%
15
5%
12
0%
9
-5%
6
-10%
3
-15%
-20%
0
04
05
06
07
08
09
10
11
産業用電力料金平均単価
(出所)経済産業省「生産動態統計」より
みずほ銀行産業調査部作成
20%
20.9
12
13
14
1H
増減率(右軸)
(FY)
(出所)電気事業連合会資料、東京電力決算資料より
みずほ銀行産業調査部作成
(注)産業用電力料金=東京電力販売単価
Ⅱ.企業業績
2014 年度の大手
5 社の業績は、増
収 増 益 を達 成す
る見通し
2014 年度の大手産業ガスメーカー5 社の産業ガス関連セグメントの売上高、
営業利益合計は、前年度比+5.2%の増収、+9.4%の増益を予想する(【図表
10-5】)。売上高については、海外売上高の増加に加え、国内オンサイト事業
が堅調に推移していることにより増収を達成すると予想する。営業利益につい
ても、電力料金の高止まりによるコスト増を、増収効果やコスト削減で打ち返
すことで増益を予想する。
【図表10−5】 大手産業ガスメーカー5 社の業績推移
【実額】
単位
【増減率】
13fy
(実績)
14fy
(見込)
15fy
(予想)
単位
13fy
(実績)
14fy
(見込)
15fy
(予想)
売上高
億円
9,459
9,947
10,234
%
7.9%
5.2%
2.9%
営業利益
億円
526
576
593
%
14.9%
9.4%
3.1%
(出所)各社資料よりみずほ銀行産業調査部作成
(注 1)2014 年度、2015 年度はみずほ銀行産業調査部予想
(注 2)大手産業メーカー5 社の業績:大陽日酸(その他の事業除く)、エア・ウォーター(産業ガス関連事業)、
岩谷産業(産業ガス・機械事業)、高圧ガス工業(ガス事業)、小池酸素工業
(注 3)エア・ウォーターのみ営業利益では無く経常利益を使用
みずほ銀行 産業調査部
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特集: 2015 年度の日本産業動向(産業ガス)
2015 年度の業績についても、海外における増収効果に加え、国内産業ガス
事業において、オンサイトをはじめとしたエアセパレートガスが堅調に推移す
ることが見込まれ、引続いて前年度比+2.9%の増収、増収に加えコスト削減施
策の進捗により、同+3.1%の増益を予想する。
2015 年度も増収
増益を予想
Ⅲ.トピックス 中国経済・中国企業の動向を踏まえた日本企業のあるべき戦略 ∼産業ガス∼
中国の産業 ガス
市場は規模と高
成 長 率 を両 立す
る魅力的な市場
産業ガスは、多数の重厚長大産業やエレクトロニクス産業などの製造業が製
品を製造する上で欠かせない。巨大な製造業が集積し、経済成長を続ける中
国における産業ガス市場は、規模と高成長率を両立しており、世界の産業ガ
ス市場の中でも魅力的な市場の一つと言えるだろう(【図表 10-6】)。
【図表10−6】 中国、世界の産業ガス市場推移
($B)
140
($B)
14
CAGR(13-18e)
=9.4%
120
100
10
7.9
71.7
CAGR(07-13)
=11.1%
80
12
World
8
6
60
40
20
CAGR(07-13)
=6.9%
0
07
08
09
10
11
12
13
4
CAGR(13-18e)
=7.2%
China(右軸)
2
0
14e 15e 16e 17e 18e (FY)
(CY)
(出所)Yingde gases group 決算資料よりみずほ銀行産業調査部作成
前回の「みずほ産業調査 46 号」2014 年度の日本産業動向(産業ガス)1のトピ
ックスで特集した通り、グローバル No.2 の Linde は、中国で 2 位のシェアを有
し、中国を中心とする新興国市場への投資を積極化した結果、大手他社を凌
ぐ売上高成長率を実現している。
中国の産業 ガス
市 場 は On-site
が中心の市場
中国の産業ガス市場の内訳を見ると(【図表 10-7】)、47%を Captive2が占め、
残りの 53%が産業ガスメーカーの対象とする市場となる。日本と同様に、
On-site が産業ガスメーカーにとって中心の市場という特徴がある。
【図表10−7】 中国産業ガス市場内訳
【図表10−8】 On-site メーカーシェア
Others
7%
On-site
outsoucing
26%
Captive
47%
Liquide
12%
Cylinder
7%
合計53%が産業
ガスメーカーの対
象とする市場
Yingde Gases
41%
Global top 4
52%
Pipeline
8%
(出所)【図表 10-7、8】とも、Yingde gases group 決算資料よりみずほ銀行産業調査部作成
(注)Global top4=Air Liquide、Linde、Praxair、Air products
1
2
2014 年 8 月 21 日発刊 「みずほ産業調査 46 号」2014 年度の日本産業動向(産業ガス)
http://www.mizuhobank.co.jp/corporate/bizinfo/industry/sangyou/pdf/1046_10.pdf
鉄鋼等の大口ユーザーによる内製
みずほ銀行 産業調査部
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On-site 市場は、
中国企業、グロ
ーバルメジャーが
寡占
On-site 市場では、中国 Yingde Gases や Linde をはじめとするグローバルメジ
ャー4 社が 9 割以上のシェアを有し、寡占市場となっている(【図表 10-8】)。
Yingde Gases は、低価格を武器に中堅メーカーを中心に顧客基盤を拡大して
おり、グローバルメジャーは、資本力・技術力・プロダクトラインアップ・グロー
バルネットワークを武器に、大型のオンサイトプラントを中心として事業を拡大
している。
大陽日酸、岩谷
産 業 を中 心 に 進
出済も、大きな収
益には繋がって
いない模様
日系産業ガスメーカーも大陽日酸や岩谷産業を中心に 1990 年代以降中国
市場に参入している。特に大陽日酸については、多くの生産拠点を保有し、
エアセパレートガスから半導体材料ガス、在宅医療用ガスなど広く展開してい
るが、上述の通り、寡占化を進めている大手との競争が激しく、大きな収益を
上げられていないのが現状のようだ。
中国の競争状
況 ・ リ スク を踏 ま
えれば、設備投
資を極力抑えな
がら収益力を拡
大することが求め
られる
産業ガス事業は On-site で事業基盤を作り、余剰能力で液化ガスを市中に販
売し収益を高めることが重要となるが、中国においては、入口の On-site 市場
を大手が寡占していることが事業拡大の障壁となっていると推察される。
中国産業ガス市場は、成長性が見込めるも、一方でユーザーである鉄鋼や化
学等の産業の生産設備過剰の問題もあり、それらの生産設備に対し On- site
でガスを供給するプラントを保有する産業ガス業界にもリスクが存在する。
日系産業ガスメーカーは、現状のポジション、競争の激化とリスクの顕在化と
いう事業環境を踏まえると、設備投資を極力抑えながらも収益力を拡大するこ
とが求められる。その観点からもオンサイト事業の拡大よりも、付加価値のとれ
る分野(特殊ガス、医療用ガス等)を強化することが益々重要となろう。
日系産業ガスメ
ーカーは、東南ア
ジアへの展開も
加速し、一定のポ
ジションを確保
日系産業ガスメ
ーカーは、東南ア
ジア等強みを持
つエリアの強化
が基本戦略
また、日系産業ガスメーカーは、寡占化の進んだ中国では無く、日系製造業
の進出も加速し、中国と比較すれば未だ参入余地の見込める東南アジア各
国への投資を積極化している。
最大手の大陽日酸は、特にベトナムやフィリピンではそれぞれ 50%、40%強の
シェアを有しており、プレゼンスが高い。シンガポールでも 2012 年に買収した
リーデン社を 2014 年に統合し東南アジアの中核会社として強化するなど、同
エリアでの事業を強化する方向にある。岩谷産業も、シンガポールとインドネ
シアでエアセパレートガス、炭酸ガス、アンモニア等の総合充填工場を運営す
る等多種多様な事業を展開している。
グローバル産業ガス業界は、約 7 割をグローバルメジャー4 社が寡占化してお
り、日系産業ガスメーカーのグローバル化は容易なことではないものと推察さ
れる。日系産業ガスメーカーは、限られた経営資源を東南アジア等の強みを
持つエリアに振り向けグローバル化を推進することが基本戦略と考えられる。
さらなる成長を実現するためには、M&A の活用による非連続な施策が不可
欠となろう。
(素材チーム 佐野 雄一)
yuichi.sano@mizuho-bk.co.jp
みずほ銀行 産業調査部
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特集: 2015 年度の日本産業動向(産業ガス)
/49
2015 No.1
平成 27 年 2 月 26 日発行
©2015 株式会社みずほ銀行
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編集/発行 みずほ銀行産業調査部
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みずほ銀行 産業調査部
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