科研共同研究会 2011 年 9 月 14 日 摂南大学駅前活動ルーム(寝屋川市) シュレースヴィッヒ・フレンスブルク=南デンマーク地域調査報告(メモ) 2011 年 3 月 5 日~13 日 住沢博紀(日本女子大) 1.問題の設定 -2002 年~2006 年「国境を越える地域経済ガバナンス」を踏まえて (1)EUの 3 つの「地域政策」の違いを明確にする ―グローバル社会の中での地域としてのEUとその周辺(拡大ヨーロッパ、近隣諸国など) ―結束基金などの特定の諸国への地域政策(ただし金融危機下では異なる意味) ―NUT2レベルの複数諸国の広域地域政策(例:Interreg4 B)とNUT3 レベルの複数 諸国の越境間協力(CBC 例:Intereg4 A) (2)ユーロ・リージョンの理念と現実 ―前回の行政中心のナイセ地域(東独・チェコ・ポーランド)と、より市民団体の参加が 見込まれる西側地域での相違はあるか ⇒スウェーデン・デンマーク国境でも、民間や市民アクターの参加が尐ない(篠田 43 頁) ⇒韓国の自治体との協働を企画する北九州の外郭団体からの、ナイセ地域の組織への質問 ―EU地域政策の限定された役割⇒新しいユーロ・リージョンの創出ではない。産業政策 やインフラ整備、研究・教育、文化交流に限定された、自治体や経済・公益団体などの国 内の広域連合、国外の自治体との広域協働など、数多くのマルチレベル・ガバナンスの一 つの形態。 ―前回の研究では、Intereg3 A の地域の自立した運営委員会や管理委員会と、EU機関、 中央政府、州(地域)行政府のマルチレベル・ガバナンスがテーマとされたが、実態から いえば、州(地域)行政府や自治体のプロジェクトの一つとして、EU地域政策の活用が ある。この意味では、マルチレベル・ガバナンスの図式を訂正する必要があるか(???) (3)今回の調査の課題設定:社会福祉システムの協働は可能か ―北ドイツ・南デンマークという先進的で同質的な地域では、ユーロリージョンにおける 市民団体の活動は活発か ―北欧福祉モデルのデンマークの制度が、異なるタイプのドイツ型社会国家(+法治国家) と、ユーロリージョンの自治体間ではどのような協働が可能か。経済特区のような、自治 体あるいは地域レベルでの混合制度は可能か。 ―その媒介となる越境労働に関しては、どのような問題が生じるか 2.Interreg4A: Syddanmark-Schleswig-K.E.R.N の事例 以下の 3 つの団体で構成 (1)デンマーク側:南デンマーク地域(府) (Interreg4A のデンマーク側事務局は、この 庁舎の中にある) ・・・デンマークは 2007 年の行政改革で、全国を 5 つの地域に再編・統 1 合、この地域は 4 つの県、78 の自治体を再編し、バイル市(Vejle)、22 自治体、地域人口 120 万、職員 25000 人、予算は 203 億DKK(約 2740 億円) 、デンマークの地域府は主と して、健康・医療を担当し、地域参事会をもつが徴税権はなく、歳入は国と自治体から。4 つの主要管轄:①保健・医療(25 億DKK、18 か所に 4 つの病院を含む医療施設、②児童・ 成人障害者や青尐年矯正施設などの社会施設(35)、③精神障害者施設(犯罪者への強制措 置入院、認知症もふくむ) 、④地域開発(国土計画、地域産業・雇用政策、青尐年・成人教 育施設やプランの調整、土地利用と環境、土壌汚染、地域交通の計画と財政支援) ⇒国境を越える教育制度や大学の共通カリキュラム形成では、最終権限は政府になるので、 ここでは提案や要請のみ。 ⇒多くの課題は、基礎自治体、産業界、教育施設などの協働により遂行。こうした組織と して、公式なものは「成長フォーラム」 (地域参事会の代表、自治体の参事、産業界、職 業・高等教育施設の代表者)、 「折衝委員会」(地域参事会議長と自治体市長)など (2)ドイツ側:Entwicklungagentur Nord(GmbH 有限会社), Technologie-Region K.E.R.N 今、フレンスブルク市(Flensburg)がある、前者のみを説明。 3 本柱 GmbH の社員 ・・・・(1) 「将来計画 経済」 シュレースビッヒー EA NORD(GmbH) ・・・・ (2)「インターレーグ4A」 フィレンスブルク郡、 ・・・・ (3)「成長センターードイツ 北フリースランド郡、 デンマーク地域の成果 」 ●EA NORD フレンスブルク市 は、2006 年 10 月に、シュレースヴィッヒ地域の共同の産業開発のため に設置される。3 つの課題があり、 (1)シュレースヴィッヒ・ホルスタイン州全体の開発プ ロジェクトである「将来計画 経済」の、地域事務所、(2)Intereg4A の事務局、(3)ド イツ―デンマーク地域の発展の成長センター。 ●この地域には、1996 年 4 月に設立された、WiREG 有限会社があり、フレンスブルク市 が 39%の出資、以下、シュレースヴィッヒ・フレンスブルク郡 17.5%、北海・東海貯蓄金 庫(14%) 、19 のこの地域の都市や自治体 25,5%、その他 4%。地域の経済発展のために 企業を支援する組織であり、 この中には、中小企業への技術教授やセミナーを開催する 1987 年に設立された「技術センター」がある。EA NORD もこのセンターの中に、事務所を持 つ。パートナーとして、フレンスブルク商工会議所、シュレースヴィッヒ・ホルシュタイ ン投資銀行、シュレースヴィッヒ・フレンスブルク郡協働組合銀行、EA NORD,フ レンスブルク高等専門学校、フレンスブルク大学、フレンスブルク手工業会議所、州政府、 シュレースヴィッヒ・ホルシュタイン経済開発・技術移転有限会社(WTSH) 、フレンスブ ルク労働局、こうした組織が、行政と共に Interreg4A の申請者やそのパートナーになる。 したがって Intereg4A のそれぞれのプロジェクトの関係者は、市民団体や福祉団体も多い 2 が、中心となる組織はほとんどが地域公共体、あるいは行政が関係している組織となる。 ●(1)の「将来計画 経済」は、州政府が州全域に展開する地域経済開発、地域促進の主 要プログラムであり、EUの地域開発欧州基金(EFRE)の助成を受けている。州政府は、 ほかにも広域な北海、バルト海開発プロジェクトのも参加しており、社会基金、農業基金 のプロジェクトも持つ。したがって、こうしたEU資金を受けるプロジェクトや組織が重 ならないように、いくつもの組織を使い分けている。 3.中間的な総括 意外にも、市民社会や産業が発展した、北ドイツー南デンマーク地域は、行政のヘゲモ ニーが強い地域であった。デンマークはとりわけ、 「公共サービス社会」ともいえるもので、 民間の役割は補助的なもの、あるいは文化的な領域の活動に限定されていた。ドイツは、 社会的国家(多くの半公法的団体や職能団体)と法治国家(行政と厳格な管轄規定)によ り、これまた、産業領域や研究・技術開発を除いて、社会制度の刷新は難しい状況にあっ た。EUの地域統合の役割は、この意味では非常に不均衡に展開しているといわざるを得 ない。 ただし今回の調査は、産業政策や企業間協力、大学や研究所など先端技術の共同開発な どを中心としたヒアリング調査ではないので、民間部門の協働や多様な目的別機関の協働 にはあまり触れられていないことに留意されたし。 以下に、その結論を補強するために、印象的な手法ではあるが、ヒアリング調査の一部を 掲載する。ヒアリング調査を行ったのは以下の組織と担当者である。ただしここではハン ブルクで行ったヒアリング調査と担当者には言及しない。 (1)フレンスブルク市 副市長 Jochen Barckmann 企画局・ドイツ・デンマーク協力 Berit Erichsen 同 社会福祉担当職員 (2)ドイツ側 Interreg4A EA Nord GmbH: Hans-Ulrich Bühring (フレンスブルク事務所) Kiel Region Dr. Katja Schönwandt (キール事務所) (3)デンマーク側 Interreg 4A 南デンマーク地域府 Claudia Juhl (バイル事務所) 同 事務職員 3 4.フレンスブルク副市長、企画局担当者へのヒアリング調査(2011.3.9)(一部) 副市長:社会制度に関しては、相互の制度の調和は非常に困難。国境を越えて通勤する労 働者の場合に、さまざまな問題が生じる。まず労働市場に関していえば、両国の発展はこ れまで一致することはなく、常に違いがあった。したがってドイツからデンマークへ、あ るいは逆の方向で通勤する労働者が生まれる。最近では、ドイツからデンマークの方向に 労働力は流れ、企業はドイツの方(シュレースビッヒ・ホルシュタイン)が人件費は安い から、デンマーク企業はドイツに来る。つまり人件費コスト(社会保障負担もふくめて) が大きな要因に。EUの国境通過の手続きの簡略化、調整、などにより国境を越える労働 市場がうまれ、さらには越境通勤者が増えている。越境通勤者センターを国境地域に設置 することにより、医療保険や雇用保険の制度の違いを助言している。このセンターはイン ターレグ3Aの支援でできたが、現在は自前の財政で運営している。 住沢:私たちはデンマークでは解雇が容易なことは、失業給付の額や期間がすぐれている こと、職業教育の機会も提供されることなど、ドイツよりも雇用者にやさしい制度がある ことを知っているが。 副市長:ドイツの場合は、12カ月まで比較的よい失業保険がしはらわれ、その後は社会 扶助で、必要な最低限の給付が行われる。デンマークは最初は、非常に高い失業保険給付 があるが、急速に減額される。しかも他に就業するように強制される。ドイツはこの点で は明確ではない。 住沢:その関連で、EUは社会的ヨーロッパを唱え、しかも地域政策で、国境を越える協 働プロジェクトを推進している。もし例えばデンマークと隣接するこの地域で、こうした 2 地域間協働としてモデル地域をつくり、より優れた社会制度を国境を越えて導入するモデ ルをつくればいいと思うのだが、そうして事例は聞かない、どうしてなのか。 副市長:その理由は、地域はこうした社会制度に関する権限はなく、それは連邦法で、す べての領域に妥当する法律として存在し、地域は、その法律を施行するだけである。 住沢:経済特区のような地域限定特例の設置はないのか 副市長:そういうものはない。常に全ドイツに妥当する。このことはデンマークにも妥当 すると思う。ドイツの地図を見れば、ポーランド、北欧、ベネルクス、フランスなど多く の国と隣接しており、国境地域が隣接する国と特別の社会制度を導入するなら、中央政府 はこの全体をもはや制御できなくなる。とりわけドイツ政府は、生活基盤保障において、 いかなる地域においても同じ水準を保障することを強調する。 ドイツは、社会保障に関しては、立法もその財政的措置も、連邦政府の権限であり、自治 体が追加的な給付やサービスを行うこともありうるが、基本的な生活保障に関して、そう したことは考えられない。自治体は個の事務を遂行するだけであり、金銭の給付を行うが、 それは自治体のカネではなく政府のカネである。したがって市民派どこにおいても同じ請 求権を持ち、副市長がそれぞれの地域の特性により、それを変えることは考えられないし、 4 できない。 職業教育に関して、ドイツはいわゆるデュアルシステムであり、学校での理論的・技術 的な習得と、現場での実践的な習得を経て、資格試験がある。デンマークは、他の国同様 に、学校での習得にある。私たちはドイツのこのシステムを維持したいと思う。しかし自 治体はこの資格に関して管轄ではない。この資格の問題、つまり海外での資格をドイツが どのように評価するかは、常に論争点。たとえば、外国の小企業がドイツで営業したい場 合、この資格の問題が生じる。つまりドイツは第二の資格試験、マイスター制度があり、 これは自立した経営者としての習得・資格もふくんでいる。この資格なしには、ドイツで さまざまなサービス部門の小企業の営業は不可能であり、EUレベルで常に問題となる。 その場合、全面的な拒否ではなく、どの程度の資格水準で、ドイツでの営業を承認するか という問題となる。 大学での資格に関しても同じ事情がある。例えば医学生に対して、東ヨーロッパの諸国 の教育は全く異なるので、これまではドイツでの医者としての営業行為は承認されてない。 ドイツは、商工会議所や手工業会議所があり、すべての事業体はここに登録することを 義務付けられている。そこで職業教育に関して、試験を行い、資格を出す。これはすべて のドイツで妥当することである。この組織は、連邦組織であり、地域の自立した組織では ない。(大都市や知事府の単位で会議所の組織。この意味では、フレンスブルク商工会議所 は、この地域の職人の自治組織。しかしこれを根拠づける公法は連邦法であり、どこも同 じ法のもとである。しかしこの組織は労働市場の組織。 (社会的労働市場と呼ばれるものの 伝統主義的側面) 住沢:社会保障、育児、職業教育領域での外国モデルの導入、あるいは統一化は困難で有 ることはわかったが、尐なくとも何らかのこうした方向への接点はないのか。 担当者:もちろん情報交換や見学はしている。とりわけ介護や育児に関して、スカンジナ ビア・モデルを見習うべきという意見も強く、こうしたさまざまな制度や施設やサービス の在り方を、ドイツでも行おうとするものもある。しかし財政的な負担の問題であまり実 現できない。ここの事例の導入ということはあるが、制度そのものの転換ということはあ りえない。 住沢:日本では、高齢者介護や病院建設で、自治体ではできないので協働事業で行う場合 がある。隣接する地域では、こうした介護施設や病院経営で、国境を越えて共同経営する ことは可能ではないのだろうか。 副市長:この地域は農村地域で病院建設は大きな負担であった。そこでデンマーク・ドイ ツの共同経営の病院を、国境近くに建てようというプロジェクトがあった。しかし具体化 するにつれ、制度中の違いが大きな阻害要因となっていることが分かってきた。 ドイツの医療は民間部門として、社会保険を拠出し、保険団体が、医療機関の仕事に対 して支払うというシステム。医療機関で働く大部分の人は民間人である。これに対して、 デンマークの医療は公共サービスであり、政府の監督のもと地域が行い、職員はほとんど 5 が公務員。 ただしコーポレ―ションはあり、たとえば救急事業。ドイツでは救急車は、どの地域で も12分以内に駆けつけることができるという決まりがある。この費用は、税金ではなく 医療保険が支払う。ドイツの救急車がデンマークの病院に感所を運ぶ場合もある。救助ヘ リ子ブターは農村地域では必要だが、維持コストが高い。この場合、ドイツのものがデン マークで活動することもある。 病院に関していえば、ドイツは保険制度で、プロテスタント系病院、カソリック系病院な ど、キリスト教団のものがある。一方デンマークは自治体の治療センターに行き、治療を うける。したがって保険証はない。こうした場合、病院間での契約のもとづいて、国境を 越えて治療を受ける場合もある。 緊急医療に関しては、EUではどの国でも治療を受けることができるという規定がある。 しかし一般治療においてはない。しかしたとえばがん治療に関して、ドイツは高度な設備 があり、デンマークの地域の医療機関ではこうした設備を買えない場合、あらかじめ病院 間(ドイツは民間病院、デンマークは自治体)で契約をして、その治療価格を設定し、ド イツに来たデンマーク人の治療を、デンマークンの医療役所が支払うことができる。ドイ ツでは病院は州政府ではなく民間なので、政府の政策とはならない。 住沢:自治体がデンマーク側の自治体と、何らかの公法的な性格のある協定を結ぶことは 難しいのか 副市長:もちろん自治体間の多くの協定は存在している。ドイツの自治体の仕事は二つあ り、一つは、連邦政府、州政府に彼らの管轄の職務の遂行を委託され、それを行政として 行う場合。しかしそれぞれの管轄は明確にされている。それぞれの自治体は自治体会議と いう利益団体を構成し、この立場から政府に要請することができるだけ。 もう一つは本来の自治体行政の課題であり、地域の人々の生活基盤の保障。このことに 関しては、自治体と地方議会が独自に決定できる。また自治体や都市がデンマークと、こ の領域で独自に契約を結ぶことも可能。たとえば救急車のように、この市とデンマークの 自治体が協定を結び、デンマーク側あの活動もできるようにする。しかし多くの社会的領 域は連邦法において規定されており、自治体の権限ではない。 住沢:しかしグレーゾーンはないのか。例えば連邦行政裁判所に提訴するようなリスクが あっても、可能性として残されているような。 担当者:それは有るかもしれないが、あくまでもドイツ国内の行政の権限をめぐる問題。 それに行政には財政的な裏付けが要り、それがないと独自な政策もできない。 住沢:例えば法律的に何の規定もない空白領域とか。 担当者:ドイツではそうした空白領域は存在せず、すべて法で決められている。もしそう した憲法上の空白領域があれば、それを決定できるのは主権者である州政府。 副市長;例えば地図を見るとここは海一つ向こうはデンマーク。ここで小さな遊覧船で、 この地域を数時間で就航できるような場合でも、これは国際航路の船ということになり、 6 連邦法のあらゆる規則が適用される。すると小型ボートでも国際航路規格の安全基準を順 守しなければならず、自治体間の協定によって、異なる規則にすることはできない。 EUではいろいろな調和の試みがあるが、長期間かけてできてきた制度を一元化すること はむつかし。社会福祉制度もみても、デンマークはすべて税で賄っており、ぜいたく品に は高い課税をしている。これに対してドイツは多くは保険原理であり、医療保険、雇用保 険、など税ではない。 したがってこうした税制、つまりは社会保険、医療・年金などをヨーロッパレベルで統一 していくことは困難であり、何世代もかかって、一つずつやっていく仕事である。いくつ かの税の調和はEUで段階的に提起されているが、こうした意味での税源理か保険原理か などという大きな変革は、私は現時点ではないといえる。 5.デンマーク、南デンマーク地域府(2011.3.10)バイル市、インターレグ4A担当者 担当者:デンマーク側では、ドイツ、あるいはシュレースビッヒ州との協働で一つの戦略 があり、ドイツ側もある。経済的な協力とか職業教育や労働市場をめぐる問題とか。社会 領域では、主要に専門職の育成がそれにあたる。また文化的領域もそれにあたる。今、文 化的な共同地域をつくろうという動きある。現在はこの文化的な領域の協働が中心である。 住沢:デンマークは今までの話を聞き柔軟な対応という印象を持つが、ドイツ側では、こ うした場合、行政や法律や連邦・州の管轄問題を考える、つまり今ある制度や構造に拘束 されている気がするが。こうした階層性のなかで自治体の役割は限られる。しかしデンマ ークは2007年に大きな自治体再編や改革を行い、制度に関して柔軟である気がするが。 担当者:ここは南デンマークという自治体よりは大きな単位なので、もちろん権限もそれ に応じて自治体よりは大きい。しかしデンマークも当然ながら、政府の管轄や指令は有る。 現在、政府はとりわけ教育、専門教育の領域でのドイツとの協働に関心がある。例えば、 ドイツとデンマークで共同で大学をつくり、卒業生はどちらでも同じ資格として承認され、 働けるようなシステム作りだ。 住沢:それは常に政府から来るのか。例えば、この地域の行政が、ドイツ側と協定して、 何かの資格を承認するとか、共同で高等教育を行うとか、できるのだろうか。 担当者:そういうことは、もちろん政府の管轄であり、この広域行政ができることは、政 府に働きかけ、提案することだけである。共同で大学を設置する件では、政府の省庁と、 この地域の担当者が同席する、あるいは政府にいろいろ働きかけるなどである。さらに介 護の資格者育成に関してもこうした企画をもっている。 住沢:職業資格に関しては、ドイツでは、商工会議所や手工業会議所が資格を発行してお り、これは地域組織ではなく、全国組織であるという指摘がドイツ側では聞いたが。 担当者:それは事実であり、資格の承認の問題は確かに困難な問題。また同時にデンマー ク政府に対しても、ドイツのディプロームやほかの修了証書で、デンマークでの求職者を もっと簡単に承認できるようにするとか、働きかけている。 7 住沢;ほかに始められているものは 担当者:知識地域(Wissen region)というプロジェクトや、大学の博士号を、ドイツでも デンマークでも両方で承認できるようにするとか。しかしこれも政府との交渉思考であり、 最終的に承認されるかどうかはまだ未定。まだプランの段階 住沢:プロジェクトの申請で、企業だけではなく、社会団体、福祉団体や労働組合や市民 組織などもあるか 担当者:文化活動ではあるが、社会領域ではそうした市民団体はない。医療関係では、病 院や医療機関で協定を結び協働することはあるが、社会領域では想像できない。文化領域 だと私は思う。 担当者2:ドイツはデンマークと違って、民間の医療機関が多い。そうした機関がデンマ ークにきてさまざまな協定を試みることはあるかもしれないが、市民活動は想定できない。 住沢:それでは環境団体はどうか、例えば国境に風力発電のプロジェクトをつくり、両側 の市民団体がそれを支援するとか 担当者:確かに洋上に風力発電をつくるプロジェクトは有るが、そうしたものは、行政が 支援しており、市民団体のプロジェクトではない。さらには大学が中心、洋上風力発電セ ンターがある。しかし申請するのは市民団体ではなく、大学かこうした機関である。 住沢:確かにデンマークは公共サービスですべてがカバーされている 担当者:例えば北海では、特別の自然保護地域があり、多くの環境団体が活動している。 これらは国境を越えて協力している。しかし環境保護を担っているのは行政である。もち ろん申請する団体にNPOのような非営利団体があるかもしれないが、行政が提起するも のも多く、さらにはNPOも市民団体というよりは半分公共団体の可能性もある。ドイツ の社団法人に似ているような団体は、もちろんデンマークでも環境保護、動物保護など多 くある。 住沢:たとえば市民大学などの組織は有ると思うが、こうした団体が何か申請しないのか 担当者:申請できるが、そうした生涯教育個機関はこれまた公共サービスの一つである。 申請がだれができるか、また現実にだれがしているか、などよくわからないが、最終的に プロジェクトの遂行や財政支出に責任を持つのは行政である。 8 資料1:ユーロリージョン Syddanmark-Schleswig-K.E.R.N の組織図 出典:Operationelle Programm für Syddanmark-Schleswig-K.E.R.N 2007-2013 ( CCI:2007CB163PO056) 9 P.65 資料2:ユーロリージョン Syddanmark-Schleswig-K.E.R.N の地図 http://www.interreg4a.de/wm229714 (2011. 10 9.14)
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