口蹄疫と手足口病と クリプトスポリジウム症

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2010年9月発行
株式会社メディコン
口蹄疫と手足口病と
クリプトスポリジウム症
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宮崎県南部を中心に口蹄疫が大流行していたが、
ようやく
終息した。口蹄疫の凄まじい感染力を目の当たりにし、感染
矢野 邦夫先生
症の恐怖をつくづく感じさせた出来事であった。口蹄疫はヒト
県西部浜松医療センター 副院長 兼
には感染しないため、病院感染対策には全く影響しない感染
感染症科長 兼 臨床研修管理室長
'81年 名古屋大学医学部卒業。名古屋第二赤十字病院、
症である。もちろん、流行地域での経済的なダメージや移動
名古屋大学病院を経て、'89年 フレッドハッチンソン癌研究所、
'93年 県西部浜松医療センター。'96年 ワシントン州立大学感
染症科エイズ臨床、
エイズトレーニングセンター臨床研修修了。
制限などの問題があるので、
ヒトの生活に全く影響はないとい
'97年 感染症科長/衛生管理室長に就任。2008年7月より
現職。
うことではない。
実は、口蹄疫は手足口病やクリプトスポリジウム症に間接的に関連している。他にも関連疾患
はあるかもしれないが、特に、興味深い内容をCDCのホームページから抜き出したので紹介する。
[口蹄疫]
口蹄疫はアフトウイルス属(ピコルナウイルス科の一属)
による感染症である。
このウイルスには7つの血清型が
「ヒツジ、
ヤギ、
ウシ、
ブタ、
あるが、
同じ血清型内でも更に多様性がある※1。口蹄疫は「極めて感染性が強い※1」
「ウイルスに複数の血清型や多様性があ
その他の蹄が偶数に割れた動物など複数種の動物に感染できる※2」
ということから、
伝播を抑えることが困難な感染症である※1。口蹄疫の症状は発熱、
元気消失、
多量のよだ
る※1」
れなどの他に、
舌、
口腔内、
蹄の付け根などに水疱が形成されて、
それが破裂して傷口になる。幼畜での死亡
率は高く、
成畜では生産性の低下(乳収量や産肉量の減少など)
がみられる※3。口蹄疫は感染した動物やその
生産物の合法的および非合法的な移動によって拡散してゆく※3。
[口蹄疫と手足口病]
日本では問題とはならないが、
英語圏では口蹄疫と手足口病の用語が似ているので混乱することがある※4。
手足口病はヒトの幼児や小児にて流行し、
口に水疱状発疹がみられ、
皮膚にも発疹のある発熱性疾患である。
という。一方、
口蹄疫は英語では「Foot-and-mouth
英語では「Hand-foot-and-mouth disease( HFMD)」
と表現される。
これら2つの感染症の名称が似ているのである。人間には手と足があるので「手
disease(FMD)」
足口病」
となり、
動物は四つ足なので「足口病」
となるのであろう。
もちろん、
これらの感染症には関連性はなく、
異
口蹄疫はアフトウイルス属
なるウイルスによって引き起こされる。手足口病はエンテロウイルス属によるものであり※4、
人間が口蹄疫に罹患することはないし、
家畜が手足口病になることもない。
による感染症である※1。そのため、
[口蹄疫とクリプトスポリジウム症]
2001年に英国では大規模な口蹄疫の集団感染がみられた。このときには、
約2,030頭の動物で感染が確
認され、600万頭以上の動物が殺処分された。さらに、
その地方への移動も厳しく制限された。この期間に
おいては、
1991∼2000年の10年と比較して北西英国におけるヒトのクリプトスポリジウム症の発生数が劇的
に減少したのである※5 。この減少は口蹄疫による制限措置の期間に観察された(その年の他の期間では減
少はみられなかった)。クリプトスポリジウム症は原虫であるクリプトスポリジウム・パルブムによって引き起こさ
れる急性下痢性疾患であり、人獣共通感染症である。殆どの症例では自然に治癒するが、特定の免疫不
全患者では重症となり、死亡することもある。クリプトスポリジウム症は英国ではヒトの寄生虫性下痢疾患の
最も多い病原体であり、
1991∼2000年の10年間は英国の北西地域では他の地域よりも多く発生していた。
「口蹄疫の流行」と「ヒトにおけるクリプトスポリジウム症の減少」の関係については、
殺処分政策の結果とし
て動物数が減少したことが関連しているのかもしれない。
しかし、
処分数が比較的少ない地域でもクリプトス
ポリジウム症が減少していることから、
その地域へのアクセスが止められたため、人々が農場や野生動物や
排泄物に接触する機会が減少したことによるのかもしれない。
1990∼2001年の英国北西地域におけるクリプトスポリジウム症の累積報告数
累
積
症
例
数
週
[文献]
※1)CDC. Multiple origins of foot-and-mouth disease virus serotype Asia 1 outbreaks,2003-2007.
http://www.cdc.gov/eid/content/15/7/1046.htm
※2)CDC. Frequently asked questions about sore mouth infection (Orf virus).
http://www.cdc.gov/ncidod/dvrd/orf_virus/
※3)Knowles NJ, et al. Pandemic strain of foot-and-mouth disease virus serotype O.
http://www.cdc.gov/NCIDOD/EID/vol11no12/pdfs/05-0908.pdf
※4)CDC. Hand, Foot, & Mouth Disease (HFMD).
http://www.cdc.gov/ncidod/dvrd/revb/enterovirus/hfhf.htm
※5)Hunter PR, et al. Foot and mouth disease and Cryptosporidiosis: Possible interaction between two emerging infectious diseases.
http://www.cdc.gov/ncidod/EID/vol9no1/pdfs/02-0265.pdf
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