pdfファイル

基礎量子化学
担当教員:
福井大学大学院工学研究科生物応用化学専攻准教授
2011年4月~8月
6月17日 第9回
前田史郎
E-mail:smaeda@u-fukui.ac.jp
URL:http://acbio2.acbio.u-fukui.ac.jp/phychem/maeda/kougi
教科書:
アトキンス物理化学(第8版)、東京化学同人
11章 分子構造
分子軌道法
10章 原子構造と原子スペクトル
11章 分子構造
11・5 異核二原子分子
多原子分子系の分子オービタル
11・6 ヒュッケル近似
○7月15日は学会のため休講します.
高分子学会夏季大学(福井市)副運営委員長
補講日程が決まれば掲示します。
1
6月10日,番号,氏名
(1) 例題11・5 非局在化エネルギーの見積もり
ヒュッケル近似を使ってシクロブタジエンのπオービタルに対する永年方
程式を書き,これを展開せよ.
1
2
そして,
①4つのエネルギー準位のエネルギー
4
3
②全エネルギーEπ
③非局在化エネルギー
を求め,ブタジエンの例にならってエネルギー準位図を描いて基底電子
配置を示せ.
E*
4 π = α − 1 . 62 β
E*
3 π = α − 0 . 62 β
C2p
E 2 π = α + 0 . 62 β
E 1 π = α + 1 . 62 β
1,3-ブタジエンのエネルギー準位図
2
自習問題14・8シクロブタジエンの永年行列式を展開せよ.
シクロブタジエンにヒュッケル近似を適用する.
α−E
β
β
0
β
α−E
β
0
=0
β
α−E
β
0
β
β
α−E
0
1
2
4
3
⑰
各要素をβで割って,(α-E)/β=xとおくと,
ブタジエンと違って,C1とC4
が繋がっているので(結合し
ているので),行列式の1行4
列および4行1列の成分が
“1”になっている.
x 1 0 1
1 x 1 0
=0
0 1 x 1
⑱
x
1 0 1
x 1 0 1
1 x 1 0
0 1 x 1
1 0 1 x
3
1行目を使って展開する。
1行4列
1行1列
1行2列
x 1 0
= (− 1) ⋅ x ⋅ 1 x 1 + (− 1)
0 1 x
1+1
1+ 2
1 1 0
⋅1 ⋅ 0 x 1 + (− 1)
1 1 x
1+ 4
1
x 1
⋅1 ⋅ 0 1 x
1 0 1
x 1 0
1 1 0
1 x 1
= x ⋅ 1 x 1 + (− 1) ⋅ 0 x 1 + (− 1) ⋅ 0 1 x
0 1 x
1 1 x
1 0 1
(
) (
) (
)
= x x3 − 2 x − x 2 + 1 −1 − 1 + x 2 −1 = x 4 − 2 x 2 − x 2 − x 2
(
= x4 − 4 x2 = x2 x2 − 4
)
4
(
)
x2 x2 − 4 = 0
(重根) , x = ±2
∴ x = 0 (α-E)/β=x であるから
1
2
4
3
⎧
⎪ E = α ,α
⎪
⎨
⎪ (α − E )
= ± 2 , ∴ E = α ± 2β
⎪
β
⎩
E =α - 2β
E=α
C2p
C2p
E = α + 2β
全エネルギーEπは Eπ = 2(α+2β) +2α = 4α+4β
5
E =α - 2β
C2p
E=α
C2p
E = α + 2β
1
2
4
3
全エネルギーEπは,
Eπ = 2(α+2β) +2α = 4α+4β
シクロブタジエンのπ結合がC1-C2とC3-C4に局在しているとすると,全
π電子結合エネルギーはエチレンの2倍であることが期待される.
そして,
Eπ(ブタジエン)-2×Eπ(エチレン)=4α+4β-2(2α+2β)
=0
つまり,シクロブタジエンでは非局在化安定化エネルギーはゼロである.
6
-----------------------------------Simple Huckel Method Calculation
-----------------------------------Cyclobutadiene
File of Result Data = cyclobutadiene.txt
Number of Pi-orbitals = 4
Number of Electrons = 4
Lower Triangle of Huckel Secular Equation
1
2
3
4
1: 0.00
2: 1.00 0.00
3: 0.00 1.00 0.00
4: 1.00 0.00 1.00 0.00
出力例
1
2
4
3
x 1 0 1
1 x 1 0
=0
0 1 x 1
1 0 1
x
Hückel分子軌道法計算プログラム
首都大学東京 理工学研究科 分子物質化学専攻
理論化学研究室(波田研究室) http://riron01.chem.metro-u.ac.jp/
Orbital Energies and Molecular Orbitals
占有数
α+2β
1
2
3
-x
2.00000
0.00000
0.00000
Occp
2.00
1.00
1.00
1
-0.50000
0.00000
-0.70711
2
-0.50000
-0.70711
0.00000
3
-0.50000
0.00000
0.70711
4
-0.50000
0.70711
0.00000
Total Pi-Electron Energy = (
Resonance Energy
= (
7
4
-2.00000
0.00
-0.50000
0.50000
-0.50000
0.50000
4) x alpha + ( 4.00000) x beta
0.00000) x beta
全エネルギーEπは, Eπ = 2(α+2β) +2α = 4α+4β
Eπ(ブタジエン)-2×Eπ(エチレン)=4α+4β-2(2α+2β) =0
つまり,シクロブタジエンでは非局在化安定化エネルギーはゼロである.
8
Electron Population on atom
atom Population
1
1.00000
2
1.00000
3
1.00000
4
1.00000
π電子密度
Bond-Order Matrix 結合次数
2- 1
0.50000
3- 1 0.00000
4- 1
0.50000
4- 2 0.00000
0.500
1.000
1
1.000
0.50000
0.50000
π電子密度
2
0.500
0.500
4
1.000
3- 2
4- 3
結合次数
3
0.500
1.000
9
The Hückel method
2
1
Cyclobutadiene
3
4
0.5p 1π − 0.5p 2π + 0.5p 3π − 0.5p 4
π
α − 2β
α
α + 2β
0.5p 1π − 0.5p 2π − 0.5p 3π + 0.5p 4
π
α
0.5p 1π + 0.5p 2π − 0.5p 3π − 0.5p 4
π
4
0.5p 1π + 0.5p 2π + 0.5p 3
π + 0.5p π
10
2011年度 授業内容
1.水素型原子の構造とスペクトル
9.等核ニ原子分子
2.原子オービタルとそのエネルギー
10.異核二原子分子・多原子
3.スペクトル遷移と選択律
分子
4.多電子原子の構造
11.混成オービタル
5.一重項状態と三重項状態
12.分子軌道法
6.ボルン・オッペンハイマー近似
13.変分原理
7.原子価結合法
14.ヒュッケル分子軌道法(1)
8.水素分子
15.ヒュッケル分子軌道法(2)
11
多原子分子系の分子オービタル
多原子分子の分子オービタルは,二原子分子のときと同じ仕方で作
られるが,少しだけ違うのは,分子オービタルを組み立てるのにもっと
多くの原子オービタルを使うことである.二原子分子と同様に,多原子
分子の分子オービタルも分子全体に広がっている.分子オービタルは
一般的な形,
Ψ = ∑ ci χ i
i
を持つ.χiは原子オービタルで,和は分子中の全ての原子の全ての
原子価殻オービタルについてとる.係数を求めるには,二原子分子の
場合と同様に,永年方程式と永年行列式を立て,後者をエネルギーに
ついて解き,ついでこれらのエネルギーを永年方程式に当てはめて,
それぞれの分子オービタルについて原子オービタルの係数を求める.
12
二原子分子と多原子分子の主な違いは,とりうる形の多様性である.
二原子分子は必ず直線であるが,たとえば三原子分子は直線形であっ
てもよいし,決まった結合角を持つ折れ曲がった構造でも良いし,環状
分子であってもよい.
直線型
折れ曲がり型
環状型
多原子分子の形-結合長と結合角を指定すると決まる-を予測する
には,分子の全エネルギーを種々の原子核位置について計算し,最低
エネルギーを与える原子配置がどれであるかを決めればよい.
13
11・6 ヒュッケル近似
ヒュッケルが1931年に提唱した一組の近似を使うことによって,共役分
子のπ分子オービタルのエネルギー準位図を作ることができる.
1)πオービタルはσオービタルとは分離して取り扱う.(π電子近似)
2)すべてのクーロン積分αijをαに等しいとする.
3)すべての重なり積分Sij(i≠j)=0とする.
4)隣接していない原子間の共鳴積分βijはすべて0とする.
5)隣接する原子間の共鳴積分βijをβに等しいとする.
はじめに,近似(1)と(2)を導入する.
14
πオービタルを,分子面に垂直なC2pオービタルのLCAO-MOとして表
す.
A(C2p)
(1)エテン ethene(エチレン ethylene)
B(C2p)
ψ=cAA+cBB
①
(2)ブタジエン butadiene
②
ψ=cAA+cBB+cCC+cDD
炭素原子nの2pオービタルをψnとすると,πオービタルをn個のψnの
LCAO-MOで書くと,
Ψ = ∑ cnΨ n
③
15
∂E
変分法を用いる.エネルギー期待値Eを求めて,
とする.
∂cn
E=
=
* ˆ
Ψ
n
∫ HΨ ndτ
*
Ψ
n
∫ Ψ ndτ
*
c
∑∑ i c j H ij
i
j
∑∑ c c S
*
i j
i
④
ij
j
ここで,
H ij = ∫ Ψ HˆΨ j dτ
*
i
Sij = ∫ Ψ i*Ψ j dτ
⑤
⑥
i=jのとき,Hii=αi ;クーロン積分
i≠jのとき,Hij=βij ;共鳴積分
i≠jのときSii=S,i=jのときSii=1
;重なり積分
16
④を書き直すと,
E ∑∑ ci*c j S ij = ∑∑ ci*c j H ij
i
j
i
⑦
j
このEを最小にするためには,各変数ciについて
とおけば良い.
∂E
= 0
∂ci
⑧
⑦をci *で偏微分すると,
∂E
*
c
c j Sij + E ∑ c j Sij = ∑ c j H ij
∑∑
i
*
∂ci i j
j
j
⑨
∂E
= 0 であるから,次の連立方程式が得られる.
*
∂ci
ここで
∑ (H
ij
− ESij )c j = 0 (i = 1,2,..., n)
⑩
17
j
∑ (H
ij
− ES ij )c j = 0 (i = 1, 2,..., n )
⑩
j
⑩式がcj=0という無意味な解以外の解を持つためには,係数の行列
式がゼロでなければならない.
H11 − ES11
H 21 − ES 21
M
H n1 − ES n1
H12 − ES12 L H1n − ES1n
L
L
L
=0
M
M
M
L
L H nn − ES nn
⑪
これを永年方程式という.
18
H
(1)エテン ethene(エチレン ethylene)
H
H
永年方程式は次のようになる.
H11 − ES11
H12 − ES12
H 21 − ES 21
H 22 − ES 22
H
=0
⑫
教科書の記述にしたがうと,
i=jのとき,Hii=αi ;クーロン積分
i≠jのとき,Hij=βij ;共鳴積分
i≠jのときSii=S,i=jのときSii=1 ;重なり積分
である.原子Aと原子Bは等価であるから,αA=αB=α,βAB=βBA=βとすると,
α − E β − ES
=0
β − ES α − E
⑬
(11・37)
19
(2)ブタジエン butadiene
H11 − ES11
H 21 − ES 21
H 31 − ES31
H 41 − ES 41
H12 − ES12
L
H13 − ES13
L
H14 − ES14
L
L
L
L
L
L
H 44 − ES 44
2
1
=0
4
3
⑭
教科書の記述にしたがうと,
α −E
β AB − ES AB
β AC − ES AC
β AD − ES AD
β BA − ES BA
β CA − ESCA
β DA − ES DA
L
L
L
L
L
L
L
L
=0
⑮
α −E
20
エチレンの永年方程式⑬の解は容易に求められるが,ブタジエ
ンの永年方程式⑮の解を求めるのは容易ではないことはすぐに
分かる.
そこで,さらなるヒュッケル近似(3)~(5)を導入する.
3)すべての重なり積分Sij(i≠j)=0とする.
4)隣接していない原子間の共鳴積分βijはすべて0とする.
5)隣接する原子間の共鳴積分βijをβに等しいとする.
そうすると,永年方程式の
(1)すべての対角要素:α-E
(2)隣接する原子間の非対角要素:β
(3)他のすべての要素:0
となり,計算が容易になる.
21
11・6(a)エテン(エチレン)とフロンティアオービタル
エチレンにヒュッケル近似を適用すると⑬は次のように簡単にな
る.
α− E
β
β
=0
α− E
⑯
行列式を展開すると,
(α − E )2 − β2 = 0
E 2 − 2αE + α 2 − β2 = 0
(
∴ E± = α ± α 2 − α 2 − β2
=α±β
全エネルギーEπは
)
図11・38 エチレンのヒュッケル分
子オービタルのエネルギー準位図
Eπ=2E1π=2α+2β
22
エチレンでは
最高被占分子オービタル(HOMO)
1πオービタル
最低空分子オービタル(LUMO)
2π*オービタル
である.これら二つのオービタルは,エチレンのフロンティアオービタル
を形成する.
LUMO
1 1
1 2
ψ2 = −
pπ +
p
2
2 π
π →π*
ψ1 =
HOMO
1 1
1 2
pπ +
p
2
2 π
π→π*の励起エネルギーは|E--E+|=2|β|である.
23
○エチレンのπオービタルのヒュッケル近似による取り扱いは,二原子
分子の分子軌道法と全く同じである.
πオービタルを,分子面に垂直なC2pオービタルのLCAO-MOとして表
す.
A(C2p)
エテン ethene(エチレン ethylene)
B(C2p)
ψ=cAA+cBB
二原子分子ABの分子オービタルとし
て LCAO-MO を用いる.
ψ=cAA+cBB
24
永年方程式
441
⎧ cA (α − E ) + cB β = 0
⎨
⎩ cB (α − E ) + cA β = 0
LCAO-MOの係数の決め方
①変分法で求めたエネルギー固有値
を永年方程式に代入して係数の比を求
める.
A(C2p)
B(C2p)
②波動関数の規格化条件から係数を
計算する.
①エネルギー固有値を永年方程式に
代入して係数の比を求める.
結合性オービタル1π(E+)では,
反結合性オービタル2π*(E-)では,
E+ = α + β
E− = α − β
cA (α − α − β ) + cB β = 0
cA (α − α + β ) + cB β = 0
− cA β + cB β = 0
∴
cA β + cB β = 0
cA
=1
cB
∴
cA
= −1
cB
②波動関数の規格化条件から係数を計算する.
25
441
⎧Ψ + = cA ( A + B ), E + = α + β
⎨
⎩Ψ − = cA ( A − B ), E − = α − β
規格化を行うと,
∫Ψ
2
+
dτ = cA2 ∫ A 2 dτ + cA2 ∫ B 2 dτ + 2 cA2 ∫ AB dτ
= 2 cA2 + 2 cA2 S = 2 cA2
=1
∴ cA =
1
2
2
2
2
2
2
2
c
A
c
B
c
Ψ
τ
τ
τ
d
d
d
2
=
+
−
−
A
A
A
∫
∫
∫
∫ AB dτ
= 2 cA2 − 2 cA2 S = 2 cA2
=1
∴ cA =
1
2
26
pπ1
したがって,
⎧
⎪Ψ + =
⎪
⎨
⎪
⎪Ψ − =
⎩
(
)
(
)
1 1
pπ + pπ2 , E + = α + β
2
1 1
pπ − pπ2 , E − = α − β
2
E− = α − β
pπ
1
pπ2
ψ− =
Ψー
α
α
E+ = α + β
Ψ+
H
H
H
H
pπ2
H
H
H
H
ψ+ =
A
1 1
1 2
pπ −
pπ
2
2
1 1
1 2
pπ +
pπ
2
2
27
410
11・6(c)ブタジエンとπ電子結合エネルギー
ブタジエンにヒュッケル近似を適用すると⑮は次のように簡単になる.
α −E
β
0
0
β
α −E
β
0
=0
β
α −E
β
0
β
α −E
0
0
⑰
各要素をβで割って,(α-E)/β=xとおくと,
x 1 0 0
1 x 1 0
=0
0 1 x 1
0 0 1
x
pA
π
⑱
pB
π
pC
π
pD
π
28
行列式の展開
行列A=(aij)をn次の正方行列,det(A)をその行列式とする.
(1)n=1のとき,det(A)=a11
det ( A ) =
(2)n=2のとき,det(A)=a11a22-a12a21
a11
a21
a12
= a11 a22 − a12 a21
a22
(3)n≧2のとき,行列Aの行iと列jを削除して作った(n-1)次の行列式をMij
で表し,Aの小行列式という.
行列A=(aij)の余因子Aijを次のように定義する.
Aij = (−1) i + j M ij
そうすると,Aの行列式det(A)を次のように展開できる.
n
n
j =1
j =1
det( A) = ∑ aij Aij = ∑ (−1) i + j aij M ij
29
行列式の展開の例題
何行目あるいは何列目を使って展開しても結果は同じになるが,行
列の要素がゼロを含むときは,ゼロを多く含む行または列を選んで
展開すると計算が簡単になる.
下の例では,ゼロを2個含む1行目を使って展開しているので,実
際に計算しなければならない余因子は1行2列の余因子だけである.
0 −2 0
−1 1
1+ 2
− 1 3 1 = 0 + (−1) (−2)
+ 0 = −10
4 1
4
2 1
30
行列式⑱を展開する.余因子は
次のようになる.
x 1 0 0
1 x 1 0
=0
0 1 x 1
0 0 1 x
⑱
以下省略.各自で計算してみてください.
31
他の余因子もすべて計算すると,
det( A) = ∑ aij Aij = ∑ (−1) i + j aij M ij = 4 x 4 − 12 x 2 + 4 = 0
j
x 4 − 3x 2 + 1 = 0
x2 =
3± 9− 4
2
3± 5
∴x = ±
2
x = ±1.62, ± 0.62
j
E*
4 π = α − 1 . 62 β
E*
3π = α − 0 . 62 β
C2p
E 2 π = α + 0 .62 β
E1π = α + 1 .62 β
x = (α-E)/βとおいたので,Ε = α−βx,である.エネルギー準位図は上の
ように書け,基底状態の電子配置では,4つの電子はE1πとE2πに入る.
32
410
全エネルギーEπは
Eπ=2E1π+2E2π
=4α+2(0.62+1.62)β
=4α+4.48β
π →π*
π →π*の励起エネルギーは
|E3π*-E2π|=1.24|β|である.
図11・39 ブタジエンのヒュッケル
分子オービタルのエネルギー準位
と,対応するπオービタルを上から
見た図.オービタルが局在してい
ないことに注意せよ.
33
The Hückel method
Solutions for butadiene
2
4
1
3
3
4
0.372p 1π − 0.602p 2
π + 0.602p π − 0.372p π
4
2
1
3
4
0.602pp 1π − 0.372 2π − 0.372p 3
π + 0.602p π
4
2
1
3
− 0.602 pp 1π − 0.372 2π + 0.372p 3π + 0.602p 4
π
2
1
4
3
4 34
3
0.372p 1π + 0.602 p 2
π + 0.602p π + 0.372p π
ブタジエン
π →π*
π →π*
エチレン
ブタジエンにおけるπ →π*の励起エネルギーは
|E3π*-E2π|=1.24|β|である.
π共役系が長くなるとπ →π*間のエネルギー差が小さくなる.エチレ
ン,ブタジエン,ヘキサトリエンでは,それぞれ2.0 |β| ,1.24 |β| ,0.9 |β|で
ある.さらに共役系が長くなると可視光でπ →π*遷移が起こり,吸収光
の補色を示すようになる.
35
410
○非局在化エネルギー
ブタジエンのπ結合がC1-2とC3-4に局在しているとすると,全π電子結
合エネルギーはエチレンの2倍であることが期待される.
しかし,
Eπ(ブタジエン)-2×Eπ(エチレン)=4α+4.48β-2(2α+2β)
=0.48β
つまり,ブタジエンは2個の別々のπ結合のエネルギーの和よりも,
0.48β(約-36kJmol-1)だけエネルギーが低い.
共役系の追加された安定性を,電子が非局在化されることによって生
じる安定化エネルギーであるので,非局在化エネルギーという.
2
1
3
4
非局在化
36
-----------------------------------Simple Huckel Method Calculation
-----------------------------------butadiene
File of Result Data = butadiene
Number of Pi-orbitals = 4
Number of Electrons = 4
Lower Triangle of Huckel Secular Equation
1
2
3
4
1: 0.00
2: 1.00 0.00
3: 0.00 1.00 0.00
4: 0.00 0.00 1.00 0.00
単純ヒュッケル法
計算出力例
x 1 0 0
1 x 1 0
=0
0 1 x 1
0 0 1 x
Hückel分子軌道法計算プログラム
首都大学東京 理工学研究科 分子物質化学専攻
理論化学研究室(波田研究室) http://riron01.chem.metro-u.ac.jp/
37
Orbital Energies and Molecular Orbitals
単純ヒュッケル法
α+1.62β
電子の占有数
計算出力例
1
2
3
4
-x
1.61803
0.61803 -0.61803 -1.61803 各準位のエネルギー
Occp 2.00
2.00
0.00
0.00
各準位の電子数
1
0.37175 -0.60150
0.60150
0.37175
各2pオービタ
2
0.60150 -0.37175 -0.37175 -0.60150
ルのLCAO3
0.60150
0.37175 -0.37175
0.60150
MOの係数
4
0.37175
0.60150
0.60150 -0.37175
Total Pi-Electron Energy = ( 4) x alpha + ( 4.47214) x beta
Resonance Energy
= ( 0.47214) x beta
全エネルギーEπは, Eπ = = 4α+4.47β
非局在化安定化エネルギー(Resonance Energy)は0.47βである.
38
Orbital Energies and Molecular Orbitals
HOMO
1
-x
1.61803
Occp 2.00
1
0.37175
2
0.60150
3
0.60150
4
0.37175
2
0.61803
2.00
-0.60150
-0.37175
0.37175
0.60150
単純ヒュッケル法
計算出力例
LUMO
3
4
-0.61803 -1.61803
0.00
0.00
0.60150
0.37175
-0.37175 -0.60150
-0.37175
0.60150
0.60150 -0.37175
各準位のエネルギー
各準位の電子数
各2pオービタ
ルのLCAOMOの係数
Total Pi-Electron Energy = ( 4) x alpha + ( 4.47214) x beta
Resonance Energy
= ( 0.47214) x beta
2
1
4
2
4
3
1
HOMO
3
1
2
3
4
3
4
0.372p 1π + 0.602 p 2
π + 0.602p π + 0.372p π −0.602 pp π − 0.372 π + 0.372p π + 0.602p π
39
4π*
2
4
1
3
3
4
0.372p 1π − 0.602p 2
π + 0.602p π − 0.372p π
3π
*
LUMO
4
2
1
3
4
0.602pp 1π − 0.372 2π − 0.372p 3
π + 0.602p π
π→π*
遷移
HOMO
2π
4
2
1
3
−0.602 pp 1π − 0.372 2π + 0.372p 3π + 0.602p 4
π
1π
真上から見た図
2
1
4
3
3
4
0.372p 1π + 0.602 p 2
π + 0.602p π + 0.372p π
40
ヒュッケル近似:結合次数と電子密度
クールソンは結合次数pabを次式のように定義した.
pab =
HOMO
nμ c μ c μ
∑
μ
=1
a
b
ここで,nµは,µ番目の分子軌道を占める電子数(ブタジエンの場合
は, µ=1と2に関して各2個である.caµは,µ番目のMOのa番目の原
子軌道の係数である.
各炭素原子上の電子密度は次式で表わされる.
qa =
HOMO
2
n
c
∑ μ aμ
μ =1
41
ブタジエンの各結合の結合次数
χ[1]
χ[2]
χ[3]
χ[4]
φ[1]
+0.3717
+0.6015
+0.6015
+0.3717
φ[2]
+0.6015
+0.3717
-0.3717
-0.6015
2
HOMO
μ =1
μ=1.a=1,b=2
φ[3]
-0.6015
+0.3717
+0.3717
-0.6015
φ[4]
+0.3717
-0.6015
+0.6015
-0.3717
pab =
HOMO
nμ c μ c μ
∑
μ
=1
a
b
LUMO
p12 = ∑ 2 c1μ c2 μ = 2 c11 c21 + 2 c12 c22
μ=2.a=1,b=2
= 2 × 0.3717 × 0.6015 + 2 × 0.6015 × 0.3717
= 0.8943
2
p23 = ∑ 2 c2 μ c3μ = 2 c21 c31 + 2 c22 c32
μ =1
μ=1.a=2,b=3
μ=2.a=2,b=3
= 2 × 0.6015 × 0.6015 + 2 × 0.3717 × (− 0.3717 )
= 0.4473
0.894
0.447
0.894
42
ブタジエンの各炭素原子上の電子密度
φ[1]
φ[2]
φ[3]
φ[4]
χ[1] +0.3717 +0.6015 -0.6015 +0.3717
χ[2] +0.6015 +0.3717 +0.3717 -0.6015
χ[3] +0.6015 -0.3717 +0.3717 +0.6015
χ[4] +0.3717 -0.6015 -0.6015 -0.3717
= 2 × 0.3717 2 + 0.60152
)
= 1.0000
2
q2 = ∑ 2 c = 2 c + 2 c
μ =1
2
2μ
(
2
21
μ =1
{
(
= 2 × 0.60152 + − 0.3717 2
)}
= 1.0000
2
2
2
+ 2 c42
q4 = ∑ 2 c42μ = 2 c41
2
22
= 2 × 0.6015 + 0.3717
2
μ =1
2
2
+ 2 c32
q3 = ∑ 2 c32μ = 2 c31
q1 = ∑ 2 c12μ = 2 c112 + 2 c122
(
2
n
c
∑ μ aμ
2
2
μ =1
qa =
HOMO
2
)
= 1.0000
μ =1
(
= 2 × 0.3717 2 + 0.60152
)
= 1.0000
43
結合次数と電子密度
C1
1.0000
0.8944
C2
0.8944
1.0000
C3
C4
0.0000 -0.4472
0.4472 0.0000
C3 0.0000
C4 -0.4472
0.4472
0.0000
1.0000
0.8944
C1
C2
0.8944
1.0000
この表の対角要素は電子密度,非対角要素は結合次数を表わしている.
1.0000
0.4472
0.8944
1.0000
1.0000
0.8944
1.0000
44
Electron Population on atom
π電子密度
atom Population
単純ヒュッケル法
1
1.00000
計算出力例
2
1.00000
3
1.00000
4
1.00000
結合次数:π電子がどの程度非局在化したかを表すパラメータ
Bond-Order Matrix
2- 1 0.89443
3- 1 0.00000
3- 2 0.44721
4- 1 -0.44721
4- 2 0.00000
4- 3 0.89443
1.000
1.000 π電子密度
1.000
1.000
結合次数
0.447
0.894
0.894
45
H
H
結合長
H
H
H
π結合次数
H
(1)両端の2重結合C1-C2(C3-C4)はπ結合次数が1より
減少し(0.894),エチレンより弱く長くなっている(1.349Å).
(2)中央の単結合C2-C3のπ結合次数は0より大きくなって
(0.447),二重結合性を帯びて短くなっている(1.467Å).
46
14・9 (d)ベンゼンと芳香族安定性
ベンゼンにヒュッケル近似を適用すると永年方程式は次のようになる.
ベンゼンは環状であるからC1とC6が隣り合っているので,要素a16=a61=β
となる.
0
0
0
α −E
β
β
0
0
0
β
α −E
β
0
0
0
β
α −E
β
=0
0
0
0
β
α −E
β
0
0
0
β
α −E
β
0
0
0
β
β
α −E
ブタジエンのときと同様に展開すると,
x6 − 6x4 + 9x2 − 4 = 0
47
x6 − 6 x4 + 9 x2 − 4 = 0
解は x =
α−E
(2重 ) である.
= ± 2, ± 1 β
したがって,分子オービタルのエネルギーは次のようになる.
E = α ± 2β , α ± β , α ± β
E b2 g = α − 2 β
E e2 u = α − β
E e1 g = α + β
E a2 u = α + 2 β
48
全エネルギーEπは
Eπ=2Ea2u+4Ee1g
=2(α+2β)+2(α+β)
=6α+8β
一方,ヘキサトリエンでは
Eπ= 3×Eπ(エチレン)
=3×2(α+β)=6α+6β
非局在化エネルギー=(6α+8β)−(6α+6β)
=2β
したがって,ベンゼンの非局在化エネルギー
は2β=-150kJmol-1であり,ブタジエンの場合の
約4倍と大きい.これを芳香族安定性という.
49
例題 11・5 非局在化エネルギーの見積もり
ヒュッケル近似を使ってシクロブタジエンのπオービタルに対する永年方
程式を書き,これを展開せよ.
1
2
4
3
x 1 0 1
1 x 1 0
=0
0 1 x 1
1 0 1 x
ブタジエンと違って,C1とC4が繋がってい
るので(結合しているので),行列式の1行4
列および4行1列の成分が“1”になっている.
50
-----------------------------------Simple Huckel Method Calculation
-----------------------------------Cyclobutadiene
File of Result Data = cyclobutadiene.txt
Number of Pi-orbitals = 4
Number of Electrons = 4
Lower Triangle of Huckel Secular Equation
1
2
3
4
1: 0.00
2: 1.00 0.00
3: 0.00 1.00 0.00
4: 1.00 0.00 1.00 0.00
出力例
x 1 0 1
1 x 1 0
=0
0 1 x 1
1 0 1
x
Hückel分子軌道法計算プログラム
首都大学東京 理工学研究科 分子物質化学専攻
理論化学研究室(波田研究室) http://riron01.chem.metro-u.ac.jp/
Orbital Energies and Molecular Orbitals
占有数
α+2β
1
2
3
-x
2.00000
0.00000
0.00000
Occp
2.00
1.00
1.00
1
-0.50000
0.00000
-0.70711
2
-0.50000
-0.70711
0.00000
3
-0.50000
0.00000
0.70711
4
-0.50000
0.70711
0.00000
Total Pi-Electron Energy = (
Resonance Energy
= (
51
4
-2.00000
0.00
-0.50000
0.50000
-0.50000
0.50000
4) x alpha + ( 4.00000) x beta
0.00000) x beta
全エネルギーEπは, Eπ = = 4α+4β
非局在化安定化エネルギー(Resonance Energy)はゼロである.
52
Electron Population on atom
atom Population
1
1.00000
2
1.00000
3
1.00000
4
1.00000
π電子密度
Bond-Order Matrix 結合次数
2- 1
0.50000
3- 1 0.00000
4- 1
0.50000
4- 2 0.00000
0.500
1.000
1
1.000
0.50000
0.50000
π電子密度
2
0.500
0.500
4
1.000
3- 2
4- 3
結合次数
3
0.500
1.000
53
求電子置換反応
芳香族炭化水素の求電子置換反応の多くはフロンティア軌道理論に
よって予測できる.ナフタレンのニトロ化反応は,1位で起こるが,その
配向性はナフタレンの分子軌道を使って説明できる.このような置換反
応ではナフタレンのHOMOを考えればよい.炭素1位の軌道係数の絶
対値0.43は2位の0.26よりも大きいので,1位の方が求電子攻撃を受
けやすいと考えられる.
0.43
8
1
0.26
7
2 NO2+
6
3
5
4
NO2
54
-0.4253
+0.4253
LUMO
炭素1位の軌道係数の絶対
-0.2629
値0.43は2位の0.26よりも大
きいので,1位の方が求電子
攻撃を受けやすいと考えられ
+0.4253
る.
-0.4253
HOMO
-0.2629
+0.2629
ε[ 7 ] = α -1.000 β
ε[ 6 ] = α -0.618 β LUMO
ε[ 5 ] = α+0.618 β HOMO
ε[ 4 ] = α+ 1.000 β
+0.4253
55
エノラートアニオンの反応選択性:フロンティア分子軌道支配と電荷支配
エノラートアニオンは、求電子剤の構造に
応じて、C‐アルキル化生成物を与える場合
とO‐アルキル化生成物を与える場合があ
る。エノラートアニオンの酸素原子は負電荷
を帯びており,H+やトリフルオロメタンスル
ホン酸アルキルやクロロトリアルキルシラン
とO-アルキル化反応を起こす。一方、α炭
素での反応に関与するのはオレフィン結合
のπ電子であり、臭化アルキルやヨウ化ア
ルキルと炭素原子上で反応する。
56
エノラートアニオンの反応性は、分子軌道理論からも合理的に説明で
きる。フロンティア軌道であるHOMOの係数は、末端炭素原子上で大
きい。プロトンやカルボカチオンなどの正電荷を持つ求電子剤は、負電
荷との相互作用により、電荷密度の高い酸素原子上で反応する。それ
に対して、ヨウ化アルキルなどのほとんど電荷を持たない求電子剤は、
エノラートアニオンのHOMOとの相互作用が大きいほど反応しやすい
ため、HOMOの係数が大きい末端炭素原子上で反応する。 このよう
に、ほとんど電荷を持たない求電子剤と塩基の組み合わせでは、求電
子剤のLUMOと塩基のHOMOが反応を支配している。このような反応
をフロンティア分子軌道支配と呼ぶ。一方、正電荷を持つ求電子剤と
塩基の反応は求電子剤の正電荷と塩基の負電荷の相互作用に支配
されており、電荷支配の反応と呼ばれる。
57
エノラートアニオンの反応選択性
フロンティア分子軌道支配
E+ or EX
電荷支配
E+ or EX
58
フロンティア軌道であるHOMOの係数は、末端炭素原子上で大きい。し
たがって,ほとんど電荷を持たない求電子剤である臭化アルキルやヨウ
化アルキルと炭素原子上で反応する。
HOMO
59
ボルハルト・ショアー 現代有機化学(第4版) 化学同人(1996)
60
61
62
63
図14.2
図14.1
64
図14・1 2-プロペニル基の三つのp軌道が重なることにより,電子が
非局在化した対称な構造ができる.σ骨格は黒い線で書かれている.
65
図14・1 2-プロペニル基の三つのp軌道が重
なることにより,電子が非局在化した対称な構
造ができる.σ骨格は黒い線で書かれている.
図14・2 隣接した三つのp原子軌道の結合に
よってできる2-プロペニルの三つのπ分子軌道
66
67
68
6月17日,番号,氏名
(1) ヒュッケル近似を適用したアリルラジカルの永年行列式を展開し,
分子軌道のエネルギーを求め,基底電子配置を示せ.π電子数は3個
である.
α−E
β
0
β
α−E
β =0
β
α−E
0
CH
CH2
CH 2
・
[例]シクロブタジエンの基底電子配置
E =α - 2 β
(2)質問,感想,意見など.
E=α
E = α + 2β
69