〔症例報告〕 ぶどう膜炎と血清ACE高値を呈した悪性リンパ腫 ぶどう膜炎と血清ACE高値からサルコイドーシスが疑われた 末梢性T細胞リンパ腫の一剖検例 田原佐知子1,3),冨岡洋海1),多田公英1),岩崎博信1),橋本公夫2) 【要旨】 今回我々は,ステロイドに反応する発熱,急性腎不全,間質性肺炎,ぶどう膜炎を認め,経過中血清アンジオテンシン変 換酵素(ACE),リゾチーム高値を呈したため,サルコイドーシスが疑われ,最終的に剖検にて悪性リンパ腫(peripheral T cell lymphoma,unspecified)との診断に至った1例(81歳,女性)を経験した.本例でみられたぶどう膜炎,間質性腎炎は 悪性リンパ腫に関連したもの,血清ACE高値は悪性リンパ腫の浸潤による胆汁うっ滞性黄疸によるもの,間質性肺炎はカリ ニ肺炎やサイトメガロ肺炎によるものと推察された.サルコイドーシスの診療に関わる臨床医にとって,診断に難渋した本 例は教訓的な症例と考え,文献的考察を加え報告する. [日サ会誌 2004;24:77-82] キーワード: 悪性リンパ腫,サルコイドーシス,アンジオテンシン変換酵素,ぶどう膜炎,間質性腎炎 ………………………………………………………………………………………………………………… An Autopsy Case of Peripheral T Cell Lymphoma with Sarcoidosis-Suspected Uveitis and Elevation of Serum Angiotensin Converting Enzyme Level Sachiko Tahara1,3), Hiromi Tomioka1), Kimihide Tada1), Hironobu Iwasaki1), Kimio Hashimoto1) 【ABSTRACT】 We experienced a case (an 81-years-old woman) of malignant lymphoma with uveitis, interstitial pneumonia, interstitial nephritis and elevation of serum angiotensin converting enzyme(ACE)and lysozyme level. Though sarcoidosis was suspected, she was diagnosed by autopsy as having malignant lymphoma (peripheral T cell lymphoma, unspecified). It was speculated that uveitis and tubulointerstitial nephritis could be attributed to malignant lymphoma, elevation of serum ACE level to cholestatic jaudice, and interstitial pneumonia to pneumocystis carinii and cytomegalovirus infection. This complicated case of malignant lymphoma is important for clinicians who are concerned with the medical care of sarcoidosis, so we present it here from the point of the differential diagnosis between sarcoidosis and malignant lymphoma. [JJSOG 2004;24:77-82] keywords ; Malignant lymphoma, Sarcoidosis, Angiotensin converting enzyme(ACE), Uveitis, Interstitial nephritis ………………………………………………………………………………………………………………… 1) 1) 西神戸医療センター 呼吸器科 2) 2) 同 病理科 3) 3) 現 田附興風会医学研究所北野病院 内科腎臓科 著者連絡先:田原佐知子 〒530-8480大阪市北区扇町2丁目4番20号 田附興風会医学研究所北野病院 TEL:06-6312-1221 FAX:06-6361-0588 E-mail:s-tahara@kitano-hp.or.jp Nishi-Kobe Medical Center, Department of Respiratory Medicine Nishi-Kobe Medical Center, Department of Pathology Division of Nephrology and Dialysis, Department of Medicine, Kitano Hospital, the Tazuke Kofukai Medical Research Institute 77 日サ会誌 2004, 24(1) はじめに 原因不明の全身性肉芽腫性疾患であるサルコイドーシス (サ症)の確定診断には,臨床的および画像所見に加えて, 組織学的に非乾酪壊死性類上皮細胞肉芽腫の証明が必要と なる.しかし,組織学的診断が困難な場合には,画像所見 やぶどう膜炎,血清 ACE,リゾチーム高値などが参考とな る.今回著者らは,ステロイドに反応する発熱,急性腎不 全,間質性肺炎,ぶどう膜炎を認め,経過中血清 ACE,リ ゾチーム高値を呈したために,サ症が疑われ,最終的に剖 検にて悪性リンパ腫との診断に至った 1 例を経験した.診 断に難渋した本例は,サ症の診療に関わる臨床医にとって 教訓的な症例と考え,文献的考察を加え報告する. 症例呈示 ●症例:81 歳,女性,主婦 ●主訴:発熱,呼吸困難 ●家族歴:母 舌癌 ●既往歴:68 歳胆石症のため胆嚢摘出術,73 歳,75 歳それ ぞれ右,左の股関節人工関節置換術,喫煙・飲酒歴なし 現病歴:平成 13 年 9 月,39 度台の発熱が出現,Cre 2.8mg/ dl と急性腎不全を来し前医に入院.CRP 34.2mg/dl と強い 炎症反応を認め,腎盂腎炎が疑われ,抗生剤投与にて一旦 炎症反応,腎機能ともに改善した.その後も高熱と発熱に 伴うクレアチニン値の上昇を来し,ショックとなっては入 退院を繰り返した.状態悪化時には抗生剤と,ショックに 対してメチルプレドニゾロンを投与され,症状・検査所見 の改善がみられていた.平成 14 年 7 月頃,飛蚊症が出現し, 前医眼科にてぶどう膜炎と診断された.平成 14年 9月 26日, 再び 39 度台の発熱を来し,BUN 33mg/dl,Cre 2.4mg/dl と 腎機能の悪化を認め同院に再入院となり,メチルプレドニ ゾロン 500mg,3 日間の投与を受け一旦解熱,軽快したが, 再び発熱し,呼吸困難も出現.胸部 CT にて両肺野に斑状 のスリガラス状陰影の出現を認めたため,精査目的にて 10 月 22 日当院に紹介入院となった. ●当院入院時現症:身長 148cm,体重 60kg,体温 36.0 ℃, 血圧 108/76mmHg,脈拍 60/ 分・整,表在リンパ節触知せ ず.眼結膜貧血,黄疸なし.チアノーゼ,浮腫,バチ状指 なし.肺野で fine crackle を聴取,心音清.腹部触診上肝脾 腫なし. ●当院初回入院時検査所見:クレアチニンクリアランス低 下,KL-6 高値,リゾチーム高値(当院正常範囲:4.2-11.5 IU/l)を認めたが,ACE は正常範囲(当院正常範囲:7.729.4 IU/l)であった.肺機能検査では,拡散能低下を伴う 拘束性障害を認めた(Table1).胸部 HRCT 像(Figure 1- 78 a)では,全肺野に斑状に分布するスリガラス状陰影を認め たが,縦隔・肺門リンパ節の腫脹は認められなかった.67Ga シンチグラフィーでは両肺野への著明な集積像を認めた . (Figure 2) Table 1. Laboratory Findings on First Admission y g Serologic test CBC WBC 6100 /µl CRP 1.9 mg/dl 4 IgG 770 mg/dl RBC 405 ×10 /µl Hb 11.7 g/dl IgA 149 mg/dl 36.2 % IgM 65 mg/dl Ht 4 RF 6 IU/ml Plt 26.2 ×10 /µl ANA <㬍40 Blood chemistry TP 5.8 g/dl C-ANCA <10 pmol Alb 3.7 g/dl P-ANCA <10 EU AST 15 IU/l Urinalysis 46.9 ml/min ALT 9 IU/l Ccr ȖGTP 22 IU/l u-NAG 4.2 U/l ALP 219 IU/l u-ȕ2MG 12939 µg/l LDH 296 IU/l u-Prot. (-) BUN 18 mg/dl u-Sug. (-) Cre 0.9 mg/dl u-Occ.bl. (-) Na 142 mmol/l Cast (-) Repiratoly function K 4.3 mmol/l Cl 108 mmol/l VC 1.46 L Ca 2.1 mmol/l %VC 73.4 % ACE 23.7 IU/l FEV1.0 1.25 L Lysozyme 21.3 IU/l FEV1.0% 86.2 % KL-6 1060 U/ml %DLCO 56.4 % ●経過:高齢で,患者の同意も得られなかったため,気管 支鏡検査は行わなかった.腎生検を施行し,組織学的に間 質性腎炎の所見を認めたが,糸球体腎炎や血管炎,肉芽腫 性病変は認められなかった.心臓超音波検査で左心機能は 良好であり,当院眼科受診時には,両眼に軽度の虹彩炎の 残存が認められた.以上より組織学的に肉芽腫性病変は認 められなかったが,血清リゾチーム高値,ぶどう膜炎の既 往,67Ga 肺集積像に加え,間質性腎炎はサ症として矛盾し ない所見と考え,前医から継続していた酢酸コルチゾン 25mg/ 日をプレドニゾロン 30mg/ 日に変更し,胸部 HRCT 所見も改善し(Figure 1-b),退院となった. 以後,外来でプレドニゾロンの漸減を行い,10mg/ 日ま で減量した平成 15 年 2 月,全身倦怠感,食欲低下,四肢の 浮腫が出現,肝機能障害をきたし,2 月 24 日当院再入院と なった.再入院時検査所見では(Table2),胆汁うっ滞性 肝障害と考えられる直接ビリルビン優位の黄疸,血清 ALP 値の異常高値,トランスアミラーゼ値上昇,血小板減少と, 腎機能の再悪化を認めた.血清リゾチーム,KL-6 高値に加 え,血清 ACE は 45 IU/L と異常高値を示した.胸部 CT で は新たに左下葉に結節性病変を認めた.腹部 MRI では肝脾 腫を認めたが,結節性病変は認められなかった.肝生検を 施行したが,肉芽腫性病変は認めず,毛細胆管での胆汁鬱 ぶどう膜炎と血清ACE高値を呈した悪性リンパ腫 〔症例報告〕 滞と肝細胞の脂肪変化を認めた.ステロイド以外の投与薬 剤の中止にても肝機能の改善を認めず,薬剤性肝障害も否 定的と考えられた.血清 ACE の上昇からサ症の増悪の可能 性も考え,メチルプレドニゾロン 500mg/ 日,3 日間の投与 を行い,肝機能障害,黄疸は一旦軽快傾向を示したが,喀 痰からメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)を検出し, 血液検査でも(1 → 3)-β-D グルカン値高値(250pg/ml), クリプトコッカス抗原陽性,カンジダ抗原陽性を認め, MRSA,真菌感染症として抗生剤,抗真菌剤の投与を行っ たが,多臓器不全のため 3 月 15 日に死亡された.家族の了 解を得て,病理解剖を施行した. a b Figure 1. Chest HRCT findings on the first admission, showing diffuse ground glass opacities (a) and at the time of the discharge, showing disappearance of ground glass opacities (b). Table 2. Laboratory Findings on Second Admission y g CBC Blood chemistry WBC 5100 /µl TP 4.5 g/dl Stab 30 % Alb 2.8 g/dl Seg 42 % T-Bil 7.3 mg/dl 16 % D-Bil 5 mg/dl Lymph Mono 5 % AST 860 IU/l Atyp.lym 5 % ALT 1024 IU/l ȖGTP 1202 IU/l Myelo 1 % ALP 3082 IU/l RBC 423 ×104/µl Hb 12.9 g/dl LDH 877 IU/l 39 % T-chol 271 mg/dl Ht Plt 6.5 ×104/µl BUN 67 mg/dl ACE 45 IU/l Cre 2.5 mg/dl Lysozyme 21.5 µg/ml Na 138 mmol/l KL-6 1440 U/ml K. 3.6 mmol/l Serologic test Cl 98 mmol/l IL㵥2RAg 19900 U/ml Ca 2.3 mmol/l CRP 7.4 mg/dl Urinalysis IgG 477 mg/dl u-Prot. (±) IgA 111 mg/dl u-Sug. (-) IgM 60 mg/dl u-Occ.bl. (-) IgE 0 mg/dl Cast (-) 25.5 ml/min Ccr ●病理所見:腎臓(Figure 3-a)では,核に大小不同を伴 い,核小体の明瞭な異型リンパ球細胞が巣状に浸潤してお り,骨髄にも同様に異型細胞の浸潤を認めた.リンパ節は 径 1cm 程度のものを肺門部と腹腔内に数個認めたのみで あったが,これらリンパ節(Figure 3-b)にも同様に異型 細胞の浸潤を認めた.この他,脾臓,肝門脈域,甲状腺, 肺にも同様の異型細胞の浸潤を認めた.皮膚には異型細胞 の浸潤は認めなかった.これら異型細胞は LCA 陽性であ り,表面マーカーの検索では,L-26 陰性(Figure 3-c), UCHL-1 陽性(Figure 3-d)を示し,末梢性 T 細胞リンパ 腫(peripheral T cell lymphoma,unspecified)と診断され た.この他,肺ではびまん性肺胞傷害器質化期,多発性肺 Figure 2. 67 Ga scintigram findings on the first admission, showing diffuse uptake in both lung fields. 膿瘍(左下葉結節性病変部など),一部にサイトメガロウイ ルス,ニューモシスティスカリニを認め,リンパ節,肝臓, 脾臓にはクリプトコッカスを認めた.検索したいずれの臓 79 日サ会誌 2004, 24(1) 器にも肉芽腫性病変,および肉芽腫に由来すると思われる 生前に行われた腎生検組織像を再検討したところ,広範 線維化や硝子化結節などは認められず,サ症は否定的であっ な間質の線維化と細胞浸潤,尿細管の萎縮を認めていたが, た.当院再入院時の保存血清で可溶性 IL-2 受容体を測定し たところ,19900U/ml と著明高値であった.なお,HTLV- 浸潤細胞にも軽度ながら,核の大小不同や異型,核小体の 凝集を認め(Figure 4-a),肝生検組織像でも門脈域にわず 1 は陰性であった. かに異型細胞の浸潤がみられていた(Figure 4-b). Figure 3. a b c d Histological view of specimen obtained at autopsy, (a) atypical lymphoid cells in the kidney, with irregularly shaped nuclei and a few prominent nucleoli (H.E. × 400), (b) atypical lymphoid cells in the intra-abdominal lymph node (H.E. × 100), (c) L-26 negative in atypical lymphoid cells (lymph node, L-26, × 100), (d) UCHL-1 positive in atypical lymphoid cells (liver, UCHL-1 × 100). a Figure 4. 80 Histological view of specimen obtained by renal and liver biopsy, (a) slightly atypical lymphoid cells diffusely infiltrated in the renal interstitium (H.E. × 40), and (b) some atypical lymphoid cells are observed in the portal canals (H.E. × 40). b 〔症例報告〕 考察 ぶどう膜炎と血清ACE高値を呈した悪性リンパ腫 を示し,一部高値を示す 13,14).Lieberman ら 15)は Lennert ここに報告した悪性リンパ腫(p e r i p h e r a l T c e l l リンパ腫 3 例で血清 ACE 値上昇を認めたと考察で述べてい lymphoma,unspecified)の 1 例は,多彩な全身症状,検査 所見を呈し,最終的に剖検にて診断がなされた.本例の診 断に難渋した原因としては,表在リンパ節腫脹を認めなかっ た点,腎生検組織所見においても間質への浸潤細胞の異型 性が軽度であった点などに加え,やはり,サ症を疑う多彩 な所見を呈したことが挙げられる.これらは,ぶどう膜炎, 胸部 CT でのびまん性陰影,肝,脾,腎病変,血清 ACE・ リゾチーム高値,肺への 67Ga 集積像などであり,サ症と悪 性リンパ腫の鑑別の観点から,本例における診断上の問題 点を探ってみたい. まず,サ症の肺野病変の CT 所見としては,類上皮細胞 肉芽腫の広義間質への分布を反映して,気管支壁の肥厚, 肺血管影の肥厚,微細粒状影,胸膜下粒状影,結節影,小 葉間隔壁肥厚がみられる 1).本例でみられたびまん性スリ ガラス状陰影は,縦隔・肺門のリンパ節腫脹を伴っていな い点からも,サ症を強く疑う所見ではないが,稀ながら呼 吸不全を伴う同様の陰影を呈するサ症の報告もあり,否定 はできない 2,3).剖検所見から推察すると,本例にみられ たスリガラス状陰影は,リンパ腫の浸潤やカリニ肺炎,サ イトメガロウイルス肺炎によるものと考えられた. 次に,サ症における腎障害は,肉芽腫性間質性腎炎,尿 細管間質性腎炎,高カルシウム血症を伴うもの,種々の糸 球体腎炎,腎血管炎が原因であり 4),腎不全を呈する症例 もある 5,6).Muther ら 7) はサ症肉芽腫性間質性腎炎の症 例報告の考察で,アメリカ文献例では,サ症剖検例の 7 〜 25% に腎病変を認めたと述べ,日本サ症剖検例では,13% に認める 8).Bergner ら 9) は,慢性サ症の 15/31,48% に 腎病変を認めたと述べ,腎生検例 1/10,10% で肉芽腫を伴 わない間質性腎炎を認めた.よって,本例で認められた間 質性腎炎の組織所見はサ症としても矛盾しないものである. 一方 Tornroth ら 10)は,腎生検で診断がついた 55 例の腎リ ンパ腫について報告し,うち 44 例は間質性腎炎の形態をと り,糸球体,尿細管周囲にそれらを残す形で異型リンパ球 の浸潤を認めるのが特徴としている.さらに,39 例が急性 腎不全を呈し,リンパ腫細胞の間質への浸潤により間質圧 が上昇するためと考察している. 本例では経過中血清 ACE・リゾチームの上昇を認めたが. 特に ACE 上昇は,1982 年までの欧米文献からの metaanalysis で,サ症の診断において感度 77%,特異度 93% と 有用な補助的検査所見であり,また経過をみるうえでも有 用とされている 11).サ症以外の疾患で ACE が上昇する場 合もあるが,頻度も少なく,またその値もサ症ほど高値で はない 12).悪性リンパ腫では血清 ACE は正常または低値 る.一方,慢性肝炎,肝硬変や肝内胆汁うっ滞性黄疸など の肝疾患でも血清 ACE 値高値を認め,肝硬変では,血管増 生に伴う ACE 産生亢進や肝細胞障害による ACE の分解低 下によると考察されている 16).本例ではリンパ腫細胞が主 に門脈域に認められており,血清 ALP 値の異常高値とビリ ルビン値の上昇を認めた事から,肝内胆管にリンパ腫細胞 が浸潤する事により肝内胆汁うっ滞性肝障害を来していた と考えられる.血清 ACE 上昇は,肝障害の出現に伴って認 められた事から,肝内胆汁うっ滞性黄疸によるものと推察 される.また,血清 ACE に比し,疾患特異性に乏しいとさ れる血清リゾチームも,血液疾患をはじめとして,種々の 炎症性疾患でも上昇することが知られている 13). 最後に,サ症の診断を疑う重要な所見のひとつであるぶ どう膜炎については,まれではあるが悪性リンパ腫におい ても合併の報告がある 17).腫瘍細胞の直接浸潤や腫瘍細胞 由来の蛋白に対する免疫反応などによると考えられており, 全身症状に先行するとされており,本例でも悪性リンパ腫 との関連が推察された. 以上,本例に認められた多彩な所見について,サ症と悪 性リンパ腫との鑑別を中心に考察を行った.本例では,胸 部画像上のびまん性陰影,ぶどう膜炎,肝,腎病変に加え, 血清 ACE・リゾチーム上昇,肺への 67Ga 集積像を認めて おり,1997 年厚生省特定疾患びまん性肺疾患調査研究班に よる診断基準 18) によれば,臨床診断群(ほぼ確実)とさ れるが,著者らは他疾患の可能性が否定できず,申請は行 わなかった.一方,ATS/ERS/WASOG によるガイドライ ンでは,組織学的確定診断のみを記載し,わが国において 用いられている血清 ACE などの臨床診断項目は,特異性が 低いとの判断から診断には用いられていない 16).従来より サ症と悪性リンパ腫は似た病態を示す例があることが報告 されており 17),今後も両者の鑑別には,細心の注意が必要 である. 謝辞:本例の腎生検,肝生検を施行していただきました当 院腎臓内科草野仁先生,消化器内科片山幸子先生に深謝致 しします. 本論文の要旨は,第 171 回日本内科学会近畿地方会にて 発表した. 81 日サ会誌 2004, 24(1) 引用文献 1) 伊藤春海:画像診断.第3章サルコイドーシスの診断,泉 孝 英編,新しい診断と治療のABC呼吸器3 サルコイドーシス.最 新医学社 2002;75-85. 2) 陶山時彦,佐藤浩昭,井上亨,他:高熱と急性呼吸不全で発 症したサルコイドーシスの1例.結核 1990;65:811-819. 3) Sabbagh F, Gibbs C, Effreren LS:Pulmonary sarcoidosis and the acute respiratory distress syndrome(ARDS).Thorax 2002;57:655-656. 4) 吉田雅治:肉芽腫性尿細管間質性腎炎- Wegener 肉芽腫症, サルコイドーシス.日本臨牀 1995;53:1974-1979. 5) 杉本亮子,岳中耐夫,池田拡行,他:経過中急性腎不全を呈 し,ステロイド治療が有効であったサルコイドーシスの一例. 日サ会誌 2003;23:87-90. 6) 太田求磨,寺田正樹,笠井明男,他:高Ca血症と急速な腎機 能障害を呈したサルコイドーシスの一例.日サ会誌 2000;20: 55-58. 7) Iwai K, Takemura T, Kitaichi M, et al:Pathological studies on sarcoidosis autopsy.Ⅱ.Early change, mode of progression and death pattern. 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