実習「太陽の光球面の様子を調べよう」 「太陽の黒点の

実習「太陽の光球面の様子を調べよう」
「太陽の黒点の温度を求めよう」
<教師用ガイド>
1.教材のねらい
太陽に関する実習を単に観察のみに終わらせず、現在、使用可能な太陽の専門観測画像
(FITS 画像)を使って、太陽光球面の諸現象について、その各部の光強度を手がかりに、
より解析的に調べ、各現象の光強度と温度の関係について理解を深める。
2.内容
・ 国立天文台 NAO(三鷹)の 10cm 新黒点望遠鏡による白色光太陽画像で、「マカリ」
のグラフやコントア機能を使い、光球面の周辺減光の様子を調べる。
・ 飛騨天文台のDST(ドームレス太陽望遠鏡)の黒点群のクローズアップ画像で、
黒点の細部(半暗部や暗部の内部)の様子を調べる。
・ 国立天文台 NAO(三鷹)の 10cm 新黒点望遠鏡による白色光太陽画像を用いて、黒
点の暗部・半暗部と光球中心部の静穏領域との光度比較により、ステファンボルツ
マンの法則に基づき、暗部・半暗部の温度を求める。
3.実習の流れ
(1)実習の趣旨
データとして太陽の FITS 画像を使い、光球面の諸現象を明るさの視
点から調べ、黒点の温度の導出をめざす。
(2)光度分布
「マカリ」のグラフ機能を使い、太陽光球面の種々の構造と明るさの関
係について調べる。
(3)測光作業
光球中心部の静穏領域、黒点の半暗部・暗部の光度を求めるため、矩
形測光で平均的カウント値を求める。
(4)データの整理
温度と放射強度に関するステファンボルツマンの4乗則を利用して、
光球中心部の静穏領域の温度を元に、黒点暗部と半暗部の温度を求め
る。
(5)考察
太陽黒点の放射強度と月の放射強度の比較から黒点暗部が十分明るい
にも関わらず、暗く見えることの理由を考える。
(6)感想
4.基本知識
(1) 光球の周辺減光と温度
太陽は気体でできており、はっきりとした表面を持っていないが、可視光線で見える気
体の球体の部分を光球と呼んでいる。光球のガスの層はいくらか透けて見えていて、その
ガスを見通して不透明になる層が光球として見ていることになる。望遠鏡などで見た光球
像の中心付近で、観測者が見通せる実際の深さは、太陽の半径(約70万km)の0.1
%にも満たない500km程度の深さである。
-1-
(国立天文台撮像)
望遠鏡などで太陽を見たとき、上図のように光球の周辺部では、大気を斜めに見通すこ
とになり、より浅い層を見ていることになる。一方、光球のガスの層では、深い層ほど温
度は高く、表面に向かって低くなっている。このため、可視光で光球面を見ると、温度の
低い浅い層が見えている周辺部ほど、徐々に暗く見えることになる。これを、周辺減光と
いう。温度は光球の最下層で6400K、最上層で4300K と求められている。
一般的には太陽の表面温度は5800K とされるが、これは太陽定数から求められた有
効温度(太陽表面から放出される全放射エネルギーが表面温度 T の4乗に比例するという
シュテファン・ボルツマンの法則に基づく)であり、光球層のちょうど中間層の温度にあ
たる。
光球からの光の、波長別の放射分布は、約6000K の黒体放射の放射分布に近いが、
光球層の大気の透明度が光の波長により若干異なり、光の波長によって見通している深さ
が若干異なる。このため、見えている層の温度も異なることになる。詳細については、後
の「10.基礎知識の補充」の項を参照されたい。
(2) 太陽の放射強度と温度
①太陽光球面の放射強度と温度
太陽の光球や黒点は第1近似としては黒体放射をしていると考えて良いので、波長別の
放射強度については、プランクの分布式を使う必要がある。
h:プランク定数
k:ボルツマン定数
C:光速度
とすると、温度Tの黒体が放出する、
波長λにおける放射強度は右の式で表
せる。
-2-
黒体の温度ごと
の波長別強度分布
黒体放射(プランク分布)
は右のグラフよう
3.5E+13
になる。
これを全波長につ
3E+13
いて積分すると、
(σ:ステファン
ボルツマン定数)
放射強度
3
(J/s/m /str)
E=σT
2.5E+13
4
2E+13
3000K
4000K
5000K
6000K
1.5E+13
1E+13
となり、ステファ
ンボルツマンの法
5E+12
則の4乗則とな
ら放出される電磁
1200
1100
1000
900
800
700
600
500
400
200
単位面積あたりか
300
0
る。単位時間に、
波長(nm)
波のエネルギーの
総量はその点の温
度の4乗に比例する。
国立天文台の白色光太陽画像(FITS)で、太陽像の各点の光強度を
を
T
I 、その点の温度
で表し、
光球中心の静穏領域:Io、
黒点暗部:I
光球中心の静穏領域:To、
黒点暗部:T
とすると、
I∝σT
I/Io
T
=(T
=
4
/
To)
4
To( I/Io)
1/4
白色光によって撮像された CCD 画像(FITS)をマカリで測定してI/Io を求め、光球中
心の平均温度として To=6400K を上式に代入して、黒点各部の温度
T
を求めるこ
とができる。
5.データ画像
この実習に用いた太陽の画像は、2001年に国立天文台と飛騨天文台で撮像された2
枚の画像である。測光がしやすく構造や温度の違いがはっきりと現れるように、できるだ
け太陽活動の極大期に近い時期に撮られた画像から、黒点が大きく、数が多く、光球中心
に近い場所にある画像を選んだ。
-3-
(1) 国立天文台 NAO(三鷹)10cm 新黒点望遠鏡による白色光太陽画像
国立天文台の「太陽活動データベース」(http://solarwww.mtk.nao.ac.jp/jp/database.html)
の三鷹 10cm 新黒点望遠鏡・FITS ファイルから、2001年4月11日(sr20010411.fts)
の太陽の光球全面白色光画像を使った。
生徒用ワークシートの発展学習(1)に示したように、この画像以外の日の画像(FITS
ファイル)を、「太陽活動データベース」からダウンロードして、この実習「太陽の黒
点の温度を求めよう」で使うことができる。
(2)飛騨天文台ドームレス太陽望遠鏡(DST)による黒点群のクローズアップ画像
飛 騨 天 文 台 の ホ ー ム ペ ー ジ の デ ー タ 紹 介 ペ ー ジ ( http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/
observation/data/)から、上の白色光太陽画像と同日の、ドームレス太陽望遠鏡(DST)
による単色の連続光領域(Hα+5.0A°)で撮像された、2001 年4月11日の黒点群
(NOAA9415a)のクローズアップ画像(10ビットTIFF形式のデータ)をFI
TSデータに変換した画像(0411011215FBin2Bit10p500.fit)を使った。この画像はダーク
補正、フラット補正はされていないが、粒状斑や黒点暗部の相対的な光度比較には差し
支えはないと考えられる。
6.実習の準備と授業案
(1)実習の準備
①マカリのダウンロードとインストール
②「太陽黒点の温度を求める」教材セットのダウンロード
③授業までに、予備実習を行い、実習指導のポイントを整理する。
④生徒実習用ワークシートの準備(授業内容や生徒実態に合わせて改変可能)。
(2)授業案
「太陽とその活動」の単元で、太陽の光球面の諸現象を学習した上で、実際の太陽の FITS
画像を利用して、明るさと温度の関係を具体的な観測結果をもとに確かめていく。
基本的なマカリの使用方法はマスターしていることを前提として、授業案の1例を以下
に示す。
1時間目:(講義)「太陽とその活動」の単元で、「光球の諸現象」について説明。
2時間目:(実習1)「光球面の周辺減光」、「黒点の構造と光度」について光度のグ
ラフを作成する。観測装置の違いによる黒点の見え方を確かめ、黒点の微
細構造を調べる。
3時間目:(実習2)「黒点の温度」の導出のために光球各部の測光を行い、黒点と静
穏領域の平均的カウント値を求める。測光結果を使って温度を導出する。
考察・感想、及び実習のまとめをする。
(3)実習教材
この実習は「太陽の光球面での諸現象」と「太陽表面での明るさと温度」の関係を、実
習を通して直感的に理解することをねらいとしている。黒点の温度導出については、ステ
ファンボルツマンの法則を理解すれば、高校地学Ⅰの普通授業(文系選択の生徒において
も)の中で十分使用可能な教材である。
-4-
生徒用ワークシートは生徒の実力や学習のレベルに応じて、設問・考察の内容など適宜
改良して利用していただきたい。実習の内容が「周辺減光」「黒点の構造」「黒点の温度」
と盛りだくさんで、1枚の太陽の全面 FITS 画像で実習できる内容をできるだけ多く盛り
込んで、「太陽の光球面の様子を調べよう」、「太陽の黒点の温度を求めよう」の2つの
実習にまとめてある。
また、太陽黒点の温度導出観測では、常に明るい光球からの散乱光が問題になる。空気
による散乱や望遠鏡内部での散乱光が、黒点暗部の光強度を大きくしていると考えられる。
実習ではステファンボルツマンの法則を利用して、黒点の温度を求められることを重視し
て、第一近似としてこの散乱光を無視して黒点温度を求めることにした。発展学習の(2)
で、この問題について考察をさせることにした。授業展開に合わせて、実習内容の編集・
精選をしていただいてもよい。
さらに、生徒の実習までいかなくとも、教師の演示実習としても使うことができ、この
解説書とあわせて配布している解説用スライドなどと併用しての利用も十分可能と思われ
る。
7.指導要領との関連
この教材に関連する高等学校学習指導要領の項目を抜粋すると、以下のとおりである。
地学Ⅰ
(2)大気・海洋と宇宙の構成
イ
(ア)太陽の形状と活動
宇宙の構成
内容の取り扱い
イの(ア)については,エネルギー源としての核融合を扱うが,概略にとどめる
こと。
地学Ⅱ
(3)宇宙の探求
天体の放射や宇宙に関する現象を観察、実験などを通して探求し、宇宙の広が
りや観測方法を理解させ、宇宙の構造と進化についての見方や考え方を身に付
けさせる。
ア
天体の観測
(ア)天体の放射
(イ)天体の様々な観測
(4) 課題研究
地学についての発展的,継続的な課題を設定し,観察,実験などを通して研
究を行い,地学的に探究する方法や問題解決の能力を身に付けさせる
ア
特定の地学的事象に関する研究
内容の取り扱い
(3)のアの(ア)については、恒星の放射を中心に扱うこと。(イ)については、各波
長における観測法を扱い、それにより得られる情報の活用も図ること。
数学 II
(3)いろいろな関数
三角関数,指数関数及び対数関数について理解し,関数についての理解を深め,
それらを具体的な事象の考察に活用できるようにする。
イ、指数関数と対数関数
(ア)指数の拡張、(イ)指数関数、(ウ)対数関数、
内容の取り扱い
イの(ウ)については,対数計算は扱わないものとする。
-5-
8.ワークシート答例
実習「太陽の光球面の様子を調べよう」<レポート編>
1.結果
(1)光球面の周辺減光を調べる
①グラフ機能で得られた,光球の中心を通る断面の輝度分布のグラフを描け。
②
光球のすぐ外側の暗い部分のカウント値はいくらになっているか。
左側
19.6
右側
19.3
<注意>光球の端から離れるに従って、大きく値が異なる。非常に明るい光球による散
乱光に気づかせたい。
③
①の光球の輝度分布のグラフの形はどうなっているか。
・ 光球の中心が一番明るく、左右対称に、端ほど暗くなっている。
・ 黒点に近い部分は、輝度の値が小さくなっている。
④コンター機能で得られた、光球全体の等光度曲線はどのような形になったか。また、
③の結果と合わせて考えると光球全体の明るさ分布はどのようになっているか。
・きれいな同心円になった。(下図参照)
・光球中心が最も明るく、上下左右対称に、周辺にいくほど暗くなっている。
2001年4月11日(sr20010411.fts)の
太陽の光球全面白色光画像を、マカリのコ
ントア機能を使って描いた等光度曲線。白
黒反転は、マカリの「画像表示(V)」の「カ
ラーモード選択(M)」「グレースケール反転
(I)」でできる。
-6-
(2)光球面や黒点の内部を調べる。
①NAO10cmの黒点画像とDSTの黒点画像を比較して、見え方にどのような違いが
あるか。
・ NAO10cmでは薄暗い半暗部と濃い暗部にしか見えなかった。
・ DSTでは、半暗部に暗い流線状の模様が見え、より細部か見えている。
暗部の暗い部分の中に少し明るい斑点や明るい筋状の模様が見えてきた。
<注意>NAO10cm 黒点望遠鏡と DST60cm 太陽望遠鏡の解像度の違いに気づか
せたい。
②光球の黒点のない領域にはどのような構造が見られるか。(名称も記せ)
・明るい小さな斑点が無数に見られる。
(粒状斑)
③<ワークシート>の(2)の⑤で見られた、黒点の内部(半暗部や暗部)の様子をできる
だけ詳しくスケッチして、確認できた構造に矢印を記入して名称を記せ。
粒状斑
半暗部
(フィブリル構造)
アンブラ
ルドット
暗部
ライト
ブリッジ
(右上がり斜めの線は下の⑤の輝度分布グラフの断面を示す)
ライトブリッジ:黒点暗部に見られる、細く曲線状の明るい部分
アンブラルドット:黒点暗部の内部に見られる、比較的明るい斑点
④黒点暗部の内部にはどのような構造が見られるか。
・粒状斑のような、少し明るい斑点がいくつか見られる。
・明るいアーチ状の細い帯がみられる。
-7-
⑤黒点暗部周辺の半暗部にはどのような構造が見られるか。
・黒点暗部から周囲に向かって、細い明るい帯と暗い帯が、放射状に伸びて
いる。
⑥グラフ機能で得られた黒点暗部、半暗部の輝度分布のグラフを描け。また、上の④⑤の
構造に対応する所に矢印で示して、構造の名称を記せ。
半暗部
アンブラルドット
暗部
ライトブリッジ
粒状斑
実習「太陽の黒点の温度を求めよう」<レポート編>
1.結果
(1)黒点暗部と半暗部の光度と温度を調べる
測光結果
場
所
⑥光球中心部の
⑪黒点
半暗部
⑬黒点
暗
部
黒点のない領域
カウント値
平
均
値
567.5
386.7
124.2
567.8
380.4
123.5
566.3
391.1
124.6
Io
I
567.2
I
386.0
-8-
124.1
「A.黒点の温度を求める方法」の式(1)を用いて黒点暗部と半暗部の測光範囲の平均的
T
温度を求める。
=To( I/Io)
1/4
-------------(1)
温度計算表
光球中心 部 の
To
6400
I o
567.2
K
静穏領域
黒点 半暗部
I/Io
点
(I/Io)
1/4
暗
部
386.0
124.1
0.6805
0.2187
0.9083
0.6839
I
黒
黒点
5813
T
4377
5.8×103 K 4.4×103 K
2.考察
①黒点暗部と光球の光強度の比較
上の(1)の「測光結果」表の「⑬黒点暗部」の光強度 I(平均値)は、「⑥光球中心
部の黒点のない領域」の光強度 Io(平均値)の、何分の1になっているか。
567.2÷124.1= 4.57
約 1/(
5
)
②黒点暗部の光強度と満月の明るさとの比較(満月の明るさの何倍か?)
満月の明るさ(光強度)は、太陽の光球面の明るさ(光強度)の 約 50万分の1
倍であることが分かっている。黒点暗部は満月の明るさの何倍明るいか。
(1/4.57)÷(1/5×10
5
)=1.1×10
5
約
10万
倍
③黒点が暗く見える理由
上の「2.考察」の①②から考えて、黒点の暗部は強い光を出しているのに、光球面
上では暗く見えている。その理由を考えよ。
黒点暗部は強い光を出しているが、光球面がさらに約5倍もあかるく、相対的に暗
く見えている。
-9-
④明るさと温度との関係
<説明編>の3,(3),A「黒点の温度を求める方法」の説明と、光球面の各点の光強
度(明るさ)I と温度 T との関係式(1)から考えて、明るさと温度はどのような
関係になっているか。
明るいところほど温度が高く、暗いところほど温度が低い。
9.発展学習の答例
<発展学習(1)>「太陽活動データベース」から別の画像をダウンロードして、ワーク
シートと同様に測光してみよう。
<発展学習(2)>バックグランウンドの明るさを測光してみよう。
測光結果
⑮バックグラウンド
(散乱光)
24.5
21.7
20.2
20.1
考察
表の「⑮バックグラウンド(散乱光)」の光強度 B(平均値)は、
空の明るさや望遠鏡内での太陽の散乱光の光強度を示してい
る。黒点の暗部の光強度 I にもこの影響が含まれている。求め
た暗部の温度 T は、散乱光がない状態で求めた本来の温度に比
べて、高いか低いかどちらになっていると考えられるか。
・黒点暗部にも、明るい光球からの散乱光が入っていると考
えられる。
・このため、本来の暗部の温度より高く求められている。
20.4
B
21.4
また、この散乱光の影響を取り除くために、どのような工夫が
考えられるか。
・散乱光の影響を取り除くために、光球の周囲で求めた散乱
光の明るさ(バックグランウンド B)の値を使って、あらかじめ
暗部の光強度 I
から散乱光の光強度 B の値を差し引いて、
温度を求めればよい。
<発展学習(3)>白斑の光強度と温度
4月11日の画像では顕著な白斑は見にくいが、別の画
像(2001年6月18日)の西側の周辺部に見られる白
斑を測光してみると、以下のようになった。
① 白斑周辺の輝度分布のグラフを作る
静穏領域の光強度を求めるとき、周辺減光で急激に光度
が低くなるので、光球の縁と平行に、白斑を切るようにグ
ラフ機能でカウント値のグラフを作成する。
- 10 -
② 白斑とその周辺を測光する
①でグラフに取った線上で、白斑以外の光球部分を5カ所程度矩形測光する。同様に白
斑の部分を3カ所程度測光する。光球中心部の静穏領域のカウント値は、生徒用<ワーク
シート:説明編>の「(1)黒点暗部と半暗部の光度と温度を調べる」と同様に測光する。
場
光球中心部の
所
白斑の部分
白斑以外の
静穏領域
カウント値
光球部分
566.8
401.8
372.6
566.2
395.3
377.5
565.8
393.2
373.7
374.7
371.8
平
均
値
566.3
396.7
374.1
③ 白斑の温度の導出
黒点各部の温度の導出と同様に、白斑部分と周辺の光球の温度を計算して求める。
光球中心 部 の
To
6400
静穏領域
I o
566.3
K
白斑の部分
白斑と
その周辺部
白斑以外の光球部分
I
396.7
374.1
I/Io
0.7005
0.6606
0.9148
0. 9015
(I/Io)
T
1/4
5.86×10
3
K
5.77×10
3
K
④また、グラフ機能で輝度分布を作ったとき、そのカウント値を「テキスト出力(T)」で
CSV ファイルとして出力し、これを Excel などの表計算ソフトを使い、③同様の計算を行
い、グラフ基線上の各点の温度を求めることもできる。さらにそれをグラフ化して、下の
ような温度のグラフにすることができる。
- 11 -
白斑とその周辺の温度
5800
温度(K)
5750
5700
5650
5600
5550
参考のために、計算表の一部(グラフの左端部分)を下に掲げておく。
X 座標
Y 座標
Iw
Io
Iw/Io (Iw/Io)^1/4To(Iw/Io)^1/4
1814.0
858
350.0
566.3
0.618047
0.8866564
5675
1813.7
857
346.0
566.3
0.610984
0.8841122
5658
1813.3
856
343.7
566.3
0.606863
0.8826179
5649
1813.0
855
350.0
566.3
0.618047
0.8866564
5675
1812.7
854
350.3
566.3
0.618636
0.8868675
5676
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
このようにして、白斑の温度を求めてみると、周辺の光球静穏領域より約100Kほど温
度が高いことがわかる。
<発展学習(4)>見える深さの違いによる、周辺減光と光球面の温度
光球層の見える深さの違いによる周辺減光と、見えている層の温度の違いも、上の<発
展学習(3)>の④同様に求めることができる。マ
カリのグラフ機能で、光球の中心を通るように得
光球断面の温度
られた、グラフ基線上のカウント値を「テキスト
出力(T)」で CSV ファイルとして出力する。その値
7000
を元に温度の変化をグラフ化すると右図のように
光球面の温度(K)
なる。
6000
5000
4000
3000
2000
1000
0
光球の中心を通る断面
- 12 -
10.基本知識の補充
(1)光球面の温度と光学的深さ
一般的には、太陽の光球面の平均温度は5800K としている。しかし、実際に観測で
きる光球面は場所により温度が異なっている。 太陽光球の大気は透明なガスの層であり、
いくらかは透けて見えていて、不透明になる点の深さを光学的深さ=1としている。実際
に見えているところが光球ガスの表面からどれだけの深さの所を見ているかを、光学的深
さとしてτ=0~1の数値として表している。下の図の通り、実際の太陽は球形であり、
500km 程度の厚さを持つ光球は、中心に向かって深い所ほど温度が高くなっている。
下図において、R0 は太陽光球像の半径、R は光球像の中心からの観測点までの距離、
実際の太陽の観測点で光球を斜めに見通して、不透明になる点までの深さが光学的深さτ’
=1になっている。一方τは、実際の太陽の観測点で透けて見えている点の、光球表面か
らの光学的深さをあらわす。
τ=μ=COSθ、
μ=COSθ=〔1-(R/R0)2〕1/2
で、観測された太陽像のR0 と R から求めることができる。
私たちが見ている光球では周辺部に近くなるにしたがい、角θが90°に近くなる。こ
のため、見通している点の光球表面からの深さμは限りなく0に近くなる。光球の周辺部
に行くほど浅い所を見ていることになり、温度はより低くなっている。このため、光球周
辺部の放射強度は中心部より小さくなり、暗く見えることになる。これが周辺減光として
観測される。
(2)観測光の波長と光球温度
さらに、光の波長により、光球ガス層を見通せる深さが若干異なり、光学的深さが1に
なる所の温度が異なる。観測光の波長ごとの光学的深さと温度の関係は、参考資料とした
「現代天文学実験『宇宙を観るⅡ<応用篇>』」によれば、HSRAの標準大気モデルに
より、以下の表のように示されている。
- 13 -
光球温度の光学的深さ依存性 log10τ(λ)
波長λ(A)
温度
(K)
4400
5000
5500
6000
7000
8000
4460
-2.036
-2.000
-1.971
-1.943
-1.907
-1.886
4840
-1.539
-1.500
-1.469
-1.441
-1.401
-1.382
5160
-1.043
-1.000
-0.967
-0.939
-0.898
-0.879
5650
-0.545
-0.500
-0.466
-0.437
-0.397
-0.377
6390
-0.047
0.000
0.035
0.064
0.105
0.126
7750
0.449
0.500
0.537
0.569
0.617
0.646
8880
0.937
1.000
1.048
1.089
1.160
1.216
さらに、この表から波長別の光球温度と光学的深さの関係をグラフにすると以下のように
なる。
光球温度の光学的深さ依存性 log10 τ(λ)
1.5
光学的深さ log10 τ(λ)
1.0
波長A゜
0.5
5800
0.0
-0.5
4000
5000
6000
7000
8000
-1.0
9000
4400
5000
5500
6000
7000
8000
-1.5
-2.0
-2.5
温度(K)
上のグラフで、光球表面の平均温度を5800K とすると、光球の中心の光学的深さ1
(logτ=0)のところでは温度が6400K程度になっている。
(3)単色連続光の画像による黒点温度の導出
飛騨天文台ドームレス太陽望遠鏡(DST)による、単色の連続光領域(Hα+5.0A°)
で撮像された画像を使って、光球の静穏領域と黒点暗部の光度比較により温度を導出する
場合は、本来、次の様な手順ですすめることになる。
第一段階として、測光する黒点の光球面(太陽像)上の位置から求めた R/Ro の値を求
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める。さらに、これから算出したμ(=τ)の値と、分光された連続光領域(吸収線がな
い波長域)で観測に用いた光の波長λの値から、上の「光球温度の光学的深さ依存性」の
表を用いて、内挿法で黒点周辺の光球静穏領域の温度を求める。
第二段階として、黒点周辺の静穏領域と黒点暗部を測光して光強度(IoとI)を求め
る。その光強度の比I/Io を元に、暗部の温度を導出することになる。
高校生の実習でそれらの作業を行うことは、非常に煩雑で困難を伴う。そこで、ここで
は白色光太陽画像を用いて、光球中心部の静穏領域の温度を6400K として、光球中心
部の光度と黒点各部の光度の比較から、黒点各部の温度を求めている。
<参考資料>
1) 横尾武夫編「現代天文学実験『宇宙を観るⅠ』<初級編>」(恒星社)p85~90「4.2.2
太陽の周辺減光の測定」、「4.2.3 黒点の温度の測定」
2) 横尾武夫編「現代天文学実験『宇宙を観るⅡ』<応用編>」(恒星社)p222~226、
「7.1.2 周辺減光の測定」、「7.1.3 黒点・白斑・粒状斑の微細構造」、p261~266「7.4.7
黒点の温度の測定」
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