欧州において医薬品に与えられる保護の特異性 - Müller

PECULIARITIES OF THE PROTECTION CONFERRED TO
MEDICAMENTS IN EUROPE
................................................................................................................................................................
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When launching medicaments on the European market, pharmaceutical companies should be aware
of the possibilities and legal consequences involved by their own or third party’s IP rights in this
highly competitive field of business. Moreover, the balance between IP rights, the principle of free
trade and the public interest should be kept in mind when seeking commercial success in the
pharmaceutical sector in Europe. Therefore, in the following article an overview of peculiarities
concerning the protection conferred to medicaments relating to patent term extension, parallel
imports and exhaustion of IP rights, as well as generic medicaments in Europe will be given for
Japanese practitioners. In particular, this article might be suited as a basis for Japanese practitioners
to deal with strategic questions on commercial exploitations of existing IP rights and of
medicaments already put or to be put on the European market.
by Dr. Ralf Perrey and Dr. Konstanze Lenhard
Published in AIPPI Japan (2009), Vol. 54, No. 8, pp. 468 – 474
www.mueller-bore.de
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(4)
論
説
欧州において医薬品に与えられる保護の特異性
Ralf Perrey*, Konstanze Lenhard**
事 務 局(訳)
1.はじめに
得に関する同様の国内規定を設けている。
欧州市場で医薬品を販売する場合,製薬会社は
2.1 SPC の取得
この競争の激しい事業分野において,自分自身お
SPC を取得するには,いくつかの必要条件を満
よび第三者の知的財産権によりもたらされる数々
たさなければならない。とりわけ,SPC の対象と
の可能性および法律効果を認識しておくべきであ
なる製品は有効な基本特許により保護されていな
る。さらに,欧州の医薬品部門において商業的成
ければならない;当該製品を医薬品として上市す
功を追求する上で,知的財産権,自由貿易の原則
るための有効な承認が付与されていなければなら
および公益の 3 つのバランスを心に留めておく必
ない;当該製品がすでに SPC の対象になっていて
要がある。したがって,本稿では,日本の実務家
はならない;さらに上記の有効な承認が,当該製
のために,特許期間延長,並行輸入,知的財産権
品を医薬品として上市するための最初の承認でな
の消尽および欧州でのジェネリック医薬品に関連
ければならない。
して,医薬品に与えられる保護の特異性について
SPC の申請は,当該医薬品の販売承認の取得日
概観する。とりわけ本稿は,既存の知的財産権に
から 6 か月以内に提出しなければならない。この
ついて,および欧州市場で上市された,または上
承認が特許付与前である場合,SPC の申請は特許
市予定の医薬品についての商業的利用における戦
付与日から 6 か月以内に提出しなければならな
略的課題に日本の実務家が対処する際の基礎知識
い。欧州特許条約(EPC)にもとづき付与された
として役に立つだろう。
欧州特許の場合,上記 6 か月の期間は,EPC 第 97
条(4)にしたがう欧州特許公報における特許付与
2.補充的保護証明書(SPC)
の公告日から起算される。
欧州では,国内特許は基本的に出願日から 20
2.2 SPC の主題
年間の存続期間を有する。医薬品の販売承認を取
SPC を取得可能な主題に関しては,規則 EEC
得するために失われる期間を少しでも埋め合わせ
No. 1768/92 の第 4 条において,SPC により与え
るため,EU 理事会は,特許期間延長の要件につ
られる保護は,販売承認を受けた特許保護製品に
いて規定する,医薬品の補充的保護証明書(SPC)
対してのみ,さらに承認された医薬品としての製
制度の創設に関する 1992 年 6 月 18 日の理事会規
品の使用に関してのみ効力をおよぼすと定められ
則(EEC)No. 1768/92 を採択した。
ている。ここで,「製品」という用語は,上記規
当該規則が 1993 年 1 月 2 日に各 EU 加盟国で施
行される一方で,スイス,アイスランド,リヒテ
ンシュタインまたはノルウェーといった欧州にお
*
Partner of Müller‑Boré & Partner
** Associate of Müller‑Boré & Partner
ける EU 非加盟国も,医薬品の特許期間延長の取
( 468 )
AIPPI(2009)Vol.54 No.8
── 欧州において医薬品に与えられる保護の特異性 ──
則の第 1 条(b)にしたがい,医薬品の有効成分また
(5)
さらに,ECJ は併合事件 C-207/03 および C252/03 に関する判決において,EEA 加盟国では
は有効成分の組合せを意味する。
最近の判決(C-431/04)において,ECJ(欧州
ないスイスでの販売承認も,SPC 期間の計算上,
司法裁判所)は,配合の 1 つの構成成分だけに薬
最初の販売承認とみなされることを明確にした。
効があり,その薬効を有する構成成分に対してす
この決定は,スイスにおける販売承認が自動的に
でに SPC が与えられている,いわゆる剤形特許に
EEA 加盟国であるリヒテンシュタインにおいて効
対しては SPC を与えることはできないと述べて
力を生じるという事実にもとづいている。した
いる。
がって,スイスで取得された販売承認は,EEA に
確立された国内判例法にしたがい,同じ申請人
おいて有効となる。
が同じ製品に対して 2 つの SPC を取得することは
SPC による特許期間延長の計算に関して,かか
できない。なぜなら規則 EEC No. 1768/92 の第 3
る延長は最大で 5 年間まで取得できることに留意
条(c)において,その製品がすでに特定の EU 加盟
すべきである。EEA 内における最初の販売承認が
国で SPC の対象となっている場合,同じ加盟国で
対応特許の出願日から 5 年以内に発行された場合
SPC を付与することはできないと規定されている
には,いかなる特許期間の延長も取得することは
ためである。このことは,同じ製品に関する複数
できず,それゆえ SPC は付与されない。特許出願
の特許の所有者は当該製品に対する複数の SPC を
日と EEA 内における最初の販売承認の発行日と
取得できないと定める,規則 EEC No. 1610/96 の
の間に 5 年を超える開きがある場合,その年数か
第 3 条(2)第 1 文によりさらに強調されている。規
ら最初の 5 年を差し引いた期間だけ特許期間が延
則 EEC No. 1610/96 の前文の(17)にしたがい,当
長される。ただし,SPC により取得可能な特許期
該規則の第 3 条(2)は規則 EEC No. 1768/92 の第 3
間の延長の上限は 5 年である。例えば,販売承認
条の解釈に対しても有効である。
が特許出願日から 8 年後に発行された場合,SPC
ただし,ECJ の判決 C-181/95 に概説されている
は 3 年間付与され,販売承認が特許出願日から 13
ように,所有者が異なる 2 つの特許によって同じ
年後に発行された場合,SPC は 5 年間だけ,すな
製品が保護されている場合には,その製品に対し
わち最大延長期間付与される。
て 2 つの SPC が取得可能であることに留意すべき
小児用の医薬品に関する十分な研究開発を奨励
するため,EU 理事会は小児用医薬品に関する
である。
最近の別の判決(C-202/05)において ECJ は,
2006 年 12 月 12 日の規則 EEC No. 1901/2006 を採
SPC を付与できるのは薬理学的に有効な構成成分
択した。この EEC 規則において,SPC の所有者
の使用に対してではなく,かかる構成成分そのも
または SPC を受ける資格のある特許の所有者は,
のにかぎられると述べている。
小児用医薬品に関する一定の必要条件が満たされ
さらに,ECJ の判決 C-31/03 にしたがい,同じ
れば,SPC の存続期間をさらに 6 か月延長するこ
製品に対してすでに動物用医薬品として販売承認
とができる。最も重要な必要条件は,欧州医薬品
が与えられている場合,人間用の医薬品であるこ
審査庁の小児用委員会により承認された完全な小
とを根拠とした SPC の付与は認められない。
児用研究計画である。すでに SPC が付与されてい
る場合,存続期間の延長申請は,SPC の満了より
2.3 SPC の期間
2 年以上前に,または規則 EEC No. 1901/2006 の
原則として,欧州における SPC の導入は,医薬
施行日(2007 年 1 月 26 日)から最初の 5 年以内で
品の販売承認を取得するために失われる特許期間
あって,SPC の満了より 6 か月以上前に,提出し
の埋め合わせを目的としているため,SPC の期間
なければならない。
は欧州経済領域(EEA)内の最初の販売承認の発
行日によって決まる。
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( 469 )
(6)
── 欧州において医薬品に与えられる保護の特異性 ──
2.4 SPC により与えられる保護
提起することもできる。SPC に対する無効請求の
SPC が取得された欧州諸国における SPC の侵害
提出期限は上記規則に規定されていない。例えば
に関する法的立場および管轄権の適用可能性に関
ドイツでは,SPC に対する無効請求は SPC の満了
しては,規則 EEC No. 1768/92 の第 5 条において,
後であっても提出することができ,基本特許に対
SPC は基本特許により与えられるものと同じ権利
する無効請求の提出も同様である。
をもたらし,同じ制限および義務に拘束されると
3.並行輸入および知的財産権の消尽
明確に述べられている。
したがって,特許の効力およびその例外に関す
る EU 加盟国の国内法の規定が,それぞれの特許
特許権者が様々な国で特許を保有する場合,そ
権に基づき,薬理学的に有効な構成成分に付与さ
の所有者は,第三者による特許保護製品の並行輸
れた SPC に対して,必要に応じて変更を加えて適
入を禁じることができる,すなわち特許権者の許
用される。それゆえ,SPC はその所有者に対し,
可を得ていない第三者による,当該製品の特許保
特許権と同じ権利をもたらす。
護が存在する特定の国から別の国への当該製品の
小児用医薬品を保護する SPC に対して期間延長
輸入を禁じることができる。EU 加盟国に対して
が与えられた場合,その SPC の効力は変わらない
EU 域内で法的拘束力のある規則は存在しないが,
ことに留意すべきである。そのため,保護範囲は
ほとんどの欧州諸国の国内法律制度は並行輸入を
当該医薬品の小児用途に制限されないと思われる。
禁じている。
2.5 SPC の無効
3.1 消尽の原則
SPC の無効は,EU の各加盟国における管轄機
米国におけるファーストセール・ドクトリンに
関へ無効請求を提出することにより獲得できる。
匹敵する特許消尽は,EU 加盟国の国内法に成文
例えばドイツでは,無効請求はドイツ連邦特許裁
化する必要がないため,一般に法律上の原則とみ
判所に提出しなければならない。
なされている。すべての EU 加盟国における一般
SPC の無効理由は,規則 EEC No. 1768/92 の第
原則として,特許権者または特許権者の許可を得
15 条に規定されており,当該規定にしたがい,以
た他者により,特許製品が国内市場に置かれた場
下の場合に SPC は無効となる。
合,特許により与えられた権利は消尽する。かか
る消尽は,特許製品が市場に置かれた国において
(a)当該規則の第 3 条の規定に違反して SPC が
付与された場合,すなわち SPC を付与する
ための基本要件が欠けている場合。
(b)基本特許がその法定期間の満了前に失効した
場合。
のみ生じるが,同様に特許が存在する他の国では
生じない。
第三国からの特許製品の並行輸入は国内特許権
を侵害するため,特許権者はかかる並行輸入を禁
じることができるというのが,ほとんどの欧州諸
(c)基本特許が取り消された,もしくは減縮され
た結果,SPC 付与の対象である製品が基本
特許のクレームにより保護されなくなった,
国における司法権の一般原則である。
これに関連して,英国では消尽原則の代わりに,
「黙示のライセンス」理論が採用されていること
または基本特許が満了した後に,基本特許の
に留意すべきである。この「黙示のライセンス」
取消しもしくは減縮を正当化する取消し理由
理論とは,購入者は特許権者から特許保護製品を
が存在する場合。
購入することにより,その特許製品の以後の流通
および使用を許可するライセンスを暗黙の同意に
SPC の有効性を争う法的手続きは,単独で,ま
より黙示的に取得することを意味する。
たは,基本特許に対する無効請求の提出と一緒に
( 470 )
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── 欧州において医薬品に与えられる保護の特異性 ──
(7)
ツへ当該製品を輸入することができる。
3.2 欧州連合域内での消尽
特許の国内消尽原則は,EU 加盟国に対し無制
(ii)しかし,ドイツ特許の所有者の許可を得てい
限に適用されない。そうでなければ,EC 条約の
ない第三者によりフランスにおいて当該製品
第 30 条および第 36 条に規定されている EU 加盟
が生産された,または市場に置かれた場合に
国間の自由貿易の原則が損なわれてしまう。
は,当該製品のドイツへの輸入は当該ドイツ
とりわけ,並行輸入および特許権の国内消尽原
特許を侵害する。
則に関連して,EU は単一国とみなされることに
留意すべきである。特許権者の許可を得て,いず
上記の判断は,ECJ の判決 C-187/80 により確認
れかの EU 加盟国の市場に製品が置かれた場合に
されており,この判決において ECJ は,特許保護
は,特許権者は自己の特許が存在する別の EU 加
によりもたらされる特許権者の権利は本質的に当
盟国における当該製品の流通および販売を禁じる
該製品を最初に市場に置く排他的権利にあると述
ことはできない。
べた。さらに ECJ は上記判決において,発明者は
ただし,(i)EU 非加盟国から製品が並行輸入
EU の共通市場における当該製品の自由貿易の原
される場合,または(ii)特許権者もしくは特許
則を受け入れなければならないことを強調した。
権者の許可を得た第三者により当該製品が市場に
また,ECJ は判決 C-19/84 において,特許権者
置かれていない EU 加盟国から製品が並行輸入さ
自身または特許権者の許可を得て,または経済的
れる場合,例えば輸出国には特許保護が存在しな
もしくは法的に当該特許権者と関係のある者によ
いが,輸入国には存在する場合には,EU 加盟国
り,別の EU 加盟国において合法的に販売された
において権利は消尽しない。
製品について,輸入および市場取引を特許権者が
その一方で,特許保護製品がいずれかの EU 加
阻止することを可能にする国内規定の適用は,
盟国において特許権者または特許権者の許可を得
EC 条約の第 30 条および第 36 条により排除される
た第三者により市場に置かれた後,特許保護が存
と述べた。
在する別の EU 加盟国へ輸入された場合には,EU
域内において特許保護は消尽しているため,並行
3.3 医薬品の並行輸入
輸入を禁じることはできない。このような並行輸
製薬会社は様々な欧州諸国において医薬品の特
入を禁じると,EC 条約の第 30 条および第 36 条に
許保護を取得していることが多く,それゆえ EU
規定される自由貿易の原則と矛盾することにな
または EEA 内の様々な国において自社製品を生
る。
産および/または市場販売することも多い。かか
例えば,製品に対する特許保護がドイツには存
る特許権者以外の第三者は,欧州医薬品市場内の
在するが,フランスには存在せず,当該製品がフ
価格差を利用するため,医薬品の価格が相対的に
ランスで生産された後,ドイツへ輸出される場合,
低い EU または EEA 加盟国で医薬品を購入し,当
その輸入された製品によりドイツ特許が侵害され
該医薬品の価格が高い別の EU または EEA 加盟国
るかどうかについて疑問が生じる。この疑問に対
へ当該医薬品を輸入する。
する答えは,誰がフランスで当該製品を生産した
かによって変わる。
上記に概説した EU 域内における特許消尽原則
に加え,輸入医薬品を輸入国で販売する前に当該
医薬品の販売承認を取得しなければならない。そ
(i) ドイツ特許の所有者または当該所有者の許可
のため,EU 域内の輸入国において販売承認を取
を得た第三者により当該製品が生産された,
得するための,いわゆる簡易手続きが,EU 加盟
または市場に置かれた場合には,当該所有者
国において確立されている。この簡易手続きでは,
の特許権は EU 域内において消尽する。誰で
第三者により輸入された医薬品に関する販売承認
も当該ドイツ特許を侵害することなく,ドイ
の付与要件が大幅に簡略化されている。簡易手続
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( 471 )
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── 欧州において医薬品に与えられる保護の特異性 ──
きを利用するには,その輸入医薬品が,輸入国に
るべきであると述べた。ただし,以下の場合は除
おいて有効な国内販売承認をすでに取得している
かれる。
医薬品と実質上同一でなければならない。この簡
易手続きは,最近の ECJ 判決(C-112/02)により
-所有者による商標権への依拠が,自由貿易の
確認された ECJ の判決 C-104/75 にもとづくもの
妨害禁止に違反することが証明される場合;
-追加された新しいラベルが,包装内部の製品
である。
2004 年 5 月 1 日以降に EU に加盟した「EU 新規
加盟国」から,2004 年 5 月 1 日より前に EU に加
盟していた「EU 旧加盟国」への医薬品の並行輸
入に関して,いわゆる「特別措置」が設けられて
いることに留意すべきである。とりわけこの特別
の本来の状態に影響をおよぼさないことが立
証される場合;
-製品に追加ラベルを貼付した者および製造業
者の名前が包装に明記されている場合;
-追加ラベルを貼付した製品の外観が,当該商
措置は,医薬品が EU 新規加盟国から輸入され,
標およびその所有者の評判を損なうおそれの
当該医薬品が輸入国において特許により保護され
あるようなものではない場合;それゆえ,ラ
ている場合,当該特許権者は,当該特許の出願日
ベルは不完全な,質の悪い,またはずさんな
の時点で輸出国において当該医薬品の特許保護を
ものであってはならない;さらに
得ることができなかった場合には,並行輸入を禁
-輸入業者が商標権者に対し,追加ラベルを貼
じることができると定めている。この措置は,最
付した製品を販売する前に通知しており,要
近まで医薬品自体に特許保護を与えていなかった
求に応じて当該製品の見本を当該商標権者に
EU 新規加盟国にとってとくに重要な意味を持つ。
提供している。
3.4 医薬品の再包装
したがって,上記に概説された特許権の消尽原
第三者による EU 加盟国への並行輸入のため
則に加え,特定の EU 加盟国から別の加盟国へ輸
に,商標を付した医薬品を再包装することについ
入された際に再包装またはラベルの再貼付が行わ
て,その商標権者の権利は第 1理事会指令
れた医薬品に対して,上記指令の第 7 条(2)の例外
89/104/EEC の第 7 条(2)に明記されている。消尽
が適用される。
の基本原則は当該指令の第 7 条(1)に規定されてお
り,それによれば,商標権者または当該商標権者
4.ジェネリック医薬品
の許可を得て,商標を付して EU の市場に置かれ
た商品については,当該商標権者は当該商標の使
製品を医薬品として市場に置く許可を受けるた
用を禁じることはできない。しかし,当該指令の
め,その製品の安全性および有効性を立証する臨
第 7 条(2)において,商標権者により市場に置かれ
床試験を行わなければならない。しかし,既存医
た後で当該商品の状態が第三者により変更または
薬品のジェネリック品の製造業者は,その既存医
損傷された場合,当該商標権者は自己の商標を付
薬品を用いて臨床試験を行うと,その医薬品を保
した商品の以後の商業販売について異議を唱える
護する既存特許を侵害するおそれがある。
ことができると明確に述べられている。
ECJ は判決 C-348/04 において,上記指令の第 7
4.1 実験的使用の免責
条(2)は,商標権者は,本来の内部および外部包
既存医薬品のジェネリック品の製造業者が必要
装に対して輸入業者により追加の外部ラベルが貼
な臨床試験を行う際に生じる特許侵害を回避する
付された状態で別の EU 加盟国から輸入された医
ため,EU 加盟国は,医薬品を保護する特許によ
薬品についての更なる商業販売については合法的
り与えられる保護範囲に関して様々な実験的使用
に異議を唱えることができるという意味に解釈す
の免責を国内法に組み入れている。
( 472 )
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── 欧州において医薬品に与えられる保護の特異性 ──
ジェネリック医薬品が医薬品市場の大きな部分
(9)
きである。
を占めているという認定にもとづき,ジェネリッ
ク医薬品の欧州市場への参入を促進すべきであ
4.2 データ保護
る。さらに前臨床試験および臨床試験に関する
承認された医薬品のデータ保護に関して,指令
データの保護期間も EU 域内で統一すべきであ
2001/83/EC の第 10 条(1)の規定にしたがい,医薬
る。そのため,EU 理事会および欧州議会は,人
品の販売承認の申請人は,その製品が過去 8 年以
間用の医薬品関連の共同体法に関する指令
内に承認された先発医薬品のジェネリック品であ
2001/83/EC を修正する 2004 年 3 月 31 日の指令
ることを証明できるのであれば,前臨床試験また
2004/27/EC を制定した。
は臨床試験の結果を提出する必要はない。この規
とりわけ,指令 2001/83/EC の第 10 条(6)が修
定は,ジェネリック品の販売承認申請が,先発医
正され,ジェネリック医薬品の販売承認の取得に
薬品の販売承認を付与した加盟国とは別の EU 加
必要な研究および試験ならびに付随する実質的要
盟国に提出された場合にも適用される。
件の実行は,保護権に違反するとはみなされない
ただし,先発医薬品の市場取引を保護するため,
指令 2001/83/EC の第 10 条(1)はさらに,先発医
ことになった。
EU 域内で特許により与えられた権利に対する
薬品の最初の販売承認から 10 年間が経過するま
上記の免責は理論上,化学合成,前臨床検査,ま
で,上記ジェネリック品を市場に置くことはでき
たは医薬品の生物医学的特性の決定に必要なあら
ないと定めている。また,先発医薬品の販売承認
ゆる検査など,ジェネリック医薬品の製造におけ
の保有者が最初の承認から最初の 8 年の間に,既
るすべての段階に適用される。しかし,上記免責
存治療と比べて重要な臨床上の効果をもたらす 1
の厳密な境界を ECJ の権限により決定する必要が
つ以上の新規な効能について承認を取得した場合
あるだろう。
には,上記の市場取引保護がさらに 1 年間延長さ
上記の指令 2001/83/EC の修正は,2004 年 4 月
れる。
30 日に効力を生じ,ドイツ,英国,フランス,ベ
また,指令 2001/83/EC は医薬品に対してさら
ルギーまたはイタリアといった様々な EU 加盟国
なる市場取引保護を与えている。とりわけ,販売
の国内法に導入されている。例えば,ドイツ特許
承認を取得している医薬品は,指令 2001/83/EC
法に第 11 条(2b)が追加され,ドイツにおける医薬
の第 70 条にしたがい,医師の処方箋が必要な医
品の販売承認の取得に必要な研究および実験なら
薬品または処方箋が不要な医薬品のいずれかに分
びにこれらから生じる実際的状況に対しては,特
類される。市販薬(OTC)スイッチとも呼ばれる
許の効力はおよばないと規定されている。
上記医薬品分類の変更が,重要な前臨床試験また
EU 非加盟国であるスイスにおける法的現状に
は臨床試験にもとづいて許可された場合,かかる
関して,最近,新しい制定法上の研究免責規定が
試験のデータは,指令 2001/83/EC の第 74a 条に
スイス特許法に組み込まれ,2008 年 7 月 1 日に発
したがい最初の分類変更の許可から 1 年間にわた
効している。したがって,最近のスイス特許法の
り,ジェネリック医薬品など別の医薬品の分類変
改正は,特許により保護されている製品の実験的
更を目的として使用することができない。
使用の免責に関して,スイスの法的現状を EU 加
盟国の法的現状に近づけているように思われる。
これに関連して,新しいスイス特許法にしたがい,
4.3 オーファンドラッグ(希少疾病用医薬品)
保護
新法にもとづく実施規則は,新しいスイス特許法
希少疾病用の医薬品を開発する医薬品業界の意
の発効日,すなわち 2008 年 7 月 1 日の時点で有効
欲を高めるため,欧州議会および欧州理事会は
なすべての特許,および係属中の特許出願に対し
オーファンドラッグに関する規則(EC)No. 141/
て法的拘束力をおよぼすと思われる点に留意すべ
2000 を採択した。当該規則の第 8 条にしたがい,
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( 10 )
── 欧州において医薬品に与えられる保護の特異性 ──
EU においてオーファンドラッグに販売承認が付
品に対する販売承認の取得要件が緩和される。並
与された場合,すべての EU 加盟国は翌 10 年間に
行輸入のために第三者により医薬品の再包装が行
わたり,類似の医薬品について同じ効能について
われる場合,特許権だけでなく商標権の侵害も生
の第三者からの販売承認の付与または延長申請を
じないようにするため,特定の規則を考慮すべき
受け入れてはならない。
である。
しかし,上記の 10 年の期間は,5 年目の終了時
既存医薬品のジェネリック品の製造業者が当該
に当該医薬品が上記規則に定義されたオーファン
ジェネリック医薬品の販売承認を取得するために
ドラッグの資格基準を満たさなくなっている場
必要な臨床試験を実施する際に生じる特許侵害の
合,とりわけ当該医薬品が市場取引保護の継続を
リスクを回避するため,EU 加盟国はそれぞれの
正当化できないほどに十分な利益が上がっている
国内法において,特許医薬品に与えられた保護範
場合には,6 年間に短縮される。
囲に対する様々な実験的使用の免責を導入してい
る。現在,こういった各国の実験的使用の免責は,
5.結 論
ジェネリック医薬品の販売承認の取得に必要な研
究および試験ならびに付随する実質的要件の実行
医薬品の特許保護と,新薬または改良薬の継続
は当該医薬品を保護する特許の侵害とはみなされ
的開発に関する特別な公益とを適合させる努力の
ないと規定する欧州法と整合させる必要がある。
結果として,欧州で特許付与された医薬品に与え
さらに EU は,特定の医薬品に関して提出された
られる保護の範囲,権利行使または期間に影響を
臨床データを根拠に第三者がジェネリック医薬品
およぼす具体的な措置が,EU 加盟国の国内法,
の販売承認を取得できるようになる前に,当該医
EC 規則および EC 指令に規定され,その遵守が
薬品の市場取引を保護する一定期間を保証するた
ECJ により監視されている。
め,最初に市場で発売された医薬品に対してデー
医薬品の販売承認を取得するために失われる期
間を少しでも埋め合わせるため,保護された医薬
タ保護およびオーファンドラッグ保護も与えて
いる。
品の特許期間の延長を SPC により獲得することが
要約すると,EU 域内における法律および司法
できる。SPC の期間は EEA 内における最初の販
権は,(i)科学的進歩をもたらす医薬品業界の努
売承認の発行日によって決まり,5 年を上限とする。
力に報いるために特許または商標などの知的財産
医薬品の並行輸入,すなわち特許権者の許可を
権により与えられる保護と,(ii)EU 域内におけ
得ていない第三者による,特許保護が存在する特
る自由貿易の原則と,(iii)医薬品の利用可能
定の国から別の国への特許保護製品の輸入は,ほ
性/恩恵に関する公益とのバランスを取ることを
とんどの欧州諸国の国内法律制度により禁じられ
目指している。こういったバランス調整の結果,
ている。ただし,EU 域内の自由貿易要件のため,
欧州での医薬品の商業販売に関して遵守しなけれ
並行輸入および特許権の消尽原則に関連して,
ばならない,医薬品に限定された複数の特異な要
EU は単一の国とみなされることに留意すべきで
件が生まれている。
ある。輸入国において実質上同一の医薬品に対す
る販売承認が存在する場合,並行輸入された医薬
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AIPPI(2009)Vol.54 No.8
(原稿受領日 平成 21 年 3 月 6 日)