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目次
1
序章…………………………………………………………………………………………………5
日本側代表挨拶……………………………………………………………………………………6
オランダ側代表挨拶………………………………………………………………………………7
顧問挨拶……………………………………………………………………………………………8
団体概要……………………………………………………………………………………………9
第1章 第2回日蘭学生会議……………………………………………………………………11
第2回日蘭学生会議概要…………………………………………………………………………12
詳細日程……………………………………………………………………………………………14
参加者名簿…………………………………………………………………………………………15
第2章 事前活動…………………………………………………………………………………17
第1回日蘭学生会議報告会………………………………………………………………………18
春期パイロットプログラム………………………………………………………………………19
授業『英語で考える』……………………………………………………………………………20
第2回日蘭学生会議選考会………………………………………………………………………23
2011 夏期英語会…………………………………………………………………………………23
夏期事前学内発表会………………………………………………………………………………24
第3章 本会議……………………………………………………………………………………25
Work-sharing and Working-poor/Unemployed……………………………………………27
Student’s Career Choices………………………………………………………………………29
Globalization within the Business Context…………………………………………………32
Social Life and Job Satisfaction………………………………………………………………35
第4章 講義………………………………………………………………………………………37
The Relationship between Japan and the Netherlands…………………………………39
The Netherlands as an Historical Power……………………………………………………40
New Visions on Work in the Netherlands and the EU……………………………………41
The Netherlands as a ‘gas-country’…………………………………………………………42
The European Union : Unity and Complexity……………………………………………43
2
第5章 企業訪問…………………………………………………………………………………45
ABM-AMRO Bank………………………………………………………………………………47
Macaw……………………………………………………………………………………………49
Gasunie……………………………………………………………………………………………51
三菱重工…………………………………………………………………………………………52
Labour Foundation……………………………………………………………………………54
第6章 参加者の声………………………………………………………………………………57
第7章 事後活動…………………………………………………………………………………77
学内報告会………………………………………………………………………………………78
学外報告会………………………………………………………………………………………79
GLOCOL プレゼンコンテスト…………………………………………………………………81
第3回日蘭学生会議……………………………………………………………………………81
第8章 お世話になった方々……………………………………………………………………83
3
4
序章
5
日本側代表挨拶
第2回日蘭学生会議 日本側代表 松本 建太朗
第2回日蘭学生会議報告書を手にとっていただきありがとうございます。この度、私た
ちが本活動で学んだことを多くの方々に知っていただくために、本報告書を作成しました。
本研修を通して、私が感じたオランダ人の労働観を知るためのキーワード
は、”Flexibility=柔軟性”である。私達は、滞在中いくつかのオランダ企業を訪問させて頂
き、どのような人がどのような思いで働いておられるのかを、自分たちの目で見てきた。
そしてそこで、彼らが労働を生活の中に「柔軟に」位置づけることでより幸せに生きてい
る、と感じた。私は、それまで、仕事というものはまったく融通の利かないもので、どう
にか耐えてやり過ごし、その後にやっと、少ないプライベートの時間を手にできるものだ、
という先入観を持っていた。過労によるうつ病が問題になっている日本では、このような
イメージをもっている人が実際に多いのではないかと思う。しかし、オランダでは、ほと
んどの人が、企業のために身をささげるのではなく、自分の生活をまず考え、自分に合っ
た働き方を選んでいる、という印象を受けた。またオランダ政府も、流動的かつ低失業率
の雇用を維持するために、積極的に政策を考えていると学んだ。
オランダにはワークシェアという考えがある。1つの仕事を 2 人以上で分け合うという
この考えは”Flexibility”の最たるものであり、オランダ人の労働観の象徴だと私は思う。オ
ランダ人は 1980 年代前半にオランダ病と呼ばれる大不況を経験し、大変な数の失業者の出
現を目の当たりにした。彼らは、この困難を乗り越える方法を粘り強く考え、勇敢に決断
した結果、今のような柔軟な雇用制度にたどり着いた。そしてこれまで、その柔軟な考え
方をもって、外国人労働者の雇用の仕方や、同一賃金同一労働制、就職活動の方法など、
労働に関する様々なトピックに対して、問題の解消に努めてきた。その成果が素晴らしい
ものであることは、ビジネスマンや、これから職を探そうとしている学生の自信に満ちた
顔を見れば、すぐに私たちに伝わった。
オランダ人は、大不況を経験してからこれまでの間に、彼らの労働観や労働に関する様々
な制度を大きく変えてきた。その変化のプロセスや現状を知ることは、今後の日本の働き
方を考える際に役に立つと考える。皆様が、より良い働き方とはどのようなものか、そも
そも働くとはどういうことか、を考える際に、本報告書が少しでも助けになれば幸いであ
る。
末筆となりましたが、第2回日蘭学生会議の開催に際して多大なるご協力を賜りました
後援団体の皆様、ご賛同賜りました財団の皆様、準備段階並びに本会議でご協力賜りまし
た先生方、その他さまざまな形でご支援、ご協力いただいたすべての皆様に、この場をお
借りして心より御礼申し上げます。
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オランダ側代表挨拶
第2回日蘭学生会議 オランダ側代表 Filip Vedder
First of all, I would like to express my gratitude to the Japanese students and staff
of Osaka University in hosting the first Japan - the Netherlands Student Conference
last year. I hope that we could, at least in part, match your hospitality when you
stayed in Groningen this September.
We had an interesting week together and learned a lot from each other. There are
huge differences between the Japanese and Dutch working floors and job market
and what better way is there to learn more about this than to discuss this between
Japanese and Dutch people? When reading the conclusions of our discussions, I
noticed mostly that the cultural differences between our countries are extended into
our work ethics. Japanese culture is more group-orientated and focused on avoiding
risks. Dutch culture is more individualistic, which results in a working force that is
more flexible, but also more uncertain for employees. I think we learned a lot from
each other, not necessarily to change our cultures or working ethics, but to move
toward mutual understanding and respect.
I want to once again thank all the Japanese and Dutch students and the staff from
Osaka University and the University of Groningen for making the conference happen.
Special thanks should go to the Japanese embassy in the Netherlands and
ambassador Koezuka for being kind enough give us a lecture and answering some of
the student’s questions. Hopefully there will be many more JNSCs in the future.
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顧問挨拶
大阪大学核物理研究センター 藤原 守
最近、日本の高等教育の大きな欠陥が指摘され始めている。戦後の日本の右肩上がりの
成長を支えてきたのは、我が国の誇るべき教育制度であった。この教育の骨子は、日本の
産業発展を支える人材育成であった。しかし、日本が技術大国になり世界第2位の経済大
国になった時点で、時代の流れにマッチしなくなったように思われる。
日本の若者が世界に出なくなったのである。これは日本の経済バブル崩壊を契機に始ま
ったように思う。すなわち、
“Japan as No.1”などと浮かれだした頃に、内向き志向の学生
が育てられ始め、一世代(約 20 年)を過ぎた 2010 年ごろには、外国にでて活躍しようと
いう若者意識が希薄となった。
逆に、円高に伴って日本企業は東南アジアをはじめとして、世界の各地に工場を設置し、
そこで活躍できる人材を求めざるを得なくなっている。国内産業向けに人材を育てればよ
かった教育は、海外で活躍できる人材を育てざるを得なくなり、また、海外の人材も育て
る必要が起こっている。日本人向けの教育システム構築で良かったものが完全なミスマッ
チ状態に陥っていると言っても過言でないだろう。世界のグローバル化に伴ってこの事態
はさらに加速される。
日蘭学生会議は、日本とオランダの学生が真剣に議論できる場の設置、文化・学術交流
の促進を目的として 2009 年 11 月に設立された。19 世紀以降の日本の発展を担った人材
育成に「蘭学」が果たした役割の大きさは周知の通りである。国際化が進む中、この日蘭
学生会議では、旧来の知識偏重の教育では無くて「学生が自ら考え、自ら企画、自ら実行
し、自らの能力を磨く」という教育としての本来の姿に立ち戻って行きたいと期待した。
この活動で大学教員は彼らの活動を裏方として支え、決して、お仕着せの国際交流を行わ
ないことで教育の一つの重要な側面を切り開けると考えた。
2010 年のアイスランド火山噴火による空港閉鎖のため開催が危ぶまれたが、4月 22 日
にオランダ側グローニンゲン大学の学生が来日し、4月 26 日、27 日の 2 日間にわたって
第1回日蘭学生会議が開催された。大阪大学側の学生は英語の流暢なオランダ学生と「逃
げず怯まず」討論した。第2回の会議は 2011 年9月に行うと決め、日蘭学生会議が活動を
始め、大阪大学内での活動をセミナー化するなどの新しいアイデアを大学に認めてもらう
など、真に学生主体の活動を行い、9月の第二回日蘭会議を成功に導いたことは本当に敬
服に値することである。
「あなたがたは本当によくやった」と云える。
次は、大阪での第3回会議の準備である。第3回会議開催に責任を担うリーダーがさら
に新しいアイデアを出し、我々が楽しく支援させてもらうことを願っている。また、日蘭
学生会議の学生から日本をリードし、世界をリードするような人材が生まれることを願っ
ている。
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団体概要
日蘭学生会議は、2009 年 11 月に日本とオランダに関心のある学生が英語で真剣に議論
できる場をつくること、及び、両国を中心とする文化・学術交流を促進することを目的と
して、オランダ・グローニンゲン大学の学生と大阪大学の学生によって設立された。
日本とオランダの関係は 17 世紀初頭まで遡ることができ、江戸時代に日本に取り入れら
れた「蘭学」は、19 世紀以降の日本の発展を担った人材育成で多大な役割を担った。この
ように、日本とオランダの関係は他国に比べても密であった。日蘭学生会議では、国際化
が進む中で、もう一度この日蘭関係に立ち返り、両国に関心のある学生が様々な議論を通
して、今後の日蘭関係、そして国際関係を捉え直していく。
本団体は、
“Develop, Exchange and Propose the Idea” (下図)を理念として掲げている。
この理念に基づき、日本とオランダ、いずれの社会でも生じている普遍的な問題に対して、
自らの考えを深め、議論を通して見つめ直し、そして社会に発信していくことを目指して
いる。参加者は会議に関する活動を通して、広く国際感覚を身につけ、自分と異なる背景
を持つ人々と対話する力を身につけていくとともに、この会議を通して得た成果を、社会
の発展のために役立てていく。
会議テーマについて事前に研究し、多
角的に、より深く考察することで自分
のアイデアを磨く。
会議において、発表と議論を行う。両国の制
度、現状を相互の視点から捉えなおすととも
Develop,Exchange の過程を経て考
に、学生独自の視点で検討し、より洗練され
え出されたアイデアを学内外に発信
たアイデアを生み出す。
する。様々な人からアイデアに対する
意見をもらうことで、新たな探求、発
展へつながる。
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団体の沿革
2009 年 11 月 日蘭学生会議(Holland-Japan Student Conference)発足
2010 年 1月 第1回日蘭学生会議参加者選考会
3月 第1回日蘭学生会議事前学内発表会
4月 第1回日蘭学生会議
6月 第2回日蘭学生会議の開催を決定
7月 関西日蘭協会年次総会にて第1回会議の成果を報告
8月 在大阪・神戸オランダ領事館、大阪府、大阪市を訪問し、成果を報告
10 月 英語の団体名を JNSC(Japan-the Netherlands Student Conference)
に変更
在大阪・神戸オランダ領事館とともに、日蘭同窓生ネットワーク(The
Japan Netherlands Alumni Network:JANAN)事業開始
12 月 大阪大学内にて第1回日蘭学生会議の成果を報告①
2011 年 1月 「国立大学法人 大阪大学 80 周年記念事業学生イベント」に採択
大阪大学内にて第1回日蘭学生会議の成果を報告②
3月 春期パイロットプログラム(英語会)の開始(~4 月初旬まで)
「平成 23 年度日本万国博覧会記念基金事業助成金」に採択
4月 「財団法人 双日国際交流財団 国際交流助成」に採択
「独立行政法人 国際交流基金」に採択
大阪大学にて基礎セミナー「英語で考える」開始
5月 第2回日蘭学生会議参加者選考会
6月 「国立大学法人 大阪大学学生海外研修助成事業」に採択
8月 2011 夏期英語会
第1回夏期事前学内発表会
9月 第2回夏期事前学内発表会
第2回日蘭学生会議(本会議・講義・企業訪問)
11 月 大阪大学内で第2回日蘭学生会議学内報告会
大阪・中之島で第2回日蘭学生会議学外フォーラムを開催
12 月 GLOCOL プレゼンコンテスト審査員特別賞受賞
2011 冬期英語会
2012 年 1月 海外学生研修助成報告会にて第2回日蘭学生会議の成果を報告
2月 大阪大学総長報告会にて第2回日蘭学生会議の成果を報告
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第1章
第2回日蘭学生会議
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第2回日蘭学生会議概要
2011年9月、15名の学生がオランダを訪問し、現地の学生とともに学生会議及び研修を
行ってきた。その概要を以下に記す。
日 時: 2011年9月11日~2011年9月22日(12日間)
場 所: オランダ王国(アムステルダム・グローニンゲン・ハーグ)
メインテーマ: Work to Live? Live to Work?
<目的>
1. “work”の在り方に関する社会への提言
今日、グローバル化や経済の低迷により、働くことの目的や価値観、そして雇用を取り
巻く環境は変わりつつある。これは日本に限った問題ではなく、世界各国で同様の問題が
生じており、各国の考え方、対応策を参考にすることは有意義であろう。例えば、オラン
ダでは、
「ワークシェアリング」という制度を導入することで、失業率の低下をはじめとす
る労働環境の改革を行った。しかし、他国の対応策を参考にするためには、その国を取り
巻く様々な状況への理解が不可欠である。我々は、実際に現地を訪問し、日本とは異なる
オランダの労働をめぐる状況を理解した上で、現状をより良いものにしていく一歩として、
研修を通して得た学生の斬新なアイデアを社会に提言していく。
2. 国際社会で活躍できる人材の育成
参加者は、会議での議論や研修を通して、広く国際感覚を身につけ、自分と異なる背景
を持つ人々と対話する力を養う。国際社会で活躍するためには、英語力は勿論のこと、自
国の文化や状況にも精通し、また、多様性を受け入れる心構えも必要となると考えられる。
そこで、本会議を通して、できる限り早期に「場数を踏む」ことでそれらの必要性を実感
し、将来様々な場所で、日本という枠に捉われることなく活躍する人材を育成する場を提
供する。また会議参加者だけでなく、それ以外の学生にも視野を広げる機会を提供する。
具体的には、学内・学外でフォーラムを開催し、学生だけでなく、社会人を巻き込んで議
論を行なう。
3. 日蘭を中心とする学生主体の文化学術交流の促進
日本とオランダの関係は古く、19世紀以降の日本の発展を担った人材育成に「蘭学」が
果たした役割は非常に大きい。大阪大学は「地域に生き、世界に伸びる」をモットーに世
界各国の大学と国際交流を行っているが、中でもオランダのグローニンゲン大学との関係
は歴史的に古い。2002年に正式にグローニンゲン大学と交流協定を締結し、さらに2005
年にグローニンゲン大学内に欧州研究の拠点としてグローニンゲン教育研究センターを開
12
設するなど、強い結びつきを持っている。しかし、これまで、企業間・研究者間での交流
は着実に進められてきたが、学生による交流は、依然部分的な活動に留まっているものが
多かった。そこで、本会議を通して、学生主体の交流を促進し、日蘭関係の更なる発展を
目指す。
<内容>
第2回日蘭学生会議は、主に、学生会議本会議、特別講義、スタディーツアーの3つで
成り立っている。
本会議では、メインテーマに関連する4つのディスカッションテーマが設けられ、それぞ
れついて、日蘭双方からのプレゼンテーション及びディスカッションが行われた。テーマ
は、”Work-Sharing and the Working Poor/Unemployment”, ”Student’s Career
Choices”, ”Globalization within the Business Context”, ”Social Life and Job
Satisfaction”の4つである。特別講義では、本会議の開催に合わせてグローニンゲン大学
を訪問された在オランダ全権委任大使である肥塚隆大使の講演をはじめ、グローニンゲン
大学教授による多彩な内容の講演を受けることができた。スタディーツアーでは、可能な
限り実際に働く現場を見てみたいとの思いから、5つの企業及び機関を訪問した。
これら活動を通して、オランダの学生たちと親睦を深めると同時に、オランダの「働く」
を取り巻く状況を視察することで、上記目的の達成を図った。この3つの活動の詳細は、別
章に記す。
13
詳細日程
日付
9/11(日)
9/12(月)
9/13(火)
9/14(水)
9/15(木)
9/16(金)
9/17(土)
9/18(日)
9/19(月)
9/20(火)
9/21(水)
9/22(木)
スケジュール
10:30
関西国際空港出発
15:30
スキポール空港到着
10:00-13:00
市内散策
14:00-17:00
ABN-AMRO Bank 訪問
10:00-12:00
Macaw 訪問
13:00-15:00
移動(アムステルダム~グローニンゲン)
10:00-10:15
開会式
10:15-11:15
講義1 H.E. Ambassador Koezuka
11:30-12:45
講義2 Dr.Janny de Jong
14:00-18:00
本会議1
18:00-19:00
歓迎会
10:00-12:00
講義3 Dr. Herman Voogsgeerd
13:00-18:00
本会議2
10:00-11:45
講義 4
11:45-12:30
講義5 Prof. Dr. Jan van der Harst
14:00-16:00
グローニンゲンツアー
16:00-17:00
Gasunie 訪問
09:00-12:00
サイクリング
16:00-18:00
グローニンゲン美術館
10:00-17:00
Bourtage ツアー
17:00-18:00
閉会式
18:00-21:00
BBQ
10:00-12:00
三菱重工業訪問
14:00-16:00
移動(グローニンゲン~デンハーグ)
10:00-12:00
Labour Foundation 訪問
13:00-17:00
市内散策
09:00-10:00
移動(デンハーグ~アムステルダム)
Eddie Lucklama a Nijeholt
14:30
スキポール空港出発
09:00
関西国際空港到着
14
都市名
大阪
アムステルダム
グローニンゲン
デンハーグ
アムステルダム
大阪
参加者名簿
1. 日本側参加者
氏名
所属
学年
役職
松本 建太朗
法学部 国際公共政策学科
B4
代表
宮原 翔子
人間科学部 人間科学科
B3
副代表/広報局長
木下 拓真
工学部 応用理工学科
B2
副代表/会計
瀧本 裕美子
人間科学部 人間科学科
B4
企画局長
久保田 彩
人間科学部 人間科学科
B4
会計局長
深尾 尚吾
経済学研究科 経営学科専攻
M1
渉外局長
亀山 里津子
文学研究科 文化表現論 英語学専攻
M1
企画
加藤 彩乃
外国語学部 スウェーデン語専攻
B2
山田 大貴
法学部 国際公共政策学科
B2
磯谷 茉衣
基礎工学部 システム科学科
B1
金 夏琳
人間科学部 人間科学科
B1
齋藤 理沙
法学部 法学科
B1
高木 彩奈
歯学部 歯学科
B1
辻 葉子
外国語学部 スウェーデン語専攻
B1
水川 佐保
人間科学部 人間科学科
B1
2.オランダ側参加者
氏名
所属
Anita Pigmans
History
Anne Cazemier
International and European Law
Anne Pruim
History
Emma de Jong
International Relations
Filip Vedder
History
Jutha van den Broek
Business Administration
Lisa Pama
English Language and Culture
Lisa Schäfer
International Relations and Organizations
Noor Wessels
Biomedical Sciences
Renée Koolschijn
Biomedical Engineering
Roelof Hars
History
Thijs Freriks
History
Thijs Lepstra
History
Thomas Eshuis
History
15
16
第2章
事前活動
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第2回日蘭学生会議本会議の開催に先立ち、2010年12月より、次年度の企画運営を担う
メンバー(以下、運営メンバー)を中心として事前活動を開始した。事前活動は、第1回日蘭
学生会議報告会を皮切りに、1)日蘭学生会議全般に関する広報活動を行うこと、2)第
2回日蘭学生会議の内容を充実、向上させること、3)運営メンバーの運営経験を積むこ
と、を目的として行われた。
本章では、その事前活動の様子を紹介する。
第1回日蘭学生会議報告会
<概要>
第1回
日 時:2010年12月09日(木)
場 所:大阪大学豊中キャンパス スチューデント・コモンズ
テーマ:モラルは教えることができるか
第2回
日 時:2011年1月27日(木)
場 所:大阪大学豊中キャンパス スチューデント・コモンズ
テーマ:生徒は平等に扱うべきか
<内容>
第1回日蘭学生会議は、”Education, the insight into the bright future”をメインテー
マとして掲げ、
「教育格差」
「教育制度」
「道徳教育と政教分離」の3つのトピックに関して
議論を行った。報告会では、まず、日蘭学生会議及び第1回会議における議論の概要を報
告した。更に、第1回報告会では「道徳教育と政教分離」、第2回報告会では「教育格差」
と「教育制度」に焦点を当て、プレゼンテーションを行った。
本団体は、
“Develop, Exchange, Propose the idea”を理念として掲げていることから、
報告会では、単に報告をするだけでなく、ワールド・カフェ方式というディスカッション
形式を採用し、その場で参加者と更なる意見交換を行った。第1回会議の内容を踏まえ、
第1回報告会では「モラルを教えることができるか」、第2回は「生徒は平等に扱うべきか」
をテーマとした。参加者の中には、教員を志望している学生や教育に高い関心を持ってい
る学生も多く、
「教育に対するオランダ人の考えを聴き、自身の教育観を振り返るきっかけ
となった」、「当たり前だと思っていたことが他の人にとっては当たり前でないと気付き、
教師になるに当たって参考になった」といった声が寄せられた。運営メンバーも、第1回
会議を振り返り、将来教育に携わる可能性の高い学生と議論を重ねることで、会議を通し
て考えたことを机上の空論とせず、それぞれの分野で生かしていく決意を新たにした。
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春期パイロットプログラム(英語会)
(Presentation in English! ~英語でプレゼンしてみませんか~)
<概要>
日 時:2011年2月23日、3月2日、9日、16日、23日(全5回)
場 所:大阪大学豊中キャンパス 総合図書館
テーマ: Work to Live ? Live to Work? ~日本とオランダの「働く」って?~
<内容>
本プログラムは、日蘭学生会議の活動の一環である「自分と異なる背景を持つ人と対話
すること」を主な目的として、大学の春期休業期間を中心に開催され、全5回を通して基
本的に英語で活動を行った。プログラム前半は広くテーマに関するディスカッションを行
い、後半は、各自の関心に従って「日本の働く」、
「オランダの働く」各2グループずつ、計
4グループに分かれてプレゼンテーションを作成した。その際、必ず最後にシェアリング
の時間を設け、その日話し合った内容を全体で共有するように心がけた。そして、最終回
では、作成したプレゼンテーションを発表しあい、その発表に基づき議論を深めた。
メインテーマは、第2回日蘭学生会議の議論に繋がることを意識して上記のものとし、
メインテーマに従って「日本の非正規雇用」
「進路選択」
「オランダの移民問政策」
「就職活
動」の4トピックに関してプレゼンテーションを作成・議論した。
当初、募集人数は10名程度としていたが、実際の参加者は20名を超えた。また、全5回
では議論し尽くせないということで、ほぼ全てのグループが自主的に集まって議論を重ね
た。日常的に英語で議論する機会の少ない参加者も多く、当初は四苦八苦する場面も見ら
れたが、回を重ねるごとに議論が活発になっていった。中には、実際にオランダの学生に
アンケートを行ったグループもあり、オランダ側との親交も深めることができた。
また、運営メンバーも初めて英語でイベントを行うということで、プログラムの準備・
進行、時間管理等、毎回様々な課題に直面したが、ミーティングを重ねより良い運営の在
り方について考える経験をすることができた。
本プログラムの参加者の中には、オランダ研究を志す者やその後留学を決めた者なども
おり、日蘭学生会議の活動が広がっていくことを実感すると共に、日本人学生にとって英
語で何かを伝える機会を持つことの意義を改めて感じた。
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授業『英語で考える』
<概要>
日
時:2011年4月~7月 毎週木曜日 16:20~17:50
場
所:大阪大学豊中キャンパス 共通教育A棟 303号室
タイトル:英語で考える
サブタイトル:Working Issues from Japan and the Netherlands
<内容>
2011年前期、
“Develop, Exchange, Propose the idea”を実践する場を設けること、そし
て第2回日蘭学生会議の議論を充実させるために、大阪大学の共通教育(一般教養)の中で、
大阪大学初となる学生主体の授業を開講した。形式は、議論が拡散しない人数、次世代へ
の活動の継続という観点から、下級生の参加が多い少人数ゼミである「基礎セミナー」の
形を採用した。授業は、受講生10名と運営メンバー約10名の計20名程度が参加し、以下の
シラバスに添って展開された。
・授業の目的
「働くこと」をめぐる様々な問題について、英語を用いて議論、発表できる力を養う。
今日、世界中で、グローバル化や経済の低迷、文化の違いなどから、労働の目的や価値
観、雇用を取り巻く環境は急速に変わりつつある。そのような中、ワークシェアリングを
導入し失業率を大きく改善したオランダの労働の在り方は、
「オランダ・モデル」として近
年注目を集めている。本講義では、このオランダの在り方をひとつの手掛かりに、社会の
変化に伴い変容していく国や企業、人々の在り方について考える。
・講義内容
日時
4/14
内容
日時
春期パイロットプログラム参加者
によるプレゼン
4/21 3枚のスライドで自己紹介
4/28
オランダ人留学生Floris氏によるプ
レゼンテーション
5/12 グループワーク
6/9
内容
グループワーク
“work”に関するディスカッション
6/16
“work”に関するディスカッション
6/23
中間発表
6/30
Julien Rikkoert氏(在大阪・神戸オ
ランダ総領事館)による講演
5/19 トレーニングセッション(構想発表) 7/7
グループワーク
5/26 グループワーク
7/14
グループワーク
6/2
7/21
最終発表①
ディスカッションとシェアリング
20
授業は、主に4グループに分かれてのグループワークで構成された。各グル―プのテーマ
は、第2回日蘭学生会議での議論に繋がることを念頭に置き、以下のものとした。
1)Work-Sharing and the Working Poor/Unemployment
2)Student’s Career Choices
3)Globalization within the Business Context
4)Social Life and Job Satisfaction
また、グループワーク以外にも、次の様な幅広い内容を扱った。
1)春期パイロットプログラム参加者によるプレゼンテーション
2)英語のニュースを用いたリスニング及びリーディングの事前学習
3)2)の事前学習に基づくディスカッション及びシェアリングタイム
3)プレゼン能力向上のための講習
4)オランダ人留学生や在大阪・神戸オランダ総領事館職員による講演会
5)コメントシートを用いての相互評価
以上を通して、先述の目標を達成できるように努めた。
授業全体を通して学ぶべき内容は多く、受講生、運営メンバー共に非常に多くの時間を
この授業のために費やした。その中で、リスニング力不足から講演の内容が充分に理解で
きない、質問ができない、伝えたいことが英語で上手く伝えられない、そして、運営メン
バーはいかに下級生に自分達の経験を伝えることができるのか、と各自が様々な壁にぶつ
かった。しかし、本授業のタイトルでもある「英語で考える」ことを通して、それぞれが
現時点での自分の課題に気付き、今後の大学生活及び社会に出てからの目標を持つことが
できたことは、本授業の大きな成果の一つであろう。この経験を生かし、今後も日蘭学生
会議の一環として、本授業のような定期的に集まりお互いに学ぶ合うことができるプラッ
トフォームを提供することを継続していきたいと思う。
21
・受講生アンケート結果
授業最終日に実施した受講生に対するアンケート結果(抜粋)を以下に掲載する。
なお、単位は以下の通りである。
予習復習時間:
1. なし 2. 30分未満 3. 30分~1時間 4. 1時間~2時間 5. 2時間以上
その他:
1. ほとんどそう思わない
2. あまりそう思わない 3. どちらともいえない、
4. ややそう思う 5. とてもそう思う
<アンケート総括>
受講生の大半は、この授業に対して毎週1時間以上の予習の時間を取っており、意欲的
に本授業に取り組んできたことが窺える。また、難易度に関して、当初新入生には少し困
難ではないかという予想のもとでスタートしたが、それ程困難であったという結果にはな
っておらず、今後授業を展開していく上で一つの指標を得ることができた。一方、英語力
の向上に関しては、受講生の満足度は高かったものの、実践の場ではまだまだ課題が見ら
れ、今後この英語力の向上に関しては更にもうひとつ上の段階を提示できるように、工夫
していく必要性を感じた。
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第2回日蘭学生会議選考会
<概要>
日 時:2011年5月24日
場 所:大阪大学豊中キャンパス カルチエ
<内容>
第2回日蘭学生会議の日本側参加者の定員は15名であるため、希望者を募り、運営メン
バーの中から選ばれた選考委員が選考会を行った。選考会に先立ち、基礎セミナー参加者
やオランダ短期留学経験者などオランダに関心のある学生をはじめ、大阪大学の公式掲示
板KOANで全学生を対象に広く参加を呼び掛けた。その結果、短期間の募集であったにもか
かわらず、定員を超える人数の応募があった。選考委員を中心に書類選考及び英語による
面接を行い、志望動機や英語力などから総合的に判断して、最終的な参加者15名を決定し
た。
2011 夏期英語会
<概要>
日 時:8月 12 日から8月 29 日までの間、計6回
場 所:大阪大学豊中キャンパス GLOCOL STUDIO
<内容>
本英語会は、英語でのディスカッション能力の向上、”work”についての知識の習得を目
的として開催された。
毎回、担当グループを事前に指名し、担当グループの提示するトピックについてディス
カッション、シェアリング、という形式で行われた。英語会において取り上げられたトピ
ックは、“Life like what do you think is the lowest level of life which is assured by
Japanese Constitution?” など、日蘭学生会議のテーマである ”Work to Live?Live to
Work?” に則したものである。
開催当初は、英語でのディスカッションに戸惑い、なかなかうまく話せないと感じる学
生も多かった。しかし、回を重ねるごとに積極的に発言していこうとする姿勢が見られた。
また、互いに表現や言い回しをチェックしようと心がけ、より正確な英語運用能力を養う
ことを目指した。この英語会での一番の収穫は、能力の向上はもちろんのこと、自分には
今何が足りていないのかを各人が気づき、また第2回日蘭学生会議に向けて、それを補う
にはどうすればよいのかということを必死に考えた事であろう。この英語会は、非常に有
意義なものであった。
23
夏期事前学内発表会
<概要>
第1回
日 時:2011 年8月 18 日
場 所:豊中キャンパス 開放型セミナー室
第2回
日 時:2011 年9月4日
場 所:豊中キャンパス 開放型セミナー室
<内容>
本発表会は、日蘭学生会議に先立ち、プレゼンテーションの向上という目的のもと、計 2
回開催された。発表会では、プレゼンテーションを行い、質疑応答ののち、グループに分
かれてディスカッションという、本番と同様の形式で行われた。緊張や準備不足で、思う
ように行かないことも多々あったものの、改善すべき点が浮き彫りになり、それをもとに
してプレゼンテーションを更に向上させることができた。
(文責:斎藤・久保田)
24
第3章
本会議
25
26
Work-sharing and Working-poor/Unemployed
<オランダ側のプレゼンテーション>
オランダのワークシェアリングや社会保障の現状、問題点について紹介された。オラン
ダは、働き方を柔軟に変えることができるようにし、失業率は EU 内でも最も低い 4.77%
(2001-2011)を達成しているが、労働者の半分以上がパートタイムワーカーである。この
ことから、社会保障の質の低下、産業技術発展の停滞、移民労働者の高失業率などの問題
が挙げられている。また、社会保障を充実によって労働者が守られる一方、わざと仕事を
せずに保障に頼ってしまう人がいることも問題である。
<日本側のプレゼンテーション>
若者の失業とワーキングプアが中心に紹介された。若者の貧困は今後の日本の発展に大
きな影響を及ぼすものである。なぜなら、低い収入では家族を養えないため少子化を加速
させ、非正規雇用者が増えることで日本の長所である高い技術力が維持できなくなるから
だ。解決策としては、雇用制度をより労働力の流動を促すものにすることで、新規就労者
や供給過多の産業従事者が労働力の足りていない農業や福祉の分野に移動できる制度にす
ることが挙げられた。
<ディスカッション・考察>
テーマ”Work Sharing and Working-Poor/Unemployed”のもと、オランダ側のワーク
シェアリングや社会保障の現状を説明するプレゼンテーションが、日本側からは若者の失
業・ワーキングプア問題を説明するプレゼンテーションが発表された。これらのプレゼン
テーションとその後のディスカッションの内容から以下の3つの問題について考察する。
1.若者の失業と貧困問題
オランダ人は、若者の失業の原因を十分な教育をうけていないことと捉えるのに対し、
日本人は、若者本人の性質にあると捉える傾向が見られた。若者の貧困問題を解決する手
段として、1)若者の失業問題を解決すること、 2)失業してしまう若者への社会保障を充実
させること、という2つの方策が考えられる。まず若者の失業問題を解決するための手段
として、退職年齢を下げて若者に割り当てられる仕事が増やすという方法がありうるが、
それは同時に年金額の増加、つまり国の歳出増加につながってしまうという問題がある。
また、若者への社会保障を充実させるという方策も国家歳出増加につながりやはり解決は
簡単ではない。そのような中、労働状況を流動的なものにしてなるべく多くの者が職につ
ける環境を整備するという方法が、一番現実的かつ効果的ではないかという意見が出され
た。しかし、これだけでは失業は減らせてもワーキングプアを減少させることは難しく、
抜本的な解決は簡単ではないという意見に多くの者が同意していた。
27
2.最低賃金と生活保護
日本・オランダ両国で発生している最低賃金が生活保護の給付額より低いという現象は
深刻であり、この状況においては、
「一生懸命働くよりは生活保護で楽をする方がいい」と
考える人が出てくるということが問題として挙げられた。これに対し、オランダでは、財
産等の所有の禁止など日本でも行われている政策の他に、
「生活保護受給者はあらゆる仕事
のオファーを受けなければならない」というルールを設けることで対処している。職業選
択の自由の問題、止むおえない事情から働けない者に対する対応等課題も存在するが、日
本の生活保護に関する政策の中に、
「保護」という視点でなく「自立に向けて、生活を維持
できるような職に就くことをより積極的に支援していく」という視点がもう少し必要なの
ではないかと思われた。この問題を解決する策として、財源の問題は勿論無視できないが、
生活保護の額を引き下げるという方向性で議論を進めるのは現実的ではないと考えたグル
ープが多かった。
3.日本における同一賃金同一労働型ワークシェアリングの導入
オランダにおいて普及しているワークシェアリングを日本に導入できるか否かについて
話し合った。オランダにおいては、オランダに根付く合意を達成しようとする文化によっ
て企業と労働者が合意することができたからこそ成功したのであって、日本にはオランダ
のシステムそのままでワークシェアリングを導入するのは難しいのではないか、という意
見が多く聞かれた。ここには、日本において雇用する側と雇用される側が実際平等ではな
く、本当の意味での「合意」が達成出来ていないという問題があり、それは改善されるべ
き状況である。
(文責:加藤、山田)
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Student’s Career Choices
<オランダ側のプレゼンテーション>
日本とオランダの就職活動システムの違いとして、日本のシステムは「フォーマル」、オ
ランダのシステムは「インフォーマル」と表現された。というのも、オランダでは、学生
が一斉に就職活動イベントに参加するのではなく、個人的なネットワークやインターシッ
プを利用して職を見つける場合が多いからである。すなわち、大学側が学生の就職活動を
支援することは少なく、学生自らが積極的に職を見つけるのである。また、オランダの学
生が専攻を決める際、学生の得意・不得意よりも学生自身の興味に基づいて決めることが
多い。これはオランダの教育システムに起因する。オランダでは専攻科目を変える制度が
整っており、学生も転向することに抵抗が少ないのである。
<日本側のプレゼンテーション>
日本の女子大学生 Hanako が就職活動する様子を時系列で紹介することで、日本の就職活動
の全体像が説明された。具体的には、学部 3 年生から一斉に始まる就職活動、就職活動支援サ
イトの利用、リクルートスーツの着用などが紹介された。その中から、以下の点が問題点とし
てあがった。早期の就職活動開始と就職活動イベントの過大化により、大学生は学業・研究の
ための時間を失う。また、学生は専門性や言語能力といった”External Skill”を鍛えようとして
いるのに対し、企業はコミュニケーション能力や自主性といった”Internal Skill”を学生に求め
ているという違いがある。これら問題に対して、就職活動時期を遅らせようとする企業や就職
活動サイトの取り組みが紹介された。
<ディスカッション・考察>
リーマンショック以降、世界各国で就職氷河期に突入し、就職をめぐる環境は厳しさを
増している。日本、オランダもその例外ではなく、不況の影響を受けている。このような
時代に就職活動を控える私たちにとって、”Student’s career choices”は4つのテーマの中
で最も身近なテーマである。以下では、日本とオランダの就職活動をめぐる環境の違いを
通して、それぞれにとって最適な就職活動について考察する。
1.日蘭の就職活動の違い ~Formal or Informal~
「リクナビ」
、
「マイナビ」などの就職活動支援サイトや大規模就職活動イベントに代表
されるように、日本では学生が一斉に同様の方法で就職活動を開始する。また、大学が学
生に情報を提供しているため、日本人学生は平等に情報を得る機会があり、日本の就職活
動はFormalであるといえる。しかしこれは、学生は自身の実力以上の企業に比較的容易に
申し込むことができるということも意味する。手にする情報には様々な企業が紹介されて
いるが、多くの学生は大企業志向を持っているため、学生が応募する企業には偏りが生じ
る。すなわち、大企業の説明会にのみ参加する学生が多く、中小企業は人材を獲得しにく
29
い状況がある。また、多くの人が応募する大企業も、様々な能力の学生を篩いにかけ、選
抜する必要があるため、効率的に人材を獲得できるとは限らない。
一方、オランダでは個人の人脈で就職活動を行う場合が多い。オランダでも学生主催の
就職活動イベントが行われるが、イベントで得られる情報は、既に人脈を通して流れてい
る情報がほとんどである。つまり、イベントに参加する企業は人脈で学生を確保できなか
った企業が多い。このように、オランダでは学生間で就職活動の情報に差が生じている。
そのため、学生の間では大学側に就職活動の補助を求める声もある。しかし、オランダの
就職活動システムは、企業側が”Internal Skill”の高い学生を獲得しやすいという面もある。
一般的に、人脈の広い学生は自主性や責任能力、コミュニケーション能力に長けている。
すなわち、入社後も社員と協力してプログラムを遂行する能力が高いのである。
2.就職活動と国民性
日本とオランダの就職制度は国民性に則したシステムであるとも言える。日本の制度で
は大学、企業が主導権を握って就職活動イベントを開催し、学生はイベントに参加するこ
とで一斉に就職活動を開始する。一般的に、日本人は集団に帰属することで積極性が生ま
れやすいが、集団の境界を超えることに消極的であると言われる。すなわち、就職活動サ
イトや就職活動イベントという集団の枠に入ることで、就職活動に積極的な姿勢が生まれ
るのである。
一方、オランダの制度では大学側の補助が少なく、学生が個人の人脈で職を探すことが
多い。
「世界は神が作ったが、オランダはオランダ人が作った」という言葉に象徴されるよ
うに、オランダ人の DNA には開拓の精神が組み込まれている。就職活動においても、自主
的に機会を獲得することに長けていると言える。
日本とオランダの就職活動システムを比較することで互いに新たな視点が見えてくる。
しかし、どちらのシステムが優れたシステムかという議論に特に意味は無い。それぞれに
有効な就職システムを考えるには、両国の市場や学生の特徴を考慮することが重要である。
3.日蘭の教育システムの違い ~進路選択時期について~
教育システムは学生の進路選択に大きな影響を与える。一般的に、大学の専攻を選択す
る際、日本の学生は将来の進路や自分の特性を、オランダの学生は自分の興味や関心を参
考に決める傾向がある。この傾向の違いは教育システムの違いに起因している。オランダ
の大学進学率はそれほど高くなく、大学進学を志す学生は勉学に魅力を感じていることが
多い。また、専攻科目を変える制度が整っており、自分の興味が変わった場合に専攻を転
向しやすいという理由もある。しかし、在学中に専攻を変えることは卒業までの時間が長
くなるという問題を生じさせる。オランダ政府としては、学生が労働力として早期に経済
を支えてくれることを望んでいる。そのため、専攻の転向で在学期間が延長され、学生を
補助する期間が長くなることをオランダ政府は嫌がっているのである。
30
また、オランダでは中等教育終了時に専攻科目の選択を迫られる。すなわち、中学時代
から将来の進路を具体的に計画する必要があるのだ。このシステムでは、具体的な進路計
画が勉学の動機付けにつながることや、学生が早期に自身の適正を確認しやすいという利
点がある。しかし、一方では、中学時代に将来の選択肢が絞られる危険性もある。多くの
中学生にとって就職は遠い未来であり、具体的な将来設計は本当に可能なのだろうか。
(文責:木下)
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Globalization within the Business Context
<オランダ側のプレゼンテーション>
まず、オランダ企業の特徴や習慣に関する説明がされた。オランダでは実力に基づいた
公平な評価が重視され、風通しの良い企業が多い。また、低い失業率と高い税金に支えら
れ実現した福祉制度の充実がオランダの労働環境の特徴である。次に、オランダで事業を
展開する海外企業が紹介された。オランダにおける外資系企業の割合は1%であり、その
中でもアメリカ、フランス、ドイツの企業が多く進出している。最後に、全人口のおよそ
4分の1を占めるオランダの移民に焦点が当てられた。17世紀から20世紀中盤にかけてオ
ランダへの移民は右肩上がりに増加した。オランダ政府にとって、移民は安い労働力とし
て経済的価値があるが、宗教的対立や経済的負担が増えたことを理由に現在は移民に関し
て厳しい制限を設けられている。
<日本側のプレゼンテーション>
まず、日本の留学生受け入れ政策に関する説明がされた。日本政府は、2008年の時点で
12万人であった留学生の受入数を、2020年までに30万人に引き上げる目標を掲げており、
実際その数も年々増加している。次に、大手コンビニエンスストアチェーンである「株式
会社ローソン」をはじめ、外国人を積極的に雇用する日本企業の例が紹介された。そして、
外国人労働力が日本にとって重要な役割を占めつつある一方で、未だ多くの企業で受け入
れ体制が整っていないという現状を伝え、日本企業の抱える様々な問題点を明らかにした。
そして最後に、グローバル化が進む中で、我が国の国際競争力を維持し、強化するために、
企業レベルでの対策が急務であると結論づけられた。
<ディスカッション・考察>
昨今、各国で自由貿易協定・経済連携協定に関する議論が行われている。これらの協定
が結ばれることは、世界の物資・人事の流れがますます地球規模に広がることを意味する。
大航海時代に端を発したグローバリゼーションは、今なお拡大し続けているのである。し
たがって、国際化社会に踏み出そうとしている私たち学生にとって、グローバリゼーショ
ンは避けては通れない問題といえる。世界初の多国籍企業「オランダ東インド会社」発祥
の地、オランダでの会議を通し、私たちは日本とは違ったグローバリゼーションへの視点
を得ることができた。以下、会議の議論を「国際化と日本経済」、
「外国人労働者・移民問
題」の3点に分けて考察を行う。
32
1.国際化しつつある日本経済と国際化が大きく進んだオランダ
「ユニクロ(ファーストリテイリング)」、
「楽天」に代表されるように、社内英語公用化
を進めることで、国際市場への対応力をつけようとする日本企業が出てきている。しかし、
社会で英語を話すことの少ない日本人にとって、英語の社内公用語化が円滑な情報伝達を
妨げ、質が高いと言われている日本のサービスの水準を低下させるのではという意見は根
強い。また、外国人労働者数は年々増加の一途をたどっており、10年前の3倍以上である。
日本経済は世界規模の市場に対応して、国際競争力を高めようとしている。海外市場の敷
居が低くなり、物流が拡大することは、日本市場の拡大につながる。現在は1億3千万の
人口を抱える日本市場も、少子高齢化社会に伴い労働人口の減少が叫ばれ、縮小の方向へ
向かっている。もはや、国内市場のみに依存する時代は終わりを告げようとしているので
ある。
しかし、こうした市場のグローバリゼーションに対して反対意見があるのも確かだ。そ
れは、グローバリゼーションが労働者や国内産業に与える影響を懸念するものである。具
体的には、外国人労働力の導入による更なる就職難や、自由貿易協定による農業への影響、
海外企業の日本市場における影響力拡大といった問題である。
一方、オランダは歴史的、地理的、言語的要因から、グローバリゼーションへの対応は
世界的に進んでいるといえる。EU加盟国として、ヨーロッパ内での物・人の流れも多さは
もちろんのこと、世界各国で活躍する多国籍企業が多い。オランダは日本の8分の1程の
人口であるにも関わらず、世界の金融・流通を特徴とする産業で世界16位のGDPを誇って
いる。しかし、物流・人流の自由化と引き換えに、移民問題や文化的衝突が生じているの
も事実である。これらは、将来的に更なる国際化が進めば、日本も抱えうる問題である。
したがって、グローバリゼーションの進んだオランダの長所・短所は日本にとって参考
にすべき点である。オランダに限らず、国際社会で発展を続ける国々について学ぶことは、
日本がグローバリゼーションに対応するための鍵となるだろう。
2.外国人労働者と移民問題
日本における外国人労働者が増えているとはいえ、未だに日本は外国人にとって就労し
にくい環境である。その原因として、外国人に日本人と同じ採用試験を課せる企業が多い
ことや、例え社内では英語が通用しても、日本社会では英語が通用しないという現状があ
る。すなわち、日本語の能力・日本文化への理解が無ければ、日本社会に溶け込みにくい
のである。企業は外国人用に日本の文化やマナーを測るテストを設けるなどして、外国人
労働者が社会に溶け込む手助けをするべきではないだろうか。
一方、オランダでは移民問題が大きな社会問題として存在する。具体的には、社会に溶
け込めない移民が多いことや、移民による犯罪率の高さがあげられる。オランダはこれま
で比較的移民に寛容な国であったが、現在のオランダ政府は移民受け入れに対して消極的
態度をとっている。しかし、人道的な観点から安易に拒むべきではない難民がいることが
33
非常に難しい点である。また、移民受け入れ反対の理由として、国費が圧迫されることと
ともに、文化が急激に変えられてしまうのではないかとい危惧が大きいという。現在、日
本で移民問題を考える際に「文化」への影響という概念はあまり見られないように思う。
今回、オランダの実情に触れて、より生活に根差したレベルで、移民を受け入れる際の問
題の一端が提示されたように思う。現在の日本は、移民の絶対数自体が少ないため、社会
問題として取り上げられることは少ないが、将来的には、日本でも起こりうる問題である。
オランダの現状を対岸の火事と考えずに、他山の石ととらえることが重要である。
3.日本の言語的環境の現状と課題
海外の市場と関わりを持つときには、英語でのコミュニケーションを求められる場合が
多い。そのため、英語を公用語化する企業が出てきているが、そもそも、日本人が英語で
の情報伝達が苦手な理由は日本の英語教育にあるのではないだろうか。一般的に、日本の
英語教育は筆記試験で好成績を収めることを重視するため、学生が学ぶ英語は実用性に欠
けると言われる。また、日本の生活で日常的に英語を使う機会が非常に少ない。英語の授
業で習得したものを実際に活用する場がないのである。その結果、学生は英語をコミュニ
ケーションの手段というより、教科の1つとして捉えがちである。
一方、オランダでは、外国語のテレビ番組がオランダ語の字幕付きで放映されるなど日
常的に外国語に触れる機会がある。また、授業でも実用的な言語能力が重視され、教育の
場で実際に使用する機会も多い。したがって、オランダでは外国語を習得しやすい環境で
あるといえる。
言語的環境の違いはそれぞれの国の歴史的背景や地理的要因に起因するものである。し
かし、グローバリゼーションに対応し、国際競争力を養うために外国語教育の改善は日本
の急務ではないだろうか。
また、日本における社内英語公用化についてオランダの学生に問うたところ、もちろん
英語を話せることは重要だが、日本国内においてはほとんど皆が日本語を話す現状で、全
員英語で喋らなければならないというルールを課すのはおかしいという、この取り組みを
懐疑的に見る意見が多く聞かれた。一方で、日本企業の人からは、日本人はとにかく強制
的であっても英語になれる場を作る必要があり、その点において社内英語公用化は有効な
手段の一つだという意見も聞かれた。賛否両論あるものの、今確実な点はどのような手段
にしろ、日本人の英語能力を向上させるにはやはり教育の改善が必須であり、そしてそれ
に長い時間がかかるであろうということである。
(文責:木下、斎藤)
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Social Life and Job Satisfaction
<オランダ側のプレゼンテーション>
オランダ人は家庭を大切にする一方、会社への忠誠意識が低く、多くの若者がジョブホ
ッピングと言われる転職を繰り返す傾向がある。社内行事や同僚・上司との人間関係の現
状を紹介し、これらは職業満足度や業績に貢献しているのかについて考察された。オラン
ダでも会社への忠誠心は肯定的にとらえられているが、日本より簡単に解雇されるため、
経済危機や不況の際には会社への信頼が不安定なものになる。また、オランダ人は職場で
いい人間関係が築くことは重要だと考えているが、自分の私生活を犠牲にしてまで社内行
事に参加したくはないというジレンマを感じている。
<日本側のプレゼンテーション>
日本のワークライフバランスの現状を紹介し、パートタイマーとフルタイマー間・男女
間の差別的扱いに対する問題提起から始まった。オランダと日本ではパートタイムの仕組
みが違うため、日本においてパートタイムで働いた場合とフルタイムで働いた場合のメリ
ット・デメリットが挙げられた。また、性別役割分業の意識がまだ残っている、母親がフ
ルタイマーとして働きづらい環境であるという現状も紹介された。日本は仕事か家庭かと
いう極端な生き方を選ばなければならないため、今後は仕事も家庭も大切にできるという
選択肢をつくっていく必要があるのではないかとまとめられた。
<ディスカッション・考察>
労働は、生活の糧である賃金を得るために、また、そこにやりがいや生きがいを見出し、
充実した生活を送るために重要である。しかし、近年は仕事のために私生活の多くを犠牲
にしてしまう仕事中毒(ワーカホリック)状態やうつ病に代表される精神疾患を患う労働
者が増加している。このことは、労働者に日々の私生活や将来へ大きな不安を抱かせるこ
とになり、その結果、社会の活力を低下させてしまうことになる。
こうしたことから、仕事と生活のアンバランスによって引き起こされる多くの悲劇を抑
えようと、日本では 2007 年に「ワークライフバランス憲章」が策定された。私たち
は、”Flexibility”を大きく掲げるオランダの労働環境と比較することで、ワークライフバラ
ンスについて新たな視点を得ることができた。以下、
「女性の働く環境」、
「会社への忠誠心」
、
「人生における仕事」の3点について考察を行う。
1.女性の働く環境
日本では、現在でもなお労働における男女間格差が問題となっている。しかし、格差の
小さいといわれるオランダでも、50 年ほど前までは性別役割分業が一般的であったことを
考えると、日本でもこの格差的状況を変えることは決して不可能とは言えまい。男女間の
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差をなくすためには、女性が働きやすい環境を整えることと、男性が家事にもっと関わる
ようにするという2つのアプローチ法が考えられるが、日本ではどちらもまだ十分とはい
えない。日本側のプレゼンテーションでは、個人の人生選択に焦点を当て、仕事と家庭の
両立という第3の道の必要性を訴えたが、日本の労働状況という面から考えても、この道
を実現できる環境が必要である。女性が働くことで労働力の不足を補い、フルタイムで働
かなくてもある程度の生活が送れるようにすることで、失業率やワーキングプアの問題を
解決する効果が得られると考えられる。
2.日蘭の労働観の違い ~Loyalty or Responsibility~
オランダでも年配の人は日本と同じように会社への忠誠心を重視している。しかし、若
者ではその意識は低く、転職を繰り返すことに抵抗がない者が多い。忠誠心がなくても責
任を持って仕事に取り組み、成果が出せればいいのではないかと考える学生もいた。確か
に、忠誠心は強制することは難しいが、責任感を持たせることで同じような効果が得られ
る可能性はある。しかし、日本の企業にみられるように頻繁に飲み会や社内行事が開かれ
ていれば、仕事に対する責任感だけでは社内の人間関係を良くし、チームワークを築くの
は難しいかもしれない。
3.生きるために働くのか、働くために生きるのか
オランダの学生から、
「オランダ人はお金のために働き、大切なのは仕事よりも家庭であ
るという人のほうが多い」という意見が出た。しかし、多くの日本人はこのような働き方
に同調できないだろう。仕事も人生の大切な一部分であると考え、仕事を通しての自己実
現を目指す人もいる。どちらが正しいと言えるものではないが、そのように多様な価値観
を持つ人が同じ職場にいることに留意し、お互いを尊重しあえなければ、世代間や国間で
軋轢が生じ、良い職場環境を築くことはできない。グローバル化と個の尊重が重視される
時代では、今まで通りのやり方では通用しなくなるだろう。
(文責:加藤)
36
第4章
講義
37
38
“The relationship between Japan and the Netherlands:
past and present”
By H.E. Ambassador Koezuka
2008 年と 2009 年は日本とオランダの両国にとって歴史的な節
目となった。2008 年には日蘭外交関係開設 150 周年を、2009 年
には日蘭通商 400 周年を迎えたのである。これらを記念して、秋
篠宮ご夫妻のオランダ訪問やフェルメール展「光と天才画家とデル
フトの巨匠たち」の開催を始め、文化、科学技術、スポーツなど様々な分野で 300 を超え
るイベントが催された。4 世紀以上に亘る日蘭関係は、江戸時代の鎖国政策の中にあっても
途絶えることはなかった。長崎貿易を通じて、オランダとの外交関係を保ち、海外の学問・
技術を「蘭学」として日本に取り入れていた。蘭学は当時の知識人に多大な影響を与え、
大阪大学の源流である適塾の創設者、緒方洪庵もその影響を受けた内の一人であった。ま
た、2011 年 3 月 11 日、東日本大震災が東北地方を襲った際も日本はオランダから手厚い
支援を受けた。オランダ政府による 1 億円の支援を始め、震災募金のためのチャリティー
コンサートや犠牲者追悼の「沈黙の行進(Silent March)
」がオランダで行われた。これら
は、長きに亘る日蘭関係の象徴といえる。
日本とオランダは経済面における結びつきも強い。日本とオランダの相互の投資額は共
に EU 諸国で最大であり、多くの企業が互いの市場へ進出している。具体的には、「三菱重
工」
、
「キッコーマン」
、
「富士フイルム」など 300 社以上の日本企業がオランダへ進出して
いる。オランダは、海外企業へ税制面での優遇措置を整えており、日本企業にとって進出
しやすい国である。この点からも、オランダの異文化に対する寛容な姿勢や、海外資本を
積極的に取り入れようとする国策が窺える。一方、日本で有名なオランダ企業として、「フ
ィリップス」
、
「ユニリーバ」
、
「ハイネケン」があげられる。
「オランダ東インド会社」に代
表されるように、オランダには多くの多国籍企業が存在し、多くの国へ進出している。
また、オランダと日本の歴史を辿り、現在の日蘭関係を考察することで、日本の外交に
関するヒントが見えてくる。オランダはゴッホ、フェルメールを始め、多くの芸術家を輩
出している。加えて、オランダは外交政策の 1 つとして芸術を売りだそうとする動きが強
い。ある国の文化が人気を持つことは、経済発展のみならず、国の好感度を上げる効果も
ある。これら文化や価値観などは「ソフト・パワー」と呼ばれ、外交を行う上で重要な要
因である。日本文化に注目すると、マンガ、アニメ、寿司、生花など、オランダのみなら
ず、多くの国で高い人気を集めている文化がある。原発事故の放射能汚染による風評被害
で日本人が冷遇されると耳にするが、アニメ、マンガなどの日本文化を見つめ直すことは、
日本を魅力的に見せるための一つの武器となるのではないだろうか。
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(文責:木下)
“The Netherlands as an Historical Power:
Relations between Japan and the Netherland”
By Dr. Janny de Jong
日本とオランダの歴史を 1500 年代から振り返り、日光東照宮に
オランダ製のランタンがあることや、福沢諭吉がオランダを「第二
の故郷」と言及するほどオランダと親しい関係であったこと、日本
におけるシーボルトの活躍、適塾など蘭学が果たした重要な役割について触れながら、日
本とオランダの歴史的な関わりの深さを再確認した。 また、日蘭貿易は当時東インド会社
が東南アジアを植民地化していた 17、18 世紀においてもどちらかが優位という貿易ではな
く、相互に平等な貿易であったことなども説明して頂いた。
授業後の質疑応答においては、オランダだけでなく日本の歴史的変遷にも詳しい先生に、
「今先生が日本の総理大臣であればいったい何をしますか?」という質問が出され、それ
に対し先生は、
「難しい質問だが、現在日本が面している深刻な問題は少子高齢化問題であ
り、私が首相になったとしたらその問題に最初に取り組む」と答えられた。
オランダは日本の中学や高校での日本史の授業にも度々登場し、オランダと日本の関係
が深いことは多くの日本人の知るところであるが 、今回オランダ側から見た日本とオラン
ダの歴史という新しい視点で日本とオランダの関係を見ることが出来たのは新鮮であった。
現在もヨーロッパ各国の中では貿易額などから見るとオランダは依然日本と一番親しい国
であるのは、こういった江戸時代からの深い関係に根ざしたものであることを再認識し、
今後の日本とオランダの関係が一層発展していくことを願うばかりである。
(文責:山田)
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“New Visions on Work in the Netherlands and the EU”
By Dr. Herman Voogsgeerd
まず、導入として日本とオランダの労働に関するランキングが紹
介され、日本は労働市場の能率性においてはオランダを上回ってい
る一方で、世界的に見ても特に女性の社会進出度が低いことが示さ
れた。
次に、オランダの労働について説明された。若年層の失業率がEUの中でも低く、パート
タイム労働者が多いというオランダ。雇用が確保されやすい理由の一つとして、一つの職
場で長期間辞めずに働くことではなく、仕事に就くことを簡単にすること、つまり雇用を
流動化させることが挙げられ、終身雇用が一般的な日本との違いが見られた。
また、オランダの労働者の管理体制や組織の在り方についても言及された。技術の進歩
により、知識労働者は個人で働く時間や場所を自由に決めることができるようになった一
方、管理者側の過度な負担を避けるなどの理由から、肉体労働者に同様の自由があるわけ
ではないという職場の現状が語られた。
そして、ヨーロッパ諸国の共同体であるEEC(欧州経済共同体)からEC(欧州共同体)、
EU(欧州連合)の変遷及び各段階における社会・経済政策が紹介された。また、このヨー
ロッパの社会モデルは、労働者のみならず企業の移動も可能としたが、それゆえ、技術力
や経済力の高い少数の国への利益の集中を招いているという弊害も説明された。共同体内
での経済の自由化の拡大に伴って、技術力や経済力の異なる国々が同一市場で競合するよ
うになり、どのように共存していくかが今後の課題であるという見方が示された。
講義後の質疑応答では、日本・オランダ双方の学生から質問が投げかけられ、特に、EU
が崩壊する可能性について言及したものが多かった。それらに対する回答として、膨大な
負担を回避するために各国はEU崩壊を阻止するため、崩壊の可能性は限りなく低いとした。
さらにEUの現状について、共通の規則が増えすぎており、存続すべきであるが現状維持で
はなく、連邦として、各国独自の規則を増やすなどの変化が必要との提言がなされた。
また、アジア諸国がEUをモデルとした共同体を構築できるか、という質問には、アジア
はヨーロッパに比べて大国が多いため難しいのではないか、との考えを示し、大学同士の
提携やアジア諸国間の旅行者増加などを通じて、結びつきを強化していくべきであるとし
た。
(文責:磯谷)
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“The Netherlands as a ‘gas-country’’
By Mr. Eddie Lycklama a Nijeholt
講師であるEddie氏は、オランダのガス会社Gasunieに勤務され
ている方であり、まず、オランダのガス事業及び会社の概要につい
て以下のように説明された。オランダには約100の油田があり、ヨ
ーロッパ随一の数を誇っている。代表的な油田がSlochteren
field(約3兆㎥)である。油田には天然ガスも存在していることが多く、石油とともに天然ガ
スも採掘されている。それらのガスはNAM(Exxon社とShell社の合弁会社)によって掘られ、
Gas Terra社によって売られ、Gasunieによって輸送されている。
Gasunieはパイプラインを保有しており、そのパイプは15,500kmに及ぶ。Gasunieのパ
イプは家庭にまでは伸びておらず、各家庭へは別の企業が輸送している。パイプには高い
圧力がかかっているので、非常に危険である。過去にはベルギーで、250人が亡くなったガ
ス爆発事故があった。そのためGasunieは、ヘリコプターで2週間に一度パイプラインをチ
ェックし、5年に一度劣化の有無を精査している。毎日60万ユーロ分のガスがパイプを通
っている。Gasunieは、国保有の会社であり、またその業務から、安全性・信頼性・効率・
持続性を最も重要視している。
また、Gasunieの企業としての今後の目標をうかがった。Gasunieは、オランダをヨーロ
ッパの中でガス輸送の中心にしたいと考えている。その理由は2つあり、オランダのため
だけでなく、EUの成長を促すことができること、そして輸出量を増やすことができること
である。そのため、今後はさらなるパイプラインの拡充を図っていく。Gasunieは現在、ロ
シアからイギリスにわたるパイプラインを建設している。このパイプラインの完成は、
Gasunieにとって大きな意味を持つという。ただし、ガスの大供給国であるロシアは政治的
な理由で供給が安定していないなど、国家間の事業ならではの困難があるという。また、
利益が見込めるならばどこにでもパイプを整備する、というものではないとEddie氏は付け
加えた。パイプラインは需要があって初めて建設されるべきものであり、需要を無視して
建設していては企業活動がうまくいかないと考えている。“Market demand first, then
infrastructure”と強調された。
(文責:松本)
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“The European Union: unity and complexity”
By Dr. Jan van der Harst
1993 年に創設された EU は現在、27 か国が加盟し、世界でも大
きな存在感を発揮している。圏内では出入国、税関の審査が廃止さ
れ、また、オランダをはじめとする多くの国で単一通貨ユーロが導
入されるなど、人、モノ、カネの移動が自由になっている。その一
方で、ギリシャの経済破綻を発端とする相次ぐ暴動など、EU を取り巻く問題も多く見受け
られる。そのような状況の中で、今回の講義では、EU のもつ単一性と複雑性をいかに調和
させつつ実現してゆくのか、1945 年のヨーロッパ統合にまで遡って、語っていただいた。
最初のヨーロッパの統合は、ドイツに多大な賠償金を課したベルサイユ条約からワイマ
ール共和国崩壊までの歴史を繰り返さないために行われた。全ての加盟国間の平等を保障
するというその名目は、政府間の関係に良い影響をもたらすという期待を孕んでいた。ま
た、その当時、冷戦の開始を受け、ヨーロッパ間での結びつきをより強固なものにする必
要があった。
しかし、設立当初と現在とでは世界を取り巻く状況は大きく異なっており、EU そのもの
の様相も大きく変化した。冷戦は終結し、超国家体制から政府間の平等協力体制へと移行
が進む中で、昨今の中国、インドを始めとする新興国の台頭など、グローバル化の波が押
し寄せている。EU 内における国家間の競争も激化し、労働市場の流動化が進行している。
EU 経済危機、リーマンショックなど、もはや1国では解決不可能となる問題が増加する現
在、EU という統合体の存在は、より大きな意義をもつものになると考えられる。
講義後、今後 EU はどうなるかという質問に対して、難しい質問であるが、今のまま統合
を続けてゆくか、破たんするかのどちらかであるという回答がなされた。オランダは、EU
に加盟した後様々な問題に巻き込まれているという。しかし、国内では解決できない問題
も、EU レベルでは解決の道筋がみえてくるかもしれない、ともいう。
複雑性に起因する問題は多くみられる。しかし、その複雑性こそが EU の強みであること
を忘れてはならず、統一性と多様性との共存の方法を探ってゆくことが必須と言えるだろ
う。
(文責:斎藤)
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第5章
企業訪問
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ABN-AMRO Bank
<概要>
日
時:9月 12 日
場
所:アムステルダム
業務内容:金融業
形
式:プレゼンテーション→ディスカッション→職場見学→質疑応答
<プレゼンテーション内容>
ABN-AMRO Bank では、女性の働き方について関心があると事前に伝えていた事もあり、
5 名の女性社員が迎えてくださり、ABN-AMRO Bank の女性の労働環境についてプレゼン
テーション形式で説明を受けた。以下にプレゼンテーションの概要を示す。
1. ABN-AMRO Bank の労働環境の現状について
現在 ABN-AMRO Bank には 26,000 人の勤務しており、その男女比は 1:1 である。た
だし重要ポストには男性が多い。従業員 1 人あたりの子供の平均人数は 1.9 人である(オ
ランダの合計特殊出生率は 1.79 人(2009)
)
。全社員が回答したアンケートによると、男
性社員は仕事場でストレスを感じる一方で、女性社員は家庭でストレスを感じる傾向が強
い。仕事場で感じるストレスには、働く時間帯やペースを自分で決められないことが原因
として挙げられる。また、家庭で感じるストレスには、自由な時間が少ないことや、好き
な時に好きなことができないことが理由として考えられる。
2. オランダにおける労働環境の変遷
40 年前、政府の支援不足や、仕事と家庭のストレスといったワークライフバランスの問
題から、労働紛争やリストラが多発した。当時は、仕事と私生活のどちらを優先すべきか
決めなければならなかったのだ。しかし、現在では、どちらか一方を選ぶのではく、公私
のバランスを考える柔軟性が重要視され、尊重される風潮にある。一方で、その柔軟性は
所属部署に依存する傾向にあり、接客や取引など対外的な面を担う部署では、現在でも柔
軟性を保つことが難しい。また、より柔軟性の高い労働環境を作る方法として、直属の上
司による支援、政府による対応等が挙げられる。
3. The New World of Work
The New World of Work とは、米マイクロソフト社が提案している情報化社会ならでは
の働き方のことであり、人々の仕事と私生活のバランスを改善しうるのではないかという
視点から、今回話題に上がった。The New World of Work を導入すると、社員はパソコン
やウェブカメラを利用して仕事を行ない、場合によってはオフィスに出向くことなく自宅
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やカフェで会議に出るようになる。よって、社員が自由な時間をより多く持つことができ
る他、自分にあった働き方を持つことができ、仕事の効率が上がると考えられている。同
時に、いつどこで仕事をするかは働く本人が責任をもって決めなければならず、本人には
高い自己責任能力が求められる。そして、プロセスではなく仕事の成果で社員の成績が判
断される傾向がより強まると考えられる。
このように、IT 技術を駆使した労働方法によって、オフィスに出勤する日数の減少、シ
フト制の導入によって労働者の疾病率、健康度も改善されるだろうと考えられている。
<職場見学>
プレゼンテーションに続いて、ABN-AMRO Bank の社内を実際に案内して頂き、今回は
Dealing Room(各種取引を行う部屋)を見学した。各机にはコーヒーをはじめとして果物、
家族の写真から趣味の飾りまで様々なものがあり、職場の自由な雰囲気が伝わった。また、
服装についても、あまりにカジュアルな服は認められないものの、襟付きのシャツなどを
着ていればネクタイは必要ないなど、とても自由な環境であった。
<感想>
ABN-AMRO Bank は我々が今回の研修において初めて訪問した企業であり、少し緊張し
て始まったものの、ABN-AMRO Bank の社員の方々が温かく迎えてくださったので、リラ
ックスして日本とオランダの労働環境の違いについて学ぶことができた。もし今後、マイ
クロソフト社の提唱する”The New World of Work”のような労働環境が国際的にスタンダ
ードになった場合、日本の労働環境にどのような変化をもたらすのか非常に興味深く、ま
た実際に日本でも知識経営という考え方が浸透してきているように、新しい働き方が両国
ともに求められているということを実感した訪問であった。
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Macaw
<概要>
日
時:9 月 13 日
場
所:アムステルダム
業務内容:マイクロソフト製品をベースにしたシステムのソリューション提供(業界 1 位)
(2008 年と 2010 年に「最優秀雇用者賞」を受賞)
形
式:プレゼンテーション→職場見学
<内容>
プレゼンテーションでは、Macaw の働きやすい社内環境への配慮とオランダ労働市場の
少子高齢化問題について説明を受けた。以下にプレゼンテーションの内容を示す。
1.Macaw の社内環境
ヘッドハンティングの盛んな IT 業界において、従業員の離職を防ぐためには、心地よい
社内環境が重要である。具体的には、ビリヤードやテレビゲームを配置したリフレッシュ
ルーム、各階には休憩室が社内に設けられている。これらの設備は、社内に「楽しむ」た
めの空間を作ることで、気分転換、良好な人間関係の形成に役立っている。
また、社員同士の関係にも配慮がされている。例えば、社員が問題を抱えている場合に
は、上司に相談する機会を設けることで、問題を抱え込むことを防止している。また、社
員が経営に関する決断をするときは、「会社と従業員に意味のある決断か?」と常に問うこ
とで、社員に会社への貢献を意識させている。
給料、労働条件などの制度面の充実は重要であるが、会社の雰囲気などの充実も忘れて
はならない。これら 2 つのバランスが働きやすい環境の実現につながると言える。
2.高齢化社会に伴う高齢者、女性の労働市場参入の必要性
日本同様、オランダも少子高齢化が進行しており、それの解決策として、65 歳以上の高
齢者や女性の就労率の向上が図られている。実際に高齢者の就労率を上げるためには、定
年を 67 歳とする法律の制定や、年金制度の充実など、長く働くことを魅力的にするシステ
ムが必要である。女性の就業率に関しては、1970 年時点で 30%であったが、2010 年時点
では 72%と大幅に上昇している。それでも、年齢が上がるに連れて男女間で就業率の差が
生じるなど、まだまだ改善の余地がある。
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<質疑応答>
プレゼンテーションで上記の事柄を説明して頂いた後、質疑応答に移った。質疑応答で
は、オランダにおいて父親の育児休暇についての質問が出され、父親も半年間の育児休暇
を取得したり週 20 時間労働のパートタイムに移行したりし、週休 3 日制にすることが普通
であると分かった。なお、その間普段の 70%から 80%の給与は保証されるそうだ。これ
は男性が育児休暇を取ることが非常に少ない日本の状況とは大きく異なっており、父親も
育児休暇を取ることがごく自然であるという姿勢を新鮮に感じた。
また、育児休暇を取る際、長い休暇を認めることによって仕事に支障が発生するのでは、
という質問に対しては、前もって誰がいつ休暇を取るかを把握し、それにあわせて仕事を
振るので問題ない、との回答を頂いた。
他に、パートタイムとフルタイムの間に昇級の差があるのでは、という質問が出た際に
は、基本的にないものの、勤務時間が少ないことでスキルレベルに差が出て、結果差が出
てしまうことはある、とのことであった。
<職場見学>
実際に社内で従業員の方々が働いている様子を見せて頂いた。社内で一番印象強かった
のはプレゼンテーションの中でも説明された休憩室である。大きな部屋の中にビリヤード
台やダーツ、本、ゲーム機、カウンターバーなどが置いてあり、従業員がリフレッシュで
きる環境が整えられていた。また、休憩室の壁には従業員が楽しくパーティをしている写
真などがかけられており、従業員同士の間にも良好な関係が築かれていることが伝わって
きた。
<感想>
Macaw では新興の IT 企業らしい自由で活発な印象を受けた。そして Macaw は、
「企業
が従業員に何ができるか」という考えを追求した結果、優秀な人材を Macaw に定着させる
ことに成功しているということが分かった。また、従業員が仕事に対して満足するために
は“Flexibility”は欠かせない要素で
あり、Macaw では父親も勤務時間
を削って育児休暇をとるのが普通、
という日本企業にはあまり見られ
ない柔軟さに感心させられ、日本企
業が同じような姿勢を取ることが
出来れば、今後更に共働き夫婦が増
えても少子高齢化に歯止めがかけ
られるのではないかと思った。
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Gasunie
<概要>
日
時:9月 16 日
場
所:グローニンゲン
業務内容:国営のガスパイプライン建設・管理会社
形
式:職場見学
<職場見学>
この日の午前中に Gasunie に勤務して 22 年の Eddie 氏にオランダのガス事情について
講義をして頂き、午後からは Gasunie の本社を訪問させて頂いた。Gasunie の本社はグロ
ーニンゲンの郊外に位置し、街の中心に存在する塔の次に高い、特徴的な形をした建物で
ある。真ん中の大きな柱を一本に限ることで吹き抜けの構造を創りだしており、各フロア
には多数の美術品が展示してある。これらの美術品は、Gasunie が毎年コンペを行い、優秀
な若手芸術家からその作品を買い取って展示している。ビル内に美術品を並べることで、
勤務中でも社員がリフレッシュできる環境を設けている。また、自分の作品を見てもらう
機会が少ない若手芸術家にコンペの機会を与えることで、彼らの創作意欲を増すことがで
きるなど、文化的・社会的な効果もある。
そしてこの本社ビルは、下層階から上層階に上がるにつれ、ビルの内装の色が変化する
という特徴があり、その色も従業員がリラックスできるパステル色を選んでいるとのこと
であった。また、エレベーターのボタンが各エレベーターにあるのではなく、各フロアに
つき1つのボタンに統一されており、こうすることで従業員同士の会話を促そうとしてい
るとのことであった。
Gasunie がこのように建物にこだわりをもつ背景には、
「建物とは実際の肌、服に続く人
間にとっての第 3 の肌である」という考え方がある。
<感想>
Gasunie のビルはただのオフィスビルではなく、細部まで使用する従業員の事を考えた構
造を実現しつつデザイン性を重視した建造物になっていると感心させられた。また、エネ
ルギー会社に必要である、クリーンなイメージを重視したビルであった。こういったハー
ド面での細かい気配りは、従業員に影響を与え、結果的に会社の将来につながる投資の一
形態なのではないかと考えた。
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三菱重工業
<概要>
日
時:9 月 19 日
場
所:グローニンゲン
事業内容:発電所建設他
形
式:現場見学→プレゼンテーション→グループに別れて従業員の方との質疑応答
<現場見学>
三菱重工に到着して、まずはバスに乗って発電所建設現場を見学した。広大な敷地の中
心に大きな発電所が建設されており、多くの作業員の方々が働いていた。作業員のヘルメ
ットに国旗が貼ってあり、これについて尋ねたところ、その従業員が話すことができる言
語をヘルメットに表記することで作業員同士の意思疎通をスムーズにするためであると説
明を受けた。また、実際に現場で作業をする方々は三菱重工に直接雇われている人ではな
く、委託されている建設会社が募集して雇っている派遣社員であるとのことであった。
<プレゼンテーション内容>
この発電所が、オランダのエネルギー会社から発注されて建設している火力発電所であ
ることや、発電所の部品の詳細やそれらが日本で作られていること、日本人従業員とオラ
ンダ人従業員が半分ずつぐらいで構成されていること、オランダの現場での組織構成など
が説明された。
<質疑応答>
4 グループに別れてオランダで様々な国籍の人と働く日本人や逆に日本人と一緒に働い
ている外国人の方から話を聞くことが出来た。
まず、オランダで日本人がどのような仕事をしているかについて、事務所で現場を管理
する仕事を日本人が任され、事務所外で実際の現場管理を外国人に任せていると説明を受
けた。なお、外国人と交流しながら仕事をする日本人は半分ほどだそうだ。
日本とオランダそれぞれの働くことにおける違いについて、オランダでは残業は望まし
いものではなく、現場で残業しているのは日本人だけであり、日本人も長く残業している
と労働監督局から怒られるそうだ。他には、引継ぎや代役の確保をしておけば休暇を取り
やすいという文化があること、女性比率が日本より多いこと、オランダでは部下に指示を
する際、まずは説明で相手を納得させた上で作業をさせる必要があること、目標達成まで
の具体的な道のりを説明した上で仕事を割り振ること、オランダ人は同僚との時間(飲み
に行くなど)より家族と過ごす時間を重要視することなどが挙げられた。
また、対外交渉や会計を担当しているドイツ人女性の方は、日本人と一緒に仕事をする
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のは楽しいが、残業が多いことには最初は違和感を覚えたという。職場での会話は主に英
語で行い、日本語は日本人従業員同士が会話するときのみ使われることなども教えて頂い
た。
<感想>
今回訪れた三菱重工の発電所建設現場は、日本人従業員が半分以上おり、今研修におけ
る企業訪問の中では一番身近な企業であったとも言える。そこで、オランダ人と一緒に働
く日本人という視点から様々な話を聞けたことはとても有意義であった。また、プレゼン
テーションや案内をして下さった池辺さんが「下足番を命じられたら、日本一の下足番に
なってみろ」ということばを引用して、
「自分に与えられた仕事をしっかりやれば、自分に
ふさわしい仕事を与えて貰える」とおっしゃっていたことが強く印象に残っており、この
言葉を胸に刻み、将来の就職活動に臨みたい。
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Labour Foundation
<概要>
日
時:9 月 20 日
場
所:デンハーグ
業務内容:労働関係調整・勧告・提言
形
式:プレゼンテーション→質疑応答
<プレゼンテーション内容>
1. The Princess Day から知るオランダ王室
訪れた日がちょうど、王室の方々が黄金の馬車に乗ってパレードを行う Princess Day だ
ったので、Princess Day についての説明を受け、王室が国民の指示に基づいて成立してい
ることと、オランダの王室が国民に対し親しみやすいものであるといったことを伺った。
2. オランダに存在する2つの労働調整機関
次に、オランダには2つの労働調整機関が存在することについて説明して頂いた。オラ
ンダには SER(The Social and Economic Councils)と Labour Foundation の 2 つの機
関が存在し、SER が戦後に始まった公的機関であるのに対し、Labour Foundation は戦前
に始まった、8 人の雇用代表、8 つの労働組合から構成されている私的機関である。Labour
Foundation の主な活動内容は、諸産業や企業での団体交渉の支援、特定の労働問題や年金
についての勧告や交渉のほか、政府や議会への提言も行っている。
3. オランダにおける失業への取り組み
オランダの失業率は 4.2%~4.5%(2009~2011)と低い水準に保たれており、その理
由として、労働人口の高齢化により、雇用者が労働者の解雇に慎重になっていることが挙
げられた。一方で、臨時雇用者(派遣労働者や短期労働者)は失業率に含まれてという問
題も指摘された。
4. オランダにおける年金システム
オランダの年金システムは、公的年金と、産業年金基金または会社年金基金、直接保険
制度の「三つの柱」から構成されており、全労働者中の 93%が年金制度に加入しているこ
とが説明された。また、公的年金については、65 歳から最低賃金レベルの給付を受けられ
る賦課年金方式であり、企業年金については、雇い主と労働組合が交渉しながら決める年
金であるが、雇用主が被雇用者に対して年金制度を提供する義務はないことと、企業年金
は給付建てであり掛金建ての場合はほとんどないことが説明された。 また保険料は給料の
8%~25%と差があり、これは年金プランの質と現役参加者の年齢構成比を反映している。
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そして、近年の経済危機がほぼすべての年金に打撃を与えることも言及され、金融市場の
回復が達成されない場合、年金給付の削減か、給付額確定済みの年金の引き下げは避けら
れないだろうと説明された。
そして、近年、年金合意(Pension Agreement)という合意がなされ、2025 年までに
年金受給開始年齢を 65 歳から 67 歳まで引き上げることを目指すことになったと説明して
いただいた。そして、そのためには高齢者が現在より労働市場に参加することが重要だと
いうことであった。
<質疑応答>
まず、ワークシェアリングを成立されたワッセナー合意の内容について質問が出された。
回答として、ワッセナー合意によって週 42 時間労働から、38 時間または 36 時間労働が可
能になったことが説明された。早期退職が認められるようになったことも説明され、労働
者(労働組合)
、雇用者、政府がそれぞれ経済不況の痛みを分け合いながら達成した合意で
あることを学んだ。
また、移民労働者についてオランダ社会はどう考えているかという質問も出され、オラン
ダは高齢社会のことを見据えた上で新たな移民を歓迎しており、移民第 3 世代が高等教育
へ進学していることからも移民政策が非常にうまくいっているとのことである。
他に、オランダが誇る「合意の文化」について、双方の利害が衝突する議題においても合
意を達成することは可能なのか、という質問が出された。それに対して合意の文化はある
が、必ずしも合意に達する必要はなく、中央集権化せず分権化することが重要であること、
合意するには個人同士の関係が重要であること、の 2 点が説明された。
<職場見学>
労働協議が行われる大会議室を見せていただき、実際にどのような活動をしているのか具
体的にイメージすることができた。
<感想>
今回 Labour Foundation を訪問することで、オランダという国の成り立ちから、その合
意の文化、そして日本で近年議題に上がっている年金問題まで、オランダにおける幅広い
現状を聞くことが出来た。その他先進国に比べて失業率が低く、福祉が日本より充実して
いると考えていたオランダにおいても経済危機は年金に影響を与えており、日本ほどでは
ないかもしれないが、問題に直面していることが分かった。
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(文責:山田)
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第6章
参加者の声
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オランダ研修で学んだことについて
法学部 松本 建太朗
今回のオランダ研修で私は、習慣や常識の違いが原因で外国人との間に起こる戸惑いや、
その違いを互いに理解し、解消できた時の喜びを実際に感じることができました。海外留
学を経験した友人からは、この特有の経験談を何度か聞いたことがありましたが、その時
の驚きや理解しあうまでの難しさを実際に自分が経験できたことは、有難いと思います。
ある日の夕飯を、私たちは、オランダ人学生 12 人と日本人学生 15 人、そして年配の日
本人の大学の先生 1 人と、オランダで仕事をなさっている日本人ビジネスマンの方 1 人で
楽しんでいました。会計の時になって、1 人のオランダ人学生が 1 人当たりの負担を計算し
て、みんなに伝えてくれました。学生たちはそれぞれに、言い渡された額を準備していま
した。
その時に、先生とビジネスマンの方が、それぞれ「大人だから」と、多めに食事代を支
払ってくださいました。日本の学生はこの習慣をすでに理解しており、有難く頂戴しよう
と思ったのですが、このお心遣いがそのオランダ人学生を少し困らせてしまいました。オ
ランダにはそのような習慣がないのでしょうか、せっかく計算したのに計算がくるってし
まうと、彼女は不機嫌になってしまいました。さらに、私がそのあとに計算を交代すると、
計算が細かすぎると、より不機嫌になってしまいました。そして、オランダには Dutch way
があるのだから、その通りに少し大雑把に計算してくれと頼まれました。
彼女に言われたとおり、私は少し大雑把に計算をし、彼女が言うように、チップを出し
ても余った分は、自分のものにしました。私はこのプロセスに慣れておらず少し戸惑いま
したが、彼女や周りのオランダ人学生は、それでいいのだと言っていました。その後私は、
日本での支払い方、特に歳の離れた方と食事をした時の習慣について話をし、習慣が違う
事を共有しました。オランダに行って、オランダの方法を知れたことは良かったのですが、
何より、この件があってから、彼らとより仲良くなれたと感じられた事を、私は嬉しく思
いました。
オランダでの 11 日間で、EU のこれからについて、また、両国での仕事観の違いについ
て議論できたことは私にとって貴重な経験でした。しかしこのように、研修中に互いの異
なる習慣を理解し合い、その事によってこれまでよりも近い関係になれたことが、私にと
って貴重な経験となりました。
58
第 2 回日蘭学生会議で学んだこと
人間科学部 宮原 翔子
私は、英語を学ぶこと、外国の方と話をすることが好きでずっと留学をするかしまいか
考えていた。けれど、半年、もしくは1年といった長期留学にはなかなか踏み込めず、2
週間単位や、1ヶ月間の短期留学に参加してきた。1ヶ月間でも、耳は慣れ、自分なりの
成果は掴むことができる。しかし、今回の日蘭学生会議は自分にとって新しい挑戦であっ
た。
日蘭学生会議は、単なる学生交流でも、ましてや英語学習のための留学プログラムでもな
い。一番の目的は、日本と異なる背景を持つオランダの学生と「意見交換をし、互いに高め
合うこと」である。今回の活動において、特に挙げたい点が二つある。
一つ目は、会話のツールとしての英語だ。大抵のオランダ人は、オランダ語を母国語に持
ちながらも英語を流暢に話すことができる。であるから、我々が危惧していたのはやはり
日本人の英語力であった。出発前に、メンバーで集まり英語会と称して英会話の練習を幾
度か行い、その成果もあって英語に対する意識はメンバー一同高まっていたと思う。実際
に現地で英語を使っていて感じたことは、つたない英語力でも喋ろうとすることを臆さな
いことの重要さである。オランダ人に比べ、日本人の英語力が劣っていることは明らかで、
それは向こうの人々も理解してくれていた。であるから、どんなに単語が思い浮かばなか
ったとしても説明しようと必死になれば、向こうの学生も汲み取ろうとしてくれるのであ
った。そこで、話すことを止めてしまっては何も生まれないということを改めて実感した
のである。
二つ目は、自分の意見をしっかり持つことの重要さである。これは、ディスカッションの
場面だけでなく、何気ない会話でも必要であると感じた。向こうの学生は、意見をどんど
ん述べる姿勢に加え、相手にも「君はどう思う?」と真剣に尋ねる姿勢があると思う。急に
質問されて、頭が真っ白になる場面もあった。私も人の意見に対する考えや、自分には関
係が無いと思い込んでいたものに対する意見を持つことができるようになりたいと思った。
相手と意見を交換し合うことは、お互いを高めることができるし、新たな発見が生まれる
きっかけであると実感したからだ。
今回のオランダでの 10 日間は私にとって全く新しいチャレンジの連続であった。文化が異
なる人と意見を交換することにおいて、根本的な背景を理解してもらうことに時間を要し
たり、困難なことも沢山あった。けれど、同じ学生としてオランダの学生と対等に接する
ことを心がけ、結果的にお互いの文化、背景を尊重し合い活発な意見交換ができた。
今回の活動で得ることができた成果はもちろん、英語が伝わらなかったときの歯痒さなど、
反省点も次の活動への原動力となっていくと思う。これからも今回出会った現地の人々と
連絡を取り合い、こういった活動が続いていくように努力していきたい。
59
日本とオランダから世界を見据える
工学部 木下 拓真
私は、本プログラムを通して私は多くのことを学びました。以下では、本プログラムで得
たことを「働くとは」と「国際社会に関する興味・関心」の2点に分けて考察します。
1. 働くとは?
一般的に日本人は「live to work」
、オランダ人は「work to live」の考えを持つ人が多いと
言われます。実際に研修を積み重ねていく中でも、日本とオランダの働くに関する環境の
違いや考え方の違いを多々実感しました。これらに共通して言えるのが、ワークライフバ
ランスに対する考え方の違いです。休暇を例に上げると、日本人は休暇制度が整備されて
いるものの、集団意識や責任感から実際に休暇を取得する人が少ないです。一方、オラン
ダ人は自らの休暇取得が多少他人の迷惑になろうとも自分の余暇や家族との時間を重んじ
る傾向にあります。以上の違いが生じる理由は、人生における選択肢の広さ・柔軟な選択
にあるのではないかと私は考えます。この選択肢の広さとは、性別・国籍に関わらず、全
ての人が家庭と仕事のバランスを自ら選択できるということです。現在の日本は、性別分
業、外国人労働者問題等の課題を抱えており、労働に関して柔軟な選択が取りにくいと言
えます。それに対して、オランダではワークシェアリングが導入されていることもあり、
労働時間に関して柔軟な選択が可能であり、女性の就業率も日本より高いです。
もちろん、多額の借金を抱え、資源も乏しい日本にワークライフバランスを考慮している
余裕はないと考える人がいるかもしれません。しかし、国民の精神的充足なくして国の発
展は成し得ないのではないでしょうか。また、ワークライフバランスの向上は企業の生産
効率を上げるというデータもあります。日本において、選択肢の広い労働環境を作ること
はワークライフバランスの充実と日本の労働生産性向上につながると私は考えます。
2.国際社会に関する興味・関心
学生会議の準備段階として日本とオランダの労働環境を調べました。そして、調査を進
めるにつれて、オランダのシステムに対してどこかで劣等感を感じ始めていました。実際、
ワークライフバランス調査や労働生産性調査では日本は下位に位置しているため、日本の
短所に目が行きがちなのは仕方が無いかもしれません。しかし、研修を進めるに連れ、日
本のシステムにも長所が、オランダのシステムにも短所があることに気づきました。この
経験から言えることは、先入観にとらわれない客観的視点が必要ということです。当然で
すが、日本国内から日本を、世界を見つめる視点と、海外から日本を、世界を見つめる視
点は違います。今後、ますます国際化していく社会で活躍するためには様々な国の、様々
な人の視点で事象を観察することが不可欠です。そして、客観的視点を持つことが独自の
視点を生み、社会にイノベーションを生むのです。
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「移民」を通して考える、
「働く」ということ
人間科学部 瀧本 裕美子
21 世紀に入り、情報機器の革新、普及にともない人々の働き方、価値観、状況は目覚ま
しい変化をみせている。日本では女性の労働参加が低いことや、過労死、派遣、そして若
者の失業など、
「働く」を巡る諸問題が噴出している。オランダはワークシェアリングをい
ち早く導入し普及させ、失業率が年々高まるヨーロッパ諸国の中で、最も低い失業率を誇
る国である。そんなオランダの企業や独立機関、そしてオランダの学生と「働くとは何か」
について議論をすることは非常に有意義であるという思いから、第2回日蘭学生会議は、”
Work to Live? Live to Work?”をテーマに行われた。
オランダの学生と実際に議論していく中で、日本にいた時よりもはるかに多くのことを
学び、考えることができた。そのうちの一つが「移民」についてである。オランダは昔か
ら多くの移民を抱える国である。近年イスラム系移民を巡る民族問題がヨーロッパ中で起
こっているが、オランダはこれから迎える高齢社会に伴う労働力不足を補うため、移民政
策を積極的に行っていく構えであるということがわかった。オランダ側のメンバーの一人
に、インドネシアからの労働移民の両親を持つ学生がいた。その彼女自身はオランダ国籍
を持っており、生まれてからずっとオランダで育ったそうだ。両親の故郷であるインドネ
シアを訪ねた時、街や道路はオランダよりも汚かったが、それでも気持ちが落ち着き、「こ
こが私の故郷なのかもしれない。
」と感じたと語ってくれた。一方で歴史に対する認識や立
場は出自であるインドネシアのものを継いでいるのではなく、むしろオランダの影響が強
いため、日本が太平洋戦争において行った侵略行為から、今も日本に対して怒りを感じる、
といったことは全くないと言っていた。
彼女と言葉をやりとりするうちに、「移民」の持つダイナミックな潜在力、そして複雑性
に気づかされた。日本では今、オランダ同様、高齢社会に伴う労働力不足の補給を、移民
の受け入れによって解消しようという策があげられている。たしかに、対応策の一つとし
て多少評価できる上、日本が世界に対し、より開かれるきっかけとなりうるだろう。しか
し「移民」を「労働力」とみなしてしまうと、日本の社会にとっても、また移民にとって
も苦しい状況が生まれてきてしまうのではないか。オランダが多少の問題を抱えつつも今
うまくいっているのは、移民を受け入れることのできる土壌、オープンさを持ち続けてき
たからであろう。例えば言語面において、オランダの国民のほぼ 9 割は英語を話すことが
できる。また、オランダ語を習得できるようなプログラムも整備されているとのことであ
る。このように、
「移民」が「住民」として暮らしていける環境について、より考えること
が必要ではないだろうか。
「働く」ということを独立したものとして切り離し、議論を進め
る一方で、「生きる」こと、「暮らす」ということと常に照らし合わせ、つなぎ合わせて考
えることが、非常に素朴ではあるが、重要であるということに気づかされた。
61
第2回日蘭学生会議を終えて
人間科学部 久保田 彩
第1回会議の企画段階から関わってきて、ずっと中心にあったのは「単なる国際交流に
は終わらない何かを」という思いであった。今回の訪蘭に当たっても、英語も勿論大切で
あるが、どこかでオランダ人だから、日本人だからという枠組みを超えて議論する瞬間を
持つことを目標としてオランダに向かった。そのために、現地でしかわからないオランダ
社会にある文脈を最大限感じ、考えるように努めた。
オランダでは、1 年半ぶりの再会、そして新たな出会いに歓喜すると共に、多くの「まま
らななさ」を経験した。今回のテーマである労働問題のような社会問題を国際比較しよう
とすると、必ずと言っていい程どちらの何が良いという方向性に進みやすい。私は、その
方向に進みたくないと思いつつも、どこかでオランダのパートタイムのシステムや多様性
は優れているといった印象を持っていたように思う。しかし、一度オランダ社会の文脈に
触れてみると、そこにはその文脈と不可分の現在進行形の問題が存在している。また、我々
の関心となる部分が相手にとって自明のこととなったり、全く注目していなかった部分が
問題として挙げられたりする。
例えば移民問題。日本ではあまりまだなじみのない問題であるが、オランダでは現在、
多様性を理想としつつも、移民排斥の風潮がある。そこには、急激に「社会や文化を変え
られてしまう」という不安が存在すると、あるオランダ人学生が指摘していた。多様性を
受け入れるということは、歴史的に我が国よりもはるかに多様なものを受け入れてきたオ
ランダにおいても、理想通りにはいかないのだ、と感じた。一方で、また別のオランダ人
学生が「社会や文化は常に変わっていくのだから、そこに固執するのはナンセンスだと思
う」と言っていた。私は、その言葉を聞いて、何故か少しほっとしたことを覚えている。
翻って日本の問題を考え、伝えようとしてみると、こちらにもまた社会の文脈と切り離せ
ない問題が存在している。そして、単純にオランダの良い点だけを社会から切り離して、
日本の文脈に移すということは、非常に困難なのである。私は、ここに大きな「ままなら
なさ」を実感した。
では、文脈と切り離せない以上議論しても無駄なのかというと決してそうは思わない。
確かに、いきなり文脈から切り取って社会を変えることは難しいが、異なる世界観、考え
方に触れることで、自明と思っていたことに疑問を持つことができ、自分の生きる社会の
中で新たな考え方を検討し始めることができる。今回訪蘭して感じたことのひとつに、社
会の変化と人々の考え方の変化は車の両輪の様なものであるということがある。簡単に社
会の仕組みだけを変えることはできないが、その考え方に触れ、少しずつ異なる見方を取
り入れていくことで、無論それは非常に長い時間がかかるが、少しずつ社会の仕組みは変
わっていくのである。
また、文脈の違いによる「ままならなさ」ゆえに、冒頭に挙げた「オランダ人、日本人
62
という枠組みを超えること」ができなかったかといえば、実は全くそう感じなかった。む
しろ、私の中では外国に行ってきたという意識がほとんどない程、その枠組みが意識に上
ることはなかった。おそらく、私が想定していた「日本人、オランダ人という枠組みを超
えること」は、どこかで共通点を見出すことだったのだ。しかし、今回の経験を通して、
それは同じであることを追求することでなく、違いを自明とした上でその違いを理由とせ
ず考えることなのだと気付いた。日本人とオランダ人、あるいは日本人間でも、文脈の違
いは必ず存在し、実際のところそれをお互いに完全に理解することはたやすくない。どこ
かで「ままならなさ」が残るのである。しかし、その「ままならなさ」をつぶそうとする
のではなく、無視するのでもなく、上手に引き受けていくこと、それがきっと「理解」の
一側面なのだろうと思う。
今回の経験を経て、今後、私はこの「ままならなさ」と付き合っていく術を身につけて
いきたいと思う。また、以上のように色々考えてみたものの、やはり言語が無いと始まら
ないのである。英語が話せないと、本質的理解以前の問題としてまず伝わらないのである。
その厳然たる事実から目をそらさずに、語学力も磨いていきたいと思う。
63
第 2 回日蘭学生会議を経て
経済学経営学科 深尾 尚吾
第2回日蘭学生会議を経て、一番感じたのは日本とオランダでの労働環境の歴然とした
差であった。それは、今回のテーマである「Work to Live, Live to Work」からも事前にあ
る程度の差は存在するのであろう考えていた。それは、経営学科で数多くの留学生と、労
働に対する概念の違いや企業経営の中の雇用面で様々な違いを学んできた中で予想はつい
ていた。 しかし、企業訪問に際しても、オランダの学生の発表からもその差を学ぶこと
は多数あった。
まず、企業訪問に際して最も驚いたのは各個人またはグループの部屋のドアを開けてお
くというものである。事前の学習などでワークシェアリング等の話は説明がされるであろ
うと考えていたが、企業の説明の中に工夫している点として上記のことが説明されたとき
は、日本企業には無いものだと思った。これは、オランダで従業員の満足度が高い「Macaw」
を訪問した際に、CFO が話したことであった。部下が上司に、経理の人間が人事へ、何か
相談をしたりする最初の段階でドアをノックすることなく、いきなり目線が合うところか
ら始まるのは非常に魅力的と感じた。それは、ドア一枚を隔てることで敷居が高くなるこ
とを考えれば話し合いの最初がスムーズに進むと考えられる。また、常にオープンである
ために周りの誰かが部屋の前を通るときに、中の人間を確認できるメリットも存在すると
考えられる。
二つ目のことは、オランダの学生の発表の際に、一番重要視されるのは、
「コネクション」
であるということであった。日本の就職活動制度のように、大学側が主催をしてセミナー
を開くことも滅多になく、基本的にこねで入れたインターンシップからの就労であるとい
うことであった。この際に、企業に直接申し込むこともあるが、誰か周りが自分の行きた
い企業に関する情報を持っていないかどうかや企業側との知り合いがいる人間を探すこと
が重要とされている。そのためには、いかに情報を獲得出来るかどうかのコネクションが
必要となってくるとされている。だからこそ、就職活動の情報源に関してどこから獲得し
たかを聞くと、日本なら多数を占める「インターネット(就活サイト)」ではなく、周りの
人間(実際の企業で働いている人々)や友達といった回答が多くの割合を占めている。
以上のように、今回の日蘭学生会議で最も学んだことは企業内での従業員に対する在り
方の差であった。それは、企業に入る前の新卒者のアプローチだけでなく、企業内に入っ
た従業員をどのようにマネジメントするかということも含んでいる。
特に、将来自分が企業の上層部に立つ立場となれば、今回学んだオランダ企業の良い側
面(例えば、上記で挙げた部屋の扉を常時開放すること)を取り入れていきたいと考えて
いる。
64
第二回日蘭学生会議を通して
―私たちにとって「自分らしく働く」とは?―
文学研究科 亀山 里津子
ひとつ上の国際経験
私が第二回日蘭学生会議を通して得たのは、今までとは違う、ひとつ上の国際経験であ
る。今回の学生会議では、今年の会議テーマである「労働」についてオランダで様々なこ
とを聞き、学び、考えた。この経験は、私が学部生時代に参加した語学留学や国際交流イ
ベントとは異なるものがあった。というのも、語学留学や国際交流では、英語を話すこと
自体や、異なる文化背景をもった友達を作ることが目的だった。しかし今回は英語を使う
こと自体が目的ではなく、英語を手段として、二国間で社会問題について真剣に議論をし
てきた。私たちは 11 日間、労働という一つのテーマに沿って、オランダの学生や教授、企
業の方々と議論を重ねた。国際的な場面でこれほど大勢の人々と一つのトピックについて
深く話し合う機会は今までになく、その点で今回はひとつ上のレベルでの国際経験ができ
たと満足している。
日本とオランダ、働き方の違い
「労働」というテーマを考える上で、オランダという国は理想的な場であった。オラン
ダは、世界初のワークシェアリング改革の国と言われ、ワークシェアリングを導入するこ
とで失業率を大幅に回復したとして世界から注目されている。そのオランダの雇用システ
ムは日本と異なる点が実に多く、学ぶところが多かった。しかも今回私たちが得たのは、
インターネットや文献で得られるような一般化された情報だけでなく、就職を控える学生
たちやリアルタイムで働く社員の方々の生の声だった。
そのような生の声を聞く中で、私が最も興味を抱いたのは、
“家庭と仕事の両立”について
である。オランダで企業を視察し、現地学生の労働観を聞くなかで最も強く感じたのは、
家族との時間や自分の時間を大事にするという姿勢だ。例えば、大企業で働く人たちが、
17 時をすぎると一斉に帰り始める様子を見て衝撃を受けた。また、社員たちが家庭との両
立のため、育児休暇や勤務時間短縮などを当たり前に受けているという話も印象的であっ
た。女性だけでなく男性も育児休暇を取る、子どもができれば勤務時間を短くするなど、
実は日本ではごく一部の職場でしか実施されていないようなことが、海を越えたオランダ
では当たり前に実践されていた。ただ、面白かったのは、オランダである企業の社員の方
の「オランダも何十年か前は日本のような働き方をしていた。」という言葉だ。皆が生き生
きと働いているように見えるオランダも、何十年か前には日本と同じように働き方に行き
詰まっていたのである。
日本とオランダの働き方の違いを日本に持ち帰った今、単に「オランダのシステムが優
れているので日本はそれを見習うべき」だとは言いたくない。今、日本ではワークライフ
65
バランスに注目が集まり、現状は少しずつだが変わりつつある。ただ、それをどう変えて
いくかはこれからの私たち次第である。職場での人間関係や仕事の仕方ひとつをとっても、
オランダと日本の文化・風土の違いは顕著であった。オランダを実際に訪れることでその
違いを目の当たりにした私たちだからこそ、これからの日本の雇用システム改善には、ワ
ークライフバランス先進国であるオランダのまねをするだけでは不十分であるということ
が理解できた。私は今後の日蘭学生会議での議論を通して、
「日本において」仕事を生き甲
斐にする人、家庭生活を一番に考えたい人、また仕事も家庭も両方欲張りたい人、皆が自
分らしく働き生活できるシステムは何か、模索したいと考えている。
自分らしく働くとは
最後に、今回のテーマである「労働」は、前回のテーマである「教育」と同様、参加者
一人一人の人生において重要な位置を占める問題であり、自分自身に引きつけて考えられ
る問題であった。特に、私は来年に就職活動を控えており、私の人生において働くことは
何を意味するのだろう?など考えさせられる所が多かった。就職難のこのご時世では、と
にかく自分を働かせてくれる職場を見つけることに必死で、
「自分らしく働く」ということ
は贅沢にも思える。そのなか、
「自分にとって働くとは何だろう?」という問いについて真
剣に考える機会を得たことは、幸せであり、有意義なことだった。
66
Work to Live? Live to Work?
外国語学部 加藤 彩乃
私が今回の日蘭学生会議に興味を持ったきっかけは、
「Work to Live, Live to Work」と
いうテーマに惹かれたからでした。スウェーデン語の授業でワークライフバランスについ
て学んだことや、海外インターンシップを運営するサークル活動を通して、
「働く」という
ことを強く意識するようになりました。誰のために働くのか、何のために働くのか、大学
生がこの問いについて考えることは、今後の人生をどのように生きたいのかを考えること
だと思います。このことについて外国の学生と話し合うことで、新たな視点や可能性が得
られたと思います。
日本もオランダも他国とは違った独特な就労制度や考え方を持っているので、調べたり
話を聞いたりするのはとても興味深いことでした。私たち日本の大学生は、日本の常識で
しか人生を考えられていないのだと、オランダの学生と話す中で実感しました。たとえば
私たちは卒業したらすぐに働き始めなければならないと思っているし、そのために三年生
からの就活を当然だと思っているし、採用された会社の業績がよっぽど悪化するか、自ら
が強く望まない限りは定年までそこで働き続けるものだと思っています。しかしオランダ
の学生が就職先を探すのは卒業間際か卒業後ですし、転職に抵抗を感じていません。印象
的だったのは、私が「卒業後に就活を始めても、卒業前の学生より不利になることはない
のか」という質問をした際、質問の意図が理解できないようだったことです。向こうでは
何ヶ月も先の採用枠なんてほとんどないので、卒業前の学生が職を探す方が難しいとのこ
とでした。新卒採用がオランダで一般的でないのはわかっていたつもりでしたが、自分が
日本の常識にとらわれていることを痛感しました。
日本とオランダを比べていると、オランダをとても羨ましく感じることが多くありまし
た。しかし、どちらの国の仕組みや考え方にも、良い面と悪い面があります。グローバル
化社会と言われる現在、私たちは日本の常識にとらわれず、様々な人生設計を考えてみて
もいいのではないかと思うようになりました。今回は日本とオランダでしたが、他の国の
人はまた違った考え方をするでしょう。私はこれまでもスウェーデンに留学して、ワーク
ライフバランス等について学びたいと考えていましたが、今回の日蘭学生会議に参加して、
その思いを強くしました。このような素晴らしい機会を与え、協力してくださった全ての
方々に感謝しています。ありがとうございました。
67
新しい体験、そして新しい課題
法学部 山田 大貴
全 11 日間の日程の第二回日蘭学生会議を通して、とても貴重な体験をすることが出来ま
した。多くのことを学ぶことが出来た一方で、同時に新たな多くの課題を発見することに
もなりました。
まず渡航して最初に感じたことは、文化が全く違うとはどういうことなのか、というこ
とです。言葉はもちろんの事、そこの人々の考え方から話し方や身振り、表情など様々な
ことが大きく異なっていて、
「文化が違う」ということを単なる概念だけでなく、実際にど
ういうことなのかを知ることが出来ました。また、そこから分かった、とても重要で、か
つ今後の自分がクリアすべき今後の課題である事があります。それは他の国の人ときちん
としたコミュニケーションを取るにはただ「言語が話せる」だけでは不十分だということ
です。オランダの人々はもちろん、僕ら日本人と全く異なる環境・コンテクストの中で今
まで育ち生活してきたので、先ほど行ったとおり考え方を始め様々な部分で大きく異なっ
ています。今までほとんどの時間を日本国内で日本人の知り合いとのみ過ごしてきた自分
にとって、最初はそのような違いに戸惑ってしまった部分があり、そこから英語の能力で
はなく、別の要素に依って自分のコミュニケーションに制限がかかってしまっていました。
「国際理解には言語だけではなく寛容さや教養といった”人間力”が必要だ」という言葉の意
味を身を持って知り、またこれが僕の今後の課題でもあることを痛感しました。
また、今回の 5 つの企業を訪問させて頂き、各企業での労働システムについて聞かせて
頂くことが出来ました。もちろん 5 社それぞれ会社によって労働の仕組みに違いもあった
のですが、全ての企業で話題に上がった言葉として、
「Flexibility(柔軟性)
」があり、この
柔軟性という性質がオランダの労働システムの最も大きな特徴であることを知りました。
もちろん業種や部署によって制限が生じる場合もあるとのことでしたが、基本的に従業員
の要望を受け、勤務日数や勤務時間を柔軟に設定することによって従業員が仕事と私生活
を両立できるように配慮されていることが非常に印象的でした。また、オランダに比べる
と日本の労働環境が従業員の仕事と私生活のバランスに配慮されているかといえばそうは
思えず、現在少子化の問題を抱える日本にとってこの労働条件の「柔軟性」について一度
検討することは大きな意義があるのではないかと思います。
今回の日程を通してこのレポートには書き切れない程の多くのことを体験し、学ぶこと
が出来ました。新しい体験をして新しい環境において新しい視点から自分を見ることが出
来、また同時にそれによって自分の新たな問題点や超えるべき課題を見つけることも出来
ました。今回得られた経験・新たに見つかった問題を糧に今後をより有意義なものにでき
たらなと思います。
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オランダでの経験
基礎工学部 磯谷 茉衣
本格的に英語を学び始めてから初めてとなる海外渡航であったうえに、日常的な会話だ
けでなく講義や討論でも英語を用いるということで、事前学習をしてはいたものの、期待
より不安を大きく抱えたままオランダに渡った。
しかし、自分から積極的に話かけていく他ない、というのが現状で、日本人とばかり話
す、という楽な方を選んでいては、この貴重な機会を無駄にしてしまう。現地の大学生と
合流した初日にこのことに気づいた私は、失敗を恐れて行動しないより、行動して失敗す
る方がよほど自分の身になる、と自分に言い聞かせた。そして、時には間違った文法を用
いて、また時には間違った単語を用いて、それでもどうにか伝えようと努力した。相手に
とっては厄介者だったかもしれないが、黙っていては何の進歩もない。幸い、グローニン
ゲン大学の学生たちは親切な方ばかりで、私のつたない英語を一生懸命理解しようと、「あ
なたが言っているのはこういうこと?」と聞いてくれたり、討論で話についていけなくな
っている時に簡単な問いを投げかけてきて私が話の輪に入っていけるようにしてくれたり、
数え切れないほど助けてもらった。そのおかげもあって、徐々にではあるが円滑なコミュ
ニケーションが図れるようになっていくのを実感する日々を送ることが出来た。失敗を恐
れず、チャレンジする。一般によく言われることであるが、このことの大切さを身をもっ
て実感することができた。
そして、このように全く異なる環境で育ってきた、全く異なる文化を持つ人々と接する
ことができるようになっていくうちに、自分がいかに狭い世界に生きているか、またいか
に固定観念に縛られているか、ということを考えるようになった。一歩外に出てみれば、
そこには見たこともないようなものがたくさんあり、出会ったことのないような人がたく
さんいるのに、自分はそれらを今まで無視して生きてきたのか。元々留学や国際理解には
興味があったが、今回の研修で、それらは今まで自分が思っていた以上に人生を変えるも
のであるのではないか、と感じた。以前の私にとっては、留学は言語を身につける為のも
の、という認識が強かったし、大学の講義などで外国について学び、知ることが国際理解
になるものだと思っていたが、現地に住み、人々に触れ、価値観を認め合うこと、つまり
自分がその土地空間の一部となることこそが留学の醍醐味であり、国際理解であるように
思った。
オランダでの経験を通してこれらのことに気づくことができたことで、私は今までより強
く留学を意識するようになった。自分の生きる世界が広がる、という今回の研修で確かに
感じたこの感覚を確かなものにするため、これからよりいっそう勉学に取り組み、長期間
の留学を実現させたいと強く感じた。
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研修で得たこと –What I obtained from JNSC人間科学部 金 夏琳
2011 年、9 月 11 日から 22 日まで 11 日間にかけて、私たち日蘭学生会議メンバーはオ
ランダの企業訪問やグローニンゲン大学の学生会議の研修に行ってきました。
企業訪問で最も感銘を受けたのは、労働者の柔軟な働き方でした。日本と同じく、オラ
ンダでも不景気による経済の問題をかかえており、近年に入って労働者の働き方に大きな
変換がみられました。経済状況が悪化し、実質賃金が低下するようになった結果、より豊
かな暮らしのためには、男性だけでなく女性も同等に働く「共働き」という新しい雇用形
態を広げていきました。しかし女性の労働市場への参入がどんどん進むにつれて、離婚の
増加、そして家族分裂など社会問題が発生していくことになり、オランダでは「働くとは
何か」が再び問われるようになりました。お金だけが目的でなく、家族を大切にし、生き
がいのある仕事が追求されるようになった、そしてそういう意識が広がる中、求められる
新しい雇用システムが考察されています。
例えば、AMRO 銀行はオランダで最も大きな金融会社であって、そこでは女性のキャリ
ア精神を積極的に活かしていることを目にしました。AMRO 銀行では現在社員の約半数を
女性が占めており、社員の家庭内の育児を考慮し、職場での労働時間に柔軟性を見出し、
男女ともに働ける環境づくりを進めていました。また、私たちの担当をして下さった
Strategy チームで活動中の女性は、AMRO 銀行は3番目の職場だといいます。彼女の上司
も彼女自身のキャリア育成と経験値をあげるために、あと1・2年後再び違う職場に移るこ
とを積極的に推薦しているといいます。それに対し、1つの会社に勤め、その会社だけに
生涯を尽くすことを一般的と見ている、韓国や日本とは断然違うのだと、実感しました。
次に訪問した Macaw は大企業の AMRO 銀行とは大きく異なっていました。オランダで
はワークシェアリングを通じて、雇用の増大と失業率の低下を実現しています。Macaw で
は、まさにこの政策を実現しているところを目にしました。日本や韓国の「非正規と正規」
による労働時間差差別でなく、フルタイマーとパートタイマーの給与のスタートラインを
同じ設定にし、均衡待遇を行うことによって、パートタイムの労働を促進していました。
また、Macaw の特徴は、職場の“Home-like(家のような)”雰囲気です。自分の部屋、ま
たは机の好きなところに家のグッズを飾ったり置いたり。また、社員の交流を深めるため
の様々な年間行事―ナイトパーティ、ハイキングなど―そして、特別な部屋を備えており、
中にはゲーム機やダーツ、ビリヤードなどと、とても職場とは思えない物が使えるように
なっていて、社員がいかに自分の仕事を楽しめるかを理解できました。
こういった営みにより、オランダには、男女雇用平等を前提として、より自己実現的で
あり、同時に家族を大事にできる働き方や、生き甲斐、働き甲斐を感じられる多様な働き
方があるのだと考えさせられました。
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会議では、ただ理想的に思えたオランダの違う面も見えてきました。「パートタイマーは
ともかく、フルタイマーの仕事にメリットが全くなくなるのは本当に良いのか」という問
いかけに、新しい思考方式があると感心しました。確かに、この問題は社会によって変わ
ってくるため、ニーズに合わせたシステムを効果的に考える必要があると考えられました。
現地の学生達との交流から学んだこともあります。会議がおわった後にはよくオランダ
のアフター6の文化として、学生皆で食事や観光を共にし、色んな話し合いをする時間を
過ごしました。ある日はオランダの飾り窓を見学する体験までしました。その異文化体験
を通じて、私はなぜ中世まで宗教大国だったオランダがこうして開放的で自由を宣言する
社会へと極端に変換したかという問いについて考えました。そこで私は、オランダの「コ
ントロール」の文化に注目をしました。
治水精神によって培われてきたオランダで最も特徴的な点の1つは、問題解決に対する
アプローチの仕方の違いです。例えば欧米の代表としてアメリカの例を挙げるとします。
社会問題のアメリカ的解決方法は、その問題の部分を摘出して削除してしまおうとする手
法を行う傾向があります。悪いものは悪いからないことにしよう、といったアプローチを
実行するアメリカの一方で、オランダでは問題の影響を極小化するために、どうやって管
理をしていくかという「コントロール」の手法をとります。オランダにとって水は最大の
問題でしたがそれを完全になくすことはできない、できるのはそれをいかに管理、制御し
てその影響を最小限に減らすか、あるいはそれと共存するかの選択肢しか与えられていな
いからです。
オランダの学生 Anne との話で彼はこう言いました。
「The Dutch government
and the nation have made society more liberal by legalizing those social problems
and, in turn, they could control them. (オランダ政府と国民は社会問題を合法化するこ
とで社会をより自由民主化し、結果として、それらをコントロールすることができるよう
になったんだよ。)」と。 オランダで「水」を削除し、なくすことが出来ないのと同じよう
に、麻薬や売春はいくら取り締まっても決して完全になくすことはできないものです。ゆ
えに、合法化、条件的な寛容政策を通じて、それらを一定の管理下におき監視することで、
犯罪を最小限に防ぐ(コントロールする)ことがより実際的だとオランダでは考えていると
いうことです。私はこのことから、自分とは全く違った社会をみつめる視点・見方を学び、
Dutch な思考方法、Dutch スタイルとはまさにこれなんだ!と感銘を受けました。いまも
この感動を忘れず、周りに伝えていきたいと考えております。
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研修で学んだこと
法学部 斎藤 理沙
日本に帰ってきてからもう随分時間が経ったが、向こうでとったメモの断片などをみて
いると、あのオランダでの日々が昨日の事のように思い出される。この研修は、上手くい
ったことだけではなく、むしろ失敗の連続で、いろいろと悩むことも少なくなかった。し
かしその分、得られたものも多く、改めて、この研修に参加できたことを心から有難く思
う。
オランダにいた間、英語が聞き取れなかったり、思うようにうまく話せなかったりする
場面が何度もあった。もっと英語ができればもっと掘り下げられるのに、と本当に悔しい
思いをした。ただ、オランダに行き、実際に現地の人々と関わることで、自分がどれだけ
できないか、特にどういうことが苦手なのか分かったことで、これから何をすればいいか
が見えてきたので、この経験を最大限生かしたいと思う
なかなかうまく話せないながらも、現地の学生と議論できたのはとくに貴重な経験であ
ったと思う。一番の収穫は、こうでなくてはならない、という自分の中の固定観念に気づ
いたことかもしれない。本で読む限りは、日本では考えられないような労働環境を実現し
ているオランダだが、実際に企業を訪問してお話を聞いたり、学生のプレゼンを聞いたり
すると、やはり日本とは大きく違うのだなと驚くと同時に、もちろん人それぞれではある
が、労働観そのものも両国で大きく異なっていると感じた。また、ただ単純にオランダは
よくて日本はダメ、と思ってしまいがちだったが、work to live or live to work をテー
マにした最後の議論で、はっきり意見が分かれたのが印象的だった。一方向からみれば、
オランダはよくて日本はだめ、といえるかもしれないが、広く長い視点でみれば必ずしも
そうではないのだと気づいた。私がこの研修で学んだことは、「これが正解である」「こう
でなくてはならない」ことなどない、ということである。そしてそれは、今後の自分の生
き方についてもいえるのではないかと気づいた。
今回の研修中、様々なオランダの企業を訪問させていただいた。その中で、よく挙がった
のは’flexibility’という言葉である。例えば、オランダのある企業では、社員がそれぞれの状
況に応じて、労働時間を柔軟に設定できるというしくみが導入されていた。様々な価値観
が存在する中で、
「柔軟性」というのは日本でも一つの大きなキーワードになっていくので
はないかと思われる。それを心に留めつつ、これからの日々を送っていきたい。
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オランダ研修から学んだこと
歯学部 高木 彩奈
日蘭学生会議では、労働をテーマに、日本とオランダでの働き方の違いや、就活制度の
違いについて学び、オランダの学生と議論を行いました。私たちは夏休みの間、日本の現
行の制度について、またその問題点と解決策について議論を重ね、プレゼンを完成させま
した。
実際にオランダでの会議に臨んで、日本とオランダでは働き方にももちろん違いがあり
ましたが、それ以前に大学での教育制度に大きな違いがあることが分かりました。
私が一番驚いたのは、オランダでは大学の中で学部を変更することが容易だということで
す。つまり、学生は自分の興味のあることを、学生の間により幅広い分野について学ぶこ
とができるのです。日本では、学部を変えることはあまり一般的ではなく、私自身もほと
んど耳にしたことがありませんでした。
また、オランダではほとんど人と人のつながり、つまりコネを最大限に利用して就職を
行うので、日本のように就活自体がビッグイベントというわけではないのです。日本では
どうしても、人よりも早く、いい会社の内定をもらいたいという思いから大学生活の半分
ほどの時間を就活に費やす学生もいます。しかし、それでは大学での勉強にはなかなか集
中できないことが、大きな問題だと思います。私は、今回の研修から、働く以前の教育の
体制として、日本はオランダに学ぶべき点が多いなと感じました。
オランダでは、街を歩いていると、ほとんどの店が午後5時から6時の間に閉店してし
まいます。大きなスーパーでさえそうでした。日本では午後8時や9時まで営業している
店が多く、そういった生活に慣れていたため、オランダにきて非常に驚きました。しかし、
よく考えてみると、ここにもオランダ人、多くのヨーロッパ人の気質や、働き方を見て取
ることができました。労働者はきっちりと働く時間とプライベートの時間を分けており、
その分効率的に働いているのです。プライベートの時間は主に家族と一緒に過ごし、両親
が子供の教育に熱心に関わっていることも理解できました。
日本では残業というシステムがあるため、どれだけ仕事をしていたかの時間で評価され
がちだと思います。しかしそれでは労働者の負担が重くなるばかりで、仕事によるストレ
スが増え、家族との関係もうまくいかなくなると思います。これからは日本でも効率よく
仕事をこなせる人が評価されるべきだと、オランダの働き方を見て思いました。
また、今回の研修に参加して、実際外国の人とコミュニケーションを図り、自分の英語
を聞き取る能力の低さを実感しました。また、議論の場においても、自分の主張をする前
に、相手の主張を理解することはすごく大切なことだと分かりました。自分の英語力に対
する課題が見つかったので、留学するなどしてさらに英語力を磨き、次の会議では一回り
成長した自分を見せられたらいいなと思いました。
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My precious days in Netherlands
外国語学部 辻 葉子
英語を勉強し始めて7年目。これまで様々な形で英語に携わってきたが、今回ほど相手
に何かを伝える「手段」としての英語に奮闘したことはなかった。初めて経験することば
かりの 10 日間。私にたくさんのことを気付かせてくれた 10 日間。今度第 2 回日蘭学生会
議に参加できたことに、心から感謝したい。
「働くこと」をテーマとすることは、私たちが将来について考えるということでもあっ
た。失業率が低迷を続ける日本に対して、目覚ましい回復を見せるオランダ。この秘密は
いったい何なのか。オランダの企業 5 社を訪問し、働く現場を自分たちの目で確認するこ
とによって、日本との働き方の違いがよく分かった。事前に調べていた通り、オランダは
ワークシェアリングを本格的に導入している。これは、パートタイマーがフルタイマーと
同等の待遇を受けて働けるということである。また私が驚いたことは、彼らが仕事中のコ
ーヒーブレイクの時間を非常に大切にしているということだ。各フロアにそういったスペ
ースが設けられていたり、会議室には必ず飲み物とお菓子が用意されていたりした。ある
いは、EU の中で一人あたりのガス消費量が最も多いガス会社に訪問した際、私は衝撃を受
けた。各階に芸術家の作品を展示、階段はレインボーカラー、天井は全面ガラス張りだっ
たからである。これほど素敵で変わった建物を私は見たことがなかった。もし日本で会社
としてこのような建物を設計してみたらどうだろうか。費用がかかる、必要ないと一瞬で
罵倒されるであろう。しかし、案内してくださった方は堂々とした様子でこう述べた。「身
体に張り付いているのが一枚目の肌。身にまとう衣服が二枚目の肌。そして建物が三枚目
の肌よ。だから心地よくて快適なものにしなくてはならないの。
」
この 10 日間で最も実感したことは、
自分に英語で会話する力がないということだ。
まず、
相手の言うことが正確に理解できないときがたくさんあった。5 名の方々の講義を受けて質
問することもかなり困難で、自己嫌悪に陥ったりもした。今後は、多少のオランダ訛りも
克服できるくらいの英語の聞き込みが必要だと痛感した。そして、会話をする上でテンポ
よく返事をすることの大切さに気がついた。会話の上手い人は、無意味な沈黙を作らない。
私は考えているうちに間があいてしまってばかりだったので、それを克服して次回の会議
に臨みたいと思う。
そして同時に、国際事情へもっと関心を寄せて知識を増やさなければならないと感じた。
オランダの学生も日本人の先輩方も、国際的な政治、経済問題等に関して詳しく、私はし
ばしば話について行けなかった。やはり常日ごろから世界に目を向けて、情報に敏感であ
ることが重要だと感じた。海外へ行く意義として私が強く思うのは、自分の欠点に気付か
されることによって、成長するチャンスが得られるということである。今回の旅において
も、次回はもっと話をしてもっと学び取りたいという意欲しか残らなかった。次また必ず
リベンジすると心に決めている。
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第2回日蘭学生会議を通して得たこと
人間科学部 水川 佐保
私がこの研修で得たことは、新しい考え方、今後の目標、そして、最高の思い出です。
まず、新しい考え方には、毎回の企業訪問・学生会議で出会うことができました。オラ
ンダでは、仕事に対する向き合い方が変わりつつあります。社員に自らの働く時間帯や、
働く場所を自分で選ぶ自由を与えよう、という概念です。そのような自由を得るためには、
もちろん自己管理の責任が伴いますが、仕事以外の時間も充実させ、効率的に働くために
は重要な考え方だと思います。他にも、企業で行われている様々な工夫を学べました。中
小企業の Macaw のアットホームな社内環境や、Gasunie の芸術性溢れる開放的なデザイン
の職場が特に魅力的で、働きやすさは、様々な観点から考えられることに気が付きました。
メインの学生会議では、日本と異なるオランダの working system に驚かされました。例
えばオランダでは、パートタイムとフルタイムの間に賃金の差別がなかったり、働く目的
は主としてお金であったり、就活は、日本のように就活サイトに頼ること無く自分で探し
ます。このような新しい知識から、ディスカッションを通して新しいアイデアを考える作
業はとても勉強になりました。
ところで、私はオランダで、自分に満足のいった日は全くありませんでした。毎日楽し
く過ごしてはいたものの、常に英語がなかなか聞き取れず、また、話せないことへの自己
嫌悪に陥っていました。行く前から、これは語学留学ではないのだから、英語は話せて当
たり前!という意気込みでいたのにも関わらず、全然ダメで余計に落ち込みました。しか
し、この、自分の能力不足を実感したことは、私にとって必要なことだったのだと思って
います。大切なのは、この自己嫌悪に対して今後自分がポジティブに向き合い、改善して
いくことだと思っています。
この研修に参加する前から、留学には興味があったのですが、研修を終えて、留学にい
ってみたいと思う気持ちはさらに強くなっています。今の英語も、ディスカッションも下
手な私のままでは、終わらせたくないからです。研修で、自分のダメな部分がよく分かっ
たことで、それを克服したい!という今後の目標ができました。その目標をクリアした上
で、第3回日蘭学生会議にもぜひ参加できたら…と思っています。
最後になりましたが、私はオランダで多くの最高の思い出を作ることができました。た
だいるだけでも楽しくなるようなオランダの素敵な街の中で、日蘭学生会議の最高のメン
バーの方々とおいしいレストランに行ったり、バーに行ったり、オランダ人の家でディナ
ーを作ってもらったり、BBQ をしたり、サイクリングをしたり、観光でいろいろな所へ行
ったり、はしゃいだり、笑ったり…で、本当に充実した、special な 12 日間を過ごすこと
ができました。今までで、最高の夏でした!この学生会議に関わってくださった全ての方々、
特に学生会議の運営側の先輩方に感謝して、私の感想を終わらせていただきます。ありが
とうございました。
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第7章
事後活動
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1.学内報告会
<概要>
日
時:2011 年 11 月 9 日 16:30~18:00
場
所:大阪大学豊中キャンパス スチューデント・コモンズ
テ ー マ:”Work to live? Live to work?”
参加人数:35 人
<内容>
最初に、日本とオランダの就職活動について、私たちが第2回日蘭学生会議で学んだこ
とを発表した。日本の就職活動は、終身雇用制度や新卒一括採用、就活の早期化やイベン
ト化といった特徴がある。日本の就活の長所としては、企業の情報を手に入れる機会がた
くさんあり、大学のサポートもあることが挙げられる。短所としては、早期化のせいで学
業や他の活動がおろそかになることや、インターンシップなどがあまり普及しておらず、
様々な職業の実情に触れる機会が少ないことが挙げられる。一方、オランダの就職活動は
日本とは全く異なり、人脈をたよりに行われることが最大の特徴である。大学は学生の就
職活動の手助けをほとんどしないので、学生が主体的に行っている。就職時期も自分で決
められるため、自由ではあるが、人脈での就職活動では、友達の多さなどが結果を左右す
ることとなり、不公平だという欠点もある。
次に、実際に私たちがオランダでの研修を通じて学んだ、オランダの労働環境について
のプレゼンテーションを行った。オランダは先進国の中でも突出してパートタイマーの数
が多く、その背景にある 1980 年代の経済的大不況や、ワッセナー合意について説明した。
オランダではパートタイマーも正規雇用として扱われるなど、日本のパートタイマーとは
大きな違いがある。また、彼らパートタイマーが男女ともに増えたことにより、男性はよ
り家庭に従事できるようになり、女性は社会に進出できるワークライフバランスのとれた
社会が形成されるようになった。
最後に、オランダで実際に企業訪問させていただいた企業の写真などを用いながら、オ
ランダでの労働環境についての説明を行った。日本のオフィスとは大きく異なり、ラフな
格好で仕事をしている様子が見て取れた。
以上のプレゼンテーションを行った後、参加者と日蘭学生会議のメンバーでオランダと
日本の働き方の違いについてのディスカッションを行った。
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2.学外報告会
<概要>
日
時:2011 年 11 月 25 日 19:00~21:00
場
所:京阪なにわ橋駅 アートエリア B1
テ ー マ:ワークライフバランスから”働く”を考える
参加人数:69 人
<内容>
第2回日蘭学生会議では、世界初のワークシェアリング改革の国と言われるオランダで、
人々がいかに柔軟に働き方を選択しているかを学んだ。しかし、オランダのシステムをた
だ日本に導入することで、果たして日本の労働状況は改善するだろうか?というのが今回
の報告会の出発点である。オランダのような労働形態を目指すのなら、今までの日本の働
き方を大幅に変える必要がある。しかし、日本らしい働き方を全て捨てることは可能なの
か?私たちが抱いたこの問題について、実際に働いている方々とより現実的に話し合うこ
とが議論の発展に繋がるという思いを持ち、今回の学外報告会は行われた。
報告会では、まず、日蘭学生会議及び第2回会議における議論の概要を報告した。さら
に、前年度同様、ディスカッション形式を採用することで参加者と意見交換を行った。
議論はまず、オランダと日本の仕事観の違いから始まった。もっとも違いが表れやすい
のは、労働時間である。オランダでは労働者は毎年3週間ほどの長期休暇をとるのが普通で
ある。それに対して日本は有給休暇の取得はおろか、残業が日常的に行われるなど、日本
人の働きすぎは世界からも問題視されるほどである。しかし、一方でオランダの労働形態
では夜や土日になると一斉に店が閉まるため、消費者としては不便なことも多い。日本で
は年中当たり前のように様々なサービスを享受できる。労働時間をはっきり線引きし、各
人の生活スタイルに合わせることがワークライフバランス向上への第一歩であると考える
と、この違いは日本におけるワークライフバランス達成の大きな障害であると言える。
この違いの原因は何だろうか?単に国の規制の違いだという意見の一方で、国民がそれ
を望んでいるからだという声があった。日本にはいまだに古くからの「働かざるもの食う
べからず」という考え方が根付いている。与えられた職場で一所懸命働くのが社会人の義
務であるという考え方だ。店を長時間開けることが会社の利益につながるのなら、そうす
ることを選ぶ。他の国に比べて働くことに対する忠誠心や義務感が特に重要視され、
“働く”
ことのかたちが凝り固まっているとも言える。それに対してオランダでは、仕事よりも家
庭を優先することに対して、当たり前の権利だという考え方がある。
そもそもこの価値観の相違は、
「なぜ働くのか?」という根本的な問いへの、両国の意識
の違いから引き起こされるのではないか。議論を深めていくなかで、
「日本人は働くことで
社会とのつながっているという感覚を得る」という意見が持ち上がった。実際にオランダ
で働いていた参加者から、日本では仕事場で一生の仲間ができるのに、オランダでは仕事
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仲間の関係性は非常にドライであり、それより家庭や地域との関わりで仲間を得ていた、
という話があった。
つまり、日本では社会とのつながりの取りかたがオランダと異なるのだ。日本で働いて
きた人々にとってワークとライフは切り離せるものではなく、ワークは社会とつながる手
段であり、ライフの一部であった。実際、参加者のなかで、
「お金が必要なくても働く」と
いう考え方が目立った。オランダではワークとライフの線引きは比較的明確で、ワークシ
ェアリングによりワークの分量を調節することで、ワークライフバランスを向上してきた。
しかし、今までの日本に多く見られた、仕事で生き甲斐を得る人々、職場で人生における
仲間を得る人々にとって、勤務時間を減らすという点でのワークライフバランス向上はそ
れほど重要ではなかった。なぜなら彼らにとってワーク=ライフであり、仕事での充実感
により人生のバランスはとれていたからだ。
ところが考えなくてはならないのは、今まで述べたような日本的仕事観のなかで仕事本
意の男性と調和をとるため仕事をあきらめた女性が多くいたのではないか?ということで
あり、また、今の若者は同じ考え方を持っているだろうか?ということだ。働きたいとい
う意欲を持つ人々を働かせることはこれからも重要である。しかし一方で、働きたくても
働けない人がいることも現実だ。家庭の時間をもっと持ちたいという考え方も増えている。
変容していく価値観のなか、これからは、一人一人がどのような形であれ、できるかぎり
個人の望む形で社会とつながっていられる環境づくりが求められている。
今回の学外報告会では、参加者から「働く事に関して考える良いきっかけになった」と
いう声が多く寄せられた。ワークライフバランスという近年注目されているトピックを糸
口に「働くとは何か」真剣に話す場を提供することで、参加者各人が自分自身の働き方、
ひいては生き方について考えることができた。また、様々な世代の参加者が意見を交換し
合うことで、従来の仕事観に疑問をもつきっかけにもなった。今回扱った労働の問題は日
本の未来にも密接に関わる社会問題であり、今日ますます深刻化する労働問題は私たち一
人一人が真剣に考えなければ解決に至る事はない。今回は、その第一歩として、社会に対
して問題提起ができたのではないかと考える。
また、参加者だけでなく、私たち日蘭学生会議にとっても得たものは大きかった。これ
まで学生同士で話していた中では出なかった、社会人ならではの切り口や仕事観を聞く事
ができた。同時に、社会人の方の生の声を聞く事で、伝統的な日本的仕事観が今でも根強
く支持されていることを知った。日蘭学生会議の最終目的は社会に提言する事である。よ
り現実的な提言をするため、日本の現状や労働者の価値観を知ることはなくてはならない
ステップであり、今回のイベントが有意義であったことは間違いない。
(文責:亀山)
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3.GLOCOL プレゼンコンテスト
<概要>
日 時:2011 年 12 月 2 日
場 所:大阪大学豊中総合学館
<内容>
GLOCOL(大阪大学グローバルコラボレーションセンター)が主催するプレゼンテーシ
ョンコンテストに、日蘭学生会議から 1、2 年生 4 名が参加した。学生や本学の教授、さら
には学外から参加している審査員の方々の前で、日蘭学生会議の目標と活動内容について
プレゼンテーションを行い、その結果、
「審査員特別賞」を受賞した。また、審査員の方々
から、プレゼンテーションをする上において、1.) トピックの文章に注意を払い、聞き手の
興味を引き出すこと 2.) 広く浅く紹介するよりある程度絞った内容を深く解説するプレゼ
ンテーションの方が明快で分かりやすくなる というアドバイスを頂いた。今回のコンテス
トで頂いたアドバイスを今後の日蘭学生会議におけるプレゼンテーションに活かしていき
たい。
4.第3回日蘭学生会議
<概要>
日 時:2012 年 8 月下旬
場 所:日本
<内容>
第3回日蘭学生会議は 2012 年の夏に日本で開催することが決定している。第2回同様、
ゲストスピーカーによる講演、スタディーツアーを通して、問題の実情を観察する。また、
学術的交流に加え、文化的交流を深めることで、オランダ学生に日本文化を発信し、日本
学生側も自国の文化を再認識したいと考えている。第3回日蘭学生会議では、第1回・第
2回日蘭学生会議を受け継ぎながらも、新たなアイデアを取り入れ、より密度の濃い会議
内容を実現する。
また、第3回会議をより充実させるために、英語会や基礎セミナー等の従来の活動に加
え、新たなプログラムの実施を計画している。
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第8章
お世話になった
方々
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お世話になった方々
第2回日蘭学生会議の開催にあたり、以下の方々には大変お世話になりました。この場を
借りて、厚く御礼申し上げます。また、ここにお名前を記載しきれませんでしたが、本団
体の活動を様々な形で応援して下さった多くの方々にも、心より御礼申し上げます。
<助成団体(アルファベット順・敬称略)>
国立大学法人 大阪大学(平成23年度学生海外研修助成事業)
国立大学法人 大阪大学(創立80周年課外活動奨励費)
独立行政法人 国際交流基金
独立行政法人 日本万国博覧会記念機構
財団法人 双日国際交流財団
<後援団体(アルファベット順・敬称略)>
ABN-AMRO Bank
Gasunie
グローニンゲン大学
グローニンゲン大学日本研究センター
カフェフィロ
KLMオランダ航空
国立大学法人 大阪大学
国立大学法人 大阪大学 グローバルコラボレーションセンター
国立大学法人 大阪大学 グローニンゲンセンター
Labour Foundation
Macaw
三菱重工株式会社
在大阪・神戸オランダ領事館
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<協力頂いた方々(アルファベット順・敬称略)>
氏名
Eddie Lycklama a
Nijeholt
藤原 守
Herman Voogsgeerd
所属・役職
Gasunie
大阪大学 核物理センター 准教授
Lecturer, International and European Labour Law,
University of Groningen
弘津 禎彦
大阪大学 グローニンゲンセンター センター長
本間 直樹
大阪大学コミュニケーションデザイン・センター 准教授
Janny de Jong
Jan van de Jarst
Associate professor and Director, Studies Erasmus Mundus
MA Euroculture
Jean Monnet Chairholder, the History and Theory of
European Integration, University of Groningen
Julien Rikkoert
在大阪・神戸オランダ領事館 職員
片山 歩
大阪大学 グローバルコラボレーションセンター 特任職員
肥塚 隆
在オランダ日本国大使館 大使
松川 絵里
大阪大学 コミュニケーションデザイン・センター特任研究員/
カフェフィロ
宮原 暁
大阪大学 グローバルコラボレーションセンター 副センター長
中島 花子
大阪大学 国際交流オフィス学生交流推進課 学生交流企画係
中野 生穂
大阪大学 グローニンゲンセンター 副センター長
大澤 玄
大阪大学 国際企画推進本部 特任事務職員
Rien T. Segers
Professor and Director, Center for Japanese Studies,
University of Groningen
中岡 成文
大阪大学 文学研究科 教授
瀬戸山 晃一
大阪大学 国際教育交流センター 准教授
齋藤 千尋
大阪大学 外国語学部 学生
清水 和希
大阪大学 外国語学部 学生
中川 雅道
大阪大学 文学研究科 学生
新居 良太
大阪大学 理学研究科 学生
滝野 晃將
京都大学 農学研究科 学生
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<助成団体ロゴ>
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