Embargoed Advance Information from Science The Weekly Journal of the American Association for the Advancement of Science http://www.aaas.org/ 問合せ先:Natasha Pinol ____________________202-326-7088 __npinol@aaas.org Science 2007 年 5 月 4 日号ハイライト 心臓病に遺伝子が関与 水星の核を巡る問題 アルツハイマー病のタウ 懐かしのわが家へ 超伝導量子ビットの結合 より細かな測定には量子「物差し」? 論文を引用される際には出典が Science および AAAS であることを明記してください。 Genetic Link to Heart Disease(心臓病に遺伝子が関与):2 つの研究グループにより、白人 において冠動脈疾患のリスクを増大させる DNA 部位が特定された。欧米諸国で死因第 1 位 を占める心疾患については、喫煙といったライフスタイル要因がリスクを増大させることが 知られている。しかし、遺伝的要因も何らかの役割を演じていることが判明した。Ruth McPherson らおよび Anna Helgadottir らはそれぞれの研究で、genome-wide association scanning と呼ばれる方法を用いた。彼らは冠動脈疾患患者、心臓発作を起こした患者、そして「対 照」として健常者のゲノムを調べ、ゲノム全体に渡って数千個にのぼる DNA マーカーの解 析を行った。これらのマーカーは「SNP(一塩基多型)」と呼ばれる(塩基配列の中でたっ た 1 つの塩基の違いによって遺伝子の多型性が生じる)。著者らは、心疾患に関与する 9p21 染色体上の遺伝領域を同定した。いわゆる「リスク対立遺伝子」と呼ばれる 2 つのコ ピーを持つ被験者(白人の約 25%)はコピーを持たない被験者と比較して心疾患に罹患す る確立が 30~40%高かった。コピーを 1 つ持つ被験者ではリスクは若干低かった。この対 立遺伝子が冠動脈疾患を引き起こすメカニズムはまだ解明されていない。興味深いことに、 9p21 染色体の遺伝領域における配列変化が、2 型糖尿病のリスクを増大させることが、つい 先頃判明したばかりである。 論文番号 21:"A Common Allele On Chromosome 9 Associated With Coronary Heart Disease," by R. McPherson, N. Kavaslar and A. Stewart, R. Roberts at University of Ottawa Heart Institute Ottawa, Canada; A. Pertsemlidis, H.H. Hobbs and J.C. Cohen at University of Texas Southwestern Medical Center Dallas, TX; A. Pertsemlidis, H.H. Hobbs and J.C. Cohen at University of Texas Southwestern Medical Center Dallas, TX; D.R. Cox and D.A. Hinds at Perlegen Sciences Mountain View, CA; L.A. Pennacchio at Lawrence Berkeley National Laboratory Berkeley, CA; L.A. Pennacchio at U.S. Department of Energy Joint Genome Institute Walnut Creek, CA; A. Tybjaerg-Hansen at Copenhagen 論文番号 20:"A Common Variant on Chromosome 9p21 Affects the Risk of Myocardial Infarction," by A. Helgadottir, G. Thorleifsson, A. Manolescu, S. Gretarsdottir, T. Blondal, A. Jonasdottir, A. Jonasdottir, A. Sigurdsson, A. Baker, A. Palsson, G. Masson, D. Gudbjartsson, K.P. Magnusson, V.M. Backman, S. Matthiasdottir, T. Jonsdottir, S. Palsson, H. Einarsdottir, S. Gunnarsdottir, A. Gylfason, J.R. Gulcher, U. Thorsteinsdottir, A. Kong and K. Stefansson at deCODE genetics Inc in Reykjavik, Iceland; K. Andersen at National University Hospital in Reykjavik, Iceland; A.I. Levey, V. Vaccarino, W.C. Hooper, H. Austin, A.A. Quyyumi and G. Thorgeirsson at Emory University School of Medicine in Atlanta, GA; M.P. Reilly and D.J Rader at University of Pennsylvania School of Medicine in Philadelphia, PA; C.B. Granger and S.H. Shah at Duke University School of Medicine in Durham, NC Mercury’s Core Issues(水星の核を巡る問題):水星の核は、少なくとも一部は溶解状態に あるという。この小さな惑星の内部構造の解明は、30 年前の驚くべき内部磁場の発見以降、 謎のベールに包まれたままである。関連する Perspective で Sean Solomon は、金星にはこの ような磁場は全く存在しておらず、火星と月ははるか昔に存在していた名残をとどめている に過ぎないと説明している。質量は地球のわずか 5%という水星の核は、固形化あるいは磁 場を生み出す核の対流が発生しなくなるまでに冷却したと考えられてきた。最近では熱モデ ルを基に、液体から固体まで、様々な核の特徴が推測されている。Jean-Luc Margot らは、レ ーダーの信号を目標とする惑星に当て、惑星の回転に伴い反射してくる信号中の不規則なパ ターン、いわゆる「スペックル」を検出する「レーダースペックル干渉計(radar speckle interferometry)」と呼ばれる技術を使って水星の回転力学を調べた。これによって得られた 惑星の回転軸、震動、軌道に関するデータに基づいて、水星のマントルが少なくとも一部溶 解状態にある核とは無関係に振る舞っていると著者らは提案している。 論文番号 7:"Large Longitude Libration of Mercury Reveals a Molten Core," by J.L. Margot at Cornell University in Ithaca, NY; S.J. Peale at University of California, Santa Barbara in Santa Barbara, CA; R.F. Jurgens and M.A. Slade at Jet Propulsion Laboratory in Pasadena, CA; I.V. Holin at Space Research Institute in Moscow, Russia. The Tau of Alzheimer’s Disease(アルツハイマー病のタウ):大半のアルツハイマー病治療 研究は β アミロイドペプチドに焦点を当てているが、今回、マウスを使った研究から、タウ 蛋白質の体内産生を 50%減少させることで、同疾患に伴う認知機能の障害を防げることが 明らかになった。アルツハイマー病は最も一般的な認知症の一種である。患者の脳にはタウ 蛋白質の沈着物が絡んだニューロンと β アミロイドのプラークが存在する。しかし、これら が同疾患の特徴である精神的機能障害にどのように関与しているのかは未だ解明されていな い。Erik D. Roberson らは、タウがニューロンの健康において重要な役割を担っており、タ ウを減少させることでアルツハイマー病やその他の神経疾患を防ぐことができる可能性を示 している。なお今回のマウスモデルではタウ減少によるマイナス影響は何ら見られなかった。 論文番号 16:"Reducing Endogenous Tau Ameliorates Amyloid Beta-Induced Deficits in an Alzheimer's Disease Mouse Model," by E.D. Roberson, K. Scearce-Levie, J.J. Palop, F. Yan, I. Cheng, T. Wu, H. Gerstein, G-Q. Yu and L. Mucke at University of California, San Francisco in San Francisco, CA. Fish Return to Reef Sweet Reef(懐かしのわが家へ):サンゴ礁に生息する魚の幼生の大部 分は、大海原で数週間~数カ月を過ごし、成長した後再び「懐かしのわが家」に戻ってくる という。この知見は、生物多様性および漁業管理計画の一環として、最適な海洋保護区を設 計する上で有用である。サンゴ礁に生息する魚の幼生は非常に小さく、また外洋で数カ月を 過ごしながら成長するため、追跡することは困難である。今回、Glenn Almanyと国際研究チ ームは、パプアニューギニアのキンベ湾にある 0.3km2のサンゴ礁において、母魚から子魚へ 伝えられる珍しい安定同位体で幼生に標識をつける方法を用いた。Almanyらは、異なる生 殖習性を持つ 2 種類の魚を追跡した。1 つは、生殖から数日後に孵化し、外洋で約 11 日間を 過ごすオレンジクラウンフィッシュ(Amphiprion percula、Pomacentridae)である。もう 1 つ はフウライチョウチョウウオ(Chaetodon vagabundus、Chaetodonitadae)である。同魚は、 大半の海生魚類と同様に配偶子を海中に放出し、その幼生は海洋で 1 カ月以上過を過ごす。 論文番号 14:"Local Replenishment of Coral Reef Fish Populations in a Marine Reserve," by G.R. Almany, M.L. Berumen and G.P. Jones at James Cook University in Townsville, QLD, Australia; M.L. Berumen at University of Arkansas in Fayetteville, AR; S.R. Thorrold at Woods Hole Oceanographic Institution in Woods Hole, MA; S. Planes at Ecole Pratique des Hautes Etudes-ESA CNRS in Perpignan, France; S. Planes at Université de Perpignan in Perpignan, France. Superconducting Dynamic Qubit Coupling(超伝導量子ビットの結合):研究者らは、2 つの 超伝導フラックスのビットの結合を中間的な状態の量子ビットを用いて同時にオンとオフで きることを証明した。大規模な量子情報処理の実現における重要なステップは、個々の量子 ビット間の相互作用を制御する方法を学び、同時に、コヒーレンスを保持することである。 Antti Niskanen らが報告したような量子ビットの結合により、コンピュータ回路の簡略化と 細分化が実現し、システム全体をとおして、コヒーレンスをさらに保持できるようになるで あろう。著者らは、量子アルゴリズムの実行によるコヒーレンスの保持について説明してい る。 論文番号 8:“Quantum Coherent Tunable Coupling of Superconducting Qubits,” by A.O. Niskanen, K. Harrabi, Y. Nakamura and J.S. Tsai at CREST-JST in Saitama, Japan; F. Yoshihara, Y. Nakamura and J.S. Tsai at RIKEN in Saitama, Japan; Y. Nakamura and J.S. Tsai at NEC Fundamental and Environmental Research Laboratories in Ibaraki, Japan; A.O. Niskanen at VTT Technical Research Centre of Finland in VTT, Finland; S. Lloyd at Massachusetts Institute of Technology in Cambridge, MA. A Quantum “Ruler” for Smaller Measurements?(より細かな測定には量子「物差し」?): 精密測定の新しい手法では、量子力学を用いて従来の手法の限界を克服するという。多数の 粒子が、たとえ空間中で離れている場合でさえ、いかにして常に共に変化するのかを説明す るエンタングルメント(もつれ)という量子的特性により、精密測定が向上し、従来の物理 技術で達成可能な域を超すであろうと期待されている。より小さなサイズをより正確に測定 するには、より細かい目盛りのついた物差しが必要である。光学技術では、その「物差し」 は干渉縞間の間隔である。従来の方法では、より短い波長の光を用いて、より細かい干渉縞 を得ているが、この方法は通常、概して、用いる光の波長に制限される。エンタングルメン トを用いる新しい方法では、「N」個の光子をエンタングルメント状態にすることは、 「N」分の 1 へ波長を短縮することに相当することが示唆されている。これまでに、エンタ ングルメント状態にある 2 つの光子では、これが可能であることが示されている。しかし、 光子の数を増やすのは困難であった。今回、永田智久らは日本と英国で、4 つの光子をエン タングルメント状態にし、それらが通常の量子限界を克服できることを示した。これは、こ の効果を活用したより精密な測定が原則として可能であることを証明している。 論文番号 9:“Beating the Standard Quantum Limit with Four-Entangled Photons,” by T. Nagata, R. Okamoto, K. Sasaki and S. Takeuchi at Hokkaido University in Sapporo, Japan; R. Okamoto and S. Takeuchi at Japan Science and Technology Agency in Saitama, Japan; J.L. O'Brien at University of Bristol in Bristol, UK.
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