画像符号化にみる国際標準化の歴史 - y

画像符号化にみる国際標準化の歴史
小野 文孝
早稲田大学 国際情報通信研究センター
E-mail:
ono@image.t-kougei.ac.jp
あらまし
2 値画像,静止画像,動画像の国際標準化の歴史についてその技術的側面並びに標準化作業の側
面から紹介し,今後の符号化標準活動の課題についても考察する.
キーワード
2 値画符号化, 静止画符号化, 算術符号,国際標準
Reviewing the History of International Standardization in Image Coding
Fumitaka ONO
Global Information and Telecommunication Institute
Waseda University
E-mail:
ono@image.t-kougei.ac.jp
Abstract It is about 35 years after the adoption of Facsimile G3 coding method which was the first international standard
using digital image coding technology. After the adoption of G3, the target image was extended from binary to still color and
video. In this report, the history of image coding standards is reviewed and its future is prospected.
Keyword binary image coding, still image coding, arithmetic code, international standard
1. ま え が き
ィ フ ァ イ ド ハ フ マ ン 符 号 で は 2000 程 度 ま で の ラ ン で
1970 年 代 に 画 像 の デ ィ ジ タ ル 化 が 開 始 さ れ ,2 値 ,多
あ っ て も 記 憶 す べ き 符 号 の 種 類 が 各 色 約 100 で 済 む と
値,動画の順でその符号化検討が進んできた.標準化
いう利点がある.審議の結果白と黒のランに異なる符
に つ い て は G3 フ ァ ク シ ミ リ が 嚆 矢 で あ り , 標 準 化 が
号 を 利 用 で き る モ デ ィ フ ァ イ ド ハ フ マ ン 符 号 は 7%程
ビジネス市場を誕生させた好例として知られる.また
度圧縮率がよく,標準に採用されることとなり,この
そ の 後 JPEG 標 準 ( ITU-T T.81| ISO/IEC10918-1) や
1 次 元 方 式 が G3 フ ァ ク シ ミ リ の 必 須 方 式 と な っ た .
MPEG-2 標 準 に つ い て も 標 準 化 の 成 功 例 と し て 取 り 上
さて,オプションとなった 2 次元符号化方式を日本
げられることが多い.本報告では各画像カテゴリーの
で は G3 符 号 化 の 本 命 と 考 え て お り こ の た め 国 内 で は
標準化について振り返ると共に今後の展望についても
郵 政 省 の 指 導 の 下 , NTT,KDD,CIAJ 所 属 メ ー カ が 各 方
考察する.
式 を 提 案 し 評 価 を 行 う こ と に な っ た .そ の 結 果 ,KDD
2 値画像の符号化標準
2.
2.1
G3 フ ァ ク シ ミ リ 標 準
1972 年 の 回 線 開 放 を 契 機 と し て フ ァ ク シ ミ リ の 入
力・記録方式,ディジタル圧縮符号化,モデム技術等
の 高 性 能 化 ・ 実 用 化 が 急 速 に 進 み , CCITT で は 1980
年 の G3 国 際 標 準 の 制 定 を 目 指 し て , 符 号 化 標 準 の 検
討が進められることになった.
まず 1 次元符号化であるが主流はランレングス符号
化であり日本ではランレングスの計数値を利用した
Wyle 符 号 化 を 想 定 し て い た . こ れ に 対 し イ ギ リ ス の
BFICC と 米 国 の EIA か ら は ラ ン の 長 さ を 64n+m( 0≦
m≦ 63) で 表 現 し 64n を 表 す メ イ ク ア ッ プ 符 号 と , m
を表すターミネイティングコードを組み合わせて送信
するモディファイドハフマン符号が提案された.モデ
提 案 の RAC 方 式 と ,NTT 提 案 の EDIC 方 式 と を 基 に し
た READ 方 式 が 日 本 統 一 案 と し て 誕 生 し 1978 年 12 月
の CCITT 会 合 に 提 案 さ れ た .こ の 場 に は 同 様 の 考 え に
基 づ く IBM 方 式 も 提 案 さ れ , 審 議 の 結 果 READ が
comparison code と 位 置 付 け ら れ 1979 年 11 月 の 京 都 会
合で最終審議を行うことになった.京都会合では追加
で 5 方式の提案があり計 7 方式の審議が行われた.そ
の 結 果 READ に 他 の 方 式 の ア イ デ ィ ア を 取 り 入 れ ,よ
り 簡 易 化 し た MR 方 式 が 誕 生 し 国 際 標 準 と な っ た
1)
.
フ ァ ク シ ミ リ は G3 の 制 定 を 機 に 大 き く 市 場 を 伸 ば
す こ と に な っ た . 2012 年 4 月 に G3 フ ァ ク シ ミ リ が
IEEE マ イ ル ス ト ー ン の 認 定 を 受 け た
2)
のはまさにこ
の急速な普及に基づくものである.
し か し ,1988 年 の 時 点 で 5000 億 円 市 場 へ と 伸 長 し ,
生 産 金 額 で は 前 年 比 30%増 ,生 産 台 数 で 同 じ く 67%増
する形で文書を交換するのが一般的になった.
と 順 調 に 成 長 し て い た フ ァ ク シ ミ リ 市 場 が 翌 1989 年
さ て , G4FAX は 1984 年 に 最 初 の 国 際 標 準 化 が 行 わ
に は 何 と 生 産 金 額 で 前 年 の 5%減 , 生 産 台 数 で も 前 年
れ , ISDN な ど の デ ィ ジ タ ル 回 線 の 利 用 に よ る 高 速 伝
の 3.4%減 と い う 信 じ ら れ な い 急 落 を 見 せ る こ と に な
送と,高い解像度設定による高画質を売り物に大企業
3)
.これは国内市場においてはファクシミリが殆ど
を 中 心 と し た 普 及 が 見 込 ま れ て い た .G4FAX で は 誤 り
のオフィスにほぼ行き渡った結果であり,機器ごとに
の 再 送 が 行 わ れ る の で MR で は 必 要 な ラ イ ン 同 期 信 号
電話回線への接続が必要という条件が職場への増設に
を除くなどさらなる効率化が可能であった.この方式
おける障害要素となって現れたといえる.その結果,
を MMR 方 式 と 呼 ん で お り , G4FAX の ほ か , G3FAX
以後のビジネス機市場は買い替え需要が中心となり,
の誤り訂正モードでも使用されている.
る
台数ベースでほぼ横ばい状況が続くことになった.
さて,市場の急成長に魅かれ通信・電機・家電・精
実 は G4FAX で は G3FAX と 同 様 の ビ ッ ト マ ッ プ デ ー
タの送受信機能をクラス 1 とし,文字(テレテックス
密の分野から多くの企業が参入していたファクシミリ
で 符 号 化 )と グ ラ フ・写 真 等( フ ァ ク シ ミ リ で 符 号 化 )
市場において,生き残りを図るための活路として注目
の混在文書を扱う機能(ミクストモード機能)をその
さ れ た の が 家 庭 向 け の G3FAX と G4FAX で あ っ た .
上 位 で あ る ク ラ ス 2/3 と 定 義 し て い た . ミ ク ス ト モ ー
ま ず FAX の ホ ー ム ユ ー ス で あ る が オ フ ィ ス で は 当
ド機能は文字のみが取り扱える初期のワープロソフト
た り 前 と な っ た G3FAX も , 当 時 は 家 電 と し て は 高 価
の機能を上回るものであった.これらの標準の策定に
で あ り , 家 庭 間 FAX 通 信 の 需 要 も 限 ら れ て い た た め ,
当 た っ て は OSI 参 照 モ デ ル に 従 う 7 層 の 通 信 機 能 に 応
家庭への普及は遅々として進まなかった.一つの解決
じ , G4 を は じ め と す る VTX 等 の テ レ マ テ ィ ー ク 端 末
策が高価格であった入出力部分のコスト低減であり,
を す べ て 含 め た プ ラ ッ ト フ ォ ー ム を 記 載 す る DTAM
そ の た め に A4 原 稿 を 受 信 し て も 記 録 時 に は 縮 小 記 録
( Document transfer and manipulation) を 設 計 す る と い
を行うことで出力部の低廉化と装置の小型化を実現す
う 方 針 が と ら れ た .DTAM は ISO と ITU-T の 共 通 標 準
る Note Fax が 標 準 化 さ れ た .ま た 放 送 電 波 で フ ァ ク シ
となりそれぞれの会合で審議を行うという極めて過密
ミ リ 信 号 を 送 信 す る TV-FAX に も 期 待 が 寄 せ ら れ た が
なスケジュールの下で標準化が進められた.しかし,
結 局 実 現 ま で 至 ら な か っ た .こ う し て 家 庭 へ の FAX の
ク ラ ス 1 に つ い て も 肝 心 の ISDN 回 線 の 普 及 が 思 う に
普 及 は 電 話 機 に FAX 機 能 が 当 た り 前 と な る ほ ど 低 価
任 せ ず ,折 角 G4 機 を 設 置 し て も G4 機 能 で の 交 信 相 手
格化が進む時代まで待たねばならないこととなった.
は社内などに限定されることとなった.また,ミクス
2.2
G4 フ ァ ク シ ミ リ 標 準
4)
さてオフィスでの文書作成に注目すると英米では
タイプライタが古い歴史を持ち,その後電動タイプラ
イ タ を 経 て 80 年 頃 か ら ワ ー ド プ ロ セ ッ サ が 一 般 的 に
な り 80 年 代 の 半 ば に は MS-DOS 上 で 動 く Word Perfect
が 登 場 し 高 い シ ェ ア を 占 め た .そ の 後 Windows の 普 及
と と も に Windows 版 の Word Perfect と Microsoft Word
がシェア争いでしのぎを削るようになった.一方日本
のオフィスでは文書は手書きがふつうであったが日本
語 ワ ー プ ロ の 専 用 機 が 80 年 代 後 半 か ら ス タ ン ド ア ロ
ン で 使 わ れ 始 め ,PC の 普 及 と と も に 専 用 機 か ら PC 上
の 文 書 作 成 ソ フ ト へ と 移 行 し , Windows 版 の 一 太 郎 が
高いシェアを占めるようになった.
作成された文書ファイルはオフィス内で互いにや
りとりし編集できることが望ましい.このため文書作
成ソフト自体も事実上の標準化に向かわざるを得ず,
英 米 で は Microsoft Word が 事 実 上 の 標 準 の 位 置 を 占 め
トモードの仕様決定においてはまだ未成熟であった文
書作成ソフトの機能やその操作性を考慮する必要があ
り 殆 ど の メ ー カ で は G3FAX の 延 長 上 と い え る G4 ク ラ
ス 1 ま で し か 製 品 化 を 行 え ず , ク ラ ス 2/3 に つ い て は
特定機関の試作にとどまった
5)
.
こ の よ う に G4FAX の 標 準 作 成 に 投 じ ら れ た エ ネ ル
ギーは莫大なものであり,オフィスに必要な文書作成
機能まで先取りしていたにも関わらず,実際にはほぼ
使 わ れ る こ と の な い ま ま ,G4 は そ の 役 目 を 終 え た と い
え ,現 在 の よ う に 文 書 通 信 は E メ ー ル に 文 書 作 成 ソ フ
ト を 添 付 す る 形 に 至 っ て い る .な お ,ISDN 上 で G3 と
同程度の簡易なプロトコルを規定し装置の複雑化の緩
和 を 図 っ た G3bis 規 格 が 1989 年 に 英 国 よ り 提 案 さ れ た
が反対する国も多く結局承認には至らなかった.
このような情勢下で,市場開拓の努力は必然的に多
値静止画応用分野へと向かうこととなった.
2.3
JBIG 誕生の経緯と JBIG2 の標準化
る よ う に な る と , 日 本 語 で も や は り Microsoft Word が
G3 符 号 化 の 2 次 元 方 式 の 審 議 に お い て 最 終 的 に 評
トップシェアを占めるようになった.通信においては
価の対象となった 7 方式のうち 6 方式が変化点符号化
当 初 は RTF や BinHex な ど の フ ァ イ ル 形 式 に 変 換 し ,
方 式 で あ り 1 方 式 が マ ル コ フ モ デ ル 方 式 (TUH 方 式 )で
テキストデータとみなせるようにして E メールで送信
あ っ た .し か し ,TUH 方 式 は 周 辺 4 画 素 参 照 に よ る 16
していたがやがて E メールに各種文書ファイルを添付
通りのコンテキストを 6 通りに縮退し仮想予測誤り付
与でラインごとに終端していたため本来の性能が得ら
パターンマッチングと称する,パターンマッチングで
れず,変化点方式の後塵を拝していた.
の置き換え誤差を追加送信する技術も採択されており,
そ の 後 , 後 述 す る JPEG 標 準 の 審 議 に お い て 2 値 と
ロスレスも実現できる.実は,パターンマッチングを
多値の共通符号化の実現が困難と判明したことから
利 用 し た 符 号 化 は CCITT に お い て G3 符 号 化 の 標 準 化
JPEG か ら 分 離 す る 形 で JBIG(Joint Bi-level Image
に続いて提案されたことがあったが当時は時期尚早と
Group)チ ー ム が 誕 生 し , 2 値 画 像 の 新 た な 標 準 化 が 開
みなされ標準化に至らなかった経緯がある.なお,
始 さ れ た .JBIG で は MH/MR で は 実 現 が 不 可 能 で あ っ
JBIG2 は PDF の 符 号 化 と し て も 採 択 さ れ て い る .
た プ ロ グ レ ッ シ ブ 表 示 用 符 号 化 を 前 提 と し ,TUH で の
MH/MR/MMR か ら JBIG,JBIG2 と 2 値 画 像 の 標 準 化
仮想予測誤り付与を算術符号で避け,変化点符号化で
が進むにつれ符号化の装置規模は複雑化するが符号化
は圧縮が難しいハーフトーン原稿への高い適応性を
性能は各種の画像に対し順に向上するといえる.
Adaptive Template で 実 現 す る 標 準 を 策 定 す る こ と に な
っ た . こ の 新 た な 標 準 は 策 定 チ ー ム 名 か ら JBIG 標 準
( JBIG-1) と 呼 ば れ る こ と に な っ た
6)
.
3. 静 止 画 像 の 符 号 化 標 準
3.1
VTX 標 準
JBIG の 基 本 は マ ル コ フ モ デ ル 符 号 化 と 算 術 符 号 の
多値の静止画符号化についてもその最初の標準は
組み合わせであり,マルコフモデル符号化では参照画
アプリケーションに基づくものであり,ファクシミリ
素の最適組み合わせの検討が課題であり,算術符号で
では実現困難な情報検索機能を達成するために,どの
は如何に簡易化を図りつつ効率を保つかが課題となっ
家庭にもあるカラーテレビをソフトコピー端末として
た.またプログレッシブ符号化に伴う符号化効率の低
使い,通信路として電話線を利用する情報提供サービ
下 を 防 ぐ た め に DP( 絶 対 予 測 ) や TP( 典 型 予 測 ) な
ス と し て 考 案 さ れ た の が ビ デ オ テ ッ ク ス ( VTX) で あ
どの技術が採用された.
る .イ ギ リ ス で は 1979 年 か ら プ レ ス テ ル と い う シ ス テ
算 術 符 号 と し て は IBM の Q-Coder , 三 菱 電 機 の
ム が 商 用 化 さ れ て お り ,日 本 で も 70 年 代 後 半 か ら 日 本
MELCODE,AT&T の Minimax-coder の 3 通 り の 算 術 符
電 信 電 話 公 社 を 中 心 に 研 究 が 開 始 さ れ た .CCITT で は ,
号化方式が提案されていたため,早期に 3 方式を一本
1980 年 の 勧 告 S.100( 後 の T.100)で ビ デ オ テ ッ ク ス 業
化 し JBIG と 同 時 期 に 検 討 さ れ て い た JPEG も 含 め て 共
務として共通に使用される機能と図形表示のためのオ
通 の 算 術 符 号 を 採 用 す る こ と が JBIG・ JPEG 共 通 の 認
プ シ ョ ン 機 能 と が 規 定 さ れ , 次 の 会 期 で は 新 SGVIII
識 と な っ た . な お 統 一 化 後 の 名 前 と し て は QM-coder
( テ レ マ テ ィ ー ク 端 末 の た め の 端 末 装 置 ) の 課 題 24
を使用することが早期に決められていた.算術符号の
の 中 で VTX の プ ロ ト コ ル が 審 議 さ れ た . VTX の 国 際
統一化には熾烈な議論が繰り広げられたが結局 3 機関
標準化にあたっては,日本,北米,欧州からそれぞれ
の そ れ ぞ れ が 有 す る 技 術 を 取 り 入 れ た QM-coder が 誕
CAPTAIN , NAPLPS , CEPT と い う 異 な る 3 方 式 が
生した
7)
.また特許使用の対価として 3 機関への等額
の一時金の支払いが生じることとなった.
CCITT に 提 案 さ れ て い た .そ し て フ ァ ク シ ミ リ の 場 合
と は 異 な り ,1984 年 に は こ れ ら の ロ ー カ ル 標 準 の す べ
な お , JBIG の 標 準 化 の 最 終 段 階 で FAX へ の ア プ リ
て が CCITT 標 準 と し て 認 め ら れ る こ と に な っ た .こ れ
ケーションの必要性が重要視され,必ずしもプログレ
は決して安易な結論ではなく,当時想定されていた情
ッシブ表現を行わなくてもよいモードも規定されるこ
報検索は,天気予報,電車時刻表,電話番号などに限
と に な っ た .こ う し て JBIG の 標 準 化 が 行 わ れ G3 フ ァ
られ,テレビ放送の走査方式の相違や,海外の情報提
ク シ ミ リ 用 の プ ロ フ ァ イ ル を 制 定 し た 結 果 , JBIG は
供元にアクセスする際の国際電話のコストなどの問題
G3 フ ァ ク シ ミ リ の オ プ シ ョ ン 符 号 化 と し て も 認 定 さ
もあり,サービス自体が高い地域性を有していたこと
れ , JBIG を 搭 載 し た FAX は ほ ぼ 同 時 期 に 採 択 さ れ た
がその背景にあった
V.34 規 格 の 33.6kbps モ デ ム の 搭 載 も あ わ せ て 業 界 で は
インターネットとは異なるローカルなサービスであっ
ス ー パ ー G3FAX と 呼 ば れ る こ と と な っ た .
たといえる.また,当時のディスプレイの仕様や通信
JBIG の 標 準 化 に 続 い て JBIG2 8) の 審 議 が 開 始 さ れ た .
これはパターンマッチングを特徴とするもので,文字
3)
.つ ま り ,当 時 の VTX は 現 在 の
環境から来る制作画像の制約のため,汎用的なコンテ
ンツ制作が課題として残った.
原稿に対して既出の文字との同一性を判定し同一であ
さて,国際標準化がなされたものの,日本における
る時は既出の文字に置き換えることによりロッシーで
キャプテン,英国のプレステル,カナダのテリドンな
はあるが高い効率を実現するものである.またパター
ど の VTX シ ス テ ム は い ず れ も 伸 び 悩 む こ と と な っ た .
ンマッチング判定は周期的なハーフトーン画像にも適
この大きな理由の一つは,画像の表示が受信時のみに
用が可能でありハーフトーン画像でも大きな圧縮性能
限られることであった.つまり,当時はメモリがまだ
の 向 上 が 実 現 で き る . な お , JBIG2 の 標 準 に は ソ フ ト
高価で取得情報の蓄積がままならず,電子データが残
らないソフトコピー画像はまさに「まぼろし」に過ぎ
述 べ た よ う に 並 行 し て 審 議 中 の JBIG と も 共 通 の 方 式
なかった.勿論,コストの点からもフル画面のカラー
を 採 用 す る こ と に な り QM-coder が 策 定 さ れ 採 用 さ れ
ハードコピーの出番はまだ見込めない状況であった.
ることになった
7)
.
そ の 後 part2( compliance test) で 膨 大 な 種 類 の テ ス
ま た 画 像 符 号 化 の 観 点 か ら は 上 記 し た よ う に VTX 画
像は人工画像であり自然画像の符号化が課題となった.
ト デ ー タ を 網 羅 し part3( Extensions)で は 適 応 量 子 化 ,
な お ,フ ラ ン ス は 同 国 の VTX シ ス テ ム で あ る テ レ テ ル
タ イ リ ン グ , SPIFF ( Still Picture Interchange File
の使用を喚起しようとして端末(ミニテル)を無償配
Format) な ど の 拡 張 機 能 を 規 定 し た . こ の 結 果 い わ ゆ
布し紙の電話帳発行をとりやめている.
る オ プ シ ョ ン の 部 分 が part1 と part3 と に 分 か れ て し ま
3.2
JPEG 誕生の経緯とその規格内容
さ て ,CCITT で は 1984 年 に VTX の 標 準 化 を 終 え た
う こ と に な っ た . ま た part4 で は JPEG profile や
Application marker の 登 録 を 規 定 し て い る .
後 , 1985 年 の 会 期 か ら 課 題 18 と し て New Image
Communication( NIC) Group を 発 足 さ せ た .
一 方 ISO/TC97 で は そ れ よ り 以 前 の 1982 年 の 9 月 に
3.3
1)
画像符号化チームの派生と JPEG 標準の普及
画像符号化チームの派生
画 像 符 号 化 を 担 務 と す る WG8 を 発 足 さ せ て い た が ,
JPEG の 標 準 化 が ほ ぼ 固 ま っ た こ と を 受 け て 本 稿 で
1986 年 の 3 月 に こ れ ま で の 審 議 の 仕 切 り 直 し の 形 で 検
は 既 に 述 べ た JBIG が 1988 年 8 月 に 分 離 独 立 し ,動 画
討 が 再 ス タ ー ト を 切 る こ と に な っ た . そ こ で NIC と
を CD-ROM に 記 録 す る と い う 応 用 を 目 的 に し て MPEG
ISO/TC97/WG8 は 1986 年 11 月 の Parsippany 会 議 か ら
( Moving Picture Experts Group)が 1988 年 5 月 か ら ス
画 像 符 号 化 標 準 化 の 共 同 作 業 を 開 始 し た .こ れ が JPEG
タートした.さらにマルチメディア情報の表現に関す
( Joint Photographic Experts Group) と い う チ ー ム の 誕
る 標 準 化 を 行 う MHEG( Multimedia Hypermedia Experts
生 で あ り , そ の 目 的 は Digital Photovideotex の 符 号 化
Group)が 1989 年 5 月 に 生 ま れ , そ れ ぞ れ が 独 立 に 活
方式の策定であった.
動を行うことになった.これらの 4 チームはその後
JPEG で の 審 議 に は ,当 初 多 く の 方 式 が 提 案 さ れ た が
1990 年 4 月 に SC2 の 中 で 独 立 の WG と な り , 1991 年
最 終 的 に は 米 ・ 欧 ・ 日 か ら そ れ ぞ れ 提 案 さ れ た ABAC
11 月 に は JTC 1 の 中 に 新 た に SC29 が 設 け ら れ , そ の
( Adaptive Binary Arithmetic Coding), ADCT( Adaptive
中 の 独 立 WG と し て 活 動 す る こ と に な っ た .こ の よ う
Discrete Cosine Transform ) , BSPC ( Block Separated
な画像符号化標準化組織の体制整備は新しいビジネス
Component Progressive Coding)の 3 方 式 に 絞 り 込 ま れ ,
の誕生を予測させるものであり,大きな期待が寄せら
こ れ ら を 評 価 し た 結 果 , 1988 年 1 月 の Copenhagen 会
れたが必ずしもすぐにマーケットに結びついたわけで
合 で ADCT 方 式 が 選 ば れ た
9)
.
もなかった.
さ て DCT が JPEG の 基 本 方 式 と な り ,す べ て の JPEG
デコーダが備えるべき必須仕様の名称をベースライン
2) JPEG の 応 用 分 野
とすることとなったが,引き続いていわゆるオプショ
さ て JPEG が 標 準 化 さ れ た も の の そ の 利 用 ビ ジ ネ ス
ンとされる機能も審議することとなった.この時点で
は な か な か 育 た な か っ た 理 由 の 一 つ は「 JPEG で は 画 像
はオプションを別のパートとする発想はなくいずれも
が汚くなるので使えない」という思い込みであり,た
Part1 に 記 載 す る こ と と な っ た .
とえば画像関係の企業の筆頭である印刷会社からもま
まずベースラインは符号化による歪みを許容した
ったく相手にされなかった.また,カラーファクシミ
ロッシー符号化であるが,符号化による歪みを伴わな
リは,ファクシミリメーカ各社の開発計画として常に
いロスレス機能も標準としては備えておいた方がよい
(モ ノ ク ロ )フ ァ ク シ ミ リ の 先 に 位 置 づ け ら れ て い た も
と い う こ と に な っ た .し か し ,DCT 方 式 の 復 号 に は 受
のの興味を示すユーザは少なく精々アパレル産業程度
信側の演算精度に依存する要素があるため,ロスレス
であった.
符 号 化 に つ い て は 結 局 DCT を 使 わ ず 空 間 予 測 方 式 を
こ う し て ,有 効 な ビ ジ ネ ス も な く 苦 し ん で い た JPEG
用 い る こ と と な っ た .空 間 予 測 は DCT と は 全 く 共 通 性
の前に救世主ともいえる形で登場したのがディジタル
がないためロスレス機能にはインディペンデントファ
カ メ ラ で あ っ た .1995 年 に 初 め て 液 晶 の モ ニ タ を 搭 載
ンクションという用語が用いられている.
したディジタルカメラが発売されて以来,メモリの低
さてベースライン機能にはエントロピー符号化と
価 格 化 ,PC の 普 及 が あ と 押 し を し て デ ィ ジ タ ル カ メ ラ
3)
.お か げ で ,
してハフマン符号があれば問題はなかったがオプショ
市場は飛躍的な伸びを示すことになった
ン機能のエントロピー符号化としては算術符号がより
ディジタルカメラにおける画像符号化標準の地位を占
望ましかったことから算術符号化についてもオプショ
め て い た JPEG も 大 い に そ の 恩 恵 を 被 る こ と に な っ た .
ンとして採用することになった.これについては既に
さ ら に そ の 後 の イ ン タ ー ネ ッ ト の 普 及 に よ り , JPEG
はインターネットでの静止画符号化のデフォルト標準
劣 る が よ り 簡 易 的 装 置 で 実 現 し た こ と , JPSearch は 画
として活躍の確固たる場を得ることになり,2 値でも
像検索機能といえる.
多 値 で も ま ず は JPEG が 使 用 さ れ る 状 況 を 迎 え た .
な お JPEG を 利 用 し た 動 画 符 号 化 で あ る モ ー シ ョ ン
JPEG に つ い て は 多 く の 私 的 な 仕 様 が 林 立 し て し ま い ,
あとから標準化を行うことは困難であった.この教訓
は 後 の 標 準 で あ る JPEG2000 に 活 か さ れ , モ ー シ ョ ン
JPEG2000 と い う 規 格 を 早 期 に 規 定 す る こ と に な っ た .
特許問題
3)
1) JPEG LS
JPEG LS の 標 準 化 は ,JPEG の ロ ス レ ス 符 号 化 で は 極
めてシンプルな予測符号化が殆ど審議なしに取り入れ
られたため,圧縮率の点で充分改良の余地があるであ
ろうという見解に基づき開始された.提案された 9 通
りの方式の中には周波数変換符号化も含まれていたが,
より圧縮性能の高い予測符号化を中心に審議が進めら
JPEG の 標 準 化 に お い て も G3 フ ァ ク シ ミ リ と 同 様 に
れ ,JPEG の ロ ス レ ス 符 号 化 を 充 分 し の ぐ 方 式 が 規 定 さ
少なくともベースラインは無償実施を前提として審議
れ た . 算 術 符 号 に つ い て は JPEG と は 異 な る も の が
が 進 め ら れ た も の の 周 知 の よ う に JPEG の 普 及 後 に
part2( 拡 張 ) に 採 用 さ れ , 必 須 機 能 の part1 で は 規 則
Philips 社 と Forgent Networks 社( 当 初 Compression Lab
的ハフマン符号が採択されている.標準化の詳細につ
社が保有)からランレングス符号化特許についての実
い て は 文 献 11)を 参 照 い た だ き た い .
施料請求が生じ大きな話題となった.
こ の 問 題 は JPEG の 後 継 標 準 の JPEG 2000 に も 影 響
を 与 え , JPEG 特 許 と 類 似 の 問 題 を 危 惧 し た ユ ー ザ が
JPEG 2000 の 特 許 に 対 し て も 必 要 以 上 に 慎 重 と な っ て
し ま う と い う 現 象 を 導 い た .ま た JPEG XR で も 標 準 文
書にはマイクロソフト以外の機関の特許の記載があり,
標準の普及の妨げになったとする意見もある.
な お , 後 述 す る 動 画 標 準 で は MPEG で は MPEG LA
と呼ばれる特許プールが有効に機能している.動画は
特許が有料でも成り立ち,静止画ではロイヤリティフ
リーとせざるを得ないという現象は動画では一般ユー
ザの多くはコンテンツを受信するのみであるのに対し,
静止画ではディジタルカメラの例を見ても一般ユーザ
は受信者であると同時に送信者であること,また,動
画ではパッケージビジネスとして他業界からコンテン
ツ収入が期待できるのに対し静止画では自業界に閉じ
る,つまり,静止画では特許の支払い者と受け取り者
はいずれも装置の製造業者となり特許料をやり取りす
る手間だけ無駄ということなどが主因と考えられる.
JPEG の 特 許 問 題 が 起 き た 後 は ,静 止 画 で も 動 画 と 同 様
にパテントプール制をとる方がよいのではという意見
2) JPEG 2000
JPEG LS の 審 議 で 提 案 さ れ た 周 波 数 変 換 方 式 の 中 に
は,ロッシー符号化,ロスレス符号化のいずれでも
JPEG の 性 能 を 上 回 る も の が あ っ た た め ,ロ ッ シ ー ,ロ
ス レ ス を 共 通 ア ル ゴ リ ズ ム で 実 現 し JPEG で も JPEG
LS で も 実 現 さ れ て い な い ロ ッ シ ー ト ゥ ロ ス レ ス の 符
号化機能をもつ新たな標準の策定が俎上に上ることに
なった.またインターネットの普及によりオールマイ
テ ィ 的 性 能 を 要 求 さ れ る こ と に な っ た JPEG の 様 々 な
問題点を新たな標準で解決したいという要望もあった.
当 時 は ,西 暦 2000 年 を 前 に「 ~ 2000」と い う 言 葉 が 当
時 流 行 し て い た た め , 新 標 準 の 名 称 は JPEG 2000 に 決
まった.
JPEG 2000 の 標 準 化 の 経 緯 に つ い て は 文 献 12)に 詳
述 さ れ て い る . JPEG 2000 は デ ジ タ ル シ ネ マ に 採 用 さ
れたほか,パスポートや運転免許証,アーカイブ,医
用画像などの分野で活用されている.特にアーカイブ
のように必ずしも 2 値ではない画像の符号化に高い評
価 を 得 て い る . し か し な が ら JPEG チ ー ム と し て こ れ
まで最大の参加者数を集めたプロジェクトとしてはま
だその期待の大きさには応えていないともいえる.
も出ているが大勢とはなっていない.
な お ,G3FAX で は 日 本 と し て MR 符 号 化 方 式 に 関 す
3) JPSearch
る特許の無償提供を行ったが現実には海外から特許権
JPSearch は 他 の JPEG フ ァ ミ リ ー 標 準 と は 少 し 異 な
侵害を訴えられる事態が発生し,多くの企業が特許料
り,画像の検索目的とするものである.現状では画像
を支払う事態になっている
3.4
10)
.
JPEG ファミリー標準
JPEG 標 準 以 降 の SC29/WG1 JPEG SG で の 標 準 を 一
般 に JPEG フ ァ ミ リ ー 標 準 と 呼 ん で い る . 以 下 に そ の
内容について紹介する.これらの実現機能をまとめる
と JPEG LS は ロ ス レ ス・ニ ア ロ ス レ ス 機 能 ,JPEG 2000
は ロ ッ シ ー ト ゥ ロ ス レ ス 機 能 と JPEG よ り 高 い ロ ッ シ
ー 機 能 ,JPEG XR は JPEG 2000 の 機 能 を 効 率 と し て は
データに対するメタデータは人が個別に与えざるを得
ないわけであり,メタデータが各アーカイブ特有の管
理となってしまうためにデータの移動が容易ではない
と い う 問 題 が あ る .こ れ に 対 し MPEG で 検 討 さ れ て い
る MPEG-7 な ど で は 汎 用 的 メ タ デ ー タ 体 系 を 制 定 し そ
の利用を促すことで,課題を解決しようとしているが
必 ず し も 広 範 な 支 持 は 得 ら れ て い な い . JPSearch は シ
ステムレベルの着眼点に基づき,多様なスキーマを共
存させ,異なる体系下での情報交換・相互アクセスを
可能とすることを目指したものである.なお,詳細内
が 行 わ れ て い る JPEG Privacy は ,主 に イ ン タ ー ネ ッ ト
容 に つ い て は 文 献 13) の 解 説 が 詳 し い .
で共有される画像を対象とし,付随する個人情報等の
保 護 を 目 的 と す る ,日 本 提 案 の ワ ー ク ア イ テ ム で あ る .
4) JPEG XR
JPEG XR は Microsoft が 提 唱 し Vista 以 降 の Windows
に 搭 載 し て い る 画 像 符 号 化 方 式 HD Photo を ベ ー ス と
JPEG を は じ め と す る 各 種 規 格 フ ァ ミ リ ー へ の 適 用 が
考えられており,仕様検討の具体化が進んでいる.
す る 符 号 化 標 準 で あ る . 特 に WG1 と し て 方 式 募 集 を
し て い た わ け で も な い 時 期 に Microsoft か ら 提 案 さ れ
た た め 委 員 会 の 内 部 で も 議 論 が あ っ た が ,JPEG・JPEG
2000 と の パ フ ォ ー マ ン ス 比 較 で は 装 置 の 複 雑 さ も 画
質も両者の中間に位置していたため,委員会の審議の
中で方式の修正要望が生まれた場合はそれに応じるこ
と,特許を無償提供すること等を前提とし審議が開始
された.結果的にはオリジナルの提案に若干の修正が
あ っ た が ,HD Photo で も ほ ぼ 等 価 な 復 号 が 可 能 と な る
方 式 が 開 発 さ れ て い る .JPEG XR の 技 術 的 詳 細 に つ い
て は 文 献 14)を 参 照 い た だ き た い .
5) 現 在 審 議 中 の 標 準
4. 動 画 符 号 化
4.1
テレビ会議用符号化
動画符号化の国際標準としては当初テレビ会議や
テレビ電話をアプリケーションとして想定していた.
そ の 最 初 の 標 準 が H.261 で あ り CCITT に よ り , 1990
年に勧告として承認された.
こ の 勧 告 は 動 き 補 償 ( MC) と , 離 散 コ サ イ ン 変 換
(DCT)と を 組 み 合 わ せ た , 最 初 の 国 際 標 準 で あ り , そ
の 後 に 規 格 化 さ れ た H.263 や H.263+,H.264,MPEG-1,
MPEG-2,MPEG-4 な ど ,数 多 く の 動 画 像 圧 縮 方 式 の 基
礎 と な っ て い る .そ の 後 の 標 準 で も 動 き 補 償 + DCT の
JPEG XR に 続 い て 成 立 し た プ ロ ジ ェ ク ト は AIC
大 枠 は ほ ぼ 不 変 で あ る が 1991 年 に 標 準 化 さ れ た
(Advanced Image Coding)で 画 質 評 価 の 標 準 化 と そ れ に
MPEG-1 で は ,1/2 画 素 (ハ ー フ ペ ル )精 度 の 動 き 補 償 が
関連して高いパフォーマンスを持つ符号化方式の開発
導 入 さ れ ,2003 年 に 承 認 さ れ た ITU-T 勧 告 H.264 で は ,
を 課 題 と し て い る . こ れ は MPEG で の AVC の 成 功 が
1/4 画 素 精 度 の 動 き 補 償 が 導 入 さ れ る な ど 画 質 改 善 が
刺激になり静止画の符号化についてもいわば究極の符
進んでいる.
号化標準を目指したものであった.しかしながら全メ
H.261 で は ISDN 上 で の テ レ ビ 会 議 に 利 用 す る こ と
ンバーのコンセンサスが得られるような進め方に至ら
を 想 定 し , 符 号 化 ビ ッ ト レ ー ト と し て 64kbps 〜
ず,残念ながら活動が滞っている.
1.92Mbps の 間 を 64kbps 刻 み で 指 定 す る こ と が で き る .
現 在 JPEG の プ ロ ジ ェ ク ト で 最 も 関 心 が 高 い の が
当時は,出力端末をテレビジョンの受像機と考えてい
JPEG XT で あ る .こ れ は 各 コ ン ポ ー ネ ン ト が 8 ビ ッ ト
た た め NTSC や PAL な ど の 各 種 信 号 方 式 に 対 応 で き る
を 超 え る 精 度 を 有 す る HDR( High Dynamic Range) 画
中間的な共通画像フォーマットを策定する必要があり,
15)
な ど を 用 い て LDR( Low
352×288 画 素 の CIF(Common Intermediate Format)と そ
Dynamic Range)の デ ィ ス プ レ イ へ の 表 示 も 可 能 と す る
の 1/4 の 176×144 画 素 の QCIF(Quarter CIF)が 規 定 さ れ
も の で あ る . JPEG XT に は 3 機 関 か ら の 提 案 が あ り ,
ている.
像に対しトーンマッピング
現時点ではそのいずれをも採用する方向で進んでいる.
そ れ ぞ れ の 規 格 は 異 な る part と し て 記 述 さ れ る 見 込 み
でありプロファイルなどの規定が必要と考えられてい
る . デ ィ ジ タ ル カ メ ラ の 符 号 化 方 式 に つ い て は JPEG
が 依 然 独 占 状 態 に あ る た め , 従 来 の JPEG 受 信 機 で も
一部復号が可能でかつ高ダイナミックレンジ画像の送
信やロスレス符号化を小さな実装規模で実現できる
JPEG XT へ の 期 待 は 高 い と い え る .
ま た JPEG フ ァ ミ リ ー 標 準 の 中 で フ ァ イ ル フ ォ ー マ
ットやトランスポートメカニズムなどの仕様の統一化
を 目 指 し た JPEG Systems も 最 近 発 足 し た . さ ら に は
JPEG フ ァ ミ リ ー 標 準 を 用 い た 拡 張 現 実 感 提 供 サ ー ビ
スにおけるコンポーネントレベルのインタフェース,
ファイルフォーマット,アプリケーション記述等を規
定 す る JPEG AR プ ロ ジ ェ ク ト も 発 足 し て い る .
なお,以前より新たなプロジェクト候補として検討
4.2
蓄積媒体用符号化
既 に 述 べ た よ う に JPEG の 標 準 化 が 一 段 落 し た と こ
ろ で MPEG チ ー ム が 発 足 し 蓄 積 媒 体 向 け の 標 準 化 が 開
始された.このため早送りや巻き戻し機能が符号化方
式 に も 要 望 さ れ る こ と に な っ た . MPEG シ リ ー ズ で は
MPEG-1 が ビ ッ ト レ ー ト 1.5Mbps 以 下 , 続 く MPEG-2
が 10Mbps ま で と い う 棲 み 分 け で 検 討 が 開 始 さ れ た が
10Mbps 以 上 で 検 討 予 定 で あ っ た MPEG-3 が MPEG-2
の 策 定 時 点 で 中 止 に な り ,64kbps 以 下 で 検 討 を 予 定 し
て い た MPEG-4 も ビ ッ ト レ ー ト と は 無 関 係 に 搭 載 技 術
の審議を行うこととなった.
MPEG-2 は DVD,地 上 波 デ ジ タ ル 放 送 に 採 用 さ れ ,極
めて大きな社会的インパクトを生んだといえる.また
よ り 高 性 能 な MPEG-4 part10AVC (H.264)は ワ ン セ グ 放
送 に 採 用 さ れ て い る .AVC よ り さ ら に 高 性 能 な HEVC
についてはスーパーハイビジョンのほか高性能性を利
参考文献
用して無線配信での利用も想定されている.また,
MPEG で は オ ー デ ィ オ 符 号 化 の 標 準 化 に も 対 応 し て い
1)
る ほ か ,MPEG-7 で 画 像 検 索 機 能 を 標 準 化 し ,MPEG-21
で E-commerce な ど の 画 像 応 用 用 途 に 対 応 し て い る .
さ て 動 画 で は 画 質 の 空 間 的 要 素 (静 止 画 と し て の 画
質 )と 時 間 的 要 素( 動 き )の 優 先 度 は 送 信 側 の 判 断 に 委
2)
ねられているため,それらのバランスによっては,同
一符号化標準の使用が必ずしも同一の画像を意味しな
3)
い.また,その意味で送信側の処理の規定は標準化に
はなじみにくく,受信側の満たすべき機能さえ標準化
4)
すればよいという考えに結びつく.
勿論静止画においても送信側の処理は必ずしも規
5)
定する必要がなく受信側の処理さえ決めておけば復号
が可能となる.これはパターンマッチングの判定処理
6)
などでは自明であろう.ただ送信側の処理を参考情報
としてであっても記述しておくのが実装者に対してよ
り親切であるといえる.
7)
むすび
5.
「画像符号化にみる標準化の歴史」というテーマで
8)
筆者が関わってきた 2 値画と静止画の標準を中心にそ
9)
の歴史を振り返った.符号化の標準は初期にはアプリ
ケーションがまず先行しその符号化手法として標準化
されるのが一般的であったといえる.また一旦標準が
決まっても性能の改良や仕様により複数の標準のニー
10)
11)
ズが生じ,それに伴い新たな標準が策定されてきた.
今後の標準化の可能性としては 2 値では誤差拡散画
12)
像の効率的符号化,静止画ではコンピュータビジョン
を取り入れた高度なパターンマッチング,動画ではズ
ーミング対応の動き補償などが考えられる.また算術
符号化の簡易化
16)
13)
も各分野に共通な課題と言える.
しかし,既存の標準が普及している中で新たな標準
を策定した場合,その標準に対する新たな市場やアプ
リケーションがないと作成された新標準を普及させる
のは難しいといえる.また,標準化には技術が成熟す
るタイミングや社会が受け入れるタイミングも重要で,
時期的に早すぎても標準化としては成功しないといえ
る.
画像符号化については既に研究がしつくされたと
いう意見もあるが本質的な課題である画質対符号量の
最適化や装置規模も含めた最適化については依然課題
が山積しているともいえる.今後も画像符号化の機能
やビジネスでの位置づけを意識しつつ,符号化標準化
や市場活性化に向けた活動を期待するとともに関係各
位のご支援・ご貢献を賜りたいと考えている.
14)
15)
寺 村 浩 一 :“ デ ィ ジ タ ル フ ァ ク シ ミ リ の 国 際 標 準
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