Error Analysis

心理と言語A 第2回
-第二言語学習のプロセス(1)-
廣森 友人
hiromori@meiji.ac.jp
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(テキスト: 第2章)
授業の目的
第二言語習得研究の大まかな流れを確認する。
- 対照分析
- 誤答分析
- 中間言語分析
 第二言語習得(学習)とはどのような現象なのか,
そのプロセスを理解する。

2
はじめに

日本人は英語ができないのか?
- 例えば,TOEFLの平均スコア(2007年,2013年)
アジアの国/領域
シンガポール
フィリピン
マレーシア
パキスタン
インド
バングラデシュ
スリランカ
キルギスタン
香港
中国
インドネシア
カザフスタン
韓国
ミャンマー
トルクメニスタン
ウズベキスタン
ネパール
台湾
タジキスタン
タイ王国
アゼルバイジャン
ベトナム
ブータン
朝鮮民主主義人民共和国
アフガニスタン
マカオ
リーディング
2007 2013
25
24
21
21
21
22
20
21
20
22
19
20
19
20
19
17
18
19
21
20
19
20
17
18
20
22
18
18
16
16
17
18
16
20
17
20
15
14
17
18
16
18
17
19
14
17
16
20
12
15
15
18
リスニング
2007 2013
26
25
22
22
23
23
22
22
21
23
21
21
22
21
21
19
20
21
19
18
20
21
20
20
20
21
18
19
20
18
19
19
18
20
18
20
17
16
18
19
17
19
16
19
16
18
17
20
16
16
16
18
スピーキング
2007 2013
24
24
22
24
20
22
22
24
21
23
21
21
21
22
21
21
20
21
18
19
19
20
20
22
18
21
19
20
20
20
20
21
19
21
18
20
21
20
17
19
19
20
17
19
20
22
17
20
20
21
17
19
ライティング
2007 2013
26
25
22
23
23
23
23
23
22
23
22
22
21
21
20
20
22
22
20
20
21
21
20
20
20
22
20
21
19
19
19
20
20
21
19
20
19
17
19
20
18
20
19
21
18
21
18
21
19
19
19
20
合計
2007 2013
100
98
88
89
87
89
87
90
84
91
83
84
83
85
81
76
80
83
78
77
78
82
77
80
77
85
75
79
75
74
75
79
74
83
72
79
72
68
72
76
71
78
70
78
69
79
69
82
67
71
66
76
日本
16
18
16
17
15
17
18
18
65
70
ラオス
モンゴル
カンボジア
13
14
13
15
16
15
15
16
15
16
18
16
18
18
17
20
19
19
18
17
18
18
18
19
65
65
63
68
70
69
3
はじめに

日本人は英語ができないのか?
- 日本人の平均スコア
2007年が65点(総得点)
2013年が70点(同上)
→ スコアわずかに上昇(あるいは大きな変化なし)
- 各セクションの平均
2007年 R 16点,L 16点,S 15点,W 18点
2013年 R 18点,L 17点,S 17点,W 18点
→ 日本人は英語をある程度読めるが,話せない?
4
はじめに

日本人は英語ができないのか?
- アジア諸国との比較
日本の平均値より低いのは,
2008年 ラオス,モンゴル(65点),カンボジア(63点)
2013年 モンゴル(70点),カンボジア(69点),タジキスタン,
ラオス(68点)
5
はじめに

日本人は英語ができないのか?
- アジア諸国との比較
- 近隣の中国,韓国などとの差は歴然
↓
TOEFLの平均だけを持って,「日本人の英語力」と
するのは無理。しかし,上記の結果は,「日本人は
英語ができない(だろう)」と推測する根拠には十分
なりえる。
6
はじめに

なぜ,できないのか?
- 大きな理由の1つは,「言語間の距離」
- 学習者の母語と学習対象となる言語が似ている
(=距離が近い)ほど,学習しやすい。
- 標準語と方言,同じ語族に属する言語
・インド・ヨーロッパ語族
ゲルマン語派(英語,ドイツ語,オランダ語,etc)
イタリック語派(イタリア語,フランス語,スペイン語,etc)
・・・
7
インド・ヨーロッパ語族
バルト・スラブ語派
東ゲルマン語
英語
ゲルマン語派
ケルト語派
北ゲルマン語
西ゲルマン語
フリジア語
イタリック語派
オランダ語
(その他)
ドイツ語
出典:風間喜代三 (1993) 『印欧語の故郷を探る』
8
はじめに

なぜ,できないのか?
- 大きな理由の1つは,「言語間の距離」
- 学習者の母語と学習対象となる言語が似ている
(=距離が近い)ほど,学習しやすい。
- 標準語と方言,同じ語族に属する言語
・インド・ヨーロッパ語族
ゲルマン語派(英語,ドイツ語,オランダ語,etc)
イタリック語派(イタリア語,フランス語,スペイン語,etc)
・・・
・日本語族
日本語派(日本語),琉球語派(琉球語)
9
はじめに

アメリカ人も日本語ができないのか?
- 英語母語話者にとっての外国語難易度レベル
(出典:アメリカ国防総省外国語学校)
カテゴリーⅠ:23~24週間(575~600時間)
英語と密接に関連した言語
アフリカーンス語
ノルウェー語
デンマーク語
ポルトガル語
オランダ語
ルーマニア語
フランス語
スペイン語
イタリア語
スウェーデン語
カテゴリーⅡ:30週間(750時間)
英語に似た言語
ドイツ語
カテゴリーⅢ:36週間(900時間)
英語から言語的に,さらに/あるいは文化的に異なる言語
インドネシア語
スワヒリ語
マレーシア語
カテゴリーⅣ:44週間(1,100時間)
英語から言語的に,さらに/あるいは文化的に著しく異なる言語
アルバニア語
ラトビア語
アルメニア語
マセドニア語
アゼルバイジャン語
モンゴル語*
ボスニア語
ネパール語
ブルガリア語
ペルシャ語
クロアチア語
ポーランド語
チェコ語
ロシア語
エストニア語*
セルビア語
フィンランド語*
タガログ語
グルジア語*
タイ語*
ギリシア語
トルコ語
ヘブライ語
ウルドゥー語
ヒンディー語
ウズベク語
ハンガリー語*
ベトナム語*
アイスランド語
など
カテゴリーⅤ:88週間(2,200時間)
英語のネイティブスピーカーにとって,習得が非常に難しい言語
アラビア語
日本語*
広東語(中国語)
韓国語
北京語(中国語)
10
はじめに

アメリカ人も日本語ができないのか?
- 英語母語話者にとっての外国語難易度レベル
(出典:アメリカ国防総省外国語学校)
カテゴリーⅠ:23~24週間(575~600時間)
英語と密接に関連した言語
アフリカーンス語
デンマーク語
オランダ語
フランス語
イタリア語
ノルウェー語
ポルトガル語
ルーマニア語
スペイン語
スウェーデン語
11
はじめに
- 英語母語話者にとっての外国語難易度レベル
カテゴリーⅡ:30週間(750時間)
英語に似た言語
ドイツ語
カテゴリーⅢ:36週間(900時間)
英語から言語的に,さらに/あるいは文化的に異なる言語
インドネシア語
マレーシア語
スワヒリ語
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はじめに
- 英語母語話者にとっての外国語難易度レベル
カテゴリーⅣ:44週間(1,100時間)
英語から言語的に,さらに/あるいは文化的に著しく異なる言語
アルバニア語
アルメニア語
アゼルバイジャン語
ボスニア語
ブルガリア語
クロアチア語
チェコ語
エストニア語*
フィンランド語*
グルジア語*
ギリシア語
ヘブライ語
ヒンディー語
ハンガリー語*
アイスランド語
ラトビア語
マセドニア語
モンゴル語*
ネパール語
ペルシャ語
ポーランド語
ロシア語
セルビア語
タガログ語
タイ語*
トルコ語
ウルドゥー語
ウズベク語
ベトナム語*
など
13
はじめに
- 英語母語話者にとっての外国語難易度レベル
カテゴリーⅤ:88週間(2,200時間)
英語のネイティブスピーカーにとって,習得が非常に難しい言語
アラビア語
日本語*
広東語(中国語)
韓国語
北京語(中国語)
→ アメリカ人にとっても,日本語はかなり困難な言語
→ 「日本人が英語ができない」のではなく,日本人に
とって英語(同様にアメリカ人にとって日本語)は,
そもそも習得が難しい言語
14
はじめに

日本人の英語学習時間(松村, 2009)
- 中高大を合わせた平均的な英語学習時間
1,120時間
- 小学5~6年の外国語活動(週1時間)
1,200時間

英語ネイティブが日本語習得にかかる時間
(=日本人が英語習得にかかる時間)
2,200時間
15
第二言語習得研究の
大まかな流れ
詳しくはこちら(↓)。
対照分析
誤答分析
中間言語分析
16
第二言語習得研究の流れ

対照分析(Contrastive Analysis) (1950~60年代)
- 母語と第二言語の類似点・相違点を比較することに
より,学習の難易度や誤りを予測。
・類似点が多いほど,習得(学習)は容易
・効率的な学習は相違点に焦点
例)日本語の母音は「あ」「い」「う」「え」「お」の5つ
英語には約20近くある(学者によって,数え方は多少異なる)
→ 発音学習をする際には日本語と英語の母音で
顕著に異なる点を重点的に練習
(発音上達の近道)
17
第二言語習得研究の流れ

対照分析(Contrastive Analysis) (1950~60年代)
- 母語の影響は大きい(母語の影響は避けられない)
- 母語の影響だけ?
例)規則動詞/不規則動詞の過去形
→ 母語が異なる学習者でも同じような誤りをする。
- 学習者の誤りは過度の一般化(overgeneralization)
による割合の方がはるかに高い。
18
第二言語習得研究の流れ

誤答分析(Error Analysis) (1970年代)
- 学習者が実際に犯す誤り(誤答)を分析する。
- 不注意により,思いがけず犯す間違い(mistake)と
知識が不十分なために繰り返し起こる誤り(error)を
区別する。
・Japanese train is often crowded.(2)
・My father gave me a good advice.(1)
・I am often said that I look very young.(1)
19
第二言語習得研究の流れ

誤答分析の問題点とは何か?
- 誤りのタイプの判定が難しい。 (今,疲れてた?)
- 学習者は難しい項目・表現をそもそも避ける。
(a book / the book / book / my book)
- Schachter, J. (1974). An error in error analysis.
日本人の英語学習者とアラビア語話者の英語学習者の関係
詞の使用
→誤答だけを見ていても,学習者の言語システムは
わからない。
20
第二言語習得研究の流れ

中間言語分析(Interlanguage Analysis)
(1980年代以降)
- 学習者の誤りだけを見るのではなく,学習者の使う
言語の全体像を見る。
母 語
中間言語
第二言語
(目標言語)
(interlanguage)
- 学習者は目標言語とは異なる,自分なりの独自の
ルール(言語体系)を作り上げている。
- 誤りも一貫!文法の習得順序も一貫!!
21
第二言語習得研究の流れ

文法項目の習得順序 (Dulay, Burt, & Krashen, 1982)
グループA: 不規則動詞過去
グループB: be動詞,複数形の-s,現在進行形(-ing)
グループC: 規則動詞過去,3単現の-s,所有格の-s
グループD: 助動詞,冠詞
22
第二言語習得研究の流れ

文法項目の習得順序 (Dulay, Burt, & Krashen, 1982)
グループB: be動詞,複数形の-s,現在進行形(-ing)
グループD: 助動詞,冠詞
グループA: 不規則動詞過去
グループC: 規則動詞過去,3単現の-s,所有格の-s
23
第二言語習得研究の流れ

習得順序研究の成果と課題
- 教師や学習者に対して具体的なヒント
(例:3単現の-sの指導時期)
- 習得順序の「how」には答えられても,「why」には
答えられない
- 言語処理の本質(メカニズム)に迫る必要あり
24
第二言語習得のモデル

第二言語習得のプロセスはどのように進むのか?
インプット(input)
- 代表的なモデルの1つとして,
Gass (1997, 2013)
???
- なぜ,この認知プロセスに
ついて学ぶ必要があるのか?
アウトプット(output)
25
第二言語習得のモデル

第二言語習得の認知プロセス (Gass, 1997, 2013)
- Gass(1997)を宿題として読んでくる
- 授業のはじめに,グループで分担して内容報告
26