一般社団法人 海外建設協会 10&11 Oct. & Nov. 2014 Vol.38 / No.10 & 11 特集 ミャンマー市場への取り組み 巻頭言 変わる東南アジア、 そしてミャンマー 海外生活便り タイ・ベトナム 支部通信 トルコ・デュッセルドルフ 10&11 特集 ミ ャンマー市場への取り組み 01 02 06 09 13 17 21 25 30 34 宮下 匡之[外務省] 宮下 匡之[外務省] 越智 成基[国土交通省] 神山 敬次[国土交通省] 水谷 俊博[日本貿易振興機構] 三木 拓人[新日本有限責任監査法人] 武川 丈士[森・濱田松本法律事務所] 久保 達弘[松田綜合法律事務所] 矢吹 龍太郎[建設経済研究所] 橋本 吉之 【巻頭言】変わる東南アジア、 そしてミャンマー 日・ミャンマー関係の新たな展開 ̶̶ ODAの視点から ミャンマーにおけるビジネス環境整備に向けて ミャンマーに対する都市局の取り組み、 そして雑感 ミャンマー、 さらなる発展へ ミャンマーにおける会計・税務の留意点 ミャンマーにおける外国投資 ──建設業を中心に 建設業のミャンマー進出に伴う法律・実務上の問題と取り組みについて ミャンマー建設市場の現状と課題 日緬共同イニシアティブの現状 ̶̶段階的な市場開放に向かうミャンマー ] [海外建設協会ミャンマー支部(清水建設) わが社のミャンマー市場への取り組みと課題 39 43 47 50 54 57 60 64 67 72 75 78 80 北山 [IHI ASIA PACIFIC PTE. LTD.] 小森 克夫[安藤・間] 佐藤 比呂樹[鹿島建設] 杉江 正利[きんでん] 西野 達郎[鴻池組] 河嵜 祐之[JFEエンジニアリング] 武藤 太一[大成建設] 市川 義朗[大豊建設] 大崎 博司[竹中工務店] 吉岡 英通[東急建設] 岡本 元宏[東洋建設] 中尾 弘二[西松建設] 松山 隆紀[若築建設] 海外生活便り 83 86 樫村 光高[高砂熱学工業] 角田 隆洋[ピーエス三菱] 支部通信 88 92 IHIグループのミャンマー市場への取り組み ミャンマーでの安藤・間のこれまでの取り組みと今後の課題 ミャンマー市場に対する鹿島の取り組みと課題 ミャンマーでの電気工事技術者育成支援への取り組み ミャンマーにおける鴻池組の活動と、 ミャンマーという国の考察 当社のミャンマーにおける鋼橋の実績と今後の課題 大成建設のミャンマーでの事業の方向性と、 今後の課題 ミ ャンマーにおける当社の実績 (日本国ODA無償工事「中部地域保健施設整備計画」について) 地震国ミャンマーにおける当社の耐震・免震・制震技術の紹介 ミャンマーにおける東急建設の取り組みと今後の展望 ミャンマー市場への取り組み ミャンマー国・建設事情とわが社の取り組み ミャンマーへ最初の一歩 ̶̶課題と展望 【タイ】タイの政変や洪水を経験して 【ベトナム】ホーチミン生活便り 森脇 義則[安藤・間 トルコ建築作業所] 【トルコ】建国100周年に向けたトルコの変化 「省エネルギー」 と 「再生可能エネルギー」建築における ドイツの挑戦 小椎尾 龍介[竹中工務店 ヨーロッパ竹中]【デュッセルドルフ】 95 海外受注実績 97 主要会議・行事 97 編集後記 【巻頭言】 変わる東南アジア、 そしてミャンマー 宮下 匡之 外務省国際協力局 国別開発協力第一課長 10 数年ぶりに東南アジア諸国を巡る機会を得て、その変容を実感している。 90 年代の半ばに訪問したカンボジアは連立与党の内輪揉めによる市街戦の直後で、プノンペンの街に は対立と混乱の香りが立ち込めていた。ASEAN 加盟前のラオスは牧歌的な風情を保ち、ビエンチャンは メコン川のほとりに漂う静かな街に過ぎなかった。独立直前の東ティモールは騒乱の爪痕が色濃く残って いた。 「首都」とは名ばかりのディリでは援助関係者が沖合のボートホテルで「合宿」を余儀なくされ、当 事者を交えることなく東ティモールの開発が語られていた。 再訪した各国はいずれも趣を変えていた。ビエンチャンではバックパッカーが活気ある街並みを闊歩し ており、プノンペンの新たな流行拠点となっているイオンモールでは日本のファッションに加えてスケー トまで楽しめる。ディリでは政府開発援助(ODA)に関する協議に赴いたわれわれを、政府高官が流暢な 英語による質の高い議論で歓迎してくれた。この 20 年あまり、東南アジアでは政治の安定と経済の成長 が達成されてきた。各国の首都では発展の成果が手に取るように実感できる。 ミャンマーだけがこうした流れから長らく取り残されてきた。政治・経済が停滞していたミャンマーは 長きにわたって疲弊していた。活気の乏しい街では人びとがうつむきながら暮らしていた。豊かな将来性 は顧みられなかった。 そのミャンマーがようやく流れに加わろうとしている。ヤンゴンではホテルのオープンが相次ぎ、行き 交う車の数も増え続けている。訪れる人の数は増え続け、開かれる商談は引きも切らない。首都ネーピー ドーでは公務員がさまざまな分野の改革について語ってくれた。そこにはミャンマーの将来に対する確か な希望が感じられる。 元来ミャンマーは豊かな発展した国であった。戦後しばらくは東南アジアの駐在員はヤンゴンへ買い出 しに赴いたともいう。 そのミャンマーが長きにわたる停滞を経て再び新しい未来に向けて歩み出している。 民主化、経済改革、国民和解など課題は山積しているが、一方で、ミャンマーの将来性と潜在力に魅せら れる国際社会の期待は大きい。改革を通じた発展を求める国民の願いにはさらに大きなものがある。よう やく訪れたこの機を逃すことなく、ミャンマーの人びとが改革の成果を実感できるよう彼らの努力を後押 ししていくことが必要であろう。 11 月半ば、ASEAN 関連首脳会議がネーピードーにて開かれた。安倍総理をはじめアジア大洋州地域の 主要国首脳が一堂に会した様子は、念願の ASEAN 議長国としてのミャンマーの晴れ舞台を国際社会が祝 福するかのようであった。 ただし、改革と発展に向けた歩みは端緒についたばかりである。10 年近く後に巡ってくる次回議長国 の機会には、 東南アジア諸国で実感できる発展の成果がミャンマーでも実感されねばならない。 ミャンマー の政治的安定と経済的発展に向けた協力を、わが国官民挙げて進めていく必要性を痛感した次第である。 2014 10–11 01 特集 日・ミャンマー関係の新たな展開 ̶̶ ODAの視点から 宮下 匡之[外務省国際協力局 国別開発協力第一課長] ミャンマーにおける改革プロセスがテイン・セイ なく、1954 年に両国間で結ばれた「日本・ビルマ ン大統領のイニシアティブにより本格化して 3 年あ 平和条約及び賠償・経済協力協定」は両国の外交関 まりが経過した。ミャンマーと国際社会の関係は目 係樹立の土台となるとともに、我が国初の国際協力 覚ましく進展し、本年 11 月には ASEAN 関連首脳 事業としてとしてビルマ(当時)に対する戦後賠償を 会議が首都ネピドーにて開催され,ASEAN 各国は 供与する基礎となっている。ミャンマーについては もとより我が国の安倍総理はじめアジア太平洋地域 88 年のクーデター発生を受けて ODA 供与が制約的 の主要国首脳が一堂に会している。1988 年の軍事 に実施されてきた印象が強いが、実は日本にとって クーデター以降、ミャンマーが国際社会から長きに 最初の ODA 供与対象国であり、ODA を巡って我 わたり非難を浴び制裁を科されてきたことを思え が国と最も古くかつ深い関係を有する国の一つであ ば、ASEAN 議長国として采配を振るうミャンマー ることを指摘しておきたい。 の姿には隔世の感がある。 その後、1963 年には経済協力・技術協力協定を 我が国とミャンマーは第二次世界大戦前に遡る伝 締結、68 年には工業化 4 プロジェクトを対象とす 統的な友好協力関係にあり、親日的とされる国柄も る円借款供与が、75 年には無償資金協力の供与が 相俟ってミャンマー・ファンを自称する関係者も数 それぞれ開始されている。こうした流れの中、80 多い。また近年では、地政学的重要性、さらには「ア 年代半ばまでミャンマーは我が国 ODA の主要受け ジア最後のフロンティア」とも称される経済的な潜 取り国の一角を占めていた。こうした状況を一変 在力等への国内の関心も高まっている。 させたのが 88 年の軍事クーデターである。それ以 こうした状況の下、ミャンマーにおける民主化・ 降、ミャンマーに対する ODA の新規供与は停止さ 法の支配の強化・国民和解さらには経済改革に向け れ、その後も民主化及び人権状況の改善状況を踏ま た努力を後押しするべく、我が国は官民の取り組 えつつ、人道的援助等に限った制約的な実施に留め みを結集したオールジャパンによる支援を行ってき るとの経済協力方針に沿って約四半世紀にわたって た。2013 年 3 月、安倍政権の下で開催された経協 ODA 事業は実施されてきた。 インフラ戦略会議の第一回会合がミャンマーをテー マとして開かれたことはその象徴ともいえる。同年 2. 対ミャンマー経済協力の新たな方針 5 月に安倍総理が我が国の総理大臣として 36 年ぶ ミャンマーへの ODA を巡る状況が大きく変化し りにミャンマーを訪問し、910 億円に上る支援を表 たのは 2012 年である。2011 年以降、テイン・セイ 明して以降、日本がこの 1 年半で表明した ODA 供 ン大統領のリーダーシップの下、民主化に向けた改 与額は優に 2,000 億円を超える規模に達している。 革が進展したことを受け、2012 年 4 月の日ミャン マー首脳会談において、我が国は経済協力方針の根 1. 対ミャンマー経済協力の歴史 本年は日本とミャンマーの外交関係樹立 60 周年 にあたるが、我が国が ODA の供与を開始して 60 年(国際協力 60 周年)でもある。これは偶然の一致では 02 特集 ミャンマー市場への取り組み 本的な見直しを表明した。同時に、延滞債務問題の 解決に向けた対応についても両国は共通の認識に達 した。 新たな経済協力方針では、ミャンマーにおける民 3. 対ミャンマー経済協力の現在 主化及び国民和解、持続的発展に向けて急速に進む ミャンマーへの経済協力は、❶国民の生活向上の 幅広い分野における改革努力を後押しするため、引 ための支援、❷経済・社会を支える人材の能力向上 き続き改革努力の進捗を見守りつつ、民主化と国民 や制度の整備のための支援、❸持続的経済成長のた 和解、経済改革の配当を広範な国民が実感できる援 めに必要なインフラや制度の整備等の支援、の三本 助を行うことを基本的方針としている。そうした方 柱を中心に進められている。 針の下、❶国民の生活向上のための支援(少数民族や 貧困層支援,農業開発,地域開発を含む) 、❷経済・社会 第一の柱の「国民の生活向上のための支援として を支える人材の能力向上や制度の整備のための支援 は、ミャンマーが直面する課題である国民和解の実 (民主化推進のための支援を含む) 、❸持続的経済成長のた 現に向けた少数民族に対する支援、経済的に恵まれ めに必要なインフラや制度の整備等の支援、の 3 分 ない貧困層に対する支援、 主要産業である農業育成、 野を中心に支援を進めていくこととされている。 地方開発、さらには保健・医療や防災といった分野 の支援が含まれる。この分野の協力は主として無償 新しい援助方針の表明は、欧米諸国による本格的 資金協力や専門家派遣等の技術協力によりきめ細か な経済制裁の解除に先だって行われた。88 年の軍 く行われているが、地方部における小規模インフラ 事クーデター以降も日本はミャンマーに対する経済 開発を多面的に展開する地方開発プロジェクトやバ 制裁措置を科すことなく、独自の方針でミャンマー ゴー地域西部の灌漑事業では円借款を活用した支援 情勢に対応してきたが、新たに到来した改革支援の が展開されている。 段階でもリーダーシップを発揮したといえる。 保健・医療分野では地方の医療拠点整備や機材供 新しく表明された経済協力方針の実現には延滞債 与に加えて、医療システム自体の強化を目指すとの 務問題の解決が不可欠であったが、我が国は国際社 観点から保健人材を育成する技術協力プロジェクト 会と連携しつつ二国間及び国際機関債務の解消に主 も展開されている。近年ミャンマー政府は国民に 導的役割を担ってきた。その結果、2013 年 1 月に 直接裨益する支援との観点やミレニアム開発目標 はミャンマーとアジア開発銀行、世銀との間で相次 (MDGs)達成との観点から、保健・医療分野への支 いで延滞債務が解消され、続いて日本を含む二国間 援に力を入れてきている。 「JICA 病院」とも称され 債権国との間でもパリクラブ合意が成立した。こ る新ヤンゴン総合病院はじめ我が国が協力してきた れを受けて、日本も同年 1 月と 5 月の二度にわたり 医療拠点も少なからず存在しており、この分野の支 総計約 5,000 億円に上る延滞債務の解消措置を行っ 援に引き続き力を入れていくことが期待されている。 た。これによりインフラ整備等大規模事業に不可欠 な新規円借款の再会が可能となったことは、ミャン ミャンマーの直面する課題の一つとして挙げられ マーへの経済協力の歴史において特筆すべき出来事 るのが国民和解である。日本政府は、ミャンマーに といえよう。 おける国民和解の実現及び少数民族勢力との紛争の 2014 10–11 03 影響を受けた地域を中心とした民生向上等のため、 は、旧態依然たる国内法制度の近代化は不可欠であ 和平プロセスの進捗状況に合わせて、今後 5 年間で る。 これは、 近代的な民主国家の樹立のみならずミャ 100 億円の支援を行う用意がある旨 2014 年 1 月に ンマーの重視する海外投資の呼び込みにも重要であ 表明している。ミャンマー政府と少数民族勢力との る。我が国は 2015 年の ASEAN 経済統合をも見据 和平に長年取り組んでいる笹川陽平ミャンマー国民 えつつ、経済分野の法整備及び人材育成に関する技 和解担当日本政府代表とも緊密に連携しつつ、こう 術協力プロジェクトを進めている。 した支援も活用しながら我が国は国民和解に向けた 動きを後押ししていく考えである。 多くの日系企業の進出が見込まれるミャンマーに おいて、経済・社会システムに効率的な日本方式を 第二の柱である「経済・社会を支える人材の能力 導入することは、ミャンマー自身の開発に資するの 向上や制度の整備のための支援」には、制度設計や みならず、進出を希望する日本企業にとり投資環境 整備さらには運用能力の向上に向けた支援(行政手続 整備としての意味も有する。こうした観点から、我 きの透明性・効率性向上、法制度運用能力向上等の支援) 、産業 が国は日本方式の中央銀行システムや税関システム 人材育成・制度整備、教育支援、さらに民主化推進 の導入を図るとともに、技術支援を通じて運用能力 に向けた支援(法整備支援等)が含まれる。 の育成・向上に努めている。 国際社会との接触が長きにわたり十分ではなかっ 第三の柱である「持続的経済成長のために必要な たミャンマーでは、人材育成や様々な制度の改善・ インフラや制度の整備等の支援については、運輸交 設計が課題である。人材育成については、初等・中 通・通信網に関する支援、電力・エネルギー分野へ 等教育から大学・大学院等高等教育まで幅広い分野 の協力等が挙げられる。インフラ整備に後れをとっ で改善が望まれている。また、行政や経済の中枢を ているミャンマーにおいて、国民生活向上及び産業 担う行政官や高度産業人材の育成は、急速に改革を 育成双方の観点から質の高い基幹インフラの速やか 進めているミャンマー政府のみならず、ミャンマー な整備は喫緊の課題である。こうした観点から、我 への進出を検討している民間企業にとっても急務で が国は本格的援助再開直後の国としては例外的に大 ある。こうした観点から、我が国は基礎教育分野の 規模な円借款を投入するとともに、緊急性の高いプ 改善に取り組むべくアドバイザー派遣や教員養成校 ロジェクトには無償資金協力をもってきめの細かい の改修等を行っている。さらに、人材育成奨学計画 対応を心がけているところである。 を通じた我が国高等教育機関への行政官受け入れ、 工学教育の拡充に向けた技術支援や工科系大学拡充 また、各セクターにおいて十分な開発計画が存在 と行ったプロジェクトを通じて、長期的視野に立っ しないため秩序だった開発が進まない懸念があるこ て行政官や高度産業人材の育成にも取り組んでいる。 とから、日本は全国の運輸交通、電力、さらにはヤ ンゴンの都市圏開発都市交通等主要分野におけるマ ミャンマー政府の掲げる法の支配の推進のために 04 特集 ミャンマー市場への取り組み スタープラン策定を JICA により支援している。こ うした政策的な支援もミャンマーの国作りを支える 協力の可能性を表明している。様々な分野における 大きな一歩である。 開発ニーズや協力可能性が依然存在している以上、 当面は我が国官民を挙げた多くのエネルギーと資源 交通・通信分野では、主要幹線であるヤンゴンー がミャンマー協力に注がれることとなろう。 マンダレ−間の鉄道整備事業や鉄道中央監視システ ムの導入等鉄道分野の協力、さらには基礎通信網改 ミャンマーの経済的離陸に向けた道のりは緒に就 善に向けた協力等を実施してきている。エネルギー いたばかりであるが、ODA によるミャンマーの開 分野においては、全国基幹送変電設備事業やヤンゴ 発と海外投資や貿易等ミャンマー経済の国際社会へ ンにおける配電網改善事業を通じて電力供給の抜本 の統合が相俟って好循環を生み出すべく行われてい 的な改善を目指しているほか、直面する深刻な電力 る努力を反映して、徐々にその成果も生まれつつ 不足の解消に資するべく既存発電所の補修等緊急的 ある。 な対応にも意を用いている。 ティラワ SEZ には多くの日本企業を含む外国企 ティラワ特別経済地域(SEZ)開発は、 日本の対ミャ 業の進出が内定し、邦銀三行への参入許可の付与, ンマー協力の象徴的プロジェクトとされている。ヤ 通信分野への我が国企業連合の参入、空港開発事業 ンゴン近郊に位置するティラワ SEZ は市場へのア における運営事業権乃至は優先交渉権の獲得等日本 クセスや豊かな労働力が魅力とされており、日本企 企業のミャンマー進出を巡る朗報も相次いでいる。 業の進出や工業団地運営に関する日本の知見に期待 こうした好循環を支えるべく ODA をもってインフ しつつ、日ミャンマー両国は官民を挙げて共同開発 ラ整備、人材育成、法制度はじめ各種制度構築支援 を行っている。港湾、道路、電力等周辺インフラの に引き続き注力していく必要がある。 円借款による整備、事業体への JICA からの海外投 融資による出資等のスキームを総動員して、海外投 同時に依然として膨大な貧困人口を抱えるミャン 資の導入や雇用創出に向けた開発を推進している。 マーにとって、保健医療、教育、農業といった基本 先行開発地域(400ha)においては 2015 年の開業を目 的な開発ニーズが大規模に存在していることを忘れ 指した努力が続けられているほか、本年 11 月の首 てはならない。ミャンマーの国造りには国民和解も 脳会談の機会に新規開発地区(2,000ha)の開発に関す 不可欠である。こうした分野の支援も並行してバラ る覚書に両国関係者による署名がなされた。 ンスよく進めていくことこそが、長期的視野に立っ て「アジア最後のフロンティア」を盛り立てていく 4. これからのミャンマー支援 上で不可欠であろう。 11 月の首脳会議では、安倍総理より、中小企業 向け金融、郵便・放送、建設等新たな分野における 2014 10–11 05 特集 ミャンマーにおけるビジネス環境整備に向けて 越智 成基[国土交通省 土地・建設産業局 国際課長補佐] 1. インフラ整備が喫緊の課題 親日的な国家であり、同国におけるわが国への期待 ミャンマーは、人口 5,142 万人(2014 年 8 月現在)と は非常に大きい。しかしながら、外国投資に係わる いう ASEAN の中で 5 番目の規模を誇る国であり、 法律や税制については十分な整備が行き届いておら 2011 年 3 月の民政移管後、民主化の進展に伴う市場 ず、中央政府と地方政府の権限・責任関係について 開放への期待から世界中から最も関心を高めている も不明瞭であることなどから、わが国企業は一歩が 国のひとつである。今年(2014 年)初めて ASEAN 議 踏み出しにくい状況となっている。 長国に就任し、5 月の ASEAN 首脳会議では、東シ そうした状況などを踏まえ、国土交通省では、 ナ海情勢に触れ、関係国に自制と武力の不使用を求 2013 年 2 月、3 月に海外建設協会と共に合同市場調 めたネーピードー宣言を採択するなど、国際社会か 査ミッションを立ち上げ、建設・不動産開発に関連 らの評価が高まっている。高い識字率、勤勉で安価 するミャンマーの主要官庁(建設省、鉄道省、国家計画経 な労働力や外国投資法の策定などの経済改革への取 済開発省、ネーピードー管区、ヤンゴン管区)や開発現場を り組みが評価され、わが国を含む多くの民間製造業 訪問した。現地での課題や日本への期待などに関し などが工場進出に対して前向きに取り組んでおり、 てヒアリングを行うと同時に、同国の建設関係業界 日本政府としても積極的な経済支援を行うこととし 団体と共に合同フォーラムを開き、日緬のそれぞれ ている。昨年(2013 年)には、 ミャンマー政府の民主化・ の団体の紹介、官民横断の課題や調整状況などにつ 法の支配の強化・国民和解に向けた取り組みなどを いての公開ヒアリングと意見交換を行った。その際 評価し、日本政府は、ミャンマーに対する延滞債務 に、 海外建設協会とミャンマー建設業協会との間で、 解消のための措置を行うと共に、同国の持続的な発 日本からの技術移転の推進および日緬の建設企業の 展のため 25 年ぶりに新規円借款の供与を開始する 連携強化を主たる目的とする覚え書きが締結される など、強力に同国の経済発展を後押ししている。一 など、今後のわが国企業の進出に向けた足掛かりと 方、ミャンマーでは、急激な民主化や市場開放の進 なる人的ネットワークや同国への基礎的理解が形成 展により、近代化に向けたホテル、オフィスなどの された。 供給不足が生じているのみならず、給水・道路・電 同ミッションで見えてきた最も大きな課題のひと 力などの基礎的な生活基盤インフラの整備や、経済 つがビジネス環境の整備、特に法手続きを含む法整 成長に対応した港湾・空港、経済特区などの経済基 備であった。たとえば、同国の市場開放の一環とし 盤インフラの整備が喫緊の課題となっている。 て整備された外国投資法を取り上げても、 「細則に のっとり」といったような表現が多くあり、施行規 2. ビジネス環境整備が必要 則やミャンマー投資委員会への確認・相談を行わな 同国における今後の膨大なインフラ整備に対し いと投資に適しているかどうか判断ができない状況 て、わが国の建設企業が持つノウハウ・技術を活用 となっている。法案成立の過程で、国内産業の保護 した進出が期待されている。本年は、日本とミャン とのせめぎ合いがあり、外資の市場参入にあたって マーの外交関係樹立 60 周年にあたるが、これまで は、根本の法律が整備されていたとしてもその運用 のわが国による技術支援などの成果により、非常に やほかの法令との整合性が不明瞭なものが数多くあ 06 特集 ミャンマー市場への取り組み るのが現状である。 日本政府全体として、当該課題に対応するため、 2014 年 1 月には、同国の首都ネーピードーにお いて、ミャンマー建設省と国土交通省の間で、第 1 国際協力機構(JICA)による法案作成能力の向上と人 回日緬建設次官級会合を開催し、両省の社会資本整 材育成環境の改善を目的とした「ミャンマー法整備 備に関する課題や取り組みについて情報・意見交換 支援プロジェクト」などを立ち上げ、精力的に同国 を行い、両国の協力関係を一層強化した。次官級会 に対する支援を進めている。しかしながら、製造業 合の下に法制度分科会を設け、日本側からは、建設 など多種多様な産業を下支えするわが国の建設・不 業の特有の事情を踏まえた法律・制度整備の必要性、 動産企業が抱える基本的ないくつかの疑問、たとえ 建設業や都市開発に関する日本の法制度についての ば、ミャンマーにおける事業展開の可否やその根拠 説明を行い、ミャンマー側からは、建設業や不動産 などについては、解消されない状態であった。 開発に関連する同国の法制度についての説明が行わ 以上の状況を踏まえ、2013 年 5 月に安倍総理が ミャンマーを訪問した際の共同声明附属文書におい れた。 これらの調査や会議での意見交換などを踏まえ、 て、 「今後、建設・不動産分野の法律・制度整備支 日系企業が選択できる進出ルート、輸出入関連の規 援など両国間の協力をさらに進め、相手国のビジネ 制、土地利用保有制度などについて整理をした。留 ス環境整備を支援すると共に、日系建設・不動産企 意点は多く付くが、法律・制度整備に対する働きか 業の進出を促進する」という文言が盛り込まれるこ けのみならず、相手国の政府から制度について説明 ととなり、国土交通省としても、特に建設・不動産 を受け、意見交換を行えたということは非常に大き 分野において、同国のビジネス環境整備に向けた支 い成果のひとつであり、この取り組みをさらに加速 援を強力に推進することとなった。 させていきたい。 3. 具体的な取り組みの開始 2013 年 9 月には、建設・不動産分野の法律・制 度整備支援を行うにあたっての事前調査を海外建設 協会と合同で行った。同調査では、在緬日本大使館 (ミャ 主導で行われている「日緬共同イニシアティブ」 ンマーでのさらなる投資・貿易の促進などのための具体的な取り 組みを確認し、優先順位を付けるための枠組み協議の場)の進展 状況や関係官庁、進出日系企業に対して一歩踏み込 んだ調査を行った。特に、不明瞭な制度運用を解消 第1回日緬建設次官級会合 するため、ミャンマー国家計画経済開発省投資企業 管理局に対して、わが国建設企業の間に生じている 4. 今年度の取り組み 建設業における営業許可に関する懸念を伝え、その 今年度の取り組みとしては、 現在調整中であるが、 払拭のために書面による確認を行った。 建設請負の特性、入札契約制度、紛争処理などを中 2014 10–11 07 心として、ミャンマーの建設・不動産分野の法律・ などから一種桃源郷のように感じている側面もある 制度整備およびその運用向上に向けた具体的な方策 が、現地の方に聞くと、同国でできることは限られ を検討することとしている。 ている上、現地に張り付いていても不明瞭な制度運 同国では、これまで公共・民間ともに、建設が独 用は数多くある。 立した業として成り立っておらず、国際標準とは異 また、来年(2015 年)11 月または 12 月には総選挙 なった「自前主義」が維持されてきた。さらには、 が実施されることとなっており、国民人気の高いア 国際社会に対して閉じた経済運営を行ってきたた ウン・サン・スー・チー氏が率いる国民民主連盟が め、新技術の導入も進んでおらず、外資の受け入れ 政権を取ることができるかどうかが焦点になってい も限られてきた結果、ミャンマー側において国際標 る。さらには、ミャンマー西部ロヒンギャで起きた 準と自国の現状の差に対する理解が十分にない状況 事件を発端として、国民の 9 割以上を占める仏教徒 にある。そうした状況を踏まえ、まずは、情報提供 とイスラム教徒との少数民族問題も見られる。 や意見交換を行うことから始め、国際的な建設契約 日本政府は、 インフラシステム輸出戦略において、 制度の導入を働きかけるなど、日系建設・不動産企 新興国を中心とした世界の膨大なインフラ需要を取 業の進出促進を後押ししたい。 り込み、 わが国の経済成長に繋げることとしており、 2020 年に 30 兆円(2010 年:10 兆円)のインフラシステ 5. その他 ム受注を実現することを目標としている。本戦略の これまでの調査の結果、現地の方から多く聞く話 達成に向けて、ミャンマー市場が持つ魅力は非常に であるが、ミャンマーに駐在している日本人が感じ 大きいものであるが、 ミャンマー進出にあたっては、 る現状と、日本で報道されているミャンマー像は必 現地の声を十分に聞くと共に、政治や宗教情勢など ずしもトーンが一致していない。日本からは、ミャ も注視しつつ、対応していく必要がある。 ンマーの安価な労働力や国民性、その潜在的経済力 08 特集 ミャンマー市場への取り組み 特集 ミャンマーに対する都市局の取り組み、 そして雑感 神山 敬次[国土交通省 都市局総務課長 前(一社)海外建設協会 1. はじめに ミャンマーと日本の建設業との関わりは歴史的に 深いものがある。戦後まもない時期に、海外建設協 研究理事] の「国土グランドデザイン」づくりだ。 以下、都市局に関連する最近の取り組みをいくつ か紹介したい。 会の前身である海外建設協力会の「最初の」海外支 部として、ミャンマーに支部が設置されたと聞く。 2. ヤンゴン都市圏のマスタープランづくり 戦後賠償の先駆けとして、鹿島建設をはじめとして ミャンマー、特に、経済の中心である人口約 570 挙行されたバルーチャン発電所関連工事がいかに難 万人のヤンゴン都市圏において、2012 年から、国 工事だったかは、伊藤博一著『トングー・ロード─ 際協力機構(JICA)によるヤンゴン都市圏開発プログ ビルマ賠償工事の五年間(岩波新書)』に詳しい。 ラム形成準備調査が実施された(日本工営ほか)。同プ 日本のゼネコン幹部曰く、1990 年前後にヤンゴ ログラムにおいて、2040 年を目処とする中・長期 ンに建てられた大型建築物件は日系ゼネコンが手掛 的かつ包括的な開発ビジョンを基にした戦略的な都 けたものが多い。20 階建てのサクラタワーは鴻池 市開発計画(マスタープラン)を 2013 年 3 月に策定し、 組、11 階建てのセドナホテルや高級賃貸コンドミ さまざまな都市開発ニーズに包括的に応えるための ニアムのゴールデンヒルタワーそして 90ha のミン 各社会基盤インフラ(都市交通、上下水・都市排水、廃棄物 ガラドン工業団地の造成は当時の三井建設が請け 負った。ミャンマーへの熱い思いを持つゼネコン幹 部は多い。その後、長らく続いた軍事政権の下で、 日系ゼネコン各社は休眠・撤退を余儀なくされたが、 2011 年頃からの急速な民主化に伴い、 「アジア最後 のフロンティア」 としてクローズアップされる中で、 錆びついた都市インフラをいかに復興させるか。ヤ ンゴンではホテル代や家賃が高騰し、東南アジアで 最も高く日本の大阪並みの高さと聞く。他方で現地 へ行ってみると、手入れがされていない空き地が多 いのに気付く。軍事政権下で、当時の軍幹部へ安価 で下賜された土地が多く、現政権でも手が出せない らしい。土地所有の実態は明確にされておらず、都 市計画法制も未整備だ(注:1951 年制定の国家住宅・都市・ 農村開発法は時代遅れとなっている) 。 テイン・セイン大統領の下で、地価対策をはじめ として、日本の高度成長期に問われたような国土づ くり・都市づくりの成否が、政権自体の存否にさえ 関わる大問題となっている。まさに、ミャンマー流 ヤンゴン都市圏の都市開発計画図 2014 10–11 09 管理、 電力、 物流、 情報通信)の合理的な計画体系を提示し、 情報提供の要請があった。さらなる情報・意見交換 優先プロジェクトの事業化の促進を目指す。たとえ を行うためにも、今年度中に、第 2 回の次官級会合 ば、外環状道路を含む基幹的な道路網の構築、環状 の開催が予定されている。 線をはじめとする鉄道網の改良や MRT(Mass Rapid Transit)新線の整備、複数のサブセンターを配置する 将来都市構造などが掲げられている。 4. ヤンゴン中央駅を含む再開発プロジェクトへの 入札段階からの関わり なおヤンゴン都市開発アドバイザー(JICA 専門家) ヤンゴン市内の都市開発のビッグプロジェクトとし として、鈴木正彦氏がヤンゴン市開発委員会(YCDC) て、鉄道環状線の改良に併せ、中央駅およびその周 へ 2014 年から 2 年間の予定で派遣されている。 辺を再開発する動きが高まり、ミャンマー鉄道運輸省 より日本政府サイドへ、再開発のための入札準備段 日本の国土計画・ 3. 日緬建設次官級会合での、 都市計画づくりに関するプレゼンテーション 階からその方式などについて協力してほしいとの依頼 があった。面積は約 25ha、商業施設などを含め事業 本年(2014 年)1 月に開催された、第 1 回日緬建設 費は約 20 億ドルに達する見込み(報道ベース)。国際標 次官級会合の「建設業に関する法制度分科会」にお 準に沿った入札方式を提案したものの、ODA ベース いて、日本の建設業に関する法制度の紹介に加え と違い最終的に決めるのはミャンマー政府だ。 て、都市開発に係わる法制度の説明を行った。ミャ 2014 年 5 月時点で EOI(関心表明)を示したのは日 ンマー側からはミャンマー建設省が取り組んでいる 系企業を含む 20 数社。現在、入札手続きが開始さ 法制度整備の最新事情について説明があった。 れているものの、ミャンマー側の意趣変更もあり、 2013 年 12 月現在、国土政策に係わる計画体系は、 予断を許さない展開となっている。 現政権下で検討中という段階。❶国家計画・経済開 発省所管の国家総合開発計画体系(経済計画・政策分野 別計画が中心で、長・短期計画のふたつの計画あり)と、❷建 設省所管の国家空間開発計画体系の二頭立てで進む 方向だ。 また、両省の計画を一元化することも視野に入れ ながら、国家空間開発計画法(仮称)の法案作成を進 めている模様。この法案概要としては、 全国、 地域(管 区域および州) 、郡の 3 つの空間レベルの空間計画の方 針、土地利用規制、開発許可基準などを内容として いる。 都市計画分野の専門家人材が不足しており、法制 度整備支援のニーズがある。また、日本における都 市整備や住宅供給に関する資金調達手法についての 10 特集 ミャンマー市場への取り組み ヤンゴン市内の都市開発プロジェクトのイメージ 5. 日本流都市開発の実践を目指して これまで日本が経験してきた都市開発手法(ニュータ 性を活かして、人材育成を中心に国の発展を進める べきではないか。 ウン開発、区画整理手法、都市再開発手法など)が、ミャンマー でそのまま使えるとは限らない。制度論よりも、コン ヤンゴンから約 350km ほど北に位置し、約 10 年 セプトとしての、エコシティ・スマートシティ、そし 前に人工的に造成された首都、そして政治の中心地 て TOD(Transit Oriented Development、公共交通指向型開発) であるネーピードー(面積:約 7,000km2、人口 100 万人弱) を現地に即して導入してもらうことが必要ではないか。 は、実際に訪れてみれば分かるが、近代的なまちづ 2014 年 10 月には、いわゆる官民連携ファンドで くりのお手本だとは到底思えない。一言でいえば、 ある海外交通・都市開発事業支援機構が設立された 各種都市機能の需要に比べて敷地規模が大きすぎる ところであり、日系企業による海外での都市開発の 反面、質的充実度が低い。軍事政権的・社会主義的 展開が後押しされることを期待したい。 要素が濃厚で、片道 4 車線にもおよぶ区域内道路、 都市開発の前提として、現在ミャンマーで起きて ポツンと乱立した各省庁、不十分な商業・生活・文 いる都市問題(地価高騰を含む)に対処するため、限ら 化機能などを見ると、B/C(費用便益)を考えていな れた土地の有効利用を促進し、土地管理を適正に進 いのではないかと思われる。ネーピードーに赴任す める必要がある。前掲した、国家空間開発計画とあ る職員も単身赴任が前提であり、ほとんどの職員は いまって、土地利用や管理に関する法制度を省庁横 断的・統一的に整備する必要がある。これは、テイ ン・セイン大統領自らが積極的なイニシアティブを 取る重要なテーマであり、今後の日本の支援が最も 望まれる分野のひとつであろう。 6. 雑感(バンコクと比較して) 長期の軟禁から解放されたアウン・サン・スー・ チー氏が、2012 年、久しぶりにバンコクを訪れた 際に、その世界都市としての発展ぶりに驚愕したと される。 「昔は、ラングーン(ヤンゴン)の方が優れた 都市機能を有していたのに」 という思いだったろう。 マンダレー バガン シットウェ タウングー ネーピードー ビンマナ ビルマとの長期の戦いはタイ王国の古い歴史の主要 部分だ。 長く攻められ続けたタイの首都バンコクは、 ヤンゴンとは異なり、今や停電もなく上下水道のほ ヤンゴン ぼ整備された世界都市へと発展した。国富・政策の 違いがまちづくりの成否を明確に分ける。今からで も遅くない。識字率が高く勤勉なミャンマーの国民 ヤンゴンとネーピードーの位置関係 2014 10–11 11 週末にはヤンゴンへ、トンボ返りする。 ヤンゴン中心部にそそり立つ、高さ 100m の歴史 のではないか。 アジア諸国の主要都市の発展段階はそれぞれに異 ある仏塔シュエダゴン・パゴダは、今でも、ヤンゴ なる。人口成長のスピード、所得水準や成長速度、 ン都市計画の中心である。タイをはじめ周辺の仏教 人口移動傾向、企業立地や文化集積の度合いなど、 国から訪れる観光客も多い。 「パゴダよりも高い建 都市形成を左右する要因は各種多様。 日本の都市は、 築物を建設してはいけない。少なくともどの方角か 戦後、さまざまな段階を経て進化している。今は、 らもパゴダが見えるようにしないといけない」とい コンパクト+ネットワーク形成による対流型の国土 う運用ガイドラインも存在する。大英帝国流の都市 づくりがグランドデザインの基本だ。日本の培った 計画が根強く残るヤンゴンの中で、いかに近代的な まちづくりの経験を共有し、ミャンマーなりに消化 まちづくり法制を根付かせるか。それができなけれ し成長してもらう機会を増やすことが重要ではない ば、ヤンゴンはバンコクには到底太刀打ちできない だろうか。 12 特集 ミャンマー市場への取り組み 特集 ミャンマー、 さらなる発展へ 水谷 俊博[独立行政法人 日本貿易振興機構(JETRO)海外調査部アジア大洋州課 課長代理] ミャンマーが 2011 年 3 月に軍事政権から民政移 さらに拡大し、 入超額は 25 億 5,600 万ドルに達した。 管を果たしてから約 3 年半の歳月が経つが、2014 輸出を品目別に見ると、天然ガスが前年度比 年度のミャンマー経済は GDP 成長率が 8.5%(IMF 10.0%減の 32 億 9,900 万ドルに留まったが、依然 推計) になると予想されている。諸外国からビジネス・ 輸出額の約 3 割を占めている。減少の主な要因は、 観光を含めた来訪者が引き続き増加傾向にあり、ホ ミャンマーからタイへ繋がるパイプラインのメンテ テル、観光、不動産業を中心に活況を呈しているの ナンスのために一時期送配が停止し、2014 年 1 月 に加え、2012 年に外国投資法の改正が行われ投資 頃に輸出量が一時的に減少したことや、ガス輸出価 環境の整備が徐々に進み始めていることにより、諸 格が下落したことなどが挙げられる。天然ガスは従 外国からの投資が増加し始めたことなどが挙げられ 来通り輸出のほぼ全量がタイ向けである。ミャン る。テイン・セイン政権は外資を牽引力とした安定 マー北西部沿岸のチャオピューから中国雲南省に繋 的な経済成長を目指す方針を示しており、日本企業 がる天然ガス・パイプラインが 2013 年 7 月に開通 を含めて多くの外国資本を呼び込むことに成功しつ しており、今後は中国への本格輸出も見込まれる。 次いで、翡翠が前年度比 239.6%増の 10 億 1,200 つある。 また、ミャンマーの民主化の進展を受け、欧米諸 万ドルとなっている。かつてヤンゴンで開催され 国との関係も大きく改善、経済制裁もほぼ解除され ていた宝石展が、一時的な中断を経て 2010 年以降 たことで、欧米外資も進出するようになった。米国 は会場を首都ネーピードーに移し開催されている は 2012 年 11 月に宝石などを除きミャンマー産の禁 が、ここ数回は成約金額が大幅に減少していた。中 輸措置を解除、EU(欧州連合)は 2013 年 7 月にミャ 国人バイヤーとミャンマー人業者との間で仮成約後 ンマーへの一般特恵関税制度(GSP)の適用を 16 年 に金額調整や船積み関係のトラブルが頻発したこ ぶりに再開したことで、欧米向けの縫製品などの輸 とが主な原因と言われており、2011 年度は輸出が 出も復調しつつある。 3,420 万ドルにまで落ち込んだが、2013 年度は中 国向けの輸出が回復し、大幅に伸長した。また、豆 1. 貿易収支は2年連続の赤字に 類はその多くがインドおよび中国向けに出荷される ミ ャ ン マ ー 中 央 統 計 局(CSO: Central Statistical が、2013 年度の輸出量は前年度比 12.3%減の 130 Organization) 発 表 の 2013 年 度(2013 年 4 月 ∼ 2014 年 3 万 900 トンとなり、輸出額も同 6.8%減の 8 億 9,600 月)の貿易統計によると、輸出が前年度比 24.8%増 万ドルと減少した。ミャンマーでの天候不良による の 112 億 400 万ドル、輸入が同 51.7%増の 137 億 不作と、インドでのひよこ豆の豊作などもあり、輸 6,000 万ドルとなった。軍事政権時代は外貨の流出 出額は減少した。 を防ぐため極端な輸入制限を課していたことから、 縫製品については、元もと 1990 年代に欧米向け 貿易収支は 2011 年度まで 10 年連続の黒字であっ オーダーの増加を受けて生産が拡大したが、2003 た。しかし、民政移管後は、さまざまな方面で輸入 年の米国による追加経済制裁によりミャンマー製品 の規制緩和が行われた結果、2012 年度に 11 年ぶり の全面禁輸措置が採られて以降、2004 年度には約 に貿易収支が赤字となった。2013 年度は赤字幅が 2 億ドルにまで輸出が落ち込んだ。しかし、中国で 2014 10–11 13 の人件費高騰による生産拠点移転の流れを受けて、 農林水産物に関しては、例年通り、チーク、コメ、 2009 年度以降は再び増加傾向となり、特にここ数 ごま、魚類といった品目が上位に名を連ねている。 年は日本と韓国からの受注が大幅に増加。2013 年 なお、 「その他」の項目が 28 億 1,500 万ドルと全体の 度は前年度比 27.2%増の 8 億 8,500 万ドルとなっ 25.1%を占めている。ミャンマー政府の公開資料が た。 これらの動きに加え、 2013 年 7 月には EU がミャ 細分化されておらず、公式統計ベースでは詳細は発 ンマーに対する GSP を再開したことから、一部の 表されていないが、日本貿易振興機構が独自に中央 日系縫製企業にも EU 向けのオーダーが入り始めた 統計局にヒアリングしたところでは、再輸出品が 9 ことや、 米国向けにも輸出が復活したことなど、 ミャ 億 7,400 万ドル、その他農林水産物(スイカ・マンゴー・ ンマーからの縫製品輸出は当面の間は増大傾向が続 キュウリなどの果物および野菜、ウナギやその他水産物、砂糖など) くことが予想される。 が 4 億 9,800 万ドル、コンデンセート油が 2 億 3,500 万ドルとなっている。中でも再輸出品の占める割合 表1|ミャンマーの主要品目別輸出入〈通関ベース〉 (単位:100万ドル、 %) 2012年度 金額 2013年度 金額 構成比 伸び率 輸出総額(FOB) 8,977 11,204 100.0 24.8 天然ガス 3,666 3,299 29.4 △10.0 翡翠 298 1,012 9.0 239.6 豆類 962 896 8.0 △6.8 縫製品 695 885 7.9 27.2 が大きいが、これらは主に展示会出展用商品、建設 機械などの重機が大半を占めている。民主化の進展 に伴い昨今ヤンゴン市内を中心に国際展示会が頻繁 に開催されるようになり、また、ヤンゴン、ネーピー ドー、マンダレーといった都市部を中心に引き続き インフラ関係の開発需要が旺盛で、これらの展示会 や工事に必要な製品を一時輸入し、一定期間使用後 に再輸出するケースが増加していると見られる。 チーク 359 668 6.0 85.9 コメ 544 460 4.1 △15.4 ごま 278 341 3.0 22.4 魚類 442 311 2.8 △29.7 トウモロコシ 200 286 2.6 42.8 然ガス採掘用機材、建設・鉱山開発用機械、トラック、乗用車など) 竪木 220 232 2.1 5.4 その他 1,312 2,815 25.1 114.6 が前年度比 56.7%増の 41 億 4,500 万ドルと最も多 輸入総額(CIF) 9,069 13,760 100.0 51.7 一般・輸送機械 2,646 4,145 30.1 56.7 の 23 億ドルと続いた。特に一般・輸送機械について 石油製品 1,592 2,300 16.7 44.5 卑金属・同製品 1,025 1,543 11.2 50.5 は、2010 年度の輸入額が 12 億 100 万ドルであったこ 電気機械・器具 489 708 5.1 44.9 食用植物油 304 515 3.7 69.2 これらはいずれも天然ガス、鉱物資源の採掘需要に プラスチック 351 468 3.4 33.4 合繊織物 309 406 2.9 31.4 加え、ヤンゴン、ネーピードー、マンダレーを中心 医薬品 273 253 1.8 △7.3 とした開発需要が下支えしている。特にヤンゴンで 肥料 168 231 1.7 37.6 セメント は依然絶対的に不足しているホテル、オフィスビル 158 204 1.5 29.7 1,756 2,986 21.7 70.1 などの建設、都市部のミャンマー人のライフスタイ その他 出所:ミャンマー中央統計局(CSO) 14 特集 ミャンマー市場への取り組み 一方、輸入を品目別に見ると、一般・輸送機械(天 く、次いで、石油製品(主にディーゼル油)が同 44.5%増 とから、 この 3 年間で約 3.5 倍と急増したことになる。 ルの変化、中間所得層の増加を受けた商業施設の建 設が活発化しており、建設資機材の輸入増大に寄与 で 2010 年度以来 3 年ぶりに増加に転じた。国・地 していると思われる。また、一般・輸送機械の中に 域別で見ると、これまで長年にわたり 1 位であっ は乗用車も含まれているが、2011 年 9 月にテイン・ た中国からの投資額がさらに減少し、8 位にまで順 セイン大統領の指示の下、開始された中古自動車輸 位を下げている。代わりに 1 位となったのはシンガ 入の規制緩和により、2012 年度のピーク時に比べる ポールで、23 億 4,000 万ドルであった。次いで 2 位 と幾分減少しているものの、引き続き日本からの中 は韓国で 6 億 4,100 万ドル、3 位はタイで 4 億 8,900 古車輸入が多く含まれている。加えて、外資参入を 万ドルであった。これら上位 3 カ国で全体の 85% 受け、資本財としての機械設備の輸入も増えている。 近くを占めている。 旧軍政下で輸入制限されてきた数多くの品目が民 シンガポールからの投資金額は 57.0%と投資額 政移管後に規制緩和されたこと、国内景気が上昇し 全体の半分以上を占めている。その中には、ミャン ていることなどにより、2011 年度以降、輸入額が マー国内の通信ライセンスを獲得したノルウェーの 急増し、貿易赤字が定着しつつある。こうした構 テレノール社(2 億 8,100 万ドル)やカタールの Ooredoo 造変化などを受け、2012 年度の対米ドル平均為替 (旧カタールテレコム、6 億 2,200 万ドル)などのシンガポー レートが 1 ドル 851.58 チャットであったのに対し、 ル子会社を通じた投資が含まれている。また、米ペ 2013 年度は 966.50 チャットと 1 割以上チャット安 プシ・コーラのミャンマーでのボトリング工場につ になっている。 いても、ロッテ七星飲料とミャンマー企業による合 特に 2013 年度以降は、貿易額の伸びが著しいが、 弁投資(8,100 万ドル)であるが、これもシンガポール 現政権誕生後,徐々に貿易制度・手続きの自由化・ からの投資となっている。このように、一見シンガ 円滑化が行われていることもひとつの背景として挙 ポールからの投資が急拡大したように見えるが、必 げられる。たとえば、 これまでは輸出入を行うには、 ずしも投資元企業の国籍はシンガポールではない 船積みの度に事前にライセンスを商業省に申請し ケースも多い。シンガポールを通じて投資を行う理 取得しなければならなかったが、現在では HS コー 由は、同国が東南アジア地域のハブセンターとして ド(8 桁ベース)で輸出 983 品目、輸入 2,079 品目につ の機能を有していることに加え、ミャンマーとシン いてはそれぞれライセンスなしで貿易ができるよう ガポールが 2 国間で租税条約を締結しており、二重 に規制緩和された。商業省はこれらの品目数をさら 課税のリスクがないことが主な要因と言える。日本 に増加させるべく関係省庁と調整を図っている模様 企業による投資でも、シンガポールからの投資と だ。これら一連の施策により輸出入に関わる規制・ なっているケースが複数見られる。 業務負荷が軽減されれば、今後さらなる貿易の増加 に繋がることが期待される。 一方、投資認可件数で見ると、2013 年度は 123 件となり、前年度の 94 件をさらに上回った(2011 年 度はわずか 13 件であった) 。123 件のうち製造業が最大 2. 2013年度の外国直接投資の概要 2013 年度の対内直接投資(認可ベース)は 123 件、 41 億 700 万ドル(前年度比 189.3%増)と、金額ベース の 95 件を占めたことは、2012 年度と同様の傾向で、 軍政時代の案件が資源・エネルギー分野に偏重して いたことに比べると、大きな変化と言える。製造業 2014 10–11 15 の業種としては、縫製が主となるが、食料品、自動 れる。現在、ヤンゴン中心市街地から 23km 南東に 車組み立て、木材加工など、業種の幅も少しずつ広 位置するティラワ地区において、日緬の官民が協力 がりつつある。その他、金額は大きくないものの、 して工業団地の開発を進めている。開発にあたり、 ルクセンブルクや英国企業による観光分野への参入 三菱商事、丸紅、住友商事の 3 社均等出資にて設立 (リバークルーズなどの旅行手配)や、オーストラリア企業 されたエム・エム・エス・ティラワ社が 49%、ミャ による牡蠣、 真珠養殖ビジネスなども含まれており、 ンマー政府および民間企業他が 51%出資し、MJ 欧米諸国によるミャンマーへの投資に対する見方が ティラワ・ディベロップメント(Myanmar Japan Thilawa 改善していることが分かる。 Development:MJTD)社が 2014 年 1 月に設立された。 ティラワ SEZ は総面積 2,400ha の広大な敷地であ 表2|ミャンマーの国別対内直接投資〈認可ベース〉 (単位:100万ドル、 %) 2012年度 件数 2013年度 金額 件数 金額 構成比 伸び率 シンガポール 14 247.8 25 2,340 57.0 844.3 韓国 28 37.9 13 641 15.6 1,589.2 タイ 2 1.3 9 489 11.9 37,520.9 英国 5 232.7 10 157 ベトナム 3 329.4 1 香港 9 80.8 24 日本 11 54.1 中国 14 407.3 るが、同社は先行開発エリア(Class-A 地区)の 400ha を優先的に開発する。国際協力機構(JICA)も工業団 地開発・販売・運営事業を行うための資金が融資供 与されており、今後、2015 年の開業を目指してさ らに同工業団地の開発が進むと見られている。 また、2014 年 1 月には改正 SEZ 法も公布され、 3.8 △32.6 142 3.5 △56.9 119 2.9 47.4 11 61 1.5 12.6 16 57 1.4 △86.0 2014 年 5 月にティラワ SEZ の土地使用権(50 年間+ 25 年延長オプション付き)の販売が開始されたが、10 月 ミャンマー政府は SEZ 内でのワン・ストップ・サー ビスの実現に向けて本格的に動き始めている。 マレーシア 2 4.3 3 56 1.4 1,204.3 インド 2 11.5 4 26 0.6 126.4 フランス ̶ ̶ 1 5 0.1 全増 ルクセンブルク ̶ ̶ 1 5 0.1 全増 社は日系企業となっており、今後、さらに多くの U.A.E ̶ ̶ 1 5 0.1 全増 1 1.0 2 2 0.1 127.3 企業がティラワ SEZ に進出することが期待されて ラオス ̶ ̶ 1 1 0.0 全増 オーストラリア ブルネイ ̶ ̶ 1 1 0.0 全増 オランダ 2 10.3 ̶ ̶ ̶ 全減 カナダ 1 1.0 ̶ ̶ ̶ 全減 4,107 .1 100.0 189.3 外国投資計 94 1,419.5 123 出所:ミャンマー中央統計局(CSO) 現在、24 社と販売契約が締結されている。うち 11 いる。 2015 年には 5 年ぶりとなる総選挙も実施される予 定である。テイン・セイン大統領は続投の意思を明 確にしていないが、選挙の行方が注目される。また、 アウン・サン・スー・チー氏は現行の大統領就任を 禁じる憲法規定改正の必要性を訴えており、今後総 3. 開発が進むティラワ経済特別区(SEZ)開発 選挙に向けて憲法改正や選挙区制度の改正議論が活 海外からミャンマーへの直接投資は本格化しつつ 発化していくと見られる。2015 年には ASEAN 経済 あるが、一方、外国企業の共通の課題として、電力 共同体の発足も控えており、当面の間は同国の政治 を含めたインフラの整った工業団地の不足が挙げら 経済の動きから目を離すことができない。 16 特集 ミャンマー市場への取り組み 特集 ミャンマーにおける会計・税務の留意点 三木 拓人[新日本有限責任監査法人 公認会計士] 1. はじめに 親会社や本店の(連結)財務諸表の一部に組み込まれ、 ミャンマーに外資企業の進出が進んでいる。日本 投資家への説明や、経営陣の意思決定に用いられる 企業は、従来、調査のための支店(駐在員事務所)がほ ことを考えれば、日本企業が「会計慣行」に従う会 とんどであったが、徐々に当地におけるビジネス 計処理を行うことは適切ではなかろう。 を開始するための現地法人設立などが目立つように なってきた。実際のビジネスを営む場合には、さま (2)留意点 ざまな取引が発生し得るし、金額規模も異なってく 今まで多くのミャンマー進出日本企業は、黎明期 るため、社内の会計や管理体制の立ち上げや税務処 にあり、会計・経理よりも、ビジネス獲得や、ビジ 理の明確化に尽力される企業も増えつつある。本稿 ネス上のコストや資金繰りに直結する税務が優先課 では、このような状況を踏まえ会計・税務の留意点 題であった。しかし、今ではビジネスが立ち上がり を紹介する。なお、本稿の意見にわたる部分は筆者 つつある企業も多く、会計・経理を無視できない段 の私見である点をお断りしておく。 階に入った。会計・経理体制を構築するにあたり、 いくつか留意すべき点がある。 2. 会計 (1)会計制度 1)経理体制 実はミャンマーには会計基準がある。ミャンマー ビジネスが立ち上がってくると、プロジェク 財務報告基準(MFRS)および、その中小企業版(MFRS トごとの会計なども必要となり、外部の記帳代 for SMEs)である。以下、これらを合わせて「MFRS 行サービスなどに頼ることが難しくなってくる。 など」という。MFRS などは、2009 年頃の国際財 ミャンマー語の書類も多く、経理人員は、やはり 務報告基準(IFRS)およびその中小企業版(IFRS for (日本企業が求める 現地採用を考えることとなるが、 SMEs)をコピーしてきたものであるが、改正がなさ レベルの)経験ある経理人員を見つけることができ れないため、現時点において MFRS などと現行の るのは幸運な企業に限られる。このため、現地採 IFRS、IFRS for SMEs とには若干の差が生じてい 用人員のみで経理チームを組むことにはリスク る。上場企業(やその予備軍)など、一般投資家への説 がある。やはり実務が定着するまでの間、本国な 明責任を有する企業を除き、MFRS for SMEs の適 り他国での経験者が日々の業務をきちんと監督 用が可能であるから、ミャンマー進出日本企業は、 する必要があり、そのコストは進出コストとして 一般には MFRS、MFRS for SMEs のいずれを適用 捉える必要があろう。 してもよく、親会社や本店の方針に照らして、合理 的な方を採用することとなる。 2)日本の会計基準との差異 なお、ミャンマーの企業の多くは MFRS などで 親会社なり本店の会計方針は、日本の会計基 はなく、 旧来からの「会計慣行」に従った会計を行っ 準に基づいており、MFRS などが適用されるミャ ていることが多い。 しかし、 これは明文の 「会計基準」 ンマーでの会計には必ずしもそのまま適用でき ではなく、 その適用も企業によってまちまちである。 ないことがある。ミャンマーにおいてスタート 2014 10–11 17 アップ期を終え、プロジェクトを受注、工事を開 い企業とで売り上げ計上のタイミングが異なり、 始しつつある、というミャンマー進出日本企業の 課税に不公平が生じる可能性がある。 現況を考えた時に特に留意すべき点として、会社 2)個人所得税 (支店)設立や開業準備のコストの資産計上が認め ミャンマーと日本の間には租税条約がない。こ られない点や、売り上げの計上にあたって工事の のため、プロジェクトベースでミャンマーでの作 成果が信頼性を持って見積もることができない 業に従事する人員、特に、租税条約未締結国であ 場合には、工事完成基準ではなく原価回収基準を る日本からの出張者についてミャンマーでの個 適用することとなるといった点がある。これらは 人所得税が課されるかという問い合わせを多く 日本基準との差異である。 いただく。税法を素直に読むと、非居住外国人も ミャンマー源泉所得について所得税が課される 3. 税務 とされているが、ミャンマー源泉所得の定義が明 確でないことを理由として、外国企業の中でも納 (1)税制 ミャンマーでビジネスを行うにあたりフォーカス 税している企業、していない企業でばらつきがあ すべき税制には、法人所得税・個人所得税・商業税・ る。本稿執筆時点でも、税務当局の統一的な見解 関税が挙げられる。いずれも税法が古くてシンプル というものが明確でなく、この点に踏み込んだ書 であり、現代の多様な企業活動を網羅していない。 籍も見ないが、異論を恐れずあえて税法について このため、税務当局の裁量が大きく働くが、税務当 検討してみたい。 局担当官の意見もばらつきがある。また、会計基準 ミャンマーの所得税の前に、日本の所得税に と税法には違いがある、という税務調整の大前提と ついて振り返ってみたい。国際課税の原則では、 なるコンセプトが税務当局内に浸透していないよう 役務提供地を所得源泉地と捉える。日本でも、非 である。 居住者(個人)について、国内源泉所得について所 得税が課される。日本の場合、非居住者の国内源 (2)留意点 1)法人所得税 18 泉所得については、法に細かく列挙があり、列挙 されたもののみが国内源泉所得となる。そのひと 益金・損金の計算ルールが明確でない。特に建 つとして、非居住者(個人)が稼得する給与・賞与 設業においては、会計基準(MFRS など)が工事進 などのうち、国内において行う勤務などに起因す 行基準を求める一方、会計基準などお構いなしの るものは、国内源泉所得に含まれることとされて 地場企業は工事完成基準(ないし現金主義)で売上高 いる。租税条約締結国については、租税条約に従 を計上している。税務上、工事契約についてどの い、一定の条件の下、短期滞在者免税が適用され タイミングで売り上げ計上すべきかについての るが、租税条約未締結国に居住しており、日本国 ガイダンスがないため、会計上の売り上げがその 内で勤務する個人(たとえば、外国関係会社からの出張者) まま課税所得計算に用いられると考えられるが、 は、日本で所得税が課されるのである。日本で所 適切に工事進行基準を適用する企業と、そうでな 得税が源泉徴収されていない場合、このような個 特集 ミャンマー市場への取り組み 人は自ら確定申告を行うこととなる。法的には(現 れるが、現行法上、 「トレード」を除くサービス 実的かどうかは別として) 、短期でも国内で勤務して 業の会社については、仕入税額を売上税額から控 いたら申告するべき、ということになろう。 除することができない。現在、法改正が検討さ ミャンマーの所得税法では、日本のように細か れているとのことであるが、その内容、時期に く国内源泉所得にあたるものを列挙するのでな ついては本稿執筆時点で明確でない。このため、 く、ざっくりした規定となっている。その中で サブコンへの発注や資材購入について課された ミャンマー国内源泉所得とみなされるものとし 仕入税額 5%は建設業を営む企業にとってコスト て、ミャンマー国内のあらゆる源泉から稼得した である。 所得が含まれるとされており、これには、ミャン なお、現在、仕入税額の控除が認められている マー国内での役務提供を源泉とする所得も含む トレードや製造業についても、販売した商品の仕 と解する。日本とミャンマーには租税条約がない 入れや、費消した原材料・半製品に係わる税額し ため、短期滞在者の免税の適用がなく、法的には か控除できない(このため、一般に還付は想定されない)。 (やはり現実的かどうかは別として) 、上述の日本におけ したがって、建設業を営む企業の売り上げに課さ る海外からの出張者と同様の取り扱いになろう。 れる 5%の商業税は、発注者にとってもやはりコ なお、国内源泉所得の算出方法は Income Tax ストとなる。 Rule に記載があるも明確でなく、税務当局など また、建設業を含むサービス業について仕入 の裁量が大きく働く余地がある。プロジェクト 税額控除が可能となったとしても、現状、トレー ベースでミャンマー国内に人員を派遣している ドや製造業に適用されているように、売り上げに 外国企業の例では、勤務した日数の割合に基づき 対応した商品仕入れや原材料・半製品仕入れにつ ミャンマー源泉所得を算出するのが一般的だが、 いてのみ仕入税額の控除が可能という取り扱い これに対しては当局からの異議は今のところ出 が残るとしたならば、建設プロジェクトごとに商 ていない。なお、居住国(日本など)での二重課税 業税の支払い・受け取りを管理したり、また、還 回避策(外国税額控除)を活用することで、二重課税 付がないことを前提に仕入れのキャッシュ・アウ は一部軽減される。 ト・フローと売り上げのキャッシュ・イン・フロー のタイミングを検討したりする必要があろう。 3)商業税 商業税は、物の販売やサービス提供による売り 4)外国投資法、経済特別区(SEZ)法 上げの 5%(一部の物品・サービスを除く)として課され 外国投資法に基づく投資認可(MIC 許可)を得れ る間接税である。他国の付加価値税では、一般に ば、最長 70 年(当初 50 年+ 10 年× 2 回)の土地利用、 は、最終顧客のみが税金コストを負担するため、 事業開始後 5 年間の法人所得税免税その他の税務 それほど経営成績へのインパクトを気にする必 上の恩典が受けられる。一般に、建設業につい 要はないが、ミャンマーにおいては異なる。 ては MIC 許可の取得は困難であるが、発注者が ミャンマーでは、建設業はサービス業に分類さ MIC 許可を取得した企業である場合、MIC 許可 2014 10–11 19 時に当初建設期間として認められた期間中、建設 最長 75 年(当初 50 年+ 25 年)の土地利用に加え、進 資材などの輸入について、関税・商業税免除な 出するゾーンごとに法人税の免税期間が定めら どの措置が与えられるため、見積り時に留意が れている(フリーゾーン 7 年、プロモーションゾーン 5 年、 必要となる。また、MIC 許可を得た企業は、当 SEZ 開発業者は 8 年)。また、建設資材などの輸入に 初 5 年間の法人税免税期間後においても、1 年内 ついて関税その他税金が免除される(プロモーショ にミャンマー国内で利益を再投資(いわゆる第 2 期工 ンゾーンは当初 5 年間免税、その後 5 年間は 50%減免。フリー 事など)する場合、再投資にあてる利益について ゾーン・SEZ 開発業者には期間の制限なし) 。 法人所得税が免税となるが、さらに、この場合、 外国投資法や SEZ 法に基づく許可を得ている MIC の許可を得ての投資増額として、建設資材 発注者の場合には、その税務上の恩典を確認する などの輸入に係わる関税・商業税が免税となる。 必要がある。 ただし、まれに MIC 許可取得にあたり、一部 の税務上の恩典を放棄している企業があり、ま 4. 終わりに た、ミャンマー投資委員会通達 No. 51/2014 に フロンティアというだけあって、この国には国際 より、MIC 許可を受けたとしても関税や商業税 的水準での会計実務を担当できる人員・専門家が限 が免除にならないとされた業種がある点には留 られ、また、税務については税法解釈の事例がまだ 意が必要である。 まだ少ないため、 あらゆるところに落とし穴がある。 そのような中で果敢にビジネスに挑む日本企業の皆 20 SEZ についても、ティラワ SEZ における工場 様には敬意の念を抱かずにはいられない。われわれ など建設がいよいよ本格化すると考えられるが、 も、その水先案内人たるべく、地道な努力を重ねて SEZ 法に基づく投資許可を得た企業についても、 いく所存である。 特集 ミャンマー市場への取り組み 特集 ミャンマーにおける外国投資 ──建設業を中心に 武川 丈士[森・濱田松本法律事務所 弁護士] 建設業にとって非常に有望な市場と言われている 保険業務も昨年(2013 年)からミャンマー内資企業に ミャンマーであるが、これまでは期待先行の感が強 は開放されている。このように本法には既に多数の かったように思われる。建設業のミャンマー進出に 例外的な措置が存在している状況であり、それらは ついては規制上多くの困難が伴い、また、製造業の 個別の業法によって規定されている。 進出が本格化していなかったため、特に日系企業に よる需要も限定的であったことは否めない。 しかし、 (2)事実上の外資規制の存在 最近になり規制面ではかなりの改善が見られること 国営企業法の対象業種以外については、ミャン に加えて、ティラワ経済特別区(SEZ)の開発が進展 マーには外国投資を一般的に禁止・制限する法律は し、いよいよ日系企業による本格的な建設需要が生 存在しない。しかし、明文によらない事実上の障害 じつつある。本稿ではミャンマーにおける外国投資 (法律の運用など)や特別法によって外国投資が制限さ に関する規制の一般的な枠組みおよび建設業の進出 れていることがある(以下、これらを「事実上の投資障害」 に関する規制の状況を概説する。その上で、建設業 と総称する) 。逆に言えば、事実上の投資障害が存し にとって大きな市場となり得るティラワ経済特別区 ない事業領域(典型的にはサービス業)においては、外 の最新の状況についても簡単に触れたい。 国資本は自由にミャンマーに対して投資を行うこと ができる。 1. ミャンマー外国投資規制の概要 (1)国営企業法 ミャンマーにおける外国投資規制は複雑な体系を 事実上の投資障害の内容は多岐にわたるが、代表 的なものとしては、❶ミャンマー会社法 27 条 A 第 1 項に基づき、外国資本が入った会社(以下「外国会社」 有している。まず、ミャンマーにおいては国営企業 とする)の設立のためには営業許可(Permit to Trade)の 法という法律により、農林水産業・インフラ事業な 取得が必要とされていることや、商業(Trading)に分 どを中心とした 12 分野については国営企業または 類される事業については運用上営業許可が発行され 国営企業との合弁事業の形態でのみ認められる。具 ないこと、❷不動産移転制限法に基づき、外国会社 体的には、❶チーク材の伐採とその販売・輸出、❷ は不動産を所有することが禁止されており、かつ、 家庭消費用薪材を除くすべての植林および森林管 1 年以上の期間にわたり賃借することも禁止されて 理、❸石油・天然ガスの採掘・販売、❹真珠・翡翠 いることなどが挙げられる。また、❸ミャンマー その他宝石の採掘・輸出、❺魚・海老の養殖、❻郵 において輸出入を行うためには輸出入業者登録(法 便・通信事業、❼航空・鉄道事業、❽銀行・保険事 人ごとの登録)および輸入ライセンス(品目ごとの登録)が 業、❾ラジオ・テレビ放送事業、❿金属の採掘・精 必要となるが、これらが業種・業態によっては外資 錬と輸出、⓫発電事業、⓬治安・国防上必要な産品 企業に与えられない場合が多い。こうした事実上の の生産である。 投資障害が外資規制として機能しているのがミャン もっとも、銀行については既に多数のミャンマー マーの外国投資規制の実態である。 内資企業による民間銀行が存在し、一部の外国銀行 に対しても支店による営業が許可されている。 また、 2014 10–11 21 事実上の投資障害については、従前、ミャンマー当 (3)外国投資法 事実上の投資障害が存在するために外国資本の参 局は「建設業」に対する営業許可の発行を認めず、 入が結果的に許されない事業分野については、外国 MIC 許可の取得を求めていた時期があった。しか 投資法に基づくミャンマー投資委員会(MIC)の許可 し、さまざまな紆余曲折を経て、現在では「サービ (MIC 許可)を取得することができれば投資が可能と ス業」扱いでの建設業の参入を認めるようになって なる。たとえば、MIC 許可を取得した外国企業は 1 いる。そのため、現段階では外国建設業者は支店を 年以上の長期間にわたって土地を賃借することが可 設置または現地法人を設立することにより、特段の 能となるため、製造業にとっては MIC 許可を取得 制限なくミャンマーに進出することが可能な状況に することが投資の必要条件となる。 なっている。 本来、外国投資法は外国投資に対する「追加的な 優遇策」を定めた法律である(たとえば MIC 許可を受け た企業は 5 年間にわたり所得税を免除される) 。そのため、建 前としては同法の適用を申請するかどうかは投資家 の自由な選択に委ねられているが、事実上の投資障 国営企業との 合併事業で 進出可能 Yes No 例: 農林水産・インフラ系 事実上の投資障害が 存在する事業分野か 害が存在する事業分野に関しては、外国投資法の適 用を受けることが投資の必須条件となる。 外国投資法の適用を受けるための条件はミャン マー投資委員会の告示によって公表されている。か かる条件の中には内資企業との合弁を条件とするも のや、 一定の外資比率上限を条件とするものがある。 (4) まとめ:ミャンマーの既存外国投資法制 国営企業法が適用 されるか No 特に制限無く 進出が可能 Yes 適用条件に 従ってのみ 進出可能 例: 製造業・一部小売業・ 建設業・不動産開発業 など ⇒インセンティブ:あり Yes 外国投資法が適用 される業種で、 適用 条件を満たすか No 進出不可 例:商業・貿易業など 具体的な進出手法としては、支店の設置と現地法 以上をまとめるとミャンマーの外国投資法制の大 人の設立という方法がある。現地法人設立の場合に 枠は表のようになる。最大のポイントは事実上の投 は株主が最低でも 2 名必要であるため資本構成を検 資障害が存在するかという点である。存在する場合 討する必要があるが、当局による審査および申請書 には MIC 許可を取得する必要があるが、存在しな 類の準備に要する手間も含めて法的には大きな違い ければ原則通り外資 100%での進出が可能となる。 はない。税務面では、法人税率は現地法人の場合に は 25% であるのに対して、支店の場合には 35% で 2. 建設業のミャンマー進出 (1)進出の可否およびその方法 あるため、利益が生じることを前提にすれば現地法 人の方が有利である。なお、ミャンマーにおいては 建設業のミャンマー進出についてはどのような課 建設事務所制度(プロジェクト単位での建設業の進出を登録 題があるのだろうか。この点を、表に則して検討す する制度)は存在しない。単発の工事を行う際に支店 ると、 建設業分野は国営企業法の対象分野ではない。 や現地法人の設立が必要かどうかについては明確な 22 特集 ミャンマー市場への取り組み 基準が存在せず、個別の判断によらざるを得ない面 望する企業は MJTD 社から土地のサブリースを受 がある。 けて進出することになる。 SEZ のポイントは、以下の 4 点に集約することが (2)進出後の業務遂行 できる。 前述の通り建設業のミャンマー進出そのものにつ いてはこの 2、3 年で大幅な状況の改善が見られた。 一方で、実務上問題となっていたのは進出後の事業 ❶インフラ整備 従来ミャンマーに製造業の本格的進出が少なかっ 遂行に関するさまざまな規制である。具体的には、 た最大の理由は、電気・ガス・水道などのインフラ 従来、外国建設業者に対しては建設資材や重機など が整備されていないことにあった。ティラワ SEZ の輸入をするための輸入ライセンスの取得が認めら では開発会社(MJTD 社)が一定のインフラ整備を行 れておらず、このため外国建設業者が単独で事業を うことに加えて、国際協力機構(JICA)によるインフ 行うことは困難であった。 ラ整備も行われることから、ほかに比べて高水準の この点については最近になり規制が緩和され、外 インフラ整備を期待することができる。 国建設業者に対しての輸出入業者登録および輸入ラ イセンスが解禁された。しかしながら、輸入ライセ ンス(品目ごと)の実際の取得の場面においては資本 ❷税制上の優遇措置 輸出向け製造業およびそのサポート業種には 7 年 金に対して一定割合までの輸入金額しか認めない、 間、その他の事業には 5 年間の法人税が免除される ミャンマー国内で調達可能な建設資材の輸入は認め ほか、輸出向け製造業については原材料の輸入関税 ないなどさまざまな規制が依然として残存している が免除される。 ようである。輸入ライセンスの扱いは徐々に規制緩 和の方法に向かっていることは事実であるが、まだ まだ今後も紆余曲折が予想される。実際に事業を実 施するにあたっては十分な留意が必要である。 ❸手続きの簡素化 事業認可・会社設立手続きはティラワ SEZ 管理 委員会(Management Committee)に一元化され、原則と して複数の官庁に許認可を申請する必要はなくな 3. ティラワSEZの最新状況 (1) ティラワSEZの概要 ティラワ SEZ とはヤンゴン近郊にある約 2,400ha る。また、詳細は今後整備されるが、原材料などの 輸入手続きや輸出手続きについても簡素な方法が採 用される予定である。 の地域である。SEZ に関してはミャンマー SEZ 法 (2014 年に改正)という特別法があり、かかる法律に ❹外資規制の緩和 基づき開発が行われている。開発主体は日本政府 SEZ 法 に お い て は 管 理 委 員 会(Management および商社が 49% を出資し、ミャンマー政府、企 Committee)に広範な権限が与えられており、武器や 業および個人が 51%を出資する Myanmar Japan 麻薬類の製造などの特殊な事業を除くとほとんどす Thilawa Development(MJTD)社であり、入居を希 べての業種が許可の対象となり得る。このように 2014 10–11 23 SEZ には外資規制の緩和特区としての性格も存在 に国家計画経済開発省から交付された。しかし、同 する。実際に事業を許可するかどうかは管理委員会 告示においては投資申請に際して建築確認や環境影 の判断次第であるが、SEZ 外においては外資に開 響評価が必要とされているなど、非現実的な部分が 放されていない事業も許可される余地があり得る。 存在した。それによって、一部項目については当面 SEZ 法では住宅・商業施設・ホテル・病院・学校 の間は記載不要とするなどの対応を執り行った上で などの事業を営むことが可能であることが明記され 投資申請を受け付ける方針が確認され、10 月 20 日 ており、現在開発中の工業団地だけでなく街づくり にはヤンゴンにおいて進出予定企業向けの説明会が を中心としたパッケージ型インフラ輸出の可能性が 開催されたところである。 あることには特に注目すべきである。 このようにティラワ SEZ への進出第一陣の企業 は 2014 年 11 月の雨季明けを目指して動き始めたと (2) ティラワSEZの最新状況 前述の通り SEZ 法そのものは 2014 年初頭に成立 しているが、詳細な内容については規則に委任され ころである。しかし、これは全体 2,400ha のうち約 200ha にすぎず、今後さらにティラワ SEZ への進 出は続くものと思われる。 ていた。SEZ を実際に運用するためには規則の制 定を待つ必要があるところ、諸般の事業から成立が 4. まとめ 遅れており、現段階でもまだ制定されていない。そ このようにミャンマーはあらゆる制度が発展途上 の一方で、ティラワ SEZ では 2015 年中の工場稼動 の段階にあるが、その分先行して進出することのメ 開始を目指しており、そのためにはミャンマーの雨 リットも大きいように思われる。今後本格化する建 季が明ける 2014 年 11 月までには入居予定企業から 設需要を巡っては日本の建設業者に対する期待も高 の投資申請・会社設立申請を開始する必要があった。 い。本稿が参考となれば幸いである。 このため、制定中の規則のうち、投資申請に関連 する部分のみを抜き出した告示が 2014 年 10 月 1 日 24 特集 ミャンマー市場への取り組み 特集 建設業のミャンマー進出に伴う 法律・実務上の問題と取り組みについて 久保 達弘[松田綜合法律事務所 弁護士] 筆者は、2012 年当時から現地法制や市場の動向 にルートを選べるという枠組みになっている点であ を追い、ミャンマーへの参入を検討する日系企業へ る*3。一方で、ルートを司る法律とは異なる個別の のアドバイスを行ってきたが、2013 年度には、海 法律で定められた外資規制を回避するために特定の 外建設協会が率いる調査チームに参加し、ミャン ルートが用意する優遇措置を利用せざるを得ない マーの建設・不動産分野の市場・法制の現状と課題 ケースや、各ルートの許認可関係で裁量判断が横行 の分析に携わる機会に恵まれた。本稿では、この調 しているために実務上そのルートが選択できない 査などを通じて把握した日系建設業にとっての法 ケースが存在している。このため、結局は個別の業 律・実務上の問題とそれへの取り組みについて紹介 種や事業ごとに各ルートの選択の可否を判断する必 していきたい。なお、当然のことながら、本稿の内 要がある。 容の文責については調査チームではなくすべて筆者 特定の優遇措置を利用せざるを得ないケースの代 表例は、長期土地利用が不可欠な事業(たとえば不動産 に帰属する。 業や製造業)である。外資の不動産取得は法律上禁止 1. 進出の入口における問題 ミャンマーへの進出には、大きく 3 つのルート(法 的枠組み)がある 。 の短期賃貸借しか認められないが、外国投資法ルー トと SEZ 法ルートでは、優遇措置としてそれぞれ最 *1 ❶会社法ルート:特別法を用いず、単純に会社法 に基づいて会社・支店 されており、賃貸借についても原則として上限 1 年 *2 を設立して進出する 大 70 年と 75 年の長期利用が可能となるためである。 ただ、建設業の場合は土地の長期利用を必須条件と というごく通常のルート。国家計画経済開発者 していないため、 ここでは選択肢は絞られない。 では、 (MNPED)の下にある投資企業管理局(DICA)発 裁量判断に伴う実務上の問題はないだろうか。 行の営業許可が必要。 ❷外国投資法ルート:会社法に基づいて会社を設 (1)会社法ルート 立することに加えて、ミャンマー投資委員会 まず理論上、国営企業法で国営と定められている (MIC)認可を受けて外国投資法の優遇措置を利 事業(建設業はこれには該当しない)を除き、業種を理由に 用するルート 会社法ルートの選択は妨げられない。 ❸経済特別区(SEZ)法ルート:指定された SEZ の 会社法ルートの下では、支店であるか現地法人で 中に会社を設立して、SEZ を管轄する当局の認 あるかを問わず、登記と営業許可の取得が必要とさ 可を受け、関税優遇その他の優遇措置を利用す れている。実務上の問題は、営業許可を管轄する るルート ルート選択において重要なことは、ミャンマーに は外国投資に対する規制をまとめた包括的なルール (DICA)の判断基準が明示されておらず、かつ関連 省庁や組織の意見を踏まえた上で判断されるため、 運用が恣意的で不透明となっていることである。 が現在存在しておらず、理論上は、各ルートの利 この点、既に進出している日系建設業各社が取得 用が禁止されている事業を除いて、どんな事業で している営業許可証の様式や文言がいろいろと異 も、優遇措置と義務内容のバランスを判断して自由 なっているとの問題提起がなされている。 たとえば、 2014 10–11 25 許可証にスタンプが押されているものと押されてい 緬共同イニシアティブの議題としても取り上げられ ないもの、押されているスタンプが「Service」であ ている。 るものと「Construction」であるもの、許可内容が 「Construction Service」であるものと「Construction Business」であるものがある、といった具合である。 こうした違いがある中、いずれも施工などの活動が (2)外国投資法ルート 外国投資法ルートを選択する際の制限として、外 国投資法およびその細則*5において、 できると考えてよいのかが問題となっている。この ・ミャンマー市民のみに認可される経済活動 点に関し、調査の過程で DICA 局長に取り扱いを確 ・参入が認められない経済活動 認したところ、概要、以下の回答を得た。 ・ミャンマー側との合弁が強制される経済活動 1) 「Service」や「Construction」というスタンプは、 ・一定の条件下でのみ認可される経済活動 過去に用いられた分類に基づくものであるが、現 が列挙されている。次頁の表では、 これらのうち、 在はそのような分類は存在しない。また、スタン (英 建設業に密接に関連する、 「建設」 、 「設立」 、 「開発」 プの有無によって建設業者ができる業務内容に違 語版では「Construction」 、 「Establishment」 、 「Development」 )と いはない 。 いう言葉を含む活動を整理した。 *4 2)会社の形態であるか支店の形態であるかにか この表を見た第一印象は、 「建設・設立・開発と か わ ら ず、 ま た、 「Construction Service」 や いう単語の使い分けが分かりにくい」というものだ 「Construction Business」という文言の違いに ろう。これには、 訳語の問題もさることながら、 ミャ かかわらず、以下の活動が認められる。 ンマー市場に基づく概念的な問題があるように思わ ・設計(Design) れる。ミャンマーでは、これまで、公共事業であれ ・施工(Engineering) 民間開発であれ、オーナーが自前で建設行為まで行 ・CM(Construction Management)業務 うというかたちが多く、業界として開発業者と建設 ・ジェネラル・コントラクター業務(発注者との間 業者が分離されていないと言われている。このこと で建設工事に関する契約を締結すること、直接ミャンマー人 を踏まえると、上記リストが「開発業」と「建設業」 エンジニアやワーカーを雇用すること、下請け業者と下請け の区別を意識したものではない可能性が高い。 に関する契約を締結すること、および、資材・機材などの物 品の売買契約を締結すること) また、外国投資法における実務上の問題点は、 MIC 認可が裁量判断となっている点である。細則で 以上によれば、少なくとも DICA の取り扱いは明 合弁強制とされている場合の外資比率、最低資本金 瞭と言える。ただし、ミャンマーの行政は、中央官 の額、追加的優遇措置の有無、そして、そもそも認 庁同士も自治体との関係でも連携が十分にとれてい 可が受けられるか否かなど、裁量の余地が大きい。 ない(「縦割り行政」との批判が強い。)ため、個々の手続き 以上の状況の中、建設業が外国投資法ルートを選 において新たな障害に直面する可能性も否定できな 択することははたして実務上可能だろうか。外国投資 い。そのような場合には、官民連携で問題にあたる 法では、大きな投資や雇用創出などが認可基準とし という取り組みが有効と考えられる。この問題は日 て挙げられているが、建設業は一般にそれ自体とし 26 特集 ミャンマー市場への取り組み て多額の投資をもたらす業態ではなく、またワーカー (3) SEZ法ルート の多くは下請け経由で用いることを踏まえると、単体 2014 年 SEZ 法の下で、ティラワ SEZ に関する細 では雇用促進効果も限定的である。そのため、一般 則が 2014 年 10 月に発表された。そこでは SEZ 内 に MIC 認可にはそぐわない事業と考えられている。 で行える奨励事業として、設計・施工(Engineering)、 また、非熟練工を 100%、熟練工についても段階的に 建設業および関連サービスが挙げられている。日系 6 年で 75%をミャンマー人とすべきとされる外国投資 建設業者の中で、まずは SEZ 内の工事を集中的に 法上のミャンマー人雇用義務が、日系建設会社のビ 受注するという場合、このルートを検討することも ジネスモデルに合致するか否かも疑問なしとしない。 考えられる。ただし、ミャンマー人雇用義務は上記 以上を踏まえると、 日系建設業は、 外国投資法ルー 外国投資法と同様であり、また、SEZ 内に設立し トよりも会社法ルートを選択するのが通常ではない た場合に SEZ 外の工事を受注できるかなど、検討 だろうか。実際に、現在のところ日系建設会社の多 すべき課題も残っている くは会社法ルートで支店を設立して事業機会をうか がっているところが多いようである。 2. 進出後の問題 以下、進出後の問題の代表的な例とそれぞれへの 取り組みについて簡単に紹介したい。 表|外国投資法細則の規制リストのうち、 建設・設立・開発の言葉を含むもの ❶ 参入が認められない経済活動 該当なし ・国際水準のゴルフコースおよびリゾート施設の設立 ・住宅用アパート・コンドミニアムの設立・販売・賃貸 ❷ ミャンマー側との合弁が強制される経済活動 ・オフィス・商業ビルの設立・販売 ・工業地域に隣接した住宅地域での住宅用アパートの設立・販売・賃貸 ・低所得者向け住宅の設立 ❸ 一定の条件下でのみ認可される経済活動 ❸-1. 合弁が強制され、かつ関係当局の推薦が必要な経済活動 漁港・魚市場の建設 ・石油ガス関連の設備・パイプラインの建設 ・衛星都市の新規開発 ❸-2. 合弁が強制され、かつその他の条件が付される経済活動 ・都市再開発 ・線路・駅・駅舎の新規建設 ・鉄道省所有地における光ファイバーケーブルの敷設・タワーや機械室の建設 ・石油ガスの採掘・生産、製油所・石油化学工場の設立 ・大規模ダム・堤防の建設 ・送電線の建設 ❸-3. 環境影響評価が必要な経済活動 ・石油ガスパイプラインの建設 ・大規模橋梁・高架道路・高速道路・地下鉄・港・停船所・空港・滑走 路の建設 ・大規模住宅・工業団地の開発 ・大規模ホテル・レクレーション・リゾートの建設 2014 10–11 27 (1)輸出入 (3)共同企業体(特定JV) ミャンマーで建設業を行う場合、資機材の多くは 官民いずれの案件でも、実際の案件受注において 輸入に頼らざるを得ないことが予想される。輸入を 共同企業体をつくるという要請もあると考えられる 行うには、法律上、商業省貿易局での輸出入業者登 が、そうした企業体のミャンマーにおける法的取り 録に加え、個々の輸入品目に対する輸出入ライセン 扱いは必ずしも明らかではない。関連しそうな法律 スの取得が必要とされている 。実務上の問題は、 として 1932 年パートナーシップ法も存在するが、 商業省貿易局の登録の可否も同局の裁量判断に服す 死文化していると言われている。現時点では、内部 る点にある。この点、まず、MIC 認可企業がその 関係・対外関係とも、個別の契約で細かく取り扱い 事業のために輸入をすることは可能とされているた を定めることで対応するほかないだろう。なお、こ め、建設業者も MIC 認可を受けたオーナー名義で の問題も日緬共同イニシアティブの議題として挙げ 必要な資材を輸入することはできる。ただ、これで られている。 *6 はビジネス上のメリットは限定的である。 この点は、 日緬共同イニシアティブでも議題として取り上げら れており、重機の輸入という点から始まり、一歩ず つ規制緩和が図られている。 (4)資格・業法制度 エンジニアの資格に関するエンジニア評議会法 (Engineering Council Law)が 2013 年に成立し、細則が 現在ドラフト中である。他方、建築家の資格に関す (2)建築基準・許認可 る建築家評議会法(Architect Council Law)はドラフト段 ミャンマーの建築基準法は現在ドラフト段階にあ 階である。外国人の資格制度についても整備される り、耐震基準も策定中とされている。また建築許可 予定であり、たとえば APEC の資格を有する外国人 を担当する当局の権限関係がきちんと整理されてい にも一定の業務が認められる予定と言われており、 ない。そのため、実務上の問題として、地域によっ 今後の展開が注目される。なお、建設業を規制する て担当当局と適用基準を個別に調査して判断する必 業法は現時点では存在しない。 要がある。日系建設業者にとって近い将来の活動の 中心になると考えられるのはティラワとヤンゴン市 3. まとめ 地域であり、前者は特別投資地域のワンストップ 以上のように、進出の入口段階でも進出後の具体 サービスセンターが管轄当局となる予定だが、基準 的な業務との関係でも、建設業にとって重要な法律 はいまだ明確ではない。後者は基本的にヤンゴン市 上・実務上の課題はまだ複数残されている。つまり、 開発委員会(YCDC)が管轄するが、12 階以上はこれ 守るべきルールが未整備であり、多くはまさに今議 に加えて建設省住宅局の高層建築プロジェクト品質 論中という状況にある。 「ルールが未整備な中での 管理委員会(CQHP)の許可が必要とされる。また適 コンプライアンス」というのはなかなか一筋縄では 用基準は順次ドラフト中であるため、案件ごとに手 いかないテーマである。だが、文中でも触れた日緬 続きを確認しながら進めるほかない。 共同イニシアティブや、この 8 月に発効した日緬投 資協定などを見ても、日本とミャンマーの間の対話 28 特集 ミャンマー市場への取り組み チャネルは開かれており、ミャンマーの日本に対す る期待も維持されている。そこで、必要に応じて官 民との連携を取りつつ、 「走りながら制度を整えて いく」というかたちでの発想の転換も必要と考えら れる。筆者も、そのような観点を持ちつつ、引き続 き各制度のアップデート状況を追っていきたい。 * 1 通信・航空・鉄道などの国営インフラ事業などに関し ては、もうひとつのルートである❹国営企業法ルート を検討する必要があるが、自ら事業主体とはならない と想定し、ここでは割愛する。 * 2 他の国で進出の初期段階によく検討される「駐在員事 ため、最初から「支店」か「現地法人」を設立する形 態を取ることになる。 * 3 優遇措置の多くは税務上のものだが、その内容は本特 集の会計事務所の記事に委ねたい。 * 4 なお、建設業は、現在のミャンマーの実務においては、 サービス業に分類されている。 * 5 MNPED 通 達 2013 年 11 号 お よ び MIC 通 達 2014 年 49 号、50 号。後者は 2013 年 1 月の通達が改正さ れたもので、2014 年 8 月に発表されたが、以前のリ ストに比べて大幅な規制緩和が行われている。 * 6 インタビューによると、実務上は、これに加えてミャ ンマー商工会議所連合会(UMFCCI)での登録が必要 とされているが、根拠や手続きは定かではない。 務所」という形態はミャンマーには用意されていない 2014 10–11 29 特集 ミャンマー建設市場の現状と課題 矢吹 龍太郎[一般財団法人 建設経済研究所 研究員] 1. はじめに 長らく軍事政権下にあったミャンマーは 2011 年 の民政移管以降、対外開放政策を推し進めており、 先進諸国の民間企業の各分野への参入が相次いでい 表1|ASEAN後発国一人当たり名目GDP (2013年) カンボジア ラオス 1,016ドル ミャンマー 1,477ドル ベトナム 869ドル 1,902ドル 出典:IMF(国際通貨基金)World Economic Outlook Databases る。欧米からの経済制裁も一部解除され、これを契 国際協力銀行(JBIC)が発表した「わが国製造業企 機にミャンマーは財政・金融インフラの整備や外国 業の海外事業展開に関する調査報告 2013 年度海外 貿易・投資構造の改革にも取り組んでいる。建設経 直接投資アンケート結果」では、 「中期的(今後 3 年程度) 済研究所では 2014 年 7 月末に現地へ赴き、ミャン 有望事業展開先国・地域」として、ミャンマーは全 マーに進出している日系建設企業の工事サイトを中 体の 8 位となっている。その理由としては、第 1 位 心に現地調査を行ったところであり、その時の所感 (70.0%) に「安価な労働力」 、2 位に「現地マーケッ を踏まえ、ミャンマーの建設市場と今後の課題につ (53.3%) トの今後の成長」 、次いで「他国のリスク分 いてレポートしたい。なお、今回の調査では清水建 (20.0%)となっている。 散の受け皿として」 設の橋本吉之 OCAJI ミャンマー支部長に多大なご 表 2 はミャンマーの人件費を ASEAN 諸国と比較 協力をいただきました。この場を借りて感謝を申し したものだが、タイやインドネシアの人件費が高騰 上げたい。 している一方で、ミャンマーの人件費が安い水準で あることが見て取れ、日系メーカーからも新たな生 2. ミャンマー経済と民間投資動向 ミ ャ ン マ ー は ASEAN の 中 で も 後 発 国 で あ る 産拠点または今後の消費市場として大きな注目を集 めている。 CLMV(カンボジア、ラオス、ミャンマー、ベトナム)に分類 されており、2013 年の一人当たりの名目 GDP は 869 ドルと 4 カ国の中でも最貧国の位置付けとなっ (表 1)ミャンマーの人口は従来、約 6,000 万 ている。 人とされていたが、2014 年 3 月に 31 年ぶりに実施 された国勢調査の中間発表では 5,140 万人とされ、 単純計算した場合、一人当たりの名目 GDP は 1,000 ドルを超える水準だったということになる。また、 その人口構成は若い世代が多く、今後の所得と消費 の向上が期待されている。2012 年以降のミャンマー の経済成長率は 7%台が見込まれているが、アジア 表2|ASEAN人件費比較 (ドル) 1,800 1,673 1,600 1,400 1,232 1,217 1,184 1,200 957 1,000 699 669 800 584 447 600 418 389 332 366 405 355 330 315 400 206 241 155 137 101 200 71 126 0 インドネシア タイ カンボジア ラオス ミャンマー ベトナム (ヤンゴン) (ジャカルタ) (バンコク) (プノンペン)(ビエンチャン) (ハノイ) 製造業・作業員 製造業・エンジニア 非製造業・スタッフ 非製造業・マネージャー 出典:JETROアジア・オセアニア主要都市・地域の投資関連コスト比較 開発銀行によると 7∼ 8%の経済成長率が維持され た場合、一人当たりの名目 GDP は 2030 年までに 約 3,000 ドルに達すると予測されている。 一方、同調査では有望事業展開先国の課題に関す るアンケートも行われており、ミャンマーにおける 課題は、 「インフラが未整備」が第 1 位(64.3%)となっ 30 特集 ミャンマー市場への取り組み (48.2%) ており、 第 2 位に「法制が未整備」 、 次いで「投 ンフラ整備状況については道路、鉄道、空港、港湾、 (32.1%)が大きな課題として認識 資国先の情報不足」 電力など各セクターにおいて不十分かつ老朽化も著 されている。ASEAN 上位国であるインドネシアや しく、進出企業が生産拠点を構えるにあたってのボ タイと比較してみても、社会基盤に課題を抱えてい トルネックになっている。ミャンマー政府は資金に ることが見て取れ、今後、有望な進出先として軌道 乏しく、開発援助や BOT 方式によるインフラ整備 に乗るためには早急にインフラや法制が整備される が期待されているが、日本政府はミャンマーの社会 ことが望まれている。 基盤整備を支援すべく、円借款や開発援助を立て続 (表 3) けに発表している。 なかでも 2015 年の半ばの開業を目指している 3. 期待される建設市場 ミャンマーの建設市場は大きく❶社会インフラ整 ティラワ経済特別区(SEZ)は日本が官民を挙げて開 備、❷進出企業の生産施設の建設、❸商業施設やホ 発に取り組んでいる経済特別区である。国際基準の テル、住居などの建設に分けられ、今後各分野の建 インフラ設備を備えた工業団地が開発されることに 設市場拡大が予想される。日系建設会社にとっては 加え、港湾、発電、上水、接続道路などの周辺イン 工事代金の回収リスクなどを考えた場合、政府開発 フラの整備も円借款により整備される予定であるこ 援助(ODA)案件や日系メーカーの工場などがまず とから、2014 年 10 月現在、日系 9 社を含む 21 社の はターゲットになると思われるが、ミャンマーのイ 企業が進出を決めており、ティラワ SEZ を中心に 表3|建設土木工事を含む主なODA案件 円借款・贈与契約締結日 2012 案件名 備考 08/03 無償 沿岸部防災機能強化のためのマングローブ植林計画 09/28 無償 ヤンゴン市上水道施設緊急整備計画 19.00 03/22 無償 気象観測装置整備計画 38.42 レーダー塔建設 有償 貧困削減地方開発事業(フェーズⅠ) 170.00 06/07 有償 インフラ緊急復旧改善事業(フェーズⅠ) 140.52 有償 ティラワ地区インフラ開発計画(フェーズⅠ) 200.00 港湾・電力関連施設の整備 08/04 無償 工科系大学拡充計画 25.82 実験棟等の設置 06/10 無償 ヤンゴン市新タケタ橋建設計画 46.16 06/10 無償 教員養成校改善計画 25.13 施設建替 05/29 無償 シャン州ラーショー総合病院整備計画 15.10 施設建替 05/29 無償 カヤー州ロイコー総合病院整備計画 19.45 施設建替 09/05 中部地域保健施設整備計画 供与額(億円) 無償 2013 2014 形態 10/25 12.56 施設建替 5.83 植林・避難施設 有償 ティラワ地区インフラ開発計画(フェーズⅡ) 有償 ヤンゴン市都市圏上水整備事業 236.83 ※ティラワSEZにも水供給 46.13 ※ヤンゴン・ティラワSEZ間のアクセス道路整備 有償 ヤンゴン・マンダレー鉄道整備事業(フェーズⅠ) 200.00 有償 バゴー地域西部灌漑開発事業 148.70 出典:国際協力機構(JICA)ウェブサイト 2014 10–11 31 インフラ整備と民間企業進出に伴う生産施設建設が 対象国の特質をよく吟味し、計画に時間をかけ確実 加速することが期待されている。当研究所の現地視 に実行する日本のスタイルは徐々にではあるが形に 察後も小売業の一部規制緩和や邦銀への免許供与な なり始めている。JICA は 9 月にヤンゴン市と策定 ど、建設需要に繋がる現地進出企業への追い風とな した「ヤンゴン都市圏交通マスタープラン」を発表 る動きが続いている。 し、その中で 2035 年までの高速道路を含む道路マ スタープランと鉄道マスタープランを示した。 「ヤ 一方、急増するホテル、サービスアパート、オフィ ンゴン∼マンダレー鉄道改修工事」など既に円借款 スなどへの需要に伴って、ヤンゴンでは不動産開発 契約が締結されているものもあり、マスタープラン が盛んであるが、日系企業のミャンマー開発は慎重 の実現に向けて調査などが継続的に行われている。 である。要因としてミャンマーの土地の扱いの難し このように日本の都市計画のノウハウを十分活用し さがある。各種不動産の供給量が少ない中で、外国 た上で、日本の技術力を活かし、ミャンマーの発展 企業の進出が相次いでいるため、値上がり益を当て に貢献するのが日系建設企業にとってもその役割を 込んだ売り惜しみや転売益狙いの投機も横行してお 十分果たせるのではないか。 り、借地権の高騰が著しく、バブル状態と言える。 また、土地の権利関係が複雑で、法整備や運用も日 4. 今後の課題と各社の取り組み 本と違い不透明な部分が多いため、現段階では多額 ミャンマーの建設需要を取り込もうと、多くの日 の投資を伴う不動産開発にはリスクが大きいと思わ 系建設会社が進出を検討しているが、本格的な受注 れる。日系建設会社にもこうした開発案件の引き合 活動を展開する上で乗り越えなければならない課題 いは数多くあるものの、案件化が困難となるケース は多い。対外開放から 3 年が経過したものの、ミャ があるようである。 ンマー側の外資受け入れの体制は過渡期であり、営 ミャンマーは経済制裁下において中国からの直接 業許可基準や建築基準、各種手続きなど、依然不透 投資を積極的に受け入れており、貿易、累積投資額 明な部分が多い。また、商業税の仕入れ税額控除の ともに最大の相手国となってきた。インフラへの投 問題や輸入許可制限、法人税、建築申請費用の内外 資はガス・石油パイプラインの敷設や電源開発を中 格差などが、日系建設会社にとって事実上の参入障 心に盛んであったが、その投資は中国の国内消費の 壁となっている。 ためであり、ミャンマー人に恩恵があるとは言い難 これらミャンマーの規制や制度に係わる課題につ い状況であった。対外開放以来、ミャンマーは中国 いては政府間にて協議を進めていく必要があるが、 に偏った対外政策を改めようとしている。一方、日 「日・ミャンマー共同イニシアティブ」の場や 2014 本は軍事政権下においても人道的な分野に限り独自 年 8 月に発効された「日・ミャンマー投資協定」を の援助を継続してきた。ミャンマーの民主化を契 利用しながら、日本大使館を中心に解決すべく取り 機に円借款を再開した日本であるが、時に ODA な 組まれている状況である。同時にミャンマー政府自 ど、ミャンマーへのアクションスピードが他国のそ 体にも末端の関係官庁の意思統一など自助努力が求 れに比べ遅いと言われることがある。しかし、援助 められる。 32 特集 ミャンマー市場への取り組み さらに今後の建設需要に対応すべく、工事体制の 化させている。JICA はミャンマーの学部教育と研究 確立や技術者の確保・育成が課題となっている。日 能力の向上のための支援として技術協力プロジェクト 系建設企業の中にはミャンマー建設省や地元財閥系 (2013∼ 2018 年度)を実 の「工学教育拡充プロジェクト」 企業と合弁会社を設立するなど、現地にて有力な 施中であり、2014 年 8 月にはミャンマーとの間に「工 パートナーを見つけている企業もある。ミャンマー 科系大学拡充計画」として限度額 25.82 億円の無償資 には技術力こそ日系企業に劣るものの、地元建設企 金協力の贈与契約を行った。これにより、ヤンゴン工 業が多く存在し、首都ネーピードーなどの建設を 科大学、マンダレー工科大学を対象に教育・研究用 担ってきた。それらの企業と競合関係となるのでは の機材やそれを設置する施設の整備が進められ、ハー なく、日本のゼネコンのノウハウを活かし、現地企 ド面、ソフト面両面から今後のミャンマーの工業化を 業を下請けに据えて、住み分けを行うことが肝要で 支える人材の育成を後押しする。教育や人材育成は ある。 今日、明日で目に見えて結果が出るものではない。民 また、技術者や人材の確保のため、地元下請け会 社の教育や人材の育成も求められている。民間企業 間企業の取り組み同様、ミャンマーと共に発展するた めには長いスパンでの活動が求められる。 の現地への技術移転・人材育成と日本政府の各分野 での人材育成の取り組みはミャンマーの国づくりに日 5. まとめ 本勢が寄与でき、他国に優位性を持てる部分である。 民主化路線へと舵を切り、国際社会への復帰も果 2011 年以降、現地でのプロジェクトには日本や たしつつあるミャンマーにとって、今後 2∼ 3 年は 周辺国から技術者を派遣する企業が多かったが、 転換の真っ只中である。 各国が投資機会をうかがい、 ミャンマー人の勤勉な気質を評価し、現地で技術者 ホテルやオフィス、住宅の受給バランスは大きく崩 を育成する動きが出てきている。 れ、周辺 ASEAN 諸国でも稀な賃料の高騰を招いて ミャンマー建設省と合弁にて現地に鋼構造物の工 いる。ASEAN の新たな生産拠点、消費国として期 場を稼働させたエンジニアリング会社は 2011 年の 待され、安価な労働力はあるものの、大きな投資を 民主化以前より、ミャンマー国営企業への技術指導 行うには法制度、インフラ整備とも不十分な状態と を行い、技能実習制度にて日本の自社製作所へ実習 言える。他国資本による積極的な不動産開発、イン 生を受け入れるなど技術面、人材育成面での貢献を フラ整備が行われているが、しっかりとリスクを見 続けてきている。現在、ミャンマー政府機関との合 極め、本格展開のための準備をできるかが重要であ 弁を実現し、日本で実習を経験した人材がミャン る。日系建設企業の中には昨今のミャンマーブーム マーにて立ち上げた工場で働き、習得技術を発揮す 以前より技術支援を行い、人材育成を行ってきた企 るなど、地道な取り組みが実を結んでいる。日本企 業もあり、着実に現地に根付き始めている。 業の人材育成を伴う進出はミャンマーの技術力の底 われわれが目指すべきは現地に腰を据え、日本が 上げとなり、当然、日本企業へも循環するものであ 誇る技術力を通して人材育成を行いながら、ミャン り、同地での末長い取り組みが求められている。 マーとウィンウィンの関係を築き、共に発展を目指 人材育成を支援するべく、日本政府も動きを活発 すことである。 2014 10–11 33 特集 日緬共同イニシアティブの現状 ̶̶段階的な市場開放に向かうミャンマー 橋本 吉之[海外建設協会ミャンマー支部〈清水建設(株)ヤンゴン事務所マネージャー〉] 1. はじめに 2. 建設業界からの改善要望・成果と課題 ミャンマーは 1988 年以来の軍事政権下で 1997 ミャンマーは 2011 年の民政移管後、昨今のミャ 年のアメリカを皮切りとした欧米諸国からの経済制 ンマーブームとも言える急激な開始進出ラッシュが 裁を受けていたが、2010 年 11 月の総選挙を経て翌 続いているが、法整備の立ち遅れから明文化された 2011 年 3 月に軍政から民政に移管し国際社会復帰 法規定が存在しないことも少なくない。さらに、急 への一歩を踏み出すこととなった。 速に外資企業が市場参入する中でいまだ未成熟と言 わざるを得ない官僚機構の下で企業活動を行うこと 民政移管以降、低廉な非熟練労働者の調達コスト と中国、タイ、インドなどの大きな市場に囲まれた は、ミャンマーへ進出する外資企業にとって大きな リスクとなっている。 地政学上の立地や、豊富な天然資源などといった比 較優位から「チャイナ・プラス・ワン」としてわが 日緬共同イニシアティブ協議では外資企業の参入 国をはじめ欧米諸国から大きな注目を集め、2012 障壁となっている事項や、ミャンマーで企業活動を 年初頭からサービス業を中心とした外資企業の進出 行っていく上で公平公正な企業競争を阻害すると考 ラッシュが進んでいる。 日緬共同イニシアティブは、 えられる事項に関して、全体協議と分科会協議を通 ミャンマーにおける日系企業のさらなる投資・貿易 じてミャンマー側政府関係者らに顕在する問題点を の促進などのための具体的な取り組みを確認し、優 明らかにし、 われわれからも改善提言を行うと共に、 先順位をつけるための枠組みである。日緬共同イニ 日緬官民双方関係者が意見を取り交わし解決の糸口 シアティブ協議は日本の沼田幹男駐ミャンマー大使 を見出そうと努力を重ねている。これまで、査証・ (当時。現在は樋口建史駐ミャンマー大使が共同議長を務める)と 入国管理、輸出入政策、投資環境改善ほか、計 9 項 ミャンマーのカンゾー国家計画経済開発大臣を共 目の 63 事項について幅広い協議を実施してきたが、 同議長として 2013 年 3 月に第 1 回会合がネーピー 建設業関連の改善要望と協議成果、今後の課題に関 ドーにて開催された。これを皮切りに、これまでに して次表の通り取りまとめた。 5 回の全体会合と 4 回の分科会が開催され、両国の 官民双方から関係者が参加して査証発給や、貿易政 策、税制、普段のビジネス環境を含め、ビジネス・ 各提言項目についての建設業関連の論点および今 後の課題などに関しては以下の通りである。 投資に関する幅広い分野について参入障壁の低減と さらなる市場開放に向けた協議を行っている。 (1)輸出入政策 ・ 外資建設業企業への輸入許可書の交付および外 本稿では、日緬共同イニシアティブ協議における 投資環境改善提言の概要および協議の成果、そして 今後の課題について以下の通り考察する。 国建設企業に対する建設資材の輸入許可 ミャンマーにおいて、ミャンマー投資委員会 (MIC)非認可の建設業はサービス業としてみなされ ており、現在、サービス業の外資企業に対しては第 三国からの物品などを輸入し販売すること(Trading) 34 特集 ミャンマー市場への取り組み は認められていない。工事請負契約に基づき施工を を受理し、建設機材に限っては輸入許可の交付を受 行う建設企業としては、建設資機材の輸入をミャン けることが可能となった。日系建設企業に関して マーの商社などを通じて行うと建設コストが増大 は、2014 年 10 月末までに 6 社が輸出入業者登録を し、ローカル建設企業との競争力が損なわれること 行い、うち 2 社が輸入許可の交付を得て建設機材の が危惧されることから、輸出入政策分野の提言とし 輸入を行っている。 て外資建設企業に対する輸入許可の交付を要望した ものである。2013 年 11 月および本年(2014 年)7 月 今後の課題は、品質の保証がない建設資材が国内 に開催された輸出入分科会、その後の計画経済開発 市場に出回っているため、国民の生命財産を守るこ 副大臣と商業副大臣との面談において粘り強く協議 とを念頭に、構築物の品質をグローバルレベルとす を重ねた結果、外資建設企業からの輸出入業者登録 ることであり、品質が担保された建設資材を外資建 表|日緬共同イニシアティブの協議成果と今後の課題(建設業関連のみ) 提言項目 改善提言内容【 ( )は現況】 輸出入政策 ・さらなる輸出入規制の緩和 (a)ノンライセンス品目の増加、ライセンス制度の早期撤廃、簡素化(継 続協議) (b)外資建設業企業への輸入許可書の交付(継続協議) 租税公課 ・法人税制度の見直し (a)外国企業支店に対する「居住外国人(Resident Foreigner) 」税 率の適用(法人税率の内外差別の是正) (未協議) ・商業税制度の見直し (a)仕入税額控除の規定の明確化(継続協議) 協議成果(○) と今後の課題(■) 〈協議成果〉 ○ 外資企業からの輸出入業者登録の受理 ○ 外資建設企業への建設機材の輸入許可書交付 〈今後の課題〉 ■ 輸出入業者登録申請の簡素化 ■ 建設資材の輸入許可 ■ インボイス・ベースへの課税に変更 〈協議成果〉 ○ YCDCの施工規則の一部を入手 インフラの改善 ・設計施工関連規則の制定(継続協議) (a)設計施工に係わる諸規則の法制化および運用規定の策定 〈今後の課題〉 ■ 建築基準法および耐震設計基準などの基本法令の策定状況 の開示 ・外資企業の事業許可基準の明文化(継続協議) (a)外資建設企業の参入障壁低減に資する事業許可基準の明文化 〈協議成果〉 ○ DICA局長との協議にて、営業許可書の書き振り如何にかかわ らず外資建設企業支店は設計施工が実施できる旨を口頭確認 ・ 「特定JV」の新設(未協議) (a)改正外国投資法に「特定JV」の規定を追記 〈今後の課題〉 ■ 口頭確認のみであり、確認事項の根拠確認および明文化が必要 ・外国人料金制度の廃止(継続協議) 外 国 人・ 企 業 (a)YCDCへの建築確認申請料および消防局の消防検査費用につい ルールの廃止 ての格差是正 〈協議成果〉 ○ 商業施設における建築確認申請料が内国企業並みに低減 ○ 内国企業の消防検査費用が外資企業並みの水準に統一される (旧水準の20倍に値上げ) 〈今後の課題〉 ■ 住居用建物に残る外国人料金制度の是正 ■ 消防検査費用の旧内国企業水準への引き下げ 2014 10–11 35 設企業自ら他国から調達できるように、建設資材の (2010 年 3 月 10 日付)第 2 項の規定により非居住外国人 輸入許可の交付をミャンマー側に引き続き求めてい に分類される外国企業の支店が納付した源泉法人税 くことである。建設機材の輸入の際に WTO ガイド は最終税額とされ還付が認められていないことや、 ラインに沿ったインボイスベースでの輸入関税が賦 税務上の損失繰り越しが認められていない点も合わ 課されず、税関による査定によりインボイス価額と せて改善要望としてミャンマー側との協議を行って 比較して直近の例では 1.4 倍∼ 1.9 倍の課税価額が いきたい。 決定されていることから、WTO ガイドラインの遵 守をミャンマー側に求めていくことが必要となろ ・ 建設業に対する商業税の仕入れ控除 う。加えて、輸出入業者登録申請の際に詳細な機材 また、前述の通り建設業はサービス業とみなされ リストの提出や、従前は求められていなかった申請 ているため、商業税の仕入れ控除が認められていな 書類の提出を求められるケースが増えていることか いことからサブコン契約部分に賦課される商業税が ら、 申請手続きの簡素化を併せて要望していきたい。 多重課税状態となり建設原価を大きく圧迫すること となる。ミャンマー側によればサービス業に対する (2)租税公課 商業税の仕入れ控除を 2014 年度中に認める命令通 ・ 外 国 企 業 支 店 に 対 す る「 居 住 外 国 人(Resident 知書を準備中ということであるので、右通知書の発 Foreigner)」税率の適用 出を待って建設業の仕入れ控除についても認めてい 税法の規定により MIC 非認可の外国企業支店は くように協議を進めていきたい。 税法上の非居住外国人として工事請負契約金額の 3.5%を源泉法人税として予納することが求められ (3) インフラの改善 ている。非居住外国人に対する法人税率は課税所得 ・ 設計施工に係わる基本法令の制定および制定過 の 35%であるため、外国企業の支店は常に課税所得 程の開示 が工事請負契約金額の 10%(請負金額 100 × 10%× 35% ミャンマーの社会経済開発上、ボトルネックとな =3.5%)であると擬制されることを意味することとな る事項は電力や水供給をはじめとする社会資本の整 る。これは内国企業や外資法人の源泉法人税率 2%・ 備の遅れであると言える。現在、建築基準法や耐震 法人税率 25%と比較して高率であることから、内国 設計基準といった基本法令が未整備のため設計施工 企業や外資法人との競争力を低下させている要因の に携わる外国建設企業としては構築物の安全性や品 ひとつとなっている。今後、日緬共同イニシアティ 質確保の上で係わる基本法令の整備が急務であり、 ブの税制分科会の立ち上げを待って、ミャンマー側 ミャンマー側に早急な法令制定とその策定状況の開 に法人税率の見直しを働きかけていく所存である。 示を求めている。 ・ 外国建設企業支店に対する法人税の還付および 36 ヤンゴン市建設局(YCDC)およびミャンマーエンジ 損失の繰り越し ニア評議会(MEC)との協議を通じて YCDC の諸規定 法人税関連では歳入省命令通知書 41/2010 号 の一部を入手したが、引き続き本基本法令の制定や 特集 ミャンマー市場への取り組み 策定状況の開示を促していくことが必要と思料される。 結成届のみの提出で施工が可能となり、納税手段と ・ 外資建設企業の参入障壁低減に資する事業許可 資金決済機能を持つ「特定 JV」の規定を改正外国投 基準の明文化 資法または協同組合法などの既存法令の施行細則に 現状、計画経済開発省 DICA が MIC 非認可の外 追記し、内国企業と外資企業が相互補完的に設計施 国企業支店に対して交付する営業許可書上、事業許 工を請け負うことができる環境の実現に向けてミャ 可内容の書き振りが曖昧であり設計施工が許可され ンマー側との協議を進めていきたい。 るケースと施行監理および設計のみのケースが混在 し建設企業間で不透明感が増しているため、事業許 (4)外国人・企業ルールの廃止 可基準の明文化をミャンマー側に求めているところ ・ YCDC での建築確認申請料および消防局の消防 である。2013 年 11 月の日緬共同イニシアティブ建 検査費用についての格差是正 設分科会および、2014 年 2 月の DICA 局長との協 YCDC での建築確認申請料が内国人施主と外資人 議などを通じ、営業許可書の事業許可の書き振りに 施主との間で 50 倍∼ 100 倍の格差があり外国人によ かかわらず MIC 非認可の外国企業支店は設計施工 る投資意欲を削ぐことが懸念される。そのため、外 が許可されているという DICA 局長の認識を得た 国人施主の申請料を内国人施主並みに引き下げるよ が、この認識の根拠が示されていないことから引き うミャンマー側に要望した。その後、2013 年 11 月 続きミャンマー側に対して事業許可基準の明文化を にヤンゴン市長をはじめとする YCDC 幹部と建築確 要望していく。 認申請料に関する協議を実施した結果、商業施設の 申請料については外国人施主の申請料が内国人施主 また、歳入省において営業許可書記載の事業許可 の申請料と同一水準に引き下げられた。しかし、居 が「建設サービス」となっていたことにより、歳入 住用施設では依然として外国人施主の申請料は内国 省担当官より施工による収益を得ることができない 人施主の申請料の 2 倍が賦課されているため、居住 旨の指摘を受けたことがあるほか、あるいは、商業 用施設に関しても申請料を内国人施主並みの水準へ 省にて輸出入業者登録申請を行う際に同様な理由か 引き下げることをミャンマー側に要望していきたい。 ら建設機材の輸入資格に疑義を生じるケースも発生 している。今後は、DICA より明文化された「設計 施工」 の許諾を得ることが必要であると思料される。 ・ 消防検査費用の格差是正 消防検査費用に関しても、内国人施主と外国人施 主を比べると 20 倍の開きがあり、是正をミャンマー ・ 内国建設企業と外資企業との特定 JV 組成 側に要望したところ、2014 年 6 月に内国人施主に 建設工事の入札時に内国企業との合弁(JV)を求 賦課される検査費用を外国人施主並みの 20 倍に引 められる事例が多いが、改正外国投資法の規定によ き上げる改正が実施された。協議過程を通じて外国 り内国企業と外資企業との合弁会社は計画経済開発 人施主の検査料を内国人施主並みに引き下げるよう 省投資企業管理局(DICA)に設立登記を行う必要が 検討するとのミャンマー側の見解があったことか あるため実務的とは言い難い。そこで、共同企業体 ら、今後も、さらなる見直しを求めていきたい。 2014 10–11 37 3. 終わりに 難さが見て取れる。ミャンマーは急激な外国企業の 本年 5 月に実施されたヤンゴン日本人商工会議 進出による市場の不均衡が起こっているが、法整備 所(JCCY)会員企業を対象とする「日緬共同イニシ を進め外資企業にとって投資しやすい環境を整える アティブアンケート」の結果、回答企業の約 8 割が と共に、内国企業との共存共栄の道を懸命に模索し 「ミャンマーの投資先としての魅力、ポテンシャル ているところである。 を高く評価」かつ「ミャンマーにおける事業拡大を 計画している」と回答していることを見ても投資先 われわれ、OCAJI ミャンマー支部の会員企業各 としてのミャンマーの魅力は健在であると言える。 社も日緬共同イニシアティブ協議に積極的に参画す その一方で、 「約一年前と比較して投資・ビジネス ることにより投資環境の改善に貢献し、同時に新生 環境が改善した」と考える企業は約 3 割に留まり、 ミャンマーの黎明期を下支えできることを喜ばしく 「一年前から改善していない」との回答が約 4 割と 思っている。来年、2015 年は総選挙の年であり投 ビジネス環境が改善したと評価する企業を上回った 資先としてのミャンマーがさらに大きく国際社会に ことからも、ミャンマーという民主化開放路線に大 飛躍することを期待して止まない。 きく舵を取った国において事業展開を図ることの困 38 特集 ミャンマー市場への取り組み 特集 わが社のミャンマー市場への取り組みと課題 IHIグループのミャンマー市場への取り組み 北山 [Chief Representative of Yangon Branch, IHI ASIA PACIFIC PTE. LTD.] 1. はじめに 当ヤンゴン支店は、ミャンマーにおける IHI グ ループの駐在員事務所機能を有する現地拠点として 度情報マネジメント」 、 「グローバルビジネス」の強 化を推進していくこととしており,この点について も若干触れたいと思います。 開設準備を進めてまいりましたが、今般、アジア・ 大洋州地域を統括するシンガポールの現地法人(IHI ASIA PACIFIC PTE. LTD.)の支店として無事設立し、 2014 年 10 月 24 日にオープニングセレモニーを迎 えることができました。樋口建史ミャンマー大使を はじめ、大使館、国際協力機構(JICA)、日本貿易振 興機構(JETRO)および OCAJI 会員会社各位にご臨 席を賜り大変感謝しております。この場を借りて厚 2014年3月期の売上高と4つの事業領域の比率 連結売上高(百万円) 事業別売上高比率(連結) 2013年度 1,304,038 2012年度 1,256,049 2011年度 1,221,869 2010年度 1,187,292 2009年度 1,242,700 く御礼申し上げます。 ■ 資源・エネルギー・環境 ■ 社会基盤・海洋 26% 12% ■ 産業システム・汎用機械 31% ■ 航空・宇宙・防衛 31% 多くの日系企業では、ミャンマーが鎖国状態に 入ったことに伴い休止状態となっていた支店や事務 所を復活、増員していますが、IHI グループの駐在 (1)資源・エネルギー・環境 本事業領域の主要製品としては、発電用ボイラ、 員事務所としては今回が初めての設立となります。 原子力機器、貯蔵プラント(LNG/ LPG)、天然ガス また、これまでのミャンマーにおける建設関連の実 プロセス設備、ガスタービン発電設備、ガスエン 績としては、ヤンゴン近郊におけるガスタービン発 ジンなどがあり、2014 年 3 月期実績で売上高の約 電設備の移設工事など限定的ですので、ミャンマー 26%を占めています。 においてはかなりの初心者となります。 直近の近隣国実績としては、マレーシアの Jimah 本稿では、当グループの経営方針とミャンマーへ East Power 社向けの超々臨界圧石炭火力発電所や の対応という視点で、今後の取り組みを中心にご紹 オーストラリアの TransAlta Energy Australia 社向け 介させていただきます。 ガスタービン発電設備をフルターンキー契約にて受 注しているほか、タイ、インドにおいて、LNG 受入 2. ミャンマー市場への取り組み 基地も受注しております。また、生産拠点として、イ IHI グループでは「グループ経営方針 2013」にお ンドネシアに発電用ボイラーを中心とした鋼構造物を いて、市場特性に応じて「資源・エネルギー・環境」 、 取り扱う PT. Cilegon Fabricators 社を運営しており、 「社会基盤・海洋」 「 、産業システム・汎用機械」 「 、航空・ 東南アジア地域を中心に製造・納入を行っています。 宇宙・防衛」の 4 つの一部建設工事を伴わない領域 ミャンマーにおいては、テイン・セイン大統領や もありますが、 本稿では, 事業領域ごとにミャンマー 主要大臣、関係者が電源開発の磯子火力発電所(IHI 市場への取り組みをご紹介します。また,前述のグ グループにて発電用ボイラーを納入)を訪問し、日本の高い ループ経営方針において、3 つのグループ共通機能、 技術力を認識されていることは大きな優位性と考え すなわち 「ソリューション/エンジニアリング」 「 、高 ています。東南アジアでの高効率石炭火力市場での 2014 10–11 39 受注活動を継続し、大型発電所をはじめ、幅広い容 本事業領域の主要製品としては、橋梁、交通シス 量の石炭焚き案件が期待できるミャンマー市場での テム、パーキングシステム、シールド掘進機、医療 案件形成、 将来の取り組み可能性を探り、 ミャンマー プラント、浮体式 LNG 設備、農業機械などがあり、 においても安定的かつ効率的な電力供給の実現に貢 売上高の約 12%を占めています。 献していきたいと考えています。 直近の近隣国実績としては、世界最大規模の連続 ガスタービン発電設備については前述の通り、当 斜張橋であるベトナムの Nhat Tan 橋がまもなく竣 地にて既に実績を有することから、次の案件に取り 工を迎えるほか、香港国際空港向けの新交通システ 組むべく調査を行っている段階ですが、隣国タイに ム、東南アジア諸国で建設が進められている地下鉄 おいて、分散電源用として類似の発電設備を多数納 トンネル向けのシールド掘進機などの実績がありま 入させていただいており、広い国土に工業団地や施 す。また、ベトナムに橋梁、鋼構造物を主力製品と 設が点在しているミャンマーでは、中長期的に大き する IHI Infrastructure Asia 社を生産拠点として運 な需要が見込まれると期待しています。また、タイ 営しているほか、マレーシアにパーキングシステム に IHI Power System(Thailand)社を設立し、ガスター 向けの現地法人を設立しており、東南アジア地域で ビン発電設備に関するメンテナンスを含めたサービ の事業拡大を目指しています。 スの提供を行っていることから、ミャンマーの工業 ミャンマーにおいては、JICA が策定した「ミャ 製品全般で問題になっている稼働後の定期点検や ンマー全国運輸交通マスタープラン」および「ヤン パーツ交換、メンテナンス対応などの分野でも貢献 ゴン都市圏交通マスタープラン」で多くの社会基盤 できると考えています。 関連案件の計画が明示されており、前述の電力案件 LNG/ LPG の貯蔵プラントに関しては、ミャン マーの輸出品目の筆頭が天然ガスであり海上ガス田 と同様に、記載されている個別案件の早期実現に向 けた調査推進に期待しています。 が中心であることを考えると、具体的な案件が出て 特に橋梁関連では、無償資金協力で進められてい くるまでには少し時間がかかると予想しています るタケタ橋に続く、バゴー橋、ヒンタダ橋などの大 が、前述のガスタービン発電設備の需要や周辺国と 型橋梁案件の政府開発援助(ODA)供与が期待され の関連で、中長期的には案件が出てくる可能性があ るほか、将来的にはヤンゴン中心部を囲むように流 ると考えています。 れるヤンゴン川やバゴー川に、多くの長大橋計画が 本事業領域の大型案件は、現在計画されている 具現化してくると思われます。また、ヤンゴンの都 ティラワ、ダウェイ、チャオピューなどの経済特 市高速道路や地下鉄計画なども実現に向けて動き出 別区(SEZ)を中心とする工業集積地の開発段階に応 す可能性があり、ベトナムに続く東南アジア地域の じて具体化すると思われます。日本政府の支援や 有力国として、案件の調査を進めています。 JICA にて策定された電力マスタープランに記載さ なお、建設分野ではないが、IHI グループとして れている個別案件の早期実現に向けた調査推進に期 農業機械の納入実績があるほか、日本で納入した気 待しています。 動車が、中古で多数ミャンマーに入ってきており、 (2)社会基盤・海洋 現在も稼働していることから、そうした製品の更新 40 特集 ミャンマー市場への取り組み 需要やメンテナンス需要を捉えたサービスも提供す るべく、取り組んでいきたいと考えています。 (4)航空・宇宙・防衛 本事業領域の主要製品は、ジェットエンジン、 ロケットシステム、防衛機器などで、売上高の約 31%を占めています。 建設に関連する製品はほとんどない事業領域です が、今後ミャンマーにおける民間航空会社のネット ワークが発達し、現在国内で主流となっているプロ ペラ機のジェット機への更新に伴い、ジェットエン ジンのメンテナンスサービスに対する需要が確実に 増加すると考えています。また、近い将来、衛星関 連のビジネスなども需要が拡大すると思われ、注目 しています。 Nhat Tan橋全景 (5) グループ共通機能 (3)産業システム・汎用機械 本事業領域の主要製品としては、物流システム、 前述の通り、 「ソリューション/エンジニアリン グ」 、 「高度情報マネジメント」 、 「グローバルビジネ 運搬機械、製鉄機械、産業機械、車両過給機、圧縮 ス」という 3 つのグループ共通機能の強化を推進し 機、舶用過給機、小型ディーゼルエンジンなどがあ ていくこととしており,中長期的な視点に立って前 り、売上高の約 31%を占めています。 述の 4 つの事業領域に横串を刺し、グループ資源を 建設に関連する製品では、ベトナムのハイフォン 社会のニーズに合わせて集中すると共に、製品や事 港やカイメップ・チーバイ国際港向けのコンテナク 業、そしてグローバルな市場を「繋ぐ」ことで、お レーンの納入などの実績があります。 客様と社会に価値を創出し、成長することを目指し ミャンマーにおいては、現在、日本、ミャンマー ています。 両国の官民が一体となって推進しているティラワ ミャンマーにおいては、SEZ 内の設備需要や周 SEZ に進出する日系企業各社に対して、最適な工 辺インフラ整備に対して、IHI グループの製品を組 場用設備の提案、提供をするべく活動を行ってい み合わせた最適なソリューションの提案を推進して ます。また、中長期的には、今後整備が進む主要 いきたいと考えています。 また、 電力を含むユーティ 港に対して、前述のコンテナクレーンやアンロー リティ、駐車場、交通関連インフラなど IHI グルー ダ、揚運炭設備などの運搬機械を提案したいと考 プの技術を活かすことのできる領域で、事業の運営 えています。 主体としての参画を検討しており、 「ソリューショ ン/エンジニアリング」分野を中心に注力していき ます。 2014 10–11 41 3. 終わりに 4つの事業領域と3つのグループ共通機能 3つの 『繋ぐ』 の実現のために ̶̶グループ共通機能 2012 (平成24) 年度に 「グループ経営方針2013」 を策定し、 これまでの事業領 域を4つに整理すると共に、事業間を繋ぐ3つの統括本部を設立しました。 中・長期的な視点に立ち事業領域に横串を刺し、 グループ資源を社会ニー ズに合わせて集中すると共に、製品や事業、 そしてグローバルな市場を繋ぐ ことで、 お客様と社会に価値を創出し、 成長を目指します。 資源・ エネルギー・ 環境事業 社会基盤・ 海洋事業 産業システム・ 汎用機械事業 ソリューション統括本部 高度情報マネジメント統括本部 グローバルビジネス統括本部 航空・宇宙・ 防衛事業 冒頭の通り、当地ミャンマーにおいて、IHI グルー プはまだ初心者ですので、今後さらに調査、検討を 進め、具体的な案件への取り組みへと繋げていくこ とになります。 今回こうした特集が組まれるように、ミャンマー のポテンシャルに対する期待は非常に高く、日本政 府はもちろんのこと、多くの日系企業の皆様が当地 に強い関心を寄せ、実際に支援や投資が積極的に行 われ始めています。 IHI グループとしましても、是非 ALL JAPAN の 一員として、世界に誇るビジネスを展開し、ミャン マーの発展に貢献していきたいと考えています。 42 特集 ミャンマー市場への取り組み 特集 わが社のミャンマー市場への取り組みと課題 ミャンマーでの安藤・間のこれまでの取り組みと 今後の課題 小森 克夫[(株)安藤・間 国際事業本部 アジア支店 ミャンマー営業所長] 1. はじめに 日本人職員は転勤となるも、ナショナルスタッフを ミャンマーに赴任して 2 年半が経過したが、その 置いて年度の税務申告を継続することで、外国建設会 間、日本でのマスコミ報道において、ミャンマーが 社としての事業ライセンス登録を維持し、1995 年の初 話題に上らない日はなかったと言っても過言ではな 回の取得から 9 回の継続更新を経て現在に至っている。 いほどに注目度は高い。しかし、実際にヤンゴンで 生活している日系建設会社の一駐在員として時に思 うことは、ヤンゴンへの外国企業による投資や経済 活動に対するカントリーリスクをはじめ、さまざま な問題点や課題など、正確な情報や実情が日本で報 道されているのかということである。 ミャンマーで働く者として、愛すべきミャンマー の基礎インフラが速やかに改善、整備され、多くの 日系企業による投資が効果的に実施されることで、 ミャンマーとその国民が豊かになり、進出した日系 チャトリウムホテル(建設時期:1995年∼1997年) 企業との共存共栄が図られることを切に願っている。 2. 当社の過去のミャンマーでの事業 当社(旧間組)は 1995 年 1 月に外国建設企業として ミャンマー会社法による建設業許可を取得し、旧日 航ホテルロイヤルレイクヤンゴン(現在のチャトリウム ホテル)の建設からミャンマーに進出した。 その後、ミンガラドン工業団地において日系工場 の建設、マンダレー地区などにおいても日系工場建 設に従事する一方、ザガイン管区モニワにおいて銅 精錬プラントの民間プロジェクトやヤンゴンにおい て英国大使館および領事館の大規模改修、イスラエ ル大使館新築の施工管理などの在外公館の工事を継 日系ヤンゴン工場(建設時期:1998年) 続して受注した。 一方、日本政府による政府開発援助(ODA)事業 であるマンダレー管区に位置する中部乾燥地域での 植林無償事業を 5 期にわたり実施したが、同無償事 業が完成した 2009 年から約 3 年の間、プロジェク トが途切れてしまった。 日系マンダレー工場(建設時期:1998年) 2014 10–11 43 深刻なエーヤワディ管区のカドンガニ森林区のマン グローブの再生支援を行うものである。 マングローブ林は高潮による海水侵入緩和や沿岸 土地の侵食防止などの防災機能もあり、この事業で は 41 カ月の工期で 1,154ha のエリア(東京都千代田区 と同様の範囲)に約 243 万本を植林し、さらに監視棟 兼サイクロン避難施設 1 棟の建設を予定している。 英国大使館および領事館(大規模改修 建設時期:2000年∼2001年) 植林作業は乾季の間に種から苗を育て、雨季に苗 を植え、根付くまでの管理作業をエリアごとに効率 よく行っていくことが求められる。植林範囲が広範 囲にわたることから、湿地帯をボートで移動しなが らの手間のかかる作業であり、また、そこは 6m の ワニが生息する危険な地域でもある。 プロジェクトは当社土木系所長 1 名が常駐し、発 注者、コンサルタントと協力しながら、植林作業は 雨季の農作業が休業となる地元農民を雇用し、安全 教育、作業手順教育を行いながら、人海戦術で進め ている。 【沿岸部防災機能強化のためのマングローブ植林計画】 工事場所:ミャンマー連邦共和国 エーヤワディ管 区カドンガニ森林区 発注者:ミャンマー連邦共和国 環境保全 ・ 林業省 コンサルタント:国際航業株式会社 モニワ銅精錬プラント(建設時期:1997年∼1998年) 施工:株式会社安藤 ・ 間 工事内容:マングローブ植林 243 万本(1,154ha) 森林監視タワー兼サイクロン避難施設 1 3. 当社の現在のミャンマーでの事業 現在、ODA の無償資金協力において「沿岸部防 災機能強化のためのマングローブ植林計画」を施工 中である。同プロジェクトは 2008 年のサイクロン ナルギスにより、沿岸部の約 3 万 8,000ha のマング ローブ林が壊滅的な被害を受けたため、特に荒廃が 44 特集 ミャンマー市場への取り組み 棟(延床面積 293.2m2) 機材提供 4WD ピックアップ 2 台、管 理用エンジン付きボート 1 艇 工期:2013 年 10 月∼ 2017 年 3 月 われわれは、当面は ODA による周辺インフラ整 備がよりよい投資環境を創出し、それにより日系 メーカーの投資を呼び込む役割を担うべく日緬両政 府が支援し、日緬の民間共同事業として着々と進ん でいくであろうティラワ経済特別区(SEZ)に注目し ている。 また日本政府が大きな支援を表明している有償、 無償案件に挑戦したいとも考えている。 育苗状況 ミャンマーにおける ODA は今後ティラワ SEZ 工 業団地周辺や緊急を要する基礎インフラ分野に一定 の量が供与されるものと思われるが、ミャンマー側 の受け入れ体制と実務作業に対する対応能力や人員 体制の機動性、とプロジェクトを取り巻く関連省庁 間の連携や意思決定においてなかなかスムーズな流 れができていない部分もあるように思われる。 これらの流れは是非とも、供与国であるわれわれ による丁寧な説明と理解促進のための多面的な対応 植栽状況 が重要だと感じている。 無償案件において、ヤンゴン管区を例に見るとヤ ンゴン都市開発委員会(YCDC)と中央政府との関係 において、入札から契約そして認証手続き、A/P か ら契約代金の請求などにおいて、時間がかかるとい う問題などが生じている。 有償(円借款)案件においては借り手側の論理も働 くであろうし、円借款に慣れている国々とは比較に 監視棟 兼 避難施設建設状況 4. 当社の今後の取り組みと課題の克服 前述の通り、当社のミャンマーでの事業は日系案 件と ODA を中心に展開してきた。 今後もその方向性は変わらないが、さらなる飛躍 を目指していろいろな分野に視野を広げ、将来への 布石を考えたい。 ならないほどの問題が生じる可能性があるように感 じている。 まだ、本格的な円借款案件はこれからという状況 であり、ミャンマーの発展に欠かせない分野に対す る案件であるからこそ、円滑な入札から施工、完工 が望まれるところである。 そのためには想定される諸問題に対して、その解 決策を今から検討しておく準備が必要かもしれな 2014 10–11 45 い。特に根本となる法人税課税に関する件は明確な そのために日本政府とミャンマー政府が共同して 免税が担保されることがわれわれ建設会社としては 実施している日緬共同イニシアティブは非常に有意 非常に重要な事項であると考えており、租税条約締 義であり、引き続き積極的な提案を継続したいと考 結に向けた議論の加速化は非常に重要な懸案事項で えている。 ある。 課題を克服し、真摯な姿勢で向き合い、お互いを 尊重しあう関係を醸成し、ミャンマーの発展に寄与 できるのは日本以外にはないと感じている。 5. 終わりに 今回この寄稿の機会をいただいたことで、日本の 援助のあり方とミャンマー側の論理について考える アジアに限らず全世界で無償、有償を供与してき ことができた。今後はそれらを実行に移し、まずは た日本であるからこそ、それらの過去の経験と克服 民間企業の一員としての役割を果たし、さらに日本 してきた諸問題の学習効果を、まさにこのミャン とミャンマーの両国の経済発展の一助になればと僭 マーにおいて発揮できるように一民間企業としても 越ながら想いをめぐらせている。 多面的に考え行動していきたい。 46 特集 ミャンマー市場への取り組み 特集 わが社のミャンマー市場への取り組みと課題 ミャンマー市場に対する鹿島の取り組みと課題 佐藤 比呂樹[鹿島建設(株)ミャンマー営業所所長] 1. ミャンマーに対して思うこと げ、改善に取り組むこととなりました。日本政府の 私個人、ミャンマーの業務に関与させていただい ご支援、そして現 OCAJI ミャンマー支部長のご努 たのは 2008 年からです。当時は経済制裁中で、商 力により、毎月状況が改善していく報告を受けます 工会加盟企業も少なく、商工会建設部会の参加者は と、ミャンマー人の要望に対して真摯に聞き対応す 10 名ほど、民間企業からの出席者は 5 名ほどでし る一面を強く感じさせられます。 た。参加されている皆様はいつかミャンマーが再度 ミャンマーを訪問した方の印象は、 ミャンマー人、 注目を浴びることを信じ、ミャンマーを愛する方た ミャンマーの街並み、ミャンマー料理やミャンマー ちでその熱い思いに非常に感銘を受けたのを覚えて ビアに非常によい印象を感じ、ミャンマーを再度訪 おります。携帯の国際ローミングもできず、国際電 問したいと思う一方、仕事に関してはインフラの未 話代も高額、インターネットのアクセス制限もあっ 整備、法の不明解さ、事務所・住居などの固定費の たためミャンマー政府の認定アドレス、もしくは少 高額さを感じ、今後どのようになっていくかをじっ し特殊操作を加えることで gmail のアドレスを使用 くり見て検討しなければならないと思われる方がほ し、速度の遅い環境の中でやり取りしており、非常 とんどかと思います。しかしながら、ミャンマーの に不便でした。今は、 経済制裁も解除され、 国際ロー インフラ整備や法制度の改善のスピードは速く、ヤ ミングの携帯も使用でき、ほぼインターネットのア ンゴン市内のフライオーバー、道路の改良、交差点 クセス制限もなくなり、通信におけるストレスは少 の改良、事故が多いヤンゴン∼マンダレー道路のア なくなりました。 スファルト舗装整備が部分的に始まるなど日々改良 現在、日系企業の進出も増え、商工会建設部会の が進んでおります。事務所ビル、集合住宅整備もヤ 参加者は 50 名近くです。昔と比較すると参加人数 ンゴン市内では数多く施工中です。また、法整備も には隔世の感がありますが、参加される皆様、 「最 積極的に外国のアドバイスを聞き、日々改善されて 後のフロンティア」と言われるミャンマーでの事業 おりますので数年のうちに懸念事項は解消するので に向け熱い思いを持たれております。ミャンマー はないかと期待しております。 は「ビルキチ」と言われる言葉があるほど一度訪問 今後、ヤンゴン市内の道路、鉄道、ASEAN ハイ すると取りつかれる魅力ある国でありますが、経済 ウェイの改良など多くの大型事業が、日本政府の援 制裁前と現在とで共通するのは、訪れる方のミャン 助によって始まると期待しておりますが、契約、設 マーに対する熱い思いではないかと感じております。 計基準、施工技術、メンテナンスを含め包括的に日 OCAJI ミャンマー支部は、2013 年 8 月 5 日に 9 本の技術支援が必要になります。われわれ建設業に 社参加にて再結成式を行いました。ミャンマーにお おいても、品質、安全、工程管理などのミャンマー ける建設工事は、各社ほぼ一斉にどのような事業形 企業への工事施工中の技術移転を求められますの 態で工事ができるか調査を開始した状況であり、各 で、日系建設会社のミャンマーの将来に向けて果た 社情報を持ちより日系建設会社ができる形態の情報 す役割は非常に大きいと感じます。 交換を始めると共に、共通懸案事項は日緬共同イニ シアティブの課題としてミャンマー政府に要望を上 2014 10–11 47 2. 当社の取り組み 当社は、戦後賠償工事第一号として現在も同国の 重要な電力供給源であるバルーチャン水力発電所の 対応すべく、計画から開発 ・ 運営に至るまで、当社 が得意とする業際的な諸サービスを提供する機会も 探っていきたいと考えます。 建設に取り組んで以来、民間分野も含めてミャン しかし、その一方で、実質的な鎖国に近い状態が マーで多数のプロジェクトに参加し、1954 年以降 長く続いたこともあり、法制度の不備に加えて、手 一貫して事務所を維持してまいりました。 欧米の経済制裁の影響もあり、少額工事を除いて 近年は工事受注が途切れておりましたが、その間も 鹿島施工案件 当社の海外工事に 20 年以上携わり、 「鹿島ウェイ」 をよく知るミャンマー人エンジニアを中心としたス タッフを複数置き続け、当社のミャンマーの灯を絶 やさぬようにしてきました。 2010 年 11 月 の 総 選 挙、2011 年 3 月 の テ イ ン・ セイン大統領就任による民主化の動きを受けた、日 本の本格政府援助の再開と欧米の経済制裁の見直し に呼応して、当社の東南アジア、シンガポール、タ イなどの諸拠点と東京側の複数部署からなる業際的 チームを組織し、法務 ・ 税務の社外専門家の指導も 得ながら、市場調査や案件の探索 ・ 発掘を進め、営 業所体制の再構築を進めております。 ミャンマーが持つポテンシャルは、5,141 万人を 有する人口大国であり、豊富な若年層を抱え、識字 率が高く、英語による意思疎通も容易であることな どがあり、さらには勤勉な国民性も高く評価してお バルーチャン第2発電所(1960年竣工) ります。天然資源、農業生産力も豊富であることか ら、建設、開発ともに有望な市場であると認識して おります。 まずは政府開発援助(ODA)を軸にしたインフラ整 備プロジェクトに注目する一方、ASEAN の生産 ネットワークの一翼を担う製造業や物流産業に加え て、通信 ・IT を含めたサービス産業の進出に伴って、 地元業者だけでは対応しがたい先端的な分野の市場 成長が見込まれます。また、今後の急速な都市化に 48 特集 ミャンマー市場への取り組み 青少年教育センター(1987年竣工) 続きの実態面や市場の把握が決して容易ではないた は❸平成 26 年度 ODA 対象国への建設企業などの め、当社品質が確保できる資機材の調達や技術者 ・ 海外展開促進に向けた建設市場の現況調査を受託 労働者の雇用を含めて、慎重なリスク管理体制を整 し、ミャンマーに関しての調査分析を進めており えて対応すべき国であるとも認識しております。 ます。 このような課題への対応として、当社は、2013 量や規模を追求するのではなく、得意先や地元の 年度は国土交通省から❶日系建設 ・ 不動産業者に 期待に沿った案件を丁寧につくり込み、これまでと とっての市場参入の課題の整理、❷ミャンマー法整 同様に長期的視野に立って、ミャンマー市場に取り 備状況の実態把握と提言の可能性検討、2014 年度 組んでいきたいと考えております。 2014 10–11 49 特集 わが社のミャンマー市場への取り組みと課題 ミャンマーでの電気工事技術者育成支援への 取り組み 杉江 正利[(株)きんでん ヤンゴン事務所 所長] 1. ミャンマーの技術者事情 ミャンマーでは 2011 年の新憲法による国会開催 3. 過去ベトナムで行った技術者育成事業の実績を生かす 1993 年、当社は技術者育成事業としてホーチミ 後、テイン・セイン新大統領による民政化が進み、 ン市内の職業訓練学校「レチホンガム校」内に「き 注目マーケットとして世界的な視線を集めているの んでん教室」を開講しました。約 10 年間の歴史の はご承知の通りです。改革が進んで産業が活発化す 中で 193 名が卒業し、当社現地法人にも合計 38 名 る兆しを見せる中、当社も、開発初期の電力インフ が入社し、同社にとって重要な戦力となってきまし ラ整備、それに続くビル、工場建設需要に注目しま た。入社後、日本での研修を受けた社員もいます。 した。しかしながら同国では、軍事政権下において この技術者育成事業をミャンマーにおける電気工事 多くの高等教育機関が長年閉鎖と再開を繰り返すと 技術者育成に活かすことが今回の支援プログラムの いった状況下で、技術者・技能者の数と質の低下と ポイントです。 人手不足が深刻であることを実感しました。 そこで、 まず電気工事技術者を育成することが急務であると 考えました。 4. 第一期生募集要領 ヤンゴン市インセイン区のGTIインセイン・キャン パス内 職業訓練教室「サクラ−インセイン テクニ 2. 特殊な教育事情の中でのパートナー探し カルコース」 今回、ミャンマー側でのパートナーとなった「ミャ ンマー AGTI 協会」は、ミャンマーの高等学校と工 科大学の中間レベルに位置する、GTI(Government (1)開講コース ❶ 送配電工事コース:定員 20 名 Technical Institute)という技術者を養成する学校の運営 電力インフラ設備(配電・変電)の施工・保守がで 団体です。GTI は 100 年の歴史を持ち、かつてミャ きる施工技術・技能者 ンマー国内に数カ所の学校を運営していましたが、 ❷ 一般電気工事コース:定員 20 名 1988 年の学生民主化運動以降、前述した軍政の制 工場・ビルの建設工事と保守工事ができる施工 圧により閉校に追い込まれました。その後 2000 年に 技術・技能者 再開されましたが、政府による各校の非政治化のた (2)応募資格 めに、 ヤンゴン郊外や地方へ分散された状態でした。 年齢:18歳から25歳まで その後、徐々に理論教育のレベルは上がってきまし 学歴:基礎教育校(Basic Education High School )8年生 たが、産業界で必要な知識と技能の実践的なスキル トレーニングができていない状態で現在に至ります。 以上(日本の中学卒程度) (3)入学試験 そして同協会は現状打開のため、教育提携先の模索 基礎知識:英語、数学 を始めたのです。そのような中で当社は同協会と知 実技対応:色覚異常判定、握力テスト り合うことになり、住友商事株式会社と共に、ミャ 面談:コミュニケーション能力を評価 ンマーにおける電気工事技術者を養成する支援プロ グラム実施協定を昨年(2013 年)3 月に締結しました。 50 特集 ミャンマー市場への取り組み 5. タイトなスケジュールの中での準備作業 前述したような環境のために、前回ベトナムの時 と比べると、今回は運営母体となる教育機関や施設 を探すのが非常に困難でした。特にヤンゴンにおい てはほとんどの学校が閉鎖されており、今回の現地 側学校運営母体となる AGTI 協会の施設もすべて市 (ヤンゴン管区)に移管されていたからです。元もと非 常にタイトなスケジュールの中で、開始早々 「学校 施設の確保」から既に悪戦苦闘でした。 〈タイトなスケジュールでスタート〉 2013 年 3 月 屋内配管配線工事の実習 AGTI、住友商事株式会社、きん でんで開講支援の合意協定書を締 結しスタート ・学校施設の確保(土地、教室) ・教員の育成(日本で研修) ・教本、実技教材、訓練設備の作成 ・第一期生の入学募集 2014 年 7 月 開講式典開催 2 コースの第一期授業を開始 2015 年 3 月 第一期生卒業 配電工事設備の装柱実習 AGTI 協会が過去ヤンゴン市内で運営していた GTI インセイン本校の土地と施設の一部使用を管 区知事へ要請し、幾度も学校計画説明を行い、さら に日本の技術訓練システムの導入とその支援を強く アピールした結果、2014 年 2 月に学校開設とその 土地の使用許可を得ました。 6. 不屈の決意で技術習得する教員候補生 職業訓練教室を担当する教員の養成については、ま ず 6 名の現地技術者をスカウトし、昨年の 9 月から約 7 ローリングタワー作業研修 2014 10–11 51 カ月間、日本で研修を行いました。最初の 2 カ月間は、 海外産業人材育成協会にて日本語および日本文化の学 習、 残りの 5カ月間は当社の教育訓練センターである 「き んでん学園」にて電気基礎論をはじめ現場安全・施工 管理業務、実技演習を取り入れた研修を行いました。 6 名は「一般電気工事コース」と「送配電工事コー ス」に分かれ指導を受けました。当社指導員は、国 際技能五輪の金メダリストである社員を中心にした 5 人を専属で張り付けることとし、研修中から既に 「教員候補生は全員、勘がよい。ケーブル端末処理 開講式 もほぼミスをしない。日本でも通用するレベル」と 高い評価を得ていました。元もと彼らは大勢の志願 第一期生の講座は同月 28 日よりスタートし、当 者の中からまず 20 名に絞り込まれ、さらに学科・ 社の派遣指導員がサポートしながら来年 3 月 27 日 実技試験をパスした、選りすぐりのメンバーです。 に終了予定です。 来年度以降は、 基本的にミャンマー 祖国復興を目指す教員候補生は「世界一の技術を学 人指導員のみで対応できる体制を構築し、毎年実施 ぶまたとないチャンス。全員どんな困難にも耐える していく方針です。 決意で日本に来た」と答え、日本での教育環境の中 で元来備わっている素質に火が点く状況であったよ うです。帰国後に「ヤンゴン市のインセイン校で開 講する訓練コースを絶対に成功させる。それが今回 の指導を受けた指導員への恩返し」という決意を聞 いたわれわれは本事業支援の成功を確信しました。 授業スタート 7. 大きな期待の中で開講、 授業風景1 ヤンゴン市の元 GTI インセイン本校キャンパス 内にて開講となった職業訓練教室「サクラ―インセ インテクニカルコース」には、おのおの 20 名定員 の「送配電工事」 「一般電気工事」の 2 コースを設置 しました。2014 年 7 月 23 日に開講式が行われ、ミ ン・スエ氏(ヤンゴン管区知事)、バ・シュエ氏(科学 技術省副大臣)をはじめ、在ミャンマー日本大使館か らもご臨席をいただいた中で開催されました。 授業風景2 52 特集 ミャンマー市場への取り組み 8. 結び ヤンゴンでは、自動車や人の多さなどから、急速 な経済発展を肌で感じることができます。しかし、 老朽化・劣化した配電設備が目立ち、国全体の送配 電ロス率は約 25%と非常に高く、停電も頻繁に発 生するなど電力供給は不安定です。田舎では電気を 引き込んでいない家も散見されます。世界中から脚 光を浴びるミャンマーですが、まだまだこれから リニューアルした校舎1 です。 しかし、ミャンマー人は真面目で勤勉、そして手 先が器用な人が多いと言われます。教員候補生を指 導してきた当社指導員は、第一期生についても「優 秀な電気工事技術者になる素質を十分に持ってい る」 と評価しています。 開講式には多数の地元メディ アも訪れ、現地のテレビや新聞で大々的に報じられ るなど、同教室への期待と関心の高さが感じられま した。この職業訓練教室によって多くの電気工事技 術者が養成され、彼らがミャンマーの発展に大きな リニューアルした校舎2 貢献を果たしてくれることを期待しています。 2014 10–11 53 特集 わが社のミャンマー市場への取り組みと課題 ミャンマーにおける鴻池組の活動と、 ミャンマーという国の考察 西野 達郎[(株)鴻池組 海外支店 営業部部長] 1. はじめに 当社はかねてからミャンマーに事務所を構えてい 解していなかったりと、まだまだ適正運用にはほど 遠いように感じられる。 たが、1990 年代後半、ヤンゴン市内にサクラタワー、 サクラレジデンスを建設した後、2006 年に配属し 3. 人 ていた職員を引き上げ、ミャンマー事務所を休眠状 ミャンマーの魅力のひとつとして「人」が挙げら 態としていた。しかし、民主化の大きな波に乗り始 れる。国民の約 9 割が敬虔な仏教徒であり、おとな めたミャンマーに満を持して再進出するにあたり、 しく勤勉で正直、また非常に親日的であることなど 2013 年 1 月に事務所再開手続きを経て、7 年ぶりに については言うまでもないが、他のアジア諸国で ミャンマーでの業務を再開した。7 年間のブランク は街中で昼間からお茶しながらしゃべっていたり、 を埋めるべく意気込んで乗り込んだが、法律、イン ゲームしたりとダラダラしている人たち(特に男)を フラ、役所の管理機能などの整備遅れに悩まされな よく見かけるが、ミャンマーでは何かしら体を動か がら、手探り状態で業務を開始した。その後、民間 して仕事をしているように見受けられた。こうして 工事 4 件(日系工場 3 件、オフィスビル改修 1 件)を運よく受 見ると、ミャンマー人には人前でサボること、ダラ 注し、工事を始めるにあたっても、未整備の法律、 ダラすることに対して恥ずかしいという感覚がある 役所対応の遅さ、あいまいさに悩まされながらも何 ように思える。こういった感覚は日本人と共通する とか進めている状態である。本稿においては、当社 ところがあるのではないだろうか。また徳を積むこ が現在の活動の中で実際に抱えている問題から見え とで自分に返ってくるという教えが徹底されてお るミャンマーという国を考察してみたい。 り、困っている人を助けたり、街中での寄付をした り、という光景をよく見かける。 2. 改革 2011 年新政権発足以来、さまざまな改革が矢継 ぎ早に打ち出され、メディアの開放、言論統制解除、 4. 仕事 ヤンゴンの雨期は 5 月∼ 10 月頃であるが、近隣 多重為替制度の是正、外国投資法の是正、などなど アジア国と比べても雨量が多く、雨期の建設工事に 数えれば枚挙にいとまがない。われわれ建設業者に は大きな支障をきたすことになる。当然、乾季着工 関係する法律も多く改訂された。しかし、実際に法 を目標とするが、ミャンマー側役所関係の手続きの 律に則り、各役所でうまく運用されているかという 遅れで最悪雨期中に着工しなければならない場合も と、甚だあやしく、役人は実際には軍人出身が多い あり、この点でも手続きの簡素化が急務であると考 ため、現場で実務を遂行する能力が非常に低いと言 える。建設現場のワーカーの技量は総じて低いが、 わざるを得ない。さらに、役所の担当者によって判 これは経験のなさからくるものであり、スキルアッ 断が違うために何が正解か分からず、その時々に柔 プに対する意欲は高いものがある。また、途上国 軟に対応していくしかない状況である。現在法整備 では現場で材料などがよく紛失することがあるが、 が徐々に進められているが、正式なアナウンスがな ミャンマーにおいてはほとんど聞いたことがなく、 いまま運用が開始されていたり、担当者が内容を理 このあたりも仏教の教えによるものだろうかと考え 54 特集 ミャンマー市場への取り組み る。現場での作業面では、ワーカーの多くは「ロン なるが、その場合現場での動線分離にも配慮が必要 ジー」と呼ばれる巻きスカートのようなものを穿い となる。材料費、人件費などは上昇傾向にあり、そ てくるので、現場で作業着に着替えさせ、スリッパ れとは別に、乾季の終わり(2∼ 3 月)は川の水位が下 も靴に履き替えさせる必要があった。また、ビート がるので砂利を運ぶ船が動かず、その影響でコンク ルナッツ(ビンロー:噛むと赤い汁が出るガムみたいなもの) リートの価格が上昇する傾向にある。 を噛んでそこら中に吐くため、コンクリートが汚れ ることもあり、喫煙所とは別にビートルナッツを噛 5. 生活 む場所をつくらなくてはならない。ワーカーの多く ミャンマーの民主化への動きが出てからはメディ は遠方から通っており、夕方には作業終了としなけ アの少々過度な報道もあり、近年、ミャンマーで駐 れば交通機関がなくなるため、就業時間を短くせざ 在する日本人の数は急激な増加傾向にある。現在、 るを得ず、残業もできない。しかし、敷地に余裕が 人口約 600 万人の大都市ヤンゴンには日本食レスト あるプロジェクトではワーカーキャンプを設け、家 ランも多く、 日本製品を扱うスーパーも少なくない。 族ともども移り住む作業員も多い。作業員を多く集 日本人が多く生活するエリアにいる限りは、何不自 める必要がある場合にはドミトリー(宿舎)が必要と 由なく暮らせるという印象である。ただし、地区に シュエダゴンパゴダ 屋台街19thstreet (ヤンゴン市中心部) 2014 10–11 55 よってはローカル色満点の食堂やマーケットのみと 6. 日本人コミュニティ いう状況もあり、住居を選ぶ際には注意が必要であ ヤンゴンにある日本人学校は、バンコクに次い る。また、大型のコンドミニアムでも生活インフラ で世界で 2 番目にできた歴史ある学校であり、今年 の支援が十分ではないところも多く、停電・断水・ (2014 年)に創立 50 周年を迎える。近年、日本人の増 ネット接続が不安定・漏水などのトラブルが頻発す 加に伴い生徒数も増加しており、現在は入学待ちの る。外国人向けサービスアパートメントや一流ホテ 状態となっており、校舎増築が開始されている。ま ル暮らしでない限り、これらの問題はミャンマーで た、 ヤンゴンには数多くのゴルフ場が点在しており、 避けては通れない。日本食レストランや日本食材店 週末には多くの駐在員の運動・コミュニケーション の増加で、食生活は贅沢を言わなければ満足できる の場となっているようである。 ものであり、航空便は日本からの直行便も出てきて いる。 交通渋滞は年々酷くなっており、 時間帯によっ 7. 最後に ては待ち合わせの時間にはかなり余裕を見ておく必 ミャンマーは元々治安がよい国であることから外 要がある。流しのタクシーが非常に多いため移動手 国人が住みやすい国のひとつと考えられるが、イン 段には困らないが、乗車前に行き先を告げて値段交 フラの未整備、法制度の未整備、いまだに残る軍事 渉をする必要がある。季節に関しては、 3 月∼ 4 月 政権の名残りなど問題点はあり、まだまだ改善して の酷暑、5 月∼ 10 月の雨季の豪雨には閉口するが、 いく過程である。2015 年の総選挙を控え、さらな 乾季は気温も下がって過ごしやすい。とりわけ 11 る改革と発展を望むものであり、またそれが可能な 月∼ 1 月は観光シーズンで各観光地も外国人で非常 国であると確信している。 に混雑する。 56 特集 ミャンマー市場への取り組み 特集 わが社のミャンマー市場への取り組みと課題 当社のミャンマーにおける鋼橋の実績と今後の課題 河嵜 祐之[JFEエンジニアリング(株)鋼構造本部 橋梁事業部 海外プロジェクト部 営業室 室長] 当社のミャンマー市場への取り組みに関し、鋼橋で の実績を中心に軍政時代と民主化後に分けてご紹介す ると共に、 今後の課題について記させていただきます。 き技術協力を行い、この結果、PW とも良好な関係 を築くことができました。 その後、2006 年からのネーピードーへの首都移 転においては、大統領官邸前の鋼箱桁橋の技術支援 1. 軍政時代におけるミャンマーとの関わり 当社とミャンマーとの関わりは旧日本鋼管が 1960 年に竣工したバルーチャン発電所建設工事で水圧鉄 を手掛けると共にヤンゴン∼マンダレー間高速道路 の 200 橋を超える鋼鈑桁橋につき MEC 社に設計の 技術供与を実施しました。 管工事を担当したことから始まります。その後の空 そして、民主化直前の 2010 年・2012 年にはエー 白期間を経て、1995 年にヤンゴン支店を開設、1997 ヤワディ川に架かる道路・鉄道併用橋であるシンカ 年に国営企業であるミャンマーエコノミックコーポ ン橋およびマロン橋の技術支援を連続受注しまし レーション社(以下、MEC 社)向けの厚板圧延工場を建 た。この 2 橋はそれぞれ橋長約 1km、鋼重は 1 万 t 設しました。続いて 1999 年にはその厚板を加工して におよぶもので、従来は中国企業がほぼ独占してい つくる鋼橋の製作工場(以下、鋼橋工場)の建設を受注 た道路・鉄道併用橋をミャンマーの人びとの手で建 し、現地の不十分なインフラ環境に苦労しつつも工 設するまでに至ったことは、当社にとって非常に喜 期通り 2001 年に完工させました。その時には 1997 ばしい出来事でした。 年の米国による経済制裁発動により欧米企業の多く がミャンマーを去り、本邦企業も債権回収を図る商 社以外はほとんどの会社が撤退していました。 マロン橋(2013年完成) 他方、当社は技術移転につき、前述の鋼鈑桁橋に MEC社の鋼橋の製作工場 加え次の活動を行いました。 (1)2002 年からミャンマーエンジニアリング協 しかし、その後も当社はこの鋼橋工場の立ち上げ 会(以下 MES)と一般財団法人建設業振興基金を に技術者を派遣すると共に、2001 年に始まったチ 通じて、日本への溶接技能実習生の受け入れを ンドウィン橋工事を皮切りに、ピャーポン橋、シッ 開始しました。技能実習生の総数は現在、延べ タウン橋と同社が手掛ける橋梁の製作支援を実施し 200 名を超えるまでになっています。 続けました。また、建設省公共事業局(Public Works、 以下 PW)に対しても、これらの橋梁の架設工事につ (2)2000 年から 2003 年にかけて、国際協力機構 (JICA)が主催した「橋梁技術セミナー」に都度 2014 10–11 57 講師を派遣しわが国の「道路橋示方書」を基に基 と予想、かねてから温めていた橋梁を中心とした鋼 礎理論から概略計算までの講習を実施しました。 構造物製造工場の建設を企図しました。対象市場は (3)MES の要請で 2009 年に日本プラント協会の ミャンマー国内市場に加え、わが国 ODA の主要対象 補助により溶接技術の技術移転講習を実施。そ が東南アジアから南西アジア、さらにはアフリカへ の後 MES はアジア溶接連盟に加盟し、熱心に活 と移りつつある中、マラッカ海峡を越えた先にあると 動を続けています。 いうミャンマーの地政学的利点をもって、上記市場 への輸出拠点としても考えました。進出の形態は地 2. 民主化以降の取り組み 元との合弁を考え、相手方として政府系企業、地元 2011 年から本格化した民主化は、いつかは来る 民間企業なども検討しましたが結局、軍政時代から ものと予想はしていたものの、その変化の速さはわ 永く関係あった PW との合弁を選択しました。この が社の想像をはるかに超えるものでした。各種政 PW との合弁会社(「J&M Steel Solutions 社」と言います)は 策が矢継ぎ早に発表される中、 「揺り戻しはないの 出資比率が当社 60%:PW40% で鋼構造物の製作か か?」と聞いても「絶対ない」と言い切る PW 幹部 ら施工まで一貫して請け負うことができます。工場 の自信、そして初めて国会が召集され、その対応に はヤンゴン市とティラワを結ぶタンリン橋のヤンゴン 追われる PW 若手官僚が疲労しながらも「われわれ 市側袂にあり、年間生産量を 1 万 t と想定しました。 は今までは軍の指示に従うだけだった。しかし、今 本件担当者は厳しいミャンマーの公共事業単価と は自分たちで何をすべきか決められる」と目を輝か 今後一時的には減速が予想されるミャンマー政府公 して話してくれたことは、国が変わるとはこういう 共投資という悪条件に苦しみながらも事業計画を立 ものかと感動した記憶があります。 案、さらになかなか進まない合弁設立手続きも PW そして、その後に起こったミャンマーフィーバー の協力を得ながら、外部の方からは「異例の速さ」 はわが社の活動にも大きな影響を及ぼします。米国 とお褒めの言葉をいただくほどのスピードで終わら による経済制裁で営業活動が制限されていたヤンゴ せ、今年 4 月から仮操業にこぎつけました。 ン支店が一転、脚光を浴びる事務所となりました。 懸念していた橋梁への公共投資も従来レベルで、 他方、ヤンゴン市内のホテル事務所部分に置いてい 既に 1 万 t に迫る受注残を抱えており、操業も過去 たヤンゴン支店が、ホテル不足解消のために客室へ 当社に在籍した技能実習生が中心となって順調な立 改造するとのことで退去を迫られました。こういっ ち上がりができています。 た直接的影響への対応に追われる中、当社はミャン マーへの取り組みを一層本格化しました。 第 2 が先行する民間投資に誘発されたヤンゴン市 内建設需要の取り込みです。今後、ミャンマー国建 第 1 が直接投資です。当社の軍政時代のミャン 設市場はわが国 ODA を起爆剤に飛躍的な発展があ マーへの関わりは、欧米の制裁対象国という制約ゆ ると予想しますが、その具体化にはいま少し時間が え、製品の輸出とそれに伴う技術指導に留まってい かかります。このため、足元の建設需要に狙いを付 ました。 けました。地元資金の場合、債権回収が懸念される しかし、民主化によりこのくびきも早晩なくなる 58 特集 ミャンマー市場への取り組み ものの当社は過去からミャンマー国においては一度 も焦げ付きを出さずに債権回収をしておりこのノウ スキームを活用させていただきより積極的に「ヒン ハウと実績を活かし、ヤンゴン市内で計画されてい タダ橋プレ FS」 、 「PW 向け橋梁訪日研修」 、 「ミャン た 3 カ所の立体交差のうち、最大規模であるシェゴ マー鉄道向け鋼橋講習」を展開しました。また、国 ンダイン高架橋を同国民間デヴェロッパーである 土交通省からは「ヤダナポン橋高力ボルト取り替え キャピタル社から受注しました。このプロジェクト 技術協力」 、 「ヤンゴン市内河川渡河計画予備調査」 は当初、PC 橋で計画されていたものを、鋼橋の代 でご支援をいただいています。 替提案を行い中国企業らに勝ち、かつ昨年末に工期 通り完成させたもので、この実績が今年度の同じく ヤンゴン市内の高架橋であるミニゴン立体交差の受 注に繋がっています。 3. 今後の課題 第 1 は J&M Steel Solutions 社の安定操業の確保 です。同社は当社のミャンマーおよび南西アジア戦 第 3 がわが国政府のスキームを用いた技術協力で 略のキーであり、この成功なくして今後の展開は望 す。当社は前述の通り、軍政時代から技術協力を めません。ミャンマー国内においては PW からの安 継続してきましたが、民主化以降は経済産業省の 定受注を継続すると共にヤンゴン市を中心に大都市 部の建設需要も積極的に取り込んでいきます。ま た、道路橋だけでなくミャンマー国鉄(MR)からの 受注など客先の拡大にも努めていきます。今後多く の出件が期待されるインド洋諸国での ODA 案件を J&M Steel Solutions 社のアクセスのよさ、コスト 競争力を活用することで受注確度を高め同社の操業 確保にも繋げたいと考えています。 第 2 がミャンマー国内のマーケットの拡大です。 いまだ当社のポートフォリオは鋼橋に片寄ってお シェゴンダイン橋(2013年完成) り、当社の技術提案力を活かし拡大する同国のイン フラ需要に対しより幅広く鋼構造物をご提供でき る体制を整えねばなりません。今年 1 月、ダラ地区 フェリー用桟橋改修工事を JICA から受注したのに 続き、9 月に対岸であるヤンゴン市側のパンソダン フェリーターミナル施設建設工事をキャピタル社か ら受注しました。この勢いを一層加速できればと考 えています。 最後に J&M Steel Solutions 社を宜しくお引き立 て下さるよう、OCAJI の会員企業の皆様にお願い 2014年4月より操業開始したJ&M Steel Solutions社 申し上げます。 2014 10–11 59 特集 わが社のミャンマー市場への取り組みと課題 大成建設のミャンマーでの事業の方向性と、 今後の課題 武藤 太一[大成建設(株)国際支店 ミャンマー連絡所 所長] 1. ミャンマーの近年の動向 より一層望まれるところである。 ミャンマーは、マスコミなどで何らかの情報が取 生活面においては、 ヤンゴンでは和食・中華・韓国・ り上げられない日がないくらい、さまざまな側面か イタリアンなど、数々のレストランが競うように乱 ら注目されている国である。ミャンマーと言えば、 立し、われわれ一般消費者は飲食には事欠かない。 1988 年のクーデターにより、長い間、軍事政権下 日本大使館の情報によると、ミャンマーには 1,000 にあって、欧米諸国から経済制裁を受ける中で、中 人強の在留邦人が登録されており、出張などで短期 国などの一部の国を除き、実質的な鎖国状態にあっ 間に出入りしている人数を入れると、常時 2,000 人 た。その後、アウン・サン・スー・チー氏の自宅軟 規模の日本人がヤンゴンを中心にミャンマーに滞在 禁・解放などの混乱期を経て、2011 年に現職のテイ していると推測される。 ヤンゴン〇〇会・ミャンマー ン・セイン大統領が民主化を掲げ、経済開放政策を △△会と銘を打った 40 組余りのサークルグループ 打ち出して以来、一気に世界中から脚光を浴びるこ が、日本人だけでなくミャンマーの地元の人たちと ととなった。日系企業も市場開放を受けて進出数を の交流・親睦を深めている。また、駐在員間で人気 確実に伸ばし、さらに 2013 年 5 月の安倍首相の訪緬 のゴルフも、複数のゴルフコースが比較的安価で などの後押しもあって、 飛躍的に進出数(または再進出) 楽しめることから、6∼ 8 月に訪れる激しい雨期と、 が増えた。現在の各社進出状況については、日本貿 ミャンマーでは既に名物となっている度重なる停電 易振興機構(JETRO)の資料で確認できるが、商工会 時を除いては、平日も週末も楽しく時間が過ごせる 加入者数がまだまだ増加の一途を辿っており、当社 場所と言えるだろう。 が所属する建設部会の会員数も 50 社を超える状態と なっている。また、OCAJI 会員企業のミャンマー進 出数も、コンサルタント・ゼネコン・設備会社を含め、 2. 当社のミャンマーにおける取り組み それでは、当社のミャンマー市場への取り組みに 既に相当数が拠点を構えており、毎月開催される定 ついて、説明することとしたい。1999 年代後半に 例の席でも、問題提起や諸問題の解決に向けて、意 受注したヤンゴン国際空港建設プロジェクトが、実 見・情報交換が活発となっている。 質的には当社のミャンマーでの初プロジェクトだっ ここで、ミャンマーという国について簡単に紹介 た。その後、軍事政権主導による国内情勢の悪化に をしておきたい。人口 5,000 万人強(2014 年国勢調査速 より、当社も営業拠点の一時閉鎖を余儀なくされた 報)を擁する平均年齢が 20 代という若い労働力と、 が、現政権による民主化・市場開放の流れを受けて、 豊かな天然資源に恵まれながら、ほぼミャンマー全 2013 年 4 月に事務所を再開させることとなった。 土にわたる貧弱なインフラ・教育・医療システムや、 当社のミャンマーにおける事業の方向性として 未成熟な法制度や規制などが、大いに改良・改善の は、❶政府開発援助(ODA)案件(円借款・無償)と❷民 余地があるところが「アジア最後のフロンティア」 間案件のふたつに大別できる。❶ ODA 案件は無償 と呼ばれる所以であろうか。既に一部の業種では規 案件として、既に何件かのプロジェクトが進行中で 制緩和が始まっているが、今後はさらなる規制緩和 あり、当社も幸運なことに、気象観測装置整備計画 と法制度の透明化が進むことで、外国資本の増加が (ミャンマー国内 3 カ所:チャオピュー、ヤンゴン、マンダレーに 60 特集 ミャンマー市場への取り組み 気象観測装置用のコンクリート塔を建設)を受注しており、 とをプレスリリースしている。無償案件の具体的な 最初のプロジェクトサイトであるヤカイン州チャオ 取り組みについては、医療、教育、インフラ面のさ ピューでは、ミャンマー国内でも屈指の僻地と言え まざまな分野におけるミャンマーへの支援であり、 る過酷な環境下で、当社職員 2 名が常駐体制で鋭意 当社としても受注に向けて積極的に取り組んでいき 工事を進めている。また、9 月下旬より同プロジェ たい。既に、当社を含めて無償工事を手掛ける各社 クト 2 カ所目となるヤンゴンサイトの立ち上げも完 からは、税金問題をはじめとして何らかの問題が提 了し、本格的に工事開始したところである(※ 1)。 起されつつあるので、こうした問題解決に対して官 民一体となって取り組んでいくことを切に願うとこ (※1)ミャンマー気象観測装置設置計画 ろである。また、円借款案件については、一部の発 電施設や港湾整備案件で、既に入札中プロジェクト はあるものの、新たにプレッジされたものについて は、実際の着工までにはまだ時間を要す見込みであ り、そのプロジェクトの内容や、当社がどのように して取り組むことができるかを十分に検討・吟味し た上で、案件ごとに判断していきたい。円借款プロ ジェクトの場合は、規模も比較的大型のプロジェク トとなるので、予見される問題点については、受注 した企業の個々の問題としてではなく、ミャンマー における建設事業の問題として、大使館・JICA・ 〈ミャンマー国内3サイトの場所〉 コンサルタント・コントラクターが一体となって、 事前に解決しておくような仕組みが望まれるところ であり、結果的に日本企業がミャンマーにとって本 当によい仕事をし、感謝されるような win-win の関 係となれば最高である。 次に、❷民間案件に関しては、大別して、開発投 資案件と、官民を挙げて整備を進めているティラワ 経済特別区(SEZ)に見られる工業団地などへの進出 〈チャオピューサイトの写真〉 企業案件の 2 種類を説明する。ヤンゴンには既に開 発ブームが到来しており、インヤレイクの東側セド 今年(2014 年)に入ってからの ODA 案件として、 ナホテルに隣接する広大な土地には、ベトナムの 国際協力機構(JICA)より立て続けに 5 件の無償プロ HAGL グループが大型複合施設建設プロジェクト ジェクト(総額約 130 億円)の贈与契約(GA)を、また 9 (※ 2)を施工中である。また、同じくインヤレイク 月には 4 件、計 630 億円の円借款契約に調印したこ の西側には、大宇、ポスコ、ロッテといった大手韓 2014 10–11 61 (※3)韓国企業連合によるホテル&サービスアパート建設プロジェ クト(ヤンゴン市内) などが開始されるというところまできた。全部で 2,400ha という広大な土地を擁し、ミャンマー随一 の環境の整った工業団地として、日本だけでなくア メリカ、台湾などのさまざまな国の製造業や倉庫業 (※2)ベトナムHAGLグループによる大型複合施設プロジェクト (ヤンゴン市内) を手掛ける企業が進出を目指している。こうした工 業団地での工場や倉庫建設についても、当社のベト ナム、タイ、インドネシアなど周辺国での実績と国 国企業連合による、ホテルならびにサービスアパー 内外でのネットワークを活かして、積極的に営業展 ト建設プロジェクト(※ 3)が本年 6 月に着工したば 開していきたいと考える。 かりである。いずれも数百億円規模の大型開発案件 である。その他にも大なり小なり、ローカル資本、 3. ミャンマーの課題と可能性 外国資本によるオフィス、アパート、ホテル建設は ミャンマーでの取り組みにあたっては、開かれた 着々と産声を上げてきており、これまでホテル、ア ばかりの市場であるがゆえの、法律や税制がきちん パートやオフィススペースの供給不足による賃料の と整備されていないこと、外国資本への規制、基礎 異常な高止まりが続いていたところだが、こうした インフラの不足などがネックとなっていることが挙 開発プロジェクトが完成を迎える数年後には、賃料 げられ、前述の通り、実際に、当社も無償工事 1 件 相場は安定してくるであろう。こうした開発ブーム を手掛けただけでも一筋縄でいかないところが多々 に日系デベロッパーも大いに興味を示しており、当 ある。こうした個々のコントラクターだけでは、対 社も日本国内外での経験・実績を活かして、開発 応が困難な分野については、官民を挙げての解決が 案件建設の一役を担いたいものである。ティラワ 望まれるところであり、既に日緬共同イニシアティ SEZ についても、昨年 12 月に五洋建設 JV によって ブを立ち上げて諸問題解決にあたっているように、 着工した造成工事が順調に進んでおり、2014 年 12 不要なストレスの少ない中でのビジネス環境が整え 月頃には一部の区画で引き渡しが行われ、工場建設 ば、さらなるミャンマー進出企業も増えてくるもの 62 特集 ミャンマー市場への取り組み と思われる。 もうひとつの課題は優秀な人材の確保。 在経験のある諸先輩方のミャンマーへのコメントを まじめで勤勉というミャンマー人の一般的な評価に 聞くと、 「10 年前のベトナム」 「20 年前のタイ」とい ついては合意するものの、建設業界において今後の う言葉が出てくる。裏を返せば、このミャンマー(当 プロジェクトを進めていくにあたり、経験豊富な技 面、まずはヤンゴン)も、10 年、20 年先には、既に大 術者の確保は死活問題である。当社も何とか今の現 きく発展を遂げているバンコクやハノイのようなレ 場をまわす人員は確保できてはいるが、今後の事業 ベルにまで、成長する可能性が高いということであ 拡大には人的ソースは欠かせない。 現在、 シンガポー り、今の投資スピードや先進国の技術革新を考えれ ルなどの外国で多数の優秀なミャンマー人が働いて ばそれより短い期間での実現可能性もある。そのよ いると聞きおよぶところであるが、そうした人材が うな中なので、多数の建設業者が虎視眈々とミャン 祖国のために働きたいといって戻ってくることも期 マー市場を狙って進出してきていることは十分に理 待せざるを得ない。 解できることであり、この発展の波に乗り遅れるこ 最後に、ミャンマーの可能性について言及してお とのないように、当社も存在感を示していきたい。 きたい。過去 10∼ 20 年の間に、ASEAN 諸国で駐 2014 10–11 63 わが社のミャンマー市場への取り組みと課題 特集 ミャンマーにおける当社の実績 (日本国ODA無償工事「中部地域保健施設整備計画」 について) 市川 義朗[大豊建設(株)ミャンマー保健施設作業所 所長] 1. 当社のミャンマーにおける活動 当社のミャンマーでの活動は、2012 年 3 月から 調査を開始し、2012 年 8 月に支店登録を申請、8 カ 建設予定地周辺の建物は、 竹を裂き編み込んだ壁、 屋根は草葺き、 またはスチール波板といった状況で、 RC 造の建物は一切ないと言っても過言ではない。 月後の 2013 年 4 月に支店登録が完了したことに始 また、ほとんどの建築資材はヤンゴンから調達せ まる。支店登録完了とほぼ同時に日本の政府開発援 ざるを得ないことも判明し、ヤンゴンからの運搬計 (詳 助(ODA)無償工事「中部地域保健施設整備計画」 画、中継基地をはじめ、職人の調達方法など 33 カ 細後述)を受注して本格的な活動を始め、そして今日 所のサイトの管理体制をどのようにすべきか即座に に至っている。私は 2013 年 4 月下旬、日本国内に 決定する必要があり、今回のプロジェクトの成否を おける工事発注者であるミャンマー国保健省との契 決定するであろう非常に重要な視察期間となった。 約調印式出席後、営業引き継ぎなどをすませ、翌月 当初、当社の計画案はコンサル案と隔たりがあっ の 5 月 13 日から 18 日まで初めてミャンマーに入国 たが、最終的には当社案にてメインオフィス、サテ した。初めて見たヤンゴン市の印象は 20 年以上前 ライトオフィス、資材中継基地などの全体配置計画 のタイのバンコクを彷彿とさせた。 が決定された。そして、メインオフィスの設置がほ 当時のバンコクでのローカルの施工能力などを思 ぼ完了した 6 月 21 日に、スタッフ全員がヤンゴン い起こしながら、今回のプロジェクトエリアとなる から移動を始め、サイトごとに本格的な準備工事を ヤンゴンから 500km ほど北上したマンダレー管区に 開始する手はずであった。 あるニャウンウー空港に降り着いた。幸いにもこの しかし、当時ミャンマー国内における外国人に対 時点でミャンマーでの協力業者は既に決定されてお するイミグレーションの問題があり、メインオフィ り、彼らの案内の下、まず陸路にて建設個所のほぼ スエリアの滞在許可や、プロジェクトエリア間にお 1/3 にあたるサイトの現地調査をすることとなった。 ける移動許可が得られず、翌月 7 月 5 日に移動許可 を受領し、ようやく本格的な工事着手準備が行える 2. プロジェクトの概況 こととなった。 工事概要は、半径 100km 圏内に 33 カ所の平屋 準備工事の段階で工事敷地に既に別棟の建物が建 200m 程度の鉄筋コンクリート(RC)造の保健施設 設中であったり、工事敷地の変更なども発生し順調 を 2014 年 5 月末までの契約後 13 カ月間で建設する な出足ではなかった(後にサイトの数も 33 カ所から 32 カ所 プロジェクトである。 に設計変更となった) 。 2 そこはヤンゴン市の状況とは異なり、建設計画地 また、コンクリート工事において重要な砂、骨材 の半数以上はアクセスのための道路も未舗装であ の安定的な品質供給も、アクセスのための道路の状 り、幅員もパジェロ 1 台がようやく通行可能という 態の悪さが影響し困難を極めた。7 月から少しずつ 状況であった。また、いまだ無電化、給水などのイ 雨が降り出し、8 月に入ると雨天日も多くなり、幹 ンフラ設備すら整っていないサイトがほとんどであ 線道路から離れたサイトへは 4 輪駆動車でさえ走行 り、20 年前のバンコクでの施工経験などまったく 不能な状況に陥った。 通用しないと思い知らされた。 64 特集 ミャンマー市場への取り組み 雨は基礎掘削完了したサイトも村(町)全体が冠水 するなど工事工程に大きな影響を与え始め、半数以 そうな商品を購入し、製造国、製造会社の調査を行 上のサイトが何らかの被害を受け、一部のサイトは い、合致したものを提案、購入することになるわけ 12 月上旬まで一時工事中断を余儀なくされた。こ であるが、まとまった数量、納期、その後のメンテ のような事情により工期延伸が承認され、最終的に ナンスまで考慮すると、そう簡単には見つからない 本年 9 月 19 日、32 カ所のサイトの完成引き渡しを のが実情であった。 完了した。 また、いざ発注すると必要数の在庫がなく、搬入 日も不明など、われわれ日本人にとっては理解しが 3. プロジェクトにおける成果と課題 たい出来事が続出した。 今回の工事における特徴的な試みは、躯体、仕上 その後、何とか発注までこぎつけたが、それでも げ工事などにおける施工品質、施工手順などの問 まだ安心はできなかった。購入材料が中継基地に搬 題点を抽出し、各サイトへの水平展開を考慮して、 入され、各サイト別に仕分けを行うと、パッケージ モックアップサイトを設定、当社エンジニアをはじ は本物と同様であるが、中身は粗悪品に替わってい め、下請けエンジニア、スキルワーカーの教育実習 た材料もあった。流通経路を辿り調査したが、どの の場とし、32 カ所のサイトの均一化を図る計画を 時点ですり替わったのか結局判らず、責任の所在は 実施したことである。それにより、一定の成果は得 不明のままであった。 られたが、協力業者エンジニアを含む職人の技量差 今まで問題点ばかり述べてきたが、今回のプロ が大きく水平展開が十分に行えなかったことは残念 ジェクトに携わり、ミャンマーの国民は東南アジア であった。 他国と比較しても、まじめで勤勉でかつ人にやさし また、もうひとつの原因として、サイト間の移動 い国民だと感じた。 手段に問題があったことが挙げられる。過疎地にお 当社のスタッフは、ローカルエンジニアも含める いては定期運航の交通機関はなく、協力業者または と最終的には総勢 23 名におよび、車輛 13 台で 32 当社が移動手段を提供しない限り、自ら移動するこ カ所のサイトの運営管理を行ってきたが、その間、 とはできない。この状況が仕上げ工事において、職 車輛の故障や悪路、河川にはまり身動きが取れなく 人のサイト間の移動に大きく影響を与えたほか、資 なった時、困り果てたわれわれを助けてくれたのは 材の各サイトへの供給の際の運搬車輛の故障や、ア その周辺の村民であった。 クセスのための道路の未整備による遅延が工程管理 をより困難にしたと言える。 さらに今回の工事スペックに合致した仕上げ材料 を、ミャンマー国内マーケットから調達するのにも また、機械などの盗難もなく、多くのミャンマー 人の協力を得て、すべてのサイトを無事に完工でき たのもミャンマーの国民性があってのことだと言え るかもしれない。 非常に時間を要した。材料販売店などを含む輸入業 今、思い返しても 32 カ所のサイトの完成、引き 者に対し、スペックに適うサンプルの要求を行って 渡しまで発注者をはじめコンサルの方も、冠水した も該当するサンプルはなかなか提出されてこない。 サイトまで腰近くまで水に浸かりながら辿り着き、 われわれ自ら各取り扱い店を回り、スペックに適い 引き渡しを行うなど通常経験できぬことを経験する 2014 10–11 65 ことができたプロジェクトであったと言えるのでは 社も説明を尽くしたが、改善には遠く、ミャンマー ないだろうか。 での今後の ODA 工事のためにも、この件の改善が 強く求められる。 4. プロジェクトを終えて 今回のミャンマーでのプロジェクトを経て、 今後、 ミャンマーへの投資拡大に伴い、 ミャンマー にもさまざまな建設機材、資材の導入が進み、安全 ODA プロジェクトに関して強く感じたことは、発 環境も重要視され、さらなる品質向上、工程遵守が 注者である現地国政府省庁の ODA スキームの理解 問われる環境になっていくであろう。同国の発展を が不十分であったことであり、今後周知が必要なこ 期待すると共に、日系企業である当社も、今後さら とである。特に支払いに必要な支払授権書(AP)の にミャンマーの発展に寄与できると信じている。 迅速な処理が必要であると思われる。コンサルも当 66 特集 ミャンマー市場への取り組み 特集 わが社のミャンマー市場への取り組みと課題 地震国ミャンマーにおける当社の 耐震・免震・制震技術の紹介 大崎 博司[(株)竹中工務店 タイ竹中ミャンマー支店 ヤンゴン事務所長] 1. 当社のミャンマーにおける活動 回った。当社紹介の際、日本の最新建設技術・工法 当社は 2013 年 4 月、営業活動・情報収集の拠点 の話題になることが多かったが、中でも一番興味を として、ミャンマー連邦共和国ヤンゴン市に隣国タ 集めるポイントは耐震・制震・免震などに関するも イ現地法人のミャンマー支店を開設した。ミャン ので、すべての機関において多くの質問を受けた。 マーにおける当社の活動は、1990 年に竣工したミャ ンマー稲原種研究所建設工事以来、実に 23 年ぶり ミャンマー 2. 地震国、 の再進出となる。私は、事務所開設と同時にミャン 図 1 はミャンマー地質協会(MGS)を訪問した際に マーに足を踏み入れたものの、当初は何から手を付 拝見した地質図である。日本の約 1.8 倍の広さの国 けるべきか悩み、まずはミャンマーの建築に関する 土は南北に長く、北東側の South China プレート・ 情報収集をと、ヤンゴン市開発委員会(YCDC) ・ミャ 北西側の Shillong プレート・東側の Sunda プレート・ ンマーエンジニアリング協会(MES)・ミャンマー 西側の Indian プレート・南側の Burma プレートな 建設業協会(MCEA)・ヤンゴン工科大学(YTU)・高 どがミャンマー国内でぶつかり合っており、同国は 層建物品質コントロール委員会(CQHP)を訪問して 20∼ 30 年に一度くらいの頻度で大地震が発生して いる地震国である。 図1|ミャンマー地質図(ミャンマー地質協会資料) 図2|ミャンマー断層分布図(ミャンマー地質協会資料) 2014 10–11 67 図 2 は同じく断層分布図であるが、各プレートが い込んだ。昨年(2013 年)までは科学技術省が主催 ぶつかり合い、国土の至るところに活断層が分布し していたが、今年(2014 年)からヤンゴン工科大学 ていることが見て取れる。中でもヤンゴンの北東 が取り纏めることになったとのこと。当社の技術力 80km にある旧王都・バゴー市、現在の首都である をアピールする絶好のチャンスと考え、応諾した。 ネーピードー市、ミャンマー第 2 の都市であるマン 会議は 2013 年 12 月 9、10 日の 2 日にわたり開催 ダレー市(最後の王都)などの主要都市では、ほぼ真下 された。当社からは土木分野のセッションにおける に南北 1,000km におよぶ Sagaing 活断層が走ってい ゲストスピーカーとして、技術研究所の地震工学部 るため、大地震のリスクが非常に高いことが分かる。 門に所属する山本が、当社の耐震・免震技術と施工 例などを紹介した。大学関係者を中心に参加者から 3. ミャンマーへの技術支援活動とその反応 多数の質疑を受ける中で、同国における地震リスク への関心の高さを改めて感じた。 2013年12月9-10日 国際学術会議(ICSE)2013 そこで、同じ地震国である日本の建設会社とし て、当社の耐震・免震に関する設計力・技術力を紹 ヤンゴン工科大学(YTU) 介する機会はないものかと考えていたところ、以前 翌日は YTU からの講演依頼を受け、構造専攻の 訪問した YTU の教授から、 国際学術会議(International 修士課程に在籍する学生 32 名に対して地震に関す Conference on Science and Engineering)への協賛依頼が舞 る特別講義を行った。 日本での地震事例を挙げてのプレゼンテーションの様子 2013年12月11日に行った特別講義を聞くYTUの学生 68 特集 ミャンマー市場への取り組み 参加した学生のうち約 8 割は女性で、工科大学内で 翌 12 月 12 日は、MCEA から、当社の地震関連 見かける学生も圧倒的に女性が多いことに驚く。ミャ 技術に関するセミナー開催の要請を受け、MES の ンマーでは成績によって出願できる大学(学部)が限ら ファンクションホールにてセミナーを実施した。 れるが、工科大学に出願するには医科大学以上の好成 績が求められ、 現在最も競争率が高いとのことである。 つまりここに在籍する学生は競争を勝ち抜いた 「エリート」たちであり、そのエリート層における 女性比率の高さは急成長を遂げている今のミャン マーを象徴しているように思えた。 2013年12月12日 MESでのセミナーの様子 当日は MCEA の会員企業、MES および YCDC の技術者、ヤンゴン、マンダレー、ウエストヤンゴ ン工科大学関係者のほかに、新聞・テレビなどマス コミ関係者も含め 100 名を超える参加者が集まり、 YTUでの特別講義の様子 ミャンマー地震委員会 Prof. Win Swe 副会長(ミャン マー地質協会の旧会長)が開会挨拶を務めた。 講義は学生・教授からの活発な質疑によって、予 このセミナーでは、主に免震・制震技術に関する 定していた 2 時間半を過ぎ、休憩時間に入っても続 説明を行った。当地で実際に地震を経験しているエ く盛況ぶりで、参加した学生にとっても日本の高い ンジニアからは、効果・費用などに関して多くの質 技術力に触れるよい機会となったようだ。 問があり、実施工を見据えた具体的な質疑が展開さ れた。またセミナーの最後にはマンダレー工科大 学(MTU)の教員から、マンダレー市はヤンゴン市 以上に地震のリスクが高いので、来年は是非ともマ ンダレーでもセミナーを開催してほしいとの要望が あった。 早速われわれはその要望に応えるべく調整を始め、 関係諸機関の協力を得て 2014 年 7 月にマンダレー市 において、当社技術研究所の地震工学部門に所属す ミャンマーエンジニアリング協会(MES) る濱口が地震・防災に関するセミナーを実施した。 2014 10–11 69 7 月 23 日は、アッパーミャンマー(ミャンマー北部) の工科大学の中核である、マンダレー工科大学で、 学生ら 82 名を前に特別講義を行った(写真の通り、こ の大学でもやはり女子学生が圧倒的に多い!) 。次世代のミャ ンマーを担う、若いエンジニアに対して日本の技術 を伝えるよい機会を得た。 2014年7月22日 MESマンダレー支部でのセミナーの様子 7 月 22 日に開催した MES マンダレー支部でのセ ミナーには、支部幹部役員、プロフェッショナル・ エンジニア(PE)52 名を含め 80 名余りが参加した。 2014年7月23日の講義後 MTUの学生との記念写真 当該セミナーが PE の必須取得セミナー単位に加算 される旨が新聞で報道されるなど、当地では高い位 マンダレーでのスケジュールを終え、翌 24 日は 置付けとされていた今回のセミナー。プレゼンテー 前年に続き YTU、MES ヤンゴン本部でも特別講義・ ション後の質疑でも、実際に免震技術を取り入れた セミナーを開催した。 場合のメリット・デメリットなどに関する質問も多 く出るなど、参加者の関心の高さに驚きと責任を感 じた。また、ミャンマー国内で最も火災発生件数が 多く、しばしば甚大な被害に見舞われるマンダレー では、 耐火建材に対する関心が高いことも分かった。 2014年7月24日 ヤンゴン工科大学(YTU) YTU では、前回は構造専攻学生を対象にした授 業であったが、今回は土木(建築)学科の学生・教官 60 名も出席しての特別講義となった。 マンダレー工科大学(MTU) 70 特集 ミャンマー市場への取り組み 以上、昨年 12 月と本年 7 月に延べ 7 会場にて、当 社の耐震・制震・免震に関する技術の紹介を行うこ とができた。 今後も同様の活動を続けながら、さらにミャン マーの地震災害リスク・建設事情などを把握し、技 術支援を通じてミャンマーにおける建築物の耐震性 強化と地震 ・ 火災を含む防災基盤の整備に貢献して 2014年7月24日 MESヤンゴン本部での講義の様子 いきたいと考えている。 MES ヤンゴン本部でも、70 名を想定したカン ファレンスルームに 80 数名の参加があり、関心の 高さがうかがえた。 2014 10–11 71 特集 わが社のミャンマー市場への取り組みと課題 ミャンマーにおける東急建設の取り組みと 今後の展望 吉岡 英通[東急建設(株)現地法人:ゴールデン東急建設] 1. はじめに パートナーとなる Shwe Taung Development が受注 東 急 建 設 は、 「選 択 と 集 中」を キ ー ワ ー ド に した、道路の立体交差化工事への建設マネジメント ASEAN 地域を中心に海外展開を推進してきてお サービスである。対象となったプロジェクトの工事 り、2012 年から、新たな営業先としてミャンマー 概要を以下に記す。 の建設市場に参入している。また、2014 年からは、 現地建設会社である Shwe Taung Development と合 工事名称:Hledan Flyover Project 弁で設立した現地法人での営業も開始し、現地民間 元発注者:ヤンゴン市開発委員会(Yangon City 建設市場への取り組みを本格化させている。本稿で Development Committee) は、東急建設のミャンマーにおける取り組みについ 元発注形態:設計施工 て説明したい。 請負者:Shwe Taung Development Co., Ltd. 設計担当:TY LIN International 2. ミャンマーにおける東急建設の取り組み 東急建設の海外事業における取り組みスキーム は、主に 3 つに分類することができる。 第 1 に、現地法人による現地建設工事への取り組 施工担当:Shwe Taung Development Co., Ltd. 施工管理担当:東急建設株式会社 工事概要:渋滞緩和を目的とした幹線道路立体交 差化工事 みが挙げられる。これは、現地法人自身が設計施工 または施工を請け負い、東急建設本体あるいは現地 パートナーが必要に応じて当該現地法人にサポート を提供する形態である。次に、東急建設本体が直接 に現地民間建設工事に関与するケースがある。多く の場合はエンジニアを PM あるいは CM としてプ ロジェクトに派遣し、現地企業施工案件に東急建設 の建設マネジメントを提供する役割を担うことにな る。さらに東急建設として直接現地での請け負い工 事を担う取り組みがある。本邦政府開発援助(ODA) Hledan Flyover Project施工状況写真 をはじめとした多くの国際プロジェクトが本手法の 主な対象となる。以下、ミャンマーにおける東急建 設の経験と今後の展開を紹介する。 (1)東急建設による民間建設市場への取り組み 先に述べたように、東急建設のミャンマーでの取 り組みは 2012 年に開始された。東急建設のミャン マーで関与した第一号案件は、後の現地法人の合弁 72 特集 ミャンマー市場への取り組み Hledan Flyover Project完成状況写真 橋梁幅 15.44m、橋梁長 764m − 基礎工:場所打杭 φ1.0 ∼ 1.2m, L=40 ∼ 50m (2)現地法人による民間建設市場への取り組み また、2014 年 1 月からは、ミャンマーにおいて、 − 下部工:RC Single Column, PC Cross Head Shwe Taung Development と合弁で、Golden Tokyu − 上部工:鋼 I 桁合成橋梁 Construction の営業を開始した。この現地法人は、 − 鋼桁架設:2 台のクレーンによる合吊架設 日系企業を中心とした外国投資案件やパートナーで − 型枠・支保工:鋼製システム型枠支保工 ある Shwe Taung Development およびその関連企業 を含む、ミャンマーにおける土木・建築工事を中心 また、東急建設は Shwe Taung Development が建設 に営業を行っている。 「アジア最後のフロンティア」 する、高層建築物新築工事においてもプロジェクトマ とも例えられるミャンマーにおいて、日緬両国のサ ネジメントチームを派遣して施工管理にあたっている。 ポートを得ながら実力を向上させ、今後予想される 工事概要は以下の通りである。 日系企業の進出の増加に対応したいと考えている。 工事名称:Junction Square Extension Project 建築主:Shwe Taung Development Co., Ltd. 設計・監理:DP Architects Pte Ltd. DP Engineers (3)東急建設による公共建設市場への取り組み 東急建設本体によるミャンマーにおける国際プロ ジェクトへの参画に関しては、これまではミャン Pte Ltd. 工事監理:PM Link マーが国際社会から経済制裁を課されていたことに 施工:High Tech Concrete Technology Co., Ltd. より十分な機会を得ることはできなかった。しかし (Shwe Taung Development 子会社) ながら、各方面より経済制裁が解除され始めてから 建物用途:共同住宅、事務所、店舗、駐車場 一定期間が経過したことから、現在はミャンマー国 構造規模:SRC 造 地下 1 階、地上 22 階、塔屋 1 内における国際プロジェクトが活発化する兆しが顕 階(2 棟) 著となっている。日本国政府も積極的にミャンマー 敷地面積:37,400.00m2 建築面積: 4,595.00m2 の社会・経済発展に寄与していく姿勢を見せており、 延床面積:78,350.00m 最高高さ:85.00m 本邦 ODA 案件も立て続けに契約調印がなされてい 最深深さ:7.10m る。当社も 2012 年以降、 積み重ねてきたミャンマー 2 での経験を活かし、 参画していきたいと考えている。 3. ミャンマーの建設事情とその課題 上で述べた当社のミャンマーにおける取り組みに よる経験を元に、現在のミャンマーにおいて当社が 認識している主な課題について以下にて指摘する。 Junction Square Extension Project完成予想パース 2014 10–11 73 (1)材料調達 建設工事を遂行するにあたっては、多量の資機材 な住宅費や外国人向け住居の供給数の不足も現在、 解消されていない。さらには医療水準に不安を感じ、 および材料の調達が必要になるが、ミャンマーにお 検査や治療が必要な際はタイをはじめとした近隣諸 いては国内調達が困難な資機材および材料が多いた 国で受診させる日系企業も多い。 め、輸入が不可欠となる。また、ミャンマーの通関 業務は合理化への道半ばであり、通関時間の長さに 不満を持つ企業も多い。そのため、材料調達のリー ドタイムを十分に見積もった発注業務が肝心となる。 4. 今後の展望 このように、ミャンマーで事業を行う上で少なか らず困難があるのは事実である。しかしながら、今 後の社会基盤整備需要や国際社会からの強い関心、 (2)人材確保および教育 現在、ヤンゴンにおいてはプロジェクトが多く進め られており、エンジニアの需要が非常に高まっており、 そして予想されるミャンマーの社会・経済発展の余 地を考え合わせると、ミャンマー市場が大きな可能 性を感じさせるものであることは否定できない。 地場の建設会社においてもその確保に苦心している ミャンマーが国際社会と距離を取っていた期間に と言われている。さらに、ミャンマー国内で経験を積 国際社会のグローバリゼーションは著しく発展し、 んだエンジニアの中で、周辺諸国と同水準の技術を 先進国と発展途上国の二分論で世界経済を把握する 持つ者の人数は多くないため、現地雇用社員の確保・ ことは困難な時代となっている。発展途上国の間で 教育にかかる労力は決して少なくない。 も協力関係が強固になり、社会・経済的交流が加速 ミャンマー人は勤勉かつ向上心が旺盛な人が多い 度的に広まっているように感じられる。ミャンマー 印象があるので、将来への期待は大きいものの、足 に拠点を構えている日系企業として、ミャンマーと 元においては、多くのミャンマー人が、日系企業が 日本の会社のみを考えればよいのではなく、 発注者、 求める水準に到達するための十分な機会に恵まれて あるいはサプライヤーとして、他国の会社とも協働 おらず、職業能力において不足感を抱くことが生じ する必要性は高まっている。あたかも、当社がこれ ている。 までの海外展開で培った経験を実践に移せるか、そ こを試されているかのように感じることもある。 (3)生活環境 外国人がミャンマーに生活の本拠を移した際に、 最後に、一般的に建設業は内需産業であると言わ れる。特に、 Golden Tokyu Construction は、ミャ 課題となる点についても触れておく。不安定な電力や ンマー会社法に則り、ミャンマーにて設立された現 インターネットの供給が駐在員の公私ともにわたり、 地法人であるため、雇用の促進などを通じて社会貢 障害となっている点は広く知られている。また、高額 献も果たしていかなければならないと感じている。 74 特集 ミャンマー市場への取り組み 特集 わが社のミャンマー市場への取り組みと課題 ミャンマー市場への取り組み 岡本 元宏[東洋建設(株)ヤンゴン出張所 所長] 1. はじめに に対応できる技術力など期待されるところは大き ミャンマー国は 1988 年の政変以降、日本経済協 い。さらに、美しい海岸線を持つ国ではあるが、海 力の停止や欧米経済制裁も受け鎖国状態であった 岸域での製油、化学、発電などの大型プラント整備 が、2009 年から欧米との和解やミャンマー政権の も中長期開発としてミャンマーの発展を支えていく 民主化が進められ、現在では「アジア最後のフロン には必要と考えられ、日本の官民協力による環境に ティア」として世界中から脚光を浴びている。 十分配慮した支援も大きく期待されるところであろ 私はミャンマー開国の流れに興味を持ち、駐在す う。当社としても、わが国で、そしてフィリピンや るベトナムから眺めていたが、2010 年ハノイ∼ヤ ベトナム、インドネシアで培ってきた経験と技術力 ンゴン便が就航されたこともあり、その年 12 月に を発揮してミャンマー発展のために港湾施設整備や 初めてヤンゴン入りした。2013 年 2 月には当社毛 海岸線開発に寄与していきたいと考えている。 利前社長(現会長)のミャンマー視察、2014 年 2 月 また、ミャンマーには総延長 6,500km におよぶ にヤンゴン出張所を開設、同年 7 月の武澤現社長来 内陸水運と 300 を超える港があり、小型船舶での貨 緬を経て現在に至っている。 物・旅客運搬により地方経済が支えられている。し かし、港湾施設がまったくなく人力で非効率な荷役 2. ミャンマー市場への取り組み 作業が行われている中で日本の資金と技術による荷 ミャンマーはインド洋ベンガル湾に面して海岸線 役施設や航路整備が期待されており、大型港湾やプ が 2,000km 近くあり、マリコンに称せられる当社 ラント工事だけでなく、ミャンマーの地方開発や貧 にとっては多くのビジネスチャンスがあるフロン 困対策支援にも積極的に関与していく所存である。 ティア国と考えている。既に円借入札手続きが進め られているヤンゴン近郊のティラワ港はもちろんの 一方、陸上工事に目を向けてみると、アベノミク こと、インドが関心を示しているシットウェー港、 ス成長戦略における「世界のインフラに安全・信頼 中国が既に開発を進めているチャオピュー港、タイ の『日本印』 」の方針の下、 「鉄道インフラのシステ が計画先行しているダーウェイ港、東西回廊玄関口 ム輸出」としてヤンゴン∼マンダレー鉄道やヤンゴ の役割が期待されるモーラミャイン港ほか、インド ン環状鉄道の再整備が注目されているが、軌道系イ 洋からミャンマー全土およびインドシナ半島各国へ ンフラ整備には積極的に取り組んでいきたい。特に のゲートウェイ機能や地方開発の要衝として港湾整 内陸河川の多いミャンマーでは多くの中小橋梁工事 備が急がれている。 また、 港湾開発が遅れているミャ が想定され参画のチャンスはあるのではないか。 ンマーとしては、既存港の整備だけでなく新規の大 また昨今ティラワ経済特別区などへの日系民間工 水深港、多目的埠頭や専用バース、ハブ港やフィー 場の進出の話も多く聞かれるようになってきたが、 ダー港など多機能な港湾施設の整備が必要となろう。 当社はフィリピンやベトナムでの日系工場建設の経 われわれ日本企業に対しては、日本政府との官民 験と実績が多くあり、そこでお世話になったお客様 連携による開発や日本の建設会社の高品質かつ確実 の中にはミャンマーを新たな進出候補に挙げている な工程遵守や安全施工、耐震化や急速施工にも確実 ところもある。当社としては、3 カ国目となる民間 2014 10–11 75 建築市場への参画も視野に入れている。 このようにミャンマー市場への取り組みには期待 工会議所に協力させていただき、日本の官民一体と なった活動に積極的に関与していく所存である。 するところ大であるが、この国が 20 年近い鎖国状 況の中で先進国の開発システムや支援から外れ、開 3. ミャンマーでの海上工事の実績 発後進国である中国やインドに頼ってきたつけは大 当社は 2014 年 7 月までの 3 カ月間、JFE エンジニ きい。現在、当社も円借款案件の入札や民間工場の アリング株式会社よりダラ桟橋工事(ヤンゴン川)の 見積り作業に取り掛かっているが、建設ビジネスに 海上杭打施工について技術支援を依頼された。 関係する法や制度面の不備・不透明さ、政府開発援 本施工計画の立案にあたり、当初は東南アジア諸 助工事費の支払遅延、税金の取り扱いの不明確さ、 国で一般的な杭打機やクレーンを台船に載せる施工 支店・現法・JV などの会社登録の諸問題、外国建 方法を検討したが、海上作業に適する台船の国内調 設会社の資機材の輸出入問題、国際契約や FIDIC 達が困難であった。そのため海上からの施工ではな の理解不足、国内で調達できる適切な建設資機材の く、河床に作業用マウンドを構築して杭打設する施 不足、物価指数などの各指標の不備、地元協力業者 工方法を採用した。 や地元エンジニアの手配困難など、対処すべき課題 やリスクが多数存在するのも事実である。 ミャンマーでの杭打作業はリーダーを有する杭打 機を使用することが一般的であるが、そのような杭 フロンティアへの進出がそのようなリスクを含む 打機は施工可能な範囲が狭いため先端部では水深の のは当然のことであろうが、そのリスクをできる限 大きい場所へのマウンド構築が必要となる。しか り低減してミャンマーがわれわれ日本の建設会社に し、ヤンゴン川は最大 3.0m/s 以上の潮流があるた とって真に魅力的なフロンティア国となるように、 め、マウンド先端付近の構築が困難と判断された。 当社も微力ながら大使館や国際協力機構、日本人商 また、6.0m を超える潮位差を考慮すると、施工時 マンダレー/エーヤワディ川での非効率な荷役作業 76 特集 ミャンマー市場への取り組み 間がかなり拘束されるため機動性に欠ける杭打機の 開始したが、ヤンゴンの厳しい雨期での杭打作業は 使用は適切ではない。さらにマウンド構築場所は粘 当社としての初めての経験であり、東南アジア他国 性土の堆積した非常に緩い土質のため、安定のため の雨期の状況とはかなり違い苦労したところであ には作業用マウンドの規模はできる限り小さくする る。また、使用した RC 杭品質のバラツキや調達し 必要もあった。 た資機材の整備不良や故障、オペレータや作業員の よって、最終的には、機動性の比較的よいクロー 経験や段取り不足による手待ちや施工中断も重な ラークレーンを使用して、施工半径の大きいフラ り、海上杭打作業にかなり手間取ることとなった。 イングハンマー工法による施工方法を選択したが、 今回の技術支援では当社もミャンマーでの海上施 ミャンマーでは本施工方法での杭打作業の実績がな 工の難しさを垣間見ることができ、貴重な経験を得 いため、当社フィリピン人エンジニアおよびクルー ることができた。2,000km の海岸線と 6,500km の がミャンマー人技術者や技能労働者を指導して杭打 内陸水運を持つミャンマーでは今後多くの海上工事 施工を実施する施工計画とした。 が期待でき、マリコン東洋として、ミャンマーに適 このように十分に検討した施工計画で杭打作業を した施工方法を立案するなど、海上工事の施工技術 をミャンマー発展のために発揮すると共にミャン マー業者への技術移転にも力を注いでいきたい。 4. 終わりに 当社は今年(2014 年)2 月に初めてミャンマーに進 出した新規参入組ではあるが、この国は 20 年近く 鎖国体制を取っていた空白期間があったため取り囲 む環境は以前とは一変しており、アジアの最前線 ミャンマーでのプロジェクトについて各社が同じス ダラ桟橋(ヤンゴン川)での海上杭打施工 タートラインに立っている状況と感じているところ もある。 当社も何とかよいスタートが切れるように、これ まで培ってきた海外経験と技術の強みを活かしてプ ロジェクトへの取り組みを進め、当社の活動がミャ ンマーおよびミャンマー国民の発展の一助となるよ うに鋭意努力していく所存である。 フィリピン人エンジニア/クルーによる技術指導 2014 10–11 77 特集 わが社のミャンマー市場への取り組みと課題 ミャンマー国・建設事情とわが社の取り組み 中尾 弘二[西松建設(株)ヤンゴン営業所 所長] 1. ミャンマーにおける建設業の現況 す。しかしながらその結果として、人材不足や資機 ミャンマー最大の都市ヤンゴンは、ようやく雨季 材の高騰が続き、需要と供給のバランスが崩れ、外 の終わりが近付き、街中がカビに埋もれた不快な季 国企業にとっては激しいインフレ状況を起こしてお 節から、一日一日と日照時間も長くなり、徐々に気 ります。施工物件の品質管理についても問題点があ 温も上昇、いよいよ待ちに待った乾季到来です。晴 ります。ミャンマーには日本のような建築に関する れ渡る澄みきった空が見える日もすぐそこまで来て 基準を定めた法律はありません。現在、日本政府の おります。 援助により法整備を含め基準整備に取り組んでいま 日本でミャンマーは「最後のフロンティア」とも すが、普及されるにはまだまだ時間がかかりそうで てはやされておりますが、現状は、社会インフラの す。そのため民間工事の場合、現地業者の技量、器 未整備などのハード面のみならず、法制度の不備な 量任せに頼らざるを得なく、日本人の感覚からする どソフト面の不具合も複雑に絡み合い、まだまだ商 と完成した構造物には非常に手抜きが多く、どうし 業ベースに乗るビジネスには厳しい環境であるのが ても品質の粗悪さが目につきます。安全面において 現実です。また、急成長する経済に政府組織の体制 は、現地業者の中でも大手と言われる会社では、ヘ が追いつかず、申請許認可などに時間がかかりすぎ ルメット、安全靴の着用を指導しておりますが、ま て、事務処理が煩雑になり経済成長の妨げとなるこ だまだ建設業界には浸透していないのが現状です。 とが懸念されております。 中小業者に至ってはロンジー(下半身に着用する筒状の衣 ただし、ミャンマーの経済は全体的に上振れして いると思われるのも事実であります。 類)に雪駄履きといった民族衣装で働く姿が一般的 です。一方、これまでミャンマーでは外国人には不 2014 年の経済成長率は、当初予測 7%が大方の 動産の取得が認められておりませんが、最近、地場 予想でしたが、IMF(国際通貨基金)によると四半期の 大手開発会社が改定コンドミニアム法(外国人に対して GDP 成長率 8.5%上昇を見込まれると発表されて の販売を 6 階以上部分で全体の 40%以下を認める)の成立を見 います。実際に街全体が活気に満ち、人びとの躍動 込み、不動産の販売の発表をしました。それにより を感じることができます。現在のミャンマーにおけ ますと、ヤンゴン市郊外の高級コンドミニアムで販 る建設業は著しい経済成長と、民主化に伴い大きく 売価格が 1m2 当たり約 4 万円∼ 5 万円だそうです。 変わろうとしております。2011 年に誕生した新政 ただし、こちらの販売価格はスケルトンであり、調 権により、 これまでの閉鎖的なイメージが払拭され、 度品を含む内装費用は別となります。 数多くの外国企業が参入してきました。 それに伴い、 その他、外国人や富裕階級を対象にした高級志向 ホテル、事務所、住宅の不足を生み出し、今のヤン の賃貸大型住宅は、シンガポール資本でフランス・ ゴン市内は至る所で建築中の現場を見ることができ ドラガージ社によって着工されており、販売価格や ます。また、これまで遅れていたインフラ整備のた 賃貸料を含め高騰し続けています。 めに、新規の道路、橋梁、立体交差、港湾施設、工 業団地建設といった土木工事が目白押しであり、ま さに建設ラッシュが訪れてきたと実感しておりま 78 特集 ミャンマー市場への取り組み 2. 当社のミャンマーにおける取り組み 当社のミャンマーにおける取り組みの歴史は、 1996 年に営業所をヤンゴン市内に開設、その後 資材の調達先としては、セメントはタイ、鉄筋は 2010 年に騒乱期の影響で一時期は閉鎖しましたが、 中国、コンクリート杭および二次製品、建築用鉄骨 2012 年より再開業務に取り組み、現在は日本人常 材はベトナムからの輸入が一般的になっておりま 駐の営業所としての活動に至っております。 す。ヤンゴン営業所としては、まずはミャンマーに また、2013 年には泰国西松建設ミャンマー支店 おける顧客満足を一番の目標に掲げ、技術力の高い 所も開設し、利便性、低コスト化を目指して取り組 品質と安全を目指した施工体制を構築していく所存 んでいるところでもあります。ヤンゴン営業所開設 であります。 当時はあくまでも政府開発援助(ODA)案件を中心 に営業活動してまいりましたが、民主化に伴う日系 企業進出が見込めるため、今後は事務所、工場施設、 3. 今後のミャンマーの展望 今後のミャンマーを見ますと、来年度(2015 年)は 工業団地建設なども合わせ取り組んでいきたいと考 11 月に予定されている総選挙の実施、ASEAN 共同 えております。特に工業団地建設については、発展 体の発足といった大きなイベントが目白押しです。 途上国の経済発展には欠かすことができないインフ この国にとってリスクとなるのか利益になるかは、 ラ事業であり、日系の工業団地に限らず需要は急増 判断が難しいところではありますが、一旦開かれた すると判断できます。当社は昨年(2013 年)ベトナム 民主化開放路線は立ち止まることはないでしょう。 において工業団地の大型造成インフラ工事を完成し また、アメリカからの制裁解除も近いと聞いてお たばかりであり、その経験を生かし積極的に設計、 ります。本格的な民主化はすぐ目の前まで迫ってき 計画企画より参画し、当社の優位性を活かせる営業 ており、自由経済国として発展していくことは間違 活動を進めたく考えております。建築工事において いないでしょう。 は、建築許認可を含め申請業務が非常に煩雑で時間 独自の国家運営を行ってきたミャンマーでは、こ がかかるため、日系企業の進出に少なからず妨げに れからも ASEAN の一員として、また、世界中の民 なっています。事実、ティラワ工業団地においても 主国家の国々と上手く付き合っていけるかは国民自 団地建設は進捗しておりますが、団地を取り扱う 身の判断に求められるところです。私個人の見聞と SEZ 法(経済特別区法)が整備されていないため、入居 しましては、今のミャンマーの姿は、ドイモイ政策 テナントが工場建設に着手できないといった不具合 を打ち出し開放路線を歩み始めインフラ整備に乗り が発生しております。 出した 10 年前のベトナム、オリンピック景気に沸 当社としましては、建設のハード面に留まらず、よ き都市整備を始めた 50 年前の東京に重ね合わせる り利便性の高いソフト面でもお手伝いができればと考 ことができるような気がします。われわれ、建設業 えております。建設に伴う資機材調達はそのほとんど はこの発展途上国に進出したからには、中長期的に が輸入となります。現在は通関業務が整備されておら 見ても出件が数多く見込まれる中、商機を掴む努力 ず、関税額や通関に要する時間が読めないため、工 を怠ってならないのと同時に、少しでもこの国のイ 程管理に不便さを強いられているのが実態であり、早 ンフラ整備や都市整備にお役に立てればと期待する 急な法整備と速やかな通関業務が望まれるところです。 ばかりです。 2014 10–11 79 特集 わが社のミャンマー市場への取り組みと課題 ミャンマーへ最初の一歩 ̶̶ 課題と展望 松山 隆紀[若築建設(株)イエジン農大新築工事作業所 所長] 1. はじめに 3.ミャンマーでの第一印象 本稿では 2014 年 1 月 28 日の入札を経て、現在施工 契約調印を無事すませ、私がミャンマー入りした 中の当社のミャンマーで行う初のプロジェクトにおい のが 2014 年 2 月 18 日でした。すべてが 0 からのス て、現在実感しているミャンマーに対する思いや、直 タート。ヤンゴンでの宿舎、事務所、ローカル職員 面している課題を、現場からの目線でご報告したい の雇用などの拠点確保に始まり、400km 北に離れ と思います。まだまだ試行錯誤を繰り返す日々ですの た現場の状況確認、現場宿舎・事務所、地元の現場 で、まったく見当違いな部分も出てくるかもしれませ 職員の確保、その他下請け業者契約や、関係機関へ んが、その辺りはご容赦いただければ幸甚です。 の挨拶回りなどなど進めていた中で、おや、これは 話がしやすい国民性だな、と思ったのが私のミャン 2. 案件概要 マーへの第一印象でした。これまでの私の海外業務 本案件は政府開発援助(ODA)の無償資金協力プ 経験は無償案件が多く、南西・東南アジアを中心に ロジェクトです。ミャンマーでは国民の 6 割が農業 開発途上国が主な職場だったため、仕事に対するス に従事し、農業部門が GDP の 3 割以上を占めてお タンスや価値観のギャップに悩まされることが多 り、農業の重要性はきわめて高い。ミャンマー政府 かったのですが、相対的な印象として、ミャンマー も農業セクターの振興・開発を重要視しており、近 では相互理解が比較的スムーズにいったという感覚 年の市場経済化の中、多様な農業環境条件に応じた があります。また、女性の社会進出も進んでおり、 栽培技術および高品質な農産品の生産技術開発が急 訪れた数多くの会社で技術系女性スタッフの多さに 務となっていますが、教育・研究施設ならびに機材 驚きました。現場運営のために行ったローカルス の老朽化により、農業セクターの振興・開発に携わ タッフ採用面談時も女性応募者が男性応募者を上回 る人材の教育・研修に支障が生じています。そのよ り、現在本案件で共に仕事をしている地元の協力業 うな背景があり、当案件は首都ネーピードーから北 者の社長も女性です。 東に約 20km 離れたイエジン農業大学に、新たに実 験施設を整備することで、効率的かつ多様化・高度 化するニーズに対応した技術開発・普及に携わる人 材の育成に寄与することを目的としています。 工事内容は以下の通りです。 ❶施設用途:大学の研究実習施設(2 棟) ❷構造:鉄筋コンクリート造(RC ラーメン構造) ❸階数:2 階建て(一部平屋建て) ❹延床面積:4,345.04m2(2,172.52m2 × 2 サイト) ❺工事契約日:2014 年 2 月 5 日 ❻工期:2014 年 4 月 7 日(着工日)∼ 2015 年 4 月 31日 ❼ 請け負い金額:4 億 9,810 万円 80 特集 ミャンマー市場への取り組み ネーピードー近郊の黄金のパゴダ(仏塔) 食生活については、少し油が多すぎると感じるこ されます。ミャンマーにおける輸入品免税手続きの ともありますが、日本と同じ稲作文化であるため、 大きな流れとして、まずわれわれが提出した輸入品 ほぼ違和感なく馴染むことができましたし、地元の マスターリストに基づき、クライアント(本案件では 豆腐や漬け物、納豆まであることには驚きました。 農林灌漑省)が商業省にインポートライセンス発行を 国民の 90%が仏教徒ということや、顔かたちの外 要請します。ライセンス発行後、今度は財務省に書 見、 仕草がとても日本人と似ている人が多いことも、 類が回り、税関宛ての免税許可証が発行されます。 馴染みやすい理由のひとつでした。 この流れの中で、さまざまな手続きや書面が必要と なり、輸入品到着前に免税手続きが完了しなかった 4. 取り組みと課題 ため、港で約 1.5 カ月荷物を止められました。これ 当社としては、現在進行形で進んでいる本案件を らを踏まえて今後こういうことが起こらないよう、 足掛かりとして、ミャンマーで次のステップを踏み クライアントと共にマスターリスト全体を、また、 出そうと考えており、そのためには現在抱えている 事前に免税許可を発行していただく手続きを進めて 課題を見つめなおす必要があります。 おります。 まず、契約から 9 カ月経った現時点で、まだ前渡 一方で、ミャンマーは、2011 年以降積極的に進 金を受け取っていないという問題です。本来は無償 めてきた政治、経済改革により、 「アジア最後のフ 案件の場合、国際協力機構(JICA)による契約認証を ロンティア」と呼ばれております。現場周辺の長閑 受け、速やかに前渡金請求へと進みますが、3 月 17 な田園風景に惑わされがちですが、カントリーリス 日に JICA 契約認証が下りたにもかかわらず、クラ クも少なからず残っていることを忘れてはならない イアントによる AP 発行が遅れているため、われわ と感じます。人口の約 70%をビルマ族が占めると れが請求できない状況が続いています。この問題の はいえ、ミャンマーは紛れることなき多民族国家で 根本は、ミャンマーでは海外からの援助資金も国家 す。また、歴史をひもとけば一筋縄ではいかないイ 予算に計上することにあります。それによって、援 ンドシナの大国。2015 年に予定されている総選挙 助工事の支払いに対しても、国家予算執行手続きと を経て、安定した改革、成長を持続できるか、ここ 同様厳格に管理されます。ミャンマーの会計年度は しばらく目が離せない状況です。 日本と同様のため、3 月 15 日までに執行されなかっ 前述のような諸々の課題もありますが、発展と共 た予算はすべて国庫に返納されます。ちょうど本案 に生まれる歪みをうまく調整しながら順調に成長し 件の前渡金請求時期が年度を跨いだため、一度国庫 ていくことができれば、この国の市場としての潜在 に返納され、本年度の補正予算での処理を待ってい 能力は疑うところはないでしょう。生産、販売だけ る状態です。今後ミャンマー国内での援助工事に対 でなく、人材の市場としても魅力的だと感じます。 する支払いをスムーズに進めるルールとスキームづ 少々ステレオタイプな物言いになってしまいます くりが、急務だと感じております。 が、ミャンマー国民は真面目で勤勉、そして温厚で、 次に、免税手続きの複雑さが挙げられます。本案 現在ともに働いているローカルスタッフからも個人 件は無償案件のため、輸入品に関して輸入税が免税 差はあれ、目的意識や上昇志向を強く感じます。目 2014 10–11 81 の前の業務は当然精一杯進める必要がありますが、 もう少し先を見た、スタッフの育成という部分に比 重を置くことを心掛けています。 5. 結びに 現在多くの日本人の方々が、いろいろなかたちで ミャンマーでの事業に携わっていますが、その中で 私は建設工事の現場所長としてミャンマーに関わり を持ちました。地元の協力業者の会長と打合せや食 事をすると、度々現場で共に働くその会社のスタッ フを教育してほしいと言われます。私もまだまだ 日々勉強の身ですが、 日本式の施工方法や品質管理、 工程管理、安全管理の技術的なものから、仕事に向 き合う姿勢、時間や約束ごとに対する責任などの精 神的なものまで、何かひとつでも伝え残していけれ ばと思いつつ、それが当社のミャンマーでの礎とな ヤンゴンからマンダレーまで続く高速道路 82 特集 ミャンマー市場への取り組み ればと、日々現場で汗を流しております。 海外生活便り タイの政変や洪水を経験して 樫村 光高 高砂熱学工業 (株)エンジニアリング事業本部 国際事業部 1. はじめに 私は 2010 年 3 月からタイに駐在し始め、間もなく 5 すため、自分の席に戻ることもできません(私は 3 人の子 どもを追いかけました) 。 年が経とうとしています。タイ駐在前にも 5 年近く近隣 国に駐在していた経験があったため、タイの文化や生活 には特に問題なく入っていくことができたように思いま す。とはいえ、地方に行くと、トイレットペーパーがな く、水桶にひしゃくがあるだけのトイレがよくあり、も う驚きはしなくなったものの、まだ用を足すのに抵抗が ありますが。タイではこうした小さなサプライズをはじ め、いろいろな経験をしてきました。いくつか歴史的な 出来事も起こりましたが、それを間近で見たり、当事者 として実際に対応したことは自身にとって非常に貴重な 経験になりました。本稿ではそのうちのいくつかについ て、私が体験したこと、感じたことなどをご紹介したい バンコク日本人学校運動会 と思います。 3. 反政府デモと弾圧(2010∼2011年) 2. タイについて いわゆる、赤シャツ(反政府側=タクシン元首相派)の政 タイ王国は立憲君主制です。現在の国王はプミポン国 府に対する大規模なデモ活動です。日本人が多く住む地 王で、国民から非常に敬愛されており、至る所に写真 区の大通りにも、地方から来たと思われる赤シャツの人 や肖像画が飾られています。面積は日本の約 1.4 倍、人 びとを乗せたトラックが頻繁に通り、中には大通りから 口は約 6,600 万人。国民の 94% が仏教徒で、休日は寺 入った私のアパートの前まで行進してくる人びともいま 巡りをして過ごすという敬虔な人もいます。在留邦人は した。参加者の中には子どもがいたりして、面々は深刻 日本大使館に在留届が出されている人だけでおよそ 5 万 な顔をしているどころか、むしろ笑顔の人ばかりで、事 6,000 人、届け出していない人や短期間滞在者も含める と、この倍に達すると言われています。タイ国内には日 本人学校が 2 校あり、バンコクにある日本人学校は小学 部と中学部を合わせるとおよそ 2,600 人に達します。今 年からは別々となってしまいましたが、去年までは小・ 中学部合同で運動会を行っていました。生徒、保護者、 教員、関係者すべてを含めると 8,000 人くらいが集い行 う運動会は、海外でも日本人の多いタイならではと思い ます。これほどの人数のため大変壮観なのですが、自分 の子どもが見つけられないことが多くあります。特に兄 弟・姉妹がいる場合、お父さんはプログラムで順番を確 認して走り、子どもを探し出し、撮影することを繰り返 赤シャツのデモ隊 2014 10–11 83 情を知らなければ何かのお祭りのようでした。沿道の人 があります。自分の家などが被災している人でさえも、 たちも手を振って応え、差し入れをしている人もおり、 何となく余裕があるようにさえ見える。洪水でもう沈ん 私が想像していたデモの緊迫感はありません。しかし一 でしまったのだから、今さら慌てても仕方がないじゃな 方で、各所で赤シャツと治安維持部隊の衝突が起こり、 いか、何とかなるよ、という感じなのか? 寛容な心を 日系店のあるデパートの放火など、デモの参加者の一部 持てるのは素晴らしいと思う一方、部下のタイ人に仕事 は暴徒と化しています。 「微笑みの国」と言われ、普段 を指示したがその通りにやらず、挙句の果てに「マイペ は温厚なタイの人びとですが、それだけでない一面もあ ンライ」と言われてイラッとくることもあります。 るということを駐在開始直後に感じさせられました。 4. 大洪水(2011∼2012年) 100 年に一度と言われる大洪水が、タイの広い範囲を 襲いました。タイの北方で降った大雨が時間をかけて南 下し、私が担当していた工業団地まで迫ってきました。 タイでは膝下くらいの洪水は珍しくないため、今回の洪 水も例年より少し多いくらいという感覚であったと思い ます。被災前日まで土嚢を積んだりしていましたが、次 の日には 2m 以上の水位となっていました。工業団地の 周りの街も腰くらいまで達しましたが、工場関係者から の需要を見込んで急遽ボート屋になったり、水に浸かり タイの大洪水 ながらも屋台を営む商魂たくましい人びとが、さっそく 現れていました。洪水の水は場所により、1∼ 2 カ月後 に引きました。水が引いた後、初めて工場に入った時、 5. 軍事クーデター(2013∼2014年) いわゆる、黄シャツ(反政府派)による反政府デモがエ 今まで見たことのない光景が広がっていました。物が散 スカレートし、今年に入ってからは私の家のすぐ近くの 乱し、泥と油にまみれ、異臭が漂う中、どこからどう手 大通りがデモ隊の座り込みにより封鎖されました。デモ をつけてよいか分からない状況に、頭の中が真っ白にな 隊は始めこそ大人数を動員していましたが、日にちが経 りました。しかし、人も物も不足していた上に短工期、 過するにつれて、規模は数分の 1 にまで減っていきまし さらにはハエと蚊が大量に発生した劣悪な環境の中、昼 た。占拠された場所には屋台や土産物屋が並び、デモの 夜を問わずの復旧作業で、顧客の、ひいてはタイの再生 集会というより観光スポットのようになっていました。 に尽くすことができたと思います。 しかし、反政府運動と政府の対応は政治的な混乱をます ところで 1 日でも早い復旧・生産再開のために、日本 ます深めていき、ついに陸軍による戒厳令の発令、プラ 人が切迫感をほとばしらせて取り組んでいた一方、タイ ユット総司令官によるクーデター宣言へと繋がりまし の人びとの中にはそこまでのものを、個人的に感じませ た。 日系社会などは対応にてんやわんやしていましたが、 んでした。タイ人の国民気質を表す言葉として「マイペ やはりタイの一般の人びとは普段と変わらないように見 ンライ」という言葉がよく引き合いに出されます。この えました。私たち日本人より、歴史的に戒厳令やクーデ 言葉には「気にするな」とか「何とかなる」という意味 ターというものに慣れているからなのかもしれません。 84 海外生活便り 会社のスタッフなどに「赤」側か「黄」側かと聞くと、 6. 終わりに 自分は「白」でどちらでもない、という返事をよく聞き タイに住み始めて以来、いつも親日的な国であると感 ます。クーデターが起こった時に、クーデターのことで じさせられます。数百年も前から諸先輩方がタイにもた 話題が持ちきりという風でもありません。クーデターで らした功績や振る舞いが今をつくっているものと思いま 少しぐらい何かが変わっても「マイペンライ」でいつも すが、常にそれを受け入れてきたタイの人びとを忘れて のような暮らしを続ける。これが多くのタイの人びとに はなりません。働く場所を与えてもらっていることに感 受け継がれている生き方ではないかと思います。 謝し、両国のよい関係を継続できるよう、これからも仕 事を通して貢献していきたいと思います。 クーデター時の様子 2014 10–11 85 海外生活便り ホーチミン生活便り 角田 隆洋 (株) ピーエス三菱 ホーチミン事務所所長 1. はじめに 2014 年 4 月末にベトナム、ホーチミン事務所に赴任 から車で 1 時間程度のロンアン省に工場を有しています。 PC 波形矢板という仮設材・本設材を兼ねるプレキャ し、執筆時点で半年がすぎようとしています。執筆にあ ストコンクリート製の土留め部材を製造していますが、 たって、過去の「海外生活便り」を見直してみますと、 これは 1999 年に、フーミー火力発電所の導水路工事に ここ数年は、2009 年から 2012 年まで毎年、ベトナムに 使用されたのがベトナムでの初めての事例です。それ以 関する寄稿がされてきたようで、多くの会員企業がベト 降、特にベトナム南部の護岸工事を中心に多くの工事に ナムに拠点を有していることの表れなのだろうと思いま 採用されており、今では当社工場だけでなく、ほかの現 す。過去の寄稿にベトナムの概要はだいぶ記載されてい 地のプレキャスト企業の多くも製造するような現地では るようなので、ここでは割愛したいと思います。 標準的な製品になっています。 私が最初にベトナムに足を踏み入れたのは、1999 年 に個人旅行で訪れた時で、南部のホーチミン、ブンタオ、 ミトーといった所を訪ねて回りましたが、当時、同時に 訪問したカンボジアのアンコールワットと比較して、観 光地としては派手さがなく、物売りに長時間しつこく付 きまとわれた経験もあって、あまりぱっとしない印象を 抱えて帰ってきたのを覚えています。 それから15 年後、ホーチミンに赴任することとなりました が、 その時の印象に反してとても快適な生活を送っています。 ベトナム料理は総じておいしく健康的です。ガイド PC波形矢板施工中 ブックに載っているようなレストランももちろんおいし いですが、一般庶民向けの食堂のような所でも予想外に とてもおいしく食べられることがあります。後で紹介す る当社合弁会社の工場では近所のお母さんが職員に昼食 を料理してくれるのですが、いつもおいしいおいしいと 食べるので、私はすっかりお母さんのお気に入りになり ました。 日本料理を含めた外国料理にも不自由しません。 外国人の居住に適した住環境を備えた地区も存在し、家 族ともども、快適な生活を送っています。 PC波形矢板施工後 3. ベトナム語 2. 当社の合弁プレキャスト会社について 赴任にあたって、ある程度の年数の滞在となる旨を告 事 務 所 と は 別 に、 当 社 は VINA-PSMC Precast げられたこと、合弁工場は、私以外はすべてベトナム人 Concrete Company Ltd. というベトナム現地企業との合 であり、ベトナム語しか話さないスタッフもいることか 弁会社を 2004 年に設立しており、今年で 10 周年を迎え ら、せっかく長期間の滞在になることもあり、末端のス ました。プレキャスト製品の製造・販売を業務内容とし タッフとも多少なりとも会話ができるようになればと思 ており、ホーチミン市の西側に隣接し、ホーチミン市内 い、ベトナム語の勉強を始めました。 86 海外生活便り 英語を勉強した時の経験から、私は、外国語は発音の 赴任前の出張時も含めて既に数回、倒れて動かなくなっ 習得から入るべきという持論を持っており、ベトナム語 たり、血だらけでフラフラ歩いている人を見かけたことが も発音の勉強から始めたものの、その発音のあまりの難 あります。統計的にも事故はやはりだいぶ多いようです。 しさに閉口している状況です。 歩行者より車両優先というのは理解しても、赤信号で ベトナム語の特徴としてよく言われるのが、中国語に も平気で直進してくるバイクも多く、最低限の交通ルー もあるような声調(発音の上げ下げ)が 6 種類もあるという ルは守ってほしいと常々思っていたのですが、最近、バ ことです。この発音の上げ下げをある程度正しく発音し イクは赤信号でも直進と右折は可能と知りました。 また、 ないとベトナム人は理解してくれません。 日本では車線を走行している車両が他の車線を走る車よ ひとつの単語だけなら何とか言えても、文書の中でこの り優先しますが、ベトナムでは、前を走っている車両が 声調が連続すると目が回るようでとても上げ下げを続けら 優先とのこと。道理で日本ではあり得ない後ろの車を無 れません。言葉につられて、つい頭も上下してしまい、 「頭 視したような車線変更が多いはずです。 は上下させなくてよい」と指摘されてしまいます。 声調も難しいのですが、子音の発音もかなり難しいの 自己防衛する上でも、ベトナムの交通ルールもしっか り理解しておく必要があると感じた次第です。 です。たとえば、 「t」 「p」 「c」 「ch」といった子音で終わ る単語は、 英語のように破裂音を発音してはいけません。 5. 最後に 発音はしないので、声には出さないのですが、しかし、 ベトナム経済は、 金融危機後の最悪期を脱してからも、 その口の形をきちんとして終わらないといけないのです。 銀行の不良債権処理の遅れや貸し渋り、 内需停滞などで、 「cát」 「cáp」 「các」 「cách」などは最後の口の形は違う なかなか上昇気流に乗れない印象があります。 ものの、子音の発音はなされないため、私などにはどう 実態経済が上がらない中で、建設業も全体としては停 聞いてもほとんど区別が付かないのですが、ベトナム人 滞している一方、ホーチミン郊外では盛んに高層マン には区別が付いているようなのです。 ションの建設が行われており、こんなにつくって入居す よく「ベトナム人は意地悪だから日本人の話すベトナ る人がいるのだろうか、と心配してしまうほどです。 ム語を理解しようとしない」と言う方もいらっしゃいま そのほか、中国との関係などいろいろ不安要素はあります すが、わずかな発音の違いでさまざまな意味に変化して が、私もせっかく赴任の機会をいただき、事業を継続的に展 しまうし、外国人の話すベトナム語に慣れていないこと 開できるように何とか頑張っていきたいと思う次第です。 もあり、 おそらく本当に理解できないのだろうと思います。 最初は 1 年くらいで頑張って少しは会話できるように と目標を持っていましたが、もうちょっとゆっくり頑 張っていこうと軌道修正したこの頃です。 4. ベトナムの交通事情 ベトナムに初めて足を踏み入れた方がまず驚くのは、バ イクの多さと、バイクをよけながら道路を横断しなければ ならないあの経験でしょう。よくもあんなに入り乱れて事 故にならないよね、と言う方もいらっしゃいますが、私は 建設が進むホーチミン市郊外 2014 10–11 87 支部通信 建国100周年に向けた トルコの変化 森脇 義則 (株) 安藤・間トルコ建築作業所 所長 大統領選で勝利 1.「カリスマ」エルドアン首相、 今年(2014 年)8 月 14 日、トルコ共和国史上初の国 民投票による大統領選挙が実施され、与党公正発展党 程は決して楽なものではなかった。 (AKP)党首のエルドアン首相が、最大野党の共和人民党 昨年夏イスタンブールの公園再開発への抗議に端を発 (CHP)と民族主義者行動党(MHP)の統一候補イフサン した大規模な反政府運動は、わが国では 2020 年の夏季 オール・イスラム協力機構・前事務局長、クルド系政党 オリンピック誘致で東京都と争うイスタンブールへの関 の候補者のデミルタシュ氏を抑えて当選した。 心が高かったため、記憶にいまだに新しい。公園で政府 高等選挙委員会の公表した結果によると、エルドアン に抗議するデモ隊が当局により強制排除される映像が連 首相が 51.79% の得票率で過半数を獲得、イフサンオー 日のように国内外のメディアに大きく取り上げられ、エ ル氏が 38.44%、デミルタシュ氏が 9.76% を獲得し、 ルドアン首相の強権体質がクローズアップされた。また 全体の投票率は 74.12% であった。また、本選挙にお 国内では、エルドアン首相が仮に大統領に就任した折に いて、初めて在外投票も 4 日間にわたり実施され、そ は、強権を持ってさらにイスラム色の強い国づくりを目 の結果集計された約 23 万 2,000 票余りがトルコ航空の 指すのではないかとの議論が一部メディアで報道され リース便や、クーリエでトルコ国内に運ばれ、国内の票 た。 また昨年末に発覚した建設事業に絡む贈収賄事件で、 集計と合算された。 複数の閣僚が辞任したことで、統一地方選での投票の行 この選挙において過半数の得票率 51% 以上を獲得し たエルドアン首相は、2 週間後の第 2 回目の決選投票を 待つことなく、大統領選に勝利したことになる。 方がさらに不透明なものとなっていった。 しかし、これら逆風の中で、事実上エルドアン首相に 対する信任投票となった 3 月の統一地方選挙に AKP は全 この選挙の投票率は約 74% で、先の 3 月の統一地方 選挙区で約 45% を得票して勝利した。今回の大統領選 選挙の投票率 89% を大きく下回ったが、この結果につ 挙ではエルドアン首相が候補となって、世俗派や野党勢 き国内メディアからは、夏のこの時期、一般的にバカン 力から長期政権が続くことによる弊害が指摘され批判さ スに出かける人が多く、バカンスを切り上げてでも居住 れていたものの「カリスマ」エルドアン首相は、大統領 地に戻って投票することをためらったからではないかと 選においてもいわば「予想通りの勝利(AKP 筋)」をもぎ の論評も見受けられた。 取った。 今回の選挙では、3 月の統一地方選挙と同様、AKP の 88 さを示している。何ともうらやましい限りである。勝利 を収めたエルドアン首相であるが、大統領選勝利への道 大統領の任期は 5 年で 2 期目の再選も可能で、仮に再 支持層でイスラム色が強く比較的低所得者の多い中東部 選されればエルドアン大統領は 2024 年までトルコに君 の選挙区の多くでエルドアン首相が勝利しており、CHP 臨することになる。なお、エルドアン大統領は、大統領 らの野党支持者からは、秋以降に選挙が行われ、多くの 就任前から強固な大統領の権利基盤を整備したい意向を 有権者が投票していれば、CHP と MHP の統一候補イフ 示していたが、今後、与党 AKP は 2015 年 6 月の次期総 サンオールが、第 1 回目の得票率を伸ばし、第 2 回目の 選挙で議席を上積みして憲法改正に必要な議席数を獲得 決選投票に持ち込めたはず、との嘆きぶしが周囲のイフ し、強大な権限を有する大統領制を盛り込んだ憲法改正 サンオール支持者からよく聞かれた。 を目指す。 いずれにしても、この低かったという投票率、わが国 今後トルコは、エルドアン大統領の権限が憲法改正に の地方選挙の一般的な投票率(40% 程度)に比べれば格 より強大になり、首相に代わり政治を主導することにな 段に高い数字で、トルコ国民の政治に対する関心度の高 るのか、またさらなるイスラム化に向かっていくのか、 支部通信 緊迫する近隣諸国の情勢と絡めて注視していきたい。 スタンブールを結ぶ高速鉄道は、2003 年に第 1 期工事 がスペインとトルコの企業により着工され、2009 年に 2. 建国100周年に向けた交通インフラ網の整備 トルコ、とりわけ大都市イスタンブールを結ぶ交通 アンカラからエスキシェヒールまでの一部区間 246km が開業した。 インフラ網は、高度経済成長期の最中、2023 年の建国 100 周年に向けて、着実に整備されつつある。 イスタンブールを走る市営バスは、90 年代後半ま で質がよいとは言えないハンガリー製が多く見られた が、今やドイツメーカー製が多くを占めている。地下 鉄も、1989 年に最初の路線が開通して以来、現在まで 4 路線が開通。2 路線が建設中で、2 路線が計画中であ る。現在のところ総延長は 82km で、2015 年までには 100km を超える地下鉄網になる模様だ。運賃支払いも 全線 IC カードに切り替わり、市営、民営バスとも共通 して使用できるようになり、利便性も向上している。 また 2013 年 10 月には、イスタンブールのアジア側 トルコ高速鉄道 とヨーロッパ側を結ぶ海底トンネル(1,387m)が日本の 技術と資金援助で完成し、安倍首相が式典に参列して、 ギュル大統領、エルドアン首相(いずれも当時)と開通を 祝った。この海底トンネルは、150 年前のオスマン帝 国時代に計画されたものの長い間技術的、資金的課題で その開通はトルコ国民の長年の夢となっていた。 また海底トンネルに続く国家プロジェクトが現在日本 企業 IHI によって進められている。イスタンブールとト ルコ第 3 の都市イズミットを結ぶ高速道路プロジェクト 「イズミット湾横断橋」で、全長は約 3,000m。2016 年 1 月に予定通り完成すれば世界第 4 位の長大吊橋にな る。開通後は、現在フェリー利用を含めて 1 時間程度か かるイズミット湾の横断が、6 分程度に短縮されること になり、近郊に多くの工業地帯を有するイズミットの物 流の効率化にも寄与することが期待されている。 同社は、 同時に第 1・第 2 ボスポラス橋補修工事も行っている。 さて、日本の新幹線は今年開業 50 周年を迎えたが、 トルコでの高速鉄道の歴史は浅いと言ってよい。日本の 東京から大阪間に相当する、首都アンカラから大都市イ ビジネスクラス車内 2014 10–11 89 また、第 2 期工事であるエスキシェヒールからイスタ 余談だが、私がテレビのニュースで見た限りでは、停 ンブールのアジア側の郊外にあるペンディックまでの 止した列車にトルコ政府関係者と乗車していた中国の関 158km は、中国企業が 12 億 700 万ドルで請け負い今 係者の顔色が蒼白だったように見えた。 年(2014 年)7 月 25 日に開通した。ペンディックからイ スタンブール中心部までの路線は現在建設中。車両はス 募で名称を募り、その中から選出された。その名称はト ペイン製で、最高時速 250km で運行し、アンカラ∼イ ルコ語で「Yüksek hızlı tren(略称 YHT)」 、 日本語訳では、 スタンブール・ペンディック間の所要時間は従来の 6 時 まさに「高速列車(鉄道)」と訳すことができる。 間余から 3.5 時間に短縮された。 採用されなかった名称の中には、 「Türk Yıldızı(ターキッ 開通式では、建設を担当した中国側から在トルコ中国 シュ・スター) 」 、 「Çelik Kanat(スティール・ウィング)」な 大使も参加し、エルドアン首相(当時)と共に高速列車 どの愛称的な候補もあったが、トルコ高度成長の証と威 に乗車し、 アンカラから式典が催されるイスタンブール・ 信とを示すものとして、無難な名称に落ち着いた模様だ。 ペンディックに向けて出発するというパフォーマンスが 高速鉄道の駅の改札では、チケットの確認とエックス 見られた。しかしイスタンブールに向け順調に運行して 線による荷物検査があり、さながら航空機に搭乗するか いた列車に技術的な問題が発生して 30 分余り停車して のような手続きを踏む。高速列車の車内、エコノミーは しまい、式典に遅れるハプニングがあったが、エルドア 特記することはあまりないにしても、ビジネスクラスで ン首相は式典ではそのことには触れず、今後の高速鉄道 は、ゆったりとした座席の背後に大型液晶パネルが組み の重要性を強調し、トルコ全土へのさらなる路線延長を 込まれて、テレビや映画の視聴ができるようになってい 国民に約束した。 る。また有料で食事サービスも提供される。乗車時とい 拡張されるトルコ高速鉄道網 90 さて、トルコの高速鉄道の名称だが、トルコ国鉄が公 支部通信 い、車内空間といい、航空機のビジネスクラスに乗り込 トルコの交通網整備は、2023 年の建国 100 周年に向 むような感じを思わせる。この高速鉄道は現在のところ けて加速しており、都市内の地下鉄の整備は深刻な交通 毎日上下線各 6 本運行されている。料金は大人片道エコ 渋滞の緩和に寄与することが期待されている。また高速 ノミークラスで 70 リラ(約 3,500 円)、ビジネスクラス 鉄道においては、都市間の移動を短縮する有力な手段と は 130 リラ(約 6,500 円)。 この高速鉄道では、前述の通りスペイン製の車両が使 用されているが、試験用としてイタリア製車両もリース なることから、ビジネス客の需要も見込まれ、経済的効 果も期待されている。今後は 1 日当たりの列車運行本数 の増便が望まれる。 投入された。2013 年にはドイツ製車両がトルコ国鉄に 2023 年の建国 100 周年までに EU(欧州連合)加盟と 納車されている。今後、追加発注でフランスや日本、韓 世界経済 TOP10 入りを目指すトルコには、象徴的な意 国、中国からの導入の可能性もあるという。また、今後 味からしても、これら交通網、とりわけ高速鉄道網の整 韓国企業とトルコ企業の合弁会社による車両のライセン 備は今後も国の重要課題となると共に、トルコ国民も大 ス生産がトルコ国内で開始される。 きな期待を寄せている。 高速鉄道網(地図参照)は、アンカラ∼イスタンブール・ ペンディック間(404km)と共に、アンカラ∼コンヤ間 高速鉄道では、圧倒的な信頼と安全を誇る日本。その (212km) 、エスキシェヒール∼コンヤ間(355km)が開通 経験と技術が親日の国トルコに活かされる日が、近い将 している。また、建設中、計画中の路線もあり、今後ト 来訪れてほしいと願っている。 ルコ全土に整備されることが期待されている。 2014 10–11 91 支部通信 「省エネルギー」 と 「再生可能エネルギー」 建築における ドイツの挑戦 小椎尾 龍介 (株) 竹中工務店 ヨーロッパ竹中/TAKENAKA EUROPE 設計部長 1. はじめに ちょうどこの原稿を書き始めた日曜日に今年の夏時 間(サマータイム)* 1 が終わり、1 時間ゆっくりとした 朝を迎えました。EU(欧州連合)では 2001 年の EU 指令 2007 年、2009 年の改正を経て、現在 EnEV2014 が施 行されています。 日本では現時点で省エネ法* 6 に基づく省エネ措置に ついての届け出義務はあるものの、一定の省エネ基準へ 2000/84/EC で、加盟国が共通の日に夏時間を開始・ の適合義務はなく、事業者に委ねられているところがあ 終了するよう規定しています(3 月の最終日曜日と 10 月 ります。2020 年までに段階的に適合の義務化を図るこ の最終日曜日で、アメリカなどと異なる) 。欧州委員会では とになっていますが、それぞれの事業者がどこまでの省 2007 年にこの指令の影響についてのレポートを発行し ており* 2、それによると、夏時間は夜間の照明に使用 する電力が減るため、省エネルギーに貢献する。しかし エネ建物にするかを予算を睨みながら判断するという現 状になっています。* 7 一方でドイツにおいては、省エネルギー令(EnEV)に 朝の間の暖房* 3 に使う燃料や明るい夜間に移動する交 よって、冬場の断熱性能のみならず、夏場の遮熱・暖房 通手段のための燃料が増えることで、いずれにせよその 機器性能などについても改正の度に規定が加わってい 効果は比較的小さいとしつつも、夏時間が地球環境に与 き、エネルギー性能証明書の厳格化と建築許可における えるインパクトについて、とりわけオゾン層の増加か減 省エネレポートの義務化と共に、建物がきわめて高い省 少を導くかどうかについては、有効な結論を導くのは不 エネ性能を持つことが義務付けられています。 可能であるとしています。 夏時間が最初に採用されたのは 1916 年 4 月のドイツ でした(同年 5 月からイギリスでも実施)。第一次大戦中の 石炭の不足と空襲を避けるための停電の影響によるもの 3. 再生可能エネルギー法 (EEG * 8)制定以 2000 年の「再生可能エネルギー法」 来その普及を進めてきたドイツは、2009 年からは「再 であったようです。日本では戦後の占領期である 1948 (EEWärmeG * 9)により、新築 生可能エネルギー熱法」 年から 4 年間のみ実施されましたが、単に GHQ が自国 建物のオーナーに対して、冷暖房などに要するエネル と同じ制度を導入しようとしただけで、特に省エネル ギーの一定割合を再生可能エネルギーでまかなうことを ギーという観点からではなかったようです。 求めました。これにより新築建物においては、一定以上 の再生可能エネルギーを用いた暖房・冷房・給湯設備を 2. ドイツの省エネルギー法 70 年代初頭のオイルショックの後、ドイツでは省エ るエネルギー性能を持つべく建物および設備の計画を行 ネルギー法(EnEG * 4)が 1976 年に制定されました。 うなどの代替措置を取ることが必要になっています。ま この法律に基づき 1977 年には建築物の断熱基準などを た法律に適合するために、エネルギー消費量などの厳密 規定する最初の「断熱令」が制定されました。 な計算とシミュレーションを行い、プロジェクトに最適 それ以前には省エネや断熱についての法令はなく、 1952 年から運用開始された DIN(ドイツ工業規格)4108 (最少断熱基準)によって指針が示されており、建築の設 計にあたって建築家はこれに従っていました。その後 断熱令は二度改正され、2002 年に至って省エネルギー 令(EnEV * 5)に置き換えられました。その後 2004 年、 92 導入するか、省エネルギー令の基準値を 15%以上下回 支部通信 な計画を進めていく必要があります(日本でも昨年〈2013 年〉施行された改正省エネルギー法により、一次エネルギー 消費量の計算が求められるようになりましたが、まだ始まっ たばかりと言えます) 。 4. EUの目標とドイツの挑戦 し た。 過 去 に 1936 年 ベ ル リ ン 大 会、1972 年 ミ ュ 建物で使用するエネルギーを抑えるという目標は ンヘン大会を主催したドイツが再び選ばれるかどうか? 2010 年の EU 指令 2010/31/EU によって決定され加盟 2024 年はベルリンの壁崩壊 35 周年というストーリー 各国が順守義務を負っています。2020 年末までにすべ 性もありますが、むしろ東京大会の 4 年後となる大会の ての新築建築物は「ニアリー・ゼロ・エネルギー建築物」 会場としてどのようなメインスタジアムが建てられるの (nZEB)であること、また 2018 年末以降は公共機関に か(あるいは既存の施設をどう活用するのか)、サステナブ よって使用・所有されている建築物は nZEB であること ルな建築の未来に向けてのドイツの挑戦を今後も注視し を保証しなければならないとしています。 ていきたいと思います。 2013 年 1 月に行われたドイツ連邦交通・建設・都市 開発省(現在は連邦環境・自然保護・建築と原子炉安全省) 5. 終わりに と日本国・国土交通省との間の日独住宅・建築物環境対 往年のロカビリーシンガー、エディ・コクランの歌う 策会議において、ハンス・ディーター・ヘグナー連邦建 (1958 年)は夏の間中働いても 「サマータイムブルース」 設省課長の語る Efficiency-house plus(年間一次エネル 思うようにならない若者の憂鬱をぶつけたヒット曲です ギー需要量と年間最終エネルギー需要量がマイナスとなる実 が、1988 年に発表された RC サクセションのカバー曲 験住宅)の紹介がとても印象的でした。ドイツ各地に建 では、地震国である日本における原子力発電所の安全神 てられたプロトタイプでは実際に一般家族が居住しての 話に根本的な疑問を呈するものになっていました。電力 実験が続けられています。 の安定供給と建築で消費するエネルギーの最小化はこれ 2013 年の統計* 10 によるとドイツの発電量に占める からもずっとわれわれに突き付けられている気の重い課 再生可能なソースの割合は 24.1%、原子力の 15.4%と 題です。しかしそれを直視し、身近なところで可能な限 合わせると 4 割が CO2 発生のないクリーンエネルギー りの改善を続けていくことでしか、この憂鬱を晴らす道 ということになりますが、ご承知のように 2011 年 6 月 は見えてこないのだと思います。 に 2022 年までにすべての原子力発電所を閉鎖すること 日本の高度経済成長の象徴でもある新幹線開通や東京 を決めたドイツは、風力・バイオマス・太陽光などの自 オリンピックからちょうど 50 年の今年。その夏時間の 然エネルギーの拡大と省エネルギーによる脱原発社会の 終わりに改めて、持続可能な未来のための建築とエネル 実現に突き進んでおり、その政策のためのコストが負担 ギーについて考えてみました。 となって市民および産業界からの不満は高まっていま す。しかし欧州全体が目指す「低エネルギー社会」の実 現のためのドイツの挑戦は、 既存建物への適用も含めて、 いくらかの矛盾を抱えながらもまだしばらくは続いてい くだろうと思われます。 10 月 29 日 付 け の ド イ ツ の 新 聞 各 紙 に DOSB(ド イツオリンピックスポーツ連盟)がベルリンまたはハ ン ブ ル ク を 候 補 地 と し て 2024 年 の オ リ ン ピ ッ ク 開催地に立候補する意向であることが伝えられま *1 ヨ ー ロ ッ パ で は 主 と し て Summer time(英) 、 Sommerzeit(独)、Heure d'été(仏)のように言 われるが、 Daylight saving time(米)のように「日 光を節約する」という意味を伴う言い方もある。 因みにロシアでは今年の 7 月に成立した法律によ り、来年以降夏時間を採用しないことを決めた。 法案を作成した議員らは夏時間が多くのロシア国 民、特に北部に住むひとびとにストレスを与え健 康問題を起こしていると主張しているようである。 2014 10–11 93 *2 Communication from the commission to the *6 エネルギーの使用の合理化等に関する法律 council, the European Parliament and the *7 自治体により一定規模以上の建物に対し届出と指 導を行っている。 European Economic and Social Committee under Article 5 of Directive 2000/84/EC on *8 Erneuerbare-Energien-Gesetz summer-time arrangements *9 Erneuerbare-Energien-Wärmegesetz *3 朝晩が寒く暖房が必要な期間もあるため。 * 10 *4 Energieeinsparungsgesetz *5 Energieeinsparverordnung FRONT VIEW AG.Energiebilanzen e.V.「発電と熱源」 http://www.ag-energiebilanzen.de/4-1-Home.html SIDE VIEW Building prototype for Efficiency-house plus Standard in Berlin Architect and Engineer: Werner Sobek, Stuttgart Copyright: Ulrich Schwarz, Berlin FRONT VIEW TERRACE Active house B10 in Stuttgart Architect and Engineer: Werner Sobek, Stuttgart Copyright: Zooey Braun, Stuttgart 94 支部通信 海外受注実績 (単位:百万円) 2. 地域別海外工事受注実績 1. 月別の海外工事受注実績 2014年度 月 件数 本邦法人 4 現地法人 18 受注額 9,961 2013年度 件数 伸び率(%) *受注額に 受注額 よる 25 10,037 -0.8% 155 109,447 152 67,556 62.0% 173 119,408 177 77,593 53.9% 本邦法人 50 73,388 33 17,953 308.8% 5 現地法人 108 52,932 103 102,405 -48.3% 158 126,320 136 120,358 計 計 2014年度 地域別 アジア 件数 受注額 2013年度 構成比 (%) 件数 受注額 本邦法人 167 476,424 44.8% 現地法人 691 294,591 27.7% 858 771,015 71.4% 508,178 本邦法人 3 3,148 0.3% 13 現地法人 0 0 0.0% 1 計 中東 (単位:百万円) 189 249,824 伸び率(%) 構成比 *受注額に (%) よる 30.5% 90.7% 705 258,354 31.6% 14.0% 894 62.1% 51.7% 24,276 3.0% -87.0% 32,879 4.0% -100.0% 計 3 3,148 0.3% 14 57,155 7.0% -94.5% 本邦法人 60 31,486 66 60,620 -48.1% 本邦法人 5 4,357 0.4% 11 13,934 1.7% -68.7% 6 現地法人 123 84,743 133 59,975 41.3% アフリカ 現地法人 0.0% 0.0% 5.0% 0 0 0.0% 0 0 -3.6% 計 5 4,357 0.4% 11 13,934 1.7% -68.7% 83.4% 本邦法人 12 2,053 0.2% 6 2,405 0.3% -14.6% 現地法人 103 212,967 20.0% 76 185,210 22.6% 15.0% 計 115 215,020 20.2% 82 187,615 22.9% 14.6% 3.2% -30.2% 計 183 116,229 199 120,595 本邦法人 42 96,359 49 52,540 99 47,700 131 81,427 -41.4% 180 133,967 7.5% 7 現地法人 計 141 144,059 北米 本邦法人 36 161,874 40 28,628 465.4% 本邦法人 68 18,150 1.7% 66 25,987 8 現地法人 130 48,444 120 81,771 -40.8% 中南米 現地法人 27 13,197 1.2% 32 5,446 160 110,399 90.5% 計 95 31,347 3.5% 98 31,433 56 103,028 -76.0% 本邦法人 1 806 0.1% 1 13 0.0% 6100.0% 計 166 210,318 本邦法人 36 24,726 8 現地法人 129 62,752 108 50,050 25.4% 165 87,478 164 153,078 -42.9% 35 計 本邦法人 8 現地法人 計 累 本邦法人 計 現地法人 総合計 114,752 45 46,294 147.9% 149 145,734 106 56,319 158.8% 184 260,486 151 102,613 153.9% 277 512,546 314 319,100 60.6% 893 853 499,503 10.5% 1,170 1,064,298 1,167 818,603 30.0% 551,752 欧州 東欧 3.9% -0.3% 現地法人 37 9,865 0.9% 15 1,616 0.2% 510.5% 計 38 10,671 1.0% 16 1,629 0.2% 555.1% 本邦法人 1 132 0.0% 0 0 0.0% ー 現地法人 34 21,082 2.0% 22 15,118 1.8% 39.4% 計 35 21,214 2.0% 22 15,118 1.8% 40.3% 20 7,476 0.7% 28 2,661 1 50 0.0% 2 880 21 本邦法人 大洋州 現地法人 その他 計 累計 0.7% 142.3% 本邦法人 現地法人 総合計 0.3% 180.9% 0.1% -94.3% 7,526 0.7% 30 3,541 277 512,546 48.2% 314 319,100 39.0% 893 51.8% 853 499,503 61.0% 10.5% 1,170 1,064,298 100.0% 1,167 818,603 100.0% 30.0% 551,752 0.4% 112.5% 2014 8–9 60.6% 95 3. 本邦・現法主要工事〈10億円以上〉 (単位:百万円) 〈10月受注分〉 〈9月受注分〉 国 名 中国 件 名 P社工場建設工事 契約金額 会社名 国 名 (単位:百万円) 件 名 契約金額 会社名 1,206 フジタ 中国 E社工場1期新築(その2) 4,424 清水建設 タイ C社新店舗 1,842 大気社 中国 P社新工場 2,393 竹中工務店 マレーシア 工場新築(追加) 1,344 鹿島建設 台湾 工場新築 7,490 鹿島建設 1,104 佐藤工業 台湾 地下鉄桃園空港線CM01工区 3,780 大豊建設 カンボジア シハヌークビル港多目的ターミナ 3,595 ル整備計画 東洋建設 タイ A社新工場 2,256 大気社 タイ D社新工場 3,107 竹中工務店 マレーシア A社新店舗 6,758 竹中工務店 33,743 大林組 シンガポール Y社工場拡張工事 シンガポール C病院新築 シンガポール K社店舗追加 10,514 清水建設 1,995 清水建設 インド J社新工場新築(その3) 2,813 清水建設 タジキスタン ハトロン州ピアンジ県給水改善 計画 1,472 大日本土木 米国 集合住宅建設工事 米国 既存病院増築工事 4,120 鹿島建設 シンガポール チャンギ空港拡張準備工事 76,200 五洋建設 米国 道路建設工事 4,900 鹿島建設 シンガポール D社設備改修 1,234 清水建設 米国 倉庫建設計画 1,360 鹿島建設 シンガポール B社工場建設 6,158 清水建設 米国 F社新工場 1,769 竹中工務店 シンガポール C社プラント土建工事 2,709 清水建設 14,522 大林組 シンガポール 空港複合施設新築工事 メキシコ L社工場2期新築 1,115 清水建設 メキシコ B社工場建設工事 2,034 フジタ パシルパンジャンコンテナター シンガポール ミナル 第3期 建 設 工 事 追 加 9,970 (P30,34&35,27,28&29) チェコ 配達センター新築工事 7,340 鹿島建設 インドネシア P社新事務所 10,709 竹中工務店 チェコ S社工場増築 1,472 竹中工務店 インドネシア S社物流倉庫建設工事 1,357 三井住友建設 ソロモン ホニアラ港施設改善計画 1,008 北野建設 東ティモール ブルト灌漑施設改修計画 1,227 安藤・間 ソロモン ホニアラ港施設改善計画 1,512 東亜建設工業 アフガニスタン 国際空港改修 1,133 TSUCHIYA 96 東亜建設工業 米国 ホテル建設工事 3,321 大林組 米国 記念館改修工事 1,624 大林組 米国 ホテル改修工事 1,762 大林組 米国 オフィス及び駐車場改修工事 1,641 大林組 米国 病院研究棟内装工事 14,727 大林組 米国 住宅施設建設工事 4,697 大林組 米国 倉庫建設工事 1,970 鹿島建設 米国 コンドミニアム新築工事 17,320 鹿島建設 米国 S社工場増築 1,320 竹中工務店 メキシコ W社工場新築 1,793 清水建設 ドイツ S社新工場 2,568 竹中工務店 ドイツ D社研究棟 1,074 竹中工務店 サモア サモア独立国都市水道改善計画 1,640 鴻池組 主要会議・行事 とき ところ 9月4日(木) ソウル 10日(水) OCAJI 11日(木) OCAJI 16日(火)∼18日(木) OCAJI他 ・19日(金) OCAJI他 18日(木) 18日(木) JICA本部 24日(水)∼26日(金) OCAJI他 25日(木) OCAJI 26日(金) OCAJI 10月2日(木) ソウル 9日(木) 東京建設会館 ・10(金) OCAJI 9日(木) 17日(金) OCAJI 主要会議・行事 日韓建設協力協議会 事務総長会議 建設経済研究所との意見交換会 第6回月例セミナー「トルコ150年の夢 アジアとヨーロッパを結ぶ海峡横断鉄道の建設」 ポーランド視察団表敬 海外要員養成講座ープロマネ編 第1回アフリカ研究会 シンガポール建設業協会(SCAL)環境委員会受入 第8&9回海建塾(会計編&一般編) 第6回契約管理研究会 日韓建設協力協議会 総会 第3回理事会 コミュニケーション講座 クレーム能力強化編 第6回国際建設リーガルセミナー(ハーバートスミスフリーヒルズ) 21日(火) OCAJI 海外赴任帯同家族セミナー 22日(水) OCAJI 第4回総務委員会運営部会 23日(木) OCAJI 第7回国際建設リーガルセミナー(リードスミス) OCAJI 第7回月例セミナー「2011年クライストチャーチ大地震と都市強靭化計画」 29日(水) OCAJI 第7回契約管理研究会 31日(金) 東京建設会館 JICA集団研修技術交流会 編集後記 わが国建設業の海外受注が増加基調を示す状況の下、今後、さらに 海外展開を促進させるためには、アジア最後のフロンティアであるミャ ンマー市場への取り組みが重要視されている。 ミャンマー進出の日系企業状況は、現在ヤンゴン日本人商工会議所の 会員ベースでは 3 年前の 3 倍の180 社、当協会会員企業では 18 社を数 え、さらに増加することが予想されている。既にティラワプロジェクトを はじめ、ODA 案件や民間工事もスタートし、今後さらにミャンマー市場 での一層の拡大が期待される。 当協会ではミャンマーでの活動を支援するため、ミャンマーにおける 公共及び民間事業に係わる法制度調査をはじめ、各種の研究について とりまとめた「ミャンマー進出の手引き」の頒布を行っている。今回の特 集が、ミャンマーで活動している企業および今後ミャンマー進出を計画 する企業にとって参考になれば幸いである。 (OCAJI 編集室 I) 2014 8–9 97 ©一般社団法人 海外建設協会 Printed in Japan 一般社団法人 海外建設協会 〒 104-0032 東京都中央区八丁堀 2-24-2 八丁堀第一生命ビル 7F Tel. 03-3553-1631(代表) Fax. 03-3551-0148 E-mail:info@ocaji.or.jp HP:http://www.ocaji.or.jp
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