数理計画法によるエネルギー安全保障評価手法の開発と 燃料備蓄の

Journal of Japan Society of Energy and Resources, Vol. 34, No. 5
数理計画法によるエネルギー安全保障評価手法の開発と
燃料備蓄の最適運用戦略に関する分析
Development of Energy Security Evaluation Method using Mathematical
Programming and Analysis of Optimal Strategy for Fuel Stockpile Operation
川 上 恭 章 *・ 小 宮 山 涼 一
Yasuaki Kawakami
Ryoichi Komiyama
**
・ 藤 井 康 正
***
Yasumasa Fujii
(原稿受付日 2013 年 5 月 28 日,受理日 2013 年 8 月 12 日)
This paper presents a development measure of energy security evaluation method using mathematical programming and
analysis of economic rationality of fuel stockpiles. Faced with the increase of fossil fuels imports due to replacement of
nuclear power generation by thermal plants, with the emergence of geopolitical risk in resource rich countries and with the
estimation of energy demand growing in developing countries, Japan again found itself as the country whose energy security
condition is serious. In these circumstances, development of quantitative energy security measurement method which can
deal with relative uncertainties such as fuel price volatility or fuels import disruption as well as the blackout of nuclear power
plants. In this paper, the authors firstly specify the mathematical method in which cost minimization bottom-up model using
stochastic dynamic programming is constructed. Then the authors show an example of analysis on the economic validity of
fuel stockpiles including liquefied natural gas (LNG) stockpiles based on brief assumptions.
Keywords : Energy security, Stochastic dynamic programming, Fuel stockpiles, Stochastic differential equation
1.まえがき
2.モデルの構造
わが国のエネルギー安全保障を取り巻く状況が深刻化し
本稿で作成したモデルは,数理計画法の一種である確率
ている.第一に,東日本大震災に端を発する原子力発電所
動的計画法を利用したコスト最小化型モデルである.目的
(以下,原発)の稼働率低下が,電力供給不足と代替火力
関数は日本のエネルギーシステムコストであり,発電費用,
発電稼働に伴う燃料費増加,電気料金高騰をもたらした.
石油精製費用,燃料備蓄費用,非発電部門需要向け燃料費
第二に,中東地域における地政学的リスク顕在化が燃料の
用の総和として定義した.この確率動的計画モデルでは,
安定的かつ合理的な価格での輸入に関するリスクを再認識
制御変数を燃料備蓄運用とする.そして,同モデルは三つ
させた.第三に,アジアに牽引される世界のエネルギー需
の要素モデル(「線形計画モデル」
,
「燃料価格モデル」
,
「燃
1)
要の増加が将来の燃料確保競争の激化を示唆している .
料輸入途絶・原発稼働停止モデル」
)から構成される.
これを踏まえ,燃料価格の変動や供給途絶などの構造的
要素モデルのうち,
「線形計画モデル」は,燃料備蓄費用
かつ偶発的な不確実事象を定量的に考慮したエネルギー安
を除く日本のエネルギーシステムコストを予め算出するコ
全保障評価手法の開発の重要性が高まっている.また,具
スト最小化型モデルである.
「燃料価格モデル」は,確率動
体的な安全保障策の一つとして日本の燃料備蓄に着目する
的計画モデルにて燃料価格の不確実性を考慮するために,
と,潤沢に存在する原油備蓄に対して LNG 備蓄は備蓄量が
確率過程の一種である平均回帰過程を利用して燃料価格の
2)
過小であることが指摘されており ,内外の LNG 需給動向
推移をシミュレーションする確率モデルである.
「燃料輸入
や,原子力政策などのエネルギー情勢に鑑みて,LNG 備蓄
途絶・原発稼働停止モデル」は,燃料および電力供給の不
の合理的運用戦略を構築することが極めて重要である.
確実性(供給途絶事象)を考慮するために,供給障害状態
そこで本稿では,確率動的計画法を利用して,燃料輸入
を含む供給状態の遷移確率を与える確率モデルである.
途絶,原発稼働停止や燃料価格変動といった不確実事象を
この三つの要素モデルは独立に存在し,
「確率動的計画モ
考慮に入れたエネルギー安全保障評価手法を新たに構築,
デル」を構成する.確率動的計画モデルを解くことで,燃
提案する.そして,それを用いた計算結果の一例として,
料備蓄の最適運用戦略やエネルギーシステムコストの期待
日本の原油備蓄と LNG 備蓄の,最適備蓄戦略に関する分析
値および最適電源構成の分析と,それを通じたエネルギー
結果を示す.
安全保障の評価が可能となる.ただし,本モデルの対象期
*
間は数年程度と短期であり,最適な備蓄容量を決定するも
一般財団法人 日本エネルギー経済研究所
〒104-0054 東京都中央区勝どき 1-13-1
E-mail : yasuaki.kawakami@edmc.ieej.or.jp
**
東京大学大学院工学系研究科レジリエンス工学研究センター
〒113-8656 東京都文京区本郷 7-3-1
***
東京大学大学院工学系研究科原子力国際専攻
〒113-8656 東京都文京区本郷 7-3-1
本稿は,第 29 回エネルギーシステム・経済・環境コンファレンス
の発表原稿(川上・小宮山・藤井「確率動的計画法によるエネル
ギー安全保障評価体系の構築と燃料備蓄・最適電源構成の分析」
)
をもとに作成されたものである.
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のではない.また,本モデルは最終エネルギー消費段階で
燃料供給状態と原発の稼働状態を表す変数𝑖, 𝑗および燃料
の燃料間代替を考慮しないことにも留意が必要である.
価格𝑷𝒕 が確率状態変数であり,これらの不確実事象を考慮
2.1 確率動的計画モデルの構造
した上で,燃料備蓄運用𝒖を制御変数とすることで,燃料
燃料備蓄の運用は多時点の意思決定問題であるため,そ
備蓄の最適運用を決定することが可能となる.
の経済合理性の分析に際しては動的計画法によるモデル化
確率動的計画モデル(1)式は次のことを意味する.すなわ
が適当である.また,燃料価格の変動や燃料輸入の途絶,
ち,時点𝑡から分析最終時点までの総エネルギーシステムコ
原発の大規模稼働停止などの不確実事象を最適化計算に組
スト𝑉𝑖 (𝑷𝐭 , 𝒔, 𝑡)は,時点𝑡から微小期間𝑑𝑡の間にかかるエネ
込むため,本稿では動的計画法の状態変数を確率変数とし
ル ギ ー シ ス テ ム コ ス ト ( = 𝑇𝐶(𝑷𝑡 , 𝑨𝒗(𝒖, 𝑰𝒎𝑖 ), 𝑭)𝑑𝑡 +
た,確率動的計画法を利用した定式化を行う.確率動的計
𝑆𝑡𝑘(𝑷𝒕 , 𝒖, 𝒔)𝑑𝑡)と,時点𝑡 + 𝑑𝑡(この時,燃料価格は𝑷𝑡 + 𝑑𝑷𝑡 ,
画モデルを構成する変数は表 1 の通りであり,同モデルは
燃料備蓄量は𝒔 + 𝑑𝒔)から分析期間の最終時点までの総エ
(1)式のように定式化される.
ネルギーシステムコスト𝑉𝑗 (𝑷𝑡 + 𝑑𝑷𝑡 , 𝒔 + 𝑑𝒔, 𝑡 + 𝑑𝑡)の和に
分解できる.時点𝑡から𝑡 + 𝑑𝑡の間での燃料供給および原発
表 1
稼働状態,燃料価格変分𝑑𝑷𝑡 は後述の要素モデルに従い確
確率動的計画モデルを構成する変数一覧
Name
𝑖, 𝑗
𝑡
𝑉𝑖 (𝑷𝒕 , 𝒔, 𝑡)
率的に変化する.同式を,分析の最終時点から初期時点に
Description
向かって後進的に計算することによって,最小費用でのエ
: 燃料供給,原発稼働状態
ネルギーシステムの構築・維持を実現する燃料備蓄運用を
: 時点
効率的に計算することが可能となる.
: 燃料価格𝑷𝑡 ,燃料備蓄量𝒔のもと
2.2 線形計画モデルの構造
での,時点𝑡以降にかかる将来のエ
確率動的計画モデル(1)式における,備蓄関連費用を除く
ネルギーシステムコストの割引現
一日間の日本の エネルギーシステムコスト
在価値(𝑡時点における燃料供給・
𝑇𝐶(𝑷𝑡 , 𝐴𝑣(𝒖, 𝑰𝒎𝑖 ), 𝑭)を導出するモデルが線形計画モデル
原子力発電稼働状態𝑖)
𝒖
: 燃料備蓄の一日当たり変化量
𝑷𝑡
: 燃料価格
𝒔
: 燃料備蓄量
𝑰𝒎𝑖
である.発電費用,石油精製費用,非発電部門需要向け燃
料 費 用 に よ り 構 成 さ れ る シ ス テ ム コ ス ト
𝑇𝐶(𝑷𝑡 , 𝐴𝑣(𝒖, 𝑰𝒎𝑖 ), 𝑭)を目的関数とし,関連する制約条件式
のもと,線形計画法を利用して最小化計算を行う.線形計
: 状態𝑖における,燃料の一日当た
画モデルにおける主な内生変数を表 2 に示す.
り輸入量
𝐴𝑣(𝒖, 𝑰𝒎𝒊 )
表 2
: 備蓄運用と輸入による,燃料の
一日当たり利用可能量(状態𝑖に依
存)
𝑭
: 発電設備容量
𝑑𝑡
: 微小時間(一日間)
𝑆𝑡𝑘(𝑷𝒕 , 𝒖, 𝒔)
𝑟
Pr⁡(∙)
𝑇𝐶(𝑷𝑡 , 𝑨𝒗(𝒖, 𝑰𝒎𝑖 ), 𝑭)
Name
Description
𝑋𝑘,𝑡
: 第𝑘種発電所の時間帯𝑡における発電電力
(GW)
𝑄𝑘
𝑄𝑓,𝑘
: 燃料備蓄の日運用管理費用
: 割引率
: 第𝑘種燃料の非発電部門需要に対する供
𝑄𝐸,𝑘
: 第𝑘種燃料の電力需要向け供給量
: 燃料価格𝑷𝑡 ,燃料利用可能量上
𝑆ℎ𝑜𝑟𝑡𝐸,𝑡
: 時間帯𝑡における節電電力(GW)
限𝑨𝒗(𝒖, 𝑰𝒎𝑖 ),発電設備容量𝑭の下
𝑆ℎ𝑜𝑟𝑡𝑓,𝑘
: 第𝑘種燃料の非発電部門需要に対する供
: 状態遷移確率
給不足量
𝐷𝑖𝑛𝑝𝑢𝑡
ムコスト(備蓄関連費用除く)
𝑘
𝑉𝑖 (𝑷𝒕 , 𝒔, 𝑡)
: 常圧蒸留への原油投入量
発電方式の種類および燃料の種類
{1: 原子力, 2: 石炭, 3: 天然ガス, 4: 石油,
= min {𝑇𝐶(𝑷𝒕 , 𝐴𝑣(𝒖, 𝑰𝒎𝑖 ), 𝑭)𝑑𝑡 + 𝑆𝑡𝑘(𝑷𝒕 , 𝒖, 𝒔)𝑑𝑡
5: 揚水, 6: LNG 火力発電利用石油}
𝒖
(1)
+
: 第𝑘種燃料の一日当たり総供給量
給量
での,一日間のエネルギーシステ
𝑒 −𝑟𝑑𝑡
線形計画モデルを構成する内生変数一覧
𝑡
∑ Pr(𝑖 → 𝑗) ∙ 𝐸[𝑉𝑗 (𝑷𝒕 + 𝑑𝑷𝒕 , 𝒔 + 𝑑𝒔, 𝑡 + 𝑑𝑡)]}
時間帯,{𝑡 = 1,2, … ,24}
線形計画モデルにおける目的関数は(2)式のように定式
𝑗
化される.
22
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𝑇𝐶(𝑷𝑡 , 𝐴𝑣(𝒖, 𝑰𝒎𝑖 ), 𝑭)
こ の 損 失 コ ス ト を 線 形 近 似 し た 後 , (2) 式 に お け る
𝑇𝑃𝑒𝑛𝑎𝑙𝑡𝑦として,目的関数に加える.
= 𝑇𝐶𝑒𝑙𝑒𝑐𝑡𝑟𝑖𝑐𝑖𝑡𝑦 + 𝑇𝐶𝑛𝑜𝑡_𝑒𝑙𝑒𝑐𝑡𝑟𝑖𝑐𝑖𝑡𝑦 + 𝑇𝑃𝑒𝑛𝑎𝑙𝑡𝑦
5
24
𝑘=1
𝑡=1
線形計画モデルにおける制約条件式は,発電部門に関連
𝑇𝐶𝑅
1
=
+∑(
× 𝑔𝑘 × 𝑃𝐹,𝑘 × 𝐹𝑘 + ∑ 𝑃𝑉,𝑘 × 𝑋𝑘,𝑡 )
365
365
24
する制約式,非発電部門に関連する制約式,石油精製に関
(2)
連する制約式,およびその他の制約式から構成される.
4
(1)
+ ∑ 𝑃𝑉,6 × 𝑋6,𝑡 + 𝐷𝑃𝑓 + 𝐷𝑖𝑛𝑝𝑢𝑡 × 𝐷𝑃𝑉 + ∑ 𝑃𝑘 × 𝑄𝑓,𝑘
𝑡=1
発電部門制約式
電力需給バランス式,発電設備容量制約,負荷追随率に関
𝑘=2
する制約,揚水発電所の電力貯蔵に関する制約,節電ペナ
+ 𝑇𝑃𝑒𝑛𝑎𝑙𝑡𝑦
ルティ
ただし,𝑇𝐶𝑅 : 年間の再生可能エネルギー発電関連費用,
(2)
𝑔𝑘 × 𝑃𝐹,𝑘 × 𝐹𝑘 : 年間発電固定費,𝑃𝑉,𝑘 × 𝑋𝑘,𝑡 : 発電変動費,
非発電部門燃料需給バランス式,非発電部門の省エネルギ
𝐷𝑃𝑓 + 𝐷𝑖𝑛𝑝𝑢𝑡 × 𝐷𝑃𝑉 : 石油精製費用,𝑃𝑘 × 𝑄𝑓,𝑘 : 非発電部門
ーのペナルティ
向け燃料費用,𝑇𝑃𝑒𝑛𝑎𝑙𝑡𝑦: 省エネ費用評価項,である.
(3)
線形計画モデルにより導出される目的コスト
非発電部門制約式
石油精製部門およびその他の制約式
常圧蒸留由来重油の発電利用制約,常圧蒸留設備容量制約,
𝑇𝐶(𝑷𝑡 , 𝐴𝑣(𝒖, 𝑰𝒎𝑖 ), 𝑭)は(1)式の確率動的計画モデルの求解
燃料利用可能量上限制約
に際し,外生変数として与える.
2.3 燃料価格モデルの構造
また,燃料供給途絶や原発稼働停止により,発電需要・
原油等のエネルギー資源価格は,長期的に一定価格に収
非発電需要に対するエネルギー供給不足を数理的にモデル
斂する傾向(平均回帰性)を有しており,そのモデル化で
化するために,目的関数に𝑇𝑃𝑒𝑛𝑎𝑙𝑡𝑦を考慮する.これは,
用いられる確率微分方程式の一つに平均回帰過程がある.
それぞれのエネルギー需要に対して供給量が不足すること
本稿では,エネルギー安全保障を評価する上で極めて重要
による消費者効用の減少を,供給主体が負うべきペナルテ
である燃料価格の変動を考慮するため,この平均回帰過程
ィとして目的関数に付与するものである.
を利用して,燃料価格を推計する.
消費者効用の減少は,需要抑制量に対するコスト,すな
平均回帰過程の基本形は式(4)のように記述される4).
わち一単位のエネルギー需要抑制がもたらすコストを利用
𝑑𝑋𝑡 = 𝛼(𝜇 − 𝑋𝑡 )𝑑𝑡 + 𝜎𝑑𝑍𝑡
して評価する3).具体的には,エネルギー需要の短期価格
(4)
弾性値𝛽を用いて導出される需要関数(図 1)のもとで,所
ただし,𝑋𝑡 : 推計を行う燃料価格,𝛼: 回帰速度,𝜇: 長期均
期の需要量𝐷0 に対し供給量が不足して,𝐷1 の供給しかなさ
衡値,𝜎: ボラティリティ,𝑑𝑍𝑡 : ウィナー過程である.
れなかった場合に発生する効用減少(図 1 では斜線部で表
これに従うと,𝐸[𝑑𝑋𝑡 ] = 𝛼(𝜇 − 𝑋𝑡 )𝑑𝑡となり,もし𝑋𝑡 > 𝜇な
現される)を 供給不足による損失コストとして評価する.
らば𝐸[𝑑𝑋𝑡 ] < 0となって将来の𝑋𝑡 を引き下げる方向に働き.
供給不足量を𝑅(= 𝐷0 − 𝐷1 )という変数で表すと,損失コス
また逆に𝑋𝑡 < 𝜇ならば𝑋𝑡 を引き上げる力が作用する.この
ト𝐶(𝐷0 , 𝑃0 , 𝑅)は式(3)のようにモデル化される.
ような現在の価格が𝜇から離れすぎると𝜇に引き戻される
性質を指して,平均回帰過程と呼ばれる.
伊藤の定理によると,(4)式に従う𝑋𝑡 の関数𝑓𝑋𝑡,𝑡 ≡ 𝑓(𝑋𝑡 , 𝑡)
の確率微分は,ウィナー過程の性質を利用して(5)式のよう
に表現される4).
𝑑𝑓𝑋𝑡,𝑡 = [
𝜕𝑓
𝜕𝑓 1 2 𝜕 2 𝑓
𝜕𝑓
+ 𝜇𝑋,𝑡
+ 𝜎
] 𝑑𝑡 + 𝜎𝑋,𝑡
𝑑𝑍
𝜕𝑡
𝜕𝑋 2 𝑋,𝑡 𝜕𝑋 2
𝜕𝑋 𝑡
(5)
本項における燃料価格は,Eydland ら5)を参考に,その
図 1 需要関数と効用減少
𝐶(𝐷0 , 𝑃0 , 𝑅) = ∫
𝐷0
𝐷1
𝑅
𝑃(𝐷)𝑑𝐷 = ∫ 𝑃0 (
0
1
−
𝛽
=
𝛽
𝐷0 − 𝑅
𝐷 𝑃 {(1 −
)
1−𝛽 0 0
𝐷0
𝐷0
𝐷0 𝑃0 𝑙𝑜𝑔 (
)
{
𝐷0 − 𝑆
スポット価格の対数値が長期価格水準の対数値へ平均回帰
1
−
𝛽
𝐷0 − 𝑅
)
𝐷0
− 1}
する平均回帰過程によりモデル化するものとする(式(6))
.
𝑑𝑅
(𝛽 ≠ 1)
𝑑log𝑃𝑡 =
(3)
𝑑𝑃𝑡
= 𝛼(log𝜃𝑡 − log𝑃𝑡 )𝑑𝑡 + 𝜎𝑑𝑍𝑡
𝑃𝑡
ただし,𝑃𝑡 : t 時点における燃料価格,𝜃𝑡 : 長期価格水準
長期価格水準𝜃𝑡 の対数値は(7)式を満たす.
(𝛽 = 1)
23
(6)
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1 𝜕𝑙𝑜𝑔𝐹(0, 𝑡)
𝜎2
(1 − 𝑒 −2𝛼𝑡 )
+ 𝑙𝑜𝑔𝐹(0, 𝑡) +
𝛼
𝜕𝑡
4𝛼
1 2
−
𝜎
2𝛼
回復率と定義する回復率𝜇が時間によらず一定と仮定すれ
𝑙𝑜𝑔𝜃𝑡 =
ば,MTBD と同様に,MTTR は回復率の逆数1⁄𝜇となる.
(7)
状態「0」を正常な供給状態,状態「𝑛, (𝑛 ∈ {1, 2, … , 𝑁})」
を供給障害状態とする.任意の供給障害状態の途絶率,回
(6)式で表される平均回帰過程による燃料価格モデルで
復率を MTBD(𝑇0𝑛 ),MTTR(𝑇𝑛0 )を指定することにより
は,その価格決定パラメータは回帰速度𝛼とボラティリテ
設定し,不信頼度1 − 𝑅(𝑡)を計算することにより,以下の
ィ𝜎,先物価格𝐹𝑡 である.このうち回帰速度𝛼とボラティリ
状態遷移確率が導出できる.
ティ𝜎は,以下のようにコールオプション価格を利用して,
𝑃𝑟(0 → 1) = 1 − 𝑒
最小二乗法により推定する.
𝑃𝑟(0 → 2) = 1 − 𝑒
⋮
(6)式に従う燃料スポット価格は対数正規分布する.この
ようなスポット価格に対しては,(8)式に示すブラック=シ
𝑃𝑟(0 → 𝑁) = 1
ョールズのオプション価格式が成立する6).この価格式か
−𝑑𝑡⁄
𝑇02
−𝑑𝑡
− 𝑒 ⁄𝑇0𝑁
𝑃𝑟(1 → 0) = 1 − 𝑒
𝑃𝑟(2 → 0) = 1 − 𝑒
⋮
𝑃𝑟(𝑁 → 0) = 1
停止モデル(2.4 節)を結合し,これらの安全保障上の不確
実事象を考慮対象に含め数値計算可能となるよう変形する.
燃料価格モデル(6)式をlog𝑃𝑡 = 𝑋𝑡 により変換し,次式を
(8)
得る.以降,⁡𝑉𝑖 (𝑷𝒕 , 𝒔, 𝑡)を𝑉𝑖 (𝑋, 𝒔, 𝑡)と表記する.
𝑑𝑋𝑡 = 𝛼(𝑙𝑜𝑔𝜃𝑡 − 𝑋𝑡 )𝑑𝑡 + 𝜎𝑑𝑍𝑡
ただし,𝐶(𝑡, 𝐾, 𝑇): t 時点における満期𝑇,行使価格𝐾のコー
成立する.
割引率,𝑁(ℎ): 標準正規分布の累積確率密度関数,である.
𝑑𝑉𝑗 (𝑋, 𝒔, 𝑡) = 𝑉𝑗 (𝑋 + 𝑑𝑋, 𝒔 + 𝑑𝒔, 𝑡 + 𝑑𝑡) − 𝑉𝑗 (𝑋, 𝒔, 𝑡)
2.4 燃料輸入途絶・原発稼働停止モデルの構造
燃料輸入・原発ともに異常なくエネルギーの供給が保た
=[
れている「正常状態」と,そのいずれかに供給障害が発生
𝜕𝑉𝑗 (𝑋, 𝒔 + 𝑑𝒔, 𝑡)
𝜕𝑉𝑗 (𝑋, 𝒔 + 𝑑𝒔, 𝑡)
+𝑎
𝜕𝑡
𝜕𝑡
𝜕𝑉𝑗 (𝑋, 𝒔 + 𝑑𝒔, 𝑡)
1 𝜕𝑉𝑗 (𝑋, 𝒔 + 𝑑𝒔, 𝑡)
+ 𝑏2
] 𝑑𝑡 + 𝑏
𝑑𝑍
2
2
𝜕𝑋
𝜕𝑋
している「供給障害状態」を設定し,これらの状態を考慮
に入れた状態遷移確率モデルを構築する.
いる確率を信頼度𝑅,供給障害が発生し所期の供給能力を
ただし,
喪失している確率を不信頼度(1-R),供給途絶が単位時間
𝑎 = 𝛼(𝑙𝑜𝑔𝜃𝑡 − 𝑋𝑡 ), 𝑏 = 𝜎
に発生する割合を途絶率𝜆,とそれぞれ定義し,これらが
(15)
(14)式とウィナー過程の性質𝐸[𝑑𝑍] = 0を利用すると次
(9)式の関係で表されるとする.
(9)
が成立する.
𝐸[𝑉𝑗 (𝑋 + 𝑑𝑋, 𝒔 + 𝑑𝒔, 𝑡 + 𝑑𝑡)]
途絶率𝜆が一定であるとの仮定の下では,不信頼度の上昇
= 𝐸[𝑉𝑗 (𝑋, 𝒔, 𝑡) + 𝑑𝑉𝑗 (𝑋, 𝒔, 𝑡)]
1 𝑑𝑅
𝑅 𝑑𝑡
率である途絶密度は次のようになる.
𝑑𝑅
= 𝜆𝑒 −𝜆𝑡
𝑑𝑡
= 𝐸 [𝑉𝑗 (𝑋, 𝑠 + 𝑑𝑠, 𝑡)
𝜕𝑉𝑗 (𝑋, 𝒔 + 𝑑𝒔, 𝑡)
𝜕𝑉𝑗 (𝑋, 𝒔 + 𝑑𝒔, 𝑡)
+{
+𝑎
𝜕𝑡
𝜕𝑡
(10)
平均途絶発生間隔 MTBD(Mean Time Between Disruptions)
は途絶解消から次の途絶が発生するまでの平均時間であり,
途絶密度から以下のように求められる.
0
(14)
+ 𝑉𝑗 (𝑋, 𝒔 + 𝑑𝒔, 𝑡) − 𝑉𝑗 (𝑋, 𝒔, 𝑡)
ある特定時に供給状態が健全であり所期の供給を行って
𝑀𝑇𝐵𝐷 = ∫ 𝜏𝑓(𝜏)𝑑𝜏 =
(13)
伊藤の定理(5)式により,𝑋𝑡 の関数𝑉𝑖 (𝑋, 𝒔, 𝑡)に対し次式が
ルオプション価格,𝐷𝐹(𝑡, 𝑇): 𝑡時点における𝑇を満期とする
∞
(12)
−𝑑𝑡
− 𝑒 ⁄𝑇𝑁0
である燃料価格モデル(2.3 節)と燃料輸入途絶・原発稼働
法により回帰速度𝛼とボラティリティ𝜎を決定する.
𝑓(𝑡) = −
−𝑑𝑡⁄
𝑇20
2.1 節で示した確率動的計画モデルに対して,要素モデル
いるオプション価格との乖離が最小となるよう,最小二乗
𝜆=−
−𝑑𝑡⁄
𝑇10
2.5 確率動的計画モデルの変換とシミュレーション
ら算出されるオプション価格と,実際の市場で取引されて
𝐶(𝑡, 𝐾, 𝑇) = 𝐷𝐹(𝑡, 𝑇) (𝐹(𝑡, 𝑇)𝑁(ℎ) − 𝐾𝑁(ℎ − √𝑤))
1
2
𝑙𝑛(𝐹(𝑡, 𝑇)/𝐾) + 𝑤
2 , 𝑤 = 𝜎 (1 − 𝑒 −2𝛼(𝑇−𝑡) )
ℎ=
2𝛼
√𝑤
−𝑑𝑡⁄
𝑇01
1
𝜆
𝜕𝑉𝑗 (𝑋, 𝒔 + 𝑑𝒔, 𝑡)
1 𝜕𝑉𝑗 (𝑋, 𝒔 + 𝑑𝒔, 𝑡)
+ 𝑏2
} 𝑑𝑡 + 𝑏
𝑑𝑍]
2
2
𝜕𝑋
𝜕𝑋
(16)
𝜕𝑉𝑗 (𝑋, 𝒔 + 𝑑𝒔, 𝑡)
= 𝑉𝑖 (𝑋, 𝒔 + 𝑑𝒔, 𝑡) + (
𝜕𝑡
(11)
+𝑎
𝜕𝑉𝑗 (𝑋, 𝒔 + 𝑑𝒔, 𝑡) 1 2 𝜕 2 𝑉𝑗 (𝑋, 𝒔 + 𝑑𝒔, 𝑡)
+ 𝑏
) 𝑑𝑡
𝜕𝑋
2
𝜕𝑋 2
途絶持続の解消に要する平均時間を平均途絶持続時間
(16)式を利用して,確率動的計画モデル(1)式は以下のよ
MTTR(Mean Time To Recovery)と呼ぶ.信頼度の相対的
うに変形される.
24
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𝑉𝑖 (𝑋, 𝒔, 𝑡)
ト𝑇𝐶(𝑷𝑡 , 𝐴𝑣(𝒖, 𝑰𝒎𝑖 ), 𝑭)は確率動的計画モデルの求解に際
し,外生変数として与えられる.確率動的計画モデル(1)式
= 𝑚𝑖𝑛 [𝑇𝐶(𝑋, 𝑨𝒗(𝒖, 𝑰𝒎𝑖 ), 𝑭)𝑑𝑡 + 𝑆𝑡𝑘(𝑋, 𝒖, 𝒔)𝑑𝑡
𝒖
の求解時には,任意の燃料価格,燃料供給状態および燃料
備蓄量における𝑇𝐶(𝑷𝑡 , 𝐴𝑣(𝒖, 𝑰𝒎𝑖 ), 𝑭)値が必要となるため,
+ 𝑒 −𝑟𝑑𝑡 ∑ 𝑃𝑟(𝑖 → 𝑗) 𝑉𝑗 (𝑋, 𝒔 + 𝑑𝒔, 𝑡)
線形計画モデルにおいても,これに対応して複数の燃料価
𝑗
(17)
𝑉𝑗 (𝑋, 𝒔 + 𝑑𝒔, 𝑡)
+ 𝑒 −𝑟𝑑𝑡 ∑ 𝑃𝑟⁡(𝑖 → 𝑗) {𝑑𝑡 (
𝜕𝑡
格および燃料利用可能量条件で最適化計算を実施する.原
油価格を 24$/bbl から 176$/bbl まで,20 通り想定する(LNG
𝑗
+𝑎
価格について 3.3 節で示す LNG 価格フォーミュラに基づき
𝜕𝑉𝑗 (𝑋, 𝒔 + 𝑑𝒔, 𝑡) 1 2 𝜕 2 𝑉𝑗 (𝑋, 𝒔 + 𝑑𝒔, 𝑡)
+ 𝑏
)}]
𝜕𝑋
2
𝜕𝑋 2
想定)
.石炭価格は 2010 年度の原料炭・一般炭の CIF 価格
9)
から,それぞれの消費量で按分して推計した価格として
11.91 円/kg を利用する.燃料利用可能量上限(一日当たり)
(17)式を数値解法することにより,不確実事象下での最適
は,供給途絶リスクを無視できるとしている石炭について
な備蓄運用を求めることができる.なお,(17)式の離散化
は 50 万トンで固定し,供給途絶リスクを想定している原油
と数値解法は付録 1~付録 3 に説明する.
と LNG については,それぞれ 10 通りの利用可能量上限(原
油は 7 万 kl から 70 万 kl,LNG は 2.6 万トンから 26 万トン)
3.確率動的計画モデル計算の諸前提
を設定する.
第2章にて示した確率動的計画モデルの求解により,不
省エネルギーペナルティに関しては,算出に必要な三つ
確実事象下での経済合理性を評価基準とした燃料備蓄最適
の変数;基準燃料価格,基準需要量,価格弾性値について,
運用の分析を試みる.本稿では,次のように簡略化した前
基準燃料価格は,2010 年度の石炭,LNG,原油の CIF 価格
提のもとでの計算例を示す.化石燃料のうち,原油および
9)
LNG の価格変動および供給途絶リスクを想定し,石炭およ
性値はいずれの燃料共に 0.1 を,それぞれ想定する.
を,基準需要量は 2010 年度の推計実績値9)を,価格弾
びウランに関するリスクは無視しうるものと想定する.こ
石油精製関連の前提としては,常圧蒸留設備容量は 2008
れに対応して,燃料備蓄として原油備蓄と LNG 備蓄の二種
年度末の設備容量データ10)を利用する.運用管理費用は
類を想定する.
金ら11)を参考にし.C 重油および石油製品の輸入量上限
は,2010 年度の年間実績データ9)を利用する.
3.1 線形計画モデルの計算前提
3.2 燃料価格モデルの計算前提
発電関連の諸前提を表 3 に示す.建設単価ならびに出力
燃料のうち原油価格については,先物価格およびオプシ
増減率などについては,高木ら7)を参考にした.各種発電
ョン価格が容易に入手できることから平均回帰過程(6)式
所の燃料費については,複数の燃料価格のもとで最適化計
を利用して推計する.原油先物価格として 2012 年 7 月 11
算を行うことに対応させ,各燃料価格設定から燃料発熱量,
日時点での WTI 先物価格12)を,オプション価格として同
発電効率などを基に算出する.発電設備容量𝑭は,原子力
日時点での ATM コールオプション価格を利用した推計の
を除き 2010 年度末時点での国内 10 電力計(受電含む)の
結果,回帰速度α = 0.01,ボラティリティσ = 0.32を得た.
設備データ8)を利用する.原発の設備容量は 35GW と仮定
LNG 価格については,わが国の LNG 取引価格が一般的に
する.供給予備率は 8%とする.
原油価格を指標に決定されることを踏まえ,本稿において
先述の通り,線形計画モデルにより導出される目的コス
も原油価格連動でその価格が決定するモデル化を行った.
表 3 各電源のコスト,効率等の想定
建設単価
設備容量
(万円/kW)
(GW)
年経費率
発電効率
設備利用率
出力増大率の
出力減少率の
(送電端,%)
(%)
上限(%-kW/hour)
下限(%-kW/hour)
原子力
27.9
35
0.159
-
80
0
0
石炭火力
27.2
38.87
0.17
36
78.3
31
58
16.4
62.74
0.158
39
80
82
75
石油火力
26.9
46.1
0.161
38
80
100
100
揚水発電
24
25.94
0.132
-
95
-
-
天然ガス
火力
25
Journal of Japan Society of Energy and Resources, Vol. 34, No. 5
1997 年 6 月から 2012 年 11 月までの原油・LNG の CIF 価
3.4 その他の計算前提
格
13)
を利用し,LNG 価格を被説明変数,原油価格を説明
確率動的計画モデルの計算に必要なその他の諸前提を表
変数とする単回帰分析を実施した.得られた LNG 価格フォ
5 に示す.原油と LNG の平時輸入量は,2010 年度の年間輸
ーミュラを利用して LNG 価格を推計する.また,燃料価格
入量実績9)より想定する.供給障害が発生していない平時
に関連して,後述の原発稼働停止ケースでは稼働停止を原
には,燃料備蓄の取崩しをしないものと設定する.LNG 備
因とするこれらの価格上昇を考慮していないことに留意が
蓄運用管理費は,IEA が緊急時のガス備蓄のコストを原油
必要である.
備蓄の 10 倍程度と想定している15).これは必ずしも LNG
3.3 燃料輸入途絶・原発稼働停止モデルの計算前提
備蓄を想定したものではないが,本稿では試みとして原油
本稿では,供給途絶状態として次の三通りを設定する.
備蓄の 10 倍と設定した.
原油および LNG の輸入時における途絶状態としてホルム
ズ海峡封鎖状態と LNG 途絶状態の二通りを,原発の稼働停
4.解析結果例
止状態(電力途絶)として国内全原発停止状態を,それぞ
確率動的計画モデルを利用した安全保障評価分析の結果
れ設定する.LNG 途絶状態は具体的事象を想定していない.
例として,原油・LNG 備蓄の備蓄運用意思決定表,総エネ
多量の LNG が途絶する場合の影響分析を試みるためのも
ルギーシステムコストの期待値,備蓄運用について示す.
のである.原油と LNG の生産地域や供給経路に共通点が多
4.1 備蓄運用意思決定表
いため,このケースでも原油が 2 割途絶するものとした.
確率動的計画モデルの求解により,離散状態における備
三通りの途絶状態のパラメータを表 4 に示す.これらを
蓄運用意思決定表が導出される.この表は,ある時点にお
(12)式に代入することで,供給状態間の遷移確率が求まる.
ける供給状態,原油価格,備蓄量に応じた各燃料備蓄の最
適運用を示している.最適備蓄運用𝒖𝑗,𝑚,𝑘 は時点𝑘に依存す
る変数だが,一定期間以上の後進的計算により同一状態(供
表 4 途絶状態のパラメータの想定
ホルムズ
LNG
原発
海峡封鎖
供給途絶
稼働停止
MTBD(日)
5,475
3,650
3,650
MTTR(日)
40
50
360
原油供給途絶量
正常比 8 割
正常比 2 割
正常
LNG 供給途絶量
正常比 2 割
正常比 4 割
正常
正常
正常
全停止
原発稼働量
給状態,原油価格,燃料備蓄量)における𝒖𝑗,𝑚,𝑘 の値の時点
間差異は消滅する結果となった.このため,同表は後進的
計算の最終時点における最適備蓄運用𝒖𝑗,𝑚,1 の値を利用し
て作成した.導出される備蓄運用意思決定表を図 2 に示す.
供給が正常である場合(図 2-(a))
,原油備蓄は,全ての
原油価格帯で積み増しが行われる.原油価格が低位の場合
には,多くの原油備蓄量水準で備蓄を積み増す一方で,原
油価格が上昇するにつれて,備蓄を積み増す備蓄量領域は
少なくなる.このような原油価格に応じた意思決定の違い
表 5 数値計算の諸想定
は,価格が安い時に備蓄を積み増して供給途絶等の非常時
変数
値
に備え,原油価格が高い時には積み増し用の追加購入によ
割引率
3%/年
るコスト増を避けるという定性的な理解と整合する.LNG
為替レート
90 円/$
備蓄の意思決定に関しては,全ての原油価格帯および燃料
計算期間
600 日
備蓄量水準で,備蓄積み増しを行わないとの結果が得られ
平時原油輸入量
60 万 kl/日
た.これは,供給状態が正常である場合には, LNG 備蓄
平時 LNG 輸入量
19 万トン/日
を積み増し,供給途絶状態に備えておく経済価値よりも,
LNG ボイルオフ率
0.15%-V/日
原油備蓄の 10 倍という高額な備蓄維持コストの方が大き
原油備蓄容量
9,000 万 kl
く,備蓄の積み増しが経済合理的でないことを示している.
500 万トン
原発稼働停止の場合(図 2-(b))
,電力の供給力が大幅に
LNG 備蓄容量
1,843 円/kl/年
低下するため,発電コストの安価な LNG 発電向けに LNG
原油備蓄設備借上げ費用
129 円/kl/月
の備蓄取崩しが積極的に行われる.原油(石油)は前提と
LNG 備蓄運用管理費
原油備蓄の 10 倍
(熱量等価)
して電力向けの供給量が少ないこと,および発電コストが
一日当たり燃料備蓄
平時輸入量の 50%
高額であることから,LNG の備蓄量がゼロの場合のみ取崩
原油備蓄運用管理費
14)
しが行われる.原発稼働停止状態を例に取れば,電力供給
積み増し上限
一日当たり燃料備蓄
量の不足に対しては,化石燃料による焚き増し,節電,備
平時輸入量の 50%
蓄取崩しの大まかに三通りの対処手段があるが,どの手段
取崩し上限(供給障害時)
26
Journal of Japan Society of Energy and Resources, Vol. 34, No. 5
がどの水準で実施されるかは,意思決定時点でのエネルギ
93$/bbl の場合,原油備蓄量 0kl の時のエネルギーシステム
ー価格や,供給途絶にまつわるリスクの大きさ等を考慮し
コストの期待値は原油備蓄量 9,000 万 kl の時のコストより
た上で,コスト最小化によって決定される.備蓄取崩しに
も 10.5%大きい.
ついては,輸入による調達コストの負担が,備蓄減による
供給がホルムズ海峡封鎖状態の場合(図 3-(b))には,
途絶時の供給予備力減のリスクを上回る場合等に,輸入増
原油価格の上昇がシステムコストを線形に増加させること
に先んじて実施され得る.
は正常状態と同様である.一方,原油備蓄の有無に関して
4.2 エネルギーシステムコストの期待値
は,備蓄が少ない場合にコストが非線形に増大する.これ
初期時点における燃料(原油)価格,備蓄量,供給状態
は,原油備蓄量が十分でない場合に,供給途絶への備蓄取
に応じた,以降 600 日間に要する期待コスト𝑉𝑖 (𝑷𝑡 , 𝒔, 1)を図
崩しによる対応ができず,大きな省エネペナルティが課さ
3 に示す.
図中(a),(b)は LNG 備蓄量 200 万トンで固定し,
れるためである.原油価格 93$/bbl の場合,原油備蓄量 0kl
(c)は原油価格 93$/bbl で固定して表示している.
の時のエネルギーシステムコストの期待値は備蓄量 9,000
供給が正常の場合(図 3-(a))には,エネルギーシステ
万 kl の時のコストに比べて 66.5%上昇する.
ムコストの期待値は原油価格が大きくなるほど,また原油
備蓄量が少ないほど線形に増加する.原油備蓄量の相違が
コストに及ぼす影響は軽微であるが,原油備蓄量が多いほ
ど期待コストが小さくなることから,安全保障上原油備蓄
が有効であることが示される .例として ,原油価格が
図 3 エネルギーシステムコストの期待値計算例
図 2 燃料備蓄の運用意思決定表の例
27
Journal of Japan Society of Energy and Resources, Vol. 34, No. 5
原子力発電稼働停止状態の場合(図 3-(c))には,電力
供給力の減少に伴う節電により,正常状態と比較して,エ
ネルギーシステムコストの期待値が 5 兆円程度大きくなる
(図 3-(c)では原油価格は 93$/bbl)
.この場合には LNG の
発電用需要が高まるため, LNG 備蓄量の有無がコストの
期待値に及ぼす影響が大きい.LNG 備蓄が過小な場合には
取崩しによる LNG 火力の焚き増しができず,節電量が増加
し,コストの期待値を押し上げている.原油備蓄量 8,000
万 kl でのエネルギーシステムコストの期待値は,LNG 備
蓄 0 万トンで 49.2 兆円となり,500 万トンでの 48.3 兆円に
比べて 1.9%上昇する.
4.3 燃料備蓄の運用
𝑉𝑖 (𝑷𝑡 , 𝒔, 𝑡)は,時点𝑡から計算最終時点までの期待コスト
を,任意の燃料価格と備蓄量(これらは離散値)
,供給状態
について示したコスト表の様なものである.4.2 節では
𝑡 = 1の場合を示したが,同様のコスト表が𝑡 = 600まで算
出済である.このコスト表と適切な内挿処理により,連続
的な燃料価格および備蓄量に対する最適備蓄運用を導出で
きる(𝑡 = 1として,試算したい初期条件を与えれば良い)
.
導出の詳細は付録 3 を参照されたい.原油・LNG 備蓄の運
用結果例を図 4 に示す.原油備蓄については,初期の備蓄
図 4 燃料備蓄の運用例
量から備蓄を積み増し,備蓄容量上限に達した後,計算の
最終時点に至るまで一定で保持する運用例となった.これ
は,石油需要が大きく,とりわけ輸送用燃料等では代替が
性を定量的に考慮した上で,確率動的計画法を利用したエ
効かないため,供給途絶時の効用減少が大きいことや,ホ
ネルギー安全保障評価手法を構築し,一定の諸前提のもと
ルムズ海峡封鎖状態等,大量の原油供給が途絶するリスク
で,原油・LNG の燃料備蓄の最適運用,およびエネルギー
を抱えていること,および原油備蓄の維持管理費が安価で
システムコストの期待値を分析した.その結果,図 2 から
あることが主な原因である.LNG 備蓄については,初期の
分かるように,供給正常時に原油価格の水準に応じて原油
備蓄量から備蓄を積み増し,備蓄容量上限の 500 万トンに
備蓄の増強,放出が行われていることから,不確実事象下
達した後,LNG 価格が 62,000 円/トンまで上昇したあたり
での原油備蓄戦略が重要であることが確認された.また図
で備蓄を取崩す結果となった.その後,LNG 価格の下落時
3 のコスト期待値分析より,燃料供給状態に応じて燃料備
に再度備蓄の積み増しを行う.その後は計算の最終時点に
蓄がコストに与える影響が異なること,原発稼働停止時に
至るまで備蓄容量上限で保持する運用例となった.なお,
LNG 備蓄が経済合理性のある重要な緊急時対応対策とし
本モデルでの備蓄運用は LNG 価格のみに基づいて決定さ
て機能する可能性を有することが示された.
れるものではない.計算最終時点で保持する備蓄の価値評
今後の課題として,本稿が一極集中型のエネルギーシス
価(付録 2 を参照されたい)等によっても,備蓄運用は影
テムを想定しており,備蓄導入がされやすいモデル構造と
響を受けることに留意する必要がある.また,ここでの結
なっていることから,備蓄タンクとエネルギー需要地の地
果は LNG 備蓄容量が 500 万トンと比較的小さい場合のもの
理的配置を考慮することが挙げられる.この他,価格面の
であることにも留意する必要がある.容量を増やした場合
課題として供給途絶によるエネルギー価格上昇を考慮する
には備蓄管理費用が一層高額となり,備蓄を容量上限まで
こと,供給面の課題として病院等エネルギーの強制的な供
保持するインセンティブは弱まることが予期される.
給減を許容できない需要家に備蓄が果たし得る役割ついて
検討すること,供給不足時の最終需要におけるエネルギー
5.まとめ
代替を考慮すること,震災後の照明間引き等効用減少を伴
本稿では,燃料価格の確率的変化および燃料供給途絶・
わない省エネを適切に評価すること,等が挙げられよう.
原発稼働停止リスクというエネルギー安全保障上の不確実
28
Journal of Japan Society of Energy and Resources, Vol. 34, No. 5
付録 1
𝑉𝑖 (𝑛, 𝑠, 𝑘)
離散化の方法
(17)式を数値解法により解くため,以降に記述する離散
= 𝑚𝑖𝑛 [𝑇𝐶(𝑛, 𝐴𝑣(𝒖, 𝑰𝒎𝑖 ), 𝑭)∆𝑡 + 𝑆𝑡𝑘(𝑛, 𝒖, 𝑠)∆𝑡
𝒖
化を行う.
+ 𝑒 −𝑟∆𝑡 ∑ 𝑃𝑟(𝑖 → 𝑗) 𝑉𝑗 (𝑛, 𝑠 + ∆𝑠, 𝑘 + 1)
表 6 離散化の様式
𝑗
∆𝑉𝑗 (𝑛, 𝑠 + ∆𝑠, 𝑘 + 1)
+ 𝑒 −𝑟∆𝑡 ∑ 𝑃𝑟⁡(𝑖 → 𝑗) {∆𝑡𝑎
∆𝑋
連続系
離散系
𝑉𝑖 (𝑋, 𝒔, 𝑡)
𝑉𝑖 (𝑛, 𝑠, 𝑘)
𝜕𝑉𝑖 (𝑋, 𝒔, 𝑡)⁄
𝜕𝑡
𝜕𝑉𝑖 (𝑋, 𝒔, 𝑡)⁄
𝜕𝑋
𝜕 2 𝑉𝑖 (𝑋, 𝒔, 𝑡)⁄
𝜕𝑋 2
𝑉𝑖 (𝑛, 𝑠, 𝑘 + 1) − 𝑉𝑖 (𝑛, 𝑠, 𝑘)
(19)
𝑗
∆2 𝑉𝑗 (𝑛, 𝑠 + ∆𝑠, 𝑘 + 1)
1
+ ∆𝑡𝑏 2
}]
2
∆𝑋 2
∆𝑉𝑖 (𝑛, 𝑠, 𝑘)⁄
∆𝑋
∆2 𝑉𝑖 (𝑛, 𝑠, 𝑘)⁄
∆𝑋 2
(19)式を解いて得られる𝒖値を(18)式に代入すると次のよ
うになる.
𝑉𝑖 (𝑛, 𝑠, 𝑘)
ただし,𝑛: 𝑋𝑡 を離散化した変数,𝑠: 𝒔を離散化した変数,
𝑘:時間変数𝑡を離散化した変数,である.
= 𝑇𝐶(𝑛, 𝐴𝑣(𝒖, 𝑰𝒎𝑖 ), 𝑭)∆𝑡 + 𝑆𝑡𝑘(𝑛, 𝒖, 𝑠)∆𝑡
+ 𝑒 −𝑟∆𝑡 ∑ 𝑃𝑟⁡(𝑖 → 𝑗) {𝑉𝑗 (𝑛, 𝑠 + ∆𝑠, 𝑘 + 1)
表 6 に示す離散様式に基づき,(17)式を(18)式のように差
𝑗
分近似する.
+ ∆𝑡𝑎
𝑉𝑖 (𝑛, 𝑠, 𝑘)
(20)
∆𝑉𝑗 (𝑛, 𝑠 + ∆𝑠, 𝑘) 1
∆2 𝑉𝑗 (𝑛, 𝑠 + ∆𝑠, 𝑘)
+ ∆𝑡𝑏 2
}
∆𝑋
2
∆𝑋 2
ここで,𝑁を差分近似における価格変数𝑛の刻み数,𝑆を
= 𝑚𝑖𝑛 [𝑇𝐶(𝑛, 𝑨𝒗(𝒖, 𝑰𝒎𝑖 ), 𝑭)∆𝑡 + 𝑆𝑡𝑘(𝑛, 𝒖, 𝑠)∆𝑡
燃料備蓄量変数𝑠の刻み数とする.式表記の簡単化のため,
𝒖
これらの変数を単一の変数𝑚によって表すこととし
+ 𝑒 −𝑟∆𝑡 ∑ 𝑃𝑟(𝑖 → 𝑗) 𝑉𝑗 (𝑛, 𝑠 + ∆𝑠, 𝑘)
(𝑚 = 1,2, … , 𝑁 × 𝑆),(20)式を次式のように表現する.
𝑗
+ 𝑒 −𝑟∆𝑡 ∑ 𝑃𝑟⁡(𝑖 → 𝑗) {(𝑉𝑗 (𝑛, 𝑠 + ∆𝑠, 𝑘 + 1)
𝑒 −𝑟∆𝑡 ∑ 𝑃𝑟(𝑖 → 𝑗)𝑽𝑗,𝑚,𝑘+1 + 𝝅𝑖,𝑚,𝑘
(18)
𝑗
𝑗
− 𝑉𝑗 (𝑛, 𝑠 + ∆𝑠, 𝑘)) + ∆𝑡𝑎
= 𝑽𝑖,𝑚,𝑘 − 𝑒 −𝑟∆𝑡 ∑ 𝑃𝑟(𝑖 → 𝑗)𝑨 ∙ 𝑽𝑗,𝑚,𝑘
∆𝑉𝑗 (𝑛, 𝑠 + ∆𝑠, 𝑘)
∆𝑋
(21)
𝑗
ただし,𝝅𝑖,𝑚,𝑘 は次を満たす.
∆2 𝑉𝑗 (𝑛, 𝑠 + ∆𝑠, 𝑘)
1
+ ∆𝑡𝑏 2
}]
2
∆𝑋 2
𝝅𝑖,𝑚,𝑘 = ⁡𝑇𝐶(𝑛, 𝑨𝒗(𝒖, 𝑰𝒎𝑖 ), 𝑭)∆𝑡 + 𝑆𝑡𝑘(𝑛, 𝒖, 𝑠)∆𝑡
(22)
ここで,燃料供給・原発稼働状態「0」,「1」,…,「N」
本稿では,(18)式の左辺が最小となるような𝒖を求めるこ
を考えると,(21)式は(23)式のように行列表現できる.
とが目的であるが,式変形により求めることは難しいため,
動的計画法では,後進的アルゴリズムにより,コストベ
右辺の𝑘を𝑘 + 1とし,(19)式のように変形して,陰解法を
クトル𝑽𝑗,𝑚,𝑘 を求める際に𝑽𝑗,𝑚,𝑘+1 は既知であるため,(23)
用いて左辺が最小となるような𝒖をまず求める.
式から逆行列を利用することにより𝑽𝑗,𝑚,𝑘 を求めることが
できる.
𝑬 − 𝑒 −𝑟∆𝑡 𝑃𝑟(0 → 0)𝑨
−𝑒 −𝑟∆𝑡 𝑃𝑟(0 → 1)𝑨
−𝑟∆𝑡
−𝑒
𝑃𝑟(1 → 0)𝑨
𝑬 − 𝑒 −𝑟∆𝑡 𝑃𝑟(1 → 1)𝑨
⋮
⋮
[ −𝑒 −𝑟∆𝑡 𝑃𝑟(𝑁 → 0)𝑨
−𝑒 −𝑟∆𝑡 𝑃𝑟(𝑁 → 1)𝑨
𝑽0,𝑚,𝑘
⋯
−𝑒 −𝑟∆𝑡 𝑃𝑟(0 → 𝑁)𝑨
⋱
−𝑒 −𝑟∆𝑡 𝑃𝑟(1 → 𝑁)𝑨 [ 𝑽1,𝑚,𝑘 ]
⋮
⋱
⋮
⋯ 𝑬 − 𝑒 −𝑟∆𝑡 𝑃𝑟(𝑁 → 𝑁)𝑨] 𝑽𝑁,𝑚,𝑘
𝑒 −𝑟∆𝑡
∑
𝑃𝑟(0 → 𝑗)𝑽𝑗,𝑚,𝑘+1 + 𝝅0,𝑚,𝑘
𝑗=0,1,…,𝑁
𝑒 −𝑟∆𝑡
=
𝑃𝑟(1 → 𝑗)𝑽𝑗,𝑚,𝑘+1 + 𝝅1,𝑚,𝑘
𝑗=0,1,…,𝑁
𝑒 −𝑟∆𝑡
[
29
(23)
∑
∑
𝑗=0,1,…,𝑁
⋮
𝑃𝑟(𝑁 → 𝑗)𝑽𝑗,𝑚,𝑘+1 + 𝝅𝑁,𝑚,𝑘
]
Journal of Japan Society of Energy and Resources, Vol. 34, No. 5
付録 2 確率動的計画法の計算アルゴリズム
アウトルック 2012-高まるアジア・中東の重要性と相
𝑘時点の総エネルギーシステムコストベクトル𝑽𝑗,𝑚,𝑘 と
互依存,
(2012)
,日本エネルギー経済研究所.
𝑘 + 1時点の同ベクトル𝑽𝑗,𝑚,𝑘+1 の関係式の解析に当たって
2)
資源エネルギー庁;資源・燃料の安定供給の課題と今
は,以下に順序を示す通り,満期時点の境界条件を与え,
後の対応(参考資料)
,
(2012)
,経済産業省
後進的アルゴリズムを用いて,各時点における最適備蓄運
( http://www.enecho.meti.go.jp/info/committee/kihonmond
用および総エネルギーシステムコストを算出する.
ai/27th/27-4-2.pdf:アクセス日 2013 年 1 月 25 日)
1)
満期時点(𝑘 = 𝑇)の境界条件を与える.
3)
満期時点でのコストベクトル𝑽𝑗,𝑚,𝑇 は,最終時点において備
藤井秀昭;東アジアのエネルギーセキュリティ戦略,
(2005)
,NTT 出版
蓄を保持するインセンティブを与えるために,満期時点で
4)
沢木勝茂;ファイナンスの数理,
(1994)
,朝倉書店
の長期価格水準に,満期時点での備蓄量を乗じたものを与
5)
Alexander Eydeland,Wolyniec Krzysztof;電力取引の金
える(𝑽𝑗,𝑚,𝑇 = −𝜃𝑇 × 𝒔 𝑇 ).これにより満期時点においても
融工学,
(2004)
,エネルギーフォーラム
備蓄を保持しているインセンティブを与えることができる.
2)
6)
𝑘 = 𝑇 − 1とし,(18)式~(23)式を計算する.
河本薫,津崎賢治;金融工学を用いた LNG 価格フォー
ミュラの市場価値評価,エネルギー・資源学会誌
(𝑇 − 1)時点での最適備蓄運用𝒖𝑗,𝑚,𝑇−1 およびコストベク
Vol.
29, No. 2,pp. 1,2008.
トル𝑽𝑗,𝑚,𝑇−1 を求める.
7)
以降,𝑘 = 𝑇 − 1, 𝑇 − 2, … , 1と手順 2)を繰り返し,各時点
高木雅昭,岩船由美子他;プラグインハイブリッド車
の充電制御による LFC 容量代替の経済価値,電気学会
の最適備蓄運用𝒖𝑗,𝑚,𝑘 およびコストベクトル𝑽𝑗,𝑚,𝑘 を求める.
付録 3 最適備蓄運用の決定手法
論文誌
8)
付録 2 で示した計算アルゴリズムで,最適備蓄運用𝒖𝑗,𝑚,𝑘
Vol. 130,No.2, pp. 203, 2010.
電気事業連合会;電気事業のデータベース
(INFOBASE),
(2011)
,電気事業連合会
が導出できる.ただし,この備蓄運用は離散化した状態
( http://www.fepc.or.jp/library/data/infobase/pdf/infobase2
(𝑚 = 1,2, … , 𝑁 × 𝑆)における備蓄運用である.資源価格𝑃𝑡
011.pdf:アクセス日 2012 年 10 月 2 日)
および備蓄量𝒔𝑡 が離散値に等しい場合にはこれを実際の意
9)
思決定に利用できるが,実際の資源価格と備蓄量はこの離
覧 2012 年版,
(2012)
,省エネルギーセンター
散値に一致しない場合が多く,この場合にはこの備蓄運用
10) 石油通信社版;平成 20 年石油資料,
(2008)
,石油通信
表は利用できない.そこで,以下のような前進的計算アル
社
ゴリズムで最適備蓄運用𝒖𝑗,𝑚,𝑘 を決定する.
1)
11) 金ドゥー湜,伊藤孝司他;日本,韓国,シンガポール
計算の初期時点(𝑡 = 1)において(24)式を最小化する.
の精製コストと日本着の競争力に関する分析,第 17 回
エネルギーシステム・経済・環境コンファレンス講演
𝑚𝑖𝑛 {𝑇𝐶(𝑷𝑡 , 𝑨𝒗(𝒖, 𝑰𝒎𝑖 ), 𝑭)𝑑𝑡 + 𝑆𝑡𝑘(𝑷𝑡 , 𝒖, 𝒔)𝑑𝑡
𝒖
+ 𝑒 −𝑟𝑑𝑡 ∑ 𝑃𝑟⁡(𝑖 → 𝑗)
論文集,pp. 709-714,2001.
12) CME Group;Light Sweet Crude Oil (WTI) Futures,
(2012)
,
(24)
𝑗
日本エネルギー経済研究所;エネルギー・経済統計要
CME Group
(http://www.cmegroup.com/trading/energy/crude-oil/light-
∙ 𝐸[𝑉𝑗 (𝑷𝑡 + 𝑑𝑷𝑡 , 𝒔 + 𝑑𝒔, 𝑡 + 𝑑𝑡)]}
sweet-crude.html:アクセス日 2011 年 7 月 11 日)
ここで,資源価格𝑷𝒕 および資源備蓄量𝒔は離散値ではなく,
13) 日本エネルギー経済研究所
計量分析ユニット;デー
初期時点における実際の価格と備蓄量(シミュレーション
タバンク,
(2013)
,日本エネルギー経済研究所
の計算前提)を利用する.𝑇𝐶(𝑷𝑡 , 𝑨𝒗(𝒖, 𝑰𝒎𝑖 ), 𝑭)は,離散化
( http://www.ieej.or.jp/edmc/edmc_db2/databank-top.html:
された資源価格および資源利用可能量上限におけるコスト
アクセス日 2013 年 1 月 20 日)
であるため,初期時点における実際の価格と利用可能量上
14) 経済産業省;総合資源エネルギー調査会石油分科会石
限(備蓄量および𝒖から決定する)をもとに内挿計算により
油部会石油備蓄専門小委員会第3回議事要旨,
(2005)
,
決定する.各時点の総エネルギーシステムコストベクトル
経済産業省
𝑽𝑗,𝑚,𝑘 は既に求められているので,𝑉𝑗 (𝑷𝑡 + 𝑑𝑷𝑡 , 𝒔 + 𝑑𝒔, 𝑡 +
( http://www.meti.go.jp/committee/summary/0002866/inde
𝑑𝑡)は既知である.ただし,この値もまた離散値から外れて
x.html:アクセス日 2012 年 6 月 11 日)
いる場合には内挿計算により決定する.
2)
15) 日本エネルギー経済研究所;欧州ガス事業の動向とわ
順次時点を更新し(𝑡 = 2, 3, … , 𝑇)同様の計算を行う.
が国の比較,(2007),日本エネルギー経済研究所
参考文献
1)
(http://eneken.ieej.or.jp/data/pdf/1493.pdf: ア ク セ ス 日
日本エネルギー経済研究所;アジア/世界エネルギー
2012 年 6 月 11 日)
30