「エネルギーハーベストおよびマイクロバッテリー の研究開発動向と応用」 委託調査報告書 2010年3月 社団法人新化学発展協会 The Association for the Progress of New Chemistry 新化学発展協会 御中 「エネルギーハーベストおよびマイクロバッテリーの研究開発動向と応用」 報告書 平成 21 年 12 月 株式会社カネカテクノリサーチ <目 次> 1.はじめに -エネルギーハーベストを取り巻く状況- ・・・・・・・・・・・・・・・2 2.エネルギーハーベストの研究開発動向 ・・・・・・・・・・・・・・・・・3 2.1 エネルギーハーベスティング技術・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3 2.2 変換素子技術・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・13 2.3 特許出願動向・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・18 2.4 国内外プロジェクト等の状況・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・20 2.5 研究機関・研究者・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・23 2.6 競合品との比較・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・36 2.7 現在の問題点と研究開発課題・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・37 3.マイクロバッテリーの研究開発動向・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・40 3.1 はじめに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・40 3.2 リチウムイオン二次電池・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・43 3.3 リチウムポリマー電池・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・48 3.4 固体薄膜二次電池・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・49 3.5 電気二重層キャパシタ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・52 3.6 特許出願動向・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・54 3.7 研究機関・研究者・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・58 3.8 現在の問題点と研究開発課題・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・64 4.応用用途および製品例・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・66 5.市場動向予測 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・70 6.技術課題と今後の方向性 -まとめ- ・・・・・・・・・・・・・・・・・73 7.将来展望 -素材メーカーに対する提言-・・・・・・・・・・・・・・・・・・・74 1 1.はじめに -エネルギーハーベストを取り巻く状況- 全世界の総人口は既に 66 億人を突破し、今世紀半ばには 90~100 億人に達すると予測 されている。これに伴って、世界のエネルギー需要は 2030 年までに現在の 1.5 倍に増加 し、電力に限ってみると 2050 年には現在の 2.6 倍に増加するとの予想がある。このエネ ルギー需要増加に伴う化石燃料の消費増加に伴い、その枯渇懸念や CO2 の大量放出に伴 う地球温暖化が問題となっている。そこで代替エネルギー源として太陽光や風力等、自然 や環境に存在するエネルギーの活用や研究開発が、盛んに行われている。 また、ユビキタスの環境が志向され、情報の無線ネットワークが形成され生活のいたる ところにセンサー等の小型電気機器が入り込みつつある。これ等の機器は、通常、家庭用 電源からコードで電力が供給されるが、全てのセンサーにコードから電力を供給すると、 コードの延長距離は大変なものとなる。ちなみに、自動車の電子化も進んでいるが必要と する電力をコードで供給すると一台あたりのコードの長さは 3kmにも達し、ヘリコプタ ーでは 20km、飛行機では 100kmを超えると言われている。その為、高性能の一次電池 が必要となり、多くの機器に電池が使用される事となる。日本でもリチウム電池は年間 9 億個以上が生産されている。 一方で、資源有効活用という観点やエコ意識の高まりから、二次電池の需要が大幅に伸 び、小型のリチウムイオン蓄電池は国内で 10 億個、容量換算で 16 億 Ahが生産されてい る。しかし、二次電池とはいえ、メンテナンスが必要であり、特に、生活に入り込んでい る各種機器や、ビルや橋など、構造物のメンテナンスに用いられるワイヤレスセンサーの 電力を全て電池で賄った場合、 電池自体のメンテナンスに関わる労力も膨大なものになる。 また、代表的な二次電池であるリチウムイオン電池の用いるコバルト酸リチウムは、コバ ルトが希尐金属であるため、将来にわたって安定的な供給に丌安がある。 従って、太陽光発電や風量発電のような大電力を賄うようなものではないが、環境にあ る「揺らぎエネルギー」を利用して必要とする電力を調達し、見かけ上の永久機関を構成 する目的で、 「環境エネルギーを用いた発電・電力貯蔵(エネルギーハーベスト) 」が注目 を浴びている。 この種の技術は、欧米が先行し、政府の資金による研究開発が推進され、市場へ数々の 製品が提供され、また、普及に向けたワイヤレスネットワークに関する統一規格の議論も なされている。また、2009年11月には、環境発電技術の国際会議・展示会がアメリ カで開催されるなど、関心の高まりを見せている。日本での取り組みも活発化し、幾つか の実用品が市場に提供されつつある。 本調査では、 「分散電源と分散消費」を目的とした小型発電デバイス及び小型の蓄電デバ イス(マイクロバッテリー)に注目し、エネルギーハーベスト技術・エネルギー変換技術 及びマイクロバッテリーの研究開発動向と応用製品の現状を広く調査し、材料メーカーが 今後果たすべき役割について提言を纏めた。 2 2.エネルギーハーベストの研究開発動向 2.1 エネルギーハーベスティング技術 周辺に微弱に分散して存在する様々なエネルギーをあたかも果実を収穫するがごとく利 用しようというのがエネルギーハーベスティング(Energy Harvesting)技術である。 21 世紀に入り、ディジタルデバイスの急速な発展により、mW、μW でも利用できるよ うになり、エネルギーハーベスティング技術が注目されている。 エネルギーハーベスティング技術(希薄分散エネルギー活用技術)では、これまで利用 されていなかった希薄なエネルギー(例えば:自然振動、人体動作、体温、廃熱、電磁波 等)を利用しやすい電気エネルギー-に変換し、電力として活用する。 利用可能なエネルギー源を分類し、表 2.1-1 に示す。 エネルギー源としては、機械エネルギー、熱エネルギー、電磁波エネルギー、ハイブリ ッド(複合型) 、その他に大きく分類した。但し、大型のソーラー(太陽光発電)は除外し ている。尚、渦励振も比較的大電力用途でありエネルギーハーベストの範疇とは言えない が、ここでは取り上げ<補足>でも解説した。 表 2.1-1 利用可能なエネルギー源 エネルギー源 機械エネルギー 例 振動 構造物振動 車両振動 流体振動 橋 ・橋の自然振動から 10μW の電力を得る 発電機を試作(オムロン) ・首都高速道路で荒川にかかる五色桜大橋 は自動車の振動を利用して発電、イルミネ ーション点灯(音力発電) 道路 ・振動発電機システムを高速道路に設置、 車載センサに(オムロン・旭硝子) 床 ・JR東京駅の改札口で発電床の実証実験、 照明、エスカレータ駆動に(音力発電) タイヤ ・タイヤ振動を利用した発電器とセンサ、 タイヤ空気圧モニタに(オムロン、 Schrader Electronics) サスペンシ ・車両のサスペンションによるショック振 ョン 動を水圧に変換し 、水圧の変化で発電 (MIT/Levant Power) 渦励振 ・海流/川流の利用し、電力に(ミシガン 大/Vortex Hydro Energy) 風渦励振 ・塔状構造物の風渦励振の制振と発電(九 大) 風 ・車両に搭載した圧電素子により発電し、 バッテリー充電(ニューヨーク市立大) 音波(騒音) ・高速道路の自動車の騒音を利用して発 電、防音壁に(音力発電) 音波(話声) ・通話を利用し、携帯電話に(音力発電) 3 人体の振動 歩行 歩行 腕 心拍 その他 水力 熱エネルギー ・人体の歩行動作による振動から電力を得 る発電機を試作、万歩計に(三洋電機) ・歩行の運動エネルギーとして、67W の 取出しが可能 MIT:中敷に PLZT を組み込み SRI:電歪ポリマーでヒザに取り付け ・腕の動きで発電する腕時計(セイコーエ プソン) ・心房の圧力差を利用した発電器、心臓ペ ースメーカーに(英 SIMM プロジェクト) キーボード ・キーボードのタイピング振動で発電 雤粒 ・雤粒の衝撃で発電 スイッチ ・スイッチの ON/OFF で電磁誘導により 発電、住宅照明の点灯に(EnOcean) 河川・水路 体温 ・小水力発電(川崎重工業) ・体温を熱源とした腕時計を発売(セイコ ーインスツル) 。 ・体温利用の腕時計を発売 (シチズン時計) ・体温と室温の温度差を利用(KELK) 廃熱 電磁波エネルギー 光 電波 ハイブリッド (複合型) その他 Tree Power (木) 浸透圧 自動車排ガス熱 ・自動車排ガスの熱を利用(東芝) ガス燃焼熱 ・可燃性ガスの燃焼エネルギーと gigatopaz を組み合わせて熱電発電自動車 試作(大阪産業大学) ・ソーラーエネルギーをハーベスト、ワイ ヤレスセンサに(TI) 微弱太陽光 ・遠方のテレビ塔からの RF 電波をエネル ギー源とし、RFID タグ(LCD 温度計/湿度 計)に(Intel) ・携帯電話アンテナや TV マストなどから 放出された無線波をハーベスト、携帯電話 に(Nokia) ・印刷部品を用いた無線給電方式、有機E L照明に(独コンソーシアム) ・携帯電話/TV 無線波とソーラーからハー ベスト、携帯電話に(Nokia) ・熱エネルギや太陽エネルギ、電磁波エネ ルギ、振動エネルギなどを回収し、無線セ ンサネットワークに(Jennic) ・植物の持つ微弱電流を利用、ワイヤレス センサに(ワシントン大) ・浸透圧利用(Energy Recovery、Statkraft) 4 (1)機械エネルギー 機械エネルギー・ハーベストでは、振動エネルギーの利用が多い。 構造物振動エネルギー利用では、オムロンが 2008 年 11 月、橋の自然振動から 10μW の電力を得る発電機を試作した。また同社は旭硝子と共同し、振動発電機システムを高速 道路に設置し、自動車側で信号受信するシステムを試作している。1,2 また、首都高速道路で荒川にかかる五色桜大橋は、自動車の振動を利用して発電したも ので、イルミーネーション点灯に使っている。3 音力発電は、JR 東京駅の改札口で発電床の実証実験、照明、エスカレータ駆動を試みて いる。乗降客が多い平日には 500 kW/秒の発電を実現、100W の電球を約 80 分間点灯でき たとされている。3 車両振動エネルギー利用では、米国ではタイヤ振動を利用した発電器の開発が進んでい る。TREAD 法の成立に伴い、2007 年 9 月以降、自動車にタイヤ空気圧モニタシステムの 設置が義務付けられた。 今後、 タイヤ空気圧センサは大きな市場になると期待されている。 4 車両のサスペンションによるショック振動を水圧に変換し、水圧の変化で発電を行う試 みがなされている。従来の技術はソレノイドの様な発電機を各ショックアブソーバーに取 り付けて発電していたが、水圧に変換して発電機に集中させることが特徴という。5 流体振動エネルギー利用では、ミシガン大学/Vortex Hydro Energy 社は、海流/川流の渦 励振の利用した発電システムの開発に注力している。(<補足>参照) 流体振動で空気流の風渦励振を利用した発電も九州大学等で行われている。6 また、車両に搭載した圧電素子により風を利用して発電し、自動車バッテリーの充電に 応用するという事例も報告されている。7 音波を利用した開発の試みが(株)音力発電で取り組まれている。同社では、高速道路 の自動車の騒音(空気振動)を利用して発電して防音壁に活用、携帯電話での話言葉を利 用して携帯電話の充電に使用している。3 1 2 3 4 5 6 7 EE Times Japan, 2008/12/17 http://techon.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20081114/161291/?SS=imgview&FD=3530154 計測と制御, Vol.48, No,7, p.579-586(2009) http://www.blwisdom.com/AdvancedPeople/02/ http://www.ecob100.com/entry/soundpower.html 週刊ダイヤモンド 2009/04/11, p.46-47 IEEJ Journal, Vol.128, No.7, p.435-438(2008) EE Times, 02/10/2009 機論, 66-650, C(2000), p.3233-3241. EE Times, 12/01/2009 5 人体の振動エネルギー利用では、2008 年 11 月、三洋電機は人体の歩行動作による振動 から 40μW の電力を得る発電機を試作し、万歩計に応用した。1 歩行のエネルギー利用で 67W の取出しが可能という報告がある。MIT:中敷に PLZT を 組み込み 8.3mW 取り出し(MIT) 、電歪ポリマーで 800mW 取り出し/ヒザに取り付け 5W 発電(SRI)などが紹介されている。4 8 人体の“心拍”振動の利用もある。心臓ペースメーカーの電源として、心房の圧力差を 利用した発電器を併用、必要とする電力の 1/3 を供給できた。今後、100%供給を目指し ているという。9 尚、1988 年に、セイコーエプソンは腕の動きで発電する「キネティック」と呼ばれる腕 時計を開発している。2,10 振動エネルギー利用では、キーボードのタイピング振動で発電、雤粒の衝撃で発電など の事例もある。4 スイッチの ON/OFF で電磁誘導により発電し、住宅照明の点灯に使うという EnOcean 社/加賀電子の事例もある。4,11 機械エネルギー利用の振動エネルギー以外では、 小規模水力や小規模風力の利用がある。 川崎重工業は、兵庫県三田市の大川瀬ダムで小規模水力発電の実証実験を行った。河川 の小さな落差、農業用水路なども利用できるという。12 <補足>渦励振 ミシガン大学/Vortex Hydro Energy 社は、海流/川流の渦励振の利用した発電システムの 開発に注力している。13 渦励振(Vortex induced vibration)について ゆっくりと移動する水の自然な動きをエネルギー源とする流体力学を応用した新しい発電 機が、ミシガン大学の研究技術者によって考案された。これを用いれば、広大な海域をエネ ルギー生産に使うことが出来、これまで大手石油会社の海底石油掘削装置にとっての悩みの 種が、再生可能エネルギーには恩恵をもたらす可能性がある。 この発電機を考案した Michael Bernitsas は、自分のアイデアを商業化するために、米 Vortex Hydro Energy 社を設立した。この構想の開発をさらに進めるための資金として、全米科学 財団(NSF)、米国海軍、米エネルギー省などが共同で、およそ 200 万ドルを Vortex 社に出 資している。 8 http://www.itmedia.co.jp/news/0011/10/shoes.html EE Times, 11/11/2008 10 http://www.seiko-watch.co.jp/technology/quarts/kinetic/index.html 11 日経産業新聞 2009/6/8 12 読売新聞 2009/8/3 13 WIRED VISION, 2008/10/31(http://wiredvision.jp/news/200810/2008103122.html), DAVIES Sean, Engineering & Technology, Vol.4, No.14, Page.54-56(2009) 9 6 Bernitsas は、渦によって生じた力学的エネルギーを捕捉するエネルギー捕獲機の試作装置 “ Vortex Induced Vibrations Aquatic Clean Energy(VIVACE) ”を開発した。 海流によって生じた渦が、バネで水中につり下げられた直径 5〜7 センチメートルのシリン ダー群を上下に動かす。この力学的エネルギーを、回転式あるいはリニア式の発電機を通じ て電力に変換する。 将来的には、50 キロワットの発電能力を持つモジュール式装置を作成したいと Bernitsas は考えている。 より大規模な応用例として、この装置をさらに集積し、1 ギガワット級の電力を生む発電所 にすることも可能とみられる。 エネルギーの専門家たちは、海流の運動について、最大で米国のエネルギー需要の 10%を 供給できる、未開発の巨大なクリーンエネルギー源だと考えている。 Vortex Hydro Energy 社は、渦励振の原理を利用したシステムを開発し、デトロイト川の水 深 13.5m に設置し 6 カ月間の実地試験を実施する。直径 25cm 長さ 2m の円柱 6-8 本で構 成する。試作システム自身の価格は約 25000 ドルで設置工事費と試験経費を含め総額は約 100 万ドルになる。自然界の流れは大部分が 1 ノット以下だからその有効なエネルギー採取 の方法として期待できるという。 7 (2)熱エネルギー 熱エネルギー利用は、人体の体温利用と廃熱利用が主である。 セイコーとセイコーインスツルメンツ(現セイコーインスツル)は、1998 年に体温を熱 源とした腕時計「セイコーサーミック」を発売した。14,15 また、シチズン時計は、同じく体温利用の腕時計「エコ・ドライブ サーモ」を 1999 年 に発売している。14,16 KELK(旧小松エレクトロニクス)も、体温と室温の温度差利用に取り組んでいる。14 一方、廃熱利用では、東芝は自動車排ガスの熱の利用を進めている。14,17 また、大阪産業大学は、可燃性ガスの燃焼エネルギーと gigatopaz を組み合わせた 1 人 乗りの自動車「熱電発電ビークル」 (TEGV)を開発している。出力は 150W である。14,18 熱エネルギー利用のその他では、バージニア大は、焦電効果(温度の変化に応じて自発 分極をもつセラミック(チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)など)の表面に帯電する電荷が増減 する現象)を利用して、自然界の環境温度の揺らぎを利用、発電している。19 14 15 16 17 18 19 EE Times Japan, 2009/03/18 http://udedokei-web.hp.infoseek.co.jp/japan0179.htm http://citizen.jp/cs/tec-joho/yasasii/netsu/netsu.htm http://kagakukan.toshiba.co.jp/06energy/newtech101.html, 102html http://www.osaka-sandai.ac.jp/document/080512.pdf http://www.leang.com/academics/pubs/XieJ_2008.pdf 8 (3)電磁波エネルギー 電磁波エネルギー利用は、光エネルギー利用と電波エネルギー利用に分けられる。 光エネルギー(微弱太陽光)利用では、TI 社は、ソーラーエネルギーをハーベストし、 ワイヤレスセンサに応用している。20,21 電波エネルギー利用では、Intel 社は、4.1km 遠方のテレビ塔からの RF 電波をエネルギ ー源として、LCD 温度計/湿度計を駆動させている。RFID+TV の組み合わせを念頭におき、 TV 電波を電源として、RFID タグにセンサー情報のログを貯め、LCD 温度計/湿度計を駆 動させるという。22,23 Nokia 社は、 携帯電話アンテナや TV マストなどから放出された無線波をハーベストし、 携帯電話の充電に使用している。24 20 21 22 23 24 EE Times Europe, 01/19/2009 http://focus.ti.com/lit/ml/sprt506/sprt506.pdf EE Times Europe, 01/26/2009 http://eetimes.jp/article/22747 EE Times Europe 06/11/2009 9 (4)ハイブリッド(複合型) 機械エネルギー、熱エネルギーや電磁波エネルギーを複合してハーベストする研究開発 が、最近、活発になっている。 Nokia 社は、携帯電話/TV 無線波とソーラーからハーベスティングし、携帯電話に応用 している。 英 Jennic 社は、各種エネルギ・ハーベスティング向けシステムを開発している。米 Powercast 社と共同してエネルギ・ハーベスティング装置を開発し、熱エネルギーや太陽 エネルギー、電磁波エネルギー、振動エネルギーなどを回収した「ZigBee PRO」や 「6LoWPAN」などの「IEEE 802.15.4」規格に準拠した無線センサー・ネットワークを駆 動している。25 (5)その他 米 Washington 大学は、 “Tree(木)Power”植物の持つ微弱エネルギーを利用し、ワイ ヤレスセンサ・ネットワークを駆動させている。26,27 Energy Recovery 社は、海水の浸透圧を利用して発電している。28,29 25 26 27 28 29 EE Times, 2009/11/16 EE Times 09/11/2009 http://www.uwnews.org/article.asp?articleID=51869 EE Times 11/30/2009 http://nextgenlog.blogspot.com/2009/11/energy-osmotic-power-generators-harvest.html 10 (参考)エネルギー密度 様々な微弱分散エネルギーのエネルギー密度を、表 2.1-2 に示す。 いずれも、太陽光(屋外の直尃日光)に比べると、ケタ外れに小さいエネルギー密度で ある。しかし、デジタルデバイスの急速な発展により、mW、μW でも利用できるように なってきた。30 表 2.1-2 様々な微弱分散エネルギーのエネルギー密度 エネルギー密度 エネルギー源 機械エネルギー (単位) 機械の振動 機械の動き、振動数 kHz 当り 0.8 mW/cm3 人体の振動 人間の動き、振動数 Hz 当り 0.004 mW/cm3 流体の振動 空気流、30 L/min 1 mW/cm 温度差 5℃ 0.06 mW/cm2 熱エネルギー 電磁波エネルギー 電波 電波源が近くにない場合 <0.001 mW/cm2 電波 専用電波源がある場合 <1 mW/cm 光 室内 (参考)太陽光(屋外の直尃日光) 30 2 0.1 100 2 mW/cm2 mW/cm2 電子情報通信学会誌, Vol.92, No.8, p.695-699(2009) 11 (参考)エネルギー発電量と素子/システムの消費電力 現状の希薄分散エネルギーで得られる電力と素子やシステムの消費電力比較31を、 表-2.1-3 に示す。 表 2.1-3 エネルギー発電量と素子/システムの消費電力 エネルギー発電量 熱電発電:~10μW(腕時計用) 31 応用素子やシステムの消費電力 腕時計:~10μW RFID タグ:~150μW(アクティブ型) マイクロエレクトレット振動発電:~10μW センサノード(計測~送受信) :数 100μW 低消費電力 CPU:~mW 歩行時の体重による靴底発電:数 mW 31 携帯電話:~50mW 「戦略プログラム 希薄分散エネルギー活用技術」 (科学技術振興機構) (2008) 12 2.2 変換素子技術 ハーベストエネルギー源を電気エネルギーに変えるための変換方法・素子を、表 2.2-1 に示す。 表 2.2-1 変換方法・素子 エネルギー源 変換方法・素子 振動発電 ・圧電型:ピエゾ素子 ・電磁誘導:コイル ・静電誘導:エレクトレット 機械エネルギー 熱エネルギー 熱電変換:ゼーベック素子 電磁波変換 ・レクテナ(整流変換アンテナ) ・電磁誘導型 電磁波エネルギー 光電変換:太陽電池 (1)圧電変換・振動発電 振動エネルギーを電力に変換する方法には、圧電型、電磁誘導型、静電型がある。 圧電変換・振動発電の方式の開発動向を、表 2.2-2 に示す。 表 2.2-2 圧電変換・振動発電の方式の開発動向 エネルギー源 環境振動 構造物振動、 車両振動、 発電方式・材料 2 開発先 発電電力 圧電型:圧電素子 UC Berkeley 校(米) 圧電型:圧電薄膜 IMEC(ベルギー) 40~60[μW] 電磁誘導型 Ferro Solutions(米) 1~10[mW] 東京大、オムロン 10[μW] 三洋電機 40[μW] EnOcean 社(独) 200[μW] 長岡高専 300[μW] MIT(米) 1~8[mW] 静電ポリマー SRI International(米) 800[mW] 圧電床 ㈱音力発電 0.3~1[W] 機械式回転 MIT(米) 60~250[mW] Pittsburgh 大(米) 250~700[mW] NTT 環境エネルギー研究所 1.2~2.5[W] Georgia 工科大(米) ~50[mW] 流体振動等 静電型:エレクトレット膜 人体振動 圧電素子 水圧、水流 圧電ワイヤ (カリフォルニア大バークレー校) 200[μW] 13 (1.1)圧電型 2 圧電型は、 材料が振動によって伸縮変形する際に発生する電位差を電力として回収する。 発電量が尐なく、材料の変形により务化するのが欠点だが、構造が容易で小型化が可能で ある。 UC Berkley(カリフォルニア大学バークレー校)の S.Roundy らは、圧電セラミック材 を用いた片持ち梁に機械的な振動エネルギーを不えて 200μW 以上の電力を得ている。 ベルギーIMEC(Interuniversity Microelectronics Center)では、微細加工技術(MEMS) をもとに作成した片持ち梁のデバイス上に圧電薄膜を形成し、外部からの振動で 60μW 程 度の発電をしている。 (1.2)電磁誘導型 2 電磁誘導型は、コイルと磁石を組み合わせた素子を利用することで、外部から振動が加 わると永久磁石とコイルは相対運動し、コイルに交差する磁束が変化することによって誘 導起電力が生じる仕組みである。コイルの巻き数など構造的な要素が発生電力に大きく左 右する欠点があるが、比較的電力を取り出しやすい。 開発動向では、1988 年にセイコーエプソンは腕の動きで発電する「キネティック」と呼 ばれる腕時計を開発した。 近年では、英 Perpetuum や米 Ferro Solutions などで携帯機器や工業用無線機器向けの 振動発電機を市販している。 研究機関では、東京大の保阪らはコマの歳差運動を利用する回転式電磁誘導発電機を紹 介している。高速回転するロータに傾斜振動が加わるとロータは歳差運動を起こし、傾斜 方向と直角方向に回転運動を始める。その回転力により自転速度を増速するものである。 MEMS デバイス分野(MEMS 技術)でも研究開発が進められており、香港中華大学では 微細加工技術を用い小型でありながら 0.8mW 程度の電力を起こし、さらにこの電力を使 って無線機器を駆動している。 (1.3)静電誘導型 2 静電型の発電機は、2つの平面状の基板がお互いに向かい合った構造をとる。片方の基 板には電荷を半永久的に帯びた「エレクトレット」と呼ばれる材料をくし型状に配置し、 もう片方の基板には、やはりくし型の対向電極を置く。振動によって、エレクトレットと 対向電極の位置関係がずれることで起電力が生じる仕組みである。 最近の日本国内の開発動向としては、三洋電機や東京大と共同開発を行ったオムロンな どは各社が想定する応用によって人体の歩行動作による振動もしくは、自然振動などを利 用する用途開発を行っている。応用として、オムロンは工場の機械、自動車、橋など自然 界に存在する数十 Hz 以下の低周波を対象とした振動発電機を開発した。さらに旭硝子や ネクスコ東日本エンジニアリングと共同で、無線センサネットワーク向けの電源としての 応用を検討している。 14 (1.4)人体振動利用 2 人体の運動からの発電としては、腕時計用の振動発電機がすでに実用化されているが、 最も大きな出力が期待できる歩行の際のエネルギーや瞬間的に打つ力もしくは押す力の利 用がある。 研究開発の例として、MIT では中敷きに圧電セラミクスを組み込んだ靴により数 mW の 発電を起こし、SRI では電歪ポリマーを用いて数百 mW の出力を得ている。 最近の無線機器への応用研究としては、NTT 環境エネルギー研究所は靴の中を液体が移 行する際に小型タービンを回して発電する仕組みで平均 1W を超え携帯電話機の通話時に 十分な電力供給ができる能力を備えている発電機を開発した。 またパックやひざに取り付けることによって振動で数Wを発電する装置の開発も行われ ている。 産業界では人体からのエネルギーを電力に変換する環境発電機として、独シーメンスか ら設立された EnOcean では室内オートメーション向けのエネルギーハーベストデバイス を開発した。壁の電灯スイッチと同じ形状のデバイス内部に電磁誘導発電機を組み込み、 スイッチ動作によって得られる電力で無線回路を動作させて照明などをワイヤレスで点灯 させる。建築時にあらかじめ設置する電気配線を減らし、スイッチを任意の場所に設置で きる利点がある。 その他の研究事例としては、長岡高専は、圧電素子を用いた衝撃振動による磁気発電の ドアアラームなどを開発した。人がドアを開くときの衝撃振動に変換し蓄電した後、無線 装置を駆動し、ドアの開いたことを感知通報する防犯用自家発電型無線警報装置である。 また、米の Georgia 工科大は、圧電材料である酸化亜鉛のナノワイヤを高密度に作成す る技術を開発し、大型の酸化亜鉛ワイヤ数本から 10mW 程度の発電を起こした。 15 (2)熱電変換 熱電発電は、 温度差によって起電力を生じるゼーベック効果を利用した発電方式である。 熱電発電方式では、性能指数 Z(Z=S2p/k, S はゼーベック係数 V/K、pは導電率、kは 熱伝導率)の高い材料の開発が最も重要な課題となっている。 発電量を決めるのは性能指数と温度差であり、人間活動に起因するような温度差、例え ば体温と外気温の差では十分な発電量が取れないため、材料の性能指数が重要となる。 性能指数 Z あるいは ZT が高くなるほど、発電効率が高くなる。ZT が高い材料、すなわ ち導電率pが大きく熱伝導度 k が小さい材料は多くなく(金属ではpとkが比例する)、長 らく ZT=1程度が限界であった。しかし、2000 年前後から、ナノ構造化した材料により、 大幅な ZT の向上が報告されている。高温域ではあるが ZT=4.1 という材料も報告されてい る。30 開発動向では、腕時計の中に微小な熱電半導体材料を多数配列して外気温との温度差を 利用して発電する腕時計がセイコーインスツルメントとシチズンから製品化された。これ らの実用化がきっかけとなり、熱電変換素子がエネルギーハーベストデバイスとして注目 され、さまざまな研究開発が進んでいる。 また、センサネットワーク用の自立電源としてのデバイス試作が行われている。ベルギ ーIMEC では、無線センサネットワークのノード駆動電源として、体温を利用して熱発電 を行う熱電変換デバイスの可能性を検討している。腕時計のような手首に巻きつけて固定 するベルトを用い、無線送信機を備えた熱発電デバイスをマウントしたセンサノードとし ての性能を確認した。特に動脈付近の体温熱が有効に利用されて日中で 250μW程度の発 電を行うことが示された。NTT は、シリコンウェハー上に熱電変換も含めた微弱発電デ バイスを集積し、さまざまな環境発電を可能にした素子を試作している。2 また、自然界の環境温度の揺らぎを利用して焦電効果により発電している例もある。熱 源と環境とで 10℃の温度差があれば、2.4mW の発電が可能である。 業界で熱電変換デバイスを小型化し市販している開発先を、表 2.2-3 に示す。 表 2.2-3 小型熱電素子の開発動向 2 開発先 温度差発電 製品名 温度差 電力量 HI-Z Technology 社(米) Hz-2、HZ-14、HZ-20 200℃ 2~20[W] 東芝 Giga Topaz 480℃ 15[W] フェローテック TMG-127 125℃ 4.5[W] Micropelt 社(独) MPG-D901 40℃ 87[mW] シチズン Eco-Drive Themo 1℃ 14[μW] セイコーインツルメント Body Heat powered Watch 1℃ 10[μW] 16 (3)電磁波変換 電磁波を用いた電力伝送方式として、電磁波受信アンテナと整流回路を組み合わせたレ クテナ(rectenna=rectifying antenna)方式、電磁誘導方式、電場または磁場の共鳴方式が 検討されている。31 RF(高周波)の場合、電磁波エネルギーから電気エネルギーへの変換はアンテナを用い たエネルギーハーベスト後の周波数変換のみであり、通常は高効率変換のためにダイオー ドを用いて直流変換する事がほとんどである。20 このような技術を「無線電力伝送技術」と呼び、1960 年代以降様々な研究が行われてき た。無線電力伝送は、様々な得失があり、実用化に再して有線送電、バッテリー、太陽電 池等との競争で効率やコスト等で決定的な優位性が見出せなかったためである。しかし、 21 世紀に入り、RFID という情報と電力を同時に伝送する商用システムが実用化し始め、 微弱なエネルギー密度でも情報と同時伝送で有用性がある無線電力伝送システムが注目さ れている。 太陽光を電力に変換する太陽電池は広く普及しているが、希薄分散エネルギー活用とい う観点からは、暗所でも使える二次電池機能や、室内光のような微弱な光でも高効率に電 力に変換できる技術が必要である。シリコン太陽電池は、光量が小さくなると指数関数的 に変換効率が低下するという問題があり、また現状では低コスト化の課題が残されている。 色素増感太陽電池は、微弱光でも効率が落ちないという特長があり、また二次電池機能も 可能であることから、希薄分散エネルギー活用技術の一つとして有望である。21 17 2.3 特許出願動向 (1)日米欧の特許出願動向 エネルギー・ハーベスティング技術分野は多岐にわたり、IPC(国際分類)による妥当 な抽出は困難である。従って、ここでは、特許全文フリーワードによる検索を採用した。 エネルギー・ハーベスティング技術に関する特許特許公報(日本公開、US 公開、EP 公 開、WO 公開)の 2005 年以降の件数推移を、表 2.3-1 及び 図 2.3-1 に示す。 海外出願特許が高水準となっており、当該分野での研究開発は欧米優位の状況にある。 表 2.3-1 エネルギー・ハーベスティング技術に関する特許公報動向(日本・海外) (対象:日本公開、US 公開、EP 公開、WO 公開) 公開年 2005 年 2006 年 2007 年 2008 年 2005-2009 年 2009 年 計 日本公開 6 7 5 13 9 40 US公開 62 89 182 306 259 898 EP公開 7 21 27 65 70 190 WO公開 22 46 107 152 140 467 特許公報動向(日本・海外) 300 250 200 日本公開 件 数150 US公開 100 EP公開 50 WO公開 0 2005年 2006年 2007年 公開年 2008年 2009年 図 2.3-1 エネルギー・ハーベスティング技術に関する特許公報動向(日本・海外) (対象:日本公開、US 公開、EP 公開、WO 公開) 18 (2)国内特許出願動向 エネルギー・ハーベスティング技術に関する日本特許公報(公開・公表・再公表)の 2005 年以降の総件数は、134 件である。 (公開 40 件、公表 92 件、再公表 2 件) 上位出願人と件数を、表 2.3-2 に示す。クアルコム(米国)からの出願が最も多く、次 いで、ゼネラル・エレクトリック(米国)、メディミューン(米国)、パナソニックが続い ている。 表 2.3-2 エネルギー・ハーベスティング技術に関する日本特許公報(公開・公表・再公表) の上位出願人 出願人 No. 件数 1 クアルコム(米) 25 2 ゼネラル・エレクトリック(米) 8 3 メディミューン(米) 7 4 パナソニック 4 <調査方法> (国内特許公報) ・公報種別:日本公開・公表・再公表特許公報 ・期間(公報発行日) :2005 年 1 月 1 日~2009 年 11 月 25 日。 ・検索式 FW(全文)=(環境発電+エネルギーハーベスト+エネルギー・ハーベスト +エネルギーハーベスティング+エネルギー・ハーベスティング +エネルギー*ハーベスト+エネルギー*ハーベスティング) ・件数 134 件(公開:40 件、公表 92 件、再公表 2 件) (海外特許公報) ・公報種別及び期間:US 公開 2005 年 1 月 1 日~2009 年 11 月 19 日 EP 公開 2005 年 1 月 1 日~2009 年 11 月 25 日 WO 公開 2005 年 1 月 1 日~2009 年 11 月 19 日 ・検索式 FW(全文)=“energy harvest*” ・件数 US 公開 898 件 EP 公開 190 件 WO 公開 467 件 19 2.4 国内外プロジェクト等の状況 エネルギーハーベスティングという言葉が急増したのは 2005 年以降である。その背景 にはデジタルデバイスの低消費電力化とともに、ヨーロッパにおける様々な研究プロジェ クトの存在があった。30 (1)海外の状況 ヨーロッパ・米国とも、エネルギーハーベスティングの取り組みは、応用として大半が センサネットワークに焦点が当てられている。 (1.1)ヨーロッパ エネルギーハーベスティングに関する取り組みが活発化している。 例えば、フライブルグ大学(独)の IMTEK(Institute for Microsystem Technology)では、 Micro Energy Harvesting プロジェクトが GRF(German Research Foundation)と民間 (SIEMENS、Enocean、SICK、EH、Weidmuller 社等)からの支援をうけてスタートして いる。この研究課題は DC-DC Converter、AC-DC Converter、Electromagnetic Energy Harvester、Multiwire Coils、Microelectronic Conversion Circuits、Variable Supply、Custom Microcontrollers が掲げられており、エネルギー変換技術分野や、エネルギー蓄積技術、エ ネルギー送受信技術、システム制御技術、低消費電力回路技術、パッケージング技術等の 共通技術分野の研究者による分野融合的な取り組みが特徴である。フライブルグ市は、基 幹系統電力へ再生可能エネルギーを活用する取り組みで国際的にも有名であり、それをフ ライブルグ大学が技術面で支えている。 またフラウンホーファー研究所(独)では、小型電源に関する横断的な組織を発足させ、 2006 年からは Fraunhofer Symposium Micro Energy Technology をスタートさせている。 表 2.4-1 ヨーロッパの最近のエネルギーハーベスティングに関する主な取り組み 31 発電方式 MEMS(電磁式) エネルギー源 自然振動 研究機関 IMTEK、University of Freiburg 光電変換、燃料電池 太陽光 Fraunhofer Institute 光電変換 太陽光 Imperial College London 人体の動き Imperial College London MEMS 光電変換、熱電変換 太陽光、 太陽熱 統合化技術 MEMS(圧電変換) University of Naples Federico University of Cambridge Polytechnic University of Catalonia 自然振動 IMEC 20 (2.2)米国 エネルギーハーベスティングは、米国でもその取り組みが活発である。 この発電システムの一つである Power MEMS は、1990 年代後半に MIT で命名され、 MEMS を使った小型の発電システムをさす語として定着している。現在 MIT の Electrical Engineering and Computer Science 学部では Power MEMS の概念を広げて様々な分野で 広範な取り組みをしている。 政府レべルでは DARPA(国防高等研究計画局)が軍事用途での電源の重要性を認識し て、いくつかのプロジェクトを実施してきた。例えば MTO(Microsystems Technology Office)では気圧変動、太陽光、自然振動の3種類のエネルギー変換方式を統合化して、 プロトタイプまで作製している。DSO(Defense Sciences Office)では Micro Power Sources プログラムが進行中で、マイクロ燃料電池、自立型バッテリー及び Energy Scavenging Micro Sources と 3 次元マイクロ電池が課題となっている。 NSF(National Science Foundation;アメリカ国立科学財団)では、エネルギーハーベス ティング関連のプログラムを大学主体に約 80 件実施している。 またファンディング機関ごとに SBIR(Small Business Innovation Research)というベ ンチャー支援を積極的に行っている。 さらには、エネルギーハーベスティングフォーラムというベンチャー主体の分野融合的な 動きもある。 表 2.4-2 米国の最近のエネルギーハーベスティングに関する主な取り組み 発電機構 エネルギー源 31 研究機関 MEMS(圧電式) 自然振動 MIT MEMS(電磁式) 自然振動 University of Michigan MEMS(静電式) 自然振動 California Institute of Technology MEMS(電磁式) 自然振動 MIT 音響発電デバイス 統合化(太陽電池、振動、圧力) 航空機騒音 太陽光、自然振動、気圧変動 University of Florida University of California,Berkeley (UCB) 人工光合成 太陽光 MIT 放尃性同位体振動発電デバイス 放尃能 Cornell University MEMS(圧電式) 自然振動 Simon Fraser University 21 (2)国内状況 希薄分散エネルギー活用技術関連の取り組みは、エネルギー変換技術ごとに、個別の取 り組みが、大学を中心に行われている状況にある。 学術レベルの動きとしては、2000 年より東北大学が中心となって、機械振動を用いた発 電、小型燃焼炉を用いたマイクロガスタービン発電/熱電発電/熱光発電等の研究を中心 にした Power MEMS 国際ワークショップが開催されている。また、2008 年には日本機械 学会マイクロナノ専門会議で、日本機械学会の中での横断的な Power MEMS 関連のマイ クロエネルギー研究会が設立され、横断的動きが芽生えてきている。 産学連携の動きも小規模な取り組みであり、目立つベンチャーの動きも殆どない状況で ある。 31 尚、自治体の取り組みでは、三重県は、産学官連携による電池関連産業の発展を目的に 「ユビキタス&グリーン電池研究会」を発足させる。次世代型リチウムイオン二次電池や 将来型革新二次電池など電気を「つくる(発電)」と「ためる(蓄電)」の相補的発展を目指し ている。32 32 2009/10/09,化学工業日報 22 2.5 研究機関・研究者 発表論文を中心に、エネルギーハーベストのエネルギー源および変換素子に関連する研 究者を抽出し、表 2.5-1 および表 2.5-2 に、それぞれ研究機関・研究者リストとして纏め た。 日本では、東京大学大学院の鈴木雄二准教授のグループが活発な研究を進めている。 安定化させたエレクトロレットを用いた静電誘導型の発電機を開発し、電極厚み 150μm、 エレクトレット圧み 20μm、ギャップ 40μm で、振動数 20Hz、振幅 1.2mm の振動から 0.7mW の出力を得ている。 また、東北大学大学院の江刺正喜教授のグループも Power MEMS(マイクロ発電デバイ ス)の開発、携帯電話への応用に注力している。 23 表 2.5-1 エネルギー・ハーベスト(エネルギー源)の研究機関・研究者リスト エネルギー 研究機関 所属 (学部、学科) 役職 研究者名 テーマ 機械エネルギー 構造物振動 (橋梁) Royal Melbourne Inst. Technol.(豪) AWAJA N. et al. 電磁微小発電機に使用 する薄板ばねのモデリン グとシミュレーション 機械エネルギー 構造物振動 Chinese Univ. Hong Kong(中) LIANG J. R et al. 構造減衰における圧電ハ ーベスティングと散逸 機械エネルギー 車両振動 福岡工業大 工学部/電気工学科 准教授 大山 和宏 室蘭工業大 工学部/電気電子工学科/電 気システム工学講座 准教授 川口 秀樹 永久磁石リニアパワー発 電機を使用する電気自動 車の振動により得る電気 動力 機械エネルギー 車両振動 Univ. Minnesota (米) VIJAYARAGH AVAN K. et al. バッテリーレス無線交通 センサ 機械エネルギー 車両振動 (エンジン) Univ. Maryland (米) CHOI Young-Tai et al. 自己発電磁気レオロジー ダンパ 機械エネルギー 車両振動 (ドア開閉) 名古屋大大学 院 機械的蓄積機構を利用し た小型発電デバイスの機 構設計と最適化 東北大大学院 工学研究科 教授 福田 敏男 工学研究科 教授 新井 史人 応用 研究室 URL 研究室 TEL FAX E-Mail センサ 携帯型 電子機 器や緊 急時の 電源用 24 機械エネルギー 流体振動 (渦励振) 横浜国大大学 院工学研究院 横浜国大大学 院工学府 横浜国大 システムの創生部門/システ ムのデザイン分野 システム統合工学専攻/海 洋宇宙システム工学コース 工学部 建設学科/海洋空間 のシステムデザインコース 統合的海洋教育・研究セン ター 准教授 西 佳樹 渦励振を活用する新たな 自然エネルギー獲得技 術の開発 機械エネルギー 流体振動 (渦励振) 大阪府立高専 総合工学システム学科/メカ トロニクスコース 准教授 土井 智晴 カルマン渦列による共振 現象を応用した発電実験 Flat Ring Tube の振動現 象を用いた発電の研究 機械エネルギー 流体振動 (渦励振) 長岡技術科学 大 機械系/人間環境システム 工学講座/流体工学研究室 教授 白樫 正高 渦励振発電を利用した電 力自立型河川監視装置 の開発 機械エネルギー 流体振動 (渦励振) 九州共立大 工学部/メカエレクトロニクス 学科 教授 宇野 美津夫 円柱の渦励振現象を活 用したマイクロ水力発電 の提案 河川の流れを想定した渦 励振型マイクロ水力発電 流体による振動現象を利 用したマイクロ発電 http://gakufu.e ng.ynu.ac.jp/sta ff/00000032/in dex.html 河川監 視装置 http://ntic.naga okaut.ac.jp/see ds_7edition/017. html http://www.nag aokaut.ac.jp/j/k enkyu/SOURAN /teacher/shirak ashi_masataka.h tml TEL: 0258-47-9730 ,FAX: 0258-47-9770 , Kashi@mech.n agaokaut.ac.jp http://www.kyu kyo-u.ac.jp/p_sy stem/index.php ?type=teacher& execmode=vew &cd=66 http://www3.ky ukyo-u.ac.jp/t/ k031/index.htm mitsuo@kyuky o-u.ac.jp 25 機械エネルギー 流体振動 (渦励振) 東工大大学院 理工学研究科/機械宇宙シ ステム専攻 教授 大熊 政明 振動エネルギーからの発 電システムの開発 http://www.mec h.titech.ac.jp/~d osekkei/kuma/ TEL: 03-5734-2784 mokuma@mec h.titech.ac.jp 機械エネルギー 流体振動 (渦励振) 三重大 環境エ ネルギー工学 研究センター 工学研究科/機械工学専攻 教授 (センタ ー長) 前田 太佳夫 ゲート式マイクロ水力発 電システムの開発研究 http://kyoin.mie -u.ac.jp/profile/ 1517.html maeda@mach. mie-u.ac.jp 機械エネルギー 流体振動 (渦励振) Technische Univ.(独) EBERMEYER et al. 流動媒体中の短い圧電 片持梁を用いる電気エネ ルギーの発生 機械エネルギー 流体振動 (渦励振) Universidad Politecnica de Madrid(スペイ ン) SANCHEZ-S ANZ et al. 矩形プリズム周囲の Karman 渦列により生成さ れる力に基づくエネルギ ーハーベスト・マイクロ共 振器 機械エネルギー 流体振動 (潮流) 東京海洋大 博士課 程学生 三木 基弘 バルク高温超電導体を用 いた潮流発電用高効率 発電機に関する研究 機械エネルギー 流体振動 (波力) 佐賀大 助教授 教授 教授 木上 洋一 瀬戸 俊明 金子 賢二 波力発電用 Wells タービ ンのヒステリシス特性 機械エネルギー 流体振動 (風渦励振) 長崎大 教授 吉武 裕 フラフープを使用する塔 状構造物の渦振動の抑 制と電力の発生 2 スロット発電機を利用し た水平振り子型制振発電 装置による渦励振の制振 と発電 http://www.st.n agasaki-u.ac.jp/ ken/yoshitake/i ndex.html TEL: 095-819-2589 yoshitak@nag asaki-u.ac.jp 工学部/構造工学科 センサ システ ム 26 機械エネルギー 流体振動 (風渦励振) 九大 工学研究院 教授 末岡 淳男 複数のフラフープを用い た塔状構造物の渦励振 の制振と発電 機械エネルギー 流体振動 (風渦励振) 横浜国大大学 院 工学研究院/システムの創 生部門/システムのデザイン 分野 教授 鈴木 和夫 回転翼を利用しない潮流 発電用ダクト型水車の研 究 機械エネルギー 流体振動 (気流) 名古屋大 エコトピア科学研究所 准教授 北川徹哉 高速道路走行の自動車 が発生させる気流変動 (ガスト)のエネルギー回 収 機械エネルギー 流体振動 (音響) California Inst. Technol.(米) SHERRIT Stewart 物理音響学 機械エネルギー 振動 東北大大学院 桑野 博喜 広帯域インテリジェント発 電システム 機械エネルギー 振動 Rensselaer Polytechnic Inst.(米) DWARI Suman et al. 振動を利用した低電圧環 境発電システム 機械エネルギー 振動 Yale Univ.(米) MARINKOVIC Bozidar et al. 広帯域幅振動エネルギ ーハーベスティングプラッ トフォーム 機械エネルギー 振動 Inst. National des Sci. Appliquees de Lyon (INSA-Lyon) (仏) LALLART Mickaeel et al. 環境発電方式 工学研究科/ナノメカニクス 専攻/ナノテクノロジー講座 情報ナノシステム分野 桑 野・長澤研究室 Dep. of Electrical Engineering 教授 http://www.ap.k yushu-u.ac.jp/a ppphy/research -core/comp_en g/index.htm kaz@ynu.ac.jp http://www.esi. nagoya-u.ac.jp/ staff/kankyo/tk itagawa.html t-kitagawa@e si.nagoya-u.ac .jp 27 機械エネルギー 振動 Duke Univ.(米) SCRUGGS J.T. 振動エネルギーを利用し た環境発電 機械エネルギー 振動 CSIRO Energy Technol.(AUS) WARD John K. et al. 振動エネルギー環境発 電 機械エネルギー 振動 Univ. Central Florida(UCF) (米) 機械エネルギー 人体振動 (歩行) Simon Fraser Univ.(CAN) LI Q. et al. Univ. of Pittsburgh(米) WEBER D. J. Univ. of Michigan(米) KUO A. D. 振動型エネルギーハーベ スティングシステム 生体力学的環境発電 機械エネルギー 人体振動 Tyndall National Inst., Univ. Coll. Cork(Ireland) SAHA C.r. et al. 人体の運動からのエネル ギーハーベスト用の電磁 発電機 機械エネルギー 空気圧 Aquarian Microsystems (CA) HENNING Albert K. 空気圧式エネルギーハー ベストマシン 熱エネルギー 廃熱 (エンジン) 東京農工大 秋澤淳 エンジン排熱で駆動する 高COP吸着冷凍サイク ルの実現 電磁エネルギー マイクロ波 京都大学 篠原 真毅 バッテリーレス社会に向 けたエネルギーハーベス ティング技術 生存圏研究所 人体装 着セン サ http://www.kur asc.kyoto-u.ac.j p/plasma-group /people/shino/ TEL: 0774-38-3818 FAX: 0774-31-8463 shino@rish.ky oto-u.ac.jp 28 電磁エネルギー 高周波/マイ クロ波 Univ. Colorado at Boulder(米) PAING Thurein et al. 低電力 RF エネルギーハ ーベスティング ハイブリッド (複合型) 振動 熱 INSA Lyon(仏) GUYOMAR Daniel et al. 環境振動と熱からのエネ ルギーハーベスティング その他 燃料 東北大大学院 工学研究科/ナノメカニクス 専攻 教授 准教授 江刺 正喜 田中 秀治 パワーMEMS その他 浸透圧 東京工大大学 院 理工学研究科有機・高分子 物質専攻 谷岡研究室 教授 谷岡 明彦 正浸透膜を利用した浸透 圧発電 (独)科学技術 振興機構 研究開発戦略センター 主任調 査員 伊東 義曜 希薄分散エネルギー活 用技術 その他 携帯機 器 http://www.me ms.mech.tohoku .ac.jp/esashilab /top.html http://www.op.t itech.ac.jp/lab/t anioka/ TEL: 03-5734-2426 Fax: 03-5734-2876 atanioka@o.cc .titech.ac.jp 29 表 2.5-2 エネルギー・ハーベスト(変換素子)の研究機関・研究者リスト 変換素子 研究機関 所属 (学部、学 科) 役職 研究者名 テーマ 応用 研究室 URL 研究室 TEL FAX E-Mail センサネット ワーク 輸送機器用セ ンサ ビル管理シス テム 体内埋め込み 医療デバイス 農畜産業 http://www.thtl ab.t.u-tokyo.ac.j p/users/ysuzuk i/index-j.html TEL: 03-5841-6411 Fax: 03-5802-8858 ysuzuki@thtla b.t.u-tokyo.ac. jp 圧電変換・振動 エレクトレット 東京大大学院 工学研究科 /機械工学 専攻 准教授 鈴木 雄二 環境振動発電のための マイクロエレクトリック発 電器 マイクロ環境振動発電 パワー・マイクロマシン高付加価値のエネルギ ー マイクロ環境発電デバ イスの研究 圧電変換・振動 ポリ尿素薄膜 東京工大 精密工学研 究所/極微 デバイス部 門/中村研 究室 准教授 中村 健太郎 ポリ尿素圧電薄膜の振 動を使った電力発生 http://www-ue ha.pi.titech.ac.jp /index-j.html TEL: 045-924-5090 knakamur@so nic.pi.titech.ac .jp 圧電変換・振動 エレクトレット 東大大学院 工学系研究 科 機械工 学専攻 教授 笠木 伸英 環境発電に適用する低 共振振動数マイクロエ レクトレット発電装置、 ボタン型電池に取って 代る RSIDs 用等の電源 http://www.thtl ab.t.u-tokyo.ac.j p/users/kasagi /index-j.html TEL: 03-5841-6417 FAX: 03-5800-6999 kasagi@thtlab. t.u-tokyo.ac.jp 圧電変換・振動 圧電素子 Pennsylvania State Univ.(米) LIU Yiming et al. アクティブ圧電エネルギ ーハーベスティング 一般的原理と実験検証 30 圧電変換・振動 圧電素子 Central South Univ., Hunan (中) ANG Zengtao et al. 広帯域圧電電力ハーベ スタとしての結合された 振動圧電バイモルフ梁 圧電変換・振動 圧電素子 Washington State Univ.(米) MORRIS Dylan J. et al. 可変共振周波数の伸 縮モード圧電環境発電 メカニズム 圧電変換・振動 圧電素子 Virginia Tech (米) ERTURK A. et al. 圧電環境発電機の数 学的モデリングにおけ る問題 圧電変換・振動 圧電素子 Sangmyung Univ.(韓) LEE Hyun-kyung マイクロ発電装置用の 二層構造圧電気屈曲 デバイス 圧電変換・振動 形状記憶合金 Texas A&M Univ.(米) LAGOUDAS Dimitris C. et al. 磁性形状記憶合金にお ける磁場誘起された可 逆的な相変態 センサー 圧電変換・振動 イオン液体-ポ リマー Macromolecules and Interfaces Inst.(米) Center for Intelligent Material Systems and Structures(米) DUNCAN Andrew J. et al. イオン性液体の存在下 に調製された新規イオ ン性高分子の電気機械 的性質ならびに膜安定 性 センサー 圧電変換・振動 圧電/イオン導 電性ポリマー Los Alamos National Lab. (米) FARINHOLT Kevin M. et al. 圧電ポリマーとイオン 導電性ポリマーのエネ ルギーハーベスティン グ比較 Sangmyung Univ. 通信ネットワ ーク 31 圧電変換・振動 Univ. Barcelona (ESP) BRUFAU-PENEL LA J. et al. 複素共役インピーダン スマッチングによる圧電 エネルギーハーベステ ィング改善 圧電変換・振動 City Coll. New York(米) ELVIN Niell G. 圧電発電装置解析のた めの有限要素・回路シ ミュレーション結合モデ ル Univ. Pittsburgh (米) SUN Chengliang et al. 単結晶 Pb(Mg1/3Nb2/3)O3-xP bTiO3(PMN-PT)装置を 使用した圧電エネルギ ーハーベスティング 圧電変換・振動 Clemson Univ. (米) DAQAQ Mohammed F. et al. パラメータ励振による電 力ハーベスティングの 研究 圧電変換・振動 Virginia Tech (米) ERTURK Alper et al. 無人機への適用に関す る L 型梁・質量構造から の圧電エネルギーハー ベスティングのモデリン グ 圧電変換・振動 Arizona State Univ.(米) LIAO Yabin et al. 電力ハーベスティング の構造影響とエネルギ ー変換効率 圧電変換・振動 Pennsylvania State Univ.(米) KAUFFMAN Jeffrey L. et al. 圧電エネルギーハーベ スティング装置の設計 に対する低次数モデル 圧電変換・振動 無機単結晶 32 圧電変換・振動 Arizona State Univ.(米) LIAO Yabin et al. RC 回路を有する圧電 エネルギーハーベスタ の最適パラメータとパ ワー特性 圧電変換・振動 Univ. Lyon(仏) GARBUIO Lauric et al. SSHI 非線形技法に基 づく超低しきい値整流 によるメカニカルエネル ギーハーベスタ 圧電変換・振動 Univ. Witwatersrand (ZAF) ELVIN Alex A. 圧電発電機用一般相 当回路モデル 圧電変換・振動 圧電セラミック (PZT) Virginia Tech,(米) ERTURK A.. et al. 片持ち梁型圧電振動エ ネルギーハーベスタの 機械的モデリング 圧電変換・振動 圧電セラミック 繊維複合材料 Advanced Cerametrics (NJ) CASS Richard et al. 電力電子部品へのエネ ルギーハーベスト用の 圧電セラミック繊維複合 材料 圧電変換・振動 電歪ポリマー Prince of Songkla Univ. (THA) PUTSON C. 電歪高分子複合材料 のハーベスティング性 能のキャラクタリゼーシ ョン 圧電変換・振動 NeFeB 磁石 METU(TUR) SARI Ibrahim et al. 振動数増幅変換技術に 基く低振動数の環境振 動による電磁マイクロ 出力発電装置 圧電変換・振動 エレクトレット Univ. Freiburg, (独) BARTSCH U. et al. 二次元エレクトレットに よる共振マイクロ環境 発電装置 Dep. of Physics 33 圧電変換・振動 圧電素子 Chinese Univ. Hong Kong(中) GUAN M. J. et al. 圧電環境発電システム におけるエネルギー貯 蔵装置の特性 圧電変換・振動 圧電素子 ACS Sensors Lab.(中) XU Zheng-yi et al. 振動エネルギーハーベ スト用の MEMS 利用圧 電発電器アレイ 圧電変換・振動 圧電素子 Univ. Florida (米) XU Shengwen et al. エネルギーハーベステ ィングのための低周波 パルス共振形コンバー タ 熱電変換 熱電素子 東京理科大 飯田 務 熱電変換素子 熱電変換 InSe 結晶 Samsung Advanced Inst. of Technol.(韓) RHYEE Jong-Soo et al. In4Se3-δ 結晶で高い 熱電性能を得る手段と してのパイエルスひず み 教授 佐々木実 機器のヘルスモニタリ ング用 MEMS センサに ついての考察 教授 徐 超男(XU Chao-Nan) 光電変換 豊田工大 産業技術総合 研 基礎工学部 /材料工学 科/飯田研 究室 機械システ ム分野/ マ イクロメカト ロニクス研 究室 准教授 センサ http://web.mac. com/iida_lab/ TEL:04-71241501 FAX:04-71221499 tsutomu@rs.n oda.tus.ac.jp http://ttiweb.to yota-ti.ac.jp/14 32/pub_semi_sh ow.php?s=107 info.acho@m.a ist.go.jp 生産計測技 術研究セン ター/応力 発光技術チ ーム 34 光電変換 Univ. California (米) GUILAR Nathaniel J. et al. 集積 2D 回折貯蔵用キ ャパシタンスを備えた環 境発電フォトダイオード 光電変換 太陽電池 CSIC-Univ. Politecnica de Valencia(ESP) RODRIGUEZ Isabelle et al. 光電気化学太陽電池に おける太陽エネルギー ハーベスティング 光電変換 デンドリマ Univ. East Anglia(英) ANDREWS David L. et al. デンドリマ高分子にお けるエネルギー流の隣 接行列定式化 光電変換 フラーレン Mount Sinai Hospital and Univ.(CAN) Univ. Massachusetts (米) Ontario Cancer Inst. and Univ. Toronto(CAN) YU Chi et al. 分子ミセル類似光増感 剤 FC4S の自己集合ナ ノスフェアからの一重項 酸素の生成効率 電磁波変換 スパイラルコイ ル 大阪大大学院 杉野隆 ハイブリッド 圧電変換・電磁 波変換 圧電材/永久磁 石 Virginia Tech (米) Penn State(米) スパイラルコイルを用 いた MEMS 環境発電デ バイスの検討 電磁場 Cu めっきを用い た環境発電 MEMS 用マ イクロコイルの作製プロ セス 環境発電 MEMS 用めっ き軟磁性膜の透磁率に 対する下地および磁場 の影響 マルチモーダル・エネル ギーハーベスティング システム 工学研究科 /電気電子 情報工学専 攻/杉野研 究室 教授 TADESSE Yonas, PRIYA Shashank ZHANG Shujun http://steem.ee i.eng.osaka-u.ac .jp/ 06-6879-7699 35 2.6 競合品との比較 競合品は、いわゆるボタン電池である。 しかし、環境発電の意義は系統電源から分離した小電力デバイスを長期間保守なしに使 用可能とする付加価値の高いエネルギー源を提供するところにある。 また、資源有効活用という点で貢献できる。 尚、その他の競合として、最近発表されている超小型原子力電池(核電池)について紹 介する。今後の動きを注視する必要がある。 超小型原子力電池(核電池)について 米ミズーリ大学コロンビア校の Jae Kwon 准教授のグループは、1セント硬貨程度の大きさ と厚みながら、エネルギー密度が化学電池の 100 万倍もある超小型の原子力電池(核電池) を開発した。半導体部分には固体でなく液体を使い、放尃エネルギーによるダメージを最小 限に抑えたという。原子力電池は放尃性元素が原子核崩壊する際のエネルギーを熱電変換素 子で電気に換えて利用する。化学反応を利用した通常の電池に比べエネルギー密度が格段に 高い。長寿命なことから以前は人工衛星や心臓ペースメーカーなどにも使われていたが、安 全性を考慮し、現在では太陽電池やリチウム電池に置き換わっている。同大学の研究者はこ の電池が安全で、微小電気機械システム(MEMS)などに幅広く使えるとしている。33,,34 また、米国の Widetronix 社は、25 年間使える超小型の原子力電池を開発した。エネルギ ー・ハーベスティング(環境発電)とは違って、一次電池の一種であるが、同じような用途 への活用が想定されている。軍事用、体内埋め込み用、各種センサーネットやアクティブ RFID の電源への活用が考えられている。35 33 34 35 日刊工業新聞 2009/10/12 http://news.cnet.com/8301-17938_105-10372233-1.html http://wirelessbroadband.seesaa.net/article/135531263.html 36 2.7 現在の問題点と研究開発課題 エネルギーハーベスティングでは、微弱エネルギーゆえに高効率でエネルギーを変換す る必要がある。現在の最大の問題は、その変換効率である。 変換効率の向上が求められている。 従って、最大の研究開発課題はエネルギー変換効率の向上であるが、最近、独立行政法 人 科学技術振興機構 研究開発センターから、下記の具体的研究開発課題が提唱されてい る。31 (1)各エネルギー源別の研究開発課題 ・機械エネルギー MEMS を用いた振動発電の一つであるマイクロエレクトレット発電では、エレクトレットの 電荷密度を如何に上げるかが効率向上に直結する。そのため新しいエレクトレット膜材料の 研究開発が必要である。 - 環境振動発電用エレクトレット膜新材料の開発(分子設計、計算科学) ・熱エネルギー 近年、熱電変換素子を微細化すると、薄膜→量子細線→量子ドットの順に、エネルギー変換 効率が大きくなることが理論的に明らかになってきた。しかしこれらの素子作製プロセスが まだ丌十分なため、まだ十分な実証はなされていない。高効率実現のための、素子作製プロ セス、計算科学を用いた新材料の設計や新構造の研究開発が必要である。また希尐元素に代 わる材料の創出も課題である。従って以下のような重要な研究開発課題が挙げられる。 - 熱電変換性能指数の高い新材料の研究開発 - 希尐資源を使わない熱電変換用新材料の研究開発 ・電磁波エネルギー - 弱電用整流回路の開発(低入力整流に適したダイオードの開発) - アンテナの実効面積拡大のための設計技術 尚、室内照明光は電磁波と同様に人工的な希薄分散エネルギーと捉えられ、以下のような課 題がある。 - 壁紙状の発電シートの研究開発 - 塗料による大面積発電素子の研究開発 37 (2)各変換素子別の研究開発課題 ・圧電変換・振動発電 材料の観点からは、表面電荷密度を向上できる新しい材料開発が課題である。また電荷トラ ップメカニズムの解明、分子設計、計算科学等も必要となる。さらに、可動デバイスである ことから MEMS デバイスに共通の疲労特性の解析も必要である。エレクトレット発電の出力 電圧は 100Vを超える高い電圧のため、電子回路での、高効率減圧回路の開発も課題である。 - 新材料の開発(計算科学) - 設計、加工技術の開発 - 電子回路の研究開発 (参考)振動発電としては圧電変換(ピエゾ素子)やコイルと永久磁石を使った電磁誘導 によるものが多い。ピエゾ素子では出力電圧は比較的高いがインピーダンスも高いため、 大きな電流を取り出すことができない。一方、電磁誘導を使った振動発電ではピエゾ素子 に比べて一般に電圧が低いが、インピーダンスも低く電流は取り出しやすい。コイルの巻 き数を増やすことにより、電圧を高くすることができるがインピーダンスも増えるため、 許容寸法などと合わせて適切に設計する必要がある。2 ・熱電変換 ゼーベック係数が大きく、電気伝導率/熱伝導率の大きい材料を用いればよいことになるが、 しかし後者については、例えば金属では一般に電気伝導率が熱伝導率と比例関係にあるため、 電気伝導率が大きく熱伝導率が小さい材料を見出すことは難しい。低次元構造(量子細線、 量子ドット、ナノ粒子)を用いることで性能アップできることが示されており、計算科学に よる新材料の創生が期待される。また材料に関しては、現状で性能指数の高い材料がビスマ スやアンチモン等の希尐資源を含む材料であり、これら元素含まない、入手し易い材料の開 発も課題である。 - 熱電変換性能指数の高い新材料の開発 (低次元構造:量子細線、量子ドット、ナノ粒子、計算科学:新材料の創生) - 希尐資源を使わない新材料の開発 - 熱電変換素子での⊿T を大きくするパッケージ材料、実装技術の開発 (参考)ゼーベック素子に温度差を不えると起電力が発生する。市販されている素子 の起電力は 20℃の温度差で最大でも1V程度である。 (上面を放熱板による自然空冷と した場合での熱源と周囲空気との温度差) 。無線機を駆動するためには昇圧が丌可避で あるが、素子のインピーダンスが 14Ω程度と比較的高く、1Vの起電力では十分な電 流を流すことができない。このため、必要な電力を取り出す試みが行われている。2 38 ・電磁波エネルギー変換 電磁波受信アンテナと整流回路を組み合わせたレクテナ(rectenna=rectifying antenna)方式 を用いた電源は、変換効率が高く、軽く、小さく、薄い等の特徴をもっている。しかし、整 流用ダイオードに起因する微細入力時の変換効率が小さいことや、アンテナの実効面積低下 による変換効率の低下等の問題がある。これら問題の改善のため為に、以下の研究開発が必 要である。 - 低入力整流に適したダイオードの開発 - アンテナの実効面積拡大のための設計技術 (3)応用研究開発課題 希薄分散エネルギーは微弱だけでなく、丌安定なエネルギーであることも大きな特徴である。 そのため、得られた電気エネルギーは設置環境の影響を大きく受ける。実際の応用に際して は、これらの特徴を考慮したシステム設計が必要である。例えば、太陽電池一種類でエネル ギー変換システムを構成した場合、夜間や曇りの日は利用できない等の制約がでてくる。実 際のシステムを考えると、この制約以外にも小型、軽量、環境低負荷材料等の検討が必要で ある。これらに対応するためには、いくつか複数のエネルギー変換方式を用いて、エネルギ ー蓄積技術、エネルギー送受信技術、システム制御技術、低消費電力回路技術、パッケージ ング技術等の共通技術を組み合わせ、集積化する必要がある。 また、 希薄分散エネルギー活用技術に特有の LSI や異種材料接合等の研究開発も必要である。 -小型、軽量、環境低負荷材料を用いた SiP 化技術 -蓄電回路、昇圧・減圧回路、送受信回路、整流回路の超低消費電力化 -出力波形制御超低消費電力 LSI -異種材料接合技術 -複数エネルギー変換技術統合プロセス技術 39 3.マイクロバッテリーの研究開発動向 3.1 はじめに 光や振動、熱、電磁波等の環境に薄く広く存在するエネルギー(希薄分散エネルギー) は、極めて微弱なものがほとんどである。しかし近年これら環境エネルギーから電力を取 り出し、小型化や省電力化の進歩が著しい電子デバイスの駆動に活用する環境発電が、ユ ビキタスな社会をめざす流れとも合致して注目されている。 環境エネルギーのなかでは太陽光が最も一般的に利用され、太陽電池が小型電卓や腕時 計などに広く用いられている。しかし直尃日光下では 10-1W/cm 2 のエネルギー密度がある ものの、室内では 10-4 W/cm 2 以下に減尐する。他のエネルギー源である振動で 10-3 W/cm 2、 熱で 10-5 W/cm2、電磁波で<10-6 W/cm 2 と微弱である。しかもこれらの環境エネルギーは 変動するのが常である。 この様に微弱で変動する環境エネルギーを有効利用するには、蓄積・活用し易い電気の 形でバッテリーに蓄電するのが最も有効と考えられる。一方近年の小型電子デバイスやそ れらを組込んだ製品は、常に消費電力を減らす省電力の方向に進歩してきている。例えば 携帯電話の消費電力は数 10mW 程度で、希薄分散エネルギーを活用して得られる電力と比 較するとまだ大きい。しかし希薄分散エネルギーを活用して得られる電力を常に充電に使 用することができるようになれば、主電源である小型リチウム電池の充電や交換サイクル の延長が可能となり、これら機器の利便性が高まる。 また、現在の自動車で燃料が有効活用されているのは 30%程度で、残りは熱等として放 出されている。自動車だけでなく電車やエレベーターの制動エネルギーを、回生電力とし て蓄電し有効利用する動きも広まりつつあり、蓄電デバイスの性能 UP(小型軽量化、高 効率・高容量化)に対する取組みが盛んである。 40 蓄電デバイスは、大きく二次電池とキャパシタに分類される。 希薄分散エネルギーは微弱なので、蓄電するデバイスとしては電力の蓄電のために一定 の電圧が必要な二次電池よりも、小さな電圧から入力可能なキャパシタのほうがエネルギ ー利用率は高くなる。しかし、二次電池の方がエネルギー密度が高いので、大容量の蓄電 をする場合は二次電池が有利となる。したがって、キャパシタと二次電池の組合せもあり 得る。 表 3.1-1 二次電池とキャパシタの比較 種類 代表例 特徴 リチウム(Li)イオン二次電池 二次電池 ニッケル水素電池 ・エネルギ密度が高い 鉛電池 キャパシタ 電気二重層キャパシタ(EDLC) ・出力密度が高い リチウムイオンキャパシタ ・長寿命 ・安全性が高い また、主な二次電池の性能比較表を、表 3.1-2 に示す。 表 3.1-2 二次電池の性能比較表 電圧 エネルギー密度 出力 効率 E/$ サイクル 寿命 (年) 種類 鉛蓄電池 (V) (Wh/kg) (Wh/L) (W/kg) (%) (Wh/$) (#) 2.1 30-40 60-75 180 70%-92% 5-8 500-800 3 (自動車用) 20 (定置式) ニッケル・カドミウム 蓄電池 ニッケル・水素蓄電池 1.2 40-60 50-150 150 1.2 30-80 140-300 250-1000 3.6 160 270 3.7 130-200 300 1.15-1.6 25-35 15-25 70%-90% 1500 66% 1.37 1000 1800 99.9% 2.8-5 1200 3000+ 99.8% 2.8-5.0 リチウムイオン 二次電池 2-3 リチウムイオン ポリマー二次電池 ~0.5 レドックス・フロー 電池(バナジウム) >10000 10-20 41 二次電池の中でもリチウムイオン二次電池は放電電圧が高く、エネルギー密度も高いの で小型・軽量化が可能である。一般的なエネルギーロスも 5%/月でニッケル水素蓄電池の 20%/月より小さい。携帯電話やデジタルカメラ、ノートパソコン等の携帯・モバイル機器 に使用されていてシェアが大きい。理論エネルギー密度も大きいのでさらなる小型化も含 めて開発研究が精力的に行われている。 以下、エネルギーハーベスト関連で使用され得るリチウムイオン二次電池、リチウムポ リマー電池、固体薄膜二次電池、電気二重層キャパシタ等について説明する。 42 3.2 リチウムイオン二次電池 世界最初のリチウムイオン二次電池の市販は 1,987 年に行われ、正極にポリアニリン、 負極に Li-Al 合金を用いたコイン型が出発点であった。それに代わって 1991 年に市場に出 現したのが、現在も使用されているリチウムイオン移動型の原理に基づくリチウムイオン 二次電池である。 最近、電池に関する市場は大きく変貌しつつある。ハイブリッド自動車や電気自動車へ の搭載、太陽電池と組み合わせた家庭用電源としての使用、携帯電話やモバイル PC 等が 一般化し、これらの電源としても軽量で高出力容量、かつ安全で長寿命の電池が強く要望 されている。これらのニーズに応えるため性能の飛躍的向上が期待されているのがリチウ ムイオン二次電池である。そのため性能、価格、安全性などの条件を満たす電池材料の開 発、及びその作製プロセスの革新が求められている。 リチウムイオン二次電池は負極、正極、セパレータ、電解質で構成されている。 (1)負極材料 リチウムは数ある金属の中でも最も負の酸化還元電位値(-3.0V)を持ち、最も軽い金属 (原子量:6.94g)のため負側の電極に使うと、高容量のエネルギーの出し入れができるた めである。しかしいまだ充放電時の界面上でのリチウムの反応をコントロールできず、負 極には金属リチウムやその合金は使えていない。リチウムを挿入した炭素系材料が使われ ている。 表 3.2-1 負極候補材料の理論容量36 負極材料 金属系 Li(metallic) LiAl 炭素系 シリコン系 スズ系 その他 36 理論容量(Ah/kg) 3861 790 LiC6(グラファイト) 339~372 ソフトカーボン 330~600 ハードカーボン 300~450 Li4.4Si 2010 SiOx,SiO-C 1200 Li4.4Sn 790 Li13Cu6Sn5 358 Li7MnN4 210 Li4Ti5O12 167 現代化学, 2009 年 10 月, p.20-27(2009) 43 さらに容量アップを目指し、Li と合金化しやすいシリコン系やスズ系の検討がなされて おり、体積当りで既存の炭素系の 3~4 倍ものリチウムを蓄え、放出可能で、重量当りの 理論容量が 5 倍以上のものもある。しかし充放電時に体積が 3 倍以上に大きく変化するた め微粉化や剥離で容量の务化と界面抵抗の増加が問題である。 関連する動きとして、東芝は CEATEC JAPAN 2008 で従来品より 4 倍以上で急速充電で きる Li イオン二次電池(SCiB)を使用したノートパソコンを参考出品した。負極材料に チタン酸リチウムを使用している。充放電回数も 6000 回と従来の 500 回から大幅に増え ている。37 尚、負極にチタン酸リチウムを用いて安全性・寿命・出力を高めた Li イオン二次電池は、 米 EnerDel 社も 2,009 年 1 月から量産工場を稼動予定という。38 (2)正極材料 正極材料としては層構造内でリチウムイオンを可逆的に出し入れできるコバルト酸リチ ウムが主力であるが、過充電に弱く安全性の向上が大きなポイントである。層状構造の支 えになっているリチウムイオンが負極に移動しすぎると、コバルト酸リチウムの層状構造 が丌安定になり発熱、酸素解離、ショートして発火に至ることもある。コバルトが希尐金 属で高価なことも問題である。 表 3.2-2 正極候補材料の理論容量と出力電圧 36 正極候補材料の理論容量と出力電圧 正極候補材料 理論容量 出力電圧 (Ah/kg) (Vvs.Li/Li+) LiCoPO4 150 5.0 LiCoMn1.5O4 145 5.0 LiNi0.5Mn1.5O4 145 4.75 Li[MnFe]PO4 170 4.1 Li1+xMn2-XO4 115 4.0 LiNiO2 200 3.8 LiCoO2 165 3.8 LIFePO4 167 3.4 Poly(TTN) 235 3.8 PAN 190 3.4 Poly(TTN):ポリテトラチオナフタレン PAN:ポリアニリン 37 38 http://plusd.itmedia.co.jp/mobile/articles/0810/01/news065.html http://eco.nikkeibp.co.jp/article/news/20090514/101408/ 44 注目をあつめているのがオリビン型化合物で、環境負荷の尐ない材料としてリン酸鉄リ チウム(LiFePO4)が 300℃でも酸素が解離せず安全性が高いため、自動車など大型電池 用に注目されている。しかしエネルギー密度が低い(特に高温下)という問題を抱えている。 また高い出力電圧(4V、5V 級)を目指す開発の流れがある。高電圧を要求される自動 車用など直列に電池を並べる場合に有利である。 Poly(TNN) 等の含硫黄導電性高分子には、200~300 Ah/kg で 3.0~4.0V を示す化合物も あり、エネルギー密度の向上や分子設計の容易さで将来性ある材料である。 キノン、導電性高分子、ニトロキシド等の有機系材料にも実用化の可能性がある。 最近の動きでは、産業技術総合研究所は田中化学研究所と共同で、Li イオン 2 次電池用 の Co フリー酸化物正極材料を開発した。放電電圧が 3.5~3.7V で既存の 4.0V に近づき、 希尐金属の Co を含まず安価な Fe が全遷移金属量の 20%なので省資源化/低コスト化が 期待できるとしている。39 (3)電解質 電解液として要求される特性・物性は、 ① 広い温度範囲(-30~+80℃)で使用可能、 ② 高い伝導性、低い粘性でリチウムイオンが動きやすい、 ③ 化学的に安定で燃え難く無害である、 ④ 低価格、 ⑤ 広い電位窓を持ち充放電時の電圧で変化しない などである。 通常カーボネート系の複数の有機溶媒が混合された溶媒に、六フッ化リンのリチウムイ オン塩(LiPF6)1.0~1.2M が電解質として溶けている。 近年、第 4 級アンモニウム系及びイミダゾリウム系カチオンとイミドアニオン等からな るイオン液体の電解液も検討されている。丌揮発性で難燃性を持つため安全性が高いのが 特徴である。しかしコストが高く低温でのイオン電導度が低いといった欠点がある。 39 http://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2009/pr20090817/pr20090817.html 45 (4)リチウムイオン二次電池の課題 リチウムイオン二次電池の主な課題をまとめて、表 3.2-3 に示す。 表 3.2-3 リチウムイオン二次電池の主な課題 負極材料 正極材料 ・Li や Li 合金が使えていない ・充電に時間がかかる ・多用されている LiCoO2 の構造(層状)丌安定性とコスト高 ・開発中の LiMn2O4 の Mn 溶出 ・液漏れ対策に伴う小型軽量化の壁 液体電解質 ・電解質の分解や発火自己 ・充電電圧制御用電子回路のコスト高と要スペース化 ・リチウムイオンのデンドライト生長による短絡事敀など 全般 ・充放電サイクル寿命(回数)の限界 46 リチウムイオン二次電池のマイクロバッテリーの動向では、セイコーインスツルメンツ (SII)が、自社生産の直径 4.8~5.8mm、厚さ 1.2~1.8mm のマイクロバッテリーを紹介 している。40 ・MS リチウムイオン二次電池: 独自開発の高容量シリコン酸化物を負極、リチウム・マンガン複合酸化物を正極に採用し 類似二次電池の 20 倍の高容量。充放電サイクルや過放電特性に優れた 3V タイプ。 型式 公称電圧(V) 充電(標準)電圧(V) MS412FE 3 2.8~3.3(3.1) 公称容量(mAh) 1.0 内部インピーダンス(Ω) 100 標準充放電電流(mA) 0.010 最大放電電流(連続)(mA) 0.10 サイクル寿命(回)100%充放電 100 サイクル寿命(回)20%充放電 1000 寸法直径(mm) 4.8 寸法厚さ(mm) 1.2 質量(g) 0.07 ・TS リチウムイオン二次電池: 正極にチタン酸化物、負極に自社開発のリチウム・シリコン酸化物を使用し、大容量、広 い充電電圧、長いサイクル寿命、優れた長期信頼性を実現した 1.5V タイプ。 型式 公称電圧(V) 充電(標準)電圧(V) 公称容量(mAh) TS518FE 1.5 1.5~3.0 1.5(1.5-1.0) 2.5(1.8-1.0) 内部インピーダンス(Ω) 標準充放電電流(mA) 40 120 0.015 サイクル寿命(回)100%充放電 50 サイクル寿命(回)20%充放電 1000 寸法直径(mm) 5.8 寸法厚さ(mm) 1.8 質量(g) 0.12 http://www.natureinterface.com/j/ni04/P066-069/ 47 3.3 リチウムイオンポリマー二次電池 溶液系の電解質を使用すると短絡防止のため、厚さ 20~50 ㎛のセパレータを入れる。 また、液漏れを防ぐシールが必要となる。 そこで新しい支持塩、ゲルポリマー材料、無機系・有機系固体電解質材料およびイオン 性液体の開発が行われている。 ゲルポリマーは約 5~10 重量%のポリマー支持体に電解液を含有・保持したもので、ポ リアルキレンオキシドやポリシロキサンの架橋体、 ポリフッ化ビニリデン等の提案がある。 この系は高い電流密度下で負極表面に生成しやすいリチウムの針状結晶の樹状生長を、ポ リマー網が抑制する効果があるという。 有機系材料をベースにした固体ポリマー電解質の研究も続けられており、常温でのイオ ン電導度も 10-4 S/cm のレベルまできている。イオンの移動が可逆的かつスムーズとなる よう活物質電極との接合界面の制御もキーである。 リチウムイオンポリマー二次電池はリチウムイオン二次電池の一種であり、狭義のポリ マー電池は、電解質にポリマーを使用したものである。広義のポリマー電池には、電解質 以外にも負極、正極の活物質に導電性高分子などを用いたものも含まれる。 ポリマー固体電解質(SPE)を用いたリチウムイオン電池、すなわち全固体リチウムイ オンポリマー電池(LIPB)は、液系リチウムイオン電池の進化系として期待され、90 年 代に産業界、大学で盛んに研究がなされたが実用化に至らなかった。主な問題点は ① SPE の電位窓が 3.6V 付近のため LiCoO2 の 4V 正極では使用できない、② 炭素系負極と SPE の相性が悪く特に丌可逆容量が大きい、ということであった。電力中研の小林らは、 耐酸化性に優れた無機系の固体電解質(SIE)を正極材料と SPE との間に介在させた「無 機・高分子コンポジット電解質」として、Li3PO4 や Al2O3 とエーテル系ポリマーとの可能 性を検討している 。 48 3.4 固体薄膜二次電池 岩手大学の馬場教授(工学研究科 フロンティア材料機能工学専攻)は、次世代電池とし て固体薄膜二次電池を発表している。基板上に電極物質、V2O5、Li3PO4、LiMnO4、電極物 質を順次スパッタリングで積層したもので、従来のバッテリーと比較して以下の特徴をあ げている。 ① 全固体型 → 液漏れや爆発などの問題がない ② 安全性・耐熱性 ← ③ 超薄型・軽量 → 非リチウム金属、高耐熱材料を使用 基板を除いた厚さが全体で数㎛ ポリマー電池(厚さ数百㎛ ))と比べてもより薄型軽量 ④ 折り曲げ可能 ← ⑤ 高再現性・高信頼性 極薄型基板や可撓性基板の使用 ← スパッタ製造プロセス ⑥ 分散型・超分散型電源 → モバイル機器・マイクロデバイス ジオマテック社は、岩手大学との共同開発品である薄膜(超薄型・全固体)二次電池を 紹介している。保持する基板が必要だが、薄膜二次電池そのもの厚さは数μm、120℃まで の耐熱安定性を実現、10,000 回以上の充放電のサイクル安定性を実現している。全て固体 なので液漏れや破裂の危険性がない。プラスチックやフィルムなど可撓性基板を使えば曲 げられる二次電池になる。用途としては、太陽電池との組合せでメンテナンスフリーバッ テリー、埋め込み基板への組み込み電源、高温環境用電源、可撓性基板を用いたフレキシ ブルディスプレイ用電源などが挙げられている。41 岩手大学はまた、馬場教授(工学研究科フロンティア材料機能工学専攻)の研究シーズ データとして、光充電薄膜二次電池を紹介している。ガラス基板上の薄膜シリコン太陽電 池の上に有効動作面積 2.8cm 2 の固体薄膜二次電池を積層した複合型高機能薄膜電池であ る。ユニットセルを 2 枚直列に積層した 6V 級の高電圧薄膜二次電池も実現している。非 接触・能動型 IC カード及び RF-IC タグ搭載用超薄型電池の製品化を目指している。42 アルバックとアルバックマテリアルは、厚さ 50μm の全固体薄膜リチウムイオン二次電 池を一貫量産可能な成膜装置群を開発した。2008 年 12 月 3~5 日に、幕張メッセで開催 された「セミコン・ジャパン 2008」では、同装置を用いて製造した韓国 Nuricell 社の試作 品が展示された。薄膜であるため、曲げにも強い。 IC カードへの内蔵用途を中心に、RFID タグとの一体化、エネルギ・ハーベスティング技術や太陽光発電と組み合わせての利用を 想定している。さらに、薄膜堆積技術を用いて製造するため、半導体の製造プロセスと組 み合わせやすく、電池を内蔵した MEMS デバイスを製造することも可能と謳っている。43 41 42 43 http://www.geomatec.co.jp/product/develop/battery.html http://www.ccrd.iwate-u.ac.jp/liaison/theme/79.pdf EE Times Japan, 2009/01/21 49 韓国 Nuricell 社が試作した薄膜 Li イオン電池内蔵の IC カードの電池の大きさは 20mm ×20mm×50μm、容量は 0.5m~1mAh(起電力 3.0~4.1V、出力電流 15mA)、動作温度 は-20 ~120℃。1 万回以上の充放電が可能である。開発した電池は、マイカ基材の上に 電極活物質層と電極集電層、固体電解質層を積層し、全体を封止した構造を採る。固体電 解質は LiPON、封止膜はポリ尿素から成っている。5 段階のスパッタ工程後に 2 段階の工 程がさらに必要である。スパッタ工程として(1)基材上に厚さ 100nm の Pt(白金)と同 60nm の Ti(チタン)から成る正極集電層を形成する、 (2)厚さ 2μm の LiCoO2(コバル ト酸リチウム)正極を形成する、 (3)正極を結晶化させるため大気圧の Ar(アルゴン)雰 囲気中で 500~600℃のアニーリング(RTA:Rapid Thermal Annealing)を施す、 (4)Li3PO4 (リン酸リチウム)を N2(窒素)雰囲気中でスパッタリングすることで厚さ 1.0μm の LiPON(リン酸リチウムオキシナイトライド)固体電解質層を形成する、 (5)Ni(ニッケ ル)または Cu(銅)からなる厚さ 250n~300nm の負極集電層を形成する、次いで(6) Li 負極を蒸着し、 (7)厚さ 2.5μm のポリ尿素封止膜を形成している。開発が難しかった 部分は、 (2)の正極と(4)の固体電解質層、 (7)の封止層の形成という。LiCoO2 正極は 膜が厚いため、高速に成膜しないと単位時間当たりの製造枚数が尐なくなる。成膜速度は 他社の 1.5μm/h に対し、5.4μm/h へと 3 倍以上高速化したという。固体電解質層では、 電解質としての性能を損なわないようにするため、非晶質膜として形成しなければならな いことに加え、プラズマによる損傷を低くすることが必要だった。同電池は水蒸気によっ て务化するため、大気中で 3 年以上、水蒸気の透過を防ぐことが可能な封止膜を設けた。 透過量は 0.1mg/m 2/日である。 一方、スイス STMicroelectronics(ST)は、二次電池の開発メーカーである米 Front Edge Technology(FET)とライセンス契約を締結した。この契約によって、ST 社は、FET 社 の固体薄膜リチウムイオン二次電池技術「NanoEnergy」のライセンスを取得した。FET 社が開発した固体薄膜リチウムイオン二次電池は、Oak Ridge National Laboratories が開 発したセラミック電解質 LiPON を使用し、2 分間で 70%まで充電できるとしている。100% 放電で 1000 回以上のサイクル寿命を謳っている。44 米 Infinite Power Solutions(IPS)は、厚さ 0.17mm の薄膜リチウムポリマー電池 “THINERGY MEC (micro-energy cell)”の市販を開始した。45 使用温度範囲は -40ºC から+85ºC、自己放電が尐なく、低抵抗でハイパワーと謳ってい る。 Device Voltage MEC125 4.1V Capacity 0.11mAh 0.2mAh Current Size(mm) 7.5mA 12.7 x 12.7 x 0.17 15mA 25.4 x 12.7 x 0.17 0.2mAh MEC120 4.1V 0.3mAh 0.4mAh 44 45 http://www.frontedgetechnology.com/gen.htm http://www.infinitepowersolutions.com/product 50 パッケージの厚さが 0.17mm と薄くフレキシブルであるため、他社製品では設置が丌可 能な場所、例えばプリント基板などの内部に埋め込んだり、上に積み重ねることが可能で ある。二次電池としての性能は、高いエネルギ密度のほか、電流が数百 nA と尐ない場合 でも充電が可能であること、充電状態に依存するものの、数秒から数分と短い時間で高速 充電が可能であることが特長である。他社の二次電池に比べ、より長いサイクル寿命を達 成し、電荷のもれは年間 1%未満と極めて低い。46 Infinite Power Solutions は、ENERGY HARVESTING & STORAGE USA 2009 において、 エネルギーハーベストに最適で 1μW から 150mW の 10 年間貯蔵が可能と発表している。 また、米国 Cymbet 社は、2009 年 3 月 30 日、太陽電池などによるハーベスティングの ための電源管理デバイス EnerChip EH モジュールを発表した。 太陽電池と組み合わせて、 室内のワイヤレスセンサーネットワークの電源として利用できるとしている。 EnerChip EH CBC5300 は、業界標準の 24-pin DIP パッケージで、同社の固体薄膜バッテ リーEnerChip CBC050 を 2 個搭載する。多種のエネルギー・ハーベスティング変換器か ら 0.25V~4V の動作電圧を受け入れ、3.6V、100μAh のエネルギーを供給する。47 Parameter Condition Min Typical Max Units Boost Converter Off - 800 - nA Battery Charged 3.5 3.55 3.6 V Operating 0.25 - 4 V VBAT Charging Voltage 25°C - 4.06 - V Self-Discharge (non-recoverable average) 25°C - 2.5 - % per year - 0 25 70 °C 10% depth-of-discharge 5000 - - - 50% depth-of discharge 1000 - - - 10% depth-of-discharge 2500 - - - 50% depth-of discharge 500 - - - From 50% state-of-charge - 10 - minutes From deep discharge - 50 - minutes 16 μA discharge; 25°C - 100 - μAh Parasitic Load Current VOUT , 2μA Load VIN Operating Temperature Recharge Cycles 25°C (to 80% of rated capacity; 4.1V charge voltage) 40°C Recharge Time (to 80% of rated capacity) Capacity 46 47 EE Times Japan, 2009/07/01 http://dkc1.digikey.com/jp/ja/ph/cymbet/cbc5300.html 51 3.5 電気二重層キャパシタ 電気二重層キャパシタは外部から電圧が加わると、電解質中の陽イオンと陰イオンが正 負二つの電極の表面で分子一層分の厚みの狭い領域で電気二重層を形成して電荷が蓄積さ れる。蓄積可能な電荷量は外部からの電流量と電解質中のイオン量、イオンを吸着するこ とで電荷を蓄える電極の表面積で決まる。表面積を大きくするため賦活処理された活性炭 を電極とするのが一般的である。 電気二重層キャパシタの特徴は ①内部抵抗が低く大電流を短時間で充放電できる、②充 放電は物理変化なので务化が尐なく製品寿命が長い、③化学反応ではないので充放電の電 圧は一定ではなく 0 V から 2 ないし 2.5V の範囲で直線的に変化する、ことである。 電気二重層キャパシタ(EDLC)は、従来のバックアップ用電源としての用途から脱却 し、来るべきユビキタス社会の実現に向けて各種モジュールへエネルギーを供給する蓄電 デバイスとしての活躍が期待されている。しかしながら現状の EDLC はまだエネルギー密 度に改善の余地が残されている。活性炭など使って電極表面積を大きくしているので既往 のキャパシタよりも 2 桁以上も大きいが、ニッケル水素電池と比較すると十分の一程度で ある。これに対しイオン液体は有力な電解質材料として検討の対象になっている。イオン 濃度が極めて高いのでエネルギー密度の向上が期待でき、難燃性・低揮発性といったイオ ン液体特有の性質も有利である。しかしイオンのみから構成されるため互いの静電的相互 作用による高い粘度が欠点とされ、低粘度化が課題である。 種々の分子構造のイオン液体が検討されているが、関西大学の石川らはイオン伝導性の 高い 1-エチル-3-メチル イミダゾリウム テトラフルオロボレート(EMI-BF4)を対象に報 告している。48 富士電機や NTT は、高機能の新炭素材料「グラフェン」の実用化研究を加速している。 グラフェンは炭素原子がシート状になった材料で現在の半導体に使うシリコンより 100 倍 超も電子を流しやすく、安定性や強度にも優れる。キャパシタや電池の炭素材料への使用 も可能性ある。49 米国テキサス大学オースチン校の研究グループは、グラフェンの表面積に注目して電気 二重層キャパシタの容量倍増を目指している。Ruoff 教授は「グラフェンの表面積は 2,630m 2/g。約 1g でサッカー場一つ分に相当する面積であり、驚異的なレベルで電荷を蓄 えられる可能性がある。 」と言う。通常の活性炭の表面積 500~1500m 2/g に勝るとも务ら ないレベルである。50 48 自然エネルギー発電システム研究報告書 2 , p.53-61(2008) 日本経済新聞 2009/09/07 50 Motor Vehicle, Vol.59, No.1, p。60-61(2009) 49 52 村田製作所は『CEATEC Japan 2009』において、開発中のフィルム型電気 2 重層キャ パシタを展示した。18mm×20mm×厚さ 1.2~2.0mm のサイズながら、業界最高レベルの パワー密度、エネルギー密度を実現したとする。最大の特徴は低い ESR 値でより大きな 電流が流せることで、LED フラッシュ向けなどに好適であり、主にモバイル機器など小型 電子機器のピークアシスト、急速充電、負荷変動補償の用途を目指す。 シングルセル ダブルセル 18mm×20mm×厚さ(mm) 1.2 2.0~ 初期容量値(mF) 850~1000 200~500 ESR(等価直列抵抗)(mΩ) 50 100 定格電圧(V) 2.0~2.75 4.0~5.5 動作温度範囲(℃) -20~70 -20~70 また、日清紡は自社で開発したイオン液体を使用した電気二重層キャパシタ(EDLC) を市販している。開発したイオン液体は、脂肪族 4 級アンモニウム塩。51 その他、容量を大きくするため、キャパシタハイブリッド型二次電池や金属電極キャパ シタの技術がある。 キャパシタハイブリッド型二次電池の代表例は、リチウムイオンキャパシタである。 リチウムイオンキャパシタは電気二重層キャパシタの正極と、炭素系材料にリチウムイ オンをプレドープしたリチウムイオン二次電池の負極を組み合わせた構造を持つ。そのた め負極は従来の電気二重層キャパシタに比べ数十倍程の静電容量を持ち、電圧も 2.5~3V ないし 4V 近くまで上昇可能となり、セルのエネルギー密度は飛躍的に上昇する。さらに、 出力密度・寿命・メンテナンスも電気二重層キャパシタと同等、自己放電が小さい、リチ ウムイオン二次電池と比べ熱暴走を起し難く安全性が高い、下限電圧に制限がある、過放 電でセル务化するため電圧監視の制御回路が必要、 ・電気二重層キャパシタと比べ高温特性 に優れる、等の特徴がある。 マイクロバッテリーへの応用が期待される。 51 http://www.nisshinbo.co.jp/r_d/ion/index.html 53 3.6 特許出願動向 (1)国内出願動向 2,000 年以降公開の特許で、名称・要約・請求項に「マイクロバッテリー」を含む特許 件数は 21 件、 「マイクロキャパシタ」を含む特許件数は 22 件と尐ない。 以下に、主な特許について、表 3.6-1 および表 3.6-2 に示す。 表 3.6-1 マイクロバッテリー関連の主な特許 公開番号 出願人 名称 概要 1 特表 2009-544141 シンベット・コーポレ イション フォトリソグラフィーに よるソリッドステートマ イクロ電池の製造 フォトリソグラフィー処理によって、部分的に パターン化する。 2 特表 2008-525954 コミ ッサリア タ レ ネルジー アトミーク ナノ構造のマイクロ電池 向けの電極 リチウムマイクロ電池の新規アノードの構成に 関する。ナノチューブ又はナノスレッドを用い て異なる要素間に残るスペースの放電に伴う膨 張を補償。 3 特表 2008-508671 コミ ッサリア タ レ ネルジー アトミーク リ チ ウ ム 化 電 極 製 造方 法、本方法により得られ るリチウム化電極 交互の非リチウム化電極材料層およびリチウム 層からなり、非リチウム化電極材料層で始まり 終わっている積層体を形成させるための沈着; ならびに形成された多層の熱アニール化を含む 方法。 4 特表 2007-514277 コミ ッサリア タ レ ネルジー アトミーク リチウム・マイクロ電池 の製造方法 集電体と正極とが設けられた基板上に、リチウ ム化された化合物を含む電解質が、電解質性薄 膜と、リチウムに対して化学的に丌活性な保護 薄膜と、マスキング薄膜とを、順次堆積させる ことによって形成する。 表 3.6-2 マイクロキャパシタ関連の主な特許 公開番号 出願人 1 2 名称 概要 特開 2008-78632 国立台湾科技大学 ハイブリッド電極および その製造方法 高容量および高出力特性を備えるハイブリッド 電極およびその製造方法を提供する。水和酸化 ルテニウムを含む。 特開 2005-175087 TDK マイクロコンデンサ及び その製造方法並びにマイ クロコンデンサを備える 回路基板 非常に小型で且つ特性のばらつきが尐ないマイ クロコンデンサを提供する。 回路基板上に載置された誘電体粒子と誘電体粒 子の対向する両側面にそれぞれ電極とを備え る。 54 また、リチウムイオン二次電池、電気二重層キャパシタの特許で、エネルギーハーベス トに関連するものを抽出し、表 3.6-3、表 3.6-4 に示した。 日本ではまだエネルギーハーベストが一般的でなく、それに関連したバッテリーやキャ パシタの開発も特に意識してなされておらず、小型・薄型化・軽量化の延長線上で考えら れているようである。 尚、 電気二重層キャパシタ関連のほうがリチウムイオン二次電池関連よりも件数が多く、 自然エネルギー関連では優勢の傾向がみられる。 表 3.6-3 エネルギーハーベストに関連するリチウムイオン二次電池の主な特許 公開番号 出願人 名称 概要 1 特開 2007-259509 日立マクセル 電 源 シ ステ ムお よ び そ れ を 備え たセ ン サ システム 自然エネルギーを利用して二次電池を充電する電源シ ステムで、二次電池の充電制御を最適化することで务 化を防止、長期にわたり安定した電源供給を可能とす る。 2 特開 2007-124780 日立産機システム 蓄 電 シ ステ ム及 び 風 力発電所 火力発電所など主系統の調整能力が丌足した場合、風 力発電装置の出力変動を調整して損失を抑制し、自然 エネルギーから得る電力を最大限利用する。 表 3.6-4 エネルギーハーベストに関連する電気二重層キャパシタの主な特許 公開番号 出願人 名称 課題・解決手段 1 特開 2009-247108 古河電池 蓄電装置及びその充放 電制御方法 【課題】自然エネルギーを無駄なく有効利用すると共 に優れた種々の電気的特性の蓄電装置を提供する。 【解決手段】複数の蓄電器群を管理制御する。 2 特開 2008-131736 安川電機 分散型電源システムと 昇降圧チョッパ装置 【課題】単独、系統連携どちらの運転でも自然エネル ギー発電装置の丌安定電力を平滑化する分散型電源 システムと昇降圧チョッパ装置を提供する。 3 特開 2006-333563 明電舎 複数種類の分散型電源 による負荷追従運転制 御方法 【課題】負荷や分散型電源の変動を周波数帯域で分離 して追従運転を可能とし、急峻な負荷変動や追従でき ない電力変動を補償可能とする。 4 特開 2006-302175 エクセル 自動販売機の電源供給 装置および同電源供給 方法 【課題】自然エネルギーを有効利用 【解決手段】ソーラー発電の余剰電力は電気 2 重層コ ンデンサまたはバッテリーに蓄電する。 5 特開 2006-288039 新日軽 屋外照明装置 【課題】太陽電池と電気二重層コンデンサを用い、商 用電源で丌足を補う屋外照明装置を提供する。 6 特開 2005-295621 松下電器産業 独立電源装置 【解決手段】蓄電池の電圧により太陽電池および風車 からの充電方法を変更する。 55 7 特開 2004-312798 東芝 分散エネルギーシステ ムおよびその制御方法 【課題】種々の発電機器、蓄電機器、蓄熱機器などを 統合制御し最適なエネルギー運用を行う。 8 特開 2002-325368 明電舎 バッテリ充電装置 【解決手段】昇圧チョッパ回路で電気二重層コンデン サに高圧充電し、降圧チョッパ回路でバッテリーに大 電流で短時間充電する。 9 特開 2002-291176 日本システムプロ ダクツ 2 次電池実装集積回路 【課題】太陽光や熱等の自然エネルギーでの自己充電 や、電波照尃による人為充電できる 2 次電池をチップ 化してプリント配線板に装着する。 10 特開 2002-78205 自然エネルギー発電装 エヌ・ティ・ティ・ 置用電力平準化装置 ファシリティーズ 【解決手段】電気二重層コンデンサと蓄電池等で、自 然エネルギーの発電出力の変動に拘わらず所定電力 を供給可能とした。 11 特開 2001-145396 明電舎 【解決手段】風力と太陽光の発電装置からの直流電力 を時分割で出力し、交互に選択できるようにした。 複合発電システム <調査方法> (国内特許公報) ・公報種別:日本公開・公表・再公表特許公報 ・期間(公報発行日) :2000 年 1 月 1 日~2009 年 12 月 3 日 ・検索式と件数 ① FW(発明の名称・要約・請求項)=(マイクロバッテリー+マイクロ電池+微小バッテ リー+微小電池+ ミクロバッテリー+ミクロ電池) 件数 21 件 ② FW(発明の名称・要約・請求項)=(マイクロコンデンサ+マイクロキャパシタ+微小 コンデンサ+微小キャパシタ+ミクロコンデンサ+ミクロキャパシタ) 件数 22 件 ③ FW(発明の名称・要約・請求項)=(リチウムイオン電池+リチウムイオン二次電池+ リチウム二次電池+リチウムイオン 2 次電池+リチウム 2 次電池)*FW(発明の名称・ 要約・請求項)=(自然エネルギー+自然発電+環境発電+環境エネルギー+希薄エネルギ ー+分散エネルギー+ハーベスト+ハーベスティング) 件数 2 件 ④ FW(発明の名称・要約・請求項)=(電気二重層コンデンサ+電気二重層キャパシタ+ 電気 2 重層コンデンサ+電気 2 重層キャパシタ+スーパーキャパシタ+スーパーコンデン サ+ウルトラキャパシタ+ウルトラコンデンサ)*FW(発明の名称・要約・請求項)= (自然エネルギー+自然発電+環境発電+環境エネルギー+希薄エネルギー+分散エネル ギー+ハーベスト+ハーベスティング) 件数 13 件 56 (2)海外出願動向 欧米のエネルギーハーベストに関連するバッテリー・キャパシタに関する特許出願は、 日本に比べて桁違いに多い。 表 3.6-4 エネルギーハーベストに関連するバッテリー特許の件数推移 2,000 2,001 2,002 2,003 2,004 2,005 2,006 2,007 2,008 2,009 US 公開 - 43 297 519 572 530 496 483 479 513 EP 公開 140 157 159 172 157 187 231 202 220 189 WO 公開 157 221 210 223 218 251 245 265 341 269 表 3.6-5 エネルギーハーベストに関連するキャパシタ特許の件数推移 2,000 2,001 2,002 2,003 2,004 2,005 2,006 2,007 2,008 2,009 US 公開 - 1 10 8 16 20 14 17 26 41 EP 公開 1 1 1 3 3 4 9 11 8 6 WO 公開 1 1 5 4 7 6 10 14 15 16 <調査方法> (海外特許公報) ・公報種別及び期間:US 公開 2000 年 1 月 1 日~2009 年 12 月 3 日 EP 公開 2000 年 1 月 1 日~2009 年 12 月 2 日 WO 公開 2005 年 1 月 1 日~2009 年 11 月 26 日 ・検索式 (1)FW(Title, Abstract, Claims)=(batter* + cell*)*harvest* (2)FW(Title, Abstract, Claims)=(capacitor* + condenser*)*harvest* 57 3.7 研究機関・研究者 発表論文を中心に、マイクロバッテリーに関連する研究者を抽出し、表 3.7-1 に研究機 関・研究者リストとして纏めた。 エネルギーハーベストを意識したマイクロバッテリーに関連する研究は尐ない。 以下、個別に、主な研究例を挙げる。 <リチウムイオン二次電池> 東大・宮山教授は、電極活物質の開発研究を行っている。テトラブチルアンモニウム等 の嵩高いイオンのインターカレーションに起因する層間剥離によるナノシート合成、それ を応用したリチウムイオン二次電池電極の高速充放電特性の研究等である。 山形大・立花准教授は、有機電解液中における丌働体化やブレークダウン電圧の低下を 検討し、電解液の分解抑止、接触抵抗の低減などへの応用を考えている。 <リチウムポリマー電池> 電解液を使用したリチウムイオン二次電池の課題である液漏れや安全性を改善する一つ の手段がポリマー化である。 電力中研・小林主任研究員は、4V 以上の高電圧正極と高分子固体電解質(SPE)と炭素 負極の最適組合せの研究開発を行っている。正極材料と SPE の間に種々の方法で無機固体 電解質を介在させたコンポジットとし、耐酸化性を確認している。 <固体薄膜二次電池> リチウムイオン二次電池をエネルギーハーベストに適用するとすれば、究極の目標がこ の形になると思われる。小型・薄型化してデバイスの中に組み込んだり、基板上に印刷等 で製膜して作製が可能になるからである。国内での研究も比較的多い。 岩手大・馬場教授のスパッタ法による製膜に関する報告が多く発表されている。 <電気二重層キャパシタ> 電気二重層キャパシタは内部抵抗が小さく充放電のサイクル寿命も長いので、微弱なエ ネルギーを対象とするエネルギーハーベストには好適と考えられる。しかしエネルギー密 度がリチウムイオン二次電池より小さいので、その改善のための電極物質の検討が精力的 に行われている。 電極に使用する炭素材料としてカーボンナノチューブやその複合材の報告が、信州大・ 遠藤教授や九大・辻教授からなされている。 また、総合研究大学院大学・西教授らから、銀アセチリドを前駆体とする多孔質ナノカ ーボン材料の報告がなされている。 58 表 3.7-1 マイクロバッテリーの研究機関・研究者リスト マイクロ バッテリー 研究機関 所属 (学部、学科) 役職 研究者名 テーマ 研究室 URL 研究室 TEL FAX E-Mail リチウムイオン 二次電池 東大 先端科 学技術研究 センター 化 学認識 機能材 料 分野/宮山研究室 教授 宮山 勝 層状結晶ナノシートによる超 薄膜電池・キャパシタの開発 http://www.crm.rcast.u-tokyo. ac.jp/ Tel:03-5452-5037 FAX:03-5452-5083 miyayama@rcast.u-to kyo.ac.jp リチウムイオン 二次電池 山口大 工学部/応用化学工 学科/精密応用化学 講座/電子化学研究 室 教授 森田 昌行 エネルギー貯蔵技術 池 二次電 http://web.cc.yamaguchi-u.ac.j p/~morita/ リチウムイオン 二次電池 山形大 大学 院 理工学研究科 准教授 立花 和宏 バルブメタルの陽極酸化時の 絶縁破壊とその応用 非水カ ソード材料とアルミニウム不働 態皮膜のブレークダウン電圧 http://yudb.kj.yamagata-u.ac.j p/OUTSIDE?ISTActId=SCHKO C0020RIni001&ISTKidoKbn=&I STFormSetKbn=&ISTGamenId =&ISTFormNm=&userId=725&l ang_kbn=0&keyword1=&keywor d2=&keyword3= リチウムイオン 二次電池 産業技術総 合研究所 ユビキタスエネルギ ー研究部門/蓄電デ バイス研究グループ グループ 長 辰巳 国武 リチウムイオン電池の車載用 途に向けた課題と材料技術か らのアプローチ リチウムポリマー電 池 財団法人電 力中央研究 所 材料科学研究所エ ネルギー変換・貯蔵 材料領域 主任研究 員 小林 陽 全固体リチウムイオンポリマー 電池の研究開発 http://criepi.denken.or.jp/jp/m aterials/index.html 59 リチウムポリマー電 池 東京工大大 学院 理工学研究科 特任准教 授 黒木 重樹 次世代全固体型リチウムポリ マー電池、充放電特性の解析 http://www.op.titech.ac.jp/ind ex.html skuroki@polymer.titec h.ac.jp 固体薄膜二次電池 東大 大学院 理学系研究科 教授 中村 栄一 有機フラーレンの合成と機能 http://www.chem.s.u-tokyo.ac. jp/users/erato/index.html nakamura@chem.s.utokyo.ac.jp 固体薄膜二次電池 東大 大学院 理学系研究科/光電 変換化学講座 特任教授 松尾 豊 有機フラーレンの合成と機能 http://www.chem.s.u-tokyo.ac. jp/users/erato/index.html matsuo@chem.s.u-to kyo.ac.jp 固体薄膜二次電池 岩手大 大学 院 工学研究科/フロン ティア材料機能工学 教授 馬場 守 固体薄膜二次電池と高機能化 http://dragon.elc.iwate-u.ac.jp /babanisi/batheme.html 固体薄膜二次電池 静岡大 工学部/物質工学科 /化学システム工学 コース/入山研究室 准教授 入山 恭寿 リチウム二次電池の高出入力 化へ向けた界面制御全固体 薄膜電池の開発 http://cheme.eng.shizuoka.ac.j p/~iriyamalab/index.html 固体薄膜二次電池 東北大 多元 物質科学研 究所 教授 河村 純一 全固体電池材料の薄膜化とそ の電気的特性 http://www.tagen.tohoku.ac.jp /labo/kawamura/index_j.html 固体薄膜二次電池 長崎大 工学部/応用化学科 /応用物理化学研究 室 准教授 山田 博俊 化学気相法によるリチウムイ オン伝導性超薄膜の作製 電 気 二 重層 キャパ シタ 大分大 工学部/応用化学科 /機能物質化学 教授 豊田 昌宏 電気化学処理手法による炭素 材料の微小化と機能材料への 応用 kawajun@tagen.tohok u.ac.jp TEL/FAX: 095-819-2861 h-yama@nagasaki-u.a c.jp http://www.appc.oita-u.ac.jp/i norgchem/toyoda/top.html Tel/Fax: 097-554-7904 toyoda22@cc.oita-u.a c.jp 60 電 気 二 重層 キャパ シタ 関西大 電 気 二 重層 キャパ シタ 信 州大 カー ボン科研 電 気 二 重層 キャパ シタ 九大 先導物 質化学研究 所 電 気 二 重層 キャパ シタ 化学生命工学部 化 学物質工学科 電気 化学研究室 教授 石川 正司 電気化学測定法 分極曲線・ サイク リックボルタン メトリー キャパシタ モバイル用スーパーキャパシ タの開発 http://www.ec.chemmater.kan sai-u.ac.jp/index.html masaishi@ipcku.kansa i-u.ac.jp 教授 遠藤 守信 キャパシタ用炭素 http://endomoribu.shinshu-u.a c.jp/ endo@endomoribu.shi nshu-u.ac.jp 融合材料部門 教授 准教授 辻 正治 吾郷 浩樹 ナノチューブの成長メカニズム -水の添加効果とその化学- http://nano.cm.kyushu-u.ac.jp / Tel・FAX: 092-583-7815 tsuji@cm.kyushu-u.ac .jp 総合研究大 学院大 物 質分子 科学研 究 領域 教授 西 信之 自己組織化銅アセチリドナノワ イヤーを前駆体としたカーボン 材料 新 し い 炭 素 材 料 :Mesoporous Carbon Nano Dendrite http://www.ims.ac.jp/know/ma terial/nishi/nishi.html nishi@ims.ac.jp 電 気 二 重層 キャパ シタ 千葉大 大学 院 融合科学研究科 教授 星野 勝義 酸化コバルトナノワイヤーへ の導電性ポリマー層被覆とそ のスーパーキャパシタへの応 用 http://hoshino-nanoelectroch em.tp.chiba-u.jp/ k_hoshino@faculty.chi ba-u.jp 電 気 二 重層 キャパ シタ 信州大 繊維学部/化学・材 料系/材料化学工学 課程 特任教授 高須 芳雄 メソ多孔化炭素・金属酸化物 ハイブリッド電極を用いるスー パーキャパシタの開発 酸化ルテニウムナノシートと電 気化学エネルギーデバイスの 開発 http://soar-rd.shinshu-u.ac.jp /profile/ja.gpDmPUDm.html TEL:0268-21-5451 、 ytakasu@shinshu-u.a c.jp 電 気 二 重層 キャパ シタ 大阪府大 大 学院 工学研究科/応用化 学科/応用化学分野 教授 井上 博史 硫酸水溶液を含む高分子ヒド ロゲル電解質の開発-電気二 重層キャパシタへの応用- TEL:072-254-9283 inoue-h@chem.osakaf u-u.ac.jp 61 電 気 二 重層 キャパ シタ 京大 大学院 電気工学専攻 教授 引原 隆士 電気二重層コンデンサのモデ リングに関する一検討-静電 容量の周波数特性・充電電圧 依存性- http://www-lab23.kuee.kyotou.ac.jp/ja/ TEL:075-383-2237 FAX:075-383-2238 hikihara@ kuee.kyoto-u.ac.jp 電 気 二 重層 キャパ シタ 千葉大 理学部 教授 金子 克美 電導性に優れる多孔性ナノカ ーボン含有ポリマー http://pchem2.s.chiba-u.ac.jp/ jpn/ 電 気 二 重層 キャパ シタ 産業技術総 合研究所 ナノエネルギー材料 グループ グループ リーダー 千葉大客 員教授併 任 本間 格 スーパーキャパシタ用非晶質 金属酸化物/炭素ナノ複合電 極の作成と評価 http://unit.aist.go.jp/energy/n ano-energym/index.htm 電 気 二 重層 キャパ シタ 東京農工大 大学院 共 生科学 技術研 究 院 教授 直井 勝彦 大容量ナノハイブリッドキャパ シタの開発 http://www.tuat.ac.jp/~naoi/in dex.html naoi2@cc.tuat.ac.jp キャパシタ 産業技術総 合研究所 エネルギー 技術研 究部門/エネルギー 貯蔵材料グループ グループ 長 羽鳥 浩章 次世代キャパシタ ニュークレアバッテ リー 東工大 原子 炉工学研究 所 物質工学部門 教授 関本 博 ニュークリアバッテリーの研究 開発 http://www.nr.titech.ac.jp/~hs ekimot/ TEL:(03)5734-3066 Email:hsekimot @nr.titec.ac.jp システム等 東大 新 領域創 成科学 研 究科 教授 堀 洋一 電圧変動を考慮した EDLC-イ ンバータ直結型電気自動車の 制御法 http://mizugaki.iis.u-tokyo.ac.j p/staff/hori/index-j.html TEL:03-5452-6287 Fax: 03-5452-6288 E-mail: y.hori@ieee.org システム等 日本工大 電子情報メディア学 群/電気電子工学科 講師 吉田 清 電気二重層キャパシタ(NSC) を搭載した小型電気自動車に ついて-直並列接続したキャパ シタの充放電特性- http://www3.nit.ac.jp/~yoshida / TEL:0480-33-7668 62 システム等 千葉大 大学 院 工学研究科/人工シ ステム科学専攻/ 電気電子系コース システム等 工学院大 システム等 東北大 加齢 医学研究所 病態計測制御分野 システム等 東大 大学院 医学系研究科/生体 物理医学専攻/医用 生体工学講座 准教授 近藤 圭一郎 鉄道車両駆動におけるエネル ギーストレージ応用 TEL:043-290-3343 kkondo@faculty.chiba -u.jp 曽根 悟 EDLC を用いたエネルギー蓄 積装置を車載する高速回生車 のライフサイクルコスト評価 http://www.ns.kogakuin.ac.jp/~ wwc1040/index.html 客員教授 井街 宏 リチウムポリマー電池を用い た波動型心臓用バッテリーシ ステムの開発 http://mec1.idac.tohoku.ac.jp/ ?member 准教授 阿部 裕輔 リチウムポリマー電池を用い た波動型心臓用バッテリーシ ステムの開発 http://www.bme.gr.jp/bme/To p_Page.html TEL:03-5841-3567 FAX:03-3811-3963 abe@bme.gr.jp 63 3.8 現在の問題点と研究開発課題 エネルギーハーベストに用いられるマイクロバッテリーは、小型・軽量で且つ、エネル ギー容量が高いこと、安全性が高いこと、寿命が長いこと、製造が容易で低コストである ことが求められる。 (1)リチウムイオン二次電池 リチウムイオン二次電池はエネルギー容量が高いのでマイクロバッテリーとして好まし い。負極、正極、セパレータ、電解質で構成されており、それぞれ電池性能に対し重要な 役割を担っている。リチウムイオン二次電池は各種二次電池の中で最高のエネルギー容量 をもつものの、まだ理論エネルギー容量とは乖離が大きい。したがって安全性と充放電サ イクル寿命を含めて最良の素材・構成に向け様々な研究機関で研究がなされている。 マイクロバッテリーの課題として、以下が挙げられる。 ・負極材料として理論エネルギー容量の高い Li が使えきれていない。 ・正極として安価で環境汚染のない金属が求められている。 ・液体電解質は液漏れ対策が必要で小型・軽量化の壁となっている。分解してガスの発 生や可燃性の問題があり、解決が求められる。 ・充放電サイクル回数(寿命)の改善が求められている。 (2)リチウムポリマー電池 リチウムポリマー電池は、リチウムイオン二次電池の液体電解質に係る問題点に対する 解決法として登場した。短絡防止のためのセパレータが丌要となり液漏れの心配も緩和さ れるので小型・薄型化には有利となる。しかし、以下の問題があり、解決が求められてい る。 ・真性ポリマー電解質はイオン電導度と電極界面の移動抵抗の改善。 ・ゲル電解質を含め低温環境での効率低下。 ・充放電の繰返しによる界面剥離、性能低下によるサイクル寿命の低下。 (3)固体薄膜二次電池 固体薄膜二次電池は全固体型で超薄型・軽量となるので、リチウムイオン二次電池のマ イクロバッテリーとしては究極の形である。製法としてはロール to ロールの印刷方式やス パッタ方式があるが次の様な課題がある。 ・ロール to ロール方式は液粘度・濃度のふれによる再現性・信頼性低下。 ・スパッタ製膜方式では構成材料が限定されコスト高になる。 ・使用材料によっては耐水蒸気性が低くシールが必要である。 64 (4)電気二重層キャパシタ リチウムイオン二次電池と比較して内部抵抗が小さいので大電流でも急速充放電が可能 でり、物理変化のみなので反応务化がなく長寿命が特徴である。一方、エネルギー密度が 低いという問題があり、そのため、電極物質の検討や電解質としてイオン液体の使用が検 討されている。その際、以下の問題があり、課題となっている。 ・イオン液体は低温では粘度が上昇し電気伝導度が低下して出力密度が低下する。 ・イオン液体は高純度のものが好ましいが、さらにコストが上昇する。 (5)リチウムイオンキャパシタ リチウムイオンキャパシタは電気二重層キャパシタの正極と、炭素材料にリチウムイオ ンをプレドープしたリチウムイオン二次電池の負極とを組み合わせた構造を持つ。そのた め電気二重層キャパシタに比べエネルギー密度は 4 倍程度にアップする。 しかし、 一方で、 以下の課題を抱えている。 ・下限電圧に制限あり。 ・過放電でセル务化するので電圧監視の制御回路が必要。 65 4.応用用途および製品例 エネルギーハーベスト分野での応用用途および製品例を以下に挙げる。 (1)機械エネルギー・ハーベスト関連 (1.1)センサネットワーク 風力を利用した圧電素子による発電電力を無線送信機の電源とした防災センサーネット ワークが開発されている。風速 6.5m/s の環境下で通信距離が 1km 確保できる無線モジュ ールを数秒ごとに駆動させる電力を供給できる。52 日本 TI は、超低消費電力マイクロコントローラーに RF 機能を統合したシングルチップ を発表した。大気中の煙の計測による山火事の検知、農地やワイナリー等での温湿度や農 薬の情報など広い範囲で計測し、そのデータを分析のために管理センターに集めるといっ た無線ネットワークシステムにおいて、一次電池を使わないソーラーパワーや風力、振動 を動力源とした環境および自己発電技術を採用した新たな無線センサを可能にする。サン プル出荷は 2,009 年第 1 四半期に開始し量産は 2,009 年後半の予定。参考単価は 2 ドル以 下(100 万個受注時/年間)の予定。53 MicroStrain 社は、ワイヤレスセンサーネットワークを開発を開発した。圧電ファイバー からの出力が整流されコンデンサーに蓄積される。コンデンサーが一定電圧以上になると 出力はセンサー部へ移行され、センシングが開始されデータは無線で発信される。 (1.2)タイヤ空気圧監視システム TPMS(タイヤ空気圧監視システム)においては、圧電素子を利用したマイクロ発電機 を採用することでメンテナンスせずに利用できる期間を長くできる。54 米国では TREAD 法の成立に伴い、2007 年 9 月以降、自動車にタイヤ空気圧モニタシス テムの設置が義務付けられた。新車販売台数は世界で 7,000 万台あり、タイヤ振動を利用 した発電器とセンサーの大きな市場が期待されている。 Infineon 社の子会社である SensoNor 社(ノルウエー)は、タイヤ空気圧監視用の3層 ピエゾ抵抗型センサを開発した。圧力センサ、加速度センサ、温度センサがマイクロコン トローラー、RF(高周波)送信機、及び低周波受信機と統合されて 1 パッケージ化された センサである。Freescale 社は容量型 MEMS センサ、マイクロコントローラー、ウェイク アップ・スイッチ、通信チップなどを 1 パッケージした統合システムを設計した。Michelin 社は、MEMS タイヤ空気圧監視システムを世界で使用すると発表。55 オムロンは、周波数数十ヘルツ以下の微小振動で発電するエレクトレット方式の発電能 力 10μW 超小型電源デバイスの実用化に成功した。自動車タイヤ空気圧監視システムの 電源向けに、12 年までに発売の予定。56 52 53 54 55 56 太平洋セメント研究報告, 第 155 号(2008), p.52-61 http://focus.tij.co.jp/jp/pr/docs/preldetail.tsp?prelId=scj_08_097&contentId=51796 http://www.murata.co.jp/products/article/ta0841/index.html NEDO 海外レポート, No.1037, p.21-30(2009) http://robonable.typepad.jp/news/2008/11/20081112-2755.html 66 (1.3)その他 慶応義塾大学発のベンチャー企業の音力発電は、人や車が生み出す騒音や振動をうまく 圧電素子に伝え電気に変えるシステムを開発した。首都高速の五色大橋で実際に取り出し た電力が夜間のライトアップ用の一部に使われている。発電ユニット 1 台の寸法は 610mm ×300mm×132mm で重さ 7kg。10 台設置して 2.4wh/日の発電能力を発揮する。高速道路 の防音壁などへも適用も考えている。3 Adaptivenergy 社の「Joule‐Thief™」は、振動周波数により複数のタイプを用意してい る。工業的な振動は交流の周波数に依存し、米国は 60Hz、ヨーロッパは 50Hz である。建 築物などの構造的な振動は弱い低周波数、 自動車などは低周波でランダムな周波数であり、 それぞれに対応可能なモジュールとしている。57 Mide 社の「Volture™」は、振動エネルギーを電気エネルギーへ変換してキャパシタや 電池に蓄積する。半田付けしたワイヤが無いため高い信頼性を有する。58 Advanced Cerametrics 社の「Harvestor™」は、セラミック圧電ファイバーを使って発 電。単体のセラミックスに比較し、強度が増し、色々な形状に成型しやすい。ひねりなど のモードに対しても対応できる。59 57 http://www.adaptivenergy.com/docs/AN002_SelfPoweredEHSolutions.pdf http://www.mide.com/pdfs/volture_specs_piezo_properties.pdf 59 http://www.advancedcerametrics.com/pdf/ACI%20Harvestor%20III%20Sell%20Sheet.pdf http://www.advancedcerametrics.com/pages/energy_harvesting 58 67 (2)熱エネルギー・ハーベスト関連 (2.1)センサ Micropelt 社(独)の「TE-Power family」は、世界で年間 14 億個、センサとして各種用 途に供されているが、センサが使用される空間のほとんどが廃熱を持っており、これを利 用している。mW タイプのエネルギーハーベストが無線センサーシステムとしては使いや すい。熱源と環境とで10℃の温度差があれば、2.4mW の発電が可能。応用として、燃焼 モニタ、ベアリング状態のモニタリング、プロセスモニタ、ワイヤレスクッキングセンサ、 ガス・オイルプロセスモニタ、機械や構造物の状態モニタリング、圧力バルブの ON/OFF モニタ等がある。また、同社の「TE-Power BOLT」は、産業機械やプロセス装置等の温か い(熱い)表面から 0.2~15mW の連続電力(1.2~5V)が取り出せる。1.5" (38.1mm)の アルミ製ヒートシンクを持ち、メンテナンス丌要でワイヤレスセンサーの電源に好適とさ れている。60 (2.2)その他 東芝は排熱源のエネルギー総量が多くこれまであまり利用されていなかった 150℃以下 での発電を狙う熱電変換素子を開発した。Bi-Te 系で 150℃以下での特性が他の La-Te や Pb-Sn 系熱電変換材料に比べて優れている。世界最高の変換効率 3.6%が 4cm 角のモジュ ールで出せ、10kW クラスでは設置面積 10m 2 で、太陽電池の 70~80m 2 に比べてコンパク トになる。61 昭和電線 HD は、素材に独自のカルシウム・コバルト複合酸化物を用いることで、700℃ 以上の高温排熱から電気エネルギーを取り出す熱電変換素子の実用化に目処を付けた。現 在はビスマスなど高価なレアメタルで熱電変換素子の開発がなされているが、300℃以上 の熱エネルギーからの発電は困難であった。62 東京理科大基礎工学部材料工学科の飯田努准教授らは、シリコンウエハー製造・加工工 程で大量に廃棄される切断研削汚泥からマグネシウムシリサイド(Mg2Si)を大量合成す る技術を開発、排熱発電材料として検討中。有効温度差が 200~600 度と幅広く、エネルギ ー利用効率の低い工業用の高炉や自動車エンジンへの適用を考えている。63 東レ・ダウコーニングと東京理科大、環境負荷の尐ない熱電変換素子を開発した。環境 負荷が尐なく資源量に問題の尐ないマグネシウムとケイ素からなるマグネシウムシリサイ ド(Mg2Si)を素子のメイン材料とし、その成果を「サーモテック 2009」に出展している い。64 60 61 62 63 64 http://www.micropelt.com/down/power_generation.pdf 東芝レビュー, Vol.63, No.2, p.7-10 http://www.swcc.co.jp/news/pdf/netsuden1218.pdf http://www.tus.ac.jp/news/news.php?20090406093000 http://www.dowcorning.co.jp/ja_JP/content/japan/japancompany/nr090717-Thermotec2009.pdf 68 (3)電磁波エネルギー・ハーベスト関連 Intel 社は、4.1km の遠方のテレビ塔からの RF 電波をエネルギー源として、LCD 温度計 /湿度計を駆動させた。 RFID+TV の組み合わせを念頭においている。TV 電波を電源として、 RFID にセンサー情報のログを貯める。65 (4)その他 浸透膜発電 ノルウェーで新しい発想に基づく淡水と海水の塩分濃度の差を利用し浸透膜により圧力 を得るという浸透膜発電所「Osmosis Power Plant」建設計画が進行中である。計画して いるのは、エネルギー関連事業を行う Statkraft 社で、早ければ 2015 年ぐらいまでに実用 試験プラントの建設に目処をつけることを目指す。利用される淡水の 90%ほどが浸透膜を 通して海水側に流入し圧力をかけ、そのプレッシャーを利用して大規模なタービンを回転 させて発電させる。66 65 66 EE Times Japan 2009/01/27 http://greenpost.way-nifty.com/softenergy/2007/11/osmosis_power_166e.html 69 6.市場動向予測 今後、大きな発展が期待できる市場として、センサネットワーク、RFID タグ、タイヤ 空気圧監視システムが挙げられる。 2030 年までの市場規模を予測した。 表 6-1 エネルギーハーベスト関連期待市場の動向予測 市場規模(金額:億円) 市場 2012 年 (予測) 2020 年 (予測) 2030 年 (予測) 3,600 7,200 12,000 RFID タグ(アクティブタイプ) 600 1,200 2,000 タイヤ空気圧監視システム 500 800 1,500 センサネットワーク(センサ部) (1)センサネットワーク センサーネットワークの 2010 年の市場(国内)は約 1 兆 2000 億円になると予測され 67 ている。 (総務省「ユビキタスセンサーネットワーク技術に関する調査研究会報告書(2004 年)) 。 但しこれはシステム全体の額で、電源+センサー+発信機等を含んだセンサー・モジュー ルに限れば 10%程度の 1,200 億円、世界では3倍の約 3,600 億円規模と推定される。 尚、時期的には総務省予測より2年程度ずれ込むと推定した。 以上から、センサネットワークの 2012 年の市場規模(予測)は 3,600 億円である。と 予測した。また、今後の伸び率は RFID と同率で予測した。 (参考)エネルギー・素材産業(化学、石油・ガス、石油精製、電力、鉱業及び金属工業) が 2007 年に世界全体で購入した無線装置はわずか 2 億ドル(約 180 億円)であったが、 これには無線センサはほとんど含まれていない。無線センサが無線装置市場において大き く最大の分野に成長した場合は、2012 年に 10 億ドル(約 900 億円)以上になると予測さ れている。55 67 総務省「ユビキタスセンサーネットワーク技術に関する調査研究会報告書」 (2004 年) 70 (2)RFID タグ RFID タグは電磁波の伝達方式により、電磁誘導方式と電波方式に分かれる。 電磁誘導方式はタグ側のコイルとリーダ側のコイルを磁束結合させて、エネルギーと情報 を伝達させる方式である。電磁誘導方式は、135kHz、13.56MHz の周波数を使用し、ごく 近距離間のエネルギーと情報の伝達に優れることが特徴である。電池を内蔵しないパッシ ブタイプでは通信距離は最大でも 1m 程度である. 電波方式はタグとリーダにそれぞれアンテナがあり、情報を載せた電磁波をアンテナで 読み取る方式である。電磁誘導方式に比較して情報の通信距離が長く、パッシブタイプで 3~5m であるが、電池を内蔵したアクティブタイプではさらに通信距離を伸ばすことがで きる。 エネルギーハーベストの利用は、アクティブタイプ RFID タグの内臓電池を代替するも のである。 2012 年の RFID タグの市場規模は、1,240 億円と予測されている。68 アクティブタイプ RFID タグの 2012 年の市場規模は、金額では約 1/2 の 600 億円程度 と予測される。今後の伸び率は以下のように予測。 RFIDタグ市場規模推移 25,000,000 450,000 400,000 20,000,000 350,000 250,000 200,000 10,000,000 金額(百万円) 数量(千個) 300,000 15,000,000 150,000 100,000 5,000,000 数量 50,000 0 2007年 2008年 2009年 2010年 2011年 2012年 2013年 2015年 68 金額 0 2020年 2030年 「プリンタブルエレクトロニクス関連市場の将来展望 2009」 (㈱富士経済、2009 年 7 月) 71 (3)タイヤ空気圧監視システム タイヤ空気圧監視システム(TPMS)は、近年米国の全自動車に装着が義務化された。 MEMS タイヤ監視システムは、ブレーキ系と車輪回転を用いてタイヤ圧測定を行うシステ ムと競合するが、より正確で早く情報を提供できるといわれている。タイヤ監視システム は、2012 年には 5 億ドル以上の市場規模に達すると予測されている。55 今後の伸び率は RFID の伸び率に準じて予測。 72 6.技術課題と今後の方向性 -まとめ- 技術課題 エネルギー変換 ・変換効率の向上。 対象が微小エネルギーである ため、如何に変換効率を上げる かが重要な課題である。 ・長期信頼性向上。 長期間メンテナンスフリーで も動作させるための長期的信 頼性も重要な課題である。 エネルギー蓄積 ・蓄積効率の向上。 エネルギーハーベストに用い られるマイクロバッテリーは、 小型・軽量で且つエネルギー容 量が高いことが求められる。 ・周辺回路での効率向上 整流回路、低電圧回路など周辺 回路での効率向上も重要な課 題である。 ・長期信頼性向上。 エネルギー消費 ・低消費電力化。 エネルギー利用・消費デバイス のさらなる省電力化が求めら れる。 優位性 ・現状は、変換効率から 無機系材料が主流。 エネルギーハーベストの分野で は、一部のフッソ系樹脂からな るエレクトレット材料以外は、 有機系材料での検討が余りなさ れていない。 ・方式では振動変換が利用 しやすい。 方向性 ・ハイブリッド化。 機械エネルギー、熱エネル ギー、電磁波エネルギーを 複合し てハ ーベス トす る 研究開発が活発になろう。 ・エレクトレット膜 新材料の開発。 MEMS を用いた振動発電 の一つ であ るマイ クロ エ レクトレット発電では、エ レクト レッ トの電 荷密 度 を如何 に上 げるか が効 率 向上に直結する。そのため 新しい エレ クトレ ット 膜 材料の 研究 開発が 必要 で ある。 ・固体薄膜二次電池が優位。 ・キャパシタとの棲み 全固体型で超薄型・軽量となるの 分け。 で、リチウムイオン二次電池のマイ クロバッテリーとしては究極の形 である。 (固体薄膜リチウムイオン 二次電池、固体薄膜リチウムイオン ポリマー二次電池) メ ンテナンスで はキャパ シタ。 ・ワンチップ化。 変換と蓄積の一体化。 ・プリンタブル化。 ロール to ロールの印刷 方式の研究開発が進展 するとみられる。 ・システム化。 ・コードレス住宅、 コードレス社会へ。 ・長期信頼性向上。 73 7.将来展望 -素材メーカーに対する提言- エネルギーハーベストは、環境の揺らぎに起因する微小エネルギーを電気エネルギーに 変換して蓄積し、必要な時に取り出して利用するシステムであり、 「変換デバイス」、 「蓄積 デバイス」及び、蓄積されたエネルギーを用いて働く「機能発現デバイス(エネルギー消 費デバイス) 」からなる一連のシステムである。 エネルギー変換 エネルギー蓄積 エネルギー消費 変換 変換 このシステムを効率よく可動させるためのデバイス改良が今後重要であるが、これは、 単に変換効率や蓄積効率のみならず、エネルギー消費デバイスの省エネルギー化も重要な 課題である。 エネルギー変換デバイスについては、現状では既に知られている変換原理を用いて、実 用可能性と変換効率の向上が検討されている。対象が微小エネルギーであるため、如何に 効率を上げるかが重要な課題である。それと共に、長期間メンテナンスフリーで動作させ るための長期信頼性も重要な課題である。エネルギー変換デバイスの多くが、圧電係数や 熱電係数の大きい無機系材料を用いており、性能の向上にあたっても、結晶性の制御など、 無機系材料を用いた検討が多い。これは、もととなる材料が比較的大きな変換係数を有し ていることや、変換係数が経時的に安定していることに起因している。 材料の改良による変換効率の向上ではなく、形状工夫によっても変換効率を向上するこ とができる。エネルギーハーベストに用いる「環境のゆらぎ」は決まった方向性を有して いるものではない。振動の場合、環境の周波数に共振する様なチューニングがなされてい るが、それ以外に、圧電変換での Harvestor™(Advanced Cerametrics 社)は、ファイバー 状に成型した上で樹脂と複合化させ、センサー部分の形状工夫により「ひねり」等の色々 なモードの振動に対応できるよう改良を加えた製品を発表している。成型用の複合材料と 違い、分極方向を制御した状態で複合化する必要があり、より高度な複合化技術が必要で あるが、比較的汎用の材料系を用い高効率化を達成するには、より現実的なアプローチで あり、今後が注目される。 一方、無機系材料は「硬くてもろい」という欠点を有しており、オーバーロードによる 素子自体の务化・破壊を防ぐ必要がある。その点では、ナノインプリント技術を応用した ナノワイヤによる圧電変換デバイス69は、多数のナノワイヤがそれぞれ独立した圧電変換 素子としての役割を果たしているわけで、いわば、一本のナノワイヤ変換素子を電気的に 並列に並べたデバイスとなっている。そのため、多尐のデバイスが破壊され性能の低下を きたしても全体に対する影響の割合は低く、より信頼性の増したデバイスと言う事ができ る。 エネルギーハーベストの分野では、一部のフッソ系樹脂からなるエレクトレット材料以 外は、有機系材料での検討が余りなされていない。これは、既に述べた、変換係数の大き いものが尐ない・経時的な务化がある、との理由によるものであるが、材料研究者が余り 69 Sheng Xu, et.al., NANO LETTERS, Vol. 8 (11), 4027-4032 (2008). 74 注目していないことも考えられる。有機材料の最大の武器である成型加工性を保持した新 たな材料の提案が期待される。 エネルギー蓄積デバイスでは、必要とする蓄積量がそれ程大きくないこともあり、二次 電池よりは、大容量キャパシタが今後も主流であると考えられる。この種のキャパシタと しては、電気二重層型のキャパシタが広く使われている。電気二重層型のキャパシタは太 陽電池の分野で実績のある電力貯蔵手段であり、①内部抵抗が低く大電流を短時間で充放 電できる ②充放電は物理変化なので务化が尐なく製品寿命が長いなど、貯蔵手段として使 用しやすいという特徴がある。しかし、用途によっては蓄電容量が丌十分であり、また、 出力電圧が充電量に依存して変化するという欠点を有する。二次電池の機能も取り込んだ ハイブリッド化など、 「電池化学」の技術を利用し、これ等の欠点を克服することが期待さ れる。 。 また、環境エネルギーの変換により得られた電力は、その多くが交流電源となり、蓄電 の際に整流する必要がある。また、電気二重層を蓄電デバイスとして用いた場合の出力電 圧変化に対応するため定電圧回路が必要となる。この様に、システムとしてのエネルギー ハーベストは周辺回路も必要であり、周辺回路での効率向上も重要な課題である。 変換効率や蓄電効率の向上と相伴って、利用する側の機器の省電力化もエネルギーハー ベストの領域では重要である。近年、エネルギーハーベストを念頭に置いた省電力型のセ ンサーが各種開発され提案されている。また、MEMS(Micro Electro Mechanical System) 技術の進展は、エネルギーハーベストと密接な関わりを持っており、Mechanical System の micro 化で達成できた低消費電力システムのエネルギー源としてエネルギーハーベスト 技術が注目される。特に、 「心臓ペースメーカー」や「埋め込み型のドラッグデリバリシス テム」の電源として、生体エネルギーを利用したエネルギーハーベストの役割が期待され る。SIMM コンソーシアムは、心臓の心房圧力をエネルギー源として心臓ペースメーカー の電力を供給するシステムを検討している。現状では、必要とされる電力の1/3程度を 補充することにより内蔵電池の超寿命化を達成するにとどまっているが、100%供給を目 指して改良が加えられており、今後が期待される。 この様に、エネルギーハーベストは、エコの観点というよりは、ユビキタス社会を支え る重要な役割を担っていくもとの考えられる。その為には、ハーベスト技術もより進化す ることが必要である。現状では、マイクロバッテリーを含めた振動エネルギーの変換ユニ ットだけでも数万円し、形状も 9cm×5cm×1cmと大きく、応用の範囲も限られてく る。エネルギーハーベストの重要な応用と考えられるワイヤレスセンサーや RFID タグの 領域で用途拡大を図るには、ハーベストシステムの小型化が重要な課題となる。 この分野では、プリンタブルエレクトロニクスと呼び、従来の真空プロセスを用いるシ リコンシステムから、シリコン半導体や有機半導体を印刷方式で集積化し応用する技術が 欧米を中心に進められつつある。最近では、Printed Electronics Europe 2009 が、2009 年 4 月にドイツで開催されたり、また、英国ではプリンタブルエレクトロニクスを国家戦略 として力を入れており、既に設立されていた Printable Electronics Technology Centre を、 プリンタブル・エレクトロニクス製品を量産する工場の体制を確立するために£20 百万を かけて拡張することを 2009 年 7 月に発表している。更に、2010 年 3 月にはロンドンで Demonstrator Workshop on Plastic Electronics が開催される予定である。 75 ここで注目されている主用途が、RFID タグである。超低コストなアクティブ RFID タグ を有機半導体を用いて印刷方式で製造し、大きな市場を創出するという試みである。その 際に、RF エネルギーの変換や蓄積デバイス・整流などの周辺回路も同時に印刷プロセス で形成できれば、より低コスト化が可能となり、その為の新規な材料や加工技術の開発が 望まれる。 <まとめ> 課題 解決策 (課題解決のために材料 に求められる機能) 実例 低コスト化、小型化・薄肉化。 ・プリンタブル化。 ・パワーMEMS。 ・ナノインプリント技術を応用したナノワイヤによる圧電変換デバイス (Georgia 工科大) ・有機半導体を用いた印刷方式でのアクティブ RFID タグ製造技術 ・無線給電で光る有機 EL 照明、印刷技術で製造(独コンソーシアム) ・圧電変換素子「Harvestor™」 (Advanced Cerametrics 社) その他の注目技術・製品 (機械的複合材料と違い、分極方向を制御した、より高度な複合化技術) ・心臓ペースメーカー(英 SIMM プロジェクト) 今後の期待 ・有機材料の最大の武器である成型加工性を保持した新たな材料の提案。 ・壁紙状の発電シートの研究開発、室内光と電波を利用しマイクロバッテリー と組み合わせ、EL 照明、携帯電話充電など。 ・PowerMEMS 技術による低消費電力システム、特に「心臓ペースメーカー」 や「埋め込み型のドラッグデリバリシステム」の電源として生体エネルギー を利用したエネルギーハーベスト。 ・エネルギーハーベストは、ユビキタス社会を支える重要な役割を担っている。 ・低コスト化、小型化・薄肉化への期待:「プリンタブルへ」(印刷技術の適用) 特に RFID タグ:有機半導体のみならず、RF エネルギーの変換や蓄積デバイス・整流などの 周辺回路も同時に印刷プロセスで形成できれば、より低コスト化が可能となる。 ・プリンタブル化の為の新規な有機材料の開発(溶剤可溶解化;無機材料では限界)や、 PowerMEMS を活用した加工技術の開発が望まれる。 (完) 76
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