中小企業の経済学

一橋大学経済学部 商工中金寄附講義
「中小企業の経済学」
第8回 中小企業金融Ⅰ
中小企業金融の理論
2016年6月1日
一般財団法人 商工総合研究所
赤松 健治
1
本講義の内容
1.
2.
3.
4.
5.
中小企業の資金調達
金融機関の中小企業向け貸出
中小企業向け金融の手法
リレーションシップバンキング
中小企業の金融負債
2
1.中小企業の資金調達
テキスト第9章P197~199参照
中小企業の資金調達は、金融機関から
の調達が主であることが大きな特徴
3
企業の資金調達
• 企業の資金調達の分類
①資本の部・負債の部・資産の部
②自己資金・外部資金
③直接金融・間接金融(・企業間信用)
1.中小企業の資金調達
4
中小企業の資金調達
中小企業は、
• ①では資本よりも負債による調達が中心、
• ②では外部資金が中心、
• ③では間接金融が中心
5
③間接金融が中心
• 間接金融は、金融機関や事業会社から借入金とし
て資金を調達する形態
• 直接金融は、株式や社債等、証券を発行して金融
市場から直接資金を調達する形態
• 間接金融、直接金融ともに、期間に応じて長期・短
期に分けられる
• 中小企業は間接金融が調達の主体で、直接金融
はまだ少ない。期間では長期が増加
• なお、企業間信用も広義の資金調達手段(短期)
1.中小企業の資金調達
6
負債、特に借入金による調達が中心
自己資本による調達も増加
中小企業の年度別負債・資本構成
100%
自己資本
90%
80%
固
定
負
債
70%
60%
50%
40%
流
動
負
債
30%
20%
10%
0%
1970
支払債務
75
80
85
90
短期借入金・手形割引
その他流動負債
95
2000
長期借入金・社債
5
その他固定負債
10
14年度
自己資本
(資料)財務省「法人企業統計」
(注1)資本金1千万円以上1億円未満の企業
(注2)全産業(除く金融保険業)
1.中小企業の資金調達
7
長期借入金のウェイトが高く、安定した
資金調達、ただ社債は少ない
中小企業の年度別借入金構成
短期借入金
手形割引
長期借入金
社債
100%
90%
80%
70%
60%
中
年
50%
40%
30%
20%
10%
0%
1970
75
80
85
90
95
2000
5
10
14年度
(資料)財務省「法人企業統計」
(注1)資本金1千万円以上1億円未満の企業
(注2)全産業(除く金融保険業)
1.中小企業の資金調達
8
金融機関からの借入金が7割
中小企業にとって金融機関の役割は重要
中小企業の借入金構成比(法人企業)
社債, 3.1%
手形割引, 1.2%
長期借入金(金
融機関以外),
14.8%
短期借入金(金
融機関), 20.4%
短期借入金(金
融機関以外),
9.9%
長期借入金(金
融機関), 50.7%
(資料)財務省「法人企業統計」2014年度
(注1)資本金1千万円以上1億円未満の企業
(注2)法人企業のみ(中小企業全体の借入金額ではない)
1.中小企業の資金調達
9
中小企業の株式上場は少ない
(中小企業は全国に381万、存在する)
中小企業が上場できる日本の株式市場
上場会
上場時の主な要件
社数
JASDAQ
スタンダード・ ・上場時株主数200人以上
グロース共通 ・上場時流通株式時価総額5億円以
上
スタンダード
747
・連結純資産2億円以上
・最近1年間の連結経常利益額1億
円以上、又は時価総額見込50億円
以上
グロース
44
・連結純資産額が正
(最近1年間の連結経常利益、時価
総額見込の条件なし)
マザーズ
220 ・株主数200人以上
・上場時株式時価総額10億円以上
・同流通株式時価総額5億円以上
(資料)日本取引所グループホームページ「上場審査基準」、「上場会社数」
(注)上場会社数は2015年末
1.中小企業の資金調達
備考
・企業の存続性
(事業活動の存続に支
障を来たす状況にない
こと)
・企業の成長可能性
(成長可能性を有して
いること)
10
2.金融機関の中小企業向け貸出
テキスト第9章P199~205参照
• 中小企業金融の担い手として、日本には様
々な業態の金融機関が存在している
• 民間と政府系がある
• 民間金融機関は、銀行、信用金庫、信用組
合など
• 政府系金融機関は、商工中金、日本政策金
融公庫、日本政策投資銀行など
11
日本の主な金融機関の業態とその機能
業 態
金融機関数
国内銀行 都市銀行
5
信託銀行
3
地方銀行
64
第二地方銀行
41
その他銀行
13
小計
126
民間
信用金庫
265
信用組合
153
労働金庫
農林中央金庫
農業協同組合
合計
商工組合中央金庫
(商工中金)
13
1
659
1,217
主 な 機 能
大都市に営業基盤を置き全国的な規模で営業
信託を業として行う
都道府県の中心都市等に本店を置きその地域を営業基盤とする
同上。1989年以降、相互銀行や信用金庫から転換
一定地区内の中小事業者や個人を会員とする協同組織の金融機関。会員に
対し金融サービスを提供。会員以外への貸出は一部可。会員以外からの預
金受入は制限なし
一定地区内の中小事業者や個人を組合員とする協同組織の金融機関。組合
員に対し金融サービスを提供。組合員以外への貸出、組合員以外からの預
金受入ともに一部可
原則として労働組合と消費生活協同組合を会員とする協同組織の金融機関
農業協同組合の全国レベルの上位組織
農業従事者を組合員とする協同組織の金融機関
出資する中小企業団体、およびその構成員に対し、貸出、預金、為替、国際
業務ほか総合金融サービスを提供する協同組織の金融機関
中小企業・小規模企業への事業資金貸出および創業支援を行う。預金受入
日本政策金融公庫
1
政府系
なし
日本政策投資銀行
1 大企業向けに長期の事業資金を供給
輸出入金融や投資金融などの国際金融業務と、円借款などの政府開発援助
国際協力銀行
1
を行う
(資料)ニッキンホームページ、全国銀行協会「全国銀行財務諸表分析」、「図説わが国の銀行」
(注1)2015年4月30日現在
(注2)民間は預金金融機関のみ記載
(注3)シャドーは中小企業専門金融機関
(注4)信用金庫、信用組合、労働金庫、農業協同組合、商工中金は、会員・組合員に対する貸出と預金の受入を主に行う
(注5)上記金融機関以外に、生命保険会社、損害保険会社も企業向け貸出を行う
1
2.金融機関の中小企業向け貸出
12
金融機関の規模
業態により規模の差が大きい
金融機関の業態別総資産額(2013年3月期)
(兆円、億ドル)
総資産額
1機関当たり
1機関当たり
(ドル換算)
都市銀行
495.5
82.6
8258.8
信託銀行
71.9
18.0
1797
地方銀行
264.9
4.1
414
第二地方銀行
66.7
1.6
162.6
信用金庫
134.7
0.5
49.9
信用組合
19.7
0.1
12.5
(資料)日本金融通信社「ニッキン資料年報」(2014年版)
(注)1ドル=100円として換算
2.金融機関の中小企業向け貸出
13
中小企業向け貸出の業態別シェア
シェアは分散しており、政府系も一定の存在感
業態別中小企業向け貸出残高構成(2014年度末)
信用金庫, 16.6%
信用組合, 4.0%
商工組合中央金庫, 3.7%
日本政策金融公庫(中
小企業事業), 2.4%
国内銀行, 71.0%
日本政策金融公庫(国
民生活事業), 2.3%
2.金融機関の中小企業向け貸出
14
過去の推移
• 戦後~高度成長期、日本は資金不足経済にあり、
銀行は大企業に融資を集中、中小企業は特に長期
資金の調達が困難
• 石油危機等を経て、徐々に資金不足経済から資金
余剰経済(カネ余りの時代)へ移行するとともに、大
企業の銀行離れ(社債、株式などの直接金融へ)が
進行、銀行は中堅・中小企業向け融資へ向かう
• バブル崩壊後、銀行の不良債権問題から金融シス
テム不安が起きる中、中小企業に対する貸し渋りが
問題に
• 不良債権処理の過程で、地域金融機関に対し、リ
レーションシップバンキング強化の要請
2.金融機関の中小企業向け貸出
15
中小企業向け貸出の割合
大手銀行も、中小企業は重要な貸出マーケット
国内銀行業態別国内店貸貸出に占める中小企業向け貸出の割合(2013年3月時点)
0%
都市銀行
信託銀行
地方銀行
10%
20%
30%
40%
35.1
70%
80%
90%
100%
36.2
24.5
37.4
45.4
32.3
46.5
中小企業
60%
28.8
30.1
第二地方銀行
50%
消費者ローン・住宅ローン
30.3
31.6
22.0
大企業・地公体等
(資料)金融ジャーナル2015.7号
(注)各金融機関とも「中小企業等」を中小企業と消費者ローン・住宅ローンに分離
2.金融機関の中小企業向け貸出
16
取引金融機関数
日本では複数の金融機関との取引が一般的
従業員規模別の取引金融機関数
0%
10%
20%
30%
40%
50%
60%
70%
80%
90%
100%
1.0
~20人
21~100人
7.6
2.9
24.3
10.8
26.6
18.5
28.8
34.5
11.8
28.3
5.0
1.5
101~300人
4.7
10.1
28.6
42.0
13.1
0.8
301人~ 1.2 6.1
16.5
37.2
1行
2行
3行
4~5行
38.4
6~10行
11行~
(資料)中小企業庁「中小企業白書」2007年版
2.金融機関の中小企業向け貸出
17
一担当者当たりの取引件数
日本では金融機関担当者の一人当たり取引件数が多い
金融機関の従業員一人当たり中小企業向け貸出件数の日米比較
0
米銀
平均値
邦銀
米銀
中央値
邦銀
資産10億ドル以上
資産1-10億ドル
資産1億ドル未満
10
20
30
40
50
都市銀行
地方銀行
第二地方銀行
信用金庫
70
80
90
34.7
23.2
5.7
都市銀行
地方銀行
第二地方銀行
信用金庫
資産10億ドル以上
資産1-10億ドル
資産1億ドル未満
60
85
60.2
50.6
43.6
2.3
3.3
4.2
73.9
59.4
49.2
41.4
(資料)小野有人「中小企業の成長に向けた金融戦略」みずほインサイト2013年3月
(注)米銀は2011年6月、邦銀は2012年3月時点
2.金融機関の中小企業向け貸出
18
複数行取引のメリット・デメリット
(メリット:主に借り手)
• 資金調達が困難になった場合の調達アクセスが確
保できる(保険動機)
• 取引する金融機関の特質に応じた資金調達・運用
や情報入手先の多様化が図れる
(デメリット:主に貸し手)
• 取引先の業況や財務状況を把握することが困難
• 審査やモニタリング機能が弱まり、企業の債務増加
時のチェックがしにくくなる
2.金融機関の中小企業向け貸出
19
担保は不動産が中心
零細企業では個人資産の担保も
中小企業の担保設定の有無
担保設定有
担保設定無
76.1%
23.9%
担保に提供した資産
100%
80%
80.4%
60%
40%
34.5%
26.0%
20%
9.1%
4.1%
3.4%
0.3%
2.0%
現
預
金
(
個
人
所
有
)
有
価
証
券
(
個
そ
の
他
0%
不
動
産
(
会
社
所
有
)
現
預
金
(
会
社
所
有
)
有
価
証
券
(
会
社
所
有
)
債
権
・
棚
所卸
有資
)産
(
会
社
不
動
産
(
個
人
所
有
)
人
所
有
)
(東京商工会議所のアンケート調査、2012年6月)
2.金融機関の中小企業向け貸出
20
(参考)中小企業金融におけるメインバンク制
• 特定の金融機関(メインバンク)が長期的・固定的関
係を構築し、頻繁な接触の中で企業情報を蓄積
→日本でリレーションシップ的な役割を果たしてきた
• 中小企業でも規模の大きな企業ではメインバンクに
対する満足度が比較的高いものの、規模の小さい
企業では不満が大きい(2007年度版中小企業白書
による)
• 1990年代末の金融システム不安以降、一部のメイ
ンバンクで取引姿勢が不安定化(同)
2.金融機関の中小企業向け貸出
21
日本の中小企業のメインバンクは
規模が小さいほど地域金融機関が主
従業員規模別メインバンクの業態
0%
5人以下
6~20人
21~50人
51~100人
10%
20%
30%
40%
20.0
50%
60%
70%
45.0
23.1
25.5
2.6
4.1
11.5
46.0
44.7
地方銀行・第二地方銀行
2.4
18.4
50.5
42.1
都市銀行
100%
26.4
51.9
32.8
301人以上
90%
32.6
47.9
101~300人
80%
6.8
47.3
信用金庫・信用組合
5.2
5.1
2.7 5.3
その他
(資料)中小企業庁「中小企業白書」2011年版
2.金融機関の中小企業向け貸出
22
3.中小企業向け金融の手法
テキスト第9章P205~209参照
• 中小企業向け金融には、「情報の非対称性」
が存在し、それが円滑な資金の調達(供給)
に困難を生じさせているという指摘がある
• この「情報の非対称性」を緩和する何らかの
手法が必要
• 中小企業向け金融の手法として、リレーショ
ンシップバンキングと、トランザクションバンキ
ングがある
23
リレーションシップバンキングと
トランザクションバンキング
• リレーションシップバンキング・・・長期継続的な取引
に基づく定性情報を重視する手法
• トランザクションバンキング・・・財務諸表等の定量情
報に基づき、特定の時点、個々の取引における採
算性を重視する手法
• トランザクションバンキングは日本ではまだ歴史が
浅く、中小企業金融の補完的な手段なのに対して、
リレーションシップバンキングは長期的・取引横断的
な金融手段で、中小企業金融ではこの手法が主流
3.中小企業向け金融の手法
24
リレーションシップバンキング
• 定義:長期的に継続する取引関係の中から、金融
機関が借り手企業の経営者の資質や将来の事業
性等についての情報を得て融資等を実行するビジ
ネスモデル(金融審議会)
• 長期の継続的な取引により定性情報を収集・蓄積し
ていくことで、情報の非対称性を緩和
3.中小企業向け金融の手法
25
リレーションシップバンキングのメリット
• 貸し手にとっては、情報の非対称性の問題を緩和し、
長期的かつ取引横断的な金融取引が可能
• 借り手にとっては、業況の悪化時にも資金調達面で
のリスクが軽減
• 過度な担保、保証の軽減
• 機密性の高い研究開発や設備投資に対する融資で
は有利
• 契約の不完備性の問題に対し、再交渉が比較的容
易
3.中小企業向け金融の手法
26
リレーションシップバンキングのデメリット
• ホールドアップ問題:金融機関が情報・取引
を独占することに伴う弊害(金融機関が自ら
に有利な条件を課す可能性)
• ソフトな予算制約問題:中小企業の経営悪化
時に追い貸しをしがちとなり、中小企業の経
営努力へのインセンティブが弱まる
• コントラクティング問題:金融機関組織内部で
の情報の偏在・非対称性
→大規模金融機関には不向き
3.中小企業向け金融の手法
27
トランザクションバンキング
・トランザクションバンキングの代表的な手法と
しては、以下の3類型があげられる
① クレジットスコアリング貸出
② ABL(資産担保貸出)
③ 財務諸表準拠貸出
3.中小企業向け金融の手法
28
クレジットスコアリング貸出
• クレジットスコアリングモデルを利用した貸出。米国で、1990
年代に小企業向け融資の手法として発達し、経営者の資産
内容等、個人(信用)情報と組み合わせて管理
• 特徴
①母集団の倒産確率等により融資の審査をする
②クレジットスコアリング貸出の貸出先(債権)について、
ポートフォリオ全体でリスクを管理する
③審査は短期間、貸出限度を設ける
④審査の自動化を進めることでコストを削減する
3.中小企業向け金融の手法
29
クレジットスコアリング貸出(続き)
• 実際には、会計指標、財務状態、企業所有者の信用履歴な
どを基にして、計量モデル(クレジットスコアリングモデル)に
よりクレジットスコアを算定し、機械的に貸出の可否、利率等
を決定
• クレジットスコアは、定期的に見直す。早期警戒システムをモ
デルに組み込む
• 省力化が図れることで、法人向けは大手銀行が採用。中小
銀行も補助的指標として利用
• 一方で課題もある(貸出限度、創業・新規事業)
3.中小企業向け金融の手法
30
ABL(資産担保貸出)
• ABL:Asset Based Lending
• 企業が有する在庫や売掛債権などの流動資産を担保とした
融資で、過度に不動産担保に依存しない融資手法
• 主に売掛金、在庫などの価値に一定の掛目を乗じて与信
(貸出等)の枠を決定
• 担保自体が優先的な返済財源となる。従来の不動産担保の
場合、企業の生み出すキャッシュフローが返済財源
• 動産を担保とするため、高い頻度でのモニタリングが必要
(売掛金・在庫の変動)
• 小口の貸出の場合にはモニタリングのコストが割高となる
3.中小企業向け金融の手法
31
財務諸表準拠貸出
• 企業の財務諸表に表れる信用力、返済能力を基にした貸出
• 信頼性の高い、監査済みの財務諸表を作成できるような一
定以上の規模の企業が対象となる
• 中小企業でも、業歴が長く信頼性の高い財務諸表を作成し
てきている企業は対象
• キャッシュフロー関連指標(EBITDA等)を基に返済能力を算
定し、融資額を決定
• 財務制限条項(特定の財務比率の維持等)を設ける場合も
ある
• 返済が完了するまでの間、財務諸表を用いて返済能力の状
況をモニタリング
• シンジケートローンが代表的
3.中小企業向け金融の手法
32
4.リレーションシップバンキング
テキスト第9章P206~212参照
• リレーションシップバンキングは、中小企業と
金融機関との長期かつ継続的な金融取引に
基づき蓄積される定性情報を重視して、貸出
などの金融取引を行うものである
33
日米のビジネスモデルの相違
• 金融機関の規模、貸出件数の違いもあり、担
当者の属人的な知識に依存している米国と
同じビジネスモデルを採用するのは無理
• 定量情報の分析手法も取り入れつつ、日本
独自のスタイルのリレーションシップバンキン
グの確立が求められる
→地域密着型金融の長所を生かしつつ、個々
の担当者の属人的能力に過度に依存しない、
より組織的なアプローチ
4.リレーションシップバンキング
34
日本におけるリレーションシップバンキングの
強化
(強化の背景)
• バブル崩壊後に深刻化した金融機関の不良債権問題
(住専問題、自己資本比率規制)
• 金融システム不安の発生
(大手銀行の破綻、貸し渋り問題)
• 不良債権処理の加速とリレーションシップバンキングの推進
(金融再生プログラム、リレーションシップバンキングの機能
強化に関するアクションプログラム)
→(地域密着型金融の機能強化の推進に関するアクションプ
ログラムへ)
4.リレーションシップバンキング
35
リレーションシップバンキングの評価
取引は長い。一方、ソフト情報の蓄積に不十分な要素も
借入金残高が1位の金融機関との取引年数
~5年
9.1
6-10年 11-20年 21-30年 31-40年
11.5
18.4
20.1
20.1
(%)
41年~
20.8
借入金残高1位の金融機関の自社の事情に対する知識の評価(中小企業側の評価)
0%
10%
20%
30%
40%
50%
60%
70%
80%
90%
100%
0.4
業況への知識
79.9
11.4
7.2 1.1
0.9
資金繰りへの知識
74.5
13.6
9.1 1.9
2.5
数字に表れない
強みへの知識
よく知っている
46.7
やや知っている
22.8
普通
あまり知らない
20.9
7.1
知らない
(資料)経済産業研究所「金融危機下における中小企業金融の現状」2008年2月
4.リレーションシップバンキング
36
決算情報以外では、金融機関が入手できる
情報は限定的
中小企業が金融機関に提供している情報(複数回答)
100
(%)
98.2
80
63.1
60
40
30.7
30.7
21.9
20
11.9
6.4
9.8
自
社
の
弱
み
・
課
題
主
要
取
引
先
の
動
向
0
財
務
状
況
(
決
算
書
)
財
務
状
況
(
試
算
表
)
資
金
繰
り
の
状
況
経
営
計
画
自
社
の
強
み
9.3
業
界
動
向
他
の
金
内融
容機
関
の
取
引
4.9
7.5
従
業
員
等
の
採
用
状
況
個
人
保
有
資
産
の
内
容
1.3
そ
の
他
(東京商工会議所のアンケート調査、2012年6月)
4.リレーションシップバンキング
37
情報の非対称性緩和への取組み
経営者、取引実績、製品、成長性をモニタリング
(4つ以内回答、%)
金融機関が中小企業の貸出審査において財務諸表以外で重視している項目
100
89.3
74.8
80
71.1
67.9
60
40
23.3
20.8
20
9.4
6.3
業
種
取
引
年
数
19.5
8.2
1.3
0.6
優
れ
た
有設
無備
・
機
械
の
海
外
取
引
の
有
無
0.6
0
業
歴
総
合
的
な
取
引
振
り
返
済
実
績
優
れ
た
有製
無品
・
技
術
の
経
営
者
の
資
質
優
秀
な
人
材
の
豊
富
さ
優
良
な
取
引
先
の
有
無
事
業
の
成
長
性
そ
の
他
(東京商工会議所のアンケート調査、2012年6月)
4.リレーションシップバンキング
38
金融庁のアンケート調査から
アンケートでは金融機関の姿勢を評価する利用者が多い
リレーションシップバンキング(地域密着型金融)の取組み姿勢
積極的
0%
2010
11
12
13
14
やや積極的
どちらとも言えない
20%
15.7
13.0
14.9
16.5
18.5
40%
32.2
35.7
34.3
34.9
やや消極的
消極的
60%
わからない
80%
100%
28.7
12.0
27.9
11.1
5.5
6.8
28.2
9.9
5.9
6.8
10.0
6.4
5.9
26.4
39.5
24.0
6.1
9.0
5.2
4.3 4.8
(資料)金融庁
(注)縦軸はアンケートの実施年度
4.リレーションシップバンキング
39
「目利き能力」は、ある程度評価している
顧客企業の事業価値を見極め経営課題を発見・把握する能力(目利き能力)
十分
0%
2010
概ね十分
20%
4.0
11 2.8
12
3.9
13
4.1
14
5.2
22.9
22.6
どちらとも言えない
40%
やや不十分
60%
34.1
27.6
27.1
37.0
31.9
32.6
わからない
80%
19.2
37.0
22.8
不十分
100%
9.6
10.2
18.3
9.3
9.9
16.5
9.7
10.1
17.2
8.2
11.0
15.3
10.9
8.8
(資料)金融庁
(注)縦軸はアンケートの実施年度
4.リレーションシップバンキング
40
中小企業との関係の構築・維持については、
積極的に推進と評価
顧客企業との日常的・継続的な接触(顧客企業への訪問等)の姿勢
積極的
0%
10%
2010
18.8
11
18.3
12
18.7
13
19.1
14
22.5
やや積極的
20%
どちらとも言えない
30%
40%
36.2
35.5
36.6
37.3
32.9
50%
やや消極的
60%
消極的
70%
23.3
23.6
わからない
80%
90%
9.8
5.1
6.8
11.0
5.0
6.5
4.4
6.6
23.5
10.3
22.1
9.2
25.2
100%
8.1
4.9
4.8
7.3
6.5
(資料)金融庁
(注)縦軸はアンケートの実施年度
4.リレーションシップバンキング
41
顧客企業のライフステージの各類型における
取組み姿勢の評価
顧客企業のライフステージの各類型における地域金融機関の取組み姿勢(評価)
創業・事業開拓支援
年度
積極的評価 消極的評価
2010
29.7
24.9
11
29.3
23.9
12
30.5
24.5
13
38.3
16.3
14
42.2
15.9
成長段階にある取引先支援
年度
積極的評価 消極的評価
2010
46.8
13.0
11
41.3
10.8
12
40.8
12.3
13
46.5
10.0
14
49.0
11.0
事業再生・業種転換支援
年度
積極的評価 消極的評価
2010
21.3
21.0
11
20.4
20.7
12
18.7
21.5
13
20.9
19.0
14
24.5
19.8
事業承継支援
年度
積極的評価 消極的評価
2010
22.1
13.5
11
21.5
13.4
12
22.9
15.9
13
25.3
14.0
14
26.2
13.3
経営改善支援
年度
積極的評価 消極的評価
2010
44.9
18.9
11
40.2
19.5
12
39.3
18.1
13
39.2
19.1
14
39.8
18.1
(資料)金融庁
(注1)年度はアンケートの実施年度
(注2)アンケートの回答は6項目(積極的、やや積極的、どちらともいえない、やや消極的、消極的、わからない)
(注3)積極的評価=「積極的」+「やや積極的」、消極的評価=「消極的」+「やや消極的」、として集計
4.リレーションシップバンキング
42
金融機関の実務者へのアンケートでは、
経営改善支援などでは大いに応えていると考えているが、
応えられていないと自己評価している項目もある
利用者の期待に応えるものになっているか(金融機関へのアンケート)
0%
20%
経営改善支援
担保・保証に過度に依存しない
融資等への取組み
地域活性化につながる
多様なサービスの提供
創業・新事業支援
人材育成
40%
18.2
60%
80%
100%
69.1
14.6
10.1
71
大いになっている
12
なっている
13.6
63.8
9.1
18
62
6.1
24.9
62.5
あまりなっていない
26.8
全くなっていない
事業再生支援
13.1
55.1
目利き能力の発揮 5.3
地域全体の面的再生への
取組み
9.1
事業承継支援
8.2
24.3
54.6
34.4
49.8
期待されていないと考
え、取り組んでいない
31
分からない
35.9
43.3
(資料)金融庁
(注)金融機関へのアンケートは2009年度実施
4.リレーションシップバンキング
43
5.中小企業の金融負債
テキスト第9章P212~214参照
中小企業の借入の負担度合いについて、中
小企業の金融負債の動きからみてみると、負
担感が緩和されてきている様子がうかがわれ
る
44
中小企業の金融負債の推移
• バブル期に中小企業の金融負債が増加
• バブル崩壊後、業績悪化時にさらに負債が増加(追
い貸し等)、1990年代後半には負債額はピークに
→中小企業の「3つの過剰」(負債・設備・雇用)が問題
視される
• 2000年前後から中小企業は過剰の処理に取り組
み、金融負債は減少へ向かう
• 返済原資(キャッシュフロー)の増加で、負担感は緩
和されてきている
5.中小企業の金融負債
45
中小企業は債務償還年数が長い
その水準は足元ではバブル前の水準に戻る
総債務償還年数の推移(全産業)
(年)
中小企業
中堅企業
大企業
25
20
15
10
5
0
1970
75
80
85
90
95
2000
5
10
14年度
(資料)財務省「法人企業統計」
(注1)総債務償還年数=総債務/キャッシュフロー、総債務=短期・長期借入金+社債
キャッシュフロー=経常利益/2+減価償却費-配当-役員賞与
(注2)中小企業は資本金1千万以上1億円未満、中堅企業は同1億円以上10億円未満、
大企業は同10億円以上の企業
5.中小企業の金融負債
46
債務額とキャッシュフローの比較
債務償還年数の減少には総債務の減少が寄与
景気回復が回復しても総債務積み増しの兆候は見えず
総債務の推移
(兆円)
中小企業
中堅企業
大企業
300
250
200
150
100
50
0
1970
75
80
85
90
95
5.中小企業の金融負債
2000
5
10
14年度
47
キャッシュフローの推移
(兆円)
中小企業
中堅企業
大企業
35
30
25
20
15
10
5
0
1970
75
80
85
90
95
5.中小企業の金融負債
2000
5
10
14年度
48
(参考)金利負担
超金融緩和により、金利負担は現状少ない
これは債務の減少と超低金利が重なったもの
売上高金融費用率の推移(全産業)
中小企業
中堅企業
大企業
5.0%
4.0%
3.0%
2.0%
1.0%
0.0%
1970
75
80
85
90
95
2000
5
10
14年度
(資料)財務省「法人企業統計」
(注)金融費用は支払利息等
5.中小企業の金融負債
49
中小企業は現預金を厚めに保有
手元流動性の推移(全産業)
(月)
中小企業
中堅企業
大企業
2.5
2.0
1.5
1.0
0.5
0.0
1970
75
80
85
90
95
2000
5
10
14年度
(資料)財務省「法人企業統計」
(注1)手元流動性=(現預金期首・期末平均+有価証券期首・期末平均)/月商
5.中小企業の金融負債
50
講義まとめ
• 日本の中小企業は、負債調達の割合が高く、また負債の中
でも金融機関への依存度が高い
• 中小企業金融では、いわゆる「情報の非対称性」が問題とな
る。これを克服するため、主としてリレーションシップバンキン
グの手法が用いられている
• 日本のリレーションシップバンキングはこれまで徐々に強化
されてきた。効率的に機能しているかは、まだ発展途上だが、
一定の評価を得られている。将来に向けて独自のスタイル
の構築が望まれる
• 日本の中小企業の債務負担はバブル前の水準まで改善。
金融面のリスクには依然警戒的
51
一般財団法人 商工総合研究所
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