企業リスクマネジメントにおけるメンタルヘルスケア 株式会社Gサポート 1 目 次 1.メンタルヘルスに関するリスク発現事例 2.企業リスクマネジメントの概要 3.メンタルヘルスケアについて 2 1.メンタルヘルスに関するリスク発現事例 2.企業リスクマネジメントの概要 3.メンタルヘルスケアについて 3 企業を取り巻く様々なリスク 損 害 規 模 地震 噴火 戦争 テロ 火災 爆発 パンデミック 不公正 取引 取引停止 台風 豪雨 水・電気 供給停止 為替 変動 原材料 高騰 情報 漏洩 情報システム 障害 製品欠陥 機械設備 故障 感染症 環境汚染 クレーム・ トラブル 労働災害 盗難 売掛金 回収不能 原材料 調達不能 輸送・保管 中の事故 社員 交通事故 発生頻度 4 メンタルヘルスに関する 企業のリスク 信用の 低下 社員の 不安・モラル低下 損害賠償等経済的損失 ・企業イメージの低下 ・顧客からの信頼度の低下 ・労働市場からの信頼度の低下 ・生産性の低下 ・品質の低下 ・更なる精神疾患者の発生 ・実態調査に係る費用 ・訴訟・弁護士費用 ・逸失利益、慰謝料 etc 5 電通事件 新入社員の男性社員(当時24歳)が、慢性的な長時間労働に従事していたところ、うつ病に罹患し、 自殺するに至ったことから、遺族である両親が会社に対して損害賠償を請求した事案。 (経緯) 男性社員は、1990年4月に入社し、6月の配属以来、長時間労働で深夜の帰宅が続いたが、 当初は意欲的で、上司の評価も良好だった。1991年1月以降、帰宅しない日があるようになり、同年7 月には元気がなく顔色も悪い状態となった。さらに、8月に入ると、「自信がない、眠れない」と上司に 訴えるようになったほか、異常行動もみられ、遅くともこの頃までにうつ病に罹患した。そして、わずか 入社1年5か月後の1991年8月27日、自殺に至った。 (結末) 最終的には、会社が約1億6,800万円を支払うとの内容で和解が成立した。 (最高裁判断) ① 業務と自殺との間の因果関係 長時間労働によるうつ病の発症、うつ病罹患の結果としての自殺という一連の連鎖が認められ、 因果関係ありとされた。 ② 会社の義務(注意義務ないし安全配慮義務)違反 男性社員の上司らは、男性社員の著しい長時間労働及びその健康状の悪化を認識しながら、 その負担を軽減させるような措置を取らなかったとして、会社の注意義務違反を認めた。 ③ 損害額算定の際の減額事由 男性社員の性格や両親の対応などについて、損害額算定の際の減額事由として考慮すべきで 6 はないとの結論。 山梨赤十字病院事件 山梨赤十字病院(山梨県富士河口湖町)の男性職員=当時(43)=が自殺したのは過労やパワハ ラなどでうつ病を発症したためだとして、遺族が日本赤十字社(東京都)に約8900万円の損害賠償を 求めた訴訟の判決で、甲府地裁の林正宏裁判長は2日、「過重な時間外労働など業務と自殺との因 果関係が認められる」として、約7000万円の支払いを命じた。 訴状によると、男性職員は93年8月に同病院の調理師となり、05年8月に介護職に異動した。勤務 先のリハビリ施設の職員減で業務は増加、死亡前1カ月の時間外労働は約166時間に上り、上司から 度々説教なども受けたという。小松さんは07年4月中旬にうつ病を発症し、同24日に職場で自殺した。 判決は、男性が介護に関する資格を持っていないのにリハビリテーション施設の責任者として介護 業務に従事させられ、強い精神的負荷を受けていたと推察できると指摘。「病院側は十分な支援態勢 を整える注意義務を怠った」と判断した。 都留労働基準監督署は昨年12月、労働災害に当たるとして男性職員の妻に遺族補償年金の支給 を決めている。 平成24年10月 7 川崎市水道局事件 まじめでおとなしく、やや弱気の面があり、人前で大声を出して話すことは得意ではなく、家庭外では 無口な方であり、あまり社交的でなかった男性職員が、川崎市水道局の試験を受け合格し、昭和63年 4月1日に採用され、幸営業所工事係に技能員配管工事員として配属された。その当時、男性職員の 勤務評価は、最も評価の高い“A”であった。 その後、男性職員は平成7年5月1日付で、水道局工事用水課に異動し、職種が配管工事員に変更 されたところ、上司3名により翌月頃から陰口・卑猥な言動・悪口・嫌がらせなどを継続して受けるように なった。 後に課長は、自らも被告の3名等に対して面接を行ったが、いじめの当事者である被告にその後の 調査を要求し、被告及び自らの調査結果により、「いじめは無かった」と判断し、何ら対応策を講じるこ ともなく、男性職員の職場復帰の話を進めた。 男性職員は、同年4月1日付で資材課水器係に配転し、復職したが思うようにはいかず、数日出勤し た後出勤できなくなってしまった。 平成9年3月4日自宅1階で首をくくって自殺した。男性職員は遺書を5通残してこの世を去った。 判決では、被告川崎市の安全配慮義務違反と自殺との相当因果関係が認められ、国家賠償法に基 づく賠償命令が下った。 市は、原告2名に対し各1172万9078円の損害を賠償することとなった。 平成14年6月 8 セクハラによる損害賠償事例 ・勤務時間中に肩、髪、背中を撫でる、後ろから抱きつく、股や太ももを撫で回すことをした。 被害者である女性労働者がセクハラ相談窓口に電話をしても繋がらず、人事課長に相談 したものの適切な調査・措置を取らなかった。故にセクハラが継続的に発生する劣悪な 職場環境を放置し、容認した会社に対して、女性労働者が上司と会社に損害賠償を請求 した事件 ⇒110万円の慰謝料の支払を命じる (京都地裁 平成18年4月27日判決) ・性的な噂話を流され、退職を余儀なくされた女性労働者が、噂話を流した上司と会社に 損害賠償を請求した事件 ⇒165万円の慰謝料の支払を命じる (福岡地裁 平成4年4月16日判決) •同僚による職場でのトイレの覗き見行為に対して不適切な対応を行った会社に損害賠償 責任を請求した事件 ⇒350万円の支払命令(仙台地裁 平成13年3月26日判決) •男性社員によるビデオの隠し撮りに端を発して、その男性社員と原告の女性社員が男女 関係にあるかのような会社取締役の発言によって女性社員が退職を余儀なくされた事件 ⇒214万円(京都地裁 平成9年4月17日判決) 9 1.メンタルヘルスに関するリスク発現事例 2.企業リスクマネジメントの概要 3.メンタルヘルスケアについて 10 リスクマネジメントとは① (出典:KPMG Japan) 11 リスクマネジメントとは② 対策コスト 時間、労力、効率、保険・・・ リスクの大きさ 発生可能性 × 影響度 リスクマネジメントとは“リスクの大きさ”を許容範囲内に 収めるための“対策コスト”を最小限にするための努力 12 もう少し具体的に・・・ リスクの洗い出し・評価 リスク処理方法の検討 企業の価値を維持・増大していく ために、企業が経営を行っていく 上で、事業に関連する内外の 様々なリスクを適切に管理する活動 最適手法の選択 指導・実行 リスクマネジメント (狭義) モニタリング・統制 リスクマネジメント 危険発生 (広義) 危機対応組織の構築 危機管理 情報管理 (クライシスマネジメント) 復旧活動 より切迫した重大リスクへの対応手法 を意味し、緊急事態の回避、危機発 生時の対応について、より特化したア プローチを行うもののこと 13 リスクマネジメントのプロセス リスクの洗い出し・ 評価 ①どのようなリスクが発生するか、 発生頻度と損失額を分析 リスク処理方法の 検討 ②リスク処理手法の検討 ⅰ)リスクコントロール リスクをどう回避、防止、軽減、移転するか ⅱ)リスクファイナンス 発生するリスクに対する資金手当て ③最適手法の選択 リスクコントロールとリスクファイナンスの 最適手法のミックスを企業目的に合わせて決定する。 最適手法の選択 指導・実行 モニタリング・統制 ④企業内で組織的にプログラムを実行。 リーダーシップが重要。 ⑤プログラム改善のプロセス。 リスクを常にモニターし改善点をフィードバックする。 14 1.メンタルヘルスに関するリスク発現事例 2.企業リスクマネジメントの概要 3.メンタルヘルスケアについて 15 メンタルヘルスケアの進め方 <組織づくりと計画> 評価・見直し ◆心の健康づくりの方針 ◆組織づくりと中長期目標の設定 (衛生委員会) ◆心の健康づくり計画 セルフケア ラインによるケア (労働者による) (管理監督者による) 事業場内産業保健 スタッフ等によるケア (産業医、衛生管理者等による) 事業場外資源によるケア (事業場外の機関、専門家による) (1)メンタルヘルスケアの教育研修・情報提供(管理監督者を含む全ての労働者が対応) (2)職場環境等の把握と改善(メンタル不調の未然防止) (3)メンタルヘルス不調への気付きと対応(メンタル不調に陥る労働者の早期発見と適切な対応) (4)職場復帰における支援 16 心の健康づくり計画 ~盛り込むべき事項~ 1.事業者がメンタルヘルスケアを積極的に推進する旨の 表明に関すること 2.事業場における心の健康づくりの体制の整備に関する こと 3.事業場における問題点の把握及びメンタルヘルスケアの 実施に関すること 4.メンタルヘルスケアを行うために必要な人材の確保及び 事業場外資源の活用に関すること 5.労働者の健康情報の保護に関すること 6.心の健康づくり計画の実施状況の評価及び計画の見直し に関すること 7.その他労働者の心の健康づくりに必要な措置に関する 17 こと 心の健康づくり計画 ~策定手順~ 1. 事業者(経営責任者)への説明を行い、理解を得る 担当者は、教育・研修等を通じてメンタルヘルス対策について正しく認識しした上でメンタルヘルス 対策に取り組む重要性(下記(1),(2))を経営トップへ説明し、理解を得る。 ※ 担当者: 衛生管理者・人事労務担当者・衛生推進者等(50名未満の事業場において) 注) 衛生推進者等:安全衛生推進者を含め、10人以上50人未満の事業場において 選任し、関係労働者へ周知する義務があります。 (1) メンタルへルスを取り巻く現状 ・労働者の約6割が仕事や職業生活で強い不安やストレスを感じながら働いている ・精神障害等による労災請求件数・認定件数が近年、増加傾向にある ・平成10年以降、年間自殺者数が3万人を超える状況が継続している ・自殺者の内、約3割の人が労働者で占められている・安全配慮義務違反で企業はメンタル ヘルス対策の責任を問われる傾向にある ・気分障害患者数の推移は、5大疾病のトップを占め、がん患者の約2倍の数となってきている 18 (2) 職場におけるメンタルへルス対策を行うメリット ・従業員の健康と生活が守れる 従業員のモチベーションアップ、帰属意識の向上 ・活気ある職場や組織が作れる 事業場のイメージアップ、組織風土の改善(コミュニケーションアップ等)につながる ・事業場のリスクマネージメント対策になる 休職者、退職者の減少により定着率が向上し、人材育成にかかる費用・時間 が節減できる 2. 事業者の基本方針を決定し、表明する (1) 基本方針の決定 ・事業者自らがメンタルへルス対策を積極的に推進するという方針を決定する (2) 基本方針の表明 前記(1)の表明(「わが社が目指すメンタルへルスケア」等)を下記対象者に行う ・管理監督者等 ・全従業員 朝礼・社内報・社内メール・掲示等にて 3. 具体的な目標を設定する 19 【基本方針 (例)】 当社は、従業員の心の健康が従業員とその家族の幸福な生活、活気のある職場のために重要な課題 であることを認識し、精神疾患のみでなく広く職場のコミュニケーションの活性化など心の健康づくりに 取り組む。 【目標及び行動計画 (例)】 取り組み事項 事業者のメンタルヘルスケア 対策の推進表明 主管部門 担当者名 目 標 上期期初に実施 下期期初に実施 衛生委員会(または安全衛生委 員会)の定期開催 毎月第1水曜日実施 管理監督者研修 受講率:90%以上 一般社員研修 職場環境等の把握と改善 受講率:90%以上 4月,2月に実施 ※産業医巡視とは別途 健康診断後の事後指導 (ストレス・セルフチェックの実施) 4月 実施率:95%以上 2回目:3月迄 *面談率:90%以上 事業場外資源の活用 7月 8月 実 績 アクション 予 定 実 績 アクション 予 定 実 績 アクション 予 定 実 績 アクション 予 定 実 績 アクション 幹部会議・全体朝礼 計画の発表 メンタルヘルス基礎 定例調査審議 定例調査審議 上半期中途振返り 定例調査審議 アンケート分析 改善の打ち合わせ メンタルヘルス基礎 アンケート分析 改善の打ち合わせ 職場巡視 改善計画作成・打ち合わせ 対策実施 予 定 1回目:10月迄 相談窓口の設置 6月 予 定 実 績 アクション 面談 5月 9月迄 外部機関との相談 体制の整備 予 定 実 績 アクション 予 定 実 績 アクション 予 定 実 績 アクション 全従業員 集計・分析 不調者への対応 管理監督者 人選・研修 20 4.推進体制と役割を明確にし、取り組み事項を実施する 推進体制 役 割 等 担当者名 従業員 ストレスや心の健康について理解し、自分のストレスに適切に対処し、 必要に応 じてメンタルヘルス相談をすること。 管理監督者 職場の管理監督者として、職場環境等の改善を通したストレスの軽減、部下から の相談への対応を行う。また、管理監督者自身も必要に応じてメンタルヘルス相 談をする。 事業場内産業保健スタッフ等 管理監督者を含む従業員の活動を支援する。 *心の健康づくり計画の企画・立案及び評価への協力 *従業員、管理監督者からの相談への対応と保健指導 産業医 *職場環境等の評価と改善によるストレスの軽減 *従業員、管理監督者等に対する情報提供及び教育研修 *外部医療機関等への連絡 *就業上の配慮についての意見 衛生管理者 保健師 人事労務管理部門 メンタルヘルス推進担当者 衛生委員会 産業医と協力して、心の健康づくり活動を推進する。 従業員及び管理監督者からの相談対応などを行う。 従業員及び管理監督者からの相談があればその対応を行う。また、管理監督者 だけでは対応が困難な問題(職場配置、人事異動等)に対応し、また、労働時間 等の改善及び適正配置を行う。 原則として衛生管理者等がその役割を担うものとし、産業医の助言を得ながら、心 の健康づくり計画の企画、立案、評価・改善、教育研修等の実施、関係者の連絡 調整などの実務を担当し、事業場の心の健康づくり活動を中心的に推進する。 事業場内メンタルヘルス推進担当者を中心に心の健康づくり計画の策定に関わ る。また、計画どおりの心の健康づくりが進められているか評価を行い、継続的な 活動を推進する。 21 リスクマネジメントにおける重要ポイント 経営トップの強力なリーダーシップ 各部門・各部署のキーパーソンが参加 異なる部門・部署間のコミュニケーション 自社仕様のフレームワークの活用 外部協力組織の活用 22 〒730-0051 広島市中区大手町5-17-13 TEL 082-504-0303 FAX 082-504-0304 URL http://www.gsupport.jp E-mail consult@godo.gr.jp 担当 添嶋、石橋 23
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