国際連携デザインコンテスト「日韓合同デザインキャンプ」への取り組み ―制度的制約,文化的制約による運営の困難さに関する考察― 熊本大学 工学部附属革新ものづくり教育センター 専任准教授 ○大渕 慶史,センター長 村山 伸樹 E-mail:ohbuchi@cedec.kumamoto-u.ac.jp 1. はじめに 熊本大学と韓国釜山の東亜大学校は,平成 22 年度より合同で「日韓合同デザインキャンプ」と 称したものづくりコンテストを行っている.平成 22 年度と 23 年度は韓国の東亜大学校にて,平 成 24 年度は熊本大学にて開催した.毎年 8 月の夏季休業中の時期に,両大学の学生 32 名ずつが 参加し,混成グループを組んで,決められたテーマで作品を製作しコンテストを行う.初年度と 2 年目は「自然エネルギーを利用した省エネ機器の開発」,3 年目は東北の震災を考慮したアイデ アを期待した「緊急時の便利グッズ」というテーマとした.第 1 回目と 2 回目の開催については 既に報告している 1),2).報告は成功裏に終わったことを強調した内容となっているが,実際には運 営上の困難さが多々見られた.以下に,企画段階から実施,その後までの報告と考察を行う. 2. 経緯 平成 21 年 10 月,韓国の釜山にある東亜大学校の工学教育イノベーションセンター長より本学 工学部長に手紙が届いた.創造性教育の重要性と国際連携の重要性を考え,日本の大学と連携し て学生の交流企画を実施したいが,予算的な考慮で釜山から近い九州地区の大学に協力をお願い したいという内容であった.熊本大学工学部は,平成 17 年度から 5 カ年計画の「ものづくり創造 融合工学教育事業」が終了する直前で,現在の「革新ものづくり展開力の協働教育事業」の準備 検討中であったことなどにより,パートナーとしてこれに対応することにした. 東亜大学校の提案では,開催校を交互にすること,訪問する側が旅費を負担,受け入れ側が滞 在費と製作費を負担するという内容となっていた.しかし熊本大学側は 2 年目の日本側での開催 は準備が困難と判断し,最初の 2 回は東亜大学校での開催を依頼し,これが受け入れられた. 平成 22 年の実施では台風の影響で期間を 8 日間に短縮した.引き続き 2 回目の今回は,予定通 り 10 日間の開催,3 回目は初の熊本大学での開催であったが,無事に予定の 10 日間を終了した. 3. 準備 毎年 4 月下旬~5 月上旬に説明会を開催し参加者を募った.最初の 2 回は韓国を訪問する側で, 熊本大学工学部としての新しい取り組みであったことより,学生の旅費は工学部負担ということ にした.締め切りまでに 70 名程度の参加希望があったが,東亜大学校学生寮の収容数の制約のた め抽選により 32 名に決定した.また,翌年も革新ものづくり展開力の協働教育事業が採択された ため,予算措置が可能で同じ状況となった.しかし,3 年目の熊本大学での開催の場合,学生は 自分の大学での開催に魅力を感じないらしく,参加希望が殆ど無いという状況となった.そこで, 熊本大学での開催の後,約1か月後に東亜大学校で発表会を行うこととし,3 泊の韓国訪問をオ プションとして付けたところ,急激に例年と同程度に希望者が増え,何とか開催が可能となった. 予算的には,訪問する場合には博多港からの高速船を使うため,学生一人当たり往復 2 万弱, 東亜大学校での滞在については,学生寮が夏季休業中は解放されるため,東亜大学校側の実際の 負担は,製作材料費と見学旅行費が主であったと推測される. 一方,日本での開催の場合は,熊本大学では学生寮を開放することができないため,韓国側の 32 名の学生と引率の先生方の宿泊のためのホテルを手配せねばならず,これが最も大きな負担と なった.作品製作の材料費も負担したが,これは 8 グループに対して 5 万円以下に制限した. 4. キャンプの経過 キャンプが開始すると,初日には歓迎会を行い,最終日には発表会と表彰式,送別会となる. 韓国側での開催の際に,これらが非常に大規模で立派なものであったため,日本での開催におい ても,あまりレベルを下げるわけにはいかず,この点で非常に苦労した.とくに韓国ではゲスト を迎えるホスト側が歓迎する慣習があるらしく,最初の 2 回を韓国側で開催されて大きな歓待を 受けた.3 回目に日本側が迎える側になった際に同程度の歓待をするということが,日本での制 度的には無理であったため,個人的な負担やボランティアが多発した.また,当センターは副学 部長が兼任するセンター長,専任准教授1名,事務補佐員1名のみで,非常勤の特定事業研究員 に手伝いをお願いし,実質4名での 10 日間の対応となったため,特に専任教員と事務補佐員の負 担は非常に苛酷なものとなった.3 回目の熊本大学での実施の際は,熊本大学と東亜大学校との 夏季休業の日程を合わせると,開催期間が 8 月 9 日~18 日となり,これが熊本大学の一斉休業お よび夏季特別休暇を多くの教職員が取る時期と重なったため,ものづくり委員会メンバーへの強 制的な仕事の割り振りができなかったことも人手不足の原因の一つとなった. 5. 考察 この取り組みにおいて最も問題になったのは,両国の慣習や考え方の違い,また,組織の運営 の違いに起因するものであった.前者においては,日本国内の大学間交流ではお互いの立場や運 営方式が同等であるために通常は意識されないし,同じ日本国内の常識において,誤解が生じる 余地も少ない.可能な範囲,出来ないことに対する共通認識が有る.しかし,国が違い習慣が違 う場合には,接客に対してのマナーや考えも異なるため.特に,歓迎や接待に関しては,予算的 な対応が絡むため,対応が非常に面倒になるか困難を生じる場合が多いし,解決も難しい. 一方,今回のパートナーが私立大学であることも考慮しておかなければならない.これに関し ては,国際交流でなくとも,国内の大学間交流でも生じることであるが,校費(予算)が使える 範囲が違う.一般に国公立大学では,予算の飲食関係の利用は認められていないが,今回の交流 において,韓国側で開催された際には,作品製作の材料費と共に,他の雑費なども支出が可能で あったように見受けられた.大学間交流において,システムの違い,国際交流においての文化や 慣習の違いを乗り越えて,円滑な交流を実現するのは,相互の理解と歩み寄りが必要であり,こ れを怠っての成功は難しいと,この 3 年間の活動で実感した. 参考文献 1) 村山伸樹,大渕慶史,小塚敏之,国際連携ものづくりコンテストによるエンジニアリングデ ザイン教育の展開,平成 23 年度工学教育研究講演会講演論文集(2011)224-225. 2) 村山伸樹,大渕慶史,国際連携ものづくりコンテストによるエンジニアリングデザイン教育の 展開(第 2 報),平成 24 年度工学教育研究講演会講演論文集(2012)154-155.
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