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師走になり激務の日が続いた。残業は連日深夜までおよび、終電に乗れない日も…。
ようやくそれらもひと段落つき、僕は久々に寄り道してみた。
「こんばんは」
「お久しぶりですね! 港さん」
「覚えていてくれましたか?」
「もちろんですよ」
ちょっと感動した。一度来ただけの僕を覚えているなんて…。
「まずは何にいたしましょう?」
「このところ忙しかったからなあ、体にいいカクテルなんてありますか?」
「体にいいですか…」
そのとき、僕の左側の方から声がした。
「何々? 健康的なカクテルなんてこの店にあったっけ?」
声がした方を見ると、40代後半ぐらいの男性が一人で座っていた。
「赤坂さん、茶化してはいけませんよ」
「ははは、酒は百薬の長とも言うけどね」
「百薬の長…。なるほど!」
竹田さんはニヤリとしただけで、さっそく氷と格闘を始めた。
「お兄さんはこの店にはよく来るの?」
「いえ。実は今日が2回目なんです」
「ふーん。知ってるかい? この店はね、世界にひとつしかないカクテルを飲ませてくれ
るってことを」
「世界にひとつ?」
そのとき竹田さんがグラスを差し出しながらこう言った。
「お客様にはそれぞれの好みがあり、それに合わせて微妙に味をアレンジしているから
です。こちらも、港さん好みのさっぱりした味にしてみました」
グラスに浮いた丸い氷の上に、雪のようなものがかかっている。まるで流氷だ!
「いただきます!」
「ウオッカ・
ウオッカ・アイスバーグ」
アイスバーグ」レシピ
ウオッカ:60 ml
ペルノー:1dash
大きめの氷:1個
大きめのグラスに注いでくださ
い。
※dash(ダッシュ)は、シロップ等少量
の使用をするものに用いる用語。
1dashで5、6滴(1ml)ぐらいの量にな
る。
カクテルバーではお酒と同
時に、知らない人同士がコミ
ュニケーションを楽しむことも
できます。だから、たまにはお
ひとりで立ち寄ってみてはい
かがでしょうか。お店に入った
ら、後はその空間に身を委ね
るだけですから。
ほんのりと漢方薬のような香りがする。そして口に含むと、ドスンとしたウオッカの味が
喉を通り過ぎていく。
「効きますねえ。でもアルコールが五臓六腑に染み渡るようでうまいです!」
「ウオッカ・アイスバーグといいます。まさにウオッカに浮かぶ氷山という意味です」
「ほんのりと漢方薬のような匂いがしますね」
「それは15種類のハーブから作られたぺルノーという健康酒がほんの少し入っているか
らです。あくまでも気は心ですけどね」
「ありがとうございます。疲れが取れるような気分です」
「ただし、飲みすぎたら元も子もなくなるから気をつけて!」
「あはは、確かにそうですね! 赤坂さん」
「あと、このカクテルには『氷山の一角』、つまり氷山の見えている部分はほんの一部
で、水面下にはもっと大きな氷塊があるという意味もあります」
「『氷山の一角』か…。この前のカクテルといい赤坂さんといい、このお店には面白いこと
がたくさんありそうですね」
すると赤坂さんがグラスを片手にこう言った。
「港さん。これからもちょくちょく顔を出してくれよ。乾杯! よろしくな!」
この日、マスターと赤坂さんと遅くまで話が盛り上がった。お酒を飲むお店で知人ができ
たなんて、人生で初めての経験。僕はますますカクテルバーKissポートが好きになっ
た。
カクテルに関する質問・疑問は、
〒107-0052 港区赤坂4-18-13 Kissポート財団「カクテル講座」係まで。
※このストーリーはフィクションです。
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