中国自動車産業の最新動向及び展望

中国自動車産業の最新動向及び展望
*
呉 保寧 1)
The Latest Trend and View of Chinese Automotive Industry and Market
Baoning Wu
.Key Words: Chinese Automotive General, Market, Regulation/Policy ,Standard ①
1.中国自動車産業の現状
中国の自動車産業は,2001 年の WTO 加盟以降,旺盛な個人
需要の拡大等により,年間 100 万台増の拡大を見せ,2007 年
には生産・販売が共に 850 万台強となった(図表 1).
図表1:中国自動車販売の推移
中 1000
国
自 900
動
800
車
販
売
台
数
推
移
500
16 G
D
14 P
成
12 長
率
10
%
8
(
700
)
600
図表3:中国乗用車販売上位10社の推移 (万台)
2004年
2005年
2007年
1位 上海VW
35 上海GM
30
一汽VW
2位 一汽VW
30 上海VW
25
上海VW
3位 上海GM
22 一汽VW
24
上海GM
4位 広州ホンダ
20 北京現代
23
奇瑞汽車
5位 北京現代
14 広州ホンダ
23
広州ホンダ
6位 天津一汽夏利
13 天津一汽夏利
19
東風日産
11 奇瑞汽車
19
一汽トヨタ販売
7位 重慶長安スズキ
8位 神龍汽車
9 東風日産
16
北京現代
9位 奇瑞汽車
9 神龍汽車
14
長安Ford
10位 一汽トヨタ販売
8 一汽トヨタ販売
14
神龍汽車
46
46
45
38
30
27
27
23
22
21
乗用車ブランド別のシェアで見ると,2000 年までは VW を中
6
心とした欧州勢が 65%を占めており,日本勢は僅か 15%であ
4
った.しかし,2007 年までには日本勢が急進的に 32%までシ
100
2
ェアを拡大させ,外資系では中国市場でトップのシェアを占め
(
400
300
万
台 200
)
0
0
1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007
乗用車
客車(バス)
貨車(トラック)
輸入車
るに至っている(図表 4).
実質GDP成長率
図表4:2007年中国乗用車ブランド別のシェア (万台)
世界の自動車市場における中国のポテンシャルは大きく,
2006 年時点で,中国はマイナス成長を記録する日本を抜いて
欧州25% 日本32% 中国21%% 韓国7% 米国15%
世界第 2 位の自動車マーケットとなった(図表 2).
図表2:自動車販売の世界上位3ヵ国 (万台)
2005年
2006年
2007年
アメリカ
1744
アメリカ
1705 アメリカ
1646
日本
585
中国
710 中国
849
中国
504
日本
574 日本
535
(アメリカ、日本は登録台数。中国は出荷-輸出+輸入の台数)
世界の自動車メーカーは,技術援助や完成車輸出(CBU)等の
手法から始まり,近年,大規模な直接投資により製造工場を設
フォード, 23
GM, 48
起亜, 11
VW, 96
現代, 23
天津一汽夏
利, 18
プジョー, 21
ホンダ, 46
哈飛, 16
吉利汽車,
22
日産, 29
奇瑞, 39
トヨタ, 47
スズキ, 16
マツダ, 9
立し,現地の生産体制を図っている.
フォルクス・ワーゲン(VW)やゼネラル・モーターズ(GM)等の
奇瑞汽車や吉利汽車等の中国を代表する地場系乗用車メー
欧米強豪より,中国進出が出遅れた日本勢は,強気のモデル投
カーも健闘している.2000 年には地場系のシェアは僅か 15%
入等で,台数を伸ばしている(図表 3).
であったが,2007 年に入ると小幅ではあるものの,21%まで
に伸びている.
*2008 年 5 月 22 日,「自動車技術会春季大会日中自動車技術フ
ォーラム」において発表.
1)㈱現代文化研究所(102-0074 千代田区九段南 2-3-18)
E-mail アドレス:b-wu@gendai.co.jp
2.中国自動車産業の展望
外資系と地場系の共存は,中国自動車産業の重要な特徴の
一つといえる.その要因は,経済的に「沿海大都市部の高所得
者層」及び「地方部の低所得者層」という 2 層構造がある.こ
のため,「国際規格の自動車を生産する外資合弁メーカー」及
計画は見られない.これまでに,外資系メーカーは例えば GM
び「品質よりも低価格を売りにする地場メーカー」がともに存
は上海 GM の GL8 をフィリピンに(2002 年),VW は上海VW
在し,両者を支える周辺産業(部品や鉄鋼,プラスチック等の
のポロをオーストラリアに(2003 年)それぞれ輸出販売したが,
素材)の技術・品質水準も異なっている.外資系は中高級以上
ともに台数は少なかった.地場メーカーは知名度の向上,輸出
の乗用車市場及び MPV 車市場に照準を合わせ,民族系は小型
による付加価値税還付の享受等の目的で,乗用車の輸出を積極
車,微型車,商用車ベースのローエンド SUV 車市場を狙って
的に実施しているが,輸出先は中近東,東欧,中南米に留まっ
いる.中国の地域格差を考えると,こうした構造はまだ続くも
ている(図表 7).
のと考えられる.
中国自動車市場の需要としては,
2010 年に 900 万台強,
2015
年に 1300 万台強と予測されており,2020 年までに米国市場
を超え,世界第 1 位となる可能性が大きい.
低迷している日欧米韓市場とは異なり,各メーカーの重要な
収入源になっている中国には,各社が揃って 2010 年までの増
産を計画しており(図表 5),各社の台数増によって,競争のよ
り一層の熾烈化が想定される.
図表5:主要メーカーの世界販売台数と中国の割合 (万台)
2006年
GM
うち中国
トヨタ
うち中国
フォード
うち中国
VW
うち中国
現代
うち中国
ホンダ
うち中国
日産
うち中国
2010年までの
中国販売計画
2007年
909
88
881
30
654
16
573
71
376
40
355
32
348
22
図表7:2007年中国の乗用車輸出先 (台)
輸出総台数
264,501
うち ロシア
65,251
ウクライナ
41,107
ベネズエラ
20,546
イギリス
19,667
シリア
10,482
イタリア
9,861
ドイツ
9,622
アルジェリア
8,925
ポーランド
8,642
エジプト
6,797
その他
63,601
937
103
937
50
655
22
619
91
387
34
377
46
368
29
地場系メーカーは,排ガス,安全,燃費等については,先進
170
国の基準をクリアするための高度な技術の欠如している制約
100
要因を抱え,進出先の政策規制,現地協力先の応援不足も足を
-
引っ張っている.奇瑞汽車を例とすれば,対米輸出が知財権紛
争や販売代理との関係悪化等で難航している.
155
こうした事実から,中国からの乗用車の大量輸出実現(特に
103
対先進国)は程遠いと考えられる.
74
64
3.日中自動車協力のあり方
中国に進出する外国メーカーにとっては,中国の自動車政策
最近では、中国からの乗用車輸出が話題になっているが,例
を理解しながら,
対中戦略を策定する必要がある.
中国のWTO
年の台数実績は僅か数十万台であり,生産台数に占める割合も
加盟後に,エンジンを含む自動車部品分野での外資系メーカー
一割に満たさない程度に留まっている(図表 6).
への出資比率規制は廃止されたが,外資系完成車メーカーの出
資比率は依然として 50%までと規制されている.このため,
中国メーカーとの共同投資による合弁会社の設立が必須とな
1,000
万
900
800
8.0
輸出台数
国内生産台数
輸出比率
6.97.0
6.0
700
600
4.8
500
400
2.7
300
200
100
0.6
1.4 1.2
1.0 0.9 0.8
0.9
輸出比率
国内生産台数
図表6:中国自動車の国内生産と輸出推移 (万台)
1.3 1.1
0.6
0.7
3.0
1.0
プにつき,中国側の合弁パートナー数は,乗用車,商用車,二
輪車で各 2 社までとなっている.また、主要ユニットの輸入に
4.0
対する規制も存在する.ボディー,エンジン,トランスミッシ
3.0
ョン,ドライブ・アクスル,非ドライブ・アクスル,フレーム,
2.0
ステアリング,ブレーキといった 8 大機能部品を,規定の点数
1.0
を超えて輸入する場合,10%の部品輸入関税(平均)ではなく,
0.0
25%という完成車の税率で課税される(図表 8).従って,現地
19
92
19
93
19
94
19
95
19
96
19
97
19
98
19
99
20
00
20
01
20
02
20
03
20
04
20
05
20
06
20
07
0
5.0
っており,更に協力パートナー数の規制もあり,外資1グルー
調達と輸入対応という主要ユニットの生産上の棲み分けが必
要になっているのが現状である.
国内生産台数が国内卸売台数とほぼ同等となっていること
から、外国メーカーは中国を「最終消費地」と位置付け,ホン
ダの欧州向け小型車輸出を例外として,中国からの完成車輸出
図表8:中国自動車輸入の現行平均関税率
完成車
25%
部品
10%
以下なデータでは,日中の自動車産業が相互補完的な関係に
あることを示している.
図表11:2007年中国ボティー部品の輸出入(万米ドル)
日本が連年トップに立っているのは,現地生産に加えて,日
本から中国への高級乗用車輸出が多いためである (図表 9).
図表9:2007年中国乗用車の輸入先 (台)
輸入総台数
302,096
うち 日本
106,679
ドイツ
70,986
韓国
42,096
アメリカ
34,929
イギリス
11,014
スロバキア
10,379
スウェーデン
6,601
メキシコ
5,015
オーストラリア
4,002
フランス
3,087
その他
7,308
エンジン及び構成品では,日本から中国への輸出は 12 億米
ドル強となり,他方で中国から日本への輸出は小型車向けを中
心に 5 億米ドル弱となっている(図表 10).
図表10:2007年中国エンジン部品の輸出入(万米ドル)
輸入総額
うち 日本
ドイツ
ハンガリー
韓国
アメリカ
オーストラリア
スペイン
イギリス
フランス
ブラジル
その他
輸出総額
うち アメリカ
日本
カナダ
韓国
ベトナム
イラン
ドイツ
イギリス
イタリア
パキスタン
その他
371,524
123,017
55,929
49,099
36,663
29,345
12,201
10,521
8,928
8,119
6,150
31,552
329,301
51,744
49,560
26,031
23,499
15,893
15,164
9,676
9,312
8,593
8,399
111,430
ボディー部品では,日本から中国への輸出は,シートベルト,
サンルーフ,高級車向けエアバック,バンパー,ミラー,ドア
ロック,強化ガラスを中心に 10 億米ドル強を示している.ま
た,中国から日本への輸出は,ドアロック,ガラス,ウィドウ・
輸入総額
うち 日本
ドイツ
韓国
アメリカ
フランス
台湾
スペイン
イタリア
メキシコ
カナダ
その他
輸出総額
うち アメリカ
日本
韓国
ドイツ
イギリス
オーストラリア
カナダ
香港
イラン
マレーシア
その他
312,719
101,977
64,159
61,694
18,175
15,242
12,028
5,249
4,729
4,713
3,929
20,824
313,621
81,188
73,807
25,142
11,332
9,554
8,381
7,367
7,054
4,712
4,665
80,419
電子部品では,日本から中国への輸出はカーナビ,高級車向
けランプを中心に 2 億米ドル弱を示しており,中国から日本へ
の輸出はワイヤーハーネス,レコーダー,小型車向けランプを
中心に 12 億米ドル強となっている(図表 12).
図表12:2007年中国電子部品の輸出入(万米ドル)
輸入総額
うち 日本
ドイツ
韓国
台湾
アメリカ
フランス
マレーシア
チェコ
スペイン
タイ
その他
輸出総額
うち アメリカ
日本
韓国
オランダ
ドイツ
香港
ベルギー
カナダ
オーストラリア
台湾
その他
50,416
16,266
11,269
8,159
2,049
1,647
1,261
1,258
857
838
637
6,812
549,098
138,135
123,082
64,490
62,032
19,839
18,868
13,258
9,572
6,740
6,277
86,805
モーター,小型車向けエアバック,ミラー,バンパー,ワイパ
ー,リクライニング・シードを中心に 7 億米ドル強となってい
る(図表 11).
日中間において,日本からは高付加価値製品と技術,中国か
らは労働集約的な製品を提供する補完型のビジネスモデルが,
今後も両国の win-win な関係をサポートしていくだろう.
更に,中国での自動車関連法規は,今後,国連 WP29 の枠
組みで整備される方向にあり,「環境・省エネ・安全」というキ
ーワードで,新たな日中自動車産業の協力時代を迎えることに
なると考えられる.
環境分野の規制では,まず排ガス基準においては,2007 年
にユーロⅢ,2010 年にユーロⅣを全国に導入することになっ
ている.次にリサイクル制度では,2010 年をめどに関連政策
が導入される計画となっており,リサイクル可能率を国産・輸
入車ともに 85%から,材料が 80%からに定められる.
安全分野の規制では,2000 年の正面衝突に続き,2006 年 7
月より側面衝突が実施され,更に後方衝突も検討されている.
また, 2006 年からは中国汽車技術研究中心(CATARC)が民間
レベルで CNCAP(NCAP の中国版)を実施している.
燃費分野の規制では,2010 年までに新車の平均燃費を 2005
年水準より約 15%改善し,2020 年までに 2010 年水準よりさ
らに約 15%改善することになっている.
諸規制が強化されるほど,外資系完成車メーカーには技術的
に有利となり,部品や関連分野のメーカーにもビジネス・チャ
ンスをもたらす.地場系メーカーは自らが生き残るため,外国
メーカーに対し技術提供等を求める傾向が一層強まると予測
される.
現状では,中国での販売拡大を見込んで、台数を徐々に伸ば
している地場系完成車メーカー・部品メーカーに接近し,自社
のグローバル・スタンダードより基準をやや落とした部品を生
産し,相対的に安く供給できる外資系部品メーカーも出現して
いる.このような趨勢は今後も続くと思われる.
(注)本レポートのデータは,各メーカーの発表,中国汽車工業
協会(CAAM),中国汽車技術研究中心(CATARC)及び現代文化
研究所の数字を使用している.