4.コンテンツ配信標準化調査研究委員会(PDFファイル約0.5MB)

コンテンツ配信標準化調査研究委員会
報 告 書
平成 13 年 3 月
財団法人 日 本 規 格 協 会
情報技術標準化 研 究センター
目次
1.はじめに………………………………………………………………………… 1
2.委員会の構成…………………………………………………………………… 2
3.平成12年度の活動概要……………………………………………………… 3
4.インターネットとコンテンツ配信…………………………………………… 4
5.コンテンツの性格と配信ビジネス…………………………………………… 9
6.クローズドマーケットとオープンマーケット………………………………14
7.コンテンツ配信とコンテンツID……………………………………………20
8.セキュリティと課金……………………………………………………………27
8.1 デジタルコンテンツのセキュリティ………………………………………27
8.2 超流通…………………………………………………………………………32
8.3 ライセンス管理………………………………………………………………43
9.コンテンツの表現構造とメタデータ…………………………………………48
9.1 コンテンツ配信とメタデータ………………………………………………49
9.2 XML表現とメタデータ……………………………………………………49
9.3 教育分野における標準化動向………………………………………………51
10.コンテンツの流通空間 ……………………………………………………56
10.1 流通空間とコミュニティ …………………………………………………56
10.2 「編集の国 ISIS」によるコンテンツ流通環境の試み ……………… 60
付録 コンテンツ配信の今後 …………………………………………………… 65
i
1.はじめに
こ の 2~3 年 の 間 に 、 ウ ェ ブ を 介 し た コ ン テ ン ツ 配 信 は 技 術 か ら ビ ジ ネ ス へ と 大
きく激変した。特にこの 1 年余りの期間におけるネットビジネスを取り巻く環
境の変化は大きく、米国ではドットコム企業の収益力が疑問視され始め株価が
急落し、アイデア先行型のビジネスモデルが叩き落され、リアルとネットを融
合 し た ク リ ッ ク & モ ル タ ル 型 ビ ジ ネ ス モ デ ル が 浮 上 し た 。1998 年 に は 、 米 国 で
ビジネスモデルが特許となるとの判決が出され、以来、多くのビジネスモデル
特 許 が 成 立 し 、 ビ ジ ネ ス 戦 略 に 用 い ら れ て い る 。 日 本 で は B S デ ジ タ ル 放 送 、i
モ ー ド 携 帯 電 話 な ど 、P C 以 外 の プ ラ ッ ト フ ォ ー ム を 用 い た コ ン テ ン ツ 配 信 に も
注 目 が 集 ま っ て い る 。E C 拠 点 と し て の コ ン ビ ニ の 可 能 性 の 拡 大 も 日 本 の 特 徴 で
あ る 。評 価 が 厳 し く な っ た BtoC ビ ジ ネ ス に 対 し 、e マ ー ケ ッ ト プ レ イ ス に 代 表
さ れ る BtoB 型 ビ ジ ネ ス が 盛 り 上 が り 、企 業 間 取 引 の あ り 方 を 変 え つ つ あ る 。音
楽 配 信 の 世 界 で は 、 MP3 の 登 場 に よ り 、 デ ー タ 圧 縮 率 が 高 く 、 音 質 が C D 並 み
の音楽配信が可能となり、一定期間一定料金でダウンロードし放題というサブ
ス ク リ プ シ ョ ン サ ー ビ ス が 始 ま っ た 。さ ら に 、2000 年 に 入 っ て 登 場 し た N a p ster 、
Gnutella は 、 ネ ッ ト に 繋 が っ て い る 個 々 の ユ ー ザ の PC を 直 接 結 び つ け る
PtoP(ピ ア ・ ト ゥ ー ・ ピ ア ) 型 ネ ッ ト ワ ー ク の キ ラ ー ア プ リ ケ ー シ ョ ン と し て ユ
ーザの注目を集めると共に、ネットビジネスに物議をかもすこととなった。ク
ッキーやリバースクッキーのようなツールを用いることにより、ウェブサイト
のオーナやインフォメディアリが、ユーザ行動を分析することが可能となり、
こうして得られる分析情報そのものがビジネス戦略に意味を持つだけでなく商
品価値を持ってきた。
本 委 員 会 は 2 0 0 0 年 に INSTAC に 設 置 さ れ た 委 員 会 で 、 コ ン テ ン ツ 配 信 を 取 り
巻く上述のような多様な激しい変化を理解した上で、本質を見抜き、いまどの
ような技術の開発を標準化に重点を置くべきかを見極めることを目標に調査研
究を行ってきた。初年度にあたる今年度は、激変する状況を理解することに重
点を置き、種々の観点からコンテンツ配信を取り巻く変化の現状を調査した。
本 委 員 会 の 委 員 の 一 部 は 1 9 9 7 年 に 設 置 さ れ 1999 年 ま で 調 査 研 究 を 行 っ た 知 識
メディア標準化調査研究委員会の委員を経験しており、現在のウェブを基盤と
したコンテンツ配信が、知識メディアを基盤としたコンテンツ配信へと発展し
た際に生じる新しい問題と可能性についての調査研究も、本調査委員会の重要
な調査研究項目の一つである。
1
2.委員会の構成
本年度の委員会の構成は、次の「委員名簿」のとおり。
コンテンツ配信標準化調査研究委員会
名簿
(順不同・敬称略)
区
分
氏
名
勤
務
委員長
田中
譲
委
安藤
茂樹
〃
太田
剛
編集工学研究所
〃
岡本
泰次
富士通株式会社
〃
岸上
員
順一
北海道大学大学
先
工学部電気工学科
株式会社日立製作所
教授
情報・通信グループ
アプリケーションサーバーソフト事業部
NTTサイバーソリューション研究所
コンテンツ流通プロ
ジェクト
〃
阪口
克彦
株式会社ソフトフロント
東京事務所
〃
坂本
浩一
日立ソフトウェアエンジニアリング株式会社
ニュービジネ
ス第5グループ
〃
佐藤
和洋
〃
三瓶
徹
〃
田中
一之
札幌学院大学
社会情報学部
社会情報学科 助教授
株式会社スーパーコンテンツ流通
日立ソフトウェアエンジニアリング株式会社
ニュービジネ
スグループ
〃
成田
久雄
株式会社富士通静岡エンジニアリング
第3開発統括部第1
開発部
〃
野木
桂
〃
羽豆
文江
〃
八田
勲
〃
平山
智史
株式会社ベルシステム24
日本電気株式会社
経済産業省
ネットワーク情報システム本部
知的財産部
標準化推進部
産業技術環境局
ソニー株式会社
コミュニケーションシステムソリューショ
ンネットワークカンパニー
〃
牧村
信之
(財)日本情報処理開発協会
〃
宮脇
裕治
富士ゼロックス株式会社
先端情報技術研究所
インダストリーソリューションズ
カンパニー
〃
村野
正泰
株式会社三菱総合研究所
情報技術研究センター
情報技術
開発部
〃
事務局
森
徳岡
岳志
靖崇
日本電気株式会社
システムソフトウェア事業本部
財団法人日本規格協会
2
情報技術標準化研究センター
3.平成12年度の活動概要
本年度は11回の委員会を開催し、コンテンツ配信の標準化の調査研究を
行った。具体的な活動として、以下に9回の委員会での審議内容の概略につ
いて報告する。
第一回委員会(4月20日)
コンテンツ配信の審議に先立ち、音楽配信におけるビジネスモデルの動向
やフォーマットと著作権保護に関する技術動向について、ソニーの平山氏か
ら話を聞いた。またTRに関し修正指針を作成することとした。
第二回委員会(5月29日)
電子商取引標準化調査研究委員会の活動についての報告があった。また当
委員会では、コンテンツの流通だけでなく、コンテンツへの権利や、それに
伴う信用の有体物化と流通に関しても議論の対象とすることとした。次に各
委員から、今後の審議テーマについて要望を受けた。
第三回委員会(6月30日)
コンテンツIDフォーラムの活動と今後の展開について報告があり、コン
テンツIDの仕組み、電子透かし、MPEGとの関連等について説明があっ
た。新しい委員にIPAD(インテリジェントパッド)の説明。TRの修正・
加筆について審議。
adHOC委員会(8月7日)
TRの読み合わせと修正を行った。
第四回委員会(8月25日)
IPADのライセンス機構について紹介があった。権利保護を保証すると
破られたときに責任が発生。権利保護のための必須機能の洗い出しを行いた
い 。 従 量 課 金 や 定 額 課 金 か 。 業 務 用 か 民 生 用 か で P r i c i ng を 変 え る 。
課金モデルを提示。クリアリングハウスによる自由な値付け。
ライセンスの仕組みと流通対象物やその流通対象物の分類の議論があった。
第五回委員会(9月26日)
インターネットを利用する各種業務について、どのような価値を見出して
いるかの分類を行った。出会い/契約の場として、交渉の場の提供として、
情報・流通の基盤サービスとして、スキル教育と自己実現として。
音楽流通の例の紹介。テキスト流通の例の紹介。教育における教材・流通の
問題についての紹介。今後の進め方を審議。
第六回委員会(11月6日)
IPAD で 開 発 し た 教 育 用 コ ン テ ン ツ の 紹 介 。 イ ン テ リ ジ ェ ン ト ボ ッ ク ス の
説明があった。フォーチュンe−50によるECの分類(仲介型、コミュニ
ティー、顧客エージェント、市場オークション、売り手エージェント、メー
カー直販)が紹介され、コンテンツ配信との係りで議論があった。
3
第七回委員会(12月11日)
コンテンツ流通について審議した。インターネット上のコンテンツ流通ビ
ジネスは、クローズド マーケットでのみ成立し、課金の仕組みが整備され
支払いの手間が簡略されることが発達の条件。インターネット上で従量課金
型ビジネスが成立するコンテンツの特徴を審議した。
第八回委員会(1月18日)
IPADを利用して、インターネット上でコンテンツを共同制作する「編
集の国」の紹介。教育分野のおける標準化動向の報告。コンテンツのセキュ
リティについて、対象となるコンテンツ、セキュリティの種類や技術及び標
準化、配信とセキュリティの説明があった。超流通(コンテンツ配信の1形
態 ) を 利 用 し て 携 帯 電 話 か ら 音 楽 を 配 信 す る ビ ジ ネ ス 「 携 帯 de ミ ュ ー ジ ッ
ク」の紹介があった。
第九回委員会(2月26日)
今年度の報告書の内容と執筆担当を決めた。
4.インターネットとコンテンツ配信
4.1 は じ め に
イ ン タ ー ネ ッ ト の 登 場 、 普 及 に よ っ て 、 IT 革 命 の 波 が 押 し 寄 せ 、 産 業 構 造 、
社 会 構 造 が 大 き く 変 わ ろ う と し て い る 。 し か し 、2 0 0 0 年 は 、 ド ッ ト ・ コ ム 株 が
後 退 し 、 一 時 の 熱 狂 的 な IT ブ ー ム に 陰 り も 見 ら れ る 。
コ ン テ ン ツ 配 信 は 、 イ ン タ ー ネ ッ ト 、 IT に よ っ て 可 能 に な っ た 技 術 、 ビ ジ ネ
ス の 一 つ で あ り 、 イ ン タ ー ネ ッ ト 、 IT の 進 展 と 共 に 歩 ん で き た 。 そ こ で 、 イ ン
タ ー ネ ッ ト 、I T 技 術 、I T ビ ジ ネ ス の 課 題 、 今 後 の 動 向 を 分 析 し た 上 で 、 コ ン テ
ンツ配信の課題、今後について考えてみる。
4.2 イ ン タ ー ネ ッ ト の 課 題 と 今 後
4.2.1 コ ン テ ン ツ 配 信 サ ー ビ ス の 登 場
イ ン タ ー ネ ッ ト の 爆 発 的 な 普 及 を も た ら す き っ か け を 作 っ た の は 、 Web ブ ラ
ウ ザ で あ る 。 M o s a i c 、 Netscape、 Internet Explorer 等 の Web ブ ラ ウ ザ さ え あ
れば、ハイパーリンクで結ばれた世界中の情報が即座にたやすく見られる環境
が整った。それは、情報の送り手の立場に立つと、大衆への情報発信は、テレ
ビ 、 ラ ジ オ 、 新 聞 、 出 版 社 と い っ た マ ス メ デ ィ ア に 限 ら れ た も の が 、 Web サ ー
バに配賦したい情報を載せさえすれば、個人でも世界中に情報を発信すること
ができるようになった。このパーソナルメディアの出現によって、インターネ
ットは、オンラインマガジン、オンラインミュージック、インタラクティブニ
ュース、ビデオ・オン・デマンドといったコンテンツ配信を行うメディアと捉
えられた。その結果、放送、出版、コンピュータ業界の融合がおこり、情報の
中味、コンテンツが重要だと騒がれるようになった。
しかし、現実には、このような変化は、あまり生じていない。では、なぜ、
インターネットによるコンテンツ配信が、予想に反して普及していないのであ
ろうか。この理由について、インターネットのその後の動向を追い、インター
ネットの本質を探りながら、分析していきたい。
4
4.2.2 情 報 洪 水 を 救 う 使 い 手 に 立 っ た 情 報 サ ー ビ ス
Web に よ っ て 、 情 報 提 供 が 盛 ん に な り 、 情 報 が 溢 れ る に つ れ て 、 人 々 は 、 玉
石混交の情報洪水の中から、欲しい情報を探し出すのが難しくなってきた。パ
ソコンにより、情報の作成が誰でも簡単にできるようになり、インターネット
により、情報の流通が容易になったが、その情報をうまく消費し切れないので
あ る 。 そ こ に 登 場 し た の が 、 Yahoo 等 に よ る 情 報 へ の イ ン デ ッ ク ス サ ー ビ ス 、
情報検索サービスである。これらは、情報伝達の仲介媒体として機能し、イン
フォメディアリと呼ばれる。
しか し、情報の使い手にとっては、欲しい情報を探し出すだけでは不十分で
ある。使い手が望むのは、使い手の情報構造に仕立てることであり、情報提供
者の書き手の情報構造から、使い手の意図に合った部分だけを取り出し、使い
手の情報構造に再構成することを支援しなければならない。
こ の た め に は 、 情 報 を XML に よ っ て 意 味 構 造 化 し た り 、 情 報 の 活 用 を 手 助 け
するメタ情報を付加したりして、使い手の意図にあった情報を探し出し、変換
し、使い手の情報構造に再構成する方法が今後の課題である。
4.2.3 電 子 商 取 引 の 幻 想
情報提供、コンテンツ 配信の後、インターネット上のキラーアプリケーショ
ンとして登場したのが、電子商取引である。インターネットで、書籍、チケッ
ト、電化製品、自動車など何でも売るビジネスが始まった。卸、小売といった
仲介業者を中抜きすることによる販売経費を削減するビジネスモデル、オーク
ションで消費者が価格を決定するビジネスモデル、など新しいビジネスモデル
を 打 ち 出 し て 、ニ ュ ー エ コ ノ ミ ー と 呼 ば れ る ド ッ ト・コ ム 企 業 が 参 入 を 図 っ た 。
しかし、実は、その多くは、数世紀前のビジネスモデル、すなわち、低価格戦
術に基づいており、長期的に利益を上げながら 、低価格を維持できるものでは
なかった。例えば、中抜きモデルでは、競合他社が参入すれば、低価格競争に
突入し、共倒れになってしまうのである。
インターネットは、テクノロジーであり、ツールに過ぎないことを忘れてし
まったのである。確かに強力なツールであるが、製品を実際に見て、確かめた
上で買うかを決めたい、店員と相談しながら何を買うか決めたい、料金を支払
ったらすぐに使いたい、購入後のアフタァケアをして欲しい、といった消費者
の基本的な要求に応えられなかったのである。
4.2.4 ビ ジ ネ ス プ ロ セ ス を 繋 げ 、 統 合 す る ア プ リ ケ ー シ ョ ン
一方、ブリック&モルタルと呼ばれる従来からの企業も、インターネットを
通じた受注活動を導入し始め、クリック&モルタルと呼ばれるようになった。
その導入は、一つの新たな販売チャネルの追加に過ぎないが、企業の残りのビ
ジネスプロセスすべてに対して、連鎖反応的に改革することが求められている
ことを悟った。すなわち、受注情報、顧客情報の電子化に端を発し、企業内の
すべての情報を電子化し、その電子化情報で企業内のビジネスプロセスを繋げ、
統合していくことによって、企業内のビジネスプロセスサイクルがスピード化
され、 その過程で学習効果が生まれ、スパイラル的に迅速にビジネスプロセス
を改善していけることに気づいたのである。具体的には、顧客に対して、プロ
ポーズサービス、ジャストタイムサービス、ワンストップサービス、アフタァ
サービスを提供するために、価格設定、顧客情報管理、顧客商品分析、顧客支
援機能等を行うカスタマ・リレーションシップ・マネジメント(CRM)、在
5
庫管理、ロジスティクス等、商品の物流を行うサプライ・チェーン・マネジメ
ント(SCM)、企業内の情報、ノウハウの共有を図るノレッジ・マネジメン
ト ( K M ) 、 電 子 購 買 (EC、 e − マ ー ケ ッ ト プ レ ー ス ) と い っ た 業 務 ア プ リ ケ
ーションに、各企業は、巨額の投資を始めたのである。
4.2.5 プ ラ イ バ シ ー 侵 害 を 解 決 す る イ ン フ ォ メ デ ィ ア リ へ の 期 待
ドットコム企業による電子商取引は、幻想になりつつあるが、インターネッ
トによる電子商取引は、増々広がりつつある。電子商取引においては、顧客情
報がキーとなる。インターネットでは、顧客情報が集めやすく、その顧客情報
に基づいて、プロポーズサービス、ジャストタイムサービス、ワンストップサ
ービスといった効果的なマーケッティングが可能になるからである。従って、
企 業 は 、 イ ン タ ー ネ ッ ト で ど の よ う な Web ペ ー ジ を ア ク セ ス し た か を 追 跡 し 、
詳細な顧客のプロファイル情報を集め、ダイレクトメール等マーケッティング
に活用し始めた。その結果、消費者のプライバシーの問題が出てきた。
また、インターネットによる電子商取引は、商品の増殖を妨げていた小売店の商品陳
列棚スペースの制約が緩和されるので、商品の増殖を招き、消費者の商品選択肢を拡大
した。さらに、インターネットは、小売店へのアクセスに対する地理的な壁を取り払い、
世界中のすべての小売店へのアクセスを可能とするので、消費者の商品選択肢がさらに
拡大した。この結果、消費者は、購入に要する時間と労力が増大した。
このような、消費者のプライバシーへの侵害、商品の選択肢の広がりの裏に
は、消費者と販売者との欲求やニーズは相反するという事実が潜んでいる。販
売者は、消費者の情報を集めて、ロイヤリティプログラムと称する深くかつ永
続する関係を消費者との間で形成しようとする。一方、消費者は、商品の選択
や比較は自分の意のままにしておきたく、販売者との間の深く排他的な関係と
は相容れない。
この相反する問題を解決する方法は、インファメディアリである。消費者か
ら販売者へのアクセスは、インフォメディアリを介在して行われる。その際、
イ ン フ ォ メ デ ィ ア リ は 、 消 費 者 が ど の よ う に Web ペ ー ジ を ア ク セ ス し た か と い
った顧客情報を販売者に渡さないようなプライバシー保護ツールを提供し、消
費者は、販売者に匿名でアクセス、取引できるようにする。また、同時に、イ
ンフォメディアリは、消費者個々人の詳細なプロファイルのデーダベースを構
築する。さらに、消費者の要望に応じて、消費者が望まないダイレクトメッセ
ージを送り付けないようにフィルタリングサービスを行ったり、消費者が望む
最 も 適 切 な 商 品 を 最 も 適 切な 価 格 で 購 入 で き る よ う な エ ー ジ ェ ン ト サ ー ビ ス を
行ったり、消費者が、例えば、ハワイ旅行を計画しているときに、ハワイ旅行
に関するマーケッティングメッセージを受け取るために顧客情報を販売者に渡
し,割引価格で購入できるようにするダイレクトマーケッティングサービスを
行ったりする。この情報提供に対する実利的な見返りにより、消費者は、自分
の情報を秘密にしておきたいというわけではなく、情報を提供することに対す
る対価の不満であるというプライバシー侵害の問題が解消される。一方、販売
者は、インフォメディアリからこれまでよりはるかに購買確率の高い見込み顧
客の紹介を受け、ダイレクトマーケッティングを展開できるようになる。
4.2.6 ビ ジ ネ ス プ ロ セ ス を ア ウ ト ソ ー シ ン グ す る ネ ッ ト ホ ス テ ィ ン グ
企業は、ビジネスプロセスの改善のために、情報を電子化し、企業内のビジ
ネスプロセスを繋げ、統合するCRM、SCM、KMといった業務アプリケー
6
ションを行おうとしているが、それには、巨額の投資が必要であり、開発に時
間がかかる。そこで、企業は、これらの業務アプリケーションを他社に任せる
ネットホスティングを利用し始めた。インターネットは、アプリケーションを
必ずしもその利用者のいる場所で動作させる必要をなくし、アプリケーション
をどこで動作させてもよい、すなわち、アプリケーションをどこからでも利用
できる環境を提供し、アプリケーションをネットホスティング形態で利用する
ことを可能とした。また、通信機器、端末機器の進化に伴い,モバイルコンピ
ューティング、ユビキタスコンピューティングも可能とした。
ネットホスティングは、①アウトソーシング、②バーチャル企業、③エコシ
ステムという段階で進展するものと見られる。アウトソーシングは、アプリケ
ーションサービスプロバイダ(AS P)が提供するアプリケーションサービス
をユーザ企業がレンタルで利用する形態で、アプリケーションは、ソフトウェ
ア製品からサービスへとシフトする。バーチャル企業は、サービスプロバイダ
は、他企業と提携して、ビジネスプロセスを提供し、ユーザ企業は、自社のコ
アコンピテンシーに集中し、他のビジネスプロセスは、サービスプロバイダに
任せる形態で、サービスプロバイダ連携であたかも一つにバーチャル企業に見
える。エコシステムは、多くの企業が連携し,ビジネスプロセスの標準を定義
し 、 新 た な 市 場 創 造 者 と な り 、 ユ ー ザ 企 業 は 、 そ の 一 員 と して 、 共 存 共 栄 を 図
る形態である。
4.2.7 第 3 の 社 会 ― ボ ラ ン テ ィ ア 社 会 の 登 場
インターネットは、情報、知識という財の複製コスト、流通コストをほぼゼ
ロにし、多くの人々が自在にコミュニケーションできる環境を提供した。その
結 果 、第 3 の 社 会 と 言 わ れ る ボ ラ ン テ ィ ア 社 会 の 台 頭 を 促 し た 。第 1 の 社 会 は 、
政府、軍隊、企業内組織のように、階層社会で効率化を優先する権威社会であ
る。第 2 の社会は、企業のように、競争による進化を追及する市場競争社会で
ある。それに続くのが第 3 のボランティア社会で、NGOのように、弱さを助
け る 贈 与 の 連 鎖 に 基 づ く 社 会 で あ る 。 Linux は こ の 例 で 、 多 く の 人 々 の 無 償
貢 献 で 、世 界 の O S を 支 配 す る マ イ ク ロ ソ フ ト に 対 抗 で き る 力 を 持 つ こ と が で き
ることを示した。
4.3 コ ン テ ン ツ 配 信 の 課 題 と 今 後
インタ−ネットから生まれたコンテンツ配信も、前述したインターネットに
よる変革の波の影響を受けざるを得ない。従って、インターネットの課題、今
後は、コンテンツ配信に対しても当てはまる。コンテンツ配信の課題、今後を
まとめると以下のようになる。
(1) コンテンツに対し、使い手の立場に立ったコンテンツ構造に再構成す
る こ と を 支 援 す る た め に 、コ ン テ ン ツ を 意 味 構 造 化 し た り 、 コ ン テ ン ツ に
メタ情報を付加したりして、コンテンツの検索、変換、再利用、再構成を
容易にする支援環境が必要である。
(2) コンテンツを通じて、それと関連したプロセスを繋げ、プロセスを統
合 し て い く こ と に よ っ て 、コ ン テ ン ツ に 含 ま れ る 情 報 、知 識 を ス パ イ ラ ル
的に増殖、進化させる仕組みが必要である。
(3) コンテンツの利用者に対し、プライバシーを保護し、フィルタリング
サービスやエージェントサービスやダイレクトマーケッティングサービ
スを提供し、コンテンツの、販売者に対し、これまでよりはるかに購買確
7
率 の 高 い 見 込 み 顧 客 の 紹 介 し 、ダ イ レ ク ト マ ー ケ ッ テ ィ ン グ を 支 援 す る イ
ンフォメディアリの登場が望まれる。
(4) コンテンツを提供するサービスを行うサービスプロバイダ、コンテン
ツ に 関 す る プ ロ セ ス を 請 け 負 う サ ー ビ ス プ ロ バ イ ダ 、コ ン テ ン ツ に 関 連 し
たエコシステムといったネットホスティングサービスの登場が期待され
る。
上位下達式にコンテンツを効率的に流通する仕組み、市場競争原理に基づいて
コンテンツが進化する仕組み、ボランティア精神でコンテンツの提供、維持、
進化が行われる仕組み、の 3 つの仕組みがそれぞれの特長を生かして融合した
仕組みが期待される。
8
5. コンテンツの性格と配信ビジネス
本章では、コンテンツの性格を分類し、コンテンツの配信ビジネスとの関
係を考察する。
5.1 コ ン テ ン ツ の 種 類
コンテンツ配信を考えるときに対象となるディジタルコンテンツとして
は、以下のようなものが考えられる。
・ テキスト(書籍、公文書、申請書など)
・ 音 楽 ( CD ‐ R O M 、 MIDI な ど )
・ 静 止 画 ( DVD ソ フ ト 、 映 画 、 放 送 番 組 な ど )
・ ソフトウェア(ゲーム、ビジネスソフトなど)
テキストは、一般の書籍類の電子化だけではなく、2003年に予定され
ている電子政府でやり取りされる申請書や公文書、電子商取引での契約書な
ど も コ ン テ ン ツ 配 信 の 対 象 と な る 。動 画 で は 、デ ィ ジ タ ル 放 送 の 開 始 に よ り 、
一般の放送番組もコンテンツ配信の対象となった。ソフトウェアは、従来の
パ ッ ケ ー ジ で の 販 売 か ら 、イ ン タ ー ネ ッ ト を 介 し た A S P サ ー ビ ス も 始 ま っ て
おり、コンテンツ配信として考慮すべき対象となっている。
5.2 物 と デ ジ タ ル コ ン テ ン ツ
流通の面から物とディジタルコンテンツを比較する。
(1) 流 通 上 の 特 性 の 比 較
物
ディジタル
コンテンツ
・製造数
有限
無制限
・利用者による複製
出来ない
出来る
・流通コスト
距離に応じた時間と費用
何処でも瞬時に僅か
な費用
デ ジ タ ル コ ン テ ン ツ の 場 合 、情 報 技 術 に よ っ て 利 用 者 に よ る 複 製( コ ピ ー )
を禁止ないし制限し、製造数を有限の数に限定することは可能である。物の
場合には、物理的に制限されてしまう。
(2) 収 益 メ カ ニ ズ ム の 比 較
物の流通では、下記の仕組みが成立するため、製品の希少性が保たれるの
で、この希少性を拠り所にして、供給者側が価格をコントロールして、対価
を求めることができる。
・ 排他的所有権が成立する。
・ 供給量が増えすぎると収穫が減る。(コストが増えて価格が下がる)
ところが、デジタルコンテンツは、元のコンテンツと全く同一のコピーを
誰でも簡単に作ることができ、ネットワークを使って世界中に配布できるの
で、上記の仕組みは成り立たなくなる。コピーが出回れば、コンテンツその
ものの希少性は急速に薄れる。供給者側が価格をコントロールして収益を得
るには、何らかの希少性を生み出す仕組みが組み込まれなければならない。
こ の よ う な コ ン テ ン ツ の 収 益 モ デ ル に つ い て は 、 次 節 (5.3) で 説 明 す る 。
情報は、公開され人々に共有されることによって、他の情報と結び付いて
新しい価値を生み出すという特徴を持つ。ネットワーク上での電子的な情報
9
(デジタルコンテンツ)の流通は、このような価値創造の基盤である。前述
の希少性の導入は、コンテンツの流通に制限を与えることになる。しかし、
対価を得る仕組みが無いと、コンテンツを製作する費用が得られなくなり、
流通が自由に行われるが、流通するコンテンツが貧弱なものしかないという
現象を引き起こす。
5,3 コ ン テ ン ツ 配 信 の 収 益 モ デ ル
佐 々 木 裕 一 と 北 山 聡 [1] は 、 電 子 化 さ れ た 情 報 ( デ ジ タ ル コ ン テ ン ツ ) の ネ
ット上での流通における、収益モデルを下記の5つに分類している。
A) 情 報 希 少 性 モ デ ル
情報の希少性が薄れるという理論にあえて対抗するモデル。
「電子すかし」などの情報技術によって、情報そのものに希少性を付
与し、情報自身に対価を求める。
B) 情 報 周 縁 希 少 性 モ デ ル
情報自身ではなく、発信者の持つ「編集力」や「信頼性」など、情報
の流通に付随する希少価値に対価を求めるモデル。
オンライン雑誌の定期購読、メンバーシップサービスなどが該当する。
C) 直 接 メ デ ィ ア モ デ ル
情報自身ではなく、情報を運ぶメディアの希少性に対価を求めるモデ
ル。
例えば、音楽や映像は無料で配布し、コンサートのチケット販売や、
T シャツなどのキャラクタ商品の販売で収益をあげるモデル。
D) 間 接 メ デ ィ ア モ デ ル ( 広 告 モ デ ル )
素の情報とは別個の広告情報を運ぶメディアの持つ希少性に対価を
求めるモデル。いわゆる広告モデルである。
E) 編 集 価 値 モ デ ル
希少性を拠り所にして対価を求めるのではなく、情報からダイナッミ
ックに生まれる価値に対価を求めるモデル。価値を感じ取った利用者
が自主的に対価を支払うスポンサーシップのモデルである。収益が利
用者の自由意志に依存するので、企業としてこの収益モデルに依存す
ることは難しい。
[1] 「Linux は い か に し て ビ ジ ネ ス に な っ た か : コ ミ ュ ニ テ ィ ア ラ イ ア ン ス
戦略」
佐 々 木 裕 一 、 北 山 聡 共 著 、 国 領 二 郎 監 修 、 NTT 出 版 、 2000 年 9 月
5.4 対 価 の 求 め 方
ネットワークによるコンテンツ配信の対価の求め方としては、以下のよう
な方法が用いられている。
(1) コ ン テ ン ツ ご と の 購 入 ま た は 使 用 の 対 価
供給者からコンテンツを入手する時、またはそのコンテンツの使用を開
始する時に、対価を支払う。使用を開始するときに対価を支払う方法の
場合は、コンテンツを他の利用者から入手することが可能な場合もある。
収益モデルの情報希少性モデルに該当するので、何らかの情報技術によ
って、コンテンツそのものに希少性を保つ仕組みを付与することになる。
(2) 定 額 制 ま た は 定 額 制 + 従 量 制
10
供給者に定期的に一定額を支払うことにより、供給者が提供 するコンテ
ンツ群の中から、決められた個数以内のコンテンツを選んで入手できる。
収益モデルの情報周縁希少性モデルに該当する。供給者が提供するコン
テンツの品揃えやサービスや価格設定によって供給者が選択される。
(3) ネ ッ ト ワ ー ク を 用 い な い 他 の 手 段 で 費 用 を 回 収
ネットワークでは限定したコンテンツを無償配布し、映画館、コンサー
ト 、 TV 、 ビ デ オ な ど の メ デ ィ ア で 資 金 を 回 収 す る 方 法 、 ま た は 、 無 償 配
布によってサイトに人を集め広告収入や物品の販売で費用を回収する方
法である。
無 償 配 布 す る 代 わ り に 、 収 益 を 期 待 で き な い よ う な 低 価 格 で コンテンツ
を販売する場合もある。
収益モデルの直接メディアモデルまたは間接メディアモデルに該当する。
(4) シ ェ ア ウ ェ ア
収益モデルの編集価値モデルに該当する。
5.5 利 用 者 か ら 見 た コ ン テ ン ツ 購 入 の 要 因
利用者は、得られるであろうと予想される期待価値の大きさを感じ取って
判断し、対価を払ってコンテンツを入手する決意をする。組織が、このよう
な判断をし、組織のメンバーにコンテンツの購入を強制ないし推奨する場合
もある。
コンテンツの性格を下記の特性で分類し、いくつかのコンテンツの種類を
例にして、次節でこれらの特性とビジネスの関係を検討する。
☆ 作成方法
創作:感性・知性で創作したコンテンツ
収集:情報・コンテンンツを収集し関連付けたコンテンツ
☆ サイズ
大/中/小
☆ 寿命(必要度の寿命)
短/中/長 寿 命 & 急 減/漸 減/平 滑
☆ 更新・改版の頻度
無/少/中/多
☆ 使用する動機
観 賞/癒 し/遊 び/金 儲 け/調 査/知/危 険 予 防
☆ 使用頻度
少/多
作 成 方
法
サイズ
寿命
更 新 頻
度
使 用 頻
度
使用動機
着メロのような小作品
創作
小
/ 漸
−
多
癒し
音楽(ポップス系)
創作
大
/ 漸
−
多
癒し
映画
創作
大
/ 漸
−
少
観賞
観賞用 CG 作品
創作
中
/ 漸
−
?
観 賞 / 癒
し
ゲーム
創作
中
中
減
長
減
長
減
長
減
中
/ 漸
−
多
遊び
11
歴史・美術のデジタルアーカイ
ブ
地域情報のデジタルアーカイブ
収集
大
収集
大
ウィルス予防情報
収集
中
投資情報
収集
中
ニュース
収集
中
学術論文データベース
収集
大
減
長 / 平
滑
長
滑
長
滑
短
減
短
減
長
滑
少
少
?
/ 平
多
少
調 査/知
/ 平
中
多
危険予防
/ 急
多
多
金儲け
/ 急
多
多
知
/ 平
中
少
調査
5.6 配 信 ビ ジ ネ ス と の 関 係
前述の表の中のいくつかについてビジネスとの関係をみてみる。
(1) 着 メ ロ の よ う な 小 作 品
携帯やゲームなどのツールに組み込んで使う。
製 作/配 信 コ ス ト は 小 さ い が 、 安 定 し た ビ ジ ネ ス に は な ら な い 。
(2) 音 楽 ( ポ ッ プ ス 系 )
別のことをやりながら繰り返し日常的に聞く。
TV ド ラ マ の 主 題 歌 と の 連 携 な ど 、 売 出 し 戦 略 の 影 響 が 大 き い 。 売 り 出
し戦略を実施する供給会社と、コンテンツ配信ビジネスとの関係が問題
となる。
(3) 映 画
観賞に時間が掛かるので、観賞する回数は少ない。
製作に膨大な費用が掛かるため、ネット配信だけで回収は困難か? ま
た、製作会社の意識が問題となる。
(4) ゲ ー ム
今後ゲーム機がネットワークに接続されると考えられるので、ネット配
信の可能性は大きい。
(5) 歴 史 ・ 美 術 の デ ジ タ ル ア ー カ イ ブ
利用者にとっての必要度が明確でなく、対価を求めにくい。公共事業
か?
(6) 地 域 情 報 の デ ジ タ ル ア ー カ イ ブ
地域住民により収集された情報がうまく構造化できる仕組みがあれば、役に立つ
情報を利用者が得られる。コンテンツ配信の対価ではなく、地域の観光収入など
で費用を負担することになりそう。
(7) ウ ィ ル ス 予 防 情 報
自分のパソコンを危機にさらさないため、という強い動機付けがある。
供給者に高度な技術と知識が必要され、供給者自体の希少性が高い。
コンテンツ配信ビジネスとして既に成功している。
(8) 投 資 情 報
金儲けという強い動機付けがある。情報の配布先が少人数に限定されな
いと、おおきな儲けに結びつかないなど、課題がある。
12
コンテンツの特性と配信ビジネスの関係については、明確な相関は確認でき
ない。
ただ、収集型のコンテンツで更新頻度の多いものは、ネットワークでの配信
ビジネスの可能性が高いように思われる。創作型のコンテンツの場合は、既
存の製作会社、供給者との関係が大きな影響を持っているようである。
13
6.クローズドマーケットとオープンマーケット
6.1 取 引 に お け る 匿 名 と 指 名 *
相対面しての商品(サービスを含む)の取引においては、例え相手が誰であるか
が特定できなくとも、商品とその対価の交換が確認できさえすればその取引を成立
させることが可能である。つまり双方が匿名のままで取引を成立させることは困難
ではない。
一方、アフターサービスなど将来の商品の保守を期待した取引の場合には、その
保守に誰が責任を持つのかを特定するために必要な売り手に関する情報入手は最低
限必要である。同様に決済において売掛が発生するような取引の場合には、その支
払いに誰が責任を持つのかを特定するために必要な買い手に関する情報入手は最低
限必要である。このように取引がその場限りの一瞬で完結するものでない場合には
取引相手の 氏名・所在を明らかにすること、すなわち指名が重要な要件となる。
本章では、前者のように匿名のままに取引が行える場をオープンマーケットと呼
び、指名*が必要な取引の場をクローズドマーケットと呼ぶこととする。
( * こ こ で は 匿 名 で な い こ と を 意 味 す る 。 anonymous に 対 す る named の 意 )
6.2 ク ロ ー ズ ド マ ー ケ ッ ト と オ ー プ ン マ ー ケ ッ ト
例えば公衆電話の利用はその場限りの直接取引と考えられるのでコインを投入し
さえすれば、誰でもその場で、電話会社には匿名のまま電話サービスの利用が可能
である。自動販売機も同様である。このような取引の場はオープンマーケットと捉
えられる。現金によって事前にテレホンカードなどを購入する場合は、そのテレホ
ンカードが規定度数分の電話サービスを提供することを約束する旨の継続的契約が
存在することになるが、電話会社一方の氏名・所在を明らかにすることで、購入者
側の氏名や所在は求めていない。この非対象性が許容されるのは、電話会社から見
た場合に、テレホンカードと現金の交換取引が終わった段階で少なくとも売掛は発
生しておらず、電話会社側にとっての決済リスクが極小化していると見なせるから
である。
プリペイド型電子マネーと分類される BitCash**や WebMoney***では、書店、コ
ンビニエンスストアなどでカードを匿名で購入することができ、web page 上で提供
される対応コンテンツの購入に際しては、カード面に記載された各カード固有の番
号 を入力することで指定の金額が引き落とされコンテンツとの交換が成立する。提
供者は利用者に対してカード番号の入力は則すが、ここでも取引は匿名のままで行
われる。インターネットのような環境においてオープンマーケットの取引を可能に
した先進的な例と考えられる。ただし利用者側のリスク要素としては、テレホンカ
ードと同様に、これらのカードサービスが継続的に存在するのか、あるいはこれら
の決済手段に対応した十分な商品提供が行われるのかどうかという点にある。
クレジットカードなどは、決済における売掛を可能にしつつ、実際の取引相手に
対 する買い手の匿名性が維持できることが特徴のひとつとなっている。この観点か
らカードホルダーである利用者にとってクレジットカードはオープンマーケットで
使用できる決済手段であると認識される。一方、売掛処理の当事者であるクレジッ
トカード運用会社とカードホルダーとの関係にお い て は指 名 性* が維持されている。
したがってカードホルダーの観点からは、クローズドマーケットにおいてクレジッ
トカード運用会社との取引を行っていると認識される。商品の提供者には、クレジ
ットカード運用会社との取り決めによりクレジットカード利用者の氏名・所在 は 知
らされない(氏名の読みだけはカード面に記録があるので例外)。例えばインターネ
14
ット経由でホテルの予約などを行う場合にクレジットカード番号を決済手段の担保
としてホテル側に伝えたり、デポジットとしたりするのは、オープンマーケットで
の取引の一部を構成していると捉えることができる。
オープンマーケット
クローズドマーケット
提供者
クレジットカード
利用者
カード
運用会
図1.クローズドマーケットとオープンマーケットの併用例
ただし、ここではカード運用会社と提供者の関係は略した。
例えば家庭用電話では月々の回線使用料および通信料は実際の使用の後払いとし
て契約する場合が大半である。電話会社は各回の使用をその都度請求するのではな
く、メーターリング・集計した結果を売掛し、月極めでユーザーに請求書をもって
請求する。電話会社は売掛の担保の一部として利用者の 氏名・所在を確保している。
多くの日本の家庭は電話会社に金融機関の口座からの直接の引き落としを許してい
る。すなわち家庭用電話に関し各電話会社はそれぞれの取引を各クローズドマーケ
ット内にて完結させていると捉えられる。
この月極め自動引き落としの決済が企業にとって有利な点は、毎回の利用が小額
であっても各回ごとの請求・決済をせずに月単位でまとめて処理が行えるため請
求・決済にかかる費用を低く抑えることができたことと、自動引き落としによって
売掛の不良回収率を低く抑えることができたことにある。
日本の電話会社がこのような商習慣を獲得できたのは、メーターリングや引き落
としにおいて疑義を生じさせる事態を避けるのに成功し、利用者の信用を獲得して
きたからだと考えられる。ガス・水道・電気・有料放送・クレジットカードの決済
など口座自動引き落としを主たる決済手段としているその他の企業においても同種
の信用を得るにいたっている。
(** http://www.bitcash.co.jp/)
(*** http://www.webmoney.co.jp/)
6.3 クローズドなネットワーク環境とオープンなネットワーク環境
先に日本の電話会社の例をあげて、その信用が課金・決済の効率化を成功させた
一因であるとしたが、特にメーターリングに関してはシステムの信頼性・安全性が
重要な要件となっている。システムの信頼性・安全性を脅かす要素は多々想定でき
るが、日本の電話システムにおいては第3者に対するネットワークシステムの秘匿
性が役立っていると考えられる。これは日本のガス・水道・電気・有料放送におい
ても同様である。電話ネットワークの独立性の高さがゆえに電話会社のメーターリ
ングシステムに対し外部から擾乱を与えるのは容易ではない。
一方インターネットは核攻撃をも想定し、一部が破壊されても全体への影響を最
小限に押さえることができるネットワークというコンセプトで設計されたため、平
15
衡分散型のネットワークトポロジーをもっている。その特性のためインターネット
利用者には原則、自由にかつ安価にノードを増設する機能とネットワーク全域に対
するアクセス能力を許されることとなっている。
この点から本章ではおおまかに電話ネットワークのようなネットワークをクロー
ズドなネットワーク環境、インターネットのようなネットワークをオープンなネッ
トワーク環境と呼び区別することとする。クローズドなネットワーク環境はそのネ
ットワークの管理責任主体(氏名・所在)が明確になっているもの、と捉えてもよ
い。管理責任の範囲は場合によっていろいろとり得る。保守運用責任、課金決済の
責任、公序良俗に関する責任、コンテンツの内容に関する責任などなど。
一般にはオープンなネットワーク環境といわれている中に逐次あるいは恒常的に
クローズドなネットワーク環境を構築することもあり得る。V P N(Virtual Private
Network) や フ ァイアーウォールによって隔離された業務用のLANなどはインタ
ーネットテクノロジーを使用していたとしてもクローズドなネットワーク環境にあ
ると見なされる。
6.4 クローズドなネットワーク環境の優位点
電話のネットワークにおいては、電話サービスを享受している利用者の電話番号
の特定が常時なされている、そのため正確なメーターリングが可能でありかつその
電話番号の決済対象者の特定も容易なものとなっている。一方インターネットにお
いては特に利用者が明示しない限り利用者の氏名・所在は明かされないネットワー
クの仕組みを採っている 。
インターネットの中でメーターリングを行うとすれば、利用者を特定するための
認証のメカニズムを常時動作させておく必要があり、これには新たなコスト(時間
負荷を含む)の負担が発生する。つまりオープンなネットワーク環境であるインタ
ーネット内に、メーターリングをセキュアーかつ確実に行うことを目的とした商品
提供者と利用者の間のクローズドな環境を設けるとすれば、それを実現するための
新たなコストの発生を容認しなければならない、ということである。インターネッ
トで、無形のサービスを繰り返し提供するような取引においてはメーターリングの
ためのクローズドな環境設定が逐次リーズナブルなコスト負担で実現できるかどう
かは大きな課題となっている。将来の技術進歩が期待されている。
メーターリングだけではなく、インターネットはオープンなネットワーク環境で
あるがゆえに第3者からの悪意の攻撃(なりすまし、改ざん、盗聴など)に対処で
きる対策を講じなければならないことが課題となっている。対して電話をはじめガ
ス・水道・電気・有料放送などのサービスネットワークは物理的にクローズドなネ
ットワーク環境にあるため、インターネットに比べると比較的容易に第3者からの
攻撃に対処しやすい環境をつくることができる。例えばインターネットにおけるオ
ンライン証券などのトランザクションにあたっては、セキュリティとしてSSL
(Secure Socket Layer)による逐次認証が実施されているため web browsing の 速
度に制約がかかってしまうが、これもコスト負担の体感できる一例である。
6.5 マーケットとネットワーク環境
表1では前述2つのマーケットがそれぞれ2つのネットワーク環境の中に存在す
る組み合わせをA、B、C、Dで示した。
Aは身近のネットワーク環境でもっとも一般的に見られる取引の形態である。す
でにあげている電話サービスの使用料に関する取引、有料放送(衛星、CATVな
ど)の聴取料の支払いなどはこれにあたる。一般的には社会的に信頼される商品の
16
提供者が参加していることが期待されている。
Bはクローズドなネットワーク環境において、商品の提供者と利用者において少
なくとも利用者側の氏名・所在が匿名になる場合の取引形態となる。後述する携帯
電話網を利用する音楽配信における利用者は、音楽コンテンツ提供者に対しては匿
名となる。ネットワーク環境の責任者である携帯電話網の運用者がメーターリング
と決済を代行するという点では図1に示したクレジットカードの決済形態に似てい
る。一般的にはクローズドなネットワーク環境の運営者は自身の会員でもある利用
者を保護する観点から、事前に提供者の信用調査を行うことが期待されるため、利
用者が悪意の提供者に翻弄される確率は低い。
Cはオープンなネットワーク環境にクローズドマーケットを構築する取引形態で、
ファイアーウォールやSSLなどによりインターネット中にVPNを恒常的に設け
仮にクローズドなネットワーク環境を成立させることでクローズドマーケットを成
立させる方法と、トランザクション単位で選択的なノード間に逐次クローズドマー
ケットを成立させるための認証を行う2つの方法が考えられる。会員登録とパスワ
ードが必要なインターネット上のサービスはこの分類に該当する。商品の提供者を
信頼して会員となり取引を行うかどうかは利用者個人の判断によることになり、商
品提供者のブランドや知名度が意味を持つ。商品の提供者側からは利用者の氏名・
所在が明らかにできる点で悪意の利用者を発見しやすく、効率的なCRM構築も期
待できる。
Dはオープンなネットワーク環境においてオープンマーケット取引を行うケース
である。従来からある通信販売では有体物の配送があり、商品の提供者からは利用
者その人でなくとも何らかの関係者の特定がある程度期待できたが、インターネッ
トなどのサービスにおいては有体物の配送を伴わないものもあり、提供者・利用者
ともども匿名性はより高まっている。対価としての課金決済の手段としてはクレジ
ットカード、電子マネーなどが実用に供されているが、商品が無体サービスの場合
や、ネットワーク上の匿名アドレスへのデジタルコンテンツの配送の場合には商品
提供の保証や提供された商品の悪用防止などが大きな課題となっている。イン タ ー
ネットにおける音楽コンテンツの違法コピー問題はこのカテゴリーの代表的な課題
となっている。
クローズドなネットワーク
環境
オープンなネットワーク環
境
表1
クローズドマーケット
A
オープンマーケット
B
C
D
マーケットとネットワーク環境の組み合わせ
6.6 音楽コンテンツのネットワーク販売のケース
ここでは音楽コンテンツという無体物のネットワークを経由した販売を例にとり、
表1のDとBのケースについてより深い考察を行うこととする。また、有体物の販
売とコンテンツそのものの販売においてビジネスモデルがマイグレートする例につ
いても若干触れる。
17
6.6.1 インターネットによる音楽コンテンツの配信
インターネットを介した音楽データの違法コピー問題は、音楽コンテンツ
の圧縮( MP3 な ど ) 率 が 通 信 回 線 速 度 と の 関 係 に お い て ス レ ッ シ ュ ホ ー ル ド
を 越 え た こ と と 、 コ ン テ ン ツ 提 供 者 を 紹 介 す る 技 術 ( Napster, Gnutella,
Freenet な ど ) が 提 供 さ れ た こ と で 一 気 に 注 目 を 浴 び る こ と と な っ た 。 レ コ
ー ド 産 業 会( R I A A , R I A J な ど )は S D M I( S e c u r e D i g i t a l M u s i c I n i t i a t i v e ,
www.sdmi.org ) な ど の 活 動 を 通 じ て よ り 安 全 な 音 楽 配 信 ビ ジ ネ ス の 実 現 の
方法を模索している。
今日のレコード産業は、大きな資本を投下しCD工場を運営しそれをレコ
ード店の棚に届ける配送体系を確立することでそのビジネス上の価値を保全
してきた。物理媒体としてのCDはその生産能力に限度があるため、またレ
コード店の棚の広さにも物理的な限りがあるため、より回転率の高いコンテ
ンツを選別したうえで集中的な製造とプロモーションを組み合わせて実施す
るというコンテンツ側に対する付加価値も保全することとなった。本来コン
テンツそのものは音楽という無体物であるが、CDという有体物と一体・同
一物とすることで上記のような物理制約が発生し、そのおかげでレコード産
業は発展した。利用者もCDという物理媒体を取引するわけなので一般の商
取引と同様匿名の取引が通常であった。
インターネットの普及は音楽コンテンツに対して、CDという有体物にお
ける物理制約からの解放機会を与えた。インターネットを利用すれば、どん
なアーティストのどんな作品でも利用者に原則数量無制限に配布できる。少
なくともCDの生産能力の制約とレコード店の棚の広さの制約からは解放さ
れる。
しかしインターネットはオープンなネットワーク環境であるがゆえに、常
に悪意・故意の第3者の攻撃にさらされていると言ってよい。音楽コンテン
ツ の 違 法 コ ピ ー 問 題 は watermark な ど に よ っ て 音 楽 コ ン テ ン ツ に 切 り 離 し
困 難 な 複 製 制 御 機 能 を 与 え か つ す べ て の 再 生 装 置 に そ の watermark 検 出 機
能をつけるまでは本質的な技術解決は困難と考えられている。これは結局、
再生装置という有体物の制約に再び縛りつけることで音楽コンテンツの保護
をしようとの試みと理解できる。
複製物を配布せず、ストリーミングなどの技術により利用時にのみ必要な
信号を逐次配信する手段も採りえるが、電話と同様なサービス利用に対する
逐次課金が必要となり安全で信頼できるメーターリングの実現が課題となっ
てしまう。ここでもインターネットがオープンなネットワーク環境であるが
ゆえに販売者と利用者の2者に対して頻繁にクローズドな環境を逐次確立す
るためのコストが課題となってしまう。またコンテンツ提供者が現行のレコ
ード産業のようなエスタブリッシュされた企業からなる場合には利用者との
間における継続的な契約関係を維持することが可能であろうが、無名のアー
ティストが直接のコンテンツ提供者となるような場合は利用者との間での決
済 契 約 が 果 た し て 締 結 可 能 な の か 、今 度 は 信 用 と い う 点 で 困 難 が 予 測 さ れ る 。
メーターリングもせず固定料金で音楽コンテンツを提供するという手段も
考えられるが、著作権収入の著作権者らへの公平な配分をどう確立するか、
という点で課題が残る。定額制にしてCDに勝るビジネスモデルをいかに描
けるか、という点でも課題が多い。
つまり、CDという物理媒体を販売する現行のレコード産業においてはオ
ープンマーケットが成立したし、レコードクラブのような販売形態によって
18
クローズドマーケットも成立した。しかしインターネットにおいてはコンテ
ンツの違法コピー頒布の問題と、コンテンツ提供者が信頼できるメーターリ
ング機能をちゃんと保守できるのか、コンテンツ提供者そのものを取引・決
済の相手として信頼できるのか、およびコンテンツ提供者側の利益配分を公
平に行うにはどうするのか、などの課題を残しているためにオープンマーケ
ットもクローズドマーケットも成功する取引のモデルがまだ十分には確立し
ていないと言ってよい。(ただし、技術的には課題が残っているとはいえ、
既存のレコード会社はインターネットにおいて音楽コンテンツの配信ビジネ
スを開始している。CDビジネスに軸足を持っている立場があるがゆえに過
渡的なチャレンジが可能なのだろうと評価できる。)
6.6.2 携 帯 電 話 網 に よ る 音 楽 コ ン テ ン ツ の 配 信
日本では携帯電話のネットワークを利用した音楽の電子配信ビジネスが開
始されている。携帯電話端末および携帯電話ネットワークはクローズドなネ
ットワーク環境である。したがって電話サービス以外のメーターリング、例
えば音楽コンテンツの携帯電話端末へのダウンロードに対する課金、に関し
ても利用者の信用を得ることができた。さらに携帯電話端末を含めてセキュ
ア−なクローズドなネットワーク環境であるがゆえに今のところ携帯電話ネ
ットワークを介して違法コピーを利用者の携帯電話端末間でやり取りする問
題も発見されていない。利用者の氏名・所在は携帯電話会社には知られてい
るが、音楽コンテンツ提供者に対しては匿名となっている。
携帯電話会社は、コンテンツ配送と課金・決済の両方を利用者とのクロー
ズドマーケットの関係をベースにおいて、音楽コンテンツ提供者と利用者の
取引をオープンに取り持っていることになる。また端末機器自体もPCに比
べるとクローズドな環境にありセキュリティの観点から信頼が高い。この点
では端末を含め全てがオープンなインターネットでの音楽配信より課題は少
ない。音楽コンテンツごとの個別課金がメーターリングできるため、著作権
料の配分問題も発生しない。ただし、通信コストがインターネット利用に対
して桁違いに高い点は大きな課題となっている。
6. 7 ま と め
ネットワークがクローズドな環境である場合は、ビジネスに必要なセキュ
リティが確保しやすく、それをレバレッジとしたビジネスモデルが多々提案
されている。逆に利用者は独自のネットワークを維持するためのコストを負
担しなければならない、また独自のネットワークを維持するネットワーク提
供者の競合はあまり期待できないという課題がある。
インターネットはオープンなネットワーク環境であり、普及のためのコス
トは他のネットワークに比べて相対的に低い。誰もが任意に匿名で参加でき
ることも大きな特徴となっている。オープンマーケットのゼロからの形成の
ための環境を有している。これは表1のDに相当する。
既存のクローズドなネットワーク環境によって成立していたビジネスをイ
ンターネット環境に工夫を加えることでその全てあるいは一部を代行しよう
との試みが数々行われている。インターネットという新たな環境の中に重ね
て表1A、B、Cに示すような様々な取引環境を実現しようとの試みがなさ
れているわけである。
試みの原動力となっているのは新しいビジネスチャンスを求める新規ビジ
19
ネスプレイヤーと既存の権益を守ろうとする既存のビジネスプレイヤーたち
である。これらのチャレンジが受容されるかどうかはアプライできる技術の
存在も重要要素であるが、結局提供できる商品の価値とそれを提供するに必
要なコストが利用者の価値基準に合致するかどうかが最重要案件となってい
る。特にインターネットは各参加プレイヤーにグローバルな市場を提供でき
る機会を与えるものであり、利用者にもより多様な提供者からの商品提案を
選択できる機会を与える環境であるところが大きな特徴である。これが、ビ
ジネスモデルが重要視されるようになった大きな原因であると考えている。
7.コンテンツ配信とコンテンツID
(1)あらまし
コ ン テ ン ツ I D は ,流 通 コ ン テ ン ツ を 一 意 に 識 別 す る 番 号 と コ ン テ ン ツ 内 容 や
その著作権,流通等の属性情報である.これらの情報を管理し,コンテンツ流
通の様々な局面で利用することにより,著作権を保護しつつディジタルコンテ
ン ツ の 流 通 促 進 を 図 る こ と が 出 来 る . コ ン テ ン ツ I D フ ォ ー ラ ム (cIDf) で は , 関
連 す る 国 際 標 準 化 団 体 と 協 調 し つ つ , コ ン テ ン ツ ID の グ ロ ー バ ル 標 準 化 を 進 め
ている.
(2)はじめに
インターネットを中心としたITの普及はめざましく,その及ぼす影響は産
業,経済,ビジネスのみならず,広く社会や教育・文化にまで及んでおり,い
ま や IT は 新 世 紀 を 画 す る 必 須 の 生 活 基 盤 と み な さ れ る よ う に な っ て い る . 優 れ
たディジタルコンテンツを手軽に,いつでも,どこでも,しかも短時間に入手
で き る 環 境 は 我 々 が 長 く 夢 見 た も の で あ る が , そ う し た 環 境を 享 受 す る た め に
はクリアーしなければならない課題も多く潜んでいる.殊に,「劣化なく複製
が容易」,また「メディアに取り込んで加工,再利用が可能」といったディジ
タルの特性そのものが,大量の不正コピーを生むなど,逆にネット流通を阻害
する大きな要因となっている.
ディジタルコンテンツのネットワーク流通への関心が高まるにつれ,このよ
うな阻害要因への危惧もまた大きな社会問題として取り上げられてきている.
こうした関心と危惧との高まりの中で,コンテンツホルダー,クリエータ,デ
ィストリビュータ,コンテンツプロバイダーからネットワークインフラ事業者,
端末メーカなどのあらゆる関連業界が,著作権を保護しながらディジタルコン
テンツのネットワーク流通を促進する仕組みを早急に確立する必要があるとの
認識で一致した.
こ う し た 背 景 の 下 に 提 唱 さ れ た フ レ ー ム ワ ー ク が , “ コ ン テ ン ツ I D”で あ る .
コ ン テ ン ツ ID は , デ ィ ジ タ ル コ ン テ ン ツ ご と に 付 与 す る ユ ニ ー ク コ ー ド を 含 む
属性情報セットを定義し管理することにより,著作権を保護しながらディジタ
ル コ ン テ ン ツ の ネ ッ ト ワ ー ク 流 通 を 促 進 す る 仕 組 み で あ る . そ し て , 1999 年 8
月 , こ の 仕 組 み の 標 準 化 を 目 的 と し て コ ン テ ン ツ I D フ ォ ー ラ ム ( 略 称 : cIDf,
会 長 : 安 田 浩 東 大 教 授 ) が 発 足 し た . 以 来 2 年 足 ら ず が 経 過 し , cIDf に は 現
在 , 130 以 上 の 企 業 / 機 関 が 参 加 す る に 至 っ て い る .
本 稿 で は , コ ン テ ン ツ ID と cIDf に よ る そ の 標 準 化 動 向 に つ い て 述 べ る .
20
(3)コンテンツID
1) コ ン テ ン ツ I D と は
“ コ ン テ ン ツ ID” は , 流 通 コ ン テ ン ツ の 管 理 に 必 要 な 各 種 の 属 性 情 報 ( メ タ
デ ー タ ) の 集 合 で あ る (図 1). し た が っ て , 各 流 通 コ ン テ ン ツ に 対 し て 付 与 し た
ユニークな番号に加え,コンテンツが製作されてからユーザに届くまでの一連
の過程におい て,様々な局面で関係者が参照する著作権や流通に関する管理情
報を含む.
コ ン テ ン ツ ID を 付 与 す る コ ン テ ン ツ の 単 位 に 関 し て は , 以 下 の よ う な ガ イ ド
ラ イ ン を 与 え て い る が ,基 本 的 に は ,コ ン テ ン ツ の 著 作 者 の 意 志 に 委 ね て い る .
-作 品 と し て 一 単 位 : 出 版 一 冊 , 映 画 一 本 等
-作 品 の 最 小 単 位 : 作 品 の 体 を 保 つ 最 小 限 の 1 ペ ー ジ , 1 カ ッ ト , 1 シ ー ン 等
-編 集 著 作 物 ( 再 編 集 /複 合 作 品 )
-自 己 主 張 制 作 品 : 著 作 権 及 び オ リ ジ ナ リ テ ィ を 主 張 す る 作 品
-売 買 商 品 : 売 買 対 象 に す る 作 品
2) コンテンツの管理情報
コ ン テ ン ツ ID は , 各 流 通 コ ン テ ン ツ を 識 別 す る ユ ニ ー ク な 番 号 で あ る “ コ ン
テ ン ツ ID 管 理 セ ン タ 番 号 ( 以 下 , ユ ニ ー ク コ ー ド ) ” , コ ン テ ン ツ の 内 容 を 表
す “ コ ン テ ン ツ 属 性 ” , オ リ ジ ナ ル の 権 利 情 報 を 表 す “ 権 利 属 性 ”, 利 用 許 諾 や
契 約 に 関 す る ”権 利 運 用 属 性 ”, 流 通 時 の 利 用 条 件 等 を 表 す“流 通 属 性 ”,ロイヤリ
テ ィ 分 配 の た め の 情 報 を 表 す “ 分 配 属 性 ” 等 か ら 構 成 さ れ る .こ の 他 の 属 性 と し て
は,流通業者等によるアプリケーションやメディアに応じた管理情報の追加を
可能とする“自由領域”,電子署名やコンテンツハッシュ値を含む“システム
管 理 情 報 “ が あ る . コ ン テ ン ツ ID の 全 体 構 成 を 図 1 の 上 部 に 示 す .
コンテンツ流通ビジネスでは,様々な流通条件や流通経路が考えられるので,
そ れ ぞ れ の 流 通 コ ン テ ン ツ を 識 別 す る こ と が 重 要 で あ る . コ ン テ ン ツ I D は,同
一の作品であっても流通条件や経路が異なる場合にはそれぞれ異なる値が付与
される.コンテンツの属性情報として,タイトルや著作権者のような制作時に
決定し以降変わることの無い“静的”情報と,権利利用者や利用許諾のような
流 通 ご と に 変 わ る “ 動 的 ” 情 報 と を 組 み 合 わ せ る 考 え 方 は , コ ン テ ン ツ ID の 特
徴の一つである.
3) コンテンツ ID の運用
コ ン テ ン ツ ID に 基 づ く コ ン テ ン ツ 流 通 に お い て は , コ ン テ ン ツ の 著 作 権 者 で
あるクリエータやコンテンツを利用/購入するユーザといったプレイヤーの他
に , コ ン テ ン ツ の 登 録 と コ ン テ ン ツ ID の 付 与 ( 発 行 と も い う ) /管 理 を 行 う”コ
ン テ ン ツ I D 管 理 セ ン タ ” ,コ ン テ ン ツ I D の 全 属 性 情 報 を 保 持 す る ” IPR -D B( 知 的
財 産 権 管 理 デ ー タ ベ ー ス ) ”, 複 数 存 在 す る コ ン テ ン ツ ID 管 理 セ ン タ を 認 定 し
統 括 管 理 す る ” R A ( Registration Authority) ” が 関 わ る . コ ン テ ン ツ ID 管 理 セ
ン タ の 役 割 は , 発 行 し た コ ン テ ン ツ I D の 全 情 報 を I P R -D B に よ り 維 持 管 理 す る
と共に,その管理情報に関する外部からの問い合わせに答えることである.こ
れらプレイヤー間の関係を図2に示す.
なお,課金決済システムや認証機関も,コンテンツ流通における重要なプレ
イヤーである.
4) コンテンツIDの管理方法
コ ン テ ン ツ ID は 次 の 3 段 階 で 管 理 さ れ る . (図 1 参 照 )
21
(ア)
ユ ニ ー ク コ ー ド : I P R -D B ア ク セ ス の 際 の キ ー と し て 利 用 さ れ る . コ ン
テンツと密に結合(バインド)する必要があるため,静止画や動画等のよう
に 可 能 な 場 合 に は ,後 述 の 二 階 層 電 子 透 か し 方 式 を 用 い て コ ン テ ン ツ に 埋 め
込まれる.電子透かしを利用しない場合には,ユニークコードは次の
DCD(Distributed Content Description) に 格 納 さ れ る .
(イ)
DCD: タ イ ト ル や 著 作 者 の よ う に ユ ー ザ が ロ ー カ ル の 端 末 上 で 参 照 で き
る こ と に 意 味 が あ り , か つ 変 更 が 無 い 属 性 情 報 は ,X M L 記 述 と し て コ ン テ ン
ツ に バ イ ン ド す る . 具 体 的 に は , コ ン テ ン ツ の ヘ ッ ダ 域 等 に 格 納 す る . DCD
に よ り ,コ ン テ ン ツ に 関 す る 属 性 情 報 の 一 部 を ネ ッ ト ワ ー ク を 介 さ ず に 参 照
可 能 と な る こ と か ら , コ ン テ ン ツ ID の 利 用 コ ス ト を 下 げ る こ と が で き る .
ま た , コ ン テ ン ツ の 利 用 条 件 を も DCD に 含 め る こ と が 可 能 で あ る が , コ ン テ
ン ツ 配 信 後 に こ の 利 用 条 件 を 変 更 す る 場 合 に は ,何 ら か の 工 夫 が 必 要 と な る .
(ウ)
コ ン テ ン ツ ID: ユ ニ ー ク コ ー ド , DCD の 情 報 も 含 め , 全 て の 属 性 情 報
を IPR- DB に よ り 集 中 的 に 維 持 管 理 す る .I P R -D B 中 の 各 属 性 情 報 に 対 し て は ,
ア ク セ ス 制 御 に よ り 然 る べ き 権 利 を 持 つ 人 の み が 閲 覧 /更 新 を 行 う こ と が で
きるようにすることも可能である.このように,ユニークコードをキーとし
て,全ての属性情報をデータベースで集中管理することにより,コンテンツ
が 流 通 経 路 に の っ た 後 で も 必 要 な 属 性 情 報 の 更 新 を 許 容 す る と 共 に ,デ ー タ
の一貫性の保持を可能とする.
5) ユニークコードの埋め込み方法
ユ ニ ー ク コ ー ド は , コ ン テ ン ツ I D 管 理 セ ン タ の I P R -D B へ の ア ク セ ス キ ー と
いう基本的な機能を有する.したがって,コンテンツの不正コピーの検出やネ
ットワーク監視への利用を想定すると,一度付与したユニークコードが消えた
り ,コ ン テ ン ツ か ら 削 除 さ れ た り ,値 が 変 え ら れ た り し な い こ と が 重 要 で あ る .
この目的のための,コンテンツのデータとユニークコードとをバインドする方
法として電子透かしが利用できる.電子透かしは,コンテンツのデータに人間
の 視 /聴 覚 に は 認 知 さ れ な い よ う な 小 さ な 情 報 を 加 え る 技 術 で あ る . 一 旦 埋 め 込
んだ情報は,そのコンテンツから簡単には切り離せないため,不正コピーの検
出などに利用できる.しかし,テキストのように電子透かしを入れることが難
しいメディアもある.
電 子 透 か し に 関 す る コ ン テ ン ツ ID の 特 徴 は , 「 ニ 階 層 電 子 透 か し 方 式 」 で あ
る ( 図 3) . 電 子 透 か し 技 術 と し て 多 く 方 式 が 開 発 さ れ て お り , そ れ ぞ れ 知 覚 し に
くさ,検出速度,消えにくさなどの特性が異な.また,この分野は技術進歩が
非常に早いため,特定の方式を標準仕様として規定することは適当でない.し
たがって,方式が変わってもリニューアルしていく仕組みが求められる.そこ
で,選択した特定の“実透かし”方式によりユニークコードをコンテンツに埋
め込むと共に,実透かし方式を識別するためのデータを“メタ透かし”と呼ぶ
標準的な電子透かしで埋め込むという,“二階層電子透かし方式”を採用して
いる.電子透かしの検出には,まず標準のメタ透かしを用いて実透かし方式を
判 別 し ,次 に そ の 実 透 か し 方 式 に よ り ユ ニ ー ク コ ー ド を 検 出 す る .こ れ に よ り ,
コ ン テ ン ツ を 登 録 す る 際 に , 著 作 権 者 や コ ン テ ン ツ ID 管 理 セ ン タ が 好 み の 実 透
かし方式を自由に選択で きるだけでなく,将来発明される高性能電子透かし方
式を後から追加登録して使うことも可能である.
6) コンテンツ ID の利用例
コ ン テ ン ツ ID の 利 用 例 を 以 下 に 示 す .
(ア) ロ イ ヤ リ テ ィ の 自 動 分 配
22
(イ) コ ン テ ン ツ ID を 付 与 す る 際 に ロ イ ヤ リ テ ィ の 分 配 に 関 す る 情 報 も 登 録
で き る の で ,コ ン テ ン ツ が 複 数 の 著 作 者 に よ る 共 同 制 作 で あ る 場 合 や コ ン
テ ン ツ の 部 分 利 用/再 利 用 と い っ た 分 配 条 件 が 複 雑 な 場 合 で も , コ ン テ ン
ツ ID を 利 用 し て 参 照 す れ ば , ス ム ー ズ で 自 動 的 な 分 配 ・ 支 払 い 処 理 が 可
能となる.
(ウ) ② コ ン テ ン ツ 検 索 ・ 入 手 ・ 交 換
(エ) コ ン テ ン ツ ID の 属 性 情 報 を 利 用 す る と , 例 え ば , 友 人 か ら コ ン テ ン ツ
ID が 電 子 メ ー ル で 送 ら れ て き た 場 合 に , コ ン テ ン ツ ID 管 理 セ ン タ に 問 合
せ て オ リ ジ ナ ル コ ン テ ン ツ や 関 連 す る コ ン テ ン ツ の 検 索 が で き る .そ し て ,
権利処理/課金の手続きをすることにより,コンテンツを取得できる.こ
の 仕 組 み の 利 用 に よ り ,素 人 コ ン テ ン ツ の 交 換 の 場 を つ く る こ と も 可 能 で
ある.
(オ) ③ 不 正 利 用 検 出 ( ネ ッ ト ウ ォ チ ャ )
(カ) ネ ッ ト ワ ー ク 上 で 不 正 利 用 さ れ て い る コ ン テ ン ツ の 検 出 と そ の 頒 布 の
抑止として利用する方法としては,例えば,サーチエンジンと組み合わせ
て ,Web で 公 開 さ れ て い る コ ン テ ン ツ に つ い て 一 つ ず つ コ ン テ ン ツ I D が 付
与 さ れ て い る か 検 査 し ,利 用 条 件 が 守 ら れ て い る か ど う か を 調 べ る こ と が
挙げられる.この他にも,スクランブル等のプロテクション方法や端末固
有の表示再生機能と組み合わせることにより,抑止力の向上と共に,多彩
な使い道が考えられる.
7) コンテンツIDフォーラム(cIDf)の効用
cIDf で は こ れ ま で の 検 討 結 果 を 仕 様 書 と し て ま と め , 2000 年 春 に 発 行 し た .
コ ン テ ン ツ I D に 関 す る 詳 細 は こ の c I D f 仕 様 書 に 詳 し い . c I D f 仕 様 書 ( ” cIDf
Specification Version 1.0/Rev.1.0” ) は , cIDf の ホ ー ム ペ ー ジ
( http://www.cidf.org ) よ り ダ ウ ン ロ ー ド 可 能 で あ る .
cIDf で は ,コ ン テ ン ツ I D に よ る コ ン テ ン ツ 流 通 に お け る 次 の よ う な 効 用 の 実
現を目指している.
・コンテンツの権利関係の把握が容易になる.
・販売及び二次利用時の権利者への正当な対価支払いが可能になる.
・流通・販売履歴といったマーケティング情報の収集が容易になる.
・ネットワークで流通する違法コピーの追跡が容易になる.
・ディジタルアーカイブ構築のための共通識別コードとして用いること によ
り,コンテンツの検索,相互利用が容易になる.
これらによりコンテンツ流通の阻害要因が排除され,信頼性の高いコンテン
ツ流通プラットフォームが構築される.さらに,大量の良質なディジタルコン
テンツが比較的安価に流通し,コンテンツ流通ビジネスの更なる創出,情報・
通信・流通産業の活性化と芸術・文化の向上が期待される.
(4)コンテンツ管理情報の標準化動向
1) 世界の識別子と標準化団体
世界の各団体が規定しているコンテンツ識別子を,コンテンツの分野と識別
対象により分類し,表 1 に示す.本節では,主な団体の規定する識別子につい
て述べる.
(ア)
MPEG*2: MPEG-1 /- 2 等 動 画 の 符 号 化 方 式 で 有 名 な MPEG(Moving Picture
Expert Group)で は 現 在 , M P E G- 21(ISO/IEC SC29/WG11)に お い て マ ル チ メ デ
23
ィアコンテンツの流通フレームワークに関する標準を検討している.
MPEG - 21 で は 2000 年 秋 に ,I D 付 与 に 関 す る 技 術 提 案 募 集 ” Call For Proposals
on Digital Item Identification And Description ” と 権 利 記 述 の 仕 様 に 対
す る 要 求 条 件 の 募 集 "Call For Requirements for Rights Database and
Rights Expression Language"を 発 行 し た . 2001 年 春 に 募 集 を 締 め 切 り , 議
論を開始した.
(イ)
IDF*3 : ア メ リ カ 出 版 協 会 な ど が 中 心 の IDF ( International DOI
Foundation) は , DOI ( Digital Object Identifier ) と 呼 ぶ 電 子 出 版 を 中 心
と し た ID 番 号 と メ タ デ ー タ を 定 義 し て い る .
(ウ)
indecs*4: EU(European Commiss ion) を ス ポ ン サ ー と し て 1998 年 に 設
立 さ れ た i n d e c s ( Interoperability of data in e -commerce systems) は ,
複数のコンテンツ属性体系のメタデータ情報を相互運用するための仕組み
を 提 供 し , DublinCore*5, SMPTE ( Society of Motion Picture & Television
Engineers ) *6 , IFPI ( International Federation of the Phonographic
Industry) * 7 , IFLA( International Federation of Library Associations
and Institutions )*8 ,I M S( Instructional Management Systems)* 9 ,CIDOC
( International Committee for Documentation) *10 な ど 多 く の 著 作 権 管
理 団 体 /コ ン テ ン ツ 属 性 標 準 化 団 体 が こ れ を 用 い た 相 互 運 用 を 計 画 し て い る .
相互運用のためにコンテンツ属性体系ごとに変換辞書が定義される予定で
ある.
(エ)
TV Anytime For um*11 : ビ デ オ ・ オ ン ・ デ マ ン ド に 関 す る 活 動 を 行 っ て き
た DAVIC ( Digital Audio Visual Council ) の 後 を 受 け て 組 織 さ れ た T V
Anytime Forum は , 内 部 に ハ ー ド デ ィ ス ク を 設 け た 家 庭 用 受 信 機 に テ レ ビ 放
送 コ ン テ ン ツ を 蓄 積 す る こ と に よ り ,番 組 を 任 意 の 時 間 に 視 聴 可 能 に す る 次
世代のデジタルテレビ放送システムの標準化を目指している.
(オ)
ARIB ( 電 波 産 業 会 ) : ARIB の サ ー バ 型 放 送 方 式 作 業 班 で は TV Anytime
Forum に 対 応 し た 放 送 方 式 の 日 本 規 格 を 策 定 し て い る .
(カ)
ISO/TC46/SC9 : 映 像 作 品 に 対 す る ISAN(International Standard
Audiovisual Number)*12 と い う 識 別 子 を 規 定 し て い る . 具 体 的 な 付 与 対 象
は,映画,TV番組,コマーシャル,教育ビデオなどであるが,付与管理対
象を“オリジナル作品”としており,同一作品を異なった品質で符号化した
場 合 の ビ ッ ト 列 と し て の デ ィ ジ タ ル コ ン テ ン ツ の 区 別 に は ,SMPTE で 規 格 化
し て い る UPID ( Unique Program Identifier) の よ う な 別 の 手 段 を 想 定 し て
いる.
(キ)
SMPTE: ① UPID と い う I S A N を 包 含 し た 形 の 識 別 子 の 標 準 化 を 進 め て い
る . UPID と は , ISAN 番 号 を ル ー ト I D ( UPID Identical Core Number) と し
て 前 半 部 に 利 用 し , 後 半 部 に ISAN の オ プ シ ョ ナ ル サ フ ィ ッ ク ス と し て T V
放送回数やバージョン番号を付けることによりコンテンツに対する識別子
と す る も の で あ る * 1 3 . ② UMID( Unique Material Identifier; S M P T E 3 3 0 M,
PR205)と い う UPID と は 別 の 規 格 が あ る . ISAN や UPID が ビ デ オ と オ ー デ ィ
オ が 複 合 し た 作 品 /番 組 に 対 する 番 号 付 け で あ っ た の に 対 し て , こ れ は シ ー
ン 単 位 の ビ デ オ や フ レ ー ム 単 位 の オ ー デ ィ オ の よ う に 小 さ な 単 位 の AV 素 材
に 対 す る 識 別 子 で あ る . そ の 性 質 か ら ,I S A N や UPID で の 識 別 子 の 発 行 は 中
央 登 録 セ ン タ へ の 申 請 に 基 づ く の に 対 し , UMID は 編 集 装 置 で 自 動 的 に 割 り
振られることが想定されている.
2) cIDf の国際標準化への取組み
24
cIDf で は コ ン テ ン ツ I D が 世 界 共 通 で 使 え る よ う に 標 準 化 に 取 り 組 ん で い る が ,
コンテンツの種類やサービスごとに,あるいは著作権制度や文化的背景等によ
っ て 国 ご と に , そ れ ぞ れ 流 通 慣 習 が 異 な る た め ,単 一 の 組 織 が あ ら ゆ る 種 類 の
コンテンツ,あらゆる国に対して有効な標準を決定することは容易ではない.
そ こ で cIDf で は , 国 内 外 の 関 連 団 体 と の 間 で ,I D 体 系 や コ ン テ ン ツ 属 性 情 報 の
管理等に関する情報交換や提案を行うなど,相互に協調しつつ標準化を進めて
い る . 本 節 で は , cIDf と 主 な 関 連 団 体 と の 関 係 に つ い て 述 べ る .
(ア)
MPEG : cIDf は , 2000 年 7 月 に MPEG- 21 と リ エ ゾ ン を 締 結 し , コ ン テ
ン ツ 流 通 プ ラ ッ ト フ ォ ー ム に お け る コ ン テ ン ツ の 識 別 子 と 属 性 情 報 ,及 び そ
の 利 用 方 法 に つ い て 提 案 す る と 共 に ,M P E G- 2 1 で の CFP (Call For Proposals)
作成に協力してきた.コンテンツの識別,著作権保護,コンテンツの利用管
理 な ど , MPEG-2 1 の 進 め る 7 つ の 仕 様 化 項 目 の う ち の 半 数 は c I D f の 標 準 化
ス コ ー プ と 一 致 し て い る . cIDf は , ID 付 与 に 関 す る 技 術 と 権 利 記 述 仕 様 に
対する要求条件の両者に提案を行っている.
(イ)
IDF:cIDf は IDF の affiliate で あ る .コ ン テ ン ツ I D に つ い て は 現 在 ,
画 像 や 音 声 デ ー タ で の 利 用 検 討 が 進 ん で い る た め ,出 版 物 に 関 す る 検 討 が 進
ん で い る DOI と は 相 互 補 完 的 な 関 係 に あ る . ま た 両 者 共 , 識 別 子 の 記 述 や 管
理方法,発行機関の運営や手続きが類似しており,共用可能な部分が多い.
現 在 , ど の よ う に 仕 様 /運 営 を 共 通 化 で き る か に つ い て 検 討 中 で あ る .
(ウ)
indecs: cIDf は indecs の affiliate で あ る . コ ン テ ン ツ I D の 変 換 辞
書が完成すれば,多くのコンテンツ属性体系との相互運用が可能になる.
(エ)
TV Anytime Forum:c I D f と TV Anytime Forum と は リ エ ゾ ン 関 係 に あ る 。
コ ン テ ン ツ ID の 流 通 属 性 と し て コ ン テ ン ツ の 利 用 条 件 を 規 定 し て お り , こ
の 情 報 を 利 用 者 が 容 易 に チ ェ ッ ク で き る 仕 組 み を 想 定 し て い る .コ ン テ ン ツ
の メ タ デ ー タ と 識 別 子 ,保 護 方 式 に 関 す る cIDf の 提 案 に 基 づ き ,TV Anytime
Forum で は 利 用 条 件 を 番 組 属 性 と し て 記 述 し , こ れ に 基 づ い た 番 組 検 索 を 行
う機能を仕様として定めている.
(オ)
ARIB ( 電 波 産 業 会 ) : cIDf は コ ン テ ン ツ の 識 別 子 及 び メ タ デ ー タ 管 理
機 構 の 標 準 化 団 体 と し て リ エ ゾ ン 関 係 を 結 ん で お り , ARIB の 仕 様 作 成 に 貢
献している.
(カ)
ISO/TC46/SC9:ISAN を 付 与 し た 作 品 を 流 通 さ せ る 場 合 の 識 別 子 に 関 し ,
ISO 関 係 者 と 議 論 し て い る .
(キ)
SMPTE: UPID/UMID を 付 与 し た コ ン テ ン ツ を 流 通 さ せ る 場 合 の 識 別 子 に
関 し , SMPTE 関 係 者 と 議 論 し て い る .
( 5 ) c IDf の 今 後 の 活 動
1) インダストリアルフォーラム
現 在 , 様 々 な 実 証 実 験 に コ ン テ ン ツ ID が 利 用 さ れ , 正 式 な コ ン テ ン ツ I D の
発 行 開 始 を 2001 年 1 0 月 に 予 定 し て い る が , 実 際 の コ ン テ ン ツ 流 通 ビ ジ ネ ス に
お い て メ デ ィ ア の 種 類 や ビ ジ ネ ス モ デ ル ご と に コ ン テ ン ツ ID の 適 用 の 検 討 を さ
ら に 深 め る た め , 映 像 /静 止 画 /音 楽 /文 書 の タ ス ク グ ル ー プ を 含 む イ ン ダ ス ト リ
ア ル フ ォ ー ラ ム を cIDf 内 に 設 立 し た . 現 在 ま た は 将 来 に ビ ジ ネ ス に 関 わ る 企 業
/団 体 が 主 体 で 活 動 し て お り , こ の 検 討 結 果 を 特 定 の メ デ ィ ア や 流 通 方 式 ご と の
詳 細 仕 様 と し て コ ン テ ン ツ ID の 仕 様 に フ ィ ー ド バ ッ ク す る 予 定 で あ る .
2) グローバル展開
25
こ れ ま で cIDf と し て は 国 内 で の 活 動 が 多 か っ た が , 海 外 か ら も cIDf へ の 関
心が高まってきたこともあり,最近はハリウッド映画界への提案や,国際シン
ポ ジ ウ ム (2 001 年 4 月 , LA, U.S.A) の 開 催 な ど , 海 外 企 業 / 団 体 と の 検 討 が 盛 ん
に行われるようになってきている.
(6)まとめ
コンテンツIDの概略とその標準化活動状況について述べた.
コンテンツIDを利用した共通の方法でコンテンツが管理されるようになれ
ば,大量の良質コンテンツがより安全かつ安価に流通し,新たなコンテンツ流
通関連ビジネスの創出も可能となる.
今 後 , コ ン テ ン ツ ID の 普 及 に よ り , 各 種 電 子 機 器 技 術 の 進 展 や ネ ッ ト ワ ー
クインフラの成長と相まって,ディジタルコンテンツのネット流通が促進され
るものと期待される.
参考:
*1: http::/www.cidf.org
*2: http://www.itscj.ipsj.or.jp/sc29/
*3: http://www.doi.org/index.html
*4: http://www.indecs.org/
*5: http://dublincore.org
*6: http://www.smpte.org/
*7: http://www.ifpi.org/
*8: http://www.ifla.org/
*9: http://www.imsproject.org/
*10: http://www.cidoc.icom.org/
*11: http://www.tv-anytime.org/
*12: http://www.isan.org/
*13: http://www.niso.org/cd15706.html
「コンテンツビジネス」, コンテンツビジネス研究会編(1999).
”Tools and Techniques for Globally Unique Content Identification”, James
H.Wilkinson and Michael E. Cox, (October,2000).
26
8.セキュリティと課金
8.1 デ ィ ジ タ ル コ ン テ ン ツ の セ キ ュ リ テ ィ
8.1.1 デ ィ ジ タ ル コ ン テ ン ツ の 種 類
コンテンツ配信を考える時に対象となるディジタルコンテンツとしては、以
下のようなものが考えられる。
・ テキスト(書籍、公文書、申請書など)
・ 音楽(CD、MIDIなど)
・ 静止画(イラスト、写真、キャラクタ画など)
・ 動画(DVDソフト、映画、放送番組など)
・ ソフトウェア(ゲーム、ビジネスソフトなど)
テキストは、一般の書籍類の電子化だけではなく、2003年に予定されて
いる電子政府でやり取りされる申請書や公文書、電子商取引での契約書なども
コンテンツ配信の対象となる。動画では、ディジタル放送の開始により、一般
の放送番組もコンテンツ配信の対象となった。ソフトウェアは、従来のパッケ
ー ジ で の 販 売 か ら 、 イ ン タ ー ネ ッ ト を 介 し た A S P ( Application Service
8.1.2 求 め ら れ る セ キ ュ リ テ ィ Provider ) サ ー ビ ス も 始 ま っ て お り 、 コ ン テ ン
ツ配信として考慮すべき対象となっている。
コンテンツのセキュリティとしては、コンテンツを安全に管理するためのコ
ンテンツそのものの保護と、著作権などコンテンツに関わる権利の保護という
2つが考えられる。また、コンテンツ配信サービスを考えた場合には、さらに
別のセキュリティが要求される。
(1)コ ン テ ン ツ そ の も の の 保 護
全 て の コ ン テ ン ツ は 、 デ ー タ ベ ー ス 内 、W e b で の 公 開 時 、 イ ン タ ー ネ ッ ト な ど
での配信時に改竄を受けないこと(非改竄性)が要求される。また、コンテン
ツが違法にコピーされたものや偽造されたものではない本物であること(真正
性)も求められる。真正性の判断のためには、電子政府での申請書や公文書、
電子商取引での契約書などで有効期限が必要な場合が有るため、作成日時の証
明が必要な場合がある。さらに、コンテンツがデータベース内や配信途中で盗
み見されないこと(秘匿性)も必要である。
(2)コ ン テ ン ツ に 係 わ る 権 利 保 護
コ ン テ ン ツ に は 著 作 権 があ り 表 1 に 示 す 様 々 な 権 利 が 発 生 し て い る 。 ま た 、
著作権の他にも、意匠、商標などが権利化されている場合もある。これらコン
テンツに係わる権利を保護するためには、法的規制・保護と技術的保護の両面
からの対応が必要となる。
法 的 規 制 ・ 保 護 で は 、 WIPO( World Intellectual Property Organization)
が 知 的 所 有 権 の 国 際 的 調 和 を 図 っ て お り 、 各 国 の 著 作 権 法 も WIPO の 規 約 に 準 じ
て い る 。 最 近 で は 、1996 年 の W I P O 新 条 約 ( コ ピ ー プ ロ テ ク シ ョ ン 解 除 や プ ロ バ
イ ダ ー 責 任 等 に 関 す る 規 定 ) 締 結 を 受け て 日 本 で も 改 正 法 が 施 行 さ れ 、 コ ピ ー
プロテクション技術を回避する装置等の製造、頒布等を違法行為として取り締
ま る こ と が 可 能 と な っ た 。 ま た 、 貿 易 ・ 商 取 引 の 観 点 か ら 、 WTO TRIP s
27
( Trade -Related Aspects of Intellectual Property Rights: 知 的 財 産 権 に 関
する貿易的側面)協定という国際協定もできた。法制度も少しずつ改正されて
いるものの、技術革新のスピードやインターネットという新しい環境での著作
権 法 違 反 に 対 し て は 追 随 し き れ な い 。 P 2 P ( Peer to Peer ) フ ァ イ ル 交 換 の
違法性の証明や、P2Pユーザ何百万人を告訴するのは現実的に無理といった
ような解決できない問題もまだ多い。
このような法的規制・保護では解決されない問題に対応するためにも技術的
保護は必要不可欠である。技術的保護では、ディジタル録音・録画機器やイン
ターネットを介してコンテンツを違法にコピーすることが出来ない仕組みや、
コピーされたものが違法であるか否かを検出できる仕組み、コピープロテクシ
ョン技術が容易に回避されない仕組みが必要になる。
表1 著作権法の定める主な権利内容
権利の種類
権利の内容
著 作 権( 著 作 複 製 権
複写権、録音権、録画権等
者の得る経
複 製 物 の 公 衆 へ の 流 通 を 制 御 頒布権、譲渡権、寄与権
済的権利
する権利
直 接 に 複 製 物 を 伴 わ な い 公 衆 上演権・演奏権、上映権、公衆送
への流通を制御する権利
信権(放送権・有線送信権・送信
可能化権を含む)、口述権、展示
権等
二 次 的 著 作 物 の 作 成 と 許 諾 に 翻訳権・編集権・映画化権・翻案
関する権利
権、二次的著作物利用に関する許
諾権
権利者人格
著作者の得る人格的権利
公表権、氏名表示権、同一性保持
権
権
著作隣接権
演奏家、レコード製作者、放送 録音権、録画権、送信可能化権等
事業者の得る権利
著作権に準じる権利
文 献 1 : P.102 「 イ ン タ ー ネ ッ ト と 知 的 財 産 権 」 よ り
(3)コ ン テ ン ツ 配 信 サ ー ビ ス
コンテンツ配信サービスを考えた場合、上記とは異なるセキュリティが必要
とされる。まず、サービス提供者が信頼できる相手か否かの確認と、ユーザ、
サービス提供者が確かにその人であることの証明(認証)が必要である。認証
が行われてコンテンツがやり取りされる際には、「受け取っていない」「契約
していない」といった受け取りや契約の否認を防ぐ(否認拒否)ことが必要に
なる。
また、コンテンツ配信サービスの形態によって必要なセキュリティも変わる。
売り切り型であれば、コンテンツが不正にコピーされたり契約外のユーザに利
用されない仕組みが必要である。利用に応じた課金型のサービスでは、不正コ
ピー防止に加えて、利用毎に確実に課金・徴収する仕組みが必要になる。
コンテンツ配信をサービスとした場合には、クーリングオフに対応するため
に、コンテンツの削除、ソフトウェアの無効化、などの対策も必要となる。
8.1.3 セ キ ュ リ テ ィ 技 術 と 標 準
(1)暗 号
秘 匿 性 を 保 証 す る た め に は 、暗 号 技 術 が 用 い ら れ る 。暗 号 ア ル ゴ リ ズ ム に は 、
28
暗号化と復号に同じ鍵を使う共通鍵暗号方式と、ある関数で計算されたペアの
鍵(秘密鍵と公開鍵)を使う公開鍵暗号方式がある。共通鍵暗号にはブロック
暗号とストリーム暗号があるが、ブロック暗号が主流となっている。
共 通 鍵 ブ ロ ッ ク 暗 号 と し て は 米 国 標 準 暗 号 で あ る DES が 普 及 し て い た が 、1999
年 に 解 読 さ れ て し ま っ た た め 、 新 た な 米 国 標 準 暗 号 AES と し て 2000 年 10 月 に
Rijndael が 採 択 さ れ た 。 ま た 、 公 開 鍵 暗 号 で は RSA が 広 く 使 わ れ て い る が 、 よ
り 鍵 長 が 短 く 強 度 の 高 い 暗 号 と し て 楕 円 曲 線 暗 号 、C α β 曲 線 暗 号 な ど の 研 究 が
進 め ら れ て い る 。ま た 、米 国 標 準 暗 号 A E S の よ う に 暗 号 の 標 準 化 の 動 き が あ り 、
日 本 で は 電 子 政 府 で 利 用 で き る 安 全 な 暗 号 の 選 定 、I S O で は 世 界 標 準 暗 号 の 選 定
が進められている。
(2)電 子 署 名
電子署名では真正性を保証するとともに、改竄が行われた場合これを検出す
る こ と が で き る 。 図 1 に 基 本 的 な デ ィ ジ タ ル 署 名 の 仕 組 み ( ISO14888-1 ) を 示
す。元となるメッセージからメッセージのダイジェストとしてのハッシュ値を
求め、秘密鍵で暗号化し元のメッセージに添付して送信する。受信側では、受
け取ったメッセージからハッシュ値を求めて、公開鍵で解読した受信ハッシュ
値との比較を行うことにより、偽造・改竄の無いことを確認できる。
この方式では送られてきたメッセージの真正性を確認できるが、メッセージ
の 署 名 者 を 証 明 す る た め に 、署 名 者 の 個 人 情 報 を 使 う ID ベ ー ス の 署 名( 1 4 8 8 8- 2 )
や 、 公 開 鍵 証 明 書 ベ ー ス の 署 名 ( 1 4 8 8 8- 3 ) を 使 う 方 式 が あ る 。
送信
平文
ハッシュ値
平文
ダイジェストを計算
ダイジェストを計算
ハッシュ値
比較
ハッシュ値
送信
ハッシュ 値
署名
ハッシュ値
署名
公開鍵で復号
秘密鍵で暗号化
図1
デ ィ ジ タ ル 署 名 の 仕 組 み ( 14888-1: 付 録 付 き )
(3)公 開 鍵 基 盤 ( P K I )
コンテンツ配信サービスにおいて、相手が信頼できる相手であるか、また通
信内容が改竄されていないかを確認することのできる仕組みとして、公開鍵基
盤 ( PKI) が 利 用 で き る 。 図 2 に P K I の 仕 組 み を 簡 単 に 示 す 。 送 り 手 は 自 身 の
公開鍵を認証局に登録し、電子証明書の発行を受ける。データを送信する際に
は、本人だけが知っている秘密鍵で暗号化を施し、その証明書と公開鍵を添付
する。受け手は、受け取った証明書を確認(必要なら認証局に照会)し、送り
手の公開鍵を使ってデータを復号する。証明書のフォーマットについては、
ITU- T X.509 及 び ISO 9594- 8 と し て 規 格 化 さ れ て い る 。 IETF PKIX で は 、 イ
29
ン タ ー ネ ッ ト で の 利 用 を 目 的 と し て X.509 に 基 づ い た 標 準 化 が 進 め ら れ 、 認 証
局に関する標準も行われている。
認証局
公開鍵を登録
公開鍵及び
電子証明書
を照会できる
電子証明書
を発行
+
プライベート鍵で暗号化し
証明書を添付
送り手の公開鍵で復号
図 2 P K Iの 仕 組 み
(4)不 正 コ ピ ー 防 止
コンテンツが不正にコピーされることを防ぐためには、ディジタル録音・録
画 機 器 の コ ピ ー 世 代 管 理 シ ス テ ム で あ る SCMS、CGMS や 、 DVD ソ フ ト 、 音 楽
といったコンテンツの種類毎に策定されたコピー防止技術がある。表 2 に主な
不正コピー防止技術をまとめる。
表 2 主な不正コピー防止技術
標準化機関・団
方式
内容
体
名
業
4C
CPRM S D カ ー ド 、DVD -RAM な ど の 記 録 再 生 可 能 な 機 器 に お い
界
て 、 コ ン テ ン ツ の 暗 号 化 / 復 号 を 行 う 方 式 。 SDMI で 採
標
択された。
準
CPPM CPRM と 同 様 の 方 式 で 、D V D オ ー デ ィ オ な ど に 適 用 さ れ
・
る。
海
DVD 画 像 デ ー タ を 暗 号 化 し 、 復 号 用 の 鍵 を 持 つ 機 器 で の
CPTWG
CSS
外
み 再 生 可 能 と す る 方 式 。 CSS 解 除 ソ フ ト が 問 題 に な っ て
規
いる。
格
CSS-2 CSS 同 様 の 方 式 で 、 DVD オ ー デ ィ オ に 適 用 す る 技 術 。
DTCP IEEE1394 端 子 の 入 出 力 部 で 暗 号 化 / 復 号 を 行 う 方 式 。
EIA
国
際
標
準
IEC
MPEG
ITU- T
CGMS DV カ ム コ ー ダ な ど で 使 用 。 コ ピ ー 制 御 情 報( 1 回 コ ピ ー
可、2回コピー可、コピーフリー等)に従ってコピー管
理を行う。
SCMS CGMS と 同 様 の コ ピ ー 世 代 管 理 シ ス テ ム 。 オ ー デ ィ オ 機
器で使用される。
IPMP MPEG- 4 、 MPEG -7 の 規 格 化 の 中 で 、 知 的 財 産 識 別 デ ー
タフィールドや知的財産管理データについて規定してい
る。
デ ィ ジ タ ル TV 放 送 用 途 。
J.95
(5)電 子 透 か し
静止画、音楽、動画では、コピー制御情報を電子透かしで埋め込み不正コピ
ー防止に利用する他、コンテンツの著作権情報や管理情報を埋め込むことによ
って、不正コピーされたコンテンツの検出を行うことができる。
電 子 透 か し の ア ル ゴ リ ズ ム に は 、 CPTWG に て 審 議 中 の 動 画 用 電 子 透 か し
30
Galaxy 方 式 、 SDMI で 音 楽 用 に 採 用 さ れ た A R I S 社 の 電 子 透 か し 、 M I D I 用 電
子透かしなど様々な種類がある。
8.1.4 コ ン テ ン ツ 配 信 サ ー ビ ス の セ キ ュ リ テ ィ と 超 流 通
コンテンツ配信サービスを行う際に、コンテンツの違法コピー、違法使用を
防ぎつつ、適正に課金・徴収できる仕組みとして、図3に示した超流通モデル
がある。超流通モデルでは、管理サーバで暗号化されたコンテンツと復号鍵を
管理していて、ユーザ1からのコンテンツ配信の要求に対して暗号化されたコ
ンテンツと復号鍵を配信する。ユーザ1はコンテンツの復号と利用のための専
用アプリケーションを持っていて、復号鍵でコンテンツを復号して利用するこ
とが出来るが、復号したコンテンツや復号鍵をコピーすることはできない。ユ
ーザ1はユーザ2に暗号化されたコンテンツをコピーさせることは自由に出来
るが、ユーザ 2 がコンテンツを利用するためには、管理サーバに要求して復号
鍵の配信を受ける必要がある。この ような仕組みで、コピーは自由であるが、
利用する時に必ず課金できるシステムが構築できる。携帯を使った音楽配信サ
ー ビ ス の 業 界 団 体 規 格 ケ イ タ イ de ミ ュ ー ジ ッ ク な ど 、 超 流 通 モ デ ル を 利 用 し た
ビジネスも始まっている。
管理サーバ
復
号
復
暗号化
コンテンツ
暗号化
コンテンツ
ユーザ1
号
コピー自由
図3
ユーザ2
暗号化
コンテンツ
コピー自由
ユーザ3
超流通モデル
8.1.5 コ ン テ ン ツ セ キ ュ リ テ ィ 上 の 課 題
暗 号 は 解 読 が 非 常 に 難 し く て も 決 し て 破 ら れ な い 訳 で は な い 。 CSS 解 読 ソ フ
トのように、標準方式として採用された暗号が破られた場合の被害は甚大であ
る 。 暗 号 の さ ら な る 強 化 を 図 っ て も 、じ き に 回 避 策 が 編 み 出 さ れ る と い う い た
ちごっこになり開発費がかかる。
また、不正コピーや不正使用の無いようにと、コンテンツや配信システムの
安全性を追求しすぎると、ユーザにとって手続きが煩雑で自由度のない使い難
い も の に な っ て し ま う 。最 近 で は 、HDTV 放 送 を 外 付 け チ ュ ー ナ を 介 し て D -VHS
に 録 画 し た 場 合 、 コ ピ ー 制 御 が 働 い て 再 生 時 に HDTV 映 像 を 視 聴 で き な い と い
った問題が起こったが、これでは、ユーザにとって魅力のあるサービスは出来
ないし、コンテンツ配信サービスの市場も立ち上がらないであろう。
ユーザに煩雑さを感じさせないコンテンツ保護技術やコンテンツ配信サービ
スの開発が重要であると共に、従来の著作権料収入に頼らず別の収入源を持つ
31
ようなビジネスモデルの検討も必要と考えられる。
文 献 1 : 安 田 浩 + 情 報 処 理 学 会[編 ] オ ー ム 社
「爆発するインターネット∼過去・現在・未来を読む∼」
略語:
SDMI( Secure Digital Music Initiative)
CPTWG( Copy Protection Technical Working Group)
EIA( Electronic Industries Association )
MPEG( Moving Picture Experts Group)
CPRM( Content Protection for Recordable Media)
CPPM( Content Protection for Prerecorded Media )
CSS( Content Scramble System )
DTCP( Data Transmission Copy Protection)
CGMS( Copy Generation Management System)
SCMS( Seri al Copy Management System )
IPMP ( Intellectual Property Management & Protection)
8.2
超流通
まえがき
「 超 流 通 」 は 、 1 9 8 3 年 に 森 亮 一 筑 波 大 学 教 授(現 名 誉 教 授 )が 提 唱 し た も
ので、個人の創作活動の産物である電子情報作品(コンピュータプログラムや
書籍、音楽などのコンテンツ)に対し、「所有する」ことに対価を支払うので
はなく、「使用する」ことに対して料金を支払う仕組みで、そのために著作権
を保護しながら、安全かつ公平に、しかも経済 的、効率的に流通させる、次世
代 の 流 通 シ ス テ ム の 概 念 で あ る 。 流 通 に は 、 ネ ッ ト ワ ー ク 通 信 、 C D- ROM、 衛
星放送などの電子メディアを複合的に、その各々の持てる優位性を活用し、有
効 利 用 す る こ と で 、コ ン テ ン ツ 等 を 効 率 的 に 流 通 さ せ る 。 技 術 的 に は 、電 子 的 、
物理的な攻撃に耐える保護容器と暗号による防御機構、小額決済システムが必
要となる。これで情報提供者の権利と利用者の便利さとが保証される。
(1) 超 流 通 は 今 ま で 何 故 普 及 し な か っ た の か
このような理想的なコンテンツ流通方式であるために、森教授が提唱してか
ら、国内外のコン ピュータメーカを中心に幾度となく挑戦され、色々なシステ
ムが提案され、実験され、事業化もされて来たが、未だ社会インフラとして定
着してはいない。その原因は、ICカードのような安い保護容器、使い易くて
強度の高い暗号方式、使い易い小額決済システムなどの技術的要素だけでなく、
一番重要な要素であるユーザのニーズ、社会的ニーズが十分に醸成されていな
かったのではないかと考える。すなわち、超流通が無くとも、別に誰も困らな
かった状況において、コンテンツホルダも既存の流通との摩擦を嫌って十分な
コンテンツを出さなかったこと、ユーザにとってもコンテンツの価格が大幅に
安くなるなどのメリットが無かったことが、実験の域を出なかった原因であろ
う。
32
(2)
社会的ニーズの高まり
ここ数年、超流通への社会的ニーズが急激に大きくなった、と言うより旧来
のコンテンツ流通を揺るがす事件が勃発し始め、状況が一変したのである。最
初 の 発 端 は MP3 と 呼 ば れ る 音 楽 デ ー タ の イ ン タ ー ネ ッ ト で の 流 通(多くが無料
サ イ ト か ら の ダ ウ ン ロ ー ド ) が 始 ま り 、 そ の 音 楽 デ ー タ を 利 用 す る MP3 プ レ イ
ヤ を 販 売 し よ う と し た Diamond 社 を 、 米 国 レ コ ー ド 産 業 協 会 ( R I A A ) が 販
売差し止めを求めて訴えたものの結局認められず、その結果、欧米韓日で大手
オ ー デ ィ オ メ ー カ を 含 め MP3 プ レ イ ヤ が 数 多 く 出 回 っ た こ と で あ る 。
そして次なる火種はナップスターである。ナップスターと呼ぶ個人間ファイ
ル交換ソフトを使えば、個人間で楽曲の貸し借りが自由にできる。延べ千万曲
を超える楽曲が登録され、自由にコピーされている。ナップスターは大手レコ
ード会社達から訴えられサーバの停止に追い込まれているが、レコード会社に
数千万ドル払うから営業を続けさせろと交渉中である。一方、独ベルテルスマ
ン は ナ ッ プ ス タ ー へ の 告 訴 を 取 り 下 げ 、 逆 に ナ ッ プ ス タ ー に 5,000 万 ド ル も 出
資 す る こ と に し た 。 ベ ル テ ル ス マ ン は 、 個 人 間 ネ ッ ト ワ ー キ ン グ ( P 2 P )を、販
路として利用しようと考えているようだ。ただ、無料の楽曲を個人間ネットワ
ーキングで広めてもレコード会社やアーティストには利益をもたらさない。当
然、ベルテルスマンは超流通技術の利用を考えているのだろう。そんなことか
ら個人は別としても、少なくとも音楽業界は超流通への関心が高くなったと言
える。
(3)
情報技術の進展スピードに追いつけない対策
楽曲のコピー行為は目新しいものではない。昔から新しいハー ドが出る度、
というより出てしまってから問題になり、その都度、なし崩し的に対処してき
た。アナログテープへのコピーは音質も悪くなるがMDの場合は劣化が少なく、
CD−Rに至っては全く同一である。しかもレンタル屋でCDが安く借りられ
るとあっては、CDの売上が伸びないのは当然である。また、衛星デジタル放
送でもナレーション無しのフル楽曲が放送されており、放送を記録するだけで
楽曲は入手できてしまう。MDへのコピーについては、不正コピーによる損失
分を予めハードウェア代金に上乗せする付加金制度によって、一応の救済はさ
れ て い るが 、 ス ッ キ リ し な い こ と も 確 か で あ る 。 そ こ へ ナ ッ プ ス タ ー 騒 動 で あ
る。また、ナップスターの同類であるグヌーテラの場合、管理サーバを持つ管
理元が無いので訴えるべき相手がいない。またファイル交換技術は楽曲に限っ
たものではないので、使うなと個人に迫るわけにもいかない。だからと言って
コンピュータから付加金を取ることでは社会的コンセンサスが得られない。そ
こへ、日本でも高速なデジタルネットワークが利用できるようになると、もう
お手上げである。法律も作られているが、何百万人ものユーザの個人ログファ
イルを手に入れ分析し、訴訟を起こすのも技術的には難しいものがある。
一 度 、 情 報 技 術(I T )に つ い て 振 り 返 っ て み よ う 。 C P U の 処 理 性 能 、 メ モ リ
の容量、磁気ディスクの容量は、コンピュータの誕生の日から確実に5年で1
0倍、10年で100倍、15年で1000倍のペースで進んでいる。15年
前のメインフレームより子供のゲーム機の方が処理能力が高い。通信スピード
はこれほどではないが、通信相手の数と積算した、いわゆる世界の通信データ
量は、これをも凌ぐ割合で級数的に増えている。恐ろしいことに、競争がある
33
限 り 、こ れ ら 情 報 技 術 は 、こ れ か ら も 止 ま ら ず 進 展 し 続 け る と い う こ と で あ る 。
車の燃費が1/10になったりはしない。情報技術だけが10年で100倍の
ペースで進み、世界で扱う情報量は10年で100万倍のペースを超えるので
はないか。身近なところで、PCの磁気ディスクは10GB以上になっている
が 、 1 0 年 後 は 1 T B (1 0 0 0 G B )を 超 え て し ま う 。 広 辞 林 5 0 0 0 冊 分 で あ
る 。テ キ ス ト で あ れ ば 日 本 中 の 本 が 全 部 入 る 。 音 楽 な ら 2 5 万 曲 入 る 。そ し て 、
そのまた10年後は100TBの世界になってしまうのである。
理屈の上では本にしても音楽にしても必要な分だけ配信すれば足りる。しか
し個人のPC(ホームサーバ)の磁気ディスクの容量が1TBを超えれば、ハ
ッカーでなくとも、いっそのこと日本中の本と音楽を全国民の手元に配布して
しまいたい誘惑にかられる。高速の通信網があれば、世の中の流通の仕組みま
で変わるのは必然である。いいかげんなシステムを作ってから後から対策法を
考えるという従来のやり方では、情報技術の進展スピードに追いつけなくなる。
また、法律で決めても、守らせるのは難しく、たった一人の泥棒でもIT技術
で世界を震撼させることは十分できる。
す べ て の デ ジ タ ル コ ン テ ン ツ が 超 流 通 に よ っ て 流 通 さ れ る こと は あ り え な い
だろうが、著作権を保護しながら、安全で効率的に流通させるには、超流通は
最も有望な解決策の一つである。コンテンツプロバイダは、今、騒動となって
いるナップスターやグヌーテラなどに代表される個人間ファイル交換技術を取
り込むためにも、超流通技術の利用を検討することになるだろう。
(4) 出 始 め た 超 流 通 シ ス テ ム
CD -ROM に 多 数 の コ ン テ ン ツ を 暗 号 化 し て 収 録 し 、 ユ ー ザ ー が 利 用 し た い 時
にネットワークを通じて暗号鍵を受け取り、代金はクレジットカードで決済す
る の が 最 初 の 形 態 で あ る 。 例 え ば 、 富 士 通 は 1995 年 7 月 か ら 超 流 通 シ ス テ ム の
ト ラ イ ア ル を 実 施 し 、 同 年 11 月 か ら 世 界 に 先 駆 け 超 流 通 ビ ジ ネ ス
"MediaShuttle" サ ー ビ ス を 始 め た 。 雑 誌 等 の 付 録 で 配 付 さ れ た CD - ROM に 格
納されているコンテンツを、ネットワーク通信経由で「暗号鍵」を入手し、有
料で利用するサービスである。また、同社の研究所ではクライアント・サーバ
環境下での超流通システムを実現するための技術開発も行った。詳細は、情報
処理振興事業協会(IPA)創造的ソフトウェア育成事業の最終成果発表会論
文集の中に見ることができる。
NTT ソ フ ト ウ ェ ア 研 究 所 も 、1997 年 1 月 、イ ン タ ー ネ ッ ト 上 で デ ィ ジ タ ル コ
ン テ ン ツ の 販 売 を 可 能 に す る プ ラ ッ ト フ ォ ー ム 「 Infoket」 を 、 電 子 出 版 を 対 象
に 実 証 実 験 を し た 。Infoket は 、 デ ィ ジ タ ル コ ン テ ン ツ を ネ ッ ト ワ ー ク な ど を 通
じて販売するための一種の「超流通」の仕組みである。まず、購入希望者が商
品 を WWW 上 で 選 び 、 暗 号 化 さ れ た コ ン テ ン ツ を ダ ウ ン ロ ー ド す る 。 次 に ダ ウ
ンロードした商品の購入の意思をサーバーに返送した段階で復号カギが送られ
てくる。コンテンツは暗号化した商品部分と商品の説明などの付加情報、電子
署名が 1 組のファイルになったものである。復号カギの配送には独自のプロト
コルを使用し、購入者がコンテンツ購入の確認ボタンをクリックすると同時に
端末側で電子署名をチェックする。最初にダウンロードした暗号データが改ざ
んされていたり、きちんとダウンロードされていなかった場合は電子署名が無
34
効 と な る の で 、 カ ギ は 配 送 さ れ な い 。 ま た 、 さ ら に Infoket は 小 額 決 済 を 意 識
した電子クーポンを独自に用意した。実証実験では、ニュースや書籍といった
ディジタルコンテンツを販売した。
1996 年 に は 、 同 様 な シ ス テ ム と し て 日 本 I B M の 「 CD Showcase 」 、 NT T の
「 miTa kaTTa」 な ど も 始 ま っ た 。 こ の ほ か 、 NTT デ ー タ 通 信 も プ リ ペ イ ド 機
能 付 き の IC カ ー ド を 使 っ た 超 流 通 シ ス テ ム の プ ロ ト タ イ プ を 開 発 し て い る 。
1998 年 1 0 月 、 富 士 ゼ ロ ッ ク ス は 、 デ ジ タ ル コ ン テ ン ツ に 「 利 用 権 」 を 設 定
し 、 そ の 利 用 権 そ の も の を 流 通 さ せ る た め の 技 術 「 DDSA (Digital Document
Security Architecture) 」 を 開 発 し 、 1999 年 2 月 よ り 「 平 成 10 年 度 版 有 価 証
券 報 告 書 総 覧 」 を 「 イ ン タ ー ネ ッ ト 有 報 」 サ イ ト に て 販 売 し た 。 DDSA で は 、
デジタルコン テンツは暗号化され、ユーザーの認証に必要な情報を組みこんだ
上でネットワーク上を流通する。この暗号を解き、コンテンツを実際に見るた
めには、ユーザー1 人 1 人に与えられる「トークン」というプログラムと、実
生活上でのチケットに相当する「アクセスチケット」が必要である。アクセス
チケットは、特定のトークンを持つユーザーが特定のコンテンツを利用するこ
とを許可する証明書で、これがトークンと合致した場合にのみ、コンテンツの
暗 号 が 解 か れ る と い う 仕 組 み で あ る 。暗 号 化 や 認 証 の プ ロ セ ス に は 、R S A や DSA
準 拠 の 公 開 鍵 プ ロ ト コ ル を 利 用し て い る 。
米 国 で も IBM 社 を は じ め と す る 幾 つ か の 企 業 が 早 く か ら 超 流 通 の ビ ジ ネ ス へ
の 適 用 に 取 り 組 ん で い る 。 中 で も 、 積 極 的 な の が InterTrust で あ る 。 最 近 で も
内 外 の レ コ ー ド 業 界 に 採 用 を 働 き か け て お り 、 2000 年 1 2 月 に は 日 本 で も 三 菱
商事と組んで事業をスタートさせている。コンテンツプロバイダは、コンテン
ツ を そ の 利 用 条 件 を 設 定 し た R u l e s & Identity(無 料 試 聴 回 数 、 購 入 価 格 、 有 効
期 限 な ど ) と 一 緒 に DigiBox Container と 呼 ば れ る 暗 号 化 さ れ た 仮 想 の パ ッ ケ ー
ジ の 中 に 入 れ 、 イ ン タ ー ネ ッ ト 、 C D- ROM、 友 人 間 コ ピ ー な ど 、 様 々 な 方 法 で
流通させる。ユーザーは、ある決められた期間毎に、コンテンツの仕様履歴を
データセンタに送ることによって、利用がチェックされプリペイドバジェット
から料金が差引かれる。
1999 年 2 月 、 ソ ニ ー も 著 作 権 保 護 技 術 の 基 準 を 作 る た め の 協 議 会 「 SDMI
( Secure Digital Music Initiative )」 に Open Magic Gate の 拡 張 と し て「 S u p e r
Magic Gate 」 技 術 を 提 案 し た 。 超 流 通 を 念 頭 に 置 い た と い う 。 そ の 元 に な る
OpenMG は 、 ハ ー ド ウ ェ ア と ソ フ ト ウ ェ ア を 組 み 合 わ せ た 技 術 で あ る 。 ソ フ ト
ウェアだけでは、ハッキングされる恐れが大きいからである。ソフトウェアが
主体だが肝の部分をハードに担わせている。PC内部で音楽CDから楽曲デー
タを取り出し、圧縮し、同時に暗号化し、コンテンツはハードディスクに、暗
号 鍵 は OpenMG 対 応 メ モ リ ス テ ィ ッ ク と 呼 ん で い る 専 用 の フ ラ ッ シ ュ メ モ リ
(セキュアモジュール)に格納する。これは暗号鍵の複製を防ぐためである。
再 生 時 は 、 OpenMG 対 応 の ア プ リ ケ ー シ ョ ン が ハ ー ド デ ィ ス ク か ら 暗 号 化 さ れ
たコンテンツを読み出す際、同時にセキュアモジュールから暗号キーを取り出
し て 復 号 化 す る 。 勿 論 「 Memory Stick Walkman 」 と 呼 ん で い る プ レ ー ヤ に 移
動 さ せ て 外 で 聴 く こ と が で き る 。 OpenMG は P C の H D D か ら 楽 曲 の コ ピ ー が
メモリスティックを通して無防備に流出するのを防ぐ意味合いで開発されたも
35
のであろう。
ネ ッ ト 配 信 を 念 頭 に 拡 張 さ れ た 「 Super Magic Gate 」 で は 、 音 楽 コ ン テ ン ツ
は対応サーバーから暗号化された状態で配信され、対応機器でのみ利用が可能
で あ る と い う 。 InterTrust と 同 様 に 、 再 生 可 能 回 数 や 期 間 、 課 金 情 報 な ど 、 サ
ービス利用条件を柔軟に設定でき、利用履歴情報などはネットワークに改めて
接続された時にサーバに送り、課金などの権利処理を行うという。具体的方法
は公開されていないが、衛星インターネットのようなメガビット級のインフラ
と組み合わせれば、暗号化されたコンテンツをユーザーのHDDにあらかじめ
フリーで配り、ユーザーには試聴後に好きな曲だけを後買いさせる、といった
新しい流通形態も構築可能だという。
日 本 電 気 も 2 0 0 0 年 1 1 月 よ り RightsShell と 呼 ぶ デ ジ タ ル コ ン テ ン ツ 配 信 シ
ステムを稼動させた。デジタルコン テンツを暗号化し、その利用の際に「チケ
ット」と呼ぶデジタルの利用券を必要とするデジタルコンテンツ配信システム
で あ る 。 RightsShell で は デ ジ タ ル コ ン テ ン ツ を 暗 号 化 す る だ け で な く 、 そ の
コンテンツを適切に再生するための情報を加えた「カプセル」と呼んでいるフ
ァイル形式にして配布する。カプセルは、ネットワークから取得されるチケッ
トで暗号を解いて再生する。(図1参照)
図1
チケットの取得からカプセル内の暗号化コンテンツの復号まで
36
ま た 日 本 電 気 は 携 帯 電 話 向 け に モ バ イ ル RightsShell も 開 発 し た 。 携 帯 端 末
に内臓するソフトウェア容量を抑えるために、インターネットと携帯電話網の
間 に ア プ リ ケ ー シ ョ ン ・ サ ー バ を 置 き 、端 末 の 負 荷 の 軽 い 暗 号 に 変 換 し て い る 。
2000 年 1 1 月 30 日 よ り 、 DDI ポ ケ ッ ト が “ SoundMarket” と 呼 ぶ 音 楽 配 信
サ ー ビ ス を 始 め た 。 続 い て N T T ド コ モ も 2001 年 1 月 1 5 日 か ら “ M- stage
music” と 呼 ぶ 音 楽 配 信 サ ー ビ ス を 開 始 し た 。 と り わ け 、“Sound Market”で 始 ま
った音楽配信サービスでは三洋電機、富士通、PFU、日立、日本コロムビア
が 開 発 し た コ ン テ ン ツ 保 護 技 術 「 UDAC -M B 」 ( Universal Distribution with
Access Control- Media Base ) の 携 帯 電 話 版 で あ る “ ケ ー タ イ d e ミ ュ ー ジ ッ ク ”
と呼ばれる以下のような 超流通技術が使われており、セキュリティもインター
ネット音楽配信を凌駕する様々な対策がなされている。
①タンパーレジスタント構造
超流通 を実現 す る た め に は、 電 子 的 、 物 理 的 な 攻 撃 に 耐 え る 保 護 容 器 、 す な
わち製造者でも破れない金庫と、誰にも破れない暗号による防御機構、小額決
済システムが必要である。 暗号の解読鍵の保管や、その鍵を使っての暗号解
読作業は、この堅牢なプロでも破れない金庫の中で行われない限り、コンテン
ツ の 盗 難 に 遭 う こ と に な る 。 タ ン パ ー レ ジ ス タ ン ト (Tamper Resistant 内 部 解
析や改ざんを防衛する) 技術にはソフトウェアで構成されるものとハードウェ
アで構成されるものとがあるが、前者はセキュリティが確保出来るとの証明は
なされていない。 一般にソフトウェアで鍵管理をする場合、常にユーザの利用
状態だけでなく、ユーザのソフトウェアへの不正アクセスを監視し、またプロ
グラムにアクセスされても簡単には鍵を盗まれないよう鍵を隠し、さらにプロ
グラムをデバックされないように工夫する。そして法律でもリバースエンジニ
アリングを禁止するのがよいが、そうしたとしても、結局ハッカーに挑戦され
れば破られる危険は大きい。
それに較べ、ハードウェア・ タンパーレジスタント技術は、半導体チップな
どの内部解析や改ざんを物理的及び論理的に防衛する技術で、例えばチップ内
部に強固で粘 着力の高いコーティングを施し、表面を剥がすと内部の回路が完
全に破壊されるようにしたり、ダミーの配線を施したり、電子的な攻撃に対し
ては公開鍵による相互認証を伴う暗号通信路(セキュアコネクション)が形成
された時のみデータの出し入れが出来るようにしている。課金を扱うICカー
ドなどで既に実用化されており実績もある。
ケ ー タ イ de ミ ュ ー ジ ッ ク で は 、 メ モ リ カ ー ド を 音 楽 配 信 の 記 録 メ デ ィ ア と
し て 使 用 す る た め に 、カ ー ド 自 身 に 暗 号 化 ・ 復 号 化 の 機 能 を 持 た せ る と 同 時 に 、
暗号化・復号化の際に使われるライセンスキー等をカード内のタンパーレジス
タント領域に格納し、かつセキュア命令セットを追加したセキュア・マルチメ
デ ィ ア カ ー ド ( SMMC ) と 呼 ば れ る メ モ リ カ ー ド を 使 用 し て い る 。 SMMCは 、
暗 号 強 度 の 高 い 公 開 鍵 ( Public Key Infrastructure;PKI) を 世 界 で 最 初 に 、 小
型フラッシュメモリにハードウェア実装したカードである。
②セキュリティ強度とオープン性の両立
37
暗号については、 公開されている暗号方式を使うか、非公開の暗号方式を使
うかの話がある。公開されている暗号方式の場合は、誰もが評価を行うことが
出来、実績データも多く蓄積されている。しかしながらシステムホルダにとっ
て は 特 許 収 入 や ロ イ ヤ リ テ ィ 収 入 が 得 ら れ な い と い う 欠 点 も あ る 。 し か しケー
タ イ de ミ ュ ー ジ ッ ク で は 、 ア ル ゴ リ ズ ム 公 開 可 能 な 暗 号 方 式 を 採 用 す る こ と
で、コンテンツ保護の仕様を完全にオープン(公開可能)なものとして扱うこ
とができ、異なるメーカのコンテンツ管理システム、サーバ、セキュア・マル
チメディアカード、デコーダチップ間の相互接続を容易に実現している。しか
も各々のメーカが自立的に生成した公開鍵暗号の秘密鍵情報をチップ内に秘密
裏に維持することで強固なセキュリティを 実現している。
③通信キャリヤによる代金回収
音楽配信のコンテンツ代金は少額なのでクレジットカード決済は採算が合わ
ないだけでなく、面倒である。幸い、携帯電話には電話番号が振られ、通信料
の支払者は特定されており、少額も決済できる。これほど優れたインフラは無
い。コンテンツの課金、集金は、先ずコンテンツホルダがコンテンツの価格を
決定し、通信キャリヤが通信料金と一緒にユーザが支払ったコンテンツ代金を
徴収する方法がとられている。
④多様なコンテンツ配布形態に対応
音楽配信を普及させるための障壁として、通信料金、通 信時間がある。現状
で は P H S - 64Kbps 、 携 帯 -9.6Kbps 、 固 定 網 : ア ナ ロ グ -56Kbps 、 I S D N
-64Kbps で あ り 次 世 代 携 帯 電 話 で も W- CDMA: 2Mbps 移 動 時 - 384Kbps 高 速
移 動 時 - 144Kbps に 過 ぎ な い 。 も し 、 携 帯 電 話 ( パ ケ ッ ト ) で 1 曲 3 分 4 M B を 配
信すると、1時間を超える配信時間と1万円の通信費がかかる。
38
CD-ROM(160曲 )
DVD-ROM(1200 曲 )配 布
音楽サーバ
事業者
履歴
課金サーバ
履歴記録
コンテンツ
暗号化ライセンスキー
暗 号 化 コンテンツのみメモリへダウンロード
試 聴 &
ライセンスキー購入
・暗号化コンテンツ
図2
ライセンスキー
・暗号化コンテンツ
CD−ROMでの暗号化コンテンツの事前配布
現時点で最もコストパフォーマンス の良いでPHSで10分、百数十円の通
信費の必要になる。携帯電話の高速化、低価格化が進むまでは、利便性が欠け
る の で 解 決 策 が 必 要 と な る 。ケ ー タ イ deミ ュ ー ジ ッ ク で は 、 注 文 や 検 索 、 ラ イ
センス鍵の購入は携帯電話で、暗号化コンテンツは店頭端末や家庭への
CD -ROM 配 布 、 衛 星 配 信 へ と 、 流 通 を ハ イ ブ リ ッ ド 化 さ せ る こ と で 配 信 の ト ラ
フィックを押さえることが出来る。(図2参照)
1)
2)
3)
4)
5)
6)
PC に よ る ( 公 衆 回 線 、 C A T V ) ダ ウ ン ロ ー ド
CD - ROM 、 DVD-ROM で の 配 布
衛星データ放送
携帯電話同士のコピー
店 頭 端 末 で の 暗 号 化 コ ン テ ン ツ と ラ イ セ ン ス 鍵の 同 時 or 別 々 購 入
レ コ ー ド 店 で の SMMC ( 楽 曲 入 り ) 購 入
セキュリティを守るしくみ
暗号化された楽曲データと再生に必要なライセンス(コンテンツ鍵:
TripleDES
39
通信/バス
メモリカード/デコーダ
配 信 サ ー バ / メモリカード
認 証 され るTRM
認 証 局 ル ー ト公 開 鍵
署名確認
:平 文 の 経 路
:暗 文 の 経 路
証明書
署 名+
D
機器種別公開
鍵
機器種別秘密
鍵
セション鍵 1生 成
E
D
セション鍵 1
セション鍵 2
セション鍵 2生 成
D
E
セキュアコネクションの確立
E
:T-DES暗
号
図3
D
:T-DES復
号
E :楕 円 暗 号
D :楕 円 復 号
:ハ ー ドウェア
TRM
相互認証とセキュアコネクションの形成
鍵 長 112 ビ ッ ト 、 ラ イ セ ン ス の 使 用 規 則 で あ る ア ク セ ス 条 件 等 ) と を 分 離 し
て扱う。各機器(配信サーバ、メモリカード、デコーダ)間におけるライセン
ス の 送 受 信 は 、 受 信 側 の 公 開 鍵 ( 楕 円 曲 線 暗 号 法 : 鍵 長 163 ビ ッ ト で RSA 暗 号
方 式 の 1024bit 相 当 ) と ラ イ セ ン ス の 送 信 毎 に 送 信 側 と 受 信 側 で そ れ ぞ れ 生 成
さ れ る セ ッ シ ョ ン 鍵 ( TripleDES:鍵 長 1 1 2 ビ ッ ト ) に よ る 相 互 認 証 を 伴 う 暗 号
通信路(セキュアコネクション)を形成して、この暗号通信路を用いて送信時
のライセンスを保護する。これにより、ハッカーによる再送攻撃、成りすまし
などから守ることができる。ライセンスのコピー、ムーブは、ライセンス内の
アクセス条件に従ってコンテンツ鍵が取り扱われる。アクセス条件はメモリカ
ード、デコーダが耐タンパ構造内で直接参照して記載内容に従って処理される
ためライセンスの利用規則についても堅固に保護される。さらに、証明書失効
リストの運用機能を有している。(図3、図4参照)
40
各 暗 号 方 式 の 解 読 の 手 間 に 関 しての 比 較
RSA暗号方式
512bit
768bit
1024bit
楕円暗号
106bit
132bit
163bit
共通鍵暗号方式
53bit
66bit
80bit
112bit
注:解読の手間が同等のものを同じ行に記入
公 開 鍵 暗 号 方 式 RSA768bitの 解 読 計 算 量 予 測
2002 年
2007 年
公開鍵暗号方式
楕 円 暗 号 163 bit
の解読計算量予測
共通鍵暗号方式
2 key Triple DES
の解読計算量予測
図4
個人 (100 万円 )
4×10 4 年
4×10 3 年
企業 (10 億円 )
40 年
4年
国家 (1 兆円 )
15 日
1.5 日
2002 年
2007 年
企 業 (10 億 円 )
約 5× 10 5 年
約 5× 10 4 年
国 家 (1 兆 円 )
約 5× 10 2 年
約 50 年
2002 年
2007 年
企 業(10 億 円)
約 2×10 15 年
約 2×10 14 年
国 家(1 兆 円)
約 2×10 12 年
約 2×10 11 年
ケ ー タ イ de ミ ュ ー ジ ッ ク の 暗 号 強 度
⑥第三者機関による認証局
ナップスターなどの無断コピーの氾濫を契機に、コンテンツプロバイダー間で
の危機意識が高まり、2000年9月に日本レコード協会内にコンテンツセキ
ュリティ管理センタが発足し、先ずPHS音楽配信サービスに関して、通信キ
ャリ
ヤ、システムホルダ等のセキュリティ計画の作成に協力し、また認証局の作業
も 行 う 等 、 安 全 な 音 楽 配 信 サ ー ビ ス の 実 現 に 寄 与 し て い る 。ケ ー タ イ de ミ ュ
ージックの場合、 先ずメモリ、サーバ、デコーダチップ製造者、楽曲の暗号化
処理業者は、約束すべき事項に関する誓約書を認証局に出し、審査をして証明
証を発行
してもらう。この結果、音楽配信時に機器同士は正規の証明書を所有している
か を 相 互 認 証 し 、 正 規 の 証 明 書 を 持 つ ハ ー ド 間 で の み 、 音 楽 デ ー タ (こ れ も 暗 号
化 さ れ て い る )が や り と り さ れ る 。 も し 不 正 ハ ー ド な ど 、 約 束 に 違 反 し た 不 正 が
行 わ れ た と き に は 、 認 証 局 は 証 明書 を 失 効 さ せ 、 不 正 ハ ー ド へ の 配 信 を 止 め る
ことができる。認証局を第三者機関で運営することにより誰もが公平に製造、
サービスに参加でき、独占禁止法とも親和性がよい。
(5) 超 流 通 の こ れ か ら
PCなどへのインターネット音楽配信においてもハードウェアタンパーレジ
41
スタンスを導入すればセキュリティは格段に上昇する。そうすれば、ナップス
ターのようなファイル交換システムと組み合わせ、暗号の掛かった音楽コンテ
ンツをマーケットで自由に複製させても破られる危険は少ない。再生には鍵が
必要なので鍵つまり権利を売る、超流通の形が出来あがる。音楽ならばどうに
かなる。しかし、PCにハードウェアタンパーレジスタンスを導入しても、P
C 上 で 動 か す ア プ リ ケ ー シ ョ ン ソ フ ト の 場 合 は 、P C 上 で 復 号 化 さ れ て し ま う
とコンテンツは勝手に複製されてしまう。
このように超流通がインフラとして定着するためには、まだ課題は多い。携
帯電話のように未だ進化過程のシステムであれば超流通という仕組を組み込む
ことも可能だが、PCのように全世界に広まってしまったシステム全量に再組
み込みするのは難しい。しかも従来のPCでは、一度PC上で復号化されたコ
ン テ ン ツ は 勝 手 に 複 製 さ れ 流 通 す る 危 険 さ え あ る 。 そ こ で 、C P U そ の も の に I D
を 付 け 、 CPU の 中 に CPU 自 身 で も ア ク セ ス で き な い 暗 号 セ キ ュ ア 領 域 を 作 っ
たり、システム的にゼロから考え直さない限り、自由に手が入れられるPC上
でセキュリティを保持するのは一筋縄では行かない。しかもセキュアなPCで
なければサービスが始まらない、そのセキュアなPCもサービスが始まらなけ
れば誰も買わない、という鶏と卵の関係であれば、いつまで経ってもビジネス
は始まらないというジレンマに陥ってしまう。しかもこれらのセキュリティ対
策も、実社会で検証され時代を経て洗練されていくものであろう。どのような
ステップで社会インフラにすべきであろうか。他にも、ユーザーの利用記録の
管理をする管理センターの機構を誰が運用するのか、利用者のプライバシー保
護はどうするのか課題は多い。
参考文献
( 1 ) 森 亮 一 、河 原 正 治 : ” 歴 史 的 必 然 と し て の 超 流 通 ” 情 報 処 理 学 会「 超 編 集 ・
超 流 通 ・ 超 管 理 の ア ー キ テ ク チ ャ シ ン ポ ジ ウ ム 講 演 論 文 集 、 pp.67-7 6
(1994).
(2)富 士 通 広 報 発 表 資 料 : 電 子 情 報 作 品 の 超 流 通 ビ ジ ネ ス "MediaShuttle"サ ー
ビ ス の 拡 大 に つ い て (1996 年 11 月 15 日 )
(3)木 島 裕 二 、 長 谷 部 高 行 、 鳥 居 直 哉 : ” 超 流 通 に お け る コ ン テ ン ツ 流 通 の た
めの課金機構の開発”情報処理振興事業協会(IPA)創造的ソフトウェア
育 成 事 業 、 最 終 成 果 発 表 会 論 文 集 (1998)
( 4 ) 古 田 茂 樹 、天 野 大 緑:” 超 流 通 シ ス テ ム の 開 発 ” 情 報 処 理 振 興 事 業 協 会( I
P A ) 創 造 的 ソ フ ト ウ ェ ア 育 成 事 業 、 最 終 成 果 発 表 会 論 文 集 (1998)
(5)日 本 電 信 電 話 株 式 会 社 発 表 資 料 : ” イ ン タ ー ネ ッ ト 上 で の Infoket 電 子 出
版 有 料 実 験 の 開 始 に つ い て ” (1997 年 6 月 10 日 )
(6)富 士 ゼ ロ ッ ク ス 広 報 発 表 資 料 : ” デ ジ タ ル コ ン テ ン ツ 販 売 用 の 電 子 チ ケ ッ
ト 技 術 を 開 発 ” (1998 年 10 月 27 日 )
(7)ソ ニ ー 報 道 資 料 : ” 半 導 体 メ デ ィ ア や パ ソ コ ン に 対 応 す る デ ジ タ ル 音 楽 コ
ンテンツの著作権保護技術「MagicGate(仮称)」と「OpenM
G ( 仮 称 ) 」 を S D M I お よ び 関 連 業 界 に 提 案 ” (1999 年 2 月 25 日 )
(8)共 同 印 刷 、 暗 号 化 コ ン テ ン ツ 流 通 実 験 U R L
http://www.digigacha.com/aboutus/aboutus.html
(9)三 洋 電 機 、 日 立 製 作 所 、 富 士 通 広 報 資 料 : ” 携 帯 電 話 機 向 け 音 楽 配 信 シ ス
テ ム 「 ケ ー タ イ de ミ ュ ー ジ ッ ク 」 の 技 術 規 格 を 開 発 ” (1999 年 12 月 9 日 )
(10)三 瓶 徹 : ” 超 流 通 コ ン テ ン ツ 配 信 で 広 が る 新 規 ビ ジ ネ ス ” マ ル チ メ デ ィ
42
ア コ ン テ ン ツ フ ォ ー ラ ム 講 演 資 料 (2000 年 12 月 18 日 )
(11)D D I ポ ケ ッ ト 関 連 U R L
http://www.ddipocket.co.jp/joho/sound_market/sound_market.html
(12)ケ ー タ イ de ミ ュ ー ジ ッ ク コ ン ソ ー シ ア ム U R L
http://www.keitaide-music.org
(13)セ キ ュ ア マ ル チ メ デ ィ ア カ ー ド U R L
http://www.hitachi.co.jp/Sicd/Japanese/Products/memory/flash/fcl/
product/index_kt.html
(14)マ ル チ メ デ ィ ア カ ー ド ア ソ シ エ ー シ ョ ン U R L
http://www.mmca.org
8.3 ラ イ セ ン ス 管 理
8.3.1 背 景
マ ル チ メ デ ィ ア 社 会 の 到 来 が 華 々 し く 謳 わ れ た の は 、 今 を 遡 る こ と お よ そ 10
年 前 の こ と で あ る 。 そ の 後 、 PC と イ ン タ ー ネ ッ ト の 急 激 な 普 及 に 伴 い 、 デ ジ タ
ルコンテンツがネットワーク上で流通・販売され、さらには二次利用されるこ
とで新たなコンテンツが作成されていく、という夢はすぐにでも現実のものに
なるかと思われた。しかし現実には、各種の試みがあったにも拘わらず、比較
的小さなマーケットを構成するに留まっている。これはインフラの未整備等、
多くの要因が考えられるが、最大の原因は次の 2 つであると考えられる。
(a) デ ジ タ ル コ ン テ ン ツ に 対 す る 課 金 の 問 題 、 特 に ネ ッ ト ワ ー ク に よ る 流 通
の場合
(b) デ ジ タ ル コ ン テ ン ツ の 権 利 保 護 の 問 題 、 特 に コ ン テ ン ツ の 著 作 権
デジタルコンテンツに対する課金に関しては、電子商取引をその目標として
開発された技術等により、解決の目処はある程度立っている。一方、デジタル
コンテンツの権利保護の問題は、各種の方策が提案されているものの、技術的
にも社会的・法律的にも解決への見通しは混沌とした状況を脱してはいない。
例えば電子透かしは、違法な複製自体を防止することは出来ない。一方、コン
テンツのパッケージ化技術は、コンテンツ の違法な複製や利用を制御できると
いう意味で非常に有効である。しかし、デジタルコンテンツの大きな利点が、
その再利用性にあることを考えると、その保護に力点をおいたパッケージ化だ
けではやはり限界があると言わざるを得ない。
将来、デジタルコンテンツは蓄積、流通、再利用されることにより、一種の
社 会 的 財 産 (知 財 ) と し て 認 知 さ れ る こ と が 想 定 さ れ る 。 そ の よ う な 社 会 に お い
ては、この財産を守るという意味での著作権管理と同時に、権利を守りながら
これを流通し再利用させる技術、つまり、コンテンツ保護とコンテンツ利用を
二律背反の問 題とせず、同時に成立させるための技術が切実に求められている
といえよう。
8.3.2 IntelligentPad に お け る ラ イ セ ン ス 管 理 の 試 み
IntelligentPad の 普 及 を 図 る 組 織 で あ る IntelligentPad コ ン ソ ー シ ア ム に
お い て 、 こ れ ら の 課 題 を 解 決 す る た め の 議 論 が 1993 年 の コ ン ソ ー シ ア ム 発 足 当
時 か ら 行 わ れ て い た 。 そ の 後 、 IPA の 公 募 事 業 に よ っ て 、 1998 年 1999 年 に 、
43
著作権者の権利を保護しつつ、デジタルコンテンツの再利用・再編集を可能と
す る 流 通 基 盤 の 実 現 を 目 的 と し た 試 作 開 発 が 行 わ れ た 。以降、これを IP ラ イ セ
ンス機構と呼ぶ。
8.3.1 で 述 べ た よ う に 、デ ジ タ ル コ ン テ ン ツ の 流 通 基 盤 実 現 を 目 指 し て 数 多 く
のシステムや要素技術の開発が行われている。しかし、特にコンテンツの再利
用・再編集といった観点から見た場合、現在開発されている技術やメカニズム
はコンテンツの保護のみに力点がおかれているため、コンテンツを容易に再利
用 ・ 再 編 集 す る こ と が で き な い な ど 不 十 分 な 点 も 多 い 。 か か る 観 点 よ り 、 IP ラ
イセンス機構では、第一にコンテンツの再利用・再編集を可能とするコンテン
ツパッケージ化技術を実現し、第二にこれに連 動するライセンス管理システム
を構築している。これにより自由な流通、自由なコピーを許しながらもライセ
ンスの管理が可能となる機構の実現を目指している。この自由なコピーこそデ
ジタルコンテンツの蓄積、流通、再利用を促進する原動力である。
IP ラ イ セ ン ス 機 構 に お い て は 、 コ ン テ ン ツ の 再 利 用 ・ 再 編 集 を 可 能 と す る コ
ン テ ン ツ パ ッ ケ ー ジ 化 を 行 う た め に 、 IntelligentPad を プ ラ ッ ト フ ォ ー ム と し
て 採 用 し て い る 。 IntelligentPad は 、 デ ー タ や プ ロ グ ラ ム 等 の 全 て の ソ フ ト ウ
ェ ア 資 源 を コ ン ピ ュ ー タ 上 の 仮 想 的 な 紙 片 (=パ ッ ド )と し て 、 統 一 的 に 表 現 ・ 利
用することを可能とするソフトウェアアーキテクチャである。このパッドには、
複製・分解・合成・流通等のメディアとしての機能があらかじめ規定されてい
るため、パッケージ化されたデジタルコンテンツを一種のパッドとして扱うこ
と に よ り 、デ ジ タ ル コ ン テ ン ツ を 容 易 に 再 利 用 ・ 再 編 集 す る こ と が 可 能 と な る 。
IntelligentPad を プ ラ ッ ト フ ォ ー ム に し て 、 新 た に ラ イ セ ン ス 管 理 シ ス テ ム
の核となる機能を組み込むとともに、ライセンス管理に必要な諸機能を具備し
た コ ン ポ ー ネ ン ト の 整 備 を 試 み て い る 。 こ こで ラ イ セ ン ス 管 理 の 核 と な る 機 能
と は 、 任 意 の コ ン テ ン ツ に 対 す る 操 作(複 製 や 二 次 利 用 等 ) の 許 諾 や 実 行 等 を 制
御する機能である。しかし、任意のコンテンツを直接ライセンス管理の対象と
することは困難であるため、パッケージ化によりデジタルコンテンツに皮をか
ぶせたものを管理の対象としている。
一方、課金メカニズムなどのようにライセンス管理に必要な他の諸機能につ
いては、極力モジュール化することによってシステムの核から独立させられる
よ う 考 慮 さ れ て い る 。 こ れ ら の 諸 機 能 は 、 IP ラ イ セ ン ス 機 構 で 実 現 し て い る 流
通基盤を利用する市場要 件(ビジネスモデルや特定技術)に大きく依存する部
分であるため、そうした要件との整合性を、現時点および将来にわたって確保
する上で十分な柔軟性を備えている必要があるからである。このようなライセ
ンス管理のシステムは、従来のコンテンツ流通における商慣行や著作権管理の
スキームを無視すべきではなく、むしろそれらとの自然に融合できることが必
要となる。
8.3.3 ラ イ セ ン ス 機 構 の 特 徴
IP ラ イ セ ン ス 機 構 の 特 徴 は 以 下 の 通 り 。
(1) コ ン テ ン ツ の 再 利 用 / 再 編 集 が 可 能
コ ン テ ン ツ の 再 利 用/再 編 集 が 可 能 と い う の は 、 コ ン テ ン ツ の 保 護 ( 複 製 、 実
行 、 印 刷 等 に 対 す る 許 諾 及 び 課 金 )を 保 証 し な が ら 、 コ ン テ ン ツ を 自 由 に 素 材 と
し て 組 み 合 わ せ(二 次 利 用 )、 組 み 合 わ せ て 作 成 さ れ た コ ン テ ン ツ を 流 通 さ せ る
ことも可能という意味である。作成されたコンテンツの権利はもちろん、その
部品となったコンテンツの権利も最後まで保護することが可能である。
44
(2) コ ン テ ン ツ の 種 類 を 問 わ な い
コンテンツの種類を問わないということは、このプラットフォームの規約に
従えば、どのようなコンテンツも流通可能であるということを意味している。
IP ラ イ セ ン ス 機 構 で は 、 コ ン テ ン ツ を メ デ ィ ア コ ン テ ナ と 呼 ぶ 一 種 の ソ フ ト ウ
ェア的な箱に入れて保護するが、コンテンツの種類毎に作成されたメディアコ
ンテナを利用することで、クリエータやユーザは様々な種類のコンテンツを扱
う事ができる。
(3) 多 様 な 波 及 効 果 の 期 待
IP ラ イ セ ン ス 機 構 の メ デ ィ ア コ ン テ ナ の 開 発 方 法 は オ ー プ ン で あ る た め 、 多
様 な 波 及 効 果 を も た ら す 。 こ こ で オ ー プ ン で あ る と は 、 仕 様 ( 開 発 用 API)を 公 開
することで、開発環境さえあれば誰でも新しい機能を持ったメディアコンテナ
や課金システムを開発することができるという意味である。例えばメディアコ
ンテナでは、電子透かしなどの著作権保護技術や、より強力な暗号技術の採用
な ど 、 開 発 者 の 特 色 を 活 か し た メ デ ィ ア コ ン テ ナ の 開 発 /販 売 が 可 能 で あ る 。 同
様 に 、課 金 シ ス テ ム に 関 し て も 、S E T な ど の 標 準 プ ロ ト コ ル や 、独 自 プ ロ ト コ ル 、
独自暗号システムを用いた課金システムを開発し販売することも出来る。この
よ う に 、 IP ラ イ セ ン ス 機 構 で は 、 課 金 も 含 め た ラ イ セ ン ス 管 理 に 必 要 な 共 通 機
能 を 抽 出 し 、 こ の 機 能 を API と し て 標 準 化 し て い く 事 も 大 き な 狙 い の 一 つ に し
ている。
8.3.4 ラ イ セ ン ス 機 構 の 構 成
IP ラ イ セ ン ス 機 構 は 、 以 下 に 示 す 4 つ の 主 な 機 能 か ら 構 成 さ れ て い る 。
(1) メ デ ィ ア コ ン テ ナ
メディアコンテナは、コンテンツとライセンス条件を保持して流通する単位
で あ り 、 IntelligentPad に お け る パ ッ ド に ラ イ セ ン ス 管 理 や 課 金 に 必 要 な 機 能
を組み込んだものである。メディアコンテナがユーザの手元で動作する際には、
ライセンス管理プラットフォームにライセンス情報を問い合わせ、自らが動作
してよい状況か否かを確認し、許諾されていれば、自ら保持しているコンテン
ツを利用する機能を稼働させる。以降、ライセンスの許諾、対価の支払い、登
録の削除等のタイ ミングにおいて、ライセンス管理プラットフォームに、自ら
の管理情報の更新を依頼する。
このメディアコンテナは自由にコピーして、他人に渡してもよい。なぜなら
ライセンス情報はメディアコンテナが保持しているのではなく、ユーザの手元
にあるライセンス管理プラットフォームが管理しているからである。従って他
人に渡したメディアコンテナは、利用許諾を受ける前の状態に戻る。これによ
り他人の著作物を再利用・再編集したものも再流通させることができるように
なる。
(2) ラ イ セ ン ス 管 理 プ ラ ッ ト フ ォ ー ム
ライセンス管理プラットフォームは、メディアコンテナのインストール状態、
ライセンス付与状態、利用可能期間等の情報をライセンス管理データベース内
に保持する。ライセンス管理プラットフォームは、メディアコンテナの依頼に
基づきライセンス管理データベースを更新する。この際に、必要であれば、課
金情報を更新するために、ライセンス管理サーバーの課金機能を起動する。こ
のライセンス管理プラットフォームを実用に供する場合には、肝腎のライセン
ス情報を管理するため、改竄されないように特段の配慮を行う必要がある。
45
(3) ラ イ セ ン ス 管 理 サ ー バ ー 機 能
ライセンス 管理サーバーは、クライアント側の機能とサーバー側の機能に分
かれる。クライアント側ライセンス管理サーバーは、ブローカーが運用するサ
ーバー側ライセンス管理サーバーの要求に基づいて、ライセンス情報および課
金情報を送付する。またメディアコンテナの利用による課金情報を記録するた
めの課金機能をクライアント側に持つ。これはブローカーごとに様々な課金戦
略が取れるようにするために、分離してある。
(4) サ イ バ ー 工 房 機 能
サイバー工房は、ライセンス管理プラットフォーム、およびメディアコンテ
ナ が 保 持 す る 情 報 に 基 づ い て 、 利 用 者に ラ イ セ ン ス 関 連 情 報 お よ び 課 金 情 報 を
表示する。
8.3.5 社 会 的 波 及 効 果
IP ラ イ セ ン ス 機 構 の よ う な デ ジ タ ル コ ン テ ン ツ の 再 利 用 ・ 再 編 集 を 可 能 と す
る流通基盤を実現することで、以下のような効果が期待される。
(1) コ ン テ ン ツ 部 品 ・ ソ フ ト ウ ェ ア 部 品 の 再 利 用 に よ る コ ン テ ン ツ 産 業 ・ ソ フ
トウェア産業全体の生産性向上
(2) デ ジ タ ル コ ン テ ン ツ 産 業 の 市 場 化 が 促 進 さ れ る と 共 に そ の 規 模 ・ 裾 野 の 拡
大
コンテンツ産業、ソフトウェア産業全体の生産性向上に重要な鍵を握るのは、
一 般 に は 、 RAD(Rapid Application Development) や ソ フ ト ウ ェ ア 再 利 用
(Software Reuse)技 術 で あ る と 言 わ れ て い る が 、 そ の 基 礎 に な っ て い る の は 、
ソフトウェアのオブジェクト化技術、コンポーネント化技術などである。この
意 味 か ら も 、 IntelligentPad は 生 産 性 向 上 の た め の 基 盤 技 術 と し て の 要 件 を 満
たしているといえる。しかし、本当の意味での生産性の向上には、これらの技
術に加えて、オブジェクトやコンテンツの流通技術、つまり流通のための課金
やライセンス管理の技術が不可欠である。
ネットワークを利用したコンテンツやソ フトウェアの流通実現の鍵となるの
が課金及びライセンス管理技術である。現在利用されている再利用可能なソフ
トウェアやコンテンツは、通常、パッケージとして販売され、契約によりその
ライセンスを管理していることが多いが、ネットワークを流通メディアとした
場合、新しいライセンス管理のスキームが要求される事は自明であり、このス
キ ー ム の 実 現 こ そ が 、 IP ラ イ セ ン ス 機 構 の 課 金 技 術 や ラ イ セ ン ス 管 理 技 術 の 目
指しているところである。
以上はコンテンツやソフトウェア利用者側から見た社会的な意義であるが、
提 供 者 側 か ら 見 た 場 合 の 意 義 と して 、 コ ン テ ン ツ や ソ フ ト ウ ェ ア の 流 通 基 盤 が
整備される事により、コンテンツ産業及びソフトウェア産業の市場化が促進さ
れることが予想される。この市場に参加することにより、提供者側は金銭的利
益が得られること、また、知的所有権が保証されるなどのメリットが得られる
結果、市場の拡大や、それに伴う参加者の増加・多様化が進むなどの効果が見
込まれる。
46
8.3.6 課 題
IP ラ イ セ ン ス 機 構 の よ う な デ ジ タ ル コ ン テ ン ツ の 再 利 用 ・ 再 編 集 を 可 能 と す
る流通基盤が、実用化に至るまでには、適切な環境で実証実験を行い、その有
用性を広く示すこ とが重要である。
また市場の要請に応じて、実世界の商取引で行われているサイトライセンス
や割引等、種々の販売方法に対応できるように、実際にそれぞれに対応した機
能を開発していくことも実用化に際して必要になろう。
一方利用者にとって受け入れられる仕組みにするために、解決すべき課題も
多い。例えば個別の課金許諾を一々行うことは、その繁雜さにおいて利用者が
拒絶反応を示しかねない。また実際上、少額とは言え、個別課金を行うこと自
体が受け入れられるのかも、検証してみる必要がある。つまり技術面からの解
決だけではなく、社会的 に受け入れられる素地をどのように構築していくかも
今後考えていく必要がある。
47
9.コンテンツ表現構造とメタデータ
近年のブロードバンド化により、音声や動画などのマルチメディアコンテン
ツの配信要求が高まり、ますますコンテンツの大容量化が進むことが予想され
る。また、モバイルの普及が進んでおり、日本では携帯電話に代表されるモバ
イルデバイスの種類が増えていくことは間違いない。これらのモバイルデバイ
スはメモリなどの制限から独自のフォーマットしか対応し ないものが多く、各
フォーマット毎にコンテンツを作成している例が増えている。そのため、コン
テンツ制作者はデバイスごと個別に制作することになり、制作費用が膨れ上が
っているのが現状である。
ところで、コンテンツ配信を受ける立場(以降利用者と呼ぶ)からすると、
コンテンツ配信を受けるデバイスに関わらずコンテンツ配信を受けて楽しむこ
とができることが望ましい。このことから、制作者側はデバイスの種類が増え
るごとにコンテンツのフォーマットに対応する開発をすることになり、そのフ
ォーマット変換のソフトウェアを効率よく開発できる ことが産業界の要求とし
て 生 ま れ て い る 。 シ ス テ ム 構 成 と し て は 図 9.1 の よ う に な る 。
イ ン タ
ー ネ ッ
ト
デバイス
アプリ層
サーバ
アプリ層
デバイス層
コ ン テ ン ツ DB
図 9.1 コ ン テ ン ツ 配 信 の シ ス テ ム 構 成
次 に 、今 ま で の C D -R O M な ど の オ フ ラ イ ン メ デ ィ ア だ け で の コ ン テ ン ツ 配 信 に 、
インターネットなどのネットワークによるコンテンツ配信が加わり始めている。
この場合、コンテンツだけを配信すれば良いというわけではなく、管理データ
(例えば課金データ、セキュリティデータ)などもコンテンツといっしょに配
信 す る 必 要 が 出 て き て お り 、8 章 で 述 べ た よ う な 検 討 が 行 わ れ て い る 。 こ れ ら の
データはデバイス依存で開発していたコンテンツフォーマットとは異なり、ど
のデバイスでも処理する必要があるので共通化が不可欠である。
また、ビジネスの立場からコンテンツ配信を考えると、コンテンツ配信にお
けるビジネスモデルの検討が重要になる。例えば宣伝媒体としてコンテンツ配
信を考えると、映画などのビデオ販売において予告編や広告をビデオの先頭に
48
入れることは一般的に行なわれていることであり、同様の枠組がコンテンツ配
信においても有用かもしれない。ここで枠組を設けずにコンテンツと一 緒にす
るというアプローチも考えられるが、今後、パーソナライズといった利用者ご
とに異なるコンテンツ配信が進むと考えられるので、コンテンツと宣伝などに
使う情報は分ける枠組を設けたほうが望ましいであろう。
これらをまとめると、コンテンツ配信にはコンテンツの構造化が不可欠であ
り、それらを利用者側のデバイスとコンテンツ提供側でやりとりするコンテン
ツ表現構造の標準化が必要になる。この章では利用者側と提供者側でコンテン
ツ配信に関わるコンテンツ表現構造のメタデータについて述べる。
9.1 コ ン テ ン ツ 配 信 と メ タ デ ー タ
これまでにコンテンツ配信の周辺から、どういった情報を流通させる必要が
あるかを述べてきたが、ここではコンテンツ本体について考えてみる。
コンテンツ配信をビジネスとして行なう上で、どういったコンテンツが配信
されているかということを利用者に効率よく提供することが重要である。利用
者にコンテンツをそのまま全部配信するのは効率が悪いし、携帯電話などでは
通信料がかかるので利用者に受け入れられない。この問題を解決するには、従
来のデータベースで行われていたインデックス情報を提供することで利用者が
コンテンツを選択する方式があ る。インデックス・データを作成して大量のデ
ータを処理・管理するのを効率化するものであり、このデータのデータにあた
るのがメタデータである。
メタデータのエンコーディングをそれぞれ独自方法で行なっていると、アプ
リ ケ ー シ ョ ン の 開 発 効 率 は 良 く な ら な い 。 そ の た め 、 標 準 化 さ れ た も の が 9.2
で 述 べ る X M L ( eXtensible Markup Language) で あ る 。 ま た 、 メ タ デ ー タ を Web
上 で や り 取 り す る た め の 仕 様 と し て 、 R D F ( Resource Descriptor Framework)
が W3C の 勧 告 に な っ て い る 。
9.2 XML 表 現 と メ タ デ ー タ
この章のはじめで述べたように、コンテンツの構造化と属性定義について共
通 フ ォ ー マ ッ ト が 必 要 な わ け で あ る が 、そ の 候 補 と し て 着 目 さ れ て い る の が W3C
で 標 準 化 を 進 め て い る XML で あ る 。 こ こ で 注 意 が 必 要 な の は 、 コ ン テ ン ツ 自 体
のフォーマットとして使う場合と、コンテンツの属性情報定義のために使う場
合の 2 通りがあることである。
コ ン テ ン ツ の フ ォ ー マ ッ ト と し て は 、W 3 C で 標 準 化 を 行 な っ て い る も の と し て
数 式 な ど を 取 り 扱 う MathML ( Mathematical Markup Languag e ) 、 ベ ク タ ー 情 報
の 交 換 フ ォ ー マ ッ ト と し て の SVG ( Scalable Vector Graphics) な ど が あ げ ら れ
る。
次 に コ ン テ ン ツ の 属 性 情 報 定 義 で あ る が 、 コ ン テ ン ツ の メ タ デ ー タ を DTD
( Data Type Definition) と い う XML 文 書 の タ グ の 名 前 、 種 類 、 属 性 な ど を 定
義 し た も の で 交 換 す る こ と が で き る 。 つ ま り 、D T D に よ り ど う い っ た 属 性 が つ い
ているかという情報をサーバ側アプリとデバイス側アプリ間とで交換すること
が で き る 。X M L 準 拠 で あ れ ば 、 ア プ リ ケ ー シ ョ ン 開 発 時 に デ ー タ の エ ン コ ー ド ・
デ コ ー ド を 行 な う た め の XML パ ー サ が 多 数 出 回 っ て お り 、 効 率 よ く 開 発 す る こ
とが可能であるため、急速に普及しつつある。
便 利 な XML で あ る が 、 実 際 の 利 用 分 野 で 考 え て み る と メ タ デ ー タ で 定 義 す る
属 性 情 報 は 異 な る 。 例 え ば 、 Dublin Core(http://purl.oclc.org/dc) で 書 誌 的
49
情報のメタデータを標準化しており、下記のようなフィールドを定義している。
題 目 ( title)
著 者 ( creator )
主 題 ( subject )
概 要 ( description)
発 行 者 ( publisher)
関 係 者 ( contributor)
日 付 ( date )
種 別 ( type )
形 式 ( format)
識 別 子 ( identifier )
出 典 ( source)
言 語 ( language)
関 係 ( relation)
範 囲 ( coverage)
権 利 ( rights)
しかし、このメタデータも書誌的情報を検索するときには役に立つが、例えば
評価情報というような検索にはあまり役立たない。
こ の よ う な 利 用 分 野 ご と の DTD ( タ グ セ ッ ト ) の 標 準 化 を 進 め る 団 体 と し て 、
BizTalk イ ニ シ ア テ ィ ブ ( http://www.biztalk.org)な ど が あ り 、 電 子 商 取 引 の た
め の タ グ セ ッ ト 標 準 化 を 行 な っ て い る 。 電 子 商 取 引 分 野 で は EDI(Electric Data
Interchange)が あ る の で 、 タ グ セ ッ ト の 標 準 化 が 盛 ん で あ る 。 例 え ば 、 購 買 業
務 の た め の cXML ( Commerce XML ) 、 取 引 手 順 の tpaML な ど が あ る 。 業 界 別 と し
て は ANK(自 動 車 業 界 ) 、 O A S I S ( 電 力 業 界 ) 、 O P F R (小 売 業 界 ) 、 OFX( 金 融 業 界 )
などがあげられる。
ま た 、 RosettaNet ( http://www.rosettanet.org/) で は 、 電 子 部 品 、 技 術 情 報
交 換 を 通 じ た サ プ ラ イ チ ェ ー ン 構 築 の た め の タ グ セ ッ ト 標 準 化 ( PIP )を 行 な っ
ている。このような業界ごとの標準化はさらに増えていくものと予想される。
50
9.3 教 育 分 野 に お け る 標 準 化 動 向
9.3.1 概 要
インタ−ネット等のメディアや情報技術を使った教育は、国内外の教育機関
に お い て 注 目 さ れ 、先 進 的 な 取 り 組 み が 次 々 と 行 わ れ て い る 。ヨ ー ロ ッ パ で は 、
Socrates2 プ ロ ジ ェ ク ト が 7 年 間 に わ た る 研 究 開 発 が 開 始 さ れ て お り 、ま た 米 国
で は IEEE(米 国 電 子 電 気 学 会 ) に お い て 各 種 標 準 の 検 討 が 行 わ れ 、さ ら に ISO で
は学習技術に関する標準化が進められている。
国内において、上記のような国際的な動向を踏まえ、インタ−ネット等のメデ
ィアや情報技術を使った教育環境に対する関心も一層高まりつつあり、いつで
も、どこでも、誰でもが学習できるためのルール作り、ユーザのニーズに基づ
いた国際標準等の制定、その標準の維持・管理・運用制度の確立、そしてその
内 容 に 関 し て の 政 府 へ の 提 言 等 々 を 推 進 す る 組 織 が 2000 年 4 月 に 設 立 さ れ て
い る 。 そ の 名 称 を ALIC ( Advanced Learning Infrastructure Consortium : 先
進学習基盤協議会)といい、この組織は国内における遠隔教育学習環境に関す
る 国 際 標 準 化 活 動 の 中 心 的 存 在 で あ る 。 以 下 、 本 節 で は こ の ALIC の 活 動 内 容
を中心に、国際的な標準化活動の動向について概説する。
9.3.2 A L I C の 活 動 概 要
本 項 で は 、A L I C の 目 的 、 活 動 内 容 、 組 織 概 要 、 具 体 的 な 標 準 化 対 象 等 に つ い
て紹介する。
(1)目 的
ALIC の 目 的 は 、 “ 就 労 、 生 活 、 趣 味 な ど の 選 択 肢 が 多 様 化 す る 中 で 、 学 習 意
欲を持つ全ての人に、個人並びにグループのニーズに合わせて学習できる機会
を提供することを通じて、活力ある社会を構築し、また同時に、国際競争力の
源 泉 と な る 高 度 専 門 技 術 を 持 っ た 人 材 を 育 成す る こ と ” で あ る 。 こ の 目 的 達 成
のために、「何時でも」、「何処でも」、「誰でも」、個人並びにグループの
目的、ペース、興味、理解度に合わせた学習が、安価で効率よくできる環境の
構築を目指している。その先進学習基盤の対象としては初等中等教育から高等
教育、企業内教育、生涯学習を検討対象とし、また対象となる技術やサービス
としてはネットワーク等の情報技術を活用した学習システムやコンテンツ等が
検討対象となっている。
(2)活 動 内 容
以下の項目が挙げられている:
(a )情 報 技 術 活 用 に よ る 学 習 シ ス テ ム の 相 互 運 用 性 確 保 、 教 材 の 再 利 用 性 向 上
*国際標準(アーキテクチャー、用語、インタフェース、プロトコル(学
習 者 モ デ ル 、コ ン テ ン ツ 、デ ー タ 、メ タ デ ー タ 、CMI(Computer Managed
Instruction)等 ) ) と の 整 合 性 維 持
*国際標準に関するガイドラインの策定と提供
*学習システムの相互運用性の検証および標準仕様に準拠したツールの開
発
(b)次 世 代 学 習 基 盤 の 調 査 ・ 研 究
*次世代学習基盤に関して共同研究とプロトタイプによる検証
*協調学習に関する研究
*標準に関するガイドラインの策定と提供
(c)情 報 技 術 を 活 用 し た 学 習 シ ス テ ム の 普 及 啓 発
*国内の取り組みに対する方向性提示と普及促進のための調査・情報提供
51
*学習技術に関するマーケットリサーチなど基礎的調査と普及啓発
*研究会活動などの成果の関係者への提供
*セミナーの実施等による情報技術を使った教育システムの利用促進
(3)組 織 と そ の 活 動 概 要
ALIC は 、 幹 事 会 、 相 互 運 用 性 部 会 、 次 世 代 研 究 部 会 、 実 証 部 会 、 そ し て 普 及
部会からなっている。以下、各組織の主な活動内容を紹介する。
(a) 幹 事 会 ( 協 議 会 発 起 人 が 就 任 ) : 情 報 処 理 学 会 等 関 連 組 織 と 活 動 調 整
主な活動内容は、事業内容等の計画検討とフォローアップ、標準化活動の調整及び検討
である。
(b)相 互 運 用 性 部 会 : TBT(Technology Based Training) コ ン ソ ー シ ア ム と 共 同 運
営
主な活動内容は、学習システムの相互運用性を検証すると共に教材の再利用
性を向上させる事を目的とし、相互運用性を検証するための国内各システムの
実態調査、システムや教材を作成するためのガイドラインの策定、テストベッ
ト、プロトタイプ構築のための仕様の検討などである。
(c)次 世 代 研 究 部 会
主 な 活 動 内 容 は 、次 世 代 の 学 習 基 盤 に 関 す る 研 究 国 際 標 準 対 応( 提 案 の 作 成 、
仕 様 作 成 作 業 ) 、 国 際 標 準 仕 様 に 従 う プ ロ ト タ イ プ の 仕 様 ( ISO 標 準 仕 様 協 調
学習ガイドラインプロトタイプの仕様)の作成等である
(d) 実 証 部 会
主な活動内容は、相互運用性部会の作った仕様に従うテストベッド等のツー
ルの構築・実証、次世代研究部会の作った仕様に従うプロトタイプの構築・実
証等である。
(e)普 及 部 会
主 な 活 動 内 容 は 、 標 準 化 仕 様 に 従 っ た W B T (Web Based Training)等 の 学 習
シ ス テ ム 、 そ こ で 使 う コ ン テ ン ツ の 公 開 普 及(ホ ー ム ペ ー ジ 公 開 、 講 習 会 等 々)
等である。
参 考 と し て 、 図 1 に 上 記 組 織 の 関 連 図 を 示 す 。 な お 、2001 年 3 月 現 在 に お け
る 会 員 の 規 模 は 、 企 業 ・ 団 体 が 125 で 大 学 ・ 学 校 が 36 と な っ て い る 。
52
( U R L h t t p : / / w w w . a l i c . g r . j pよ り )
図 1
ALIC の 組 織 体 系
(4)ALIC の 狙 い と 標 準 化 対 象
( a )具 体 的 な 狙 い
ALIC の 具 体 的 な 狙 い は 図 2 に 示 す よ う に 、教 材 の 再 利 用 、学 習 コ ー ス の 構 成 、
そして学習者情報の活用に関する標準化の 推進である。
( U R L h t t p : / / w w w . a l i c . g r . j pよ り )
図 2 ALIC の 具 体 的 な 狙 い
(b)標 準 化 対 象 と な る 項 目
ALIC に お け る 標 準 化 対 象 項 目 は 以 下 の 通 り で あ る :
*教材コンテンツのフォーマットの標準化作業
標 準 フ ォ ー マ ッ ト に よ る 教 材 コ ン テ ン ツ 、教 材 コ ン テ ン ツ の 組 み 合 わ せ( 再
編集)に関するフォーマットの策定などが実施される。ここには、
SCORM(Shareable Courseware Object Ref erence Model)を 採 用 す る 方 針 で
53
ある。米国ではこの仕様に沿ったコンテンツ蓄積を目的としたコンソーシ
アムが始動している。
*教材データベースの分類情報(メタデータ)に関する標準化作業
タイトル、作成者、キーワード、識別情報、難易度等の設定と分類情報に
よる効率的検索を可能とする情報構造仕様策定が実施される。ここには、
IEEE で 進 め ら れ て い る L O M ( Learning Object Metadata) が 採 用 さ れ る 予
定であり、具体的には、リソースに共通な属性と識別情報(タイトル、言
語、説明、キーワード等) 、リソースに対する技術的な属性情報(データ
タイプ、格納場所、版、等)、学習・教育に関連する属性情報(ジャンル、
対象年齢、難易度、等)、知的財産権に関係する情報(有料無料の別、リ
ソースの保護状況等)等が対象となる。
*学習者情報に関する標準化作業
種々の分析ツールによる学習者成績分析・評価と学習者情報による教材コ
ン テ ン ツ や コ ー ス の 順 番 等 の 再 編 集 仕 様 策 定 が 実 施 さ れ る 。こ こ で は 、IEEE
の PAPI( Public and Private Information) が 採 用 さ れ る 予 定 で あ る 。 具
体 的 な 情 報 と し て は 、 個 人 情報 ( 住 所 、 氏 名 、 電 話 番 号 等 ) 、 パ フ ォ ー マ
ンス情報(学習技術要素が使用する評価や学習履歴、成績等)、ポートフ
ォリオ情報(学習者の成果や作業の集積、資格、業績等)などである。
さ ら に 、 そ の 他 の 対 象 と し て は 、 テ ス ト 仕 様 ( QTI(Question and Test
Interoperability)( IMS) 採 用 予 定 ) 、 コ ン テ ン ツ ラ イ セ ン ス ( Open eBook, 等
( Open eBook Initiative) 採 用 予 定 ( 著 作 権 管 理 含 む ) ) な ど が あ る 。
(5)ALIC を 含 む 国 内 最 新 動 向
ALIC と TBT コ ン ソ ー シ ア ム 共 同 で S C O R M 準 拠 ラ イ ブ ラ リ 開 発 と テ ス ト ベ ッ ド
の開発実証実験、各種ガイドライン策定、新たな規格仕様の提案などが予定さ
れている。また、日本主導で協調学習規格に関するワーキンググループが
ISO/IEC JTC1/SC36 に 設 置 さ れ る こ と に な っ て お り 、 そ こ で は 協 調 学 習 環 境 、 学
習者間インタラクションスキーマ、エージェント間コミュニケーション等に関
す る 規 格 検 討 が ALIC を 中 心 に 実 施 さ れ る 予 定 で あ る 。
9.3.3 主 な 標 準 化 団 体 と 遠 隔 教 育 に 関 す る 国 際 標 準 化 動 向
(1)主 な 標 準 化 団 体
表1に主な標準化団体一覧と活動概要について示す。
表 1「主な標準化団体」
団体名
活動内容
ISO/IEC
JTC1
SC36
IEEE
LTSC
(USA)
学 習 、教 育 、 訓 練 用 情 報 技
術 の 国 際 標 準 作 成 (SC36)
ADL Net
(USA)
学習者のニーズに適合し、
要 求 さ れ た と き に 、い つ で
もどこでも利用可能な高
品質な教育及び訓練材料
種々の側面から教育学習
技術の標準作成推進
教
材フ
ォー
マッ
ト
○
分
類
情
報
備考・大学の参加状況
○
学
習
者
情
報
○
○
○
○
◎
△
△
米 国 内 の 学 習 技 術 仕 様 を ISO
に提案
IEEE は オ ー プ ン よ り 、 大 学 関
係者参加多し。阪大等も参加。
米 軍 の 教 育 の 高 度 化( 国 防 総 省
が1997年11月に開始し
た遠隔教育推進のイニシアチ
ブ)
54
へのアクセスの確保を図
ること
IMS
(USA)
AICC
(USA)
Dublin
Core
Communit
y
(USA)
CEN/ISSS
(EU)
ARIADNE
(EU)
ALIC
(Japan)
相互運用性を目的とした
技術的な標準仕様を開発
し 、様 々 な 人 が 作 成 し た 学
習 コ ン テ ン ツ が 、分 散 さ れ
た学習環境で利用可能と
すること
CBT と こ れ に 関 連 し た 訓
練技術の開発、配信、評価
に つ い て 、航 空 業 界 に 向 け
たガイドライン作成
リソース検索のための仕
様作成
訓練技術の標準化
遠隔編集、教育、学習のた
めのツールとコンセプト
の 開 発 。電 子 的 学 習 教 材 の
共有と再利用重視。
世界標準の動向調査と相
互運用性の検証、普及、次
世 代 研 究 、意 見 の 取 り ま と
め。
政府職員の教育に活用
CMU が 内 容 支 持
○
◎
○
米国内外の高等教育機関や企
業を中心とした非営利団体
EDUCAUSE の 活 動
カリフォルニア州立大学など
多数参加
○
○
○
◎
図書館関係者による活動
電子図書館関係で多数の大学
参加。図書館情報大参加
○
欧 州 の 8 カ 国 、 31 大 学 や 組 織
参加
○
○
○
航空業界のプロジェクト
○
大 学 3 6 、 企 業 1 2 5( 2 0 0 1 年 3
月現在)
注:◎○△は各団体の規格対象への取組み状況の程度を表す(高◎←→△弱)
(2)国 際 標 準 化 動 向
CAI、 W B T 、 Distance Learning 、 e -Learning、 CBT 、 TBT 等 、 様 々 な 用 語
が あ る が 、 こ れ ら を 総 称 し て LT(Learning Technology)と 呼 ば れ て い る 。 こ の
LT は メ デ ィ ア か ら 、 イ ン ス ト ラ ク シ ョ ナ ル デ ザ イ ン 、 そ し て コ ン ピ テ ン シ ー 管
理までをカバーしたものとして捉えられている。具体的な内容は、知識付与、
スキル付与、問題解決、問題発見等を対象として、その企画、実行、評価を支
援する技術体系である。学習形態は講義形式、グループ学習、自己学習、座学、
実習等を対象とし、そこでのコミュニケーション手段は手紙、ラジオ、テレビ、
衛 星 放 送 、 メ ー ル 、 WWW 、 電 子 会 議 等 々 が 対 象 と さ れ る 。
こ の LT に 関 す る 標 準 化 は 欧 米 に お い て 活 発 に 展 開 さ れ て い る 。 特 に 、 IEEE
LTSC と ISO/IEC JTC1/SC36 は ク ロ ー ズ コ ラ ボ レ ー シ ョ ン の も と で 、各 種 団 体
における標準 化の成果の整理統合作業を実施している。なお、標準化規格対象
と し て は 、 コ ン ピ テ ン シ ー 定 義 (IMS( The Instructional Management Systems)
主 導 ) 、 人 事 管 理 シ ス テ ム (IMS 主 導 ) 、 学 習 者 プ ロ フ ァ イ ル ( I E E E
LTSC(Learning Technology Standards Committee) 主 導 ) 、 メ タ デ ー タ
(LOM(Learning Object Metadata) : IMS 主 導 ) 、 学 習 管 理 シ ス テ ム
(CMI(Computer Managed Instruction)/L M S : AICC(Aviation Industry CBT
Committee) 主 導 ) 、 テ ス テ ィ ン グ ( I M S 主 導 ) 、 教 材 パ ッ ケ ー ジ ( I M S 主 導 ) 、 マ ル
チ メ デ ィ ア 対 応 (IEEE LTSC 主 導 ) 、プ ラ ッ ト フ ォ ー ム (IEEE LTSC 主 導 ) 等 が あ
る。
な お 、 国 外 に お け る 最 新 の 動 向 と し て は 、 ADL(Advanced Distributed
Learning Initiative) Plugfest が SCORM 規 格 の 互 換 性 実 証 実 験 を 2001 年 に 実
55
施 す る 予 定 で あ る こ と 、 ま た ADL IMS 連 合 が SCORM 次 期 バ ー ジ ョ ン と し て
IMS 系 規 格 を 統 合 化 す る 予 定 で あ る こ と 等 が あ げ ら れ る 。
参考資料
(1) ALIC http://www.alic.gr.jp
(2) TBT コ ン ソ ー シ ア ム http://www.tbt.or.jp/
(3) AML プ ロ ジ ェ ク ト http://www.agub.aoyama.ac.jp/aml2/
(4) ISO/IEC JTC1 SC36http://jtc1sc36.org
(5) IEEE (LTSC) http://www.manta.ieee.org/p1484/
(6) Advanced
Distributed
Learning
Initiative
(ADL)http://www.adlnet.org/
(7) The
Instructional
Management
Systems(IMS)
http://www.imsproject.org/
(8) Aviation Industry CBT Committee (AICC) http://www.aicc.org/
(9) ARIADNE http://ariadne.unil.ch/
(10)
CEN/ISSS http://www.cenorm.be/isss/workshop/lt/
10.コンテンツの流通空間
10.1 流 通 空 間 と コ ミ ュ ニ テ ィ
物 の 流 通 交 換 の 場 と し て 、広 場 や 街 道 に 人 々 が 集 ま り 、や が て 市 場 が 形 成 さ れ 、
店舗が建てられ商店街が形成されたように、コンテンツの流通交換においても、
広場や街道の役目を果たす空間をどのように構築するかが重要になりつつある。
このような空間の形成は同時にそこに集まる企業や店舗、人々のコミュニティ
を形成する。
か つ て ア ラ ン ・ ケ イ は 、 コ ン ピ ュ ー タ は メ デ ィ ア で あ る と い い 、 1980 年 代 か ら
1990 年 代 に か け て コ ン ピ ュ ー タ 上 で ソ フ ト ウ ェ ア に よ っ て 定 義 さ れ る 多 様 な 情
報 メ デ ィ ア が は っ た つ し た が 、 1990 年 代 初 め に 導 入 さ れ た W W W と 1995 年 の
Netscape ブ ラ ウ ザ の 登 場 は 、 ウ ェ ブ ペ ー ジ と 言 う 情 報 メ デ ィ ア を 用 い て 人 々 が
情報を自由に 世界に向けて出版できるようにしただけでなく、これらのウェブ
ページの間をリンクを用いてナビゲーションするユーザにウェブ空間という空
間概念を意識させるまでになった。空間には広がりの空間と関係の空間がある
と言われるが、この時点でのウェブ空間はまさに関係の空間であり、リンクと
言う関係を表すポインターを辿ることによってのみ認識される空間であった。
やがて、特定の話題に関連するウェブページへのリンクを集めたポータルサイ
トが種々の分野で作成されるようになったが、これは、関係の空間の一部分を
一 つ の ウ ェ ブ ペ ー ジ と し て 表 現 し た もの で あ り 、 こ の 時 点 で 、 広 が り の 空 間 表
現が導入されたと同時に、ウェブページが情報メディアとしてだけでなく、空
間表現メディアとしても用いられるようになったと考えられる。
社 会 学 者 の ア ン リ ・ ル フ ェ ー ブ ル は 、空 間 認 識 の 方 法 概 念 と し て 、 空 間 的 実 践 、
空間の表象、表象の空間の 3 つの方法概念の重要性を指摘している。空間的実
践とは、それぞれの社会に固有な生産と再生産の場所を創出し編成する実践で
ある。空間的実践は、現実の生産と再生産の諸関係を場所や空間に映し出し、
それらの諸関係を創出する。たとえば建築様式の生産、都市の形態学、地域の
56
創造がそれである。また、都市の交通網、郊外の空間、都市間のネットワーク、
国土空間、記念建造物、墓地の空間などの創出がそれである。第二の方法概念
は空間の表象である。これは空間に対する言説と結びついており、知、記号、
規範に従って、空間に課せられた特定の秩序である。空間を構想する知識の専
門家が扱う領域がこれである。都市計画の科学、地理学、地図作製において構
想される空間は、まさしくこの領域に属している。空間の表象の領域は、記号
や規範を用いて意識的・自覚的構築される空間の領域であるが、それは空間的
実践における 無意識的な実践感覚と密接に連動している。第三の方法概念は表
象 の 空 間 で あ る 。そ れ は 、空 間 の 表 象 の よ う に 思 考 さ れ る 空 間 の 領 域 で は な く 、
映像や象徴を介して直接に生きられる経験の空間領域である。芸術家や文学者
が芸術作品や文学作品を通して自己を表現する空間であり、ユーザや居住者が
生活を営む空間である。
アンリ・ルフェーブルは、空間的実践が空間の表象及び表象の空間の次元と結
びつくことにより、新しい産業部門が創出され、資本蓄積の土俵が築き上げら
れるとする。だからこの二つの次元は資本の巨大な生産力として機能するとい
う。空 間の表象は土地の計画的な利用と開発を推進し、不動産業や開発業を発
展させる。表象の空間は空間のスペクタクルを提示することによって、レジャ
ー産業や観光業を発展させる。空間におけるものの生産を軸とした産業資本主
義は、空間を生産し空間を投資の対象とする新資本主義へと移行する。新資本
主義では、物の生産方法よりもむしろ建造物や景観を一定の空間に集積し編成
す る 方 法 が 投 資 の 重 要 な 課 題 と な り 、生 産 の 建 造 環 境 ( 工 場 ,設 備 、道 路 ,港 湾 、
倉 庫 な ど)や 、 消 費 の 建 造 環 境 ( 家 屋 , 学 校 、 病 院 、 文 化 施 設 、 ス ポ ー ツ 施 設 、
レジャーセンターなど)に関する投資の循環が産業の中核となる。
アンリ・ルフェーブルのこの考えは、そのまま現在のウェブ空間にも適用でき
る。サーチエンジンやポータルサイトの登場は、空間の生産が新資本を生み出
し始めたことを雄弁に語っている。
空間の生産は同時にそこに集まる企業や店舗、人々のコミュニティを形成する。
空間の生産の目的はコミュニティの形成である。人間の生活はあらゆる領域に
おいてコミュニティに支えられている。コミュニティは以下のように分類する
ことができる。
1.地理型:市や地域のように、物理的な場所によって定義されるもの
2.属性型:年齢、性別、人種、国籍によって定義されるもの
3.トピック型:ファンクラブ、趣味の会、同業者組織のように共通の関心に
よって定義されるもの
4.活動型:買い物、投資、ゲーム、音楽のように、共通の活動内容によって
定義されるもの
ウェブコミュニティの目的はおおよそこの 4 つに分類できる。
ユーザのウェブコミュニティへの関与の深まりに関してエイミー・ジョー・キ
ムはマスローの欲求階層論による説明を行っている。
57
1.生理的欲求:システムへのアクセス、アイデンティティの維持、ウェブ・
コミュニティへの参加
2.安全欲求:ハッキングや個人攻撃からの保護、「公平な競争の場」の中に
いるという感覚
3.社会的欲求:コミュニティ全体とそのサブグループへの所属
4.尊重の欲求:コミュニティに貢献すること、その貢献を認められること
5.自己実現の欲求:スキルを伸ばしtり、新しい機会を獲得できるような役
割をコミュニティで果たすこと
ウェブコミュニティの形成には、
1.メンバーのニーズ
2.オーナの目標
3.コミュニティの目標
の 3 点を明確にする必要がある。メンバーのニーズを知るには、ウェブを用い
てアンケート調査や、フ ォーカス・グループと呼ばれるグループインタビュー
が行われる。オーナやコミュニティのビジョンを明確に伝えるには、ミッショ
ンステートメントを作成しなくてはならない。これはキャッチフレーズの形で
作成される。また、バックストーリという物語形式でビジョンと経緯を伝える
ことも良く行われる。コミュニティに対する第一印象は、最初の2、3クリッ
クで決まる。印象を魅力的なものにするには、キャッチフレーズやバックスト
ーリの他に、ブランドパーソナリティも用いられる。ブランドパーソナリティ
と は 、 デ ザ イ ン を 工 夫 し て 人 目 で そ の コ ミ ュ ニ ティ の 雰 囲 気 が 分 か る よ う な 特
徴をもたせることである。
コミュニティには集いの場所が必要であると言われる。街角のパブ、オフィス
のランチルーム、近所の本屋さん、地元の雑貨店、村の教会はどれも集いの場
所である。インターネットにおける集いの場所は、メーリングリスト、ディス
カッションのトピック、チャットルーム、複数対戦型ゲーム、仮想世界、ウェ
ブサイト、あるいはこれらの空間の組み合わせである。
集いの場所ができたら、それを整理し、コミュニティに組み入れる方法を考え
る 必 要 が あ る 。 コ ミ ュ ニ テ ィ は 1 つ の 町 で あ り , ビ ジ タ ー はそ の 町 へ の 引 越 し
を検討している人物である。ビジターがスムーズにコミュニティを見て回るこ
とのできるナビゲーション構造を作ることが必要である。コミュニティは変化
するものなので、この構造は、町が個性を失うことなく成長できる柔軟性を備
えたものでなければならない。この構造には、カテゴリ分類型構造、地図型構
造、メディア型構造などがある。メディア型というのは、テレビ,新聞,雑誌
などの身近なメディアのメタファーを用いて種々のトピックスを提示する構造
である。
ク ラ ブ , 派 閥 、 職 場 な ど 、 集 団 の 中 で 自 分 の ア イ デ ン テ ィ テ ィ を 確 立 し ,評判
を築くには何らかの方法が必要である。実際の世界では、直接あって自分を伝
えることができるが、ウェブでは五感で感じられる情報が限られているため、
メンバーのアイデンティティは明確に伝わらない。この失われた社会的文脈を
補うために、ウェブコミュニティにおいては、メンバーの個性をプロファイル
58
の形で与える必要がある。プロファイルには、システム・プロファイル、個人
プロファイル、公開プロファイルの区別がある。システム・プロファイルは、
コミュニティ・ビルダーがメンバーをトラッキングし、蓄積したもので、メン
バ ー の ア カ ウ ン ト 、ア ク テ ィ ビ テ ィ 、 好 み 、 参 加 履 歴 に 関 す る 情 報 な ど か ら な
る。個人プロファイルは、メンバー本人が見ることのできるプロファイルで、
メンバー名、パスワード、個人情報、好み、アカウントなどを含む。公開プロ
ファイルは他のメンバーについて見ることのできるプロファイルで、コミュニ
ティによって内容は異なる。メンバーの参加履歴を公開プロファイルに結びつ
けることにより、コミュニティにおける個々のメンバーの進化をプロファイル
の 変 化 と し て 見 せ る こ と も 考 え ら れ る 。パ ー テ ィ 会 場 で は 、年 齢 を 推 測 し た り 、
服装や表情を見たり、ホストの接し方を伺 うことで、相手の素性を想像するこ
とができる。ウェブコミュニティにおいても、進化するプロファイルを用いる
ことにより、このような推測が可能になる場合がある。
コミュニティにおいてはメンバーが参加履歴に応じて種々の役割を果たすこと
が重要である。メンバーはビジターとしてコミュニティを訪れ、入会儀式を経
験して新米のメンバーとなり、やがて常連となり、一部のものはリーダシップ
儀式を通過してリーダとなる。古株のリーダはやがて第一線からは退くが、そ
のコミュニティに関する知識により長老としての役割を果たすようになる。ビ
ジター に対しては、ビジターセンターを設け、サイトツアーのようなサービス
を 提 供 す る と よ い 。 メ ン バ ー の コ ミ ュ ニ テ ィ と の 関 わ り に 関 し て 、M U D の 開 発 者
を長年務めたリチャード・バートルは、4つのタイプ分けをしている。アチー
バ(チャンピオン、パフォーマ)は1番になることにこだわり、成功の具体的
な結果を誇示することを好む。エクスプローラ(ガイド、グル)はシステムを
熟知していることに誇りを感じ、自分の知識が求められ、尊敬される状況を好
む。ソシャライザ(ホスト、グリーター)はメンバーや彼らとの関係に関心を
持 っ て い る . 自 ら の 人 脈 に誇 り を 持 ち 、 社 交 の 中 心 に 立 つ こ と を 好 む 。 キ ラ ー
(ハラッサー、反体制者、悪ガキ)は、場を支配し、他者の邪魔をし、規則を
破ることに快感を得る。
リーダにもボランティア、コントラクター、スタッフの区別がある。ボランテ
ィアは無給の公認リーダであるのに対し、コントラクターはコミュニティの正
社員ではない有給の公認リーダである。スタッフは公認リーダであり正社員で
ある。リーダの役割には以下のようなものがある。
グリーター
ホスト
エディター
警察官
教師
イベント・コー
ディネータ
サポート
マネジャー
ディレクター
新入りの歓迎
核となるアクティビティの進行
コンテ ンツの評価
コミュニティ規範に違反するメンバーやコンテンツの排
除
リーダ候補の教育
イベントの企画、運営
システムに対する質問への回答
リーダの評価とサポート
リーダプログラムの作成と管理
59
コミュニティにおいてはエチケットが重要である。エチケットとは、人々がそ
れに従うことを同意した一連の行動様式、つまりコミュニティ規範を意味する。
コミュニティの羽異のためには、コミュニティ を律する明確なルール作りが必
要である。コミュニティの進化に合わせてこれらのルールも進化させていく必
要がある。
長く続いているコミュニティは、定期的なイベントによって結びついている。
イベントはコミュニティを定義する助けになるとともに、自分たちにはどのよ
うな共通点があるのか、これはどんなコミュニティであるのかを人々に思い出
させるものになる。イベントには3つの種類がある。参加に重点をおいた小グ
ループの集まりである集会、パーフォーマやプレゼンを中心とした、より大規
模 で ス ケ ジ ュ ー ル 化 さ れ た パ ー フ ォ ー マ ン ス 、 メ ン バ ーが 賞 品 や 名 誉 を 求 め て
競う競争である。
日常的なものから魔術的なものまで、我々は儀式に導かれて人生を移行してい
く。このような儀式を通じて、自身が何者であるのか、何に価値をおいている
のか、どこに属しているのかを思い出している。この慣れ親しんだコミュニテ
ィの儀式をウェブコミュニティに組み込むことにより、メンバーに自身とコミ
ュニティのアイデンティティを自然にくつろいだ気分で自覚させることができ
る。
メンバーが小さなグループを形成し、コミュニティに自分たちの拠点を作るよ
う に な れ ば 、 コ ミ ュ ニ テ ィ が 健 全 に 繁 栄 し て い る証 拠 で あ る と 考 え ら れ る 。 こ
うしたグループは同じ目的や関心を持つメンバーをひきつけ、コミュニティが
大きくなっても親密感を維持することができる。活気あるコミュニティの形成
には、サブグループの育成が欠かせない。そのためには、コミュニティ内に溜
まり場となる空間を設けることが必要である。また、その賑わいの程度が外か
ら観察できるようにすることも有効である。
10.2 「 編 集 の 国 ISIS」 に よ る コ ン テ ン ツ 流 通 環 境 の 試 み
10.2.1「 編 集 の 国 ISIS 」 の 概 要
編 集 工 学 研 究 所 で は 2000 年 1 月 か ら 1 0 月 ま で 、 「 編 集 の 国 I S I S 」 と い う イ
ン タ ー ネ ッ ト 上 の 相 互 編 集 型 コ ン テ ン ツ 流 通 環 境 を 提 供す る サ ー ビ ス 実 験 ( ソ
ニーミュージックエンターテインメント・資生堂・凸版印刷・日立ソフウエア
エ ン ジ ニ ア リ ン グ ・NTT ド コ モ 、 ア コ ム 、 ソ フ ト フ ロ ン ト ( 敬 称 略 ) な ど の 参 加
に よ る ) を 行 っ た 。 「 編 集 の 国 ISIS」 は 大 き く 分 け て 3 つ の パ ー ト か ら な る 。
1 つ は Mmo de と 呼 ぶ 、IntelligentPad を 利 用 し た 専 用 の ア プ リ ケ ー シ ョ ン( ESP
= Editorial Scoring Platform) を 使 っ て イ ン タ ー ネ ッ ト 上 の 相 互 編 集 型 コ ン
テ ン ツ 流 通 環 境 の 実 現 を 目 指 す も の 、 2 つ 目 は Cmode と 呼 び 、 電 子 会 議 室 シ ス
テム「コミュニティ・エディター」をベースとした展開、3つ目がそれら2つ
の モ ー ド の 内 容 を レ ポ ー ト し た り 、 独 自 の 記 事 で 展 開 す る Web マ ガ ジ ン 的 な 要
素 が 濃 い も の と な っ て い る 。 こ こ で は 、 1 つ 目 の Mmode に つ い て 、 コ ン テ ン ツ
流通サービスの事例として取り上げることとする。
「 編 集 の 国 ISIS 」 Mmode の 基 本 的 な 考 え 方 は 、 単 な る コ ン テ ン ツ 配 信 で は な
く、そこに相互編集性を取り入れるところにある。コンテンツの配信そのもの
60
が最終的な目的ではなく、コンテンツの再編集・再流通が可能な環境を構築す
ることにより、コンテンツをつくる人材を発掘・育成し、その能力を知財とと
らえて目に見えるかたちで流通させようというのがその目的となる。そのため、
コンテンツそのもののオリジナリティ以上に、流通されているコンテンツの組
み合わせや、使われ方が重視される。また、コンテンツに対する特定の人物(目
利き)による評価や、参加者間の相互評価のしくみが工夫された。
10.2.2「 編 集 の 国 ISIS 」 の コ ン テ ン ツ 流 通 の し く み
具 体 的 に は 、図 1 の よ う な イ ン タ ー フ ェ ー ス を 持 っ て い る 。こ の M m o d e は Meme
カードと呼ぶ情報単位を持ち、すべてのコンテンツがこの単位で流通される。
Meme カ ー ド は 表 裏 の 1 対 の 情 報 か ら な る が 、 そ れ ぞ れ に テ キ ス ト ・ 静 止 画 ・ 動
画・音声などを表示することができる。ただし、文字量や画像のサイズには一
定 の 制 限 が あ る ( テ キ ス ト な ら ば 1 5 0 字 ∼ 2 0 0 字 、 画 像 な ら ば 2 4 0× 160 ピ ク セ
ル程度)。情報単位に制限を与えることで、コンテンツ作成者の1次編集の度
合 い を 高 め( 言 い た い こ と を 150 文 字 に ま と め る 、4 枚 の カ ー ド で 表 現 す る 等 )、
さらに1つ1つの単位を小さくすることで、カードの組合せによる編集性を高
め る こ と を 狙 っ て い る 。 こ の Meme カ ー ド は 複 製 自 由 で あ る が 、 複 製 さ れ た も の
が 再 流 通 し た 場 合 、 そ の 履 歴 が そ れ ぞ れ の Meme カ ー ド に 残 さ れ る こ と に な っ て
いる。また、カードそれぞれについて利用者がコメントをしたり、拍手・笑い・
疑問といった相互評価が可能なコメントパネル機能がつけられている。
参 加 者 は 、 こ れ ら の 情 報 単 位 で あ る Meme カ ー ド を 、 イ ン タ ー ネ ッ ト を 介 し て
ステージと呼ばれるサービス画面からダウンロードすることができる。また、
ス テ ー ジ の メ ニ ュ ー に よ っ て は 、書 き 込 み 可 能 な Meme カ ー ド を ダ ウ ン ロ ー ド し 、
テキストや画像を入力した後、投稿(アップロード)することができる。その
場合は、サービスメニューによっては主催者(師範)から評価をもらったり、
自分の投稿作品を公開することも可能である。それらコンテンツのダウンロー
ド に 際 し て は 、 架 空 の 貨 幣 単 位 MEME を 支 払 い 、 逆 に よ い 評 価 を も ら っ た り 、 自
分 の 作 品 が 利 用 さ れ た 場 合 は MEME を 受 け 取 る こ と が で き る 。 そ の 収 支 決 算 が ユ
ーザごとのバンクカードによって管理されている。
以 上 が 基 本 的 な 構 成 で あ る が 、 そ の 組 み 合 わ せ よ っ て 13 の サ ー ビ ス ・ ス テ ー
ジ が 展 開 さ れ た が 、 大 き く 分 け る と 以 下 の 3 つ のモ デ ル に 大 別 す る こ と が で き
る。
① ミュージアム型(コンテンツ配信モデル)
② 投稿型(双方向モデル)
③ 道場型(スクール展開モデル)
以下、それぞれのモデルについて簡単に説明する。
10.2.3 ミ ュ ー ジ ア ム 型 モ デ ル
ミ ュ ー ジ ア ム 型( コ ン テ ン ツ 配 信 モ デ ル ) は 、 基 本 的 に は 多 様 な テ ー マ で 収 集
さ れ た コ ン テ ン ツ を Meme カ ー ド に よ っ て 提 供 す る 1 方 向 の コ ン テ ン ツ 配 信 サ ー
ビスである。例えば編集工学研究所の約5万冊の蔵書を、実際の赤坂の本棚構
造 の ま ま に 、 各 本 の 目 次 と 内 容 の 紹 介 、 書 誌 デ ー タ を 1 枚 の Meme カ ー ド と し て
公 開 す る 「 SEIGO BOOK OS 」 、 全 国 の わ ら べ 歌 を 収 集 す る 桃 山 晴 衣 さ ん の コ レ ク
シ ョ ン を 本 人 の 歌 声 と と も に カ ー ド 単 位 で 毎 週 数 本 づ つ 配 信 し た「 う た た う た 」、
ボタンコレクター・当間易子さんの膨大なコレクションをミュージアム化した
61
「九釦府(きゅうこうふ)」、高野純子さんの古今東西の格別な人物の直筆の
書 簡 や 原 稿 な ど の コ レ ク シ ョ ン 「 Salon de Autographe 」 、 小 学 生 か ら 路 上 パ フ
ォーマーまで日々に絵日記を公開してもらった「日記ミュージアム」などがこ
れ に あ た る 。 利 用 者 は 、 好 み に よ っ て Meme カ ー ド を ダ ウ ン ロ ー ド し 、 自 分 の ス
トッカにならべて収集する。
10.2.4 投 稿 型 モ デ ル
投稿型 (双方向モデル)は、それぞれのステージで準備された生カード(記入
可能なフォーマットカード)をダウンロードし、テキスト入力または自分でつ
くった画像データを張り込み作品として投稿するものである。もっとも基本的
な「言寄席」は毎週提示される「○○とかけて○○ととく。その心は○○」と
い っ た 言 葉 遊 び を 競 う も の で 、 松 竹 梅 の 評 価 が な さ れ 、 そ の 評 価 に 応 じ た MEME
が 与 え ら れ た 。「 を ち こ ち 季 象 台 」 は 歳 時 記 を 感 じ る 風 景 ・ 出 来 事 ・ 物 ・ 動 植
物を撮ったデジタルカメラによる画像を全国から募るもので、主婦の方をはじ
め多くの特派員が活躍した。「キリバリ・アーケード」は、テキスト・画像・
音声・動画・4コマ漫画別に、自慢の作品を投稿するステージで、利用される
と そ の 分 作 成 者 に MEME が 還 元 さ れ る し く み を 持 っ て い る 。 こ こ で は 固 定 フ ァ ン
を つ か む 人 材 が 何 人 か 生 ま れ た 。投 稿 型 が リ ア ル な イ ベ ン ト と 連 動 し た 例 で a r u
「天の尺」は、起承転結それぞれ4枚のカードを参加者がつなげていくことで
出来あがった物語の優秀作を、実際に東京タワーの外階段の手摺に点字として
貼りつけ、たくさんの目の不自由な 方々と読みながら登るという展開を試みた。
10.2.5 道 場 型 モ デ ル
道 場 型 ( ス ク ー ル 展 開 モ デ ル ) は 、 Meme カ ー ド に よ る 入 門 登 録 で 門 弟 と な っ た
参加者が、師範のアドバイスや評価を得ながら投稿型の稽古にはげみ、だんだ
んランクを上げて行くというモデルである。「お笑い大惨寺」はその典型とい
え る 。 入 門 者 は 放 送 作 家 の 川 崎 師 範 に よ る 700 問 の お 題 カ ー ド が 次 々 ラ ン ダ ム
で繰り出される稽古場で修行する。各稽古には師範からの評価コメントと評価
印が与えられ、そのランクによってコメントと評価印が与えられ、そのランク
に よ っ て MEME が 与 え ら れ る 。 さ ら に そ の 稽 古 ぶ り か ら 適 当 と 思 わ れ る 人 物 に は
段位が与えられるしくみになっている。これと同じしくみでインテリア・デザ
イナーの第一人者、内田繁氏によるデザインスクールも展開された。「夏の椅
子」というお題に対してたくさんのデザイン案が「4枚1組のカードでプレゼ
ン」という制約の元で応募された。
10.2.6 ま と め ( 知 財 市 場 の 創 出 の た め に )
「 編 集 の 国 ISIS 」 Mmode の 試 み に つ い て 、 こ こ で は 編 集 の 国 が め ざ す 知 財 市
場の構築という視点を中心にまとめる。個々のステージ1つ1つについては、
い ろ い ろな 切 り 口 で そ の 成 果 を 検 証 す る こ と が で き る が 、 こ こ で は そ れ ら が 有
機的に組み合わさった時の全体像を整理し、知財市場の構築に向けたモデルを
組みたてながら、今後の展開を考察することとする。
ESP と 呼 ぶ 相 互 編 集 型 の コ ン テ ン ツ 流 通 環 境 を 提 供 す る 特 殊 な ア プ リ ケ ー シ
ョ ン ・ ツ ー ル 上 で 展 開 し た 「 言 寄 席 」 「 キ リ バ リ ・ ア ー ケ ー ド 」 「 BOOK OS 」 な
どユニークなサービスは、それぞれが非常に基礎的ではあるが知財市場の一部
分をなすモデルとして、予想以上の成果を上げたといえる。その小さなモデル
62
同 士 を 組 み 合 せ た と き の 全 体 像 を 「 知 財 発 掘」 「 知 財 育 成 」 「 知 財 蓄 積 」 「 知
財 熟 成 」「 知 財 基 盤 」の 5 つ の レ イ ヤ ー で 整 理 す る と わ か り や す い( 図 1 参 照 )。
まず第1の「知財発掘」は、投稿型モデルのステージ群である。簡単な言葉
遊びによる編集の国の入門的位置付けの「言寄席」では、多くの人気者が生ま
れ、その後他のステージで大活躍することとなった。身近な生活の中から歳時
記的な感覚を切り出しレポートする「をちこち気象台」は、各地にすばらしい
特派員を生みだした。起承転結の4枚のカードで多様な分岐による物語を編み
出す「天の尺」は、東京タワーと障害者をむすぶリアルイベントと連動して多
くのマスコミに注目された。このように、このレイヤーでは、特殊なスキルや
高い志がなくとも、ちょっとしたきっかけで参加することができるステージで
ありながら、評価やギャラリーとの交流により、新しい知財の種が生まれる可
能性を持ったステージといえる。
第2の「知財育成」は、「知財発掘」でスタートを切ったユーザ、またはも
ともと高いモチベーションを持ったユーザが、自覚的にスキルの獲得をめざす
道場型のレイヤーである。「内田デザインスクール」では「夏の椅子」という
お 題 を め ぐ り 30 名 弱 の 参 加 者 が 作 品 を 投 稿 し 、 内 田 氏 の ア ド バ イ ス を う け た 。
お 笑 い 道 を 極 め る 「 お 笑 い 大 惨 寺 」 で は 、 84 名 が 過 酷 な お 題 を ク リ ア し て 入 門
し、6名の有段者が生まれ活躍した。
第3の「知財蓄積」は、全体の知財カタログ的な機能を持ったレイヤーであ
る。編集の国が注目した3人の人材が、日記を連載した「日記ミュージアム」
では、知財そのものが成長しながら、リアル社会で活躍していくプロセスを共
有することができた。「キリバリ・アーケード」は前述の「知財発掘」「知財
育成」レイヤーで活躍してきた参加者が、最終的にホームグラウンドとして作
品 を 公 開 し 、 固 定 し た フ ァ ン 層を つ か む 役 割 を 担 っ た 。
第4の「知財熟成」は、世の中ですでにある世界をつくりあげてきた人物や
組織、成果物をアーカイブしていくミュージアム型のレイヤーである。桃山晴
衣さんのライフワークともいえるわらべ歌を収集・配信した「うたたうた」。
「 九 釦 府 」 は 当 間 易 子 さ ん の 膨 大 な 釦 の コ レ ク シ ョ ン を 、 「 Salon de
Autographe」 は 高 野 純 子 さ ん の コ レ ク シ ョ ン を ア ー カ イ ブ し た 。 こ の レ イ ヤ ー
は単なるコンテンツ配信ではない。それぞれのコレクションにかかわる人物の
モノの見方や編集方法そのものを流通させようという試みといえる。
第5の「知財基盤」は、上の4つのレイヤーを底支えする知の基盤である。
編集工学研究所の5万冊の本と本棚の構造がそのまま「知のポータル」として
公 開 さ れ た 「 SEIGO BOOK OS」 が そ れ に あ た る 。
このように今回の第1期実験では、「知財発掘」から「知財熟成」までの展
開とそれらを支える「知財基盤」の在り方が、小さなモデルではあるが検証さ
れ、予想以上の成果を得ることができた。もともとアクセス数や参加者数など
の数を頼んだ展開を意図していないため、単純な数による評価や検証はここで
は し な い が 、 最 終 的 な Mmo d e に 登 録 ユ ー ザ 数 が 約 3000 人 と い う の は ほ ぼ 予 想 通
りであった。その中から各ステージで数人づつの注目される人物や、多くのフ
ァンをひきつける人材が生まれたことは、知財市場の基本的なモデルとして第
1段階はクリアできたといえそうだ。しかし、ここからビジネス・モデルに展
開するには、規模の問題を無視するわけにはいかないだろう。
今回の実験で確認できたモデルはあくまで、知財対象として参加するユーザ
を視点においたものであり、そのコンテンツ流通環境のプラットフォームとし
て の ESP が 十 分 な 機 能 を は た す こ と は 実 証 さ れ た 。 し か し 、 こ の 環 境 が ビ ジ ネ
63
スとして成り立つには、ここで生産されたコンテンツが大量に流通し、育成さ
れ蓄積された人材の認知度が飛躍的にあがり、現実の社会の多様な分野で活躍
す る こ と が 必 須 条 件 で あ る 。 そ の た め に は 、 こ の 実 験 で 試 み た 、M m o d e と い う 限
られた環境内での知財流通モデルではなく、ここでつくられたコンテンツや人
材が、そのまま多様なチャネルに接続され、コンバートされ展開していくモデ
ル が 必 要 と な る 。 ISIS の 次 期 実 験 で は 、 そ の 部 分 を に ら ん だ 実 験 を 展 開 す る 予
定である。
64
付録(寄稿)
コンテンツ配信の今後
多摩大学 大学院 経営情報学部 安藤 茂樹
はじめに
1990年代初頭にインターネットが商用に使われ始めて以来、情報交換技術
は劇的に進展しそれが産業界に大きな影響を及ぼした。ブラウザ(Mosaic)は物理
や数学などの論文を相互にオンライン閲覧できることを目的に開発されたのであ
るが、XML などのランゲージが発明されると情報表現規約のビジネス・プロトコル
の標準化や企業間のビジネス・プロセスの標準化が行われるようになってきた。
eコマースが普及し、企業はeマーケットプレイスに参加しないと生き残れなく
なってきた。このように 情報交換技術と企業活動には密接な関係がある。とこ
ろが、コンテンツ配信は企業だけでなく一般消費者の生活習慣に大きな影響を与
えつつある。
本研究では、コンテンツ配信技術が社会生活に及ぼす影響について米国での事例
を中心に紹介し、今後のコンテンツ配信の在り方を展望するのが目的である。
1.コンテンツ配信と社会生活
この章ではコンテンツ配信技術が社会生活に及ぼしている影響について述べ
る。
1)コンテンツと日常生活
今日の夕食のために“すずき”の切り身を買ってきて英語の Yahoo!で SEA
BASS を調べたら最初にカリフォルニアの Department of Fish and Game
のウエブページがでてきてすずきの大きさとか生息範囲などを詳しく解説し
たページがでてきた。ところが、日本語で検索したら若いタレントとバイク
屋のウエブサイトである。調べものには役に立たない日本のウエブサイトは
国民の知性の衰弱に加担するだろう。英語圏では度々検索、参照されるコン
テンツがデジタル化されており、学生は参考書を買わないで、図書館にも行
かないで調査が完了してしまうと中澤昌平(SVMF 注1))は述べている注2)。
有効な情報交換という社会習慣がなく、知的コンテンツの重みに疎い日本の
将来を示唆する重い言葉と受け止めたい。
65
2)子供文化とコンテンツ配信
i-mode が出現してから日本の電車の中では親指をシコシコさせてケータイを
じっとみつめている人だらけになっているが、これをギャル、コギャルがケ
ータイでオシャベリをしていると捉えるのでなく、セーラムーン、プリクラ、
タマゴッチ、マンガ、アニメ、TV ゲーム、ポケモンといった米国のみならず
世界を席巻している日本の子供文化は日本の高校生以下の子供達によって支
えられていると捉えるべきであり、このような子供文化はシブセン(渋谷セ
ンター街)などのたむろ場所がある日本からしか生まれないと紅林芳夫
(SVMF)は主張している注2)。
3)学術とコンテンツ配信
シリコンバレー周辺では現在、三つの大プロジェクトが走っている。一つは
Stanford 大学・クラークセンター(ジム・クラークからの$150M の寄付)の
バイオーX、二つめは同じ Stanford 大学の Biomedical Information Technology プログラム(64台のスーパーコンピュータの半分は SGI からの寄付)
、
三つめは UCSF を中心としたミッションベイ・プロジェクトであるが、この三
つには Interdiciplinary という共通の運営理念がある。すなわち複数の専門
の異なる研究者が共同して推進するプロジェクトであると金島秀人(SVMF)
は述べている注2)。プロジェクトの概要や成果(学術コンテンツ)をインター
ネットで発信しながら世界中の研究者の知識を連鎖させることを狙っている。
4)メディアとコンテンツ配信
キューバのリベロの例にあるように、検閲対象作家の著作をインターネット
で流すグループが出てきた。インターネットは思想家や専門家が主張をする
機会を増やしたわけであるが、それだけでなく一般市民が主張できる場を提
供している。より広い識者から意見を聞いたり、誰もが公開の場で意見を交
換できる機会を増やした。
例えば、USA Today はアロハ航空の空中爆発原因について意見を述べたマッ
ト・オースチンのウエブサイトの内容を紹介し皆に意見を求めている注3)。国
家輸送安全理事会(NTSB)はリベット接合部の破損すなわち老朽化が原因と
したのに対して、マット・オースチンは Fluid Hammer(超高圧の気体スパイ
ク)現象が爆発の原因であるという見解である。一般の新聞に掲載した USA
Today の異端児を応援する姿勢には、アメリカが IT 革命を成功させた遠因を
感じると田代駿二(SVMF)は述べている注2)。より広い識者から意見を聞く公
開の場やコンテンツを流し意見を交換する機会は確実に増えている。
66
5)政治とコンテンツ配信
政府を攻撃するときは、実力行使よりも電子的手段のほうがはるかに簡単で
あり、こうした電子的手段によりすばやく世界に主張を知らせることができ
ることにより、反体制派の人達が素早く結集することを可能にしている。
これらの潮流に対して、サウジアラビアではプロバイダーになるには政府の
認可が必要であることにし、ウエブ上の情報は国が検閲することにしている。
中国では、アクセス制限法を制定している。中国政府は国民が世界の情報に
自由にアクセスすることを恐れている。
政府を攻撃するときだけでなく、普通の選挙活動にもインターネットは使わ
れている。選挙情報サイトを開設したり、自分の住む選挙区の候補者のプロ
フィルなどを検索できるよにしたり、ネット上で模擬投票を行ったりできる。
例えば、米国共和党のマケイン上院議員は選挙資金集めやボランティアの募
集にインターネットを活用している。有権者がクレジットカードを使って気
軽に資金を寄付できる仕掛けを提供したり、有権者に効果的にメッセージを
送ったりして個人と接触できるので、この新しいメディアをいかに活用する
かが政治家にとって重要なテーマとなってきた。
6)コンテンツ配信と新しい人間関係
インターネットの普及で新たな形の人間関係やコミュニティーが生まれてき
ている。例えば、国連特別総会女性2000年会議に参加した女性達はイン
ターネットを使って、国の枠を超えた横断的な組織間の連絡や意見をお互い
に交換しあっている。
“アジア太平洋若者ネットワーク”は、アジア太平洋1
5カ国の若者が参加して結成されているが、悩みを共有し個別の問題解決に
立ち上がろうとしているし、世界各国の人権保護団体もインターネットを活
用して活躍している。また、アメラジアンは電子メール・アドレスや名前や
生年月日から人を捜し出すためのホームページや社会保障番号から死亡者を
検索するサイトなどを開設して、父親捜しや人捜しのための情報交換を支援
している。
悩みをを共有し問題解決に立ち上がろうという環境が世界にできると、その
変化が進んだ先にあるものは、各個人は自立をしていきながら、相互で支え
合うという自立型相互依存の社会なのかもしれない。
67
2.コンテンツ配信の今後
この章ではメタデータ抽出と検索、コンテンツ記述方法とコンテンツの今後
およびコンテンツ配信の今後について述べる。
1)メタデータ抽出と検索の今後
ナップスターはコンテンツそのものを操作していないが、違法コンテンツ
を検索する手段を提供している寄与侵害者(contributory infringement)お
よび代理侵害者(vicarious infringement)であり原告が著作権を有する音
楽の MP3 ファイルへのリンクを除去しなければならないという第9巡回控
訴審の判決が2001年2月にでた注4)。インターネットの音楽配信を行
なっていたリフェージ・ドットコムは2000年12月に閉鎖した。
これらは IRAA(アメリカレコード協会)からの横槍によるというが、問題は
そんなに簡単ではない。図書館で著作物を誰もが自由に読み、個人が図書
を借りた後の複写防止が不可能なように、インターネット上のコンテンツ
を自由にコピーすることを誰が防ぐことができようか。
メタデータ抽出と検索は自由に行われる世界が自然であるし、知的資産の
権利を守りながら知的財産を流通させ普及させることが社会を活性化させ
ることは疑いの余地はない。この知財権の保護と普及促進の二律背反問題
を同時に解決することが21世紀の知識社会の鍵を握ると考えている。
2)記述方法の今後
現在映像コンテンツを含む知財内容記述方法の標準化活動が日本主導で推
進されている。
HTML 文書を集めキーワードを自動的に抽出するための標準
化は仕様がかたまり、次に権利情報へのポインタ記述、使用条件、履歴記述、
コンテンツ ID の記述方法などの標準化を検討している。また、マルチメデ
ィアコンテンツ記述の全体の枠組み、インタフェース・プロトコールの標準
化は MPEG21 で検討している。映像コンテンツを含む知財内容の記述方法が
標準化されなければ番組を自由にやり取りできなくなるのは明白である。
一般市民は、今まではラジオやテレビを使って自分の知識、知恵、音楽や
映像の作品、主張などを全国に流し、自由に交換することができなかった。
しかし、インターネットを使ってこれを可能にするのが MPEG 技術である。
マルチメディア・コンテンツを何処からでも(Anywhere)誰もが(Anyone)いつ
でも(Anytime)交換できる時代はそんなに遠くはない。
68
3)コンテンツの今後
欧州連合(EU)の最初の提唱者は、イギリスのウインストン・チャーチルで
あったが、人種が違い、言葉(公式言語は11言語)も違い、複雑な争い
の歴史をもつ多くの国々が共同国家を作ろうとした壮大な計画であった。
最近、eEurope という名称の The Special European Council を創設し、こ
れからの情報化社会がもたらす恩恵を全ての人が受け生活を豊かにできる
ような変化を加速させることを目指したプロジェクトを EU は推進している
注5)。欧州は前進する必要があるとしたこのプロジェクトの具体的な目標は
(1)全ての市民にデジタル・エイジとオンライン化をもたらす
(2)文化が支えるデジタル・リテラシーに対応した欧州の創出
(3)社会全体を対象とし、消費者の信用を得る結束を強める社会
であり、変化に対応することは社会的な最重要課題であるとしている。情
報化社会に対する変化を機会ととらえ、この変化は欧州の結束をもたらし
EU を統合化させる機会であるとしている。配信するコンテンツのレベルを
向上させることにより欧州連合(EU)の統合を強化しようというプロジェ
クトであるともいえる。今後は根強い地元での存在感あるコンテンツ、世
界的ビジョンや国境を越えた理解のためのコンテンツ、世界的な価値観と
創造的な原理に関するコンテンツ、国際的な倫理観に関するコンテンツな
どを核として新しい人と人との繋がりや連合を形成していく予感がする。
4)コンテンツ配信の今後
ブロードキャスティング技術はウエブによるデータ放送を可能にし、
デジタ
ル TV は多チャンネル化する。それに伴って、知的コンテンツをどうやって
簡単に創るかというテーマがクローズアップされてくるだろう。クリエー
ターのクリエイティビティを発揮させるための支援システムである。通信
と放送の境界はなくなり、誰でも放送局になれる時代になるからである。
一方、視聴者(消費者)は自然言語で入力し自動的に検索するが、消費者
の意向に沿ったコンテンツだけをピックアップし、しかも音声もクローズ
ド・キャプチャリングが可能になったのでそれらを編集して音声やグラフ
等を使って表現するプレゼンテーション技術が急速に発展し、画面に見せ
る以前のフィルタリング分野や見やすい綺麗な個客用コンテンツだけを見
せるプレゼンテーション分野が進展するだろう。第1章で述べたようにコ
ンテンツ配信技術の社会生活に及ぼす影響があまりにも大きく、広範囲で
あるだけに消費者の視点、生活者の利便性を中心に展開されなければなら
ないと考えている。
69
3.まとめ
1)メタデータ抽出と検索は自由に行われる世界が自然であるし、知的資産の
権利を守りながら知的財産を流通させ普及させることが社会を活性化させ
ることは疑いの余地はない。この知財権の保護と普及促進の二律背反問題
を同時に解決することが21世紀の知識社会の鍵を握ると考えている。
2)一般市民は、今まではラジオやテレビを使って自分の知識、知恵、音楽や
映像の作品、主張などを全国に流し、自由に交換することができなかった。
しかし、インターネットを使ってこれを可能にするのが MPEG 技術である。
マルチメディア・コンテンツを何処からでも(Anywhere)誰もが(Anyone)いつ
でも(Anytime)交換できる時代はそんなに遠くはない。
3)今後は根強い地元での存在感あるコンテンツ、世界的ビジョンや国境を越
えた理解のためのコンテンツ、世界的な価値観と創造的な原理に関するコ
ンテンツ、国際的な倫理観に関するコンテンツなどを核として新しい人と
人との繋がりや連合を形成していく。
4)画面に見せる以前のフィルタリング分野や見やすい綺麗な個客用コンテン
ツだけを見せるプレゼンテーション分野が今後進展する。コンテンツ配信
技術の社会生活に及ぼす影響があまりにも大きく、広範囲であるだけに消
費者の視点、生活者の利便性を中心に展開されなければならない。
むすび
21世紀はインターネットにより瞬時に最新の世界情報は入手できるし、世
界に自分の意見や主張を発信できる環境ができ、グローバル化とIT革命が
国際社会構造を急速に変えていく中で、市民も企業も社会も変化への対応力
が問われる時代になるだろう。そして、その変化が進んだ先にあるものは、
その変化の意味は自分が自立した知的な人間になる必要があり、世界に堂々
と自分の意見を主張すると同時に、相手を認める社会にしていく必要がある
ということではないだろうか。各個人は自立をしていきながら、相互に支え
合うという社会である。コンテンツ配信技術革命により、インターディペン
デンスな社会に変革していくかもしれない。決定的に重要なことは知的なコ
ンテンツの蓄積を行う環境を構築する必要があるということであり、そのた
めには、個人や社会がある種の知的水準を持たなくてはいけないということ
である。社会がネット社会に変わってしまったのだから。
70
SVMF 注1):シリコンバレー周辺に駐在して第一戦で活躍している日本人達のフォーラム
で Silicon Valley Mulch-media Forum の略。
:J21 Forum というサイト(http://www4.big.or.jp) では、自由に意見を交換しあ
注2)
っているが、ここから多くのヒントを頂いた。本フォーラムおよび投稿者に感謝
の意を表わしたい。
注3)
:Gary Stoller: Engineer has Alternate Theory on Plane Disaster,
1-18-01, USA Today
注4)
:United States Court of Appeals for The Ninth Circuit, No.00-16401
D.C.No. CV-99-05183-MHP, No.00-16403 D.C.No. CV-00-00074-MHP
注5)
:Communication on a Commission Initiative for the Special European
Council of Lisbon, (eEUROPE) 2000. 3
71
付録
■コンテンツ配信の今後
2001/03/10 村野
1.コンテンツ配信の現状
米国の調査会社 IDC1によれば、米国におけるコンテンツ配信の市場規模は、1999
年には 1000 万ドルに過ぎなかったものの、2004 年には 10 億ドルに達するものと
予想している。この間の平均成長率は 150%にもなり、高い成長を見込んでいる。そ
の他の予想でも、およそ数年後には数十億ドル規模の市場が立ち上がるとされてお
り、コンテンツ配信に対する期待は非常に大きい。
日本においてもコンテンツ配信は大きな注目を集めており、特に i モードなどの携
帯電話向けコンテンツ配信市場だけでも 2000 年に 445 億円になると予測されてい
る2。
しかし、冷静にコンテンツ配信市場を観察した場合、手放しで順調であると喜ぶよ
うな状況とは程遠い。これまでにも多くのコンテンツ配信技術やサービスが提案さ
れてきているが、産業として成功したものは残念ながら日本では i モードサービス
以外に見当たらないのが現状である。
本稿では、現在のコンテンツ配信技術・サービスの現状を踏まえ、コンテンツ配信
が成功するための要件について検討を行う。
2.コンテンツ配信技術の発展
デジタル技術以前におけるコンテンツ配信、つまり書籍や LP レコードを考えると、
デジタルコンテンツ配信に比較して大きな特徴があることがわかる。つまり、書籍
や LP レコードでは、コンテンツと媒体が不可分の関係にあり、コンテンツが媒体
から独立して流通することはない。
一方、デジタルコンテンツ配信においては、コンテンツと媒体が分離され、媒体も
いくつかのレベルや用途毎に細分化される。つまり、記録論理フォーマット(音楽
であれば MP3、ATRAC3、AAC 等)
、配信用媒体(インターネット、携帯電話、
CD-ROM 等)
、保管用媒体(HDD、CD-ROM、メモリーカード等)
、再生用媒体・
環境(RealPlayer、Windows Media Player 等)の組み合わせで特定されるものに
なっている(表1)
。媒体からコンテンツが分離されるという自由度の高さは、コン
1
2
IDC http://www.idc.com/communications/press/pr/CM101700pr.stm
マルチメディアコンテンツ振興協会 「マルチメディア白書 2000」
72
テンツの保護を困難とする。一方で、ユーザもその取り扱いに苦慮することになっ
た。
表1 様々なデジタルコンテンツ配信技術
形態
ストリーミング型コ
ンテンツ配信
ブロードキャスト型
コンテンツ配信
ダウンロード型コン
テンツ配信
プリディストリビュ
ーション型コンテン
ツ配信
従来型コンテンツ配
信
再生
オンライン
配信用媒体
Internet
保管用媒体
不可
例
RealSystem (Real)
WMT (Micro Soft)
オンライン
無線
不可
M-stage visual (NTT)
オンライン
オフライン
オフライン
無線
HDD、VTR 等
地上波デジタル
Internet
Napster, MP3.com,
オフライン
無線
HDD、メモリカ
ード
メモリカード
オフライン
物理媒体
CD-ROM 等
CD-ROM 等
もしくは HDD
オフライン
物理媒体
CD-ROM 等
CD-ROM 等
ソフトウェア配信や、ゲ
ーム配信(アクティベー
ションをネットで行う)
DVD、音楽 CD 等
M-stage music (NTT)
しかし、これら様々なコンテンツ配信形態の存在と、ビジネス的な行き詰まりから、
配信技術の未成熟といった結論を導き出すのは早計である。むしろ、これまでなさ
れた多くの技術的チャレンジから明らかになったのは、著作権者やコンテンツプロ
バイダー等が要求するサービスに必要な要素技術は既に存在しており、いつでも利
用可能ということである。
3.コンテンツ配信における問題点
いったい何がコンテンツ配信ビジネスの実現に障害となっているのであろうか。技
術的な問題や社会環境等の問題を含め、ここではいくつか代表的な問題点を示す。
3.1 技術的問題点
(1) ネットワーク帯域幅がコンテンツ配信に対して不十分
ネットワーク帯域幅の問題は昔から指摘されている問題の代表である。しかし、
ADSL、FTTH 等の普及により、日本でも今後急速に解消されることが予想さ
れる。今後数年で、有線アクセス系は数 Mbps∼100Mbps、無線アクセス系数
Mbps∼数十 Mbps。バックボーンは Gbps から Tbps の帯域幅が実現されると
考えられる。
(2) コンテンツのセキュリティが守られるかどうか不安
報告書本文で示されているように、コンテンツのセキュリティを確保する技術
73
や手法は数多く存在し、現実に既に用いられている。問題点として残るのは、
CPU 能力の向上や暗号解読技術の進歩により、コンテンツセキュリティ保護の
基本となる暗号が破られた場合である。この場合、既に流通しているコンテン
ツの暗号化方式を変更する事は極めて困難であり、未解決の問題として残って
いる。
(3) 個人認証、機器認証が困難
誰に対してコンテンツを販売したかを管理することは多くのコンテンツ著作権
保護技術が直面する課題として、個人認証や機器認証が現状では困難であると
いう問題がある。しかし、IC カード、バイオメトリックス、PKI ベースの個人
認証が技術的に確立されてきており、ここ数年で一般にも徐々に普及していく
可能性が高い。また、機器認証に関しては、特殊なハードウェアを実装したメ
モリカードという形で既に実現されており、技術的なハードルはない。PC に対
しても特殊なハードウェアを負荷することで、機器認証を実現しようとする動
きもある。
(4) 課金が難しい
特にネットワーク上からダウンロードするようなコンテンツに対して課金を行
うのは、クレジットカードを利用することで解決可能である。クレジットカー
ドは小額決済やマイクロペイメントには不向きだが、電子キャッシュや電子マ
ネーなども提案されており、技術的に解決できない問題は少ない。
3.2 社会的問題点
(1) ネットワーク回線料金が高い
帯域幅の問題(3.1(1)
)と同様に、昔から指摘されている問題であるが、
常時定額接続が一般化することから問題は解消に向かう。
(2) 著作権法が時代遅れになりつつある
そもそも複製権をベースとする著作権法が、複製の極めて容易なデジタルコン
テンツに対して適用されることに多少の無理が存在する。著作権制度では、
WIPO 新条約とそれを受けた著作権法改正によって、公衆送信権(送信可能化
権)の導入を主な柱とする見直しが行われた。しかしデジタルコンテンツを対
象とした複製権から利用権を主体とした制度への移行が望まれるだろう。
また権利処理に関しても、たとえば音楽の場合、従来は JASRAC だけが独占的
に権利処理を行っていたが、ある程度の競争原理が導入されることになった。
これにより様々な権利処理のメニューが選択可能になることも、コンテンツ配
信ビジネスにとっては追い風となる。
(3) ユーザに不便を強いるサービスが多い
これまで、多くのコンテンツ配信サービスが提案されてきたが、そのほとんど
74
は現行の(従来型の)サービスに比較して、ユーザに不便を強いるものであっ
た事は否めない。
4.コンテンツ配信の今後
問題点の項で述べたように、コンテンツ配信には多くの課題があるものの、しかし
本質的に解決の目途がたたないような障害は見当たらない。ここでは特に、従来な
おざりにされがちであった「ユーザに不便を強いる」問題を中心に、今後のコンテ
ンツ配信のあり方について考える。
MP3.com や Napster が巻き起こした一連の騒動と、対照的に不振の続くレコード
会社系サービスによって、はからずも明確になったことがある。コンテンツ配信に
対するユーザニーズの存在と、ユーザ利便性が十分図られていないサービスに対し
ての消費者の冷静さである。Napster の成功の主な要因は無料であることはもちろ
んであるが、有料の i モードサービスが成功していることを考えれば、成功要因は
「無料」だけではない。これらのサービスの成功要因について詳細に議論を行うの
は本旨ではないが、一点だけ強調しておくと、月並みではあるが「わかりやすさ」
を持っていることを指摘したい。
「わかりやすさ」を阻害する最大の要因は、課金と著作権管理であることは論を待
たない。特に、著作権保護を重視するあまり、著作権法で認められた正当な利用ま
でが制約される危険性がある。技術的には、様々な利用上の制約を設けることもで
きるが、複雑な制約はユーザには受け入れにくい。たとえば、無制限なコピーを禁
止するための、チェックイン、チェックアウトの機構や、購入したコンテンツが別
の機器に持っていくと使用できないなどである。また、
「2.コンテンツ配信技術の
発展」で指摘したように、様々な媒体の組み合わせが存在することもわかりにくさ
につながっている。
この種のわかりにくさを回避するためには、著作権管理や課金管理を可能な限りユ
ーザから隠蔽すること、つまりサービスプロバイダがこれらの管理を行うことが重
要である。しかし、Napster がサービスプロバイダにより有料化されても同種の無
料サービスが提供されるなど、いたちごっこの側面があることが否定できない。
サービスレベルでの著作権管理や課金管理が無理なのであれば、出入り口であるキ
ャリアや ISP レベルでの管理が不可欠である。i モードの成功の大きな要因は、キ
ャリアが課金管理を行い、また面倒な著作権管理を行わない(必要ない)ことにあ
る。
、ユーザレベルで著作権管理を行うと、正当な利用も制約され、ユーザにとって
75
魅力のないサービスになってしまう。
具体的にはどのようなコンテンツ配信が考えられるのか、その簡単な一例を示す(図
1)
。
コンテンツ
サービス
プロバイダ
ISP
#3
ユーザA
#1
リスト
#1
#2
#3
#4
#2
インターネット
#3
#4
#5
#1
#6
#2
ISP
#3
ユーザB
#4
図1 キャリア・ISP 中心のコンテンツ配信の仕組み
図1に示した例では、ユーザ A の加入する ISP によってコンテンツ管理を行う例を
示している。この例では、コンテンツの購入は ISP を介して行い、購入したコンテ
ンツのリストが ISP により管理・維持される。このリストに含まれているコンテン
ツに関しては、ユーザ A は何度でもコンテンツ・サービス・プロバイダよりダウン
ロードすることが認められる(図中、#3 で示される)
。一方、リストに含まれない
コンテンツに関しては、ISP によりその転送が拒否される(図中、#4 で示される)
。
このような仕組みを構築することで、ユーザは自分の環境の中ではコピーを含め自
由にコンテンツを利用できる反面、違法なダウンロード等を防止することができる。
また、コンテンツに ID を埋め込んだり、電子透かしの利用により、ISP がコンテン
ツを制御することが容易になる。
もちろん、この方法は一例であり、リムーバブル媒体を介しての違法コピー等を防
ぐことはできない、プライバシーに不安がある、などの問題点はある。しかし最大
の問題であるネット上における違法なコンテンツ配信を抑止できるという意味で、
このような形態のコンテンツ配信サービスには検討する価値があるのではないか。
5.最後に
現在、コンテンツ配信ビジネスには一種の閉塞感が感じられるが、これは必ずしも
76
技術的な理由からではない。この閉塞感の打破のためには、ユーザの利便性とわか
りやすさにフォーカスしたビジネスモデルの構築が不可欠であり、これを前提とし
た技術開発が求められているのではないか。
77
-1-