工学における教育プログラム に関する検討委員会

平成9年度
「工学における教育プログラム
に関する検討委員会」報告(抄)
工学における教育プログラムに関する検討委員会
まえがき
平成8年9月の8大学工学部長懇談会で日本における工学教育のカリキュラムを広い視野か
ら見直すために、懇談会のもとに実務と原案を作成するために「工学教育におけるコア・カリ
キュラムに関する検討委員会」が設置され、3年間にわたる議論を開始した。
平成8年度には3回の委員会を開催すると共に、工学教育におけるコア・カリキュラムに関
する基本理念の検討を進めるための準備として、欧米における工学教育に関する文献の収集と
その翻訳、さらには8大学工学部におけるカリキュラムの現状の調査を行った。
平成9年度に入ってから日本における工学教育に関するより幅の広い議論を進めるために、
委員会の構成員の枠を8大学の外に広げ、他の国立大学、公立大学、および私立大学に参加を
呼びかけると共に、委員会の名称を「工学における教育プログラムに関する検討委員会」と改
めた。平成9年度には4回の検討委員会が開催された。さらに、委員会内に、「工学教育プロ
グラム分科会」、「工学教育システム分科会」、「工学教育プログラム評価分科会」の3分科
会を設置し、それぞれの具体的な内容に関する議論を始めた。同時に外国の大学における工学
教育に関する実情調査を実施し、また、全国の工学系大学における工学教育に関するアンケー
ト調査を実施した。アウトカムズ・アセスメントを中心議題として、工学教育に関する非公開
および公開シンポジウムを開催した。
本検討委員会は極めて広い範囲の調査を短期間に進めなければならないために、内容は不備
な点も多いが、委員会の活動の内容をできる限り早い時期に順次公開することも委員会の重要
な使命であるので、8大学工学部長懇談会への報告として「工学における教育プログラムに関
する検討委員会」―報告 (第一∼第三分冊)として纏めた。本報告書はその内、一般に公表でき
る部分について抜粋したものである。本報告書が今後急速に進むと考えられるわが国の工学部
における教育プログラムの検討の為の基礎資料として役立つことが出来れば幸いである。
なお、本検討委員会の活動を行うにあたっては、文部省、8大学および関連大学工学部の関
係者の方々に多大のご支援・ご協力をいただいた。厚く御礼申し上げる。
平成10年11月
検討委員会委員長
名古屋大学 山本 尚
Ⅰ.シンポジウム報告
目 次
クローズド・シンポジウム
オープン・シンポジウム
パネルディスカッション
資料
クローズド・シンポジウム
クローズド・シンポジウム | 25
クローズド・シンポジウム
クローズド・シンポジウム(
・シンポジウム(2 月 20 日)
司 会: 時間になりましたので、「工学における教育プログラム・シンポジウム」のクローズド・シ
ンポジウムを開催したいと思います。
私は名古屋大学の八田と申します。議長が決まるまで司会をさせていただきます。
はじめに名古屋大学工学研究科長の稲垣先生からごあいさつをいただきたいと思います。よろしくお
願いします。
稲 垣: それでは一言ごあいさつ申し上げます。
私は名古屋大学の工学研究科長を務めさせていただいております稲垣でございます。
工学における教育プログラムに関する検討委員会はこの 1 年間精力的に、国内外に関するご検討を積
み重ねていただいてきております。また、いろいろ調査も実施していただいているわけです。心から厚
く感謝申し上げます。
また、本日は学年末でお忙しい中、また足元の悪い中、お集まりいただきましてありがとうございま
した。
本日はローズハルマン工科大学の副学長でいらっしゃいますグローリア・ロジャーズ先生、それから
スタンフォード大学副学生部長でいらっしゃいますジョン・コール・ブラブマン先生、遠くアメリカか
らおいでいただきまして、本シンポジウムに参加いただけること、大変ありがたく存じている次第でご
ざいます。
この両先生には、名古屋大学の架谷先生、河本先生が調査旅行され、いろいろお話を伺い、大変参考
になるお話を伺いました。今回は来日いただいて、ご議論を深めていただく機会を持つことができ、大
変うれしく存じております。
やはりアメリカと日本、それぞれ特殊性があろうかと存じますが、一方では工学の教育全般に通じる
共通性、あるいは一般性というものもあるかと存ずる次第です。
本日は両先生のお話を伺いながら、また先生方からご議論いただいて、日米の各々の状況の情報を交
換し、理解を深めながら、工学における教育プログラムのあり方についてご検討を深めていただければ
幸いと存ずる次第でございます。どうぞよろしくお願いを申し上げます。
司 会: どうもありがとうございました。
それでは議長を決めさせていただきたいと思います。どなたか推薦いただける方ございますでしょう
か。
稲 垣: ご推薦申し上げてよろしいで
すか。
今まで検討委員会のとりまとめをして
いただいております山本教授にお願いし
たらいかがかと思いますが、よろしゅう
ございましょうか。(拍手)
司 会: どうもありがとうございまし
た。
稲 垣: どうぞよろしくお願いします。
司 会: では、山本先生お願いします。
山 本(議長): それではご指名でご
ざいますので、議長を務めさせていただ
26 | 工学教育の現状と将来
きます。
本日はクローズドシンポジウムであります。忌憚のないインフォーマルなご議論をいただけるものと
期待しております。
アメリカから来られたお二人の先生につきましてはすでに稲垣研究科長がご紹介されましたので、そ
れ以外の参加者をご紹介させていただきたいと思います。
それでは北海道大学から順にご紹介させていただきます。北海道大学の岸浪教授でいらっしゃいます。
東北大学の柳沢教授でいらっしゃいます。東大の中島教授でいらっしゃいます。東工大の水谷教授でい
らっしゃいます。九州大学の平川教授でいらっしゃいます。大阪大学工学部松井教授でいらっしゃいま
す。大阪大学基礎工学部の都倉教授でいらっしゃいます。大阪府立大学の中原教授でいらっしゃいます。
金沢工業大学の安田教授でいらっしゃいます。名古屋大学の山内教授でいらっしゃいます。高木教授で
いらっしゃいます。八田教授でいらっしゃいます。河本教授です。以上が本日の参加者でございます。
フォーマルなことはこれで終わりで、後は自由な雰囲気でディスカッションをしていただきたいと思
います。既に委員の先生方には、何か質問事項をお考えいただくようにお願いをしておきました。それ
でお手元の「クローズドシンポジウム質問事項」をごらん下さい。1 から 13 の質問事項がございます。
これのうちの 1 つでもよろしいですし、あるいは全く今お考えになられた質問事項でもよろしゅうござ
いますので、ご自由にご質問いただけるとありがたいと思っております。
私どもは 3 つの分科会でこの議論を進めております。教育プログラム分科会、教育システム分科会、
それから教育評価分科会であります。まずそれぞれの分科会から質問をいただくことからはじめさせて
いただきます。
まず教育プログラム分科会から始めます。
金沢工業大学の安田先生、お話をいただけますか。
安 田: 私は教育プログラム分科会を代表してまいりましたので、一応この準備をしました中から最
初に質問させていただきたいと思います。Q1
1 番目の問題は、これは委員長がぜひお聞きしたいとおっしゃっていたと思います。
それは語学教育の問題です。最近の日本の学生はきちんとした日本語を使えないという問題意識が私
どもにあります。そのことと関連いたしまして、日本では必要な外国語は英語が一番大事ですが、外国
Qu1 語学教育について(Language education: mother and foreign language)
最近の学生は日本語で改まった表現ができず,たとえば学会発表の際に,指導教官が言葉使いから教える必要
があります.さらに自己の考えをを効果的に表現することが伝統的に日本人は下手とされています.米国では
Presentation の特別な教育が行なわれているとのことですが,実態(教師,教育法)はどのようなものででょうか.
日本では第1外国語は英語ですが,第2外国語の履修を課すのが(ただし,最近要求単位数は減少している).
工学では特殊な分野と除き,英語が世界共通語となっており,道具としての外国語は英語のみでよいと言えます.
しかし,外国語は異文化の理解に必要であり教養として必要であるとの意見が工学部内でもあります.米国では
外国語の勉強をどのように捉えておられますか.また,外国語教育が必要であるとして,reading, writing 以外に
hearing, speaking の能力が重要であると認識されてますか.
****
In recent years in Japan, it seems as though some students are not capable of expressing themselves in formal language. In
some cases, for example, advisers need to provide instructions on the proper use of language at the time of making
presentations at academic meetings. It has been considered that Japanese are rather poor in expressing one's thoughts
effectively. I hear that special education is provided in presentation in the universities in the United States. Who teaches
them and what are the methods involved?
In Japan, primary foreign language taught at schools is English and secondary foreign language is taught at college level,
although the number of required credits in the second foreign language is decreasing. In engineering fields, however,
excluding special fields, English is considered the common language throughout the world. Therefore, as a tool, acquisition of
English language skill is considered sufficient. However, some faculties in the engineering department has opinions as to
foreign language being the tool for understanding foreign cultures and knowledge as one's common sense. What are the
opinions about teaching foreign languages at college level in the United States? In this regard, is importance placed on
listening comprehension and speaking capabilities in addition to reading and writing.
クローズド・シンポジウム | 27
語を語学として教えるというよりは、バックグラウンドの文化を理解する、つまり諸外国の文化を理解
するという面があります。工学の分野の道具としては英語で十分だというふうに考えられますが、アメ
リカでは外国語をどのようにとらえておられるのか、つまり母国語としての英語をどう教えておられる
のかということと、外国語として英語以外のものをどのように位置づけて教えておられるかということ
を最初にお聞きしたいと思います。
ブラブマン: こんにちは。本日は、
日本に招いてくださってありがとうご
ざいます。
この会議が始まります 1 時間ぐらい
前に議長といろいろ話をしておりまし
て、いただいた質問は非常に幅も広い
し、難しい質問ばかりで、1 つの質問
を答えるのに何日もかけることすらあ
るのではないかと言っておりました。
アメリカでも皆さん方と全く同じで
ありまして、学生がちゃんとした英語
を書いたり読んだりする平均的な能力
についてかなり心配や懸念が幅広く広
がってきております。このように国語、つまり英語の平均能力が落ちているということが非常に心配さ
れていますが、この問題が起こってきたのは、1960 年代の後半から 70 年代の初めにかけてのことです。
特に中等教育を見ると、学生たちは英語そのものではなくて、どちらかというと文学の方をより好んで
勉強するようになっている。また一方では学校教育の中でもちゃんとした文法の規則をきちんと教えら
れていないという状況にあります。
確かにスタンフォード大学は、幸いなことにアメリカの中でも最も優れた学生が集まる大学として知
られております。しかしながらそれでもなお入ってくる学生の 2 分の 1 近くは、特に書く能力が抜群だ
というわけではない学生が入ってきます。そこで 1 年生のときに、ちゃんとした英語を書くことができ
るようにということで、英語を書くコースが設けられておりますが、学生の中で一番人気のないコース
です。
それからもう 1 つ私達が疑問に思っているのは、これまで大学に入ってくる前の段階で、既に 5 年間、
10 年間と書く能力が欠如してきたわけです。それを大学に入ってから 20 週間かそこらで取り戻すこと
ができるのかということは極めて疑問でありまして、こういった基礎的なきちんと書く力というのは、
もっと前の段階で、初等教育、中等教育といったところの学校教育でやるべきだと思っております。そ
れについても懸念が高まっています。
それから人の前でスピーチをする、パブリックスピーチについてはさらに問題が深刻であり、学生は
大学に入ってくる前にちゃんと人前でしゃべることを学ぶチャンスもなければ、学ばなくてはいけない
というようなニーズも感じたことがないままで入学してきます。
スタンフォード大学でもこの問題に対処するための新たなプログラムを導入し始めています。しかし、
外国語を教えることに関しては、アメリカ国内でも大きく意見が分かれており、当然スタンフォード大
学でも同じように意見にわかれております。外国語をどう取り扱うかという問題は教育の目的の基本的
なところに立ち返る問題ではないかというふうに思います。これは教育機関すべて、スタンフォードを
含めて言えることです。スタンフォードで学んで、十分な教養を身につけた人間として卒業していくの
か、それとも専門職としての能力を身につける、つまり、大学院に行くということがスタンフォードの
目的なのか、この 2 つの中から選んでいかなくてはなりません。
そして多くの人は、スタンフォードを卒業するということは、専攻がなんであったとしても、教養を
十分に身につけた、そして全般的に全人的に成長した人間として卒業していくべきであるというふうに
28 | 工学教育の現状と将来
考える人が増えております。この中には当然外国語の教育も含まれるでしょう。
2 年前からスタンフォード大学におきましては、外国語を必須にしております。少なくとも大学で 1
年間の外国語の教育を受けていなければならないということに決めました。3 分の 1 の学生はすでに高
校で外国語を勉強しておりますので、既にその条件を満たして入ってきます。しかし残りの 3 分の 2 の
学生については、まだ外国語を勉強したことがないので、スタンフォードに入学してから 1 年間外国語
の教育を受けます。
ロジャーズ:
私から付け加えますと、文化を教えるための媒体としての言語、あるいは言語教育は、アメリカの国
語教育である英語教育においては全く文化的な側面が欠如していると思います。外国語教育においても
そうであろうと思います。
そしてアメリカの工学部の学生は、ライティングのコースをなんとしても免れたいと、天才的ないろ
いろな方法を編み出しております。外国語を 4 年間学ぶと、ライティングのコースの方は免除になると
いう規則になっており、そのために 4 年間外国語を学ぶ。そしてライティングの方は何とかして逃れよ
うという傾向があります。典型的な工学部の学生の例です。
それから工学を専攻する学生に対しては、技術的なことについてちゃんと意志疎通をすることができ
る、コミュニケーション能力を高めるためのコースを提供していく必要があると考えております。技術
のことは全くわからない素人の、一般の人に対して、技術の基本的な原則とか、技術の概念をちゃんと
伝えられる能力が必要だと考えます。
議 長:
それではただいまのお答えに対して、どなたか御意見をいただけますか。
都 倉: 英語の教育ですが、アメリカのクリントン大統領は 1 万 6 千語操れる。要するに何語操れる
かというのがひとつの英語能力の目安だと聞いたんですけど、今目指しておられるのはどの程度のもの
なんでしょうか。
ブラブマン: 10 語です。(笑)
冗談はさておき、もう 1 つ冗談になってしまうかもしれませんが、大学生が普通友達としゃべるボキ
ャブラリーは非常に限られた数のボキャブラリーで意志疎通を図っているようです。
シェークスピアはその戯曲の中で 8 千語しか使っておりません。
私はボキャブラリーの数についてのエキスパートではないのでざっとしか言えませんが、十分に教育
を受けたアメリカ人ですと、いつもすぐに使える言葉は 2 万 5 千語から 2 万 8 千語はあると思います。
ローズハルマン工科大学であるとか、スタンフォード大学に来るような質の高い学生は非常にたくさん
のボキャブラリーを持っている学生と言えましょう。ただ、頭の中に言葉はたくさん詰まっていても、
実際に使えるかということになると話は違います。非常に質の高い論文などを書く能力で、あるいは実
際に口頭で自分の言いたいことを述べる際に、頭の中にある言葉をちゃんと十分使いこなせるかという
ことを考えますと、そのスキルについてはまだ学生たちは十分に開発し切れていないと思います。
議 長: 非常に具体的なお答えをいただいたと思います。
安 田: 1 年生のときに英語を書くコースが人気がないという話が出ましたけれども、それはなぜそ
うなっているのですか。
ブラブマン: 必須だからです。これはもう正直に申し上げて、多分必須で無理やりやらされるからだ
と思います。アメリカの学生で特にスタンフォードまでやって来るような学生は、もともと非常に頭が
良いわけで、人に何か言われてやるのはいやである。これはもう厳然たる事実です。
しかし卒業後の学生の言葉を聞くと、若干勇気づけられることがあります。これが私はこれからの希
望の兆しではないかと思うんですけれども、スタンフォードを卒業して、そして現実の社会に入ってか
ら、学生が私のところに戻って来て、「あのライティングのコースをとらせてくれて本当にありがとう
ございました」というふうに言ってきます。実際の社会に入ってみると、いかにそのコースが重要であ
るかということがわかってそう言うんだと思います。
クローズド・シンポジウム | 29
ロジャーズ: 確かに大学には必須の科目がたくさんあります。そして学生がどうしてそういったコー
スがきらいか、反感を覚えるかといいますと、やはり時間がかかるからです。ライティングのコースは
他のコースに較べて非常に要求の厳しいコースで、18 歳、19 歳の学生にとっては自分たちが卒業して、
将来英語、母国語の能力がいかに重要性を帯びてくるかということがまだその段階ではわからないのだ
と思います。学生は微分方程式であるとか、数学であるとか、そういった学問的なことの重要性はわか
りますが、母国語の能力ということになると、まだ若い学生にはわからないみたいです。
中 島: 入学試験で必要な語学力とか表現力を調べて評価することはしてないんでしょうか。スタン
フォード大学のように優秀な学生が集まるところでは入学の段階で十分評価できるような気がいたしま
すが。
ブラブマン: それは英語でしょうか、それとも外国語でしょうか。
中 島: 英語です。
ブラブマン: まずスタンフォード大学には入学試験がありません。確かに入学のための基準を決める
ものはありますが、正式の入学試験はスタンフォード大学にはありませんで、全国的に高校生が受ける
Scholastic Aptitude Test(SAT)試験を受けて入ってきます。
ロジャーズ: もう 1 つ付け加えますと、ローズハルマン工科大学におきましては、昨年初めて数学の
点数よりも英語の点数の方がよい学生がたくさん入ってきました。しかしながら学生のライティングコ
ースに対する態度というのは全然変わりません。というのは、試験は英語の試験、母国語ですが、基本
的にはボキャブラリーの試験だったからです。
ブラブマン: それから言語と言語が表象するものに関して、それがいかに重要であるかを示す興味深
いデータがあります。学生が大学院に入る前に Graduate Record Exam(GRE)というテストを受けます。
これも言葉の能力と数学の能力の両方を見る試験です。
そこで興味深い結果が得られました。学生が大学院で勉強いたしまして、5∼6 年たつと Ph.D.を取得
いたします。その段階で大学の教官の先生方がその学生の評価を行い、その学生の質はこれぐらいであ
ると評価したとしましょう。それと GRE のテストと相関関係があるんですけれども、実は学生の質の
高さと相関関係があるのは、言語能力の方の GRE テストのスコアであって、数学の GRE テストのスコ
アとは全く相関関係がなかったというデータになっております。しかも工学部の学生についての結果で
す。
したがいましてスタンフォードが学部学生を受け入れる際、いろいろな評価基準がありますが、SAT
については言語能力の方の点数を 2 倍して、そして数学の方のテストのスコアはそのままで合計いたし
まして、その総点でもって評価することにしました。その方がスタンフォードに入ってからの学生の成
功の度合いに、より良い相関関係があるということがわかったわけで、それは学部にかかわらず同じこ
とが言えます。
議 長: 非常におもしろいお話をいただきました。次に工学教育システム分科会から何かご質問いた
だけませんでしょうか。
都 倉: 先ほどブラブマン先生から、スタンフォードはエンジニアであっても全人的に非常に教養の
高い学生を育てたいというお話を伺い、非常に感銘を受けたんですが、私の質問は 9 番に移りたいと思
います。Qu
Qu9 NSFの action agenda では,将来の技術者に求められる属性として,いろいろあげて,新しい教育,
teaching−centerd から learning-centered への転換などをもとめている.これまでは,どういう技術者を育てよ
うとしていたのか.どこが変わったのか?
NSFでは、組織的な技術教育改革を計画している。以下はその活動計画の一部である。
「技術者として成功するための条件は、次第に厳しくなってきている。技術的な能力はもちろん、コミュニケー
ション能力や説得力、またチームで作業する場合の指導力や協調性も必要とされる。それに加えて技術以外の分
野における理解も、技術的な決定を下す際に大きく影響する。生涯教育に対する強い決意も必要である。」
「従来のような講義を中心とした授業では、こうした能力を身につけるのは難しい。したがって技術教育に新し
い枠組みが必要になる。ここで新しい枠組みの特徴をあげると、実験やプロジェクトを基本とする参加型の学習、
30 | 工学教育の現状と将来
9 番では NSF のアクションアジェンダに、これから将来の技術者に求められるアトリビュートがいろ
いろ挙げてあります。これについて、どういう技術者をこれから育てようとしているのかというのはそ
れでわかるんですが、それ以前はどうであったのか、何が変わったのか。そしてこの新しい技術者像に
ついて、これは大学関係者全員が同調しているのだろうかということをお尋ねしたいんですが。
ブラブマン: 質の高いエンジニアについて、特に学部、バチェラーの段階においては求められる属性
についてのコンセンサスは得られておりません。
スタンフォード大学の工学部の学生は、他のトップクラスの工学部の学生と自分たちは違っていると
いうふうに認識しております。というのはスタンフォード大学の場合、特別な試験とか、条件をつける
ことなく、工学部に入ることができます。
したがいましてスタンフォードを卒業する学生は、general education requirement、一般の教育の要求事
項を満たしていかなくてはならないわけで、これは工学以外のノンテクニカルな教養のためです。
しかし学部段階で、工学部の学生がとらなくてはならないコースの数は、工学系のコースの方が工学
以外のノンテクニカルな、歴史であるとか、国語、英語であるとかそういったものと比べて、数が非常
に多くなっております。したがって一般教養のためのノンテクニカルなコースを取らなくてはならない
負担が、工学部の学部学生にとって重くなってしまう。これが工学部学生には問題であります。
確かに質の高いエンジニアの定義では、教官は言葉だけではそれでいいと考えて、見ているかもしれ
ません。しかしながら実際のコースの設計になった場合、あるいはカリキュラムを実際につくっていく
段階になりますと、なかなか今ぎっしりあるコースの中に、これまで伝統的には工学部のコースでなか
ったものを新たに付け加えるだけの余裕がありません。
例えばチームワークはどういうふうにして教えたらよいのか、あるいはチームとして働くことがちゃ
んとできるようにするための教え方というのは、どういうふうなものなのかということも十分明らかに
なっていないのが問題です。
これがローズハルマン工科大学とスタンフォード大学の間の違いにもなっているかと思いますが、ス
タンフォードの大学職員は、教授陣は、もともと自分の研究分野で優れた評価を得ているがために、自
分はスタンフォードで働く機会を得ているのだと自負しています。したがってスタンフォードの教官の
関心事は基本的には研究にあります。
したがってここに書かれているようなもの、つまり伝統的にはやっていなかったようなコースを付け
加えたがために自分の領域が侵されるのではないか。そして自分の影響力の及ぶ範囲がだんだんと少な
くなってしまうのではないかと、そういうことは全くリサーチ中心の教官は求めないことです。それは
今アメリカでも非常に活発に議論されています。特に国公立・私立を問わず、大規模な研究大学と呼ば
れているところでは、このような議論が盛んに行われています。
学習内容の専門分野内外での統合、技術の応用段階における数学的・科学的要素の導入、産業界との緊密な相互
関係、情報テクノロジーの積極的な活用、若い技術者に指導ができるような人材の養成、などである。」
NSFの活動計画が実施される前には、技術者の特性とはどのようなものだったのか? 具体的に何が変わった
のか? こうした変化に対しては、アメリカの大学関係者全員が同調しているのだろうか?
****
We can read the folloiwing passeges in the action agenda for systematic Engineering Education Reform of
NSF.
"success as an engineer increasingly requires, in addition to strong technical capability, skills in
communication and pursuation, ability to lead and work effectively as a member of a team, understanding
of the non-technical forcesthat profoundly affect engineering decisions, and a comittment to lifelong learning"
"acquiring such charcteristics is unlikely with traditional, lecture-based instruction. A new engineering
education paradigm is needed, characterized by active, project based learning; horizontal and vertical integration of subject matter; introduction of mathematical and scientific concepts in the context of
applications; close interaction with industry; broad use of information technology; and a faculty deveted to
developping emerging professionals as mentors and coaches.
What was the attributes of Engineers before this Action agenda?
What are differences? Is this consensus of all American university people?
クローズド・シンポジウム | 31
そして実際企業が学生を雇うときの行動も問題かと思います。企業の方からの話を聞きますと、ここ
に書かれているような資質を持った学生がほしいと口では言います。しかし現に雇うという段階になり
ますと、企業はまずテクニカルな分野での学生の成績を見て、それで順番をつけて、成績のいい生徒か
らとっていきます。
もう 1 点は、スタンフォードであれ、工学系の他の大学であれ、今は工学系の学生が売り手市場であ
り、卒業さえすれば簡単に仕事を手に入れることができます。脈拍さえちゃんと打っていれば仕事に就
くことができるぐらいです。
ロジャーズ: そしてもう 1 つ付け加えますと、新しい工学教育のクライテリアであります ABET
2000 というイニシアチブをそもそも支援していくために、この NSF のアクションアジェンダはつくら
れたんです。
実は現在は NSF 役員で、この新しい NSF のアクションアジェンダをつくり、そしてその資金を獲得
するためにロビー活動を盛んにやっていた人は、4 年前に ABET の代表理事として、この ABET のプロ
セスを開始した人でもあります。したがってここに書かれている NSF のアクションアジェンダのエンジ
ニアの特性は、当然新しい ABET のクライテリアとよく一致しています。
そもそも NSF は工学教育のプログラムの中において、このようなスキルを学生に持たせようとしてい
るような新しい革新的なアプローチを探り、模索し、またそれを実現しようとしているような大学に資
金を与えたいと考えて、この NSF のアクションアジェンダができました。
したがって、これからこの新しいアジェンダに基づいていろいろな提案が出されて、実際に資金を得
ていくプログラムは積極的学習法(アクティブ・ラーニング)を取り入れたものであり、またアウトカ
ムを中心にした評価制度を取り入れたものであり、またプロジェクトに基づいた学習であるとか、革新
的な考え方を持った提案が資金を得ていくと思います。
これまでにそれがなかったわけではありませんが、もっと幅広く広がっていくはずです。
議 長: 何かご質問がございますか。
平 川: 新しい ABET2000 に変わりますね。以前スタンフォードの先生に前の ABET のことについて
評判をお聞きしたら、大多数の先生が「ABET なんてタイム・コンシューミングだ」というお話をされ
ていました。2000 になったら、今度は賛成なんでしょうか。
ブラブマン: ABET2000 というのは 2000 年になって使えるようになるものであります。そして新しい
クライテリアのもとに、アクレディテーションを求めていくことになるだろう、と私は考えております。
すでにスタンフォードにおいても、5 つの工学系のプログラムがアクレディテーションを受けておりま
す。今度は ABET2000 のもと、改めて多くのプログラム、あるいはほとんどすべて全部のプログラムが
この新しいシステムのもと、アクレディテーションを求めていくことになるだろうと思っています。
ただ大学教授陣の ABET に対する考え方、あるいはアクレディテーションに対する考え方というのは、
これまでと何ら変わらないでしょう。
なぜ大学教授陣がこのアクレディテーションなり、ABET に対して反対の意見を持っているのかとい
うことを説明しますと、また非常に長い答えになってしまいますが、このアクレディテーションそのも
のがきわめて誤解されやすいものであることも、1 つの原因ではないかと思います。正しく理解して反
対している人もいるし、あるいは間違って理解して、それで反対している人もいます。
もう一つマイナスの要因としては、スタンフォードにしても、MIT にしても、カリフォルニア大学バ
ークレー校にしても、こういった大規模な研究大学と言われているところの教官は非常に才能がありま
す。そして非常に誇り高い人々です。また同時に傲慢でもあります。したがって外から来たやからが、
「こうすれば先生方の仕事がもっとうまくできるようになりますよ」と言えるはずがない、と思ってい
る人たちです。
しかしながら、今申し上げましたような特徴を持った教官が、まさにスタンフォード大学を偉大な大
学にしているわけです。才能があって、そして誇り高くて、ときどきは傲慢である。このようなメンバ
ーがいなければ、スタンフォード大学は今日の大学にはなり得ていません。
32 | 工学教育の現状と将来
それからもう一つ、ABET2000 からやって来る査察の人たちの大多数は、私たちの経験によりますと、
スタンフォードでどのような形で教育が行われているのかということを全く理解することのできない人
たちが来ます。そしてまた、ABET から訪問することによって、スタンフォードの大学教育に対して何
等付加価値を与えることもできない人たちが来ます。
そして、これは昔の ABET のクライテリアがこういうふうになっていたから、しかたがないというと
ころもあるかもしれませんが、過去の ABET の査察はきわめて官僚的で、そして細かいルールに基づい
て重箱の隅をつつくようなやり方でした。
しかも ABET から訪問してくる人たちは、スタンフォードにおける微積の教え方と、他の教育機関に
おける微積の教え方というものの差が全くわからない人たちが来ていました。そんなこともわからない
で評価の仕事をされてしまうということ自体が、スタンフォードの教授陣にとってはまったく受け入れ
難い。そういったクライテリアで判断されることが受け入れ難いというふうに感じられました。
したがって今度新しい ABET のクライテリアになることによって、実際面でも今のような評価様式か
らは脱却してほしいというふうに思いますし、脱却すべきであると考えます。しかし本当にそうなるか
どうかというのは、これから将来証明されていくことで、実際訪問チームの中にだれがいるかによって
個人差があります。
山 内: 今のお話を伺いますと、アクレディテーションのエバリュエイターの資質というのが非常に
大きな問題になると思うのですが、アメリカではそういう人たちの訓練を行っておられるのでしょうか。
それから、どのような方法でもってそのエバリュエイターを選出しているのでしょうか。
ロジャーズ: ABET は 21 の専門的な協会から成り立っております。その中には大学の教授陣の人もメ
ンバーになっているし、企業の人もいます。
そして以前はそれぞれの専門の協会、例えばアメリカ機械工学会だったらアメリカ機械工学会が自分
のところから送り出す評価者の訓練を行っておりました。そのチームの中に機械工学会の人がいて、そ
の人がどこかの大学のキャンパスを訪れて、工学系のプログラムを見るということであれば、その学会
で訓練をしていました。
それは古いシステムではうまくいきました。以前のシステムは基本的には学生の数を数える、教授の
数を数える、提供されているコースの数を数えるということで、定量化された数字がもとになったシス
テムでありました。そして、この数字に基づいている限りは、いろいろな専門協会毎の一貫性も保つこ
とができました。
ところが今度、新しくすべての ABET の活動を監督する機関として、工学アクレディテーション委員
会というのが設立されまして、共同でこの ABET にかかわるエベリュエイターの人たちを訓練するよう
になりました。
大きな傘となる組織ができてうまくいっているかと言うと、今のところまだ大成功とまではいってい
ません。今でもなおそれぞれの協会が業界毎にエバリュエイターの訓練、教育をしております。ただ、
以前よりは工学アクレディテーション委員会が全体の調整役をするという利点は出てきています。
先ほどブラブマン先生の方からおっしゃった点を私も心配しております。特にアウトカムの評価をす
るときに、エバリュエイターが実際の工学部のプログラムで行われているプロセスについて、ちゃんと
評価する準備ができていないのに評価者 (エバリュエイター) として来ている場合があります。
私がここ数週間、ABET の担当者といろいろ意志疎通を図っているのですが、現在 ABET では全米ワ
ークショップを計画しているそうです。これはキャンパスで、あるいはエバリュエイターがよりアウト
カムの評価をちゃんとすることができるように訓練をするためのワークショップと聞いています。
議 長: システムの話から評価の話に移ってしまいましたが、水谷先生、何か評価分科会の方からご
質問をいただけますか。
水 谷: それでは、この 5 番あるいは 6 番に関連して。今 5 番の理由をお話ししていただきました。
クローズド・シンポジウム | 33
6 番に関連してアセスメントのご質問をしたいと思います。Qu5Qu6
日本には大学基準協会があって、一応民間団体として大学をいろいろな角度から評価しておりますけ
れども、実際に具体的に工学教育についての評価をやるということは今までほとんど行われていなかっ
たわけです。これからこの評価を考えるときに、多分日本の大学の先生も今のブラブマン先生と同じよ
うに、こういうことをやっても非常に苦労が多くて、得るべきものが少ないだろうというふうに思うだ
ろう、と心配しております。
アメリカにおいては、こういうことに協力することによって、先生方が、どのようなメリットがある
のか、またモチベーションがどんなものかを聞きたいと思っています。
また、それと併せて『USA ニュース』でも大学のランキングを付けておりまして、どの大学もそのラ
ンキングにはかなり神経質になっているようにも思います。そういうものに対する先生方のモチベーシ
ョンといいますか、自分の仕事、自分の教育とのつながりをどう捉えているのかをお聞きしたいと思い
ます。
ブラブマン: 正直に答えるのは全然問題ないのですが。本当に正直に言わせてもらえば、避けて通れ
るものであれば、できるだけ避けて通りたいということになるかもしれません。
私はこれまで教育と研究とでいろいろなことをやってきましたが、非常にたくさんのフラストレーシ
ョンも同時に抱え込んでおります。
私はこれまで学生のためにスタンフォードで努力を傾けてきました。学生が教育を受けることによっ
て、受ける教育の価値をどういうふうにして高めることができるのか、ということを考えて仕事をして
きました。そして我々が特に大学の学部レベルでやっている教育を評価してみれば、やはり学部教育は
もっと改善の余地があると思います。
例えばスタンフォードの工学教育の学部は、私はもっと改善の余地がある。もし学部レベルで工学教
育を受けたいのであれば、スタンフォード以外のところへ行った方が、もっとよい学部レベルの工学教
育を受けられるだろうと思います。これはここだから言えるので、私はアメリカで堂々とこれをいつも
言っているわけではありません。
もともとスタンフォード大学というのは全米でも最も優れた学生が集まってきます。その中でもさら
に一握りの、非常にやる気のある、動機づけのされた学生、ベストの学生、そういった人たちであれば
スタンフォード大学のような研究大学の学部に来ても十分にベネフィットはあると思います。別に賢け
ればよいというのではなくて、十分に動機づけがあって、自分でやる気がある学生であれば、スタンフ
ォードのような研究大学の学部レベルでも得るところはあるでしょう。
しかしやる気のない学生、それ以外の学生は、恐らく他の大学に行った方がうまくいくでしょう。
アクレディテーションを受けてみて、そこで得られた結果というものと、それにかかったコストと時
間というのを比べてみますと、やはり時間だけの価値はなかった。これだけのお金を使った価値はなか
Qu5 ABETのアクレディテーションを導入した場合に、どのような利点あるいは欠点があるのか。スタンフ
ォード大学では、ABET導入に対して消極的だというが、その理由は何か。一方、ローズ・ハルマン工科大学
ではABET2000に好意的だという。この点についてどう考えるか。
****
What do you think the merit and/or demerit of the ABET accreditation to your programs?
We are told that Stanford University is cool toward ABET. We would like to know the reason.
On the contrary, Rose-Hulman Institute of Technology is very positive to the ABET 2000. Please tell us your standpoint. Qu6 日本で,ABETのようなアクレディテーションをするとしても,大学側のメリットが見えなければ,そ
れを受けようとしないと思われる.日本でアクレディテーションシステムが立ち上がるためには,どのような方
策が考えられるか.
****
In Japan,debates on accreditation are becoming hot. However, if thereis no merit to programs, no university will not
be accredited. Can you suggest any good policy or methods to get it running?
34 | 工学教育の現状と将来
った、というのが正直なところです。
確かにこのような外圧が存在するということ、あるいは外圧があるぞということを見せること。これ
によって大学教育が若干改善することになるかもしれません。
しかしながらスタンフォード大学のような大学の工学部の学部レベルの教育を改善していくためには、
これまで以上の幅広い意味で捉えた教育により高い関心を持つ。そして幅広い教育のスキルを持つ。そ
して幅広い教育を実践することのできる能力を持った先生を雇うということが、改善の鍵を握っている
と思います。
特に最近 10 年間、大学の職員、教授陣を雇用するときには、より幅広い教育の観点をめざして判断
しています。
よく学生や親がスタンフォードの教育に不満を持って、文句を言って来ます。そのときに、私はいつ
もこのように説明をしています。「スタンフォードで学位を獲得したその価値は、スタンフォード大学
の価値に一致するものである。スタンフォードという大学はすばらしい大学であるからこそ、そこで獲
得した学位は価値を持つのだ」というふうに言っております。
そして、そのスタンフォード大学の卒業証明書があれば、それが実際現実的なベネフィットとなって
返ってくるのだということです。だからといって、学部レベルの教育がうまくいっていない、様々な教
官の犯した過ちをここで言い訳しようとしているわけではありません。
しかし現在スタンフォード大学を卒業した学生の持っている卒業証明書、学位の持っている価値は、
スタンフォードの大学としての価値を反映したものなのです。それはとりもなおさずスタンフォードの
教官の研究活動がきわめて卓越しているということによるものである、ということを理解してほしいと
思っています。
これを説明しますと、親御さんたちは大体皆さんよくわかって下さいます。特に数字でスタンフォー
ド大学の卒業生の初任給と全米平均の初任給を比べてみると、明らかな違いがあります。
ロジャーズ: アクレディテーションに教官が参加することをどのように動機づけていくかということ
でありますが、まずこのアクレディテーションをすることによって、学生にとって教育が改善されるの
だということを、教授陣が確信を持たくてはなりません。
それからもう一つ、たとえこのアクレディテーションをやったからといって、教官の行っている学問
研究にマイナスにならないのだということも、確信を持ってもらわなければなりません。
この 2 つの条件が満たされなければ、恐らく大学の先生方もこんなものにはかかわりたくない。関心
さえ持たないということになるでしょう。
しかし、私はこれは時間はかかるけれども、非常に重要な試みだと思っております。そういったもの
に関心を持っていただくためには、今申し上げた 2 つの条件が必須です。
確かに、重要な点はアウトカムの評価が一番難しいところだということです。しかし、このアウトカ
ムを評価して初めて、大学の教育を改善する手段が得られます。ABET というのは学部レベルの工学教
育の質を継続的に高めていく試みでありまして、その手段としてアウトカムの評価があります。アウト
カムを定量化することによって、それに基づいて大学教育の変革を行うことができると考えておりまし
て、企業は損益計算書を出しますけれども、教育における損益計算書は企業におけるそれとは異なって
います。
スタンフォードの学部生の方がお困りでしたら、ローズハルマン工科大学でいつでも学生を受け入れ
ます。
議 長: このあたりで 10 分か 15 分ほど休憩にしたいと思います。また少し質問事項をお考えいただ
きたいと思います。3 時 30 分まで休憩にさせていただきます。
− 休 憩 −
議 長: 期待しておりました以上に、私達にとっては貴要な情報を教えていただいています。ただ時
間がたつのも非常に速いので、ぜひ質問事項を精選していただく必要があるかと思います。
後半のセクションに入る前に、明日講演されます架谷先生が 1 つ、2 つお聞きになりたいことがある
クローズド・シンポジウム | 35
ということでございます。
架 谷: それではちょっと時間をいただきます。まずブラブマン先生、ロジャーズ先生、どうもお忙
しいところをわざわざ名古屋までお越しいただきまして、大変ありがとうございます。心より感謝を申
し上げたいと思います。
2 点、私の意見も含めて、ちょっとお伺いしたいと思います。
1 つは今ロジャーズ先生がおっしゃったアウトカムアセスメントです。これはいかなる個人、つまり
一人ひとりの人間にとりましても、いかなる組織にとりましても、アウトカム評価をしながらスパイラ
ルアップしていかない限り、成功の道は絶対にあり得ないのは当然のことだと思います。
しかし個人の場合にはスパイラルアップだけではなくて、スパイラルダウンもありえるわけで、また
組織もプライベートカンパニーのようなものは、ある状況の中でスパイラルダウンしていくということ
もありえるわけです。
しかし、教育は、必然的にスパイラルダウンすることのできないものと私は認識しております。そう
いう意味でスパイラルアップのメカニズムをしっかりとシステムの中に入れていかれようというご努力
に関し、心より敬意を表する次第です。
しかしながら現実の問題となりますと、教育機関のスパイラルアップを組織的に行うということは非
常に難しいことではないかと思います。むしろ現実はそういう組織の中で、個々の学生、あるいは個々
の教官がアウトカムのアセスメントをして自ら磨き上げていくということの方が、実際には現実的に教
育を効果的に行ってゆくことではないか。つまり優れた先生と優れた学生の組み合わせとが、現実的な
答えを私たちに提供してきたと思います。
一方世界的な問題として、我々は非常に複雑な状況の中に今立たされているわけです。
1 つは国と国との間のコンペティションが非常に厳しくなってしまった。協力というよりは、むしろ
何か戦争という手段以外のコンペティションをどうしてもとっていかなければならないために、教育と
いうものが本来人を育てるというところから、戦士を育てるというところへ移っていっているのではな
いか、という基本的な疑問を持っているわけです。
つまり、個人個人によるスパイラルアップのメカニズムを提供するという教育本来の目的から、組織
自らがスパイラルアップしていかなければいけないという、その辺のところの考え方に若干の疑問を感
じざるを得ない。その辺が ABET2000 の最もわかりにくいところだ、と私は個人的に思っているのです。
これは多分非常に答えにくい問題だろうと思いますが、正直な感想を述べていただければ、我々にと
っても大変ありがたいことではないか、というのが私の最初のコメントであり、質問であるわけです。
特にロジャーズ先生に何かお答えいただければ大変ありがたいと思います。ほんの印象だけでも結構
だと思います。
ロジャーズ: これまでのアクレディテーションと今度新しくなったアクレディテーションで 1 つ違う
のは、工学部の教育を通じて、学生にどのようなスキルを獲得させるべきか、ということを具体的に示
しているところだと思います。そこで示している知識の集合体なり、あるいはスキルなりというものが
正しいものであったとすれば、おっしゃるとおりです。正しいとは産業界のニーズに合っている。ある
いは政府がグローバルなレベルで競争していくというニーズに応えるというものとしての、正しいスキ
ルであったならば、という意味です。
しかし産業界で企業が成功するとか、政府がグローバルな競争に勝つニーズと、国際的に大学が学問
の場として卓越するために必要なスキルと知識の集合体というのは、私は違うと思います。
そしてまた、アメリカの工学教育の場において、教官がそういったスキルが何であるかということを
知っているというふうに仮定してしまう、思い込んでしまうのは、私は危険だし、誤っていると思いま
す。また教官がそういったスキルをちゃんと証明することができる形で示せるということも、私は仮説
として持ってはいけないと思います。
なぜならば、そのアクレディテーションの中に書いてあるスキルは非常に幅広い、いろいろな意味に
解釈できるような形で書いてあって、決してそのままでは定量化、評価することのできないものです。
36 | 工学教育の現状と将来
したがって実際に評価していくにあたっては、大学の教授陣が一つひとつそのスキルを定義しながら
やっていかなくてはならない。例えばコミュニケーションスキルとは何なのか。グローバルな理解とは
何なのか。そこにはそう書いてあるけれども、その実際の明確な定義は何なのかということはその教官
の方に委ねられている。これが評価をやっていく上でも非常に大きな挑戦課題になると思います。
ブラブマン: 明日私の発表のタイトルのスライドのところで、名古屋の写真を 3 枚ほど使うことにな
っております。40 時間ほど前に、名古屋市の Web サイトからダウンロードして、スライドを準備した
ときに使っているのですが、明日話の中でも述べますが、これまでこれは誇大広告である、誇大宣伝で
あると考えられたことが、実は過小広告である、逆であるということがわかるはずです。
誇大広告だ、誇大広告だと言っていたのが、実は我々は過小評価していたのではないかという問題に
ついてですが、今先生がおっしゃった質問は非常に深い質問であったというふうに思います。
我々はまだ変化のとっかかりのところしか目にしていない、と指摘しないといけないと思います。こ
れから我々が経験する変化は革命的なものであって、産業革命を超えた、もっと革命的なものになるで
あろうと思っています。
1975 年、トヨタと GM が競争をしましたが、2000 年の IBM と東芝の競争は全く異なった様相を呈す
ることになるだろと予測されます。特に経済がグローバル化して、根本から経済は変わってきておりま
す。製造業も根底から揺るがされています。もともと我々は農業をしていたわけです。そのあと工業を
して、その次の産業というのはいい表現方法がないので、知識産業と呼んでおきますが、このように変
革が起こりますと、これまでの政治なり教育なり、社会の基本的なところであり、すべての面において
伝統的なものが根本から圧倒され、揺るがされることになると思います。
そして、その結果がどうなるのかは、我々は全くわかっておりません。例えばここ 5 年間の金融市場
の変化を見ても、それは明らかだと思います。金融の専門家でさえも衝撃を受けるような、根本的な金
融市場の変化が起っております。
ですから、これは将来の革命的な変化についての誤った誇大広告かもしれませんけれども、もしかす
るとそれは過小評価なのかもしれません。今申し上げた様々なテクノロジー、考え方の変化、そういっ
たものが全部教育にも同じだけの影響力を行使してくることになる。そして、その教育に訪れる変化に
対して、我々は全く何の準備もしていないということが明らかになると思います。
70 年代の後半に GM の作っていた自動車はかなり品質の劣るものでした。当時、GM の人たちはいず
れ日本が競争相手として出てくるなんて思ってもいませんでしたし、また日本の自動車メーカーと競争
することでアメリカの GM の製造の品質が改善されるなんていうことは、全く想像だにしていませんで
した。
しかし結局、日本との競争で GM の車はよくなって、そしてこれは消費者にとっては非常にすばらし
い結果をもたらしました。GM、トヨタにとってそれがいいことだったかどうかはわかりませんが。
いずれにせよ知識経済というものになりますと、知識というのは持ち運びが簡単です。重くありませ
ん。重厚長大の産業の時代の製品と比べて、人を介してどんどん運ばれていくし、またインターネット
を通じて瞬時に交換され、そして後継者に対しても簡単に伝えていくことができるものです。
この知識経済への変化が教育に対しても大きな影響を及ぼす、と私は確信しております。どのような
変化かというのは今はだれにもわからないようなものですが、変化が起こる。大きな波が襲ってくると
いうことだけは確実です。
そこで、今アメリカで心配しているのは、持てる者と持たざる者との間の分断が起こるということで
す。コンピューター技術、コンピューターの扱い方、情報技術というものでまたもう一つ、持てる者と
持たざる者とを分断する 1 つのボーダーラインができてきます。従来の社会における持てる者と持たざ
る者の定義とはまた新たな、異なった形で、これまでとは違った持てる者と持たざる者が出てくる。情
報技術をちゃんと伝えられるか。ノウハウを持っているか。コンピューターをちゃんと取り扱えるかと
いうようなことですが、これが私は社会を持つ人と持たない人を分断する。しかも危険な形で分断する
というふうに予測しています。
クローズド・シンポジウム | 37
架 谷: どうもありがとうございました。
私の感想としては、基本的な認識においては日本の大学の先生方と同じではないかと思います。そう
いう意味で、教育といものを通じていろいろな形で貴重な共同作業をしていくということは、我々人間
全体にとって非常に大切ものがあると思いました。大変ありがとうございました。
それからもう 1 点ですが、これは私の個人的な意見ですが、教育は、自然物としての人間に対する、
ひとつの必要悪だという認識です。
つまり教育は本来、人間の個々人の幸せのためにあるのか、社会を維持発展させるためにあるのかと
いう点から見れば、現実にはやはりその社会の維持発展ということのために存在しているという、そう
いう側面が非常に強い。そういたしますと、個々の人間にとって、それは規制の場であり、競争の場で
あり、場合によっては非常に望ましくない場になるということは、これはある必然ではないかと思いま
す。
そういうときに、私どもがぜひ知らなければいけないのは、教育というのは社会から要請された人工
物であるということをいかに認識をするか、というスタンスだろうと思います。我々の中で一番議論を
されていないのは教育倫理の問題ではないかと思います。つまり我々はどこまでやるべきなのか。何を
やってはいけないのか。そこのきちっとした議論をしておかないと、未来社会に対して大きな間違いを
する可能性があるのではないでしょうか。
これは非常に難しい議論になるかと思いますので、もし何か感想がございましたらお聞かせいただき
たいと思います。特に教育倫理ということについて、何かご議論がある場合にはお話しいただければ幸
いです。日本では、これは実質何も行われていないと言っても過言ではございません。
ロジャーズ: 非常に興味深いコメントをいただいて、大変感謝しております。
アメリカの場合はちょっと事情が違い、過去 40 年ぐらいを振り返りますと、アメリカの教育は歴史
的には、基本的には個人が自分自身の生活をよくするため、自分を改善するためということでやってき
たように思います。学校に行けばお金に困らない。経済状態がよくなるという、基本的には自分のため
のもの。だから自分が自分のためにやる教育であった。したがって、その教育を受けることが社会の改
善につながるというようなことは、特には政府の方からも強調はされなかったと思います。ただ政府は、
教育を受けた人間がいて初めて民主主義を維持することができるとは言っていました。
しかし、いずれにせよアメリカの教育は個人のもの、自分のもので、自分が教育を受けて周りのだれ
かがよくなる、そういったことは観点にはなかっと思いますので、今おっしゃったのとアメリカの現実
とは少し違うように思いました。
ブラブマン: 政府はなぜ公的な資金を使うかと言いますと、公共の善を高めることができる。そのた
めに政府はお金を使うでしょう。そして政府の予算によって、そこから個人が恩恵を受けることができ
れば、私はそれは政府と個人との間のよい取り引きだと思います。
戦後、こういうことが言われています。教育を受けることによって、経済的な状態を改善することが
できる。生活をよくすることができる。この言葉には真実が含まれていると思いますし、また政府が教
育を通じて国家の経済を強化しようとしてきたのだと思います。これは個人レベルではなくて、教育を
受けた人の集団ということを考えますと、逆に教育を受けた人の集団が他の人間を操作してきたという
面もあったと思います。
確かにアメリカは完璧な能力主義社会とは言えないと思いますが、統計によりますと、やはり教育の
チャンスがあるということで、人々は自分の潜在能力に気づくことになりますし、自分は家族に対して、
あるいは社会に対して貢献できるのだということを教育を通じて認識していく過程があると思います。
それによって社会の中の風通しがよくなって、社会の中の混じり具合、動きがよくなって、予測しなか
ったような形で社会に恩恵をもたらした側面はあったでしょう。
でもお金持ちの家に生まれるということは別に悪いことではありません。ただ、お金持ちの家に生ま
れるのとスタンフォードを卒業するのとは、同じぐらい価値のあるものです。
議 長: それではここで又工学教育プログラムに戻って、何かご質問がございますでしょうか。
38 | 工学教育の現状と将来
岸 浪: 工学教育の問題にもう一度戻ってご質問したいんですが、教育のやり方の中には大きく分け
ると 2 つやり方があるのではないかと思います。
1 つはシステマチックな教育方法というのでしょうか、教育の目標とか目的を定めて、それに基づい
て教育方法、組織、あるいはカリキュラム、教育リソースを準備して教育をやるというやり方ですね。
そういうやり方と、もう一つは非常に優秀なイノベイティブな研究者をたくさん集めて、その専門分
野に基づいた教育をやっていく。一般にイノベイティブというのは多分伝統的な技術をできるだけ破壊
しようと言ったらちょっと変ですが、そういうことから言うとトラディショナルな教育方法とは違うの
だろうと思います。
そういう 2 つのやり方のどっちがいい悪いではなくて、何に対してそういう教育方法を使えばいいの
か、というようなことが問題になるのだろうと思います。
例えば日本ではそういう組織的な教育方法を学部教育に使って、大学院教育はむしろ非常に優秀な研
究者による個性的な教育をやればいいと。例えばそういう考えかたがあったとしますと、1 つの大学の
中で 2 つのやり方を同時にやるということは非常に難しいと私は思っておりまして、スタンフォード大
学ではどのようにやっているのか。あるいはローズハルマン工科大学ではどのようにやっているのかを
お聞きしたいと思っております。
ロジャーズ: 私どものローズハルマン工科大学というのは、基本的には学部のみの大学ですので、確
かに教授はそれぞれの分野で Ph.D.を持っている人の集まりではありますが、基本的にその役割は教え
るということにあります。
実際に革新的な研究をしている研究者が実際にいて、それがシステム化された教育にどのようなイン
パクトを与えるかについては、これはブラブマン教授の方からご意見をお伺いしたいと思います。
確かにローズハルマンのようなところでも、イノベーションというのは非常に大きな価値を持ってお
ります。ここでいうイノベーションというのは教育のやり方におけるイノベーションで、革新的な方法
で教育をするということに私たちはイノベーションの価値を見出しています。異なった学問分野を統合
して教育をしたり、あるいは積極的に学生が参加するようなアクティブラーニングを取り入れたり、あ
るいはカリキュラムの構成なり、学生のニーズなどについても、こういった教育の仕方が企業にとって
重要であるというふうにとらえてくれているからこそできることですが、新しい学習的な教育方法をや
っております。
しかしイノベーションをやりますと、教授陣の間でも不均衡が出てきます。私たちはこの 3∼4 年ぐ
らいの時間をかけまして、伝統的な 1 年生に対する工学教育のやり方というのをどんどん革新的なもの
に変えてきました。学部、工学教育のコアとなるところで統合化であるとか、様々な革新をやってきた
わけですが、しかしそのためにはかなり教える側でディベートを重ねなくてはなりませんでした。
ブラブマン: スタンフォードのような大学におきましても、特にこれからの学部教育の方向性で、学
部長、学科長、そして学部の代表者の集まり、あるいは委員会で、カリキュラムの改革を常時話し合っ
ています。
そして変化の駆動力の源泉は、確かにこのような地位、立場にある人たちから出てくるものかもしれ
ません。しかしながら現実のスタンフォード大学そのものを変えていこうといたしますと、教授陣全体
が意見の一致を見ないと本当の意味での変化は起こりません。これまでとは異なった新たなものになっ
た現実に対して応えていくための何かの意思決定をした場合、教官全員が全体として意思決定をした場
合には、その結果としてスタンフォード大学は正しければ繁栄することにもなるし、誤っていれば苦し
むことになるでしょう。
確かにスタンフォードは別に完璧だと言ってるわけではありません。しかし将来の成功を確かなもの
にするために、教授の雇い方については極めて気を使っております。確かに教官の数でいいますと、競
合する MIT とかバークレー校と比べますと、スタンフォードは半分ぐらいの大きさしかありません。し
かし極めて生産性が高く、そして優れた能力もあって、イマジネーションにも優れ、想像力に富み、柔
軟な教官を選んできました。したがって MIT よりも 2 倍の Ph.D.の学生を輩出しておりますし、また修
クローズド・シンポジウム | 39
士号にしても全米で 2 位か 3 位ぐらいの数になっていると思います。確かにサイズとしては小さな大学
かもしれませんが、それだけの成果を上げています。
それから学部学生については、入学基準があり、工学部の学生については数をコントロールできるよ
うにしております。現在約 2 割ぐらいでありますが、大体これぐらいのレベルに押さえられています。
正直言いますと、このようにどんどん現実が変化して、新しい現実に直面いたしますと、教官の質を
維持していかなくてはならないことで、私たちは今かなり神経質になっています。
今スタンフォードにおける現実的な戦略の第一番は住宅の価格です。近所に住もうと思いますと大変
高い住宅しかありません。教官にお給料を支払っていかなくてはならないわけですが、その教官がスタ
ンフォードの近所に住もうと思いますと、上級の教官の年収の 8 倍ぐらい出さないと住居を取得するこ
とができなくて、これが非常に大きな問題になってきております。優れた人をスタンフォードに引きつ
けたいというふうに思ってるんですが、住宅コストがネックとなっています。
そして 2 つ目の点でありますが、だんだんと教官のなり手が少なくなってきたという問題があります。
以前は全米でも Ph.D.の一番優れた学生がスタンフォード大学に残って、教官として研究を続けたいと
いう人が多かったんですが、もはやそういった状況ではなくなっています。スタンフォード大学の工学
部が非常に大きな成功を収めた。あまりにも大きな成功を収めすぎてその犠牲になってしまっていると
ころがあります。教官は全部で昨年は 180 人という状況だったんですが、1 年でそのうちの 7 名が何百
万ドルものミリオネアーになっていきます。この人たちは自分で会社を興して、それだけの財産を築き
ました。
学部学生も言っています。なんでわざわざ大学院に行かなくちゃいけないのか。特にコンピューター
サイエンスの学部で優秀な学部学生で、特によく見られるタイプなんですけれども、学部を卒業したら
もうシリコンバレーで会社を興してしまおう。ひどく失敗したとしても、手元には 1 千万ドルは残るだ
ろうと言っています。
スタンフォードは全米で過去 30 年間連続、コンピューターサイエンスの分野ではずっと独走状態で
ナンバーワンを続けておりますが、Ph.D.の研究プログラムの数が減っています。これが私たちの頭痛の
種です。
岸 浪: スタンフォード大学では、学部教育において特に問題になっている点というのはどういう点
が問題ですか。
ブラブマン: これは私だけの個人的な意見になるかもしれませんけれども、スタンフォードに入学し
てくる学生の数学の能力が落ちています。これが大きな挑戦課題になります。入ってきた学生がスタン
フォードの 1 年生の工学の勉強ができないために、救済措置としてそれを是正するための補習をしなく
てはなりません。他の人に聞けば全然違う意見が出てくるかもしれませんが、私自身はこれが一番深刻
だと思っています。
岸 浪: 物理と化学についてはどうですか。
ブラブマン: 問題がないわけではありませんけれども、私は数学の問題の方がより深いというふうに
思います。数学のような定量化の問題がちゃんとできる能力を持っていれば、数学さえある程度できれ
ば、物理と化学というのはある程度はこなせると思うからです。やはり数学の方が私は深刻だと思いま
す。
中 原: 我々の分科会でひとつ問題になっておりますのは、アメリカでも報道されて有名だったと思
いますが、オウム真理教などが考えもしなかったような化学物質を反社会的な目的に使った。私は科学
者の一人としまして大変ショックを受けたわけですが、そういうようなことを工学教育の面で反映させ
るためには、ethics というんですか、工学倫理の講義をこれからしなければいけない。
ところが日本では人文系ではある程度は倫理学というのは確立されているでしょうが、工学教育にお
きましてはそういうものが全くなされない。同じような意味ではコンピューターサイエンスなどでもこ
れからいろんな問題が起こると思われますが、これに対して日本における工学教育の中で、これを専門
にやれるような人がまずなかなか見当たらない。アメリカではこういうことは随分先にやられておるん
40 | 工学教育の現状と将来
じゃないかなと思っておりますけれども、実際の専門家、工学の分野における専門家として、そういう
教育の専門家がいらっしゃるかどうか。あるいはさらには教科書などが既にどの程度用意されているか、
そういうことをお尋ねしたいと思います。
ロジャーズ: これは倫理だけに限らず、その他工学以外のノンテクニカルなスキルにも言えることか
もしれませんが、倫理教育については最低限今でもできることは、学生が卒業して専門職に就いた場合
に、専門職の専門家の協会というのがあります。その専門家の協会というのは必ず倫理基準というのが
ありますから、その専門家協会に協力してもらうということは今でもできることだと思います。教育の
中で例えば設計のプロジェクトをやるようなときに、このようなそれぞれの分野における倫理基準が専
門家協会で準備されているということを紹介して、そういった倫理について話すチャンスを学生に与え
るということが可能だと思います。それぞれの学生が将来就く職業の専門家協会の倫理基準を提供する
というやり方です。
確かに私どものキャンパスにも倫理を教えている教授がおります。しかし倫理を単独に教えるだけで
はなくて、その教師は実際に工学の学生がプロジェクトをやっているところにも入り込んでいって、プ
ロジェクトというコンテクストの中で、あるいは工学の学生が設計をしているというテクニカルなコン
テクストの中で倫理を教えようとしております。したがって教育のやり方は常にこのような革新的なや
り方をどんどんと柔軟に取り入れる必要があると思います。単に倫理をノンテクニカルなもの、スキル
として別個に教えるのではなくて、実際に学生がやっているテクニカルな教育の範囲内で倫理を教える
ということが私は大事だと思います。
「倫理教育を工学教育にどのように統合するか」というタイトルの論文の文献がありますので、郵送
します。
松 井: 私の質問は、質問事項の一番最後の 13 番目に関係するものですが、これまで日本の社会シ
ステムとか教育システムでは、平均的に優れた人材を育てようということで、一方では非常に傑出した
人材が育ちにくいという状況にあろうかと思います。できればドロップアウトするのを少なくして、さ
らに優れたトップ層を育てたい、こういうのが次の目標かなと思っているわけです。
先ほどブラブマン先生から、今後情報技術の持てるものと持てないものとの差が出てくるだろうとい
うお話もございましたが、現状でもアメリカにおいてトップクラスを育てる代わりにドロップアウトす
るのも増えているというふうに聞いているんですけれども、恐らくドロップアウトをなんとか減らした
いという対策といいますか、努力をされてるのではないか。もしそういうものがあれば教えていただけ
れば、今後の日本の取る道に非常に参考になるかと思うんですが、よろしくお願いいたします。Qu13
ブラブマン: 確かにアメリカというのは異質なものが混交しているところです。その意味で日本と違
うというのは疑いのないところです。アメリカもこのような異質なものが共存することで課題も抱え、
問題も抱えておりますが、ただスタンフォードに関してだけ言えば落ちこぼれというのはおりません。
99%の学生がちゃんと学位を取って出ていきます。全米で他のところを見れば、半分ぐらいしか卒業で
きないというところもありますが、スタンフォードはもともときちんと学生を選んで育てておりますの
で、落ちこぼれの問題はありません。明白な落ちこぼれ問題というのは経験していません。
ただスタンフォードの学生も能力にはかなり幅広いばらつきがあります。スタンフォードのいいとこ
ろは、どんなに頭が良くても、最も優れた優秀な学生であったとしても、そういった学生にもさらなる
Qu13 日本の社会,教育は平均的に優れた人材を求め,育成してきた.そのため,
非常に傑出した人材が育ちにくい状態にある.これを落ちこぼれを増やすこと
なく,トップ層を育成するよい方法はないだろうか?
****
As you know, our sysetm of education was good for educating those homogeneous people with high quality
but failed to produce those people of highest capability. We are seeking a new way to produce the topmost.
American paradigm could be a good model. But, we want at the same time to minimize dropouts.. We
would like to hear your suggestions.
クローズド・シンポジウム | 41
難題、課題を与えることができるというところにあると思います。また同時に学生全員の教育ニーズを
満たしながらというところも押さえないといけないですけれども、最も優れた学生だから簡単だという
わけではなく、そうした人たちにも挑戦しがいのある難しい課題を与えることができるのがスタンフォ
ードのいいところであり、また研究大学としての存在意義ではないかというふうに思います。優秀な生
徒にチャレンジを与えるのが、私は研究大学の重要な課題、役割だと思っております。そしてまた同時
に学生全員のニーズも満たしながらやるということが重要です。
そして 100 名ぐらいの学部学生については、非常に活発に研究活動にも参加しております。そして博
士課程の学生と一緒に研究をしたり、リサーチをしたりしております。そして学部学生でも Ph.D.の学
生と同じ文献に論文を発表することもあります。そして Ph.D.の学生と一緒に会議に行って口頭発表を
学部学生がするということもありまして、これがスタンフォード大学の大学院の魅力になっています。
ほとんどの学部学生はなかなか研究室にしか行くチャンスがないというような状況が他にある中で、ス
タンフォード大学の場合にはこのような学生の持っている様々なニーズに応えるための変化に富んだ活
動を与えることができています。
したがってスタンフォード大学では、本当に底辺にいる一番下の数パーセントの学生を除いては、う
まくいろいろなニーズに応えることができていると思っています。
議 長: いつの間にか時間がたってしまいました。驚くほど時間がたつのが早い感じがいたします。
また私たちの期待していた以上に、両先生ともに随分率直に私共の質問にお答えいただいたように思い
ます。改めてロジャーズ先生、ブラブマン先生に御礼申し上げたいと思います。ありがとうございまし
た。
42 | 工学教育の現状と将来
Mr. Bravman: Konnichiwa. Thank you very much for inviting us to Japan to speak with you.
In the last hour of speaking with the Chairman about the breadth and difficulty of these questions and
how each of them we could spend days talking about.
(Japanese Interpreter)
Certainly in the United States I think it is fair to say that there is widespread concern over the loss of
the average student's ability to speak and write proper English.
(Japanese Interpreter)
This problem started in the late 1960's, early 1970's, and is reflected in many things. For instance in
secondary school education many students now take classes in literature rather than in formal English.
The rules of grammar, for instance, are rarely taught anywhere in the United States any longer.
(Japanese Interpreter)
So even at Stanford where we are fortunate to have some of the very best students in the country we
find that perhaps half as...as much as half of our students who are entering really cannot write
particularly well. And so we have required writing courses for freshman year which are amongst the
most unpopular with students.
(Japanese Interpreter)
And it is not clear to me or to many of my colleagues that twenty weeks of instruction can overcome
five or ten years of deficit in writing skills that should have been developed during the course of
primary and secondary school education, and about this we are very concerned.
(Japanese Interpreter)
The problem with public speaking is probably even more severe. Many students before college
have never really had the opportunity or the need to make formal presentations.
(Japanese Interpreter)
Stanford is introducing several programs now to begin to deal with this.
(Japanese Interpreter)
However, as for learning foreign languages there is divided opinion about this in the United States,
and certainly at Stanford.
(Japanese Interpreter)
And this question really brings up fundamental issues about the purpose of education at places
クローズド・シンポジウム | 43
including Stanford: whether a student goes to Stanford to become a well educated person, or a student
goes to a school like Stanford to acquire job skills, or to go to graduate school.
Many of us believe that to graduate from Stanford should indicate that the student, no matter what the
major is, that the graduate of Stanford should be seen in all places as a well educated, well rounded
student. And this should include foreign language instruction.
(Japanese Interpreter)
Two years ago Stanford re instituted mandatory foreign language instruction, the equivalent of one
year of college education must be completed. Probably one-third of the students meet this requirement
upon entry to Stanford because of their secondary school language education. The other two-thirds
must complete it at Stanford.
(Japanese Interpreter)
Mr. Rogers: What I would like to add is that the idea of language and the education of students in the
area of language as a medium for teaching them about culture. It is fairly absent in the English
language in the United States, and is probably true in the instruction of foreign languages as well.
(Japanese Interpreter)
The other thing is I think that American students, especially in engineering have been very ingenious
at finding ways to get around the writing requirements. At our institution if a student takes four years
of a foreign language they are exempt from the writing course, and many students who choose to opt
that as opposed to taking the writing course.
(Japanese Interpreter)
In addition, we have also found it necessary to offer in a number of the engineering majors courses
on technical communication where students are taught how to communicate, especially with laypeople,
about engineering principles and concepts.
(Japanese Interpreter)
(Chairman/Mr. Tokura)
Mr. Bravman: Ten.
(Japanese Interpreter)
Mr. Bravman: In college students, at least when they are speaking with their friends, it would seem they
use a vocabulary that includes a very small number of words.
(Japanese Interpreter)
44 | 工学教育の現状と将来
Shakespeare used only about 8000 words in his plays.
(Japanese Interpreter)
But I know...and I am not an expert in this by any means, but I know that an educated person in
English has a working vocabulary of something on the order of 25 to 28,000 words.
(Japanese Interpreter)
I think this raises an important point. The high quality students who would go to either of our
institutions probably have in fact very large vocabularies.
(Japanese Interpreter)
But their ability to use these in high quality writing or to express themselves verbally seems to be a
skill which is poorly developed compared to what it could be.
(Japanese Interpreter)
(Chairman/Mr. Yasuda)
Mr. Bravman: ...Because it is required.
(Japanese Interpreter)
That is probably the number one reason in all honesty.
(Japanese Interpreter)
American students and especially those who seem to go to Stanford, who are very bright, do not like
to be told what to do. This is a plain matter of fact.
(Japanese Interpreter)
A great sign of hope for the future is that when many of these students graduated, they tell us
that...many of them, not all....They tell us thanks for making them take courses such as this. They are
in a better position to realize the value of these courses.
(Japanese Interpreter)
Mr. Rogers: If I might add to that, we require our students to take a lot of courses and it seems that their
biggest objection or dislike is the amount of time it takes when the other course are also very
demanding. They really do not understand, at the age of eighteen or nineteen, how very important
being able to use the English language is going to be for them in the future. They do understand the
クローズド・シンポジウム | 45
importance of differential equations and mathematics, however.
(Japanese Interpreter)
(Mr. Nakajima)
Mr. Bravman: There is no entrance exams at Stanford. There is obviously entrance criteria, but there
is no exam. There is no formal exams. There is a nation wide exam that most students in high school
take, the SAT, Scholastic Aptitude Test, but Stanford has no entrance exams.
(Japanese Interpreter)
Mr. Rogers: I would like to add to that last year, for the first time, at Rose-Hulman, we had more
students that had a perfect English score on the exam than we did those that had a perfect math score on
the exam. That does not seem to change their attitude toward writing because that test is primarily
vocabulary.
(Japanese Interpreter)
Mr. Bravman: The importance of language and what it represents, we have another piece of data on
which is every interesting. Before going to graduate school there is a nation wide exam called the
GRE, Graduate Record Exam, which also has a verbal and a mathematics component.
(Japanese Interpreter)
And we know that there is a strong correlation between the quality of the student as judged by the
faculty when they finish their Ph.D., after five or six years...There is a very high correlation between
that quality, which is an assessment, and their GRE verbal score, and almost no correlation with their
math score. And this is in engineering.
(Japanese Interpreter)
And when Stanford admits undergraduates they use many criteria, but on the SAT the criteria is to
double the verbal score and add it to the math score, and then rank the students with that score because
that has a stronger correlation with success at Stanford, independent of discipline.
(Japanese Interpreter)
(Mr. Tokura)
(Japanese Interpreter)
To your last question, no the faculty are not in agreement as to what makes a high quality engineer,
especially at the bachelor's level.
46 | 工学教育の現状と将来
(Japanese Interpreter)
Stanford is...Engineering students at Stanford, things are different there then they are at many other
top engineering schools. At Stanford, there is no separate admissions or exams or qualifications for
the school of engineering. This is very different from many engineering schools.
(Japanese Interpreter)
Because of this all students, all undergraduates must take the same set of what we call general
education requirements, which stress the non-technical disciplines.
(Japanese Interpreter)
And because of the amount of course work required for an engineering degree is so much more than
for a non-technical degree, like History or English, undergraduate engineering students have by far the
heaviest course load at Stanford. And this presents a problem for students in engineering.
(Japanese Interpreter)
Now most faculty would agree with these words in what makes a high quality engineer. But when it
comes down to designing the courses and designing the curricular requirements it is very difficult to add
the extra course work required to provide substantial instruction in these non-traditional areas. It is not
clear at all how you learn about teamwork. It is not fully clear how you teach someone to function as a
team.
(Japanese Interpreter)
This question also brings up very real differences, I think now, between our two institutions. At a
school like Stanford the faculty are hired because of their preeminent reputation based on research,
which means among other things that the thing they care most about is their research. So they do not
want to see the role of their particular specialty diminished in a student's education to make room for
these kinds of things.
And this is a very lively debate now in the United States, especially at the major research universities,
public and private.
(Japanese Interpreter)
The other thing that is operating is that companies tell us all the time that they want this stuff in our
students, but when it comes time to hire those students, they hire the students with the highest grades in
technical subjects first. And the other thing is right now if you graduate from Stanford, and many
schools, with an engineering degree you get a job as long as you have a pulse, because engineering is
doing so well.
(Japanese Interpreter)
クローズド・シンポジウム | 47
Mr. Rogers: I would like to add to that the National Science Foundation Action Agenda which I will be
referring to here was really developed to support the initiatives that are outlined in ABET 2000, the new
engineering education criteria.
(Japanese Interpreter)
The National Science Foundation officer who founded the New Action Agenda and lobbied to get
funding for that four years ago was President of ABET when that ABET 2000 initiative began.
(Japanese Interpreter)
If you look at those characteristics those are naturally the same ones that are outlined in the new
ABET criteria. This is one way that the National Science Foundation can provide funding for those
institutions who are willing to try and find new ways to innovate within the engineering program to
provide students with these skills.
(Japanese Interpreter)
It is anticipated that many of the proposals which will be funded under this new agenda will be those
that promote faculty using active learning, new ways to assess student outcomes, project-based learning.
Many of those things are currently going on but there is a need to have it disseminated in a much
broader level.
(Japanese Speakers)
TAPE 2A(2/20(2))
(Chairman/Mr. Hirakawa)
Mr. Bravman: Well we...ABET 2000 will be the criteria available for use after 2000. And so really if
we continue to seek accreditation for our programs it will be under this new criteria. And I...we have
five engineering programs that are accredited, and I expect that many or all of them will seek
accreditation again and so therefore it will be under ABET 2000.
(Japanese Interpreter)
Faculty opinion about ABET and accreditation will remain unchanged.
(Japanese Interpreter)
Now to explain why faculty opinion is largely against accreditation, again is a long answer, and to
give simple answers they can be very easily misunderstood.
In my opinion the faculty are partly right and partly wrong in their opposition to these criteria.
48 | 工学教育の現状と将来
(Japanese Interpreter)
On the negative side, Stanford faculty, like faculty at MIT and UC Berkeley, and other top research
universities in the country, these are very talented and therefore very proud and at times very arrogant
people, and it is difficult for them to imagine that someone can come in from the outside and tell them
how to do their job better.
(Japanese Interpreter)
On the other side these same characteristics among the faculty is what makes Stanford the great
university at it is. It would not be the school that it is without these very talented, proud, and at times
arrogant faculty. And secondly it has been our experience that the majority of people who come and
visit from ABET are almost totally incapable of first understanding how education proceeds at a school
like Stanford, and secondly almost totally incapable of actually adding value by virtue of their visit.
(Japanese Interpreter)
The conventional visits reflecting ABET criteria have focused on very bureaucratic, detailed, nitpicking rules in which absolutely no distinction is made between a course in calculus at Stanford and a
course in calculus anywhere else. And it has been and I think rightly so for the faculty to accept this
aspect of criteria in the past.
(Japanese Interpreter)
Many of us hope that the new criteria will, in practice move away from this style of assessment, and
on the face of it, it should. But I think the proof of it is yet to come. Because it depends very much
on the individuals who make up the visitation teams.
(Japanese Interpreter)
(Chairman/Mr. Yamauchi)
Mr. Rogers: ABET is made up of twenty-one professional societies. Those engineering professional
societies are made up of both faculty as well as industrial, industry representatives.
(Japanese Interpreter)
In the past each professional society trained their evaluators. For example, the American Society of
Mechanical Engineers trained the evaluators who went to a campus to look at the engineering program.
(Japanese Interpreter)
This was fairly easy in the old system when it was a matter of counting: counting the number of
students, the number of faculty, the number of courses. And it was fairly easy to get consistency from
クローズド・シンポジウム | 49
one professional society to another.
(Japanese Interpreter)
With the new criteria, there is a move on behalf of the Engineering Accreditation Commission which
is the organization which oversees all of ABET's activities to try and do a joint training of evaluators.
(Japanese Interpreter)
This has been met with limited success to this point. Each society is still training their own
valuators, although there is more coordination from the Engineering Accreditation Commission.
(Japanese Interpreter)
I share Dr. Bravman's concern that, especially with outcomes assessment, that the evaluators that
come to the campus are not going to be very well prepared to know a good assessment process when
they see it.
(Japanese Interpreter)
Although I have been in communication with ABET just within the last couple of weeks, and they are
planning on doing national workshops to work with both campuses as well as evaluators to understand
more about outcomes assessment.
(Japanese Interpreter)
(Chairman/Mr. Mizutani)
Mr. Bravman: Well I hope you see I have no trouble being honest in giving you straight answers.
(Japanese Interpreter)
My first reaction is that I want to avoid it as long as I can, in all honesty.
(Japanese Interpreter)
It is very frustrating for me. I care very deeply about education and research. I have spent my
career at Stanford working very hard on behalf of students, building the value of their educational
experience, and I know that much of what we do, especially for undergraduates, we could do better.
(Japanese Interpreter)
I believe for example that for many of our undergraduates, they would receive a better undergraduate
engineering education somewhere else. That is not something I can say publicly in the United States.
50 | 工学教育の現状と将来
(Japanese Interpreter)
Stanford is probably the best school for highly motivated, amongst all of even Stanford students....So
you already have got the very top students in the country. If you select out from that group the most
highly motivated, not necessarily the smartest, but the most highly motivated, those students benefit
tremendously by being am undergraduate at a research university like Stanford. The other students
might be better served elsewhere.
(Japanese Interpreter)
Nonetheless, I simply have not seen results from the type of examination and accreditation that we
have been through, that justify the time and expense that accreditation requires.
(Japanese Interpreter)
I think it might be true that this kind of external pressure, this expression of external pressure may
help somewhat, but I think the best chance for improving undergraduate engineering in education at a
school like Stanford will come through hiring people who have interests and skills and abilities in
education more broadly defined than it has been in the past. And I know that many of our recent
faculty hires over the last decade have stressed this increasingly.
(Japanese Interpreter)
One of the things I tell students and parents frequently, especially when they have a specific
complaint about some aspect of a Stanford education, I remind them that in large part the value of their
Stanford diploma derives from the preeminent reputation of Stanford as a university, and that this can
translate into many very real, tangible benefits for them. It is no excuse for the mistakes that some of
my colleagues make for their lack of concern about undergraduates. Nothing can excuse that. But I
want them to understand that the value of their degree, their diploma, comes from the fact that Stanford
is what it is, and it is that because of the research preeminence of our faculty. Parents tend to
understand this very well when you show them things like average starting salaries of Stanford
graduates compared to national figures.
(Japanese Interpreter)
Mr. Rogers: In terms of how to get faculty motivated to participate in accreditation, I think that it is
critical that faculty believe that this is going to improve the education of students, and it is not adverse
to their own academic agenda. In the absence of those two things it is going to be very difficult to get
faculty interested in being involved in this important but real time commitment to this process.
(Japanese Interpreter)
I think it is also important to remember that outcomes assessment, it is the assessment part that is the
most difficult but it is only a vehicle to improve the college experience. In other words, ABET 2000 is
really about continuous quality improvement of undergraduate engineering education. Outcomes
クローズド・シンポジウム | 51
assessment is the vehicle by which we can measure how we are doing and make those changes.
Unlike our friends in industry, the profit and loss statement is different for education.
(Japanese Interpreter)
I would also like to invite our friends at Stanford to send their undergraduates to Rose-Hulman
Institute of Technology.
(Japanese Interpreter)
(Chairman/Mr. Hasatani)
Mr. Rogers: I think one of the things that has made the new accreditation standards different is that it
has outlined, specifically, what skills engineering education must produce in a student. If we assume
that those are the correct skills, or correct body of knowledge, depending on which one we are looking
at, correct in the terms of the needs of industry, the needs of a government to be globally competitive,
then what you are saying is true. However, the question is whether or not those are indeed the right
skills or knowledge set that is needed to maintain international preeminence.
(Japanese Interpreter)
On the other hand, we should not assume that engineering education in the United States, that faculty
know how to achieve those skills in some way they can demonstrate. In other words, they are stated in
very broad terms that cannot be measured, and it is necessary for the faculty in each engineering
program to define what is meant by, for example, good communication skills, or a global understanding.
What do those things mean? And I think that is the real challenge that is going to have to be faced in
engineering.
(Japanese Interpreter)
Mr. Bravman: In my presentation tomorrow, in the first slide, my title slide, I have three pictures from
Nagoya which I downloaded from Nagoya city website, forty hours or so ago when I was putting
together my slides. I think that the fact that I could do that points to something which many people
say has been over-hyped, but I think in fact is completely under-hyped.
(Japanese Interpreter)
I think the questions that you ask are extremely profound and that we are at just the very beginning of
changes that are more revolutionary than the industrial revolution. When Toyota and GM competed in
1975, the aspects of that competition were very different from IBM and Toshiba competing in 2000.
The absolute globalization of the economy, fundamental changes in the economy moving away from
a manufacturing base. We were agrarian, then manufacturing, and now for lack of a better term the
knowledge-based economy. This will, I believe and many people believe, will overwhelm traditional
52 | 工学教育の現状と将来
forms of government, education, and other fundamental aspects of societies in ways that we really do
not understand.
If you just look at the financial markets, say over the last five years, the fundamental changes there
are just shocking to financial professionals.
I really believe that despite some of the false hype these same technologies and ways of thinking
which is really what we are talking about, will come to bear on educational institutions in ways that we
frankly are unprepared to deal with.
(Japanese Interpreter)
TAPE 1B(2/20(3))
(Japanese Interpreter)
Mr. Bravman: Say in...through the 1970's, at least, General Motors made pretty poor quality cars, and it
was no one doubts that it was competition with Japan that lead to greatly improved manufacturing
quality in American automobiles. So fro the consumer's point of view this has been a great thing.
I do not know if it has been great for GM or Toyota, but for the consumer it has been a great thing.
I think that because we are moving into this knowledge-based economy, knowledge is extremely
portable. It weighs a lot less than heavy industry. It moves with people. It moves across the
internet, and its successors whatever they may be. And this cannot do anything other than
fundamentally change the way we do education.
On one knows how it is going to change. I am convinced of that. There is bits and pieces if you
look around, but I really believe something big is coming. And I worry about what we call at least in
the United States, perhaps you know the phrase, the have's and the have-not's.
Computers and all the technology that stems from computer and information technology is just one
more thing that some people will have and some people will not have. And if we look at what defines
the have's and the have-not's now, and the problems it has caused, I can only imagine that the problems
caused by the have's and the have-not's of information technology, of information know-how, of the
ability to use these tools, or not to use them, will split society in a very fundamental, and perhaps,
probably, dangerous way.
(Japanese Interpreter)
(Mr. Hasatani)
Mr. Rogers: I think one way I would like to respond it is very interesting, and I appreciate your
comments. Education historically, I think at least for the last forty years or so in the United States, has
been seen as a way for an individual to improve themselves, especially economically. The emphasis
on going to school in order to improve your economic standing. So in that sense I think it has been
クローズド・シンポジウム | 53
seen as an individual exercise, and not one where we particularly emphasize the fact that education
would somehow improve society.
Although our government is based on the fact that it is important to have educated people to maintain
a democracy, but individually it has been seen as a way to improve one's self and not necessarily their
neighbors. And in that sense it may b very different in the United States.
(Japanese Interpreter)
Mr. Bravman: Well if the government is willing to pay for it based on the public good that it is
supposed to obtain from that and individuals benefit themselves as a result that seems like a pretty good
deal to me.
(Japanese Interpreter)
I think especially in the post-war era that despite statements about the need, and the truth behind the
fact that education makes fro a better life, especially economically, I think that from the government
side it really has been an effort to strengthen the economy. And in at least not the individual level but
from the group of educated people taken together it therefore has been a manipulation of people.
(Japanese Interpreter)
Now the United States is by no means a perfect meritocracy. Nonetheless I think education
statistically it is true, it is a fact, that education has done more to let people realize heir, potential to
contribute to themselves and their families, as well as society, and to bring about social mobility in
ways that probably were unanticipated that have in my opinion benefited society greatly.
(Japanese Interpreter)
Being born to a very wealthy family is still a good thing.
(Japanese Interpreter)
But having a degree from Stanford is almost as good.
(Japanese Interpreter)
(Chairman/Mr. Kishinami)
Mr. Rogers: Rose-Hulman is an undergraduate institution. The faculty that we hire are all Ph.D.'s in
their field, but their primary focus is teaching. John can certainly speak probably more to what you are
talking about in terms of the innovation that is brought in by people who are researchers, and the impact
that has on the more systematic education.
(Japanese Interpreter)
54 | 工学教育の現状と将来
However, innovation is very valued at an institution like Rose-Hulman, but that innovation is in the
delivery of education. In other words new innovative methods and integration among the discipline,
such things as active learning, how to organize a curriculum to best meet the needs of students and the
industry, places they are hired. So innovation is valued and it also causes a certain amount of
disequilibrium, even among the teaching faculty when people innovate in those ways.
(Japanese Interpreter)
For example we have moved from the traditional courses in the first year to an integrated first year
curriculum. we have completely renovated the way we teach a sophomore core curriculum in
engineering. And all those things have happened in the last three or four years, but not without a great
deal of debate on the campus.
(Japanese Interpreter)
Mr. Bravman: Let us see, at Stanford overall direction for let us say undergraduate education. People
like Deans of the school, the Provost, the President, the Faculty Senate, various faculty committees,
they are talking about and debating and arguing about curricular reform all the time.
(Japanese Interpreter)
So the impetus for change comes primarily from people in these types of positions, but the reality of
change will not happen unless a majority of the faculty agree. And Stanford will prosper or suffer to
the extent that the faculty collectively decide to accommodate new realities of the world.
(Japanese Interpreter)
Although it is highly imperfect we try to ensure success for the future through our faculty hiring
procedures. Stanford departments are small, compared to our competition: often less than half the size
of our major competition like MIT and Berkeley. And yet on average so far we have been able to hire
extremely productive, capable, imaginative, and flexible people to be on our faculty. And so for
instance we produce about twice as many Ph.D.'s per faculty member as does MIT, and we have the
second or third highest number of masters in the country, despite being a small school.
At the undergraduate level...oh I do not want to say that....
(Japanese Interpreter)
At the undergraduate level our numbers are more or less controlled by the admissions process. And
so we are about 20% of the undergraduate class. we would be very happy to be more than that, but
that is probably....that number will be more or less controlled to that figure for a long time.
(Japanese Interpreter)
クローズド・シンポジウム | 55
In all honesty we are nervous about being able to maintain the overall faculty quality that we have
had given some new realities.
(Japanese Interpreter)
For instance the number one strategic problem that Stanford University is probably the cost of
housing in the Palo Alto area. And a well paid as Stanford faculty are when as average house costs
eight times a senior faculty member's salary this raises issues about continuing to attract the best people
to Stanford.
(Japanese Interpreter)
And the second factor is that we believe that nationally fewer...It used to be that the very best Ph.D.
students wanted to become faculty members, almost exclusively. And that is not the case any longer.
And in many senses the engineering discipline is become a victim of its own success.
Last year at Stanford, of 180 faculty member in one year, seven became multi-millionaires by virtue
of starting their own companies.
(Japanese Interpreter)
The undergraduates say why should I go to graduate school, the very good ones, especially in say
computer science, the undergraduates say, "If I start a company in Silicon Valley, and it fails miserably,
I'll only make ten million dollars."
(Japanese Interpreter)
Stanford has the number one computer science department in the nation for over 30 years in a row.
The number of applications to our Ph.D. program in computer science is dropping. And this is cause
for great concern.
(Japanese Interpreter)
(Chairman/Mr. Kishinami)
Mr. Bravman: I think the greatest challenge we face is the diminishing mathematical skills of our
entering students, and therefore the need for what I will call remedial education in mathematics.
So students are unprepared to begin their engineering studies. It is a very personal opinion.
people would say many different things. But this is...I really worry about this.
(Japanese Interpreter)
(Mr. Kishinami)
Other
56 | 工学教育の現状と将来
Mr. Bravman: Well I think there are issues there as well. But I think they are not as profound as with
mathematics. I think physics and chemistry are easy if you are comfortable with quantitative things,
math. So, to me mathematics is really the heart of the problem.
(Japanese Interpreter)
(Chairman/Mr. Nakahara)
??? Speaker: The question eleven.
Mr. Rogers: One of the things that we try to emphasize, and you look at some of these other skills that
we have talked about which are non-technical skills where there is an expectation that we teach that
along with all the technical skills. But ethics in particular, one of the things that minimally that we can
do is point to the professional societies of which these students ill become members, and almost all of
them have codes of ethics for their professional society, and to incorporate that into their education a
they begin to develop design projects, other opportunities to have students reflect upon and talk about
the ethics, the code of ethics for their future profession, is certainly one way to begin to do that.
(Japanese Interpreter)
We do have a faculty member on our campus who teaches ethics but he also works with the
engineering faculty in helping them to understand how they can incorporate ethics into their engineering
projects and design. Again we are going to have to be more innovative in how we take some of these
non-technical skills and integrate them into the things that we are already doing in the technical areas.
(Japanese Interpreter)
There also is some literature on how to integrate ethics into engineering education, I would be glad to
send that to you if you would like to give me a card, I can give you that information.
(Japanese Interpreter)
(Chairman/Mr. Matsui)
Mr. Bravman: Well there is no doubt that the heterogeneity of the American population is very different
than the situation in Japan and many countries. And this has led to many challenges and problems.
At Stanford dropping out is not a problem. 99% of our students finish their degrees. I know at
many other schools across the country it is less than half. Stanford simply has selected out those
students. So we do not face that problem explicitly.
(Japanese Interpreter)
Even so among our students the...their abilities are spread across a very wide spectrum. And so we
look for ways to..."challenge," I think is the most important concept, to challenge even the very
クローズド・シンポジウム | 57
brightest of Stanford students, while meeting the needs, educational needs of all of our students. And
we believe against his one reason why undergraduates should consider going to a great research
university like Stanford, because of the great challenges it can provide especially for the very best
students, while meeting almost everybody's needs.
(Japanese Interpreter)
So for instance we have hundreds of undergraduate students who are quite actively and deeply
engaged in research programs side by side with doctoral students. Many of these undergraduates
publish papers in the same literature as Ph.D. students. Some even go to conferences and make
presentations.
This of course makes them highly attractive and competitive for graduate school. Whereas for
many other undergraduates they go to classes and not much else. And so we try and provide for
everybody. And except for the few percentage of students at the very bottom I think that we do a
pretty good job of meeting that differentiated need.
(Japanese Interpreter)
(Chairman)
TAPE 2B(2/20(4))
(Japanese Speaker)
No English on this tape.
オープン・シンポジウム
オープンシンポジウム | 59
オープン・シンポジウム
オープン・シンポジウム
司会(吉田): 本日は「工学教育の現状と
将来」のシンポジウムの開催にあたりまして、
ご参加いただきましたことを厚く御礼申し上
げます。
このシンポジウムは、工学における教育プ
ログラムに関する検討委員会が主催するもの
でございます。この委員会の性格、あるいは
どのような経緯で設立されたかということは
あとで稲垣先生の方からご説明があると思いますが、私はその中の分科会の 1 つであります、教育プログ
ラム分科会の委員長を仰せつかっております京都大学の吉田でございます。
本日は総合司会をやれということを仰せつかりましたので、司会をさせていただきます。
それでは早速でございますが、最初にこのプロジェクトの主幹校であります名古屋大学の工学研究科長
稲垣康善先生にごあいさつをいただきます。よろしくお願いいたします。
稲 垣: おはようございます。本日は全国から多数の皆様にご参加賜りまして、厚く御礼申し上げます。
ただいまから「工学教育の現状と将来」の、オープンシンポジウムを開催させていただきますが、この
会の趣旨と簡単ではございますが経緯について、最初に少しお話をさせていただきます。
近年大学の工学における教育プログラムの検討にあたりましては、入口と出口の状況を十分に考える必
要があります。入口である入学に際しましては平成 6 年度から改訂された新しい学生指導要領に基づく高
等学校での理科教育に関係しておりますし、また出口では、卒業のあとの話でございますが、技術者資格
の国際的な相互承認の問題にも深くかかわってまいります。
この国際的な技術資格の相互承認の問題につきましては、近年における急速なボーダレス化、あるいは
グローバリゼーションと呼ばれております動きに伴いまして、技術者の国際的な流動性を確保する上から
も、各国から技術者育成への国際協力も重要な政策課題となる中で、欧米、北米、あるいはヨーロッパを
中心に相互承認を図る動きが進んでおります。
そういう中で、我が国でも早急にこの問題に対応する必要に迫られ、一方で技術者教育の資格の基礎と
なる工学教育のあり方についても、議論が高まっているところであります。恐らくここ 50 年ぐらいを考
えても、全国的にこういう問題を真剣に議論することは、初めてではないかと思います。
こういう社会情勢を背景に、工学に関する教育プログラムの検討を国立 8 大学工学部長会議で始めまし
た。具体的には名古屋大学工学部を世話校として、平成 8 年度から 3 年計画で、国公私立の工学部を視野
に入れた工学に関する教育プログラムに関する検討を始めております。ちょうどこれで 2 年目を終わろう
とするところですが、いろいろ検討を進めて参りました。
工学教育プログラムの問題は、技術立国の維持を目指す我が国にとりまして、きわめて大切な問題であ
ると存じます。今回、このシンポジウムにおきまして、アメリカのローズハルマン工科大学副学長のロジ
ャーズ先生、スタンフォード大学副学生部長のブラブマン先生にお越しいただき、お話をいただくと共に、
シンポジウムではこの委員会を始めるときからいろいろ検討をされた架谷前工学部長から、日本における
工学教育に関する問題に関しましてご講演をいただき、そのあと、パネル討論をしていただきます。パネ
ル討論会では、8 大学の工学部長懇談会の中でいろいろご意見をいただいております土岐先生にもお話を
いただきます。産業界を代表して新日鐵の常務取締役名古屋製鉄所所長の大橋様にもご出席いただきまし
60 | 工学教育の現状と将来
て、ご意見を賜る予定になっております。また本日は文部省高等教育専門課長北見課長の代理といたしま
して、高田係長に出席をいただいております。皆様のご協力をいただきまして、今日のシンポジウムが実
りあるものであることを願う次第です。パネル討論会では生々しい話もいろいろ出てまいるかと思います
が、どうぞ先生方にも率直なご意見を賜り、にぎやかな討論になり、今後に向けていい成果が得られます
ようお願いを申し上げます。簡単ではございますが、ごあいさつにさせていただきます。
司 会: 稲垣先生、どうもありがとうございました。
このプロジェクトは財政面だけではなくて、いろいろな面で文部省のご援助をいただいております。
プログラムでは文部省から高等教育局専門教育課長の北見氏がおいでいただくことになっておりますが、
稲垣研究科長からお話がありましたように、企画係長の高田様にご出席をいただいておりますので、一言
ごあいさつをいただきたいと思います。よろしくお願いいたします。
高 田: 先ほどご紹介がありました高田と申します。本日は北見課長が出席の予定でございましたが、
急な所用により、私の方で代わりまして、本シンポジウムの開催にあたりまして、一言ごあいさつをさせ
ていただきます。
我が国の大学の工学教育は、戦後の日本社会の復興を支える人材を育成し、現在の科学技術創造立国と
しての日本の基礎を築いてきたことで、これまで高い評価を得てまいりました。しかしながら現在科学技
術の急速な進展でありますとか、国際化、情報化など、かつてなく急激に経済社会情勢が変化しておりま
す。我が国がこのような状況変化に対応し、目前に迫りました 21 世紀において科学技術創造立国として
の地位を維持、継続していくためには、このような変化に対応できる柔軟性や創造性、独創性を備えた人
材の育成がこれまでになく重要となってきております。
このような人材の育成は、我が国ではこれまで特に不足が叫ばれてきた分野であり、また従来のような
個々の企業内教育で対応していくことは非常に困難な問題と考えております。また全体的な傾向といたし
ましても、学生のいわゆる理工系離れといった問題があると考えております。
このため,社会や産業界から教育機関、特に大学の人材育成に対する期待や関心というのはこれまでに
なく非常に高まってきておりまして、大学側といたしましても、その期待に応えることが社会的な責任と
なってきていると考えます。
現在政府に起きましては、我が国を巡りますこのような状況変化に対応するために、行政改革、経済構
造計画など、6 つの改革を進めてきておりますけれども、文部省におきましてはその 1 つといたしまして、
教育改革を推進しております。文部省において策定いたしました教育改革プログラムにおきましては、高
等教育機関の活性化といたしまして、大学教員の任期制の導入でありますとか、社会人の知識、技能のリ
フレッシュのための社会人の積極的受け入れの推進でありますとか、各大学の管理、運営システムの充実
などが述べられており、これを逐次実施しているところであります。
また大学教育に産業界のニーズを反映させると共に、その観点から教育内容の充実を図るために、教育
面における産学連携といたしまして、インターンシップの推進を図っているところであります。
さらに、これまでの動きといたしましても、平成 3 年の大学設置基準の大綱化や、。自己点検、評価制
の導入等の制度改正以来、各大学におかれましても大学改革が進行中でありまして、教育研究体制の見直
しでありますとか、カリキュラム、教育方法の改善、充実など、積極的にも各大学でも取り組まれている
ところであります。
このように政府、あるいは各大学におきまして大学教育の改善に関する取り組みが着実に進展している
ところでありますが、特に工学教育の分野に関しましては、科学技術創造立国としての我が国の将来を担
う人材育成に特に重要な役割をはたすものでありますことから、将来のおける工学教育のあり方について、
今現在根本的な検討を図っていく、検討していく必要があると考えております。
先に述べました教育改革プログラムにおきましても、理工系分野の人材育成機能の充実といたしまして、
学協会、あるいは大学におけます工学教育の質の向上に関する支援というのが述べられているところであ
ります。
これらを踏まえまして、昨年度より国立 8 大学工学部長会議におきましては、名古屋大学を中心として、
オープンシンポジウム | 61
工学における教育プログラムに関する検討を文部省の支援を受けながら実施されております。
本日も後ほど詳しくご紹介があると思いますけれども、3 年計画で現在 3 つの分科会を設けられ、国際
的な状況調査など、積極的な検討を進められております。
また日本型の工学教育の質の保証システムに関しましては、学協会による検討も行われております。
このような工学教育の質の向上に関する問題の検討にあたりましては、産業界からの意見を取り入れる
と同時に、現在の技術者資格の国際的な相互承認の問題に対応する観点から、国際的な工学教育に関する
検討状況を十分に踏まえる必要がございます。
例えば現在、米国の ABET においては新しい評価基準であります ABET2000 でありますとか、アウト
カム評価といった手法についての検討が進んでいると聞いておりますが、このような動きについても十分
な情報を収集し、その動きを踏まえる必要があると考えております。
ただ、これは申し上げるまでもないかもしれませんけれども、各国の高等教育制度というのはそれぞれ
その国々の沿革や制度によってかなり異なった面がございます。工学教育の質の向上の検討にあたっって
は、そのような各国の相違点について十分考慮した上で、その利点を取り入れると共に、我が国のこれま
での工学教育の利点を生かした形で、日本独自の工学教育のプログラムの向上のあり方について検討する
必要があると考えます。
最後になりましたが、このような大学における工学教育の充実にあたりましては、大学の努力のみでな
し得るものではありませんで、企業側のご協力が不可欠です。このシンポジウムにご出席いただいており
ます企業関係の皆様には、大学に対して人材育成に関するご意見、あるいはご要望を伝えられると共に、
インターンシップの受け入れでありますとか、寄付講座など、教育面における産学共同への積極的なご協
力をお願いいたします。
また本日は、アメリカの方からローズハルマン大学、スタンフォード大学からも講師の方々が見えられ
ております。昨日もクローズド形式でシンポジウムが開催されたと伺っておりますけれども、現在の米国
におけます工学教育の充実に関する貴重な取り組みの事例をご紹介いただくと共に、現在の我が国の状況
を踏まえて、今後の工学教育の充実に関する有意義なご討論がなされますよう祈念いたしまして、私のご
あいさつとさせていただきます。
司 会: それでは続きまして、北海道大学大学院工学研究科長の土岐祥介先生からごあいさつをお願い
いたします。
土 岐: ただいまご紹介をいただきました北海道大学の土岐でございます。
このたび、このシンポジウムが大変盛会に開かれておりますことを、まず主催者の方々にお祝いを申し
上げたいと存じます。
このシンポジウムが開催されるに至りました経緯につきましては、稲垣研究科長からご説明があったと
おりでございます。
8 大学工学部長懇談会では、今から 10 年余り前から「未来を開く工学教育」を主題といたしまして、
『大学院改革のための検討と提言』という報告書を 1991 年に公表いたしております。続きまして、大学
院を中心とする教育研究施設の再建整備、施設整備でございますが、の再建整備のための検討報告を第 2
回目の報告書として提出しております。続きまして 95 年に、『教育研究支援体制の構築』と題しまして、
3 つ目の報告を提出、公表させていただいておりまして、工学教育が進展するためには学部教育に一層の
重要性を置いて、日本の工学教育の一層の進展を図るべきであるということを繰り返し提言いたしており
ます。
数年前に会合がございましたときに、名古屋大学の当時の架谷工学部長が、学部教育が空洞化する恐れ
があるということに対して非常に危惧を抱いておられまして、学部教育のコアカリキュラム、先生はこれ
まで工学教育等でいろいろ工学教育学会誌等で発表をしていらっしゃいますが、学部教育のあり方につい
て、我が国の工学関係者がさらに検討すべきであるというご提言がございました。
さらに文部省のご提案もいただきまして、議論が行われているところでございます。大学教育にかかわ
る側に対して、これまであまり集中的な議論が行われておりませんでした。今回アウトカムズアセスメン
62 | 工学教育の現状と将来
トにつきましてシンポジウムが開かれることになりましたのは、誠にタイムリーなものだと思います。
本日の盛会、これもひとえに文部省のご支援、それから幹事として様々なプログラムを推進して下さい
ました名古屋大学工学部、並びに幹事の先生方、工学部の事務局に敬意と感謝を申し上げたいと思います。
このシンポジウムでの話題が、これから繰り返し工学教育にかかわる学会で引用されるような活発な有
意義な討議となり、又、我が国で今後も議論が続けられることを期待しております。
司 会: 土岐先生、ありがとうございました。
それではこれから講演会に移りたいと思います。
3 人の先生からご講演をいただくわけでございますが、最初のお 2 人の先生はアメリカからおいでいた
だきましたので、英語でご講演いただきます。ただし適宜切って、通訳の方が途中でその日本語訳をはさ
むということになっております。
グロリア・ロジャーズ先生を紹介したいと思います。
先生はローズハルマン工科大学の副学長で、ABET のコンサルタントでもいらっしゃいます、又 NSF
のコンサルタントでもいらっしゃいます。
また今年の 10 月に、工学教育の評価に関し第 2 回のシンポジウムを主催をされることとなっています。
先生のタイトルは『アウトカムズ評価』ということになっております。よろしくお願いします。
オープンシンポジウム | 63
Outcomes Assessment: Quality Methods and U.S. Engineering
Education
G.Rogers
どうもお招きありがとうございました。
アメリカにおきまして、工学の教育認定基準に新たなものが導入
されました。それ以来、私は工学アクレディテーション、認定のた
めの委員会でずっと仕事をしております。新たなアウトカムに基礎
Current Trends in Engineering Education
Nagoya, Japan
February 21, 1998
“Outcomes Assessment: Quality Methods
and U.S. Engineering Education”
Gloria Rogers, Ph.D..
Rose-Hulman Institute of Technology
Terre Haute, Indiana 47803
U.S.A.
gloria.rogers@rose-hulman.edu
を置いた認定の手続きにつき、その材料を整えたり、あるいはプロ
セスについて開発をする仕事をしております。
これまで 5 回にわたりまして、アクレディテーションの為の大学
訪問が行われておりますが、そのうちの 2 回に私は同行し、新しい
クライテリアが実際に適用されるのを見てまいりました。それ以来、
この新しい認定のプロセスの評価は継続的に行っております。それ
にも参加しております。
本日は工学教育が変化を遂げていく、その推進力は何かというこ
とについて説明していきたいと思います。それから、この新しい認
定のプロセスについて概略をまとめ、実例も交えながらお話をして
いきます。そしてよく犯す過ちは何かということも明らかにし、そ
OVERVIEW
¾ Impetus for
change in engineering education
¾ Summary of new accreditation process
¾ Example of the process
¾ New process and the engineering design
process
¾ Common mistakes
¾ Challenges in the transition
れからこれからアメリカにおいて工学教育が新しいクライテリアへ
と移行していく過程でどのような挑戦課題があるのか、私なりの考
え方を披露してみたいと思います。
残念ながら、このアセスメント、査定に使われている言葉があま
り精密に使われているわけではありません。したがって、本題に入
ります前に、用語を定義しておきたいと思います。アウトカムのア
セスメントを使うときにしばしば使われる言葉でありますが、まだ
共通の理解がほとんど得られない言葉です。
まず「インプット」でありますが、教育の場にもたらされる様々
な要因のことをまとめて、こう呼びます。例えば入学する学生の人
口動態的なバックグラウンドは、どのような学生が入って来るのか。
そして SAT というような標準化された大学に入る際のテストの点数
はどうなっているのか。高校の人物、及び学業の面での成績はどう
だったか。
教員の観点から見たインプットですが、どれぐらいの教育水準に
あるのか、教育歴、研究歴はどういうものか、企業で経験があるか、
そういったところを見ます。
次にキャンパスの持てる資源、これも教育に対してのインプット
と捉えます。建物、実験室、教室の設備、そしてその周りに住宅設
備として整っているかどうか。そういったことを考慮いたします。
64 | 工学教育の現状と将来
つづいて教育の「プロセス」ですが、これは例えば様々提供され
ているカリキュラムのことを言います。そして、そういったカリキ
Inputs
Processes
Outputs
Outcomes
Student
C redentials:
Test Scores
Programs
offered;
populations
served
Faculty
teaching
loads/class size
Library
holdings,
athletic
facilities
Student grades
Time to grad.
Placement stats
Faculty
publication
numbers
C irculation
statistics,
facilities use
data
Student learning
and grow th
Faculty
C redentials
C am pus
resources
Faculty
publication
citations data
Student learning
and grow th
ュラムをどのような人たちが教えているか。特殊な学生集団がある
のかを明らかにします。例えば落第する学生、退学する学生等のリ
スクを抱えている学生のための特別なプログラムが組まれることも
あるでしょう。
次に教員にとってのプロセスは、例えば担当教官の教育の負担が
どのくらいであるか、あるいは 1 クラスあたりの学生数がどれくら
いかを見ます。それからプロセスの中には図書館の設備、蔵書がど
れぐらいあるのか。どのような図書館サービスが提供されているか
ということ。またスポーツのプログラムが提供されているかどうか、
なども含まれます。
次に「アウトプット」というのは、教育のシステムから出ていく
ものを見ています。例えば学生にとっては成績、卒業率、卒業まで
にかかる年数、そして企業からどれくらい採用希望者がくるか、雇
用チャンス、そういったものを見ます。
教員にとってのアウトプットというのはどれくらい出版物を発表
しているか、その数、外部から委託される研究費をどれくらい受け
取ることができたか。
それから図書の貸し出しの統計数字であるとか、どれぐらい設備
が有効利用されているかといったデータ、これもアウトプットの例
であります。
次に「アウトカム」ですが、これは本質的により定性的、質的な
ものでありまして、簡単に数値で測れるものではありません。学生
にとってのアウトカムというのは、基本的にはその大学における教
育を通じてどれぐらい学習ができたか、人間としてどれだけ成長で
きたかというのが、第一義的な学生にとってのアウトカムとなりま
す。これは大学における、その在学経験を通じて成長した度合いを
見ます。
したがいましてアウトカムは、ある一定のコースでどれぐらいの
点数を取ったかということには全く反映されませんし、また卒業時
における平均点数でもって表されるものでもありません。これは大
学で経験したことの総体、すなわち累積的な効果を表すものであり
ます。したがって、ある一定の時点において、学生の点数がこうだ
ということがわかったからといって、その学生がどのようなスキル
のレベルにあるのかを教えてくれるものではありません。
それから、これは教員にとっても全く同じで、どれくらいたくさ
んの出版物を発表したかという、ただその数でその出版物の質を測
ることはできません。
したがって教員のアウトカムを定量化するためのもっとよい方法
は、どれくらいの頻度で、何回その教員の仕事の結果である論文が
引用されたかというところにあるかと思います。その学問分野に対
して、どれぐらいの貢献をしているのかということの目安になるで
しょう。したがって、その教員が、特定の学問分野の知識の体系に
対して貢献をしているかが問題となります。
オープンシンポジウム | 65
このような定義を頭に置いて、これからは米国における工学教育
Evolution of ABET Criteria
の質というものが、その見方がいかに劇的に変化を遂げてきたかと
6 Migration from general to specific
6 Gradually added explanatory text to aid in
the interpreting criteria
6 Gradually incorporated explanatory text
into criteria: from “should” to “must”
いうことを話していきたいと思います。そして、この質に対する見
方の変化というのは、新たな工学教育のアクレディテーションプロ
グラムのクライテリアの中に反映されております。
“A program...must have no fewer than three-full
time faculty members”
このエンジニアリングクライテリア 2000、工学基準 2000 ですが、
6 Migrated from original 1 page for general
criteria to 12 pages (program criteria was
additional)
6 ABET became viewed as an adversary
これは EC2000 と読みます。これはアウトカムに基づいたもので、質
がどのくらい向上したかに焦点をあてたものです。これは ABET と
呼ばれております米国の工学技術アクレディテーション委員会の工
学認定委員会によって採択されたものです。
ABET の構成ですが、産業界、企業、そして大学の専門家たちから
Impetus for Change
Š Accreditation criteria was perceived as too
rigid
Š Little room for innovation in program
offerings
Š Difficult for curricula offerings to be
responsive to pace of change in
engineering
Š Criteria document for accreditation too long
成り立っており、全部で 21 の技術協会の代表者が集まって構成され
ております。そして ABET の主たる目的と責任範囲というのは、エ
ンジニアリング、すなわち工学、そして工学技術、そして工学関係
の分野における教育の質を維持し、高めるというところにあります。
ABET というのはこのような認定のプロセスを通じ、最も質の高い
教育を実現すること、そしてそれを奨励することを可能にする基準
を決めたり、あるいは手順を決めたり、あるいは環境を整える責任
を負っております。そして、このようなアクレディテーションのプ
ロセスを通じて、ABET はこのような認定を受けたプログラムを卒業
した学生は、これから先もしっかりと工学の場で実践をしていくこ
とができる。工学の分野に入って、それを継続的に実践してくこと
What has changed?
ABET Focus - Current ABET - Criteria 2000
“What are you DOING?” “Is what you are doing
achieving the desired
outcomes?”
Inputs
Outcomes
Educational activities as Educational activities a
an end
means to an end
が十分にできる資質を備えている、ということを保証いたします。
基本的には認定の焦点の置きかたの変化の過程において、2 つの力
が働いております。工学の教育プログラムにおいても、産業界の代
表者においても、工学教育プログラムの認定の構成や、構造を変え
ていかなくてはならないという要求がありました。
Practice determines the Outcomes informs practices
outcomes
以前、工学の教育者たちは、これまでの認定の基準はあまりにも
Process for meeting
external standards
細かい規定をごちゃごちゃ書きすぎている、と感じておりました。
Process for feedback and
improvement
例えば単位や授業時間などが強調されておりましたし、また非常に
細かいプログラムの規定などが書かれており、あまりにも規制的で
ある。あるいは教育の内部に対する干渉であると考えられておりま
Technical Objectives
an ability to apply knowledge of mathematics,
science, and engineering
Î an ability to design and conduct experiments, as
well as to analyze and interpret data
Î an ability to design a system, component, or
process to meet desired needs
Î an ability to identify, formulate, and solve
engineering problems
Î an ability to use the techniques, skills, and
modern engineering tools necessary for
engineering practice
した。
たとえ工学教育プログラムで革新的なカリキュラムを実践しよう
Î
と思っても、範囲の狭い、規定の細かい、インプットとプロセスの
要求事項がきっちりと決められた制約の足かせにあっては、このよ
うな新しいことができないと考えられておりました。ABET の評価者
がキャンパスを訪問することは敵対的な関係を生み出し、工学のプ
ログラムは、このような ABET の訪問者から自らを守らなくてはな
らない。そして ABET の訪問者、評価者は単なる数字屋である。細
かい重箱の隅をつつくような数字屋であると考えられていました。
企業からの観点から見ますと、ABET で認定を受けたプログラムを
卒業した学生の工学的能力については、おおむね満足をしておりま
した。しかし、工学以外のノンテクニカルな分野においては、工学
の卒業生というのはもっと豊かな経験を持ち、もっと高いスキルを
66 | 工学教育の現状と将来
持っていなくてはならないという企業からの要求がありました。こ
こでいうノンテクニカルとは、例えばチームで仕事をすることがで
きる。口頭で、あるいは書面で、十分にコミュニケーションする技
能を持っている。そして学際的なチームでも十分仕事をする経験を
持っている。工学の新たな展開が社会に対して、どのようなインパ
クトを与えるかを大きな観点から理解することができる等の幅広い、
グローバルな視野を持っているというようなことが求められており
ました。
このように企業側のニーズはどんどん変わっています。しかし企
業から見ると高等教育、特に工学教育プログラムは、新たな社会の
変化に対応できていないという懸念がありました。
この問題を是正していくために、1994 年に工学教育のワークショ
ップが構成されました。これは ABET が作ったもので、その委員の
中に NSF の代表者、産業界の代表者、そして州の専門職に対して免
許を交付する委員会委員や、登録団体、教育の代表者などが入って
いました。
そして、このようなワークショップを通じ“Vision for Change”
「変化に向けてのビジョン」という報告書が出されました。これが
EC2000 のとっかかりとなったわけです。そして ABET のリーダーた
ちが推進して変化をもたらし、そして新たに改革されたクライテリ
アに基づいて、そのビジョンを追求していこうといたしました。こ
の新しいクライテリアは、工学のプログラムが革新的カリキュラム
を創造し、同時に学生の品質の保証もしていかなくてはならない、
この微妙なバランスを維持することを助けるクライテリアでありま
す。
具体的には、この答申案の中には 2 つの基本的な原則が書かれて
おりました。
まず最初に、この認定基準を改正することによって、品質に強調
点が置かれるようになりました。専門職としての準備が十分に行え
るようにしながら、同時にカリキュラムの設計とか、カリキュラム
の遂行のしかたについても、革新的なことが実現できるような柔軟
性を持たせなくてはならないことが強調されています。また、それ
ぞれの教育機関の使命、目標は様々なものがあると思いますが、そ
の多様性に富んだ大学のひとつひとつに適用可能なものではなくて
はならないと考えています。
大学教育とは継続的なプロセスであります。教育の目標を明確に
し、その目標が実際に達成されたかどうかを評価します。そしてそ
の評価された結果に基づいて、教育が効果的に行われているかどう
かを見て、その教育を改善していくということが必要になります。
ABET は、このプロセスを外部団体として定期的に監査することにな
りますが、このような継続的なプロセスに基づいて工学のアクレデ
ィテーションが行われなくてはならない。これが 2 つ目の基本的な
考え方です。
1996 年に、ABET はこのプロセスを実際に実行段階に移しました。
ボランティアで参加する教育機関と ABET の認定のチームが協力し
オープンシンポジウム | 67
て仕事をして、アクレディテーションのプロセスを明らかにいたし
ました。これは EC2000 へとつながる認定のプロセスとなります。そ
して 1996 年の秋に、2つの大学が新しい基準に基づいて訪問を受け
ることになりました。
そして最初のこういった訪問から学んだことをもとにして、この
新しい認定のプロセスに少し修正を加えました。
そのあと 1997 年に、また新たなクライテリアに基づき、3 カ所の
キャンパスを訪問しました。98 年の秋に、今度はさらに 10 カ所の教
育機関が訪問を受ける予定となっております。2001 年からはすべて
の工学教育のプログラムがこの新しいプロセスで認定を受けること
になるでしょう。
この新しいクライテリアになり、認定のための訪問がなされると
きに、どこに焦点をあてて見るかという見方、視点が劇的に劇的に
変化をいたしました。以前と比べてみるとわかりやすいのですが、
昔のクライテリアの場合には認定のプログラムにおいて、工学のプ
ログラムが何をしているか。そのカリキュラムの中で実際に何をや
っているかということに焦点が置かれていました。
この中には、例えばどれぐらいの数のコースが提供されているか。
学問的な単位がどういうふうに分布されているか。教員の教える負
担はどれぐらいか。どれくらいの財源の支援がなされているか。実
験室の機器はどれぐらい充実しているか。こういったところを見ま
General Criteria Related to Assessment
Š Criterion 2: Program must have detailed
educational objectives consistent with mission
of the institution and these criteria
Š Criterion 3: Program educational objectives
Š Published
Š Periodically evaluated
Š Curriculum and processes to achieve objectives
Š Ongoing evaluation and continuous improvement
Š Criterion 3: Each program must have
assessment process with documented results
した。
そして、それぞれの査察を受けている工学教育プログラムは、こ
れらのデータを表にして提出することを求められておりました。い
ろいろなインプットを表す、数値の情報の表を準備していたわけで
す。そして質の高い教育をやっていくためには、このようなインプ
ットが必要だという観点からデータの公表が求められました。
要するに何をやっているかという教育活動そのものが、そのまま
目的であるというアプローチになります。すなわち教育のプロセス
に一番の焦点があてられておりました。つまり十分に計画されて、
十分に開発された教育のインプットと教育のプロセスさえあれば、
望ましいアウトカムが保証されているというような考え方です。
工学プログラムがこのような形で評価を受けると、このような認
定のプロセスは、外部の ABET のスタンダードを満たすための活動
である。外部から与えられているその基準を満たすことが目標であ
る、と考えられがちでありました。
しかし、新しい EC2000 の基準は、次の点が強調されています。す
なわち教育課程でやっていることが望ましい、我々が期待している
アウトカムを達成しているだろうか、それを見ることです。
新しい EC2000 では、教育における活動とか戦略は手段である。目
的を達成するための手段であって、それ自体が目的であるわけでは
ないという考え方に移行いたしました。したがって今度は教育のア
ウトカムに着目するようになったわけです。この新しい基準では教
育の効果、教育の質がどれぐらい改善しているかに着目しながら、
認定のプロセスが進められていくことになります。しかも外部から
68 | 工学教育の現状と将来
査察があるから、その外部の機関の基準を満たすために改善をした
り、教育の効果を上げていくのではなくて、それぞれの独自のプロ
グラムのニーズをちゃんと満たすために教育の効果を上げ、教育の
質を改善すると視点が変わりました。
EC2000 では、継続的に質の改善を続けていかなくてはならないこ
とを明確に求めております。そして大学教育機関の目標とゴールを
明らかにし、それに基づいて査念し、評価していかなくてはなりま
せん。それぞれの大学を卒業していく学生が持っている目標を満た
していかなければならないからです。
私は、このプロセスを連続的に質を高めていく 1 つのサイクルと
して描いてみました。これは EC2000 に基づいて作ったものです。
まず基準の 1 ですが、それぞれの教育機関は教育プログラムの目
標に達成することにし、どれくらい成功を収めているかを明らかに
するために、学生を評価し、そしてアドバイスを与え、モニタリン
グをしなければなくてはならないと言っております。
そして基準の 2 番では、プログラムの教育目標、目的を掲げてい
ます。工学プログラムは非常に詳細に渡って、教育の目的を公表し
なくてはならないとしております。そしてこの教育目標とは、それ
ぞれの大学機関のミッションと ABET のクライテリアに一貫性を持
ったものでなくてはなりません。
そしてまた、このプログラムの目標、目的を決定していくにあた
り、すべてのかかわる人を参画させなくてはなりません。例えば大
学の教員とか、産業界の諮問委員会の代表者、卒業生、OB、学生、
その他、このプログラムにとって不可欠だと考えられる人の参画が
必要です。
そして、教育目標がしっかりとバリデーションが行われた後、次
に学生が必要な知識とスキルを獲得することができるような機会を
学生に提供するためのカリキュラムと教育プロセスを設定しなくて
はなりません。
そして基準 2 では、それぞれのプログラムはしっかりとした評価
のプロセスを持っていなくてはならないとしております。すなわち
初期の目的をそのプログラムがちゃんと機能しているか、を証明す
るための評価プロセスであります。また評価の結果に基づいてプロ
グラムの有効性をさらに高めていくことが必要です。
ここで私が強調したいのがフィードバックであります。継続的に
質を高めていくためにはフィードバックが不可欠です。どちらかと
言えば学生のアウトカムをアセスメントする、査定するということ
に力点が置かれがちでありますが、しかし ABET がやろうとしてい
るのは、別にアセスメントそのものが究極の目的ではありません。
したがって ABET の中心的な課題は、アセスメントではなくてフィ
ードバックであります。フィードバックを中心に据えています。ア
セスメントというのは情報を獲得して、その獲得した情報に基づい
て、さらに改善をしてくための 1 つの手段と捉えています。
ABET2000 の基準の 3 番ですが、工学教育プログラムを卒業した卒
業生、学生がどのような特質、特性を示さなくてはならないかとい
オープンシンポジウム | 69
う概要を述べたものであります。これを工学的なものと、非工学的
なもののアウトカムに分けておりますが、まずテクニカルなものと
Non-technical Objectives
‘ an ability to function on multidisciplinary teams
‘ an understanding of professional and ethical
responsibility
‘ an ability to communicate effectively
‘ the broad education necessary to understand the
impact of engineering solutions in a global and
societal context
‘ a recognition of the need for, and an ability to
engage in life-long learning
‘ a knowledge of contemporary issues
しては次のようなものが挙げられます。
まず数学、科学、工学の知識を適用、応用する能力を持っている
ということ。そして実験を設計し、実際に実験を行う能力を持って
いるということ。そして実験結果のデータを解析し、また解釈する
能力を持っているということ。
そして求められているニーズを満たすことができるようなシステ
ム、仕組み、プロセスを設計する能力を持っていること。工学的な
問題を理解し、問題点を構成し、解決することができる能力を持っ
ていること。工学を実践していくにあたって必要な技能、スキル、
そして現代の新しい工学的ツールを使う能力を有していること。
次にノンテクニカルな能力ですが、工学系の先生の間ではソフト
なスキルと呼ばれているものであります。学際的なチームの中で仕
事をすることができる能力を持っていること。そして専門職として
の、倫理的な責任を十分に理解していること。
効果的にコミュニケーションする能力を持っていること。工学的
な解答が地球規模で、あるいは社会的な背景の中でどのようなイン
パクトを与えるかを理解することができる、幅広い教育を受けてい
ること。そして生涯学習を続けて行かなくてはならない必要性を認
識しており、またその生涯学習を行う能力を持っていること。そし
て現代の諸問題についての知識を持っていること。
これは非常に幅広い観点から書かれた目標となっております。そ
れぞれのプログラム毎に、もっと明確に定義したパフォーマンスの
基準が必要になります。それに基づいて定量的に計測していくこと
ができるからです。
それからクライテリアの 2 を思い出していただきたいのですが、
それぞれのプログラムは大学教育機関のミッションと EC2000 との一
貫性を持った、非常に詳細に渡る教育目標を持たなくてはならない
と規定しています。
このプログラムを実際に運用可能な形にしていくには、目標を数
値化して実際に運用できるような形にする必要があります。それに
はそれぞれの大学の個別の事情によって変わってきます。例えば学
生であるとか、教員の資質も大学によって違うでしょうし、また
個々のプログラムには独自性を持った様々な特徴があると考えられ
るからです。
例えばある大学で学んでいる学生のかなりの部分が、将来は研究
職に就くキャリアを求めているような場合には、恐らく生涯学習と
いう定義をするにも、その大学の独自の定義方法があるかと思いま
す。一方大学を卒業したあと、すぐに実践のエンジニアになる。つ
まり卒業したら、すぐに仕事に就くという学生のための生涯学習の
定義というのは、自ずと研究中心の大学の学生の将来の生涯学習の
定義とは異なってくるでしょう。
それから、継続的に質を向上することが非常に重要である、とい
うことを基準の 3 のところでさらに強調しています。それぞれのプ
70 | 工学教育の現状と将来
ログラムはアセスメントのプロセスを持たなくてはならない。そし
て、その結果は明確に書類として残しておかなくてはならないとい
うことです。
したがって、そのようなアセスメントの結果は、さらにプログラ
ムを開発し、改善していくための手段とならなくてはならないわけ
です。これらのアセスメントのプロセスを通じて大学とプログラム
の目標、ミッションにとって非常に重要なアウトカムが達成された
かどうかということが示されていきます。このようなアウトカムが
測定値として定量化されていきます。
EC2000 において、ある特定のアセスメントの方法ととらなくては
ならないとか、ある特定のプロセスを必ず使わなくてはならないと
規定しているわけではありません。
又、EC2000 には、新しいクライテリアが追加されています。これ
は専門的な部分、つまり教員、設備、大学のサポート、財源がどれ
ぐらいあるのか、こういったことに関してのクライテリアも含まれ
ております。それぞれのクライテリアはお互いに一貫性を持ったも
のでなくてはなりませんし、どれも数値で表すことができない種類
のものであります。
すなわち EC2000 においては、こういったものが明確に数値で定量
化されていないことの例で、以前の古いクライテリアでは、数値化
されておりました。
例えば 1 つの例を挙げると、工学プログラムにおいてはフルタイ
ムの教員が少なくとも 3 人はいなくてはならない、と書かれていた
が、EC2000 においてはクライテリアの 5 の教員のところで、その規
定は学生と教員との間の相互関係を十分に保ち、学生に十分な助言
を与え、大学のサービス活動を十分に行い、また専門職として自己
啓発し、産業界での専門家との相互関係を十分の保ち、また学生の
将来の就職先との間の関係も十分に保つことができるだけの十分な
数の教員がいなくてはならないと規定しています。
したがって、この基準をどう満たすかは、それぞれのプログラム
が決めなくてはならない責任範囲となります。適当なレベル、十分
なレベルのと言われた場合に、それが実際どれくらいなのか。これ
を数値化するのはそれぞれのプログラムが決めることであり、プロ
グラムのゴールであるとか、それぞれの大学の置かれている状態に
Comparison
Š “Old” Criteria: There must be no fewer
than three (3) full-time faculty in an
engineering program
Š EC2000: “There must be sufficient faculty
to accommodate adequate levels of studentfaculty interaction, student advising and
counseling, university service activities,
professional development, and interactions
with industrial and professional
practitioners, as well as employers of
students.
照らし合わせて、決めていかなくてはなりません。
このような一般的な基準だけでなく、それぞれの工学プログラム
は、学問分野に特化されたプログラム毎の基準も満たしていかなく
てはなりません。認定委員会では、それぞれ学問別の技術協会とも
協力して、新しいプログラムの基準を作成しようとしております。
この修正プログラムの基準は EC2000 の初期の目的、その精神と合
致したものであり、ほとんど EC2000 と変わるところはありません。
すなわち、基準は細かい規定はできるだけ少なくしており、また学
生が証明しなくてはならないような、それぞれの学問分野に特化さ
れたアウトカムを反映したものとなっています。
このようなアセスメントプロセスをやっていくのにあたって一番
オープンシンポジウム | 71
難しい、まず最初に直面する問題は、幅広い観点で書かれたプログ
ラムの目的をちゃんと計測することができるような、数値化するこ
とができるパフォーマンスクライテリアとして定義することです。
そのためには、このパフォーマンスクライテリアについては、関連
する重要な参画者がきちんとバリデーションをした形でコンセンサ
スを得られなくてはなりません。
これはかなり骨の折れる作業ですが、質の向上を図るプロセスが
成功を収めるためには、必ずやらなくてはならない不可欠な作業と
なります。この面で教員が積極的に参加することが成功の鍵を握っ
ております。
テクニカルな方のアウトカムについては、パフォーマンスクライ
テリアもかなり簡単に、直接的に決めることができるのではないか
と考えます。
しかし工学部の教員は、それぞれ工学的なテクニックに非常に努
力を傾注してきた人ばかりであり、細かいパフォーマンスクライテ
リアのサブセットなどについては、なかなか意見の一致が見られな
いかもしれません。結果として、テクニカルな目標がなかなか決め
られないということになるかもしれません。しかし、もし教員がパ
フォーマンスクライテリアで合意を得ることができなかったら、全
部がうまくいかないことになります。アウトカムの結果を出したと
しても、それは意味を持たないとなってしまいますし、また改善の
方向を示してくれるものともならないでしょう。
このようなパフォーマンス基準を決めていくプロセスは、要する
に教育の価値とは何かを明らかにしていく過程であります。このパ
フォーマンス基準はアセスメントの過程を引っ張っていってくれる
ものでなくてはなりませんし、工学のプログラムにとって学生のど
のようなアウトカムが一番重要なのかを明らかにしてくれるもので
なくてはなりません。
例えばクライテリアの 3 におきましては、卒業生はよいコミュニ
ケーション技能を証明することができなくてはならないと書いてあ
ります。
これを 4 つに分けることができます。書く、そして口頭でコミュ
ニケーションする、図表を使う、視覚的なコミュニケーションをす
るということでありますが、それぞれにパフォーマンスの基準を設
定することができます。
そして、コミュニケーションのスキルがどのようなものであるか
Performance Criteria:
Acceptable standard of performance
ということでありますが、次のようなパフォーマンスの基準を使う
Effective oral communication
まず話そうとしている内容を簡潔に、しかも論理的に表現する能
a. Organize the appropriate content concisely and logically
b. Present a professional demeanor appropriate to the audience
and situation
c. Speaks clearly and loudly as appropriate to conditions
d. Achieves rapport with the audience
e. Varies vocal tone and pattern
f. Effectively responds to questions and comments
ことができるでしょう。
力を持っていなくてはならない。そして自分が話そうとしている相
手、聞き手、また状況に適切な振る舞いや物腰、専門職としての技
能を示す能力を持っていなくてはならない。
時間がありませんので、あと 4 つあるのですが省かせていただき
ます。
ただ、ここに書いているのは網羅的なものではありませんで、全
72 | 工学教育の現状と将来
部すべてこういったものはあり得るのですが、それぞれの工学プロ
グラムにおいて何が重要であるかを、それぞれ独自に決定する必要
Definition of Terms
* Assessment
Collection and analysis of data
があります。
ここでアセスメントという言葉とエバリュエイションという言葉、
査定と評価ぐらいかと思いますが、その違いについて説明しておき
*Evaluation
たいと思います。日本語ではなかなかうまく弁別することができな
Assignment of meaning or
interpretation of data as it
relates to the quality of the
program
い概念かもしれませんので、英語でもってその違いを説明します。
まずアセスメントです。アセスメントは方法を選択いたします。
そして様々な証拠となるデータ収集します。そして集めたものを解
析し、まとめ、そして報告をする。これがアセスメントです。
次にエバリュエイション、評価でありますが、アセスメントで獲
得したデータから意味を引き出すプロセス、と定義することができ
ます。すなわちアセスメントで得られた結果に、何らかの価値を付
加していく過程であります。そして報告された内容、その結果に対
して価値を与え、そしてそのデータに基づいて答申を行っていきま
す。
アウトカム・アセスメントをするときによく陥りがちな過ちがあ
Common Mistakes: Process
 Confusing criteria with strategies
 Lack of specificity of criteria
 Not linking criteria to methods
 Not using results to further education of
students
 Not involving students in their own
assessment
ります。それを簡単に説明しておきます。
間違いを犯す領域としては 1 つはプロセスそのものが間違ってい
る場合。もう 1 つはそのプロセスを実際に行う、実現の場における
間違いの両方があります。
パフォーマンス基準は、戦略やプロセスと混同される場合があり
ます。このような混乱がないように、明確に定義しておくことが大
事です。
例えば典型的な過ちの例を挙げてみたいと思います。ある目標を
設定して、それに対するアセスメントの計画を立てる場合、例えば
コミュニケーションスキル、という目標を評価するための計画を立
てるにあたって、教員が例えばパフォーマンス基準とは、すべての
学生にライティングコースを必修として取らせることであるという
ふうに考えたとしましょう。
しかし、このようにあるコースを必修のクラスとすることは、こ
れは単なる戦略であり、これはパフォーマンス基準と言えるもので
はありません。
なぜならばコミュニケーションスキルという目標が何を意味して
いるのか。これだけでは理解することはできませんし、またすべて
の学生がライティングコースを取ったからといって、実際にそのス
キルを学生が持つかどうかわからないからです。
あとは表題だけを読んでいきます。細かいところは皆さんのお手
元の資料があるかと思いますので、そちらの方を参考にしていただ
きたいと思います。
例えばよくある間違いとして、アセスメントの方法が基準とちゃ
んと連携していない。
次に、学生が自らのアセスメントに参加していない。
次に運営面、実践面でのよくある過ちでありますが、このアセス
メント計画をたった 1 人の人に任せて、全部その人に責任を押しつ
オープンシンポジウム | 73
けてしまう。
Common Mistakes: Implementation
V Assigning the process to one person in the
department
V Inadequate time allowed for the process
V Lack of education of faculty in the process of
developing student performance criteria
V Lack of incentives for faculty to participate in
the process
V Data are not used to further education of
students
V Local resources are not utilized
次にプロセスを開発するために十分な時間が与えられていない。
そして、教員がアセスメント計画の建て方について、ちゃんとし
た教育、訓練を受けていない。すなわち、これがあればちゃんとし
たアセスメント計画だというようなことをわからずにやっている。
これは特に学部長、学長の先生方に声を大にして申し上げたいの
ですが、このようなプログラムに教員が参加するにあたって、全く
何の優遇策も講じられておりません。ぜひ運営側、実践側からのサ
ポートが必要であります。教員がこのようなプログラムに参加して、
そして教育の質が改善し、向上していくのであれば、その働きに対
してサポートし、またそれに報いる何らかの報酬のシステムが必要
Now what?
* Determine practices/strategies to
achieve goal
* Specify assessment method(s)
* Who collects evidence?
* Who evaluates the evidence?
* What are the feedback loops?
となります。
次の過ちでありますが、せっかくデータを集めているのに、学生
の教育を向上させるために活用されていない。
すでに大学でいろいろなデータを集めている場合があります。す
でにある資源を活用しない手はありません。したがって、皆さんの
ところにそれぞれすでにある資源を使っていかなくてはならない。
しかし、それが使われていないという過ちがあります。
そして工学プログラムのこれからの将来の挑戦課題でありますが、
まず教員が積極的に参画しなくてはなりません。そしてカリキュラ
ムと、その結果として得られるアウトカムとの間の関係を明らかに
する必要があります。
それから、カリキュラムの中で工学的なスキルを得るための教育
と、非工学的なスキルを得るための教育を合体させていくような戦
略を取らなくてはなりません。ノンテクニカルスキルをテクニカル
Challenges for
Engineering Programs
Š Involve faculty
Š Make transition from focus on inputs
to outcomes
Š Appreciate and integrate “soft skills”
into engineering curricula
Š Provide adequate resources
Š Understand outcomes assessment
なスキルを学ぶ場で統合して教育していくというものであり、その
ための十分な資金を確保する必要があります。
EC2000 は新しい、また革新的なアプローチを奨励することによっ
て、工学の教育がさらに刺激を受けて、さらに改善していくことを
目標として開発され、設計されたものであります。しかし、この新
しい基準を発表したことに、敬意を表してくれる人もいます。しか
しながら侮蔑の言葉も聞いております。
そして、私の信じるところでありますが、この大学の教育の質を
改善していくためには、次の 3 つの指標が重要であるということに
なります。
Conclusion
Quality improvement through the
accreditation process will only happen
when:
y Faculty believe the changes will promote
student learning and not be adverse to their
own academic agenda
y Administrators believe there will have a
positive cost/benefit
y ABET evaluators will recognize adequate
assessment processes when they see them.
まず EC2000 で提案されている変革、これを実現することによって、
学生の学習が促進され、しかもまた同時に教員自身の学問研究の阻
害要因とはならないということを、その教員が確信を持たなくては
なりません。
それから運営する側においては、このような教育の質のアセスメ
ントを制度化していったとしても、その対費用効果は十分に受け入
れられるものであるということを確信すること。それからまた ABET
の評価者は適切なアセスメントプロセスを見極める能力を持ってい
るということです。
本日はどうもありがとうございました。
74 | 工学教育の現状と将来
司 会:
ロジャーズ先生、ありがとうございました。
今のロジャーズ先生のお話ですが、この ABET の EC2000 自体につきましては、基本的なコンセプトは
すでに皆様ご存知かと思います。残念なことにお時間がありませんでしたので、先生は十分にはお話でき
ない部分もありましたが、午後にはパネルディスカッションが予定されておりますので、触れることがで
きなかった部分をまたお話しいただくこともできるでしょうし、また逆にロジャーズ先生の方から皆様に
ご質問があるかと思います。
それでは時間がございませんので、次のスピーカーをご紹介したいと思います。 スタンフォード大学
からいらっしゃいましたブラブマン先生でいらっしゃいます。
スタンフォード大学におきましてマテリアル・サイエンス学部長、そして同大学工学部の副学生部長をさ
れていらっしゃいます。半導体を含む幅広い研究をされておられますけれども、スタンフォード大学及び
大学院をご卒業の後、1985 年以来、教授としてスタンフォードで教鞭をとっていらっしゃいます。
今日のタイトルでありますけれども、『主要な研究大学における工学教育、そのコース変更、あるいは
新しいパラダイム』というタイトルをいただいております。
それでは先生、よろしくお願いいたします。
オープンシンポジウム | 75
Engineering Education at a Major University,
Course Correction or a New Paradigm
J.C.Bravman
こんにちは。
私も学生のときにオーラルコミュニケーションの授業で 1 つ重要
なことを学びました。それは昼食の前には決して長いスピーチをす
るなということであります。
ただニューヨークシティでは皆早口でしゃべる、私もそういった
ところで育ちましたので、恐らく時間どおり皆様はご昼食に間に合
うかと思います。
私は先ほどのスピーチとはちょっと違った観点からお話をしたい
と思います。
今日私のお話しすることは、メジャーな研究大学としてどのよう
なことをしているかということであります。もちろん学部教育もや
っておりますが、学部教育はこれまでそれほど重要な部分として位
置づけされてまいりませんでした。
今日お話ししたいことがここに書いてありますけれども、いわゆ
るメジャーな研究大学というのはどのようなものかということをお
話し、そしてまた、それがどのような経緯で生まれてきたかという
お話をしたいと思います。
ここで非常に重要なことは、どのような形でメジャーな研究大学
が発展してきたかという歴史であります。いわゆるメジャーな研究
大学は変革するのに時間がかかるということで、今後近い将来を見
Engineering Education at a
Major Research University:
Course Correction, or a New Paradigm?
てみても、世間が変わっていくにつれて、それほど早くは変わって
はいけないだろうと予測されます。
とは言いましても日本も含め、アメリカ、多くの国におきまして、
John C. Bravman
Bing Centennial Professor, Stanford University
Chair, Department of Materials Science & Engineering
Senior Associate Dean for Student Affairs, School of Engineering
Nagoya, Japan - February 20/21, 1998
最近では非常に大きな変化が起こっています。特にアメリカでも、
一般国民の大学に対する期待というもの大きく変わっています。
3 番目のお話としまして、このような変化によって、これから大学
はどこに行くのかということ。この部分に関しましては、随分私な
りの推測というところも含めてお話ししたいと思います。
さて、こちらにスタンフォード大学の紹介が書いてございます。
私は成人して以来といいますか、大人になって以来スタンフォー
Context for this Presentation
ド大学しかほとんど知りません。この大学で学び、過去 13 年間はこ
Stanford University
こで教官をしています。ですから、私は今日ここでお話をさせてい
ただいておりますが、全米のことを知っているわけではないという
ことを念頭に置いてお聞き下さい。
とは言いましても、スタンフォードを代表して、様々な全国組織
・ 14,500 students (8,000 graduate students)
・ 1,400 faculty members
・ 7 Schools: Engineering, Education, Law, Humanities &
Sciences, Earth Sciences, Business, Medicine
・ Substantial relationship with “Silicon Valley”
(see Fortune Magazine: July 7, 1997)
の研究団体、あるいは教育団体ともかかわり合いを持ってまいりま
したので、今日お話しする話題にに十分な知験だけは一応持ち合わ
せていると思っております。
さて、私どもの大学でございますが、規模では中くらいの規模の
76 | 工学教育の現状と将来
大学で、1 万 5 千人ほどの学生がおります。教員の数では、1,400
人、これが 7 つのカレッジに分かれております。
工学部に関して見ますと、学部は規模は非常に小さいですが、大
学院になりますと工学部は非常に大きくて、約 3 千人学生がおりま
す。
工学部には 180 名の先生がいらっしゃいます。毎年千人以上のマ
スターをここから生みだし、またドクターを取る人数も 220 人です。
毎年ドクターを取って出ていく学生数の方が教員の数よりも多いと
いう現状です。
それからわが校の非常に大きな特徴としまして、世界中で最も今
活躍しておりますシリコンバレーという技術の中心地とかなり深い
関係を持っているということです。
今日は残念ながら時間がございませんので、スタンフォードとシ
リコンバレーの関係について細かいお話をすることはできません。
ただ今後産業界と大学の関係を考えていく上で、これはひょっとし
たら 1 つのモデルになるのではないかと思っております。スタンフ
ォードとシリコンバレーのこれまでの、そして現在の関係というの
も皆さんお調べいただきますと、参考になることがあるのではない
かと思います。
このシリコンバレーは、いわゆる起業家精神でよく知られており
ます。シリコンバレーと深いつき合いを持っていることで、スタン
フォードの工学部にもそのような雰囲気が文化として根付いており
ます。これを背景として、私どもは学界でも非常に大きな成果を上
げてこれた、と自負しております。
実はこのシリコンバレーとスタンフォードの関係につきましては、
アメリカの著明な『フォーチュン』というビジネス雑誌に、この夏、
特集記事が出ました。この記事を皆様にお配りしてあるかと思いま
Outline
・ What is a “Major Research University” in the U.S.?
・ Typical Features
・ Important History of the Development of U.S. Research
Universities: 1945 - Present
・ Role of Government Funding
・ Changing Context
・ New Expectations and Demands
・What is Next?
・ Can we Maintain Excellence while Adapting to
New Realities?
すが、もしお持ちでないようでしたら、また要求していただいて読
んでいただくと、なかなかおもしろい記事が書いてあります。
こちらは残念ながら皆様のお手元にはございません。スタンフォ
ードから飛行機に乗る直前に手に入れたものです。ここに書いてあ
るのは、アメリカの産業界といわゆる研究大学と言われているとこ
ろとの結びつきを、大学側が手に入れた特許料から見ております。
これによりますと、去年スタンフォードは特許料として、4,400 万
ドルの金額を得ています。
それからこちらの次のページでありますが、これはメジャーな研
究大学として、どのようなものがあるかということを列挙しており
Features of a Major Research University
ます。私立としてスタンフォード、ハーバードのようなところであ
・ Examples: Stanford, Harvard, Univ. of Michigan, MIT
・ Important Characteristics
・ Centrality of Doctoral Programs to Mission
・ Education = research and teaching
・ High Degree of Faculty Autonomy
・ Prestige of Faculty determines the Prestige of the
University
・ Faculty Teaching Load is Comparatively Small
・ External Sources of Funding for most Research
・ Research Facilities very well developed
(especially laboratories and libraries)
りますとか、ミシガン大学、MIT であるとか、そういった大学を指
してメジャーな研究大学と呼んでおります。
まず特徴の一番目でありますが、そもそもこういった研究大学で
最も重要だとされているのは、ドクターを作るということで、これ
をまさに学校の使命の中心に据えております。将来に役立つ研究者、
すなわち Ph.D.を持った人たちを作るということが、第一義的な目的
と位置づけております。
オープンシンポジウム | 77
次に 2 番目ですが、教育であります。この教育の実現方法としま
しては、もちろん教室での教育も重要でありますが、教室だけでは
なく研究、あるいはその他、いろいろな形での教育を実現していこ
うということであります。
その次に、教員の自由、自治であります。こちらに書いてありま
すように、学生部長、学長、副学長としては、私たちが群の中で群
を率いていく、そういった自由裁量を与えられるべきであると考え
ています。
有名な教官がいることによってその大学自体も有名になると考え
られておりますので、大学としてはまず第一に、いい先生を雇うこ
とに力を入れております。
Development of the
Modern Research University
教員の教える仕事の量ですが、いわゆるメジャーな研究大学では
・ In the context of engineering and science, the postwar
period marks the birth of the modern university; in 1945:
いは 1 クオーターにおきまして 1 コースぐらいしか持たない。普通
それほど大きな負担ではありませんので、大体 1 セメスター、ある
・ Almost no federal funding of university research
教育中心の学校ですと、3 つ 4 つとコースを持つ先生がいらっしゃる
・ Large infrastructure developed for war effort; “what
now?
わけですが、それに比べると教えることの負担はかなり少なくなっ
・ Publication of “Science: The Endless Frontier” by
Vannevar Bush - the single most influential book on
government policy towards science over the past 50+
years.
ております。
研究に関して、我々の大学は外からの圧力を非常に強く感じてお
ります。と申しますのも、スタンフォードの場合ほとんどすべの研
究、つまり 99%ぐらいは実は外からの資金を得て行っているという
ことであり、このかなりの部分が連邦政府からの予算となっており
ます。スタンフォードは昨年の場合、4 億ドルの外部から資金を得て
研究を行っております。
特に連邦政府からの資金では、戦後大きく構想が変わりました。
当然のことながら、戦後直後には、研究大学は予算をそれほど受け
取ることはできなかったわけです。これは日本でも同じだと思いま
す。
Science: The Endless Frontier
・ Commissioned by President Roosevelt to address four
questions
・ how can the government promote and aid
scientific research in private and public
institutions?
さてアメリカでは、恐らくこの研究大学に最も影響を与えてたで
あろうと言われている 1 つの書物があります。これは 1944 年にルー
ズベルト大統領から委託を受け、翌 45 年にバーナブル・ブッシュが
出した本であります。これは『サイエンス・ザ・エンドレスフロン
・ how can the major advances already made in
fighting diseases be extended?
ティア』というタイトルの報告書であります。
・ how can we better promote the scientific training
and education of youth?
今日におけるアメリカの研究大学の現状をわかっていただくため
・ how should scientific knowledge be distributed?
には、この本をぜひ読んでいただかなくてはならないと思います。
この本自体はかなり前に書かれたものでありますが、当時ルーズベ
ルト大統領からの問いかけに応えて、4 つの疑問に答えるべくこの本
は書かれました。
Science: The Endless Frontier
・ Not a perfect plan!
・ It is not clear that some of the philosophical bases of
“The Endless Frontier” are correct!
・ Many of the recommendations of the report were not
accepted or fully implemented.
Many of the same questions remain unsettled today!
・ Despite this, the report did set the overall direction for
much of U.S. Science Policy, including the growth of
federal funds for University Research
この 4 つの疑問は 55 年前に提示された疑問でありますが、今日で
もまだまだ考えていく余地のある問題だからであります。
さて、ここには 4 つしか書いていません。しかし私はここであえ
て 5 つ目を入れてみたいと思います。この 5 つ目は 50 年前には我々
もアメリカでも考えられなかったことなんですが、50 年たった今、
アメリカも日本も直面している重要な問題です。
それは、連邦政府が研究大学に投資をするわけですけれども、そ
れはいったいどのような投資効率をもたらすか。どのような経済的
78 | 工学教育の現状と将来
なインパクトを持つかということであります。
つまり、こういった連邦政府のお金は国民が払う税金からきてい
るわけですから、国民としては当然政府が払ったお金にどのくらい
の見返りがあるのかということを知りたいと思うようになってきて
いるということです。
Other Factors in the Growth of
Research Universities
さて、その他にメジャーな研究大学の歴史を形成してきました要
因として、まずここに冷戦ということが書いてあります。冷戦とい
・ the Cold War
・ Sputnik
・ Race for the Moon
・ Defense buildup of the 1980’s
・Political Factors
・ Spreading Federal Funds around the country
・ Conversion of colleges to research universities
・ Desire for Economic Development
いますと 1957 年、ちょうど私が生まれた年ですが、スプートニクの
打ち上げがございました。そして米ソにおける月面着陸に向けての
熾烈な競争が 60 年代に展開され、さらにはレーガン大統領の政権下、
1980 年代にアメリカは急激に軍備を増強いたしました。これらはす
べて連邦資金の出方に大きくその影響を与えた要因であり、今日の
状況とは異なっております。
それから、これは非常に複雑な問題ですが、連邦政府のお金の出
し方というのは、現在政治的な要素も考えていかなければいけない
ということです。例えば議会の議員たちは自分たちの選挙区へなる
べく連邦のお金を回したい、そういった要求を持っています。
今は小さなカレッジであるような教育機関でも、次は自分たちも
スタンフォードや MIT やハーバードのようになりたいという要求を
持っています。
つまり、連邦のお金がかなり潤沢にいわゆるリサーチ大学に流れ
ていくので、小さな大学もリサーチ大学になりたいと思うわけです。
それから先ほど私が申し上げましたように、教育に投資をするこ
とによって経済発展、あるいは経済上の見返りを受けたいという要
求もどんどん増えています。
さて、こちらには 3 つの研究部門、すなわち防衛、民政、及び宇
宙開発にどれくらいの研究費用が投じられたかという連邦の予算を
Federal Research & Development Expenditures
in the United States, 1950-1995
(billions of 1987 dollars)
示しております。この基本となっておりますのは 1987 年のドルをベ
ースにしたものであり、単位は 10 億ドルです。
大学、特に工学部における研究というのはかなりの部分が防衛関
連の予算とかかわってきております。それをこの表で見ていただき
ますと、よくわかると思います。スプートニクの直後、ぐっと予算
が上がった時期がありました。そのあと横這い状態になっていると
ころはベトナム戦争のころです。そして再びレーガン大統領が就任
したあとまた伸びまして、また最近下がってきているという経緯が
よく見てとれると思います。
次の宇宙のところを見ていただきますと、非常におもしろいこと
に、この宇宙関係の予算が一番多かったというときは、月に月面着
Performers of Research & Development
(billions of constant 1987 dollars)
Year
1970
1975
1980
1985
1990
1994
Federal Private Colleges,
Govt. Industry Universities
11.8
11.2
10.8
13.7
14.3
13.7
51.3
49.2
62.1
89.2
96.9
98.2
6.8
7.2
8.6
10.3
14.6
16.3
陸するよりも前だったわけです。つまり、プログラムとしてはお金
が持てなくなってから月面着陸に成功したということで、あのプロ
ジェクトは科学を目的としたものではなく、むしろ政治的なプロジ
Other
Total
4.7
4.6
6.2
7.3
8.4
8.8
74.6
72.2
87.7
120.5
134.2
137.0
ェクトとして利用されたものだったとことがよくわかります。
さて、こちらの方ですが、これは 25 年間、各それぞれのところで
どれくらい予算を投じてきたかということを連邦の政府、民間の産
業、大学、その他というふうに書いてありますが、こちらも 87 年の
オープンシンポジウム | 79
ドルをベースとしたデータであります。見ていただきますと、この
左から 3 番目の大学の部分がほぼ 3 倍にも上がっているということ
がわかります。この傾向が現在も続いております。 このような結
果というのは当然研究大学にとっても喜ばしいことでありますが、
アメリカ国民、ひいては全世界の人々にとってすばらしいことであ
る、と私は信じております。
実際にシリコンバレーだけでも、以前にスタンフォードで学んだ
人、あるいはスタンフォードで教鞭を取っている人たちが作った会
社が 500 以上あると言われております。
しかし、このようにかなりの部分を例えば連邦政府などに依存し
ているというような現状を見ますと、これはやはり政治的な動向で
予算が大きく減る可能性も同時に秘めている。そういった危険も示
しております。
それでは時間がございませんので、1 枚飛ばしたい思います。
次に、これから我々が新しい方向を模索して上で、検討するに値
すると思われる要因をいくつか書いてみます。
まず第一に冷戦の終結であります。冷戦の終結自体は喜ばしいこ
とだったわけです。しかし冷戦の集結に伴って防衛費が削減される。
あるいは防衛費の優先順位が変わってくるとなりますと、これはメ
ジャーな研究大学の工学部に大きな影響を与えます。
それから最近では、経済のグローバル化で競争が熾烈化しており、
産業界が研究開発に以前のように潤沢に資金を回すことができなく
なっているという現状があります。
それからアメリカの国民は従来から一貫して、大学だけはなく、
あらゆるレベルの教育に関して前向きに支援をしてきてくれたわけ
ですが、最近新しい要求として、大学はいったいどのように管理さ
れているのか、自分たちの税金、あるいは授業料がどのように使わ
れているか、ということをもっと知りたいという要求が強まってき
ています。
また、スタンフォードのようないわゆる研究大学で、最近ではま
た学部教育にも力を入れようという動きが出てきています。さらに
一部の学者の好奇心だけのための研究ではなく、現実の問題にふさ
わしい研究をしてほしいという動きもあります。
さらにスタンフォードでは従来から、いわゆるリカレント教育や、
生涯教育に力を入れてまいりました。これは今後他の大学も積極的
にやっていかなればいけないところだと思っています。
さて、それから私ども特に日本やアメリカがそうだと思うのです
が、工学やハイテクの依存度が高い経済で、恐るべきことが今起こ
Changing Context
・ End of the Cold War
・ Globalization of the Economy
・ New demands of the American public:
・ greater accountability from the academic world
・ renewed emphasis on undergraduate education, even
at major research universities
・ solve “real-world” problems
・ provide “continuing education” for renewal and
retraining
・ In some disciplines, fewer of the best students want a
graduate degree, or have interests in an academic career.
っています。
それは優秀な学生のうちのほんのわずかな人しか大学院に行かな
いこと。大学院に行っても、その後学界に留まって、学者として生
活を送ろうと希望する学生が非常に少なくなってきているというこ
とであります。
コンピューターサイエンスの学生では、特にそういった気持ちが
強くて、なぜ大学院に行かなくてはいけないのか。大学院に行くよ
80 | 工学教育の現状と将来
りシリコンバレーへ行って、会社でも作って儲けた方がいいという
ようなことを言うわけです。たとえ大失敗しても千万ドルぐらいは
手元に残る。
スタンフォードは、全米でも最も優れたコンピューターサイエン
スの学部を持っています。過去 30 年間全米でトップと言われて参り
ました。しかしこの 3 年間連続で PhD を希望する学生の数が減って
きております。
ですから学生があまり来ないのに、研究のお金だけはあるという
皮肉な状況が生まれつつあります。他の学部としてはうらやまし限
りだと思っていることと思いますが。
では次に、これからどうなるかという予測であります。
空白ですが、今日の私の講演のタイトルは「コースの変容、ある
いはニューパラダイム」というふうになっております。スタンフォ
ードに関する限り、これから 10 年、20 年を考える場合、抜本的な変
化が起こるというよりはむしろコースレベルの変化であろうと考え
ます。
しかし、これから申し上げる 4 つは、すべてのアメリカの研究大
学が今後直面するであろう課題だと思います。
まず第一は学際性ということであります。これは当然のことなが
ら、最近最も先端な科学、あるいは工学の研究というのは、従来の
専攻のちょうど境目のところで行われていることが多いということ
です。
従来の学部別に置きました構成、これは世界中の大学でとられて
いる形態だと思いますが、そういったことではこれからの研究の大
きな妨げになってしまいますので、この学際性ということが今後大
学の管理、運営上の大きな問題となっていくでしょう。
2 つ目は情報技術、IT です。と申しますのも、もうすぐそういう時
代が来ると思いますが、完全の動画の画面を 24 時間オン・ディマン
ドで好きなものが見られるような状態がこれから技術的に可能にな
ってきます。そうするとわざわざ学生を大学に集めてそこで研究、
教育をするということの目的、価値は何なのかということを大学が
改めて問い直す必要があります。
実はそのいい例が今このスライドに出ておりますけれども、先ほ
どの丸八とか、名古屋城の絵ですけれども、これは私が名古屋のホ
ームページから取ったものです。そういったことができる時代がも
うすでにきているわけです。2、3 年もすると、我々が学生たちに教
えるときの知識の伝達のしかたということを大きく考え直す必要が
出てくるでしょう。
それからその次に、学生の多様化ということであります。学生の
持つ興味、関心、あるいはどのような分野を勉強するのか、そうい
ったことも含めて、多様な学生が必要になってきます。
例えばアメリカのメジャーな研究大学では、現在でも教員のかな
りの部分が白人男性によって占められているという現状があります。
しかし、これは当然のことながら、外の社会の現状を反映しており
ません。この辺の改革もこれから必要になってくるでしょう。
オープンシンポジウム | 81
最後、4 番目になりますけれども、これは科学者、エンジニア、学
界にいる人たち、こういった人たちがもっと国民ときちんとコミュ
ニケーションをしてゆくようにならなければならないということで
あります。
例えばその 1 つの例として、スーパーコンダクティング、スーパ
ーコリダーというプロジェクトがありましたけれども、これには何
十億ドルという連邦のお金が使われたわけです。しかしそれに対し
て大学側としては、一般大衆に対して、なぜこれだけのお金が必要
であるか、という説明を怠ってきたということがあります。
アメリカの国民は当然のことながら、自分たち、もしくは孫子の
代にメリットのある研究ならば、それに対して資金が使われること
には手を上げて喜んでくれるでしょう。そういったことですから、
実際にヘルスケア関連の研究に関しましては、アメリカ国民が高齢
化を迎えていることで、非常に予算が多くなってきております。
私どもメジャーな研究大学で働いている者というのは、率直に言
って、現状は我々にはラッキーであると考えています。
ですから今後とも国民を説得し、今までどおりのように資金面、
あるいはその他の面で支援を国民から得ていくためには、我々の方
でもっと努力をしていかなければいけないと考えています。
私たちは何も国民に対して小難しいことを言う必用はありません。
正直に、いったい我々がどのようなことをしているのかを伝えてい
けばいいのだと思いますし、MIT やスタンフォードが今までやって
きた実績に基づいてきちんと説明をしていけば、国民は引き続き支
援をしてくれると信じております。
どうもありがとうございました。
司 会: ありがとうございました。
それでは昼食の休みにいたします。
-昼休み-
司 会: 時間になりましたので、3 番目の講演を伺いたいと思います。
ご講演は名古屋大学前工学部長の架谷昌信先生でございます。先生は 1968 年に名古屋大学の化学工学
博士課程をご修了になりまして、78 年には教授に就任されておられます。
先生は 1994 年から 2 期 98 年まで、名古屋大学工学部の学部長をお務めになりまして、そのときにこの
プロジェクトが発足した。言うなればこのプロジェクトの生みの親でございます。現在は名古屋大学理工
学総合研究センター長でございますが、生みの親ということもありまして、この検討委員会の特別委員と
して、委員会にまだ加わっていただいております。
今日は先生に、「日本における工学教育」ということでご講演をお願いいたします。
それでは先生、よろしくお願いします。
82 | 工学教育の現状と将来
日本における工学教育
架谷昌信
ご紹介を賜りました架谷でございます。
今ご紹介をいただいたんですが、私といたしましては、今 8 大学
の工学部長の懇談会を中心にして、ある意味では今後全国の大学の
日本における工学教育
名古屋大学前工学部長
名古屋大学理工科学総合研究センター長
架谷昌信
工学部をひょっとしたら巻き込んでいくかもしれないというような
ディスカッションが行われているわけでございますので、そこで行
われているディスカッションを非常に客観的にご紹介申し上げると
いうのが本来の役割だろうというふうに思っております。
しかしながら、午前中、アメリカからお越しいただきましたプロ
フェッサー・ロジャーズとプロフェッサー・ブラブマンからいろん
なお話をいただいたわけでございますので、私といたしましては少
し午前中いただきましたご講演に対しましても、若干のジェネラル
コメントを入れながらお話をさせていただきたいというふうに思い
ます。
8 大学工学部長懇談会を中心としたアクティビティーにつきまして
は、後段で時間に間に合うようにご説明することにいたしまして、
前半の方はちょっと私の個人的な意見も含めましてお話をさせてい
ただきたいと思います。
今日の午前中のお話、それから我々のしている話の中核になる部
分を私なりの理解で、ちょっと言葉は少し適当でないことになるか
もしれませんが、できるだけクリアーカットに私の理解を申し上げ
ておきたいと思います。それがこの議論の前提になるだろうと思い
ます。
人間というものがどういうものであるかという理解は、これはも
う様々ではございますが、基本的には人間が地球上に生まれて、そ
して今日に至ったプロセスの中には、人間自身が自らを革新をして
いくというメカニズムが色濃く人間という生き物の中に組み込まれ
ているというふうに理解しなければいけないのではないかと思うわ
けです。ですからどのようなことであっても、人間というものが地
球上にいて、社会というものを構築している限り、人が自らを自ら
の力によって変えていこうという強い力がある限り、社会そのもの、
人そのものも変わっていかざるを得ない。
私の個人的な気持ちで、こういう年齢になりますと、できるだけ
安定した社会で、安定した生活がいいなと思うわけでございますけ
れども、しかしながら若い方もたくさんいらっしゃるわけですし、
社会も決して日本で単独にできているわけではございません。それ
からエリアも名古屋だけじゃなくて、いろんなところのエリアがあ
るわけで、それぞれの思いでそれぞれやっておられるわけでござい
ますから、必ず社会というのは全体として変わっていくということ
は、もうこれは避けられないわけでございます。そういう意味でた
とえ安定的な生活と静かな余生を送りたいと願っておりましても、
オープンシンポジウム | 83
なかなかそうはいかないというのが現実だろうと思うんですね。こ
れが我々を取り巻いている、人間としての特性の第一条件だと思う
わけです。
ところで最近特に私どもが熱機関を発明いたしまして、言ってみ
ますと人間というものにひとつのエネルギーという翼を得たわけで
ございまして、それ以降の社会の大きな変化というのは、もうそれ
以前の何千年間に比べますと、もう信じられないぐらいの大きな変
化を私どもは経験せざるを得なかった。これは決して一人ひとりが
本当に望んだことであるかどうかというのは、これは全く別問題で
ありまして、事実としてやはりそういうふうに世の中というのは動
いていってしまって、そして今日を迎えたというのが現実だろうと
思うわけでございます。
そして今日の様子はいろんな言葉で語られておりますけれども、
我々の活動の範囲が全地球に及んで、しかもそこにはいろんな内容
を含みながら、非常に激しく動いていってる。ですから私のように
日本国の名古屋という小さな町の、名古屋大学という非常に小さな
機関の一教官を務めておりましても、常に全世界からの非常に激し
い動きをどうしても受けながら、自分のことを考えていかなければ
いけないという、そんな状況に置かれてしまったというのが現実だ
ろうと思うわけですね。そういう意味で社会の変化というのが地球
規模になり、それが非常な勢いで動いていってる。そこのところに
やっぱり今日こういう議論をしていかなければいけない根本の要因
があるということをまず理解しておかなければいけないだろうと思
いますね。
ところでそれじゃ人というのは一体どういう形で自分たちの社会
というのを変えてきたのかという、そういうところを少し考えてみ
ますと、やはり基本的には先ほどロジャーズ先生がおっしゃいまし
たけれども、アウトカムアセスメントを常に自動的にやるというメ
カニズムの中で、我々はそれをやってきたのではないかと思うんで
すね。必ず自分のやったことを評価し、その評価に基づいて自分を
再評価し直して、そこにはフィードバックのメカニズムが必ず働い
て、人というのは試行錯誤をしながら今日に至った。これはもう間
違いのない事実でございまして、そういう意味で一個一個の人間か
ら、それがある大きさの団体になり、そして地域になり、国家にな
り、そして国際社会になっても、基本的な要因というのは必ずそこ
にそういう形で存在をしているのではないか。
基本的にはもう必ずそうだということでございますが、問題はそ
ういうことをあまりきちっと認識をしなくても、やってこられた状
態と、そういうことをもう認識しなければやれない状態というのが
あるだろうと思うんですね。これは歴史上個々の流れの中でもうそ
ういうことをやらなければどうしようもなかった時代、あるいはど
うしようもなかった個人、どうしようもなかった団体というのは当
然存在していたわけでございますが、今日の問題というのはこれを
もう全世界レベルでやらなければいけない。
例えば COP3 という地球温暖化に関する会議が京都で開かれました。
84 | 工学教育の現状と将来
そこで行われている議論をよくご覧になるとそういうことがわかっ
てくるでしょうし、国連で行われている議論を注意深くご覧になれ
ば、そういうことがおわかりになるだろうと思いますけれども、す
べてのものがそういう形になってきた。
したがいまして、私どもの大学という社会機関も当然そういう枠
組みの中から抜けられない。つまり何を言いたいかといいますと、
私どもは自らを革新するという基本的な力を持っているわけですね。
基本的な力を持っておりますが、それを今までのような形で何か漫
然と行ってきた。というようなことがもう利かなくなってしまいつ
つあるのではないか。
その理由は、先ほどもロジャーズ先生もおっしゃいましたし、ブ
ラブマン先生もおっしゃったけれども、あまりに早く社会が変化を
していってしまう。だから何かこうだと思って設計をして作り替え
た途端に、もう相手は変わってしまっている。こんなことをどんど
んいつまでもやれば、もう無限に疲れる。限りないチェーシングゲ
ーム、何かこう追いかけて目標がどんどん動いていってしまう。そ
れはもうとにかくこちらでどうすればいいか、どうすればいいかと
いうふうに追いかけていく。
例えば学生ひとつの動向にしましても、我々がやらなきゃいけな
い研究にしましても、ありとあらゆるものがそんなふうに変わって
いってしまう。そうするといろんな議論を個人レベルでいろいろな
形で工夫する、あるいは学校の教授会で議論する。そんなところで
議論をしても、それは常に何か後追いになってしまって、決してそ
こに能動的な役割が果たせていないのではないか。
人間個人個人に至りますと、自然とそういう機能が備わっている
と思うんですね。何か自分で行い、自分をトレーニングし、そして
評価をし、自分でスパイラルアップしていくというメカニズムが自
然に備わっているわけですが、ひとつの大きな機関になりますと、
例えば企業にしましても、いろんなものになって大きくなればなる
ほどそういうことになってしまう。
ですから例えば我が国において、今金融システムが破綻をしてい
る。一言で簡単に言って、何かそれは人の責任のようなことを言い
ますけれども、考えてみますとある意味では当然なんですね。つま
り評価をどうしてフィードバックしていくというメカニズムをつく
らないまま、ずーっとなんとかかんとか言いながらやってきたわけ
ですから、逆に言えばよくここまで破綻をせずにやってきたものだ
とも言えるわけであります。
ですから教育に関しても基本的にはやはり同じことがある。研究
に関しても基本的には同じことがある。それをいかに今度はシステ
ムとして、つまり目標が変わったから自分たちが何をしなければい
けないんだということを、何か後追いで考えるのではなくて、でき
るだけ同じ時間軸の中で、相手も変わるけれども自分もどう変われ
ばいいかというようなことを常に入れながら、だれかから言われた
から変わるとか、そういうことではなくて自立的にそういうものの
変化にどう対応していくのか。というようなことを考えようという
オープンシンポジウム | 85
のが、僕はロジャーズ先生の基本的な考え方だと思うんですね。
そのためにはアメリカ社会の中でものすごい議論をされて、そし
てある提案をされておられる。これは私は本当に非常に多くのアイ
デアの中の 1 つの提案だと思うんですね。1 つの試みだと思うんです
ね。これが決して全世界を覆う成功的な試みになるか、それとも失
敗的な試みになるかというのは、これはわからない。わからないけ
れども、しかしとにかくそういうことを考えていかないと、もうこ
れからの人類社会はもたないのではないか。少なくともアメリカン
ソサエティーというものを見た中で、そういうことをお感じになっ
て、非常にいろんな議論をされてやっておられる。そういうところ
にひとつの大きなポイントがあるだろうというふうに、私は理解を
しているわけでございます。
ですから評価という言葉ですが、これはまさに今申し上げました
ように、自立的に自らを変えていくひとつの非常に重要なキーファ
クターだと思うんですね。常に我々は自らを反省し、自らを評価し
て、初めて次のことをやれるというふうになっているはずなんです。
そりゃ人もいろいろですから、特に立派な仕事をされた人は私は基
本的にはそうなっていると思う次第でありまして、言ってみますと
ようやく我々も来るべきところに来て、そういう段階に至ったんだ
という認識でございます。
ところで私どもが今考えているのは、教育であるとか、研究であ
米国における工学教育の変化
脱冷戦体制と工学が国家安全保障に不可欠という認識
世界戦略としてのアクレディテーション
納税者のアカウンタビリティの要求
るとかというようなことを考えているわけですね。そういたします
と、これには深い意味が 2 つあると思うんです。
1 つは、やはりこういう問題というのは人類社会全体の問題である
旧来の工学の文化を一変
ということですね。そういう非常に人類に共通する内容がそこに含
知識の細分化、個人的専門性、すべての研究に重点を置くシステム
まれている。ですからそういう意味でアメリカが、例えば世界戦略
専門性と同時に総合性にも重点を置く、
個人の達成と同時にチームワークにも価値をおく
工学の研究と同時に教育や革新に重点を置く
としてのアグレゲーションというようなことをここに書きましたけ
れども、世界戦略という言葉は何かどぎついイメージを与えますけ
れども、それはまさにアメリカンソサエティーとして人類社会にい
かに貢献するのかということが当然一部として入っているんだろう
と思うんですね。
と同時に、例えば納税者に対するアカウンタビリティーと、そう
いう言葉で書かれますけれども、基本はじゃあその国自体に一体そ
れはどういう意味を持つかという、例えばアメリカなり日本なりと
いう閉じられたソサエティーの中での問題ということも同時に含ま
れているんだと。
自立的に変化をしていくと言いながら、教育という研究というと
ころに視野を結びますと、基本的にはそういう 2 つの大きな要素の
中で物事は動いているだろうと思うんですね。ですから私はこうい
う形でアメリカの方々と日本とが議論をし合うというのは、非常に
大きな意義があるんだろうと思うんですね。それは今言ったように
国際的な諸問題と各々の国の諸問題というものとを、やはり全体と
してどういうふうにうまく調和させて、これからの人類社会を構築
していくかという、非常に大切な仕事の中核のやり方だろうと思う
んですね。
86 | 工学教育の現状と将来
ですから研究、大学ですので研究と教育、それの核心の継続的な
メカニズムを、しかも自立的なメカニズムをいかにして構築してい
くのかというのが我々の共通の課題である。それは全世界的な、全
人類的な意味合いも持つし、同時にそれぞれの国の中の固有の問題
に対しても意味を持つだろう。
ちょっと午前中ご講演をいただいたものを私なりに整理をしてみ
ますと、ロジャーズ先生のお話というのは教育という問題が入って
いるわけですね。教育という問題はそこに深く人間がかかわってお
ります。それから社会そのもののソフトウエアといいますか、構造、
システムが深くかかわっておりますから、ある意味で言いますと非
常に及ぼすところが広うございますので、EC2000 のお話の精神をい
ただいたらと。
私は、でも多分なかなかピンとこないと思うんですね。つまり非
常に具体的にこうだと言えないと思うんですが、本当に我々が自立
的に教育という非常に長いレンジの、つまり時間がものすごく幅の
長い、しかも広がりの大きいところで考えていくときには、よく
我々なんかでも研究室の中だとか友達同士では、「やっぱり教育評
価というのは難しいね」と。例えば自分が教えた学生が 10 年後に、
あのときこういうことをやったけれども、思わぬことでこんなとこ
ろでこんな活躍をしているとか、これがどうだとかこうだとかとい
うようなことを非常に断片的には議論しているけれども、それがじ
ゃあ自分の教育にどう振り返ってくるんだとか、あるいは教育のシ
ステムにどうなってくるんだとかいうようなことについては、これ
は実はシステム的な議論は行われてないわけですね。
その意味でロジャーズ先生のやられたのは、それを行うためのシ
ステムとしての仕掛けをつくらなければいけないということだろう
と思うんですね。そのために一体教育の内部の問題をどうし、そし
て外の評価をどうするか。そうしませんと、どこが悪いのかわから
ないだろう。だから例えばきちっとシステムをつくって、それを分
割して、そしてそれに個々の目標をつけて、個別にそれを評価して
いく。と同時に全体の評価をしていくという、そういうことを考え
てるんだと。
ですけどそれは、今のはアメリカンアイデアであって、決してジ
ャパニーズアイデアではないですから、当然我々はジャパニーズア
イデアを提供しなければいけないんだろうと思うんですね。一体我
が国のそれはどうするんだと。そんなことしなくてもいいんじゃな
いかということまで含めて、やっぱり我々としてきちっとした答え
を提示ししていかなければいけないのではないか。それがやはりア
メリカからこうやってお話をいただいたことに対する当然の我々の
役割である。そういうことがベースになって私ども 8 大学工学部が
今議論をしているということでございます。
しかしながら議論は残念ながらロジャーズ先生がおっしゃったほ
どは、私は日本の議論の仕方というのは必ずしもシステマティック
に行われておりませんし、それから ABET のような組織も実は我々
は持っておりません。それから学会も実にそれぞれが勝手に自分の
オープンシンポジウム | 87
各自のドリームを持っているわけですし、工学教育協会というのは
あるけれども、しかし必ずしもそういうことで我々が期待して、そ
こにそういう議論を預けて、そこで行われる議論を我々がアクセプ
トしようというようなことにももちろんなっておりませんから、そ
れでこの工学部長の懇談会というような、非常にテンポラリーな組
織を使って、今やったわけでございますけれども、それは決して答
えを最終的にそこで提供できるというようなものでないということ
は事実だろうと思うわけです。
それからブラブマン先生からは研究のことを中心にしてお話をい
ただきました。これは私ども名古屋大学にいるものとしては、非常
にわかりやすい話でございます。
研究というものがなぜわかりやすいかと言えば、それはやはり評
価が比較的目に見える形でできるわけですね。それから時間をそん
なに長くやらなくても、ショートタイムで評価をしても比較的やれ
るんだろうと思うんですね。そして実際の現実とリンクさせながら
比較的早く変えていくことができます。
例えば私の研究室でやってる研究テーマは、去年はこれをやって
たけど、来年はこれにしようじゃないかということは、お金さえあ
ればさほど難しくないんですね。だからそれは試行錯誤もやりやす
いですし、答えも比較的出しやすい。ですから研究を中心にするも
のというのは、ワーッと動きますから、そういう意味ではショート
タイムで。
私どもの社会というのは、これを比較的順調にうまくやれてるん
新しい工学教育のパラダイム
ではないか。これは日本のこういう社会の発展を見ればやれてる。
ただしこれからもこれでいいかどうかということは、非常に問題で
新しく誕生した学問分野を発展させることに熱心な教官
確固とした数学及び工学基礎知識の維持
主題の統合-学生の課程の最初から全体像を示す
積極学習、企業ベースのプロジェクト、講義への依存の減少
コストとタイミング、量から質へ、社会と環境への関心、
健康と安全等の要素の導入
コミュニケーション、チームワーク、グループでの問題解決スキル
学生の多様な学問的バックグラウンドの促進
企業との定期的交流の維持
ありまして、一部研究に関しては、例えばスタンフォードでやって
おられる試みなんかもいろいろ見せていただいて、我々自身の教官
の研究のアクティビティーを、単に論文の数であるとか、あるいは
何々の賞をもらったとかいうようなことではなくて、それを否定す
ると殺されてしまいますから、もちろんそれは非常に大事な部分で
はあるけれども、そういうことだけではなくて実際に生きとし生け
る社会に、我々がいかに貢献したのか。
これは先ほどありました納税者に対するアカウンタビリティーと
いうことの一部の中に、例えば非常に投資的な国の資金が私どもに
入ってくれば、当然投資に対して投資効果というのは一体なんであ
るのかというフィードバックを社会にしなければいけないだろう。
それは賞をとることもひとつ入っているかもしれない。あるいは研
究論文を書くことが入っているかもしれませんけれども、もっと赤
裸々に言えば、100 円の金を大学に渡せば、200 円になって戻ってく
るという方が、はるかに国民がわかりやすいだろうというふうに思
うわけでありまして、そういう役割を我々が負っているということ
も、ひとつやはりだんだん出てきますので、そういう形のアセスメ
ントも当然出てくるでしょう。ですからそういうことで私どもの大
学を変えていくというような努力も当然一方ではしなければいけな
い。
88 | 工学教育の現状と将来
ところが教育ということになると、実はもっと大がかりで、もっ
と本格的な仕掛けがいるんだろうと思うんですね。その仕掛けをど
のようにつくっていくのかということが課題になっているというふ
うに、私は理解をしているわけでございます。
ABET2000、あるいは EC2000 の要約しますと、いくつか書いてあ
るんですが、一番大事なことは 2 つしかないんじゃないかと思うん
ですね。
1 つは、やっぱり明確な教育目的とその達成をするためのメカニズ
ムとモデルをいかにつくるかということでして、それとそれに対す
る評価とフィードバックのシステムをつくる。あとはいろいろあり
ますけれども、これはもう十分我々で対応がとれていることであっ
て、私どもが対応がとれていないのは実はこの 2 点だろうというふ
うに思っております。
それからペーパーの中には、「日本の現状と問題点」というのが
いろいろ書いてありますが、これは 8 大学の工学部長の先生方が非
常に自分たちをつらい思いで見て、やっぱりおれたちのやっている
ことはせいぜいこの程度だなという、非常に深い自省がこの中に入
ってるんですが、私はそんなにたくさん反省しなくてもいいんじゃ
ないかと思ってるんですね。
「日本の現状と問題点」というここに書かれていることは、先ほ
ど申し上げたように自立的な改革のメカニズムが何もされていない。
しかしそれは組織としてされてないのであって、先生方一人ひとり
は多分非常に自立的にご自分の教育方法の改革というのはやってお
られると思うんですが、私が言ってるのは組織的にやられていない
という意味であります。
ただ我々の反省として、非常に人間というものの独立、つまり個
ABETの認可基準2000の要約(基礎レベル)
の確立というのは一体なんであるかということについては、これは
1 学生の資質への適切な評価
私個人の思いもありますが、ちょっと反省をしているわけです。
2 明快な教育目的とその達成へのプログラム
3 工学スキルの諸能力を教育し、その教育プロ
グラムの結果への評価プロセスの整備
4 工学の実践の場の提供
5 充分な数の有能な教員
6 プログラムの達成に必要な施設
7 外部資金と支援体制
8 各プログラム基準を満たしていること
例えば大学の中での、個々の人間の特性というものをどうきちっ
と評価をしてやっていけるのか。それから企業なんかにお入りにな
ってもそうですけど、企業の中であまり個が独立することをやっぱ
り企業というのは非常に恐れているわけです。やっぱり企業という
のは企業体としての目的と人材の調和ということがあるわけです。
ですから当然のことながら、企業というのは目的が変わってくると、
創造性の豊かな人材がほしいとか、もう非常に安定的に拡張期に入
りますと、むしろ協調性のある人材がほしいとか、いろんな形で要
請が出てくる。それは企業体としての要請であるということですけ
日本の現状と問題点
(ⅰ)均質的教育、マキシマム・リクアイメント(許さ
れた条件下での限られた自由度)、結果的には一律カリ
キュラム。
(ⅱ)人材選別は大学入学試験で行い、その後の教育や
大学院入学試験に人材選別の機能がすくない。
(ⅲ)教官の卒業研究の教育効果に対する過重な期待と、
卒業研究が研究室における人材囲い込みの機能を果た
している現状。
れども、私は企業体の中の個々の技術者の個の確立というのを一体
企業人、個々の方はどう考えていらっしゃるのか、大学の者はどう
対応しようとしているのか。
それがありませんと、コンティニューイング・エデュケーション
なんてのは全く意味がないというふうにも思えるわけでございまし
(ⅳ)学生の選択することに対する未成熟。市民として
の自覚の欠如。
て、いろんなキーワードは移っておりますけれども、私どもに一番
(ⅴ)教官に共通カリキュラム教育の意識が薄く、ともす
ればカリキュラムから外れた独自の講義を行いがち。
やっぱり足りないのは個の確立に関する考え方の確立だというふう
に思っております。
オープンシンポジウム | 89
一方アメリカでは、個の確立がありすぎちゃってかえってバラバ
ラになってしまうというようなこともあるのかもしれません。した
がってチームだとか、何とかいうキーワードが出てきているわけで
すけれども、それは日本とアメリカとではそういうようなところは
個別に言いますと、非常に大きな違いがこれからいろいろ出てきて、
それはそれでよろしいでのではないかというふうに思っている次第
でございます。
そしてここにはこういうことが書いてあるわけですが、「日本式
で」というのが大事なところなんですね。やっぱり日本式でないと
日本式の中で、
真に多様な価値を有する学生をいかにし
て生み出していくか?
実のある多様化を
いかにして実現するか?
いかにしてニュー・エリートを生み出し
て行くか?
いけないんです。アメリカ式を日本に輸入するためにどうすればい
いかという話になっちゃったらやっぱりだめだと思うんですね。日
本式ではこうなんだということを提示することが、全人類に対して
極めて大事なこと。そして我々の社会にとっても大事なことなんで
す。
それはアメリカ式のものと日本式のものとが対立するということ
ではなくて、日本式とは一体なんであるかということを考えて、そ
して提示していく。つまり我々の社会というのは全地球的な規模で
言えば決して失敗した社会じゃないんですね。現在も成功しつつあ
る世界なんです。その成功しつつある社会が持っている教育のシス
テムに関する我々の考え方が基本的には間違っているはずがないん
です。ただ足りないものがあると言ってるだけのことであって。で
すからやはり基本的に日本式とはなんであるかということを、わか
りやすい言葉で国民に語ると共に、やっぱり全世界に向かって語ら
なければいけないんじゃないかというのが、またそこでひとつのミ
ッションとして入っていることだというふうに思っております。
それで大体時間が半分過ぎましたので、あとは8大学のお話をい
たしますが、そういう観点からすれば、これはちょっと私が 8 大学
8大学工学部長会議
の先生方にこんなことを言ってしまうと、現実の 8 大学の方に怒ら
れてしまって、「おまえだいぶ違うこと言ってるのではないか」と
工学における
教育プログラムに関する検討懇談会
いうことにもなろうかと思いますけれども、現在はこういう議論を
しているということのご紹介をさせていただきたいと思います。
工学における
教育プログラムに関する検討委員会
お話の筋としては 8 大学の工学部長会議が一応責任を持ってくれ
るということは決まっているわけですね。その下に懇談会というの
をつくりまして、さらにワーキンググループをつくって、今いろん
な議論が行われている。実質的に動いているのはこのワーキンググ
ループですね。ここで具体的な検討が行われているというのが事実
基本的用件
でございます。今日もこのワーキンググループから非常に多くの先
生方がご参加をいただいていることも事実でございます。
① 今回のカリキュラムに関する検討は大学が自ら
が行う最初の試みであり、その結論は大学をある程
度は拘束するべきものである。
こういうことをやっていくための基本的な約束事、これは実は我
② 今後国際社会をリードして行くためには、わが
国独自の工学カリキュラムを持つべきである。すな
わち、ある程度の国際基準との整合性は持つべきで
あるが、すべて西側に追随する必要はない。
んの大学の先生が、しかも工学部長という責任を持った人が集まっ
③ 予算、組織等から考えて実現可能な現実的な検
討を考えるべきである。
④ 検討は8大学内だけでなく、国民に広く受け入
れられるべきものである。
が国においてはこういうことをやったことがないんですね。たくさ
て、そして教育という問題について議論をする。しかもそれは専門
分野の議論ではなくて、工学というものを全体として議論をすると
いう、そういう経験が過去に実はないんですね。ですからちょっと
いろんな心配があって、4 つぐらいを約束事をした。これはこういう
90 | 工学教育の現状と将来
ものを始めるための最初の約束事ですから、あまり大きな意味があ
るとは思っておりません。
それから先ほどのロジャーズ先生のディーテールの中に入るよう
なたくさんのキーワードがずらっと並んでいるわけです。これにつ
いて現状の調査をいたしました。これはキーワードとして並んでお
りますので、ほとんど抜けていないと思います。
これをご覧になるとわかりますけれども、完全に抜けているのは
8大学のコアカリキュラムについての調査
1 大学院重点化の基本方針
2 それ のカリキュラムの改革の基本方針
3 大学院カリキュラムの改革基本方針
4 重点化前後の卒業単位数の変化
5 学部カリキュラムの評価方法
6 コアカリキュラムの議論の実情
7 学部教育と高等学校教育との継続性
8 工学部共通科目、共通教科書、共通試験の有無
9 大学科内での共通科目
10 各学科の基本科目
11 外国語教育の状況
12 人文、社会科学の必修科目の有無
13 体育、音楽等の科目の有無
14 卒業実験の存続と見直しの問題
15 学部教育と大学院教育の継続性
16 大学院入学試験科目
17 TAの活用方法
18 情報化教室の整備
19 創造性育成教育
個別の目標と、それを評価するシステムと、これをコンティニュア
スに改善していくにはどうすればいいかということは残念ながら全
く考えられていない。
もちろん手直しのメカニズムは持ってますよ。しかし反省として
は、やはり我々基本的には閉じられた大学という枠の中の、しかも
工学部という枠の中で、もっと極端なことを言えばそれぞれの学科
の中で、例えば機械工学であるとか、電気工学であるとか、土木工
学であるとかいう枠の中ではいろいろやってたけれども、それはも
う閉じられた中でのアセスメントですので、それは先ほどロジャー
ズ先生がおっしゃったような自立的なアセスメントとは必ずしも言
えない。なぜならばそれは閉じられただけの議論ですから非常にイ
ンパクトとしては小さい。それからデータとしては少ないというこ
とですね。からくりがはっきりしない。つまりどこが悪くて、どう
すればいいかということが十分に議論できるような態勢になってい
ないという、そういうことだということです。ですから現状のこう
いうものを調べて、そしてかなり厚い冊子として、データベースと
しては出来上がっております。
それで今どういう形で議論が行われているかということですが、
先ほどのワーキンググループですけれども、ここが非常に中心的に
工学における
教育プログラムに関する検討委員会
議論をしていただいているわけです。3 つの分科会を持っておられる
んですね。1 つは工学教育プログラム分科会、2 つ目がシステムの分
科会、3 つ目が評価の分科会という 3 つのものを持ってやっておられ
工学教育プログラム分科会
工学教育システム分科会
ます。今日はその 3 つの分科会が合同してこういうシンポジウムを
やっているということでございます。
工学教育プログラム評価分科会
まず教育プログラム分科会ですが、やはり工学全体に一応影響を
及ぼすということでございますので、個別の discipline にはなかなか
やっぱり立ち入りにくいというのも事実でございますから、ここで
は工学に必要な共通的なものについての議論をやろうと。先ほど言
いました、ロジャーズ先生で言えば仕掛けの部分ですね。それもノ
ンテクニカルな部分の仕掛けについて一応中心的に考えましょうと。
実際の disciplinary なものについての仕掛けはどうするかというこ
工学教育プログラム分科会
これからの工学士には専攻分野の専門的な知識
のみならず、多くの分野を総合した創造的な研
究、技術開発の能力が望まれ、しかも開発され
た技術に対しての社会への影響を的確に判断す
る能力が必要とされる。このような人材を育成
するため、専門分野に関係なく共通に必要な工
学教育のプログラムを提案することを目的とす
る。
とは、今後また個別の学会にお願いをするというようなことになる
かもしれませんけれども、とりあえずそういうことが目標となって
いるということでございまして、まだ非常に作業していただいてお
りまして、かなりのアウトプットは出始めているんですけれども、
今まだここでちょっとお話をする段階にはなっていない。
体制ですが、ここに書きましたように京都大学の吉田先生を一応
委員長にいたしまして、東京大学の中島先生、岡山大学の鷲尾先生、
オープンシンポジウム | 91
金沢工業大学の安田先生、金沢大学の林先生、私どもの方から幹事
として八田教授に出ていただいているというような形で今おやりい
ただいているわけでございます。
個別の名前をこういうところに出させていただいたのは、これか
らこういう先生方が出されるアウトプットということの意味を先ほ
ど私が申し上げましたので、そういう意味の中でどういうことにな
るかという、半分この先生方にも責任がありますよということを逆
に申し上げているわけでありまして、ちょっとお名前を出させてい
ただきました。これは了解を得てお名前を出させていただいたわけ
じゃないので、叱られるかもしれませんけれども、お許しをいただ
工学教育プログラム分科会
きたい。
それから教育システム、あるいは教育環境ということでございま
委員長
特別委員
吉田郷弘 (京都大学工学研究科)
中島尚正 (東京大学工学研究科)
鷲尾誠一 (岡山大学工学部)
安田正志 (金沢工業大学工学部)
林勇二郎 (金沢大学工学部)
八田一郎 (名古屋大学工学研究科)
すけれども、これも最近我が国では随分改良が行われております。
こういう建物をご覧になりますと、とても大事なんですけど、これ
は建物的にはいろいろ難しい問題を抱えておりますけれども、具体
的な教育の本当の方法論については随分新しい試みが行われてきて
おります。ですからこれはそういう新しい試みを含めて、本来ある
べき今度は今言ったように教育のプログラムを支える方法論につい
ての検討をしていただくというのが主な役割でございます。
工学教育システム分科会
そして同じように委員の先生方、大阪大学の都倉先生に委員長を
おやりいただいて、東北大学の柳澤先生、大阪大学の松井先生、芝
目的:工学に関する最も効果的で、柔軟で、し
かもコストパーフォーマンスの高い教育方法を
見い出す。欧米における新手法と同時に日本独
自の教育システムを探し、今後の大学教育にこ
れらの新手法を積極的に取り入れるための工夫
とその情報の公開
浦工大の武田先生、大阪府立大学の中原先生、私どもから河本教授
に入ってやっているということでございます。
さて、最後の一番難しい評価の委員会、これがなかなか大変でご
ざいまして、これはまさにロジャーズ先生のおっしゃった、今私が
一番最初に申し上げた、同じようにこういうからくりをセットした
上で、一体何をラベルとして、何を分析のですね、象徴的なものと
してこのアウトカムアセスメントをやるのか、というようなことも
含めて大学でのフィードバックのシステムの構築等々をやっていた
工学教育システム分科会
委員長 都倉信樹(大阪大学大学院基礎工学研究科)
柳澤栄司(東北大学大学院工学研究科)
松井 保(大阪大学大学院工学研究科)
武田邦彦(芝浦工業大学工学部)
中原武利(大阪府立大学工学部)
幹事 河本邦仁(名古屋大学大学院工学研究科)
だく。当然我々は自己評価をやっているわけでございますので、そ
の自己評価ということも視野に入れながら、自己評価とこういう評
価との接点を探りながらやるという、大変重要な委員会ですが、こ
の委員会はなかなか大変だなと私は個人的には思っておりますけれ
ども、ぜひ頑張ってやっていただけたらというふうに思っています。
それで委員としては、東京工業大学の水谷先生をヘッドにいたし
まして、九州大学の平川教授、北海道大学の岸浪教授、慶応大学の
工学教育プログラム評価分科会
工学に関する教育プログラムの評価方法を検討開発
する。工学教育の評価はフィードバックを繰り返し、
順次向上して行くものであるので、今後とも継続した
検討が必要になると思われる。すなわち、今後の作業
の継続的なシステム作りと有効な評価手法を開発す
る。
安西教授、それから早稲田大学の山川教授で、私どもから山内、澤
木両教授が加わって、今その議論が進んでいるというふうに思って
おります。
それからこのワーキンググループのもう 1 つの重要な役割といた
しまして、先ほどロジャーズ先生もおっしゃいましたけれども、言
1、2の分科会に対する評価も必要になると思われ
るが、議論はそれぞれの分科会との合同会議を時に応
じて開催することが望ましい。
葉の定義、言葉の共通理解についてもいろんな議論がされておりま
この際の評価には、従来の自己評価が数学や表で表
現してきたのに対して、むしろ当初に掲げた目標に対
する達成度を測ることで評価することを目指す。
百出するということを覚悟の上で今一生懸命頑張ってやっておられ
す。これは大変なことでありまして、これをやり出しますと意見が
ます。
92 | 工学教育の現状と将来
例えば工学というのがあるわけですね。ここにも書いてございま
工学教育プログラム評価分科会
委員長 水谷惟恭 (東京工業大学工学部)
副委員長 平川賢璽 (九州大学工学部)
岸浪建史 (北海道大学工学研究科)
安西佑一郎 (慶應義塾大学)
山川 宏 (早稲田大学理工学部)
特別委員 山内睦文 (名古屋大学工学研究科)
澤木宣彦 (名古屋大学工学研究科)
す。これは多分こんなことをここに出せば、一気にいろんな意見が
出てくるのはわかっているわけですけれども、これはいろんな方の
意見を聞いて、山本先生に、検討委員会の委員長ですけれども、一
応まとめていただいた。ここに書いてございます。
しかしこれもちょっと私が拝見すると、一体これは工学の研究と
いうことを少し念頭に置いた定義なのか、それとも教育を念頭に置
いた定義なのか、その両方をきちっと見ながらシステマティックに
やられた定義なのか、ちょっとはっきりしませんねというのが、私
の今の感想でありまして、どうもそれはあまりはっきりしない。
そんなことがありますので、こういうことを少し考えなければい
用語の定義
工学:
工学とは数学と自然科学を基礎とし、ときには人文
社会科学の知見を用いて、公共の安全、健康、福祉の
ために有用な事物や快適な環境を構築することを目的
とする学問である。工学は、その目的を達成するため
に、新知識を求め、統合し、応用するばかりでなく、
対象の広がりに応じてサの領域を拡大し、周辺分野の
学問と連携を保ちながら発展する。また、工学は地球
規模での人間の福祉に対する寄与によってその価値が
判断され、その成果には社会的責任を持つ。
けない。そうしますと日本語の「工学」というのを英語の
“engineering”にそのまま訳していいのかどうかという問題も多分出
てくるだろうということですね。工学は工学という日本語のまま実
は世界に伝えていただいた方がいいのではないかということも少し
中に入っているんだろうと思うんです。それはまたこれからいろん
な議論をしていかなければいけないだろうと思います。
それから工学教育ということについてもここに書いてございます。
これは今もう中間の段階ですからいちいちご説明してもあまり意味
工学教育:
工学教育とは技術者・研究者に必要な工
学におけるスキルと知識を与えることであ
る。スキル とは「物事を正しく行うこと
の出来る能力」であり、また「問題と解答
との間のスペースを埋めることのできるプ
ロセスを構成する能力」である。工学に関
するスキルによって技術者・研究者は専門
分野の知識を駆使し、関連分野の知識を関
連付け、統合し、また、その後の学習の習
慣を身に付ける。
がないので、来年はほぼ完全なアウトプットが出せるだろうと思い
ますので言いますが、例えばスキルというような言葉を消させてい
ただいたというのは、これはもうアメリカにおける ABET のご努力
の一部がこの中に取り込まれているわけでございますけれども、そ
ういうことも入れながら少し自分たちで考えていくというような定
義をしております。
それから技術というようなことについても、同じようにやはり定
義をしていきましょうというような、そんな勝手にこんなことする
と怒られそうですけど、非常に重要なこと。皆さんがそれぞれ、工
学とは、工学教育とは、あるいは工学研究とは
、技術とはなんだ、
というふうに、なんとなく思っておられることにある形を与えてい
く、そういう努力が実は本当は必要なんだ。それが循環的にシステ
ムを新しくしていくための非常に重要な作業だと。そういう意味で
あえて大胆にこうやっているわけです。これは決してこれによって
規制をするというような類のものでは絶対ないんだろうと思います
ね。
で、私の話はちょっと時間が少し余りましたけれども、これで大
体終わるわけでございますが、まとめになりますけれども、非常に
幸いなことに私どもの日本の大学というのは、第二次世界大戦の後、
技術:
技術とは自然や人工の事物・システムを改変・保全・操作
して公共の安全、健康、および福祉に有用な事物や快適な環
境を作り出す手段である。それらの人間の行為に知識体系を
与える学問が工学である。
非常に大きな勢いで我々の社会をつくり直していく、そこで非常に
大きな役割を果たしてきた。しかしそれは大学の設置基準、大学と
いうのはこういうふうにつくりなさいという設置基準によって非常
技術者:
技術者とは工学を駆使し、技術にかかわる仕事をする職業
人である。
に強く縛られていたわけです。これは私ども大学人は事実それによ
って縛られたという思いがあるわけです。ところが非常に大事なこ
とですけれども、これは国をも縛ったんです。つまり大学 1 校つく
るために国は必ずこういうことをしなければいけませんよと。国と
オープンシンポジウム | 93
いうことは国民ですから、当然国民をも縛ったんですね。大学も縛
り、国をも縛り、そうしてつくってきた。それが大学設置基準だっ
大学の設置基準の大綱化の関係
た。それが平成 6 年、7 年にかけてこれが大綱化されたということで
すね。これは非常に大きな要因で、自由設計の余地ができた。それ
広がる自由設計の余地
があるから今こういう話ができているわけでございまして、設置基
準ありきで、それでおしまいだったら、今言うような議論はむしろ
コアの存在意義の重要性の再認識
私ども大学人の自由裁量の中に入りませんので意味がないわけです。
これが 1 つの大きなバックグラウンドであった。
ただしそうは言っても、やはり何かハートコアになるところにつ
いては、やっぱりしっかりした認識と考え方を持っていなければい
けないんじゃないかと思うんです。ですからハートコアの部分の存
結果の査定
在意義、重要性の認識、それと自由設計の範囲というものをどうお
アウトプット尺度:
活動や作業を図表、計算結果、
互いに相互に組み上げていくか。というようなことが多分個々のシ
記録で表現
ステムの設計上非常に重要な部分だろうという認識に立っていると、
アウトカム尺度:
私は聞かされてるんですが、山本先生、そういうことでよろしいで
意図した目的に対する結果の査定
すね。そういうことだということです。
それから私どもの今現在やっている評価というのはまさに点数主
教育・研究ではアウトカム尺度が重要
義なんです。ロジャーズ先生がおっしゃったように、私ども、こん
なこと言っていいんですね、視学員としていろんな大学へある権限
を持っていくわけですね。そうするとまさに点数主義で文部省がつ
くられたものと、ハーッとした 50 項目ぐらいに及ぶことについて、
大学はいちいち図書館の蔵書は何冊でございます、教官はどれだけ
outcome
で学生がどうあって、論文をどのように書いて、研究費をどれぐら
い得てというような、もう非常に細かいリストをいちいちチェック
して。当然いろんな大学へ行きますから、そうするとあなたのとこ
Input
評価対象
output
ろは A 大学さんに比べてちょっと研究費が少ないですねとか、そう
いうような類のことをやっているわけです。ですからまさにアウト
プット評価であって、これは大学に入ってくる学生に対してももち
ろんそうなっている。すべてそうなっているわけですから、これは
アウトカムの尺度に変えていくということですね。これは先ほども
その意味は申し上げたつもりでございますけれども。
当然教育だけではなくて研究もそうだということで、研究の方に
ついては先ほどのブラブマン先生の話は、もう私なんか話を聞いた
だけで本当にピタッと気持ちが一致するなというぐらいよくわかる
話であるわけですが、教育についてはやっぱりなかなか難しいとい
うようなことがまとめでございます。
ですから最後になりましたけれども、結局こういうことで循環の
フィードバックシステムをつくっていくということで、これから専
門の方々だけではなくて、企業の方々もどこかでお入りいただく。
あるいは場合によったら学生も入らなければいけないかもしれない。
そういういろんな方々のご協力を得て、より良い形のものをつくっ
て、日本式の ABET、何という名前がつくかわかりませんけれども、
それを我々の手でなんとかつくり上げて、あるいはつくり上げるの
か、つくり上げる必要がないんだったらつくり上げる必要がないと
いう、ちゃんとした根拠をやっぱり説明をして、国の内外に日本式
94 | 工学教育の現状と将来
のそういうものを発信していく。そういう作業に今かかっておりま
して、1 年後には非常に中間的なアウトプットが出るだろうと。文部
省のプロジェクトとしては一応それで終わりだと。ですからその結
果を見て今後どうするのかということを考える。
今ここに大中先生がいらっしゃいますけれども、大中先生をはじ
めとして、日本工学教育協会ではプロフェッショナルエンジニアを
中心とした技術者資格という、むしろ社会的なそういう養成の立場
から大学教育とどうかかわってくるかという、そういう議論もされ
ておられますし、それから例えば情報学会であるとか、情報処理学
会ですとか、そういう一部の学会では学会レベルでいろんな議論も
始まっております。ですからそういういろんなところで、いろんな
中で行われている議論を大学も集めて、やっぱり全体としてどうい
うふうにしていくのかというようなことになっていけばいいのでは
ないかと。
ただ問題は非常に難しいですので、ぜひまたアメリカのいろんな
議論と時折こういうふうに突き合わせて、協議をさせていただいて、
いろいろ教えていただいてつくり上げられたらいいなというふうに
思っている次第でございます。
どうもありがとうございました。
オープンシンポジウム | 95
司 会: 架谷先生、どうもありがとうございました。このプロジ
ェクトの生みの親として、なぜこのプロジェクトを発足させねばな
らなかったか。並びに現在検討委員会で行っています活動について
概要をお話しいただきました。ありがとうございました。
幸いちょっと時間を残していただきましたので、後でまたパネル討論会でいろんな議論の機会もござい
ますが、パネル討論会は一応「工学教育と OUTCOMES ASSESSMENT」になっていますので、ちょっと
今の先生のお話に限ったことで何かご質問があれば、今承りたいと思いますが。何かございませんでしょ
うか。
あるいは検討委員の先生で、架谷先生がおっしゃったこととちょっと違う考えだよというのがあれば、
伺いたいと思いますけれども。よろしゅうございますか。
はい、どうぞ。
土 岐: 北海道大学の土岐でございますが、大変興味深くお話を伺いました。先生、大変明快に工学、
それから工学教育ということのお話をされましたが、私はあるところに「工学者教育」ということで書き
ましたら、校正の段階でそれが「工学教育」に戻ってきている。もう 1 回「工学者教育」というふうに書
き直したら、また「工学教育」になっているということで、ちょっと私の意図と違ったのですが、先生、
大変細かなことでございますが、「工学教育」というのと「工学者教育」ということについて私はちょっ
と違うのではないかと思っているのですが、「おまえはどう思っている」と言われたら困るのですが。先
生のご意見があったらちょっとお伺いしたいと。
架 谷: ちょっと明快には今ここでお答えしにくいですが、先生のお気持ちは非常によくわかります。
ちょっと私も申し上げましたが、日本の中で最も欠けている反省点として、「工学教育」はある。しか
し「工学者教育」はないのではないかと思っております。ですからそういう意味で先生のお気持ちは理解
できるような気がいたしますけれども、なぜそれを消すかもわかるような気もします。つまり先生のおっ
しゃっているのはやはり個の確立の意味の中で工学者としてその人が確立していくための教育の展開をし
たいのだと。ところが日本では「工学」というものを教えるという気持ちはあっても、「工学者」を育て
るという気持ちはないのではないか。あるいは技術者をつくり上げていくという気持ちはないんではない
かという。技術者というのは決して人間トータルとしての技術者ということをおっしゃっているので、職
業人としての技術者を多分意味しておられないのだろうと思うのですけど。そういう観点が欠けていると
いう意味で、よろしゅうございますか。そういう解釈だと思いますので、そういうことはよく理解できま
すけど、なぜ「者」が取られるかというのも、日本の今のソサエティーのなんとないコモンセンスとして
はよくわかるような気がします。
司 会: 土岐先生、よろしゅうございますか。他にございませんでしょうか。
札 野: 金沢工業大学の札野と申します。大変すばらしいプロジェクトを始めていただいて心から感謝
しております、ただメンバーの先生方のお名前を拝見させていただいて、企業の方ですとか、あるいは工
学部以外の分野の先生方が入っていらっしゃらないのが若干なんていうのでしょう、工学の広がりという
ことを考えますと、そういう人たちに入っていただいて議論に加わっていただいた方が、より実のある議
論ができるのではないかと思うのですけど、その辺りはいかがでしょうか。
架 谷: 私個人的には、もう当然のことを今おっしゃったと思うのですね。ところが現実の問題として
は、やはりまず中心のところもできてないわけですね。何もないところからいきなりいろんな人が集まっ
て話を始めると、日本式議論でそれは何の答えも出さない報告書をつくって終わってしまう、ということ
も過去私どもは度々経験をしておりますので、したがいまして今回は責任の体系をはっきりするという意
味で 8 大学の工学部長に預かっていただいた。
ですから当然のことながら、今先生がおっしゃったようなことは、次の段階として出てくる。今 8 大学
の工学部長の会議でやっておりますけれども、先生がおっしゃるような意味の本当の定量的な具体化まで
は多分話が進まないだろうと思うのですね。多分。いや、進めていただけるかもしれませんけど、ちょっ
とやはり進めるのは難しいと思うのです。ですからそういう意味から言えば、それは今後そのようにして
96 | 工学教育の現状と将来
いただくというのがいいのではないかというふうに思っています。
札 野: わかりました。ありがとうございます。
司 会: この件で、あるいは全体として山本先生、委員長として何かご発言ございますか。
山 本: いや、特にございません。ただいろんな言葉の定義が非常に難しいと感じています。多分ここ
におられる先生方、今日おいでになっておられる先生方もそのことを痛感されていると思うのですけれど
も、私どもが非常におぼろげな意味で感じ取っている定義が必ずしも正しくないというようなそういう気
持ちがいたします。
あと私が申し上げれば申し上げるほど、検討委員会の宿題が増えるような気がしてまいりまして、この
辺にさせていただいて、パネル討論会で議論させていただきたいと思います。
司 会:
はい、どうもありがとうございました。それじゃ架谷先生、本当にどうもありがとうございました。こ
れで終わらせていただきます。
パネルディスカッション
パネルディスカッション | 97
ASSESSMENT」
パネル討論会「工学教育と
」
パネル討論会「工学教育とOUTCOMES
「工学教育と
司 会 ( 山 本 ) : そ れ で は ほ ぼ 定 刻 に な り ま し た の で 、 パ ネ ル 討 論 会 「 工 学 教 育 と OUTCOMES
ASSESSMENT」を始めさせていただきます。
私は司会をさせていただきます、名古屋大学の山本でございます。よろしくお願いいたします。
パネラーといたしましては、先ほどご講演いただきました、ローズハルマン工科大学のロジャーズ先生、
スタンフォード大学のブラブマン先生、それから名古屋大学の架谷先生の他に、あとお二方加わっていた
だきました。
お一人は、北海道大学大学院工学研究科長の土岐先生で、またお一人は、新日本製鐵株式会社の大橋様
でいらっしゃいます。
ご紹介させていただきますと、土岐先生は、昭和 35 年に北海道大学の大学院修士課程を修了され、運
輸省に採用され、38 年から北大工学部に移られ、51 年に教授になられ、平成 7 年に工学部長になられて、
今日に至っておられます。8 大学工学部長会議に最も長く務められ、この工学教育に関する問題について
も造詣が深く、いろいろな時期時期に適切なご指摘をいただいている先生でいらっしゃいます。御専門は
土木工学でございます。
また、大橋さんは新日鐵に入社以来 30 年以上研究開発に従事されて大学との関係、いわゆる大学と企
業との接点に長い間、接してこられた方であります。昨年から新日鐵の名古屋製鉄所にお勤めになってお
られますが、名古屋大学とも縁が深く、私ども工学研究科の外部評価の委員にも何度かなっていただいて
おります。企業からの視点でこの工学教育の問題について適切なご意見をいただけるものと期待しており
ます。
さて、この問題については、8 大学工学部長会議等で長い間議論が続いておりましたが、土岐先生には、
パネル討論に入る前、その経緯等も少し触れてお話をいただきたいと思います。土岐先生、よろしくお願
いいたします。
土 岐: ただいまご紹介いただきました土岐でございます。
経緯等につきましては、架谷先生から詳細なご説明がありましたので、アウトカムズアセスメントにつ
きまして、アウトカムズアセスメントに至るまでの要件、これまでにどのような考えを持つことに至った
か、どのような考え方をしてきたかにポイントを絞って、話題提供をさせていただきたいと存じます。
この OHP にはやや挑発的なことが書いてございますが、日本の工学教育が具体的な教育目標を本当に
持っているのかということでございます。先ほど来、お三人の方からご講演がありましたが、米国では大
変非常にはっきりとした理念があり、定義がなされております。また、架谷先生の方からも、こうあるべ
きであるという、やや大胆と申し上げたら失礼かもしれませんが、ご提言をいただいたところでございま
す。
ここに日本の工学教育の実態が書いてあるわけでございます。日本の工学教育はここに書いてございま
すように、例えば入学者の選抜を見ましても、全科目における平均的高得点者が入学される。それから多
様な人間を、人材を教育すべきであるということで、推薦入学が進められてきたところであり、また議論
が進められておりますが、その基準が残念ながら明確になっていない。高度な技術者や研究者の育成とい
うことが盛んに言われておりますが、入学時に全科目における平均点の高得点者を前提とするような教育
を行っているということでございまして、高度な技術者、研究者の育成ということは、理念としては正し
いわけでございますが、まだややあいまいであります。このような実情の下で、高等教育を受ける有資格
者を求めているわけでございます。
また、カリキュラムは教育目標、目的から発生しているのではなく、教育的目的がはっきりしていない
98 | 工学教育の現状と将来
わけでございますから、既存の学科を構成する専門分野を中心とした科目、機械工学科なら機械材料力学、
熱力学、機会力学それに流体力学ということを聞くことがございますが、このような科目から構成されて
います。
各大学において、したがってほとんど似たような共通のカリキュラムを持っているということになりま
す。結果として多様性の否定、それから単一的な側面から見た個性の少ない評価による序列化が否応なし
に進んでいる。したがいましていわゆる片寄ったと言われる一芸に秀でたような学生の入学が、ともすれ
ば阻害されがちであって、平均的な円満な万能選手だけが工学者として歓迎されるような傾向にあるとい
うわけでございます。
これを絵に描きました OHP を提示させていただきます。ここに示してございますように、「工学教育
の目標と目的」。目標といいますと、オブジェクトとかビジョンとかという言葉が使われているようで、
目的はエイムとかオブジェクティブということでございますが、要するに工学教育の役割、ミッションと
いうものがあまり具体的ではないということを繰り返して申し上げています。架谷先生もこのようなこと
をおっしゃったと思います。
これを明確にしまして、教える側の啓発を行いまして、その
結果この入学者の選抜であるとか、カリキュラムと教育の方法、
これは最近いろいろな側面からの評価が盛んに行われておりま
すが、外部評価とか内部評価とかで、私どもの方でも学生によ
る教育評価、あるいは教員による学業成績の評価についての自
己点検を行ってるということでございますが、このような問題
が十分検討され、理解されていなければなりません。
それから教育組織ですが、先ほど来、人間が教育組織として
非常に重要である。いい先生を集めることが最重要のキーポイ
教育目標・目的の重要性
・全ての教育プログラムにおける手段・
方法は教育目標・目的から派生する
・日本の工学教育における目標の多くは
「高度な技術者・研究者の育成」を掲げている
のみで具体的目標・目的が明示されていない
・どのような技術者・研究者を育成するかの
目標・目的が明確である場合に、入学者選抜、
教育組織、カリキュラム、教育資源が定まる
ントになるというお話がございましたが、教育組織とか教育資
源、これには教育リソースとか支援組織のことも入ると思いま
すが。それから先程の評価プロセスのこと、どのような手順で
行うべきかということを明確にしまして、その結果入学希望者
という入力がありまして、これらをベースにして工学教育プロ
グラムがつくられ、それからアウトカムズアセスメントがある
というわけです。
先ほど来お伺いしておりますと、米国の NSF のように非常に
はっきりとした direction for engineering というものが日本ではま
だできていないわけで、申し上げたいことは、先ほど架谷先生
もおっしゃっていらっしゃいましたが、工学教育の目標と目的
が具体的にはっきりしていないとアセスメントができないので
はないだろうか。つまり決して部外から、または社会のニーズ
に従ってアウトカムというものが評価されるわけではなくて、
各大学がそれぞれ持っている工学教育の目標と目的どおりのア
ウトプットがあったかということを、いろいろな面から評価し
なければならないということを強調させていただきたいと思っ
ております。
同じ話になりますが、まずこれは非常に簡単に話させていた
だきたいと思いますが、教育目標とか目的の重要性というもの
は、またすべての教育プログラムにおいて発生する手段・方法
は、目標、目的を明確にしてから、具体的にしてから派生する
ものだということでございます。
Incomes Assessment から
Outcomes Assessment への条件
①工学教育における具体的教育目標・目的の提示
②教育目標・目的に基づいた入学選抜、
教育組織、カリキュラム、教育資源の整備
③教育目標・目的に基づいたOutcomes Assessment
パネルディスカッション | 99
2 番目に、日本の工学教育における目標の多くは高度の技術者・研究者の育成ということを掲げている
のみで、具体的な目標・目的がまだ明示されていない。それからどのような技術者、研究者を養成するか
の目標と目的が明確である場合に、入学者選抜、教育組織、カリキュラム、教育資源というものが定まる
はずであって、さらにアウトカムズアセスメントもしっかりとできるというわけでございます。ここをし
っかりと、私たち議論しなければならないのではないかということでございます。
これはちょっと挑戦的な言葉になるかもしれませんが、もしすべての大学が同じような入学者選抜、教
育カリキュラムを採用しているのであれば、大学評価、それからアウトカムズアセスメントは入学者選抜
の結果で代行できるということになります。なぜならば入学する学生が同じ教育カリキュラムと教育方法
を受けるのであれば、卒業時の学生の能力は入学選抜の結果に比例するということで、そんなことはない
よとおっしゃられると思いますが、そのようなことになってしまうのでございます。
結論でございますが、インカムズアセスメントからアウトカムズアセスメントの条件といたしましては、
まず 1 番目に、工学教育における具体的教育目標・目的の明確な提示。それから教育目標と目的に基づい
た入学者の選抜、教育組織とかカリキュラム、教育方法、試験・成績評価方法の整備というものを、各大
学が独自の個性的な理念に基づいて行わなければならないということ。
それから 3 番目に、教育目標・目的に基づいたアウトカムズアセスメントをすべきであるということで
ございます。
これで最後に一言申し上げますと、名古屋大学、あるいは北海道大学もそういうつもりですが、教育に
ついて新しい組織をつくったわけでございます。名古屋大学は名古屋大学独特のシステムの大学院をつく
ったわけでございますが、このような大学の教育システムというのはアウトカムズアセスメントが将来さ
れやすいというか、しやすいものじゃないかと思われます。
ちょっと長くなりましたが以上です。
司 会: ありがとうございます。特に教育目標・目的の重要性と、アウトカムズアセスメントについて
の関係について述べていただきました。
今のお話も含めながら、約 2 時間近くお話を進めていきたいと思っております。
今日お話をお聞きになられて、よくおわかりいただいたと思うんですが、基本的にこうした 8 大学工学
部長会からスタートいたしました検討は、もともとは資格の問題でございまして、資格の相互承認という
のがひとつの大きなきっかけになったのではないかと思います。そういうことで私どもは検討を始めたわ
けですが、検討を始めてみますと、すぐに気がついたことは資格の問題以外に非常に大きな 2 つの問題が
その裏に隠れていたことです。
1 つはアウトカムズアセスメントでございます。これはいかにしてその評価の結果をフィードバックす
るかという、先ほどの架谷先生のお話にもあったわけでございますが、大変重要な考え方を含んでいるの
ではないかと思います。
それから今ひとつ、デザインを中心とする新しい工学教育というのが、実は重要な要素として含まれて
いた気がいたします。考えてみますと資格の相互承認から始まって、私たちはアウトカムズアセスメント
とデザインの工学教育という、大きな 2 つの予期しなかった問題にまき込まれて、その中で議論を始めて
いるというような気がいたします。
デザインを中心とする新しい工学教育につきましては、いずれまた時間を改めて議論をさせていただく
ということで、今日はアウトカムズアセスメントについてお話を進めようと、シンポジウムを企画させて
いただきました。
さて、アウトカムズアセスメントと申しますと、いろんな面がある。それからいろんな言葉の定義があ
ります。今日のロジャーズ先生のご講演でかなり頭がすっきりしてまいりました。つまり定義が非常にク
リアーになって頭の中に入ってきた気がいたしますが、先ほど土岐先生がお話になられましたように工学
の目的というのを明確にしない限りは、アウトカムズアセスメントも機能しないのではないかと、土岐先
生のお話を伺いながら感じたわけでございますが、土岐先生、そういうことでよろしゅうございますでし
ょうか。
100 | 工学教育の現状と将来
土 岐: はい。
司 会: そういたしますと、工学の目的とは先生はどのようにお考えですか。最初から難しい質問で申
し訳ございません。
土 岐: これは用語の定義の合意ができてないときに申し上げるのは大変難しいと思います。架谷先生
の OHP の中に、工学というのはなんであるか、工学の目的というのがなんであるかということが非常に
大胆に明確に示されておりますが、あれで同意いたしております。
要するに既存の知識とか技術にさらに新しい学術、技術を加えまして、それを統合する。それと理学と
いうのは、よく言われているように、理学はたとえば好奇心、なぜだろうかということからスタートしま
して、自然現象を支配する法則を探求するというものと考えられ、違うわけでございます。学術と技術を
統合する。あるいは目的を持ったプロジェクトをあるいは計画を理論的に組み立ててシステムをつくり、
それを実施して成果を上げるということが工学である。ですから工学教育においては、問題を見つけると
か、それを解決する、それから新しい技術を応用移転するという能力が非常に要求されている、というこ
とが非常によく言われてると思います。ちょっと抽象的な話で申し訳ございません。
司 会: 日本での一般的に工学という場合と、アメリカ、米国で言うエンジニアリングでは少し認識の
差があるのじゃないかと思います。
工学の目的がわからなければアウトカムズアセスメントは難しいだろうという点についてはロジャーズ
先生、いかがお考えでしょうか。
ロジャーズ: 全くそのとおりだと思います。まずもってアセスメントを行う対象を知らなければならな
いということです。学生が究極的にどのような知識、スキル、能力を持ってほしいのかということが明ら
かになっていなければ、アセスメントをしたとしてもそのプロセス自体意味を失ってしまいます。
司 会: 目的が明らかになればアセスメントが必要となってくる。架谷先生、先ほどアセスメント、評
価の問題は非常に自立的な評価が必要であるとおっしゃいました。自立的な評価が実はアウトカムズアセ
スメントであるというお話をされましたが、いかがでしょうか。
架 谷: 私がちょっと申し上げたかったことの中に、今なぜこういうようなアセスメントの議論がアメ
リカでもわが国でも、多分、西ヨーロッパ諸国でも同時発生的に起こってきているのかというバックグラ
ウンドについてちょっとご説明したかったわけです。
それは教育というものが、それぞれの国家なり民族なりにとってどういう意味を持っているかというこ
とについては、多くの議論は必要ないことだろうと思うんですけれども、そうではあっても、やはり社会
そのものが非常に速いスピードで、しかも大きく動いていく、また動いていかざるを得なくなって、もう
相互に非常に大きな影響を与えてしまう。ですからそれと教育をどう考えるかという、そこのところにや
っぱり問題の原点があるので、土岐先生がおっしゃったように教育目標をセットしなければできないこと
はもうわかってるわけですけれども、むしろ教育目標をセットしてアウトカムズをやればいいというほど、
問題は単純ではないんじゃないかというのがむしろ私の心配なので。ですから教育目標の立て方を本来ど
うするかというところの根本になっているところ、やっぱりそこを非常に深く考えなければいけないので
はないかという気はいたします。
ですから先ほど少し工学の定義みたいなことを申し上げて、それの説明を詳しくしなかったのは、定義
はなるほど必要なんだろうと思うんですが、定義すること自体に非常に危険な面もあるんだろうと思いま
すね。それを固定してしまいますとチェンジングワールドに対して、常にその定義、つまり目標を常に変
えていかなければいけないということもやっぱり含まれているんではないかという意味です、私の申し上
げたいのは。
ですから目標が固定的であって、アウトカムズアセスメントがあればいい。そういうものではない。つ
まりシステムのチェックではなくて、私が先ほど申し上げたのは目標そのもののチェックも入っているん
だという、そこのところを申し上げたかったということです。
その辺で多分ロジャーズ先生のおっしゃったことと意味が少し違うものが入っているんではないかと思
います。私の話が少しわかりにくいとすれば、土岐先生ほどクリアーに私は申し上げる自信がないんです
パネルディスカッション | 101
よ。というのは目標そのものもチェンジャブルだというのがどうしても気持ちの中から抜けきれないとい
うことですね。それをどうするかということまで含めた議論については、あまり話が拡散してしまっても
いけませんから、除いていただいても結構だと思いますけども。
司 会: 同じ議論が、ブラブマン先生も先程の講演で指摘されておりました。将来の問題点として、ま
ず学際分野が非常に重要である。学際分野の教育というのはこれは非常に動きやすいものだと思いますし、
また情報技術の発展が我々の予期せぬスピードで進み、それが大学の意味の問いかけにつながっていると
いう点。さらにまた学生が非常に多様化しているというような、こうした問題点を挙げられたと思います。
そういたしますとそういった教育の目標自身が動いているのではないかと思いますが、ブラブマン先生、
いかがでしょうか。
ブラブマン: まずスタンフォードにおきましては、工学教育の目標ゴールというのは非常に単純な形で
書いてあります。というのも工学教育というものがそもそも非常に幅広いものであって、あいまいなもの
でありますので、単純な言葉でのみ工学教育の目標を表すことができるのです。
したがいましてスタンフォード大学における学部レベルの工学教育の目標ゴールは、あまりにも単純明
快すぎるかと思いますけれども、「明日の技術のリーダーを訓練する」というふうになっております。し
かしながらスタンフォード大学のような大学におきましても、すべての学生が極めて高いリーダーの地位
にまで上り詰めるというわけではありません。そういう学生はほんの一握りしかおりません。
しかしスタンフォードの卒業生を 5 年後、10 年後、20 年後というふうに追いかけていきますと、社会
に対して非常に大きなインパクトを与えております。ハイテクノロジーの分野で、あるいは事業、ビジネ
スの分野で。あるいはハイテクとは関連しないようなビジネスの分野、あるいは政治であるとか、政府な
どに入り込むことによって、社会に対する極めて大きな影響力を行使しています。
これは別に工学部に限ったことではないんですけれども、アメリカの最高裁の判事が 9 人おりますけれ
ども、そのうちの 4 人がスタンフォード大学の卒業生です。
そして、現在の ABET 、それから前回の ABET の目標にも書かれていますけれども、工学教育を受け
たエンジニアというのは、非常に幅広い分野にわたって教育訓練を受けていなくてはならない。そして非
常に幅広い分野にわたった能力を持っていなくてはならないという目標を掲げております。スタンフォー
ドのだれもその目標に対して反対の意見を持つ人はいないでしょう。
ただスタンフォードにおいて若干懸念を持っているところがあります。これはスタンフォードのこれま
での歴史を振り返ってそうした恐怖感を抱く理由はあるかと思いますが、スタンフォード以外の外部の機
関とか、外部の個人が作りあげる基準に基づいて変ることはあるべき変化を閉じ込めてしまうようなもの
になってしまうのではないかという恐れでありまして、本当に必要にせまられた本来あるべき変化から離
れていくのではないかというような恐怖感であります。
司 会: 非常におもしろい話だと思うんですが、他のパネラーの方のご意見を伺います。
架 谷: 今のブラブマン先生のお話に関連しますが私が目標そのものがチェンジングワールドの中で本
来やっぱり変わっていくものではないかという発言をすると、目標そのものが非常にあいまいになって、
今やられていることは全部意味がないんじゃないかと、そういうことを言ってるというふうに聞こえるか
もしれませんが、決してそうではなくて、例えば目標の置き方をよほどうまくセットする構想力がいるの
ではないかということを実は申し上げたかったんです。
例えばアメリカ憲法をつくった今から二百何十年前に原則的なものがトーマス・ジェファーソンによっ
てつくられたわけですけれども、非常に若いアメリカの方がその後の 200 年のアメリカ社会を基本的に、
ファンダメンタルに決めていくような、そういう構想力でもって憲法の前文をつくられた。
同じようなことで、これは戦後わが国における現憲法の存在がありますけど、憲法の各条々ではなくて、
憲法前文というのはやはり我々国民の共通の認識としてのわが国の社会を非常に厳しく律していると思う
んですね。それと同じような意味の工学のあり方みたいなことは、もうぜひこれは必要ではないか。
ですからそれはやはりチェンジングワールドをきちっと見定めて、そしてそれをどうガイドしていくん
だというところまで含まれるような、工学憲章のようなものを本当に今の時点で我々がつくることができ
102 | 工学教育の現状と将来
たら、それはすばらしいなという、そういう意味は当然入っているわけでございます。
ただ、そうであっても、もう少しディスインテグレートされた形での、個々の小さな目標を持つべきで
はないか。その個々の小さな目標を持たないと、やはりダイナミックな変化はできない。しかし個々の目
標を束ねるような、非常に大きな、これはちょっと私の非常にディーテルなところまで言ってしまったの
で、今日はそこまで言うつもりはなかったんですけども、大きな大目標といいますか、工学憲章のような
ものはやっぱり必要だと、そんなふうに個人的には思っているわけでございまして、ちょっと話を先へ進
めてしまったので、本来は戻していただいた方がいいんですけど。
例えば今ブラブマン先生がおっしゃったように、リーダーとなるような工学者、あるいは技術者を育て
るんだということだって、これはひとつの立派な憲章ではあると思うんですね。ところがわが国において
はそれでは不足だと私は個人的には思っております。多分今言ってる議論はそういうことでは正しくない
というふうに思っていますが。
司 会: いわば工学に対して、進むべき方向ベクトルみたいなものを考えるのと、それから個々のゴー
ル、小さなゴールを考えていくので、少し考え方が違う。そういった言葉の定義というのは、実はこのロ
ジャーズさんのこの本の 14 ページを見ていただきますと、ゴールとオブジェクトとパフォーマンス・ク
ライテリアとか、いろんな用語の定義が書いてございます。aim と goal はどう違うのかとか、この辺の理
解がしっかりしていないとなかなか議論が前に進まないのも事実であると思うんです。
ロジャーズ先生にお聞きしたいんですが、ローズハルマン工科大学というのは非常にユニークな大学と
して知られているわけですが、ローズハルマンの教育の目標としてどういうことを考えておられるわけで
しょうか。
ロジャーズ: 私どもの学校のミッションステートメントでありますけれども、スタンフォードの方も先
ほどかなりシンプルだとおっしゃいましたけれども、もっとすばらしくシンプルなものでして、「世界で
最高級の工科大学でありたい」ということであります。学長のことをご存じでしたらわかると思います。
先ほどアセスメントのプロセスが非常にダイナミックであるというお話をしてらっしゃいましたけれど
も、この点について少しお許しをいただいてお話させていただいてよろしいでしょうか。
今朝お見せした表を覚えていらっしゃるかもしれませんけれども、教育機関の目的とか目標を定めるに
あたっては、教員だけではなく様々な関係者の意見を聞いて決めなければいけないということをお話しい
たしました。ですから実際にいろいろな学校の目標や目的を決めるときには、内部の教員だけではなくて、
産業界の諮問委員会のメンバーの方々ですとか、同窓生や教員、学生、その他、例えば大学の理事会のメ
ンバーの方たちの意見を入れながら変えていくわけです。ということはこれらの関係者の人たちのニーズ
が変われば、当然のことながら学校としての目的や目標も変わっていきます。ということは学校の目的が
変わるということですから、目的に伴いまして教育を伝えていく、教育を与えるためのプロセスであると
か手法も当然変わりますし、そこまで変わってくるということであるならば、データの集め方も含めて、
アセスメントの方法も時宜に応じて変えていくことになります。
ここで重要なことは、体系的なプロセスがあるのだということをきちんとつくり上げ、そしてそのプロ
セスがあるということを皆さんが知っていくということです。そして常に評価をし実施していく。そうす
ることによって我々が立てている目標に対してどの程度の達成があったのかということがはっきりわかる
ような、現状が認識できるような仕組みをつくり上げる必要があります。
司 会: 大変明快に教えていただきましたが、何かフロアーからご意見ございますか。
どうぞ、大中先生。
大中: 大阪大学の大中でございます。
今日お二人の先生から大変いいことを伺ったんですが、もう少しロジャーズさんに具体的な例をちょっ
とご紹介いただけると大変ありがたいと思います。例えば教育プログラムの目的としていい実例ですね。
具体的な目的、例えばこういうのがあったという案例。
それからアウトカムの評価方法でこういうのがいい例であるというのをひとつご紹介いただけると、も
う少しクリアーになるんじゃないかと思うんですが。
パネルディスカッション | 103
司 会: 実は今大中先生が言われたのは、私もちょうどロジャーズ先生にお聞きしようと思っておりま
した。
昨日カリキュラムのアウトカムズアセスメントについて教えていただきまして、非常にそれでわかりや
すかったような気がするんですが、ロジャーズ先生、もう一度昨日のお話を再現していただけますでしょ
うか。テストの成績の一番いいのと悪いのを合わせて、コースのアウトカムズアセスメントにする手法に
ついてお話があったと思うんですが。
ロジャーズ: 昨日自分で話したかどうかちょっと覚えてなくてすみません。ご指摘になったやり方とい
うのは、以前のクライテリアでよくやられていた手法だと思いますけれども、ある 1 つのコースの評価を
するにあたって、その学生の成績を見て一番いい人と、それから中間と一番悪い人、これを外部の審査官
などに見せるわけです。そうするとこれぐらいの幅があるのだということが外部の審査官の人によくわか
っていただけるということで、ひとつのコースの評価をしてもらうときにときどき使われる手法ではあり
ます。
大中: 例えば今のような場合に、最近の日本の学生はペーパーテストに丸暗記をして答えを書きます。
そうすると見かけはアウトカムが良かったように見えます。しかし本当のアウトカムではないわけですね。
ですから本当のアウトカムを評価するというのは、ペーパーテストでもそう容易ではないわけです。もし
何かそういうことに対していい具体例があればご紹介いただければと思います。
ロジャーズ: それでは私どものローズハルマン大学でやっていることをご紹介したいと思います。私ど
もには、学生にこういったものを覚えてほしい、学んでほしいという期待値といいますか、アウトカムズ
があらかじめあるわけです。例えば学際的なチームの中でチームワークができるかどうか、あるいはコミ
ュニケーションの技術を持っているかどうか。あるいは基本的な数学や化学をきちんと理解できるかどう
かといった技能でありまして、これは今日ご説明しました EC2000 の中にすべて入っております。
今朝のお話で、この評価にあたっては学生自身に自分たちの自己評価をさせてくださいという話をしま
したけれども、これは学生が自分たちのことを反省する材料になるというだけではなく、学生がどれだけ
学んでくれたかということを私たちが知る上でも非常に大きなメリットになります。
ですから学生が新しく入ってきますと、私どもの大学では卒業するまでにはこういったものを身に付け
てほしいのだと、アウトカムとしてこれだけのものを期待しているのだということを学生に伝えます。実
際にそういった要求をこちら側から伝えまして、私どもの期待するアウトカムズに対してどのぐらいの進
捗があったかということを生徒の方は証拠として我々に見せなければいけません。それにはエレクトロニ
ック・ポートフォリオを使います。
ということは、学生の方は我々に対してこれだけうまくやってるのだということをきちんと伝えていく、
コミュニケートする能力を持たなければいけないという責任もありますし、エンジニアリングの部門にお
ける倫理感というものもきちんと発達させていかなければいけませんし、現代社会の抱える問題、あるい
は国際的な示唆を含めた総合的な理解力を持たなければいけない。それだけの責任を学生の方が持ってい
るということです。
そして今申し上げました議論に加え、技術面での技能としましては、当然いろいろなプロセスを設計し
実験する能力、基本的な数学や科学の知識を持ち理解できるということ、そういったことが要求されるわ
けです。
それからさらに私どものしなければいけないこととして、それではそういった期待されるアウトカムズ
のスキル、能力、価値観が、我々の提供するカリキュラムのどこの部門で、どこの時点で彼らに提供され
るか、そこを明瞭にする必要があります。
学生は、先ほど申し上げましたように、オンラインで自分たちがどのぐらいの進捗があったかを、教員
に対して証拠として提供する義務があるわけですが、そのデータに基づき、夏休みなど教員の人たちは学
生をサンプリングして、実際にアウトカムズに対してどのぐらいの進歩を遂げているかという評価を行い
ます。この教員が行う評価に基づきまして、もし教育プロセスにおいて何らかの改善が必要ならば、それ
を決定していくというシステムになっています。
104 | 工学教育の現状と将来
今申し上げましたのは、あくまでもひとつの方法です。他にもアウトカムズを評価する方法はいろいろ
あるかもしれませんが、この方法のすばらしいところは、学生たちに自分で考えさせるということ、そし
て先生の方が評価を文書にするのではなくて、あるいは学生の進捗を先生の方が勝手に判断して文書化す
るのではなく、学生に自分で判断して報告させる、学生にその責任を負わせているところだと思います。
実際にこのプロセスに関しましては、私どもが非常に大まかな目的から始めまして、小さな目的ごとに
パフォーマンス基準をつくるには 1 年半かかりました。
司 会: いかがでしょうか。ひとつの実例だと言われましたが、考えてみますと気の遠くなるような作
業をいろいろやっておられるんじゃないかと思います。
大 中: エビデンスというのが非常に問題で、学生がエビデンスを自分たちで示すことができるという
のはすばらしいことだと思います。アメリカで教官に聞いても、どういうエビデンスを出せばいいかとい
うのは迷っておられる方々がたくさんおられる中で、学生がエビデンスを出せるというのは大変すばらし
いことだと思います。そこの本当に具体的な実例にはどういうものがあるのかについては、後でまた個人
的にディスカッションしたいと思います。
ブラブマンさんにお聞きしたいんですが、先ほどスタンフォードは大変うまくいってると思うんですが、
ただそれで私が思いますのは、昔の東大とかあるいは韓国のソウル国立大学、あるいは要するに世界の一
流大学は、社会にインパクトを十分持ってたわけです。それは本当にその大学の教育成果だったのか。そ
れともいい人が入ってきたからなのか。従来はいい人が入ってきたからだというふうに言われていると思
うんですが、本当に教育成果であったのかというのがひとつは問題になると思うんですね。
それからもう 1 つは、今大学院ではこういうアセスメント等はほとんどやらないわけですが、大学院の
大衆化というのもどんどん起こっているわけです。修士課程の学生がどんどん増えています。それから博
士もある程度増えてきています。そういう大衆化が起こった場合に、今までどおりでいいのかという問題
もある。
それからもう 1 つは、スタンフォードはうまくいってるかもしれませんが、博士の卒業生はフレキシビ
リティーがないとか、あるいは非常に複雑な問題に対してアタック、チャレンジするのをきらう。きれい
な解が求まるような問題を選びがちであるとか、そういう批判がアメリカでもあると思うんです。
ですから今はスタンフォードはいいかもしれませんけど、一般的に言うと大学院でも教育というものを
もう少し考えないといけない時期にきてるんではないか、そういう気がするんですが、今までどおりでい
いのかどうか、その辺どういうふうに思っておられるのか、ご意見をお伺いしたいと思うんですが。
ブラブマン: 非常に複雑なご質問をいただきまして、何と言っていいかちょっと今困ってるんですけれ
ども、1 点非常に同意できることがあります。それはスタンフォードの場合ですと、確かにスタンフォー
ドが成功していることのひとつの要因として、すばらしい学生が来てくださっているということで、学生
に負うところも多いんですが、それと同時に毎年毎年これだけいい学生が来てくれるということは、やは
り払っていただいた授業料に対してはそれなりの価値のあるものを一応こちらから提供していると言って
構わないと思います。かなり高いですから。
それから最初のご質問に戻りたいんですが、かなり厳しいご質問をいただきました。これに関しまして
は、私はまだ昨日来日したばかりですけれども、ずっとこの点については考えてまいりました。
それは何かと言いますと、人間の持てるすべての能力、あるいは人間が行っている活動というのは随分
幅広いものなんですが、それを全部見通して見ますと、まず一方にあるのは極めてメカニカルな、あるい
は繰り返し性の高い日常的な活動というのがあると思います。
先ほど日本の教育の話をされたときに、丸暗記を学生がするんだとおっしゃいましたけれども、その点
はまさにある意味ではメカニカルな部分と非常に似ているのだと思います。いわゆる微分方程式であると
か、そういった機械的な部分、こういったものが上手な人というのはある意味では暗記が得意な人かもし
れません。
そういった機械的な活動と、対極のところにあるのがアーティスティックな活動です。この部門におい
ては、もちろん直感的なものも非常に必要ですし、あるいはスキルをもとにした技能も必要になってまい
パネルディスカッション | 105
ります。これはエンジニアリングやサイエンスもそうだと思います。
今日におきましては先ほども言及がありましたけれども、社会においては問題が非常に複雑化していま
す。そのようなときに、先ほど私が申し上げましたような幅広い人間能力、これがすべて必要とされると
いうことだと思います。
私は、教育はアートと似たところがあって、その中にどうしても単純明快でない要素が含まれていると
思います。そういったところを定量化するのはなかなか難しい、そういった要素が教育の中にも、アート
の中にも含まれていると考えております。
次は 2 つ目の問題なのですが、この 2 つ目の問題で 1 つ目の問題がよけいにややこしくなっていると思
うのですが、それに関して個人的な考えをを申し上げたいと思います。
それはスタンフォードを含めてですが、いわゆるトップの研究大学と言われているところの教官は、今
申し上げました教育の複雑さ、そういった側面を国民にきちっと説明してこなかったということでありま
す。
それよりももっとさらに悪いことに、今までアメリカの教員たちは自分たちがやっていることは本当に
正しいことなのだ、絶対的に正しいことなので、これだけのお金をかけても、これだけの時間をかけても、
それは正しいのだというふうに振る舞ってきてしまった、ということだと思います。
これは特に 60 年代から 80 年代におきましては、政府の大学に関するリサーチのお金が非常に潤沢に出
まして、使える以上にたくさん流れ込んできた時期があったということにも起因しているかもしれません。
60 年代と申しますと、そのころスタンフォードの職員をしている人はもうすぐ退職されますけれども、
この人たちにとっては非常にいい時期だったといいますか、当時の話を聞きますと、政府の機関、例えば
NSF のような人から、そういった大学の先生が呼ばれていって、「どうぞお金は付けますので、研究を
して下さい」というような引き合いがあったそうです。ところが今日では、私どもがお金をもらおうとす
ると、ワシントンに行って、ひざまづいてお辞儀をしないと、お金が出ない状況です。
ということで、本来教育というのは芸術にも勝ると劣らず複雑である。あるいは組立作業よりもずっと
複雑なものである。一方教官が変革に対して的確に、迅速に変化してこなかったという、この 2 つが相ま
って、今日非常に難しい状況を作ったのだと思います。
したがって教育が社会にどういうベネフィットを与えるかということで、定量化できる側面ばかりに目
を向けることになりますと、本当に大事な教育の基本的な部分におけるアウトカムズを見失ってしまうこ
とになるのではないかと思います。短期的な数値の表で表されるものばかりが残って、私が考える本当に
大事なアウトカムというものが抜け落ちていく危険性があるのではないかと考えます。
したがって教育の混沌とした側面があるということを、大学教員は心して説明する努力をしていかなく
てはならないと思います。そして甘やかされた子どものような態度は、もはや教員はとってはいけないと
いうことなのです。そして、もしこのような態度を教員の方で捨て去らないと、高等教育に対する一般市
民の信頼感というものが完全に崩壊してしまいます。これは現在のアメリカ社会であるとか、日本社会の
ように、人間がどんどん進歩していくためには、あるいは経済が発展していくためには技術に頼っており
ます。このような技術が中心的な役割を占めているような社会で、高等教育に対する一般市民の信頼が失
墜していくというのは大変危険なことです。
架 谷: 今ブラブマンさんが言ったのは、工学なり技術というものが持っている人間社会に対する基本
的な枠組みについておっしゃられたのだと思いますね。
これは社会観とか歴史観ということになりますし、教育というもの中に非常にアートのような部分が入
っているとおっしゃった意味も、やはり技術が持つ社会の中における認識がベースになっていて、基本的
には私も同意できる点だと思います。
これは私の個人的な考え方ですから反論はいくらでもあると思いますが、技術というのは決して社会の
主役になってはいけないというのを、私は文系の人たちにいつもいつも説明していることです。社会シス
テムが壊れたところで技術がいくらあったって、技術というのは何の意味もないし、むしろ非常に危険で
ある。ソーシャルシステムこそが主役であり、技術はソーシャルシステムさえしっかりしておれば、明日
106 | 工学教育の現状と将来
にでもその答えは出せるぐらい、乗り降りはいつでもできる。そういうものであると。
ただ技術というのは生ものです。生というのは新鮮食品ですね。ですから決して缶詰の中に入っている
ものでもないし、レフレジレーターの中に入れておいて、突然必要になったら取り出せるようなものでも
ない。常に生きているものだから、社会システムもそこのところをしっかり理解した上で技術というもの
を見ませんと、それを缶詰にしたり、冷蔵庫の中に入れてしまって、そしていつでも好きなときに取り出
せると思ったらそれは間違いですよと。それはきちっと申し上げなければいけないだろうと思います。
そこのところの関係を非常にきちっと教えながら、技術者を本当に教育するということは非常にデリケ
ートで、アート的な要素が入っている。それはそう思います。
例えば月面に何とか我々は行きたいのだという非常に複雑な問題を単純化してしまったところで優秀な
技術者、あるいは工学者を我々が教育するのだというふうに思ってしまったら、これはとんでもない間違
いがくると思います。核爆弾を作るのに、技術者はこうだと言うのと非常に似た部分があるわけでありま
して、決してそういうことを今の我々としてはやろうとしているのではない、というような意味での教育
目標とか、教育のあり方というのは、非常に大事だというふうには思います。
先ほどからいろいろなことを申し上げているので、若干コンフュージョンがあるかもしれませんけれど
も、ちょっとブラブマン先生がおっしゃったことと違うかもしれないけれども、そのように思っておりま
す。
司 会: この問題を議論し続けると、これだけでパネル討論会は終わってしまいますので、次に大学と
企業との関係について話を進めてみたいと思っております。
大学及び大学院に視点を置きますと、学生が高校から入ってくる。それはある意味で大学に対するイン
プットになるかもしれませんし、卒業生が企業、あるいはその他の社会に出ていく、それはアウトプット
になるのかもしれません。
しかし、それでは大学側がアウトカムアセスメントに重点を置いて教育を考えていくということになり
ますと、企業側としてはどういう受け取り方をされるのか。それに対して、単にいい人がほしいという、
そのいいという意味がはっきりしない表現では困るということになるかと思うのですが、大橋さんにこの
点についてお聞きしたいと思います。
大 橋: お答えを申し上げる前に、私は今日こういう会に出席させていただきまして、アメリカのいろ
いろな事例、及び日本の先ほどご紹介がございました 8 大学を中心とする工学教育カリキュラムの内容と
評価、これだけ大きなエネルギーを費やしていろいろ考えておられることに比較して、きわめて工学系と
一衣帯水の関係にある切っても切れない私ども産業界が、同じようなレベルで人材、もしくは研究に関し
て同等のエネルギーを使って議論をしているかという自問自答をずっと朝からしておりましたが、あまり
にもその辺がプアーではないかと思っています。
したがって最終的な姿がどういう形になっていくかはわかりませんけれども、企業も相当というか、本
当に真剣にこういうディスカッションなり、いろいろな企画に積極的に参画すべきだということを、まず
深く自分自身が反省を込めて、そういう意味では今日は非常に有意義だったと思っております。
実は先ほど工学そのものの目的が変化し得る部分も非常に多いというお話がございましたが、まさに工
学をベースに製造業をやっております産業界、私はそのごく一部しか知らないのですが、これも非常に大
きな変化を今遂げようとしております。これは皆さんもご承知だと思いますので、あまり詳しくは述べま
せんが、キーワードは 2 つございました。
1 つはご承知の国際化、グローバルコンペティションとか、ボーダーレスと言われるもので、この国際
化というのはものすごいスピードで進んでいるということが 1 つ。それから国際化というのはもちろん国
際的な技術の交流もありますけれども、国際的な競争が激しいという意味ですね。競争と協調という両面
をとっても国際化というのは避けて通れないというのが、大きな変化になります。
したがって、こういう変化に対して私どもの大学への接点なり、連携のあり方というのはどうあるべき
かということが、非常に大きいわけです。したがいまして、教育であれ、研究であれ、工学のカリキュラ
ムとアセスメントに国際化とか、国際性と言ったらいいのかよくわかりませんが、これをどういうふうな
パネルディスカッション | 107
1 つの価値観に持っていくかというのが、非常に大事ではないかと私は思っております。
ちなみに、これは不思議なことでも何でもないのですが、アメリカの先生方はお 2 人ともほとんどこう
いうことはおっしゃらないわけですね。国際化とか、世界の中の何とかというのは日本人だけが言ってい
るキーワードでして、これはホモジニアスな国民であるからこそ言うわけなんですね。価値の多様化とか、
学際とかいうことはおっしゃっていますが、国際化というのは 1 つも出てこない。これは我々の一種のこ
れからの時代に対するハンディキャップであると同時に、逆に特徴でもあるわけなので、架谷先生が冒頭
におっしゃった日本的という意味で、ここに大きな切り口があると思ってます。
若干、企業の立場でそういう大きな変化の中で我々の反省は、私は研究の部門が長かったのでちょっと
違うかもしれませんが、一般の企業の人が大学のイメージをどういうふうに持っているかというと、あく
までこれは人材採用というところがもう 9 割、もっとそれ以上かもしれません。
したがって大学の研究にはほとんど期待していないという、こういう暴論をおっしゃる方もままおられ
ると思います。特に工学系については、戦前、戦後を通じて大事な研究、先端的な研究はすべて欧米から
もらってくるから、そういうことはあまり日本で期待していない。むしろもらってきた新しい技術なり、
先端的なものをいかにすばやく産業界に定着させ、生産性を上げていくかという人材の方に、むしろ大学
のイメージが、特に工学系には強かったと思います。
したがって、ともするとドクターまで出た人はもう結構ですとか、そういうことに過去はなっていたん
ですが、先ほど私が申し上げた国際化というものはなまじっかな人材ではクリアできないので、そうなる
と単に教育ということで人材をどう産業界に排出していただくかということと同時に、大学の研究にも
我々は非常に大きな期待をこれからせざるを得ない、あるいはむしろしたいと。その 2 つの面にバランス
をとった大学の工学カリキュラムに対するいろいろなこれからの変化を、むしろ私どもは期待することに
なるのではないかと。
まだいろいろありますが、キーワードはそういうことで、今日は非常に勉強させていただいたと思いま
す。
司 会: お話いただいたのは、いわゆるキャッチアップ型からフロントランナー型に日本の社会構造が
変わっていきつつある。その中での工学教育も、従来の教育から新しい形の教育に変わっていく必要があ
るのではないか。そういうことをおっしゃったのではないかと思いますが、この点につきまして、パネラ
ーの先生、どなたかご意見がござますでしょうか。
土 岐: 確かに生産分野あるいは産業界の方から、社会から大学に対する希望は、今大橋様がおっしゃ
られましたように、大学というものは単に大学の卒業生という人材の供給源であるという傾向が少しある
ということを私どもも感じております。それは事実でございます。
それに対して、我々が今一番しっかり行わなければならないことは、社会に出てから広い、例えばドク
ターコースを今まで嫌われていた受け入れ側は、大学院修了前はある分野の専門家であると思っていて、
それ以外のことをしたがらなかった。あるいは他のことをしなかった、あるいはできなかったというよう
なタイプの、特にドクターコース、あるいは修士課程の卒業生から、世の中に出てどんどん科学技術が進
んでいく、あるいは会社で従事する仕事の分野が変わっていった、あるいは新しい業務に就いたときに、
学校での教育、特に大学院での教育にベースを置いて、広い、あるいはどんどん進んでいく学術に追従で
きる学生を教育するということが、新しい高等教育機関での教育目標になっている、ということを述べさ
せていただきたいと思います。
司 会:
実はキャッチアップ型からフロントランナー型に移行し、そして大学及び大学院で教育された学生を素
材としてでなく人材として企業に望まれるようになるには、大学にとってはアウトカムズアセスメントを
きちっとしなければならない状況になりつつあるのではないかという気がするわけなんですが、この点、
フロアから何かご意見をいただけますでしょうか。
桑原: 工学院大学の桑原でございます。
実は私はここに来ましたけれども、工学の畑ではなくて、教育学が専門です。学内で自己評価の委員長
108 | 工学教育の現状と将来
をさせていただいております。
今のお話をお伺いしまして、あるいは全体の中で、日本側とアメリカ側とでちょっと温度差があるとい
いますか、捉え方の違いがあるとは感じるわけです。
つまり日本は言うならば、工学の世界に閉じられた人材養成しか考えておられないのではないかという
気がするわけです。先ほどスタンフォードのお話があって、最高裁の判事でしたか、何人かいらっしゃる
と。こういうのが例えば私の大学を考えてみたときに、もしそういう人が出たとしても、出ていないわけ
ですが、そういう法律家が出たということが工学部の教育の成果だと自慢して言えるかどうか。とても言
える雰囲気ではないわけです。
つまり工学部から出たとすればやはり工学関係の仕事をしてほしい。気持ちはまさにそのとおりだと思
いますが、そのような枠組みで工学教育、あるいは工学部の教育、あるいは工学というものを捉えるとす
ると、僕はそこのところに日本とアメリカのいわば違いといいますか、底力の違いといいますか、そうい
うものがあるのではないかと思います。
もうちょっと別の言い方をしますと、アメリカのお 2 人の先生の話は、技術といものが社会の特別な専
門家養成だけではなくて、社会の中の不可欠の存在として、あるいは知識としてある。したがってその教
育を受けることは、そのことを直接使うかどうかだけではなく、社会の中で役割が果たせる人材になって
いく、という展望をお持ちじゃないかと思うんです。
そこのところが先ほどからの例えば、評価のアセスメントの方法などにおいて、学生が自分で自己評価
ができるかどうかとか、その他の方法のところにかかわってくると思うんです。それは単なる手段の問題
ではなく、教育の目的をどういうふうに捉えるかに非常にかかわっていることではないかと思います。
そういうことで見ますと、大変失礼ですが、架谷先生の『工学教育の定義』を見ますと、技術を抜いた
らその人はどうなるかが、このことから、存在がわからなくなってしまうのではないか。他の分野に行っ
ても工学部で学習をしてきた、研修をしてきたことがひとつの底力となって、その分野で社会を支えると
いうような、そういう目標というものを立てるべきなのではないか。そうでないと僕はすごく狭くなって
くると思うんです。
産業界からのいろいろな期待があるのは当然だと思いますし、そのことはもっとこれからいろいろ出て
くると思います。大学側がそのことで応えきれなかった面もあるだろうと思います。またこれから変わっ
ていくことですから、いろいろあると思います。ただそれだけですと、産業界あるいは社会からの要求に
振り回されることにもなりかねない。
もう 1 つ逆な面から見ますと、この『工学の定義』を見ますと、医学も農学もこの中に含まれるような
気がするのですが、そういう理解でよろしいんでしょうか。
つまり、こういう書き方をして、医学や農学を、農学というのはちょっと微妙な部分があるかもしれま
せん。医学ももちろんテクノロジーのところがあるわけですが。そういうものと違う工学部の教育をお考
えなのか、そういうものも含めた広い意味でのテクノロジー教育ということを考えて、この工学教育の現
状と将来ということを言っているのか。今私の大学で目標の問題を考えなければいけないこともありまし
て、ちょっとお伺いしたいと思って出しているわけなんですけれども。
架 谷: 多分工学の定義の話になるとこの会議は本質的な意味を失うのではないかと思って、あえてそ
このところは私は説明をしなかったわけです。あそこに書かれた内容は、委員会で、今いろいろな方が見
たときにまあこういうことだったら、ということが書かれてあるので、あれで結論であるというわけでは
ございません。
先ほど来、私が申し上げていることは、今まさに先生がおっしゃっていることを多分違う言葉で言って
いるので、あの工学の定義にあまりこだわらないでいただきたいと思います。
ただ先生のおっしゃったことは大変重要だと思います。日本の大学の場合には、学生の総数の中で占め
る工学教育の割合が、全世界的に見ても非常に高いんですね。例えば私どものような総合大学と言われる
大学においても、学生の割合が工学系が 4 割近くになっている所が多いのではないでしょうか。
その他、いわゆる新しい大学、それから私立大学、それらこれらをすべて入れて平均すると、50%を超
パネルディスカッション | 109
えているというような状況、すなわち、同じジェネレーションの 2 人に 1 人が工学教育を受けてきている
か。それに近いはずですよ。
そういうことも含めて一般的な議論をする立場と、今大橋さんがおっしゃったような立場と、いろいろ
なものが含まれてきますね。個人的な意見としては、先生のおっしゃっていることは非常によくわかりま
す。
司 会: 工学の定義につきましては、先ほど架谷先生が言われましたように、まだ議論の途中で、たた
き台のようなものを出させていただいたわけです。
ただ工学そのものが現在非常な速度で広がりつつありまして、ジェネラリストと同時にスペシャリスト、
その両方を算出しているわけですから、1 つの言葉で定義するのは非常に難しいということも事実であり
ます。また、工学と工学部が必ずしも一致する必要はないと私は考えています。
ただし、これは言い訳になりますが、やはり定義をしないと先へなかなか議論が進まない、とにかく定
義から始めようという検討委員会の中の議論になっているわけであります。
議論がだいぶ発散してしまいましたが、もう一度企業との関係について、大橋さんのお話をお聞きした
いのですが、フロントランナーでは従来型の企業内教育ではなかなか対応が難しかろうというところに焦
点があったと思いますが、それでは企業と大学との関係といいますか、教育を通してではなくて、むしろ
研究を通しての関係で、何か新しい展開を将来考えていく必要があるのか。またそれがひいては工学教育
によい影響を及ぼすのかどうかということ。これはブラブマン先生もその点については、ご指摘があった
ような気がいたしますが。まず大橋さんから、その点についてどうお考えなのかお聞きしたいのですが。
大 橋: 先ほど申し上げましたように、従来は企業側が大学に対して人材という切り口で要求するとこ
ろが大学と企業の連携の 1 つの大きなパターン、ウエイトが大きかったということを申し上げました。こ
れからは企業側が大学、あるいはもっと大きく言うと社会に対して何ができるのかという視点で、私ども
も企業活動なりを考えていかなければいけない。これはひとつの社会性という側面が非常に重要になって
いるということも踏まえての話ですけれども。そういう意味では、やはり大学のいろいろな研究教育の、
特に工学というフィールドですので、私ども産業側が何ができるのかということの自問自答も必要ですし、
もちろん大学の先生方からのご提案も出していただければと思います。
例えば大学と企業との人の交流をとってみましても、非常に流動性が乏しいといいますか、一度企業に
いた人がまた大学に戻るというのは、数は全くゼロではありませんけれども少ない。仕組みとしてそれが
きちっとサポートされ、加速されるようになっているかと言うと、必ずしもそうではありません。あるい
は特に工学系の方が企業でいろいろな研修をされる、実習をされる機会も今増えているのか、減っている
のかよくわかりませんけれども、そういったところです。
あるいは最近ベンチャービジネスラボラトリーとか、産学協同とかいろいろな仕組みを、この名古屋大
学でも積極的にやられておられますが、むしろそれは大学側が発信されているわけで、我々はそれに対し
て逆に発信したのかということに対しては、若干反省するところがあるなと思います。
ということで企業と大学の関係というのは、もっと企業が大学に対して積極的に、能動的にやるべきで
はないかと。これは決意表明みたいなことで申し訳ないのですが、そういう感じを持っています。
それからもう 1 つ、最初に言いましたけれども、工学に社会性といいますか、社会的価値判断というの
がきわめて強く求められて、これは欧米も全く私は遅れていると思いますね。というのは今炭酸ガス問題
にしろ、ダイオキシン、フロンにしても、これは日本人が発明したものではありませんのであまり言うわ
けにはいかないんですが。じゃあその発明者は知的好奇心でやったのかと言うと、必ずしもそうではなく
て、そのときの社会ニーズでそれをやっているわけです。そのときにかけたいろいろなエネルギー、コス
ト、あるいは製造過程でのいろいろなエネルギーが、最後それの数倍のコストをかけても解消できないと
という、とんでもないことになっていることが、工学全体が世の中の不信感を招いていることも事実です
ので。
しかし、こういうところに逆に日本的評価の私はチャンスがあると思っているんですね。そういうとこ
ろも、欧米のいいところは取り入れるけれども、やはり工学という面でそういう社会に対するネガティブ
110 | 工学教育の現状と将来
な面があることも事実ですので、それをどうするのかと。これもこれからの教育と研究に非常に重要だな
と思っております。
ちょっと質問から逸れているかもわかりませんが。
司 会: 今 2 点おっしゃったと思います。
1 点目は企業との関係、2 点目は工学の社会的な責任に関するものであったのではないかと思います。
企業との関係ということですと、スタンフォード大学のブラブマン先生、スタンフォード大学はある意
味で最も好ましいよき企業との関係をお持ちの大学ではないかと思うのですが、スタンフォードの事例を
伴って、少し助言をいただけますでしょうか。
ブラブマン: 今おっしゃったとおり、幸いにも私たちの大学の場合には財界と非常にいい関係を作り上
げてまいりましたし、また数多くのシリコンバレーの企業と今まで以上にいい関係を保っていくために、
常に一所懸命努力をしております。
その理由の 1 つは、そもそも我々の学生や、教官が作った会社が非常に多いことで、これほどの関係を
持っているわけです。ですから新しい会社にあえて入っていくという環境を作ったというよりも、初めか
ら私どもの大学の学生や教官が作った会社が多いということです。
それでは、スタンフォード大学とその周りの地域社会との間に、どのような関係があるかという特徴に
ついてお話ししたいと思います。過去 40 年間、これが非常に成功してきた理由として、2 つの要因が挙
げられると思います。
まず 1 つのコンセプト、これは非常に重要なものなのですが、なかなか皆さんにはおわかりいただけに
くいかと思いますが、いわゆる企業家精神と言われるものです。これがスタンフォードの工学部の教員は
優れている、と見られている 1 つの要因であると思います。
この企業家精神がわが校の教官の間で旺盛なことの理由としまして、恐らくこの大学自体が西海岸にあ
るから、ということが挙げられるのではないでしょうか。いわゆる保守的な東部の伝統的な大学、ハーバ
ードやマサチューセッツ工科大学やエール大学ですと、こうはいかなかっただろうと思います。スタンフ
ォードを含め、西部の大学はある意味で開拓者精神といいますか、非常に自由なところがありますので、
それがもととなって、こういった企業家精神が生まれてきたと言えるでしょう。
成功の要因が 2 つあったと申しましたが、その 2 つ目は潤沢にベンチャーキャピタルを手に入れること
ができたということです。実はアメリカにおきます全体のベンチャーキャピタルの実に半分が、スタンフ
ォードから直径 1 マイル以内のところの企業に集まっていると言われるほどです。
そして、また非常におもしろいことですが、このベンチャーキャピタル企業のかなりがスタンフォード
の学生たちが作った会社であるということです。
それから 3 つ目の要素をちょっと申し上げたいのですが、これは 1930 年代ですから戦争の直前になり
ますけれども、当時の工学部の学部長でありましたフレッド・ターミンという人物がおります。この人は
初めてスタンフォードの支援で企業を作るということを奨励した人であります。
この時期に作られた会社として最も有名なのは、皆さんも存知のヒューレット・パッカードであります。
ビル・ヒューレットとデイブ・パッカード、この 2 人が今申し上げました学部長の支援を得まして、ヒュ
ーレット・パッカードを設立したわけであります。
実はそのとき、先ほどスタンフォードがヒューレット・パッカードを支援したと言いましたが、これは
2、3 カ月の間実験室の一部のスペースを彼らに貸したということであります。これがスタンフォードか
ら見れば 1 つの投資になるわけです。そのお返しとしてヒューレット・パッカードは 4 億 5 千万ドルの御
礼をしてくれたということですから、いわば投資に対する見返りがこれだけあったということであります。
今もこういった関係が続いております。ご存じだと思いますが、ネットスケープという会社がございま
す。このネットワークスケープでありますが、これを始めた若者はイリノイ大学を出た学生です。恐らく
卒業しなかったのではないかと思いますが、Web ブラウザのプログラム、モザイクをこの若者が作りま
した。
この若者がネットスケープを作ったときに、もちろんこれを作るにあたってはベンチャーキャピタルで
パネルディスカッション | 111
作ったのですが、イリノイ大学はこの若者に訴訟を行いました。モザイクから上がる利益はすべてイリノ
イ大学に欲しいということで、この若者に対して訴訟を起こしたわけです。
一方、2 人のドクターコースの電子工学の学士がヤフーを作ったとき、もともと彼らはスタンフォード
の中の一部分の区画、又何らかの資源をスタンフォードからもらって小規模で始めたのですが、やがてこ
の事業はあまりにも大きくなって、スタンフォードから出ていかざるを得なくなりました。
そのとき、いったいどちらの大学が、つまりイリノイ大学とスタンフォードのどちらが結局、この学生
の事業によって恩恵を得たと皆さんはお思いでしょうか。
ヤフーを始めたこの 2 人の若い学生たち、そのおかげでスタンフォードは何百万ドルものギフトをもら
っております。
このような 2 つの両極端な例を挙げましたけれども、これを聞いていただければ、スタンフォードが何
を目指しているのか、おわかりいただけるのではないでしょうか。
しかしながら弁護士が、とくに工学部出身の弁護士が、このようなやり方を非常に難しくしてしまって
いるのが残念です。このように法律家、弁護士が出てくることによって問題がややこしくなっています。
特に問題の中心となっているのが、知的財産権の問題です。
それから、私たちのところの小さな部門ではありますけれども、企業家からいろいろ人が入って来てお
ります。企業の人を招いて、一緒に仕事をして、しばらく滞在してもらうということもやっております。
それが私たち大学と企業相互の協力関係のまた別の実例になると思います。
私の部門は大変小さな部門ですが、企業から長期滞在して一緒に仕事をしている企業の人たちがいます。
その例を挙げますと、この部分は日本語なので通訳はいらないと思います。名前の羅列ですから。ソニー、
日立、富士通、米国の企業と比べますと、日本の企業の方々の方が今はたくさんいるぐらいです。
学生にとっては本当に大きなベネフィットを与えて下さっていますし、来て下さっている日本の企業に
とってもベネフィットがあることを願っています。
司 会: 大変示唆に富むお話で、わが国はイリノイ大学のレベルにまでもなかなかなっていないのでは
ないかと思うのですが。
日本式のアウトカムズアセスメントというのは、今後よく考えていかなければならないと思うのですが、
先ほど大橋さんがお話しになられました社会的責任の問題も含めて考えていく必要があると思います。
このアウトカムズアセスメントについてはロジャーズ先生はお詳しいわけですが、非常に難しい質問と
は思うのですが、先生は日本式のアウトカムズアセスメントというのは何だと思われるでしょうか。
ロジャーズ: まだ 2 日間しかこういった議論はしていないのですが、非常に明らかなことが 1 つありま
す。この問題は非常に複雑なんです。込み入った問題なのに、皆さんはとても簡単でシンプルな答えがあ
ると考えている。それをほしいというふうに求めていらっしゃるように見受けられます。
もしその答えを今私がわかるようであれば、スタンフォードの学生になれたでしょう。そしてたくさん
のお金を稼げたはずです。
司 会: ありがとうございました。
今お聞きになられたわかっていただけたと思うのですが、アウトカムズアセスメントは確かに理念とし
て、あるいはものの考え方、これは必ずしも教育だけに通用する言葉ではないと思うのですが、大変重要
な考え方だと思います。しかし、いざそれを実施していくということになりますと、とてつもないほど難
しい問題が次々と起こってくる。これに対して私どもがどういうふうに今後考えていけばよいのか、我々
に課せられた使命ではないかと感じております。
ロジャーズ: これまで私は様々な大学の、工学の部門に限りますが、アウトカムズアセスメントのやり
方について、協力して作り上げてきた経験があります。
そしてアウトカムズアセスメントを作り上げている過程が、実は非常に大きな教育のチャンスであると
いうことです。作っていくプロセスのそのもの中で授業に対する見方とか、認識が、大きく変化してゆく
ことがわかりました。
しかしながら、もちろん申し上げたとおりでありますが、いつもアウトカムズアセスメントをどういう
112 | 工学教育の現状と将来
ふうにしたらよいのか、どうやったら実現できるのか、ということがいつも頭の上に大きくのしかかって
いますが、それでもアウトカムズアセスメントというのは、全体のジグソーパズルの中の 1 つのピースで
しかないということです。
私たちの究極の大きな絵とは、教育のプロセスを改善することでありまして、アウトカムズアセスメン
トはその一部だと私は思っています。
教官の皆さんと一緒に仕事をしていて一番難しいと感じるのは、教育の目的を定義する部分です。そし
て、いったんその目的が明らかになって、パフォーマンス基準をちゃんと作り上げ、教育のゴールという
ものが明確になれば、自ずとアセスメントの方法は自明のものとして、だんだんと浮かび上がってくる傾
向にあります。
司 会: ブラブマンさんも、この問題に対してぜひもう一言おっしゃっていただきたいと思います。
ブラブマン: 先ほどの質問は、日本にとっての一番よいアセスメントの方法は何かということだったと
思うのですが、確かに私の方から答えを出すことはできません。
ただ、両者にもうこれは絶対に共通点であると言えるところがあります。私たちの大学という教育機関、
あるいは研究機関、このアカデミアの場でありますが、その中に部屋の片づけ、秩序を作っているのは
我々自身ではないということなのです。こういうふうにしなさい、こういうふうに我々の大学の中の部屋
を片づけなさいと言っているのは外側の人である。外部から秩序を押しつけられている。そして内部にい
る私たちは、そのような押しつけられた秩序がもたらす結果を全く好んでおりません。
日本ではどのような時間の流れで起こっていくのかはわかりませんが、恐らくアメリカにおいては、現
在の状況では 10 年後も全く変わっていないのではないか、おおむね変わっていないのではないかと思い
ます。アメリカの国民は政府に対して訴えかけることによって、我々に根本的な変化を押しつけようとし
ております。そして大学にいる我々の多くはそれを不満に思っております。その結果が今はまだ予期でき
ないかもしれませんが、非常に大きなマイナスの否定的な結果となって、国家全体に広がるだろうと考え
ます。
日本人とアメリカ人はちょっとだけ似ていないところがあります。しかし日本人とアメリカ人は本当に
たくさん似ているところがあります。ですから、どちらかがこれから直面しようとしている運命は、片方
の人にとっても全く同じ運命が待っていると言っていいと思います。ですから、ぜひ私たちは力を合わせ
て、この状況を手を携えてコントロールしていきたい。そして私たちが心から愛している大学という教育
機関を一緒に守っていきたいと思っています。
司 会: 大変ありがとうございました。
最後の 5 分間で、多分この 2 時間半のパネル討論会の意味が明確に出てきたのではないかという気がい
たします。
それでは米国から来られましたロジャーズさん、ブラブマンさん、両先生に感謝を込めて拍手をいただ
きたいと思います。(拍手)
-
資料・ステップによる査定プラン開発ガイド | 113
ステップによる
査定プラン開発ガイド
はじめに
「査定」(assessment)と「評価」(evaluation)という言葉はしばしば混同して使われている。しかし、
このガイドでは「査定」はデータの収集と分析を含む査定プランの実施を意味する。 「評価」はデータ
の意味や解釈である。例えば、教育施設では「評価者」は学生、教官、管理官、評価担当者である。
査定は一般に、改善、伝達、証明の3つの目的のうち少なくともひとつをもつ。査定のプロセスの結果は
意図したアウトカムが達成されているかどうか、また、プロジェクトはどうすれば改善できるかを決定す
るために利用できる情報を提供しなければならない。加えて、査定のプロセスは方針の決定者にプロジェ
クトに影響を与える可能性のある関連問題についての情報を提供するよう工夫されていなければならない。
プロジェクトの広範囲な目標はしばしば教育施設の構造変化や系統的変更のような複雑な過程を含む。査
定プランの開発においては主要なその機関に関連する人々にはプロジェクトに関する必要な情報が十分提
供されているかを協議しなければならない。
査定過程では「形成的」査定と「累積的」査定を区別することが重要である。形成的査定は基本的には進
行中のデータの収集と結果のフィードバックである。形成的査定はプロジェクトや査定中の過程の改善の
目的で情報を提供するよう意図されている。累積的査定は、総合的なプロジェクトまたは過程についての
決定を行なうために利用することのできる情報を生成するよう工夫されている。
教育上の語彙には標準的定義がないことにご注意いただきたい。例えば「目標」はどのような状況でも同
じものを意味するとは限らない。この理由から、この文書で使用される語彙は記述されたプロセスの文章
中で定義している。
この文書では査定プランを開発するために利用される8ステップのプロセスを定義している。それぞれの
ステップの記述と定義に従い、ひとつの例を全米科学財団(NSF)から資金援助を受けている基金連合
の目標開発過程から示した。このガイドの最後に査定プランを開発するための練習を通してグループを指
導するための練習問題が記載されている。
この文書は学生の学習アウトカムに関連した活動やパフォーマンスに焦点を当てているが、査定プラン開
発の結果は他の機関の目標にも同様に適用できるものである。
目的
査定と評価は教育プログラムのフィードバックと改善に不可欠である。これらはまた組織が変更を加えら
れるとき配慮が必要な重要問題のためしばしば遅れる仕事である。この文書は査定プロセスのための情報
やサポートを提供するため作成された。これは基金連合*が、全米科学財団(NSF)が資金提供してい
る6つの工学教育連合と、先進研究プロジェクト管理技術再投資プロジェクト(TRP)を通じて援助を
114 | 工学教育の現状と将来
受けている2つの製造教育連合に参加している機関のために計画した会議を基点にしてスタートした。こ
の文書は、これら査定過程に参加した各機関が、査定の経験がほとんどないひとも含めて、利用可能な査
定プランの開発の概略を提示することである。
* 基金連合は7メンバーからなる連合であり、全米科学財団の工学教育連合部を通じて資金援助を受け
ている。より詳細な情報については、ホームページ(http://foundation.wa.edu/)参照。
査定プラン開発のステップ
以下の8つのステップは査定プラン開発の概観を提示している。一般にステップの順は一方向である。以
下のそれぞれのステップについては以下のページに例が示されている。例はひとつの目標に向かう発展を
追っている。その目標は、これら8つのステップを通して「チームで働くことのできる卒業生を育てる」
である。
ステップ1:目標を設定する(達成すべきものはなにか?)
ステップ2:それぞれの広範囲な目標について個別の目的を設定する(どのような状況であなたは目標が
達成されたことを知るのか?)
ステップ3:それぞれの目的についてパフォーマンス基準を設定する(例−目標が到達されると学生がな
にができるようになるか、なにになれるようになるか、なにを得るか?)
ステップ4:目標達成のための実施作業を決定する。(目標および目的を達成するためになにをするか?
作業はフィードバックに応じで修正されてもよい)
ステップ5:それぞれの目的について査定方式を選定する(データ収集方式を選ぶ)
ステップ6:査定を実施する
1:証拠の収集のため特定の方式を利用する。
2:証拠を分析し選択された方式にふさわしい分析を利用してパフォーマンス基準と比較す る。
ステップ7:実施作業の継続的な改善を容易にし、デシジョンメーキングのための情報を提供し、評価の
基礎を提供するためのタイムリーな情報を提供するフィードバックチャネルを決定する。
ステップ8:パフォーマンス基準に到達していたか、目的は達成されたかどうかを評価する。評価とは意
味や価値を査定結果に帰す過程であるから、これは通常継続的な改善過程(形成的評価)の間と
プロジェクトの終了時点(累積的評価)に発生する。
ステップ1:
目標を設定する。
目標:希望する広範囲のアウトカムの記述文。
プログラム評価はプロジェクトがその特定の目的、そして究極的にはその広範囲な目標との関連でどの程
度のパフォーマンスを発揮しているかについての情報を提供するよう意図されている。
目標とは広い範囲に到達するものであり希望する可能性のある最良の状況を記述するものであるべきであ
る。
使用されている例は基金連合の初期の仕事からとったものでより図式的に示すためにのみ使用されている。
この例は基金連合の現在の仕事を示すものではない。基金連合のための査定プランに関するより詳細な情
報については著者または基金連合のホームページ、
資料・ステップによる査定プラン開発ガイド | 115
(http://foundation.wa.edu/)参照。
例:目標を設定する。
目標:基金連合は以下のような卒業生を育てる:
(1) 生涯を通じて学習を続ける決意をもっている
(2) チームで働くことができる
(3) 人口分布から代表的である
(4) 効果的なコミュニケーションが可能である
(5) 数学と物理学の基礎を理解し応用することができる
(6) 緊急な技術的問題にさまざまな知識を綜合して解決法を作り出すことができる
(7) 問題を定義し、代替解決法を開発し評価し、解決法を実施する
(8) 分析、設計、コミュニケーションのためコンピュータを使用する。
ステップ2:
それぞれの目標に目的を設定する
目的:目標から派生した望ましい変化が生じたことがわかるそれを知らせる状況を定義する記述文
目的は期待する変化を、すなわち、変化はいかに明白であるべきか、変化の期待のレベル、どの時期に変
化は期待されているかを、正確に記述すること。目的は実践をカイドするものである。
例:それぞれの目標に目的を設定する
目標2:基金連合はチームで働くことができる卒業生をそだてる。
目的2A:チームのメンバーと対話をしたり、小さなグループプロジェクトに参加したりした場合に学生
は優秀な聞くスキルを示し、良好な話すスキルを示すようになる。
目的2B:チームのメンバーと対話をしたり、小さなグループプロジェクトに参加したりした場合に学生
はチームメンバーとして効果的に行動し、役割が割り振られた場合それを効果的に遂行することができる
ようになる。
ステップ3:
それぞれの目的についてパフォーマンス基準を設定する
パフォーマンス基準:目的に適合するために要求されるパフォーマンスを定義する特定の記述文。パフォ
ーマンスは証拠を通じて確認できなければならない。目的は複数の基準をもつことができる。
パフォーマンス基準は目的に適合するために要求されるレベルのパフォーマンスを定義する。パフォーマ
ンスによっては直接的に査定できないものもある、したがって、パフォーマンスの表示を探す必要がある。
希望する活動が期待するレベルにおいて実現されているという証拠やパフォーマンス表示法を発見すれば
われわれはパフォーマンス基準を達成した、すなわち、われわれの目的を達成したというということがで
きる。
基準が職業団体や教育団体(例―ソフトウェア開発の標準)によってサポートされたり認定されたりする
分野もある。 もし入手可能であればこれらの標準的な基準は定義づけして使用すべきである。標準がな
い場合は結果をそれに比較して測定する基準を定義することが重要である。
116 | 工学教育の現状と将来
表示法(パフォーマンスの):認識パフォーマンスや感情パフォーマンスは容易で明白な証拠が存在しな
いので(例―「評価」チーム)表示法は希望するパフォーマンスが存在するかどうかを示す証拠を提供す
るために利用される(例−チーム行動を評価するかどうか調査を通じて学生に質問したり、学生が教室の
外での生活でチーム戦略を身につけているかどうかを見るためカリキュラム以外の活動を観察する)。
例:それぞれの目標についてパフォーマンス基準を設定する
目標2:基金連合はチームで働くことができる卒業生を育てる。
目的2B:「チームのメンバーと対話をしたり、小さなグループプロジェクトに参加したりした場合に学
生はチームメンバーとして効果的に行動し、役割が割り振られた場合それを効果的に遂行することができ
るようになる」。
パフォーマンス基準−学生は
1) 任務志向の対話を開始し維持する
2) 建設的な紛争解決のために働く
3) 有意義なグループコンセンサスのため努力する
4) 他のチームメンバーが割り当てられた役割を効果的に実行するのをサポートする
5) グループ維持活動を開始し参加する。
ステップ4:目標達成のための実施作業を決定する。
実施作業:ある特定のパフォーマンスを達成するように設計された教室や機関の実施作業。
例:目標達成のための実施作業を決定する。
学生にチームでいかに働くかを学ぶ機会を提供するため基金連合は以下の実施作業を利用する:
* 学生向きの公式のチームトレーニング
* 長期の任務に利用される「基本」チーム
* 教室内任務のために形成される「アドホック」チーム
* チームに割り当てられたクラスプロジェクト
* チームクイズと試験
ステップ5:それぞれの目的について査定方式を選定する
データ収集方式:アウトカムの証拠を収集するために利用される過程
基準が定義され実施作業が決定されるとデータ収集のための査定方式(「ツール」)も選定可能となる。
これら方式は基準と首尾一貫していなければならない。さまざまなタイプの査定方式の検討のためには、
全米科学財団教育人的資源理事会、研究部、評価普及課、4201 Wilson Boulevard、Arlington, VA 22230
で入手可能な「科学、数学、技術教育のプロジェクト評価のためのNSFユーザフレンドリーハンドブ
ック」 (資料番号#NSF93-152)を参照のこと。
例:それぞれの目的について査定方式を選定する
目標 2:基金連合はチームで働くことができる卒業生を育てる。
目的2B:「チームのメンバーと対話をしたり、小さなグループプロジェクトに参加したりした場合に学
生はチームメンバーとして効果的に行動し、役割が割り振られた場合それを効果的に遂行することができ
資料・ステップによる査定プラン開発ガイド | 117
るようになる」。
パフォーマンス基準−学生は、
1) 任務志向の対話を開始し維持する
2)建設的な紛争解決のために働く
3)有意義なグループコンセンサスのため努力する
4)他のチームメンバーが割り当てられた役割を効果的に実行するのをサポートする
5)グループ維持活動を開始し参加する
ステップ6:査定を実施する
ステップ6.1:証拠の収集のため特定の方式を利用する。
調査、レーティングシート、インタビュウ、フォーカスグループプロトコールなど適切なものを開発し、
データ収集のため結果として選定されたツールを使用する。9ページの調査は、査定過程の形成の一部と
して開発された。これは学生がチームでの作業の経験を振り返り、その程度を考える手助けとなり、チー
ムワークの有効性に関して教員がフィードバックを行えるように設計されている。
ステップ6.2:証拠を分析し選択された方式にふさわしい分析を利用してパフォーマンス基準と比較す
る。
記述されたパフォーマンス基準と比較した時、パフォーマンス基準データが教育的戦略合が望ましい結果
を出しているかどうかを確認する最善の戦略が国立科学財団の本に概観されている。これは「プロジェク
ト評価ハンドブック:科学、数学、工学、及び技術教育」という本で、その第 3 章「設計、データ、デー
タ収集及び分析の31−58ページである。質的な物であれ、量的なものであれ、データを分析するとき
に使われる方法は、慎重に選択され、最高の質の物であるように特別に配慮されなければなならない。
例:ステップ6.1
個人評価シート:グループでの作業
チームプロジェクト
名前:
指示:以下の各文章を読み,チームの一員としてのあなたの経験を最も良く示しているものに丸をつけて
下さい。
1.私はこのチームと働いて居心地がよいと感じた。
2.私はチームに積極的に参加した。
3.私はチームのだれでも話によく耳を傾けた。
4.私はチームの仲間を励まし誉めた。
5.私は理解できないひとに説明/援助した。
6.私は自分が理解できないときに説明や援助を頼んだ。
7.私はチームの仲間に励まされたと感じた。
8.私の役割は________であり、私はこの役割に十分満足した。
9.私はこのグループ活動は意義のある経験だと思った
10.私はチームのクラスメートと楽しく働いている。
118 | 工学教育の現状と将来
インストラクターにコメントや提案があれば記入してください。
ステップ7:フィートバックチャネルを決定する。
実施作業の継続的な改善を容易にし、方針決定のための情報を提供し、評価の基礎を提供するためのタイ
ムリーな情報を提供するフィードバックチャネルを決定する。
査定結果のフィードバックは、実施作業の改善に関する決定が行なえるように、タイムリーな方法で提供
されなければならない。以下の調査は学部メンバーが個人のチームメンバーの回答をチームの回答と比較
して介入または作業の変更が必要かどうかを決定する方法の例である。この例では、学生と学部メンバー
双方にフィードバックを提供することが可能である。
フィードバックの結果として学部は情報やチームトレーニングを提供する必要があるかどうかを判定する
ことができる。結果によって学生が規定の基準に適合したパフォーマンスを示している場合、学部は現行
の実施作業を他の分野に拡大することができる。
例:ステップ 7
チーム評価シート
プロジェクトタイトル:___________________________
氏名_______________
日付__________________
指示:下記のそれぞれの項目についてあなたのチームの有効性についてのあなたの評価をもっともよくし
めすものに丸をつけてください。
1.時間の有効な利用
目的なしに時間を浪費した
しばしば軌道をはずした
一度はうまくいったアイデアを明確にした。
努力浪費なし目標に適合
2.アイデアの開発
アイデア生成のためなにもしなかった
少数のアイデアがグループに押し付けられた
仲良く時間を過ごしたが創造的ではなかった
アイデアは奨励されフルに開発された
3.決定能力問題
相異がありあまり解消されていない
一人に決定させてしまう
仕事を行う為に妥協した
完全に合意と支持を取り付けた。
4.総合的生産性
資料・ステップによる査定プラン開発ガイド | 119
目標達成できなかった
仕事はほとんど達成できなかった
義務だけは果たした
高度に生産的な時間を過ごした
チームメンバー
(あなたの氏名も記入してください)
チームプロジェクトへの個人貢献の意見
あなたチームメンバー(あなた自身も含めて)に100点を割り当ててください。個人の成果についての
あなたの意見にもとづいて点数をつけてください。
インストラクターに提案やコメントがあれば記入してください。
ステップ8:パフォーマンス基準に到達していたか、目的は達成されたかどうかを評価する。
複数の基準を持った目的については、目的が達成されたというためにはパフォーマンス基準のうちいくつ
達成すべきかについて決めておく必要がある。証拠が結論をサポートしている場合、利用された教育実践
が目的を達成したかどうか、もしくは、結果がそれ以外の方法で説明できるかどうか決定する必要がある。
例:パフォーマンス基準に到達していたか、目的は達成されたかどうかを評価する。
学生をチーム活動について調査する(形成的)、教室内のチーム活動について観察する(形成的)、卒業
生のチーム作業の成果について雇い主の満足度を調査する(累積的)。これら3つのデータ収集方式をす
べて利用してアウトカムのより完全な実態を取得するまた継続的改善と累積的評価のための情報を取得す
る。
要約
査定はプロセスの改善と教えること、学ぶこと、機関の改善に関連した戦略の改善の中心である。査定プ
ランの作成にはさまざまな情報源から熟考されたインプットが必要である。査定はしばしば管理者や研究
組織の問題とされてきた。しかしながら、改善のための査定について強調することはあらゆる状況におい
てひとびとがすべてプラン開発および実施に参加することを必要とする。
査定プランを8つのステップに分けて行なう開発を単純化してはいるが、そうすることによって著者たち
はこれが決して単純なものであると主張するつもりはない。しかしながら、査定のプロセスは、はじめて
プラン開発にかかわる人を圧倒するほど複雑に思われるのでこの文書を作成したわけである。プロセスを
簡潔にすることによってわれわれは、より多くの人々が査定プランの作成に自信をもつようになることを
希望する。
著者たちはこのガイドをわかりやすく有用にするための提案を歓迎する。
120 | 工学教育の現状と将来
参考資料:
Angelo、Thomas A. K. Patricia Cross.(1993)。教室査定テクニック:カレッジ教師用ハンドブック。第 2
版、San Francisco, CA. Jossey-Bass,
教師が学生の学習状況と教育アプローチに対する反応をよりよく理解するために教室で使える形成的査定テ
クニック。
教育評価のための標準に関する合同委員会。James Sanders 出版, (1994年)
プログラム評価の標準:教育プログラムの評価の査定法。第 2 版、Thousand Oaks, CA. Sage.
評価の効用、実現可能性、適切性、正確性の4つの標準に焦点を当てている。評価においてよく見られるエ
ラーについては教師が学生の学習状況と教育アプローチに対する反応をよりよく理解するために教室で使え
る形成的査定テクニック。
教育評価のための標準に関する合同委員会。James Sanders 出版, (1994年)
プログラム評価の標準:教育プログラムの評価の査定法。第 2 版、Thousand Oaks, Ca; Sage.
評価の効用、実現可能性、適切性、正確性の4つの標準に焦点を当てている。評価においてよく見られるエ
ラーについての節も含まれている。
McBeath, Ron J,出版 (1992年)。より高度の評価の指導と評価:学習アウトカムプランニングハンド
ブック。Cliffs, NJ :Educational Technology Publications.
2つの節、ひとつはインストラクションプランニング、もうひとつはテストと調査の組み立てとそのスコア
に関する節を特徴とする。主に教室での使用のために工夫されている。
Stevens, Floraline, France Lawrenz and Laurie Sharp, Joy Frechtling 出版。プロジェクト評価のユー
ザフレンドリーハンドブック:科学、数学、工学、技術教育。資料#NSF93−152。全米科学財団、420
1 Wilson Blvd. Arlington, VA 22230.(703)306-1650
データ分析の最良の実践法も含め評価のための選ばれたアプローチの基礎的理解を提供する。
用語集:
目標:希望する広範囲のアウトカムを記述する記述文。
目的:目標から考えて希望する変化が生じているかどうかを判断する状況を定義する説明。
パフォーマンス基準:目的に適合するために要求されるパフォーマンスを定義する特定の記述文。
データ収集方式:アウトカムの証拠を収集するために利用される過程。
演習
目的:この演習の目的は目標、目的、パフォーマンス基準、データ収集方式の提案を開発することである。
方式:参加者は6から8人のチームに分けられる。それぞれのチームには目標が与えられ、「過程中作
業」という目的のセット(パフォーマンス基準も含む)を作成し、データ収集のための適切な査定方式を
提案することを依頼される。使用される目標には研究機関の目標、教室の目標、学生のアウトカムなどが
資料・ステップによる査定プラン開発ガイド | 121
ある。
注意:それぞれのチームには指名されたリーダーがいる。リーダーはチームメンバーでもあり
この演習には全面的に参加するものとする。
リーダーは以下のことを行なうことが要請されている。
1. チームが演習の目的を理解してことを確認し使用する過程を説明する。
2. 「理解度チェック」(すなわち、グループのひとりにグループがやるべきことを復唱さ
せる−−ボランティアでもよい)。
3. 目標が演習前に定義されていない場合、グループにブレインストーミングを行ない利用
する目標を選定する。
4. 選定された目標の目的を得るためのブレインストーミング。ただし、このステップの基
本的質問は:「目標が達成されたことをいかに知るか」「どのような状況で目標の証拠を得る
か」「証拠を得る時は何時か(たとえば、卒業時)」である。
ブレインストーミング:「Sticky notes」を使いチームメンバーに討論せずに思い付く限りの
アイデアを書いてもらう。作業が完了するとこれらを紙片に記入して教室に張り巡らす。
5.「アフィニティ過程」を使い、参加者に個別のコメントを以下のインストラクションに従
いグループに分類してもらう。
アフィニティ過程にはTEAM、討論せずに(たとえば、話を禁止して)Sticky notes を「の
ような」グループ分けに。完了すると Sticky notes はすべてそれぞれ類似のもの集まりグル
ープに分類される。だれもがこの過程に参加することが重要。張り出された紙片がグループ分
けされる。あなたは#5の目的のための特定の基準のいくつかをすでに定義したことを発見す
るかもしれない。ただし、パフォーマンス基準はそれらについて証拠が収集できるように定義
されるべきであることに注意。「それは(基準は)測定できるか」という質問に答えることを
忘れてはならない。
7.チームが目的および目標のパフォーマンス基準についてのコンセンサスに到達したら基準
を測定するために使用できる方式の討論がなされるべきである。これらの可能性のある方式は
なぜその方式が適切なのかについての声明された、もしくは、書かれた理論的根拠と同一化さ
れる可能性のある3つの方式が提案されている。これらの提案された方式を「メニュー」と考
えこれによって自分が置かれた状況に適切な選択をおこなうことができる。
8.もしひとつ以上の作業グループが存在したら、チーム作業の結果は「フィードバックセッ
ション」の間接費として記録される必要がある。このセッションの間、それぞれのグループは
自分たちが発見したものを他のグループと分け合わなければならない。
9.時間が許せば、チームメンバーに「過程チェック」を行なってもらう。これはこの演習の
効用と過程のフィードバックを提供する。これを行なうもっとも単純な方法は「プラス/デル
タ」を利用する方法である。これには参加者にフードバックを提供する Sticky notes を使っ
てもらわねばならない。それぞれの文にただひとつのコメント。コメントは「+」(有効であ
る事物)または、「△」(改善される可能性のある事物)のかたちでなければならない。これ
らは張り出されリーダーによって集められて要約される。
122 | 工学教育の現状と将来
資料・ステップによる査定プラン開発ガイド|123
Stepping Ahead:
An Assessment Plan
Development Guide
Gloria M. Rogers
Jean K. Sando
With support from:
Grant #EEC-9529401 from the National Science Foundation
124|工学教育の現状と将来
Steps for Developing an
Assessment Plan
The following eight steps present an outline for the development of
an assessment plan. Generally, the sequence of the steps is
unidirectional. The steps below are illustrated with examples on
the following pages. The examples follow the progress of one goal,
“... produce graduates who can work in teams,” through the eight
steps.
Step 1: Identify goals. (What is to be achieved?)
Step 2: Identify specific objective(s) for each broad goal. (Under
what circumstances will you know the goal has been achieved?)
Assessment Plan Development Steps
#1: Identify goals
#2: Identify objective(s)
#3: Develop performance criterion(a)
#4: Determine practice(s)
Step 3: Develop performance criterion(a) for each objective.
(e.g. - What will students be able to do, or be, or possess when the
goal is accomplished?)
Step 4: Determine the practice(s) to be used to achieve goals.
(What will be done to achieve the goals and objectives? Practices
may be modified in response to feedback.)
#5: Specify assessment methods
#6: Conduct assessments
Step 5: Select assessment methods for each objective. (Choose
data collection methods.)
#7: Determine feedback channels
#8: Evaluate
Step 6: Conduct assessments.
1: Use specified methods to collect evidence.
2: Analyze evidence and compare against performance criteria
using analysis appropriate to the method chosen.
Step 7: Determine feedback channels which provide information
in a timely fashion to facilitate continuous improvement of
practices, provide information for decision making, and provide
basis for evaluation.
Step 8: Evaluate whether or not the performance criteria were met
and the objectives were achieved. Since evaluation is the process
of ascribing meaning and value to assessment results, it usually
occurs during the continuous improvement process (formative
evaluation) and at the end of a project (summative evaluation).
2.
Rose-Hulman Institute of Technology
資料・ステップによる査定プラン開発ガイド|125
Step 1:
Identify Goals
GOAL: A statement describing the broad outcome desired.
Program evaluation is intended to provide information on how well
a project performs relative to its specific objectives and, ultimately,
its broad goals. A goal should be far-reaching and describe the best
situation that could possibly be hoped for.
The example used is from earlier work of the Foundation Coalition and is
being used for illustrative purposes only. It does not represent the current
work of the Foundation Coalition. For more information on the assessment
plan for the Foundation Coalition please contact the author or see the plan on
the Foundation Coalition World Wide Web site at http://foundation.ua.edu/.
EXAMPLE: Identify Goals
Assessment Plan Development Steps
#1: Identify goals
GOALS: The Foundation Coalition will produce graduates who:
#2: Identify objective(s)
(1) Are committed to lifelong learning
(2) Can work in teams
(3) Are demographically representative
(4) Communicate effectively
(5) Understand and apply the fundamentals of mathematics
and the physical sciences
(6) Synthesize diverse knowledge bases to create solutions to
pressing technical problems
(7) Define problems, develop and evaluate alternative solutions,
and implement a solution
(8) Use computers for analysis, design and communication
Rose-Hulman Institute of Technology
3.
#3: Develop performance criterion(a)
#4: Determine practice(s)
#5: Specify assessment methods
#6: Conduct assessments
#7: Determine feedback channels
#8: Evaluate
126|工学教育の現状と将来
Step 2:
Identify objective(s)
for each goal
OBJECTIVE: Statement(s) derived from the goal that define the
circumstances by which it will be known if the desired change
has occurred.
Objectives are precise in stating expected change, how the change
should be manifest, the expected level of change, and over what
time period the change is expected. Objectives should guide
practices.
Assessment Plan Development Steps
#1: Identify goals
#2: Identify objective(s)
#3: Develop performance criterion(a)
#4: Determine practice(s)
#5: Specify assessment methods
#6: Conduct assessments
#7: Determine feedback channels
#8: Evaluate
EXAMPLE: Identify Objectives for each Goal
GOAL 2: The Foundation Coalition will produce graduates who
can work in teams.
Objective 2A: “When engaged in a dialogue with team members, or as part of a small group project, the
student will exhibit good listening skills and
exhibit good speaking skills.”
Objective 2B: “When engaged in a dialogue with team members, or as part of a small group project, students will perform effectively as team members
and perform roles effectively if roles have been
assigned.”
4.
Rose-Hulman Institute of Technology
資料・ステップによる査定プラン開発ガイド|127
Step 3:
Develop performance
criterion(a) for each objective
PERFORMANCE CRITERION: Specific statement
identifying performance required to meet the objective. The
performance must be confirmable through evidence. Objectives
may have multiple criteria.
The performance criterion(a) defines the level of performance
required to meet the objective. Some performance is often not
directly assessable, so indicators of performance must be sought.
If we can find evidence or indicators that the desired activity is
taking place at the expected level, we can say we have met our
performance criterion(a) and thus, achieved our objective.
In some areas, criteria exist which are supported or endorsed by
professional or educational organizations (e.g., standards for
software development). When available, these standardized criteria
should be identified and used. When standards are not available, it
is important to identify criteria against which results will be
measured.
INDICATOR (of performance): Since many cognitive and
affective performances do not have easily apparent evidence
(e.g., “valuing” teaming as a way to work), indicators are used to
provide evidence of whether or not the desired performance
exists (e.g., asking students via surveys whether or not they
value teaming or observing students’ extracurricular activities to
see if they have incorporated teaming strategies in their lives
outside the classroom).
EXAMPLE: Develop pe rformance criterion(a) for
each objective
GOAL 2: The Fotndation Coalition will produce graduates who
can work in teams.
Objective 2B: “When engaged in a dialogue with team members,
or as part of a small group project, students will
perform effectively as team members and perform
roles effectively if roles have been assigned.”
Performance Criteria - Student(s) will:
1) initiate and maintain task-oriented dialogue
2) work for constructive conflict resolution
3) strive for meaningful group consensus
4) support other team members in the effective
performance of their assigned roles
5) initiate and participate in group maintenance
activities
Rose-Hulman Institute of Technology
5.
Assessment Plan Development Steps
#1: Identify goals
#2: Identify objective(s)
#3: Develop performance criterion(a)
#4: Determine practice(s)
#5: Specify assessment methods
#6: Conduct assessments
#7: Determine feedback channels
#8: Evaluate
128|工学教育の現状と将来
Step 4:
Determine the practice(s)
to be used to achieve goals
PRACTICE: Classroom and/or institutional practices designed to
achieve a specific performance.
EXAMPLE: Determine practices to achieve goals
To provide opportunities for students to learn how to work in
teams, the Foundation Coalition uses the following practices:
Assessment Plan Development Steps
#1: Identify goals
#2: Identify objective(s)
#3: Develop performance criterion(a)
□formal team training for students
□“base” teams utilized for long-term assignments
□“ad hoc” teams formed for in-class assignments
□class projects assigned to teams
□team quizzes and exams
#4: Determine practice(s)
#5: Specify assessment methods
#6: Conduct assessments
#7: Determine feedback charnels
#8: Evaluate
6.
Rose-Hulman Institute of Technology
資料・ステップによる査定プラン開発ガイド|129
Step 5:
Specify assessment methods
to be used for each objective
DATA COLLECTION METHODS: Processes used to collect
evidence of outcomes.
Once criteria have been identified and practices determined,
assessment methods for collecting data (“tools”) can be chosen.
These methods should be consistent with the criteria. For a
discussion of various types of assessment methods, please see the
“NSF User-Friendly Handbook for Project Evaluation: Science,
Mathematics and Technology Education” (document #NSF
93-152) available from the National Science Foundation
Directorate for Education and Human Resources: Division of
Research, Evaluation and Dissemination, 4201 Wilson Boulevard,
Arligton, VA 22230.
Assessment Plan Development Steps
#1: Identify goals
#2: Identify objective(s)
#3: Develop performance criterion(a)
#4: Determine practice(s)
EXAMPLE: Specify assessment methods to be used for
each objective
#5: Specify assessment methods
GOAL 2: The Foundation Coalition will produce graduates who
can work in teams.
Objective 2B: “When engaged in a dialogue with team members,
or as part of a small group project, students will
perform effectively as team members and perform
roles effectively if roles have been assigned.”
#7: Determine feedback channels
Performance Criteria-Student(s) will:
1) initiate and maintain task-oriented dialogue
2) work for constructive conflict
resolutjion
3) strive for meaningful group consensus
4) support other team members in
the effective performance of
their assigned roles
5) initiate and participate in group
maintenance activities
Rose-Hulman Institute of Technology
7.
#6: Conduct assessments
#8: Evaluate
130|工学教育の現状と将来
Step 6:
Conduct assessments
Step 6.1: Use specified methods to obtain evidence.
Develop surveys, rating sheets, interview and focus group
protocols, etc., as appropriate; use the resulting tool(s) to collect
data.
The survey on page 9 was developed as a part of the formative
assessment process. It is designed to help students reflect on
their experience and comfort level with team work and provide
the faculty member with feedback on the effectiveness of
teaming.
Assessment Plan Development Steps
#1: Identify goals
#2: Identify objective(s)
#3: Develop performance criterion(a)
#4: Determine practice(S)
#5: Specify assessment methods
#6: Conduct assessments
#7: Determine feedback channels
#8: Evaluate
Step 6.2: Analyze evidence and compare against performance
criteria using analysis appropriate to method chosen.
Best strategies for determining whether the
performance indicator data, when compared to the
stated performance criteria, confirm that the
pedagogical strategies are achieving the desired results
are outlined in The National Science Foundation’s
“User-Friendly Handbook for Project Evaluation:
Science, Mathematics, Engineering and Technology
Education” Chapter Three: Design, Data Collection, and Data
Analysis (31-58). Special care must be taken that the methods
used to analyze the data, whether they are qualitative or
quantitative, are carefully chosen and of the highest quality
possible.
8.
Rose-Hulman Institute of Technology
資料・ステップによる査定プラン開発ガイド|131
EXAMPLE Step 6.1
Personal Evaluation Sheet: Working in Groups
Team Project
Name
Directions: Read each statement below. Circle the number that best represents your experience as a team member.
Yes, a lot
No, not at all
1.I felt comfortable
working with this team.
4
3
2
1
0
2. I was an active
participant in my team.
4
3
2
1
0
3. I listened to everyone
on my team.
4
3
2
1
0
4. I encouraged and
praised others on my
team.
4
3
2
1
0
5. I explained/helped
someone who didn't
understand.
4
3
2
1
0
6. I asked for an
explanation or help
when I didn't understand.
4
3
2
1
0
7. I felt encouraged by
people on my team.
4
3
2
1
0
8. My role was
I felt comfortable with
this role.
4
3
2
1
0
9. I found this group
activity to be a
worthwhile experience.
4
3
2
1
0
10. I am enjoying working
with my classmates
on teams.
4
3
2
1
0
Comments and suggestions to the instructor:
Rose-Hulman Institute of Technology
9.
132|工学教育の現状と将来
Step 7:
Determine feedback channels
Determine feedback channels which provide information in a
timely fashion to facilitate continuous improvement of practices,
provide information for decision making, and provide basis for
evaluation.
Feedback of assessment results should be provided in a timely
manner so decisions can be made regarding improvement of
practices.
The following survey is an example of how a faculty member can
compare an individual team member's responses with team
responses to identify where intervention or a change in practice
may be needed.
In this example, it is possible to provide feedback to both students
and faculty members.
Assessment Plan Development Steps
#1: Identify goals
#2: Identify objective(s)
#3: Develop performance criterion(a)
As a result of feedback, faculty may determine that it is necessary
to provide intervention and/or formal team training for students.
When results indicate that students are performing consistent with
established criteria, faculty may extend the current practice to
other areas.
#4: Determine practice(S)
#5: Specify assessment methods
#6: Conduct assessments
#7: Determine feedback channels
#8: Evaluate
10.
Rose-Hulman Institute of Technology
資料・ステップによる査定プラン開発ガイド|133
EXAMPLE: Step 7
Team Evaluation Sheet
Project Title:
Name:
Date:
Directions: For each of the below, circle the number that best represents your evaluation
of your team’s effectiveness.
1.
Effective Use of Time:
1
2
3
4
5
6
Much time spent
Got off track
Did well once we
No wasted effort
without purpose
frequency
got our ideas clear
stayed on target
2.
7
Development of ideas:
1
2
3
4
5
6
7
Little done to
Ideas were imposed
Friendly session
Ideas were encouraged
generate ideas
on the group by a few
but not creative
and fully explored
3.
Ability to Decide Issu e s :
1
2
3
4
5
6
7
Poor resolution
Let one person
Made compromises
Genuine agreement
of defference
rule
to get the job done
and support
4.
Overall Productivity:
1
2
3
4
5
6
Did not accomplish
Barely accomplished
Just did what we
Highly productive
our goal
the job
had to
session
Team members were:
(include your name also)
7
O p i n i n g o f I n d i v i d u a l C o n t r i b u t i o ns
for this Team Project
Allocate 100 points to your team members (include
yourself). Base the allocation on your opinion of
individual performance:
1.
2.
3.
4.
Suggestions and comments to Instructor(s):
Rose-Hulman Institute of Technology
11.
Sum should = 100
134|工学教育の現状と将来
Step 8:
Evaluate whether or not the
performance criteria were met
and the objectives were achieved
ln objectives with multiple criteria, a decision will need to be made
concerning how many of the performance criteria must be met to
say that the objective has been achieved. If evidence supports the
conclusion, a determination will need to be made concerning
whether or not the pedagogical practices used achieved the
objectives or if the results can be accounted for in some other way.
Assessment Plan Development Steps
Example: Evaluate whether or not the performance criteria
were met and the objectives were achieved
#1: Identify goals
#2: Identify objective(s)
#3: Develop performance criterion(a)
#4: Determine practice(S)
#5: Specify assessment methods
Survey students about teaming (formative); observe teaming in
the classroom (formative); survey employer satisfaction of
alumni performance when working on teams (summative). Use
all three methods of collecting data to get a more complete
picture of outcomes and to get information for continuous
improvement and summative evaluation.
#6: Conduct assessments
#7: Determine feedback channels
#8: Evaluate
12.
Rose-Hulman Institute of Technology
資料・ステップによる査定プラン開発ガイド|135
Summary
References:
Assessment is central to the improvement of processes and
strategies related to teaching, learning, and institutional
improvement. In order to be of value, assessment planning requires
thoughtful input from a variety of sources. Assessment has often
been the domain of administrators or those in institutional research
offices.
However, the emphasis on assessment for improvement requires
that people in all areas of the institution become involved in plan
development and implementation.
By simplifying the development of an assessment plan into eight
steps, the authors do not want to suggest that this is an
uncomplicated process. However, this document was created
because the assessment process can seem so complex as to be
overwhelming to those who are developing plans for the first time.
By simplifying the process, it is our hope that more people will
feel confident to become involved in assessment planning.
The authors welcome suggestions to improve the guide in ways
which will increase understanding and usability for the reader.
Angelo, Thomas A. and K.Patricia Cross.
(1993). Classroom Assessment Techniques: A
Handbook for College Teachers. 2nd ed. San
Francisco, CA: Jossey-Bass.
Focuses on formative assessment techniques
which can be used in the classroom to enable
teachers to better understand students'
learning and responses to teaching
approaches.
The Joint Committee on Standards for
Educational Evaluation. James Sanders,
Ed. (1994). The Program Evaluation
Standards: How to Assess Evaluation of
Education Programs. 2nd ed. Thousand
Oaks, CA: Sage.
Focuses on the four standards of evaluation:
utility, feasibility, propriety and accuracy.
Includes sections on commonly made errors
in evaluation.
McBeath, Ron J. Ed. (1992). Instructing
and Evaluating in Higher Education: A
Guidebook for Planning Learning Outcomes.
Englewood Cliffs, NJ: Educational
Technology Publications.
Features two sections, one on instructional
planning and the second on test and s urvey
construction and scoring. Designed
principally for classroom use.
Stevens, Floraline, Frances Lawrenz and
Laurie Sharp. Joy Frechtling, Ed. User
Friendly Handbook for Project Evaluation:
Science Mathematics, Engineering and
technology Education. doc # NSF 93-152.
Available from the National Science
Foundation, 4201
Wilson Blvd. Arlington, VA 22230.
(703)306-1650.
Provides a basic understanding of selected
approaches to evaluation including best
practices for data analysis.
Rose-Hulman Institute of Technology
13.
136|工学教育の現状と将来
EXERCISE
PURPOSE: The objective of this exercise is to develop goals,
objectives, performance criteria, and suggested data collection
methods.
TERMINOLOGY:
Goal: A statement describing the broad
outcome desired.
Objective: Statement(s) derived from the
goal that define the circumstances under
which it will be known if the
desired change has occurred.
Performance Criterion: Specific
statement(s) identifying performance
required to meet the objective. The
performance must be confirmable through
evidence. Objectives may have multiple
criteria.
Data Collection Method: Processes used
to collect evidence of outcomes.
METHOD: Participants should be divided into teams of 6 to 8
people. Each team should be given a goal(s) and asked to produce
a “work-in-progress” set of objectives (including the performance
criteria) and suggest appropriate assessment methods for collecting
data. The goal used may be institutional, departmental, or a student
outcome goal.
NOTE: Each team should have a designated leader. The leader is
also a team member and should participate fully in this exercise.
It is suggested that leaders do the following:
1. Be sure that the team understands the purpose of the exercise
and explain the process to be used.
2. Conduct a “check for understanding” (i.e., ask one member of
the group to reiterate what the group is supposed to do-could be a
volunteer).
3. If a goal has not been identified before the exercise, have the
group brainstorm and select a goal to use.
4. Brainstorm objectives for the chosen goal.
REMEMBER, the key questions for this step are:
“How will we know when the goal has been achieved?”
“Under what circumstances should we see evidence of the goal?”
“At what time do we expect to see the evidence? (e.g., upon
graduation)”
Brainstorming: Using “sticky notes,” have team members,
without discussion, write down as many ideas as they can.
When completed, these post-its should be displayed
prominently in the room.
5. Using an “affinity process,” have participants group individual
comments into categories using the following instructions:
The affinity process involves the TEAM, without discussion
(i.e., no talking), moving the sticky notes into “like”
groupings. When completed, all of the sticky notes will be
grouped so that similar ones are together. It is important that
everyone participate in this process. After the post-its have
been grouped, the team develops “headers” for each
gronping. THESE SHOULD BE DISCUSSED! These
headers should be only a few words and summa rize the
14.
Rose-Hulman Institute of Technology
資料・ステップによる査定プラン開発ガイド|137
theme of the grouping. Strive for consensus.
Use these headers to develop statements of objectives.
6. Brainstorm Performance criteria which further define the
objective into parts.
REMEMBER the key questions for this step are:
“What will be seen, done or possessed when the objective is
reached?”
“What could be measured to give evidence of this expected out
come?”
Use the same process (brainstorm, affinity, headers) as you did in
#5 above. You may find that you have already identified some of
the specific criteria for the objective in #5. Remember
performance criteria must be defined so that evidence can be
collected about them. Be sure to ask the question “Can it (the
criterion) be measured?”
7. Once the team has reached a consensus on the objectives and
performance criteria of the goal, there should be a discussion of
methods which could be used to measure the criteria. It is
suggested that three possible methods be identified with stated or
written rationale as to why the method would be appropriate. You
can think of the suggested methods as a “menu” from which
people could make choices appropriate to their particular situation.
8. If there is more than one working group, the results of the team’s
work should be recorded on an overhead for a “feedback session.”
During this session, each group will share their findings with other
working group(s).
9. If time permits, have team members do a “process check.” This
provides the feedback about the usefulness and process of this
exercise.
The simplest way to do this is to use “plus/delta”. This involves
having participants use “Sticky notes” to provide feedbadk. Only
one comment on eadh note. Comments should be in the form of a
“+” (things which were helpful) or a “∆” (things which could be
improved).
These can be posted and collected by the leader for summary.
Rose-Hulman Institute of Technology
15.
138|工学教育の現状と将来
Ⅱ.海外調査報告
目次
アメリカ I
[1] Stanford University, School of Engineering …………………………………………………6
[2] University of California at Berkeley, College of Engineering …………………………………7
[3] Rose-Hulman Institute of Technology ……………………………………………………………8
[4] University of Illinois at Urbana-Champaign ………………………………………………………9
イギリス・フランス
[1] HEFCE ………………………………………………………………………………………… 12
[2] The University of Sheffield …………………………………………………………………… 16
[3] Imperial College of Science Technology and Medicine ……………………………………… 16
[4] Ecole Polytechnique …………………………………………………………………………… 18
アメリカ II
[1] MIT …………………………………………………………………………………………… 22
[2] ウースター工芸大学 (WP I) ………………………………………………………………… 24
[3] Penn State 大学 (PSU) ………………………………………………………………………… 25
[4] カーネギーメロン大学 (CMU) ……………………………………………………………… 26
オーストラリア
[1] The University of Sydney, Faculty of Engineering…………………………………………… 30
[2] The University of Queensland, School of Engineering ……………………………………… 33
東南アジア
[1] マラヤ大学 (University of Malaya) ………………………………………………………… 38
[2] バンドン工科大学 (Institut Technologi Bandung) ………………………………………… 41
[3] 南洋理工大学 ………………………………………………………………………………… 43
[4] チェラロンコン大学 ………………………………………………………………………… 46
スイス・ドイツ・オランダ
[1] スイス連邦工科大学チューリッヒ校 ETHZ
………………………………………… 52
[2] アーヘン工科大学 RWTH Aachen ………………………………………………………… 52
[3] デルフト工科大学 TU Delft ……………………………………………………………… 53
スイス・イギリス
[1] スイス連邦工科大学チューリッヒ校 ……………………………………………………… 56
[2] Technische Universitat Munchen(ミュンヘン工科大学)……………………………… 63
アメリカ III
[1] カリフォルニア工科大学 California Institute of Technology CALTECH ………………… 70
[2] 南カリフォルニア大学 (Southern California University) USC …………………………… 73
[3] 国立科学財団 National Science Foundation NSF ……………………………………… 76
[4] University of Maryland ………………………………………………………………………… 78
東アジア
[1] ソウル大学 …………………………………………………………………………………… 82
[2] 国立台湾大学 ……………………………………………………………………………… 83
[3] 上海大学 ……………………………………………………………………………………… 84
[4] 交通大学 ……………………………………………………………………………………… 85
ドイツ・イギリス・スウェーデン
[1] ベルリン工科大学 …………………………………………………………………………… 89
[2] ケンブリッジ大学 …………………………………………………………………………… 90
[3] 王立工科大学 ………………………………………………………………………………… 91
97
会議報告
1997 年 ABET 第 65 年会参加報告 ……………………………………………………………… 98
FIE (Frontiers in Education Conference) …………………………………………………………102
APEC 技術者相互認定プロジェクト運営委員会 ………………………………………………106
アメリカ I
日
時:1997 年 9 月 27 日∼10 月 5 日
訪問先:Stanford University
University of California at Berkeley
Rose-Hulman Institute of Technology
University of Illinois at Urbana-Champaign
訪問者:架谷昌信 (名古屋大学理工科学総合研究センター所長、教授)
足立賢治 (名古屋大学工学部事務部長)
河本邦仁 (名古屋大学大学院工学研究科教授)
5
[1] Stanford University, School of Engineering
1997.9.29 訪問
応対者:Senior Associate Dean for Student Affairs,
Prof. John C. Bravman
(Chair, Department of Materials Science and Engineering)
1. 大学全体の構成
7 学部 (Schools)、4 大学院 (研究科)。全体で 1,400 名の教授陣 (工学部は約 190 名)。学生数−学部 6,000 人、大学院
8,000 人。学位 (工学) ―修士
1,050 名、博士 230 名。教官 1 人当たりの学位数は全米第一位。
2. 工学部の構成
・9 学科 (Departments)。2 人の Senior Deans (学部長指名)。
・各学科単位で独自の運営形態をとる-Decentralized School はそのまとめ役。
・Faculty の下に 9 つの Dept…joint appointment 制で 1 人の教授が複数の Dept を併任できる。
・教授 50%、準教授 30%、助教授 20%
3. 学部カリキュラム (資料参照)
学生は 2 年間の基礎科目 (数学、物理 and/or 化学) 履修の後、2 年間の工学専門科目を受講。卒業要件は 180 単位
(内、基礎+工学専門科目が 100 ∼ 105 単位) で、かなり厳しいと思っている。
4. 大学院カリキュラム
・終了要件 36 単位 (修士)
必修と選択が約半々
45 単位 (博士)
・Ph. D. は学部卒業後平均 5.5 年で取得
・大学間格差の問題への対応 (promotion 等)
業績評価―paper 数はだめ。数よりも質を重視。研究費獲得額も評価の対象。また、Letters of reference (12 ∼ 15 通)
を世界中から取り寄せる。Faculty appointment には Deans, Provosts, President が長時間かけて決める。
・パテントの問題―Patent Office をつくって対応。収入の 15%で Office 運営。School がパテント収入の 1/3 をとる。残
りが Faculty へ。年間平均 5,500 万ドル (約 60 億円) の収入。
5. カリキュラム改革の方法、プロセス
Stanford では 1972 年に Dean が決心 (Too many courses!)。かなりのリーダー・シップを発揮して改革を推進。最終的
には Faculty Senate (評議会?) で決定。
Senate には 50 人のメンバー、うち工学部から 8 人。
6. Teaching 評価
学生の授業評価アンケート用紙―別紙参照
7. カリキュラム評価
・5Departments (Chem. Eng., Civil& Environ. Eng., Elec. Eng., Ind. Eng. & Eng. Manage., Mech. Eng.) しか ABET
に認可されていない。先端分野が特に認可されず。これは、entrepreneurial な分野、venture 的先端分野への適用の困
難さを物語っている。ABET が“質”ではなく“量”を重視しているところに問題があり、Bean counting, Hoop
jumping の性質が特に大学人に嫌われている。
・ABET2000 は Outcome assessment をうたうが、卒業生が 10 年後にどうなっているかを追跡するのは不可能 ! また、
Uniform examination をやって卒業評価をやるのもナンセンス。
・最終的には大学独自でつくっている企業人も入れた Advisory Board の方がはるかに helpful である。
8. インターンシップについて
MIT, Berkeley, Northwestern 等が積極的にやっているが、Stanford ではあまり積極的でない。
派遣学生には経験を積ませるが賃金はあまり出さないapprentice (徒弟) 制度のようなものとの捉え方をしている。10
人の学生にやらせているだけ。企業からの外圧はあるが、Stanfordは動ぜず。むしろ、大学での教育が大切との自信あり。
9. Engineering Coalition について
これは NSF が金を出してやらせているもの。Mandate である。あれをやれ、これをやれという指示、命令には簡単に
従う気はない。Facultyは動かない。
Stanfordが加盟しているSnythesisの組織を見ても、Headquarterにはゼロ、Board of Directorsに Assoc. Prof. が 1 名入っ
ているだけというのを見ても力の入れようがわかる。
1997.9.30 訪問
6 工学における教育プログラムの海外調査報告
[2] University of California at Berkeley, College of Engineering
応対者:Associate Dean for Student Affairs and Research,
Professor William C. Webster
Graduate School, Chair of the Faculty,
Professor George Leitmann
1. 工学部の構成
・6 学科 (Departments)
Computer Sci 約 40%
Mech Eng.20%
Civil Eng., Mat Sci. & Mineral Eng., Eng Sci, Nuclear Eng.. 各小学科
・学生数―学部 2,600 名、院生 1,400 名
・全米の平均では Engineering の学生の質は下がってきているが、Top Univ. は質が上がってきている。Berkeley では今
年 4,400 名の応募者に対して 460 名が入学を許可された。
Engineering だけが上がってきた理由 ;
i) Demographic reason―カリフォルニアはアジア系が多く、∼ 50%の学生が Asian Americans。彼らが優秀 !
ii) 学費 (生活費を含む) ∼$20,000/ 年 は安い (このうち$4,000 を州が援助)
iii) Good Reputation―1995 年から 2 年間で応募者が 20%増加 !
2. ABET2000 について
Undergrad. students には重要と考えている。理由は、連邦政府の公的仕事や License 取得のために必要または有利で
あるから。
Berkeley は Stanford とは対照的に ABET2000 に従う方針を採っている。これには、 Public Univ. と Private Univ. の
違いが背景にある。
カリキュラム評価は色々な方法でやっている (具体的な例は示されず)。
3. Coalition について―1991 年から Synthesis に加盟
最初の 5 年―teaching effectiveness の向上を図る
次の 5 年―ABET と連携して assessment を重点的にやる
これも Stanford とは対照的。Goal は同じはずであるが、method や process が異なるということ。これは要するに、大
学間で競争しているわけで、どちらが正しいかは将来わかる問題。今はそれぞれ正しいと思ってやっている。
4. インターンシップについて
Berkeley は積極的にやっている。300 人/年が 6 カ月+summer=8 カ月程度企業へ行って研修をしている。以前は石油
会社や電気系大手企業など establish された企業への派遣が多かったが、最近では産業界からの pressure によって派遣
先も変化してきている。特に、多国籍企業等の国際的な企業が増加している。海外経験の必要性が認識されてきてい
るのも、国際市場への進出が増してきているから。その意味からして日本への派遣も増加しつつあり、今年 3 名、来
年は 6 名派遣の予定。これには通産省や JETRO がサポートしている。
アメリカ I
7
[3] Rose-Hulman Institute of Technology
1997.10.2 訪問
応対者:President Samuel F. Hulbert
Dean, Gloria M. Rogers
Dean for Research and Graduate Studies, Dr. Buck F. Brown
Assistant Dean of Students, Thomas D. Miller
Assoc. Prof. Donald E. Richards, Dept. of Mech. Eng.
Director, Intl Programs & Global Studies, Assoc.
Prof. Scott Clark
1. Introduction
President Hulbert より、Rose-Hulman における工学教育の一般的状況、特徴に関 する説明あり。本学における教育
関係のキーワードは次のようになる。
Technology for teaching―コンピュータ、情報化教室、ネットワーク
Integrated curriculum―Sophomore curriculum (Foundation), teaming,
problem or project based learning Assessment or evaluation
2. Assessment
Dr. G. Rogersから ABET2000 基準を取り入れた評価への取り組み状況について一般的な話があった。
3. 情報化教室見学
コンピュータ、OHP、映写装置、etc. が整備された教室において、3 人の教授からコンピュータを駆使した教授法の
実際について説明があった。学生には 1 人 1 台のラップトップコンピュータを購入することを義務付け、1 年次からコ
ンピュータを自在に使いこなせるように教育している。また、各教室、実験室の各机にはすべてコンピューター用の電
源とネットワーク接続用ジャックが取り付けてあるので、学生はどこでもコンピュータを使って学習、宿題・レポート
提出、通信等ができる。
3 人の教官が数学、Engineering Graphics、デジタル信号処理の講義でのコンピュータなどを使った教授例を示してく
れたが、教官個々人の授業に対する創意工夫の重要性が感じられた。また、複数の学生がグループで学習を進めるいわ
ゆるteaming (特に 3、4 年次) を念頭に入れた授業の進め方にも学ぶべき点が感じられた。
4. 研究と大学院 (修士課程のみ)
Prof. Brown より説明があった。伝統的な分野に加えてEng. Management をつくった。Outreach で Indiana 州内のいろ
いろなところに class roomsをもって授業を行っている。院生は 125 ∼ 130 名で part-time が多い。修士はオリジナルな研
究が要求されるとのことであるが、そのレベルは定かでない。
5. 学部学生の状況
Prof. Mullerより説明があった。男女共学になって 3 年が経った。ここの学生は大変優秀で、1 学年 370 名の内 89 名
(23%) が卒業高校で 3 番以内、91%の学生が 5 番以内の成績を取っている。1 年生の 73 名が女子学生。出身地はIndiana
186 名、Illinois 41 名、Ohio 30 名と近辺が圧倒的に多いが、とにかく入学生のレベルは MIT の学生とほぼ同程度。
6. 2 年次の新カリキュラム
Prof. Richards より、Rose-Hulman によって開発・提案されている 2 年次教育用のカリキュラムに関する説明があっ
た。これは、Foundation (Engineering Coalition) の活動の一貫として開発されたもので、他に例を見ないユニークなも
のである。詳細は資料に詳しいので省略するが、面白いのはmomentum, energy, mass, entropy, charge の 5 要素を共通
の概念として抽出し、これらに関する基本事項 (理想的バネ、理想気体の法則、オームの法則、etc.) を学んだ後、いく
つかのモデル系におけるforce, heat transfer, mass flow, current などの問題を取り扱うもので、物理・化学現象を総括的
に捉えて系統的に学習させる点にある。
この新しいカリキュラムを開発するに当たっては、自主的教官グループの地道な検討から始まり、いろいろな分野の教
官の知恵の出し合いを通じて新カリ案を提案し、さらに他の教官からの意見聴取・承認を繰り返している。この活動は
Foundation の中での仕事としてNSFからの多額の助成 (1,500 万ドル/5 年) に基づいているとはいえ、教官相互の真剣な
Electrical & Computer
協力なくしては出来ないもので、これを実現した Rose-Hulmanの努力は十分評価されて良い。現在は、
Eng. の 学生に必修、Mech. Eng. とCivil Eng. がMajorの学生にはOption としており、更にこれを採用するコースの勧
誘も進めているそうである。
7. 研究施設等の見学
Elec. Eng. の 4 年次の卒業研究は Project-based learning としているが、この設備見学や企業との協力関係に関する説
明があった。さらに、Chem. Eng., Appl. Optics, Aeronaut. Eng. 等の研究教育設備を見学した。
8 工学における教育プログラムの海外調査報告
[4] University of Illinois at Urbana-Champaign
1997.10.3 訪問
応対者:Assistant Dean for Intl Programs, Prof. Carl J. Altstetter
Associate Dean Emeritus, Howard L. Wakeland
Associate Dean, Dr. Roscoe L. Pershing
Prof. and Head, Dr. David E. Daniel, Dept. of Civil Eng.
Prof. Timothy N. Trick, Dept. of Electrical and Computer Eng.
1. 工学部の構成
・12 学科 (Berkeley, Stanford の約 2 倍、ただし、Chem. Eng. は Coll. of Chem. Sci. に、また Agri. Eng. は Coll. of
Agri. に属している)。また、他に境界領域 (Multi-Disciplinary) をカバーする研究所・センターが 7 つあり。特徴的な
のは、Physics Dept. があって、学生数はごく少数であるが、Faculty members が多数いること。
・学生数 (1997 年) 等
学部 5,765 名、院生 2,010 名
Faculty members417 名 (約 19 名/教官)
2. カリキュラム等―学部
・以前は約 150 単位の卒業要件。現在は大体 128 単位 (131 単位の学科もあり)。単位の減少を嫌う教官もいる ! (土木)
・カリキュラムの評価は
i) Regional には North Central Accreditation
ii) Federal には ABET
ただし、ABET2000 は概念的には good idea であるが、具体的にどうやるかが問題。Outcome assessment が key point
であるが、評価方法にも色々ある。今の所の態度はあまり積極的ではない。むしろ、定常的に行っている学生評価、
Alumni, 企業の評価をもとにして改良・改革を進めており、現行カリキュラムに自信を持っている。
・カリキュラムの改革・改良は Executive Committee (Deans+Faculty members) で始める。産官学からの pressure がやは
りある。
・調査によると、全米の約半分の大学は common freshman 教育、他の半分は各学科別の教育を行っている。Illinois は前
者。Math (8 ∼ 10), Chemistry (6 ∼ 10), Physics (4), etc., 全部で 31 ∼ 36 単位分。Fall と Spring の 2 期制。
・Transfer Admission の制度
前半 2 年は他大学等―Community College, 普通の大学等
後半 2 年は Illinois で。
このためにも、ある程度カリキュラム上、他大学とのマッチングを必要としている。Rose-Hulman のような 3 期制
の非常にユニークなカリキュラム (内容的にも) では、このような Transfer には対応できない。
・Minors + Options の制度 (∼ 15 年前から)
Minors+Options―Undergrad. レベルで履修。Major+Minor で専門視野拡大。
Minors―Bioengineering
Computer Science
Food and Bioprocess Engineering
Polymer Science & Engineering
Option―Manufacturing Engineering
(例) Major は Elec. Eng. これに Minor として Manuf. Eng. をとる。
Minors は新しい工学分野の教育を取り入れるのに適している !
・学生評価 (別紙参照)
教官に評価を返却して検討してもらう。評価がよい場合は Salary に反映させている ! 大体は“問題”の洗い出し
のために使われている。
(土木の例)
Top 10%には reward を与える。
Bottom 10%には勧告する。
中間層には何もしない。
・teaching 評価
Faculty によっても評価される―Peer evaluation。特に、promotion のときにやる。
ABET
・
について
調査によると (卒業後 5 ∼ 10 年)、卒業生の 85%はカリキュラムに満足している。これは、現行カリが良いためと
アメリカ I
9
考えている。
ABET 認定のために例えば 10 人が派遣されてきても、10 学科を見ることになれば、1 人が 1 学科を担当するので、評
価・認可が実質的に 1 人の意見で決まってしまうという弊害がある。
就職状況の観点から見ても、企業サイドがこの大学を評価していると考えている。
3. その他―International Exchange (Internship ともいえる)
日本向けには EAGLE Program (Engineering Alliance for Global Education) を 1988 年から始めた。
・Big 10 + 5 大学が協力してプログラムに参加。
・目的はworking environment で日本語と日本文化を学ばせること。
・夏に約 8 週間の研修 (1 日 6 時間の class room study を含む)。
1997.11.10 ∼ 14 訪問
10 工学における教育プログラムの海外調査報告
イギリス・フランス
日 時:1997 年 11 月 10 日∼ 11 月 14 日
訪問先:英国高等教育基金公社 : HEFCE (Higher Education Funding Council for England) (英国)
The University of Sheffield (英国)
Imperial College of Science, Technology and Medicine (英国)
Ecole Polytechnique (仏)
訪問者 : 平川賢爾 (九州大学工学部教授)
尾崎龍夫 (九州大学工学部教授)
11
[1] HEFCE
訪問先 : HEFCE (Higher Education Funding Council for England)
応対者:Ms Jannette Cheong
(Head of International Collaboration and Development)
HEFCE の概要
この機構は 1992 年 5 月 6 日に成立した Further and Higher Education 法
に基づき政府の方針に基づいて基金 (Fund) を行う公社として設立された。公社は英国における高等教育の財源に責任
を持つもので、文部大臣に高等教育に必要な経費を提言し、その配分を行うのが主要な機能である。
公社は研究・教育について 136 の研究機関、72 の大学、ロンドンの (Directly- funded) 16 大学、48 の単科大学に資金
を提供している。1996 年 8 月− 1997 年 7 月の 1 年間で£ 3,319M (約 6,640 億円) の資金を提供した。
この内£ 2,300M が教育に、£ 700M が基礎研究に、5%程度がプロジェクト研究に配分される。高等教育機関の年間全
収入は£ 8,197M (約 1 兆 6400 億円) であるから、その 42.5%が HEFCE からの資金よりなる。
資金配分を行うために研究評価と教育評価を行うが、評価はそれぞれ独立に行われ、一つの評価結果は他の評価に影響
しない。
研究評価 (REA : Research Assessment Exercise)
評価基準に従って 4 年毎に評価し、評価の低い大学には資金を提供しない。4 年で 69 のGroup of Subject について評
価を行った。査定が悪いと順次研究資金が減って行くことになる。研究評価は研究機関から提出される書類によって行
われるが、教育評価は提出書類と学校訪問で行われる。
評価者 (Peers) は、まず評価委員長 (Chairman) を HEFCE が選択し、委員長が評価委員を指名する。教授などの専門
家は他の研究機関・大学の評価委員になることができるが、自分の所属する機関の評価はできない。大学の教授が評価
委員になるのは、自分の大学の自己評価にも役立つことになる。HEFCE からも公平さを保つために 1 名がパネリスト
として参加し、評価基準に従って評価する。
1.1) 評価基準
1) 提出された書類の品質は主として次の尺度で判定される。
a) 出版された仕事の品質
b) 外部の研究費提供者の評価
c) 大学院の研究活動の程度
d) 研究部門の活性度と継続して発展することの証拠
2) パネルは論文の品質の評価を出版したメディア、論文を掲載した雑誌の編修の厳格さ、およびレフリーの基準により
行う。したがって、パネルは編修とレフリーの基準、編集委員の構成、論文の拒絶の割合、その他関連する資料を注意
深く検討すべきである。論文のコピーを熟読し、専門家の意見を聞いて、さらにパネル委員の個人的な経験を拝聴する
こと。
3) 講演論文は論文の評価と同様の方法で評価する。専門の学会などが主催した国際会議の講演論文は、地方の講演論文
よりも一般に高く評価される。Keynote あるいは招待論文は他の講演論文より高く評価される。
4) パネルは講演論文よりも研究論文に重点を置く。
5) 以上の方法に加えて、提出書類に引用されている仕事とくに新しい雑誌や書籍、書籍の一部の章、あるいは一般に出
版されていない成果など、情報が少ないときは、パネルは個別に判読する必要がある。
6) その他の特許、ソフトの成果についても同じ原則で評価する。
7) ユーザに関連する研究についても十分に記録する必要がある。これら仕事は論文として出版されていることが多い
が、時間のずれがあって最近の論文出ないことを容認すべきである。
1)
研究生
8) 大学院に進級した学生の数も研究の質の評価となる。博士課程の方が修士課程よりも高く評価する。
9) 奨学生の数では比較しない。
外部の研究費
10) 外部からの受託研究費は研究者の過去の実績と今後の評価の尺度となる。どこからからの受託かは問わない。またパ
ネルは、外部からの受託研究費と HEFCE からの研究費の比率も考慮すべきである。
研究計画と一般評価
11) 報告書 (研究部門から出される提案書) には研究機構と将来の研究計画は 1992 年に提出された報告書と比較検討さ
12 工学における教育プログラムの海外調査報告
れる。
12) パネルは研究部門のバイタリティについて次のことに関心を持つ。
a) 国際的視点
b) 評価期間 (4 年に一度) 中の研究費の変化。
c) 国家的、国際的な先端性と新規性に関する対応。
d) 工業界あるいは学会における国家的・国際的な共同研究。
e) 個人の研究に与えられる表彰。
f) 実際の現物での利益 (Benefit-in-kind) の重要性。
g) その他。
13) 研究スタッフとして登録する人の情報は RA6 によること。
1.2 評価手順
14) パネラーは報告書の評価を種々の尺度で列挙する。各項目のウエイト付けは各自の評価で行い、総合点を集計する。
これらの点数は各評価単位 (Unit of Assessment : 研究分野) ごとにランク付けをする。初めの採点は単にガイドラインと
し、固定したものと考えない。主観的な評価を洗練するための繰返し作業の一つである。主観的な評価が再評価され、つ
じつまがあったときに HEFCE の定義にしたがって評価点が与えられる。重み付けの割合は次のようである。
a) 出版された論文の品質 30-45%
b) 外部の研究費提供者の評価 20-35%
c) 大学院生の研究の活性度 14-22%
d) 研究部門のバイタリティと継続して発展する見込み 14-22%
15) パネルによって最終の点は 100%にして、全提案者につけられる。
16) パネルの採点で異常なところがあれば、再度研究部門に質問して数字か小さい場合には訂正することができる。
17) 提案書の全ての評価部分は、研究者の数でノルマライズされるので、提案する研究スタッフの人数は評価に直接関係
しない。
2) 教育評価 (Assessment of Quality of Education)
教育評価は公的資金を投入して高等教育の質を高め、情報を与え教育の改善を奨励することを目的としたものである。
対象とする高等教育は 140 の大学、75 の単科大学 (College) である。それぞれ、大きさも異なり、教育内容も、歴史も目
的も異なっている。それぞれの大学はその使命と固有の目的、目標をそれぞれの学問レベルに応じて決定する自治権があ
る。
教育評価は大学の自己評価と評価者の大学訪問 (2-3 日) によって行われる。学校訪問は学生やスタッフに面談して、証
拠を収集する目的である。大学教授も企業の専門化も評価者になれるが、自分の大学の評価はできない。カリキュラムの
拡大 (Diversify) のために、企業人の参加を英国は求めている。
評価は次の 6 項目について行われ、パネラーは講義を聴講して教師と学生の相互反応を見たり、学生にインパクトを与
えているか、各年毎の学生の進歩 (Achievement) どうかなどを評価する。評価結果のすべてが 1 点以内なら 12ヶ月以内
に再訪問する。改善されていなかったら Fund を減らすかやめる。この点のみが Fund と評価が関係するところで、研究評
価とは異なっている。
1997 年 9 月現在までの訪問回数は 978 回、評価者はのべ 1362 名である。教育評価で重要な点は、公平さと透明性を明
確にすることであり、そのために評価手法、評価手順、評価結果を公表することにしている。
教育評価には Ph. D コースは含めない。
(1) 教育目的と目標の評価 (Assessment against Aims and Objectives)
評価はそれぞれの大学が決めた目的・目標に関連して行われるものであり、各大学が独自に決めた目標・目的を上手
く達成できるかどうかを評価する。したがって、評価結果として大学間の比較は、本質的に異なった目標を持ってい
るのであまり意味がない (little validity)。
(2) 学生の学習体験と達成度評価 (Assessment of the Student Learning Experience and Student Achievement)
この評価は学生の学習体験その達成に関する全てのことを評価する。そのために、教室・セミナー・工場・実験室・の
観察、学生の成績の評価方法、カリキュラム、スタッフとその育成、設備 (図書、IT、設備)、学生への支援とガイダン
スなど広い範囲に亘る教育と学習活動を評価する。
これらの活動は六つの視点 (Aspects of Provision) で評価され、それぞれについて 1-4 点が付けられる。六つの評価項目
は次のとおりである。
イギリス・フランス 13
・カリキュラムの設計、内容と編成 (Curriculum Design, Content and Organisation)
・教育・学習と評価 (Teaching Learning and Assessment)
・学生の進捗と達成 (Student Progression and Achievement)
・学生の支援とガイダンス (Student Support and Guidance)
・教育資源 (Learning Resources)
・品質保証と向上 (Quality Assurance and Enhancement)
(3) 専門化のレビュー
評価者はその分野における専門化より構成される。多くのメンバーは英国の高等教育大学のスタッフであるが、産業
界、商業会、個人的な専門化も参加する。
(4) 内部評価と外部評価の組み合わせ
評価は次の二つの評価プロセスで行われる。
・評価を受ける大学 (Provider) は自己の目的と目標にしたがって、その分野の自己評価を行う。この自己評価は上
に述べた 6 つの視点に沿って行われ報告書が作られる。
・評価チームの 3 日間の訪問評価。評価チームは 6 つの視点について大学の被評価部門が付けた評点を評価しグレー
ド付けを行う。すべての視点で 2 点またはそれ以上であれば、その教育の質は認定 (Approve) される。
(5) 報告書
ここの評価報告書以外に HEFCE は同じ専門分野の全体の報告書を公表し、大学、College 、公立図書館などに配布す
る。
教育評価の内容
(1) カリキュラムの設計、内容と編成 (Curriculum Design, Content and Organisation)
この項目に関連した特別の目的は何か?
自己評価でなにが述べられているか?
学部、大学院のあらゆるレベルで評価する。
a) カリキュラムの構成と内容
カリキュラムの構成と内容が次の観点で目的と目標に合致しているか。
① 特別な形態、特殊な性格のカリキュラムが用意されているか。
② 意図している学生のプロフィル。
③ 学習のレベルと形態 (mode)
④ 学習の幅と広さ
⑤ 一貫性
⑥ 進歩と達成度
⑦ 柔軟性と学生の選択
⑧ 認定された専門性/認定された団体か
⑨ 学問スタッフの専門性
b) カリキュラムで意図する結果 (outcome) は何か
教育と学習によって意図する結果が明確に定義されているか。またそれはスタッフと学生に理解されているか。
学習の機会は目的と目標に対して次の観点で一致しているか。
① 主題−細目/ 発想−伝達のスキル
② 職業に就く能力と雇用に向かっての進捗
③ さらに高度な学習への用意
④ 個人の開発
c) 最近の革新の形態があるか。
内容が次の情報を取り入れているか。
① 最近の学習と教育の進歩
② 最近の主題/ 境界領域の進歩
③ 研究スタッフの研究/コンサルタントの活性度
④ 企業の専門化としての経験
以上の視点から見て、どの程度目的に合致しているか?
目的 (objective) とそのレベルが、目標 (aim) に合致しているか?
14 工学における教育プログラムの海外調査報告
Annex I 各評価項目の評点 (Grading the aspects of Provision)
(1) 評点は実際の学生の学習経験と達成度が大学の定めた目標 (aim) と目的 (objective) にどの程度合致しているかを示
すものである。
(2) 評点は各評価項目 (視点) で付けられた評点から作られる。評価点は 1,2,3,4 点からなり、数字が大きいほど良い評価
である。
(3) 評点 2 またはそれ以上の点は、学生の学習経験と達成度がその項目について、報告されている目的の達成に最低限達
していること、目的に最低限合致していることを示す。
(4) 評点 1 は以上の目的の達成に不十分であるか、あるいは目的が目標に達していないことを示している。
(5) 評点の基準を下表に示す。
(6) 各評価項目の評価は評価委員の専門的な評価によるもので、それは自己評価報告書と学校訪問で得られた証拠に基づ
いて行われる。
全体評価
(7) 全体評価は評点を査定して決められる。各項目の評点のウエイとは同じとする。一つまたはそれ以上の評点が 1 の場
合には、次のようにする。
(a) まず最初の評価で、評点 1 が一つ以上の場合には一年以内に再評価が行われる。その決定は公表される。再評価ま
での間 (12ヶ月) 通常の Funding は継続される。
(b) 12 カ月以内に行われるの後、評点 1 が一つ以上ある時には教育は不十分 (Unsatisfactory) とみなされ、一部あるい
は全部の Fund が減額される。この二回目の評価も公表される。
(8) 全ての評価点が 2 点以上の場合には、教育に質は認定 (Approve) される。
(9) 評価結果は大学訪問最終日に、大学に対して評価チームから口頭で報告される。
資料
No. Q-1 : Assessors' Handbook, Quality Assessment Division, HEFCE
No. Q-2 : The Forward Programme for Quality Assessment, HEFCE
No. Q-3 : Units for the Assessment of the Quality of Education, HEFCE
No. Q-4 : Executive Summary ; Improving the Quality of Education : The Impact of Quality Assessment on Institution (July 1997),
HEFCE
No. Q-5 : Introduction to the Higher Education Funding Council for England (July 1997) HEFCE
No. Q-6 : A Measure of Excellence ; Research Assessment in Universities (1993) The Review
No. Q-7 : Guidance on Submissions ; 1996 Research Assessment Exercise (1995), HEFCE
No. Q-8 : The Outcome ; 1996 Research Assessment Exercise (1996), HEFCE
No. Q-9 : 1996 Research Assessment Exercise ; Criteria for Assessment, Electrical and Electronic Engineering Panel, HEFCE
No. Q-10 : ibid. Mechanical, Aeronautical and Manufacturing Engineering, HEFCE
No. Q-11 : HEFCE 1996-1997 Annual Report ; Promoting the Learning Society
イギリス・フランス 15
[2] The University of Sheffield
応対者:Professor R. A. SMITH, Ms. Joanne Salmon
1995 年に HEFCE の評価を受けた。
・カリキュラムの目的は良い学生と出来の悪い学生の両者の成績をどこまで上げること出きるようになっているかであ
り、これにより評価される。評価には、卒業生の質についてもOBや会社の意見を聴取する。
・自己評価書を大学側で作成して、HEFCE に提出する。これに基づいて HEFCE は調査団を大学に派遣し、3.5 日間にわ
たり講義を聴講したり卒業生にヒヤリングしたりして評価のための証拠を収集する。
・評価者 (Assessor) は 4-6 名の他大学の教授や企業の技術者から編成され、その中から HEFCE によりリーダーが任命
される。調査は 6 年毎に行われ、調査結果の報告書が公表される。
・Teaching Assessment を上手くやるためには、学校の文化 (Culture) を高めることが必要である。評価方法は、まずカ
リキュラムを自己評価書 (Document) で調べ、教官・スタッフに質問し、学生にヒヤリングをする。学生には講義の内
容から講義の仕方・教室がきれいか・トイレはどうかまで何でも質問し、評価チームは学生に悪く言わせたがる。しか
し良い文化、教官・学生間に良い関係ができていれば、学生はProtective である。
・自己評価報告書は一部の教授だけでなく、秘書を含む全スタッフが参画して議論しながら作ることが重要。これだけ
でも、教育内容が著しく改善される。
・HEFCEの評価とは別に学会による評価制度がある。これは、Chartered Engineer の資格を与える教育を行っているかを
評価し、認定 (Accreditation) するための評価制度である。
資料
No. Q-12 : Teaching Quality Handbook, The University of Sheffield, (1997)
No. Q-13 : Handbook for Research, Students & Supervisors, The University of Sheffield, (1996/1997)
No. Q-14: Mechanical Engineering Self-Assessment and Claim for Excellence; HEFCE Teaching Quality Assessment, The University
of Sheffield, (1993)
No. Q-15 : Information for First Year Students, (1996/1997) Department of Mechanical Engineering, The University of Sheffield
No. Q-16 : Quality Assessment Reports, Mechanical Engineering ; University of Sheffield (1993)
[3] Imperial College of Science Technology and Medicine
応対者 : Professor J. G. Williams, Department of Mechanical Engineering
・HEFCEの評価は 1993 に受けたのみで、現在の評価基準による評価は受けていない。2002 年までは受ける予定がない。
・1997 年 5 月に IME (Institute of Mechanical Engineer : 英国機械学会) のAccreditationを受けた。学会の認定は Chartered
Engineer の資格を得るために段々重要になってきている。Accredit された大学 4 年卒業の MS資格保持者が CE になるた
めのMinimum Standard である。現在英国では 80%の大学がまだ認定されていない。
・機械学会の調査団は団長が他大学の教授、団員に教授、企業の技術者 (この場合はBritish Gas)、IME のSecretary の計
四名であった。各学年の代表 12 名の学生 (内 4 名は外国からの留学生) にヒヤリングしたり、学期末の試験問題など
も評価された。
・評価項目は以下の通り。
1. Previous Accreditation Findings
2. Aims, philosophy and Structure
3. Foundation Years
4. Degree Programme and Course Contents
5. Engineering Applications
6. Project Work
7. Design
8. Opportunities for non-technical Subjects
9. Tutors and Tutorial Arrangements ( size, contact hours, personal tutorial contact)
10. Communication Skills (oral, written, draughting and skills)
11. Interdepartmental Teaching
12. Industrial Influence
13. Entry Standards
16 工学における教育プログラムの海外調査報告
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Entry Qualifications : Special cases
Direct Entry
BTEC/SCOTVEC and GNVO Qualifications
Selection and Student Numbers
Industrial Training
Progress and Assessment through the Degree
Assessment in the Final Year
Examination Papers
External Examiners Reports
Analysis of Awards
Destination of Graduates
Professional Membership of Relevant Institution
Enthusiasm and Motivation of Students
Academic Staff, Research Activities and Industrial Experience
Staffing Ratios
Research and Consultancy (Influence on undergraduate courses)
Postgraduate Degrees
Resources
Support Facilities-Laboratories, Libraries, Computers, Lecture Rooms
OA Procedures
Changes to Degree Programmes
資料
No. Q-17 : Accreditation Guideline for Degree suitable for I Mech E membership, Institute of Mechanical Engineers, 1997-Oct.
No. Q-18 : Postgraduate Study in Mechanical Engineering 1997-1998, Imperial College ; University of London.
No. Q-19 : Review 1992-1994, Department of Mechanical Engineering, Imperial College.
No. Q-20 : Accreditation Submission : EX200 Document for the M-Eng and B-Eng Courses in Mechanical Engineering, Department
of Mechanical Engineering, Imperial College, Jan-1997.
イギリス・フランス 17
[4] Ecole Polytechnique
応対者 : Professor D. V. Key ; Laboratorie de Mechnique des Solides
Professor A. Zaoui and Professor H. D. Bui
1) フランスの高等教育
1. フランスの高等教育に進学するにはバカロレア (大学入学資格試験) が要求される。バカロレア合格資格者 (Bacher
の大学入学の選抜は行われないが、技術短期大学、grandes Doles では選抜が行われる。
1993 年の高等教育の進学率は 99%であった。この中には普通高等学校のほとんど全ての卒業生と職業高校の 82%以
上の卒業生を含む。教育費は国から支払われ、入学費は極めて低額である。
2. フランスには種々の高等教育機関があるが、ほとんどは文部省 (Ministry of higher education and research) の管理下に
置かれている。1994 年には 190 万人の生徒 が高等教育を受けている。この内 1,413,513 名が大学に在籍している。大学
の 86%が国家の管理下にあるが、教育内容・目的、組織には比較的高い自治権がある。
3. 第 1 期と短期高等教育 (The First Cycle and short-term Higher Education)
大学の第 1 期は大多数の高等学校卒業生に開かれており、様々な専門教育が行われる。1993 年には 69 万人の学生が
在籍した。
(1) 一般教育卒業資格 (University General Education Diploma : DEUG) を得るには分野によって異なるが、800-1200
時間、2 年間の教育が必要である。教育は講義・実験、より現代国語、コンピュータ・科学入門が必要。科学・技術
大学卒業資格 (University Scientific and technical Diploma : DEUST) は 2 年で職業に就く学生の専門教育である。
工科大学 ( University Institutions of Technology : IUT) で工学士 (Technological Diploma : DUT) を取るため 2 年間の準
備教育の組織が大学にある。
(2) 高等専門学校 (Grandes Ecoles) へ入学準備学級が高等学校にある。
4. 第 2 期 (The Second Cycle)
科学・技術の分野で高度な一般教育が行われる段階で、2-3 年かかる。1993 年 には 46 万人が在籍した。この教育で
学士 (Bachelor) から修士 (Maitrise) へと進むが、修士では研究・実験が含まれる。
5. 第 3 期 (The Third Cycle)
第 3 期は研究のコースで高度な専門教育期間である。この期間は 2 つの過 程があり、
専門職に就くための 1 年間の高等専門教育卒業資格 (Diploma of higher specialized
study : DESS)、と高度研究卒業資格 (Diploma of advanced studies : DEA) 教育があり、
後者は後に続く 2-3 年の研究で博士の称号を得る。
6. 工業専門学校 (Engineering School)
技術士 (Diploma of qualified engineer) の資格を授与する専門学校が 200 以上あ
り、それぞれ文部省・農業省・工業省・国防省が所管する公立学校である。
7. 高等教育の教授
大学教授には二つの明確な区別がある。
まず、教育と研究を行う教授で、年間 192 時間の教育と研究が義務。教育専任の教授は研究の義務はないが、二倍の時
間の教育が義務。専門の実習の科目は企業や政府から派遣される非常勤教授もある。
1993-1994 年の教育陣は 6 万 6 千人、
教授 : 26%
専任講師 (助教授) : 38%
講師 : 17%
指導員 (monitor) : 16%
助手 : 3%
2) フランスの高等工学教育
1. フランスの高等工学教育は二本立てである。一つはパリの文部省の所管する大学と、二つは政府の所管の高等専門大
学 (Grandes Ecoles) でその一部は独立機関 (私学) である。両者ともに入学には大学入学資格 (Baccalaureat) が必要で
ある。大学の入学試験はないが、高等専門大学は入学資格試験 (Concours d'entree) によって選抜される。
2. この大学と高等専門大学という二本立ての制度は、その起源を 18 世紀にさかのぼる。当時大学は完全に聖職者の手に
握られており、人々には広く軽蔑されていた。これに対抗して、新しい社会と国家に必要とされる技術者を教育する
18 工学における教育プログラムの海外調査報告
ために高等専門大学が設立された。このような歴史的背景から、今日でもフランスの技術者は特別な権威が与えられ
ている。高等専門大学の入学は難関であり、卒業生はエリ-ト思われている。そのため、卒業生は良い職業に就職でき、
高い報酬を得ている。
3.
高等専門大学に入学するには、大学入学資格試験の成績などによって M'、M、P'、P、M の段階に区分され、それ
ぞれの高等専門大学進学準備学級 (Classes preparatoires aux grandes ecoles) に入る。ここで二年間の教育を受ける。す
ぐに高等専門大学に入れない学生はさらに一年の教育を受けることが許される。入学後さらに高等専門大学で 3 年間
の教育を受けることになる。
4. そのほか、1966 年に約 50 の大学に付属する技術短期大学 (Instituts Universitaires de Technologie) が設立された。そこ
では 2 年の教育で技術短大修了証書 (diploma universitaire de technique) が与えられる。今後、多くの技術者 (Technician)
がこの学校で教育されるであろう。
5. 大学のカリキュラムは 3 期に分けられる。第 1 期 (2 年間) では学問の基礎が教育される。これを終了した学生には第
1 期大学卒業資格 (Degree Diplome d'etudes universitares generales : DEUG) が授与され、十分な資格と考えられている。
しかし、最初の意図とは異なりこれで終了し社会に出る学生はほとんどいない。この教育では、十分な品質の教育を
行えないと考えられている。
6. 第 2 期のカリキュラムには工学に関する実習も含まれており、いわゆる学士 (maitrise) が与えられる。しかし、技術
者としての十分な教育はさらに 1 年間の教育が必要だと考えられている。したがって、フランスにおいて、工学の卒
業資格は 高等学校卒業後 5 年間あるいは DEUG 取得後 3 年間の教育が必要とされる。
7. 1989-1990 年に、政府と世論は高い実務経験をもった新しい技術者が不足していること認識した。そこで政府は新しい
技術者 (Nouvelles Formations d'ingeneurs) の育成を奨励するために、大学のカリキュラムの科学・技術のコ-スを変更
し、3 年の教育期間中にインターンシップ制度を取り入れることにした。
しかし、高等専門大学 (Grandes Ecoles) の高等理工科大学 (Ecole Polytechnique)、高等土木大学 (Ecole de Ponts et Chassees)、
パリ高等鉱業大学 (Ecole des Mines de Paris) などに、大部分が数学のカリキュラムの教育を受けた準備学級の生徒の
人気が集中している。
3) フランスの高等教育の評価制度
・1985 年創設された全国大学評価委員会 : CNE ( National Committee of Evaluation) が大学の制度に関する評価を行い、そ
の結果は公表される。CNE は独立行政機関である。
・大学の自己評価をするに当たって、CNE は学長および各部局宛の質問状を作成し、第三者の評定者を招聘して外部評価
を行う。
・教員の評価は別の全国大学審議会 (National Council of University) によって行われる。
3.1 評価の指標
大学の自己評価書は次の項目を示す。
・「組織・機構」
・学生・教員・研究員・管理部門
・財政 (収入・支出・借入金)
3.2 大学の運営
・学生の配置
・進級状況
・学位取得までの期間
・就職状況
・継続教育の大学の活動状況
・研究活動
・研究の発展・向上策
・財源の配分
・学生一人当たりの支出額
・教官一人当たりの支出額
・設備などに関する近代化と再構成の計画
・大学における学生・教官の生活の質
資料
No. Q-21 :
No. Q-22 :
No. Q-23 :
No. Q-24 :
No. Q-25 :
Ecole Polytechnique International Admissions, 1997
Research Center 1995 Report, Ecole Polytechnique.
Enseignements Scientifiques de 2eme annee, Ecole Polytechnique 1996-1997
Enseignements Scientifiques de 1ere annee, Ecole Polytechnique 1996-1997.
Engineering Education in France, Ministere des Affaires Etrangeres (フランス外務省発行), 1997-9.
イギリス・フランス 19
20 工学における教育プログラムの海外調査報告
アメリカ II
日 時:1998 年 11 月 8 日∼ 11 月 16 日
訪問先:マサチュセッツ工科大学 (MIT)
ウースター工芸大学 (Worcester Polytechnic Institute, WPI)
ペンシルバニア州立大学 (Pennsylvania State University, PSU)
カーネギーメロン大学 (CMU)
訪問者:八田 一郎 (名古屋大学大学院工学研究科教授)
正畠 宏祐 (名古屋大学大学院工学研究科教授)
21
工学における教育プログラムに関する検討委員会の活動の一環として、アメリカ東部の大学の工学における教育プロ
グラムに関する調査研究を行った。細目としては、それぞれの大学において、大学の構成、工学部の構成、学部カリキュ
ラム、大学院カリキュラム、カリキュラム改革、教授法についての評価、カリキュラムについての評価、ABET2000 への
対応、インターンシップ、工学教育連盟等について調査研究を行った。訪問した大学は、マサチュセッツ州ボストン市内
にあるマサチュセッツ工科大学(MIT)、ボストンから車で約 1 時間西のウースター市にあるウースター工芸大学 (Worcester
Polytechnic Institute, WPI)、ペンシルバニア州の真ん中に位置する小さな街 University Park にあるペンシルバニア州立大
学 (Pennsylvania State University, PSU)、ピッツバーグ市にあるカーネギーメロン大学 (CMU) の四大学であった。
印象
MIT、WPl、CMU の 3 大学は完全な私立大学であ。PSU は全運営費 15 億ドルの約 15%を州からの援助に頼っている
が、州に対する予算報告の義務はないのでほとんど私立大学のように運営されているという点からすると、四大学が全て
私立大学であると言っても過言ではない。それぞれの大学が、社会で活躍できる有能な卒業生を輩出し、父兄も学生も満
足する学生生活を送らせるためにそれぞれ独自の教育方法を考案し、実践している。したがって、教育に対しては極めて
熱心に取り組んでいるというのが、受けた強い印象である。
[1] MIT
応対者:Dr. Joseph Harrigton (Assistant Dean/Director of Development (事務官))
学部学生数約 4,500 名、大学院学生約 5,500 名、教授数約 900 名の規模としては小さな私立大学である。学部学生のう
ちの 2,000 名が工学部の学生である。
入学時には学部・学科に配属していなくて、1 年の終わりに学生の希望通りに学部・学科を選択させ配属する。
大学は 5 学部から成り、工学部は 8 学科から成り、約 250 の教官がいる。
授業料 : 23,100 ドル/ 年、病院・災害保険 : 636 ドル/年。
1) 学生指導
応対者:Ms. Margaret S. Enders (Dean of Student, Associate Dean, Undergraduate Academic Affairs)
全学生が、それぞれ 1 名の指導教授 (advisor) の指導を仰いでいる。教授 1 名当たり 5 から最大 1 0 名までの学生を指
導する。交代で指導教授が週に 1 回のセミナーを行い大学における生活に慣れさせる。 厳しい大学生活における悩みを
聞くこと、また進路決定の相談に乗ることが、指導教官の主な仕事である。
分野選択の指導 : 基本的には無いのと同じと Enders 氏は言っている。セミナー参加、研究室公開、1 年生が研究室への
研究課題参加等で、情報を得て分野を決める。一般に、学部在学中に約 80%の学生が何らかの形で研究に参加している。
2) 工学部
8 学科 : 航空宇宙工学、化学工学、都市環境工学、電子電算機工学、材料科学・工学、機械工学、原子核工学、海洋工学
学部卒業要件単位数 :
1 年目 (教養科目) : 1 7 科目 (科学 : 6 科目、人文科学・芸術 : 8 科目、科学・工学分野に必要科目 : 2 科目、実験 : 1 科目)
専門科目 (学部卒) : 186~198 単位 (units)
3) ABET について
応対者:Professor John Vander Sande (Associate Dean, School of Engineenng)
ABET による認定は、“bean counting”しかしていないという理由から、M I T は必ずしも乗り気ではなかった。教育の
質を考慮してほしいと ABET に要求してきたので、M I T と ABET との関係は悪かった。特に、変化の激しい電子・電算
機工学分野に対しては、ABET の認定は不必要である。ABET による認定は、州立大学のように平均的な大学のために重
要であるという意見がある。
ところが、認可を受ける必要性もある分野もあり、認定を受ける理由もある。その理由は次のようなものである。
a) 土木工学や、建築学のような一部の分野で、PE (Professional Engineer) の称号を得ているかどうかで、就職後に大い
に違いがある。ABET の認可を得ていない大学を卒業すると、P E の称 号を得るのに 2,3 年の違いが出来ることがある。
初任給において有利となることがある。
b) 父兄の不安 : 父兄に対して、
「MIT の卒業生はしベルが高いので ABET を無視しても、就職する際に全く不利はない」
とする説明は通用しない。
ところが、新しい基準は過去のものと全く異なっている。PE の認定をする職業的な協会は、新しい認定基準 (Vision
2000) は余りにも曖昧で、そのシステムの下で教育された卒業生の質は信用できないと主張する可能性がある。
22 工学における教育プログラムの海外調査報告
4) 授業 : 何を教育するか
応対者:Professor Arthur Smith (Department of Electrical Engineering and Computer Science)
問題点 : 例えば、電子・電算機工学分野では技術革新が余りにも早いので、教官の研究分野がすぐに古くなる。新しい
分野を教えることができる教授を招聘し続けなければならない。古くなった専門分野の教官はどのように教育に関与する
かが、問題となってきている。結局は基礎を教えるのが重要である。斬新な分野の教官を企業から招聘することもある。
企業の研究者を非常勤教授 (Adjunct Professor) として雇うことあり。
学生には、Communication, Writing, Speaking のための訓練が必要である。
5) 教育補助 (Tutoring)
工学部の全ての学科が、学生の勉強の補助をするために、大学院生を配置している。
6) インターンシップについて
単位を与えることもある。
Cooperative Program と呼んでいる。必須ではないが推奨している。平均して 600 名の内の 80 名の学生が参加している。
3 夏季休暇まで企業に行って実習をすることを勧めている。受け入れる会社は、大企業が多い。企業の受け入れ側と協議
して研究課題を決め、その結果単位を与えることもある。実習生を受け入れる企業側は、余り短い期間ではメリットが少
ないという理由で 2 夏以上の実習をする事を勧めている。実習生がそのまま受け入れ企業に就職することがある。
7) Master of Engineering (工学修士) について
4 年の学習期間では短か過ぎるので、学部の学習期間を 1 年だけ延ばして Master of Engineering の学位を与えている。成
績の良い学生である約 250 名が M. Eng. 課程に学んでいる。必要単位数 (ECE) : 教養科目+285 単位 (units)。
大学院の Master of Science の課程には、外部の大学または他学部からの学生が入学する。
8) ダブルメイジャー (Double Major, DM) について
約 90 単位 (約 1 年) が必要である。MIT では学生の高校で得た単位を認定している。DM を目指す学生は、高校で得た
単位を認定しているので 4 年で済ませられる例が多い。
9) 教官に対する教授法の指導について
どのように授業しているかを記録するための VTR 撮影設備を有する教室がある。
教授の依頼によって VTR を撮り、アドバイザーが教授法を改良するための指導をしてくれる。ただし、その情報は学
科には流さない。 秘密は守られている。
10) 教育評価
学生による授業評価。昇給には使わない。冊子として印刷し公開する。
教官の評価基準 : 研究、教育、委員会等へのサービスを考慮して昇任、昇給を行う。
11) Educational Coalition
応対者:Associate Professor Louis C. Bucciarelli, Jr.
目的 : コンピューターを用いて機械構造の設計を訓練する。工学教育を興味あるものにするためにタイプの違う大学が
協力している。
12) Distance Learning (コンピューターネットワーク等を用いた教育)
応対者:Prof. Richard C. Larsen (Director, Center for Advanced EducationalServices)
センターは 2 年前に開設。詳しくは、http : //www-caes. mit. edu/
(1) 目的 : 先端データ通信技術を使った教育方法を開発すること。
(2) 理由 :
・基本方針 : M I T が国際的に教育活動を展開すべきである。
・生涯教育の必要性
技術革新が速いので、工学者の習ったことが早く使えなくなる。そのような環境では生涯教育を進める必要がある。会
社の経営者や工学者に先端的な科目を教育し、M I T のコースを取得した証明書を出す。ASP (Advanced Study Program)
及び P I P (Professional Institute Program) の名前で、それぞれ 33 年と 46 年の歴史を持つ。これを、Distance Learning の方
法で提供する。
(3) 現在は、南米の国々に対する教育に力を入れている。次は東南アジアである。
(4) 方法: 衛星、WWW、ケーブルテレビ、ビデオコンファレンス、e-mail 等を用いた教育法について試みている。試験的
アメリカ II 23
な段階である。
(5) 大学生のコンピューターに対する習熟度 : 新入生の 90%は WWW に使い慣れている。大学を卒業する頃には、卒業
生は4種類のコンピューター (I BM、PC、マッキントッシュ、Unix) に慣れるようにしている。M I T は、最も進んだ学
内ネットワークができている大学である。
(6) その他、現在は、まだ黒板とチョークを用いる教育である。 コンピューターを用いて教官と学生がやり取りできる
(interactive, computer-aided) 教育をする方法に移りつつある。その先駆者は、レンセラー工科大学の Jack Wilson 教授 (RIT,
Dean of Undergraduate Education) である。
この問題を解決するために、教官数が少ないので Virtual University (メキシコ) を使っている。
13) Professional Engineer (PE) について
応対者:Professor Nam P. Suh (Department Head, Mechanical Engineering)
すべての大学で対応が異なる。MIT では全ての学科はほとんど独立である。PE は土木、建築にとっては重要である。
機械工学では、PE は重要でない。60 人の Faculty の内の 1 名のみが PE である。
教育において重要と考えていること :
(1) 全体が分かるように教育する (Integration of knowledge)
(2) 学生が能動的に学習に臨むこと (Active leaning)
(3) 機械設計と現象分析能力の養成を同時に目指す (Designing and Analysis)
14) 単位 (unit) の定義
講義、演習、または自宅学習に週に 1 時間×15 週の全部で 15 時間を費やした
場合に与える単位。1 credit はその 3 倍、1 credit : 3units。
[2] ウースター工芸大学 (WP I)
応対者:Professor Lance Schachterle (Assistant Provost for Academic Affairs)
創立が 1895 年の私立工芸大学。全米で 3 番目に古い工科大学。学部学生数 : 約 4,000 名、‘常勤’大学院学生数 : 400
名、‘非常勤’学生数 : 約 800 名。学部教育に重きを置いている Ph. D. (2) 大学である (注参照)。ニューイングランド大
学連合の一員で、1 0 年に 1 度大学全体のブログラムの評価を受けて認可を得ている。授業料 : 年間 1 万 8 千ドル。工学
関係、科学、経営、社会科学、人文科学・芸術を含む 1 4 学科より成る。
(注) Ph. D. (2) 大学とは、博士号 (Ph. D.) は出すが、研究よりも教育が主体である大学。
1) ABET について
WPI は、1933 年に ABET の前身である ECPD (Engineer's Council for Professional Development) の創設時以来のメンバー
である。
1 年前に、ABET 基準 2000 の下に認定を受けた。
古い ABET 基準は余りにも融通性がなかった。
どのような科目を取得したかどうかは、社会に出て仕事ができるかどうかと関連はないということで、1970 年に科目
をすべて選択にした。その代わりに、就職後に解くことが要求されると思われる問題を課した 3 日間にわたる試験に変え
た。
ABET の基準では、これは完全に許されることではなかったが、認定は受けていた。そうすることがだんだん困難に
なっていた。新しい基準は WPI の教育法に沿っている。
2) 創造的な教育法について
a) Bridge Program
大学全体にわたる教育システムの改革を NSF の援助で勧めている。
b) Projects in courses
複数の科目の内容を理解するためのプロジェクトを考え問題を与え、解かせる。
例えば、機械工学と物理、化学と生物の分野で数学を教える。
c) Team Learning, Peer Learning Assistant (PLA)
PLA では、よくできる上級生が下級生の勉強の手助けをする。
d) Practice Based Master Degrees
企業に就職している者が、企業の問題を持ち込んで学業を続けて M. Eng. を得る場合と、学部学生が 1 年の滞在期間
を延期して 5 年で修士号を得る場合がある。後者の場合には、3 − 2 プログラムと呼ぶ。学部卒になる学生の科目の取り
方と大いに異なる。これは、教授の研究分野で研究をし修士論文を書いて得る Master of Science とは異なる。
24 工学における教育プログラムの海外調査報告
e) Professor of Practice
企業や国立の研究所で優れた研究を行ってきた年齢の高い研究者を教授として退職の前の数年教育に関与してもらう。
博士の学位を持っていなくても、研究実績があればよい。
f) Web-based courses (Advanced Distance Learning Network)
WWW を通して学生を教授が教育することを始めている。
3) 教育評価
学生による評価。科目の最後の講義の後に意見聴取の用紙を配布し、それをコンピューターでまとめて、その結果を発
表する。学生のコメントは教授のみが見ることができる。常に悪い評価を受ける教授は主任に呼ばれて注意を受けるし、
昇任において考慮される。
4) ダブルメージャーについて
なるだけ広い洞察力が持てると考えて、学生に推奨している。4 年間で卒業できないことが多い。18 credits を履修する
必要がある。ダブルメージャーよりも、5 年で取得する Master of Eng. がよいかどうかを議論しているところである。
5) インターンシップ
Cooperative Education として、1 または 2 期にわたる 8ヶ月の期間に企業で働く。大学の単位としては認めないが、学生
が働くことを義務付けている。その間は授業料は払わない。毎年約 100 名の学生が参加する。このプロジェクトを通して
就職することがあるのでメリットはある。
[3] Penn State 大学 (PSU)
応対者:Prof. Robert N. Pangborn (Associate Dean for Undergraduate Studies、工学部)
Dr. Jean Landa Pytel (Assistant Dean for Student services)
1 0 学部があり州内に 1 7 のキャンバスがあり、全学生数は 8 万人である。
University Park には、17,000 人の学生が学んでいる。キャンバス内には、2 年の短期大学部もある。工学部には 7,600
人の学部学生と 1,500 名の大学院学生がいる。全米の中で工学部の大きな 3 大学 (Texas A&M University, Georgia Tech.
University, PSU) の 1 つである。大学の運営費の 15%をペンシルバニア州が支払っているが、どのように使ったかを州に
報告する義務はない。工学部には終身の学部長がいる。授業料は、州の子弟は 5,200 ドル/年、州外の学生はその約 2 倍の
授業料となる。
1) カリキュラム
a) コアカリキュラムがあって、通常はすべての学科に共通な数学、物理、化学 (電算機学科では必須ではない) が必須で
ある。
b) すべての科目の内容はだいたい決まっている。一つの科目を複数の教師が担当するときは、試験問題を同じにする。担
当教師が教える内容について打ち合わせする。
2) 教育評価
教師の教育の評価は、学生のアンケートによって行う。よい教育、講義をしているかどうかの調査をするために、別の
教師が講義を観察して評価する。終身雇用 (Tenure) の決定は、研究の寄与が 40%、教育が 30~40%、その他サービス (委
員会等) が 20~30%である。
3) 学生入学選抜法
84%の学生がペンシルバニア州出身である。高校における学業成績と、全米規模の業者テストである SAT (Scholastic
Attitude Test)、GPA 等の成績を考慮する。高校で大学の単位を取っている場合には、それも考慮する。
4) ABET2000 について
a) 比較的最近に、古い基準で認定を受けた。
b) ABETの認定を受けているかどうかか極めて重要である。特に、建築と土木分野が認定を必要とする。電子・電算機
工学は必要ない。
c) 新しい基準に対しては対応を始めている。
5) Engineering Coalition について
5 年間の助成金を得て進めている。現在のところ 1 年生の設計の教育に電算機利用を導入することに使っている。5 年
間が終了すれば、次の 5 年には、2 − 3 年の科目についての教育の検討をするつもり。
アメリカ II 25
6) インターンシップについて
PSU では Cooperative Program と呼んでいる。1 ∼ 3 学期間、企業において働くことを奨励している。これには、単位を
与えない。約 1/3 の学生が参加している。メリットは、インターンシップを経験していると就職時の給料が年俸にして 5
∼ 8 千ドルは高くなる。
7) 卒業後の進路について
学部卒の 86%が就職する。9%が大学院進学、その中の 2 ∼ 3%がパートの仕事をしている。
8) 編入制について
数パーセントの学生が入学するだけである。成績は C 以上の学生で、科目の互換を認めている大学からのみ編入を認
めている。
9) ダブルメージャーについて
目指す学生数は少ない。約 1 年間の余分な学習が必要である。また、高等学校で特別に大学の科目を取得している場合
には、4 年で修了する者がいる。入学時に実力検査試験を行う。工学部では、化学、数学、英語のテストを行う。約 17%
の学生に数学の取り直しをさせる。
10) 国際交流プログラム (International Exchange Program) について
外国の多くの大学と交流を行っている。東北大学が相手大学に含まれている。約 2 ∼ 3%の学生が参加している。外国
で学ぶための旅費は学生が負担する。
[4] カーネギーメロン大学 (CMU)
応対者:Dr. Patricia Laughlin (Associate Dean, 工学部)
Prof. Daniel Stancil (Associate Dean, 工学部)
Prof. Robert Kail (Associate Dean, 工学部)
CMU は私立大学で、工学部の前身は 1990 年に創設したカーネギー工科大学 (C I T) である。大学には 7 つの学部があ
り、工学部には 6 学科がある。新入生は、入学時に所属学部が決まっている。 工学部には 1 学年約 350 名の学生が入学
するが、1 年後に学科配属の振り分けをする。他学部から、約 30 名が編入する。
他大学の編入は極めて少ない。全学生数:7,500 名、学部学生数:約 4,800 名、大学院生:2,700 名、教官数: 約 1,000 名。
1) ABET 基準 2000 について
古くから ABET の認定を受けている。認定を受ける必要がある。
進歩が激しいので、役に立つ科目の寿命は短いので、教えるべき科目の選択には融通性が必要である。古い基準には斬
新なカリキュラムを考案すべしという条項があったが、これが適用されたことがなかった。当時の ECE 学科の力リキュ
ラムは、当時の ABET の詳しいカリキュラムの要請に沿っていなかった。認定を取り消される覚悟で CIT がベストと考
えるということでカリキュラムに対して認定を受けることにした。その結果、認可を得た。新しい基準は、本学の教育理
念に沿ったものである。融通性が増したので、その基準に従うために昨年にワークショップをもって検討した。
古い基準は、面倒であったが形式を揃えるだけでよかった。しかし、新しい基準では大学側で自己評価しなければなら
ない点が多いのでむしろ負担が増大した。将来的には、卒業生にアンケートをとって、その結果を教育プログラムにフィー
ドバックするつもりである。
2) 特徴あるカリキュラム
5 年前にカリキュラムの見直しを行った。
a) 学生の選択幅を増した。
b) その目的は、境界領域を強くすること、学生がやる気を起こさせる等である。
c) ECE 全体では、あまりにも幅の広い可能性があり得るので、学生の興味によってどのような科目を取ればよいかを
示すコース取得図 (course tree diagram) を作成し、学生の科目選択の判断ができるようにしている。
3) Credit と Unit (単位) について
1unit とは、普通の学生が 1 週間に 1 時間の勉強を 15 週間続けた場合に与える単位。また、1 時間の講義時間に対して、
演習時間と家での勉強に週に 2 時間を費やすことを要求している。週に 3 時間の講義と勉強を 15 週間続けた結果 1credit
を与える。従って、l credit =3units となる。
26 工学における教育プログラムの海外調査報告
大学としては、普通の学生は少なくとも講義、実験の他に毎週 40 時間の勉強をすることを要求し、40 時間の自宅学習
及び演習をするようなカリキュラムを組んでいる。
4) 教育法の指導
教育改良指導センター (Center of Teaching Excellence : CTE) があり、下記のような活動をしている。
応対者:所長の Dr. Susan A. Ambrose。
その活動:
a) 教授に対する教育法の指導。
どのようにすると学生がよく理解できる授業ができるようになるかを指導する。
特に新任教授に対しては、昼食セミナーを行ってよい授業方法の組立方の指導をおこない、教授が希望すれば授業内容
を VTR で撮影して、授業風景を講師と共に見ながら改良方法の可能性を示唆する。 年齢の高い教授でも指導を仰ぎに来
ることがある。
b) 学生に対するメモの取り方や報告書の書き方の指導をする。
c) TA に対する指導法の伝授。
5) 教官の評価について
応対者:Prof. Edmond Ko (Vice Provost, Professor of Chemical Engineering)
学生部長である Edmond Ko 教授によれば、教育評価は多面的に考えるべきである。すなわち、講義が上手であるかど
うかはその 1 面に過ぎない。
研究指導による大学院生の教育・研究指導も考慮するべきである。
6) どのような卒業生を輩出すべきか
現在、工学者が地球規模で職場を動く可能性がある。従って、技術的な問題を解決する能力だけではなく、外国人と協
調して仕事がやれる能力が益々要求される。
それには、他文化の人々を理解できる能力が必要となる。
7) インターンシップについて
Cooperative Program は、学生にとって必ず良い結果を生む。学科によって異なるが、約 20 ∼ 30%の学生が参加する。
その理由 : 大学では、教科書を用いて実世界とは異なることことを教えている。インターンシップの経験があると、本
学の卒業生は会社に入ってすぐに役立つ。企業は、採用したい学生をより注意深く観察することができるので絶対によい。
8) ダブルメージャー
余り推奨しない。
9) 学生入学許可基準
学内での成績と強い相関があるのは、高等学校での成績の順位であり、全米の学生が参加する SAT の成績とは相関が
ない。しかし、ただ一つの量で入学基準とはしない。
アメリカ II 27
28 工学における教育プログラムの海外調査報告
オーストラリア
日 時:1997 年 11 月 15 日∼ 11 月 21 日
訪問先:シドニー大学
クイーンズランド大学
訪問者:宇佐美 勉 (名古屋大学大学院工学研究科教授)
二羽淳一郎 (名古屋大学大学院工学研究科助教授)
渡辺 淳平 (文部省高等教育局専門教育課リフレッシュ教育企画官)
29
[1] The University of Sydney, Faculty of Engineering
1997.11.17 訪問
応対者:Prof. Judy A. Raper, Dean of the Faculty of Engineering
Prof. Nicholas S. Trahair, Professor of Civil Engineering, Center of Advanced Structural Engineering
1. はじめに
構造工学を専門とする Trahair 教授を通じて工学部長の Raper 教授にアポイントメントをとり、午前 10 時から約 2 時間
にわたり、シドニー大学工学部 (シドニー市 Darlington キャンパス、資料 1) に関する情報を収集した。その後、約 1 時
間、Trahair 教授の案内で、構造工学に関する実験施設を視察した。
2. 大学全体の構成
あらかじめ用意した質問事項 (資料 2) に沿って、質問を行った。シドニー大学は 18 学部と 20 大学院からなる総合大
学で、Academic Staff (教授、助教授、上級講師、講師) 数は全体で約 2,200 名である。学部の学生数は約 22,000 人、大学
院生は約 8,000 人である (資料 3)。なお、オーストラリアには約 30 の国立大学があり、このうち 25 校程度に工学部が設
置されている。国立大学の中で、規模が大きく、内容の充実した大学は 7 校ある (シドニー、ニューサウスウェールズ、
クイーンズランド、モナーシュ、メルボルン、アデレード、西オーストラリア大学)。シドニー大学のあるニューサウス
ウェールズ州では、シドニー大学とニューサウスウェールズ大学が大きい。
3. 工学部の構成
工学部は、航空工学、化学工学、土木工学、電気工学、および機械・メカトロ工学の 5 学科 (Department) からなり (資
料 4)、大学院も同じ 5 つの専攻に分かれている (資料 5)。主任会に相当する Dean's Advisory Committee は Dean と ProDean
(1 名)、Associate Dean (2 名) と 5 人の Department Head から構成されている。工学部の学部学生数は約 2,000 人、大学院
生は約 150 人であり、AcademicStaff 数は約 80 名である。工学部に在籍する外国人留学生は学部で約 120 名、大学院で 70
名で、大学院では約半数が留学生ということになる。
4. 学部ならびに大学院のカリキュラム
学部ならびに大学院のカリキュラムと Syllabus については Engineering Handbook 1997 (資料 6) に詳しく示されている。
シドニー大学工学部の学部教育に関する大きな特徴は Combined Degree と呼ばれるプログラムで、例えば Engineering with
Commerce、Engineering with Science、Engineering with Arts といったように、二つの degree を 5ヶ年で取得するシステムで
ある。特に最近では Engineering with Commerce の人気が高いとのことである。
5. カリキュラムの Accreditation
オーストラリアの技術者協会 (IEA、The Institution of Engineers, Australia) は Washington 協定に加盟しており、大学教
育のカリキュラムを適正で妥当なものと認定すること (Accreditation) により、学部卒業生の品質保証を行っている。そ
して各大学はこの Accreditation を獲得するために、学部教育に対する IEA からのアドバイスを受け入れるという構図に
なっている。この Accreditation は 5 年おきに行われるが、大学としてはかなり sensitive にならざるを得ないとのことであ
る。Accreditation にあたっては、基本的な要件として、(1) 学科目の内容が適切であること、(2) 教育ならびに実験施設が
整備されていること、さらには (3) 卒業までの 4 年間に、最低 12 週間の internship (実務経験) を経ておくこと、の 3 点
が要求されている。また、IEA からは、マネージメントに関する科目をもっと取り入れてほしいというような申し入れも
ある。IEA が Accreditation の権限を有しているだけに、大学側としても無視する訳にはいかないとのことであった。大き
な大学では、あまり問題ないことでも、小さな大学では色々な面での資源が不足しているので、Accreditation を受けるの
が困難となっている。なお、現実にはかなりの大学が Accreditation を受けているとのことであった。
6. 卒業要件
学部の卒業要件は、192 単位程度である。なお、1 週 1 時間の講義を 14 週間受けて試験に合格すれば 2 単位となる。現
在、修得単位数の削減を検討中である。学部における飛び級も検討中であり、おそらく実施可能と思われるとのことで
あった。ただ、修士課程における飛び級は時間の制約があり、おそらく困難だろうとのことであった。ちなみに PhD. 獲
得までの平均的な年数は 4 年程度とのことであった。一般的な修士課程、
博士課程が論文作成のための研究により Research
Program と呼ばれるのに対して、コースワークのみ (学科目の単位修得のみ) のプログラムがある。これは修士レベルで
は Master of Engineering Studies と呼ばれ、学部レベルでは Graduate Diploma in Engineering と呼ばれている。学生、特に大
学院生 (Master および PhD. コース) には Full-time の学生の他、Part time のものも在籍している。
7. 入学試験
工学部の学生数は 1 学年 400 名となっているが、入学志願者は第 2 志望を含めて約 4,000 名である。学部間では、医学
部、経済学部などの人気が高く、工学部はそれらに比べるとそれほど人気は高くない。工学部内では、電気工学科、化学
工学科の人気が高いが、Engineering with Commerce も人気が高くなってきている。入学にあたっては、入試のために筆記
試験は行わない。高校生を対象に州ごとに行われるテストがあり、この結果に基づいて入学者を決定している (なお、こ
の件については、クイーンズランド大学での調査等により、さらに詳しい情報が得られた)。
30 工学における教育プログラムの海外調査報告
大学院への進学についても特に筆記試験は行わず、学部の成績を考慮して入学が決められる。なお、学部成績が良くな
い場合で、進学を希望する場合は、暫定的に進学を許可し (probation)、大学院での成績により、研究継続か退学かが判定
される。
8. 授業料・奨学金等
学部の授業料は、年間 5,000A$ (1A$=約 90 円) である。なお、これについては、HECS (Higher Education Contribution
System) と呼ばれるシステムをオーストラリア連邦政府が 10 年ほど前から導入している。すなわち、在学中の授業料は
免除されるが、卒業して定職に就いた後、取得した学位ならびに就職後の本人の収入の程度により、給料から授業料相当
分 (例えば年間 4.500A$程度) が一定期間にわたって、天引きされていくというものである。これは一種のローンである。
なお、このシステムの適用はオーストラリア国籍の学生に限られている。この件についても、クイーンズランド大学での
調査等により、さらに詳しい情報を得たので後ほど報告する。学生に対する奨学金であるが、政府からの奨学金はわずか
であり、多くは企業からの奨学金となっている。なお、その数も限られており、実際には、教官の研究プロジェクトに参
加して、研究費の中からいくらかの収入を得ている学生が多い。
9. 研究費・研究センター等
大学から (すなわち州政府から) 得られる研究費はわずかである (工学部全体で年間 50 万 A$程度)。これでは到底研究
費が不足するので、政府や企業に、各個人が研究費助成を申請して、外部から研究費を獲得している。Patent に関しては、
大学内に Business Center があり、Patent の管理を行っている.
工学部内には、多くの研究センターがある。これは政府のサポート、あるいは企業のサポートにより、設立されたもの
である。ただし、政府のサポートによる研究センターは、多くの場合時限付きである。これに対して研究センター自身が
独立採算で、自立して運営されているものもある。
10. 教育の評価等
大学には、Center for Teaching & Learning (CTL) という組織があり、ここが General Student Feedback、Course Survey、
Large Group Teaching Survey、Tutorial Teaching Survey などの項目に関して、学生にアンケート調査 (資料 7) を実施してい
る。この全学的な学生評価の結果を教育の改善に役立てている。この結果は基本的に本人と Department Head ならびに
Dean 内に留められる。コース評価が良かった教官には、Dean's Award が与えられる。この他、いくつかの学科では独自
に学生による授業評価を行っている。土木工学科の場合、学期末の試験前の時点で、学生によるコース評価 (資料 8) を
行い、その結果は学科内の他の教官に送られる。Auditor と呼ばれるこの教官は、学生評価の結果を参照しつつ、コメン
トを加え、この結果を評価される本人と Department Head に伝える。なお、Auditor は評価される本人が適当な教官を推薦
しているとのことである。
11. 昇進・採用のプロセス
昇進の基本的なプロセスは以下の通りである。まず昇進を希望する本人が、(1) 研究、(2) 教育、(3) 事務的な貢献、に
関するデータを提出する。この内、もっとも重視されるのが、(1) の研究業績であり、良質な査読付き論文を international
journal に載せるなどの点が評価される。(2) の教育に関しては、コース評価のデータ等が用いられる。最近では、研究業
IEA による Accreditation
績に加えて、教育の performance に関しても重要視しているとのことであったが、この点に関しては、
との関係もありそうに思われた。本人からの審査の申請を受けて、Committee of Faculty が開かれ、データを審査し、さら
には本人の面接を行う。その結果が、Central University Committee に答申され、ここで認められて、昇進が決定する。採
用の場合は、Selection Committee が設けられて、広く人材を公募し、集まった資料をもとに、昇進と同様のプロセスに
より、進められていく。
12. 外部評価・Internship 等
工学部の Dean は広く産業界からの意見を聴取し、同時に外部評価を行ってもらうために、Dean's External Advisory
Committee を設けている。これの成果がカリキュラムにも反映される。IEA の Accreditation を獲得するための、12 週間の
internship (実務経験) は学生にとって必修である。これに伴う単位はない。ただし、学生はなにがしかのアルバイト代を
受け取ることができる。シドニーは大都市であるので、実習先を見つけるのはさほど困難ではないようであった。大学側
は、受け入れ先を紹介したり、行き先についてアドバイスしたりの指導はするが、基本的には学生が自主的に実習先を決
めている。なお、11 月末から 2 月末の夏休みの期間を利用して、卒業までに 24 週間程度 (場合によっては 36 週間) の
internship を行う例が多いとのことであった。ちなみに、卒業後の就職についても、情報は与えるが、個人的に就職の世
話をすることはない。
以上のインタビューを行った後、御礼に、宇佐美教授から Dean の Raper 教授に名大工学部のエンブレムを贈呈した (写
真 1)。
オーストラリア 31
写真 1. エンブレムの贈呈(左: Prof. Raper, Dean of the Engineering、右:宇佐美教授)
写真 2. 構造工学実験施設の見学(左:宇佐美教授、右:Prof. Trahair)
13.構造工学実験施設
その後、Prof. Trahair の案内で、シドニー大学土木工学科内の構造工学実験施設を見学した。建物の規模や実験設備
の豊富さは、わが国の一般的な国立大学の実験施設をはるかに上回っていた。工学部の規模としては、名古屋大学の半分
程度にすぎないシドニー大学において、このような立派な実験施設を有していること、また学内のインフラが整備されて
いることが強く印象に残った。
32 工学における教育プログラムの海外調査報告
[2] The University of Queensland, School of Engineering
1997.11.20 訪問
応対者:Professor John M. Simmons, Acting Dean of the School of Engineering
Associate Professor Geoff D. Just, Deputy Head of the School of Engineering
1. はじめに
土木工学科の Kitipornchai 教授を通じて、工学部長の Simmons 教授および学部長補佐の Just 博士にアポイントメントを
とり、午前 10 時 30 分から午後 0 時 30 分までの 2 時間にわたり、クイーンズランド大学工学部に関する情報を収集した。
さらに昼食をはさんで、午後 2 時 30 分まで、Kitipornchai 教授の案内で、同工学部の実験施設や図書館、教室などの学内
インフラ施設を視察した。
2. 大学全体の構成
ブリスベンにあるクイーンズランド大学は、クイーンズランド州最大の国立大学である。ただし、大学組織の効率化を
積極的に進めており、かっては 16 あった学部が現在は 7 学部に改組されている。工学部は、現在では、自然科学および
建築学とともに、Faculty of Engineering, Physical Sciences and Architecture を形成している。
大学全体で学部学生は約 21,000 名、大学院生は約 6,000 名である (資料 9)。留学生は学部・大学院をあわせて約 1.700
名である。教職員数は大学全体で約 5,000 名であるが、Academic Staff はこの内の半数程度と思われる。
3. 工学部の構成
工学部は、現在では自然科学および建築学とともに、Faculty of Engineering, Physical Sciences and Architecture を形成し
ている。これは学部のマネージメント部門を整理統合し、効率化を図ったためである。ただし、この Faculty 内には、カ
リキュラム上の組織として 3 つの School がある (School of Engineering, School of Architecture and Planning, School of Mathematical and Physical Sciences)。Simmons 教授は、School of Engineering の Dean であり、同時に Faculty of Engineering, Physical
Sciences and Architecture の Head でもある。以下は工学部=School of Engineering ということで報告を進める。
工学部には、化学工学、土木工学、電気および計算機工学、機械工学、および鉱業・材料工学の 5 学科 (Department)
がある (資料 10、11)。大学院については、現在は 7 つの Faculty にそれぞれ大学院が付属した形となっているが、大学全
体としての Graduate School を設立しようとしているとのことであった。
工学部の学生数は約 1.500 名、大学院生は約 500 名、留学生は学部・大学院あわせて約 200 名である。教授・助教授・
上級講師・講師をあわせた Academic Staff は工学部全体で約 100 名である。この他、工学部にはいくつかの研究センター
が付属しており、そこには博士号を持った研究者が在籍しているが、その数は Academic Staff 数には含まれていない。
4. 学科予算について
工学部における予算について質問したところ以下のような回答を得た。大学から工学部へ来る年間予算は約 3000 万 A
$程度である。これは州政府からの予算である。これを工学部内で分配するが、その方式は以下の通りである。先ず全体
(約 3000 万 A$) の 80%については、学生数に応じて各学科に配分する。その際に PhD コースの学生は学部学生 3 人分と
見なすので、PhD コースの学生が多く在籍しているほど、多くの予算が獲得できることになる。残りの 20%は研究の performance に応じて各学科に配分する。研究の performance は、(1) publications (refereed journal)、(2) 政府あるいは企業か
ら個人的に獲得した研究費、(3) PhD. の獲得数、によって定量的に評価する。これからもわかるように PhD コースの学
生が多く在籍している学科は予算の配分が多くなる。このようにして各学科に配分された予算は、ほとんど全てが各学科
の教職員のサラリーとなる。つまり、研究のためには、これ以外の予算を外部から獲得してくる必要がある。オーストラ
リアには現在 25 校程度の大学に工学部があるが、今後大幅な予算増は望めず、その運営は次第に深刻になりつつある。
工学部はかっては人気が高かったが、現在では医学部、薬学部、法学部、経済学部等の人気が高い。企業から研究費が獲
得できなければ、学部の存続自体も困難となる。Simmons 教授の予想では、おそらく今後 10 年間で小さな大学の工学部
は、何校かが閉校となっていくものと思うとのことであった。現実に、クイーンズランド大学においても自然科学系の学
科では学生があまり多く集まらず、支出超過となっていた。このような状況が現実にあって、学部改組 (16 から 7 学部へ
の改組) を行わざるを得なかったとのことである。
5. 学部カリキュラム
工学部の 1 年生は、各学科に分かれず、数学、物理、化学、計算機などの必修科目を共通に受講する (資料 12)。その
中に、Professional Engineering 入門といった科目もある。2 年次以降は各学科別の授業となる。クイーンズランド大学にお
いても、シドニー大学同様、5 年間の Combined Degree のプログラムがある。Engineering and Commerce や Engineering and
Science などであり、Engineering and Arts の中には Engineering and Japanese というプログラムもある (資料 13)。IEA (オー
ストラリア技術者協会) によるカリキュラムの Accreditation は、ここでもやはり行われている。IEA は少なくとも 10%の
マネージメント関係の科目をカリキュラムに含めることを求めているとのことであった。
6. 入学試験
クイーンズランド大学工学部には毎年約 500 名の学生が入学する。それに対する志願者は約 1.500 名である。高校生に
オーストラリア 33
は、高校で数学、物理、化学、英語の単位をとっておくことを要求するだけで、筆記試験による入試は行わない。なお、
オーストラリアでは筆記試験を行っている大学はないとのことであった。この入試のシステムについて説明すると以下の
通りである。クイーンズランド州にある高校では、12 グレード(わが国の高校 3 年に該当)の学生に統一試験を行っている。
この試験は 2 回あり、1 回は高校別・科目別のランク付けを行うための試験であり、残りの 1 回は高校生一人一人をラン
ク付けするための試験である。この 2 回の試験により、進学を希望する州内の高校生全員がランク付けされる。このラ
ンクは Tertiary Entrance Rank (TER:大学進学得点値)と呼ばれている。州によって得点値の計算方法がそれぞれ異なる
ため、各大学ごとに他州の TER 値を補正し、入学の判定に用いている。クイーンズランド州では、TER はランク 1(最
高)∼ランク 25(最低)までに分かれている。この内、クイーンズランド大学に入学できるのは、ランク 8 までであるが、
入学する学生のほとんどはランク 5 以上であるとのことであった。
7.卒業要件
学部の卒業要件は、新しいシステムに切り替わったところである。大学は年間 2 セメスター制で、学生は 1 セメスタ
ーに最大 4 科目(1 科目 3 単位)受講できる。卒業の要件は 4 年間で 96 単位である。なお、卒論や卒業プロジェクト、卒
業設計などは 6 単位となっている。1 科目 3 単位を修得するためには、1 週間あたり 5 時間のコンタクトと 7.5 時間の
Homework を行わなければならない。コンタクトとは教官と接触する時間のことであり、講義、Tutorial(学生からの発
表、発言が中心となる小人数の授業形式)、学生実験などが含まれる。Homework は演習であり、各教官は必ず所定量の
演習を出題しなければならない。
MC には Research Master と Course Work Master がある。Research Master は文字通り研究中心であり、Degree 取
得のためのコースワークの要件はない。PhD.も同様に研究中心である。なお、PhD.取得までの平均的な期間は 3.5 年と
のことであった。
8.授業料と HECS
学部の授業料は、年間 5,000A$ であるが、先にも述べた HECS (Higher Education Contribution System) があるの
で、オーストラリア国籍の学生は、在学中は授業料は免除される。卒業して定職に就いた後、取得した学位の内容と就職
後の本人の収入の程度により、給料から授業料相当分(例えば年間 4,500A$ 程度)が一定期間にわたって天引きされる。
このシステムは、わが国で言えば、育英会の奨学金を学生全員に貸与するといったものである。わずかな負担ですべての
人に大学教育の可能性を開くといった意味で、非常に優れたシステムではないかと思われる。これに対して外国人留学生
は 1 科目あたり 2,000A$ の授業料を支払わなければならない。1 セメスターで 4 科目受講することになるので、年間 8
科目となり、したがって年間の授業料は 16,000A$ になる。
9.教育の評価等
大学には、Teaching & Educational Development Institute という組織があり、学生によるコース評価を実施してい
る(資料 14)。この評価は Academic Staff の昇進、tenure、あるいは study leave の基礎資料として用いられる。また工
学部でも、teaching の performance を重要視しており、4.で述べた予算配分時の学生数による 80% の配分額の内の 5%
は、teaching performance を考慮して配分しているとのことであった。この他、teaching performance に優れた教官に
は、多くの teaching prize (10.000A$ 程度)が用意されている。この prize は Central University Committee で決定され
るが、この委員会のメンバーには、学生も一部参加しているそうである。
10.Internship 等
IEA の Accreditation を獲得するための、12 週間の internship(実務経験)は必修であるが、クイーンズランド大学では
これを長期化した 1 年間の internship の導入を検討している。3 年間在学して 1 年間 internship を行い、その後 1 年間
大学に戻って、5 年間で卒業するというものである。オーストラリアの大学では、11 月末から 2 月末までの 3 ヶ月が年
度末の休みとなる。この長い夏休みの始まりは丁度クリスマスのシーズンであり、企業も休んだりペースダウンしたりす
る。したがって、internship を行おうとする学生の内、優秀な学生は比較的容易に仕事を見つけることができるが、そ
うでない学生には時期的に困難となっていることも事実である。
以上のインタビューのお礼に、宇佐美教授から Simmons 教授に名大工学部のエンブレムを贈呈した(写
真 3)。
写真3.エンブレムの贈呈(左: Prof. Simmons,右:宇佐美教授)
34 工学における教育プログラムの海外調査報告
11. 学内施設の見学
昼食後、Kitipornchai 教授の案内で、シドニー大学土木工学科内の実験施設、工学部図書館、教室等を見学した。ここ
で特筆すべきは、教室の素晴らしさである。各教室には OHP、スライド、VTR 等の装置が完備され、特に lecture theater
と呼ばれる大教室の充実ぶりには驚かされた。学生の獲得が大学存続の必須の条件となっていることから、学生から見
て、いかに大学を attractive なものとしていくかに最も注意が払われているとの印象を受けた。
オーストラリア 35
36 工学における教育プログラムの海外調査報告
東南アジア
日 時:1997 年 12 月 13 日∼ 12 月 25 日
訪問先: マラヤ大学 (University of Malaya)
カレッジTMC (マレーシア)
バンドン工科大学 (Institut Technologi Bandung)
(インドネシア)
南洋理工大学 (Nanyong Technological University)
(シンガポール)
(Chulalongkorn
University)
チェラロンコン大学
(タイ)
訪問者:中原武利 (大阪府立大学工学部教授)
武田邦彦 (芝浦工業大学学長補佐・工学部教授)
37
はじめに
今回の視察は国立 8 大学工学部長会が発案した工学教育検討委員会 (名古屋大学 山本委員長) のもとに作られた工学
教育システム分科会 (大阪大学 戸倉委員長) 活動の一環として行ったものである。東南アジア 4 カ国を訪問し、その国
の代表的大学の工学教育を視察することが第一の目的である。また、東南アジアの国は急激な経済発展とある意味では一
時的な経済崩壊の中にある。高等教育では海外留学を中心としてこれも出来るだけ早く多くの国民に高等教育を受けさせ
ることを目指していると言われている。
今回のアジアの大学の視察では、日本より社会、経済、学問などの点で遅れていると考えられるアジアの諸大学を視察
することが明日の日本の大学を考える上で有意義な結果を生むかいなかについて不安であった。
アメリカやヨーロッパは日本から見ると先進国であり、社会も日本より進んでいる。大学全入という時期は日本では
2009 年であるが、アメリカではすでに経験している。ヨーロッパはある意味ではさらに成熟いている社会であり、高い
失業率など成熟社会の宿命を背負っている。だから、アメリカやヨーロッパの大学を視察することで将来の日本の大学の
状態を直接的に見ることにもなると考えることが多い。
しかし、それは本当だろうか。第一、アメリカの社会や文化は日本の社会と大きく異なる。そしてそれ以上に大学の生
い立ちや社会との関係も異なる。異なる文化、歴史、社会、そして教育を持つ国の視察がそのまま日本に応用するのは不
適当であろう。広く世界の社会と大学の関係を視察、まとめ、議論、そして考察を加え、充分な注意と計画をもって日本
の工学教育を決めていくのが適当であるという視点からは東南アジアの視察もまた有意義かも知れない。
東南アジアの大学視察を行って、最初に気がついたのは「日本の先進性」は部分的なものであったということである。
日本の工業力、社会は確かに東南アジア各国より先進的である。しかし、国際性、多様性などの点では、早くから植民地
として欧米の文化を直接的に採り入れ、隣接する諸国から多くの異民族を受け入れてきた東南アジアはその意味で「遙か
に日本より先進的」である。その一例がマレーシアにおける英語教育である。マレーシアはかつてイギリスの植民地で
あった。……だからマレーシアの人は英語が話せる……というのは間違っているらしい。すでにイギリスの植民地から離
れて数十年、現在ではアメリカの陰があってもイギリスをマレーシアで感じることは少ない。むしろ日本企業の進出も
あって、日本語を勉強したいという希望を持つ若者も多い。普段の会話は全てマレー語であり、英語は使わない。植民地
時代を知るお年寄りは別にして今の 20 歳台の若者はすでに英語を覚えなくても良い世代である。
それなのになぜ、マレーシアの学生は英語を話せるのだろうか? その答えは簡単である。マレーシアの英語教育は日
本の英語教育より数段優れているからである。
今回の東南アジア視察の成果は、
「日本より進んだ東南アジア」の大学から得られた知見であり、アメリカ、ヨーロッ
パの教育と日本、そして東南アジアを総合的に考察する視野の広さであった。
[1] マラヤ大学 (University of Malaya)
工学部
学部長 Prof. Dr. Ir. Wan Abu Baker Wan Abs
Dean : Faculty of Engineering
dean@tk. um. edu. my
講師 Mohamed Rizon : Lecturer :
Dept of Electrical Engineering
遠距離教育センター
Dr. Nasrudin Abd Rahim :
部長
Director of Distance Leaning Centre
nasrudi@ee. um. edu. my
Azhar
Bin
Ahmad
:
副部長
Deputy Director of Distance Learning Center
カレッジ TMC
T. Nagatomi :
校長先生
Hiromi Tamamiya : tkhiromi@tm. net. my
副校長先生
1. マラヤ大学のアウトライン
マラヤ大学は 1957 年に設立された。マレーシアの独立戦争は日本の敗退の 2 年後に始まり、9 年の独立戦争を経て 1956
年に独立した。マラヤ大学は独立 1 年後にできたマレーシアの最初の大学である。そしてマレーシアでマラヤ大学の次の
大学 (UKM) ができたのが 1975 年であるから、10 年以上の間この大学はマレーシアただ一つの大学として君臨したのだ。
今はマレーシアに 9 つの国立大学と 3 つの私立大学があり、その他日本の短期大学に当たる大学が 20 校程度ある。
マラヤ大学の設立の翌年に最初の学部として工学部ができた。その後毎年のように、理学部、農学部、教育学部、医学
部、コンピューター・センター、経済学部、付属大学病院、外国語センター、歯学部、法学部、教養センター、基礎科学
センター、研究センター、イスラム・センター、イスラム法学部、イスラム神学部、スポーツ科学学部、そしてマラヤ・
センターの順に設立され、今や 11 の学部、2 アカデミー、それに 3 センターなどの附属施設を持つ総合大学に成長した。
38 工学における教育プログラムの海外調査報告
経済学部はその後発展して、経済学部と会計学部になり、農学部は独立した学校になり、外国語センターは外国語学部に
発展した。学生数は 18,000 人、教員数が 2,000 人、そして職員は 250 人である。学生に対する教員数は少なくとも数字上
は 9 人の学生に対して 1 人の割合であり、かなり良い数字であると言えよう。
“工学士”の資格を出す学問領域は、土木工学、電気工学、機械工学、化学、環境工学、材料工学、通信工学、工業工
学、CAD/CAM 工学、生化学であり、
“科学士”を出すのが建築工学、建設工学、地質工学、そして経営工学である。CAD/
CAM は日本では大学の履修科目の 1 つになっているが、ここでは 1 つの学科であり、CAD/CAM 学科は独立した建物も
持っている。また、修士課程では、工学修士、工学科学修士、そして Ph. D である。
キャンパスは広大でシンプルな配置である。キャンパスのほぼ中央に車で 5 分ほどかかる池があり、その池の周りに一
方通行の楕円形の道が走っている。門から入るとその道をぐるっと回ることになるのだが、常に車の右に池、左に校舎が
ある。つまり池の周りに道路、その外側に学部の建物が配置されていると言うことになる。池と周回道路の間には、大学
本部と学生会の建物があるだけである。学部の建物はそれぞれに特徴があり、特に教育学部などの新しい建物はマレーシ
アの伝統的建築物の面影を残し、かつ近代的に仕上げている。工学部建築学科の建物はいかにも建築学科らしく、色彩豊
かでデザインも凝っている。
いずれの建物も立派で周辺には空地を配し、かなりの敷地を占有している。学部と学部の間には道があり、その道を進
むとさらに奥に 9 つに分かれた学生寮やスポーツ施設、モスクなどがある。つまり、池の周りを「山手線」とすると、山
手線の内側には大学本部と学生会館、山手線のすぐ外側が各学部の建物、それから放射状に外に向かって道路が張り巡ら
されている。キャンパスには外周道路はないが、全体に論理的な建物の配置なので、一度設計者の意図を把握すると迷う
ことはない。そして、いかにも「その国を代表する大学」らしい雰囲気と良い意味でも悪い意味でも威厳が感じられる。
現在の日本の大学は何の思想も感じられない建物の配置であるが、それより遙かに全体の設計思想が感じられる。もっと
も日本でも大学が作られた初期の頃には見事なキャンパスがあったのだが、その後、大学指導部がうっかりして現在の様
な統一的とは言えないキャンパスになったというべきであろう。
クアラルンプールの市内は至ることろが工事中であるが、マラヤ大学の中もそれに劣らず建物の新築ラッシュである。
入り口の右手から教育学部新校舎、CADCAM 学部の建物、その奥に建設学部の新校舎、そしてしばらく行くと新しい第
六寄宿舎の建設中だ。寄宿舎も第九まで建設を進めており、ぐるっと回ると新校舎とユーティリティの建物の建設用地が
整地中である。全ての建物の半分が建築中という印象を受ける。そしてすでに建築の終わっているが、真新しい総合図書
館、通信教育建屋、学生会館などが目立つ。工学部の本館も今年の 4 月に完成したばかりで、エレベーター・ホールは暗
いが、ホールの電気をどのスイッチを押せばよいのか、学部長、学科長、スタッフ、そして掃除のおばさんの誰もが知ら
ないし、階段を上がって上の階の階段の扉の鍵のあり場所も判らないという有様である。会議室には、日本製の自動的に
コピーの撮れる黒板、自動的にコーヒーの出る機械、そして透明でなくても OHP の様に良く写る実物投影機など自慢の
ものがあるが、どれも満足に動くように準備されていない。
工学部は一昨年まで、一学年の学生が 200 人であったが、今年は 500 人を入学させた。来年はたぶん 600 人は入れる必
要がある、と学部長は話す。政府が増員を要求してくるので仕方が無いという。設備も増強中だが、それより先生が足り
ないのでインド、バングラディッシュそれにイランから採用してくる。全体の先生の内、60%がマレーシア人、残りの
40%が外人部隊である。通貨危機で対ドル相場が下落したので、アメリカ人やヨーロッパの人は高給で使えないし、まし
て日本人はさらに高給でとても来てはもらえない。
もともとマレーシアは「マレー化政策」のもとで大量の留学生を海外に送り出した。その留学生は留学先に残るが、あ
る程度の留学生は順調に帰国する。しかし、経済の発展が急速で、大学より高給を出す外国企業に勤めてしまう。その結
果、大学はひどい教員不足に陥っている。
学生急増に対する施設と先生不足を補うために、クアラルンプール郊外や地方に“サテライト教室”を置いて、大学の
キャンパスには収容できない過剰の学生を収容する。このようなサテライト教室ではマラヤ大学からの双方向通信で教授
が講義を行うので、先生が少なくても一度に大勢の学生が聞くことができる。さらに全ての講義の内、重要な講義はマラ
ヤ大学の教授が担当し、その他の一般科目は高等学校で教鞭を執っている先生に頼む。
2. マラヤ大学のハイテク教育
(
マラヤ大学の生徒会館の前にある新しい 4 階建てのビルディングが情報教育センター“遠距離教育マラヤ大学センター”
というのが正式名称) である。このセンターの目的は、マレーシア全体で教育施設や教室の数が不足しているので、最大
1MBIT/SEC で信号を送れる高速度通信回線を利用した双方向通信教育やその他のシステムを利用して、高等教育をする
ことであり、1994 年 11 月に設立された。このセンターは将来の通信教育の強化を目的とした通信教育システムの開発も
担当している。現在、盛んに利用しているのは、マラヤ大学の講義をサテライト教室に配信するもので、小さいが装置が
整った講義室に 2 台の 40 インチ程度のテレビ、講義中の先生と黒板を移すカメラ、実物投影機など講義に必要な機器が
揃った小さな発信室があり、そこから全国に発信している。
アメリカや日本の機器やソフトなど、先進国のものをそのままそっくり使用するので、ある意味ではマレーシアが自国
で開発するより効率的かも知れない。発展途上の国ではかつての日本でもそうであったように、先進国のものをそのまま
使う傾向があるが、それはそれでよいのではないか。先進国の優れた技術を使いながら徐々に工業や技術を形成していく
のである。日本が技術を盛んに学んだときは、それらは汽車であり、自動車、化学工業であった。現在発展中のマレーシ
東南アジア 39
アでは「双方向同時通信による遠隔講義システム」を先進に学ぶ。
通信のコントロールセンターが市内にあり、そこと連絡しながら講義の傍聴や配信を行う。現在、工学系の学生で通信
教育を受けている学生は全部で 412 名ということであるから、大学に来る学生の 1,100 名と合計すると約 1,500 人が工学
部の学生数となる。
2,3 の講義を見てみるとある先生は黒板を使い、ある先生は実物投影機を使用していた。講義は比較的わかりやすく、
なんと言ってもビデオと違い臨場感があるので、身に入るように思われる。先生がよほど不足しているのだろう。先ほど
まで我々を案内してくれた学部長が今度は双方向遠隔講義に登場されて講義を行っていた。サテライト教室はおおむね
50 人ほどが入れる教室だが、学生は 10 人程度が写っていた。教室は少し照明を落としてあり、眠ってしまう学生の対策
も必要だという。完全に双方向通信なので眠っている学生を見つければ先生が叱ればよいが、その学生の所に行くことが
できないので、それだけ迫力はない。
しかし、必要性に迫られたマラヤ大学の双方向遠距離教育は成果を上げているように思われた。その第一の理由は教え
る先生がこの教授方法になれていて、図の使い方、説明の仕方がごく自然であるからである。これで画面がもう少し大き
ければまったく問題なく講義をすることができるし、この講義が理解できなかったり、眠ったりするのであれば学生自体
に問題があろうと思われる。
3. 予備教育機関と日本の大学
マレーシアは国民の 30%が中国系の華僑でこの人達がマレーシアの経済を支配している。一頃は経済ばかりでなく、政
治にも華僑が大きな力を持ち、例えば地方の長官はマレーシア人でも、次官以下を華僑が占めて、実質的には華僑支配に
なっていた。マレー人のマレーシアを実現するために、マハティール首相は「マレー化政策」を実施した。官吏の登用、
国費留学による高等教育をマレー人に受けさせることなどマレー人の優遇政策を実施したのである。特に、日本との間で
は OECF の援助の元に、マレーシアでの予備教育を受けた学生を日本の留学生として迎える計画が進んでいる。
マレーシアの学制は小学校が 6 年、中学校 (Secondary School と英語では言っているようである) が 5 年、大学の予備
学校が 2 年、それが終えると 19 才で大学に入学することができる。高等学校と中学校があわせて 5 年、大学は 3 年なの
で、その分だけ修学期間が短いが、そのかわり大学に入る前に 2 年の予備教育機関があるので、合計した修学年は日本と
同じに 16 年、年齢は 22 才で終わることになる。マレーシアの大学の予備学校は日本の高等学校と大学の教養課程をあわ
せたような教育と行っている。
このシステムを利用してマレーシアの大学生を海外に送るプログラムを行っている。定型的な留学生プログラムとして
は、2 種類の派遣システムと 2 種類の教育プログラムで運営している。留学生の派遣システムとしては、いわゆる純粋な
“国費留学生”でマレーシアが国家が奨学金を出し、その枠に合格した学生が予備教育を受けた後に、外国に留学するも
のである。このシステムを利用している留学先の国はイギリス、アメリカ、フランス、オーストラリアなどが主要な国で
ある。もう一つの派遣システムは“特定の目的を持つ政府間借款に基づく派遣”であり、例えば日本への留学生がその例
である。いずれも基本的には国費留学生であるが、アメリカ、オーストラリアの留学生は政府予算であるので、政府の予
算編成方針によって変わる。事実、現在マレーシアは激しい通貨危機に見舞われており、今年の国費留学生の政府予算は
一気に 80%減と決まった。そのため、これまで予備教育機関で留学を目指して勉強してきた学生が一斉に行き場所を失っ
た。
完全な政府予算の国費留学生とは別に、外国からの借款によって留学する学生は、相手国からの借款が続く限り派遣さ
れることになる。例えば、インドネシア−日本技術フォーラムが中心になって、マレーシアのマラヤ教育財団との間で進
めている留学プログラムでは、日本との借款が継続しそうなので、卒業式に出ている学生の顔も明るい。このプログラム
で学生に渡る学費は、授業料全額と月 18 万円なので日本でも結構、恵まれた学生生活を送ることができる。
これに対して教育プログラムは、①マレーシアの予備学校を 2 年受け、卒業した後に外国の 4 年の大学に 1 年次から入
学するプログラム ②マレーシアで 1 年の予備教育と、1 年の大学教育を受け、外国の 2 年に編入するプログラム の 2
つがある。①の場合には外国の大学を卒業する年齢が国内大学を卒業するよりも 1 年多くなる。②の場合にはストレート
で卒業した場合、22 才の卒業になる。外国に留学するのだから 1 年程度余計に勉強しても良いとも思われるが、国費留
学生は一般にかなり優れた学生であり、また中には語学力ともにそのまま大学に入っても遜色ない学生もいるのだから、
この 1 年は大きいのだ。そこで、欧米の多くの大学はツイン・プログラムと称して②の方法を採っている。これに対して
日本では①の留学生しかいない。留学を志したマレーシアの学生にとっては、日本に留学すると、語学のハンディがあ
り、修学年限が長くなり、さらに日本の授業料と生活費はおおよそ欧米の 2 倍であるので、学生の感覚としては日本への
留学は欧米への留学に対して 4 倍の負荷がかかると感じるのである。
40 工学における教育プログラムの海外調査報告
[2] バンドン工科大学 (Institut Technologi Bandung)
応対者:
前副学長
Ir. Iman Soengkowo, Ph. D. :
Petrochem Engineering Department
Dr.
Ir.
Rizal
Z. Tamin,
現副学長
Vice Rector for Planning and Management Center
Ir. Pudjo Sukarno, Ph. D. :
学部長
Dekan Fakultas Teknologi Mineral
Prof. Dr. Goeswin Agoes,
学部長
Dekan Falultas Matematika dan llmu Pengetahuan Alam
日本留学 Deddy Kurniadi, Dr. Eng. : Staff Ahli
(徳島大学、学位取得者)
Ir. S. Reka Rio.
クリーンルーム
Director, : no@process. paume. itb. ac. id
Dr. Aryaki Suwano :
大学間協力機構
Inter University Research Center Engineering Science :
Aryadi@termo. pauir. itb. ac. id :
1. バンドンと工科大学のアウトライン
オランダ統治下にあった 1920 年、オランダは自らの必要性を満たすために、"Technische Hogeschool (TH) : Technical
High School"を創立した。バンドン工科大学の敷地は大変狭いので、スクラップ・アンド・ビルドが盛んであり、そのた
め一時期は古い校舎がどんどん潰される時代もあったが、最近では歴史的遺産を残すということが叫ばれ、1920 年に建
設された校舎が、正門の左手に残っている。インドネシアで良く見られる黒い壁を持った、いかにも古めかしいこの木造
の大きな建物は、当時ジャングルの中に建立されたという。おそらくこの学校は当時のいわゆる「現地人」のためではな
く植民地の支配者であったオランダ人の子弟のためであったのだろう。今でもバンドンの市内はオランダ風の建築物が見
られ、曲がりくねった道路には街路樹が備えられ、ジャカルタとひと味違った街並みには何となくオランダを感じる。
バンドン市は西ジャワの中央部の高地にあり、高度は海抜 770 メートルである。そのため少し涼しい。人口は 150 万
2
人。市のほぼ中心部に大学があり、77 万 m の敷地にキャンパスが展開している。学生寮や教員、職員の宿舎はキャンパ
ス内にはなく、大学の周辺に散らばっている。大学に入学した 1 年生は全て学生寮に入るが、2 年になる時点で全員寮か
らでる。
バンドン工科大学は学部教育、大学院修士課程、大学院博士課程の教育をおこなっており、数字がはっきりしていない
が、ある程度の博士課程の学生も出しているらしい。学部教育では 4 年間、8 セミスターで 144 単位が要求され、修士で
は 2 年間、4 セミスターで 40 から 48 単位が求められる。総合工科大学なので、基本的には工学の全領域をカバーしてい
るが、学部構成は、数学及び自然科学学部、土木建築学部、工業技術学部、鉱山学部、工芸及びデザイン学部の 5 学部で
ある。理学部に相当する数学及び自然科学学部は、天文学科、生物学科、化学科、地学科、数学科、薬学科、それに物理
学科である。土木建築学部は地域学科、環境工学科、都市計画学科、建築設計学科など、また、工業技術学部は、電気工
学科、応用物理学科、工業工学科、情報学科、化学工学科、機械工学科、航空工学科であり、材料工学科は機械工学科の
中に含まれており、近々分離される予定である。鉱山学部は鉱山工業学科、地学科、石油工業学科である。また工芸及び
デザイン学科は、工芸学科とデザイン学科にわかれる。
国立大学であるので文部省の様々な規制や指導があるが、バンドン工科大学はインドネシアの工学教育の雄なので、文
部省と対等に渡り合うことができる。教授陣の多くは海外で学位などを取ってきた経歴を持っている。研究費や教育費は
潤沢にはないがインドネシアには国営かプライベートカンパニーか区別のできない会社も多く、そういう会社との共同研
究などにより研究を行う例も多い。
工学教育改革には熱心で、現在でも数ヶの学科のカリキュラムの全面的改良を行っている。たとえばいままで機械工学
科の中に入っていた材料部門を材料工学科として独立させることなどである。それと並行してアクレディテーションも積
極的に進めている。その範はアメリカの ABET に求めている。それでもバンドン工科大学の工学教育プログラムの迷いは
「経験の無いこと」である。材料工学の教育においても金属材料、有機材料、無機材料の教育を並行して同じ比率で行う
べきか、それとも学生には材料工学の基礎を教えて、コースを選択させるべきか、これを歴史的な経験で決めることが出
来ない。
インドネシアに様に他民族の大きな国では、国立大学の入試の機会均等制は重要な問題であり、全国統一入学試験が行
われている。多くの民族、その中にはスマトラ島に住んでいる高校生や、名も知れない離島の生徒もいる。全国の高校生
に均等の機会を与えるというのは大変な事だ。そのために、統一選抜の他に、各地区からの選抜した入学も行われるよう
東南アジア 41
だ。そして、バンドンにはバンドン工科大学という有名な大学に入るための予備校もある。バンドンは高校生も目立つ街
である。
実験室に行くと LAN やクリーンルームなどは備えられているが、冶金、精錬、機械加工、鋳物、プラスチック加工、
強電実験設備などの従来型の工業の装置や実験室は少なかった。
2. 優れた教員評価と昇進制度
バンドン工科大学の優れた教育システムの一つとして「点数制」からなる教員の昇進システムがあげられる。教員の身
分は全部で 9 段階であり、最高位の教授は文部大臣の任命になっている。
教員評価の仕組みは簡単で、バンドン工科大学に採用された教員は、その後の活動によって「持ち点」が与えられる。
基本的には①教育業績 ②研究業績 ③貢献業績 の 3 種類に分けられる。教育業績としては、講義や実験指導を行い 1
単位に相当する教育を行ったら 1 点が与えられる。同時に生徒による授業評価も行われ、質問状に学生が答える。このほ
か教員の評価としては共同研究先の企業や大学のスタッフの評価も組み入れられる。しかしこれらの公平性、有効性は難
しい。教育業績の点数のカウントの仕方としては、20 年として、半年に 7 時限 14 単位の教育をすれば、14 点が与えられ
るから、1 年で 28 点、10 年で 280 点、20 年で 560 点である。教育実績を上げることによって昇進しようとする先生はこ
の道を辿る。外国の一流学会誌に投稿し、それが掲載されると 15 点が与えられる。優れた研究活動を行い、1 年に 4 報
づつ 10 年だすと 40*15=600 点となる。これが研究実績のカウントの方法である。最後に、様々な貢献がカウントされる。
例えば、学部長や各種の委員会などの学内貢献、地域活動、社会での講演などが細かく決められ、一定の点数が与えられ
る。会議も特別に重要な会議では点数がカウントされる。例えば、外国人が出席した会議には点数が数えられるので、そ
の証拠として外国人との会議の写真が必要である。また、あまり参加が必要のない会議でも外国人を出席させる傾向があ
る。何事も、良い点ばかりではない。
最初からバンドン工科大学へ採用された若い人はそれでよいが、途中でバンドン工科大学へ転職した人はその分、損を
する。そこで、大学から来た人は前の大学の教育実績や貢献度を換算してカウントする。大学以外の会社などからの人
は、その地位によってカウントを行う。例えば会社で部長であった人は数百点を教育実績としてカウントするという具合
である。
この様な方法は「カウント稼ぎ」のための行為を呼ぶが、教授への推薦や任用の基準が明確なので不公平はその分だけ
少なくなると考えられる。また、本人に取っては講義を出来るだけ多くして点数を上げることもできるし、昇進など関係
ない人は点数を問題にしなければよい。その点、論文数で判断する現在の日本のやり方よりも優れているし、カウントが
本人にも他人にも良く見えるので都合が良い。また、大学の執行部の仕事などに割り当てられると雑務に追いまくられ、
人からは非難され良いことがないが、せめて「貢献点」をいただけるので、多少は貢献しようかという気持ちにもなろう。
3. リサーチ・センター
バンドン工科大学はインドネシアの工科系大学の代表的存在である。そのためにインドネシアの主要な研究プロジェク
トはここで行われる。バンドン工科大学には 6 階建ての大きなリサーチセンターがあり、そこで共同研究が行われてい
る。この共同研究はプロジェクト方式で期限付きである。多くのプロジェクトがこのリサーチセンターで行われ、成果を
上げたという。
このリサーチセンターは 1986 年にマイクロエレクトロニクスを推進するために作られ、研究、教育を行う機関として
機能した。マイクロエレクトロニクスセンター (Inter University Center on Microelectornics (IUC-ME)) はレベル 1000 のク
リーンルームが二つ、スタッフは合計で 27 名いる。1997 年度のマイクロエレクトロニクスセンターの経費は 400 万円で
ある。実験室は 4 つに分かれており、半導体デバイス研究室、集積回路デザイン研究室、集積回路プロセス研究室、そし
てマイクロエレクトロニクスシステム研究室である。クリーンルームにある機器は全て外国製であるが、ミクロンオー
ダーの加工や回路設計が行えるように必要な機器は揃っている。学生の総数の割にはあまり活発には研究がされているよ
うには見えない。少なくともマイクロエレクトロニクスの基本を教えることが出来るという事である。27 人の専属スタッ
フで毎年 10-20 報程度の論文が出ているので、一人あたり 2 年に 1 報程度の割合である。この中の大部分はアジアのシン
ポジウムの proceedings であり、フルペーパーは少ない。しかし、インターネットも完備し、様々な活動のレベルは決し
て低くはない。
マイクロエレクトロニクス関係以外の分野で活発に実施しているプロジェクトとしては、石油掘削の土木研究、大型機
械の加工精度の向上、そしてバイオの研究である。微細加工ではクリーンルームのレベルが最低であると言うことはある
が、一応の施設を持っており、10 までの線幅の研究や教育が行われている。しかし、設備は全て輸入品であり、細かい
部品や実験用消耗材料も全て外国製であるので、実際には微細加工のまねごとしか出来ないと思われる。しかし、その実
験室にいる先生方や学生はいずれも熱心であまり高給ではない設備で一所懸命努力している風が伺われた。LAN の研究
では比較的最近の Pentium の演算機をもった計算機同士を 10BASE-T のような新しいネットを張って利用していた。ネッ
2
トのハードも同時に研究しており、数人の大学院生が張り付いて行っている。部屋の大きさは 100m 程度、設備は貧弱で
ある。それも仕方がない。この方面の設備は 3 年も経つと古くなるので、新しい設備をどんどん揃えるのはとても出来な
いからである。コンピューターの数も少なく、ネットの研究とは言うものの形ばかりであるのも仕方がない。
石油掘削の土木研究と加工精度の研究室は本当に研究をしている珍しい研究室であった。石油掘削を担当している助教
42 工学における教育プログラムの海外調査報告
授はいかにも専門家らしい説明の仕方であり、研究室にはパネルが展示されていた。日本で言う文部省の奨励研究のよう
なものを受けている。主に機械設計と土木関係のコンピューター・シミュレーションを行っている。
機械加工の研究室は大柄な教授が担当しており、企業との共同研究、大学間の共同研究、そして独自の研究と大きな
300m2 ほどの実験室を使用して活発に行っていた。機械加工では大型機械の加工と調整の研究、海洋作業用の大型機械の
設計、材料加工用の機械の設計と試作などを行っている。研究室には国際シンポジウムの出版物が並び、業績を聞くとす
ぐ日本と米国の昨年のシンポジウムでの発表の予稿集と示される。バンドン工科大学は研究の経常経費があまり支給され
ないので、各研究室はいずれも基礎的な本や学会誌を取るのに四苦八苦している。そのためにあまり研究室には本は無
い。それでも、この研究室は違う。人柄も学者風で、説明も懇切丁寧で準学問的であった。この研究室の学生は良く勉強
しており、卒業論文は製本された 150 ページほどの立派なもので、緒言、実験、結果、考察と順序立ててあり、記述内容
の良いものである。
バイオの研究室では主に新種の改良研究を行っていた。バイオは比較的装置が簡単であり、アイディア一つで色々なこ
とも出来るし、植物の種類と生育速度では抜群のインドネシアの事であるので、ここも活発な研究が行われている。三角
フラスコに改良中の苗が植えられ、それを棚に載せた大きな部屋がある。見渡す限り実験中の三角フラスコである。実験
室の扉を開けると、そばでビーカーを洗っていた女子学生が素早く椅子をドアーに掛けて、ドアーが閉まらないようにし
た。インドネシアの国民、そのうちでもスンダ人は活動的で、良く気がつく。研究活動や企業活動は「感受性が良く、活
発」ということも必要であり、この国は将来有望ではないかと感じられる一幕であった。
4. 1997-2007
現在、東南アジアばかりでなく、日本でも社会や学問が急激に変化している。大学は未来の社会人を教育しているとこ
ろでもあり、また同時に未来を実現するための研究を行っているところでもある。その反面、学問的真理はどこまでも真
理であり、それは時代とともに変わらない。後者が時には足かせとなって大学の改革を遅らせ、大学が社会で一番古い学
問を教えたりする結果となる。
大学は常に長期的ビジョンを持たなくてはならない。それは誰もが賛成することではあるが、日本の大学ではっきりし
た形での将来像を持っている大学は少ない。特に文部省の指導無くして自ら積極的に将来構想を打ち立てることはないと
も言える。
その点、バンドン工科大学は優れている。この大学には、
「1998-2007」という 10 年計画のパンフレットがある。
[3] 南洋理工大学
応対者:
学部長
ER Meng Hwa
Dean : School of Electrical & Electronic Engineering
emher@ntu. edu. sg
Son
Chee-Kiong
副学部長
Vice Dean of School : Head of Division, Structures & Construction
csohck@ntu. edu. sg
副学部長 Stephen Lee Siang Guan
School of Mechanical & Production Engineering :
msglee@ntu. edu. sg
Judy
Neo-Seah
(Mrs)
広報課係員
Senior Public Relations Officer Public Relation Office :
jbwseah@ntu. edu. sg
1. 南洋理工大学のアウトライン
南洋理工大学は NTU (Nanyong Technological University) と呼ぶ。南洋大学の母体となる NTI (Nanyang Technological
Institute) が 582 人の学生を擁して 1981 年に設立された後、1987 年に経済学部門を、1989 年に商学部、コンピューターエ
ンジニアリング部門を吸収し、その後さらに数部門を強化し、NIE (National Institute of Education) と合併、総合大学とし
て 1991 年にほぼ現在の姿で活動を開始した。
キャンパスはシンガポールの中心街から車で 25 分、200 ヘクタールの土地に機能的、計画的に配置されている。キャ
ンパスの周辺にはおよそ 10ヶの学生寮群、外国人教員のための宿舎などが配置され、中心部には巨大な 2ヶの建物が据え
られている。中心となる建物は日本の建築家によって設計されたもので、建物の中心線に大講義室、一般教室などがあ
り、その両翼に 4 本の棟が突き出している。それぞれ、土木工学科 (1 棟)、機械工学科 (2 棟)、電気工学科 (1 棟) ……
などと配置される。大学のある付近は丘陵地帯なのでかなりの起伏がある。中心となる建物の起伏の中に建設され、最低
部には大きな機器を収容した実験棟が 4 棟ほど配置されている。コンピューター関係の学科は独立した建物の中にあり、
東南アジア 43
その他に大学当局の建物、学生会館などが散在している。学生数は 15,000 人、そのうち 3000 人程度が大学院などの学生
である。
高等学校 (中学校と一緒で 5 年教育) を卒業した学生にとって南洋大学に入学するには 2 つの道がある。一つは大学予
備学校で行われる統一試験に良い成績を収め (ランク A) 19 才で南洋大学に入学する道である。最優秀名学生はこの道を
辿る。統一試験で余りよい成績はとれなかった学生は、3 年の「ポリテクニク」に入る。ここで教育を受けた後、大半は
2 年半の軍事訓練に出るが、成績が良ければ南洋大学の 2 年に編入する。これが敗者復活的な入学方法である。
高等学校卒業が 17 才であるから、ストレートの学生は 2 年の予備教育が終わって、19 才、それから 3 年の南洋大学の
生活を終えるから、22 才で卒業と言うことになる。確かに最優秀の女性の学生にはこの道を辿り、22 才で卒業する学生
もいる。しかし男性の学生ではこの道はあり得ない。仮に一番で南洋大学に入学しても 19 才から卒業までの間におよそ
2 年半の軍事教練を受けなければならない。この教練は全ての男性の国民に科せされるので逃れることはできない。かく
して、男子学生の一番は 25 才で卒業する。しかし、工学部系は違う。工学系以外の学部が 3 年であるのに対して、工学
部は 4 年の期間 (8 セミスター) を要求される。つまり、工学系に在籍する男子学生は最適でも 26 才の卒業になる。統一
試験で余りよい成績があげられず、南洋大学の工学系に入りたい希望を持つ学生は 17 才でポリテクニクへ、20 才で南洋
大学の 2 年生へ、軍事教練を終わって 23 才、それから 3 年勉強して 26 才で卒業する。この点ではストレート組と同一で
ある。
これでは男女差別ではないか、とは考えない。男性は軍事教練で 2 年半 (30ヶ月) を棒に振る?が、女性は平均して 3 人
程度の子供を産むので、やはり 30ヶ月を人生で棒に振るのだ。男性は大学時代に、女性は結婚してから同じ期間を棒に
振るので差別はない。とことん合理的である。ちなみに、シンガポールはマレーシア連邦より独立した国であるが、マ
レーシアほど女性の大学への進出は多くない。女子学生の比率は 20%である。
学部は経済学部、応用科学部、通信学部、土木建築学部、電気工学部、機械工学部、教育学部、体育学部、芸術学部、
それに理学部である。学士号はほぼ上記の学部に相当するものが与えられる。大学院は、会計、財政、経営、商法、情報
経営、技術経営、航空工学、土木工学、集積回路、国際建築学、ネットワーク、情報学、民生電子、精密工学、商業に分
かれている。大学院博士課程は持っていない。博士課程を取りたい学生は、海外に出す。シンガポールは完全に国際化し
ているので、どの段階でも海外に学生を出し、そして戻す。
教員は、講師、上級講師、助教授、教授の 4 ランクがあり、博士課程を終了した学生を雇用し、最初は講師としてラン
キングする。教員の評価は①教えること ②研究実績 ③大学、地域への貢献 の 3 点から評価され、ほぼ 4 年で上級講
師になる。教育実績は講義などを実施すること、本人に対する周囲の評価、学生の評価、授業参観などによって決める。
研究実績は学術雑誌への投稿、発表などで決める。上級講師から助教授へ進むときにはかなり厳密に審査がされる。そし
て [Full Professor] と呼ばれる教授職に就くためには、教育実績、研究実績、大学地域への貢献などとともに、①シンガ
ポール国外での活動 ②研究実績 を必要とする。このうち、シンガポール以外の国での活動も教授に昇進するための義
務でもある。国際化されたシンガポールでは海外の教授を招聘することは普通に行われることで、MIT や東大、京都大学
などの先生が常時講師として呼ばれており、そのために専属の宿舎までが学内に用意されている。
シンガポールの国立大学はシンガポール大学とこの南洋理工大学の 2 つであるが、一番有名なシンガポール大学より、
地元の評価では、工学部門なら南洋大学が一番である。
2. 完璧な実利指向教育
大学一年に入学したら、学生は大学卒業までに取らなければならない 144 単位を取得するために活動を開始する。この
うち、17 単位は後で述べる特別な教育プログラムで取るので、残りの 127 単位を標準的な大学教育プログラムの中で消
化することになるが、南洋理工大学ではこれを特に「アカデミック・プログラム」と称して、以下の実利教育と区別して
いる。標準的な授業は 50 分が単位で、15 週で一単位となる。そのうち 2 時間が準備と試験に当てられる。この点では日
本の規定を同じである。もちろんセミスター制であり、学生がどの単位をどの時期に取るかは基本的には決められていな
い。
2 年次になると 8 週間の学内実習がある。「学内インターンシップ」とも言うべき教育プログラムである特定のテーマ
と機器を用いて学内で実務を行い、実務の進め方、集団での仕事の仕方、実務自体の修得を行う。この 8 週間の学内イン
ターンシップには 4 単位が与えられる。3 年次になるとこのインターンシップは 24 週間になり、学外の企業へ派遣にな
る。シンガポールには日本の企業も含めて多くの優れた企業があり、これらの企業に行って十分な訓練を受ける。この
24 週間の学外インターンシップには 5 単位が与えれ、2 年次のインターンシップとともに必修科目である。
最終年次の 4 年になると、この大学が掲げる「実利指向教育」にさらに磨きがかかる。卒業研究は企業からの提案で行
われる。企業と大学のスタッフが相談の上、企業が必要とするテーマを決定する。そのテーマの実施に必要な研究資金と
機械類は全て企業から提供される。テーマは普通学部生でできるものではないので、その研究室が総出で取りかかること
もあり、時にはさらに企業の人が参加することすらある。企業にとってみれば、①実際に研究が進む ②人件費が要らな
い ③大学と強いコンタクトができ優秀な学生を確保できる ④その学生の予備的教育すら行える と大変なメリットが
ある。特に優秀な学生に 3 年のインターンシップから教育を施せば、企業に取っては願っても無いことかも知れない。
アメリカのスタンフォード大学は産学共同で有名な大学である。大学の経費の占める割合の内、授業料がわずか 16%と
いうこともその一端を示している。また、有名なヒューレッド・パッカード社はスタンフォード大学の学生だったヒュー
44 工学における教育プログラムの海外調査報告
レッドとパッカードが学生時代に起こした会社であり、その会社の設立に大学も資金を提供した。今でもヒューレッド・
パッカード社からは巨額な資金が大学に寄付されている。しかし、現在のスタンフォード大学は学生や教授の研究の企業
化には金を出さないし、一年に 200 もある大学からの企業化に際しても厳密なガイドラインを置いている。大学の誰かが
企業を興した瞬間からその企業の直接的研究は大学では禁止になる。それは「学生を安い労働力として使う」ことになる
とスタンフォード大学のリエゾンオフィスの責任者は語る。
シンガポールにはそのような湿った話はない。大学にとっては資金が提供され、良好な教育環境が得られる。学生に
とっても先端技術を学び、会社での仕事が理解できる。三者とも満足なのだから、それが大学としての神聖さを失うこと
になるなどと言う寝言を聞いていられない。もっと実利的に社会は動いているのだ。かつての宗主国イギリスの学制を守
ることはキチンとするが、精神まで西洋のアカデミズムに汚れることはない、と彼らは考える。インターンシップは工学
教育に良いか悪いか、試しにやってみると困難なことも多い、と議論を重ね、アメリカの大学の様子をうかがっている日
本とは根性が違う。
強力なインターンシップの教育も基礎的な知識基盤があることがその実をあげることになる。そこで、インターンシッ
プや卒業論文関係の勉強は時間は多く取られても単位としては少なくして講義の時間を並行して取る。この考え方は日本
のインターンシップとは違う。日本はいつの間にか「ゆとりの教育」が良いことになっているが、米国での東南アジアで
も学生はゆとりは必要ない、もし他のことをしたかったら 4 年で卒業せずに休学して経験を積め、という考え方である。
大学で教えること、25 歳までに人間が学ぶこと、それはインターンシップをしようと、海外に遊びに行こうと変わらない。
3. 資金はいくらでもある!
国際会議に行くとシンガポール大学からは数人の参加者が見られるが、南洋大学の教授はそれほど活躍していないよう
にも思える。実利教育に走って本当の大学としての教育に力を入れられないのではないか?
南洋理工大学の研究費は主に 4 つのルートを経由して大学の研究をサポートする。第一のルートはシンガポール文部省
の科学研究費で、直接的には企業化に結びつかない研究に対して交付され、1 年に 6 億円程度である。次の財源が国家科
学技術委員会 (National Science and Technology Board : NSTB) からでる比較的工業化に結びつくもので、研究総額も大き
い。平均して 1 年間、40 億円規模で実際には 5 年間で 120 億円程度の規模である。三番目の財源は、国防予算から支出
されるもので、これは防衛庁からの委託研究である。その他に、公共の建物などを建設するときにそれに関係する研究に
公共の資金が提供される。
主にこの 4 つであるが、その他に環境関連や特別な資金もあり、工学部長と工学部長補佐で研究担当の教授は口を揃え
て、
「お金は有り余るほどあり、まったく不自由していない!」
と断言する。そんな事をおっしゃる大学は世界にもない、と言うと、ここは資金は潤沢だ、と繰り返す。確かに校舎は
立派で、学生部の建物も、外国人に大学の説明をする施設も整っている。 こんな大学が世界のどこにあるだろうか?
大学の講義棟の一番下には大きな実験棟が 4 棟ならんでいる。この実験棟で集中的な卒業研究と修士論文の研究が企業
の提案の元で実施される。図書館も素晴らしく立派で近代的だ。その割には国際学会に出てくる学者の数は少ない。企業
提案の研究なので秘密もあるし、学問を追究するものでないのでどうしても国際的な発表は難しい。
4. ポリテクニクと外国留学
統一入学試験の成績が今ひとつの時や、高等学校の卒業時には大学には進まない予定の学生はポリテクニクに進む。こ
の大学で 3 年学べば、20 才で卒業でき、
「ディプロマ」という資格を取ることができる。このポリテクニクという形式の
学校はシンガポールに何校程度あるか知らない、と南洋大学のやり手の宣伝担当女性係員は言う。ポリテクニクは学校で
はあるが、キャンパスはない。シンガポールは人口わずか 300 万人の小さな国であり、そこで教育の全てを行うことはで
きない。そこで、ビルの一角にポリテクニクを構え、そこで入学する学生を提携先の海外の大学に留学させる。
シンガポールは完全に外に向かって開かれている国で、いわば自分の家と庭は小さいが玄関のドアーと庭にでる縁側は
常に空いていて、ドアーから外に出ると外のコーヒーショップは自分の家の庭ように使えるし、縁側から庭に出ると、そ
こには国立公園の一部が拡がっている、という風である。お金を出して大きな家を買い、広い庭を持つようなばかげた真
似はしない。幸い、英語が共通語で高校生は英語が達者なので世界のどこでも留学することができる。アメリカやヨー
ロッパばかりか日本も大変に人気がある留学先である。すでに英語ができる国民にとっては第二外国語として日本語を学
ぶのは役に立つのである。日本語は世界の言語の中では特殊なので、そこで勉強して会得した日本語は価値がある。シン
ガポールは中国人主体の国であり、公共の看板も英語と中国語で書かれている。中国語をはなせない若い人もいるが、中
国語が生活の中で使われているので、それをあえて学ぶ必要はない。西洋は全て英語で通じる。そうなると、言語鎖国の
状態の日本語を学ぶのはますます価値がある。
なお、大学の中の実験施設や教室などの見学ツアーに協力していただいた多くの人は、その場で挨拶を交わしただけで
東南アジア 45
あり、どの方にご案内いただいたのか記録は出来なかった。これらの方々に深く御礼申し上げる。
[4] チェラロンコン大学
応対者:
工学部
学部長
Narong Yoothanom Dean of Engineering
:
Feenyt@kankrow. eng. chula. ac. th
Wiwut tahthapanichakoon, Ph. D.,
主任教授
Professor & Chairman
fengwtt@chulkn. car. chula. ac. th
プロジェクト部長
Prof. Surin Phongsupasamit, Ph. D.,
副学部長 Prof. Dr. Sasithorn Boon-Long, :
Associate Dean for Research Affairs
上級助教授 Montri Sawadsaringkarn, Ph. D.,
Associate Professor
Dr. Sucharit Koontanakulvong,
助教授
Assistant Professor
Ksuchari@netserv. chula. ac. th
(Faculty
of
Science
: Chulalongkorn University)
理学部
Prof. Sakda Siripant,
学部長
Fellow of The Royal Institute Hon. F. RPS. F. Bipp
Dean of Faculty of Science :
ssakda@netserv. chula. ac. th
副学部長 Plamsook Pongsewaski, Ph. D.
Deputy Dean for Academic Affairs
Fscippw@chulkn. car. chula. ac. th
工学部・金属工学科
主任教授 Dr. Chatchai Somsiri : Head of Department
Department of Metallurginal Engineering
Schatcha@pioneer. netserv. chula. ac. th
タイ―日本技術移転プロジェクト
副プロジェクトリーダー
Toru Ishibashi : Deputy Team Leader
Toru@loxinfo. co. th
Dr. Rie Atagi : Regional Co-ordinator
協力員
rie@loxinfo. co. th
カンサス大学アジア
Richard Bernhard, Project Manager,
kiasia@ksc15. com. th
1. チェラロンコン大学のアウトライン
東南アジアでも屈指の歴史と伝統を誇るチェラロンコン大学はバンコック市の中心街にある。周りは高層ビルや東京で
言えば渋谷のような繁華街、学生街に取り囲まれている。創立当時はもちろんそんなことは無かったのだが、今では「雑
踏の中の大学」となった。
チェラロンコン大学は 1916 年に設立されているから、バンドン工科大学の 4 年前である。もちろんタイでは最初の大
学であった。当時のチェラロンコン王 (ラマ五世ともいう) は 1902 年に高級管理教育を目的として王宮内に王立学校を
設立して大学の準備を始めた。すでに単科の医科大学が 1889 年に、工科大学が 1913 年に設立されていたので、チェラロ
ンコン王から王位を継承したラマ六世は 1911 年に王立学校を発展させて、市民大学を設立、農学、商学、教育学、工学、
外国語、法学、医学及び官僚学のコースを設けた。1916 年という年はこの市民大学が正式に"University"になった年である。
当時の学部は、4 学部で医学部、政治学部、工学部、科学部であった。1923 年から 1934 年に掛けてロックフェラー財
団からの大規模な援助のもとに一層の発展をみた。この様に東南アジアでもチェラロンコン大学は特別に歴史も古く、段
46 工学における教育プログラムの海外調査報告
階的に発展してきた大学であり、日本が 1945 年に進駐したときにも占領を逃れ、大学活動を進めてきた。1960 年代より
現在に至るまで徐々に大学組織を改善し、タイ第一の総合大学として確固たる地位を築いた。この様にその歴史から言っ
ても、実力からもチェラロンコン大学はまさしく「タイの東大」であるのでタイ全国からの受験希望者が集まる。しか
し、貧乏な高校生が受験のためにバンコックに集まることも出来ないので、全国各地で統一試験が行われ、その試験一本
で入学と学部が決定する。この統一試験は「共通一次」の様なものではなく、それだけで全てが決まるシステムである。
バンコックから少し離れた農村に行くと、赤道付近の気候のためにやや高床式の簡単な住まいが並ぶ。家の中は板の間
に茣蓙を敷き詰め、家具がホンの少しあるくらいである。机もないし、本も見あたらない。まして「勉強部屋」や「子供
部屋」があるわけでもない。子供達は木の下にあるハンモックのようなものにぶら下がって一日のんびりと過ごしたり、
川で魚を追いかけたりしている。庭には鶏と犬が戯れ、大自然の中に生きている。そのような環境からチェラロンコン大
学を受験するとうことは大変な飛躍である。確かに、高等学校の生徒に会ってみると制服を着ており、一見日本の高等学
校の生徒と変わらない。あのメノム側のほとりの家からこの子が出来たのかな?と思うほどである。
国民生活は近代化されていないし、所得は大変低い。しかしチェラロンコン大学はそれなりの設備を持っており、主に
外国の大学を卒業した教授陣で構成されているので、大学の維持にはある程度の費用がかかる。チェラロンコン大学も他
の東南アジアの大学と同様にセミスター制がひかれており、授業料は自国の大学生のセミスター授業料と、夏期授業料、
そして外国人の授業料に分かれている。基本となる授業料は 1 セミスターで 4000 バーツ、それに加えて第二年度の商学
部、経済学部、法学部、文学部、教育学部、政治学部の学生は設備維持料として 3000 バーツ、医学部、歯学部、薬学部、
理学部、工学部、体育学部、農学部、情報学部、看護学部は 6000 バーツの設備維持料を支払う。外国人の授業料は国内
からの学生に対してその 10 倍の 40,000 バーツが求められる。
2. 捉えどころのない総合的教育を目指して
工学部は所帯が大きい。手狭になった研究室を増強するために現在 20 階ほどの高層ビルを建設中である。この新しい
ビルに隣接する 5 階建ての古い建物に入っている工学部化学工学科は 1 階と、4 階、5 階に分散して研究室がある。2 年
生、3 年生が行う化学工学実験用の教室には模擬蒸留塔、抽出装置、流動実験装置、伝熱実験装置など主要な化学工学単
位操作の様々な装置が整然と並んでいる。学生実験に力を入れて、キチンとそれを実施している様子が伺われる。このほ
かに有機合成や分析化学の学生実験室も用意されている。
学生実験室に隣接してこの学科の研究室があり、冬休み中というのに大学院生を中心にして比較的活発に研究活動が行
われている。ある修士の学生はパソコンでゲームを楽しみ、ある学生は天秤でポリカーボネートの分子量を測定するため
に秤量をしていた。チェラロンコン大学の工学部に在籍する学生の男女比はおおよそ 1 : 1 であり、大学院修士課程では
70%が女子学生である。気候が温暖になり食べ物が容易に手に入る土地では一般的現象として女性がよく働く。厳しい冬
と格闘することも、屋根の雪下ろしという重労働もない。作付けや燃料の確保に失敗したら一家が飢え死んだり、隣の村
を襲って燃料を奪ってくる必要もない。そのような恵まれた環境の元では男性は働かなくなる。東南アジアの各国の男女
学生の比率がおおむね女性が多いことも、そのような一般的男女分業の結果とも考えられる。
化学用の分析機器はガスクロマトグラフィー、液体クロマトグラフィー、紫外分光分析装置、赤外分光分析装置、原子
吸光光度計など一通り揃っており、通常の研究活動には支障が無い。機器はそのほとんどが日本製で、時折欧米のメー
カーのものが混ざっている。研究は装置や分析機器本体だけで行われるものではない。まずその周辺の理化学機器が必要
である。例えばガラス器具、チューブやゴム栓に至る消耗材料、そして機器や装置の簡単な修理を行うための工具や部品
のたぐいである。これらのものが実際に大学の近くのメーカーで製作されること、そして小回りの利く理化学屋さんが大
学に出入りしていることが研究にはとても大切なことである。ここ、バンコックのチェラロンコン大学での状況はインド
ネシアのバンドン工科大学より多少ましではあるが、基本的には研究原料も消耗材料も不足し、その多くを外国からの輸
入に頼らなければならない。研究とはそもそも「次に何が必要か」がわからない仕事である。「計画的な研究」など出来
るはずもない。液体クロマトグラフィーのチューブがいつ破損するか予想することは出来ない。破損すると海外から取り
寄せるので、1ヶ月ほど研究は中断する。そうかといって破損を予測して 1 台分の予備を用意しておくことも不可能である。
チェラロンコン大学の工学部や理学部は充実している。それは他の東南アジアの各国にありがちな「先端科学のみを追
う」という方向ではなく、あくまでも工学、科学全体を視野に入れて教育、研究を進めていこうとする考え方であるから
である。
施設とシステム
工学部と理学部が分かれており、それぞれかなりしっかりしたシステムで運営されている。工学部は学科ごとにかなり
のスペースを持ち、そこに実験装置や学生実験用の設備が整っている。化学工学の研究棟では蒸留、抽出、反応、攪拌、
透析、調湿などの化学工学の基礎を実験できる部屋があり、学生実験に使用している。また、化学実験室では必要な化学
分析が可能で、かなり広い設備を持つ。その部屋の横には機器分析室があり、ガスクロマトグラフィー、液体クロマトグ
ラフィー、原子吸光、紫外分光分析、赤外分光分析などの基礎的な分析機器が備えられている。全体的に機器の状態は満
足すべきものであるが、いかんせん理化学屋がタイでも育っていないので、故障したり少しの消耗材料を必要としても外
国から輸入する事になるのが辛いところである。高分子材料の実験室では女性の大学院生が 3 人、男性の大学院生が 1 人
部屋にいた。そのうち 3 人はコンピューターゲームを楽しんでおり、見学の人たちを見て急に普通のソフトに切り替え
3.
東南アジア 47
た。その横で、ポリカーボネートを溶媒に溶かしている学生がいて、聞いてみると粘度法で分子量を測定するという。こ
の材料の研究室では合成は行わず、物性の測定を行っていた。学生の理解度はまずまずである。
電気工学科では変電設備、送電設備、絶縁設備や回路の実験設備を持っており、ある程度の学生実験ができる。金属工
学科の研究室では助教授が主任を務めていた。活動的な先生であったが、チェラロンコン大学は本を出版しなければなら
ないので、金属工学科にはまだ教授は 1 人もいない。
エピローグ
産業の形態整理の代表的なものの一つに、第一次産業、第二次産業、そして第三次産業と区別をして、おのおのに就労
する人口を示すものがある。その国の発展段階に沿って徐々に、第一次産業から第三次産業へと就労人口比が変化するの
で、それを整理するとその国の成熟度がわかるからである。アメリカと日本、そして世界の多くの国が同じ成熟速度で変
化していることは良く知られており、アメリカは日本のちょうど 8 年先を歩いている。そのために従来の大学視察の多く
は、アメリカの大学を視察することであり、私も 11 月にアメリカの 10 ほどの大学を視察した。アメリカの大学を視察す
るとしばらくは「アメリカかぶれ」になる。帰国して何かの問題点に遭遇すると「アメリカでは……」とつい言いたくな
る。
もとよりアメリカと日本は同一の社会ではない。アメリカは公立大学が 80%であるが、日本は私立大学が 80%である。
アメリカは入学する学生で 4 年でその大学を卒業するのは少数であり、サンフランシスコ州立大学などのように、僅かに
4%という大学もある。私立大学経営は理事会が行うが、アメリカの理事長はほとんど給料をもらわない。日本の理事長
は職を名誉職とは思っていない。多くの理事長はその法人で最高の給与の支給を受ける。反対に、アメリカの大学の学長
は日本と違って名誉職ではなく、研究費を取ってこなければ失格である。そんな大学の差もアメリカと日本の社会構造の
違いから来ているのである。アメリカ人は 18 才になると原則的に親から離れ、自分で生活する。日本では大学を出るま
では「大切な息子、箱入り娘」であり、過保護の中に青春を過ごす。親から離れて生活する青年と、親の庇護の元で大学
に通う学生の間で意識の差を生じるのは間違いない。
社会も大きく違い、人の採用方法も異なる。アメリカの会社は「ポスト採用」であり、力があれば会社の要職へ転身で
きるが、日本では大学を卒業して就職するとその会社の一部として一生過ごす。日本では日立、トヨタ自動車などの一流
会社でも部長や課長のポストが空いたからと言ってそのポストを公募することはない。なぜかその理由は不明だが、社内
の人材を登用する。これだけ違うのだから、アメリカの大学がどうなっていようと基本的には日本と違うはずである。
しかし、日本の大学改革はアメリカをまねる。社会体制や習慣が異なるのに制度だけをまねるのだから巧くいくはずも
なく、したがって日本の大学は荒廃する。
よその国のことが参考にならないわけではない。知識は力であるから多いに他の国の状況を調べる必要はあるのだが、
参考になったことを直接的に利用するのではなく、日本文化、日本社会、そして慣習をよく考えて応用することが肝要で
ある。今回の東南アジアの視察はともすればアメリカ一辺倒になる大学改革を全世界的な見知から見てみようとしたもの
である。それを意識しつつ東南アジアの大学視察でまず感じた点は次の通りである。
1. 東南アジアは日本より遅れていると思われている。確かに、産業の発展段階という点ではシンガポールを別にすれば
日本の方が進んでいる。しかし、西洋との接点という点では日本は後進国である。長く植民地であった東南アジアの
諸国は西洋文明を直接的に受けている。街は宗主国の影響を受け、生活の一部までそれが入り込んでいる。近代にお
いて西洋がもっとも進んでいるとすると、産業を別にすると東南アジアは日本より進んでいることになるし、少なく
とも西洋の文明の内、採り入れるべきものと採り入れるべきでないものとを歴史的に知っている。
2. 国際化も東南アジアが先輩である。もともと国が入り組んでいる上に、民族の移動が大きく西洋の影響も強いので、
他民族他言語の中での生活が板についている。
「国際化」が何を意味するか、どんな問題をもたらすのか、日本より東
南アジアが良く知っている。
3. 「多様化」という点では日本とは比較にならないほど東南アジアは先進国である。その中でもインドネシアは多国籍、
多民族、多言語、そして多宗教である。
4. 日本に比較して東南アジアの大学生の方が勉強し、教授の評価も厳しく、運営も真面目である。バンドン工科大学に
は将来の 10 年計画がしっかりした書籍となってまとめられているが、日本では長期計画がまとめられた大学を知らな
い。
5. 英語教育という点では東南アジアは 1 枚も 2 枚も日本の英語教育よりも優れている。日本の英語教育は「英文学の先
生が英語を教える」という奇妙なことが続いていること、語学を一番よく覚えられる小学校時代に教育を受けられな
いことなどおかしな点がいつまで経っても解消しない。今後の世界化の中で日本人がかなりの不利を被ることになり、
早く改善する必要があり、工学の分野での声を大にするべきであろう。
6. 教員の評価についてのバンドン大学の制度、インターンシップでの南洋理工大学の方法など日本の工学教育の参考に
なることも多い。
さらに東南アジア視察とアメリカ視察を総合し、日本の工学教育に役に立つと考えられることは次の通り。
1. 日本の大学はもっと自信を持って、しっかりとした教育を行う必要がある。日本国にとって、教育投資こそ最も確実
48 工学における教育プログラムの海外調査報告
で効率的な長期投資である。
2. 日本の大学生は世界でもっとも勉強をしない学生である。この様な状態を続けていては日本の工業が打撃を受けるこ
とは間違いない。今こそ、工学教育の中核を担う工学関係大学教員が立ち上がって、少しでも学生に勉強をさせるよ
うにする必要がある。
3. 大学における工学教育は理念も大切であるが、教えるべきことをしっかり教えるという当たり前のことがさらに大切
である。その点ではアメリカの推進しているアクレディテーションに一目を置く必要がある。アクレディテーション
は本来大学がしっかりとしたカリキュラムを組み、その科目を修得できない学生には単位を与えないということが出
来れば必要のないものである。しかし、現実には、個別の大学は適性なカリキュラムを組む力がない。そして、それ
を実行する厳しさもない。そこでアクレディテーションなどを梃子にして標準的工学教育プログラムを設定すること
が必要になるのだ。
4. 教員の教育業績を認めるシステムを作るとともに、学生がより勉学にいそしめるような環境を提供するべきである。
日本の大学は一方で学生を甘やかせながら、一方で「あれはダメ」
「これはダメ」という規制も掛ける。日本の大学で
図書館が午前 2 時まで空いている大学は少ないだろう。また、廊下にも学生が憩う場所も少ない。学生がキャンパス
ライフを楽しむより、大学の管理が優先する。授業評価もまた同様であろう。本来授業評価などをしなくても学生の
成長を願って立派な講義をするべきである。それが出来ないので授業評価とともに、明確な業績評価を進める必要が
あるのだろう。
5. 最後に「もともと大学の時にはあまり勉強しなくても良いよ」などと公言する教授のいる中で形骸化した日本の工学
教育を立て直すのは、工学教育に携わる教員自らであるということを強調したい。
しかし、ここでもう一段、深く考えてみる必要がある。確かに日本の工学教育は荒廃している。それが他の国との比較
でどうかという議論はしなくてもよい。教育の絶対的評価として荒廃している。人生には勉強するべき時、伸びるべき時
があり、スポーツで中学校、高等学校の時にやらなければどんなに後でやっても玄人になれないように、25 歳までに基
礎を積まないと成長はしない。
本来、工学教育では何をするべきなのだろうか、という問いに対しても本来答えは様々である。シンガポールの南洋大
学のようにインターンシップに明け暮れ、企業とぴったりとついた大学もあれば、スタンフォード大学のように語学、作
文を重視する大学もある。タフト大学は「大学は知識を教えるところではなく、学生が自ら学べるポテンシャルを付ける
ところだ」という。アクレディテーションを進めてもそれは抜け道を造るにすぎないであろう。かくして精緻な昇進制
度、授業評価、アクレディテーションはいずれも色あせる。大学教授の勤務形態とその目的を今のままにして管理を強化
しても大学は良くなるとは限らないのだ。大学は大学らしく、教授自らが自立的に素晴らしい教育を目指さなければなら
ないのだ。教授はその道の権威でなければ良い講義は出来ない。権威であれば素晴らしいカリキュラムを組むことが出来
る。大学教授がさぼっていて自分でカリキュラムを作るのが困難だから、優秀な教員が代わりにカリキュラムを作りアク
レディテーションのシステムでそれを監視しても講義内容は十分にはならない。そして教育に情熱が無ければ学生にイン
パクトを与えることが出来ない。講義の工夫も生まれない。もともと教授は自分の胸に手を当てて学生の成績をつける。
基準はあるようでない。そのような日常的生活の中で、教授を支えるのは教育と学問に対する情熱だけである。
東南アジア 49
50 工学における教育プログラムの海外調査報告
スイス・ドイツ・オランダ
日 時:1998年1月4日∼1月10日
訪問先:スイス連邦工科大学チユーリッヒ校 (ETH) (スイス)
アーヘン工科大学 (RWTH Aachen) (ドイツ)
デルフト工科大学 (TU Delft) (オランダ)
訪問者:安田正志 (金沢工業大学)
鷲尾誠一 (岡山大学)
吉田郷弘 (京都大学)
51
[1] スイス連邦工科大学チューリッヒ校 ETHZ
1998 年 1 月 5 日訪問
東北大学の視察グループと同席。
対応者:Prof. Konrad Osterwalder, the Rector of ETH Zurich
Prof. Walter Schaufelberger, the former Prorector for diploma studies ETH (電気工学部)
Dr. Rolf Guggenbuhl, Director : Public and External Relation Office ETH
Dr. Laurent Badoux, Public and Extenal Relation Office ETH
Dr. Christoph Niedermann, Rector Office
1. 概要
・スイスの初等、中等教育
6 才ー 12 才の初等教育は共通であるが、12 才− 18 (19) 才の中等教育では、大学へ進学する High School/College コー
スと技術学校へ進学する Secondary School コースに分かれる。大学進学率は 17%、卒業生の率は 9%。
高校の最後に 11 科目の試験。それを通れば卒業で、希望の大学へ行ける (大学入試無し)
・ETH の管理運営組織
研究と教育は別組織となっており、それぞれ 19 の departments (research department と academic depratment) をもち、研
究のための institutes, laboratories は 83。運営を担う理事会の構成は、学長、レクター (教育の最高責任者)、 研究担当副
学長、企画担当副学長、管理部長、事務長。教授の選出は学長の仕事。
2. 教育体制
・一般
学生は 19 か 20 歳で大学に入り、8 ∼ 9 セメスターで diploma を取得する。各 academic department で独立したカリキュ
ラムを組んでいる。教員は必要に応じて academic department に参加する。数学のように多くの department で必要な科目を
教える教授は複数の department に参加している。
基礎教育は通常最初の 4 セメスターで行なわれる。第 2 セメスターと第 4 セメスターの終りに試験が実施され、これに
合格しないと次のセメスターへ進めない。(単位制は採っていない)
専門教育では学外での Practical training が 12 の department で必修となっている。期間は学部により異なる。行った先の
企業に就職することもよくある。大部分の department では diploma を得るために、最終試験合格と卒業研究を課している。
3. 教育評価
・授業改善、評価
学生による授業評価。3 ∼ 4 年前から部分的にやっている。授業が終る数週間前にアンケートを取る。結果の公開は学
部任せ。あくまでも授業の改善が目的で、それを使った人事評価はしていない。
教育センター (Didactic center) : 5 年前に設立。スタッフ 5 名。役割は (1) 学生授業評価アンケートの実施 (2) 授業法
支援教育プログラム (3) 授業参観助言制度など。3 の活用は多くない。授業アンケートは教育センターへ送られて解析さ
れ、その結果はレクターへ渡される。レクターは問題有りと考えた先生と話し合い、教育センターと相談してもらう。
ABET には関心があるが、スイスには教育評価の機関はない。ただし、ヨーロッパ全体として工学教育を向上させるこ
とを目的とした連合組織を作る動きがある。
[2] アーヘン工科大学 RWTH Aachen
1998 年 1 月 7 日訪問
応対者:Prof. Dr. Burkhard Rauhut, Prorector of the RWTH Aachen
Diploma Engr. Werner Weber, Director of International Office
Dr. Urlich Dilthey, Director of Welding Institute
1. 概要
・ドイツの大学教育
高等学校を卒業した者 (Abitur) は大学に進学して自分の好きな勉強が出来ることを法律で保証している。
大学教育として決まったコースが定められていない。学生は自分自身で学習計画を設計し、提供された科目から自由に
時間割を作る。在学年数も一応の基準はあるが基本的に自由。大学進学率は約 30%。
・RWTH Aachen の管理運営組織
運営を担う理事会の構成は、学長、レクターと 3 人の副レクター。その下の評議会があり、教授 11、学生代表 4、教育
52 工学における教育プログラムの海外調査報告
職 4、事務系 2 の合計 21 名で構成される。レクターは 43 人の教授と教授以外の 42 人 (学生、教育職、事務職) で構成さ
れる Convent が選ぶ。
図書館、計算機センターと並んで教育センター (Didactic center) があるが、あまり活動していない。
<教育体制>
・一般
) 単位制度は採って
教育課程は preliminary studies と major studies に区分される。(日本の大学の昔の教養部制に近い。
おらず, preliminary studies 及び major sutdies の試験 (PSE、MSE) がそれに代わる。公式の修業期間は Major Studies
Examination を含め 9 セメスターであるが、平均の修業期間は工学系で 12 − 14 セメスターである。最初の 2 年 (preliminary
studies) は数学中心の一般、基礎教育で、担当は主に理学部。高校教育の不足を補う面も強い。企業実習が必修。行った
先の企業に就職することもよくある。
・ 企業実習
企業実習は diploma 論文の前に終わっていなければならない。外国でもでき、軍務の仕事もカウントされる。新入生は
最低 8 週間が終わっていること。PSE の終りまでに最低 11 週間を終わっていること。
・プロジェクト
専門学習の開始が認められた段階でプロジェクトに取りかかれる。
専門学習の中で、10 セメ週アワーのプロジェクトを 2 つ修了することが必要。
他学部、企業、外国の大学などでプロジェクトを実施してよい。
・Diploma 論文
専門学習の一部として要求される。diploma 論文 (もしくは 2 つのプロジェクトの 1 つ) は、設計と実験を含むもので
なくてはならない。論文は指導教授に送られて評価を受ける。
<教育評価>
組織的な教育評価は行なわれておらず、当面実施する計画は無いようである。ABET について Weber 氏は関心があった
が、昼食を共にした Hoeldorich 教授は全く関心を示さなかった。
[3] デルフト工科大学 TU Delft
1998 年 1 月 8 日訪問
応対者:Dr. N. de Voogd, President
Mrs. M. Y. M. Spiekerman-Middelplaats, Senior Policy Advisor on Internationalisation
Dr. K. W. Maring, Office for Education, Research and Student
Ir. N. W. Graafland, Coodinator Education Policy
Drs. J. P. Dotman, MS International Program
1. 概要
・オランダの教育システム
オランダには 14 の大学があり、ほとんどは国立である。うち 3 大学が技術系大学 (工科系 2、農学系 1) である。オラ
ンダの教育システムは多様であるが、大学へのコースとしては 8 年間の初等教育 (4ー 12 才)、6 年間の大学前教育 (preuniversityeducation, VWO)、4 年 (普通大学) または 5 年 (工科大学) の大学教育と大学院 (Post-graduate programmes and
doctorate) となっている。VWO の最後に最終試験があり、これを通れば、自分の希望するどの大学でも行ける。大学側
は選抜できない。
・TU delft の管理運営組織
運営を担う理事会の構成は、学長、レクターと教授一人の計 3 人。それを補佐する諮問機関 (シンクタンク) としてス
タッフがある。決定機関としては 30 人のメンバーからなる大学評議会 (university council)。13 学部において 15 コース
(学部によっては 2 つのコースを持つ)。全体として 80 の department がある。通常は最低 5 年で卒業し the degree of engineer
を取得するが、これは米国の修士に対応していると考えている。修士論文の期間は 9ヶ月。一部の学部では 6ヶ月。
2. 教育体制
1 年間 5 期制を採っている。1 期は 8 週間。講義は 6 週間で、最後の 1 週間を試験期間、その直前の週は試験準備期間
に当てる。1 単位は 40hoursweek として、平均的な学生は年間 42 単位を取得する。
大学で最終責任をもつ一人のカリキュラムディレクターを置いているが、各学部ごとにカリキュラムが組まれており、
前半の基礎教育と後半の専門教育からなる。基礎教育の部分はほとんど必修科目である。基礎教育の期間は 1 − 3 年と学
スイス・ドイツ 53
部によって異なるが、2 年半の学部が多い。ここでは一般に数学、物理を主体として、専門の入門的な科目がおかれてい
る。
1 年次はオリエンテーションと実質的な選抜のための期間として機能している。1 年次の終りに the first year examination
があり、全員これを受けねば ならない。試験は最低年に 2 回受けられ, the first year examination を落としても 2 年次に
進めるが、ここで新入生の 30%が落第する。
主に教育だけに携わる教官がおり、14 ∼ 16 時間/ 週の授業をもつ。特にサービスの要求の多い数学について多い。
3. 教育評価
・学生による授業評価
アンケートを学生に記入してもらうやり方。まとめて学内でデータ処理する。
2 年前に始まったばかりで、まだ制度として完全ではなく、30 ∼ 40%の授業で実施。学生は真剣に対応している。
・外部評価
オランダには評価機関が設立されている。5 年ごとに評価委員会が大学を訪問し、調査をすると共に、教授、学生と意
見を交わす。学部は、委員会の訪問に先だって、その教育プログラムの自己評価を行う。評価委員会は、教育のレベルと
質、プログラムの中身、プロセスについて評価したレポートを公表する。それに基づき、レポートで触れた問題点をどの
ように改善するかを学部と話し合う。2 年後教育省の検査官が訪問し、委員会の勧告が実施されているかを見る。その後
毎年検査官は訪問する。
評価の基準は政府が決めるのでなく、企業が技術者へ求める資質、能力をもとに決まる。学部の自己評価作業を援助す
るため、教育レビュー委員会を大学内に作った。そこのアドバイザーが参加して学部の改革プランを作る。
・国際評価
卒業生がインターナショナルな会社で働く上での必要性から、数年前から ABET による評価を導入し、2 つの学部で実
行した。(宇宙工学と電気工学) ECTS (European Community Course Credit Transfer System) ; EC 内で大学ごとのカリキュラ
ムを比較した単位互換制度もある。
資 料
1.“The National Systems of Higher Engineering Education in Europe”, N. Giot and P. H. Grosjean eds., Edizioni ETS, Pisa (1995).
2. JahresBericht 1996, ETH
3. The Swiss Federal Institute of Technology in Profile, ETH
4. Facts and Fiogures, RWTH.
5.“TH Aachen-Eine Stadt und ihre Hocoschule”, E. Corr und W. Richiter, Verlag J. A. Mayer, Aachen.
6. Introducing Delft University of Techonology, TU delft 7. ECTS (European Community Course Credit Transfer System) Electrical
Engineering, TU Delft.
54 工学における教育プログラムの海外調査報告
スイス・イギリス
日 時:1998年1月5日∼1月9日
訪問先:スイス連邦工科大学チューリッヒ校
(スイス)
ミュンヘン工科大学 (Technische Universitat Munchen) (ドイツ)
UCL (University College London)
(イギリス)
訪問者:宮城光信教授 (東北大学工学部教務委員長)
新妻弘明教授 (東北大学大学院工学研究科
学部・大学院制度委員会教務検討WG委員長)
吉野 博教授 (東北大学工学部教務副委員長)
55
[1] スイス連邦工科大学チューリッヒ校
1998 年 1 月 5 日訪問
応対者:Prof. Konrad Osterwalder, the Rector of ETH Zurich
Dr. Rolf Guggenbuhl, Director of Public and External Relations Office ETHZ
Dr. Laurent Badoux, Public and External Relations Office ETHZ
Dr. Christoph Niedermann, Rector's Office
Prof. Walter Schaufelberger, Former Prorector for diploma studies ETH Zurich
1. 概要
スイス連邦工科大学 (The Federal Institute of Technology : ETH (Eidgenossesche Technische Hochshule)) は、1854 年にスイ
ス連邦政府によって工芸大学 (A polytechnic university) として設立され、1985 年にチューリッヒに初めて開設された。同
じ年に、ローザンヌ大学工芸学校 (The Polytechnic School of theUniversity of Lausanne) が、連邦政府の所管の下に置かれ、
スイス連邦工科大学ローザンヌ校 (The Federal Institute of Technology, Lausanne : EPFL (The Ecole Polytechnique Federale
Lausanne)) となった。
スイス連邦の関連する工科系 (FIT: Federal Institute of Technology) の施設は、学生を持つチューリッヒ校とローザンヌ校、
並びに 4 つの研究所である。
ETH Zurich の目的は、最も質の高い教育と研究を施すことによって、高度な工学と自然科学に関するスイスの国際的な
名声を確立することにある。
なお、スイスには 10 の大学があり、約 90,000 人 (9%) が卒業する。専門学校 (Polytechnics) の卒業生は約 40,000 人であ
る。
2. 大学全体の構成学生数は 11,300 人 (女子 20%、留学生 17%)、教授・助教授数は 300 人、講師の数 750 人である。教師
と学生の比率は 1 : 34.3 である。36,900 人の教職員が雇用されている。大学の構成は図 1 に示すとおりである。Divisions
は教育分野 (19 部門) で学生が所属する。Departments は研究分野 (19 部門) である。教授は Department に所属する。1980
年頃から二つに分かれたが、両方の関係はマトリックス的であり、研究と教育は分ける必要はないということで、3 ∼ 4
年後には再編成される見通しである。大学院はない。
学生数の内訳は表 1 の通りである。
3. スイスの大学入学までの教育制度
High School
University
Elementary School
Secondary School
Apprenticeship
Politechnic
12 歳
約 14 歳
約 19 歳
Elementary School (6 歳で入学 6 年間) を卒業後、High School (6 年間) に進学する。その後、州の資格試験に合格すれ
ば、大学に入学できる。
2. 入学制度
(1) 入学定員
定員はない。年度によって増減がある。1996 年の入学者数の合計は 1,945 人である。
(2) 志願方法教務課 (The Provost's office) が責任を持つ。志願者は教務課に願書を提出する。
(3) 試験方法 (共通テスト、個別テスト、推薦、面接)
入学試験は無い。但し、大学に入学するためには High School を卒業しており、州の試験 (State examination) を合格して
いるか、それに相当する資格のあることが原則として必要である。
(4) 留学生のための入学システム学生の所属する大学の中間試験又は卒業試験をパスしており、必要な単位を取得してい
ることが条件である。また、大学からの推薦状も必要である。
(5) アドミッションオフィス:州の試験をパスしておらず、それに相当する資格もないが、入学を希望する学生の選考や、
留学を志願する学生の選考を行う。
(6) 留学生の受け入れ:ドイツでは入学定員があるため、ドイツからの留学生が多い。
3. 教育システム
56 工学における教育プログラムの海外調査報告
(1) カリキュラム:セメスター制であり、8 ないし 9 セメスターを履修して卒業する。1 年次から専門の教育が行われる。
1,2 年次の 4 つのセメスターでは、専門基礎科目 (Basic core subjects)、3,4 年次の 4 つのセメスターでは、専門高等科目
と選択科目 (A mix ofadvanced core subjects and elective)、5 年次の 1 セメスターでは卒業研究と卒業論文 (One diploma
project, the diploma thesis) が科せられる。
教養科目も各年次に含まれるが、学部によって大幅に異なる。単位制ではない。必要な科目を取り、卒業研究を行い卒
業試験に合格することが条件である。建築学科のカリキュラムを例として表 2 に示す。
また、新入学生のレベルが異なるので、補修のための特別のコースがある。
講義は 45 分が 1 コマであり、全講義のうち半分は 2 コマ連続で行われる。その場合、途中で必ず 15 分の休み時間があ
る。
(2) インターンシップ:入学 2 年後にインターンシップがある。長さは学部によって異なり、13 週から 1 年間。電気学科
は 18 週、建築学科は 1 年間である。
(3) 進学のためのバリア、試験進学試験が 2 セメ後、4 セメ後にある。2 セメ後の Pre-diploma の試験では 30%が落ちる。1
度だけ再挑戦が可能である。
(4) ドロップアウトのためのシステム (転学、就職、その他):
他の学科、大学に移る場合が多い。就職もある。
(5) 転入学システム落第したときには転学も可能性の一つ。比較的自由に行われている様子である。
(6) 1 単位の評価:基準とワーク単位制ではない。必要な教科目を履修する。
(7) 勉学を encourage するためのシステムコンペティションがある。例えば、創造性を養うために、竹で橋 (Civil engineering)、
ロボット、Hand-drive chair を作成させてコンペを行う。
(8) 英語教育:スイスは多言語国家のため、母国語として独、仏、伊語のうち 2ヶ国語を話す人が多い。但し、ETH の学
士はほぼ全員が、実用上困らない程度に英語を話すことができる。若いうちから会話を中心にした語学教育を受けてい
ること、CNN や MTV といったアメリカのテレビ番組が比較的簡単に見られること、多くの学生が英国に数ヶ月語学研
修に行ったり、長期海外旅行をしたりすること、などがその理由であろう。(日本からの留学生のメモ)
6. 卒業要件
(1) 卒業年限のしばり:特にしばりはないが、一度の再試験が認められているだけなので、自ずと年限は限られる。
(2) 卒業試験ある。卒業試験は 1996 General Examination Regulationが適用される。また、建築学科、農学科は新しいカリ
キュラムと試験を実施している。入学者の約 70%が卒業する。電気系では 170 人入学して 100 人卒業する。
7. 学位と技術者資格
(1) 学位の種類学士号 (Diploma) と博士号 (Doctorate) の二つがある。修士号はないが、Diploma は米国の Master of Science
と同等である。
(2) 技術者資格と学位の関係:Postgraduate study programmes が大学卒業後の勉学のために設けられている。その学生を Postdiploma student と呼び、博士号の取得を目指すのではなくて、高校の先生、高度の技術者などになるためのものである。
600 時間 (1 時間は 45 分) と論文 (Postgraduate thesisが義務づけられ、1 年又 2 年で履修する。Secondary-school teaching
certificatesやPostgraduate diploma certificatesの資格が与えられる。
これとは別に、Postgraduate courses がある。約 200 時間の講義と専門的な活動の参加が義務づけられ、Postgraduate course
certificate が与えられる。
8. 授業評価授業評価は 3 から 4 年前から開始した。授業終了 3 週間前に実施した後、学生と議論する。あくまでも教授
法の上達のためで、昇進には無関係である。
評価のモデルが提案されており、学部のそれぞれの特殊性を考慮して、自己評価、レビュー、学生の授業評価、卒業生や
職員の意見、講義目標の達成度、同様の大学との比較などを含む。このモデルが海外の著名大学と比較しながら運用され
る。
また、教授法を教えるための Didactic Center (5 人) がある。このセンターは、TheCentre for Further Education と合同で NET
(Network for EducationTechnology) を開始した。これは、教育、訓練、生涯教育における新しい手法について開発するこ
とを目的としている。
9. ティーチングアシスタント:ティーチングアシスタントは Postgraduate student が行う。教授当たり 7 ∼ 8 人である。
給料は企業と同じ程度である。
10. その他
(1) リエゾンオフィス:ないが、それに相当するものとして Transfer Office があり、企業を紹介する。研究費は ETH と
Federal Agencies (DOE のような組織) からもらう。企業から委託研究費が直接入ることはない。但し共同研究の場合、
企業からの研究者の研究費は企業が賄う。
(2) 奨学金制度ある。詳細は不明。
(3) ミリタリーサービス:一生のうち、300 日が義務づけられている。 軍隊への奉仕は、第 1 回目のみ 15 週間 (通常 20
才の時)、その後は 2 つの選択があって、一つは毎年 2 週間、もう一つは 2 年毎に 3 週間。最初の 15 週間はほとんどの
人が大学入学前に済ますが、後は学期間の休みなどを利用したりする。また大学の先生も、学期中にミリタリーサービ
スを行う学生に対して多少考慮する方もいるが、通常はあまり温情的ではなく、学生がその前後で頑張って穴埋めをし
スイス・イギリス 57
なければならない。
参考資料
(1) 紹介パンフレット
(2) Figures 96
(3) The Swiss Federal Insti tute of Technology in Profile
(4) Abteil ung fur El ektrotechnik
(5) Annual Report 1996
(6) Mit der ETHZuri ch in die Zukunft
Executive Board
President
Secretary-General
Vice-president
for Research
Rector
Vice-president
for Planning
Administrative
Director
Planning Office
Staff of the Rector
Staff Research and
Industrial Liaisons
Staff of the President
Strategic Controlling
Office of the
Rector
Public and Exterior
Relations Office
Office for Buildings and
Room Coordination
Personnel Office
Pro-rector for
Degree Studies
Financial Department
Pro-rector for
Further Education
Operations
Management
Pro-rector for
Doctoral Studies
Security and
Environmental
Protection
Centro
Stefano Franscini
Swiss Center for
Scientific Computing
19 Academic
Departments
19 Research
Departments
図1. Organisational Structure of the ETH Zurich
58 工学における教育プログラムの海外調査報告
ETH
Library
Computing Services
表 1. Student Numbers of According to Category
(Ⅰ = diploma, Ⅱ = Post-diploma, Ⅲ = Graduate students )
Ⅰ
Ⅱ
90
96
Architecture, Civil Engineering and Geodetic Sciences
1537
1561
Architecture
512
507
Civil Engineering
336
443
Rural Eng. and Geodetic Sc.
2385
2511
Total
Engineering Sciences
Mechanical and Process Eng.
Electrical Engineering
Computer Science
Materials
Industr. Manag. and Manuf.
Total
Ⅲ
90
96
90
96
0
23
17
40
71
8
11
90
37
59
29
125
44
53
40
137
698
1175
876
132
140
3021
653
783
585
145
216
23B2
42
67
0
0
78
187
3
31
0
0
110
144
135
152
61
31
21
400
166
176
77
75
65
559
694
304
486
1532
832
2
582
1718
2
0
2
6
18
303
0
18
249
338
317
869
245
System-oriented Natural Sciences
Earth Sciences
Environmental Sciences
Pharmacy
Agriculture and Food Science
Forest Sciences
Total
159
425
445
657
198
1884
221
569
344
544
271
1949
1
0
0
20
0
21
0
0
0
16
0
16
123
74
46
170
23
436
113
192
97
179
35
616
Other Sciences and Sport
Humanities and Social Sc.
Military Science
Physical Education Science
Total
0
(105)
260
260
0
90
557
647
23
0
0
23
22
0
0
22
0
0
0
0
0
0
0
0
Total
9082
9207
277
290
1830
2194
Natural Sciences and Mathematics
Mathematics and Physics
Chemistry
Biology
Total
352
299
882
スイス・イギリス
スイス・イギリス 59
表2. Structures of the Curriculums for Department of Architecture
1コース
(Design)
1年次
2コース
(Technology)
3コース
(Humanities)
1コース
(Design)
2年次
2コース
(Technology)
3コース
(Humanities)
3年次
4年次
1)
2)
3)
4)
5)
6)
1)
2)
3)
4)
1)
Architectural Design Ⅰ&Ⅱ
Architectural Technology Ⅰ&Ⅱ
Visual Design Ⅰ&Ⅱ
perspective Ⅰ&Ⅱ
Architecture Ⅰ&Ⅱ
Architectural Technology Ⅰ&Ⅱ
Building Structures Ⅰ&Ⅱ
Fundamentals in Human Ecology
Building Technology Ⅰ&Ⅱ
CAAD Ⅰ&Ⅱ
A History of Architecture and the Humanities during the
19th and 20th Century Ⅰ&Ⅱ
2) Sociology Ⅰ&Ⅱ
3) Mathematics Ⅰ&Ⅱ
4) Introduction to Historic Preservation
1) Architectural Design and Technology Ⅲ&Ⅳ
2) Visual Design Ⅲ&Ⅳ
3) Architecture Ⅲ&Ⅳ
4) Architectural Technology Ⅲ&Ⅳ
1) Building Structures Ⅲ&Ⅳ
2) Building Services Ⅰ&Ⅱ
3) Building Technology Ⅲ&Ⅳ
4) CAAD Ⅲ&Ⅳ
1) History of Art and Architecture Ⅰ&Ⅱ
2) Economics Ⅰ&Ⅱ
3) History of Urbanism Ⅰ&Ⅱ
1) Architectural Design Ⅴ&Ⅵ
2) Architecture Ⅴ&Ⅵ
3) Architectural Technology Ⅴ&Ⅵ
4) Theory of Architecture Ⅰ&Ⅱ
5) History of Art and Architecture Ⅲ&Ⅳ
6) History of Urbanism Ⅲ&Ⅳ
7) Theory of Urban Design and Planning Ⅰ&Ⅱ
1) Architectural Design Ⅶ&Ⅷ
2) Architecture Ⅶ:Landscape Architecture
60 工学における教育プログラムの海外調査報告
3) Architecture Ⅷ
4) Building Management Ⅰ&Ⅱ
5) Law (Introduction)
4年次
6) Law (Introduction to Building Law)
7) Building Law
8) History of Art and Architecture Ⅲ&Ⅳ
9) Theory of Architecture Ⅲ&Ⅳ
1) Theory of Design
2) Design Principles
3) Housing
4) CAAD Mathematical Fundamentals
5) CAAD Mathematical projects
6) CAAD Computer aided Architectural Design Strategies and
Techniques
a) Architecture,
Design
7) CAAD Programme Development
8) CAAD Applications
9) New Buildings in Historic Context
10) Perception and Description of Space by Video
11) Building in Developing Countries
12) Seminar on Architectural Criticism
13) Rhetoric for Architects
1) Design with Emphasis on Construction
Electives
2) Design and Construction in Interior Architecture
3) Industrialized Building/Wood Construction
4) Plates and Shells
5) Prestressed Concrete
6) Special Problems in Building Physics
b) Construction,
7) Building Materials Ⅱ:Wood, Synthetics, Metal
Building
8) Building Failures, Analysis and Prevention
Technology
9) Building Structure
10) Construction Management
11) Construction Process in Practice
12) Architectural Acoustics
13) Exercises in Building Management
14) Technology of Old Buildings
c) Planning,
1) Exercises in Landscape Architecture
Environmental
2) Ecology:Case Studies
Design
スイス・イギリス
スイス・イギリス 61
c) Planning,
Environmental
Design
Electives
d) History
e) Sociology,
Economy
3) Solar Energy Use in Buildings
4) City Form and Urban Habitat
5) Planning Law (Lecture)
6) Planning Law (Colloquy)
7) Seminar on Planning and Urban Design
8) Urban Economics:Location, Land-use, and Land Values
1) The Role of Construction in Modern Architecture
2) Special Inquiries into the History of Urbanism
3) Special Topics in the History of Art
4) Historic Preservation
5) Traditional Forms of Building - The Third World
6) Women in the History of Building
7) The History of Building Technologies in Case Studies
1) Sociology Ⅲ&Ⅳ
2) Building Economics
3) Exercises in Economics
f) Subjects from
1) Subjects from Department XII
Department XII
1) Building Course
Seminar Week
2) CAAD Principles of Computer Aided Architectural Design
Other course
1) Annual Exhibition of Students' Works
Series of
offerings
Lectures of the 2) Civil Law (French)
Department of
3) Public Law (French)
Architecture
62 工学における教育プログラムの海外調査報告
[2] Technische Universitat Munchen(ミュンヘン工科大学)
1998 年 1 月 7 日訪問
応対者 : M. A. Christoph Steber (Intenationale Beziehungen EU-Referat)
Prof. Gunther Ruske (Lehrstuhl fur Mensch-Machine-Kommunikation)
Dr. Johannes Muller (
)
〃
1. 概要と大学の構成ミュンヘン工科大学の創設は 1823 年にさかのぼるが、1877 年に「Technische Hochshule Muenchen」
となり、1970 年に現在の大学である「Technische Universitaet Muenchen」となった。ドイツでは神学大学などのほんの一
部の大学を除き国立 (州立) 大学である。大学生には授業料は課せられてはいない。
ミュンヘン工科大学の構成は、学長 1 名、副学長 2 名、70 名から構成される Assembly (評議会)、26 名から構成される
Senate (うち学生代表 2 名) の下に、12 学部と 4 研究所、その他の施設からなる。全職員は 9315 人 (教授 243 人、準教授
193 人、その他のアカデミック職員 3191 人、非アカデミック職員 5688 人) で、工科大学ではあるが、医学部、農学部の
他 Brewing、 Food Technology and Dairy Science 学部などユニークな学部をも含んでいる。非アカデミック職員が多いのは
医学部などもあるためである。
全学生数は post-diploma を含み、20,866 名である。工学部という学部はなく、それに相当するものとしては、建築学部、
土木工学部、機械学部、電気情報工学部等である。これらの学部は組織上は、医学部、経済学部等と対等な地位に置かれ
ている。大学院制度はなく、博士をとるためには、大学で研究を行ない、全て有給となっている。
工学部に関連すると思われる学部の学生数は以下の通りである。
Chemistry, Biology and Earth Sciences-------------- 979
Civil Engineering and Surveying------------------- 2227
Architecture-------------------------------------- 1383
Mechanical Engineering---------------------------- 2763
Electrical Engineering and Information Technology--2295
Informatics--------------------------------------- 1543
2. 学校教育制度と入学試験:連邦制をとるドイツに於いては、教育については 11 の各州が大きな権限を持っている。ド
イツの教育制度は日本の教育制度に比較し、はるかに複雑で、且つ多様性に富んでいる。簡単に纏めると以下の通りであ
る。
6 − 10 歳 Grundschule (4 年制基礎学校)
11 歳以上 Gymnasium (9 年制高等中学校)
Realschule (6 年制実科学校)
Hauptschule (5 年制基幹学校)
Gesamtschule (総合制学校)
なお、このうち、義務教育の年限は 9 年である。Realschule から Gymnasium への道もあるが、その一方で、Gymnasium で
学力の下降が著しい生徒は Realschule 等への変更も余儀なくされる。
大学の入学に当たっては、Gymnasium の修了試験 (Abitur と呼ばれ、大学入学試験を兼ねている) の合格者は原則とし
て、希望する大学、学部に入学する事が出来る。
筆記試験 (3 科目) 及び口述試験 (1 科目) からなるこの試験と、Gymnasium 上級学年で履修した科目成績の総合判定で合
格者が決定される。なお、その他にも大学入学の道が開かれている。なお、Abitur 試験の受験者は 18 歳人口の約 35%、1
年間に military service の後、大学へ進学するの割合はその 45 − 50%程度とのことである。ドイツに於いては、大学間に
は Official ranking はない。
3. 進級と卒業:学部にははっきりとした入学定員という概念はない。試験で資格を得たものが進級出来るという制度に
なっている。 学部にもよるが、1 つのコース (科目) 試験に合格しない場合、その試験に挑戦できるのは 3 回である。2
年次修了は一つの区切りであり、例えば、一つの例として、Electrical Engineering and InformationTechnology 学部の場合、
大学の 3 年次には、入学者の 50%が進級するのみである。
ドロップアウトした場合には他の学部、大学に移る場合が多いが、他大学の同じ学部に行くというのはあまりない。企業
に就職する場合もある。その意味で、転学、編入学は比較的、簡単に受け入れられ、実行されている。
2 年次修了者は pre-diploma と呼ばれる。電気情報学部では、4 年では進級者の 90%が卒業する。4 年次修了後、半年程
度で Diploma-thesis を書き、Diploma の資格が与えられる。なお、セメスター制を採用しているが、卒業に要する最短年
は学部によって異なり、8 − 10 セメスターである。卒業年限のしばりはない。
スイス・イギリス 63
1 年次から専門の教育が行われ、教養科目の数は多くはない。授業はコース制で、単位制をとってはいない。
4. インターンシップ:
「practical training」といい、必修になっている学部が多い。例えば、建築学部では、3―12 ケ月間、
コースの前、あるいは期間中にあり、Electrical Engineering and Information Technology 学部では、6 ケ月間が必要である。
Informatics 学部ではない。なお、practical training は当然のこととして定着し、これに伴う困難さについては、指摘はされ
ていない。
5. 学位の種類:学部を卒業したものには Diploma (学士) と、学部によっては、Magister (2 つのコースの修了者) が与え
られる。卒業後、指導教官のもとで研究を実施する事により、Doctor of Engineering (博士) を得ることが出来る。ドイツ
に於いては、大学で取得した Diploma の学位の評価は高く、Fachhochschule (単科短期大学) の与える Diploma とは区別
されている。米国の修士と同等と見なされているている。しかしながら、ドイツも国際化の波により、Electrical Engineering
and Information Technology 学部では、今年度から、Bachelor 及び Master の学位も出し始めている。
大学院制度はない故、博士の学位を得るためには、一般には大学に残って研究を行い、3 − 5 年で博士号を取得する。
有給であり、大学あるいは企業から給料が与えられる。大学から給料を貰う場合には、TA などの義務がある。金額的に
は、Diploma を得て企業に就職する場合と同程度であるとのことである。Diploma から博士号を取得しようとする学生の
割合は学部によって大きく異なり、例えば電気情報学部では 10%程度、建築学部ではその割合は非常に小さい。
6. 技術者資格:大学卒業者については、Diploma-Ing. が与えられる。 更に、勉学のためにコースが設けられている。高
校の先生の資格、2 つめの Diploma などの資格を得るためのものである。
7. 授業評価:授業評価は 1 年前から開始している。学部の 1 人の教授が責任を持っている。あくまでも教授法の上達の
ためで、昇進等には無関係である。積極的であるとの感触は掴めない。
8. ティーチングアシスタント:ティーチングアシスタントは Diploma をとり、更に教員免許等の資格を得るために勉強
している学生、博士号取得を目指している学生が行っている。
9. その他
(1) アクレディテーションシステム:この制度はまだない。
(2) Industrial Liaison Office:組織としてもっているが、中小企業向けで、Siemensなどの大きな企業は直接、研究者と接触
したり、大きな施設を大学に寄付している。Liaison office には専属の教授は居らず、他の部局に所属している。大学
での研究の中身を良く知らせるという機能を持つ。
(3) Admission Office :組織としてはある。入学試験が実質上ないため、留学生などの特別な入学者に対応している。
(4) 学資:授業料は無料である。しかしパートタイムジョブをしている学生は多い。
(5) 留学生問題:留学生の数を増やすことを希望している。月の第 1 週と第 3 週の月曜日の夜、留学生とドイツ人学生の
informal get-together を持っている。
参考資料 (1) Technische Univeritaet Muenchen (2) Studying at the Technische Universitaet Muenchen (3)
Studying in Germany
Degree Courses (4)
[3] UCL (University College London)
1998 年 1 月 9 日訪問
対応者:Prof. P. G. Meredith (Department of Geological Sciences)
Prof. F. W. Bullock, Vice-Provost (Physics)
Prof. P. Treleaven, Pro-Provost
1. UCL の概要 UCL は 1826 年にロンドン大学として創立された。その後、1870 年に 12 のカレッジといくつかのインス
チチュートからなるロンドン大学が成立し、UCL はその一部となった。現在、ロンドン大学はカレッジ数 19、インスチ
チュート数 4、その他 15 からなっている。インペリアルカレッジもその中の一つである。
2. UCL の構成 UCL は 8 つの学部と 3 つの研究所からなっており、学生数は学部約 1 万人 (うち工学部学生
学年) 、大学院・その他が約 4000 人 (うち工学研究科 約 250 人/ 学年) である。
64 工学における教育プログラムの海外調査報告
約 1450 人/
3. イギリスの大学入学までの教育制度
primary school
3
6
secondary school
10
advanced level
1st level exam
16
university
A level exam
18
primary school (5 歳で入学、5 年間) を卒業後 secondary school に進学。最初の 6 年間は義務教育。その後 1st level exam.
(9 ∼ 12 科目) に合格すれば advanced level (2 年間) に進学。その後 A level exam. (大学進学のための共通テスト) を受験。
4. イギリスの大学入試制度と UCL の入試体制筆頭試験 ( A level exam.) は UCAS (Universities and Colleges AdmissionService)
が実施。 3 科目を自由選択。A ∼ F まで評価 (F は不合格)。3A ならだいたいどこの大学にも行ける。次の年、科目毎に
受けなおすことも可能。 科目数が 3 つだけであることにイギリスでは多くの議論があるようである。なぜなら、大学で
は一般教養科目に相当する科目がほとんどなく、また secondary school の advancedlevel でも学生は自分の目指した専門に
関する科目以外の科目を履修することはほとんどないからである。
A level exam. は advanced level が終了する直前の 5 月末頃実施され、8 月中旬に結果がわかる。これに先立ち前年の 11 月
末から 2 月末にかけて学生の大学訪問やオープンキャンパス、各大学での面接が実施される。このとき各大学は学生数確
保のめどを立てるが、試験結果がでる前なので GCSE の結果や在学中の成績、これまでの辞退率等を参考にして予測をし
ているようである。各大学では入学者の A level exam の結果の統計をとっており、これに基づき各学科の必要最低レベル
を決めたり、合格最低ラインを予測したりしている。A level exam. の結果は、大学は学生の 2 日前に知ることができる。
これに基づき、各大学は入学の最終決定のための志望確認や面接を行う。
このように試験自体は UCAS が行うが、学生の確保に関する作業は各大学が行う。
UCL では Faculty に sub dean と secretary からなる admission office があるが、そこは志願者の交通整理程度の機能しか持っ
ておらず、面接や合格者の決定等は全て department が行っている。
UCL には特に優秀な学生を 2 年生として入学させる制度があるが、その数は極めて少ない。
5. UCL の教育システム
(1) イギリスにおける学位の種類イギリスの学位は複雑で理工系では次のようなものがある。
BSC : 通常の学部卒業生で大学入学後 3 年で取得できる。最後に研究のレポートがある。MSCi : 最近産業界からの要望
でつくられた学位で日本やアメリカの学士のように 4 年で取得する。(名称が修士 (MSC) とまぎらわしいが、これは undergraduate コースによる学位である。) 研究のレポートあり。
MSC : 大学院入学後 1 年間のスクーリング、プラス 3 カ月の研究により与えられる。
100 頁程度の修士論文を書く。
Diploma : 大学院課程でスクーリングのみで修了した学生に与えられる。あまり数は多くない。
MPhil : Ph. D 取得を目標においた学位で、多くの大学院学生はこれを取得する。
Ph. D : 大学院学生に対する予算は 3 年間であるが、通常 BSC の入学者は 4 年間、MSCi の入学者は 3 年間で取得する。
上限 10000 word の学位論文を仕上げる。スクーリングは無い。学位取得年齢は 26 ∼ 27 歳で、大学院入学学生の 50%が
取得する。
このほか、ケンブリッジやオックスフォードでは学部卒は BA、 博士は D. Phil というなど、名称は大学によって多少異
なる。イギリスの大学の歴史は古く、社会体制とは独立して個々に運営してきたためその教育制度は多様である。
(2) 学部の教育システムスタッフ (教官)
Professor, Reader, Senior Lecturer, Lecturer (Senior Lecturer は Reader とほぼ同格で主に教育に携わってきた教官)
教育システム* コースユニット制をとっており、1 年は 3 学期からなっている。
* 1 年間で 4 コースユニットを取得することが規定されている。これは通常 8 ハーフユニットコースからなっている。ハー
フユニットコースは毎週 1 時間 2 回の講義+毎週 3 時間の演習・実習+レポート・自習等、計 10 時間/ 週で 1 学期間である。
* これらの科目はほとんどが専門科目であり、一般教養科目は 1 ∼ 2 コース開講されている程度で極めて少なく必修では
ない。
* 合格判定は出席、1 回以上の試験、コースワーク、調査、発表等から総合的に判断され 35 点の合格点に達しなければ再
試験を 2 回まで受けることができる。
* 1 年ごとに進学のチェックポイントがあり 6 ハーフユニットを取得していなければ進学できない。最大限再試験を受け
ても 6 ハーフユニットを取得できなければ退学となるが、その数はわずかであり、実質的には入学学生のほとんどが卒業
している。
* 2 年の最後に BSC のコースか MSCi のコースかを決定する。
スイス・イギリス 65
チュータ制度:イギリスの大学の特徴ある制度としてチュータ制度がある。UCL では全ての常勤教官が personal tutor と
して 1 学年あたり 3 ∼ 4 人の学生を受持ち毎週 1 回 1 時間程度指導する。内容は、小論文の書き方、演習、文献調査のし
かた、科学雑誌を読んだうえでの討論、ディベート、履歴書の作成法、ワープロの演習、手書きの演習、等を行い、成績
をつけて学科に提出する。学科には undergraduate tutor がおり、これらの成績をまとめるとともに、学生の履修上の相談
(time table crush 等) にのる。
undergraduate tutor には senior lecturer がなることが多い。
ケンブリッジやオックスフォードの場合この制度はさらに充実しており、学生 1 人に 1 人のチュータがついているようで
ある。
授業評価:UCL ではすべてのコースで授業評価を実施している。最後の講義のときに実施され、きまったフォーマット
がある。結果は Faculty Office でまとめられ、教官の間で完全公開される。目的は教育の改善であるが、昇進の際のバッ
クアップ資料としても用いられる。一方、評価が極端に悪い場合その講義をとりやめた例はあるが、終身雇用のせいもあ
り一般に懲罰には用いられていないようである。
ファカルティ・ディベロップメント:UCL には CPD (Continuing Profession Development) という制度があり、3 年目の教
官を対象にして講義の上手な教官 (学科長が指名) が講義を実際に聴講して、それに基づきアドバイスをしている。
大学評価:イギリスには以前からの大学 (60 ∼ 70 校) に加え、最近 Polytechnic が大学となったため、全体で 120 ∼ 130
の大学がある。大学進学率はこれによって 35%程度となっている。4 年前から政府によりこれらの大学の教育と研究に関
して評価が順次組織的に行われている。
教育評価は Teaching Quality Assessment とよばれ、派遣された評価委員が教育の方法とレベル、試験のレベル、図書、教
育施設、情報機器環境等の項目について 5 段階評価する。評価にあたっては、講義やセミナー、スタッフミーティングに
委員が出席するとともに、学生との対話、卒業生ならびにその雇用者からの情報収集も行う。
各評価項目は最低 3 以上である必要がある。総合評価は 3 段階であり、excellent が 10 ∼ 15%、 satisfactory が 80 ∼ 85%、
unsatisfactory が 5% 程度である。各大学の教育予算はこのレベル×学生数で決定される。したがって、各大学は評価レベ
ルを上げるのに懸命である。
奨学金制度:イギリスおよび EU の学生に対してイギリス内および UCL 内で各種奨学金が用意されている。また、留学
生に対しても各種奨学金制度がある。
インターンシップ:制度化されたものはないが、学生は入学前、休み期間中、あるいは卒業後に企業で働く場合も多い。
(3) 大学院の教育制度
大学院入試
アドミッションオフィスで出願を受け付け、一定の条件を満足した学生を面接のうえ受け入れる。Ph. D/M. Phil コース
の場合、学部の成績が指定の科目について、UK first degree で first または upper second class honors を得ていること,また
はそれに相当する成績であることが規定されている。また,MSC コースの場合は firstdegree で first または second class
honors が条件である。このほか英語に関して一定の能力(例えば,TOEFL 600 + Test of Written English 5)があることが要
求されている。
一方大学院研究生や社会人の生涯教育プログラムへの入学の道も用意されている。
大学院教育:修士で終わる学生は MSC、 Ph. D 取得を目指す学生は M. Phil を,大学院入学後1年間のスクーリング
(講義受講と試験)と3カ月の研究により取得する。また,スクーリングのみで修了した学生には Diploma が与えられる
が,ほとんどの学生は M. Phil を取得する。Ph. D を取得するためには通常大学入学後7年(3+4年または4+3年)
を要する。
参考資料
(1) University College London : Undergraduate prospectus 1998/99.
(2) University College London : Graduate prospectus 1998/99.
(3) University College London : Department of geological sciences, Undergraduate handbook1997-1998.
(4) The UCL Japan monument
66 工学における教育プログラムの海外調査報告
アメリカIII
訪問先:CALTECH (California Institute of Technology) カリフォルニア工科大学<1>
USC (University of Southern California) 南カリフォルニア大学<2>
NSF (National Science Foundation) 国立科学財団<3>
UM (University of Maryland at College Park) メリーランド大学<4>
以下本報告書で、<1>はCALTECHを指すというように、略記する。
訪問者:松井 保
都倉信樹
座古 勝
宮崎文夫
(工学教育システム分科会委員、大阪大学大学院工学研究科教授)
(工学教育システム分科会委員、大阪大学大学院基礎工学研究科教授)
(大阪大学大学院工学研究科教授)
(大阪大学大学院基礎工学研究科教授)
67
要約
0.1 報告の概要
訪問で得た情報を事項ごとに整理して示す。[1.14] などとあるのは、<1>カリフォルニア工科大学の Q14 にその詳細が
あることを示す。
0.1.1 大学の概要
<1>Caltech 私立小規模研究大学
<2>USC 私立大規模研究大学
<4>メリーランド大学 州立大規模研究大学
学生の入学 [1.1~2] [1.5] [2.17] [2.21]
大学のステータス向上に非常に力をいれている。ベストの学生をとらないといけないという考え方は 3 校ともある。具
体的には、高校から PSAT (SAT に先行する試験) などの成績を教えてもらい、優秀な学生にはダイレクトメールを送っ
て勧誘する。
Web サイトなどの広報も重視。高校生の体験入学などを行う。成績優秀者は無条件で入学、足りない人は条件付き入
学とし、大学の最初のセメスタの成績で条件解除か、他へのトランスファを勧めるという方法をいれているところ (たと
えば、<4>) もある。
<1>に入学した学生の話では、いろいろ情報をえる機会があり、大学の評判や先生の助言などをもとに決めたという。
学部は定員を守るが大学院は自由としている大学もあり、あまり定員という概念がなさそう。大学院への進学の際は、む
しろ他大学へいくというのが普通という感覚で、優秀な学生はむしろ他大学へ送り出すという考え方も聞いた。
0.1.2
修業年限 [1.3~4] [2.4~5] [2.18] [2.22] [2.24] 先生によって答えが違うという感じも受けたが、4 年で学部を出るの
が普通という考えではない。勉強の厳しさもあるが、1 年を学外で (たとえば、CO-OP プログラムで企業に実務体験に
いったり、ボランティアをしたり、外国へ短期留学したり) 過ごす学生も少なくない。修士は 1 年間でコースワークのみ
というところと、修士論文を要求し、2 年かかる大学院とある。博士は論文を書いていいという試験にまず通らなければ
ならない。大体博士をとるのに、4 年から 5 年かかっている。もっと早くとることもできるが、早いからいいというもの
でもないという意見もあった。
0.1.3
1.3.4 アクレディテーション [1.16] [2.2] [2.9~10] [2.12] [3.2] [3.6~7] 米国では、NSF, ABET, ASEE の 3 者が工学教育
改革を推進している。NSF は教育改革のプログラムに対し、種々の援助を行っている。また、ABET は新しい方法を導入
しつつある。旧方式の ABET には批判も多かったし、有名大学は乗り気でなかったし、その審査は大変な手間もかかる
ので、どの先生も歓迎はしない。
ただ、ABET2000 は、従来と考え方を変えており、MIT などもこれを受けるという方向に転じるという状況であるとい
う。教育改革の方向性については、NSF でのインタビューを参照されたい。
インターンシップと CO-OP プログラム [1.15] [2.11] [2.23] [3.4] 日本ではインターンシップと言っているが、米
国では CO-OP プログラムという言葉もあり、正式な大学のプログラムはむしろ CO-OP プログラムと呼ぶということが、
NSF の説明で判明した。用語の食い違いに注意が必要と思われる。
2.3.5
新しい工学教育方式 [1.13] [2.16] [3.1~3] [4.1~2] 設計中心とか、いくつかの標語は聞いていたが、どの大学も新
しい試みをしていた。従来の工学教育は、数学、物理、化学などの基礎から入って、徐々に積み上げて、最後に卒業研究
などで、設計もしてみるという流れであったが、新しい試みは、まず、課題を与えてものづくりを体験し、その楽しさを
味わわせるというような方向に向いている。3 校の試みはそれぞれのところで記述している。こういう教育方法の改革の
研究、実施についても NSF が援助をし、数校の共同研究実践 (Coalition) が数年前から行われている。メリーランド大学
ではその一つの研究校で、1 年生から実際にものを作る体験をさせる教育を行っている。それも多人数に対応する工夫を
している。メリーランド大学では、このエクセルだけでなく、非常に多くの教育内容の改善の工夫を行っており、教育に
大きな努力をさいていることを見聞した。
3.3.6
4.3.7 カリキュラム [1.17~19] [2.26] カリキュラムも社会のニーズを捉えて、change focus している。卒業研究はない。
ただし、一部成績優秀な学生が、卒業研究的なものを選択することはできる。
1.3.8 Professional Engineer 資格・称号 [2.1]
お会いした教授のうち、3 名が名刺に、P. E. と刷り込んでおられた。いずれも土木の先生である。
0.4
資料
68 工学における教育プログラムの海外調査報告
訪問の際、入手した各種資料をリストする。いずれも大阪大学大学院基礎工学研究科宮崎教授が保管。
1. California Institute of Technology
1.1 Caltech Catalog 1997-98
1.2 Welcome to Caltech 1997-98
1.3 On Campus Jan. 1998
2. University of Southern California
2.1 "Engineering"- Bulletin
2.2 USC Trojan Family Magagine
2.3 "Our 6 favorite college cliches"、 School of Engineering
2.4 USC Catalogue 1997-98
2.5 Engineering at USC
2.6 Research and Graduate Education 1998
2.7 each "Department Catalogue" (9 Depts)
2.8 Cooperative Education at USC
2.9 The Engineering Honors Program at USC
2.10 The Minority Engineering Program at USC
2.11 Environmental Engineering at USC
2.12 Civil and Environmental Engineering - Undergraduate Programs
2.13 Building Science - A program offered by the Dept. of Civil Eng.
3. National Science Foundation
3.1 NSF Engineering (http : //www. eng. nsf. gov/)
3.2 Research Experiences for Undergraduates
3.3 Human Resource Development for Science, Mathematics and
Engineering Education and Research
3.4 Advanced Technological Education 1997
3.5 Undergraduate Education (NSF97-29)
4. The University of Maryland at College Park
4.1 Maryland Future Car 1997
4.2 Undergraduate Catalog 1997-98
4.3 Dept. of Electrical Engineering "Annual Report 1996-97"
4.4 Cross-Disciplinary M. S. Program in Telecommunications
4.5 Electrical Engineering Honors Program
4.6 Distinguished Lecturer Series
4.7 Second Annual Research Review Day 1997
4.8 Engineering at Maryland "Electrical"
4.9 Step Up to The Future
4.10 The Industrial Affiliates Program - Dept. of E. E.
4.11 Connections (Newsletter of the Dept. of E. E.)
4.12 Boeing Outstanding Educator Award
4.13"Powerhouse" (a student-team report)
4.14 CALCE (Electronic Products and Systems Center)
4.15 Engineering at Maryland
4.16 Engineering Newsflow 1997
4.17 Gemstone - Be a Part of the Solution
4.18 Professional Master of Engineering "1998-99 Catalog"
5. Princeton University
5.1 Graduate School Announcement 1997-98
5.2 Undergraduate Announcement 1997-98
6. Columbia University
6.1 University Bulletin 1997-98
アメリカ III 69
[1] カリフォルニア工科大学 California Institute of Technology CALTECH
1998.1.12 訪問
訪問地 : Pasadena, California (LA 近郊)
スケジュール 1998.1.12 (月)
[1] 10 : 00 Dr. Christopher E. Brennen, Vice President for Student Affairs
機械工学の教授で、1 月から現職になった。
[2] 11 : 00 Tour of CALTECH given by Marie Fox, Student Tour Guide
化学専攻の 2 年生の女子学生
[3] 11 : 50 Lunch with Dr. Barbara Greeen, Assocciate Dean of Students
心理学の博士号を持つ学部学生専門の職員
[4] 1 : 15 Dr. Joel Burdick, Associate Professor Mechanical Engineering
新しいデザイン中心の教育を実践している若い先生
[5] 2 : 00 Dr. Jean-Paul Revel, Dean of Students
生物学者、経験豊富な学部学生担当
[6] 2 : 45Dr. Judith Goodstein, Registrar, Student Affairs.
歴史学の学位をもつ女性。日本でいう教務に相当する仕事と大学のアー
カイブ (文書) の管理をおこなう仕事を兼務している。CALTECHの歴史
の本を執筆。
大学概要
CALTECH は 1891 年、A. G. Throop の創設した職業学校に発する。1920 年に現在の校名に変更した。Hale, Noyce,
Millican らの夢と方向付けがあって、小規模ではあるが特徴のある大学になった。現在は、約 900 名の学部生、1100 名の
大学院生、280 名の教員、284 名の研究職というサイズである。
大学ランキングで一昨年 8 位、昨年 6 位にランクされている。
6 部局からなる。Biology, Chemistry and Chemical Engineering, Engineering and Applied Science, Geological and Planetary
Sciences, the Humanities and Social Sciences, and Physics, Mathematics and Astronomy
以下、質疑の記録である。[1] などは上記スケジュールの応対者を表す。
Q1. CALTECH が上位をキープしている秘密はなにか? [1]
A1. 学部学生は 1 学年 220 人と制限しており、トップクラスの学生が入ってくる。優秀な学生はどんどん他大学の大学院
へ行かせる。これがキー。
また、教員の半数以上は外国から来ている。要は、「ベストの人間を見つけること。」
また、なんでもそろえるというのでなく、specialization をめざす。slot (講座) 制ではなく、時代とともに、change focus
を行って、もっとも大事と思われる所に力をいれてきた。大学院生の数は特に制限していないが、大きくしてもよくない。
Q2. 学部の入学 [1]
A2. admission committee が 2 人以上で応募書類を読む。高校の成績、SAT などの情報と、2、3 題の essay を利用する。応
募者向けの欄には、「応募者に、自分の興味、経験、背景等を大学へ知らせるチャンスを与える。CALTECH は各応募者
について、よく知りたいと思っており、essay は選抜で重要な部分とみなされる」と書いている。
エッセーの課題の例。What's modern Engineering Science? 約 2000 人の応募者があるという。
Q3. 学部の就業年限 [1]
A3. 70%が 4 年、15%が 5 年以上、10%が他の大学へトランスファーする。
5%ははっきりしない。ドロップアウト?
Q4. 大学院での年数 [1]
A4. 大体 Ph. D をとるのに、4 年から 4.5 年かかっている。マスターはコースワークのみで、大体 1 年。米国には 2 つの
モデルがある。1 つは、MIT モデル : コースワーク+論文で 2 年、もう 1 つは、CALTECH の様なモデルである。
Ph. D 指向の学生がほとんど。年限を短くしようと努力している。5 年以上かかるときは、理由を指導教授が説明しな
ければならない。ただ、3 年で学位取得も可能だが、あまりよくない。というのは、研究者として一人前に働き、サーバ
イブできるには、それなりの subsidiary knowledge が必要。[これは当委員会で議論した動的知識に近そう。例として、コ
]
ミュニケーション、発表の能力、研究を遂行するためのノウハウなどをあげた。
70 工学における教育プログラムの海外調査報告
Q5. 大学院の入学 [1]
A5. これも試験はない。各、デパートメントがそれぞれ実施しており、定員などはない。調整もしない。
Q6. Why CALTECH? [2]
A6. good reputation. 将来の job を考えて。いい教授陣がいる。なお、本人は将来は製薬会社に入りたいということ。
Q7. 学生生活 [2]
A7. 学費が高い。アルバイト 12$/Hr. student guide, etc.
15$/Hr. prof. の手伝い実験や、SURF (これについては、Q15 で)
80%の学生がキャンパス内でバイトをしている。
学生寮がある。いわゆる fraternity はない。寮全体が一つの家族のような感じである。
Q8. コンピュータは使えるか? [2]
A8. だれでも、いつでも、コンピュータ室へ入れるキーをもっている。
Q9. Green さんの仕事の内容 [3]
A9. カウンセリング相談の主なものをあげる。CALTECH は、大学としての教育環境は良い。問題点は、高校時代は良い
成績であったが、大学では良くないので悩む学生がいることである。例えば、高校でトップでも大学では良くないので、
プレッシャーを感じる。これは、レベルの高い大学で発生しやすい問題である。学費の問題、科目取得の問題など。
また、カンニングによる罰則など人種差別はなく、公平 fair であることを目標にやっている。
Q10. トランスファーの学生数は? [3]
A10. junior のときに、他大学から 20 数人というところ。
Q11. ダブルメージャはどの程度? [3]
A11. 15 人くらい。これは専門の組み合わせの近いものでないとしんどい。ダブルメジャーを目指して無理なカリキュラ
ムにならないように指導している。ダブルメジャーは大体 15 人程度である。またダブルメジャーでも主教科となるべく
一致しているように取得単位リストに基づき指導している。
Q12. 予算は? [3]
A12. 国からのが多い。授業料で 20%をまかなう。
[なお、1997 会計年度の予算案では、授業料 11%、寄付など 31%、 Grants & Contract が 54%、他収益事業 5%の収入と
している]
Q13. 新しい教育のこころみ [4]
A13. [Burndick 先生は Stanford での設計中心の教育法を参考に、自分で教材を考えてやっているという。その考え方と具
体的な方法についてのお話。]
担当科目は、2 年生対象だが、ときには 1 年生でも履修できる。まず、ものを設計するという経験をさせる。creativity,
design process, contest などの要素を含む。禅の公案のようなもので、課題を与え、学生に考えさせる。この方法は二つ
の目的をもつ。
1. 考えるプロセスが大事であること、
2. 通常の学習と順序を逆にすること (つまり、基礎理論を教えて、最後に設計課題をやるというのとは逆)。
例題 a (1 時間)。スパゲッティと粘着テープだけで、高さ 1m の机からどれだけ遠くまでのびる構造を作れるか?
例題 b (1 週間)。ストロー 200 本、テープ一巻きで、どれだけ重い重量を支える構造をつくれるか? たかさを h, 破壊す
る時の荷重を w として、コンテストは h (4 乗)・w (2 乗) の値の大きさで競う。
例題 c (4 週) モーター (その特性は学生に開示) の回転を変速してフライホイールに伝えるトランスミッションの設計
を競う。トランスミッションはプーリーで作り、アルミとかプラスチックスなどの素材を選べる。300rpm に達するまで
の時間 T, 最大回転数 R として、R/T を競う。マシンショップには専任のテクニシャンが 2 人いる。設計 B では、10 週で
一つのテーマをやる。20 から 30 人の少人数の学生なのでやれる。教育効果は大きいと思うが、教官側の手間は大変。
Q14. coalition は? [4]
A14. やっていない。官僚主義はいらない。
アメリカ III 71
Q15. インターンシップは? [4]
A15. インターンシップの公的な仕組みはない。しかし、co-op. プログラムはある。co-op の相手先は主に、JPL (ジェッ
ト推進研究所)。単位を出さない。[この用語の使い分けについては、NSF の項で明らかになる。]
CALTECH では、SURF という制度が行われている。これは、Summer Undergraduate Research Fellowship で、約 40%の学
生がこのために、夏休みを大学で過ごす。何年生でも応募でき、研究の手伝いをする。これで、2ヶ月働いて、大体 3300
$が学生に与えられる。最後に、学生にプレゼンもやらせており、単に手伝いというだけでなく、研究補助を通して、ト
レーニングをするという意義もある。大学は JPL と組んでこの制度を推進している。
Q16. ABET については? [4]
A16. あまりクリアに態度は決めていない。今までのはあまりにも伝統的すぎるし、自分たちのスタッフの数が少ないこ
とからも一部しか受けられない。就職には、これの認可を受けることは、useful but not necessary と思う。
Q17. 卒業研究は? [4]
A17. 卒業研究はない。ただ、graduate with distinction を目指すなら必要。[カタログには senior
]
いて、許可をえたものができるとなっている。
Dr. でもコースワークが増えている。
thesis は、単位をとって
Q18. カリキュラムについて [5]
A18. 5 年前に卒業所要単位を減らした。2 年前、バランスを変えた。数学、物理、化学を必修にしていたが、昨今の状
況を考慮して、生物を 1 学期分 (分子生物学) いれた。ほかに、天文学か地学の選択。
Q19. 人文社会科目が要求されているが、昨今話題の ethics は教えにくいのでは。
A19. 人文社会部の専門の先生が担当している。面白い講義をしている。退屈ではない。
Q20. TA について。[5]
A20. 生物学の方では、45 コースで 50 人の TA がいる。これはほとんど院生がやっている。大体 12,000$。
Q21. 教授の評価?
A21. 学生による授業評価もあるが、やっぱり研究で評価する。教育熱心になる動機は external にはない。外からのプレッ
シャはあるが。
Q22. registrar という役目はなにか?
A22. 学生の学業状況をみる。コアカリキュラムはとっているか、専門科目はとっているかなど。2 年生全員に面接した
りする。時間割を作成するなど。[要するに、教務係の仕事らしいと解釈する。この人は教務の仕事とともに、大学関係
の書類のアーカイブを担当している。歴史で学位を取っており、それらの資料も使って、CALTECH の歴史を書いた。日
本なら百年誌編纂委員会などというのを作ってやるが、それを日常的に資料を整理保管し、歴史が把握しやすくしている
専門職というところ]。
72 工学における教育プログラムの海外調査報告
[2] 南カリフォルニア大学 (Southern California University) USC
訪問日 : 平成 10 年 1 月 13 日 (火曜日)
訪問地 : Los Angeles
スケジュール 1998.1.13 (火曜日)
[1] 10 : 00 Prof. Masanobu Shinozuka, Civil Engineering
National academy of engineering 会員。
[2] Prof. Landen Carter Wellford,
Chairman Department of Civil Engineering
[3] 13 : 30 Prof. Thomas Katsuleas
Associate Dean Student Affairs Office
[4] Prof, Joseph S. Devinny
Associate Dean, Academic Affairs, Environmental Engineering
[5] Dean Leonard M. Silverman
制御理論の大家 National academy of engineering 会員
大学概要
1880 年創設、私立の研究大学として全米の 10 指に入る。76 の学部 major、122 の大学院研究分野をもつ。約 28,000 人
の学生が在籍。最近では、4200 人近くの新入生とトランスファ学生がいる。(応募者数は約 4 倍)。
17,000 人以上の教職員を擁する。3215 人の faculty.
School of Engineering の概要 1906 年発足。[学生数などは Q25]。
12 学科をもつ。
Q1. 篠塚先生の名刺をいただいてすぐ目に付いたのが、PE という称号が入っていたことである。これについて。[1]
A1. どのくらい PE をもつ教授がいるかを ABET では調べる。design コースではとくに、この資格が大事。
Q2. アクレディテーションについて。[1]
A2. SCU は昨秋アクレディテーションをうけた。MIT や CALTECH はアクレディテーションを相手にしていない。
Q3. 大学の構成は? [1]
A3. 定年がないので、どんどん高齢な教授が増え、頭でっかちになり、経営的にも問題になる。
Q4. 学生の様子 [1]
A4. この大学は地の利がいい。近くに企業も多数ある。そういうこともあり、社会人も多数勉強にくる。景気がいいと学
生が増えて教える方も大変になる。M, D を目指す時は、一定の資格を要求する。D は一年くらいのレジデンスを要求し
ている。D は論文提出のためのテストをうける。それに通って、たとえば、5 年以内に論文を提出しなければならない。
Q5. Dr. の取得年数は? [1]
A5. 論文を書いていいという試験を通ってから、大体 2 年から 3 年半。トータルで、3 から 4.5 年というところ。
Q6. マスターの意義 [1]
A6. M なら指示したらやれる。Dr. ならプロとなる。
B ならトレーニングして、指示しないとできない。
講義をとればしっかり力がつくという意味で、M で 30 単位を取るのはそれなりの意味がある。1 コース (3 単位) =2000
$=20 万円くらいかかるので、勉強も身が入る、
Q7. 教育の方向 [1]
A7. 知識中心の教育に対する反省がある。もうそういう人はいらなくなった。土木でいえば、単に土木のことを知ってい
るというのでなく、SAR (合成開口レーダー) とか、GPS など利用できる最先端技術はどんどん使って行かないといけな
い。そういうこともあり、土木以外に EE の講義を勧めたりしている。
major-minor という形もあるが、major の学科としては収入が減ることになり、マイナス。
アメリカ III 73
Q8. FD (faculty development) のようなことは? [1]
A8. 教育の仕方を大学内で高めるようなことはあまりやらない。Princeton や Colombia でもやっていない。NSF を通して
やる。
Q9. ABET への対応は? [1]
A9. これは熱心に対応している。大変な労力がかかるが、必要なドキュメントを用意したりして、visit に備える。[その
ドキュメントを見せていただいたが、講義のシラバス、担当の先生の履歴書、中間試験、期末試験問題、その回答のもっ
]
とも成績のいいもの、悪いもの、レポート課題など多岐にわたって準備し、分厚いドキュメントになっている。
Q10. アクレディテーションはある面で画一化を産むのでは? [1]
A10. アメリカではまずいと思えばすぐ文句を言うし、議論をして軌道修正していくので、そう簡単にはならない。
Q11. インターンシップについて [1]
A11. これは夏休みなどに会社へいくもので、part time job にしかすぎない。[インターンシップと COOP-プログラムにつ
]
いては、NSF の項目で明確になる。
Q12. ABET2000 について [2]
A12. outcomes 評価をする。つまり、プログラムの product (卒業生) がこれでいいと認定されることになる。
outcomes 評価の方法についてはいろいろ考えられている。
・教科書を理解しているかどうかをプレゼンをやらせて調べる
・fundamental exam を受けさせる。そのための準備コースもある。fe 試験合格を卒業要件とする手もある。
・internal survey : これは卒業生を使って評価する。
・external survey : local industry などに加わってもらって評価してもらう
Georgia Tech はいま ABET2000 を受けている。
Q13. TA は? [2]
A13. civil engineering では、学部生 200 人、フルタイム教員 21 人、パートタイム教員 25 人で、TA は 23 人いる。これで
十分である。
Q14. インターンシップについて。[2]
A14.CO-OP プログラムといっている。一人専任の人をおいて、会社と対応している。大学との agreement で、real engineering
work を行う。就職に関して、お互いに有利。この学科では 5%位の学生がやっている。
相手会社は 100 社くらい。単位は 3 単位。
レポートなどは要求しない。評価は company に任せる。[これは ENGR395 という科目としてあげてあり、単位は (1 or 2,
max5) となっている。よくある形は 2 summer work experience in addition to one semester immediately preceding or following
one of the summer sessions と書かれている。]
Q15. Coalition について [2]
A15. いくつかの大学が組んでやっている。たとえば、Berkeley, University of Illinois はコースウェアをたくさん作った。
Q16. Prof. Katsuleas の部屋に入るとすぐ目についたのが、レゴで作った車である。上に電子回路がのっており、センサな
どが見える。これはと話を向けると、動かして見せて説明してくれる [3]
A16. これは新しい教育の試みで学生の作った迷路探索のロボットである。
1 年生 20 人のクラスで、4 ∼ 5 のグループを作らせて、コンテストも行う。
Q17. よい学生をどうとるか [3]
A17. PSAT (SAT の前に行う) を利用している。高校から成績を教えてもらって、いい生徒をピックアップし、DM を送
る。こういう努力の結果、この学部の成績はどんどん上がっている。応募者は大体 2400 人で、400 人を入学させている。
この学部の入学者についていえば、SAT で平均 1300 (1600 点満点で) で、比較的成績のいい学生をとっている。1600 点
満点の学生も 11 人来た。
Q18. 卒業まで [3]
A18. 入学者の 70%が 5 年で卒業。(50%が大学院へ行く)
30%が 2 年で他の分野へトランスファ。
74 工学における教育プログラムの海外調査報告
Q19. 外国人学生 [3]
A19. USC は外国人学生の多いことが一つの特徴であるが、学部学生は 5%くらい。少ない理由は、スカラシップがない
から。院生は外国人が圧倒的に多く、アジアからの学生が 60%を占めている。
Q20. 基本的な考え方 [3]
A20. student-centered approach.
いろいろ工夫をしている。来年から、4/1 プログラムをスタートする。これは、4 年の学部と 1 年のマスタをあわせた
もの。
Q21. 大学院への進学 [4]
A21. 10%位の学生が、USC から進学。この数値で満足している。成績の最も良いものは、他大学の大学院へ行くし、そ
れを勧めている。それは、違う考え方にふれる方が幅が広がるからである。
Q22. 修士論文は? [4]
A22. これは分野で違う。たとえば、9 コースワークでもいいし、8 コースワーク+修論 (thesis) という組み合わせでもい
いというようになっている。修論を書かせるのは効果があるが、それでなくてもコースの中に必要なことはやっており、
やらなくてもかまわない。負担も大きい。
Q23. CO-OP プログラムは? [4]
A23. これは学部の方で、大学院ではやっていない。CO-OP をとると、4 年で卒業できず、5 年かかる。
Q24. Ph. D 取得。[4]
A24. 学部出てから、6 ∼ 7 年
2 年 M タレントを見極める
4 年 D トレーニング
という感じ。昔からすると、のびてきた。
ポスドクは教授の project から出す。
Q25. この学部の特徴? [5]
A25. well-organized UG&G
140 名のフルタイム教員、他に多数の parttimefaculty が会社等から来てくれる。
UG 1600 人 (4 年間)
G 2200 人 (毎年、100 人程度の Ph. D)
60-70M$ [過去 6 年間 USC は研究費が全米 2 位をキープしている]
近くに航空機会社がある地域的なこともあり、USC は、航空工学科がレベルが高くそれに力を入れてきたが、7 年前、航
空機から EE, CS へ refocus した。最近は、biomedical も含めている。
Q26. カリキュラムの改良「5」
A26. 学部には、BUSINESS Economics や、written communication, oral communication などの科目を設けた。マスターにつ
いては、インダストリの要求を毎年聞いて、それにあわせたコースを作っている。
また、マルチメディアへも力をいれている。movie, animation などへ進出する例も多い。satelite teaching もやっている。
アメリカ III 75
[3] 国立科学財団 National Science Foundation
NSF
訪問日 : 平成 10 年 1 月 15 日 (木曜日) 雨
訪問地 : Arlington, VA
スケジュール 1998.1.15 (木曜日)
[1] 10 : 00 Ms. Susan Coady Kemnitzer Deputy Director,
Engineering Education and Centers Division, NSF
昨年、来日し多くの大学等で講演をされたので、日本ではよく知られた存在
Dr. Ernest T. Smerdon Senior Education Associate,
Engineering Education and Centers Division, NSF
1 月 1 日にこのポストについたばかり。前職はVice Provost and Dean, College of Engineering & Mines,
The University of Arizona である。この先生もP. E. の称号を名刺に書いている。
Prof. Kazuo Nakajima, University of Maryland
別の要件で NSF へ来た。午後、Maryland 大学へつれていってもらう。
[2] 11 : 45 Prof. Tatsuya Suda 須田達也
UC Arvine から NSF に出向中。
computer network の専門家として grant の審査などにあたる。
当日は雪嵐が予測され、学校閉鎖が行われたり、政府職員はいつ退庁してもよいという指示が出
Kemnitzer さんの二人の子供さんは学校が休みで家にいるということであっ
されている日であった。
た。実際には、そうひどい状態にならずにすみ、午後は、Maryland 大学も訪問できた。
Q1. NSF について。[1]
A1. 職員は公務員の身分であるが、組織は議会で長が指名される独立組織である。
NSF は大学からもっともフレッシュな人材を 2,3 年契約で呼んでくる。 25%はそういう客員スタッフである。[この仕
]
組みは非常に良いと思っている。同席された Smerdon 先生、あとで立ち寄った須田さんもそういう客員スタッフである。
NSF は、米国の議会に対して研究教育に関する答申を行う独立した政府機関である。1980 年代の末期、産業界はグロー
バルな経済競争によって危機的状況をむかえ、雇用のニーズを大きく変えた。一方大学は、従来通りの「教育よりも研究
重視」の姿勢をとり続けていた。NSF は、産業界から有力な人材を迎え、工学教育のリフォームに着手した。以来、NSF
の教育予算は研究予算に匹敵する額まで増えつつある (NSF は、1991 年から 1997 年の期間に、工学教育 Coalitions と
Course & Curriculum Development に総額 1 億 7 千万ドル以上の支援を行っている)。従来会社自身が行っていた「社内教
育」を大学に肩代わりさせる意図も含むこのリフォームの目標は
(1) hands-on design experience
(2) teamwork skills
(3) communication skills
これらに加えて lifelong learning のための能力とモチベーションを与えること。
Q2. Action agenda for systematic Engineering Education reform を読んだが、どういう改革をねらうか? [1]
A2. faculty centered → student centered
input 評価→ outcomes 評価
これまでのアクレディテーションは input 評価であったが、これからは outcomes 評価をする。[これはわかりやすい説
明。何人の教官がいるかとか、どういう講義があるかというのは、学生に対する input でしかない。むしろ、教育の結果、
どういう学生が育ったか、outcomes を評価しようという考え方。]
Q3. coalition について [1]
A3. 現在、NSF の支援によって活動している Eng. Edu. Coalitions は 8 つ (60 大学参加)。他にもグループ単位の教育プ
ログラム (約 330) が走っている。プロジェクトの採択率は約 30%。NSF としては、Coalitions で成功したプログラムを他
校へ普及させることにも力を入れている。
Q4. CO-OP プログラムとインターンシップについて [1]
A4. CO-OP は、formal program である。つまり、university program で、単位を出す。たとえば、1 セメスタ大学で、1 セ
メスタ現場というような形。
[USC などでもこの意味でいっている。
]
North-Western 大学は全員に要求している。
76 工学における教育プログラムの海外調査報告
インターンシップは formal でない。大学の program とかぎらない。むしろ、company 中心、 company approach というも
の。期間も 1ヶ月もあれば、1 セメスタもあるし、1 年というのもある。かならずしも、paid とは限らないし、単位もで
ることもあるが、出ないこともある。雇用のために、企業が使うことが多い。[このように、明確に区別して話された]
インダストリとの密接なインタラクション :
・teamwork 企業が real project を提案、学生チームと企業人が、on-campus/off-campus で project に従事する。いずれも
会社で (学生のチーム) と (会社の従業員) が協力してプロジェクトを遂行する。
・interdesciplinary projects
Q5.Action agenda には将来の技術者のもつべき特性をあげているが、それを具体的に体現しているような理想像はなにか?
A5. astronauts かな。[途中、Bill Gates の名がでたが、彼は on the way だと思うとのこと。あとで、中島先生と議論したが、
ゲイツは技術者というより、ビジネスマンではないかということになった]
Q6. ABET2000 について。[1]
A6. いままでの ABET についていえば、many faculty hate ABET. だが、ABET2000 は MIT も受けるといっており、いい大
学も参加してくるだろう。新しいガイドラインは"teaching"に重点を置く従来の視点から"learning"を重視する視点の切替
を求めている。これまでの ABET を有力校は嫌っていたが、ABET2000 は歓迎している (特に MIT)。ABET2000 では、
(1) 工学部に入学した学生が途中で工学を嫌いにならないよう
(2) 知識だけでなく実践力を身に付けるよう
(3) lifelong learning を続けられるよう
「何をインプットするか? 」
「何がアウトプットとして得られるか」を各大学で定義することを求めている。どこに焦点
(
or
を絞るか 例えば、学部 大学院) は各校に任せる。
Q7 outcomes 評価について [1]
A7 現状では、具体的な measurement tools がない。これまでに幾つかの試みがあり、WWW で閲覧できる。ボーイング
社の CEO を中心とする"IUGREEE"と呼ばれるアドバイス委員会があり、ABET2000 に対する suggestions を与えている現
在の工学教育の長短所は何かなど)。Boeing Aircraft が中心で、毎年、次の会をやっている。Industry-University-Government
round table for the enhancement of engineering education
Q8. 継続教育について [1]
A8. 1. 学会など、専門家によるセミナーなど
2. 大学が degree program として提供するもの。
certificate をとれるように教育するもの。(ex. 危険物取扱責任者)
Stanford, John-Hopkins なども力を入れている。これは収入源としても重要。
以上で、Kemnitzer さんとの会見は 1 時間程度という予測を大きく上回ってしまった。
須田さんのいるオフィスを訪問する。
Q9. こういうことで、NSF へくることは academic career に悪い影響はないか? [2]
A9. 大学はむしろ、こういう経験を歓迎してくれる。自分で応募してきた。週末はカリフォルニアにもどって研究もして
いる。自分にとって、貴重な経験になると思っている。
Q10. NSF にスタッフとして参加する意義について [2]
A10. 大学としても教育・研究の情報を得られることから賛成。本人も今後の研究活動にプラスと考えている。また、ポ
ジションは通常大学側が確保している。
[Smerdon 氏はアリゾナ大学より 2 年間の予定、須田さんもすでに一期つとめ、2 期目 2 年をめどに NSF に参画。
]
アメリカ III 77
[4] University of Maryland
訪問日 : 平成 10 年 1 月 15 日 (木曜日) 雨
平成 10 年 1 月 16 日 (金曜日) 雨
訪問地 : Campus Park, MD
スケジュール
当初計画では、学部長と教育関係の担当者とお会いする予定であったが、中島教授の計らいで、
教育関係の実例を多数見学する予定が組まれた。大体時間より遅れ気味になり、キャンセルした見
学先もひとつあった。こういう見学の設定などは、電気工学科の Public relations 専任のスタッフが
アレンジしてくれるという。この大学は ECSEL というコアリションに参加しているとか、教育改
革に非常に熱心に取り組んでいる。見学したものは研究というのでなく、教育という観点から新し
い試みをしているものをピックアップしてもらったものである。また、学部長からは自身が取り組
んでおられる GEMSTONE プロジェクト、T. Regan 先生からは、教育改革の歴史と ECSEL の考え
方などをうかがった。
1998.1.15 (木曜日)
[1] 15 : 30 VLSI Design Automation Laboratory
Host Professor Kazuo Nakajima (Dept. EE)
大阪大学基礎工学部制御工学科卒。
[2] 16 : 00 Communications and Signal Processing Laboratory
Host : Graduate Student Tasuki Hirata
実際には別の方が説明された。
[3] 16 : 30 Intelligent Servosystems Lab.
Host : Graduate Student George Cantor
1998.1.16 (金曜日)
[4] 10 : 00 CALCE Computer-Aided Life-Cycle Engineering Electronic Products and Systems Center
Host : Prof. Michael Pecht (Dept. ME)
[5] 10 : 30 Center for Satellite and Hybrid Communications Networks
Host : Spyro Papademitriiou, Faculty Research Assistant and Lab. Manager
[6] 11 : 00 Pinball Machine Project Laboratory
Hosts : Undergraduate Students Steven Neuebdorffer and Melissa Moy
[7] 11 : 30 Advanced Design and Manufacturing Lab.
Host : Prof. Guangming Zhang (Dept. ME)
[8] 12 : 00 Lunch- Gardenrestraunt, Inn and Conference Center
Prof. Nariman Farvardin, Chair of Dept. of EE
Prof. Nakayama (visiting)、Dept. of ME
Prof. K. Nakajima, Dept of EE
Ms. Lisa Kiely, Coordinator for Undergraduate Matters, Dept. of EE Mr.
Eric Schurr, Coordinator Public Relations
[9] 14 : 00 Prof. Bill Destler, Dean, A James Clark School of Engineering
Prof. Thomas Regan, Associate Dean
[10] 16 : 30 Future Car Laborratory
Host : Prof. Daid C. Holloway (Dept. ME)
[11] 17 : 00 public relations への取り組み
Host Eric Schurr coordinator Public relations
大学概要
Greater Washington (WashingtonD. C. とその周辺部を含む地域) は、シリコンバレーなどを凌ぐ、全
米一の知的ストックの高い地域であるという調査がある。すなわち、大学・カレッジにおける学生数、科学者エンジニア
の数、学部卒業者の人口比率、学位保持者の人口比率などいくつかの指標において全米一の地域であり、政府機関、ハイ
テク産業などの集積地でもあり、非常に活気を呈しつつある。その中核にあるのが、 Maryland 大学システムの中心の本
大学である。
78 工学における教育プログラムの海外調査報告
17 学部$60M が州政府からの予算である。
1996 年の新入生
大学全体・・・3,625 名 工学部・・・464 名
工学部・・・9 学科 20 以上の研究センター
1. カリキュラム等
1.1 Coalition
University of Maryland は、NSF のバックアップによる「工学教育のリフォーム」のための Coalition の 1 つ"ECSEL
Coalition" (他に Pennsylvania State Univ.、MIT, Univ. of Washington など 6 大学) のメンバーであり、1992 年からユニーク
なプログラムをスタートさせている。ちなみに"ECSEL Coalition"が NSF から得た予算は 5 年間で 3 千万ドル。なお、カ
リキュラムの改革は、現在ほぼ最終段階にある。
1.2 ユニークなプログラム
・1992 年から"Introduction to Engineering Design"と題した 3 単位の 1 年生向けコースをスタート。従来の学部教育は、数学
からはじまり基礎科学を経て"design"に至っていたが、design & manufacturing を最初に置いた。このコースでは、
「ものづ
くり」を通して Engineering Design の基礎を学ぶ。ユニークな点は、少人数のチーム単位で設計、製作、テストまで行う
こと、4 年生が"Teaching Fellows"として様々な助言を与えること、工学部の 1 年生全員の必修科目としていること。この
コースは、高校生向けの summer programs にも利用されている。
なお、"Teaching Fellows"は "ECSEL Coalition"の 1 つである Pennsylvania State Univ. のアイデア。
・"Product Engineering and Manufacturing"と題した 2 年生向けのコース。実際の製品を使って"redesign"を行わせる。民間企
業から製品の提供および講師の派遣をしてもらい、製品企画から市場への投入までの全プロセスを学ぶ。他にも「ものづ
くり」を通した教育科目が増えつつある。
2. 特別プログラム
2.1 CO-OP
3、4 年生がセメスターごとに、民間企業で働いたり (full-time) 大学で授業を受けたりできる。part-time で働く"internship"
と区別している。
2.2"engineering honors program"
優秀な学生 (65 単位以上取得し、平均 3.5 ポイント以上) に対するプログラム。honors 学生は、特別に用意されたセミ
ナーをこなし、研究論文の提出と発表を行う。
2.3"dual-degree programs"
他の学部と工学部でそれぞれの必要単位をそろえれば、2 つの学位を取得できる。例えば、他学部で 3 年間、工学部で
2 年間。)
3. その他
3.1 マスターコースのカリキュラム改革
大学院でも"practice-oriented program"が増えつつある。
3.2"Public Relations"
大学の PR を重要視しており、(1) 高校生 (特にその親) (2) 民間企業・政府機関 (3) 他大学 (4) 一般人向けに様々な活
動を行っている。
(1) 高校生向けの"Open Houses"を年 2 回 (休日に合わせて) 実施。訪れる高校生のほとんどが親と同伴であるため、大
学の魅力をできるだけ親にわからせる努力をしている。また、卒業生を通した PR や Internet を利用した PR、優秀な高
校生へのダイレクトメール、高校生向けのsummer programs などを実施。
(2) "Research Review Day"に民間企業や政府機関のメンバーを招待し、研究成果などを説明する。また、Newsletter を企
業・政府機関、メディア、
「政治家」に送る。
(3) Transfer志望や大学院志望の学生に対する PR も他大学に向けて活発に行っている。
(4) "Distinguished Lecturer Series"を行っている。
4. ranking について
4.1 この工学部の状況
ランキングが 17 位となっていることを誇りにしており、Top10 に入る目標を持っている。数年前までは Top25 にも入っ
ていなかったが、努力の末、現在のランキングとなった。学生の SAT の成績は約 1300 点位とのことであった。
5.2 rank up の努力について
1 年次に、工学について何を学ぶべきかを明確にしている。例として、Power house (風力発電) のプロジェクトを作り、
9 人の学生に模型を作成し、実験を行い、発電実験まで行った結果についての報告を受けた。このレポートは最優秀で
あった。
アメリカ III 79
5. 教育方針について
従来の教育は各人が学ぶ体制であった。しかし、現在は、チームとして学習を目指している。これは、
1950'~60'スプートニクの事件で基礎科学の重要性
70'~80' 幅広い学問の必要性
90'~ 現在チームとして活躍できる能力
の様に歴史的流れがある。特に、チームとしての能力を outcome として、ABET2000 で要求している。
6. with Thomas Regan (Prof. and Associate Dean)
基礎教育方法についての見学を行った。新入生に対し、木材を用いて、所定の製品を造らせる。その時に、製図の必要
性、道具を使用することによる規格性と能率性を理解させると共に、木工電動機器を用いて製作させる。また、同様なこ
とを高校生に 6 週間のサマーセミナーを開催している。工学離れに対する対策にもなることを期待している。
7. その他 (学生研究の見学)
7.1 Computer-Adided Life-Cycle
電子部品 (LSI) の熱サイクル疲労による基盤からのはく離と、チップ内損傷のモニタリングの実験を学部生に対し行っ
ている。この実験は、製品を学科内で製作された物に対し実施しており、製作から検査まで一貫した教育が行える特徴が
ある。
7.2 Satellite and Hybrid Communication Networks
画像処理法、特に高速画像処理法の開発を行っている。衛星からの不鮮明な画像を、鮮明画像にしている。また、テレ
ビ会議用のモニタについても高速化を目指しており、現在、世界最速と考えているとのこと。
7.3 Pinball Machine
ピンボールには、16 個の仕掛けがあり、これに対し、コンピュータ処理を行ってゲーム機を作成している。プログラ
ムと仕掛けのアイデアを中心に研究実施している。
また、ゲーム機の絵画のデザインも学生主体で行っている。
7.4 Advanced Design and Manufacturing Lab.
人工歯の磨耗実験についての説明を受けた。人工歯の上下のすり合せを楕円平面運動とし、上下のかみ合せ力を変化さ
せ、セラミックス製人工歯の磨耗実験を行っていることの説明を受けた。本実験装置は学部学生のアイデアによるもので
あるとのこと。
7.5 Future Car
電池と燃料 (アルコール) のデュアルモードのエンジンカーを製作している。走行距離のため、車体軽量化を行ってい
る。ボンネットは FRP 製で学内で成形している。
また、シャーシはアルミ製であり、設計のみ大学で、製作は工場に依頼している。その他、軽量化のためブレーキシス
テムやバッテリーを新たに開発している。ほぼ 80%位が開発済みであり、本年実走行するとのこと。本研究は、機械、電
気などの学生が集まり、プロジェクト研究として実施しており、メンバーはすべて 4 年生である。
7.6 VLSI Design Automation Laboratory
実際に CAD を使って、VLSI チップを設計したり、テストする能力のある学生を教育しようという試み。hand-in design
を与えて、チームワークとかコミュニケーション力も向上させる。設計を提出して 2ヶ月で実際に VLSI チップができあ
がってくる。これは independent study として、テストなどをやらせる。
7.7 Intelligent Servosystems Lab.
ロボットの運動シュミレーションと運動を行うシステムづくりの 2 つを基本方針として研究している。最近の学部の授
業では、子供の乗り物 (三輪車のような物で足で漕がずにハンドルを細かく左右に回転させて進ませる) にヒントを得て、
その原理を利用してモーターにより電動化することを行っている。また、これは、高校生の体験入学にも取り入れている
とのこと。システムづくりでは、ロボットの動きでいかに上部を水平に保ったままで下部の動きを吸収するかを取り組ん
でおり、昨年これを完成させた卒業生は優秀で他の大学院に行ったとのこと。
80 工学における教育プログラムの海外調査報告
東アジア
日 時 : 1998 年2月 27 日∼ 3 月 22 日
訪問先:ソウル大学
台北精華大学
上海大学
交通大学
訪問者:武田邦彦 (芝浦工業大学工学部教授)
長友隆男 (芝浦工業大学工学部教授)
畑 聡一 (芝浦工業大学工学部教授)
木暮剛一 (芝浦工業大学企画部長)
81
[1] ソウル大学
1998.2.27 ∼ 28 訪問
対応者:大韓民国芸術院会員
大韓建築学会副会長
工学部学部長室
工学部学部長室
工学部建築学科
建築学会会長
建築学科教授
教授
教授
教授
李
洪
韓
李
沈
光魯名誉教授
性梶教授
民九教授
商郁教授
愚甲教授
ソウル大学は韓国の大学の頂点に立つ大学で、工学部は第二次世界大戦直後、1946 年の 11 月に設立され、その後 1985
年に関連大学の工学部を吸収して大きくなった。現在の工学部は 5 つのカレッジ、5 つの大学科、4 つの学際領域学科、
そして専攻は 21 である。学生数は入学生の数で 1、360 名 (全数 5、778 名)、大学院へ進学する学生が 800 人 (全数 2、
068 名)、そして博士課程への入学者は 350 名である。大学自体は、徐々に大学院へその重点を移しており、博士課程の入
学生を来年は 380 名に増加させる予定である。
カリキュラムなどの工学教育システムは日本とほぼ同一で、大学に入学すると 1 年次に教養科目を学ぶ。基礎的な数
学、物理学、化学などのほか、哲学、法学なども履修する。2 年から専門科目を勉強し、3 年で専門学科に振り分けられ
る。卒業までの必要単位数は 140 単位。セミスター制を採っている。韓国の教育システムはアメリカの大学の制度を採り
入れているが、韓国人の社会、感性、慣習が日本に似ているので、徐々に日本と同様のシステムに変化していくと責任者
は言う。確かに、内容を聞くと聞く必要が無いほど日本に似ている。
キャンパスはかなり大きく、車で一巡するのに 20 分程度かかる。約 25 年ほど前にソウル市内から郊外に移動したの
で、キャンパスの配置は生前としている。大学本部と学生会館を中心に山に向かって右側に工学部、左に理学部、そのま
た左に文科系学部が並ぶ。文科系学部の中央手前に伝統的建築様式で建てられた貴重は古文書の研究所があり、その左は
運動場、体育館が並ぶ。丁度この体育館と対角線の所、山の中腹に工学部の高層の校舎がそびえている。
ソウル大学は近未来の工学のために研究を行い、工学教育改善を行っている。まずその第一段は、5 年前に行われた学
部再編による工学教育改革である。学部再編では全ての学科をいくつかのスクールと呼ぶ小さな学部に分けてそれを工学
部に統合する計画であったが、個性的な学科が抵抗して、そのような形にならなかった。そこで、抵抗した建築学科、コ
ンピューター工学科、工業工学科、海洋工学科、原子力工学科は学科で独立し、化学及び高分子スクール、土木・都市・
鉱山スクール、電気工学スクール、材料工学スクール、機械・航空スクールの 5 つのスクールを作った。このほかに学際
領域をカバーする「学際プログラム」という緩い組織があり、教育や研究の指導を行っている。
建築学科は 248 人の学部学生、89 名の大学院学生で、教員は 10 名、そのうち教授は 4 名である。ソウル大学の古い教
授は日本へ留学しているが、現在の多くの教授はすでに代替わりしているのでほとんどの教授はアメリカに留学してい
る。韓国の建設ラッシュは終わって建設会社はあまり景気が良くないが、それでも建築学科の人気は高い。それは建築学
科の教育研究要素の中に「芸術的」要素があるので、それが若い人の人気になるという事である。
化学工学科は学部学生 360 人、大学院 186 名の大きな学科で、教授は 9 人である。韓国はまだ化学工学が発展する余地
があり、日本と異なり活発に教育を行っている。しかし、多分この学科も後 20 年も経つと、新しい化学プラントの建設
がなくなり、先生だけが残るので日本と同様に何とかして学科を維持するのが大変なことになるだろう。
機械工学科は学部学生 152 名、大学院学生 170 名で、大学院学生の数の方が多い。今後の韓国の工業を考えると学部学
生の教育よりも大学院学生の教育に重点を置き、さらに博士課程の学生の育成も進めるというのがソウル大学の考えであ
る。
電気工学科は最大の学科で、学部学生が 1263 名、大学院学生が 800 名で教授は 18 人を数える。いわゆる強電に分類さ
れる学問もこの学科の範疇であるが、アナログデジタル回路、生物電子、情報処理、コンピュターサイエンス、電子デバ
イス等がこの学科の中心的教育内容である。
アクレディテーションは実施していないし、考えても居ない。インターンシップは教育にはあまり役に立たないという
認識である。教員評価はもともと優秀な教員を確保しているのだから関係ないという思想である。産業との関係は教育に
はあまり役に立たず、研究では多くの産業から研究所の提供を受け、しかも建物を建ててもらった上にその研究所を運営
する経費 (建物の 10-15%) も負担してもらっているという状況である。
82 工学における教育プログラムの海外調査報告
[2] 国立台湾大学
1998.3.2 訪問
対応者:工学院院長
陳 義男教授
材料科学工程学研究所所長 王 文雄教授
電信工程学研究所所長
李 学智教授
建築学会理事長
黄 世孟教授
造船学科教授
鄭 勝文教授
名誉教授
黄 振賢教授
材料工程学研究所教授
李 源弘教授
国立台湾大学は台北市のはずれにあり、9 つの学部 ( 文学部、理学部、法学部、医学部、工学部、農学部、管理学部、
公共衛生学部、そして電気学部) からなる。医学部は薬学部を含み、工学部とともに学内では力の強い学部であり、現在
の学長は東北大学医学部の卒業、医学部の教授である。また、電気学部は昨年工学部から独立した新しい学部で、工学部
との関係が微妙である。
大学全体の学生は 24,000 人、そのうち 7,000 名が大学院生で学部生は 17,000 名になる。教員数は 1,800 人、事務官が約
1,000 人である。教員の多くはアメリカに留学しており、日本に留学して教員になっているのはわずか 100 人程度である。
日本への留学が少ないには多くの理由があるが、第一に言葉の問題がある。
工学部は 1945 年に独立し、土木工学、機械工学、電気工学、そして化学工学の 4 つの学科でスタートした。その後、
1976 年に海洋工学、1977 年にコンピューター情報学科が設立された。大学院の方は、1947 年に電気工学専攻、1960 年に
土木工学専攻、1964 年に化学工学専攻、1973 年に海洋工学専攻、1977 年に環境工学専攻、1981 年にコンピューター情報
専攻、1982 年に材料工学専攻、1984 年に応用工学専攻、1988 年に建築工学専攻、1992 年に電子光工学専攻、そして 1994
年に産業工学専攻が順次設立された。
博士課程は 1968 年に設立され、ほとんどの修士課程専攻が博士課程を持っている。付置研究所としては水力学研究所、
工業研究所、地震研究所、オートメーション研究所、コンピューターシステム先端研究所がある。またそれぞれの研究所
は様々な方面とのジョイントワークを行っている。
学生数は工学部が 3,700 人、電気学部も入れて工学系の学生は 5,000 人程度である。大学と大学院の比率は 6 : 4 程度で
あり、大学院の拡充に力を入れている。大学院教育には大変力を入れており、電気学科では修士の学生 380 人に対して、
博士課程の学生が 280 人という膨大な数である。それと共に大学の知的財産を社会に積極的に発信しており、社会人教育
のための講座を多数開いている。
学部から大学院への進学は、学部成績の上位 10-15%が推薦で行き、社会人枠として 10%程度が採られる。その他の定
員は試験を行う。国立台湾大学の教育は全般的にオーソドックスであり、いわゆる「大学教育」の典型的な形を取ってい
る。その中でも多少特徴が有るとしたら、社会人の教育を大学院に入学する人を多くする施策や、社会人向けの講座を開
くなどの方法で積極的に進めている点である。特に土木工学の大学院には社会人が 20%程度も入学する。しかし土木以外
の工学部関係の専攻には 10 分の 1 以下の学生しか社会人は居ない。社会人は在職のまま入学するので、仕事中に講義を
聴きに来ることを職場が認める必要もあるし、夜間の講義を聴きに来るのも大変である。また一般の大学院修士課程の学
生が 2 年で履修出来るのに対して、社会人の大学院生は 3 年かかるということも在職社会人大学院生が増えない原因でも
ある。
学科の中の一例として材料工学科の教授の専攻を見ると、材料熱伝導、相平衡、接合、高分子合成、熱力学、微細構
造、ファインセラミックス、破壊力学、磁性材料、合金、材料プロセス、粉末成形、鉄鋼材料、高分子科学、セラミック
ス構造、複合材料、無機高分子、高分子物理であり、18 人の内、基礎材料分野が 4 人、金属材料が 6 人、有機材料が 4
人、セラミックスが 3 人、複合材料が 1 人という布陣である。材料工学科でも国立台湾大学のオーソドックスな教育体系
が感じられる。
台湾は文部省と国家委員会があり、教育や研究を管理している。そこでは 4 年前から 21 世紀の工学教育をどのように
展開するかが議論されている。そして毎年一回シンポジウムを行っている。
台湾で議論されている 21 世紀の工学教育は次のような人材を育成するべきであると結論が出されている。
1) これからの工学は広い知識を必要とされし、社会との関わりで広い視野を要することから、全面的な能力のある人材
を育成するべきであること。
2) 21 世紀には独創的発送が出来る人材が必要とされる。そのため、一方向の講義だけではなく、双方向講義や工夫のあ
る講義を行う必要がある。
3) 台湾の学生はよく勉強をするが、手を動かすのを嫌がる。日本人はむしろ手を動かすことを厭わない。そのため、物
づくりコンテストなどの趣向を凝らして、手を動かす習慣を付けることが必要。
4) これからの工学はコミュニケーションが大切であるので、語学の教育を重視する。
東アジア 83
電気学部は昨年、工学部から独立した学部である。電気学部は電子、通信、情報が主たる教育項目であるが、電力、制
御などの強電コースも用意されている。すなわち、工学部から分かれるときの電気工学専攻、光電子工学専攻、情報工学
センターを中心にして構成される。電気工学科は最も歴史が深く 1945 年に設立されている。学部学生は全体で 640 名、
大学院修士過程学生 380 名、そして大学院博士課程学生 280 名である。教員はフルタイム教員が 97 名、パートタイムが
13 名、職員 26 名である。博士課程の学生が多いこともあって充実した教育を行っている。台湾の電子工業の成長ととも
にまだまだこの学部は成長路線を辿っており、拡大の一途といえる。
電気工学科は 66 名の教員 (内、50 名が教授) でこの学科だけで、博士課程の学生は 64 名も居る。回路、電子、マイク
ロプロセッサー、ディジタル回路、自動制御、電子機械、情報、半導体、電磁波、ネットワークとマルチメディア、光通
信、それにコンピューター情報の各研究室がある。卒業までの必要単位は 142 単位。専門科目を 1 年次から配当してい
る。4 年次には学士研究は科せされていないが、2 単位の研究室での実習がある。研究活動は大勢の修士課程及び博士課
程の大学院生が担当し、学部学生の研究には期待していない。
大学院生の教育には 3 つのデビジョンに分かれておこなわれる。まず、電子工学専攻では回路、半導体、電磁波理論、
光と電子、情報処理などのオーソドックスで中心的な学問が配当される。同時に基礎的には電力、制御、コンピューター
などの学問ももう一度教育を受ける。徹底的な技術者教育がこの大学のポリシーである。第二のデビジョンは情報工学専
攻で、教員 20 名、博士課程の学生 21 名の布陣である。ネットワーク、情報電子論、ディジタル信号、光ファイバー通
信、無線通信、電磁波理論、高速スウイチング、情報処理理論などが教育の中心である。最後に光電子のデビジョンがあ
り、教員数 15 名、博士課程学生 15 名の少し小さな研究所である。このほかに情報処理センターがあり、外部との関係を
担当している。
電気学部の教育の一つの特徴は社会人教育である。現在 30 コースの講座を社会人向けに開いており、その多くは人気
が高い。台湾の電子工業は中小企業も多いし、技術の習得に関する会社の技術者のニーズは高い。特に高周波技術関係は
大変人気がある。この講座は単位も与えないし、資格を取れるわけでもない。履修証明書のようなものを交付するだけで
あるが、それでも多くの技術者が聞きに来る。
[3] 上海大学
1998.3.4 訪問
対応者:副学長・金属学会常務理事
建工学部 学部長
自動化学部 副学部長
国際交流センター 副所長
学生部長
副学長室
国際交流センター員
壮 雲乾教授
傅 克誠教授
愈 修海教授
鐘 国祥さん
楼 巍 さん
曽 文彪さん
Jin Oi さん
上海大学は 1994 年に上海の 4 つの大学が合併して出来た比較的新しい大学である。1960 年代からある上海科学技術大
学、上海工業大学と、1970 年代に出来た上海大学、上海科学技術高等専門学校がその合併した大学である。4 つの大学が
合併したので、農学部、医学部を除いた全ての学部を持っている。4 つの大学が合併した理由は、国の政策にある。
一流大学への具体的政策は
1) 学科の充実 (一流の大学には一流の学科が必要と考えられ、そのために優れた学科の設立に力を入れる。
)
2) 教員の養成 (一流の大学には一流の教授が必要であるが、上海大学だけではダメなので、中国の他の大学や世界の大
)
学から研究者を招く計画を進めている。
3) 国際交流(一流の大学を目指すためには中国国内だけではとても無理なので、欧米や日本と提携して国際交流を深める。
)
上海大学は 21 の学院 (学部) からなり、学科数は 71 である。学生総数が 17,400 名、大学院生が約 800 名、博士課程学
生が 200 名程度である。上海大学などのの合併大学が工学部が中心であったので、工学部関係の学生だけで 12,000 名に
なり、工学部が中心の大学と認識して良い。極端に多いのが教職員で、驚くべきことに全学で 6,000 名の教職員を擁して
いる。このうち教員が 2,000 名、研究者が 200 名である。この 6,000 名の中には定年退職者をカウントしていないので、
特別に多いと言える。合併大学でそれぞれに医務室や事務室、学生用の病院などを抱えているのがその理由の一つである。
現在、大学院生は 800 名程度であるので、これを 1,500 名程度にする必要があり、さらに博士課程の学生を 200 名から
2.5 倍の 500 名にする計画である。国際的に認知される大学を目指すには学部学生と大学院生が 1: 1 である必要があると
認識している。
学科の統合は 300 の学科が 100 あまりに統合された。それでも学生は就職に大変心配している。上海の人口は 1334 万
人であるが、一時は 10%以上の 200 万人が失業した時代があった。今では失業数は 20 万人程度であるが、大学卒業生の
失業者も居て、失業の割合は必ずしも低学歴者が失業すると決まっていない。学生はすこしでも就職に役立てようと、副
84 工学における教育プログラムの海外調査報告
専攻を選択して総合能力を付けようとしている。
大学生の将来は国の将来でもある。その意味では大学生が直面する課題をまとめると、
1) 現代化
2) 国際化
3) 未来化
の 3 つに要約されるだろう。中国の近代化政策の進行によって、学生は
1) この国が将来大きく発展するという自信が出てきた
2) 自分が真面目に勉強しなければ発展に取り残されると言う意識が出てきた。
と言えるだろう。学生にとっては近代化政策は Change であるとともに Challenge でもあるのだ。学生間の競争は激しさ
を増し、それが良い方向に向かっている。かつての学生は政府の政策を 100%信じてそのままの人生を送った。その点で
は安定していたが、一方では何も考えない学生を作っていたと言える。その点では開放政策後では学生は政府の政策の指
示にしても自分で考えて指示するという過程を経るのでそれだけ理性的と言える。また考える習慣が付き、自分で判断す
るようになった。
この様な学生自体の進歩と環境の変化に大学が対応するために、
① 単位制の導入をおこなった。これは学生の学習に画期的な変化を与えた。学生は自ら選択して科目を選ぶ。そのため
従来より熱意と意識の変化が見られる。
② 単位を選択するので、従来のように「学科の友達」「コースの学友」という範囲ではなく、科目の履修を通じて色々
な学生とつきあうようになり、集団主義、団体意識が希薄になり、より個人的になってきた。
大学側はこの様な変化に対して対応する大学管理方式を検討中である。
また今後の工学教育を考えるうえでは工学の進歩が極めて早いことが上げられる。大学で学んだことはすぐ陳腐化する
ので、具体的な事実よりも、どのように勉強すればよいのか、という方法を身につけさせたい。また、勉学中に社会に出
て外の世界の経験を積むこともおこなっている。3+1+1 と呼ばれる制度があり、3 年間大学で勉強した後、1 年間の企業
研修、そしてその後 4 年次に帰ってくるというシステムがある。企業側は学生の数を指定して、その学生は実習に行った
企業に就職する例が多い。企業もそれを目的としているので企業側としても不満はない。中国は人口が多く、志願兵だけ
で兵隊をまかなえるので、兵役は無い。
奨学金は、一般奨学金、返却を要する代学金制度、それに助学金制度がある。助学金制度は内地などから来る学生を助け
る制度である。奨学金は最高で 4000 元であり、このような高額の奨学金を受けると学費の他に生活費の一部も出ること
になる。
[4] 交通大学
1998.3.5 訪問
対応者:エネルギー工学部 学部長
エネルギー研究所 副所長
エネルギー学部 教授
エネルギー学部 教授
Su Ming さん
張 維克助教授
徐 大中教授
周 興嬉教授
上海交通大学は中国国家教育委員会の 5 つの直轄大学の 1 つであり、中国国家の高等教育の中核を担っている。1896 年
に設立されたこの大学は古い歴史と最高の教育を誇りとしている。 大学の管理体制は 3 段階で一番上が学長、その下に
「院」と呼ばれる学部 (スクール)、そして学科の構成である。院は船舶工学、エネルギー工学、電気工学、電力、材料工
学、機械工学、理学、生命科学、人文科学、建築工学、化学工学、管理工学、外国語の 13 学部で、このほかに大学院、
塑性加工工学、体育系などの 47 つの「系」がある。学部学科は全部で 52ヶ、大学院が 77ヶ、博士課程が 35ヶである。こ
の中には国家の重点学科が 8 つ含まれている。
大学院の専攻は修士課程では、機械専攻、海洋専攻、熱力学専攻、熱流動専攻、冷媒及びコジェネ専攻、原子力専攻、
環境専攻、そして音響専攻に分かれる。博士課程では動力専攻、冷媒及びコジェネ専攻、熱力学専攻、及び環境工学専攻
である。
学生は現在総数で 13,000 名から 14,000 名、学部学生が 11,000 名、修士課程学生が 2,000 名、博士課程学生が 1,000 名
程度であり、12 名の中国科学院委員などの要職の教授と、1,200 名の教授が居る。中国の主要な大学は「211」計画を進
めているが、211 計画のもとに現在学科統合やその他の改革がおこなわれている。エネルギー工学部は学部学生が 1 年で
180 人 (全部で 520 人)、大学院修士課程学生が 50-60 名、博士課程学生が 30-40 名である。入学試験が厳密で、選別され
た学生が入学することもあって、落第したりドロップアウトする学生は少なく、ほとんどの博士課程の学生は少し遅れる
ものもあるが、博士号を取得する。
大学の講義形式は標準的で、教室は 120 名程度の教室と、30 名程度の教室からなり、単位は 18 時間で一単位 (1 時限
東アジア 85
は 45 分)、学部卒業までの必要取得単位数は 150 単位である。基本的には 1,2 年次は基礎的な学問、3,4 年次は専門と分か
れている。すなわち、1 年次は高等数学、物理、外国語、コンピューターなどを中心とし、2 年次は理学、工程数学、統
計、熱伝導論、熱力学などの理論工学を教える。最初に基礎科学を教え、次に基礎工学という順番である。3 年次なると
専攻工学の専門科目を履修する。4 年の後半は卒業研究を行う。半年の卒業研究は講師以上の先生が卒業研究テーマを出
し、それを学生が第一希望、第二希望というように希望を出し、希望の研究室に入る。研究室は 17 名単位で、人気のあ
る研究室が定員を上回ったら成績順で振り分けられる。
交通大学の学生はチベットと台湾を除いた全国から来る。全国一律試験の最優秀グループである。学生は見るからに優
秀で勉強も良くする。上海交通大学を出た卒業生に聞く機会が有ったが、学内の学生同士の競争意識はかなりのもので、
出来るだけ良い成績を取るために、ハードな勉強をするということである。
経済的には学費が一年で 3,500 元であり、奨学金は全体で 200 万元を用意している。学費もやや高い方であるが、レベ
ルの高い大学として知られているので、その後の人生を考えれば高くはない。この大学を卒業した学生は就職においても
恵まれている。就職先は公務員希望者も居るが、大半は民間企業を希望する。上海は中国の中でも特に経済的に恵まれた
地位にあり、上海近郊の人は上海で働きたいと願っている。しかし、上海以外の人が上海に就職しようとしたら、上海の
女性と結婚し「上海戸籍」を取得するなどの必要があり、この「あこがれの地区」で一生を過ごすのはなかなか困難であ
る。上海大学は市の大学なので、上海交通大学より大学としては下位にあるが、上海に就職できるという点では学生に有
利な大学である。
86 工学における教育プログラムの海外調査報告
ドイツ・イギリス・
スウェーデン
日 時:1998 年 3 月 15 日∼ 22 日
訪問先:ベルリン工科大学 (ドイツ)
ケンブリッジ大学工学部 (英国)
王立工科大学 (スウェーデン)
訪問者:岸浪建史 (北海道大学 大学院工学研究科教授)
高橋英明 (北海道大学 大学院工学研究科教授)
工藤一彦 (北海道大学 大学院工学研究科教授)
三上 隆 (北海道大学 大学院工学研究科教授)
87
1. 大学の構成および学科構成
2. 工学教育の目標と目的
所感 : ベルリン工科大学、王立工科大学においては教育される学生の能力に重点を
おいているのに対して、ケンブリッジ大学は教育プログラム、教育組織の目標・目的
まで含めている点に特徴がある。
3. 入学試験と学生入学
4. 学部レベルのカリキュラム構成
5. 教育システム
6. 教育資源
7. 評価方法
調査方法 : 図 1 に示す工学教育プロセスを参考にしながら、工学教育の現状と課題を示し、
学部教育の評価と質的向上を目的として、上記、調査項目に関して面談にて
意見交換を行なった。
調査日程 :
日時
時間
訪問先
3/16 (月) 10 : 00-12 : 00
12 : 00-14 : 00
3/18 (水) 10 : 00-10 : 30
10 : 30-11 : 00
11 : 00-11 : 30
11 : 30-12 : 00
14 : 00-17 : 00
3/20 (金)
面談者
Berlin 工科大学工学部副学長
IPK
Institute of Energy Tech.
Theoretical Chemistry
Civil Engineering
Prof.
Prof.
Prof.
Prof.
Cambridge 大学 工学部
Graduate studies
Undergraduate studies
Research
Cavendish Lavoratory
Dean Prof. D. E. Newland
Deputy head Ptof. A. Dowing
Director Dr. R. Prager
Director Dr. M. Macleod
Prof. M. Brown
9 : 00-10 : 00 KTH (Royal Inst. of Tech.)
10 : 00-12 : 00 Civil engineering
Prof. G. Seliger
L. -K Krause
Erdmann
G. Heppke
Pahl
Prof. C. Leygraf
Dean Prof. K. Odeen
Vice President Prof. C. Moberg
Asso Prof. H. Falk
Director Dr. C. Ivmark
調査結果 :
以下に各訪問大学における調査項目別の調査結果の比較を報告する。
88 工学における教育プログラムの海外調査報告
[1] ベルリン工科大学
1. 大学の構成および学科構成
教授 : 547 名 教員 : 1,100 名 事務 : 960 名
学生数 : 34,200 名
学科数 : 15 学科
専攻 : 50 専攻
研究室 : 100 以上
総予算 : 7 億 2200 万 DM
2. 工学教育 (学部) の目標と目的
・工学教育 (学部) の目標 (aims)
明確な文書は見あたらないが機械工学科 Prof. Krause によれば、
①優秀な学生を教育する。
・工学教育 (学部) の目的 (Objectives) :
①起業化精神と意志決定能力
②分析能力とエンジニアリング・サイエンス
③製品の開発設計能力
④独創性を発揮する知的技術を利用できる能力
⑤チームワーク
3. 入学試験
①入学試験はない。
②ABTU 試験成績による入学許可制
③入学待機がある (希望者が多い場合)
4. 学部カリキュラム
①3 年生までを Pre-Diplomer と呼び、基礎カリキュラムは学科によって異なる。1 科目当りの単位は 4 単位が標準。
②3 年生までの取得単位は 98 単位。
Diplomerarbeit を含め 70 単位が必要。
③4・5 年生を Diplomer コースと呼び複数のコースに分かれてさらに専門性を強める。
5. 教育システム
①学部・大学院一貫教育であって、基礎教育に 3 年、専門教育に 2 年から 2 年半
②修士研究に相当する Diplomerarbeit がある。
③1 年次に 40 − 60%が退学する。
6. 教育資源
①化学科における学生実験室の実験器具は手作り、かつ老朽化していた。
7. 評価方法等
・講義の試験方法
①講義と試験は同一担当者が行なう。
・カリキュラムの評価方法
①カリキュラム検討委員会 (教授 6 名+学生 2 名+助手 2 名) で 1 回/ 月の頻度で開催し、カリキュラムの枠組み、不足科目
のチェックを行ない、検討結果を州教育委員会へ報告する。
・授業の学生評価
①Best Professor コンテスト (学生の人気投票) がある。
・教育プログラムの assessment
①検討中
ドイツ・イギリス・スウェーデン 89
[2] ケンブリッジ大学
1. 大学の構成および学科構成
Accademic Staff established 1,790 名、unestablished 1,567 名
学生数 : 学部 : 11,115 名 大学院 : 4,470 名
学部、学科の区分 : 21 学部, 50 学科以上
総予算 : 842.5M pond/year
2. 工学教育 (学部) の目標と目的
・工学教育 (学部) の目標 (aims) :
①世界をリードする大学とする。
②広い分野にまたがるアカデミック・エクセレントを形成する。
・工学教育 (学部) の目的 (Objectives) :
①英国および海外から優秀な学生に対して魅力あるものとする。
②学部、大学院教育において高品質な教育を提供し、産業、職業、パブリックサービス、学術の分野で必要とされる人材
の育成。
③コミュニテーのニーズおよび生涯教育の要望に対応する。
④高等教育に影響を与える政策において国内、国際的に積極的に参加する。
3. 入学試験
①大学が入学試験を行なうのではなく、College が行なう。
②試験はGCSE 試験 (16 才) で合格した物の中から A Level Test (18 才) の評価とcollege が受け入れ定員を考慮し、インタ
ビューにより学生選抜を行なう。
4. 学部カリキュラム
①学部 1 年生は全工学部共通科目の授業が 80-90%実験・演習に相当するコースワークが 10-20%である。
共通科目は、力学、線形システムと振動、熱力学、構造力学、材料、電気回路と素子、デジタル回路と情報処理、電磁
気学、数学である。
②工学部全学生は 2 年次に以下の必修科目を履修する。
力学、構造学、材料、流体力学、熱伝達、電気工学、情報工学、数学
選択科目として以下の科目から 2 科目を履修する。
土木・構造工学、航空工学、化学工学、電気工学、情報工学、機械工学
③3年生において専門科目の選択を行なう。
おもにプロジェクト (Design Project, Computer Project 等) に参加し、1 プロジェクトは 40 時間/週で 5 プロジェクトを履
修する。
プロジェクトは学生 6 名で編成し、競争による創造性の重視、リーダーの育成を目標。
④4 年生は 65 モジュール(1モジュールは 16 講義で編成)から 8 モジュールを選択し、さらに専門性を強める。モジュー
ルとしては以下の講義がある。
Surveying, Advanced Material Processing, Nuclear Power Engineering, Electrical machines, Control system design, Industrial
economics
4 年生の通年にわたりなされるプロジェクトを Major project と呼び、学生の時間の半分を占有する。
⑤その他、一般教養科目が自由選択で用意されている。
5. 教育システム
①工学教育は 4 年間で、前半 2 年を基礎一般教育、後半 2 年を専門教育としている。
②卒業研究に相当する Major Project がある。
③1 年次の退学率は 1%以下
6. 教育資源
①キャベンヂシュ研究所の物理学の学生実験室の実験装置等は基本的装置で古いものが多い。
②講義室等は木の机と椅子で古風な感じを与える。
③学生計算機室等は日本の環境と大差はない。
90 工学における教育プログラムの海外調査報告
7. 評価方法等
・講義の試験方法
①講義と試験担当者を分離して行なう。
・カリキュラムの評価方法
①電気、機械、土木等の学協会の要求を考慮。
・授業の学生評価
①不明
・教育プログラムの assessment
①対策を準備中
②政府による教育と研究の評価システム (Higher Education Funding Council of England) が始まっており、最近の評価結果
によれば、ケンブリッジ大学は研究・教育とも最上位の評価を受けている。
[3] 王立工科大学
1. 大学の構成および学科構成
教授、教員、技官、事務の合計 1,991 名
学生数 : 2,500 名/年 (4.5 年の Master of Science コース : 1,647 名+ 3 年の Bachelaor of Science コース : 835 名)
学科数 : 35 学科
総予算 : 不明
2. 工学教育 (学部) の目標と目的
・工学教育 (学部) の目標 (aims) :
①工学の各々の分野に応用できる数学、自然科学に関する知識の取得。
②社会の要請、経済、環境を考慮した社会の目標と度路に個々の人間が必要とする目標を考慮した製品、プロセス、作業
環境の設計を可能とする知識とスキルの修得。
③職業についてから、技術者としての特性の範囲で高いレベルの新しい技術と個人の自己啓発を可能とする教育資質の獲
得。
・工学教育 (学部) の目的 (Objectives) :
①問題解決能力
②計画とその評価・実現能力
③設計能力
④意志伝達能力
⑤組織・管理・経済能力
⑥社会・人間・環境を考慮する能力
3. 入学試験
①高校卒業時の Unified Evaluation Test の成績の上位者および大学入学試験で合格したものを入学させる。
4. 学部カリキュラム
①1 年生は全て共通科目で以下の科目から構成される。
計算機入門、ベクトル解析、光と波動、熱力学、線形代数、微分積分、基礎力学、合計 42 単位
②2 年生は全て共通科目で以下の科目から構成される。
数値解析、統計数理、複雑解析、微分方程式と変換、電磁気学、材料強度学、解析力学と力学、合計 36 単位
③3 年生は共通科目として、解析力学、物理数学、エレクトロニクス、電子計測、制御理論、基礎計算機科学、量子力学、
基礎熱・統計学、環境保全学、科学史の履修が必要とされ、選択科目として外国語を中心とする 2 科目の履修が指定さ
れている。合計 40 単位
④4 年生以上は専門コース別の選択として専門科目が用意されている。
Degree Project20 単位の履修が必要
⑤その他、17 週にわたる企業実習が科せられている。
修士学位の履修単位は 180 単位
5. 教育システム
①学部・大学院一貫教育で、基礎教育に 2 年半、専門教育に 2 年。
ドイツ・イギリス・スウェーデン 91
②修士研究に相当する Degree Project がある。
6. 教育資源
①建物が学部・学科によって分散しているので全体を見たわけではないが、3 階建程度の建物が多い。
②学生実験室、学生計算機室等は時間の関係で視察できなかった。
7. 評価方法等
・講義の試験方法
講義と試験は同一担当者が行なう。
・カリキュラムの評価方法
スエーデン、フインランドを統合してカリキュラムを含めた Quality Review が 1992-1993 に実施された。
・授業の学生評価
実施している。
・教育プログラムの assessment
検討中
収集資料一覧 :
Berlin-1 : Technische Universitat Berlin (全体、各学科の概要パンフレット)
Cambridge-1 : Undergraduate Prospectus 1999-2000 University of Cambridge P190.
Cambridge-2 : Undergraduate Engineering at Cambridge University, P20.
Cambridge-3 : Annual Report 1995-1996 University of Cambridge, P25.
Cambridge-4 : Graduate Studies Prospectus Univ. of Cambridge, P8.
Cambridge-5 : Current Research Topics 1998 Univ. of Cambridge, P20.
Cambridge-6 : Graduate Studies Prospectus 1998-99 Univ. of Cambridge, P217
Cambridge-7 : HEFCE Review of Physics, P3.
Cambridge-8 : Part1A Practical Physics, Cavendish Lavoratory 1997-1998, P79.
Cambridge-9 : Part1B Advanced Physics Practical -Class Physics of Waves 1998, P43.
Cambridge-10 : Part1B Advanced Physics Practical-System and Measurement 1997, P50.
Cambridge-11 : Engineering Department Staff Teaching Handbook 1997, P60.
Cambridge-12 : Engineering TRIPOS Part1A 1997/98 Syllabuses,
Cambridge-13 : Engineering TRIPOS Part1B 1997/98 Syllabuses,
Cambridge-14 : Engineering TRIPOS Part2A 1997/98 Syllabuses
Cambridge-15 : Engineering TRIPOS Part2B 1997 Module Syllabuses for Group A
Cambridge-16 : Engineering TRIPOS Part2B 1997 Module Syllabuses for Group E
Cambridge-17 : Engineering TRIPOS Part2B 1997 Module Syllabuses for Group B
KTH-1
: First Degree Programmes, Royal Institute of Technology, P19.
KTH-2
: Studying Stockholm, P26.
KYH-3
: Master Programmes at KTH, P15.
KTH-4
: School of Architecture, Surveying and Civil Engineering, P11.
KTH-5
: Observations and Views on the Swedish M. Sc. Programmes, P74.
KTH-6
: Quality Review-F : Review of the Swedish and Finnish M. Sc. Programmes
in Engineering Physics, P10.
資料保管場所 : 北海道大学
大学院工学研究科
92 工学における教育プログラムの海外調査報告
岸浪教授室
調査委員所感 :
岸浪建史委員
1) 技術革新の進展、産業のグローバル化に伴い、欧州においても Undergraduate course に関する工学教育プログラム改善
は必須となっている。
2) 21 世紀における産業構造の展望に関して明確なヴィジョンは無い。逆に、ビジョンが無いがゆえ、基礎学問の重要性
が指摘されている。
3) Cambridge Univ. は教育の質の向上に関して最も熱心な大学であると言える。
college 教育の維持、学部教育の評価と質の向上に関して Staff Teaching Handbook を作成しているなど、ABET2000 など外
部評価にたよるのではなく、自ら基準を作成する姿勢は参考にすべきである。訪問大学の中で、際だってリベラルな雰囲
気と自由を感じさせる大学であった。
4) Berlin-TU はドイツ産業界をリードしてきた自負心からか現状を変えようとする気配は感じられなかった。むしろドイ
ツ統一によるベルリンにおける 3 大学、ベルリン工科大学、ベルリン自由大学、フンボルト大学の整合性の観点からの改
革に時間を取られている。
5) KTH (スエーデン王立工科大学) 訪問で得るものは少なかった。 面談担当者が年輩の先生であったためか改革に対す
る意気込みが感じられなかった。
高橋英明委員
去る 3 月 15 日~3 月 22 日、駆け足ながら、ベルリン工科大学 (Technical University of Berlin, ドイツ)、ケンブリッジ大学
(University of Cambridge, イギリス) およびスェーデン王立工科大学 (Royal Institute of Technology, スェーデン) の学部教
育システムについて見聞を広める機会を得た。以下に、その印象・雑感を述べる。
最初に訪問したベルリン工科大学は、学生数 34,000 名、15 学科を擁するかなり大きな大学である。学生数で比較すると、
筆者が勤務する北海道大学の約 2 倍の規模である。ただし、自然科学のみを対象とする学科群で構成されているので、北
大とはちょっと異質の大学である。この大学の教育における特徴としては、
a) 5 ~ 5.5 年の学部・大学院 (修士課程に相当) 一貫教育
b) 年 2 回の入学 (4 月および 10 月)
c) 卒業時期の任意選択制
が挙げられよう。a) については、3 年間の基礎教育と 2~2.5 年の専門教育とからなる。入学試験には特別なものはなく、
全国一斉テストの結果から、定員の 2 倍程度入学させ、一年間の課程ののち、学科によって異なるが、40~60%の者が大
学を去るようである。すなわち、いわゆる 2 段階選抜方式といえる。その後、進級して卒業すると、Diplomer (修士) と
なるが、卒業すると大部分は企業へ就職するようである。5.5 年の一貫教育とは言うものの、その期間で卒業する者は少
なく、もっと長期間にわたるのが普通のようである。ただし、先生たちの態度は、生徒をなるべく早く卒業させようとう
風ではなく、長期間在学するのは、学生の権利として認めているとのことである。これは、“なるべく早く卒業させるの
が、学生にとって最善”と考える、筆者の知っている我が国の大学における考え方とは、ちょっと異なる点であろう。入
学時期を、年 2 回とするのも、制度が かなり"flexible " であるとの印象を受けた (我が北大においても、博士後期課程の
社会人入学には、年 2 回の入学を認めている)。
化学科の G. Heppke 教授にお会いしてお話を伺ったところ、化学の分野では、他の工学の分野とちょっと、事情が異な
り、Diplomer の終了ののち、約 90 %が phD コースに進むそうであるが、phD をとってからの就職がまたなかなか大変で
あるそうである。話の随所に、ドイツ人の誇りと伝統が感ぜられ、基礎教育においてどのような教授がふさわしいかの問
いに " Best Researcher is Best professor" ということで、かたくなに古い型の授業形態を守っているようである。
ケンブリッジ大学は、学生数 15,500 名の総合大学で我が北大と規模およびいろいろな分野の学部があるという点で、極
めて似ているが、その歴史、教育方法が大きく異なり、いろいろな面で多種多様な感銘を受けた。ケンブリッジ大学の教
育の特徴は、
a) "カレッジ"制による少数教育
b) 4 年間の一貫教育 (学部+修士)
が挙げられよう。カレッジ制は、イギリスのエリート教育を支える伝統的な制度であり、現在では、ケンブリッジ大学の
ほか、オクスフォード大学、ダンカン大学 (?) の三つだけが、その制度を維持しているそうである。ケンブリッジ大学に
は、29 のカレッジがあり、大学への入学は、各カレッジが行う。各カレッジには、いろいろな学問分野の教官がそれぞ
れ配属され、教官の配属人数によって、各カレッジが募集する学問分野の学生数が決まるとのことである。大学への入学
ドイツ・イギリス・スウェーデン 93
は、全国共通テスト (A-level test) の結果をもとに、"面接試験 (Interview) " で決定するとか。各カレッジで、如何に優秀
な学生を獲得するかの競争も激烈で、夏には、全国の、またイギリス連邦の各国からの高校生を集めて "summer school"
を開くとも言っていた。
このようにして、集められた"excellent boys and girls" は、午前中は各学部で授業を受け、午後は、"tutor" と呼ばれる college
所属の教授陣に学生二人に教官一人の割合で個人教育を受けるという。 「この college 制による個人教育こそが、ケンブ
リッジ大学の根幹であり、長い間世界一流の学者を輩出続けた所以である。」とは、午後から訪れたケンブリッジ大学キャ
ベンディッシ研究所の Brown 教授である。 「しかし、この教育方法は、お金がかかりすぎるのが欠点であり、近年の政
府予算の削減処置はこの制度をかなり難しくしている。」とも、彼は、言っていた。入学後は、落第・留年制度はなく、
学期末の試験におちたものは、退学して他の大学に移るしか手はないそうである。しかし、落伍者がほとんどいないよう
である (数%)。この点は、「入学を難しく、卒業は易しい」といわれる (?) 我が北大より極めて少ない。
しかし、その内容は、だいぶ違うようである。
遠くニュートン、ハミルトン、ダウインなどを輩出してきたこのケンブリッジ大学は、1900 年に創設されたノーベル賞
に 60 名もの受賞者を出しているという。そのうちキャベンディッシ研究所からは、24 名のノーベル賞受賞者がおり、そ
こに展示されている、Thompson, Ratherford , Brag らの写真や、彼らが実際に用いた実験装置などから近代物理学の歴史
をかいま見ることができ、強い興奮を覚えた。
college 制はともかく、カリキュラム、授業の評価方法などにも工夫がみられた。例えば、3 年生における"group project" 。
これは、6 人が一組になって、ある課題に挑戦するというもので、創造性、チームワーク、リーダーシップの養成にきわ
めて有効という。また、全ての授業ではないと思うが、学期末のテストは、授業を行わなかった教官が行うというのも、
大変興味深く感じられた。これは、生徒と先生を同時に評価できるという効果をもつことになる。もし、先生がシラバス
に書かれた内容と違う講義をしたり、また休講などでシラバスを完了できなかったら、大部分の学生が問題を解くことが
できなくなるので、教える方は大変気を使うそうである。学会などで休講が多く、いつも学生に"excuse" を言っている筆
者には、深く反省させられる一日ではあった。
最後に訪問させて頂いた大学は、スウェーデン王立工科大学である。 毎年、2700 名の新入生があるというから、規模と
しては、我が北大とほぼ同じ規模である。しかし、ここも、ベルリン工科大学と同じ単科大学であり、我が北大とはこと
なる。この大学の教育の特徴は、
a) "Master of Science"コースと"Bachelor of Science" コースの二本立て教育
b) 17 週間にわたる企業での実習制度
c) 他国における授業受講および卒業実験の奨励
と感じられた。a) については、4.5 年の master コースと 3 年の Bachelor コースとに分かれており、学生は大学の入学時に
どちらのコースに入学するかを選択しなくてはならない。大学への入学は、高校時代の成績がよいものから約 2/3 を、年
2 回行われる全国共通テストの結果を用いて約 1/3 を選抜するという。学科によっては、実技を課するところもあるよう
である。「Master コースか Bachelor コースを学生はどのように選択するのですか。」との問いに、「早く社会に出たい者が
Bachelor コースに進む」との K. Odeen 教授の答えではあったが、高校時代の成績と、入学学科との関連グラフからは、
やはり成績上位の者が Master コースを選択する傾向が見てとられた。また、教官陣も、Master コースと Bachelor コース
とで二本立てになっているという。我が北大では、教官の序列化をなくする意味もあって教養部廃止、学部縦割り・一貫
教育の開始となった経緯もあり、この教官陣の二本立てが教官の研究にどのような影響を及ぼしているかに興味を覚えた
が、質問するチャンスはなかった。
b) の学外実習は、実学を重んじるスェーデンらしい教育方法かと思う。かって、筆者の学生時代には、夏休み 1ヶ月の
工場実習が義務づけられていた。筆者にも極めて懐かしい思い出があり、大学に職を得た後も"企業"を思い浮かべるとき、
第一に学生時代に一ヶ月過ごした工場が鮮明に浮かび上がる。この工場実習制度が我が国から、その姿を消したのは、学
園紛争時代であり、企業が引き受ける学生に不安感を抱き、大学側も送り出す学生を保証できない時代であったかに記憶
する。最近、工学における"インターン制"が見直されているが、工学の分野に多くの若者を引き入れるにも重要なプログ
ラムかも知れない。
スウェーデン王立工科大学では、学生が外国で授業を受講することを積極的に奨励しており、受講単位の相互認定など、
他の国の多くの大学と取り決めを結んでいるそうである。「学生は、どのような国へ行くのが一般的ですか」の問いに、
「フランス、ドイツが多いようです」との答え。
「イギリス、米国」を予想していた筆者には、ちょっと面食らった一瞬で
あった。それを、見透かしたように、
「スウェーデンでは、英語教育は、高校生までに充分行われていて、大学では英語
を勉強する必要がないのです。学生の多くは、第二外国語としてのフランス語、ドイツ語を習いために外国へ行くので
す」とは、副学長の C. Mober G 女史の言葉である。
「国際社会で活躍できる人材を育てているなあ」との実感であった。
今回、訪問させていただいた三つの大学では、いずれも期せずして、学部と大学院修士課程を一貫教育とし、その上に
phD 課程を積み上げていた。一貫教育の年限が 3 者 3 様であり、どの年限がもっとも適正かは、学生の量・質、教官陣の
94 工学における教育プログラムの海外調査報告
量・質、社会の要請などにより異なるので、一概にいえないが、学部から修士課程までを一貫教育とし、より高度な研究
者・技術者を養成する時期に我が国も来ているかも知れない。ケンブリッジ大学では、最近始まった政府による教育と研
究の評価システム (Higher Education Funding Council for England) に非常に敏感になっており、教育および研究において最
高レベルの評価を受けたことを誇らしげに R. Cipolla 博士が話してくれた。評価の点数によって政府から支給される予算
が異なってくるので、これに神経質になるのも当たり前であろう。我が北大においても、自己点検評価、外部点検評価な
どの制度がはじまり、それなりに欠点・弱点の是正は見られるが、真剣に大学改革を行うなら、イギリスの制度をもう少
し勉強してもよいかも知れない。
今回、見学した三つの大学では、英語教育をことさら取り立てて行っているようには見えなかったが、これは、大学にお
いて英語をもう一度勉強することが必要ないからであり、我が国における事情とは、大きく異なるように思われる。我が
国においても、最近中等教育における英語教育が是正され、話して通じる英語教育が重視されるようになったが、その成
果は、余り挙がってないように見える。 大学に入ってから英語教育をもう少し強化するため、学生時代に外国への留学
などを奨励するなどの措置とともに、卒業の要件に英語検定制度を活用することも考えられる。これからの日本のおかれ
た立場を熟慮するなら、我が国の技術者が世界にはばたけるような英語教育システムを構築しなければならない。
工藤一彦委員
今回訪問した大学の内、ベルリン工科大学とスウェーデンの王立工科大学の学部教育に対する教官の感覚は、我々とあま
り変わらず、各教官の独自性を重んじた内容の科目の集合でカリキュラムが構成されていた。ただ、ベルリン工科大学で
はこれに対する補償機能として、教授 6, 学生 2、助手 2 の faculty consel を設け、月に 1 回くらいの会合でカリキュラム・
教育等について検討し、答申を出す制度があり、うまく働けば有効であろうと感じた。これに対しケンブリッジ大学の工
学部では、カリキュラムを決める際に、その中の科目名だけではなく、各教科の教育内容を示すシラバスをきちんと作
り、その内容を他大学の教官を交えたグループで評価するとともに、これをもとに講義をした教官と違う教官が試験問題
を出すということで、シラバス通りの教育の保証と、その有効性の評価を行っており、学部教育に対するシラバスの重要
性を改めて認識させられた。また、大学の外部評価に提出された書類等は、学部教育の目標、その実現方法、これらと実
際のカリキュラムとシラバスの整合性等、明快に記述されており、多面的な目的を実現するのに必要なシステムを、各種
の概念を定義し、これを積み上げることで構築していくことに先天的ともいえる巧みさを見せるアングロサクソンのすご
さに感動すら覚えた。また学生の教育には、贅沢なチューター制 (学生 2 人にチューター 1 人) をとって学生の理解を助
け、深めていくカレッジ制度の存在と、6 人でチームを組んで各種の課題 (ロボット製作、トラスの最適設計、等) を実
際にいくつもこなし、各チーム間の競争でそれぞれの独創性を高める教育等、講義と平行してその内容を身につけさせる
ための教育が考えられていた。ただしこれは、イギリスの全土から選び抜かれた学生に対して行われており、学生の居眠
り・私語対策に無縁の環境で行われていることも事実で、日本の大学への適用に当たっては、工夫が必要であろうと感じ
た。また、ベルリン工科大学とケンブリッジ大学、特に後者では、工学教育の目的として「企業での技術プロジェクトの
まとめ役、リーダー」となれる学生の育成を大きくかかげており、このため、数学、物理、数値解析等の基礎科目と、極
度に専門的ではない科目を有る程度広く勉強させており、高度に専門的な技術者養成を目標とすることが多い日本の大学
と少し様子が違っていた。これは産業界の要請でもあり、逆にこのことが各国の産業の現状をもたらしているように感じ
られた。すなわち、欧米では新しい概念が生まれやすいが、その育成は苦手で有るのに対し、日本では逆に新しい発想は
苦手だが、個別技術に優れているといった傾向が、このような大学教育と関連があるような感じがした。ただし、これは
このような大学教育がこのような産業界の現状を生んだと言うより、それぞれの民族性が大学教育にも産業界の現状にも
表れたと考えたほうがいいのかもしれない。ただ、われわれの専門教育重視傾向に対し、基礎科目重視の傾向をある程度
取り入れ、彼らの優位の部分に近づいていくことが必要であろう。今回のヨーロッパの 3 大学の調査を通じ、我々の工学
教育の現状を鑑みるに、工学教育の目標、これを実現するための内部の整合性のあるカリキュラム・シラバスの構築、こ
れらを可能とする教育システム作成グループおよび評価システムの構築が急務であることを痛感した。
三上
隆委員
以下に, 欧州工学調査に参加した印象等を列記致します。
1) Teaching と Education について多くのことを考えさせられた。 特に退屈に感じる (見える) 基礎的学問の習得段階が学
生の将来の研究活動や 企業活動の創造力の源であることを痛切に感じた。
2) 教官は, これからの学部・大学院教育の目的は何なのかを再考し, それを一 層明確なものとし, 互いに共有すべきであ
る。 そのためには, 近年の学生の理工系離れの顕在化, 入学生の数学・物理等の学力低下傾向や 18 才人口の急減を常に
頭に入れ, 専門教育の強化と創造生を育成するカリキュラムを作成し, それを実践
できる体制を作り上げる努力を怠
らないこと。
3) 学生の理工系離れは, 小・中・高に於ける教育システムにも問題があることは事実であるが,「開発・製造する喜び」や
「探求・ 発見の楽しさ」を体験できる環境を大学側で積極的に提供すべきである。Cambridge Univ. の高校生向けの sumドイツ・イギリス・スウェーデン 95
merschool の開校は興味深い。(個人的な話になるが, 私の子供の時を思い出すと, 知的好奇心を刺激してくれる先生に出
会えたことが, 技術系に進んだ理由になったかもしれないと思いだした)
4) 自信にあふれる (?) 女子学生と会えた。Berlin-TH の Prof. Pahl の面談中に一人の女子学生と話をする機会を持てた。
この学生は, 建設現場で働くことを目標にしているとのこと。その自信と積極性は日本の女子学生にはないものを感じた。
女子をどんどん工学部に進むようにしないと, 18 才人口の減ってくる 20~30 年後の日本全体
の技術力の低下にそなえて。そのためには, 大学・企業側の一層の意識改革も必要。
5) Cambridge Univ. で行っている講義担当と試験担当の分離は非常に興味深かった。
6) 工業先進国であるためには, いろいろな意味で教育先進国でなければならない。
以上
96 工学における教育プログラムの海外調査報告
アメリカ I
会議報告
日 時 : 1997 年 10 月 29 日∼ 10 月 31 日
会議名:ワシントン合意締結会議
技術承認委員会 (TAC)
工学承認委員会 (EAC)
ABET 第 65 回年会
ワシントン
出張者:正畠宏祐 (名古屋大学大学院工学研究科教授)
97
1997 年 ABET 第 65 年会参加報告
1. 日 程
1997 年 10 月 29 日から 31 日までワシントン市のマリオットホテルで開催された ABET の年会に参会したので報告す
る。第 65 年会の前に下記のようワシントン合意の締結会議、TAC Day, 及び EAC Day も開催された。
10 月 27 (月)、28 日 (火) ワシントン合意の締結会議
10 月 29 日 (水) TAC Day, 及び EAC Day
10 月 30 日 (木)、31 日 (金) ABET 第 65 年会
私が参加したのは、29 日に開催された TAC Day、EAC Day の会合と、年会であった。
2. TAC Day・EAC Day
TAC (技術認定委員会) は、2 年の技術短期大学のプログラムの認定をし、EAC (工学認定委員会) は、4 年の工学大学
のプログラムを認定するものである。本年会では、新しい認定基準である基準 2000 (Criteria 2000) が古い基準とどのよ
うに異なるか、それは何故導入されたのか等を説明をすることが目的であった。これまでの認定基準では、”豆の数を数
える (Bean counting)”と酷評される方法を採っていた。すなわち、学部又は学科が、どのような教育施設をもち、どれだ
けの教官がいて、どのような科目を講義に何時間、演習に何時間、実験を何時間課しているかさえ満足されていれば、学
生の質の良し悪しや、学生がどのような能力を持って輩出されているかは問題にしなかった。それに対して、新しい EAC
基準では、例えば 4 年制大学の工学部又は学科では、
明確な教育目標をかかげそ、のためにどのように教育をしているか、また、
その目標のためにカリキュラムや教育方法を常に評価し改良しているか、
その教育の結果、ABET の列挙している 11 項目のことが可能な卒業生が輩出されるか、
その教育目標を達成するために、
学部教育として、1 年の基礎数学、基礎科学を受けており
1 年半の専門科目の教育を含んでいるか、また
適当な人文科目の教育をしているか
十分な数の有能な教師がおり、設備があり、
それが可能な予算的な裏付けがあるのか。
従って、これまでのように数または形が満足されているかどうかで済む基準から、
数では簡単に評価できない基準に変わったことで工学部、学科が大変混乱しているというのが実状のようである。その点
に関して次に認定を受ける際にどのように対処すればよいかという点が質疑応答で盛んに討論された。
3. 第 65 年会
全講演を通しての印象 :
先進国では、流動化する職業的サービス業者が国境を越えて職場を得ることができるような人材を輩出するために大学
側が教育改革努力をしている。発展途上国では、自国の工業発展を支える高い技能を持った人材を輩出するために限られ
た教育的資源のなかで努力している。技能者を他国に送り収入を得るという明ら様な言葉は聞かれなかったが、潜在的に
はその方向に向かうであろうことは感じられた。
1) 特別講演「工学、技術、貿易に関する条約、職業人」
:
Bernard Ascher (ベルナルド アッシャー、米国貿易代表部サー
ビス工業局長)
物品の輸入関税と貿易に関する一般協定 (GATT) に対して、サービスの貿易に関する一般協定 (General Agreement on
Trade in Services (GATS)) を制定する動きが活発になってきている。これは、ある国で認められた職業人が他の国でも就
職が可能なように、多国間で協定を結ぼうと言うものである。そのために、WPPS (職業的サービスの検討委員会, Working
Party on Professional Services) が設置され、ある国で認められた職業的免許が他の国でも認められるようなガイドラインを
定める努力がされている。工学分野における技能認定制度は、この流れの中で最も最先端を走っていると賞賛した。
2) 世界における工学教育改革
ドイツのマンハイム大学のフォンホイニゲンヒューネ教授は「ドイツにおける工学教育改革」という題で講演した。ド
イツにおいて 70%以上の工学者を輩出する 4 年制大学である科学技術大学 (Fachhochschule) 群において教育改革が進ん
でいる状況を講演した。その理由は、技術革新が早いこと、新教育法に対する基本理念の必要性、社会や企業環境の変
98 工学における教育プログラムの海外調査報告
化、卒業生の職場が地球規模化した等である。
中国の建築土木工学者認定の国立管理委員会の Qinnan Zhang 副会長は、「中国における建築土木工学士の教育、認定及
び職業資質」について私見を講演した。特に、土木建築工学士の認定基準は、米国や英国などのそれを参考にして新制度
を制定した。
チリ工学教育学会の M. F. Letelier 会長は、「チリにおける工学教育改革」という講演において、チリの置かれている
事情を説明しながら、卒業生に要求される高い技能をもたせるための教育改革が進んでいることを話した。
連合王国の工学評議会 (Engineering Council) の Jack Levy (ジャック・レビー)
氏は、「英国の工学教育における発展-補填学習期間の導入」という講演を行った。
英国内及び世界的な変化に対応するために、英国の工学士の実力を上げる方向に進みつつある状況を説明した。英国の工
学士の水準を世界の水準にまで高めるために、年限が短い (3 年) 教育期間を長くする必要があるが、そのために補填学
習期間 (Matching Section) を導入することを検討している。学業期間を延期すると、親の経済的な負担が増すので、これ
を実行に移すための具体策を検討している段階である。
3) 工学技術士認定の国際的拡大
ウースター工芸大学の学長であり EA2000 (工学標準 2000) の導入のための主席検討委員である E. A. Parrish 学長は、
「一般教育と工学基準 2000」と言う題で講演した。このなかで、これまでの基準は、学生が何を学んび何ができるかより
も、どの科目を取ったかが問題であったために、大学における教育法の改良努力を抹殺する極めて硬直した”豆の数を数
えるだけ”のアプローチをしていた。この欠点を克服するために、新しい基準では、現在の教育によって将来どのような
結果が期待されるかを評価し、また認可された工学基準を常に改良することを義務化するような文脈に変更した。新しい
基準では、下記のような能力が要求されることを強調した。
1)
2)
3)
4)
5)
多分野出身者で構成されるチームの中で役割を果たす能力、
自分の専門分野のみでなく倫理的な義務を理解すること、
地球規模及び社会との関係において工学的な解答の影響を理解できること、
生涯教育を実践する能力、
現代の問題に関する知識をもつことである。
インドの工学教育の評議会 (NBAI) の G. V. V. J. Raju 氏は、「インドにおける認定の国立委員会」という題の講演
を行った。発展途上国であるインドが置かれている特殊事情を述べながら、工学教育の質を保つために NBAI が行ってき
た努力を述べた。
大阪大学工学研究科の大中逸雄教授は、日本の教育制度、大学設置基準、地球規模での企業環境の変化に対してどのよ
うな教育制度・方法が最適であるかについて述べた。日本では、外国で一般に行われている教育プログラム認定制度とは
異なって、大学設置の際に設置基準を認定する方法が採られていることを述べ、その改良の可能性について述べた。
メキシコの F. Ocampo 氏が「メキシコにおける教育評価法の現状と将来」という講演を行った。近年大学生の数が増
し、工学士の輩出数が急激に増大するに及んで、その質の確保が最大の問題となっている。将来的には、多くの学科の教
科の評価認定ができるように努力している。
10 月 27 日、28 日に合意された、「工学認定制度とワシントン合意」に関して、ワシントン合意の事務局の W. RyanBacon 女史の発表があった。
4) PE (Professional Engineer) の国際的な流動性
オーストラリアの工学会の最高行政官である John Webster 博士が、「PE の国際的な流動性とワシントン合意」という題
で、28 日に締結されたワシントン合意に至る経過とその内容について講演した。ワシントン合意には、オーストラリア、
アイルランド、ニュージーランド、アメリカ合衆国、連合王国、南アフリカ、香港、カナダの 8 カ国が合意に参加してお
り、工学士を授与する認定された工学教育プログラムが同等であることを認可した。その規則と手続きが 10 月 28 日に新
しく改正され、それが認められた。このような合意は、職業的なサービスの二国間の貿易障壁を徐々に低くするのに役立
つであろうと予想している。
フランスの工学認定委員会の会長である G. M. Lespinard 博士は、「ヨーロッパ内でのヨーロッパの工学者の流動性」
99
について講演した。EU 内で輩出された工学者をお互いに完全に認め合うということは、各国の政治家が反対するために
可能となっていないが、工学教育水準の平等化はどんどん進んでいる。大学や大企業は、各国の政府よりもずっと進んで
いる。
日本コンサルタントの S. Taki 氏は、「PE の相互認定に対する日本の工学者の対応」という題で講演した。日本国内の
工学組織、大学及び政府内では、APEC 内での相互認定プロジェクトが益々知られるようになった経緯が話された。
ジーメンスの Kruno Hernaut 氏は、
「PE の国際的な流動性-FEANI の役割」と言う題で、ヨーロッパ共同体内での職業的
FEANI
(European Federation of National Engineering Associations) が果たしている役割に
なサービスの流動性を増すために
ついて述べた。
L. Glasgow Lewis, Jr. 氏は、
「NAFTA 内での工学者の流動性」について講演した。免許をもった工学者がカナダ、メ
キシコ、アメリカ合衆国内で自由に移動できるように、相互承認の合意をしていることを踏まえて、国境を越えて工学
サービスが行き来している状況を報告した。
100 工学における教育プログラムの海外調査報告
アメリカ II
会議報告
日 時:1997 年 11 月5日∼ 11 月8日
会議名:FIE (Frontiers in Education Conference) ピッツバーグ
出張者:山本 尚 (名古屋大学大学院工学研究科教授)
101
FIE (Frontiers in Education Conference)
教育の最前線コンファレンス−変換期の教育と学習
教育方法の革新について
COALITION (いくつかの大学が連合してひとつのプロジェクトに取り組む) が何故必要であるのか?この質問に対して
人によって様々な答えが返ってきた。NSF の指導と資金援助の影響が大きいことは言うまでもないが、情報メディア等を
用いる新しい教育方法の開発が、言葉で言うほど簡単なことではなく、大変な時間と人手が必要であることも忘れてはな
らない。本当に良い物を作るにはいくつかの大学が協力することで始めて可能となる。例えば、研究指向的な大学が教育
指向的な大学と良き協力関係を持つこともよくみられることである。
これは予想していたことであるが、工学の実験や講義に計算機を導入する技術がわが国よりもはるかに進んでおり、ま
た、教育方法に関する議論も成熟しているように思えた。新しいソフトウェアの販売に対して WILEY 等の出版社が熱心
に乗り出してきており、教官の作るソフトに対して賞を出したり、積極的に販売している。実際に今回のコンファレンス
でも 3 つの入賞した作品のサンプルをいくつか入手したので検討いただければ幸いである(12 月に送ってもらえる予定で
ある)。
学部教育において数学、物理、化学、工学、英語等の教官が常に相談しあって有機的に関連しあったカリキュラムを構
成していることがみられた。すなわち、個々の教科のカリキュラムが独立していなくて、お互いに連動することによっ
て、非常に大きな教育効果を上げることが出来る。
「チーム・デザイン」が重要視される。その場合、成果の 60%がチームに 40%が個人に対して評価すると述べた講演が
あった。
企業において 70%のコストはデザインに起因することからも工学教育においてデザインの重要性はもっと認識するべき
で、デザインの科目はさらに増える勢いである。
KNOWLEDGE AND SKILL という形でこの 2 つの言葉を対比して表現していることがよくみられた。SKILL とは「物
事を行うことの出来る能力」と解することが出来る。また、「問題と解答との間のスペースを埋めることの出来るプロセ
スを構成する能力」を SKILL としてとらえることも出来る。例えば、TECHNICAL SKILL には問題解決能力、問題のモ
デル化能力、それに対する実験の立案能力、その結果にたいする論理を組み立てる能力等が当然のことながら入り交じっ
て一体として含まれてくる。驚いたことに、大学によっては、シラバスの記述にこの 2 つの項目を分けて書かせようとし
ているところもあるほどである。
カリキュラムの中で英語の重要性が強調されている場合が目立った。各々のプロジェクトに常に英語の教科を連携させ
るプロジェクトが入っているのがみられる。特にこれはフレッシュマンのコースに顕著であり、自らの結果に対する表現
方法や、チームでの議論の方法、また、他者の結果に対する正当な評価に関する国語力を重視しているのが印象的であっ
た。すなわち、これはわが国で一般的に言われている国語力というより議論する力や、発表する能力を言っているようで
ある。
評価の問題
全体的に、ABET2000 のようなすこし哲学的とも思える記述でも充分に ACREDITATION の効果を上げる社会的背景
が米国では出来上がっているように思える。むしろこの様な記述によって非常に柔軟性のある、各々の時代の要請でいか
ようにも変化し得るカリキュラムを弾力的に組むことが出来る。しかし、この新しい ABET 2000 によって、以前の ABET
ではなかった別の問題が生じてきた。すなわち、OUTCOME 評価の問題である。大げさに言えば、これまでの学生の評
価方法 (試験等) をすべて見直す必要に迫られている。
今回のコンファレンスでも、ABET ENGINNERING CRITERIA 2000 に新しい項目として加わった ASSESSMENT につい
ての議論が大変に多かった。これは「工学教育プログラムの掲げた目標とその達成度を表現することを義務付ける」もの
で、いわいる OUTCOME 評価から来ているとみてよさそうである。(この内容のシンポジウムが来年 10 月 16 − 7 日に
)
ローズ・フルマンで開催される。
102 工学における教育プログラムの海外調査報告
OUTCOME ASSESMENT のために卒業生にアンケートを出すことが行われ始めている。初年度、1 年目、4 年目の 3
回にわたってその学生が大学で受けてきた教育やその大学に在籍する教官の評価を依頼するところもある。また、卒業生
の就職先に対してのアンケート調査も行っている。
コースが終了した後で、その学生に本人の学習したことのエッセイを書かすことで評価することもできるという発表が
あった。本人がみずから学んだことを文章化することでより明確になる。その場合、情報をいかに用いたか。いかに視野
が広がったかで評価する。
しかし、評価の問題はいまだに議論の途上であるという一般的印象を受けた。
企業との関係
企業との協力関係でよく見受けるのは企業からのプロジェクトを大学のデザイン指向型の学部科目のテーマにするケー
スであろう。これによって企業から相当額の資金援助を得ているケースがみられる。また、企業から得た資金に対してほ
ぼ同額の財政援助を NSF が行っているのも目に付いた。
企業によっては教官のインターンシップの制度を持っているところもあり、教官の再教育にそれなりの役割を果たして
いるようである。例えば、教官が 1 週間に 3 日で 9 週間にわたって夏期休暇中に行うインターンシップの紹介があった
が、大変にうまく機能しているようである。教官のリフレッシュ教育のひとつであろう。
ABET2000 について
ABET2000 に対してはどの大学もかなり神経質になっており、最近この審査を受けた大学での経験談では会場が一杯に
なっていた。とくに CRITERIA の 2 と 3 が重要であるらしく、これをクリアーするのにかなりの努力を払っている。以前
の ABET でははるかに詳しく項目が分かれているが、この新しい制度では非常に柔軟性があり、どの大学も自らの目標に
対して達成していればよいと考えれば、易しいが、初めての試みであるためにそれなりの苦労があるようである。
会議の内容については 1600 頁を越えるアブストラクトと CD-ROM になっている。また、詳細なアブストラクトの入っ
た CD-ROM も入手可能である。アブストラクトにない 15 のワークショップも開かれ、全体で参加者 500 名を越える大変
な盛会であった。
会議報告 103
104 工学における教育プログラムの海外調査報告
オーストラリア
会議報告
日 時:1997 年 11 月 15 日∼ 11 月 21 日
会議名:APEC 技術者相互認定プロジェクト運営委員会
出張者:宇佐美 勉 (名古屋大学大学院工学研究科教授)
二羽淳一郎 (名古屋大学大学院工学研究科助教授)
105
APEC 技術者相互認定プロジェクト運営委員会
1. 要旨
APEC 域内での専門技術者 (Professional Engineer) の自由な移動と活動を確保するため、専門技術者の相互承認を認める
際の要件等について過去2回の運営委員会 (第1回 1996 年 5 月シドニー、第 2 回 1997 年 6 月メルボルン) 及びワーク
ショップ (1997 年 8 月マニラ) で議論してきたが、この運営委員会で最終的な審議を行った。その結果、下記事項を運営
委員会内で合意した。
(1) 相互承認された専門技術者を APEC 技術者と呼ぶ。
(2) 技術者が APEC 技術者として認められるための要件は次のようである。
①認定 (accreditated) または承認 (recognized) された工学教育課程を修了していること。
②当該国で自立して業務を遂行可能であると認定されていること。
③工学教育課程修了からすくなくとも 7 年間の実務経験を積んでいること。
④その内、すくなくとも 2 年間は重要な技術業務において、責任ある立場で実務経験を持つこと。
⑤継続的な能力開発を、満足できる水準において維持していること。
(3) APEC 技術者は、受け入れ相手国の業務免許審査の一部あるいは全部が免除される。
(4) 各参加国に設けられた監視委員会 (Monitoring Committee) が APEC 技術者の登録機関 (Register of APEC Engineers) の
設立と運営に当たる。
(5) APEC 技術者のタイトルの正式授与機関として、APEC 技術者調整委員会 (APEC Engineer Coordinating Committee) を
APEC 人材育成部会 (APEC Human Resources Deveropment, APEC HRD) の組織内に設ける。調整委員会の主な役目は、
APEC 技術者登録機関の維持と発展を容易にすること、また各国において、APEC 技術者をその国で登録または認可され
た専門技術者と実質的に同等の技術的、職業的能力を持つ者として受け入れることを促進することにある。
(6) 1998 年 1 月にインドネシア・バリで開催予定の APEC HRD 会議に上記の合意事項を含む Final Discussion Paper を提出
し、同年 5 月に台北で行われる同会議で最終決定を行う。
2. 工学教育の品質保証
各国の監視委員会は、APEC 技術者に対する上記 5 つの要件について、それぞれの国の基準と認定までの手続きを定め、
APEC 技術者調整委員会に諮り、承認を得なければならない。そのための基本的枠組みとガイドラインが提案、合意され
ている。その内、大学での工学教育と関連ある (2) -①の要件 (工学教育の品質保証) に関する部分は次のようである。
基本的枠組み (原文は APPENDIX 参照)
工学教育の品質保証に対するチェック機能の透明性を確保するため、各国は下記の 6 項目を用意する必要がある。
①認定を得るための透明な基準として、品質保証に対する基準と手続きを各国の公用語で印刷、公表する。また、共通基
準の概要および変更などを英語で公表し、要求があれば説明に応じること。
②政府機関あるいは認定された技術者団体により決められた基準に照らして、工学教育課程/学部/学科の教育資源、プ
ロセス、および成果に対する首尾一貫した評価を行うこと。
③教育プログラムの継続的評価と発展のために品質管理システムを奨励すること。
④認定あるいは承認された工学教育プログラム/大学/学部、および認定機関のリストを定期的に英語で公表すること。
また要求があれば説明に応じること。
⑤評価結果 (認定あるいは承認されるために必要とされる特別な条件を含む)、および将来の要求事項の変更を工学教育
コースの提供者に知らせること。
⑥自己評価システムを内蔵すること。
なお、カリキュラムとして以下のような科目を含むことが記載されている。
・主要分野:Matematics and Physical Science, Engineering Science, Engineering Analysis and Design
・関連分野:Communication, Management, Ethics
ガイドライン
上記の枠組み内に収まると考えられる工学教育課程の Benchmark として以下が挙げられる。
(1) FEISWAP* (Federation of Engineering Institutions of South East Asia and the Pacific) における専門技術者の相互承認のガ
イドラインに従って認定された工学教育課程修了者。
(2) ワシントン協定* (Washington Accord) 加盟国が認定した工学教育課程修了者。
(3) 我が国の技術士会によって行われている技術士補試験の合格者。
106 工学における教育プログラムの海外調査報告
(4) 米国の The United States National Council of Examiners in Engineering and Surveying によって行われている工学基礎 (Funamentals of Engineering) 試験合格者。
*FEISEAP、ワシントン協定の詳細については別紙資料参照。
3. コメント
上記のように、我が国の場合は、技術士補の試験に合格した技術者には自動的に工学教育の資格認定が保証され、APEC
Engineer になる前提条件の一つが満たされることになる。これは我が国にとって大変好都合であるが、次のような問題点
がある。
(1) 現在の制度では、4 年制大学卒業者が技術士の資格を取るために技術士補の資格は必ずしも必要とされていない。す
なわち、学部卒業後 7 年で直接技術士試験に受験可能である。従って、上記の案が正式に認められた場合には、技術士補
の資格取得を義務づけるよう法改正を行う必要があろう。米国では、我が国の技術士補試験に相当するものとして Fundamentals of Engineering 試験があるが、Professional Engineer の資格取得に先立ち、この試験の合格を義務づけている。
(2) FEISEP (加盟国:日本、香港、中国、オーストラリア、マレーシア、フィリピン、タイ、パプアニューギニア、韓国、
インドネシア、ベトナム) およびワシントン協定 (加盟国:オーストラリア、カナダ、アイルランド、ニュージーランド、
英国、米国、南アフリカ、香港) では、工学教育に対する第三者の認定 (Acceditation) 制度があるが、我が国にはない。
従って、上記ガイドライン (1) ∼ (4) 間の整合性がとれておらず、APEC 技術者調整委員会で日本の実情を説明した場
合、果たしてガイドラインの Benchmark (3) が率直に認められるかどうか。
(3) 学部の工学教育に Communication, Management, Ethics を含むとあるが、我が国の工学部ではこれらの科目は用意さ
れていないところが多く、現状のままでは基本的枠組みから外れることとなる。
(4) 従って、我が国の発言力が比較的強い APEC 域内で上記コメント (2)、(3) に対して異論が出なかったとしても、世界
的な協定の枠組みづくりの際に、日本の制度がそのまま認められるかどうか疑問が残る。今後、我が国の大学教育におい
ても、APEC 運営委員会で合意されている基本的枠組み (①∼⑥) に沿った工学教育を考えていく必要があろう。
参考資料
1. 西野文雄:技術士免許の国際相互認定野動きと対応<その 1 >、<その 2 >積算技術、1997 年 8 月、9 月。
APPENDIX 工学教育の品質保証に対する基本的枠組みの原文
Publishing in the official language quality assurance requirements and processes as a transport benchmark in each member economy
for national and international recognition, providing in English a summary of common requirements and notices of significant changes,
and providing clarificaitons as requested.
Conducting consistent assessments of the resources, processes and outcomes of engineering courses/faculties/departments against criteria set by a government institution or designated engineering body.
Encouraging quality management systems for the continuous assessment and development of programs.
Periodically publishing in English a list of accredited or recognised engineering programs/institutions/faculties and their period of accreditation or recognition, and any future requirements.
Incorporating its own performance assessment system.
会議報告 107
Ⅲ.アンケート調査報告
工学教育に関するアンケートの第一次解析結果報告
1999 年 6 月 20 日
工学における教育プログラムに関する検討委員会 委員長 山本 尚
アンケート実施WG
代 表 武田 邦彦
委 員 山崎光悦, 鷲尾誠一, 中原武利,
山川 宏, 只野金一, 安田正志
1. 工学教育に関するアンケートの概要
このアンケートは、国立8大学工学部長による工学部長会の発案により日本の工学教育に関する検討委員
会(工学における教育プログラムに関する検討委員会(委員長 名古屋大学 山本 尚))のもとで行わ
れたアンケート・ワーキンググループ(代表 芝浦工業大学 武田邦彦)で作成され、委員会で検討され
た後、1998 年3月、日本の各大学の工学部に回答を依頼したものである。アンケートは事実をそのまま
お聞きする設問の他、ご意見をお伺いする設問を含むことから回答は主として工学部長並びに工学部幹部
の先生にお答えいただくようお願いした。
今回の整理は第一次のものであり、今後大学別及び国外などの整理と解析を行う予定である。
【このアンケートの特徴とアンケート解釈の釈明】
このアンケートは単に「事実を聞く」という視点で実施したものではなく、「工学部長もしくは工学部
の教育研究を指導する首脳部」の工学教育に関するご意見を聞くことを目的としたものである。従って、
その回答には「工学部で十分に議論され、工学部の方向としてコンセンサスを得ている回答」と「検討は
十分ではないが、工学部長などの個人的見解が入っている回答」がある程度の割合で混在している。その
点から現時点での日本の工学教育が良くこのアンケートの回答に反映されていると考えられる。
また、以下に示したアンケート回答に関する今回の第一次解析に基づき解釈は多少の推測、推定、など
を含んでいる。敢えてそのような解釈をここに示したのは、アンケートを一つの統一的見方(それはある
程度偏った見方であるが)で解釈し、それをもとに工学教育に関する一つの議論の主発点にしようと考え
たためでもある。その意味で、ご回答をいただいた先生方には大変失礼な表現を含んでいるが、このアン
ケートは「結果」もしくは「終着点」ではなく、今後の日本での工学教育の一つの改善の「出発 点 」とな
ることを期待することでお許しいただきたい。
2. アンケートに参加した大学などの概要【分類1】
アンケートに参加した大学などの概要 【分類1】
アンケートに参加した大学などは国立大学と私立大学がほぼ半数ずつで約5%が公立大学である。日本
の工学関係の大学の数とおおよそ一致している。そのうち工科系学部の単科大学及び工学系2学部などで
構成された「工学系の大学」がその約半分をしめる。総合大学においても工学部がかなり独立に活動して
いるところが多いことを考えると、本アンケートに答えた学部は工学教育を主体とし、日頃の教育におい
ても工学を中心とした雰囲気の中にあると考えられる。
大学の規模は 3000 人から 10000 規模の大学が回答全体の全体の3分の2を 占 め、1000 人未満の大学は
わずか5%である。また工学部の学生数は 1000-3000 名が圧倒的に多く、全体の半数を占めるほか、3000
-7500 名の規模の工学部を持つ大学とあわせると実に 83%に及ぶ。従って、このアンケートはおおよそ
8000 人ほどの学生が大学にいて、そのうち 5000 名程度が工学関係の勉強をしている状態が浮かび上がる。
専任教員一人あたりの学生数は 11 人から 30 人の間の大学が3分の2を占めているが、10 人以下の大
学も全体の 20%弱、また 30 人以上の大学が全体の 15%に及び、専任教員と学生数という点では工学部教
- 1 -
育が必ずしも「画一的」ではないことを示している。これは国立と私立大学で差がある可能性があり、こ
のアンケートの解析をさらに進める必要がある。また学部の学科数は 2-9 学科が全体の 90%近くを占め、
いわゆる適正規模の学部がおおよそ数学科であることがわかる。
大学院の修士課程と博士課程を有している大学が全体の4分の3にのぼり、さらに修士課程のみの工学
部とあわせると全体の 95%になる。しかし本来大学院と大学は別のものなのでこの設問が本当に正しく
答えられない場合もあると考える必要がある。逆に付属高等学校の関係では半数以上が付属高等学校を持
っていないので、大学の工学部は工学部を卒業した後のことには興味があるが、高等学校の教育について
は連続的、系統的教育の必要性を感じていないともいえよう。これは二部または昼夜開講制についても同
様であり、ほとんどの工学部が二部などの多様な教育体制を持っていないことがわかる。社会的に二部な
どの意義が薄れてきたことと、画一的教育を主体とする日本の大学教育を反映した結果といえる。二部な
どの問題と多様な教育体制との関係はこれからの議論で明らかにしていく必要があろう。
大学ができた時期は戦後まもなく新しい学生が引かれた時期が半数以上でもっとも多く、その次が戦前
からの大学であり、工学部という特色から新設大学の比率が低い。また、学部設立の時期は大学設立と同
一の時期が多い。またここ1―3年程度の新しい学部も6%近くある。
分類1での設問は統計的に調べればある意味ではわかる設問である。しかし、詳細には「学部長がどの
ように考えているか」という点で微妙に異なる設問もあり、教育を実際に行っている人にこのような一見、
決まっている数字をお聞きする意味もある。また、この設問を行ったので、「国立で大規模の大学は**
*考えている」「私立で最近できた大学は****」というように分類2意向の設問との組み合わせの検
討が可能になる。これに関しては次回に解析の時に行う予定である。
3. 工学・工学教育に対する基本的認識について
工学 ・工学教育に対する基本的認識について【分類2】
・工学教育に対する基本的認識について 【分類2】
社会は産業の変革期にあって工学教育を担当している学部長などの大学運営の幹部が工学に対して基本
的にどのようにお考えかを聞くのがこの章の目的である。「工学の将来と教育の拡充計画」については将
来とも工学の重要性を認識知る回答が主であったが、産業革命期や高度成長期と異なる現状から単なる拡
充という考えも少ないように見受けられる。
従来の学問領域と境界領域を含む新しい工学との関係では、一般的な予想やアンケートにつけられたコ
メントとは裏腹にはっきりと「境界領域は重要である」という考えが明白になった。おそらく「従来の学
問領域と境界領域の学問とはバランスが必要であるが、当面の施策としては境界領域の学問を育成してい
く」という考えであろう。
いわゆる大学全入時代に対する認識では、それがもともと工学教育とどのような関係にあるか、という
自体、コンセンサスがとれていないような回答結果となった。確かに「大学全入」という環境と「工学教
育かくあるべし」という議論とは基本的に相容れない関係にある。しかし、学生の質や入試のあり方は必
然的に工学教育におおきな影響を与えるであろうが、まだそのような議論は全体として煮詰まっていない
と考えられる。
創造性育成教育はかなり積極的で少なくとも強く進めなければならないと考えている。また倫理教育は
創造性教育より多少認識が低いか、あるいはまだ検討が進んでいない。これは創造性は産業や工業という
工学本来の働きに直接的に貢献するし、国際的な競争力という点や、工学の転換期、という点でも「創造
性は必要である」ということになるが、「倫理」はこれほど問題となっていてもやはり「生産中心」「増
産中心」という頸城から全体として抜け出しにくいことを示しているとも考えられる。しかし倫理教育に
対する関心が半数程度に及ぶことは最近の工学の問題意識を反映していると考えられる。
大学と社会との関わり合いでは、アンケート実施の時の予想とはかなり異なる結果を得た。すなわち、
設問は、企業などとの共同事業を進めているという設問から、ほとんど行っていないという設問まで5等
分した設問を用意したが、設問の1−3ですべての回答がされたということである。すなわちすでに日本
の大学は社会との関わりを重視して教育研究活動を行っており、社会と隔絶した状態にはないこと、その
ような意識を持っていないことを示している。
従来型の機械、電気といった工学から、メディア、生体、福祉などを軸とする工学への転換についての
設問では「対立概念でとらえるべきではない」との回答を得た。当然、従来型の工学は今後も必要とされ、
- 2 -
それとともに新しい分野の工学も必要であることは明らかであり、その意味でこの設問は少し踏み込んだ
解説を要したかもしれない。すなわち、「従来の工学と新しい領域の工学のバランスや両方とも大切であ
るとの前提のもとで、それでも従来の工学を思い切って捨てて新しい分野に竜力するべきであるとお考え
ですか?」という設問である。このような設問をした場合に、今回の回答からはやはり「バランス重視」
と考えられるだろうか?
大学院との関係では大学院教育を重視している傾向がはっきりとでている。これは大学院修士課程博士
課程を有している学部がほとんどであること、国立大学の大学院重視方向がはっきりとしていることが原
因と考えられる。大学院重視と学部教育はそれぞれ別々の面も持っているので、それを厳しく問う質問も
必要であろう。
分類2の回答を総合すると、日本の工学教育は質的な改善を進めながら新しい分野産業との連携などを
積極的に進めている像が浮かび上がる。その一方で時代の変革に伴い工学教育の方向に気迷いもみられる。
4. 工学教育システムの基本部分について【分類3】
工学教育システムの基本部分について 【分類3】
単位数は 124-130 単位が全体の3分の1、卒業単位は少しずつ減少させつつあり、選択科目を増加させ
るなどの学生の自主性を尊重し、単位制を原則として多少の綾をつけている。そして科目設定は大学が独
自に行うのが適切であるとの回答を得た。
この工学教育システムの基本部分に関する設問の回答は、「ほとんど同じような教育を行っているが、
意識は独自性を尊重している」という明白な回答を得た。ある大学では「124-130 単位という単位数は極
端に低い。工学教育では 150 単位は必要である」という意見が強く、実際学生に 150 単位の履修を行わせ
ている学科もあるし、また医学部などでは「医者は他の学問と違って、重要な責任があるのでとても 124
単位などの単位数では医者を養成することはできない」という考えもある。工学がますます専門化され、
高度な知識を必要とし、英語が堪能であり、かつ倫理などの社会的常識人間的素養にも気を配る「高級な
学問」と位置づければ、おそらく 124 単位では不足する、ということが強くでると考えたが、実際はそう
ではない。
分類2では工学の将来に期待し、新しい教育を取り込もうとする学部幹部の考えがでている。しかし分
類3では大学教育の体制が 124 単位だらそれに従う、という姿勢である。本当に工学は狭い範囲の教育を
行い、英語はあまり教育せず、倫理や社会の教育は行わず、124 単位の安易な教育でよいのだろうか。そ
してそれでよいと思っているのだろうか。確かにこの分類3の設問は「現在のシステムはどうか」と聞い
ているのであり、「あなたの本心はどうか?」と聞いているのではない。しかしこの回答をしたのは学部
長など工学部の指導層である。指導層はその考えとその行為とが一致していなければならず、その意味で
は工学部長は 124 単位制でおおよそ良いと考えていることになる。医学と工学を比較して工学の重要性、
学問の内容、工学者の社会的役割は低いのだろうか?
5. 創造性、表現力の養成などについて【分類4】
創造性、表現力の養成などについて 【分類4】
創造性の教育の実施状況は必ずしも十分ではない、と学部長は考えている。「育てようとは思っている
がまだその準備はできていない」と実に 68%の学部長が答えた。確かにそうであろう。そして、ゼミ、
討論などの科目を積極的に入れようとしているが、それはまだ完全には定着してないと感じている、とい
う結果を得た。このアンケートの結果は確かにその通りなのであろう。工学部の首脳陣は「創造性を育て
る教育は大切だ。そしてそれを実施しようとしているが、現実的にどのような教育が工学として創造性を
高める教育なのかその議論が十分ではない。そして実際にそれを実施しようとしても先生の不足や従来型
の講義との時間配分の問題が立ちはだかっている、ということもあろう。科目構成は大学独自にやるのが
正しい、しかし「創造性」など個別の課題についてそれぞれの専門家を大学内においてそれを検討すると
いうことはできない。勢い、検討は不十分になり「できる範囲でする」という程度にとどまってしまう、
と感じられる。
しかし、設問25で「育てようとの意志を持っているが特定の科目は設定していない」に 68.2%、設
問26では「どちらともいえない(一方向の講義と双方向的な科目の取り入れ方)」に 69.2%、そして
設問27では「未知のテーマは卒業研究などで取り組ませている」が 87.9%となった。このような画一
- 3 -
的ともいえる回答はそれ自体現在の日本の工学部の状態を示しているといえよう。やらなければならない
という概念ははっきりとしているが、どのように実施するか、という点でまだ未成熟であり模索をしなが
ら前進しているという状態を示している。
創造性教育の難しい点の一つが「評価」の問題である。オーソドックスな採点方法を採れば創造性教育
を阻害することになるし、そういっても全員の優にする評価がよいとは限らない。その点をどのように考
えているのだろうか。設問28ではある程度の工夫をしているが、どのように評価するべきかまだ定まっ
ていない、と回答を得た。創造性の教育自体の重要性は認識しているが、そうかといって具体的問題につ
いての回答ができるまでには至っていないという首脳部の苦悩が現れる。
それでは、と少し質問の角度を変えたのが、設問29である。創造性を養うためには副専攻などの「幅
を持たせる教育はどうですか?」と聞く。それに対しては「副専門を考えない」という回答が 58,9%を
しめた。この回答は二種類の解釈があろう。まず一つは創造性を養うためには確かに副専門も必要である、
それに対しては意義がないが、124 単位の中でそれを実施するのは現実的に無理である、もしくは学科の
抵抗にあってそのような改革が難しい、とする考え方が一つ。そして「創造性を養うには副専門はあまり
重要ではなく、専門を極めることが必要である」という考えに基づいているととることである。今回の回
答がどちらを意味しているのか不明である。推定が許されるなら、「創造性の養成に副専門が必要かどう
か、個人的な感想はあるが学部で十分に議論するまでに至っていない」ということであろう。
それに対して他学科の科目の履修はある程度学生に勧めている。副専攻などの制度として取り入れるに
は時期が尚早であるが、他学科の科目の履修などの多少の綾は必要であるとしていると考えるべきであろ
うし、実際にそれが現実的な姿なのだろう。
また創造性に教育は大学に依存するのではなく大学に入学するまでに訓練が必要である、との考えは、
86%が支持している。
6. 学力向上と卒業研究について【分類5】
学力向上と卒業研究について 【分類5】
大学がレジャーランド化し、学生はアルバイトと遊ぶことに熱中、講義では私語が多く、興味を持って
講義を聴く学生が年々減少している、との声を散々聞いてきた。確かに実際的な体験を通じても有名大学
といわれる大学でも学生が熱意を持って講義を聞いたり、調べものをしたりすることは経験しない。しか
し、アンケートでは多くの学生が熱意を持っている、という回答をいただいたのが実に半数近くに上った。
実に驚くべきことである。「多少の学生は熱意がある」という答え以下の回答が 12%であることを考え
ると、日本の大学生(工学部)は学生に履修意欲という点では全く心配ない。
これらの回答を批判的に見ないとすると、「ほとんどの学生が熱意がある 」と回答していただいた学部
に教育と入試の実体をお聞きしたいと思うほどである。
さらに4年で卒業できない学生の割合は 10−20%で、これも先進各国の大学に比較して圧倒的に優れ
た数字となった。宿題を出している、宿題を時々出す先生が全体の 90%を越える。大学工学部の教育実
体はまことに優れており、何ら大学教育改革の必要性はないように見える。「正確に言えば、低学年では
熱意不足を感じる面があるが、卒業研究になれば「ほとんどの学生に熱意がある」」「本人の意図に反し
て規定修業年限で卒業できない健康な学生はほとんどいない」というコメントを寄せていただいたが、確
かにその通りであろう。
しかし同時に、日本の大学教育が世界の大学教育に比較して著しく「怠けている」という観測は正しい
であろう。それは設問35でそのまま現れる。すなわち、日本の学生が世界の平均的な学生に対して「平
均的かあるいはそれより勉強していない」との回答が 90%になるからである。
回答相互に矛盾があるように見えるがそうではないかも知れない。日本の学生が勉強しないということ
は漠然と感じられる。しかし、具体的にキャンパスにいる学生をみるとそう悲観したものではない。確か
に勉強しない学生もいることはいるが、大半はまともであうる、と解釈できる。
日本は世界でも卒業研究を重視する珍しい教育を行っており、設問37では全体の 93.5%が卒業研究
をほとんどの学生が行っていると答えている。また、卒業研究には「学生の全員が毎日のようにくる」が
50%、「よく来る学生と時々来る学生がいる」が半分であり、まじめな学生像が浮かぶ。そして学生の進
学という意味で大学院への進学と卒業研究はある程度の関係を認めている。
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この分類の設問でのアンケートの答えは意外に健全な日本の大学生像が浮かび上がる。
7. 倫理性・社会性の養成などについて
倫理性 ・社会性の養成などについて【分類6】
・社会性の養成などについて 【分類6】
全体の履修単位数が減少する中で、しかも情報教育や英語などの科目を重視しなければならない環境の
中で、いわゆる教養科目をどのように取り扱うかは難しい問題である。ある考えでは工学教育の中では人
間性向上は枠外であり、それは現代のような情報社会にあって他の教育機会に譲るべきであるとの考えも
ある。しかし、設問40では、工学部長は教養科目の重要性を認めて工学教育の中で行うべきであると考
えていることがはっきり示されている。
それは繰り返し設定した設問41でも同様の回答を得た。「工学倫理や人間性の深さは欠かせない」
「倫理、人間性を養うほうがよい」との回答が 90%弱を占める。
しかし現実に数単位以上を学生に必修科目もしくはそれに近い形で学ばせているのは4分の1にすぎず、
大半は学生に自由に任せている。工学倫理などの高度な内容を含む学問に学生が率先して履修の意欲をも
つかどうかは疑問があり、設問40,41と考えあわせると、学部の指導体制に一部気迷いがあるように
も見える。すなわち、今後の工学者には倫理や社会的な基礎的見識が必要なことは言うまでもない。しか
し現実的には124単位に中で十分な倫理哲学美術などの履修をさせることはできないし、第一、工学部
に入学してくる学生は元々、社会的現象よりも機会いじりの好きな学生である。あるいは工学部長自身も
そうであった。そのような学生に「今後の社会では工学者も倫理の学問が必要である」と言ってもどれほ
どの実現性があるのだろうか?それが工学部長の悩みでもある。
学生の生活能力を向上させること必要性に 80%、安全に関する教育にも回答は理解を示している。確
かにこれらのことを大学が一手に引き受けることはできないが、そうかと言って工学を実現するためには、
生活能力も必要であるし、安全に対する感度も要求される。現場の教育の苦悩がでる。
卒業までの総位数 124 は良い、という回答が多い。大学の多様性も高まり、単位数を多くして学生を縛
ることをしたくない。しかし、工学倫理をはじめとして新しく工学者に必要とされる科目も多く、国際化
のためにはもっともっと英語にも時間を割きたい。創造性を養成するためには広い学際的知識も必要であ
る。大切なことはわかっていても 180 単位近くを履修させない限り「理想的な工学教育」を進めるのは無
理だろう、そう判断されているようである。
8. 教育の多様化、柔軟化などについて【分類7】
教育の多様化、柔軟化などについて 【分類7】
社会の成熟とともに学生自身の多様化、教育機会、教育システムの多様化が求められている。これらの
動きに対して工学部首脳はどう考えているのだろうか?
進学率の向上は「望ましい」と「望ましくない」がちょうど半分半分になった。そして理科離れが進ん
でいることに関する危機感は 85%、学生の価値観の多様化に多少の影響を受けていると感じている工学
部首脳が大半である。工学がすばらしい学問でできるだけ多くの日本人に工学を学ばせたいという点では
進学率の向上は望ましい。工学がある特定のエリートの持ち物であり、多くの国民にとっては「よらしむ
もの」であったほうが良いと考えているような結果を得た。しかし、現実にあまり工学に興味がなく、単
に就職のためとかその他のために工学部に入学してくる学生が工学教育を乱していることに対する反応で
あると考えるべきかも知れない。
スキル科目の質問は「スキル教育」の中身がもう少し議論されなければならないが、ある程度重視して
実施している傾向が示された。また「資格」に関する設問49では、資格に対して「積極的ではない」と
答えた外部は少数にとどまった。この回答はある意味では大学独自の教育、創造性豊かな教育とは相容れ
ない面があり、その点でもう少し深く学部長などのご意見をお伺いしたいところである。
大学時代にインターンシップなど大学外部の協力を得ることの適否が議論されているが、これに関する
設問50では、教員に任せたりあまり実施していないと回答した学部が全体の3分の2に上った。確かに、
設問50までの回答ではある程度社会に対して積極的ではあるが、あくまでも教育は大学で行うという姿
勢が明瞭であり、「なぜインターンシップを行わなければ大学の工学教育を行えないのか?」という疑問
があることを示している。
むしろ「企業からの講師」を積極的に取り入れる姿勢が設問52から見て取れるが、これは全体の設問
- 5 -
回答に矛盾していない。
他大学の単位取得に制度を持っていない大学が 21.5%もあり、あまり活用されていないの 25.2%を含
めると約半数に上ることもある意味で予想外であった。大学が学部内の教育に自身を持っていることを示
していると考えられる。
飛び級は上記の設問とは必ずしも密接な関係にはないが、ここでは「事実」を聞かずに「意見」をお聞
きする形式をとったが、積極的に飛び級を評価していない姿勢がみられる。飛び級が教育に必要か、とい
う議論は確かにまだ未成熟であるとともに、「なにを基準に進級や卒業を決めているのか?」というより
本質的な議論に進んでいないことを示している。
9. 学生主体の教育環境作り・教育の方法論について
学生主体の教育環境作り ・教育の方法論について【分類8】
・教育の方法論について 【分類8】
設問54は一般的アンケートしては特殊な設問である。すなわち「学生がいやがっても」という前提の
もとで「基礎学問が必要ですか?」と聞いている。この質問自体がある先入観、すなわち学生は基礎学問
を我慢して聞かない、としている。その認識がそもそも正しいかをまず問題にしなければならない。しか
し100問に制限した今回のアンケートでは、一つ一つの質問に前提をおくことをしなかった。「大人の
質問」という意味で学部首脳が判断していただくことを期待したのである。
その意味で、今回の回答ははっきりと「学生がいやがるかどうかが問題ではなく、基礎学問は工学教育
に必要なのだ」と答えが返ってきた。その比率は 95%に及ぶ!!こうした回答を得てみると、ある方向
性を持った設問の方がよりよく回答者の考えをお聞きすることができるということがわかる。学生がいや
がるのはそれ自体が問題であり、工学に必要な基礎知識は教えなければならないとお考えである。なぜ、
時代の変化とともに学生は基礎学問をいやがるのだろうか。それは退歩なのだろうか。
微積分を例に取った新しい講義の試みの設問(55)に対してはは回答が割れ、先生方の相互の教育研
究には学部はあまり介入していないことを示した。教育内容改善の試みが組織的に実施されていないこと
を示す。設問55、56の回答はこれも日本の工学教育の特徴をよく表している。すなわち、「教育」が
本業でありながら「教育」議論が学部内にほとんどないということがあり得るからである。たとえば情報
教育とか、FD などの研究は行われているが、「もともと大学の工学教育の講義はどのように行うべき
か」「相互に講義を聴いて研修しよう」「外国などの教育の実態を勉強し、学内で研修会を開こう」「授
業評価を先生方で検討しよう」「新しい教育を行いその検討を行おう」というような自然発生的な研究会
はきわめて少ないし、それを支援する工学部体制も曖昧なことが多い。しかし、本業の改善こそ工学教育
改善には大切かも知れない。その点で、微積分で例を出したような試みを積極的に行っている学部が
12%、教育方法の研究を頻繁に行っている学部が 6.5%あり、これらの学部に見習うべきであろう。
一方、学生の生活、キャンパスライフに対する認識、及びそれに対する学部側の体制については、学生
はおおよそ大学にいて(設問57、多くの時間を大学で過ごしているとした学部が 45%)、学部は朝か
ら夜9時程度までサービスを実施している(設問58、9時までが約 75%)であり、健全なキャンパス
ライフが浮かび上がる。しかし、学生にたまり場を用意しているかという設問59に対しては不十分と認
識している学部が半数近くになる。確かに一部の工学部を除いてキャンパスライフを考慮した学生空間を
有していると考えている大学は少ないように見受けられる。建物は無計画で建てられ、教員の都合で建築
されたように見える。
設問60では学生の課外活動などと正課の時間的関係をお聞きした。「あまり考慮していない」が
65%に達した。カリキュラムという点でも学生への配慮が十分でない現状が浮かび上がった。しかし他の
設問の回答がそうであるように、現実は理想のようにいかない。その気持ちがあっても様々な制約がある
なかで精一杯の努力をしている、という工学部首脳の姿も同時に浮かび上がる。
10. 国際化について【分類9】
国際化について 【分類9】
国際化については大変興味深い結果を得た。設問61では留学生を積極的に受け入れる意志のある学部
が3分の2に達しているが、設問63での留学生の便宜を聞く質問では逆に3分の2が「日本の学生を中
心とした教育体系である」と回答がされた。また、礼拝堂などの諸文化への配慮を聞いたところでは実に
98%が積極的な施策を講じていない。
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この国際化の質問にはもう少し前段階の質問を数個用意する必要があったかも知れない。「国際化は必
要である。かつて日本が欧米の工学系大学に多くの学生を送り出し、その知識は日本の工業化に大きな役
割を果たした。今度は日本がアジア諸国などに工学教育の門戸を開くべきである。また、相変わらず日本
の学生が欧米に留学する必要性がある。」などに関係した基本的質問によって、「本当に国際化は必要
か?」「国際化の視点はどこにあるべきか?」を問うべきであっただろう。
すなわち、このアンケートの結果は「国際化するというのは建前であり、日本の教育は日本人を相手に
行う」という考えがあるのではないか。研究には国境はないが教育には国境はある。しかし工学教育は国
境がない教育の一つではないだろうか。大学の主要な立場にある先生方が積極的に日本の学生だけのため
でない工学教育体系を作る必要があろう。
また、日本人の学生が留学する時、あるいは国際化という点で「英語」に限定してお聞きした設問66,
67、及び68においてもこのような傾向が認められる。留学が組織的に行われている大学は少なく、ま
た、英語の訓練も「少し行っている」が 40%と積極的な教育は感じられない。英語の論文を必修にして
いる学部は僅か4%であり、アメリカの工学大学での英作文の位置づけより低いという不思議な状況にあ
る。日常的な大学での英語の取り組みでは学生が日常的に英語を使用できる環境を用意しようとしていな
いように見える。
あるいは工学部首脳は毎日の仕事に追われて忙しいのかも知れない。留学生のための教育を充実させ、
日本の国際化を進める必要はあるがそれを行っている時間がない、ということも考えられる。
11. 情報化の教育について【分類10】
情報化の教育について 【分類10】
情報化の教育に関する設問をどの程度設定するのかについてはアンケートを実施する立場からも意見が
あった。いまから 10 年ほど前ならこの分類の質問はなくてはならないものだっただろう。しかし、現在
では工学教育に情報化が必要であることはむしろコンセンサスになっている。すでに「なくてはならない
もの」との認識が行き渡っていると考えられる。
アンケートの回答もその通りであった。すでに計算機環境はかなり整っており、インターネットなどの
通信手段も着々と整備されている。衛星通信や地上の高速通信手段を使用した教育はまだ軌道には乗って
いないとの回答であるが、その中でもこれも準備が進んでいるとの印象を受ける。
いくらか意見が分かれたのは、ニューメディアとの関係であり、設問自体がある程度批判的な調子を持
っていたこともあって、ニューメディアの教育には積極的な意見と消極的な意見があった。いずれにして
も情報科によって工学教育をよくしていけるところについてはよくしていけば良いのであり、すでに議論
の時期はすぎた、という回答結果であろう。
12. 高等教育と工学教育について【分類11】
高等教育と工学教育について 【分類11】
高等学校の教育が大学の工学教育に大きな影響を与えることは間違いないが、それをどのように感じて
いるかを工学部首脳に聞くのがこの分類設問の狙いである。
高等学校の教育の影響が大きいと答えた割合は 58%、理科や数学の選択の幅が広がるのは工学教育に
とって好ましくない、と考える回答が 42%、そしてそれが工学教育を難しくしているとする回答は設問
76において明白に現れている。一方、同じ理科の科目でも工学部で生物の科目を物理や化学と同様に位
置づけている学部は少ない。生物を受験科目として物理などと同様に取れる学部はわずかに数%にすぎな
い。これは電気、機械工学科などが中心である現在の工学部では納得がいくところであるが、環境問題が
問題となり、生物に学ぶ機械工学、都市計画など多くの学問が人間の生理を含む生物活動と密接に関係し
ている。数値計算なども認識論と切り離せなくなってきている。その状態で多くの工学部が「生物は理科
ではない」という認識で良いのだろうか。また、高等学校の理科の履修科目では生物がもっとも多いとい
う現状を単に「受験しやすいから」と決めつけずに、生物の重要性がより高まっていると判断することは
できないだろうか。
大学の受験科目数は大学が自主的に決定できる。そして高等学校の教育は大学受験と密接に関係するの
で、その意味では高等学校の教育を改善し、それを大学教育と関係づけることは大学で解決が可能なもの
ではあるが、大学入試の科目の減少が工学教育に問題を投げかけていると感じている回答も同時にマジョ
- 7 -
リティーである。設問78においては大学自体が大学をコントロールできないというジレンマが現れてい
る。受験科目数が減少することが大学における工学教育に打撃を与えると感じている回答は 60%を越え
る。それなら大学は受験科目を増やして、必要な知識を有している学生をとればよい。特に工学系大学で
は、数学と英語、物理、化学、そして生物が必要なら、それを課したらよいし、また社会などの知識も工
学倫理の上から必要ならその素養をみたらよい。さらに「最近の学生は想像力が、実務能力が、実験が
…」と感じられるならその科目を設定すれば良いのではないだろうか。大学が自らコントロールできる受
験科目を実際にはコントロールせずに教育の支障をいうのはどのようなメカニズムが働いているのだろう
か?
一方、大学の広報活動は盛んに行われている。設問79ではそれが伺われる。確かに設問80で多くの
回答がそうであるように、「工学」というのが社会の中で特に大学のみで言われ、高等学校までは理学が
先行し、社会では工学より技術という範疇でものが考えられる。それは高等学校に工学専門の先生がおら
れず、特定の工業高校におられるということも原因の一つになっている。
13. 大学院及び研究活動、企業などの関係について【分類12】
大学院及び研究活動、企業などの関係について 【分類12】
工学部の場合、大学院と学部の教育は密接な関係にある。これは分類1においてほとんどの工学部が大
学院を持っていることでもわかる。大学院への進学は学部学生の 10−40%程度が多く、博士号取得者は
おおよそ 10 名程度である。大学院進学率という点では国立大学や一部の私立大学は 50%以上の進学率を
持っているが多くの大学は進学率が低い。アメリカなどの欧米の先進国に対して、この点では発展途上国
ともいえる状態である。日本がもしも世界に冠たる工業立国の国であるとしたら、大学院進学率がこのよ
うに低く、博士号取得者が少ない現実をどのように考えたら良いのだろうか。
設備は大学院などの研究設備が学部教育に有効に活かされている。大学における研究設備はあくまで
「研究」のために使用されるべきであり、「教育」とは一線を画すべきである、という考えも強い。しか
し、今回のアンケートでみられる考えは、教育と研究が一体のものであり、教育目的と研究を区別する考
え方は教育の教条的思想であるという回答であろう。
大学院のことに関してはこのアンケートで様々なところで質問させていただいているが、全体として大
学院と学部との関係はきわめて良好であると結論できる。工学教育において研究、卒業研究、修士課程は
切り離せないものであり、この現実も全体の施策として活かしていく必要があろう。
しかし、就職との関係においてはこの状況は一変する。設問84では入社試験が工学的知見と独立に実
施される傾向を感じており、設問85では就職協定の破棄も工学教育には良い結果にはなっていないと回
答されている。特に設問84における回答は産業界に投げかけ、「工学教育」をどのように育てていくの
か、を問いかける必要があろう。「基礎学力」というのは「工学の具体的学力」を指すのか、また「人
物」というのは高等学校の偏差値と区別しているのか、産業界に回答を期待する。今後、本委員会で産業
界へのアンケートを実施し、産業界が工学分野で具体的にどのような考えを持っているのかを聞きたい。
就職協定の破棄は社会的にさまざまな要因を考慮する必要はあるが、工学教育として特に4年前期の教
育がかなり打撃を受けているという現状を何らかの形で社会的議論のテーブルに載せる必要があろう。
設問86では「公募」という制度が日本では大学のみに偏っているということが工学教育にどのような
影響を与えているか、という設問であったし、産学協同が工学教育にどの程度の影響を持っているかとの
設問であったが、設問が成熟しておらず、明白な回答は得られなかった。すなわち、次の分類の設問にも
あるように、大学は教員の採用を原則として「公募」で行っている。そのため、民間から大学への転職が
かなり容易である。それに対して民間や官庁は公募を行っていない。その結果、大学教員のみ公募を実施
すれば大学教員が著しい不利を受けることになる。通産省の課長ポスト、大企業の研究所長ポストがなぜ
公募にならないのか、それをふまえた上で教員の任期制、評価制度などを考える必要があろう。
14. 教員の評価方法、待遇などと工学教育の関係について【分類14】
教員の評価方法、待遇などと工学教育の関係について 【分類14】
教員の待遇は悪くなっているといわれる。雑用が多いとか、教育研究の体制が十分でないといわれる。
一方では、大学の先生が温室の中で十分な活動をせずに日々を送っているとの批判もある。そのなかで
- 8 -
「先生の評価はするべきか」「するならどのような方法を採るのか?」「先生の教育研究の体制は整って
いるか?」という3点から設問をもうけた。
回答からみる日本の工学の指導者の考え方は、「揺れてはいるが明白」といえる。すなわち、設問88
では教員の評価を検討中であると答えた学部が大半で、それは設問89から「学生による評価」を中心と
し、「卒業生の評価」はほとんど行っていないし、「教員同士の評価」も少し行っている学部が1割程度、
全面的に実施している学部は皆無である。また日本的慣習に合致しないという点もあるが、教員評価の結
果を待遇に反映している大学は 5%である。しかし別の見方をすれば、教員評価を待遇に反映している大
学が 5%もあり、部分的に採用している大学が 15%もあるのは多いともいえる。
実はこれらの設問にはまだ基本的なところが抜けている。教員評価と工学教育について十分な議論が行
われていないからである。すなわち、
1) 教員の評価はそもそもなにを期待して行うのか:たとえば、現在の工学部の教員が世間一般に比較
して著しく勤務態度が悪く、従ってそれを糺すために行うのか?
2) もしそうならば、勤務評定をしている一般の会社の従業員の仕事ぶりは大学の教員より優れている
のか?
3) 工学教育という人間教育においてそれに携わる人の「評価」が教育を真に改善する方法の一つにな
るのか?
4) 「評価する人」は学生で本当にいいのか?確かに授業評価がよりよい授業を先生と学生で自主的に
創造していく手段として使用されるのなら効果は期待できるが、それが先生の勤務評定として使用された
ときには、目的に合致した効果を上げうるのか?
5) いったい、「教員評価」とはなにを目指しているのか?人間は評価されなければ仕事はできない、
という一般律があるのか?
など不明点が多い。今回の設問はこれらの基本的設問をとばして、実務的な設問に終始した。基本部分に
ついての議論を回避して実務的な面でコンセンサスを得るのはむしろ様々な問題を引き起こすことも考え
られる。
大学における教員評価の問題は世界各国でも盛んに試行され、実施されている。特にアメリカではそれ
が現実の力となっている場合もある。しかし日本社会との関わり合いにおいてどのような概念を構築する
か慎重な取り扱いが求められよう。少なくとも今回のアンケートによって、「何らかの形で実施したいが、
まだ方法は確定していない」という状態が浮かび上がったものと考えられる。
教員の任期制についても賛否両論で、設問93の円グラフでわかるようにわずかながら天秤は「反対」
に偏っている。ということは「任期制」には工学部長並びに関係者は反対が多いということを意味してい
る。これに対して中央機関における任期制の導入議論はもう少し積極的に見える。この差はどのように考
えたら良いのだろうか。中央機関における判断が現場の工学部長の考えより優れており、日本の工学教育
を前進させるものなのか、あるいは工学部長の考えが現場にも密着しているのか、興味のあるところであ
る。
任期制とともに議論を要するのが大学教員の待遇の問題である。給与面もともかく、社会的位置づけと
教員の日常的行動との差は大きい。大学教授と同等の立場にいる会社の人で自分でコピーをする人は少な
いだろう。また出張の手当て、その考え方などすべてにわたって大学教員の仕事のサポートは著しく貧弱
である。日本での重要な仕事をしている大学の先生が外国に行かれるときにエコノミークラスに乗り、同
行する会社の人は若くてももビジネスクラスである、ということは一般的ですらある。これが日本という
国が学問を大切にしない結果として生じたのか、教員というものの特性か、あるいは単なる予算制度、授
業料のシステムなどで起こった、思想なき制度なのか難しいところである。しかし、全体としての調和と
いう点では、任期制反対、スタッフが少ないこと、助手制度の問題は仕方がない、という今回のアンケー
トの結果はそれなりにバランスの取れた判断なのであろう。
少なくとも、今回のアンケートは大学教員の待遇の問題を一面的にはとらえずに、多面的社会的位置づ
けの中でとらえ、その感覚を工学部長などにお聞きするという本来の目的は達成できたものと考えられる。
- 9 -
15. 工学教育に関する諸事項や本委員会の活動について
アクレディテーションについては本委員会とは異なる委員会で活発な議論を展開しているので、ここで
は設問を1つに制限した。アクレディテーションはある意味では日本の全国の大学の教育を 統 一すること
も意味しており、その意味では「規制」ともいえる。しかし、回答ではアクレディテーションに好意的な
工学部は約 60%に及んだ。特に「必要ない」と断定的な回答をした学部は1つもない。一方、大学設置
基準などの規制は年々緩和されてきている。このような規制緩和の動きには 95%が歓迎しており、大学
が規制を嫌っていることが明白に示された。
しかし、アクレディテーションが規制の側面を持つならば、別種の規制が課せられると解釈できなかっ
たのであろうか。多分、アクレディテーションは規制とは感じられないことを示している。規制は「文句
を言えない」「文句が取り上げられない」ということを関係があるといわれており、今までのいわゆる規
制が「文句を言えない」ものであったのに対して、アクレディテーションはある程度文句の言える制度と
認識されている。
具体的な大学への規制は多くあるが、その象徴的なものとして「定員」と「設備」を設問として設けた。
工学の将来性が隆々としており、国民の多くに工学教育が必要と考えているとすると、規制の緩和ととも
に大幅な定員増が企画され、実施されると考えられる。しかし設問98では、入学定員については「増
加」と「減少」が完全に二つに分かれた。
この回答は「工学が大切である」「しかし大学の工学教育の大衆化は望まない」という回答と矛盾なく
説明できる。すなわち、工学の将来はある程度明るい。しかし同時に工学の専門家をこれ以上増加させて
も日本のためにはならない。従って、定員を増加させることを必要な大学は増加させ、削減することが望
ましい大学は削減するのが適切である、と考えられている。もし文部省が大学定員について全く規制を設
けなければ、工学関係の学科は増加もしないし、減少もしない、ということになる。
そして設備などは大学の自主性にゆだねる方が望ましいとの回答が主体である。しかし同時に「いい加
減な環境で工学教育を行う大学の出現」を懸念する回答もあり、ここは日本的にある程度の規制を要する
と考えるのであろう。
16. アンケートの今回の解析による全体のまとめ
今回の解析は大学を種類別に分けずに全体の回答から現在の日本の工学 教育の首脳部の意見を 解 析した
ものである。それぞれの分類項目についてはそのところにこの解析を行った担当者の解釈を載せたので、
ここでは全体の解釈を述べることにする。最初にお断りしたように、このアンケートの解釈は「このアン
ケートを議論の出発点にして日本の工学教育の改善に役立てる」ということを趣旨にしているので、ある
方向性をもって解釈を行っている。むろん教育は王道がなく、各大学各先生が独自にお考えになり、その
集大成こそがある方向を作るものであり、その点で「まんべんなく」「中立的」「常識的」という解釈は
あり得ず、従って、むしろ「ある見方」をはっきりさせて解釈した方がむしろ中立的になる、との考えに
基づくものである。
全体の解釈は
1. 日本の工学はかなりまともに行われている。
2. 工学部の首脳は当然であるが、正面から教育改善に取り組んでいる。
3. 時代の変革期にあってあまりに多い課題のすべてを十分に咀嚼できないでいる
4. 学部長などが十分な意識を持っていても学部全体の運動になりにくい
5. 大学や学部がみずから判断した方が良いが、それだからといって独自色がでるかは不明である
6. これまで「国」「審議会」などの検討の場所はあったが、広く教育に携わる人が集合して工学教育
の基本問題について議論を交わし、それが政策や方向として打ち出される機会は少なかった
などである。
大学の工学教育の多くは文部省を中心とした組織や、中央組織で決定されていく。それは教育に多大の
見識のある先生方が議論されることであり、その議論もきわめて専門的である。その議論の方向である施
策が決定されていくのも良い方法であろう。一方、現場の工学部長、工学部の幹部はそれぞれの現場で教
育の現状を見、日々改善に心がけている。もし、今回のようなアンケートが継続的、詳細に行われ、時々
- 10 -
刻々の先生方のご意見が聞ければ、日本全体の工学教育に携わる方のご意見が集約され、より現実的で高
度な政策決定や方向が定まるのではないだろうか?アンケートの設問の前に、最近のその項目に関する世
界の情勢、それに関する議論の状況を示し、その上で「……・についてはどうお考えか?」という設問を
出せればそれは大変有意義なことと考えられる。
最後にご多忙中、このアンケートにお答えいただいた工学部長、工学部首脳の先生方、工学教育検討委
員会委員の先生方、またアンケート実施グループの先生方、名古屋大学事務部のみなさんにあつく御礼申
し上げる。
以上
武田邦彦 Kunihiko Takeda, Dr. Prof.
TEL 03-5476-2418
FAX 03-5476-3161
E-mail takedak@sic.shibaura-it.ac.jp
108 東京都港区芝浦3−9−14
3-9-14 Shibaura, Minato-ku, Tokyo 108 JAPAN
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【分類1:貴大学・貴学部の位置づけなどについて】
1 貴大学は?
①43.9%
① 国立大学 43.9%
② 公立大学 4.7%
③ 私立大学 51.4%
③51.4%
②4.7%
③24.3%
2 貴大学は総合大学ですか、単科大学ですか?
① 総合大学 57.9%
② 工科系 2 学部などで構成された単科大学に準じる 17.8%
①57.9%
大学
③ 単科の大学 24.3%
②17.8%
⑤4.7%
3 貴大学の規模はどの程度ですか?
① 数万人規模 13.1%
④15.0%
①13.1%
② 一万人種度(一万人台から 7500 人以上) 31.8%
③ 5000 人規模(7500 人から 3000 人以上) 35.5%
④ 2000 人規模(3000 人から 1000 人まで) 15.0%
⑤ 1000 人未満 4.7%
②31.8%
③35.5%
4 貴学部の規模はどの程度ですか?
① 一万人以上 1.9%
④15.0%
①1.9%
②33.6%
② 5000 人規模(7500 人から 3000 人以上) 33.6%
③ 3000 人規模(3000 人から 1000 人まで) 48.6%
④ 1000 人未満 15.0%
③48.6%
5 貴学部の専任教員一人あたりの学部学生数(在籍数)は?
① 5 人以下 2.8%
①2.8%
⑤15.0%
②16.8%
② 6 人以上 10 人以下 16.8%
③ 11 人以上 20 人以下 37.4%
④ 21 人以上 30 人以下 28.0%
⑤ 30 人以上 15.0%
6 貴学部の学科数は?
① 20 学科以上 0.9%
② 10~19 学科 11.2%
③37.4%
④28.0%
⑤0.9%
④30.8%
①0.9%
②11.2%
③ 5~9 学科 56.1%
④ 2~4 学科 30.8%
⑤ 1 学科 0.9%
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③56.1%
7 貴学部と大学院の関係は?(学部を中心に質問します)
④1.9%
① 大学院博士課程と大学院修士課程を持っている 81.3%
② 大学院修士課程を持っている 12.1%
③ 大学院修士課程の設置を計画中である 4.7%
③4.7%
②12.1%
④ 大学院修士課程を設置したいと思っている 1.9%
⑤ 計画は無い 0.0%
①81.3%
8 貴学部は関係する附属高等学校などを持っていますか?
① 附属高等学校などを持っており、密接に協力関係が 29.9%
①29.9%
ある
② 附属高等学校などを持っているが、原則として 13.1%
独立している
③ 附属高等学校などの設置を計画している 0.0%
②13.1%
④57.0%
④ 持つ計画もない 57.0%
①2.8%
9 貴学部は二部もしくは昼夜開講学科をお持ちですか?
②2.8%
① 二部または昼夜開講制を主体とした学部である 2.8%
③15.9%
② 昼間の学科とほぼ同じ規模の二部または昼夜開講 2.8%
学科を持っている
③ 規模は小さいが、二部や昼夜開講学科がある 15.9%
④ 二部、昼夜開講ともに持っていない 78.5%
④78.5%
10 貴大学はいつ頃の創立ですか?
⑤3.7%
① 戦前からある大学またはそれに準じる大学 24.3%
② 戦後まもなくできた大学 56.1%
④1.9%
③12.1%
①24.3%
③ 昭和 60 年代前後にできた大学 12.1%
④ 平成元年以降の比較的歴史の浅い大学 1.9%
⑤ ここ 1~3 年の新設で完成年度前の大学 3.7%
②56.1%
11 貴学部はどの時期にできましたか?
⑤5.6%
① 大学設立と同時または設立直後 61.7%
② 大学設立後比較的早く設立 14.0%
④8.4%
③10.3%
③ 大学設立と現在の中程の時期 10.3%
④ 4 年以上は経っているが、最近できた学部 8.4%
⑤ ここ 1~3 年前にできてまだ完成年度前の学部 5.6%
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②14.0%
①61.7%
【分類2:工学・工学教育の基本的な認識について】
12 貴学部の工学教育の将来像についてご見解をお伺いします。工学教育と学部の拡充など工学教育の意義は?
① 非常に高いと考えられるのでさらに学部を 15.0%
拡充する
①15.0%
④3.7%
② 高いので学部の拡充の計画である 35.5%
③ どちらとも言えない 43.0%
④ 重要性は低下していくので、ある程度整理が必要 3.7%
⑤ ひどく低いかまたは低くなっていくので、撤退など 0.0%
の必要がある
③43.0%
②35.5%
その他 非常に高いと考えられるので、学部教育を充実した
ものにすることに意義がある。しかし、現状よりも拡
大する必要はない.
工学教育の意義は非常に高いと考えており、さらな
る質的向上に努力する。しかし、このことと、いわゆ
る「学部拡充」とは別の話題と考える。学生数の増加
を伴うような学部拡充は予定していない。
13 社会や工学の変化により、従来の学問領域にまたがる境界傾城、学際分野の教育・研究の必要性が増大している
と言われています。貴学部は?
① 学部自体が境界傾城の工学を対象としている 28.0%
② 境界傾域を指向する学科をおいている 36.4%
③ 必要と考えているので施策を講じている 32.7%
⑤1.9%
④0.9%
①28.0%
③32.7%
④ 境界領域の必要性は減少すると考えている 0.9%
⑤ 必要性が薄いので伝統的な学問領域を守っている 1.9%
その他 従来の学問傾城の充実と境界傾城への発展とは、車の
両輪であり、バランスをとって進めなければならない。
②36.4%
本学では両領域とも重視して教育研究を行っている。
14 2009年頃にいわゆる大学全入時代(高等学校卒業生のうち大学進学希望者60%強と見て、入学希望者が大
学定員と同一となること)を迎えるといわれています。また社会の転換期ともいわれています。これらの変化に対
して貴学部は?
① 施策をすでに実施している 10.3%
④12.1%
② 施策を立案して実施の準備をしている 18.7%
②18.7%
③ 施策の立案を計画している 57.0%
④ あまり意識していない 12.1%
⑤ 全く考えていないまたは関係ない 0.0%
その他 十分認識しているが、対策の必要は感じていない。
エイジグループの人数の減少は強く意識しているが、
それに対する特別な施策を行うというのではなく、工
学教育のあるべき姿を追求することが、本筋であると
いう姿勢で教育のさらなる改善にとりくんでいる。
- 15 -
①10.3%
③57.0%
15 今後、日本が世界をリードする上では日本の大学において、より一層の創造性と学力の向上を重視した工学教育
が必要と言われています。貴学部は?
④2.8%
① 具体的施策を講じている 12.1%
①12.1%
③21.5%
② 積極的に進めている 63.6%
③ どちらとも言えない 21.5%
④ あまり積極的ではない 2.8%
⑤ 関心がない 0.0%
②63.6%
16 貴学部は工学に関連した倫理問題について、どのように取り組んでいますか?
① 積極的に取り組んでいる 5.6%
② 取り組んでいる 41.1%
①5.6%
⑤7.5%
④2.8%
③ どちらとも言えない 43.0%
④ 消極的である 2.8%
⑤ ほとんど取り組んでいない 7.5%
②41.1%
③43.0%
17 日本の大学も社会との関係を強化する必要があるとされておりますが、貴学部は?
① 具体的に産学共同事業や社会との関係を持つ事業を 58.9%
③26.2%
積極的に進めている
② 1 つもしくはいくつかの共同事業を行っている 14.0%
③ 大学や学部が推進する態度を示し、後は個人的 26.2%
レベルで進めている
①58.9%
④ あまり熱心でないか、またはあまり必要ないと 0.0%
②14.0%
考えている
⑤ ほとんど行っていない、または行う予定がない 0.0%
その他 社会とのつながりは、教育、研究、一般的社会貢献、
などの観点から従来から重視している。
18 工学部の教育は従来型の工学から、メディア、生体・福祉工学等を重視する方向へ重点を移すべきであるという
考えもありますが、貴学部は?
①9.3%
① 全くその通り 9.3%
④12.1%
② その通り 31.8%
③ どちらとも言えない 44.9%
④ あまり賛成できない 12.1%
②31.8%
⑤ 従来型工学に重点を置くべき 0.0%
その他 従来から重視している。バランスが重要。
③44.9%
この問題については、問 13 と同様に考えている。す
なわち、「二者択一」は行わない。
19 貴学部は大学院教育を中心とした教育プログラムですか、または 4 年で完結する教育プログラムを主体としてい
ますか?(大学院がない大学におかれましては、学生が他大学の大学院に進むことを念頭にお答えください)
① 大学院教育に重点をおいており、学部教育はその前段階とし
①14.0%
ての位置づけ 14.0%
② 大学院教育にやや重点を置いている 29.0%
③ どちらとも言えない 33.6%
⑤0.9%
④21.5%
④ 4 年で完結し大学院は補完的な役割 21.5%
⑤ 4 年で完結し大学院は考えていない 0.9%
②29.0%
その他 すでに大学重点化を図っているが、学部は独立した
教育プログラムとなっている。
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③33.6%
【分類3:工学教育システムの基本部分について】
20 貴学部の卒業に必要な取得単位は?(貴学部の平均的な要求単位)
②4.7%
① 150 単位以上 0.0%
② 140~149 単位 4.7%
③28.0%
③ 130~139 単位 28.0%
④ 124~130 単位 67.3%
⑤ 学科によって大きく異なる 0.0%
④67.3%
21 貴学部は卒業に必要な単位を増加または、減少させつつありますか?
① 急速に減少させている 5.6%
①5.6%
② 少しずつ減少させている 42.1%
③ 変更していない 51.4%
④ どちらかというと増加させつつある 0.0%
⑤ 急速に増加させている 0.0%
③51.4%
②42.1%
その他 正確に言えば、5 年前に 1 度変更した。今のところ、
これ以上変更する予定はない。
22 工学教育システムはより柔軟な方向に進んでいますが、貴学部は科目の履修、単位の取得などの部分で柔軟な方
向に進んでいますか?
① ほとんど選択科目としたり、履修時期の制限などを 9.3%
撤廃するなどの方向に進んでいるか、もしくは行って
④11.2%
⑤2.8%
①9.3%
いる
② 選択を増やしたり、単位の取得を柔軟にしたりして 52.3%
③23.4%
いる
②52.3%
③ どちらとも言えない 23.4%
④ 少し履修や単位取得の制限を緩めた程度 11.2%
⑤ 変えていない 2.8%
その他 従来から柔軟に対応している。
23 貴学部は学年ごとに履修科目を設定されていますか、どの学年でも履修できる単位制ですか?
① 完全単位制(どの学年でも履修が可能で、取得単位 3.7%
数が要求卒業単位に到達すれば卒業できる方式)
② おおよその単位制をとっている 11.2%
⑤15.0%
①3.7%
②11.2%
③ 単位制と履修時期や順序を限定する科目が混在して 38.3%
いる
④ 単位はどの学年でとっても認めるが、原則は履修時 30.8%
④30.8%
期を制限している
⑤ 完全に学年ごとに履修科目を設定する方式 15.0%
その他 実験、実習、インターンシップ、卒業研究、ゼミな
どを除いた学科目については、プレリクジット(既修
要求)の制約を受けないものは原則として、学年によ
る取得の制約はない。
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③38.3%
24 工学教育として各大学または学部で独自のカリキュラムを組む方向と、全国的に基本的なカリキュラムを設定
して、ある程度共通した科目を履修できるようにした方が良いとの考え方とがありますが、貴学部は?
① 独自のカリキュラムで教育するべき 14.0%
④12.1%
② 基本的には大学独自で科目を設定するのが望ましい 58.9%
③ どちらとも言えない 14.0%
①14.0%
③14.0%
④ どちらかといえば共通的な基本科目を横断的に履修 12.1%
させた方が良い
⑤ 共通的に履修する科目を設定するべき 0.0%
その他 国際的な視野で学部カリキュラムの状況を認識しつ
つ、主体的にカリキュラムを組むことが望ましい。
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②58.9%
【分類4:創造性・表現力の養成などについて】
25 貴学部は工学的分野での創造的人材育成については?
① 創造的人材育成のために特定の科目を設定し、必修 8.4%
①8.4%
④0.9%
かもしくはそれに相当する取り扱いをしている
② 創造性人材育成のための科目を設定している 21.5%
②21.5%
③ 育てようとの意志を持っているが特定の科目は設定 68.2%
していない
④ あまり重点をおいていない 0.9%
③68.2%
⑤ 全く行っていない 0.0%
その他 創造的な人材育成を図るには、特定科目の設定だけ
では不十分である。日常的に授業、演習、卒論など通
じて、創造的な視点で学生の活動を評価することが不
可欠である。
26 教員が壇上から一方通行で講義する形態の他に、双方向的な科目について貴学部では?
① ゼミ、討論、演習などの学生が発言したり、様々な 1.9%
形で参肘る科目を履修単位の半分以上入れている
② ゼミ、討論、演習などの科目をかなり入れている 69.2%
③ どちらとも言えない 14.0%
①1.9%
⑤2.8%
④12.1%
③14.0%
④ 一方通行の講義形式が多い 12.1%
②69.2%
⑤ 一方通行の講義形式がほとんどである 2.8%
27 「わかっていることを順序立てて教える」という教育に対して、「結果が未知のテーマを体験させる」もしくは、
「判っていないことを探求させる」教育にについて、貴学部は?
③1.9%
① 低学年から多くの機会を設けている 10.3%
①10.3%
② 卒業研究もしくはゼミなどの機会に行っている 87.9%
③ 行っていない 1.9%
②87.9%
28 創造的人材育成には自由な雰囲気と個性重視が必要といわれています。しかし、現実には、一律的な評価が難し
いなどの問題も指摘されています。貴学部では?
① 試験問題を論述式にするなどして実際に一律的な評 10.3%
価を避けている
⑤3.7%
④12.1%
② 一律的の評価をしないようにある程度工夫している 22.4%
②22.4%
③ どちらとも言えない 50.5%
④ むしろ一律の評価の方が良い点も多いと考えている 12.1%
か、ほとんどの科目でそのようにしている
⑤ 画一的、一律に評価している 3.7%
その他 試行錯誤を恐れないことが重要。
- 19 -
①10.3%
③50.5%
29 創造性や思考の柔軟性は、複数の専攻や他分野の知識から生まれるという考えもありますが、貴学部は?
① 副専門学科を設定し、必ず副専門を持たせる 0.9%
①0.9%
② 副専門学科を設定して、副専門は学生の選択 5.6%
②5.6%
③1.9%
としている
④29.0%
③ 副専門学科を計画している 1.9%
④ 副専門学科を将来考えたい 29.0%
⑤ 副専門学科は計画もしていない 58.9%
⑤58.9%
その他 異なる専門領域の知識の吸収よりも、異なるカルチ
ャーを体験することが重要であると考えるが、体験の
時期の選択もさらに重要。
30 同じ趣旨での質問ですが、貴学部では学生が他学科の科目を履修することは?
① 積極的に薦めている 8.4%
④10.3%
② ある程度薦めている 60.7%
③ 制限している 19.6%
①8.4%
③19.6%
④ 薦めていない 10.3%
その他 認めている。
②60.7%
31 創造性の育成は大学だけで解決しないとも考えられます。貴学部は?
① より低い年齢から創造性に重きをおいた教育を 25.2%
大いにするべき
⑤2.8%
④3.7%
③5.6%
② 低い年齢から創造性を育てる教育を入れるべき 61.7%
③ 現在のままでよい 5.6%
④ 低い学年での創造性の育成教育はあまり必要ない 3.7%
⑤ かえって基礎学力が低下するなどの弊害がでる 2.8%
その他 年齢に係わらず環境が大切である。
- 20 -
②61.7%
①25.2%
【分類5:学力の向上と卒業研究などについて】
32 学生の勉学意欲についてどのような評価をしていますか?
①5.6%
① ほとんどの学生が熱意がある 5.6%
④12.1%
② 多くの学生が熱意がある 44.9%
③ どちらとも言えない 37.4%
④ 多少の学生は熱意がある 12.1%
⑤ 熱意がない 0.0%
②44.9%
③37.4%
その他 正確に言えば、低学生では熱意不足を感じる面があ
るが、卒業研究になれば「ほとんどの学生に熱意があ
る」と思われる。
33 貴学部で単位を落とすなどの理由で 4 年で卒業できない学生数は何%ですか?
① 50%以上 0.9%
② 20%以上 31.8%
①0.9%
⑤0.9%
④17.8%
②31.8%
③ 10%以上 45.8%
④ 数% 17.8%
⑤ ほとんどいない 0.9%
その他 ・本人の意図に反して規定修業年限で卒業できない健
康な学部学生は殆んどいない。
③45.8%
・学年進行中で 98 年度に完成します。
④7.5%
②29.9%
34 アメリカの大学では宿題を出す頻度が高いようです。貴学部では?
① ほとんどの講義で宿題を出している 0.0%
② 多くの講義で宿題を出している 29.9%
③ 宿題を出す先生もおられる 61.7%
④ あまり宿題は出されていない 7.5%
③61.7%
⑤ ほとんど宿題は出されていない 0.0%
その他 カリキュラムの内容と切り離して論じることはでき
ない。
35 国際的比較において日本の工学関係の大学生の勉強時間や熱意について、貴学部では?
① 世界で一番よく勉強している 0.0%
②6.5%
⑤1.9%
② 世界でよく勉強している方である 6.5%
③ 平均的である 52.3%
④37.4%
④ 勉強していない方である 37.4%
⑤ 世界でもっとも勉強していないと言える 1.9%
③52.3%
36 貴学部は通常の講義、実習などの方式を補完する学力向上のシステムを実施していますか?
① 盛んに実施している 1.9%
①1.9%
⑤2.8%
② 実施している 29.0%
③ 試みている 27.1%
④ 余りやっていない 38.3%
②29.0%
④38.3%
⑤ 全くやっていない 2.8%
③27.1%
- 21 -
37 貴学部は卒業研究を行っていますか?
① 全部又はほとんどの学生が行っている 93.5%
② 学科によってあるいは学生の選択などで、一部 4.7%
③0.9%
⑤0.9%
②4.7%
は行っていないところもある
③ 選択科目の位置づけ 0.9%
④ 一部行っている 0.0%
⑤ 卒業研究はない 0.9%
①93.5%
38 貴学部では学生は卒業研究をしに学校に来ますか?(卒業研究の無い学部では他の大学の卒業研究の状態に対す
る認識を示してください)
① 全員毎日のようにくる 49.5%
② よく来る学生と時々くる学生がいる 47.7%
③ 時々くる 0.0%
②47.7%
①49.5%
④ ほとんどこない 0.0%
⑤ 全くこない 0.0%
その他 学年進行中で 98 年度に完成します。
39 卒業研究の配属が、学部学生の大学院入学生の獲得に関係していると言われます。貴学部では?
① まったくそういうことはない 4.7%
①4.7%
② 多少関係も認められる 40.2%
⑤13.1%
③ どちらとも言えない 10.3%
④ かなり関係がある 30.8%
⑤ 強い関係がある 13.1%
②40.2%
30.8%
③10.3%
- 22 -
【分類6:倫理性・社会性の養成などについて】
40 貴学部では人間性の向上のための科目(いわゆる教養科目など)をどのように取り扱っていますか?
① 必修科目として設定したり、積極的に履修させている 33.6%
② 充実させている 35.5%
④6.5%
③24.3%
①33.6%
③ どちらとも言えない 24.3%
④ どちらかというと軽視しているか、結果的に軽視す 6.5%
ることになっている
⑤ 不要と考えている 0.0%
②35.5%
41 工学教育には工学倫理や人間性の深さなどが必要ですか、または工学技術者は工学の知識やスキルがあれば十分
ですか、貴学部では?
④1.9%
① 工学倫理や人間性の深さは欠かせない 47.7%
③10.3%
② 倫理、人間性を養う方がよい 40.2%
①47.7%
③ どちらとも言えない 10.3%
④ 工学の勉学を優先すべき 1.9%
⑤ 工学関連の学部では倫理や人間性の善成は無関係 0.0%
②40.2%
42 貴学部では情報倫理教育や一般倫理教育をどの程度おやりですか?
① 10 単位以上で必修またはそれに準じる取り扱い 3.7%
② 数単位でできるだけ履修するように指導している 17.8%
④22.4%
①3.7%
②17.8%
③ 教養科目として倫理閑係の科目はあるが学生の選択 55.1%
に任せている
④ 特に意識していない 22.4%
⑤ 必要を感じていない 0.0%
③55.1%
その他 単位で拘束することは倫理の本質にもとることであ
る。演習や卒論などのマンツーマン教育において教育
効果を上げていると思う。工学を哲学的に内省する趣
旨のメタテクニカの講義を一部で試行している。
43 学生の生活能力の低下などが問題となっており、それが様々な事故につながる場合もあるようです。大学におい
ても社会性の養成やクラブ活動などを通じた教育を改善することが必要ですか?
① 非常に大切 25.2%
④0.9%
①25.2%
③18.7%
② 大切 53.3%
③ どちらとも言えない 18.7%
④ あまりカを入れなくてよい 0.9%
⑤ 全く考慮する必要なし 0.0%
②53.3%
44 貴大学では安全に関する講義や演習などを正課として組み込んでいますか?
① 正課として組み込みかつ必修としている 4.7%
② 正課として組み込んでいる 18.7%
⑤22.4%
①4.7%
②18.7%
③ 履修科目はある 33.6%
④ 実施していないが計画している 19.6%
⑤ 実施もしていないし計画もしていない 22.4%
その他 実習や実験等の各科日の中で必要に応じて組み込ん
でいる。
- 23 -
④19.6%
③33.6%
【分類7:教育の多様化、柔軟化などについて】
45 いわゆる大学全入時代などが予想されておりますが、進学率の向上は多様化された学生や学力の低下なども懸念
されています。工学という見知から見て、日本に取って望ましいですか?
② 望ましい 29.0%
①2.8%
⑤0.9%
① 大いに望ましい 2.8%
④26.2%
②29.0%
③ どちらとも言えない 38.3%
④ 望ましくない 26.2%
⑤ 全く望ましくない 0.9%
③38.3%
46 社会構造の変化などから理科離れが進んでいると言われています。貴学部では?
① 危機感を感じている 46.7%
④5.6%
③10.3%
①46.7%
② 少し危機感を感じている 37.4%
③ どちらとも言えない 10.3%
④ あまり関係ない 5.6%
⑤ 理科離れは無いか、または無関係と考える 0.0%
②37.4%
47 貴学部では学生の価値観の多様化、大衆化によって従来型の教育が困難になっておりますか?
① 大変困難である 5.6%
④0.9%
② かなりの影響を受けている 63.6%
③ あまり影響はない 29.9%
①5.6%
③29.9%
④ 全く影響を受けていない 0.9%
②63.6%
48 工業教育における「スキル」を「知識を具体的に実施しうるための技術」とした場合、貴学部では?
① 工学教育の中に積極的にスキル教育を採り入れて 14.0%
④0.9%
いる
② 採り入れている 50.5%
⑤0.9%
①14.0%
③33.6%
③ どちらとも言えない 33.6%
④ 工学教育にはなじまないなどの理由で消極的である 0.9%
⑤ 原則として単位を認めていない 0.9%
②50.5%
49 「第一種***資格」「**士」などの学士、修士の資格以外の公的資格について、貴学部では?
① 公的資格のための講義を設定し、積極的に取らせて 10.3%
いる
④8.4%
⑤3.7%
①10.3%
② 公的資格の取得に便宜を図っている 52.3%
③ どちらとも言えない 25.2%
③25.2%
④ あまり積極的ではない 8.4%
⑤ やっていないなど 3.7%
- 24 -
②52.3%
50 貴学部ではインターンシップ制(在学期間中に企業などで実地教育を受けること)を実施しておられますか。
① 必修科目としている 7.5%
③ 学科または教員に任せている 39.3%
①7.5%
②15.9%
⑤2.8%
② 選択科目としている 15.9%
④32.7%
④ 余り実施していない 32.7%
⑤ 関心もない 2.8%
その他 必修課目、選択科目としている学科と、未実施の学
③39.3%
科がある。
51 企業からの講師の招聘などについて、貴学部では?
① システムとして制度化し、積極的に招いている 27.1%
② できるだけ多くの機会を持つように努力している 49.5%
⑤0.9%
④10.3%
③11.2%
①27.1%
③ どちらとも言えない 11.2%
④ 企業からの講師は少ない 10.3%
⑤ 関心がない 0.9%
②49.5%
その他 必要な人を招へいしている。
52 貴学部は他の大学などの単位の認定を行っていますか?
① 積極的に認定している 12.1%
⑤21.5%
①12.1%
② 学生が申請してきたら審査して認めている 37.4%
③ どちらとも言えない 2.8%
④ 形式的には整っているが、あまり活用されていない 25.2%
⑤ 活用していない 21.5%
その他 協定校の間で相互認定している。
②37.4%
④25.2%
③2.8%
53 飛び入学制度が進められていますが、工学教育としてこの制度について、貴学部では?
① すでに実施している 19.6%
② 賛成 10.3%
④23.4%
⑤0.9%
①19.6%
③ 特に意見はない 43.9%
④ あまり賛成できない 23.4%
②10.3%
⑤ 反対 0.9%
その他 東京大学として実施していない。
③43.9%
- 25 -
【分類8:学生主体の教育環境作り・教育の方法論について】
54 最近の学生は基礎学問を長く勉強する根気が無いと言われています。貴学部では学生がいやがっても基礎学問は
教える必要があると考えますか?
③4.7%
① 工学には基礎が大切なので絶対に欠かせない 49.5%
④0.9%
② 工夫をしてでも基礎を行いたい 43.9%
③ 難しいところである 4.7%
④ 工夫して基礎を少なくするべき 0.9%
①49.5%
②43.9%
⑤ 基礎は必須ではない 0.0%
その他 学生がいやがらないように基礎学問を教えることが
不可欠。
55 「微積分」を数学として行わず、数学の先生が基礎をやり、電気の先生、材料の先生などが工学での使い方を講
義する方法が試みられています。貴学部ではこの様な従来の講義方法と異なる試みをしていますか?
① 積極的にしている 12.1%
② 少し試みている 33.6%
①12.1%
⑤22.4%
③ 個人的に行っている例もある 27.1%
④ 計画している 4.7%
⑤ 考えていない 22.4%
④4.7%
②33.6%
その他 数学、特に微積分学の基礎は、「数学者」に教えても
③27.1%
らうことが重要と考えている。
56 貴学部では貴学部の先生が他学科、もしくは他大学の先生と教育方法、特定の教育を積極的に勉強したり、研究
会を開いたり、試みたことの検討を行ったりしていますか?
⑤2.8% ①6.5%
① かなりの頻度で行っている 6.5%
② たまに行っている 31.8%
②31.8%
③ どちらとも言えない 12.1%
④ 先生に任せている 45.8%
④45.8%
⑤ 関心がない 2.8%
③12.1%
57 貴学部では学生が学内でどのような生活をしているとお考えですか?
① ほとんど全生活を学内で過ごしている 1.9%
④25.2%
①1.9%
② 多くの時間を学内で過ごしている 44.9%
②44.9%
③ どちらとも言えない 27.1%
④ 講義などの時だけ主に学内にいる 25.2%
⑤ あまり大学には来ない 0.0%
③27.1%
58 貴学部では図書舘など勉学の施設の開放は?
① 24 時間利用できる 3.7%
⑤0.9%
② 試験前など 24 時間、もしくは日常的に深夜 2 時 0.0%
①3.7%
④28.0%
までなど
③ 夜 9 時まで、またはその程度 66.4%
④ おおよそ朝 9 時から夕方 6 時填までなどその程度 28.0%
⑤ 職員の勤務時間優先などあまり利用者の便を考えて 0.9%
いないし、できない
その他 図書館よりも学部学生用端末室の開放的利用の必要
性が高く、夜 8 時~9 時頃までの利用を可能にしてい
るところが多い。
- 26 -
③66.4%
59 貴学部は学生の集中的なたまり場(大きなメディアセンター、学生会館、生協設備など)がありますか?
① 全学生がいつでも利用できる程度 14.0%
⑤5.6% ①14.0%
② ほとんどの学生が利用できる 24.3%
③ ほどほどである 23.4%
④ 不充分である 32.7%
④32.7%
②24.3%
⑤ ほとんど無い 5.6%
③23.4%
60 貴学部は特定の時間帯、もしくは特定の曜日に多くの学生の時間が一度に空くようにして、たとえばクラブ活動
などの活動をする事のできるようなカリキュラムを設定していますか。
① 特定の時間帯、又は特定の曜日を空けてある 15.9%
⑤23.4%
①15.9%
②4.7%
② 学部としては行っていないが学科レベルで考慮して 4.7%
③ 全体としては考慮している 13.1%
③13.1%
④ 余り考慮していない 43.0%
⑤ 全く考慮していない 23.4%
④43.0%
- 27 -
【分類9:国際化について】
61 貴学部では留学生を受け入れる方針は?
⑤0.9%
① 可能な限り多くの留学生を受け入れる 29.9%
② 積極的に進めている 37.4%
①29.9%
④6.5%
③24.3%
③ どちらとも言えない 24.3%
④ あまり積極的ではない 6.5%
⑤ できるだけ受け入れたくない 0.9%
②37.4%
その他 質の高い留学生を積極的に受け入れている。
62 貴学部では現在、全体に対して何%が留学生ですか?
① 10%以上 0.9%
①0.9%
④39.3%
②21.5%
② 3~10%程度 21.5%
③ 3%以下 37.4%
④ ごく少数である 39.3%
⑤ 統計がない 0.0%
③37.4%
63 貴学部では留学生が途中からの編入などで日本の大学に入るために、単位の認定、カリキュラムの便宜などを図
っていますか?
① 支障なく入れるようにしている 15.0%
⑤7.5%
①15.0%
② 少し追加した履修を要する 9.3%
③ 1、2 年の科目の履修が必要である 8.4%
②9.3%
④ 日本の学生のことを中心にしており、留学生を余り 57.0%
③8.4%
意識したカリキュラムではない
⑤ 日本の学生のことだけ考えていて、留学生のことは 7.5%
全く考えていない
④57.0%
その他 ・国内の高専からの編入のみ
・制度化している高専・短大からの編入において、留
学生と日本人の区別はしてない。
・工業高等専門学校からの編入を除いて、日本人・留
学生を問わず編入を認めていない。
64 貴学部では奨学金を受け取っている留学生はどの程度の割合ですか?
⑤11.2%
① 50%以上の留学生が受けられる 36.4%
② 20%以上の留学生が受けられる 29.9%
①36.4%
④6.5%
③ 10%以下の留学生が受けられる 14.0%
④ 制度がある程度で特例的な運用 6.5%
③14.0%
⑤ 全くない 11.2%
その他 ・ほぼ 100%が国費あるいは派遣政府の奨学生である。
・学年進行中で 98 年度に完成します。
- 28 -
②29.9%
65 留学生のための諸文化(たとえば礼拝所)に対する対応について、貴学部では?
① 複数の宗教の為に複数の礼拝所を有したり、食堂を 0.0%
用意している程度
②1.9%
② 共通又は 1 つの礼拝所を有したり、食堂にメニュー 1.9%
③4.7%
を用意している程度
③ 礼拝所などとしてはないが、それに変わる施設が 4.7%
ある
④ ほとんど無いといってよい 41.1%
⑤52.3%
④41.1%
⑤ 全くない 52.3%
66 貴学部では学生が留学することに対して、特別の便宜を図っていますか?
① 留学中は在学扱い又は先方の授業料を負担するなど 25.2%
の便宜を図っている
② 留学の世話はほとんど大学でおこなっているが、資 15.0%
①25.2%
④33.6%
金的又は履修上の措置はとっていない
③ どちらでもない 25.2%
④ 留学は基本的に学生の個人的問題などと捉え、大学 33.6%
②15.0%
としては積極的に取り組んでいない
③25.2%
⑤ 留学を禁止するか、もしくはそれと同様の施策を採 0.0%
つている
その他 協定校の間で授業料免除も含めて相互に便宜を図っ
ている
67 学生が英語で論文を書く訓練について、貴学部では?
① 英語論文の訓練を必修もしくはそれに準じる制度で 3.7%
⑤16.8%
行っている
①3.7%
②17.8%
② 英語論文などの訓練を行っている 17.8%
③ 英語の科目の中に採り入れている 21.5%
④ 少し行っている 39.3%
⑤ ほとんど、または行っていないか、興味がない 16.8%
③21.5%
④39.3%
その他 学科によって対応は多様である。
68 工学では論文などの記述能力の他に、日常的に英語を使う環境が必要との考えもある、貴学部では?
① 学生に日常的に英語を使う環境を与えている 0.9%
② 学生にときどき英語を使う環境を与えている 17.8%
⑤10.3%
①0.9%
②17.8%
③ いろいろな試みをしている 40.2%
④ 余り行っていない 29.9%
⑤ 全く行っていない又は実施していない 10.3%
その他 学科によって対応は多様である。
④29.9%
③40.2%
- 29 -
【分類10:情報化の教育について】
69 貴学部はワークステーションあるいはパソコンの専用室を持っていますか?
① 学生一人あたり 1 台程度の設備を持っている 15.9%
④2.8%
② 学生が自由に使用できる程度の設備を持っている 55.1%
③ 専用室を持っている 24.3%
③24.3%
⑤0.9%
①15.9%
④ パソコンの設備は持っているが自由に使用できる 2.8%
環境にはない
⑤ ない 0.9%
②55.1%
70 貴学部はインターネット、メールなどの体制は?
① ほとんどの教員、学生が自由に使用できる環境で 59.8%
③13.1%
ある
② 教員、学生が使用できるが、多少の制限がある 27.1%
③ 教員は使用できるが、学生は特別な許可や訓練な 13.1%
どを条件にしている
④ まだ整備中である、少数の人が使える状態 0.0%
①59.8%
②27.1%
⑤ ないか、ほとんど使っていない 0.0%
71 貴学部ではインターネットなどを取り入れた講義などを行っていますか?
① ほとんどの学科で行っている 9.3%
④10.3%
⑤0.9%
①9.3%
② 学科によっては行っているところもある 34.6%
③ 教員が独自に行っている 43.9%
②34.6%
④ ほとんど行っていない 10.3%
⑤ やっていない、またはやる必要がないと考えている 0.9%
③43.9%
72 高速回線や衛星を使用しての講義、研究会などの可能性がでてきましたが、貴学部では?
① すでに大いに使用している 5.6%
⑤13.1%
② 少し使用している 29.9%
③ 計画中である 38.3%
④13.1%
①5.6%
②29.9%
④ あまり積極的ではない 13.1%
⑤ 予定がない 13.1%
その他 学部教育に関する限り現在は必要性が低いので積極的
でない。キャンパスのあり方によっては取り入れるこ
③38.3%
とになろう。
73 ニューメディアを使用した教育は利点もありますが、一方では費用もかかり、トラブルやグレードアップに大変
な労力と資金を必要とし、かつ画一的になるとか、学生の顔が見えないなどの批判もあります。貴学部では?
① 将来性が大いにあり、有効な教育手段である 14.0%
② 将来性がある 43.9%
③ どちらともいえない 38.3%
④2.8%
①14.0%
③38.3%
④ あまり力を入れる必要はない 2.8%
⑤ 良くない方法である 0.0%
②43.9%
- 30 -
【分類11:高校教育と工学教育について】
74 大学の入試システムが、高等学校の教育に大きな影響を与えると言われています。貴学部では?
① 高等学校の教育が歪むほどの影響がある 6.5%
⑤2.8%
④3.7%
② 影響が大きい 57.9%
③ どちらとも言えない 28.0%
④ ほとんど影響がある 3.7%
①6.5%
③28.0%
⑤ 全く関係ない 2.8%
②57.9%
75 高等学校における理科や数学の選択の幅が広がっています。これは工学教育にとって、貴学部では?
① 大いに結構である 0.9%
①0.9%
② 結構 14.0%
⑤4.7%
②14.0%
③ どちらとも言えない 38.3%
④ 好ましくない 42.1%
⑤ きわめて好ましくない 4.7%
④42.1%
③38.3%
76 大学受験に理科の実験的な試験が無いのが、高等学校での実験の教育をしにくくしているとも言われています。
貴学部では?
⑤6.5%
① 問題にしなくても良い 5.6%
①5.6%
② 現状では仕方がない 38.3%
③ どちらとも言えない 15.9%
④33.6%
②38.3%
④ 良い状態とは言えない 33.6%
⑤ きわめて望ましくない状態である 6.5%
③15.9%
77 工学関係の入試では、生物を受験科目に入れていない場合が見られます。貴学部では?
① 工学と生物はほとんど関係がないなどの理由で、受 19.6%
⑤0.9%
①19.6%
④3.7%
験科目にない
② 閑係は深いが生物は受験科目においていない 41.1%
③ 一都に選択科目として機会を与えている 33.6%
③33.6%
④ 多くの受験生が生物を受験している 3.7%
⑤ 全ての受験生が受験するシステムである 0.9%
②41.1%
その他 工学部としての入試はない。
78 大学入試の受験科目は減少傾向にあります。科目の減少について、貴学部では?
① 科目数を減少させると工学教育に大きな支障を来す 17.8%
② かなりの影響がある 44.9%
④3.7% ①17.8%
③33.6%
③ どちらとも言えない 33.6%
④ あまり影響はない 3.7%
⑤ まったく影響がない 0.0%
②44.9%
- 31 -
79 貴学部は受験生のリクルートまたは受験生の便宜を図るために、広報室の設置やオープンカレッジ、または工学
教育関係の広報を行っておられますか?
③14.0%
① 重要な施策としてカを入れている 42.1%
①42.1%
② ある程度積極的に行っている 43.0%
③ あまり進んでいない 14.0%
④ 全く行っていない 0.0%
その他 インターネットの活用に力を入れている。
②43.0%
80 教職課程のシステムの閑係で高等学校の先生に工学出身の先生が少なく、それが工学離れの原因の一つとの意見
もあります。貴学部では?
⑤0.9%
① まったくその通り 21.5%
② ある程度そういえる 51.4%
④11.2%
①21.5%
③15.0%
③ どちらとも言えない 15.0%
④ あまり関係ない 11.2%
⑤ まったく閑係ない 0.9%
②51.4%
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【分類12:大学院及び研究活動、企業等関係について】
81 貴学部では学部学生と修士課程の学生の比(総数の比)は(定員ではなく実質的に)?
① 修士の方が多い(1.2 以上) 0.9%
② ほぼ同数(0.8~1.2) 5.6%
①0.9%
⑤9.3%
②5.6%
③ 半数(0.3~0.8) 27.1%
③27.1%
④ 30%以下数%以上 56.1%
⑤ 数%または 0 9.3%
④56.1%
82 貴学部では毎年の博士号取得数は?
① 100 名以上 7.5%
⑤21.5%
①7.5%
② 10 名以上 100 名以下 32.7%
②32.7%
③ 3~10 名 20.6%
④ 3 名以下 14.0%
⑤ なし 21.5%
④14.0%
③20.6%
83 貴学部では研究設備は学部の工学教育に有効に利用されていますか?
① 全面的に利用している 46.7%
④1.9%
③11.2%
①46.7%
② 部分的に利用している 40.2%
③ ものによっては利用している 11.2%
④ ほとんど利用していない 1.9%
⑤ 全く利用していない 0.0%
②40.2%
84 貴学部では入社試験の傾向は全体として見て?
① 工学の実力より人材を問う試験が主力と感じる 50.5%
② バランスがとれている 22.4%
③19.6%
④0.9%
③ 工学的専門を考慮している 19.6%
④ 工学的専門が主力の問題が課せられる 0.9%
その他 基礎実力と人物の両方が評価されていると感じる。
学年進行中で 98 年度に完成します。
②22.4%
①50.5%
85 就職協定が破棄されましたが、工学教育を実施する上で貴学部では?
① 大変よくなった 1.9%
② 工学教育が少しやりやすくなった 1.9%
⑤13.1%
①1.9%
②1.9%
③ 変わらない 47.7%
④ 工学教育がすこし悪い方向になった 32.7%
⑤ 工学教育についてきわめて不都合である 13.1%
その他 あまり影響はない。
④32.7%
- 33 -
③47.7%
86 大学では教官の採用に「公募」という形式を取り入れてますが、日本の会社では「ポスト募集」をせずに入社で
社員を決める方式が採られます。このため、工学の力を要求されず、工学教育に影響を与えているとの意見があり
ます。貴学部では?
① 工学教育とポスト募集に因果関係がある 16.8%
①16.8%
③20.6%
② どちらとも言えない 59.8%
③ 因果関係は少ない、もしくは無い 20.6%
その他 修学内容が入社時に直接的に評価されないという設問
主旨かと思うが、むしろ現状の工学教育の在り方を問
②59.8%
うことが大切であろう。
87 産学共同による工学の活性化が期待されています。貴学部では?
④5.6%
① 活発に進めている 34.6%
② かなり力を入れている 45.8%
③14.0%
③ どちらとも言えない 14.0%
④ あまり進めていない、また進まない 5.6%
⑤ 全く進まない、または進めるべきではない 0.0%
②45.8%
- 34 -
①34.6%
【分類13:教員の評価方法、待遇などと工学教育の関係について】
88 研究を大学教員の評価基準とすることには賛否があるものの、論文数などの一応の評価基準が定まっております
が、教育の貢献に対しての評価は定まっておりません。貴学部では?
① 教員の教育評価を行っている 2.8%
⑤0.9%
①2.8%
④15.0%
②25.2%
② 教育評価を一部で実施している 25.2%
③ 検討中である 55.1%
④ 教育評価には消極的である 15.0%
⑤ 教育評価はするつもりはない 0.9%
③55.1%
89 貴学部では学生による授業の評価を進めていますか?
① 全面的に行っている 31.8%
⑤7.5%
④15.0%
①31.8%
② おおよそ行っている 19.6%
③ すこし行っている 24.3%
④ 計画中である 15.0%
⑤ やっていないし計画もない 7.5%
③24.3%
②19.6%
その他 行っていない。
90 貴学部では卒業生による授業評価を進めていますか?
①0.9%
① 全面的に行っている 0.9%
②2.8%
③13.1%
② おおよそ行っている 2.8%
③ すこし行っている 13.1%
④ 計画中である 21.5%
⑤ やっていないし計画もない 59.8%
④21.5%
⑤59.8%
その他 行っていない。
91 貴学部では教員同士が教育評価する方式を行っていますか?
③11.2%
① 全面的に行っている 0.0%
② おおよそ行っている 0.0%
④24.3%
③ 少し行っている 11.2%
④ 計画中である 24.3%
⑤ やっていないし、計画もない 63.6%
⑤63.6%
その他 教育面の評価は教員によって行われる。
92 貴学部では教員評価の結果で教員の昇進、給与などを決めていますか?
① 行っている 4.7%
② 部分的に行っている 14.0%
①4.7%
②14.0%
⑤40.2%
③ 参考にする程度 24.3%
④ 計画中である 14.0%
⑤ まったくその計画か意志がない 40.2%
その他 研究面の評価だけでなく教育面の評価も重視してい
る。
- 35 -
③24.3%
④14.0%
93 貴学部では教員の任期制の導入について、どのように考えられていますか?
① 大賛成 0.9%
⑤2.8%
② 賛成 19.6%
③ どちらでもない 49.5%
①0.9%
②19.6%
④23.4%
④ あまり賛成できない 23.4%
⑤ 反対 2.8%
その他 1、2 ビットの情報量で回答できるような内容では
③49.5%
ない。
94 最近、スタッフ(技官、秘書など)が認められなくなってきていますが、貴学部では?
① 教授などに秘書をおいている 5.6%
①5.6%
② 共通秘書をおいている 3.7%
③ 学科事務員をおいて業務の一部を分担させている 61.7%
⑤10.3%
②3.7%
④18.7%
④ ほとんど認めていない 18.7%
⑤ 全く認めていない 10.3%
③61.7%
95 貴学部では助手制度、またはそれに相当するなんらかの制度をおいていますか?
① おおよそ教授一人に助手一人以上配置している 16.8%
② 学科学部などで定員をおいてかなりの数を置いて 28.0%
いる
⑤3.7% ①16.8%
④15.9%
③ 置いている 33.6%
④ ほとんど置いていない 15.9%
⑤ まったく置いていない 3.7%
その他 助手の定員が不足していることが問題になっている
が、助手は教授につくのではなく大講座の一員として
位置づけられている。
- 36 -
③33.6%
②28.0%
【分類14:工学教育に関する諸事項や本委員会の活動について】
96 貴学部では工学教育においてアクレディテーション(大学卒業の学力レベルなどを判定する保証制度)について
どのように考えていますか?
④5.6%
① 導入が必要である 29.9%
①29.9%
③29.0%
② 学科によっては必要である 33.6%
③ あまり必要ではないと思う 29.0%
④ 必要ない 5.6%
その他 この制度の恩恵を受ける学生が、現在と将来、どの
②33.6%
くらいいるか実情を把握することが先決であるが、ま
だ不明である。
97 貴学部では全体的に大学の工学教育の規制が緩和されるのは工学教育として、どのように考えていますか。
① 大いに歓迎する 19.6%
⑤1.0%
② 歓迎する 50.5%
①19.6%
④3.7%
③23.4%
③ どちらでもない 23.4%
④ あまり歓迎しない 3.7%
⑤ まったく間違っている 1.0%
その他 これまで規制を受けてきたと感じていない。
②50.5%
98 学生入学定員について、学部で自由に決めることになったら、貴学部では?
① 18 才人口の減少に関わらず 10%以上増員する 8.4%
⑤10.3% ①8.4%
②18.7%
② 10%以下の範囲で増員する 18.7%
③ 変更しない 43.0%
④14.0%
④ 10%未満の範囲で削減する 14.0%
⑤ 10%以上削減する 10.3%
その他 大学院重点化の視点から学科構成の再編の検討が進
③43.0%
むと思う。
99 アメリカなどではビルの一角が大学、という状態もあります。大学の設置や設備が自由な判断にゆだねられるよ
うになると、貴学部では日本の大学の工学教育にどういう影響を与えると考えられます?
① 各大学がよりよい環撹を整えようとするなどの理由 10.3%
⑤13.1%
で、工学教育には望ましい
①10.3%
② 各大学が工夫をするので良い 47.7%
③ 変わらない 2.8%
④ 各大学が設備などの設置や財政状態が悪化する状態 22.4%
④22.4%
などを来すおそれがある
⑤ いい加減な環境で工学教育を行う大学がでるなどの 13.1%
理由で全くよくない
その他 ビルの一角が悪環境であるとする先入観は避けた方
がよい。
- 37 -
③2.8%
②47.7%
100(最後に)このアンケートは各設問の中から選択する形式を採用させていただきました。しかし、工学教育の問題は
言葉でしか表せない重要な問題もあります。
・強い関心と意欲を持った学生に工学教育を行うこと。
・工学部卒学生に対して、正当な社会的評価を待遇が与えられること。
これまでの大学では研究が大文字、教育は小文字、研究・教育の成果の社会への還元についてはほとんど意識されてい
なかったことの反省に立ち、本学では上記の三つを等価に見ることを学是としている。
大学の学部教育での問題点は 2 つある。人間教育と基礎学力の問題である。
本学の場合、(1)新入生の人間としての成熟度が年々下がっている事。(2)大学教育の基礎となるべき高校教育で大幅な
選択制を取り入れたために、狭い分野の学習だけで高校を卒業して来る学生が年々増加している事である。
この現状をふまえて、本学の場合は、学部では自己表現と他人との協同作業、コンピューターリテラシー、基礎学力の
充実に重点を置いた教育体制に切り換えつつある。しかし、学生の中には少数ではあるが、たいへん有望な素地を持っ
た学生もいるので、これ等の学生については、彼等が順調に伸びられる様な対応を早急に実施したいと考えている。い
わゆる、学生の多様化に対する対応が急務であるが、一口に言えば、学部教育は基礎教育、専門教育は大学院という方
向で本学は動いている。
(本学工学部が考えている最も重要な視点等)世界のあらゆるところに人類の手が入って「人工化」「技術科」されて
いくという「テクノグローブ化」が急速に進みはじめている。人類は、この地上に誕生して以来、もっぱら自然と格闘
し、その脅威を克服することに追われてきた。しかし、二十一世紀には、否と応とにかかわらず、自然の脅威よりむし
ろ「テクノグローブ」という人工化する環境と対峙していかなければならない。人類が今まで経験したことのない新し
い課題である。そして従来の工学が大きな転換期を迎えている。それを見据えて学科構成や教育課程をどのように再構
築するかが大きな課題である。
・入社試験で、“人物”と同時に“工学の知識”を問う学力試験もしてほしい。特に、大学の授業内容に沿ったものを
出題してほしい。[クーリエ展開を一生懸命教えても、高校の代数が出題されるのでは…。(もっとも、それすら出来
ないではないか、の声も企業からは聞こえてきそうですが。)]
・工学部においては、理学部に比べて、今後、大学全入化などを考慮すると、“教育”が一層比重を増す(少なくとも
学部では“研究”よりも優先)と共に、一層“教育上の工夫”の努力も必要になると思います。
(1)社会に出て即戦力となる学生の育成。そのためには各種資格の取得、コンピュータリテラシー教育など実学的を重視
している。インターンシップ制も検討中。(2)今後更に産学共同に注力するが、その過程で学生も参加させ「生きた工
学」を身に付けさせる様な教育を推進してゆく。(3)自分の意見を持ち、それを主張出来る人材の育成。
21 世紀における日本の、特に日本経済の、発展のためには科学と技術のさらなる進展が必要なことはいうまでもない。
このために心身共に健全な優れた科学者・技術者の養成が必須である。即ち、理系特に工学系の優れた卒業生が今後十
分量現れないと日本の将来は危機に曝される恐れがある。しかし、現状は高校生の理系離れが現実に進んでいる。この
原因は種々であろうが、(1)理系離れは父兄(両親)や高校教員が理系を十分理解していないことに元ずく場合が多く、
この点を改善する方法を考える必要がある。(2)技術系の給与が、一般的に、文系の給与よりも低いことも理系離れの原
因の一つである。この点の改善もぜひ必要である。(3)しかし、理系の好きな高校生もまだまだいるのでこれらのものを
伸ばしてやる方法を考える必要がある。
常に学生の視点に立った大学づくりを目指すべきであり、大学の構成員すべてが、それに向かってベクトルを合わせて、
改革を進めることにある。
- 38 -
・高校における工学基礎教育の徹底
・受験生の確保と入学学生の学力向上
学内では今、大学院大学への移行の検討が進められております。私学では未だに学部が主である−これは、財政的にこ
のような考えになるのですが−という意見が相変らず存在します。国立大学では対文部省との折衝ですが、私学では学
内合意が重要となります。私学の学則は多様な分野を含めて、一つの学則で枠をはめていますから。私学らしい大学院
大学は如何にあるべきかご理解とご支援をお願い致します。
本学部は「芸術工学」という比較的新しい領域で、今回のアンケートで調査された「工学」とは少し軸がずれているか
も知れません。本学部にはデザイン学科と建築学科の 2 学科がありますが、学部が新しい領域の開発を目指しているに
しては、学科の名称や教育内容には旧態依然たるものを感じます。「芸術工学」を単に、Art と Technology の合体と把
えたのでは充分ではなく、むしろ「Design」そのものとして新しいバラダイムを構築すべきだと思っています。例えば、
日本の大学において建築学科は伝統的に工学部か美術学部に組み込まれており、形と内容にしっくりしないものがあり
ます。又、建築家資格の国際相互承認の問題(国際的には 5 年間の教育期間が標準)とも絡み、今後制度的にも再検討
することが必要となりそうです。
・創造性の涵養
・大学院の充実(学部・大学院の一貫教育)
未来社会を先取りする先見的学部改組
日本の大学での工学教育は、これまで主として講義を中心とする理論重視のものであったが、大学の大衆化にともなっ
て、高度な理論を理解できない学生が増えており、脱落者を生じたり、理工系離れの一因ともなっている。もっと、
“物づくり”の楽しさを感じさせるカリキュラムの工夫が必要と考えている。
入学する学生の多様化に伴い、工学教育に必要な基礎学力の底上げを目的としたシステムを作る必要がある。
本学理工学部教務委員会で話題になったことのない多くの設問があります。その場合には個人的な意見に基づいて回答
しました。また、設問の意味がよく分からないもの、選択肢が適切とは思えないものがいくつかありました。たとえば
設問 35 は欧米だけでなく世界の実状を知らないと答えることができません。(1)工学教育の改革を進めるには、学生(卒
業生)、高等学校理科教員、卒業生の受入先(企業等)の意見を収集する段階が必要(重要)と考えます。大学教員だけで考
えるのでは不充分です。(2)20 世紀後半における科学技術の急速な発展がもたらした地球規模の危機を考えると工学倫
理や人間性を深めるための教育が不可欠と考えます。しかし、地球規模の危機をもたらした世代に属する大学教員に何
ができるのか。熟慮が必要と思います。(3)入学者の多様化によって従来型の工学教育が困難になっています。この現状
に対する教員の認識度に大きな差があります。学生に対する工学教育の改革だけでなく、教員に対する啓蒙運動も必要
だというのが本学の現状です。
最も大切なことは学生にやる気をおこさせるような教育をすることと思います。
・工学系の志望者が減少している根本的な原因を明確にする。
・卒業生の社会からの評価を積極的に取り入れる。
・工学系の人間が余り世間から尊敬されなくなった。若者の目が工学に向かなくなった原因かも知れない。
・「モノ」作りの充実感が得られる教育を考える。
工学教育の総合性に意を用い、平成 10 年度より現在の 8 学科を 5 学科に統合し、社会人教育を重視する意味から、都市
環境システム学科を設置した。また、17 才の飛び入学を実施することとし、早期才能教育、創造性教育にカを注いでい
く覚悟である。
- 39 -
学生の自立性(自律性と自主性を含む)を育て、倫理性を伴った個性を尊重する教育環境の中で、理念(コンセプト)と技
術を兼ね備えた設計者(デザイナー)を養成したい。
工学教育という一括した表現は、アメリカの大学での工学が前提にある。日本の工学部は、組織、特色などの面で欧米
の工学部とは異なっているので、その点を考慮する必要がある。
工学教育における創造性の育成は、大変重要ではありますが、今日の小子化高進学率傾向下での大学教育では科目学習
だけではなく、如何に目的意識と学習意欲を持たせるかにかかっています。この部分は、大学に於ける対応だけでは不
充分であり、そこへ至る小中高校に於ける小人数教室と資質ある教師の配置という教育制度全体にも係わっています。
しかし、話を大学内に限れば、大学での工学教育は、教育プログラム策定は最も重要ではありますが、その運用と卒業
していく学生の評価を通じてのプログラム改善によって、卒業生の品質保証を行う教育システムの実現が世界的方向性
を見定めた上で、各大学の事情にあわせての工夫が求められていると考えます。
基本的な事項はアンケート項目の中に包含されていると思います。繰り返しになるところもありますが、以下に、2、3
の項目を挙げます。(1)本工学部では大学院重点化が完了し、教育研究の重点が大学院に移行した。学部教育では工学基
礎教育を、大学院では高度の専門教育を指向している。大学院での教育の特徴は主専修、副専修の双峰制カリキュラム
にある。この双峰制カリキュラムをさらに発展させるためには、学部教育カリキュラムを基礎的かつ学科間でより共通
性の高いものとし、大学院での主専修、副専修の選択範囲を拡大できるようにする必要がある。そのための学部カリキ
ュラムの再構築を急がなければならない。これは本工学部固有の問題ではなく、学部から大学院への進学時における学
生の大学間移動を促進する観点からも重要である。(2)学部において副専門学科を設定することができればその効果は大
きい。その学科の全ての科目の履修は時間的に困難と思われるから、基本的な科目を履修させることになろう。工学部
全体にわたるカリキュラムを作り、学生が選択することによって 2 つの専門を履修できるようにすることも考えられる。
(3)大学院教育を充実するためには、学部学生数をある程度削減する必要がある。大学院学生の教育、研究指導には教官
のより大きな努力が必要となるからである。(4)高等学校での要履修科目を設定するなどして、基礎学力のある学生を工
学部に入学させる必要がある。入学者選抜の多様化、入試科目数の減少などにより、学生の基礎学力が多様化し学部教
育のレベルを維持することが困難になりつつあるからである。
工学教育として学生が自ら考え判断出来る能力を養成することが重要な視点となる。また、卒業生に対して、創造的能
力及び広い視野と専門的知識修得の達成度を評価することが重要である。
工学教育の中で、自分の職業と専門を納得ずくで選択することが重要であり、自己向上意欲もその中から芽生えると思
う。「工学を如何にして好きにさせるか?」をキーワードとして教育を構築しなければならない。
「モノづくり、創造性教育の充実」を、工学教育の重要な視点として捉える。その目標達成のためには、教官と学生の
接触密度の向上が不可欠の要素であるが、学生・スタッフ(教官)比を高めるには、現状種々の制約があり、早急な実現
は困難である。従って、当面の補完策として、TA 及び RA の増強確保が必要と考える。また、マルチメディアを利用し、
ネットワークによる接触密度の向上を図ることも一つの方策である。さらに、大学内における学部間の教官・学生数の
比率の調整も、検討すべき課題となる。
創造性教育、情報教育、学際領域教育などの科目が増える反面、じっくり考える能力を養う科目をどう確保するかが問
題である。また、論理的に自分の考えを表現する能力を教育する必要を感じている。
質問 18 において「環境」というキーワードが現れなかったのは、全く残念である。「分解・分別しやすい」、「リサイ
クルしやすい」、「地球環境への影響が小さい」等の視点は今後の工学、生産技術にとってきわめて重要であると個人
的には考える。
- 40 -
学年層の多様化と社会的ニーズを考慮した教育カリキュラムの提案
学部を卒業する学生は、従来に比較すると、より多様な技術内容に対応しなければならなくなっている。大学教育でい
まの世の中が必要としている技術に、講義、実験等を通して即応することは困難である。この様な状況を考えると、い
つの時代でもそうであるように、特定分野の学問の基礎を十分に教育することが最も必要であると考える。いずれの分
野において、しっかりした学力を身につけておけば、それを基礎として多様な技術に対応できる可能性がある。即ち、
基礎科学および基礎工学の教育を重視するのが本学の基本姿勢である。
工学部は一般に世帯が大きすぎる。もうこれ以上、学生も教官も増やすべきではない。むしろ、今の工学部を分割して
トータルの学生数で 1000 人程度の単科大学とすべきであろう。理科系一般の学部で教養教育や倫理、哲学などが軽視さ
れているように感じる。その意味で大学の 1∼2 年は教養教育に重点を置くよう変えたほうが良い。専門は 3∼4 プラス
修士課程の 4 年間でしっかり教育すべきである。
東京大学工学系研究科のホームページ TPAGE(http://www.t.u-tokyo.ac.jp/)をぜひ参照していただきたい。
大学院での教育研究を中心とする研究大学を目指している。学部教育は理学と工学の基礎に習熟すると共に、科学技術
のスキルを身につけることを目的としている。さらに情報教育・語学教育(英語)を重視すると共に、科学者・技術者
の使命・倫理観を自覚させることを目ざしている。カリキュラム等で多くの工夫をしているが、理想の実現はなかなか
きびしいように思える。原因の一つは学生の勉学意欲のなさ、最小エネルギーで単位をそろえれば良いという考え方が
蔓延している。この対策として、新入生への専門分野のやさしい序説の開講、担任教官などによる学生との接触密度を
上げる工夫、相談室オフィスアワーの開設、電子メールによる質問の受付などを行っている。さらに、全ての学生を対
象とせず、やる気のある学生のレベルアップを図る工夫もしている。英語情報科目、実験などにおいて、同じ科目のな
かに難易度を設け、学生のやる気を鼓舞している。もう一つの原因は、研究中心の教官の学部教育(特に共通教育)の
重要性に対する自覚不足である。学生による授業評価を教官側に反映したり、教育問題に関する講演会を開いたりして
いるが、学部教育に関心のある教官を増やすには時間がかかる。これは、学部教育の貢献に関する評価がむつかしい事
と、昇進、昇給につながらないことによる。
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