近代建築2012.6

港八十三番地 沼津港深海水族館 シーラカンス・ミュージアム
静岡県沼津市
設計・施工/佐藤建設
設計・監理/青山建築設計事務所
NUMAZU DEEP SEA AQUARIUM
SATO CONSTRUCTION , AOYAMA ARCHITECTURAL DESIGN OFFICE
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めることとなった 。
■設計主旨■
2008 年 に 計画 が 始 まり、当初 は 大型 のショ
年間 130 万人 を 誘致 する 観光地「沼津港」、
ッピングモー ルを 企画し進 めていたが 、 コス
そ の 入り口 に 位置 する 佐政水産㈱旧本社跡
トの 問題 や 近隣 の 似 たような 施設との 特徴分
地に計画を行うこととなった 。
けの 問題、「地域 の 人 に 」の 思 いに 対しての
沼津港 は 漁業関係施設 や 観光客相手 の 飲食
問題 があった 。
店 が 立 ち 並 び、
“漁業 の 街”特有 の 早朝 から
2010 年に入り、今までの 考えを改 め、
昼 にかけては 、漁業関係者 や 観光客 で 賑 わ
い 活気 の あ ふ れる 地域 で ある。 一方、夕方
以降 はひっそりと息 をひそめる特質 を 兼 ね 揃
えている。
「沼津との 共存」・・・観光客 は 勿論、地域住
民にとっても 魅力的 なところ。
「港町との 共栄」・・・港町らしさを活 かした 建
物、営業。
また 、沼津駅 からは 一本道 ではあるが 2 ㎞程
「市場との 調和」・・・活気 あふれる市場 の 魅
度離 れていているため、地域 の 人々にとって
力を活 かした 空間 の 演出。
は「近くて 遠 い 」場所となっていた 。
上記 3 点 を 設計 の 基本 コンセプトに 据 え、沼
そ のような 現状 を 踏 まえ、佐政水産㈱佐藤
津駅 からの 距離 も 逆手に取り“ わざわざ 行く”
専務 の「昔 のような 活気 あふれる港」「地域
“行 きたくなる”という目的 を 明確 にした「商
の 人 にも 来 てもらえる」「県外 に 沼津港 の 魅
業施設 ではなく“街”をつくる」へと方針を変
力 を 発信 する」の 思 いを 形にすべく計画 を 進
え基本計画 が 確定した 。
店舗
店舗
店舗
店舗
店舗
店舗
現計画初期 スケッチ
店舗
D棟
(博物館・水族館)
東屋
店舗
P.61 /沼津港深海水族館 シーラカンス・ミュージアムエントランス
P.62 上/東西通路と南北通路 の 交差部分を見る
P.62 下/入口ゲートより東西道路夕景を見通 す
上/敷地東側よりミュージアムと C 棟を見る
C棟
(飲食店)
店舗
駐車場
駐車場
飲食店
B棟
(飲食店)
店舗
店舗
提灯
A棟
(飲食店)
入口ゲート
2008 年時 初期計画配置図 縮尺 1/1,500
■配置計画・外観計画■
実施配置図 縮尺 1/1,500
アプローチし東側道路 へと抜 ける東西 の 通路
感を感じ取 れる計画とした 。
と駐車場 からの 路地風 の 南北 の 通路を配置し
水族館 につ い ては 飲食店 だけでは 魅力 に 欠
建物配置 のイメージは 、「港町 にありそうな
植栽や 水辺、 ベンチを取り込 み 通路幅にも変
けてしまうため 、「沼津 の 新しい 名所」「集客
長 い 倉庫 がもともと 2 棟 あり、 そこに 飲食店
化 をもたせ 敷地内 に 入りやすい 計画とした。
の 目玉」なると考 え、実施設計段階 で 新規事
が1店 また1店と増 えていき 各々 が 勝手気 ま
主 の 目的以外にも「 ちょっと休憩」「待 ち 合わ
業として 決定した 。
まに増改築 を 繰り返し、 いつの 間にか 飲食店
せ 」にも 使 え、「 ただ 歩くだけ 」でも 楽しい 空
活気 あふれる自然 な 街並 みに対してどのよう
街を自然と形成した 、その 後、月日がたち 人々
間とし、人々の集まりやすい空間をつくり賑わ
にするか 難しいところであったが 、
“深海 の 神
の 動きに合 わせるように建物 の 中心部分 が 取
いの 演出を図った。 また、通路部分を使用し
秘 なイメージ”や“生きた 化石シーラカンスへ
り壊 され 路地 が 形成 された 」という雰囲気 を
イベント等にも活用できるように計画した。
の 期待感”を 思った 時、出 てきた 答 えは“無
考 え、東西 に 長くもともとは1棟 で あったよ
建物外観についてはつくり込まない 自然 な 街
機質 な 箱”であった 。飲食店街に突然現 れた
うな 同一 スパンの A ・ C 棟と B・D 棟 を 南北 に
並 みを目指し、基準 のラインを境に上部を統
場違 い な 建物 も 自然 な 物 かと 外観 を 確定し
配置し、所々に 増築した 様 な 出っ張りや 勝手
一したデザインとし、下部 は 各 テナントが 自
た 。 またアプロ ー チは 人々 の 集 まる 敷地中
に 外壁 をなくしたような 凹凸 をつくり各々 の
由にデザインできるように計画を進 めた 。
央 の 通路交差部分 からと 考 え D 棟部分 に 計
棟 に 2 ~3 テナントの 誘致 を 想定し計画 を 進
また 、道路・通路 を 通行 する人々に各 テナン
画 することなり、「活気 あふれ 気軽 に 立 ち 寄
めた 。
ト 内部 の 賑 や かさを 感じられるように 道路・
る街」と「深海 の 非日常を体現 する空間」をコ
街並 みを形成 する通路 は 西側メイン道路 から
通路面 は 大型 の 開口 を 採用し各店 の ライブ
ンセプトに施設全体を計画した 。
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■飲食店
飲食店 の 計画 に 当 たり、 タジマ 創研 の 森氏
に企画最終段階 から加 わっていただき、共通
認識 のもと基本コンセプトに基 づいた 店舗 づ
くりを 目指した 。 リーシング 段階 より各店舗
にはコンセプトを 尊重していただき、港らし
い 雰囲気やライブ 感 のあるつくりとなった 。
また 、
“地産地消”をメニューに取り込 み 沼津
港を意識した 店舗 づくりとなった 。
■沼津港深海水族館 シーラカンス・ミュー
ジアム
1階に水族館、2 階に博物館となる本建物 は 、
外観 の“無機質 な 箱”からは 内部 の 想像 が 難
しい 建物となっている、一歩中 に 入 るとエン
トランス部分 から深海 の 神秘的 な 空間 へと入
り込 むつくりとなっている。 内部 の 展示 や 造
形 はライツ・アートリアルの 坂巻氏 の 手 によ
り細 かくつくり込まれた 。
1階 の 水族館部分 は 光 の 射し込 む 海 から深海
までを 表現し「非日常」を 体現 できる 空間と
なっている。 水族館 より2 階 に 進 むと雰囲気
が 変 わりシーラカンスの 博物館となる、 シー
ラカンスの 住 むコモロ諸島や 住 む 海 の 再現 か
ら近未来的 な 空間までを演出した 。 また 、世
界唯一 の「冷凍 シーラカンス 」展示 には 東洋
製作所による特殊 な 冷凍保管庫を採用し、シ
ーラカンスの 魅力 を 体現 できる空間となって
いる。
また 、深海魚 や 国内 での 飼育実績 の 少 な い
生物 の 飼育展示 のため 飼育環境 の 設定 や 設
備的 な 設定に試行錯誤した 経緯 もある。
(小山大介/青山設計)
小山 大介 ……こやま だいすけ
1973 年静岡県生 まれ。 県立修善寺工
業高等学校建築科卒業後、東京テクニ
カルカレッジ 環境 システム 科、設備設
P.64-65 /ミュージアム内観 冷凍シーラカンス展示
P.66 上/「駿河湾大水槽」ゴミ漁礁を賢く利用 する魚たちを演出。環境を考えるきっかけづくりをしている
P.66 下/「 ベースキャンプ 」展示 シーラカンスの 調査研究が行われたベースキャンプを再現している
上/ B 棟店舗外観と提灯 下/ B 棟店舗内観
計等 を 経 て 1996 年青山建築設計事務
所入社。現在、同社設計部長
西側より夕景を見る
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■施工計画■
当敷地 は 沼津魚市場 の 玄関口 にあり、市場
のメイン通りに面している。工事車両 の 現場
へ の 出入りは 、このメイン 通りを 利用 するし
か な かった 。 市 場 内 は 通 常、 午 前 中 位 は 、
市場関係 の 車・ フォークリフトで 混雑して い
る。市場車両と工事車両 が 同時にメイン通り
を 使用 するような 状況 だったために、市場内
での 車両災害防止 につ いて 十分注意 する 必
要 が あった 。 また 、敷地周囲 は 既設建物 が
隣接し、大型車両を使用 する作業・搬入につ
いては 、市場 の 状況を確認しながら行う必要
があった 。
A・B・C 棟(飲食店)を先に OPENし、D 棟(水
族館棟)OPEN を最後にする計画 だったので
大漁旗をインテリアに用 いた 店舗内観
D 棟 の 重機作業 をA・B・C棟 の 外構工事着
工前に終了 するように計画した 。
準備 をする 店舗関係者 と工事関係者 が 重複
完成 する事 ができたのは 、建築主・設計者・
D 棟 の 内装工事 では、水族館関係者 と日程
する期間 もあったが 、関係者用 の 通路を設置
施工者 の 施設 に 対 する 強 い 思 いとチ ームワ
調 整・打 合 せ を 綿 密 に 行 い 作 業 を 進 め た 。
し、工事範囲 を 明確 にすることにより円滑 に
ークの 賜物 だと信じている。地元沼津 で 、こ
のプロジェクトに参加 できた 事を誇りに思う。
内装 の 工程計画 では 、水槽 に 水 を 入 れてか
作業を行うことができた 。
ら OPEN まで の 必要日数 を 逆算して 工程計
工 事 中 に は 、 東 日 本 大 震 災 の 影 響 により、
画を行う必要 があった 。 また 、展示 する生体
計画停電 や 、材料手配 に 影響 が 出 たが 代替
伊倉 真也…… いくら まさや
の 求 める環境・習性に合った 仕上材を提案し、
え 品等 の 採用 により工期 の 遅 れは 一切 なく、
1977 年 静 岡 県 生 ま れ。 1998 年 中 央
建築主側 の 、 イメージ通りの 施工 ができるよ
工事を進 めることができた 。
同年佐藤建設入社。 現在、同社工事
う、現場 が 一体となり工事を進 めた 。
シーラカンス・深海魚 の 展示 で 全国的に注目
飲食店 OPEN 前 には 、狭 い 範囲 で 、OPEN
されて いる 施設 の 建設 を 無事故 で 、工期内
港八十三番地 沼津港深海水族館 シーラカンス・ミュー
構造規模 A 棟(飲食店棟):S 造 地上 1 階
ジアム データ
B 棟(飲食店棟)
:S 造 地上 1 階、塔屋 1 階
屋根
所在地
C 棟(飲食店棟)
:S 造 地上 1 階 外壁
ラムダ RC フェイス、ALC 下地弾性リシン吹付
D 棟(水族館棟)
:S 造 地上 2 階、塔屋 1 階
外構
透水性コンクリート舗装、御影石貼
建具
アルミ製建具
静岡県沼津市千本港町 83、外
主要用途
建築主
飲食店、博物館、水族館
佐政水産株式会社
機械設備 大石設備 担当/大石将勝
:26.747m、B 棟(飲食店棟)
:
A 棟(飲食店棟)
7.700m、C 棟(飲食店棟):6.747m、D 棟(水族館棟):
13.05m
軒高
A 棟(飲食店棟):4.750m、B 棟(飲食店棟):
7.110m、C 棟(飲食店棟):4.750m、D 棟(水族館棟):
12.20m
階高
B 棟(飲食店棟):3.90m、D 棟(水族館棟):
4.28m
天井高さ A 棟(飲食店棟)・B 棟(飲食店棟)
・C 棟(飲食
店棟):3.00m、D 棟(水族館棟)
:3.50m
主なスパン A 棟(飲食店棟):12.15 m× 7.5 m、B 棟(飲
食店棟):10.15 m× 7.10 m、C 棟(飲食店棟):12.15 m
× 10.85 m、D 棟(水族館棟)
:7.6 m× 8.1 m
道路幅員 西側 10.5m 東側 8.15m 南側 8.00m
駐車台数 33 台
設計期間 2010 年 6 月~2011 年 5 月
地域地区
設計・施工
佐藤建設 担当/吉田伸一郎、伊倉真也
設計・監理
青山建築設計事務所
担当/総括:小山大介 建築:小山大介、渡辺貴正
水族館 展示企画・造形設計 ライツ・ アートリアル 担当/坂巻加夫
飲食店 企画・施工 タジマ創研 担当/森 秀明、井戸田円一郎
構造(水族館棟)
鈴木建築設計事務所 担当/鈴木弘行
構造(飲食店棟)
鈴木建築設計事務所 担当/鈴木俊介
電気設備(飲食店棟・水族館一時側) 鈴木電気商会
担当/鈴木伯明
電気設備(水族館二次側)
ダイナナ 担当/ 野木康宏
工事期間
飲食店棟:2011 年 3 月~2011 年 10 月、水族館
棟:2011 年 6 月~2011 年 12 月
[建築概要]
敷地面積 2,988.29 ㎡
建築面積 A 棟(飲食店棟)
:289.50 ㎡、B 棟(飲食店棟)
:
:293.28 ㎡、D 棟(水族館棟)
:
298.80 ㎡、C 棟(飲食店棟)
481.78 ㎡
延床面積 A 棟(飲食店棟)
:289.50 ㎡、B 棟(飲食店棟)
:
:293.28 ㎡、D 棟(水族館棟)
:
321.78 ㎡、C 棟(飲食店棟)
972.65 ㎡
建ぺい率 60%(許容 70%)
容積率
200%(許容 200%)
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最高高さ
準工業地域、臨港地区(漁港区)
[設備概要]
電気設備
受電方式/高圧受電 屋外キ ュ ー ビ ク ル式
6,600V 変 圧 器 容 量 / 飲 食 店 棟 ( 電 灯 300kVA 動 力
200kVA) 水族館棟(電灯、動力共 100kVA) 空調設備 空調方式/ ビル用マルチ方式 熱源/EHP
衛生設備
給水/市水道直圧方式 給湯/個別給湯方式
(電気温水器) 排水/市下水道へ放流
防災設備
消火/屋内消火栓設備、移動粉末消火設備 排煙/自然排煙設備 その他/自動火災報知設備
昇降機
特殊設備
乗用× 1 基、荷物用× 1 基
海水貯水設備、厨房局所排気設備、冷凍シーラ
カンス保管展示庫
(伊倉真也/佐藤建設)
工学校工業専門課程土木建設科卒業、
部建築課 主任
[主な外部仕上げ]
露出シート防水、カラーベスト葺
[主な内部仕上げ]
水族館
床/タイルカーペット張 壁/ガラスクロス張 EP 塗装 天井/ケイカル板 EP 塗装
博物館
床/ ホモジニアスタイル 張 壁/ ビニルクロス 張 天井
/スチール製メッシュ天井
ミュージアムショップ
床/ ホモジニアスタイル 張 壁/ ビニルクロス 張 天井
/ロックウール化粧吸音板
撮影/近代建築社(小笠原岳写真事務所)
協力会社
警
備
仮
設
工
事
コ ン クリ ート 圧 送 工 事
型
鉄
鉄
枠
骨
筋
工
工
工
事
事
事
塗
装
工
事
金 属 製 建 具・ガ ラ ス 工 事
金
属
工
事
内
内
防
装
装
水
工
工
工
事
事
事
空 調 換 気 設 備 工 事
透水性コンクリート(ドライウェイ)製造・販売
シ ー ラカン ス 冷 凍 保 管 設 備
外
テ
構
ン
ト
工
工
事
事
ア
ン
シ
ン
神
山
組
東
和
片
岡
建
設
カ ワ グ チ 鉄 工
杉 山 鉄 筋 工 業
近
藤
商
会
岡
藤
硝
子
店
山
本
工
業
所
み
つ
は
し
フ
ジ
エ
物
産
ス エ ヒ ロ 工 業
平 和 エ ア テ ッ ク
長 岡 生 コ ン クリ ート
東
洋
製
作
所
フ
ゲ
ン
ハ
ン
プ