ゲーム分析 I:環境と公共経済 中山幹夫 1. 協力ゲームの基礎 1.0. 提携形のゲーム (N, v). 提携形のゲーム (N, v): • N = {1, 2, . . . , n} : プレイヤーの集合 • v(S) :提携 S ⊆ N の提携値 優加法性: v(S) + v(T ) ≤ v(S ∪ T ), ∀S, T ⊆ N, S ∩ T = ∅ 対称ゲーム: |S| = |T | =⇒ v(S) = v(T ) ゲーム (N, v) の配分 x = (x1 , . . . , xn ): 全体合理性: x1 + · · · + xn = v(N ) 個人合理性: xi ≥ v({i}), i = 1, . . . , n. 1.1. 協力ゲームの解:仁,コアおよび安定集合. 1.1.1. 仁. 不満ベクトル θ(x): θ(x) = (θ1 (x), θ2 (x), . . . , θ2n (x)) ただし,x は配分で, • θk (x) = v(Sk ) − x(Sk ); • θk (x) ≥ θk+1 (x), k = 1, 2, . . . , 2n − 1. ゲーム (N, v) の仁 (nucleolus) ν とは,不満ベクトル θ(x) を,辞書式 順序で最小化する配分をいう.すなわち,任意の配分 x に対して, k = min{j| θj (ν) 6= θj (x)} =⇒ θk (ν) < θk (x) • ゲーム (N, v) の仁はただひとつ存在する. ) ) • 対称ゲームの仁は均等配分 ν = ( v(N , . . . , v(N ) である. n n 1.1.2. コア. ゲーム (N, v) のコア (core) C(N, v) とは x(S) ≥ v(S), for all S ⊆ N をみたす配分 x の集合である. • C(N, v) 6= ∅ ならば ν ∈ C(N, v). • (N, v) が対称ゲームならば, C(N, v) 6= ∅ ⇐⇒ v(N ) v(S) ≤ , ∀S ⊆ N |S| n Department of Economics, Keio University, 2-15-45 Mita, Tokyo 108-8345. 1 平衡集合族: 提携の集合 B で, ∑ wS = 1 S∈B,S3i をみたす非負の重みベクトル (wS )S∈B が存在するものを平衡集 合族 (balanced collection) という. 平衡ゲーム: 任意の平衡集合族 B に対して, ∑ wS v(S) ≤ v(N ) S∈B をみたすゲーム (N, v) を,平衡ゲーム (balanced game) とい う. 定理: C(N, v) 6= ∅ ⇐⇒ (N, v) は平衡ゲーム 1.1.3. NM 解(安定集合). 配分の支配: 配分 x が配分 y を支配するとは,ある提携 S につ いて, ∑ v(S) ≥ xi , and xi > yi ∀i ∈ S i∈S となることをいう. 安定集合 (stable sets): 配分の集合 K が安定集合であるとは,次 の条件がともにみたされることをいう. 内部安定性: x, y ∈ K ならば x は y を支配しない. 外部安定性: z ∈ / K ならば,ある配分 x ∈ K は z を支配 する. • 配分の全体を A,また K ⊆ A とし,domK で K のある配分に よって支配される配分の全体とする.このとき, K は安定集合 ⇐⇒ K = A \ domK 2 2. 環境と公共経済 2.1. NM 解の応用. 2.1.1. 公共事業の談合入札. • N = {A, B, C} ∗ A :自治体(社会) ∗ B :事業者 ∗ C :事業者 • a :公共事業の社会的価値(金銭評価) • b :事業者 B の見積もり額 • c :事業者 C の見積もり額 • 仮定 : a>b>c>0 • 提携値 v({A}) = v({B}) = v({C}) = 0 v({B, C}) = 0, v({A, B}) = a − b, v({A, C}) = a − c v({A, B, C}) = a − c 2.1.2. NM 解(曲線 ADE). A xB + xC = v({B, C}) = 0 w z” p=b w0 = (a − p, 0, p − c) 0 where b ≥ p ≥ c D w d z z’ p=b+d Y = (yA , yB , yC ) = (a − b − d, yB , b − c + [d − yB ]) where a − b ≥ d ≥ yB Y B F E xA + xB = v({A, B}) = a − b C xA + xC = v({A, C}) = a − c 3 2.2. ゴミ戦争. 2.2.1. ゴミ戦争ゲーム { ∑. − j∈N −S tj if S ( N ∑ • v(S) = − j∈N tj if S = N ただし, ∗ N = {1, . . . , n} はプレイヤーの集合 ∗ n≥3 ∗ tj はプレイヤー j のゴミ排出量 である. • 自己完結的配分: x∗ = (−t1 , . . . , −tn ) は, 「各区のゴミは各区が 処理する」という配分. • 命題:ゴミ戦争ゲーム (N, v) では (1) x∗ = (x∗1 , ..., x∗n ) ∈ / C(N, v) (2) C(N, v) = ∅ 2.2.2. ゴミ処理ゲーム. ∑ • v(S) = − j∈S tj − CS for all S ⊆ N ただし,CS は S の排除費用で, (1) |S| = |R| ⇒ CS = CR (2) S ⊆ T ⇒ CS ≥ CT (3) CN = 0 をみたす. • 命題: ゴミ処理ゲーム (N, v) では (1) C(N, v) 6= ∅ (2) x∗ = (x∗1 , ..., x∗n ) ∈ C(N, v) (3) x∗ は仁である. 2.2.3. ゴミ処理ゲームの利得変換. ∑ • v0 (S) = v(S) − i∈S (−ti ) = −CS , for all S ⊆ N で与えられるゲーム v0 は,ゲーム v と戦略上同等であるといわれる. 一般に,二つのゲーム v と v 0 が戦略上同等であるとは,ある a > 0 とある b = (b1 , . . . , bn ) について, ∑ v 0 (S) = av(S) + bi ∀S ⊆ N i∈S となることをいう. • x0i = axi + bi (∀i ∈ N ) とするとき, x0 がゲーム v 0 の仁 ⇐⇒ x がゲーム v の仁 4 2.3. 補償ゲーム. { 0 if 1 ∈ /S • vI (S) = max(0, |S|B − C) if 1 ∈ S • vII (S) = max(0, |S|B − C) for all S ⊆ N ただし, ∗ B は,各プレイヤーの便益 ∗ C は,処理場の建設費用 ∗ nB > C と仮定する. 2.3.1. 補償ゲームの仁. • ゲーム vI の仁:x∗ = (x∗1 , . . . , x∗n ) case 1: nB ≥ 2C のとき 1 1 ∗ x∗1 = B + nB − C 2 2 1 ∗ ∗ xi = B, (i = 2, . . . , n) 2 case 2: nB < 2C のとき 1 ∗ x∗i = B − C for all i ∈ N n • ゲーム vII の仁:yi∗ = (y1∗ , . . . , yn∗ ) 1 ∗ yi∗ = B − C for all i ∈ N n 2.4. 排出量取引ゲーム. ゲーム: v(S) = −p∑ · max(0, k(S) − t(S)), ∑ S⊆N ただし,k(S) = i∈S ki ; t(S) = i∈S ti • N = {1, . . . , n} = A ∪ B A = {i ∈ N | ki ≥ ti } ; B = {i ∈ N | ki < ti } • ki は企業 i ∈ N の実排出量 • ti は企業 i ∈ N に割り当てられた排出枠 • p > 0 は排出枠を超える実排出量 1 単位当たりの罰金 仮定: k(N ) > t(N ) , B 6= ∅ 2.4.1. 排出量取引ゲームのコア. 配分 x∗ = (x∗1 , . . . , x∗n ), ただし, x∗i = −p · (ki − ti ) , i = 1, . . . , n を考える.このとき, (1) 配分 x∗ はゲーム v のコアに属する. (2) k(N ) − t(N ) ≥ ki − ti , (i = 1, . . . , n) ならば,配分 x∗ のみが, ゲーム v のコアに属する.つまり,x∗ は仁である. 5 2.5. 共有地の悲劇. • プレイヤーの集合: N = {1, . . . , n} • 利得: ui (x) = v(x)xi for all i ∈ N ここに, ∗ xi ∈ [0, b] はプレイヤー i の戦略. (仮定:b > 0) ∗ x = (x1 , . . . , xn ), x(N ) = x1 + · · · + xn ∗ v(x) = a − x(N ), (仮定:a − nb ≥ 0) である. • ナッシュ均衡 x∗ = (x∗1 , . . . , x∗n ) : ui (x∗ ) ≥ ui (xi , x∗−i ) for all xi ≥ 0 and i ∈ N. ただし, x∗−i = (x∗1 , .., x∗i−1 , x∗i+1 , .., x∗n ) である. • 結託耐性ナッシュ均衡(coalition-proof Nash equilibrium, c.p.n.e.) : x∗ = (x∗1 , . . . , x∗n ) が c.p.n.e. であるとは,x∗ におい てどの提携 S ⊆ N も,credible deviation をもたないことを いう.ここに,S が x で credible deviation y S をもつとは, ∗ y S は x における deviation,i.e., ui (y S , xN \S ) > ui (x), ∀i ∈ S, であり, ∗ (y S , xN \S ) において,どの提携 T ( S も credible deviation をもたない ことをいう(提携のサイズについての帰納的定義に注意). • 命題: 戦略形ゲーム G = (N, X) がナッシュ均衡をもち,任意 の空でない真部分集合 S と任意の xN \S ∈ X N \S に対して,サ ブゲーム (S, X S |xN \S f ixed ) が唯一のナッシュ均衡をもつな らば,ゲーム G は c.p.n.e. をもつ. 2.5.1. 共有地の悲劇のナッシュ均衡(結託耐性ナッシュ均衡). 1 a, 結託耐性ナッシュ均衡: x∗i = n+1 n 操業水準の総和: X ∗ = a n+1 n 利益の総和: π ∗ = a2 (n + 1)2 2.5.2. 共有地の悲劇の TU コア. 6 for all i ∈ N • 提携値: v(S) = max min (a − x(S) − x(N \ S))x(S), ∀ S ⊆ N, x(S) x(N \S) where x(T ) = ∑ i∈T xi , for all T ⊆ N . 共有地の悲劇の TU ゲーム (N, v) については, (1) v(S) = (a − b(n − |S|))2 /4, ∀S ⊆ N (2) コア C(N, v) 6= ∅ となる. このコアを TUα− コアという.また,提携値が,次のように minimax 値で与えられる場合のコアを TUβ− コアという. v(S) = min max(a − x(S) − x(N \ S))x(S), ∀ S ⊆ N, x(N \S) x(S) • 一般に,β− コア ⊆ α− コア,であるが,この場合はすべての 提携について,min max 値が max min 値に等しくなるので両コ アは一致する. 2.5.3. 共有地の悲劇の TUγ-コア. 提携 S に対抗するために提携の外のプレイヤー達が一致して操業水 準を最大にするというのは,そのコストを考えれば必ずしも自然な反 応であるとはいえない.むしろ,提携の外でたんに個々に最適反応す るだけという行動の方が現実的である.つまり, • N \S の各プレイヤーは x(S) および,自分以外の xj , (j ∈ N \S) に対して,最適反応する: • S は xN \S に対して最適反応する. このゲーム (N, v) のコアを γ− コアという. (1) v(S) = (a2 /4)[2/(n − |S| + 2)]2 , ∀S ⊆ N (2) γ − core 6= ∅ 2.6. 公共財の供給. 2.6.1. 協力的公共財供給ゲーム. (∑ ) • v(S) = maxy≥0 i∈S wi (y) − cy , ∀S ⊆ N where ∗ wi (y):公共財 y ≥ 0 の消費からえられるプレイヤー i の 便益 ∗ c > 0:公共財 y 1単位の供給費用(限界費用) 7 このゲームは,任意の i ∈ N を選んだとき,xi = v({i}) をみたす配分 がコアの中に必ず存在する,という意味で,大きいコアをもつ. • ゲーム (N, v) が v(S) + v(T ) ≤ v(S ∪ T ) + v(S ∩ T ) ∀S, T ⊆ N をみたすとき,(N, v) を凸ゲーム (convex game) という. ∗ 凸ゲームのコアは,各 i ∈ N について xi = v({1, ..., i − 1, i}) − v({1, ..., i − 1}) となる利得ベクトル x = (x1 , ..., xn ) を含む. ∗ (N, v) が凸 ⇐⇒ For all i ∈ N and all S ⊆ T ⊆ N \ {i}, v(S ∪ {i}) − v(S) ≤ v(T ∪ {i}) − v(T ) • 協力的公共財供給ゲーム (N, v) は凸である. 2.6.2. Clarke=Groves=Vickrey Mechanism. • プレイヤーの集合 : N = {1, . . . , n} • プレイヤー i の戦略 : wi ∈ Wi ただし,Wi は公共財消費量 y に対する i の任意の評価関数 wi の集合で,真の評価関数 Ui ∈ Wi である. • 利得関数 : ui (w) = Ui (y(w)) + mi − ti (w), ここに, ∗ w = (w1 , . . . , wn ) ∑ ∗ y(w) = arg maxy≥0 ( j∈N wj (y) − c(y)) ∗ mi は i の初期所得 ∗ ti (w) は i への課税額で, ∑ ti (w) = c(y(w)) − wj (y(w)) + di (w−i ). j6=i ただし,di (w−i ) は,wi に依存しない関数であり,次の条 件をみたす. ∑ ∑ 条件: i∈N di (w−i ) ≥ (n−1)( i∈N wi (y(w))−c(y(w))) ∗ c(y) は,公共財の費用関数. 2.6.3. CGVメカニズムと弱支配戦略. • CGV メカニズムでは,真の便益評価の報告が,各プレイヤーに ついて,弱支配戦略となる. 8 Proof. 任意のプロファイル w = (w1 , ..., wn ),ただし wi = Ui , について, ui (w) = Ui (y(w)) + mi − ti (w) ∑ = [Ui (y(w)) + wj (y(w)) − c(y(w))] + mi − di (w−i ) j6=i = max [Ui (y) + y≥0 ∑ wj (y) − c(y)] + mi − di (w−i ) j6=i ¤ • di (w−i ) が, 「条件」を満たす場合は, ∑ ti (w) ≥ c(y(w)) for all w, i∈N つまり,収支に欠損が生じることはない. 3. 福祉 3.1. 社会的選択ゲーム v とそのコア C(W ). ∑ • v(S) = max ui (y) for all S ∈ W y∈Y i∈S ただし, ∗ N = {1, . . . , n} は有権者の集合で,n ≥ 3 ∗ Y は選択肢の集合 ∗ W は「勝利提携」の集合で,W 6= ∅ であり,さらに 単調性: S ∈ W, S ⊆ T ⊆ N ⇒ T ∈ W をみたす. • 社会的選択ゲーム v のコア C(W ) とは, C(W ) = {x = (x1 , . . . , xn ) | ∑ ∑ xi = v(N ), xi ≥ v(S) for all S ∈ W } i∈N i∈S 3.1.1. 多数決のコア (Kaneko [?]). • 配分 x∗ = (x∗1 , . . . , x∗n ) が単純多数決 W m = {S ⊆ N | |S| > n/2} での社会的選択ゲームのコア C(W m ) に属することと,次の 1,2 が成立することとは同値である. N i∈N (1) x∗i = ui (y ∑ ) for all (2) v(S) = j∈S uj (y N ) for all S ∈ W m ∑ (ただし y N ∈ Y は v(N ) = j∈N uj (y N ) をみたす選択肢 である) 9 3.1.2. 賄賂とコア (Nakayama [?]). • 配分 x = (x1 , . . . , xn ) が, 単調性をみたす W のもとでのコア C(W ) に属し,しかも,ある i∗ ∈ N について xi∗ > ui∗ (y N ) で あるとする.このとき, i∗ ∈ S for all S ∈ W. つまり,プレイヤー i∗ をメンバーにもたない提携は勝利提携に はなれない. (このようなプレイヤー i∗ を拒否権者 (vetoer) と いう. ) 3.2. 贈与ゲーム (Nakayama [?]). • プレイヤーの集合: N = {1, . . . , n} • プレイヤー i の戦略の集合: ∑ Xi = {xi = (xi1 , . . . , xin )| xij = mi , xij ≥ 0 for all j ∈ N } j∈N ただし,mi > 0 はプレイヤー i の所得. • プレイヤー i の利得関数: ui (y1 ,∑ . . . , yn ) ただし,ui は連続かつ準凹,yi = j∈N xji for all i ∈ N であ り,y = (y1 , . . . , yn ) は,戦略プロファイル x = (x1 , . . . , xn ) に よって実現する所得(再)分配である. 3.2.1. 贈与ゲームの弱パレート最適ナッシュ均衡. • 戦略プロファイル x∗ = (x∗1 , . . . , x∗n ) はナッシュ均衡であるとす る.このとき,あるプレイヤー i ∈ N が存在して,すべてのプ レイヤー k ∈ N について, 1: x∗ik > 0 あるいは, ∑ ∗ 2: x∗ik = 0 =⇒ j∈N xjk = 0 となるならば,x∗ は弱パレート最適である. • N = {1, 2} ならば,ナッシュ均衡は弱パレート最適である. 3.3. 扶養ゲーム (Binmore [?]). プレイヤー: 各世代 t ≥ 1 に娘 Dt と,その母 Mt の 2 人.Dt は 2 世代のみ生きる.Dt → Mt+1 . 仮定: (1) Dt は労働によって 2 単位の消費財をえるが,これは次世代 まで貯蔵できない. (2) Mt は老齢のため,労働できない. 娘の戦略: 姨捨: 稼いだ消費財を 2 単位とも独占する.(2, 0) 扶養: 稼いだ消費財の 1 単位を母に分け与える.(1, 1) 選好関係: 10 • どのプレイヤーも,生涯にできるだけ多く消費したい. • 2 単位を 1 度に消費する (2, 0) よりは,娘のとき1単位,母 になって 1 単位消費する (1, 1) を選好する. 3.3.1. 均衡分析. NE1: すべての娘が姨捨する. (悲惨な老後) Proof. 母を扶養しても,自分 Dt が母になったら娘 Dt+1 は姨捨す るので,生涯に1単位しか消費できない.それゆえ,離反しない.□ NE2: 自分の母が娘時代に母を扶養したときに限り,自分も母を扶 養する. (因果応報) Proof. 娘 Dt だけが離反して姨捨したとしよう.娘 Dt+1 は均衡戦 略をとっているので,Dt が母 Mt+1 になったら,娘 Dt+1 は姨捨する. それゆえ,Dt は 離反しない.□ 注意. 娘 Dt+1 の姨捨は,信憑性があるか?姨捨した母を罰しなけれ ば自分の娘に姨捨されることにはならないので,その母を罰する(姨 捨する)という行動は信憑性に欠ける.つまり,この均衡はサブゲー ム完全均衡ではない. SPE1: すべての娘について,過去すべての娘が母を扶養していると きに限り,母を扶養する. (永久懲罰) Proof. 娘 Dt だけが姨捨へ離反したとしよう.すると娘 Dt+1 の均 衡戦略は姨捨なので,Dt は母 Mt+1 になったとき姨捨される.それゆ え,どの娘も離反しないので,ナッシュ均衡である.離反が引き起こす 任意のサブゲームでは,すべての娘は姨捨する.これは上で述べたナッ シュ均衡 NE1 である.ゆえにこの均衡はサブゲーム完全である.□ 定義(遵奉者 conformist)遵奉者とは,母が遵奉者である限り母 を扶養し,そうでなければ姨捨するプレイヤーのことをいう. 注意 自己言及的定義であるが,問題はない.最初の世代の母は,母 が存在しないので,遵奉者である.したがって,その娘は,母を扶養 すれば遵奉者であり,姨捨すれば遵奉者ではない.以下,同様. SPE2: すべてのプレイヤーが遵奉者となること. (遵奉者) Proof. 任意の 1 人のプレイヤーが遵奉者であることをやめれば,遵 奉者である娘に姨捨されるので,誰も離反しない.つまり,ナッシュ均 衡である.また,この離反が起きたとすると,そのサブゲームでは,自 分は姨捨されるだけですべてのプレイヤーは遵奉者であるから,ナッ シュ均衡である.□ 4. 情報の拡散停止集合 情報共有者が k 人のときの,1人当たりの利益を E(k) とし,この利 益は共有者の増加に伴い減少すると仮定する.ただし,最初の保有者 はプレイヤー1とする. 例1: N = {1, 2, 3}: E(1) = 30, E(2) = 16, E(3) = 9 この例では, (1) E(1) < 2E(2) 11 (2) E(2) < 2E(3) (3) E(1) ≥ 3E(3), また,3 と 2 より, (4) E(1) ≥ 2E(3) + E(3) > E(2) + E(3). 3より,保有者は2人に売ることはできず,1より,1人だけに価格 E(2) で売ったとしても,2より,転売されるので,4より,利益は E(2)+ E(3) まで低下する.それゆえ,保有者は誰にも売ることはできない. 例2: N = {1, 2, 3, 4}: E(1) = 30, E(2) = 16, E(3) = 9, E(4) = 5 この例では (1) (2) (3) (4) E(1) < 2E(2) E(2) < 2E(3) E(2) ≥ 3E(4) E(3) < 2E(4) また,3 と 4 より, (5) E(2) ≥ 2E(4) + E(4) > E(3) + E(4). • 2と3より,保有者が2人になった段階では,保有者の1人が 1人だけに転売すれば利益があがる. • しかし,4より,保有者が3人になった段階では保有者の1人 が残る1人に転売すれば利益があがり,情報は全体に拡散する. • しかし,5より,全体に拡散すると最初の転売者の利得は E(2) より減少してしまう. • こうして,保有者が2人の状態からの転売は最終的に利益をあ げないので,その転売は起こらない.それゆえ,1より,最初 の保有者は1人に売って利益をあげることができる. Definition 1. (拡散停止集合 M) Let M ⊆ N be any set with 1 ∈ M . (1) If M = N , then we say M is dissemination-proof. (2) Suppose the definition is completed for all M ⊆ N with n ≥ |M | > m ≥ 1. Then, for all M with |M | = m, we say M is dissemination-proof if E(|M |) ≥ (1 + |T |)E(|M ∪ T |) for all T ⊆ N − M such that M ∪ T is dissemination-proof. 12 Theorem 1 (Nakayama et al [?]). Let M and M 0 be any two dissemination-proof coalitions satisfying 1 ≤ |M | < |M 0 |. Then, |M |E(|M |) ≥ |M 0 |E(|M 0 |) where the inequality is strict iff |M | > 1. 13 References [1] Binmore, K., Fun and Games, D.C.Heath and Company, 1992. [2] Kaneko, M., ”Necessary and Sufficient Conditions for the Existence of Nonempty Core of a Majority Game,” International Journal of Game Theory 4 (1974), 215-219. [3] Nakayama, M., ”Nash Equilibria and Pareto Optimal Income Redistribution,” Econometrica, 48 (1980), 1257–1263. [4] Nakayama,M., ”Note on the Core and Compensation in Collective Choice,” Mathematical Social Sciences 2 (1982), 323-327. [5] 中山幹夫 『社会的ゲームの理論』 近刊. [6] Nakayama,M., L.Quintas, and S.Muto, ”Resale-Proof Trades of Information,” The Economic Studies Quarterly 42 (1991), 292–302. [7] 岡田 章 『ゲーム理論』有斐閣 1996年. 14
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