TMI 中国最新法令情報 ―(2016 年 7 月号)

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TMI 中国最新法令情報
―(2016 年 7 月号)―
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皆様には、日頃より弊事務所へのご厚情を賜り誠にありがとうございます。
お客様の中国ビジネスのご参考までに、「TMI 中国最新法令情報」をお届けします。記事
の内容やテーマについてご要望やご質問がございましたら、ご遠慮なく弊事務所へご連絡下
さい。バックナンバーについては、弊事務所のウェブサイトに掲載させていただきますので、
併せてご利用下さい。(http://www.tmi.gr.jp/global/legal_info/china/index.html)
目次
一.中国最新法令
1. 中央法規
(1) 企業国有資産取引監督管理弁法
(2)「保健食品登録及び届出管理弁法」の実施に関する通知と通告
(3) インターネット情報検索サービス管理規定
(4) 資産評価法
二.連載 中国企業法実務/第十弾:家族法
(第 2 回 婚姻)
三.中国法務の現場より
1. 北京市の禁煙条例施行から 1 年を経過して
2. 上海市企業賃金支払弁法の改正
1
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一.中国最新法令(2016 年 6 月中旬~2016 年 7 月中旬公布分)
1.中央法規
(1) 企業国有資産取引監督管理弁法1
国務院国有資産監督管理委員会及び財政部令第 32 号 2016 年 6 月 24 日公布 同日施行
① 背景
2003 年 10 月 11 日に開催された中国共産党第 16 期中央委員会第 3 次全体会議2では、
各種の財産権(国有を含む)を法律に基づいて保護し、財産権の取引規制及び監督管理
制度を整備し、秩序ある財産権の流動化を推進することの必要性について指摘がされ 3、
また、本会議で採択した「社会主義市場経済体制完備の若干の問題に関する決定」4では、
国有企業の財産権の取引等にかかる法的保護に関して明確にしなければ、単に非公有制
経済の発展を阻害するだけではなく、国有資産の大量流出を招くことになることが指摘
された。
それに伴い、2003 年 12 月 31 日、国務院国有資産監督管理委員会及び財政部は、企業
国有財産権取引 5の監督管理を強化し、企業国有財産権譲渡行為を規範化するために、
「企
業国有財産権譲渡管理暫定弁法」6(以下「暫定弁法」という。)を公布した。
しかし、暫定弁法では、国有財産権の譲渡行為についてのみが規定され、それ以外の
形態による取引行為については、規定されていなかったため、国務院国有資産監督管理
委員会及び財政部は、新たに「企業国有資産取引監督管理弁法」
(以下「弁法一」という。)
を公布した。
弁法一では、「財産権譲渡」以外に、「増資」と「資産譲渡」も国有資産の取引行為に
含むと規定され、それらの取引行為の審査認可の権限も具体的に規定された7。
以下、弁法一の主な内容について、そのポイントを紹介する。
1
《企业国有资产交易监督管理办法》
中国共产党第十六届中央委员会第三次全体会议
3
1978 年 12 月 18 日に開催された中国共産党第十一期中央委員会第三回全体会議で、中国の経済管理体制の
重要問題として、権力の集中等が挙げられ、1978 年以降、国有企業の改革が進んでいた。その後、1992 年
10 月の中国共産党第十四回党大会では、社会主義市場経済体制を確立することの重要性が指摘され、国有
企業の改革をさらに加速化した。
4
《关于完善社会主义市场经济体制若干问题的决定》
5
ここにいう「企業国有財産」とは、国の企業に対する各種形式による投資及び投資により形成された権益、
法に基づき国家が所有すると認定されたその他の権益をいう(暫定弁法第 3 条)。
6
《企业国有产权转让管理暂行办法》
7
なお、弁法一の公布にかかわらず、暫定弁法又はその他国有資産譲渡に関する関連規定が廃止され、又は
弁法一がこれらの代替となるといったことはなく、弁法一と現行の企業国有資産取引における監督管理の
関連規定との間に不一致が生じた場合には、弁法一が優先して適用される(弁法一第 67 条)。
2
2
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② 主な内容
ア
企業国有資産取引行為の範囲の明確化
企業国有資産取引行為には、企業財産権譲渡、企業増資及び企業資産譲渡が含まれ
ており、それぞれの定義は以下のとおりである 8。
(a) 企業財産権譲渡とは、出資者が職責を履行する機構、国有及び国有持株企業、国
有実質支配企業が、企業に各種形式により出資して形成された権益を譲渡する行為
をいう。
(b) 企業増資とは、国有及び国有持株企業、国有実質支配企業が資本を増加する行為
をいう。但し、政府が、資本金を増加する方法により、国家出資企業に対して資金
を投入する行為は除く。
(c) 企業資産譲渡とは、国有及び国有持株企業、国有実質支配企業が重大な資産を譲
渡する行為をいう。
イ
企業財産権譲渡、増資及び資産譲渡の審査認可
国有資産監督管理機構(以下「国資監督管理機構」という。)は国家出資企業の企業
財産権譲渡と増資行為に対して審査を行う。企業財産権譲渡又は増資により国が出資
企業の株式を有しなくなる場合、国資監督管理機構は本級人民政府の審査認可を受け
なければならない 9。
国家出資企業内部又は特定業界内の資産譲渡であり、国有持株企業、国有実質支配
企業の間で非公開方式により資産譲渡する必要がある場合、譲渡側が段階的に国家出
資企業の審査認可を受けるものとする10。
ウ
企業財産権譲渡、企業増資を行う際に法律意見書の提出
国資監督管理機構の認可と国家出資企業の審議・決定に従い、非公開方式により企
業財産権譲渡又は企業増資を行う場合は法律意見書を提出しなければならないとされ
ている11。第三者(法律事務所)が作成した法律意見書を提出させることにより、国
有資産取引の合法性、リスク等について事前に確認することができ、国有資産の損失
を防止し、債権者等の合法的な権益を保護する趣旨によるものである。
(2) 「保健食品登録及び届出管理弁法」の実施に関する通知12と通告13
食薬監食監三〔2016〕81 号と国家食品薬品監督管理総局通知 2016 年第 103 号
年 6 月 30 日公布
2016
同日施行
8
弁法一第 3 条
弁法一第 7 条、第 34 条
10
弁法一第 48 条
11
弁法一第 33 条第 7 号、第 47 条第 7 号
12
国家食品药品监管总局关于实施《保健食品注册与备案管理办法》有关事项的通知
13
关于实施《保健食品注册与备案管理办法》有关事项的通告
9
3
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① 背景
国家食品薬品監督管理総局は、食品生産経営企業、地方食品薬品監督管理部門、専門
家及び業界団体等、多方面の意見を広く取り入れ、2016 年 2 月 26 日付で「保健食品登
録及び届出管理弁法」 14(以下「弁法二」という。)を制定した15。
その後、保健食品の登録及び届出管理業務の切り替え、接続作業を行うため、国家食
品薬品監督管理総局は、2016 年 6 月 30 日付で、
「保健食品登録及び届出管理弁法」の実
施に関する通知(以下「本通知」という。)と通告(以下「本通告」という。)を公布し
た。その主な内容は、以下のとおりである。
② 主な内容
ア
本通知の内容
(a) 2016 年 7 月 1 日以降、各省級食品薬品監督管理部門は、保健食品の登録及び届出
申請を受理しないものとし、保健食品原料リストが公布された後、保健食品届出申
請を受理するものとする 16。
(b) 2016 年 7 月 1 日までに受理した保健食品登録申請につき、総局行政受理機構及び
各省級食品薬品監督管理部門は、関連規定に従い、7 月 21 日までに全ての関連資
料を総局保険食品評価審査センターに移送しなければならない 17。
(c) 各省級食品薬品監督管理部門は、2016 年 7 月 1 日までに受理したが、まだ検査を
完了していない商品の状況につき統計を行い、2016 年 8 月 1 日までに関連統計リ
ストを総局保険食品評価審査センターに送付しなければならない 18。
イ
本通告の内容
(a) 2016 年 7 月 1 日以降、保健食品の登録申請は、国家食品薬品監督管理総局行政受
理機構が統一して受理するものとし、省級食品薬品監督管理部門は登録申請を受理
しない19。
(b) 2016 年 7 月 1 日までに関連規定に従い商品の再検査、現場検査を完了した申請者
は、検査報告、現場検査報告等の資料を提出することができる 20。
(c) 2016 年 7 月 1 日までに審査評価意見により資料の補充を要求された場合、申請者
は「審査評価意見通知書」及び関連規定に従い、補充資料を一括提出しなければな
14
《保健食品注册与备案管理办法》
弁法二に関する内容は、本中国最新法令情報 2016 年 3 月号でも紹介しているので、合わせてご参照され
たい(http://www.tmi.gr.jp/wp-content/uploads/2016/04/TMI-China-News-March-2016.pdf)。
16
本通知第 1 条
17
本通知第 2 条
18
本通知第 3 条
19
本通告第 1 条
20
本通告第 2 条
15
4
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らない21。
(d) 2016 年 7 月 1 日から延長登録を申請する場合、登録者は関連規定に従い登録証書
の有効期間満了の 6 か月前までに申請しなければならない22。
(3) インターネット情報検索サービス管理規定 23
国家インターネット情報弁公室
2016 年 6 月 25 日公布
2016 年 8 月 1 日施行
① 背景
インターネット情報検索サービスは、インターネットユーザーが、検索エンジンで必
要な情報を収集するツールとして、日常生活、業務上既に不可欠な存在となっている。
しかし、その反面、検索結果が正確に反映されない、又は一部の検索結果が不公正であ
るため、インターネットユーザーが判断を誤るケースも数多く発生している。このよう
な問題に対処するため、国家インターネット情報弁公室は、関連業界の専門家等の意見
とアドバイスを踏まえ、「インターネット情報検索サービス管理規定」(以下「本規定」
という。)を制定、公布し、本規定は、中国国内で従事するインターネット情報検索サー
ビス(以下「検索サービス」という。)に適用されることとなる 24。
以下、本規定の主な内容を紹介する。
② 主な内容
ア
健全な情報安全管理制度の確立
検索サービスの提供者は、法令が禁止する内容の情報を提供してはならず、検索サ
ービス提供の過程において明らかに法令が禁止する内容の情報、ウェブサイト及びア
プリケーションが発覚した場合、当該検索結果の提供を停止し、関連記録を保存し、
直ちに国家又は地方インターネット情報弁公室に報告しなければならない 25。
イ
客観的で公正な検索結果の提供
インターネット情報検索サービス提供者は、リンク切れ又は虚偽の情報が含まれる
検索結果を提供することにより、不当な利益を得てはならず、ユーザーに対して客観
的で公正な検索結果を提供し、国家利益、公共利益及び公民、法人その他の組織の合
法的権益を損なってはならない26。
ウ
ユーザー権益保護制度の確立
インターネット情報検索サービス提供者は、健全な苦情、通報及びユーザー権益保
護制度を確立し、目立つ場所において苦情、通報の方法を公布し、直ちにユーザーか
21
22
23
24
25
26
本通告第 3 条
本通告第 4 条
《互联网信息搜索服务管理规定》
本規定第 2 条第 1 項
本規定第 7 条、第 8 条
本規定第 9 条、第 10 条
5
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らの苦情、通報を処理しなければならず、ユーザー権益に損害を与えた場合、法によ
り賠償責任を負う 27。
(4) 資産評価法28
主席令第 46 号 2016 年 7 月 2 日公布 2016 年 12 月 1 日施行
① 背景
中国の資産評価業は、1980 年度から実施されており、30 年の発展を経て、その対象は
主に鉱産権、土地、不動産、中古自動車及びその他の機械設備、保険及び総合資産等の
種類に分かれているものの、これらの資産評価に適用される基本法が制定されないまま、
現在まで至っている。1991 年 11 月 16 日付で公布された「国有資産評価管理弁法」29は、
あくまで国有資産の評価に関する法令であり、国有資産以外の資産に対する評価業に関
しては、統一的な規定、法令がなかった。
そこで今般、資産評価行為を規範化し、資産評価当事者の合法的権益と公共利益を保
護し、資産評価業界の発展を促進するため、
「資産評価法」
(以下「本法」という。)が公
布された。本法は、合計 8 章第 55 条により構成され、総則、評価専門人員、評価機構、
評価手続、業界協会、監督管理、法律責任及び附則等の内容が定められている。
以下、本法の主な内容について、そのポイントを紹介する。
② 主な内容
ア
資産評価の定義
本法における資産評価とは、評価機構及びその評価専門人員が委託により不動産、
動産、無形資産、企業価値、資産損失又はその他の経済権益に対して評価、見積もり
を行い、評価報告書を作成する専門サービス行為をいう 30。
イ
評価業界協会
評価業界協会は評価機構と評価専門人員による自律性組織であり、法律、行政法規
及び定款により自律管理を行う31。そして評価業界協会の定款については、会員代表
大会で制定し、登記管理機関の認可を経て、関連評価行政管理部門で届出を行う 32。
ウ
監督管理
国務院の関連評価行政管理部門は、評価基本準則と評価業界監督管理弁法の制定を
行う33。当該評価行政管理部門は、関連評価業界協会に対して監督検査を行い、検査
27
本規定第 12 条
《中国人民共和国资产评估法》
29
《国有资产评估管理办法》
30
本法第 2 条
31
本法第 33 条
32
本法第 34 条
33
本法第 39 条
28
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により発覚した問題及び業界協会に対する苦情、告発に対して、直ちに調査を行い、
処理するものとする 34。
(崔
俊・中国弁護士)
二.連載 中国企業法実務
第十弾:親族・相続法(第 2 回/全 6 回)
第1回
2016 年 6 月号
中国の戸籍制度
第2回
2016 年 7 月号
婚姻
第3回
2016 年 8 月号
親子関係・計画出産
第4回
2016 年 9 月号
養子
第5回
2016 年 10 月号
相続
第6回
2016 年 11 月号
渉外民事関係
第2回
婚姻
今月号の特集では、先月号で紹介した中国の戸籍制度に続き、親族法の中核となる婚姻(及
び離婚)について紹介する。
厚生労働省の統計によれば、2014 年における日本人と外国人との婚姻件数のうち、日本人
と中国人の婚姻件数は約 30%を占めるなど 35、中国人との婚姻も広く一般的なものとなって
いる。しかし、中国における婚姻がどのようなものかは必ずしも広く知られているものでは
なく、日本の婚姻制度との相違も含め、これを理解しておくことは、有意なものと思われる。
本稿では、日本における婚姻制度と比較も交えながら、中国における婚姻(及び離婚)に
ついて、その概要を紹介する。
34
本法第 41 条
「平成 28 年我が国の人口動態(平成 26 年までの動向)」http://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/81-1a2.pdf
なお、2014 年の全国婚姻件数は 643,749 件であり、その内、夫婦の一方が外国人である婚姻件数は 21,130
件(3.28%)、夫婦の一方が中国人である婚姻件数は 6,927 件(1.07%)であった。また、夫婦の一方が外
国人の婚姻統計の中では、夫が中国人であるものは 12.7%、妻が中国人であるものは 40.1%である。
35
7
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1.婚姻
(1) 婚姻の要件
中国の婚姻法 36上、婚姻の成立要件として、以下の事項が必要とされている。
(a) 婚姻が男女双方の自由な意思に基づくものであること 37
(b) 男女のそれぞれが婚姻適齢(男性は 22 歳、女性は 20 歳)に達していること38
39
(c) 直系血族もしくは三代以内の傍系血族でないこと 40
(d) 医学的に婚姻すべきでない疾患がないこと 41
以上の要件のうち、特徴的な要件は(d)といえる。「医学的に婚姻すべきでない疾患」
について、婚姻法自体は明文の規定を置いていないが、母嬰保健法 42上、婚前医学検査の
内容として、重大な遺伝性疾病 43、指定伝染病 44、精神病45の検査を含むとされている 46こ
とから、これらの各疾病は「医学的に婚姻すべきでない疾患」に含まれると解される。
婚姻する男女とも、婚姻登記を行うにあたっては、婚前医学検査証明を保有していな
ければならないところ 47、かかる婚前医学検査に合格しない場合には、婚姻登記が拒絶さ
れうることになる 48。
(2) 婚姻の手続及び成立
婚姻の成立には、婚姻登記機関における婚姻登記申請を行い、婚姻証の発行を受ける
ことが必要である 49。
婚姻登記申請にあたっては、原則として、本人の戸籍簿・身分証、本人に配偶者がな
く当事者間に直系血族及び三代以内の血族関係がないことの声明書を提出しなければな
らない50。そして、婚姻登記機関はこれらの資料に基づき、婚姻をする当事者に対して関
36
《中华人民共和国婚姻法》
婚姻法第 5 条
38
婚姻法第 6 条第 1 文
39
日本の現行民法上の婚姻適齢は、男性が 18 歳、女性が 16 歳とされている(民法第 731 条)こととの比
較でいえば、婚姻適齢が高く定められている。これは、一人っ子政策に代表される計画出産政策の反映であ
り、婚姻法自身も、晩婚晩育(婚期、出産を遅らせる)を提唱、推奨している(婚姻法第 6 条第 2 文)。
40
婚姻法第 7 条第 1 項。日本の民法でも直系血族及び三親等内の傍系血族との婚姻は禁止されている(民
法第 734 条第 1 項本文)
41
婚姻法第 7 条第 2 項
42
《中华人民共和国母婴保健法》
43
ここにいう重大な遺伝性疾病とは、遺伝因子により先天的に形成され、患者が自主生活能力の全部又は
一部を喪失し、後代にて再現するリスクが高く、医学上、生育に適さないとされる遺伝性疾病を指す(母嬰
保険法第 38 条第 2 項)。
44
指定伝染病として、HIV 感染、淋病、梅毒、ハンセン病、及び結婚・生育に影響があるとされるその他
の伝染病が含まれる(母嬰保険法第 38 条第 1 項)。
45
ここにいう精神病とは、精神分裂症、躁うつ病及びその他の重大な精神病を指す(母嬰保険法第 38 条第
3 項)。
46
母嬰保険法第 8 条第 1 項
47
母嬰保険法第 12 条
48
婚姻登記条例(原文は《婚姻登记条例》)第 6 条第 5 号、第 7 条
49
婚姻法第 8 条
50
婚姻登記条例第 5 条
37
8
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連する状況の審査、聞き取りを行い、当事者が婚姻の条件に合致する場合に婚姻登記を
し、婚姻証が発行される 51
52
。
しかし、以下のいずれかの事由がある場合には、婚姻は無効とされ 53、婚姻が無効とさ
れた場合には、初めから婚姻が無効であったものとされる 54
55
。
(a) 重婚の場合
(b) 婚姻の禁止される親族関係の婚姻の場合
(c) 婚姻前に医学上婚姻すべきでない疾患に罹患し、婚姻後もそれが治癒されていな
い場合
(d) 婚姻適齢に達していない場合
婚姻が無効となった場合の同居期間中の財産については当事者の協議によって処理し、
当事者の協議により合意に達しなかった場合には人民法院が無過失の当事者に配慮する
原則に基づき判決がなされ、当事者間に生まれた子については、婚姻法の親子関係に関
する規定が適用される。特に、重婚によって婚姻が無効となった場合の財産処理におい
ては、適法に婚姻が成立した当事者の財産権益を侵害してはならないとされている 56。
また、婚姻法上、脅迫によって婚姻がされた場合には、脅迫を受けた当事者は婚姻登
記機関又は人民法院に対して婚姻の取消を請求することができるとされているが、婚姻
登記の日から 1 年以内にしなければならない。但し、人身の自由を制限された当事者が
婚姻取消を請求する場合には、人身の自由を回復した日から 1 年以内にしなければなら
ない、とされている 57
58
。
(3) 婚姻の効果
① 婚姻した夫婦の権利義務等
婚姻した夫婦は、相互に次の権利義務を有する。
51
婚姻登記条例第 7 条
このように、中国の婚姻登記機関においては、婚姻のための実質的な審査が行われるという点で、婚姻
登記申請は単なる届出ではなく、婚姻届を提出した時点で婚姻が成立する日本の婚姻とは異なる。
53
婚姻法第 10 条
54
婚姻法第 12 条
55
なお、日本法上の婚姻無効事由は、①人違いその他の事由によって当事者間に婚姻の意思がないとき、
又は②当事者が婚姻の届出をしないとき、である(民法 742 条)。
56
婚姻法第 12 条
57
婚姻法第 11 条
58
なお、日本法上の婚姻取消事由は、①婚姻適齢違反、②重婚、③再婚禁止期間違反、④近親者の婚姻、
⑤直径血族間の婚姻、⑥養親子等の間の婚姻、である(民法第 731 条ないし第 736 条)。また、③再婚禁止
期間については、2016 年 6 月 1 日に、現行の 6 カ月から 100 日間と短縮する民法改正案が成立した。
52
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(a) 生産等への不干渉 59
(b) 計画出産義務 61
60
62
(c) 扶養義務 63
② 夫婦の氏名
夫婦の双方は、それぞれが自己の氏名を使用できる権利を有するとされており 64
65
、
法律上、夫婦別姓とすることが認められている。また、子については、父母いずれの氏
を名乗ることも認められている66。
③ 夫婦の財産
夫婦が婚姻関係を継続している間に取得した財産のうち、次のものは夫婦共有財産と
される67。
(a) 給与、ボーナス
(b) 生産、経営による収益
(c) 知的財産権による収益
(d) 相続又は贈与によって得た収益(但し、次の(c)は除かれる)
(e) その他共有に属するべき財産 68
他方、次のものについては、夫婦一方の固有財産とされる。
59
婚姻法第 15 条
夫婦はいずれも生産、仕事、学習、社会活動に参加する権利を有し、相互にこれに干渉してはならない
というものである。逆に、双方がこのような権利を有することから、夫婦の一方が学習や社会活動に参加す
ることを理由として子女の扶養、家事といった家庭内の義務を怠ってはならないという解釈もされている
(《中华人民共和国婚姻法实用解读版》30 頁)。
61
婚姻法第 16 条
62
中国における計画出産のための政策として、いわゆる「一人っ子政策」(中国語では“计划生育政策”
と表現される。)が最たるものであったといえる(現在は、二人まで出産可能となった。)。それ以外にも、
例えば、嬰児への虐待や女児を出産した母親への虐待の禁止(婚姻法第 21 条第 4 項、計画出産法(《中华
人民共和国人口与计划生育法》)第 22 条)、妊娠を中絶してから 6 か月以内は男性から離婚を提起できな
いとされていること(婚姻法第 34 条)なども、計画出産のための政策の一部と理解される。計画出産の詳
細については、次号にて改めて紹介する。
63
婚姻法第 20 条
64
婚姻法第 14 条
65
ご承知のとおり、日本法上は夫婦同姓制が採用されており(民法 750 条)、2015 年 12 月 16 日に夫婦同
姓を定めた民法 750 条が憲法に違反しないと判断された最高裁判決が下されたことも記憶に新しい。なお、
台湾、香港、マカオといった他の地域では、中国大陸とは異なり、婚姻後は妻が夫の姓を名乗る習慣もある
ようである(《中国人民共和国婚姻法(2001 修正)释义》)。
66
婚姻法第 22 条
67
婚姻法第 17 条
68
具体的なものとして、住居、自動車、株式、債券などもこれに含まれ、これに含まれる財産の種類は広
範にわたる(《中国人民共和国婚姻法(2001 修正)释义》)。また、個人財産による投資に対する収益、
住宅手当、住宅積立金、養老年金や破産手続での配当も含まれる(《最高人民法院关于适用<中华人民共和
国婚姻法>若干问题的解释(二)》第 11 条)。
60
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(a) 一方の婚姻前の財産
(b) 一方が身体に傷害を受けたことによって得た医療費、障害者生活補助費等の費用
(c) 遺言又は贈与契約において夫又は妻の一方に属すると確定された財産
(d) 一方の専用の生活用品
(e) その他一方に属すべき財産
但し、上記法律上の原則にかかわらず、夫婦は婚姻関係を継続している間に取得した
財産、婚姻前の財産の帰属について、書面の形式で約定することで、法律の定めと異な
る約定をすることができ、このような約定がない場合又は約定が不明確な場合には上記
の各規定に基づく原則に従うことになる 69。
2.離婚
(1) 離婚の要件、手続
婚姻法上、男女の双方が自由な意思に基づいて、離婚を希望する場合には離婚するこ
とができるとされている 70。
離婚をする場合も、婚姻をする場合と同様に、婚姻登記機関において離婚の登記を申
請しなければならず 71、婚姻登記機関において、双方が確かに自由な意思に基づいて離婚
を希望しており、且つ、子と財産の問題について既に適切な処理をしていることを審査
の上確認した場合には、離婚証が交付されるが、離婚登記の手続を行う当事者が下記の
いずれかに該当する場合には、離婚登記の受理がされない 72。
(a) 離婚協議がまとまっていない場合
(b) 民事行為能力がない、又は民事行為能力が制限される者に該当する場合
(c) 婚姻登記が中国大陸で行われたものではない場合
離婚登記の申請にあたっても、婚姻登記機関が離婚登記の当事者が提出する資料を審
査し、且つ、関連する状況の聞き取りを行い、上記の離婚証交付に必要な条件が満たさ
れている場合には、その場で登記を認め、離婚証が発行される 73。
(2) 離婚の効果
離婚が成立することによって、夫婦間の婚姻関係が解消されるほか、以下のような権
69
婚姻法第 19 条第 1 項
婚姻法第 31 条
71
婚姻登記機関での離婚登記申請にあたっては、男女双方が揃って婚姻登記機関に出向いて手続をしなけ
ればならず、その際には、当事者双方が共に署名した離婚協議書を提出することが求められている(婚姻登
記条例第 10 条第 1 項)。この離婚協議書には、双方の自由な意思に基づく離婚の意思表示だけでなく、子
の養育、財産及び債務の処理等の事項について合意した意見を記載することが必要とされており(婚姻登記
条例第 11 条第 3 項)、単なる離婚の届出としての書面ではない。
72
婚姻登記条例第 12 条
73
婚姻登記条例第 13 条
70
11
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利義務関係が生じる。
① 財産分与74
夫婦は離婚の際、夫婦が共有する財産について、協議によって処理することとなる 75。
上記のとおり、離婚登記をするにあたっては、財産の問題について解決していることが、
離婚登記機関によって審査されることから、離婚登記がされる時点では、共有財産の処
分について合意に達しているのが通常である。しかし、合意に達しない場合には、子女
の利益に配慮する原則 76に従い、人民法院が判決によって財産の処分について決定する 77。
なお、夫婦の共同生活で生じた債務 78については共同で返済しなければならず、共有
財産が返済には不足する場合又は財産が各自に帰属する場合には、双方が協議によって
返済することとなる 79。
また、書面により夫婦別産を合意した場合には、本来、夫婦の共有財産を清算するた
めの手段である財産分与の問題は生じないのが原則である。しかし、夫婦の一方、特に
一般的に、女性が家庭にいる時間が長く、男性に比べ、相対的に収入が低い傾向がある
こと等に鑑み、書面により夫婦別産を合意した場合には、一切財産分与ができないとし
た場合には不公平が生じるとの配慮から、子の扶養や老人の世話など多くの義務を果た
した夫婦の一方は、他の一方に対して、補償を求めることができ、他の一方は、補償し
なければならないとされている80。
② 損害賠償請求権
夫婦の一方が、①重婚をした場合、②配偶者がいながら他人と同居した場合、③家庭
内暴力をした場合、④家族に対し、虐待、遺棄をした場合には、無過失の一方は、損害
賠償請求をすることができる81
82
。
但し、夫婦の一方が上記損害賠償請求権を行使するには、人民法院に対して離婚訴訟
を提起し、これと同時に損害賠償請求をすることが必要であり、例えば、離婚訴訟を提
74
なお、婚姻法上は、必ずしも「財産分与」という明確な用語を用いられていないが、実質的には日本法
上の財産分与に相当するものである。
75
婚姻法第 39 条第 1 項第 1 文
76
離婚原因にかかる有責性については、財産分与の判決をするにあたっての考慮要素とはされておらず、
有責性の問題は、離婚による損害賠償請求の中で考慮されるという整理になっている。
77
婚姻法第 39 条第 1 項第 2 文
78
婚姻前に、夫婦の一方が負担した債務であったとしても、当該債務が夫婦の共同生活のためのものであ
る場合には、共同債務として扱われる(《最高人民法院关于适用<中华人民共和国婚姻法>若干问题的解释
(二)》第 23 条)。また、離婚前の別居期間中に、夫婦の一方に発生した債務について、債権者は、婚姻
期間中に発生した債務であることを証明することができれば、夫婦においてそれが夫婦の共同生活のための
ものでないことの反証をすることができない限り、夫婦の共同債務として扱われると解されている(《中华
人民共和国婚姻法实用解读版》116 頁)。
79
婚姻法第 41 条
80
婚姻法第 40 条
81
婚姻法第 46 条
82
ここにいう損害には、物質的損害の他、精神的損害も含まれる(《最高人民法院关于适用<中华人民共和
国婚姻法>若干问题的解释(一)》第 28 条)。
12
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起することなく、損害賠償請求訴訟を単独で提起した場合、人民法院には受理されない
点に注意が必要である 83。
③ 子の養育
夫婦が離婚したとしても、親子関係が消滅するわけではない。そのため、夫婦が離婚
したとしても、依然として子を扶養し、教育する権利を有し、義務を負う 84
85
。
そして、離婚にあたって、夫婦のいずれが子を引き取るのかという点については、以
下にしたがうことになる。
ア
授乳期にある子(2 歳未満の子)
原則として母親が子を引き取るが86、①母親が治療困難な伝染病又はその他の重大
な疾病に罹患し、子女が共同生活をすることが適切でない場合、②扶養が可能なのに
それを果たさず、父親が子女を引き取って生活することを要求する場合、③その他の
原因により、子女が母親と生活することができない場合には、父親が子を引き取るこ
とも可能と解されている 87。
イ
満 2 歳以上の未成年の子
原則として、父母のいずれが子を引き取るか協議によって決定することになるが、
協議によってこれを決めることができない場合には、人民法院が子女の権益と双方の
具体的な情況に鑑み、判決によることになる 88。ここにいう具体的な情況としては、
①既に断種手術をし、又は、その他の原因により生殖能力がないこと、②子女との生
活期間が長くなり、生活環境に変化を来すことが子女の健康な成長にとって明らかに
不利となること、③一方には子女がおらず、他の一方には子女がいること、④子女が
生活を共にすることによって、子女の成長に有利となり、また、他の一方が治療困難
な伝染病又はその他の重大な疾病に罹患し、子女が共同生活をすることが適切でない
こと、といったものが挙げられる89。
また、6 歳以上の未成年の子について、父母のいずれが引き取るか判断するにあた
っては、当該子女の意見を考慮しなければならないとされている 90
91
。
子を引き取らなかった一方は、子を引き取った他方の必要な生活費及び教育費の一
部又は全部を負担しなければならず、その負担金額、期限は双方の協議によって定め、
83
《最高人民法院关于适用<中华人民共和国婚姻法>若干问题的解释(一)》第 29 条
婚姻法第 36 条第 1 項、第 2 項
85
日本法にいう親権という概念は、中国の現行法上は採用されていない。
86
婚姻法第 36 条第 3 項前段
87
《中华人民共和国婚姻法实用解读版》92 頁
88
婚姻法第 36 条第 3 項後段
89
《中华人民共和国婚姻法实用解读版》92 頁
90
《中华人民共和国婚姻法实用解读版》92 頁
91
人民法院での離婚事件の審理が子の扶養にまで及ぶ場合には、当該未成年の子女の意見を聞き、子女の
権益を保障する原則に従い、具体的な情況に照らして処理するとされている(《中华人民共和国未成年人保
护法》第 52 条第 2 項)。
84
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協議によって定めることができない場合には、人民法院の判決によることになる92
93
。
子を引き取らなかった一方には、子との面接交渉権があり、子を引き取った他方はこ
れに協力する義務を負うことになるが94、面接交渉をすることが子の心身の健康にと
って不利となる場合には、人民法院に対し、面接交渉の中止を申し立てることが可能
となっている95。
[応用編]
今では中国人同士又は外国人と中国人が、中国以外で婚姻する、いわゆる渉外婚姻も
一般的なものとなってきており、このような渉外婚姻に関する法律関係(婚姻の成立、
婚姻の方式、夫婦の身分関係、夫婦の財産関係、協議離婚等)については、その準拠法
が問題となる。この準拠法については、渉外民事関係に関する「渉外民事関係法律適用
法」96を参照する必要がある。
なお、外国人と中国人が中国にて婚姻、又は離婚する場合の手続については、かつて
「中国公民と外国人の婚姻登記を行うについていくつかの規定」 97が特別法的に定めら
れていたが、同規定は婚姻登記条例の制定により廃止され、現在は婚姻登記条例におい
て中国人同士の婚姻と共に手続の詳細が定められている。上海市における手続について
は、上海市民生局のウェブサイトにて詳細な説明がある 98。
(包城偉豊・弁護士)
92
婚姻法第 37 条第 1 項
養育費の金額は、固定給与を受けている者であれば、一般的にその 20~30%程度とされ、概ね子が 18 歳
に達するまで支払うものとされている(《中华人民共和国婚姻法实用解读版》95 頁)
94
婚姻法第 38 条第 1 項
95
婚姻法第 38 条第 3 項
96
《中华人民共和国涉外民事关系法律适用法》
97
《中国公民同外国人办理婚姻登记的几项规定》
98
http://app2.shmzj.gov.cn/sample/Smt-MrgGuide.aspx?id=1
93
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三.中国法務の現場より
1.北京市の禁煙条例施行から 1 年を経過して
(1) 禁煙条例の施行
北京市の禁煙条例 99が施行されたのは、2015 年 6 月 1 日である。
同条例は、空港や駅等の公共施設、オフィスビル、飲食店その他「屋根がある場所」
での喫煙を禁止し、屋外でも指定場所以外での喫煙を認めないという内容である。個人
の違反者に対しては最高で 200 元、違法に喫煙場所を設置した会社や飲食店等に対して
は最高で 3 万元の過料を課すとしている。
条例の制定背景としては、2022 年冬季五輪の成功に向けて北京市のイメージを改善す
る目的があると言われている。
(2) 禁煙条例の実施状況
中国メディアの報道によれば、本条例の施行後 1 年間(2015 年 6 月 1 日~2016 年 5 月
31 日)で北京衛生監督機構と工商部門が課した過料の総額は 220 万元を超えるとのこと
である100。
(3) 喫煙の現状と今後の展開
本条例の施行後、飲食店での喫煙を見かける機会はほとんどなくなった。もっとも、
客の要望を断りきれずに喫煙を許可している店主を見かける機会もある。また、オフィ
スビルでは、洗面所で喫煙をしている人に遭遇する機会は珍しくない。
さらに、ホテルでは、従来禁煙フロアと喫煙フロアが区別されていてタバコの煙を嫌
う人は禁煙フロアで快適に過ごすことができていたが、本条例の施行後は、名目上すべ
ての部屋が禁煙となっていることから、本条例に反して喫煙する人がいると、その臭い
が嫌煙者に届いてしまうという事例もあると聞いている。
本条例施行の背景に 2022 年冬季五輪があるとするならば、引き続き取締りが行われる
ものと予想される。喫煙者と嫌煙者がいずれも快適に過ごすことができるよう、北京市
政府には取締りの継続とこの 1 年間で浮かんできた課題の解消に取り組んでもらいたい。
(中城由貴・弁護士)
99
100
《北京市控制吸烟条例》
http://www.chinanews.com/sh/2016/07-21/7946988.shtml
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2.上海市企業賃金支払弁法の改正
賃金の支払いについては、国レベルでは 1995 年に施行された賃金支払暫定規定101が基本
法令とされているが、規定内容が抽象的で 102、しかも内容が古くなっているため、賃金支
払条例 103の立法作業が進められている。現状では、国レベルの規定が薄いため、各地方の
法令がより詳細な内容を定めて、実務上のニーズに対応しているが、地方により賃金に関
する計算方法や運用が異なる原因となっている。
上海市では、2003 年に上海市企業賃金支払弁法 104(以下「旧弁法」)が制定されたが、
2008 年より施行された労働契約法により定められたルールに合致せず、混乱を招く要素が
存在した。また、実務上明文規定がなく不明確であった点を明確化する必要もあった。そ
のため、今回の改正がなされ(以下「新弁法」という)、8 月 1 日から施行される 105。
例えば、日割賃金の計算方法について、2008 年の労働社会保障部の通達で、月給を 21.75
日で割るものと定められたが、旧弁法では、それ以前の国の基準であった 20.92 日で割る
ものとされており、誤解を招きやすかったので、新弁法では、21.75 日で割るものと規定
し直した(第 14 条)106。
時間外労働手当については、様々な改正が行われた。
まず、通常労働時間の賃金の 150%(休日の場合は 200%、法定休日の場合には 300%)
を支払うというルールは労働法第 44 条に規定があるが、旧弁法においては、その計算の基
数に何が含まれるかに関する明確な規定がなかった。新弁法では、年末賞与、通勤手当、
食事手当、中夜勤手当、高温手当、時間外労働手当等、特殊な状況下で支払われるものは
含まれないことが明記された(第 9 条)107。
また、婦女節(3 月 8 日)、青年節(5 月 4 日)といった一部の国民にだけ適用がある休
日について、出勤した場合でも、時間外労働手当の支払いは不要であることが明記された
101
《工资支付暂行规定》(劳部发[1994]489 号)
例えば「賃金」の定義として「使用者が労働契約の規定に従い、各種形式により労働者に支払う賃金報
酬」というトートロジー的な規定がなされ、残業手当、休暇賃金、経済補償金等の計算の基礎となる賃金に
何が含まれるかは明確化されていない。
103
《工资支付条例》
104
《上海市企业工资支付办法》(沪劳保综发[2003]2 号)
105
http://www.12333sh.gov.cn/201412333/xxgk/flfg/gfxwj/ldbc/gzzl/201607/t20160701_1245917.shtml
106
国の規定が地方の規定に優先することから、旧弁法下でも、21.75 日で割るという結論には、法解釈上争
いはなかった。中国では、ある法令を改正した時に、それに関連する国や地方の法令を同時又は速やかに改
正するという手当てが取られることが少なく、古い規定がそのまま長期間残ることが多いため、最新のルー
ルがどうなっているのか把握しにくいという問題が多く見受けられる。そこで、時々、新規立法や法改正の
必要が生じた際に、それまで未改正で残っていた問題をまとめて是正するということがなされる。
107
なお、実務上は、上海市高級人民法院の運用指針(2010 年)により、同趣旨の解釈がなされており、新
弁法は、それをルールとして明記したものと言える。ただ、同運用指針では、企業が悪意で、基本給を減ら
して、各種手当やインセンティブ給与の名目で賃金を支給し、時間外労働手当を減らす操作をしている場合
には、調整ができるとされているため、企業としては、新弁法の規定を濫用せずに、手当等の設定は合理的
に行う必要があると言える。
102
16
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(第 13 条第 5 項)108。
さらに、出来高払い制の従業員の場合の時間外労働手当について、旧弁法では、法定時
間外に働いた場合には、出来高払いの単価を調整すべきとされていたが、新弁法では、ノ
ルマを達成していることを前提条件として追加した(第 13 条第 2 項)109。
ところで、労働契約の終了又は解除時における給与支払について、旧弁法では、退職手
続完了時に一括で給与の支払いをすべきとされたが、給与計算には時間がかかり、退職日
にすぐに支払うのには困難が伴うのが通常である。そこで、新弁法では、特別な事情につ
き当事者間で約定がある場合には、法令に反しない限り約定に従うとして、通常の給料日
に支払う等の特約に従って処理することも適法であることが明確化された(第 7 条)。
その他、細かい点につき、様々な改正が行われているので、特に賃金の計算や支払いに
ついて疑問が生じた場合には、是非、新弁法を読んでみることをお勧めする。
(弁護士・山根基宏)
TMI 中国最新法令情報―2016 年 7 月号―
発
行:TMI 総合法律事務所
監
修:何連明・外国法事務弁護士
編集主幹:山根基宏、包城偉豊・弁護士
発 行 日:2016 年 7 月 29 日
108
これも、実務上は、労働部門の内部通達により、時間外労働手当支払い不要という運用が確立されてい
たが、毎年のように質問が生じる事項であったため、今回の明文化により、現場では、疑問を呈する従業員
等に対して明確な回答ができることとなる。
109
出来高払い制の従業員がノルマも達成せずにだらだらと長時間働いた場合にまで時間外労働手当を支払
うのは不合理であるものの、それを根拠に、出来高払い制の場合には一切時間外労働手当なしと取り扱う例
が多いといえる。新弁法により、ノルマ達成後、さらに時間外労働を強いられるような場合には、時間外労
働手当が支払われることにより、従業員の正当な利益が保障されることとなるといえる。なお、ノルマを不
当に高くして、時間外労働手当支給条件を満たすことができなくなることを防ぐために、新弁法では、ノル
マの設定に当たっては、民主的な手続を経て合理的に決めることとされた。
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