NO.98 - 人類働態学会

98
15. June. 2013
■第48回全国大会・シンポジウム 1
第48回人類働態学会全国大会のご案内 1
プログラム 4
抄録集 7
一般講演 口頭発表
8
ポスター発表
54
■第47回全国大会から 72
座長報告 72
■地方会から 75
「くらしの中の共生」第9回シンポジウム・
第41回東日本地方会大会から 第41回人類働態学会 東日本地方会報告 水戸和幸 優秀発表賞受賞者から
日本人間工学会 九州・沖縄支部第33回大会
人類働態学会 西日本地方会第37回大会 合同開催から
大会および地方会についての報告 大箸純也
優秀発表賞受賞者から
■学会報告・連絡
JHE論文募集 83
75
75
75
78
78
79
人類働態学会 会報 第98号 2013年6月15日(暫定版)
第 48 回人類働態学会全国大会のご案内
下記の通り、第 48 回人類働態学会全国大会を開催させていただくことになりました。多くの会員および、関係の
皆さまのご参加をお願い申し上げます。
期日:2013 年 6 月 15 日(土)13:00~6 月 16 日(日)17:00
け事前の早い時期にご連絡をくださいますようお願い
(夏季研究会は 6 月 14 日(金) 13:00 から)
致します。
会場:和歌山大学システム工学部
支払は、大会当日のみとなっております。
<登録事項> メール連絡先:tyamaoka6@gmail.com、
大会長: 山岡俊樹 (和歌山大学システム工学部)
連絡先:Tel:
締切は 6 月 14 日 17:00
090-1702-5601
・氏名、所属、連絡先(電子メールアドレス、電話
E-mail: tyamaoka6@gmail.com
番号)(学生会費がありますので、学生はその旨
会費(当日支払いのみ):
を明記してください。)
大会参加費 4,000 円(学生 2,000 円)
懇親会費
・懇親会の参加・不参加
3,000 円(学生 1,000 円)
弁当は取り扱いませんので、南海電車・和歌山大学
夏季研究会 4,000 円(学生 2,000 円)
前駅に Value Max のお店がありますので、ご活用くだ
夏季研究会懇親会費 4000 円程度(学生 3000 円)
さい。
1.学会スケジュール概要
6 月 14 日(金) 夏季研究会
エコロジーの泰斗、南方熊楠を通じて、働態学を
関空
深耕する。
12:15 JR 和歌山駅東口(セブンイレブンの横)集合
13:45 ごろ 南方熊楠顕彰館
30 分講演,その後,見学を予定
15:15 出発
和歌山大学
15:45 南部梅林を見学
16:30 出発
18:30 ごろ 懇親会
SAKA BAR くらら
(南海・和歌山市駅,徒歩 5-6 分)
6 月 15 日(土) 第 48 回全国大会 1 日目
午前 理事会
午後 基調講演:認知症高齢者の行動特性とケア
環境 和歌山大学,足立教授
一般発表、自転車シンポジウム、懇親会
6 月 16 日(日) 第 48 回全国大会 2 日目
午前 一般発表
昼
総会
午後 ポスター発表、一般発表、表彰式、閉会式
(大会に関する情報は、学会ホームページにも掲載し
南部梅林
てあります.併せてご確認ください。)
紀伊田辺
2.参加予定の方へ
参加登録のお願い
大会参加は当日登録も歓迎致します。しかし、懇親
会などの利用参加人数を把握する必要がありますの
で、参加ご予定の方は、以下の事項についてできるだ
Google Maps - ©2013 Googleより
-1-
人類働態学会 会報 第98号 2013年6月15日(暫定版)
⇒南海・
和歌山大学前
交通アクセスについて
全国大会
(1)南海電車和歌山大学前駅、下車、徒歩 18 分、バス
で4分
(2)JR 和歌山駅から和歌山バスで 25 分(直通バスの場
合)
アクセス、バスの時刻表
START
徒歩
ルート
住宅街
http://www.wakayama-u.ac.jp/access.html
バス
ルート
宿泊について
和歌山市内のホテル
(1)JR 和歌山駅前:大学行きの和歌山バスの利用
システム
工学部
東横イン和歌山、ドーミイン Premium 和歌山、ホテル
②GOAL
グランヴィア和歌山、和歌山アーバンホテル
和歌山東急イン、ホテルアバローム紀の国、ダイワロ
イネットホテル
(3)南海和歌山市駅:南海電車か大学行きの和歌山バ
スの利用
①GOAL
南海和歌山大学前駅からのアクセス
GOAL①:バスルート GOAL②:徒歩ルート
ワカヤマ第二富士ホテル
3.発表について
南海・
和歌山
市駅方面→
(2)和歌山城近く:大学行きの和歌山バスの利用
南海和歌山大学前駅
・大会当日までに、英文抄録(200 語
程度;JHE 掲載用)をご提出ください。
書式は英文 abstract 用のテンプレ
ートファイルに従ってください。
■一般発表の形式
・口頭発表時間は、発表 11 分、質疑
和歌山大学
応答 3 分、交代時間 1 分の合計 15
分です。
・プレゼンテーション用にパソコンを用
意します。ただし、ファイルやフォント
などは標準的なものにしか対応して
いません。
・ムービー等の特殊な仕様を用いた発
表を行う場合は、ご自身のパソコン
をご用意ください。
・御自身のパソコンを利用する場合、
必ず休憩時間に動作確認をお願い
します。
南海・和歌山市駅
・以下の場合は大会前のできるだけ早
い時期に事務局までご連絡下さい。
○ビデオ、書画カメラ、OHP 等パソコ
JR和歌山駅
ン以外のメディアを利用する場合。
Google Maps - ©2013 Google より
-2-
人類働態学会 会報 第98号 2013年6月15日(暫定版)
■ポスター発表の形式
・展示場所は A 棟ホールに設置します。ご自分の発表
説明を行います。
1 題につき口頭説明 2 分とします。一言で説明できる
番号の札のあるボードにポスターをお貼りください。
ようにしてください。
・ポスターのボードサイズは 117×180cm です。画びょ
・12:45-13:20 は個別の質疑応答の時間とします。発
うは大会事務局で準備します。
表者は自分のポスターの前に待機してください。
・ポスターセッションは 6 月 16 日(2 日目) 915 から 15:
・ポスターの撤去は 6 月 16 日 15:00~17:00 にお願い
00 までです。
します。
・ポスタープレゼは 12:45 から番号順(P1-P10)に口頭
システム工学部 A 棟
A103教室
和歌山大学キャンパスマップ(http://www.wakayama-u.ac.jp/file/campus-map.pdf から)
-3-
人類働態学会 会報 第98号 2013年6月15日(暫定版)
第48回人類働態学会全国大会・夏季研究会 プログラム
全体構成
日時
午前
6 月 14 日
6 月 15 日
理事会(10:30-12:00)
受付:12:00
午後
夜
夏季研修会:12:15JR 和歌山駅集合
懇親会:18:30 より
基調講演:13:00-13:55
懇親会:
セッション1:14:10-15:55
18:30-20:30
自転車シンポジウム:16:10-18:15
6 月 16 日
セッション 2:9:15-10:15
総会:
セッション 3:10:25-11:40
ポスター:12:45-13:20
11:50-12:45
セッション 4:13:20-14:50
セッション 5:15:00-16:15
表彰式・閉会式:16:30-17:00
夏季研究会
6月14 日(金) (南方熊楠顕彰館,南部梅林)
12:15 JR 和歌山駅東口(セブンイレブンの横)に集合
(または、南方熊楠顕彰館で集合も可)
13:45 南方熊楠顕彰館 到着(/集合)
30 分の講演,その後,見学
15:15 出発
大会第1日目
15:45 南部梅林を見学
16:30 出発
18:30 ごろ 懇親会
SAKA BAR くらら
(南海・和歌山市駅から徒歩 5-6 分)
6月15日(土) (和歌山大学システム工学部A103 教室)
12:00- 受付開始
1-3.駅利用者の人間行動~上野駅エスカレーター及
び階段利用者の人間行動の比較~
13:00-13:55■基調講演[A103 教室]
○福司光成 1)、久宗周二 2)/1)高崎経済大学大学
「認知症高齢者の行動特性とケア環境」
院 経済経営研究科, 2)高崎経済大学 経済学部
足立啓/和歌山大学システム工学部 環境システム
1-4.観察による職場環境調査票の試み
学科教授
小木和孝/公益財団法人労働科学研究所
14:10-15:55■一般演題:セッション1[A103 教室]
1-5.文脈に基づく観察フレームワークの提案
座長:平田一郎/兵庫県立工業技術センター
○安井鯨太、山岡俊樹/和歌山大学システム工学
研究科
1-1.文化伝承のツールとしての回想法の活用
鳴瀬麻子/大妻女子大学博物館
1-6.果樹栽培における高齢作業者の生活と健康
1-2.Narrative evidence of the work-family positive
○竹内由利子 1)2)、松田文子 1)、吉川悦子 1)3)、池
spillover in Japanese midwives: A descriptive study
上徹 4)、酒井一博 1)/1)公益財団法人労働科学研
using the Multiple Role Map program
究所, 2)川口短期大学, 3)東京有明医療大学, 4)ITI
○Yamada Y1)、Ebara T1)、Kinooka Y1)、Mizuno
エルゴコンサルタンシー
M2)3)、Hirosawa M2)3)、Kamijima M1)/1)Nagoya
1-7.マーカーレス3次元動作計測システムの開発
City University Graduate School of Medical Sciences,
○石本明生 1)、本多信夫 1)、足立和隆 2)/1)(株)H
2)Juntendo University Graduate School of Health
ALデザイン研究所, 2)筑波大学
and Sports Science, 3)Juntendo University School of
Health and Sports Science
-4-
人類働態学会 会報 第98号 2013年6月15日(暫定版)
16:10-18:15■自転車シンポジウム[A103 教室]
-17:00 (4)住民参加型事業提案グループ・活動
司会:真家,植竹
報告 岸田,橋本
16:10-16:15 (1)概要紹介 真家,植竹
17:00-17:15 (5)自転車・道路デザイングループ・活動
-16:30 (2)自動車事故要因グループ・活動報告
報告 岡田,山岡
堀野,水野
-18:15 (6)自由討議
-16:45 (3)自転車利用者働態研究グループ・活
18:30-20:30■懇親会[和歌山大学第二食堂]
動報告 真家,植竹,松村
大会第 2 日目
6月16日(日) (和歌山大学システム工学部A103 教室)
井上阿英 1)、○岡田明 2)、山下久仁子 3)/1)大阪
9:15-10:15■一般演題:セッション2[A103 教室]
座長:松村秋芳/防衛医科大学校
市立大学生活科学部, 2)大阪市立大学大学院生活
科学研究科, 3)大阪市立大学研究支援課
2-1.首都圏における自転車利用の実態把握Ⅰ-自
転車利用時の行動特性と意識に関する質問紙調査
3-4.交差点における自転車運転者の行動
からのアプローチ-
○松村秋芳 1)、真家和生 2)、鳴瀬麻子 2)/1)防衛
○川田裕次郎 1)3)、藤井啓嗣 2)、中山貴太 3)、芳地
医大・生物, 2)大妻女子大・博物館
泰幸 2)、水野基樹 2)3)/1)東京未来大学, 2)順天堂
3-5.生活道路交差点の視認距離が交通参加者の認
大学大学院 3)順天堂大学
知的負荷に及ぼす影響
2-2.首都圏における自転車利用の実態把握Ⅱ-事
○山本あゆ美、髙橋雄三/広島市立大学大学院情
故およびヒヤリ・ハット体験レポートからのアプロー
報科学研究科
チ-
11:50-12:45■総会・昼食[A103 教室]
○芳地泰幸 1)、藤井啓嗣 1)、中山貴太 2)、川田裕
次郎 3)、水野基樹 1)2)/1)順天堂大学大学院, 2)
12:45-13:20■ポスター発表[A棟ホール](展示時間:
順天堂大学, 3)東京未来大学
9:00-15:00)
2-3.日本の道路環境への適合を考慮したトレーラ付
P-1.大学生の進路選択に対する自己効力とソーシャ
き自転車のデザイン開発
ル・サポートに関する研究
○前川正実 1)、山岡俊樹 2)/1)株式会社操作デザ
○北村茉衣 1)、水野基樹 1)2)/1)順天堂大学大学
イン設計, 2)和歌山大学
院, 2)順天堂大学
2-4.自転車ドライブレコーダーで判るリスクと背景要
P-2.自転車のための標識のデザイン要素と設置位
因:横浜とニュージーランドネルソンの走行比較
置が視認性に及ぼす影響
堀野定雄/神奈川大学
原貴子 1)、○岡田明 2)、山下久仁子 3)/1)大阪市
立大学生活科学部, 2)大阪市立大学大学院生活科
10:25-11:40■一般演題:セッション3[A103 教室]
学研究科, 3)大阪市立大学研究支援課
座長:森亮太/長野県立短期大学
P-3.国内の主要学会における自転車研究の研究動
3-1.自転車と走行帯を共有する自動二輪車からのド
ライブレコーダーによる自転車走行の実態
向の把握
○真家和生 1)、鳴瀬麻子 1)、松村秋芳 2)/1)大妻
○中山貴太 1)、芳地泰幸 2)、藤井啓嗣 2)、川田裕
女子大学博物館, 2)防衛医科大学校
次郎 3)、水野基樹 1)2)/1)順天堂大学,2)順天堂
大学大学院,3)東京未来大学
3-2.アイカメラを用いた自転車走行中の若年者及び
P-4.大学男子サッカー選手における誕生月が人数構
高齢者の行動比較
○植竹照雄、下田政博/東京農工大学大学院農学
成に及ぼす影響
研究院
○上村明 1)、川田裕次郎 2)3)、広沢正孝 1)3)/1)
順天堂大学大学院, 2)東京未来大学, 3)順天堂大
3-3.自転車ブレーキの適切な操作形態に関する人間
学
工学的研究
-5-
人類働態学会 会報 第98号 2013年6月15日(暫定版)
P-5.避難行動のための手すり誘導システムの研究
4-5.車両減速時の立位方向の違いによる生理学的
第 2 報:触覚サインの開発
及び心理学的評価研究
○河原雅典 1)、川原由紀 1)、馬場康明 2)/1)富山
○坂本和義 1)、田近秀騎 2)、日野拓也 2)/1)電気
大学芸術文化学部, 2)三協立山株式会社
通信大学 産学官連携センター, 2)日野自動車株式
会社 技術研究所
P-6.絵本の画面構成の分析と GUI への応用の提案
○上島佳佑、山岡俊樹/和歌山大学システム工学
4-6.フィットネスクラブ従業員のレジリエンス向上のた
部デザイン情報学科
めの組織的支援
○庄司直人 1)、藤井啓嗣 1)、森口博充 1)、中山貴
P-7.大学生における衝動性とレジリエンスとの関連
太 2)、芳地泰幸 1)、水野基樹 1)2)/1)順天堂大学
○西田敬志、田中純夫/順天堂大学スポーツ健康
大学院スポーツ健康科学研究科, 2)順天堂大学ス
科学部
ポーツ健康科学部
P-8.筋出力・視覚における感覚的数値と実測値との
差について
15:00-16:15■一般演題:セッション5[A103 教室]
座長:岡田明/大阪市立大学
○湯川優 1)、竹内京子 1)、松村秋芳 2)、石田裕二
1)、酒井紀行 3)、鈴木拓郎 1)、福島諒 1)、西田育弘
5-1.発話音声と NIRS を用いた作業負担評価法に関
4)/1)帝京平成大院・健康科学, 2)防衛医大・生物,
する検討 1
3)グローバルベイシック, 4)防衛医大・生理
○立川公子 1)、塩見格一 2)、橋本修左 1)/1)武蔵
野大学, 2)電子航法研究所
P-9.エコーによる下腿軟組織の解析 ―利き足と羽
状角の関係―
5-2.指示内容が曖昧な視覚記号に対する動作の同
○福島諒 1)、竹内京子 1)、松村秋芳 2)、大瀧晃 3)、
期に関する筋電図学的検討
酒井紀行 1)、梅原彰宏 4)、鈴木拓郎 1)、湯川優 1)
○髙橋雄三、山本あゆ美/広島市立大学大学院
/1)帝京平成大・院・健康科学, 2)防衛医大・生物,
情報科学研究科
3)自衛隊体育学校, 4)あおき整形外科
5-3.ヒトの運動行動様式と利き手利き足との関係
P-10.大学水泳部活動選手におけるバーンアウトとソ
○松村秋芳 1)、竹内京子 2)、中村好宏 3)、樋 桂 4)、
ーシャル・サポートの関係性について
真家和生 5)/1)防衛医大・生物, 2)平成帝京大学,
○本多里也子 1)、水野基樹 1)2)/1)順天堂大学大
3)防衛医大・数学, 4)文京学院大学, 5)大妻女子大・
学院, 2)順天堂大学
博物館
5-4.急激な室温の変化が血圧と心電図におよぼす
13:20-14:50■一般演題:セッション4[A103 教室]
座長:河原雅典/富山大学
影響
○瀬戸山祐一 1)、岡村侑磨 1)、成田裕二 1)、南優
4-1.メンタルモデル形成過程にみる高齢者と若年者
太 1)、千代島諒平 1)、下田政博 2) 、植竹照雄 2)/
の違い
1)東京農工大学農学部, 2)東京農工大学大学院農
森亮太/長野県短期大学
学研究院
4-2.組み込み型機器のための GUI 設計手法の提案
5-5.下肢開脚幅が股関節回旋角度並びに荷重動揺
○平田一郎 1)、山岡俊樹 2)/1)兵庫県立工業技術
軌跡に及ぼす影響
センター生産技術部, 2)和歌山大学システム工学部
○竹内京子 1)、松村秋芳 2)、酒井紀行 3)、梅原彰
4-3.タッチパネル搭載端末での読書における視線お
浩 4)、福島諒 1)、湯川優 1)、片山証子 5)、煙山健仁
よび操作の特性把握
6)、岡田守彦 7)/1)帝京平成大・院・健康科学研究
○高島実穂 1)、松延拓生 2)、満田成紀 2)、福安直
科, 2)防衛医大・生物学, 3)グローバルベイシック・研
樹 2)、鯵坂恒夫 2)/1)和歌山大学システム工学研
究開発, 4)あおき整形, 5)筑波綜合研究所, 6)防衛
究科, 2)和歌山大学システム工学部
医大・生理学, 7)筑波大学
4-4.暗視環境下の安全視距離:高速道中央分離帯
16:30-17:00■表彰式・閉会式[A103 教室]
衝突車追突死亡事故裁判に関与して
堀野定雄/神奈川大学
-6-
人類働態学会 会報 第98号 2013年6月15日(暫定版)
第48回人類働態学会全国大会 発表抄録
一般演題: 口頭発表25題、ポスター発表10題
(口頭発表数は 27 題。内 2-4 と 4-4 は未掲載)
-7-
人類働態学会 会報 第98号 2013年6月15日(暫定版)
1-1
文化伝承のツールとしての回想法の活用
鳴瀬麻子
大妻女子大学博物館
うに活用するのかの研修に参加した。
1.はじめに
本研究は、医療福祉関係で用いられる回想法を、文
回想法の手法は大きく、個人回想法・グループ回想
化伝承のツールの一つとして活用するための可能性
法・地域回想法に分かれている。時間は、いずれも週
を探ることを目的とした。
に 1・2 回程度で 1 回約 60 分行なう。
回想法は、1960 年代にアメリカの精神科医ロバート・
しかし一般に現場の職員は、回想法の有効性を知り
バトラーが提唱した。回想法は、過去の楽しい出来事
つつも、日々のルーティーンワークに追われ実際に取
を思い出し、語ることによって脳の活性化が図られる、
入れる時間的・人的余裕がないという声が多かった。
高齢者の介護・認知症予防のための非薬物療法の一
3-2.博物館での活用
つである。回想法の有効性は、近年の脳内活動研究
近年博物館では、博物館が所蔵する昭和期の資料
からも確認されており、海馬にある過去の楽しい記憶
を回想することにより、報酬系にドーパミンが放出され、
幸福感が生まれることが示されている。
を用い、福祉行政・医療福祉施設などと連携した取組
みを行なっている。
博物館での回想法は、博物館内の一角に昭和の時
回想法は、主に医療福祉関係で用いられているが、
代を再現し個人で来館するシニア世代が利用する方
近年博物館においても、所蔵する資料また施設を利
法や、博物館学芸員が博物館の資料を用いて、介護
用した社会活動の一環として取入れられて来ている。
施設等で出張回想法を行うなどの手法を用いている。
本研究では、医療福祉施設と博物館という異なった
施設において、それぞれどのように回想法が取り入れ
4.考察
られているかを調査し、それに基づいて文化伝承のツ
医療福祉施設や博物館での回想法の取組みは、シ
ールとして回想法が活用できるのではないかと考え、
ニア世代に、過去の楽しかった思い出や使っていた道
その具体的な方法につき検討を行ったので報告する。
具についての記憶を回想し語ることを目的としている。
しかしさらに、回想法を用いることによって、シニア
世代から若者世代、または若者世代からシニア世代へ
2.社会的背景
現在、日本の高齢化率は 25.1%と 4 人に 1 人が 65
と文化を伝承するという相乗効果が出現すると考えら
歳以上の高齢者となり、介護給付金受給者は年々増
れる。それにより様々な場面で回想法の活用が可能な
加傾向にある。こうした背景から、介護や認知症のため
のではないかと考えた。すなわち、シニア世代からの
の対策が求められており、回想法はその一つの手法と
資料・情報収集を行うことは、若者世代へと生活文化
して広く取り上げられてきている。
伝播を行なうことにつながると言える。また若者世代の
また、平成に入り、昭和期に使われていた日常生活
文化をシニア世代に伝播することにもなる。
用品は、その形態やその使用法が大きく様変わりした。
コンピューターや携帯電話は、その例である。
現在、医療施設や博物館で行われる回想法の多く
は、施設や人員が整っているところがほとんどである。
また、地方では過疎化が進み、伝統的生活の継承
しかし今後、過疎化する地方部において活用できる小
者は都市へと移り住み、都市化生活へと移行している。
規模施設での回想法の活用を広めることで、シニア世
家屋・衣料・生活様式も変わり、現在ではかつての生
代の介護・認知症予防とともに、失われつつある生活
活スタイルの多くが失われつつある。
文化の保存の可能となるのではないかと考察した。
------------
3.調査と結果
<< 連絡先 >>
------------
鳴瀬 麻子
大妻女子大学 博物館
〒102-8357 東京都千代田区三番町 12
電話 03-5275-5739
E-mail: naruse@otsuma.ac.jp
3-1.医療福祉現場での活用
現在、回想法に関する研修会や講座が様々な団体
により行われている。著者もその中の一つの研修会に
参加し、回想法が実際に医療福祉の現場では、どのよ
-8-
人類働態学会 会報 第98号 2013年6月15日(暫定版)
1-2
Narrative evidence of the work-family positive spillover in Japanese midwives:
A descriptive study using the Multiple Role Map program
○Yamada Y1)、Ebara T1)、Kinooka Y1)、Mizuno M2)3)、Hirosawa M2)3)、Kamijima M1)
1)Nagoya City University Graduate School of Medical Sciences, 2)Juntendo University Graduate School of
Health and Sports Science, 3)Juntendo University School of Health and Sports Science
rate, many midwives got specific knowledge, skills,
1.INTRODUCTION
In order to improve high turnover rate (Full time
experience, community and income in performing their
staffs: 11.9%, New graduates, 8.9%, JNA, 2009) among
midwife’s roles and these benefit positively spilled over
Japanese midwives and nurses, providing a positive role
to other roles (PSP: midwife to manager=71%, marital
model of those who developed fulfilled professional
partner=82%, mother=53%, human relationships=66%).
career and kept good work-family balance is practical.
For example, they fully used their professional
However, it was unknown about what kind of
knowledge and skills to their own pregnancy, childbirth
enrichment working midwives got though their work
and parental care. Moreover, their friends, husbands,
and family lives when they tried to keep a good balance
children and other surroundings respected them and
between them. According to the theoretical study, one
relied on their professional advice. Adversely, many of
phase of enrichment was defined as the “positive
them
spillover (PSP).” Then, this study aimed to collect
pregnancies, childbirth and parental care helped
midwives’ PSP episodes elicited from their multiple
in-depth understanding of midwife job (PSP: mother to
roles as midwives, managers (e.g. a nurse manager, a
midwife=40%). Additionally, marital partner’s advice,
chief, a leader and preceptor), marital partners,
support and understanding were also necessary to
mothers, friends (human relationships) and family
continue their professional careers (PSP: marital
members.
partner to midwife=36%).
described
that
experience
of
their
own
In conclusion, this study showed narrative evidence
2.METHODS
that playing at least two roles, work and family,
Midwives working in a general hospital in Tokyo,
enriched
Japan were asked to participate in this study. A total of
their
knowledge,
skills,
experience,
community and income.
18 female midwives participated and we collected their
data with one-hundred percent response rate. We
Acknowledgment
adopted the Multiple Role Map (MRM) program that
This work was supported by JSPS KAKENHI Grant
required participants to describe PSP episodes within
Number 24700779.
the designated protocol (Yamada et al., 2010, 2011).
Although MRM written form could provide us rich and
various information, this study focused on five roles (a
midwife, a managerial, a marital partner, a mother,
human relationship roles) and the free state in which it
is not necessary to perform any roles (role-free time)
for detecting the features and interaction of PSP
episodes. Finally, this study counted the frequency
------------
rate of PSP caused in each interface between roles and
Yasuyuki Yamada
Nagoya City University Graduate School of Medical Sciences
Kawasumi 1, Mizuho-cho, Mizuho-ku, Nagoya 467-8601,
Japan
Tel 052-853-8171
FAX 052-859-1228
E-mail: y-yamada@med.nagoya-cu.ac.jp
categorized each PSP episode according to the
theoretical framework.
3.RESULTS and DISCUSSION
According to the PSP episodes with high frequency
-9-
<< contact information >>
------------
人類働態学会 会報 第98号 2013年6月15日(暫定版)
1-3
駅利用者の人間行動~上野駅エスカレーター及び階段利用者の人間行動の比較~
○福司光成 1)、久宗周二 2)
1)高崎経済大学大学院 経済経営研究科,
2)高崎経済大学 経済学部
1.はじめに
その一環としてエスカレーターの設置も増えている。バ
②
リアフリーに加えてステップ上を歩くことで階段を利用
ラッシュ時や列車の到着時など大量の人が乗ると、混
コンビニ
階段
ーターは通常 1 ステップに 2 人ずつしか乗れないため、
1・
2番線
するよりも早く到達することができる。しかし、エスカレ
③
7・
8番線
階段
人以上の駅の構内では、バリアフリー化が進んでいる。
5・
6番線
3・4番線
現在、交通バリアフリー法により、1 日の乗降客 5000
地下ホーム
雑し順番待ちをしなければならない 1) 。久宗の研究で
及び階段の混雑状況」に関する研究がある。列車のド
アが開いてから地下通路に行く下りの階段とエスカレ
ーター、中央通路に行く上りの階段の混雑が解消する
までの時間を比較し、下りのエスカレーターより上る階
通路で混雑状況と所要時間を調査した。
2
3
4
5
3・4番線
段のほうが早く混雑が解消することが分かった。
本研究では上野駅での特に混雑の激しい乗り換え
エスカレーター
通路
は「上野駅のホームでの列車到着後のエスカレーター
矢印は列の最後尾を示す。数字はエスカレーター混雑度、
丸数字は階段混雑度を示す。なお混雑度1は列なしの状態
2.方法
を示すため図では省略している。点線はロープ設置位置。
図1 調査場所の見取り図
2-1.調査方法
平日朝の通勤ラッシュ時に上野駅の南側地下通路
から東京方面行きの列車が出る 3・4 番ホームに向かう
2-2.調査日時・調査対象
エスカレーター及び階段で、混雑状況と列の最後尾に
調査時間:7:20~9:40
並び始めてからエスカレーターに乗車するまでにかか
調査日:平成25年4月1、2、8、15日の計4日間
る所要時間(列に並んで待つ時間)を測定した。混雑
調査対象:エスカレーターに並んだ人 414人
度は以下の 5 段階に設定した。また、階段は激しく混
雑することがなかったので3段階とした。
3.結果
閑散時にエスカレーターの乗車時間は 23 秒(ステッ
プを歩いた場合は 15 秒程度)、階段を上る時間は 38
<エスカレーターの混雑度>
秒程度で、エスカレーターの方が 15 秒程度早かった。
1・・・列はなくスムーズにエスカレーターに乗れる
しかし、混雑度1であっても前に人がいる場合はエスカ
2・・・エスカレーター前で詰まっている
レーターに乗るまで平均 22 秒、混雑度2のときは平均
3・・・エスカレーター前から列ができる
33 秒かかった。混雑度 3 以上になると所要時間が増加
4・・・列が7・8番ホーム付近まで続いている
し平均 1 分以上かかり、ステップ上の歩行は困難にな
5・・・列が地下改札口付近まで続いている
った。混雑度が 4 または 5 になった場合は平均所要時
間 1 分 20 秒程度であったが、エスカレーターに乗るま
<階段>
で 1 分 50 秒かかった場合もあった。
①・・・スムーズに通行できる
7:50~8:45 頃は混雑が激しく、列の長さは増減を繰
②・・・階段で詰まっている
り返していた。特に 8:00~8:10 頃は列が地下改札口
③・・・階段前から列ができる
付近まで伸びた。7:50~8:45 の時間帯は突発的に混
雑度4~5ことがある。他方、階段はスムーズに通れる
-10-
人類働態学会 会報 第98号 2013年6月15日(暫定版)
もあった。
1:30
1:20
4.考察
1:10
1:00
朝ラッシュ時などエスカレーター待ちの列ができ、階
段を使うよりも時間がかかっていた。閑散時にはエスカ
0:50
0:40
レーターの方が早く移動できるが、少しでも混雑すると
0:30
0:20
集中して、他の個所は比較的すいている傾向もある。
0:10
0:00
合、4 番ホームから出る京浜東北線についてはエスカ
階段の方が早く行ける。ラッシュ時は、乗客が一部に
また、本調査を行った上野から東京へ向かう列車の場
1
2
3
4
レーター降り口付近には平日の 9 時 22 分までは女性
5
専用車が停止する。したがって、男性客は 3 番ホーム
図2 混雑度別のエスカレーター乗車までの所要時間比較
の山手線に乗るか他の車両に移らなければならず階
段の方が早く移動でき、スムーズに列車に乗れると考
ことが多く、混雑度 1 または2だった。階段前に列がで
えられる。多くの人はエスカレーターの方が早くて快適
きたのは、各日とも1~2 回だった。また、調査対象の
と考えるかもしれないが、時間帯や状況によっては階
エスカレーターは整列利用を徹底させるため地下ホー
段を利用することで混雑を避け、早く乗り換えができる
ム側からの通路に誘導ラインと掲示で通路左側から並
と考えられる。
んで乗るように案内している。加えて、混雑する時間帯
また、ロープや駅員の配置がなくなると列が後ろまで
(7:40~8:50 頃)には列にロープを引き、駅員が立っ
続いていても途中に割り込みをする人もいた。さらに、
て割り込みをさせないようにしている。そのため、この
列に割り込んだ人の後ろに続いて並ぶ人もいて列が
時間帯は列が長くなりやすかった。また、駅員が階段
複数になり、列が短くても時間がかかる場合もあった。
の方がすいていると案内していたが、それでも多くの
駅利用者は、混雑時は周囲の混雑状況をみてどの
乗客がエスカレーターに並んでいた。
通路が効率よく移動できるか、臨機応変に判断する必
一方で、ロープを撤去すると混雑度が下がるが、列に
要もある。複数の行き方がある場合、別ルートを利用
割り込みをする人もいて、調査中に 9 回確認できた。こ
することで快適に移動でき、駅全体の混雑の解消にも
のときは混雑度が1や2のときでも、列の後ろから並ん
つながると考えられる。
でいた人は 40 秒~1 分かかる場合もあった。
階段については比較的流れており、混雑時間帯でも
参考文献
混雑度 2 または1であった。混雑度 2 の場合は階段を
1)『街角の行動観察』(創成社) 久宗周二 著
上りきってホームに到達するまでに 45~55 秒程度か
かっていた。混雑度 3 になり階段前で立ち止まることは
------------
各日とも1~2 回程度で、いずれも1~2 分程度で解消
<< 連絡先 >>
------------
福司 光成・久宗周二
高崎経済大学大学院 経済経営研究科
〒370-0801 群馬県高崎市上並榎町 1300
した。最も混雑しているときでも階段の前で 30 秒程度
待てば階段のステップに到達し、最大では、ホームま
で 80 秒程度かかった。エスカレーターの混雑度が 5 の
ときでも、階段は混雑度1でスムーズに通行できる場合
5
エスカレーター
階段
4
3
2
1
7:25
7:35
7:45
7:55
8:05
8:15
8:25
8:35
8:45
8:55
図3 時間帯別のエスカレーターと階段の混雑度の比較
-11-
9:05
9:15
9:25
人類働態学会 会報 第98号 2013年6月15日(暫定版)
1-4
観察による職場環境調査票の試み
小木和孝
公益財団法人労働科学研究所 主管研究員
の手順を採用してアクションチェックリストと併用する目
1.はじめに
参加型の職場環境改善活動では、職場巡視による
改善策の提案をグループワークで行う手法を重視して
いる。この自主的に行う職場巡視では、観察により、現
場にある良い実践と必要な改善策を指摘し合って、巡
視後のグループ討議で改善提案に結びつけるすすめ
方が効果を挙げている。そのさい、観察により職場環
境の多要因を同時に取り上げる。幅広く多要因を観察
しやすくする調査票を作成したので、報告する。
参加型職場環境改善活動は、東南アジア地域の中
小企業・農業をはじめとして、多業種に普及しつつある。
アフリカ、中南米など他地域にも広がりつつあり、国内
と韓国・中国でも応用が進んでいる。一方、こうした参
的で、多領域の職場環境要因を観察項目として列挙
する調査票を設計した。
ベトナムの基本職業健康サービス(BOHS)のための
ワイズ方式ツールの開発プロジェクトに 2010~2012 年
に ILO コンサルタントとして参画した折に、「BOHS アク
ションガイド」を作成した。そのさい、BOHS 職員が中小
企業労使とともに利用できる職場環境調査票とアクショ
ンチェックリストを作成し、BOHS 普及に役立てた。
この新しい調査票とチェックリストをベトナムの労働省
と保健省合同による BOHS 研修で使用し、参加者の意
見を求めて、上記「ガイド」に加えて刊行した。
3.結果
加型職場環境改善を小規模職場にたいする安全保健
参加型改善ツール作成の手順に従い、ベトナム中小
支援サービスに取り入れてさらに普及させる動きが進
企業でワイズ方式を応用して改善された地元の実例を
行中である。とくに「基本職業健康サービス」(Basic
収集して、中小企業で実施可能な良好実践の範囲を
Occupational Health Services, BOHS)に参加型改善
確認した。図 2、3 に典型例を示した。これらの実践例
手法を組み入れる動きが最近の特徴になっている。
とベトナムにおけるワイズ研修結果から確かめられた
そこで、ベトナムにおける小事業場の職場改善を支
職場環境改善範囲を、次の 10 領域にまとめた。
③ 機器の安全
える基本職業健康サービスの支援ツールとして、観察
① 資材取扱い ② 作業台
による職場環境調査票を設計した。多重リスクにたい
④ 作業場環境 ⑤ 化学リスク ⑥ 福祉施設
する改善策提案を容易化することを目標にした。
⑦ 個人保護具 ⑧ 作業編成 ⑨ 緊急時手順
⑩ 安全保健マネジメント
2.方法
各領域に 3~6 の対応リスク項目を割り振り、36 項目か
中 小 企 業 に お け る参 加 型 職 場 を 行 う ワ イ ズ 方 式
(Work Improvement in Small Enterprises)の経験から、
らなる職場環境調査票を設計した(表 1)。
良好実践に着目しながら、低コスト改善策提案用のア
クションチェックリストを開発する手法を応用した。図 1
地元条件での多領域良好実践例を収集
よい事例・改善点を観察する領域を選定
(運搬、操作台、作業環境、休養、チームなど)
図 2.資材取扱いとワークステーションの良好実践例
領域ごとに安全・健康・生産性に影響しやす
い少数項目を選び、職場環境調査票とアク
ションチェックリストを併せ設計
職場巡視による観察のさい職場環境調査票
に記入する参照チェックポイントを編集
参加型研修に使用して有効性を確認
図 3.有害物、機械安全、作業場環境の良好実践例
図1.小事業場用の職場環境調査票の設計手順
-12-
人類働態学会 会報 第98号 2013年6月15日(暫定版)
表 2.調査票と併用の職場環境アクションチェックリスト項目
① 資材取扱い
⑥ 福祉施設
1.通路を区分する
25.飲料水・食事場所備える
2.多段棚・ラックを設ける 26.衛生的トイレ・洗い場
3.カート・可動ラック使う 27.快適な休息場を設ける
4.重量物にリフター使う
② 作業ステーション
⑦ 個人保護具
5.材料を届きやすい所に 28.保護具着用区域を明示
6.作業面を肘高に調節
29.保護区使用を訓練する
7.固定装置を用いる
30.高所作業で保護する
8.ラベル・標識を付ける
31.保護具を保守する
③ 機器の安全
⑧ 作業編成
9.防護装置を備える
32.困難な職務を改める
10.インターロックを使う 33.掲示・指示書を活用する
11.緊急操作具を明示する 34.短いミーティングもつ
12.安全な配線にする
35.休憩時間を確保する
④ 作業場環境
⑨ 緊急時手順
13.十分な照明を備える
36.十分な消火器を備える
14.高温・寒冷から保護する 37.救急キット備えて訓練
15.換気設備をよくする
38.医療施設と連携する
16.騒音源を隔離する
39.2つ以上の非常口設ける
17.振動を減らす
40.緊急時計画を確立する
18.放射線・電磁場から保護
表1.職場環境調査票のチェック項目と総括記入表
① 資材取扱い
⑥ 福祉施設
❑保管と運搬
❑飲料水と食事場所
❑資材の挙上
❑トイレ、洗面設備、更衣室
❑床・通路・階段・足場
❑休憩設備
② 作業ステーション
⑦ 個人保護具
❑作業姿勢
❑ヘルメット、手袋、靴、作業衣
❑反復操作
❑耳栓、眼鏡、呼吸保護具
❑手持ち工具
❑安全ベルト
③
機器の安全
⑧ 作業編成
❑ガードと安全装置
❑緊急停止操作
❑電気配線
④ 作業場環境
❑照明
❑温熱条件
❑空気質と換気
❑騒音・振動
❑放射線・赤紫外線・電磁場
⑤ 化学生物リスク
❑ラベルと安全データシート
❑化学物質取扱いと標識
❑有害物ばく露
❑粉じん
❑生物学的要因
❑発がん物質、アレルゲン
ポジティブな所見 1)
2)
3)
必要なアクション 1)
2)
3)
❑作業量
❑連絡とチーム作業
❑勤務時間、休憩
⑨ 緊急時手順
❑火災リスク、消火器
❑救急キットと研修
❑緊急時対ケア
❑非常口と標識
❑緊急時備えと計画
⑩ 安全保健マネジメント
❑ポリシーと責任分担
❑安全委員会と安全代表
❑安全保健レポート
⑤ 化学生物リスク
19.有害物にラベル付ける
20.有害物扱い手順を定める
21.溶剤源を隔離・排気する
22.粉じん源隔離・排気する
23.発がん・アレルギー源を坊護
24.生物リスクから保護
⑩ 安全保健マネジメント
41.事業場ポリシー立てる
42.安全衛生委員会定期に
43.安全保健レポート提出
この調査票の 36 項目について、観察結果から問題
となるか(すぐの改善を必要とするか)どうかの見分け
❑すぐ❑助言
❑すぐ❑助言
❑すぐ❑助言
方を簡明に解説する「チェックポイント集」を作成し、観
察に際して参照できるようにした。この観察に当たり参
調査票では、36 項目について、労使代表と支援サ
照する内容の例を表 2 に示した。
ービスチームが合同で現場観察により問題とすべき項
併用するアクションチェックリストには、調査票の 10
目を記入するようにした。その観察結果から良好所見
領域に関する低コスト改善策を、ベトナムの現状に見
と必要な改善点を 3~4 項目書き出すようにした。
合う 43 項目に整理してそれぞれのアクションを提案す
るかどぅかを記入するようにした(表 3)。このように、調
表 2.観察に当たり参照するチェックポイント集の内容例
1.資材取扱い
・保管棚が安全で届きやすくラベル付きか
保管と運搬
・運搬が安全で過大でない負担か
・台車、コンベア等が安全で、良く保守か
2.作業ステーション
反復操作
査票と提案式チェックリストを併用しやすくした。
これらのツールを BOHS に関する研修で用いた結果、
ベトナムの現状で中小企業の職場改善支援に用いる
ことができることを確かめた。BOHS アクションガイドとと
・反復操作が安全で過重・単調でないか
・材料・工具届きやすく過大負担でないか
もにウェブ上で活用できるようにする。
4.作業場環境
・窓が大きく、きれいか
・作業がしやすい照明か
・局所照明が必要か
・上肢距離で会話できない過大騒音か
騒音
・耳保護具を適切に着用しているか
5.化学生物リスク
ラベルとMSDS ・使用化学物質の種類と使用量は
・資料物質のリストとMSDSがあるか
・労働者がMSDSを利用できるか
溶剤と有害物 ・溶剤・腐食剤から保護されているか
・溶剤の影響を点検しているか
・保護具の使用が適切か
8.作業編成
コミュニケーショ ・管理者のコミュニケーションよく、ポ
ンとチーム作業 ジティブな連携が行われているか
・労働者の裁量度は適切か
・職務訓練、指示、チーム作業は適切か
・職務満足について調べる
照明
-13-
4.考察
ワイズ方式を応用して、良好実践を収集して観察に
よる職場環境調査票を改善アクションチェックリストと併
用できるように設計できた。基本職業健康サービスに
活用できることが確認できる。小事業場の参加型職場
環境改善に有効に活用していくことが期待される。
------------
<< 連絡先 >>
------------
小木和孝
公益財団法人労働科学研究所主管研究員
〒216-8501 川崎市宮前区菅生 2-8-14
電話 044-977-2121
FAX 044-977-7504
E-mail: k.kogi@isl.or.jp
人類働態学会 会報 第98号 2013年6月15日(暫定版)
1-5
文脈に基づく観察フレームワークの提案
○安井鯨太、山岡俊樹
和歌山大学システム工学研究科
1.はじめに
近年,国民の生活に対する価値観がモノの豊かさよ
りも心の豊かさへ移り変わってきている.そうしたニー
ズを満たすサービスを実現するためには,ユーザ個々
の特性やその文脈に応じたきめ細やかなサービスの
提供が求められ,エスノグラフィーや観察などはユー
ザ個々の特性や文脈を把握する方法のひとつである.
そうした観察調査をより効果的に行うため,個人と文
図1.ユーリアエンゲストロームによる活動理論図[1]
脈の関係を分析できる理論である活動理論を手がかり
に,フレームワークの構築を行った.
1-1.活動理論[1]とは
活動理論とは,「活動」を分析の単位とし,個人を取
り巻く社会やそこで用いられる道具を分析する理論で
ある.基本形となるものは「主体-道具-目標」の3つの
要素を三角形で結ぶことによって表され,それらの関
係を分析可能である.その後,ユーリアエンゲストロー
図2.提案する観察フレームワークのコンセプト
(1)思考のしやすさ
ムによって,「ルール」「コミュニティ」「分業」の3つの活
項目数や段階を3つごとに分類し,観察者をフレーム
動の背景にある要素を加え拡張された(図1).
活動理論のメリットは,非常にシンプルな図で多くの
ワークに当てはめることに必死になることなく,頭のな
情報を表現できるという点である.例えば,活動の構成
かで関係を思考しながら観察できることを心がけた.
要素は 6 つに分類されるが,線で結ぶことによって,15
(2)文脈の表現のしやすさ
の関係を考察可能である.さらに縦方向に項目が階層
文脈の表現を豊かにするためには,まず多くの語彙,
すなわち観察した現象を表す言葉のバリエーションが
的に整理されている.
必要である.そして,その上でお互いの言葉がネットワ
2.観察フレームワークの提案
ーク構造を築きやすい関係であることが望ましい.その
従来の観察フレームワークにおける問題点をふまえ
点で活動理論は 6 項目に 15 の関係を意味づけること
て,新しい観察フレームワークを提案する.
が可能であり,表現力は高い.さらに強化するために,
2-1.従来の観察フレームワークの問題点
活動理論における6項目(主体,道具,目標…)のそれぞ
エスノグラフィーや観察の問題点は,観察者の経験
れに活動の貢献度から3つ段階(第一世代,第二世代,
や知識に依存することが多いことである.それらを補助
第三世代)を設け,さらに時間軸(過去,現在,未来)の3つ
するための手法としてAEIOUやArtifact Analysis[2]な
の次元がそれぞれ掛け合わせることにより,54(6×3×
どのフレームワークやタスク分析が挙げられるが,文脈
3)通りの語彙を提供可能に拡張した.これにより,様々
を記述する自由度が低いため,状況の描写力に欠け
な文脈を豊かに表現可能と考えられる.
たり,単眼的な見方に陥ったりしまい,文脈の多様性
(3)複眼的な見方がしやすさ
が削ぎ落とされてしまうという問題がある.
複眼的な見方がしやすいについてであるが,特に
2-2.新しい観察フレームワークのコンセプト
活動への貢献度(第一世代,第二世代,第三世代)という
今回フレームワークを開発するにあたって,観察者に
軸を与えることによって,複眼的な見方が可能となる.
おける「思考のしやすさ,文脈の表現しやすさ,複眼的
ユーザ分類でなく,ユーザの活動への貢献度で分類
な見方のしやすさ」に留意した(図2).はじめに,新しい
している点が重要であり,同じユーザが3つの世代に
観察フレームワークの考え方を述べ,詳細な利用方法
含まれることもある.そのため,同じユーザを観察しても,
などは次の章で述べる.
3つの切り口から同時に観察することが可能である.
-14-
人類働態学会 会報 第98号 2013年6月15日(暫定版)
2-3.新しい観察フレームワークの概要
観察の手順は,対象把握,文脈把握,現状分析,改
善提案の4つから構成される.概要は図3に示した.ま
た,新しい観察フレームワークの開発に先立ち,活動
理論を拡張し,活動理論図の項目は対象に合わせて
変更可能とした.定義例は表1に示した.また,記述し
にくい部分は対象に合わせて省略可能とした.
(1)対象把握
まず,観察対象の特性を調査する.現在における活
動の対象を把握する.観察手がかりのテンプレート(表
2)を参考に,観察をしながら「主体,道具,目標」を書き
やすいものから順番に記述する.観察手がかりのテン
プレートの詳細は次の節で示した.
(2)文脈把握
現在において観察をしながら,「主体,道具,目標」
図3.観察フレームワークの概要
を観察のレンズとして,背景にある文脈を記述する「ル
ール,コミュニティ,分業」の3つを記述する.
(3)現状分析
現在における活動理論図の項目が埋まったところで,
それぞれの関係(線で結ばれた)についてどのような影
響関係があるか観察をしながら考察し,それに付随す
る情報があれば結びつける.
(4)改善提案
現在における活動理論図や痕跡やインタビューなど
を参考に,過去の活動を類推により記述し,未来にあ
るべき姿の活動を予測する.
表1.活動理論における項目の定義例
(1)活動の中心
主体
活動へ従事するユーザ
(Subject)
目標
主体の主な目的
(Object)
道具
主体が目的を達成するために
(Instruments)
媒介されるもの.
(2)活動の社会的背景
ルール
コミュニティにおける
(Rule)
制約条件
コミュニティ
主体が所属する集団
(Community)
分業
コミュニティにおける
(Division of labor )
それぞれの人の役割や目的
2-4.観察手がかりのテンプレートの概要
ここでの活動は,観察対象の目指すべき目標である.
表2.観察手がかりのテンプレート
活動を解き明かすこと自体が観察の目的であることも
活動の貢献度
ある.活動はそれぞれ複数の行為,行為は複数の操
作と階層関係になっている.
主体については,マズローの欲求5段階説を参考に
第一世代
主
体
分類を行った.第一世代の典型的ユーザは外的に満
たされたいというユーザで,主に大衆のユーザを対象
とする.第二世代の自己実現型ユーザは内的に満た
されたいというユーザであり,主に個々のユーザを対
象とする.第三世代のユーザは,自己実現型のユーザ
道
具
目
標
第二世代
典型的
ユーザ
自己実現型
ユーザ
消費型サービス
メイン
サービス
サポート
サービス
操作の実現
行為の実現
第三世代
活動貢献型
ユーザ
生産型
サービス
活動の実現
の中でも,周囲に利益を与えたり,活動全体を促進さ
せたりするユーザである.
表3.観察手がかりのテンプレートの目標の說明
道具については,消費型サービスと生産型サービス
の2種類に分類した.消費型サービスの中で,サービ
項目の説明
説明
活動の実現
観察対象の目指すべき目標
行為の実現
活動を実現させるための要素
操作の実現
行為を実現させるための要素
スの中核を示すものをメインサービス,それらの補助的
な役割を果たすものをサポートサービスとした.
観察手がかりのテンプレートに記述された抽象レベ
ルのキーワードを観察対象に合わせて具体レベルに
落として活用する.
-15-
人類働態学会 会報 第98号 2013年6月15日(暫定版)
3.観察フレームワークの活用方法
表4.観察手がかりのテンプレートを埋めた例
活動の貢献度
あるコーヒーショップを例に観察フレームワークの活
用方法を紹介する.対象把握,文脈把握,現状分析,
改善提案の4つを順番に紹介する.
第一世代
主
体
(1)対象把握
コーヒーショップの構成要素を把握する.ここで,観
察手がかりのテンプレートを参照しながら,イメージし
やすいキーワードを探す.ここで,主体から記述するこ
とにした.
主体を飲食店の文脈に合わせて解釈すると,第一
道
具
目
標
第二世代
第三世代
コーヒーを
楽しむ客
雰囲気を
楽しむ客
クチコミを
広げる客
コーヒー…
環境…
コーヒー勉
強会…
安くて美味
しいコーヒ
ーを嗜む
気持よい雰囲
気でコーヒー
を嗜む
潤いのある
社会で暮ら
したい
世代は最も典型的なユーザは「コーヒーを楽しむ客」,
第二世代は自己実現型ユーザということから「店内の
雰囲気を楽しむ客」,第三世代は活動貢献型ユーザと
いうことから「クチコミを広げる客」とおける.主体の世代
が上がるにつれてユーザが活動的であることが分かる.
その主体をベースにその目標は何であるか,それを
実現させるためにはどういった道具が必要かを記述し
たものが表4である.この時点ですべての項目を埋め
ることは難しいため,徐々に埋めていくことが求められ
る.
図 5.現在-第三世代における文脈把握
(2)文脈把握
観察対象を取り巻く文脈を把握する.表4の活動の
貢献度が第三世代のユーザに注目して,その文脈を
活動理論図によって「ルール,コミュニティ,分業」を書
るため,より深い洞察が可能と考えられる.
2)デメリット
・観察フォーマットが非常に書きづらい項目も多い.
き加えたのが図5である.
・簡易な観察では,手間が多い.
ここで,コミュニティとして,ただコーヒーを楽しむ客と
比べて,より生活にゆとりのあるユーザであることが推
測され,これを手がかりに観察によって事実を確かめ
てその項目を記述すると,観察結果の質を向上させる
5.まとめ
現状の観察フレームワークの問題点を克服するため,
活動理論を用いて観察フレームワークを開発した.活
用方法の例では,フレームワークに当てはめることによ
ことができる.
って,これまで見えて来なかった対象やその関係を見
(3)現状分析
出すことができ,新しい気付きをえることができた.
文脈把握によって完成した活動理論図を用いて,項
目が線で結ばれた関係を考察する.例えば,ルールと
して「会員になる必要がある」とあるが,これと目標との
観察フレームワークは観察対象によっては使いづら
いため,その利用範囲を広げられるよう,簡易版などを
作る必要などがあると考えられる.
関係を考察すると矛盾することが分かる.
(4)改善提案
参考文献
改善提案として,会員制を撤廃するなどの案が考え
られる.
[1]南條光章,ユーザビリティ ハンドブック,p380-381,
共立出版株式会社,2007
[2]B. Hanington and B. Martin, Universal Methods of
4.考察
観察フレームワークを使用に際して,そのメリットとデ
メリットをまとめ,利用範囲を考える
1)メリット
Design: 100 Ways to Research Complex Problems,
Develop Innovative Ideas, and Design Effective
Solutions,p10,14, Rockport Publishers, 2012
・観察をフレームに当てはめることによって,新しい観
------------
察の手がかりや,気付きをえることができた.
・項目が限られているため,観察に集中することができ
-16-
<< 連絡先 >>
------------
安井鯨太
和歌山大学 システム工学部 システム工学研究科
E-mail: s145051@wakayama-u.ac.jp
人類働態学会 会報 第98号 2013年6月15日(暫定版)
1-6
果樹栽培における高齢作業者の生活と健康
○竹内由利子 1)2)、松田文子 1)、吉川悦子 1)3)、池上徹 4)、酒井一博 1)
1)公益財団法人労働科学研究所, 2)川口短期大学, 3)東京有明医療大学, 4)ITI エルゴコンサルタンシー
1.はじめに
さがつらいとの意見が聞かれた。熱中症にならないよう、
農業労働における高齢化は深刻な課題であり、加齢
による体力低下が転落や転倒による怪我の発生をもた
水分摂取をまめに行うなど、健康管理面でのケアをし
ている様子もうかがえた。
らすリスクが指摘されている。昨今では兼業農家が中
コンテナ運搬についは、5 段 6 段の高さまで積むの
心で、農業以外の仕事を定年退職後に本格的に家業
がきついことや、貯蔵庫での運搬が厳しいこと、高齢化
を継ぎ、専業化する人も多く 70 代、80 代の従事者も珍
にともない重いものの運搬が全般的にきつくなってき
しくない。果樹栽培においては、施肥や草刈り,防虫
たこととの意見が聞かれた。
病害防除の消毒,樹上(または脚立使用による)摘果
②健康維持のための工夫
作業,収穫作物の運搬といった一連の作業の中、特
一般的なサラリーマンの定年退職年齢を超えても、
に中山間地域では、圃場およびその周辺が傾斜地で
現役で仕事を続けているということを受けて、健康を
あることから、転倒・転落事故発生のリスクは潜在的要
維持する工夫を聞いた。
因として常に存在している。
自然の中で風景を楽しむことが長生きの秘訣という
本研究は、高齢者の農作業の活動内容の実態を明
意見や、睡眠時間をきちんと取り、規則正しい生活を
らかにし、健康支援マニュアル作成のための基礎資料
し、日々の生活リズムを整えることが大事であるという
を作成することである。本報告では、果樹(みかん)栽
意見がうかがえた。また、食べ過ぎない、飲み過ぎな
培に従事する高齢者の実態を、聞き取りおよび活動量、
い、翌日に疲れを残さない、無理をした翌々日に体に
直接観察によって調査した結果を報告する。
こたえるので自分の疲れを把握しておくなど、自分の
体調と向き合いながら、仕事に取り組んでいる姿勢が
2.方法および結果
首都圏近郊の中山間地域におけるみかん栽培農家
の協力の下、圃場が平坦地,傾斜地,急傾斜地に存
する農家をそれぞれ抽出し、そこで作業に従事する高
うかがえた。実際に、規則正しい生活を送っている人
が多かった。
③現在の仕事の方法における課題
実際に、仕事の中で困っていることや、解決したい
齢者に対して次のように調査を行った。
と考えていることを聞いた。まず、挙げられたのが「荷
2-1.ヒアリング調査
果樹栽培者の 1 年を通じて仕事の流れ、負担軽減
策、ケガ防止策、健康面での課題、取り組みなどを把
握した。
扱い」に関することであった。貯蔵庫、木と木の間など、
狭い場所が多く、道具の導入が困難との意見が聞か
れた。
スプリンクラーは設置していても、散布する水や消
1)調査期間:2012 年 10 月 11 日(木)13:30~15:00
2)対象:神奈川県内で、みかんを栽培する方(みかん
のみではなく、他の作物も作っている方も含む)7 名で、
A~C をグループ1、D~G をグループ2とし、グループ
インタビュー形式で実施した。
毒液の量にムラがあり、手作業が欠かせない点が挙
げられた。
霜や雨(葉についた水滴が敵)、雪対策についても、
何か工夫ができないかなどの意見が聞かれた。
1 年を通じてもっとも繁忙な収穫時期における収穫
3)結果
作業に関しては、手でやらなければしょうがない、機
①大変な作業
大変な作業として、「摘果」「消毒」「コンテナ運搬」が
挙げられた。摘果作業では、男性は木の上部、女性は
木の下部を担当することが多いとのことであった。11 月
ごろから本格化するため腰痛がきつく、精神的にも、身
体的にも疲れる、しんどい作業という意見が多かった。
次に、消毒作業については、山地だとホースが長く
扱いが大変であることや、夏場にも行う農家からは、暑
-17-
械化は大変難しいという意見が得られた。特に、貯蔵
みかんについては、傷をつけない取り方にコツが要り、
慎重に手作業で収穫を行っている。他の地域の事例
を参考に、この作業での工夫が進むと、負担は相当
に軽減されると考える。
夏から秋にかけての剪定の際には品質の良いノコ
ギリやハサミが必要との意見があった。こうした道具は、
主に農協主催の展示会で、紹介されるものを購入す
人類働態学会 会報 第98号 2013年6月15日(暫定版)
ることが多いとのことであった。
3)結果
みかんの価格(収益)は低く、対象者らの親世代と
これらの記録から、作業の種類と内容を分類し、作
比べると、みかんのみを栽培して、必要な収入を得る
業を支える道具、作業における良い工夫、身体的負荷
ことは非常に困難との意見が大半を占めた。売る算段
および危険度の高い安全作業リスクの洗い出しを行っ
をつけ、収入に見合うような仕組みを作ることが急務
た。3 名それぞれの結果を写真付き一覧表にまとめる
であると認識している人も多かった。
ことにより、良好事例や改善点、課題等が明確になっ
2-2.活動量調査
た。
装着型 3 次元加速度計を用いて果樹栽培者の日常
の身体活動量および生活時間を定量的に測定し、そ
の実態を把握すること、作業環境や条件の違いによる
身体活動量の差異ついて比較した。
ヒアリングから把握された調査対象者の属性、および
その作業場所の特性については、同じ農業作物を栽
培しているのにもかかわらず、圃場の環境(特に傾斜
1)調査期間:2012 年 8 月 10 日(金)から 9 月 14 日(金)
の程度)や規模,方針が三者三様に異なっており、多
の 36 日間(連続)
2)対象:ヒアリング調査で参加協力かつ本調査に同意
した果樹栽培作業者 3 名とした。対象者には、調査前
に調査の目的、プライバシーの保護、調査に参加する
ことのメリット、デメリット、危険性などについて説明を行
い、同意書への署名をもって調査協力への同意を得
た。活動量計装着期間中は、補助的な記録として、就
寝時刻と起床時刻ならびにその日に行った主要な作
様な運営が可能な作物であることが特徴と言える。し
かし、このことは逆に、運営上で何らかの変更が必要
な場合、すべての作業者に対して一律の方策では対
応できない事例が生じる可能性を示唆する。
次に、最盛期に多く見られる摘果作業から、作業観
察により抽出されたリスクの高い場面について述べる。
摘果作業時の姿勢は、通常立位で無理なく手の届く
範囲(地上 1.5m~2m)では最大で肩高より 30cm程度
業について、日記形式に記載してもらった。
の挙上、他は直接樹上に上り、または脚立上で前傾姿
3)結果
勢(20~30 度)を取り、枝に寄りかかったり足をかけな
①対象の生活の実態
3 名の測定期間中の生活実態(作業日、休日、その
他、平均就寝時刻、平均起床時刻)を表 1 に示す。な
お、作業日の具体的な内容としては、摘果作業、草刈
作業、消毒作業であった。
がら、腕を肩、時には頭の上まで拳上する場合もあっ
た。 収穫したみかんを入れるカゴは、脚立の中段また
は枝にフックで吊るされ、満載になると、そのカゴを片
手で持ちながら降段し、さらに大きな容器へ移し替え
ていた。この作業のリスク要素としては、高所での一人
表 1 対象者の測定期間中の生活実態
対象者
3.考察
A さん
B さん
D さん
作業日
22 日
26 日
32 日
非作業日
10 日
10 日
3日
その他(会合、研修)
4日
0日
1日
平均起床時刻
6:00
5:41
6:36
平均就寝時刻
21:42
20:36
21:53
作業である点、拳上作業が続く点、カゴ(満載で 8kg)を
片手に持ちながら降段する点、脚立を立てる場所が限
定され(特に傾斜地)足場が悪い点などが挙げられる。
斜面における重量物の取り扱いでは、バランスを取る
ために左右動揺の頻度が多いことから、一度、滑りが
発生すると転倒につながる可能性が高いことが伺えた。
また、高所作業での昇降では、逆に重量物が姿勢動
2-3.作業観察調査(タイムスタディ)
揺を抑えるはたらきをしていることから、荷重負荷が突
果樹栽培者の 1 日の作業内容、作業姿勢、道具扱
いなどを目視によって観察した。
然消失した場合(持ち手がはずれる等)、一気にバラン
スを崩し、転落につながる可能性がある。
1)調査期間:2012 年 12 月 10 日(月)および 12 月 14
日(金) 9:30~16:30
対策としては、滑りにくい適切な靴の選定、圃場の整
備(伐採枝や葉の除去)、堅固な運搬具の確保とその
2)対象: ヒアリング調査を実施した農家のうち、承諾を
得られた高齢の対象者 3 名(A さん、B さん、D さん)に
ついて、みかんの収穫繁忙期にタイムスタディを実施
した。タイムスタディは 30 秒スナップリーディング法と連
続行動観察記録を併用して行った。観察項目は、作
業姿勢、捻り、重量、物品、作業場所、作業内容、その
他記録すべき状況などを記録した。
-18-
管理、補助具の使用などが考えられる。
------------
<< 連絡先 >>
竹内由利子
公益財団法人労働科学研究所
〒216-8501 川崎市宮前区菅生 2-8-14
電話 044-977-2121(代)
FAX 044-976-8659(研究部)
E-mail: y.takeuchi@isl.or.jp
------------
人類働態学会 会報 第98号 2013年6月15日(暫定版)
1-7
マーカーレス3次元動作計測システムの開発
○石本明生 1)、本多信夫 1)、足立和隆 2)
1)(株)HALデザイン研究所, 2)筑波大学
1.はじめに
標群である。この座標点群に近似する標準人体のモ
今日、主流となっているヒトの3次元動作計測システ
デルを選択する。その後、動作にモデルを追随させる
ムは、ヒトの身体に赤外線反射素材の球をマーカーと
のであるが、個人差により関節位置が大きく変わる場
して装着する方法で、取り扱いの簡便さ等の利点があ
合、標準モデルから四肢の長さなどを変更することで
る反面、かなり高価でマーカーの貼り付けに解剖学的
実際の被測定者に最適な個別モデルを生成し直す。
知識と経験と手間を必要とし、マーカーが必ずしも関
データ時系列を計測開始点に戻し、最適化された人
節位置を見ていないという欠点がある。
体モデルで座標点群を追随させ、その関節中心点を3
一般的に複数のカメラを使用した3次元動作計測で
次元座標として記録するようにする。こうして推測され
のキャリブレーションは、計測エリア内で、複数の基準
た関節中心点の位置は、ねじれなどの関節方向の情
点を固定および移動させて行う。これに対して、本報
報はないが、実際に計測を行った被験者の関節中心
では、より簡単なキャリブレーション法とマーカーを用
位置に近似している。
いない3次元動作計測(Anakin)システムをご紹介す
る。
2m
2.基本計測システムの構築
2-1.KinectTMとは
Kinect TM は、Microsoft社が製造、販売しているテレ
ビゲーム機Xbox360 用の動作入力用装置である。この
装置には、被写体までの距離を計測できる赤外線カメ
ラ、通常のビデオカメラが内蔵されており同社の
WindowsをOSとするパソコンでも使用することができ
る。
2-2.キャリブレーション方法
B面
2m
A面
2m
図1 計測エリア及びキャリブレーションにおける球の
移動状況と精度検定用ブロックをおいた床面(A面)、
床から 1.2m の面(B面)及び 1.7m(C面 図には示
されていない)を示す
本システムでは、対象を3次元で計測するため、3 台
このモデルから関節位置を推定し、さらに、計測中
の Kinect を、図1に示す計測エリアに向かって設置す
る。次に、直径が既知の球(直径 200mm の発泡スチロ
に、被測定者に合わせて修正する。
ール球)を計測エリア内で移動させることによりキャリブ
2-4.計測結果
レーション法を行う 1)。直径 200mm の球は 3 台のカメ
キャリブレーションの後、高さ100mm、横200mm、
ラから見て、共通して 200mm の円に見えることを利用
縦300mmの検定ブロックを床面(A面)の9ヶ所、1.2
して、各カメラの座標軸を共通化することができる。具
m(B面)の9ヶ所、1.7m(C面)の9ヶ所に移動させな
体的には図1に示すように、計測エリア内の 9 点を通過
がら置き、AnakinSystem によってそれぞれの場所にお
するように球を移動して行う。
ける検定ブロックの寸法を計測し、精度検定を行った。
2-3.マーカーレス動作計測
その結果を表1に示す。
本計測システムで得られたデータの精度が確認され
れば、それと人体の骨格モデルを併用することによっ
て、人にマーカーを付けなくても動作解析が可能とな
る。以下その根拠について述べる。
計測により得られたデータは 3 次元座標内での表面
座標群である。人体が映り込んでいない状態での背景
としての座標群を動作計測時の座標群から除外して得
られた座標群が計測しようとしている対象物の表面座
-19-
表1 AnakinSystem による検定ブロックの各辺の計算
値と実測値の差の絶対値を実測値で除して求めた
誤差E
計測面
床からの高さ(cm)
平均
偏差
最大
最小
A面
B面
C面
全体
5
120
170
0.0094568 0.0103025
0.0085 0.0094198
0.007442 0.0073255 0.0055595 0.0067848
0.026
0.027
0.027
0.027
0
0.0005
0.0015
0
人類働態学会 会報 第98号 2013年6月15日(暫定版)
靴)の歩行を行わせ、歩行速度とストライド長を、
2-5.考察
AnakinSystem により計測した数値と、従来のビデオカ
本研究で行ったキャリブレーション法は、球をどの方
向から見ても一定の直径を持つ円としてとらえることを
メラ(60 コマ)で撮影した数値とを比較した。
利用しており、先行研究では見られないユニークなも
3-4.歩行パラメーターの計測と検証結果
AnakinSystem による計測値を縦軸に、従来法による
のである。立体物の計測精度に関して、検定用ブロッ
クを用いた計測精度は、平均で 1%以下であることから、
計測値を横軸にプロットしたものを図2に示す。歩調は、
基本計測システムが、3 次元計測に実用に十分耐えう
歩行速度をストライド長で除して求めた。AnakinSystem
ると考えられる。また、マーカーレス動作計測の可能性
及び従来法での歩行パラメーター関する相関係数を
については次章の歩行計測事例で紹介する。
表2に示す。
3-5.考察
3.歩行計測への応用
AnakinSystem による歩行速度とストライド長の計測値
3-1.歩行パラメーター
歩行パラメーターとして、歩行速度、歩幅(ストライド
長)を取り上げる。これらは、人間工学においても基礎
的なデータであり、他にも人類学における民族差や健
康科学における加齢変化を調べるためにも利用される。
先行研究における歩行パラメーターの計測では、路上
を歩行する人々の歩行速度と歩調を路面上に一定間
隔で描いた線とストップウォッチを使用し、その間の通
は、図2からも分かるように、各点が傾き 1 の直線上に
きれいに載っていることから、従来法で計測した値と殆
ど同じ値になった。さらに、表2に示したように、歩行パ
ラメーターにおける両者の相関係数はかなり1に近く、
本研究で開発したマーカーレス 3 次元動作計測システ
ムが、歩行パラメーターの計測において十分実用に耐
えるものであるということがいえる。
過時間から歩行速度を、また特定の歩数に要した時
間から歩調を実地計測する。また、歩行をビデオ撮影
したものをコマ送り再生するなどしてこれらを計測する
方法が利用されてきた。一方では、赤外線マーカーと
複数台カメラによる3次元動作計測システム(Viconな
ど)を利用することもある。しかし、いずれの方法も手間
がかかる。本研究では、対象者の歩行パラメーター計
測を、費用をあまりかけず、機器の設置が簡単で、自
図2 歩行速度とストライド長の計測値
(AnakinSystem 縦軸、ビデオカメラ横軸)
動的に行うことができることを目指す。
3-2.着地点の検出
そのために、まず着地点を自動的に検出する方法が
必要である。以下それについて述べる。
表2 AnakinSystemとビデオカメラにおける計測値の
相関係数
まず、左右踝の中心座標について一連の歩行動作
項目
歩行速度
ストライド長
歩調
計測内で最低垂直座標をそれぞれの求める。着地時
に常に最低の高さに関節中心が来ない場合もあり得る
ので、ここで最低垂直座標の範囲を推定し、その範囲
相関係数
0.999878
0.999784
0.998553
内であれば最下点にあるとする。次に、時系列に沿っ
て左右の踝関節中心座標の瞬間移動速度を求める。
関節点の移動速度が0となっているということは、その
時点でその関節点が停止しているということになる。但
し、速度が0であっても、瞬間的に停止しているだけの
可能性もあるため、速度0の状態が一定時間続くという
条件も加える。こうして検出された関節停止座標の垂
直位置が、最低点と予測できる範囲内となった時刻を
着地時刻とし、その時刻での座標を着地点とした。
3-3.歩行実験の被験者および方法
男性 3 名について、合計 48 通り(歩行速度、姿勢、
-20-
4.参考文献
1)石本明生、本多信夫、足立和隆(2012):カメラのキャ
リブレーション方法及びカメラのキャリブレーション装
置
------------
<< 連絡先 >>
------------
石本明生
〒305-0001 茨城県つくば市栗原 3453-4
電話 029-850-6446
FAX 029-857-6436
E-mail: ishimoto@hal-design.com
人類働態学会 会報 第98号 2013年6月15日(暫定版)
2-1
首都圏における自転車利用の実態把握Ⅰ
-自転車利用時の行動特性と意識に関する質問紙調査からのアプローチ-
○川田裕次郎 1)3)、藤井啓嗣 2)、中山貴太 3)、芳地泰幸 2)、水野基樹 2)3)
1)東京未来大学,
2)順天堂大学大学院 3)順天堂大学
2-3.調査手続
1.はじめに
自転車は、環境に優しい交通の手段として注目され、
全国的に利用環境の整備が進められている。例えば、
国土交通省では、「安全で快適な自転車利用環境創
出ガイドライン」を作成し、より良い環境づくりに努めて
いる(国土交通省, 2012)。しかしながら、その一方で、
調査手続は、千葉県の主要都市である千葉市(市街
地)と八千代市(住宅地)を選定し、千葉駅周辺と八千
代市の公園を調査地に設定し、アンケート調査を実施
した。対象者には、調査員よりアンケートの主旨を説明
し、同意の得られた場合にのみ回答を求めた。
自転車の普及に伴って、自転車が関与する交通事故
の頻発といった深刻な問題を引き起こしている(警視
3.結果と考察
庁, 2013)。そのため、今後、私たちが自転車との共生
3-1.対象者の属性
を実現していくためには、自転車の普及を促進するた
本研究における対象者の個人属性は、表 1 に示す
めの施策を提案することと同時に、未然に自転車が関
通りであった。
与する交通事故防止をするための施策の提案が必要
表1.対象者の属性
になってくると考えられる。
そこで、本研究では、第一歩として、近年増加してき
ている自転車利用者の自転車利用の実態を把握する
ことを目的に調査を実施した。具体的には、まず自転
車利用時の行動特性と意識はどのような種類に分類
(構造化)できるのかを明確にしていく。次に、個人の
属性が分類された自転車利用時の行動特性や意識と
どのような関連性を示すのかを明らかにしていく。これ
によって、どのような特徴(属性)を持つ者がどのような
自転車利用時の行動特性と意識を持ち安いのかを明
らかにしていく。これらの知見から、交通事故を防ぐた
めの視点を見いだしていくことが最終的なねらいであ
る。
2.方法
2-1.対象者
首都圏の一つ千葉県に在住している自転車利用者
を対象者とした。有効回答数は、210 名であった。内訳
は、男性 104 名(49.4%)、女性 106 名(50.5%)であっ
た。平均年齢は、33.6 歳(±18.5)年齢範囲は、10-76
歳であった。
性別
男性
女性
年齢( 歳)
10-19歳
20-29歳
30-39歳
40-49歳
50-59歳
60-69歳
70-79歳
職業
主婦
会社員
自営業
学生
その他
運転免許の有無
免許有
免許なし
合計
n
%
104
106
49.5
50.5
58
51
36
24
11
21
9
27.6
24.3
17.1
11.4
5.2
10.0
4.3
46
64
5
82
13
21.9
30.5
2.4
39.0
6.2
130
80
210
61.9
38.1
100
3-2.自転車利用時の行動特性と意識の構造化
自転車利用時の行動特性と意識に関する項目に対
して、因子分析(主因子法・プロマックス回転)を実施し
たところ、4 因子構造が確認された(表 2 参照)。項目の
内容を考慮して、第 1 因子「歩行者への配慮」、第 2 因
子「危険運転」、第 3 因子「交通ルールの遵守」第 4 因
2-2.調査内容
調査内容は、「性別」、「年齢」、「職業」、「運転免許
の有無」、「自転車の利用状況(頻度・移動時間・移動
距離)」、「自転車の利用理由」、「自転車利用時の行
動特性と意識」に関する質問項目であった。
-21-
子「他者過信」と命名した。この結果から、自転車利用
時の行動特性と意識には少なくとも 4 つの因子が存在
することが明らかとなった。
人類働態学会 会報 第98号 2013年6月15日(暫定版)
表 2.自転車利用時の行動特性と意識に関する因子分析結果(主因子法・プロマックス回転)
因子
歩行者への
配慮
危険運転
交通ルールの
遵守
他者過信
18
15
17
22
1
2
あなたは、歩行者の動きを十分に把握している
あなたは、歩行者と十分な間隔を確保している
あなたは、歩行者を追い抜く時に十分に気をつけている
あなたは、歩行者に道を譲る(十分に配慮している)
あなたは、自転車を運転中に音楽(携帯プレイヤーなど)を聴くことがある
あなたは、自転車を運転中に携帯を操作することがある
4
3
11
8
10
7
25
24
あなたは、雨の日に傘を差しながら自転車に乗ることがある
あなたは、お酒を飲んで自転車に乗ることがある
あなたは、夜間にライトをつけて運転している
あなたは、道を横断する時に交通ルールを守っている
あなたは、自転車に反射板をつけている
あなたは、左側通行を守っている
あなたは、「歩行者が私を避けてくれるだろう」と思っている
あなたは、「車が私を避けてくれるだろうと」思っている
3-3.対象者の属性と自転車利用時の行動特性と
意識との関連性
次に、対象者の属性と先に明らかにされた 4 つの因
子得点との関連性を検討した。
まず、性別との関連を検討するため、4 つの因子得
点を男女で比較した(t検定)。その結果、「危険運転」
においてのみ性差が確認され、男性の方が女性よりも
高い得点を示した(p < .01)。そのため、男性の方が女
性よりも危険運転を行っている可能性が示された。
F1
.843
.703
.699
.663
.032
F2
.036
-.044
.009
.028
.663
F3
-.100
.112
.089
-.024
-.030
F4
-.110
.011
.094
-.054
.110
-.030
.058
.098
.653
.632
.570
.008
-.062
.189
-.112
.064
.088
-.055
.051
.660
.557
.493
.449
-.061
.099
-.039
-.060
-.069
.095
-.106
.150
.854
-.158
-.045
.068
.614
.083
-.035
-.034
-.093
.043
4.まとめ
自転車は環境に優しい交通手段としての役割が期
待される一方で、自転車の交通事故が深刻な問題と
なっている。そこで本研究は、自転車の利用者におけ
る利用時の行動特性と意識に関する基礎的なデータ
を得ること、対象者の属性と自転車利用時の行動特性
と意識の関連性を検討することを試みた。得られた知
見を以下に整理した。
1.自転車利用時の行動特性と意識には、少なくとも 4
次に、年齢との関連を検討するため、年齢と 4 つの因
子得点の相関分析を行った。その結果、「歩行者への
配慮」(r = .21, p < .01)「危険運転」(r = -.20, p < .01)、
「他者過信」(r = -.20, p < .01)において統計的に有意
な関連性が確認された。これらの結果から、年齢が高
いほど歩行者への配慮を行っていること、年齢が低く
なるほど危険運転を行う可能性があること、他者を過
信する可能性があることが明らかとなった。
次に、職業との関連性を検討するために、職業(サン
プル数を考慮して「主婦」「会社員」「学生」のみ)を独
立変数、4 つの因子を従属変数に設定して分散分析
を行った。その結果、「歩行者への配慮」では、「学生」
の方が「主婦」よりも低い得点を示した(p < .01)。「危
険運転」では、「会社員」と「学生」が「主婦」よりも低い
得点を示した(p < .01)。「他者過信」では、「学生」の
方が「主婦」よりも高い得点を示した(p < .01)。この結
果から、学生の歩行者への配慮の低さ、危険運転の
可能性、他者を過信する可能性が明らかとなった。
最後に、運転免許の有無との関連性を検討するため、
免許の有無別に 4 つの因子得点の比較を行った(t検
定)。その結果、4 つの得点に統計的に有意な差は確
認されなかった。
-22-
つの因子(種類)が存在すること。
2.自転車利用時の行動特性と意識は、男女別に見る
と、男性の方が女性よりも不良であること。
3.自転車利用時の行動特性と意識は、年齢との関連
性を見ると、年齢の低い者ほど不良であること。
4.自転車利用時の行動特性と意識は、職業別に見る
と、「学生」が「主婦」よりも不良であること。
5.自転車利用時の行動特性と意識は、運転免許の有
無別に見ると、関連性が示されないこと。
【謝辞】
本研究は、文科省科学研究費助成事業(「安全な自
転車利用促進を目指す循環型社会の新しい交通シス
テム構築のための基盤研究」課題番号:30157119)の
支援を受けたものである。
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<< 連絡先 >>
------------
川田裕次郎
東京未来大学 こども心理学部
〒123-0023 東京都足立区千住曙町 34-12
電話 03-5813-2525 (内線 1401)
FAX 03-5813-2529 (学部事務)
E-mail: kawata-yujiro@tokyomirai.ac.jp
人類働態学会 会報 第98号 2013年6月15日(暫定版)
2-2
首都圏における自転車利用の実態把握Ⅱ
-事故およびヒヤリ・ハット体験レポートからのアプローチ-
○芳地泰幸 1)、藤井啓嗣 1)、中山貴太 2)、川田裕次郎 3)、水野基樹 1)2)
1)順天堂大学大学院, 2)順天堂大学, 3)東京未来大学
3.結果
1.はじめに
近年、人々のライフスタイルや価値観の変化に伴い
まず、事故およびヒヤリ・ハット体験の有無について
自転車利用機会の多様化とともに、自転車事故の増
集 計 を お こ な っ た 。 そ の 結 果 、 218 名 中 の 74 名
加が報告されている(警視庁 HP「自転車事故関連デ
(33.9%)が事故またはヒヤリ・ハット体験を経験してい
ータ」、千葉県警 HP「自転車の交通安全」)。
ることが明らかになった。次に、利用頻度と体験の有無
そこで本研究では自転車事故原因の類型化と削減
を検討するためにカイ二乗検定をおこなった。その結
に向けた方策の提言を目指し、千葉県における自転
果、事故またはヒヤリ・ハット体験と利用頻度との間に
車利用の実態を把握することを目的とした。具体的に
関連は認められなかった(表 2)。
は、自転車利用時における事故およびヒヤリ・ハット体
表 2. 事故またはヒヤリ・ハット体験と利用頻度との関連(χ2検定)
体験の有無
験に着目し、自転車利用の実態把握に努めた。
有り
無し
2.方法
合計
2-1.対象
n
%
n
%
n
%
週1日
11
14.9%
32
22.2%
43
19.7%
週2日
12
16.2%
29
20.1%
41
18.8%
週3日
8
10.8%
23
16.0%
31
14.2%
週4日
7
9.5%
13
9.0%
20
9.2%
週5日
14
18.9%
28
19.4%
42
19.3%
週6日
10
13.5%
9
6.3%
19
8.7%
毎日
12
16.2%
10
6.9%
22
10.1%
合計
74
100%
144
100%
218
100%
χ2
p
9.80
0.133
自転車を週 1 回以上利用している千葉県在住の
さらに、事故およびヒヤリ・ハット体験レポートから得ら
218 名(男性 111 名、女性 107 名)を本研究のサンプル
れた記述(データ)を分類することで、その傾向の把握
として設定した。尚、対象の平均年齢は 33.96 歳(SD
に努めた。その結果、事故またはヒヤリ・ハット体験を
=18.70, Range=8-76 歳)であった。また、対象者の職
経験する場所として最も多いのは「交差点(35.0%)」、
業および利用頻度の内訳は以下の通りであった(表
次いで「一般道路(31.0%)」であった。さらに、相手と
1)。
して最も多いのは対「車(58.1%)」であり、次いで対
表1. 対象者の職業および利用頻度の内訳
職業
主婦
会社員
自営業
学生
その他
合計
n
%
n
%
n
%
n
%
n
%
n
%
週1日 週2日 週3日 週4日 週5日 週6日
毎日
合計
15
28.3%
21
33.9%
0
0.0%
4
4.9%
3
18.8%
43
19.7%
8
15.1%
5
8.1%
0
0.0%
9
11.0%
0
0.0%
22
10.1%
53
100%
62
100%
5
100%
82
100%
16
100%
218
100%
7
13.2%
8
12.9%
2
40.0%
19
23.2%
5
31.3%
41
18.8%
8
15.1%
1
1.6%
1
20.0%
19
23.2%
2
12.5%
31
14.2%
6
11.3%
4
6.5%
1
20.0%
8
9.8%
1
6.3%
20
9.2%
3
5.7%
17
27.4%
0
0.0%
17
20.7%
5
31.3%
42
19.3%
6
11.3%
6
9.7%
1
20.0%
6
7.3%
0
0.0%
19
8.7%
「自転車(20.3%)」であった。また、それらの要因(どの
ように、なぜ)として最も多いのは「飛び出し・一時不停
止」、「不注意・注意の散漫」、「無理な運転(不安全行
動)」であった。
4.今後の展開
今後は、事故およびヒヤリ・ハット体験の把握にとどま
ることなく、運転者の個人特性(心理的側面)と運転行
2-2.調査方法
動との関連を検証することで、安全な自転車利用の促
千葉県千葉市(市街地)の千葉駅周辺および、八千
進と新しい交通システムの構築に向け、真に効果的な
代市(住宅地)の公園を調査地として設定し、質問紙を
方策の提言に貢献していきたい。
用いた街頭調査をおこなった。
【謝辞】
2-3.調査日時
2013 年 3 月 26 日(12:00~16:00)および 4 月 7 日
(10:00~14:00)にそれぞれ千葉市、八千代市で街頭
調査をおこなった。
本研究は文科省科学研究費助成事業(「安全な自
転車利用促進を目指す循環型社会の新しい交通シス
テム構築のための基盤研究」課題番号:30157119)の
補助を受けたものです。ここに謝意を表します。
2-4.調査項目
性別や年齢等の個人属性を問う項目と、これまでの
自転車利用時の事故およびヒヤリ・ハット体験を問う項
目(事故およびヒヤリ・ハット体験レポート)を採用した。
「事故およびヒヤリ・ハット体験レポート」は体験の有無
と、その体験を5W1H で記述させた。
-23-
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<< 連絡先 >>
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芳地泰幸(Yasuyuki HOCHI)
順天堂大学大学院スポーツ健康科学研究科博士後期課程
〒270-1695 千葉県印西市平賀学園台 1-1
電話 0476-98-1001㈹ FAX 0476-98-1011㈹
E-mail: y_hochi@rb4.so-net.ne.jp
人類働態学会 会報 第98号 2013年6月15日(暫定版)
2-3
日本の道路環境への適合を考慮したトレーラ付き自転車のデザイン開発
○前川正実 1)、山岡俊樹 2)
1)株式会社操作デザイン設計,
2)和歌山大学
決や改善が図れる可能性があると考えられた.
1.はじめに
自転車の積極的な利用は低炭素社会や循環型社会
の形成に役立つ.自転車利用を促進するためには,
自転車で走行しやすい道路・駐輪場の整備,利用者
のマナー向上,安全意識の喚起などに加え,日本の
道路や社会の環境に合った自転車をデザインすること
が方策として考えられる.
2-1.既往調査のレビュー
自転車を利用する理由についての調査[1]では,自
転車の利用目的として買物が 85.2 %と大きな比重で
ある.また,天候が良く荷物が無ければ5km 以上の距
離を自転車で走れると考える人が半数以上ある[2].し
かし日本における自動車での移動全体の 42%は5km
未満の距離とのデータがある[3].また,名古屋市の小
2.調査
売店の来客者に対するアンケート調査では,自動車で
2-1.自転車の利用状況の観察
店を訪れる客の 78.5%は 6.4km 未満の距離を移動し
まず自転車の利用実態について把握するため,
ているに過ぎないことが示されている[4].一方で,自
2012 年5月下旬の3日間に分けて,京都市内の7箇所
転車を利用しない理由として「大きな荷物を運べなくな
で観察による調査を実施した.ユーザを予め選ばず,
る」が 11%を占めるとの調査結果がある[5].これは自転
道路を往来する自転車ユーザの自然な行動と状況に
車を持っていないとの回答を除けば,距離が遠すぎる
ついて非交流的に観察した.
との回答(30%)に次ぐ割合である.大きなサイズや重量
取得した定性的データは3種類に分類された.一つ
の重い商品を購入して帰る際に自転車を利用しにくい
めは傘を差しながらや携帯電話をしながらの乗車など
ことは観察調査でも把握できたため,こうした点を改善
ユーザの安全意識に関する事象である.二つめは狭
した自転車をデザインできれば望ましいと考えられた.
い車道など道路や駐輪場などのインフラ設計に関する
事象である.三つめは買物帰りやクラブ活動で使うテ
ニスラケットなどの大きな荷物を積載しての走行や駐
輪に関する事象である.この中で,特に三つめに挙げ
た内容(図1参照)に対しては自転車デザインによる解
3.デザインの可視化
ユーザの価値感の推測をまず行なった.事象が生じ
た理由や事象間の関係を把握することで,統合的に問
題解決するコンセプトを構築するための材料となる.ユ
ーザの価値観,観察事象,既往調査の結果から,「走
って楽しく買物に便利な自転車」をコンセプトとした.
ユーザを主婦と想定し,利用場面・目的を「スーパー
へ自転車で行き,10kgのお米と他の食品を買ってく
る」として,自転車利用の活動とその際の状況をプロセ
ス状況テーブル (ProST: Process State Table) [6]を用
いて記述した.自転車利用の想定状況を精緻化する
ことを通じて要求事項を導出した(表1参照).
次に,導出された要求事項を充足する手段のアイデ
図1 観察された事象例
表1 自転車利用のシーケンスと状況および要求事項の ProST での記述例
-24-
人類働態学会 会報 第98号 2013年6月15日(暫定版)
図2 トレーラ付き自転車のデザイン
図3 試作車 (トレーラ部へ 30kg 荷物を積載した状態)
アを考案した.手段のアイデアを具体的なデザインに
ことが定められているため本実験での積載質量も 30kg
するためには,ここから更に検討を深める必要がある.
までとした.荷物は新聞紙を用いた.なお,この実験の
以下に例示する形式で検討は進められた.
評価者は1名のため参考情報として記す.
・〔手段案〕低重心デザイン+〔手段案〕低重心の荷台
トレーラと通常の荷台の比較では,積載質量が 0kg と
→ 〔具体化案〕荷台の低床化,荷台の分離(トレー
10kg において,走行感にはほとんど違いがなかった.
ラ化)
20kg の積載では,自転車を押し歩く際や乗り初めの低
・〔手段案〕小さな自転車サイズ+〔手段案〕カートをそ
速走行時の安定感はトレーラの方が相対的に高いと
のまま連結できる自転車 → 〔具体化案〕荷物がある
評価された.30kg の積載では両者とも押し歩く際に不
ときだけ登場する荷台
安定で,特にトレーラは左右に傾斜させると前輪が浮
こうした検討により図2のデザイン案を策定した.必要
きやすく,評価者の想像と異なる力がかかったため扱
なときだけ低床のトレーラとして利用できる荷台を備え,
いに注意を要した.しかし,乗り始めると低速走行時の
跳ね上げておけば普通の自転車と同様に扱える自転
安定感はトレーラの方が高いと評価された.
車である.トレーラに荷物を積載すれば後輪上部の荷
なお,前カゴへの積載では 10kg の質量ではほぼ問
台を用いた時より低重心になるため,より安定的な走
題無いが,20kg の質量では曲がろうとするとハンドルを
行を可能にし,大きなサイズの荷物を運搬できる可能
取られて不安定になる.30kg の積載質量は不可能と
性が拡がる.トレーラを出した状態の長さを 190cm 以
判断した.
内,幅を 60cm 以内とすれば,日本の道路交通法上の
走行実験の評価は,各積載質量に対して平坦地と
普通自転車に該当するサイズのため,日本の道路環
傾斜地それぞれ5段階(最高評価は5,最低評価は1)
境に合った利用をしやすいと考えられる.トレーラと自
の得点を付与した.そして両者の得点を合計して総合
転車の連結部を単純な回転軸とすることなどでトレー
評価した(表2参照).
ラの構造はシンプルかつ軽量化され,トレーラの車輪
を一輪にすることで自転車が傾斜しての滑らかな旋回
走行を損なわない.トレーラを牽引していてもユーザが
5.考察とまとめ
デザインした自転車は狭い車道や自転車走行が許
されている歩道における走行に適し,一般的な駐輪ス
自転車走行を楽しめることを意図するデザインである.
ペースに駐輪できるよう,必要な時だけトレーラを降ろ
して牽引できる自転車である.そのためトレーラは小型
4.試作車での走行実験
市販車を改造して,デザイン案に基づいて図3に示
だが,10kg の米袋,古新聞などの積載は可能である.
す試作車を作った.舗装された平坦地と上り傾斜地に
走行実験では,トレーラへの積載は通常の荷台へ積
て,積載質量を 0kg,10kg,20kg,30kg と変化させ,積
載した場合と比較してやや上回る走行安定感を得られ
載箇所をトレーラ,通常の荷台,前カゴとして,走行感
ることが示唆された.また 荷物を積載せずにトレーラ
の比較実験を行なった.自転車の積載質量は,我が
を牽引した場合,何も牽引していないのとほとんど変わ
国では各県の公安委員会規則により 30kgを超えない
らない円滑な走行感を得られたため,デザイン意図に
-25-
人類働態学会 会報 第98号 2013年6月15日(暫定版)
表2 走行実験評価結果 (参考)
概ね合う結果が得られたと考える.
うした改善とフィージビリティ検証を行なう予定である.
ただし,積載質量が 30kg の場合は押して歩く際に前
なお,本研究は科学研究費補助金 (基盤研究 B,
輪が浮きやすい現象がみられ,後輪側へ荷重が集中
30157119,安全な自転車利用促進を目指す循環型社
していることが明らかであった.この問題に対しては何
会の新しい交通システム構築のための基盤研究) の
らかの対処が要ると思われる.デザインした自転車は
一環で行なわれた.
構造上トレーラに荷物を積載すると自転車の後輪とト
レーラ下部の車輪に荷重がかかることになる.ISO4210
および JIS D 9301 では,自転車の前後輪の操縦安定
性を確保する観点から自転車と乗員の合計質量の
注および参考文献
1) 総務庁交通安全対策室: 自転車の安全かつ適正
な利用の促進に関するアンケート調査, 1999
2) 国土交通省総合政策局等: 先進的な自転車施策
25%以上が前車輪にかからなければならないと記され
ている.これらの規格では積載物には触れられていな
いが,荷物を積載した場合でも操縦安定性が確保され
た方が良いのは明らかなので,トレーラに荷物を積載
した状態でも前輪に 25%以上の荷重がかかるようにデ
ザインを改善するか,或いは積載質量に限度を設ける
などの対処が必要である.
前述した積載質量 30kg の制限は JIS D 9111 の自転
車分類において実用車のみが該当し,デザインした自
転車が該当すると考えられるシティ車あるいはコンパク
ト車ではそれぞれ 15kg と 10kg が望ましい許容質量と
される.また,我が国の自転車の荷台の最大積載質量
は 27kg が最大で,18kg 程度のものが最も一般的であ
る[7][8].これらの規準や利用実態を鑑みてトレーラへ
の積載許容質量を設定することが望ましいと考える.
この他,トレーラ下部の車輪位置の改善や買物かご
をそのまま着脱できる機能の追加など,実用性と安全
性を高める工夫の余地がまだ多く残るため,今後はそ
-26-
の導入可能性及び自転車駐車場の整備のあり方に
関する調査, 2002
3) 国土交通省: 平成 17 年度道路交通センサス, 2005
4) 名古屋市環境科学研究所報,39,pp45-48,2010
5) 国土技術政策総合研究所: 自動車から自転車へ
の転換施策の有効性に関する意識調査,2012
6) 前川正実,山岡俊樹:工業製品とサービスの利用
プロセスと状況に基づくアイデア創出方法,デザイ
ン学研究,58,4,pp.87-96,2011
7) JIS D9453 自転車-リヤキャリヤ及びスタンド,2010
8) 独立行政法人国民生活センター:自転車の荷台
の強度 ‐幼児座席を安全に使用するために‐,2009
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<< 連絡先 >>
------------
前川正実
株式会社 操作デザイン設計
〒601-0262 京都市右京区京北細野町東山 12 番地 12
E-mail: maekawa@sosa-design.jp
人類働態学会 会報 第98号 2013年6月15日(暫定版)
3-1
自転車と走行帯を共有する自動二輪車からの
ドライブレコーダーによる自転車走行の実態
○真家和生 1)、鳴瀬麻子 1)、松村秋芳 2)
1)大妻女子大学博物館, 2)防衛医科大学校
(640X480=307,2000pixels)・記録メディア(マイクロ SD カ
研究背景
現在、人類働態学会の課題として、循環型社会にお
ード)・カメラ画角(63 度)・動作温度(0℃~40℃)・動作
ける新しい交通システム構築を目指して自転車の利用
湿度(5%~85%)・音声記録あり・GPS 位置情報付き・スピ
促進を進める研究を行っており、平成 24 年度より科学
ード情報あり、となっている。本輪レコシステムを装着し
研究費補助金基盤研究(B)として「安全な自転車利用
たオートバイはホンダ CB1300 である。
促進を目指す循環型社会の新しい交通システム構築
のための基盤研究」の題目で研究申請を行った結果、
2.記録状況
採択され、平成 24 年度より平成 26 年度までの3年間
記録は、通常の道路走行時にオートバイ前方の自
にわたる研究費を獲得することができた。
転車を追走する形で行い、また、オートバイの通常
この研究の目的は、交通に関する意識調査や自転
車事故の解析を実施し、安全な自転車乗車の条件を
整理するとともに安全を確保する自転車や道路のデザ
インを追求することで、歩行者・自転車・車(オートバイ
等を含む)の三者が満足する循環型社会に相応しい
自転車利用促進を図るための基盤構築を目指すこと
であり、具体的には、
① 自転車と共存する新しい住民参加型交通安全シ
ステムを構築し、その効果を検証する。
の動態との関係で自転車がどのような動態を示す
かを記録した。
3.結果
結果については、現在解析中であり、最終的な結果
には至っていないが、現時点での結果として、
①同じ路側帯を走行しているオートバイと自転車は互
いに譲り合いながら走行していること(オートバイが自
転車を煽るような動作(クラクションを鳴らすなど)は見ら
れないこと)。
② 自転車重大事故の原因を解析し類型化を図るとと
②自転車とオートバイが競合する場合には、自転車が
もに事故削減に向けた方策を見出す。
③ 自転車利用者自身の安定性確保戦略を解明する
とともに事故回避能力の向上を探る。
④ 事故に遭遇しにくい視認性を高めた安全な自転
車や道路構造をデザインし、効果を検証する。
としている。
歩道に移動することがあること。
などが観察された。
4.考察
結論の①については、オートバイ同士やオートバイと
自動車間では互いに煽るような行動がみられることが
本研究は、この②に関連する研究の一環として、自
あるが、対自転車に対しては、自動車やオートバイは、
転車が道路通行時にどのような動態を示すかを、自転
共有する道路の弱者(vulnerable road user )として認
車と同じ路側帯を共有して走行しているオートバイに
識していると考えられる。すなわち、この認識を活用し
取り付けた自転車用ドライブレコーダー(以下、輪レコ)
広げることで、より自転車の安全が確保できるのではな
を用いて解析を行うものである。
いかと推察される。
結論の②については、自転車運転者がオートバイに
1.輪レコの仕様と性能、および装着について
本研究に用いた自転車用走行時デジタルビデオ記
録装置は、(株)ニュースペースデザイン社製の GPS に
よる位置測定機能を搭載した画像レコーダーであり製
品企画名は「GPS 画像レコーダーBVR-01」であるが、
これを用いて自転車走行時の動態解析を行うシステム
体系の略称を「輪レコ:linreco」として用いることにす
る。
仕様については以下の通りである。カメラ解像度
-27-
遠慮して走路を譲るためと考えられるが、これは歩道
にいる歩行者との事故を誘発する遠因ともなると推察
されるため対策が必要と考えられる。
------------
<< 連絡先 >>
------------
真家和生
大妻女子大学博物館
〒102-8357 東京都千代田区三番町12
E-mail: maie@otsuma.ac.jp
人類働態学会 会報 第98号 2013年6月15日(暫定版)
3-2
アイカメラを用いた自転車走行中の若年者及び高齢者の行動比較
○植竹照雄、下田政博
東京農工大学大学院農学研究院自然環境保全学部門
る。すなわち、①走行路沿いに開口する玄関・門扉(以
1.はじめに
交通事故件数は年々減少し、総死傷者数も激減して
下、玄関)、②走行路沿いにある駐車場・駐輪場の出入り
いる。しかし、自転車が関与する事故に限ってみると、
口(以下、出入)、③信号確認(以下、信号)、④接続す
事故件数および死傷者数減少はわずかである。自転
る路地の確認(以下、路地)、⑤ 「前方から来る」および
車事故の死傷者数のうち、負傷者数は若者が多いが、
「追い越して行く」自転車(以下、自転車)、⑥ 「すれ違
死亡者数は圧倒的に高齢者の方が多い。
う」および「追い越される」歩行者(以下、歩行者)、⑦「標
若者の交通安全に対する認識不足やマナーの悪さ
識確認」、「路上ペイント確認」等の安全行動(以下、安
が指摘されて久しいが、超高齢社会であるわが国では
全)、⑧「近隣施設内の様子」、「校庭でのスポーツ場面」
自転車利用による高齢者の重大事故削減のための有
等の不安全行動(以下、不安全)、⑨その他、である。
効な対策は緊急課題のひとつといえよう。
2-4.意図的注視の判定基準
交通安全に対する啓蒙活動の実施やマナー向上の
先行研究を参考にし、被注視事象の性質毎に判定
ための交通教育は、今後においても必要不可欠であ
基準を設定した。具体的には、注視対象が動いている
る。それには、有効な指導上のポイントやリスク管理上
場合は 3 フレーム分の接近・追随、3 フレーム分の同
のポイントを整理する必要があると同時に、自転車利
時・同調移動、静止している場合は 5 フレーム分の連
用者自身の行動において事故につながる重大な欠
続停留、被注視事象に向かう急激移動である。
被注視事象毎にそれぞれの出現回数をもとに四つの
点・欠陥がないか再度確認しておく必要がある。
本研究では、高齢者と若者の自転車利用時における
カテゴリーに分類し分布表を作成後、注視行動の特徴
注視行動の特徴について、アイカメラを装着した被験
における両群の類似度・非類似度について、Somers’d
者に公道を自転車走行させたときの注視点の情報を
を算出した際の有意確率を指標に比較・検討した。
連続的に記録し、両者の注視行動における類似点や
相違点を整理した。
3.結果と考察
両群の類似度が「高い」事象として「幹線・出入」、「幹
2.方法
線・自転車」、「生活・玄関」、「生活・不安全」が挙げら
2-1.被験者
れ、反対に類似度が「低い」事象として「生活・自転車」、
被験者は高齢者 11 名(年齢 74.6±4.41)、若年者(大
「生活・出入」が挙げられた。類似度の「高い」事象の
学生)23 名(年齢 18.6±0.72)であり、いずれの被験者
内容を検討すると、分布が同じということであり、必ずし
も身体に重大な既往症はなく、日常視力も問題を有し
もそれぞれの事象についてよく注視していたということ
ていなかった。なお、被験者には実験開始前に実験内
ではない点に留意する必要がある。
容を十分説明した上で、実験同意書の提出を求めた。
類似度の「低い」事象の分布を検討すると、いずれも
アイカメラを装着した状態で実験走行路を自転車走
若年者の方が各事象を注視していない者が多い点で
行する前に、被験者は可能なかぎり普段どおりの自転
一致している。また、類似度が「やや低い」事象に「幹
車の乗り方をするよう指示された。
線・路地」、「生活・路地」、「幹線・玄関」、「幹線・歩行
2-2.実験走行路
者」が挙げられ、「低い」事象と同様に、若年者の方が
実験走行に用いられた道路は機能的に二つに分け
各事象を注視していない者が多い傾向にあった。
られ、「自転車通行可」の歩道および信号のある交差
以上の結果は、自転車利用中の高齢者と若年者の
点を複数有する幹線道路(以下、幹線)および住宅地
注視行動において多くの点で相違することを示唆して
内を走り信号がなく「一時停止」の標識のみの生活道
おり、自転車事故の原因と関連する可能性がある。
路(以下、生活)である。両道は連続しており、総延長
距離は約 3Km である。
2-3.被注視事象(解析対象事象)
本研究で解析対象とした被注視事象は次のとおりであ
-28-
------------
<< 連絡先 >>
------------
植竹照雄
東京農工大学大学院農学研究院自然環境保全学部門
〒183-8509 府中市幸町 3-5-8
電話・FAX 042-367-5644,E-mail:uetake@cc.tuat.ac.jp
人類働態学会 会報 第98号 2013年6月15日(暫定版)
3-3
自転車ブレーキの適切な操作形態に関する人間工学的研究
井上阿英 1)、○岡田明 2)、山下久仁子 3)
1)大阪市立大学生活科学部,
2)大阪市立大学大学院生活科学研究科,
3)大阪市立大学研究支援課
ついて着目した実験を行った。
1.はじめに
自転車の安全を左右する要素は多様である。自転車
3-1.方法
本体や道路空間などのハード的側面、乗り方やルー
○参加者:20 歳代男女 18 名(右利き 17 名、両利き 1
ル・教育などのソフト的側面、そして技量など人的側面
名)
が相互に作用し合う。その中で、飛び出し時や出会い
○装置:独自に開発した反応時間計測装置
頭での急ブレーキ等、ブレーキ操作が安全性の重要
○計測項目:左右の手の反応時間を計測した。なお利
な要素のひとつとなる。日本の自転車は「左手ブレー
き手はエディンバラ利き手調査2)に基づいた。
キ=後輪」「右手ブレーキ=前輪」が常用されているが、
○手続き:参加者は椅座位の姿勢で左右の手でボタ
競技用自転車では逆の対応の場合もある。またヨーロ
ンを持ち、電子音声が聞こえたら出来るだけ早く指示
ッパではフットブレーキを使用している場合もあり、ブレ
されたボタンを押す。電子音声“右”→右ボタン、“左”
ーキ形態は一様ではない。
→左ボタン、“上”→左右両ボタン、“下”→無視、に対
応しており。電子音声は1条件につきランダムに 40 回
そこで、本来どのようブレーキ形態が適切であるの
かを人間工学的観点から明らかにすることが本研究の
流れた。
目的である。ここでは利き手と非利き手のブレーキ操
3-2.結果と考察
片方のボタンを押すとき、両方のボタンを押すときの
作に着目し、その差異を検討した。
どちらの反応時間も右手より左手の方が有意に短くな
2.実験1
った(p<0.05)。また、両方のボタンを押すよりも、片方
まず、咄嗟の急ブレーキ操作において左右の手の反
のボタンを押す方が反応時間が短い傾向にあった。し
応を比較し、手と左右ブレーキの適切な対応関係を検
かし、左右両方のボタンを押した場合の、速く反応した
討した。
手の回数で比較すると、右手の方が速い割合が大き
2-1.方法
かった。両ボタンを押す場合は「上」という言葉を「両方
○参加者:20 歳代男女 6 名(全員右利き)
のボタン」の意味に認知的に変換するプロセスを含む
○計測項目:合図が出てからブレーキレバーを引くま
反応であり、その場合は左手よりも右手の方が速く反
での反応時間を計測した。
応する可能性が考えられる。
○手続き:参加者はスタンドを立てたまま自転車のペ
ダルを漕ぎ、ストロボが発光したら出来るだけ早くブレ
4.実験3
ーキレバーを引く。ペダルを漕いでいる間は、自転車
次に、運動プロセスに要する時間,すなわち筋力が
のカゴに設置したスマートフォンの動画を観る。右ブレ
所定のレベルに達するまでの時間について検証した。
ーキのみ、左ブレーキのみ、両ブレーキの 3 つの条件
4-1.方法
について計測した。
○参加者:20 歳代男女 15 名(全員右利き)
2-2.結果と考察
○装置:LOAD CELL を用いて独自に開発した計測装置
全ての条件において、左の反応時間の方が短い、ま
○計測項目:左右の手について、力の入れ始めから最
たは左右同じ反応時間となり、非利き手より利き手の方
大になるまでの時間、力の入れ始めから最大になるま
が反応時間が短いことが示唆された。これは反応時間
の左右差に関する先行研究1)とも一致する。
3.実験2
手のブレーキ操作における反応時間は、刺激が提
示されてから筋収縮が開始されるまでの感覚-認知プ
ロセスに要する時間と、筋の収縮力が所定のレベルに
達するまでの運動プロセスに要する時間を合わせたも
図 3(左):右左片ボタン押し時の反応時間
のと仮定できる。そこで、まず前者の時間の左右差に
図 4(右):右左両ボタン押し時の反応時間
-29-
人類働態学会 会報 第98号 2013年6月15日(暫定版)
での力の増加量、そして握力を計測した。
○手続き
参加者は直立した状態で LOAD CELL を最大の力で
握る。1 回ずつ左右交互に握り、計 6 回握る。この動作
を 2 セット行った後、左右の握力を握力計で測定した。
4-2.結果と考察
力が最大になるまでの時間は右手よりも左手の方が
図 8(左):右折時、左右片ブレーキでの手の反応時間
短くなる傾向にあり、力の増加量は左手よりも右手の方
図 9(右):左折時、左右片ブレーキでの手の反応時間
が有意に大きかった(p<0.05)。参加者 15 名の握力は、
右手が強い:13 名、左手が強い:1 名、左右同じ:1 名
であった。握力が強い手の方が筋力の立ち上がり時間
が短く、筋パワーが大きいと考えられる。
図 10(左):右折時、左右両ブレーキでの手の反応時間
図 11(右):左折時、左右両ブレーキでの手の反応時間
6.結論
反応時間は、非利き手が短い傾向にある一方で、
図 6(左):力の入れ始め~最大までの時間
パワーの大きい利き手の方がブレーキの効くレベルに
図 7(右):力の入れ始め~最大までの力の増加量
早く力を到達させることができる。そのため、咄嗟のブ
5.実験4
実験1~3により、利き手・非利き手の反応時間の差
異が示された。そこで次に、より実走状況に近い条件
下での実験を行い、咄嗟の急ブレーキ操作における
左右の手の反応を比較した。
レーキ操作に適している側はブレーキ装置の性能にも
依存する。現行の軽快車では片手で片方の車輪にブ
レーキをかけるが、片手で両輪にブレーキをかける仕
様もブレーキ操作におけるひとつの有効な案として考
えられる。この場合、軽負荷であれば利き手より力は劣
5-1.方法
るが反応の早い非利き手でブレーキ操作を行うことが
○参加者:20 歳代男女 8 名(全員右利き)
○計測項目:合図が出てからブレーキレバーを引くま
での反応時間を計測した。
○手続き
屋外の安全な空間に設定した実験路を、参加者は
自転車に乗り直進する。電子音が聞こえたら指定した
左右方向にハンドルを切り、出来るだけ早くブレーキレ
望ましい。しかし、負荷が大きくなれば、パワーの強い
利き手で操作を行う方が望ましいと考えられる。
なお、この研究は科学研究費基盤(B)「安全な自転
車利用促進を目指す循環型社会の新しい交通システ
ム構築のための基盤研究」の一環として行われた。
バーを引く。右ブレーキのみ、左ブレーキのみ、両ブレ
参考文献
ーキの各条件につき 4 回ずつの操作を課した。電子音
1) 板井もりえ、飯田穎男、三野たまき、上田一夫(1993):光刺
は 2 種類あり、右か左に曲がるよう指定されている。電
激に対する手の単純反応の左右差,日本体育学会大会
子音 2 種類はランダムに鳴らし、参加者にはどちらの
号,44A,p335,社団法人日本体育学
音を鳴らすか前もって知らせていない。
2) Oldfield,R.C.(1971):The assessment and analysis of
5-2.結果と考察
handedness: the Edinburgh inventory, Neuropsychologia,
右折か左折かに関わらず、片方のブレーキを引く場
合も、左右両方のブレーキを引く場合も、右手より左手
の方が反応時間は有意に短い、または短くなる傾向に
あった。咄嗟の判断が必要とされる場面において、純
粋な反応時間に関しては右手より左手の方が反応は
速いことが示唆された。
-30-
9(1):pp97-113
------------
<< 連絡先 >>
------------
岡田 明
大阪市立大学大学院生活科学研究科
〒558-8585 大阪市住吉区杉本 3-3-138
電話/FAX 06-6605-2823
E-mail: okada@life.osaka-cu.ac.jp
人類働態学会 会報 第98号 2013年6月15日(暫定版)
3-4
交差点における自転車運転者の行動
○松村秋芳 1)、真家和生 2)、鳴瀬麻子 2)
1)防衛医大・生物, 2)大妻女子大・博物館
1.はじめに
た。記録は、目視観察事項の交差点図上へのプロット、
警察庁によると、2012 年に発生した自転車乗車中
の事故による死傷者は交通事故全体の 16%にあた
写真撮影、およびビデオ画像の撮影によった。
3.結果
る 131,762 人であった。
自転車事故の中では、交差点などの出会いがしら
の衝突事故が多いとされている。これまで、事故の
分析は ITARDA などにより数多くなされてきた。
しかし、死傷事故が起こる背景には、膨大な数の
小規模な接触やニヤミスがあるであろうことは、容
易に予測できる。そこにはヒトの不適切な行動や施
設・環境の不備が関与している可能性がある。
本研究では、交差点周辺でのヒトの行動が事故と
結び付く背景を検討するために、交差点を通行する
自転車運転者の行動を観察した。
3.-1.K交差点
1 時間平均 211 台の自転車が交差点を通過した。1
回の信号待ち時間 2 分の間に平均 7 台の自転車車両
が交差点の横断歩道入口で待機する状況が常時見ら
れた。青信号による歩行者の横断開始直後は、歩行
者と自転車が混じり合って通行する状況が生じるため、
自転車が横断者の間をすり抜ける場面がしばしば観
察された(図1)。1 時間当たり 8 台の自転車が、2 分間
の横断時間の最後の時期に当たる信号点滅期に比較
的速いスピードで交差点に進入し横断した。
3.-2.A交差点(埼玉県所沢市)
1 時間平均 20 台の自転車が交差点を通過した。9 台
2.方法
埼玉県内および東京都内の 3 カ所の交差点(下
記)で自転車乗車者の行動を観察した。
は歩道を通行して、左折または右折した。11 台が車道
を通行し、内 2 台が信号と関係なく車道を直進した。
A 交差点(埼玉県所沢市):片側 1 車線、幅 5m と 8m
の道路が交差する信号のある交差点。車道の両側に
3.-3.S交差点(東京都文京区)
1 時間平均 41 台の自転車が交差点を通過した。自
転車ナビラインに従って交差点内の車道を直進した車
歩道を有する。駅から約 200m の住宅地に位置する。
K 交差点(埼玉県所沢市):片側 2 車線の大通りが
両 6、車道を左折した車両 3、右折車両 1、歩道を通行
した車両 31(直進 24、右折 4、左折 3)であった。
交差する見通しの良い、駅前のスクランブル交差点。
両側の歩道は自転車専用通行帯が設けられている。
S 交差点(東京都文京区):片側 4 車線の国道と片
側 3 車線の都道が交差する事故多発交差点。自転車
の安全な通行を確保するために、交差点内の路面に
自転車の通行位置と進行方向を明示した「自転車ナビ
ライン」が 2013 年 3 月中旬から設置されている。
調査時期は 2013 年 4 月下旬~5 月上旬、休日の午
後であった。自転車運転者行動の観察は、3 カ所とも
交差点全体を一望できる場所から行った。1 回の観察
時間を 1 時間とし、各調査地点で 4 回ずつ観察を行っ
4.考察
信号の変わり際の急な横断や信号無視は、交差点
内での事故の要因となりうる。これらに該当する状況が、
散見された。自転車と歩行者、自転車と車が交錯しな
いよう、自転車運転者が周囲の状況をよく認知、判断
すること、接触の起こらないルールや環境を維持する
ことが必要である。
謝辞
本調査に際し、情報を提供して頂いた御子柴慶治氏
に感謝する。
--- << 連絡先 >> --松村秋芳
防衛医科大学校生物学教室
〒359-8513 所沢市並木 3-2
電話 04-2995-1424
FAX 04-2996-5219
図1.K 交差点:歩行者の信号が青になった直後の様子。このあと自転車が歩行者を抜きなが
ら横断歩道を渡る。
-31-
E-mail: matsumur@ndmc.ac.jp
人類働態学会 会報 第98号 2013年6月15日(暫定版)
3-5
生活道路交差点の視認距離が交通参加者の認知的負荷に及ぼす影響
○山本あゆ美、髙橋雄三
広島市立大学大学院 情報科学研究科 システム工学専攻 人間工学研究室
などの切れ目といった空間的手掛かりは,回帰係数が
1.はじめに
道路交通事故の発生件数は年々減少傾向にあるも
のの,生活道路での事故発生件数に顕著な減少傾向
は確認されていない[1].そこで,生活道路交差点で発
生する事故に対して著者らは,道路反射鏡の見え方と
路地の存在の有無の観点から,交通参加者が道路周
辺環境から受容する認知的負荷を算出し,認知的負
荷が高い交差点を通過した直後の交差点において,
不安全行動が誘発されていたことを示唆した[2].
しかし,路地の存在については,路地の存在が確信
できる地点(確信地点)だけでなく,路地の存在が予測
できる地点(予測地点)からの視認性についても検討
する必要がある.本研究では,生活道路交差点の視
認距離を考慮した認知的負荷の指標を新たに作成し,
生活道路交差点の危険性を抽出する新たな指標を提
案することを目的とする.
大きく,視認距離も長くなることから,路地の危険性は
低くなる可能性が考えられる.そこで,路地を知覚する
際に用いる手掛かりに関する回帰係数の大小によって
路地の危険性を推定することが可能なことから,回帰
係数をもとに手掛かり係数を設定した.さらに,予測地
点から確信地点までの差分距離を算出した.時速 30
km での制動距離(12 m)と 1 s 間の走行距離(8 m)か
ら,差分距離と視認距離の危険性を評価し,A~G の
領域から差分係数を設定した(図 3).
交差点nでの認知的負荷Int n は交差点の各進入方
向からの道路反射鏡における認知的負荷得点の総和
をとることで定義した[2].そこで,Int n と同様に,交通参
加者が視認距離から受容する負荷Vis_Int n に関しても,
交差点の危険性を評価するため,手掛かり係数C a (a:
表 1 の手掛り)と差分係数V b (b:図 3 の 7 領域)から,
Vis _ Int n   CaVa
2.方法
本研究では,前報[2]において道路反射鏡の見え方
(1)
と定義した.
について認知的負荷算出を検討した広島県Ha市Jエリ
最後に,認知的負荷量Int n [2]とVis_Int n との間の関連
ア(図 1)を調査対象とした.調査では自転車前部の,
性を検討するため,Int n とVis_Int n をそれぞれ正規化し,
地 上 高 120 cm の 位 置 に デ ジ タ ル ・ ビ デ オ ・ カ メ ラ
回帰分析をおこなった結果,有意の相関関係は認め
(HDR-CX590V,SONY)を取り付けて,Jエリア内を走
生活道路交差点
ヒヤリ・ハット体験が報告された
生活道路交差点
行した.得られた動画をもとに,各路地の予測地点と
バイパス
確信地点を推定した.また,予測地点から確信地点ま
での距離を予測距離,確信地点から生活道路交差点
20
1
19 18
までの距離を視認距離とした.予測地点で路地の存在
17
16
14 13
12
15
を予測する手掛かりを 6 つに分類した(表 1).
2
3.結果
3
6
5
予測距離と視認距離の散布図を図 2 に示す.視認
7
4
8
9
11
10
国道
距離に対する予測距離の回帰係数が大きい場合は,
予測距離,視認距離が共に長く,遠くから路地の存在
を知覚できることから,路地の危険性は低いと考えられ
図1:調査エリアの概要(広島県 Ha 市 J エリア)
る.一方,回帰直線が小さい場合,予測距離は長くて
も,交差点に到達するまで路地の存在を知覚できない
表 1:手掛かりの分類
手掛り
具体例
ことから,路地の危険性は高くなると考えられる.また,
道路反射鏡
道路反射鏡,カーブミラー
各手掛かりの回帰係数についてみてみると,家や塀と
アイテム
道路標示,標識など
いった構造物による手掛かりでの回帰係数は小さく,
視認距離も短くなることから,路地の危険性は高くなる
可能性が示唆された.一方,道路の色の違いや歩道
-32-
構造物
建物,塀など
空間
道路の色,タイヤの跡など
なし
―
交差点100m前から認知可能
―
人類働態学会 会報 第98号 2013年6月15日(暫定版)
られなかった(r = -0.234,n.s).したがって,Int n と
60
Vis_Int n は相互に独立であると考えられるため,新たな
50
CogDn  Vis _ Intn  Intn
視認距離 [m]
危険性を評価する認知的危険性CogD n を,
(2)
道路反射鏡
構造物
なし
線形 (道路反射鏡)
線形 (構造物)
40
30
20
と定義した.CogD n と交差点との間の関係を図 4 に示
10
す.交差点 3,7,11,15,18,20 ではCogD n は高い値
0
を示した.一方,交差点 3,7,18,20 はInt n による認知
0
的負荷値は高かった[2].つまり,Vis_Int n を考慮したこと
15[2]の危険性評価値が高くなったものと考えられる.
20
30
40
予測距離 [m]
現するまでの距離が長く,距離係数の影響により負荷
[2]
.し
かし,本報で提案したVis_Int n を導入することにより危
32
24
16
8
0
険性評価値は高い値を示した.これは,Vis_Int n を考
慮することにより,交差点 15 の予測距離は 30 mと長い
ものの,視認距離は 6 mと短く,制動距離から考えても
0
危険性は低くなっていた.しかし,Int n とVis_Int n を正規
化して評価することにより,交差点 3 はVis_Int n の寄与率
40
1.2
1
0.8
0.6
0.4
0.2
の影響が強いことが示唆された.したがって,生活道
0
路反射鏡に対するものではなく,視認距離を長くする
32
1.4
が高く,手掛かり係数と予測距離を考慮した視認距離
路交差点の危険性を緩和するための対策としては,道
16
24
視認距離 [m]
1.6
認知的危険性
認知的負荷が高いとされていたが,Vis_Int n で評価した
8
図 3:視認距離と差分距離との間の関係と分類領域
危険性は高い,という情報が付加されたことが一因で
あると考えられる.また,交差点 3 においては,Int n では
60
道路反射鏡
アイテム
構造物
空間
12m
40
交差点 15 について前報では,道路反射鏡が次に出
50
図 2:予測距離と視認距離との間の関係
48
4.考察
が減衰していたことからInt n は小さな値を示した
10
56
予測距離と視認距離の差分 [m]
により,ヒヤリ・ハット体験が報告されている交差点 11,
アイテム
空間
y=x
線形 (アイテム)
線形 (空間)
の影響が大きい生活道路交差点
の影響が大きい生活道路交差点
と
の影響が同程度の生活道路交差点
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20
生活道路交差点
図 4:交差点ごとにみた認知的危険性CogD n
ことができるような手掛かりを付加することで,より有効
な事故対策を提案することができると考えられる.
視認距離に関する対策については,図 3 より,空間的
5.結論
手掛かりが有効であると考えられることから,交差点上
本研究では,生活道路交差点上を道路反射鏡に注
にカラー塗装を施すことにより,予想地点と確信地点と
目した認知的負荷で評価するのだけでなく,路地の存
の差を小さくし,併せて,視認距離が長くなるような手
在が予測できる予測距離と,交差点の存在を確信する
掛かりを付加することが有効であると考えられる.
ことができる地点までの視認距離を組み合わせること
により,危険性を評価する評価指標の検討を行った.
視認距離による影響を考えることにより,認知的負荷だ
けでは浮かび上がってこなかった新たな危険性を抽出
することが可能であることが示唆された.つまり,認知
的負荷と視認距離の負荷を認知的危険性として総合
的に評価することにより,ある特定の交差点が認知的
負荷と視認距離による負荷のどちらの影響を強く受け
ているかに関する情報を得ることが可能となった.つま
り,影響の強い要因が明白になることで,適切に視環
境をデザインすることが可能となると考えられる.また,
-33-
参考文献
[1] 生活道路におけるゾーン対策推進調査研究検討委員
会:生活道路におけるゾーン対策推進調査研究報告書,
警察庁交通局交通規制課 (2011)
(http://www.npa.go.jp/koutsuu/kisei/houkokusyo.pdf)
[2]山本あゆ美,髙橋雄三:交通参加者相互の危険性評価
に影響を及ぼす生活道路交差点の環境要因,人類動態
学会会報,96,pp.25-26(2012)
------------ << 連絡先 >> -----------山本 あゆ美
広島市立大学 大学院 情報科学研究科 人間工学研究室
〒731-3194 広島県広島市安佐南区大塚東 3-4-1
電話・FAX 082-830-1817 (髙橋雄三)
E-mail: a-yamamoto@hfce.info.hiroshima-cu.ac.jp
人類働態学会 会報 第98号 2013年6月15日(暫定版)
4-1
メンタルモデル形成過程にみる高齢者と若年者の違い
森亮太
長野県短期大学
選言効果による影響を避ける。例えば、高齢者にと
1.はじめに
メンタルモデルには、人間がそれを獲得する中で、
って複数の意味に解釈できる情報を与えてはいけな
初期の段階とより完全なモデルに近い後期の段階が
い。スイッチラベルがわからないという状況を避ける。
存在する。前者をメンタルモデルといい、後者を主に
高齢者にとって手がかりは重要であるが、増加するに
概念モデルとする[1]。本研究では過去に取得したデ
つれ、処理に時間がかかる。手がかりの量を最小限と
ータ[2]について再分析を試み、高齢者と若年者のメン
し、埋め込みすぎないようにする。
タルモデル構築プロセスを比較し、その構築に不可欠
・状況の理解:ルールや状況変化を確認させる。
な要素[3]の観点から高齢者対応のシステムに向けた
・表示の理解:色、数字、カードを見やすくする。
設計ポイントを示唆する。
・メタファ:カードゲームに関連するスキーマを活かす。
・フィードバックの検討:正解、不正解といったフィード
2.方法
高齢者を被験者とし、アルゴゲームというカードゲー
ムを用いてゲームのやり取りを分析した。最初にアルゴ
ゲームのルール説明を行い被験者のアルゴゲームに
対するメンタルモデルを構築する。次に、実際に実験
者と被験者の 2 人でゲームを行うこと(練習)によって
概念モデルを構築する。最後に、被験者 1 人でゲーム
に関する課題を行う。以上を高齢者 54 名に実施した。
課題は 5 問あり、順に難易度が向上する。課題 1 と 2
は、少ない情報量の手がかりから解答できる。課題 3
から 5 は状況が変化し、情報量が増え解答までの手が
かりの探索に時間を要する課題となっている。特に課
題 5 は選言を伴う課題となり難易度が高い。
バックを与える。高齢者がフィードバックとして認識でき
るのは、成功か失敗かの手ごたえである。例えば、ある
ボタンを押した際、音だけが鳴るというフィードバックで
は成功したかどうかわからないのでユーザにとって適
切ではない。
・システムの振る舞いの予測:数字といった手がかりを
提供する。
・システムの要素間の相互作用:数字とルールとの関
連性を把握させる。
・操作記憶の想起:数字をメモできるようにしワーキング
メモリを支援する。
高齢者は若年者に比べ、概念モデルの修正回数が
多くなることから、その形成時においてエラーを許容す
る寛容性の原理をデザインに取り入れることも必要と考
3.結果
全課題の正答に最も近かったのは 54 名中 1 名であ
える。
った。この 1 名をゲームに対するメンタルモデルを獲得
したとみなしその形成プロセスを若年者と比較した。
5.参考文献
その結果、概念モデル形成時に高齢者は若年者に比
1)Susan Weinschenkt 著、武舎広幸、武舎るみ、阿部和也
べ、ルールを確認した回数やエラー数が多く発生し、回
訳:インタフェースデザインの心理学、オライリー出版、
答までの時間も高齢者は若年者に比べ増加していた。
78-83、2012
2)森亮太、山岡俊樹:カードゲームを用いた高齢者ユーザと製
4.考察
実験のはじめに被験者はアルゴゲームでの説明を
受け、カードゲームに関連するスキーマを使い、その
変数をアルゴゲームに変更し、メンタルモデルを構築
する。最初のゲーム説明でアルゴゲームのイメージが
品とのインタラクションに関する実験的研究、日本デザイン
学会研究論文集第 55 巻第 2 号通巻 188 号、19-28、2007
3)土井俊央、富永彩容子、山岡俊樹、西崎友規子:操作時のメ
ンタルモデル構築要素についての一考察、日本デザイン学
会研究論文集第 58 巻第 5 号通巻 209 号、53-62、2012
形成され、練習を経て概念モデルを獲得している。
メンタルモデル構築に不可欠な各要素について配
慮すべきポイントは以下のように示唆できる。
・プランニング:選言効果の影響を抑制し、情報量を最
小限にする。
-34-
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森亮太
長野県短期大学 生活科学科 生活環境専攻
〒380-8525 長野市三輪 8-49-7
電話 026-234-1221(代)
FAX 026-235-0026(代)
E-mail: mori@nagano-kentan.ac.jp
人類働態学会 会報 第98号 2013年6月15日(暫定版)
4-2
組み込み型機器のための GUI 設計手法の提案
○平田一郎 1)、山岡俊樹 2)
1)兵庫県立工業技術センター生産技術部,
2)和歌山大学システム工学部
操作構造
1.はじめに
本研究の目的は、操作性を考慮したGUI(グラ
フィカルユーザインタフェース)の設計手法を確立
することである。その方法として、GUIで用いら
れている汎用的な操作方法や表現方法等を GUI デ
ザインパターン(以降、パターン)として抽出し、
体系化したものを設計に活用する。なお、本研究の
対象は組み込みシステム型の機器(組み込み型機
UIガイドライン
デザインガイド
画面構成
情報提示
操作機能
GUI パーツ
器)のGUIとする。これまでGUIデザインの分
野では、ウェブ画面を対象とした研究が進んでいる
が、それより制約の多い「組み込み型機器」に特化
図1
パターンの階層構造
した設計手法が求められている。
2-2.コンセプト項目とパターンとの関連づけ
2.方 法
画面デザインの方針を明確にするため、設計プロ
2-1.パターンの抽出および体系化
本稿では、情報機器のGUIでよく用いられてい
る汎用的な操作方法や表現方法に関する要素をG
UIデザインパターンと定義する。ユーザインタフ
ェース設計に関する書籍とGUIを有する機器、イ
ンターネットサイト等から頻繁に用いられている
操作方法や表示方法、画面レイアウトなどをパター
ンとして収集した。収集したパターンを画面設計で
活用しやすくするため、下記の 7 種類に分類した。
1. 操作構造:操作画面の流れを示すパターン
セスに構造化コンセプト1)を導入する。そのため、
構造化コンセプトのコンセプト項目(中位項目)と
パターンとの関連づけを行った。
構造化コンセプト(トップダウン式)を構築する
際、通常の中位項目は上位項目をブレイクダウンし
て自由に記述する。今回、中位項目をあらかじめ用
意しておき、上位項目をブレイクダウンした際に該
当項目を 3 項目選択してもらう方法を採用した。中
位項目としてふさわしい項目を抽出するため、アン
ケート調査した。ユーザインタフェースを設計した
2. UIガイドライン:操作の指針に関するパターン
経験のある 53 名に対し、
「GUI設計に必要な設計
3. デザインガイド:表示の指針に関するパターン
項目」について調査した。その結果、18 種類の中
4. 画面構成:画面のレイアウトに関するパターン
位項目(図 2)を抽出した。抽出した 18 項目と該
5. 情報提示:表示方法に関するパターン
当するパターンとのクロス表を作成し、関連づけを
6. 操作機能:操作方法に関するパターン
行った。中位項目を 3 点選択すると、該当するパタ
7. GUIパーツ:可視化の際に用いるパターン
上記の 7 種類を図1の4階層に構造化した。組込機
ーンが絞り込まれる。
器で活用する場合、製品ごとに「画面のサイズ」と
「入力デバイス」が様々で、活用できるパターンも
画面サイズと入力デバイスに依存することがわか
った。そこで、パターンを画面サイズと入力デバイ
スの観点からも分類した。画面サイズに対応させる
ため、大(12 インチ以上)
、中(6~12 インチ)、小
(6 インチ未満)の 3 種類に分類した。入力デバイ
スはタッチパネル(直接操作)、物理ボタン(間接
操作)
、キーボード・マウスの 3 種類に分類した。
図2
-35-
構造化コンセプトの中位項目
人類働態学会 会報 第98号 2013年6月15日(暫定版)
2-3.パターンと対応したコンセプトターゲット表
をつけ、優先して活用するパターンを明確にす
コンセプトの対象を明確にするため、画面設計で
2)
はコンセプトターゲット表 (表 1)を作成する。
る。
(2) コンセプトターゲット表の作成
この表では、システムとユーザの2つの側面につい
「画面サイズ」と「入力デバイス」をそれぞれ
て項目を記載するようになっている。パターンと関
選択することにより、該当パターンが絞り込ま
連する項目は、「システム概要」の「画面サイズ」
れる。
と「入力デバイス」である。活用できるパターンは
(3) 体系化したパターンの選択
「画面のサイズ」と「入力デバイス」に依存する。
階層ごとにパターンを選択する。
(1)
(2)のプ
画面サイズを、大(12 インチ以上)、中(6~12 イ
ロセスで、各階層のパターンは絞り込まれてい
ンチ)
、小(6 インチ未満)の 3 種類から選択し、
るため、選択が容易である。
入力デバイスを「マウス・キーボード」
「タッチパ
ネル」
、
「その他」の 3 種類から選択することにより、
パターンの絞り込みを行う。「ユーザの明確化」の
項目とパターンとの関係については今後の課題で
3.まとめ
本研究では、論理的に GUI 設計が行える手法を構
築するため、GUIで用いられている普遍的な要素
をGUIパターンとして抽出し 7 種類に分類した。
ある。
パターンを用いることにより、画面デザイン案の分
析や説明がしやすくなると考えた。今回の研究で抽
表 1 コンセプトターゲット表
出したパターンを使うことにより、全ての GUI 設計
要素が完結する訳ではない。本研究では、パターン
を活用した設計方法のフレームワークを提案した。
今後新たなパターンが出現した際には、本研究で実
施した体系化方法に取り入れることにより、GUI
デザインパターンの体系化は進化していくと考え
ている。
謝辞
この研究は,平成 23 年度科学研究費補助金(基盤
研究(C),課題番号:23611055,研究課題名:組み込
み型機器のための GUI デザインパターンの体系化お
よび活用)の一部として行った.
参考文献
1)
山岡俊樹:ヒューマンデザインテクノロジー入門,
(2003),101,森北出版
2)
平田一郎,前川正実,安井鯨太,山岡俊樹,論理的G
UI設計におけるデザインパターン,日本人間工学会関
西支部大会概要集,pp9-10, 2012
2-4.GUIデザインパターンを活用した画面設計
パターンを活用した画面設計方法について述べ
------------
る。下記のプロセスで画面設計を行う。
(1) 構造化コンセプトの構築
画面デザインの方針を明確にするため、構造化
コンセプトを作成する。18 種類の中位項目の
中から、上位項目を実現するために重要と考え
られる 3 項目を選択し、その 3 項目にウェイト
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平田一郎
兵庫県立工業技術センター 生産技術部
機械システムグループ
〒654-0037 神戸市須磨区行平町 3-1-12
電話 078-731-4033
FAX 078-736-3777
E-mail: ichiro@hyogo-kg.jp
人類働態学会 会報 第98号 2013年6月15日(暫定版)
4-3
タッチパネル搭載端末での読書における視線および操作の特性把握
○高島実穂 1)、松延拓生 2)、満田成紀 2)、福安直樹 2)、鯵坂恒夫 2)
1)和歌山大学システム工学研究科, 2)和歌山大学システム工学部デザイン情報学科
1.はじめに
近年、スマートフォンやタブレット PC、電子ブックリー
ダーが普及すると共に書類や書籍の電子化が進んで
おり、今後小型携帯端末での読書や書類閲覧の機会
がますます増えていくと予想される。スマートフォンなど
3.タッチパネル端末での読書に関する調査
本研究では、タッチパネル搭載端末で読書をする際
の視線や操作を観察するための実験的調査を行った。
特に注目したい項目は、タップ、フリック、ドラッグとい
った様々なタッチインタフェースの使用状況、目的探
の汎用携帯端末用の読書・文書閲覧アプリが既に多
数リリースされており、個々のアプリに搭載されている
機能やインタフェースは多様である。これは目的に応
じた使い分けや使用する機能が明確になっていない
ためと考えられ、サイズやシーンによって持ち方が変
わる可能性もあり、アプリのユーザビリティへの配慮や
シーンに合った機能・インタフェースの提供が重要で
あると思われる。そこで本研究では、ユーザがタッチパ
ネル搭載端末で文書を読む際どのような使い方をする
のか、ページ移動時の視線変化等などを調査した。
索における素早いページ移動時の視線の 2 点である。
表示領域や実機端末のサイズによる影響、スマートフ
ォン操作経験の影響を確認した。被験者は、本実験の
趣旨を事前説明し同意の上で参加した和歌山大学シ
ステム工学部及びシステム工学研究科の学生 34 名
である。
3-1.実験内容
実験では、視線計測のための PC 用タッチパネルを用
いたタスク、ビデオ観察による実機を用いたタスク、タ
スク後のインタビューの 3 つを行った。視線計測のため
のタスクでは、21.5 型ディスプレイに実験用ツールで
2.既存研究
これまで、PC スクリーンや電子ペーパー、電子ブック
文章を表示し、一定時間で読んでいる間と内容に関す
リーダー上での読みに関する研究が行われており、紙
る質問時の視線情報と操作ログを取得した。実験用ツ
媒体との比較や読みやすさについて扱われている。紙
ールでは、4 インチ、 7 インチ、 10 インチの 3 種類の
との比較では、作業成績や主観評価などで電子媒体
表示領域を用いた。実機を用いたタスクでは、 4 イン
と紙媒体を比較する研究[1]が行われている。読みや
チ、 7 インチの端末で既存の電子書籍アプリ(ソニー
すさに関する研究では、主に文字サイズなどの見やす
の電子書籍 Reader™)を操作させ、持ち方や操作の
さを対象としており、画面サイズと文字サイズの関係、
仕方をビデオで観察した。インタビューでは、視線計
視距離等が検討されている[2]。
測タスクにおいて使用したインタフェースと理由、使用
モバイル端末の操作性に関する研究では、キー操
インタフェースを意識的に使い分けたかどうか、その他
作やタッチパネル搭載端末の操作インタフェースの
観察で気になった点などを質問した。
提案を対象としたものがある[3]。電子書籍や読書ア
3-2.実験環境
視線計測を行うため、実験中に評価対象以外のもの
プリに関係する研究では例として、ユーザの目の位置
と端末の位置によって文章の表示角度を変化させる
が極力視界に入らないよう、部屋の一角をカーテンで
という藤本らの提案[4]などがある。
仕切ったスペースを使用した。またグレアが発生しない
よう照明の位置を考慮してディスプレイを配置した。
読みと視線に関する研究では、紙媒体での読書に
おける眼球運動の研究が行われているほか、ディス
プレイに表示したウェブページの閲覧と視線を扱った
もの[5]や、携帯端末を使用した文章の読みと視線の
動きを扱ったもの[6]がある。
読書の状況を調査した研究や、ユーザごとの状況に
応じた読み方及び操作に注目した研究はあまり行わ
れていない。
図 1: 実験の様子
-37-
人類働態学会 会報 第98号 2013年6月15日(暫定版)
3-3.表示用文章
4-2.操作インタフェース
今回の調査では 文字の見やすさを評価の対象とし
操作ログから、全サイズ通してタップでの操作回数が
ないために、視線計測タスクで表示する文章を画像に
多いことが分かった。またスマートフォンを日常的に使
し、文章の表示条件を揃えた。解像度は 103dpi、文
用している人がタップ以外のインタフェースも使用する
字サイズは 10pt(4 インチ)、12pt(7 インチ・10 イ
のに対し、操作経験が少ない人はタップでのみ操作す
ンチ)、行送りは文字サイズ×1.5pt、1 行当たりの文
る傾向があった。
字数と行数はそれぞれ 24 文字/9 行(4 インチ)、30
文字/10 行(7 インチ)
、20 文字/15 行×2 段(10 イン
チ)とした。また、4 インチ表示用文章の文字サイズ
と 10 インチ表示用文章の段組みについては、予備実
験の結果により決定した。
4.結果
4ー1.質問回答時の視線
操作インタフェースを「タップ」「スライダー」の2つに
分けて視線の移動を分析した。タップではサイズによる
差、操作経験による差は見られず、ページを戻る場合
と進める場合で視線位置に特徴があることが分かった。
スライダーでは、7インチ、 10 インチでは操作経験の
図 4:10 インチにおける各インタフェースの
平均使用回数(n=34)
ある人は文章領域を見ながら操作しているのに対し、
経験の少ない人はスライダーを見ながら操作している
割合が多いことが分かった。
図 5:10 インチにおけるスマートフォン所有者・非所有者別の
各インタフェース使用割合(タップ以外)
4-3.実機操作
ビデオ観察の結果から、4 インチ端末では「右手で持
図 2:ページを進める場合(左)と戻る場合(右)
って右手で操作(7 人)」「左手で持って左手で操作(4
の視線位置の例
人)」「両手でもって操作(6 人)」「片方の手で持っても
う一方の手で操作(7 人)」の4種類、7インチ端末では
「両手でもって操作(10 人)」「片方の手で持ってもう一
方の手で操作(14 人)」「机に置いて操作(2 人)」の 3
種類の持ち方に分類できた。持ち方の例を図 6、図 7
に示す。なお被験者によっては複数の持ち方をした者
もいるため、上記の人数は重複している場合がある。
4-4.インタビュー
「インタフェースの使い分けを意識したか」という質問
に対し、「意識した」が 73%、「意識していない」が 18%、
覚えていない等の未回答が 9%であり、多くの人が意識
図 3:ページ上半分(左)とスライダー領域(右)
的にインタフェースを使い分けていることが分かった。
の視線位置の例
使い分けは大まかに「タップ・スライダータップ」「スライ
ダー移動・スライダータップ」「タップ・フリック・ドラッグ
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人類働態学会 会報 第98号 2013年6月15日(暫定版)
5.考察
5-1.質問回答時の視線
図 2、3 よりタップで素早くページ移動しているときの
視線は、進行方向側のページの一部もしくは上半分を
見ている傾向があることが分かった。進行方向をみて
いる場合はページの内容に関係なく移動することに重
点を置き、上半分を見ているときはページ内容の概要
を一目確認しているためではないかと考えられた。
図 3 よりスライダーでのページ移動では、視線がスラ
イドバー領域にあるか文章領域にあるかに注目したと
ころ、スマートフォンの所有の有無によって以下の特徴
が見られた。スマートフォン所有者は全サイズを通して
図 6:4 インチ端末の持ち方の例
文章領域を見ていることが多かった。これは、スライド
操作に慣れているために操作自体に意識を向けなく
てもよいため、探索したい情報に注目して移動したの
ではないかと考えられる。またスマートフォン非所有者
では、7インチ・10 インチではスライダー領域を見てい
る割合が多いのに対し、4 インチでは文章領域を見て
いる割合が多い傾向があった。これは 4 インチでは表
示が小さいため両領域を見ながら操作できるが、その
他のサイズでは表示が大きいためにどちらかの領域し
か見ることができず、操作に不慣れであることから文章
よりも操作に集中したのではないかと考えられる。
5−2. 操作インタフェース
図 7:7 インチ端末の持ち方の例
全体を通してタップを利用する回数が最も多かった。
(スライド)」の 4 つであり、移動量や目的の場所を把握
原因として、タップのほうがフリックやドラッグと比べ指も
しているかどうかといった基準であった。
しくは手を横に動かさなくてもよいため、手の横方向の
「タップ・スライダー」では移動量が多い場合はスライ
動きが少なく楽な操作であることが考えられた。ただし
ダー、少ない場合はタップと使い分けていた。また、移
今回の調査に関しては PC と視線計測用のカメラの位
動場所の大まかな見当がつく場合はスライダーで移動
置も関係していると思われる。これは、被験者がカメラ
し、タップで微調整するという意見や、全く見当がつか
の位置を意識して操作を行ったために腕の位置が不
ない場合はタップで 1 ページずつ見ていくという意見
自然になり、結果としてタップ以外のインタフェースを
が多かった。同様に、「スライダー移動・スライダータッ
使いづらい体勢になることがあったためである。
プ」でもスライダーで大まかに移動したあとに、スライダ
図 5 から、使用インタフェースには経験差が見られる
ことが分かる。スマートフォン所有者ではフリックやドラ
ーをタップして微調整するという意見があった。
「タップ・スライダータップ」では少ない移動量の場合
ッグ(スライド)を使用するが、非所有者ではタップ以外
に使うという意識は同じであったが、スライダータップで
の使用割合が極端に少ない。これは所有者がスマート
は 2 ページずつ移動出来るため、より大まかにページ
フォンを日常的に使うことでフリックやスライドといった
を確認するために使うという意見があった。
操作に慣れており手が自然にその動きをしてしたのに
「タップ・フリック・ドラッグ(スライド)」では、使いやすさ
対し、非所有者は「押す」という操作以外に慣れておら
や、そのインタフェースに慣れているかどうかといった
ず、タップでの操作が使いやすいと感じたからではな
点を意識している人が多かった。スムーズな移動が出
いかと考えた。理由としては、スマートフォン非所有者
来るかどうか、面倒な動きがあるかどうか、誤操作が予
が普段の生活でタッチパネルを使用する機会は、銀行
想されるかどうか、また視線計測用カメラの位置を意識
ATM や券売機、コンビニのチケット購入端末などが考
したという意見があった。
えられるが、いずれもタップすることによって操作するも
のである。ここからタッチパネル端末を扱う際はタップ
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人類働態学会 会報 第98号 2013年6月15日(暫定版)
で操作するというメンタルモデルが出来上がっており、
から、移動スピードによってはその部分にページの概
マルチタッチやフリック、ドラッグのようなジェスチャー
要を表示する等の工夫を行うのがよいと思われる。持
操作をするという意識が薄いのではないか。
ち方・サイズでは大きさや持ち方で操作に不便が生じ
5−3. 実機操作
ないような画面設計に配慮するのがよいと思われる。
4 インチの端末ではスマートフォン操作経験が多い人
習熟度への対応では経験差によってページ移動時の
は片手で持って操作する人が多く、操作経験が少ない
視線位置や使用インタフェースに違いがあることから、
人は両手を使う人が多い傾向が見られた。ここから、ス
表示や操作方法を固定するのではなくいくつかのパタ
マートフォンの操作経験が増えるにつれて「精密機械
ーンを用意するのがよいと思われる。同様の理由によ
であり落としてはいけない、慎重に扱うもの」という意識
り搭載インタフェースは 1 つに限定すべきではなく、複
が薄れ、片手で扱うようになるのではないかと考える。
数に対応することによってよりストレスの少ない操作が
7インチ端末では、経験の差に関係なく両手を使用
可能になると考える。
して操作する人がほとんどであった。これは、片手で持
また今回の研究では実験室で計測機器を用いた実
ちながら操作するには端末が重たいこと、画面が大き
験であったため、被験者がカメラ位置を意識した操作
いために片手だけでは操作ができないことが理由であ
をしてしまう問題があった。今後普段の実使用環境で
ると考えられる。この点に関して両手で持って操作する
の現場観察が利用実態を把握する意味でも期待され
場合は、ボタンを押す時などに一旦片手に持ち替えて
る。
から操作する場合が見られた。読書のように長時間使
うことを想定すると、この持ち替えは煩雑であり GUI を
設計するにおいては検討すべき項目であると考える。
参考文献
[1]寇冰冰,椎名健:読書における異なる表示媒体に
関する比較研究―呈示条件が読みやすさに及ぼす
7 インチの少数例として、2 名の被験者が机の上に置
いて操作した。この 2 名の共通点は、スマートフォン所
持者であること、女性であることの 2 点である。ここから、
普段使用しているスマートフォンよりも端末が大きく重
いために、持って使うのを不便に感じて、机の上にお
いて使用したのではないかと推測した。
影響について―,図書館情報メディア研究,Vol.4
No.2,pp.1-18(2006).
[2]阿久津正大,竹内晴彦,吉武良治,本田言海:画
面サイズ,文字サイズ,視距離と表示の見やすさと
の関係―画面表示の人間工学研究(10),人間工学,
Vol.39 特別号,pp61-62(2003).
5−4. インタビュー
[3] 廣川敬康,鵜崎祥充,渋江唯司,速水尚,澤井
多くの被験者が意識的にインタフェースを使い分け
徹:筋電図計測による携帯電話の押しやすいキー配
ており、ページ移動量に応じて使い分けるというのが
最もよく聞かれる意見であった。次に多かったのは、探
している目的の場所が把握できているかどうかで使い
分けるという意見である。本調査に使用したツールにイ
ンデックス間の移動や検索機能を搭載していないのが
原因の一つであると考えられるが、どちらの使い分け
方も紙媒体の書籍を読む際のページ送りのメンタルモ
デルが元になっているように思われた。これは紙の本
に慣れているからこその使い分け方であると考える。
置に関する研究,ヒューマンインタフェースシンポジ
ウム 2010 論文集,pp511-514(2010).
[4] 藤本拓,伊藤雄一,石原のぞみ,中島康祐,尾上
孝雄:タブレットデバイスと目の位置関係を考慮した
電子書籍表示手法に関する検討,ヒューマンインタ
フ ェ ー ス シ ン ポ ジ ウ ム 2012 論 文 集 ,
pp.701-704(2012).
[5]松田侑子,上野秀剛,大平雅雄,松本健一,Web
検索結果の表示時間と注視時間にスクロールが与
6.おわりに
える影響,情報処理学会 インタラクション 2009 論文
本研究では、実験室で読書用アプリを用いた操作を
集(2009).
観察することにより、ブックリーダー・電子書籍アプリ使
[6]関口貴裕:眼球運動を通じた新しい読みの評価法
用時におけるインタフェースの使い方及び視線を調査
の開発研究,広域科学教科教育学研究費研究報
した。「ページ移動時の視線」「持ち方・サイズ」「習熟
告書(2011).
度への対応」「搭載インタフェース」の 4 つのポイントを
考慮することにより、よりよいアプリ提供やインタフェー
ス提案ができると考える。ページ移動時の視線では、
進行方向もしくはページ上半分を見る傾向があること
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<< 連絡先 >>
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高島実穂
和歌山大学 システム工学研究科
〒640-8510 和歌山県和歌山市栄谷 930
電話 073-457-8464
E-mail: s145020@center.wakayama-u.ac.jp
人類働態学会 会報 第98号 2013年6月15日(暫定版)
4-5
車両減速時の立位方向の違いによる生理学的及び心理学的評価研究
○坂本和義 1)、田近秀騎 2)、日野拓也 2)
1)電気通信大学 産学官連携センター, 2)日野自動車株式会社 技術研究所
ルについて、筋電図は1Hzから100Hzの間のパワース
1.はじめに
近年高齢化が進行しており、公共交通による快適な
ペクトルを合計して筋電位の電気的エネルギーとして
移動を考慮する必要が社会的に高まっている。本研
評価した。加速度は3次元の3方向(前後、上下、左
究では、乗合バスの立位客の減速時における生体反
右)について1Hzから50Hzの間のパワースペクトルを
応の基礎研究を行った。立位姿勢の3種の異なる“向
合計して各方向の加速度エネルギー(X,Y,Z)とした。
き”を取り上げ、その影響を生理学的及び心理学的に
更に、加速度の評価は、3方向の合成値
評価した。
(SQRT(XYZ))を3方向の加速度の合計エネルギーと
して求めた。つまり、SQRT(XYZ) は (X2+Y2+Z2)1/2
2.方法
として求めた。
2-1. 試験方法: トラックの荷台で被験者を立位さ
2-7. 減速時の筋電図と加速度の評価: 減速時に
せ、乗合バスの立位乗車を模擬した。
減速中、被験者はつり革や手摺りは持たずに立位姿
勢を保持させた。被験者は進行方向に対して3種の向
き(前向き、横向き、後ろ向き)をとった。定速走行
(15Km/h と 25Km/h)から減速して停車させた。その
際の加速度 (G) と加速度の変化量(減加速度、ジャ
ーク J )を変えて各向きについて15回試験を行っ
た。
2-2. 測定項目: 停車時に立位客に加わる力によ
り発生する心理学的評価として (1)官能評価(5段階、
数値が大きいほど立位姿勢保持が難しいことを示す)
を、生理学的評価として (2)筋電図 と (3)加速度(3次
元)を測定した。
2-3.
筋電図と加速度のセンサー貼付箇所: 立位
姿勢保持時に働く筋肉5か所の筋肉(首後部、背中中
央、腰中央、大腿直筋中央、脹脛中央)にセンサーを
貼付した。更に、車体の減速情報を記録するために車
おいて、人体への車両の外力とその後の立位姿勢へ
の変化終了までを減速時データと考えた。停車までの
データの測定時間は平均して6秒程度であり、最大は
10秒程度であった。 データ解析は、人体への影響が
評価される 1.6 秒間のパワースペクトルを評価の対
象とした。パワースペクトルの算出は次の方法で行っ
た。まず、停車開始から1.6秒のデータのパワースペ
クトルを求め、次に、前のデータから0.2秒後シフトさ
せた1.6秒間のデータについてパワースペクトルを求
めた。その後は前と同様の方法で次々とパワースペク
トルを求め、測定データ区間(最大10秒)まで同様の
方法を繰り返す。得られた 1.6秒毎のパワースペクト
ルから最大値を選び、その値を減速時の立位姿勢に
最も影響を与えた値とした。この最大値は車体からの
外力の場合か外力を受けた後の身体の姿勢変化の場
合かいずれかを表現している。
体上の1か所 (トラック荷台中央、被験者足元付近)
3.結果
に加速度センサーを貼付した。
3-1. 官能評価: 車体減速時における立位姿勢保
2-4. 被験者: 2名(20代と30代男性)
持に与える心理的影響を官能評価で行った(図1)。
2-5. 測定器: 筋電図と3次元加速度を同時に計
立位における向きの影響は、”後向き”が一番大きく、
測するセンサーを用いた(TAOS社)。6か所の測定か
横向きと前向きは後ろ向きより影響は小さかった。
所にセンサーを貼付した。測定方式は無線方式であり、
3-2. 筋電図による評価: 筋電図のパワースペクト
センサー内に送信器が内蔵されている。受信信号は
ル(EMG TP (単位 mV2))の結果を図2に示す。
パソコンに記録され、専用ソフトにより筋電図と加速度
立位時の向きの影響は、次のとおりである。
が解析される。6個のセンサーからの 4 種のデータ(筋
(1)前向き: 脹脛(ふくらはぎ)が最大の筋電図パワ
電図と3次元加速度、合計24種のデータ)を標本周波
ースペクトルを与えた。 次に背中の値が大きかった。
数204Hzで同時に計測可能なシステムを構成した。
(2)後向き: 筋電図パワースペクトルの大きさの順序
2-6. データ(筋電図と3次元加速度)の解析: 時系
列データを自己回帰(AR)モデルによる周波数解析を
行った。次数は4を採用した。得られたパワースペクト
-41-
人類働態学会 会報 第98号 2013年6月15日(暫定版)
ルの合成値の大きさは、前向きと同様の傾向であった
が、各部位の値は前向きよりも大きかった。特に、脹脛
と背中が大きかった。
(2)横向き: 前向きと同様の傾向であったが、前向き
より大きく、脹脛と背中が大きかった。
(4)立位姿勢保持時の向きによる加速度パワースペク
トル値 SQRT(XYZ)の大きさの順序は、
”後向き” > ”横向き” > ”前向き”
であった。
減速時の向きの影響は、”後向き” が最も影響を受け、
次に”横向き” であり、”前向き” が最も影響が少なか
図1. 立位方向別の官能評価値(5段階評価)(n=15)
った。
立位の”向き”による影響は、加速度のパワースペクト
は前向きと同一であったが、脹脛の値が前向きと横向
ルの値と筋電図の値とは同一傾向であった。
きよりも5倍以上大きかった。後向きでは、脹脛の筋肉
が他の部位のそれより大きく働いていることを示してい
た。
後向き
(3)横向き: 脊中が最大の筋電図パワースペクトルを
横向き
与えた。 次に首と脹脛の値が大きかった
(4)向きによる筋電図の大きさの順序は、
前向き
“後向き” > “横向き” > “前向き” であった。
筋電図パワースペクトルから評価すると、立位保持時
の向きは、”後向き”が最も不安定な向きであり、”前向
き”が最も安定な向きであった。
図3. 減速時の3次元加速度パワースペクトルの合成
後向き
値 SQRT(XYZ)の平均値の影響 (n=15)
4.考察
試験結果から次のことが考えられる。
横向き
「1」”向き”によって影響の程度は異なるが、いずれの
前向き
向きでも脹脛(ふくらはぎ)が最も大きく、次に背中が大
きかった。減速により、下腿と体幹の部位が立位姿勢
に最も影響を受け、立位姿勢保持のために反応して
いる。
「2」立位姿勢変化が発生し、それを補うために筋収縮
図2. 減速時の筋電図パワースペクトル(EMG TP)
を開始する。筋収縮の開始は筋電図で評価できる。
の平均値の影響 (n=15)
「3」 乗車中の立位姿勢維持をしやすくするには下腿
3-3. 加速度による評価: 3次元加速度のパワース
ペクトルの合成値 (SQRT(XYZ) TP (単位 G2))の結果
を図3に示す。
立位時の向き別の影響は、次のとおりである。
(1)前向き: 脹脛が最大の加速度パワースペクトルの
合成値を与えた。次に背中の値が大きかった
(2)後向き: 測定部位における加速度パワースペクト
-42-
と体幹の筋の強化が効果あると考えられる。
------------
<< 連絡先 >>
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坂本和義
電気通信大学 産学官連携センター
〒182-8585 東京都調布市調布ヶ丘 1―5-1
電話 042-443-5725
FAX 042-443-5726(事務)
人類働態学会 会報 第98号 2013年6月15日(暫定版)
4-6
フィットネスクラブ従業員のレジリエンス向上のための組織的支援
○庄司直人 1)、藤井啓嗣 1)、森口博充 1)、中山貴太 2)、芳地泰幸 1)、水野基樹 1)2)
1)順天堂大学大学院スポーツ健康科学研究科, 2)順天堂大学スポーツ健康科学部
1.はじめに
向上を支援するための視点を明らかにすることを目指
近年のフィットネス業界の報告資料やヒューマンサー
すため、とりわけ職務上の経験に着目した。
ビス、キャリア・ストレスに関わる文献を概観すると、ヒュ
2-4.分析方法
ーマンサービスを提供する業態、多様な雇用形態の
本研究では、対象者のナラティブを定性的データと
従業員が混在する従業員構成を背景に、多くの従業
して扱い、そのデータを合理的に読み解く手法として
員がヒューマンサービスに起因するストレスやキャリア・
KJ 法を用い分析した。分析は、川喜田(1996)が示し
ストレスを抱えやすい環境下にある(久保,2007、金
た手続きを踏襲し行われた。まず、データは逐語化さ
井,2000、日本フィットネス産業協会,2009)。
れたデータから 1 つの意味を持つまとまりごとにラベル
そうしたなか、キャリア・マネジメントの視点において、
にし、内容の類似性に着目しグループ化した。そのグ
逆境から回復する力であるレジリエンスを高める工夫
ループ全体の意味を表すように表札をつくった。最終
を職場全体で考える必要がある(水野,2011)が、どの
的にラベルの数が 10 未満になるよう繰り返した。そして、
ような工夫が必要かについては、未だ研究が進んでい
その最終ラベルを関係性に着目して配置し、レジリエ
ない。そこで本研究では、質的データをもとにレジリエ
ンス向上のプロセスの全体像を図式化した(A 型図解
ンス向上のプロセスの解明を目的とし、フィットネスクラ
化)。さらに、そこで得た図から分かったことをストーリ
ブ従業員のレジリエンスの向上を、どのような視点で支
ーとして叙述した(B 型叙述化)。それにより、フィットネ
援する必要があるかを明らかにすることを目指した。ま
スクラブ従業員が逆境を乗り越え、レジリエンスを向上
た、本研究では、「逆境から立ち直り、チャレンジし続
させるプロセスをストーリー化した。分析に際しては、
ける能力(Reivich,2011)」をレジリエンスの定義とする。
KJ 法のトレーニングを受け、普段から KJ 法による分析
を行う組織心理学の専門家1名と組織心理学を専攻
2.方法
する大学院生3名で行った。
2-1.対象者
対象者はフィットネスクラブ従業員 28 名とした。対象
3.結果
者は男性 15 名、女性 13 名、平均年齢 27.68 歳
分析から表2の8つの最終ラベルを得た。そして、最
(SD=4.96、Range=19-40 歳)、平均勤続年数 4.56 年
終ラベルにより構成されるレジリエンス向上のプロセス
(SD=2.96、Range=1-12 年)であった。また、対象者の
は図1のように示された。その図から分かることを以下
雇用形態別内訳は、正社員 17 名(管理職6名)、契約
のように叙述した。A 型図解で示した事象は、全て外
社員1名、アルバイト 14 名であった。そして、職種別内
側の線で示した【組織的サポート戦略】の大枠内で起
訳は、事務職3名、総合職9名、インストラクター20 名
こる事象であり、【組織的サポート戦略】から発する大
であった。
枠は店舗(組織)をイメージしている。まず、何かしらの
2-2.調査方法
【困難】に直面し、それを乗り越え【成功体験】として認
2012 年 10 月上旬から 11 月下旬に、1 対1形式の半
知されるか、乗り越えられず失敗の経験として認知され
構造化インタビュー調査が行われた。調査は所属大学
る。【成功体験】として認知されると、その経験が直接
の倫理委員会の承諾を得た手続きに則して実施され
的に【レジリエンスに寄与する望ましい心理状態】に影
た。インタビュー時間は、一人当たり 30 分~50 分であ
響したり、何らかの【考え方の変化】を経てレジリエンス
った。場所は、会議室や大学の教室で行われた。
2-3.調査内容
表1.構造化された質問内容
インタビューは、Hauser(2011)と山岸(2011)の質的
研究を参考に、表1で示した質問を中心に構成された。
質問内容は、対象者たちの職務上、および人生にお
ける逆境を乗り越えるプロセスに関する話題を中心に
構成した。ただし、フィットネスクラブでレジリエンスの
-43-
1
2
3
4
5
これまでにどのような逆境があったのか
その逆境をどのように乗り越えてきたのか
その前後でどのような変化があったのか
その変化のきっかけとなった出来事は何か
どのような経験を通して逆境を乗り越える力を
獲得・向上したと考えているのか
人類働態学会 会報 第98号 2013年6月15日(暫定版)
に寄与するのが成功体験を経た典型的なパターンで
表2.レジリエンス向上のプロセスを構成する最終ラベル
ある。一方で、【困難】を乗り越えられず失敗と認知さ
①
②
③
④
⑤
⑥
⑦
⑧
れると、【失敗経験に起因するポジティブ作用】を見出
すか、心身が不適応な状態に陥るなど【困難による弊
害】が生まれる。失敗と認知された経験からレジリエン
スの向上を促すパターンとして、【失敗経験に起因す
るポジティブな作用】を経て直接的に【レジリエンスに
寄与する個人資源】に影響を与えるパターン、【考え方
組織的サポート戦略
レジリエンスに寄与する個人資源
困難
失敗に起因するポジティブ作用
困難による弊害
成功体験
考え方の変化
レジリエンスに寄与する望ましい心理状態
の変化】を経て【レジリエンスに寄与する望ましい心理
状態】に影響を与えるパターンの大きく2つに分かれる。
【困難による弊害】はレジリエンスにより軽減されると考
えられるが、【困難による弊害】から発せられる影響は、
レジリエンスを弱めたり、ネガティブな思考を生むなど、
ネガティブに作用する影響である。そして、これらのプ
ロセス全体に対して【組織的サポート戦略】から【困難】
への直接介入や、【考え方の変化】の過程を促したり、
補強するサポートなど多様なサポートが可能である。
【組織的サポート戦略】は 30 の下位因子で構成され、
ⅰ)良好なサポート環境の醸成、ⅱ)顧客からのフィー
ドバック、ⅲ)望ましい心理状態へ導く、ⅳ)チャレンジ
を促す、ⅴ)主体性を促す、ⅵ)公式な人事施策、に
収斂された。
4.考察
最終表札となった【組織的サポート戦略】を構成する
因子に「顧客からのフィードバック」が含まれた。その背
景には、ヒューマンサービスを提供する過程で顧客と
密接な関係を構築することがあると推察される。顧客か
図1.A 型図解 レジリエンス向上のプロセスと組織的サポート
の視点
らのフィードバックが及ぼす正の影響は、個人的達成
主体的にできる限り自らの力で困難に立ち向かうこと
感を高めることが考えられる。その反面、顧客へのヒュ
が必要である。
ーマンサービスの提供過程で、情緒的資源の枯渇し
5.結論
た状態に陥る(久保,2007)ことがある場合も考え得る。
そして、成功体験と失敗経験の両方がレジリエンス
フィットネスクラブにおいては、顧客からのフィートバ
向上の機会となることも示された。それを組織的な支
ックを集約しマネジメントする組織的な仕組み作りが必
援という視点でみると、その両方を経験する機会を意
要である。また、成功体験と失敗経験の両方がレジリ
図的に作り出しチャレンジを促すことも必要である。成
エンス向上の機会となり、困難に立ち向かう機会を創
功体験は自信やコミットメント、モチベーションなどレジ
出しチャレンジを促すことが必要である。そして、ストレ
リエンスの下位尺度として報告された変数
スフルな出来事を通じた成長を促す際には、手を差し
(Reivich,2002、Fletcher,2012)に影響を与える。その
伸べるだけでなく、困難による弊害が生まれない範囲
一方で失敗経験については、明確な失敗経験がレジ
で、できる限り従業員自身の資源を活用し、困難に立
リエンスに影響を及ぼすとされており(山岸,2011)、本
ち向かうよう促すことでより効果的な支援となる。
------------
研究でも同様の結果が示された。
また、野崎(2012)は、ストレスフルな出来事に対し、
レジリエンスに関する個人的資源をもってその出来事
に取り組んだ人は、自己をより信頼するようになること、
つまり、より自信を深めるとしている。それを鑑みると、
-44-
<< 連絡先 >>
------------
庄司 直人
順天堂大学大学院 スポーツ健康科学研究科
〒270-1695 千葉県印西市平賀学園台 1-1
電話 0476-98-1001(大学代表)
FAX 0476-98-1011(大学事務)
E-mail: shoji_hl@yahoo.co.jp
人類働態学会 会報 第98号 2013年6月15日(暫定版)
5-1
発話音声と NIRS を用いた作業負担評価法に関する検討 1
○立川公子 1)、塩見格一 2)、橋本修左 1)
1)武蔵野大学, 2)電子航法研究所
1.はじめに
HRV/SPL/NIRS
多くの事故が人為的要因によって発生しているとの
短
安
AAT 文
静
1
指摘があり、事故発生件数を低減させるための試みが
継続して行われている。そのなかでも、航空機パイロッ
主
観
評
価
安
RST/朗読課題
静
唾液採取 ▲
トや自動車ドライバーの安全性を向上させるため、業
も早く覚醒ないし注意水準の低下を検知するアラート
短
短
安
安
文 AAT
文
静
静
2
3
▲
主
観
評
価
短
文
4
閉
眼
安
静
▲
実験プロトコル
図1
務中の発話を常時監視し、本人の自覚症状が出るより
主
観
評
価
朗読・RST 課題の2条件を設け、その前後に AAT を
システムの必要性が認められた。この問題に対し、発
実施した。NIRS と HRV、SPL は実験中継続して測定し
話音声のカオス性に対する指標値としての脳活性度
た。また、課題直前直後と課題 20 分後に唾液を採取し
指数(CEM 値)を算出するアルゴリズム SiCECA を提唱
ホルモン動態を調べた。また、各課題後に主観申告に
した(塩見,2004)。CEM 値は、中枢神経系の活動、あ
関する回答を得た。
るいはストレス状態を定量的に評価できる可能性があ
3.結果
ると考えており、現在ではパラメータ(埋め込み次元、
埋め込み遅延時間、近傍点集合条件、発展時間など)
まず、パフォーマンスの結果について述べる。RST
の適正化を目指し、生理および心理指標の変数を参
の評価点が 3.5 点になるよう課題文およびターゲット語
照した検証を続けている。
の設定を調整した(注1)。くわえて、RST課題時に難易度
そこで、本報では二重課題であるリーディング・スパ
が上がるに従って「難しさ」がどのように変化したのか
ンテスト(苧阪,1994)実施中に計測した NIRS 計測結
VASを用いて訊ねた結果、全ての難易度間で有意差
果を用いて、課題中の神経活動と CEM 値の関連性に
が認められた(p=.01)。このことから、課題の難易度が
ついて検証および報告する。
上がるにつれて被験者が「より難しくなった」と感じた事
が示された。さらに、最も難しい5文条件時のVAS平均
2.方法
得点は 83%と非常に高く、二重課題の負荷が適切に
2-1.被験者
かけられていたと言える。
CMI の結果がⅠ領域もしくはⅡ領域である男性8名
また、ストレス指標として計測した唾液中コルチゾー
(平均年齢 21.6±1.60 歳)を被験者とした。全員、利き
ルの平均値を用いて二元配置の分散分析を行ったと
手は右で視力(矯正含)が 0.6 以上であった。また、実
ころ、「試行」で主効果(p<.01)が認められ、「課題×試
験の5日前から睡眠日誌を記入してもらい、生活習慣
行」で交互作用(p<.05)が認められた。RST 課題 20 分
の統制と確認を行った。
後で最も数値が高くなっており、課題の負担がかかっ
2-2.測定項目および手続き
ていたと考えられる。
実験に先立ち、事前説明日を設け、性格検査
続いて、CEM 値の算出結果を示す(図2、図3)。
(BigFive・STAI 特性不安検査、GCQ、タイプ A、自作
1.1
設定1:RST課題
ストレス質問紙)および紙のカードを用いた RST 課題の
本実験では、CEM 値、心電図(ECG)、皮膚電位水
準(SPA)、α波減衰法、NIRS、唾液バイオメータの6項
目の生理計測と、性格特性検査、健康度、特性不安
調査、主観申告を把握する 11 項目の心理測定を行っ
設定1:朗読課題
1.05
ヲ
・
サ
・
マ
・ 1
・
M
E
C
0.95
CEM値変化率
課題練習を行った。
た。また、実験者が作成した 20~30 文字の課題文を
ディスプレイ上に呈示し、朗読および RST 課題を実施
0.9
E1
Try
A
R2
A2
R3
A3
R4
A4
R5
A5
E2
E3
試行
した。
図2
続いて、本実験プロトコルを示した(図 1)。
-45-
CEM 変化率の課題間比較(設定1)
E4
人類働態学会 会報 第98号 2013年6月15日(暫定版)
1.1
なお、RST課題時に有意差が見られたCEM値(設
設定2:RST課題
設定2:朗読課題
1.05
ヲ
・
サ
・
マ
・ 1
・
EM
C
0.95
定2)と、最も難易度の高い5文条件時の左脳
CEM値変化率
deoxy-Hb 濃度に強い正の相関(p=.010,r=.873)が見
られた。
4.考察
本報においては、CEM値の適正化を目指し、2種
のパラメータ設定を用いてCEM値を算出し、二重課
0.9
E1
Try
A
R2
A2
R3
A3
R4
A4
R5
A5
E2
E3
E4
試行
図3
題を用いて脳活動との関連性を検証した。その結果、
フリッカー検査結果との相関が高い設定2において課
CEM 変化率の課題間比較(設定2)
題時に条件間での有意差が認められ、高難易度課題
課題後安静時の非課題朗読時の値を基に正規化し
時にはNIRSとの関連性が示された。
た値を用いて、従来のパラメータ設定(設定1)と、臨界
脳活動指標として用いたNIRSは、健常成人におけ
フリッカー周波数との相関が強くなるよう調節された設
る神経活動時に oxy-Hb 濃度が上昇し deoxy-Hb 濃度
定(設定2)の算出結果をそれぞれ示した。設定1では
が低下する脳血流量変動が典型的であると考えられ
課題間で有意な差は見られなかったが、設定2の値を
ている(福田,2009)。deoxy-Hb 濃度変化は複雑であ
用いて二元配置の分散分析を行ったところ、「試行」で
り解釈が難しいと言われているが、福田(2009)はこれ
主効果( p<.05)が認められ、「課題×試行」で交互作
までの研究で、テレビゲーム課題に集中するため前頭
用(p<.05)が認められた。
葉の神経活動を抑制し oxy-Hb 濃度が低下する事を
さらに、前頭葉の脳血流量を計測し、部位(左右)毎
報告している。本実験では課題直後に deoxy-Hb 濃度
に酸化(oxy-Hb)および還元(deoxy-Hb)濃度を示し
が oxy-Hb 濃度を上回る傾向を示しており、課題後に
たものが図4、図5である。
賦活部位もしくは神経活動量が変化した可能性が示
唆されたと言える。
本実験で用いた二重課題はディスプレイ上に呈示さ
れた文章を視覚認識する作業と発話作業、そして記
憶・再生といった複合的な反応を引き起こすものと考
えられ、神経活動パターンが多様なものであったと推
察される。今後は、自発的な発話課題を用いるなどし
て作業内容を限定し心的ストレス条件下での計測を行
う事で、より精度の高いCEM値パラメータの適応が可
能になると考えられる。
図4 朗読課題時の脳血流量変化
引用文献
塩見格一:発話音声による大脳活性度評価技術の現
状と可能性,信学技報,15-18,2004
苧阪満里子:読みとワーキングメモリ容量,心理学研
究,65(5)339-345,1994
福田正人:精神疾患とNIRS-光トポグラフィー検査に
よる脳機能イメージング,株式会社中山書店,2009
(注1)大学生を対象とした場合、RST の平均値は約 3.0 から
図5 RST課題時の脳血流量変化
3.5 になると言われている。
両条件で、課題中は oxy-Hb 濃度が高く、課題後の
短文読み上げ時には deoxy-Hb 濃度が oxy-Hb 濃度を
上回る傾向を示した。また、朗読課題中は右脳
oxy-Hb 濃度が左脳よりも高く、RST課題時には左脳
oxy-Hb 濃度が右脳よりも高くなる傾向が見られた。
-46-
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<< 連絡先 >>
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立川公子
武蔵野大学 人間科学研究所
〒135-8181 東京都江東区有明三町目三番三号
電話 03-5530-7454
E-mail t_tachi@musashino-u.ac.jp
人類働態学会 会報 第98号 2013年6月15日(暫定版)
5-2
指示内容が曖昧な視覚記号に対する動作の同期に関する筋電図学的検討
○髙橋雄三、山本あゆ美
広島市立大学大学院 情報科学研究科 システム工学専攻 人間工学研究室
1.はじめに
上方向の時は右腕の挙上を,左・下・左下方向の時は
屋内で災害に遭遇した時,我々は屋内に設置され
左腕の挙上を確実におこなうように強化した.しかし,
た避難誘導表示に従って屋外に脱出する.避難口誘
強化した方向指示性は,矢印が左上(第 2 象限)を指
導灯に付加する脱出方向を示す矢印の効果について
した時と右下(第 4 象限)を指した時には適用できない
田中らは,人型ピクトグラムに加えて誘導方向を示す
ため,この 2 か所の提示位置を指示内容が曖昧な矢
矢印を付加すると,非常口のある方向への誘導効果
印の提示位置条件と設定した.さらに,緊急避難が必
1)
が高くなることを報告している .一方,緊急事態にお
要な状況下では,煙などにより矢印の視認性が低下す
ける避難行動は,他者の行動の影響を受けることが示
るため,矢印の方向指示性を減弱させる条件として,
2)
唆 されており,他者の行動に同調することによって,
矢印の軸に矢羽根が両方に付加されている条件,矢
間違った脱出経路を選択する可能性が高くなる.した
羽根が画面の中央側に付加されている条件,外側に
がって,避難口に提示する非常口のある方向を示す
付加されている条件を矢羽根の向き条件と設定した.
視覚記号には,他者の行動選択の結果に影響を受け
繰り返し回数は各条件 20 回の計 120 回とした.
ない,強い方向指示性を有する必要がある.
2-3.矢印の提示方法
本研究では,視覚記号である矢印の指示内容が曖
矢印は 19 inch 画面(FlexScan S1901-B,iiyama)上
昧になった時の動作の同期(動作や動作速度の一致)
に提示した.注視点を 2 秒間提示した後,白画面を
について,動作部位の筋電位反応の側面から実験的
850 ms 提示した.続いて,画面の中心を基点とする矢
に検討することを目的とする.
印を 250 ms 提示した.矢印の提示と同時に,1V の矩
形波を DA 変換器 CSI-360112(Interface)を用いて出
2.方法
力した.被験者には,提示された矢印から挙上すべき
2-1.被験者
被験者は腕部の動作に支障ない健康な大学生・大
学院生 8 名(男女各 4 名)とした.また,被験者には実
験室入室後に実験概要を十分説明し,インフォームド
コンセントを書面で確立した後に,実験を開始した.
腕を判断し,できるだけ早く挙上するよう指示した.矢
印消失 2,000 ms 後に★を 1,000 ms 提示し,★が提示さ
れるまで挙上した腕を保持するように指示した.
2-4.筋電図の測定
本実験では,挙上動作時の左右両腕の上腕二頭筋
2-2.実験概要
実験では,2 人の被験者に同時に矢印を提示し,被
験者が選択する挙上動作(どちらかの腕で 250 g のダ
ンベルを挙上)時の上腕二頭筋の筋電図を測定した.
(1)矢印に対する動作の強化:動作の強化は被験者
ごとにおこなった.左右方向の強化条件では,画面に
[→]が提示された時は右腕を,[←]が提示された時
は左腕を挙上するよう指示した.上下方向の強化条件
では,[↑]が提示された時は右腕を,[↓]が提示され
た時は左腕を挙上させた.また,右上(第 1 象限)左下
(第 3 象限)方向の強化条件では,画面右上 45 度方向
を指す矢印が提示された時は右腕を,画面左下 225
度方向を指す矢印が提示された時は左腕を挙上する
よう指示した.各条件での挙上回数は,各腕 20 回の計
40 回とした.提示順序は被験者ごとランダムとした.
(2)指示内容が曖昧な矢印に対する動作の測定:動
作の強化では,矢印の矢羽根が指す方向が右・上・右
-47-
の表面筋電図を測定した.表面筋電図は,筋肉に貼
付した生体電極 SX-230-1000(Biometrics)に接続した
EMG アンプ(被験者 A は PTS-137(DKH),被験者 B
は K800(Biometrics))を通じて TRIAS System(DKH)
でサンプリング間隔 1 ms で A/D 変換し,矢印の提示を
示す矩形波とともに,2 人分のデータを記録した.
動作速度の一致は,矢印が画面上に提示されてか
ら筋収縮の初期発火が観測されるまで時間と,筋収縮
の初期発火が観測された時点から上腕部の収縮が終
了した時点までの総発火量を 100 %とした時の 30 %
の出力に到達するまでの時間とした.
2-5.統計解析
矢印の提示条件が動作の一致や動作速度の一致
に及ぼす影響を検討するため,矢印の提示位置(第 2
象限と第 4 象限の 2 水準)と矢羽根の向き(両方,内側,
外側の 3 水準)を要因とする二元配置分散分析を行っ
た.多重比較は Bonferroni 法を用いた.
人類働態学会 会報 第98号 2013年6月15日(暫定版)
3.結果
100
90
80
70
60
50
40
30
20
10
0
図 1 には,実験条件ごとにみた,2 名の被験者の動
作の一致率を示す.分散分析の結果,全ての要因で
有意の主効果が認められた(矢印の提示位置:F(1,15)
= 7.28 , p<0.05 , 矢 羽 根 の 向 き : F(2,30) = 14.35 ,
p<0.001).多重比較の結果,一致率は第 4 象限に比
動作の一致率 [%]
3-1.動作の一致
較して第 2 象限で高く,他の条件に比較して矢羽根が
画面の内側に付加された時に低下した(p<0.05).
第2象限
第4象限
両方
内側
3-2.筋収縮の初期発火が観測された時間
外側
矢羽根の向き
図 2 には,実験条件ごとにみた矢印が画面上に提
図 1:実験条件ごとにみた動作の一致率
間を示す.分散分析の結果,矢羽根の向きの要因で
の み 有 意 の 主 効 果 が 認 め ら れ た ( F(2,30) = 5.73 ,
p<0.01).多重比較の結果,筋収縮の初期発火が観測
されるまでの時間は矢羽根の向きが画面の内側を向
いている時が最も長かった(p<0.05).
3-3.30 %出力到達時間
図 3 には,実験条件ごとにみた,挙上に要する総筋
発火量の 30 %が発揮されるまでの時間を示す.分散
筋収縮の初期発火時間 [ms]
示されてから筋収縮の初期発火が観測されるまでの時
700
第2象限
第4象限
600
500
400
300
200
100
0
分析の結果,矢印の提示位置の要因で有意の主効果
両方
が認められた(F(1,15)=12.66,p<0.01).多重比較の
結果,筋発火の 30 %が発揮されるまでの時間は第 2
内側
外側
矢羽根の向き
図 2:実験条件ごとにみた筋収縮の初期発火時間
象限に比較して第 4 象限で延長していた(p<0.05).
第2象限
第4象限
提示された矢印に対する動作の一致率は,矢羽根
が画面の中央側に付加された時に極度に低下し,併
せて,筋収縮の初期発火が観測されるまでの時間は
延長した.また,この傾向は矢印を第 2 象限に提示し
た時に顕著にあらわれた.一方,矢羽根が両方に付加
された時と画面の外側に付加された時は,動作の一致
30%出力到達時間 [ms]
1400
4.まとめ
1200
1000
800
600
400
200
率や筋収縮の初期発火が観測されるまでの時間に顕
0
両方
著な差が認められなかった.したがって,矢印の提示
位置,矢羽根の向きによって矢印の方向指示性が変
化する可能性が示唆された.本研究では,視覚記号
内側
外側
矢羽根の向き
図 3:実験条件ごとにみた 30 %出力到達時間
に対する動作の同期を上腕二頭筋の筋電位反応から
検討した.本結果より,判断結果が人によって異なる
謝辞
本研究は,公立大学法人 広島市立大学特定研究
視覚記号を用いた動作の指示は筋収縮の初期発火を
費(一般研究費:0215)の助成を受けて実施した.
遅らせる影響がある可能性が示唆された.
参考文献
------------
1)田中孝治,加藤隆:避難口誘導灯に通過後の情報を付加す
ることの効果,心理学研究,vol.83(3),pp.182-192(2012)
2)伊藤君男,天野寛,岡本真一郎:緊急事態における避難行
動に関する研究-事前の探索経験の効果-,実験社会心
理学研究,vol.38(1),pp.17-27(1998).
-48-
<< 連絡先 >>
------------
髙橋 雄三
広島市立大学大学院 情報科学研究科 人間工学研究室
〒731-3194 広島市安佐南区大塚東 3-4-1
電話 082-830-1817
FAX 082-830-1817
E-mail: y-taka@hiroshima-cu.ac.jp
人類働態学会 会報 第98号 2013年6月15日(暫定版)
5-3
ヒトの運動行動様式と利き手利き足との関係
○松村秋芳 1)、竹内京子 2)、中村好宏 3)、樋 桂 4)、真家和生 5)
1)防衛医大・生物, 2)平成帝京大学, 3)防衛医大・数学,
1.はじめに
4)文京学院大学, 5)大妻女子大・博物館
分で自覚する軸足」、「幅跳びの踏切足(L2)」、「片足
運動・動作の場面において、主動的な役割を果た
立ちで安定感がある足(L3)」、「片足ジャンプで力が出
す“利き手”は一般的に、手指と手掌で細かな動作を
る足(L7)」は、手の細かい運動・動作との相関が、さら
する方の手に対応すると理解されている。下肢では通
に低かった。
常利き手側が機能的、反利き手側が支持的役割を果
頭部の運動・動作と知覚は、細かな手の動きとの相
たす。しかし、上肢と下肢における細かい指の動作と
関は全般的に低かった。「利き目(H8)」と「自覚する利
肢全体を使った大きい動作を含む機能分化の全体像
き手(A12)」との一致率は約 60%で、手足の運動・動作
についての研究は少ない。上肢および下肢について、
との特別な関連性は認められなかった。
細かい動作と肢全体を使う動作との左右性の関連性
に着目して検討した。また、上下肢の左右性と頭部の
知覚との関連について関連性を検討した。
2.方法
男子大学生 203 名を対象として、質問紙調査法によ
る比較分析を行った。上肢 12 項目、下肢 13 項目、頭
部 5 項目、計 30 項目の運動・動作に関する一側優位
性の度合について、11 段階評価によるデータを得た。
これらについて相関をしらべ、多変量解析を試みた。
3.結果
図1.は、いろいろな動作における利き手と利き足の
関係を示している。グラフ上にアルファベット(A:上肢、
図 1.いろいろな動作における利き手、利き足と軸
L:下肢、H:頭部)と番号の組み合わせで示した各運
足の関係を示す多変量解析の例;
動・動作項目は、それらのお互いの距離が近いほど相
A:上肢項目、L:下肢項目、H:頭部項目。
4.考察
関が高いことを表す。
細かい手の動作を伴う「箸をもつ手(A1)」、「鉛筆を
結果から、細かい手指の動作を行う側を“利き手”と
もつ手(A2)」と「自覚する利き手(A12)」は相互に相関
判定するのが妥当であることが確認された。一方、上
が高かった(r>0.9)。一方、上肢全体を使用する運動
肢全体を使用する動作で「腕相撲が強い側(A11)」が、
の中で、「腕相撲が強い側(A11)」は上記の 3 項目と高
「自覚する利き手」と高い相関を示したことは注目され
い相関を示した(r>0.9)が、「ボールを投げる手(A3)」、
る。これは、富田(2012)の指摘する手全体を静的に使
「重い荷物を片手で持つ手(A5)」、「握力が強い手
う動作に相当する。他方、下肢では細かい動作よりも
(A10)」は、細かい運動・動作との相関がやや低かった。
むしろ肢全体を動的に使う動作が「自覚する利き手」と
さらに、「ドアノブを掴む手」、「缶コーヒーのプルタブを
高い相関を示す傾向を認めた。手掌部や下肢の静的
掴む手」も細かい動作との相関が相対的に低かった。
運動、あるいは動的運動における操作性への要求が、
下肢の運動・動作で手の細かい運動動作と高い相
関(r>0.9)を示したのは「自覚する利き足(L12)」、「蹴っ
たボールの飛距離がでる足(L5)」、「ボールを蹴る足
(L1)」であった。これらと比べると、「指の使い方が上手
な足(L4)」、「素早い動きができる足(L6)」などは、細か
い手の動作を伴う運動・動作との相関がやや低かった。
一方、体を支える運動・動作に関連した項目である「自
-49-
左右の使い分けに関与する可能性が示唆された。
------------ << 連絡先 >> -----------松村秋芳
防衛医科大学校生物学教室
〒359-8513 所沢市並木 3-2
電話 04-2995-1424
FAX 04-2996-5219
E-mail: matsumur@ndmc.ac.jp
人類働態学会 会報 第98号 2013年6月15日(暫定版)
5-4
急激な室温の変化が血圧と心電図におよぼす影響
○瀬戸山祐一 1)、岡村侑磨 1)、成田裕二 1)、南優太 1)、千代島諒平 1)、下田政博 2) 、植竹照雄 2)
1)東京農工大学農学部, 2)東京農工大学大学院農学研究院
3.結果
1.はじめに
農作業の現場、特にビニールハウスや植物工場など
<血圧および脈拍数>
への出入り時には作業者は急激な温度変化に暴露さ
① 最高血圧および最低血圧ともにHからCへの移動
れ、heat shock による過大な負荷を受けている。常に
で上昇し、反対にCからHへの移動で下降する傾
重大なリスクに曝されているにも関わらず、農作業現場
向がみられた。
に限定すると急激な温度変化が及ぼす生体負荷に関
② 両血圧値は空間移動直後に急激に変化した。
する研究は数少ない。
③ 一般に、脈拍数はHで高くCで低かった。
本研究では、室温差の大きい空間を往来する際の血
圧および心電図を収録し、急激な温度変化による影響
の観点から詳細に検討を加えた。
④ 脈拍数は室温変化に連動するばかりでなく、血圧
変化に対しても連動する傾向が見られた。
<心電図>
① RR間隔の平均は、Hでは徐々に小さくなり(瞬時
2.方法
心拍数大)、Cでは徐々に大きくなる(瞬時心拍数
2-1.被験者
被験者は 18-22 歳の健康な男女大学生各 10 名であ
り、車いすに乗った姿勢のまま約 20°の温度差がある
二つの空間を移動した。被験者自らが運動することに
よる血圧等への影響をなくすため、第三者が車いすを
押すことにより空間間の移動を確保した。なお、被験
者には実験開始前に実験内容を十分説明した上で、
実験同意書の提出を求めた。
小)傾向が見られた。加えて、CではHに比較して
被験者間のばらつきが大きかった。
② RR間隔の標準偏差は、Hでは値が小さく比較的
ばらつきが少なかったのに対し、Cでは値のばら
つきが大きく個人差が顕著であった。
③ RR間隔の変動係数は、一般的にはHで小さいが、
Cでは標準偏差と同様、ばらつきが大きく個人差
が顕著であった。
2-2.空間条件と測定
<測定機器> 血圧および脈拍数、心電図はそれぞ
4.考察
れ上腕血圧計(EW-BU75,Panasonic)、多チャンネルテ
本研究では、被験者が自ら移動することで生じる血
レメータシステム(WEB-7000、日本光電)を用いて測定
圧等への影響を除外するため、被験者は車いすに乗
された。
ったまま空間間の移動を行った。また、血圧および脈
<実験空間> 室温が 10°C(以下、C), 20°C(以下、
拍数は一分間隔毎に断続的に測定され、心電図は実
M), 30°C(以下、H)であり、なおかつドアを挟んで連
験開始直後から連続記録された。
続する三空間を設定した。また、三空間の平均湿度は、
空間移動直後の血圧の急激な変化が認められたこと
それぞれ 57%、40%、43%であった。
は約 20°C の急激な温度変化のみがもたらしたことで
<被験者の着衣> 夏季に着用する半袖シャツ、普
生じたものであり、重量物を運搬する作業が伴う環境
通時ズボン、下着、靴下、スリッパであり、0.35-0.45 clo
下では、さらに急激な変化が生じる可能性がある。
unit に相当する着衣量であった。
RR間隔に関する諸測度はHに比較してCで個人差
<測定> 順序効果を相殺するため、被験者は二群に
が大きかった。このことは急激な室温低下に対する生
分けられ、両群固有の測定順が設定された。すなわち、
体反応の個人差に由来するものと思われる。また、脈
測定開始がCから開始される群とHから開始される群であ
拍数と血圧変化との連動性が見られたことは、熱的に
り、測定開始後の順はそれぞれC⇒H⇒C、H⇒C⇒H
平衡状態であれば心臓の仕事量を一定に保つという
であった。測定時間は両群とも 5 分、10 分、10 分であった。
「二重積」の原理と一致する。
各空間では基本的に一分間隔毎に血圧及び脈拍数が測
定された。また、解析する際の対照値とするため、M にお
いて 5 分間停留した後に血圧および脈拍数が測定された。
また、心電図は実験開始直後から連続記録された。
-50-
------------
<< 連絡先 >>
------------
植竹照雄
東京農工大学大学院農学研究院自然環境保全学部門
〒183-8509 府中市幸町 3-5-8
電話・FAX 042-367-5644
E-mail:uetake@cc.tuat.ac.jp
人類働態学会 会報 第98号 2013年6月15日(暫定版)
5-5
下肢開脚幅が股関節回旋角度並びに荷重動揺軌跡に及ぼす影響
○竹内京子 1)、松村秋芳 2)、酒井紀行 3)、梅原彰浩 4)、福島諒 1)、湯川優 1)、片山証子 5)、煙山健仁 6)、岡田守彦 7)
1)帝京平成大・院・健康科学研究科, 2)防衛医大・生物学, 3)グローバルベイシック・研究開発,
5)筑波綜合研究所, 6)防衛医大・生理学, 7)筑波大学
4)あおき整形,
1.はじめに
股関節は殆どの身体活動に関わる重要な関節なの
2-2 対象者
で、日常生活や運動時における股関節の運動制御能
を長期継続している習熟者の 34 歳男性 1 名、および初
を知ることは重要である。 我々は、回旋運動時の角度
めて研究に参加した大学生 4 名、男 2 名、女 2 名)であ
変化が計測できる重心動揺計付き回旋角度測定器(股
る(表 1)。5 名とも現在は特別な運動を行っていない。
関節回旋動揺測定器:ジャイロメディメータ、グローバル
運動障害等は有しておらず、支持体に頼らずに立位姿
ベイシック、東京)を用いて、股関節最大内外旋角度や
勢を保持し、回旋運動ができることを確認した。
両脚同時回旋運動時の角度変化ならびに荷重動揺軌
跡を観察し、身体運動能の測定評価を試みてきた。
対象者は、ジャイロメディメータでモニターとして測定
表 1 対象者のプロフィール
NO.
性
別
年
齢
身長
(cm)
運動歴
測定経験
(ジャイロ)
足中心と一致するように設定し、両足間の距離(円盤
1
男
34
170
スノーボード
有
中心間距離)を 37cmとしてきた。37cmとした理由は、
2
男
20
175
卓球 空手
-
この距離が日本人男女それぞれの肩幅分布範囲に含
3
男
20
174
無
無
まれており、男女を総合した場合の平均値に近いこと、
4
女
21
165
バスケット
無
また回旋円盤の直径 31cm(足長 30cmに対応)に基
5
女
20
158
無
無
これまでの計測では、立ち位置を円盤中心および
づいて、測定時の最小円盤中心間距離を 32cmとした
2-3 測定方法
対象者は膝伸展立位、開眼、両腕を下垂した姿勢
ので、5 cm刻みに測定幅を変化させたとき、37cmが
32cm の次の区切りの刻みとなるためである。
しかし、測定時の円盤中心間距離が一定でも身長
が異なると、開脚角度も異なるので、股関節回旋運動
に動員される筋の部位や作用にも影響が及ぶことが予
想される。本研究では、下肢開脚幅を変化させたとき
に、立位股関節回旋角度並びに荷重動揺軌跡にどの
ような影響が生ずるかについて検討した。
で、2 台の回旋円盤の中央に片足ずつ載せて起立し
た(図 2A)。適宜練習を行い、慣れたところで測定を開
始した。測定時間は 30 秒間とし、2 秒で 1 往復のペー
スで立位姿勢を保持しながら最大内外旋運動を行っ
た(図 2B)。円盤中心間距離は 32、37、42、47、52、57
cmの 6 種(男)、または 37、42、47、52cm の 4 種(女)
とした。
2.方法
2-1.計測機器
A
計測にはジャイロメディメータを用いた(図 1)。本装
置は、回旋角度測定機能と重心動揺計の機能を同期
させてパソコンに立位股関節回旋運動中の重心軌跡
のデータを取り込むことができる。
B
図 2 測定姿勢(A)ならびに足部(B)の両脚内外旋運
動の一例:運動中は上体の前屈など代償作用が起
こらぬように注意した。
図 1 ジャイロメディメータ:上部の円盤が回旋角度測
定部、下の 3 脚台が重心動揺測定部。通常は 2 組
セットで用いるが、必要に応じて単独で用いる。本
機を用いて対象者の筋運動の特性が評価できる。
解析は、30 秒間 15 往復の運動で得られる平均最大
内外旋角度(0.02Hz/秒で採取)の変化、および 30 秒
間の荷重動揺軌跡図のパターン変化について行った。
-51-
人類働態学会 会報 第98号 2013年6月15日(暫定版)
運動能の評価に先立ち、身長と開脚角度の変化の
変化する。医療現場で実施されている関節角度測定
関係について検討した。
法(ROM-T)は 5°(2.5°で四捨五入)単位なので、
身 長 170 c m を 中 心 に み る と 、 開 脚 幅 37 c m は 、
3.結果と考察
160-180cmの半開脚角度で±1.0°(両側で 2°)以
3-1 開脚幅と開脚角度の変化の検討
下に収まっており、同一グループの範囲内となる。 し
上前腸骨棘幅中点(正中線との交点)を身長の 1/2
かし、身長 155cm以下と 185cm以上の場合は、測定
と仮設定し、そこからの垂線と円盤中心点を結ぶ線と
条件を整えるために開脚幅を変更する必要がある。
のなす角を半開脚角度(α)とし(図 3)、 異なる身長
3-2 開脚幅と股関節最大内外旋角度の変化
での角度変化を概算でシュミレーションした(図 4)。両
図 5 は、対象者 1~5 について開脚幅と股関節最大
脚間角度(2α)は半開脚角度を 2 倍することで求めら
内外旋角度(いずれも平均値)の関係をプロットした結
れる。
果である。全員、利き手は右利で右脚が体重を支える
軸足であった。
対象者 1 はモニターとして、頻繁にジャイロメディメー
対象者 NO1
α
角度
α
図 3 開脚幅と開脚角度の変化:円盤中心間距離が
32cm(左)、52cm(右)の例。αは上前腸骨棘幅を
16-18cmとし、その中点から下した垂線と円盤中心
点とを結ぶ線のなす角度として計算した。
身長、開脚幅および開脚角度の関係を身長 150cmか
ら 190cmまで 10cm刻みに検討した結果、開脚幅 32
80
cmでは半開脚角度が 2.5 度(両脚で 5 度)弱であった
70
対象者 NO2
角度
60
が、開脚幅が広がるにつれ、開脚角度の差が拡がった。
50
図 4 から、身長約 160cmで開脚幅 42cmの時の開脚角
57cm
52cm
47cm
42cm
37cm
40
度は、身長 170cmの場合の開脚幅 44.5cmに相当し、
30
身長 180cmの場合では開脚幅 47cmに相当すること
20
が読み取れる。このように、身長が異なると開脚角度は
10
開脚幅・開脚角度と身長との関係
0
30
25
70
150
20
160
50
170
180
15
対象者 NO3
60
角度
半
開
脚
角
度
40
190
多項式 (160)
30
57cm
52cm
47cm
42cm
37cm
20
10
y = -0.0003x4 + 0.0074x3 - 0.0526x2 + 2.0071x +
9.5017
R² = 1
5
32
37
42
47
52
57
62
67
72
10
0
開脚幅cm
図 4 開脚幅・開脚角度の計算によるシミュレーション:
片側の角度差 1.25°以下が ROM-T 評価で同じ群
図 5 対象者 1-3 の開脚幅と最大内外旋角度の変化
に属することになる。
-52-
人類働態学会 会報 第98号 2013年6月15日(暫定版)
80
角度
70
3-3 開脚幅と荷重動揺軌跡の変化との関係
対象者 NO4
60
対象者 1 と 2 の左右脚同時回旋運動時の荷重動揺軌
跡図(図 6)を比較すると、最大内外旋角度の数値の変
52cm
47cm
42cm
37cm
50
40
化が似ていても (図 5)、その動きの質は異なることがわ
かる。対象者 1 は、股関節部での骨盤の前後方向への
30
「腰を使った動き」が認められる。また、開脚幅(角度)に
20
かかわらず骨盤部の筋が円滑に作用している。
10
それに対して対象者 2 は、骨盤全体の動きは小さく、
0
股関節部での回旋運動のみが行われており、骨盤部の
動作筋が円滑に作用していない。しかし、開脚幅が増
加するにつれ、骨盤の前後方向への動きが誘導され、
57cmの軌跡図では、それが比較的明確になった。
70
対象者 NO5
開脚幅
角度
60
50
40
30
52cm
47cm
42cm
37cm
対象者 1
対象者 2
32cm
20
10
37cm
0
42cm
図 5(続き)対象者 4-5 の開脚幅の変化と最大
内外旋角度の変化
タによる測定を行っているので、コントロール(習熟者
47cm
基準)と見なせるデータが得られる。両脚とも開脚幅が
広がるのと同期して最大外旋角度が拡がるが、内旋角
度は外旋ほどの変化が見られない。わずかに外旋角
52cm
度に左右差が認められた。
対象者 2 は、全体の傾向は対象者 1 と似ていた。内
旋角度の変動は対象者 1 より大きいが、正常誤差範囲
内で、外旋角度の左右差は殆ど認められなかった。
57cm
対象者 3 は、左脚側で対象者 1、2 と同様の開脚幅
の拡がりと最大外旋角度の増加を示した。右脚側で内
図 6. 左右脚同時回旋運動時の荷重動揺軌跡
旋角度が外旋角度以上に変化が認められたことから、
右脚の動きが不安定であることが示唆された。
4.結語
対象者 4 は、開脚幅の増加に対し外旋角度は殆ど
ジャイロメディメータの測定における身長の違いと開
変化を示さなかった。左脚に対して右脚側の内旋角度
脚幅の変化の関係をグラフで示した。骨盤部の筋運動
が有意に大きく、左右差が認められた。
は最大内外旋角度だけでなく、開脚幅を変化させた時
対象者 5 は、測定幅 42cmの計測点以外では開脚幅
の荷重動揺軌跡を併せて評価することが必要である。
と外旋角度の増加に相関性が認められた。内旋角度が
大きく、股関節の柔軟度が高いことが示唆された。
------------
全般として、運動時の軸足となる側の内旋角度は開
脚幅の変化に関わらず安定していることが示唆された。
それに対して動作をする、いわゆる利き脚は安定性が
相対的に低いと考えられた。
-53-
<< 連絡先 >>
------------
竹内京子
所属:帝京平成大学大学院・健康科学研究科
住所:〒170-8445 東京都東池袋 2-51-4
電話・ファックス 03-5843-4866(直通)
E-mail: kyoko.take@thu.ac.jp
人類働態学会 会報 第98号 2013年6月15日(暫定版)
P-1
大学生の進路選択に対する自己効力とソーシャル・サポートに関する研究
○北村茉衣 1)、水野基樹 1)2)
1)順天堂大学大学院, 2)順天堂大学
2-2.調査期間
1.はじめに
大学生にとって職業選択は人生を左右する重大な
2012 年 10 月 31 日から 11 月 17 日
選択であるが、いざ就職活動を目前に控えるとどのよう
2-3.調査方法
に行動すれば良いかわからない学生が多数いるのが
直接配布回収法による質問紙調査を用いた。質問
現状である(横山,2010)。また、進路選択を行う前の時
内容は性別、年齢を問うフェイスシートと日本語版ソー
期の学生には、進路選択の方法や可能性、自身の興
シャル・サポート尺度、進路選択に対する自己効力尺
味や適性に関する不安が生起していることが報告され
度を採用した。
ている(槻本,2007)。つまり、自身が何に向いているの
2-4.分析方法
か、何に興味があるのかわからないというのが就職活
進路選択に対する自己効力とソーシャル・サポートの
動前の学生の特徴であり、それらに対する不安が、自
関連を検証するために各尺度得点を用いて相関分析
身の進路選択活動や学生生活にネガティブな影響を
およびt検定をおこなった。なお、t検定では槻本
及ぼしている(安藤,2004)。一方、児玉ら(2002)による
(2007)の研究を参考にソーシャル・サポート得点の平
と、進路選択に対する自己効力の高い学生は自ら積
均値(M=69.86、SD=9.27)を基準に、そこから高い
極的に企業から内定を得るためのノウハウに関する情
群を高群、低い群を低群の 2 群に区分し、進路選択に
報を集めていることが報告されている。
対する自己効力得点についてt検定を行った。
以上の先行研究を踏まえると、進路選択における自
3.結果
己効力を向上させることが前述の問題の解決に効果
相関分析の結果、進路選択に対する自己効力尺度
的であると考えられる。しかし、進路選択に対する自己
得点とソーシャル・サポート尺度得点の間には弱い正
効力と支援やサポートを検証した研究は散見される程
の相関関係が示された(r=0.39,p<0.01)。次に t 検定
度である。そこで、本研究では、進路選択時期におけ
の結果、進路選択に対する自己効力尺度得点におい
る効果的な支援やサポートを明らかにするために、ソ
てソーシャル・サポート得点高群と低群の間に有意な
ーシャル・サポート(友人や教員、両親、家族からのサ
得点の差異が確認された (t(190)=3.03,p<.05)。
ポート)概念に着目し、進路選択に対する自己効力と
の関連を明らかにすることを目的とした。尚、本研究で
4.全体的考察
用いる進路選択に対する自己効力概念は Taylor &
杉森(2004)の研究によると進路選択課程である学
Betz(1983)によって示されたものであり、Bandura(1997)
生はこの時期、幅広い進路選択を行うことや進路選択
の自己効力感を進路選択行動に援用した概念であ
の見通しを立てるためにより自身や進路先に関する情
る。
報を必要としているため進路選択に対する自己効力と
ソーシャル・サポートには関連があると推察される。
2.方法
また、Bandura(1997)は自己効力を育むために 4 つの
2-1.対象
源を提唱している。そのうちの1つである言語的説得が
首都圏に在学している学部3年生と大学院1年生(男
関係しているのではないだろうか。Bandura は暗示や
性 116 名、女性 76 名、計 192 名)を本研究のサンプル
自己教示によって自己効力をコントロールすることがで
として設定した。
きると示している。進路選択を控えた学生は家族や友
表1. ソーシャル・サポートと進路選択に対する自己効力におけるt検定結果
ソーシャル・サポート
高群
平均
標準偏差
進路選択に対する
自己効力
88.77
12.73
ソーシャル・サポート
低群
平均
標準偏差
81.16
13.02
t値
3.03**
**p<.05
-54-
人類働態学会 会報 第98号 2013年6月15日(暫定版)
人から説得的な暗示をかけられることで進路選択に対
する自己効力を高めていると推察される。
しかし、これはあくまでも数値的な見方であり、2つの
因果関係をより明らかにしていくためには今後、インタ
ビュー調査による追調査が必要となってくる。
5.結論
本研究を通じて2つの結論を得た。
① 進路選択に対する自己効力はソーシャル・サポー
トによって高めることが可能である。
② 進路選択過程の学生が抱える不安はソーシャル・
サポート特に言語的サポートが有効である。
6.引用文献
(1)Bandura, Albert. 1977 Self-efficacy: Toward a
unifying theory of behavioral change. Psychological
Review, 84:191-215.
(2)児玉真樹子、松田敏志、戸塚唯氏、深田博己稿
「大学生の進路選択行動に及ぼす自己効力およ
び職業的アイデンティティの影響」『広島大学心理
学研究』第 2 号、2002 年。
(3)槻本裕和稿「学生の進路選択における不安に関
する研究-ソーシャル・サポートの視点から-」『九州
大学大学院紀要』2007 年
(4)下村英雄「大学生の職業選択における情報探索
方略―職業的意思決定理論によるアプローチ―」
『教育心理学研究』第 44 巻、第 2 号、1996 年、145
‐155 頁。
(5)Taylor , K. M., & Betz, N. E. 1983 Applications of
self-efficacy theory to the understanding and
treatment of career indecision. Journal of
Vocational Behavior, 22:63-81
(6)浦上昌則稿「学生の進路選択に対する自己効力
に関する研究」『名古屋大学紀要』第 42 号、1995
年、115-126 頁。
(7)横山明子稿「大学生の進路選択・決定過程に関す
る研究―職業的自己実現の観点から―」『教育心
理学年報』第 49 号、2010 年。
----------------- << 連絡先 >>-----------------
北村茉衣
順天堂大学大学院
〒270-1606 千葉県印西市平賀学園台 1-1
スポーツ経営組織学研究室
電話:047-698-1001
FAX:047-698-1011
E-mail:kitamura_0625@yahoo.co.jp
-55-
人類働態学会 会報 第98号 2013年6月15日(暫定版)
P-2
自転車のための標識のデザイン要素と設置位置が視認性に及ぼす影響
原貴子 1)、○岡田明 2)、山下久仁子 3)
1)大阪市立大学生活科学部,
2)大阪市立大学大学院生活科学研究科,
3)大阪市立大学研究支援課
1.はじめに
自転車事故件数の統計(警察庁,2012)によれば年
間 14 万件もの自転車関連事故が発生し、出会い頭で
の事故が半数以上を占めている。しかし、実際の交差
点では自転車に対する注意の促しなどの対策は遅れ
図 1:使用した「自転車とまれ」の標識
ている。
実際に自転車利用者の現状の行動実態を探るため、
(左から 看板太、看板細、路面 とする)
生活道路を走る自転車を撮影したビデオおよび目視
観察よる調査の結果では、多くの不安全行動や法令
違反が見られた。中でも交差点に進入する際に一時
停止をしない自転車が大多数であることが目立ち、ま
た一方通行でも自転車が逆走可能である道路では一
時停止の指示もなく危険な場合がある。そのような状
況での事故を減少させるためには、自転車に対して一
時停止を促すサインが最低限必要と考えられる。
そこで、現行の標識に関する調査を行い、標識の位
置・デザイン要素と気づきやすさとの関連を検討するこ
とが本研究の目的である。その最初のステップとして、
自転車乗車時の視点から撮影した写真を用いて標識
の見つけやすさを検討するシミュレーション実験、およ
びその検証実験を試みた。
図 2:実験(回答)画面の例
2-2.実験 1-2
上記の実験で使用した画像は合成した仮想のもので
2.実験1
あるが、実際の路面の標識は劣化しやすく、角度によ
2-1.実験 1-1
り標識が見にくくなる。そのため、実際に路面の標識が
[方法]
使用されている交差点の写真を用い、見つけやすさの
○参加者:18 歳から 23 歳までの男女学生 7 名である。
差を検討した。実験手順は実験 1-1 と同様である。
○標識サンプル:大阪市住吉区内にある交差点の写
[結果]
真を撮影し、現行の「自転車止まれ」の標識を合成した
実場面での写真において不正解者が増え、全体の
画像を作成した。 標識の種類は看板タイプ 2 種類
探索時間も長くかかる傾向がみられた。路面の標識は
(太・細)と路面に貼るタイプ 1 種類の計 3 種類(図 1)
角度が歪むと見つけにくいことが示唆された。
を使用した。また、看板タイプの標識の位置を高・中・
以上より、見つけやすい標識の条件として以下の要
素が抽出された。
低の 3 か所に分けて設置した。
○手順:パソコン画面に命題を表示し、次の画面に映
・正面から読みやすい状態であること
された写真の中から命題の標識を探索するタスクを課
・色が付いており目立つ色であること
した(図 2)。その写真が提示されてから答えるまでの
・足元よりも視点の高さあたりの位置にあること、また
は路面に貼ってあること
時間を計測した。
[結果]
3.実験2
路面の標識が最も見つけやすく、看板[細]+[低]の
標識そのものだけでなく、その周辺の状況によって
デザインと位置が有意に見つけにくい結果となった。ま
も気づきやすさが異なることが予想される。そこで、周
た、[低]の位置には目がいきにくいとの内観報告も得
辺の状況と標識の気づきやすさとの関係について検
られた。
討した。
-56-
人類働態学会 会報 第98号 2013年6月15日(暫定版)
[方法]
発見から通過までの平均時間
(正規化)
使用した標識サンプルは看板[細]のみに限定した。
なお、実験手順は実験1と同様である。
[結果]
周辺が雑然としている場合や標識が車線からはな
れている場合は、有意差がみられなかったものの探索
時間が長くなる傾向が見られた。
4.実験3
実験1で得られた結果が、自転車の実走中でも成り
1.2
1.0
0.8
0.6
0.4
0.2
0.0
‐0.2
‐0.4
‐0.6
‐0.8
‐1.0
立つのか検討した。併せて、自転車の視点からの映像
記録や標識についての主観的評価を実施した。
[方法]
○参加者:18 歳から 23 歳までの男女学生 12 名。
○標識サンプル:標識に似せたデザインで 3 文字の果
図 4:発見から通過までの平均時間
物の名前が書いてあるものを、ポールに貼る看板タイ
プ 3 種類と路面に貼るタイプ小、中、大、小(色つき)の
をしなくてはいけないという意識が定着していないこと
計 7 種類作成した(図 3)。看板タイプのものは高、中、
が覗える。
低の 3 か所に分けて貼られた。
5.まとめ
シミュレーション実験では路面に貼るタイプの標識も
気づきやすい傾向にあったが、実空間での実験より、
路面の標識よりも看板の標識の方が、早い段階で気が
つけることが示唆された。路面の標識は自転車乗車時
は視点を下に向けないと気づけないことが要因だと考
図 3:実験で使用した標識の一例
えられる。さらに、より気づきやすい位置・デザイン要素
(左:看板タイプ 右:路面に貼るタイプ)
の細かい選定や実際の道路での検討、参加者の年代
○手順:参加者の頭には視線と同じ高さになるようにド
ライブレコーダを取り付けたヘルメットを装着し、動画を
に関しては今後の検討課題である。
なお、この研究は科学研究費基盤(B)「安全な自転
撮影した。自転車で走行中に、標識を発見したら標識
の名前を読み上げ、発見から標識の位置を通過する
までの時間を計測した。
車利用促進を目指す循環型社会の新しい交通システ
ム構築のための基盤研究」の一環として行われた。
[結果]
路面の標識よりもポールに貼る看板タイプの標識の
謝辞
生活道路における自転車利用実態に関するビデオ
方が有意に早く見つけられるという結果が得られた(図
映像の提供をいただいた植竹照雄教授(東京農工大学)に
4)。主観評価でも、気づきやすかったのはポールの
謝意を表します。
[中]の位置、気づきにくかったのは地面の位置だと答
える参加者が多かった。また、大多数が自転車乗車時
は通常は目の高さと同じくらいの高さの前方を見てい
ると答え、ドライブレコーダの映像からもそれが裏付け
られた。デザイン要素に関しては、モノクロよりも色がつ
いているものの方が認知できた参加者が多い結果とな
------------
った。
また、「自転車止まれ」の標識に気がついた場合の行
動についてのアンケートでは、半分以上の参加者が結
果として一時停止をしない選択肢を選んだ。一時停止
-57-
<< 連絡先 >>
------------
岡田 明
大阪市立大学大学院生活科学研究科
〒558-8585 大阪市住吉区杉本 3-3-138
電話/FAX 06-6605-2823
E-mail: okada@life.osaka-cu.ac.jp
人類働態学会 会報 第98号 2013年6月15日(暫定版)
P-3
国内の主要学会における自転車研究の研究動向の把握
○中山貴太 1)、芳地泰幸 2)、藤井啓嗣 2)、川田裕次郎 3)、水野基樹 1)2)
1)順天堂大学,2)順天堂大学大学院,3)東京未来大学
3.結果および考察
1.はじめに
近年、自転車の利用に注目集まっている。その背景
表 1.自転車に関する研究数
としては、科学テクノロジーの進歩により自転車の走行
性能や安全性の向上、人々のライフスタイルや価値観
の変化に伴う利用機会の多様化、さらには環境面への
配慮等、自転車利用に対する認識や価値の変化があ
げられる。従来、自転車の利用は買い物などの日常生
活における利用が主たる用途であったが、近年では余
暇生活やスポーツ・レジャーなどの趣味嗜好等にまで
2010~
2000~
1990~
1980~
1970~
1960~
計
その利用が拡大している。さらに、自転車は他の交通
手段(例えば自動車や自動二輪者)に比べ環境面へ
のメリットがあり、エネルギー問題や環境問題を追い風
に、自転車の利用者が増化傾向にある。また、震災の
際には交通網がマヒし、自転車が活用されたことからも
利便性の高い移動手段として再度認識されることとな
った。
日本人間工学会 日本交通心理学会 人類働態学会
0
0
0
6
5
0
6
4
0
8
2
2
9
-
3
4
-
-
33
11
5
計
0
11
10
12
12
4
49
3 つのジャーナルにおける自転車研究の論文数を集
計した結果、過去 50 年間で自転車に関する研究論文
が計 49 編確認された(表 1)。その研究アプローチは自
転車エルゴメータやペダリングを用いた生理学的研究
やバイオメカニクス的研究などの身体的側面に焦点を
あてたものが多くを占めていた。他には安全性や車体
デザイン等の工学的側面を対象とした研究や心理的
その一方で、自転車の利用者が増加するにあたり
自転車が関与する事故の件数が増えている。警視庁
側面を対象とした研究が確認されたが、いずれも少数
であった。以上の結果は、ライフスタイルにおける自転
の自転車事故関連データによると都内で発生した事
車の位置づけ、さらには人々の価値観を反映している
故のうち自転車が関与していた事故は平成 18 年の
ものと考えられる。つまり、自転車利用における社会シ
33.0%に対し、平成 24 年は 36.0%(ピークは平成 23 年
の 37.3%)。同じ年の全国平均が 19.7%と 20.8%である。
警察庁の自転車事故関連の相手当事者別交通事故
件数の推移では平成 13 年から 23 年までの間、対自動
車や対二輪車が減少しているのに対し、対歩行者や
自転車相互の事故が増えている。
ステムや利用者の特性(心理的側面)への関心や研究
要請は比較的近年のものであり、未だ十分な研究の
蓄積がなされていないのであろう。また、自転車のペダ
ルを漕ぐ動作は様々な研究領域で汎用性が高く、安
全性も高いことから身体的側面の研究が多く蓄積され
ているものと考えられる。
本研究では、このように活便性の高い乗り物であり
ながらも危険性も包含している自転車に着目し、国内
4.結論
でこれまでどのような研究が展開されてきたのか、国内
1.
国内の主要学会における自転車研究の動向
の主要学会が発行するジャーナルを分析対象にその
は大きく「身体的側面に焦点をあてた研究」、
研究動向を把握することを目的とした。
「工学的側面に焦点をあてた研究」、「心理的
側面に焦点をあてた研究」3 つ分類できる。
2.方法
2.
国内の主要学会として「日本人間工学会」、「交通心
理学会」、「人類働態学会」の3つの学会を選定した。
研究アプローチとして最も多いのは「身体的側
面に焦点をあてた研究」であり、次いで「工学
的側面に焦点をあてた研究」、「心理的側面に
そして、「自転車」を検索キーワードに設定し、それぞ
焦点をあてた研究」となっている。
れの学会は発行している『日本人間工学研究』、『交通
心理学研究』、『Journal of Human Ergology』の過去 50
年に刊行されたジャーナルのレビューをおこなった。
-58-
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<< 連絡先 >>
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中山貴太 (Takahiro NAKAYAMA)
順天堂大学 スポーツ健康科学部
〒270-1695 千葉県印西市平賀学園台 1-1
電話 0476-98-1001㈹ FAX 0476-98-1011㈹
E-mail: n_tk3@yahoo.co.jp
人類働態学会 会報 第98号 2013年6月15日(暫定版)
P-4
大学男子サッカー選手における誕生月が人数構成に及ぼす影響
○上村明 1)、川田裕次郎 2)3)、広沢正孝 1)3)
1)順天堂大学大学院, 2)東京未来大学, 3)順天堂大学
2.方法
1.はじめに
日本の学校教育制度では、4 月 2 日から翌年の 4
2013 年度に関東大学サッカーリーグに登録する大
月 1 日の間に生まれた子どもは同一の学年として就学
学生競技者 1991 名を対象に、誕生月と競技水準につ
する。そこでは、同じ学年において最大 365 日の成育
いて調査した。対照として、人口動態統計の生まれ月
期間の差がみられ、必然的に成長や発達に差を伴うこ
別出生数より月別割合を算出した。人口動態統計資
とになる。また、このような相対年齢の差は、成長や発
料は、調査対象者の大部分に対応する 1990 年度から
達に差がみられるだけでなく、学習や習熟にも影響を
1994 年度(1990 年 4 月から 1995 年 3 月まで)の出生
及ぼすことが示唆されている(Bedard and Dhuey ,
数を用いた。1989 年度以生まれの選手は、わずかに 6
2007)。このように、年齢集団において誕生日が切替
名(0.3%)であるため 1990 年度以降の統計値を採用
日以降、早ければ早いほど有利に、遅ければ遅いほ
した。
ど不利になるという現象を「相対的年齢効果」(岡田,
2003)と呼ぶ。
体育・スポーツ分野においては、主として 2 つの側
面から相対的年齢効果が検討されている。一つは、競
技者における誕生月ごとの分布を検討した競技的な
視点の研究で、プロスポーツ選手(サッカー、野球、バ
スケットボール等)において相対年齢の高い選手が多
く 存在し ているこ とが 報告さ れて いる( Stephen and
Baxter,1994;内山、丸山,1996; Nakata and Sakamoto,
3.手続き
日本の学校教育における年度の開始は 4 月 2 日で
あるため、4 月1日生まれの者は 3 月生まれに含めるこ
ととした。人口動態統計資料より月別出生数および出
生率を算出するにあたり、各年の 4 月の出生数から
1/30 を差し引き、同年の 3 月分に繰り入れて算出し
た。
4.結果
2011 ほか)。もう一つは、学業成績や体格、体力などと
人口動態統計資料より、月別平均出生率に偏りがな
生まれ月を検討した教育的な視点の研究で、相対年
いかを確認するため、大部分の競技者が該当する
齢の高いものが長期にわたり、より高い成績をとる傾向
1990~1994 年度間の月別出生率とその回帰直線を示
にあるということが報告されている(松原,1966)。このよ
した(図1)。回帰直線は、わずかに右下がりではある
うな体育・スポーツ分野における顕著な相対的年齢効
が、月別の出生率は、ほぼ横ばいであることがわかる。
果の存在は、相対年齢の不利・有利の違いが、スポー
次に、大学生競技者の誕生月別人数から月別割合と
ツへの参加や成功、さらには将来選択に影響を及ぼ
その回帰直線を求めた(図2)。大学生競技者における
す可能性を示唆しており、看過できない問題と言えよ
誕生月の分布を示した回帰直線は、早生まれに向か
う。
い明らかな減少傾向を示していることがわかる。
とりわけ、大学生競技者は、その後プロスポーツ選
手のみならず指導者となる確率が高いことが報告され
ており、(橘 木 、齋 藤 ,2012)将来スポーツ指導を担う
人材となる可能性を持つ。もし大学生競技者に相対性
年齢効果が存在するとすれば、有能なスポーツ指導
者の育成に、一定の制限が加わることになりかねない。
しかしながら、大 学 生 競 技 者 において相 対 的 年
齢 効 果 が存 在 するか否 かについては未 だ詳 細 に
検 討 されていない。
そこで本研究は、大学生競技者(男子サッカー)を
図 1 月別出生率とその回帰直線 (1990~1994 年度)
対象に、誕生月の影響について検討を行うこととした。
-59-
人類働態学会 会報 第98号 2013年6月15日(暫定版)
が示された。学校教育では、早生まれの児童・生徒の
スポーツに対する適性や素質が相対的年齢効果によ
り過小評価される可能性がある。それにより早生まれの
児童・生徒は、能力に関わらずスポーツに対して早い
時期から遠ざかるようになり、結果として早生まれの割
合が少なくなっていくと考えられる。
6.結論
①
大学生競技者(男子サッカー)は、誕生月の分布
に偏りがみられる。
図2 大学生競技者の誕生月別割合とその回帰直線
②
しかしながら、誕生月別(3 カ月毎)の競技水準別
人数構成に偏りは確認されなかった。
次に、月別平均出生数と大学生競技者の誕生月の
今回の調査から、有能なスポーツ指導者ないしその
分布を比較するため、それぞれ 3 カ月毎の割合を算出
育成において、一定の制限が加わっている可能性が
しχ2検定を行った。その結果、3 カ月毎の平均出生率
示唆された。今後は、子どもの体力低下や運動離れの
に対し、大学生競技者における誕生月の分布の割合
解決を目指すという意味においても、高い競技成績を
には、明らかな偏りがあることが示された(表1)。そこで、
残せずにいるもののスポーツに積極的に参加している
大学生競技者において競技水準別の人数構成は誕
大学生競技者(またはそれに近い人々)のこれに至る
生月により異なるのか否かを検討するためχ 2 検定を
までの発達の様子を明らかにしていくことが期待され
行った。その結果、誕生月別(3 カ月毎)の競技水準別
る。
人数構成に偏りは確認されなかった(表2)。
5.考察
------------
<< 連絡先 >>
------------
上村明
順天堂大学大学院 スポーツ健康科学研究科
〒270-1695 千葉県印西市平賀学園台 1-1 ハイテクリサーチ
センター2F 精神保健学研究室
電話 0476-98-1001 (内線 9203) FAX 0476-98-1011
E-mail: rir_u222@yahoo.co.jp
今回の大学生競技者(男子サッカー)の調査におい
ては、J リーグ・プロサッカー選手(内山・丸山,1996)や
野球選手(今村・沢木,1989)と同様、競技者の構成人
数に誕生月の影響が残っていることが示された。しか
し、誕生月の分布に偏りは見られるものの、一部・二部
リーグに所属する割合および選抜メンバーとして全国
大会に出場する選手の割合は、誕生月で差がないこと
表1.月別平均出生数と対象者の誕生月別の人数の割合
4-6月
7-9月
10-12月
1-3月
n
%
n
%
n
%
n
%
χ2
1990年~1994年度
出生数
1,499,124
24.7%
1,589,098
26.2%
1,513,494
24.9%
1,472,408
24.2%
***
大学生競技者(男子サッカー)の
誕生月分布
699
35.1%
581
29.2%
436
21.9%
275
13.8%
*** p <.001
表2.競技水準別人数と誕生月別の人数の割合
4-6月
7-9月
10-12月
全国大会(関東選抜メンバー)
1部リーグ
2部リーグ
1-3月
n
%
n
%
n
%
n
%
χ2
18
3%
2%
n.s.
50%
50%
6
134
2%
48%
8
216
2%
336
10
290
49%
345
49%
281
48%
212
49%
135
49%
-60-
人類働態学会 会報 第98号 2013年6月15日(暫定版)
P-5
避難行動のための手すり誘導システムの研究 第 2 報:触覚サインの開発
○河原雅典 1)、川原由紀 1)、馬場康明 2)
1)富山大学芸術文化学部, 2)三協立山株式会社
1.はじめに
われわれは,手すりと触覚によるサインを組み合わせ
て人を安全で迅速に避難させる「手すり誘導システム」
の研究開発を行っている.視覚情報がなくても,現在
地から最も近い非常口まで,安全かつ迅速に誘導す
ることを目的としている.
昨年われわれは,手すりの代用としてロープを用い
た実験で,手すり誘導システムの有効性を明らかにし
た(河原ら,2012).注意すべきことは,触覚サインが歩
行速度を低下させる場合があるため,触覚サインを手
すりに付加するだけでは有効にならないことであった.
情報を正確に伝え,さらに歩行速度を低下させない形
図 1 触覚サイン
状の触覚サインであることが重要である.
本研究では,手すり笠木に付加して使用することが
被験者として健康な男女大学生 20 名が実験に参加
できる触覚サインの開発を行ったので報告する.
した.測定項目は,所要時間,主観申告,成功率とし
た.所要時間は,スタートの合図から被験者の手がゴ
2.触覚サインの形状
2-1. 触覚サイン形状の検討課題
触覚サインは進むべき方向にはなめらかに,進むべ
きでない方向には抵抗感があるように連続する台形で
構成した(図 1).台形の一部がくさび型であるが,手す
り笠木とおよそ平行な面を持つことが特徴である.台形
の両端部で触覚情報を伝え,平行な面が指の滑らか
な移動を可能にする.この形状で検討を要するのは,
長さ(進行方向)と高さ(鉛直方向)であった.高さにつ
いては、高すぎると矢印状に見えるため,視覚によっ
ールに接触するまでとした.成功率は,なめらかな方
向にあるゴールにたどり着いたものを成功とし,そうで
ない場合を失敗とした.主観申告は,触覚サインが示
す方向のわかりやすさについて,「わかりやすい・どち
らでもない・わかりにくい」のうちから回答した.
2-3. 形状決定実験の結果
実験1の所要時間の結果を図 2 に示す.所要時間は
L30,L90,L150,L270 条件がそれぞれ,2.19±0.72
秒,1.95±0.49 秒,2.36±0.74 秒,2.98±1.13 秒(平
均値±標準偏差)であった.L270 条件より,L30,L90,
て感じる方向と触覚によって感じる方向が逆転してしま
う.それを避けるために,高さは,触覚情報が伝わる範
囲で低くし,2mm とした.触覚サインは手すり笠木の支
持金具を取り付ける部分を覆うための目板を利用する
こととした.その取り付け位置が昨年の研究から最も望
ましいと判断されたためである.
2-2. 形状決定実験の方法
実験は 2 段階で行い,実験1として 1 片分の長さ 6 条
件(L30,L60,L90,L120,L150,L270)を,続いて実
験2として 3 条件(L60,L90,L120)を比較した.
実験 1,2 ともに,高さ 800mm,笠木の長さ 1060mm,
手すりを使用した.この手すり笠木裏面に 840mm の触
L150 条件は有意に短かった.これは,触覚サイン1個
分の間隔が広く,腕を大きく動かさなければ進むべき
向きを判断できなかったためである.よって,進むべき
向きを迅速に判断する為には、触覚サインの1片分の
間隔は短い方がよい。しかし,L30 は L90 条件よりも所
要時間が長いという結果となった.L30 条件は触覚サ
イン1片分の間隔が短いことが、なめらかな方向にも大
きな抵抗感を生んだと考えられる.
主観評価は,L30,L90 条件は,わかりやすいという
プラスの評価となった.L150,L270 条件はわかりにくい
というマイナスの評価となった.L150,L270 条件は抵
抗感を感じ取るまで時間がかかるため不安である,と
覚サインを取り付けた.スタートは笠木の中央に,ゴー
いう意見が多かった.
ルは触覚サインの両端に設けた.
成功率は L30 条件,L90 条件では 100%,L150 条件
-61-
人類働態学会 会報 第98号 2013年6月15日(暫定版)
では 97.5%,L270 条件では 93.7%となった.
ら通路に直角に約 2 m 離れた位置をスタート地点とし,
以上のことから,実験 1 では L90 条件が触覚サインと
して適切であるといえる.
そこから通路に向かった.通路の手すりにつかまって
から左右どちらかに進む判断をして通路の左右端部ど
ちらかにあるゴールに到達した.スタート時にゴールは
左右どちらにあるかわからない.ゴールの方向を誤ら
なければ 14m を歩行することになり,誤れば端部で引
き返すため 42m 歩行することになる.このときサインあり
条件とサインなし条件について,成功率,歩行速度,
所要時間から比較し,触覚サインの効果を検証した.
被験者として健康な成人男女 19 名(平均 28.7 歳,
標準偏差 9.0 歳)が実験に参加した.実験中,アイマス
ク,防音イヤーマフを装着した.条件は本研究で開発
した触覚サインありとサインなしとした.試行回数はそ
れぞれ 10 回とした.
3-3. 検証実験の結果
成功率はサインあり条件の場合 100%,サインなし条
図 2 実験1の所要時間
(平均値+標準偏差,*: P<0.05, **: P<0.01)
件の場合 50%となった.避難すべき方向を正確に伝
続いて,実験 2 の所要時間の結果を図 3 に示す.
えるという第一目的は達成できた.いっぽう歩行速度
L120 条件に比べ,L60,L90 条件の所要時間は有意
の平均,標準偏差はサインあり条件,サインなし条件
に短縮された.成功率は,3条件共に 100%であった.
でそれぞれ 60.6±17.4 m/min, 60.7±17.4 m/min とな
以上のことから,触覚サイン1片分の長さは 60〜
り,サインあり条件で触覚サインが歩行速度を低下させ
ていないことが確認できた.所要時間の平均値,標準
90mm が適切であるといえる.
偏差はサインあり条件,サインなし条件でそれぞれ
22.3±5.5 sec,36.3±8.9 sec となった.
以上のように,本研究で開発した触覚サイン(図 4)は,
視覚情報が得られない場合に方向を正確に示し,か
つ歩行を妨げないことが明らかになった.災害時の地
下街などからの避難誘導に有効である.
図 3 実験2の所要時間
(平均値+標準偏差,*: P<0.05, **: P<0.01)
図4 開発した手すり誘導システムの触覚サイン
3.検証実験
3-1. 触覚サインの検証
形状決定実験の結果に基づいて触覚サイン 1 片分
(引用文献)
河原雅典,西澤杏,馬場康明(2012)避難行動のため
の手すり誘導システムの研究(第 47 回大会人類働態
の長さを 90mm とした触覚サインを用いて,その効果に
ついて検証実験を行った.
3-2. 検証実験の方法
28 m の連続した手すりを設置した通路を 2 カ所準備
した.ひとつを手すり笠木下面に触覚サインがあるサイ
ンあり条件,もうひとつを触覚サインがないサインなし
条件とした.被験者は目隠しした状態で,通路中点か
-62-
学会全国大会).人類働態学会会報,66-67.
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<< 連絡先 >>
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河原雅典
富山大学 芸術文化学部
〒933-8588 高岡市二上町 180 番地
電話 0766-25-9174
E-mail: kawahara@tad.u-toyama.ac.jp
人類働態学会 会報 第98号 2013年6月15日(暫定版)
P-6
絵本の画面構成の分析と GUI への応用の提案
○上島佳佑、山岡俊樹
和歌山大学システム工学部デザイン情報学科
1.はじめに
絵本は,(a)登場人物や背景,文章など,複数の記
近年,券売機や ATM などのインタラクション(対話的
号により構成されている.(b)ページをめくるとシーンが
操作)を行う機器の多機能化が進んでいる.それにより
切り替わり,コンテキストが変化する.また,(c)登場人
利便性が向上したが,画面が複雑化したため,ユーザ
物は,物語の終わりに向かって,一定の意図を持って
が機能を正しく選択できない,行われている処理の内
行動する.
容とステージが理解できず,正しく操作を完了できな
これは,GUI 操作において,(a)ボタンや利用者の操
作を補助する説明,フィードバックのための表示が行
い,といったケースが発生している.
この問題に対して,本研究では,「子どもでも理解で
われる,(b)画面ごとに利用者に要求する操作が変化
きるインタフェース」の一例として絵本の画面構成に着
する,(c)GUI は,操作の完了という目標に向かって画
目し,その分析を行うアプローチを試みる.
面提示を行う,という点と対応している.
画面情報の内容を分析する手法の検討は幅広く行
以上より,絵本の構成の分析結果から GUI の評価や
われている.下村らは,記号論に基づき,視覚伝達の
設計を行う指標を得ることができると考え,先に述べた
諸分野を区分し,それぞれの組み合わせによってメッ
記号論,交流分析,およびグライスの公準を用いて分
セージが構成されるという手法を提唱した[1].
析を行った.
ま た , Eric に よ っ て 提 唱 さ れ た 交 流 分 析
(Transactional Analysis,TA)[2]では,コミュニケー
ションにおける自我状態を3つに区分し,そのモデル
を用いて交流の様子を分析するという手法が提案され
ている.
Grice は,会話の中で理解が成り立つために,グラ
イスの公準[3]と呼ばれる原則を設けている.これは会
話・文章に含まれる情報の内容を,4つの観点から評
価するものである.
本研究ではこれらの手法を用いて,絵本の画面構
成と,その構成要素を明らかにし,インタフェースへの
2-1.記号論
記号論はスイスの言語学者 Ferdinand de Saussure
により体系付けられた,記号が持つ意味とその解釈に
関する学問である.
下村らは,記号の中でも図画(図像・文字列)に着目
し,外延と内包により意味が伝達されるとした.またそ
の意味も,図画の位置・大小によって分類された主部,
述部,接続部の関係性により変化するとした.
主部は,図画の中で中心となるもっとも強い図像を指
す.述部は,補助となる弱い図像を指す.接続部は,
応用を図る.
それらの図像を繋ぐ地・背景機能の図像を指す.図画
が持つ外延と内包が,主部と述部の関係により対立や
2.方法
同化すると,メッセージの強調や平滑化が行われる.
絵本と GUI の類似性として,以下の点が挙げられる.
2-2.交流分析
(1)複数の記号によりメッセージが示される
交流分析は,カナダの精神科医 Eric Berne により
(2)画面のコンテキストが変化する
提唱された心理学理論である.
(3)一貫したストーリーを持つ
Eric は,精神が成長するにあたって,子供の頃の
本研究における記号とは,図に限らず,文章や色な
ど,視覚情報として人が知覚するものを指す.またメッ
セージとは,製作者が利用者に対し伝えたい意図や
要求を指す.
経験を元に P(Parent),A(Adult),C(Child)という3
つの自我状態が形成されるとした. コミュニケーション
はこの3つの自我状態によって行われ,相互的または
補完的な交流が行われている際には成功し,交錯した
交流が行われていると失敗する.
-63-
人類働態学会 会報 第98号 2013年6月15日(暫定版)
成功するコミュニケーションの様子を図1に示す.失
3.結果
敗するコミュニケーションの様子を図2に示す.それぞ
市販の絵本図書に対して分析を行った結果,記号論
れの図中の P,A,C,は自我状態を表し,矢印は交流
の観点からは,あるページにおいて,すべての述部が
の向きを表す.
単一の主部に対する理解を補助する構成を取ってい
相互的な交流とは,“A から A”への交流に対し“A か
ると分かった.また述部の表現は交流分析における“P
ら A”への返信が行われるように,相手の自我状態と自
から C”の交流に則っており,またグライスの公準を満た
身の自我状態が一致する状態を指す.補完的な交流
した文章を用いることによって,より確実な理解の補助
とは,“P から C”への交流に対し,“C から P”の返信が行
を行えるよう構成されていることが分かった.
われる状態を指す.これらの状態において,自我状態
はマッチングしているため,理解がスムーズに行われ,
不快感のないスムーズな交流が行われる.
4.考察
本研究では,絵本と GUI の類似性に着目し,絵本の
交錯した交流とは,相手の自我状態と異なった自我
状態へ話しかける状態を指す.例えば,ビジネスの場
面において,上司 X が部下 Y に対し,「書類を作成して
ください」という“A から A”の交流が行った際に,部下 Y
が「今忙しいから後でやるってば!」といった“C から A”
の返信を行った場合,自我状態はマッチングせず,上
司 X は不快感を覚える.
画面構成に対して分析を行い,理解しやすいインタフ
ェース構成の特徴を得ることを試みた.
記号論,交流解析,グライスの公準の観点から,絵本
は優れた GUI としての側面を持つと判明した.よって今
後は,医療で用いられるプロトコル『SPIKES』などを用
いた分析を行い,その要素をより明確にすることにより,
理解しやすい画面設計方法を提案できる都考える.
2-3.グライスの公準
グライスの公準は,イギリスの言語学者 Herbert Paul
Grice により提唱された,会話における4つの原則であ
る.
量の公準では,必要な情報は全て提供し,必要以上
の情報を与えるべきではないとしている.
参考文献
【1】下村千早 他.”記号としての芸術”,勁草書
房,pp.212-235,1982.
【2】John M. Dusay.”エゴグラム ひと目でわか
る性格の自己診断”,創元社,pp.6-16,1980.
質の公準では,偽りであることや,明確な根拠のない
ことは発話すべきでないとしている.
関係の公準では,発話する内容は全て,話の流れに
関係しているべきであるとしている.
様式(様態)の公準では,簡潔な表現を心がけ,分か
りにくい表現やあいまい(多義的)な表現は避けて,順
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上島佳佑
和歌山大学 システム工学部 デザイン情報学科
〒640-8431 和歌山市向 272 コーポ三沢 203 号
電話 080-3857-7573
E-mail: s155055@center.wakayama-u.ac.jp
序立てて話すべきであるとしている.
図1:成功するコミュニケーションの様子
図2:失敗するコミュニケーションの様子
-64-
人類働態学会 会報 第98号 2013年6月15日(暫定版)
P-7
大学生における衝動性とレジリエンスとの関連
○西田敬志、田中純夫
順天堂大学スポーツ健康科学部
1.はじめに
はその日本語版であり、各下位尺度と項目数は、「慎
衝動性とは「内的あるいは、外的な刺激に対して、拙
重な計画と思考の欠如,6 項目」、「衝動的行動,3 項
速で無計画な反応を、自分や他人によくない結果を招
目」、「注意・集中の欠如,9 項目」、「行動前の認知の
く可能性を考慮せずに行う特性」と定義される(Moeller,
欠如,3 項目」、「認知の単純さ,2 項目」の計 5 つの下
Barratt,Dougherty,Schmitz & Swann,2001)。衝動
位尺度、23 項目から構成される。
性の研究は、社会的に問題行動を引き起こす側面に
② 二 次 元 レ ジ リ エ ン ス 要 因 尺 度 ( Bidimensional
焦 点 を あ て て 検 討 さ れ る こ と が 多 い が 、 Dickman
Resilience Scale,以下 BRS;平野,2010):精神的回復
(1990)は衝動性の機能的な側面に注目し、「機能的・
力であるレジリエンスを導く要因には、後天的に獲得さ
非機能的衝動性」という概念を提唱している。前者は
れるものとそうでないものとに二分されることを想定し、
「即座の行動が最適な結果が得られるような状況を深
また、レジリエンスを後天的に高める方法を見出す目
く考えずに行動する傾向」であり、後者は、「不利な結
的を持って作成されている。21 項目からなり、下位尺
果となる状況で即座に行動する傾向」である。青年期
度 と 項 目 数 は 、 「 資 質 的 レ ジ リ エ ン ス 要 因 ( Innate
における衝動性の研究では、Dickman が示したように
Resilience Factors;以下 IRF),12 項目」と「獲得的レジ
行動のネガティブな側面だけでなく、ポジティブな側面
リエンス要因(Acuired Resilience Factors;以下 ARF),
についても焦点をあてる必要があると考えられる。
9 項目」の計 2 つの下位尺度、21 項目から構成される。
一方で、本研究では衝動性の制御に関連するパー
ソナリティ要因の1つとして、レジリエンスにも注目する。
レジリエンスとは、「困難で脅威的な状態にさらされるこ
3.結果
3-1.衝動性とレジリエンス要因との関連
衝動性とレジリエンス要因との関連を検討するため
とで一時的に心理的不健康状態に陥っても、それを乗
り越え、精神的病理を示さず、よく適応している」(小塩,
中谷,金子,長峰,2002)状態を指す言葉である。この
レジリエンスを規定する要因は多様にあるが、その中
でも「行動力」や「問題解決志向」など、即座に物事を
決める力、行動する力も構成要因となり得ることから、
衝動性との関連を検討することに意義があると考えら
れるが、これらの関連をみた研究は見当たらない。
そこで本研究では、衝動性の機能の多様な側面とレ
ジリエンスがどのように関連するのかについて検討する
ことを目的とする。
に、BIS-11 全体とその下位尺度と BRS 下位尺度につ
いて相関分析を行った(表 1)。BIS-11 の下位尺度であ
る「慎重な計画と思考の欠如」、「注意・集中の欠如」、
「認知の単純さ」は、BRS の下位尺度である「IRF」、
「ARF」との間に負相関を示している。特に「慎重な計
画と思考の欠如」はレジリエンス要因の2尺度との間に
比較的に高い相関が示されていることが注目される。
また、BIS‐11の「衝動的行動」、「行動前の認知の欠
如」は、BRS の「IRF」、「ARF」とわずかながら正相関を
示した。衝動性の側面が異なると、レジリエンス要因と
の関連においても違いが生じる可能性が示された。
2.方法
表1.BIS-11全体、下位尺度とBRS下位尺度との相関分析結果
2-1.調査対象者、調査期間
資質的レジリエンス要因
慎重な計画と思考の欠如
2012 年 9 月下旬から 11 月上旬に首都圏にある大
衝動的行動
学に通う大学生 400 名(男性 265 名,女性 135 名;平
注意・集中の欠如
均年齢 19.30,標準偏差 0.83)を対象とした。
行動前の認知の欠如
2-2.質問紙の構成
th
①日本語版Barratt Impulsiveness Scale 11 version
(小橋、井田,2011;以下BIS-11):衝動性を測定する
-.360 ***
.194 ***
-.142 **
.153 **
認知の単純さ
-.191 ***
BISー11
-.218 ***
獲得的レジリエンス要因
-.438 ***
.175 ***
-.124 *
.069
-.213 ***
-.283 ***
*p<0.05,**p<0.01,***p<0.001
3-2.レジリエンス要因4群間の衝動性の得点比較
尺度として、Barratt(1959)がBISを作成し、この尺度は
次にレジリエンス要因の「IRF」、「IRF」の両者につい
改 訂 を 繰 り 返 し 、 現 在 は Patton, Stanford &
て、それぞれ得点平均から高群、低群の 2 群に分類し、
Barratt(1995)が作成したBIS‐11 となっている。本尺度
さらに、両者を組み合わせて、「①IRF 低群・ARF 低
-65-
人類働態学会 会報 第98号 2013年6月15日(暫定版)
表2.レジリエンス4群におけるBIS‐11全体、下位尺度得点の比較
①IAF低、ARF低
②IRF高、ARF低
N=125
M
③IRF低,ARF高
N=55
SD
M
④IRF高、ARF高
N=64
SD
M
N=156
SD
M
F
p
多重比較
SD
慎重な計画と思考の欠如
16.86
(2.90)
15.93
(2.94)
15.09
(2.86)
14.08
(3.38)
19.41 < .001
衝動的行動
6.98
(1.80)
7.40
(1.78)
7.02
(1.65)
7.71
(2.21)
3.95
.009
①<④**
注意・集中の欠如
20.30
(3.60)
19.33
(3.49)
19.16
(3.61)
19.07
(4.16)
2.68
.047
④<①*
行動前の認知の欠如
6.10
(1.61)
6.00
(1.68)
5.78
(1.70)
6.55
(1.98)
3.54
.015
認知の単純さ
6.10
(1.54)
5.87
(1.56)
5.77
(1.33)
5.24
(1.66)
7.37 < .001
④<①***
BISー11
56.32
(5.51)
54.53
(5.12)
52.81
(6.65)
52.65
(6.71)
9.35 < .001
③**,④***<①
③**,④***<①、④**<②
③<④*
※1.資質的レジリエンス要因低群,高群=IRF低,高、獲得的レジリエンス要因低群,高群=ARF低,高
※2. *p<.05. **p<.01. ***p<.001.
群」、「②IRF 高群・ARF 低群」、「③IRF 低群・ARF 高
では他の衝動性のネガティブな側面と同様に負相関
群」、「④IRF 低群・ARF 低群」の4群に分類した。この 4
が見られたと考えられる。
群を独立変数とし、BIS-11 を従属変数として分散分
5.まとめ
析を行った(表 2)。「慎重な計画と思考の欠如」、「注意
集中の欠如」、「認知の単純さ」、「BIS‐11」では、総じ
て「①IRF 低群・ARF 低群」よりも「④IRF 高群・ARF 高
群」の方が有意に低かった。しかしながら、「衝動的行
動」、「行動前の認知の欠如」では、逆に「④IRF 高群・
ARF 高群」よりも「①IRF 低群・ARF 低群」ないしは「③
IRF 低群・ARF 高群」が有意に低い結果となった。
本研究において、衝動性の持ついわば活動性とも
いうべき行動的な側面は、レジリエンスと必ずしも相反
するものではなく、機能的にはポジティブな側面となり
得ることがうかがえる。しかしながら、一方では未来志
向性、注意力、集中力などの衝動性とは対極と考えら
れるレジリエンス要因とは明確に負相関を示している。
このことから、衝動性における行動的な側面と認知的
な側面とではレジリエンス要因と異なる関係を持ってい
4.考察
まず、衝動性の下位尺度である「慎重な計画と思考
の欠如」は2つのレジリエンス要因との間に比較的に高
い負相関が見られ、衝動性のネガティブな要因のなか
で重要な側面であると考えられる。計画性を持ってじっ
くり考えるといった行動とは、いいかえれば未来を志向
する力であるとも考えられる。吉村(2007)が指摘するよ
うにレジリエンスの要因の中でも「肯定的未来志向」は
努力によって獲得可能であるとしており、衝動性のコン
トロールに関連する重要な側面と考えられる。
次に「衝動的行動」、「行動前の認知の欠如」につい
ては、突然、「衝動的に行動すること」や「すぐに決める
こと」が含まれており、この 2 つの下位尺度は衝動性の
中核的な側面として捉えられる。下位尺度名には「欠
如」が入っているため、一見ネガティブ印象を受けるが、
ネガティブな要素かポジティブな要素か一概には判断
しにくい側面も持っていると言える。資質・獲得双方の
レジリエンス要因がいずれも高い群はこれらの下位尺
度においては有意に得点が高く、これは即座に物事を
決めたり、行動したりすることが必要な場面への適応
的な行動である可能性も示唆される結果といえる。
「注意・集中の欠如」、「認知の単純さ」については、
「本質とは無関係なことを考える」や「パズルが好きであ
る」などの項目が含まれているが、主として注意力、集
中力が欠如している状態を示した内容となっている。こ
れらはむしろ粘り強さやあきらめない姿勢といったレジ
リエンスの側面とは反する側面であるために、本研究
-66-
る可能性が示唆された。
6.引用文献
Barratt, E. S. (1959). Anxiety and impulsiveness related to
psychomotor efficiency. Perceptual and Motor Skills, 9,
191-198.
Dickman, S. J. (1990). Functional and Dysfunctional
Impulsivity : Personality and Cognitive Correlates. Journal
of Personality and Social Psychology, 58, 95-102.
平野真理. (2010). レジリエンスの資質的要因・獲得的要因
の分類の試み-二次元レジリエンス要因尺度(BRS)の作成.
パーソナリティ研究, 19(2), 94-106.
小橋眞理子,井田政則. (2011).日本語版 BIS‐11 作成の
試み.立正大学心理学研究年報,2,73-80.
Moeller, F. G., Barratt, E. S., Dougherty, D. M., Schmitz, J.
M. & Swann, A. C. (2001). Psychiatric aspects of impulsivity.
American Journal of Psychiatry, 158, 1783-1789.
小塩真司,中谷素之,金子一史,長峰伸治.(2002). ネガテ
ィブな出来事からの立ち直りを導く心理的特性-精神的
回復力尺度の作成-.カウンセリング研究, 35, 57-65.
Patton, J. H., Stanford, M. S. & Barratt, E. S. (1995). Factor
structure of the Barratt impulsiveness scale. Journal of
Clinical Psychology, 51, 768-774.
吉村允男. (2007). 精神的健康とレジリエンスおよび自己開
示との関連.臨床教育心理学研究,33,73.
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西田敬志
順天堂大学スポーツ健康科学部健康学科
〒270-1695 千葉県印西市平賀学園台 1-1
電話 0476-98-1001(内線 333)
FAX 0476-98-1011(学部事務)
E-mail: nishita.takashi@gmail.com
人類働態学会 会報 第98号 2013年6月15日(暫定版)
P-8
筋出力・視覚における感覚的数値と実測値との差について
○湯川優 1)、竹内京子 1)、松村秋芳 2)、石田裕二 1)、酒井紀行 3)、鈴木拓郎 1)、福島諒 1)、西田育弘 4)
1)帝京平成大院・健康科学, 2)防衛医大・生物, 3)グローバルベイシック, 4)防衛医大・生理
からそれぞれ感覚的に何㎝かを答えてもらう。バイアス
1.はじめに
技術習得においては、感覚器系、神経系、運動器
系の円滑な連携システムが構築されることが重要であ
が入らないように一本ずつ隠して答えてもらった。それ
ぞれに対しての感覚的誤差を測定した。(写真1)
る。精度の高い動きは技術習得を容易にする。そのた
めには動きの誤差を修正する能力が大事である。技量
の高い人は、技術習得過程における所要時間が短く、
これには名人やトップアスリートが含まれる。
感覚情報の伝達、脳での認知、中枢からの骨格筋
への適切な指令、指令通りに動く筋出力・筋相互関係
が好ましいシステムを構築していることが重要であるが、
この過程において一か所でも、不具合が生じると、この
技術習得が成立しなくなる。
この技術習得にかかる時間は個人差があるため、ス
写真 1 距離感の測定に使用した紙。
2-3.握力による筋出力の測定
握力計を用いて5kg、10kg、15kg の基準に対して感
覚的にそれぞれの値を狙い、筋出力を行ってもらった。
ポーツ・運動の現場のみならず、医療系の現場におい
てはこの時間差を考慮しながら教育指導活動を行って
いるが、この時、指導者側のみならず、対象者個人も
それぞれに対しての感覚的誤差を測定した。対象者
は数字を見ないように直立位で行った。
2-4.触圧筋出力の測定
自己の技能レベルを主観的・客観的に認識している必
ジャイロメディエーターは二枚の円盤を組み合わせ
要がある。
たもので回旋角度と重心動揺計の機能を同期させて
しかし、現実には、一般人を対象とする教育現場で
パソコンにデータを取り込む装置であり、上が回旋円
は、「下手である」「なかなかうまく行かない」「なぜでき
ないのか」「手の動きが悪い」「姿勢が悪い」や、「タイミ
ングが悪い」という主観的な評価のみが独歩し、多くの
盤、下が重心動揺計である。
この重心動揺計により、荷重の圧を客観的に数値で示
すことで、触圧の筋出力を測定する。(写真2)
現場では客観的評価を行わず、また、客観的評価に
基づく対策は施されていないのが現状である。
基準値を5kg として感覚的筋出力を40名の対象者
に行った。その時の感覚的誤差を測定した。
柔道整復はじめ、医療系の現場では、徒手を多用す
るため、本人の未熟な施術力は自分ではなく、他者へ
の侵襲に直結することから、技術習得は重要である。
特に、筋出力の調整力や視覚情報の認知力の精度は
重要である。
今回の目的として臨床技術が未熟とされている一般
学生を対象として、筋出力の調整、触圧感覚、距離感、
について、実測値と比較し、誤差による検討・客観的
練習効果による検討を試みる。
2.方法
2-1.対象と方法
写真2 測定の姿勢
研究の同意を得た学生20名(触圧筋出力は40名)
また、その後客観的に5kg を数値で見ながら90秒間
を対象として、距離感、握力による筋出力の測定、触
自由に練習したのち1分後、5分後を測定した群20名
圧筋出力の測定を行った。姿勢においてはそれぞれ
と、90秒間イメージトレーニングだけで1分後、5分後
の測定時に指定をして行った。
2-2.距離感の感覚的誤差の測定
16㎝、34㎝、70㎝の線を紙に引き、2m離れた場所
で測定した群20名で解析を行った。1分後、5分後の
感覚的数値は対象者に教えた。
-67-
人類働態学会 会報 第98号 2013年6月15日(暫定版)
3.結果と考察
3-1.距離感の感覚的誤差
16 ㎝、34 ㎝では平均値が 16.15 ㎝、34.1 ㎝で、大き
な感覚的誤差を出した者はいなかったが、70 ㎝になる
と 66.15 ㎝と誤差が大きくなり始めた。これは、15 ㎝物
差しや 30 ㎝物差しなど経験によって 70 ㎝よりも数値を
推測しやすかったと考える。(図1)
図3 客観的練習を行った触圧筋出力の群
2)、客観的練習はせずにイメージトレーニングを行っ
た群のグラフを見ると、1分後・5分後の結果は客観
的に数値を見て修正した群に比べると幅が大きく、
縮まらなかった。(図4)
図1 距離感の感覚的誤差の測定の結果
3-2.握力による感覚的筋出力の数値の結果・考察
全体的に各個人において大きなばらつきがあるが、
本人の感覚からは10kg・15kg と上がっていくにつれて
筋出力も増加傾向が示されたが、10kg・15kg と上がる
につれて筋出力が低下する傾向も数名みられた。これ
は握力の筋出力の調節の感覚が難しいことを示すと考
える。(図2)
図4 客観的練習を行わなかった触圧筋出力の群
感覚的誤差は個人により差があるが、柔道整復の
手技療法に留まらず医療現場での触診・固定具の作
成でのサイズを見極める感覚・また、スポーツ現場での
パフォーマンス向上などに対しても、この誤差をいかに
小さくしていくかが重要である。指導者側のみならず、
各個人が客観的に数値を意識することで、個人差を主
観的だけでなく客観的にも認識・修正することができた
ならば、技術習得時間の短縮・教育効果の向上に有
図2 握力の測定結果
3-3.触圧筋出力による基準値に対する感覚的誤差、
1 分後、5 分後の結果・考察
1)、客観的練習を行った群のグラフを見ると、基準値
に対して初めて触圧を加えたとき大きな感覚的誤差
用であると考える。
------------
<< 連絡先 >>
------------
があったが、客観的練習 1 分後には大幅な修正が
湯川優
行われた。また、5 分後にはさらに幅が縮まった。
所属:帝京平成大学大学院健康科学研究科
(図3)
住所:〒170‐8775 東京都豊島区東池袋 2-51-4
電話 03-5843-4866
E-mail: unylylnh16@gmail.com
-68-
人類働態学会 会報 第98号 2013年6月15日(暫定版)
P-9
エコーによる下腿軟組織の解析 ―利き足と羽状角の関係―
○福島諒 1)、竹内京子 1)、松村秋芳 2)、大瀧晃 3)、酒井紀行 1)、梅原彰宏 4)、鈴木拓郎 1)、湯川優 1)
1)帝京平成大・院・健康科学,
2)防衛医大・生物, 3)自衛隊体育学校,
4)あおき整形外科
1.はじめに
超音波画像観察器(B モードエコー)を用いた骨格
筋の形態学的変化について羽状角を指標としている
研究がある。
骨格筋を形状で分類したとき、筋束が腱膜に向かっ
て鳥の羽のように集まる筋を羽状筋という。羽状角とは
羽状筋の筋束の腱膜に対する角度であると定義され
ている。
筋疲労と羽状角の関係について、曽田ら(2011、理
学療法科学 26(6)781-784)は外側広筋に対する疲
労課題により羽状角が有意に増加すると報告している。
また森上ら(2013、理学療法科学 28(1):21-26)はヒラ
メ筋を対象に、筋組織構造的要因として挙げられる筋
厚、羽状角、筋線維長が下腿最大周囲径、下腿底屈
図 2 超音波画像:羽状角の計測法
腓腹筋停止腱膜(a)と筋線維束(b)がなす
角度を羽状角(α)としている。
筋力の把握に関与していると報告している。
本研究では、利き足(脚)、非利き足(脚)と、腓腹筋
羽状角との関係を検討した。
3.結果と考察
羽状角は利き足 22.1±3.8 度、非利き足 23.7±3.1
度であり、利き足より非利き足が平均 1.6 度大きかった
2.方法
が有意差は示されていない(表1)。
2-1. 対象
対象は研究の同意を得た、下腿部に疾患既往のな
い健常男性 14 名(平均年齢 20.0±0.8 歳、身長 172.5
±6.5 cm、体重 67.9±14.3 kg)である。エコー像を得る
前に前に対象者の利き足等を聴取した。本研究では、
利き足を主にボールを蹴る足と定義した。
2-2.方法
エコー像は B モードエコー(FUKUDA DENSHI 社
製 UF-550XTD)を用いて取得し、測定項目は、腓腹
筋内側頭最大隆起部における羽状角とし(図 1、2)、3
回計測の平均値を採用した。羽状角の計測は画像解
析ソフト image J を用いてパソコン上で行い、統計処理
はエクセル 2010 で行った。
表1 羽状角の平均値
利き足
非利き足
羽状角(度)
22.1±3.8 23.7±3.1
本研究では利き足を主にボールを蹴る足と定義した
ので、非利き足は軸足となる。軸足は体重がかかる側
であり、利き足より筋への負担が大きいことが示唆され
るが、羽状角への影響は明らかでない。
羽状角と利き足の関係について下腿三頭筋の 1 つ
である腓腹筋内側頭のみを測定対象としたが、今後は
腓腹筋両頭を全長にわたる観察を含め、B モードエコ
ーで測定可能な下肢の羽状筋はすべてを対象として
映像を得、利き足や非利き足(軸足)との関係を調べて
いく必要があると思われた。
図 1 エコー像の観察部位(
)
右脚後面。プローブは
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圧を掛けずに皮膚に接触
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福島 諒
所属:帝京平成大学大学院健康科学研究科
住所:〒170‐8775 東京都豊島区東池袋 2-51-4
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E-mail: uveryo0325@gmail.com
させ、下腿長軸に平行且
つ腓腹筋最大隆起部を通
る位置にて像を得た。
-69-
人類働態学会 会報 第98号 2013年6月15日(暫定版)
P-10
大学水泳部活動選手におけるバーンアウトと
ソーシャル・サポートの関係性について
○本多里也子 1)、水野基樹 1)2)
1)順天堂大学大学院, 2)順天堂大学
1.はじめに
た。
近年、競技スポーツはスポーツの高度化に伴った過
度な勝利志向によるドーピングの問題、「トレーニング
の低年齢化」などによるスポーツ競技者のドロップアウ
2-2.質問紙の構成
(1) フェイスシート
性別、学年、年齢、競技の継続年数、一週間の平均
トに関する問題が報告されている(稲地ほか、1992 年)。
練習回数、一回の平均練習時間、競技レベル、居住
また水泳競技においては、一般に他種目より競技開
形態について解答させた。
始年齢が低く、比較的若い年代で記録が停滞しがち
(2) バーンアウトに関する項目
Athletic Burnout Inventory (以下 ABI と略記)を用い
であるといわれている(保坂、杉原 1985 年)。
その中で、燃え尽き症候群(以下バーンアウト)に関
た。質問項目は 19 の項目より作成され、質問に示され
連する研究は、欧米では指導者を対象として行われて
た感情がどの程度頻繁に生じるかについて7件法(「0
おり、情熱的、仕事熱心、理想主義、完全主義、几帳
点:ない」から「6 点:ほぼ毎日」)にて評価させた。
面、他者志向といった病前性格や、情緒的消耗、個人
(3)ソーシャル・サポートに関する項目
的成熟感、離人症などの特徴が報告されている
Athletic Social Support Scale (以下 ASSS と略記)を
(Capel,1986)。また、日本においては、スポーツ心理
用いた。質問項目は 24 の項目、4つの下位尺度(「親
学の領域において、選手を対象として研究が行われて
愛サポート」、「娯楽関連サポート」、「自尊サポート」、
おり、バーンアウトの発症機序が報告されている。(中
「指導サポート」)により構成されている。尚、各項目へ
込、岸 1991 年)。
の回答は5件法(「5 点:大変満足である」から「1 点:大
スポーツ競技者とソーシャル・サポートに関する研究
は、対人サービス職において検討されていた、バーン
アウトとその緩和に有効とされるソーシャル・サポート研
究を踏襲する形で始まっている(大隈、西村 2003 年)。
ソーシャル・サポートを積極的に活用することで、その
予防あるいは問題の緩和に役立つとの指摘がなされ
ている(土屋、中込 1994 年)。大学運動部活動選手の
4年間という競技生活において、直面するストレス事象
に対処し、バーンアウトを抑制するために、部活動内
の人間関係から生まれるソーシャル・サポートが与える
影響というのは極めて重要である(土屋、中込 1994
年)。
よって本研究では、大学水泳部活動選手を対象に
バーンアウトとソーシャル・サポートの関係性から、ソー
シャル・サポートがバーンアウト抑制に影響を及ぼして
変不満である」)によって回答させた。
3.結果
バーンアウトとソーシャル・サポートとの関連を検討す
るために、ABI 得点とソーシャル・サポート得点につい
て統計ソフト「R」を用い、Pearson の積率相関係数を算
出した。その結果、ABI 得点と ASSS の総合得点の間
にきわめて弱い負の相関関係が確認された(r=-0.17
p<.05)
また、ASSS の4つの下位尺度得点それぞれ ABI 得
点との関連を調べるために Pearson の積率相関係数を
算出した。その結果、4つの下位尺度得点のうち「自尊
サポート」のみ極めて弱い負の相関関係が確認され、
他3つの下位尺度とは相関が見られなかった(表1)。
表1.ASSS 4 つの下位尺度得点と ABI 得点の相関
いるかを明らかにすることを目的とした。
Athletic Social Support Scale 尺度(ASSS)
親愛
娯楽関連
指導
自尊
サポート
サポート
サポート
サポート
2.方法
2-1.調査対象
関東学生選手権1部リーグに所属している水泳部、
またはそれと同等の成績を有する水泳部の競技者 138
名(男子 126 名、女子 56 名、年齢平均 19.65 才、競技
の平均継続年数 15.02 年)を対象に質問紙調査を行っ
-70-
Athletic
Burnout
Inventory
尺度
(ABI)
-0.12
-0.14
-0.13
-0.16*
*
<.05
人類働態学会 会報 第98号 2013年6月15日(暫定版)
4.考察
5)大隈節子,西村秀樹(2003) スポーツ競技者のバー
以上の結果から、ABI 尺度と ASSS 尺度には極めて
ンアウトに関する社会学的一視座―一流競技者と所
弱い負の相関関係が確認された。また、ABI 尺度得点
属 集 団の 関係 性 を め ぐって ― .Journal of Health
と ASSS 尺度における4つの下位尺度では「自尊サポ
Science, Kyushu University, 25:79-85
ート」にのみ極めて弱い負の相関関係が確認されたが、
6)土屋裕睦, 中込四郎(1994) 大学運動選手におけ
その他3つの下位尺度は相関関係が見られなかった。
るソーシャル・サポートの構成要素とその機能. 筑波
このことから、これらの相関は擬似相関である可能性が
大学体育科学紀要,17:133-141
考えられる。よって、ソーシャル・サポート以外にバーン
7)中込四郎,岸順治(1991) 運動選手のバーンアウト発
アウト抑制に影響を与える事象の検討や、ソーシャル・
症機序に関する事例研究.体育学研究,35:313-323
サポートがバーンアウトに直接的に影響を及ぼしてい
るのではなく、間接的に影響を及ぼしている可能性を
検討していかなくてはならない。ソーシャル・サポートに
おける研究は様々有り、ソーシャル・サポートが直接心
理的要因に影響するのか(直接仮説)、ストレッサーが
存在する場合にのみ違いとなって表れるのか(緩衝仮
説)、2つの仮説が存在する(稲葉ら,1987)。本研究の
結果からは、ソーシャル・サポート緩衝仮説より、バー
ンアウト抑制とソーシャル・サポートについて、今後検
証をしていく必要がある。
5.結論
本研究では、ソーシャル・サポートがバーンアウトの
関係性について検討し、以下3つの結論が得られた。
① ABI 尺度得点と、ASSS 尺度得点の間には極めて
弱い負の相関関係がある。
② ABI 尺度得点と ASSS 尺度の4つの下位尺度得点
との間では「自尊サポート」のみ極めて弱い負の
相関関係が見られたが、それ以外は相関関係に
ない。
③ ABI 尺度得点が低くなるほど、ASSS 尺度得点は高
いが、実質的な相関があるとは言い難く、これらの
相関は擬似相関である可能性がある。
6.参考文献
1)Capel ,S .A (1986) Physiological and organizational
factors related to burnout in athletic trainers.
Research Quarterly for Exercise and Sport, 57:
321-328
2)保坂かおる,杉原隆(1985)競泳選手の記録の変化と
Learned Helpless との関係.日本体育学会大会号
(36):197
3)稲地裕昭,千駄忠至(1992)中学生の運動部活動に
おける退部に関する研究~退部因子の抽出と退部
予測尺度の作成.体育学研究,37:55-68
4)稲葉昭英,浦光博,南隆男(1987)「ソーシャル・サポ
ート」研究の現状と課題.哲學,85:109-149
-71-
------------
<< 連絡先 >>
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本多里也子
順天堂大学大学院スポーツ健康科学研究科博士前期課程
〒270-1695 千葉県印西市平賀学園台 1-1
電話 0476-98-1001(代)
FAX 0476-98-1011(代)
E-mail: riya_0205@yahoo.co.jp
人類働態学会 会報 第98号 2013年6月15日(暫定版)
第47回全国大会から
期日:2012年6月16、17日(土、日)
会場:所沢市中央公民館
(プログラムと発表抄録は会報第96号、報告記事は97号にも掲載されています)
座長報告
セッション1
座長: 河原雅典/富山大学
水戸和幸/電気通信大学
affordance の 2 点について注目したとの回答があった。
1-1.アンケート調査による高齢者の自転車利用時に
おける安全意識-自転車事故経験との関係から-
○森佳樹、矢部貴大、横山光、植竹照雄、下田政
博/東京農工大学 農学部
与える影響を筋電図学的に分析した研究である。重量
1-2.交通参加者相互の危険性評価に影響を及ぼす
生活道路交差点の環境要因
○ 山本あゆ美、髙橋雄三/広島市立大学大学院
情報科学研究科
ことが報告された。表面筋電図を計測する筋肉の位置
1-3.
重量物の棚への持ち上げ動作における四肢体幹に
1-3.重量物の棚への持ち上げ動作における筋電図
学的検討
○水戸和幸 1)、三宅章弘 2)、板倉直明 1)/1)電気
通信大学大学院 情報理工学研究科, 2)電気通信
大学 電気通信学部
1-4.背負梯子を用いた担架運搬
○河原雅典、矢島由紀子/富山大学芸術文化学
部
1-1.
高齢者の自転車による重大事故防止ための基礎資
物を持ち上げる棚の高さ、重量物の重さに依存して、
上腕二頭筋および僧帽筋の筋活動は顕著に増加する
ものの、腰部や大腿部の筋活動への影響は大きくない
や筋電図の評価方法が課題であるとのコメントがあっ
た。
1-4.
災害時避難行動における長距離移動用の担架運搬
の方法として背負梯子(背負い式担架運搬)を提案し
ている。運搬荷重重量が重いほど背負い担架式運搬
の方が手提げ式担架運搬より5分間の歩行距離が長く
なることが示された。手提げ式運搬で生じる手や腕部
での局所疲労が、背負い式担架運搬で発生しないこと
が結果に繋がっていると報告された。これまでの背負
梯子に関する研究と提案された背負梯子による担架
運搬の違いについて質問があった。
料として、60 歳以上を対象として日常における自転車
利用状況と自転車事故に関するアンケートを行った研
究である。
加害事故経験者は、信号無し交差点で「標識」、「ミ
ラー」、「ペイント」を確認しない者が多いこと、事故経
験者は雨天時の利用率が高く、雨具としてポンチョを
利用するケースが多いことが報告された。「ポンチョ」が
上肢運動に与える影響について質問があり、ポンチョ
が腕に張り付くことにで運動が制限され、うまく自転車
をコントロールできなくなるとの回答があった。
1-2.
道路反射鏡と路地に着目し、交通参加者の認知的
負荷の観点から生活道路交差点の危険性評価を行っ
セッション2
座長:岡田 明/大阪市立大学
2-1.観察方法の一考察
○山岡俊樹/和歌山大学システム工学部
2-2.仏教とメンタルヘルスの関係―僧侶の意識調査
から―
○武田正文 1)、中島史朗 2)/1)浄土真宗本願寺派
高善寺, 2)愛知県立大学 生涯発達研究所
2-3.文章完成法による飲食店のサービス設計項目
の抽出
○加藤夏来 1)、山岡俊樹 2)/1)和歌山大学大学院
システム工学研究科, 2)和歌山大学システム工学部
のうち道路反射鏡と路地に注目した理由について質
2-4.無文字社会カレンの伝統衣服製作技術の保存と
職業教育における最適化プログラムの実践
○下田敦子、大澤清二/大妻女子大学人間生活
文化研究所
2-1.
問があった。選定したエリアにおいて、道路反射鏡が
有形・無形を問わず、様々なものづくりを行う際に重
非常に目立っていたこと、また affordance の無い路地
要なプロセスとなるのは、そのものを用いている状況を
が多数見られたので、道路反射鏡と路地に関する
直接観察することにある。演者はそのプロセスを効果
た研究である。短区間に投影ルールの異なる道路反
射鏡が設置されることで交通参加者の認知的負荷は
高くなることが報告された。認知的負荷を与える要因
-72-
人類働態学会 会報 第98号 2013年6月15日(暫定版)
川大学, 2)労働科学研究所
的に行うためのひとつの方法を提案した。観察した事
項を構造的に把握するために、機能構成図等を用い
た新たな方式により、従来の方法では捉えにくい潜在
的問題点を把握することができることを示した。具体的
内容に関する質問もあり、有用性において今後の発展
3-3.子どもの生活行動の概念規定について
○岩田浩子/聖霊女子短期大学 生活文化科
3-1.
国際観光都市のメインストリートにおける店舗のバリ
が期待される。
アフリー化の進展を検証した研究である。店舗前段差、
2-2.
入口幅、通路幅について車椅子利用者の円滑移動を
宗教とメンタルヘルスに関する研究の一環として、あ
可能とした店舗は新規店舗も含め8年前に比べ飛躍
る宗派の僧侶に対する質問紙調査が実施され、その
的に増加しており、車椅子利用客も増加している。自
分析結果が報告された。僧侶の意識が具体的にまと
主的な意見交換と店舗同士の協力関係により、移動
められ、参加者のメンタルヘルスへの貢献として「宗教
バリアフリー化に関する店舗側の意識が向上している
活動の場」と「僧侶の関わり」を重視していることが示さ
ことが示唆された。フロアから、店舗利用客層及び閉
れた。当学会での研究発表として、こうしたテーマは珍
店舗の変化に関する質問があった。
しいと言えるが、その内容は働態学の考え方にも深く
3-2.
前の演題に関連し、バス利用時のバリアフリー化の
繋がるものであった。
現状と課題について、車椅子利用客に対するバス運
2-3.
サービスは人々のニーズを満たす重要な要素であり、
転者の介助作業の観察により検討した研究である。現
その適切な設定を考えることはそれを提供するものや
場での介助作業時間は運転者研修実験で計測した時
システムの質の向上に繋がる。この研究は、飲食店の
間より短縮されていた。介助作業では現場での制約が
サービスを対象とした要因分析により、飲食店に求め
大きいために、バス運転者は研修で指定された方法に
られる設計要素を明らかにしたものである。ここでは文
頼れず、地上補助員、乗客らを含めて個々に微妙な
章完成法を用いたアンケート調査による価値と機能の
調整を強いられていると考えられた。車椅子の乗降装
構造化、そしてそれに基づくサービス設計項目の把握
置、自発的な乗客支援を促進する表示やデザイン、な
を試みており、興味をひく研究発表として質問等が多
どの課題が残っている。
く出された。働態学的研究手法としてもこの事例は期
3-3.
子どもの成長段階における生活活動の獲得に関す
待される。
る研究を目指し、「生活行動」と言う用語の概念規定を
2-4.
技術の伝承や教育は働態学でも主要なテーマであ
通じて、「子ども」の年齢区分法を選択・適用しようとす
る。この発表は、独自の文字を持たないタイ北部山地
る試みである。GeNii および CiNii で検索された文献を
民(カレン)における伝統衣服制作技術の伝承に関す
分析した結果、生活活動についての富田の定義が採
る報告である。従来、口伝えと模倣により伝えられてき
用され、子どもの生活活動獲得における区分として、
た技術を、マニュアルの編纂と学校での教育という形
対人・対物の相互行動が発現する幼児期以降から性
態で伝えることが試みられ、その有効性が示された。
成熟までの期間(濱田の『コドモ期』)を採用するのが
今後さらに、教育内容や学習環境の改善などにも力を
最も適切であると考えられた。フロアから、他の哺乳類
入れていくことが報告されたが、この事例はその場にと
との対応も検討されたいとのコメントがあった。
どまらず、他の技術伝承の課題や技術教育の事例に
セッション4
座長:大箸純也/近畿大学
おいても参考になるものと思われる。
セッション3
座長:下田政博/東京農工大学
3-1.国際観光都市鎌倉の UD: 小町通りバリアフリー
化進展 8 年間
○小木和孝 1)、堀野定雄 2)、戸室治久 2)/1)労働
科学研究所, 2)神奈川大学
3-2.国際観光都市鎌倉の UD: 江ノ電バスのバリアフ
リー化現状
○堀野定雄 1)、小木和孝 2)、佐伯英敏 1)/1)神奈
-73-
4-1.相対的年齢が幼児の体格、運動能力、運動有能
感及び保育者からの評価に及ぼす影響
○川田裕次郎 1)、矢島雪乃 1)、山田快 3)、上村明
3)、飯嶋正博 2)3)、水野基樹 2)3)、広沢正孝 2)3)/
1)東京未来大学こども心理学部, 2)順天堂大学スポ
ーツ健康科学部, 3)順天堂大学大学院スポーツ健
康科学研究科
4-2.大学体育実技の事例研究Ⅱ 週 1 回の有酸素
性運動は若年成人男性の心肺持久力を向上させる
か?
人類働態学会 会報 第98号 2013年6月15日(暫定版)
田中秀幸 1)、○下田政博 2)、石島寿道 3)、植竹照
雄 2)、田中幸夫 1)/1)東京農工大学大学院・先端
健康科学部門, 2)同・自然環境保全学部門, 3)産業
技術総合研究所/早稲田大学
4-2.
週 1 コマの大学課程授業で、大学生の持久力の向
上と生活への運動の浸透を目指した研究である。半期
の課程授業の効果を調べるための測定として、絶対的
4-3.妊娠中の看護師の夜勤免除措置を促進する組
織的な環境要因についての研究 ―茨城県の公立
病院の事例―
○庄司直人 1)、本田勇輝 1)、水野基樹 2)/1)順天
堂大学大学院スポーツ健康科学研究科, 2)順天堂
大学スポーツ健康科学部
4-1.
な心拍数を用いたことは、報告でも記してあるように、
修学中は能力の比較は同一学年内で行われること
妊娠中の夜勤免除という本来は認められるべき労働
が多い。その比較において、月レベルでの年齢がどの
条件であっても、それを実際に得ることができるために
ように影響しているかを、幼稚園児について行ったもの
は、どのようなことが必要なのかを実例を分析すること
である。運動能力を対象としており、小中学生につい
で求めたものである。要素として得られたものは、ある
てはその影響が認められていることから、さらに低年齢
程度予想していたものであろうが、それを明確に示す
である幼稚園児についてもその影響があることは予想
ことが本研究の価値である。また、そのような組織内風
できることである。本調査結果での特色は、身体面で
土は、労働組合による強い活動によって得たものであ
は相対的年齢の影響が認められるものの、本人の運
ったことも示された。今後は他の診療科などでも調査を
動有能感では有意差が認められなかったことである。
行うとのことであり、望ましい環境を形成するための参
その点についての考えを示してほしかった。
考事項を明らかにしていくことになる。
-74-
季節による環境温度変化の影響の問題がある。しかし、
客観的な測定値によって効果を示さなくても、学生本
人の主観として効果を感じたとする例があったというこ
とである。従って、最大の目的は達したことになる。
4-3.
人類働態学会 会報 第98号 2013年6月15日(暫定版)
地方会から
「くらしの中の共生」第9回シンポジウム・第41回東日本地方会大会から
期日:2012年11月10、11日(土、日)
会場:電気通信大学 総合研究棟 3 階(マルチメディアホール)
(プログラムと発表抄録は、会報第 97 号に掲載されています)
第 41 回人類働態学会 東日本地方会報告
水戸和幸
第41回 東日本地方会大会幹事
電気通信大学大学院情報理工学研究科
第 41 回人類働態学会東日本地方会が 2012 年 11
意見交換が行われました。研究内容は、スポーツマネ
月 11 日(日)に東京都調布市の電気通信大学にて板
ジメント、サービス工学、感性工学、ヒューマンインター
倉直明先生(電気通信大学)を大会長として開催され
フェイス、環境工学など多彩でした。
ました。前日の「くらしの中の共生」第 9 回シンポジウム
本学での東日本地方会の開催は、第 39 回(2010 年)
と併せて全国から多数の方々がご参加くださいました。
より 3 年連続となります。どの大会においても大勢の会
本大会を開催するにあたり学会事務局の皆様、ならび
員の方にご参加頂き、また運営においても色々とご協
に大会事務局の電気通信大学の教員・学生スタッフの
力、工面して頂いたお陰で赤字なく終了することがで
皆様にも厚く御礼申し上げます。今大会の参加者は3
きたことに安堵しております。3年間、大会を盛大に盛
4名でした。演題数は 16 題であり、そのうち 10 題は学
り上げ、支えて下さった皆様に感謝申し上げます。
生によるものであり、多くの若手研究者らによる活発な
優秀発表賞受賞者から
瀧澤友美
武蔵野大学大学院
このたびは優秀発表賞という素晴らしい賞をいただき、
感謝申し上げます。
大変光栄に思っております。今回の受賞は、実験被験
今回の大会では自転車をテーマにした発表が数多く
者として協力していただいた方々、武蔵野大学生理人
あり、大変興味深く拝聴致しました。私の実家は二代
類学教室の諸先輩方、調査に協力していただいた関
続いている自転車屋ということもあり、諸先生方の発表
係者の方々、そして最後まで熱心にご指導してくださ
はとても身近に感じました。
った橋本修左教授のおかげだと感じております。心より
私が発表させていただいた共感覚とは、ひとつの刺
大会の一場面
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人類働態学会 会報 第98号 2013年6月15日(暫定版)
激された知覚だけでなく、ほかの領域も同時に知覚さ
共感覚をお持ちの方は、その感覚があまりに自然な為、
れる現象です。数字や音に色がついて視えるというと
共感覚をご存じない場合、御自身が共感覚者という自
奇妙に思われますが、「黄色い声」や「暖かい色」など
覚がないことが多々あります。共感覚の謎を少しでも解
(こちらは共通感覚と呼ばれています)、異なった知覚
明するために、皆さま自身、または周りで「あれ?もし
が結び付いている万人が理解する表現があるように、
かして共感覚者かも?」という方がいらっしゃいましたら
五感と呼ばれる感覚はそれぞれが独立しているもので
是非ご一報いただけると、とても嬉しいです。
はなく、外界をより感じるために互いに補い合うもので
今回は共感覚者の存在確率について発表させてい
あると考えられます。しかし共感覚はまだまだ認知され
ただきましたが、今後事象関連電位など脳生理学的方
ておらず、またメカニズムなども解明されていない部分
法論を導入することにより、客観的に検討を進めて行く
が多いため、大変やりがいのある分野であると感じて
予定です。今回の受賞を励みに、さらに精進していき
います。そして共感覚というちょっと特殊な感覚が今ま
たいです。その成果もまた皆様にご報告できたらと思
で淘汰されることもなく残っているのは、人類の進化に
っております。
なんらかの関係があるのではないかと考えられます。
本田勇輝
順天堂大学大学院 スポーツ健康科学研究科 博士前期課程(受賞時)
この度、第 41 回人類働態学会東日本地方会におき
ジメントの施策構築に少しでも寄与したいと考え、本研
まして研究発表を行う機会を頂き誠に有難うございま
究に着手しました。研究を行うにあたり、2012 年の9月
す。今回このような栄えある人類働態学会優秀発表賞
から 10 月にかけて終日東京駅や新橋駅前に立ち、社
を頂き、誠に光栄に思います。受賞した際のあの興奮
会人を対象に街頭調査を実施しました。なかなか思う
と感動は今でも忘れません。今回このような賞を頂いた
ようにサンプル数が集まらず精神的にも肉体的にも辛
ことは私にとって今後の研究活動の励みとなり、今後よ
い調査でしたが、このような街頭調査を通して現場で
り一層研究活動に力を入れていきたいと思います。
働く方々と接していく中で多くのことを学ぶことができ、
今回の研究を行う契機となったのが昨年私自身が行
大変貴重な経験をすることが出来たと感じております。
った就職活動でした。就職難と呼ばれる現代において、
また、私がこのように貴学会にて研究発表をさせてい
就職後3年以内に離職する若年者が3割を超えており、
ただくのは、一昨年6月の広島大学にて開催された全
このような現状に対する企業におけるリテンション・マネ
国大会に次いで二度目でした。二度目の研究発表に
優秀発表賞受賞者との記念撮影
左から板倉大会長、水戸(事務局幹事)、瀧澤氏、本田氏、水野氏、真家学会長
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人類働態学会 会報 第98号 2013年6月15日(暫定版)
も関わらず、いざ発表当日になると朝から終始緊張し
究を初め、大学院にて学んだものを今後は実際の現
ており、実際に発表を迎えると、緊張からか事前に考
場でも活かし、日々実践していきたいと考えておりま
えてきていたような発表をうまく行うことが出来ず、改め
す。
て自身の未熟さを実感致しました。しかし、今回の研究
最後になりましたが、大学院において丁寧なご指導
発表は私にとって素晴らしい経験となり私自身大きな
を頂きました指導教授である順天堂大学大学院准教
成長をすることが出来たと感じております。あらためて
授の水野基樹先生に心より御礼申し上げます。また、
研究活動の難しさと楽しさを実感致しました。そして、
今回このような東日本地方会が電気通信大学にて開
この度の研究発表を通して、多くの会員の皆様から貴
催されましたことは、大会長の板倉直明先生はじめ、
重なご意見やご指摘を頂きました。今回の研究発表を
人類働態学会の多くの会員の皆様、関係者の皆様の
通して学び感じたこと、そして頂いた貴重なご意見を
ご支援・ご協力の賜物であると感じております。今後と
今後の研究活動に活かし、さらにより良い研究報告が
も継続的、積極的に学会活動に取り組んでいきたいと
できるよう研究に励んで参りたいと思います。更に、4
思いますので、ご指導頂きますよう、よろしくお願い申
月からは実際に社会人として働くこととなり、今回の研
し上げます。
水野統太
電気通信大学大学院 情報理工学研究科
小生は、人類働態学会への参加は初めてでしたが、
この学会において、小生は「振動刺激によって生起
大変刺激になりました。特に、前日の行われたシンポ
する力覚のような感覚」という主テーマとはあまり関係
ジウムや今回の人類働態学会の主なテーマである「自
のない演題で研究発表を行いました。指先へ振動刺
転車利用者からみた共生を目指した交通システム構
激を行うと伸展方向に力覚のような感覚が誘発します。
築に向けて」において、自転車の環境や構造について
これまで、振動マッサージ器のような機器を用いて筋
の様々な議論は、とても面白い内容でした。シンポジウ
や腱にある程度強い振動で刺激すると、関節位置の
ムの中で、自転車と自動車の接触事故の映像があり、
錯覚が起こることは知られていました。しかし、携帯電
自動車の運転者は自転車に気が付いておらず、自転
話などに用いられている振動モータなどの小さい振動
車の運転者は自動車に気づいているという状況での
でも力覚のような感覚が起こることはよく知られておら
事故映像でした。この映像において、小生は「人や自
ず、このメカニズムの解明が必要だと考えております。
転車は自分が優先だから」という人の心理状態を想像
本研究はこの感覚についての基礎的な研究です。演
しました。現在、交通事故を起こすと日本の法律では
題からも分かるように、研究を行うにあたり、どれくらい
「自動車>オートバイ>自転車>人」の順で責任が掛
の振動でどれくらいの錯覚が生起するかなどといった
かることもあり、道路においての優先順位がこの逆にな
とても地道な作業が主でした。今回の発表賞を受けて、
ると思いますが、これが原因で事故が起こっていること
本研究が評価されたことに対し、大変うれしく、また今
も確かです。本学会は、このような道路交通に関する
後も研究を続けていくモチベーションにつながっており
意識を変えていける議論ができる場であると思いま
ます。ありがとうございました。
す。
参加記
山本あゆ美
広島市立大学大学院 情報科学研究科 システム工学専攻 人間工学研究室
私は今回の第 41 回人類働態学会東日本地方会で、
私にも、無意識のうちにおこなってしまう様々な挙動に
3 回目の人類働態学会への参加となりました。1 日目の
心当たりがあったからです。また、これらの基調講演に
「第 9 回共生シンポジウム」では、様々な側面から研究
関する意見交換も盛んにおこなわれていたことが印象
された“自転車のあり方”についての基調講演に大変
的でした。同じ“人類働態学”を専門にしている方々が、
興味を持ちました。特に、女子学生の生活道路におけ
学会という場を通して様々な視点から意見を述べてい
る自転車運転時の挙動についての植竹先生の講演は
る姿は、非常に勉強になりました。研究を始めてまだ 1
非常に興味深かったです。というのも、女子学生である
年半年強という私ですが、昨年の広島で開催された第
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人類働態学会 会報 第98号 2013年6月15日(暫定版)
46 回全国大会、今年 6 月に開催された第 47 回全国大
学大学院)の日本人の色字共感覚者に関する発表で、
会、そして、今回の第 41 回東日本地方会に参加したこ
私は“共感覚”という言葉を初めて聞きました。懐かし
とにより、先生方の意見交換で言わんとしていることの
い場面が思い浮かぶという経験は、私もしたことがあり
意味が、少しずつ分かってきたように感じています。
ますが、数字や文字を見ることによって色を感じたこと
次に、2 日目の一般演題の発表では、本田先生(順
はないので、非常に興味深い研究だと感じました。
天堂大学大学院)の一般従業員における運動実施状
今回の学会を通して、同じフィールドにおいて研究を
況とレジリエンスの関連についての発表が非常に興味
行っている方々の考え方に触れることができ、また、ま
深かったです。私はトレーニングジムでアルバイトをし
だ知らない分野についての研究に関しても触れること
ているのですが、お客様の中でも、仕事が終わった後
ができました。そして、今後の研究に関して、より深く、
で来る方がたくさんいらっしゃるので、「なるほど!」と
より多面的な物の見方で遂行していこうと思いました。
納得して聞いていました。また、瀧澤先生(武蔵野大
日本人間工学会 九州・沖縄支部第 33 回大会
人類働態学会 西日本地方会第 37 回大会 合同開催から
期日:2012年11月17日(土)
会場:西日本工業大学 小倉キャンパス(303 講義室)
(プログラムと発表抄録は、会報第 97 号に掲載されています)
大会および地方会についての報告
大箸純也
近畿大学産業理工学部
大会名が示しているように、今回の西日本地方会第
数などから適当な対応であると考えています。前々回
37 回大会は、日本人間工学会九州・沖縄支部との合
の単独で行った地方会においては、独立しての開催
同大会としました。会場は小倉城と隣接し、リバーウォ
が適当でないのであれば、本地方会を解散してもよい
ーク北九州という大型商業複合施設の一部として開設
のではないかとの意見にまとまりました。そこで、前回
されている西日本工業大学小倉キャンパスで行なわれ
の日本人間工学会九州支部大会での西日本地方会
ました。駅にも近く、商業施設も併設されており、教室
幹事会(西日本地方会自体は昨年度は大会はありま
には各机の電源・LAN 端末、プレゼンテーション設備
せんでした)は、解散も覚悟して臨みましたが、意外に
などが備えられた情報処理設備の充実したものでした。
も(?)もう少しは続けていこうということになりました。そ
正に都市中心型キャンパス(?)の典型的なもので、多
の理由は、2 つの研究会での研究分野による違いとい
くの学生にとって魅力的だろうと私の目には見えました。
うことではなくて、発表者側の状態に広く対応できると
そんな会場を日本人間工学会九州支部側とした中島
いうことであり、以下のようなことです。いつの間にか、
浩二先生に用意していただきましたが、予算面でも優
日本人間工学会九州支部会大会では、発表用の抄録
秀発表漿の予算以外は全てを負担していただき、合
は A4 で 2 ページを大会前に提出して、当日に抄録集
同大会とはいうものの、様々な面でおんぶにだっこし
として配布という形式になっていました(本会の全国大
てもらうという状態でした。いや、もっと負担することもで
会、東日本地方会と同じです)。それに対して、本会西
きたはずですが、その程度の負担でもよいとのことで、
日本地方会では、大会当日に 800 字程度の抄録を提
お世話にならさせていただきました。
出して、その後発刊の会報に掲載するという、以前か
3 年前(2 大会前)も合同大会としましたが、その時も
らのものでした。12 月に大会が重なることになったのは、
北九州市での開催でした。次大会は鹿児島市でまた
卒業研究や修士論文の発表の場としてのことですが、
共に開催することになります。この 2 つの研究会が共に
その研究の進み具合には個々の研究間で大きく異な
大会を開催すること自体は、前回の合同大会の時にも
ります。10 月頃には大体まとまっているものもあるもの
記したように、時期・規模・対象研究の重なり、参加者
の、実験・調査中のものもあります。そのため、大会 1 ヶ
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人類働態学会 会報 第98号 2013年6月15日(暫定版)
月前に最終版の抄録提出を求められると、発表できな
のでした。しかし(?)、他の研究も含めてまとまりがあると
い研究が出てきて、それらにも発表の場を提供できる
いうのは、抄録の事前提出を求めたことの影響なのか
ということで、本会西日本地方会の大会の価値がある
もしれません。研究途中であっても種々の方面からの
とのことでした。ですから、2 つの研究会が、同一日に
見方を教えてくれるような、貴重な発表を制限してしま
同一場所で独立した形式で、行うようにはできないかと
っていたのかもしれません。そう言えば、今は本会の全
いうものでした。発表件数自体は 1 研究会程度しかあ
国、東日本地方会の様に抄録を事前提出して、大会
りませんから、1 つの大会を両研究会で時間を分けて
当日に抄録集として用いるものがほとんどのようですが、
運営したらどうかということでした。しかし、今回の大会
以前は大会当日に抄録を提出するものの方が主流で
は合同大会であり、大会前に抄録を提出する形式で、
した。それはワープロでの抄録作成が容易になり、見
その抄録は「九州人間工学(日本人間工学会九州支
栄えのある抄録集を作成し易くなったことが理由なの
部会の抄録集名)」と本会のこの会報の前号(97 号)に
かもしれません。恐らく発表の直前まで、その内容に取
掲載された通りです。そのため、「会報に抄録が掲載さ
り組むというのは今も変わらないのではないかと思いま
れてしまって違和感を感じた」、「本会西日本地方会が
す。本会西日本地方会というと、私は大学院の頃の前
開催することによる利点が無い」などの感想もありまし
日夜半まで写真撮影、現像、ブルースライドへの焼付、
た。A4 見開きで文字と図表などでうまっている抄録集
マウントと確認などの作業で追われ、発表原稿はその
を見ると、編集側としては何となく満足感を感じてしまう
後、列車の中でというパターンのふんいきを感じます。
ものの、それは背景を考えない勝手なものでしかない
パソコンでの図表作成と OHP シートへの印刷か複写、
ということです。ただ、今回の大会も、同日開催の形式
そしてプレゼンテーションソフトでのパソコン内での作
は検討しました。しかし、施設利用の申請においては 2
業の完結ができるようになり、プレゼンテーションのた
大会並列開催はしづらいものがあり、1 つの大会のみ
めの作業はずいぶん楽になりました。しかし、今も皆さ
で申請して、他の研究会も開催するということもできず、
んは会場へ向かう交通機関の中で、プレゼンテーショ
結局合同大会ということになりました。
ンの検討を繰り返されているのでしょう。計画的にもの
発表の内容としては、まとまりのあるきれい(と感じて
ごとを進め、しっかりとした発表を行うことが望ましいの
しまう?)ものが多く、また分野も広くて、満足できる大会
は当然ですが、卒研については、この時期にそこまで
でした。以下の 3 つの発表が最優秀発表賞、優秀発
の完成を求める計画とはなっていないものもあるでしょ
表賞として選考されました。
う。またこれが最初で最後の対外的な発表として臨む
言語文化が図形認知に及ぼす影響
謝チエ 1)、安河内朗 2)(1 九州大学大学院芸術工
学府、2 九州大学大学院芸術工学研究院)
例もあるでしょう。そんなことから、発行の形で公開され
大腿前部における超音波エコー画像のテクスチャと筋
力との相関
西川孝広 1)、中島弘貴、福田修 2)、船津京太郎 3)、
村木里志 4)(1 九州大学大学院芸術工学府、2 産業
技術総合研究所、3 九州共立大学スポーツ学部、4
九州大学大学院芸術工学研究院)
集を作成するというのは、発表の環境を整えて、大会
高齢者の下肢筋量と歩行動作との関係
中島弘貴 1)、斉藤清次 1)、福元清剛 2)、福田修 3)、
村木里志 4)(1 九州大学大学院芸術工学府、2 静岡
大学工学部、3 産業技術総合研究所、4 九州大学大
学院芸術工学研究院)
これら優秀発表賞を受けた研究の質は申し分ないも
はかなり難航します。以上のように考えれば、西日本
る抄録は発表当日提出という形式は、それなりに意味
のあるものです。あと、大会前に抄録を提出して抄録
の質を高めるためのものではありますが、同時に、大
会終了後に作業を残したくないというのも大きいと感じ
ます。発表していただいたものの、発表が終ってしまう
と、なかなか提出していただけず、その抄録収集作業
地方会が発表抄録の大会前提出を求めない発表会を
提供することは、意義のあることです。実際の運営をど
うしていくかが問題ですが、その提供を行っていくこと
が方針です。
優秀発表賞受賞者から
謝チエ
九州大学大学院 芸術工学府 芸術工学専攻
現在、私は九州大学大学院で、言語文化が図形認
の日本人間工学会九州・沖縄支部会・人類働態学会
知に及ぼす影響に関する研究を行っています。今回
西日本地方会合同大会は、私にとって初めての学会
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人類働態学会 会報 第98号 2013年6月15日(暫定版)
発表の場であったということもあり、大変印象深く実りの
の研究人生への良い刺激ともなりました。
多いものとなりました。中国人として日本語での発表は
私にとって初めての学会での発表の場でしたが、優
緊張しましたが、事前の準備を念入りに行っていたの
秀発表者賞までいただくことができ、研究や発表に、よ
で無事に発表を終えることができました。参加者からは
り自信が持てるようになり大変嬉しく思います。ご指摘
予想外の質問もあり、自分の研究をより幅広い視野で
頂いたご意見等を踏まえて、この賞に恥ないよう今後
見つめ直すきっかけになりました。また、学会発表では
も精進していきたいと思います。
他人の発表を聞くことにも大変意義があることです。他
最後になりましたが、発表の機会を与えてくださった
人の発表の良いところを見たり聞いたりすることによっ
先生、人類働態学会西日本地方会ならびに日本人間
て、研究や発表の参考になります。また、他人の発表
工学会九州・沖縄支部会の方々に、厚く御礼申し上げ
と比較して自分の至らなさを感じることなどもあり、もっ
ます。
と頑張らなければいけないと考えさせられるなど、今後
中島弘貴
九州大学大学院 芸術工学府 芸術工学専攻 デザイン人間科学コース
平成 24 年度 11 月 17 日に西日本工業大学で開催さ
から貴重なご指摘やご助言を頂きました。なかでも統
れました人類働態学会西日本支部第 37 回大会におき
計したデータの見方についてのご指摘は、研究を発展
まして優秀発表賞に選出していただいたことを大変光
するにあたり、大変参考になりました。
栄に思います。
また大会では幅広い分野の研究を聞くことができまし
私は、超高齢社会を向かえた日本社会が抱える要
た。特に、スポーツ選手の寿命や労働環境でのストレ
介護者の増加という問題に焦点を当て、その問題の原
スマネジメントの研究はとても興味が沸きました。研究
因の一つである加齢による歩行能力の低下を予防す
の背景だけでなく、実験の方法やデータの解析の手
るために下肢の筋量と歩行動作との関係性について
法などが今後の研究に取り入れられないかと想像しな
の研究をしています。今回の大会では、色々な研究を
がら聞きました。
知ることで自分の知識の幅を広げることや、専門家の
今回の発表で得た新しい知識や見解を生かし、研究
方々と意見を交わし自分の研究をさらに発展させるこ
の最終的な目標である介護予防のための筋肉・歩行
とを目的に参加・発表しました。発表後の質疑応答や
能力の評価方法の作成のために、今後も研究活動に
その後に行われた懇親会を通じて、専門家の先生方
全力で取り組みたいと思います。
西川孝広
九州大学大学院 芸術工学府 芸術工学専攻 デザイン人間科学コース
今回は初めての学会発表ということで、先生方・先輩
また、多くの学会参加者の皆様に自分達の研究を聞
方に多くの御指導・御助言を頂き発表に臨みました。
いていただけて大変嬉しく思います。私達の研究テー
今回の優秀発表賞は先生方・先輩方のご助力を頂い
マは超音波エコーによって筋力の評価を行う手法を開
たからこそ受賞できたのだと思っています。本当にあり
発するというもので、この手法が実現できれば高齢者
がとうございました。
の介護予防や潜在性のあるスポーツ選手の発掘に役
学会では多くの先生方、実際に社会でご活躍されて
立つことが期待できます。私の個人的な意見としまして
いる方々、そして他大学の学生の皆様の発表をお聞き
は、研究の目的は社会に貢献できるものであるべきだ
することができ、自らの見識を深めることができました。
と考えています。現在取り組んでいる研究に関しても、
特に今回の学会では、学生の発表に対して先生方が
理系学生のいわゆる義務的な研究ではなく、将来社
活発にご指摘、アドバイスされていたのが印象的でし
会で実際に活用できることを目指した研究となることを
た。私自身も、自分の研究に対するご指摘やアドバイ
第一に考え、今後も研究に励んでいきたいと思います。
スを多く頂き、新しい視点から課題に対するアプロー
次回の学会では、その成果が発表できるよう頑張りま
チの方法や結果に対する考察などを考えることができ
す。
ました。このように我々若手が成長するためには、学会
参加という機会が非常に大切であることを再認識しまし
た。
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人類働態学会 会報 第98号 2013年6月15日(暫定版)
活動報告
フリー統計ソフト「R」を用いたやさしい統計解析講座【基礎コース】
期日:2012年4月27、28日(土、日)
会場:順天堂大学大学院9号館
実施報告
竹内由利子
事務局
2013 年 4 月 27 日(土)・28 日(日)、順天堂大学大学
事前アンケートでは、統計解析を 87%の受講者が研
院(東京都文京区)9号館2階8番教室にて、両日とも午
究活動に利用すると回答し、ビジネス 30%、教育活動
前 10 時より午後 5 時まで、『フリー統計ソフト「R」を用
17%であった(複数回答)。事後アンケートでは、満足度、
いたやさしい統計解析講座【基礎コース】』が行われ
難易度、効力感、「R」への期待、ともに 80%以上良とす
た。
る評価となった。これらの結果から、講座を受講者のス
本講座は財務再建 WG の答申を受け企画されたも
キルレベルや受講目的(習得したい解析)によりコース
のであったが、講座の目標とするところ、また、人材育
分けしたり、応用コースの実施など、課題も見えた。今
成という講座の果たす役割等から、事務局と将来構想
後の検討課題としたい。
担当(旧称:次世代担当)が協力・連携し実現した。
なお、本講座は民間企業等が開催している統計講
人類働態学は学際領域であり、フィールドでの調査
座とは異なり、次世代の人類働態学研究を担う若い研
や実験など、様々な計測・測定データを扱う。それらデ
究者・実務者の方が多く参加され、次世代の人材育成
ータ解析の基礎となる方法論として、統計学が必要と
に資することに主眼をおいた。よって、本講座は学会
なる。また、企業においても多様化するユーザニーズ
員有志によりすべてボランティアベースで運営された。
の抽出等が求められる企画・開発部門、生産管理や
協力いただいた講師やスタッフに深く感謝する。
品質管理などの部門においても、ビジネススキルのひ
とつとして統計学は日常的に活用されている。しかしな
がら、大学の一般教養で統計学を学んだ多くの人にと
っては、統計学の難解さとその敷居の高さを感じてい
ることも多い。
そこで、現在、各領域で注目を集めている統計解析
向けのフリーソフトウェア「R」を用いた演習形式により、
統計学の基礎から学ぶことにより、学際領域である人
類働態学の特徴を活かし、人類働態学研究で用いら
れている実際の研究事例データを用いた演習や、統
計演習を通じて、実践的な統計リテラシー・即戦スキル
を身につけることを目標として本講座を企画・開催し
会場の一場面
た。
本講座の受講者は、会員 22 名(一般 11 名・学生 11
名)、一般 2 名、関係学会・企業より 6 名であった。
-81-
人類働態学会 会報 第98号 2013年6月15日(暫定版)
参加記
山村昌代
横浜美術大学
フリー統計ソフト「R」を用いたやさしい統計解析講座
また統計で用いる尺度、実数に定義される変数の確認、
【基礎コース】と題し、2 日間かけて、名古屋市立大学
欠損値の扱い方など、基本的なことを一つ一つ丁寧に
大学院医学研究科の榎原毅先生、山田泰行先生より、
説明し、進められました。
フリーソフト「R」の紹介、使い方だけでなく、統計学の
次に、記述統計・グラフの作り方に進み、データ解析
基礎(基本統計量)、統計手法についての講座が行わ
の第一歩として、グラフでデータの特徴を知るための
れました。
散布図や分布、折れ線グラフなどの操作方法を行いま
民間企業等が開催している統計講座と異なり、人類
働態学会主催であり、ボランティアベースで運用され
した。その後、正規分布とは何か?など統計学へ入っ
ていました。
ていることから、参加費も他の講座に比べ低価格とな
データを実際に分析する前に「確率とは何か?」とい
っており、とても参加しやすい講座でした。
うことをグループに分かれてゲームを体験し、確率から
講習会は、「できる」+「わかる」!を到達目標とし、最
初に参加者へアンケートを取り、統計学の知識レベル、
理解度などを確認してから、進められました。
優位確率の理解へとつなげていき、基本的な統計学
についての説明を行っていきました。
統計解析では、対応のある・ないt検定、ノンパラメトリ
今回の参加者は、統計初心者の方から SPSS を通常
ック検定、相関、そして分散分析を取り込んだデータを
に使用している方まで様々とのことでした。また、統計
もとに分析を行っていきました。「EZR」で解析を行うこ
ソフト「R」を使用することが、初めての参加者がほとん
とで操作手順がわかりやすく、SPSS の操作性と違和感
どだったことから、まず「R」について、そして「R」の長所
なく、使用することができたように思います。
と短所の説明から始まりました。
2 日間の講座の中で、フリーソフト「R」の使い方だけ
「R」の短所は、インストール・初期設定が大変であっ
でなく、基本的な統計学、また一般的によく用いられる
たり、コマンドや関数の入力があったり、玄人向けとの
検定方法まで、盛りだくさんな内容となっていました。
ことでした。しかし、今回は、R コマンダーのカスタマイ
統計学への知識がある参加者にとっては、統計につい
ズ機能を利用した統計解析ソフト「EZR」を用いることで、
ての様々な説明よりも「EZR」を使って、統計解析をもっ
必要なパッケージが全てひとまとめとなっていたことか
と試したいという意見も見られましたが、今回は【基礎コ
ら、インストールが簡単でスムーズにはじめることができ
ース】であったことから、すべての参加者の希望に合わ
ました。インストール後は、統計分析を実践的に行う上
せることは困難であり、実践、また応用コースといった
で、必要なデータの取り込み作業を行いました。デー
参加者のレベル別の講座の必要性が感じられました。
タ取り込みに関する注意事項として、フォルダ名、ファ
今回、講座に参加し、今後もこのような講座が開催さ
イル名を英数字ベースにする、Excel で入力する際の
れましたら、参加させていただき、統計をより現場で使
「列」と「行」の捉え方など、初めての方にはわかりやす
用できるように学びたいと思っています。今後も『フリー
い内容となっていました。
統計ソフト「R」を用いたやさしい統計解析講座』を開催
データセットの作り方として、データの確認や各デー
タのナンバリングを行うことで個人情報を匿名化する、
-82-
していただけることを期待しています。
人類働態学会 会報 第98号 2013年6月15日(暫定版)
編集後記
締め切り間際に原稿がいくつか来るのではないかと、
少しのんびりと構えてしまっていました。しかし、とにか
く発行するかとの段階で、この編集後記を考えるのを
忘れていたことに気付きました。1 年前からこの会報を
電子化しましたが、電子化に伴う構成や、発行時期が
定まってないことの表れです。しかし、定まらないという
ことは、会報に対する考え・要望が会員間で異なるもの
があるということです。そしてそれは、関心を持ってもら
っていることということでもあります。そう考えれば嬉し
いことです。会報の役割として、記録の書庫と適切な
時期での情報提供の 2 面を、どう位置付けしていくか
がもう少し検討されることになります。また、それらの検
討を通して、新たな機能・企画も求められることになる
でしょう。やっていけるかな?というよりやっていかない
といけないですよね。
(大箸純也)
JHE
論文原稿募集中
人類働態学会の英文機関紙 Journal of Human Ergology では、新規投稿論文を募集しています。論文の形式は
Original papers または Communications の 2 種類があります。原稿の投稿要領の詳細については、本誌掲載の
投稿規定をご覧ください。
原稿ファイルは、メールに添付してつぎの投稿受付アドレスまでお送りください。matsumur@ndmc.ac.jp (松
村秋芳編集長)
編集委員会では、6 月と 12 月の年 2 号の定期刊行継続を目指しています。正常な定期刊行を維持していくため
に、会員の皆様からの積極的なご投稿をお待ちしています。とくに若い会員からの投稿を期待しております。本学
会の全国大会や地方会で発表した内容をまとめて発表する場として JHE を活用していただきたいと思います。まず
は学会発表の内容を短くまとめた Communications に挑戦してみてはいかがでしょうか。この形式では、含まれる図
表は 1-2 個が目安となります。投稿論文の受付、査読、受理までの一連の手続きの短縮化を図り、できるだけ早く
掲載するように努めます。
なお、本学会大会、地方会で発表された優秀な研究に対しては、個別に投稿を依頼する場合があります。その
折にはよろしくお願いいたします。
(JHE 編集委員会 〔編集委員長 松村秋芳〕)
人類働態学会 会報 第 98 号
2013(平成 25)年 6 月 16 日発行
発行者 人類働態学会 会長 真家和生
編集者 会報編集委員長 大箸純也
発行所 人類働態学会事務局
財団法人 労働科学研究所内
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