HIV 感染症の臨床経過 - 北海道HIV/AIDS情報

目 次
1
HIV 感染症の臨床経過
1
2
HIV 感染症の検査/診断
5
3
抗 HIV 療法
11
4
HIV 薬剤耐性とその検査
23
5
血友病患者の診療
26
6
AIDS 関連症候群(ARC)の診断と治療
29
6 - 1.
症候による診断手順
29
6 - 2.
カンジダ症
37
6 - 3.
クリプトコックス症
40
6-4
クリプトスポリジウム症
44
6 - 5.
サイトロメガロウィルス(CMV)感染症
47
6 - 6.
非結核性抗酸菌症
50
6 - 7.
ニューモシスチス肺炎
53
6 - 8.
結核症
55
6-9
サルモネラ感染症
59
6 - 10. イソスポラ症
61
6 - 11. リンパ性間質性肺炎(Lymphocytic interstitial pneumonia : LIP)
63
6 - 12. 本邦ではまれな ARC
65
6 - 13. HIV 消耗性症候群
68
6 - 14. 悪性リンパ腫
70
6 - 15. HIV 関連神経認知障害(HIV 脳症)
73
76
6 - 16. 進行性多巣性白質脳症(Progressive maultifocal leukoencephalopathy;PML)
6 - 17. トキソプラズマ脳症
79
HIV 感染症に合併しやすい性感染症
83
7 - 1.
梅毒
83
7 - 2.
尖圭コンジローマ
86
7 - 3.
疥癬
87
7 - 4.
性器ヘルペス
88
7 - 5.
ケジラミ症
89
7 - 6.
軟性下疳
90
7 - 7.
淋病
91
7 - 8.
非淋菌性尿道炎
93
7 - 9.
アメーバ感染症(赤痢・肝膿瘍)
95
HIV 感染症に伴う慢性合併症
97
8 - 1.
HIV 感染症と肝炎
97
8 - 2.
HIV 感染症と腎障害
104
8 - 3.
HIV 感染症と脂質代謝異常 / 心血管障害
108
8 - 4.
HIV 感染症と骨代謝異常
111
7
8
9.
HIV 感染者の皮膚症状
113
10.
妊婦および新生児の HIV
118
11.
小児の HIV 感染症
127
12.
眼科の HIV 感染症
138
13.
HIV 感染症と精神疾患
141
14.
HIV 感染血友病患者の関節症の治療
148
15.
HIV 感染症患者のリハビリテーション
155
16.
HIV 感染症の口腔病変と歯科治療
159
17.
HIV 感染症患者の心理的支援
166
18.
HIV 感染症患者の看護
170
18 - 1.
看護師の役割
170
18 - 2.
HIV 検査支援
171
18 - 3.
初診時の支援
173
18 - 4.
セルフケア支援
176
18 - 5.
服薬支援
179
18 - 6.
サポート者形成支援
181
18 - 7.
セクシャルヘルス支援
182
18 - 8.
在宅医療支援
183
19.
外国人患者への対応
186
20.
HIV 暴露時の対応と安全対策
188
20 - 1. 針刺し・切創及び皮膚・粘膜暴露時の対応
188
20 - 2. 外科領域での安全対策
204
20 - 3. 検査・輸血部領域での安全対策と検査項目
207
20 - 4. 感染予防と消毒
212
21.
医療福祉制度と支援
215
22.
HIV 感染症とインターネット情報
225
23.
HIV 相談室について
230
24.
抗ウィルス薬
233
25.
国内未販売薬
269
26.
拠点病院の医療体制
280
付録
282
1
1
HIV 感染症の臨床経過
HIV 感染症の臨床経過の全体像
HIV(human immunodeficiency virus)感染症の臨床経過は、⑴感染初期(急性期)、⑵無症候期、
⑶ AIDS(acquired immunodeficiency syndrome)発症期の 3 期に分けられる。HIV に感染する
と多くの症例では 2 ~ 3 週間後にインフルエンザ様の急性期症状があり、その後長期間の無症候
期に入る。この間に HIV は宿主内で盛んに増殖し、CD4 陽性リンパ球数は徐々に減少していく。
CD4 陽性リンパ球数の減少により細胞性免疫不全が進行していくと、表在リンパ節が腫脹した
り発熱や下痢を繰り返したり、体重の減少がみられるようになる。さらに CD4 陽性リンパ球数
が減少していき、200 個 /µℓ以下となると様々な日和見感染症を発症する。表 1 に我が国におけ
る AIDS 診断の診断基準を示すが、ここにあげた 23 の指標疾患のどれかが現れたときはじめて
AIDS と診断する。
図 1 HIV 感染症の経過(模式図)
2
HIV 感染症の臨床症状
⑴ 急性期
HIV に感染すると、HIV は宿主内で急速に増殖し、CD4 陽性リンパ球数は一過性に減少す
る。この時期には感染者の約 90% に何らかの急性レトロウイルス症候群の徴候を認めるが(表
2)
、多くの症状はインフルエンザ様で非特異的であるため HIV 感染と認識されないことが多
い。問診などから積極的に HIV 感染を疑い、HIV-RNA の増加が確認できれば「急性 HIV 感
染症」と診断可能である。その後、宿主の免疫反応により血中ウイルス量は低下し、2 ~ 3 週
間で急性感染の症状は消退する。CD4 陽性リンパ球数も回復し、抗 HIV 抗体が陽性となり
(seroconversion)無症候期に移行する。低下した血中ウイルス量は感染約 6 ヶ月後にはある
一定のレベルに保たれるようになる(セットポイント)。
HIV 感染症の臨床経過
1
⑵ 無症候期
急性期を過ぎた後の症状のない時期をさし、一般に潜伏期とも呼ばれる時期である。この間
も HIV は盛んに増殖を繰り返しているが、宿主の免疫反応により長期間の平衡状態が保たれる。
CD4 陽性リンパ球数は徐々に減少していくが、その減少スピードは HIV のウイルス量に依存し
ている。以前は、無症候期の期間は 5 ~ 15 年と言われていたが、最近では感染から 3 ~ 4 年で
AIDS を発症することもまれではなく、無症候期が短くなってきていると言われている。
⑶ AIDS 発症期
HIV の増殖と宿主の免疫反応による平衡状態が破綻すると急速に HIV-RNA が増加し、
CD4 陽性リンパ球数も減少し細胞性の免疫不全が顕著となってくる。CD4 陽性リンパ球数が
200 ~ 500/µℓの時期は細菌性肺炎、肺結核、帯状疱疹、口腔カンジダ症、口腔毛状白板症や
カポジ肉腫などを合併する。更に CD4 陽性リンパ球数が 200/µℓ以下に低下すると消耗が進行
し、様々な日和見感染症、悪性腫瘍や神経症状を合併するようになり(表 1)、AIDS と診断さ
れる。AIDS の診断基準を満たす日和見感染症などの症状や診断・治療法については各論に詳
述する。適切な抗 HIV 療法(ART:antiretroviral therapy)が行われなかった場合、CD4 陽
性リンパ球数が 200/µℓ以下に低下してからの生存期間中央値は 3.7 年、AIDS を発症してか
らの生存期間中央値は 1.3 年と報告されている。しかし例え AIDS を発症しても適切な抗 HIV
療法を行うことにより免疫系の再構築が成され、感染症の回復、社会生活への復帰が可能となっ
ている。実際に、ART 後に CD4 陽性リンパ球数を 500/µℓ以上に維持できた患者は、健常者
と同じ生命予後を得ることも報告されている。
表 2 急性 HIV 感染症の症状と徴候
症 状
割 合
発 熱
96%
リンパ節腫脹
74%
咽頭炎
70%
発 疹
70%
筋肉痛と関節痛
54%
下痢
32%
頭 痛
32%
悪心、嘔吐
27%
肝脾腫
14%
体重減少
13%
口腔カンジタ
12%
神経症状
12%
発 疹:顔面及び体幹の他、ときに手掌・足底を含む四肢に病変を有する紅斑性丘疹
ときに口腔、食道または生殖器に及ぶ皮膚粘膜潰瘍を形成
神経症状:髄膜脳炎または無菌性髄膜炎末梢神経障害または神経根障害/顔面神経麻痺/
ギラン・バレー症候群/上腕神経炎/認知障害または精神障害
2
HIV 感染症の臨床経過
表 1 AIDS 診断のための指標疾患
A.真菌感染症
1 カンジダ症(食道、気管、気管支または肺)
2 クリプトコッカス症(肺以外)
3 コクシジオイデス症
①全身に播種したもの
②肺、頚部、肺門リンパ節以外の部位に起こったもの
4 ヒストプラズマ症
①全身に播種したもの
②肺、頚部、肺門リンパ節以外の部位に起こったもの
5 ニューモシスチス肺炎
B.原虫症
6 トキソプラズマ脳症(生後 1 ヶ月以後)
7 クリプトスポリジウム症(1 ヶ月以上続く下痢を伴ったもの)
8 イソスポラ症(1 ヶ月以上続く下痢を伴ったもの)
C.細菌感染症
9 化膿性細菌感染症(13 歳未満で、ヘモフィルス、連鎖球菌等の化膿性細菌により以
下のいずれかが2年以内に、2つ以上多発あるいは繰り返して起こったもの)
①敗血症 ②肺炎 ③髄膜炎 ④骨関節炎 ⑤中耳・皮膚粘膜以外の部位や深在臓器の膿瘍
10 サルモネラ菌血症(再発を繰り返すもので、チフス菌によるものを除く)
11 活動性結核(肺結核叉は肺外結核)※
12 非結核性抗酸菌症
①全身に播種したもの
②肺、頚部、肺門リンパ節以外の部位に起こったもの
D.ウイルス感染症
13 サイトメガロウイルス感染症(生後 1 ヶ月以後で、肝、脾、リンパ節以外)
14 単純ヘルペスウイルス感染症
① 1 ヶ月以上持続する粘膜、皮膚の潰瘍を呈するもの
②生後 1 ヶ月以後で気管支炎、肺炎、食道炎を併発するもの
15 進行性多巣性白質脳症
E.腫瘍
16 カポジ肉腫
17 原発性脳リンパ腫(年齢を問わず)
18 非ホジキンリンパ腫
LSG 分類により
①大細胞型
免疫芽球型
② Burkitt 型
19 浸潤性子宮頸癌※
F.その他
20 反復性肺炎
21 リンパ性間質性肺炎/肺リンパ過形成:LIP/PLH complex(13 歳未満)
22 HIV 脳症(認知症又は亜急性脳炎)
23 HIV 消耗性症候群(全身衰弱又はスリム病)
※C 11 活動性結核のうち肺結核およびE 19 浸潤性子宮頚癌については、HIV による免疫
不全を示唆する症状および所見がみられる場合に限る。
HIV 感染症の臨床経過
3
■参考文献■
1 HIV 感染症治療研究会編.HIV 感染症「治療の手引き」第 16 版.2012 年 12 月
2 Bartlett JG et al.Medical Management of HIV Infection 2009-2010,15th Edition.
Published by Johns Hopkins University School of Medicine,2009
3 DHHS.Guidelines for the Use of Antiretroviral Agents in HIV-1-Infected Adults and
Adolescents.February 12,2013
4 平成 24 年度厚生労働科学研究費補助金エイズ対策研究事業 HIV 感染症及びその合併症の
課題を克服する研究班編.抗 HIV 治療ガイドライン.2013 年 3 月
5 Lewden C,Chene G, Morlat P, Raffi F,Dupon M,Dellamonica P,Pellegrin JL,Katlama C,
Dabis F,Leport C;ANRS Study Group. HIV-infected adults with a CD4 cell count
greater than 500 cells/mm3 on long-term combination antiretroviral therapy reach same
mortality rates as the general population. J Acquir Immune Defic Syndr.46:72-77,2007.
(血液内科 遠藤 知之 2013.07)
4
HIV 感染症の臨床経過
2
1
HIV 感染症の検査/診断
HIV 関連検査の種類と特徴
⑴ スクリーニング検査
酵素抗体法(ELISA 法)
、粒子凝集法(PA 法)、免疫クロマトグラフィー法(IC 法)によ
り HIV-1 及び HIV-2 に対する抗体を測定または同定する。感度は高いが、特異度は低いため、0.1
~ 1% 程度の偽陽性が生じる。一方、感染してから抗体が検出されるまで通常 3 ~ 4 週間かか
るため(window period(WP)
)
、結果が陰性でも急性感染を否定できない。感染初期数週間
は HIV 抗原(p24 抗原)が上昇し ELISA 法で検出可能となる。WP を短縮するため現在、北
海道大学病院ではスクリーニング用検査として HIV-1,2 抗体価と HIV-1 抗原同時測定検査(第
4 世代検査キット、アボット社の HIVAg/Ab Combo, CLIA 法)を使用している。
⑵ 確認検査
Western blot 法(WB 法)、間接蛍光抗体法(IFA 法)により HIV-1 と HIV-2 それぞれ
に対する特異的な抗体タンパクの存在を確認する検査である。院内では HIV-1 WB と HIV2 WB の検査が可能。特異度は高いが、感度は低いため、感染初期には検出できない。HIV-1
WB と HIV-2 WB の間には交叉反応が生じるため判定には注意を要する。
⑶ HIV 抗原検査
〈HIV-1 RNA 定量〉
PCR 法と核酸 hybridization 法を組み合わせて HIV-1 の RNA を高感度に検出できる検査で、
北大病院では 2008 年 2 月からロシュダイアグノスティクス社のコバス TaqMan HIV-1 オー
ト(TaqMan PCR 法)を使用している。HIV-RNA の定量は急性感染の診断に不可欠であるが、
HIV-2 は検出できない。病勢、治療効果のモニタリングとしても有用である。
〈HIV-1 proviral DNA〉
リンパ球を検体として PCR 法にて細胞内の proviral DNA を検出する検査であり、極めて
感度は高いが、測定系が標準化されていないため普及していない。抗体検査での判定困難例や
WP 時期での感染確認、治療中の潜伏感染ウイルスの評価に用いられる。本邦では母子感染の
早期診断として保険適応がある。
〈p24 抗原〉 HIV-1 のコアタンパクである p24 を ELISA 法で検出する。特異度は高いが、感度が低いため、
感染初期数週間と感染後期にしか検出できない。前述の抗体価測定と組み合わせてスクリーニ
ングで用いられる。
⑷ 簡易迅速抗体検査キット
前述の IC 法により抗 HIV 抗体を同定するキット。本邦ではダイナスクリーン・HIV-1/2 が
使用されている。15 分で結果が得られるため、即日検査として保健所、各種医療機関で 2001
年以降導入され、自発検査や早期発見、感染不安をもつ人への利便性により普及している。偽
陽性が約 1%あるため、結果が陽性の場合、通常のスクリーニング検査と同様に確認検査の追
加が必要である。院内では針刺し等の緊急時にのみ用いられる。
HIV
HIV
感染症の検査/診断
感染症の臨床経過
5
⑸ HIV 薬剤耐性検査
血液中に存在する HIV の抗 HIV 薬に対しての耐性、感受性を調べる検査であり、genotype
検査(遺伝子型解析)と phenotype 検査(表現型解析)の 2 種類がある。院内では genotype
検査が可能。検査の詳細については「4.HIV 薬剤耐性とその検査」の項を参照。
2
HIV 感染症診断法の実際
⑴ スクリーニング検査
院内では HIV-1,2 抗体価と HIV-1 抗原同時測定検査(HIVAg/Ab Combo)に加えて、追加
スクリーニング検査としてアボット社のダイナスクリーン・HIV-1/2(IC 法)、バイオラッド
富士レビオ社のジェネディア HIV-1/2 ミックス PA(PA 法)の異なる 2 法を実施。初期スクリー
ニング検査を含めた 3 法中、2 法以上が陰性の場合に「陰性」、2 法以上が陽性の場合に「陽性」
と判定する。
〈
「陽性」または「保留」と判定された場合〉 確認検査を行う。
〈
「陰性」と判定された場合〉 感染のリスクが無い場合には「感染無し」と診断する。感染のリスクがある場合や急性感染
を疑う場合には RT-PCR による HIV-1 RNA 定量検査を行う。この結果が「陰性」でも期間
を空けて再検査を行う。
⑵ 確認検査
日本エイズ学会では確認検査として HIV-1 WB 法と HIV-1 RNA 定量検査を同時に行うこ
とを推奨している。(表 1)
〈HIV-1 WB 法が「陽性」〉
HIV-1 の感染者と判定する。但し HIV-1 RNA 定量検査が陰性の場合は高感度法で再検査
を行う。高感度法でも陰性であれば HIV-2 WB 法を実施し、「陽性」であれば HIV-2 の感染
を否定できない。
〈HIV-1 WB 法が「陰性」または「保留」で HIV-1 RNA 定量検査が「陽性」〉
HIV-1 急性感染者と考えるが、確定診断には後日 HIV-1 WB 法の「陽性」を確認する必要
がある。
〈HIV-1 WB 法が「陰性」または「保留」で HIV-1 RNA 定量検査が「測定感度以下」〉
HIV-2 WB 法を実施し、「陽性」であれば HIV-2 の感染者と判定。HIV-2 WB 法が「陰性」
または「保留」であれば、2 週間後にスクリーニングからの再検査を勧める。
⑶ 母子感染の診断
母親から児へ抗体が移行するため、抗体検査は有用でない。HIV-1 抗原(p24 抗原)、HIV1 RNA 定量検査を実施し判定を行う。
6
HIV 感染症の検査/診断
感染症の臨床経過
表1 HIV-1/2 感染症診断のためのフローチャート
HIV-1/2 感染症の診断法 2008 年版(日本エイズ学会・日本臨床検査医学会 標準推奨法)
HIV-1/2 スクリーニング検査法1)
ELISA・PA 法など
陽性
保留
※感度が十分に高い検査法であること
陰性
非感染またはウインドウピリオド2)
HIV-1 確認検査法(両法を同時に行う)
WB 法及び RT-PCR
HIV-1 検査結果
WB 法
陽性
保留
陰性
RT-PCR
判定・指示事項
陽性
HIV-1 感染者
検出せず
HIV-1 感染者3)
陽性
急性 HIV-1 感染者4)
検出せず
HIV-2 の確認検査を実施、陰
性時は保留とし2週間後に再
検査5)
陽性
急性 HIV-1 感染者4)
検出せず
HIV-2 の確認検査を実施、陰
性時は保留とし2週間後に再
検査5)
HIV-2 確認試験が陽性の場合は
HIV-2 感染者
両者が陰性の場合は非感染者6)
1 明らかな感染のリスクがある場合や急性感染を疑う症状がある場合は抗原・抗体同時検査法
によるスクリーニング検査に加え HIV-1 核酸増幅検査法による確認検査を行う必要がある
(ただし、現時点では保健適応がない)。
2 急性感染を疑って検査し、HIV-1/2 スクリーニング検査とウエスタンブロット(WB)法が
陰性または判定保留であり、しかも HIV-1 核酸増幅検査法(RT-PCR 法)が陽性であった
場合は、HIV-1 の急性感染と診断できるが、後日、HIV-1/2 スクリーニング検査とウエス
タンブロット法にて陽性を確認する。
3 HIV-1 感染者とするが、HIV-1 核酸増幅検査法(RT-PCR:リアルタイム PCR 法または従
来法の通常感度法)で「検出せず」の場合(従来法で実施した場合は、リアルタイム PCR
法または従来法の高感度法における再確認を推奨)は HIV-2 WB 法を実施し、陽性であれ
ば HIV-2 の感染者であることが否定できない(交差反応が認められるため)。この様な症例
に遭遇した場合は、専門医・専門機関に相談することを推奨する。
4 後日、適切な時期に WB 法で陽性を確認する。
5 2 週間後の再検査において、スクリーニング検査が陰性であるか、HIV-1/2 の確認検査が陰
性 / 保留であれば、初回のスクリーニング検査は疑陽性であり、「非感染(感染はない)」と
判定する。
6 感染のリスクがある場合や急性感染を疑う症状がある場合は保留として再検査が必要であ
HIV
HIV
感染症の検査/診断
感染症の臨床経過
7
る。また、同様な症状を来たす他の原因も平行して検索する必要がある。
注1 妊婦健診、術前検査等の場合にはスクリーニング検査陽性例の多くが偽陽性反応によるた
め、その結果説明には注意が必要。
注2 母子感染の診断は、移行抗体が存在するため抗体検査は有用でなく、児の血液中の HIV-1
抗原、または HIV-1 核酸増幅検査法により確認する必要がある。
3
HIV 感染者の検査
⑴ 進行を把握するための指標
< CD4 陽性リンパ球数>
HIV により破壊された宿主の残存免疫力を反映し、病態の進行度や治療開始を考慮する重
要な指標となる。測定はフローサイトメトリーを用いて行われ、健常人では 500 ~ 1400/µℓ
であり、HIV 感染者で 200/µℓ未満になると種々の日和見疾患のリスクが高まる。未治療者で
は 2 ~ 6 ヶ月毎、治療中の患者では初期は毎月、その後は 2 ~ 4 ヶ月毎に検査を行う。測定値
の変動が大きいため複数回の検査で評価する。
<血中 HIV-RNA 定量>
血中のウイルス量は CD4 の低下速度と相関しており、予後予測の指標となる。また治療効
果を判定するのにも重要な指標となる。男性に比べ女性では低値となる。未治療者では 3 ~ 4 ヶ
月毎、治療開始または変更した患者では 4 ~ 8 週毎に測定し、検出限界以下に到達したら 2 ~
4 ヶ月毎に測定する。ウイルスが測定限界以下に低下しても体内から HIV が消失したことに
はならない。ウイルスが検出限界以下に到達した後に血中ウイルス量が 2 回連続で 200 コピー
/mL 以上となった場合には、治療失敗の可能性があり、薬剤耐性ウイルスの存在やアドヒア
ランス低下など、原因の検索を行う。
⑵ 検査チェックリスト : 以下、当院で使用している HIV 感染者の検査チェックリストを記す。
【初診時の検査】
□ 検尿一般・尿沈渣
□ 末梢血一般(白血球分画も)
□ 生化学一般(アミラーゼ、CPK、血糖、血清脂質も)
□ T 細胞サブセット(CD4 絶対数も)
□ HIV-RNA 定量
□ HAV 抗体
※ 陰性症例は、必要時にワクチン接種も考慮。
□ HBs 抗原、HBs 抗体、HBc 抗体
※ いずれかが陽性なら HBV-DNA を追加する。
※ すべて陰性時は、ワクチン接種も考慮。
□ HCV 抗体
□ 梅毒血清反応(RPR 定性、TPLA 定性)
※ 陽性なら定量検査を追加。
□ サイトメガロウイルス IgG
※ 陰性なら、輸血が必要な際に CMV 陰性製剤を使用。
□ トキソプラズマ IgG
8
HIV 感染症の検査/診断
感染症の臨床経過
※ 陽性なら、CD4<100 で一次予防を開始する。
□ 水痘・帯状疱疹ウイルス IgG
※ 陰性なら、水痘患者との接触を極力避ける。
□ クオンティフェロン
□ 赤痢アメーバ抗体半定量
□ C7HRP(CD4 が低い症例のみ)
□ 胸部 X-P
□ 心電図
□ 眼科受診
※ CMV 網膜症等の眼底スクリーニング。特に CD4 が低値の症例。
※ 梅毒陽性者は梅毒性網膜炎・ブドウ膜炎のスクリーニングが必須。
□ 婦人科受診(女性のみ)
※ 子宮頚癌健診を行ってもらう。
【ART 開始前の検査】
□ 検尿一般・尿沈渣
□ 尿クレアチニン、尿蛋白定量、尿 NAG/Cre、尿β 2MG/Cre、尿アルブミン /Cre、尿
Ca、尿 P
※ 治療開始前のベースラインとしてとる。
□ 末梢血一般(白血球分画も)
□ 生化学一般(アミラーゼ、CPK、血糖、HbA1c、血清脂質、Ca、P も)
□ シスタチン C
□ T 細胞サブセット(CD4 絶対数も)
□ HIV-RNA 定量
□ HBs 抗原、HBs 抗体、HBc 抗体
※ いずれかが陽性なら HBV-DNA を追加する。
□ HCV 抗体
□ 妊娠反応
※ 女性の場合。
□ 薬剤耐性検査
□ HLA-B5701 の検査
※ 無料で検査可能。陽性者では ABC の使用不可。
※ 特に外国人では必要。
□ 胸部 X-P
□ 心電図
※ 不整脈の副作用のある薬剤があるので、ベースラインとしてとる。
<治療前のベースラインとして可能ならとるもの>
□ 骨塩定量検査(DEXA:腰椎・大腿骨)
□ I-PTH
□ TRACP-5b
□ 骨型 ALP
※ ART による骨粗鬆症のベースラインとしてとる。
HIV
HIV
感染症の検査/診断
感染症の臨床経過
9
□ ABI/PWV
※ ART による動脈硬化のベースラインとしてとる。
【慢性合併症の検査】
<最低年 1 回行う検査>
□ 検尿一般・尿沈渣
□ 尿クレアチニン、尿蛋白定量、尿 NAG/Cre、尿β 2MG/Cre、尿アルブミン /Cre、尿
Ca、尿 P
□ 血清 Ca、血清 P
□ シスタチン C
□ 血糖、HbA1c
□ 血清脂質(TG、LDL、HDL)
※ 上記の検査で異常があれば 3 ヶ月に 1 回行うことが望ましい。
< 2 ~ 3 年に 1 回行う検査>
□ 胸部 X-P
□ 心電図
□ 骨塩定量検査(DEXA:腰椎・大腿骨)
□ I-PTH
□ TRACP-5b
□ 骨型 ALP
□ ABI/PWV
※ 上記の検査で異常があれば 1 年に 1 回行うことが望ましい。
■参考文献■
1 Bartlett JG et al.Medical Management of HIV Infection 2009-2010,15th Edition.
Published by Johns Hopkins University School of Medicine,2009
2 日本エイズ学会.診療における HIV-1/2 感染症の診断ガイドライン 2008(日本エイズ学会・
日本臨床検査医学会 標準推奨法).日本エイズ学会誌 11:70-72,2009
3 DHHS.Guidelines for the Use of Antiretroviral Agents in HIV-1-Infected Adults and
Adolescents.February 12,2013
4 平成 24 年度厚生労働科学研究費補助金エイズ対策研究事業 HIV 感染症及びその合併症の
課題を克服する研究班編.抗 HIV 治療ガイドライン.2013 年 3 月
5 HIV 感染症治療研究会編.HIV 感染症「治療の手引き」第 16 版.2012 年 12 月
(血液内科 遠藤 知之 2013.07)
10
HIV 感染症の検査/診断
感染症の臨床経過
3
1
抗 HIV 療法
治療開始時期
現在行われている多剤併用での抗 HIV 療法(antiretroviral therapy=ART)による HIV 増
殖抑制効果は強力であり、治療開始早期に HIV ウイルス量を測定感度以下に押さえ込み、徐々
に CD4 リンパ球数を回復させ、免疫機能を回復・維持することが可能である。しかしながら、
ART の継続によっても HIV の体内からの完全な排除には平均 73.4 年かかると推定されており、
現時点では一度治療を開始すれば、生涯に渡り治療を継続する必要がある。また、十分な服薬遵
守(アドヒアランス)が維持できなければ、薬剤耐性ウイルスが誘導され、結果的に治療の失敗
につながる。また ART の長期継続により軽視できない種々の副作用が出現してくる。以上の理
由から、以前は ART の開始をできるだけ遅らせるという考え方が主流であった。しかし、最近
の大規模試験において、ART を早期に開始することにより、CD4 陽性リンパ球数を高く維持で
きる、HIV 増殖によってもたらされる可能性のある心血管疾患や腎・肝疾患のリスクを減らせ
る、CD4 陽性リンパ球数が高くても発症する可能性のある HIV 関連疾患のリスクを減らせる、
パートナーへの感染を減らせるなど、早期治療のメリットが示され、さらに、飲みやすく副作用
の少ない薬剤が増えたことなどの理由から、治療開始時期は早まる傾向にある。米国保健福祉
省(Department of Health and Human Services = DHHS)のガイドラインでは、2012 年 3 月か
ら 「CD4 陽性リンパ球数の値にかかわらず、すべての患者で治療開始をすべきである」 と改訂
された。但し CD4 陽性リンパ球数が 500/µℓ以下の患者への治療開始は「強く推奨」だが、CD4
陽性リンパ球数が 500/µℓを超える患者では「中程度に推奨」と表記されている。2012 年 7 月版
の International AIDS society-USA(IAS-USA)のガイドラインも同様の推奨であるが、2012
年 11 月版の European AIDS Clinical Society(EACS)のガイドラインでは、CD4 陽性リンパ球
数が 500/µℓを超える患者では「治療は延期」を推奨している。治療開始に際しては患者の状態、
服薬アドヒアランスへの意識・理解度、副作用および薬物相互作用なども考慮し、入念なカウン
セリングや教育を行った上で判断を下す必要がある。
<未治療患者に対する ART 開始基準>
① AIDS および HIV に関連する症状がある場合
CD4 陽性リンパ球数・血中ウイルス量の数値にかかわらず → 治療開始
② 無症状の場合
CD4 陽性リンパ球数
・≪ 350/µℓ
→ 速やかに治療開始
・350 ~ 500/µℓ → 治療開始を推奨(EACS では治療開始を考慮)
・≫ 500/µℓ
、治療は延期(EACS)
→ 治療開始を推奨(DHHS、IAS-USA)
CD4 陽性リンパ球数にかかわらず以下の患者では治療開始
・妊婦
・HIV 腎症の患者
・HBV 重複感染者
・性交渉によるパートナーへの感染を予防する必要がある患者
HIV 感染症の臨床経過
抗 HIV 療法
11
▷ EACS では HIV 関連神経認知障害(HAND)、ホジキンリンパ腫、ヒトパピローマウ
イルス関連癌(肛門管癌など)の合併患者にも治療開始を推奨
CD4 陽性リンパ球数にかかわらず以下の患者では治療開始を考慮
・急性 HIV 感染
・HCV 重複感染者(genotype 1 で、CD4 が 500/µℓを超えている場合には抗 HCV 療法を先行)
・高齢者(DHHS では 50 歳、IAS-USA では 60 歳を超える患者)
▷ EACS では非エイズ関連悪性腫瘍合併、HIV 関連の自己免疫性疾患合併、心血管系疾
患(CVD)ハイリスクまたは既往患者にも治療開始を考慮
<治療を早期に開始した場合の利点と欠点>
利 点
欠 点
免疫機能の保持(無症候期の延長)
服薬による QOL の低下、重篤な副作用
他人への伝播のリスクを低下出来る
将来の治療選択肢の範囲が狭まる
CD4>350/µℓでも発症する可能性のある HIV
関連合併症(結核、非ホジキンリンパ腫、カ
内服不十分による耐性獲得の危険
ポジ肉腫、末梢神経障害、HPV 関連悪性腫瘍、
(耐性ウイルス伝播のリスク)
HIV 関連認識機能障害等)のリスクを減らす
ことができる
HIV 増殖により発症・増悪する可能性のある
疾患(心血管系疾患、腎疾患、肝疾患、非
AIDS 関連悪性腫瘍・感染症等)のリスクを
減らすことができる
アドヒアランス維持のために必要な服薬開始
前の準備期間が短くなる
将来さらに強力で低毒性の ART 開発の可能性
初回抗 HIV 療法
2
HIV 感染症の治療は、血中ウイルス量を検出限界以下の抑え続けることを目標に、強力な多
剤併用療法(ART)を行う。以下に DHHS、IAS-USA、EACS のガイドラインで推奨される初
回治療 regimen を示すが、患者のライフスタイル、合併症、他の薬剤との薬物相互作用、薬剤
耐性検査の結果などを総合して個々の患者に最も適切と考えられる regimen を選択すべきであ
る。またガイドラインは最新の臨床データに基づいて定期的に更新されるため、治療も最新の情
報に基づいて決定されるべきである。
<抗 HIV 薬の種類>
左から略号、一般名、商品名
核酸系逆転写酵素阻害剤(NRTI)
プロテアーゼ阻害剤(PI)
AZT
zidovudine
レトロビル
IDV
indinavir
クリキシバン
ddI
didanosine
ヴァイデックス
SQV
saquinavir
インビラーゼ
3TC
lamivudine
エピビル
rtv(boosting) ritonavir
ノービア
d4T
stavudine
ゼリット
NFV
nelfinavir
ビラセプト
ABC
abacavir
ザイアジェン
LPV/rtv
lopinavir/ritonavir
カレトラ
12
HIVHIV
抗
感染症の臨床経過
療法
TDF
tenofovir DF
ビリアード
ATV
atazanavir
レイアタッツ
FTC
emtricitabine
エムトリバ
FPV
fosamprenavir
レクシヴァ
AZT/3TC
コンビビル
DRV
darunavir
プリジスタ
ABC/3TC
エプジコム
インテグラーゼ阻害剤(INSTI)
TDF/FTC
ツルバダ
RAL
非核酸系逆転写酵素阻害剤(NNRTI)
raltegravir
アイセントレス
侵入阻害剤(CCR5 阻害剤)
シーエルセントリ
NVP
nevirapine
ビラミューン
MVC
maraviroc
EFV
efavirenz
ストックリン
NRTI と INSTI の合剤
DLV
delavirdine
レスクリプター EVG/COBI/TDF/FTC elvitegravir/cobicistat
ETR
etravirine
インテレンス
RPV
rilpivirine
エジュラント
/TDF/FTC
スタリビルド
※ ritonavir は抗 HIV 活性を有するが、PI の boosting 目的に少量で併用される(小文字で表記)。
※ cobicistat は抗 HIV 活性を有さない強力な CYP3A 阻害薬で、
EVG の boosting 目的に併用される。
⑴ DHHS ガイドライン(2013 年 2 月版)で推奨される初回療法の組み合わせ
○ 優先療法
NNRTI ベース
・EFV/TDF/FTC
PI ベース
・ATV + rtv + TDF/FTC
・DRV(1 日 1 回)+ rtv + TDF/FTC
INSTI ベース
・ RAL + TDF/FTC
妊婦の場合
・ LPV/rtv(1 日 2 回)+ AZT/3TC
○ 代替療法
NNRTI ベース
・EFV + ABC/3TC
・RPV/TDF/FTC
・RPV + ABC/3TC
PI ベース
・ATV + rtv + ABC/3TC
・DRV + rtv + ABC/3TC
・FPV + rtv(1 日 1 回または 2 回)+ ABC/3TC または TDF/FTC
・LPV/rtv(1 日 1 回または 2 回)+ ABC/3TC または TDF/FTC
INSTI ベース
・EVG/COBI/TDF/FTC
・RAL + ABC/3TC
HIV 感染症の臨床経過
抗 HIV 療法
13
⑵ IAS-USA ガイドライン(2012 年 7 月版)で推奨される初回療法の組み合わせ
○ 推奨療法
NNRTI ベース
・EFV/TDF/FTC
・EFV + ABC/3TC
PI ベース
・DRV + rtv + TDF/FTC
・ATV + rtv + TDF/FTC
・ATV + rtv + ABC/3TC
INSTI ベース
・RAL+TDF/FTC
○ 代替療法
NNRTI ベース
・NVP + TDF/FTC または ABC/3TC
・RPV/TDF/FTC または RPV + ABC/3TC
PI ベース
・DRV + rtv + ABC/3TC
・LPV/rtv + TDF/FTC
・LPV/rtv + ABC/3TC
INSTI ベース
・RAL + ABC/3TC
・EVG/COBI/TDF/FTC
⑶ EACS ガイドライン(2012 年 11 月版)で推奨される初回治療の組み合わせ
カラム A と B から一つずつ選択
○ 推奨療法
カラム A(key drug)
・EFV
・RPV
・ABC/3TC
・TDF/FTC
・NVP
・TDF/FTC
PI ベース
・ATV+rtv
・DRV+rtv(qd)
・LPV/rtv(qd or bid)
・ABC/3TC
・TDF/FTC
INSTI ベース
・RAL
・TDF/FTC
NNRTI ベース
○ 代替薬剤
PI
・SQV + rtv
・FPV + rtv(qd or bid)
NRTI
・TDF + 3TC
・AZT/3TC
14
カラム B(NRTI)
HIVHIV
抗
感染症の臨床経過
療法
・ddI + 3TC or FTC(他の薬剤が使用できない時のみ)
CCR5 inihibitor
・MVC(指向性検査で R5 tropic が確認された場合)
⑷ 主要な薬剤の使用上の注意事項
NRTI
・TDF:腎機能低下例には慎重に投与
・ABC:HLA-B*5701 陽性例には使用しない。HIV-RNA が 100000 copies/ml を超えるま
たは CVD 高リスクの患者では注意して投与。
NRTI
・EFV:妊娠の希望がある、あるいは妊娠する可能性のある女性では使用を避ける。
・RPV:HIV-RNA が 100000 copies/ml を超える、または CD4 数が 200/μℓ未満の患者で
は推奨しない。プロトンポンプ阻害薬(PPI)、H2 受容体拮抗薬、制酸剤との併用で血中
濃度が低下するため、PPI との併用は禁忌。他とは投与時間の調整が必要。
・NVP:中~重度の肝障害を有する、または CD4 値が女性で 250/μℓ、男性で 400/μℓを超
える患者では使用しない。
PI
・ATV:PPI、H2 受容体拮抗薬、制酸剤との併用で血中濃度が低下するため、併用を避けるか、
投与時間の調整が必要。
INSTI
・EVG/COBI/TDF/FTC:Ccr 70ml/ 分未満では使用しない。Ccr 50ml/ 分未満に低下し
たら投与中止。
⑸ 推奨されない抗 HIV 療法
<推奨されない抗 HIV 療法>
・NRTI の単剤療法
・NRTI の 2 剤併用療法
・NRTI3 剤(ABC + AZT + 3TC or TDF + AZT + 3TC 以外)
→ 何れも耐性を誘導し治療失敗のリスクを高める
<抗 HIV 療法の一部として推奨されない薬剤または組合わせ>
・d4T + ddI(末梢神経障害などの毒性↑)
・TDF + ddI(ddI の血中濃度↑)
・AZT + d4T(HIV に対する拮抗作用)
・FTC + 3TC(単剤と同じ効果)
・Unboosted DRV または SQV(効果不良)
・ATV + IDV(高ビリルビン血症)
・妊娠初期、妊娠可能な女性への EFV(催奇形性)
・CD4 高値(女性で 250/μℓ以上、男性で 400/μℓ以上)への NVP(急性肝障害↑)
・NNRTI 2 剤併用(副作用を高める)
・ ETR + Unboosted PI(ETR により PI の代謝促進の可能性)
・ETR + boosted ATV、FPV(ETV により PI の代謝促進の可能性)
HIV 感染症の臨床経過
抗 HIV 療法
15
⑹ 1 日 1 回療法
血中または細胞内半減期の長い薬剤の開発により、1 日 1 回投与可能な薬剤のみの組み合わせ
で ART を組み立てることが可能となり、アドヒアランスの向上さらには患者の QOL 改善が期
待されている。しかし、飲み忘れによる耐性誘導のリスクが上昇することが懸念されるため、服
薬指導が従来以上に重要となる。
< 1 日 1 回投与が可能な薬剤>( )内は投与剤数
2NRTI
NNRTI
PI
INSTI+2NRTI
(1)
・TDF/FTC(1)
・EFV(1 or 3) ・ATV ± RTV **(2-3) EVG/COBI/TDF/FTC
(3-4)
・FPV+RTV ***
・ABC/3TC(1)
・RPV(1)
(2-3)
・DRV+RTV ***
・ddI*+3TC or FTC(2)
・LPV/RTV(4)
*
**
カプセル剤(ヴァイデックス EC)のみ
TDF との併用時は ATV の AUC が低下するので RTV 併用が必要。
***
1 日 1 回投与は国内では初回療法のみの適応。
3
抗 HIV 薬の副作用
全ての抗 HIV 薬で副作用が報告されており、治療の変更や中止、アドヒアランスの低下の重
要な要因となっている。副作用の中には継続することで徐々に軽減するものから重篤となり死に
至るものまで様々であるが、各薬剤の副作用の種類と発現時期、その対処法について十分熟知し、
患者にも投薬前に十分説明して理解を得る必要がある。以下に発現時期別に主要な副作用につい
て概説する。個々の薬剤の副作用については「24.抗ウイルス薬」の項を参照。
⑴ 開始直後から出現
<消化器症状>
AZT、TDF、ddI とすべての PI、EVG/COBI/TDF/FTC で悪心、嘔吐、腹痛が出現す
ることがある。また NFV、LPV/RTV、ddI では下痢の頻度が高い。いずれも継続と共に軽
快することが多いので、初期は制吐剤や止痢剤などで対応する。
< EFV による中枢神経症状>
EFV の投薬により半数以上の症例で眠気、不眠、異常夢、めまい、集中力低下が出現するが、
2 ~ 4 週で減弱消失することが多い。症状が持続する場合には薬剤の変更を考慮する。
<高ビリルビン血症>
ATV と IDV の内服により高率に間接型ビリルビンの上昇が認められるが、これは肝臓で
グルクロン酸包合に係わる酵素を薬剤が阻害するためであり、臨床的に問題となることはほ
とんど無く継続投与が可能である。
⑵ 開始後数日~数週で出現
<皮疹>
NNRTI での発現頻度が高い。PI では ATV、FPV、NFV、DRV で発現頻度が高い。多
くは軽~中等度であるが、稀に Stevens-Johnson 症候群や中毒性表皮壊死症などの重症型薬
疹に進展することがあるため、発熱や粘膜の潰瘍を伴う場合には直ちに投与を中止する。
16
HIVHIV
抗
感染症の臨床経過
療法
< ABC による過敏症>
投与から 6 週間以内に高熱を伴う皮疹、全身倦怠感、消化器症状、呼吸困難などを呈す。
発症の中央値は 9 日目。発現時は全ての抗 HIV 薬を中止し、ABC の再投与は禁忌である。
発症と HLA-B*5701 と関連があると報告されており、日本人ではこの遺伝子型は少ないた
め発症頻度は低いと考えられている。
< NVP による過敏症・急性肝障害>
発現時期は投与開始から 16 週以内で、多くは 6 週以内に出現。症状は消化器症状、黄疸、
発熱、皮疹で、急速に肝壊死が進行し肝不全に至る可能性がある。CD4 値が女性で 250/μℓ
以上、男性で 400/μℓ以上で有意に発現率が高いため投与は避ける。発現時は全ての抗 HIV
薬を中止する必要があるが、肝障害が進行する場合もある。再投与は禁忌である。
⑶ 開始後数週~数ヶ月で出現
< AZT による骨髄抑制>
AZT 投与から数週から数ヶ月後で貧血や好中球減少が認められる。高度の場合は多剤へ
の変更を考慮する。
<腎障害>
TDF 投与後に腎尿細管障害が出現することがあり、多くは無症候性だがまれに急性腎不
全を生ずる場合があるため、既に腎障害のある場合は投与を避ける。IDV では薬剤の結晶
により高率に腎結石を生じ、さらに膿尿を伴う腎不全を合併することがあるため、予防的に
1 日に 2L 程度の水分摂取の継続が必須となる。ATV でも腎結石や胆石の合併が報告されて
いる。EVG/COBI/TDF/FTC では COBI のクレアチニン分泌阻害作用により Ccr の低下が
生じる。Ccr 50ml/ 分未満に低下したら投与を中止する。詳しくは「8-2.HIV 感染症と腎
障害」を参照
<膵炎>
ddI 単独投与で 1 ~ 7% に合併の報告があり、d4T や TDF との併用では更に頻度が上昇
する。直ちに ddI を中止し、適切な管理を行う。
< PI による出血傾向>
すべての PI によって、特に血友病患者で出血傾向増強が認められることがある。凝固因
子製剤の使用頻度を高めるか、高頻度であれば NNRTI への変更も考慮する。
<免疫再構築症候群>
厳密には薬剤の直接的な副作用ではないが、ART による免疫回復に伴い、軽快していた
日和見感染症(OI)が逆に増悪したり、新たな OI が顕在化する現象を指す。ART 開始から数ヶ
月以内(多くは 8 週間以内)に発症し、ART 開始前の CD4 数は通常 50/μℓ未満である。頻
度の多いものは CMV 網膜炎、MAC 感染症、結核であるが、B 型や C 型肝炎の報告もあり
注意を要する。ART は原則継続し、OI に対する治療と NSAIDs の投与で対応するが、炎
症所見が高度であれば PSL 30 ~ 60mg/ 日の併用による過剰免疫の抑制も考慮する。ART
の中止を余儀なくされる場合もある。
⑷ 開始後数ヶ月~数年かけて出現
<乳酸アシドーシス / 肝脂肪変性>
NRTI によるミトコンドリア障害が原因で、非特異的な消化器症状を前駆症状として呼吸
困難、ギランバレー症候群様の症状が進行する重篤な副作用である。発症頻度は 0.5 ~ 1.0%
HIV 感染症の臨床経過
抗 HIV 療法
17
程度であるが、一度発症すればその死亡率は高い。理論的には全ての NRTI で起きる可能
性があるが、とりわけ d4T と ddI での報告が多い(AZT ではまれ)。血清乳酸値 5 mM(45
mg/dl) 以上では直ちにすべての ART を中止する必要があるが、回復までは 4 ~ 48 週必要
とされる。ビタミン B1、B2 などの投与が有効とする報告もある。但し、無症候性の高乳酸
血症(2 mM(18 mg/dl)以上)は 8 ~ 20% に認められるため、ルーチンの測定は推奨され
ない。
< lipodystrophy/ インスリン抵抗性 / 高脂血症>
ART の長期継続により引き起こされる代謝異常。体幹と内臓に脂肪は蓄積する一方で、
四肢と皮下の脂肪は萎縮する。更にインスリン抵抗性と高脂血症も合併し、結果的に心筋梗
塞などの心血管イベントのリスクが高まることが報告されている。原因としては NRTI、PI
との関連が報告されているが、その作用は各薬剤間でも異なり、NRTI の中では d4T で脂
肪萎縮や中性脂肪の上昇の頻度が高く、ABC、ddI と心筋梗塞リスクとの関与を示す報告も
ある。一方 PI では ATV は代謝への影響が少ない。治療方針は確立していないが、運動・
食事療法、薬物療法、影響の少ない治療 regimen への変更などが有効とされる。詳しくは「8-3.
HIV 感染症と脂質代謝異常 / 心血管障害」を参照。
<骨壊死 / 骨粗鬆症>
ART の長期継続により 0.08 ~ 1.33% に症候性の骨壊死が合併、さらに MRI で確認され
る無症候性の骨壊死は 1.33 ~ 4.4% に合併すると報告されている。多くは大腿骨頭病変を有
す。アルコール、高脂血症、糖尿病、ステロイド使用、TDF 使用などの関与が疑われている。
骨密度の低下は ART 導入前の HIV 感染者でも報告がある。詳しくは「8-4.HIV 感染症と
骨代謝異常」を参照。
⑸ 薬物相互作用について
NNRTI と PI はすべて肝のチトクローム P450(CYP)により代謝を受けるため、抗 HIV 薬
同士、または同じ CYP で代謝される薬剤との併用では相互作用が生じる可能性がある。また
NRTI でも同様の薬物相互作用が報告されている。代謝低下により抗 HIV 薬の濃度が上昇す
れば、副作用の出現や増強が生じ、一方、代謝促進により抗 HIV 薬の濃度が低下すれば、十
分なアドヒアランスが維持できていても、治療の失敗に繋がる可能性があるため、投薬に際
しては薬物相互作用に十分な注意が必要である。薬物相互作用が疑われる場合には後述する
TDM が有用である。個々の薬剤の薬物相互作用について DHHS guideline の Table 15 を参照。
⑹ ART の治療中断について
種々の抗 HIV 薬の副作用やその他の理由で ART の中断を余儀なくされる場合には、薬剤
耐性の発現を阻止するために、すべての抗 HIV 薬を原則、同時に中止する。但し、NNRTI の
EFV と NVP は半減期が極めて長いため、同時に中止すると、事実上 NNRTI の単剤治療を行っ
ていることとなり、NNRTI に対する耐性変異を誘導する結果となる。このため EFV と NVP
中止時には、NRTI を 1 週間長く継続してから中止するか、代わりの PI を 1 週間追加投与し
てから、全ての薬剤を中止する方法が推奨される。
ART を計画的に中止したり再開したりすることで、HIV 特異的免疫反応を刺激し、ウイル
ス抑制能を高め、結果的に ART による長期毒性を回避する目的で計画的治療中断法(Structued
treatment interruptions = STI)が試みられてきたが、大規模な study である SMART study
の中間解析では、治療継続群に比較し STI 群で有意に OI 発症率と死亡率が増加し、試験は中
18
HIVHIV
抗
感染症の臨床経過
療法
止された。この結果からも、現時点では治療安定期における STI は推奨されないと考えられる。
急性 HIV 感染症治療後、妊婦における ART 後の治療中断についても有益性は確立していず、
現時点では推奨されない。
4
特別な状況での抗 HIV 薬療法
⑴ 急性(初期)HIV 感染症
これまで急性 HIV 感染症への治療開始は任意とされていたが、2013 年 2 月改訂の DHHS ガ
イドラインでは「中程度に推奨」に変更となった。治療を開始した場合には慢性感染の治療と
同様に HIV-RNA 量を測定限界以下に到達させるのが目標となる。また治療開始前の薬剤耐性
検査の実施を考慮する。薬剤耐性検査結果判明前に治療を開始する場合には 2NRTI+boosted
PI で治療を開始する。また原則、急性 HIV 感染症に対する ART は中止せずに継続する。
⑵ 妊婦に対する抗 HIV 療法
児への感染を予防するために、基本的には CD4 数に係わらず全ての妊婦に対して治療を行う。
HIV 感染妊婦からの母子感染予防は、以下の 3 つの治療で構成される。
① 母体に対する ART による子宮内感染の予防
② 分娩中の AZT 点滴投与+選択的帝王切開術による産道感染の予防
③ 人工栄養による母乳感染の予防と児に対する AZT 投与
妊婦が ART を行っていない場合で、HIV の治療適応がある場合は、緊急性がない限り妊娠
14 週から AZT を含んだ ART を開始し、分娩中や出産後も継続する。HIV の治療適応がない
場合でも母子感染予防の観点から妊娠 14 週から AZT を含んだ ART を開始する。分娩時は抗
HIV 療法を継続するが、出産後は治療継続の必要性を再検討する。妊娠判明以前から ART を
行なっている場合は、一般的に器官形成期の間(妊娠 14 週まで)も ART を中止すべきではない。
妊婦に使用する抗 HIV 薬については以下の表を参照。
< HIV 感染妊婦に対する抗 HIV 薬の推奨度>
推奨度
NRTI
推 奨
・AZT
代 替
・ABC
・FTC ・TDF
代替薬がない場合
・ddI
のみ使用可能
データ不十分
NNRTI
・3TC ・NVP
PI
その他
・LPV/rtv(1 日 2 回)
・ATV+rtv
・DRV+rtv
・SQV+rtv
・d4T ・EFV
・IDV+RTV
・NFV
・RAL
・ETR ・RPV ・FPV(+rtv)
・MVC
具体的な治療方針については「10.妊婦・新生児の HIV」の項を参照。
⑶ HIV と HBV の重複感染時の抗 HIV 療法
抗 HIV 薬の内、3TC、FTC、TDF は抗 HBV 活性も併せ持つ薬剤であり、3TC は単剤で
HBV 治療薬としても使用される。HIV/HBV 重複感染患者に HBV 治療目的に 3TC が単剤で
HIV 感染症の臨床経過
抗 HIV 療法
19
投与された場合には、2 年で 50% に 3TC 耐性が誘導されたと報告されている。このため HIV/
HBV 重複感染患者に ART を行う場合には、3TC、FTC、TDF を単独で含む regimen は避け、
TDF+FTC または TDF+3TC を NRTI 2 剤として用いることが推奨される。3TC,FTC,TDF
の単剤使用が避けられない場合には ART に加えて entecavir(バラクルード ®)の併用が推
奨される。Entecavir、adefovir は HIV に対する活性も有し、重複感染者に単独で使用すると
薬剤耐性を誘導する可能性があるので、必ず適切な ART と併用する。治療開始時の CD4 数
が低値の場合には、免疫再構築症候群による肝炎の増悪が起きる場合がある。詳細は「8-1.
HIV 感染症と肝炎」の項を参照。
⑷ HIV と HCV の重複感染時の抗 HIV 療法
HIV/HCV 重複感染患者では HCV 単独感染患者に比較し、肝炎の進行が急速であり早期
に肝硬変、肝癌への進展がみられ、主要な死因となっている。このため HIV/HCV 重複感染
患者では肝疾患の進行を阻止するために、より早期の ART を導入を考慮すべきである。ま
た、CD4 数が低下していると抗 HCV 療法の有効率が低下するため、CD4 数が 200/μℓ未満で
は、先に ART を開始し、免疫能を回復させてから抗 HCV 療法を導入する。一方、CD4 数
が 500/μℓを超えている場合には抗 HCV 療法を先行すべきとの意見もある。現在、ペグイン
ターフェロンとリバビリン(RBV)の併用療法が標準的な抗 HCV 療法であるが、ddI や d4T
は RBV との併用で乳酸アシドーシスや膵炎、急性肝不全などの重篤な副作用の報告があり、
また AZT は RBV による貧血が高度となる可能性があるため、これらの薬剤との併用は避け
ることが推奨される。また HCV プロテアーゼ阻害薬である telaprevir を併用する場合も、抗
HIV 薬との相互作用に注意する必要がある。当院では「HIV・HCV 重複感染症診療ガイドラ
イン第 5 版(2012 年 10 月改訂)」を作成しており、詳細はこちらを参照(http://www.hokhiv.com から download 可能)。
(5)結核合併時の抗 HIV 療法
活動性結核の合併時には速やかに結核治療を開始する必要があるが、結核では ART による
免疫再構築症候群の合併頻度が高く、また使用薬剤による副作用の発現頻度も高いことから、
結核の治療を先行することが望ましい。DHHS ガイドラインでは CD4 数が 50 未満の場合に抗
結核治療開始から 2 週以内に、CD4 数が 50 以上の場合で重症と判断される場合には、抗結核
治療開始から 2 ~ 4 週以内に、CD4 数が 50 以上の場合で、重症と判断されない場合には、少
なくとも 8 ~ 12 週までに ART を開始することを推奨している。また結核治療に重要な薬剤
である rifampicin は CYP 誘導作用があるため、全ての PI または NNRTI と薬物相互作用を
生じる。薬物相互作用のため rifampicin の使用が困難な場合には、rifabutin を選択する。ま
たこれらの薬剤の併用時には投与量の調整が必要であり、具体的な投与量については DHHS
guideline の Table 15 を参照。具体的な治療法については「6-8.結核症」の項を参照。
5
治療効果判定と薬剤変更
⑴ 治療反応性のモニタリング
< HIV-RNA 量>
治療開始時と開始 2 ~ 8 週後に測定する。十分な治療効果とアドヒアランスが維持されて
いれば少なくとも月に 1.0 log10 コピー /ml 以上の減少が期待出来る。その後は 4 ~ 8 週毎に
20
HIVHIV
抗
感染症の臨床経過
療法
測定し、開始 16 ~ 24 週後に検出限界以下に到達させるのが目標となる。検出限界以下に到
達したら 3 ~ 4 ヶ月毎に測定する。
< CD4 リンパ球数>
治療開始時と開始後は初期は毎月、その後は 2 ~ 4 ヶ月毎に測定する。通常は上記 HIVRNA 量と同時に測定する。HIV の抑制が十分であれば通常、年に 100/μℓの割合で上昇が
みられる。
⑵ ART 失敗の定義
<ウイルス学的失敗> HIV-RNA 200 コピー /ml 未満を維持できない。
<不完全なウイルス学的効果>
治療開始 24 週後も、2 回連続して HIV-RNA 200 コピー /ml を超えて検出される。
<ウイルスのリバウンド> ウイルス学的抑制後に HIV-RNA 200 コピー /ml を超えて検
出される。
<持続性低レベルウイルス血症> HIV-RNA 1000 コピー /ml 未満で検出される。
<ウイルスの blip > ウイルス学的抑制後に HIV-RNA が一過性に検出されて、再び検出
限界以下に戻る。通常はウイルス学的失敗にはつながらない。
<免疫学的失敗> 明確な定義はないが以下の様な場合と定義されることがある。
・治療開始後ある期間(4 ~ 7 年など)に CD4 数がある値(350 あるい
は 500/μℓ以上など)まで増加しなかった場合。
・特定の期間で治療前よりある値(50 あるいは 100/μℓ以上など)まで
増加しなかった場合。
⑶ ART 失敗時のアプローチ
ART 失敗の原因を究明することが重要であり、以下の評価を行う。
<アドヒアランス>
アドヒアランスが不十分な場合にはその根本的な原因(服薬方法、食事の影響など)を特
定し、それに対処する。可能であれば 1 日 1 回療法の様な処方の簡略化を行う。
<副作用>
副作用が原因でアドヒアランスの低下が生じる可能性も考慮する。
<薬物血中濃度モニタリング(Therapeutic Drug Monitorig = TDM)>
服薬時間の非遵守(食後投与など)や薬物相互作用、遺伝学的な個体差などにより抗
HIV 薬の濃度が目標レベルに到達していないことが予想される場合に行う。本邦では「抗
HIV 薬の血中濃度に関する臨床研究」班(ホームページ http://www.psaj.com)を通して測
定が可能である。NRTI については細胞内濃度が重要であり、細胞内濃度と血漿中濃度の関
係が確立していないが、上記研究班では TDF のみ血中濃度測定が可能である。
<薬剤耐性検査>
ウイルス学的失敗が認められた患者において、治療方針を決定する際には、特に薬剤耐性
検査が有用である。薬剤非存在下では野生株が優勢となり、変異株が検出されなくなるため、
検査は治療中または治療中止後 4 週間以内に実施する。HIV-RNA が 1000 コピー /μℓ未満
では実施できないことが多い。検査の詳細については「4.HIV 薬剤耐性とその検査」の項
を参照。
HIV 感染症の臨床経過
抗 HIV 療法
21
< ART 治療歴>
現在は服用していないが、過去に使用した抗 HIV 薬に対しては、薬剤耐性検査では耐性
が検出されなくても耐性株が存在している可能性があることを念頭に置く必要がある。
⑷ 薬剤変更の実際
<薬剤耐性が認められない場合>
薬剤耐性検査のタイミングとアドヒアランス、服薬について再評価を行い、この結果に基
づいて必要があれば同じ薬剤を継続するか、薬剤の変更を行うかを決定する。再投与後は早
期に薬剤耐性検査を再検する。
<薬剤耐性検査の結果と過去の治療歴から少なくとも二つ以上の有効な薬剤が存在する場合>
少なくとも 2 種類(可能なら 3 種類)の薬剤を含んだ治療法に速やかに変更し、これ以上
の耐性変異の拡大を抑え、HIV-RNA を検出限界以下に到達することを目標とする。新規作
用機序の薬剤も考慮する。
<薬剤耐性検査の結果と過去の治療歴から二つ以上の有効な薬剤が存在しない場合>
この場合の治療の目標は免疫機能を維持し、疾患の進行を防ぐことである。薬剤の変更は
行わずに、現行の治療を継続し経過観察するのが妥当である。治療の中止・短期間の中断は
疾患の進行に繋がるため推奨されない。1 種類の有効な薬剤の追加は急速な耐性の誘導を促
すため一般的には推奨されないが、CD4 数が 100/μℓ未満で臨床的進行のリスクが高い場合
には、一時的な効果を期待して行われる場合がある。
<ウイルス学的には安定だが、免疫学的に失敗した場合>
免疫学的失敗への対処については一定の見解がない。ウイルス量がコントロールされてい
る状況で治療の変更すべきかどうかは明らかではない。それまでの治療に 1 剤追加したり、
更に強力な治療に変更したりすることもある。HIV-2、HTLV-1 の重複感染や薬剤毒性など
の評価も必要である。
■参考文献■
1 Guidelines for the Use of Antiretroviral Agents in HIV-1-Infected Adults and Adolescents
(DHHS).February 12,2013(http://aidsinfo.nih.gov/)
2 Thompson MA et al.Antiretroviral Treatment of Adult HIV infection:2012
Recommendations of the International AIDS Society-USA panel.JAMA 308:387-402,
2012(http://www.iasusa.org/)
3 The European AIDS Clinical Society
(EACS)
guideline.
Version 6.1
(November 2012)
(http://
www.europeanaidsclinicalsociety.org/)
4 Recommendations for Use of Antiretroviral Drugs in Pregnant HIV-1-Infected Women
for Maternal Health and Interventions to Reduce Perinatal HIV Transmission in the United
States(DHHS).July 31,2012(http://aidsinfo.nih.gov/)
(血液内科 藤本 勝也 2013.08)
22
HIVHIV
抗
感染症の臨床経過
療法
4
1
HIV 薬剤耐性とその検査
薬剤耐性 HIV とは?
抗 HIV 薬剤に対する感受性が低下した HIV を薬剤耐性 HIV といい、その原因は HIV ゲノム
の変異にある。HIV は増殖速度が非常に速くかつ複製エラーが高率(10-4 ~ 10-5、1 回の複製に
つき 1 カ所変異する)に起きるため、適切な抗 HIV 薬剤による治療が行われなければ、薬剤耐
性 HIV が出現する危険性が高い。近年では約 10% の新規未治療感染者から、何らかの薬剤に耐
性を有する HIV が検出されることから、治療変更時だけではなく初回治療開始時にも HIV 薬剤
耐性検査により適切な抗 HIV 薬剤を選択することが重要である。
2
HIV 薬剤耐性検査とは?
⑴ 薬剤耐性検査の特徴と意義
HIV 薬剤耐性検査とは、血液中に存在する HIV がどの薬剤に感受性があるかを評価する検
査であり、適切な治療薬選択の指標となる。その意義については多くのコホート研究で薬剤耐
性検査による治療薬の選択が良い治療効果を得る上で有効であることを報告している。薬剤耐
性検査にはジェノタイプ検査(遺伝子型解析)とフェノタイプ検査(表現型解析)の 2 種類が
あるが、現在ではジェノタイプ検査が主流である。
⑵ ジェノタイプ検査
ジェノタイプ検査は簡便かつ比較的短時間に結果が得られることから世界中で実施されてい
る検査である。薬剤はいくつかの決まったアミノ酸変異を誘導するため、変異のパターンをデー
タベースや評価アルゴリズムと照合することで、耐性を示す薬剤とその耐性度を間接的に評価
することができる。具体的には血漿中 HIV より抽出した RNA を RT-nested PCR にてプロテ
アーゼ、逆転写酵素、インテグラーゼ領域を増幅し、DNA sequencing により塩基配列を決定
し、耐性変異アミノ酸の有無を調べる。
ジェノタイプ検査の結果を解釈する際には、以下の事を考慮する必要がある
1 長期間の薬剤使用により耐性変異が集積された場合、変異同士の相互作用により変異と薬
剤の対応関係が崩れ、ジェノタイプ検査による評価と実際の臨床経過の間に乖離が生じる場
合がある。
2 血液中に優位(約 20% 以上)に存在する HIV の耐性変異しかみることができない。
3 検査可能なウイルス量の目安としては 1,000 コピー /㎖以上である。
4 抗 HIV 薬投与中止後は野生株が増殖し、薬剤耐性 HIV の割合が減少しているため正確な
結果が得られないことがある。
5 治療継続中であってもかつて投与したことがある抗 HIV 薬に対する耐性株は検出できな
いことがある。
HIV
HIV
薬剤耐性とその検査
感染症の臨床経過
23
3
薬剤耐性検査をいつおこなうか?
薬剤耐性検査は、抗 HIV 薬剤を変更する際に有効である。しかし、高額な検査であり(保険点数:
6,000 点)ため、必要以上の検査の実施を防ぎ、適切なタイミングで検査を行うことが重要である。
我が国のガイドラインで示された実施のタイミングを以下に示す。
1 新規診断時(急性感染症例および慢性症例を含む)
2 治療開始時
3 治療開始後十分な治療効果が認められない時
4 治療中薬剤耐性 HIV の出現が疑われた時
5 ウイルス学的失敗以外の理由で薬剤を変更する時
6 治療の中断と再開時
7 HIV 感染妊婦において予防投与を行う時
捕捉 1:針刺し事故など感染者血液への暴露があった場合の予防的措置
補足 2:血中 HIV RNA コピー数が 102 のレベルで持続して検出される場合
(HIV 薬剤耐性検査ガイドライン ver.6,http://www.hiv-resistance.jp/index.htm より引用)
4
薬剤耐性変異の判定
判定は耐性変異と薬剤との関係が記載されている耐性変異表や薬剤耐性評価アルゴリズムを用
いた WEB での解析によりおこなう。耐性変異表には IAS-USA(International AIDS SocietyUSA) が 作 成 し て い る Drug Resistance Mutations in HIV-1、WEB 解 析 に は Stanford HIV
Drug Resistance Database が広く用いられている。詳細は HP(IAS-USA:http://www.iasusa.
org/、Stanford HIV Drug Resistance Database:http://hivdb.stanford.edu/) を 参 照。 薬 剤 耐
性アルゴリズムは薬剤耐性検査結果の解釈を容易にするためのものであり、上記以外に The
Agence Nationale de Recherche sur le SIDA(ANRS)や REGA が公開されている.これらの
アルゴリズムによる主要な耐性変異の判定はほぼ一致するが、完全には一致しないため、解釈が
困難な場合については専門医に相談することが望ましい。
5
HIV 薬剤耐性検査の依頼方法
HIV 薬剤耐性検査は 2006 年 4 月 1 日より保険適用となり、抗 HIV 薬の選択および再選択の目
的で行った場合に、3 カ月に 1 回を限度として 6,000 点を算定できる。依頼は病院情報システム
から行う。
⑴ 依頼方法
依頼画面は[6.感染]→[HIV 確認検査]→[薬剤耐性検査]
依頼種は 2 種類あり、担当医の判断で選択する。
① HIV 薬剤耐性検査(保険適用)
治療薬剤選択および再選択を目的とする場合
② HIV 薬剤耐性検査(受託研究費)
・3 カ月に 2 回以上おこなうとき
・治療選択目的以外でおこなうとき(含初診時)
24
HIV 薬剤耐性とその検査
感染症の臨床経過
①②いずれの依頼でも、プロテアーゼ、逆転写酵素、インテグラーゼの 3 領域を解析する運用
としている。
⑵ 検体採取
採血管は EDTA-2Na(紫シール栓、7㎖用)に 5㎖以上採血し、採血後はよく転倒混和する。
検査室では HIV RNA 定量検査済の残余検体を検査終了後 5 年間凍結保存しているので、薬
剤耐性検査の後追い検査が可能である。保存検体で薬剤耐性検査を行いたい場合は遺伝子検査
室(内 5714、藤澤)に連絡する。必要量あることが確認できたら病院情報システムにてオー
ダ入力し、バーコードのみを検査室に提出する。
⑶ 検査所要時間と結果参照
薬剤耐性検査には HIV RNA 量のデータが必要なため HIV RNA 定量検査を経てから検査を
実施する。そのため所要時間は HIV RNA 定量検査終了後、約 10 日を要する。ただし所要日
数は短縮できることもあるので、結果を急ぐ場合は遺伝子検査室(内 5714、藤澤)に連絡する。
耐性判定は IAS-USA と Stanford HIV Drug Resistance Database での判定結果を採用して
いる。検査結果は 2 通りの方法で参照できる。ひとつは、詳細報告書(PDF 形式の電子報告書)
であり、画像情報システム(PACS)で参照可能である。もうひとつは、簡易報告であり、薬
剤ごとの耐性判定のみ(Susceptible、Low-level resistance、Intermediate resistance、Highlevel resistance、Potential low-level resistance の 4 段階)を通常の検査結果報告画面で参照
することができる。ウイルス量が少ないなど検査ができなかった場合には検査結果報告画面で
「測定不可」の報告のみとなり、電子報告書はない。
6
指向性検査
新たな抗 HIV 作用を示す薬剤として CCR5 阻害剤が使用されている。HIV は標的細胞に侵入
する際に CD4 とケモカインレセプタ(CCR5、CXCR4)との結合が必要であり、CCR5 阻害剤
は CCR5 と結合する HIV(R5)と CCR5 との結合を阻害する抗 HIV 薬剤である。しかしながら、
CXCR4 と結合する HIV(X4 ウイルス)には効果がないため、CCR5 阻害剤を使用する際には
R5 ウイルスの感染を確認する必要がある。指向性検査はどちらのケモカインレセプタに結合す
るか(指向性)を調べる検査である。今までは指向性を調べるためにはフェノタイプ検査が行わ
れてきたが、HIV の gp120 V3 領域を含む塩基配列から X4 指向性を評価するアルゴリズムが開
発されたことで、より簡便に検査をおこなうことが可能となった。しかしながら、複数の判定基
準(FPR、false-positive rate)が提案されていること、サブタイプにより判定基準が異なるこ
とから、その判定には注意が必要である。本検査は保健適用ではない(2013 年 7 月現在)。
(北海道大学院保健科学研究院 吉田 繁、 検査・輸血部 藤澤 真一 2013.07)
HIV
HIV
薬剤耐性とその検査
感染症の臨床経過
25
5
1
血友病患者の診療
血友病患者の病態と症状
⑴ 先天性凝固因子欠乏症である血友病には、第 VIII 因子欠乏の血友病 A と、第 IX 因子欠乏
の血友病 B とがある。検査は APTT の延長が特徴であり、出血時間、血小板数、PT は正常
である。ただし、軽症血友病の場合には、APTT が正常のこともあるため注意を要する。
⑵ 遺伝形式は X 染色体連鎖伴性劣性遺伝であり、原則として男性にのみ発症し、女性は保因
者になりうる。血友病男性と血友病保因者女性が結婚すると、1/4 の確率でホモ接合体の女性
血友病が生まれ、2010 年までに 38 例の報告がみられるが、全血友病患者の 1% 以下である。
また、遺伝形式とは無関係に単独発症する孤発例(遺伝子の突然変異)が、血友病全体の約
30% を占めるといわれる。約 10,000 人の出生に 1 人生まれ、世界中の患者数は約 40 万人と推
定される。2010 年の国内での実態調査では血友病 A あるいは血友病 B の生存患者数は、それ
ぞれ 4,394 人、952 人である。
⑶ 血友病の重症度は凝固因子欠乏レベルによって分類され、正常人の活性と比較した凝固因子
活性の低下程度により重症度を分類している。近年、血漿 1㎖中に含まれる凝固因子活性を1
国際単位(IU)と定義し、1 IU/㎖の濃度の凝固因子活性が従来の 100% に相当する。下表に
示すように、血友病における出血症状の重症度は、欠乏している凝固因子のレベルと通常は良
く相関する。
重症度
重 症
中等症
軽 症
凝固因子
レベル
凝固活性が 1%未満
0.01 IU/㎖未満
1 ~ 5%
0.01 ~ 0.05 IU/㎖
5%~ 40%
0.05 ~ 0.40 IU /㎖
出血症状
自然出血、特に関節・
筋肉内出血
時に自然出血、外傷や
手術で異常出血
大きな外傷や手術で異
常出血
⑷ 特徴的な出血症状は関節内出血であり、繰り返す出血による関節の硬直変形(血友病性関節
症)を約 80% の患者に見る。その他に頭蓋内出血、筋肉内出血、血尿、外傷性出血などが重
要である。これらの臨床症状は血友病 A と B に共通である。
2
治療:欠乏した凝固因子の補充療法
⑴ 標準的投与量
血友病 A の場合:第 VIII 因子製剤を、10 ~ 20 単位 /㎏投与する。血友病 B の場合:第 IX
因子製剤を、20 ~ 40 単位 /㎏投与する。商業ベースで作られた凝固因子製剤は、遺伝子組み
換え型製剤はもちろん、血漿由来製剤も全て、その製造工程に人および動物由来の蛋白質が用
いられてないか、ウイルス不活化工程を経ている。
⑵ 定期補充療法
重症血友病では定期補充療法を始めることが推奨されている。関節内出血を起こさないよう
に、週 2 ~ 3 回投与を継続する。患者が年齢を重ねて運動量が減少すれば、活動状況に合わせ
て週 1 ~ 2 回の場合もある。患者の症状やライフスタイルの変化によって、定期補充療法のレ
26
HIV 感染症の臨床経過
血友病患者の診療
ジメも変化させる。足関節・膝関節など加重関節の出血では、凝固因子活性を高めに維持した
方がよい。最近では、青年期以降の患者に対する定期補充療法の導入で、関節症の進行や生涯
にわたる QOL の向上を示唆するエビデンスが報告されている。
⑶ 手術などの緊急時の補充方法、補充療法の目安
出 血 部 位
目標とする凝固活性値
筋肉内、鼻出血、軽度の関節内出血
10 ~ 20%
血尿、消化管出血
30 ~ 50%
大手術、頭蓋内出血、交通事故、抜歯
70 ~ 100%
通常患者体重1㎏あたり凝固因子1単位を輸注した場合、約 1 ~ 2%の上昇が得られる。製
剤の血中半滅期は第 VIII 因子製剤で約 12 時間、第 IX 製剤では約 24 時間である。従って大出血・
大手術の場合は、血友病 A では初回に第 VIII 因子製剤を 40 ~ 50 単位 /㎏投与し、以後 8 時
間ごとに 1/2 量の 25 単位 /㎏を投与しながら欠乏している凝固因子活性を 3 日間は 50%以上
に維持する。血友病 B では初回に第 IX 因子製剤を 75 単位 /㎏投与し、以後 12 時間ごとに 40
単位 /㎏を投与する。
3
血液製剤の副作用
⑴ インヒビター(抗体)
:製剤の補充療法中に出血症状の十分な改善が得られない場合には、
インヒビターの存在を疑い、凝固因子に対する自己抗体を検査する必要がある。重症例で補充
療法を繰り返している患者の 5 ~ 10% にインヒビターが発生する。インヒビターの発生した
場合には、バイパス療法の適応を判断するため、血液専門医に紹介のこと。
⑵ 血液製剤関連感染症:HIV に感染している血友病患者の 99%は HCV に重複感染している
ため、HIV 陽性血友病患者の場合には、必ず HCV の検査を要する。HIV・HCV 重複感染者
では HCV 単独感染者に比較して肝炎の進行が早いとする報告もあり、HCV 陽性の場合には【消
化器内科肝臓グループ】へ紹介し、その病態を把握し治療の有無について検討する。(HIV 感
染症と肝炎の章を参照)。
4
予防接種
出血傾向を持つ患者も予防接種を受けるべきである。筋肉内注射でなく、皮下注射で受けるべ
きである。HIV 感染者は、生ワクチンは避けるべきである。また、HIV 感染者は、肺炎球菌ワ
クチンや毎年のインフルエンザワクチンを受ける必要がある。
5
包括医療、整形外科血友病関節外来の利用
血液専門医、小児科医、整形外科医、リハビリテーション医、看護師、理学療法士、臨床心理
士、ケースワーカー、カウンセラーなどとの協力で、医療チームとしての包括医療が必要である。
特に血友病性関節症、関節拘縮、血友病性偽腫瘍に関する診療は、【整形外科血友病外来】との
連携により、より専門的観点からの診療が可能である。
HIV 血友病患者の診療
感染症の臨床経過
27
社会福祉関連の利用について
6
血液製剤により HIV に感染し、健康被害を受けた方の救済等については、HIV 相談室に資料
があるので、相談室の MSW に連絡し(内線 7025)、適切な救済法の検討が可能である。80 歳、
90 歳と血友病患者が年齢を重ねた場合、自己注射を継続出来るのかという問題がある。欧米の
ように、血友病専門の看護師が定期的に患者の自宅を訪問するようなシステムも検討する必要が
ある。
7
プロテアーゼ阻害剤等使用による出血傾向の増悪症状について
HIV 治療目的で投与されるプロテアーゼ阻害剤等による、出血傾向の増悪が報告されている。
詳細は未だ明らかではないが、それまで出血を認めなかった部位における出血の報告もあり、プ
ロテアーゼ阻害剤等使用開始後に血液製剤の使用頻度が高くなった場合には、薬剤変更や減量も
検討する必要がある。報告されているほとんど(平均で投与開始後 22 日に発症)は関節内出血
や軟部組織の出血だが一部には重篤な頭蓋内出血や消化管出血もあるため、製剤の使用頻度が多
くなっているような症例にはプロテアーゼ阻害剤等の影響を十分に考慮する必要がある。
■参考文献■
1 血友病 今昔.日本臨床 2008;66:591-599
2 血液凝固異常症全国調査.エイズ予防財団 2010
3 UKHCDO guideline approved by BCSH.Br J Haematol 2010;149:498-507
4 Guidelines for the use of antiretroviral agents in HIV-1-infected aduilts and adolescents
2011.1
5 成人血友病患者におけるこれからの治療.血液フロンティア 2011;21:93-102
6 血友病治療の最前線.血液フロンティア 2012;22:77-84
7 HIV・HCV 重複感染患者さんの手引き 第 5 版.北海道大学病院 HIV・HCV 重複感染症診
療委員会 2012.5
8 HIV 感染症「治療の手引き」 第 16 版.HIV 感染症治療研究会 2012.12
(血液内科 橋野 聡 2013.07)
28
HIV 感染症の臨床経過
血友病患者の診療
6
AIDS 関連症候群
(ARC)の診断と治療
6-1
症候による診断手順
(J.G.Bartlett の「Medical Management of HIV Infection」を翻訳したものである)
⑴ 中枢神経(CNS)症状、頭痛
局所徴候、痙攣
精神症状 居所徴候なし、CD4>200/㎣
髄膜刺激症状なし
発熱、髄膜刺激症状
局所徴候なし 髄液(CSF)検査
クリプトコッカス抗原
(髄液、血液)
造影 CT or MRI
本稿⑵参照
発熱あり
発熱なし
副鼻腔炎・他の感染症
FUO の鑑別(本稿⑹参照)
副鼻腔炎・他の頭痛(片頭痛
・筋緊張性頭痛等)の鑑別
診断確定
診断不確定
診断確定
治療
造影 CT or MRI
治療
本稿⑵参照
CSF 所見
蛋白↑± WBC ↑
以下を考慮
結核
神経梅毒
トキソプラスモーシス
悪性リンパ腫
HIV 無菌性髄膜炎
正常 CSF
クリプトコッカス
抗原陽性
造影 CT or MRI
治療
本稿⑵参照
AIDS 関連症候群(ARC)の診断と治療 ~症候による診断手順~
HIV 感染症の臨床経過
29
⑵ HIV 感染進行期、精神症状(性格変化)、痙攣、頭痛または局所徴候
トキソプラズマ抗体,STD 検査
血清クリプトコッカス抗原
造影 CT or MRI
トキソプラズマ
非典型病変
多発造影病変あり
トキソプラズマ脳炎の
empiric treatment
脳室周囲病変
急性発症
異常所見なし
その他
髄液検査で CMV の所見
があれば CMV 治療
2週間以内の
臨床症状 or MRI
所見の改善なし
髄液一般、細胞診
神経梅毒、結核
クリプトコッカス抗原
PCR(トキソプラズマ、
HSV、VZV、CMV、
JCV、EBV)
脳生検
病理組織
PML の場合 JCV の蛍光抗体染色
ウイルス培養(CMV、HSV)
など
30
髄液検査
HIV 感染症の臨床経過
AIDS
関連症候群(ARC)の診断と治療 ~症候による診断手順~
PML の場合
ART 開始
⑶ 咳嗽、発熱、呼吸困難
正常X線所見
異常X線所見
CO 拡散能<80%
PaO2 <80mmHg
LDH 上昇
Ga シンチ集積
間質性陰影
喀痰採取
正常
気胸
Chest tube
PCP 治療
(empiric)
その他
次ページへ
異常
PCP 陽性
TB 陽性
Cryptococcus
陽性
陰性 or
採取不能
PCP 治療
(empiric)
鑑別診断
副鼻腔炎
気管支炎
結核
M. AVium
Cryptococcus
治療
気管支鏡
CMV アンチゲネミア陽性
PCP
Ganciclovir
治療
反応無し
No PCP
TBLB
CT
AIDS 関連症候群(ARC)の診断と治療 ~症候による診断手順~
HIV 感染症の臨床経過
31
異常X線所見(続き)
胸水
局所浸潤影
喀痰 TB 塗末×3
胸水採取
塗末培養
(細菌+抗酸菌)
肺実質病変の確認
急性
結節影/空洞病変
慢性
血液培養
喀痰塗末培養
(細菌±レジオネラ)
静注薬物使用
喀痰塗末培養
(細菌+抗酸菌
+ノカルジア+真菌
No
Yes
血液培養
陰性
確定診断
診断不定 確定診断
治療
胸膜生検
陽性
陰性
治療
画像評価
32
治療
診断不定
抗菌剤投与
PCP 治療
(empiric)
確定診断
診断不定
陽性
治療
気管支鏡
±TBLB
治療
HIV 感染症の臨床経過
AIDS
関連症候群(ARC)の診断と治療 ~症候による診断手順~
⑷ 急性下痢
薬剤・食事・精神面の評価
CD4>300/㎜3
陽性
抗生物質使用歴
(3 週以内)あり
CD4<300/㎜3
vancomycin
metronidazole
CD チェック
軽症下痢
陰性
経過観察
なし
重症下痢
下痢の持続
発熱・血便
体重減少
脱水
下痢持続
軽症下痢
重症下痢
下痢の持続
発熱・血便
体重減少
脱水
脱水なし
発熱なし
体重減少なし
水様便なし
便培養
便鏡検
抗酸菌検査
血液培養
CD チェック
経過観察
(±止痢剤)
診断確定
下痢持続
Fecal leukocytes
便鏡検
診断確定
No
治療
経過観察
No
No
Yes
大腸内視鏡
腹部 CT
治療
便培養:Salmonella
Shigella,C.jejuni,
Aeromonas,Vibrio
Yes
陰性
陽性
大腸内視鏡
腹部 CT
経過観察
治療
下痢の持続
AIDS 関連症候群(ARC)の診断と治療 ~症候による診断手順~
HIV 感染症の臨床経過
33
⑸ 慢性下痢(CD4<300/mm3)
原因薬剤の除外、血液培養(一般細菌、抗酸菌)
便検査(培養、鏡検、抗酸菌検査、CD チェック、Microsporidiaassay)
便培養
Salmonella
Shigella
C.jejuni
抗生剤投与
CD チェック陽性
metronidazole
or vancomycin
M. avium 陽性
治療
Isospora
Cyclosporia
E.histolytica
Giardia
抗生剤投与
Microsporidia
Fumagillin,Albendazole
Cryptosporidium
paromomycin
Blastocystis hominis
metronidazole
CD4<100
であれば
ART
症状持続・悪化
便検査陰性
内視鏡検査
痙攣性症状、発熱、膿性便、血便
あり
なし
下部消化管内視鏡
上部消化管内視鏡
生検:HE 染色、Giemsa 染色
CMV 染色
生検:HE 染色、Giemsa 染色
CMV 染色
EM:Microsporidia の確認
小腸液吸引・定量培養
診断がつかないとき
34
HIV 感染症の臨床経過
AIDS
関連症候群(ARC)の診断と治療 ~症候による診断手順~
⑹ 不明熱(FUO)
顆粒球減少(<500/mm3)
なし
あり
抗生剤+G-CSF 投与
なし
局所所見
あり
熱型の確認と原因薬の除外
初期検査
本稿⑷、⑸
下痢
呼吸器症状
本稿⑶
頭痛±神経症状
or 髄膜刺激症状
本稿⑴、⑵
CBC、生化学
尿検査、血液培養
結核・抗酸菌検査
血清クリプトコッカス抗原
胸部X線
血液ガス分析
IV ルート
血液培養、ルート抜去
抗生剤投与
軟部組織の炎症
組織検査、CT
リンパ節腫脹
リンパ節生検
腹痛
肝機能検査、CT
初期検査異常
1.血球減少
骨髄穿刺・生検
2.胸部 XP 異常 or 低酸素血症
本稿⑶
3.クリプトコッカス抗原陽性
腰椎穿刺
4.肝機能異常
CT、echo、ERCP
5.非抗酸菌検出
肝炎ウイルス検査、肝生検
治療
2 次検査
1.尿・喀痰の TB 培養
2.胸部、頭部、腹部 CT
3.尿・血液ヒストプラスマ抗原
4.脳脊髄液検査
5.副鼻腔・歯科領域の検索
6.ガリウムシンチ
7.骨髄穿刺・生検
AIDS 関連症候群(ARC)の診断と治療 ~症候による診断手順~
HIV 感染症の臨床経過
35
■参考文献■
1 Bartlett JG et al.Medical Management of HIV Infection 2001-2002 Edition.Published by
Johns Hopkins Medicine Health Publishing Business Group,2001
2 Bartlett JG et al.Medical Management of HIV Infection 2009-2010,15th Edition.
Published by Johns Hopkins University School of Medicine,2009
(血液内科 遠藤 知之 2013.07)
36
HIV 感染症の臨床経過
AIDS
関連症候群(ARC)の診断と治療 ~症候による診断手順~
6-2
カンジダ症
カンジダは口腔内、消化管に常在し通常は病原性を発揮しない。しかし、HIV 感染後の免疫
不全状態で CD4 陽性リンパ球が 200/μℓ未満の患者では、多臓器に渡る深部(肺、心内膜、脳、
髄膜、腎、眼など)及び表在性(口腔、食道、胃、腸、膣、気管支、皮膚など)感染症の原因と
なりうる。HAART 療法導入後、発症頻度は以前に比較して著明に減少した。HIV 感染者にお
いては、粘膜カンジダ症が多く、播種性感染はまれである。侵襲性カンジダ症は患者転帰に重大
な影響を及ぼすとともに、医療費増加の大きな原因となるので、診断後速やかに治療する。カン
ジダ症は、ニューモシスチス肺炎に次いで AIDS 発症指標疾患の第二位であるため、日常診療に
おいては注意深い問診と身体所見の観察が必要である。
1
臨床症状(感染臓器により異なる)
⑴ 消化管:本邦の HIV 患者の約 50% に合併する。
口腔咽頭カンジダ症:紅斑を伴う白斑・白苔(初発症状に多い)。白苔は舌圧子などで容
易に除去出来る。口角炎や舌炎を来すこともある。HIV 感染者に併発する日和見感染症と
して最も頻度が高い。味覚異常を来すこともある。
食道カンジダ症:嚥下痛、嚥下困難、胸焼け、胸骨下痛。無症状のこともある。
⑵ 呼吸器
気管支炎カンジダ症:咳、痰を伴う慢性気管支炎。
肺炎:肺膿瘍に移行することもある。
⑶ 腎、尿路系
腎盂腎炎:発熱、側背部痛。
膀胱炎:頻尿、血尿。
膣カンジダ症:外陰や腟の掻痒感や灼熱感、白色帯下。免疫能の低下とはあまり関連がな
く、免疫能が十分に保たれている HIV 患者にも見られる。
⑷ 心内膜炎:発熱、心雑音、脾腫を認め、血栓塞栓症を合併しやすい。
⑸ 髄膜炎、脳炎:頭痛、項部硬直、うっ血乳頭、神経症状。
⑹ 敗血症:悪寒、高熱、ショック症状。
⑺ カンジダ性眼内炎:高度の視力障害。
2
診断方法
⑴ 主として Candida albicans による感染症で、分離培養検査で診断する。分離されても、そ
れが病因であると診断できない場合が多い。分離同定後、追加で抗真菌剤の感受性試験(MIC
の測定)が院内検査・輸血部で施行可能。
臓器別診断法
口 腔 内:発赤と白苔を確認し、KOH 処理で鏡検する。毛状白板症と異なり、白苔は容易
に剥離できる。
食 道:内視鏡検査で、孤立性または融合性びらんと、粘膜面のクリーム状の白苔を認め
AIDS 関連症候群(ARC)の診断と治療 ~カンジダ症~
HIV 感染症の臨床経過
37
る。白苔表面に潰瘍形成を認めることもある。
胃 :偽膜形成や多発性小潰瘍を認め、生検にてカンジダ菌を証明。
呼 吸 器:口腔内常在菌のため、喀痰にての検出のみでは不十分で、TBLB なども時に必要。
腎、尿路系:膀胱鏡下生検や、腎生検、膿汁吸引が必要な場合がある。
中枢神経系:髄液検査にてカンジダの証明。
敗 血 症:血液培養で診断するが、50% は陰性である。
眼 内 炎:眼底検査で、硝子体に綿球様変化。
⑵ カンジダ抗原検査:院内で可能(カンジテック)。
⑶ β-D グルカン:院内で可能(カンジダ感染に特異的ではなく、他の真菌感染症やニューモ
シスチス肺炎等でも上昇する)。
3
治療法
フルコナゾール耐性の C.albicans や non-albicans Candida 属(C.glabrata, C.krusei など)が
問題になりつつあり、注意が必要である。
⑴ 口腔/食道炎などの表在性感染症(口腔内では 7 ~ 14 日間投与、食道では 14 ~ 21 日間投与)
1 フルコナゾール 100㎎ /1×内服または静注(400㎎まで増量あり)。
2 アムホテリシン B シロップ 400㎎(4㎖)を含んだ滅菌水含嗽液(1 日 3 ~ 4 回)のうがい(保
険適応外)。
3 クロトリマゾール・トローチ 10㎎ 5T/5×:HIV 感染における口腔カンジダ症(軽症・
中等症)にのみ保険適応。
4 イトラコナゾール内用液 20㎖(200㎎)/1×:口腔・咽頭・食道にも直接作用し、主とし
て消化管から吸収。薬剤性胃腸障害で服用継続が困難な場合もある。
口腔咽頭カンジダ症は、抗真菌薬投与により速やかに改善するが、再発率は高い。
サイトメガロウイルス食道炎やヘルペスウイルス食道炎などは、食道カンジダ症と似た症状を
呈することがあり、合併していた場合に、カンジダの白苔により潰瘍病変などがマスクされてし
まうことがある。食道カンジダ症に対する抗真菌薬投与により症状が改善しない場合は、他の原
因による食道炎や耐性カンジダを疑って、内視鏡検査や培養検査の提出を考慮する必要がある。
⑵ 呼吸器感染症/カンジダ血症などの深部感染症
1 アムホテリシン B リポソーム製剤 2.5㎎ /㎏ /day 点滴静注(5㎎ /㎏ /day まで増量あり)
:
アムホテリシン B と同等の有効性を有し、アムホテリシン B より腎機能障害・低カリウム
血症・発熱などが少ない。
2 フルコナゾール 100 ~ 400㎎ /1×内服またはホスフルコナゾール 100㎎ /day 点滴静注 1
日 1 回(400㎎ /day まで増量あり。Loading dose として初日と 2 日目は維持用量の倍量を
投与):時に不整脈。
3 ボリコナゾール 300 ~ 400㎎ /2×食間内服(Loading dose として初日は 600㎎ /2× 食間
内服)または 3 ~ 4㎎ /㎏ 点滴静注 1 日 2 回(Loading dose として初日は 6㎎ /㎏ 点滴静注
1 日 2 回):時に副作用で羞明・霧視・視覚障害。
4 ミカファンギン 50 ~ 300㎎ /1× 点滴静注
38
HIV 感染症の臨床経過
AIDS
関連症候群(ARC)の診断と治療 ~カンジダ症~
深在性カンジダ症または難治性カンジダ症に対してイトラコナゾールやボリコナゾールを長期間
(4週間以上)投与している患者では、薬物血中濃度モニタリングが有用である。特にイトラコ
ナゾールでは患者間の血中濃度の変動が大きい。イトラコナゾールの血中濃度の測定は必ず定常
状態到達後(投与開始から 2 週間以上)に行うべきである。血中濃度を測定することで、十分吸
収されているかどうかを確認するとともに、用量変更の影響や相互作用を有する併用薬の影響を
調べ、アドヒアランスも評価すべきである。また、定期的な肝機能のモニタリングも行われるべ
きである。
4
予 防
一次予防として、フルコナゾールは進行期患者における粘膜カンジダ症の発症リスクを減らす
という報告がある。しかし、粘膜カンジダ症で致死的になることは極めて稀であり、治療に対す
る反応もよく、また薬剤耐性化や菌種交代の危険性もあるため、ルーチンの予防投与は推奨され
ない。同様の理由から、粘膜カンジダ症に対する二次予防も推奨されていないが、反復性あるい
は重症カンジダ症の場合に、フルコナゾールの二次予防内服(口腔内カンジダ症では 100㎎ /1×
内服を連日または週 3 回、食道カンジダ症では 100 ~ 200mg/1×内服を連日)を行うこともある。
長期のアゾール内服の場合や CD4 陽性リンパ球が 50/μℓ未満の進行期患者では特に、耐性化に
注意を払う必要がある。
■参考文献■
1 治療学 HIV 感染症(2001.1)
2 日本臨床 HIV/AIDS 研究の進歩(2002.4)
3 2005-2006 Medical management of HIV infection
4 HIV 感染症とその合併症:診断と治療のハンドブック.HIV 研究班(2005.3)
5 The Sanford guide to HIV/AIDS therapy 2006-2007(2006.7)
6 日本化学療法学会 一般医療従事者のための深在性真菌症に対する抗真菌薬使用ガイドライ
ン(2009.1)
7 Clin Infect Dis 48:503-535,2009(2009.3)
8 カンジダ症 プライマリ・ケア医が出会う HIV/AIDS 75-81(2010.10)
9 Guidelines for the Prevention and Treatment of Opportunistic Infections in HIV-Infected
Adults and Adolescents(2013.7)
(血液内科 吉田 美穂 2013.07)
AIDS 関連症候群(ARC)の診断と治療 ~カンジダ症~
HIV 感染症の臨床経過
39
6-3
1
クリプトコックス症
概 説
HIV に関連したクリプトコックス症の多くは、Cryptococcus neoformans という酵母状真菌に
よるもので、播種性疾患であることが多い。全ての臓器に発症する可能性があるが、特に亜急性
の髄膜炎 / 髄膜脳炎が多く、肺疾患や皮膚病変もみられる。この真菌は環境中に広く存在し、鳥
糞の豊富な土壌で増殖しやすい。乾燥した C. neoformans は微粒子となって空中に広がり、経気
道感染をおこす。免疫能の正常な患者では、感染は局所的にコントロールされるが、CD4 陽性
リンパ球が 100/μℓ未満である HIV 患者では、肺を通って侵入した後に全身に播種し、髄膜炎を
合併することが多い。このため HIV 患者で肺病変を認めた場合には、例え無症状であっても血液・
髄液の検索が必要となる。治療が行われない場合の死亡率は 100% であるが、適切な治療が行わ
れた場合の死亡率は 10% 以下である。未治療の HIV 感染者が、クリプトコックス髄膜炎 / 脳髄
膜炎で AIDS 発症することもあり、成人の非細菌性髄膜炎ではクリプトコックス症も鑑別にあげ
る必要がある。
2
臨床症状
⑴ 肺クリプトコックス症
発熱、咳嗽、呼吸困難、体重減少などの非特異的な症状を呈するのが一般的だが、無自覚に
経過することも多い。ときに急性呼吸促迫症候群を発症し、ニューモシスチス肺炎の症状に類
似することがある。
⑵ クリプトコックス髄膜炎 / 髄膜脳炎
初発症状は軽度の頭痛、発熱、倦怠感である。意識障害にて救急搬送されることも多い。頚
部硬直や羞明などの古典的な髄膜症状および徴候がみられるのは 4 分の 1 ~ 3 分の 1 の症例に
すぎず、傾眠や精神作用の変容、人格変化、記憶喪失などの頭蓋内圧亢進による症状を呈する
場合もある。精神症状、髄液圧の上昇がある症例では有意に予後不良と報告されている。
⑶ 皮膚症状
本症の 10% 以下にみられる。病変は伝染性軟属腫様の 0.2 ~ 1.0㎝の肌色(または白色)の
丘疹で、顔面に多発することが多い。膿疱病変、潰瘍病変を呈することもある。
3
診断方法
鏡検・培養検査法と、クリプトコックス抗原検出による血清学的診断法(菌体夾膜多糖体の主
要成分であるグルクロノキシロマンナンをラテックス凝集反応で検出する)がある。後者は結果
が判明するまで 2 ~ 4 日間かかる(クリプトコックス・ネオフォルマンス抗原(ラテックス凝集
法)
)
。血清クリプトコックス抗原は髄膜炎症例、その他播種性感染においてほぼ必ず陽性となり、
症状が顕在化する数週~数ヶ月前に陽性を示すことがある。そのため、血清クリプトコックス抗
原が陽性であった場合には、髄膜炎を除外するために髄液検査が行われるべきである。
40
HIV 感染症の臨床経過
AIDS
関連症候群(ARC)の診断と治療 ~クリプトコックス症~
⑴ 肺クリプトコックス症
喀痰の鏡検・培養で本菌を確認できる頻度は低く、本症を疑うときは BAL(気管支肺胞洗浄)
や TBLB(経気管支肺生検)を施行する。胸部 X 線では中下肺野、胸膜直下に直径 2 ~ 3㎝の
孤立結節影が認められることが多い。空洞形成、多発結節影、浸潤影、粟粒陰影、リンパ節腫
脹が認められる場合もある
⑵ クリプトコックス髄膜炎 / 髄膜脳炎
髄液所見として圧の上昇(60 ~ 80% で 250㎜ H2O 以上)、リンパ球優位の髄液細胞増多、
蛋白の軽度増加、糖の正常~軽度減少などが認められる。しかし、髄液細胞数増多がみられな
い、あるいは軽度上昇にとどまる症例も多いため、特に HIV 感染の診断前には誤診されやすい。
グラム染色または墨汁染色にてしばしば多数の酵母が観察される(墨汁染色では 60 ~ 80% の
症例で陽性となる)。HIV に関連したクリプトコックス髄膜炎患者では、55% で血液培養陽性、
95% で髄液培養陽性を示す。また、髄液および血清クリプトコックス抗原はほぼ全例で陽性
となる。早期治療が予後に大きく影響するため、本症を疑う場合は培養検査の他に、髄液墨汁
染色とクリプトコックス抗原(血清 and/or 髄液)を提出する。
⑶ 皮膚病変
皮膚生検の組織診と培養で診断する。
4
治療法
クリプトコックス症の治療は、導入療法・地固め療法・維持療法から成る。クリプトコックス
髄膜炎および肺外クリプトコックス症の導入療法の第一選択薬は Liposomal amphotericin B(ア
ンビゾーム ®)と Flucytosine(アンコチル ®)の併用、または Amphotericin B(ファンギゾン ®)
と Flucytosine の併用である。特に腎機能障害を伴う患者や腎不全を生じる可能性が高い患者に
は、Liposomal amphotericin B の使用を検討すべきである。また、Flucytosine による骨髄抑制
や消化器毒性を防ぐため、血中 Flucytosine 濃度を測定して用量調節を適切に行う必要がある。
髄液圧亢進が持続する場合は予後不良であるため、積極的に圧を低下させる処置が推奨される。
少なくとも 2 週間にわたる導入療法が奏効し、臨床症状の改善と髄液培養での陰性が得られた場
合には、Fluconazole(ジフルカン ®)による地固め療法を最低 8 週間は行い、続いて維持療法
を行う。
症状が軽度から中等度の肺クリプトコックス症では、Fluconazole による治療と ART の併用
が一般的である。
【導入療法】
少なくとも 2 週間投与
推奨療法① Liposomal amphotericin B 3 ~ 4㎎ /㎏ /day 点滴
+
Flucytosine 100㎎ /㎏ /day/4 ×内服
推奨療法② Amphotericin B 0.7 ~ 1.0㎎ /㎏ /day 点滴(0.25㎎ /㎏から開始して漸増)
+
Flucytosine 100㎎ /㎏ /day/4 ×内服
AIDS 関連症候群(ARC)の診断と治療 ~クリプトコックス症~
HIV 感染症の臨床経過
41
代替療法① Liposomal amphotericin B 3 ~ 4㎎ /㎏ /day 点滴
または Amphotericin B 0.7 ~ 1.0㎎ /㎏ /day 点滴
+
Fluconazole 400 ~ 800㎎ /day 内服または点滴
代替療法② Liposomal amphotericin B 3 ~ 4㎎ /㎏ /day 点滴単独
代替療法③ Fluconazole 400 ~ 800㎎ /day 内服または点滴
+
Flucytosine 100㎎ /㎏ /day/4 × 内服
頭蓋内圧亢進の管理
微生物学的効果が得られても、頭蓋内圧亢進により臨床症状が悪化することがあり、初回の
髄液圧が 250㎜ H2O 以上の場合にはその可能性が高い。治療開始 2 週以内の死亡例の 93%、3 ~
10 週以内の死亡例の 40% が、頭蓋内圧亢進に関連するという報告がある。頭蓋内圧をコントロー
ルするためには、腰椎穿刺が推奨され、症状や徴候が改善するまで、連日、髄液圧が半減する量(通
常は 20 ~ 30㎖)の髄液を抜く方法もある。治療抵抗性または連日の腰椎穿刺に耐えられない場
合には持続ドレナージまたは V-P シャントを考慮する。
【地固め療法】
導入療法後、臨床症状の改善および髄液培養陰性を確認する。少なくとも 8 週間投与。
推 奨 療 法 Fluconazole 400㎎ /day 内服または静注
代 替 療 法 Itraconazole 400㎎ /day/2× 内服
【維持療法】
ART が施行されて 3 カ月以上 CD4 陽性リンパ球が 100/μℓ以上であり、ウイルス量が測定感
度以下を維持し、初期治療が奏効した後にアゾール系抗真菌薬による維持療法を少なくとも 1
年間行った患者では、維持療法を中止するのが妥当と考えられる。CD4 陽性リンパ球が再び
100/μ
ℓ未満に低下した場合は、二次予防投与を再開すべきである。
推 奨 療 法 Fluconazole 200㎎ /day 内服。少なくとも 1 年間投与。
【肺クリプトコックス症】
腰椎穿刺を施行し髄膜炎の合併を否定する必要がある。
推 奨 療 法 Fluconazole 400㎎ /day 内服。12 カ月間投与。
【ART 開始時期と免疫再構築症候群】
クリプトコックス髄膜炎患者における適切な ART 開始時期については未だ一定の見解が得
られていない。重症クリプトコックス症の患者、特に頭蓋内圧亢進がみられる患者では、導入
療法(最初の 2 週間)終了まで、あるいは導入・地固め療法(10 週間)終了まで ART 開始を
42
HIV 感染症の臨床経過
AIDS
関連症候群(ARC)の診断と治療 ~クリプトコックス症~
遅らせることが賢明と考えられる。クリプトコックス髄膜炎を生じた HIV 感染者の 30% に、
ART 開始後または再開後に免疫再構築症候群(IRIS)が生じると推定される。IRIS を生じる
患者は、抗レトロウイルス薬を投与されたことがなく、HIV RNA 量が高値、髄液の炎症所見
は弱いことが多い。IRIS への適切な対応は、ART および抗真菌薬治療を継続し、頭蓋内圧亢
進を是正することである。重症の IRIS 患者に対して、糖質コルチコステロイドの短期投与を
推奨する専門家もいる。
5
感染予防
クリプトコックスは自然界に広く存在し、限られた疫学研究のエビデンスでは、鳥糞への暴露
が感染リスク上昇につながることが示唆されている。クリプトコックス症の発症は比較的少なく、
予防が生存率には寄与しないこと、薬剤相互作用、薬剤耐性化の危険性などから、原則的には抗
真菌剤の一次予防投与は推奨されないが、CD4 陽性リンパ球が 100/μℓ未満の患者で、他の真菌
症の予防も必要と考えられる場合には Fluconazole 100 ~ 200㎎ /day の予防内服を行う。
■参考文献■
1 Spach DH,Hooton TM.矢野邦夫監訳.HIV マニュアル.日本医学館,1997
2 Bartlett JG et al.Medical Management of HIV Infection 2007 Edition.Published by Johns
Hopkins Medicine Health Publishing Business Group,2007
3 Saag MS et al.Practice guidelines for the management of cryptococcal disease.Infectious
Diseases Society of America.Clin Infect Dis 30:710-718,2000
4 Benson CA et al.Treating Opportunistic Infections Among HIV-Infected Adults and
Adolescents.Recommendations from CDC,the National Institutes of Health,and the HIV
Medicine Association/Infectious Diseases Society of America.MMWR Recomm Rep 53(RR15)
:1-112,2004
5 Kaplan JE et al.Guidelines for preventing opportunistic infections among HIV-infected
persons-2002.Recommendations of the U.S.Public Health Service and the Infectious
Diseases Society of America.MMWR Recomm Rep 51(RR-8):1-52,2002
6 厚生労働科学研究費補助金エイズ対策研究事業 HIV 感染症の医療体制の整備に関する研
究班編.診断と治療ハンドブック 第二版(2006 年 3 月改訂版)
7 Sunqkanuparph S et al.Cryptococcal immune reconstitution inflammatory syndrome
after antiretroviral therapy in AIDS patients with cryptococcal meningitis:a prospective
multicenter study.Clin Infect Dis.49:931-934,2009
8 Guidelines for the Prevention and Treatment of Opportunistic Infections in HIV-Infected
Adults and Adolescents(2013.7)
(血液内科 吉田 美穂 2013.07)
AIDS 関連症候群(ARC)の診断と治療 ~クリプトコックス症~
HIV 感染症の臨床経過
43
6-4
1
クリプトスポリジウム症
概 説
クリプトスポリジウム症は、Criptosporidium(C.parvum 他)の感染によって、激しい水溶性
下痢と腹痛をきたす原虫感染症である。この原虫は、
多くの哺乳類の小腸に寄生し、
糞便といっしょ
にオーシストと呼ばれる形で体外へ排出され、他の個体へ飲料水や食品を介して経口感染する。
HIV 感染者で、CD4 陽性リンパ球数が低下している場合に、持続性で強い下痢を起こし、難
治性である場合にはイソスポラ症と本症を疑う。免疫不全状態の患者では、下痢が長期間持続し
て死亡することも稀ではない。
2
臨床症状
潜伏期間は 4 ~ 10 日。激しい水溶性の下痢と嘔吐、腹痛が主症状で、約 1/3 で発熱を伴う。
血便はない。免疫能が正常であれば大半は 1 ~ 2 週間で自然治癒するが、免疫不全患者では、下
痢が長期間持続し、吸収不全による低栄養、消耗、体重減少を伴って死に至ることも少なくない。
AIDS 患者での病像パターンは不顕性感染(4%)、2 ヶ月以内に自然軽快する下痢症(29%)、2 ヶ
月以上持続する慢性下痢症(60%)、1 日 2L 以上に及ぶ致死的下痢症(8%)と報告されている。
また、免疫不全患者では、慢性的腸症状に加えて胆嚢・胆管炎、膵炎、呼吸器症状を併発するこ
ともある。
3
診断方法
糞便虫のオーシストの検出で診断する。クリプトスポリジウムのオーシストは 4 ~ 6 μm と小型
である。通常の原虫・虫卵検査法では検出できず、簡易迅速ショ糖浮遊法、ショ糖遠心沈殿浮遊
法により集オーシストを行った後に、抗酸染色法、直接蛍光抗体法などで検出する。そのため本
症を疑った場合には、
“クリプトスポリジウム症疑い”と明記して検体を提出する必要がある。また、
原虫は便中・腸管粘膜などに付着し、間欠的に便に出るため、特に軽症例では複数回の検査が必
要である。腸生検の HE 染色標本でも診断可能である。なお、クリプトスポリジウム症は感染症
法による第 5 類感染症に指定されており、診断後 7 日以内に保健所への届け出が必要である。
4
治療法
現在、このクリプトスポリジウム症に対して確実に奏効する薬剤はないことから、輸液など
の対症療法で脱水症状の改善や栄養補給を図ることが中心となる。CD4 数 100/μℓ以下で、下
痢が持続する場合には ART により免疫力を回復させることで症状の改善が期待できるため、
HIV 患者では本症の初期治療として ART の開始を第一に考慮すべきである。治療薬として
は、MAC 予防の Rifabutin や clarithromycin がクリプトスポリジウム症予防に有効という報告
もあるが、否定的な報告もあり有効性は確立されていない。Paromomycin(アメパロモ ®)や
Azithromycin(ジスロマック ®)がある程度有効とする報告もあるが、否定的な報告もあり有効
44
HIV 感染症の臨床経過
AIDS
関連症候群(ARC)の診断と治療 ~クリプトスポリジウム症~
性は確立していない。Paromomycin(アメパロモ ®)は、国内未販売薬でったが、2013 年 4 月
より国内で腸管アメーバ症への治療薬として販売されている。Nitazoxanide(Alinia®)は、成
人と小児を対象とした複数の臨床試験で有効性が確認されており、現在、米国 FDA により 1
歳以上の小児・成人に認可されている。但し、Nitazoxanide(Alinia®)の免疫抑制患者に対す
る有効性の Meta-analysis では、HIV 陽性免疫抑制患者に対する有効性は確認されなかった。
Nitazoxanide は国内で販売されていないが、「熱帯病・寄生虫症に対する稀少疾病治療薬の輸
入・保管・治療体制の開発研究」班から入手可能である(http://www.med.miyazaki-u.ac.jp/
parasitology/orphan/index.html)。
処方例① Nitazoxanide 1 ~ 2 g /2×14 日間内服
処方例② Paromomycin 2000㎎ /4×14 ~ 21 日間内服
処方例③ Paromomycin 2000㎎ /2×
Azithromycin(600㎎)1T/1×
上記 2 剤を 4 週間内服した後、Paromomycin 単独でさらに 8 週間内服
処方例④ Azithromycin(600㎎)
初日のみ 4T/2×、その後 2T/1×で 27 日間内服した後 1T/1×で内服
5
感染予防
クリプトスポリジウムのオーシストは、水中では低温で長期間生存し、塩素消毒にも抵抗性で
あるが、熱や凍結には弱いため、食中毒予防の一般的な原則がクリプトスポリジウムの感染予防
にも役立つとされている。水道水のクリプトスポリジウムによるエイズ患者等の感染防止対策に
ついて、平成 9 年 8 月、厚生省保健医療局エイズ疾病対策課から、下記の文書が各ブロック拠点
病院長あてに配布された。また、感染者は下痢症状が改善してから数週間は便中にオーシストを
排泄する恐れがある。
HIV 感染者/ AIDS 患者の皆様へ
エイズ患者さんを含め、特に免疫力の低下している状態の方は、クリプトスポリジウムの
感染予防について、以下の点に注意を払われるようおすすめします。
⒈ 手を良く洗うこと
⒉ 性行為の際は便等に触れないよう注意すること
⒊ 畜産動物をさわらないこと
⒋ ペットの便をさわらないこと
⒌ 野菜などの生ものはよく洗うか熱をとおして食べること
⒍ 湖、川、プール等で泳ぐときには水を飲まないように注意すること
⒎ より安全な水を飲むこと
飲み水については、煮沸したものを飲むことが最も良い方法です。また、煮沸後時間
をおかずに飲むことが重要です。
(出典)米国 CDC のインターネットホームページに掲載されていた情報に基づき作成した
ものです。
(http://www.cdc.gov/ncidod/diseases/crypto/hivaids.htm)
* 現在の Adress:http://www.cdc.gov/parasites/crypto/gen_info/prevent_ic.html
AIDS 関連症候群(ARC)の診断と治療 ~クリプトスポリジウム症~
HIV 感染症の臨床経過
45
■参考文献■
1 Spach DH,Hooton TM.矢野邦夫監訳.HIV マニュアル.日本医学館,1997
2 Bartlett JG et al.Medical Management of HIV Infection 2007 Edition.Published by Johns
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3 Kaplan JE et al.Guidelines for prevention and treatment of opportunistic infections in
HIV-infected Adults and Adolecents. Recommendations from CDC,the National Institutes
of Health,and the HIV Medicine Association/Infectious Diseases Society of America.
MMWR Recomm Rep 58(RR-4):1-207,2009
4 Farthing MJ.Treatment options for the eradication of intestinal protozoa.Nat Clin Pract
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5 厚生労働科学研究費補助金エイズ対策研究事業 HIV 感染症の医療体制の整備に関する研
究班編.診断と治療ハンドブック 第二版(2006 年 3 月改訂版)
6 Abubakar I et al.Treatment of cryptosporidiosis in immunocompromised individuals:
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7 Pantenburg B et al.Treatment of cryptosporidiosis.Expert Rev Anti Infect Ther.7(4)
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385-91,2009
8 Guidelines for the Prevention and Treatment of Opportunistic Infections in HIV-Infected
Adults and Adolescents.Recommendations from the Centers for Disease Control and
Prevention,the National Institutes of Health,and the HIV Medicine Associationof the
Infectious Diseases Society of America(2013.7.8 update)
9 CDC:Centers for Disease Control and Prevention(2013 年 6 月 17 日 update 版)
http://www.cdc.gov/parasites/crypto/
10)厚生労働省 http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-05-04.html
11)国立感染症研究所感染症情報センター:
http://idsc.nih.go.jp/idwr/kansen/k05/k05_02/k05_02.html
(血液内科 竹村 龍 2013.07)
46
HIV 感染症の臨床経過
AIDS
関連症候群(ARC)の診断と治療 ~クリプトスポリジウム症~
6-5
サイトメガロウイルス(CMV)感染症
日本人の 90%以上が既感染で、体内に潜伏感染しているが、通常は正常な免疫能でコントロー
ルされている。HIV 感染後の免疫不全による再活性化や新たな感染により、重篤な病変(肝、脾、
リンパ節以外)を惹起する。CMV 感染の早期診断、治療はきわめて重要であるが、AIDS にお
いてはいずれも非常に困難であるのが現状である。HAART 療法そのものにも CMV 血症の抑制
効果がみられることが報告されている一方、ART 施行後免疫機能の回復に伴い、一気に重度の
炎症が惹起される場合があることも報告されている(免疫再構成症候群)。
1
臨床症状
初発症状は、網膜炎(エイズ患者の約 20 ~ 30%が罹患し、失明率が高い)や間質性肺炎が多
いが、食道炎、腸炎、脳炎なども見られる。
CMV 消化器感染:食道、胃、小腸、大腸等の感染により、疼痛、下痢、発熱、食欲不振、大量
出血等が出現する。深い潰瘍を形成しうるため腸管穿孔のリスクがある。
CMV 肺 炎:間質性肺炎の形で発症し、発熱、頻呼吸、呼吸困難、乾性咳嗽等が出現する。
P. carinii 肺炎との合併が多い。副腎皮質ステロイドホルモンを長期使用する
と発症リスクが高い。
CMV 脳 炎:神経障害、知能低下等が出現し、HIV 脳症との鑑別が重要である。
CMV 網 膜 炎:初期は無症状であるが、まれに暗点や視野欠損、視力低下。
血液やその他の検体から CMV 再活性化が確認されるが臨床症状を伴わない CMV 感染(CMV
infection)は、臨床症状・異常所見を伴う CMV 感染症(CMV disease)から区別して扱う。
2
診断方法
網 膜 炎:眼底検査で特徴的な網膜血管に沿った病変(コッテージチーズとケチャップ像)。
消化器感染:GIS、CS による病変部の組織診断、ウイルス学的検査。
肺 炎:ペンタミジンの予防投与にもかかわらず出現する間質性肺炎の時に疑う。BAL や
TBLB などが必要。
脳 炎:髄液からのウイルス分離、PCR 法による診断。
CMV アンチゲネミア:院内検査・輸血部を通じて外注。CMV アンチゲネミアは、感度・特異
度とも高く、定量性もある点から、CMV 感染症のモニタリング、抗
ウイルス剤の効果判定及び中止時期の指標として広く用いられている。
CMV アンチゲネミアは肺炎以外の CMV 感染症では先行性があまり期
待できず、また発症時でさえも陽性化しない症例が散見され、その評価
には注意が必要である。造血細胞移植領域と異なり、CMV アンチゲネ
ミアがあれば直ぐ治療が必要というわけではないが、抗原価が高かった
り定量 PCR で 103 コピー /㎖以上の場合は、臓器病変が明らかでなくて
も抗 CMV 薬による治療が始められる傾向にある。
AIDS 関連症候群(ARC)の診断と治療 ~サイトメガロウイルス(CMV)感染症~
HIV 感染症の臨床経過
47
3
治療法
臨床症状があって、活性化された CMV がその原因と考えられる場合は、速やかに抗ウイルス
剤を投与する。逆に、生体内から CMV を完全に消滅させることは不可能なので、CMV アンチ
ゲネミアの推移や臨床的改善度などを参考にして、治療の効果判定と抗ウイルス剤の減量・中止
を判断する。CD4 リンパ球数が 50/μℓ以下の患者の場合は維持療法が必要であるとする報告も
見られる。
⑴ ガンシクロビル点滴静注用 5㎎ /㎏を1日 2 回点滴静注(2 ~ 3 週間)
*現時点で、CMV 感染症に対して効果の認められる最も強力な抗ウイルス剤である。
* CMV アンチゲネミアなどを参考にして、必要であれば再発予防に 1 日 1 回でさらに維持投
与する。
*主たる副作用は、骨髄抑制と腎障害(ガンシクロビルの骨髄抑制による好中球減少に対して:
G-CSF 50 ~ 100 μg sc が有効)。
⑵ ホスカルネットナトリウム 90㎎ /㎏を 1 日 2 回点滴静注(2 ~ 3 週間)
* CMV 網膜炎に対し保険適応。
*腎機能障害が現れやすいので、水分補給を十分に行い尿量を確保する。
⑶ CMV 高力価γグロブリン
*中和抗体価の高いものを選択する。
⑷ バルガンシクロビル塩酸塩錠 1800㎎ /2×
* CMV 感染症に対し、初期治療として外来でも使用可能。
*維持療法・再発予防は 900㎎ /1×
*ガンシクロビルのプロドラッグ化。
⑸ シドフォビア 5㎎ /kg 週 1 回点滴静注(国内未発売)
4
予 防
一次予防に関しては、確立したガイドラインはない。早期発見が重要なので、CD4 が 100/μℓ
以下になったら、定期的な眼底検査を行うべきである。二次予防は CD4 が 100 ~ 150/μℓを6ヶ
月以上維持した場合に中止することが多いが、50/μℓ以下で CMV 網膜炎が再燃することが多い
ので、CD4 が 50 ~ 100/μℓ以下になったら二次予防を再開すべきである。
48
HIV 感染症の臨床経過
AIDS
関連症候群(ARC)の診断と治療 ~サイトメガロウイルス(CMV)感染症~
■参考文献■
1 AIDS Clinical Care 12:54,2000
2 AIDS 14:173,2000
3 治療学 HIV 感染症(2001.2)
4 日本臨床 HIV/AIDS 研究の進歩(2002.4)
5 2005-2006 Medical management of HIV infection
6 HIV 感染症とその合併症:診断と治療のハンドブック.HIV 研究班(2005.3)
7 The Sanford guide to HIV/AIDS therapy 2006-2007(2006.7)
8 みんなに役立つ造血幹細胞移植の基礎と臨床(2008.9)
9 日本臨床 HIV/AIDS -最新の治療の進歩-(2010.3)
10)Guidelines for the Prevention and Treatment of Opportunistic Infections in HIV-Infected
Adults and Adolescents.Recommendations from the Centers for Disease Control and
Prevention,the National Institutes of Health,and the HIV Medicine Associationof the
Infectious Diseases Society of America(2013.7.8 update)
(血液内科 竹村 龍 2013.07)
AIDS 関連症候群(ARC)の診断と治療 ~サイトメガロウイルス(CMV)感染症~
HIV 感染症の臨床経過
49
6-6
非結核性抗酸菌症
HIV 感染者の非結核性抗酸菌症の感染部位は、主に肺と腸管だが、全身播種型をとることも
多い。最も多い肺病変の発症様式は、肺結核のそれと異なり、HIV ウィルス感染のために免
疫能低下が進行した後、新たに非結核性抗酸菌の感染が成立し発症に至ると考えられている。
AIDS に伴う感染症の中では、ニューモシスチス、サイトメガロウイルス、カンジダに次いで多い。
起炎菌の圧倒的大多数は、Mycobacterium avium-intracellulare complex(MAC)で、HIV 非感
染者の非結核性抗酸菌症の内訳とは若干異なる。HIV 感染症の病初期から合併してくる結核症
とは異なり、MAC 症は病気が進行し免疫能が低下(CD4 陽性 T リンパ球数が 100/μℓ以下)し
た状態で高頻度に合併する。
診断のアプローチ
1
⑴ どのようなときに疑うか
持続する発熱、咳嗽、喀痰、下痢、腹痛が出現したとき。
⑵ 胸部 X 線写真にて中下葉の非特異的浸潤影、リンパ節腫大など。典型的な肺尖・背部の分
布を示すことは稀で、空洞形成も比較的稀。他の日和見感染症との鑑別は困難なことが多い。
肺結核との鑑別も困難である。一方で他の肺感染症を合併することもある。
⑶ 胸部 CT 検査では、多彩な浸潤影、不整形陰影。リンパ節腫大や胸水の貯留が確認しやすい。
腹部 CT では、後腹膜・腸間膜リンパ節の腫大、肝腫、脾腫、腹水。MAC による消化管病変
が最も多いのは十二指腸であり、小白色結節が特徴である。
⑷ 喀痰、胃液、血液、便の抗酸菌塗抹、培養、時に骨髄液、髄液の培養が必要である。培養後
コロニーが形成されたら、本院では DDH マイコバクテリア法により、抗酸菌種の同定が行わ
れる。迅速な診断には、PCR 法を用いる。血液培養の場合は、専用の容器(胸水の場合にも
感度が上がる)を用いて提出する。専用容器は細菌検査室に常備している。MAC 以外の非結
核性抗酸菌の PCR 法による検査は、現在のところ実施できない。
⑸ マイコバクテリウム抗体キット(キャピリア MAC 抗体 ELISA)は、MAC 症の補助診断と
して有用な方法である。喀痰検査、BAL 検査が施行できない場合の補助診断として、血液中
の抗体価を測定する検査であり、平成 24 年より保険収載となった。
⑹ 気管支肺胞洗浄(BAL)により、病巣部より回収した液の抗酸菌塗抹・培養。
⑺ 経気管支肺生検(TBLB)あるいは消化管内視鏡により、病巣の組織学的検索と抗酸菌染色・
培養。
⑻ 上記の方法で診断がつかない場合、診断的治療として薬を投与し、症状の改善や陰影の変化
を観察する。
補)
播種性 MAC 症について
CD4 陽性 T リンパ球が 50 未満の患者で注意が必要である。長期にわたる発熱が必発で、体重
減少を伴う。腹痛や下痢を訴える患者もいる。貧血を伴うことが多く、多くの患者でヘマトクリッ
トは 25%未満である。診断は血液培養によって行われるが、MAC の菌血症は持続性であり、一
回の血液培養検査の感度は 90%近い。 50
HIV 感染症の臨床経過
AIDS
関連症候群(ARC)の診断と治療 ~非結核性抗酸菌症~
2
治 療
HIV 感染者における非結核性抗酸菌症のほとんどは、各種の抗結核薬に抵抗性がある MAC
であり、その治療法は現在も種々試みられている。感受性検査の結果から、ストレプトマイシン
(SM)
、
カナマイシン(KM)、エタンブトール(EB)、イソニアジド(INH)、エチオナマイド(TH)、
サイクロセリン(CS)
、リファンピシン(RFP)の中から 4 剤を選び併用する。また一般の抗菌
薬の中では、アミカシン、クラリスロマイシン、アジスロマイシン、スパルフロキサシン、シプ
ロキサシンなどに感受性を示す。プロテアーゼ阻害剤使用中であれば、リファンピシンをリファ
ブチン(RFB)に変更する必要がある(結核の項参照)。また、RFP は抗 HIV 薬のラルテグラ
ビルの血中濃度を低下させる可能性があるため、併用の際にはラルテグラビルの増量を考慮する
必要がある。
・MAC 感染症に対し
処方例①
リファジン(RFP)
1日量 450㎎、分 1、朝食前内服
クラリス(CAM)
1日量 800㎎、分 2、内服
エブトール(EB)
1日量 15㎎ /㎏、分 1、内服(結核症より投与期間
が長期に及ぶので視力障害の発生により注意する)
硫酸ストレプトマイシン
1日量 15㎎ /㎏以下を(年齢による)3)、筋注(週
2 回または週 3 回)
治療期間は菌陰性化後 1 年以上。
米国では AIDS 患者の MAC 菌血症に対し、以下の治療法の有効性が報告されている。
処方例②
リファブチン(RFB)
1日量 300㎎、分 1、内服
エブトール(EB)
1日量 15㎎ /kg、分 1 または分 2、内服
クラリス(CAM)
1日量 1000㎎、分 2、内服
RFB 特有の副作用であるブドウ膜炎に注意する(結核の項参照)
RFB は CAM と併用した場合、血中濃度が 1.5 倍以上に上昇し、ブドウ膜炎の頻度も高くなる。
従って、CAM 併用時の RFB 初期投与量は1日量 150㎎とし、6 ヶ月以上の経過で副作用がな
い場合は 300 mg まで増量する。
・播種性 MAC 症の予防:CD4 陽性細胞が 50/μℓになった時点で開始する。
処方例①
ジスロマック(AZM)
週1回 1200㎎、分1、内服
処方例②
クラリス(CAM)
1日 1000㎎分2、内服
本邦では、①のみ予防投与として保険適応である。
M.kansasii 症は非結核性抗酸菌症の中で抗結核薬による化学療法が最も有効な感染症である。
処方例
リファジン(RFP)
1日量 450㎎、分1、朝食前内服(蛋白合成阻害剤
内服患者では、リファブチン 300㎎、またはクラリ
ス 800㎎ / 日)
エブトール(EB)
1日量 15㎎ /kg、分 1 ~ 2、内服
イソニアジド(INH)
1日量 400㎎、分 1
治療期間は 18 ヶ月(ただし、少なくとも培養陰性が 12 ヶ月続くこと)。
AIDS 関連症候群(ARC)の診断と治療 ~非結核性抗酸菌症~
HIV 感染症の臨床経過
51
■参考文献■
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2 非定型抗酸菌症の治療と予後、結核(第 2 版)、久世文彦、泉 孝英 編、258-262 ページ、
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5 DHHS.Guidelines for the Use of Antiretroviral Agents in HIV-1-Infected Adults and
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(内科Ⅰ 今野 哲 2013.09)
52
HIV 感染症の臨床経過
AIDS
関連症候群(ARC)の診断と治療 ~非結核性抗酸菌症~
6-7
ニューモシスチス肺炎
従来カリニ肺炎と呼ばれていた疾患は、正式にはニューモシスチス肺炎(Pneumocystis
Pneumonia:PCP)と呼称されることになった。これは、病原体の名前が Pneumocystis carinii
から Pneumocystis jiroveci と名称が変更になったことに伴うものである AIDS 患者における
PCP は、幼小児期の不顕性感染の再燃の形で発症し、経過中約 70 ~ 80%の患者に見られ、最も
多い合併症のひとつである。CD4 陽性 T 細胞が 200 個 /μℓ以下になると発症することが多い。
1
診断のアプローチ
⑴ どのようなときに疑うか
体動時の息切れ、咳嗽、発熱、呼吸困難が出現したとき。胸部X線写真の陰影が出現する以
前に、肺拡散能や動脈血酸素分圧が低下することもある。これらはその後の経過をみる上でも
鋭敏な指標である。
⑵ 胸部 X 線写真では、症状が出現してもごく早期では陰影を認めないことがある。その後淡
い間質性陰影が出現し、次第に肺門中心の網状、粒状、索状陰影となり、さらに進行すると広
汎なスリガラス状陰影および濃い浸潤影を呈してくる。時に限局性陰影、空洞、気胸を呈する。
肺門・縦隔リンパ節腫脹、胸水は通常認めない。
⑶ 確定診断は Pneumocystis jiroveci の証明である。高張食塩水ネブライザー吸入後採取した
喀痰や、気管支肺胞洗浄液(BALF)を用いてグロコット染色(シストを染色)か Giemsa 染
色(栄養体を染色)にて証明する。ニューモシスチス肺炎では高張食塩水を用いても喀痰が得
られないことも多く、患者の状態が許せば気管支肺胞洗浄による検体採取が望ましい(第一内
科に依頼)
。ただし、BALF 検体におけるグロコット染色、Giemsa 染色においても、診断率
は 5 割に満たない程度であることは、留意する必要がある。
⑷ PCR 法(保険適応外)は非常に感度が高く、喀痰検査でも十分に検査が可能であるが、免
疫抑制状態では、肺炎の発症が見られない場合でも陽性になることがあり(感染未発症と考え
られる)、PCR 法のみでの診断は危険である。PCR 陰性の場合には、PCP 否定の根拠として
有用である。
⑸ 血清β-D グルカンは、PCP でも高値となり参考になる。
⑹ 経気管支肺生検(TBLB)では、肺胞腔内の好酸性泡沫状の浸出物に混じってニューモシス
チス嚢胞が認められる(グロコット染色)。
2
治 療
PCP は全身感染症の要素も含むので、治療は全身投与が原則。選択薬として ST 合剤(バクタ、
バクトラミン)とペンタミジン(ベナンバックス)がある。CD4 陽性細胞が 200 個 /μℓ以下となっ
たときや、PCP の既往がある場合には必ず予防策を講ずる。
処方例① バクタ 1 日量 12.0g 分 3、経口。21 日間連続投与し、その後予防投与に移行するのが
標準投与法。皮疹、発熱、白血球減少、肝障害などの副作用に注意。投与が長引く場
AIDS 関連症候群(ARC)の診断と治療 ~ニューモシスチス肺炎~
HIV 感染症の臨床経過
53
合にはロイコボリン 3 ~ 5㎎ / 日、または葉酸 4㎎ / 日を併用する。
中等~重症例(PO2 < 70 torr)では、ステロイドを併用する。プレドニン 80㎎分 2
を 5 日間、40㎎分 1 を 5 日間、20㎎分 1 を 11 日間が標準。
ステロイドの併用は以下の処方例も同じ。
処方例② 注射剤(バクトラミン)を用いる場合は経口剤の 3/4 量程度とする。
バクトラミン 1 日量 9A(45㎖)分 3、毎回 1 ~ 2 時間かけて点滴静注(1A あたり
125㎖の 5% ブドウ糖液に混合し、1 ~ 2 時間かけて投与する)
処方例③ ベナンバックス 3㎎ /㎏ / 日 1 日 1 回
注射用蒸留水 5㎖に溶解後、250㎖の 5%ブドウ糖液溶解し、1 ~ 2 時間でゆっくり点
滴静注
処方例④ ベナンバックス吸入 300㎎、1 日 1 回
注射用蒸留水、または生理食塩水 10 ~ 20㎖に溶解し、超音波ネブライザーにて 30
分間で吸入。エロゾルが到達しにくい上葉の病巣には効きにくい。副作用として気道
刺激。
処方例⑤ アトバコン(サムチレール ®)通常、成人には 1 回 5㎖(アトバコンとして 750㎎)
を 1 日 2 回 21 日間、食後に経口投与する。
予防投与
処方例① (予防) バクタ 1 日量 2.0 g 分2を週 3 回または 1.0 g 分1を毎日
処方例② (予防)
ベナンバックス 300㎎、2~4週に1回吸入。気道収縮の誘発や肺内分布の
差異など問題が多い
処方例③ (予防) アトバコン(サムチレール ®)通常、成人には 1 回 10㎖(アトバコとして
1500㎎)を 1 日 1 回、食後に経口投与する。
ニューモシスチス肺炎の既往が無く、ART 導入により CD4 数が上昇し 200 個 /μℓ以上を3~
6ヶ月以上維持できている患者では、HIV-RNA 量が良くコントロールされている場合予防投薬
を終了して良い。
■参考文献■
1 HIV 感染者発症予防・治療に関する研究班、班長山田兼雄、HIV 治療マニュアル、p66-68
2 味澤 篤、ニューモシスチス・カリニ肺炎、治療 78 巻増刊号、標準処方ガイド ’
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(http://www.cdc.gov/epo/mmwr/preview/mmwrhtml/rr4810a1.htm)
4 レジデントのための感染症診療マニュアル 医学書院 2007、p1156-1157
(内科Ⅰ 今野 哲 2013.09)
54
HIV 感染症の臨床経過
AIDS
関連症候群(ARC)の診断と治療 ~ニューモシスチス肺炎~
6-8
結核症
HIV に感染することにより、肺結核の発症率は約 100 倍になると言われており、HIV 非感染
者が結核菌に感染した場合の生涯発病率は 5 ~ 10%であるが、HIV 感染者では年間に 5 ~ 10%
の率で結核を発病する。AIDS に伴う感染症の中では、ニューモシスチス、サイトメガロウイル
ス、カンジダ、非結核性抗酸菌症に次いで多い。他の感染症と異なり、HIV 感染後比較的早期で、
CD4 陽性細胞があまり減少していない時期(300 ~ 400/μℓ)にも発症し、AIDS 発症に先立つ
ことも多い。従って他の日和見感染症が目立たない時期にも、原因不明の発熱がある場合には本
症を疑う必要がある。肺結核の発症様式は、既感染の再燃の形が多いとされている。しかし 免
疫能が高度に低下した患者では、たとえ治療中でも多剤耐性菌による外因性の再感染がありうる。
また、肺外結核が多いのも HIV 感染の特徴である(非 HIV 感染者に対して 2 倍)。
1
診断のアプローチ
⑴ どのようなときに疑うか
持続する発熱、咳嗽、喀痰が出現し、胸部 X 線写真で異常影を認めたとき。肺外結核も多く、
消化器、泌尿器、神経系の症状にも留意する。
⑵ 病変は多彩で、CD4 陽性細胞数が保たれている時は通常の結核のように上肺に結節性病変
の散布を認める程度であるが、免疫能が低下した状態では、病変は経気道性に肺内に広がって
下肺の広範な浸潤病巣など非典型像を示す。
⑶ 胸部 X 線写真にて中下葉の非特異的浸潤影、リンパ節腫大など。典型的な肺尖や背側部の
分布をとらず、空洞形成も比較的まれで、他の日和見感染症との鑑別は困難なことが多い。リ
ンパ節結核や播種型の肺外結核頻度が高い。また他の肺感染症を合併することもある。
⑷ 胸部 CT 検査では、多彩な浸潤影や不整形陰影が主体である。またリンパ節腫大や胸水の貯
留を認めることもある。
⑸ 喀痰、気管支肺胞洗浄液、胃液、血液の抗酸菌塗抹と培養、時に骨髄液、髄液の培養が必要
である。本院では、液体培地にて 2 ~ 4 週間後に増殖がみられたら小川培地に移し、さらに増
殖した後(約1週間)、DDH マイコバクテリア法により、抗酸菌 18 種の同定が行われる。また、
液体培地で増殖した菌を直接用いて簡便法にて結核菌の同定が可能である(キャピリア TB)。
迅速な診断には、PCR 法を用いる。経気管支肺生検(TBLB)により、病巣の組織学的検討と
抗酸菌染色・培養。組織では典型的な類上皮細胞肉芽腫が形成されにくいので、やはり抗酸菌
の検出が最も重要である。
⑹ ツベルクリン反応は、CD4 陽性 T 細胞が減少していると陽性とならないことが多く、診断
の参考としにくい。最近、末梢血リンパ球を結核特異抗原で刺激し、インターフェロンγの産
生をみることによって結核感染を判定するクオンティフェロンが臨床にて利用可能になった
が、HIV 陽性患者における有用性は定かではないが、本邦の検討で、70 ~ 80% 程度の感度と
の報告がある。免疫が正常な活動性結核患者での感度は約 90% であり、HIV 陽性患者におい
ても、クオンティフェロン検査はある程度有用であろう。ただし、CD4 陽性細胞数の影響は
わかっておらず、解釈の際には注意が必要である。さらには、免疫正常者においても、クオン
ティフェロン検査は活動性結核と潜在性結核を区別する目的としては有用性が低く、HIV 陽
AIDS 関連症候群(ARC)の診断と治療 ~結核症~
HIV 感染症の臨床経過
55
性者においても同様である。
⑺ 上記の方法で診断がつかない場合、診断的治療として抗結核薬を投与し、症状の改善や陰影
の変化を観察する。
⑻ 臨床症状や画像所見のみより、正確に非結核性抗酸菌症と鑑別することは不可能である。菌
の同定結果を待つ必要がある。
2
治 療
抗結核療法開始後、早期に ART を開始すると免疫再構築症候群を合併しやすく、また抗 HIV
薬や抗結核薬には副作用が多いので、副作用が生じた場合に原因薬物特定が困難になることか
ら、結核の治療と HIV の治療を同時に開始することは勧められない。しかしながら、活動性結
核を有する患者に早期に抗 HIV 療法を開始することにより生存率が改善することも示されてい
る。抗結核療法開始後の抗 HIV 療法の開始時期の目安は、CD4 数が 200/μℓ未満では 2 ~ 4 週以内、
CD4 数が 200 ~ 500/μℓでは 2 ~ 4 週以内または少なくとも 8 週以内、CD4 数が 500/μℓ以上で
は 8 週以内とされている。
検体の抗酸菌塗抹や PCR 法の結果が陰性でも、臨床的に結核症が疑わしい場合には、培養の
結果(通常 4 ~ 8 週間)を待たずに治療を開始する。結核の治療薬は、抗 HIV 薬との相互作用
が問題となるものが多いため注意が必要である。リファンピシン(RFP)は肝臓のチトクローム
P450 を誘導し、これらの薬剤の代謝を速め、血中濃度を著しく低下させる。また逆にプロテアー
ゼ阻害剤は RFP の代謝を阻害し、その副作用を増強する。従って RFP とこれらの薬剤の併用
は禁忌とされる。また、RFP は抗 HIV 薬のラルテグラビルの血中濃度を低下させる可能性があ
るため、併用の際にはラルテグラビルの増量を考慮する必要がある。INH を使用する場合には、
神経傷害を防ぐためにビタミン B6 を 1 日量 25 ~ 50㎎投与する。抗 HIV 療法を開始した際に、
発熱や一過性の胸郭内病変の悪化が見られることがある。これは抗ウイルス療法により CD4 陽
性細胞の機能が回復した結果の反応で、免疫再構築症候群とよばれ、軽症であれば対症療法の
みで良いが、重篤な反応の場合には、一時的に副腎皮質ステロイド剤を使用する。INH または
RFP が耐性や副作用などの理由で使用できないときは、少なくとも全治療期間を 18 ヶ月あるい
は排菌陰性化後 12 ヶ月間とすべきである。また、AIDS 患者では薬剤の副反応が起こり易いの
で注意が必要である。
・プロテアーゼ阻害剤を使用しない場合
処方例①
イスコチン(INH)
1日量 200 ~ 300㎎分 1 ~ 3 内服
リファジン(RFP)
1日量 450㎎分1、朝食前内服
エタンブトール(EB)
1日量 750 ~ 1000㎎分 1 ~ 2 内服
ピラマイド(PZA)
1日量 1.5 g分 2、内服
上記を 2 ヶ月間毎日、その後 INH と RFP のみを毎日 7 ヶ月間。(CDC、日本結核病学会とも
に、原則として非 HIV 患者と同様の治療で良い(計 6 ヶ月)としているが、CDC は空洞を有す
る肺結核、肺外結核の合併は計 9 ヶ月の治療が望ましいとしている。日本結核病学会は免疫低下
を考慮して 3 ヶ月間の延長が望ましいとしている。よって、HIV 陽性者の結核治療については、
全例合計 9 ヶ月間の治療とするのが実用的であろう)
56
HIV 感染症の臨床経過
AIDS
関連症候群(ARC)の診断と治療 ~結核症~
・プロテアーゼ阻害剤を使用する場合もしくはすでに使用している場合
以下のいずれかを選択する。
1 結核治療の間はプロテアーゼ阻害剤を他剤に変更し、処方例①を行う。
2 初期強化期間の 2 ヶ月間プロテアーゼ阻害剤を他剤に変更する。その後の治療期間を処方
例①の INH、RFP ではなく、INH、EB とする。
3 処方例② イスコチン(INH)
リファブチン(RFB)
1日量 200 ~ 300㎎分 1 ~ 3 内服
1日量 5㎎ /㎏分 1、1 日最大量 30㎎、朝食前内服
(併用する抗 HIV 薬によって適宜 RFB の増減が必要。※下記参照)
エタンブトール(EB)
1日量 750 ~ 1000㎎分 1 ~ 2 内服
ピラマイド(PZA)
1日量 1.5 g分 2、内服
上記を 2 ヶ月間毎日、その後 INH と RFB のみを毎日 7 ヶ月間(計 9 ヶ月間、または排菌陰性
化後 6 ヶ月間の長い方)。
※抗 HIV 薬と RFB 投与量
・インジナビル(IDV)
、ネルフィナビル(NFV)、リトナビル(RTV)併用ホスアンプレナ
ビル(FPV)→ RFB 150㎎連日または 300㎎週 3 回
・アタザナビル(ATV)、RTV 併用サキナビル(SQV)、カレトラ(LPV/RTV)
→ RFB 150㎎隔日または週 3 回
・RTV 併用ダルナビル(DRV)→ RFB 150㎎隔日
・エファビレンツ(EFV)→ RFB 450 ~ 600㎎連日または 600㎎週 3 回
リファブチンの副作用であるブドウ膜炎については特に注意が必要である。ブドウ膜炎の症状
は、充血、目の痛み、飛蚊症、霧視、視力の低下、物がゆがんで見える、視野の中心部が見えづ
らいなどであり、EB の視神経炎の症状とは区別可能である。多くの報告では、RFB 投与開始後
2 ないし 5 ヶ月で発症が見られている。発症機序はアレルギー性ではなく中毒性とされ、発症頻
度は体重あたりの投与量に依存する。発症した場合は薬剤の中止、ステロイド点眼薬などの投与
にて軽快する。
3
予防的投与
HIV 感染者で、結核患者との接触歴などより結核に感染した可能性が高い場合には、以下の
予防的投与を行う。なお、HIV 患者では播種性の M.bovis 症を合併した症例があるので、BCG
による予防は禁忌である。
処方例
イスコチン(INH)
1 日量 300㎎分 1 ~ 3 内服、12 ヶ月毎日
AIDS 関連症候群(ARC)の診断と治療 ~結核症~
HIV 感染症の臨床経過
57
■参考文献■
1 結核・非結核性抗酸菌症診療ガイドライン、米国胸部疾患学会、医学書院、2002.
2 永井英明:AIDS/HIV 合併結核の現状と治療、日本医師会雑誌 121:365-368,1999.
3 Prevention and treatment of tuberculosis among patients infected with human
immunodeficiency virus:principles of therapy and revised recommendations.Centers for
Disease Control and Prevention.MMWR Morb Mortal Wkly Rep 47(RR-20):1-58,1998.
4 結核診療ガイドライン 南江堂、2012
5 CDC 勧告(MMWR 45 巻 42 号) http://www.jata.or.jp/rit/rj/yoshiyama.htm
(内科Ⅰ 今野 哲 2013.09)
58
HIV 感染症の臨床経過
AIDS
関連症候群(ARC)の診断と治療 ~結核症~
6-9
サルモネラ感染症
成人 HIV 感染者におけるグラム陰性細菌による腸管感染症の発症率は一般人口の 20 ~ 100 倍
である。Salmonella enteriditis と Salmonella typhimurium による胃腸炎や菌血症が多く、移植
患者や免疫抑制剤投与患者にも見られる日和見感染である。欧米では、HIV 感染者の急性下痢
の 5 ~ 15%がサルモネラ菌による。サルモネラ菌による敗血症の再発は AIDS 定義疾患のひと
つであり、長期抑制療法を必要とする場合もある。
1
臨床症状
発熱を初め、水様下痢、全身倦怠感、食欲不振、体重減少など非特異的症状が主体。赤痢菌と
異なり、血性下痢は少ない。サルモネラ菌のキャリアでは再燃を繰り返すものが多い。
2
診断方法
菌血症:血液培養
腸炎(急性下痢の定義は 3 日間以上持続する 1 日 3 回以上の下痢)
:便培養(感度は 90%程度)
HIV 感染者の中でも特に進行した患者では、サルモネラ胃腸炎に付随して菌血症が高率に見
られるため、下痢と発熱を呈する患者にはいずれも血液培養を実施すべきである。
3
治療方法
①シプロフロキサシン 300㎎×2 DIV もしくは 600㎎ /3×の経口
②ピペラシリンナトリウム 2g×2 DIV
③ホスホマイシンナトリウム 2g×2 DIV
④イミペネム・シラスタチンナトリウム 0.5g×2 DIV など
以上を軽症や菌血症でないものは 1 ~ 2 週間、CD4 リンパ球が 50/μℓ未満の患者や菌血症の
ある患者は 4 ~ 6 週間継続する。下痢のある場合は、初期治療として輸液と電解質補給も大切で
ある。稀ではあるが、シプロフロキサシン耐性の場合は、ST 合剤を投与する。アジスロマイシ
ンは多くのサルモネラ菌に対して有効で、予防薬として作用している場合がある。
4
治療失敗への対処方法
治療失敗とは、推奨された期間の適切な抗菌薬治療を終了しても臨床症状が改善せず、糞便や
血液からサルモネラ菌が持続的に検出する場合を指す。一部のサルモネラ菌血症患者では、有効
な治療を行っても 5 ~ 7 日間発熱が続くことがあるため、適切な治療効果が得られているかどう
か判断するには注意深く観察する必要がある。治療は、培養分離株の薬剤感受性検査の結果に従っ
て実施すべきである。治療失敗に関与していると考えられる要因(経口抗生物質の吸収不良、孤
立した感染巣、抗菌作用を阻害する医薬品使用、他の最近感染の合併など)について検討するこ
とも重要である。
AIDS 関連症候群(ARC)の診断と治療 ~サルモネラ感染症~
HIV 感染症の臨床経過
59
5
再発予防
サルモネラ敗血症が再発した患者には、二次予防として抗生物質治療を 6 ヶ月以上実施すべき
とする考えもあるが、長期抗生物質暴露のリスクと比較してまだ評価が定まっていない。ART
が奏効した患者の二次予防は中止して良い。家族など、HIV 感染者と接触のある人が無症候性
にサルモネラ菌を保菌していないかどうか調べることも必要である。またペットなどで爬虫類(ヘ
ビ、トカゲ、イグアナ、カメなど)、家禽や野鳥のヒナにはなるべく触れないようにすべきである。
特に CD4 リンパ球が 200/μℓ未満の患者には、生卵が含まれている可能性のある特定の食品を含
め、生卵や火が十分に通っていない卵を食べないように指導すべきである。
■参考文献■
1 J Infect Dis 179:1553,1999
2 Clin Infect Dis 32:331,2001
3 N Engl J Med 344:1572,2001
4 2005-2006 Medical management of HIV infection
5 The Sanford guide to HIV/AIDS therapy 2006-2007(2006.7)
6 成人および青少年 HIV 感染者における日和見感染症の予防法と治療法に関するガイドライ
ン(2009.11)
7 Recommendations from the Centers for Disease Control and Prevention,the National
Institutes of Health,and the HIV Medicine Association of the Infectious Diseases Society
of America:Guidelines for Prevention and Treatment of Opportunistic Infections in HIVInfected Adults and Adolescents(2013.8)
8 大川清孝,清水誠治.感染性腸炎 A to Z 第 2 版,2012
(消化器内科 桂田 武彦 2013.08)
60
HIV 感染症の臨床経過
AIDS
関連症候群(ARC)の診断と治療 ~サルモネラ感染症~
6-10
1
イソスポラ症
概 説
イソスポラ症は胞子虫綱の原虫 Isospora belli(戦争イソスポーラ)が小腸上皮細胞に感染し、
下痢を引き起こす原虫感染症である。第一次世界大戦中に多くの兵士が感染したことからこの名
称がつけられた。汚染水や感染動物、あるいは感染しているヒト由来の cyst を経口摂取するこ
とにより感染する。熱帯・亜熱帯地域で広く流行するが、国内での発生例は少ない。免疫不全患
者や海外旅行者の下痢症の原因として重要である。
2
臨床症状
約 7 日間の潜伏期間の後に発症し、水様性下痢、腹痛、発熱、嘔吐、倦怠感、体重減少などの
症状がみられる。このような症状のあるときは糞線虫症、クリプトスポリジウム症、CMV 腸炎
などとともに本症を疑う。健常人が感染した場合は 2 ~ 3 週間の一過性の下痢で自然治癒するが、
AIDS 患者では重篤かつ持続性の下痢から吸収不良症候群を呈し死亡することもある。イソスポ
ラ症では末梢血での好酸球増多を認める場合が多く、クリプトスポリジウム症との鑑別上参考に
なる。
3
診 断
集卵法により採取した糞便または腸生検標本でイソスポラの特徴的なオーシスト oocyst を検
出することで診断する。糞線虫症、クリプトスポリジウム症との鑑別が必要であるが、抗酸染色
変法あるいはヨード染色により 30×15μm 大の長楕円形の特徴的な oocyst が確認できれば診断
は容易である。内視鏡所見として報告されているのは主に十二指腸の所見であるが、経過の短い
症例では粘膜の浮腫性変化が主体で、経過が長くなるにつれて粘膜の粗ぞう、顆粒状・結節状に
変化する。
4
治 療
イソスポラ症は Sulfamethoxazole/Trimethoprim 合剤(ST 合剤)によく反応し 2 ~ 3 日で
軽快する事が多いが、再発が多いので維持療法が必要である。症状の改善、再発防止のために
HAART の導入も推奨される。HAART により 3 ~ 6 ヶ月以上 CD4 が 200/μℓ以上を維持できれば、
維持療法を中止して良い。
<初期治療>
推 奨 療 法 ST 合剤(バクタ ®)4T/2×(4g/2×)または 8T/4×(8g/4×)、10 日間
代替療法① Pyrimethamine 50 ~ 75㎎ /day
Folinic acid(ロイコボリン ®)5 ~ 10㎎ /day、10 日間
AIDS 関連症候群(ARC)の診断と治療 ~イソスポラ症~
HIV 感染症の臨床経過
61
代替療法② Ciproflaxin(シプロキサン ®)1000㎎ /2×、10 日間
<再発予防>
推 奨 療 法 ST 合剤(バクタ ®)2 ~ 4T または 2.0 ~ 4.0g/1×、連日または週 3 回投与
代替療法① Pyrimethamine/Sulfadoxine 合剤(ファンシダール ®)1T/1×、週 1 回投与
代替療法② Pyrimethamine 25㎎ /day
Folinic acid(ロイコボリン ®)5㎎ /day、連日
■参考文献■
1 Spach DH,Hooton TM.矢野邦夫監訳.HIV マニュアル.日本医学館,1997
2 神谷晴夫.イソスポーラ症.別冊 日本臨床 領域別症候群シリーズ No.24 感染症症候群Ⅱ:
431-433,1999
3 Bartlett JG et al.Medical Management of HIV Infection 2007 Edition. Published by Johns
Hopkins Medicine Health Publishing Business Group,2007
4 Benson CA et al. Treating Opportunistic Infections Among HIV-Infected Adults and
Adolescents.Recommendations from CDC,the National Institutes of Health,and the HIV
Medicine Association/Infectious Diseases Society of America.MMWR Recomm Rep 53(RR15)
:1-112,2004
5 Gilbert DN et al.The Sanford Guide to HIV/AIDS Therapy,17th edition,2009
6 大川清孝,清水誠治.感染性腸炎 A to Z 第 2 版,2012
7 Sasaki M et al.A case of malabsorption syndrome caused by isosporiasis in an
immunocompetent patient.J Gastroenterol 3:88-89,2004
(消化器内科 桂田 武彦 2013.08)
62
HIV 感染症の臨床経過
AIDS
関連症候群(ARC)の診断と治療 ~イソスポラ症~
6-
リンパ球性間質性肺炎
11 (Lymphocytic interstitial pneumonia : LIP)
1
LIP とは
LIP は、原因不明の間質性肺炎の一型として Liebow らによって提唱された病態である。組織
所見に特徴があり、肺の間質にびまん性で密なリンパ球主体の細胞浸潤がみられる、という形態
学的定義によって規定された概念である。疾患が認識されるにつれ、LIP にはシェーグレン症候
群、自己免疫疾患などの背景疾患をもつものが少なくないことが知られるようになってきた。背
景疾患の多くは免疫異常症であることから、LIP の発生に何らかの免疫異常が関与しているので
はないかと考えられている。
2
病 因
LIP 患者の多くは、免疫学的な異常や、異常蛋白血症、ウイルス感染(とくに HIV 感染)といっ
た異常を背景に発症する。
原因疾患:間接リウマチ、シェーグレン症候群、橋本病、悪性貧血、慢性活動性肝炎、全身性
エリテマトーデス(SLE)、自己免疫性溶血性貧血、原発性胆汁性肝硬変、重症筋無力症、低γ
グロブリン血症、重症複合免疫不全
以下小児 HIV 患者に発症した LIP について
3
頻 度
HIV 患者では、特に幼少時とアフリカ系患者に多く、米国では小児 HIV 感染患者の肺疾患の
22 ~ 75% を占めるが、成人の HIV 関連の肺疾患では 3% 程度にすぎないとされている。母子感
染小児(HIV 垂直感染)の約 40% に発症し、生後 1 ~ 2 年が最も多く、報告例は 5 か月から 5
歳に集中している。
4
臨床症状
たまたまレントゲン検査で見つかることがあり初期は無症状である。発症は潜行性であり、咳、
ばち状指、低酸素血症が緩徐に進行する。予後が比較的良く、LIP のみられる患者では CD4 陽
性 T リンパ球の減少が緩やかで、LIP のみられない患者よりも生存期間が長い。診断からの平
均生存期間は 6 年といわれている。LIP に関連した臨床症状、レントゲン所見、呼吸機能などは、
HIV 感染の進行度や重症度とは独立して、時間の経過と共に著しい改善をみることがある。年
長になるにつれ、細菌、真菌、CMV などによる二次感染がおこり、一部は慢性肺疾患や気管支
拡張症へと進行する(ニューモシスチス肺炎の合併はまれ)。
AIDS 関連症候群(ARC)の診断と治療 ~リンパ球性間質性肺炎(Lymphocytic interstitial
HIVpneumonia
感染症の臨床経過
: LIP)~
63
診 断
5
確定診断は肺生検であるが、臨床的には胸部 X 線で両側性の網状小結節状の間質性肺陰影が 2
か月以上認められ、病原体が同定できず、抗生物質療法が無効の場合は LIP/PLH complex と診
断する。
胸部 X 線:両側に網状、小結節状の陰影がびまん性にみられる。
進行とともに肺門、傍気管リンパ節腫大がみられるようになる。(正常の時との比較
が重要)
胸部 CT:びまん性に網状、小結節陰影がみられる。
気管支肺胞洗浄(BAL):診断的価値は小さいが除外診断上有用である。
6
治 療
無症状の場合の治療は不要。
症状が見られるときは対症療法(喘鳴に対する気管支拡張剤、ステロイド吸入、低酸素血症に
対する酸素吸入など)や免疫抑制療法(主にコルチコステロイド)が必要なことがある。併存す
る細菌感染症に対して抗菌療法を行う。ジドブジンの投与や ART 療法により LIP の症状が改善
する例もある。
■参考文献■
1 呼吸器症候群Ⅰ 日本臨床社、2008
2 特発性間質性肺炎診断と治療の手引き 南江堂 2011
(内科Ⅰ 今野 哲 2013.09)
64
HIV 感染症の臨床経過
AIDS
関連症候群(ARC)の診断と治療 ~リンパ球性間質性肺炎(Lymphocytic interstitial pneumonia : LIP)~
6-12
本邦ではまれな ARC
以下の 2 疾患は本邦においては、極めてまれな ARC であるので、概説のみにとどめる。診断・
治療法については成書を参照されたい。
コクシジオイデス症およびヒストプラスマ症はともに輸入真菌症として知られ、感染力が強く
健常人でも感染する例が多い。また検査中の感染事故が起こりやすいという特色があり、通常の
真菌症とは異なった取り扱いが必要である。菌の培養は感染事故が起こる可能性が高く、非常に
危険であるので、これら疾患を疑った場合には、バイオセーフティについて十分な配慮が必要で
ある。
1
コクシジオイデス症
米国南西部、中米、メキシコに発生する風土病のひとつで、二形性真菌である Coccidioides
immitis と Coccidioides posadasii の分節型分生子の吸入で感染する。ヒトからヒトへの伝播は起
こらないが、流行地での数時間滞在で発症した例や、初感染から数ヶ月後に発症する例もあるた
め、診断にあたっては流行地域への渡航歴が重要である。本症は 4 類感染症に定められており、
診断した場合は直ちに保健所へ届け出る必要がある。HIV 感染者以外のコクシジオイデス症も
含めると、国内で 2013 年 6 月 1 日までに本症と診断された患者数は 72 例にのぼる(千葉大学真
菌医学研究センター調査)
。HIV 感染者によくみられるのは、巣状肺炎、びまん性肺炎(ニュー
モシスチス肺炎に類似)
、皮膚疾患、髄膜炎、肝臓またはリンパ節疾患、明らかな局所感染のな
い血清陽性症例の 6 つである。CD4 陽性リンパ球が 250/μℓを超える患者では巣状肺炎が多いが、
他の症候群はさらに免疫機能の低下した患者に認められることが多い。以下の症状を有する場合
に本症を疑う。
⑴ 呼吸器症状としては、巣状肺炎の場合、咳嗽、発熱、胸痛などがみられる。びまん性肺炎の
場合は、ニューモシスチス肺炎と類似しており、発熱や呼吸困難がみられ、両者が合併するこ
ともまれではない。胸部X線像では約 60% にびまん性網状結節影、約 40% に局所的浸潤影が
みられる。胸部X線上、肺門リンパ節の腫脹があれば本症の可能性が高い。ニューモシスチス
肺炎とサイトメガロウイルス肺炎では肺門リンパ節の腫脹はまれである。
⑵ 呼吸器以外の症状
1 全身リンパ節腫脹
2 皮膚結節・潰瘍を伴った腫瘤の多発融合(コクシジオイデス肉芽腫)
3 進行性嗜眠状態(髄膜炎:髄液中リンパ球増多、糖< 50㎎ /㎗、蛋白正常~軽度増加)
4 肝障害
5 骨・関節炎(HIV 患者ではまれ)
診断は培養、組織診断、血清・髄液抗体価の測定により行われる。抗体検査は千葉大学真菌医
学研究センターにて行われている。
びまん性肺病変や全身播種性病変の治療は Amphotericin B(ファンギゾン ®)0.7 ~ 1㎎ /㎏
AIDS 関連症候群(ARC)の診断と治療 ~本邦ではまれな
HIV 感染症の臨床経過
ARC ~
65
/day、または Liposomal amphotericin B(アンビゾーム ®)4 ~ 5㎎ /㎏ /day の点滴静注が第
一選択である。巣状肺炎などの軽症例では Fluconazole 400㎎ /day 内服、または Itraconazole
400㎎ /day/2×内服を行う。髄膜炎症例の治療は専門家にコンサルテーションすべきであるが、
Fluconazole 400 ~ 800 ㎎ /day 点滴静注または内服(保険適応は 400㎎まで)が推奨されている。
難治例には Amphotericin B の髄腔内投与を追加する。抗真菌薬が奏効したにもかかわらず、水
頭症をきたし、シャントが必要となる症例もある。
初期治療が終了しても、CD4 陽性リンパ球が 250/μℓ未満であるならば、維持療法として
Fluconazole 400㎎ /day 内服、または Itraconazole 400㎎ /day/2×内服を生涯続けるべきである。
抗真菌薬の臨床的効果が得られた巣状肺炎患者では、ART により CD4 陽性リンパ球が 250/μ
ℓを超えていれば、再発のリスクは低いと考えられるので、抗真菌薬治療を 12 カ月行った後に
維持療法を中止して、定期的な胸部 X 線検査と血清学的検査にて再発の有無をモニタリングす
るのが妥当と考えられる。びまん性肺病変および髄膜炎以外の播種性病変では、HIV に感染し
ていなくても 25% ~ 33% に再発がおこる。したがって、ART により CD4 陽性リンパ球が 250/
μℓを超えていても再発は起こりうるため、維持療法を無期限に続ける臨床家もいるが、この点
については専門家にコンサルテーションをして決定すべきである。髄膜炎患者では、トリアゾー
ル系薬剤を中止すると、80% の症例で再発すると報告されているため、維持療法は生涯続ける
必要がある。
2
ヒストプラスマ症
コ ク シ ジ オ イ デ ス 真 菌 症 と 同 様、 一 種 の 風 土 病 で あ り、 二 形 性 真 菌 で あ る Histoplasma
capsulatum の胞子の吸入で感染する。米国中央部(オハイオ、ミシシッピ河川流域)、メキシコ、
カリブ海、アフリカなどが汚染地域であるが、非汚染地域でもこれらの汚染地域への旅行歴や居
住歴がある人に発症がみられ、本邦でも本疾患の発症が報告されている。細胞性免疫が低下する
と、何年も前からある不顕性感染巣が再活性化されることがあり、非汚染地域でヒストプラスマ
症が起こる機序のひとつと推測されている。また本邦では、HIV 感染者以外のヒストプラスマ
症も含めると、20% 近くのヒストプラスマ症患者が汚染地域への旅行歴や居住歴が全くなかっ
たと報告されている。
CD4 陽性リンパ球が 150/μℓ以下である HIV 感染症患者ではほとんどが全身播種性の病態を
呈する。全身播種性のヒストプラスマ症では、発熱、疲労感、体重減少、肝脾腫、リンパ節症な
どがみられる。咳や呼吸困難などの呼吸器症状は 50% にみられる。口腔内潰瘍や皮膚の多発性
紅斑性結節、消化器病変、副腎病変、髄膜炎や脳膿瘍などの中枢神経浸潤もみられる。約 10%
の患者がショックや多臓器不全を呈する。血液検査では骨髄抑制と肝酵素、LDH、フェリチン
の上昇がみられる。
CD4 陽性リンパ球が 300/μℓを超えている患者では、症状や徴候は気道に限定されることが多
く、咳、胸痛、発熱が主な症状である。
診断は血液・骨髄液・BAL 液の培養、尿や血清・髄液中の抗原同定、組織診断、抗体価の
測定により行われる。β-D グルカンも上昇すると報告されている。尿中・血清抗原検査は播種
性ヒストプラスマ症の迅速診断として非常に感度に優れているが、米国の検査会社(Miravista
66
HIV 感染症の臨床経過
AIDS
関連症候群(ARC)の診断と治療 ~本邦ではまれな ARC ~
Diagnostics)
でのみ測定可能である。抗体検査は千葉大学真菌医学研究センターにて行われている。
播種性ヒストプラスマ症に対しての推奨療法は、Liposomal amphotericin B(アンビゾーム
®
)3㎎ /㎏ /day 点滴静注であり、少なくとも 2 週間、あるいは臨床的に改善するまで投与す
る。米国のガイドラインでは、その後 Itraconazole 600㎎ /day/3×内服を 3 日間+ 400㎎ /day/2
×内服を 12 カ月以上続けるのがよいとしているが、日本では保険適応外であり、Itraconazole
200㎎ /day/1x 内服を 12 カ月以上継続することが多い。軽症の播種性ヒストプラスマ症では、
Itraconazole の内服を 12 カ月以上行う。髄膜炎に対しては、Liposomal amphotericin B 5㎎
/kg/day 点滴静注を 4 ~ 6 週行い、その後 Itraconazole の長期内服を行う。重症の播種性病
変、あるいは中枢神経病変の場合は、少なくとも 12 カ月の治療を終えた後、維持療法として
Itraconazole 200㎎ /day/1×内服を行う。適切な治療が行われたにもかかわらず再発した場合も、
同様の維持療法が必要である。アゾール系抗真菌薬の治療が 1 年以上行われ、血液培養陰性で、
(血清抗原 2ng/㎖未満、
)ART により 6 カ月以上 CD4 陽性リンパ球が 150/μℓを維持している症
例では、維持療法を中止してよいが、CD4 陽性リンパ球が 150/μℓ未満となった場合は再開すべ
きである。CD4 陽性リンパ球が 300/μℓを超えている急性肺ヒストプラスマ症患者では、免疫機
能に問題のない患者の場合と同様に管理されるべきである。
■参考文献■
1 Spach DH,Hooton TM.矢野邦夫監訳.HIV マニュアル.日本医学館,1997
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(血液内科 吉田 美穂 2013.07)
AIDS 関連症候群(ARC)の診断と治療 ~本邦ではまれな
HIV 感染症の臨床経過
ARC ~
67
6-13
1
HIV 消耗性症候群
臨床症状
体重減少は HIV 感染者でよく見られる症状である(30%程度といわれている)。ここでは、合
併する日和見感染や悪性腫瘍によらない、10%以上の不自然な体重減少、30 日以上続く慢性の
発熱、30 日以上続く 1 日 2 回以上の下痢症状を呈することを HIV 消耗性症候群と定義する。ま
たは、過去において HIV 感染症によると考えられる体重減少が認められ、BMI が 20 未満の患
者を指す。この消耗症候群の臨床像から、以前は AIDS のことを「痩身病」とも言われていた。
2
原 因
食事摂取量の低下、代謝異常、栄養吸収の低下、下痢などが挙げられている。特に性腺機能低
下や内分泌代謝異常が重要と考えられており、HIV 感染に起因する生体の慢性炎症(特に IL-1、
IL-6、TNFαなどの炎症性サイトカイン)が関与している。
3
診断方法
合併する感染症や腫瘍の否定:特に鑑別を要する疾患として、クリプトスポリジウム、MAC
感染症、結核、ヒストプラズマ、カポジ肉腫、非ホジキンリンパ腫などが挙げられる。
4
治療方法
経腸栄養剤:エレンタール 6 ~ 8 袋 / 日
エンシュアリキッド 6 ~ 9 缶 / 日
止 痢 剤:タンニン酸アルブミン 3 ~ 4g/ 日
ロペラミド塩酸塩 2C/ 日(6C ぐらいまで増量して有効な症例もある)
遺伝子組み換え型ヒト成長ホルモン製剤:セロスティム 5㎎ / 日 連日皮下注 12 週間
作 用 機 序:窒素バランスの改善、蛋白同化作用、脂肪異化作用
臨 床 成 績:除脂肪体重の増加、体脂肪の減少による患者 QOL の改善
臨床的意義:治療後の体重及び除脂肪体重増加とエイズ発症率・死亡率との関連は不明
副 作 用:体液・Na 貯留により浮腫・関節痛・筋肉痛・高血圧が見られることがある。
欧米ではこれら以外に、合成プロジェスティン・アナボリックステロイドや炎症性サイトカイ
ンである TNFαを抑制するサリドマイドも試みられている。
68
HIV 感染症の臨床経過
AIDS
関連症候群(ARC)の診断と治療 ~ HIV 消耗性症候群~
■参考文献■
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(血液内科 竹村 龍 2013.07)
AIDS 関連症候群(ARC)の診断と治療 ~
HIV
HIV
感染症の臨床経過
消耗性症候群~
69
6-14
悪性リンパ腫
HIV 感染後に起こる原発性リンパ腫は AIDS 関連リンパ腫といわれ、持続性全身性リンパ節
腫脹(PGL)との鑑別が必要で、種々の画像診断と病理組織診断が重要である。AIDS 指標疾患
である全身性の非ホジキンリンパ腫、原発性中枢神経リンパ腫及び原発性滲出液リンパ腫と、非
AIDS 指標疾患であるホジキンリンパ腫に大別される。HIV 感染それ自体は直接的な発癌性はな
いと考えられているので、EBV、HHV8 など種々のウイルス再活性化やサイトカインの産生異
常、あるいは癌遺伝子の活性化が、病因の一つに考えられている。AIDS 関連非ホジキンリンパ
腫の発生頻度は、HIV 感染者では一般人に比較して 60 ~ 200 倍高いとされ、AIDS 患者の生涯
で約 5 ~ 20%に合併するため、患者の長期予後を規定する最重要因子といえる。また、バーキッ
トリンパ腫や原発性中枢神経リンパ腫の発症リスクは約 1,000 倍であり、ホジキンリンパ腫も非
感染者の 8 倍と高頻度である。他の日和見疾患は HAART 採用後その発症頻度が減少してきた
が、非ホジキンリンパ腫の発症は減少していないとする報告が多い。また、HAART の導入以来、
欧米では非ホジキンリンパ腫の合併率は低下しているが、国内ではむしろ報告が増加している。
HAART による HIV 感染者の長期予後の改善が HIV 関連リンパ腫の増加につながっている可能
性がある。HIV 感染の診断がされておらず AIDS 関連リンパ腫で発症して病院を訪れる「いき
なり AIDS」症例もあるが、施設当たりの症例経験数が少なく、難治性かつ再発性で、AIDS 特
有の合併症も多く、標準的治療の早期確立が望まれている。
1
臨床症状(AIDS 関連リンパ腫の特徴)
⑴ 臨床的特徴
1 悪性リンパ腫で頻用される Ann Arbor 分類の、B 症状(発熱、盗汗、体重減少)を呈す
ることが多い(75 ~ 85%)。HIV 感染者で見られる原因不明の熱では、悪性リンパ腫の B
症状を鑑別に挙げる必要がある。
2 節外性リンパ腫(中枢神経系、消化器系、呼吸器系、生殖器系、骨髄浸潤など)の形態を
とるものが多く、診断時にすでに進行期の stage IV であるものが多い。
3 中枢神経リンパ腫が高頻度にみられ、しかも無症状のものも多い。また、トキソプラズマ
脳症、AIDS 脳症、CMV 脳症などとの鑑別が重要である。
4 予後不良因子として① CD4 陽性リンパ球数 <100/μℓ、② stage III あるいは IV、③年齢
35 歳以上、④ PS 不良、⑤ AIDS 発症、⑥麻薬常用者、⑦ LDH 高値、⑧ HAART への反応
不良、などが挙げられている。
⑵ 病理学的特徴
1 リンパ腫細胞の帰属が、B 細胞性のものが多い。
2 組織学的には、immunoblastic、diffuse large B-cell(DLBCL)、Burkitt に分類される、
悪性度の高いものが 70 ~ 90% と多い。稀ではあるが、ホジキンリンパ腫や MALT リンパ
腫などが発症することもある。
3 HIV 感染者に特徴的なリンパ腫として、原発性中枢神経リンパ腫、原発性滲出液リンパ腫、
口腔内を好発部位とする形質芽細胞性リンパ腫なども見られる。
70
HIV 感染症の臨床経過
AIDS
関連症候群(ARC)の診断と治療 ~悪性リンパ腫~
2
診断方法
画像診断(X-P、CT、MRI、US、EGD、CS、67Ga-Scinti、FDG-PET など)と病理組織診断(腫
瘍生検、骨髄生検)、細胞診(腰椎穿刺・胸水穿刺など)が主体となる。髄液中の EBV-DNA の
検出は、原発性中枢神経リンパ腫を示唆する感度・特異度ともに極めて高い傍証となる。
3
治療方法
⑴ 治療の原則
1 治療することによる骨髄抑制・免疫不全の進行が原疾患に与える影響と、治療困難な中枢
神経原発が多いことが問題となる。
2 多剤併用化学療法を施行する場合、dose attenuation や G-CSF の使用などに工夫が必要
である。
3 日和見感染予防対策を、並行して十分に施行する必要がある。IDSA のガイドラインでは、
好中球 100/μℓ未満が 7 日以上続くことが予測される場合にフルオロキノロン、抗真菌薬、
抗ヘルペス薬などの抗菌薬を予防薬として使用することが推奨されている。
4 HAART:HAART 導入により化学療法後の骨髄抑制や日和見感染症がコントロールしや
すくなり、結果として AIDS 関連リンパ腫の完全寛解率が有意に上昇した。化学療法併用時
の HAART 薬剤選択には、抗腫瘍薬の血中濃度に影響を与える CYP3A 阻害作用が少なく、
骨髄障害の弱いものを組み合わせるとよい。骨髄抑制の強い AZT、末梢神経障害の多い
d4T/ddI、抗腫瘍剤の血中濃度が上昇するプロテアーゼ阻害剤、抗腫瘍剤の作用を減弱させ
る EFV/NVP、過敏症の起こりやすい ABC 等をなるべく避け、TVD+RAL などが初回治
療として検討されている。その際は、化学療法による嘔吐・嘔気による服薬困難を考え、十
分な制吐剤の投与を考慮する。
⑵ 治療の実際
CHOP 療法(3 ~ 4 週間毎に 4 ~ 6 サイクル)
CY
750㎎ /㎡ iv day 1
ADM
50㎎ /㎡ iv day 1
VCR
1.4㎎ /㎡ iv day 1
PSL
60㎎ /㎡ po day 1 ~ 5
1 DLBCL では CHOP 療法がスタンダードレジメンと考えられるが、HIV 非感染者と異なり、
高度免疫不全状態では潜在的な骨髄機能が低下しており、上記の薬剤をそのまま使用できな
いことが多い。標準的な CHOP 療法での完全寛解率は 45 ~ 65% となっている。欧米から
の良好な成績に倣って、本邦でも dose adjusted-EPOCH 療法で好成績が得られつつある。
2 non-AIDS で CD4 陽性細胞が 200/μℓ以上であれば通常量を、AIDS の状態もしくは CD4
陽性細胞が 100/μℓ以下であれば減量を考慮し、日和見感染の既往歴のあるものは、さらに
減量する。
3 DLBCL では、非 HIV 感染者における R-CHOP といった標準的治療が確立しておらず、
rituximab は CD4 陽性細胞が 50/μℓ以下の場合には治療関連死亡(治療後早期の感染症)が
生じやすくなるので使用しない場合が多いが、HAART により HIV 感染が良好にコントロー
ルされている場合には、rituximab 併用により良好な成績が期待出来る。
AIDS 関連症候群(ARC)の診断と治療 ~悪性リンパ腫~
HIV 感染症の臨床経過
71
4 中枢神経原発のものは、ステロイド薬を併用した 40 Gy 程度の放射線照射で 20 ~ 50% 程
度の完全寛解が期待できるが長期生存は難しい。病変が孤立性病変であっても、原発性中枢
神経リンパ腫は基本的に多発性病変であることを考慮に入れ、全脳照射を行う必要がある。
放射線療法以外では、非 HIV 患者と同様にメトトレキサート 3g/㎡による大量療法を用い
た報告もある。
5 自家末梢血幹細胞移植:初回治療後の再発や難治症例では自家末梢血幹細胞移植が試みら
れ、一定の成績を上げている。
6 Burkitt リンパ腫:DLBCL に有効な化学療法では有効性が乏しく、非 HIV 感染者同様、
CODOX-M/IVAC、hyperCVAD などの強力な化学療法が推奨されている。髄膜播腫予防の
ため、抗がん剤の予防的髄注が必要である。
7 ホジキンリンパ腫:本邦の全国調査で 19 例の報告があり、非感染者のホジキンリンパ腫
と比較してより治療予後が悪いが、現時点では標準的化学療法が推奨される。
4
予 後
HAART 時代に入って、AIDS 関連リンパ腫の予後は改善し、R-CHOP 施行群で完全寛解率
77%、2 年全生存率 75% という良好な成績の報告もある(HAART 導入以前は平均生存期間の中
央値が1年以内)。治療抵抗性あるいは再発症例に対しても、ESHAP 療法や ICE 療法等のサル
ベージ治療を施行後、自家末梢血幹細胞移植により長期寛解を得られる症例がある。原発性中枢
神経リンパ腫治療後の長期生存例では白質脳症などによる高次脳機能の低下が問題となる。
■参考文献■
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72
HIV 感染症の臨床経過
AIDS
関連症候群(ARC)の診断と治療 ~悪性リンパ腫~
6-15
HIV 関連神経認知障害(HIV 脳症)
HIV 感染に伴い、認知機能障害・運動および行動の異常が亜急性ないしは慢性に進行する
ものは HIV 脳症と呼ばれてきた。2007 年に HIV 脳症を包含する形でより軽症な病態を含んだ
HIV 関連神経認知障害(HIV-1 associated neurocognitive disorders;HAND)が定義され、無
症候性神経認知障害(Asymptomatic Neurocognitive Impairment;ANI)、軽度神経認知障害(Mild
Neurocognitive Disorders;MND)、HIV 認 知 症(HIV-Associated Dementia;HAD) の 3 つ
に分類された(表1)
。本症の病態には HIV-1 が直接関与していると考えられており、HAART
(highly active antiretroviral therapy)が HIV 感染の治療として導入されて以降は重篤な神経認
知障害に至る症例は激減し、重症の HAD が減少するとともに軽症の ANI が増加している。し
かも、HAART によりウイルス量が充分に抑制されている患者においても、ANI や MND が認
められることが明らかとなっている。
表 1 HIV 関連神経認知障害(HAND)の分類
神経心理
学的検査
日常生活
基 準
除外診断
ANI
(無症候性神経認知障害)
MND
(軽度神経認知障害)
HAD
(HIV 認知症)
2 つ以上の領域 * で障害
を認める
2 つ以上の領域 * で障害
を認める
2 つ以上の領域 * で著し
い障害を認める
明らかな支障なし
何らかの支障が患者自身
により自覚されるか、他
者から認められる状態
著しい支障がある
認知症およびせん妄の基
準に当てはまらない
認知症およびせん妄の基
準に当てはまらない
せん妄がないか、あって
もせん妄状態ではないと
きの評価が認知症の基準
を満たす
神経認知障害を呈するHIV
以外の病態を認めない
神経認知障害を呈するHIV
以外の病態を認めない
認 知 症 を 呈 す る HIV 以
外の病態を認めない
*
領域 : 言語、注意、遂行機能、記憶、情報処理速度、感覚的知覚、運動機能
1
症 状
初期には動作や言葉遣いが緩慢となる。初期の神経学的診察では、知能検査で異常が見出せな
いこともあるが、問いかけなどに対する反応スピードが遅いのが特徴的である。神経学的には、
病初期には運動失調や錐体路徴候がみられ、進行すると認知機能障害や行動障害をきたす。健忘、
集中力の低下、せん妄も高頻度にみられ、運動失調は高度となり、歩行困難となる。無関心、無
気力になりうつ病と誤診される症例もある。これらの精神、神経症状は緩徐に進行するが、なか
には急速に進行するものもある。急速進行例の過半数は全身疾患、特に低酸素血症を合併するこ
との多い呼吸器系の日和見感染症(ニューモシスチス肺炎など)の際にみられる。
AIDS 関連症候群(ARC)の診断と治療 ~ HIV 関連神経認知障害(HIV
HIV 感染症の臨床経過
脳症)~
73
検 査
2
(1)脳脊髄液検査
細胞数(単核球)や蛋白の軽度増加がみられる。髄液 HIV-1 RNA 定量値は増加している。
(2)画像診断
CT や MRI では大脳皮質の萎縮や脳室の拡大など萎縮所見が主であるが、時に広汎な白質
脳症の所見を呈する。小児では基底核の石灰化を認めることがある。脳血流 SPECT では大脳
皮質びまん性の血流低下を認める。
(3)脳波
基礎波が進行性に徐波化する。一方、局所性や突発性の変化はあまりみられないのが特徴で
ある。
(4)確定診断
HAND を確定診断することのできる特徴的な検査所見はなく、臨床的な評価に神経認知障
害を認めることと除外診断を行うことで診断される。代謝性脳症(薬物の副作用を含む)、ク
リプトコッカス髄膜炎、中枢神経原発悪性リンパ腫、トキソプラズマ脳症、神経梅毒、サイト
メガロ脳炎、進行性多巣性白質脳症を除外することが重要である。
3
予 後
神経認知障害が進行するにつれて、社会生活が困難となり、死亡率も高くなる。重度の状態に
至った場合には平均 2 ヶ月、長くとも 6 ヶ月以内に死に至るとされる。
4
治療法
HAND の治療法は HAART が中心となる。HAART により髄液中のウイルス量が検出感度以
下にできた症例では、髄液中にウイルスが残存している症例に比べて神経認知機能の改善が大き
いとする報告がある。HAART による改善例では、脳 MRI での白質異常信号の改善を認めるこ
とがある。薬剤の選択においては、中枢神経移行性の良い薬剤が望ましいとの報告もある(表
2)
。また、HAART による免疫力改善に伴って免疫再構築症候群とよばれる病態が出現するこ
とがあるので注意が必要である。HAND の認知機能障害に対する治療については複数の RCT
(randomized controlled trial)が報告されているが、いずれも有効性を示すことができず、今の
ところ有力な治療法はない。
74
HIV 感染症の臨床経過
AIDS
関連症候群(ARC)の診断と治療 ~ HIV 関連神経認知障害(HIV 脳症)~
表 2 CNS 移行 - 有効性(CPE)スコア
CPE ランキング
4
3
2
1
NRTIs
ジドブジン
アバカビル
エムトリシタビン
ジダノシン
ラミブジン
スタブジン
テノホビル
ザルシタビン
NNRTIs
ネビラピン
デラビルジン
エファビレンツ
エトラビリン
PIs
インジナビル -r
ダルナビル -r
アタザナビル
ホスアンプレナビル -r
アタザナビル -r
インジナビル
ホスアンプレナビル
ロピナビル -r
侵入 / 融合阻害剤
マラビロク
インテグラーゼ
阻害剤
ラルテグラビル
ネルフィナビル
リトナビル
サキナビル
サキナビル -r
チプラナビル -r
エンフビルチド
※数値が大きいほど、CNS への移行性・有効性が高いと評価される。
■参考文献■
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(神経内科 佐久嶋 研 2013.07)
AIDS 関連症候群(ARC)の診断と治療 ~ HIV 関連神経認知障害(HIV
HIV 感染症の臨床経過
脳症)~
75
6-16
進行性多巣性白質脳症
(Progressive maultifocal leukoencephalopathy;PML)
進行性多巣性白質脳症(progressive multifocal leukoencephalopathy;PML)は JC ウイルス
による中枢神経の日和見感染症であり、slow virus infection の一つである。JC ウイルスは常在
ウイルスであり、ヒトに不顕性感染しており、特に腎臓に持続感染している JC ウイルスが宿主
の免疫能低下によりゲノム調節領域に変異を生じた結果、中枢神経親和性を獲得する。この変異
した JC ウイルスが oligodendrocyte に感染することにより、その蛋白合成を阻害し、二次的に
脱髄病巣を多発するものと考えられている。
疫 学
1
HIV-1 感染者における PML の合併頻度は 0.5 ~ 4.0%程度。HIV-1 感染者に合併した PML28
例の分析によれば、発症年齢は 22 ~ 58 歳(平均 39 歳)で男性 25 例(多くは homosexual)、女
性 3 例と報告されている。また、HIV-1 感染者以外の基礎疾患に合併した PML 多数例の分析で
は、性差はなく、40 歳以上で好発し 20 歳以下の発症はまれと報告されている。
臨床症状
2
HIV-1 感染者が進行性の神経症状を呈した場合に本症を疑う。AIDS 関連 PML では非 AIDS
関連 PML に比較して前頭葉・頭頂葉病変が多く、初発症状は運動障害が多い。
⑴ 主な初発症状
視力障害、片麻痺、認知機能障害の頻度が比較的高く、さらに言語障害、人格変化、歩行障
害、意識障害、頭痛などがあげられる。
⑵ 経過中の主要症状
臨床症状は多彩であり、片麻痺~四肢麻痺、失語、失行、認知機能障害、視覚障害(半盲~
全盲)などを認める。
診 断
3
⑴ 一般臨床検査
特徴的な所見はない。
⑵ 脳脊髄液検査
ほとんど異常はみられず、細胞数の増加も認められない(蛋白量は軽度増加を示すことがあ
る)
。
⑶ 脳波
特徴的な所見はなく、非特異的な徐波をみる。
⑷ 血清 JC ウイルス抗体価
成人の 70%以上は JC ウイルス不顕性感染を起こしており、血清抗体価の測定に診断的価値
はない。また、髄液 JC ウイルス抗体価は上昇しないと報告されている。
76
HIV 感染症の臨床経過
AIDS
関連症候群(ARC)の診断と治療 ~進行性多巣性白質脳症(Progressive maultifocal leukoencephalopathy;PML)~
⑸ 画像診断
PML では主として大脳の皮質下白質に大小不同の、融合して不整な形状の病巣が多数認め
られる。この所見は脳 MRI T2 強調画像や FLAIR 画像にて確認される。この MRI 病巣は通
常ガドリニウムでは造影されない。
⑹ 確定診断
診断的価値が最も高い検査は脳生検であり、得られた脳組織において、PML に特徴的な病
理組織像と組織内に JCV 抗原またはゲノムの存在を確認することにより確定診断される。髄
液における JCV ゲノム解析が PML の確定診断に有効であるとも報告されている。これは、
JC ウイルスゲノムの調節領域を含む部位を PCR にて増幅し、得られた PCR 産物より調節領
域をシークエンスすることにより、PML 型 JC ウイルスであることを確認するものであり臨
床診断の一助となる。本方法は北海道大学医学研究科分子細胞病理学分野、国立感染症研究
所 ウイルス第一部 第三室にて施行可能である。鑑別疾患として、HIV-1 脳症、悪性リンパ腫、
脳腫瘍などがあげられる。
4
経過と予後
神経症状はいったん発症すると亜急性に進行し、多くは、発症後 1 年以内に死亡する。
5
治 療
現在のところ PML に対して確立された有効な治療法はなく、対症療法が主である。その中で、
高活性抗レトロウイルス療法(highly active antiretroviral therapy;HAART)は PML に対し
ても一定の効果が期待できる治療法である。HAART 開始後、免疫の回復に伴い PML の病勢
が悪化することがあるので注意が必要である(免疫再構築症候群:IRIS)。IRIS の予防・治療と
してステロイドの併用も検討する。JC ウイルスに対する抗ウイルス薬としては、cytarabine と
cidofovir があるが、治療成績の報告はは一定しておらず、無効例の報告も多い。
AIDS 関連症候群(ARC)の診断と治療 ~進行性多巣性白質脳症(Progressive maultifocal leukoencephalopathy;PML)~
HIV 感染症の臨床経過
77
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進行性多巣性白質脳症(PML)の診断および治療ガイドライン http://prion.umin.jp/guideline/guideline_PML.html
(神経内科 廣谷 真、矢部 一郎、佐々木 秀直 2013.04)
78
HIV 感染症の臨床経過
AIDS
関連症候群(ARC)の診断と治療 ~進行性多巣性白質脳症(Progressive maultifocal leukoencephalopathy;PML)~
6-
トキソプラズマ脳症
17 (Cerebral toxoplasmosis)
トキソプラズマ症(Toxoplasmosis)は人畜共通感染症で、Toxoplasma gondii(T. gondii)
の感染によって発症する。T. gondii は胞子虫類に属する細胞内寄生性の原虫である。ネコ科の
動物の腸上皮で有性生殖を行い、糞便中に排出されたオーシスト(oocyst)あるいは食肉中の嚢
子の経口摂取から感染が起こる。T. gondii 感染は通常無症候性感染であるが、先天性感染や免
疫不全状態では様々な重篤な症状を引き起こす。AIDS 患者の場合、大部分は CD4 陽性リンパ
球数が 100/μℓ未満に低下したときに、慢性潜在性に感染していた T. gondii が再活性化して発
症する。T. gondii は中枢神経系においてもっとも再活性化しやすく、AIDS 患者でみられる中
枢神経系の日和見感染症のうち、もっとも頻度が高いものがトキソプラズマ脳症である。
1
臨床症状
発症の様式は、急性のものから亜急性、慢性の経過をとるものまで様々である。初発症状も様々
だが、頭痛、意識障害および発熱の頻度が高く、それぞれ 55%、52%、47% であったとの報告が
ある。このような非局在症候の他、局在症候としては片麻痺、小脳性運動失調、脳神経麻痺の頻
度が高く、その他、感覚障害、失語症、視野障害、複視、けいれん、人格変化、錐体外路症候な
どの症候が病変部位に応じて出現する。神経放射線学的異常があるにも関わらず、神経徴候をまっ
たく認めない症例も報告されている。ほとんどの AIDS 患者のトキソプラズマ症は脳に限局する
が、脳以外の臓器では眼と肺が侵される率が高い。
2
診 断
⑴ 血清学的検査および脳脊髄液検査
免疫能正常者では、2 回の検査で IgG 抗体価が 4 倍以上に上昇した場合や 1 回の検査でも
IgM 抗体が陽性であれば、急性感染と考えられる。しかし、AIDS 患者の場合は本症を発症し
ていても抗体陰性の患者が存在し、臨床的および病理学的に本症と診断された患者のうち、そ
れぞれ 16%、22% が IgG 抗体陰性であったとする報告がある。したがって、IgG 抗体価の上
昇が見られない場合や IgM 抗体が陰性の場合でも、本症を否定することは出来ないため注意
が必要である。
脳脊髄液中の蛋白は軽度から中等度上昇、糖は正常から低下する傾向を示す。多くの例で細
胞数は単核球優位に軽度増加する。脳脊髄液中の抗体価測定は本症の診断に有用である。PCR
法による脳脊髄液中の T. gondii DNA の検出については報告により様々であるが、いずれも
感度は低いものの診断に対する特異度は 100% と高い。保険適用外であり検査日数が 2 ~ 3 週
間かかること及び検査費用が問題となる。同様に保険適用検査ではないが、トキソプラズマ
IgG 抗体結合力(avidity)や髄液 nested PCR によって髄液中のトキソプラズマゲノムを同定
することにより確定診断した症例の報告もある。急性感染であるかどうかの判別には、先述の
通り IgM 抗体測定が有用であるが、抗体価の推移は個人差などがあり、また持続的に認めら
れる persistent IgM 抗体なども存在するため急性感染か慢性感染かの判別が困難な場合があ
る。そのような場合、IgG avidity 測定が有用である。トキソプラズマに初感染すると、最初
AIDS 関連症候群(ARC)の診断と治療 ~トキソプラズマ脳症(Cerebral
HIVtoxoplasmosis)~
感染症の臨床経過
79
に抗原に対して avidity をもつ抗体が産生され、慢性期になるほどに、より avidity の強い IgG
抗体が産生される。従って、IgG avidity を測定することにより急性感染なのか慢性感染なの
かを判定することができる。IgG avidity および髄液 nested PCR の施行を考慮する場合には本
稿著者に問い合わせ願いたい。
⑵ 画像診断
病巣の検出には CT より MRI の方が感度が高いので、本症を疑った場合 MRI を施行すべ
きである。また、CT、MRI いずれにしても、造影/増強が必要である。病変は 3 分の 2 の症
例で多発性であり、約 90% の症例でリング状の造影または増強効果がみられる。病変は浮腫
及び占拠効果を伴い、皮質、皮質-髄質境界部、基底核などに認められることが多い。また、
T1 強調画像において高信号を呈する症例も複数例報告されている。AIDS 患者においてこの
ような画像所見を呈する疾患としては本症の他、クリプトコッカス症 cryptococcosis、ヒスト
プラズマ症 histoplasmosis、アスペルギルス症 aspergillosis、結核症 tuberculosis、トリパノゾー
マ症 trypanosomiasis などの感染症、原発性および転移性脳腫瘍、悪性リンパ腫などを鑑別に
挙げる必要がある。そのうち本症と中枢神経系の悪性リンパ腫の頻度がもっとも高く、それぞ
れ 50%、30% であったとする報告があり、特にこれらの鑑別が問題となる。AIDS に伴う悪性
リンパ腫の場合、CT または MRI にてリング状の造影または増強効果を呈し本症の所見と類
似するが、悪性リンパ腫の場合は病変が単発性のことが多い点が参考になる。201Tl SPECT で
は、早期像にて 201Tl の集積亢進がなければ悪性リンパ腫は否定的である。早期像にて 201Tl の
集積亢進があり、さらに retention index も高い場合は悪性リンパ腫、早期像にて 201Tl の集積
亢進があっても、retention index が低い場合は本症を含む非悪性病変の可能性が高いとされ
ている。
⑶ 確定診断
確定診断は脳生検による病理学的検討によるが、生検に伴う合併症の危険性もあり、全例に
行われるわけではない。抗 T. gondii 抗体陽性、予防薬の投与を受けていない、画像上脳内に
多発性のリング状に造影/増強される病変を認める、という三点を満たす場合、90% の可能
性で本症と考えられ、本症として治療を開始するのが一般的とされている。
3
治 療
AIDS 患者では本症と悪性リンパ腫との鑑別が困難な例が多いが、上述のように本症を疑った
場合、まず本症として積極的治療を行う。本症の場合、通常治療開始後 2 週間以内に 90% 以上
の症例で臨床的および画像上の改善が得られるが、改善がみられない場合は脳生検が推奨される。
治療は一般にピリメタミン pyrimethamine とスルファジアジン sulfadiazine(サルファ剤)の
併用経口投与が行われる。いずれも本邦では発売されていない薬剤だが、HIV 患者に対しては
厚生労働省・エイズ治療薬研究班から入手可能である。詳細は同研究班のホームページ(http://
labo-med.tokyo-med.ac.jp/aidsdrugmhw/mokuji.html)を参照されたい。
具体的には、初期治療としてピリメタミンを初日 200mg/1x、2 日目から 50 ~ 75mg/1x、ス
ルファジアジン 4 ~ 6g/4x、葉酸 10 ~ 20mg/1 ~ 2x を 6 週継続し、その後維持療法としてピリ
メタミン 25 ~ 50mg/1x、スルファジアジン 2 ~ 4g/4x、葉酸 10 ~ 25mg/1x を投与するのが標
準的である。サルファ剤に対するアレルギーなどで使用できない場合には、スルファジアジンを
80
HIV 感染症の臨床経過
AIDS
関連症候群(ARC)の診断と治療 ~トキソプラズマ脳症(Cerebral toxoplasmosis)~
クリンダマイシン 2,400mg/4x に変更してもよい。本症の場合、通常治療への反応は良好であるが、
皮疹、骨髄抑制(好中球減少、貧血、血小板減少)、嘔気・嘔吐、発熱、肝障害、腎障害などの
副作用のために、薬剤の変更や治療の中断を余儀なくされることが多い。けいれんの既往のある
場合には抗てんかん薬を、脳浮腫が強い場合にはステロイドを併用する。
4
予 防
HAART(highly active antiretroviral therapy)が行われるようになってから、本症も含めた
日和見感染症の頻度は激減したが、CD4 陽性リンパ球数 100/μℓ未満および抗 T. gondii IgG 抗
体陽性者は、ST 合剤 2 錠(160mg TMP/ 800mg SMX)/1x 内服にて一次予防を行うことが推
奨されている。一次予防投与は、HAART を受けている患者で CD4 陽性リンパ球数 200/μℓ以上
を 3 ヶ月間維持できる場合、安全に中止できる。また、二次予防(先述の維持療法)については、
以前は生涯継続することとされていたが、最近の報告では一次予防と同じ基準で安全に中止可能
とされている。
血清学的に T. gondii 陰性の免疫不全者の場合、トキソプラズマの暴露を最小限にするため、
ネコの糞の処理や庭仕事のとき、食肉を扱うときには手袋をする、肉は良く加熱したものを食べ
るなどの予防策が必要である。
■参考文献■
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HIVtoxoplasmosis)~
感染症の臨床経過
81
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11)堀内一宏、矢部一郎、田島康敬ら.特異的画像所見を示し IgG avidity index と nested PCR
にて診断したトキソプラズマ脳症の 1 例.臨床神経学 2010;50:252-256
(神経内科 矢部 一郎、佐々木 秀直 2013.06)
82
HIV 感染症の臨床経過
AIDS
関連症候群(ARC)の診断と治療 ~トキソプラズマ脳症(Cerebral toxoplasmosis)~
HIV 感染症に合併
しやすい性感染症
7
近年、
異性間あるいは同性間の性交渉による HIV 感染者が増加している。このような患者では、
他の性感染症も高率に認めるため、代表的な性感染症を理解しておく必要がある。
7-1
梅 毒
梅毒はスピロヘータ科の Treponema pallidum の感染により発症し、そのほとんどが性感染で
あるが、梅毒症状を有する患者からの針刺し事故による感染の報告もある。HIV との重複感染
が多いため、性行為による HIV 感染を疑った場合は梅毒も併せて検査するべきである。またピ
ンポン感染を防ぐため、パートナーの検査の必要性についても説明し、受診を促す。HIV 感染
などの免疫低下患者には、大きな皮疹・皮膚潰瘍・蛎殻様の痂皮を伴った結節などの皮膚症状を
特徴とし、発熱、 るいそうといった全身症状を伴い、時に死に至ることがあるⅡ期梅毒(悪性梅
毒)や、T. pallidum が中枢神経系へ直接侵入してさまざまな神経症状を合併する神経梅毒を起
こしやすいことがあるため注意を要する。
T. pallidum は性交時に皮膚、粘膜の微小な傷口から進入し、まず感染局所に特有の病変をき
たし(第 1 期梅毒)、やがて血行性に全身に広がり(第 2 期梅毒)、その後、諸臓器を侵すように
なる(第 3 期梅毒、第 4 期梅毒)。
診断:特徴的な臨床症状と顕微鏡検査や梅毒血清反応検査により診断する。
病期ごとの臨床像
第 1 期梅毒:感染後 3 週頃に T. pallidum が進入した局所に初期硬結を作り、速やかに潰瘍化
する(硬性下疳)。臨床像と比して、痛みは少なく、無痛性横痃と呼ばれる所属
リンパ節腫脹を併発することが多い。
第 2 期梅毒:感染後 3 ヶ月頃(T. pallidum が全身に広がる頃)から梅毒性バラ疹、梅毒性丘疹、
扁平コンジローマ、梅毒性脱毛、粘膜疹を生じる。
第 3 期梅毒、第 4 期梅毒:無治療で経過した場合、感染後数年してからゴム腫、心血管梅毒、
神経梅毒を発症することがある。しかし、抗生物質の投与が広く行われている昨
今、このような病期の梅毒を見ることはまずない。
顕微鏡検査
確定診断の基本は病原体の分離、検出であるが、第 1 期と皮膚病変のある第 2 期の場合を除
き、かなり困難である。臨床の現場では、臨床症状と血清反応の組み合わせによって診断する
ことが多い。ただし、第 1 期の症状が現れても血清反応の陽性化まで 1 週間程度の期間があ
るので、この時期には硬性下疳、扁平コンジローマや粘膜疹なと、菌体が多く存在する活動性
病変部位の浸潤液をスライドガラスに採取し、暗視野顕微鏡を用いる方法か、より簡便にパー
カーインク染色後に光学顕微鏡を用いる方法がある。暗視野顕微鏡検査は初期の第 1 期梅毒に
対して最も感度と特異度が高い検査である。T. pallidum は、暗い背景に対して明るい運動型
HIV 感染症に合併しやすい性感染症 ~梅毒~
HIV 感染症の臨床経過
83
の細いコイルとして現れ、その大きさは約 0.25μm 幅、および 5 ~ 20μm 長である。これらは、
特に口内では正常な微生物叢の一部である非病原性のスピロヘータと形態学的に区別する必要
がある。検査の正確性は検査者の技術と病変部位の菌体数に依存しており、また病変部には T.
pallidum 以外のスピロヘータが存在している可能性があるために、評価は難しい。暗視野顕
微鏡を用いる方法はその難しさゆえ、病変が梅毒性のものではないと証明するために陰性を 3
回確認する必要があるが、当科で施行可能である。
パーカーインク法
下疳などの皮疹の表面をガーゼでこすり、手指でもみながら浸出してきた液をスライドガラ
スにとる。採取漿液 1 滴とパーカーインク 1 滴をスライドガラス上で混和して乾燥させ、油浸
で観察する。漿液を乾燥させないうちにインクとよく混和し展開しなければならない。
梅毒血清反応検査
平成 25 年度現在、当院で施行可能な血清反応検査は RPR(rapid plasma reagin)(定性・定
量)
、TPLA(treponema pallidum latex agglutination)(定性・定量)、FTA-ABS(fluorescent
treponemal antibody absorption)である。
RPR は cardiolipin-cholesterol-lecithin 抗原に対する抗体を調べる非特異的な検査であり、
SLE などの膠原病や慢性肝疾患、伝染性単核球症、関節リウマチ、結核、HIV 感染、血液製
剤投与(Ig 含む)、妊婦、高齢者などでも上がることがある(生物学的偽陽性 5 ~ 20%)。ま
た抗体過剰になると偽陰性を示すことがあり、地帯現象(zone phenomenon)として知られて
いるが、通常の陰性の場合と異なってみえるため判別できることがある。この場合は血清を希
釈して測定すると陽性となる。RPR は梅毒感染初期(2 ~ 3 週間)に陽性化し、臨床経過と相
関するため、治療効果の判定に用いられる。
TPLA、FTA-ABS は T. pallidum 特有の抗原を用いる特異的な検査であり、陽性であれば
梅毒の存在、あるいは梅毒既感染の可能性が高い。ほぼ生涯にわたり陽性となるため、梅毒の
既往を知るには有用である。その反面、治癒後も陽性を保つため、治療効果の判定には数値が
低下する RPR が適している。約 1%に生物学的偽陽性が起こることがあり、発熱時や予防接
種投与、他のトレポネーマ感染症(T.caratenum 他)などが原因として知られている(生物
学的偽陽性 0.1 ~ 0.5%)。
TPLA はラテックス比濁法の原理に基づき、リコンビナント TP 抗原を用い、光学的に血清
中の抗 TP 抗体を検出・定量測定する。陽性化には 4 ~ 6 週間程度を要する。
FTA-ABS は T. pallidum の菌体成分ではなく T. pallidum そのものを用いて間接蛍光抗体
法により測定する。よって、TPLA 法よりも感度がよく鋭敏である。FTA-ABS 法は IgM と
IgG を測定する方法の 2 種類があるが、当院で採用されている検査法は IgG を測定するもので
ある。FTA-ABS(IgG)は感染してから約 2 ~ 3 週間で陽性となるため、早期での梅毒感染
の確定診断に用いられる。手技や操作に熟練を要するだけでなく、蛍光顕微鏡が必要となるこ
とから TPLA ほど普及はしていない。
HIV 感染症に合併した梅毒では、T細胞の機能のみならず、抗体産生に重要なB細胞の機
能にも異常をきたすことがあり、梅毒血清反応の解釈に注意を要する。第 1 期、第 2 期梅毒の
血清反応陰性例、前地帯現象(抗体過剰による反応抑制現象)による RPR の偽陰性例、RPR
の偽陽性例が報告されている。さらに、梅毒治療後の serofast reaction(十分な治療をしたに
84
HIV 感染症に合併しやすい性感染症 ~梅毒~
感染症の臨床経過
もかかわらず、抗体価が低下しない)の確率が高くなることも報告されているため、梅毒が治
癒しているか、それとも感染が遷延または再感染しているかの判断に苦慮することもある。
以上のことを踏まえて梅毒の一般的な診断法を下記に示す。
1.特異的な皮膚粘膜の皮疹や他の性感染症の有無、原因不明の神経症状などから梅毒を疑う、
または鑑別を考慮
2.感染時期を考え、陽性化となる時期に RPR および TPLA 検査を施行(再検時に FTAABS も追加を考慮)
検査結果の一般的な解釈は下表のとおりである。生物学的偽陽性は比較的多く、また少ない
確率ながら TPLA・FTA-ABS にも偽陽性・偽陰性があることを忘れてはならない。また各
検査陽性化の期間をすでに述べたが、数週間の遅延が出ることがある。診断に苦慮する場合は
再検する。
RPR
TPLA FTA-ABS
IgM-FTA-ABS
(当院採用なし)
主判定
まれだが考慮
1
-
-
-
-
非梅毒
ごく初期の梅毒
2
+
-
-
-
RPR の生物学的偽陽性
またはごく初期の梅毒
3
-
-
-
+
初期梅毒
IgM-FTA-ABS 偽陽性
4
+
-
-
+
初期梅毒
RPR 生物学的偽陽性かつ
IgM-FTA-ABS 偽陽性
5
+
+
+
+
梅毒
梅毒治癒後
6
-
+
+
+
梅毒治癒後
梅毒(地帯現象)また
は TP 抗原系偽陽性
7
-
+
-
-
梅毒治癒後
TPLA 偽陽性
8
-
-
+
-
梅毒治癒後
FTA-ABS 偽陽性
一般的な検査結果の解釈(※ごくまれな組み合わせは省略した)
治療:ペニシリン系抗生剤を第 1 期梅毒は 2 週間、第 2 期梅毒は 4 週間投与するが、HIV 感染
者の場合、神経梅毒の投与量に準じて、通常の 3 倍量とし、8 週間投与するのがよいとす
る報告もある。なお、治療開始後に、Jarisch-Herxheimer 反応と呼ばれる一過性の発熱
を生じることがある旨、患者に説明しておくとよい(急激に T. pallidum が死滅するため
と考えられている)。感染後 1 年以上を経過した梅毒では追加治療が必要となることがあ
り、4 週間投与を 2 ~ 3 クール繰り返す。1 ヶ月ごとに RPR で抗体の推移をみるが、RPR
8 倍相当以下、もしくは 1/4 以上の低下を指標とする。RPR、TPLA いずれも自然経過で
は感染後 3 ~ 6 ヶ月で最高値となるが、それまでに治療すると抗体値は急速に低下してい
く。しかし感染後 2 年以上を経過した梅毒では治療後の抗体低下速度は遅く、特に TPLA
定量では年余にわたって高値が持続することがある。治療の経過観察、効果判定には皮疹
などの梅毒症状の有無および RPR にて行うが、抗体価が陰性化しなくても数値が固定す
れば治療を中止しても良い。
(皮膚科 浜出 洋平 2013.07)
HIV 感染症に合併しやすい性感染症 ~梅毒~
HIV 感染症の臨床経過
85
7-2
尖圭コンジローマ
尖圭コンジローマは、主に Human papilloma virus(HPV)-6、11 などの感染により発症する、
外陰部の疣贅状病変を特徴とする性感染症である。潜伏期間は平均 3 ヶ月であり、性的パートナー
も同時に感染していることが多い。またその 20 ~ 30%は自然消退するとされるが、治療に抵抗
性で再発を繰り返すことも多い。いずれの治療も 70%前後の有効率を示すが、残りの 30%は再
発するので少なくとも数ヶ月に及ぶ経過観察を要する。HIV 感染症に伴う場合 、男性同性間の
性的接触、とくに肛門性交が感染のきっかけとなるため、肛門管内に病変を伴う場合が多いので、
肛門鏡での観察が重要である。病変は巨大化したり、再発しやすいことがあるため、HIV 感染
非合併例と比して、より密な経過観察が必要となる。また、HIV 合併肛囲尖圭コンジローマでは、
子宮頚癌・肛門癌・外陰癌・膣癌などの癌の原因となる高リスク型の HPV 陽性率が 70%との報
告もあり、低リスク型 HPV との交叉反応を考慮しても HIV 合併尖圭コンジローマでは高い割合
で高リスク型 HPV が陽性であり、上記の癌の発症に注意することはもちろんのこと、巨大化し
た尖圭コンジローマ自体の悪性化も考慮して診察する必要がある。
HAART 療法後に病変の拡大をみることがあり、免疫再構築症候群との関連性が示唆されて
いる。
診断:臨床症状から診断は容易であるが、診断に迷う場合は皮膚生検を施行し、免疫酵素抗体法
で HPV 陽性を確認する。
治療:液体窒素を用いた凍結療法、電気焼灼療法、レーザー蒸散、外科的切除、三塩化酢酸また
は二塩化酢酸などの外用、インターフェロンの局所注射などのさまざまな治療がなされて
いるが、いずれの方法にも再発率が高く、治療に難渋する疾患である。2007 年 12 月より
わが国でも保険適応となった 5% イミキモドクリーム(ベセルナ ®クリーム)は通常の尖
圭コンジローマには切除や電気焼灼をしのぐ治療効果が報告されているが、HIV 合併例
では健常人ほどの治療効果は得られないことが多く、粘膜への使用は禁忌であるため、肛
門管内の病変においては従来の治療法を行っている。また 5% イミキモドクリームは接触
皮膚炎を起こすことが多く、塗布量や洗浄方法など使用法が特殊であるため、患者指導が
重要である。
(皮膚科 浜出 洋平 2013.07)
86
HIV 感染症に合併しやすい性感染症 ~尖圭コンジローマ~
感染症の臨床経過
7-3
疥 癬
疥癬は、ヒゼンダニが皮膚の角質に寄生して起こる感染症である。性感染症の一つであるが、
皮膚の直接接触や寝具・衣類の共用などでも感染する。特に高齢者入所施設内での感染が多くなっ
ている。寄生するヒゼンダニの数が少ない通常型の疥癬と、ダニが無数に寄生する角化型(ノル
ウェー)疥癬の 2 つがある。AIDS 患者を含む易感染性宿主では、重症で感染力の強い角化型疥
癬を発症しやすいため、注意が必要である。
診断:掻痒の強いステロイド抵抗性の丘疹に加え、指間に線状皮疹(疥癬トンネル)を認めた場
合、本症を強く疑う。家族や同僚などに同症状がないか確認する。角化型疥癬では、通常
の疥癬と比して桁違いのヒゼンダニが寄生し、厚い鱗屑や痂皮が全身の広い範囲に付着す
る。指間などの疥癬トンネルを切除し、直接鏡検法にて疥癬虫や虫卵を証明する。
治療:イベルメクチン ®内服。オイラックス軟膏 ®やγ BHC(白色ワセリン軟膏と混合して 1%
にしたもの)の外用を適宜併用する。相互感染を防ぐため、家族、同棲者などは一斉に治
療を行う。なお、通常の疥癬であれば隔離は不要であるが、感染力が極めて強い角化型疥
癬の場合は、個室隔離、室内への殺虫剤撒布、衣服の熱湯処理を行う。
(皮膚科 浜出 洋平 2013.07)
HIV 感染症に合併しやすい性感染症 ~疥癬~
HIV 感染症の臨床経過
87
7-4
性器ヘルペス
性器ヘルペスは、Herpes simplex virus(HSV)-1、2 による感染症で、外陰部や肛囲に、紅
斑や小水疱を形成し、HIV 患者では、口唇ヘルペスの場合と同様、難治性潰瘍を形成しやすい。
何度も再発を繰り返すことが多い。
現在では HIV 感染症における性器ヘルペスの再発抑制療法が一般的となり、その有効性を示
すエビデンスも多い。
診断:口唇ヘルペスと同様、多くの場合、既往歴と臨床所見から診断は可能である。水疱内容液、
潰瘍底ぬぐい液をとり、Tzank test を行い、巨細胞や空胞細胞を確認する。血清抗体価
を参考にする。
治療:バルトレックス ®錠 1,000mg 2×内服(5 日間)。アラセナ A®軟膏外用。3 ~ 5 日間で効
果を評価し、治癒傾向があれば、完全に治癒するまで継続。治癒傾向がない場合はバルト
レックス 3000mg 3×に増量または、アシクロビル持続静注 1 ~ 2mg/kg/ 時間投与して、
5 ~ 7 日間治療する。さらに再評価して、治癒傾向がない場合は、TK(チミジンキナー
ゼ)活性を欠損する遺伝子変異である ACV 耐性の TK 欠損株(ACV 耐性株の 90% を占
める)を考慮して、ホスカルネット(PFA)の使用を考慮する。再発を繰り返す症例には、
バルトレックス ®の予防投与 500 ~ 1000mg 1 ~ 2×内服(毎日)が推奨される。HIV
感染患者(CD4 リンパ球数 100/m3 以上)に対する再発抑制療法は、バルトレックス ®錠
500mg 1×内服(投与期間に制限はなく、1 年間継続後に継続の必要性を検討)
(皮膚科 浜出 洋平 2013.07)
88
HIV 感染症に合併しやすい性感染症 ~性器ヘルペス~
感染症の臨床経過
7-5
ケジラミ症
ケジラミ症は、ケジラミが陰毛や肛囲の毛に寄生して生じる性感染症の一つであるが、頭髪の
直接的な接触や帽子・寝具類を介して感染することもある。寄生を受けて 1 ヶ月以上経過してか
ら寄生部位の掻痒を生じ、掻破痕を認めるが、自覚症状を欠く場合もあり個人差が大きい。
診断:毛髪に付着したケジラミの虫体、虫卵をダーモスコピーや検鏡で確認する。
治療:スミスリンパウダー ®
、あるいは、スミスリンシャンプー ®を薬局で購入してもらい、3
~ 4 日おきに 1 回、計 3 ~ 4 回処置する(スミスリンは虫卵には効果がないため複数回の
処置が必要)
。剃毛により肛門周囲や腋窩など他の発毛部に虫体が移動することがあり、
必ずしも剃毛する必要はない。
(皮膚科 浜出 洋平 2013.07)
HIV 感染症に合併しやすい性感染症 ~ケジラミ症~
HIV 感染症の臨床経過
89
7-6
軟性下疳
軟性下疳は、ヘモフィルス属の菌種であるグラム陰性通性嫌気性連鎖状桿菌の軟性下疳菌
(H.Ducreyi)による性感染症の一つで、性交後 3 ~ 7 日で感染部位に小豆大までの小丘疹が発
生し、2 ~ 3 日のうちに膿疱となり、破れて疼痛の強い潰瘍を生じる。約半数で鼠径部リンパ節
が化膿して腫脹し、急性化膿性リンパ節炎(有痛性横痃)をきたし、発熱、頭痛、食欲不振、全
身倦怠感がみられる。梅毒にみられる硬性下疳と違い、硬結を触れない。男性患者が圧倒的に多
く、女性の無症候性キャリアの存在が推定されている。本邦ではほとんどみられず、輸入感染症
の 1 つと考えられる。
診断:上記臨床症状に加え、培養でヘモフィルスを同定すれば診断は確実であるが、培養で検出
されないことも多く、確定診断に苦慮することがある。
治療:CDC のガイドラインでは、アジスロマイシン 1g 経口単回、セフトリアキソン 250mg 筋
注単回、シプロフロキサシン 1g 分 2、経口 7 日間、エリスロマイシン 2g 分 4、経口 7 日
間などが推奨されている。テトラサイクリン系薬には耐性菌が存在するので注意する。セッ
クスパートナーの治療も行う。
(皮膚科 浜出 洋平 2013.07)
90
HIV 感染症に合併しやすい性感染症 ~軟性下疳~
感染症の臨床経過
7-7
淋 病
淋病は、淋菌(Neisseria gonorrhoeae)による感染症であり、主に男性の尿道炎、女性の子宮
頸管炎を起こす。淋菌は、グラム陰性双球菌で乾燥、熱、低温で容易に死滅し、通常の環境では
生存することかできない。したがって、性感染症として、人から人へ感染するのが主な感染経路
である。
1
臨床症状
⑴ 男性淋菌性尿道炎
感染後 2 ~ 7 日の潜伏期ののち、尿道炎症状である排尿時痛、尿道分泌物が出現する。分泌
物は多量、黄白色で膿性である。これらの症状はクラミジア性尿道炎に比べ顕著である。淋菌
性尿道炎が治癒されないと、尿道内の淋菌が管内性に上行し淋菌性精巣上体炎が引き起こされ
る。局所の炎症症状は強く、陰嚢内容は腫大し強い疼痛を認める。多くは発熱、白血球増多な
ど全身性炎症症状を伴う。両側性で高度になれば閉塞性無精子症を生じる場合がある。
⑵ 淋菌性子宮頸管炎
分泌物を生じることもあるが多くは無症状である。子宮頸管から感染が管内性に拡大し、骨
盤内炎症性疾患(子宮内膜炎、卵管炎、卵巣炎、骨盤腹膜炎)を起こすと半数程度に発熱、腹
部疝痛による急性腹症を生じる。
⑶ 淋菌性咽頭炎
オーラルセックスの普及により、性風俗嬢のみならず一般の女性の咽頭からも淋菌が検出さ
れる。男女性器の淋菌感染症の 10 ~ 30%の咽頭より淋菌が検出される。ほとんど無症状であ
るが、時に咽頭痛、嗄声など急性咽頭炎の症状を呈する。
2
診 断
男性尿道分泌物のグラム染色による塗抹標本の鏡検では、淋菌は白血球内に貪食されたグラム
陰性双球菌として容易に発見できる。しかし、女性の子宮頸管炎では分泌物中に雑菌の混入が多
く、鏡検の信頼性は低い。確定診断は分離培養法、または核酸増幅法で行う。淋菌の培養は一般
細菌に比べ手間がかかるのに対して、核酸増殖法は PCR 法、TMA 法、SDA 法が保険適応となっ
ており、迅速で信頼性の高い検出が可能である。20 ~ 30%にクラミジアの混合感染が認められ
るのでクラミジアの検出も同時に行うのが望ましい。核酸増殖法では 1 検体で淋菌とクラミジア
の同時検査が可能である。
3
治 療
ニューキノロン系およびテトラサイクリンの耐性率は、いずれも 80%前後であり、感受性が
あることが確認されない限り使用すべきではない。第三世代経口セフェム系の耐性率は 30 ~
50%程度と考えられている。従って、保険適応を有し、確実に有効な薬剤は、セフトリアキソン、
セフォジジム、スペクチノマイシンの 3 剤である。日本性感染症学会のガイドラインに基づいた
HIV 感染症に合併しやすい性感染症 ~淋病~
HIV 感染症の臨床経過
91
実際の投与法を下記に示す。尿道炎、子宮頸管炎、精巣上体炎、骨盤内炎症性疾患などは上記の
3 剤の使用が勧められるが、咽頭炎に関してはセフトリアキソンが最も有効とされている。よっ
て尿道炎、子宮頸管炎に対しても咽頭炎の合併を考慮した場合セフトリアキソンが第一選択とな
り得る。この 3 剤以外で治療する場合には、薬剤感受性を確認し、症状が改善しても淋菌が陰性
化したことの確認が必須である。また、20 ~ 30%にクラミジア感染を合併しているため、陽性
の場合はクラミジアの治療も同時に行う。
4
治癒判定
セフトリアキソン、セフォジジム、スペクチノマイシンは尿道炎、子宮頸管炎に対して、
100%に近い有効性を有すると考えられるので投与後の検査の実施は必須ではない。しかし、尿
道炎、子宮頸管炎以外の淋菌感染症では投与後の淋菌検査を要する。また、上記以外の薬剤を使
用した場合には、自覚症状が改善した場合であっても治癒していないことも多く、治療終了後、
3 日間以上後に淋菌検出のための検査を行う必要がある。
5
淋菌感染症の治療
淋菌性尿道炎及び子宮頸管炎
淋菌性精巣上体炎及び骨盤炎症性疾患
⒈ セフトリアキソン(ロセフィン)
静注 1.0g 単回投与
⒈ セフトリアキソン(ロセフィン)
重症度により、静注 1 日 1.0g × 1 ~ 2 回
1 ~ 7 日間投与
⒉ セフォジジム(ケニセフ、ノイセフ)
静注 1.0g 単回投与
⒉ セフォジジム(ケニセフ、ノイセフ)
重症度により、静注1日 1.0g × 1 ~ 2 回
1 ~ 7 日間投与
⒊ スペクチノマイシン(トロビシン)
筋注 2.0g 単回投与
⒊ スペクチノマイシン(トロビシン)
重症度により 2.0g 筋注単回投与
3 日後に、両臀部に 2g ずつ計 4g を追加
投与
淋 菌 性 咽 頭 感 染
⒈ セフトリアキソン(ロセフィン)
静注 1.0g 単回投与
⒉ セフォジジム(ケニセフ、ノイセフ)
静注 1.0g または 2.0g × 1 ~ 2 回、1 ~ 3 日間投与
■参考文献■
1 日本性感染症学会:淋菌感染症.性感染症 診断・治療ガイドライン 2011,日性感染症会
誌 22 suppl:52-59,2011
2 濱砂良一,松本哲朗:淋菌感染症について,泌尿器外科,25(9)1771-1777,2012
(泌尿器科:堀田 記世彦、野々村 克也)
92
HIV 感染症に合併しやすい性感染症 ~淋病~
感染症の臨床経過
7-8
非淋菌性尿道炎
非 淋 菌 性 尿 道 炎(non-gonococcal urethritis, NGU) の 起 炎 菌 の ほ ぼ 半 数 は Chlamydia
trachomatis が占める。その他には Mycoplasma genitalium や Ureaplasma urealyticum などがあ
げられる。
1
臨床症状
潜伏期間は 1 週間から 5 週間と長く、一般的には淋菌性尿道炎に比較して症状は軽度で、尿道
分泌物も少量で漿液性であることが多い。非淋菌性尿道炎のうちクラミジア性と非クラミジア性
との臨床像からの鑑別は困難である。
2
診 断
尿道分泌物または初尿沈渣のグラム染色による塗抹標本の鏡検で白血球は認めるものの、グラ
ム陰性双球菌を認めない場合に非淋菌性尿道炎と診断する。クラミジア検出法としては初尿を検
体として抗原検出法(EIA 法など)や核酸増幅法(PCR 法、TMA 法、SDA 法)がある。核酸
増殖法は1検体で淋菌とクラミジアの同時検査が可能である。
3
治 療
臨床上治療開始前に C.trachomatis の検出結果を得ることは極めて稀である。したがって、治
療開始時にはクラミジア性 NGU と非クラミジア性 NGU とを区別せずに C.trachomatis に抗菌
活性を有するテトラサイクリン系、マクロライド系あるいはニューキノロン系の抗菌薬を投与す
る。日本性感染症学会のガイドラインに基づいた実際の投与法を下記に示す。C.trachomatis の
抗菌薬耐性は稀であり、クラミジア性 NGU は治療に良く反応する。非クラミジア性 NGU にお
いても大多数の症例においてクラミジア感染症に準じた治療で奏功するが時に無効例を経験す
る。主な原因菌としては Mycoplasma genitalium や Ureaplasma urealyticum があげられる。ア
ジスロマイシンが有効であるが、近年では Mycoplasma genitalium のアジスロマイシン耐性化が
報告されている。レスピラトリーキノロンが有効であるとされているが保険適応を有しているの
は現在のところシタフロキサシンのみである。
4
治癒判定
クラミジア性 NGU:抗菌薬投与開始 2 週間後に核酸増幅法か EIA 法などを用いて病原体の消
失を確認する。
非クラミジア性 NGU:起炎菌の検出や特定が困難な場合が多く、自覚症状の改善と尿道スミ
アあるいは初尿沈渣中の多核白血球の消失の確認による。治療後 2 から 4 週後に判定が望ましい。
HIV 感染症に合併しやすい性感染症 ~非淋菌性尿道炎~
HIV 感染症の臨床経過
93
5
非淋菌性尿道炎の治療
クラミジア性
非クラミジア性
⒈ アジスロマイシン(ジスロマック)
1 日 1000㎎× 1 1 日間
⒈ アジスロマイシン(ジスロマック)
1 日 1000㎎× 1 1 日間
⒉ アジスロマイシン(ジスロマック SR)
1 日 2000㎎× 1 1 日間
⒉ シタフロキサシン(グレースビット)
1 日 100㎎× 2 7 日間
(ガイドラインにはないが有効とされている)
⒊ クラリスロマイシン
(クラリス、クラリシッド)
1 日 200㎎× 2 7 日間
4.ミノサイクリン(ミノマイシン)
1 日 100㎎× 2 7 日間
5.ドキシサイクリン(ビブラマイシン)
1 日 100㎎× 2 7 日間
6.レボフロキサシン(クラビット)
1 日 500㎎× 1 7 日間
7.トスフロキサシン
(オゼックス、トスキサシン)
1日 150㎎× 2 7 日間
■参考文献■
1 日本性感染症学会:性器クラミジア感染症.性感染症 診断・治療ガイドライン 2011,日
性感染症会誌 22 suppl: 60-64,2011
2 日本性感染症学会:非クラミジア性非淋菌性尿道炎.性感染症 診断・治療ガイドライン
2011,日性感染症会誌 22 suppl:92-94,2011
3 高橋聡:性器クラミジア感染症,泌尿器外科,25(9)1779-1782,2012
4 出口隆:非クラミジア性非淋菌性尿道炎について,泌尿器外科,25(9)1815-1820,2012
(泌尿器科:堀田 記世彦、野々村 克也)
94
HIV 感染症に合併しやすい性感染症 ~非淋菌性尿道炎~
感染症の臨床経過
7-9
アメーバ感染症(赤痢・肝膿瘍)
赤痢アメーバ Entamoeba histolytica の糞口感染により生じる。このため特に男性同性愛者に
感染の比率が高く日和見感染ではないが HIV 感染者では重要な疾患である。我が国での感染要
因は①男性同性愛行為、②発展途上国への旅行、③知的障害施設での集団感染などであるが、最
近、風俗店に勤務する女性患者が増加している。一方、風俗店で感染したと思われる男性患者も
増加している。2003 年 11 月に感染症法が一部改正され 5 類感染症に変更された。2006 年 4 月か
らはアメーバ腸症と腸外アメーバ症の病型を合わせて報告することが義務付けられた。
1
臨床症状
アメーバの嚢子は、経口的に感染した後、小腸で栄養体に変化し、大腸粘膜組織へ到達・組織
内へ侵入する。発熱、下痢、血便など、赤痢様症状を呈し、いわゆる 「イチゴゼリー」 状の粘血
便・血便が有名である。肝膿瘍などの腸管外アメーバ症は、虫体が粘膜下で脈管に入り門脈血流
に侵入することにより生じる。肝膿瘍を来した場合発熱、右上腹部痛・打痛、ときに胸水、咳な
どが出現する。
2
診断方法
アメーバ性大腸炎の診断はその所見に精通した内視鏡医であれば内視鏡でほとんどの症例の診
断が可能である。周囲に隆起を呈するいわゆるタコイボ様潰瘍・びらんが典型的所見とされてい
る。検査室診断の検体としては病変部、糞便、血清が用いられる。アメーバ原虫は潰瘍の白苔部
分に存在するため内視鏡生検は白苔を含むように採取する。PAS 染色により明瞭となるが、陽
性率は 70%程度である。糞便中の鏡検は熟練が必要で 1 回の検査では 40%の陽性率である。血
清中の抗アメーバ抗体測定は 85%程度の陽性率を示すため有用である。腹部超音波検査や CT
で肝膿瘍の有無を確認することも重要である。
3
治療方法
メトロニダゾール(フラジール ®
)が第一選択薬として用いられる。重症のアメーバ腸症や腸
外アメーバ症は 1,500㎎ / 日の 10 日間投与、軽症のアメーバ腸症では 750㎎ / 日の 5 日間投与する。
メトロニダゾールは腸管からの吸収が非常に良いが、下痢が激しい場合や手術後には経口投与で
はなく静脈投与が望ましい。「国内未承認薬を含めた熱帯病・寄生虫症の最適な診療体制の確立」
に関する研究班から静脈投与用のメトロニダゾールが医師の要請により供給されている。副作用
として末梢神経炎、運動失調、頭痛、めまい、下痢、白血球減少などがみられる。シストキャリ
アや再感染を繰り返す患者にはパロモマイシン(アメパロモ ®)が併用される。パロモマイシン
は 2012 年 12 月に承認されたアミノグリコシド系抗菌薬で、腸管からの吸収が非常に少なく管腔
内の濃度が高くなる luminal drug である。メトロニダゾールが主に栄養体に作用するのに対し、
パロモマイシンは嚢子に作用する特徴がある。
HIV 感染症に合併しやすい性感染症 ~アメーバ感染症~
HIV 感染症の臨床経過
95
4
その他
HIV 感染者では再発例も少なくなく、発熱、腹痛など臨床的に再発が疑われれば腹部超音波、
CT などを行う。治療は成功しても抗体は長期間陽性であり、抗体価高値が続いても治療の失敗
ではない。画像上の正常化には 2 ~ 20 ヶ月かかる。
無症候の症例でも、地域流行性のない地域では再感染が予防可能であることもあり、将来侵襲
性の病変を作る可能性、他者に感染する可能性を考慮して治療対象とする。
■参考文献■
1 2009-2010 Medical management of HIV infection
2 Gilbert DN et al.The Sanford Guide to HIV/AIDS Therapy,17th edition,2009
3 Recommendations from the Centers for Disease Control and Prevention,the National
Institutes of Health,and the HIV Medicine Association of the Infectious Diseases Society
of America:Guidelines for Prevention and Treatment of Opportunistic Infections in HIVInfected Adults and Adolescents(2013.8)
4 別冊 日本臨牀 新領域別症候群シリーズ 消化管症候群(第 2 版)下
5 大川清孝,清水誠治.感染性腸炎 A to Z 第 2 版,2012
(消化器内科 桂田 武彦 2013.08)
96
HIV 感染症に合併しやすい性感染症 ~アメーバ感染症~
感染症の臨床経過
8
8-1
HIV 感染症に伴う
慢性合併症
HIV 感染症と肝炎
ウイルス性肝炎は、輸血後肝炎(血清肝炎)と流行性肝炎(伝染性肝炎)に大別できる。前者には、
B 型肝炎・C 型肝炎が含まれるが、これらは HIV の感染経路と重複する可能性が少なからず存
在する。わが国の献血では、1972 年から B 型肝炎ウイルス(HBV)、1986 年から HIV に対する
スクリーニングが開始されたが、C 型肝炎ウイルス(HCV)が発見され、わが国での献血スク
リーニングが導入されたのは 1989 年である。したがって、1980 年前後から濃縮製剤を使用され
ているわが国の血友病患者などでは HIV と HCV の重感染を起こす可能性が高率にある。さらに、
HCV 感染例では慢性化するものが多いため、HIV コントロールの進歩に伴って、特に C 型慢性
肝障害への対策がクローズアップされてきている。また、HBV 重複感染例では、抗 HBV 作用 /
抗 HIV 作用を合わせ持った薬剤があり、その有効性以外に耐性出現に関する注意が必要となっ
ている。
わが国では、厚生労働省科学研究費補助金エイズ対策研究事業として、「HIV 感染症に合併す
る肝疾患に関する研究」班により、
「HIV・HBV 重複感染時の診療ガイドライン」
(2009 年)、
「HIV・
HCV 重複感染時の診療ガイドライン」(2005 年)が著されている。また、HIV 感染症治療研究
会から「HIV 治療の手引き」が毎年改訂されて発行されている。(2012 年に第 16 版)
当院では、HCV との重複感染症例に関して「HIV・HCV 重複感染症診療ガイドライン」(2012
年に第 5 版)が作成されている。
1
慢性肝障害の診断・症候
⑴ 慢性肝炎
6 か月以上の肝機能障害とウイルス感染が持続する状態である。さらに、組織学的には、門
脈域はリンパ球を中心とした炎症細胞浸潤や線維増生による拡大がみられる。全身倦怠感・食
欲不振、 肝腫大を認める場合もあるが、一般的には自他覚所見に乏しい。
⑵ 肝硬変
病理学的に、慢性の肝細胞障害とそれに引き続く結合組織の増生および肝細胞再生の結果、
線維性隔壁で囲まれた再生結節(偽小葉)が肝全体にびまん性に形成された状態である。自他
覚所見としては、全身倦怠感・食欲不振・腹部膨満感・腹水・浮腫・黄疸・肝性脳症・手掌紅
斑・クモ状血管腫などを認める。
2
慢性肝炎の診断のためのウイルスマーカー検査
⑴ B 型肝炎ウイルスマーカー
1 HBV 関連抗原抗体系
a)HBs 抗原:HBV 感染状態を表わす。
HIV 感染症に伴う慢性合併症 ~
HIV
HIV
感染症の臨床経過
感染症と肝炎~
97
b)HBs 抗体:過去の HBV 感染を示す中和(防御)抗体。
c)HBe 抗原:HBV 量や感染力の高い状態を表わす。
d)HBe 抗体:HBV 量や感染力の低い状態を表わす。
e)HBc 抗体:HBV の感染の事実(継続あるいは既往)を表わす。キャリアでは、CLIA
法で cut off index 10 以上のことが多い。
f)IgM HBc 抗体:急性肝炎あるいは慢性肝炎の急性増悪時に陽性となる。CLIA 法では
10 以上の高力価の場合、急性肝炎と考えられる。
g)HBV コア関連抗原:HBV のプレコア・コア遺伝子から転写翻訳される HBe 抗原や
HBc 抗原などをまとめて定量的に測定したもの。肝細胞内の HBV cccDNA を反映する
と考えられている。
2 HBV 核酸検査
a)HBV-DNA 量(real-time PCR 法):測定感度 2.1 log copies/ml
測定感度以下の場合は、HBV-DNA「検出」あるいは「検出せず」と表示される。
b)HBV 遺伝子型:わが国では、genotype C が最も多く、次いで genotype B が多い。(測
定は、2011 年 5 月から保険適応となった。)
c)HBV プレコア、コアプロモーター変異:それぞれの領域の変異の有無を測定する。
3 抗ウイルス薬の耐性遺伝子検出
a)HBV ポリメラーゼ領域変異:ラミブジン、エンテカビル、アデホビルなどの核酸アナ
ログ製剤に対する耐性変異の測定系があるが、現在は、まだ保険適応外である。
⑵ C 型肝炎ウイルスマーカー
1 HCV 関連抗原抗体系
a)HCV 抗体(第 2 あるいは第 3 世代):HCV 感染の事実(継続あるいは既往)を表わす。
b)HCV 群別判定(グルーピング):抗体測定系を応用したタイプの判別法。
[判定]グループ 1:本邦では、通常は type 1b と考えられる。
グループ 2:本邦では、type 2a と type 2b の両者の可能性がある。
判定保留:グループ 1 およびグループ 2 に対する抗体が共に陽性(mixed
type)の可能性が考えられる。
判定不能:抗体反応が陰性の場合が考えられる。
c)HCV コア抗原定量:HCV のコア蛋白質量の測定系、測定感度 20 fmol/L
2 HCV 核酸検査
a)HCV-RNA 量(real-time PCR 法):測定感度 1.2 log IU/ml
測定感度以下の場合は、HCV-RNA「検出」あるいは「検出せず」と表示される。
b)HCV 遺伝子型:わが国では、genotype 1b が最も多く、次いで 2a、2b の順となる。
3 抗ウイルス薬の効果と関連した遺伝子変異(現時点では保険適応外)
a)HCV コアアミノ酸置換:コア領域の 70 番目と 91 番目のアミノ酸置換の有無を測定。
b)ISDR 変異:HCV NS5a 領域のインターフェロン感受性決定領域(interferon sensitivity
determining region)のアミノ酸変異数を測定。
98
HIV 感染症に伴う慢性合併症 ~
感染症の臨床経過
HIV 感染症と肝炎~
3
HIV および肝炎ウイルスの重複感染における臨床的問題点
非加熱血液製剤を投与された血友病患者の多くや STD に伴う HIV 感染患者では、肝炎ウイル
スと HIV の重複感染がみられる。なかでも、HIV と HCV との重複感染が多い。
⑴ HBV 感染症と HIV 感染症の相互の関連
それぞれの重複感染における影響の有無は、現段階では明らかではないが、重複感染者にお
ける HBV の増殖や抗ウイルス薬による副作用発現などは HIV 感染症治療に影響を及ぼす。
⑵ HCV の HIV 感染症に対する影響の有無
C 型肝炎は HIV 感染の悪化に影響しないとの報告が多い。
⑶ HIV の C 型肝炎の進行に対する影響の有無
HIV の重複感染例の方が進行は早く、肝硬変・肝不全への進展率が高い。
⑷ HIV/HCV 重複感染に対する抗ウイルス療法時の問題点
1 抗ウイルス剤の他方への影響・効果
HIV プロテアーゼインヒビターは HCV プロテアーゼへの直接効果は有さない。
2 抗ウイルス療法による肝機能障害
特に HIV プロテアーゼインヒビターでは肝機能障害が高率に認められる。薬物自体の肝
細胞への障害のほかに、肝病変の進展例では薬物血中濃度の上昇も考慮する必要がある。
4
ウイルス性肝炎に対する治療の考え方
B 型あるいは C 型肝炎に対する治療目標は、
①ウイルスの排除、
②肝炎の鎮静化、
③長期予後の改善、肝病変進展(肝硬変・肝癌)の抑制
である。
基本的にはウイルス感染症であり、ウイルスの排除が達成されれば肝炎の治癒が期待でき
る。C 型肝炎の場合、インターフェロン治療によりウイルス学的治癒が得られる症例もある。
ウイルスの排除が困難な場合には、肝機能の正常化を目指す。B 型肝炎の場合には、短期的に
ウイルスが消失することは困難であるが、HBe 抗原/ HBe 抗体の+/-から-/+への変化
(seroconversion)が、臨床的には肝炎鎮静化に関連する指標となりうる。さらに、最終的には、
HBs 抗原の陰性化も目標となる。結果として、長期的に肝硬変への進展や肝癌発生を抑制す
ることが最終的な目標となる。
①に関しては、インターフェロン製剤、核酸アナログなどが使用される。インターフェロン
はB型肝炎およびC型肝炎に用いられる。B型に対しては 6 か月まで、C型に対しては 1
年以上の長期投与も可能となっている。B型肝炎に対しては、2000 年に逆転写酵素阻害
薬のラミブジン(ゼフィックス ®)が保険適応となり、2004 年にラミブジンに耐性例に対
するアデホビル(ヘプセラ ®)の併用が使用可能となった。さらに 2006 年からエンテカ
ビル(バラクルード ®)も投与可能となった。C 型肝炎に対しては、2001 年からインター
フェロンα2b+ リバビリン(レベトール ®)併用療法、2003 年からは徐放性があり週 1 回
の皮下投与が可能なポリエチレングリコール結合型の PEG-IFNα2a(ペガシス ®)の使
用が認められ、2004 年からは PEG-IFNα2b(ペグイントロン ®)とリバビリン(レベトー
HIV 感染症に伴う慢性合併症 ~
HIV
HIV
感染症の臨床経過
感染症と肝炎~
99
ル ®)の併用療法が可能となった。さらに 2011 年からは PEG-IFNα2b(ペグイントロン ®
)
、
リバビリン(レベトール ®
)
、
テラプレビル(テラビック ®)の 3 剤併用療法が使用可能となっ
た。
②に関しては、グリチルリチン製剤・ウルソデオキシコール酸などの肝庇護薬が投与される。
5
ウイルス肝炎の治療の実際
ウイルス性慢性肝炎・肝硬変に対する治療に関しては、厚生労働省の「肝硬変を含めたウイル
ス性肝疾患の治療の標準化に関する研究」班によりガイドラインが作成され、毎年更新されてい
る。ガイドラインは、日本肝臓学会のウェブサイト(http://www.jsh.or.jp/medical/index.html)
などから参照可能である。
⑴ インターフェロン(IFN)
ウイルス性肝炎の治療に使用される IFN は、IFN-αまたは IFN-βである。IFN-αには天
然型と遺伝子組換え(2a または 2b)型がある。IFN-βは天然型である。現在は、徐放製剤の
PEG-IFN(α2a とα2b の 2 種類がある)が C 型肝炎に投与可能、B 型肝炎には PEG-IFN(α
2a)が投与可能となった。
1 B 型肝炎に対する IFN 治療、PEG-IFN 治療
現在では、PEG-IFNα2a の 12 ヶ月間投与、または IFN の 1 日 300 万~ 900 万単位(製剤・
症例により異なる)の 6 ヶ月~ 12 ヶ月間の投与が標準である。
2 C 型肝炎に対する IFN 治療
1 日 300 万~ 1,000 万単位(製剤・症例により異なる)を、通常は初期 2 ~ 4 週間連日、
以後週 3 回投与することが多い。2002 年から投与期間の制限が撤廃された。現在は従来型
の IFNα製剤に限って、自己注射が可能となっている。
3 C型肝炎に対する PEG-IFN 治療
2003 年から PEG-IFNα2a(ペガシス ®)の単独投与が可能となった。通常は、週 1 回
180 μg の皮下投与であるが、対象や副作用によっては、投与量の減量、投与間隔の延長な
どを考慮する。
4 C 型肝炎に対する PEG-IFN・リバビリン併用治療
2004 年 12 月から、1 型、高ウイルス量のC型肝炎症例に対する 48 週間併用投与が可能と
なった。PEG-IFNα2b(ペグイントロン ®)とリバビリン(レベトール ®)は、それぞれ体
重により投与量が設定されており、PEG-IFNα2b は 1 回 60 ~ 150μg、リバビリンは 1 日
600 ~ 1000㎎を投与する。その後、「1 型高ウイルス量以外」の症例に対する 24 週間併用治
療も可能となった。国内の臨床試験における著効(持続ウイルス排除)率は、前者で 47%、
後者で 89%である。その後、2007 年からは、PEG-IFNα2a(ペガシス ®)とリバビリン(コ
ペガス ®)併用治療も可能となった。
5 C 型肝炎に対する PEG-IFN・リバビリン・プロテアーゼ阻害剤の 3 剤併用治療
2011 年 11 月から、1 型高ウイルス量の C 型慢性肝炎症例に対しては、PEG-IFNα2b(ペ
グイントロン ®)とリバビリン(レベトール ®)に加えて、テラプレビル ( テラビック ?)の
3 剤併用が可能となった。
6 C型代償性肝硬変に対する IFN 治療、PEG-IFN 治療
2011 年 7 月からは、代償性肝硬変症例に対する PEG-IFNα2a(ペガシス ®)とリバビリン(コ
感染症の臨床経過
HIV 感染症と肝炎~
100 HIV 感染症に伴う慢性合併症 ~
ペガス ®
)併用治療も可能となった。投与前の Hb 値やうつ病、うつ症状が予想される症例
に対しては、ウイルスの条件が「1 型高ウイルス量以外」の代償性肝硬変症例に対しては
IFNβの投与(1 回投与量は、開始 6 週目までは 300 万~ 600 万単位、7 週目以降は 300 万単位)
または IFNαの投与(開始 2 週目までは連日 600 万単位、以後は 300 万~ 600 万単位を週 3
回)を行う。
⑵ 核酸アナログ製剤
1 ラミブジン
ラミブジンは、B 型慢性肝炎・肝硬変に対してはゼフィックス 100mg 錠の 1 日 1 回の経
口投与を行う。抗ウイルス効果に優れているが、投与期間が長くなると耐性株の出現率も高
くなるため、HBe 抗原陽性例に対する投与での seroconversion 率は経時的には必ずしも上
昇しない。腎機能障害および乳酸アシドーシスの出現に注意が必要であり、腎機能により投
与間隔を調節する必要がある。抗 HIV 薬としてのラミブジンには、エピビル錠とコンビビ
ル(AZT/3TC)、エプジコム(ABC/3TC)などの合剤がある。HBV および HIV のそれぞ
れの耐性出現の可能性を考慮して治療選択をする必要がある。
2 アデホビル
ラミブジン投与中に B 型肝炎ウイルスの持続的な再増殖を伴う肝機能異常が確認された
B 型慢性肝炎および B 型肝硬変に対して、ラミブジンと併用する。アデホビル(ヘプセラ ®)
は、1 日 1 回 10mg の経口投与を行う。腎機能障害および乳酸アシドーシスの出現に注意が
必要であり、腎機能により投与間隔を調節する必要がある。
3 エンテカビル
B 型慢性肝炎および B 型肝硬変に対して、1 日 1 回 0.5mg の経口投与を行う。抗ウイルス
効果はラミブジンよりも強く、少なくとも開始 2 年までの耐性発現率もラミブジンより低率
である。ラミブジン耐性症例に対する治療では、1 回 1 回 1mg を投与する。
(後述するように、
HIV/HBV 重複感染者への単独投与は行わない。)
⑶ 肝庇護剤
1 グリチルリチン(強力ネオミノファーゲン C:SNMC)
慢性肝炎では、通常 40ml/ 日を静脈内投与する。反応が不十分な場合は 100ml まで増量
可能である。高血圧・低カリウム血症など、アルドステロン様の副作用に注意が必要。
2 ウルソデオキシコール酸(ウルソ:UDCA)
慢性肝炎には、通常 300mg ~ 600mg /日の経口投与とする。(C 型肝炎は 900mg /日ま
で増量可)
6
HIV 感染者に対するウイルス性肝炎治療の実際
⑴ HCV 重複感染例への IFN 治療
1 C 型肝炎に関連して
HIV との重複感染者では若年から肝病変の進展をきたす例が多いため、HIV 感染症の状
況や合併症の有無、肝予備能の評価のうえで、基本的には積極的治療の可能性を考慮すべき
である。ウイルス学的検査成績や肝線維化の程度、副作用の見通しなどを考慮して、治療
計画を策定する。治療効果は、単に抗ウイルス効果のみならず、生化学的有用性(ALT の
HIV 感染症に伴う慢性合併症 ~
HIV
HIV
感染症の臨床経過
感染症と肝炎~ 101
改善など)も評価すべきである。また、長期予後における治療の意義も勘案すべきである。
HCV-RNA 陽性で、ALT 異常が 3 か月以上持続している場合に治療を考慮する。 2 HIV 感染に関連して
CD4 陽性細胞数の減少が必発であり、十分な CD4 細胞数が保持されていることが望まし
い。HAART 導入前の患者では 350/μℓ以上、HAART 開始後の患者では 200/μℓ以上に安
定していることが望ましい。
3 血友病における C 型慢性肝炎に対する IFN 療法について
(HIV 感染者発症予防・治療に関する研究班 HCV 小委員会、平成 8 年度報告より)
・皮下注射による出血例の報告はなかった。
・全例で血小板減少を認めた。
・CD4 陽性細胞数は、ほとんどの例で減少した。特に、投与前の CD4 陽性細胞数が少な
い例で急激な減少をきたした例があり、厳重な経過観察を要する。
・IFN 投与により HIV-RNA 量の増加は認めなかった。
4 C 型慢性肝炎に対する IFN 療法 ウイルスの遺伝子型・量と、前治療の有無・治療反応性などから、治療計画を立てる。初
回投与の低ウイルス量症例は PEG-IFN 製剤の単独投与(48 週間)、それ以外は PEG-IFN
製剤とリバビリン製剤の併用投与(「1 型高ウイルス量例」は 48 週間、それ以外は 24 週
間)が標準となるが、個々の症例の状態を総合的に判断して治療計画を決定する。治療終了
後 6 か月間、血液中の HCV-RNA が陰性を維持していた場合、ウイルス学的著効(SVR:
sustained virological response)と判定し、ウイルスは排除されたものと判断する。 5 重複感染例に対する抗ウイルス治療の際の注意点
ア リバビリンと ddI などの併用によりミトコンドリア中毒を起こし乳酸アシドーシスを起
こすことがある。事前に HAART 内容を変更するか、併用を避ける必要がある。
イ 一部の逆転写酵素阻害剤や蛋白分解酵素阻害剤には肝毒性の危険があり、肝炎による肝
障害との鑑別が必要となる。
ウ AZT とリバビリンは貧血が増強するため、併用は避ける。
6 当院では、HIV・HCV 重複感染症診療委員会から「HIV・HCV 重複感染症診療ガイドライン」
が作成されている。(2012 年第 5 版)
⑵ HBV 重複感染例への抗ウイルス治療
1)
治療適応の判断 HIV と HBV の重複感染者に対する治療の必要性については、以下の場合がある。
① 抗 HIV 治療が必要で、抗 HBV 治療は不要
② 抗 HIV 治療は不要で、抗 HBV 治療が必要
③ 抗 HIV 治療、抗 HBV 治療ともに必要
同じ薬剤が、抗 HIV 治療、抗 HBV 治療に使用される場合があること、それぞれのウイ
ルスに対して耐性出現の可能性を有していること、などの問題点がある。
2)
ラミブジン(3TC)、エムトリシタビン(FTC)、テノホビル(TDF)には抗 HBV 作用
も認める。B型肝炎の治療薬であるアデホビル(ADV)は TDF と類似構造を有するため、
TDF 交叉耐性発現のリスクもある。
3)
さらに、現在の抗 HBV 治療の第一選択薬であるエンテカビルにも、抗 HIV 活性を有す
ることが明らかとなり、重複患者への単独投与は行わない。
感染症の臨床経過
HIV 感染症と肝炎~
102 HIV 感染症に伴う慢性合併症 ~
4 免疫再構築が起こった症例ではB型肝炎の悪化を認める場合があり、注意が必要である。
5 近年の HBV 急性感染例において、genotype A によるものが増加傾向にある。このタイ
プでは、成人の急性感染にも拘わらず HBV が排除されずに持続感染化する可能性がある。
この場合には、HBV 排除を目的とした抗ウイルス治療の検討も必要である。
6 重複感染者で HIV の治療が不要な場合に、インターフェロン投与が可能であれば、イン
ターフェロン(保険認可後は PEG-IFN)投与を行う。
7 HAART を行う場合には、TDF+3TC あるいは TDF+FTC の 2 剤を組み入れる。
8 厚生労働省「HIV 感染症に合併する各種疾病に関する研究」班により、「HIV・HBV 重複
感染時の診療ガイドライン」が 2009 年春に報告されたので、以下に示す。
HIV 感染症の
治療の必要性
必要
不要
血中 HBV 量
肝炎活動性
(血清 ALT 値)
治療法の選択
TDF+3TC( ま た は TDF+FTC) 両 者 を 含 む HAART を
HBV DNA 高値
行う。
(≧ 5 log copies/ml) HAART のレジメンの変更時には注意が必要(抗 HBV 作
用薬を併用する。)
TDF+3TC
(または TDF+FTC)
両者を含む HAART を行う。
肝予備能によっては両者を含まない HAART も可能。
HBV DNA 低値
(< 5 log copies/ml) TDF+3TC(または TDF+FTC)を含む HAART のレジメ
ンの変更時には注意が必要(抗 HBV 作用薬を併用する。
)
IFN(PegIFN)
B 型肝炎治療 必要
(非 HAART 下では、原則的に B 型肝炎の治療に 3TC、
( 血 清 ALT 値 異 常 が ADV、ETV を使用しない。)
持続)
B 型肝炎による肝不全の危険性が高い場合は、TDF+3TC
(または TDF+FTC)を含む HAART の開始も検討する。
B 型肝炎治療 不要
(血清 ALT 値正常)
経過観察
(TDF;tenofovir,3TC;lamivudine,FTC;emtricitabine,ADV;adefovir,ETV;
entecavir)
(消化器内科 中馬 誠 2013.07)
HIV 感染症に伴う慢性合併症 ~
HIV
HIV
感染症の臨床経過
感染症と肝炎~ 103
8-2
HIV 感染症と腎障害
HIV 感染症に伴う腎障害としては、HIV 関連腎症(HIV associated nephropathy:HIVAN)、
HIV 関連免疫複合体型腎炎(HIV -associated immune complex renal disease:HIV-ICD)や抗
HIV 療法(antiretrovairal therapy=ART)による薬剤性腎障害、糖尿病、高血圧など HIV 治療
に伴う代謝異常に起因した腎障害などがあげられる。近年 HIV 感染患者の高齢化により透析導
入例も認めるようになり、透析についても概説する。
1
HIVAN
HIV 遺伝子が腎組織内に発現して発症するネフローゼ症候群で、経過は急速であり、数ヶ月
以内に末期腎不全に至る。病理所見は巣状分節性糸球体硬化症を示す。米国における HIVAN の
96%以上黒人に発症することから遺伝的素因が強く関与すると考えられている 1)。本邦での最近
の報告例も黒人であった 2)。治療は ART、ACE 阻害薬、アンギオテンシン受容体拮抗薬(ARB)、
ステロイドホルモンが用いられる。HIVAN と腎生検で診断がついた全ての患者は CD4 数にか
かわらず ART 治療を開始することが推奨されている 3)。
2
HIV-ICD
HIV 特異的な抗原により免疫複合体が形成されて基底膜やメサンギウムに沈着し、糸球体腎
炎が発症することがある。
病型としては膜性腎症、膜性増殖性糸球体腎炎、IgA 腎症、ループス様腎炎など多様な形態を
認める。HIV 関連腎炎も HIV 非関連腎炎と似たような経過をたどることが報告されている 4)。
HIV 感染患者は B 型肝炎ウイルス、C 型肝炎ウイルスの合併が多い。そのため肝炎ウイルスに
よる腎炎、腎障害を来すことがあるが、治療は IFN などのウイルスに対する治療が中心である
がステロイド治療を行う場合がある。
HIV 患者は腎機能が正常でも腎炎を来すことがあるため、定期的な検尿が必要である。
3
ART に伴う腎障害
ART によって発生する腎障害は、NRTI(核酸系逆転写阻害剤)と PI(プロテアーゼ阻害
剤)の投与によるものが多い。NRTI のなかでも TDF による腎尿細管障害がよく検討されて
いる。Nelson らは TDF による重篤な腎障害の発現率は 0.5% と報告しているが 5)、本邦からの
Nishijima らの報告では、ベースラインから推定糸球体濾過量(eGFR)が 25%を腎機能低下と
定義した場合に、19.6%の症例が腎機能障害を発症した 6)。TDF による腎毒性は近位尿細管障害、
リン再吸収障害、クレアチニンクリアランスの低下、蛋白尿などが特徴とされている。TDF の
すみやかな投与中止により腎障害が改善する可逆性変化であることが多いが、Yoshino らによる
と TDF の投与期間が長いと回復率が悪い傾向が示された 7)。PI である IDV は尿細管で結晶化
することで、腎結石が出現しやすい。結晶により亜急性もしくは慢性の尿再間質性腎炎を引き
起こすことがある。腎結石を予防するため少なくとも 1 日 1.5L 以上の飲水が推奨されている 8)。
感染症の臨床経過
HIV 感染症と腎障害~
104 HIV 感染症に伴う慢性合併症 ~
また、PI である ATV も腎結石を生じやすいことが知られており、尿路結石の症状の出現に注
意を要する。
尿細管障害を早期に発見するためには、尿蛋白、潜血などの一般検尿だけでなく、尿細管障害
マーカーである N- アセチル -D- グルコサミン= NAG(NAG/Cr)、尿中β2 ミクログロブリン
=β2MG(β2MG/Cr)を定期的にフォローすることを推奨する。
腎障害を早期発見するための検査項目
(通常採血に加えて)
< 3-6 ヶ月に 1 度>
尿沈渣
尿蛋白(定量)
尿中クレアチニン
尿中 NAG(NAG/Cr)
尿中β2MG(β2MG/Cr)
4
慢性腎臓病
HIV 感染者の長期生存に伴って、慢性腎臓病(CKD)を合併する患者が増加している。柳澤
らの報告では、HIV 患者において推定 GFR60㎖ /min /1.73㎡未満(CKD ステージ 3 以上)は 9.4%
認められている。そのうち 55.4%が高血圧を、27.0% が糖尿病を合併していた 9)。当施設での
HIV 患者における CKD ステージ 3 以上の割合は 7.9% であった 10)。CKD 患者のマネージメント
については、日本腎臓学会より CKD 診療ガイド 2012 が発表されており、参照されることが望
ましい 11)。関谷らは、透析導入となった HIV 感染者 10 例について TDF 内服歴は 1 例もなく、
直接的な腎毒性よりも、ART により誘発される二次的な糖尿病、高脂血症などの代謝異常と高
血圧が、CKD 発症と悪化に関与したと推察している 12)。ART による腎毒性も注意が必要であ
るが、代謝異常と高血圧に対する管理の重要性を示唆する報告である。
CKD 患者を腎臓専門医に紹介するタイミングは下記を参照。
腎臓専門医に紹介するタイミング
1 高度の蛋白尿(尿蛋白 /Cr 比 0.5g/gCr 以上、または 2+ 以上)
2 蛋白尿と血尿がともに陽性(1+ 以上)
3 GFR60㎖ /min /1.73㎡未満(CKD ステージ 3 以上)
HIV 感染症に伴う慢性合併症 ~ HIV 感染症と腎障害~
感染症の臨床経過 105
CKD 治療の分担に関しては、ひとつの例を示す。
CKD 治療の分担
HIV 感染症担当医が中心
食事指導:減塩(6g/ 日以内)
血圧管理
血糖管理:糖尿病専門医との連携がより重要
脂質管理
貧血管理
腎排泄型薬剤の投与量・投与間隔の調整
腎臓専門医が中心
カリウム・アシドーシス対策
尿毒症対策
腎代替療法の選択およびマネージメント
(CKD ステージが進むに連れて、腎臓専門医のフォローアッ
プ間隔を徐々に短くする必要あり)
5
透 析
CKD 患者は CKD に対する集学的治療を行なっても、腎機能が増悪し、末期腎不全となり腎
代替療法(血液透析、腹膜透析、腎臓移植)が必要となる場合があり、本邦では透析患者数は毎
年増加し、2012 年末には 309,946 人に達した 13)。HIV 感染者でも例外ではなく、透析導入に至
ることがある。増加する HIV 感染透析患者に対し、HIV 感染患者透析医療ガイドラインが発表
された 14)。北海道では北海道 HIV 透析ネットワークを立ち上げ、HIV 感染透析患者を受け入れ
る体制を整え始めている。
http://www.hok-hiv.com/for-medic/dialysis-network/
感染症の臨床経過
HIV 感染症と腎障害~
106 HIV 感染症に伴う慢性合併症 ~
■参考文献■
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infection in adults:the first 4 years.AIDS,21;1273-81,2007
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誌 55(3)417,2013
11)日本腎臓学会編 CKD 診療ガイド 2012 東京医学社 2012
12)関谷ら 末期腎不全に至った HIV 患者 10 症例の臨床的検討.透析会誌 43(7)581-586,
2010
13)日本透析医学会 図説 わが国の慢性透析療法の現況 2012 年 12 月 31 日現在 日本透析医
学会 2013
14)日本透析医会・日本透析医学会 HIV 感染患者透析医療ガイドライン 2010
(内科Ⅱ 腎臓グループ 柴崎 跡也 2013.07)
HIV 感染症に伴う慢性合併症 ~ HIV 感染症と腎障害~
感染症の臨床経過 107
8-3
HIV 感染症と
脂質代謝異常 / 心血管障害
HIV 感染者における脂質異常は血清脂質の異常(高トリグリセライド血症、高 LDL コレステ
ロール血症、低 HDL コレステロール血症)および体脂肪分布の変化(脂肪萎縮:lipoatrophy
と内臓脂肪蓄積:lipohypertrophy が主要な病態である。HIV 感染者 17,852 名(うち 81% が抗
HIV 薬にて治療中)のうち、22.2% に高コレステロール血症(>240㎎ /㎗)、25.7% に低 HDL コ
レステロール血症(<35㎎ /㎗)
、33.8% に高トリグリセライド血症(>200㎎ /㎗)、25.4% に体
脂肪分布の変化(リポジストロフィー)を認めている。さらにこれらの脂質異常の割合は、抗
HIV 薬による治療期間が長くなるにつれて増加し、2000/2001 年の調査ではメタボリック症候群
の比率が 19.4% であったのに対し、2006/2007 年では 41.6% に増加している。
HIV 感染者における心血管障害発生率は非感染者と比べて高いと言われており、米国におけ
るコホート研究では、HIV 感染者の心筋梗塞発生率は 11.13 件 /1,000 人 / 年と非感染者(6.98 件
/1,000 人 / 年)に比べて有意に高かった。また、プロテアーゼ阻害薬(protease inhibitor:PI)
に対する暴露 1 年あたりの心筋梗塞の相対発生率は 1.16(95% CI 1.10 ~ 1.23)であったのに対し、
非核酸系逆転写酵素阻害薬(non-nucleoside reverse inhibitor:NNRTI)に対する暴露 1 年あた
りの相対発生率は 1.05(95% CI 0.98 ~ 1.13)であり、長期の抗 HIV 療法、特にプロテアーゼ阻
害薬の使用は冠動脈疾患のリスクになるものと推察される。特にロピナビル / リトナビル(LPV/
r)による心筋梗塞に対する相対危険率は複数の大規模解析により、1.13/ 年(95% CI 1.05 ~ 1.21)、
1.38/ 年(95% CI 1.10 ~ 1.74)と特に心筋梗塞のリスクが高い報告されている。また、SMART
study による解析結果では、治療継続群と治療中断・再開群との比較において、治療中断・再開
群で冠動脈疾患のリスクが上昇する(オッズ比 1.6)という結果があり、抗 HIV 療法の中断も危
険因子の一つとされている。
2
脂質異常症 / 心血管障害の病態・成因
HIV 感染者における脂質代謝の変化は① HIV 感染② ART(antiretroviral therapy) の副作用
③体脂肪分布の変化④アディポカインの異常④宿主の遺伝的要因など複数の要因によって引き起
こされる。
ART の薬剤としては、アタザナビル(atazanavir:ATV)以外の PI、核酸系逆転写酵素阻害
薬(nucleoside reverse transcriptase inhibitor:NRTI)、NNRTI によって引き起こされ、イン
テグラーゼ阻害薬は脂質への影響が少ない。抗 HIV 薬使用開始後 2 ~ 6 か月以内に ART によ
る血清脂質の異常が認められる。NRTI のジダノシン(didanosine:d4T)、AZT やアバカビル
(abacavir:ABC)、エムトリシタビン(emtricitabine:FTC)、NNRTI のエファビレンツ(efavirenz:
EFV)も脂質代謝に影響を及ぼす。
HIV 感染者における心血管障害は① HIV 感染② ART による脂質異常症③ ABC による心筋梗
塞④喫煙などの要因によって引き起こされる。HIV 感染者の喫煙率は米国において米国全体の
感染症の臨床経過
HIV 感染症と脂質代謝異常 / 心血管障害~
108 HIV 感染症に伴う慢性合併症 ~
喫煙率(19.8%)に対して、2 ~ 3 倍高く、日本人男性を対象とした報告でも 52% と日本人男性
全体(36.8%)に比して高い。
3
脂質異常 / 心血管障害への対処法
LDL コレステロールの上昇、HDL コレステロールの低下は心血管系疾患(cardiovascular
disease:CVD)発症のリスク因子である。また、報告により異なるが高トリグリセライド血症
も CVD と関連していると考えられる。
⑴ 生活習慣の是正
禁煙、食事・運動療法による脂質異常症、高血圧、糖尿病といった生活習慣病のコントロー
ルを行う。
⑵ ART 薬の変更
PI の RTV と NRTI の d4T が最も高 LDL コレステロール血症、トリグリセライドを上昇さ
せると言われており、薬剤変更も検討する。
⑶ 脂質異常症治療薬
日本には現在 ART 施行中の HIV 感染者に対する脂質代謝のガイドラインは存在しないた
め、日本動脈硬化学会の「動脈硬化性疾患予防ガイドライン 2012 年版」を基準として治療を
行う。なお、2007 年度版から 2012 年版改定となり、non-HDL コレステロール値(総コレステロー
ル -HDL コレステロール)に注目され、脂質異常症の管理数値に追加された。non-HDL コレ
ステロールは従来の LDL コレステロール管理目標値に 30㎎ /㎗を加えた数値が目標値となる。
脂質異常症治療薬としては、スタチン製剤が使用されることが多いが、ART 施行中の HIV
感染者においては抗 HIV 薬、特に PI や EFV との相互作用に留意する必要がある。シンバス
タチン(リポバス ®)は併用禁忌、アトルバスタチン(リピトール ®)、ロスバスタチン(ク
レストール ®)は併用注意、プラバスタチン(メバロチン ®)、フルバスタチン(ローコール
®
)は比較的安全とされている。プラバスタチン(メバロチン ®)はダルナビル(darunavir:
DRV)と相互作用があるため、DRV と併用する時のみ最少量から開始する必要がある。コレ
ステロール吸収阻害薬であるエゼチミブ(ゼチーア ®)も効果的である。
トリグリセライドに関しては、フィブラート製剤が使用される。ベザフィブラート(ベザトー
ル®
)は、スタチン製剤と相互作用があるため併用禁忌になっており注意が必要であるが、フェ
ノフィブラート(リピディル ®)は併用可能である。
HIV 感染症に伴う慢性合併症 ~ HIV 感染症と脂質代謝異常
HIV 感染症の臨床経過
/ 心血管障害~ 109
■参考文献■
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(血液内科 竹村 龍 2013.07)
感染症の臨床経過
HIV 感染症と脂質代謝異常 / 心血管障害~
110 HIV 感染症に伴う慢性合併症 ~
8-4
HIV 感染症と骨代謝異常
抗 HIV 療法の進歩により HIV 感染者の余命が改善され、長期合併症のひとつとして、骨粗鬆
症をはじめとする骨代謝異常も問題となっている。HIV 感染者では、HIV 非感染者に比べて、
骨粗鬆症リスクが 3.7 倍高いと報告されている。骨密度が低下した結果、HIV 感染者の骨折の有
病率は、非感染者に比べて 30 ~ 70% 高い。通常、骨粗鬆症は 40 歳代の男性ではほとんどみら
れないが、米国の NHANES(National Health and Nutrition Examination Survey)によると、
40 歳代男性の HIV 感染者の骨密度は、60 歳代男性の非感染者の骨密度に相当するとされている。
一般に、骨粗鬆症性骨折はその後の更なる骨折リスクの上昇や生命予後への悪影響が知られてお
り、今後、HIV 感染者の高齢化に伴い、骨粗鬆症に注意し、その骨折を予防することは大変重
要である。
1
HIV 感染に関連する骨代謝異常
【阻血性骨壊死】
骨の内部循環が不十分となり壊死に陥る疾患で、HIV 感染者の阻血性骨壊死は 1990 年に初
めて報告された。HIV 感染者における大腿骨頭壊死の有病率は高く、4.4% という報告もある。
【骨軟化症】
ビタミン D 欠乏により血中のカルシウム・リン積が低下し、骨の石灰化が障害される。従
来、HIV 感染による骨代謝異常はビタミン D 欠乏と関連づけられてきた。2008 年のロンドン
の HIV 感染者コホートにおける横断研究では、HIV 感染者の 35% が重度のビタミン D 欠乏
症であり、ビタミン D が適正レベルであったのはわずか 9% であった。しかし、近年、健常
人においてもビタミン D 欠乏が世界的に問題となっており、ビタミン D 欠乏が HIV 感染者に
特徴的なわけではないと報告されている。現在では、ビタミン D 欠乏は HIV 感染における骨
代謝異常の主たる病因ではないと考えられている。
【骨減少症・骨粗鬆症】
骨の正常な代謝はおもに骨芽細胞と破骨細胞により行われる。破骨細胞による骨吸収と骨芽
細胞による骨形成のバランスが崩れて、骨吸収が優位になると骨密度低下が生じる。HIV 感
染者の骨密度低下は複数の要因が関与していると考えられ、HIV 自体による影響や ART によ
る影響も指摘されている。
生活習慣や合併症の危険因子としては、高齢、BMI 低値、性腺機能低下、喫煙、飲酒、脂
肪萎縮症の発症、女性の肝炎ウイルス合併感染などが指摘されている。
HIV による直接的な影響としては、HIV のウイルス蛋白が破骨細胞を活性化し、骨芽細胞
のアポトーシスを増加させることが知られている。また、慢性炎症が破骨細胞を促進し、骨吸
収を促すとされている。HIV 長期感染や CD4 低値などが危険因子として示されている。
ART による影響は、使用される薬剤に関係なく、ART 開始 48 ~ 96 週の間に骨密度が 2 ~
6% 低下することが報告されている。この変化は閉経直後女性の 2 年間の変化に相当する。そ
の後は、骨密度はあまり変化しないことが示されている。個々の薬剤としては、当初はプロテ
アーゼ阻害薬使用との関連が多く指摘されていたが、近年の報告では、それを否定するものも
あり、結論が出ていない。TDF に関しては、骨密度低下との関連が指摘されており、2012 年
HIV 感染症に伴う慢性合併症 ~ HIV 感染症と骨代謝異常~
HIV 感染症の臨床経過 111
の International Antiviral Society-USA panel では閉経後女性の ART 選択においては、TDF
使用を避けるよう考慮することも言及されている。
2
診 断
骨代謝異常の有無について、積極的にスクリーニングを行う必要がある。初診時に、骨密度
を測定すると同時に胸腰椎 X 線により既存骨折の有無を判断する。また、生化学検査とともに、
骨代謝マーカー(骨形成マーカー:BAP、PINP など、骨吸収マーカー:NTX、TRACP-5b な
ど)を測定して、代謝動態を評価することが望まれる。特に、ART 開始後早期における慎重な
モニタリングが必要である。骨密度の測定には二重エネルギー X 線吸収法(dual-energy X-ray
absorptiometry:DEXA)が一般的であり、HIV 感染者の場合は、50 歳以上の男性および閉経
後女性に対しては DEXA を実施すべきとする専門家もいる。
3
治療と管理
HIV 感染に伴う骨粗鬆症は骨吸収の亢進が病態の中心であることから、治療においては骨吸
収抑制薬が第一選択となる。一般の骨粗鬆症治療と同様に、骨吸収抑制薬の第一選択はビスフォ
スフォネート製剤である。ビスフォスフォネート製剤 Alendronate +カルシウム / ビタミン D
を HIV 感染者に投与したところ、カルシウム / ビタミン D のみを投与した群と比べて、24 週後
の骨吸収マーカー CTX は有意に低下し、骨密度が改善したことが示されている。また、危険因
子とされる BMI 低値や喫煙、飲酒、ART 薬剤などはコントロール可能な因子であり、適度な運
動も推奨される。今後、内分泌代謝科や整形外科と連携し、骨にも留意して HIV 感染症を治療・
管理していくことが望まれる。
■参考文献■
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(血液内科 吉田 美穂 2013.07)
感染症の臨床経過
HIV 感染症と骨代謝異常~
112 HIV 感染症に伴う慢性合併症 ~
9
HIV 感染者の皮膚症状
HIV 感染者では、様々な日和見感染症、薬疹、悪性腫瘍などの多彩な皮膚症状が高頻度に出
現するため、HIV 感染者に出現しやすい皮膚病変を理解することはとても大切である。以下に、
HIV 感染者の皮膚症状を 1.HIV 初感染時の皮膚症状、2.皮膚・粘膜感染症(性感染症を除く)、
3.性感染症、4.薬疹、5.悪性腫瘍、6.その他の皮膚病変に分け概説する。
1
HIV 初感染時の皮膚症状
HIV 感染が成立した初期(初感染後 2 ~ 4 週)に、発熱、咽頭炎、リンパ節腫脹、関節痛、
下痢などとともに、紅斑丘疹性の発疹が、全身、左右対称性に約 75%の患者に生じる。口内炎
などの粘膜疹を生じることもある。これらの皮疹は、他の急性ウイルス感染症と視診上は鑑別困
難である。しかも、通常、急性症状発症から数週後に抗 HIV 抗体が陽転するため、皮疹出現時
には抗 HIV 抗体が陰性であることが多い。
診断:皮疹出現時には、抗 HIV 抗体が陰性であることが多いため、診断は困難であるが、皮
疹軽快後に、抗 HIV 抗体を再度チェックするとよい。
治療:ステロイド剤外用。通常、2 ~ 3 週間以内に皮疹は自然消退する。
2
皮膚・粘膜感染症(性感染症を除く)
HIV に感染すると、細胞性免疫が低下し、免疫不全が徐々に進行していくため、種々の感染
症を生じる。
⑴ 口唇ヘルペス
口唇ヘルペスは、主に HSV-1 による感染症で、口唇や口囲に、紅斑や小水疱を形成する。通常、
数日の経過で、徐々に水疱は痂皮化していくが、HIV 感染者のように細胞免疫能が低下すると、
水疱の痂皮化が起きず、深い潰瘍を形成して激痛を伴いやすい。
診断:多くの場合、既往歴と臨床所見から診断は可能であるが、他のウイルス疾患との鑑別
が困難なこともある。そのような場合、水疱内容液、潰瘍底ぬぐい液をとり、Tzank
test を行い、巨細胞や空胞細胞を確認する。また、HSV-1 および HSV-2、VZV は特
異抗原検査法(FA 法:SRL で施行)による検出も可能である。本法は極めて特異度
が高く、しかも簡便である。この他、血清抗体価も参考にする。
治療:バルトレックス®1,000㎎ 2×内服(5 日間)。アラセナ A®軟膏外用。3 ~ 5 日間で効
果を評価し、治癒傾向があれば、完全に治癒するまで継続。治癒傾向がない場合はバ
ルトレックス®3000㎎ 3×に増量または、アシクロビル持続静注 1 ~ 2㎎ /㎏ / 時間
投与して、5 ~ 7 日間治療する。さらに再評価して、治癒傾向がない場合は、TK(チ
ミジンキナーゼ)活性を欠損する遺伝子変異である ACV 耐性の TK 欠損株(ACV
耐性株の 90% を占める)を考慮して、ホスカビル®(PFA)の使用を考慮する。再発
を繰り返す症例には、バルトレックス®の予防投与 500 ~ 1000㎎ 1 ~ 2×内服(毎日)
が推奨される。
HIV 感染者の皮膚症状
感染症の臨床経過 113
⑵ 水痘・帯状疱疹
水痘・帯状疱疹ウイルスに HIV 感染者が初感染すると、重篤な水痘となる。その後、水痘・
帯状疱疹ウイルスが再活性化すると帯状疱疹となるが、健常人で発症した場合と比べ、全身
皮膚への汎発化など、重症化しやすい。また、潰瘍化しやすく、疱疹後神経痛を残しやすい。
HIV 感染症の帯状疱疹は CD4 陽性リンパ球が保たれていても発症するが、300/㎣以下になる
と発症しやすくなるとされる。
診断:臨床所見から診断は容易である。水痘では、全身にかゆみを伴う紅斑、小水疱、痂皮
を生じ、新旧混在した皮疹を認める。帯状疱疹は、神経分節に沿って、通常は片側性
に、浮腫性紅斑と集簇した小水疱、潰瘍を認め、疼痛を伴う。汎発化した場合、水痘
に似る。
治療:バルトレックス®3,000㎎ 3×を 7 日間内服。あるいは、ゾビラックス ®250㎎を 1 日 3 回、
7 日間点滴。外用は、水痘ではカチリ®、帯状疱疹ではバラマイシン軟膏 ®を用いる。
治癒が遷延する場合や重篤化した場合は 1 週間を超えても痂皮化するまで治療を続け
る。2 回以上の再発などアシクロビルに耐性が疑われる場合は、ホスカビル®40㎎ /㎏
1日 3 回点滴静注または 60㎎ /㎏ 1 日 2 回の使用を考慮する。また同様の作用機序
でビダラビンやシドフォビルが効果的である場合もある。
⑶ サイトメガロウイルス潰瘍
頻度は少ないが、難治性肛門周囲潰瘍のときに疑う。
診断:皮膚生検にて、封入体と巨細胞を確認し、抗サイトメガロウイルス抗体での染色性を
確認する。また、採血で C7HRP 陽性を確認する。
治療:デノシン ®点滴。
⑷ 伝染性軟属腫
伝染性軟属腫は、ポックスウイルスによる感染症で、皮疹は半米粒大までの淡褐色ないし
常色の丘疹で、典型例では中心臍窩を認める。通常は健康な乳幼児の体幹に好発するが、HIV
感染者(特に CD4+細胞が 100 個以下の場合)では、年齢を問わず発症し、顔面や陰部など
体幹以外にも好発する。また、重症化して、ときに皮疹が数百個に及ぶこともあり、治療に難
渋することが多い。
診断:通常、視診にて容易に診断でき、トラコーマ摂子で圧すると、白色の粥状物が排出さ
れるのが特徴である。クリプトコッカス症など他疾患との鑑別が困難な場合には皮膚
生検を施行する。
治療:トラコーマ摂子で摘出する。健康な小児では自然治癒を期待して、経過観察すること
もあるが、細胞性免疫低下を伴う場合、自然治癒はほとんど期待できず、放置するこ
とで多発することが予想されるため、積極的に摘出したほうがよい。液体窒素による
凍結療法を行うこともある。
⑸ 尋常性疣贅
尋常性疣贅は、ヒトパピローマウイルス感染によって生じ、HIV 感染者では多発しやすく、
治療に難渋することが多い。皮疹は、手足に好発する、灰色ないし褐色で、表面が乳頭腫状の
丘疹ないし結節を特徴とする。
診断:視診により、
診断は容易である。メスで削ると易出血性であることも診断の一助となる。
感染症の臨床経過
114 HIV 感染者の皮膚症状
治療:液体窒素による凍結療法を行い、病変が厚い部分はメスで削る。ヨクイニンエキスの
内服を併用することもある。
⑹ 口腔毛状白板症
口腔毛様白板症は、EB ウイルス関連の粘膜病変で、舌側縁の毛状の白色斑として観察される。
通常、無症候性であるが、軽度の疼痛や灼熱感を生じることがある。HIV 感染者に特異性が
高い症状であり、また、HIV 感染の比較的早期から出現するため、見逃してはならない疾患
である。
診断:真菌検査を行い、口腔内カンジダ症が除外されれば、臨床所見から診断は容易。
治療:通常、無症候性で、自然消退もあるため、無治療で経過を見ることが多いが、痛みな
どの自覚症状が強い場合や整容的に問題となる場合には、液体窒素を用いた凍結療法
などを考慮する。海外では、アシクロビルなどの抗ヘルペス薬も使用されている。
⑺ 口腔内カンジダ症
免疫不全の進行した患者で頻発し、口腔内に白苔を認める。また、食道カンジダ症を合併す
ることも多く、口腔内カンジダ症のある HIV 患者が嚥下困難や嚥下痛を訴えた場合、食道カ
ンジダ症の存在が強く疑われる。
診断:白苔の直接鏡検(KOH 法)でカンジダの胞子や仮性菌糸を証明する。
治療:フロリードゲル ®外用、ファンギソンシロップ ®含嗽、イトラコナゾール(イトリゾー
ル®
)内服液の口腔内塗布やうがいで治癒することが多い。難治例ではフルコナゾー
ル(ジフルカン ®)やイトラコナゾールの短期内服も考慮する。ただし HIV 患者に
おいては、イトラコナゾールは HAART に用いる薬剤と併用注意が多いので、実際
の現場ではフルコナゾールが選択されることが多い。うがい薬は通常は含嗽後吐き出
させるが、食道カンジダ症を併発している際には、外用ないし含嗽後に嚥下させる。
⑻ 白癬症
白癬症は HIV 感染者ではかなり高率に認められ、難治性のことが多い。
診断:直接鏡検法での菌要素の確認が必須である。菌要素を確認できない場合は、原則とし
て抗真菌剤は用いない。
治療:抗真菌剤外用。爪白癬や角質肥厚型の足白癬では抗真菌剤内服(ラミシール ®ないし
イトリゾール ®)を行う。
⑼ その他の感染症
毛嚢炎、せつ、膿痂疹、蜂窩織炎、結核、非定型抗酸菌症などの細菌感染症、真菌では、ク
リプトコッカス症、ヒストプラズマ症、コクスジオイド症などが皮膚に出現することがある。
HIV 感染者の皮膚症状
感染症の臨床経過 115
3
薬 疹
HIV 感染者は免疫能の異常のため、種々の薬剤による薬疹を生じやすい。なかでも最も多い
のはニューモシスチス肺炎の治療に用いられる ST 合剤(バクタなど)で、ほぼ半数に中毒疹を
起こす。多くは紅斑丘疹型薬疹であるが、重症型の多形紅斑型薬疹や中毒性表皮壊死症(TEN)
の報告もある。また、抗 HIV 薬、特に、非核酸系逆転写酵素阻害剤やプロテアーゼ阻害剤など
は薬疹の出現頻度が比較的高い。また、核酸系逆転写酵素阻害剤のアバカビルの場合は過敏症と
して出現することがある。HLA-B*5701 を保有していると優位にアバカビルの過敏症の発症が
多いと報告されている。HLA-B*5701 は日本人には極めて少ないが、患者が外国人でアバカビ
ルの使用を検討する場合には事前に HLA-B*5701 の遺伝子検査を行い適用の判断をおこなう必
要がある。
治療:被疑薬の中止とステロイド剤外用。重症例では、ステロイド内服を併用。
4
悪性腫瘍
⑴ カポジ肉腫
全身のあらゆる部位に発生し、多中心性に発生するが、初発は下肢に多く認められる。初め
は、数㎜程度の紫紅色から黒褐色の斑が生じ、次第に隆起、増大して腫瘤を形成する。皮膚以
外にも消化管、リンパ節、肺にも発生する。発症には HHV-8 が関与する。
診断:皮膚生検により確定診断する。
治療:症状が軽度である場合、抗 HIV 療法で経過を見る。症状が強い場合や肺病変などの
全身病変を認める場合には、放射線療法や化学療法を考慮する。
⑵ 非 Hodgkin リンパ腫
非 Hodgkin リンパ腫のうち、B 細胞由来のことが多く、節外浸潤を高率に認め、中枢浸潤
も多いとされる。
治療:化学療法、放射線療法を行うが、AIDS による免疫力低下を伴っており、治療に苦慮
することが多い。
5
その他の皮膚病変
⑴ 脂漏性皮膚炎、乾癬
HIV 感染者では、脂漏性皮膚炎や乾癬が重症化しやすく、治療に抵抗することが多い。
脂漏性皮膚炎については、HIV 感染者では皮膚常在菌であるマラセチアの増殖による発症
が知られており、非 HIV 感染者の脂漏性皮膚炎の有病率が 3 ~ 5% であるのに対して、HIV
患者では 30 ~ 83% と高率に認められる。
治療:脂漏性皮膚炎の治療についてはステロイド外用薬およびケトコナゾールクリーム(ニゾラー
ルクリーム ®)の外用が主流である。HIV 感染者の脂漏性皮膚炎はマラセチアの過度な増
殖が発症に関与していることより、非 HIV 感染者に比べて抗真菌薬が奏功しやすい。
乾癬ではステロイド外用薬に加えてビタミン D3 製剤外用が有効。成書には、紫外線
療法は in vitro の実験で HIV 複製を促すことが確認されているため、慎重に考慮す
るよう記載がある。
感染症の臨床経過
116 HIV 感染者の皮膚症状
⑵ 好酸球性毛包炎
好酸球性毛包炎は、従来比較的稀であったが、HIV 患者に多く見られることが報告されて
いる。通常の好酸球性毛包炎(eosinophilic pustular folliculitis:EPF)とは臨床像が異なるため、
HIV-associated eosinophilic folliculitis:HIV-AEF と呼ばれる。個疹は、直径数㎜大のかゆみ
の強い毛孔一致性丘疹で、体幹、上腕、顔面、頚部に多発、皮疹の融合傾向は認めない。
診断:皮膚生検で、毛包への好酸球の浸潤を証明する。HIV-AEF の病理組織像は毛包への
CD8 陽性リンパ球と好酸球の浸潤である。通常の EPF に見られる毛包内の好酸球膿
瘍や脂腺の崩壊所見は必ずしも必須ではない。
治療:インドメタシン内服、・外用、ステロイド外用など。
⑶ その他
HIV 患者では、そう痒性丘疹、結節性痒疹、アトピー性皮膚炎様皮疹、光線過敏性皮膚炎、
晩発性皮膚ポルフィリン症、環状肉芽腫、毛孔性紅色粃糠疹、アフタ性口内炎、血管炎、持久
性隆起性紅斑、血小板減少性紫斑病、脱毛症、色素沈着、露光部に見られる尋常性白斑など、
多彩な皮膚病変の報告があるが、HIV 感染との関連の詳細は不明である。
(皮膚科 浜出 洋平 2013.07)
HIV 感染者の皮膚症状
感染症の臨床経過 117
10 妊婦および新生児の HIV
1
わが国における HIV 感染妊婦の現状
わが国における平成 23 年末までの HIV 感染妊娠数は、平成 22 年の報告から 49 例増加し 777
例であった。報告された地域に大きな変動はないが、日本人妊婦は増加傾向で約半数を占めるよ
うになった。同様に日本人同士のカップルが増加傾向にある。HIV 感染妊娠の報告数は平成 21
年 28 例、平成 22 年 36 例、平成 23 年 30 例と近年は大きな変動はないが、更なる減少傾向は見
られていない。母子感染予防対策マニュアルの浸透により、HIV 感染の早期診断と治療および
選択的帝王切開(帝切)分娩が広く行われるようになり、経腟分娩は明らかに減少傾向にある。
HIV 母子感染には妊婦の HIV 感染の診断の遅れに伴う ART 開始の遅れと経腟分娩が最も関与
すると考えられるが、これらの予防対策が講じられない HIV 感染妊婦は毎年数例存在する。こ
れらの集団における母子感染率から推定すると 2 ~ 3 年に 1 例程度散発的に母子感染が発生する
ことが推測された。したがって、HAART が主流になった平成 12 年以降は平成 14 年、平成 17 年、
平成 18 年、平成 20 年、平成 21 年に各 1 例、平成 22 年は 2 例の母子感染が発生したが予測範囲
内と考えられる。抗ウイルス薬の投与率は選択的帝切分娩で 89.5%、緊急帝切分娩で 92.3%と高
率であったが 100%ではない。さらに経腟分娩では 36.4%と低率であったことから、妊婦におけ
る HIV 感染の早期診断が母子感染予防の第一歩であることが強調される。さらに診療体制や妊
婦の社会的背景などを十分考慮し、適切なインフォームド・コンセントによる分娩様式の決定が
重要である。しかし、選択的帝切分娩と経腟分娩の母子感染率を比較するランダム比較試験が存
在しないことから、現時点では選択的帝切分娩を推奨することが基本である。
2
現時点での日本における HIV 母児感染予防の原則
わが国においては「表 1」で示した母児感染予防対策を完全に施行すれば、HIV 母子感染をほ
ぼ防止できる状態である。1997 年以降「表 1」の全ての感染予防対策が、確実に行われた症例か
ら母児感染が成立したという報告はない。
表 1 HIV 母子感染予防対策
1.HIV 検査(妊娠初期)
2.母児に対する抗ウイルス療法
(ART:antiretroviral therapy)
妊娠中の ART
分娩時の AZT の投与
児への AZT の投与
3.帝王切開による分娩
4.断乳(人工栄養)
HIV 感染症の臨床経過
HIV
118 妊婦および新生児の
3
妊婦 HIV 検査
⑴ 妊婦 HIV 検査の意義
現在では治療法の進歩により、母児感染は適切な感染防御対策を講じることで、感染率を
1% 以下にまで抑制する事が可能となっている。従って HIV 母児感染予防を確実に行うために
は、まず妊婦の HIV 検査により感染妊婦を確実に見つけ出す事が必要となる。
⑵ 妊婦 HIV 検査前の説明
治療効果を高めるとともに感染の拡大を抑制するためには、医療従事者は患者らに対し、十
分な説明を行い理解を得る様に努めなければならない。とくに、HIV スクリーニング検査では、
一定の割合で偽陽性が生じる事を踏まえ、確認検査の結果が出ない段階での説明方法について
十分に工夫するとともに、検査前および検査後のカウンセリングを十分行うこと、プライバシー
の保護に十分配慮する事が重要である。
<妊婦 HIV 検査の説明に関する要点>
a.検査の流れ
「一次検査(スクリーニング検査)」と「二次検査(確認検査)」があり、一次検査陽性で
も二次検査が終了するまでは結果が確定しないことを十分理解してもらう。
b.結果の意味
一次検査 → 陰性:おそらく感染していない
→ 陽性:確認検査が必要 → 二次検査 → 陰性:感染していない
→ 陽性:感染している
(注)検査実施前 2 か月までの結果を保証。
それ以降、現在までに感染の可能性のある行為があった場合は、2 か月後に再検査が
必要
⑶ 検査結果の説明
HIV 一次検査の結果は、検査を受けた全員にもれなく通知する事。
a.一次検査の結果が陰性の場合
恐らく HIV に感染していない事、および検査前 2 か月間に感染した場合は、感染初期の
ため今回の検査では陰性になる可能性があること(window period)を説明し、この間に感
染するリスクがあった場合には、2 か月後の再検査を勧める。
b. 一次検査の結果が陽性の場合
妊婦の場合一次検査の陽性的中率(一次検査が陽性であった場合、真に感染している確率)
は極めて低く、一次検査陽性者のうちの、真の感染者はほんの数 % にすぎないことを伝え、
「確認検査の結果が出るまでは感染しているかどうか分からない」が「確認検査で感染して
いなかったことが分かる事がほとんどである」ことを明確に伝えて置く。
c.二次検査(確認検査)で陽性の場合
HIV 感染診断のための検査法の基準は 2008 年に日本エイズ学会が示した診断法のガイド
ラインである。ELISA 法や PA 法によるスクリーニング検査とウェスタンブロット法およ
び RT-PCR 法の同時測定による確認検査の組み合わせにより確定診断が行われる。
妊婦および新生児の
HIV 感染症の臨床経過
HIV 119
一般の HIV 検査受検者以上に、ショックや混乱、心理的外傷のような離断感、さらにパー
トナーへの告知、妊娠継続の判断、抗 HIV 薬の服用など、もともと妊婦は特殊な身体状況
と不安定な精神状態であるため、一層細やかな対応が必要となる。また妊娠週数を考慮し短
時間で告知を行わなければならない場合も多い。
d.未受診妊婦における HIV 緊急検査の必要性
わが国は諸外国に比べ妊婦健診を定期的に受診している比率が非常に高いが、しかし妊婦
健診を受診せず、分娩が開始してから突然医療機関を訪れる、いわゆる未受診妊婦(飛び込
み分娩)が少なからず存在する。未婚者が多く、来院から分娩までの時間も極端に短い例が
多い。そして HIV を含めた母体感染症例が多いことが分かっている。しかし分娩までの時
間的余裕が無いため、HIV 緊急検査は重要である。イムノクロマト法による静脈血での検
査キットが存在し、血液採取後 15 分程度で結果が判明する(通常の抗原抗体検査よりも疑
陽性率がやや高い)。
4
妊娠中の対応
妊婦の HIV 感染が判明した場合、まず初めにすべきことは「妊娠を継続するか否かの自己決定」
である。医療従事者は HIV 感染者自身が、HIV 感染症の病態や治療の概要を理解し、今後の療
養の見通しの元に妊娠を継続するか否かを自己決定出来るよう支援しなければならない。
⑴ HIV 感染妊婦に必要な妊娠初期検査
妊娠継続を選択した場合には、以下の項目について検査を行う(下線は HIV 感染症特有)
血液検査:血算(白血球分画を含む)、CD4%、CD8%、HIV-RNA、
凝固系
生化学(腎機能、肝機能、血糖、脂質系)
他 の 感 染 症(STS、TPHA、HBs 抗 原、HCV 抗 体、 ト キ ソ プ ラ ズ マ 抗 体、
HTLV-1
抗 CMV-IgG、血液型、HIV 薬剤耐性検査
尿検査一般
子宮頚部腟部細胞診
腟分泌物培養
クラミジア検査
淋菌検査(必要時)
胸部 X 線写真
眼底検査(CMV 感染症の検査として)
※ HIV 薬剤耐性検査は、治療前の全ての感染妊婦に施行する事が勧められている。
※すでに抗 HIV 薬が投与されていてもウイルス量がコントロールされていない症例は、薬
剤耐性検査を施行する。
※耐性検査結果を待つ時間が無い場合もあるので、一般的な治療を先行して開始してもよい。
HIV 感染症の臨床経過
HIV
120 妊婦および新生児の
⑵ 抗ウイルス療法
a.概 説
1996 年に発表された AZT を用いた Pediatric AIDS Clinical Trial Group(PACTG)076
が初めて抗ウイルス薬を用いて母子感染率を低下させた臨床研究で、安全性の面からも信頼
できる成果が得られている。母子感染予防を行うにあたっては、PACTG に沿った治療(表 2)
が基本であり、可能な限り AZT を含んだ治療薬を選択するのが望ましい。米国では現在
は薬剤耐性の観点から HIV 感染者には原則的に多剤併用療法(Highly active antiretroviral
therapy:HAART)が施行されており、HIV 感染妊婦に対しても AZT 単剤療法ではなく、
児に対する安全性の懸念はあるものの、多剤併用療法が行われているのが現状であり、わが
国においても同様で、近年の報告では抗ウイルス療法をされた例のほとんどで多剤併用療法
が施行されている。
表 2 PACTG076 AZT 療法
投与方法
分娩前
妊娠 14 ~ 34 週に処方開始。全妊娠期間を通じて継続。
オリジナルは AZT500㎎分 5 だが、現在は 600㎎分 2 で投与。
分娩中
分娩開始とともに静注用の AZT 2㎎ /㎏を 1 時間で静脈内投与し、引き続き出産
まで 1㎎ /kg/h で持続的に静脈内投与する。
分娩後
出産後 8 ~ 12 時間までに、新生児に対して AZT シロップ 2㎎ /㎏を 6 時間毎に
投与し、生後 6 週間まで続ける。経口できない時は、1.5㎎ /㎏を 6 時間毎に静脈
内投与する*
* AZT は 400㎎分 2 でもよい
* 30 ~ 35 週未満の早産児では、1.5㎎ /㎏静脈内投与または AZT シロップ 2㎎ /㎏を 12 時間
毎の投与を行う。その後 2 週間後から 8 時間毎に投与する。
* 30 週未満で出生した早産児では、1.5㎎ /㎏静脈内投与または AZT シロップ 2㎎ /㎏を 12
時間毎の投与を行う。その後 4 週後から 8 時間毎に投与する。
AZT 単剤投与と多剤投与療法との比較を以下に示す。
表 3 AZT 単剤投与と多剤併用療法の比較
(HAART と 比 較 し た )
AZT 単剤投与の
(AZT 単剤投与と比較
した)HAART の
長 所
児に対する安全性の評価が HAART より高い
欠 点
感染母体に対する治療効果が低い
血中ウイルス量が減少しにくい
薬剤耐性ウイルスが出現しやすい
長 所
感染母体に対する治療効果が高い
血中ウイルス量が速やかに減少
薬剤耐性ウイルスが出現しにくい
欠 点
児に対する安全性の評価が AZT 単剤投与ほど高くない
重篤な副作用が報告されている
妊婦および新生児の
HIV 感染症の臨床経過
HIV 121
b.抗 HIV 薬の選択
抗 HIV 薬は以下の機序により母子感染を防ぐ。
・分娩前の母体血中ウイルス量を減少させる
・HIV 曝露前と暴露後の児への予防投与
従って母児感染予防には、分娩前、分娩中、分娩後の投与が必要である。
現 在 の 治 療 は、 米 国 の HIV 母 子 感 染 予 防 ガ イ ド ラ イ ン(Recommendations for Use
of Antiretroviral Drugs in Pregnant HIV-1-Infected Women for Maternal Health and
Interventions to Reduce Perinatal HIV transmission in the United States,May 24.2010
http://AIDSinfo.nih.gov/ContentFiles/PerinatalGL.pdf)を元に行われている。
わが国では、これまで AZT、3TC、NFV あるいは AZT、3TC、LPV/RTV の組み合わ
せが多く見られたが、現在は AZT、3TC、LPV/RTV の組み合わせが多い。
c.抗 HIV 薬の開始時期
<抗ウイルス薬を内服したことのない HIV 感染者が妊娠した場合>
本人の治療は必要が無いが母子感染予防のために治療が必要な場合は、胎児に対する
影響を考慮して妊娠 14 週までは抗 HIV 薬を内服せずに待ち、それ以降に AZT を用いた
HARRT を開始する。AZT 単剤療法については議論があるところだが、無治療でウイルス
量が 1000 copy/㎖ 未満の症例では単剤投与を検討してもよい。抗 HIV 薬開始後も免疫状態
が良好であれば、出産後に抗 HIV 薬を中止可能である。
本人の治療が必要な場合、すなわち成人の標準的な治療基準を満たす場合は、多剤併用
療法(HAART)を開始する。内服期間が長い方が母児感染予防効果が高いので、妊娠 14
週目以降すぐに、遅くとも 28 週までには開始する事が望ましい。もし妊婦の免疫状態が悪
く早急に治療が必要な場合には、器官形成期であってもエファビレンツ(EFV)以外の薬
剤で開始する(EFV は中枢神経系の催奇形性が報告されている)。ネビラピン(NVP)は
CD4 > 250/μℓの症例に用いると肝機能障害や皮疹といった副作用発症のリスクが高くなる。
<抗ウイルス薬を内服している HIV 感染者が妊娠した場合>
現在投与中の抗 HIV 薬にてウイルス量がコントロールされている場合には、薬剤は器官
形成期であっても継続する。ただし器官形成期中のエファビレンツの使用は避ける。ウイル
ス量がコントロール出来ていない場合は、HIV ウイルス耐性試験を必ず行い有効な薬剤へ
変更を検討する。ネビラピンを含んだ抗 HIV 薬を内服中で効果があるならば、CD4 数に関
らず継続する。
d.ウイルス量コントロールが失敗した場合
治療が成功している場合には抗 HIV 薬を開始後 4 週目までに HIV ウイルス量が少なくと
も 1/10 以下に低下し、初回治療の場合には 16 ~ 24 週後に検出限界以下に低下するはずで
ある。
このように十分にウイルス量が制御できない場合には、薬剤耐性の有無と内服状況を評価
し、投薬を再評価しなければならない。
⑶ 分娩時期と分娩方法
a.分娩時期
・陣痛発来前が望ましい
・妊婦の分娩出産歴、切迫徴候、児の発育状況などを考慮しながら決めるが、一応の目安を
37 週頃として分娩時期を決定する
HIV 感染症の臨床経過
HIV
122 妊婦および新生児の
※ わが国では当初、子宮収縮に伴う母児間輸血により胎内感染を来たすリスクを回避する目
的で可能な限り早期に児を娩出することが望ましいと考えられ、以前は妊娠 36 週以降を目
安としていた。しかし、欧米では妊娠時期を早めに設定していないにも関らず、母児感染率
は約 1% と、わが国と同等の成績であること、36 週以前に帝王切開術にて出生した新生児が、
沐浴による低体温、出生時の処置による呼吸障害、AZT シロップの経口摂取困難などの問
題が認められた事から、むしろ児の未熟性の回避を第一とすべきであると考えが修正された。
従って現時点では、陣痛発来や破水などのリスクが少なく、かつ児の未熟性も回避できる
と考えられる 37 週を一応の目安として推奨する。但し 37 週を推奨するエビデンスは存在し
ない。
b.分娩方法
陣痛発来前の選択的帝王切開が望ましいが、ウイルス量が検出感度以下であれば、経腟分
娩でも選択的帝王切開と母児感染率は変らないとのデータもある。しかし、わが国の産科診
療の現状では、分娩の準備にかかる人的物的リソースの制約から、選択的帝王切開が望まし
いと考えられる。
c. 切迫早産・前期破水の対応
現在までに明らかになっている事実は以下のとおりである。
・陣痛発来前および破水前の予定帝王切開は AZT 投与の有無に関らず、母児感染率を下げ
る
・破水後 4 時間以上経過すると、分娩方法に関らず母児感染率が増加する
・投薬の有無に関らず、破水後 24 時間以内では 1 時間に 2%ずつ母児感染率が上昇する
これらを踏まえて判断する事になるが、34 週未満の児の場合には児の未熟性による問題が大
きくなり容易に帝王切開に踏み切れない場合が出てくる。これらに関しては欧米も含めて一定の
見解はでていない。
破水の有無に関らず、十分な投薬が行われウイルス量がコントロールされていた群では母子感
染が発生しなかったという報告もあり、十分な投薬が行われている前期破水の症例では、保存的
療法を選択する事も良いと思われる。わが国で頻用されている塩酸リトドリンに関するデータは
諸外国では用いられていないため報告がない。しかし使用しても問題は無いと考えられている。
⑷ 胎内感染のリスク
母乳を与えない場合の母児感染の約 7 割は分娩時に、約 3 割は胎内感染であると言われてお
り、胎内感染の時期は分娩に近い時期に多い様である。胎内感染のリスクとして最も重要なも
のは母体のウイルス量であると考えられており、HIV 感染妊婦の治療もウイルス量を下げる
事を目標とする。
その他に HIV 感染者には、B 型、C 型肝炎ウイルス、結核などの他の感染症を合併する頻
度が高い。これらについても合わせて注意が必要である。
⑸ 分娩時の対応
a.帝王切開に使用する薬剤
・PACTG076 のプロトコール(表 2)に従い、妊娠中の抗 HIV 療法の種類・有無に問わず、
全ての HIV 感染妊婦に対して AZT 点滴を行う。
・分娩前に投与していた抗 HIV 薬は、分娩中や予定帝王切開にスケジュールを合わせてで
きる限り内服を続ける。
妊婦および新生児の
HIV 感染症の臨床経過
HIV 123
・AZT を含んだ多剤療法を行っている場合には、分娩中 AZT は点滴で投与し、他の薬剤
は内服で継続する。
・AZT の耐性があり AZT を含まない抗 HIV 薬を投与している症例でも、分娩中は AZT
の点滴を行い、児には AZT を経口で投与する。
⑹ 新生児の受けとり・処置(低体温にならないように注意)
・防水ガウン、フェイスシールドマスク、足袋、手袋(2 重)を装着する。
・児を受けとったら安全にインファントウォーマーに移送する。
・児の状態を確認し、必要時は蘇生を行いつつ清拭を行う。吸引に際しては粘膜損傷を起さ
ないように注意する。
・すばやく全身の血液を拭き取り、温蒸留水で清拭(洗浄)、温オリーブオイルで胎脂の除
去を行う。
生理食塩水で眼、耳の洗浄を行う。
・皮膚に傷があるときは、傷口をイソジンで消毒する
・臍帯は長めに切断(臍静脈カテーテルを挿入する可能性がある場合)する。
・児の状態が落ちついている事を確認後、母児対面し、新生児室へ搬送する。
⑺ 分娩後の対応
a.児への対応
・出生後の管理は通常の帝王切開により出生した新生児の保育方法に準じる。母児感染の
診断の為の採血は状態が安定していれば、出生 48 時間以内に RT-PCR による HIV-RNA
定量を行う。
・全ての出生児に AZT 単独あるいは AZT を含めた併用療法を 6 週間投与する。
< AZT シロップ投与法>
生後 6 ~ 12 時間までに AZT の経口投与(AZT シロップ 2㎎ /㎏ を 6 時間毎)を開始し、
生後 6 週間まで継続する。シロップの内服が不可能な児では、AZT 注射薬 1.5㎎ /㎏を 6 時
間毎に経静脈投与する。
< 36 週未満の早産児に対する投与法>
早産児ではグルクロン酸抱合が未熟なため、正期産児よりもさらに AZT の半減期は延長
する。
・30 週以上 36 週未満の早産児に対しては、内服 2㎎ /㎏(静注 1.5㎎ /㎏)の AZT を 12 時
間毎の投与で開始し、生後 2 週間を過ぎてから、8 時間毎に変更する。
・30 週未満の早産児に対しては、内服 2㎎ /㎏(静注 1.5㎎ /㎏)の AZT を 12 時間毎の投
与で開始し、生後 4 週間を過ぎてから、8 時間毎に変更する。
< AZT 投与による副作用>
AZT 投与による副作用として貧血が報告されている。貧血の程度によりエリスロポイエ
チン投与や輸血を考慮する。HIV の母児感染予防対策(妊娠・分娩中の母体と新生児へ抗
HIV 薬、選択的帝王切開術、母乳禁止の全て)が実施された場合の感染率は 1%未満である
事、および生後 4 週頃までに繰り返された採血で HIV の PCR が陰性であった場合、非感染
である確率が 100% に近い事から、AZT による重篤な副作用が懸念される場合は、その投
与期間を 4 週間程度に短縮する検討が可能である。
<新生児・乳幼児における診断基準>
HIV 感染症の臨床経過
HIV
124 妊婦および新生児の
母児感染予防対策としての出生児に対する生後 6 週までの抗 HIV 薬投与を行いつつ、感
染の有無を診断するためのウイルス学的検査(RT-PCR による HIV-RNA 定量)を進める。
・RT-PCR は生後 48 時間以内、生後 14 日、生後 1 ~ 2 か月、生後 3 ~ 6 か月の計 4 回行う。
さらに HIV 非感染を確定するために、生後 18 か月にウイルス抗体検査を行う(移行抗体
が消えた頃)。
・感染の成立は、2 回の異なる時期の血液検査が陽性の場合(但し臍帯血を除く)とする。
検査結果が陽性であった場合には、直ちに新たな検体を用いて再検し診断を確認する。生
後 48 時間以内の陽性は胎内感染を示唆する。
・非感染の診断は、生後 1 か月以降に行った 2 回以上の PCR(1 回は生後 4 か月以降)が陰
性であった場合、HIV の感染はほぼ否定できる。生後 18 か月で低γグロブリン血症がなく、
HIV-IgG 抗体陰性で、かつ HIV 感染による症候がなくウイルス学的も陰性の場合、感染
は完全に否定できる。
b.母体への対応
分娩後に抗 HIV 薬を継続するか否かの判断は、いままでの CD4 の最低値や臨床症状など
適応がないかにより決定する。
<断乳の必要性>
母乳中には多量の HIV が含まれるため、母乳を与える事で時に感染が及ぶ危険性が極め
て高い。この事を両親へ説明し断乳を行う。
<母乳緊満への対処>
わが国で止乳に使用されている薬剤は、いずれも HIV プロテアーゼ阻害薬との併用によ
り副作用が増強する危険際が高いため、可能であれば薬剤を使用せず乳房の冷却のみでの止
乳を目指す。止乳困難な例には、投与量を少なくするなどの配慮が必要である。
c.未受診妊婦(飛び込み分娩)の対応
わが国では現在は妊婦健診を受けている 99%以上の妊婦が妊娠初期に HIV 検査を受ける
ようになり、これらの妊婦において HIV 母児感染はほとんど見られなくなった。しかしな
がら未受診妊婦も少なからず存在するのが現実であり、現実にその中で HIV 母児感染が散
見される。これらの未受診妊婦が分娩前の HIV 一次検査で陽性となった場合が問題となる。
以下に未受診妊婦の問題点を列挙する。
・飛び込み分娩の多くは受診後、短時間で分娩に至る場合が多い。従って専門医療病院へ紹
介する余裕や帝王切開をする時間的余裕が無い場合が多い。
・真の HIV 陽性者はスクリーニング陽性の数 % に過ぎない。
・真の HIV 陽性者(確認検査で陽性)か否かを分娩までに知る事がほとんどの場合できない。
・AZT などの抗 HIV 薬を常備している施設は限られ、実際に投与できる機会が無い。
現実にはほとんどの場合において積極的な HIV 母児感染予防対策をとることがないまま、
経腟分娩を選択せざるを得ない場合が多いと思われ、スタンダート・プリコーションの徹底
と、真の陽性であった場合には専門医療機関に紹介するなど、その後の速やかな対応が肝要
となろう。
妊婦および新生児の
HIV 感染症の臨床経過
HIV 125
■参考文献■
1 「平成 22 年度 HIV 母子感染予防対策マニュアル第 6 版」.平成 22 年度厚生労働科学研究費
補助金エイズ対策研究事業
http://api-net.jfap.or.jp/library/guideLine/boshi/images/2010_manual.pdf
2 「HIV 母子感染全国調査研究報告書 平成 24 年度」.平成 24 年度厚生労働科学研究費補助
金エイズ研究対策事業.HIV 母子感染の疫学調査と予防対策および女性・小児感染者支援に
関する研究
http://api-net.jfap.or.jp/library/MeaRelDoc/01/images/h24_HIVhoukoku.pdf
(周産母子センター 長 和俊 2013.08)
HIV 感染症の臨床経過
HIV
126 妊婦および新生児の
11 小児の HIV 感染症
1
小児の抗 HIV 治療において考慮すべき重要項目
・小児の感染の大部分は周産期に起きる。妊娠女性が HIV に感染しているか否かを早期に発見
することが、母子感染をできる限り予防するためにも、感染小児に対する治療を適切に開始す
るためにも重要である。
・周産期感染児の多くは、子宮内や出産時 / 出産後に ZDV(AZT)等の抗ウイルス薬への暴露
を受けている。
・周産期の感染は免疫系の発達過程において起こるので、免疫・ウイルスマーカーの動きや臨床
症状が成人とは異なる部分がある。
・発育への影響や神経系の異常などに注意を払う必要がある。
・成長に応じて薬の体内動態(分布・代謝・排泄)に変化が生じるので、薬の用量や毒性を個々
に評価する必要がある。
・投薬の際には、治療薬の剤形が小児に適切かどうかも考慮する必要がある。
・アドヒアランスの維持には保護者も含めて十分な教育が必要となる。小児の精神的成長がアド
ヒアランスの変動に影響しやすいことにも注意を要する。
2
HIV 感染児の臨床経過と症状
小児の HIV 感染はほとんどが周産期に起きるので、妊婦の HIV 感染を発見することが重要で
ある。これにより母子感染の予防を行うこと、感染児の早期診断・治療を行うことが可能となる。
HIV に感染した小児は成人より症状の進行が速く、早期診断・治療は重要である。
日本では両親の感染が判明していない場合、児の日和見感染症の遷延に伴い初めて診断される
可能性が高い。初期症状としてリンパ節腫脹、肝脾腫、発育不良、慢性下痢、リンパ性間質性肺
炎、鵞口瘡の遷延など、特に小児では繰り返す細菌感染(敗血症、重症肺炎、髄膜炎など)、慢
性の耳下腺腫脹、リンパ性間質性肺炎、早発の進行性神経障害が特徴的である。
これら小児の HIV 感染症は、N 群(無症候)、A 群(軽症)、B 群(中等症)、C 群(重症)に
臨床分類される(表 1)。また、CD4 陽性 T リンパ球数による免疫学的ステージング(表 2)と
組み合わせることで、12 段階に細分類される(表 3)。
表 1 小児 HIV 感染症の臨床分類(CDC、1994)
N 群(無症候)
HIV 感染によると考えられる症候がない児
または A 群の症状のうち 1 つしかない児
以下の症状のうちの 2 つ以上を示すが、B 群または C 群の症状を欠く児
・リンパ節腫脹(2 か所以上で 0.5㎝以上。対称性は 1 か所とみなす)
・肝腫大
A 群(軽 症) ・脾腫大
・皮膚炎
・耳下腺炎
・反復性または持続性の上気道感染、副鼻腔炎、中耳炎
HIV小児の
感染症の臨床経過
HIV 感染症 127
A 群または C 群以外の症状を示す児。
以下は症状の例示であり、これのみに限定されない
・30 日以上続く貧血(< 8g/dl)、好中球減少症(< 1000/μℓ)、または血
小板減少症(< 10 万 /μℓ)
・細菌性の髄膜炎、肺炎または敗血症(1 回)
・6 か月以上の児で 2 か月以上続く口腔、咽頭カンジダ症
・心筋症
・生後1か月以前に発症したサイトメガロウイルス感染
・反復性または慢性の下痢
・肝炎
B 群(中等症) ・反復性単純ヘルペスウイルス口内炎(1 年以内に 2 回以上)
・生後 1 か月以前に発症した単純ヘルペスウイルス気管支炎、肺炎または
食道炎
・2 回以上または 2 つの皮膚節以上の帯状疱疹
・平滑筋肉腫
・リンパ性間質性肺炎(LIP)または肺のリンパ過形成(PLH)
・腎症
・ノカルジア症
・1 か月以上続く発熱
・生後 1 か月以前に発症したトキソプラズマ症
・播種性水痘
C 群(重 症) AIDS の診断基準に含まれる症状(LIP を除く)
表 2 年齢に応じた HIV 感染小児の CD4 陽性 T リンパ球数
(全リンパ球に対する比)による免疫学的ステージング(CDC、1994)
児の年齢
カテゴリー 1(正 常)
1 歳未満 /μℓ(%)
1-5 歳 /μℓ(%)
6-12 歳 /μℓ(%)
≧ 1500(≧ 25)
≧ 1000(≧ 25)
≧ 500(≧ 25)
500-999(15-24)
200-499(15-24)
<500(<15)
<200(<15)
カテゴリー 2(中等度低下) 750-1499(15-24)
カテゴリー 3(高 度 低 下)
<750(<15)
表 3 小児 HIV 感染症の分類
臨床分類
免疫学的分類
N(無症候)
A(軽症)
B(中等症)
C(重症)
カテゴリー1(正 常)
N1
A1
B1
C1
カテゴリー2(中等度低下)
N2
A2
B2
C2
カテゴリー3(高 度 低 下)
N3
A3
B3
C3
HIV 感染症の臨床経過
HIV 感染症
128 小児の
3
小児における HIV 感染症の診断
新生児のウイルス学的検査の中では、サブタイプ B を検出する DNA PCR のデータが確立さ
れており、生後 48 時間以内に約 40%の症例で DNA PCR が陽性となり、1 週目の検出率は同レ
ベルにとどまるものの、2 週目になると検出率が上昇して、生後 14 日目には 90%以上、生後 3
から 6 カ月には 100%で感染の診断が可能となる。生後すぐに行った検査が陰性だった場合は、
生後 14 ~ 21 日目にも検査を行うことが勧められる。RT-PCR による RNA 検査も DNA PCR
検査に近い感度があることが示されているので、RT-PCR 検査を行ってもよい。
HIV に感染した母から生まれた新生児は、①生後 48 時間以内、②生後 14 日~ 21 日③生後 1
~ 2 か月④生後 4 ~ 6 か月の 4 ポイントでウイルス学的検査を行うことが推奨される。母体血に
よる汚染がありうるので、臍帯血を用いて検査を行ってはならない。
ウイルス学的検査で陽性と判定された場合は、速やかに 2 度目の検査を行い確認することが
必要である。一方、生後 14 ~ 21 日目および 1 か月以降の 2 回以上の検査が陰性であれば、HIV
感染症の可能性はかなり低いと考えてよい。さらに、1 か月目以降と 4 か月目以降の 2 回の検査
が陰性であれば、HIV 感染をほぼ否定できる。その場合にも、生後 12 ~ 18 か月の抗体検査で
陰性を確認することが望ましい。
血清学的検査は、母親からの移行抗体があるため感染スクリーニングには使えないが、生後 6
か月以降で 1 か月以上間隔をおいた 2 回以上の HIV IgG 抗体検査が陰性であり、臨床的にもウ
イルス学的にも感染を示唆する所見がなければ、HIV 感染はほぼ否定できる。抗体陰性が確認
できない場合は、母親からの移行抗体が消失する生後 12 か月以降に検査を行うが、生後 12 か月
でも陽性と出る場合は、さらに生後 15 ~ 18 か月で検査を行う。周産期の母子感染が予防できて
も、カウンセリング不十分などにより、母乳や口移しの離乳食で水平感染することがまれに報告
されるので、生後 18 か月以降の抗 HIV 抗体陽性は、HIV 感染を示唆する。
4
小児における HIV 感染症のモニタリング
HIV 感染症のモニターとして、免疫状態の指標となる CD4 陽性 T リンパ球数(%)および
HIV 感染症の進行速度の指標となる血中ウイルス量(HIV RNA 量)がある。
⑴ CD4 陽性 T リンパ球数
小児の CD4 陽性 T リンパ球数の正常値は年齢によって異なる。これまで 5 歳未満では年齢に
よるばらつきの少ない CD4 パーセントを免疫学的マーカーとして用いることが勧められてきた。
しかし短期的な病勢予測には 5 歳以上と同様に CD4 数が有用であるとする研究結果が示された
ことから、1 歳以上の小児で治療の開始にあたって CD4 の数とパーセントが乖離する場合、免
疫学的マーカーとしてより低値のものが重視される。HIV 感染が確認されたら直ちに CD4 陽性
T リンパ球数(パーセント)を測定し、その後も 3 ~ 4 か月毎に測定することが勧められる。
⑵ HIV RNA 量
小児では成人に比べて一般に HIV RNA 量が高い。周産期に感染した場合、通常出生時は低
いが(< 10,000 コピー /㎖)
、その後生後 2 か月目まで急速に増加し(多くは 100,000 コピー
/ml 以上となる)、1 歳以後の数年間でゆっくり減少してセットポイントに落ち着く。HIV
RNA 量が高い児のほうが病期の進行が速い傾向にあるが、12 か月未満では病期進行リスクを
示す HIV RNA 量の閾値を決めることは難しい。12 か月以降では 100,000 コピー /㎖以上が高
リスクと考えられている。
HIV小児の
感染症の臨床経過
HIV 感染症 129
5
HIV 感染児の治療の方針
平成 22 年度厚生労働科学研究費補助金エイズ対策研究事業「HIV 感染症及びその合併症の課
題を克服する研究班」の抗 HIV 治療ガイドラインを引用する。なお、性感染が問題となる思春
期以降は成人のガイドラインが適応となる。
⑴ 抗 HIV 療法の開始時期
小児においても多剤併用治療は効果的であり、ウイルス増殖を抑制し免疫系の破壊を食い止
めて、日和見感染や臓器障害のリスクを減少させることができる。しかしながら、抗ウイルス
薬には短期的あるいは長期的な副作用の問題があり、さらに小児に対する投与量や安全性に関
する十分なデータがあるとはいえない。また、治療に当たってはアドヒアランスの維持が確保
できることが絶対条件であり、治療薬に対して耐性のウイルスがひとたび出現すれば、将来の
治療法の選択が制限されることも認識しておく必要がある。
ヨーロッパと米国の 8 つのコホートと 9 つの臨床試験によるメタアナリシスによれば、1 歳
を越えてからは CD4 パーセントが 25%以上であれば 1 年以内の AIDS 発症は 10% 未満にとど
まり、死亡率も 2% 未満となっているが、1 歳以下の乳児の AIDS 発症・死亡のリスクは CD4
パーセントが 25%以上あってもかなり高い。また、全ての年齢層で、CD4 パーセントが 15 ~
20%以下となると、AIDS 発症のリスクが高まる。
1 歳未満の乳児では病期の進行が速く、また検査値から病期進行のリスクを明確に予測でき
ないことから、検査値にかかわらず治療が考慮される。1 歳以上の児では年齢層によって治療
開始判断の根拠となる検査値が異なってくる。
< 12 か月未満の乳児に対する抗 HIV 治療>
病期進行のリスクは 1 歳以下の乳児で明らかに高いことが分かっているものの、この年代の
乳児の病期進行リスクを判断するための信頼性のある検査値がないのが現状である。CD4 パー
セントが低く、HIV RNA 量が高いほど進行が速い傾向はあるものの、進行群と非進行群のあ
いだにはかなりの重なりがみられることから、これらの検査値から一概にリスクを判断するこ
とはできない。
全体に AIDS 発症や死亡のリスクが高いことを考慮すれば、1 歳未満の小児に対しては、臨
床症状や免疫学的ステージング、HIV RNA 量にかかわらず、診断がなされたら直ちに抗 HIV
治療を開始すべきだと考えられる。1 歳未満で治療を開始し、リスクの高い乳児期を乗り切っ
たあとに、戦略的な治療中断が可能かどうかに関しては、現時点ではデータがない。
< 12 か月以上の小児に対する抗 HIV 治療>
1 歳を越えると、AIDS の進行は 1 歳以下の乳児よりも遅くなってくるので、治療を遅らせ
るというオプションが考慮される。臨床症状を伴う場合は、免疫学的・ウイルス学的パラメー
ターの如何にかかわらず治療を行うのが一般的であるが、小児でどの程度の症状が出現したら
治療が必要かの明確な判断材料はない。現在の米国のガイドラインでは、AIDS の症状を有す
る(臨床分類 C 群)か、中等症の HIV 関連症状を有する(臨床分類 B 群、ただし LIP と 1 回
のみの細菌感染症を除く)場合には治療を開始するとしている。無症状か軽微な症状の場合は、
1 歳以上 3 歳未満では CD4 パーセント 25%未満あるいは CD4 数 1,000/μℓ 未満で、3 歳以上 5
歳未満では CD4 パーセント 25%未満あるいは CD4 数 750/μℓ未満で治療開始を推奨している。
HIV 感染症の臨床経過
HIV 感染症
130 小児の
ウイルス量(HIV RNA 量)に関しては、米国の現在のガイドライン、欧州の PENTA2009
ともに、CD4 数に関わらず 10 万コピー /mL 以上の場合に治療開始を推奨(PENTA2009 で
は考慮)としている。
小児に対する HIV 療法では、服薬が遵守されているかどうかに細心の注意を払う必要があ
る。幼少児は服薬にあたって保護者に依存する。処方内容をよく理解させるため、治療を決定
するプロセスに保護者と患児をいっしょに参加させ、アドヒアランスの重要性をよく説明し、
治療開始後も頻回に服薬状況を観察する必要がある。
表 4 小児 HIV 感染症の治療開始の適応基準(US-DHHS、2012)
年齢
全年齢
基準
推奨
AIDS もしくは HIV 関連症状のB群(注 2)/ C群
治療(AⅠ*)
12 週未満
臨床症状や免疫・ウイルスマーカーの如何に関わらず
治療(AⅠ)
12 週以上
1 歳未満
臨床症状や免疫・ウイルスマーカーの如何に関わらず
治療(AⅡ)
1 歳以上
3 歳未満
無症状か軽微な症状(注 3)で、
CD4 < 1000/μℓまたは CD4 < 25%
CD4 > 1000/μℓまたは CD4 > 25%
VL > 10 万コピー /mL
治療(AⅡ)
考慮(BⅢ)(注 4)
治療(BⅡ)
3 歳以上
5 歳未満
無症状か軽微な症状(注 3)で、
CD4 < 750/μℓまたは CD4 < 25%
CD4 > 750/μℓまたは CD4 > 25%
VL > 10 万コピー /mL
治療(AⅡ)
考慮(BⅢ)(注 4)
治療(BⅡ)
5 歳以上
無症状か軽微な症状(注 3)で、
CD4 < 350/μℓ
CD4 350-500/μℓ
CD4 > 500/μℓ
VL > 10 万コピー /mL
治療(AⅠ*)
治療(B Ⅱ*)
考慮(BⅢ)(注 4)
治療(BⅡ)
(注 1)事前に服薬アドヒアランスについて保護者と十分に話し合ってから始める(A Ⅲ)
(注 2)1 回のみの重篤な細菌感染症は除く
(注 3)表 XIV-2 の A 群、N 群、あるいは、B群でも 1 回のみの重篤な細菌感染症
(注 4)臨床所見・検査所見は 3 ~ 4 ヶ月ごとにフォローする
⑵ 治療薬の選択と小児用量
小児 HIV 感染症においても抗 HIV 薬 3 剤以上の併用療法を行い、ウイルスの複製をできる
だけ抑え込むのが基本である。現在の初回治療の原則は、成人と同様、バックボーンの NRTI
2 剤に NNRTI もしくは ritonavir でブーストした PI をキードラッグとして組み合わせる 3 剤
併用療法である。
バックボーンとして推奨される NRTI は、3 カ月以上では ABC +(3TC or FTC)(AI)、思
春期で Tanner Stage 4 以降では TDF +(3TC or FTC)(AI *)、そしてどの年齢であっても
AZT +(3TC or FTC)(AI *)である。
キードラッグとして推奨される PI は、修正在胎期間 42 週以上かつ生後 2 週以上では LPV/
r(AI)、6 歳以上では ATV + low-dose RTV(AI *)である。6 カ月以上では FPV + lowdose RTV(AI *)、3 歳以上で DRV + low-dose RTV(AI *)も使用可能とされる。
HIV小児の
感染症の臨床経過
HIV 感染症 131
キードラッグとして推奨される NNRTI は、3 歳以上では EFV(AI *)である。NVP はど
の年齢にも使用可能とされるが、2 カ月以上 3 歳未満で LPV/r と比較した場合の治療失敗率
が高かったとする研究があり適応が限られる。
AZT の単剤投与は、HIV 感染の有無が不明の生後 6 週未満の新生児感染予防に限るべきで
あり、ひとたび感染が確認された場合は直ちに多剤併用治療を開始すべきである。治療を遅ら
せる場合でも、AZT 単剤投与は中止すべきである。米国では治療開始前の小児が薬剤耐性ウ
イルスを持っている頻度が上昇してきており、初回治療を開始する前から薬剤耐性検査を行う
ことが推奨されている。
表 5 に現在推奨される治療薬の組み合わせ、表 6 に各治療薬の小児用量、留意点などをまと
めたものを示す。
表 5 小児 HIV 感染症の初期治療に推奨される治療薬の組み合わせ
⒜ 推奨される治療
非核酸系逆転写酵素阻害薬(NNRTI)を含む組み合わせ
推奨処方: 2NRTIs(下記 b を参照)+ EFV(3 歳以上)(AⅠ*)
代替処方: 2NRTIs + NVP(3 歳以上)(AⅠ)
プロテアーゼ阻害薬(PI)を含む組み合わせ
推奨処方: 2NRTIs(*)+ LPV/r(修正在胎期間 42 週以上、かつ生後 2 週以上)(AⅠ)
2NRTIs(*)+ rtv ブーストの ATV(6 歳以上)(AⅠ*)
代替処方: 2NRTIs(*)+ rtv ブーストの DRV(3 歳以上)(AⅠ*)
2NRTIs(*)+ rtv ブーストの FPV(6 か月以上)(AⅠ*)
特別な事情でのみ選択される組み合わせ
2NRTIs +ブーストなしの FPV(2 歳以上)(BⅡ*)
2NRTIs +ブーストなしの ATV(13 歳以上かつ 39kg 以上の未治療の青少年のみ)(BⅡ*)
2NRTIs + NFV(2 歳以上)(BⅠ*)
AZT + 3TC + ABC(BⅠ*)
⒝ 核酸系逆転写酵素阻害薬(NRTI)の組み合わせ方
推奨処方: ABC +(3TC or FTC)(3 ヵ月以上)(AⅠ)
TDF +(3TC or FTC)(Tanner Stage 4 以降)(AⅠ*)
AZT +(3TC or FTC)(AⅠ*)
代替処方: ddI +(3TC or FTC)(BⅠ*)
TDF +(3TC or FTC)(Tanner Stage 3)(BⅠ*)
AZT +(ABC or ddI)(B Ⅱ)
特別な事情でのみ選択
d4T +(3TC or FTC)
TDF +(3TC or FTC)(2 歳以上、あるいは Tanner Stage 1 および 2)(注)
(注)他の NRTI に耐性・HBV 感染合併・ABC が使えずに 1 日 1 回療法を希望する場合など
HIV 感染症の臨床経過
HIV 感染症
132 小児の
⒞ 推奨されないか推奨できるだけのデータがないもの
ETV、3 歳未満での EFV、TPV、SQV、IDV、ダブル PI、full dose または単独での RTV
13 歳未満と体重 39kg 未満でのブーストなしの ATV、2 歳未満での NFV
ブーストなしの DRV
LPV/r・12 歳未満でのブーストされた DRV・FPV における 1 日 1 回療法
ABC + AZT + 3TC 以外でのトリプル NRTI
NRTI + NNRTI + PI
3NRTI + NNRTI
ABC + ddI、ABC + TDF、ddI + TDF、ddI + d4T
2 歳未満での TDF
MVC、Rilpivirine、RAL、T-20、EVG
表 6 小児の抗 HIV 治療薬
核酸系逆転写酵素阻害薬(NRTI)
薬剤名
(商品名)
国内で
利用できる
小児用剤形
特記事項
小児への投与量
注射薬* 6 週から 18 歳までの 母子感染予防(生後 6 週まで)
ジドブジン
(レトロビル) シロップ* 小児では体重換算の (30 週未満)遅くとも生後 6-12 時間以
内から、2㎎ /㎏ PO(1.5㎎ /㎏ IV)を
用量調節も可で、
AZT、ZDV
4-9㎏では 12㎎ /㎏、 12 時間毎。4 週間経過後は 3㎎ /kg PO
9-30㎏では 9㎎ /㎏、 (2.3㎎ /㎏ IV)
30㎏以上は 300㎎を
(30 週 以 後 35 週 未 満 ) 遅 く と も 生 後
1 日 2 回 PO とする
6-12 時間以内から、2㎎ /㎏ PO(1.5㎎
/㎏ IV)を 12 時間毎。2 週間経過後は 3
㎎ /kg PO(2.3㎎ /㎏ IV)
(35 週以後)遅くとも生後 6-12 時間以
内から、4㎎ /㎏ PO(3㎎ /㎏ IV)を 12
時間毎。
小児(6 週から 18 歳まで)
180-240㎎ /㎡ PO を 1 日 2 回あるいは
160㎎ /㎡ PO を 1 日 3 回
新生児 / 乳児(2 週から 8ヵ月まで)100
㎎ /㎡を 12 時間毎となっているが、4 ヵ
月以前については 50㎎ /㎡を 12 時間毎
でよい
ジダノシン
(ヴァイデックス)
ddI
小児(8 ヵ月以降)120㎎ /㎡を 12 時間
毎(最大 1 回 200㎎)* 6 ~ 18 歳の体
重 20㎏以上の児でヴァイデックス EC
を飲めるようになったら、体重 20-25㎏
は 200 ㎎ を 1 日 1 回、 体 重 25-60 ㎏ は
250㎎を 1 日 1 回、体重 60㎏以上は 400
㎎を 1 日 1 回でよい
ラミブジン
(エピビル)
3TC
液剤*
新生児(生後 4 週まで)2㎎ /㎏を1日
2 回小児 4㎎ /㎏を1日 2 回(体重 14
㎏以上の児では 150㎎錠を半割使用など
での投与量換算も可能)
HIV小児の
感染症の臨床経過
HIV 感染症 133
米国では液剤あり
エムトリシタビン
(エムトリバ)
FTC
新生児/乳児(生後 3 ヵ月まで)3㎎ /
㎏を1日 1 回小児(3 ヵ月から 17 歳)6
㎎ /㎏を1日 1 回(最大 240㎎まで)
体重 33㎏以上では 200㎎ cap.1 日 1 回
新生児(生後 13 日まで)0.5㎎ /㎏を 1
日2回
スタブジン
(ゼリット)
d4T
小児(14 日以降)体重 30㎏未満 1㎎ /kg
を1日 2 回
体 重 30 ㎏ 以 上 60 ㎏ 未 満 30 ㎎ を 1 日 2
回
アバカビル
(ザイアジェン)
ABC
液剤*
HLA-B*5701 の 検
査をしてからの使用
を米国では推奨
生後 3 ヵ月未満の児への使用は現在認め
られていない
小児(3 ヵ月以降)8㎎ /㎏を1日 2 回(最
大 300㎎を1日 2 回まで)、または 16㎎
/㎏を1日 1 回(最大 600㎎を1日 1 回)
*思春期には 300㎎を 1 日 2 回(成人用
量)でよい
事 前 に HBV 感 染
のスクリーニング
他 の ARV と の 合 剤
(Truvada 等 ) で 使
われることが多い
テノホビル
(ビリアード)
TDF
2 歳以上 12 歳未満 8㎎ /㎏ 1 日 1 回
12 歳以上、体重 35㎏以上 300㎎を 1
日1回
6-12 ヵ月ごとに腎尿細管機能検査(尿
中の蛋白・糖)を推奨
*は厚生労働省エイズ治療薬研究班より入手可能
非核酸系逆転写酵素阻害薬(NNRTI)
薬剤名
(商品名)
国内で
利用できる
小児用剤形
特記事項
シロップ* 最初の 2 週間は半量、
ネビラピン
つまり 1 日 1 回で開
(ビラミューン)
始し、皮疹などの副
NVP
作用がないことを確
認後に 1 日 2 回のフ
ルドーズに上げる
小児への投与量
新生児(14 日以内)
母子感染予防で AZT に追加する場合、
初回を生後 48 時
間以内、2 回目を初回 2 日後、3 回目を
2 回目の 4 日後に
投与(体重 1.5-2 ㎏:8 ㎎ /dose、>2 ㎏:
12 ㎎ /dose)
生後 15 日以降 8 歳未満
200㎎ /㎡(最大 200㎎)を 1 日 2 回
8 歳以上
120-150 ㎎ / ㎡( 最 大 200 ㎎) を 1 日 2
回
エファビレンツ
(ストックリン)
EFV
3 歳未満での適切な
投与量のデータはな
い妊娠するかもしれ
ない女性では潜在的
な催奇形性のリスク
があるので投与計画
は慎重に
*は厚生労働省エイズ治療薬研究班より入手可能
HIV 感染症の臨床経過
HIV 感染症
134 小児の
新生児・乳児では投与を認められていな
い
<小児(3 歳以上)>
10㎏以上 15㎏未満:200㎎を 1 日 1 回
15㎏以上 20㎏未満:250㎎を 1 日 1 回
20㎏以上 25㎏未満:300㎎を 1 日 1 回
25㎏以上 32.5㎏未満:350㎎を 1 日 1 回
32.5㎏以上 40㎏未満:400㎎を 1 日 1 回
40㎏以上:600㎎を 1 日 1 回
プロテアーゼ阻害薬(PI)
薬剤名
(商品名)
国内で
利用できる
小児用剤形
特記事項
2 歳未満では薬剤血中濃度に個人差が大
きいため推奨されない
ネルフィナビル
(ビラセプト)
NFV
ロピナビル ・
リトナビル配合剤
(カレトラ)
LPV/r
アタザナビル
(レイアタッツ)
ATV
小児への投与量
<小児(2 歳から 13 歳)> 45-55㎎ /㎏
を 1 日 2 回(薬剤血中濃度の個人差が大
きいことに注意)
液剤
/㎏換算と /㎡換算
の投与量調節法が
あ る が、/ ㎡ 換 算 の
方式を示す。米国に
は 100 ㎎ LPV/25 ㎎
RTV の小児用錠もあ
る
修正在胎期間 42 週未満、かつ生後 14
日未満では毒性が高く禁忌
6 歳未満の小児への
適切な投与量のデー
タ は 不 十 分。 ま た、
3 ヶ月未満では高ビ
リルビン血症のリス
クのため使用すべき
でない。
新生児 / 乳児 使用を認められていない
乳児(14 日以上 12 ヵ月未満)
LPV で 300㎎ /㎡を 1 日 2 回
小児(12 ヵ月以上 18 歳以下)
LPV で 300㎎ /㎡ を1日 2 回
小児(6 歳以上 18 歳以下)では、下記
を 1 日 1 回食事とともに
15 ㎏ 以 上 20 ㎏ 未 満 : ATV 150 ㎎ +
RTV 80㎎
25 ㎏ 以 上 32 ㎏ 未 満 : ATV 200 ㎎ +
RTV 100㎎
32 ㎏ 以 上 40 ㎏ 未 満 : ATV 250 ㎎ +
RTV 100㎎
40㎏以上 : ATV 300㎎+ RTV 100㎎
(13 歳以上かつ 40㎏以上の小児の初期
治 療 で は、RTV を 服 用 で き な い 場 合、
ATV400㎎も可だが、
RTV 併用を推奨する)
ホスアンプレナビル
(レクシヴァ)
FPV
ダルナビル
(プリジスタ)
DRV
米国には液剤あり
小児(6 ヵ月以上 18 歳未満)では、下
記を 1 日 2 回食事とともに
11㎏未満 FPV 45㎎ /㎏ +
RTV 7㎎ /kg
11 ㎏ 以 上 15 ㎏ 未 満 FPV 30 ㎎ / ㎏ +
RTV 3㎎ /kg
15kg 以上 20kg 未満 FPV 23㎎ /㎏ +
RTV 3㎎ /㎏
20kg 以 上 FPV 18 ㎎ / ㎏ +
RTV 3㎎ /㎏
米国には 75㎎錠と液
剤あり
3 歳未満の小児には
禁忌
小児(3 歳以上かつ 10㎏以上)では、下
記を 1 日 2 回食事とともに
10 ㎏ 以 上 11 ㎏ 未 満 DRV 200 ㎎ +
RTV 32㎎
11 ㎏ 以 上 12 ㎏ 未 満 DRV 220 ㎎ +
RTV 32㎎
12 ㎏ 以 上 13kg 未 満 DRV 240 ㎎ +
RTV 40㎎
13 ㎏ 以 上 14 ㎏ 未 満 DRV 260 ㎎ +
RTV 40㎎
14 ㎏ 以 上 15 ㎏ 未 満 DRV 280 ㎎ +
RTV 48㎎
15 ㎏ 以 上 30 ㎏ 未 満 DRV 375 ㎎ +
RTV 50㎎
30 ㎏ 以 上 40 ㎏ 未 満 DRV 450 ㎎ +
RTV 60㎎
40 ㎏ 以 上 DRV 600 ㎎ +
RTV 100㎎
*は厚生労働省エイズ治療薬研究班より入手可能
HIV小児の
感染症の臨床経過
HIV 感染症 135
⑶ 治療薬の変更
治療変更が考慮されるのは、治療の失敗、副作用や服薬困難、他のレジメンの方が現在のレ
ジメンよりも優れているという新しいデータが示された場合などである。
このうち治療の失敗は、ウイルス学的・免疫学的・臨床的の 3 つの指標から判断され、通常は、
まずウイルス学的失敗が最初に起き、続いて免疫学的な指標の低下が起きて、最終的に臨床的
な失敗へとつながる。しかし小児では、ウイルス学的失敗の判断が成人以上に難しい。これは、
小児(特に乳児)の HIV RNA 量が成人と比べると高く、ウイルス量の減少に時間を要するこ
とと、強力な治療を行っていても血漿中 HIV RNA 量を検出感度以下にできないことがしばし
ばあることによる。HIV RNA 量が 1,000 から 50,000 コピー /ml で検出され続けている治療児
でも、高い CD4 パーセントを保てて、臨床的に良い経過をたどっていることもある。しかし、
ウイルスの複製を十分に抑えきれていなければ、耐性変異の獲得リスクは高まると考えられ、
どの程度のウイルス量が持続して残存することまでを許容するかに関しては、専門家のあいだ
でもまだ議論がある。
表 7 に現在の米国のガイドラインが提唱する治療変更の判断指標を示す。治療失敗の判断は
慎重に行う必要があり、1 回の検査値だけで判断してはならない。
表 7 小児 HIV 感染症において治療変更を考慮する場合
ウイルス量による判断
(1 週間以上の間隔をおいた
2 回以上の検査値を見て判断
する)
免疫学的側面からの判断
(1 週間以上の間隔をおいた
2 回以上の検査値を見て判断
する)
臨床的側面からの判断
HIV 感染症の臨床経過
HIV 感染症
136 小児の
・治療によるウイルス量の低下が不十分
治療開始 8-12 週後においてもウイルス量がベースラインか
ら 1.0log10 以上減少しないか、治療開始後 6 ヶ月してもウ
イルス量が 200 コピー /ml 未満にまで減少しない場合。
・ウイルス量の再上昇いったん検出感度以下にまで減少した
HIV RNA が、たびたび検出されるようになった場合。
ときに 1000 コピー /ml 未満の低いウイルス量が検出される
ことはよくあるので、ウイルス学的失敗と考えなくてもよ
いが、1000 コピー /ml を超えるウイルス量が続けて検出さ
れたときはウイルス学的失敗を疑う。
・治療による免疫の改善が不十分
5 歳未満では CD4 < 15%の高度の免疫不全がある患児で、
最初の 1 年間の治療で CD4 が 5% 以上改善しない場合(5
歳以上では、CD4 < 200/μℓの高度の免疫低下がある患児
で、絶対数で 50/μℓ以上の改善が最初の 1 年で見られない
場合)。
・免疫低下の持続
5%以上の CD4 陽性 T リンパ球の減少が持続する場合(5
歳以上では、CD4 陽性 T リンパ球の絶対数が治療前のベー
スラインよりも低下する場合)。
・進行性の神経発達遅延。
・栄養が十分なのに成長障害(体重増加速度の持続的低下)
が認められる場合。
・AIDS 指標疾患の再燃・持続や、他の重大な感染症が見られ
る場合。
⑷ 変更する治療薬の内容
治療が失敗した場合には、アドヒアランスの不良、体内の治療薬濃度が適切な値に達してい
ない、使用している薬がウイルスを抑えられなくなっている(薬剤耐性ウイルスの出現)など
の原因が考えられ、何が原因なのかをまず検討することが必要である。アドヒアランスの不良
は、治療がうまくいかない場合に第一に検討すべき事項であり、最も多い原因でもある。小児
では薬の体内レベルの個人差が大きいことも原因となりえる。可能ならば、薬剤の血中濃度を
モニターすること(TDM)も考慮したい。
副作用や服薬不良が原因で治療薬を変更する際には、異なる副作用の薬剤を選ぶ。服薬が良
好であるにもかかわらず治療効果が十分でないときは、効果が不十分な原因と今までに使われ
た薬の種類を検討し、薬剤耐性検査を行ったうえで新たな治療薬を選択することになる。新た
な処方も、できるかぎり有効な薬剤を併用することで、ウイルス量をしっかり抑えるようにす
べきである。多剤耐性により治療が困難となり、臨床的な病期も進行している場合には、患児
の QOL も考慮して治療内容を話し合うことも必要となる。
治療薬を変更する際は、再度保護者も含めて処方内容を遵守についてよく話し合う必要があ
る。また、変更後も頻回に服薬状況を確認する必要がある。
⑸ ニューモシスチス肺炎予防
HIV 感染乳児だけでなく、HIV に感染した母親から生まれた児は生後 4 ~ 6 週でニューモ
シスチス肺炎の予防を開始し、HIV 感染が完全に否定されるまで継続する。感染が判明した
場合には年齢と CD4 陽性 T リンパ球の数または%により継続の是非を判断する。
1 歳未満:CD4 陽性 T リンパ球数(%)にかかわらず全例
1 ~ 5 歳: CD4 陽性 T リンパ球数(%)< 500/μℓまたは< 15%
6 歳以上:CD4 陽性 T リンパ球数(%)< 200/μℓまたは< 15%
ST 合剤を TMP として 150㎎ /㎡ / 日(最大 320mg/ 日)、分 2(3 投 4 休または連日)で内
服する。なお、母子感染予防として AZT 投与中の児に対しては白血球減少の増悪を考慮し、
AZT 中止後の ST 合剤投与が推奨される。
⑹ ガンマグロブリン補充療法
1 年に 2 回以上の重症細菌感染症を繰り返す症例やガンマグロブリン低値(IgG < 400㎎ /
dl)の症例では、2 次感染予防目的でのガンマグロブリン補充療法が推奨される。400㎎ /㎏を
2 ~ 4 週間毎に投与する。
⑺ HIV 感染小児の予防接種
原則として生ワクチン(ポリオ、BCG)は接種しない。米国ではポリオは不活化ワクチンを
接種し、麻疹・風疹・ムンプスは MMR(measles、mumps、rubella)の形で 1 歳以降に高度免
疫低下(免疫学的ステージング 3)の児以外に接種している。水痘ワクチンも 1 歳以降に高度免
疫低下(免疫学的ステージング 3)の児以外に 3 か月間をあけて 2 回接種している。
全ての不活化ワクチン(3 種混合(DTP)ワクチン、インフルエンザワクチン、B 型肝炎ワク
チン、
Hib ワクチン等)は HIV に感染していない児と同様に通常のスケジュールで接種してよい。
麻疹・水痘接触時には、予防接種の有無に関わらず免疫グロブリン投与による発症予防を行う。
(感染制御部:石黒 信久 2013.04)
HIV小児の
感染症の臨床経過
HIV 感染症 137
12 眼科の HIV 感染症
1
サイトメガロウイルス網膜炎
HIV 感染症・AIDS における日和見感染症の中で、サイトメガロウイルス網膜炎が最も合併率
が高い(20 ~ 40%)と言われている。20 ~ 50% が両眼性である。末期、特に CD4 陽性リンパ
球数が 50/μℓ以下での発症頻度が高い。放置すると進行し、失明率も高い。従って、HIV 感染
症の治療経過中には、無症状であっても定期眼科受診が必須となる。初診時に CD4 陽性リンパ
球数が 200/μℓ以下ならばできるだけ早期の眼科受診が必要である。
末梢血 CD4 陽性細胞数による眼科受診のめやす
CD4 陽性細胞数
細胞数定期眼科受診検査
CD4 < 50/μℓ
毎月一回
50/μℓ< CD4 < 100/μℓ
2 カ月毎
100/μℓ< CD4 < 200/μℓ
3 カ月毎
200/μℓ< CD4
6 カ月毎
⑴ 診断
特徴的な眼底所見に加えて、前房水、硝子体液からの PCR 法によるサイトメガロウイルス
DNA の検出
血液中のサイトメガロウイルス抗原(C7-HRP など)の検出(アンチゲネミア)
⑵ 治療法
1 全身投与
⒜ ガンシクロビル点滴静注
初期導入療法 5㎎ /㎏を1日 2 回、2 ~ 3 週間
維持療法 2.5 ~ 6㎎ /㎏を1日 1 回、週に 5 ~ 7 日間
副作用:骨髄抑制など
⒝ バルガンシクロビル内服
初期導入療法 1 回 900㎎(450㎎錠 2 錠)を1日 2 回、2 ~ 3 週間
維持療法 1 回 900㎎(450㎎錠 2 錠)を1日 1 回、週に 5 ~ 7 日間
副作用:骨髄抑制など
⒞ ホスカルネット点滴静注
初期導入療法 60㎎ /㎏を 1 日 3 回、2 ~ 3 週間
維持療法 90㎎ /㎏を 1 日 1 回、継続
副作用:腎障害
2 局所療法
全身投与の補助療法としておこなう。全身投与のみでは効果不十分な症例、全身投与が副
作用により継続困難となった症例におこなわれる。眼内で有効な薬剤濃度が得られるため有
効性が高い。単独では、他臓器または僚眼への CMV 感染症の発症予防、治療効果が望めない。
副作用:網膜剥離、硝子体出血、感染性眼内炎
HIV 感染症の臨床経過
HIV 感染症
138 眼科の
⒜ ガンシクロビル硝子体内注入
ガンシクロビル 200 ~ 400㎍ /100 μℓを 1 ~ 3 回 / 週
⒝ ホスカルネット硝子体内注入
ホスカルネット 1200 ~ 2400㎍ /100μℓを 1 ~ 3 回 / 週
⒞ 徐放性ガンシクロビル眼内埋植
一度の眼内埋植で約 8 カ月間一定の濃度が維持される。日本ではおこなわれていない。
2
免疫再構築症候群(IRS)
ART 療法(Anti-Retroviral Therapy)により CD 4細胞数の増加、免疫系の回復が見られよ
うになったが、その過程で潜伏していた病原体に対して強い免疫反応を示す症候群である。眼科
的には主に網膜に感染しているサイトメガロウイルスに対する免疫反応として免疫再構築ぶどう
膜炎としてみられ、硝子体混濁、嚢胞様黄斑浮腫を生じうる。
治療はサイトメガロウイルスに対する抗ウイルス剤に加えてステロイド薬の全身・局所投与を
行うが、確立されたものはない。重症な場合には一時的に ART を中断する必要がある。
3
梅毒性ぶどう膜炎
多彩な炎症所見を示し、それらは非特異的である。従って眼所見から梅毒を疑うことは難しい。
血清学的検査の結果からこの疾患を疑い、ペニシリン系抗生物質への反応性から診断する。
アモキシシリン内服 1 回 500㎎を 1 日 3 回 4~ 8 週
重症例では
ベンジルペニシリンカリウム 点滴静注 1 回 200 ~ 400 単位を 1 日 6 回 10 日~ 2 週
4
進行性網膜外層壊死(PORN)
水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)の日和見感染によって生じる。
霧視、視力低下が主訴であるが、初期には自覚症状がないことも多い。
両眼に発症することも多く、眼底周辺部の網膜深層、やがて網膜全層に白色~黄白色斑が多発
し、進行とともに癒合拡大していく。
急速に進行し治療に抵抗性で、高率に網膜剥離を合併して失明に至ることが多い。
診 断:前房水、硝子体液からの PCR 法による VZV DNA の検出
治療法:有効な治療手段は確立されていない。以下の治療をおこなうが抵抗性である。
⑴ アシクロビル全身投与
初期療法 30㎎ /㎏ /day、24 時間持続点滴、2 ~ 3 週間
維持療法 4000㎎ /5×内服
⑵ ガンシクロビル局所投与
硝子体内注入:ガンシクロビル 200 ~ 400㎍ /50μℓを硝子体内へ注入
HIV眼科の
感染症の臨床経過
HIV 感染症 139
5
カポジ肉腫
性状:眼瞼;平坦な深紅色の腫瘍、結膜;赤色の粘膜下腫瘤
症状:無症状のことが多い。
鑑別:粘膜下出血、肉芽腫、霰粒腫。病理組織学的検査が必要である。
治療:放射線照射、化学療法
表 1 HIV 感染者にみられる眼病変
⒈ 微小網膜血管障害
網膜綿花様白斑、網膜出血、網膜毛細血管瘤
⒉ 日和見感染
サイトメガロウイルス、ヘルペスウイルス、結核、カンジダ、クリプトコッカス、トキ
ソプラズマ、梅毒、カリニ肺炎
⒊ 悪性腫瘍
カポジ肉腫、バーキットリンパ腫
⒋ 神経眼科学的異常
眼球運動障害、視野欠損、瞳孔異常、乳頭浮腫、視神経萎縮
(眼科 南場 研一 2013.07)
HIV 感染症の臨床経過
HIV 感染症
140 眼科の
13 HIV 感染症と精神疾患
1
HIV 陽性者に認められる精神障害について
HIV 陽性者 /AIDS 患者では、精神障害の合併は服薬アドヒアランスを低下させる因子として
重視されている。HIV 感染者では心理社会的ストレスに起因する精神障害をしばしば認めるが、
それに加えて、以前より存在する気分障害などの精神障害、HIV 感染の中枢神経系への直接的
影響、抗 HIV 薬による精神症状などを適切に評価する必要がある。以下に HIV 陽性者で認めら
れる精神障害について概説する。
⑴ 適応障害
適応障害は感染告知、抗 HIV 薬服薬開始、耐性ウイルス出現、AIDS 発症などのストレス
を原因として引き起こされることが多く、その中でも感染の告知は HIV 陽性者 /AIDS 患者に
とっては危機的な状況となることに留意すべきである。しかし、治療法の発展による予後の改
善に伴い、抗体陽性の告知による衝撃、死への恐怖などがストレス因子となることは減少した。
多くの感染者は通院治療が可能となり、社会との接点も増加したが、この結果、外来通院治療
での厳密な服薬や、学校・職場での対人関係における悩みなど、慢性疾患を抱えながら社会生
活を送る患者としてのストレスが増大して来ている。
HIV 感染者は、がんの告知などとは明らかに異なる心理・社会的特殊性を持っている。そ
の一例として、HIV 陽性者 /AIDS 患者が感染者であると同時に感染源であることによる近親
者への感染の恐れ、感染の原因となった行動に対して自責的となったり家族やパートナーに対
して他罰的となったりすること、家族や学校、職場などで感染を打ち明けにくいことなどが挙
げられる。このため HIV 陽性者 /AIDS 患者は心理・社会的サポートを受けにくく、医師、看
護師、カウンセラー、ソーシャルワーカーなどの医療スタッフからのサポートが必要である。
診断に際しては、第一に身体症状の影響を考慮し、これを除外する必要がある。無症候性
の HIV 感染あるいは CD4 陽性リンパ球数が 500/μℓ以上の患者の場合には、適応障害の評価
と診断は比較的容易であるが、HIV 感染症が進行し、症候性 HIV 感染あるいは CD4 陽性リン
パ球数が 500/μℓ未満となった場合には、可能性のある二次性の原因を考え、慎重に診断を見
極めなければならない。HIV 感染症の症状は、呼吸困難・下痢・めまい・吐き気・発汗・振
戦など自律神経症状と重複することがあり、薬物の副作用によって時に不安障害と診断される
ような焦燥感・不安・身体不定愁訴を引き起こすこともある(表 1)。代謝性障害、特に貧血・
低酸素血症・低血糖は不安を引き起こす。
治療については、ベンゾジアゼピンなどの抗不安薬の短期間の使用は急性ストレス障害や適
応障害に有効であるが、HIV associated dementia(HAD)や頭蓋内器質性疾患、あるいはせ
ん妄がある場合には、ベンゾジアゼピンの高用量使用で認知機能、運動機能における副作用を
起こす危険性がある。
⑵ 物質関連障害
本邦では、HIV 感染者における物質関連障害、パーソナリティ障害の頻度は低いとされるが、
物質関連障害に伴う行動上の問題は、HIV 感染者に対する適切な医療ケアを難しくしたり妨
げたりすることがある。物質関連障害の診断や治療は、患者が物質使用を否定したり、中毒や
HIV 感染症と精神疾患
感染症の臨床経過 141
離脱症候群が他の精神障害と症候学的に重複していたりするために困難なこともある。また、
物質関連障害は以前から罹患している精神障害、HAD、せん妄、大うつ病、睡眠障害、疼痛
症候群などを悪化させることがある。
物質関連障害を認める HIV 感染者の治療や管理では、臨床的に離脱症候群の出現が予測さ
れれば予防や治療を行う必要がある。物質への依存や乱用、中毒が認められた場合は、患者に
回復を促す必要があり、包括的依存症治療プログラムへの参加が必要とされることもある。物
質関連障害から回復している場合でも、入院のストレスから物質再使用に至ることもあるので、
寛解の維持に焦点を当て注意していかなければならない。但し、疼痛コントロールに関しては
適切に行われるべきであり、物質中毒患者であっても麻薬系鎮痛薬の使用を躊躇すべきではな
い。
⑶ パーソナリティ障害
パーソナリティ障害とは、その人の置かれた社会・文明の中で、一個の人格として期待され
る適切な人間関係が持続的に保てず、社会的機能ないし職業への従事に顕著な制約が長期間続
き、社会不適応に陥るものである。本人に問題意識がなく、周囲を悩ませることもあるため、
問題化することが時に見られるが、HIV 感染に関連した症状性・器質性精神障害やその他の
精神障害においても、一時的あるいは反応性にパーソナリティ障害様の状態を呈することがあ
り、診断には慎重を期すべきである。患者の横断像つまり現在の状態だけから診断することは
出来ず、注意深い縦断的観察が不可欠となる。
パーソナリティ障害への対応に際しては、正しい理解のもと適度に肯定的に関わる姿勢、互
いの意図、役割、目標を明確にし、共同作業を心がけること、チームやネットワークによる治
療・援助などが重要と考えられる。薬物療法は補助的または併存症への対症療法に過ぎず、抗
精神病薬や気分安定薬、抗うつ薬、抗不安薬などが使用されるが、過量服薬や依存の問題、衝
動性を高めるリスクも考慮し、特に抗不安薬の安易な処方は避けるべきである。
⑷ 気分障害
(うつ病)
無症候性の HIV 感染者あるいは CD4 陽性リンパ球数が 500/μℓ以上ある患者においては
二次性の気分障害は除外できるが、HIV 感染が症候性となり CD4 陽性リンパ球数が 500/
μ
ℓ未満になると大うつ病の診断は複雑化する。
不眠・倦怠感・食欲不振など大うつ病による自律神経系の症状と HIV による症状は重な
る部分があり、また薬剤の副作用(表 1)や HIV 合併症・HAD などによる二次性の気分障
害の可能性も考慮されるので、薬剤の影響や HIV の病期を評価する必要がある。進行した
HIV 感染に伴って生じる内分泌・神経系の障害には、二次性の気分障害を引き起こしたり、
病前からの気分障害を悪化させるものがあり、症候性 HIV 感染あるいは CD4 陽性リンパ球
数が 500/μℓ未満の場合には、血液学的検査、電解質、空腹時血糖、肝機能、甲状腺機能、
ビタミン B12、遊離テストステロン、血清学的梅毒検査などが必要である。
うつ病と診断し、抗うつ薬を使用する場合には、HIV 治療薬との薬物相互作用に十分な
注意が必要である(表 2)
。薬剤選択に当たっては、過鎮静や認知機能障害を起こしやすい
ものは避ける必要があり、現状ではセルトラリンやエスシタロプラムなどが推奨されるが、
実際の処方に際しては精神科への相談が望ましい。
感染症の臨床経過
142 HIV 感染症と精神疾患
(躁病)
HIV 感染者において新たに発症した躁病は、二次性のものを疑うべきである。病期や
CD4 陽性リンパ球数に関係なく、二次性躁病の原因として考えられるものは、薬物中毒と
離脱、抗 HIV 薬の副作用である(表 1)。症候性 HIV 感染者あるいは CD4 陽性リンパ球数
500/μℓ未満の患者における二次性躁病の原因としては、HAD、トキソプラズマ脳症・クリ
プトコッカス髄膜炎・非ホジキンリンパ腫など中枢神経系への日和見感染症と腫瘍、薬物の
副作用などが挙げられる。二次性のものが疑われた場合には、脳画像検査や脳脊髄液検査の
実施を検討する必要がある。
抗精神病薬や炭酸リチウムによる薬物療法は、HIV 感染者における躁病に有効であるが、
脳萎縮などの器質的異常がある場合には副作用が起こりやすいことが指摘されている。炭酸
リチウムを投与する場合には、HIV 感染症では脱水・下痢などを来しやすいため、リチウ
ム中毒を防ぐために慎重な血中濃度測定が必要である。抗精神病薬の使用に際しては、進行
した HIV 感染患者では錐体外路系の副作用が出現しやすく、また意識混濁や過鎮静の危険
性も高いため注意を要する。抗精神病薬の中では、オランザピンが副作用などの点から比較
的使用しやすい薬剤と考えられるが、糖尿病やその既往がある場合には禁忌であるため注意
を要する。バルプロ酸を使用する場合には、肝機能および血小板数のモニタリングを行う必
要がある。
⑸ 睡眠障害
睡眠障害は HIV 感染者の 30 ~ 40%に見られ、それらは HIV 感染症の進行度、持続的な疼痛、
心理社会的問題などと関連がある。その他には睡眠時無呼吸、うっ血性心不全、発作性夜間呼
吸困難、胃食道逆流、多尿、せん妄、むずむず脚症候群、周期性四肢運動障害なども不眠の原
因となり得る。抗ウイルス薬、インターフェロン、精神刺激薬、抗うつ薬、気管支拡張薬など
の薬剤やアルコール、カフェイン、ニコチンなどの使用も睡眠に影響を及ぼす可能性がある。
また、うつ病、不安障害、適応障害、急性ストレス障害などの精神障害や、ライフイベント
に直面した際にも正常な睡眠は障害され得る。加えて、失業などによる生活リズムの乱れや午
睡などによって、睡眠覚醒リズムの昼夜逆転に陥ることもある。
不眠の改善を目的とした向精神薬の使用に際しても、薬物相互作用(表 2)や身体状況に配
慮した選択が必要であり、特にトリアゾラムは多くのプロテアーゼ阻害薬との併用が禁じられ
ており使用は控えるべきである。
⑹ せん妄
せん妄は、入院中の AIDS 患者に良く認められる合併症である。無症候性の HIV 感染者あ
るいは CD4 陽性リンパ球数が 500/μℓ以上ある患者においては、HIV に関連してせん妄が引
き起こされることは稀であり、この時期には薬物中毒や離脱によるせん妄を強く疑うべきであ
る。AIDS を発症した進行期にある感染者または CD4 陽性リンパ球数が 100/μℓ未満に低下し
た患者では、HIV に関連する身体疾患や薬剤による副作用がせん妄の原因として最も多いが、
薬物中毒と離脱がせん妄に関与する可能性は依然として高い。
せん妄の管理で最も重要なことは、原因を同定し治療することである。病歴や診察結果に基
づいて必要と思われる脳画像検査、脳波検査、脳脊髄液検査、血液検査などを行わなければな
らない。もし、せん妄が薬物の副作用として出現しているのであれば、原因薬物を中止し、別
の薬物に切り替える必要がある。
HIV 感染症と精神疾患
感染症の臨床経過 143
せん妄の治療においては、非定型抗精神病薬の使用が第一選択とされるが、HIV 感染症で
は抗精神病薬の使用により錐体外路症状が出現しやすいとされ、投与に当たっては症状をコン
トロール出来る必要最小限の量に留めるべきである。
2
精神科紹介のタイミングとその見極め方
睡眠障害や軽度のうつ状態、適応障害、せん妄の初期対応を行っても症状の改善が見られない
ときには、精神科へのコンサルトを検討すべきである。物質関連障害、パーソナリティ障害、躁
症状に関しては、対応に苦慮する場合が多いため、早期に精神科紹介を考慮することが望ましい。
その他には、希死念慮が出現したとき、受療行動が不規則でその理由が不明であるとき、家族な
ど周囲のサポートが得られず孤立しているときも精神科受診の適応と考えられる。いずれにして
も必要以上に抱え込むことなく、判断に迷ったときには速やかに精神科へコンサルトすることが
望ましい。
3
精神科受診に抵抗を示す患者への対応
患者が精神科受診に抵抗を示した場合には、受診を拒む患者の意見を尊重した上で理由を把握
する。その際、「精神科の受診を勧められると、受診をためらわれる方も多い」などと、精神科
受診への抵抗感を標準化することで、患者がより話しやすい環境を作ることにつながることもあ
る。理由を確認し、『重い精神病の患者のみが治療の対象となる』『受診したことが周囲に知られ
る』
『精神科の薬を飲み始めるとやめられなくなる』などの誤解があれば訂正が必要である。
頑なに拒否する場合、いつでも受診できることを伝えておくと共に、機会を改めて再度勧めて
みることも必要である。不眠や食欲低下など精神障害に良く認められる身近な症候や生活機能の
低下を指摘し、改善のための援助や助言を求めるために受診を勧めるとうまくいくこともある。
受診を説得する努力を重ねてもなおうまくいかない時には、必要に応じて精神科医に事情を説明
し、その程度に応じて、電話相談、カルテを見ながらの相談、カンファレンスの参加など、間接
的に関わってもらうことが有効な場合もある。
4
おわりに
治療上の進歩は HIV との共存を可能にし、HIV 感染症を難治性致死性感染症から慢性感染症
へと変化させた。それにより我々も、HIV 感染症をかつての様な致死的疾患ではなく、あくま
でも種々の慢性疾患の一つとして扱う必要が生じてきたと考えられる。患者の苦悩に十分に配慮
し支持的な対応を心掛けながらも、無条件の支持を与えることなく適切な距離を保ち、患者の自
立性を削いでしまわないこと、悪性の退行を引き起こさないことが重要であると思われる。
感染症の臨床経過
144 HIV 感染症と精神疾患
表 1 HIV 感染および AIDS の治療薬で生じる精神神経系副作用
薬 剤
核酸系逆転写酵素阻害剤
ジドブジン
ジダノシン
サニルブジン
ラミブジン
アバカビル
エムトリシタビン
テノホビル
非核酸系逆転写酵素阻害剤
ネビラピン
エファビレンツ
エトラビリン
リルピビリン
副 作 用
頭痛、落ち着きのなさ、興奮、不眠、躁状態、
抑うつ、易怒性、せん妄、傾眠、末梢神経障害
不眠、躁状態、末梢神経障害
躁状態、末梢神経障害
ジドブジンに類似
頭痛
頭痛
頭痛
頭痛
異常な夢、興奮、不眠、多幸、抑うつ、希死念慮、
傾眠、混乱、精神病症状、頭痛、疲労感
頭痛
不眠、異常な夢、抑うつ、頭痛、めまい
プロテアーゼ阻害剤
インジナビル
リトナビル
サキナビル
ネルフィナビル
アンプレナビル / ホスアンプレナビル
ロピナビル / リトナビル合剤
アタザナビル
ダルナビル
頭痛、無気力、霧視、めまい、不眠
口囲・末梢の感覚異常、無気力、味覚異常
頭痛
頭痛、無気力
頭痛
無気力、頭痛、不眠
頭痛
頭痛
侵入阻害剤
マラビロク
不眠
インテグラーゼ阻害剤
ラルテグラビル
頭痛
核酸系逆転写酵素阻害剤・インテグラーゼ
阻害剤
エルビテグラビル / コビシスタット / エ
ムトリシタビン / テノホビル合剤
その他の抗ウイルス薬
アシクロビル
ガンシクロビル
抗菌薬
トリメトプリム - スルファメトキサゾール
イソニアジド
抗寄生虫薬
メトロニダゾール
ペンタミジン
抗真菌薬
アムホテリシン B
ケトコナゾール
フルシトシン
その他
ステロイド
シタラビン
異常な夢、頭痛
頭痛、興奮、不眠、涙もろさ、混乱、知覚過敏、
聴覚過敏、離人症、幻覚
興奮、躁状態、精神病症状、易怒性、せん妄
頭痛、不眠、抑うつ、食欲低下、アパシー、せん妄、
緘黙、神経炎
興奮、抑うつ、幻覚、妄想、記憶障害
興奮、抑うつ、せん妄、痙攣
混乱、せん妄、幻覚
頭痛、興奮、食欲低下、せん妄、複視、不活発、
末梢神経障害
頭痛、めまい、羞明
頭痛、せん妄、認知機能障害
多幸、躁状態、抑うつ、精神病症状、混乱
小脳症状を伴うせん妄
HIV 感染症と精神疾患
感染症の臨床経過 145
表 2 チトクローム P450(CYP)を介した薬物動態学的相互作用
CYP の分子種
基質
酵素阻害
酵素誘導
1A2
アミトリプチリン
カフェイン
フルボキサミン
イミプラミン
ミルタザピン
オランザピン
ゾルピデム
フルボキサミン
リトナビル
リトナビル
喫煙
2B6
エファビレンツ
ネビラピン
エファビレンツ
ネルフィナビル
リトナビル
ネビラピン
2C9/19
アミトリプチリン
エスシタロプラム
イミプラミン
リトナビル
エファビレンツ
モダフィニル
ネルフィナビル
リファンピシン
2D6
アミトリプチリン
アンフェタミン
アリピプラゾール
アトモキセチン
βブロッカー
コデイン
デュロキセチン
トラゾドン
ハロペリドール
イミプラミン
インジナビル
ミルタザピン
ネルフィナビル
ノルトリプチリン
オキシコドン
パロキセチン
ペルフェナジン
リスペリドン
リトナビル
トラマドール
デュロキセチン
パロキセチン
ペルフェナジン
リトナビル
セルトラリン
知られていない
3A3/4
アルプラゾラム
アンプレナビル
アリピプラゾール
カルバマゼピン
クロナゼパム
デキサメタゾン
ジアゼパム
インジナビル
イトラコナゾール
ミダゾラム
モダフィニル
ネルフィナビル
ネビラピン
クエチアピン
リルピビリン
リトナビル
サキナビル
シルデナフィル
トリアゾラム
グレープフルーツジュース
インジナビル
イトラコナゾール
ケトコナゾール
リトナビル
サキナビル
フルボキサミン
アンプレナビル
エファビレンツ
カルバマゼピン
デキサメタゾン
エファビレンツ
モダフィニル
ネビラピン
リファブチン
リファンピシン
セイヨウオトギリソウ
感染症の臨床経過
146 HIV 感染症と精神疾患
■参考文献■
1 平林直次:今日の HIV 診療 精神科の役割.Modern Physician 22:367-369,2002-3
2 山脇成人ら,リエゾン精神医学とその治療学,中山書店,2009
3 Theodore AS et al,MGH Handbook of General Hospital Psychiatry Sixth Edition,
Saunders,2010
4 Tiziano Colibazzi et al:Human Immunodeficiency Virus and Depression in Primary
Care:A Clinical Review. Prim Care Companion J Clin Psychiatry 8:201-211,2006
5 吉川信一郎:パーソナリティ障害.診断と治療 95:2187-2193,2007
6 三角順子,針間博彦:拒否する患者の入院を受け入れる側からのリクエスト . 精神科 16:
565-568,2010
7 日本サイコオンコロジー学会:The PEACE Project M-7a 精神症状(気持のつらさ).
http://www.jspm.ne.jp/gmeeting/peace3/M-7a.pdf
(精神科神経科 河合 剛多、仲唐 安哉 2013.07)
HIV 感染症と精神疾患
感染症の臨床経過 147
14
1
HIV 感染血友病患者の
関節症の治療
はじめに
血液製剤により多くの血友病患者が不幸にも HIV に感染した。基本的に HIV 感染血友病患者
の関節症治療は HIV 感染を伴わない血友病患者に対する治療と変りはない。ただし人工関節置
換術などの大手術を行なう場合には感染症や免疫系への手術の影響が危惧される点が問題とな
る。HIV 陽性患者に対する大手術の適応は CD4 陽性 T リンパ球数が 400/μℓ以上ある症例とす
るという意見が多かったが、最近では 200/μℓ以上とする報告も見られる。さらに最近では HIV
陽性であっても AIDS を発症していない患者においては CD4 陽性 T リンパ球数が 200/μℓ以下
であっても手術を行なう施設が本邦でも増えてきている 1)。これらのことをふまえ、本稿では血
友病患者の関節症治療に関して中心に述べ、HIV 感染者に関する一般的取り扱い、手術器具・
手術機器等の汚染物に対する取り扱いに関しては他の項にゆずる。
血友病患者における最も一般的な出血症状は関節内出血であり、血友病患者の 80%以上が経
験している。関節内出血のうち最も頻度の高いのは足関節、次いで膝関節、肘関節の順である。
関節内出血の 3 主徴は疼痛・腫脹・運動制限である。関節内出血の初発年齢は 2 歳から 6 歳の間
にあり、初期症状として手足を動かすと嫌がったりする。年長児や、成人の場合には「何か引っ
かかる感じがする」、「何となくおかしい」、「何となくむずむずする」といった自覚症状を訴える
ことが多い。進行していくと腫脹や疼痛を訴えるようになる。同一関節に出血を繰り返すことに
より、滑膜および関節軟骨にさまざまな程度の変性や変形、破壊が混在した変形性関節症、すな
わち血友病性関節症となる。幼児期から学童期に起こった関節症で骨の変形、軟骨下骨の嚢腫形
成などは関節の成長によってある程度改善が見込めるが、成人の変形性関節症ではほとんど改善
は期待できない。血腫は治療により消失させることができるが、再発を繰り返すことも多い。こ
の血腫の治療と予防が血友病性関節症の進行の防止であり、関節機能障害の予防である。
2
関節症の評価方法
関節症の評価方法は X 線所見による DePalma の分類や Pettersson らの評価方法が用いられて
いる。DePalma の分類は日本では桧山の改定分類として多く使用されている(表 1)。Petterson
score は関節面の不整や骨粗しょう症の有無など 8 項目を 0 ~ 2 点、合計 13 点で評価する方法で、
World Federation of Hemophilia における血友病患者の評価に用いられている。
3
血友病性関節症へのアプローチ
血友病患者に関節症が起こらないようにすることが理想であり、その手段として重症例では低
年齢(1 ~ 3 歳)より週 3 回の定期的補充療法が推奨されているが、すべての症例に行うことは
困難である。したがって、日頃から筋力強化運動などの理学療法により関節支持組織を強化し、
関節出血を予防することも重要である。図 1 に関節内出血に対するフローチャートを示す 2)。急
性関節出血に対しては早期の十分な補充療法と関節の冷却と安静が基本である。この際に用いる
凝固因子製剤の量は第 VIII 因子では 10 ~ 20U/㎏、第 IX 因子なら 30 ~ 50U/㎏を注入する。す
でに関節内出血が進行し腫脹・疼痛が強い場合には穿刺・排液が必要となる。この場合には凝固
感染症の臨床経過
148 HIV 感染血友病患者の関節症の治療
因子製剤注入後 30 分の時点で関節穿刺を行う。急性期を過ぎれば、できるだけ早期に牽引や理
学療法を行い関節拘縮や筋力低下を予防する。進行例では術後感染症発症等合併症のリスクと、
手術によって得られる QOL の改善の程度を十分に考慮した上で次項に述べるような観血的治療
を行なう。
日常生活における注意事項として、運動をきっかけに出血する場合には、スポーツを制限する
必要がある。表 2 に米国赤十字および米国血友病協議会の示す血友病患者に対するスポーツ指導
を示す。基本的にスポーツを行なうことにより関節周囲の筋肉を強化し、関節内出血を減少させ
る効果があるので、むやみにスポーツを禁止すべきではないと考える。
表 1 DePalma の改定 X 線分類(桧山、1974)
Grade
Grade 1
X 線所見
関節周囲軟部組織の陰影増強
Grade 2
骨端部の骨萎縮と過成長
Grade 3A
3B
3C
下記①~⑤のうち 1 ~ 2 項目
下記①~⑤のうち 3 ~ 4 項目
下記①~⑤のうち 5 項目すべて
① 骨端部の変化 ②関節裂隙狭小化
③ 軟骨下嚢胞形成 ④骨棘形成
④ 関節裂隙の部分消失
Grade 4
関節裂隙の完全消失
DePalma の Original では Grade 1 ~ 4 に分類されているが、桧山分類では Grade 3 をさら
に細分化し、臨床的に評価しやすくなっている。
急性関節出血
即刻,
第Ⅷ因子または
第Ⅸ因子製剤で
治療
止血
日常生活を再開
症状の改善がゆっくりである
か,理学所見の発現
出血を繰り
返している
関節に見ら
れた再出血
抗体のチェッ
ク.繰り返す
外傷が原因と
なっていない
かを調べる
初回投与の第Ⅷ因子また
は第Ⅸ因子製剤の投与時
期をチェック.12 時間ご
との投与を36 時間続ける.
短期間の副木も考えよ
症状の
改善.日
常生活
の再開
第Ⅷ因子または第Ⅸ因子
製剤の投与量を増加する.
予防的投与を考慮する
出血ごとに 10 日間の夜間
副木を指示する
治癒
再々
出血
筋力が正常になるまで機能訓練
を続ける
良肢位になるように副木を当て,
第Ⅷ因子または第Ⅸ因子製剤を
集中的に投与するために,5 日
間の入院,理学療法を開始する.
退院後 10 日間は夜間の副木
治癒
再発
何もしない
滑膜切除術
を考慮する
出血を繰り返す関節にみられる急性関節出血
即刻,第Ⅷ因子ま
たは第Ⅸ因子製剤
で治療,
日常生活の再開.
10 日間の夜間副木
治癒
再発
関連筋の筋力をチェック,日常生活の再開
抗体のチェック.繰り
返す外傷が原因とな
っていないかを調べる
第Ⅷ因子または第Ⅸ因子
製剤の投与量を増加する.
予防的投与を考慮する
治癒
理学療法を行い,発症前の機能
を回復する
再発
予防的投与をすでに試みたあと
か,あるいは予防的投与が不可
能ならば,入院して集中治療を
行ったあと,滑膜切除術を考慮
慢性関節症
無痛性の腫脹が持
続する
関連筋の筋力をチェック,筋力・関節可動域ともに正常
ならば,何もしなくてよい
X線写真上,著名
な変化がみられ,
急性出血も起こら
ない,末期的関節
痛みがなく,ある程度の機能を保持している
活動不能の慢性的痛み,または他の関節に対して著しい
影響のある場合
何もしない(長期の圧迫包帯は筋肉の萎
縮をまねきやすいことに注意)
整形外科的処置
図 1 関節出血に対する対応のフローチャート(2)
HIV 感染血友病患者の関節症の治療
HIV 感染症の臨床経過 149
表 2 血友病患者とスポーツ(米国赤十字および米国血友病協議会 1994 年改定版)
カテゴリー
種 目
カテゴリー 1
大部分の患者に推奨される
水泳(飛び込みは避ける)、ゴルフ、卓球、ウォーキング、
セイリング、アーチェリー
カテゴリー 2
身体的、社会的あるいは心
理的利益が危険を上回る
と考えられる場合に推奨
される多くの患者に可能
野球、バスケットボール、サッカー(ただしヘディング
は避ける)、バレーボール、テニス、ボーリング、ジョ
ギング、サイクリング、体操、アイススケート、ローラー
スケート、水上スキー、フリスビー、バドミントン、ウィ
ンドサーフィン
カテゴリー 3
すべての患者で、利益より
危険が上回ると考えられる
ゲレンデスキー、アメリカンフットボール、ラグビー、
ボクシング、アイスホッケー、レスリング、自転車レース、
スケートボード、ロッククライミング、相撲、柔道、空手、
剣道、スノーボード、ハンググライダー
4
HIV 感染の疑いのある患者に対する整形外科手術のアプローチ
図 2 に HIV 感染の疑いのある患者が来院した場合のアプローチをフローチャートに示す 3)。
もし患者が HIV 感染であれば、その病期を判断し、CD4 陽性 T リンパ球数またはウイルス量で
抗 HIV 療法を開始するか否かを決定する。もし患者に抗 HIV 療法が必要であれば、免疫状態が
改善するまで手術を待機することが望ましい。HIV 感染に伴う低栄養状態は改善可能である。
待機手術の適応となる患者では Major surgery か Minor surgery かを評価する。緊急手術が
必要な場合は可能な限り全身状態の改善を図り、手術を行う。Major surgery では minimally
invasive surgery を考慮する。治療に当たっては患者が手術で得られるメリットを一番に考えな
くてはならない。
HIV 陽性患者に対する Major surgery の適応は CD4 陽性 T リンパ球数が 500/μℓ以上ある症
例とするという意見が多い。Bahebeck らは人工関節置換術における術後の感染症発生率は CD4
陽性 T リンパ球数が 500/μℓ以上であれば、HIV 非感染患者と変わりがないと報告している
4)
。一方、最近ではその適応を 200/μℓ以上とする報告も見られる。さらに HIV 陽性であっても
AIDS を発症していない患者においては CD4 陽性 T リンパ球数が 200/μℓ以下であっても手術を
行なう施設もある 1)。現時点では有効な抗 HIV 療法が報告されており、その治療も CD4 陽性 T
リンパ球数が 350/μℓ以下で考慮することから考えると、(この部分は削除 : 現在のガイドライン
と異なった記載のため)著者は臨床症状がなく、CD4 陽性 T リンパ球数が 350/μℓ以上であれば、
手術は問題ないと考える。
実際の手術にあたっては血液や体液による HIV 感染は十分に気をつけなければならない。特
に外傷や implant 手術では power tool を使用するため飛沫感染のリスクが高い。これを予防す
るためにフード付きの術衣やディスポーザブルのブーツ、針刺し事故の予防には針に対しラテッ
クスに比べ 30 倍以上の強度を持ち、万一針を刺した場合でも 99.86%の血液を低減させる皮革部
分のある手袋の使用を考慮すべきである。また手術室のスタッフは全員眼球の防御にゴーグルを
着用することを徹底しなくてはならない。
感染症の臨床経過
150 HIV 感染血友病患者の関節症の治療
手術適応の評価
HIV 検査の承諾
HIV 感染
検査拒否
非感染
HIV stage の評価
全身状態の評価
抗 HIV 療法の考慮
手術適応あり
待機手術
抗 HIV 療法の考慮
・HIV stage の評価
・全身状態の評価
・免疫状態改善まで手術を待機 / 手術の変更
緊急手術
全身状態の評価
・全身状態の改善
・可能ならば免疫状態改善
Major surgery
HIV 関連疾患
Minor surgery
偶発症
手 術
Major surgery
Minor surgery
・全身状態の改善
・可能であれば Minimally invasive surgery の考慮
・免疫状態改善まで手術延期
手術・HIV の治療
図 2 HIV 感染の疑いのある患者に対する整形外科手術のアプローチ
5
整形外科手術時の補充療法
出血の予防や処置を行なう場合と異なり、手術時に行なう凝固因子補充療法は、投与の量や期
間が変わってくる。一般的に手術に際して、血中凝固因子レベルは 50%以上、術後の出血予防
には 20%以上に保つ必要がある。間欠的に投与を行なう場合、次回投与前(いわゆるトラフレ
ベル)で前述した活性レベルを維持する必要性があり、ピーク時には 100%を超える活性を示す。
厚生省の血友病研究班の基準では、人工関節置換術などの大手術では目標凝固因子レベルを術当
日・術後 1 日は 100%、術後 2 ~ 7 日は 50 ~ 100%、術後 8 日以降は 50%に維持することを推
奨している。
著者らは血液内科と共同で決定した以下のプロトコールで第 VIII 因子製剤を補充しつつ手術
を行なっている。具体的には、まず術前に注入試験として VIII 因子製剤 50U/㎏を静注し、術
後 30 分、1、2、3、4、6、12、24 時間後の VIII 因子活性を調べる。手術当日は手術 1 時間前に
VIII 因子 50U/㎏ +αを静注する。αの量は注入試験の 30 分後の VIII 因子活性の結果が 80%以
下の場合、80%以上になる量を計算する。術中から術後 3 日はシリンジポンプを使用して VIII
因子製剤を 2.5U/kg/hr で持続注入する。出血 500ml あたり 500U の VIII 因子製剤を術後に追加し、
術直後および術後 3 時間で注入試験の結果を参考に VIII 因子活性が 80%以上となるように追加
輸注する。術後 3 ~ 7 日は VIII 因子製剤を 0.8 × 2.5 U/㎏ /hr、術後 7 ~ 14 日は VIII 因子製剤
を 0.6 × 2.5 U/㎏ /hr で持続注入する。術後 14 日目からリハビリを開始し、週 3 回の 2000U の
間欠的投与を行なう。リハビリ 2 週後の術後 28 日目で凝固因子活性を測定し、局所所見で出血
の兆候がなければ、凝固因子の間欠投与を漸減し、術前の補充レベルに戻す(表 3)。
HIV 感染血友病患者の関節症の治療
HIV 感染症の臨床経過 151
表3
術前
注入試験を行いⅧ因子製剤 50U/㎏を静注、30 分、1、2、3、4、6、
12、2 時間後の第Ⅷ因子活性を調べる。
手術当日
1 時間前に第Ⅷ因子 50U/㎏ +αを静注
αの量は注入試験 30 分後のⅧ因子の結果が 80%以上になるよう計算
術中~術後 3 日
シリンジポンプを使用し第Ⅷ因子製剤を 2.5U/㎏ /hr で持続注入
出血 500㎖あたり 500 UのⅧ因子製剤を追加
術直後、術後 3h
注入試験の結果を参考に第Ⅷ因子の活性が 80%以上になるよう追加
術後 3 ~ 7 日
第Ⅷ因子製剤 0.8X2.5U/kg/hr
術後 7 ~ 14 日
第Ⅷ因子製剤 0.6X2.5U/kg/hr
術後 14 日~
週 3 回の 2000 U間欠的投与、ニーブレース除去、CPM、荷重歩行訓
練開始
6
血友病性関節症に対する手術
⑴ 滑膜切除術
慢性の滑膜炎を呈し、関節内出血を繰り返す関節に対して一般に適応となる。関節破壊が進
んでいても、疼痛よりは繰り返す関節内出血が問題となる症例では滑膜切除が行われる。その
方法としては、化学的滑膜切除術、関節鏡視下滑膜切除術、そして外科的滑膜切除術があげら
れる。化学的滑膜切除術には、リファンピシン、オスミウム酸、198Au、186Re、90Y が関節症変
化の少ない症例に使用されているが、血友病患者の早期滑膜炎は学童期を含む若年者が対象と
なることが多く、これらの薬剤の軟骨や染色体に与える影響の可能性を考え、当科では行って
いない。関節鏡視下滑膜切除術や外科的滑膜切除術に関しては、関節症のさまざまな段階で行
われ、関節内出血に関しては有効であるが、関節症の進行に対する抑制効果に関しては不明で
ある。
⑵ 関節固定術
関節固定術は主に足関節の末期関節症に対して行われている。これにより疼痛はほとんど消
失し、関節出血もなくなり、良好な成績が報告されている。しかし血友病性関節症は多関節罹
患であり、固定した関節の隣接関節の関節症が進行するため、関節機能温存という見地からそ
の適応は限られている。
⑶ 人工関節置換術
末期関節症に対しては、現在人工関節置換術が多く行われている。人工股関節全置換術
(THA、図 3)や人工膝関節全置換術(TKA、図 4)は術後、疼痛や関節内出血が抑えられる
ことにより生活レベルが向上するので患者の満足度は高い。しかし、術前にすでに関節拘縮の
程度が強い症例が多いため関節可動域の改善に関しては乏しいことが問題点として指摘されて
いる 5)。末期関節症に対する人工関節置換術は関節滑膜切除も同時に行うことで、関節内出血
の抑制もでき、疼痛も軽減されるため有効な治療法であるが、一般的な変形性関節症患者に比
べると若年の患者に行わなくてはならない点が問題となる。人工関節は生体にとって異物であ
るから、implant の破損や骨との界面での緩みが避けられない問題として指摘されているから
である。人工関節の survival rate は股関節の場合、術後 20 年で 90% 6)、膝関節の場合術後 12
年で 96.8% 7)と報告されている。しかし、55 歳以下の変形性膝関節症患者 59 例 67 膝に対する、
平均 12.4 年の経過観察において、11 膝(16%)に摩耗や骨溶解により再置換術を要しており 8)、
より若年者への TKA では必ずしも長期の成績は期待できない。また、一般的な変形性関節症
感染症の臨床経過
152 HIV 感染血友病患者の関節症の治療
に対する人工関節置換術後深部感染発生率は股関節の場合 0.8% 9)、膝関節の場合 0.62% 10)と
報告されており、implant 手術では少ないながら発生率をゼロにするのは非常に困難な合併症
と言われている。これに対し、血友病関節症に対する人工膝関節置換術後の感染の発生率は欧
米では 13 ~ 16%と非常に高率である 11、12)。幸いにして当科では 15 例の血友病性関節症に対
して人工関節置換術を行っているが、最長 9 年の経過において現時点で術後感染を発症した例
はない。しかし HIV を基礎疾患に持つため、免疫状態が通常の患者より低いことが予想され
るため、手術後感染には十分な注意が必要である。荷重関節における人工関節の感染を根治さ
せる場合には、多くは一度コンポーネントを抜去して感染を沈静化させる必要があるため、そ
の治療は患者に対して大きな負担をかけることになる。HIV 感染患者で免疫力が低下してい
る場合には感染の危険が増加するため、人工関節置換術を行なって得られる benefit と合併症
の risk を十分に勘案して手術を行なわなくてはならない。
図 3 人工股関節全置換術 当院で行った症例の術前(左)および術後(右)の X 線写真。
図 4 人工膝関節全置換術 当院で行った症例の術前(左)および術後(右)の X 線写真。
HIV 感染血友病患者の関節症の治療
HIV 感染症の臨床経過 153
7
おわりに
血友病はその症例数が少なく、一般に整形外科医が接する機会がすくない。しかし、関節内出
血を起こした早期の段階で適切な整形外科的処置をおこなうことは関節症の進行を遅らせ、ひい
ては若年者の人工関節置換術を減らすことができると考える。
補充療法が進歩した今日でも四肢の複数関節に障害を持つ患者が多く、それぞれの関節がお互
いに影響を与えるため、個々の症例ごとに総合的な判断で血友病性関節症の治療を行なうことが
重要である。
■参考文献■
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8 Odland AN et al.:Wear and lysis is the problem in modular TKA in the young OA
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9 Kreder HJ et al.:Relationship between the volume of total hip replacement performed
by providers and the rate of postoperative complications in the state of Washington.J Bone
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10)石井隆雄 他:人工膝関節置換術後の危険因子と治療法 整形外科 55:1015-21,2004
11)Silva M et al.:Long-term results of primary total knee replacement in patients with
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12)Norian JM et al.:Total knee arthroplasty in hemophilic arthropathy.J Bone Joint Surg
Am.84-A(7):1138-41,2002
(整形外科 笠原 靖彦 2013.08)
感染症の臨床経過
154 HIV 感染血友病患者の関節症の治療
15
1
HIV 感 染 症 患 者 の
リハビリテーション
はじめに
2011 年末現在、世界の HIV 陽性者数は 3400 万人と推定されている。また、2011 年に新たに
HIV に感染した人の数は 250 万人と推定されている。最近の HIV に対する研究、治療法の進
歩により、HIV 感染症の生命予後は改善され、2011 年の AIDS 関連疾患による死亡者数は推定
170 万人と減少傾向が続いている。これは長期生存者・障害者の増加を意味する。したがって、
今後 HIV 感染者に対するリハビリテーションの重要性がますます増加するものと思われる。こ
こでは HIV 感染症に対するリハビリテーションアプローチについて解説する。
2
HIV 陽性者と運動
無症候性 HIV 陽性男性の 31%および女性の 53%が疲労による運動活動に支障をきたしており、
また、症候性 HIV 陽性者では男性では 53%および女性では 62%が疲労による運動活動に支障
をきたす。さらに AIDS を発症した患者では男性では 70%および女性では 80%が易疲労性によ
る機能障害を有する。HIV 陽性者は HIV 陰性者の年齢ごとの最大酸素摂取量の予測値を 15%か
ら 40%下回ると報告され、前述の HIV 陽性者の易疲労性および機能障害は有酸素系能力の低下
によるものと考えられている。また、無酸素作業閾値も HIV 陽性者は HIV 陰性者に比し低値で
あり、3 ~ 4METS 程度の軽作業において無酸素作業閾値が認められる。以上の運動耐用能の低
下は後述の筋障害、心血管系障害、貧血、呼吸器系障害、廃用などの種々の因子によるものと考
えられている。HIV 陽性者に対する有酸素系運動の効果に関しては 2010 年に Cochrane review
にて meta-analysis が行なわれている。その結果では週 3 回の 4 週間以上にわたる有酸素系動
は免疫能(CD4 数やウイルス量)には影響はなく、最大酸素摂取量を有意に増加させるとして
いる。体組成に関しては体重、BMI あるいは腹囲に関しては有意の効果は認められなかったが、
体脂肪率は有意の減少(95%CI:- 2.18%~- 0.07%)をもたらす効果があることを報告してい
る。さらに週 3 回の 4 週間以上にわたる有酸素系動は精神的状態の指標である Profile of Mood
Status Scale(POMS)を有意に改善させる(95%CI:- 13.47 点~- 1.90 点)。したがって、有
酸素系動は免疫能の低下をもたらすことなく、心肺系機能を向上させ、精神的な状態を改善させ
るという高いエビデンスがある。
また、
漸増抵抗運動の効果に関する meta-analysis では、強度 50 ~ 80%1-RM、4 ~ 18 回 1 ~ 5 セッ
トを週 3 回 6 ~ 16 週間にわたって行った漸増抵抗運動は無症候性 HIV 陽性例者の免疫能(CD4
数やウイルス量)には影響はなく、体重増加(荷重平均 4.2㎏)に有意の効果があり、同漸増抵
抗運動あるいは漸増抵抗運動および有酸素運動のコンビネーションは上腕および大腿周径増加
(荷重平均 7.9㎝)に有意の効果を認めたとしている。また、有意差は認めないものの、同漸増抵
抗運動あるいは漸増抵抗運動および有酸素運動のコンビネーションは submaximal heart rate や
訓練持続時間などの心肺機能を改善させ、筋力を増加させる効果を有することを示唆する知見が
報告されている。したがって、漸増抵抗運動は特に筋萎縮や体重減少が過剰な場合、筋肉量増加
による体重を増加させるのに有用である。
近年、マッサージ療法の HIV 陽性者に対する効果に関する systematic review がなされ、そ
の結果では対象者数が十分とはいえないものの、マッサージ療法は HIV 陽性者の QOL を改善
HIV 感染症患者のリハビリテーション
HIV 感染症の臨床経過 155
させる効果は小さくなく、特にこの効果は他のレラクセーションの手法と合わせると効果的であ
るというエビデンスがある。また、マッサージ療法が CD4 数やウイルス量を改善させたという
RCT も報告され、有害事象を増加させるというエビデンスはないことより、中等度に推奨して
いる。
3
神経障害のリハビリテーション
広汎性中枢神経障害:HIV 脳症は末期では高率に認められ、剖検例の 90% に達する。記憶障害、
気分の変化、うつ症状、不安神経症などではじまり、その後言語障害、運動障害、痴呆や認知障
害などの高次脳機能障害を起こす。またサイトメガロウイルス脳炎も高頻度で、予後は不良であ
る。クリプトコッカス髄膜炎は再発例が多く広汎性中枢神経障害に至る。予後不良とされたこれ
らの脳症は、治療薬の進歩で生存例にさまざまなステージの脳症が障害として残存する。これら
の障害に対しては脳炎のリハビリテーションに準じ、詳細な評価に基づいて、リハビリテーショ
ン治療計画の作成を要する。移動動作、上肢機能、高次機能、嚥下などのあらゆるリハビリテー
ションアプローチが動員されることになる。カウンセリングや介助者の訓練、介護量の軽減のた
めの社会資源の動員も必要となる。
占拠性中枢神経障害:トキソプラズマ脳症、HIV 脊髄症は病巣部位によりさまざまな巣症状
を呈するが、治療薬の進歩で生命予後が比較的良く、片麻痺、対麻痺、四肢麻痺、運動失調、失
認、
パーキンソン症候群などの不随意運動、脳神経障害などの障害を残す。リハビリテーションは、
脳卒中片麻痺や脊髄損傷など障害に応じたアプローチが必要となる。このリハビリテーションプ
ログラムは確立されている。関節可動域訓練、筋力訓練、歩行訓練、上肢機能訓練、車椅子・杖、
装具、自助具の処方、家屋改造などの理学療法・作業療法からのアプローチが施行される。筋緊
張亢進・痙性に対しては神経ブロックが行われる。失語・構音障害・嚥下障害には言語療法も必
要となる。
末梢神経障害:末梢神経障害は末期ではほぼ全例にみられ、その原因は多彩である。HIV 原
疾患による末梢神経炎は四肢遠位性対称性に出現する。初期にはしばしばギランバレー症候群様
の脱髄性多発神経炎も急性・再発性に認められる。帯状疱疹ウイルスやサイトメガロウイルスも
末梢神経障害を起こし、また多くの HIV 治療薬副作用としても末梢神経障害は高率で鑑別診断
が必要となる。リハビリテーションは、疼痛に対しては温熱療法、電気療法(TENS など)の物
理療法やマッサージが行われる。浮腫に対しては患肢挙上や弾性包帯を処方する。筋の再教育訓
練や関節可動域訓練を行う。下垂足には短下肢装具による歩行訓練などを行う。
4
呼吸器系・循環器系リハビリテーション
カリニ・サイトメガロウイルス、結核などの肺炎のほかリンパ腫、間質性肺炎が認められる。
それぞれの薬物治療に加え、肺痰、肺理学療法(胸郭可動域の改善、呼吸筋強化、スクィージング、
呼吸法指導)などのリハビリテーションアプローチがある。心合併症の頻度は少ないが、長期臥
床による廃用症候群に対しては、廃用の予防となる関節可動域訓練や筋力訓練が必要となり、心
機能低下例には心不全に準じた低強度の運動訓練を加えていく。
感染症の臨床経過
156 HIV 感染症患者のリハビリテーション
5
運動器障害のリハビリテーション
HIV の関節症状として、乾癬性関節炎、ライター関節炎に類似した移動性多発性関節炎が認
められ、再発を繰り返す。多発性筋炎と類似の病理所見を呈する筋炎も認められ、近位筋優位の
筋痛・筋力低下をあらわすこともある。また筋炎は HIV 治療薬の副作用としても起こり鑑別を
要する。これらのリハビリテーションとしては急性期には安静や温熱・アイシングなどの物理療
法を行うと同時に、廃用による筋力低下や関節可動域低下を予防する。筋炎に対しては CPK を
モニターし過用とならないように留意し、関節炎や筋炎に準じた愛護的なリハビリテーションプ
ログラムなどの筋原酵素を施行する。
6
血友病のリハビリテーション
わが国の HIV 感染は血友病患者に多い。近年、凝固因子補充療法の自己注射の普及により、
血友病患者の ADL が改善したが、繰り返し関節内出血を起こし多発性下肢関節症にいたる例は
なお多い。
急性関節内出血:幼児期以降の血友病では関節内出血と筋肉内出血の頻度が高く、特に関節内
出血を繰り返し関節拘縮 ・ 変形などの障害に至ることが多い。関節内出血の部位は膝・足・肘関
節での頻度が高い。関節内出血の治療は、早期止血と、関節可動域低下の予防、筋力低下の予防
である。急性関節内出血は関節腫張・疼痛・関節可動域制限の症状を呈するが、患者により予兆
としての関節の違和感などが自覚され、予兆の段階で濃縮製剤の輸注が望ましい。関節内出血を
認めたならば、急性期である 1 ~ 2 日では患肢の安静を保つ。下肢の重症出血の場合は牽引療法
も検討する。冷湿布は疼痛を緩和し血管収縮を促し止血を促す。ギプスシーネや sling を用い機
能的肢位での外固定が必要な場合もある。長期の外固定では筋力低下や間接拘縮の原因となるの
で完全固定は避け、安静から運動のタイミングに配慮する。安静時疼痛が消失したならば、等尺
性筋運動の指導が必要である。止血後は、自動運動を主体とした関節可動域訓練を開始し、徐々
に徒手・重錘を利用した抵抗運動を行う。早期の歩行では免荷のための杖や免荷装具を使用し、
平行棒内の歩行訓練、プール内の歩行訓練が望ましい。
血友病関節症:治療は出血の慢性化を防止し関節の不安定性を改善し、悪循環を断つことであ
る。慢性関節リウマチの理学療法と同様の以下のリハビリテーションが必要である。
免荷:歩行の機会を減らす。関節の荷重を減らす歩行パターンの獲得、免荷用装具(膝、足)、
サポーターなど装着し、杖などの歩行用補助具の利用を検討する。また体重減少を目指す。
等尺性筋力訓練:関節の安静は、廃用による可動域制限・筋力低下をもたらし、歩行障害の原
因となり、これが逆に関節病変を増悪させる要因となる。等尺性筋力増強訓練は、関節動作をさ
せず筋収縮させる方法でこれを習熟させる。関節運動を伴わないので関節症が存在していても可
能である。最大筋収縮を1回 5 ~ 6 秒(具体的には 10 数えさせるとよい)を数回、週 5、6 日で
十分な効果をもたらす。筋力が弱い(徒手筋力テストで 3 レベル)ときは、臥床で自重を用い、
下肢を浮かせる姿勢保持訓練でも十分であり、筋力増強にしたがい徒手による抵抗や重錘・ゴム
バンドなどを使用して、その強度を漸増させる。
水中運動:血友病関節症の歩行訓練は、上記の等尺性筋力増強訓練に比しほとんど筋力増強効
果がなくむしろ関節破壊をもたらす危険性があることに注意すべきである。歩行は就業や日常生
活に応じた必要最小限で、さらに杖などの免荷の配慮がのぞましい。しかし、糖尿病がある場合
や体重減少・持久力向上を目的とする場合 20 分以上の持続的な有酸素運動が必要である。水治
HIV 感染症患者のリハビリテーション
HIV 感染症の臨床経過 157
療は慢性関節リウマチに対し温泉療法として古くから行われていたものであるが、血友病関節症
にも有用である。水中では浮力のため下肢関節が免荷され、四肢の運動は水の抵抗により陸上歩
行時よりエネルギー消費を伴う運動となる。また、中等度強度の有酸素運動を行うことは糖代謝・
脂質代謝からも有用である。
7
今後の展望
HIV 感染症は多くの障害を引き起こす。これらの障害を評価しさまざまなアプローチするの
がリハビリテーション医学である。積極的なリハビリテーションアプローチは疼痛緩和や運動能
力の改善、ADL の自立、QOL の向上に結びつくものと考えられる。
■参考文献■
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688-695,1998
(リハビリテーション部 遠山 晴一 2013.08)
感染症の臨床経過
158 HIV 感染症患者のリハビリテーション
16
1
HIV 感染症の口腔病変
と歯科治療
HIV 感染症に対する歯科治療の基本的事項:HIV/AIDS 患者の歯科治療における社会的および倫理上の責任
⑴ すべての歯科医療従事者は HIV 感染者を治療する職業上の責任がある。
⑵ 歯科医療を提供することで患者の QOL の向上に寄与することができる。
⑶ 歯科医療従事者が内科主治医やその他すべての関係者と協力して診療にあたることは患者に
とっても歯科医療従事者にも利益をもたらす。
⑷ 歯科医療従事者はすべての患者との間で、お互いの信頼関係を確立しなければならない。法
に決められているように、患者の同意がなければ他の歯科医療従事者にも HIV に関する情報
を提供することはできない。
⑸ 歯科医療従事者は患者が自分で意志決定できるように援助すべきである。
⑹ 歯科医療従事者は自身が得た知識や情報を基に感染拡大の防止に貢献することができる
⑺ HIV 感染症が慢性疾患となり、体調が管理された感染者が社会で活躍することが期待され
ている。歯科医療従事者はそれに応える必要があり、普通に歯科医療を受ける機会を提供する
必要がある。
2
歯科・口腔外科領域における HIV 感染症
HIV 感染症の治療法の進歩は HIV 感染者により長期の、かつ健康的な生活をもたらした。そ
の結果、感染者の健康維持の一環として包括的な歯科管理が重要となっている。HIV 感染者に
対する口腔管理の原則は他の患者と同じであり、単に HIV に感染しているというだけで口腔健
康管理や治療内容を変更する必要はないが、下記に示すような HIV 感染者に対する配慮は必要
である。
すなわち、
⑴ 口腔は全身の免疫状態を写す鏡であり、口腔の健康は全身の健康に影響する。すでに免疫系
の機能が低下していても齲蝕や歯周炎等がなければ細菌感染のリスクは減少する。
⑵ そのためには、治療と共に予防に重点をおく必要がある。
⑶ 口腔衛生管理は、経口摂取を継続的に可能にし、QOL の維持に必須である。
⑷ 多剤併用抗ウイルス療法(HAART)の導入で口腔症状は減少したが、今後も口腔症状を観
察する必要もある。
⑸ HIV 感染者は病状が変化することがあり、全身状態のよいときに積極的に治療を行う方が
よい。
⑹ 治療に耐えられないなど数回の治療が困難な場合は、できるだけ一回で終了するような処置
が望ましい。
⑺ 抗 HIV 療法は経済的負担も大きく、患者の経済的問題も配慮して事前に相談したほうがよ
い場合がある。
⑻ プライバシーの保護は最優先事項のひとつである。
HIV 感染症に関連する口腔症状は少なくとも 40 個以上が報告されている(WHO)。以前から
HIV 感染と関連する 3 大口腔症状として口腔カンジダ症、毛状白板症、カポジ肉腫が挙げられ
HIV 感染症の口腔病変と歯科治療
HIV 感染症の臨床経過 159
てきたが、毛状白板症とカポジ肉腫は日本での発現頻度はさほど多くなかった。その他ヘルペス
等のウイルス感染症、
、難治性口内炎、唾液腺症状として唾液の分泌低下(口腔乾燥症)および
大唾液腺の腫大などがある。さらに、HIV 感染者における免疫能の低下および唾液の分泌低下は、
齲蝕および歯肉・歯周炎(細菌感染症)の増悪因子となる。口腔の感染症の大部分は口腔常在菌
による内因感染である。口腔常在菌による感染症としては、齲蝕あるいは歯髄炎に続発する根尖
性歯周炎や辺縁性歯周炎(歯槽膿漏)のように、歯が介在する歯性感染症が最も多くみられる。
口腔感染症は一般に慢性の経過をとるが、生体の抵抗力が低下すると急性化する。口腔常在菌に
よる感染症は、生体の抵抗力を修飾する因子によって大きく影響をうける。AIDS/HIV 感染者
では細胞性免疫が高度に障害されることがあり、口腔常在菌による感染症が発症あるいは増悪す
ることが知られている。HIV 感染者では、潜伏感染しているエプスタイン・バール・ウイルス
(EBV)の再燃としての口腔毛状白板症が CD4 陽性リンパ球数 300/μℓで出現し、CD4 陽性リン
パ球数 400/μℓ前後で口腔カンジダ症が出現するとの報告がある。また、歯肉炎・辺縁性歯周炎
の原因は嫌気性グラム陰性桿菌等を主体とする細菌感染であるため、好中球が減少する AIDS 末
期に歯肉炎・辺縁性歯周炎が増悪する場合が多い。以下に真菌・ウイルス感染症、悪性腫瘍、唾
液腺症状、口腔粘膜疾患および歯性感染症について概説する。加えて HAART 開始後の口腔症
状の変化についても簡単に述べる。
3
真菌・ウイルス感染症
⑴ 口腔カンジダ症(真菌症)
カンジダ菌は口腔常在菌(真菌)で、口腔カンジダ症は HIV 感染症において最も頻繁に観
察される症状の一つである。臨床所見は従来のカンジダ症と同様で偽膜性、紅斑性カンジダ症
およびカンジダ性口角炎が見られる。急性経過をとる口腔カンジダ症は、頬粘膜、舌、歯肉な
どに白色ないし乳白色または黄色の苔状物が生じ、次第に拡大すると口腔粘膜全体に及ぶ。初
期には苔状物を比較的容易に剥離することができるが、病変が進むにつれて固着性になる。周
囲の粘膜は発赤、腫脹し、ときに糜爛状態を呈することもある。剥離後も赤色、潰瘍または易
出血性の粘膜が見られ灼熱感を訴える場合がある。慢性に経過すると白色被苔は厚くなり、剥
離しにくくなる。上皮肥厚が著明になり、白板症様の外見を示すようになる。自覚症状の無い
場合も多いが、口腔カンジダ症、口角炎は HIV 感染の初発症状として診断に重要である。青
年期、壮年期の口腔カンジダ症は HIV 感染の可能性を考慮する必要があるといわれている。
診断は臨床所見および真菌の培養検査で容易に行える。治療は抗真菌剤(アムホテリシン B、
ミコナゾール、イトラコナゾールなど)の使用によるが、抗 HIV 薬との併用に注意が必要な
場合がある。
⑵ ウイルス感染症
1 ヘルペス性口内炎・口唇ヘルペス:AIDS/HIV 感染者では、生殖器、肛門周囲ヘルペス
と同様に、口腔ヘルペス感染症も比較的多く認められる。通常単純ヘルペスウイルス(HSV1)を原因とする感染症で、発赤した粘膜上に小水泡が出現し、発熱や倦怠感に加えて頸部リ
ンパ節の腫脹や疼痛をともなう。小水泡が破れると潰瘍が形成され、自発痛、接触痛が出現
する。免疫機能が保たれている人では 10 日から2週間で症状は消退して治癒するが、頻回
な再発や癒合した病変は HIV 感染症の進行期に見られる。AIDS 患者では治療に難渋する。
2 帯状疱疹:HIV 感染者、特に CD4 陽性リンパ球数 400/μℓ以下の免疫能が低下した患者
感染症の臨床経過
160 HIV 感染症の口腔病変と歯科治療
に発症することがある。顔面では三叉神経第 1 枝、第 2 枝に多く、第 3 枝の場合は口腔内に
片側性の大きな潰瘍を形成することもある。HIV 感染者では水疱が破れた後、細菌による
難治性の二次感染に注意する必要がある。帯状疱疹ウイルス(VZV)は CD4 陽性リンパ球
数が比較的保たれている時期に発症するので HIV 感染の指標として重要である。壮年期に
帯状疱疹を発症したら HIV 感染を疑う必要がある。
3 口腔毛様白板症(Oral hairly leukoplakia:OHL):EBV との関連が報告されており、男
性同性愛者グループによくみられる舌の白色病変として報告されている。毛状白板症の表面
は皺が著明に入り組み、ときには毛髪に似た様相を呈する。白板症、カンジダ症、扁平苔癬
等との鑑別を要する。本病変は EBV の活性化と関連すると考えられている。CD4 陽性リン
パ球数 300/μℓ以下に低下した場合の免疫抑制の早期指標となる。口腔カンジダ症との鑑別
が難しいこともあるが、臨床的には抗真菌剤で消失せず、擦過しても除去できないので診断
は可能である。OHL は AIDS の進展マーカーになるが、日本の発現頻度は欧米に比較して
低い。日本では EBV サブタイプ A が多く、欧米ではサブタイプ B が多いことが関係して
いるといわれている。
4 サイトメガロウイルス感染症(CMV):サイトメガロウイルス感染症の口腔症状は CD4
陽性リンパ球数 100/μℓ以下で発症する。CMV に関連する口腔症状は非特異的潰瘍である。
5 ヒトパピローマウイルス感染症(HPV):欧米では HAART の普及以来、頻度が増加して
いる(Oral Warts)。
⑶ 悪性腫瘍
カポジ肉腫および悪性リンパ腫:カポジ肉腫は AIDS の診断を意味し、口腔病変は本疾患の
初発症状の場合がある。CD4 陽性リンパ球数 200/μℓ以下に低下するとみられる。AIDS 患者
では 5 ~ 10%に認められると報告されている。口腔に単独に出現することは少なく、皮膚等
の他部位と併発することが多い。口腔カポジ肉腫は帯青色、黒色または赤色の斑状病変として
出現し、初期は通常平坦である。進行するにしたがい色は濃くなり隆起し、しばしば多葉性に
なり潰瘍を形成することもある。口腔カポジ肉腫は口蓋および歯肉に好発し、エプーリス様の
症状を呈することもある。カポジ肉腫の原因としてヒトヘルペスウイルス 8 型(HHV-8)が
関連しているといわれている。
非ホジキンリンパ腫はほとんどが節外性で B 細胞型である。発生頻度は 1 ~ 4% であり、C
D 4 陽性リンパ球数は 100/μℓ以下で出現する。
⑷ 唾液腺症状
AIDS/HIV 感染者では唾液の分泌量が低下し、口腔乾燥症状を呈することが多い。これら
の患者では、唾液腺にシェーグレン症候群様の組織学的変化が認められることが報告されてい
る。また、大唾液腺、特に耳下腺が腫脹する場合がある。腫脹の原因は、非腫瘍性病変では耳
下腺リンパ節腫大、多発性耳下腺嚢胞およびリンパ上皮性嚢胞や白血球浸潤による耳下腺の
腫脹などがある。また HIV 感染者の口腔乾燥の最大の原因は薬剤の副作用ともいわれている。
逆転写酵素阻害剤やプロテアーゼ阻害剤などの多くの抗レトロウイルス剤は唾液分泌を減少さ
せる。
治療法は非腫瘍性病変に対しては対症療法で対応する。口腔乾燥症に対しては唾液分泌刺激
療法、あるいは人工唾液・口腔保湿剤(オーラルバランス ®、サリベート ®等)を用いる。腫
瘍性病変に対しては全身状態を考慮して治療法を選択する。
HIV 感染症の口腔病変と歯科治療
HIV 感染症の臨床経過 161
⑸ 細菌感染症(歯性感染症)
一般的にはあまりみられない歯周炎、歯肉炎が HIV 感染者にはみられることがあり、帯状
歯肉紅斑(LGE)、壊死性潰瘍性歯肉炎(NUP)、壊死性潰瘍性歯周炎(NUG)が有名である。
1 帯状歯肉紅斑(LGE)
:HIV 非感染者にはあまりみられない歯肉炎で、近年カンジダ菌の
関与も指摘されている。歯肉辺縁に沿って 1 ~ 2㎜幅のバンド状発赤を呈する。一般に歯垢(口
腔細菌とその生産物の集塊)の沈着、潰瘍形成もなく、歯周ポケットは浅く、歯肉のアタッ
チメントロスも伴わない。疼痛等の臨床所見にも乏しい。歯肉炎・辺縁性歯周炎が進行する
と歯肉の発赤・腫脹が増悪するとともに、歯肉が退縮し、歯槽骨が吸収され、歯牙が動揺し
てくる。AIDS の病期の進行とともにこれらの症状が増悪すると考えられ、CD4 陽性リンパ
球数 100/μℓ以下に低下した場合、重篤な免疫抑制と共に壊死性潰瘍性歯肉炎(NUP)およ
び壊死性潰瘍性歯周炎(NUG)が見られる場合もある。症状が進行する前に原因を除去す
ることが重要である。主たる原因・増悪因子である歯垢・歯石が沈着しないように口腔清掃
指導を徹底することが必要で、定期的な歯科医師・歯科衛生士による専門的口腔ケア・クリ
-ニングが有効である。また口腔清掃を妨げる不適合な補綴物(冠・義歯など)の調整およ
び再製作等が必要になることもある。歯周炎やう蝕の進行症例では抜歯等が必要になる。急
性辺縁性歯周炎および壊死性潰瘍性歯肉炎・歯周炎に対しては抗菌薬による消炎療法も用い
る。
2 根尖性歯周炎:齲蝕あるいは歯髄炎に続発し、患歯の根尖部に慢性炎症病巣を形成する。
根尖性歯周炎は一般に慢性の経過をとるが、全身状態の低下等が誘因となり急性転化し、患
歯を中心とした疼痛および腫脹等が出現する。さらに顎骨炎あるいは顎骨周囲炎等に進展す
ることがある。治療は原因歯の根管治療あるいは抜歯を行う。急性期には全身状態の改善と
共に抗菌薬・消炎鎮痛剤による消炎療法も行う。
⑹ アフタ性口内炎
一般にアフタ性口内炎は 1 ~ 2 週ほどで治癒するが HIV 感染者では治癒が遅れ、数週間~
数か月に及ぶこともある。径 6㎜以上の大型アフタは CD4 陽性リンパ球数 100/μℓ以下で多く
みられる。
⑺ HAART と口腔症状
一般に免疫力が回復すると口腔症状は消失する。成人で HAART を施行している患者で
は、過去に報告されてきた口腔症状(口腔カンジダ症や口腔毛様白板症など)は減少したと
いう報告が多い。HAART の普及によりカンジダ症が 1/10 になったという報告もある。一方
HAART 導入後、口腔症状として HPV 感染症(口腔乳頭腫など:Oral Warts)、唾液腺腫脹、
口腔悪性腫瘍(扁平上皮癌、リンパ腫など)が増加しているという報告がある。抗 HIV 薬に
より口腔潰瘍、口腔乾燥症、味覚異常、舌炎、口腔周囲の感覚異常などがみられることも報告
されている。HAART による免疫再構築症候群としての歯周炎などが今後の HIV 感染者の重
要な口腔症状になるともいわれている。
感染症の臨床経過
162 HIV 感染症の口腔病変と歯科治療
4
AIDS/HIV 感染者の歯科治療および口腔衛生管理
AIDS/HIV 感染者では病期の進展にともない全身状態が低下することが多かったが、HAART
の普及により、HIV 感染者の生活スタイルや口腔症状も変化している。しかし限局性の慢性炎
症病巣であっても、体調不良時や免疫力の低下時に急性転化する可能性がある。さらに、全身状
態が高度に低下した時期には抜歯等の治療ができなくなる可能性が高い。したがって、AIDS/
HIV 感染者では、病期が進行する前に口腔内診査、口腔清掃指導および必要な歯科治療を受け
ることが望ましい。口腔衛生管理としては、未治療の齲蝕および歯性感染病巣を治療することも
必要であるが、良好な口腔清掃状態を保つことが重要である。齲蝕や歯性感染症は予防できる疾
患であり、また、初期の齲蝕あるいは歯性感染症であれば短期間で治療可能である。口腔衛生に
目をむけることにより、齲蝕や歯性感染症といった口腔機能を損なう状況から感染者を解放する
ことができ、さらに、重篤な歯性感染症の発症を予防することも可能である。AIDS/HIV 感染
者の QOL を考えると、歯科治療のみならず口腔衛生管理にも充分に留意する必要がある。“痛
くなる前に歯科で診てもらう”ことが、感染者では非感染者以上に重要である。そのためにも、
6 か月毎の定期健診が望ましい。北海道大学歯科診療センターではスタンダードプリコーション
の概念に沿って AIDS/HIV 感染者の歯科治療のみならず口腔衛生指導も行っている。一般的に
は単に患者の HIV 感染の状態によって、歯科治療の内容を変えることは不要である。現在の患
者の状態(最新の CD 4陽性Tリンパ球数、ウイルス量、内服薬、現在の健康状態)を知ること
は重要であるが、CD 4陽性リンパ球数が 200/μℓ以上であればほとんどの歯科治療は患者に危
険を及ぼすことはない。しかし、実際の歯科診療においては、患者の状態により、治療の場を拠
点病院の歯科と一般開業歯科などで分けることが患者の利益につながることもある。一般的な血
液検査所見を参考にすると、好中球数が 500/μℓ未満になると処置時に抗菌薬の投与が必要にな
ることが多い。血小板数は 3 万 /μℓ以上あれば歯科処理内容を選んで実施可能であるが、外科処
置では 5 万 /μℓ以上が望ましく、十分な監視が必要になる。通常歯科治療時の局所麻酔(浸潤麻
酔)が禁忌になることはないが血友病患者の下顎孔伝達麻酔は原則禁忌である。また HIV 感染
者への無差別的な抗菌薬の使用はカンジダ症などの日和見感染症を引き起こす危険がある。
5
医療従事者の感染予防対策
歯科・口腔外科診療においては、局所麻酔下の抜歯・切開等の外科的処置および歯周療法等の
観血的な処置を行う頻度が高い。HIV 感染予防対策としては、基本的には後述の外科系の対応
と同じである。しかし、歯科・口腔外科診療では局所麻酔の頻用、歯牙の切削、探針やスケーラー
などの鋭利機具の使用、印象採得(歯あるいは歯槽堤の型をとること)等の他科領域にはない治
療器具や治療法がある。当歯科診療センターでは、CDC のスタンダードプリコーションの概念
に沿って治療を行っている。この予防策は本来感染症の有無にかかわらず、すべての患者に適用
することが重要である。また、局所麻酔の針のリキャップの回避、ワンハンドテクニック(片手
で針のキャップをすくい上げる)の応用や切削バーの着脱を直接指で行わずピンセットや着脱器
を使用する、などの工夫も必要である。より安全な器具の使用や針刺し事故などが起こった時の
連絡系統を準備するなどの対策も重要である。以下、これらの治療法および治療機器に関する感
染予防対策を概説する。歯科治療時の HIV の暴露時の感染のリスクは一般に高くないが、血中
ウイルス量が 1500 コピー /μℓ以上では、暴露時の対応のレベルが高くなり針刺し事故の可能性
や感染防御体制などを十分考慮する。一般開業歯科医では血中ウイルス量が検出感度以下の患者
HIV 感染症の口腔病変と歯科治療
HIV 感染症の臨床経過 163
を適応とすることが望ましく、症例ごとに拠点病院の歯科と連携・対話することが望まれる。
また、B 型肝炎ワクチンの接種は職員全員に推奨することは基本的事項として重要である。
実際に歯科医療従事者に HIV 暴露が生じた際には、あわてないで冷静な判断が必要である。
拠点病院の内科医師などに相談すると共に、2 時間以内に最初の予防内服が可能な対応と体制を
確保しておくことが求められる。
⑴ 歯牙の切削
診療に際しては必ず手洗い後にマスク、手袋を着用する。歯科治療ではエアタービン、エン
ジン(歯牙および骨の切削機器)
、スプレー等を多用し、これらの機器使用時には術者の顔に
血液、唾液の混在した飛沫粒子を浴びることが多い。したがって、これらの機器を使用する場
合には、ゴーグル、マスクあるいはフェイスシールドおよびガウン等を着用する。ラバーダム、
口腔外バキュームの使用は院内感染予防に有効である。
⑵ デンタルチェアーおよびユニット(歯科用診療椅子)
デンタルチェアーおよびユニットは、ラッピングテクニックが応用可能な部分は実施が勧め
られる。応用が困難な場合は、診療後医療環境用清拭シート等で清拭する。ハンドピース等は
患者ごとに滅菌済みの器具を使用する。
⑶ 印象採得、咬合採得および口腔内に試適した補綴物など
印象物(歯および歯槽堤の型をとったもの)、咬合採得材料(咬み合せの記録媒体)や口腔
内に試適した補綴物(義歯や冠など)には血液や唾液が付着しているので、口腔外から撤去し
た直後に流水で水洗(印象材の種類によるが、アルジネート印象では 120 秒)し、0.1%ピューラッ
クス ®液(次亜塩素酸ナトリウム液)に 60 分間浸す。また、印象材は印象表面の荒れ、寸法
変化が考えられるので、アルギン酸系印象材よりラバー系印象材を用いる方が良い。
6
北海道の歯科医療体制について
歯科診療が可能なエイズ拠点病院として北海道には 3 つのブロック拠点病院(旭川大学病院歯
科口腔外科、札幌医科大学附属病院歯科口腔外科、北海道大学病院歯科診療センター)、1 つの
中核拠点病院(釧路労災病院歯科口腔外科)、6 つの拠点病院(市立札幌病院歯科口腔外科、市
立函館病院歯科口腔外科、旭川赤十字病院歯科口腔外科、市立旭川病院歯科口腔外科、釧路赤十
字病院歯科口腔外科、市立釧路総合病院歯科口腔外科)が常時 AIDS/HIV 感染者の歯科診療を
行っている。患者さんが自分の生活圏で自分の都合の良い時間に安全な歯科医療サービスを受け
られることを目的に、北海道大学病院歯科診療センターでは北海道保健福祉部からの委託事業と
して「北海道 HIV 歯科医療ネットワーク構築事業」を展開している。この事業は、拠点病院以
外の病院歯科ならびに歯科診療所の中から、感染者の歯科治療を積極的に受け入れる歯科診療機
関(北海道 HIV 歯科医療協力医)のネットワークを構築して患者に適切な歯科診療機関を紹介
するものである。
・北海道HIV歯科診療協力医療機関とは
エイズ拠点病院の歯科以外に道内に、病院歯科:4 機関、歯科診療所:24 機関の計 30 機関の
HIV 歯科診療協力医療機関の登録がある(平成 25 年 5 月 31 日現在)。協力医のネットワークの
リストは非公開であるが、エイズ拠点病院、各保健所、北海道歯科医師会に常備されているので、
患者はかかりつけの拠点病院などの内科医師、拠点病院の歯科医師、看護師、ソーシャルワーカー
感染症の臨床経過
164 HIV 感染症の口腔病変と歯科治療
などに受診の希望を伝えた後、紹介された協力医の歯科医療機関に予約の電話を入れて診療を受
けることができる。
7
歯科治療に関する問い合わせ
北海道大学病院歯科診療センター歯科事務室
電話:011-706-4330
■参考文献■
1 木村 哲:エイズと日和見感染症に関する臨床研究.厚生省科学研究費補助金エイズ対策研
究推進事業 平成 7 年度研究報告書
2 Michael Glick,他:Oral manifestations associated with HIV-related disease as markers
for immune suppression and AIDS.Oral Surg Oral Med Oral Pathol.77,344-349,1994
3 小森康雄:歯科領域におけるエイズ.アークワークス・歯科出版局 1998
4 池田正一:HIV 感染者の歯科治療 厚生労働省エイズ対策研究事業 2002
5 池田正一:HIV/AIDS 歯科診療における院内感染予防の実際(改訂版) 2003
6 池田正一:HIV 感染症の歯科治療マニュアル(2006)
7 前田憲昭:HIV 感染者の口腔衛生管理ノート 2008-HAART 導入後の変遷を考える -(2008)
8 HIV 感染者の口腔衛生管理ノ-ト 2009-2010 第 3 版:平成 21 年度厚生労働科研費補助
金エイズ対策研究事業
9 「HIV 感染者の歯科医療の充実に向けて」歯科医師研修資料 平成 24 年 9 月:平成 24 年度厚
生労働科学研究「HIV 感染症の医療体制の整備に関する研究:歯科の HIV 診療体制整備」研
究班
(歯学研究科口腔病態学講座口腔診断内科学 佐藤 淳、宮腰 昌明、北川 善政 2013.09)
HIV 感染症の口腔病変と歯科治療
HIV 感染症の臨床経過 165
17 HIV 感染症患者の心理的支援
1
患者をアセスメントする
患者と良好な関係を維持する、患者に定期的な内服を勧める、患者に継続的な受診を促すなど、
医療者が支援する際には、患者がそれを判断するための認知機能を保持していることが前提とな
る。
「患者と医療者との会話にズレがある」「繰り返し説明しても、内服を間違えることが多い」「受
診日を間違えて来院される」など、一見すると“患者の性格”として判断されやすいエピソード
の背景には、他の要因が関連している可能性がある。「今の患者は正確な判断が難しい状態なの
かもしれない・・・」と、視点を変えたり情報を増やして検討を重ねることが必要となる。
患者理解を深めるために、認知機能と特に関連のある要因について概観する。
第一の要因として、脳器質的な疾患がある。例えば、進行性多巣性白質脳症(PML)や中枢
神経原発悪性リンパ腫(PCNSL)などによって重篤な認知機能障害を伴い、「眼科的には異常は
ないのに独歩しにくい」
「上肢は動くのに、検査時の署名が難しい」といった問題が生じること
がある。一方、明らかに重篤な症状はなくとも、「手帳の申請手続きについて説明したのに、忘
れている」
「内服薬が変わったのに、以前と同じ飲み方をされている」など、ささいな物忘れや
勘違いが脳機能障害のサインとなる可能性もある(6-15 HIV 関連神経認知障害 参照)。
「あれ? 患者さん、いつもと何かが違う・・・」という医療者の感覚や経験の積み重ねが、洗
練されたアセスメントとなり、それをメディカルチームで情報共有することで疾患の早期発見や
早期支援につながる。
第二に、精神神経科的疾患がある。脳器質的疾患を精査した上で明らかな異常はなくとも、患
者との間でミスコミュニケーションが生じることがある。例えば、患者が精神遅滞(知的障害)
や発達障害を合併している場合、通常の説明では理解が促進されないことがある。応対を平易な
表現に変えたり、キーパーソンに同席してもらうといった、より患者が受け取りやすい医療的支
援を工夫することが必要となる。
また、急性期の症状として幻覚妄想や躁症状を伴う患者、自傷や他害の可能性がある患者は、
通常のメディカルチームだけでは対応できないことがある。適宜、緊急時を想定した院内マニュ
アルの作成や、精神神経科スタッフをまじえた定期的なチームカンファレンスの開催、精神神経
科病棟への転科や、精神神経科病棟を併設している他院との連携などが考慮される。
近年、特に注目されているのは、アルコール依存や薬物依存(合法ドラッグを含む)との関連
である。そのようなケースは診断に難渋するだけではなく、「酩酊状態のため、抗 HIV 薬を定期
的に内服できない」
「薬物使用によってセーファーセックスが難しい」など、服薬支援や性行為
の予防介入からも依存症治療が必要となることがある。
第三に、HIV 感染の判明に伴う喪失感がある。一般身体疾患の場合は家族や支持的な人的資
源を有効に活用できることがあるが、HIV 感染の場合は原則として本人告知が前提で、社会的
偏見もあって孤独を感じやすい状況にあり、治療や医療的支援の意思決定は患者 1 人に託される
ことになりやすい。
感染症の臨床経過
166 HIV 感染症患者の心理的支援
近年の HIV 感染の多くは男性の同性間による性感染症であり、患者によっては同性を好むと
いう性的指向を隠したまま夫婦関係を維持して生活している場合もある。「HIV のことを好意あ
るパートナーに話したら嫌われてしまうのではないか」「性的指向を家族に暴露されるのではな
いか」
「今後も夫婦生活は上手にやっていけるのだろうか」など、HIV 感染が判明することで従
来の生活基盤を失う恐怖にさらされることになる。たとえ周囲のフォローがあったとしても、
「ど
うして発症してしまったのだろう・・・」「これからどうやって生きていけばいいのか・・・」など、
患者本人が頭の中を整理するには、医療者が考えている以上に時間がかかる。
また、AIDS 発症時には長期入院が必要となる場合があり、身体的喪失や社会的喪失、経済的
損失を同時に伴いやすい。医療者は、これらの喪失感を最小限にとどめる支援を提供するととも
に、喪失感に対する自己対処能力や患者の耐性をアセスメントし、今後予想される喪失感への適
切な支援が適宜求められる。
場合によっては、これらの要因が複合的に関連することもある。
2
患者に寄り添う
患者の感情の揺れ動きは、感染の疑いを感じた時からすでに始まっている。したがって、医療
者はアセスメントと並行して患者への支持的援助が求められる。
特に初診の場合は、他患の対応に追われる場合であっても十分な時間を提供できる環境が望ま
しく、患者の不安や緊張をほぐすことで、のちの継続的支援につながりやすい。通院中は気分が
安定していても帰宅後に変化を伴うこともあるため、補助的支援として電話相談が可能であるな
ど、
“十分に支援できる体制があること”を伝える。
一方、関係性が維持された後は、支持的援助のみでは本来患者に備わっている自己対処能力が
賦活されにくいことがある。医療者にはバランスのよいアセスメント機能と支持的援助の両方が
求められる。
以下に、支持的援助のポイントを挙げる。
⑴ 患者の話を最後まで聴く
(医療者が途中で話を遮ることで、必要な情報を得られないことがある)
⑵ 患者が話した内容と医療者の理解に差がないように確認し、伝え返す
(可能であれば、冊子やノートなどを用いて視覚的効果も活用する)
⑶ 患者の自己決定や自主性を尊重する
(患者の認知機能に障害がある場合は、抗 HIV 薬の内服開始、心理検査の実施、MRI や
SPECT による脳画像による評価、その他の疾患の精査、キーパーソンの探索などを検討し、
支援する)
現在の治療において優先されるのは抗 HIV 薬の内服アドヒアランスの維持であり、医療者の
初診時からの継続的な関わりは内服維持要因の 1 つである。医療者の異動などに伴って患者の受
診や内服が途切れることのないよう、特定の医療者が単独で患者を抱えることなく、メディカル
チームで患者を見守るように心掛けたい。
HIV 感染症患者の心理的支援
HIV 感染症の臨床経過 167
3
カウンセラー(心理士)の支援
心理士による支援には、主に“心理検査”と“カウンセリング”がある。
心理検査では、患者の脳機能(=認知機能)や性格特徴などを検討する。脳器質的疾患や精神
神経科的疾患あるいは HAND などの診断補助機能があり、医療者が患者にアプローチする上で
のアセスメント機能も有する。当院では、継続的に関わっている医療者が患者の生活状況や受診
状況の細かな変化をアセスメントし、必要に応じて心理検査を勧めている。抗 HIV 薬の内服前
後によって検査結果にも変化を認めるため、継時的に再検査を実施している。
一方、カウンセリングには、患者が病気を抱えながらも生活を維持していくための居場所とし
ての機能や支持的援助機能を有する。当院の心理士は初診時から患者とお会いし、再診時に、患
者との良好な関係を維持している医療者がカウンセリングを勧めることで、継続的な支援を提供
している。その際、紹介元の医療者と心理士との間で事前にカンファレンスをおこない、患者情
報の共有や医療者のニーズだけではなく、患者のニーズやモチベーションにも配慮して、支援方
法について定期的に検討を重ねている。
患者の生活状況や心身の状況によってカウンセリングの内容は異なるものの、主に以下のよう
な内容を支援として提供している。
⑴ HIV 感染の判明に伴い、変化した状況に適応するための支援
例:疾患の受容促進、新たな職業選択に対する不安の軽減、内服維持のための生活環境の調整
など
⑵ HIV 感染前後の精神症状の評価やメンタルヘルス支援(精神神経科への紹介を含む)
例:不眠の軽減、アルコール依存や薬物依存の状況把握、行動範囲の拡充や活動の促進など
⑶ 人間関係やセクシャリティに関する支援
例:職場内での人間関係の改善、家族に HIV 感染を伝えることへの葛藤の軽減、パートナー
との関係の改善など
⑷ 緩和ケアやターミナルケアとしての支援
例:入院時の体調変化による不安の軽減、孤立感や実存的葛藤の軽減など
一般的に、カウンセリングは患者だけではなく、家族やパートナーも対象としている(遺族も
含む)
。また、カウンセリングの提供は院内に限らず、保健所での陽性告知前後に応対したり、
心理士不在の病院に訪問することも可能である(=派遣カウンセリング)。
以下は、カウンセリングの導入や派遣カウンセリングに関する相談施設である。
・カウンセリングの準備や導入について
北海道大学病院 HIV 相談室 HIV カウンセラー(臨床心理士)
受付時間:9:00 ~ 17:00 月~金曜日 連絡先:011-706-7025
・派遣カウンセリングについて
社会福祉法人 はばたき福祉事業団 北海道支部
受付時間:10:00 ~ 17:00 火、水、金曜日 連絡先:011-551-4439
・中核拠点病院へのカウンセラー(相談員)の配置について
公益財団法人 エイズ予防財団 連絡先:03-5259-1811
感染症の臨床経過
168 HIV 感染症患者の心理的支援
4
電話相談
都道府県や市町村の保健所、NPO などに電話相談窓口がある。
ほとんどが匿名で相談が可能であるため利用しやすい。以下は、主な相談機関である。
・北海道 保健福祉部 健康安全局 地域保健課 感染症・特定疾患グループ
連絡先:011-231-4111
http://www.pref.hokkaido.lg.jp/hf/kth/kak/kansensyouG.htm
・北海道大学病院 HIV 相談室
受付時間:9:00 ~ 17:00 月~金曜日 連絡先:011-706-7025(直通)
http://www.hok-hiv.com/for-general/consult/
・社会福祉法人 はばたき福祉事業団 北海道支部
受付時間:10:00 ~ 16:00 火、水、金曜日 連絡先:0800-800-3662
http://habataki-do.jp/
・公益財団法人 エイズ予防財団
受付時間:10:00 ~ 13:00、14:00 ~ 17:00 月~金曜日
連絡先:0120-177-812(携帯電話からは 03-5259-1815)
http://www.jfap.or.jp/prg/sendmail/SendMail.aspx
・NPO 法人 レッドリボンさっぽろ
受付時間:19:00 ~ 22:00 火曜日 連絡先:0120-812-606
http://redribbon.or.jp/
・特定非営利活動法人 ぷれいす東京
HIV 陽性者とその周囲の人のための電話相談
受付時間:13:00 ~ 19:00 月~土曜日 連絡先:0120-02-8341
HIV 感染不安の電話相談
受付時間:13:00 ~ 17:00 日曜日 連絡先:03-3361-8909
ゲイによるゲイのための HIV/AIDS 電話相談
受付時間:19:00 ~ 21:00 土曜日 連絡先:03-5386-1575
http://www.ptokyo.com/
・HIV サポートライン関西
HIV 陽性の人とパートナー・家族のための電話相談
受付時間:19:00 ~ 21:00 月、水曜日 連絡先:06-6358-0638
http://www.charmjapan.com/hiv-supportline/
(HIV 相談室 大川 満生 2013.07)
HIV 感染症患者の心理的支援
HIV 感染症の臨床経過 169
18 HIV 感染症患者の看護
18-1
看護師の役割
HIV 感染症は抗 HIV 薬による多剤併用療法により治療できる慢性疾患と位置づけられるよう
になった。
また、抗 HIV 薬による治療開始時期は年々早まる傾向にあり、感染判明と同時に治療検討さ
れる場合も多い。そのため、HIV 感染症は早期発見ができれば、AIDS を発症することなく、外
来通院で対応でき HIV 感染判明前とさほど変わらない日常生活を送ることができる。しかし一
方では、HIV 感染症は、感染により身体機能や心理状態、社会生活にもその影響が及び、疾患
そのものに対する不安に加え、偏見や差別がいまだに強い現状である。感染告知を受けた患者と
その家族やサポート者が持つ HIV のイメージは死の病であることも多い。看護師は疾患や治療
に関する正確な情報を提供し患者や家族、サポート者が十分な理解のもとに病と共に生活が送れ
るように支援する必要がある。
HIV 感染症は 8 割以上が性行為による感染であり、日本の HIV 感染者数は毎年増加している。
社会への感染拡大を防ぐ目的で予防啓発と早期発見に取り組むことが必要であると共に、患者自
身が健康管理に必要なセルフケア行動を実践し継続できるよう、患者の個別性に沿った支援が看
護師に求められる。
看護師は以上のような背景をおさえ HIV 感染症の看護を実践していく。
⑴ HIV 感染症患者の看護
HIV 感染症患者の看護は、患者が日常生活と治療を両立できるようにセルフケア支援が求
められている。患者の身体的・心理的・社会的背景を総合的に把握する。そして HIV 感染症
の治療効果が発揮され、患者が QOL を維持しながら自己のライフスタイルを構築していける
よう、治療方法や日常生活に関して患者の自己決定への支援が重要であり下記に示す。
①初期においては感染告知に伴うショックや動揺などの危機状態への支援
②服薬管理、合併症予防への支援
③セルフケアマネジメントを行い、QOL を維持した長期的な日常生活への支援
④セクシャルヘルスへの支援
また、HIV 感染症患者の治療と日常生活に関して、医療チームが協働していくための調整を
行うことも看護師の役割である。
感染症の臨床経過
170 HIV 感染症患者の看護 ~看護師の役割~
18-2
HIV 検査支援
⑴ 受検決定までの支援
1 HIV 検査を実施する時期
①対象者が HIV 検査を希望したとき
②手術や検査で感染症検査が必要なとき
③妊婦健診時
④ HIV 感染症を疑う所見がみられるとき(免疫能の低下や AIDS 指標疾患を認めるとき・
性感染症があるとき・急性感染症状がみられるとき等)
2 検査目的を説明する
①検査内容の説明
実施する HIV 検査の種類(迅速検査・通常検査等)や結果の意味、結果が出るまでの時間、
偽陽性の意味等、対象者が検査内容を十分に理解できるよう説明する。
②ウィンドウピリオド
問診上で検査実施に十分な期間が経過しているかウィンドウピリオドの時期を確認し、
正確な検査実施となるように受検のタイミングを査定する。
③結果陽性時の対応説明
検査結果が陽性の場合を考え不安が生じる時は、具体的な不安内容を確認する。
HIV 感染症は治療があり治療効果が得られていること、死ぬ病気ではないこと、サポー
ト者がいることなど不安軽減につながる情報を伝える。
④結果を待つ間の不安への対応について説明する
結果を待つ間の不安の増強が懸念される場合は、相談電話などの相談可能な連絡先を紹
介する。
⑤結果をだれに伝えるか
結果は本人に伝えること、本人の同意なしに他者へ伝えることはないことを説明する。
3 HIV 検査の同意を得る
HIV 検査を実施する際は対象者が検査目的を理解し、同意を得て実施する。
①手術や検査で感染症検査が必要なとき / 妊婦健診時
検査目的等について書面を用いて説明後、病院規定の同意書(感染対策マニュアル<各
種書式> 8)感染症検査承諾書)に署名を得る。
P184 「感染症検査同意書」参照
②対象者が HIV 検査を希望したとき /HIV 感染症を疑う所見がみられるとき
書面での同意は必要ないが、あとから確認できるようにカルテに同意を得た旨の記載を
必ず行う。
③対象者が未成年、精神障害、意識がない等の理由で同意を得るのが困難な場合は保護者や
家族の同意を得る。
④同意が得られない場合
同意が得られない理由をアセスメントし、納得して受検選択ができるよう支援する。
HIV 感染症患者の看護 ~
HIV 感染症の臨床経過
HIV 検査支援~ 171
⑵ 結果説明時の支援
1 陽性結果説明時
HIV 検査結果が陽性の場合、本人に検査結果を医師が伝える。
本人の承諾なく、家族やパートナーなどに説明しないことが原則である。
①結果説明前に準備すること
・プライバシーが守られゆっくり話ができる場所(個室)を準備する
・患者の性格傾向・精神状態を観察しながら、患者の HIV 感染症に対する誤解がないか
情報やイメージを把握する
・サポート者の存在や HIV 感染の事実を受け入れる準備状態をアセスメントする。
②結果説明時
・結果の意味・HIV/AIDS の正確な情報理解を支援する。
・説明を聞ける状態かアセスメントし聞く姿勢を支援する。
③結果説明後
・説明の受けとめ、理解状況を確認する。
・結果を聞き生じる心理的状況(不安、恐怖、絶望、孤独など)をアセスメントし、疑問
あるいは葛藤などの心理社会的問題に対して患者自身が適切な判断ができるよう意志決
定のプロセスを支援する。
・説明直後は、正常な判断力が低下する場合が多いので、人生を決めるような決定や行動
を取らないように説明する。
・家族 / パートナーへの感染の説明及び性行為相手の HIV 抗体検査を考えていけるよう
に支援する。
・心理面への対応は、患者の病気に対する感情や思いを受けとめ、慢性疾患のひとつで治
療効果が有ること、独りではないこと、医療者も支援していくことを伝える。
・相談室の利用方法・連絡先や次回の受診日・方法の理解を確認する。
・検査結果を聞いた後、不安が強い、突発的な行動をとる可能性がある場合、専門職(精
神科医師やカウンセラー)に依頼・相談し危険回避できるよう調整する。
・患者に、相談できる専門職や陽性者支援団体など利用可能な関係機関の情報を伝える。
2 陰性結果説明時
HIV 検査結果が陰性であっても過去の性行為が安全であることの証明ではない。検査
結果を正確に理解できるよう情報提供や性感染症予防行動を具体的に考え実践していける
ような振り返りをする機会が重要といえる。
HIV 検査受検者は HIV 感染への関心度が高い状況と考えられる。検査結果説明時にリ
スク行為や性感染予防行動を考えられるような行動変容の機会を設ける。
感染症の臨床経過
感染症患者の看護
HIV 検査支援~
172 HIV 感染症患者の看護 ~
18-3
初診時の支援
初診時、患者は感染告知を受け、病気に対する偏見や差別を受けるのではないかという不安を
持ってくる。看護師は医療機関を受診したことを支持し、受診目的が達成できるよう支援する。
<初診時の流れ>
病院から紹介
(地域医療連携)
患者から連絡
<各場面での支援のポイント>
予約時に受診時間や料金について情報提供する。
初診時手続きの後の流れについて説明し相談室
看護師が対応することを伝える。
受診手続き
当日の流れを説明し時間や料金について確認す
る。時間を設けて病気の説明、相談対応すること
を伝える。
診 察
診察時必要に応じて同席することの了解を得る。
今後の治療方針を患者、医療者間で共有する。
相談室を紹介し場所を伝える。
患者支援(看護師、カウンセラー、MSW)
相談室や各職種の役割を紹介し必要に応じて各
職種による面談を実施する。 会 計
帰 宅
次回受診時の手続きや診察場所を伝える
1 初診時の問診
看護の問診は、情報収集の目的だけではなく、面談を通し、患者との信頼関係を形成してい
く場でもある。初診時の医療者や医療機関の第一印象が、その後の患者と医療者間の信頼関係
に影響し、患者の療養経過を左右すると言われている。初診時の対応で信頼関係を損なうと、
それ以降の受診中断や生活支援が進まなくなる可能性があることを認識した支援が求められ
る。
「少なくとも、次の受診につながる」「今後の療養生活についてある程度の見通しが立てら
れる」支援が初診時には重要である。また、初診時に全ての情報収集を行うのではなく、患者
の身体、心理状況を踏まえて必要な情報からアセスメントし、患者の全体像を把握する。
※<初診時流れ><各場面で支援のポイント><看護情報シート アセスメントガイド>を参
照する。
HIV 感染症患者の看護 ~初診時の支援~
HIV 感染症の臨床経過 173
2 診療環境とプライバシーの保護への配慮
・診察や説明、面談をする場所は、プライバシーが保て、患者が十分に感情を表出できる個室
が望ましい。個室での対応はスタッフへの危機回避対策を整備し、椅子やドアの位置、ハサ
ミなどの鋭利なものの保管にも注意し、緊急対応要請が可能な体制を整えておく。
・患者から知り得た情報がチーム内で共有が必要と判断された場合、患者に「情報を伝える目
的、誰(どこに)に、どの程度、どの様に内容を伝えるか」について了解を得た上で、情報
をチーム内で共有する。
3 初診から定期受診継続への支援
・定期受診は、患者が自分の免疫状態を把握し、治療のタイミングを逃さず、健康状態を維持
していくために重要である。治療している場合は副作用や関連疾患発症の有無、治療効果を
把握することで自身の健康管理やセルフケア継続への支援につなげていく。
・自覚症状がない、免疫状態が安定しているなどの理由で受診中断する患者もおり、初診から
定期受診継続への可否をアセスメントし、通院が継続支援を実践する。
・受診や予約外受診での調整については事前に情報提供を行い、行動できているか確認する。
表 1 看護情報シート、アセスメントガイド【現病歴】
項目
病気の説明と理解
目的、方法
・病気の説明、理解状況、病気の受け止めを確認する
抗体検査回数、献血歴、 ・感染リスクの認識と行動をアセスメントする
感染経路、海外渡航歴、 ・感染経路により罹患する可能性のある疾患や症状に繋がる
初期感染時期、
現在までの経過
現在の症状
認知機能低下の有無
・日和見感染症や性感染症などの合併疾患をセスメントする
・HAND も視野に入れアセスメントする
病気を告知した人・
キーパーソンの有無
・病気を伝えて支援が受けられているか、伝えていないが必要な支
援が受けられているか、相談者の存在をアセスメントする
・誰にも話せないと思っている場合は、なぜそう思うのか理由を聞
き対応を患者と検討する・医療者が相談役割を持つ存在と理解さ
れているかアセスメントする
セクシャリティ
性行動
セックスパートナーの
有無
・セクシャリティや性行動を把握し二次感染予防への支援手がかり
をえる。
・セックスパートナーとの感染リスク行動をアセスメントする。
・パートナーの抗体検査受検の必要性の理解と実施結果を確認する
感染症の臨床経過
174 HIV 感染症患者の看護 ~初診時の支援~
表 2 看護情報シート、アセスメントガイド【既往歴】
項目
目的、方法
梅毒等の STD
帯状疱疹等、痔疾患
肝炎
・性感染症の既往を把握することで、健康認識、受診行動、感染リ
スク行為をアセスメントする。
てんかん、喘息、
精神疾患
・薬剤相互作用の考慮が必要である。
・精神疾患による受診、服薬中断のリスクをアセスメントする
高血圧、心疾患、
・治療状況や今後の治療の必要性と合併症管理をアセスメントす
糖尿病、痛風、腎臓病、
る。
・薬剤相互作用の考慮が必要である。
入院歴、手術歴
家族歴、常用薬、
薬剤アレルギー、
ペットの有無
・患者の健康管理に対する関心度や認識をアセスメントする
・過去の受診行動の経過から定期受診の可否をアセスメントする
・健康管理の必要性を意識づける機会にする
薬物使用歴
IDU
合法薬物の使用
・精神疾患の症状との見極めが必要である
・注射による感染リスクの有無をアセスメントする
・性行為時の薬物使用によるアンセーファーセックスの状況を把握
し、行動変容への支援の手がかりを得る
表 3 看護情報シート、アセスメントガイド【HIV 感染症での受診歴】
項目
目的、方法
受診頻度
抗 HIV 薬の服薬歴
・自分の病気・治療に関する関心度や理解度を確認する
・服薬状況、工夫点、副作用の有無、薬剤変更状況などから、服薬
継続支援をアセスメントする
日和見感染症の有無
予防内服、治療の有無
・日和見感染症の知識、治療や予防の実施状況を確認し、支援の必
要性をアセスメントする
表 4 看護情報シート、アセスメントガイド【基本情報】
項目
目的、方法
職業、健康保険、
身体障害者手帳の有無
その他の社会資源
・就労による受診や服薬への影響をアセスメントする
・服薬治療の開始や継続による、医療費負担についてアセスメント
する
家族構成
・患者の療養継続に必要な支援やサポートについてアセスメントす
る
・健康管理の意識の確認と今後のセルフケアに繋げていく
歯科受診状況
HIV 感染症患者の看護 ~初診時の支援~
HIV 感染症の臨床経過 175
18-4
セルフケア支援
患者が HIV/AIDS に関する正確な知識を習得し、療養生活に必要なセルフケアを的確に実践
できるよう支援する。セルフケア支援は、患者個々の理解の程度や生活環境の変化、病状や治療
の変化に応じて繰り返し実施することが重要ある。
① ヒトの免疫システム
② HIV 感染症と AIDS の違い
③ 病気の経過
④ 検査データの見方
⑤ 抗 HIV 療法
⑥ 定期受診の必要性
⑦ 服薬管理
⑧ 合併症の予防・治療(日和見感染症・長
期合併症など)
⑨ 感染予防
⑩ 日常生活の注意点
⑪ 社会資源・制度利用
⑫ 専門職利用
⑬ 緊急時・相談時の連絡先・連絡方法
⑴ 日常生活への支援
健康を維持し免疫力を保ち、自分や他者への感染に注意した生活を送る事が出来るよう日常
生活の注意点について説明し実践できるよう支援する。健康な状態を維持していくためには、
一般的な規則正しい生活が基本であることを理解する必要がある。患者自身が行動することが
重要であり、理解することと実践できることは必ずしも同じではない為、各自の行動に沿った
具体的な支援が必要である。
1 受診行動
①定期受診
• 自分の免疫状態を把握し、治療のタイミングを逃さないことが重要である。治療中の
患者は、副作用や関連疾患発症の有無、治療効果の把握が健康管理の動機づけに繋がる。
• 受診時に、患者が療養に必要な情報を得る機会とし、患者の生活状況を定期的に把握
し支援を行う。
• 定期受診の可否をアセスメントして受診継続の必要性を本人が理解し行動できるよう
支援する。受診や予約外受診に関する理解と行動確認を行う。
②他科外来・他施設の受診
• 眼科受診の継続は、サイトメガロウイルス網膜炎等の早期発見治療のため必要となる。
(免疫データにより受診頻度を決める)
• 婦人科受診は、子宮頸癌等の早期発見のために1年1回は実施する。(免疫や細胞診の
データにより受診頻度を決める)
• 主治医から紹介(紹介状)をうけ、患者が安心して必要な診療が受けられるよう受診
調整する。他科受診の方法や流れについて説明する。
• 初診で他科受診時は、特にプライバシーへの配慮など必要に応じて受診科へ依頼する。
③緊急・体調変化時の対応
• 体調変化や緊急時は、医療者に連絡相談できるよう支援する。連絡先・連絡方法を知り、
行動できているか確認する。
• 通院医療機関以外に受診する場合や救急車利用時は、「HIV 感染で通院していること」
「通院医療機関との連携が図れること」を、医療者や救急隊員に伝えることで適切な対
応が可能となることを説明する。
感染症の臨床経過
176 HIV 感染症患者の看護 ~セルフケア支援~
2 日常生活の注意点
①口腔ケア
HIV 感染症に特徴的な症状を患者が知り口腔内の変化を観察し、状態に合ったケアを
行えるように支援する。
②感染予防
a.免疫低下時
外出時のマスク、外出後の含嗽、手洗い等一般的な感染予防行動の必要性が分かり
行動できるよう支援する。
b.2 次感染予防
血液、血液の混入が考えられる体液が感染源となることを理解し、他者へ感染させ
ないよう自分で対処行動が出来るようにする。また、この対処行動が自身の感染予防
になりうる事を知らせておくことも重要である。患者や周囲が慌てないように、出血、
嘔吐・下痢の対応について伝えておくことも大事である。
• 血液が混入している体液汚物は水洗トイレに流す。血液汚染物(血液で汚染された生
理用品、ガーゼ等)の処理は、自分でビニール袋に入れて結んで燃えるごみとして破
棄する
• 他者のものと一緒の洗濯でよい。しかし、衣類に血液等の体液付着時は、水洗い後、
塩素系漂白剤(ハイター等)キャップ一杯を 3 リットルの水に入れ、30 分浸した後、
通常通りに洗濯する
• 髭剃り、歯ブラシ、ピアス、かみそり、つめきりなどの共有をさける。
③ペットの飼育
ペットを飼うことで生活は充実するが、ヒトにも感染する病原体を持っている可能性
がある。ペットから感染を受けないような感染予防行動をとり、ペットの健康管理が行
えるよう支援することが重要である。
④旅行の注意点
旅行先や期間、活動内容に応じて注意点を医療者と確認する必要がある。海外渡航は
事前に医療者へ伝え、服薬中であれば時差に応じた服用時間の変更が必要なことを説明
しておく。
⑤予防接種
免疫力が低下している場合、予防接種を受けることで感染予防や症状の軽減につなが
るメリットがあるが、ワクチンそのものが病気を引き起こす原因になることがある。予
防接種については主治医に必ず相談することを説明する。
• 生ワクチンは打たない。
• A・B 型肝炎・肺炎球菌感染症の予防接種は受けておくことが望ましい。
• インフルエンザは流行2ヶ月前に実施の有無を医療者に相談する。家族がインフルエ
ンザに罹患した場合は、可能な限り別室で過ごす事を伝える。
• 水痘・麻疹などに罹患している人と接した場合は、医療者に相談する。
HIV 感染症患者の看護 ~セルフケア支援~
HIV 感染症の臨床経過 177
3 生活習慣について
療養を継続していく中で合併症の対策が重要であり、早期からのアプローチが必要となる。
HIV 感染症と生活習慣病の関連について知り、生活習慣の見直しと改善への支援を行う。
①食 事
患者の症状や免疫状態等に合わせた食事指導が必要となる。免疫力低下時には感染予
防に留意した食生活が必要である。抗 HIV 薬開始後は消化器症状等の副作用に応じた支
援が必要となる。長期服用患者へは、脂質異常症、骨粗鬆症等の合併症の予防のための
食事療法が必要となる。血液検査値と照らし合わせ、生活に取り入れていく支援が必要
である。
②飲 酒
過度な飲酒は肝機能障害や免疫機能低下の要因になることがある。また、飲酒により
判断力が低下し、アドヒアランス低下やアンセーファーなセックスにつながる可能性が
あるため、適度な飲酒や禁酒への支援が必要である。
③喫 煙
HIV の感染により、健常人より喫煙による肺癌、血管障害、呼吸器感染症などの危険
性が増す。喫煙の害について振り返る機会を持ち、禁煙に繋がる支援する。
④代替療法
健康食品・サプリメント等の中には、抗 HIV 薬の効果が低下するものがあるため、使
用希望時は医療者に確認が必要なことを説明する
⑤運動・活動
骨粗鬆症予防目的で日光浴を行うことや、疲れない程度の運動が身体機能の活性化や、
生活習慣病予防になるので情報提供と行動確認をする。
血友病の関節障害に対しては、関節の状態に応じた運動を実施することが重要である。
そのためにも定期的な整形外科受診が望ましい。
4 薬物使用
麻薬など薬物注射の回し打ちによる注射器・針の共有により、薬剤耐性ウイルス・肝炎
ウイルスの感染リスクがあり、更に、他の感染症のリスクも高まる。性行為時の薬物使用
では、薬物による影響を本人が理解してリスク行動が低減できるように支援する。
薬物依存がある場合、身体的、精神的な影響はもちろん、アドヒアランス低下や薬物相
互作用による抗 HIV 療法の失敗等、様々な不利益を生じやすい。離脱には専門的治療が必
要となるため、適切な専門機関へつなげる必要がある。
<相談・資料入手先>
・ダルク(ドラッグ アディクション リハビリテーションセンター) 03(3844)4777 HP http://jcca.client.jp/
・北海道ダルク 011(221)0919 http://h-darc.com/
・アジア太平洋地域アディクション研究所(アパリ)
03(5830)1790 HP http://www.apari.jp/npo/
・北海道立精神保健福祉センター 相談電話 011(864)7000
http://www.pref.hokkaido.lg.jp/hf/sfc/
・札幌こころのセンター 相談電話 011(622)0556
http://www.city.sapporo.jp/eisei/gyomu/seisin/index.html
感染症の臨床経過
178 HIV 感染症患者の看護 ~セルフケア支援~
18-5
服薬支援
抗 HIV 療法は、生涯にわたり服薬継続が必要であり、アドヒアランスを維持することが重要
な治療である。アドヒアランスが低下すると、不十分な薬剤血中濃度が持続し、耐性ウイルスが
誘導され治療が失敗する可能性があるため、服薬時間を守り飲み続けることが重要である。この
ような厳密な服薬管理を一生涯継続することの決断は容易ではない。看護師は治療に関する正確
な情報を提供するとともに、患者の思いに沿い納得して自己決定できるように支援することが必
要である。アドヒアランスを維持することで治療効果を長期にわたり維持できるよう継続した服
薬支援を行う必要がある。
服薬支援における各時期のポイントを以下に記す。
⑴ 抗 HIV 療法開始前
①治療開始の時期と抗 HIV 薬の選択は患者自身が納得して意思決定できるよう支援する。
②患者のライフスタイルに応じた服薬時間を決めてシュミレーションを行い、患者自身が服薬
開始へのイメージ化が図れるよう支援する。
③服薬シュミレーションにより、服薬の問題を明確にし、対処方法を相談して安心して服薬を
開始出来るよう支援する。
④経済的負担は服薬継続中断の要因にもなるため、治療開始前に医療費負担が軽減できるよう、
社会制度を利用するなど、MSW と事前準備が整えられるよう支援する。
⑤予め起こりうる副作用症状を説明し、症状出現時の対処や連絡行動がとれるよう具体的な方
法を話し合い準備しておく。
⑵ 抗 HIV 療法開始後
1 抗 HIV 療法開始直後
①服薬開始 2 週後に受診し、副作用の有無や程度、観察や対処行動の状況を確認する。
②この時期の服薬経験が今後のアドヒアランスに影響を与えるため、服薬の継続を実感でき
るような支援を行っていく。
2 抗 HIV 療法半年以内
①副作用症状や服薬行動の生活への影響、対処行動がとれているか確認し、服薬が継続でき
るよう支援する。
②服薬忘れや服薬困難な時、服薬が実践できている状況の振り返りを行い、今後の服薬行動
を一緒に考える。
③免疫再構築症候群が起こりうる時期であり、患者が身体症状を観察し必要な報告ができる
よう支援する。
④血液検査データを提示し、治療効果を評価し治療継続の意欲につながるよう支援する。
3 抗 HIV 療法半年以降
①服薬を継続できた自信や自己効力感が得られる反面、慣れによる服薬の失念や長期服薬へ
の精神的疲弊が生じることも考えられる。服薬行動により起こる悩みや不安への対処を一
緒に考え長期服薬においてもアドヒアランスが維持できるよう支援が必要である。
②ライフイベントや生活環境の変化を定期的に把握し、服薬行動が継続していけるよう支援
HIV 感染症患者の看護 ~服薬支援~
HIV 感染症の臨床経過 179
する。
③抗 HIV 薬の長期服薬による合併症や副作用(乳酸アシドーシス・肝機能障害・高血糖・
糖尿病・リポジストロフィー・骨代謝異常・腎機能障害・心血管疾患・など)が報告され
ており、定期検査を実施し副作用への対処行動がとれるように一緒に考え支援していく。
4 未治療で経過している患者に対して
HIV 感染症「治療の手引き」の改定に伴い HIV 治療の開始時期は年々早まる傾向にある。
抗 HIV 療法に関する情報提供を行い、免疫状態により治療開始のタイミングを逃さないよ
うに支援する。
感染症の臨床経過
180 HIV 感染症患者の看護 ~服薬支援~
18-6
サポート者形成支援
生涯にわたり自己管理を必要とする疾患であるため、サポート者の存在は重要である。周囲に
HIV 感染を伝えてサポートを受けている患者は受診中断率が低いともいわれている。医療者を
含めたサポート者の存在は長期療養には重要である。
しかし、周囲への告知は容易ではない。HIV 感染症に対する誤解や偏見がいまだ存在するこ
とで、告知した相手との関係性の変化への懸念や患者自身が抱く HIV 感染症への負目など様々
な理由がある。患者自身が周囲への告知やサポート支援について意思決定していけるよう支援を
行う。
1 告知に関する自己決定支援
サポート者形成支援のポイントは、
① 患者自身が病気に向き合えるよう支援する。
②現在の身近な人間関係やキーパーソンの有無を確認する。
③患者自身が他者への HIV 感染告知をどのように考え、必要としているか否か確認する。
④長期療養生活でサポートを得ることについて十分話し合う。
⑤告知する対象者や時期、内容など十分に考えられ、その人にとって適切なタイミングでの
告知が自己決定できるよう支援する。
⑥希望があれば、告知を体験した患者から、体験談を聞く機会を設ける。
2 告知されたサポート者のへ支援
HIV 感染を伝えられたサポート者は、患者本人と同様、またそれ以上の衝撃を受けてい
る可能性がある。また、HIV 感染を打ち明けられたという負担や患者の支援方法などの悩
みを抱えていることもある。サポート者が周囲へ表現することのできない感情や悩みの相談
役となり、サポート者が抱える問題をアセスメントし、患者を支援し続けていけるように看
護師は多職種と連携して支援していく。
① HIV 感染症に関する正しい知識を提供する
②医療者はいつでも相談対応できることを保証する。
③患者の診察に同席し病状や今後の見通しを聞くことを希望された場合は、患者の同意を得
て機会を調整する。
④感染不安がある場合は、日常生活における感染リスクについて説明し、必要時、抗体検査
などの情報提供をする。
3 遺族への支援
最愛の家族を失った悲しみは当然だが、社会の偏見や誤解、親しい身内にも病名を隠して
看病を続けたなどの感染症特有の負担があることを忘れずに支援する。
また、薬害エイズ被害者については、はばたき福祉事業団や、国立国際医療センター エ
イズ治療・開発センター、大阪医療センターとの連携を行い、必要時、遺族相談事業・患者
会などの遺族ケアを活用して対応にあたる。
HIV 感染症患者の看護 ~サポート者形成支援~
HIV 感染症の臨床経過 181
18-7
セクシャルヘルス支援
セクシュアリティは、食物・睡眠・休養などと同様に、人間の基本的欲求であり、その人を支
える健康の基盤となるものである。人間の性は、人間に本来備わっている人権であり、生きる喜
び、生きる意欲を支えるものである。
患者の QOL を高めるためには、セクシュアリティへの看護が不可欠であり、患者のセクシュ
アリティ支援が重要といえる。HIV 感染患者の 80%以上が性行為による感染であり、感染予防
行動への支援は患者の健康維持やパートナーへの感染防止からも重要な支援である。
性生活への支援
医療者が性に関する相談対応することは役割のひとつであることを患者に伝える。相談を待
つのではなく、正確な情報を看護師側から早期に提供すること、相談を受けたら一緒に問題点
を整理すること、患者と情報共有し一緒に考える姿勢が効果的な支援につながる。
感染経路やパートナーへの感染を防ぐため、体液が直接触れないようにするなどの性感染症
予防について正確な知識を医療者と患者の両者が持つ。感染リスクを減らせるような具体的な
方法を、患者や配偶者、セックスパートナーと共に考えられるよう支援する。また、HIV の
治療が安定している場合も、性感染症予防行動が継続できているか、繰返し定期的に支援して
いく。
①セーファーセックスについて
患者の性生活に応じて、2 次感染予防行動が確実に行動できるように、感染経路や感染リ
スクの高い行為、具体的な予防方法が自ら考えられ行動できるよう性に関する話ができる
場を設ける。患者が感染予防行動を考え、自ら行動出来るよう支援することが重要である。
感染予防の基本はセーファーセックスといわれ、コンドームの使用はひとつの方法である。
• コンドームを確実に使用できるよう、保管方法・装着時の注意・使用後の処理等は具体
的に説明する。
• 性行為の種類(膣性交・肛門性交・フェラチオ・クンニリングス・リミング)に応じた
感染予防方法・注意点の説明をする。
• 性行為を振り返り、感染リスクに気がつけるよう支援し、感染リスクを低減する行動が
具体的に考えられ、実践できているか評価する。
• 性行為により、HIV 感染以外に性感染症、HBV、HCV、HIV、薬剤耐性ウイルスなどに
感染する可能性がある。今後の治療へも影響を及ぼすため、セーファーセックスの支援
を継続する。
②家族計画について
家族計画は、妊娠・避妊を含めて説明する。挙児希望の有無は、パートナーと相談し人
生設計していけるよう支援し、必要な情報提供をしていく。
• HIV 感染者が男性の場合、女性の場合、両者が感染している場合などに対応した情報提
供する。
• HIV 感染者の生殖補助医療として人工授精や体外受精などについては最新情報を確認し
情報提供する。
感染症の臨床経過
182 HIV 感染症患者の看護 ~セクシャルヘルス支援~
18-8
在宅療養支援
HIV 感染症の予後が改善し、多くの患者が、仕事や学業などの社会生活と治療を両立させ生
活している。しかし、AIDS を発症し日和見疾患が脳などの中枢神経に支障をきたす場合には、
治療で症状が安定しても認知機能や運動機能に後遺症を残す場合がある。また、患者の加齢に伴
い、HIV 感染症以外の脳血管障害、虚血性心疾患、悪性腫瘍などの合併症や経済・社会的問題
などが生じ、支援内容も多様化している。必要時、医療機関・保健・福祉・地域などの多職種が
連携を図り、患者の療養生活の基盤を支えていく。
HIV 感染症があるということで施設や病院での受け入れや訪問看護サービス、在宅介護支援
サービスなど受けられない状況が続いている。まず、医療従事者が正確な知識を得て、必要なサー
ビスを提供できるよう在宅療養支援への取り組みが早急に求められている。
⑴ 在宅療養支援を導入する際のポイント
① 患者や家族の意思を確認する(今後どのような生活を送りたいのか)
② 受け入れ施設との調整や地域の他職種へ協力依頼を早期から行う
③ MSW や訪問看護ステーション、地域医療連携支援センターなどと連携を図り、安心して
生活ができるよう支援する
(2)受け入れ施設への支援
長期療養が必要な HIV 感染者の受け入れ施設の確保は困難な現状である。施設側で受け入
れられない理由を、「院内感染のリスク・不安」「受け入れ経験がない」「職員不足,設備・環
境未整備」「経営上(医療費)の問題」などとしている。はばたき福祉事業団の調査報告から、
施設側では受け入れの心配・不安の解消により受け入れが可能であることが分かっている。そ
こで、受け入れ施設に対しては、職員のへ研修、診療報酬の面での支援、医療機関との連携や
サポートなどが求められる。患者受け入れ後も医療機関による継続的な支援を行っていくこと
が重要である。
• 北海道大学病院 HIV 感染対策委員会では、在宅療養支援の導入や検討をされている施設
への研修を実施している。詳細は、北海道大学病院のホームページ参照。
•「訪問看護・介護職員向け HIV 感染症対策マニュアル:HIV 感染症の医療体制の整備に関す
る研究班」
「HIV 陽性者の受け入れに向けて:厚生労働科学研究費補助金エイズ対策研究事
業」など HIV 感染者・エイズ患者の在宅医療・介護の環境整備事業で受け入れ施設向けの
マニュアルなどが整備されている。
HIV 感染症患者の看護 ~在宅医療支援~
HIV 感染症の臨床経過 183
北海道大学病院 病院長
感染症検査同意書
当院では、患者の皆様の健康状態をできるだけ正確に知り、治療や検査をお互いの信頼
と安全の上に実施したいと考えております。そのために、手術、処置、検査(内視鏡検査、
血管造影検査など)の前や妊娠時に、皆様に感染症の検査をうけていただいております。
症状もないのにと疑問に思われるかもしれませんが、知らないうちに何かの感染症にか
かっていることがあります。また、普段は活動していなくても、手術による体力低下や薬
の影響がきっかけとなり深刻な病気を起こす細菌やウイルスがあります。これらを前もっ
て知ることは,あなたの治療方針を決めるうえで非常に大切です。また、それは医療従事
者への感染を防ぐのにも役立ちます。
通常、検査する項目は、細菌、肝炎ウイルス、エイズウイルス(HIV)
、梅毒トレポネー
マ、ヒト T 細胞白血病ウイルスなどですが、医療上の必要に応じて項目の一部を省略した
り他の項目を追加する場合があります。
検査結果につきましては、プライバシーの保護を厳守いたします。ご同意いただけない
場合、感染症がある場合を想定して対応させていただきます。
この趣旨をご理解いただき、下記に同意の有無とご署名をお願いいたします。
説明医師氏名
㊞ (直筆の場合は印不要)
下の□のどちらか当てはまる方にチェック(✓ )を付けてください。
□ 私は感染症検査の必要性を理解し、検査を受けることに同意します。
□ 私は感染症検査に同意しません。
署名年月日
平成
年
月
日
本人 署名
㊞ (直筆の場合は印不要)
代諾者 署名
㊞ (直筆の場合は印不要)
本人との関係 (
感染症の臨床経過
184 HIV 感染症患者の看護
)
■参考文献■
1 抗 HIV 治療ガイドライン.平成 24 年度厚生労働科学研究費補助金エイズ対策研究事業 HIV 感染症及びその合併症の課題を克服する研究班編.2013 年 3 月
2 HIV 感染症「治療の手引き」第 16 版.HIV 感染症治療研究会編.2012 年 12 月
3 エイズ患者の看護 日本看護協会出版会.
4 エイズ・クオリティケアガイド 日本看護協会出版会.2001 年
5 HIV 感染症エイズ・クオリティケアガイド 日本看護協会出版会 2001 年看護 基礎研修
編 2012 年版テキスト HIV 感染症の医療体制整備に関する研究班
6 北大病院医療事故防止対策マニュアル:リスクマネージメント委員会.2013 年
7 北大病院感染対策マニュアル:感染制御部.2013 年
8 成人看護学 慢性期看護論[第 2 版]ヌーヴェルヒロカワ.2013 年
9 HIV Q & A[改訂版]医療ジャーナル社.2006 年
10)HIV 診療における外来チーム医療マニュアル HIV 感染症及びその合併症の課題を克服す
る研究班 改訂第 2 版 2011 年
11)
高齢者のための施設と HIV/ エイズ 社会福祉法人はばたき福祉事業団 2012 年
(看護部 渡部 恵子、坂本 玲子、武内 阿味、成田 月子、
大野 稔子、岡林 靖子、福島 洋子、2013.07) HIV 感染症患者の看護
感染症の臨床経過 185
19 外国人患者への支援
1
言葉の壁による意思疎通の確保
患者の診療時、意思の疎通が日本語で可能かどうかを判断する。不可能な場合は、正確な情報
提供、不安の軽減、理解度の把握目的で通訳を確保することが重要である。その際、患者のプラ
イバシーに十分配慮し、医学用語などの通訳ができる人材を患者の同意を得て依頼する。患者と
医療者の会話が可能な状況を準備し、患者自身の治療についての意見、サポート状況、経済基盤、
母国での医療事情療養環境等を踏まえ、今後の診療方針を選択決定できるよう支援する。 ⑴ 医療通訳派遣 電話での医療通訳や相談が可能な団体
① AMDA 国際医療情報センター(http://amda-imic.com/)
無料で多言語による電話医療相談を実施
センター 東京 電話番号(相談):03-5285-8088
センター 関西 電話番号(相談):06-4395-0555
②外国人在留総合インフォメーションセンター
入国手続や在留手続等に関する各種相談。相談員との直接相談も可能。
〒 060-0042 北海道札幌市中央区大通西 12 丁目
電話 0570-013904(IP、PHS、海外:03-5796-7112)
平日 午前 8:30 ~午後 5:15
③札幌市コールセンター(http://www.city.sapporo.jp/callcenter/index.html)
札幌市のさまざまな制度や手続きなどの問い合わせのほか、施設、行事、公共交通案内な
ど、暮らしの些細な質問に対応可
【日本語、英語対応の開設時間】年中無休 午前 8:00 ~午後 9:00
【中国語、韓国語対応の開設時間】年中無休 午前 9:00 ~午後 5:00
【電話】011-222-4894(ツーじる しやくしょ)
⑵ 在住外国人支援を行っている団体
外国人患者の出身地を確認し活用できる情報を提供する
① CHARM(チャーム:移住民の健康と権利の実現を支援する会)
電話:06-6354-5961
② SHARE(シャア:国際保健協力市民の会)
電話:050-3424-0195
③港町診療所(沢田医師)
電話:045-435-3673(月・火・金)
④カトリック教会外国人支援センターウェルカムハウス
電話:011-222-6766
⑤自治体国際化協会(クレア)(http://www.clair.or.jp/j/multiculture/index.html)
在住外国人の方々が日本で生活するための情報や緊急のお知らせを多言語で提供。
HIV 感染症の臨床経過
186 外国人患者への支援
⑶ 外国人に提供できる資材
使用言語を確認し適切な資材を提供する。英語版の他にも作成している言語もあるため問
い合わせて確認する
①たんぽぽ 英語版パンフレット 東京都
②患者ノート 英語版 ACC
③ My choice my voice 英語版 他
2
滞在資格と医療福祉制度
⑴ 滞在資格があり、国民健康保険・社会保険に加入している場合、障害認定制度申請条件が整
えば外国人でも制度利用可能である。
⑵ 無保険外国人にとって、医療にアクセスすることは言葉や医療費の問題などからハードルが
高くなりがちで重症化して発見される場合がある。オーバーステイや健康保険を持っていない
場合、医療費負担が困難な場合があり、確認したうえで個々への対応が必要である。
⑶ 医療機関では、無保険外国人患者に健康保険取得が可能か否か検討する。また、各種医療助
成制度の活用<結核予防法・精神保健法・入院助産制度・自立支援医療制度(育成医療)・労
働保険>などを検討する。
自治体により保障されている制度で、医療費補填事業・旅行病人及び旅行死亡取扱法などが
あり自治体に確認する。
(北海道は旅行病人及び旅行死亡取扱法の保障制度なし)保険取得可
能性が無く、治療継続不可能と判断した場合には、その事実を患者に伝え、医療機関ができる
ことを明確にし、帰国手続きが円滑に行われ、適切な医療機関へつながるよう支援する。
滞在資格や使用できる医療福祉制度の選択など個々の患者の状況によリ具体的対応を検討す
る場合はソーシャルワーカーに相談する。
■参考文献■
1 札幌市.くらしのガイド Handbook for Daily Life.札幌市役所:
http://www.city.sapporo.jp/kokusai/handbook/file/ja-al1.pdf
(HIV 相談室 渡部 恵子、坂本 玲子、武内 阿味、大川 満生、富田 健一、2013.07)
HIV
外国人患者への支援
感染症の臨床経過 187
20
HIV 曝 露 時 の
対応と安全対策
20-1
針刺し・切創及び皮膚・粘膜
曝露時の対応
HIV 感染の可能性のある針刺し・切創及び皮膚・粘膜曝露が発生した場合には、すみやかに
以下の対応をするとともに原因の究明と再発の防止に努める。
1
曝露状況における対処法
曝露状況に応じて早急に以下の対処を行う。
1 血液あるいは体液に接触した場合
①健康な皮膚・粘膜の場合
直ちに流水で十分洗浄するのみでよい。
②損傷のある皮膚・粘膜の場合
針刺しの場合の対応に準ずる。
③口腔に血液あるいは体液が入った場合
多量の水とポリビニールピロリドンヨウ素剤(イソジンガーグル)で含嗽する。
④目に血液あるいは体液が入った場合
精製水あるいは生理食塩水で 4 ~ 8 倍に希釈したポリビニールアルコールヨウ素剤(PA・
ヨード)による点眼消毒と水による洗浄をする。
⑤針刺し事故
流水で十分に洗浄し、消毒用エタノール等で消毒する。
針刺し後の処置
以下のマニュアルは、HIV 診療を安全に行うためのものです。万が一針刺し事故が起こった
場合、感染予防のための予防薬服用がスムーズに行われるよう作製したものです。作製に当って
は、米国の CDC から報告されたガイドライン(2005 年 9 月改訂版)と、国立国際医療センター
病院にて作製されたもの(2007 年 7 月改訂版)、および厚生労働科学研究班による抗 HIV 治療
ガイドライン(2013 年 3 月改訂版)を参考に一部改変しました。
その 1
まず最初に、下記のステップ 1、ステップ 2 に従い曝露状況の評価をしてください。
感染症の臨床経過
188 HIV 曝露時の対応と安全対策 ~針刺し・切創及び皮膚・粘膜曝露時の対応~
ステップ 1【曝露のタイプについての評価】
A.経皮的な曝露
⑴ 軽度:非中空針による浅い傷など
⑵ 重度:中空針による針刺し
肉眼で血液付着が確認できる針・器具による針刺し・切創
血管に刺入された針による針刺し(例えばカテラン針や、サーフロのような太さの
もの)
深い針刺しなど(例えば、IVH の穿刺針や、透析時のバスキャスのような太いもの)
B.粘膜や傷のある皮膚への曝露
⑴ 少量:2 ~ 3 滴の血液・体液など
⑵ 大量:大量の血液・体液飛散など
ステップ 2【感染源の感染状況の評価】
A.感染源が HIV 陽性
⑴ クラス 1:無症候性 HIV 感染症あるいは血中ウイルス量低値(< 1500copies/㎖)
⑵ クラス 2:症候性 HIV 感染症、AIDS、HIV 初期感染、血中ウイルス量高値
B.HIV の状況不明の感染源(HIV 感染の検査が不可能な死亡した患者の血液・体液などによる
曝露)
C.感染源不明(廃棄箱の中にあった針による事故などで誰の検体かわからないときなど)
D.感染源の HIV 陰性が確認されている
その 2
以上のステップ 1、ステップ 2 より曝露状況と予防投薬について
以下に従って評価してください。
曝露のタイプで
A.経皮的な曝露 表 1
B.粘膜や傷のある皮膚への曝露 表 2
表 1 経皮的な HIV 曝露後予防についての推奨
感 染 源 の 感 染 状 況
曝露のタイプ
HIV 陽性
クラス 1
HIV 陽性
クラス 2
HIV 感染状況
不明の感染源
感染源不明
HIV 陰性
軽度
基本投与
を推奨
拡大投与
を推奨
予防投与なし
(*注)
予防投与なし
(*注)
予防投与なし
重度
拡大投与
を推奨
拡大投与
を推奨
予防投与なし
(*注)
予防投与なし
(*注)
予防投与なし
HIV 曝露時の対応と安全対策 ~針刺し・切創及び皮膚・粘膜曝露時の対応~
HIV 感染症の臨床経過 189
表 2 粘膜曝露や傷のある皮膚への HIV 曝露後予防についての推奨
感 染 源 の 感 染 状 況
曝露のタイプ
HIV 陽性
クラス 1
HIV 陽性
クラス 2
HIV 感染状況
不明の感染源
感染源不明
HIV 陰性
少量
基本投与
を考慮
基本投与
を推奨
予防投与なし
(*注)
予防投与なし
(*注)
予防投与なし
多量
基本投与
を推奨
拡大投与
を推奨
予防投与なし
(*注)
予防投与なし
(*注)
予防投与なし
(*注)
HIV 陽性患者由来と考えられる場合には基本投与 2 剤による予防投与を考慮する。「予防投与
を考慮」という指示は、予防投与が任意であり、曝露を受けた人と扱う医師との間においてなさ
れた自己決定に基づくものであることを示す。もし予防投与が行われ、その後に HIV 陰性とわ
かった場合には、予防投与は中断されるべきである。
その 3
内服予防が必要と判断されるか、判断に迷う場合には委員会が指定する下記担当医師
に連絡し、内服予防を行うか否か、行う場合の薬剤について(表 3)相談する。
* 委員会が指定する担当医師と連絡先
氏 名
役 職
診療科等
医 局
連絡先
藤 本 勝 也
助 教
血液内科
☎ 7214
PHS 82323
遠 藤 知 之
助 教
血液内科
☎ 7214
PHS 82331
近 藤 健
講 師
血液内科
☎ 7214
PHS 87045
夜間などで、上記医師が不在時は 12-2NS(内線 5795、5796)に血液内科当番医師を問い合わせ
たうえで連絡する。
表 3 予防投与開始時の選択薬
【基本投与】TDF/FTC(or TDF+3TC)または、AZT/3TC(or AZT+FTC)の 2 剤併用
代替として ABC/3TC の2剤併用
【拡大投与】上記の基本投与 2 剤に DRV+RTV を加えた 4 剤併用
代替として LPV/RTV、ATV+RTV、RAL のいずれかを加えた 3 ~ 4 剤併用
【推奨されない薬剤】NVP、DLV、ddI+d4T
感染症の臨床経過
190 HIV 曝露時の対応と安全対策 ~針刺し・切創及び皮膚・粘膜曝露時の対応~
・感染源となった患者の HIV が、薬剤耐性を獲得していると判明している場合は、上記の限り
ではなく、感受性のある薬物の投与を考慮する。
・曝露を受けた人が慢性 B 型肝炎または HBV キャリアの場合は、FTC および 3TC の投与は避
けた方がよい(針刺し後フローチャート説明参照)。
略名
一般名
商品名
分類
AZT
ジドブジン
レトロビル
NRTI
3TC
ラミブジン
エピビル
NRTI
FTC
エムトリシタビン
エムトリバ
NRTI
TDF
テノホビル
ビリアード
NRTI
TDF/FTC
テノホビル + エムトリシタビン
ツルバダ
NRTI
d4T
サニルブジン
ゼリット
NRTI
ddI
ジダノシン
ヴァイデックス
NRTI
ABC
アバカビル
ザイアジェン
NRTI
ABC/3TC
アバカビル + ラミブジン
エプジコム
NRTI
LPV/RTV
ロピナビル + リトナビル
カレトラ
PI
ATV
アタザナビル
レイアタッツ
PI
RTV
リトナビル
ノービア
PI
FPV
ホスアンプレナビル
レクシヴァ
PI
DRV
ダルナビル
プリジスタ
PI
SQV
サキナビル
インビラーゼ、フォートベイス
PI
EFV
エファビレンツ
ストックリン
NNRTI
NVP
ネビラピン
ビラミューン
NNRTI
ETR
エトラビリン
インテレンス
NNRTI
RAL
ラルテグラビル
アイセントレス
INSTI
NRTI
核酸系逆転写酵素阻害剤
NNRTI
非核酸系逆転写酵素阻害剤
PI
プロテアーゼ阻害剤
INSTI
インテグラーゼ阻害剤
その 4
HIV 抗体陽性もしくは強く陽性が疑われる患者を扱った針を自分に刺してしまい、担
当医師と連絡が取れない場合には、以下の針刺し事故後フローチャートに則り行動する。
大至急、抗 HIV 薬の入っている箱を見つける
HIV 曝露時の対応と安全対策 ~針刺し・切創及び皮膚・粘膜曝露時の対応~
HIV 感染症の臨床経過 191
抗 HIV 薬の保管場所:
薬剤部調剤室
5685、5686
箱の中には、以下のものが入っている
①針刺し事故後フローチャート
②妊娠反応用キット(1 回分)
③抗 HIV 薬(1 回分)
④本人用:服用のための説明文書とチェックリスト
女性はまず、妊娠反応を調べる
次ぺージのチャートをスタートする
感染症の臨床経過
192 HIV 曝露時の対応と安全対策 ~針刺し・切創及び皮膚・粘膜曝露時の対応~
HIV 抗体陽性もしくは非常に強く陽性が疑われる患者
の医療行為時に針刺し等をした
男 性
女 性
妊娠反応を調べる
陽 性
陰 性
ス タ ー ト
服用の自己判断ができる
NO
YES
30 分以内に責任者と相談できた
NO
自己決定
YES
できるだけ早く抗 HIV 薬を服用する(ただし、何か食べてからの服用が望ましい)
。
TDF/FTC(ツルバダ)1錠、DRV(プリジスタナイーブ)
2錠、RTV
(ノービア)
1錠
24 時間以内に責任者と相談できた
YES
NO
初回内服の 24 時間後、TDF/FTC(ツルバダ)1錠、DRV(プリジスタナイー
ブ)2錠、RTV(ノービア)1錠を再度服用する。
以降責任者が見つかるまで 24 時間おきに同じ薬剤を服用する
責任者 連絡先
藤本勝也 PHS 82323、遠藤知之 PHS 82331、近藤健 PHS 87045
夜間などで、上記医師が不在時は 12-2NS(内線 5795、5796) に血液内科当番医師を問い合
わせたうえで連絡する。
*公務災害の申請手続きがあるので、責任者の指示を受けた後、速やかに病院総務課労務管
理係(内線 5616)まで申し出てください。
HIV 曝露時の対応と安全対策 ~針刺し・切創及び皮膚・粘膜曝露時の対応~
HIV 感染症の臨床経過 193
針刺し後フローチャート説明
1.可能な限り早期に HIV 抗体、HBs 抗原、HCV 抗体をチェックする。
同時に血清 1ml を-20℃以下(可能なら-80℃)で保管する。以後は、HIV 抗体に
ついて、1 カ月後、3 カ月後、6 カ月後に検査する。HCV との重複感染例では 12 ヶ月後
にも HIV 抗体検査を行う。
2.標準的な薬剤の服用方法を以下に示す。この 3 剤は薬剤部調剤室に保管されている。
1 TDF/FTC(ツルバダ錠:300/200㎎)1 錠 /1×、食後
2 DRV(プリジスタナイーブ錠:400㎎)2 錠 /1×、食後
3 RTV(ノービア錠:100㎎)1 錠 /1X、食後
針刺し後の有効な予防のためには第 1 回目の服用が最も大事である。したがって、第
1 回目には必ず 3 剤を服用する。また、できるだけ速やかに(少なくとも 1 ~ 2 時間以内)
第 1 回目を服用する。ただし、DRV は食後に内服すると約 30% 血中濃度が上昇するため、
基本的には何か食べてからの内服が勧められる。菓子パン 1 個またはおにぎり 1 個程度
でも充分と考えられるが、食べるものがないときは、空腹時であっても抗 HIV 薬を服用
することを優先させる。時間的余裕がなく、責任者と相談できないときには服用につき
自己決定を行う。服用する場合の投与期間は、1 カ月とする。各薬剤の注意事項を以下に
示す。
⑴ TDF/FTC:腎機能障害(Ccr<50㎖ /min)がある場合、TDF の減量が必要となる。ま
た TDF 自体による腎障害の副作用も報告されているため、腎疾患、腎機能障害を有する
場合には TDF の使用は避け、他剤への変更を考慮すべきである。また TDF、FTC は共
に抗 HBV 活性を有す薬剤であり、6 ヶ月以上 FTC を投与された慢性 B 型肝炎患者にお
いて、FTC 中止後に 23% で肝炎が悪化したとの報告がある。1 カ月以内の短期服用後に
おける肝炎悪化の報告はないが注意は必要である。むしろ感染リスクが低いと考えられ
る場合には、慢性 B 型肝炎または HBV キャリアの方は TDF/FTC の服用は避ける方が
よいと考えられる。
⑵ DRV+RTV:下痢が出現する可能性があるが、症状のひどい場合にはロペミンなどの
止痢薬を併用する。また、10% 程度に皮疹が出現するため、皮膚に異常をきたした場合
はすぐに連絡する。投与前に肝機能異常が認められる場合は、肝機能をさらに悪化させ
る可能性がある。また、RTV の CYP3A4 の阻害作用により他の薬剤濃度を上昇させる
ため、以下の薬剤を使用している場合はその薬剤を中止するか、DRV+RTV の服用は避
ける。また下記薬剤以外にも用量の調整が必要な薬剤があるため、併用薬剤のある場合
には内服前に必ず責任者に相談し、内服の可否、用量調整の必要性を確認する。
併用禁忌薬剤:抗不整脈薬(アンカロン、硫酸キニジン、タンボコール、プロノン、
ベプリコール)
、抗高血圧薬(カルブロック)、睡眠薬(ハルシオン、ドルミカム、ユー
ロジン、メンドン、ベノジール、ダルメート)、向精神薬(オーラップ、ロナセン、セル
シン、ホリゾン)、片頭痛治療薬(カフェルゴット、クリアミン、ジヒデルゴット、レルパッ
クスなど)、勃起不全治療薬(バイアグラ、レビトラ、シアリス)、血管拡張薬(レバチオ、
アドシルカ)、抗真菌薬(ブイフェンド)、子宮収縮薬(メテルギン)、NSAID(フルカム、
フェルデン等)、抗結核薬(リファブチン)
3.対象者が女性の場合、妊娠に注意する。妊婦に投与した場合の安全性、特に妊娠初期
での胎児への安全性は確認されていない。従って、妊婦が服用を決意するには十分な自
己決定が不可欠である。(HIV 感染の危険性(感染リスクは 0.3 ~ 0.5%)と、母子への薬
の危険性の比較衡量)。
対象者が妊娠していなかった場合にも、針刺し後は予防薬服用の有無にかかわらず、
感染していないことがほぼ確定できる針刺し後 3 カ月目の検査結果がわかるまでは、相
手及び妊娠した場合の胎児への感染回避の目的から避妊する。さらに、予防薬を服用す
る対象者に対しては少なくとも薬剤服用中は、妊娠した場合の胎児への薬剤の影響を避
けるために避妊が必要である。
感染症の臨床経過
194 HIV 曝露時の対応と安全対策 ~針刺し・切創及び皮膚・粘膜曝露時の対応~
2
針刺し・切創及び皮膚・粘膜曝露発生時の連絡体制
HIV 感染の可能性のある針刺し・切創及び皮膚・粘膜曝露が発生した場合には、針刺し後フロー
チャートに従って対応した後、以下の連絡体制・手順に従う。
1 HIV 感染症対策委員会(以下「委員会」とする)が担当する。
2 被災職員は所属の長を通じ、委員会に連絡する。
3 委員会は、当該職員及び公務災害担当の総務課職員掛(以下「担当掛」とする)に、委員
会の指定する受診科及び担当医師を通知する。
4 当該職員は、担当掛に申し出て公務災害の受付手続きを行った後、受診科において担当医
師の診察を受ける。
5 担当医師は、当該職員のカルテを作成し、すみやかに当該職員の診察及び検査等を行い、
針刺し事故も含む医療行為による HIV 感染の危険性の低さ、抗 HIV 薬投与の必要性と予防
効果、HIV 抗体検査の意義・必要性、今後のフォローアップ体制などについての正確な情
報を提供し当該職員の不安の軽減をはかる。
6 さらに、抗 HIV 薬の予防投与について、その感染予防効果、副作用等について十分に説
明する。以後副作用等の出現に注意しながら経過を観察する。
7 担当医師は、当該職員に検査結果を伝えるとともに、以後 1、3、6 ヵ月後に HIV 抗体検
査を実施して経過を観察する。
8 この間、プライバシーの保護、当該職員の精神的援助にも十分に配慮し、必要があればカ
ウンセリングや精神科医の援助を考慮する。
9 さらに、HIV 抗体陽性となった場合は、新たな公務災害の対象となるため、担当掛に連絡、
公務災害認定の申請をし、担当掛は公務災害認定申請の手続きを行う。
109 担当医師、担当掛をはじめとする関係者は当該職員のプライバシーの保護と必要に応じた
健康管理が実施されるように十分配慮する。
* 委員会が指定する担当医師と連絡先
氏 名
役 職
診療科等
医 局
連絡先
藤 本 勝 也
助 教
血液内科
☎ 7214
PHS 82323
遠 藤 知 之
助 教
血液内科
☎ 7214
PHS 82331
近 藤 健
講 師
血液内科
☎ 7214
PHS 87045
*上記担当医師の一人に必ず連絡をとる。
*夜間などで、上記医師が不在時は 12-2NS(内線 5795、5796)に血液内科当番医師を問い合わ
せたうえで連絡する。
*総務課職員掛(☎ 5616)
HIV 曝露時の対応と安全対策 ~針刺し・切創及び皮膚・粘膜曝露時の対応~
HIV 感染症の臨床経過 195
3
HIV に感染している職員への対応
HIV は通常の日常生活では感染の可能性がないため、感染職員本人にとって業務に支障があ
る症状がない限り、通常の業務に従事することは差し支えない。しかし、必要に応じて適切な指
導を行うとともに、従事する業務の範囲など、業務上の指導を行うものとする。
HIV 曝露発生時の対応略図
被災職員
曝露発生
針刺し後フローチャートに従う
(連絡)
(連絡)
所属の長
HIV 感染症対策委員会
(受診科・医師を連絡)
(受診科・医師を連絡)
(公務災害受付手続)
受 診
担当医師
(検査・薬投与)
定期的に受診
担 当 掛
(診断書)
(公務災害手続)
担 当 掛
担当医師
(検査・薬投与)
最終受診
担当医師
(診断書)
治 癒
(公務災害治癒手続)
担 当 掛
感染症の臨床経過
196 HIV 曝露時の対応と安全対策 ~針刺し・切創及び皮膚・粘膜曝露時の対応~
4
他の医療機関での、針刺し・切創及び皮膚・粘膜曝露時の対応について
北海道大学病院は北海道エイズブロック拠点病院であり、他の医療機関(保健所・クリニック
など)での針刺し・切創及び皮膚・粘膜曝露時の対応相談や受診相談を受けています。
Ⅰ.感染性針刺し・切創及び皮膚・粘膜曝露の連絡が、当事者もしくは施設担当者から連絡があっ
た場合
Ⅰ-1.月~金曜日 8:30 ~ 17:00 の時間帯(平日)の問い合わせ
* HIV 相談室もしくは血液内科医師に連絡
感染性針刺し・切創及び皮膚・粘膜曝露の状況確認(本マニュアル・針刺し・切創及び皮膚・
粘膜曝露事故時における対処法の項参照)
◆来院し、針刺し事故の検査及び治療を実施する場合
↓
*血液内科担当医師は、感染性針刺し・切創及び皮膚・粘膜曝露の状況を確認し、受診が必要で
あればHIV担当看護師もしくは内科外来看護師に来院することを伝える。
*感染性針刺し・切創及び皮膚・粘膜曝露の対象者(患者)の血液があれば持参することを伝える。
血液内科の初診手続き その際、労災の可能性があることを医事課窓口に伝える
(受診者の施設事務に労災か否かを後日確認後、支払い請求のため)
↓
<診察>
↓ *事故発生後、2 時間以内に HIV 感染予防薬内服が望ましい。
(緊急時は、薬剤部の針刺し事故対応 BOX を取り寄せ予防薬内服可能)
<採血>
↓ *検査結果後、予防内服の有無を決める
<会計>
*受診者の施設事務に労災か否かを確認後、受診施設へ支払いを請求のため保留。
Ⅰ- 2.上記以外の夜間・休祭日の時間帯の問い合わせ
事務当直に他施設から問い合わせがくる
事務当直から 12-2 病棟当直医師(PHS 82340)に連絡し「他施設から感染性針刺し・切創
及び皮膚・粘膜曝露の対応相談」の問い合わせが来ていると連絡。
連絡を受けた医師は、血液内科担当医師に連絡し対応を依頼する
*血液内科担当医師は、感染性針刺し・切創及び皮膚・粘膜曝露の状況を確認し、受診が必要で
あれば事務当直に来院すること、診察場所を伝える。
*感染性針刺し・切創及び皮膚・粘膜曝露の対象者(患者)の血液があれば持参することを伝える。
事務当直は、救急部・検査部へ受診の連絡。必要書類(トップシート、針刺し・血液感染汚
染事故連絡票、針刺し・血液感染汚染事故に係る血液の緊急検査申込書)の準備。
HIV 曝露時の対応と安全対策 ~針刺し・切創及び皮膚・粘膜曝露時の対応~
HIV 感染症の臨床経過 197
当事者が来院後、事務当直窓口にて受診手続き後、必要書類を渡す。
↓
救急部にて診察、採血、処方等
↓
事務当直で手続き。終了(会計は後日)
医事課外来窓口に外来基本カード、針刺し・切創及び皮膚・粘膜曝露事故連絡票・検査伝票
を提出
*夜間休日に受診した場合、「針刺し・切創及び皮膚・粘膜曝露事故連絡票」「検査伝票」は事務
当直者が、トップシートと共に救急部に届ける。
*「針刺し・切創及び皮膚・粘膜曝露事故連絡票」「検査伝票」が不足した場合は、相談室 7025
に連絡し補充する。
*事務当直連絡先:011-706-5610
感染症の臨床経過
198 HIV 曝露時の対応と安全対策 ~針刺し・切創及び皮膚・粘膜曝露時の対応~
2011 年 8 月改訂
針刺し・切創及び皮膚・粘膜曝露事故連絡票
◆他の医療機関職員の針刺し・切創及び皮膚・粘膜曝露事故の場合、本連絡票を使用する。
医療機関名称:
所 在 地 :
連 絡 先(電話番号):
患者番号(被曝露者):
氏 名:
生年月日:
◆備 考
*医事課外来係長が窓口になるので「受診時」「会計時」に連絡する。
*労災保険の適応については、個々のケースで異なる場合がある。診療費用は、検査結果不明時
は当日の支払いは保留扱いとし、後日請求をする。
*検査結果判明の場合は、医事課外来係長へ会計時に結果を伝える。
①受傷部位の縫合、消毒、洗浄等の処置は、労災保険の適用となる。
②抗 HIV 薬の予防内服は、被曝露者の検査結果に関わらず労災保険の適用となる。
③抗 HBs 人免疫グロブリン及びB型肝炎ワクチンの接種は、労災保険の適応となる。
④血液検査は、労災保険の適用となる。
⑤被曝露者の血液検査は、労災保険の適用外となり自費となる。
◆針刺し・切創及び皮膚・粘膜曝露事故の被曝露者への医療行為時の注意点
①抗 HIV 薬の処方は院内処方にする
②被曝露者の検体は、
「針刺し・切創及び皮膚・粘膜曝露事故に係る血液の緊急検査申込票」
に必要項目を記載し、コピーの1部を医事科に提出する。
③「針刺し・切創及び皮膚・粘膜曝露事故に係る血液の緊急検査申込票」に検査結果記入後、
被曝露者の外来カルテに貼付する。
HIV 曝露時の対応と安全対策 ~針刺し・切創及び皮膚・粘膜曝露時の対応~
HIV 感染症の臨床経過 199
針刺し・切創及び皮膚・粘膜曝露事故に係る血液の緊急検査申込書
申込年 月 日:平成 年 月 日 時 分
申込者 所属部署:
氏 名:
感染対策マネージャー
または部署責任者氏名:
結果連絡先(内 線):
(FAX):
患 者
被 災 者
氏名
氏名
ID
生年月日
血液検査項目
検査結果
HBs-Ag(抗原)
S/N
HBs-Ab(抗体)
血液検査項目
HBs-Ag(抗原)
S/N
HBs-Ab(抗体)
mIU/ml
mIU/ml
HCV-AB(抗体)
HCV-AB(抗体)
S/CO
S/CO
HIV-Ab(抗体)
S/CO
HBe-Ag(抗原)
S/CO
HBe-Ab(抗体)
%
検査結果
HIV-Ab(抗体)
S/CO
GOT IU/L
GPT IU/L
*血液検査結果は、+-及び値を記入のこと。
北海道大学病院 検査部
感染症の臨床経過
200 HIV 曝露時の対応と安全対策 ~針刺し・切創及び皮膚・粘膜曝露時の対応~
附)本人用:服用のための説明文書とチェックリスト
【TDF/FTC+DRV+RTV】
以下、チェックリストに従い感染予防のための服薬についての説明文書を良く読み、服用の意
義、注意点等について確認してください。
チェック欄 □
□服用の意義
針刺し事故などで HIV 汚染血液に暴露された場合の感染のリスクは、最も高い場合でも 0.3
~ 0.5%とされており、B 型肝炎や C 型肝炎の同じ様な事故の場合と比べて感染のリスクが低い
ことは知られています。しかし、低いとはいえこの数字は感染リスクは 0%ではなく、1,000 回
の事故につき 3 ~ 5 人は感染するということを意味しています。しかも、今のところ感染が成立
してしまった場合、治癒できるような治療法は確立されておりません。しかし一方、感染直後に
抗 HIV 薬である AZT を服用することで感染のリスクを約 80%低下させうることが示されまし
た。今回奨めている 2 剤であればさらに効果的であろうと考えられます。予防服用により 100%
感染を防げるわけではありませんが、予防服用を強くすすめる理由はこのためです。服用の意義
を理解し、次に進んでください。
□服用に当たっての注意点
感染予防の効果をあげるためには、事故後できるだけ早くできれば 1 ~ 2 時間以内に予防薬を
服用する必要があります。このため専門家に相談できる前に自己判断で服用を開始せざるを得な
い場合もあります。どうしていいかわからない場合、妊娠の可能性がなければ、とりあえず第 1
包目を服用する事をすすめます。ただし、DRV は食後に内服すると約 30% 血中濃度が上昇する
ため、基本的には何か食べてからの内服が推奨されています。菓子パン 1 個またはおにぎり 1 個
程度でも充分ですが、食べるものがないときは、空腹時であっても抗 HIV 薬の服用を優先させ
ることをすすめます。
□妊娠の可能性のある場合
大至急妊娠の有無を調べてください。今回の予防薬については、妊娠初期の胎児に対する安全
性は確立されておりません。妊婦の場合、責任医師と大至急服薬について相談してください。
□予防服用される抗 HIV 薬の注意点及ぴ副作用
「TDF/FTC」ツルバダ
TDF と FTC という 2 種類の核酸系逆転写酵素阻害薬の合剤で 1 日 1 回、食事に関係なく内
服可能です。
副作用:
1 下痢、吐き気、鼓腸や腹痛などの消化器症状と頭痛が 10% 以下の方に起きますが、症状
は比較的軽く、ほとんどの場合継続して服用が可能です。
2 頻度は高くありませんが TDF による腎障害の報告があります。むくみや体重増加、筋肉
痛が出現した場合には速やかに責任医師に連絡をとってください。また既に腎疾患がある方
HIV 曝露時の対応と安全対策 ~針刺し・切創及び皮膚・粘膜曝露時の対応~
HIV 感染症の臨床経過 201
や腎機能が低下している方では、腎障害が進行する可能性があり、TDF の服用は避けるべ
きと考えられるため責任医師と相談してください。
注意点:
TDF、FTC は共に B 型肝炎ウイルスを抑制する効果があり、FTC は欧米で慢性 B 型肝炎の
治療薬としても使用されています。慢性 B 型肝炎患者が FTC を半年以上服用してから中止後、
肝炎が悪化することがあり、その中で激症化し肝移植を必要とした例もありました。従って、こ
の薬剤を服用する前には、必ず B 型肝炎ウイルス感染の有無を調べる必要があります。1 カ月以
内の短期服用後における肝炎悪化の報告は今のところありませんが、慢性 B 型肝炎または HBV
キャリアーの方は TDF/FTC の服用について責任医師と相談してください。
「DRV+RTV」プリジスタナイーブ+ノービア
DRV(プリジスタナイーブ)はプロテアーゼ阻害薬で、1 日 1 回、食後に内服する薬剤です。
RTV(ノービア)は、DRV の血中濃度を上昇させるための薬剤で 1 日 1 回、食後に内服する
薬剤です。
副作用:
1 消化器症状:下痢、吐き気や腹痛などの症状がみられ、中等度以上の下痢が約 20%の人
にみられます。ひどい場合にはロペミン等の止痢剤をもらってください。
2 皮疹 : 約 10% の人にみられます。重症化することがあるので、皮膚に異常が出た場合は
責任医師に相談してください。
3 長期の服用により高脂血症(特に高トリグリセライド血症)、高血糖、肝機能異常などの
副作用が現れますが、中止することにより回復します。短期服用の場合には心配ありません。
注意点:
以下の薬剤を服用している方は、DRV+RTV と一緒に内服するとその薬の濃度が上昇するの
で、その薬剤を中止するか、中止出来ない場合は DRV+RTV の服用は避けるべきです。また下
記薬剤以外にも用量の調整が必要な薬剤があるため、常用している薬剤のある方は内服前に必ず
責任医師に相談してください。また、他院に行く時も、併用禁忌薬リストを必ず持参するように
してください。
併用禁忌薬剤:抗不整脈薬(アンカロン、硫酸キニジン、タンボコール、プロノン、ベプリコー
ル)
、抗高血圧薬(カルブロック)、睡眠薬(ハルシオン、ドルミカム、ユーロジン、メンドン、
ベノジール、ダルメート)、向精神薬(オーラップ、ロナセン、セルシン、ホリゾン)、片頭痛治
療薬(カフェルゴット、クリアミン、ジヒデルゴット、レルパックスなど)、勃起不全治療薬(バ
イアグラ、レビトラ、シアリス)、血管拡張薬(レバチオ、アドシルカ)、抗真菌薬(ブイフェン
ド)
、子宮収縮薬(メテルギン)、NSAID(フルカム、フェルデン等)、抗結核薬(リファブチン)
□チェックリストに従い感染予防のための服薬についての説明文書を読みました。予防服用の重
要性を理解し、予防服用フローチャートに従い服薬を開始します。
□:はい
□:いいえ
感染症の臨床経過
202 HIV 曝露時の対応と安全対策 ~針刺し・切創及び皮膚・粘膜曝露時の対応~
「*上記以外の薬剤を選択する場合」
2005 年欧米の最新針刺し事故時の対応マニュアルでは、上記の薬剤の他にも推奨された投与
薬剤があるため、緊急時以外には、個々のケースにおいて他の組み合わせも可能となります。
平成 年 月 日
名前: ■参考文献■
1 医療事故後の HIV 感染防止のための予防服用マニュアル(2007 年 7 月改訂版)
http://www.acc.go.jp/clinic/hari/07_01.PDF
2 Updated U.S. Public Health Service Guidelines for the Management of Occupational
Exposures to HIV and Recommendations for Postexposure Prophylaxis.MMWR Vol.54.
No.RR-9,September 30,2005
http://www.cdc.gov/mmwr/preview/mmwrhtml/rr5409a1.htm (英文本文)
http://csws.tokyo-med.ac.jp/csws/tokyohivnet/prevent/index.html (日本語解説)
3 平成 24 年度厚生労働科学研究費補助金エイズ対策研究事業 HIV 感染症及びその合併症の
課題を克服する研究班編.抗 HIV 治療ガイドライン.2013 年 3 月
4 厚生労働科学研究費補助金エイズ対策研究事業 HIV 感染症の医療体制の整備に関する研
究班編.診断と治療ハンドブック 第二版(2006 年 3 月改訂版)
(血液内科 遠藤 知之 2013.07)
HIV 曝露時の対応と安全対策 ~針刺し・切創及び皮膚・粘膜曝露時の対応~
HIV 感染症の臨床経過 203
20-2
1
外科領域での安全対策
外科系 HIV 感染症患者に対する一般的取り扱い
⑴ 血液や浸出液などに直接触れることのないように注意し、医療行為のレベルによっては、適
宜、グローブ、予防衣、マスク、ゴーグルなどを着用する(表 1、2)。
1 通常の診察などの非観血的な医療行為では、防御用具は不要である。
2 生検、腰椎穿刺、内視鏡検査などの小規模な観血的治療・検査を伴う医療行為では、グロー
ブの着用が必要である。
3 中規模以上の観血的治療を伴う医療行為、つまり、手術をはじめ、血液などの飛沫や骨粉
の飛散する可能性の高い場合などでは、グローブ、予防衣、マスクなどの着用をはじめ、眼
の防御にゴーグルが必要となる。
⑵ 可能な限りデイスポーザブルの器具を使用することが望ましい。使用後は廃棄が原則である
が、各種処置後その器材によっては、消毒後の再使用が可能である。
⑶ 陽性患者の手術部での除毛は最低限とする。また、手術処置を行う場合は、関係各部署に陽
性である旨を通知する。
⑷ 陽性者の血液・体液などで手、指などが汚染された場合には、直ちに流水で十分に洗い、消
毒用エタノールで清拭する。
表 1 外科系医療行為の内容による危険度のレベル分類
レベル
医 療 行 為
具 体 的 医 療 行 為
Ⅰ
非観血的医療行為
通常の診察
Ⅱ
小規模な観血的治療・検査を伴う医療行為
生検・腰椎穿刺・内視鏡検査など
Ⅲ
中規模以上の観血的治療を伴う医療行為
手術
表 2 HIV 感染症から医療者を保護するための防御用具
レベル
グローブ
ガウン
マスク
ゴーグル
Ⅰ
不 要
不 要
不 要
不 要
Ⅱ
要
必要時
必要時
必要時
Ⅲ
要
要
要
要
2
手術室の管理上の対策
⑴ 手術患者はあらかじめ抗 HIV 抗体を測定しておく。緊急手術例などの検査未施行患者の手
術には有感染症患者の手術と同様の体制で手術を管理する。
⑵ 限定された区域を汚染域として使用し、汚染の拡大を防止する。
⑶ 汚染域に入る場合には、グローブ、予防衣、マスク、ゴーグルなどとともに、足カバーを着
用する。
⑷ 必要最低限の人数が手術に関係するものとし、手術中の出入りは制限する。
感染症の臨床経過
204 HIV 曝露時の対応と安全対策 ~外科領域での安全対策~
⑸ 手術室の機器は必要最低限とし、可能な限りデイスポーザブル製品を使用する。
⑹ メス、針など鋭利な器具の受け渡しは、一度トレーなどにおいて間接的に行う。
⑺ 血液・体液の高度の飛散が予測される手術では、手術台、その他の備品は必要に応じて防水
性のシートで覆う。
⑻ 汚染域の外に出る場合には、グローブ、予防衣、マスク、ゴーグルをはじめ足カバーや、そ
の他血液、体液の付着した可能性のあるものはすべて脱ぐかあるいは取りはずす。
3
手術機器・手術用具等の汚染物への対策
⑴ 汚染物の取り扱いは必ずグローブを着用して行う。汚染した手袋で他の物に触れ汚染を拡大
することのないよう注意する。
⑵ WHO は熱、次亜塩素酸ナトリウム、グルタラール(グルタラールアルデヒド)、ホルムア
ルデヒド、エタノールなどの処理が感染性不活性化に有効であると提唱している。加熱処理が
可能なものは、洗浄しオートクレーブで滅菌する。オートクレーブが使用できない器具はグ
ルコン酸クロルヘキシジンアルコール(マスキン TM など)、次亜塩素酸ナトリウム(ミルトン
TM
など)、グルタラール(サイデックス TM、ステリハイド TM など)などに 30 分以上浸漬する。
⑶ 使用後の手術器械類は、防水性の容器に密閉して、熱または薬剤処理を行った上で、一般
洗浄を行う。ウオシャーステリライザーによる処理、または 2%グルタラール(サイデックス
TM
、ステリハイド TM など)あるいは有効塩素 0.5%次亜塩素酸ナトリウム(ミルトン TM など)
30 分浸漬が有効である。北大病院手術部では、B 型肝炎や C 型肝炎感染症手術後同様、ウォッ
シャーステリライザーまたはウォッシャーディスインフェクターにて洗浄後 135℃ 10 分間の
熱処理を行う。
⑷ 使用後の光学器械類は、加速化過酸化水素(アクセル TM など)に 10 分以上浸漬後洗浄する。
⑸ 使用後のデイスポーザブル製品は、色で明確に区別した防水性の袋に入れて密封し、焼却処
理する。院内焼却が出来ない時はオートクレーブまたは薬剤消毒の後、廃棄物として処理する。
注射針、メス刃、縫合針などは別途、専用容器にいれ、オートクレーブ処理後廃棄する。
⑹ 吸引ビンには約半量の 2%グルタラール(サイデックス TM、ステリハイド TM など)あるい
は有効塩素 1%次亜塩素酸ナトリウム(ミルトン TM など)をあらかじめ入れておき、30 分以
上放置したあとで流水とともに流す。北大病院手術部では、デイスポーザブル製品を使用して
いるが、吸引後、薬液で固着した上で廃棄する。
⑺ 血液、組織片などで汚染した床、壁、機器などの表面はぬぐい取った上で、2%グルタラー
ルサイデックス TM、ステリハイド TM など)あるいは有効塩素 1%次亜塩素酸ナトリウム(ミ
ルトン TM など)を浸漬する。
⑻ 再使用する麻酔器具は、熱または薬剤処理する。
⑼ 手術野の汚染は、消毒用エタノールで十分清拭し、手術創は閉鎖的に被覆する。ドレーンの
先端など開放創からの血液分泌物による周辺への汚染がおこらぬよう十分注意をする。
⑽ 使用した手術室は、ジクロルイソシアヌル酸ナトリウム製剤(プリセプト TM など)で清拭
する。有効塩素、0.1% 次亜塩素酸ナトリウム(ミルトン TM など)あるいは 2%グルタラール
サイデックス TM、ステリハイド TM など)も用いられる。北大病院手術部では、安定化過酸化
水素(スタビル TM など)を用いている。
HIV 曝露時の対応と安全対策 ~外科領域での安全対策~
HIV 感染症の臨床経過 205
4
救急部での HIV 感染症取り扱い
⑴ 感染の有無が不明な患者が少なくないので、常に医療従事者の HIV 感染防止体制で望む(1.
外科系 HIV 感染症患者に対する一般的取り扱い、2.手術室での HIV 感染症患者管理上の対
策の項に準ずる)
。mouth-to-mouth の人工呼吸を避けアンビューバッグ、ジャクソンリース
などを準備しておく。
⑵ 機器、用具の汚染物への対策。
■参考文献■
1 厚生省保健医療局エイズ結核感染症課:HIV 感染症診療の手引き、中央法規出版、東京、
1994 年
2 河崎則之:医療機関における感染予防対策。日本臨床 51 巻(臨時増刊)。上銘外喜夫編、
HIV 感染症・AIDS。1993 年、p512-516.
3 前田洋助、服部俊夫:医療現場での HIV 感染者をめぐる諸問題、服部俊夫編、エイズ研究
の最先端。 羊土社、東京、1993 年、p150-160
4 河崎則之:小外科処置法で気をつけるべき点はどういう点ですか?、山田兼雄、松田重三編、
エイズ診療 Q&A。医薬ジャーナル社、大阪、1993 年、p115-116
5 Ernest R.
Greene,
Jr.,
Thomas Janisse:第 3 章、
AIDS 患者の麻酔管理、
Thomas Janisse
(ed.
)
、
AIDS 患者の麻酔と疼痛管理、東興交易医書出版部、東京、1996 年、p115-116
(北大病院手術部で使用している薬剤は 2013 年 9 月現在のものである)
(手術部 大岡 智学、佐藤 直樹 2013.09)
感染症の臨床経過
206 HIV 曝露時の対応と安全対策 ~外科領域での安全対策~
20-3
検査・輸血部領域での安全対策
と検査項目
血液などの体液は、HIV だけでなく種々の病原体に感染する危険性がある。HIV よりも強い
感染力と消毒に対する抵抗性を持つ B 型肝炎ウイルスに対する感染予防対策が部内感染予防の
基準である。
基本的には、1血液などの体液が体に触れないようにグローブや予防衣で防御し、2検査材料
や廃棄物で環境を汚染しないように注意を払い、3汚染された可能性のある環境や体の部分を適
切な消毒剤で消毒し、4事故時には直ちに適切な処置を行うことである。感染予防に必要なディ
スポ製品や消毒剤などを常備し、一般的な注意を守れば、検査に際して HIV 感染事故が起きる
ことを予防できる。
1
検体検査
⑴ 全ての検体に共通する一般的注意事項
1 検査用に採取した血液、体液などは全て感染源となり得るものと考え慎重に取扱う。
2 血液採取など血液に直接触れる恐れのある操作にはグローブと予防衣(白衣)を着用し、
検査室を出る時はそれらをとる。グローブの着用は、手に皮膚病変や創がある場合は特に重
要である。
3 採血後は針刺し事故防止のためにリキャップはしないで専用コンテナに廃棄する。血液の
付着した針を持って動作中に腕などを針で引っかくような事故が多いので、動作時は周囲に
注意を払い、必要時には周囲に注意を喚起する。
4 汚染された手指やグローブまたは医療材料等で周囲を汚染しないよう注意する。
5 検体が飛沫やエアロゾルの形で飛散する操作は避ける。
6 ピペットは口で吸引しない。
7 検査終了検体の廃棄の際は全てオートクレーブする。
8 一日の作業終了後、汚染の可能性のある場所に 80%エタノールで清拭する。
⑵ HIV 感染者検体を含む感染性検体の取り扱い上の注意
1 検体を取り扱う際にはバーコードラベルに記されている感染情報を確認する。
2 採血後の針は専用コンテナに廃棄する。採血管に付着した血液は直ちに 80%エタノール
を浸した脱脂綿で拭き取る。
3 尿はフタ付きカップに採取する。
4 検体の運搬は二重のビニール袋またはジッパー付きビニール袋にいれて万一容器が破損し
ても飛散しないようにする。
5 検体の取り扱い時には、ディスポグローブ、予防衣、必要に応じてマスクやゴーグルを着
用する。遠心機周辺は最も感染事故の起きやすい場所であることに留意する。
6 検査後の検体を保存する場合、施錠できる冷蔵庫または冷凍庫を用いる。不要となった検
体は速やかにオートクレーブ後焼却する。
7 検査機器からの廃液は次亜塩素酸ナトリウムを加えて消毒する。消毒の目安は一般に血液
の色が消えるまでとし、一昼夜置いた後に処理すれば間違いない。
8 器具、予防衣、マスクなどはなるべくディスポーザブルを用い、オートクレーブ後焼却する。
HIV 曝露時の対応と安全対策 ~検査・輸血部領域での安全対策と検査項目~
HIV 感染症の臨床経過 207
再使用するものはオートクレーブするか、出来ないものは消毒剤を選び消毒後に処理する。
9 使用後の測定機器は機種ごとに指定された濃度の次亜塩素酸ナトリウムを数回流し、その
後水洗する。機器周辺の汚染が考えられる場合には 80%エタノールで清拭しておく。
10)
床、テーブルが汚染された時には、0.2%次亜塩素酸ナトリウム溶液を浸したペーパータ
オルで覆い、20 ~ 30 分後にふき取って水洗する。
2
生理検査
HIV については、空気感染、唾液感染、接触感染などの心配は不要で、外来では一般の患
者との間で不必要な区別を設けてはならない。このことは HIV 感染者の精神的ケアの面から大
切である。しかし、重症患者の生理検査を行う場合は、患者を日和見感染から予防する意味で、
術者は定められた予防衣、グローブ、マスクを着用する。機材の消毒の都合から、事前に診療科
と検査室とが連絡をとりあって HIV 感染者の検査スケジュールを組む必要があるが、この際に
はプライバシー保護に注意する。
⑴ 呼吸機能検査
1 使用する測定機器を他の患者と区別する必要はない。
2 マウスピースは通常使用している紙製ディスポーザブルを用い、使用後はオートクレーブ
後焼却する。
3 唾液吸着用特殊フィルター(マウスピースと蛇管の接続部)は使用後に次亜塩素酸系消毒
剤で消毒する。
4 蛇管は HIV 感染者専用のものを用意し、使用後は次亜塩素酸系消毒剤で処理する。
5 測定機器の周辺が汚染された可能性のある場合には 80%エタノールで清拭する。
6 ベッドや椅子の汚染が考えられる時は、0.2%次亜塩素酸ナトリウム溶液を浸したペーパー
タオルで覆い、20 ~ 30 分後にふき取り水洗する。
⑵ 脳波検査
1 患者の頭部に出血(病変、外傷)がない限り、マスク、グローブは着用しない。
2 器具の処置;
①使用後の電極は流水で充分洗い、80%エタノールで消毒する。
②汚染した脳波計などの機器は 80%エタノール清拭か 80%エタノールを浸したガーゼで清拭
する。
③ベッド、椅子などに関する消毒は呼吸器検査と同様。
⑶ 心電図検査
1 脳波検査に準ずる。電極は使用後 80%エタノール消毒する。皮膚病変のある患者の場合
には、一般の皮膚病患者と同様にディスポシートの交換を行い、使用後のシートはオートク
レーブ後焼却する。
⑷ 筋・神経検査
1 実施には術者はグローブを着用する。手指を傷つけないように細心の注意を払う。針電極
は電極のみを切断し、注射針に準じて専用コンテナに廃棄する。
2 神経伝達速度検査に用いる電極はディスポーザブルのものとし、使用後は専用コンテナに
廃棄する。
3 その他は脳波検査に準じる。
感染症の臨床経過
208 HIV 曝露時の対応と安全対策 ~検査・輸血部領域での安全対策と検査項目~
⑸ 事故時の対応
針刺し事故その他 HIV 感染が疑われる事象が発生した場合は、「20-1.針刺し・切創及び皮
膚・粘膜曝露時の対応」に基づき迅速な対応をとる。休日、夜間の発生に備え、連絡網なども
連絡体制を整備しておく。
3
HIV に関連する感染症の検査
⑴ 検査項目
対 象
検査内容、測定方法
検査室 依頼先
スクリーニング検査
生化学検査室
(CLEIA 法、イムノクロマト法)
HIV1+2 抗体・抗原
保険適用
適用
HIV-1 抗体精密測定
確認検査(WB 法)
血清検査室
適用
HIV-2 抗体精密測定
確認検査(WB 法)
血清検査室
適用
HIV-1 RNA 定量
確認検査・ウイルス量測定
(定量 PCR 法)
遺伝子検査室
適用
HIV 薬剤耐性検査
遺伝子型検査
(ダイレクトシーケンス法)
遺伝子検査室
適用
フローサイトメトリー
フローサイトメトリー室
適用
β2 ミクログロブリン
酵素免疫測定法
生化学検査室
適用
一般細菌
培養、同定、感受性
細菌検査室
適用
カンジダ、クリプトコッカス、
細菌検査室
アスペルギルス培養、同定
適用
アスペルギルス抗原
BML
適用
カンジダ抗原
血清検査室
適用
(1-3)
-β-D-グルカン
血清検査室
適用
培養、同定、感受性
細菌検査室
適用
結核菌 DNA-PCR
細菌検査室
適用
クォンティフェロン
札幌臨床
適用
培養、同定、感受性
細菌検査室
適用
MAC DNA-PCR
細菌検査室
適用
CMV 抗体 IgG、IgM
血清検査室
適用
CMV 抗原アンチゲネミア
C7HRP
SRL
適用
CMV 抗原アンチゲネミア
C10、C11
三菱
適用
CMV-DNA-PCR
SRL(校費オーダ)
適外
リンパ球サブセット
(CD4 陽性細胞絶対数測定)
真 菌
結核菌
非定型抗酸菌
サイトメガロウイルス
HIV 曝露時の対応と安全対策 ~検査・輸血部領域での安全対策と検査項目~
HIV 感染症の臨床経過 209
HSV 抗体 IgG、IgM
三菱
適用
HSV-DNA-PCR
SRL(校費オーダ)
適外
VZV 抗体 IgG、IgM
血清検査室
適用
VZV-DNA-PCR
SRL(校費オーダ)
適外
EBV-DNA-PCR
SRL(校費オーダ)
適外
EBV-DNA 定量
SRL(校費オーダ)
適外
HHV6-DNA-PCR
SRL(校費オーダ)
適外
HBV ラミブジン耐性遺伝子 PCR-ELMA 法
SRL(校費伝票)
適外
HCV RNA コアジェノタイプ RT-PCR 法
SRL(校費伝票)
適外
HCV RNA 1b(NS5A)
ダイレクトシーケンス法
SRL(校費伝票)
適外
トキソプラズマ
トキソプラズマ抗体 IgG、IgM BML
適用
クリプトスポリジウム
顕微鏡検査
細菌検査室
適用
カリニ
顕微鏡検査
病理部細胞診検査室
適用
単純ヘルペス(HSV)
帯状ヘルペス(VZV)
EB ウイルス(EBV)
HHV6
1 保険適用項目はオーダリングシステムからオーダしてください。
2 CD4 陽性細胞絶対数測定は、HIV 陽性患者のみに実施している特殊検査です。リンパ球サ
ブセットをオーダしてから、「CD4 絶対数追加」等のコメントを入力してください
3 HIV 薬剤耐性検査は薬剤変更を目的とした場合、保険適用となります。測定には 1 ~ 2 週
間が必要です。結果を急ぐ場合は遺伝子検査室に連絡をお願いします(藤澤、5714)。
各検査項目の問い合わせは
▼血
清
検
査
室:内線 5714 藤澤 真一 副技師長
▼遺 伝 子 検 査 室:内線 5714 藤澤 真一 副技師長
▼フローサイトメトリー室:内線 5711 早坂 光司 副技師長
▼細
菌
検
査
室:内線 5715 秋沢 宏次 副技師長
▼外 部 委 託 検 査:内線 5709 検査・輸血部総合受付
▼病 理 部 細 胞 診 検 査 室:内線 5716 丸川 活司 副技師長
⑵ 保険適用外検査項目の説明
▼各種ヘルペスウイルス DNA の検出
CMV、EBV、HHV6、VZV、HSV-1、HSV-2 の DNA を検出する検査である。対象材料
は血清中の遊離ウイルスであるが、CMV、EBV、HHV6 は血球も対象としている。
▼ラミブジン耐性 HBV 検出検査
ラミブジン(3TC)服用の HIV/HBV 複合感染者ではラミブジン耐性 HBV が出現する可
能性がある。本検査は HBV の遺伝子配列の変異からラミブジン耐性を推測する検査である。
▼ HCV RNA コアジェノタイプ
HCV のインターフェロン感受性は HCV のタイプと関係がある。1 型(1a、1b)は抵抗
性、2 型(2a、2b)は感受性であるが、HIV/HCV 重複感染患者では複数タイプの感染や
感染症の臨床経過
210 HIV 曝露時の対応と安全対策 ~検査・輸血部領域での安全対策と検査項目~
希なタイプ(1a、3-6 等)の感染が多い。serotyping ではこれらの判定ができないため、
genotyping による判定が有用である。
▼ HCV subtype 1b ISDR 解析
HCV subtype 1b はインターフェロン抵抗性であるが、HCV 遺伝子の ISDR(Interferon
sensitivity determining regeon)の変異数が多いほど感受性であることが報告されている。
⑶ 北大病院検査・輸血部での HIV 検査フローチャート
スクリーニング検査
HIV-1 抗原+HIV-1/2 抗体同時検出
(-)
*非感染
(+)または保留
HIV-1 WB
HIV-1 RNA
判定
+
+
感染
保留
+
-
+
保留
-
-
-
HIV-2WB
(-)または保留
対応
急性感染
3 ~ 4 週間後に WB 陽性を確認する
HIV-2 感染疑い
HIV-2 WB を実施
(-)
2 週間後スクリーニング検査
から再検査を推奨
非感染
(+)
*
HIV-2 感染
感染リスクがある、急性感染期を疑う症状がある場合は確認検査の実施
を推奨し、陰性の場合でも感染リスクがある場合は期間をあけて再検査
WB:ウエスタンブロット法
HIV-1/2 感染症の診断ガイドライン 2008 を参照
■参考文献■
1 HIV 院内感染予防対策指針、北海道大学医学部附属病院 HIV 等特殊感染委員会、1992
2 HIV 医療機関内感染予防対策指針、厚生省、1989
3 HIV 治療マニュアル、HIV 感染者発症予防・治療に関する研究班、1995
4 HIV 感染症治療の手引き 第 12 版、HIV 感染症治療研究会、2008
5 HIV-1/2 感染症の診断ガイドライン 2008、日本エイズ学会、2008
(検査・輸血部 清水 力、吉田 繁、藤澤 真一 2013.07)
HIV 曝露時の対応と安全対策 ~検査・輸血部領域での安全対策と検査項目~
HIV 感染症の臨床経過 211
20-4
1
感染予防と消毒
検査・治療・処置時の留意点
医療従事者の血液、体液暴露による感染者は、その大部分が針刺し事故である。皮膚や粘膜が
汚染されることは、針刺し事故よりも多いと考えられるが、物理的バリアー作用や、血液内に入
りにくいことから、感染性は針刺し事故による感染より低いと考えられる。そのため血液・体液・
排泄物・臓器などの取り扱いは、適切に処置をすることで感染を防止できる。つまり、スタンダー
ドプリコーションが徹底されていれば問題はない。
⑴ 感染予防具使用基準
観血的処置の有無により医療処置からみた防御レベル(表 1)Ⅰ~Ⅳに分類する。
⑵ 注射針の取り扱い
針刺し事故の大部分はリキャップの際に発生している。そのため、リキャップはせず針
専用コンテナに廃棄する。また動脈採血時などリキャップを必要とする場合は片手操作か
キャップスタンド等を用いて危険を避ける工夫をする。翼状針は安全装置付きを適切な使用
方法で取り扱う。
⑶ 採 血
スタンダードプリコーション(標準予防策)に基づき、手洗い後、手袋着用する。使用し
た駆血帯や採血用枕が血液で汚染された場合は、70%エタノールで拭きとる。
⑷ 救急蘇生
急変時患者の状況を判断して、防御レベル(表1)に準じ対処する。人工呼吸は mouth to
mouth を避け、救急蘇生バックや人工換気装置を使用する。
⑸ 内視鏡検査・血液透析・特殊検査
スタンダードプリコーションで防御レベル(表1)に準じ対処する。検査部・光学医療診
療部のマニュアルに準ずる。
2
消毒について
HIV は現在用いられている消毒薬の指定濃度よりも、はるかに低い濃度でかつ短時間で不活
化される。そのため、日常の医療器材の消毒方法で十分効果が認められる。血液や体液で汚染さ
れた物は、拭き取った後エタノールを十分な量の散布又は噴霧する。
①消毒は温度・濃度・浸漬時間を守る。(表 2 参照)
②有効な消毒方法は、煮沸、消毒薬に浸漬・清拭・噴霧・散布、焼却。
③有効な消毒薬は表 2 参照。
感染症の臨床経過
212 HIV 曝露時の対応と安全対策 ~感染予防と消毒~
3
感染性廃棄物について
①感染性廃棄容器・赤ビニール専用袋に直接捨てられるように処置や検査の場に準備する。
②患者が自分でできる場合は、ビニール袋(小)を渡しておき、体液に汚染された廃棄物を
ビニール袋に入れ、汚染・廃棄物はバイオハザードマークが明示されている感染性廃棄容
器にいれる。
4
結核発病について
HIV 患者は免疫能の低下により既感染が再燃する場合が多い。また初感染でも発病の危険が
高いと言われている。結核に関しては北大病院感染対策マニュアル参照
① HIV 患者に発熱、咳嗽など呼吸器感染の症状が出現した場合は結核も疑い、個室隔離を
したうえで検査診断を進める。
②喀痰塗抹陽性の場合は結核病棟への隔離が必要だが、患者の状態により転院が難しい場合
があり、院内感染防止対策に順じて対応していく。
5
入院時の病室について
入院生活においては他の患者への二次感染防止という観点からは、HIV 感染者を隔離する必
要はないが HIV 感染者に対する医療上の必要性等の観点から個室入院が必要な場合もある。
6
針刺し事故時の対応
(本マニュアル「20-1 針刺し・切創及び皮膚・粘膜曝露時の対応」を参照)
針刺し事故後、感染不安などの相談は、HIV 相談室のカウンセラーや HIV 担当看護師、場合
によっては精神科医師の援助を考慮する。
表 1 医療処置からみた防御レベル
レベルⅠ
非観血的医療行為(血液・体液に触れない日常業務)
レベルⅡ
小規模な観血的医療を伴う医療行為(採血・注射・点滴・
ゴム手袋着用、必要
点滴抜針等)
時マスク、ゴーグル、
患者の血液や体液に接触する医療行為(ルンバール・肺生検・
ガウン
肝生検・皮膚生検・マルク等)
レベルⅢ
レベルⅣ
中規模以上の観血的診療を伴う医療行為
(内視鏡検査・CV カテーテル挿入・胸腔ドレナージ等)
大規模な観血的診療を伴う医療行為(手術・血液透析・分
娩等)
大量出血による室内汚染のある患者及び精神・神経症状、痴
呆などにより自分で清潔を保てない患者に対する医療行為
特別の防御必要なし
ゴ ム 手 袋、 マ スク、
ゴーグル、必要時ガ
ウン
ゴ ム 手 袋、 マ スク、
ガ ウン、 靴 カ バ ー、
ゴーグル、キャップ
HIV 曝露時の対応と安全対策 ~感染予防と消毒~
HIV 感染症の臨床経過 213
表 2 HIV 汚染物消毒法の具体例
対 象
消 毒 薬
濃 度
消毒時間
備 考
手指
区別する必要なし
食器
区別する必要なし
電子体温計
消毒用エタノール
器具器材
(内視鏡)
フタラール
グルタラール
便座
70 ~ 80%
0.3%
消毒用エタノール
清拭
5 分以上
浸漬
70 ~ 80%
清拭
尿器
次亜塩素酸ナトリウム
(ピューラックス 6%)
0.1%
30 分以上
リネン寝具
次亜塩素酸ナトリウム
(ピューラックス 6%)
0.1%
30 分
床テーブル
消毒用エタノール
浸漬
浸漬汚染したリネン類は
ビニール袋に入れ感染
(+)と記載後、提出可
噴霧 清拭
表3
種 類
収 納 容 器
収 納 物
プラスチック製専用容器
液 状、 泥 状 の (耐貫通性容器)
もの
バイオハザードマーク
「赤色」
・血液、血清、血漿、体液、血液製剤等の
液状または泥状のもの
・血液等が付着した注射筒
・破片ガラスくず類
・検査等に使用した試験管、シャーレ等
・病理廃棄物
・血液又は、汚染物が付着したもの
・鋭利なもの
固形状のもの
赤ビニール製専用袋
バイオハザードマーク
「橙色」
・血液又は、汚染物が付着した紙オムツ、
ガーゼ、紙くず、繊維くず等容器を破損
させない固形状のもの
鋭利なもの
赤シャープスコンテナ
バイオハザードマーク
「黄色」
・針、メス等鋭利なもの
(看護部 渡部 恵子、坂本 玲子、武内 阿味、成田 月子、
大野 稔子、岡林 靖子、福島 洋子、2013.07) 感染症の臨床経過
214 HIV 曝露時の対応と安全対策 ~感染予防と消毒~
21 医療福祉制度と支援
1
はじめに
ここでは、HIV 感染症の方が医療機関に受診する時、または生活をしていく上での経済的負
担を軽くするために利用できる、社会制度について紹介する。
2
医療福祉制度の種類
医療費軽減のために
①医療保険
雇用されている方と家族が
加入する「被用者保険」と
それ以外の方が加入する
「国民健康保険」がある
高額療養費
保険証を使ってかかった
医療費の一定額以上が後
日払い戻しされる制度
高額医療費貸付制度
高額療養費相当分の払い
を免除したり、一部を融
資する制度
任意継続
被用者保険の被保険者が
退職後も資格を2年間継
続できる制度
社会生活をおくるために
Ⅰ医療保障
Ⅱ所得保障
身体障害者手帳
一定の障害の状態にあるときに、
手帳を申請することで受けられる。
交付後に様々なサービスや助成
が受けられる制度
⑤自立支援医療
指定医療機関で所
得・課税に応じた
医療費の助成が受
けられる制度
⑥重度心身障害
者医療
各自治体が行って
いる制度
・交通費の割引
・自動車の補助
・税の控除・軽
減
・居宅生活への
支援
必要に応じてホー
ムヘルプなどが受
けられる
・就労の支援な
ど
傷病手当金
被用者保険の被保険者が
病気のために仕事をする
ことができず、給料支給
されないなどの場合に手
当金が支給される
雇用保険
仕事を探している状態で
公共職業安定所で決めら
れた期間と金額を受給で
きる制度。一定期間保険
に加入していなくてはい
けない
障害年金
年金に加入していた人が
所定の条件(年金の支払
い状況)を満たした場合、
障害の程度に応じた額が
受けられる
生活保護
血友病の場合
②特定疾病療養
③小児慢性特定疾
患治療研究事業
④先天性血液凝固
因子障害治療研
究事業
国民の最低限度の生活を保障する制度
血友病の場合
□医療扶助
□調査研究事業
□健康管理支援事業
現物支給で無料に
なる
□生活扶助
□住宅扶助
生活にかかる経費
の保障
血液製剤による感染
者、二次・三次感染
者が対象
※制度の利用には HIV 陽性者自身の意思による自己決定が前提である。
(ただし、この中に記されているすべての制度を使用とは限らない。また、必ず使用が必要な
わけでもない)
HIV
医療福祉制度と支援
感染症の臨床経過 215
3
医療費負担を軽減する制度
医療費を軽減する制度は、医療保険制度と血友病に関わる医療助成制度、生活保護による医療
扶助、そして「身体障害者手帳」の交付による公費負担医療がある。
⑴ 血友病及び血友病類似疾患に対する医療助成
②:特定疾病療養(長期高額疾病)
治療期間が長く、高額の治療を続けて行う必要のある血友病、血液製剤投与に関係する
HIV 感染症(二次・三次感染を含む)の方は、医療費の自己負担上減額が 10,000 円になる。
※入院時の食事療養費は助成なし。
申請先 加入している健康保険の窓口に「特定疾患療養受給証」の交付申請を行う。
③:小児慢性特定疾患治療研究事業
20 歳未満の血友病および類縁疾患の患者さんが対象。医療費は入院時の食事療養費を含
め、入通院とも無料。
申請先 住民票のある地域を管轄する保健所に 「小児慢性特定疾患受給者証」 の交付申請
を行う。
④:先天性血液凝固因子障害等治療研究事業
20 歳以上の先天性血液凝固因子障害、もしくは血液凝固因子製剤の投与による HIV 感染
症の方が対象。医療費は入院時の食事療養費を含め、入通院とも無料。
申請先 おおむね住民票のある地域を管轄する保健所に 「先天性血液凝固因子障害等受給
者証」 の交付申請を行う。
③小児慢性特定
疾患治療
研究事業
②の 1 万円を
助成
①の自己負担分
②特定疾病療養 (3割自己負担)を
1万円まで軽減
①健康保険
20歳未満
HIV 感染症の臨床経過
216 医療福祉制度と支援
7割給付
④先天性血液
凝固因子障害等
治療研究事業
②特定疾病療養
①健康保険
20歳以上
⑵ 二つの公費負担医療
医療保障の中で抗 HIV 治療に必要な公費負担医療には、自立支援医療(更生医療)と重度
心身障害者医療の 2 種類がある。免疫機能障害で「身体障害者手帳」を取得している方の、医
療・等級・所得等の状況により対象が定められる。
なお、身体障害者手帳の等級と所得の状況によって補助される金額が異なるものもあるので、
これらを把握した上で選択する。
⑤自立支援医療(更生医療)
(事業開始 昭和 29 年 7 月)
障害者自立支援法 第 58 条
(国庫負担事業)
補助率 国 1/2 市町村 1/4 道 1/4
⑥重度心身障がい者医療費助成
(事業開始 昭和 47 年 4 月~)
自治体医療給付事業補助要綱等
(道補助事業)
補助率 市町村 1/2 道 1/2
平成 18 年 4 月より更生医療・育成医療・精
神通院医療が統合され〈自立支援医療〉に移
行。
身体障害者手帳をもっている方の福祉の向
上を図るために、医療費の一部を助成する制
度。
対象者 免疫機能障害で身体障害者手帳の
交付を受けている 18 歳以上の方。(18 歳未
満は「育成医療」)1~ 4 級
対象者 身体障害者手帳の交付を受けてい
る、1・2 級・内部障害 3 級の方。
給付範囲 抗 HIV 療法、免疫調整療法、そ
の他合併症の予防や治療等の HIV 感染に対
する医療に限られる。
自己負担額 医療費の定率 1 割負担。1 ヵ
月あたりの自己負担上限額があり、前年度の
所得・市町村民税に応じて表1の限度額を負
担。
給付範囲 医療保険の対象範囲。
自己負担額 住民税非課税の場合初診時
一部負担。課税世帯は原則、医療費の 1 割
負担。さらに上限がもうけられ、1 か月の自
己負担限度額がある。道は、外来 12,000 円
入院 44,400 円(市町村によって対象者を拡
大している場合がある。)
札幌市 は一医療機関につき
外来 3,000 円 入院 44,400 円
注 意 自立支援医療(更生)の利用は、 注 意 医療保険の医療が前提。所得制限
知事等から指定を受けている医療機関・調剤 があり利用の対象外になる方がいる。(表 2)
薬局に限られる。
生活保護者は対象外。
申請手続きには医師による意見書が必要。
受給者証の有効期限は最長 1 年。継続して
受給を希望する場合は、課税証明書などを添
えて自立支援医療継続の手続きが必要。医療
保険の利用が前提。生活保護を受けている方
も対象。
自立支援医療 自己負担上限月額区分
所得区分の内容
生活保護世帯
自己負担上限月額
0円
市町村民税非課税世帯で、本人収入が年間 800,000 円以下の方
2,500 円
市町村民税非課税世帯で、本人収入が 800,001 円以上の方
5,000 円
市町村民税(所得割額)が 33,000 円以上、235,000 未満の方
10,000 円
市町村民税(所得割額)が 235,000 円以上の方
20,000 円
HIV
医療福祉制度と支援
感染症の臨床経過 217
利用できる制度と申請の時期
初診
経過観察
服薬開始
高額療養費
(貸付含む)
1 ヶ月の医療費が一
定額を超えればいつ
でも利用できます
3 級以上の身障手帳があ
り、
所得制限をクリアした
場合に利用できます
重度障害者医療
身体障害者手帳
自立支援医療
エイズを発症しているか、
4週
以上の間をあけて 2 回の検査
の結果が出て、認定の基準を
満たせばいつでも申請ができ
ます
身障手帳取得後、もしくは申請
中で、
HIV 薬などの治療が始まる
場合に利用できます
⑶ 身体障害者手帳について
身体障害者福祉法では「身体障害者手帳を所持している方」を援護の対象と規定している。
手帳はサービスを受けるためのパスポートで、何らかのサービスを受ける場合にその該当者で
あることを示す。
手帳は身体障害者福祉法に定める程度の障害がある、本人(または保護者)の申請によって
交付される。HIV 感染者の障害認定は 1 ~ 4 級まであり、障害名は「免疫機能障害」
申請手続きの手順
手帳の取得を希望する本人が主治医に障害認定の希望を伝える。
主治医が認定の条件と本人とデータ等を照らし合わせ、これに合致する場合申請となる。
「指定医」である医師が「診断書」を記入できる。身体障害者診断書・意見書を指定医
に依頼する。
手帳の交付申請に必要な書類は市町村(身体障害者福祉担当)にある。市町村の身体障
害者福祉担当窓口に、身体障害者診断書・意見書、身体障害者手帳交付申請書、写真(縦
4cm、横 3cm の上半身のもの)、印鑑をもって申請する。申請は本人でなくて代理の方
でも可。郵送でもよい。
手帳が交付されると自宅に市町村の身体障害者福祉担当から連絡がある。
受け取り時に、医療助成の関係で健康保険証や印鑑などが必要な場合がある。(市町村
によっては少しずつ内容や対応が異なります)ご希望があった場合は手帳を郵送するこ
とも可能。
身体障害者手帳の交付
HIV 感染症の臨床経過
218 医療福祉制度と支援
身体障害者手帳の「障害程度等級認定基準」
「免疫機能障害」 の障害認定は 1 ~ 4 級まであり、エイズを発症(AIDS 診断のための指標疾
患参照)しているか、4 週以上間隔をおいて実施した連続する 2 回の検査結果が、認定基準を満
たす場合に交付される。
認定方法は、13 歳以上と 13 歳未満で認定基準が異なる。
表 1 障害程度等級認定基準【13 歳以上の方の場合】
1級
⒈ CD4 陽性リンパ球数が 200/μℓ以下で表 2 の 6 項目以上に該当する状態
⒉ 回復不能なエイズ合併症のため介助なくしては日常生活が不可能な状態
2級
⒈ CD4 陽性リンパ球数が 200/μℓ以下で表 2 の 3 項目以上に該当する状態
⒉ エイズ発症の既往歴があり表 2 の 3 項目以上に該当する状態
⒊ CD4 陽性リンパ球数に関係なく表 2 の 1 から 4 までの 1 つを含む 6 項目以上に該
当する状態
3級
⒈ CD4 陽性リンパ球数が 500/μℓ以下で表 2 の 3 項目以上に該当する状態
⒉ CD4 陽性リンパ球数に関係なく表 2 の 1 から 4 までの 1 つを含む 4 項目以上に該
当する状態
4級
⒈ CD4 陽性リンパ球数が 500/μℓ以下で表 2 の 1 項目以上に該当する状態
⒉ CD4 陽性リンパ球数に関係なく表 2 の 1 から 4 までの 1 つを含む 2 項目以上に該
当する状態
表 2 検査所見・日常生活活動制限
1.白血球数について 3,000/μℓ未満の状態が 4 週以上の間隔をおいた検査において連続して
2 回以上続く
2.ヘモグロビン量について男性 12g/㎗未満、女性 11g/㎗未満の状態が 4 週以上の間隔をお
いた検査において連続して 2 回以上続く
3.血小板について 10 万 /μℓ未満の状態が4週以上の間隔をおいた検査において連続して 2
回以上続く
4.ヒト免疫不全ウイルス -RNA 量について 5,000 コピー /ml 以上の状態が 4 週以上の間隔を
おいた検査において連続して 2 回以上続く
5.1 日 1 時間以上の安静臥床を必要とするほどの強い倦怠感および易疲労感が 7 日以上ある
6.健康時に比して 10%以上の体重減少がある
7.月に 7 日以上の不定の発熱(38℃以上)が 2 か月以上続く
8.1 日に 3 回以上の泥状ないし水様下痢が月に 7 日以上ある 9.1 日に 2 回以上の嘔吐あるいは 30 分以上の嘔気が月に 7 日以上ある
10.表 3 に示す日和見感染症の既往がある
11.生鮮食料品の摂取禁止等の日常生活上の制限が必要である
12.軽作業を越える作業の回避が必要である
HIV
医療福祉制度と支援
感染症の臨床経過 219
表 3 日和見感染症
1.口腔カンジタ症(頻回に繰り返すもの) 2.赤痢アメーバ症 3.帯状疱疹
4.単純ヘルペスウイルス感染症(頻回に繰り返すもの) 5.糞線虫症
6.伝染性軟属腫 7.その他
等級早見表
HIV に感染していて、
診断時に 13 歳以上の人
回 復 不 能なエ
イズ 合 併 症 の
ため介助なくし
ては日常 生 活
が ほとんど 不
可能な状態
エイズ 発 症 の
既往があり、表
1 の項目に 3 ~
5 項目該当する
ひと
1級
2級
左の項目に
該当しない
表 1 のうち1か
ら4の項目有
表 1 のうち1か
ら4の項目無
表 1 の項目数
CD4 200 以下
1 2 3 4 5 6~
4級
2級
1級
CD4 200 以下
1 2 3 4 5 6~
4級
2級
1級
表 1 の項目数
表 1 の項目数
CD4 201 ~ 500
1 2 3 4 5 6~
4級
3級
2級
CD4 201 ~ 500
1 2 3 4 5 6~
4級
3級
表 1 の項目数
CD4 501 以上
1 2 3 4 5 6~
× 4級 3級 2級
CD4 501 以上
表 1 の項目数
診断書・意見書 記載方法の注意点
○身体障害者診断書・意見書 診断書・意見書の作成ができるのは、指定医師(身体障害者
福祉法第 15 条第 1 項に規定する医師)のみである。新たに指定を受ける場合、心身障害者総
合相談所へ申請が必要である。
①障害名には「免疫機能障害」と記入する。⑤総合所見 将来再認定は原則として不要に丸
をつける。
○自立支援医療更生医療 要否意見書 障害名には「免疫機能障害」と記入する。医療の具
体的方針には「免疫機能障害に対する薬物療法」を記入する。
HIV 感染症の臨床経過
220 医療福祉制度と支援
4
生活保護制度
生活保護制度の概要
⑴ 目 的
さまざまな理由によりお金を稼ぐことが出来なくなったとき、最低限の生活を保障しお金を
受給できるのが生活保護制度である。国が憲法 25 条(生存権)に基づき全ての国民を程度に
応じ保護する。また被保護者の自立の助長を図ることを目的としている。
⑵ 対象者
• 資産、能力等すべてを活用した上でも、生活に困窮する者を対象としている。
※各種の社会保障施策による支援、不動産等の資産、稼働能力等の活用が保護実施の前提に
なる。また、扶養義務者による扶養などは、保護に優先される。
• 外国籍の場合は、永住ビザや日本人の配偶者ビザなどの定住性のあるビザを持っている場
合は生活保護を利用することができる。
• 困窮に至った理由は問わない。
⑶ 保護の内容
• 保護は、生活扶助、教育扶助、住宅扶助、医療扶助、介護扶助、出産扶助、生業扶助及び
葬祭扶助から構成される。
※医療扶助及び介護扶助は、医療機関等に委託して行う現物給付を原則とし、それ以外は金
銭給付が原則である。
• 最低生活費は、地域や年齢で細かく決められている。家賃・医療費・介護費を別にした生
活費が札幌市 20 ~ 40 代 1 人暮しで 79,940 円である。さらに 11 月~ 3 月には冬季加算とし
て 23,250 円。12 月には期末手当として 13,540 円が加わる。身体障害者手帳を取得している
と身体障害者手帳 2 級で 26,850 円加算される。(2013 年 8 月より減額予定)
⑷ 保護の申請と決定
• 保護は申請を基づいて開始することを原則としている。要保護者、その扶養義務者、その
他同居の親族としている。一方、保護の実施機関は、要保護者の発見、市町村長による通報
があった場合は、適切に処置をとらなければならないとしている。
⑸ 保護の実施機関
• 保護を実施するための原則として、居住地主義をとっている。これは住民票のある自治体
ではなく現在住んでいる居住地の保護実施機関が決定を行うということである。またこれに
よりがたい場合には現在地保護、急迫保護、施設入所保護などの特例がある。
HIV
医療福祉制度と支援
感染症の臨床経過 221
⑹ 保護受給に至る手続
申請による場合
事前の相談
保護の申請
・生活保護制度の説明
・生活福祉資金、障害者施策等
各種の社会保障施策活用の可
否の検討
・預貯金、保険、不動産等の資
産調査
・扶養義務者による扶養の可否
の調査
・年金等の社会保障給付、就労
収入等の調査
・就労の可能性の調査
保護費の支給
医療機関への
入院、保護施
設等への入所
職権による場合
行き倒れ等
急迫保護
(職権保護)
医療機関への
入院、保護施
設への入所
事後の要否判定
・預貯金、保険、不動産等の資
産調査
・扶養義務者による扶養の可否
の調査
・年金等の社会保障給付、就労
収入等の調査
⑺ 保護の要否の判定と支給される保護費
• 厚生労働大臣が定める基準で測定される最低生活費と収入を比較して、収入が最低生活費
に満たない場合に保護を適用する。最低生活費から収入を差し引いた差額を保護費として支
給する。
※収入:就労による収入、年金等社会保障の給付、親族による援助、交通事故の補償等を認定。
最 低 生 活 費
収 入
収 入
保護が適用さ
れないケース
保護が適用さ
れるケース
支給される保護費
• 収入としては、上記のほか預貯金、保険の払戻金、不動産等の資産の売却収入等も認定す
るため、これらを使い尽くした後に、初めて保護適用となる。
⑻ 保護適用後の調査及び指導
• 世帯の実態に応じ、年 2 ~ 12 回の訪問調査を行う。
• 収入・資産等の届出を義務付け、定期的に課税台帳との照合を実施しする。
• 就労の可能性のある者への就労指導を行う。
⑼ 審査請求及び再審査請求
• 保護の決定や停止、廃止に対して不服のある者は、都道府県知事に対して、取り消し申し
立て(審査請求)をすることができる。この申し立てに対し都道府県知事は 50 日以内に裁
決をしなければならない。また、この裁決に不服のある者は厚生労働大臣に対して、再審査
HIV 感染症の臨床経過
222 医療福祉制度と支援
請求をすることができる。
• 審査請求後の行政処分に不服がある場合。処分の取り消しを求める訴訟を起こすができる。
⑽ 被保護者の義務
生活保護の費用は国民の税金によって賄われている。被保護者は最低生活の給付が与えられ
る一方で義務も課せられる。
①譲渡禁止:保護を受ける権利を譲り渡すことができない。
②生活上の義務:常に能力に応じて勤労に励み、支出の節約を図りその他生活の維持、向上
につとめなければならないとされている。
③届出の義務:収入、支出その他生計の状況が変わったとき、または住所、家族の構成に異
動があったときは、すぐに、福祉事務所長に届け出なければならないとされている。
④指示等に従う義務:生活の維持や向上に関して必要な指導や指示に従う義務がある。この
指導や指示に従わなければ保護を停止、廃止されることがある。
⑤費用返還義務:緊急などの理由で、資力があるにもかかわらず保護を受けたときは、すみ
やかに、受けた保護金品に相当する金額の範囲内において保護の実施機関の定める額を返
還しなければならないとされている。
⑾ 各種扶助
▽生活扶助 衣食その他の日常生活の重要を満たすために必要なものである。個々人に必要な衣
食は第一類として支給され、その人の年齢層ごとに異なる。光熱水費は世帯の人数によって変
わる第二類として支給される。第一類と第二類の合計がその世帯の生活扶助になる。
又、1か月以上入院する場合は、第一・二類の代わりに入院患者日用品費が支給され、介護
保険施設に入所している人には、介護施設入所者基本生活費が支給される。(加算の形で、個人、
または世帯の状況に応じて支給される扶助費には次のものがある。期末一時扶助、被服費、入
学準備金、家具計器費、移送費、ひとり親世帯就労促進費など。)2013 年 8 月より減額予定。
▽生業扶助 高校入学の費用や世帯の就労自立のために必要な経費を支給する。技能習得、生業
に必要な資金、器具や資材を購入する費用が対象となる。
▽住宅扶助 敷金、礼金、家賃、賃貸契約更新の費用、家屋の補修費、改修費、他に住宅の維持
のため、必要なものが対象となる。
▽医療扶助 けがや病気が必要な際、生活保護指定医療期間で給付が受けられる。予防接種は対
象とならない。
▽介護扶助 介護保険法に規定する要介護及び要支援状態にある者を対象者としている。介護保
険が適用される場合には保険給付が優先となる。介護施設におけるユニット型個室・ユニット
型準個室・従来型個室は、原則として利用を認めていない。
⑿ 保護施設
▽救護施設 身体・精神上著しい障害があるために日常生活を営むのに困難な要保護者を入所さ
せ、生活扶助を行うこととしている。
▽更生施設 身体・精神上の理由により療養及び生活指導を必要とする要保護者を入所させて、
生活扶助を行うこととしている。
▽医療保護施設 医療を必要とする要保護者に対して、医療の給付を行うこととしている。
▽授産施設 身体・精神上の理由または、世帯の事情により就業能力の限られている要保護者に
HIV
医療福祉制度と支援
感染症の臨床経過 223
対して、就労または技能の習得のために必要な機会および便宜を与えて、その自立の助長をす
ることとしている。
▽宿泊提供施設 住宅のない要保護者の世帯に対して住宅扶助を行うことを目的としている。
医療福祉制度に関する相談
上記記載の項目についてさらに詳細を知りたいとき、あるいは制度の利用にあたって不明な点
など、医療福祉制度に関する相談は、MSW に相談すると良い。連絡先:HIV 相談室(内)7025
■参考文献■
1 東京ソーシャルワーク編.How to 生活保護(介護保険対応版)-暮らしに困ったときの生
活保護のすすめ.東京,現代書館,2007,223P.
2 厚生労働省 生活保護と福祉一般.
< http://www.mhlw.go.jp/bunya/seikatsuhogo/seikatuhogo.html >,(参照 2009-7-31).
(HIV 相談室 ソーシャルワーカー 富田 健一 2013.05)
HIV 感染症の臨床経過
224 医療福祉制度と支援
22 HIV 感染症とインターネット情報
1
インターネット上のオンラインマニュアルについて
このマニュアルの全項目をインターネット上でも公開しており、当院の HIV 感染症対策委員
会が管理している北海道 HIV/AIDS 情報のホームページ(http://www.hok-hiv.com/)よりダウ
ンロード可能である。
【北海道 HIV/AIDS 情報 資料冊子のダウンロード http://www.hok-hiv.com/for-medic/download/】
なお、マニュアルの記載内容は執筆時の情報に基づいている。HIV/AIDS の情報は日々進
歩しており、HIV/AIDS に関する情報を提供する国内・海外の主な外部サイトについて「3.
HIV/AIDS の関連サイト」(P226)でも紹介しているが、すべての情報が最新とは限らないため、
インターネット上の情報を利用の際は留意する必要がある。
2
北海道 HIV/AIDS 情報(http://www.hok-hiv.com/)
について
北 海 道 大 学 病 院 HIV 感 染 症
対 策 委 員 会 が 管 理 し て い る HIV/
AIDS についてのホームページ。
こ の サ イ ト は、HIV/AIDS に 関
する情報や、北海道内の相談窓口・
検査・エイズ治療拠点病院などにつ
いての情報を提供すること、また北
海道内を中心とした研修会などのお
知らせをすることを目的に開設し
た。
HIV 感染から治療までの HIV の
基礎知識や一般の方・医療従事者向
けの情報を掲載、また今年度より北
海道 HIV 透析ネットワークについ
ての項目も追加された。
【一般の方の項目】
「相談窓口のご案内」、「検査に
ついて」、「受診について」、「歯科
治療について」
【医療従事者の項目】
「研修会等のご案内」、
「検査のススメ・結果説明について」、
「カウンセリングの活用について」、
「針刺し事故の対応について」
、
「歯科治療について」、「HIV/AIDS 出張研修について」、「透析
ネットワークについて」
HIV 感染症とインターネット情報
HIV 感染症の臨床経過 225
なお、HIV 感染症対策委員会が発行している以下の冊子もダウンロードが可能。
⑴ HIV 感染症 診断・治療・看護マニュアル(医療従事者向け)
本マニュアルを電子ファイルへ移行したもの。HIV に関する総論及び各論、AIDS 関連症
候群の診断と治療、HIV 感染症に使用される薬剤の使用法と副作用等について掲載。
⑵ HIV・HCV 重複感染症 診療ガイドライン(医療従事者向け)
HIV・HCV 重複感染症について、その特徴、治療に関する知見などを解説。
⑶ HIV・HCV 重複感染患者さんの手引き(一般の方向け)
当サイトにはその他に北海道大学病院のスタッフ紹介や HIV 相談室利用案内、汚染事故時の
対応についてなどを掲載している。
また、北海道大学病院のホームページにも北海道 HIV/AIDS 情報へのリンクが貼られている。
①病院 TOP ページ上、「医療関係者の方へ」⇒「HIV 関連マニュアル」より
②病院 TOP ページ左下、「北海道ブロックエイズ治療拠点病院」のボタンより
3
HIV/AIDS の関連サイト
⑴ 日本語サイト
・独立行政法人国立国際医療研究センター エイズ治療・研究開発センター
「センターについて」、「一般・患者のみなさまへ」、「研修のご案内」、「医療従事者向け情
報」、
「拠点病院一覧」
、
「厚生労働省関連情報」などのコンテンツがある。また、e ラーニン
グなどもある。
URL:http://www.acc.go.jp/accmenu.htm
・独立行政法人 国立病院機構 仙台医療センター・東北ブロック AIDS/HIV 情報ページ
HIV 検査や HIV の基礎知識、診療・受診のご案内や Q&A など多くの情報がある。また「震
災の経験から~医療者の備えと患者の備え~」についてのページや携帯サイトもある。
URL:http://www.tohoku-hiv.info/
・関東甲信越 HIV/AIDS 情報ネット
「HIV/AIDS 関連ニュース」
、
「研修会のお知らせ」などのコンテンツがある。また「制度
のてびき」、「伝えたい、学びたい HIV カウンセリング」、「HIV 抗体検査マニュアル」など
の PDF 版がダウンロード可能である。
URL:http://kkse-net.jp/
・エイズ治療北陸ブロック拠点病院
「診療案内」
「相談案内」
「HIV/ エイズの基礎知識」「検査案内」「サポート体制」などの
コンテンツがある。
URL:http://www.ipch.jp/aids/
・独立行政法人 国立病院機構 大阪医療センター HIV/AIDS 先端医療開発センター
「一般・患者のみなさま」
、
「HIV 感染症基礎知識」「医療関係者のみなさま」になどのコ
感染症の臨床経過
226 HIV 感染症とインターネット情報
ンテンツがある。また「HIV 診療のためのリソース」などから冊子のダウンロードも可能
である。
URL:http://www.onh.go.jp/khac/
・中四国エイズセンター
「病気の知識」
「HIV 抗体検査について」「HIV/AIDS 関連文献」「エイズ関連出版物」な
どが参照可能。また「社会福祉制度」「心理カウンセリング」についてのコンテンツもある。
更に「イベントカレンダー」、「エイズ関連用語集」、「血友病と関連疾患」など様々な内容が
掲載されている。
URL:http://www.aids-chushi.or.jp/
・国立病院機構 九州医療センター AIDS/HIV 総合治療センター
「一般の皆様」、「医療やケア情報」、「センターのご案内」、「研修案内」のコンテンツ他、
HIV/AIDS 検査・相談窓口、拠点病院などについて掲載されている。
URL:http://www.kyumed.jp/kansensho/
・拠点病院診療案内
冊子「拠点病院診療案内」の web 版。全国のエイズ治療拠点病院の情報が掲載されている。
URL:http://hiv-hospital.jp/
・厚生労働省・エイズ治療薬研究班
この研究班の供給する薬剤の情報とその入手方法など、この研究班からの情報と厚生労働
省からの情報がインターネットを通じて広く一般に公開されている。
URL:http://labo-med.tokyo-med.ac.jp/aidsdrugmhw/mokuji.htm
・財団法人エイズ予防財団
設立趣旨や事業内容、HIV の基礎知識などを掲載。また「基礎知識編」、
「検査&治療編」、
「サポート編」の啓発ビデオもダウンロード可能である
URL:http://www.jfap.or.jp/
・エイズ予防情報ネット(API-Net)
エイズに関する基礎知識や最新の動向、マニュアル・ガイドラインなど HIV/ エイズに関
する様々な情報が掲載されている。
URL:http://api-net.jfap.or.jp/
・HIV 検査・相談マップ
全国の HIV 検査を受けられる施設について検索することができる。検査イベント情報や、
HIV・エイズや HIV 検査についてのなどの Q&A もある。
URL:http://www.hivkensa.com/
・日本エイズ学会
エイズと HIV に関する諸問題の研究の促進、会員相互の交流および知識の普及と啓発を
HIV 感染症とインターネット情報
HIV 感染症の臨床経過 227
図ることを目的として日本エイズ学会があります。エイズ学会に関する詳細情報が掲載され
ている。
URL:http://jaids.umin.ac.jp/
・HIV/AIDS 看護研究会(JANAC)
HIV/AIDS 看護に携わる看護職が、より実践的な情報をより実践的な場で更に質の高い
看護を提供できるようにすることを目的として設立されました 。今後情報交換としての場
にとどまらず、これから HIV/AIDS 看護が進むべき方向性を探求し、年々進歩する治療と
ともに、具体的な看護の手法を開発することを目指している。
URL:http://www.janac.info/
・HIV マップ
HIV /エイズについて不安に思ったとき。セイファーセックスについて知りたいとき。
検査してみようか迷っているとき。陽性という結果を受け取ったとき。あなたの身近にいる
人が悩んでいるとき。このサイトは、一人ひとりが自分なりのリアルな現実に向き合うこと
を応援している。
URL:http://www.hiv-map.net/
・
「HAND」北海道の HIV/ エイズ情報 HIV&AIDS Navigation for Doumin
社会福祉法人はばたき福祉事業団北海道支部が運営しているサイト。北海道の HIV/ エイ
ズの現状、予防、陽性者への理解促進、検査相談に関する情報を幅広く提供し道民が安心し
て情報を得られるサイトを目指している。
URL:http://hiv-hand35.jp/
⑵ 海外サイト (English Website)
・Joint United Nations Programme on HIV/AIDS(UNAIDS)
国連合同エイズ計画のホームページ。 Date & analysis から世界の HIV/AIDS の流行状
況を確認できる。
URL:http://www.unaids.org/en/
・World Health Organization(WHO)
世界保健機関のホームページ
URL:http://www.who.int/en/
・HIV in Site
カリフォルニア大学サンフランシスコ校の HIV 総合情報サイト。
URL:http://hivinsite.ucsf.edu/
・JOHNS HOPKINS POC-IT guide
ジョンズホプキンス大学の HIV 総合情報サイト。
URL:http://www.hopkinsguides.com/hopkins/ub
感染症の臨床経過
228 HIV 感染症とインターネット情報
・AIDSinfo
DHHS ガイドラインなどを掲載。
URL:http://www.aidsinfo.nih.gov/
・Centers for Disease Control and Prevention(CDC)
米国疾病対策予防センターの HIV に関するサイト。
URL:http://www.cdc.gov/hiv/
(HIV 相談室 田村 恵子 2013.06)
HIV 感染症とインターネット情報
HIV 感染症の臨床経過 229
23 HIV 相談室について
平成 8 年 3 月の HIV 訴訟原告団との和解から、政策医療としてエイズ診療体制整備が進めら
れた。本院においては平成 9 年 4 月 HIV 相談室を設置し、専門職を配置し精神的支援など患者
支援に活動開始した。
北海道エイズ治療ブロック拠点病院である本院は「北海道内のエイズ医療の水準の向上、地域
格差の是正を推進していく」
「エイズ医療においてチーム医療が円滑に機能するよう支援する」
役割が求められる。そのため、エイズ医療専従の専門職(HIV 担当看護師 カウンセラー ソー
シャルワーカー 情報担当者 薬剤師(兼任))を配置しチームで活動している。
HIV に関する相談窓口として利用可能な場と院内外に周知されている。具体的には、HIV 検
査相談、針刺し事故時の対応、患者の転院や診療施設紹介、個別症例相談などを実施している。
北海道内の医療体制整備の役割として拠点病院 HIV 担当の専門職間の連携やケアの充実や教育
を目的とした研修会や連絡会議も実施している。
また、相談室では、医師と専門職が集まり週 1 回カンファレンスを実施している。カンファレ
ンスでは、通院患者の情報共有や個別ケースの検討、研修会等の企画運営や、院内外の課題の検
討にチームとして取り組んでいる。
1
相談室の役割
⑴ HIV 感染患者の療養支援・家族 / パートナー支援
⑵病気や療養生活についてなど情報・資材提供(患者 / 家族・院内外の医療者等)
⑶ HIV 検査希望者の受検相談・検査実施
⑷電話相談(感染不安・診療施設紹介・情報提供など)
⑸ HIV 感染患者・家族 / パートナーの心理的支援、カウンセリングの実施
⑹社会資源の紹介や制度利用相談
⑺ HIV 感染判明後から医療機関受診までの支援
⑻予防啓発活動(HIV 検査相談 サークルさっぽろ 講演など)
⑼北海道内の HIV 担当者・関係者の連携と教育
⑽拠点病院との連携・調整(研修会 / 連絡会議の実施・個別ケース相談)
2
相談室利用について
在室時間 8:30 ~ 17:00
個別相談 9:00 ~ 16:00
直通電話 011 - 706 - 7025
メールアドレス:soudan@med.hokudai.ac.jp
* HIV 担当看護師・カウンセラー・ソーシャルワーカー・情報担当者は月~金在室
*原則事前予約が必要だが、予約状況により対応可
*相談はプライバシーが守られる個室対応
*1回の相談時間は 30 分~ 60 分程度
*相談室の利用のみ(診察を受けない)の場合、料金は不要
感染症の臨床経過
230 HIV 相談室について
*北大通院患者以外でも利用可能
<相談依頼方法>
① HIV 担当看護師への連絡は、相談室(内線 7025、PHS83351/83352/83358)に直接電話を
する。
② カウンセラー・ソーシャルワーカーへの連絡
◆院内・院外の場合:相談室(内線 7025)へ直接電話連絡可。
◆院内の場合:病院情報管理システムの院内手紙(電子コメント)を用いて連絡依頼。
電子コメント→ HIV 相談室→カウンセリング依頼・メディカルソーシャルワーカーへの
相談依頼のコメント入力後、内容確定し送信する。
3
HIV 担当看護師の役割
看護師の役割として、患者が QOL を維持しながら療養生活と治療が両立でき、自己のライフ
スタイルを構築していけるよう支援していくことを大切にしている。「患者の身体的・心理的・
社会的背景を総合的に把握しセルフケアを実践できるように支援する」「治療方法や療養生活に
関して患者が意思決定できるように支援する」「患者の療養上の目標を共有し、医療チームが効
果的に協同し包括的医療が提供できるようチームをコーディネートしていく」ことを実践してい
る。また、北海道エイズ治療ブロック拠点病院の担当看護師として、道内の拠点病院や他の医療
機関との連携調整、情報提供、個別相談など HIV に関連する道内の医療向上の一端を担い主に
以下のことを実践している。
⑴療養生活支援
⑵他科・他施設受診時連携支援
⑶カンファレンス開催などチーム医療の調整
⑷医療関係者への HIV 最新情報の提供、研修会や連絡会議の企画運営
4
カウンセラー(臨床心理士)の役割
HIV/AIDS に感染すると精神神経学的症状を伴うことがある。例えば、病名告知後の不安や
抑うつ症状、日和見感染症による不眠や倦怠感、就労困難による焦燥感などである。より重篤に
なると脳機能が可逆的・不可逆的に影響を受けることもあり、物忘れや ADL の低下などを引き
起こす。
(6-15 HIV 関連神経認知障害 参照)
臨床心理士は心理学的知見に基づき、カウンセリングや心理検査を通じて患者に寄り添い、患
者の心情・置かれている環境・脳機能などをアセスメントし、患者本人と患者をケアする周囲の
支援を目指している。以下は、その主な役割である。
⑴ HIV 感染に伴う精神神経学的症状のアセスメントと支援
⑵ HIV 感染を告知された家族やパートナーへの支援
⑶院内スタッフとの協働(院内スタッフへのメンタルヘルス支援や、他科との協働を含む)
⑷院外スタッフとの協働(情報提供や後方支援を含む)
HIV
HIV
感染症の臨床経過
相談室について 231
5
ソーシャルワーカーの役割
ソーシャルワーカーは相談者の生活問題を社会的な視点から捉え相談者の福祉ニーズを共に考
え目標に向かえるように支援を行う。相談者の抱える福祉ニーズを生活歴、家族関係、社会環境、
文化、価値観から総合的に理解する。また、患者の自己実現と自己決定を尊重し、権利擁護及び
代弁をおこなう役割を持つ。
⑴病院にかかる医療費などの相談支援
(高額療養費制度、身体障害者手帳、重度心身障害者医療費、自立支援医療費などを説明する。
もし相談者が情報漏えいを心配されるときにはソーシャルワーカーが代行して申請する。)
⑵生活していくお金が無いなどの経済的な相談支援
(生活福祉資金貸付制度、住宅支援給付を説明し申請の援助を行う。条件が満たせれば障害
年金の申請を支援する。全ての福祉制度やインフォーマルなサービスを活用してもなお瀬貧
困困難があれば生活保護申請も支援する。)
⑶何らかの介護が必要な時には介護福祉サービスの紹介・調整などのケアマネジメント
(居宅サービス、入居系サービスの選定と仲介援助を行う。福祉事業所へは HIV についての
情報提供を行い安心してサービス提供できるように調整を図る。)
⑷学校や職場での社会生活上の悩みの相談
⑸社会福祉制度利用に際し秘密漏えいへの不安の相談
⑹生活におけるうまくいかないことへの相談
⑺北海道 HIV 担当ソーシャルワーカー向け専門研修の企画及び主催
⑻社会福祉サービスなどの社会資源開拓
(HIV 陽性者が地域で福祉サービスを選び安心してより良く暮らしていけるように HIV と
HIV 陽性者理解を多くの人に知ってもらえるように働きかける。)
6
情報担当者の役割
HIV/AIDS に関する情報の収集・管理・提供を主に行う。患者データベースなど様々なデー
タの管理を行い、ホームページや刊行物などを通じ最新情報を関係者へ提供する。また院内外に
おける研修会・講演会などの開催協力や、HIV/AIDS 関連研究班などの調査事項への協力を行う。
⑴患者データベースなどのデータ管理とデータシステムの構築・運用とその分析
⑵ Web サイト【北海道 HIV/AIDS 情報】や各種刊行物の管理・作成とこれらを用いての情報
提供
⑶研修会・講演会などの開催協力
⑷ HIV/AIDS 関連研究班等の調査事項への協力・研究費管理
(HIV 相談室 渡部 恵子、坂本 玲子、武内 阿味、大川 満生、
富田 健一、田村 恵子、成田 月子、大野 稔子、 2013.07)
感染症の臨床経過
232 HIV 相談室について
24 抗ウイルス薬
※各薬剤の製品添付文書(2013 年 7 月現在)より抜粋。各薬剤の使用に際しては、必ず最新の
添付文書を確認すること。
核酸系逆転写酵素阻害薬(NRTI)
ページ
レトロビル
234
ヴァイデックス EC
235
エピビル
236
ゼリット
237
コンビビル
238
ザイアジェン
239
エプジコム
240
ビリアード
241
エムトリバ
242
ツルバダ
243
非核酸系逆転写酵素阻害薬(NNRTI)
ページ
ビラミューン
244
ストックリン
245
インテレンス
246
エジュラント
247
プロテアーゼ阻害薬(PI)
ページ
クリキシバン
248
インビラーゼ
249
ノービア
251
ビラゼプト
253
カレトラ
254
レイアタッツ
256
レクシヴァ
258
プリジスタ
250
インテグラーゼ阻害薬(INI)
アイセントレス
侵入阻害薬(CCR5 阻害薬)
シーエルセントリ
インテグラーゼ阻害薬と核酸系逆転写酵素阻害薬の配合薬
スタリビルド
ページ
262
ページ
263
ページ
265
北海道大学病院抗 HIV 薬採用リスト(2013 年 7 月時点)
HIV 感染症の臨床経過
抗ウイルス薬 233
※各薬剤の製品添付文書(2013 年 7 月現在)より抜粋。各薬剤の使用に際しては、必ず最新の添付文書を確認すること。
核酸系逆転写酵素阻害薬(NRTI)
一般名(略号) ジドブジン(zidovudine)(AZT、ZDV)
商 品 名
レトロビル
販売会社
ヴィーブヘルスケア(製造販売元)/ グラクソ・スミスクライン(販売元)
(承認年月) (1987 年 10 月)
規格単位
1 カプセル中 100㎎
用法・用量
他の抗 HIV 薬と併用して、1 日量 500 ~ 600㎎を 2 ~ 6 回に分服。症状により適
宜減量
警 告
本剤の投与により骨髄抑制があらわれるので、頻回に血液学的検査を行うなど、
患者の状態を十分に観察すること。
禁 忌
・好中球数 750/㎣未満又はヘモグロビン値が 7.5g/㎗未満に減少した患者
・本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者
・イブプロフェン投与中の患者
注 意
・好中球数 1,000/㎣未満又はヘモグロビン値が 9.5g/㎗未満に減少した患者では、
好中球、ヘモグロビン値がさらに減少することがある。
・腎または肝機能障害のある患者では、高い血中濃度が持続するおそれがある
・ビタミン B12 欠乏患者では貧血が発現するおそれがある
・高齢者
相 互 作 用 【併用禁忌】
(併用注意) ・イブプロフェン(ブルフェン等):血友病患者において出血傾向が増強すること
(併用禁忌)
がある。
【併用注意】
・本剤の毒性作用が増強;ペンタミジン、ピリメタミン、スルファメトキサゾール・
トリメトプリム合剤、フルシトシン、ガンシクロビル、インターフェロン、ビ
ンクリスチン、ビンブラスチン、ドキソルビシン
・投与間隔を適宜あける;プロベネシド
・本剤の最高血中濃度が 84%上昇する;フルコナゾール、ホスフルコナゾール・
本剤の最高血中濃度が 27%減少し AUC が 25%減少;リトナビル
・本剤の全身クリアランスが約 2.5 倍増加し、AUC が約 1/2 減少;リファンピシ
ン
・血中フェニトイン濃度が約 1/2 に減少;フェニトイン
・サニルブジンの効果が減弱;サニルブジン
・in vitro において本剤の効果が減弱;リバビリン
・本剤の AUC が 33%上昇;アトバコン
主な副作用
再生不良性貧血、赤芽球癆、汎血球減少、貧血、白血球減少、好中球減少、血小
板減少、うっ血性心不全、乳酸アシドーシス及び脂肪沈着による重度の肝腫大(脂
肪肝)、てんかん様発作、膵炎、食欲不振、腹痛、嘔気、頭痛など
HIV 感染症の臨床経過
234 抗ウイルス薬
※各薬剤の製品添付文書(2013 年 7 月現在)より抜粋。各薬剤の使用に際しては、必ず最新の添付文書を確認すること。
核酸系逆転写酵素阻害薬(NRTI)
一般名(略号) ジダノシン(didanosine)(ddI)
商 品 名
ヴァイデックス EC
販売会社
ブリストル・マイヤーズ
(承認年月) (2001 年 3 月)
規格単位
1 カプセル中 125㎎
1 カプセル中 200㎎
用法・用量
通常成人には、ジダノシンとして以下の用量を 1 日 1 回食間に経口投与する。
体重 60㎏以上:400㎎ 体重 60㎏未満:250㎎
警 告
本剤の投与により膵炎があらわれることがあるので、血清アミラーゼ、血清リパー
ゼ、トリグリセライド等の生化学的検査を行うなど、患者の状態を十分に観察す
ること。
禁 忌
・膵炎の患者[膵炎を増悪させることがある。]
・本剤に対する過敏症の既往歴のある患者
注 意
・膵炎の既往歴のある患者では再発することがある
・末梢神経障害又はその既往歴のある患者では症状を増悪または再発させること
があるので、減量、休薬もしくは中止を考慮すること
・腎障害のある患者では、本剤の消失半減期が延長し、副作用が強くあらわれる
おそれがあるので、投与量を調節するなど慎重に投与すること(重篤な腎障害
(CCr < 10㎖ / 分)のある体重 60㎏未満の患者には本剤の投与は適さないため
他の治療法を用いること)
・肝障害のある患者では肝障害を増強することがある
相 互 作 用 【原則禁忌】
(併用注意) 妊婦又は妊娠している可能性のある婦人
(併用禁忌) 【併用注意】
・副作用を増強することがある;ペンタミジン、アルコール、スルホンアミド、
ザルシタビン、抗結核抗生物質、H2 受容体拮抗剤、副腎皮質ステロイド剤、サ
リドマイドなど
・本剤の AUC が増加し、副作用を増強する可能性がある;ガンシクロビル、アロ
プリノール
・本剤のリン酸化を促進し、副作用を増強する可能性がある;リバビリン
・本剤の AUC と Cmax が上昇し、副作用が増強する可能性がある;テノホビル
ジソプロキシルフマル酸塩フマル酸テノホビルジソプロキシル
【その他の注意】
・本剤とヒドロキシウレアが併用された HIV 感染患者で、死亡を含む重篤な膵炎、
肝障害及び高度の末梢神経障害が発現したとの報告がある
主な副作用
膵炎、乳酸アシドーシス、肝障害、門脈圧亢進症(非肝硬変性も含む)網膜色素脱失・
視神経炎、発作・痙攣、錯乱、ミオパシー、低換気症、アナフィラキシー様反応、
皮膚粘膜眼症候群(Stevens-Johnson 症候群)、急性腎不全、汎血球減少症、横紋
筋融解症、脳血管障害・脳出血、下痢、悪心、血清アミラーゼ上昇、関節痛、体
脂肪の再分布 / 蓄積など
HIV 感染症の臨床経過
抗ウイルス薬 235
※各薬剤の製品添付文書(2013 年 7 月現在)より抜粋。各薬剤の使用に際しては、必ず最新の添付文書を確認すること。
核酸系逆転写酵素阻害薬(NRTI)
一般名(略号) ラミブジン(lamivudine:3TC)
商 品 名
エピビル
販売会社
ヴィーブヘルスケア(製造販売元)/ グラクソ・スミスクライン(販売元)
(承認年月) (150㎎(1997 年 2 月)、300㎎(2003 年 9 月))
規格単位
1 錠中 150㎎
1 錠中 300㎎
用法・用量
1 日量 300㎎を 1 日 1 回(300㎎× 1)又は 2 回(150㎎× 2)
警 告
・膵炎を発症する可能性のある小児の患者(膵炎の既往歴のある小児、膵炎を発
症させることが知られている薬剤との併用療法を受けている小児)では、本剤
の適用を考える場合には、他に十分な効果の認められる治療法がない場合にの
み十分注意して行うこと。これらの患者で膵炎を疑わせる重度の腹痛、悪心・
嘔吐等又は血清アミラーゼ、血清リパーゼ、トリグリセライド等の上昇があら
われた場合は、本剤の投与を直ちに中止すること。
・B 型慢性肝炎を合併している患者では、本剤の投与中止により、B 型慢性肝炎が
再燃するおそれがあるので、本剤の投与を中断する場合には十分注意すること。
特に非代償性の場合、重症化するおそれがあるので注意すること。
禁 忌
本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者
注 意
・膵炎を発症する可能性がある小児の患者
・腎機能障害のある患者では高い血中濃度が持続するので、減量するかまたは投
与間隔を延長すること
・高齢者
・妊婦・授乳婦
・小児等
相 互 作 用 【併用注意】
(併用注意) ・本剤の AUC が 43%増加し、全身クリアランスが 30%、腎クリアランスが 35%
(併用禁忌)
減少したとの報告がある;スルファメトキサゾール・トリメトプリム合剤
・本剤とザルシタビン両剤の効果が減弱;ザルシタビン
主な副作用
赤芽球癆、汎血球減少、貧血、白血球減少、好中球減少、血小板減少、膵炎、乳
酸アシドーシス及び脂肪沈着による重度の肝腫大(脂肪肝)、横紋筋融解症、ニュー
ロパシー、錯乱、痙攣、心不全、下痢、嘔気、腹痛、嘔吐、食欲不振、体脂肪の
再分布 / 蓄積、肝機能検査値異常、末梢神経障害、血中尿酸値上昇、高乳酸塩血症、
発疹、トリグリセライド上昇・血清コレステロール上昇、血糖値上昇など
HIV 感染症の臨床経過
236 抗ウイルス薬
※各薬剤の製品添付文書(2013 年 7 月現在)より抜粋。各薬剤の使用に際しては、必ず最新の添付文書を確認すること。
核酸系逆転写酵素阻害薬(NRTI)
一般名(略号) サニルブジン(sanilvudine)、別名スタブジン(stavudine)(d4T)
商 品 名
ゼリット
販売会社
ブリストル・マイヤーズ
(承認年月) (1997 年 7 月)
規格単位
1 カプセル中 15㎎
1 カプセル中 20㎎
用法・用量
成人:以下の量を 1 日 2 回 12 時間毎
体重 60㎏以上:1 回 40㎎ 体重 60㎏未満:1 回 30㎎
投与に際しては、必ず他の抗 HIV 薬と併用すること。
警 告
・本剤の投与を受けた患者で、急性の四肢の筋脱力、腱反射消失、歩行困難、呼
吸困難等のギラン・バレー症候群に類似した経過及び症状が認められており、
これらの多くの症例は乳酸アシドーシス発現例に認められ、死亡例の報告もあ
る。本剤投与中は、全身倦怠感、悪心・嘔吐、腹痛、急激な体重減少、頻呼吸、
呼吸困難等の乳酸アシドーシスが疑われる症状、あるいはギラン・バレー症候
群に類似した症状に注意し、異常が認められた場合には、投与を中止するなど
適切な処置を行うこと。
・末梢神経障害があらわれることがあるので、四肢のしびれ・刺痛感・疼痛等の
症状が認められた場合には、投与を中止するなど適切な処置を行うこと。
禁 忌
本剤に対し過敏症の既往歴のある患者
原則禁忌
妊婦又は妊娠している可能性のある婦人
注 意
・本剤は他に適切な治療法がない場合にのみ使用し、本剤の投与はできる限り短
期間とすること
・末梢神経障害またはその既往歴のある患者
・肝障害のある患者
・腎障害のある患者では半減期が延長し副作用が強くあらわれるおそれがあるの
で、投与量及び投与間隔を調節するなど慎重に投与すること
・膵炎またはその既往歴のある患者
相 互 作 用 【併用注意】
(併用注意) ・本剤の効果が減弱するおそれ;ジドブジン
(併用禁忌)
主な副作用
乳酸アシドーシス、末梢神経障害、膵炎、急性腎不全、錯乱,失神、痙攣、皮膚
粘膜眼症候群(Stevens-Johnson 症候群)、肝不全、下痢、悪心・嘔吐、血清アミラー
ゼ上昇、LDH 上昇、糖尿病、高脂血症、高血糖、尿酸上昇、体脂肪の再分布 / 蓄
積(後天性リポジストロフィー、脂肪組織萎縮症、胸部、体幹部の脂肪増加、顔面・
末梢部の脂肪減少、クッシング様外見、野牛肩)、脂肪肝、AST 上昇、ALT 上昇、
Al-P 上昇、ビリルビン上昇、肝腫大、血清クレアチニン上昇、感染、悪寒・発熱、
頭痛、白血球減少、好中球減少、貧血、ヘモグロビン減少、血小板減少、大赤血球症、
咳など
HIV 感染症の臨床経過
抗ウイルス薬 237
※各薬剤の製品添付文書(2013 年 7 月現在)より抜粋。各薬剤の使用に際しては、必ず最新の添付文書を確認すること。
核酸系逆転写酵素阻害薬(NRTI)
一般名(略号) ジドブジン(zidovudine)・ラミブジン、別名:アジドチミジン(azidothymidine)
(AZT・3TC)
商 品 名
コンビビル配合錠
販売会社
ヴィーブヘルスケア(製造販売元)/ グラクソ・スミスクライン(販売元)
(承認年月) (1999 年 6 月)
規格単位
1 錠中(ジドブジン 300㎎、ラミブジン 150㎎)
用法・用量
1 回 1 錠(ジドブジン 300㎎、ラミブジン 150㎎)を 1 日 2 回
警 告
・本剤の有効成分の一つであるジドブジンにより、骨髄抑制があらわれるので、
頻回に血液学的検査を行うなど、患者の状態を十分に観察すること。
・B 型慢性肝炎を合併している患者では、ラミブジンの投与中止により、B 型慢
性肝炎が再燃するおそれがあるので、本剤の投与を中断する場合には十分注意
すること。特に非代償性の場合、重症化するおそれがあるので注意すること。
禁 忌
・好中球数 750/㎣未満又はヘモグロビン値が 7.5g/㎗未満の患者
・本剤に対する過敏症の既往歴のある患者
・イブプロフェン投与中の患者[出血傾向が増強したとの報告がある ]
注 意
・好中球数 1000/㎣未満またはヘモグロビン値が 9.5g/㎗未満の患者では、
好中球数、
ヘモグロビン値がさらに減少することがある
・ビタミン B12 欠乏患者では貧血が発現することがある
・膵炎を発症する可能性のある患者
・肝機能障害のある患者では、ジドブジンの高い血中濃度が持続するおそれがある
・高齢者
・妊婦・妊娠している可能性のある婦人
相 互 作 用 (併用禁忌)
(併用注意) ・ジドブジンと併用した場合、血友病患者において出血傾向が増強することがあ
る;イブプロフェン
(併用禁忌)
(併用注意)
・ジドブジンの毒性作用が増強されることがある;ペンタミジン、ピリメタミン、
スルファメトキサゾール・トリメトプリム合剤、フルシトシン、ガンシクロビル、
インターフェロン、ビンクリスチン、ビンブラスチン、ドキソルビシン
・ジドブジンの全身クリアランスが約 1/3 に減少し、半減期が約 1.5 倍延長;プロ
ベネシド
・ジドブジンの最高血中濃度が 84%上昇;フルコナゾール、ホスフルコナゾール
・ジドブジンの最高血中濃度が 27%減少し、AUC が 25%減少;リトナビル
・ジドブジンの全身クリアランスが約 2.5 倍増加し、AUC が約 1/2 減少;リファンピシン
・血中フェニトイン濃度が約 1/2 に減少、または上昇するとの報告;フェニトイン
・サニルブジンの効果が減弱;サニルブジン
・in vitro において本剤の効果が減弱;リバビリン
・ジドブジンの AUC が 33%上昇;アトバコン
・ラミブジンの AUC が 43%増加し、全身クリアランスが 30%、腎クリアランス
が 35%減少;スルファメトキサゾール・トリメトプリム合剤
・ラミブジンとザルシタビン両剤の効果が減弱;ザルシタビン
主な副作用
再生不良性貧血、赤芽球癆、汎血球減少、貧血、白血球減少、好中球減少、血小板減少、
乳酸アシドーシス及び脂肪沈着による重度の肝腫大(脂肪肝)
、
膵炎、
横紋筋融解症、
ニューロパシー、錯乱、痙攣、てんかん様発作、心不全、平均赤血球容積(MCV)
増加、嘔気、頭痛、倦怠感・疲労、肝機能検査値異常、高血糖、重炭酸塩低下、
CK 上昇、トリグリセライド上昇など
HIV 感染症の臨床経過
238 抗ウイルス薬
※各薬剤の製品添付文書(2013 年 7 月現在)より抜粋。各薬剤の使用に際しては、必ず最新の添付文書を確認すること。
核酸系逆転写酵素阻害薬(NRTI)
一般名(略号) アバカビル硫酸塩錠(abacabir sulfate)(ABC)
商 品 名
ザイアジェン
販売会社
ヴィーブヘルスケア(製造販売元)/ グラクソ・スミスクライン(販売元)
(承認年月) (1999 年 9 月)
規格単位
1 錠中アバカビルとして 300㎎
用法・用量
他の抗 HIV 薬と併用して、1 回 600㎎を 1 日 1 回、または 1 回 300㎎を 1 日 2 回
警 告
・過敏症:海外の臨床試験において、本剤投与患者の約 5%に過敏症の発現を認め
ており、まれに致死的となることが示されている。本剤による過敏症は、通常、
本剤による治療開始 6 週以内(中央値 11 日)に発現するが、その後も継続して
観察を十分に行うこと。
・皮疹、発熱、胃腸症状(嘔気、嘔吐、下痢、腹痛等)、疲労感、倦怠感、呼吸器
症状(呼吸困難、咽頭痛、咳等)等、このような症状が発現した場合は、直ち
に担当医に報告させ、本剤による過敏症が疑われたときは本剤の投与を直ちに
中止すること。過敏症が発現した場合には、決してアバカビル製剤(本剤又は
エプジコム錠)を再投与しないこと。
・呼吸器疾患(肺炎、気管支炎、咽頭炎)、インフルエンザ様症候群、胃腸炎、又
は併用剤による副作用と考えられる症状が発現した場合あるいは胸部 X 線像異
常(主に浸潤影を呈し、限局する場合もある)が認められた場合でも、本剤に
よる過敏症の可能性を考慮し、過敏症が否定できない場合は本剤の投与を直ち
に中止し、決して再投与しないこと。
・患者に過敏症について必ず説明し、過敏症を注意するカードを常に携帯するよ
う指示すること。また、過敏症を発症した患者にはアバカビル製剤(本剤又は
エプジコム配合錠)を二度と服用しないよう十分指導すること
禁 忌
・本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者
・重度の肝障害患者
注 意
・肝機能障害患者
・高齢者
・妊婦・妊娠している可能性のある婦人
相 互 作 用 【併用注意】
(併用注意) ・本剤の代謝はエタノールによる影響を受ける。本剤の AUC が約 41%増加したが、
(併用禁忌)
エタノールの代謝は影響を受けなかったとの報告あり。本剤の安全性の観点か
ら、臨床的に重要な相互作用とは考えられていない。
・methadone の ク リ ア ラ ン ス が 22 % 増 加 し た こ と か ら、 併 用 す る 際 に は
metahdone の増量が必要となる場合があると考えられる。なお、アバカビルの
血中動態は臨床的意義のある影響を受けなかった。
主な副作用
過敏症(皮疹、多形紅斑、嘔気、嘔吐、下痢、腹痛、口腔潰瘍、呼吸困難、咳、咽頭痛、
急性呼吸促迫症候群、呼吸不全、頭痛、感覚異常、リンパ球減少、肝機能検査値異常、
肝不全、筋痛、筋変性、関節痛、CK 上昇、クレアチニン上昇、腎不全、結膜炎、発熱、
嗜眠、倦怠感、疲労感、浮腫、リンパ節腫脹、血圧低下、粘膜障害、アラフィラキシー)
、
膵炎、
皮膚粘膜眼症候群(Stevens-Johnson 症候群)
、
中毒性表皮壊死融解症(TEN)
、
乳酸アシドーシスおよび脂肪沈着による重度の肝腫大(脂肪肝)など
HIV 感染症の臨床経過
抗ウイルス薬 239
※各薬剤の製品添付文書(2013 年 7 月現在)より抜粋。各薬剤の使用に際しては、必ず最新の添付文書を確認すること。
核酸系逆転写酵素阻害薬(NRTI)
一般名(略号) アバカビル硫酸塩(abacavir sulfate:ABC)、ラミブジン(lamivudine:3TC)
商 品 名
エプジコム配合錠
販売会社
ヴィーブヘルスケア(製造販売元)/ グラクソ・スミスクライン(販売元)
(承認年月) (2005 年 1 月)
規格単位
1 錠中アバカビル 600㎎、ラミブジン 300㎎
用法・用量
1 回 1 錠(ラミブジンとして 300㎎、アバカビルとして 600㎎)を 1 日 1 回
警 告
・過敏症:海外の臨床試験において、本剤投与患者の約 5%に過敏症の発現を認め
ており、まれに致死的となることが示されている。本剤による過敏症は、通常、
本剤による治療開始 6 週以内(中央値 11 日)に発現するが、その後も継続して
観察を十分に行うこと。
・皮疹、発熱、胃腸症状(嘔気、嘔吐、下痢、腹痛等)、疲労感、けん怠感、呼吸
器症状(呼吸困難、咽頭痛、咳等)等このような症状が発現した場合は、直ち
に担当医に報告させ、本剤による過敏症が疑われたときは本剤の投与を直ちに
中止すること。過敏症が発現した場合には、決してアバカビル製剤(本剤又は
エプジコム錠)を再投与しないこと。
・呼吸器疾患(肺炎、気管支炎、咽頭炎)、インフルエンザ様症候群、胃腸炎、又
は併用剤による副作用と考えられる症状が発現した場合あるいは胸部 X 線像異
常(主に浸潤影を呈し、限局する場合もある)が認められた場合でも、本剤に
よる過敏症の可能性を考慮し、過敏症が否定できない場合は本剤の投与を直ち
に中止し、決して再投与しないこと。
・患者に過敏症について必ず説明し、過敏症を注意するカードを常に携帯するよ
う指示すること。
・B 型慢性肝炎を合併している患者では、ラミブジンの投与中止により、B 型慢
性肝炎が再燃するおそれがあるので、本剤の投与を中断する場合には十分注意
すること。
禁 忌
・本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者
・重度の肝障害患者
注 意
・膵炎を発症する可能性のある患者
・肝障害患者
・高齢者
・妊婦又は妊娠している可能性のある婦人
相 互 作 用 【併用注意】
(併用注意) ・ラミブジンの AUC が 43%増加し、全身クリアランスが 30%・腎クリアランスが
35%減少したとの報告がある;スルファメトキサゾール・トリメトプリム合剤
(併用禁忌)
・両剤の効果が減弱するとの報告がある;ザルシタビン
・アバカビルの AUC が増加したが、エタノールの代謝は影響を受けなかったとの
報告がある
・methadone の ク リ ア ラ ン ス が 22 % 増 加 し た こ と か ら、 併 用 す る 際 に は
metahdone の増量が必要となる場合があると考えられる。なお、アバカビルの
血中動態は臨床的意義のある影響を受けなかった。
主な副作用
過敏症、赤芽球癆、汎血球減少、貧血、白血球減少、好中球減少、血小板減少、
膵炎、乳酸アシドーシス及び脂肪沈着による重度の肝腫大(脂肪肝)、横紋筋融解症、
ニューロパシー、錯乱、痙攣、心不全、皮膚粘膜眼症候群(Stevens-Johnson 症候群)、
中毒性表皮壊死融解症(TEN)、下痢、嘔気、腹痛、嘔吐、食欲不振、体脂肪の再
分布 / 蓄積、肝機能検査値異常、末梢神経障害、血中尿酸上昇、高乳酸塩血症、発疹、
トリグリセライド上昇・血清コレステロール上昇、血糖値上昇など
HIV 感染症の臨床経過
240 抗ウイルス薬
※各薬剤の製品添付文書(2013 年 7 月現在)より抜粋。各薬剤の使用に際しては、必ず最新の添付文書を確認すること。
核酸系逆転写酵素阻害薬(NRTI)
一般名(略号) テノホビル ジソプロキシルフマル酸塩(Tenofovir Disoproxil Fumarate:TDF)
商 品 名
ビリアード
販売会社
日本たばこ産業(製造販売元)/ 鳥居薬品(販売元)
(承認年月) (2004 年 3 月)
規格単位
1 錠中 300㎎
用法・用量
1 回 300㎎(テノホビルジソプロキシルとして 245㎎)を 1 日 1 回
腎機能障害のある患者では本剤の血中濃度が上昇するので、腎機能の低下に応じ
て、次の投与方法を目安とする(外国人における薬物動態試験成績による)。
クレアチニン
クリアランス(CLcr)
投 与 方 法
50㎖ /min 以上
本剤 1 錠を 1 日 1 回投与
30 ~ 49㎖ /min
本剤 1 錠を 2 日間に 1 回投与
10 ~ 29㎖ /min
本剤 1 錠を 1 週間に 2 回投与
血液透析の患者
本剤 1 錠を 1 週間に 1 回投与注)
又は累積約 12 時間の透析終了後に本剤 1 錠を投与
注)血液透析実施後
CLcr が 10㎖ /min 未満で、透析を行っていない患者における薬物動態は検討され
ていない。
警 告
B 型慢性肝炎を合併している患者では、本剤の投与中止により、B 型慢性肝炎が再
燃するおそれがあるので、本剤の投与を中断する場合には十分注意すること。特
に非代償性の場合、重症化するおそれがあるので注意すること。
禁 忌
・本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者
注 意
・腎障害のある患者(中等度及び重篤な腎機能障害のある患者では、本剤の血中
濃度が上昇する)
相 互 作 用 【併用注意】
(併用注意) ・併用剤による有害事象を増強するおそれ、併用剤の減量考慮示唆;ジダノシン
(併用禁忌) ・併用剤の治療効果が減弱するおそれ、また、本剤による有害事象を増強するお
それ;アタザナビル硫酸塩
・本剤による有害事象を増強するおそれ;ロピナビル / リトナビル
・併用剤又は本剤による有害事象を増強するおそれ;アシクロビル、バラシクロ
ビル塩酸塩、ガンシクロビル、バルカンシクロビル塩酸塩
主な副作用
腎不全又は重度の腎機能障害(腎機能不全、腎不全、急性腎不全、近位腎尿細管
機能障害、ファンコニー症候群、急性腎尿細管壊死、腎性尿崩症又は腎炎等)、膵炎、
乳酸アシドーシス、悪心、下痢、無力症、疼痛、頭痛、腹痛、嘔吐、鼓腸、消化
不良、錯感覚、浮動性めまい、発疹、食欲不振、体重減少、後天性リポジストロ
フィー、骨障害、CK 上昇、血中トリグリセリド増加、血中アミラーゼ増加、AST
増加、ALT 増加、好中球数減少、尿糖、血中ブドウ糖増加など
HIV 感染症の臨床経過
抗ウイルス薬 241
※各薬剤の製品添付文書(2013 年 7 月現在)より抜粋。各薬剤の使用に際しては、必ず最新の添付文書を確認すること。
核酸系逆転写酵素阻害薬(NRTI)
一般名(略号) エムトリシタビン(emtricitabine:FTC)
商 品 名
エムトリバ
販売会社
日本たばこ産業(製造販売元)/ 鳥居薬品(販売元)
(承認年月) (2005 年 3 月)
規格単位
1 カプセル中 200㎎
用法・用量
1 回 200㎎を 1 日 1 回
腎機能障害のある患者では本剤の血中濃度が上昇するので、腎機能の低下に応じ
て、次の投与方法を目安とする(外国人における薬物動態試験成績による)。
クレアチニン
クリアランス(CLcr)
投 与 方 法
50㎖ /min以上
本剤 1 カプセルを 1 日 1 回投与
30 ~ 49㎖ /min
本剤 1 カプセルを 2 日間に 1 回投与
15 ~ 29㎖ /min
本剤 1 カプセルを 3 日間に 1 回投与
15㎖ /min未満
本剤 1 カプセルを 4 日間に 1 回投与
血液透析の患者
本剤 1 カプセルを 4 日間に 1 回投与
透析日に投与する場合は、透析後投与
警 告
B 型慢性肝炎を合併している患者では、本剤の投与中止により、B 型慢性肝炎が再
燃するおそれがあるので、本剤の投与を中断する場合には十分注意すること。特
に非代償性の場合、重症化するおそれがあるので注意すること。
禁 忌
・本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者
注 意
・腎障害のある患者(中等度及び重篤な腎機能障害のある患者では、本剤の血中
濃度が上昇する)
相互作用
(併用注意)
(併用禁忌)
主な副作用
乳酸アシドーシス、下痢、悪心、腹痛、消化不良、嘔吐、無力症、疼痛、浮動性めまい、
頭痛、不眠症、異常な夢、錯感覚、発疹、高脂血症、AST 増加、ALT 増加、血中
アミラーゼ増加、CK 増加、白血球減少症など
HIV 感染症の臨床経過
242 抗ウイルス薬
※各薬剤の製品添付文書(2013 年 7 月現在)より抜粋。各薬剤の使用に際しては、必ず最新の添付文書を確認すること。
核酸系逆転写酵素阻害薬(NRTI)
一般名(略号) エムトリシタビン(emtricitabine:FTC)、テノホビル ジソプロキシルフマル酸
塩(Tenofovir Disoproxil Fumarate:TDF)
商 品 名
ツルバダ配合錠
販売会社
日本たばこ産業(製造販売元)/ 鳥居薬品(販売元)
(承認年月) (2005 年 3 月)
規格単位
エムトリシタビン 200㎎、テノホビル ジソプロキシルフマル酸塩 300㎎
用法・用量
1 回 1 錠(エムトリシタビンとして 200㎎及びテノホビル ジソプロキシルフマル
酸塩として 300㎎を含有)を 1 日 1 回
腎機能障害のある患者では、エムトリシタビン製剤及びテノホビル製剤の薬物動
態試験においてエムトリシタビンとテノホビルの血中濃度が上昇したとの報告が
あるので、腎機能の低下に応じて、次の投与方法を目安とする(外国人における
薬物動態試験成績による)。
クレアチニン
クリアランス(CLcr)
投 与 方 法
50㎖ /min以上
本剤 1 錠を 1 日 1 回投与
30 ~ 49㎖min
本剤 1 を 2 日間に 1 回投与
30㎖ /min未満
又は血液透析患者
本剤は投与せず、エムトリシタビン製剤及びテノホ
ビル製剤により、個別に用法・用量の調節を行う
警 告
B 型慢性肝炎を合併している患者では、本剤の投与中止により、B 型慢性肝炎が再
燃するおそれがあるので、本剤の投与を中断する場合には十分注意すること。特
に非代償性の場合、重症化するおそれがあるので注意すること。
禁 忌
・本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者
注 意
・腎障害のある患者(中等度及び重篤な腎機能障害のある患者では、本剤の血中
濃度が上昇する
相 互 作 用 【併用注意】
(併用注意) ・併用剤による有害事象を増強するおそれ、併用剤の減量考慮示唆;ジダノシン
(併用禁忌) ・併用剤の治療効果が減弱するおそれ、また、本剤による有害事象を増強するお
それ;アタザナビル硫酸塩
・本剤による有害事象を増強するおそれ;ロピナビル / リトナビル
・併用剤又は本剤による有害事象を増強するおそれ;アシクロビル、バラシクロ
ビル、ガンシクロビル、バルカンシクロビル
主な副作用
腎不全又は重度の腎機能障害(腎機能不全、腎不全、急性腎不全、近位腎尿細管
機能障害、ファンコニー症候群、急性腎尿細管壊死、腎性尿崩症又は腎炎等)、膵炎、
乳酸アシドーシス、悪心、下痢、疲労、頭痛、皮膚色素過剰、血中アミラーゼ増加、
CK 増加、血中トリグリセリド増加、AST 増加、好中球数減少、ALT 増加、血尿
など
HIV 感染症の臨床経過
抗ウイルス薬 243
※各薬剤の製品添付文書(2013 年 7 月現在)より抜粋。各薬剤の使用に際しては、必ず最新の添付文書を確認すること。
非核酸系逆転写酵素阻害薬(NNRTI)
一般名(略号) ネビラピン(nevirapine:NVP)
商 品 名
ビラミューン
販売会社
日本ベーリンガーインゲルハイム
(承認年月) (1998 年 11 月)
規格単位
1 錠中 200㎎
用法・用量
1 日 1 回 200㎎を 14 日間。その後、維持量として 1 日 400㎎を 2 回に分服
警 告
・中毒性表皮壊死症(Lyell 症候群)、皮膚粘膜眼症候群(Stevens-Johnson 症候群)、
過敏症症候群を含め、重篤で致死的な皮膚障害が発現することがある
・肝機能障害:本剤の投与により、肝不全などの重篤で致死的な肝機能障害が発
現することがある
禁 忌
本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者、本剤の投与により重篤な発疹、又
は全身症状を伴う発疹が発現した患者、重篤な肝機能障害のある患者、本剤の投
与により肝機能障害が発現した患者、ケトコナゾール(経口剤:国内未発売)を
投与中の患者、経口避妊薬を投与中の患者(避妊を目的とするホルモン療法も含む)
注 意
・肝機能障害又はその既往歴のある患者
・腎障害又はその既往歴のある患者
・HIV プロテアーゼ阻害薬を投与中の患者
・CD4 値が高く(女性;250/㎣以上、男性;400/㎣以上)、血漿中に HIV-1 RNA
が検出される(概ね 50copies/㎖以上)患者あるいは抗レトロウイルス剤による
治療経験がない患者
・女性の患者
・妊婦又は妊娠している可能性のある婦人
・小児等
・高齢者
相 互 作 用 【併用禁忌】
(併用注意) ・次の薬剤の血中濃度が低下し、本剤の血中濃度が上昇;ケトコナゾール(経口剤;
国内未発売)
(併用禁忌)
・本剤が経口避妊薬の血中濃度を低下させるおそれがある;経口避妊薬(避妊を
目的とするホルモン療法も含む)
【併用注意】
・併用剤の血中濃度が低下;HIV プロテアーゼ阻害薬(インジナビル、サキナビル、
リトナビル、ホスアンプレナビル)
・本剤の定常状態における最低血中濃度が上昇;CYP3A 酵素阻害剤(シメチジン、
マクロライド系抗生物質、イトラコナゾール)
・リファンピシンとの併用で定常状態における本剤の、リファブチンとの併用で
定常状態における併用剤の薬物動態が変化する;CYP3A 酵素誘導剤(リファン
ピシン、リファブチン)
・本剤の代謝が促進され血中濃度が低下するおそれ;セイヨウオトギリソウ含有食品
・併用剤の血中濃度又は本剤の血中濃度が変動するおそれ;他の CYP3A 酵素で代
謝を受ける薬剤
・血液凝固時間が変化することがある;ワルファリン
主な副作用
中毒性表皮壊死症(Lyell 症候群)、皮膚粘膜眼症候群(Stevens-Johnson 症候群)、
過敏症症候群、肝炎、肝機能障害、黄疸、肝不全、顆粒球減少、うつ病、幻覚、錯乱、
脱水症、心筋梗塞、出血性食道潰瘍、全身痙攣、髄膜炎、アナフィラキシー様症状、
嘔気、発疹、班状丘疹性皮疹、発熱など
HIV 感染症の臨床経過
244 抗ウイルス薬
※各薬剤の製品添付文書(2013 年 7 月現在)より抜粋。各薬剤の使用に際しては、必ず最新の添付文書を確認すること。
非核酸系逆転写酵素阻害薬(NNRTI)
一般名(略号) エファビレンツ(efavirenz:EFV)
商 品 名
販売会社
(承認年月)
ストックリン
MSD
錠剤(2008 年 4 月)
規格単位
1 錠中 200㎎
用法・用量
600㎎
600mg を 1 日 1 回
警 告
禁 忌
・本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者
・トリアゾラム、ミダゾラム、エルゴタミン酒石酸塩・無水カフェイン、ジヒド
ロエルゴタミンメシル酸塩、メチルエルゴメトリンマレイン酸塩及びエルゴメ
トリンマレイン酸塩を投与中の患者
・ボリコナゾールを投与中の患者
注 意
・肝障害のある患者
・B 型、C 型肝炎感染の既往のある患者あるいはその疑いのある患者
・妊婦又は妊娠している可能性のある婦人
相 互 作 用 【併用禁忌】
(併用注意) ・次の薬剤の代謝が抑制され、重篤または生命に危険を及ぼす可能性;トリアゾ
(併用禁忌)
ラム、ミダゾラム、エルゴタミン酒石酸塩・無水カフェイン、ジヒドロエルゴ
タミンメシル酸塩、メチルエルゴメトリンマレイン酸塩、エルゴメトリンマレ
イン酸塩、ボリコナゾール
【併用注意】
・併用剤の AUC 及び Cmax が減少;インジナビル
・併用時高頻度の臨床的有害事象及び臨床検査値異常;リトナビル
・併用剤の AUC 及び Cmax が減少。併用するプロテアーゼ阻害剤がサキナビル
のみの場合、本剤との併用は推奨されない;サキナビル
・併用剤の AUC、Cmin が減少;ホスアンプレナビル
・併用剤の曝露量が減少;アタザナビル
・併用剤の Cmin が減少:ロピナビル / リトナビル
・併用剤の AUC 及び Cmax が減少。本剤の用量を増量;リファンピシン類
・本剤が併用剤の薬物動態に有意な影響を及ぼす;クラリスロマイシン
・併用剤との相互作用の可能性は十分に検討されていない;経口避妊薬
・本剤の代謝が促進され血中濃度が低下;セイヨウオトギリソウ含有食品
・併用剤の AUC、Cmax が減少;アトルバスタチン、プラバスタチン、シンバス
タチン、マラビロク
・本剤と併用剤の AUC、Cmax 及び Cmin が減少;カルバマゼピン
・併用剤の AUC、Cmax 及び Cmin が減少;イトラコナゾール、ジルチアゼム
主な副作用
皮膚粘膜眼症候群(Stevens-Johnson 症候群)、多形紅斑、肝不全、頭痛、インフ
ルエンザ様症候群、疼痛、嘔気、嘔吐、下痢、消化不良、めまい、不眠、集中力障害、
疲労、発疹、斑状丘疹性皮疹、紅斑など
HIV 感染症の臨床経過
抗ウイルス薬 245
※各薬剤の製品添付文書(2013 年 7 月現在)より抜粋。各薬剤の使用に際しては、必ず最新の添付文書を確認すること。
非核酸系逆転写酵素阻害薬(NNRTI)
一般名(略号) エトラビリン(Etravirine:ETR)
商 品 名
インテレンス
販売会社
ヤンセンファーマ
(承認年月) (2009 年 1 月)
規格単位
1 錠中 100㎎(錠剤)
用法・用量
通常、成人にはエトラビリンとして 1 回 200㎎を 1 日 2 回食後に経口投与する。投
与に際しては、必ず他の抗 HIV 薬と併用すること。
警 告
禁 忌
・本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者
注 意
・高齢者
相互作用
(併用注意)
(併用禁忌)
・併用剤の血中濃度を低下させることがある;アミオダロン、ベプリジル、ジソ
ピラミド、フレカイニド、リドカイン(全身投与)、メキシレチン、プロパフェ
ノン、キニジン
・本剤の CYP3A4 誘導作用により、併用剤の代謝が促進される;シルデナフィル、
バルデナフィル、タダラフィル
・本剤の CYP2C19 阻害作用により、併用剤の代謝が阻害される;クロピドグレル
・併用剤の血中濃度を上昇させることがある;ジアゼパム、エチニルエストラジ
オール、ノルエチステロン等、ジゴキシン
・本剤の血中濃度が低下し、本剤の効果が減弱することがある;カルバマゼピン、
フェノバルビタール、フェニトイン、セイヨウオトギリソウ(St. John's Wort、
セント・ジョーンズ・ワート)含有食品、リファンピシン、リファブチン、デ
キサメタゾン、ラニチジン
・本剤の血中濃度が上昇することがある;オメプラゾール、フルコナゾール
・相互の血中濃度に影響を及ぼすことがあるので、併用する場合には必要に応じて
本剤又は併用剤の投与量を調節するなど注意すること;クラリスロマイシン、イ
トラコナゾール、ケトコナゾール、ボリコナゾール、アトルバスタチン、シンバ
スタチン、フルバスタチン、ワルファリン、シクロスポリン、タクロリムス
主な副作用
重篤な皮膚障害、肝炎、腎不全、急性腎不全、横紋筋融解症、下痢、悪心、嘔吐、発疹、
疲労、貧血、血小板減少、高トリグリセリド血症、高コレステロール血症、食欲不振、
高脂血症、糖尿病、異脂肪血症、不眠症、不安、睡眠障害、頭痛、末梢性ニュー
ロパシー、錯感覚、ニューロパシー、傾眠、高血圧、腹痛、鼓腸、上部腹痛、腹
部膨満感、胃炎、胃食道逆流性疾患、便秘、口内乾燥、口内炎、寝汗、脂肪肥大症、
皮膚乾燥、痒疹など
HIV 感染症の臨床経過
246 抗ウイルス薬
※各薬剤の製品添付文書(2013 年 7 月現在)より抜粋。各薬剤の使用に際しては、必ず最新の添付文書を確認すること。
非核酸系逆転写酵素阻害薬(NNRTI)
一般名(略号) リルピビリン塩酸塩(Rilpivirine Hydrochloride:RPV)
商 品 名
エジュラント
販売会社
ヤンセンファーマ
(承認年月) (2012 年 5 月)
規格単位
1 錠中 25㎎
用法・用量
1 回 25㎎を 1 日 1 回食事中又は食直後に経口投与する。
警 告
禁 忌
・リファブチン、リファンピシン、カルバマゼピン、フェノバルビタール、フェ
ニトイン、デキサメタゾン(全身投与)、セイヨウオトギリソウ含有食品、プロ
トンポンプ阻害剤(オメプラゾール、ランソプラゾール、ラベプラゾール、エ
ソメプラゾール)を投与中の患者
・本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者
注 意
・不整脈を起こしやすい患者(低カリウム血症、著しい徐脈、急性心筋虚血、うっ
血性心不全、先天性 QT 延長症候群等)又は QT 延長を起こすことが知られて
いる薬剤を投与中の患者[本剤 75㎎及び 300㎎投与時に QT 延長が認められて
おり、これらの患者では QT 延長により不整脈が発現するおそれがある。]
・高齢者
相 互 作 用 【併用禁忌】
(併用注意) ・本剤の血中濃度が低下し、本剤の効果が減弱するおそれがある;リファブチン、
(併用禁忌)
リファンピシン、カルバマゼピン、フェノバルビタール、フェニトイン、デキ
サメタゾン(全身投与)、セイヨウオトギリソウ含有食品、プロトンポンプ阻害
剤(オメプラゾール、ランソプラゾール、ラベプラゾール、エソメプラゾール)
【併用注意】
・本剤の血中濃度が低下し、本剤の効果が減弱するおそれがある。これらの薬剤は、
本剤投与の 12 時間以上前又は 4 時間以上後に投与すること;H2 遮断剤(ファ
モチジン、シメチジン、ニザチジン、ラニチジン)
・本剤の血中濃度が低下し、本剤の効果が減弱するおそれがある。これらの薬剤は、
本剤投与の 2 時間以上前又は 4 時間以上後に投与すること;制酸剤(乾燥水酸
化アルミニウムゲル、沈降炭酸カルシウム等)
・本剤の血中濃度が上昇する可能性がある。代替としてアジスロマイシン等を考
慮すること;クラリスロマイシン、エリスロマイシン・メサドンの血中濃度が
低下することがある;メサドン
・QT 延長、心室性頻拍(Torsades de Pointes を含む)が発現するおそれがある;
QT 延長を起こすことが知られている薬剤(アミオダロン、ソタロール等)
主な副作用
不眠症、異常な夢、うつ病、頭痛、浮動性めまい、悪心、腹痛、嘔吐、発疹、疲労、
低リン酸血症、低ナトリウム血症、高ナトリウム血症、白血球数減少、AST(GOT)
増加、ALT(GPT)増加、高ビリルビン血症、総コレステロール増加、低血糖、
高血糖、LDL コレステロール増加、膵型アミラーゼ増加、リパーゼ増加
HIV 感染症の臨床経過
抗ウイルス薬 247
※各薬剤の製品添付文書(2013 年 7 月現在)より抜粋。各薬剤の使用に際しては、必ず最新の添付文書を確認すること。
プロテアーゼ阻害薬(PI)
一般名(略号) 硫酸インジナビルエタノール付加物(indinavir sulfate ethanolate:IDV)
商 品 名
クリキシバン
販売会社
MSD
(承認年月) (1997 年 3 月)
規格単位
1 カプセル中インジナビルとして 200㎎
用法・用量
1回 800㎎を 8 時間毎、1 日 3 回空腹時(食事 1 時間以上前又は食後 2 時間以降)
警 告
禁 忌
・本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者
・アミオダロン塩酸塩、トリアゾラム、ミダゾラム、アルプラゾラム、ピモジド、エ
ルゴタミン酒石酸塩・無水カフェイン、ジヒドロエルゴタミンメシル酸塩、メチル
エルゴメトリンマレイン酸塩及びエルゴメトリンマレイン酸塩を投与中の患者
・リファンピシンを投与中の患者
・エレトリプタン臭化水素酸塩、アゼルニジピン、ブロナンセリン、シルデナフィ
ル及びタダラフィルを投与中の患者
・アタザナビルを投与中の患者
・バルデナフィルを投与中の患者
注 意
・肝硬変による肝機能不全患者
・腎機能異常のある患者
・血友病及び著しい出血傾向を有する患者
・腎結石の発現防止のため、1.5L/ 日の水分を補給すること
・本剤は吸湿性があるため、専用の容器にて保存し、常時乾燥剤を入れておくこと
相 互 作 用 【併用禁忌】
(併用注意) ・次の薬剤の代謝が抑制され、重篤な又は生命に危険を及ぼす可能性;アミオダ
ロン塩酸塩、トリアゾラム、ミダゾラム、アルプラゾラム、ピモジド、エルゴ
(併用禁忌)
タミン酒石酸塩・無水カフェイン、ジヒドロエルゴタミンメシル酸塩、メチル
エルゴメトリンマレイン酸、エルゴメトリンマレイン酸塩
・本剤の代謝が促進され、血中濃度が 1/10 以下に低下する;リファンピシン
・次の薬剤の代謝が阻害され血中濃度が阻害され血中濃度が上昇する;エレトリ
プタン臭化水素酸塩、アゼルニジピン、ブロナンセリン、シルデナフィル、タ
ダラフィル
・本剤と併用剤ともに高ビリルビン血症が関連;アタザナビル
・併用剤の AUC 及び Cmax が単独投与と比較して増加し、t1/2 が延長する;バ
ルデナフィル
【併用注意】
・2 時間以上の間隔あけて投与する;ジダノシン(カプセル剤を除く)
・本剤の血中濃度が上昇;イトラコナゾール、ミコナゾール、デラビルジン
・本剤の血中濃度が低下し併用剤の血中濃度が上昇;リファブチン
・本剤もしくは併用剤の血中濃度が上昇;HIV プロテアーゼ阻害剤(サキナビル、
リトナビル、ネルフィナビル)
・本剤の血中濃度が低下;デキサメタゾン、フェノバルビタール、フェニトイン、
カルバマゼピン、エファビレンツ、ネビラピン、エトラビリン
・本剤の代謝が促進され血中濃度が低下;セイヨウオトギリソウ含有食品
・併用薬剤の血中濃度が上昇;シルデナフィル、タダラフィル、カルシウム拮抗剤
(フェロジピン、ジルチアゼム、ベラパミル)
、トラゾドン塩酸塩、ジヒドロエル
ゴトキシンメシル酸塩 シンバスタチン、アトルバスタチン、ロスバスタチン
主な副作用
腎石症、出血傾向、肝炎、肝不全、貧血、溶血性貧血、腎不全、水腎症、間質性腎炎、
腎盂腎炎、アナフィラキシー様反応、皮膚粘膜眼症候群(Stevens-Johnson 症候群)
、
血糖値の上昇、糖尿病、膵炎、狭心症、心筋梗塞等の冠動脈疾患、乳酸アシドーシス、
白血球減少、脳梗塞、一過性脳虚血発作、嘔気、嘔吐、消化不良、高ビリルビン血症、
高脂血症、脱水、血尿、腎機能障害、紅斑、血管炎など
HIV 感染症の臨床経過
248 抗ウイルス薬
※各薬剤の製品添付文書(2013 年 7 月現在)より抜粋。各薬剤の使用に際しては、必ず最新の添付文書を確認すること。
プロテアーゼ阻害薬(PI)
一般名(略号) メシル酸サキナビル(saquinavirmesilate:SQV)
商 品 名
販売会社
(承認年月)
インビラーゼ
中外製薬
カプセル(1997 年 9 月)錠剤(2006 年 9 月)
規格単位
1 カプセル 200㎎
用法・用量
1 錠 500㎎
サキナビルとして 1 回 1000㎎を 1 日 2 回、リトナビルとして 1 回 100㎎を 1 日 2 回、
同時に、食後 2 時間以内
警 告
禁 忌
・本剤又はリトナビル製剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者
・重度の肝機能障害のある患者
・QT 延長のある患者
・低カリウム血症又は低マグネシウム血症のある患者
・ペースメーカーを装着していない完全房室ブロックの患者
・次の薬剤を投与中の患者:アミオダロン、フレカイニド、プロパフェノン、ベ
プリジル、キニジン、トラゾドン、ピモジド、エルゴタミン製剤、シンバスタ
チン、ミダゾラム、トリアゾラム、リファンピシン、バルデナフィル、アゼニ
ルジピン含有製剤
注 意
・血友病の患者及び著しい出血傾向を有する患者では突発性の皮下血腫や出血性
関節症が増加したとの報告
・中等度の肝機能障害のある患者では血中濃度が上昇するおそれ
・重度の腎機能障害のある患者
・重度の徐脈等の不整脈、心疾患(虚血性心疾患、心筋症等)のある患者[QT 延
長や心室性不整脈を起こすおそれ]
・高齢者
・本剤とリトナビルは食後 2 時間以内に同時に服用すること
相 互 作 用 【併用禁忌】
(併用注意) ・重篤又は生命に危険を及ぼすような心血管系の副作用のおそれ;アミオダロン、
(併用禁忌)
フレカイニド、プロパフェノン、ベプリジル、キニジン、トラゾドン、ピモジ
ド
・併用剤の血中濃度が増加し、急性麦角中毒を起こすおそれ;エルゴタミン製剤
・併用剤の血中濃度が増加し、横紋筋誘融解症等のミオパシーを起こすおそれ;
シンバスタチン
・併用剤の血中濃度が増加し、持続的又は過度な鎮静、呼吸抑制を起こすおそれ;
ミダゾラム、トリアゾラム
・併用剤が代謝酵素(CYP3A4)を誘導するため、本剤の AUC が減少したとの報
告がある;リファンピシン
・併用剤の血中濃度が増加するおそれ;バルデナフィル、アゼニルジピン含有製
剤
HIV 感染症の臨床経過
抗ウイルス薬 249
※各薬剤の製品添付文書(2013 年 7 月現在)より抜粋。各薬剤の使用に際しては、必ず最新の添付文書を確認すること。
相 互 作 用 【併用注意】
(併用注意) ・本剤の AUC 及び Cmax が増加;デラビルジン、アタザナビル、ロピナビル・リ
(併用禁忌)
トナビル配合剤、エリスロマイシン、オメプラゾール等
・本剤又は併用剤の AUC 及び Cmax が低下;エファビレンツ
・本剤の AUC が減少;ネビラビン
・本剤の AUC が増加;インジナビル、ケトコナゾール、イトラコナゾール、フル
コナゾール、ミコナゾール、グレープフルーツジュース
・本剤及び併用剤の AUC が増加;ネルフィナビル
・本剤と併用剤の AUC が減少;ホスアンプレナビル
・併用剤の血中濃度が増加するおそれ;リドカイン、ジソピラミド、アミトリプ
チリン、イミプラミン、リファブチン、アルプラゾラム、クロラゼプ酸、フル
ラゼパム、ジアゼパム、フェロジピン、ニフェジピン、ニカルジピン、ジルチ
アゼム、ベラパミル、アムロジピン、ニソルジピン、アトルバスタチン、シク
ロスポリン、タクロリムス、CYP3A4 の基質となる薬剤(キニーネ、フェンタ
ニル、ミルタザピン、テムシロリムス等)、P 糖蛋白の基質となる薬剤(アジス
ロマイシン、ジゴキシン、ダビガトランなど)、シルデナフィル、タダラフィル
・併用剤の血中濃度が変化するおそれ;ワルファリン
・本剤の血中濃度を低下させるおそれ;フェニトイン、フェノバルビタール、カ
ルバマセピン、デキサメタゾン、ニンニク含有製品、セイヨウオトギリソウ
・本剤及び併用剤の AUC、Cmax が増加;クラリスロマイシン
・本剤の血中濃度が増加するおそれ:ストレプトグラミン系抗生物質(キヌプリ
スチン・ダルホプリスチン)
・低用量のリトナビルの使用により、併用剤の全身暴露症状が報告されている;
フルチカゾン、ブデソニド
・本剤(600㎎)を食事とともにこの薬剤(150㎎ 1 日 2 回)と併用した場合に、
食事のみの場合と比較して、AUC が 67%、Cmax が 74%増加したとの報告が
ある;ラニチジン
・併用剤の血中濃度が低下するおそれ;エチニルエストラジオール
主な副作用
自殺企図、錯乱、幻覚、痙攣、失調、多発性脊髄神経根炎、頭蓋内出血、脳出血、
脳血管発作、膵炎、腸管閉塞、腹水、重度の肝機能障害、黄疸、肝炎、門脈圧亢
進、硬化性胆管炎、高血糖、糖尿病、糖尿病の悪化、汎血球減少症、溶血性貧血、
白血球減少症、血小板減少症、好中球減少症、血栓性静脈炎、出血、末梢血管収
縮、進行性多巣性白質脳症、灰白髄炎、急性骨髄芽球性白血病、皮膚粘膜眼症候
群(Stevens-Johnson 症候群)、急性腎不全、腎結石症、チアノーゼ、喀血、無力
症、多発性関節炎、末梢性ニューロパシー、味覚異常、頭痛、下痢、悪心、嘔吐、
腹痛、鼓腸、上腹部痛、アミラーゼ増加、便秘、消化不良、腹部膨満、軟便、貧血、
皮膚乾燥、瘙痒、発疹、湿疹、ALP 増加、ALT 増加、高ビリルビン血症、AST
増加、リポジストロフィー、高トリグリセリド血症、食欲不振・減退、疲労、発熱、
体重減少など
HIV 感染症の臨床経過
250 抗ウイルス薬
※各薬剤の製品添付文書(2013 年 7 月現在)より抜粋。各薬剤の使用に際しては、必ず最新の添付文書を確認すること。
プロテアーゼ阻害薬(PI)
一般名(略号) リトナビル(ritonavir:RTV)
商 品 名
販売会社
(承認年月)
ノービア
アボットジャパン
錠剤(2011 年 3 月) リキッド(1998 年 9 月)
規格単位
1 錠中 100㎎
用法・用量
1㎖中 80㎎(1 瓶は 240㎖)
・投与初日は 1 回 300㎎を 1 日 2 回食後
・2、3 日目は 1 回 400㎎を 1 日 2 回食後
・4 日目は 1 回 500㎎を 1 日 2 回食後
・5 日目以降は 1 回 600㎎ 1 日 2 回食後
・本剤の吸収に影響を与えるおそれがあるので、本剤を噛んだり砕いたりせずそ
のまま服用すること。
警 告
禁 忌
・本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者
・次の薬剤を投与中の患者:キニジン硫酸塩水和物、ベプリジル塩酸塩水和物、
フレカイニド酢酸塩、プロパフェノン塩酸塩、アミオダロン塩酸塩、ピモジド、
ピロキシカム、アンピロキシカム、エルゴタミン酒石酸塩、ジヒドロエルゴタ
ミンメシル酸塩、エルゴメトリンマレイン酸塩、メチルエルゴメトリンマレイ
ン酸塩、エレトリプタン臭化水素酸塩、バルデナフィル塩酸塩水和物、シルデ
ナフィルクエン酸塩(レバチオ)、タダラフィル(アドシルカ)、アゼルニジピン、
リファブチン、ブロナンセリン、リバーロキサバン、ジアゼパム、クロラゼプ
酸二カリウム、エスタゾラム、フルラゼパム、フルラゼパム塩酸塩、トリアゾ
ラム、ミダゾラム、ボリコナゾール
注 意
相 互 作 用 【併用禁忌】
(併用注意) ・不整脈、血液障害、血管攣縮など重篤又は生命に危険を及ぼす可能性;
(併用禁忌) ・キニジン硫酸塩水和物、ベプリジル塩酸塩水和物、フレカイニド酢酸塩、プロ
パフェノン塩酸塩、アミオダロン塩酸塩、ピモジド、ピロキシカム、アンピロ
キシカム、エルゴタミン酒石酸塩、ジヒドロエルゴタミンメシル酸塩、エルゴ
メトリンマレイン酸塩、メチルエルゴメトリンマレイン酸塩、エレトリプタン
臭化水素酸塩、バルデナフィル塩酸塩水和物、シルデナフィルクエン酸塩、タ
ダラフィル、アゼルニジピン、リファブチン、ブロナンセリン、リバーロキサ
バン
・過度の鎮静や呼吸抑制の可能性;ジアゼパム、クロラゼプ酸二カリウム、エス
タゾラム、フルラゼパム、フルラゼパム塩酸塩、トリアゾラム、ミダゾラム
・併用剤の血中濃度が低下したとの報告がある;ボリコナゾール
HIV 感染症の臨床経過
抗ウイルス薬 251
※各薬剤の製品添付文書(2013 年 7 月現在)より抜粋。各薬剤の使用に際しては、必ず最新の添付文書を確認すること。
相 互 作 用 【併用注意】
(併用注意) ・併用剤の血中濃度が上昇するおそれ;フェンタニル,フェンタニルクエン酸塩、
(併用禁忌)
リドカイン塩酸塩、リドカイン、エリスロマイシン、カルバマゼピン、イトラ
コナゾール、ケトコナゾール、ミコナゾール、キニーネ、カルシウム拮抗剤、
タモキシフェンクエン酸塩、トレミフェンクエン酸塩、ブロモクリプチンメシ
ル酸塩、シンバスタチン、アトルバスタチンカルシウム水和物、ロバスタチン(国
内未発売)
、クラリスロマイシン、シクロスポリン、タクロリムス水和物、エベ
ロリムス、デキサメタゾン、シルデナフィルクエン酸塩、タダラフィル、ゲフィ
チニブ、ダサチニブ、ニロチニブ、イリノテカン塩酸塩水和物、ビンカアルカ
ロイド系抗悪性腫瘍剤、アルプラゾラム、サルメテロールキシナホ酸塩、ボセ
ンタン水和物、コルヒチン、テラプレヒビル、フルチカゾンプロピオン酸エス
テル、ブデソニド、ロスバスタチンカルシウム、ロペラミド塩酸、ジゴキシン、
トラゾドン塩酸塩、インジナビル硫酸塩エタノール付加物、ネルフィナビルメ
シル酸塩、その他の HIV プロテアーゼ阻害剤、マラビロク
・併用剤の血中濃度に影響;ワルファリンカリウム
・併用剤の血中濃度低下のおそれ;テオフィリン、エチニルエストラジオール、
エストラジオール安息香酸エステル、ラモトリギン、バルプロ酸ナトリウム
・併用剤の Cmax 及び AUC 低下のおそれ;ジドブジン
・本剤の血中濃度上昇のおそれ;フルコナゾール、ホスフルコナゾール、キヌプ
リスチン・ダルホプリスチン、デラビルジン
・本剤の血中濃度減少のおそれ;リファンピシン、セイヨウオトギリソウ含有食品、
ネビラピン
・併用剤の Cmax 及び AUC 上昇;サキナビルメシル酸塩
・本剤の AUC 低下のおそれ;タバコ
・本剤及び併用剤の血中濃度上昇のおそれ;エファビレンツ
・アルコール反応を起こすおそれ(リキッド服用時)
;ジスルフィラム、ジアナミド、
メトロニダゾール等
・本剤の溶出性が低下;ジダノシン(腸溶性カプセル剤を除く)
主な副作用
錯乱、痙攣発作、脱水、高血糖、糖尿病、肝炎、肝不全、過敏症、出血傾向、悪
心、下痢、嘔吐、腹痛、消化不良、食欲不振、鼓腸、口渇、げっぷ、潰瘍性口内炎、
異常感覚、頭痛、めまい、傾眠、不眠、不安、口周囲感覚異常、味覚倒錯、知覚
過敏、無力症、発熱、疼痛、多汗、体重減少、肝機能検査異常、咽頭炎、咳、発疹、
そう痒、血管拡張、高脂血症、筋肉痛、斑状丘疹性皮疹など
HIV 感染症の臨床経過
252 抗ウイルス薬
※各薬剤の製品添付文書(2013 年 7 月現在)より抜粋。各薬剤の使用に際しては、必ず最新の添付文書を確認すること。
プロテアーゼ阻害薬(PI)
一般名(略号) ネルフィナビルメシル酸塩(nelfinavir mesilate:NFV)
商 品 名
ビラセプト
販売会社
日本たばこ産業(製造販売元)/ 中外製薬、鳥居薬品(販売元)
(承認年月) (1998 年 3 月)
規格単位
1 錠中 250㎎
用法・用量
1 回 1250㎎を 1 日 2 回、または 1 回 750㎎を 1 日 3 回食後(必ず食後に服用)
警 告
禁 忌
・本剤の成分に対して過敏症の既往歴がある患者
・テルフェナジン、シサプリド、
トリアゾラム、ミダゾラム、アルプラゾラム、ピモジド、
バッカク誘導体、アミオダロン及びキニジン硫酸塩水和物を投与中の患者
・リファンピシンを投与中の患者
・エレトリプタン臭化水素酸塩を投与中の患者
・エプレレノンを投与中の患者
注 意
・肝機能障害のある患者では高い血中濃度が持続するおそれ
・血友病及び著しい出血傾向を有する患者
相 互 作 用 【併用禁忌】
(併用注意) ・次の薬剤の代謝が抑制され、重篤または生命に危険を及ぼす可能性;テルフェ
(併用禁忌)
ナジン、シサプリド、トリアゾラム、ミダゾラム、アルプラゾラム、ピモジド、バッ
カク誘導体、アミオダロン、キニジン硫酸塩水和物
・本剤の血中濃度が 20 ~ 30%に低下;リファンピシン
・エレトリプタンの血中濃度が上昇する可能性;エレトリプタン臭化水素酸塩
・エプレレノンの血中濃度が上昇する可能性;エプレレノン
【併用注意】
・本剤及び併用剤の血中濃度が上昇;インジナビル、サキナビル、ボリコナゾール
・本剤の血中濃度が上昇;リトナビル
・本剤の血中濃度が上昇、併用剤の血中濃度が変動;アンプレナビル
・本剤の血中濃度が上昇し併用剤の血中濃度が低下;デラビルジン
・本剤の血中濃度が低下;オメプラゾール、セイヨウオトギリソウ含有食品
・本剤の血中濃度が低下し、併用剤の血中濃度が上昇するため、併用剤を半量以
下に減量する;リファブチン
・併用剤の血中濃度が低下;エチニルエストラジオール又はノルエチステロンを
含む経口避妊薬
・本剤の血中濃度低下、併用剤の血中濃度が変動;フェノバルビタール、フェニ
トイン、カルバマゼピン
・併用剤の血中濃度が上昇する可能性;シルデナフィル、シンバスタチン、アト
ルバスタチン、タクロリムス、シクロスポリン、エベロリムス、フルチカゾン、
トラゾドン
・併用剤の血中濃度が約 2 倍に上昇との報告がある;アジスロマイシン
主な副作用
糖尿病、血糖値の上昇、出血傾向、下痢、嘔気、腹部膨満感、腹痛、嘔吐、鼓腸、
消化不良、食欲不振、後天性リポジストロフィー、頭痛、脱力感、眩暈、発疹、
瘙痒感、感覚異常など
HIV 感染症の臨床経過
抗ウイルス薬 253
※各薬剤の製品添付文書(2013 年 7 月現在)より抜粋。各薬剤の使用に際しては、必ず最新の添付文書を確認すること。
プロテアーゼ阻害薬(PI)
一般名(略号) ロピナビル・リトナビル(lopinavir・ritonavir:LPV・RTV)
商 品 名
販売会社
(承認年月)
カレトラ
アボット ジャパン
リキッド(2000 年 12 月)錠剤(2006 年 9 月)
規格単位
1 錠中ロピナビル 200㎎リトナビル 50㎎
用法・用量
(1 瓶は 160㎖)
1㎖中ロピナビル 80㎎リトナビル 20㎎
・ロピナビル・リトナビルとして 1 回 400㎎・100mg(2 錠)を 1 日 2 回、又は 1
回 800㎎・200㎎(4 錠)を 1 日 1 回経口投与する
(錠剤は食事に関係なし、リキッドは食後に内服)
・体重 40㎏以上の小児にはロピナビル・リトナビルとして1回 400㎎・100㎎(2 錠)
を 1 日 2 回投与できる
警 告
禁 忌
・本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者
・次の薬剤を投与中の患者:ピモジド、エルゴタミン酒石酸塩、ジヒドロエルゴ
タミンメシル酸塩、エルゴメトリンマレイン酸塩、メチルエルゴメトリンマレ
イン酸塩、ミダゾラム、トリアゾラム、バルデナフィル塩酸塩水和物、シルデ
ナフィルクエン酸塩、タダラフィル、ブロナンセリン、アゼルニジピン、リバー
ロキサバン、ボリコナゾール
注 意
・肝機能障害のある患者では高い血中濃度が持続素するおそれがある。また。B
型肝炎、C 型肝炎、トランスアミナーゼの上昇を合併している患者では肝機能
障害を増悪させるおそれがある。
・血友病および著しい出血傾向を有する患者では突発性の出血性関節症をはじめ
とする出血事象の増加が報告されている
・器質的心疾患及び心伝導障害(房室ブロック等)のある患者、PR 間隔を延長さ
せる薬剤(ベラパミル塩酸塩、アタザナビル硫酸塩等)を使用中の患者〔本剤
は軽度の無症候性 PR 間隔の延長が認められている〕
相 互 作 用 【併用禁忌】
(併用注意) ・不整脈のような重篤なまたは生命に危険を及ぼすような事象を起こすおそれ;
(併用禁忌)
ピモジド
・血管攣縮などの重篤なまたは生命に危険を及ぼすような事象を起こすおそれ;
エルゴタミン酒石酸塩、ジヒドロエルゴタミンメシル酸塩、エルゴメトリンマ
レイン酸塩、メチルエルゴメトリンマレイン酸塩
・過度の鎮静や呼吸抑制を起こすおそれ;ミダゾラム、トリアゾラム
・低血圧などの重篤な又は生命に影響を及ぼすような事象をおこすおそれ;バル
デナフィル塩酸塩水和物、シルデナフィルクエン酸塩、タダラフィル
・併用剤の血中濃度上昇;ブロナンセリン、アゼルニジピン、リバーロキサバン
・リトナビルとの併用でボリコナゾールの血中濃度が低下したとの報告がある
HIV 感染症の臨床経過
254 抗ウイルス薬
※各薬剤の製品添付文書(2013 年 7 月現在)より抜粋。各薬剤の使用に際しては、必ず最新の添付文書を確認すること。
相 互 作 用 【併用注意】
(併用注意) ・併用剤の血中濃度上昇のおそれ;シルデナフィルクエン酸塩、タダラフィル、
(併用禁忌)
シンバスタチン、アトルバスタチンカルシウム水和物、ロスバスタチンカルシ
ウム、イトラコナゾール、ケトコナゾール、ジヒドロピリジン骨格を有する Ca
拮抗剤、リファブチン、サルメテロールキシナホ酸塩、ダサチニブ、ニロチニ
ブ、ビンカアルカロイド系抗悪性腫瘍剤、クラリスロマイシン、シクロスポリン、
タクロリムス水和物、エベロリムス、トラゾドン塩酸塩、フルチカゾンプロピ
オン酸エステル、ブデソニド、フェンタニル、フェンタニルクエン酸塩、アミ
オダロン塩酸塩、ベプリジル塩酸塩水和物、リドカイン塩酸塩、キニジン硫酸
塩水和物、フレカイニド酢酸塩、プロパフェノン塩酸塩、ジゴキシン、テノホ
ビル、インジナビル、サキナビル、マラビロク
・併用剤の血中濃度低下のおそれ;エチニルエストラジオール、エストラジオー
ル安息香酸エステル、ジドブジン、アバカビル硫酸塩、ホスアンプレナビル
・ラモトリギン、バルプロ酸ナトリウム、メサドン塩酸塩
・併用剤の血中濃度に影響を与える可能性;ワルファリンカリウム
・併用剤の血中濃度上昇、本剤の血中濃度低下のおそれ;ネルフィナビル、アン
プレナビル
・本剤の血中濃度低下のおそれ;セイヨウオトギリソウ含有食品、リファンピシン、
カルバマゼピン、フェノバルビタール、フェニトイン、デキサメタゾン、ネビ
ラピン、エファビレンツ
・本剤の血中濃度上昇のおそれ;デラビルジン
・アルコール反応を起こすおそれ(リキッド服用時)
;ジスルフィラム、ジアナミド、
メトロニダゾール等
主な副作用
高血糖、糖尿病、膵炎、出血傾向、肝機能障害、肝炎、徐脈性不整脈、多形紅斑、
皮膚粘膜眼症候群(Stevens-Johnson 症候群)、頭痛、下痢、嘔気、腹痛、嘔吐、
アミラーゼ上昇、鼓腸、肝機能検査異常、ビリルビン値上昇、血小板減少、好中
球減少、総コレステロール上昇、トリグリセライド上昇、ナトリウム低下、ナト
リウム上昇など
HIV 感染症の臨床経過
抗ウイルス薬 255
※各薬剤の製品添付文書(2013 年 7 月現在)より抜粋。各薬剤の使用に際しては、必ず最新の添付文書を確認すること。
プロテアーゼ阻害薬(PI)
一般名(略号) アタザナビル硫酸塩(Atazanavir Sulfate:ATV)
商 品 名
レイアタッツ
販売会社
ブリストル・マイヤーズ
(承認年月) (2003 年 12 月)
規格単位
1 カプセル中 150㎎
用法・用量
1 カプセル中 200㎎
通常、成人には以下の用法用量に従い食事中又は食直後に経口投与。投与に際し
ては必ず他の抗 HIV 薬と併用すること。
1.抗 HIV 薬による治療経験のない患者
・アタザナビルとして 300㎎とリトナビルとして 100㎎をそれぞれ 1 日 1 回併
用投与
・アタザナビルとして 400㎎を 1 日 1 回投与
2.抗 HIV 薬による治療経験のある患者
・アタザナビルとして 300㎎とリトナビルとして 100㎎をそれぞれ 1 日 1 回併
用投与
警 告
禁 忌
注 意
・本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者
・重度の肝障害のある患者
・次の薬剤を投与中の患者:リファンピシン、イリノテカン塩酸塩水和物、ミダ
ゾラム、トリアゾラム、ベプリジル塩酸塩水和物、エルゴタミン酒石酸塩、ジ
ヒドロエルゴタミンメシル酸塩、エルゴメトリンマレイン酸塩、メチルエルゴ
メトリンマレイン酸塩、シサプリド、ピモジド、シンバスタチン、ロバスタチ
ン(国内未発売)
、インジナビル硫酸塩エタノール付加物、バルデナフィル塩酸
塩水和物、ブロナンセリン、プロトンポンプ阻害剤、セイヨウオトギリソウ
【原則禁忌】
・妊婦又は妊娠している可能性のある婦人
・心伝導障害(房室ブロック)のある患者
・軽度~中等度の肝障害のある患者
・血友病及び著しい出血傾向を有する患者
・高齢者
相 互 作 用 【併用禁忌】
(併用注意) ・本剤の血中濃度が低下するおそれ;リファンピシン、プロトンポンプ阻害剤、
(併用禁忌)
セイヨウオトギリソウ
・併用剤の副作用を増強するおそれ;イリノテカン塩酸塩水和物
・併用剤の血中濃度が上昇するおそれ;プロナンセリン
・過度の鎮静や呼吸抑制を起こすおそれ;ミダゾラム、トリアゾラム
・重篤な又は生命に危険を及ぼすような事象を起こすおそれ;ベプリジル塩酸塩水
和物、エルゴタミン酒石酸塩、ジヒドロエルゴタミンメシル酸塩、エルゴメトリ
ンマレイン酸塩、メチルエルゴメトリンマレイン酸塩、シサプリド、ピモジド
・有害事象が増強するおそれ;塩酸バルデナフィル水和物
・ミオパシー等が起こる可能性;シンバスタチン、ロバスタチン(国内未発売)
・併用での非抱合型高ビリルビン血症に関する試験が行われていない;インジナ
ビル硫酸塩エタノール付加物
HIV 感染症の臨床経過
256 抗ウイルス薬
※各薬剤の製品添付文書(2013 年 7 月現在)より抜粋。各薬剤の使用に際しては、必ず最新の添付文書を確認すること。
相 互 作 用 【併用注意】
(併用注意) ・併用剤の血中濃度が上昇するおそれ;アミオダロン、キニジン、リドカイン、
(併用禁忌)
三環系抗うつ薬、ワルファリン、ジルチアゼム、マラビロク、ダサチニブ水和
物
・本剤の血中濃度が低下し、併用剤の血中濃度上昇のおそれ;テノホビル、ネビ
ラピン
・本剤の血中濃度が低下するおそれ;エファビレンツ、ホスアンプレナビル、エ
トラビリン
・併用剤の血中濃度上昇のおそれ;サキナビル、リトナビル、フェロジピン、ニフェ
ジピン、ニカルジピン、ベラパミル、シルデナフィルクエン酸塩、タダラフィ
ル、アトルバスタチン、ロスバスタチン、シクロスポリン、タクロリムス、テ
ムシロリムス、エチニルエストラジオール、ノルエチステロン又はノルゲスチ
メートを含む経口避妊薬、ブプレノルフィン塩酸塩、リファブチン、トラゾドン、
ケトコナゾール(国内未発売)、イトラコナゾール、ボリコナゾール、ボセンタ
ン水和物等
・本剤及び併用剤の血中濃度上昇のおそれ;クラリスロマイシン
・本剤の血中濃度が上昇するおそれ;リトナビル
・本剤の吸収が抑制される可能性がある;ジダノシン(緩衝剤が処方されている
錠剤)、制酸剤、緩衝作用を有する薬剤、H2 受容体拮抗剤
主な副作用
重度の肝機能障害、肝炎、糖尿病,糖尿病の悪化及び高血糖、出血傾向、QT 延長、
心室頻拍、房室ブロック、皮膚粘膜眼症候群、多型紅斑、中毒性皮疹、頭痛、疲労、
悪心、腹痛、嘔吐、下痢、消化不良、アミラーゼ上昇、リパーゼ上昇、黄疸・黄疸眼、
総ビリルビン上昇、ALT 上昇、AST 上昇、好中球減少、ヘモグロビン減少、CK
上昇、発疹など
HIV 感染症の臨床経過
抗ウイルス薬 257
※各薬剤の製品添付文書(2013 年 7 月現在)より抜粋。各薬剤の使用に際しては、必ず最新の添付文書を確認すること。
プロテアーゼ阻害薬(PI)
一般名(略号) ホスアンプレナビルカルシウム水和物(Fosamprenavir Calcium Hydrate:FPV)
商 品 名
レクシヴァ
販売会社
ヴィーブヘルスケア(製造販売元)/ グラクソ・スミスクライン(販売元)
(承認年月) (2005 年 1 月)
規格単位
1 錠中 700㎎
用法・用量
(1)抗 HIV 薬の治療経験がない患者
・ホスアンプレナビル 1 回 700mg とリトナビル 1 回 100mg をそれぞれ 1 日 2 回併
用投与
・ホスアンプレナビル 1 回 1400mg とリトナビル 1 回 100mg 又は 200mg をそれぞ
れ 1 日 1 回併用投与
・ホスアンプレナビル 1 回 1400mg を 1 日 2 回投与
(2)HIV プロテアーゼ阻害剤の投与経験がある患者
ホスアンプレナビル 1 回 700mg とリトナビル 1 回 100mg をそれぞれ 1 日 2 回併用
投与
警 告
禁 忌
・本剤の成分あるいはアンプレナビルに対して過敏症の既往歴のある患者
・重度の肝障害患者
・肝代謝酵素チトクローム P450(CYP)3A4 で代謝される薬剤で治療域が狭い薬
剤(ベプリジル塩酸塩水和物、シサプリド、ピモジド、トリアゾラム、ミダゾラム、
エルゴタミン、ジヒドロエルゴタミン等)を投与中の患者
・バルデナフィル塩酸塩水和物を投与中の患者
・リファンピシンを投与中の患者
注 意
・肝機能障害のある患者
・血友病患者
・スルホンアミド系薬剤に過敏症の既往歴のある患者
・高齢者
相 互 作 用 【併用禁忌】
(併用注意) ・併用剤の血中濃度が上昇し、不整脈の重篤な又は生命に危険を及ぼすような事
(併用禁忌)
象が起こる可能性がある:シサプリド、ピモジド
・併用剤の血中濃度が上昇し、生命に危険を及ぼす不整脈が起こる可能性がある;
ベプリジル塩酸塩水和物
・併用剤の血中濃度が上昇し、末梢血管攣縮、虚血等の重篤な又は生命に危険を
及ぼすような事象が起こる可能性がる;ジヒドロエルゴタミンメシル酸塩、エ
ルゴタミン酒石酸塩、エルゴメトリンマレイン酸塩、メチルエルゴメトリンマ
レイン酸塩
・併用剤の血中濃度が上昇し、過度の鎮静や呼吸抑制等の重篤な又は生命に危険
を及ぼすような事象が起こる可能性がある;ミダゾラム、トリアゾラム
・併用剤の血中濃度が上昇し、併用剤の関連する事象(低血圧、失神、視覚障害、
持続勃起症等)の発現が増加する可能性がある;バルデナフィル塩酸塩水和物
・アンプレナビルの Cmin 及び AUC を低下させるため、本剤の作用が減弱する;
リファンピシン
HIV 感染症の臨床経過
258 抗ウイルス薬
※各薬剤の製品添付文書(2013 年 7 月現在)より抜粋。各薬剤の使用に際しては、必ず最新の添付文書を確認すること。
相 互 作 用 【併用注意】
(併用注意) ・併用剤の AUC が 193%上昇;リファブチン
(併用禁忌) ・本剤の血中濃度が低下;CYP3A4 酵素誘導剤(フェノバルビタール、フェニト
イン、カルバマゼピン、エファビレンツ、ネビラピン)、ラルテグラビル
・併用剤の血中濃度が上昇;リドカイン、アミオダロン塩酸塩、キニジン硫酸塩
水和物、三環系抗うつ剤、シクロスポリン、タクロリムス、rapamycin、ワルファ
リン、カルシウム拮抗剤、シンバスタチン、アトルバスチン、lovastatin、ジア
ゼパム、フルラゼパム、アルプラゾラム、クロラゼプ酸二カリウム、ケトコナゾー
ル、イトラコナゾール、エリスロマイシン、クラリスロマイシン
・本剤及び併用剤の血中濃度が変化;HIV プロテアーゼ阻害剤(インジナビル、
サキナビル、ネルフィナビル、アタザナビル、ロピナビル・リトナビル、)、デ
ラビルジン
・併用剤の血中濃度が上昇し、併用剤に関する有害事象の危険性が増加する可能
性;シルデナフィルクエン酸塩、タダラフィル、テラプレビル
・併用剤の血中濃度が低下;経口避妊薬(エチニルエストラジオール、ノルエチ
ステロン等)、パロキセチン塩酸塩水和物
・本剤の血中濃度が低下;セイヨウオトギリソウ含有食品、デキザメタゾン
主な副作用
皮膚粘膜眼症候群(Stevens-Johnson 症候群)、高血糖、糖尿病、出血傾向、横紋
筋融解症、筋炎、筋痛、CK(CPK)上昇、発疹、瘙痒、頭痛、下痢、悪心、嘔吐、
腹痛、肝機能検査値異常、高脂血症、疲労など
HIV 感染症の臨床経過
抗ウイルス薬 259
※各薬剤の製品添付文書(2013 年 7 月現在)より抜粋。各薬剤の使用に際しては、必ず最新の添付文書を確認すること。
プロテアーゼ阻害薬(PI)
一般名(略号) ダルナビル エタノール付加物(Darunavir Ethanolate:DRV)
商 品 名
販売会社
(承認年月)
プリジスタ錠 300㎎、プリジスタナイーブ錠 400㎎
ヤンセンファーマ
プリジスタ錠 300㎎(2007 年 11 月)、プリジスタナイーブ錠 400㎎(2009 年 9 月)
規格単位
1 錠中 300㎎
用法・用量
1 錠中 400㎎
プリジスタ錠 300㎎
・通常、成人にはダルナビルとして 1 回 600㎎とリトナビル 1 回 100㎎をそれぞれ
1 日 2 回食事中又は食直後に併用投与する。投与に際しては、必ず他の抗 HIV
薬と併用すること。
プリジスタナイーブ錠 400㎎
・通常、成人にはダルナビルとして 1 回 800㎎とリトナビル 1 回 100㎎をそれぞれ
1 日 1 回食事中又は食直後に併用投与する。投与に際しては、必ず他の抗 HIV
薬と併用すること。
警 告
禁 忌
・本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者
・トリアゾラム、ミダゾラム、ピモジド、エルゴタミン、ジヒドロエルゴタミン、
エルゴメトリン、メチルエルゴメトリン、バルデナフィル、ブロナンセリン、
シルデナフィル、タダラフィル、アゼルニジピン、リバーロキサバンを投与中
の患者
・低出生体重児、新生児、乳児、3 歳未満の幼児
注 意
・肝障害のある患者
・血友病患者及び著しい出血傾向を有する患者
・高齢者
・スルホンアミド系薬剤に過敏症の既往歴のある患者
相 互 作 用 【併用禁忌】
(併用注意) ・本剤及びリトナビルの CYP3A4 に対する阻害作用により、これらの薬剤の代謝
(併用禁忌)
が阻害される:トリアゾラム、ミダゾラム、ピモジド、エルゴタミン、ジヒド
ロエルゴタミン、エルゴメトリン、メチルエルゴメトリン、バルデナフィル、
ブロナンセリン、シルデナフィル、タダラフィル、アゼルニジピン、リバロー
キサバン
【併用注意】
・これらの薬剤の肝薬物代謝酵素誘導作用により、本剤の肝代謝が促進される:リ
ファンピシン、セイヨウオトギリソウ含有食品、フェノバルビタール、フェニ
トイン、デキサメタゾン
・本剤及びリトナビルの CYP3A4 に対する阻害作用により、これらの薬剤の代謝
が阻害される:リファブチン、シンバスタチン、アトルバスタチン、プラバス
タチン、サルメテロール、シルデナフィル、タダラフィル、クラリスロマイシン、
カルバマゼピン、アミオダロン、ベプリジル、リドカイン(全身投与)、キニジ
ン、シクロスポリン、タクロリムス、Ca 拮抗剤(フェロジピン、ニフェジピン、
ニカルジピン等)、フルチカゾン、ボセンタン
HIV 感染症の臨床経過
260 抗ウイルス薬
※各薬剤の製品添付文書(2013 年 7 月現在)より抜粋。各薬剤の使用に際しては、必ず最新の添付文書を確認すること。
相互作用
(併用注意)
(併用禁忌)
・本剤及びリトナビルの P- 糖蛋白質阻害作用により、併用薬の血中濃度が上昇す
ることがある:ジゴキシン、コルヒチン
・リトナビルの肝薬物代謝酵素誘導作用により、これらの薬剤の肝代謝が促進さ
れる:経口避妊剤(エチニルエストラジオール、ノルエチステロン等)
・機序不明:セルトラリン、パロキセチン、ロスバスタチン、テラプレビル、メ
サドン
・本剤及びリトナビルとこれらの薬剤の CYP3A4 に対する阻害作用により、相互
に代謝が阻害される:イトラコナゾール、ケトコナゾール、ボリコナゾール
・本剤及びリトナビルの肝薬物代謝酵素に対する阻害作用により、血中濃度に変
化がおこることがある:ワルファリン
・リトナビルの CYP3A4 に対する阻害作用により、本剤の代謝が阻害される:リ
トナビル
・本剤及びリトナビルとこれらの薬剤の CYP3A4 に対する阻害作用により、血中
濃度に変化がおこることがある:ロピナビル / リトナビル、サキナビル
・本剤及びリトナビルとインジナビルの CYP3A4 に対する阻害作用により、相互
に代謝が阻害される:インジナビル
・リトナビルの CYP3A4 に対する阻害作用により、マラビロクの代謝が阻害され
る:マラビロク
主な副作用
中毒性表皮壊死融解症、皮膚粘膜眼症候群、多形紅斑、肝機能障害、黄疸、急性膵炎、
過敏症、高トリグリセリド血症、食欲不振、高コレステロール血症、高脂血症、
糖尿病、高血糖、頭痛、下痢、嘔吐、悪心、腹痛、膵酵素増加、鼓腸、腹部膨満、
消化不良、肝酵素増加、発疹、そう痒症、体脂肪の再分布 / 蓄積、血管浮腫、筋肉痛、
疲労、無力症、白血球数減少、好中球数減少、好中球絶対数減少、リンパ球数減少、
部分トロンボプラスチン時間延長等
HIV 感染症の臨床経過
抗ウイルス薬 261
※各薬剤の製品添付文書(2013 年 7 月現在)より抜粋。各薬剤の使用に際しては、必ず最新の添付文書を確認すること。
インテグラーゼ阻害薬(INI)
一般名(略号) ラルテグラビルカリウム(raltegravir potassium:RAL)
商 品 名
アイセントレス
販売会社
MSD
(承認年月) (2008 年 6 月)
規格単位
1 錠中 400㎎
用法・用量
通常、成人にはラルテグラビルとして 400㎎を 1 日 2 回経口投与する。本剤は、食
事の有無にかかわらず投与できる。なお、投与に際しては、必ず他の抗 HIV 薬と
併用すること。
警 告
禁 忌
・本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者
注 意
相 互 作 用 【併用注意】
(併用注意) ・併用により本剤の血漿中濃度が低下する可能性がある(UGT1A1 の強力な誘導剤:
(併用禁忌)
リファンピシン等)
主な副作用
皮膚粘膜眼症候群(Stevens-Johnson 症候群)、横紋筋融解症、ミオパチー、過敏症、
腎不全、肝炎、胃炎、陰部ヘルペス、頭痛、AST(GOT)上昇、ALT(GPT)上昇、
総ビリルビン上昇、CK(CPK)上昇など
HIV 感染症の臨床経過
262 抗ウイルス薬
※各薬剤の製品添付文書(2013 年 7 月現在)より抜粋。各薬剤の使用に際しては、必ず最新の添付文書を確認すること。
侵入阻害薬(CCR5 阻害薬)
一般名(略号) マラビロク(Maraviroc:MVC)
商 品 名
シーエルセントリ
販売会社
ヴィーブヘルスケア(製造販売元)/ グラクソ・スミスクライン(販売元)
(承認年月) (2009 年 1 月)
規格単位
1 錠中 150㎎
用法・用量
・通常、成人にはマラビロクとして 1 回 300㎎を 1 日 2 回経口投与する。なお、投
与に際しては必ず他の抗 HIV 薬を併用し、併用薬に応じて適宜増減すること。
本剤は、食事の有無にかかわらず投与できる。
CYP3A 阻害剤又は CYP3A 誘導剤と併用する場合には、下表を参照し、本剤の用
量調整を行うこと。1 回 300㎎、1 日 2 回を上回る用法・用量での有効性及び安全
性は確立していない(投与経験がない)
併 用 薬
本剤の用量
以下の強力な CYP3A 阻害剤
(CYP3A 誘導剤の有無を問わない)
:
・プロテアーゼ阻害剤(tipranavir/ リトナビルを除く)
150㎎
・デラビルジン
1日2回
・イトラコナゾール、ケトコナゾール、クラリスロマイシン
(nefazodone、
テリスロマイシン等)
・その他の強力な CYP3A 阻害剤
tipranavir/ リトナビル、ネビラピン、ラルテグラビル、あらゆ
る NRTI 及び enfuvirtide 等のその他の併用薬
300㎎
1日2回
以下の強力な CYP3A 誘導剤
(強力な CYP3A 阻害剤の併用なし)
:
・エファビレンツ、エトラビリン
600㎎
・リファンピシン
1日2回
・カルバマゼピン、フェノバルビタール、フェニトイン
腎機能障害(CLcr < 80㎖ /min)があり、強力な CYP3A4 阻害剤を投与している患
者では、腎機能の低下に応じて、次の投与間隔及び投与量を目安に投与すること。
ただし、これらの投与間隔の調節に対する有効性及び安全性は確立されていない
ため、患者の臨床症状等を十分に観察すること。
併 用 薬
クレアチニン クリアランス
< 80㎖ /min
強力な CYP3A4 阻害剤を併用しない時又は 投与間隔の調節は必要ない
tipranavir/ リトナビル併用時
(300㎎を 12 時間毎)
ホスアンプレナビル / リトナビル併用時
150㎎を 12 時間毎
強力な CYP3A4 阻害剤の併用時:サキナビ
ル / リトナビル併用時
ロピナビル / リトナビル、ダルナビル / リ
トナビル、アタザナビル / リトナビル、ケ
トコナゾール等
150㎎を 24 時間毎
HIV 感染症の臨床経過
抗ウイルス薬 263
※各薬剤の製品添付文書(2013 年 7 月現在)より抜粋。各薬剤の使用に際しては、必ず最新の添付文書を確認すること。
警 告
禁 忌
・本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者
注 意
・重篤な心疾患又はその既往歴のある患者
・肝機能障害のある患者又は B 型・C 型肝炎の患者
・腎機能障害(CLcr < 80㎖ /min)のある患者
・起立性低血圧の既往歴がある患者又は降圧作用を有する併用薬の投与を受けて
いる患者
相 互 作 用 【併用注意】
(併用注意) ・これらの薬剤は CYP3A4 の代謝活性を阻害するため、本剤の血中濃度が上昇す
(併用禁忌)
るおそれがある:アタザナビル、アタザナビル / リトナビル、ロピナビル・リ
トナビル配合剤、サキナビル / リトナビル、ダルナビル / リトナビル、ネルフィ
ナビル、インジナビル、ホスアンプレナビル / リトナビル、HIV プロテアーゼ
阻害剤(tipranavir/ リトナビルを除く)+エファビレンツ又はエトラビリン、
HIV プロテアーゼ阻害剤(tipranavir/ リトナビルを除く)+リファブチン、デ
ラビルジン、イトラコナゾール、ケトコナゾール、クラリスロマイシン、テリ
スロマイシン、nefazodone
・これらの薬剤は CYP3A4 の代謝活性を誘導するため、本剤の血中濃度が低下す
るおそれがある:エファビレンツ、エトラビリン、リファンピシン、カルバマ
ゼピン、フェノバルビタール、フェニトイン、リファンピシン+エファビレンツ、
セイヨウオトギリソウ含有食品
主な副作用
心筋虚血、肝硬変、肝不全、肝酵素上昇、肝機能検査異常、肺炎、食道カンジダ症、
胆管癌、骨転移、肝転移、腹膜転移、汎血球減少症、好中球減少症、リンパ節症、
幻覚、脳血管発作、意識消失、てんかん、小発作てんかん、痙攣、顔面神経麻痺、
多発ニューロパシー、反射消失、白内障、呼吸窮迫、気管支痙攣、膵炎、直腸出血、
筋炎、腎不全、多尿、皮膚粘膜眼症候群、貧血、不眠症、浮動性めまい、味覚異常、
頭痛、咳嗽、便秘、腹痛、消化不良、悪心、鼓腸、発疹、疲労など
HIV 感染症の臨床経過
264 抗ウイルス薬
※各薬剤の製品添付文書(2013 年 7 月現在)より抜粋。各薬剤の使用に際しては、必ず最新の添付文書を確認すること。
インテグラーゼ阻害薬と核酸系逆転写酵素阻害薬の配合薬
一般名(略号) エルビテグラビル(Elvitegravir:EVG)/ コビシスタット(Cobicistat:COBI)/
エムトリシタビン(Emtricitabine:FTC)/ テノホビルジソプロキシルフマル酸
塩(Tenofovir Disoproxil Fumarate:TDF)配合錠
商 品 名
スタリビルド配合錠
販売会社
日本たばこ産業(製造販売元)/ 鳥居薬品(販売元)
(承認年月) (2013 年 4 月)
規格単位
1 錠中エルビテグラビル 150㎎、コビシスタット 150㎎、エムトリシタビン 200㎎、
テノホビルジソプロキシルフマル酸塩 300㎎
用法・用量
1 回 1 錠(エルビテグラビルとして 150㎎、コビシスタットとして 150㎎、エムト
リシタビンとして 200㎎及びテノホビルジソプロキシルフマル酸塩として 300㎎を
含有)を 1 日 1 回食事中又は食直後に経口投与する。
警 告
B 型慢性肝炎を合併している患者では、本剤の投与中止により、B 型慢性肝炎が再
燃するおそれがあるので、本剤の投与を中断する場合には十分注意すること。特
に非代償性の場合、重症化するおそれがあるので注意すること。
禁 忌
・本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者
・次の薬剤を投与中の患者:リファンピシン、セイヨウオトギリソウ含有食品、
ジヒドロエルゴタミンメシル酸塩,エルゴタミン酒石酸塩、エルゴメトリンマ
レイン酸塩、メチルエルゴメトリンマレイン酸塩、シンバスタチン、ピモジド、
シルデナフィルクエン酸塩、バルデナフィル塩酸塩水和物、タダラフィル、ブ
ロナンセリン、アゼルニジピン、リバーロキサバン、トリアゾラム、ミダゾラ
ム
注 意
・腎機能障害のある患者
・重度の肝機能障害のある患者
相 互 作 用 【併用禁忌】
(併用注意) ・エルビテグラビル及びコビシスタットの血中濃度が著しく低下する可能性:リ
(併用禁忌)
ファンピシン、セイヨウオトギリソウ含有食品
・併用薬の血中濃度が上昇し、重篤な又は生命に危険を及ぼすような事象(末梢
血管攣縮,四肢及びその他組織の虚血等)が起こる可能性:ジヒドロエルゴタ
ミンメシル酸塩、エルゴタミン酒石酸塩、エルゴメトリンマレイン酸塩、メチ
ルエルゴメトリンマレイン酸塩
・シンバスタチンの血中濃度が上昇し、重篤な有害事象(横紋筋融解症を含むミ
オパチー等)が起こる可能性:シンバスタチン
・ピモジドの血中濃度が上昇し、重篤な又は生命に危険を及ぼすような事象(不
整脈等)が起こる可能性:ピモジド
・併用薬の血中濃度が上昇し、視覚障害、低血圧、持続勃起及び失神等の有害事
象が起こる可能性:シルデナフィルクエン酸塩、バルデナフィル塩酸塩水和物、
タダラフィル
・併用薬の血中濃度が上昇し、重篤な又は生命に危険を及ぼすような事象が起こ
る可能性:ブロナンセリン、アゼルニジピン、リバーロキサバン
・併用薬の血中濃度が上昇し、重篤な又は生命に危険を及ぼすような事象(鎮静作
用の延長や増強又は呼吸抑制等)が起こる可能性:トリアゾラム、ミダゾラム
HIV 感染症の臨床経過
抗ウイルス薬 265
※各薬剤の製品添付文書(2013 年 7 月現在)より抜粋。各薬剤の使用に際しては、必ず最新の添付文書を確認すること。
相 互 作 用 【併用注意】
(併用注意) ・併用薬の血中濃度が上昇する可能性:アミオダロン塩酸塩、ベプリジル塩酸塩
(併用禁忌)
水和物、ジソピラミド、フレカイニド酢酸塩、リドカイン塩酸塩、メキシレチ
ン塩酸塩、プロパフェノン塩酸塩、キニジン硫酸塩水和物、シクロスポリン、
タクロリムス水和物、テムシロリムス、クロナゼパム、エトスクシミド、パロ
キセチン塩酸塩水和物、アミトリプチリン塩酸塩、イミプラミン塩酸塩、ノル
トリプチリン塩酸塩、トラゾドン塩酸塩、コルヒチン、アムロジピンベシル酸
塩、ジルチアゼム塩酸塩、フェロジピン、ニカルジピン塩酸塩、ニフェジピン、
ベラパミル塩酸塩、ペルフェナジン、リスペリドン、クロラゼプ酸二カリウム、
ジアゼパム、エスタゾラム、フルラゼパム塩酸塩、ゾルピデム酒石酸塩、ボセ
ンタン水和物、ダサチニブ水和物、ラパチニブトシル酸塩水和物、エベロリムス、
ブデソニド、エプレレノン、トルバプタン、エレトリプタン臭化水素酸塩、ク
エチアピンフマル酸塩、酒石酸トルテロジン、デキストロメトルファン臭化水
素酸塩水和物、メトプロロール酒石酸塩、チモロールマレイン酸塩、ジゴキシ
ン
・フルチカゾンの血中濃度が上昇し、血清コルチゾール濃度が低下する可能性:
フルチカゾンプロピオン酸エステル(吸入剤、点鼻剤)
・サルメテロールの血中濃度が上昇し、QT 延長、動悸及び洞性頻脈等の心血管系
有害事象の発現リスクが上昇する可能性:サルメテロールキシナホ酸塩
・併用薬の血中濃度が上昇し、低血圧、失神、視覚障害及び持続勃起等の有害事
象が増加する可能性:シルデナフィルクエン酸塩、タダラフィル
・エルビテグラビル及びコビシスタットの血中濃度が著しく低下する可能性。ま
た、カルバマゼピンの血中濃度が上昇する可能性:カルバマゼピン、フェノバ
ルビタール、フェニトイン
・エルビテグラビル及びコビシスタットの血中濃度が著しく低下する可能性:デ
キサメタゾン
・併用薬及びコビシスタットの血中濃度が上昇する可能性:クラリスロマイシン、
テリスロマイシン
・エルビテグラビル、コビシスタット及び併用薬の血中濃度が上昇する可能性:
イトラコナゾール、ボリコナゾール
・ワルファリンの血中濃度が低下又は上昇する可能性:ワルファリンカリウム
・エルビテグラビルの血中濃度が低下する可能性:マグネシウム/アルミニウム
含有制酸剤
・エチルニルエストラジオールの血中濃度が低下する可能性
・エルビテグラビル及びコビシスタットの血中濃度が著しく低下する可能性:リ
ファブチン
・併用薬又は本剤による有害事象を増強する可能性:アシクロビル、バラシクロ
ビル塩酸塩、ガンシクロビル、バルガンシクロビル塩酸塩
主な副作用
腎不全又は重度の腎機能障害(腎機能不全、腎不全、急性腎不全、近位腎尿細管
機能障害、ファンコニー症候群、急性腎尿細管壊死、腎性尿崩症又は腎炎等)、膵炎、
乳酸アシドーシス、異常な夢、不眠症、頭痛、浮動性めまい、悪心、下痢、嘔吐、
鼓腸、疲労、CK 増加、尿中赤血球陽性、アミラーゼ増加、AST 増加、好中球数
減少
HIV 感染症の臨床経過
266 抗ウイルス薬
※各薬剤の製品添付文書(2013 年 7 月現在)より抜粋。各薬剤の使用に際しては、必ず最新の添付文書を確認すること。
北海道大学病院抗 HIV 薬採用リスト(2013 年 7 月時点)
核酸系逆転写酵素阻害薬(NRTI)
商 品 名
一 般 名
略 号
含有量
院内採用
レトロビル
ジドブジン
ZDV、AZT
100㎎
○
125㎎
×
○
200㎎
×
○
150㎎
×
○
300㎎
×
○
15㎎
×
○
20㎎
×
○
ヴァイデックス EC
エピビル
ゼリット
ジダノシン
ラミブジン
サニルブジン
院外専用
ddI
3TC
d4T
ザイアジェン
アバカビル
ABC
300㎎
×
○
ビリアード
テノホビル
TDF
300㎎
×
○
エムトリバ
エムトリシタビン
FTC
200㎎
×
○
コンビビル配合錠
ジドブジン /
ラミジン
AZT/3TC
(COM)
AZT:300㎎
3TC:150㎎
×
○
エプジコム配合錠
アバカビル /
ラミブジン
ABC/3TC
(EZC)
ABC:600㎎
3TC:300㎎
○
ツルバダ配合錠
テノホビル /
エムトリシタビン
TDF/FTC、
(TVD)
TDF:300㎎
FTC:200㎎
○
非核酸系逆転写酵素阻害薬(NNRTI)
商 品 名
一 般 名
略 号
含有量
院内採用
院外専用
ビラミューン
ネビラピン
NVP
200㎎
×
○
200㎎
×
○
600㎎
○
ストックリン
エファビレンツ
EFV
インテレンス
エトラビリン
ETR
100㎎
○
エジュラント
リルピビリン
RPV
25㎎
×
○
HIV 感染症の臨床経過
抗ウイルス薬 267
※各薬剤の製品添付文書(2013 年 7 月現在)より抜粋。各薬剤の使用に際しては、必ず最新の添付文書を確認すること。
プロテアーゼ阻害薬(PI)
商 品 名
一 般 名
略 号
含有量
院内採用
院外専用
クリキシバン
インジナビル
IDV
200㎎
×
○
インビラーゼ
サキナビル
SQV
200㎎
×
○
500㎎
×
×
リトナビル
RTV
100㎎
○
80㎎ /㎖
×
○
ネルフィナビル
NFV
250㎎
×
○
LPV:200㎎
RTV:50㎎
○
LPV:80㎎
RTV:20㎎ /㎖
×
150㎎
○
200㎎
×
○
700㎎
×
○
300㎎
○
400㎎
○
ノービア錠
ノービア内用液
ビラセプト
カレトラ配合錠
ロピナビル /
リトナビル
LPV/RTV
レイアタッツ
アタザナビル
ATV
レクシヴァ
ホスアンプレナビル
FPV
ダルナビル
DRV
カレトラ配合内用液
プリジスタ
プリジスタナイーブ
○
インテグラーゼ阻害薬(INI)
商 品 名
一 般 名
略 号
含有量
院内採用
アイセントレス
ラルテグラビル
RAL
400㎎
○
院外専用
侵入阻害薬(CCR5 阻害薬)
商 品 名
一 般 名
略 号
含有量
院内採用
シーエルセントリ
マラビロク
MVC
150㎎
○
院外専用
インテグラーゼ阻害薬(INI)と核酸系逆転写酵素阻害薬(NRTI)の配合薬
商 品 名
一 般 名
略 号
エルビテグラビル
EVG/COBI/
/ コビシスタット /
スタリビルド配合錠
FTC/TDF
エムトリシタビン
(STB)
/ テノホビル
含有量
院内採用
院外専用
EVG 150㎎
COBI 150㎎
FTC 200㎎
TDF 300㎎
×
○
(薬剤部 植田 孝介、浅野 逸郎 2013.07)
HIV 感染症の臨床経過
268 抗ウイルス薬
25 国内未販売薬
※各薬剤の製品添付文書(2013 年 7 月現在)より抜粋。各薬剤の使用に際しては、必ず最新の
添付文書を確認すること。
核酸系逆転写酵素阻害薬(NRTI)
ヴァイデックス小児用散
エピビル内服液
ザイアジェン内服液
ゼリット内服液
トリジビル錠(NRTI の合剤)
レトロビル シロップ
レトロビル静注用
エムトリバ内服液
ビリアード経口散剤
ページ
270
270
271
271
272
272
273
273
274
非核酸系逆転写酵素阻害薬(NNRTI)
ビラミューン シロップ
アトリプラ錠(NRTI と NNRTI の配合薬)
コンプレラ錠(NRTI と NNRTI の配合薬)
ページ
274
275
275
プロテアーゼ阻害薬(PI)
アプティバス カプセル
アプティバス経口液剤
ビラセプト内服散
レクシヴァ経口懸濁剤
プリジスタ経口懸濁剤
ページ
276
276
277
277
278
融合阻害薬(FI)
フューゼオン注射用
ページ
279
厚生労働省・エイズ治療研究班が供給する薬剤リストが以下のアドレスに掲載されていますので、
ご参照ください。
これらはエイズ治療薬研究班 班長、東京都新宿区西新宿 6-7-1、東京医科大学病院 臨床検
査医学科内、エイズ治療薬研究班 主任研究者 福武 勝幸 教授より提供されます。
TEL:03-3342-6111[内線 5086]、FAX:03-3340-5448
http://labo-med.tokyo-med.ac.jp/aidsdrugmhw/mokuji.htm
HIV 感染症治療研究会のホームページからも抗 HIV 薬一覧を参照することができます。
http://www.hivjp.org/guidebook/index.html
米国 FDA が承認した抗 HIV 薬については以下をご参照ください。
http://www.hivandhepatitis.com/hiv_and_aids/hiv_treat.html
剤形が異なるものについては、【警告】【禁忌】【副作用】【相互作用】などに関して省略してい
ますので、必ず内服薬の項を参照してください。
HIV 感染症の臨床経過
国内未販売薬 269
※各薬剤の製品添付文書(2013 年 7 月現在)より抜粋。各薬剤の使用に際しては、必ず最新の添付文書を確認すること。
核酸系逆転写酵素阻害薬(NRTI)
一般名(略号) ジダノシン didanosine(略号:ddI)
商 品 名
ヴァイデックス小児用散 Videx pediatric powder for oral solution
販売会社
Bristol-Myers Squibb
規格単位
[原末]:2 g または 4 g のジダノシンが 4 または 8 オンスの容器に充填されている
(国内未発売)
用法・用量
生後 2 週間~ 8 ヵ月:1 回 100 ㎎ /㎡、生後 8 ヵ月以上:1 回 120 ㎎ /㎡を 1 日 2 回、
食事 30 分以上前あるいは食後 2 時間の空腹時に服用する。生後 2 週間までは薬物
動態が変化しやすく、適正量を決められない。 調製する際には、精製水を用い
て 20 ㎎ /㎖とする。これに制酸剤(Mylanta®)を加えて 10 ㎎ /㎖溶液として患者
に配布する。これを冷蔵庫内にて保存する(保存期間 30 日)。服用の前には溶液
をよく振り混ぜるように指導すること。
そ の 他
ヴァイデックス EC カプセル参照
核酸系逆転写酵素阻害薬(NRTI)
一般名(略号) ラミブジン lamivudine(略号:3TC)
商 品 名
エピビル内服液 Epivir oral solution
販売会社
ViiV Healthcare
規格単位
[内服液]:ボトル:240㎖(10㎎ /㎖)(いちごバナナの風味)
(国内未発売。エイズ治療研究班が供給する薬剤)
用法・用量
1 回 150㎎を 1 日 2 回か、1 日 1 回 300㎎を他の抗 HIV 薬と併用して内服する。
小児:生後 3 カ月~ 16 歳までは1回 4㎎ /㎏(最大量は1回 150㎎)を 1 日 2 回、
他の抗 HIV 薬と併用して内服する。
そ の 他
エピビル錠参照
HIV 感染症の臨床経過
270 国内未販売薬
※各薬剤の製品添付文書(2013 年 7 月現在)より抜粋。各薬剤の使用に際しては、必ず最新の添付文書を確認すること。
核酸系逆転写酵素阻害薬(NRTI)
一般名(略号) 硫酸アバカビル abacavir sulfate(略号:ABC)
商 品 名
ザイアジェン内服液 Ziagen oral solution
販売会社
ViiV Healthcare
規格単位
[内服液]:ボトル:240㎖(20 ㎎ /㎖)(いちごバナナの風味)
(国内未発売。エイズ治療研究班が供給する薬剤)
用法・用量
過敏症を注意するカードと服用ガイドを処方の都度、患者に手渡すこと。
成 人:1 回 300㎎ 1 日 1 回か 1 日 1 回 600㎎を、抗 HIV 薬と併用して内服する。
小 児:生後 3 カ月以上の小児には 1 回 8㎎ /㎏(最大量は 1 回 300㎎)を 1 日 2 回、
抗 HIV 薬と併用して内服する。
そ の 他
ザイアジェン錠参照
核酸系逆転写酵素阻害薬(NRTI)
一般名(略号) サニルブジン sanilvudine、別名:スタブジン(stavudine:d4T)
商 品 名
ゼリット内服液 Zerit for oral solution
販売会社
Bristol-Myers Squibb
規格単位
[内服液]:ボトル:200㎖(果物風味)(1㎎ /㎖、なお、水で溶解する前は粉)
(国内未発売)
用法・用量
成 人:体重 60㎏以上は 1 回 40㎎、60㎏未満は 1 回 30㎎を 12 時間毎に 1 日 2 回、
内服する。
新生児:出生から生後 13 日までは 1 回 0.5㎎ /㎏を 12 時間毎に内服する。
小 児:生後 2 週間~体重 30㎏未満では 1 回 1㎎ /㎏を 12 時間毎に内服する。体
重 30㎏以上では成人に準ずる。
そ の 他
ゼリットカプセル参照
HIV 感染症の臨床経過
国内未販売薬 271
※各薬剤の製品添付文書(2013 年 7 月現在)より抜粋。各薬剤の使用に際しては、必ず最新の添付文書を確認すること。
核酸系逆転写酵素阻害薬(NRTI)
一般名(略号)
硫酸アバカビル、ラミブジン、ジドブジン(合剤) abacavir sulfate, lamivudine,
zidovudine (略号:ABC、3TC、AZT)
商 品 名
トリジビル錠 Trizivir tablets
販売会社
ViiV Healthcare
規格単位
[錠]:1 錠中、アバカビルとして 300㎎、ラミブジン 150㎎、ジドブジン 300㎎を
配合(国内未発売)
用法・用量
過敏症を注意するカードと服用ガイドを処方の都度、患者に手渡すこと。
成人と青年:1 回 1 錠を 1 日 2 回、服用。
本剤は量が固定された錠剤であるため、体重が 50㎏未満の患者には推奨しない。
そ の 他
ザイアジェンカプセル、エピビル錠、レトロビルカプセル参照
核酸系逆転写酵素阻害薬(NRTI)
一般名(略号) ジドブジン zidovudine(略号:AZT)
商 品 名
レトロビル シロップ Retrovir syrup
販売会社
ViiV Healthcare
規格単位
[シロップ]:ボトル:240㎖、10㎎ /㎖(イチゴ風味)
(国内未発売。エイズ治療研究班が供給する薬剤)
他の抗 HIV 薬と併用し、1 日 600㎎を分服する。
生後 4 週間から 18 歳までの小児
用法・用量
体重(㎏)
1 日量
4 to < 9
≥ 9 to < 30
≥ 30
24㎎ /㎏ /day
18㎎ /㎏ /day
60㎎ /day
用法用量
1日2回
12㎎ /㎏
9㎎ /㎏
300㎎
1日3回
8㎎ /㎏
6㎎ /㎏
200㎎
母子感染:
妊婦(妊娠 14 週以降)に対しては、陣痛が始まるまでは 1 回 100㎎を 1 日 5 回
経口投与し、陣痛から分娩までは静注製剤を投与する。
新生児に対しては、出産後最初の 12 時間までに投与を開始する。投与量は 2㎎
/㎏を 6 時間毎に投与し、これを生後 6 週間まで続ける。内服できない場合は静注
製剤を投与する。
そ の 他
レトロビルカプセル参照
HIV 感染症の臨床経過
272 国内未販売薬
※各薬剤の製品添付文書(2013 年 7 月現在)より抜粋。各薬剤の使用に際しては、必ず最新の添付文書を確認すること。
核酸系逆転写酵素阻害薬(NRTI)
一般名(略号) ジドブジン zidovudine(略号:AZT)
商 品 名
レトロビル静注用 Retrovir I.V. infusion
販売会社
ViiV Healthcare
規格単位
[注]:200㎎ /20㎖バイアル
(国内未発売。エイズ治療研究班が供給する薬剤)
用法・用量
5%ブドウ糖注射液に 4㎎ /㎖下になるように希釈する。
1㎎ /㎏を 1 時間以上かけて点滴静注する。これを 1 日 5 ~ 6 回投与する(1 日
量 5 ~ 6㎎ /㎏)。
経口投与が可能になった段階できりかえる。
1 回 100㎎ 4 時間毎の内服と 1 回 1㎎ /kg 4 時間毎の静注がほぼ等価である。
母子感染:
妊婦に対しては、陣痛が始まるまでは経口投与を行い、陣痛から分娩まではま
ず 2㎎ /㎏の量を 1 時間以上かけて点滴静注し、その後 1㎎ /㎏ /hr の投与速度で
へその緒をクランプするまで継続して点滴静注する。
新生児に対しては、出産後最初の 12 時間までに投与を開始する。投与量は、1.5
㎎ /㎏を 30 分以上かけて 6 時間おきに点滴静注する。経口投与が可能になった段
階で切り換える。
そ の 他
レトロビルカプセル参照
核酸系逆転写酵素阻害薬(NRTI)
一般名(略号) エムトリシタビン Emtricitabine(略号:FTC)
商 品 名
エムトリバ内服液 Emtriva oral solution
販売会社
Gilead Sciences
規格単位
[内用液]:10㎎ /㎖
(国内未発売)
0 ~ 3 ヶ月:3 ㎎ /㎏ 1 日 1 回内服
3 ヶ月~ 17 歳: 6 ㎎ /㎏ 上限 240㎎(24㎖)1 日 1 回内服
腎機能障害時
用法・用量
≥ 50
㎖ /min
Oral Solution
(10㎎ /㎖)
そ の 他
240㎎
24 時間毎
(24㎖)
クレアチニンクリアランス(㎖ /min)
30 ~ 49
15 ~ 29
≪ 15㎖ /min
㎖ /min
㎖ /min
or 透析時
120㎎
24 時間毎
(12㎖)
80㎎
24 時間毎
(8㎖)
60㎎
24 時間毎
(6㎖)
エムトリバカプセル参照
HIV 感染症の臨床経過
国内未販売薬 273
※各薬剤の製品添付文書(2013 年 7 月現在)より抜粋。各薬剤の使用に際しては、必ず最新の添付文書を確認すること。
核酸系逆転写酵素阻害薬(NRTI)
一般名(略号) テノホビル ジソプロキシルフマル酸塩(Tenofovir Disoproxil Fumarate:TDF)
商 品 名
ビリアード経口散剤 VIREAD powder, for oral use
販売会社
Gilead Sciences
規格単位
[散]:40㎎ /g
(国内未発売)
用法・用量
2 歳以上の患者:8㎎ /㎏(上限 300㎎)
必ず付属のさじで測りとらなければならない。1すくい 1g(40㎎のテノホビル ジ
ソプロキシルフマル酸塩)。
2 ~ 4 オンスのやわらかく噛む必要のない食べ物(例えばアップルソース、ベビー
フード、ヨーグルト)に混合し、苦みが出る前にすぐに内服する。浮遊するので
液体と混合してはならない。
そ の 他
ビリアード錠参照
非核酸系逆転写酵素阻害薬(NNRTI)
一般名(略号) ネビラピン nevireapine
商 品 名
ビラミューン シロップ Viramune Oral Suspension
販売会社
Boehringer Ingelheim Pharmaceuticals, Inc.
規格単位
[シロップ]:ボトル:240㎖(10㎎ /㎖)
(国内未発売。エイズ治療研究班が供給する薬剤)
用法・用量
成 人:最初の 14 日間は 1 日 1 回 200㎎を他の抗 HIV 薬と併用して内服する。
(こ
の導入期間で発疹の頻度を減らすことができる。)その後、1 回 200㎎を 1
日 2 回、内服する。
小 児:生後 15 日以上の小児には最初の 14 日間は 150 ㎎ /㎡を 1 日 1 回内服し、
その後 150 ㎎ /㎡を 1 日 2 回内服する。
シロップは軽く振ってから服用すること。経口用注入器や計量カップを用いるこ
と。特に 1 回服用量が 5㎖以下の場合には経口用注入器が望ましい。計量カップを
使用する場合は水で徹底的にゆすぎ、それを患者に服用させること。
投与前に肝機能を含む臨床検査値を測定し、投与中は適当な間隔で測定を行うこ
と。
そ の 他
ビラミューン錠参照
HIV 感染症の臨床経過
274 国内未販売薬
※各薬剤の製品添付文書(2013 年 7 月現在)より抜粋。各薬剤の使用に際しては、必ず最新の添付文書を確認すること。
非核酸系逆転写酵素阻害薬(NNRTI)
+核酸系逆転写酵素阻害薬(NRTI)の配合薬
エファビレンツ、エムトリシタビン、テノホビル ジソプロキシルフマル酸塩
一般名(略号) ( 合 剤 ) efavirenz、emtricitabine、tenofovir disoproxil fumarate( 略 号:EFV、
FTC、TDF)
商 品 名
アトリプラ錠 Atripla tablets
販売会社
Bristol-Myers Squibb & Gilead Sciences
規格単位
[錠]
:1 錠中、エファビレンツ 600㎎、エムトリシタビン 200㎎、テノホビル 300
㎎を配合(国内未発売)
用法・用量
1 日 1 回 1 錠を空腹時に内服する。就寝前に服用すれば、神経症状の耐容性を改善
する可能性がある。
そ の 他
ストックリン錠、エムトリバ錠、ビリアード錠参照
非核酸系逆転写酵素阻害薬(NNRTI)
+核酸系逆転写酵素阻害薬(NRTI)の配合薬
リルピビリン、エムトリシタビン、テノホビル ジソプロキシルフマル酸塩(合剤)
一般名(略号) rilpivirine、emtricitabine、tenofovir disoproxil fumarate( 略 号:RPV、FTC、
TDF)
商 品 名
コンプレラ錠 COMPLERA tablets
販売会社
Gilead Sciences
規格単位
[錠]:1 錠中、リルピビリン 25㎎、エムトリシタビン 200㎎、テノホビル 300㎎を
配合(国内未発売)
用法・用量
1 日 1 回、食事と共に内服する。
そ の 他
エジュラント錠、エムトリバ錠、ビリアード錠参照
HIV 感染症の臨床経過
国内未販売薬 275
※各薬剤の製品添付文書(2013 年 7 月現在)より抜粋。各薬剤の使用に際しては、必ず最新の添付文書を確認すること。
プロテアーゼ阻害薬(PI)
一般名(略号) チプラナビル tipranavir(略号:TPV)
商 品 名
アプティバス Cap Aptivus capsules
販売会社
Boehringer Ingelheim Pharmaceuticals, Inc.
規格単位
[軟カプセル]:250㎎
(国内未発売。エイズ治療研究班が供給する薬剤)
用法・用量
1 回 2 カプセル(500㎎)をリトナビル 200㎎と共に 1 日 2 回服用する。
警 告
リトナビル 200㎎との併用で、致死的あるいは非致死的な頭蓋内出血が報告されて
いる。また、同様な併用で肝炎や肝不全になり、死に至った例もある。慢性 B 型
肝炎の患者や C 型肝炎を併発している患者は肝毒性の危険性が増大するので特に
注意が必要である。
禁 忌 症
・中等度または重度(Child Pough 分類 B または C)の肝障害のある患者
・主に CYP3A で代謝される薬剤または強力な(potent)CYP3A の誘導剤
主な副作用
下痢、悪心、発熱、倦怠感、頭痛、嘔吐など
プロテアーゼ阻害薬(PI)
一般名(略号) チプラナビル tipranavir(略号:TPV)
商 品 名
アプティバス経口液剤 Aptivus oral solution
販売会社
Boehringer Ingelheim Pharmaceuticals, Inc.
規格単位
[内用液]:100㎎ /㎖
(国内未発売)
用法・用量
小児用量(2 ~ 18 歳)
チプラナビル 14㎎ /㎏、リトナビル 6㎎ /㎏を 1 日 2 回内服
成人量であるチプラナビル 500㎎、リトナビル 200㎎を超えないこと。
内服継続ができない場合、チプラナビル 12㎎ /㎏、リトナビル 5㎎ /㎏に減量を考
慮する。
そ の 他
アプティバス Cap 参照
HIV 感染症の臨床経過
276 国内未販売薬
※各薬剤の製品添付文書(2013 年 7 月現在)より抜粋。各薬剤の使用に際しては、必ず最新の添付文書を確認すること。
プロテアーゼ阻害薬(PI)
一般名(略号) メシル酸ネルフィナビル nelfinavir mesylate(略号:NFV)
商 品 名
ビラセプト内服散 Viracept oral powder
販売会社
ViiV Healthcare
規格単位
[散]:ボトル:144g(50㎎ /g)
(国内未発売)
用法・用量
成 人:1 回 1,250㎎を 1 日 2 回あるいは 1 回 750㎎を 1 日 3 回、食事と共に内服する。
小 児(2 ~ 13 歳):1 回 45 ~ 55㎎ /㎏を 1 日 2 回あるいは 1 回 25 ~ 35㎎ /㎏を
1 日 3 回、食事と共に内服する。錠剤を服用できない小児には内服散を与
える。内服散は少量の水、ミルク、調合乳、豆乳あるいは補助食品に混
ぜても良い。一度、混合したら、その全量を内服する必要がある。混合後、
すぐに服用しない場合は冷蔵庫に保管し、6 時間以内に使用すること。酸
味のある食物やジュース(例として、オレンジジュース、りんごジュース、
りんごソース)は苦みを出すため、混合に適さない。散剤の入った元瓶
に水などを混合すべきでない。
そ の 他
ビラセプト錠参照
プロテアーゼ阻害薬(PI)
一般名(略号) ホスアンプレナビルカルシウム(Fosamprenavir Calcium Hydrate:FPV)
商 品 名
レクシヴァ経口懸濁剤 LEXIVA(fosamprenavir calcium)Oral Suspension
販売会社
ViiV Healthcare
規格単位
[シロップ]:ボトル:225㎖(50㎎ /㎖)
(国内未発売)
生後 4 週から 18 歳までは体重を元に投与量を算出する。
ただし成人量は超えないこと。
用法・用量
そ の 他
体 重
≪ 11㎏
11㎏~≪ 15㎏
15㎏~≪ 20㎏
≥ 20kg
1 日 2 回内服(1 回量)
レクシヴァ 45㎎ /㎏、リトナビル 7㎎ /㎏
レクシヴァ 30㎎ /㎏、リトナビル 3㎎ /㎏
レクシヴァ 23㎎ /㎏、リトナビル 3㎎ /㎏
レクシヴァ 18㎎ /㎏、リトナビル 3㎎ /㎏
レクシヴァ錠参照
HIV 感染症の臨床経過
国内未販売薬 277
※各薬剤の製品添付文書(2013 年 7 月現在)より抜粋。各薬剤の使用に際しては、必ず最新の添付文書を確認すること。
プロテアーゼ阻害薬(PI)
一般名(略号) ダルナビル Darunavir(略号:DRV)
商 品 名
プリジスタ経口懸濁剤 PREZISTA Oral Suspension
販売会社
Janssen Pharmaceuticals
規格単位
[内用液]:100㎎ /㎖
(国内未発売)
小児用量(3 ~ 18 歳、10㎏以上)
初回治療またはダルナビルに耐性無し
10 ~ 15㎏、1 日 1 回食後 プリジスタ 35㎎ /㎏、リトナビル 7㎎ /㎏
初回治療またはダルナビルに耐性無し
15㎏以上、1 日 1 回食後
体重(㎏)
15 ≦体重≪ 30
プリジスタ 6㎖(600㎎)、リトナビル 1.25㎖(100㎎)
30 ≦体重≪ 40
プリジスタ 6.8㎖(675㎎)、リトナビル 1.25㎖(100㎎)
40 ≦体重
用法・用量
プリジスタ 100㎎ /㎖、リトナビル 80㎎ /㎖
プリジスタ 8㎖(800㎎)、リトナビル 1.25㎖(100㎎)
治療歴があり、ダルナビルに 1 カ所以上耐性有り
10 ~ 15㎏、1 日 2 回食後 1 回プリジスタ 20㎎ /㎏、リトナビル 3㎎ /㎏
治療歴があり、ダルナビルに 1 カ所以上耐性有り
15㎏以上、1 日 2 回食後
体重(㎏)
そ の 他
プリジスタ経口懸濁剤 100㎎ /㎖、リトナビル内用液 80
㎎ /㎖
15 ≦体重≪ 30
プリジスタ 3.8㎖(375㎎)、リトナビル 0.6㎖(48㎎)
30 ≦体重≪ 40
プリジスタ 4.6㎖(450㎎)、リトナビル 0.75㎖(60㎎)
40 ≦体重
プリジスタ 6㎖(600㎎)、リトナビル 1.25㎖(100㎎)
ダルナビル錠参照
HIV 感染症の臨床経過
278 国内未販売薬
※各薬剤の製品添付文書(2013 年 7 月現在)より抜粋。各薬剤の使用に際しては、必ず最新の添付文書を確認すること。
融合阻害薬(FI)
一般名(略号) エンフューヴィルタイド enfuvirtide(略号:ENF)、T-20
商 品 名
フューゼオン注射用 Fuzeon for Injection
販売会社
Trimeris, Inc. and Hoffmann-La Roche Inc
規格単位
用法・用量
[注]:108㎎ /V(1.1㎖の注射用水で溶解した時、90㎎ /㎖となる)
(国内未発売。エイズ治療研究班が供給する薬剤)
1 回 90mg(1㎖)を 1 日 2 回、皮下投与する。他の抗 HIV 薬と併用する。
6 歳以下の小児に対する投与量のデータはない。6 ~ 16 歳の小児には 1 回 2㎎ /
kg(上限 90㎎)を 1 日 2 回、皮下投与する。
注射部位の異常:痛み、不快感、硬結、紅斑、小節、嚢胞、掻痒、および斑状出
血などを発症する、患者の 9%が鎮痛剤を必要としたか、日常生活が制限された。
警 告
肺炎:細菌性肺炎の増加傾向が見られた。肺炎の兆候を慎重にモニターする必要
がある。リスクファクターとして、最初から CD4 の値が低い、初期のウイルスに
よる大きな負荷、静脈を用いた薬物投与、喫煙、肺疾患の既往歴が挙げられる。
過敏症状:再投与により再発の恐れあり。発疹、発熱、吐き気、嘔吐、寒気、硬直、
低血圧、および血清肝臓トランスアミナーゼの上昇などが個別に発症、あるいは
併発する。他に免疫の複合反応、呼吸窮迫性腎炎、およびギランバレー症候群も
報告されている。過敏症状の兆候がみられた場合はすぐに投与を中止し、医師の
診察を受けるべきである。過敏症状がみられた場合は再投与してはいけない。
(薬剤部 植田 孝介、浅野 逸郎 2013.07)
HIV 感染症の臨床経過
国内未販売薬 279
26 拠点病院の医療体制
1
エイズ拠点病院体制整備の経緯
平成 8 年、薬害 HIV 原告団と厚生省の間の和解条項が端緒となりエイズ患者等が安心して医
療を受ける体制整備が必要とされ、エイズ医療体制が整備される。エイズ治療の向上を図る目的
で、国内のエイズ医療体制が整備され、エイズ拠点病院間のネットワークが形成されている。国
立国際医療研究センターにエイズ研究開発センター(ACC)が設立され、日本のエイズ治療の
向上が図られることになる。全国を 8 ブロックに分け、各ブロックの核となるブロック拠点病院
を設置、各都道府県にエイズ診療の中心となる中核拠点病院・拠点病院が約 370 施設制定され、
これらのネットワークにより日本全国どの地域においても一定の水準の医療が提供できる体制が
整備された。エイズ拠点病院診療案内:http://hiv-hospital.jp/
エイズブロック拠点病院は、エイズに関する高度な診療を提供しつつ、臨床研究、ブロック内
の拠点病院等の医療従事者に対する研修、医療機関及び患者・感染者からの診療相談への対応等
の情報を通じ、ブロック内のエイズ医療の水準の向上及び地域格差の是正に努める責務を担って
いる。
2
北海道ブロックのエイズ拠点病院
北海道ブロックは拠点病院が 19 施設あり、北海道大学病院、旭川医科大学病院、札幌医科大
学付属病院の 3 施設がブロック拠点病院である。平成 20 年 4 月より、釧路労災病院を中核拠点
病院とし旭川医科大学病院、札幌医科大学附属病院は、ブロック拠点病院と中核拠点病院の役割
を兼任している。
旭川医科大学病院
独立行政法人国立病院機構
旭川医療センター
市立旭川病院
JA 北海道厚生連旭川厚生病院
北海道大学病院
札幌医科大学附属病院
市立札幌病院
独立行政法人国立病院機構
北海道がんセンター
独立行政法人国立病院機構
北海道医療センター
広域紋別病院
北見赤十字病院
市立小樽病院
市立函館病院
北海道立江差病院
市立釧路総合病院
総合病院釧路赤十字病院
釧路労災病院
厚生連総合病院帯広厚生病院
図 1 北海道ブロックのエイズ拠点病院
HIV 感染症の臨床経過
280 拠点病院の医療体制
厚生労働省(エイズ対策事業)
地方自治体(北海道 エイズ対策事業)
一般医療機関
拠点病院
中核拠点病院
その機能に応じた
HIV 感染者の診療
を行う
【目的】エイズに対
する総合かつ高度
な医療提供
【主な機能】
・総合的エイズ診
療実施
・情報の収集、他
の医療機関への
情報提供
・地域内の医療従
事者に対する教
育及び歯科診療
との連携
【目的】拠点病院に
対する集中的支援
【主な機能】
・拠点病院との連
携及び自治体間
のエイズ対策向
上を図るための
連絡会議
・高度な HIV 診療
提供・医療情報
の提供
ブロック拠点病院
【目的】ブロック内の
エイズ医療水準の
向上及び地域医療
格差是正に努める
【主な機能】
・高度な HIV 診療
提供
・ブロック内の医
療従事者に対す
る研修
・医療機関及び患
者等からの診療
相談、情報提供
国立国際医療研究センター エイズ治療研究開発センター(ACC)
●拠点病院(15 施設)
・市立札幌病院
・北海道がんセンター
・北海道医療センター
●北海道エイズブロック拠点病院
(3 施設)
・北海道大学病院
(ブロック拠点)
・市立小樽病院
・旭川医科大学病院
・市立函館病院
(中核拠点兼任)
・北海道江差病院
・旭川医療センター
・札幌医科大学附属病院
(中核拠点兼任)
・市立旭川病院
・旭川赤十字病院
・釧路労災病院
・広域紋別病院
*旭川医大・札医大が兼任
・市立釧路総合病院
・北海道立保健所
・政令指定都市保健所
(札幌・函館・旭川・釧路)
・役場・区役所等
●中核拠点病院(3 施設)
・旭川厚生病院
・北見赤十字病院
◆北海道保健福祉部健康
安全局地域保健課(感染
症・特定疾患グループ)
◆札幌市保健所 保健福祉局保健所感染
症総合対策課
エイズ対策推進協議会
・釧路赤十字病院
・帯広厚生病院
図 2 北海道ブロックの医療体制
(看護部 大野 稔子 2013.08)
HIV
拠点病院の医療体制
感染症の臨床経過 281
付録 HIV 感染症診断後の届出
平成 10 年 9 月に成立し、翌年 4 月から施行された「感染症の予防及び感染症の患者に対する
医療に関する法律」(通称:感染症法)により、後天性免疫不全症候群は五類感染症に分類され、
全数把握の対象となっている。感染症法第 12 条第 1 項(医師の届出)には、「医師は、……7 日
以内にその者の年齢、性別その他厚生労働省令で定める事項を最寄りの保健所長を経由して都道
府県知事に届け出なければならない。」と規定されている。従って、後天性免疫不全症候群(HIV
感染症と含む)と診断した医師は、上記の規定に従い、別添の様式に必要事項を記載して届出を
行わなければならない。
HIV 感染症の臨床経過
282 付録
HIV 感染症の臨床経過
付録 283
A I D S と 診 断 し た 指 標 疾 患 該 当 す る 全 て に ○
HIV 感染症の臨床経過
284 付録
HIV 感染症 診断・治療・看護マニュアル 第 9 版
平成 25 年 10 月発行
発行責任者
北海道大学病院 HIV 感染症対策委員会