株式会社イノベイション 代表取締役 山上 裕司 はじめに 1.無駄な仕組みの生まれ 故郷 こんにちは、株式会社イノベイションの 山上裕司です。この号で3号目、丁度折 多くの組織がISOへの取り組みで苦 り返し地点になりましたが、楽しんでいた 労されることは、効果を発揮しない 無 だけているでしょうか。それでは、今号も 駄な仕組み が発生し、定着してしまう どうぞよろしくお願いします。前号では、 こと。では、そんな無駄な仕組みは、ど こんなポイントをカバーしました。 こから生まれ、 定着 してしまうのでし ょうか。 ・効果的な話し合いが、組織における 学習を促進する。 ISOへの取り組みプロセス (連鎖)の 典型的な例を見てましょう。 ・人は言葉をしゃべるのだから、話し合 いなんてできて当たり前、ではない。 ・ISO推進における疑問と不安解消に は、 「ファシリテーション」が効く。 そして、ISOマネジメントシステムを構 築し、改善していくプロセスは、組織的 な学習プロセスであり、 「ファシリテーシ ョン」という技法を学ぶことが、組織的 な学習プロセスを通じてマネジメントシス テムの有効性を高める、ということをお 伝えしました。さて、 「ファシリテーション」 が、何となくISOには使えるかな……と いう段階に皆様はおられると思います ので、今号では、具体的な活用ポイント に話を進めていきたいと思います。 ① ISOに取り組むきっかけが発生す る。顧客などからの要請に基づくことが 多いが、それでも、 この際だから と、 意欲的だが曖昧な目標設定がされる。 ↓ ② 自社の仕組みを洗い出し、要求事 項をなんとか理解しつつ、仕組みが要求 事項に適合するように手順化する。この 際、 理想に燃える推進派 と、 現状維 持を主張する現場派 で対立がおき、ど こかで折り合う。 ↓ ③ 実際決めた通りに、手順を回し始 める努力をする。 ↓ ④ 決めた手順が、想定した通りには行 かないことに気がつくが、一度決めたこと でもあり、また、内部監査も動き出し、不 *1 Wikipedia http://en.wikipedia.org/wiki/Procedure̲(term) 具合を抱えたままシステムが回り始める。 ↓ ⑤ ISOと本業がダブルスタンダード化 しながら定着しはじめる。ISOは、お飾 りで本業に寄与しない、というイメージ が社内で定着する。ISOへのモチベー ションも下る。 ↓ ⑥ サーベイランス審査があり、審査員 より がんばってやっておられますね と ほめられ、 決めた通りに、手順を回す ことへのインセンティブとなる。また、中 身ではなく手順上での指摘があると、そ の是正のために仕組みがさらに重くなり ながら、③に戻る。 このような連鎖を体験される組織が多 い中、それではこうなる原因は、何なの でしょうか。人はやはり怠け者だからで しょうか。そうとは言い切れないようで す。そこで、ここでは、その決めた 手順 にスポットを当ててみましょう。 手順(Procedure) とは、ある管理され た状況において同じ結果を得るために 実行される一連の作業活動です*1。そし て、それは、全くの 作業 である場合も あれば、 思考 が求められる活動もあり ます。例えば、単純な組み立て作業とい った明確に定められた作業もあれば、品 質目標を決める、あるいはマネジメントレ 図表1 等しく 手順 と考える ビューをするといった 思考 が要求され る作業もあります。しかし、ISO要求事 思考を求めない 手順 項は、あちこちで 手順書 を作成するこ 思考を求める 手順 等しく 手順 と考えてしまう とを要求しており、私たちはこの違いを 意識することなく、これらを同じ 手順 と いう枠組みで取り扱ってしまうことに、ひ には、 組織として思考する 、すなわち えることです。そして、中身を与えるから とつのヒントがあるようです(図表1) 。 前号でカバーした、学習のプロセスを回 には、そこには、調査、分析、検討といっ 簡単な組み立て作業などであれば、そ すことが求められるのですが、多くのISO た具体的な活動が求められます。これら の手順を忠実に実行することにより、 同 への取り組みではこれがみられません。 の活動のためのツールとして、製品開発 じ結果 は得られるでしょう。しかし、思考 を要求する手順ではでどうでしょうか。 初回審査までは、いわゆる ひな形マ には、 QFD 、予防処置には FMEA と ネジメントシステム 。品質目標も、とにか いった定番ツールがあります。しかし、こ 例として、品質目標を策定する手順を く何かエイヤでつくります。初回審査は、 れらのツールを、 これを使え! と上から 考えましょう。例えば、マニュアルでは、 システムが整っており、運用実績があれ 目線で現場に落としても、現場にそれを こんな文章が書かれているとします。 ば、OKです。しかし、審査も終わり、実 使う動機付けがないと、かえって、ツール 際の運用を本格的にはじめた段階で初 を使うことが目的化します。 各部門長は、各年度の期末月に品質方 針と整合性がとれ、達成度が判定でき る品質目標を策定し、トップマネジメント から承認を得る。 るの? は? という疑問がたくさんでてきますが、 なツールの必要性を強く感じた時にツー ここで書かれていることは、品質目標 すでに、認証マークを取得した後では、 ルを入れ込むことを推奨します。 めて、 品質目標ってそもそもどう策定す デザインレビューって実際にど うするの? 是正処置に回す基準と 策定の手順ですが、実際どんな品質目 それをどうこうしようとする意欲も低下し 標をどんな考えやデータに基づき策定 ていることも多いでしょう。 そこで、 ISOファシリテーション では、 ツールから始まるのではなく、 レビュー からはじめ、レビュー参加者がそのよう レビュー、 to see again 、すなわち、 もう一度見る、という意味の言葉、雑駁 すればよいのか、この手順ではそれが つまり、ISOマネジメントシステムで、動 に表現すれば、マネジメントシステムにお わかりません。つまり、思考を要求する かない仕組みが生まれる深因は、本来 いて、 これってどうよ? という健全な問 手順を文書化した場合、その手順は作 組織的な思考を求める手順が、そのよ いを投げかけることです。そのような問 業活動に求められる思考プロセスを決 うな思考をともなわないまま、器として いかけがあると、人は一瞬言葉を失い、 めているわけではなく、ただ、作業の順 のみ実行され、結果意味を持たない記 うぅぅん? と上を向きながら考え始めま 番、あるいは 器 を決めているにすぎ 録だけが作成されていることにあるので す。問われている側において思考が活 ないのです。 はないか、ということです。 性化した瞬間です。 この結果、ある部門長さんは、夢や願 しかし、 これってどうよ 、という問い いに基づく挑戦的・主観的品質目標を 【ここまでのポイント】わが社のマネジメ は相手に心理的不安や立場への脅威も 策定し、あるいは別の部門長さんは客 ントシステムに、 器 だけの手順がどれ 与えます。また、ただワイワイと話し合っ 観的事実に基づき、達成可能と判断で だけあるか確認する。 ているだけで議論がカオスとなり、結果 きる客観的品質目標を策定します。する がでないこともよくあります。そこで、そ と、手順が本来求める、 同じ結果 とは のような問いが 安心でき健全 であり ほど遠い状態になってしまいます。 すなわち、そのような思考を要求する 2.これってどうよ から始ま る 中身づくり 手順では、その組織にとって未知である つづけるために、 「ファシリテーション」の 技法をレビューの現場に持ち込み、人に 安心感を与えながら話し合いを構造化 作業の器の中身 をさらに詳細に作り ではどうするか。目標は、 器 として 込んでいく必要な場合があり、そのため のみ実行されている手順に、中身を与 させることにより思考を活性化させる ことを支援するのです。 【ここまでのポイント】まず、 これってど などといった文字を様々な色や絵柄に うよ? が言えるマネジメントシステムを目 より若い社員さんたちに書いてもらうこ 指す。 とも、楽しさを演出するポイントでしょう。 ・時間を守ります。 ■ 話し合いプロセスの組み立てを支援する 言いたいことが言える場をつくる、と 3. 「ファシリテーション」でレ ビューを蘇らせる それでは、実際にマネジメントレビュー ■ 管理責任者とファシリテータを分ける はいっても、どのような順番で話し合う 一般的に、マネジメントレビューは、ト のか、というプロセスを決める必要があ ップマネジメントか、管理責任者が議事 ります。例えば、マネジメントレビューで 進行をするものですが、これをやめて、 も、一体、何を、どんな基準でレビュー トップ・管理責任者は、品質マネジメント するのか、ということを最初に決めない を想定した「ファシリテーション」の現場 システム運営の代表者・管理者として参 と、ただ ワイワイ と話し合うことになり をイメージし、いくつかの具体的ポイント 加していただき、議事進行は、社内で認 かねません。そこで、社内ファシリテー を記述してみましょう。 定された公平・中立な 社内ファシリテ タにより、大枠で、こんな順番で話し合 ータ にやってもらいましょう。これによ いたいというプロセス提示すると良いで ■日常から抜け出る場をつくる り、 ここが問題なんだよな と思ってい しょう。その上で、参加者の意見を取り 開催場所は、 社外 にしましょう。普 ても、 議事進行をしている管理責任者 入れながら、話し合いの目的、ゴールイ 段の会議室は、普段の 日常 を思い起 には言えないよな 、という心理的な壁 メージ(どんな成果がでれば良しとする こさせるものです。後味が悪い会議をし が取り除け、自由な発言が受容される 基準) 、プロセスについて合意します。 てしまっていたら、そのオーラは残って 場ができあがります。 いるもの。ぜひ、社外の会議室などを借 り、外に出かけていき、 非日常 を演出 例として、マネジメントレビューでの話し 合いプロセスの一例を図表2に示します。 ■ 話し合いの基本ルールを決める ■ 思考ストッパーにならない しましょう。机の配置は、上座をつくらず どんな話し合いの場とするのか、そこ 正方形で机と机の間に空間をつくらず で行いたいこと、避けたいことを模造紙 きっちりとつなげます。これにより、人と に書き出し合意しましょう。社内ファシリ 相手の話を受動的に聞いているのでは 人との心の距離が接近します。机の真 テータがいくつか案を提示しても結構で なく、 その話、おもしろいね。その先 ん中には、手軽な飴やチョコレートなど すが、可能な限り参加者主体で決めさ は? といった風に、相手の言葉を積極 も置いておき、楽しそうな雰囲気を醸し せることを促します。例えば、下記のよ 的に傾聴する姿勢です。社内ファシリテ 出しましょう。会議室の黒板やホワイトボ うな基本ルールを決めると良いでしょう。 ータは、ぜひその見本を見せるとともに、 ード、あるいはプロジェクタスクリーンには、 「ファシリテーション」で重要なことは、 参加者にも促すことが大事です。また、 ・相手の意見に興味をもち、最後まで 聞き、その先をともに考えます。 ・自分の意見を押しつけたり、場を独 り占めすることはしません。 次のような言葉は、相手の思考をストッ プさせてしまうので避けることを事前に 基本ルールで合意しておくことが良いで しょう。 ・質問はありませんね(質問を避ける) 図表2 マネジメントレビュー (MR) での話し合いプロセスの一例 どうあるべ きかという 基準 ウェルカ ムトーク プロセス の説明と 合意 MS有効性 強み・弱み 洗い出し インプット 情報 重み付け 投票で 課題選択 問題が 起きる 連鎖の系 の分析 インプット 情報 実施計画 対策・処置 (MRから の決定 のアウト プット) ツール類 ・これはなぜなんだ、○○君? (誰かの せいにする) ・そうじゃない、わかっていないな(自 分の意見を押し通す) ■ 社内ファシリテータは、相手に圧迫感 を与えることなく、質問を繰り出す 例えば、このような質問が考えられます。 〜ISOファシリテーション〜 図表3 レビューを蘇らせるプロセス ・これについて、どんなことを知ってい ますか(発散を促す) ・なるほど、それはどんなことにつなが るのでしょうか(連鎖の系をあぶりだ レビューの 場 心と頭脳が 開く 組織として の思考力が 高まる 傾聴の場 づくり 話し合いの 構造化 ツールの 応用 思考を必要と する手順の中 身ができあがる す) ・どうあれば、よいのでしょうか(本来あ るべき基準をあぶりだす) ・もう少し具体的に細かくお話しいた だけますか(細分化を支援する) ・ずばり一言でいうと、これはなんの問 題なのでしょうか(概念化を支援する) ・これが解決されると、どんな良いこと が得られるのでしょうか(ポジティブな します。すると、その時に社内ファシリ この記事をお読みになり、 「ファシリテ テータとして介入するときの言葉として ーション」って、使えそうだと思われた方 は、次が適切でしょう。 今、この話し合 は、ぜひどんな内容でも結構ですので、 いの場はうまくいっていますか? ご連絡ください。その一報が、御社の うま くいくためには、どうしたらよいですか? 未来を想像させる) は、info@ennovation.co.jp にメールか、 【ここまでのポイント】まず、心を開かせ、 このような質問を繰り出し、参加者が ISOを変えるきっかけとなります。ご連絡 次に頭脳を開かせる。 躊躇なく話せる場づくりをします。また、 インターネットで イノベイション と検索 いただき、弊社ホームページからお問い 合わせください。 参加者が順番に発言をすることを促す ための道具(手触りのよい柔らかいゴム ボールなど) を用意し、逐次手渡しをし 4.良いレビューから、良い計 画 (未来づくり) が得られる ながら発言させることもよいでしょう。 それでは、次回は、ISOをさらにファシ リテート (促す)ために、考えていること や話し合っていることがバラバラになら いかがでしょうか。次第にレビューに ないための 同期的思考マネジメント方 ■ レコーダーは、リアルタイムに可視化 ファシリテーションを入れる意味合いが 法 について話を進めたいと思います。 する 伝わっていたら幸いです。目的は、まだ、 どうぞ、ご期待ください。▼ 話し合っている内容をリアルタイムに 空の 器 となっている手順に、思考が 可視化する人をレコーダー (グラフィッカ つまった中身を入れることです。そのた ー) といいます。模造紙、フリップチャー めには適切なツールはもちろん重要です ト、カラーマーカー、クレヨンといった が、その前に、レビューに参加する方の 様々な道具を使い、今、話し合われて 心と頭脳が開いている、いろんなことを いることを、絵、文字、図形として落とし 受け入れることができる状態になってい 込みます。最初は、単純に話し合われ ることが重要なのです。 ている内容をパソコンにリアルタイムで 打ち込み、それをスクリーンに表示して そして、そんな場ができていたとした らどうでしょう。きっとそこでは、 株式会社イノベイション 代表取締役 ・ どうありたいのか、それはなぜなの 上智大学外国語学部比較文化学科卒。ハイテク機 器商社、IT系米国ベンチャー企業、地場の建設業 といった幅広い業態を経験。マネジメントシステム コンサルティング歴9年、JRCA登録QMS主任審査 員・ISMS審査員として審査実績数も多数。マネジ メントシステム支援において定番メニューのみなら ず、 システムより人を先におく という考えのもと、 ヒューマンスキル研修や話し合いの支援をするファ シリテーションサービスを、ISOに取り組む企業に 馴染むかたちで提供している。日本規格協会・超 ISO企業研究会会員、NPO法人社会起業家ビジネ ススクール副理事長、 『中小企業に役立つ人と組織 を活かす ISO 9000ーISOへのヒューマンアプロー チ』 (日本規格協会)他共著。 も良いでしょう。それだけで、話し合い の雰囲気は大きく変わります。 か、するとどうなるのか が、立場に関 ■ 衝突に対応する わりなく言い合える。 時には、話し合いで葛藤や衝突が起 ・ともに、深く考えることができている。 きることもあります。社内ファシリテータ ・お互い合意しあったことへの実行力 の役目は、その葛藤や衝突に対して、そ の中に入らず対応することです。例えば、 言い合いがおき、雰囲気が悪くなったと が高まる。 そんな成果が得られているのではな いでしょうか。 山上 裕司
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