平成 24 年度 スペースデブリ対策に関する調査報告書 (次世代宇宙プロジェクト推進委員会) 平成 25 年 3 月 一般社団法人 日本航空宇宙工業会 はじめに 近年、我が国においても宇宙利用が社会生活に深く浸透し、必要不可欠なインフラとな りつつある。宇宙利用の拡大を図りつつ、我が国の宇宙産業の基盤強化を行い、宇宙産業 の国際競争力強化に資するためには、宇宙先端技術を用いた新規事業の創出を行い、宇宙 産業の発展を図ることが重要である。 近年、宇宙で使用済みの衛星やロケットの破片や残骸のスペースデブリ(宇宙ゴミ)が 急増しており、このままでは将来の宇宙利用活動に大きな障害になることが懸念されて、 国連等の国際的な場でもスペースデブリ問題の議論が行われている。我が国は、スペース デブリ問題にいち早く取り組んできており、平成 21 年 6 月に策定された宇宙基本計画にも 宇宙環境の保全に率先して貢献することが提唱され、スペースデブリ除去技術についても 宇宙航空研究開発機構(JAXA)で研究開発が行われている。 世界各国においてもスペースデブリ除去技術の研究開発が進められているが、新しい宇 宙技術分野であり、まだ、軌道上実証も行われておらず、実用段階までに至っていない。 そこで、我が国の得意分野であるロボット技術を使って世界に先駆けてスペースデブリ除 去技術を開発してその実用化を行い、さらにスペースデブリ除去技術を軌道上サービス等 の他のミッションに拡大転用することにより、新たな宇宙産業の事業分野の創出を図るこ とができる。 今年度の調査は、このような背景のもと、世界のスペースデブ対策とスペースデブリ除 去ロボットの最新動向、及び我が国におけるスペースデブリ除去と将来への他のミッショ ンへの転用についての検討を行った。 調査に当たっては、当工業会の「次世代宇宙プロジェクト推進委員会」において、スペ ースデブリ及びデブリ除去に関して知見を有する有識者、宇宙研究開発機関及び会員企業 の中からなる委員の参画を得て実施した。 本調査は、一般社団法人日本航空宇宙工業会が財団法人JKAから補助金の交付を得て、 平成 24 年度「宇宙産業における国際競争力強化に資するスペースデブリ対策策定に関する 調査研究」として実施した。本報告書が、今後の我が国の将来の宇宙開発利用の企画・立 案に資することを願っている。 平成 25 年 3 月 一般社団法人 日本航空宇宙工業会 平成24年度 次世代宇宙プロジェクト推進委員会 委員名簿 委員長 工藤 勲 北海道大学名誉教授 副委員長 峰 正弥 委 日本電気㈱ 航空宇宙・防衛事業本部 エグゼクティブエキスパート 員 木村 真一 東京理科大学 理工学部 電気電子情報工学科 教授 加藤 明 (独)宇宙航空研究開発機構 安全・信頼性推進部(併任)研究開発本部 研究推進部 テクノロジスト 河本 聡美 (独)宇宙航空研究開発機構 研究開発本部 未踏技術研究センター 主任研究員 仁田 工美 (独)宇宙航空研究開発機構 研究開発本部 未踏技術研究センター 主任開発員 岩田 敏彰 (独)産業技術総合研究所 情報技術研究部門 地球観測グリッド研究グループ 主任研究員 酒井 由美子 (株)IHI エアロスペース 宇宙技術部 宇宙利用技術室 主査 北澤 幸人 久保田 伸幸 (株)IHI 航空宇宙事業本部 宇宙開発事業推進部 主査 川崎重工業(株)航空宇宙カンパニー 宇宙機器設計部 宇宙機器一課 課長 安光 亮一郎 三菱電機(株)宇宙システム事業部 宇宙開発利用推進室 室長代理 桑尾 文博 日本電気(株)宇宙システム事業部 宇宙システム部 エキスパート 中村 信乃夫 三菱重工業(株)航空宇宙事業本部 誘導・エンジン事業部 電子システム技術 部 宇宙システム設計課 主席技師 オブザーバ 小川 悟史 経済産業省 製造産業局宇宙産業室 室長補佐 成田 兼章 (独)宇宙航空研究開発機構 統合追跡ネットワーク技術部 部長 平子 敬一 (独)宇宙航空研究開発機構 未踏技術研究センター センター長 伊地智 幸一 (財)宇宙システム開発利用推進機構 第一技術本部長 事務局 秦 重義 (一社)日本航空宇宙工業会 常務理事 杉本 修 (一社)日本航空宇宙工業会 技術部 部長 事務局支援 金山 秀樹 シー・エス・ピー・ジャパン(株) 航空宇宙政策・産業チームリーダー 斉藤 由佳 シー・エス・ピー・ジャパン(株) 航空宇宙政策・産業チーム アナリスト 要 約 平成 24 年度スペースデブリ対策に関する調査報告書 (次世代宇宙プロジェクト推進委員会) 要 約 地球観測、通信、測位等で宇宙環境を利用する機会は今後ますます増加するものと思われ る。しかし、地球環境と同様に宇宙環境も有限であり、寿命を終えた人工衛星や軌道上に 放置されたロケット上段で既に地球周回軌道上には多くのデブリが存在し、これらは宇宙 環境利用に障害となってきている。この環境をさらに悪化する前に適切な手を打たなくて はならない。本書はこのような状況をいかに打開するかに関する調査報告書である。 1 章では宇宙空開発が始まって以来、軌道上には多くのデブリが滞在することとなったこ と、現時点で地上から観測できて発生源が明確で軌道が公表されている物体の数は 16,000 個に達していることを述べている。そのデブリの発生原因は図1に破片の発生原因を示す ように意図的な破壊(29%)、運用終了後の推進系の爆発(25%)、不具合による破砕(20%)が全 体の 3/4 を占め、意図的な破壊は冷戦時代の産物で現在は減少しているが、2007 年の中国 の ASAT 実験はこれに当たる。推進系の爆発は打ち上げロケット上段が軌道上に放置され た後にタンクが爆発したものであろう。不具合に起因して破砕した衛星やロケットでは、 バッテリや推進系が原因となりやすいと報告されている。デブリの発生防止のためにガイ ドラインが作られ、各国ともこれを守るようになってきているが、今後衛星調達市場では デブリ対策が徹底されているかどうかで差別化が進むことになるとの予測がある。 出典:「スペースデブリの発生とその対策」、加藤明/JAXA、第9回宇宙環境シンポジウム(2012.1.05) 図1 破砕の発生数による発生原因の分布 i 次に IADC(Inter-Agency Space Debris Coordination Committee)、UNCOPUOS(United Nation Committee on the Peaceful Uses of Outer Space)、ISO などの国際機関での取り組 み、また、米国、欧州、ロシア、中国など各国のデブリ対策の最近の動向について述べる。 2章では JAXA で実施されているスペースデブリ回避運用について述べている。接近解析 は人工衛星とそれに接近する物体との状況を①軌道決定誤差の評価、②接近解析、③衛星 の運用条件を評価して実施し、この結果は次の衝突回避への作業移行判断に使用される。 衛星の衝突回避作業は通常の軌道制御の一部として実施される。接近してくる物体は高速 で飛行していることから進行方向の誤差成分が支配的となり、正面衝突に近い状態が予想 される場合は高度を変更、それ以外の場合は再接近のタイミングを調整することになると される。 3章ではスペースデブリ除去の実際について述べる。デブリの数は地上から観測できるも の(発生源が特定され軌道が公表されているもの)が 16,000 個であることは前に述べたが、 観測できないサイズのものを含めると、1cm 以上のデブリは 50~70 万個、1mm 以上だと 1億個以上と云われる。これらの物体は低軌道では秒速 7~8km で飛行しているので、衛 星とは相対的に 10km~15km の超高速で衝突し、1cm 以上のデブリでは衛星に壊滅的な被 害を与えてしまう。デブリの減少要因は空気抵抗による自然落下のみであり、衝突による 増加率と減少率が釣り合う臨界密度を超えてデブリが存在すると、それ以上の物体を投入 しなくても軌道上にあるデブリ同士の衝突によりデブリの数は増加していく。一方、これ ら多数のデブリを人為的に除去することは極めて難しい。実際問題として破片サイズのデ ブリではなく、大型のデブリ(使用済み衛星やロケット上段)を除去することが効率的で あるとする予測結果が得られている。JAXA-九州大学の「デブリ推移モデル」によると、 大型デブリを除去した場合としない場合のデブリ数を今後 200 年に対して予測したところ、 図2のようになった。 ii 出典: 「JAXA におけるデブリ除去の研究状況」、河本他、第五回スペースデブリワークショップ、2013 図 2 デブリを除去した場合としない場合のデブリ数推移予測 (除去しない場合:黒線、高度 1000km、軌道傾斜角 83 度のデブリを除去した場合:青線) すなわち、今後のデブリ数の増加は衝突確率の高い混雑軌道(高度 800~1000 km 近辺) の大型デブリを除去すればデブリ数の増加を抑制することが可能であることを示している。 これは太陽同期軌道等の混雑軌道に対する検討結果である。静止軌道については、電波の 干渉の恐れのある他の運用中の衛星を回避するためや、摂動効果でドリフトして接近して くるデブリに対しての衝突回避運用が実際に行われている。この接近してくるデブリを除 去する必要はあるが、デブリの密度も周回速度も太陽同期軌道ほどの切羽詰まった衝突確 率ではないと認識している。一方、低軌道の混雑軌道域では、デブリは昇交点赤径(Ω) の広い範囲に分布しているが分布密度が大きいのでΩの数度程度の範囲で多数のデブリが 存在しているため、1 機の除去衛星で複数のデブリを除去できる可能性がある。本章では、 デブリ除去に係る技術的問題、その解決案について述べているが、JAXA では図 3 に示す ように低軌道混雑軌道域にあるデブリ除去を EDT(ElectroDynamic Tether)で行う概念 の検討を具体的に行っている。また、静止軌道のデブリ除去についてはイオンエンジンを 用いた方法を提案している。 iii 出典:「 JAXA におけるデブリ除去の研究状況」、河本他、第五回スペースデブリワークショップ、2013 図 3 デブリ除去の流れ 日本航空宇宙工業会においても、EDT を用いたデブリ除去衛星の概念を発表していて、こ の場合でも 1 機の除去衛星に 10 台の EDT を取り付け 10 機の太陽同期軌道上の大型衛星を 軌道上から除去する案である。その際の衛星は下記のような構成案を内容としている。 表1 デブリ除去衛星の構成案 サブシステム ミッション系 重量[kg] 250~360 電力[W] 120~150 電源系 C&DH 系 熱・構造系 姿勢制御系 推進系 合計 90~110 40~50 100~200 60~80 350~1000 890~1800 50~70 90~100 80~120 120~140 10~20 470~600 備考 作業アーム 係留アーム EDT 装置:10 式 イメージセンサ 太陽電池パドル S-band センタシリンダ構造 三軸姿勢制御 推薬:300~900[Kg] 出典:「平成 19 年度スペースデブリに関する調査報告書」 日本航空宇宙工業会 アーム進展状態における軌道上の衛星コンフィグレーションを図4に示す。 iv 出典:「平成 19 年度スペースデブリに関する調査報告書」 日本航空宇宙工業会 図4 デブリ除去衛星案(軌道上コンフィギュレーションアーム伸展状態) 開発費は 300 億円を想定している。 除去ロボットの事業化、民営化のアプローチで、まず費用分担に関しては ① 今後デブリ生成者となり得る組織(国)からの資金調達: 打上げ軌道や衛星仕様(質量・機械的インタフェース・占有する軌道 etc. )に応じて 徴収する。費用はロケット打上げ組織・衛星運用組織、もしくは当該組織が所属する 国家が拠出する。資金の流れは「ロケット打上げ組織・衛星運用組織 or 所属国家→各 国政府窓口組織→(国際機関→)デブリ除去業者」の順となる。 ② これまでにデブリを生成した国からの資金調達: 過去にデブリを生成した国が資金供出する。その際の資金の流れは、 「各国予算→(国 際機関→)デブリ除去業者」となる。 ③ デブリ環境に曝される組織(国)からの資金調達: デブリによる運用停止リスク補填のため、衛星運用組織が保険会社に支払う保険料を 活用する。その際の資金の流れは「衛星運用組織→保険会社→(国際機関→)デブリ 除去業者」の三つが考えられる。 ここで③の資金ルートが衛星運用組織の意思(保険を掛けるか否か)に依存しており市 場規模が不透明であるのに比べ、①②の資金ルートは比較的将来の市場規模の見通しが利 くため、企業としてはデブリ除去の事業化の判断基準とし易いと思われる。但し、②のル ートは国際ルール設定以前の行為に対する課金であり、当該国にとっては受入れられ難い と考えられ、従って、①の費用負担を如何に適正且つ確実に実施できるかが事業としての 成立性を左右するものと考える。 v 2011 年 11 月カナダの McGill 大学では宇宙環境保全のための体制と運用に関し重要な議 論 が な さ れ て い る 。 特 に 体 制 は 図 5 の よ う な WSO ( World Space remediation Organization)の提案を行っている。この組織は非営利の団体とし宇宙活動国からの基金 で構成・運営する。その主な役割は ① 打ち上げられる軌道上物体の環境へのリスク評価と徴収料金の決定 ④ 軌道環境の評価 ③ 除去するデブリの選定と除去の発注 としている。注目すべき提案と考えられる。 想定される国際調整機関 (2011年 McGill大における国連提案議事より) (WSO : World Space remidiation Orgnization) 国連勧告/ガイドラン等 国連宇宙平和利用委員会 宇宙活動国 各国への設立勧告 報告 基金 遵守/提案 WSO (2012年:71ヶ国) 打ち上げ国 打上げペイロードの 安全指標評価 ・環境影響指数 ・ISO24113適用度 遵守/提案 •打ち上げられる軌道上物体の 危険度定量評価/徴収決定 報告・徴収 •軌道上環境の評価 •除去する物体(デブリ)の決定 (各ペイロードへの課金配分は打 上げ国の裁量範囲) 各国が 独自に 整備 ITU ISO 調整 軌道上 物体 登録国 調整 所有権者 •30人程度の職員を想定 •基金で運営/主にヴァーチャル組織 •徴収した軌道使用料は主にデブリ除去に使用 (環境保全代金) •「危険度」の検証 •環境モニタリング 国際入札・国際調達 データ買上げ 地上観測所 (基本的には 各国よりデータ 提供をうける) 軌道上観測所 ) 各国宇宙機関/企業 (図中の「赤矢印」は資金の流れ) 出典:Kitazawa, “Organizational and Operational Requirements for Space Debris Remediation”, International Interdisciplinary Congress on Space Debris Remediation, 2011, McGill University (http://www.mcgill.ca/iasl/sites/mcgill.ca.iasl/files/sdc2011_4_kitazawa.pdf) 図 5 国際調整機関の姿 なお、 2013 年 1 月に我が国の「宇宙基本計画」の改訂が閣議決定されているが、その中 で SSA 体制について議論することが必要と記述されている。 3 章では海外諸国のスペースデブリ除去ロボットの開発動向についても述べる他、2012 年 10 月にイタリアナポリで開催された IAC(International Astronautical Congress)で Space Debris Symposium、Space Debris Removal Issues/Concepts のセッションで発表さ vi れた論文題名がリストアップされている。 4 章ではスペースデブリ除去ロボット技術の他ミッションへの応用について、まず海外に おける他のミッションへの転用例として、 • NASA:On-Orbit Satellite Servicing Study • DARPA:Orbital Express Mission • DLR の DEOS プロジェクト • MDA 社の SIS (Space Infrastructure Servicing) • 衛星の寿命延長サービス • DARPA の「Phoenix 計画」 の調査結果を報告する。なかでも米国 DARPA(国防高等研究計画局)の「Phoenix」計画 では、デブリとなっている通信衛星のアンテナなどの部品を宇宙で回収・流用して再利用 を目指す計画で、静止軌道上の墓場軌道を周回する機能を停止した人工衛星には総額 3,000 億ドルの価値があると推定されており、機能するパーツのリサイクルに成功すれば、「国防 総省が必要な人工衛星ミッションのコストは 劇的に下がる」という。一方、将来宇宙ミッ ションへの展開として、デブリ除去ロボットの特徴であるテザー技術は長大な宇宙構造物 の形成を容易にできる他、宇宙空間への輸送手段として注目を浴びている「宇宙エレベー タ」はその製造過程でテザー技術の利用が想定できる。また、テザー構造をとる宇宙太陽 光発電システム(SSPS)への技術実証実験としても大きな意味合いをもつものであろう。 5 章はまとめとして、前述の調査結果を要約するとともに、2006 年度/2007 年度にまと めたアクションの必要性を再掲している。すなわち、国家戦略として実行すべき以下の7 つのアクションである。 ① デブリ除去の必要性に関する一般論への浸透 ② 日本国発信の国連宇宙空間平和委員会への提言 ③ 日本国発信による国際標準の制定促進とビジネスモデル化 ④ 日本国における宇宙環境保全機関の設置 ⑤ 日本国によるデブリ除去衛星の実証 ⑥ 日本国として考えるデブリ観測 ⑦ 下支えシンクタンクの提案と①~⑥の具体化 vii 本 編 序 2004 年度の SJAC/次世代宇宙プロジェクト推進委員会においては、「2020 年に向けた 我が国の宇宙開発利用の方向性について」という検討を行い、その中の一つのテーマとし て「軌道上ロボット利用」が提案された。その中では、「デブリ回収(除去)・処理」「大型 インフラ建設(ex 太陽発電衛星)支援ツール」 「軌道上衛星の延命/軌道上燃料補給」「未 踏地への探求支援(月面ローバ)ツール」の4つの分野のプロジェクトに整理し、先ずは、 最も急ぐと思われる「デブリ除去処理」の実証プロジェクトを優先し、残り3つのプロジ ェクトをその延長線上で捉えることで、全てを効率よく開発させるとした。 更に、2006 年度と 2007 年度の本委員会においては、「デブリ除去処理」に関する検討を 深めるため、 「デブリ除去処理の一連のシーケンス設計・検討」「処理システムの設計・検 討」等の技術的側面、及び「それを実施する組織の検討」 「実施するための法的検討」等の 事業的側面の両面の検討を行い、このプロジェクトを実現させるために必要なアクション を7つ整理した。 このプロジェクトの提案をしてから、既に、10 年程が過ぎた。上記の 7 つのアクション、 確かに動きはあるものの、進み具合は、未だ、芳しいものとなっていない。一方、海外の この関連のプロジェクトの動きは、最近、特に活発化して来ている。 そこで、今回、特に、「軌道上デブリ状況」「日本の関連する技術開発状況」、「海外の関 連する技術開発状況」「デブリ除去の事業化検討」等についての現状を再整理することにし た。 この検討を開始した 2004 年当時では、地上から観測出来る or 観測している 10cm 以上 のデブリは約 10,000 個であったものが、2012 年時点では約 16,000 個までになり、軌道が 公表されていない物体も含めれば約 22,000 個となっていると言う。この間には 中国 ASAT 実験、衛星同士の衝突(米イリジウム衛星&露コスモス衛星)があったが、8 年間と いう短い期間での異常な増加である。そして、このような大きな衝突があると NASA 標準 破砕モデルで考えた場合、10cm 級デブリが 2,000~3,000 個レベル、1cm 級デブリが数十万 個レベル、1mm 級デブリが数百万個レベルで、新規に発生していると考えられる。そして、 これらのデブリは宇宙空間で高速に飛翔しているということから、1mm 級レベルよりも小 さい数百μ級のデブリであっても、クリティカル部位に衝突すればミッション遂行が危ぶ まれるレベルとなる。このことは、このような衛星同士の衝突が起こるようなことが一度 でもあると、その後の宇宙空間における衛星ミッションの遂行上のリスクは非常に大きく なるという現実を示している。 一方、「この軌道上デブリは、本当に増殖して行くのだろうか?」とういうことについて の検討結果がある。これは、有名な「ケスラーシンドローム(自己増殖)」現象であるが、 2011 年、世界の宇宙関連の 6 機関(ASI、UKSA、ESA、ISRO、NASA、JAXA)で同一 条件でのシミュレーション解析を実施し、「今後の打ち上げについてデブリ低減対策が取 i られたとしても衝突等によりデブリは増殖する。」という結論で一致した。また、ロシアに おいても同様な検討を行い、「デブリは増殖する。そして、特に、地上から観測出来ない微 小デブリの増加は非常に大きい。」という結果となった。 上記に述べた事実 ◆ 今後の打ち上げについてデブリ低減処置を行ってもデブリは増殖する ◆ 一旦、衝突等が起こると、デブリは増殖するが、特に、地上から観測出来ないレベル(観 測できるというレベルは 10cm 級)のデブリ増加は非常に大きい ◆ かなり小さいレベル(数百μレベル)のデブリであっても、衝突すると、部位によって は衛星ミッションの遂行が不可能というレベルに成り得る ◆ 衝突等で破砕された後のデブリは広がりも大きく、広がった後にそれらを除去しようと しても難しい ということから、継続して宇宙空間を利用するのであれば、デブリ増殖と成らない適切な 割合で軌道上デブリを除去することを考えねばならない。これについての検討が各国で進 んでいるが、例えば、5 機/年、10 機/年というようなオーダである。 一方、ここで軌道上デブリ分布を考えると、地球観測等に相応しい軌道が偏っているこ とから、軌道高度や軌道傾斜角等一部に集中して存在している。このことから、ひとつの デブリ除去衛星で複数のデブリ除去を行う仕組みも考え得る。また、一機で一機を除去す る方法もシステム規模からすれば簡素化できるメリットもある。この辺りは、デブリ除去 を運営する機関組織をどうのように造るのか、コスト的に有利なのはどちらなのか等々で 決定されるものと考える。 運営する機関としては 宇宙空間利用に関する事柄であり、国際的な調整機能が必要で あると考える。従って、今回の検討では、総合的・基本的考え方を国連宇宙空間利用委員 会で議論し、こことの連携を図りつつ、このデブリ除去が実施できる世界的な公共事業体 組織(ここでデブリ除去事業を実施する)を造るか、または、中心的な調整機能等が出来 る部分のみがある団体を造り、そこから、適宜、別途設立したデブリ除去会社に委託され る等々の案が検討された。また、このための事業資金は、今後宇宙を利用する国々から、 例えば打上げる重量・寸法・コスト、デブリインデックス(デブリになり易さの指標)等 に依存して徴収する、尚、各国の中でどのように資金徴収をするのかについてはその国に 任す等々検討された。 我が国においては、いち早く、宇宙基本法(2008 年 8 月施行)の中で、宇宙環境保全の 重要性を唱え、この基本計画の中でこの関連技術開発の必要性を述べた。また、海外(米国) においても、少し経って、2010 年 6 月のオバマ大統領宣言「米国国家宇宙政策」の中で、 デブリ低減措置の強化が明文化された。 一方、これに必要となる基本技術「無人で二つの衛星間のドッキングを行い、軌道上作 業を行う(無人ロボット&ランデブドッキング機能)」、については、日本は、1997 年に ETS-VII として軌道上実証を成功させた。また、米国においても、ETS-VII から 10 年の年 ii 月を経て、2007 年に Express として軌道上実証を成功させた。尚、今後、この技術を基本 に、更なる開発、例えば協力作業(結合を前提に造られたもの同士で結合させる場合の作 業)から非協力作業(結合を前提に造られたものでない同士で結合させる場合の作業)へ の発展等、を行う必要はある。また、軌道上にある寿命の尽きた衛星の軌道を落とす軌道 変換機能の開発も行う必要である。 上述したように、デブリ除去問題への取組みについては、日本は いち早くスタートを 切った。また、この検討初期から、継続ある事業となるための検討、即ち、ビジネスモデ ルの検討も行って来ている。しかし、我が国の進む速度は遅く、後ろからの足音は、次第 に大きくなって来ている。 ここで、もう一度、7 つのアクションの必要性を再認識し、その実行を加速する必要があ る。 7 つのアクションとは、 ① デブリ除去の必要性に関する一般論への浸透 ② 日本国発信の国連宇宙空間平和委員会への提言 ③ 日本国発信による国際標準の制定促進とビジネスモデル化 ④ 日本国における宇宙環境保全機関の設置 ⑤ 日本国によるデブリ除去衛星の実証 ⑥ 日本国として考えるデブリ観測 ⑦ 下支えシンクタンクの提案と①~⑥の具体化 である。 そして、このプロジェクトの遂行は、冒頭でも触れた 2004 年度委員会で検討した他ロボ ットミッションへの利用に繋がって行く。 宇宙活動を継続することを決めた人類、このためには必ず必要となることが分かった軌 道上にあるデブリの除去、そしてその技術的実現性もほぼありそうであるという結果が出 たデブリ除去事業・・・そうであれば、「残された最終的な技術的検討の詰め」「残された 国際的協力体制の構築」 、そして実際にやって見せるという「軌道上実証」を日本主導で行 うことで、これを日本の重要な宇宙産業事業の一つに育て上げたい。これは、宇宙基本法 の精神に合致した行為そのものである。 平成 25 年 3 月 次世代宇宙プロジェクト推進委員会 iii 目 次 序 1 軌道環境の状況と世界のスペースデブリ対策 .................................................................. 1 1.1 軌道環境の状況 .......................................................................................................... 1 1.1.1 概要...................................................................................................................... 1 1.1.2 デブリの衝突被害 ................................................................................................ 6 1.1.3 軌道環境の将来予測............................................................................................. 7 1.1.4 デブリの発生原因と対策の基本 ........................................................................... 7 1.1.5 軌道上破砕の内訳 .............................................................................................. 10 1.1.6 今後の動向 ......................................................................................................... 12 1.2 各国のスペースデブリ対策の動向 ............................................................................ 14 1.2.1 調査内容 ............................................................................................................ 14 1.2.2 国際機関におけるスペースデブリ対策に関する活動......................................... 14 1.2.3 世界各国におけるスペースデブリ対策に関する活動......................................... 19 2 スペースデブリとの衝突の回避に向けて........................................................................ 40 2.1 分布状況把握 ............................................................................................................ 40 2.2 接近解析 ................................................................................................................... 40 2.2.1 軌道決定の評価 .................................................................................................. 41 2.2.2 接近解析 ............................................................................................................ 41 2.2.3 衛星側の条件 ..................................................................................................... 41 2.2.4 衝突回避への作業移行判定 ................................................................................ 42 2.3 衝突回避 ................................................................................................................... 43 2.4 標準化活動 ............................................................................................................... 44 3 スペースデブリ除去 ........................................................................................................ 46 3.1 スペースデブリ除去の必要性 ................................................................................... 46 3.2 JAXA のスペースデブリ除去システムの開発状況 .................................................... 49 3.2.1 JAXA が想定しているデブリ除去の前提 ........................................................... 49 3.2.2 デブリ除去衛星 .................................................................................................. 52 3.3 EDT によるデブリ除去ロボットのモデル ................................................................ 59 3.3.1 デブリ処理対象衛星の選定・接近・取り付け ................................................... 59 3.3.2 デブリ除去衛星(案) ....................................................................................... 64 3.4 海外のスペースデブリ除去技術の開発動向 ............................................................. 69 3.4.1 調査内容 ............................................................................................................ 69 3.4.2 各国のスペースデブリ除去の開発動向 .............................................................. 69 3.4.3 63nd International Astronautical Congress (IAC2012) での関連論文/発表 . 92 3.5 我が国のデブリ除去ロボットの開発・事業化について.......................................... 104 3.5.1 基本的な考え方 ................................................................................................ 104 3.5.2 スペースデブリ除去ロボットの技術開発 ........................................................ 105 3.5.3 我が国のスペースデブリ除去ロボットの研究開発ロードマップ ..................... 109 3.5.4 我が国のスペースデブリ除去ロボットの事業化・民営化へのアプローチ ...... 110 3.5.5 デブリ除去事業の運転資金 .............................................................................. 111 3.5.6 デブリ除去の国際的な枠組み案 ....................................................................... 112 3.5.7 デブリ除去事業化に向けての提言 ................................................................... 121 4 スペースデブリ除去ロボット技術の他ミッションへの応用 ......................................... 125 4.1 海外におけるデブリ除去ロボットの他のミッションへの転用例 ........................... 125 4.1.1 調査概要 .......................................................................................................... 125 4.1.2 NASA の軌道上サービス関連研究開発 ............................................................ 125 4.1.3 DARPA の Orbital Express Mission ............................................................... 130 4.1.4 DLR の DEOS プロジェクト ............................................................................ 130 4.1.5 MDA 社の SIS(Space Infrastructure Servicing) ........................................ 130 4.1.6 衛星の寿命延長サービス ................................................................................. 132 4.1.7 DARPA の「Phoenix」計画 ............................................................................. 134 4.2 スペースデブリ除去ロボット技術の他のミッションへの応用 ............................... 136 4.2.1 デブリ除去技術の将来宇宙ミッションへの展開 .............................................. 136 4.2.2 スペースデブリ除去技術の他のミッションへの応用例 ................................... 139 5 まとめ ........................................................................................................................... 143 付録資料 軌道環境の状況と世界のスペースデブリ対策 1 1.1 1.1.1 軌道環境の状況 概要 1957 年に人類が宇宙へのアクセスを開始して以降、毎年衛星やロケットが軌道に投入さ れ、その中の多くの物体が数十年間軌道に滞在し続ける。それに加えて衛星やロケットの 破砕事象により多量の破片が発生している。発生したこれらデブリの数量は自然に落下す る数量を凌ぐのでこれらデブリは増加し続ける。図 1.1-1は米国が地上から観測し、軌道を 公表している物体の毎年の増減を示すものである。2006 年の意図的破壊行為や 2007 年の 衛星衝突事故の際に顕著なデブリの発生が認められる。これらを観測している米国 SSN の レーダ、望遠鏡設備について表 1.1-1に、参考に関連する欧州・日本の地上観測設備を表 1.1-2及び表 1.1-3に示す。 出典: 「スペースデブリの発生とその対策」、加藤明/JAXA、第9回宇宙環境シンポジウム、平成 24 年 11 月5日 図 1.1-1 地球周回物体の毎年の発生と消滅状況 2012 年時点でこのような増減が繰り返された結果、地上から観測できて発生源が明確で 軌道が特定されているものだけでも 16,000 個(軌道が公表されていない物体も含めれば 22,000 個)が蓄積されている。その様子が、図 1.1-2の NASA デブリオフィスの集計(公 表されているもののみ)に表れている。 地上から観測・軌道決定できない小さな物体も含めると、1 ㎝以上のデブリは 50~70 万 1 個程度、1 ㎜以上だと 1 億個以上と言われている。 (総数) (破砕デブリ) イリジウム・コスモス衝突 (衛星) (ミッション関連デブリ) コスモス2421爆発 (ロケット機体) 中国ASAT実験(風雲1号C) 出典: NASAデブリオフィス季報、2012年1月、SSN(宇宙監視網)カタログ・デブリ 図 1.1-2 軌道上物体の推移 低軌道帯での軌道高度に対応した宇宙物体の分布を図 1.1-3に示す。同図は 2009 年 5 月 の高度 2,000km 以下の領域での宇宙物体の分布を表している。 Low Earth Orbit Height Distribution - May 2009 700 総数 600 物体数(20km毎) Number of Objects (per 20 kmbin) Catalog Objects Fengyun-1C Debris Iridium 33 & Cosmos 2251 Debris 500 イリジウム33/ コスモス2251 400 風雲1C 300 200 100 0 0 200 400 600 800 1000 1200 1400 Mean Equatorial Height (km) 平均高度(km) 図 1.1-3 宇宙物体の高度分布 2 1600 1800 2000 NASA 表 1.1-1 SSN のレーダ・望遠鏡観測施設 出典:JAXA 資料(※施設外観図の出典については章末に記載) 3 表 1.1-2 欧州・日本のレーダ観測施設 出典:JAXA 資料(※施設外観図の出典については章末に記載) 4 表 1.1-3 欧州・日本の望遠鏡観測施設 出典:JAXA 資料(※施設外観図の出典については章末に記載) 5 1.1.2 デブリの衝突被害 デブリの危険性は特に有人宇宙飛行では無視できず、衝突対策無しでは実現できない 程になっている。シャトルの窓ガラス交換枚数の増加は、1992 年までの 44 回の飛行で 23 枚、それ以降の 43 回の飛行で 76 枚交換である。また、ISS が回避マヌーバを行った例が 2012 年末までに 16 回に上る。 かつては一般の無人衛星については、デブリが与えるリスクは大きくはないとの認識が 一般的であったが、フランスの CERISE(軍事観測衛星)が 1996 年 7 月 24 日にアリアン ロケットの爆発破片と衝突した事故を始めとして、2007 年の米ロ衛星の衝突が一般には良 く知られているが、微小なデブリとの衝突はハッブル宇宙望遠鏡、その他 LDEF、SFU 宇 宙曝露実験において多数観測されている。 デブリは低軌道では秒速 7~8 ㎞で地球を周回しているため、宇宙機には秒速 10~15 ㎞ もの超高速で衝突することになる。そのため 1 ㎝以上のデブリが衝突すると宇宙機に壊滅 的な被害を与えるとされ、数百μm のデブリでも、ハーネス等衝突場所によってはミッシ ョン終了につながる被害を与える可能性がある。 これまで 4 回(1991 年、1995 年、2001 年、2009 年)カタログ化物体同士の衝突が発 生し、衝撃を受けて軌道が変化する、デブリを発生する等、微小物体の衝突が疑われる事 例、宇宙機の故障はさらに多数発生している。デブリの増加が宇宙開発における大きな問 題と認識されて以来、日本他各国のスペースデブリ発生防止標準、国連や IADC(Inter-Agency Space Debris Coordination Committee:国際機関間スペースデブリ調 整会議)のスペースデブリ低減ガイドラインの制定により、2000 年頃よりデブリの増加は抑 えられていたかに見えていたが、2007 年の中国の衛星破砕実験、2008 年のロシアロケット の爆発事故、2009 年のイリジウム・コスモス衝突事故等が相次ぎ、その数は再び急増して いる。 デブリが軌道上の衛星等に衝突する頻度は軌道特性(高度、傾斜角度)や衛星等の形状 特性に依存する。図 1.1-4は NASA の解析ツール(Debris Assessment Software-2)にて 求めたもので、単位面積当たりの毎年の衝突数を軌道高度に沿って示したものである。 衝突の被害モードは、10cm 以上のデブリでは衛星は粉砕し、1cm 以上では致命的な不具 合を起こし、1mm 未満でも脆弱な機器に衝突すれば貫通し、時には内部発力による破裂を 引き起こすことになる。 このように現状では軌道環境の保全と同様に衛星のミッション保証のためにもデブリ対 策が必要な状況である。 6 出典:「スペースデブリの発生とその対策」、加藤明/JAXA、第9回宇宙環境シンポジウム(2012.1.05) 図 1.1-4 軌道高度毎のデブリ衝突頻度 1.1.3 軌道環境の将来予測 デブリの減少要因はごく少数の回収を除けば空気抵抗による自然落下のみであり、衝突 による増加率と減少率が釣り合う臨界密度を超えてデブリが存在すると、それ以上物体を 投入しなくても、軌道上にあるデブリ同士の衝突によりデブリの数が増加していく。この 自己増殖(ケスラーシンドローム)が低軌道、特に 700~1,000 ㎞付近、1,500 ㎞付近の混 雑軌道ではすでに開始していると考えられている。実際 2009 年に高度約 790 ㎞で発生した イリジウム・コスモスの衝突事故は初の宇宙機同士の壊滅的衝突であり、2,000 個以上のカ タログ化デブリを発生させたが、今後も 5 年から 10 年に一度、このような壊滅的衝突が発 生すると予測されている。自己増殖が開始している場合、今後打上げる宇宙機のデブリ発 生低減(mitigation)だけではデブリの増加を食い止めるには不十分で、唯一の解決方法は 環境改善(remediation)、すなわちデブリ除去(Active Debris Removal, ADR)である。 イリジウム・コスモスの衝突事故を受けて、世界ではデブリ除去の必要性、緊急性の認識 が急速に高まり、近年さまざまな動きがみられる。 1.1.4 デブリの発生原因と対策の基本 軌道上物体の構成割合を図 1.1-5に示す。これは ESA が 2011 年 2 月の国連宇宙空間平 和利用委員会(COPUOS)/科学技術小委員会(STSC)会合に報告した数値をベースに 作成したものである。 7 デブリ対策はこれら発生原因毎に必要になる。例えば破砕破片については意図的な破壊 行為の禁止や爆発事故の防止、放出部品については放出しない設計を推奨すること、衛星 やロケットの残骸については運用終了後に所定の期間内に有用な軌道から排除されるよう に管理することが望まれる。このような考えが世界のデブリ規制のベースになっていると 考えてよいであろう。 表 1.1-4は世界の主なデブリ規制文書の要求事項の一覧である。 IADC ガイドラインは先進国宇宙機関が合意したものとしては初めてのガイドラインで ある。これが国連ガイドラインのベースとなっている。 出典:「スペースデブリの発生とその対策」、加藤明/JAXA、第9回宇宙環境シンポジウム(2012.1.05) 図 1.1-5 軌道物体の構成状況 8 表 1.1-4 世界のデブリ発生防止規定 出典:「スペースデブリの発生とその対策」、加藤明/JAXA、第9回宇宙環境シンポジウム(2012.1.05) 国際標準化機構(ISO)も ISO-24113「スペースデブリ低減要求」を制定している。JAXA は 2011 年にそれまでの JMR-003A「スペースデブリ発生防止標準」を B 改訂してこの ISO 規格を包含した要求としている。ISO ではこの ISO-24113 規格の他に図 1.1-6に示す多く のデブリ関連規格を制定中である。しかし、これらの規格の中には単に上位規格の内容を 繰り返すだけのものもある。現在、これらすべての規格を包含した解説書として日本提案 による「デブリ環境下での宇宙機設計・運用マニュアル」の審議が進められている。この 解説書によればシステム設計者、各サブシステムの設計者が、開発ライフサイクルの中で 何をすべきか把握できる。 9 出典:「スペースデブリの発生とその対策」、加藤明/JAXA、第9回宇宙環境シンポジウム(2012.1.05) 図 1.1-6 1.1.5 ISO におけるデブリ関連規格 軌道上破砕の内訳 デブリの発生原因で最も大きな要因である軌道上破砕事象を少し詳しく見るために、図 1.1-7を示す。軌道上物体の 64%が破砕破片となっているが、図 1.1-7はその破片の発生源 について分類したものである。意図的破壊、運用終了後のロケット推進系の爆発、不具合 による破砕が三大原因である。 図 1.1-8は破砕したロケット・衛星が打ち上げられた年と破砕を発生させた年の関係を示 したものである。最も多い意図的破壊は 1964 年から 2008 年迄米ロを中心に実施されてき たが、基本的には 1993 年でほとんど終了している。2007 年の中国とそれに引き続く 2008 年の米国の破壊は冷戦とは別の枠でとらえるべきである。 将来予測としては冷戦構造の終結を考えれば意図的な破壊は今後は起きそうもない。中 東あるいはアジア地域で新たな宇宙軍拡が繰り返される懸念がないとは言えないが、国連 勧告が次第に整備されてきている現在、かつての頻度での繰り返しはないものと期待した い。 10 出典:「スペースデブリの発生とその対策」、加藤明/JAXA、第9回宇宙環境シンポジウム(2012.1.05) 図 1.1-7 破片の発生数による発生原因の分布(破片発生数が 10 個以上のイベント) 出典:「スペースデブリの発生とその対策」、加藤明/JAXA、第9回宇宙環境シンポジウム(2012.1.05) 図 1.1-8 破片を発生したロケット・衛星が打ち上げられた年と破砕を発生させた年 推進系の爆発事故は酸化剤と燃料が共通隔壁で仕切られた構造のロケットで多発したも のである。近年ではタンクの分離化が進められているか、残留推進薬の排出が勧告されて おり、この種のロケットの新たな打上げは先進国に関しては多くは無いと考えられる。新 11 規参入者にこの経験が継承されなければ再発の恐れはある。 三大原因の最後の不具合については、図 1.1-9に示すように 21 世紀になって世界の衛星打 上げ総数が半減したにも関わらず不具合発生数は減少していない。不具合数がそのまま破 砕数ではないがバッテリ、推進系の不具合は破砕に結びつきやすい。 これも新規参入者が不十分な技術・品質管理で繰り返さないことが重要である。 以上の対策がとられれば、図 1.1-7で 11%を占める衝突事故が今後の支配的デブリ増加要 因となることが予想される。 出典:「スペースデブリの発生とその対策」、加藤明/JAXA、第9回宇宙環境シンポジウム(2012.1.05) 図 1.1-9 1.1.6 毎年の不具合発生数とサブシステム分類 今後の動向 デブリの発生防止については過去の反省の下に、国連、IADC、ISO 等国際機関でガイド ラインや規格が制定され、今後の衛星国際調達や打上げサービスに適用されることで徹底 されることが期待できる。今後、衛星調達市場ではデブリ対策が徹底されているか否かで 差別化が進み、この流れに乗れない衛星メーカは脱落の方向に追いやられることになろう。 このような楽観的な観測の一方、現在のデブリ低減規格が品質・信頼性のベースとなる管 理手法については当然のこととしてほとんど言及していないことが懸念される。この意味 で今後宇宙開発に参入してくる国あるいは企業、大学などが不具合による破砕を発生させ 12 てくる可能性は否定できない。新規参入者が、先進諸国が蓄積してきた経験・技術を如何 に継承できるかが今後の動向を左右すると考えられる。この意味で、国際規格を発行する ISO 等の貢献が期待される。 以上の対策が進んだとしても既存の衛星やロケットの残骸同士が衝突して多量のデブリ を発生することは防げない。IADC ではこれらの大型の廃棄物同士の衝突は 4~9 年に1回 発生すると予測している。これを改善に結びつけるためにはデブリの除去が必要になる。 この必要性の議論は 3 章に引き継ぐ。 13 1.2 各国のスペースデブリ対策の動向 調査内容 1.2.1 本項では軌道衝突にはこだわらず、広く世界のデブリ対策動向について解説する。 国際的な機関である IADC(Inter-Agency Space Debris Coordination Committee:国際 機関間スペースデブリ調整会議)、UNCOPUOS(United Nations Committee on the Peaceful Uses of Outer Space:国連宇宙空間平和利用委員会)等のスペースデブリに関す る最新の活動状況を調査した。また、米国、カナダ、欧州、ロシア、中国において実施さ れているスペースデブリ対策に関する活動内容や検討状況についても調査を行った。さら に各国の宇宙政策において、スペースデブリ対策がどのように位置づけられているかにつ いて整理した。 調査に当たっては、極力最新の情報を盛り込むように留意し、2012 年の資料を中心とし た 2010 年以降の資料を調査対象とした。また、ガイドラインや行動規範の内容ではなく、 特に ADR(Active Debris Removal)をキーワードとし、具体的に実施しているデブリ対 策の内容等に焦点を当てた。 国際機関におけるスペースデブリ対策に関する活動 1.2.2 1.2.2.1 (1) IADC(国際機関間スペースデブリ調整会議)における活動内容 組織の概要 IADC とは NASA と欧州、ロシア、日本の宇宙機関との協力を経て、1993 年に宇宙機関 間の情報交換、協議体として設置された。現在、世界 12 機関(中国、フランス、ドイツ、 インド、イタリア、日本、ロシア、ウクライナ、イギリス、米国、カナダ、ESA の宇宙開 発を所管する部局)からの代表者が参加している。 IADC の任務としては、以下に示すものが掲げられている。 1) スペースデブリに関する研究活動の情報交換を行うこと 2) スペースデブリに関する研究の協力の機会を促進すること 3) 実施中の協力活動の進展状況をレビューすること 4) スペースデブリ低減のための選択肢を明らかにすること (2) デブリ対策に関する主要な活動内容 2002 年 に 「 スペ ース デ ブリ 低減 ガ イド ライ ン 」( IADC Space Debris Mitigation Guidelines)を採択し、宇宙物体の設計・製造時、打上げ時、運用中、機能終了後などのす べての期間に亘り、宇宙活動国のとるべき行為の標準を示した。後述する UNCOPUOS(国 連宇宙空間平和利用委員会)において後に採択される「スペースデブリ低減ガイドライン」 は、この IADC のガイドラインをベースとしている。 近年では、新たな議題としてデブリ環境改善の検討がスタートしている。 14 (3) IADC の組織と各グループの活動内容 IADC には、ステアリング・グループ(SG)と 4 つのワーキング・グループ(WG)が 組織されている。 「WG1:観測(Measurements)」では、LEO と GEO におけるデブリ環境の国際共同観 測キャンペーンを行う。観測は主に LEO についてはレーダー、GEO については光学装置 を使用する。観測結果については、デブリ環境モデルの校正、センサ技術の向上、運用中 の観測システムの検出限界以下のデブリ数の確認のために使用される。図 1.2-1に IADC の 観測に使用されている 2 つのレーダーステーションの写真を示す。 「WG2:環境&データベース(Environment & Data Base)」では、地球近傍のメテオ ロイド及びデブリに関して、短期および長期の宇宙デブリ環境予測、衝突リスク評価、宇 宙空間における衝突と爆発モデルの開発、非制御物体のリエントリー予測等を行う。 「WG3:保護(Protection)」では、「Protection Manual」の維持を行い、デブリとメテ オロイドの衝突の影響を判定する手法(例:衝突による宇宙機の損傷についての式やソフ トウェア)の比較及び妥当性評価等を行う。また、宇宙機保護のためのガイドラインの策 定も行っている。 「WG4:低減(Mitigation)」では、 「IADC Space Debris Mitigation Guidelines」の維 持を行っている。 出典:”An overview of the Inter-Agency Space Debris Coordination Committee scope and its activities” (IADC)(UNCOPUOS 48th STSC ) (Feb 2011) 図 1.2-1 IADC の観測に利用されているレーダーステーションの例 (左:Haystach(米国) 、右:TIRA(独) ) 15 これらのグループにより、IADC では、現在以下に示すような活動を継続して実施してい る。 <IADC の現在の活動内容> 「Mitigation Handbook」と「Protection Manual」の改訂(リビング・ドキュメ • ント) • 将来の長期にわたるデブリ数の変遷に関する研究 • 再突入リスク判定基準 • LEO と GEO の観測(光学およびレーダー観測キャンペーン) • 新しいデブリ数の調査 • 衝突時エジェクタの特性評価 など 1.2.2.2 (1) UNCOPUOS(国連宇宙空間平和利用委員会)における活動内容 組織の概要 1959 年開催の第 14 回国連総会は「宇宙空間の平和利用に関する国際協力」と題する決 議を採択し、COPUOS(Committee on the Peaceful Uses of Outer Space)を常設委員会と して設置した。 COPUOS は、宇宙空間の研究に対する援助、情報の交換、宇宙空間の平和利用のための 実際的方法及び法律問題の検討を行い、これらの活動の報告を国連総会に提出することを 任務としている。現時点の構成国は日本を含む 74 か国である。 COPUOS の下には、科学技術小委員会(STSC)と法律小委員会が設置されている。本 委員会は年 1 回、ウィーンで開催される。STSC は毎年 2 月に開催される。 STSC の近年の主な議題としては、宇宙活動の長期的持続性、デブリに関する技術的検討、 自然災害管理、リモートセンシングの利用、原子力電源(NPS)の利用に関する技術的検 討等が挙げられる。 (2) デブリ対策に関する主要な活動内容 2007 年 2 月、前述の IADC「スペースデブリ低減ガイドライン」をベースとして、科学 技術小委員会において「スペースデブリ低減ガイドライン案」を起草し、2007 年 6 月に COPUOS 本委員会でこれを採択し、2007 年 12 月の国連総会で「スペースデブリ低減ガイ ドライン」を決議した。国連ガイドラインは、以下の 7 つのガイドラインから構成されて いる。 ① 正常な運用中に放出されるデブリの制限、 ② 運用段階での破砕の可能性の最小化、 16 ③ 偶発的な軌道上衝突確率の制限、 ④ 意図的破壊およびその他の有害な活動の回避、 ⑤ 残留エネルギーによるミッション終了後の破砕の可能性の最小化、 ⑥ 宇宙機やロケット軌道投入段がミッション終了後に低軌道に長期に留まることの制 限、 ⑦ 宇宙機やロケット軌道投入段がミッション終了後に静止軌道に長期に留まることの 制限。 国連ガイドラインは加盟国間の自主規制ルールであるが、国連ガイドラインや IADC ガ イドラインに適合するように、各国の宇宙機関において、デブリ低減のためのガイドライ ンを制定しているのが実状である。 (3) COPUOS の組織 2010 年、科学技術小委員会の下に「宇宙活動の長期持続性ワーキング・グループ」が設 立された。2011 年、さらにその下に以下の 4 つの専門家会合が設けられた。、東北大学の小 原隆博教授が Expert Group C「宇宙天気」の議長に就任中である。 • Expert Group A:Expert group on sustainable space utilization supporting sustainable development on Earth(地上の持続的発展のための宇宙利用) • Expert Group B:Expert group on space debris, space operations and tools to support collaborative space situational awareness(デブリ/宇宙運用/宇宙状況認 識) • Expert Group C:Expert group on space weather(宇宙天気予報) • Expert Group D:Expert group on regulatory regimes and guidance for actors in the space arena(規制体制/新規参入者) 図 1.2-2に COPUOS における宇宙活動の長期的持続性検討体制を示す。 17 東北大 小原隆博氏 が会合議長 出典 : http://www.mofa.go.jp/mofaj/press/pr/wakaru/topics/vol85/index.html 図 1.2-2 1.2.2.3 COPUOS のデブリ対策検討体制(外務省 H.P を基に作成) ISO(国際標準化機構)におけるデブリ関連規格制定に関する動き ISO は COPUOS の勧告を実際の宇宙機・運用に適用できるようブレークダウンし、実効 性を持つ「規格」にすることが役割である。 ISO の航空機宇宙機技術委員会宇宙システム分科会において、デブリ発生防止のための 宇宙機・ロケットの設計・運用方法の規格(ISO-24113)を定めている。ISO の活動の詳細 については2.4節、ISO の規格については、1.1.4項を参照のこと。 18 世界各国におけるスペースデブリ対策に関する活動 1.2.3 1.2.3.1 米国 国家宇宙政策上のデブリ対策の位置づけ (1) 初めに、米国国家の宇宙政策の中でデブリ対策がどのように位置づけられいてるかにつ いて調査を行った。 (a) 米国国家宇宙政策(National Space Policy) 2010 年 6 月 28 日にオバマ大統領は「米国国家宇宙政策」を発表した。14 ページの同文 書の本文は序文(Introduction)、原則(Principles)、目標(Goals)、部門間ガイドライン (Intersector Guidelines)、部門別ガイドライン(Sector Guideline)により構成されてい る。 「目標(Goals)」の中の一つとして「宇宙の安定性の強化」を掲げており、その中の具 体的な項目の 1 つとして「デブリ低減措置の強化」が示されている。デブリに該当する部 分を中心に「目標(Goals)」に示された事項を以下に示す。 目標(Goals) 米国は、国家宇宙プログラムにおいて原則に基づき以下の目標を追及する。 • • • • • • 競争力がある国内産業を活性化する。 国際協力を拡大する 宇宙における安定を強化する。(原文:Strengthen stability in space) 宇宙における安全で責任ある運用を促進するための国内的・国際的な手法、宇宙 物体衝突防止のための情報の収集と共有の促進、特に重要な宇宙・情報システム の相互依存性に留意した重要な宇宙システムと支援基盤の保護、軌道上デブリの 低減手段の強化を通して宇宙における安定を強化する。(原文:domestic and international measures to promote safe and responsible operations in space; improved information collection and sharing for space object collision avoidance; protection of critical space systems and supporting infrastructures, with special attention to the critical interdependence of space and information systems; and strengthening measures to mitigate orbital debris) 本質的任務機能の確実性・信頼性を増加させる。 有人及びロボットイニシアチブを追求する。 宇宙に基盤を置く地球及び太陽系の観測を改善させる。 「部門間ガイドライン(Intersector Guidelines)」の中では、「宇宙環境の保護と責任あ る宇宙利用」と題する章があり、この中で短期及び長期にわたるスペースデブリ低減策を 述 べ て い る 。 デ ブ リ に 該 当 す る 部 分 を 中 心 に 「 部 門 間 ガ イ ド ラ イ ン ( Intersector Guidelines)」に示された事項を以下に示す。 19 部門間ガイドライン(Intersector Guidelines) • • • • • • • 基盤的な活動・能力 国際協力 潜在的な国際協力分野の同定(有人宇宙飛行、原子力電源、宇宙輸送、デブリモ ニタリングと認識のための宇宙監視、ミサイル警戒、地球観測、環境監視、衛星 通信。衛星測位、地理空間情報、災害被害低減と復旧支援、探索・救助活動、海 事利用、長期の宇宙環境の保護など)(原文:Departments and agencies shall identify potential areas for international cooperation that may include, but are not limited to: space science; space exploration, including human space flight activities; space nuclear power to support space science and exploration; space transportation; space surveillance for debris monitoring and awareness; missile warning; Earth science and observation; environmental monitoring; satellite communications; GNSS; geospatial information products and services; disaster mitigation and relief; search and rescue; use of space for maritime domain awareness; and long-term preservation of the space environment for human activity and use.) 宇宙環境の保護と責任ある宇宙利用 宇宙環境の保護(原文:Preserve the Space Environment) 国連宇宙デブリ低減ガイドラインのような、デブリを最小化するための国際 /業界標準やポリシーの継続的開発や採択をリードしていく。(原文:Lead the continued development and adoption of international and industry standards and policies to minimize debris, such as the United Nations Space Debris Mitigation Guideline) 宇宙機の調達、運用、打上げサービス、宇宙実験や実証に関して、費用対効 果とミッション要求が合致するように「米国政府の宇宙デブリ削減標準活動」 に従う。(原文:Continue to follow the United States Government Orbital Debris Mitigation Standard Practices, consistent with mission requirements and cost effectiveness, in the procurement and operation of spacecraft, launch services, and the conduct of tests and experiments in space) NASA 長官と国防長官を通じて、軌道上デブリの低減と除去、ハザード減少、 現在と将来のデブリ環境の理解増進のための研究と技術開発を推進する。 (原文:Pursue research and development of technologies and techniques, through the Administrator of the National Aeronautics and Space Administration (NASA) and the Secretary of Defense, to mitigate and remove on-orbit debris, reduce hazards, and increase understanding of the current and future debris environment) 「米国政府の宇宙デブリ削減標準活動」の例外を承認して、国務長官に通知 する支援部門や機関の長が必要である。(原文:Require the head of the sponsoring department or agency to approve exceptions to the United States Government Orbital Debris Mitigation Standard Practices and notify the Secretary of State) 宇宙衝突警戒のための方策の検討(宇宙物体データベースの維持・強化、データ の国際標準・統合方策の追求、宇宙物体捕捉情報に関するサービスの提供) 効果的輸出政策 宇宙原子力電源 周波数帯域と干渉からの防護 ミッションに不可欠な機能の保証性・弾力性 20 「部門別ガイドライン(Sector Guideline)」の中の「国家安全保障宇宙政策」において はデブリという単語は記されていないが、正確で適時な宇宙状況認識を実現するため、国 防総省と国家情報官が協力して宇宙監視や他の収集した情報の維持・統合などを行う、と している。「部門別ガイドライン(Sector Guideline)」に示された事項を以下に示す。 部門別ガイドライン(Sector Guideline) 商業宇宙政策 民生宇宙政策 国家安全保障宇宙政策 国防総省と国家情報官は、協力して以下を実施する。 国家安全保障を支え、平時・危機時・紛争時に防衛・情報収集を可能とする宇宙 システムとネットワークの開発・運用 正確で適時な宇宙状況認識を実現するため、宇宙監視や他の収集した情報の維 持・統合など • • • (b) 国防総省「国家安全保障宇宙戦略」 米国国防総省が発表した「国家安全保障宇宙戦略(National Security Space Strategy)」 (2011 年 1 月)では、宇宙空間の過密化や紛争を懸念し、宇宙状況認識(SSA:Space Situational Awareness)能力の向上、宇宙物体の近接の予測機能強化などを図ることを目 標に掲げている。 (2) 米国内のデブリ対策関連機関 米国内でデブリ対策を実施している主な機関としては、JSpOC(Joint Space Operations Center:米国戦略軍の統合宇宙作戦センター) 、空軍、NASA、DARPA(Defense Advanced Research Projects Agency:米国国防高等研究計画局)等がある。以下に、各機関が実施し ている主なデブリ対策の内容を示す。 (a) JSpOC 米国では、米国戦略軍の JSpOC(Joint Space Operations Center:米国戦略軍の統合宇 宙作戦センター)が SSA の中心的な役割を果たしている。 デブリについては、JSpOC に所属する米国宇宙監視網(SSN)が観測し、世界中 29 カ 所に配置したレーダー、光学望遠鏡の観測網によりカタログ化を行っており、低高度軌道 で 5~10cm 以上、静止軌道で 1m 以上の物体が観測可能と言われている。 2009 年 9 月から、軌道上のすべての運用衛星の接近解析を実施、接近の可能性がある場 合は、世界中の現在運用中の衛星保有者・運用者に対して連絡する業務を行っている。 21 (b) 空軍 空軍の次世代型宇宙レーダー・システム「スペース・フェンス」では南半球に監視拠点 を整備し監視能力を強化する予定である。(ロッキード・マーチン、レイセオン、ノースロ ップ・グラマン社により開発中) (c) DARPA DARPA(Defense Advanced Research Projects Agency:米国国防高等研究計画局)は、 2009 年 9 月、デブリ除去に関する Request for Information を発行した。また、2009 年 12 月、DARPA/NASA が世界初となる第一回の国際デブリ除去会議を開催した。さらに 2011 年 3 月、DARPA のレポート Catcher’s Mitt Final Report が報告された。報告書では、会 議でも発表のあった様々な除去手法について検討した上で、低軌道大型デブリの除去の必 要性について述べている。詳細については後述する。 また、2011 年には「Phoenix」計画が始動した。本計画は、デブリとなっている通信衛 星のアンテナなどの部品を宇宙で回収・流用して再利用を目指す計画であるが、詳細につ いては後述する。 (d) NASA NASA では、ジョンソン宇宙センター内に NASA ODPO (NASA Orbital Debris Program Office)を設置してデブリ対策を実施している。具体的な活動内容としては、NASA 技術標準(NASA-STD-8719.14A)の改訂、Modeling/Measurements/Protection, / Mitigation/Reentry に関するデブリ研究の実施、NASA/DoD の Orbital Debris ワーキン グ・グループ会合の開催(年 1 回) 、デブリ研究者向けに季刊報(Orbital Debris Quarterly News)の発行、などが挙げられる。NASA 技術標準の改訂版については、2012 年 5 月に 承認されたが、COPUOS STSC の宇宙デブリ低減ガイドラインと一致した内容となってい る。 ODPO では、また、デブリ環境改善に関する戦略ロードマップ(NASA Strategic Roadmap for Orbital Debris Environment Remediation)の研究をリードしている。学会、 DoD、産業界、5 つの NASA センターからの専門家で組織されるパネルを組織している。 戦略ロードマップ研究の具体的な活動内容としては、以下が挙げられる。 ・ フェーズⅠ:環境改善のオプションの確認、さまざまなコンセプトに対する定性的評価 の実施、フェーズⅡに向けての最もフィージブルな方法の特定 ・ フェーズⅡ:フェーズⅠで選択したコンセプトについて、詳細なエンド・ツー・エンド のミッション解析の実施、適用される技術に関する TRL とギャップの明確化、技術進 展に向けたパスの確立を行い、これらの検討結果を戦略的ロードマップ開発に活かして いく。 22 デブリ除去に関しては、2011 年 NRC(National Research Council:米国学術研究会議) のレポートでデブリの数はデブリ自己増殖の転換点に到達しているため、除去および国際 協力の必要性について NASA に勧告があった。また、2011 年 3 月には NASA は技術実証 ミッションを公募したが、その 4 つのテーマのうちの一つとしてデブリ除去(orbital debris mitigation or removal systems)が含まれていた。 (選定されたものの中には直接デブリ除 去につながる実証ミッションはなかった) (3) 近年の米国内におけるデブリ対策に関するアクティビィティ 米国内において実施された主要なデブリ対策に関するアクティビィティとしては、デブ リ衝突回避運用、静止衛星の廃棄、衛星リエントリー等がある。2011 年以降に実施された 主なデブリ対策アクティビィティは以下の通りである。 (a) デブリ衝突回避運用 NASA の衛星では、2011 年に 9 回のデブリ衝突回避運用を行った。 (表 1.2-1) また、ISS では 2011 年に 2 回、2012 年 1 月に 2 回の衝突回避運用を行っている。表 1.2-2 に、最近の ISS がデブリに対して起こしたアクションを示す。 表 1.2-1 NASA 衛星が 2011 年に行ったデブリ衝突回避運用 出 典 : ”USA Space Debris Environment, Operations and Policy Updates” ( NASA ) (Feb 2012) (UNCOPUOS 49th STSC) 23 表 1.2-2 最近の ISS のデブリ衝突リスク 出典:”Orbital Debris Quarterly News ”(NASA Orbital Debris Program Office) (b) 静止衛星の廃棄 米国では、2011 年に 6 機の静止衛星が運用を終了し、国連の勧告に従い全てを廃棄軌道 へ移動させた。(表 1.2-3) 6 機のうちの 1 機、TDRS 4 の廃棄は以下のシーケンスに従って行われた。1) 11 月 28 日、 初期の廃棄軌道(GEO より 300-500km 高高度)へ移動。 2) 廃棄軌道到達ののち、1 週間 以上の小エンジン燃焼により残燃料を消費。3) 12 月 9 日、パッシベーションを完了し、GEO より 460-560km 高高度へ TDRS を遺棄。 表 1.2-3 2011 年に廃棄軌道に移動させた米国の静止衛星 出 典 : ”USA Space Debris Environment, Operations and Policy Updates” ( NASA ) (Feb 2012) (UNCOPUOS 49th STSC) (c) 衛星リエントリー 2011 年にはおよそ 500 個の物体がリエントリーしていることが確認されているが、474 個は非制御、25 個(17 宇宙機+8 ロケット)は制御した状態でのリエントリーであった。 2013 年の太陽活動極大期が近づいているため、最近では制御不能物体のリエントリー数が 24 増加傾向にある。 制御リエントリー衛星の 1 つに Orbview-3 があるが、そのリエントリーは以下のシーケ ンスに従って行われた。1) 高度 435km にて、2010 年末に 7 年以上のミッション運用を終 了。2) 25 年以内に自然落下する予定ではあったが、他の宇宙物体との衝突リスクを減らす ため、制御リエントリーを実施を決定。3) 4 回のマヌーバにより一旦 ISS より低軌道へ軌 道変更し、さらに 4 回のマヌーバにより慎重に制御し、2011 年 3 月 13 日に太平洋上に落 下させた。 1.2.3.2 カナダ 以下では、NASA の先端的宇宙技術開発に関する考え方やその開発動向について整理す る。 (1) 宇宙政策上のデブリ対策の位置づけ カナダの直近の宇宙開発計画は「The Canadian Space Strategy」(2003)であり、CSA (Canadian Space Agency)が策定してものであるが、同計画にデブリに関する記述は見 当たらない。 (2) CSA のデブリ対策に関する動向 CSA(Canadian Space Agency)は 2011 年より IADC に参加している。また、2011 年 6 月には第一回デブリワークショップを開催している。 実際の研究開発としては、カナダ内の施設において CSA-NASA 超高速度衝突(HVI: Hyper-Velocity Impact)技術の研究や試験を行っている。さらに 2011 年 9 月以降、CSA の自動コンジャンクション分析システム CRAMS(Conjunction Risk Assessment and Mitigation Systems)が稼働中である。CRAMS とは、コンジャンクションメッセージを 自動処理し、衝突確率、侵入の深さなどを可視化したシステムである。 衛星開発としては 2013 年に地球近傍天体およびデブリ監視衛星 NEOSSat(Near Earth Orbit Surveillance Satellite)を打ち上げ予定である。NEOSSat はトラッキング用の光学 望遠鏡を搭載した 75kg のマイクロサットである。 以下に NEOSSat と HVI 施設の外観を示す。 25 出典:”CSA Space Debris”(CSA)(Nov 2011)(International Interdisciplinary Congress on Space Debris Remediation) 図 1.2-3 CSA の HVI 施設 出典:Microsat Systems Canada Inc. (http://www.mscinc.ca/products/neossat.html) 図 1.2-4 (3) NEOSSat CSA の ADR(Active Debris Removal)に関する動き CSA が実施しているデブリ対策研究/実験等のうち、能動的なデブリ除去(ADR)に関 蓮しているものとしては、カナダアームに関するスタディ、ODR(Orbital Debris Removal) コンセプトスタディ等が挙げられる。これらについてはデブリ除去ロボット技術に関連し ているものであるので次章で整理することとする。 1.2.3.3 (1) 欧州 宇宙政策上のデブリ対策の位置づけ 2007 年に EU が ESA と共同でとりまとめた「欧州宇宙政策(European Space Policy)」 の中では、デブリについては言及されていない。 26 (a) 欧州行動規範 スペースデブリに関する欧州ネットワーク・センター(Europe’s Network of Centers on Space Debris)は、イタリア、イギリス、フランス、ドイツの宇宙開発所管機関と ESA で 構成されている。2006 年、このグループは独自に「スペースデブリ低減のための欧州行動 規範(European Code of Conduct for Space Debris Mitigation )」を策定した。 この行動規範では、宇宙船の運用期間中および運用の終了時に取るべき手段を示してい る。主な要求事項は、1)物体(衛星)は運用終了後に地球低軌道(LEO)に 25 年以上留ま ってはいけないこと、2)静止軌道上の衛星はさらに高軌道の墓場軌道(graveyard orbit)まで 移動させなければならないこと、などである。 (b) 宇宙活動に関する国際行動規範策定の動き(EU 主導) 2009 年に開かれた国連軍縮会議にて、EU が「宇宙活動の国際行動規範(International Code of Conduct for Outer Space Activities)」の策定を提案した。国際行動規範の案は、 2008 年に EU によって作成され、2010 年 9 月、EU 理事会により改訂版が採択されたもの であったが、宇宙物体同士の事故、衝突その他の有害な干渉可能性の最小化、スペースデ ブリ発生低減のための宇宙物体の意図的な破壊等を差し控えること、宇宙物体への危険な 接近をもたらす可能性のある運用の予定、軌道変更、再突入等のリスクを通報すること、 他国による違反の可能性がある場合に協議を要請することができること等に言及している。 この提案に対して、米国は 2012 年 1 月 17 日、この行動規範作りに参加すると発表した。 ただし同時に、宇宙における国家安全保障関連活動や、米国および同盟国の防衛能力を制 限するような規範内容には賛同しないとも明言した。 その後、2012 年 6 月 5 日、EU 主催の宇宙活動に関する国際行動規範多国間会合が行わ れ、日本を含む約 50 か国が出席した。会合を受けて、同行動規範案に関する多国間のプロ セスが開始され、10 月を目処に開催される次回の多国間会合においてより具体的な議論が 行われることとなった。 (2) ESA のデブリ対策に関する動き 欧州にはデブリ観測用のレーダー、光学センサが存在しているが、これらは各国が整備 したものであり、ESA として所有しているわけではない。 2006 年には ESA/ESOC(European Space Operations Centre)に Space Debris Office が開設された。本オフィスでは、各国宇宙機関(ASI、UKSA、CNES、DLR)と ESA の デブリ分野の研究活動の調整を行っている。 ESA はまた、 2008 年 11 月の閣僚理事会で汎欧州 SSA プログラムを決定した。ここでは、 欧州「独自(Independent)」の SSA 能力を構築することが定められた。2012 年 11 月によ り詳細な SSA 戦略を採択する予定となっている。 さらに、ESA は現在 Clean Space イニシアチブの実行を進めている。その目的は、環境 27 を保護することにより、宇宙活動の将来を保証すること、及び地球と宇宙環境保護の分野 で、ESA を模範的な宇宙機関とすることであり、Echo-design、Green Techonologies、Space debris mitigation、Technologies for space debris remediation の 4 つの部門が関連してい る。Technologies for space debris remediation の中には、デブリ除去技術も含まれている。 その他として、ESA は ISO、ECSS(European Cooperation for Space Standardization: 欧州宇宙標準協会)、CCSDS(Consultative Committee For Space Data Systems:宇宙デ ータシステム諮問委員会)といった国際的、地域的団体を使って、センサーデータやカタ ログの標準化を進めようとしている。また、UNCOPUOS WG も支援しており、米国との 協力も進めている。 1.2.3.4 (1) フランス 宇宙政策上のデブリ対策の位置づけ フランスには国家レベルの宇宙計画はないが、2012 年 3 月、高等教育・研究省が「フラ ンスの宇宙戦略」書を公表している。その中では、フランスの宇宙戦略に関し、ヨーロッ パの中でフランスが宇宙開発の中心的存在であること、宇宙へのアクセス・技術的な独立 の確保、開発応用技術の促進・質の高いサービスの提供、欧州レベルでの調和のとれた意 欲的な産業政策の政治的合意等の基本方針を掲げている。 英語版が公表されていないので詳細が分からないが、デブリ対策に関しての言及はない 模様である。 (2) デブリに関する各組織の役割分担 空軍が Detection(監視・発見)、CNES が Prediction(解析・予測)を行い、空軍と国 防省が Measurement(実測)を行っている。具体的には、空軍が全体の調整、GRAVES と SATAM レーダーの運用を担当し、国防省が追跡レーダーの運用を行っている。また CNES は、軍事および民事の衛星コントロール、飛行力学に関する専門知識、衝突リスク・ モニタリング、大気圏再突入予測、French Space Act の実行、他の宇宙機関との調整を担 当している。 (3) デブリ低減に関する規制活動など 2008 年 6 月、フランス議会により「宇宙活動に関する法律(Space. Operations Act)」が 制定され、2010 年 12 月 10 日施行された。第 3 章第 5 条において「本法の適用において与 えられた許可は、人身及び財産の安全と、公衆衛生及び環境の保護、とりわけスペースデ ブリに関わるリスクを制限することを目的として制定される規定を付しうる」と記述され ている。この法律は、仏領内でオペレーションを実施する全てのオペレータと、フランス のオペレータ全て(場所を問わず)に適用される。また、適合審査のためのオフィスが設 置され、打上げあるいはクリティカル・オペレーションの前に、CNES により技術的コン 28 プライアンスのチェックが行われる。 その他、以下に示すような技術規制の実効を支援する方法やツールが開発されている。 • リエントリーの際の破砕モデル:DEBRISK • リエントリーの際の地上リスクの評価:ELECTRA • 25 年ルールに関するコンプライアンスの測定:STELA • GEO 廃棄軌道の長期安定性 • 打上げフェーズにおける衝突リスク評価:ARCL (4) 運用終了後の衛星の廃棄措置(2011 年) 2011 年に DEMETER 衛星(初期軌道 700km, SSO)の廃棄措置を行った。2011 年 1 月 4 日~2 月 8 日の間に 15 回の燃焼を実施し、最終軌道:650km×650km へ移動させた。そ の後、バッテリ放電/太陽電池パネル電力のシャント/S バンド送信機オフ等のパッシベー ションを行った。同措置により DEMETER 衛星は 25 年以内に大気圏へ再突入する予定で ある。なお、2011 年には SPIRALE(2 機のマイクロ衛星)、EUTELSAT W75 衛星の廃棄 も実施している。 その他、CNES により、17 個の LEO 衛星と 1 個の GEO 衛星がコントロールされてお り、常に衝突リスクのモニタリングを行っている。さらに必要なときには回避マヌーバを 実行している。衝突リスクモニタリングには、米国の JSpOC からのコンジャンクション・ サマリ・メッセージを使用し、Graves(フランスのレーダーシステム)のカタログと測定 結果を使用している。実際に 2011 年には 122 のリスク件数があり、5 件のデブリ回避行動 がとられた。 (5) 能動的デブリ除去(ADR)に関する検討 ADR に関しては、CNES、ASTRIUM、THALES ALENIA SPACE、BERTIN により、 いくつかの関連スタディが実施されている。また、「ADR は、技術的、経済的、法的な困難 性を伴う複雑な問題であり、各国の強い協力関係が不可欠である」としつつ、以下に示す クリティカル技術の確認が必要としている。 • 非協力ターゲットに対するランデブー • 回転している物体の捕獲 • デオービット・ソリューション:推進力、テザー、インフレータブル装置… また、CNES ではデブリモデルの開発と解析を行っており、将来予測、低減オプション の効果、リスクレベル評価等を行った上で、ADR のターゲット選定に関する検討を行って いる。 29 その他、ADR ワークショップとして、欧州デブリ除去会議の開催も行った。第一回は 2010 年 6 月、第二回の欧州 ADR ワークショップは 2012 年 6 月 18-19 日に CNES 本部で開催 された。 1.2.3.5 (1) ドイツ 宇宙戦略上のデブリ対策の位置づけ 2010 年 11 月、ドイツ連邦経済技術省(BMWi)が宇宙戦略「Making Germany’s space sector fit for the future --The space strategy of the German Federal Government --」を 発表した。これにより、2001 年に連邦教育研究省(BMBF)が宇宙計画を発表して以来初 めて、政治的な目的とガイドラインが明示された。 重要なアクションとして、1) 戦略的宇宙専門知識の拡張、2) 統一された法的枠組みの確 立、3) 宇宙研究におけるドイツの立場の持続的強化、4) 新市場の開拓、5) 民間と軍の安 全保障のための宇宙の開拓、6) 欧州宇宙部門(ESA/EU)における役割分担の形成、7) 探 査におけるドイツと欧州の役割の定義、8)技術的独立性と宇宙へのアクセス能力の確保、が 掲げられている。このうち「2. 統一された法的枠組みの確立」の中で「宇宙デブリ、衝突、 回避に関する国際的協調」が重要であると示されている。 また、宇宙ロボット技術の強化も重要であるとしており、軌道上サービスロボットや探 査ロボットを開発技術と位置づけ、チャレンジングミッションとして、軌道上サービスロ ボットの実証ミッション(DEOS)を推進している。 DEOS プロジェクトは、軌道パスから脱線した衛星の捕獲を行う予定となっているもの で、軌道上サービスロボット軌道上サービスロボットは商用宇宙セクタに新しい局面を開 くものである、として、DLR がミッションを進めている。将来的には、ロボットは燃料補 給、サービス、修理、軌道上の廃棄衛星の制御に関与することになるだろうと予測してい る。 図 1.2-5に DEOS ミッション概念図を示す。なお DEOS の詳細については後述する。 Credit: DLR Credit: DLR 出典:DLR ホームページ 図 1.2-5 DEOS ミッション 30 Credit: DLR デブリ低減に関する活動内容 (2) ドイツでは国連の「宇宙デブリ低減ガイドライン」の遵守に努めているが、2004 年以降、 国家宇宙プロジェクトである TerraSAR X、Tandem-X、TET、EnMap、MetImage にお ける欧州行動規範(European Code of Conduct)に基づいたデブリ低減要求が課されてき ている。 また、2007 年以降、European Code of Conduct (ECoC) on Space Debris Mitigation を 基に、デブリ低減ガイドラインの品質マネジメントシステムの製品保証(PA:Product Assurance)要求への統合を進めている。 さらに、デブリ低減に関するサポート文書やツールを開発し、デブリ低減要求の実行に 必要な専門知識を提供し、コントラクターが利用できるようにもしている。 1.2.3.6 イタリア 宇宙戦略におけるデブリ対策の位置づけ (1) イタリアの宇宙関連政策は、ASI が 3 年ごとに作成する国家宇宙計画(PSN)に基づいて決 定される。最新版は、2006-2008 年版であり、それ以降は出されていない。 「STRATEGIC VISION 2010-2020 ASI」は、2009 年に発表された、今後 10 年間にわた る ASI の戦略的ビジョンを示したドキュメントである。ガイドラインとして以下を掲げて いるが、デブリに関しての記述はない。 • 適切な科学的ツールの開発と得られた結果の分析を通じた、科学的知識の維持と 強化 (2) • 地球観測の分野における指導的役割 • 安全保障の目的の遂行 • 通信分野の自主性の促進 ASI におけるデブリ対策に関する活動 ASI は IADC のメンバーであり、以下に示すような国立の研究センターや大学の研究活 動に参加している。 • 光学、レーダー及び軌道上観測に関する研究 • デブリ評価モデルおよびデータベース • 材料、保護、HVI(hyper-velocity impacts)に関する研究 • デブリ低減技術や関連文献の研究 また、イタリアの衛星に対して、衝突回避とコンジャンクション解析を実施している。 (Cosmo/Skymed や AGILE)さらに、ASI はデブリ低減に関する国際的ガイドラインやド キュメントの作成に関して、ESA や COPUOS への参加を行っており、ESA の SSA プロ 31 ジェクトにも参加している。(イタリアの SSA プログラムのヘッドは ASI のデブリ研究の ヘッドを併任) その他、2012 年 7 月、ローマの ASI にて、デブリと NEO(Near Earth Objects)に関 するワークショップも開催した。ESA の SSA プログラムの実行フェーズ(2012-2019 年) を考慮して、SST(Space Surveillance and Tracking)と NEO の分野の専門家が一堂に会 した。 1.2.3.7 (1) イギリス 民事宇宙戦略におけるデブリ対策の位置づけ イギリスでは、1986 年「Outer Space Act」が制定されたが、2011 年 UK Space Agency が設立された際に、その改訂を行うことが約束されている。ただし、この中では「デブリ」 という言葉は出てこない。 一方、民事宇宙戦略としては、2012 年 7 月、イギリス宇宙局(UK Space Agency)が「UK Space Agency Civil Space Strategy 2012-2016」を発表した。イギリスの民事宇宙政策の 課題について、「宇宙資源の安全と持続可能性について注意を払う必要がある。過酷な宇宙 環境やデブリの影響について十分に理解する必要がある。 」と記されている。 (2) UK におけるデブリ対策に関する活動 UK では、COUPOUS への積極参加を行っている。また長年にわたって、BNSC(UK SpaceAgency の前身)は産業界や学界とともに、デブリ低減に関する新しい国際標準の技 術開発をリードしてきた。 UK はまた、Starbrook 宇宙監視センサーの運用のために資金を提供している。このセン サーは Space Insight Limited という UK 企業により開発されたが、高機動のデブリの効果 的なサーベイを可能にするものである。 民間の動きとしては、Surry Satellite Technology 社が不要となった衛星のデオービット コンセプトを開発している。Cubesail 実証ミッションは小サイズ(10cm×10cm×30cm) の衛星から構成されており、25m2 のプラスチックシートを展開するものである。 32 Image courtesy of University of Surrey 図 1.2-6 1.2.3.8 (1) CubeSail ロシア 宇宙政策におけるデブリ対策活動の位置づけ ロシアの連邦宇宙プログラムは軍事連邦宇宙プログラムと民事連邦宇宙プログラムに大 別される。民事連邦宇宙プログラムの将来計画は「2006 年~2015 年のロシア連邦宇宙プロ グラム」(2006 年 10 月)に示されている。 2008 年 4 月、ロシア大統領により「2020 年までの間ならびにそれ以降の展望における 宇宙活動分野でのロシア連邦の政策」が承認された。 2012 年 4 月、ROSCOSMOS は web サイト上で 2030 年における有人とロボット宇宙活 動に関する計画を発表した。その中には、2030 年に有人月ミッションを行うと書かれてい る。また、2020 年代には、軌道上のデブリをクリーンアップする宇宙機を打上げ、アステ ロイドに対する脅威を低減させる、と示されている。 (2) デブリ低減に関するロシア標準 ロシアには、国家標準「宇宙デブリ低減のための宇宙機と軌道上のステージの運用およ び設計に関する一般要求事項」(2009 年 1 月 1 日より施行)が存在する。同標準と国連の デブリ低減ガイドラインを整合させるような試みがなされている。 ロシア標準における要求事項は、新規に設計及び改修を行う様々なタイプの宇宙機に適 用される。(民事、科学、商用、軍事、有人ミッション) (3) ロシアにおけるデブリ対策に関する活動 (a) デブリ監視ネットワーク ロシアのデブリ監視ネットワークとしては SSS(Space Surveillance System)があるが、 SSS ではロシア内外の様々な地上レーダーと光学センサを用いて、デブリ観測を行いデー タベース化している。その他にも ISON(International scientific optical network)という Civilian non-government プロジェクトにより、デブリ観測を行っている。ISON では、現 在は 13 ヶ国 32 施設が ISON に参加している。図 1.2-7に ISON の観測網図を示す。 33 出典:”Results of GEO and HEO monitoring by ISON network in 2012” (Russian Academy of Sciences)(Feb 2013) (UNCOPUOS 50th STSC) 図 1.2-7 (b) ISON 観測網 地球近傍における宇宙ハザードに対する自動ワーニングシステム(ASSHW) ロシアでは地球近傍における宇宙ハザードに対する自動ワーニングシステム(ASSHW) の運用を行っている。ASSHW のネットワーク図を以下に示す。 34 出典:”Activity of Russian federation on space debris problem” (Russian Federal Space Agency)(June 2011) (UNCOPUOS 54th) 図 1.2-8 ASSHW システムネットワーク 1.2.3.9 中国 中国の国家の宇宙政策は「宇宙開発における第 11 次 5 か年計画」に記されている。現在 は第 12 次 5 か年計画(2011-2015 年)に相当するが、その策定を受け、各分野の 5 ヶ年計 画が順次発表されている状況にある。宇宙分野については、2011 年 12 月、中国国務院が、 第 12 次 5 か年計画期間(2011-2015 年)の宇宙開発目標について、「ロケットの発射を 100 回行い、100 機の衛星を打上げ、100 機の衛星を軌道に乗せる」と発表した。 第 12 次 5 か年計画におけるデブリ対策の目標としては、以下に示すものが掲げられている。 <第 12 次 5 か年計画に示されているデブリ対策の目標> ・ パッシベーションとデオービットに関するクリティカル技術のブレークスルー ・ デブリ低減設計を評価する研究室を設置し、評価システムを確立すること ・ ミッション終了後の衛星とロケットの廃棄技術のエンジニアリング・アプリケーション への適用 ・ ミッション終了後の LEO 衛星の 25 年ルールと GEO 衛星の軌道離脱に関するリクワイ メントの遂行 ・ IADC への積極参加とディスカッション ・ デブリ標準の刊行 35 ・ 第 11 次 5 か年計画中に策定した、“宇宙デブリ低減と保護に関するマネジメント要求” 中にある様々なリクワイメントの実行 また、2011 年 12 月、中国国務院は今後 5 年間の宇宙活動計画をまとめた「2011 年中国 の宇宙飛行」白書(China’s Space Activities in 2011)を発表した。同白書の発表は 2000 年と 2006 年に続く 3 度目で、2011 年版は(1)序文(2)発展の趣旨と原則(3)2006 年以降の主な進展(4)今後 5 年間の主要任務(5)発展政策・対策(6)国際交流・協 力--の 6 つの部分からなる。このうち、「(3)2006 年以降の主な進展」「(4)今後 5 年間の主要 任務」「(6)国際交流・協力」の項目の中でデブリに関する記述がある。 (3)2006 年以降の主な進展 1. 2. 3. 4. 5. 6. 7. 8. 9. 宇宙輸送システム 人工衛星(地球観測衛星、通信放送衛星、測位衛星、科学/技術実証衛星) 有人飛行 深宇宙探査 打上げサイト テレメトリ・トラッキング・コマンド(TT&C) 宇宙利用アプリケーション 宇宙科学(太陽-地球間探査、月科学研究、微小重力科学と宇宙生命科学実験、宇宙環 境探査と予測) 宇宙デブリ 中国はデブリの監視を行っており、それらに対する早期の警告を与え、嫦娥 1 号、2 号、神舟 7 号の安全な飛行を確保してきた。また長征ロケットの不活化や GEO 衛星の 軌道離脱など、着実にデブリ低減に関する活動を推進してきた。さらに、有人宇宙船 のデブリからの保護も行ってきている。 (4)今後 5 年間の主要任務 1. 2. 3. 4. 5. 6. 7. 8. 9. 宇宙輸送システム 人工衛星(地球観測衛星、通信放送衛星、測位衛星、科学/技術実証衛星) 有人飛行 深宇宙探査 打上げサイト テレメトリ・トラッキング・コマンド(TT&C) 宇宙利用アプリケーション 宇宙科学(太陽-地球間探査、月科学研究、微小重力科学と宇宙生命科学実験、宇宙環 境探査と予測) 宇宙デブリ 中国はデブリ観測と低減に関する活動を強化する。中国はデブリの観測技術と衝突の 事前警告技術を開発し、それらを稼働させ始める予定である。また、デブリ衝突やデ ブリから宇宙機を保護するシステム構築のデジタルシミュレーションも試みる予定で ある。 36 (6)国際交流・協力 ・ 多国間協力(デブリに関する記述は以下の通り) 中国は独自にデブリ保護設計システムの開発を行っているが、それらは IADC の保護マ ニュアルに取り入れられている。 ・ 国際協力を進めていくべき主な分野として、以下の分野が示されている。 科学研究、宇宙天文、宇宙物理、微小重力科学、宇宙生命科学、深宇宙探査、デブリ等 この中国国務院がまとめた白書をみる限り、デブリ低減を着実に行い、今後も観測と低 減に活動を強化する文章が見られる。中国は 2007 年 1 月に対衛星(ASAT)兵器による気象 衛星の破壊実験を実施し、世界的に非難を浴びたことから、上述の活動を見ると、この実 験限りで再び実施することはないのではないかと思われた。しかし、下記に示すように AIAA Daily Launch に今年 1 月にも再び衛星破壊実験を行うのではないかとの記事があ り、油断ができない状況にあるのではないかと思われる。 <AIAA Daily Launch の記事より> China May Conduct Another Anti-Satellite Test Soon. In his column for SPACE (1/9), Leonard David writes, "Reports that China may be on the verge of carrying out another anti-satellite test soon are ringing alarm bells among US space policy and military analysts." Gregory Kulacki, senior analyst and China project manager for the Union of Concerned Scientists Global Security Program, wrote in a blog post there is a "strong possibility" of another test, but there was no certainty of what that would entail although it could take place on January 11 since that was the date of previous anti-satellite tests. David includes the thoughts of several analysts on what could take place and how the US and other countries might react. この記事の後、1 月 11 日から現在まで実験に関する報道はないので、見送ったのかとも 思われる。ただ、防衛省防衛研究所が 2012 年 12 月に発行した「中国安全保障レポート 2012」 によると、2007 年 1 月 12 日早朝に ASAT 実験を行った人民解放軍は政府外交部門との間 で事前の政策調整がとられていなかった可能性が高いと分析している。中国外交部がこの 実験を公式に認めたのは 11 日後の 23 日であったとされる。この意味で中国政府指導部や 外交当局と人民解放軍の意思の疎通が十分でなかったことが見て取れる。本委員会報告で 中国国務院が発表している宇宙活動計画の中のデブリ低減活動に関する記述は、人民解放 軍に伝わってはいないのではないかと思われる。 37 <1 章における参考文献> 1.1 項 [1] 「 EFFECTIVE SOLUTIONS FOR THE LONG TERM SUSTAINABILITY OF SPACE ACTIVITIES」, Akira Kato, JAXA , IAC-12-A6.4.2(2012.10.03) [2] 「スペースデブリの発生とその対策」、加藤明/JAXA、第9回宇宙環境シンポジウム (2012.1.05) 表 1.1.1~表 1.1.3 の施設 [3] Cobra Dane:(http://www.fas.org/spp/military/program/track/cobra_dane.htm) [4] HayStack/HAX、FGAN:NASA スペースデブリハンドブック (http://www.hq.nasa.gov/office/codeq/doctree/NHBK871914.pdf) [5] Pave paws:(http://www.fas.org/spp/military/program/track/pavepaws.htm) [6] Maui:(http://www.thelivingmoon.com/45jack_files/03files/ AEOS_Advanced_Electro_Optical_System.html) [7] GRAVES:(http://www.mediasuk.org/iw0hk/graves.htm) [8] ARMOR:(http://www.netmarine.net/bat/divers/monge/radars.htm) [9] Fylingdales:(http://en.wikipedia.org/wiki/RAF_Fylingdales) [10] KSGC、BSGC:(http://www.jsforum.or.jp/) [11] Teide、Collepardo、MODEST、PIMS:IADC Observation Campaigns (http://www.iadc-online.org/Documents/UN_Presentation_2006_final.pdf) 1.2 項 IADC: [12] 「An overview of the Inter-Agency Space Debris Coordination Committee scope and its activities」(IADC)(Feb 2011)(UNCOPUOS 48th STSC セッション) 米国: [13] 「National Space Policy of the Unites States of America 」(Jun 2010) [14] 「USA Space Debris Environment, Operations and Policy Updates」(NASA)(Feb 2012)(UNCOPUOS 49th STSC セッション) [15] NASA Orbital Debris Program Office 発行の「Orbital Debris Quarterly News」 カナダ: [16] CSA「Space Debris」(CSA)(Nov 2011)(International Interdisciplinary Congress on Space Debris Remediation) 欧州: [17] 「Space debris mitigation activities at the European Space Agency」(ESA)(Feb 2011)(UNCOPUOS 48th STSC セッション) 38 [18] 「欧州宇宙機関及び欧州における SSA 計画」(ESA)(Mar 2012)(宇宙開発利用の持 続的発展のための”宇宙状況認識(Space Situational Awareness:SSA)”に関するシ ンポジウム) [19] ESA Clean Space のホームページ(ESA)(Last Update : Sept 2012 ) フランス: [20] 「The French Space Operation Act」(May 2008) [21] 「 Overview on 2011 space debris activities in France 」 (CNES)(Feb 2012) (UNCOPUOS 49th STSC セッション) [22] 「フランスにおける宇宙デブリ監視、デブリ低減、衛星衝突回避等の活動」(CNES) (Mar 2012)(宇宙開発利用の持続的発展のための”宇宙状況認識(Space Situational Awarness:SSA)”に関するシンポジウム) ドイツ: [23] 「Making Germany’s space sector fit for the future --The space strategy of the German Federal Government --」(BMWi)(Nov 2011) [24] 「UN-Space Debris Mitigation Guidelines— National Implementation Mechanism」 (DLR)(Mar 2009) (UNCOPUOS 48th Legal Sub-Committee セッション イタリア: [25] 「STRATEGIC VISION 2010-2020 ASI」(ASI)(2009) [26] 「Italy Space Activities Year 2009」の「Space Debris」の項(ASI) イギリス: [27] 「UK Space Agency Civil Space Strategy 2012-2016」 [28] 「UK in Space 2010」の「Space Debris and Near Earth Object」の項(UK) ロシア: [29] 「Results of GEO and HEO monitoring by ISON network in 2012」(Russian Academy of Sciences)(Feb 2013) (UNCOPUOS 50th STSC) [30] 「Activity of Russian federation on space debris problem」(Russian Federal Space Agency)(June 2011) (UNCOPUOS 54th セッション) 中国: [31] 「China’s Space Activities in 2011」 [32] 「PROSPECT OF SPACE DEBRIS MITIGATION RESEARCH IN CHINA FOR NEXT FIVE YEARS」(CAST)(2011 Beijing Space Sustainability Conference) 39 スペースデブリとの衝突の回避に向けて 2 本章では、スペースデブリ(注)が運用中の衛星に接近する状況把握、衝突の可能性 分析、衝突回避への作業以降判定、回避制御実施の概要を紹介する。 注:“スペースデブリ”には運用中の衛星が含まれる。“宇宙物体”として記述する。 2.1 分布状況把握 スペースデブリが衛星に接近する状況の例を図 2.1-1に示す。同図は、高度 860km の JAXA 衛星に対して、毎日、最新の軌道情報をもとに次の7日間に該当衛星の 5km 以内に 接近する宇宙物体を抽出した結果の月単位の集計である。 傾向としては 2007 年の風雲 1 号 C の破砕実験デブリ、2009 年のイリジウム 33/コスモ ス 2251 衛星衝突に起因する宇宙物体の接近が大半を占めている。 100% 90% 80% 70% 60% COSMOS_2251_DEB IRIDIUM_33_DEB 50% FENGYUN_1C_DEB その他 40% 30% 解説: 高度860km、太陽同 期衛星の5km以内、 次の7日間の物体の 接近傾向(2011年) 衝突回避の実施は なかった。 20% 10% 0% 1月 2月 3月 4月 5月 図 2.1-1 2.2 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月 衛星への宇宙物体接近傾向(例) 接近解析 接近解析は、人工衛星と接近する物体との接近状況とリスクを複数の視点(要素)で総 合的に評価する作業である。大別すると、①軌道決定の状況を理解することと、②接近計 算処理に影響する要因を理解すること、③衛星の制約の3つの要素に構成できる。 40 2.2.1 軌道決定の評価 軌道決定処理の結果、軌道決定誤差として与えられる誤差共分散が、軌道の決まり具合 を表す第一の指標である。この誤差共分散に一義的に関係付けられるのが、軌道決定処理 に有効だったデータ数や期間(間隔)、並びに軌道決定処理を実施した時期から接近解析計 算をするまでの期間である。 また、この軌道決定処理で考慮される短期的な宇宙環境の要素としての上層大気や地磁 気の変動予測も、軌道決定や軌道予測を評価する重要な要素である。 2.2.2 接近解析 軌道上物体を伝播させ、それら軌道の相対関係から接近距離をパラメータとしてスクリ ーニングした結果から得られる、2物体間の最接近距離、2物体の軌道、2物体の軌道精 度を表す誤差共分散、物体の(推定)形状等から、衝突確率(Pc: Probability of collision) を導き出す。接近解析の概念を、図 2.2-1に示す。 但し、衝突確率(Pc)が接近解析判定の主要要素ではない。最接近距離、最接近時刻ま での軌道伝播誤差、それに影響を与える宇宙環境条件の短期的変化状況も考慮事項である。 また、最新の軌道情報を用いることで誤差の要因を小さくすることが期待できる(衝突確 率、最接近距離の見直し)。この実現方法としては、①接近解析より新しい衛星軌道を保有 している場合はそれを適用、②軌道計測を再度行い軌道決定値を最新版に更新することで ある。 2.2.3 衛星側の条件 最接近時刻(TCA: Time of Closest Approach)までに、衛星が定常軌道制御を計画して いる場合、軌道制御後の予測軌道で再度の接近解析を実施する必要があるか、制御量、接 近距離等から見直すこともある。また、定常軌道制御で衝突回避制御を吸収するケースも ありうる。 燃料消費の最小化(ミッション軌道に復帰する軌道制御量も含め)が、衛星側の制約で の重要な要素である。 41 図 2.2-1 2.2.4 接近解析の概念 衝突回避への作業移行判定 衛星に最接近する物体との衝突の可能性は、前述2.2.1~2.2.3の要素を総合的に評価し判 断する。衝突回避のための軌道制御を行う場合の衛星側の準備、或いは衝突回避実施の最 終判断のための再度の接近解析を実施するための時間的余裕(衛星のレンジングと軌道決 定の実施、判定会議・テレコンの実施)を考慮し、この判断は2~3ステップが考慮され る。 このステップ移行の要素として、衛星のコントロール・ボックスを設定し、接近物体の 干渉状況(最接近距離(合成距離、高度方向) )を判断することと、接近解析の結果得られ る衝突確率を採用している。 図 2.2-2にコントロール・ボックスの概念を、表 2.2-1にス テップ移行の要素と閾値、閾値を評価するための考慮事項を示す。 図 2.2-2 コントロール・ボックス(周回衛星軌道) 42 表 2.2-1 移行要素 最接近距離(合成) 最接近距離(高度方向) 衝突確率 ステップ移行要素と閾値 閾値 周回軌道 1,000m 200m 1/1000 静止軌道 5,000m 1/1000 考慮事項 ・軌道決定の状況 ・宇宙環境(大気抵抗) 数百メートルから数キロメートル長のテザーの軌道上の挙動を考慮し、衛星コントロール ボックスに及ぼす影響の度合いや、対処方法は今後の課題である。テザーミッションとし て対応方法・解決策等が整理されると理解している。 軌道決定の状況(軌道の決まり具合)や宇宙環境の短期的変動による大気抵抗等への影 響により、衝突確率が閾値を境に前後する(桁のオーダ)ことを想定し、これら移行要素 の時間的なトレンド評価を行うことが重要である。 また、これら解析や評価から衝突回避の軌道制御実施までの作業は 2 日程度の間で実施 することになる。事前のシミュレーションや訓練を実施することで接近解析から衝突回避 までの全体を事前に点検することが重要である。 この判定を容易にする目的で、前述の種々のパラメータを統合した指標を使用する試み がなされているが、統合の過程でマージン等が入り込み全般に保守的な判定につながる可 能性もある(制御回数の増加等)。 2.3 衝突回避 衝突回避のための衛星の軌道制御は、通常の軌道制御の一部として実施される。ここで は衝突回避の手法を簡単に紹介する。 最接近時の2物体の位置関係は、衝突回避方法を選択する場合の重要な要素である。衝 突回避の概念を図 2.3-1に示す。物体は高速で飛行していることから、進行方向の誤差成分 が支配的であり、(a)正面衝突に近い状態が予想される場合は高度を変更するオプションと なり、(b)それ以外の場合は最接近のタイミングを調整するオプションとなる。 43 Raising the Altitude TCA Point Delayed Arrival Time (b) Delay in the Predicted Arrival Time (a) Raising the Altitude 図 2.3-1 Satellite Orbit [New] TCA Point TCA Point Delayed Arrival Point 衝突回避の概念 以上の説明は2物体の物理的な動きからの概念であり、より支配的な条件は、衛星のミ ッション、軌道制御能力やその機能に起因する軌道制御への制約である。 回避制御後の(計画)軌道に対する接近解析の必要性については、軌道制御量が定常の 軌道制御と同程度であれば、制御前の接近解析で最接近対象として識別した物体以外に新 たに再接近物体が現れる可能性は低いと考えられる。 2.4 標準化活動 ISO TC20/SC13 (Space Data and Information Transfer Systems)では、宇宙活動の相互 運用性を確保する目的で、運用で交換される情報やデータの標準化を図っている。組織図 を図 2.4-1に示す。衛星の軌道や追跡情報、接近解析情報等の標準化のための技術検討・調 整・検証(実証)活動は、ISO TC20/SC13 の下、CCSDS(Consultative Committee for Space Data Systems: 宇宙データシステム諮問委員会)に委ねられている。接近解析に関係する 情 報 の 標 準 化 は 、 軌 道 情 報 や 追 跡 情 報 の 標 準 化 と 同 様 、 Mission Operations and Information Management Service (MOIMS) Area の Navigation WG で技術調整が行われ ている。 軌道情報 追跡情報 接近情報 CCSDS/MOIMS/Navigation WG Orbit Data Message, CCSDS 502.0-B-2, ISO 22644 Tracking Data Message, CCSDS 503.0-B-1, ISO 13526 Conjunction Data Message, CCSDS 508.0-R-1/March 2012 44 出典:http://cwe.ccsds.org(” CCSDS Overview”, Mike Kearney) 図 2.4-1 ISO TC20/SC13 組織図 出典:http://cwe.ccsds.org/default.aspx 図 2.4-2 CCSDS 組織 45 スペースデブリ除去 3 3.1 スペースデブリ除去の必要性 近年、米国だけでなく、九州大学/宇宙航空研究開発機構(JAXA)(図 3.1-2)、英国等 各国のそれぞれ異なる推移予測モデルにより、デブリの自己増殖の開始が報告されデブリ 除去の必要性が指摘されている。IADC では現在世界 12 機関がデブリに関する情報交換、 議論を行っているが、2011 年、6 機関(ASI(イタリア宇宙機関)、UKSA(英国宇宙局)、 ESA(欧州宇宙機関)、ISRO(インド宇宙研究機関)、NASA(米航空宇宙局)、JAXA)に よる同一初期条件からの将来予測において、今後デブリ低減対策が取られたとしても、デ ブリの衝突によりデブリ数が増加していくことで結果が一致した。6 機関のスタディの結果 を図 3.1-1に示す。6 機関とも、将来打上げる宇宙機およびロケットの PMD(post-mission desposal)を 90%実施してもデブリ数が増加し続ける、との結果で一致していることが分 かる。またロシアも別途、デブリが自己増加していくこと、特に、大型デブリより地上か ら観測できない微小デブリが多く増加することを報告した。これらを受け、IADC では新た な議題としてデブリ環境改善の検討がスタートした。自己増殖が開始していると言っても その増加はなだらかで、多少増加しても問題はない、あるいは、まだしばらくはデブリ除 去を開始しなくてもよいという意見もある。約 10 ㎝以上のデブリは地上から観測・追跡さ れ、接近が予測されると米国は各国の宇宙機の運用者に連絡をしているため衝突回避マヌ ーバ(軌道制御運用)が可能だからである。また数百μm 以上のサイズのデブリは、ハー ネス等のクリティカルな部位に衝突するとミッション中断につながる故障を引き起こす可 能性があるが、近年クリティカルな機器はデブリが衝突しにくい場所に配置する、防御材 でカバーするなどの防御設計が行われるようになってきている。しかし、デブリはすでに、 宇宙利用において無視できない負担あるいはリスクを与えている。まず第一に、デブリ衝 突回避は燃料が必要になる他、観測の中断など運用負担が大きい。デブリ密度の低い高度 400 ㎞付近にある国際宇宙ステーションでも 2012 年末までに 16 回の衝突回避を実施して いる。また欧米の各国は 2010 年にはそれぞれ 10 回程度の衝突回避を実施したと報告して いる。カタログ化デブリの数はデブリの増加およびデブリ観測性能の向上で 2030 年には現 在の 3 倍になるとの予測もあり、その負担はさらに増加していくと懸念されている。次に、 クリティカル機器の防御設計も、観測機器のようにミッション上防御不可能なものもある 上、防御材による防御が可能であっても設計変更や重量等のリソース増加は開発者の大き な負担となっている。数㎜から数㎝の大きさのデブリは、地上から追跡できていないがそ の衝突エネルギは膨大なため、防御設計も衝突回避も不可能であり、宇宙機の運用上対処 できないリスクとして残る。現在混雑軌道の衛星には、その 5 年程度の寿命の間に、1 ㎝級 のデブリが衝突するリスクが 1%以上あるとされている。 これらのデブリは、壊滅的な衝突が発生すると大量に発生する。NASA の標準破砕モデ ルによれば、中国の破砕実験やイリジウム・コスモスのような壊滅的衝突により、10 ㎝級 デブリは 2、3,000 個、1 ㎝級デブリは数十万個、1 ㎜サイズのデブリは数百万個発生した 46 と考えられている。しかし、これらのサイズのデブリを直接取り除くのは容易ではない。 すなわち、非常に数が多く広大な宇宙空間に散らばっているため、例えば地上からレーザ ーでアブレーションを起こして一つ一つ軌道を変えたり、大面積の低密度材料等でパッシ ブに微小デブリを衝突させて取り除くのは効率が悪く、現状の技術では効果的な低減は不 可能だとされている。一方、これらのデブリの発生源は大型デブリである。大型デブリが 衝突あるいは爆発を起こすと、多数の微小デブリを発生する。そのため、宇宙空間が危険 で使用できなくなる前に、衝突を起こす確率の高い大型デブリを除去することが、一番実 現可能性が高いと考えられている。 出典:” Stability of the Future LEO Environment”(IADC)(UNCOPUOS 50th STSC ) (Feb 2013) 図 3.1-1 IADC の 6 機関によるデブリ数推移の予測 47 出典:眞庭、花田、河本、「環境推移モデルによるスペースデブリの長期環境推移について」 図 3.1-2 2009 年以降の推移予測結果 (60 回のモンテカルロシミュレーションの平均値。今後の爆発はなし、今後の打上げは 2001 年から 2008 年までの履歴を繰り返し、ミッション終了後デオービットの成功率 90%と仮定) 48 3.2 JAXA のスペースデブリ除去システムの開発状況 JAXA では以前よりデブリ対策研究の一環として、デブリの能動的な除去について検討し ている。まず、どのデブリを除去すべきか等デブリ除去の対象を、デブリ数の今後の予測 を行うデブリ推移モデル等を用いて検討している。また大型デブリを除去するための技術 的検討を実施している[1][2]。 以下に JAXA におけるデブリ除去についての研究状況を述べる。 3.2.1 JAXA が想定しているデブリ除去の前提 除去すべき対象デブリとしては低軌道混雑軌道の大型デブリとし、デブリ除去衛星を打 ち上げて除去することを検討している。下記にその理由を述べる。 3.2.1.1 除去すべきデブリのサイズ 現在、デブリが運用衛星に与えている負担・リスクとしては、地上からの観測によりカ タログ化されているデブリ(低軌道で約10㎝以上、静止軌道で約1m 以上)による衝突 回避運用の負担、数百μm 以上級の微小デブリ衝突により機器が故障したりハーネスが破 断したりしてミッションにクリティカルな影響を与えることに対するデブリ防御設計の負 担、その間の数 mm~10cm 程度の防御も回避も不可能なデブリが衝突し壊滅的な被害を受 けるリスクがあげられる。しかし、これら 10 ㎝~数百μm の破片サイズのデブリは非常に 数が多く広大な宇宙空間に分散しているため、除去するのは非常に効率が悪い。例えば、 低密度材料等でパッシブに微小デブリを衝突させて取り除く手法が提案されているが、意 味のある数を除去するには数百 km2 の大面積が必要となる。また、今後大型デブリが衝突 すればさらにこれらの破片サイズのデブリが大量に発生すると予測されており、破片サイ ズのデブリだけを除去しても、大型デブリの衝突を止めない限りデブリの増加は抑えきれ ないと考えられている。そのため、今除去すべきデブリは、混雑軌道にあって今後衝突す る可能性の高い、使用済み人工衛星やロケット上段等の大型のデブリであると考えている。 JAXA では九州大学と「デブリ推移モデル」を開発し今後のデブリの数の推移予測を実施し ている。このデブリ推移モデルにより、デブリ除去を実施した場合の将来予測を行い、ど のデブリを除去すればよいか評価を行っている[3]。その結果、今後衝突して破片を発生す る確率の高い混雑軌道の大型デブリを除去すれば、今後のデブリ数の増加を大きく抑制す ることが可能であることが分かった(図 3.2-1)。 49 出典:河本他、「JAXA におけるデブリ除去の研究状況」、第五回スペースデブリワークショップ(2013) 図 3.2-1 デブリを除去した場合としない場合の推移予測 (除去しない場合:黒線、高度 1000km、83 度付近の 100 個のデブリを除去した場合:青線) 3.2.1.2 除去すべきデブリの軌道 デブリは低軌道だけでなく静止軌道や中間軌道でも増加しているが、静止軌道や中間軌 道は体積が大きく、周回速度が低いこともあり、今後デブリの継続的な増加は予測されて いるものの、今後数百年の範囲では線形の増加にとどまる。それに対し、低軌道はこのま ま対策をとらない場合には指数的な増加が懸念されている。静止軌道は空気抵抗が期待で きないため減少要因がなく、さらに電波の干渉や摂動によって静止軌道域をドリフトする デブリに対する衝突回避運用の点からデブリ除去が必要となる可能性はあるが、デブリの 自己増加を抑制するという観点では、まず低軌道が除去の対象となる。 図 3.2-2は低軌道のカタログ化物体の高度別分布、およびその中で RCS(Radar Cross Section)が 0.5m2 以上の物体の高度分布を示す。RCS が大きい物体は高度 900-1000km、 軌道傾斜角が 83 度、74 度、あるいは太陽同期軌道など特定の軌道に集中している[4]。こ れらの混雑軌道では、昇交点赤経Ωは広い範囲に分布しているが、数が多いためΩの数度 程度の範囲に多数のデブリが存在する。そのため、一機のデブリ除去機で狭い軌道面範囲 に存在する複数のデブリを除去できる可能性がある。あるいは新たな打ち上げの際に相乗 り衛星等で除去できる可能性もある。 50 出典:河本他、「JAXA におけるデブリ除去の研究状況」、第五回スペースデブリワークショップ(2013)/ 河本、宇科連、1C06 「スペースデブリ除去の概要」, 2012 図 3.2-2 軌道上のカタログ化物体分布(2010 年 12 月時点) 51 3.2.1.3 除去すべきデブリの数 図 3.2-1の青線は高度 900~1000km、軌道傾斜角 82~83 度の混雑軌道から 100 個の大 型デブリを除去した場合のデブリ数の変化を示す。デブリ除去により、デブリ数の増加を 大きく抑えられることが示されている。あるいは、NASA 等の検討結果によれば、衝突率 ×重量の大きい物体を5個/年ずつ除去することにより増加が抑えられるとの予測も示され ている。このように、追跡されている 20000 個のデブリを全部除去せずとも、混雑軌道の 大型デブリを上記程度除去できれば、環境改善に大きな効果を出すことができる。 3.2.1.4 対象デブリの種類 低軌道には廃棄衛星、ロケット上段が重量的には半分くらいずつ存在しており、それぞ れ 1000 トン程度あるとされている。ロケット上段は、2、3トンを超えるものは 100 個程 度で、残りの 600 個程度は1~2トンである。それに対し廃棄衛星は2トンを超えるもの が 200 個程度、1~2トン以上のものが 100 個強、残りは1トン弱である。前述のとおり 全てのデブリを除去する必要はなく、除去しやすいデブリを除去すればよいため、下記の 理由により当面ロケット上段をターゲットとすることが世界的にも提案されている。 ・ 衛星に比べどれも形状が比較的同一であると期待できる。 ・ 衛星に比べ機密性が低い(他国のデブリを除去する場合に問題になりにくい)。 ・ 円筒状で、レーザ等の反射が計測できると期待できる。 ・ 重心から遠く突き出た長いパドル等がないため、除去機との予期せぬ衝突の危険性が低 減できる。 ・ 軸対称のため、タンブリング運動ではなくフラットスピンなど姿勢運動が単純と期待で きる。 ・ 磁場との干渉で回転が止まっているという検討結果もある。 3.2.2 デブリ除去衛星 デブリの除去のためには、通信不可のため正確な位置が不明で、リフレクタやマーカー なども有さない非協力対象であるデブリに衝突することなく接近し、何らかの推進系を取 り付けてデオービットする必要がある。地上からのレーザー照射やデブリ一個一個にラン デブーせず衝突するのを待ち受ける Sweeper のような案も提案されているが、使用済み衛 星やロケット上段のような大型デブリの場合は除去できないと考えられており、デブリ除 去衛星を用いて除去するしか実現性がないと考えられているためである。上述のような非 協力接近や非協力対象への推進系の取付等はこれまで実現されたことのない高度な技術が 必要とされている。さらに、なるべく低コストで達成できることが重要であり、そのため に1機のデブリ除去衛星で複数個のデブリを除去できる、あるいはピギーバックなどの小 型衛星でデブリを除去するための技術を検討している。図 3.2-3は現在検討しているデブリ 52 除去のシーケンスである。以下にデブリ除去に必要な技術およびその検討状況を述べる。 出典:河本他、「JAXA におけるデブリ除去の研究状況」、第五回スペースデブリワークショップ(2013) 図 3.2-3 3.2.2.1 デブリ除去の流れ 非協力接近 デブリ除去のためには、秒速7km 以上の速度で地球を周回する大型デブリにまず接近す る必要があるが、地上からの観測ではその位置予測精度は数 km の精度しかない。日本も含 め、ランデブー・ドッキングは多数の実績があるが、そのほとんどは通信・リフレクタ等 により相対位置・速度が計測できる協力対象である。しかしすでに運用を終了し、ランデ ブーのための機器も有さないデブリはいわゆる非協力対象である。そこで、光学カメラあ るいは GPS 受信機などの小型、安価な機器による非協力対象への接近を検討している。 大型のデブリが太陽光を反射する光は 100km 以近では 0 等級以上に観測できると期待され ており、光学カメラあるいはスタートラッカにより対象の方角が計測できると期待されて いる。そのままでは距離は計測できないが、その方角の履歴、特に、推進系により推力を 付与する前後の方角の変化により距離を推定し、徐々に接近する方法を検討している[5]。 数 km 以近では対象の形状も認識できる物体視によっても距離が推定できると期待される。 3.2.2.2 運動推定 デブリは姿勢制御されていないため、軌道上においてどのような姿勢をしているか不明 であるが、地上からのレーダ等の観測により、回転(タンブリング)をしているものもあ ることが報告されている。デブリに推進系を取り付ける等の作業を実施するためには対象 の形状・運動、対象と自機との相対的な位置・姿勢を正確に計測する必要がある。対象物 体の有効な計測方法の一つとして、画像計測に基づく方式が考えられる。対象に接近した 際には、複数のカメラを用いたステレオ視により正確な 3 次元計測が可能となる。画像計 53 測では、対象の大きさや位置関係、カメラの特性により適した計測方式や計測精度が変化 する。具体的な撮影環境を想定した CG による合成画像や、スケールモデルによる実画像 を用いて計測方式の検討を行い、計測精度などの性能評価を行う。 光学カメラによる対象物の姿勢評価は工場のオートメーション等で実用されているが、 限定された光学環境でのみ動作している。しかし軌道上の光学環境は、大気がないため環 境光がなく、一方向からの強烈な太陽光は方向が時々刻々変化するという特殊な環境であ り、画像処理が困難である。そこで、光学シミュレータ(図 3.2-4)を整備し、実画像を取 得している(図 3.2-5)。光学シミュレータは軌道上における照明環境を模擬するもので、 観測側は 3 軸並進(1200x400x400mm) + 回転 1 軸の自由度を、ターゲット側は回転 3 軸の 自由度を有している。これに照射域 50cmx50cm の平坦な分光輝度特性をもつ平行照明灯が 付随しており、これらを連動させて操作することにより、軌道上における環境を光学的に 模擬することができる。これらの試験設備を用いて、光学カメラによる情報を用いた運動 推定の研究を実施している[6][7]。 出典:河本他、「JAXA におけるデブリ除去の研究状況」、第五回スペースデブリワークショップ(2013) 図 3.2-4 光学シミュレータ(並行太陽光やロケット上段デブリ) 出典:河本他、「JAXA におけるデブリ除去の研究状況」、第五回スペースデブリワークショップ(2013) 図 3.2-5 光学シミュレータで撮像した回転運動をする模擬 H2A ロケット上段 54 3.2.2.3 推進系取付 ターゲットの詳細運動推定が完了した後、最終接近(1[m]~3[m]程度まで)を行い、デ オービット用機器をターゲットへ取り付ける。ターゲットの回転条件は無回転状態か、 1[deg/s]以下のフラットスピンまで許容するとし、取付に要する所要時間は直接可視を前提 として 10 分以内を目標とする。取付手法のポリシーとしては、ターゲットをアーム等で把 持してハンドリングやバーシングをすることは行わず、設置点に対して短時間相対停止を 行い、ターゲット取付機構のついたデオービットデバイス端部を直接ターゲット表面に取 り付けることを想定している。上記を満たすデバイス取付手法として、以下の 2 手法を検 討している[8]。 ひとつはロボットアームを用いる手法であり、ターゲット PAF(Payload Attachment Fitting)部に対して、相対停止を行い(スピンするターゲットの場合、回転速度に合わせ て回転接線方向に接近する)、ロボットアームもしくは、それに準ずるマニピュレータを用 いてデオービットデバイス本体またはその一部を取り付ける(次項の導電性テザーを想定 した場合、テザー端部を取り付ける)。デオービット取付機構は、マニピュレータによるタ ーゲットへのデバイス押し付け力を検知し自動的に締結および、マニピュレータからの切 り離しができるものとする。ターゲットへのデバイス取付イメージを図 3.2-6に示す。 もう一つの手法は銛状の固定デバイスを用いる手法であり、ロケット上段等をターゲッ トとした場合、燃料タンクに相対停止し(ターゲットがフラットスピンしている場合、回 転軸に対して相対停止する)、デオービットデバイスにテザーで接続された銛状の固定機構 を固体ロケット等により加速し、ターゲットに刺突させる。刺突の直後に銛先端が展開す ることによりターゲットに固定され、デオービットデバイス本体をデブリ除去機から切り 離すことにより取付を完了する。銛尾部には貫通防止のストッパー兼、破片・ダスト飛散 防止のカバーとなる機構を装備する。本方式のイメージを図 3.2-7に示す。 出典:河本他、「JAXA におけるデブリ除去の研究状況」、第五回スペースデブリワークショップ(2013) 図 3.2-6 ロボットアームを用いたデオービットデバイス取付のイメージ 55 出典:河本他、「JAXA におけるデブリ除去の研究状況」、第五回スペースデブリワークショップ(2013) 図 3.2-7 3.2.2.4 銛状固定機構を用いたデオービットデバイス取付イメージ デオービット 混雑した軌道にある大型デブリをデオービットするために従来型推進系を用いると大量 の燃料を必要とするため、高効率推進系として、導電性テザー推進(ElectroDynamic Tether、 EDT)に着目し、技術実証を目指している[9]。導電性テザーとは、長さ数 km 程度の導電 性のテザー(紐)を伸展し電流を流すことにより、地磁気との干渉を利用して軌道降下さ せる高効率推進系である(図 3.2-8)。原理的に燃料、大電力が不要であり、また微小推力 であるためデブリへの取付が比較的容易であるというメリットがある。デブリ除去のため には、前述のとおり大型デブリ、すなわち数百 kg から数トンのデブリを混雑軌道(高度 700 ㎞~1000 ㎞等)から十分高度を下げる必要があり、100m/s 以上の増速度を要する。その ため、従来型の推進系を取り付ける場合には、重心がずれないように推力を与える必要が ある。そのためロボットアームで重心がずれないようにゆっくり押していく方法等がドイ ツ等で提案されている。また紐で引っ張る案も提案されているが、軌道上では水平方向に 牽引するのは不安定で衝突しないように注意する必要がある。EDT は微小推力であるため、 紐の一端を取り付けるだけで強度を必要とせず、また重力傾斜力により鉛直方向に安定す るため、姿勢制御が不要である。このように、EDT は推進系取付の技術的難易度を下げた り打上コストを低下できる等デブリ除去を安価に実施できる可能性を持つ。ただし、世界 でもまだその推力が確認されていない新規技術であり、1年程度の運用期間、その間デブ リとの衝突確率等の課題も有する。JAXA では EDT の要素技術の研究を実施しており、現 在、小型衛星等に搭載した軌道上実証を検討している。 56 出典:河本他、「JAXA におけるデブリ除去の研究状況」、第五回スペースデブリワークショップ(2013) 図 3.2-8 3.2.2.5 導電性テザーの原理 静止軌道のデブリ除去について 静止軌道領域のデブリについては、イオンエンジンを利用した除去手法について研究を 進めている(図 3.2-9)。静止軌道は、デブリ同士の衝突によるデブリ数の近い将来の自己 増殖は予測されていないが、全世界が利用する唯一の限られた軌道であり、大気抵抗がな いためデブリが永久に留まるなどのため、静止軌道の保全も重要な課題である。本手法で は、推力方向が互いに反対方向を向いた 2 台のイオンエンジン A と B をサービス機に搭載 し、デブリの後方から接近する。イオンエンジン A から噴射するイオンビームを照射し、 デブリに推力を与える。イオンエンジン B の推力を調節して、デブリとサービス機の間隔 を一定に保持しつつ軌道を上げる。このようにして、静止軌道より約 300 km 高い投棄軌道 までデブリを運ぶ。その後、サービス機は静止軌道まで戻り、次のデブリを処理する。本 手法は、難度の高いデブリ捕獲技術が不要であり、我が国が得意とするイオンエンジン技 術が活用できる。現在、サービス機のシステム検討やこの手法に適したイオンエンジンの 検討を行っている。 57 出典:河本他、「JAXA におけるデブリ除去の研究状況」、第五回スペースデブリワークショップ(2013) 図 3.2-9 3.2.2.6 イオンエンジンによる静止デブリ除去の概念 ロードマップについて デブリ除去の実現のために、図 3.2-10のようにまず要素技術を実証し、次にデブリ除去 システム実証を実施するロードマップを提案している。デブリ除去システム実証では、2019 年頃に小型衛星を用いて実際に JAXA 起源のデブリを一機除去する実証を実現することを 目指している。併行してデブリ除去の法的課題、国際的枠組みの議論を行い、国連等に提 案していくことを想定している。これらにより、宇宙環境保全分野で日本が世界に貢献す ること、将来デブリ除去が産業化された場合に日本が優位に立つことを目指している。 出典:河本他、「JAXA におけるデブリ除去の研究状況」、第五回スペースデブリワークショップ(2013) 図 3.2-10 JAXA の検討しているデブリ除去実現に向けたロードマップ案 58 EDT によるデブリ除去ロボットのモデル 3.3 当工業会では、平成 18 年度、平成 19 年度の次世代宇宙プロジェクト推進委員会におい てスペースデブリ処理ロボット衛星の検討を実施している。EDT を用いた除去シナリオは 対象を軌道要素の近い複数の大型スペースデブリ(以下ターゲットと呼ぶ)に限り、大型 スペースデブリの状態としては、軌道上で最も個数が多いと推測される非協力ターゲット 衛星を前提とする。また、作業効率を向上し、トータルコストを低減する為に、1 機の軌道 上サービス衛星で複数のターゲットを順次デオービットする方式を採用する。 3.3.1項では、デブリ処理対象衛星の選定・接近・取り付けの概要をまとめ、3.3.2項では デブリ除去衛星(案)を示す。 デブリ処理対象衛星の選定・接近・取り付け 3.3.1 3.3.1.1 デブリ処理対象衛星の選定・接近・取り付け デブリ処理対象衛星としては、大型スペースデブリでもっとも個数が多いと推定される、 以下のような衛星をとして選定する。 ・ 非協力:特定のセンサターゲットや捕獲用取っ手を有していない。 ・ 非姿勢制御:故障などにより姿勢制御が機能していない デブリ処理対象衛星の選定の手順は以下のとおりとする。 1) デブリ除去衛星(以下、除去衛星)の投入軌道を設定する。 2) 投入軌道に近い高度/離心率の TLE 情報をダウンロードし、軌道高度でソーティング する。 3) 除去衛星の軌道高度と軌道傾斜角に近いものを対象として、以下のプロットを作成す る。 軌道高度 VS 昇交点赤経 軌道高度 VS 軌道傾斜角 4) かたまっているものをデブリ処理対象衛星として選定する。 3.3.1.2 デブリ処理対象衛星の接近・取り付け デブリ処理対象衛星に、デブリ除去衛星は、接近、捕獲、テザー装置の取り付け作業を 行う。その作業の概要は図 3.3-1に示す通りである。 59 (1)打上後、最初のデブリ処理 対象衛星に近づく (6) De-orbit 最大高度 (5) (2)衛星の近傍へ移動し、作業 のため要すれば衛星の周 りをフライアラウンド実 施し、作業開始 デブリ処理対 (4) 象衛星 (3) (2) (3)作業終了後、軌道遷移 最低高度 (4)同じくフライアラウンド を実施し、作業開始 (5) (6)作業終了後、次の衛星へ (1) (7)最後の作業終了後、自身も De-orbit を実施し、ミッション 完了 出典:「平成 18 年度スペースデブリに関する調査報告書」 日本航空宇宙工業会 図 3.3-1 作業シーケンス概要 <非協力ターゲット動作同定手法検討> 専用の計測用ターゲットが取付けられていない非協力ターゲットであるデブリ処理対象 衛星と除去衛星の相対位置・姿勢及び相対速度・姿勢角速度の計測は TV カメラの画像情報 により行われると考える。例えば捕獲位置の候補である非協力ターゲットの PAF インター フェース部を TV カメラで撮影しそのデータを画像処理し、ステレオビジョンや三次元モデ ルマッチング等のアルゴリズムで、相対位置・姿勢及び相対速度・姿勢角速度を算出する。 宇宙空間では太陽光の反射、背景、照度等の光学的条件が地上の実験室より厳しいので、 ロバストなアルゴリズムが必要である。また、リアルタイムでの計測を行うためには、高 速なアルゴリズムが必要である。 以下、作業シーケンス毎の詳細を示す。 (1) 捕獲 除去衛星は、フライアラウンドを含むデブリ処理対象衛星(以下、ターゲット衛星)へ の接近動作の後、作業用アームにて、ターゲット衛星を把持する。このとき、ターゲット 衛星とロボットアームの相対的な運動が大き過ぎるとアームの破損などを生じる恐れがあ る。よって、まずは適切な手段(例えば、NAL インパクト法) によりターゲットの回転運動 の減衰を行なう必要がある。 また非協力ターゲット衛星の捕獲対象部位としては、 60 -各衛星が必ず有している部位であるロケットインターフェースリング -太陽電池パドルの根元部分(回転機構出力リンク) などが考えられる。実際の捕獲シーケンスについて図 3.3-2に示す。 出典:「平成 18 年度スペースデブリに関する調査報告書」 日本航空宇宙工業会 図 3.3-2 ターゲット衛星捕獲シーケンス <EDT 搭載可能な速度への速度減衰手法検討> 非協力なターゲット衛星とロボットアームの相対的な運動が大き過ぎるとアームの破損 などを生じる恐れがある。相対的な運動が大き過ぎる場合は、まずは適切な手段によりタ ーゲットの回転運動の減衰を行なう必要がある。 ターゲットの回転運動を減衰する手法としては、以下のような方法が考えられる。 ・柔軟な物体を押し付けることにより回転を止める方法。 ・外部から繰り返し投射物を投射することにより回転を止める方法。 ・外部から繰り返しターゲットに直接接触することにより回転を止める方法。 ・同じインパルスの繰り返し入力により回転を止める方法。 ・投げ縄のようにテザーを巻きつけた後、テザーの張力を制御して回転を止める方法。 ・網などで包んで回転を止める方法。 61 (2) EDT 装置取り付け 除去衛星に係留したターゲット衛星(デブリ)にロボットアームにより EDT 装置の取り付 けを次のフローにて行なう(参考:図 3.3-3)。 1) ロボットアームにより EDT 機構を把持し、除去衛星のホルダから分離する。 (ロボットアーム:力覚制御動作) 2) ロボットアームにより EDT 機構をターゲット衛星の結合部位に位置決め、結合させる。 (ロボットアーム:力覚制御動作) これらの手順で使用するロボットアーム作業は、宇宙ロボットとしては基本的な作業 (ETS-Ⅶで実証済み)であり、ロボットアームにより問題なく実施可能である。 出典:「平成 18 年度スペースデブリに関する調査報告書」 日本航空宇宙工業会 図 3.3-3 EDT 装置のロボットアームによる作業(取り付け) (3) EDT 伸展 テザーの伸展を行ない、EDT による減速飛行を開始する。このとき、テザーにたるみや 振動が生じるとテザーの断線を生じる可能性があるため、たるみや振動が生じないように 留意する。 作業ステップとしては、次のようになる(参考:図 3.3-4)。 3) ロボットアームのエンドエフェクタからの電力・信号供給により、テザー機構を伸展す る。 62 出典:「平成 18 年度スペースデブリに関する調査報告書」 日本航空宇宙工業会 図 3.3-4 (4) EDT 装置のロボットアームによる作業(テザー伸展) リリース 以下の作業ステップにより、ターゲット衛星を除去衛星からリリースする(参考:図 3.3-5)。 4) 係留アームからターゲット衛星を分離し、ロボットアームにより極力遠ざけた位置にタ ーゲット衛星を位置決めする。 5) テザーの安定を確認した後に、ロボットアームからターゲット衛星をリリースする。 6) スラスタ噴射により、ターゲット衛星から離れる。 7) テザーの安定などの状況をモニタした後に、除去衛星は次のターゲット衛星の軌道へ移 動する。 63 出典:「平成 18 年度スペースデブリに関する調査報告書」 日本航空宇宙工業会 図 3.3-5 3.3.2 EDT 装置のロボットアームによる作業(リリース) デブリ除去衛星(案) 上述のシナリオをもとに、具体的な衛星の構成を考える。まず、日本として除去したい ADEOSII を含む太陽同期軌道衛星デブリ群(約 10 機)の軌道データを選定し、それらの デブリ衛星群に順序良く 1 機のスペースデブリ除去衛星が近づき、軌道変換用の機材 (EDT:エレクトロダイナミックテザー)を取り付けることで、選定した衛星群のデブリ 処理を行う。 3.3.2.1 構成 デブリ除去衛星の構成案を以下に示す。 64 表 3.3-1 デブリ除去衛星の構成案 サブシステム ミッション系 重量[kg] 250~360 電力[W] 120~150 電源系 C&DH 系 熱・構造系 姿勢制御系 推進系 合計 90~110 40~50 100~200 60~80 350~1000 890~1800 50~70 90~100 80~120 120~140 10~20 470~600 備考 作業アーム 係留アーム EDT 装置:10 式 イメージセンサ 太陽電池パドル S-band センタシリンダ構造 三軸姿勢制御 推薬:300~900[Kg] 出典:「平成 19 年度スペースデブリに関する調査報告書」 日本航空宇宙工業会 重量、電力については、複数個の衛星群のデブリ処理を行うことから、軌道変換に要す る推薬量に幅を持たせてある。 表中備考欄の所要推薬量の推定値はロボット衛星を ADEOS-II の初期軌道に打ち上げた 場合と ALOS の軌道に打ち上げた場合の 2 ケースについて試算したところ、概ね 130m/s 程度の速度増分量で接近・周回できることから、10 機のデブリ処理を行う場合の推薬量は、 700~900[Kg]としている。この推薬量については、軌道(特に軌道面外方向)変換の必要 性に大きく依存するが、デブリ対象衛星がほぼ同軌道面に複数機あるとして計算している。 勿論、具体的に対象デブリを選定した段階で詳細な解析を行わなくてはならない。 3.3.2.2 ミッション系 図 3.3-6にミッション系の構成図を示す。 a. 作業アーム 関節部にコントローラを分散配置し、統合制御計算機にて全体の制御を実施する構成で ある。またランデブセンサの情報も統合計算機にて処理を実施し、アーム駆動へのフィ ードバックを実施することを想定している。 b. 係留アーム 直動ユニットを配した関節を有するターゲット衛星係留用のアーム。エンドエフェクタ /視覚系は作業用アームと共通化することで開発負担を軽減可能 c. EDT 装置 取り付け:エンドエフェクタからの駆動力により取り付けられる(機械的ロック、タッ ピング、接着剤等) 65 デブリ除去衛星案を、図 3.3-7から図 3.3-10に示す。図 3.3-7と図 3.3-8には、打上げ時 コンフィギュレーションを、図 3.3-9にはアーム収納状態の軌道上コンフギュレーションを、 図 3.3-10にはアーム伸展状態の軌道上コンフィギュレーションを示す。衛星周辺に取り付 けられた筒状の物体が EDT 装置である。 作業用アーム アーム上カメラ 画像処理部 エンドエフェクタ 捕獲用ツール 関節/コントローラ ロンチロック 機構 係留アーム アーム上カメラ 画像処理部 捕獲用ツール エンドエフェクタ ロンチロック 機構 関節/コントローラ アーム信号バス EDT 装置 アームインタフェース エレクトロニクス/コントローラ 通信系 ランデブ用画像 センサ 統 合制御 計 算 機 ランデブ用レー ダ バス系 地上局 出典:「平成 19 年度スペースデブリに関する調査報告書」 日本航空宇宙工業会 図 3.3-6 ロボットミッション系構成概要図 66 係留アーム 作業アーム EDT 装置 出典:「平成 19 年度スペースデブリに関する調査報告書」 日本航空宇宙工業会 図 3.3-7 デブリ除去衛星案(打上げ時コンフィギュレーション 1/2) EDT 装置 出典:「平成 19 年度スペースデブリに関する調査報告書」 日本航空宇宙工業会 図 3.3-8 デブリ除去衛星案(打上げ時コンフィギュレーション 2/2) 67 係留アーム 作業アーム EDT 装置 出典:「平成 19 年度スペースデブリに関する調査報告書」 日本航空宇宙工業会 図 3.3-9 デブリ除去衛星案(軌道上コンフィギュレーションアーム収納状態) 作業アーム 係留アーム EDT 装置 出典:平成 19 年度スペースデブリに関する調査報告書 日本航空宇宙工業会 図 3.3-10 デブリ除去衛星案(軌道上コンフィギュレーションアーム伸展状態) 68 海外のスペースデブリ除去技術の開発動向 3.4 調査内容 3.4.1 海外の主要宇宙開発利用国(米国、カナダ、欧州各国、ロシア等)におけるロボット技 術を用いたスペースデブリ除去の開発状況の最新動向について調査を行った。欧米の各機 関、企業が提案する最新のデブリ除去や関連ロボット技術/プロジェクト/ミッション等 について、その内容や技術動向をまとめた。 また、IAC2012(International Astronautical Congress:国際宇宙会議)の第 63 回ナポ リ大会において発表されたデブリ対策に関する論文内容についても調査を行ったので、そ の結果を整理した。 各国のスペースデブリ除去の開発動向 3.4.2 3.4.2.1 (1) 米国 NASA/DoD(DARPA)におけるデブリ除去に関する関連研究動向 1.2.3.1(1)項で述べたように、米国国家宇宙政策(2010 年 6 月)の中で、軌道上デブリの 低減と除去に関する研究と技術開発は NASA と DoD が行うことが示されている。これを受 けて、米国では NASA と DoD が中心となり ADR(Active Debris Removal)に関する研究 と開発を実施している。 (a) NASA/DoD Orbital Debris Working Group Meeting 年に 1 度、NASA と DoD は、NASA/DoD Orbital Debris Working Group Meeting (ODWG)を開催している。 直近に開催されたものは「15th Annual NASA/DoD Orbital Debris Working Group Meeting (17-18 April 2012)」であるが、この中で ADR に関して発表された主な案件を以 下に示す。 <ODWG において発表された ADR に関する案件> ・ ADRV(Active Debris Removal Vehicle)ミッションの概要とコンセプトデザイン(JSC Engineering Directorate) ・ EDT(Electrodynamic tether)推進技術の概要(MSFC) ・ 小サイズの軌道上デブリ除去を行うレーザーシステムの原理説明(University of Alabama Huntsville) ・ 高速タンブリング運動している大型 ADR ターゲットのパッシブ磁気デタンブリングコ ンセプト(AFRL) ・ 大面積デオービット・モジュール(AFRL) 69 (b) NASA の Satellite Servicing Capabilities Office の技術実証ミッション 1.2.3.1(2)(d)項で述べたように、NASA では、ジョンソン宇宙センター内に NASA ODPO (NASA Orbital Debris Program Office)を設置して、デブリ研究(モデリング、観測、 保護、低減、リエントリー)を行っているが、この他に、ゴダード宇宙飛行センターに Satellite Servicing Capabilities Office(SSCO)が設置されている。 SSCO では軌道上サービスに関する研究開発を行っているが、多くの技術がデブリ除去 技術とも関連している。例えば、以下に示すミッション及びデモ等が挙げられる。 <NASA SSCO での技術実証ミッション> ・ Robotic Refueling ミッション:ISS にてロボットによる燃料補給ミッション ・ Argon:自動ランデブー&ドッキングシステムの開発。現在テスト中 ・ Robotic Servicing ミッション Robotic Refueling ミッションについては詳述する。また Argon モジュールのテストの様 子の写真を以下に示す。 出典:http://ssco.gsfc.nasa.gov/argon.html 図 3.4-1 (c) NASA における Argon モジュールのテスト DARPA の Catcher’s Mitt スタディ DARPA におけるデブリ対策活動については、1.2.3.1(2)(c)項で述べたが、本項では 「Cather’s Mitt スタディ」について記す。 本スタディの目的は、デブリ問題と将来の予測をモデル化し、最大の問題点を明確にし、 デブリ除去に関して技術的及び経済的に実現可能なソリューションを検討することである。 具体的には、以下の 3 つの方法により検討を行った。 70 ・ 2009 年 12 月、DARPA/NASA が開催した世界初となる第一回の国際デブリ除去会議 ・ 2009 年 9 月、デブリ除去に関して発行した Request for Information ・ NASA、Air Force、DARPA が宇宙運用におけるリスク増加をモデル化するために実施 する実用研究 これらの検討結果を受けて、2011 年 3 月、「Cather’s Mitt Final Report」が報告された。 レポートの中では、以下に示すような様々な除去手法について検討している。 <Cather’s Mitt Final Report 中に示されたデブリ除去手法> ・ 大型デブリ(10cm 以上)の除去手法 推進タグ(LEO/GEO) アクティブな推進装置を取り付け、使用する方法 NRL-DARPA SUMO コンセプト(使用済みの宇宙機をタグがグラップリング するコンセプト) 推進剤を用いないソリューション Lasers Drag Enhancement Devices Solar Sails Electrodynamic Tethers Momentum Tethers ・ 中型デブリ(5mm~10cm)の除去手法 (2) スイーパー Passive Sweepers Active Sweepers 液体/気体/微粒子雲によるデブリ除去 電磁力 レーザーによるデブリ除去(ground based/space based) 米国内で過去に実施された自動ランデブーミッション 自動ランデブー技術はデブリ除去技術と関連した重要技術であるが、米国内では XSS (AFRL)、Orbital Express(DARPA)、DART(NASA)などの自動ランデブーミッショ ンが過去に実施されている。 (a) XSS(AFRL) XSS(Experimental Satellite System)-10 は 2003 年に AFRL(空軍研究所)により打 71 上げられた 28kg のマイクロ衛星である。続く 2005 年には XSS-11 が近接運用に関する技 術実証を目的とし、宇宙空間における修理、検査、および偵察の実行可能性を試験した。 18 ヶ月以上にわたって軌道上に存在した。XSS-11 の重量は 125kg であった。 出典 Air Force Research Laboratory (AFRL) 図 3.4-2 (b) XSS-10(左)/XSS-11 DART(NASA) DART(Demonstration for Autonomous Rendezvous Technology)は 2005 年に NASA により打ち上げれた。打ち上げから数時間以内に、DART は現在使われていない軍事衛星 を追跡し、その周囲を飛行する。管制センターはその後、DART が完全に自動操縦で接近、 後退を繰り返しながら衛星のまわりを移動し、機内に搭載された誘導システムの試験を行 なう様子(画像)をモニターする予定であったが、ターゲットに衝突しミッションは失敗に終 わった。 出典:NASA 図 3.4-3 (c) DART Orbital Express (DARPA) Orbital Express は 2007 年に NASA と DARPA により打上げられた軌道上ロボディクス 実験衛星である。協力ターゲットへの接近、捕獲、燃料補給などの技術実証を実施した。 72 出典:Boeing 図 3.4-4 Orbital Express (3) SUMO/FREND プログラム SUMO/FREND プログラムは、DARPA と NRL(海軍研究所)が実施している最先端 の自動ランデブーとドッキング技術の開発プロジェクト=FREND(Front-End Robotics Enabling Near-Term Demonstration)である。デブリ除去衛星に取り付けたロボットアー ムで静止軌道上のデブリ衛星を捕獲して、自身の推進力を利用して高い廃棄軌道に除去す る方式である。 2007 年に、軌道コンディションを模擬した地上テスト環境において、ロボットと制御用 ソフトウェアを用いた自動ランデブーとドッキング技術実証に成功しており、今後は、同 様の実証をフライト・プロトタイプのロボティックアームにおいて実証する予定となって いる。2012 年 7 月には、NRL の Spacecraft Engineering Department が FREND の地上 実証に必要な Gravity Offset Table を建設している。 図 3.4-5に FREND ミッション図を、図 3.4-6に FREND アーム概要を示す。 出典:”FREND: Pushing the Envelope of Space Robotics” (2008 NRL Review) 図 3.4-5 FREND ミッション 73 出典:”FREND: Pushing the Envelope of Space Robotics” (2008 NRL Review) 図 3.4-6 (4) FREND アーム概要 STAR Inc./Tether Application Inc.提案の EDDE 開発動向 米国の民間企業のデブリ除去ロボットへの取り組みとしては、STAR Inc./Tether Application Inc.社が提案する EDDE(ElectroDynamic Debris Eliminator)がある。 EDDE(100kg, 0.11m3)は小型軽量のビークルで、他の衛星のピギーバックとして打ち 上げ可能である。軌道上では、LEO(あらゆる軌道傾斜角)をマヌーバーし、軽量ネット あるいはグラッパーによりデブリを収集する。エレクトロダイナミック・スラスタにより、 高自由度の機動性を持つ。 図 3.4-7に EDDE システムと構成図を示す。各ネットマネージャーは 100 個のハウスサイ ズのネット(各 50g)を持っている。2-3m/s で通過し、ネットにデブリを捕獲する。1 機 の EDDE で 3 年間で 136 の太陽同期軌道の物体を収集することができるが、12 機の EDDEs で 7 年間に 2kg 級の LEO デブリをすべて除去することができる、としている。 STAR Inc.は、図 3.4-7に示すように EDDE 実現に必要な技術ステータスを整理し、研究 開発を推進しているところである。 74 出典:”Orbital Debris:Time to Remove”, (STAR Inc.)(Aug 2011) 図 3.4-7 EDDE システム(上)と EDDE Electrodynamic “Garbage Truck”(下) 出典:”Orbital Debris:Time to Remove”, (STAR Inc.)(Aug 2011) 図 3.4-8 EDDE 実現に必要な技術ステータス 2012 年 2 月、NASA は Game Changing Technology Program の一つとして EDDE ビー クルの開発に 190 万$を与えた。また、海軍の SBIR プログラム(Small Business Innovative 75 Research)の下、STAR 社は Phase1 スタディを終えたところであるが、新契約により、 STAR 社はテザーベースの推進システムの製造とテストを行う予定である。 (5) Tether Unlimited Inc.提案の「Terminator TetherTM」 そ の 他 の 民 間 会 社 と し て は 、 Tether Unlimited Inc が 導 電 性 テ ザ ー Terminator TetherTM、デブリ捕獲 GRASP(GRApple, Retrieve, And Secure Payload)を提案してい る。 出典:Tether Unlimited Inc. 図 3.4-9 Terminator TetherTM の運用コンセプトと試作品 (6) 米国におけるその他のデブリ除去技術に関する検討 (a) NRL の導電性テザー推進キューブサット実験 上 記 以 外 の 米 国 に お け る テ ザ ー 関 連 の 実 験 機 と し て は 、 NRL ( Naval Research Laboratory)で開発を行っている TEPCE(Tether Electrodynamic Propulsion Cubesat Experiment)が挙げられる。2010 年秋に NRL の施設内での開発試験が成功し、2012 年 の打上げを目指しているところである。 76 出典:NRL 図 3.4-10 TEPCE キューブサット(左)と展開試験(右) (b) Boeing 社提案のガス雲によるデブリ除去手法 (Launch Space News, 2012/10/15 記事より) 年間 5 個の大サイズのデブリを除去する手法についての検討例は多いが、1 個のデブリ除 去につき 2 億 5 千万$のコストがかかると見積もられているいるため、年間 10 億$以上の コストがかかることになる。仮に新衛星を打上げる際に税金をかけるような形をとるとす れば、1 機の衛星に対して約 1 千万$が上乗せさせることになる。 このような膨大なコストがかかることを回避する方法として、Boeing 社はガス雲による デブリ除去手法の提案を行った。小型衛星で”ballistic gas”(キセノンやクリプトンのよ うな多量の極低温ガス。 )を運び、ガスをターゲットデブリと同じ軌道に雲として放出する。 デブリとは逆方向に移動する。 雲の寿命は短いが、ターゲットデブリをヒットできるだけ寿命を持たせなければならな いことが大きな課題である。大きいデブリの場合、複数回の吹き出しが必要になる可能性 もある。 3.4.2.2 (1) カナダ International Interdisciplinary Congress on Space Debris Remediation 2011 年 11 月、McGill 大学、CSA、国連宇宙局がスポンサーとなり、国際会議 International Interdisciplinary Congress on Space Debris Remediation が開催された。 会議は 2 日間にわたり開催され、以下の 5 つのセッションから構成されていた。 77 ・ Session 1 – Current Space Debris Situation ・ Session 2 – Technical Concepts and Means For Space Debris Remediation and On-Orbit Servicing (that are being conceived and/or developed, including those related to international Space Situational Awareness) ・ Session 3 – Legal, Regulatory and Strategic Issues related to Space Debris Remediation and On-Orbit Servicing: ・ Session 4 – Organizational and Operational Requirements ・ Session 5 – Discussion and Adoption of Regulatory Principles and Proposals (Declaration) for Space Debris Remediation and On-obit Servicing: 本会議では、米国の項で記した STAR Inc.の発表や MDA 社の軌道上サービスロボットの 発表等もあった。また技術的な検討にとどまらず、Commercial Debris Removal (Star Technology and Research, Inc./Tether Applications, Inc.)やビジネス化、デブリ除去の ためのファンドについても検討結果についても発表等が行われた。 本会議を受けて、レポート”Active Debris Removal ─An Essential Mechanism for Ensuring the Safety and Sustainability of Outer Space”が 2012 年 1 月に発行されてい る。レポートでは、宇宙デブリの現状、ADR と軌道上サービスのための技術コンセプト、 ADR に関する法律および規制、ADR の組織と運用に関する検討結果が示されている。 なお、本会議の内容については3.5.6.1項で詳述している。 (2) ODR (Orbital Debris Remediation)コンセプトスタディ CSA は 2011 年 10 月~2012 年 3 月、”advanced exploration technologies”に関するコン セプトスタディを実施した。1 件当たり 25 万 CAD(約 2,000 万円)の契約で、6 件のテー マが採択されたが、うち 2 件が LEO 上の大きなデブリを能動的に除去する軌道上ロボット 技術に関する ODR コンセプトスタディであった。ODR コンセプトの概念図を図 3.4-11 に示す。 Clear Sky Team(MDA, Bristol Aerospace, UTIAS, Cyber & Space Telecom Inc, Mafic)と MODEL Team(COMDEV, Neptec, NGC Aerospace Ltd, ESI Automation and Robotics)が以下のミッションと Scope に関するロボット技術のコンセプトスタディを実 施した。 • ミッション内容:年間 3 個の大サイズのデブリを 10 年間にわたり除去すること。 • スコープ デブリ環境と除去に対するレビュー 運用コンセプト ミッション要求と分析 78 推進システム ガイダンス、ナビゲーション、制御システム センサ機器 ロボットアームと捕獲メカニズム 自律性と耐故障性 地上での制御と通信 セルフ・デオービット ビジネス機会 実現性評価 COMDEV 社は Mission for Orbital Debris Elimination として先端的な Canadian robotics 関連技術、可視化システム、ガイダンス、ナビゲーション、制御技術、軌道上デブ リへの対処技術の開発を行った。対する Clear Sky Team はデブリを除去するロボティッ ク・ビークルの設計を行った。 また、上記の 2 件の他に軌道上サービス関連技術として MDA 社が 1 件のスタディ(A study on Canadian On-Orbit Automated Servicing Equipment)を実施した。本ミッショ ンは GEO 上のデブリを能動的に除去する技術の直接的なアプリケーションでもあるが、 MDA 社の軌道上燃料補給実証ミッションの詳細については後述する。 出典:”Active Debris Removal ─An Essential Mechanism for Ensuring the Safety and Sustainability of Outer Space”(A Report of the Inetrnational Interdisciplinary Congress on Space Debris Remediation and On-Orbit Satellite Servicing) (Jan 2012) 図 3.4-11 ODR コンセプト 79 (3) カナダアームに関するスタディ CSA では、ADR に利用できる運用可能な宇宙ロボットとして、CSA は LEO 上に ISS Canadarm2 と Dexture を有している。 また次世代カナダアーム(NGC:Next Generation Canadarm)の開発も行っている。 NGC プロジェクトにより、CSA との契約の下、MDA 社が軌道上サービスに必要な技術開 発を行い、軽量でコスト効果の高いロボットシステムの地上プロトタイプの設計と試作を 行った。NGC に求められる技術としては、将来運用停止する宇宙機との安全なドッキング、 衛星の寿命の延長、機能していない宇宙機の軌道の変更、などがある。これらの技術はデ ブリ除去技術と深く関連するものであるので、ここで開発された技術はデブリ問題の解決 にも役立つことが期待される。 以下に上記のカナダアームの写真を示す。 出典:CSA ホームページ 図 3.4-12 CSA が現有する宇宙用ロボットアーム(左:Canadarm2、右:Dextre) 出典:CSA ホームページ 図 3.4-13 Next-Generation Large Canadarm(アーム長さ 15m) 80 出典:CSA ホームページ 図 3.4-14 (4) Next-Generation Small Canadarm(アーム長さ 2.58m) その他 その他、ADR に関して CSA が行っている検討としては、回転する回転する宇宙物体(非 協力型ターゲット)を捕獲し固定するための誘導ロボットの検討が挙げられる。誘導ロボ ットのマニピュレータにはグラップリング装置が装備され、ビジョンシステムにより誘導 されるようになっている。その誘導手順は 3 フェーズから成っており、1) 学習フェーズ: ビジョンデータに基づき、ターゲットの姿勢、速度、慣性パラメータを推定する。 2) 把握 動作前フェーズ:相対速度ゼロのランデブー地点においてターゲットを迎えるためにロボ ットを誘導する。3) 把握動作後フェーズ:ターゲットの角運動量減衰のためにマニピュレ ータとサービサー宇宙機の協調制御を行う、である。 また、CSA 実験室ではドッキングテストベッド、Zero-G 衛星シミュレータなどを所有し、 ADR 関連技術の開発を行っている。 3.4.2.3 ESA ESA が進めているデブリ除去システムの代表的なものに ROGER がある。以下では、 ROGER の最新の検討開発状況を整理する。 (1) ROGER コンセプト概要 ROGER とは、静止軌道上の運用していない衛星に接近、捕獲し、パーキングあるいは墓 場軌道に移動させる方式のデブリ除去システムである。以下の 2 チームに対して競争形式 でコンセプト検討を行った。 81 ・ ASTRIUM (D) DLR (D), Application Services (B), TU Braunschweig (D), EADS-LV (F) and MD Robotics (CND) Space SES-ASTRA (L) ・ QinetiQ (UK), OHB-System (D), ESYS (GB) and Dutch Space (NL) 以下に各チームが検討した ROGER 宇宙機の概要を示す。 (2) ASTRIUM チームの ROGER 宇宙機 ASTRIUM チームの ROGER 宇宙機は、複数のネット捕獲機構を搭載して、静止軌道の デブリに接近し、ネットでデブリを捕獲したら、そのまま高い廃棄軌道まで移動してデブ リをネット毎分離して廃棄し、次の静止軌道のデブリ捕獲に移動していく投網捕獲方式で ある。アビオニクスや推進用の装置は宇宙機の下部に、捕獲機構やビジョンシステムは宇 宙機の上部に配置される。Roger は 20 個の投網(10m×10m,/15m×15m)を有している。 投網は 4 つの飛行するウェイトに引っ張られる形となる。 <Astrium チームの ROGER> ・ ROGER 打上げ重量:3,500kg ・ 推進剤重量:2,700kg ・ バス電力消費:300W ・ S バンド TC アップリンク/TM ダウンリンク ・ ビデオダウンリンクレート:2Mb/s ・ 姿勢指向精度:<0.25deg ・ 10N スラスタ数:22 ・ アポジ・マヌーバー用の 400N スラスタ 出典:ESA automation & robotics のホームページ (ESA) 図 3.4-15 ROGER Spacecraft(ASTRIUM team) 82 なお、Astrium チームは 2009 年に地上試験を実施し、現在はロケットによる試験も予定 している。 (3) QinetiQ チームの ROGER 宇宙機 QinetiQ チームの ROGER 宇宙機は、望遠鏡が搭載されたブームを伸ばした状態でター ゲットに接近し、八角形のグラップリングシステムを展開する。捕獲後は墓場軌道へ移動 させる。 <QinetiQ チームの ROGER> ・ ROGER 打上げ重量:1,450kg(GTO) ・ 軌道上重量:1,250kg(wet GEO)、920kg(dry GEO) ・ 打上げディメンジョン:2.7×2.7×2.9m3 ・ 展開時幅:17m ・ 電力:4,300W EOL(GaAs 太陽電池、32m2) ・ TT&C:S バンド ・ データダウンリンク:S バンド(2Mbit/s) ・ 姿勢制御系:ヒドラジン 1 液スラスタ 24 基 出典:ESA automation & robotics のホームページ (ESA) 図 3.4-16 ROGER Spacecraft(QinetiQ team) 3.4.2.4 (1) フランス CNES OTV ミッション 2008 年 12 月、CNES の Toulouse Space Center と CNES Launcher Directorate による OTV(Orbital Transfer Vehicle)ミッションに関するジョイント・スタディが開始された。 2011 年 12 月までに、ポテンシャル・ミッションの初期スクリーニングを実施し、2 つの 83 リファレンス・ミッションを選定し、ミッション分析のレビューを行った。 その結果、2 つのリファレンス・コンセプト(1. Large multi-debris OTV, 2. Small dedicated single-debris OTV)の分析が実施されている。具体的に技術レベルの難点の識 別、R&T ロードマップの検討などを行っている。 図 3.4-17に Large multi-debris OTV のシステム図を示す。Large multi-debris OTV は 直径 4.57m、長さ 6m、打上げ時重量 17 トンである。 また、図 3.4-18に OTV ミッションの地上セグメント概念図例を示す。 出典:“Active Debris Removal: Current status of activities in CNES” (CNES) (P2ROTECT Workshop)(Mar 2012) 図 3.4-17 Large multi-debris OTV システム図 84 出典:“Active Debris Removal: Current status of activities in CNES” (CNES) (P2ROTECT Workshop)(Mar 2012) 図 3.4-18 (2) OTV ミッションの地上セグメント概念図例 産業界の検討状況 フランの産業界では、主に以下の 3 つのチームが ADR コンセプトに関する検討を行って いる。 ・ ASTRIUM Space Transportation/ASTRIUM Satellites ・ Bertin Technologies など ・ Thales-Alenia-Space/GMV/MDA 上記のチームは、デブリ捕獲ミッション/運用シナリオ等について、2012 年は Cosmos 3M を例として検討を実施している。ファイナル・ドキュメントは CNES のレビュー中で ある。今後はスタディの第 2 フェーズがスタートする予定であり、選択されたコンセプト に対する詳細な解析や運用コンセプトに関する技術的/経済的な解析等を実施することと なっている。 (3) Astrium Space transportation の Net Capture System 上項の 3 チームの ADR コンセプトスタディのうち、Astrium Space Transportation 等 が提案している Net Capture System のコンセプト図を図 3.4-19に示す。 85 出典: “Net Capture System – a Potential Orbital Space Debris Removal System-” (ASTRIUM Space Transportation)(ADR Workshop June 2012) 図 3.4-19 Net Capture System このシステムに対しては、2012 年 6 月 11 日、ブレーメン落下塔においてネット捕獲実 験が行われた。本実験は微小重力および真空環境下における最初のネット展開およびデブ リ捕獲実験であった。使用したのはスケールド・システムでネット直径は 1.5m であったが、 展開および捕獲に要した時間は 3 秒以内であった。図 3.4-20に Net Capture の実験システ ム図を示す。今後はネットシステムのパラボリック・フライト実験を計画しており、将来 的には軌道上実験も検討している。 この他にも、Astrium は他のミッションの重要なコンポーネントに対しても解析と試験 を実施しており、非協力ターゲットへの接近センサや他の捕獲システム(ロボティック、 銛)の提案を行っている。 86 出典: “Net Capture System – a Potential Orbital Space Debris Removal System-” (ASTRIUM Space Transportation)(ADR Workshop June 2012) 図 3.4-20 Net Capture の実験 3.4.2.5 (1) ドイツ DLR の TECSAS プロジェクト DLR の TECSAS(TEChnology SAtellite for demonstration and verification of Space systems)プロジェクト(2003-2007)は、DLR/CSA/Babakin が協力して実施した DEOS の前身プロジェクト。捕獲用のツールの開発、フリー・フライング・ロボットにより非協 力ターゲットの安定化とデオービットの実現を目指していた。 87 出典:DLR ホームページ 図 3.4-21 TECSAS プロジェクト (2) DLR の DEOS プロジェクト DLR の DEOS プロジェクトは、機能していない衛星の軌道上廃棄を制御するための技術 実証プロジェクトである。また、軌道上メンテナンス(特に燃料補給)を成功させるため の技術を獲得する狙いもある。 DEOS は”Client”と”servicer“の 2 機の衛星から構成されているシステムである。2 機は同時に打上げられ、高度 550km に軌道投入される。現状の計画では、2018 年に打ち 上げ予定となっており、2007 年から Phase-0、2008 年から Phase-A、2010 年から Phase-B スタディを実施している。 2012 年 9 月 13 日、DLR は DEOS デフィニッション・フェーズ(ハードウェア製作段階 前の最終設計フェーズ)におけるシステム全体のマネジメント契約を Astrium GmbH に発 注した。契約は 1 年間で約 13 百万€ である。 図 3.4-22に DEOS の軌道上イメージ図を、図 3.4-23に DEOS プロジェクトで開発され ているシミュレータの図を示す。 88 出典:DLR ホームページ 図 3.4-22 DEOS ミッション イメージ図(Credit:Astrium) 出典:DLR ホームページ 図 3.4-23 DEOS プロジェクトで開発されているシミュレータ 89 3.4.2.6 スイス スイス宇宙センター(Swiss Space Center)では、ADR ミッション・アーキテクチャ・ スタディを実施している。米国の MIT と共同で種々のアーキテクチャに対応するミッショ ン・アーキテクチャ・ツールを開発して、年間 5-10 個の大サイズのデブリを低コストで除 去する最適なアーキテクチャや実施のための国際的枠組みについて検討している。 また、EC の第 7 次フレームワークプログラム(FP7)のサポートアクションの 1 つであ るプリカーサ SSA サービス支援プロジェクト(SPA)2013.2.3-02. ”Security of space assets from in-orbit collisions”に参加して、低コストの軌道上デブリ除去関連技術の実証ミッショ ンを検討している。 さらに、クリーン・スペース・ワン・プロジェクトを立ち上げ、2012 年 2 月からデブリ 除去衛星の開発を進めている。同プロジェクトの目的は、軌道上デブリ問題に対する世金 と認識を促し、軌道上デブリ除去に関連する技術実証を行い、SwissCube(2009 年打上げ) をデオービットさせることである。2017 年にキーとなる技術を実証するための Clean Space One nanosat を打上げる計画で開発を進めている。衛星のプラットフォームデザイ ンおよび運用は学生が行う予定となっている。 図 3.4-24に CleanSpace One nanosat のコンセプトデザイン図、図 3.4-25にクリーン・ スペース・ワンのイメージ図を示す。 出典: “Status of Active Debris Removal (ADR) developments at the Swiss Space Center” (Swiss Space Center)(IAF SYMPOSIUM 2013)(Feb 2013) (©Swiss Space Center / EPFL) 図 3.4-24 CleanSpace One nanosat のコンセプトデザイン 90 出典: “Status of Active Debris Removal (ADR) developments at the Swiss Space Center” (Swiss Space Center)(IAF SYMPOSIUM 2013)(Feb 2013) (©Swiss Space Center / EPFL) 図 3.4-25 クリーン・スペース・ワンのイメージ図 3.4.2.7 (1) ロシア ISTC 国際ミッション ISTC(International Science and Technology Center:国際科学技術センター)は 2010 年、Space Debris Mitigation Workshop を開催した。31 の宇宙機関が参加した。その後、 本ワークショップのフォローアップ・アクションとして、IGOE(International Group of Experts)を組織した。 IGOE は、第一回ミーティングを 2011 年 7 月に開催し、CNES、NASA、JAXA 等が参 加した。ミーティングでは、デブリ除去に関する飛行実験”Demonstrator”プロジェクト について検討を行った。プロジェクトの対象は Kosmos-3M に選定し、実行期限を 5 年以内 と 定 め た 。 そ の 後 、 第 二 回 ミ ー テ ィ ン グ を 2011 年 12 月 に 開 催 し た 。 こ こ で は “Demonstrator”プロジェクトの提案のアップデートを行い、その結果を IADC へ報告し 91 た。 今後は、”Demonstrator”プロジェクトと他の国際プロジェクトや国家プログラムとの整 合性を取り、 ”Demonstrator”を実行するコンソーシアムを立ち上げていく予定となってい る。 (2) ROSCOSMOS の検討状況 2012 年の ILA Berlin Air Show にて、ROSCOSMOS より、大型サイズのデブリ除去シ ステムについて欧州と協力して開発を進めていく準備ができている、との発表があった。 3.4.2.8 ウクライナ ウクライナの Yuzhnoye State Design Office では、スペースデブリ除去システムとして Kicker Loads Systems を提案し検討を行っている。Kicker Loads Systems は Interception satellite に搭載して打上げられ、切り離された後、デブリと同じ軌道で逆方向からデブリに 衝突し、デブリをデオービットさせるシステムである。600km-900km の高度から 1000kg のデブリ物体をデオービットさせるためには 10-15kg の Kicker Load を逆方向から衝突さ せればよい。しかし Kicker Load の衝突により生じたデブリの破片を軌道上に残してはい けないため Kicker Load は変形可能(10-20m の大きさに展開)で、デブリの破片を包み込 むような構造となっている。衝突の後、デブリの破片と共に Kicker Load はデオービット する。Kicker Loads システムの運用イメージ図を以下に示す。 出 典 :“ SPACE DEBRIS REMOVAL ” (M.K. Yangel Yuzhnoye State Design Office Ukraine ) UNCOPUOS 50th STSC ) (Feb 2013) (©SDO Yuzhnoye) 図 3.4-26 Kicker Loads Systems の運用イメージ 3.4.3 3.4.3.1 63nd International Astronautical Congress (IAC2012) での関連論文/発表 概要 IAC(International Astronautical Congress:国際宇宙会議)は IAF(International. Astronautical Federation: 国際宇宙連盟)が主催する国際会議で、1950 年から毎年世界各 92 地で開催されている。 第 63 回 IAC はイタリア・ナポリにて、2012 年 10 月 1 日~5 日の日程で開催された。本 会議の Technical Sessions の中の一つとして「A6. SPACE DEBRIS SYMPOSIUM」が企 画され、さらにその下に以下の 7 つの SESSIONS が設定された。 <「A6. SPACE DEBRIS SYMPOSIUM」に設置されたセッション> Measurements Modeling and Risk Analysis Hypervelocity Impacts and Protection Mitigation and Standards Space Debris Removal Issues Political, Economic and Institutional Aspects of Space Debris Mitigation and Removal (Joint with Space Security Committee) Space Debris Removal Concepts このうち「A6-5. Space Debris Removal Issues」及び「A6-7. Space Debris Removal Concepts」の中で、デブリ除去に関する内容の発表が行われた。 3.4.3.2 「A6-5. Space Debris Removal Issues」 (1) 発表論文一覧 (a) 「A6-5. Space Debris Removal Issues」発表論文一覧 「A6-5. Space Debris Removal Issues」においては、以下の発表が予定された。 IAC-12.A6.5.1 HOW CAN WE IDENTIFY COLLIDING OBJECTS TO BE REMOVED? Toshiya Hanada, Kyushu University, Japan IAC-12.A6.5.2 SYSTEM ENGINEERING ANALYSIS OF DERELICT COLLISIONPREVENTION OPTIONS Darren McKnight, Integrity Applications Incorporated (IAI), United States IAC-12.A6.5.3 COST ESTIMATION OF ACTIVE DEBRIS REMOVAL Carsten Wiedemann, Technical University of Braunschweig, Germany IAC-12.A6.5.4 REQUIREMENTS AND RISKS OF A SWEEPING DEVICE FOR REMOVING SMALL DEBRIS Hugh G. Lewis, University of Southampton, United Kingdom IAC-12.A6.5.5 COMPARISON OF ACTIVE DEBRIS REMOVAL MISSION ARCHITECTURES Patrice Couzin, Thales Alenia Space France, France IAC-12.A6.5.6 RESEARCH ON SIMULATION OF CAPTURING AND DETECTING SYSTEM OF 93 SPACE DEBRIS REMOVA1 SPACECRAFT Zhang Yu jun, China IAC-12.A6.5.7 CAPTURE AND REMOVAL OF LARGE, SPINNING OBJECTS BY SMALL CAPTURE SYSTEMS Markus Pietras, Technische Universität München, Germany IAC-12.A6.5.8 ACTIVE SPACE DEBRIS REMOVAL BY HYBRID ENGINE MODULE Luigi T. DeLuca, Politecnico di Milano, Italy IAC-12.A6.5.9 VISION BASED NAVIGATION FOR DEBRIS REMOVAL MISSIONS Keyvan Kanani, Astrium Satellites, France IAC-12.A6.5.11 LIGHTFORCE: AN UPDATE ON ORBITAL COLLISION AVOIDANCE USING PHOTON PRESSURE Jan Stupl, USRA / NASA Ames Research Center, United States IAC-12.A6.5.12 LIFETIME AND REENTRY PREDICTIONS OF LOW EARTH ORBIT SATELLITES AND DEORBITSAIL Andoh Michael Afful, Stellenbosch University, South Africa IAC-12.A6.5.13 PRELIMINARY DESIGN OF A FREE-FLOATING MANIPULATOR SYSTEM FOR SPACE DEBRIS MITIGATION Alessandro Migliaccio, Alten Sud Ouest, France IAC-12.A6.5.14 GETTING RID OF SPACE JUNK WITH LESS DANGER Kerry Nock, Global Aerospace Corporation, United States IAC-12.A6.5.16 ESTIMATION OF CAPACITY OF DEBRIS COLLECTOR WITH ELECTRIC PROPULSION SYSTEM CREATION TAKING IN A COUNT ENERGY RESPONSE OF THE EXISTING LAUNCH VEHICLES Ievgen Velykyi, Oles Honchar Dnipropetrovsk National University, Ukraine IAC-12.A6.5.17 DEVELOPMENT OF A GRAPPLING SYSTEM FOR CAPTURING HEAVY SPACE DEBRIS Jaime Reed, Astrium UK, United Kingdom IAC-12.A6.5.18 THE DEVELOPMENT STATUS OF ‘ROGER’ Katherine Bennell, EADS Astrium Space Transportation GmbH, Germany IAC-12.A6.5.19 RECYCLING SPACE JUNK: RESOURCE HARVESTING AS A SOLUTION FOR ORBITAL DEBRIS Zahra Khan, United States IAC-12.A6.5.20 SPACE DEBRIS MITIGATION DEVICE USING DRAG THROUGH A CONTAINED FLUID TO REDUCE DEBRIS VELOCITY Fraser Robinson, Cranfield University, United Kingdom IAC-12.A6.5.21 DYNAMIC AND CONTROL OF FREE FLOATING RIGID FLEXIBLE COUPLING SPACE MANIPULATOR DURING CAPTURE UNCERTAIN DEBRIS Qiuhuang Dong, Fuzhou University, China 94 IAC-12.A6.5.22 ROCKET BODY ROTATIONAL STATE ESTIMATION BY REMOTE OPTICAL OBSERVATIONS Fabio Santoni, University of Rome “La Sapienza”, Italy IAC-12.A6.5.23 RECENT TECHNOLOGICAL AND RESEARCH ADVANCEMENTS IN THE FIELD OF SPACE DEBRIS- A TECHNICAL OVERVIEW Aditya Sri Naga Divakarla, University of Wisconsin, United States IAC-12.A6.5.24 FUNCTIONALIST APPROACH TO MITIGATION OF SPACE DEBRIS Raghav Shukul, National Law University, India IAC-12.A6.5.25 THE DEVELOPMENT OF AUTONOMOUS ONBOARD SYSTEMS FOR THE CONTROLLED DEORBITING OF STAGES SEPARATING PARTS OF SPACE LAUNCH VEHICLE Valeriy Trushlyakov, Omsk State Technical University, Russia IAC-12.A6.5.26 SPACE DEBRIS REMOVAL Prachee Priyadarshinee, India IAC-12.A6.5.27 SPACE DEBRIS REMOVAL USING A SELF-INFLATING ADAPTIVE MEMBRANE Thomas Sinn, University of Strathclyde/Advanced Space Concept Laboratory, United Kingdom IAC-12.A6.5.28 A NOVEL APPROACH FOR ACTIVE DEBRIS REMOVAL – PERSPECTIVES FROM THE NEXT SPACE GENERATION Minoo Rathnasabapathy, Space Generation Advisory Council (SGAC), Australia IAC-12.A6.5.29 SPACE DEBRIS MITIGATION USING ON-ORBIT SERVICING SOLUTIONS Peter Hofmann, Kayser-Threde GmbH, Germany (b) 「A6-7. Space Debris Removal Concepts」発表論文一覧 「A6-7. Space Debris Removal Concepts」においては、以下の発表が予定された。 IAC-12.A6.7.1 ACTIVE DEBRIS REMOVAL : CURRENT STATUS OF ACTIVITIES IN CNES Christophe Bonnal, Centre National d’Etudes Spatiales (CNES), France IAC-12.A6.7.2 TRADE-OFF ON DIFFERENT CONCEPTS AND TECHNOLOGIES FOR ORBITAL CAPTURE AND FIXATION OF HEAVY DEBRIS Alessandro Chiesa, Aviospace, Italy IAC-12.A6.7.3 NOMAD: A CONTACTLESS TECHNIQUE FOR ACTIVE LARGE DEBRIS REMOVAL Steeve Kowaltschek, European Space Agency (ESA), The Netherlands IAC-12.A6.7.4 ASTRIUM VISION ON SPACE DEBRIS REMOVAL Xavier CLERC, Astrium Space Transportation, France IAC-12.A6.7.5 FASTSAT ORBITAL DEBRIS REMOVAL MISSION - AN AFFORDABLE, SCALABLE 95 AND RESPONSIVE FLIGHT DEMONSTRATION Steve Cook, Dynetics, United States IAC-12.A6.7.6 ACTIVE REMOVAL OF SMALL ORBITAL DEBRIS USING LASER SYSTEMS IN SPACE Richard L. Fork, University of Alabama in Huntsville, United States IAC-12.A6.7.7 THE DEBRITOR: AN “OFF THE SHELF” BASED MULTIMISSION VEHICLE FOR LARGE SPACE DEBRIS REMOVAL Bernard GERBER, EADS Astrium Satellites, France IAC-12.A6.7.8 ACTIVE DEBRIS REMOVAL BY A SMALL SATELLITE Satomi Kawamoto, Japan Aerospace Exploration Agency (JAXA), Japan IAC-12.A6.7.9 SPACE DEBRIS REMOVAL FROM LOWER EARTH ORBIT AND GEOSYNCHRONOUS EARTH ORBIT USING ELECTRODYNAMIC TETHERS AND VASIMR TECHNOLOGY Sagar Satpathy, SRM University, Chennai, India IAC-12.A6.7.10 A REORBITER FOR LARGE GEO DEBRIS OBJECTS USING ION BEAM IRRADIATION Shoji Kitamura, Japan Aerospace Exploration Agency (JAXA), Japan このうち、実際に論文の投稿があったものの中で、デブリ除去ロボット技術に関するも のについて内容の調査を行った。以下に調査論文の概要を示す。 (2) デブリ除去ロボット技術に関する論文内容の調査 (a) 「IAC-12.A6.5.29 SPACE DEBRIS MITIGATION USING ON-ORBIT SERVICING SOLUTIONS」 本論文においては、主にドイツにおいて進行中の OOS(On-Orbit Service)プログラムを 概要を示している。GEO 衛星の寿命延長を目的とした OOS として、OLEV(Orbit Life Extension Vehicle)プログラムが提案されている。OLEV では、Servicer(サービス衛星) により、ステーション・キーピングと姿勢制御を継続する。ドッキング・インターフェー スは、規格化された Launch adapter I/F Ring と Liquid Apogee Engine Nozzle のみであ るので、既存の GEO 通信衛星の 80%以上に適用できる。以下に関連システム図を示す。 96 出典:”SPACE DEBRIS MITIGATION USING ON-ORBIT SERVICING SOLUTIONS”, Peter Hofmann, Kayser-Threde GmbH, Germany (IAC-12 A6.5.29) 図 3.4-27 OELV Capture Tool(左)と OELV in the parking position(右) その他、ドイツにおいて進行中の OOS(On-Orbit Service)プログラムとしては3.4.2.5(2) 項でも示した DEOS が挙げられる。 DEOS スタディの B1 フェーズにおいては、 Kayser-Threde 社はマニピュレータ・アームによる係留、係留およびドッキング機構、ロ ボット制御技術、オンボード・サポート・ハードウェア、画像処理ソフトウェアに関する 検討を行った。また、OOS プログラムの一つとして開発されているのが、VIBANASS (Vision-Based Navigation Sensor System)であり、多目的のランデブーおよびドッキン グ・カメラ・システム、ターゲット・イルミネーション・システムが含まれている。 上記のミッションにおけるドッキング/係留メカニズムは、GEO リングから運用停止し た衛星の除去に活用することができる。SDMA(Space Debris Mitigation and Awareness) ミッションにおいてドッキング/係留を実施するためには、OLEVや DEOS における係 留アーム、ドッキングツールが必要となる。 (b) 「IAC-12.A6.7.4 ASTRIUM VISION ON SPACE DEBRIS REMOVAL」 Astrium は大型サイズのデブリ除去研究に関して、宇宙機関のプロジェクト(DEOS for DLR、OTV for CNES、Roger for ESA など)に参加したり、内部の R&T 活動を行ったり してきている。 また、ADR システムの予備設計に必要なインプットを得て、技術オプションの特性を評 価するために、基準ミッション設計(DRMs:Design Reference Missions)を行った。DRM 97 としては、以下の 2 つのミッションを選定した。 • DRM1 SSO における Ariane 4 と Ariane 5 の上段 • DRM2 SSO における欧州の運用停止中の衛星 500kg<質量<5000kg これらのミッションに関して、デブリ除去ミッションに関係する技術をリストアップし、 長所短所を整理し、成熟度評価を行った。リストアップされた技術を以下に示す。 <デブリ除去ミッションに関する技術> • 近距離における捕獲技術 • ロボットアーム、マルチアーム、巻き取り式ゲート、触手 • 中距離における捕獲技術 • ネット、バッグ、グリッパ/テザー • デタンブリング技術 • ターゲット処理技術 • インフレータブル・バルーンやゴッサマー構造を用いて、速度と逆方向の抵抗力を誘 導する装置 • 機械的非接触によるターゲット処理 • ランデブーによる相対航法センサ • イメージングカメラ(モノ、ステレオビジョン)、レーダー、レーザー測距、LIDAR 98 ロボットアームの例(Canadarm-2 ISS) マルチアームの例(GEO Supersync NASA concept) 巻き取り式ゲートの例 粘着性パッドを有した触手のコンセプト例 ROGER ネットシステム グリッパ/テザー コンセプト バッグ・コンセプトの例 出典:”ASTRIUM VISION ON SPACE DEBRIS REMOVAL”, Xavier CLERC, Astrium Space Transportation, France(IAC-12 A6.7.4) 図 3.4-28 Astrium が提案するデブリ除去技術に関するコンセプト 99 (c) 「 IAC-12.A6.7.5 FASTSAT ORBITAL DEBRIS REMOVAL MISSION - AN AFFORDABLE, SCALABLE AND RESPONSIVE FLIGHT DEMONSTRATION」 FASTASAT システムを用いた、迅速で、低コストで実現できる軌道上デブリ除去実証を 提案する。この技術実証は、36 ヶ月以内、1 億 5000 万ドルで実証可能であり、現在、運用 中の FASTSAT HSV-01(2012 年 11 月運用終了予定)の除去も実証するものである。図 3.4-29に FASTSAT のシステム図を示すが、FASTSAT は多数のペイロードを搭載すること ができ、キューブサットを展開でき、マザー・シップとしての機能を果たすことが可能で ある。FASTSAT による実証コンセプトは、将来の大規模スケールミッションへのスケーラ ビリティを有している。 図 3.4-30に提案する技術実証の内容を示す。 出典:”FASTSAT ORBITAL DEBRIS REMOVAL MISSION - AN AFFORDABLE, SCALABLE AND RESPONSIVE FLIGHT DEMONSTRATION”, Steve Cook, Dynetics, United States(IAC-12 A6.7.5) 図 3.4-29 FASTSAT 100 出典:”FASTSAT ORBITAL DEBRIS REMOVAL MISSION - AN AFFORDABLE, SCALABLE AND RESPONSIVE FLIGHT DEMONSTRATION”, Steve Cook, Dynetics, United States(IAC-12 A6.7.5) 図 3.4-30 (d) 「 IAC-12.A6.7.7 FASTSAT を用いた軌道上デブリ除去実証 THE DEBRITOR: AN “OFF THE SHELF” BASED MULTIMISSION VEHICLE FOR LARGE SPACE DEBRIS REMOVAL」 DEBRITOR は、大規模なデブリ除去のためのマルチミッション・ビークルである。 DEBRITOR のプラットフォームは、複数のターゲット間を移動するための高い推進能力、 近接運用、ミッション終了時のデオービット機能を備えている必要がある。図 3.4-31に DEBRITOR ビークルのイメージ図を示す。 DEBRITOR は、できる限り軌道上にある遺産を活用することで低コストで実現する。推 進系については、既存のモジュール(E3000、Mars Express)が十分な能力を持っており、 アビオニクス、電力、通信システムについては、LEO の既存プラットフォームが使える。 このコンセプトにより、DEBRITOR は SSO にある 2ton 程度のデブリを最大 7 個まで除去 できる。 DEBRITOR には、共有の射出装置と伸縮マストを使った 7 個の銛が装備されている。各 銛はテザー・リンクを通して、デオービット・パックに装着されている。マストの先端に は、2D と 3D のビジョンシステムが搭載されている。DEBRITOR は銛を使用するために、 デブリから 10m ほどの距離まで接近する。捕獲後は、ビークルからデオービット・パック 101 が射出する。 デオービット・パックは衛星の近地点高度を 450km まで落とすため、25 年以内のリエ ントリーが可能となる。7 個目のデブリ衛星は、DEBRITOR 自身がリエントリー制御を行 う。ビークルは化学推進(推進剤容量>3.2ton)だが、すべてのデオービット・パックが射 出されても、非常に大きいデブリを捕獲し、共にリエントリーすることができる。 出典:THE DEBRITOR: AN “OFF THE SHELF” BASED MULTIMISSION VEHICLE FOR LARGE SPACE DEBRIS REMOVAL, Bernard GERBER, EADS Astrium Satellites, France 図 3.4-31 Debritor ビークルのイメージ図 出典:THE DEBRITOR: AN “OFF THE SHELF” BASED MULTIMISSION VEHICLE FOR LARGE SPACE DEBRIS REMOVAL, Bernard GERBER, EADS Astrium Satellites, France 図 3.4-32 Debritor の射出装置 (e) Astrium UK 社提案の Harpoon システムについて 上記の DEBRITOR の銛に関連したシステムとして、Astrium UK 社の Harpoon システ ムについて示す。 102 Astrium UK 社は、機能停止した衛星やデブリに”Chaser satellite”に取り付けられた 銛を撃ち込むシステムの設計をしている。 発射物につながれているテザー推進パックが、デブリを大気圏まで降下させる。 Astrium の提案では、かかりのついた銛は約 30cm の長さである。 ”Chaser satellite”に 取り付けられ、ゴミとなっている物体の 100m 近くまで接近する。その後、地上に送られ た画像によりターゲットを評価し、20m 以内に接近し銛を撃ち込む。 燃料タンクの爆発が過去のデブリの大きな原因となっているため、そうならないように本 システムではクラッシャブルなシリンダーを使用している。ピストンのようになっており、 銛が衛星の壁をヒットした途端に急激に減速するため、宇宙機を貫通することはない。 出典:BBC News(http://www.bbc.co.uk/news/science-environment-19803461) 図 3.4-33 Astrium UK 社提案の Harpoon システムと実験写真 103 我が国のデブリ除去ロボットの開発・事業化について 3.5 本章では、デブリ除去に関する技術課題、コスト課題を整理し、我が国で実現可能なデ ブリ除去ロボット開発の姿を整理する。なお、実現に向けては、予算化計画、国際協力等 の在り方について、解が見出されていることが最も肝要であり、実効的な議論を積み重ね る必要がある。 3.5.1 基本的な考え方 デブリ除去の必要性はもはや疑う余地がなく、世界各国はデブリ除去への具体的な取り 組みを加速しようとしている。その傍証として国際宇宙会議(IAC)での論文件数の内、デ ブリ除去に関するものがここ 1、2 年で急増していることを図 3.5-1に示す。このような必 要性、有用性が認識されているにも関わらず、我が国においてデブリ除去ロボットの開発 予算獲得、開発体制整備がスロー・スピードであるのは大変残念であり、改善が望まれる。 140 件数 120 国際宇宙会議(IAC) デブリ関連論文件数推移 100 除去 Debris Removal Removal 高速衝突 Hypervelocit y Impacts and Protect ion 80 防止 Mit igation, Standards, Political, Economic and Institutional 60 観測、モデル化 Measurements, Surveillance, Modelling and Risk Analysis 40 タイトルに Removal を含む 20 0 2008 図 3.5-1 3.5.1.1 2009 2010 2011 2012 年 国際宇宙会議(IAC)でのデブリ関連論文件数の推移 拡大の面から見たデブリの脅威 GPS によるカーナビ、気象衛星を用いた天気予報を初め宇宙利用は人間生活に溶け込み、 既にあって当たり前になっている。また、有人活動についても耳目を集めることが多い。 宇宙利用を拡大するシナリオは語られて既に久しいが、その前提は宇宙空間が継続的かつ 安全に利用可能なことである。そのため、デブリ問題は幅広な議論が必要である。少なく とも我が国においては、JAXA をはじめとする公的機関、ならびに SJAC、メーカ等産業界 が協力して一般市民に理解を促す啓蒙運動を進めるべきである。デブリ監視網の整備、デ ブリを増加させない法的整備の観点も肝要である。自動車排ガスによる大気汚染問題であ れば、人間は生理的不快を直接的に感じ、排ガス削減の重要性を認識できるが、スペース デブリについては他人事になってしまいがちである。デブリ脅威に関するワールドワイド 104 な意識改革が求められる。 3.5.1.2 我が国のデブリ除去コンセプト 米国においてデブリ除去に向けた動きは表面的には緩慢である。米国が宇宙空間を軍事 上の重要な位置付けとしている事実から勝手に推論するならば、軌道上の軍事衛星を撤去 可能なデブリ除去ロボットを世界各国機関が所有することは米国の考える秩序の崩壊に繋 がりかねないであろう。他方、宇宙空間の軍事利用をも狭めてしまうデブリは米国にとっ ても頭の痛い問題に違いは無い。 我が国におけるデブリ対策においては、大枠では米国のようなジレンマは無いと推察し、 世界が欲する持続的な宇宙利用拡大を重要視したビジョンを持って行動すべきである。デ ブリ対策の具体的コンセプトを次に挙げる。 ・ 正確な現状認識のための方策:デブリ状況の監視網の整備 ・ デブリを増加させない方策:国際的な法的整備 ・ 現状デブリ低減に向けた方策:大型デブリの除去ロボット整備 デブリ監視に関する SSA、法的整備の重要性は言うまでもないが、デブリ除去に関して は、デブリ除去ロボットの宇宙実証が未達であり、段階的技術実証が必要である。 ・ デブリ除去ロボットの要素技術のうち、未実証技術に関して軌道上要素技術実証 ・ デブリ除去ロボットの軌道上技術実証 ・ 国際協調の下でのデブリ除去の体制、キャッシュフローの仕組み確立 ・ 量産化、シリーズ化、等の事業化 3.5.2 スペースデブリ除去ロボットの技術開発 デブリ除去ロボットの定義を、「1 件当たり数トン規模の軌道上デブリを除去する能力を 保有するロボット」、とする。宇宙空間に広がった粉砕後の微細なデブリを 1 つずつ除去す る場合に比べ、除去効率が良い。また、除去対象の軌道は静止軌道(GEO)や中高度(MEO) に比べ早期のデブリ除去が必要な低軌道(LEO)とする。デブリ除去ロボットの形態は多 様に検討可能であるが、本節ではで軌道降下のための推進薬を必要としないエレクトロダ イナミックテザー(EDT)を用いた形態に特化する。 デブリ除去は喫緊の課題であり、その実現にあたっては選択と集中による短期間での効率 的な技術開発が不可欠である。このため、デブリ除去ロボットの固有技術である非協力対 象へのランデブ、捕獲、EDT に注力し、それ以外は既存、もしくは同時進行している他プ ロジェクトからの技術の流用を前提に次のような開発方針を採用する。 105 ・ ランデブ技術、捕獲技術における技術開発方針: 宇宙実証済みの推進系、センサ、マニピュレータ、誘導制御技術を活用 非協力対象へのランデブ、捕獲において必要となる相対位置・姿勢の把握に注力 ・ 除去技術における技術開発方針: エレクトロダイナミックテザー(EDT)の採用 EDT を用いるに当たっての確実なテザー伸展と安定した電流ループ形成に注力 ここで、従来の各種報告書等において検討されてきたデブリ除去ロボット全体の技術課 題を俯瞰する。本節では、2012 年 3 月の(社)日本航空宇宙工業会「平成 23 年度 宇宙 環境保全に係る調査(その 1) 成果報告書」に拠る。そこで抽出された技術課題は次の通 りである。 ●技術開発が必要な要素技術 ・ 非協力対象(デブリ)への接近飛行計画立案技術 ・ 非協力対象検出及び形状認識のための画像処理技術 ・ 対象物の回転運動推定のためのアルゴリズム ・ 対象物検査のためのフライアラウンド飛行計画立案技術 ・ 非協力対象の把持技術 ・ 回転運動抑止技術 ●技術課題 ・ 航法センサの開発(遠距離~近距離まで) ・ 除去デバイスの開発 ・ 捕獲技術 ●技術課題実証の優先度 我が国がデブリ除去でリードするため、斬新でリスクがあり世界初の技術に取組むとい う観点において、次の優先度とされている。 ①捕獲技術/除去技術 ②ランデブ技術/運動推定技術 これらを踏まえた上で、<ランデブ技術、捕獲技術>及び<除去技術>について考察す る。 <ランデブ技術、捕獲技術> 非協力対象であるデブリへのランデブにおいて固有かつ重要な技術として、デブリとの 106 相対位置を正しく把握する航法技術がある。また、航法を実現する上で画像認識は避けて 通れない技術である。画像認識は地上の産業用ロボット等でも盛んに用いられているが、 これらとの比較においてデブリ除去ロボットでは次のような特色がある。 ・ 遠距離(数 10km)から近傍(数 m)に渡って広い距離の範囲で機能すること ・ 日照/日陰、太陽光方向等の照明条件の大きな変化へ対応できること ・ 軌道上の限られた計算機リソース ・ 対象の形状データの不確実性(軌道上破損や詳細情報入手の困難さを含む) これらに対応するため、デブリ除去ロボット搭載の航法系では光学カメラ画像を用いた 方式に加え、赤外線センサ、はやぶさ/LIDAR、及びその後継機、あるいは、次期月着陸 機着陸レーダ、等の各種センサとの組み合わせについても考慮していく必要がある。非協 力対象への航法技術を確立できれば、ETS-VII、HTV といった我が国が蓄積した技術を有 効活用し、技術の連続性を保ちながら化学推進系を用いた構成にてランデブ技術を発展さ せるのが効率的である。既に JAXA、大学等で航法技術、画像認識技術の開発に着手してお り、その成果が期待される。 EDT の適用を前提とした場合、デブリと EDT の結合は必ずしも高い剛性を必要としな い。このため、多様なアイディアにて捕獲手段の検討が進められている。捕獲における代 表的な手段として多自由度を有するマニピュレータの適用が考えられる。マニピュレータ を適用すると、これを用いない場合に比べ、デブリ除去ロボット本体との協調制御やマニ ピュレータ先端での細かな作業を期待できる。その一方、質量、電力、搭載計算機、コス ト等のリソースを確保する必要がありシステム全体としての最適化が求められる。 デブリ除去ロボット開発での技術上のクリティカルポイントとして、複雑化するシステ ムでの衛星規模や、2 次デブリを発生させない安全性、冗長性、自律機能、緻密な運用計画 にも着目すべきである。これらは、デブリ除去ロボットがある程度大型化せざるをえない ことを意味している。前述の報告書において指摘されているように、捕獲機能を有した衛 星を打上げ運用する場合、打上げ費を含め、数百億円のミッションとなる。低コスト案は 継続検討が必要であるが、従来技術の延長上におくロードマップ、事業化との連携、応用 ミッションへの展開性も合わせて検討する必要がある。 <除去技術> 低軌道においてデブリの軌道を降下させ、除去する手段としてエレクトロダイナミック テザー(EDT)技術がある。デブリの軌道降下のための推進薬を必要としないといった大 きなメリットがあり、ひとつの候補技術と考える。 ただし、前述の報告書において指摘されているように、数 km 以上のテザーが他衛星に接 触する危険性、不期のテザー切断でテザー自体のデブリ化、等のデメリットがある。デブ 107 リ除去衛星がデブリにならないよう、テザー切断時を考慮した検討が実用化に向けては必 須である。 また、テザー技術は難易度が高い技術である。テザーが柔軟体であることに起因して、 微小張力時のテザー自体のたるみ・ねじれ・巻き癖の発生、それにより端部の衛星の姿勢 運動やシステム全体挙動の不定といった課題があり、テザー伸展時の制御技術の確立が必 要である。オープンループ、フィードバック、フィードバックする場合はそのセンサ系構 成、など確実な達成に向けた検討が必要である。ダイナミクスとしては、コリオリ力に起 因したシステム全体の振り子運動など、重力傾度による安定形態が即座に確定するもので はないことに留意が必要である。 過去のテザー宇宙実証においては、テザーを所望の長さに伸展することができなかった 不具合がある。原因としては、リール部におけるテザー間の摩擦抵抗による伸展停止、テ ザー材質の微小な傷等による破断、等と考えられている。リールへの確実な巻取りに向け た製造ラインの確立、巻取り時にテザー表面を非接触検査する試験装置、等の開発も必要 となる可能性がある。 他にも、テザーの構成(単線、複線、ネット構造、材質等)、EDT を介した電流ループ形 成のための高効率のプラズマコンタクタ、など実用化に向けて検討すべき技術課題が存在 する。 ここで、我が国においては、1980 年代に日米共同テザーロケット実験として宇宙科学研 究所において世界に先駆けた実証結果を保有している。また、2010 年に宇宙科学研究所の 観測ロケットを使用したエレクトロダイナミックテザーの実験が実施されているなど、テ ザー技術に関するコミュニティが存在しており、その有効な利活用により各種の課題を解 決できる能力がある。テザー技術は難易度が高く実用化に向けた課題は多いものの、各課 題は興味深いテーマでありエンジニアのモチベーションに貢献可能である。同時に、テザ ー実証が本格化すれば相当数のエンジニア雇用に向けた事業性を有している。また、各課 題の細分化をまず検討し、実証回数は増やすが、各実証機会においてはひとつの課題に限 定して検討を進める方式により、大規模な予算計画が成立する以前に、比較的低リソース で要素技術検討として、デブリ除去ロボットプロジェクトを進めておくことができる。 デブリ除去ロボットの開発においては、新規開発である非協力接近とテザー技術の実用 化がキーである。非協力接近において用いられる画像認識に関しては、地上の各種産業分 野での知見も有効活用し、宇宙固有の技術と融合させて開発を加速する必要がある。テザ ー技術に関しては、我が国の既存テザーコミュニティを巻き込んだ ALL JAPAN 体制のも と、確実な伸展、運用等の技術を確立し、実用化に耐えうるレベルに向上する必要がある。 また、できるだけ多くの実証機会を重ねる観点で、国内/海外ロケット上段の廃棄前フェ ーズを利用した実証試験など、要素技術の多様な機会創出を図るべきである。 108 3.5.3 我が国のスペースデブリ除去ロボットの研究開発ロードマップ スペースデブリ除去ロボットを次の形態とした場合の事業化に向けた開発ロードマップ を表 3.5-1に整理する。 表 3.5-1 スペースデブリ除去ロボット開発ロードマップ 109 3.5.4 我が国のスペースデブリ除去ロボットの事業化・民営化へのアプローチ 軌道上の環境保全について最も感心が高いのは、2012 年3月に開催された「宇宙開発利 用の持続的発展のための“宇宙状況認識(Space Situational Awareness:SSA)”に関する 国際シンポジウム」(財団法人日本宇宙フォーラム)での議論によれば、安全保障の観点か ら稼動している衛星に対しデブリが脅威とならないようにする点にある。 米国はもとより、日本でも安全保障の衛星が運用されており、この様な衛星に対するデ ブリの衝突は、安全保障上の問題に直結すると思われ、排除に関する要求はあるものと推 定される。デブリの衝突を気にしているこれらの衛星は、いずれの国も政府の衛星である。 また、民間の放送衛星や通信衛星がある静止軌道とは異なり、デブリの混雑軌道といわ れる太陽同期準回帰軌道等に存在する衛星は、地球観測衛星などの政府の衛星が多いと思 われる。これらの衛星が健全に機能することが国家として必要と認識されれば、デブリの 除去は国が主導して取り組むべきと考えられ、技術実証衛星から実用衛星の初号機までを 予算化して国あるいは JAXA が開発するのは、当然と思われる。 また、宇宙産業界にとっても、「デブリ除去」は新たなビジネスモデルの創成という点で は、閉塞感のある宇宙事業分野にとって市場規模拡大のチャンスである。 ただ、デブリ除去ロボットの製品化には、確立すべき技術(対象物の軌道同定技術、回転 運動推定技術、ランデブ・フライアラウンドマニューバ設定技術、等)、及び実用化すべき 機器(相対位置検出センサ、回転運動観測センサ、デブリ回転運動消散用機器、ロボットア ーム、把持機構、デオービット用機器[EDT 等]、等)が多く、企業が先行投資先プロジェク トとして独自に開発を実施するにはリスクが多大である。既プロジェクトでの例に倣う手 法となるが、技術実証フェーズを JAXA の「開発委託」契約で、量産初期フェーズを「製 造請負」契約で、更に進んだ時点で「民営化」というステップでの開発・事業化が必要で はないかと考える。 事業化については、2012 年度の宇宙環境保全検討委員会で検討を行った。その要点を抜 粋し、以下に示す。 ・デブリ除去を他国に先駆け実証し、デファクトスタンダード化(政府資金による実用 衛星初号機までの開発) ・実用機のための継続した資金確保には、衛星の調達元に課金するシステムの確立(自 家用車の自賠責保険のように徴収し、この資金でデブリ除去を行って衝突の確率を低 減し、また万一衝突が発生した時に補償を行う)。 ・調達した資金により国際的な機関を組織して、民間から衛星・コンポーネントなどを 調達・運用しデブリ除去を行わせる。 宇宙のデブリ除去は、地球の環境保全のための産業廃棄物や家庭のゴミ処理と似ている ところがある。ゴミ処理のように、民間市場のように利益を生みだすような新たな市場を 110 生み出すことはないために、デブリ除去の事業を継続するための資金の確保をどうするの かという課題と、宇宙に係わる問題が、必然的にグローバルな問題として処理しないと解 決できないことから、国際的な取り組みをどうするのかという課題の解決が必要である。 この2つの課題について以下の項で述べる。 3.5.5 デブリ除去事業の運転資金 一般的な利益を生み出す事業とは異なるデブリ除去事業を継続的に行うためには、その 運転資金をどうするのかという課題がある。地上のゴミ処理と同じように、宇宙ゴミ(ス ペースデブリ)を出す主体がその費用を負担すべきであるとの意見は衆目の一致するとこ ろであるが、その費用分担をどのようにするかが、大きな問題である。 デブリ除去の費用分担に関しては、 ①今後デブリ生成者となり得る組織(国)からの資金調達: 打上げ軌道や衛星仕様(質量・機械的インタフェース・占有する軌道 etc.)に応じて徴収 する。費用はロケット打上げ組織・衛星運用組織、もしくは当該組織が所属する国家が 拠出する。資金の流れは以下の通り。 「ロケット打上げ組織・衛星運用組織 or 所属国家→各国政府窓口組織→(国際機関→)デ ブリ除去業者」 ②これまでにデブリを生成した国からの資金調達: 過去にデブリを生成した国が資金供出する。資金の流れは以下の通り。 「各国予算→(国際機関→)デブリ除去業者」 ③デブリ環境に曝される組織(国)からの資金調達: デブリによる運用停止リスク補填のため、衛星運用組織が保険会社に支払う保険料を活 用する。資金の流れは以下の通り。 「衛星運用組織→保険会社→(国際機関→)デブリ除去業者」 が考えられる。③の資金ルートが衛星運用組織の意思(保険を掛けるか否か)に依存してお り市場規模が不透明であるのに比べ、①②の資金ルートは比較的将来の市場規模の見通し が利くため、企業としてはデブリ除去の事業化の判断基準とし易いと思われる。但し、② のルートは国際ルール設定以前の行為に対する課金であり、当該国にとっては受入れられ 難いと考えられ、従って、①の費用負担を如何に適正且つ確実に実施できるかが事業とし ての成立性を左右するものと考える。 111 デブリ除去の国際的な枠組み案 3.5.6 Mitigation の best practice のみでデブリ問題に対応できる時代は終わり、Debris removal による積極的な環境改善(Environmental Remediation)が必要な時代に移ってい ることは各国・各宇宙機関での共通認識となっている。Debris は「ゴミ」であり、社会通 念に従えば「ゴミ」は受益者負担(ゴミを出した人)で片づけるのが原則である。しかし ながら、現状では、未だ、デブリ除去(ゴミの片づけ)に関する技術的課題もあり、開発 費を含めるとコスト的にも大きいことから、直ぐに産業化へのステップとはなっていない。 また、社会通念は上記であるものの、国際法などでデブリを発生させた国(もしくは機 関・企業)に「デブリ除去」実施を義務付ける明確な規定が存在するわけではない。更に 「デブリ除去」を義務付けることは宇宙活動・利用を拡大して行くことに対してブレーキ を掛ける方向であるゆえ、宇宙利用者の「デブリ除去」に関する合意もなかなか難しい。 一方、通信放送衛星、気象衛星、地球観測衛星等の社会インフラは打上げ当事国のみで なく、世界中が恩恵を受けおり、宇宙環境保全に関して衛星の所有国・打上げ当事国等デ ブリを発生させた国(もしくは機関・企業)のみに全責任を負わせるのは疑問が残る。(但 し、衛星破壊実験等、意図的にデブリを発生させた場合は当事国に責任は帰するとは考え る。) この問題は、地球環境問題とよく似ており、経済が更に成長し金銭的余裕が出てこなけ れば、なかなかこの環境問題を解決しようという方向に動いて行かない。そこで、社会の 富を増やすことにより生まれた技術を利用してこの環境問題を解決し、利用環境/自然環 境を維持しつつ経済が成長していく仕組みを作ることが必要となる。この観点においては、 国際協調の元で、これから宇宙開発に参加するプレーヤ各自に対して、理屈ある応分の負 担を強いて行くような試みが必要となると予想される。 このような意味から、当委員会においては、「デブリ除去」のための技術的課題について のみ議論するのでなく、未来永劫、宇宙環境を利用出来るようにするために必要となる組 織、必要なコストをどのように集めるか、それをどのようにオーソライズして行くか等々、 所謂、事業という観点での検討も行って来た。これについては、前章でも紹介しているが、 詳細は、平成 18 年度、平成 19 年度の報告書を、是非、ご参照頂きたい。なお、これらの 報告書の要旨をまとめ英文化した論文を本書の付録1に示す。 その後、海外においても、この観点で議論する国際会議、シンポジウム等が増えて来て いる。以下、海外での報告例を紹介する。 3.5.6.1 McGill 大学法学部主催シンポジウム “International Interdisciplinary Congress on Space Debris Remediation” (1) シンポジウムの概要と「マギル宣言」 「宇宙環境保全」における大きな課題の一つが「スペースデブリ除去の資金を負担する のは誰か?」という問題である。デブリ除去に対する「インセンティブ」を明確にするこ 112 とが「研究」フェーズから「実用」フェーズへ移行する上での重要なキーファクターと推 定される。そのような「インセンティブ」の与え方を含めて今後のデブリ除去の実施体制 論を議題に含む非公開シンポジウム“International Interdisciplinary Congress on Space Debris Remediation”が 2011 年 11 月 11 日と 12 日にカナダの McGill 大学法学部の主催 (後援 United Nations Office for Outer Space Affairs 他)で同大学において開催された。 このシンポジウムは「デブリ除去」の問題が他分野(理工学、政治学、法学、経済学等) に渡ることから、学術的には「デブリ除去」は「学際分野」の課題と位置づけし、多種多 様な分野の研究者を招待し開催したものである。 議題として提示されたのは以下の 4 項目である。 1) Who should undertake space debris remediation? 議題 1:誰がスペースデブリ環境改善に取り組むべきか。 2) What is needed to reduce the risk of mishaps, misperceptions, and mistrust? 議題 2:災害や誤認、不信のリスクを減らすために何が必要か。 3) What are specific transparency and confidence building measures, norms of behaviour, and best practices for debris remediation? 議題 3:透明性確保、信頼熟成、行動規範、デブリ環境改善のベストプラクティスは何か。 4) How do you handle the economics and funding? 議題 4:経済性と資金調達をどのように考えるか。 これらの解の一つとして、国際宇宙ステーションの枠組みをベースに G-G 間の協力で実 施することが一つの案として提案された。これは宇宙活動の責任は国家に集中し、「宇宙物 体」に起因する損害の賠償責任は基本的に国家にあることから、「国」が「国際協力」の枠 組みを形成するのが適切であり、また国際宇宙ステーションでのフレームワークでの経験 をベースにできることが長所とされた。しかし、国際宇宙ステーションは「研究」目的の 施設設営とその運用であることに対し、「デブリ除去」については、研究開発・技術立証の 段階のみでなく、定常的な「事業」運営が必要となる。従って、この事業段階に関して公 平で効率的・コストエフェクティブな運営ができるのかが重要となる。即ち、国際宇宙ス テーションの枠組みで、そのまま行けるのかについては疑問が残る。 また、米国からは、米国製品を利用して他国のデブリを除去すること自体、ITAR 規制を クリアすることが出来るのかという課題が提示された。例えば中国が発生させたデブリの 除去することは「中国に対する技術サービス」とみなされ、ITAR 違反となるとの指摘があ った。 同シンポジウムの議論では、アクティブデブリ除去(と軌道上衛星サービスの技術)の 技術開発を促進し、かつ、その後商業ベースでのデブリ除去(と軌道上衛星サービス)を 113 実施していく上では、初期の「インテルサット」のような政府間組織(IGO)が必要であり かつそれが実効的であると結論付けられた。また、同様に、デブリ除去に関する資金につ いても、IGO が定める一定のルールに基づき宇宙活動国や商用ユーザーから拠出していく ことが適切である、と結論付けられた。インテルサットは現在では通信衛星の管理・運用 業務を担当するプライベート・カンパニーであるが、設立当初は日本、アメリカ等 11 ヶ国 と約 140 ヶ国以上の通信事業者が出資し、国際商業衛星通信システムの設置を目的に設立 された非営利団体であった。また、これは、1961 年 7 月「宇宙通信に関する大統領声明(米 国ケネディ大統領)」において、全世界で無差別かつ平等に使用できる通信衛星システムを 構築すべきと提案したことが契機といわれている。 同シンポジウムの報告書は国連文書(A/AC.105/C.1/2012/CRP.16)として 2012 年 1 月 27 日に公開されている。 (なお、報告書は国連の宇宙平和利用委員会/科学技術小委員会のサイトから入手可能 である。http://www.oosa.unvienna.org/oosa/en/COPUOS/stsc/2012/docs.html) 報告書ではシンポジウムの内容を総括し「アクティブスペースデブリ除去と軌道上衛星 サービスに関するマギル宣言 (2011 年 11 月)」として提示している。 同宣言のうち、国際的な枠組みに関する事項は以下の通りである。 ○国連や国際機関は、デブリ除去と軌道上衛星サービスを促進するために、宇宙活動の責 任だけでなく、特に宇宙空間の物体に対する管轄権やコントロールに対処する国際条約 の補完に勤勉に務めるべきである。 ○各国政府や各種の国際機関は、スペースデブリの除去を推進にするために、法律上およ び規制上のメカニズムとプロセスを検討する必要がる。これらの法律や規制が有するメ カニズムとプロセスは、以下のアクションを奨励または推進しようとする必要がある。 ・ 打上げ国に起因するスペースデブリの当事国による除去 ・ スペースデブリの除去や軌道上衛星サービスをサポートするための国内または国際的 なファンドの設立。 ・ デブリ除去と軌道上衛星サービスを促進するための国の法律や規制の公布 ○商業ベースでのデブリ除去と軌道上衛星サービス活動を行うことに対し、国内、二国間 及び/又は政府間/国際的なエンティティ(適切なパブリック・プライベート・パートナ ーシップに基づく)を確立するということが考慮されるべきである。 ○スペースデブリ除去のための世界経済基金の創設が考慮されるべきである。この基金は 長期的な除去サービス(既存のデブリの除去だけでなく軌道投入に失敗した衛星の除去) 114 に支払われるものとする。 (2) 国際的枠組みの体制の検討例 前記のシンポジウム報告書では「初期の『インテルサット』のような政府間組織(IGO) が必要かつ実効的である。」との提言にとどめ具体的な組織案は示されていない。しかしな がらシンポジウムではプリミティブな案が議論された。 (http://www.mcgill.ca/iasl/press/spacedebris2011) 具体的な案として以下の図に示すような組織(WSO: World Space remediation) が考 えられた。 本案は、SJAC 委員会として検討していた案である「世界的な公共事業体」を造る・・こ れについては、前節の IGO 組織と通じるところであるが・・、それを、更に、シンプルに し、組織として中枢部分である「世界的に調整せねばならない部分」のみを残し、残りは 現存する組織をそのまま利用し、また、新しく作らねばならない組織は、別途、事業化 or 企業化出来るようにするというアイデアである。 想定される国際調整機関 (2011年 McGill大における国連提案議事より) (WSO : World Space remidiation Orgnization) 国連勧告/ガイドラン等 国連宇宙平和利用委員会 宇宙活動国 各国への設立勧告 報告 基金 遵守/提案 WSO (2012年:71ヶ国) 打ち上げ国 打上げペイロードの 安全指標評価 ・環境影響指数 ・ISO24113適用度 報告・徴収 (各ペイロードへの課金配分は打 上げ国の裁量範囲) 各国が 独自に 整備 ITU ISO 遵守/提案 •打ち上げられる軌道上物体の 危険度定量評価/徴収決定 •軌道上環境の評価 •除去する物体(デブリ)の決定 調整 軌道上 物体 登録国 調整 所有権者 •30人程度の職員を想定 •基金で運営/主にヴァーチャル組織 •徴収した軌道使用料は主にデブリ除去に使用 (環境保全代金) •「危険度」の検証 •環境モニタリング データ買上げ 地上観測所 (基本的には 各国よりデータ 提供をうける) 軌道上観測所 国際入札・国際調達 ) 各国宇宙機関/企業 (図中の「赤矢印」は資金の流れ) 出典:Kitazawa, “Organizational and Operational Requirements for Space Debris Remediation”, International Interdisciplinary Congress on Space Debris Remediation, 2011, McGill University (http://www.mcgill.ca/iasl/sites/mcgill.ca.iasl/files/sdc2011_4_kitazawa.pdf) 図 3.5-2 想定される国際調整機関 115 中核部分である WSO は非営利の団体とし宇宙活動国からの基金で構成・運営する。組織 はバーチャルで運営し 30 名程度の職員を想定する。WSO の主な役割は、①打ち上げられ る軌道上物体の環境へのリスク(「危険度」)評価と徴収料金の決定、②軌道上環境の評価、 ③撤去するデブリの選定と除去の発注、を仮定する。 WSO は、例えば、デブリインデックス[32]の値と ISO24113 の適用度合を打上げ国の報 告に基づき打上げ毎に評価し、打上げ国への課金を決める。(打上げ国が搭載ペイロードに 対しどのように課金するかは各国の裁量範囲とし、打上げ目的/衛星内容によって異なる ものとする。公平性を造るため、適用度合いを非公開とする軍事衛星等の課金は高く、発 展途上国や大学の小型衛星には課金しない、等が考えられる。)また、徴収は二酸化炭素の 「排出量取引」のようなフレキシブルなシステムを有するものとする。なお「打上げ国」 の定義としては、「1.打上げを行う国、2.打上げを行わせる国、3.自国領域から打上げが行 われる国、4.自国施設から打上げが行われる国」が考えられ、特に 2 番目の「打上げを行わ せる国」の定義は議論があるとろであるが、この議論に関してはここでは言及しない。あ くまで「打上げ」に関し責任を有する「国家」は「単一」として考える。 WSO は各国の軌道上物体観測データを基に除去する軌道上物体(デブリ)を選定し、そ の物体の登録国との交渉・了解を取得する。(「軌道上物体登録国」についても議論がある がここでは対象については「登録」されているものとする。なお、McGill 大は「宣言」の なかに確実な「登録」の促進を含めている。)なお、観測データは「環境推移」の長期評価、 「打上げ国」が提示した「危険度」の(ある程度の)検証(例えば上段ロケットの軌道寿 命予測、衛星からの部品放出特定等)にも活用する。 「デブリ除去」を行う宇宙機関、もしくは企業については国際入札で決定し WSO から当 該機関・企業へ発注する。発注の資金は「打上げ国」から徴収した資金をベースとする。 環境への影響度ベースでの打上げ国への課金であれば発展途上国の小型衛星等の開発ミ ッションを阻害しないと考えられる。また WSO からデブリ除去を受注すればある程度の資 金の回収が可能である。 既存のデブリについて今後の宇宙活動に対して課金することにはなるが、「打上げ国」は (定義は議論があるものの)これまで宇宙活動を主に行ってきた(すなわちデブリを発生 させてきた)国が主であり、今後も宇宙活動を主に行っていく「国」であると想定すると 概ね妥当な課金方式であると考える。 WSO のような組織は国連の宇宙平和利用委員会の下にあるのが望ましいが、すべての国 が拒否権を有するコンセンサス方式で議事が進められる現状ではすべての国の合意を得る のは困難である。既に同委員会では条約等の法的拘束力のある合意形成が困難であり、ガ イドライン等のソフトロー指向であるのは周知の事実である。 しかしながら、一方では、国連の宇宙平和利用委員会のオーサライズ、勧告等がない状 116 態では WSO のような組織・枠組みをつくるのは困難であると考える。 国連の宇宙平和利用委員会が「デブリ除去」の重要性を認識し、「デブリ除去に関する国 際的な協力」を勧告し、その勧告をベースに主要な「宇宙活動国」が協議し枠組みをつく っていくような流れが適切であると考える。インテルサットの初期の構築にケネディ大統 領の演説が果たしたような役割を国連の宇宙平和利用委員会が担うことが期待される。 ここで重要なことは、日本主導で、より具体的な案を作成し積極的に国連や各国へ提言 し、仲間造りを行い、「デブリ除去」事業の実現のステップを登っておいくことである。 3.5.6.2 国連宇宙平和利用委員会科学技術小委員会(UNCOPUOS/STSC)及び同委員会で のワークショップ (1) 国連宇宙平和利用委員会/科学技術小委員会/長期的持続可能性 WG 国連宇宙空間平和利用委員会では科学技術小委員会が 1994 年に「スペースデブリ」を議 題化し、1999 年に「スペースデブリ技術報告」を発行、更に 2007 年には「スペースデブ リ低減ガイドライン」を制定している。このように「スペースデブリ」は国連宇宙平和利 用委員会の重要な議題の一つなっている。 「スペースデブリ」問題を含め、今後の持続的な宇宙活動について検討する「宇宙活動 の長期的持続可能性ワーキンググループ(略称:長期的持続可能性 WG)」が 2010 年 2 月 に科学技術小委員会に設置された。長期的持続可能性 WG は4つの専門会合(EG-A 、B, C、D)で構成されており、そのうちの一つ(EG-B)が「スペースデブリ・宇宙運用・宇 宙状況監視ツール」の議論を行っている。 (EG-B での議論項目(Work plan)の詳細は次の WEB を参照されたい。 (http://www.oosa.unvienna.org/pdf/limited/c1/AC105_C1_L325E.pdf) EG-B の“Preliminary outline of areas of work”(作業範囲の当初のアウトライン)と して”Technical developments and possibilities regarding space debris removal”(スペ ースデブリ除去に関する技術開発と実現可能性)がテーマに上げられている。 長期的持続可能性 WG は 2014 年に「ベストプラクティスガイドライン」(及び付随する 報告書)を科学技術委員会に報告予定で現在議論が進められている。 WG での議論の参考とするため、2013 年 2 月 14 日、長期的持続可能性 WG の主催で産 業界の意見ヒアリングを目的としたワークショップが科学技術小委員会で開催された。 ワークショップでの報告題目、報告者は以下の通りである。 “ Long-Term Sustainability of Outer Space Activities. A Satellite Industry Perspective”, Patricia Cooper , the Satellite Industry Association (米国) Aarti Holla, the European Satellite Operators Association(ベルギー) Stewart Sanders, the Space Data Association, (英国) 117 “ISO Space Standards” Frederick Slane, the International Organization for Standarization(米国) “China Space Debris Activities and Space Long-term Sustainability” Zizhen Gong, China Aerospace Science and Technology Corporation(中国) “Japanese Space Industry's Efforts regarding Long-term Sustainability of Space Activities” Shigeyoshi Hata, the Society of Japanese Aerospace Companies(日本) “Eutelsat Practice & Views on Long-term Sustainability” Ms. Marion Petitjean and Mr. David Zamora, Eutelsat S.A., (フランス) “Arianespace Statement on Long-term Sustainability” Mr. Laurent Jourdainne, Arianespace, (フランス) 日本からは、SJAC が日本の産業界を代表して発表し、産業界で行っているデブ低減に関 する取組み、EG-B に関連する研究開発の紹介に加え、JAXA 及び民間企業で行っているデ ブリ除去の技術開発を紹介するとともに、日本産業界からの国連の活動に対する提言を行 った。その提言のかなかで、スペースデブリ除去に関する国際的な枠組みの確立に関する 議論を国連主導で開始することを強く期待することを表明している。SJAC のプレゼン資料 を付録 4 に示す。 長期的持続可能性 WG が策定中の「ベストプラクティスガイドライン」の議論は非公開 であり、現状ではその内容について公開されていない。「スペースデブリ除去に関する技術 開発と実現性」も検討の作業範囲に含まれているとはいえ、“現状の”技術やガイドライン の中から「ベストプラクティス」を選び「ガイドライン」として提案することが長期的持 続可能性 WG の目的であるため「スペースデブリ除去に関する技術開発と実現可能性」に 関するガイドラインが制定される可能性は低いと考えられる。これは「スペースデブリ除 去に関する技術開発と実現可能性」に関して、現状ではスペースデブリ技術がまだ研究開 発段階で軌道上実証されておらず実用化されていないために「ベストプラクティス」と呼 べるものがないことから容易に推定される。 しかしながら、国連宇宙平和利用員会科学技術小委員会において日本を含む各国は「ス ペースデブリ除去」の必要性を表明してきており、日本の産業界を代表しての SJAC の提 言は一定の重きをもつものと推定できる。 長期的持続可能性 WG を含む国連宇宙平和利用員会の活動については今後も注視し、今 回 SJAC が行った提言をあらゆるルートを通じてアピールしていくことが重要と考えられ る。 118 (2) IAF によるスペースデブリ除去シンポジウム 2013 年 2 月の国連宇宙平和利用委員会科学技術小委員会(UNCOPUOS/STSC)では(1) 項に示したワークショップに加え、国際宇宙航行連盟(IAF)主催のシンポジウム“Overview of studies and concepts for active orbital debris removal”(アクティブな軌道デブリ除去 のコンセプトと研究の概要)が 2 月 11 日に開催された。 シンポジウムでは、各国から以下のプレゼンが行われた。 (ドイツとスイスは代理が発表 している)。 US Active debris removal efforts, D. McKnight, (Integrity Applications, Inc.), 米国 Active Debris Removal activities in CNES, C. Bonnal, (CNES), フランス Space Debris Related Activities- Japanese Case, 八坂哲雄, (QPS 研究所),日本 ISTC activities on Space Debris Problem, T. Ryshova, (ISTC)、ロシア The German on Orbit Servicing Mission DEOS, A. Albu-Schaeffer, (DLR) ドイツ Status of ADR developments at the Swiss Space Center, M. Richard (Swiss Space Center)スイス The ESA Clean Space Initiative , L. Innocenti, (ESA) The Non-Technical Challenges of Active Debris Removalm, B. Weeden, (SWF:Secure World Foundation), 米国 日本、ロシア、米国の SWF のプレゼンを除き、主として技術的な紹介が主体であった。 以下、国際的枠組みを中心に主要講演について簡単に記す。 CNES からは Cosmos 3M の上段の除去の提案があった。これは、ベンチマークとして 適切であること、また、国際協調の最初にステップとして適切であるとの意見であった。 ロシアからデモンストレーションプログラムを国際及び国家プログラムとして実施すべ しとの提言があった。 SWF からは、宇宙の持続可能性の課題とスペースデブリへの認識を高めること、外交的、 政治的な観点からのデブリ除去への反対を防止するためにプロジェクトの透明性を確保す ること、政策の専門家、法的なと議論するために具体的なプロジェクト例を提示すること、 今後のデブリ除去のため、技術的、法的および政策の基礎を築くこと等の提言があったが、 課題提起にとどまっており具体的なアクションプランが提示されてはいない。 119 米国からはデブリ除去の研究の事例の紹介に加え、ジャスト• イン• タイムの衝突回避 (JCA)とデブリ除去とのコスト比較を行い、後者の方が廉価であることを示した。しか しながら、デブリ除去の適切な実施時期については不確定要素が大きいとした。米国が挙 げた不確定要素としては、1)研究開発の状況、2)デモンストレーションの実施、3)業界 のスケールアップ、3)法的/政策面での検討の進捗、5)運用• 保守、および 6)費用負担、 としており、実施時期のトレードオフが必要とした。 DLR、スイス、ESA は R&D の紹介が主体であった。 日本はデブリ除去に関連する日本の技術(「きく7号」)や JAXA の研究の状況の紹介、 SJAC の「次世代プロジェクト委員会」でのビジネスモデルの検討を紹介し、デブリ除去に 向けたアクションは幅広いレベルで行われていること、近い将来でのデモンストレーショ ンは技術的に可能であることを論じた上で、一貫した(除去の)戦略が確立されていない こと、国際的なコンセンサスが国家の方針をドライブする上で最初に重要なことを述べた。 また一般大衆の理解と世論が国際合意をプッシュする可能性を示唆した。 会場からは多くの質問が寄せられたが、コストの負担、国際協調の実現性(オープンな パートナーを形成できるか)などについてが重要な質問であった。前者に関しては発表者 から、「これからの宇宙ユーザーに応分の負担をお願いするのが適切」との趣旨、また後者 に関しては CNES より「ボトムレベル(研究者ベース)での協力は進んでいる、IADC の レベルでも対話を続けており、国際的な枠組みに関し調整可能な範囲に到達している考え ている」旨の発言があった。但しスイスは「サイエンスの分野の国際協調ではないので難 しい課題も多い」と慎重な姿勢であった。 3.5.6.3 まとめ スペースデブリ除去に向けたアクションは幅広いレベルで行われており、近い将来での デモンストレーションは技術的に可能と予想される。 特に日本は技術レベルも高く、国際的にも「フロントランナー」に位置していると考え られる。 一方、重要な課題である以下の2項目については未だ解決がされていない。 ○だれが資金を拠出するのか、 ○だれがデブリ除去を許可するのか、 SJAC が国連宇宙平和利用委員会科学技術小委員会に提言したように「スペースデブリ除 去に関する国際的な枠組みの確立に関する議論を国連主導で開始する」ことが不可欠と考 えられる。 120 現在、国連宇宙平和利用委員会議長、IAF 会長の両方が日本人であるという状況にあり、 国際的な枠組み検討を日本主導で行う上で非常に有利な状況にあると考えられる。是非、 この好機を活かしての議論の進捗を期待したい。 デブリ除去事業化に向けての提言 3.5.7 2009 年 6 月に決定された政府の宇宙基本計画の見直しが行われ、SJAC から見直し要望 の提言を行った。この中で、デブリ除去の事業化に向けて以下の提言を行っている。 要旨: 2020 年以降に、デブリ除去作業の産業化が可能となるようにデブリ除去システム実証& デブリ複数機除去の開発を早急に実施すべきと考える。このため、小型衛星を用いたデブ リ除去実証衛星を 2018 年頃に打上げて、宇宙で技術実証を行う研究開発の推進をお願いし たい。 (1)デブリ除去システム開発後の産業化の考え方(案): ① 事実の認識 今後、打上げを完全に中止したとしても、現在の軌道上衛星/物体(ロケット上段を 含む)だけでも、デブリは増殖すると予測されている。即ち、未来永劫、宇宙空間 を利用するのであれば、現有の軌道上デブリを除去しなければならない。年間 5~10 個の大型デブリの除去が必要との解析結果がでている。 デブリ除去技術は、軌道上作業機を実現することから、宇宙技術を飛躍的に発展さ せることができ、燃料補給・軌道上作業・廃棄衛星処分等の将来の軌道上サービス 産業に供することができる。 ② 費用調達 宇宙環境を使う「権利」とそこを利用する「義務」(未来永劫利用出来る様にする) とをペアとして捉えるべき内容であり、少なくとも今後の利用者としての利用税(環 境税)的な発想での徴収を図るという考え方は、理に適っている。利用税的な徴収は 例えば、打上げ費を含む物体の 10%を徴収するというようなイメージで展開可能であ る。過去を含めて徴収できれば、それに越したことは無いが、過去に遡っての法制度 化等は、ハードルが高い。 ③ 実施機関 これらを実施する機関として、世界的な公共事業会社をイメージする。 ④ 上記の②で徴収した資金を元に、デブリ除去を行う。 尚、上記③、④については、デブリ除去を実施したい国家(宇宙機関)または企業に対 して、デブリ除去を実行したという事実結果を持って、そのコストを支払うという形でも 121 良い。要するに、デブリ除去の実施に関しては 誰でも参加出来る形を取り(勿論、可能 な業者であるという認証等は必要)、実際にデブリ除去した結果を持って支払うという方 式を提言する。 (2)スケジュール(案) デブリ除去の事業化までのマイルストーンとして以下を想定する。 ・ EDT の技術実証と非協力ターゲット接近&デブリ除去システムの軌道上実証(技術実 証&利用実証)に関して、小型衛星を用いて行うデブリ除去システム実証衛星プロジ ェクトを 2013 年度から立ち上げる。 ・ 2018 年度頃に軌道上実証小型衛星を打上げる。 ・ デブリ除去技術の開発に併行して、国際協力・国際的枠組み造りを実施する。 ・ 軌道上実証後、2020 年代初めに実用システムへと移行する。 122 <3 章における参考文献> 3.2 項 [1] 河本:「スペースデブリ除去の概要」 、第 56 回宇宙科学技術連合講演会 1C06、2012. [2] 河本、木部、花田:「デブリ除去衛星の必要性について」、第 55 回宇宙科学技術連合 講演会 2F04、2011 [3] 有吉、花田、河本: 「除去対象デブリの選定方法とその効果」、第 56 回宇宙科学技術連 合講演会 1C07、2012. [4] Kawamoto, S., Ohkawa, Y., et al.: “Strategy for Active Debris Removal Using an Electrodynamic Tether”, ISTS-r-2-36, 2008. (Trans. JSASS Space Tech. Japan, 7, ists26 (2009), pp. Pr_2_7-Pr_2_12.) [5] 池内、河本: 「デブリ除去のための非協力対象への接近」、 第 56 回宇宙科学技術連合 講演会 1C10、2012 [6] Terui, F., and Nishida, S.,: “Relative Motion Estimation and Control to a Failed Satellite by Machine Vision”, Space Technol. Vol.27, Numbers 2-3, 2007, ISSN 0892-9270, pp. 90, 2007. [7] 真道、上村、河本:「モデルベースアプローチによるデブリの姿勢推定」、第 56 回宇 宙科学技術連合講演会 1C12、2012 [8] 中西、河本:「デブリ捕獲機構の検討」、第 56 回宇宙科学技術連合講演会 1C14、2012 [9] 大川、河本他:「軌道上実証を目指した導電性テザー推進の要素技術研究」、第 55 回 宇宙科学技術連合講演会 1K05、2011. [10] 北村、早川他: 「イオンビーム照射を用いる静止軌道デブリの除去」、第 56 回宇宙 科学技術連合講演会 1C19、2012 [11] Kitamura, S., Hayakawa, Y., and Kawamoto, S., “A Reorbiter for GEO Large Space Debris Using Ion Beam Irradiation,” IEPC-2011-087, 32nd International Electric Propulsion Conference, September 2011. [12] “Stability of the Future LEO Environment”(IADC)(UNCOPUOS 50th STSC セッ ション ) (Feb 2013) 3.3 項 [13] 「平成 18 年度スペースデブリに関する調査報告書」 日本航空宇宙工業会 [14] 「平成 19 年度スペースデブリに関する調査報告書」 日本航空宇宙工業会 3.4 項 米国: [15] Orbital Debris Quarterly News, Volume 16, Issue 3 (NASA) (July 2012) [16] Catcher’s Mitt Final Report (DARPA) (Mar 2011) 123 [17] “FREND: Pushing the Envelope of Space Robotics”, (2008 NRL Review) [18] Space Safety Magazine 記事 [19] “The FREND Robotic Arm” (MDA)(ICRA 2012 Workshop on Robotic Satellite Servicing )(May 2012) [20] “Orbital Debris:Time to Remove”, (STAR Inc.)(Aug 2011) カナダ: [21] “Active Debris Removal ─An Essential Mechanism for Ensuring the Safety and Sustainability of Outer Space” (A Report of the Inetrnational Interdisciplinary Congress on Space Debris Remediation and On-Orbit Satellite Servicing) (Jan 2012) [22] CSA ホームページ ESA: [23] ESA automation & robotics のホームページ (ESA) (Last Update : Feb 2011 ) フランス: [24] “Active Debris Removal: Current status of activities in CNES” (CNES) (P2ROTECT Workshop)(Mar 2012) [25] “Current status of CNES studies related to Active Debris Removal” (CNES)(ADR Workshop June 2012) [26] “Net Capture System – a Potential Orbital Space Debris Removal System-” (ASTRIUM Space Transportation)(ADR Workshop June 2012) ドイツ: [27] DLR ホームページ [28] “Telerobotics enabling On-Orbit Servicing - A DLR perspective ” (DLR Robotic and Mechatronic Center)(ADR Workshop June 2012) スイス: [29] “ Status of Active Debris Removal (ADR) developments at the Swiss Space Center” (Swiss Space Center)(IAF SYMPOSIUM 2013)(Feb 2013) ロシア: [30] “ISTC:Activity in Space Debris Mitigation & Removal ” (ADR Workshop June 2012) ウクライナ: [31] “ SPACE DEBRIS REMOVAL ” (M.K. Yangel Yuzhnoye State Design Office Ukraine)UNCOPUOS 50th STSC ) (Feb 2013) 3.5 項 [32] Tetsuo Yasaka: “Can We Have an End to the Debris Issue?”, 124 IAC-11.A.6.5, スペースデブリ除去ロボット技術の他ミッションへの応用 4 海外におけるデブリ除去ロボットの他のミッションへの転用例 4.1 調査概要 4.1.1 海外において検討されているデブリ除去ロボットの他のミッションへの転用例の調査を 行った。軌道上サービス関連研究として実施されているものであるが、具体的には以下に 示すプロジェクト/ミッション例の調査を行った。 • NASA:On-Orbit Satellite Servicing Study • DARPA:Orbital Express Mission • DLR の DEOS プロジェクト • MDA 社の SIS (Space Infrastructure Servicing) • 衛星の寿命延長サービス • DARPA の「Phoenix 計画」 NASA の軌道上サービス関連研究開発 4.1.2 4.1.2.1 Robotic Refueling ミッション NASA では、ゴダード宇宙飛行センターに Satellite Servicing Capabilities Office (SSCO)が設置されており、ここで軌道上サービス関連研究開発を実施している。代表的 なものとして Robotic Refueling ミッションがある。ISS にてロボットによる燃料補給ミッ ションを実施するもので、2013 年 1 月に実施された。 出典:NASA ホームページ 図 4.1-1 4.1.2.2 NASA Robotic Refueling モジュールの設置の様子(2011 年 7 月) NASA On-Orbit Satellite Servicing Study “ NASA On-Orbit Satellite Servicing Study” (2010 年 10 月)は議会からの指示により、 GSFC で始められたスタディであり、本レポートはその中間報告書である。軌道上サービ スのビジョン、利点、実行(主要ミッション/実証)、課題等についての検討が行われてい 125 る。軌道上サービス分野の 3 つのビジョンとして、以下が示されている。 ・ 地球近傍環境での衛星の改修/燃料補給 最も基本のサービスは消耗品を補給し、使い古したコンポーネントを交換するこ とである。 ・ 大規模構造の建造 3 種類の大規模宇宙構造物(観測所/貯蔵所/惑星間宇宙船)の組立てを宇宙空間 で行う。これらは大規模であるため、運用形態のコンフィグレーションのまま打 上げることができないため、宇宙空間で人/ロボットによる組立、試験、メンテ ナンス、改修を行っていくこととなる。 ・ 軌道上デトリタスの管理/デブリ除去 軌道上操作、自動ランデブー/ドッキング、ロボット操作の技術によりデブリ除 去を行うことができる。LEO や GEO から年間数トン単位のデブリ除去が必要と なる可能性がある。 また、将来のミッションとして、以下の 6 つの概念ミッション(NMs:Notional Missions) を想定している。(( )内は開発期間。最後の年に打上げ予定) 1. GEO SuperSync (Super-Synchronous Disposable Orbit) (2010-2015) サービス宇宙機が GEO に打ち上げられ、寿命を迎えたカスタマー衛星を廃棄 軌道(GEO+350km)に押し上げる 2. GEO Refueling (2010-2015) GEO 上の衛星に燃料補給を行う。 3. LEO Refurbish(2010-2017) サービス宇宙機(DSM:Dexterous Service Module)を打上げ、ハッブル宇 宙望遠鏡や Dragon などの有人/ロボットミッションを支援する。 4. Earth Moon Lagrange Point 1(EML1) Robotic Assembly(2018-2025) EML1 において、30m 規模の宇宙望遠鏡(TMST)の組み立てを行う。 5. HEO Human/Robotic Refurbish(2028-2036) SEL2 において、10 年間運用後の ATLAST(Advanced Technology Large Aperture Space Telescope) -9.2m 天文台の改修を行う。 6. SEL2 (Sun-earth Lagrange Point 2) Human/Robotic Assembly(2026-2035) SEL2 において、ATLAST(Advanced Technology Large Aperture Space Telescope) -15.5m 天文台の組立を、人と共に行う。 各概念ミッションの説明図を以下に示す。 126 出典:“ NASA On-Orbit Satellite Servicing Study Project Report”NASA GSFC (October 2010) 図 4.1-2 NM1:GEO Supersync ミッション 出典:“ NASA On-Orbit Satellite Servicing Study Project Report”NASA GSFC (October 2010) 図 4.1-3 NM2:On-Orbit GEO Refueling ミッション 127 出典:“ NASA On-Orbit Satellite Servicing Study Project Report”NASA GSFC (October 2010) 図 4.1-4 NM3:Robotic and Human Servicing of Satellite in LEO ミッション 出典:“ NASA On-Orbit Satellite Servicing Study Project Report”NASA GSFC (October 2010) 図 4.1-5 NM4:Assembly of the 30m Space Telescope at EML1 ミッション 128 出典:“ NASA On-Orbit Satellite Servicing Study Project Report”NASA GSFC (October 2010) 図 4.1-6 NM5:Servicing of the ATLAST-9.2m Observatory with Robots and Humans in HEO ミッション 出典:“ NASA On-Orbit Satellite Servicing Study Project Report”NASA GSFC (October 2010) 図 4.1-7 NM6:Assembly of the 15.5m ATLAST Observatory at SEL2 with Humans and Robots ミッション 129 4.1.3 DARPA の Orbital Express Mission Orbital Express は、DARPA が開発を進めている軌道上衛星への燃料供給・部品交換等 の無人サービス提供を目指した技術実証衛星で、2007 年 3 月に打上げられ実証実験を実施 し成功した。 無人サービス提供を行う親衛星である ASTRO(Autonomous Space Transport Robotic Operations、質量 700 ㎏)と、サービス提供を受けるクライアント衛星 NEXTSat / CSC (質量 226 ㎏) から成り、打上げ時は結合されていたが軌道投入後に分離された。その後、 NEXTSat へのランデブ・ドッキング、燃料補給や機器交換実験、捕獲実験を実施した。 しかし、これらの技術については、いずれも ETS-Ⅶで 10 年以上前に実施したものであっ た。 出典:DARPA ホームページ 図 4.1-8 Orbital Express Mission 4.1.4 DLR の DEOS プロジェクト DLR の DEOS プロジェクトは、機能していない衛星の軌道上廃棄を制御するための技術 実証プロジェクトであるが、軌道上メンテナンス(特に燃料補給)を成功させるための技 術を獲得する狙いもあるため、代表的な他ミッションへの転用例となっている。 なお、DEOS プロジェクトの詳細については、3.4.2.5(2)項を参照されたい。 4.1.5 MDA 社の SIS(Space Infrastructure Servicing) 2010 年、カナダの MDA 社は SIS(Space Infrastructure Servicing)と呼ばれる軌道上 ソリューションに力を注ぐと発表した。 SIS は静止軌道上に存在する通信衛星の推進剤補給を行うもので、対象となる衛星のアポ ジキックモーターとドッキングして、推進剤を注入するコンセプトである。2011 年 3 月に はインテルサットが最初のパートナーとなることが発表されたが、2012 年 1 月には計画か 130 ら離脱したため、本プロジェクトは再び研究段階に戻った状態である。図 4.1-9に、この軌 道上燃料補給のイメージ図を示す。 MDA 社の SIS では、まずは GEO での燃料補給/サービスに重点的に取り組むことを掲 げている。また、燃料はクライアント衛星へ”per kg”方式で配送する。そのため、多様な 衛星のサイズに適用可能である。さらに、サービスは迅速に行われ(数週間以内)、クライ ンアント衛星への影響を最低限に抑えること、検査、けん引、再配置、小規模修理等のサ ービスも実施できることを示している。 図 4.1-10に MDA 社が掲げている SIS のイメージ図を示す。 出典: MDA on-orbit servicing 図 4.1-9 MDA 社の軌道上燃料補給サービスのイメージ図 131 出典:“Space Servicing : The Future is Now” Dan King MDA(Space Missions)(Feb 2012) 図 4.1-10 MDA 社の SIS イメージ図 4.1.6 衛星の寿命延長サービス 2011 年、宇宙専門ソリューションサービス企業の U.S. Space LLC と ATK が衛星の寿命 を延長するサービスを提供する新規企業 ViviSat 社を設立した。 ミッション延長衛星(MEV:Mission Extension Vehicle)は、既存の衛星にドッキング し、親衛星の推進システムのバックアップとして機能する。静止衛星のオペレーションを 中断せず、ランデブー、ドッキングを行い、長期の姿勢制御、他の軌道への移動や軌道離 脱といった救済サービスを実施する計画を立てている。現在、この衛星の設計の最終段階 であり、製造の準備を進めている。(2012 年 6 月発表) 132 出典:ViviSat ホームページ 図 4.1-11 ミッション延長衛星 その他、軌道を周回する衛星の寿命を延長させたり、正常な軌道投入に失敗した衛星を 予定軌道に移動させるための衛星タグサービスを事業とするために設立されたベンチャー 企 業 と し て 、 Orbital Recovery Corporation 社 ( ス ウ ェ ー デ ン ) が あ る 。 同 社 は ConeXpress-OLEV (CX-OLEV, Orbital Life Extension Vehicle の開発に着手したが、実現 することができず、2007 年、新規ベンチャーOrbital Satellite Service 社を設立した。現在 は HERMES システムを検討中である。 出典:Orbital Satellite Service 図 4.1-12 HERMES OOS 133 4.1.7 DARPA の「Phoenix」計画 4.1.7.1 計画の概要 2011 年、米国 DARPA(国防高等研究計画局)において「Phoenix」計画が始動した。デ ブリとなっている通信衛星のアンテナなどの部品を宇宙で回収・流用して再利用を目指す 計画。バラバラの部品(特にアンテナ)を回収して、ひとつのアレイアンテナを形成させ、 低コストの「通信ファーム」として地上軍との交信に利用する計画であり、作業手順は以 下の通りである。図 4.1-13、図 4.1-14にイメージ図を示す。 <Phoenix 衛星の作業手順> 1. ロボットアームなど作業に必要なツールを装備した整備衛星を静止軌道に打ち上げ 2. 「satlets」と呼ばれるリサイクル通信衛星のコア部分になる部分を複数打ち上げ。 「satlets」は最低限の機能を持つ小さな衛星の一団。宇宙空間で整備衛星が「satlets」 を確保。 3. 整備衛星と「satlets」は一緒に廃棄通信衛星がある墓場軌道に向かう。 4. 墓場軌道で廃棄衛星からアンテナ等を取り外し、satlets と組み合わせてリサイクル通 信衛星を作る。 「satlets」はアンテナを所定の位置に動かすコントローラーとして稼働 することになる。 静止軌道上の墓場軌道を周回する、機能を停止した人工衛星には総額 3,000 億ドルの価 値があると推定されており、機能するパーツのリサイクルに成功すれば、「国防総省が必要 な人工衛星ミッションのコストは 劇的に下がる」と、Phoenix 計画のプログラム責任者デ イヴ・バーンハートは述べている。 出典:DARPA ホームページ 図 4.1-13 Phoenix 計画のイメージ図 134 出典:DARPA ホームページ 図 4.1-14 4.1.7.2 PODS(payload orbital deliver system) :satlets が複数収納されるシステム 最近の主な動き 「Phoenix」計画に関する最近の主な動きについて示す。 2012 年 6 月、DARPA は商用衛星の所有者に対し文書を公開し、計画の技術要件の初期 評価を行うための「候補衛星」を募集した。また同月、「持続可能な衛星整備」に関するカ ンファレンスを開催し、学者、民間企業、軍事専門家が出席し、規制の課題から、より技 術的な「作戦上の検討事項」まで、機能停止した人工衛星を生き返らせるために必要なあ らゆる事柄についての議論が行われた。 計画では、2015 年までに実証実験を行う予定である。すでにノースロップ・グラマン社 の子会社である NovaWurks 社を最初の契約者として 280 万ドルの資金を提供している。 NovaWurks 社は DARPA が構想する Satlet に似た低価格のマイクロ衛星「Mayflower」の 開発に参加している。 その他の契約としては、2012 年 10 月、MDA 社がフェーズ 1 プログラムの契約獲得に成 功した。(=PODS の設計とプロトタイプの試作)契約金額は 260 万ドルである。MDA 社 はこの他にも先進的なロボットツール、カメラ、2 本のロボットマニピュレータに関する多 くの契約を DARPA および NRL から受けている。さらに、ATK 社、SS/L なども SCT (Satellite Capture Tool)、AGST(Aperture Grasp and Severing Tool)の開発契約を獲 得している。 135 4.2 4.2.1 スペースデブリ除去ロボット技術の他のミッションへの応用 デブリ除去技術の将来宇宙ミッションへの展開 時間的制約及び経済的合理性の観点から、デブリ除去ロボットが将来宇宙ミッションに おける 1 つの形態として時間軸上を先行して発展し、これに続いて各種応用ミッションが 展開されるべきと考える。表 4.2-1は将来宇宙ミッションとしてデブリ除去の他に機器交換 や推薬補給等の軌道上サービス、軌道間物資輸送、SSPS 建設、月・惑星探査を取り上げ、 必要となる要素技術開発をマトリクス形式で示したものである。この表からも分かるとお り、将来宇宙ミッションにおいて必要となる多くの技術がデブリ除去ロボットと共通する。 すなわち、デブリ除去ロボットの開発推進は宇宙利用の持続性をもたらすだけでなく、将 来宇宙ミッションに向けた先導的な役割を担っていると言える。言い換えれば、デブリ除 去ロボットは将来宇宙ミッション実現への起爆装置と考えることができ、これを実現した 国は宇宙産業基盤の充実や雇用確保、モチベーションの向上など多くの利益を得る。この ような将来との関係性を持つ故に、デブリ除去ロボットの開発及び運用に国・産業界を挙 げて取り組まねばならない。図 4.2-1では選択と集中により全体での利得最大化を図った将 来宇宙ミッション展開の概念図を示す。 除去ロボットの特色であるテザー技術は、重力傾度が無視できない環境下での柔軟構造 ないし多要素を連結した構造の形態制御を軸としているため、長大な宇宙構造物の形成を 容易にするという特性を持つ。その特色を活用することにより、多様な展開が可能と考え る。また、センサ、把持技術は軌道上作業における有益な補助技術となる。 ロングスパンで開発を計画することにより、多様な応用例が検討可能である。宇宙空間 への輸送手段の一つとして話題にあがる宇宙エレベータは、その製造過程でテザー技術の 利用が想定されている。現時点では、静止軌道に至る長大な構造質量を支える材質が存在 していない(カーボンナノチューブが候補とされているが、現在の最長は 2[cm])。将来の 多様な技術成果を期待した上で、重要となる基盤技術の長期養成という観点においてテザ ー技術を位置づけることは可能であり、デブリ除去ロボット成果の一つとなりえる。 136 表 4.2-1 将来宇宙ミッションで必要な技術 将来宇宙ミッション 要素技術開発 GPSより高い軌道でのGPS航法 画像認識 3次元画像航法 運動推定 レーダ(レーザ、RF) ロボットアーム制御 アーム/本体の協調制御 高比推力推進手段 (大出力イオンエンジンetc) 耐放射線高速演算計算機(演 算処理のH/W化含む) 自律化 (異常検知、故障分離、システ ム再構成、リスクマネジメント) 搭載S/W開発・検証手法 デブリ捕獲機構 EDTシステム (テザー、ブレーキ、FEC等) 流路脱着(流体カップリング) 手先の微細作業手段 ○GEO ○ ○ ○ △ ○ ○ 軌道上サービス (機器交換、推薬補給) ○GEO ○ ○ △ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ - ○ - ○ - ○ - ○ - - - - - ○ ○ - ○ - デブリ除去 軌道間物資輸送 SSPS建設 ○ ○ ○ ○ - ○GEO ○ ○ ○ ○ ○ 月・惑星探査 (ローバー含む) ○ ○ ○ ○ △ ○; 137 必須、 △; 有益 将来宇宙ミッション 将来宇宙ミッション 早期の宇宙環境改善 デブリ除去 ミッション デブリ除去ミッション 軌道上サービス 軌道上サービス 軌道間物資輸送 軌道間物資輸送 成果の利活用 SSPS 建設 SSPS 建設 月・惑星探査 時間軸 月・惑星探査 時間軸 デブリ除去遅延に伴う 打上げ禁止のリスク 選択と集中 ⇒ 全体での利得を最大化 同時並行開発 ⇒ リソースが分散し非効率 図 4.2-1 期待される将来宇宙ミッション展開の概念図 138 4.2.2 スペースデブリ除去技術の他のミッションへの応用例 4.2.1項では、デブリ除去ミッションと他の将来宇宙ミッションとの関連を要素技術開発の 観点から示し、先行的にデブリ除去ミッションを進めて他の将来宇宙ミッションに展開する ことにより全体の将来宇宙ミッションの開発が効率的になることを述べた。 本項では、スペースデブリ除去の運用シーケンスで使用される技術が、将来宇宙ミッショ ンにどのように展開されるのかをその応用例を示して述べる。 4.2.2.1 デブリ除去の運用のシナリオ(想定) デブリ除去の運用シナリオを以下に示す。 a) 打上げロケットにより初期軌道に投入されたデブリ除去ロボットは待機軌道を周回 b) 地上側で除去するデブリを決定し、当該デブリへのランデブマニューバプランを立案し デブリ除去ロボットに送信 c) デブリ除去ロボットは当該プランに従ってランデブ d) 対象デブリに概略接近後、自らのセンサによりデブリとの相対位置を観測し、自らの位 置情報と共に地上局に送信 e) 得られた情報により、地上側でランデブマニューバプランの見直しを実施し、デブリ除 去ロボットに送信 f) 対象デブリに再度接近したデブリ除去ロボットは、自らのセンサによりデブリの回転運 動状態を観測し、地上局に送信 g) 得られた情報により、地上側でフライアラウンドマニューバプランを立案し、デブリ除 去ロボットに送信 h) デブリ除去ロボットはフライアラウンドを実施後、デブリの回転運動を消散させるため の作業を実施(手段は TBD) i) デブリ除去ロボットはデブリの回転運動を静止後、最接近し、デブリ除去手段(EDT 等) をデブリに装着 j) 装着作業実施後、デブリ除去ロボットは退避マニューバを実施し、デブリより離隔 k) デブリ除去ロボットは当該軌道に留まるか、所定の待機軌道に復帰し、次の除去デブリ への接近指示を待つ l) ミッション実施により搭載推薬の残量が乏しくなった場合は、別途軌道投入されるタン カー衛星とランデブし、推薬の補給を受けるか、推薬タンクの交換を実施する --------以降 b)~l)を繰返す-------注 1) デブリに対してデブリ除去手段を装着する際に、デブリの回転運動の消散を必要としな い場合は、上記の f)の後半から i)の前半までの手順は不要 注 2) 手順 l)による燃料補給は Option 139 4.2.2.2 上記のシナリオ実現のためのデブリ除去システムのシステム構成と各構成要素が有 する除去ミッション実施のための特徴的な機能(案) i) デブリ除去ロボット 軌道変換機能、デブリとの相対位置計測機能、デブリ回転状況観測機能、デブリ回転運動 消散機能、デブリ除去手段装着機能(投射等による遠隔装着方式、またはロボットアームに よる接触装着方式)、推薬補給機能 ii) 地上システム(運用管制設備、通信局) ランデブマニューバ立案機能、デブリ軌道同定機能、デブリ除去ロボットとのテレコマ通 信機能、 iii) タンカー衛星(Option) 軌道変換機能、推薬補給機能、推薬タンク交換機能 iv) データ中継衛星 v) 打上げロケット 4.2.2.3 上記のシステム及び保有機能の他ミッションへの応用(例) 上記のシステム及び保有機能の他ミッションへの応用例として以下が挙げられる。 (1) 軌道上太陽光発電システム(SSPS)等の大規模構造物の建設サービス ロケットは建設資材を低軌道投入し、作業用ロボット(デブリ除去ロボットの派生型)により 所定の高度への輸送・組立作業を実施する。 (2) 他衛星の軌道変換サービス ロケット若しくは衛星推進系不良により当初軌道に投入出来なかった場合、軌道変換用ロ ボット(デブリ除去ロボットの派生型)が当該衛星にランデブ/一体化し、軌道上昇マニューバ を実施する。また逆に、運用が終了した後の衛星をデオービットさせるための軌道降下マニ ューバを実施する。 (3) 衛星機器交換サービス メンテナンス用ロボット(デブリ除去ロボットの派生型)により、運用中に動作不良を起こし た機器の交換や、長期間運用する衛星の観測機器の最新機器へアップグレード、ないしは他 の方式の観測機器への変更を実施する。 140 (4) 軌道高度変換型高分解能地球観測 通常運用中は大気抵抗の影響の少ない高度でタンカー衛星と結合した状態で観測を実施す るが、大規模災害が発生し、現地の状況を高い分解能で観測することが必要となった場合は、 観測衛星の部分のみが軌道降下し、所定の期間低軌道からの高分解能観測を実施したのち、 再度当初軌道に軌道上昇して定常運用に復帰する。 デブリ軌道への投入 ・有人宇宙機等のランデブ・ドッキング時 非協力接近(遠方・近傍域) の機器故障時バックアップ運用(地球周 回軌道の以外) 対象物運動推定・接近 EDT取付・退避 ・ 非協力宇宙機との結合 ・ 機器交換 ・SSPSの構造組立技術 EDT伸展 (テザーの伸展・張力制御等) EDT によるデオービット ・軌道上サービス (燃料補給、故障診断、故障機器の交換) (例)ハッブル宇宙望遠鏡のレスキュー 141 <4 章における参考文献> [1] “NASA On-Orbit Satellite Servicing Study Project Report”NASA Goddard Space Flight Center (October 2010) [2] “Space Servicing : The Future is Now” Dan King MDA(Space Missions)(Feb 2012) [3] Vivisat 社ホームページ(http://www.vivisat.com/) [4] DARPA ホームページ(http://www.darpa.mil/our_work/tto/programs/phoenix.aspx) 142 5 まとめ 宇宙環境を利用する上での事実・・・ ◆ 新しく打上げを行わなくとも、既に、軌道上にあるデブリだけで増殖し、宇宙が利用で きない状態となってしまう(これについては、日米欧露等の解析結果が一致) ◆ 人類は、地球観測、通信、測位等、宇宙を利用することの利便性・有用性を知り、継続 して宇宙環境を利用したいと考えている。宇宙利用を止めることは出来ない。 ことから、軌道上にあるデブリを除去することは必ず必要となる。 このことから、各国では、2020 年代初期から軌道上にある寿命の尽きた衛星を、例えば、 5 機/年、10機/年という規模で除去する解析・検討が行われている。これによれば、こ のような率で除去すれば、軌道上デブリの異常な増殖を避けることが出来るという結論を得 ている。 一方、宇宙空間は世界各国が平和に利用できることを常とし、その環境を未来永劫、維持 することができるように、国連宇宙空間平和委員会等での国際調整が行われている。当然の ことながら、このデブリ除去行為に関しても、国際的な調整の中での「合意」が必要であり、 また、その合意レベルは、可能な限り「法的拘束力」があるようにしたいところである。そ れができれば、これに必要となる資金収集もオーソライズし易くなり、また、公共事業的な 要素を含む事業化も進んでいくものと考えられる。 また、これと併行して、この事業が成立するということ、即ち、資金収集に合致したコス トでこのデブリ除去ができることを示す必要がある。具体的には、この軌道上実証(コストを 含む)を行うことである。 この上記 2 点「国際的合意を取り付けること」「事業が成立するという立証を軌道上実証す ること」が、このデブリ除去事業の成立のためのキーとなるが、前述したように、デブリを 除去することは、人類が持続的に宇宙を利用して行くための不可欠な行為であり、これは必 ず必要となる事業である。そういう意味では、確実に市場があり、日本としての事業化を検 討するに値するテーマであると考える。そして、日本が世界をリードする形でこの事業化を 行うことで、意味のある宇宙産業が日本に構築できるものと考える。このことから、是非、 上記の「国際的合意」と「事業成立の軌道上実証」のふたつを日本主導で行っていくことで、 日本国が中心となったデブリ除去事業を実現させたいと考える。 この観点から、SJAC では、2004 年以降、この関連の検討を継続して行い、 2006 年度 /2007 年度には、このために必要となる以下のアクションの必要性を説いた。尚、当初から、 このデブリ除去関連については 宇宙の平和利用や安全保障上の問題となるので、この実施 については、国家戦略として実行すべきことであると説いている。アクションは以下の 7 つ 143 である。 ①一般論への浸透 ②日本国発信の国連/宇宙平和委員会への提言 ③日本国発信による ISO 規格適正化とビジネスモデル化 ④日本国における宇宙環境保全機関の設置 ⑤日本国によるデブリ除去衛星の実証 ⑥日本国として考えるデブリ観測 ⑦下支えシンクタンクの構築と①~⑥の具体化 これについての現状を以下に列挙する。 ① デブリ除去の必要性に関する一般世論への浸透 更なる継続的な発信が必要。 ・ 2008 年、読売新聞がデブリをアクティブに除去する必要性とそのビジネスモデル(産業 化モデル)につき取り上げた。しかし、この時点ではインパルス的な盛り上がりまでで あった。その後の中国 A-SAT 報道もインパルス的な盛り上がりまでとなった。 ・ 2009 年、IRIDIUM-33 とロシア衛星 COSMOS-2251 との軌道上衝突があった。衛星同 士の衝突が現実問題としてあるのだということと、それがあるとデブリが急激に増殖す ることが報道された。 ・ 地球環境というテーマの中で、地球上だけでなく宇宙空間も汚れてきているという内容 が 2009 年 6 月のテレビ番組(日本テレビ:キャスター桜井翔、日本科学未来館毛利館 長(元宇宙飛行士)出演)で取り上げられた。 ・ その後も何回かロボット/デブリ除去関連の報道はあったが、技術的面白さという観点 での報道色が強く、デブリ除去実施の必要性・妥当性に関する国民の理解を得るまでの 報道には到っていない。 ・ 浸透させるためには、インパルス的な報道ではなく、継続的な報道が必要と考える。地 球を囲む宇宙、このデブリ問題についても(地球)環境問題の一環として進めるべきも のと考える。 ② 日本国発信の国連宇宙空間平和利用委員会への提言 宇宙基本計画では「i 国際的な対話の推進:安定的かつ持続可能な宇宙環境を確保するた め、COPUOS や宇宙空間の活用に関する国際的な規範づくり等に我が国としても積極的 に参加し、国際的な貢献を行う。」としている。しかしながら、現状では、日本主導で実 144 施するというところまではできておらず、もう一度、日本主導の必要性の認識とその構築 が必要である。 • 2009 年の IADC 内の分科会において、ODR(orbital debris removal)の必要性に関し て議論がなされ、次回から IADC として正式にこのテーマの議論を行うことになった。 • 米国主導であるが、この関連のスペースデブリ国際会議の第 1 回が、2009 年 12 月に開 催された。日本もこれに参加し、3件を報告。日本からは、技術的な検討だけでなくビ ジネスモデル(産業化モデル)の検討も実施している旨報告した。 • カナダ McGill 大学主催の会議において議論されたものが、報告書として国連科学技術小 委員会に提出され、国連文書として登録された(マギー宣言)。そこには、宇宙空間の物 体に関する管轄権やそのコントロールに関する国際条約の補充をも行い、法的拘束力が ある形を検討すべき等述べられている。 • 2011 年から、国連宇宙空間平和利用委員会/科学技術小委員会/宇宙活動の長期持続性 作業部会/専門家会議「B」(スペースデブリ、宇宙運用、及び宇宙状況認識)において、 国際的なベストプラクティス・ガイドラインの見直しが行われ、ODR の必要性までの記 述検討が進められている。尚、具体的 ODR そのものが記述されるかどうかについては これからの議論。 • 2013 年 2 月国連宇宙空間平和利用委員会/科学技術小委員会で「宇宙活動の長期的持続 可能性ワークショップ」が開催され、日本から産業界を代表して SJAC が発表し、国連 に提言を行った。(3.5.6.2(1)参照) ③ 日本国発信による国際標準の制定促進とビジネスモデル関連 事業組織、事業化イメージが検討されつつあるが、国際的な検討はこれからである。 ・ 軌道上デブリ除去(ODR)以外については、ISO 化が進んでいる。 ・ ODR を含めたデブリ処理については 2008 年/ISO 会議において、SJAC 検討のビ ジネスモデル(2008 年/ISTS で発表したもの)を紹介した。 ・ ビジネスモデルの検討/資金をどう集めるか/については、以下の案がある。 (案1)過去を含め今までデブリを出した責において徴収 (案2)過去は問わず今後の宇宙利用の中で徴収(宇宙環境利用税的な徴収) (案 2.1)打上げる衛星の単純容量(重量 or 寸法 or コスト等)で配分 (案 2.2)デブリインデックス(デブリ成り易さ率)で配分 ・ 実施する機関(組織)構成は、「国際的公共事業会社として実施する」or「最小限必要 な国際調整機関のみで構成しあとの作業は国際調達する」が考えられる。 145 ④ 日本国における宇宙環境保全機関の設置 宇宙基本法/基本計画では、宇宙環境保全の必要性と宇宙状況監視体制の検討まで説かれ ている。しかし、デブリ除去を含めた宇宙環境保全全体としての体制までを構築すべきであ る。 ⑤ 日本国によるデブリ除去衛星の実証 宇宙基本計画では「デブリ除去技術開発:今後、国際的な連携を図りつつ、我が国の強み をいかし、世界的に必要とされるデブリ除去技術等の開発を着実に実施する。」となってい る。 このうち、「国際的な連携」については、国連、IADC、民間(ISO)レベルでの連携が図 られてきている。また、「我が国の強みをいかし」という点では、デブリ除去に必要なラン デブー&ロボティックス技術は我が国の得意とする分野のひとつである。そして、「世界的 に必要とされる」というところは、この報告書(3.1 章)で見てきた通りである。従って、今 問われるべきところは「実証・実用」までの的確なアプローチであると考えられる。工程表 を明確にし「早期の軌道上実証・実用」は喫緊の課題と言える。 ⑥ 日本国として考えるデブリ観測 2013 年 1 月に閣議決定された新宇宙基本計画では「我が国の安全かつ安定した宇宙開発利 用を確保するため、デブリとの衝突等から国際宇宙ステーション(ISS)、人工衛星及び宇宙 飛行士を防護するために必要となる宇宙状況監視(SSA)体制について検討を行う。」となっ ている。しかしながら、デブリ除去までを考える場合、除去対象の挙動を正しく計測するこ とも重要であり、この挙動観測までできる観測体制の構築が必要であると考える。 ⑦ 下支えシンクタンクの構築とそれによる上記項目の具体化 未だ実現できていない 上述したように、本件は 国家戦略として実施すべき内容であり、①~⑥を的確に実施す る必要がある。このためには、適正な時期に適正な相手に対して国際的調整を行い、また、 一方では適正な時間軸で軌道上実証を含めた技術開発を行う等々が不可欠である。これを 企画し、その実施管理をしていくためのシンクタンク構築は、的確な手法であると考える。 最後に、纏めると以下のようになる。 ◆ 2004 年度の SJAC 次世代プロジェクト推進委員会において、宇宙ロボットを利用したデ ブリ除去プロジェクトの必要性とその立上げを提言した。また、更なる検討を 2006 年度 146 /2007 年度の同委員会において行い、本プロジェクトを実現するためのアクションを設 定し、それに則った形で検討を進めて来た。 ◆ この間、日本では宇宙基本法が制定され、それに基づく宇宙基本計画が制定された。宇 宙基本法、宇宙基本計画では宇宙環境保全の必要性が明示され、「デブリ除去等、宇宙 開発利用自体による宇宙空間における環境への配慮が不可欠」と定めている。特に、「デ ブリ除去技術開発」については「国際的な連携を図りつつ、我が国の強みをいかし、世 界的に必要とされるデブリ除去技術等の開発を着実に実施する。」として、日本国とし てのヴィジョンを明確に示している。 ◆ しかし、未だ、満足したプロジェクト推進とまでにはなっていない。 ◆ 一方、当初は 未だ動きすらなかった海外の検討が 急速に進み、リードしていたはず の数々の軌道上実証や事業としての検討内容も、同等若しくは先に進むレベルまでに成 って来ている。 ◆ ここで、このプロジェクトの重要性を認識し、体制の構築を行うとともに、国家戦略の ひとつとして 加速して進められるべきであることを提言する。 ◆ そして、これを進めることは、宇宙基本法の精神に合致した内容、即ち、これは「宇宙 環境保全を行うこと」であり、かつ「宇宙関連産業の育成を行うこと」であることを、 再度、認識したいと考える。 147 付録資料 付録資料 Appendix 付録1: “What can we do and should do for the space environment, Debris? ”, Committee for Next-generation Space Project Promotion, The Society of Japanese Aerospace Companies (SJAC) Co-chairman Masaya Mine (NEC), (26th ISTS 2008-r-2-35) 付録 2: “デブリ除去プロジェクト立上げとビジネスへの展開”、日本航空宇宙工業会 (SJAC)次世代プロジェクト推進委員会 副委員長 峰正弥(NEC)、第 5 回 スペースデブリワークショップ(JAXA)、2013 年 1 月 22 日 付録 3: “Promoting the Active Debris Removal Project on Business”, Committee for Next-generation Space Project Promotion, The Society of Japanese Aerospace Companies (SJAC) Co-chairman Masaya Mine (NEC), (22 Jan 2013) 付録 4: “Japanese Space Industry’s Efforts regarding Long-term Sustainability of Space Activities”, The Society of Japanese Aerospace Companies(SJAC), UN Office for Outer space Affairs/Scientific and Technical Subcommittee Fiftieth session(14 Feb 2013) 付録1 26th ISTS 2008-r-2-35 What can we do and should do for the space environment, Debris? 2008.Jun.4 Masaya Mine NEC Corporation Committee for Next-generation Space Project Promotion, The Society of Japanese Aerospace Companies (SJAC) co-chairman This theme was studied by the CNSPP in SJAC OUTLINE Recognizing the space debris environment when we will make use of space environment continuously Considering what we can do and should do on this stand > to establish the space management center Organization’s structure & organizational funding of space management center Proposing Active Debris Removal system as one of the debris mitigation methods Conclusion 1 2 㪈 The space debris clouds covered on earth is constantly increased ! Chinese anti-satellilte (ASAT) Constantly increased This chart is based on the data provided by NASA Orbital Debris Quarterly News 3 To make use of the space environment is constantly increased! Accumulated numbers in the space environment is constantly increased Forecast of trend in commercial GSO Forecast of trend in commercial NGSO This chart is based on the data provided by COMSTAC 2006 4 It is very important to manage the space environment [A] 䋽 [B] [A] 䋾 [B] 㹢 㹢 [A] 䋼 [B] 㹢 have a comfortable life using the space environment have a bad life being unable to use the space environment because the satellites are in the large debris clouds being in the clean sky (space) but to have a poor life (being inconvenient) Duties Rights [A] MAKING USE OF THE SPACE ENVIRONMENT BALANCE [B] MAINTENANCE OF THE SPACE ENVIRONMENT 5 To keep a balance 䂔 stand upon our rights witch is “to make good use of the space eternally” earth observation satellites, communication satellites broadcast satellites, global positioning system’s satellites etc. 䂔 do our duties witch is “to have a maintenance of the space continuously ” Two action are necessary for the above. 㽲 To permeate “ management of space environment” into public opinion 㹢 to be common sense 䊶 Educating the public thru industry and government forum 䊶 Public outreach thru media, print, DVD (story comics), etc. 䊶 Promoting the initiative thru Internet, on-line communities, blogs 㽳 To establish a management center for the space environment 㹢 to be with organization & funding sources 6 Space Debris Awareness Spreading: Cartoon (“PLANETIS”) by Makoto Yukimura 7 Space Debris Awareness Spreading: Space Debris Fortune-Telling 8 management center for the space environment • International space preservation association & its management • #UFGDTKUTGOQXCNGPVGTRTKUGYKNNIGPGTCVGRWDNKEKPVGTGUVYJCVKUECNNGFURCEGGPXKTQPOGPVRTGUGTXCVKQP CPFPGGFKOOGPUGKPKVKCNKPXGUVOGPVKVUJQWNFDGOCPCIGFCURWDNKEWVKNKVKGU CPFVJGDGPGHKEKCT[EJCTIGU[UVGO UJQWNFDGCRRNKGFKORCTVKCNN[ • +VKU JCTFHQTQPGEQWPVT[VQRTQOQVGVJKUGPVGTRTKUG CPFUQKVKUKPFKURGPUCDNGQHKPVGTPCVKQPCNHTCOGYQTMU 70TGUQNWVKQPGVE • 5GTXKEGQHHGTGFVQVJGFGDTKUYJKEJGCEJGPVTGRTGPGWTIGPGTCVGFUJQWNFPQVDGRTQRQTVKQPCNVQVJGDWTFGPEJCTIG EQNNGEVGFHTQOGCEJGPVTGRTGPGWT6JGHWPFTCKUGFHTQOVJGGPVTGRTGPGWTYJQYKNNRTQFWEGHWVWTGFGDTKUECPDG URGPVQPVJGEQUVVQTGEQXGTTGOQXGCPGZKUVKPIFGDTKU 4GHGTVQVJGHQNNQYKPIHKIWTG • $QVJQHVJGU[UVGOPQVVQIGPGTCVGCFGDTKUCPF KPVGTPCVKQPCNUVCPFCTFK\CVKQPKUKPUVKVWVKQPCNK\GF • 6JKUCUUQEKCVKQPRGTHQTOUCWVJQTK\CVKQPQHCRTQFWEVYJKEJFQGUPQVRTQFWEGCFGDTKUCPFVJCVCWVJQTK\CVKQP EJCTIGKUEQNNGEVGF Fund collected from each entrepreneur (example: impose on launch expense) International space preservation association Provision of Orbital Services 9 Management center (organization’s Structure) Organizations to operate “debris removal” enterprise (staffing descriptions omitted) Organization 1: Space Environment Preservation Planning (Debris Mitigation Project) 䊶 Debris mitigation planning based on current debris conditions and debris forecasting model established by Organization 2 (below) 䊶 Concrete action plans are formulated based on debris mitigation planning (establishing WBS/SOW) 䊶 Project management for implementing action plans 䊶 Effective use of organizational funding Organization 2: Debris Observation & Modeling 䊶 Reorganization of current debris conditions based on US, Europe, etc. debris observation network report and in-orbit observation 䊶 Establish and maintain debris forecasting model 䊶 Monitor new launches and satellites (are there non-reported satellites, etc.) 䊶 In-orbit observation planning and to order observation system to manufacturers Organization 3: Debris Removal 䊶 Working in coordination with Organization 1, debris removal planning and to order removal satellite system to manufacturer, and to perform the debris removal Organization 4: Establishing ISO Debris-related Standards 䊶 Organization 1, 2, and 3 work jointly on establishing debris-mitigation ISO standards applicable for satellite design 10 Management center 䋨Organizational Funding) Funding Sources Proposal Plan (Note1)(Note3)(Note5) Flat Rate General Evaluation Fairness Transparency / Evaluation 㬍? (Note4) 㬍? (Note4) 䂾 Benefits to advanced/utilizing space countries. Negative impact on developing countries. (Note4) Difficult to Price evaluation? Comments Proportional to Price 䂾 䂾 䂦 Proportional to Launch Opportunity 䂾 䂦 䂾(Note2) Launch Opportunity can be monitored on the ground Debris observation network Proportional to Mass 䂾 䂾 䂦(Note2) Debris size can be monitored on the ground Debris observation network Note1: Above proportional rate is based on the number of launcher + satellite Note2: Declaration can be evaluated by comparing the data obtained by Debris observation network Note3: Funding from individual countries collected on basis that space is a shared resource (i.e., shared terrestrial resources) Note4: US, Europe, etc. should maintain debris observation infrastructures to supply observation data and the maintenance cost will serve as counterbalance to the flat rate advantage. Note5: Impartial funding considering the exchange rate Funding Method 䊶 Funding provided by final user (operator) 䊶 “consumption tax” or “insurance fee”-type funding 11 Effective debris-mitigation 㹢 Active Debris Removal collision Break-up 㬍 Fragmentation Fact No return Spilt milk cannot return in the cup Number of debris : 1 䋼䋼 Work power to remove: 1 䋼䋼 N( large numbers) large non-operating satellites :to remove the satellite (objects) before fragmentation Action operating satellites :to re-orbit in the short-lived orbits before end of mission life 12 Preliminary Active Debris Removal Study 䊶Tool used in the study is the NASA orbital debris evolutionary model LEGEND (objects:10cm and larger) 䊶Active Debris Removal is implemented in the year 2020 with annual debris removal rates of 5,10,and 20 䊶ADR is a very effective means to limit the population growth in high collision activity regions between 800 and 1000km. This chart is based on the data provided by NASA Orbital Debris Quarterly News 13 The concept of active debris removal system (before break-up accidents &collision avoidance) Plural EDT unit carried in the middle class satellite Attaching EDT unit in capturing, extending tether and releasing Shifting between orbits, removing more debris sequentially EDT Unit 14 Concept of active debris removal system Satellite Removing Scenario : Plural Debris Remover 15 Technical Road Map of Active Debris Removal System Future Required technical development item Present condition Target Required technology Target Cooperative target Relative flight technology Non-cooperative target Cooperative target Capture technology Non-cooperative target N/A Robotic work Rendezvous & Docking 䋨ETS-VII䋩 Angular momentum reduction Non-cooperative technology of a capture satellite target Primary level Propulsion system addition / exchange / refueling technology Practical level Cooperative target Verification / simulation technology Non-cooperative target Cooperative target Operation technology Non-cooperative target A platform / deployment structure (for recovery satellites) Technical development Structure without debris generating䊶Autonomous extinction Systematization Debris capture Space environmental preservation Propellant supply Life extension of satellite on orbit Social consensus, International agreement, Standardization (Use-of-space increase) but (an orbit is limited)㹢Orbital effective use㹢Necessity of space environment preservation 16 Study of ADEOS Removal ~ Japan’s debris removal proof-of-concept plan ~ Demonstration removal plan of targeting Japan’s non-operational, in-orbit satellites (example: ADEOS) ( 1 ) T a r g e t s a t e llit e p o s it io n a c q u is it io n (6 ) Ta rg e t c a p tu re a n d S ta b iliz in g ( 2 ) M o v e in t o p r o x im it y o f ta r g e t ( 3 ) O b t a i n t a r g e t ’s (7 ) A tta c h te th e r to ta r g e t ( 8 ) D e p lo y t e t h e r d e ta ile d in f o rm a t io n (9 ) Ta rg e t (4 ) R educe t a r g e t ’s R e le a s e n u ta tio n ( 1 0 ) D e - o r b it ( 5 ) R e n d e z v o u s w it h ta rg e t (11 ) M o v e to n e x t ta rg e t ADEOS-II (Midori-㸈) 17 Behavior of ADEOS-㸈 䋨Observating duration:3min.28sec. 䋩 18 conclusion -1 International recognition of debris problem and what can we do and should do for the space environment, Debris? In 1995, NASA enacts NSS1740.14 “Guidelines and Assessment Procedure for Limiting Orbital Debris”, and in 2000 the US Government implements “Orbital Debris Mitigation Standard Practices”. In 1996, NASDA enacts STD-18 “Space Debris Mitigation Standard”. (Revised as JMR-003 following JAXA integration.) CNES enacts “Safety Requirements - Space Debris” in 1999. In 2004, ESA along with UK, France, Germany and Italy decide on “European Code of Conduct for Space Debris Mitigation” in line with CNES standards. CNES is first to sign this agreement. In June 2007, “Space Debris Mitigation Guidelines” are adopted by UN Committee for Peaceful Uses of Outer Space (UNCOPUOS). Although national government and expert level recognition of the importance and necessity of space debris mitigation has been achieved, it has not been a public opinion (common sense). However, with continued use of space ,there is a pressing need to create the concrete measures for space environment preservation. Therefore, we want to promote Japan-led, concrete space environment preservation initiatives that is supported by the public opinion. 19 conclusion-2 Suggestion䋺 promoting the Japan-led, concrete space environment preservation initiatives Permeating public opinion 䊶 Educating the public thru industry and government forums 䊶 Public outreach thru media, print, DVD (story comics), etc. 䊶 Promoting the initiative thru Internet, on-line communities, blogs Japan’s suggestions to UNCOPUOS 䊶 Codification of the idea of “debris” into the legal framework of Outer Space Treaty’s Article 9 “contamination” 䊶 Suggestion and establishment of "organization" to undertake space environment preservation and "cost of operation/business model" 䊶 “Space environment preservation” idea promotion thru economic and social organizations, international summits, earth summits, etc. Earth environment preservation 㹢 Great benefits of earth observation from space 㹢 coupling of space use and space environment preservation Japan’s suggestions for ISO standards and business models 䊶 Balanced standardization between advanced and developing countries 䊶 Standardization not to hinder the benefit of industry and economic development 䊶 ISO standards-based Business model, such as conformity assessment cost for space environment preservation 20 conclusion-3 Suggestion䋺 promoting the Japan-led, concrete space environment preservation initiatives Establishment of space environment preservation organization in Japan 䊶 Working with international partners, Japan to establish an integrated space environment preservation organization 䊶 Organization to couple the concept of the use of space with idea of space environment preservation 䊶 This organization would be responsible for the overall space environment preservation project and various systems involved (such as CAM) 䊶 Organizational responsibilities would include public awareness announcements on importance of the space debris problem (example: announcements by astronauts on the problem’s severity). Japan’s space debris mitigation spacecraft 䊶 Space debris removal satellite demonstration: debris removal proof-ofconcept and Japan technology demonstrator 䊶 Proposal of debris removal satellite system based on demonstration results Debris observation by Japan 䊶 Japan’s role for debris observation activity and establishment of observation network Establishment of think-tank to support concrete realization of above objectives 䊶 Concrete strategic policies to lead the international project 21 Thanks for your kind attention ! Space environment preservation The best solution for space debris is to make a balance as above. Please don’t hesitate your questions & comments mail address : m-mine@ap.jp.nec.com ISO Debris-related Standards Debris Mitigation Idea & Control (WD24113) Design WG Integration & Testing WG Rejection of remaining energy for satellite Operation WG Environm ental WG Saf ety Remaining useful life Reentry safety management (WD27875) Collision avoidance design World population model Structure technology Collision avoidance upon launch Reentry technology Rejection of remaining energy for rocket Stage separation design Deployment mechanism Meteoroid & Debris Model (“pro-space”) Operations Separation disposal maintaining design Materials WG Material Selection Debris Mitigation Ideas & Control (WD24113) Life time Projection of remaining propellant(WD23339) Exchange of on- orbit information(14N385) Disposal of GEO satellite(14N378) Disposal maneuver design Managem ent WG Close Coordination Operation WG Management WG Orbiting determination Evaluation of collision on orbit Disposal in LEO Evaluation of life time operation Strategy of co-orbiting Protection of contact after separation Disposal of upper stage of rocket NOTES (1) ISO/TC20/SC14 proposal of Nov. 17, 2005 (2) Titles abbreviated (3) Management standards under discussion with Operation WG (4) Black text: projects under development Grey text: projects under discussion 23 Concept of active debris removal system Plural Debris Remover Subsystem EPS/PDL C&DH TCS/STR AOCS Mass (kg) Power consumption (W) Remarks 䋹䋰䌾䋱䋱䋰 䋵䋰䌾䋷䋰 2-axis drive PDL 䋴䋰䌾䋵䋰 䋹䋰䌾䋱䋰䋰 S-band 䋱䋰䋰䌾䋲䋰䋰 䋸䋰䌾䋱䋲䋰 Cone type central cylinder 䋶䋰䌾䋸䋰 䋱䋲䋰䌾䋱䋴䋰 3-axis stabilized 䋳䋵䋰䌾䋷䋰䋰 RCS MISSION TOTAL 䋱䋰䌾䋲䋰 Propellant: 300kg䌾600kg 䋲䋵䋰䌾䋳䋶䋰 䋱䋲䋰䌾䋱䋵䋰 10 EDT Units Robotic Arm Imaging sensor 䋸䋹䋰䌾䋱䋵䋰䋰 䋴䋷䋰䌾䋶䋰䋰 䋭 24 㪢㪼㫐㩷㪚㫆㫄㫇㫆㫅㪼㫅㫋㩷㪫㪼㪺㪿㫅㫆㫃㫆㪾㫀㪼㫊 㫆㪽㩷㪘㪺㫋㫀㫍㪼㩷㪛㪼㪹㫉㫀㫊㩷㪩㪼㫄㫆㫍㪸㫃㩷㪪㫐㫊㫋㪼㫄 Electro Dynamic Tether (EDT) Tether wire, Reel mechanism, Release mechanism, Electron emission section Imaging measurement Rendezvous sensor for non-cooperative, Debris motion measurement Capture technology Capture by a robot (Compliance control, Dumping control, Capture mechanism) 25 付録2 デブリ除去プロジェクト立上げ とビジネスへの展開 2013年1月22日 日本航空宇宙工業会(SJAC) 次世代プロジェクト推進委員会 副委員長 峰 正弥(NEC) 命題 ■ 宇宙環境の事実 ① 新しく打上げを行わなくとも、既に、軌道上にあるデブリだけで増殖 し、宇宙が利用出来ない状態となってしまう(日米欧露等の解析結果 が一致) ② 人類は、地球観測、通信、測位等、宇宙を利用することの利便性・ 有用性から、継続して宇宙環境を利用したい(trivial) ⇒ 軌道上にあるデブリを除去する必要がある ■ デブリ除去解析の実施状況 ① 各国では、2020年代初期辺りから寿命の尽きた衛星の 5機/年、 10機/年・・除去を条件とした軌道上デブリ状況解析を行っている 2020年代初期からデブリ除去を行う事業を立上げる! 2 実現のためにやらねばならないこと ① 「国際的な合意」、可能な限り「法的」にまで・・ 2020年までに、世界的にデブリ除去を行う事業~世界的公共事業の ような位置付けか?~を世界としてオーソライズする ② 事業推進者としての能力を持つこと そのデブリ除去事業の立上げ時期に、日本の立場が優位となるよう な位置を確保する 日本として取るべき行動は・・・ ①⇒ 日本主導で実施(2国間交渉⇒多国間交渉) ②⇒ 技術的/事業的(コスト面)妥当性をデモ実証 3 必要なアクションを整理 ■SJAC 2006年度/2007年度のスペースデブリに関する 調査報告書では、以下のアクションの必要性を説いた ① 一般論への浸透 ②日本国発信の国連/宇宙平和委員会への提言 ③日本国発信によるISO規格適正化とビジネスモデル化 ④日本国における宇宙環境保全機関の設置 ⑤日本国によるデブリ除去衛星の実証 ⑥日本国として考えるデブリ観測 ⑦下支えシンクタンクの構築と①~⑥の具体化 ■これを 国家戦略として実現する ことで、世界をリードし た 日本国発の世界的な産業化 を実現したい 4 現状の検討状況 ①一般世論への浸透 ( △ ) ・ 2008年、読売新聞がデブリをアクティブに除去する必要性とそのビ ジネスモデル(産業化モデル)につき取り上げた。しかし、この時点で はインパルス的な盛り上がりまで。その後中国A-SAT報道もインパ ルス的な盛り上がりまで。 ・ 2009年、IRIDIUM-33とロシア衛星COSMOS-2251との軌道上衝突 があった。衛星同士の衝突が現実問題としてあるのだということとそ れがあるとデブリが急激に増殖することが報道された。 ・ 地球環境というテーマの中で、地球上だけでなく宇宙空間も汚れて きているという内容がテレビ番組(4-ch/桜井翔出演)で放送された (毛利さんが発言した)。 ・ その後もロボット/デブリ除去関連の報道はあったが、技術的面白 さという観点での報道色が強く、デブリ除去実施の必要性・妥当性に 関する国民の理解を得るまでには到っていない。 ・ 浸透させるためには、インパルス的な報道ではなく、継続的な報道 が必要。(地球)環境問題の一環として進めるべき。 5 現状の検討状況 ②日本国発信の国連宇宙空間平和委員会への提言 ( △ ) ・ 2009年のIADC内の分科会において、ODR(orbital debris removal) の必要性に関して議論がなされ、次回からIADCとして正式にこの テーマの議論を行うことになった。 ・ 米国主導であるが、この関連のinternational conference第1回が、 2009年12月に開催された。日本もこれに参加し、3件を報告。日本で は、技術的なフィージビリティだけでなくビジネスモデル(産業化モデ ル)の検討も実施している旨報告した。 ・ カナダMcGill大学主催の会議において議論されたものが、報告書 として国連科学技術小委員会に提出され、国連文書として登録され た(次ページ:マギー宣言参照) ・ 2011年から、国連宇宙平和委員会/科学技術小委員会/宇宙活 動の長期持続性作業部会/専門家会議「B」(スペースデブリ、宇宙 運用、及び宇宙状況認識)において、国際的なベストプラクティス・ガ イドラインの見直しが行われ、ODRの必要性までの記述が進められ ている。尚、具体的なODRの検討は、記述されるかも含めこれから。 ・ 上記国連に関した活動は、少なくとも日本が中心的に加わる形で 進められていかないと、初期の目的は達成出来ない。 6 現状の検討状況 ■ アクティブスペースデブリ除去と軌道上サービスに関する マギル宣言(2011年11月) ・・・カナダMcBill大学主催の会議において、1年目:デブリの現状と問 題、2年目:デブリ削減、3年目:デブリ除去とその実施体制と3年掛 けて議論し、それを報告書という形で国連科学技術小委員会に提出 した。委員会での発表後、国連文書として登録された。内容は以下。 ・ 国連や国際機関は、デブリ除去と軌道上サービスを促進するため に、宇宙活動の責任だけでなく、特に宇宙空間の物体に対する管轄 権やコントロールに対処する国際条約の補充に努めるべき。 ・ 各国政府や各種国際機関はデブリ除去を推進するため、法律上及 び規制上のメカニズムとプロセスを検討すべき。 ・ また、デブリ除去をサポートするための国際的なファンドの設立を 検討すべき。 ・ 除去物体の識別を可能とするように、宇宙物体の管轄権の確認や 登録の国際的義務の遵守を進めるべき。 7 現状の検討状況 ③日本国発信によるISO規格適正化とビジネスモデル関連( △ ) ・ 軌道上デブリ除去(ODR)以外については、ISO化が進んでいる。 ・ ODRを含めたデブリ処理については 2008年/ISO会議において、 SJAC検討のビジネスモデル(2008年/ISTSで発表したもの)を紹介 まで。 ・ ビジネスモデルの検討/お金をどう集めるか/については・・・ (案1) 今までデブリを出した責において徴収 (案2.1) 宇宙環境利用税的な徴収(単純容量配分型) 次ページ (案2.2) 宇宙環境利用税的な徴収(デブリインデックス配分型) 次々ページ ・ 実施する機関として、「国際的公共事業会社として実施」or「国際調 整機関という形で調整まで(次次々ページ)」 8 現状の検討状況 資金収集方法のトレードオフ 設定案 (注1)(注3) 総合評価 公平性 透明性/検証性 コメント ○ 先進国、宇宙利用度が多い国有利。発展途上国等は否定? ? ? (注4) (注4) プライス比例 ○ ○ △ プライスの透明性は難しい? 打上げ機数比例 ○ △ ○(注2) 地上デブリ観測網でチェック出来る 重量サイズ比例 ○ ○ △(注2) 地上デぶり観測網でサイズ等はチェック出来る 各国一律金額 (注1)上記の比例方式は、打上げロケット+衛星を考慮した比例値 (注2)全て申告制であるが、形あるものは地上から観測出来るので正当性の確認は出来る (注3)宇宙環境は各国に与えられた共通の資源であり、その利用税的な観点で収集。(cf:土 地利用) (注4)米国、欧州等からは、デブリ観測ネットからのデータ供給有り、その設備維持費でバラ ンスする? 9 現状の検討状況 Numerical example of debris index (Yasaka, 2009, 2011) If one Collision Avoidance (CA) maneuver is performed. If multiple CA maneuvers are performed. 10 現状の検討状況 Kitazawa, “Organizational and Operational Requirements for Space Debris Remediation”, International Interdisciplinary Congress on Space Debris Remediation, 2011, McGill University 11 現状の検討状況 ④日本国における宇宙環境保全機関の設置 ( × ) ・ 未だ動き出していない。 ⑤日本国によるデブリ回収・除去衛星の実証 ( △ ) ・ JAXA殿(SJAC支援)として、このプロジェクト化のフィージビリティス タディを開始している。 ・ デブリ除去に必要となる軌道変換(EDT)の軌道上実証から計画し たロードマップを作成した。(次ページ) ⑥日本国として考えるデブリ観測 ( △ ) ・ 何処までの観測をせねばならないか等、その位置付けを含めて検 討している。尚、現状のJAXA殿設備のみを用いて、何処まで出来る かの検討も実施している。 ⑦下支えシンクタンクの構築とそれによる上記項目の具体化( × ) ・ 実現出来ていない。 12 現状の検討状況 13 世界&日本関連開発状況 ■ 世界は? ・・・・ 2007年辺りから活発に動き出している DARPA/ Orbital Express Mission DLR/ DEOS NASA/ GEO Supersync NASA/ Robot and Humans in HEO MDA/ Space Infrastructure Servicing ■ 日本は? ・・・・ 1997年にETS-VIIで軌道上実証に成功して以来、次の検討が無い 14 世界&日本関連開発状況 15 世界&日本関連開発状況 16 世界&日本関連開発状況 NASA:GEO Supersync 17 世界&日本関連開発状況 NASA : Robot and Humans in HEO 18 世界&日本関連開発状況 19 纏め ■ 2004年度のSJAC次世代プロジェクト推進委員会において、宇宙ロボッ トを利用したデブリ除去プロジェクトの必要性とその立上げを提言し、ま た、更なる検討を2006年度/2007年度の同委員会において実施しその ためのアクションアイテムを設定しつつ検討を進めて来た。 ■ この間、宇宙基本法が制定され、宇宙環境保全の必要性と言う形で、 この必要性を基本法の中に盛込むことが出来た。 ■ しかし、未だ、満足した推進/プロジェクト化までとはなっていない。 ■ 一方、当初は 未だ動きすらなかった海外の検討が 急激に進み、リ ードしていたはずの軌道上実証や事業としての検討等も同等若しくは 先に進むレベルまで来ている。 ■ ここで、もう一度remindし、国家戦略のひとつとして進められることを提 言する。 20 BACK UP CHART 21 産業化されるということ 「産業化」 = 「市場」 × 「技術」 ・・・「市場」・・・ ① 基本的な要望・欲望の下に開拓される or 既に在る ② 最初は気付いていないが 気付かせて立上がる ③ 最初は拒否反応の方が強いが、一度立上ると群がる ・・・「技術」・・・ ① 既に在るものを製造的な観点で高効率化&高品質化 ② 既に在るものに技術開発を加えて高性能化 ③ 全くの新規技術開発の下に製品化 22 産業化されるということ 今までの日本ビジネスの成功例 ・・・「市場」は①、「技術」は①&② 市場 ●海外市場に例がある ●日本を含め市場予測をすると今 後大きな市場になる ●市場拡大時に投入できるように関 連技術開発・製造で勝負する 市場が伸び るときに投 入 ⇒「低コスト」×「勤勉・器用」で成功 時間 ⇒これは 発展途上国型! 23 産業化されるということ これからの日本ビジネス、特に宇宙産業では ・・・「市場」は②&③、「技術」は②&③ 市場 ●市場開拓から始める、即ち、市場 開拓も(先進国の)責務である ⇒使わせてみせて、気付かせる ⇒法制化等で義務化する 市場を創ると ころから始め る ●市場に合致する新規技術開発も (先進国の)責務である 時間 ●即ち、「国家戦略としての展開」要 24 軌道上デブリ除去の産業化 [市場] ■ 宇宙環境/軌道上のデブリの事実 ●現在、軌道上に存在するデブリのみで、デブリは増殖してしまう ⇒ 軌道上デブリを除去しなければ、宇宙環境の維持が出来ない ■ 宇宙環境は、今後も使い続けたいという事実 ●防災を含む地球環境等の観測には、宇宙からの観測が最適 ⇒この事実を世界として認識する&共有する、即ち宇宙環 境の「Sustainability」のために、軌道上にあるデブリを 除去する必要があることを認識する&共有する [技術] ■ 基本系は、ETS-VII(1997年)、HTV(2009年)で軌道上 実証あり 25 軌道上デブリ除去の産業化 宇宙環境の「Sustainability」のために、軌道上に在るデブリ の除去を行うことの重要性・必要性を公に認識する・・・ ■ 一般的な広報活動をする ⇒ 地球温暖化問題と同じく 宇宙環境保全も地球環境問題! ■ 国家間での調整を図る ⇒ 国連/宇宙平和利用委員会 でのオーソライズ ・・・2012年6月から2年間、堀川氏が議長を務める ・・・チャンスかも知れない 26 軌道上デブリ除去の産業化 ■必要性・重要性は分かったが実現のためにはどうやって お金を集めるのか・・・ 案①過去の責任を問う/汚した本人に責任持って処理してもらう ●反対・・もともと「ミッション終了後に処理せよ」等と言われていない ●反対・・ぶつけられて破壊した、むしろ被害者だ ●賛成・・宇宙空間を利用していたという受益者負担であるはず ⇒反対・・気象衛星、GPS等利用しているのは、打上げた国だけでない むしろ、無償で益を受けているのは誰? 案②sustainabilityという観点で、これから利用する人が処理する ●賛否、いろいろ出てくると思うが・・環境税的なイメージ 各国一律課金、打上げたプライス、重量、サイズ、基数で比例課金等々 27 付録3 Promoting the Active Debris Removal Project on Business January 22nd , 2013 Committee for Next-generation Space Project Promotion, The Society of Japanese Aerospace Companies (SJAC) Co-chairman Masaya Mine (NEC) Propositions ■ Facts about space environment ① Even if we don’t perform new launches, debris that have already been on the orbit will grow to bring about an unusable condition of the space (the results of analysis coincide in many countries and regions such as Japan, the USA, Europe and Russia). ② Human beings want to keep using the space environment because of convenience and usefulness of using the space for earth observation, communication, global positioning, etc. (trivial) ⇒ We need to eliminate debris located on the orbit. ■ Implementation status of debris removal analysis ① Many countries analyzed the relationship between the state of on-orbit debris and the active debris removal which will have removed five ,ten, or more life-ended satellites per year in early 2020s. Start up a debris removal business in early 2020s! 2 What we must do to achieve our goal ① Building of international consensus at legislative level, if possible Authorize a business to remove debris on a global basis by 2020 (Is it positioned as a global public project?) ② Having an ability as project promoter Work to ensure the preferable position of Japan at the time of launch of the debris removal project Japan should play the role in above 2 actions. ①⇒ Implementation at the initiative of Japan (Bilateral negotiation to multilateral negotiation) ②⇒ Verification of technological/business (cost) appropriateness of the project through demonstration 3 Summary of necessary actions ■ In the investigation report on space debris for FY 2006/2007, SJAC explained the necessity of the following actions. ① Spread into general ideas ② Recommendation of Japan to United Nations/Committee of the Peaceful Uses of Outer Space ③ Adoption of appropriate ISO standards and business model which is advocated by Japan ④ Setup of a space environment preservation body by Japan ⑤ Validation of debris removal satellite by Japan ⑥ Japan’s idea of debris observation ⑦ Establishment of backup think tank and materialization of the above ① to ⑥. ■ By realizing these as a national strategy, we would like to achieve the global industrialization launched by Japan that leads the world. 4 Consideration status of the current state ① Spread into general ideas (△) ・ In 2008, Yomiuri Shimbun wrote the article about the necessity of active removal of debris and its business model (industrialization model). However, the boost was within the level of impulse at that time. The boost of the A-SAT coverage of China after that was also within the level of impulse. ・ In 2009, IRIDIUM-33 and Russian satellite COSMOS-2251 collided against each other on the orbit. Mass media reported that there was an actual possibility of collision of satellites and debris rapidly increased as a result of such an accident. ・ Within the theme of global environment, a TV program (NTV: Sho Sakurai appeared) covered that not only the earth but also the outer space had been contaminated (a remark by Mr. Mohri). ・ Although there were some coverage by media on robot/debris removal after that, they mainly focused on technical appeal. Understanding of Japanese people about the necessity and the appropriateness of debris removal has not been obtained yet. ・ To spread this issue into the general public, not a impulsive coverage but a continuous one is required. We should promote it as part of the (global) environment problem. 5 Consideration status of the current state ② Recommendation of Japan to United Nations/Committee of the Peaceful Uses of Outer Space (COPUOS) (△) ・ At a subcommittee meeting within IADC held in 2009, the necessity of ODR (orbital debris removal) was discussed. The sub-committee decided to formally discuss the theme as IADC starting from the next meeting. ・ Although it was at the initiative of the USA, the first international conference related to the issue was held in December, 2009. Japan also participated in the conference to make three reports. They reported that not technological feasibility but also a business model (an industrialization model) had been considered in Japan. ・ The report on discussion at the meeting hosted by McGill University in Canada was submitted to the United Nations Scientific and Technical Subcommittee and registered as a United Nations Document (see next page: McGill Declaration). ・ Since 2011, the international best practices/guidelines have been reviewed at the UN COPUOS/Scientific and Technical Subcommittee/Space Activity Long-term Continuity Workshop/Specialist Meeting “B” (space debris, space operation and space state recognition) and the description has been drawn up to the necessity of ODR. Specific consideration of ODR will be done in the future, including the decision about whether the description of ODR is drawn up or not. ・ We will not be able to achieve our initial goal unless we play at least a central role in advancing the above UN-related activities. 6 Consideration status of the current state ■ McGill Declaration on active space debris removal and on-orbit satellite servicing (November 2011) ・・・Discussion on the following subjects had been made at the meetings hosted by McGill University in Canada over three years: the current state and the problem of debris in the first year, reduction of debris in the second year and removal of debris and its implementation structure in the third year. The results were complied in the report, which was submitted to the United Nations Scientific and Technical Subcommittee. After being published at the meeting, it was registered as a united nations document. Details of the report are as shown below. ・ To promote the removal of debris and on-orbit services, United Nations and international organizations should work to improve not only the responsibility for space activities but also international treaties to address especially control right and control over objects in the outer space. ・ National governments and international organizations should consider the legislative and regulatory mechanism and process to promote debris removal. ・ They should also consider establishing an international fund to support debris removal. ・ We should promote the international obligations of registering space objects and international recognition of the control right about them. 7 Consideration status of the current state ③ Adoption of appropriate ISO standards and business model which is advocated by Japan (△) ・ Except for on-orbit debris removal (ODR), the work to create ISO standards for debris mitigation have advanced. ・ As to the debris treatment including ODR, a business model considered by SJAC (and published at ISTS in 2008) was introduced at ISO Conference in 2008 but there has been no progress on this issue. ・ About consideration of business model and how to raise fund ・・・ (Plan 1)Collect money depending on the level of responsibility for generating debris in the past (Plan 2.1) Collect money in the form of something like space environment utilization tax (Allocation simply depending on the volume) See Slide No.9 (Plan 2.2) Collect money in the form of something like space environment utilization tax (Allocation based on debris index) See Slide No.10 ・ As an implementation body, “Collect money as an international public work company” or ”Only perform coordination in the form of international coordination body” (See Slide No.11) 8 Consideration status of the current state Tradeoff of fund raising methods Proposed plan (Note 1) (Note 3) Uniform rate across all countries Rate in proportion to price Rate in proportion to the number of launched rockets Rate in proportion to weight/size Overall judgment Fairness Transparency/ Verifiability ×? (Note 4) ×? (Note 4) ○ ○ ○ △ ○ △ ○ (Note 2) ○ ○ △ (Note 2) Comment This plan is in favor of advanced countries and those that highly utilize the space. Developing countries may be opposed to it. Also to be considered from the viewpoint of (Note 4)? Is it difficult to ensure transparency of price? We can check it with the ground debris observation network. We can check the size, etc. with the ground debris observation network. (Note 1) The above ratios are those taking into account of carrier rocket and satellite. (Note 2) Although these values are based on notifications, we can validate those for objects with shape as we can observe them from the ground. (Note 3) The space environment is the common resource given to all nations. Collect money from a viewpoint of utilization tax (cf: Land use) (Note 4) The USA and European countries provided data from the debris observation net. Is it possible to make a balance with the facilities maintenance expense? 9 Consideration status of the current state Numerical example of debris index (Yasaka, 2009, 2011) If one Collision Avoidance (CA) maneuver is performed. If multiple CA maneuvers are performed. 10 Consideration status of the current state Kitazawa, “Organizational and Operational Requirements for Space Debris Remediation”, International Interdisciplinary Congress on Space Debris Remediation, 2011, McGill University 11 Consideration status of the current state ④ Setup of a space environment preservation body by Japan (×) ・ We have not got into action yet. ⑤ Verification of debris collection/recovery satellite by Japan. (△) ・ JAXA has started the feasibility study for realizing this project to support SJAC. ・ They created the roadmap including on-orbit verification for debris removal. (See next slide) ⑥ Japan’s idea of debris observation (△) ・ We are considering various issues including its positioning such as to what extent we have to make observations. We also study how far we can go using existing facilities of JAXA only. ⑦ Establishment of backup think tank and materialization of the above ① to ⑥ (×) ・ We have not achieved yet. 12 Consideration status of the current state 13 Development status of the World and Japan related to this issue ■ What has the world done? ・・・・ Has started to take actions proactively since around 2007 DARPA/ Orbital Express Mission DLR/ DEOS NASA/ GEO Supersync NASA/ Robot and Humans in HEO MDA/ Space Infrastructure Servicing ■ What has Japan done? ・・・・ No study has been made since Japan succeeded in making an on-orbit verification with ETS-VII in 1997. 14 Development status of the World and Japan related to this issue Orbital Express Mission of DARPA • Orbital Express is a technical verification satellite aiming to provide unattended services including fuel supply/parts replacement to an on-orbit satellite that DARPA have worked on development. It was launched in March 2007 and succeeded in the verification experiment. • It is composed of ASTRO (Autonomous Space Transport Robotic Operations), a parent satellite which provides unattended services, with mass of 700 kg, an NEXTSat/CSC, a client satellite which receives services, with mass of 226 kg. Although they were coupled at the time of launch, they were separated after having been placed on the orbit. • We conducted a rendez-vous docking to NEXTSat, fuel supply, a device replacement experiment and a capture experiment. • All of the above were conducted with ETS-VII more than ten years ago. 15 Development status of the World and Japan related to this issue DEOS project of DLR • DEOS project of DLR is a technology verification project to control on-orbit disposals of nonfunctioning satellite. It also aims to acquire technologies to successfully conduct on-orbit maintenance (especially fuel supply). Conducted Phase-0 study in 2007, Phase-A study in 2008 and Phase-B study in 2010. • DEOS is a system composed of two satellites, “Client” and “Servicer.” The two satellites are launched at the same time to be placed on an orbit at the height of 550 km. According to the current plan, it is scheduled to be launched in 2018. • On September 13, 2012, DLR awarded Astrium GmbH the management contract for the entire system in the DEOS definition phase (the final design phase before the hardware creation stage). The contract is the value of approximately 13 million Euros for one year. 16 Development status of the World and Japan related to this issue NASA: GEO Supersync 17 Development status of the World and Japan related to this issue NASA: Robot and Humans in HEO 18 Development status of the World and Japan related to this issue SIS (Space Infrastructure Servicing) of MDA Corp. • MDA Corporation of Canada announced that it would focus on an on-orbit solution called SIS (Space Infrastructure Servicing) (in 2010). SIS is to supply propellant of communication satellite located on a stationary orbit, docking with Apogee Kick Motor of a subject satellite to inject propellant. It was announced that Intelsat became the first partner in March 2011. However, MDA left the plan in January 2012. This project returned to the research phase again. • SIS capability of MDA Corporation First, focus on fuel supply/services at GEO. Deliver fuel to Client satellite by “per kg” system. Therefore, the service is applicable to satellites of various sizes. Services are performed quickly (within a few weeks) and effects on Client satellite are minimized. Can also conduct services, such as inspection, towing, relocation and small repairs. 19 Summary ■ At the SJAC Committee for Next-generation Space Project Promotion in fiscal year 2004, we advocated the necessity of debris removal project utilizing space robot and recommend setup of the project. We also conducted further study at the committee in fiscal years 2006/2007 and advanced the study by setting up action items for it. ■ In the meantime, the space basic law in Japan was established. We could incorporate the necessity in the law in the form of necessity of space environment preservation. ■ However, we have not yet realized a satisfactory promotion/project. ■ Meanwhile, studies by other countries, which had no movement at first, have made a rapid progress. Their on-orbit verification and the consideration as a project, which Japan had taken a lead, have reached at the same or advanced level compared to Japan. ■ We would like to remind the current status and recommend you to promote the project as one of the Japan National Strategies. 20 BACK UP CHART 21 What “Industrialization” means "Industrialization" = "Market" × "Technology" [1] 3 types of “Market“ are ・・・ ① Market is developed according to a fundamental request and desire, or has already been present. ② Although it is not recognized at first, it is recognized by some kind of power and it starts up. ③ Although they show negative reactions at first, they flock around once it has started up. [2] 3 types of "Technology“ are ・・・ ① Improve efficiency and quality of existing things from a manufacturing viewpoint. ② Improve performance of existing things by adding technological development. ③ Create a new product based on the development of completely new technology. 22 What “Industrialization” means Past successful examples of Japanese business ・・・ ① for “Market” and ① & ② for “Technology” ● There are examples in overseas market. Market ● It will become a big market in the future based on the market projection that includes Japan. ● Compete with related technology development and manufacturing so that we can market-in when the market expands. Inject when the market expands ⇒ Success with combining “Low cost” and “Diligence/skillfulness” Time ⇒ This is a developing country’s style. 23 What “Industrialization” means In the future Japanese business, especially in the space industry, ・・・②&③ for “Market” and ②&③ for “Technology” ● Start with market development. In other words, market development is also a responsibility (of advanced countries). Market ⇒ Make them use and make them recognize ⇒ Make it obligatory with legislation, etc. Start with creation of market ● Development of new technology that meets the market needs is also a responsibility (of advanced countries). Time ● That is, “Deployment as national strategy” is required 24 Industrialization of on-orbit debris removal [Market] ■ Facts about space environment/on-orbit debris ● At present, debris grows with debris that has already existed on the orbit. ⇒ Unless we remove on-orbit debris, we won’t be able to preserve the space environment. ■ There is a fact that we want to keep using the space environment in the future. ● For observation of earth environment, etc. including disaster prevention, the observation from the space is the most appropriate. ⇒ Recognize and share the above fact in the whole world. In other words, recognize and share the necessity of removal of on-orbit debris to ensure “Sustainability” of the space environment. [Technology] ■ There is an on-orbit verification with ETS-VII (1997) and HTV (2009) for the fundamental system. 25 Industrialization of on-orbit debris removal Recognize importance and necessity of removal of on-orbit debris officially to ensure “Sustainability” of the space environment ・・・ ■ Conduct general publicity activities ⇒ As done for global warming space environment preservation is also a global environment problem! ■ Promote coordination among countries ⇒ Authorization at United Nations/Committee of the Peaceful Uses of Outer Space ・・・Mr. Horikawa serves as a chairman for two years starting from June 2012. 26 ・・・It may be our chance! Industrialization of on-orbit debris removal ■ We understand its necessity and importance. But, how do we collect money to realize it? Plan ① Question past responsibilities/Make those who contaminated the environment take responsibility for treatment. ● Opinions of those who are opposed・・In the first place, we have not been told to treat them after the completion of our mission, so this is not our cost. ● Opinions of those who are opposed・・ When a collision occurred , everybody said our properties were hit against and broken. We are really victims. ● Opinions of those who are in favor・・ Cost should be born by those who have benefitted from the use of the outer space. ⇒Opinions of those who are opposed・・It is not just the countries that launched a rocket that use weather satellites, GPS, etc. Who are really benefitted from them ? Really users are not satellite and rocket developer , but weather forecast users and GPS users. Plan ② From a viewpoint of sustainability, those who use it will treat. ● Although there will be various opinions in favor or opposed to it… This is an image of environment tax using outer space. Uniform charge across the countries, Variable charge in proportion to launch price, weight, size, fundamental numbers, etc. 27 付録4 Japanese Space Industry’s Efforts regarding Long-term Sustainability of Space Activities 14 Feb 2013 The Society of Japanese Aerospace Companies (SJAC) 1 SJAC(The Society of Japanese Aerospace Companies) * SJAC ・Sole Organization representing Japanese Aerospace Industry (established in 1952) * Mission ・Promote aerospace industrial policies ・Build-up aerospace industrial foundation ・Survey aerospace industrial statistics ・Host international aerospace exhibition * Members ・Regular members: 100 companies ・Associated members: 50 companies 2 Japanese Space Industry meteorological earth observation space science & planetary exploration ⒸJAXA launch vehicle communications navigation H-2 Transfer Vehicle International Space Station Japanese experiment module (HTV) space operation Space Companies support Japanese Space Infrastructure. 3 Organization Chart of the Space-Related Establishments 2012 July 12 Strategic Headquarters for Space Policy Cabinet Secretariat, SHSP Bureau National Space Policy Commission Cabinet Secretariat CIRO MEXT CST Cabinet Office, Office of National Space Policy MIC NICT METI JSS MLIT JMA ASC MOE GSI MOD NIES MSC CSICE JAXA RESTEC Government Organization Incorporated Administrative Agency Incorporated Foundation JAXA :Japan Aerospace Exploration Agency NICT : National Institute of Information and Communication Technology NIES : National Institute of Environmental Studies RESTEC :Remote Sensing Technology Center JSS :Japan Space Systems ASC :Aeronautical Satellite Center CIRO : Cabinet Intelligence and Research Office CSICE : Cabinet Satellite Intelligence Center CST :Council for Science and Technology GSI : Geospatial Information Authority of Japan (Geographical Survey Institute) JMA : Japan Meteorological Agency METI : Ministry of Economy, Trade and Industry MEXT : Ministry of Education, Culture, Sports, Science and Technology MIC : Ministry of Internal Affairs and Communication MLIT : Ministry of Land, Infrastructure and Transport MOD : Ministry of Defense MOE : Ministry of the Environment SHSP :Strategic Headquarters for Space Policy 4 Japan’s space policy In 2008, the Japanese government established the “Basic Space Law” which stipulates the conservation of the space environment. The Strategic Headquarters for Space Policy of JAPAN, established the new “Basic Plan for Space Policy” (January 25, 2013) to offer an overall picture and plan for the next five years (2013 to 2017 JFY). “Consider the Environment” The Government will adopt measures that consider both the global and space environment, such as the space debris issue. 5 Basic Plan for Space Policy (extract summary) Consideration of the environment for sustainable space development and utilization i. Promotion of an international dialog In order to secure the stable and sustainable space environment, JAPAN positively contributes to UN/COPUOS, with productive activities of international norms on the practical use of space and other activities, and makes international contributions. ii. Space Debris Mitigation Guideline Promote the development and utilization of space, taking into account international recommendations such as the Space Debris Mitigation Guidelines of the Committee on the Peaceful Uses of Outer Space, and ISO Standards. iii Space Situation Awareness (SSA) SSA is needed in order to secure the safe and sustainable space development and utilization in Japan as a measures to protect the International Space Station (ISS), satellites and astronauts from colliding with space debris. A suitable SSA organization will be examined. Moreover, natural environments which affect space assets and infrastructures on the ground, and researches on space weather forecast should be furthered. iv Technical Development of Debris Removal Taking advantage of the strengths of our country, and in the spirit of international cooperation, JAPAN has developed debris removal technology, which is increasingly needed worldwide. 6 Industrial Activities regarding Long-term Sustainability Research and collective opinions regarding space debris problems • • SJAC/JAXA/space companies jointly conduct space debris research Participation in COPUOS long-term sustainability working group experts' meetings Activities for the establishment of international standards (ISO) regarding space environment preservation • Contribution to long-term sustainability activities through improvement in reliability and efficiency of design • Participation in space-debris related design standard activities Japan proposed WG framework regarding debris at ISO/SC14/WG4 in May 2002 Debris WG started activities at ISO/SC14 in Tsukuba in 2003 • Participation in space data and information transmission system (ISO/SC13) • Contribution to the space environment (space weather) standards Activities for the establishment of domestic standards regarding space environment preservation • Companies participate in and cooperate as members in the JAXA standards establishment and revision-work committee • Satellites/rockets are designed and produced according to ISO/JAXA standards • JAXA and companies jointly study space debris reduction and removal measures. SJAC's outreach activities regarding space debris problems • Publication of articles regarding ISO and space debris in its journal "Aviation and Space" • SJAC hosted "Space Debris Symposium“ in 2010 7 Cf. Overview Overview ofof debris debrismitigation mitigation framework frameworkininJAPAN JAPAN UN Space Debris Mitigation Guideline refer JAXA JAXASTD STD consensus consensus apply to Jaxa’s contracts IADC Space Debris Mitigation Guideline (affect) ISO 24113 Space Systems—Space Debris Mitigation Requirement The TheSociety SocietyofofJapanese Japanese Aerospace AerospaceCompanies Companies(SJAC) (SJAC) apply Space Companies ISpaceI respect Other governmental space related organizations respect Organizations relating to to “piggy back” satellites Commercial space service companies (broadcast/communication) ITU 8 Space industry' s efforts on long-term sustainability Japanese Satellites and rockets designed and produced according to ISO/JAXA Debris Related Standards contribute to “Long-term Sustainabilityy of Space Activities” Goal g p Examples of satellite design, production, and operation according to Debris Mitigation Requirements Provisions against debris impacts Global Change Observation Mission (GCOM-W1) - Allocation in satellite to protect critical equipment - Improved survivability using Debris Shields or Bumpers Limit debris released during operations in orbit - Not releasing any parts such as fasteners or covers during expansions of solar array paddles, antennas, etc. Prevention from break-ups in orbit For batteries/propellants tanks with potential explosive - Shut-off provision for battery charging lines - Appropriate strength of pressure vessels - Monitor and control of pressure/temperature - Vent of residual propellants at the end of operation Appropriate propellants to move into disposal orbits Launched in 18 May 2012 ⒸNEC Debris Shield (Yellow portions) 9 Space industry' s efforts on long-term sustainability Examples of R&D activities for Space Debris Mitigation - A debris-protection design working group consisting of JAXA, the university, and members of satellite manufacturers accumulates data by conducting hypervelocity impact tests and simulation analyses. A result of hypervelocity impact tests - As protection materials, research for new materials instead of metallic bumpers - R&D with JAXA on changing the propellant tank material from titanium to a material that will allow a space object to burn out at reentry to Earth - Debris observations - Debris removal 10 Space industry' s efforts on long-term sustainability Research Activities on Debris Observation Small Optical Telescope GEO trackable ⒸTAOS MPAC (Micro Debris Collector ) on ISS Small Debris Detector Space-based Optical Telescope trackable LEO ⒸJAXA/IHI ⒸJAXA/NASA ⒸJAXA ⒸJSF 0.00001 0.001 0.01 0.1 1 10 100 Debris Size (cm) 11 Space industry' s efforts on long-term sustainability Research Activities on Debris Removal Debris Principal Spacecraft for Passive Debris Removal Spatial Density Material ⒸKyushu Univ./IHI ⒸJAXA Schematic View of JAXA’s Active Debris Removal Schematic View of Passive Debris Removal (Hanada, et al.,2010) 12 Domestic satellite communication providers' efforts regarding long-term sustainability Implementation of proper space object registration Before launching geostationary satellites, domestic satellite communication providers implement the proper registration for space objects at the United Nations Office for Outer Space Affairs, through a related Japanese government agency. Implementation of proper deorbit After completion of operation, domestic satellite communication providers properly deorbit their geostationary satellites from the stationary orbit zone to an upper level. JCSAT-13 Collision Avoidance Operation An East-West collision avoidance maneuver is used in order to keep a safe distance at the time of CA Implementation of collision avoidance maneuvers: twice (2) in the past 3 years SKY Perfect JSAT Earth Station 13 Recommendation from Japanese space industry “The greatest threat of space debris for geostationary satellite operators is part of a satellite or rocket remaining in geostationary orbit after completion of operation” U.N. Space Debris Mitigation Guideline” should be respected by ALL Keep the parts of rockets and un-operated satellites away from protected GEO region Construction of a surveillance system International framework should be prepared so that operators can contact for each other at anytime Clarification of party responsible for management of space objects Clarification of point of contact of the above parties Establishment of a framework beyond national boundaries for exchange information among satellite operators 14 Recommendation from Japanese space industry Improvement of Space Surveillance Capability Expand the surveillance ability to smaller size objects in GEO Improve the accuracy of orbit information Establish international observation network for space objects Ascertainment of distribution of debris population Development of technologies of space debris removal should be supported Guidance and control of debris removal from GEO to outside area Active Debris Removal of large debris in LEO Establishment of International framework for space debris removal Initiate discussion on international framework for space debris removal under international consensus. We expect actions to solve the issues under UN leadership. 15 Thank you for your attention 16 ―禁無断転載― 「 平成24年度 スペースデブリ対策に関する調査報告書 」 (次世代宇宙プロジェクト推進委員会) 平成25年3月 一般社団法人 日本航空宇宙工業会 東京都港区赤坂一丁目1番14号 TEL:03-3585-1481 FAX:03-3585-0541 この事業は、 オートレースの補助金を受けて実施したものです。
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