初等部分構造の集合論での応用 渕野 昌 (Sakaé Fuchino) fuchino@diamond.kobe-u.ac.jp (February 25, 2016 (12:44) 版) 目次 1. 2. 3. 4. 5. 6. 7. 8. 9. 構造と充足関係 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 1 部分構造,初等的部分構造 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 4 Downward Löwenheim-Skolem 定理 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 6 H(χ) . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 9 絶対性と H(χ) で成り立つ集合論の公理 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 11 初等部分構造の集合論での応用 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 14 ω-bounding な初等部分構造 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 17 Fodor-type Reflection Principle とその拡張 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 17 さらに勉強を進めたい人のために . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 18 参考文献 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 19 構造と充足関係 1 A = hA, R1 , R2 , ...i が構造 (structure) であるとは, (1.1) A は集合(A を A のサポートとよぶことにする); (1.2) 各 i = 1, 2, ... に対し,mi ∈ N があって,Ri ⊆ Ami (つまり,Ri は A 上の mi -項 関係) となっていること,とする.上のような構造は,relational structure と呼ばれ,より一般に は,構造は,A 上の関数や定数(特定された A の元)を含むこともあるものとして導入さ * 本稿は,2009 年 9 月に筑波大学大学院数理物質科学研究科数学専攻で開講された集中講義の講義録です. この講義の内容は,1997 年 8 月 4 日 – 6 日に静岡県三保の東海大学研修館において開催された数学基礎論サ マースクールで行なった講義の講義録 (http://fuchino.ddo.jp/notes/elementary.pdf) をベースとして作 成しました.本稿の,このヴァージョンはまだ最終稿ではなく,書きかけの部分や作成途中の “ゴミ” を含んで いる可能性もあります.間違いの指摘やコメントなど歓迎します. このテキストの最新版は http://fuchino.ddo.jp/notes/elementary09.pdf としてダウンロードできま す. 1 れる.しかし,このノートでは,主に,hA, E, ...i という形の(関係のみを構造として持つ) relational structure で,E = {hx, yi ∈ A2 : x ∈ y} となっているようなものが考察される. 以下では,このような構造を考察するときには,簡単のために,これを hA, ∈, ...i と記すこ とにする. R1 , R2 ,... に対応する記号 R1 , R2 ,... を用意して,L = {R1 , R2 , ...} を A の言語 (language) とよぶ.また A は L-構造 (L-structure) であるともいう.以下では,簡単のために L は常 に高々可算であると仮定する. L-構造 A = hA, ...i に関する命題のうち, L-構造の一つ一つの元を調べることのみによっ て(たとえば,A の部分集合の全体を調べたりしなくても)その真偽の確定するようなもの は,以下で導入する, (一階の)述語論理の論理式と呼ばれるものを用いてあらわすことがで きる. まず,変数の可算無限集合 V ar を固定しておき1) ,これを用いて L-論理式 (L-formulae or L-formulas) を次のように帰納的に定義する: (1.3) x, y ∈ V ar のとき,‘x = y’ は L-論理式である; (1.4) R が L の m 項関係記号で,x0 ,..., xm−1 ∈ V ar のとき,‘R(x0 , ..., xm−1 )’ は L-論理 式である; (1.5) ϕ, ψ が L-論理式なら,“(ϕ ∧ ψ)”, “(ϕ ∨ ψ)”, “(¬ϕ)” “(ϕ → ψ)”, “(ϕ ↔ ψ)” も L論理式である2) ; (1.6) ϕ が L-論理式で x ∈ V ar のとき,‘∀xϕ’, ‘∃xϕ’ も L-論理式である; (1.7) 以上のみ3) . (1.3) と (1.4) で導入される L-論理式は,原始論理式 (atomic formulas) あるいは,L-原始論 理式とよばれる. 上のような L-論理式の帰納的定義に対応して,L-論理式に関する概念を帰納的に導入する ことができる.例えば,L-論理式 ϕ にあらわれるの自由変数 (free variables) の集合 F ree(ϕ) は次のようにして帰納的に定義することができる: (1.8) ϕ が x = y の形のときには,F ree(ϕ) = {x, y} とする; (1.9) ϕ が R(x0 , ..., xn−1 ) のときには,F ree(ϕ) = {x0 , ..., xn−1 }; (1.10) ϕ が ‘(ψ ∧ η)’, ‘(ψ ∨ η)’, ‘(¬ψ)’ ‘(ψ → η)’, または,‘(ψ ↔ η)’ の形をしていると きには,F ree(ϕ) は,それぞれ,F ree(ψ) ∪ F ree(η), F ree(ψ) ∪ F ree(η), F ree(ψ), F ree(ψ) ∪ F ree(η), または,F ree(ψ) ∪ F ree(η) となる; 1) より厳密には,V ar は,これから考えることになる構造や, ‘∧’, ‘∨’ などの他の記号の全体の集合と共通 部分を持たないようにとっておく必要がある. “(ϕ ∧ ψ)” などとして “” で囲ってあらわしたのは,ここで考察している論理式が,たとえば (ϕ ∧ ψ) は, 記号 ‘(’, 記号列 ϕ, 記号 ‘∧’, 記号列 ψ, 記号 ‘)’ を繋げて得られる記号列である(にすぎない)ことを強調した かったからである. 2) 3) この最後の条件のより直観的な意味は,上の (1.3)–(1.6) の構成法をくりかえし適用することによって 得ら れる表現 のみ が L-論理式である,ということである. 2 (1.11) ϕ が ‘∀xψ’ または ‘∃xϕ’ の形をしているときには,F ree(ψ) \ {x} とする. F ree(ϕ) = {x1 , ..., xn } のとき,x1 ,..., xn は ϕ の自由変数 (free variables) であるという. F ree(ϕ) = ∅ のとき,つまり ϕ が自由変数を持たないとき,ϕ は閉論理式 (closed formula) あるいは文 (sentence) であるという.閉論理式(あるいは文)が L-論理式であるときには, L-閉論理式(あるいは L-文)という言い方もすることにする.また (矛盾しない4) )L-文 の集合 T を L-理論 ( L-theory) という. F ree(ϕ) ⊆ {x1 , ..., xn } のとき,このことを ϕ = ϕ(x1 , , ..., xn ) とらわす. A = hA, ...i を L-構造として,ϕ は L-論理式で,ϕ = ϕ(x1 , , ..., xn ) のとき,“x1 ,..., xn を a1 ,..., an ∈ A と解釈したときに ϕ は A で成り立つ” ということを,A |= ϕ[a1 /x1 , ..., an /xn ] あるいはもっと簡単に A |= ϕ[a1 , ..., an ] と書いて以下により帰納的に定義する: (1.12) ϕ が ‘xi = xj ’ のときには,A |= ϕ[a1 , ..., an ] ⇔ ai = aj ; (1.13) ϕ が R(xi1 , ..., xim ) のときには,A |= ϕ[a1 , ..., an ] ⇔ (ai1 , ..., aim ) ∈ R; ただし R は R に対応する A の m-項関係; (1.14) ϕ が ‘(ψ ∧ η)’, ‘(ψ ∨ η)’, ‘(¬ψ)’ ‘(ψ → η)’, または,‘(ψ ↔ η)’ の形をしているときに は,それぞれ, A |= ϕ[a1 , ..., an ] ⇔ A |= ψ[a1 , ..., an ] かつ A |= η[a1 , ..., an ] (ϕ が (ψ ∧ η) のとき) A |= ϕ[a1 , ..., an ] ⇔ A |= ψ[a1 , ..., an ] または A |= η[a1 , ..., an ] (ϕ が (ψ ∨ η) のとき) A |= ϕ[a1 , ..., an ] ⇔ A |= ψ[a1 , ..., an ] でないとき (ϕ が (¬ψ) のとき) A |= ϕ[a1 , ..., an ] ⇔ A |= ψ[a1 , ..., an ] でないか,または A |= η[a1 , ..., an ] (ϕ が (ψ → η) のとき) A |= ϕ[a1 , ..., an ] ⇔ A |= ψ[a1 , ..., an ] と A |= η[a1 , ..., an ] が両方とも 成り立つか,あるいは両方とも成り立たないとき (ϕ が (ψ ↔ η) のとき) (1.15) ϕ = ϕ(x1 , ..., xn ) が ‘∀xψ(x, x1 , ..., xn )’ または ‘∃xϕ(x, x1 , ..., xn )’ の形をしていると きには,まず必要なら x の呼びかえをして,x は x1 ,..., xn に含まれていないとして 4) 矛盾しない,というのは,ここでは,以下で述べる論理式の解釈の意味で T のすべての要素モデルとなっ ているような L-構造が存在する,ということである. 3 よいが,このとき: A |= ϕ[a1 , ..., an ] ⇔ すべての a ∈ A に対し A |= ψ[a/x, a1 /x1 , ..., an /xn ] (ϕ が ∀xψ のとき) A |= ϕ[a1 , ..., an ] ⇔ ある a ∈ A に対し A |= ψ[a/x, a1 /x1 , ..., an /xn ] (ϕ が ∃xψ のとき). 演習問題 1.1. 上の ‘|=’ の定義は well-defined なものになっている.特に,ϕ = ϕ(x1 , ..., xn ) で,F ree(ϕ) = {xi1 , ..., xim } のとき, A |= ϕ[a1 /x1 , ..., an /xn ] ⇔ A |= ϕ[ai1 /xi1 , ..., aim /xim ] がべての a1 ,..., an ∈ A に対し成り立つ. A を L-構造として,T を L-理論とするとき,A |= T とは,T に属すすべての閉論理式 ϕ について A |= ϕ が成り立つこととする.A |= T が成り立つとき,構造 A は T のモデルで ある,とも言う. 2 部分構造,初等的部分構造 A = hA, R1 , R2 , ...i, B = hB, R10 , R20 , ...i を L-構造とする.B が A の部分構造 (substructure) である(これを B ⊆ A と書く)とは,B ⊆ A かつ,Ri0 = Ri ∩ B mi がすべての i に対し成 り立つこととする. B が A の初等部分構造 (elementary substructure) または 初等部分モデル (elementary submodel ) であるとは,B ⊆ A で,すべての L-論理式 ϕ(x1 , ..., xk ) と b1 ,..., bk ∈ B に対し, B |= ϕ[b1 , ..., bk ] ⇔ A |= ϕ[b1 , ..., bk ] が成り立つことである.B が A の初等部分構造のと き,これを B ≺ A とあらわす. 例 2.1. hQ, ≤i と hN, ≤i を考える.明らかに hN, ≤i ⊆ hQ, ≤i である. hN, ≤i |= ∃x∀y(x ≤ y) だが,一方,hQ, ≤i 6|= ∃x∀y(x ≤ y) だから,hN, ≤i は (Q, ≤) の 初等的部分構造ではない.一方,hQ, ≤i ≺ hR, ≤i である(演習). 例 2.2. hN, ≤i と hN \ {0}, ≤i を考える.明らかに hN \ {0}, ≤i ⊆ hN, ≤i である. hN \ {0}, ≤i |= ∀y(x ≤ y)[1/x] だが,hN, ≤i では 1 は最小元ではないから,hN, ≤i 6|= ∀y(x ≤ y)[1/x] となり,hN \ {0}, ≤i は hN, ≤i の初等的部分構造ではないことがわかる. A = hA, R1 , R2 , ...i で,X ⊆ A のとき,A X で構造 hX, R1 ∩ X m1 , R2 ∩ X m2 , ...i をあ らわす.A X ⊆ A であるが,上の例でもわかるように,A X ≺ A となるとは限らない. A X ≺ A となるような X の構成法については,命題 3.1 を参照. A と B を L-構造とするとき,すべての L-文 ϕ に対し, A |= ϕ ⇔ B |= ϕ が成り立つと き,A と B は初等同値 (elementary equivalent) であるといい,これを A ≡ B であらわす. 4 演習問題 2.3. A ⊆ B で A ≡ B だが,A ≺ B ではないような例をあげよ. 演習問題 2.4. ≺ は推移的である.つまり,A ≺ B かつ,B ≺ C なら A ≺ C が成り立つ. 演習問題 2.5. A ≺ C で A ⊆ B ≺ C なら,A ≺ B である. 定理 2.6. γ を極限順序数として,hAα : α < γi を次の (2.1), (2.2) を満たす L-構造 Aα = hAα , R1α , R2α , ...i, α < γ の列とする: (2.1) α < β < γ なら Aα ≺ Aβ . (2.2) δ < γ が極限順序数なら,Aδ = ∪ α<δ Aα となっている5) . ∪ γ γ γ α A , R = α 1 α<γ α<γ R1 ,... として,Aγ = hAγ , R1 , R2 , ...i とすれば,Aγ は L-構造となる.さらに,次が成り立つ: このとき Aγ = ∪ (a) すべての α < γ に対し,Aα ≺ Aγ となる. (b) B を Aα ≺ B がすべての α < γ に対して成り立つような L-構造とするとき,Aγ ≺ B となる. 証明.Aα ⊆ Aγ となることは明らか.(a) の証明には,次の (2.3) を L-論理式 ϕ の構成に関 する帰納法により示すことができればよい: (2.3) すべての α < γ と,a1 , ..., an ∈ Aα に対し, Aα |= ϕ[a1 , ..., an ] ⇔ Aγ |= ϕ[a1 , ..., an ] が成り立つ. ϕ が x = y または R(x1 , ..., xn ) の形をしているときには,(2.3) が成り立つことは明ら か.また ϕ が (ψ ∧ η), (ψ ∨ η), (¬ψ), (ψ ← η) または (ψ ↔ η) の形をしていて,(2.3) が ψ と η に対して成立するときには,このことから (2.3) が ϕ に対しても成立することも容易に 示せる(演習). ϕ が ∃xψ で ψ については (2.3) がすでに証明されているとして,(2.3) が ϕ についても 成り立つことを示す: “⇒”: Aα |= ϕ[a1 , ..., an ] とすると,a ∈ Aα で Aα |= ψ[a/x, a1 /x1 , ..., an /xn ] となる ものが存在する.このとき帰納法の仮定から,Aγ |= ψ[a/x, a1 /x1 , ..., an /xn ] となるから, Aγ |= ϕ[a1 , ..., an ] がわかる. 構造の列 hAα : α < γi が,(2.1),(2.2) を満たすとき,hAα : α < γi は連続な初等的連鎖 (continuous elementary chain) であるという. 同様に hAα : α < γi が 5) (2.1)’ α < β < γ なら Aα ⊆ Aβ と (2.2) を満たすとき, hAα : α < γi は(⊆ に関する)連続な上昇列 (continuously increasing sequence) で ある,という. 5 “⇐”: Aγ |= ϕ[a1 , ..., an ] とすると,a ∈ Aγ で Aγ |= ψ[a/x, a1 /x1 , ..., an /xn ] となるものが 存在する.γ は極限順序数だったから,Aγ の定義から,ある β < γ で a ∈ Aβ となるものが とれる.α < β となっているとしてよいが,このとき仮定から Aβ |= ψ[a/x, a1 /x1 , ..., an /xn ] となる.したがって,Aβ |= ϕ[a1 , ..., an ] であるから,(2.1) により,Aα |= ϕ[a1 , ..., an ] と なる. ϕ が ∀xψ の場合も同様に証明できる(演習). (b) は (a) と同様に証明できる(演習). (定理 2.6) 系 2.7. hAα : α < γi を A の部分構造の連続な上昇列で, (2.4) Aα+1 ≺ A がすべての α + 1 < γ となる α に対して成り立つ とする.このとき,hAα : α < γi は連続な初等的連鎖となり,Aγ を定理 2.6 でのように定 義すると,Aγ ≺ A が成り立つ. 証明.定理 2.6 を用いて γ に関する帰納法で, (2.5) hAα : α < γi が (2.4) を満たす A の部分構造の連続な上昇列なら,hAα : α < γi は, A の初等部分モデルの連続な初等的連鎖となる. を証明すればいい. 3 Downward Löwenheim-Skolem 定理 A = hA, R1 , R2 , ...i をふたたび L-構造とする.f が A 上の関数であるとは,ある n ∈ ω に 対し,f : An → A となっていることとする.A 上の関数の族 F に対し,X ⊆ A が F に関 して閉じている (X ⊆ A is closed with respect to F) とは,任意の f ∈ F に対し,f を n 変 数として,f 00 X n ⊆ X が成り立つこととする. 命題 3.1. L-構造 A に対し,A 上の関数族 F で以下の (3.1), (3.2) を満たすものが存在する: (3.1) F は可算; (3.2) 任意の X ⊆ A に対し,X が F に関して閉じているなら A X ≺ A となる. 証明.v を A 上の整列順序として a∗ を A の v に関する最小元とする.各 L-論理式 ϕ(x0 , x1 , ..., xn ) に対し,fϕ : An → A を { A |= ϕ[a, a1 , ..., an ] となるような a ∈ A で v に関し最初なもの; (3.3) fϕ (a1 , ..., an ) = a∗ , 上のようなものが存在しないとき として定義する.ここで F = {fϕ : ϕ は L-論理式 } とすると,この F が求めるようなもの であることを示す.L は可算だったから,F が可算となることはよい.F が (3.2) も満たす ことを示す: X ⊆ A が F で閉じているとして,B = A X とする.B ≺ A が示すべきことだが,こ のために, 6 (3.4) b1 ,..., bn ∈ X なら,A |= ϕ[b1 , ..., bn ] ⇔ B |= ϕ[b1 , ..., bn ] がすべての ϕ に対し成り立つことを ϕ の構成に関する帰納法で示す. ϕ が x = y または R(x1 , ..., xn ) の形をしているときには,(3.4) が成り立つことは明ら か.また ϕ が (ψ ∧ η), (ψ ∨ η), (¬ψ), (ψ ← η) または (ψ ↔ η) の形をしていて,(3.4) が ψ と η に対して成立するときには,このことから (3.4) が ϕ に対しても成立することも,容易 に示せる(演習). ϕ = ϕ(x1 , ..., xn ) がある L-論理式 ψ = ψ(x, x1 , ..., xn ) に対して,∃xψ と書けるとき, ψ については (3.4) が成り立つことがすでに判っているとして,ϕ についても,(3.4) が成り立 つことを示す: (3.4) の “⇒”: A |= ϕ[b1 , ..., bn ] とする.つまり,A |= ∃xψ[b1 , ..., bn ] とする.このとき には,b1 , ..., bn に対して,fψ の定義 (3.3) で,一番目の場合が成立している.したがって, A |= ψ[fψ (b1 , ..., bn )/x, b1 /x1 , ..., bn /xn ] となるが,X に対する仮定から fψ (b1 , ..., bn ) ∈ X と なるから,帰納法の仮定により,B |= ψ[fψ (b1 , ..., bn )/x, b1 /x1 , ..., bn /xn ] となる.したがっ て,B |= ϕ[b1 , ..., bn ] である. (3.4) の “⇐” は容易に示せる(演習).また ϕ が ∀ψ の場合も同様に示せる(演習). (命題 3.1) 命題 3.1 の系として,次の Downward Löwenheim-Skolem の定理と呼ばれている定理が得ら れる.定理を一般的な形で述べるために,まずいくつかの用語を導入する.κ を非可算な正 則基数として,X を集合とする.このとき, [X]<κ = {x ⊆ X : | x | < κ} とする.[X]5κ , [X]κ , も同様に定義する6) . C ⊆ [X]<κ が closed unbounded (略して club )であるとは,次の (3.5), (3.6) が成立する こととする: ∪ (3.5) γ < κ で xα ∈ C, α < γ が ⊆ に関する上昇列であるとき7) , (closed); (3.6) 任意の x ∈ [X]<κ に対し,y ∈ C で x ⊆ y となるものが存在する (unbounded). α<γ xα ∈ C が成り立つ [X]5κ や [X]κ の club な部分集合についても同様に定義する. 補題 3.2. (a) C が [X]κ の club な部分集合であるとき,C は [X]5κ の club な部分集合で もある. (b) C が [X]5κ の club な部分集合のとき,C ∩ [X]κ は [C]κ の club な部分集合である. 証明.演習. (補題 3.2) 6) [X]5κ = [X]<κ , [X]κ = [X]<κ \ [X]<κ である. 7) つまり任意の α < β < γ に対し,xα ⊆ xβ が成立するとき. + + 7 定理 3.3. A = hA, ...i を(非可算な)L-構造として,κ 5 | A | を非可算な正則基数とする. このとき C = {x ∈ [A]<κ : A x ≺ A} は [A]<κ の closed unbounded な部分集合となる. 証明.C が (3.5) を満たすことは,定理 2.6 によりよい8) .C が (3.6) も満たすことを示すた めに,F を命題 3.1 でのようにとる.x ∈ [A]<κ に対し,y ∈ [A]<κ で x ⊆ y かつ y は F に関して閉じているようなものがとれるが9) ,このとき,A y ≺ A だから y ∈ C である. (定理 3.3) A = hA, ...i を L-構造として,F を命題 3.1 でのようにとる.このとき,x ⊆ A に対し h̃F (x) で x を含む A の部分集合のうち F に関し閉じているもののうち ⊆ に関し最小のものをあら わすことにする.h̃F (x) は x の F に関するスコーレム閉包 (Skolem closure of X with respect to F) とよばれる.A h̃F (x) ≺ A となるが,簡単のために h̃F (x) で L-構造 A h̃F (x) もあ らわすことにする. 定理 3.3 と類似の次の結果もよく使われることになる: 補題 3.4. A = hA, ...i を L-構造として,κ > ℵ0 を正則基数とし,κ ⊆ A となっているとす る.このとき,任意の a ∈ [A]<κ に対し, C = {α < κ : B = hB, ...i ≺ A で a ⊆ B, B ∩ κ = α となるものが存在する } は [κ]<κ の closed unbounded な部分集合を含む(特に C 6= ∅ である). 証明.F を命題 3.1 でのようにとる,このとき, C ⊇ {α < κ : h̃F (α ∪ a) ∩ κ = α} となるが,右辺が [κ]<κ で closed unbounded であることは容易に示せる(演習). (補題 3.4) A = hA, ..., Ci で,C が A の well-ordering のとき,命題 3.1 の証明での v として C を とると,命題 3.1 の F は A 上定義可能な関数からなるものとなる.このようなとき,F は built-in Skolem functions である,という. 定理 3.5. A = hA, ...i を built-in Skolem functions F を持つ構造とするとき,すべての X ⊆ A に対し,B ≺ A で,B = hB, ...i として, X ⊆ B となるようなもののうち ⊆ に対 して最小のものが存在する. 8) 演習問題 2.5 に注意する. xn , n ∈ ω を帰納的に,x0 = x; xn+1 = xn ∪ {f (a1 , ..., an ) : a1 , ..., an ∈ xn , f ∈ F} ととり,y = とすると F は可算だから,| y | < κ となるが,y が F に関し閉じていることは容易に示せる. 9) 8 ∪ n∈ω xn 証明.B ≺ A で,B = hB, ...i, X ⊆ B とすると,B の elementarity から,B は F に関し て閉じているので,h̃F (X) ⊆ B が成り立つ10) .したがって,h̃F (X) は X を含む A の初等 部分構造のうち,最小のものである. (定理 3.5) H(χ) 4 集合 x が推移的 (transitive) であるとは,任意の y ∈ x と z ∈ y に対し z ∈ x が成り立つこ とである.集合 x の推移的閉包 (transitive closure) trcl(x) を, (4.1) trcl(x) = ∩ {u : u は推移的で x ⊆ u} として定義する11) . 補題 4.1. x ∈ y なら,trcl(x) ⊆ trcl(y) となる. 証明.x ⊆ trcl(y) となるが,trcl(y) は推移的だから,(4.1) から trcl(x) ⊆ trcl(y) が帰結で きる. (補題 4.1) χ を無限基数とするとき,継承的に濃度が < χ (hereditarily of cardinality < χ) な集合の全 体 H(χ) を H(χ) = {x : | trcl(x) | < χ} により定義する.次の補題から,H(χ) は集合になることがわかる. 補題 4.2. χ を無限基数とするとき,H(χ) ⊆ Vχ となる. 証明.χ に関する帰納法で証明する.χ = ℵ0 のときには,x ∈ H(χ) として,ある n ∈ ω に 対し,| trcl(x) | = n となるが,n に関する帰納法で x ∈ Vω が証明できる(演習)12) . χ > ℵ0 として,χ が極限基数で,χ より小さい無限基数に対しては補題が成り立ってい るとする.このときには, ∪ ∪ H(χ) = H(κ) ⊆ Vκ = Vχ κ<χ, κ<χ, κ は基数 κ は基数 となるから,χ に対しても補題が成り立つことがわかる. χ = κ+ のときには,H(χ) 6⊆ Vχ だったとして,x ∈ H(χ) \ Vχ をこのようなもののう ち ∈-rank が最初のものとする.このとき,y ∈ x なら,補題 4.1 により,trcl(y) ⊆ trcl(x) 10) 演習問題 2.5 により,h̃F (X) ≺ B でもある. 11) trcl(x) の定義の右辺にあらわれるクラスが空集合でないことを見るためには,trcl(x) が以下のようにし て構成できることを示せばよい: n ∈ ω に対し,tcn (x) を帰納的に tc0 (x) = x, tcn+1 (x) = tcn (x) ∪ {z : ある ∪ y ∈ tcn (x) に対し z ∈ y} としてとると,trcl(x) = n∈ω tcn (x) となる(演習). ∪ 12) 逆に,Vω = n∈ω Vn のすべての元が H(ℵ0 ) に属すことも n に関する帰納法で示せるから,Vω = H(ℵ0 ) である. 9 だから,y ∈ H(χ) となり,最小性から y ∈ Vχ となる.したがって,x ⊆ Vχ となるが, | x | ≤ | trcl(x) | < χ により,χ は正規基数だから,α < χ で x ⊆ Vα となるものがある.し たがって,x ∈ Vα+1 ⊆ Vχ となるが,これは x のとりかたに矛盾する. (補題 4.2) 補題 4.3. すべての無限基数 χ に対し,H(χ) は推移的な集合である. 証明.H(χ) が集合になることは,補題 4.2 によりよい. x ∈ H(χ) で y ∈ x とする.このとき,補題 4.1 により,trcl(y) ⊆ trcl(x) となり, (補題 4.3) | trcl(x) | ≤ | trcl(y) | < κ により,x ∈ H(χ) である. H(χ) が集合になることは,次に示す H(χ) の濃度の評価からもわかる: 補題 4.4. 任意の無限基数 χ に対し,| H(χ) | = 2<χ である. 証明.x ∈ H(χ) とすると,| trcl(x) | < χ だが,λ = | trcl(x) | として,f : λ → trcl(x) を bijection とし,g : λ2 → 2 を g(α, β) = 1 ⇔ f (α) ∈ f (β) で定義すると,x は g によって一 意に決まる.このような g は高々 2<χ 個しかないから, | H(χ) | ≤ 2<χ である. 一方,基数 λ < χ と f : λ → 2 に対し, xf = {α ∈ λ : f (α) = 1} ∪ {{α + 1} : α ∈ λ, f (α) = 0} とすると,f 7→ xf は一対一対応となることから,| H(χ) | ≥ 2<χ がわかる. (補題 4.4) 次の補題は,第 6 節で述べることになるような応用でよく用いられる. 補題 4.5. (a) χ を無限基数とする.hM, ∈i ≺ hH(χ), ∈i で13) r ⊆ M が有限集合なら, r ∈ M となる. (b) κ < χ を基数として,hM, ∈i ≺ hH(χ), ∈i で,κ ∈ M , κ ⊆ M とする.このとき, r ∈ M , で | r | ≤ κ なら r ⊆ M である. (c) χ を無限基数とする.hM, ∈i ≺ hH(χ), ∈i で r ∈ M が有限集合なら,r ⊆ M となる. (d) χ を非可算な基数とする.hM, ∈i ≺ hH(χ), ∈i で,r ∈ M が可算なら,r ⊆ M となる. 証明.(a): r = {r1 , ..., rn } となっているとする.このとき, hH(χ), ∈i |= ∃x(“x = {x1 , ..., xn }”)[r1 /x1 , ..., rn /xn ] となるから,hM, ∈i ≺ hH(χ), ∈i と,r1 ,..., rn ∈ M により, hM, ∈i |= ∃x(“x = {x1 , ..., xn }”)[r1 /x1 , ..., rn /xn ] が成り立つ.したがって,s ∈ M で, hM, ∈i |= “x = {x1 , ..., xn }”[s/x, r1 /x1 , ..., rn /xn ] 13) “hH(χ), ∈i” という書きかたについては,2 ページを参照. 10 となるものが存在するが,明らかに14) s = r である. (b): 仮定から, hH(χ), ∈i |= ∃x(“x : y → z で x は上射 ”)[κ/y, r/z] である.したがって,hM, ∈i ≺ hH(χ), ∈i により, hM, ∈i |= ∃x(“x : y → z で x は上射 ”)[κ/y, r/z] である.よって,f ∈ M で hM, ∈i |= “x : y → z で x は上射 ”[f /x, κ/y, r/z] となるものがとれるが,すべての α ∈ κ に対し,α ∈ M となることから,f (α) ∈ M がわか る.したがって,r = {f (α) : α ∈ κ} ⊆ M である. (c): ω ⊆ H(χ) で有限基数は定義可能だから,ω ⊆ M である.したがって,κ = | r | (< ω) に対して (b) を適用すると,r ⊆ M がわかる. (d): χ が非可算により,ω ∈ H(χ) である.ω は定義可能だから,ω ∈ M で,(c) の証明 で注意したように ω ⊆ M である.したがって κ = | r | (5 ω) に対して (b) を適用すると, r ⊆ M がわかる. (補題 4.5) 5 絶対性と H(χ) で成り立つ集合論の公理 H(χ) は一般には ZFC のモデルではない.さらに,不完全性定理により,“H(χ) が ZFC の モデルになるような正則基数 χ が存在する” は ZFC から証明できない.しかし,ZFC で, 非可算な正則基数 χ に対し,H(χ) は “ほとんど” ZFC のモデルになっていることが言え(定 理 5.3 を参照),さらに,“H(χ) ≺ V ” の代用のようなものとして用いることのできる反映 原理(定理 5.4 を参照)も成り立つ. 以下では,言語 L を,L = {∈, ...} として固定する.関係記号 ∈ が集合の要素関係 ∈ に解 釈されるような構造 A = hA, ∈, ...i を ∈-モデル と呼ぶことにする. ∈-モデル A = hA, ∈, ...i で “∈, ...” が文脈から明らかなときには,A で A をあらわすことにする. ϕ が L-論理式で x, y ∈ V ar のとき,(∃x ∈ y)ϕ, (∀x ∈ y)ϕ で,それぞれ論理式 ∃x(x ∈ y ∧ ϕ) および,∀x(x ∈ y =⇒ ϕ) をあらわすことにする. L-論理式 ϕ が 束縛論理式 (bounded formula) であるとは,(∃x ∈ y) および (∀x ∈ y)ϕ の 形のものを独立した量化子であるかのように扱って以下の帰納的定義で導入される論理式の 集合に ϕ が属すこととする: 14) この主張の検証を含めて,この補題の証明の細部の検証は次の節で証明する補題 5.1 を用いて一様なやり 方で行うことができる. 11 (5.1) x, y ∈ V ar のとき,‘x = y’ は L-束縛論理式である; (5.2) R が L の m 項関係記号で,x0 ,..., xm−1 ∈ V ar のとき,‘R(x0 , ..., xm−1 )’ は L-束縛 論理式である; (5.3) ϕ, ψ が L-束縛論理式なら,“(ϕ ∧ ψ)”, “(ϕ ∨ ψ)”, “(¬ϕ)” “(ϕ → ψ)”, “(ϕ ↔ ψ)” も L-束縛論理式である; (5.4) ϕ が L-束縛論理式で x, y ∈ V ar のとき,“(∀x ∈ y)ϕ”, “(∃x ∈ y)ϕ” も L-束縛論理 式である; (5.5) 以上のみ. 束縛論理式(にパラメタを代入したもの)の真偽の判定は,この論理式に表われるパラメタや それらの要素,またそれらの要素の要素,などを調べることで実行できる.この直観を((5.1) ∼ (5.4) の意味での)束縛論理式の構成に関する帰納法に乗せることにより,次の 補題 5.1 が証明できる. まず,補題 5.1 で用いられる用語の定義から始める. A = hA, ∈, . . .i を L での ∈-モデルとして ϕ = ϕ(x1 , ..., xn ) を L-論理式とするとき,ϕ が A 上 絶対 (absolute) である,とは,すべての集合 a1 ,..., an に対し, (5.6) A |= ϕ[a1 , ..., an ] ⇔ ϕ(a1 , ..., an ) が成り立つこととする. 補題 5.1. 任意の(∈ 記号を含む)言語 L に対し,すべての L-束縛論理式は,推移的な L での ∈-モデル M 上で絶対である.特に任意の基数 χ に対し,H(χ) 上,任意の束縛論理式 は絶対である. 証明.((5.1)∼(5.5) の意味での) L 上の束縛論理式の構成に関する帰納法により,ϕ = ϕ(x1 , ..., xn ) に対して (5.7) M |= ϕ[a1 , ..., an ] ⇔ ϕ(a1 , ..., an ) が,すべての a1 ,..., an ∈ M に対し成り立つことを示す. ϕ が L での原始論理式のときには,(5.7) が成り立つことは,‘|=’ の定義から明らかで ある. また,L での束縛論理式 ϕ と ψ に対して (5.7) が成り立っているときには,“(ϕ ∧ ψ)”, “(ϕ ∨ ψ)”, “(¬ϕ)” “(ϕ → ψ)”, “(ϕ ↔ ψ)” に対しても (5.7) が成り立つことも,‘|=’ の定義 から明らかである. したがって,(5.4) での構成で,帰納法のステップが機能することを確かめれば十分である. ϕ = ϕ(x1 , ..., xn ) が (∀x ∈ xi )ψ(x, x1 , ..., xn ) (ただし 1 5 i 5 n)の形をしていて ψ に 対しては (5.7) が成り立っているとする.このとき,a1 ,..., an ∈ M として, 12 M |= ϕ[a1 , ..., an ] ⇔ すべての a ∈ ai ∩ M に対して |= ψ[a, a1 , ..., an ] ⇔ すべての a ∈ ai に対して |= ψ[a, a1 , ..., an ] (M は推移的だから) ⇔ すべての a ∈ ai に対して ψ(a, a1 , ..., an ) (帰納法の仮定) ⇔ ϕ(a1 , ..., an ) ϕ が (∃x ∈ xi )ψ(x, x1 , ..., xn ) の形をしているときの証明も同様にできる. (補題 5.1) T を L-理論とするとき,L-論理式 ϕ = ϕ(x1 , ..., xn ) が ∆T1 である,とは,ある L-束縛 論理式 ψ = ψ(x, x1 , ..., xn ), η = η(x, x1 , ..., xn ) が存在して, T ` ∀x1 · · · ∀xn (ϕ ↔ ∃xψ) T ` ∀x1 · · · ∀xn (ϕ ↔ ∀xη) となることとする. 補題 5.2. M を推移的な L での ∈-モデルとして,T を L-理論で,M |= T となるものとす る.このとき,すべての ∆T1 な L-論理式 ϕ は M 上絶対的になる. 証明.(演習). (補題 5.2) 補題 5.2 の非常に有用な応用として次のものがある: T は ZFC の十分に大きなフラグメ ントを含んでいるものとする.このとき,T で,集合 x に対する,ある述語 Ψ(x) が,束縛 論理式であらわせる性質を用いた帰納法の初めと帰納法のステップによって ∈ に関する超限 帰納法で導入されているとする.このときには, T ` Ψ(x) ↔ ∃u(u は Ψ(x) かどうかを帰納的に確かめるときのプロトコルになって いて,これにより Ψ(x) が確かめられる ) T ` Ψ(x) ↔ ∀u(u が Ψ(x) かどうかを帰納的に確かめるときのプロトコルになって いるなら,これにより Ψ(x) が確かめられる ) とできるから,Ψ(x) は ∆T1 となることがわかり,推移的な ∈-モデル上 Ψ(x) は絶対になる ことがわかる. ZFC− で ZFC の公理系から冪集合公理を除いたものをあらわすことにする. 定理 5.3. χ を非可算な正則基数とするとき,H(χ) |= ZFC− が成り立つ. 証明.以下の証明では,補題 5.1 と, (それまでに H(χ) で成り立つことが証明されている ZFC− の部分体系を T としたときの)補題 5.2 を断わりなく何度も使っていることに注意 する. [残りは後で書く] (定理 5.3) 13 定理 5.4. すべての論理式15) ϕ = ϕ(x1 , ..., xn ) と基数 κ に対して,基数 χ > κ で, (5.8) すべての a1 , ..., an ∈ H(κ) に対し,H(χ) |= ϕ[a1 , ..., an ] ⇔ ϕ(a1 , ..., an ) となるようなものが存在する. 証明.[後で書く] (定理 5.4) [この節はまだ書きかけです.] 6 初等部分構造の集合論での応用 以上の準備を使うと,無限組合せ論的な命題 ϕ の可能な証明方針の一つとして,次のような ものが考えられるようになる: まず基数 χ を十分に大きくとり,ϕ(· · · ) でパラメタとしてあ らわれる objects がすべて H(χ) に含まれ, hH(χ), ∈i |= ϕ ⇔ ϕ が(本当に)成り立つ となるようにする.ここで,定理 3.3, あるいは,補題 3.4 などの定理 3.3 の変種を用いて, 具合の良い性質を持つ hM, ∈i ≺ hH(χ), ∈i をとり,hM, ∈i |= ϕ を hM, ∈i と hH(χ), ∈i の 間を行き来して証明する.この際に,H(χ) \ M の元を M 上 non-standard analysis におけ る無限小元や無限大元のようなものとして用いることができる.hM, ∈i ≺ hH(χ), ∈i だから, hM, ∈i |= ϕ から hH(χ), ∈i |= ϕ が帰結でき,さらに χ のとり方から ϕ が本当に成り立つこ とが,これから帰結できる. 上のような証明方針の例の一つとして,∆-レンマと呼ばれる次の定理の証明を見てみよう. 定理 6.1. (∆-レンマ) κ を非可算な正則基数として,haα : α < κi を有限集合の列とする. このとき,濃度 κ の集合 X ⊆ κ と集合 r で,すべての異なる α, β ∈ X に対し,aα ∩ aβ = r が成り立つようなものが存在する. 証明.一般性を失うことなく,各 α < κ に対し aα ⊆ κ となっているとしてよい.χ を十分 に大きくとって,haα : α < κi ∈ H(χ) となるようにする.特にこのことから,κ ∈ H(χ) κ ⊆ H(χ) etc. となる.補題 3.4 により,hM, ∈i ≺ hH(χ), ∈i で,haα : α < κi ∈ M で M ∩ κ はある順序数 α0 < κ となっているようなものが存在する.r = aα0 ∩ α0 とする.このとき r ⊆ M で r は有限だから,補題 4.5(a) により,r ∈ M である.hM, ∈i |= “κ は基数” だか ら,α0 は極限順序数になっているので,α1 < α0 で r ⊆ α1 となるものが存在する.すべて の α1 < α < α0 に対し,hH(χ), ∈i |= (∃β < κ)(aβ ∩ α = r) が成り立つ(aα0 がそのよう なものになっている)から,hM, ∈i ≺ hH(χ), ∈i により,hM, ∈i |= (∃β < κ)(aβ ∩ α = r) となる.したがって,hM, ∈i |= (α1 < ∀α < κ)(∃β < κ)(aβ ∩ α = r) となるから,再び hM, ∈i ≺ hH(χ), ∈i により, hH(χ), ∈i |= (α1 < ∀α < κ)(∃β < κ)(aβ ∩ α = r) 15) ここでの “すべての論理式 ϕ” での “すべて” は meta-logic での “すべて” である.つまり,定理 5.4 は, 一つ一つの具体的な論理式 ϕ に対する主張をたばねた meta-theorem となっている. 14 がわかる.したがって,上昇列 αξ∗ ∈ κ, ξ < κ を, (6.1) aα∗ξ ∩ aα∗ξ = r; (6.2) αξ∗ ≥ sup{αη∗ + 1 : η < ξ} となるようにとることができる.この r と X = {αξ∗ : ξ < κ} は明らかに定理での性質を満 たす. (定理 6.1) 上に与えた証明の利点の一つは,∆-レンマの様々な拡張を同様の証明で示すことができるこ とである.次にそのようなものの一つを示すが,そのためにさらに用語を導入する: κ, λ を基 数として,κ ≤ λ で,κ は正則基数であるとする.このとき,X ⊆ [λ]<κ が 定常 (stationary) であるとは,すべての closed unbounded な C ⊆ [λ]<κ に対し,X ∩ C 6= ∅ が成り立つこと. X ⊆ κ が 定常であるとは,X が [κ]<κ の部分集合として,定常であることとする.X ⊆ κ が定常となるのは,任意の closed unbounded な C ⊆ κ (⊆ [κ]<κ ) に対し,X ∩ C 6= ∅ とな ることと同値であることが容易に示せる(演習).X ⊆ κ が定常なら | X | = κ となること も容易に示せるから,次の定理は,定理 6.1 の拡張となっている: 定理 6.2. κ を非可算な正則基数として,haα : α < κi を有限集合の列とする.このとき,定 常な κ の部分集合 X と有限集合 r で,すべての異なる α, β ∈ X に対し,aα ∩ aβ = r が 成り立つようなものが存在する. 証明.定理 6.1 と同じように証明を進めて,hαξ∗ : ξ < κi をとるところで,hαξ∗ : ξ < κi は 定理 6.1 の証明の条件 (6.1), (6.2) の他に, (6.3) αξ∗ は (6.1) と (6.2) を満たすようなもののうち最小のものとなっている という条件も満たしているとする.このような hαξ∗ : ξ < κi が存在することを主張する論 理式は H(χ) で成り立つから,hM, ∈i ≺ hH(χ), ∈i により,性質 (6.1), (6.2), (6.3) を満た す M の元が存在することがわかる.したがって最初から hαξ∗ : ξ < κi ∈ M となっている としてよい.このとき,(6.3) により,αα∗ 0 は α0 となることに注意する.C ⊆ κ が closed unbounded で C ∈ M なら,C ∩ α0 は α0 で unbounded となり,したがって C が closed であることから,α0 ∈ C がわかる.一方上の注意により α0 ∈ X = {αξ∗ : ξ < κ} だから, hH(χ), ∈i |= C ∩ X 6= ∅ となり,hM, ∈i ≺ hH(χ), ∈i により,hM, ∈i |= C ∩ X 6= ∅ がわか る.したがって, hM, ∈i |= “X は κ の定常な部分集合” となるが,ふたたび hM, ∈i ≺ hH(χ), ∈i により,このことから, hH(χ), ∈i |= “X は κ の定常な部分集合” がわかり,χ が十分に大きくとってあったことから16) ,X は本当に κ の定常な部分集合と (定理 6.2) なっていることが帰結できる. 16) 例えば χ > 2κ とすると,P(κ) ∈ H(χ) とできてここでの議論がうまく行なえる. 15 次の補題でのような M を用いると,∆-レンマのさらなる拡張である以下の定理 6.4 の証 明が,定理 6.2 の証明と全く同様に行える: 補題 6.3. κ を無限基数として,λ を正則基数で,すべての α < λ に対し,| [α]<κ | < λ が成り 立つようなものとする.十分大きな正則基数 χ と a ⊆ [H(χ)]<λ に対し,hM, ∈i ≺ hH(χ), ∈i で, (6.4) | M | < λ; (6.5) a ⊆ M; (6.6) λ ∩ M ∈ λ; (6.7) [M ]<κ ⊆ M , を満たすものが存在する. 証明.δ0 = max{κ, | a |} として, { δ0 , cf(δ0 ) ≥ κ のとき δ= δ0 + , そうでないとき. とする. (6.8) δ < λ かつ cf(δ) ≥ κ となることに注意する. hH(χ), ∈i の初等的部分モデルの連続な上昇列 hMα : α < δi をうまく定義して, M = α<δ Mα が求めるようなものになるようにする.このためには,次の (6.9) ∼ (6.12) が成り 立つように Mα , α < δ を選べばよい: ∪ (6.9) すべての α < δ に対し | Mα | < λ; (6.10) a ⊆ M0 ; (6.11) sup(Mα ∩ λ) ⊆ Mα+1 ; (6.12) [Mα ]<κ ⊆ Mα+1 . (6.10) (と (6.9))は δ の定義から可能である.(6.11) と (6.12) は補題 3.4 により, ((6.9) のもとで)可能である. (6.9) と (6.8) により, M は (6.4) を満たす.(6.10) により,M は (6.5) を満たす.(6.11) (補題 6.3) により,M は (6.6) を満たす.(6.12) と (6.8) により,M は (6.7) を満たす. 定理 6.4 (∆-レンマの拡張版). κ を無限基数として,λ を正則基数で,すべての α < λ に対 し,| [α]<κ | < λ が成り立つようなものとする.haα : α < λi を濃度が κ 未満の集合の列と するとき,定常な S ⊆ λ と濃度が κ 未満の集合 r で,すべての α, β ∈ S, α 6= β に対し, aα ∩ aβ = r となるようなものが存在する. 16 証明.演習. (補題 6.4) 同様の応用例をもう一つ見ておくことにする.このために,まず補題 3.4 をさらに一般化 した次の補題を用意しておく.証明は補題 3.4 とまったく同様にできる. 補題 6.5. A = hA, ...i を L-構造として,λ ⊆ A, κ ≤ λ は正則基数とする.また a ∈ [A]<κ とする.このとき, C = {x ∈ [λ]<κ : B = (B, ...) で B ≺ A, a ⊆ B, B ∩ λ = x となるものが存在する } は closed unbounded な集合を部分集合として含む. 証明.演習. (補題 6.5) 定理 6.6. (一般化された Fodor の定理) ℵ0 < κ ≤ λ で κ は正則基数とする.A ⊆ [λ]κ を定 常として,f : A → λ を x ∈ A で x 6= ∅ なら f (x) ∈ x が常に成り立つようなものとする. このとき,ある β < λ に対し,{x ∈ A : f (x) = β} は [λ]<κ の定常な部分集合となる. 証明.そうでないとすると,各 β ∈ λ に対し,closed unbounded な Cβ ⊆ [λ]<κ で,x ∈ Cβ ∩A なら,f (x) 6= β となっているようなものがとれる.χ を十分大きくとる.補題 6.5 により, hM, ∈i ≺ hH(χ), ∈i で,hCβ : β < λi, f, ... ∈ M , λ ∩ M ∈ A, κ ∈ M かつ κ ⊆ M となる ようなものが存在する.このとき,補題 4.5, (b) により,すべての,x ∈ M ∩ [λ]<κ に対し, ∪ x ⊆ M となる.λ ∩ M = (M ∩ [λ]<κ ) となるから,この集合を x0 とすると,x0 ∈ Cβ が すべての β ∈ λ ∩ M で成り立つ.したがって,f (x0 ) 6= β がすべての β ∈ x0 で成り立つが, これは f に関する仮定に矛盾する. (定理 6.6) 7 ω-bounding な初等部分構造 ∈-モデル M が ω-bounding であるとは,[M ]ℵ0 ∩ M が [M ]ℵ0 で ⊆ に関して cofinal となる こととする.[残りは後で書く.] 8 Fodor-type Reflection Principle とその拡張 最後に,筆者の最近の研究での初等部分構造の応用を紹介する. 正則基数 κ に対し,Fodor-type Reflection Principle for κ (記法: FRP(κ)) を,次のよう な(集合論の)公理とする: FRP(κ) : すべての定常な S ⊆ Eωκ = {α < κ : cf(α) = ω} と写像 g : S → [κ]≤ℵ0 に対して I ∈ [κ]ℵ1 で次を満たすものが存在する: (8.1) cf(I) = ω1 ; (8.2) すべての α ∈ I ∩ S に対し,g(α) ⊆ I ; 17 (8.3) f : S ∩ I → κ で f (α) ∈ g(α) ∩ α がすべての α ∈ S ∩ I に対して成り立つよ うなものに対し,ξ ∗ < κ で, f −1 00 {ξ ∗ } が sup(I) で定常になるものが存在 する. FRP(κ) がすべての正則基数 κ ≥ ℵ2 で成り立つという主張を Fodor-type Reflection Principle (FRP) と呼ぶことにする. FRP は,[κ]ℵ0 の定常集合 S の定常性が常に共終数 ω1 で濃度 ℵ1 の κ の部分集合 I に reflect する(つまり S ∩ [I]ℵ0 が [I]ℵ0 で定常になる)ことを主張する反映原理 RP から導 かれる([4]).反映原理の数学的な応用では,RP を(少なくとも見掛け上)さらに強めた Axiom R が用いられることが多かった.FRP は RP や Axiom R より本質的に弱い公理で, たとえば,ccc p.o.-set による強制拡大で保存されることが知られている([4]).特に,この ことから,FRP は連続体のサイズに何ら制限を課さないことがわかるが,これに対して,RP からは 2ℵ0 ≤ ℵ2 が導かれる(Todorcevic, [7] を参照). Axiom R からの帰結として既に知られていた数学的な反映原理の多くは,実は ZFC 上 FRP と同値になることが示されている([4], [5]). たとえば,次の主張 (8.4) は ZFC 上 FRP と同値である. (8.4) すべての局所コンパクトな位相空間 X について,X のすべての濃度 ≤ ℵ1 の部分空 間が距離付け可能なら,X 自身も距離付け可能である. Axiom R のもとで知られていた,いくつかの反映原理の証明は,FRP(κ) では十分でな いように見える.そのような証明では,次のような FRP(κ) の変形が必要になることがある: FRPR (κ) : すべての定常な S ⊆ Eωκ = {α < κ : cf(α) = ω} と写像 g : S → [κ]≤ℵ0 に対し て,ω1 -club な C ⊆ [κ]ℵ1 が与えられたとき,I ∈ C で (8.1), (8.2), (8.3) を満たすも のが存在する. 定理 8.1. κ を正則基数で, (8.5) すべての λ < κ に対し, cf([λ]ℵ0 ) < κ が成り立つようなものとする.このとき,FRP(κ) ⇔ FRPR (κ) が成り立つ. 証明.[後で書く.] 9 (定理 8.1) さらに勉強を進めたい人のために より詳しい議論や,初等部分モデルの他の応用例については,たとえば [2] や [3] なども参 照されたい.なお,本講義とほぼ同じ時期にハンガリー科学アカデミー・レニ数学研究所の Lajos Soukup 氏も elementary substructures に関する集中講義を行なっており,彼の lecture note もどこかで入手可能になると思う. 初等的部分構造の一般論を含むモデル理論の標準的な入門書としては,[1] があげられる. [7], [8] は集合論の標準的な教科書である. 18 初等的部分構造は proper forcing とよばれる強制法での近代的な理論で縦横に用いられ ることになるが,この理論の入門としては,[6] なども良いであろう. 参考文献 [1] C.C. Chang, H.J. Keisler, Model Theory, North-Hooland, Amsterdam, (1973). [2] A. Dow, An introduction to applications of elementary submodels to topology, Topology Proceedings, 13, 17–72, (1988). [3] S. Fuchino, Set-theoretic aspects of nearly projective Boolean algebras, Appendix in: L. Heindorf and L. Shapiro, Nearly Projective Boolean Algebras, Springer lecture note of mathematics 1596, 165–194, (1994). [4] , I. Juhász, L. Soukup, Z. Szentmiklóssy and T. Usuba, Fodor-type Reflection Principle and reflection of metrizability and meta-Lindelöfness, to appear in Topology and its applications, to appear. [5] , L. Soukup, H. Sakai and T. Usuba, More about Fodor-type Reflection Principle, in preparation. [6] M. Goldstern, Tools for your forcing constructions, in: H. Judah (ed.), Set Theory of the Reals, Israel Mathematical Conference Proceedings, 305–360, Bar Ilan University, (1992). [7] T. Jech, Set Theory, The Third Millennium Edition, Springer (2001/2006). [8] K. Kunen, Set Theory, North-Holland, Amsterdam, New York, Oxford, (1980). (日本 語訳: ケネス・キューネン著,藤田博司 訳,集合論 — 独立性証明への案内,日本評論 社 (2008)) 19
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