地球観測データ処理の流れ 地球観測衛星 利用者 国・自治体、大学、 研究機関、民間、 一般ユーザなど 海外機関 と協力 一次処理を行う データ 中継衛星 センサ感度の校正 提供 データを利用者 に届ける 幾何学的な補正 勝浦局 海外局 など 処理 高次処理を行う 校正検証・利用研究 受信 様々な情報に変換 処理の精度向上と処理手 法の研究開発を進め、様々 なデータセットを高い次元 で解析・モデル化を行う 観測データを 受信する 保存 (C) METI/JAXA, analyzed by JAXA 観測データを 保存する 国内外の機関・研究者との協力 EORCの取り組み JAXAが開発した地球観測衛星及び地球観測センサで取得し ユーザ配布を実施しています。さらに海洋、水循環、大気、気候 たデータは、国内 勝浦局および海外局で受信し、主として筑波 といった地球環境の変動や農林水産資源の管理、防災・国土利 宇宙センターで保存しています。EORCでは観測データを解析 用等の分野において、衛星データの利用研究を推進していま し、地球科学的に意味のある物理量を導出するためのアルゴリ す。世界的な協力のもと、関連するデータを国際的に収集し、 ズムの開発を行い、衛星データの校正検証などのデータ処理や データセットとして提供するプロジェクトも進めています。 国立研究開発法人 宇宙航空研究開発機構 地球観測研究センター(EORC) 〒305-8505 茨城県つくば市千現2-1-1 ●JAXAホームページ http://www.jaxa.jp ●地球観測研究センター(EORC) ホームページ http://www.eorc.jaxa.jp Earth Observation Research Center EORCの役割 EORC 地球観測研究センター 地球科学への挑戦と 社会課題の解決 地球と人類の存続・繁栄のために JAXA第一宇宙技術部門地球観測研究センター(Earth Observation Research Center: M E S S A G E EORC)は、1995年4月に設置以来、日本の人工衛星を用いた地球観測を実施する中核的機関 として、地球観測、データ解析・利用研究を推進し、様々な形で地球環境を把握するための情報 を提供しています。こうした活動を通じて、地球環境と調和した社会の実現へ向けて、宇宙から の地球観測技術を用いて社会に貢献しています。 地球観測研究センター (EORC) センター長 中島 映至 20世紀後半より、現在までに様々な地球観測衛 星ミッションが実現し、地球科学に関する膨大な 知見を得ています。 地球観測衛星によって得られたデータから、例え ば、地球温暖化を相殺する要因である大気汚染 物質の直接気候効果や間接気候効果の大きさが 明らかになるなど、地球システムに関わる様々な 問題の科学的解明に役立っています。 同時に、日々の気象・海象・陸域に関わる実利用 面でも地球観測衛星からのデータが利用されて います。 このように地球観測衛星は、最先端科学と実利 C O N T E N T S センター 長メッセージ 3 EORCの挑戦 4 EORCの貢献 課題分野研究 海洋環境監視 6 水 循 環・水 資 源 7 大気環境物質監視 インフラ変 位 モニタリング EORCの貢献 用の両方を同時に実現するようにデザインされ 課題分野研究 た、高効率で有用なシステムです。 気 候 システム・放 射 過 程 10 生態系 EORCでは、地球観測データに含まれる情報を最 11 農業 12 大限に引き出す努力を進めています。 さらに、関 公衆衛生 13 8 EORCの貢献 利 用 研 究 プ ロジェクト 14 9 EORCの役割 地 球 観 測 デ ータ処 理 の 流 れ 16 係機関と連携をはかり、地球システムに関する深 い知識を用いて、得られた様々なデータセットを 高い次元で解析・モデル化し、地球や私たちが直 面している諸問題に対応できる能力の確保と将 来予測に役立てるなど、地球科学と観測技術の 全球合成降水マップ (GSMaP) プロダクトにて表示した2015年9月10日9時(日本時間) の全球での地表降水分布です。 2 最先端に挑戦する活動を行っていきます。 3 EORCの挑戦 人工衛星のデータを利用し、地球の持続的発展と社会利用への貢献 課題分野研究で観測データを結集し 開かれたEORCと研究成果の最大化 モデルと組み合わせた新たな研究を推進 課題分野研究を進めることにより、EORCの研究機能を強化するとと 人類の発展に寄与する もに、オールJapan体制を構築し研究成果を最大化するため、 EORCでは大学や研究機関、海外の研究者などとも連携して、地球観測 の活用と利用者の拡大・連携の強化を図っています。 JAXA単独型から、大学・研究機関および海外の研究者も含めた人員 また、開かれたEORCを目指して、EORCアドバイザリ委員会を設置し 衛星のデータを複合的に用い解析・研究を進める「課題分野研究」に 研究成果の評価と発信を進めています。 取り組んでいます。地球環境モデルと組み合わせ、多様な観点から地球 環境が変化していく過程を予測することにより、海洋、水循環と水資源、 大気環境、インフラモニタ、放射過程、生態系、農業、公衆衛生などの分 金子 豊 野における課題の解決を目指しています。 第一宇宙技術部門 地球観測研究センター 計画マネージャ 地球観測衛星で宇宙から地球環境のデータを集める 私たちの生活は、熱帯林や森林の減少・オゾン層の破壊・温暖化など、人間活動に起因する地球環境の変化や、地震や火山噴火・ 気候変動といった自然現象による脅威にさらされています。 EORCでは、海洋、水循環、大気、気候変動、インフラ、健康といった、私たちの生活に欠かせない地球環境について地球観測衛星 やプロジェクトごとにデータを校正検証し、観測データ活用のためのアルゴリズムを開発しています。さらに複数の衛星のデータ を組み合わせたり、プロジェクトを横断して獲得したデータを地球環境モデリングに応用することで、地球環境の変化を予測し、災 害や気候変動に迅速に対応できるように、有益な情報のアウトプットを目指しています。 衛星 ALOS-2 EORC担当分 GPM TRMM Earth CARE GCOM GOSAT ひまわり 連携機関 防災利用 ocean 大学との 連携プログラム 強化 アドバイサリ 委員会の 設置 研究成果の最大化 開かれたEORC EORC の戦略と課題分野研究の位置づけ 今私たちが直面している環境に関する課題は地球規模であり、一国だけでなく国際的な観点から考えなければなりません。例え ば、 「 全球降水観測計画(GPM: Global Precipitation Measurement)」は、気候変動・水循環変動の解明のため、全球の降水 について高精度・高頻度に観測を行う国際協力ミッションです。主衛星である全球降雨観測計画/二周波降水レーダ「GPM/DPR」 と、コンステレーション衛星群で構成され、日本・アメリカ・フランス・インドなどが参加しています。 身近な天気予報においては、水循環変動観測衛星「しずく」 ( GCOM-W)のマイクロ波放射計の観測データが、気象庁をはじめ、 森林減少など土地利用変化による温室効果ガスの排出が、1750年から2010年までの累積の約25%を占めています。 こうした温 室効果ガスの増加は気候変動の大きな要因であり、気候変動対策として森林保全は重要な取り組みと認識されています。そのた め、JAXAは国際協力機構(JICA) と協力して、短期的には、違法伐採により森林減少が深刻な国の森林減少抑制施策に、 また長期 的には、国連の森林保全に貢献しつつ、森林減少の抑止力として、気候変動の有効な対策、自然災害防止や生物多様性保全にも貢 海洋監視 現在のみならず、将来における地球と人類全体の課題解決に向けて、EORCは挑戦を続けています。 ①船舶監視 水循環・水資源管理 極地研究所・気象研究所・ 海洋研究開発機構 東京大学・土木研究所 atomos phere 大気環境物質監視 気象研究所・環境研究所・ 九州大学・気象庁 infra structure インフラ変位モニタリング 国際建設技術協会等 climate 気候システム・放射過程 東京大学・気象研究所・ 東京海洋大学・理化学研究所 等 eco system 生態系 筑波大学・環境研究所・ 北海道大学・海洋研究開発機構 agri culture 農業 農業環境技術研究所・ 東京大学 public health 国際医療研究センター・ 長崎大学・東京大学 等 公衆衛生 ALOS-2:陸域観測技術衛星2号「だいち2号」、GPM:全球降水観測計画、TRMM:熱帯降雨観測衛星、EarthCARE:雲エアロゾル放射ミッション、 GCOM:地球環境変動観測ミッション、GOSAT:温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」、 ひまわり:静止気象衛星 4 多元的に地球環境の変化をとらえる 研究成果の 評価・助言と その反映 献するため、衛星による熱帯林監視プログラムを開始しようとしています。 ②環境監視 water さまざまな機関と連携し、 研究リソースの 活用と知見 蓄積による 研究能力向上 課題分野 研究の 実施 36カ国の264に及ぶ気象機関で精度の高い降雨予測に利用されています。 課題分野研究におけるテーマと利用衛星 研究分野 国際協力 社会課題の解決 2015年9月11日 2015年10月10日 Browsed image Polygon download JICAと連携「森林変化検出システム」 で違法伐採・温暖化の抑制を図る 2009〜12年、JICA(国際協力機構)に協力し、陸域観測技術衛星「だいち」 (ALOS)の観測データから、 アマゾンの違法伐採の地域を特定しました。2014年4月、 JAXAとJICAは宇宙航空技術を活用して開発途上地域および地球規模での課題解決への貢献を目的とする協力協定を締結し、2015年12月にパリで開催された COP21で、 「森林ガバナンス改善イニシアティブ」 を共同で発表しました。 この枠組みに沿って、陸域観測技術衛星2号「だいち2号」 (ALOS-2) を活用した 「森林変化 検出システム」 を今後、構築していきます。 5 EORCの貢献 ocean 課題分野研究 地球環境の変化を予測し、地球と人類全体の課題解決を推進 海洋環境監視 ALOS-2 GPM/TRMM EarthCARE water GCOM GOSAT ひまわり 水環境・水資源 ALOS-2 GPM/TRMM EarthCARE GCOM GOSAT ひまわり 海洋環境の変化は、 日々の気象現象や漁場の変化のみならず、大規模な大気循環場や気候シ 人々の活動がグローバル化する中、近年頻発している気象・気候の変動による洪水・干ばつ等 ステム、海洋生態系にも影響を及ぼしています。 さまざまな観測データから海面水温、海氷、 ク は、局所的な事象ではなく、地球全体に影響を及ぼしています。地球規模で水循環のモニタリン ロロフィルa濃度(植物プランクトンが持つ光合成色素)、光合成有効放射(植物の光合成に使 グを行い、衛星観測データと陸面の数値モデルを組み合わせて、水・食糧・災害等の問題への われるのに有効な太陽光) などのプロダクトを開発し、 データや画像を研究者や一般利用者に 対応の鍵となる物理量(河川流量や土壌水分など) を推定し、危険指標などを利用しやすい情 提供しています。海洋モデルとの連携により衛星観測の欠測を埋め、衛星から直接観測できな 報(水循環データセット) として、提供しています。生態系情報と統合するなどの解析を進め、 い物理量を含めた、連続的な海洋環境データセットを作成し、気候研究や漁業などの現業利 100億人の水と食料需要を満たすための対策の提言を目指しています。 可知 美佐子 用の両面に貢献することを目指しています。 第一宇宙技術部門 地球観測研究センター 研究領域リーダ/主幹研究員 ■ マイクロ波放射計による長期的な全天候観測 ーー北極海海氷監視 ■ 全球0.5度格子陸面シミュレーションシステムの構築 ーー土壌水分量 沖 理子 第一宇宙技術部門 地球観測研究センター 研究領域リーダ/上席研究員 (a) マイクロ波放射計による北極海に おける海氷面積変化 (1978/11 〜 2016/1) これまで1度(約100km)格子だったシステムを、陸面モデ ルについては0 . 5 度( 約 5 0 k m )、河 川モデルについては 0.25度(約25km)格子に高解像度化しました。中規模河 1980年代の9月の平均的分布 DMSP/SSM/I 2007年9月24日 Aqua/AMSR-E 川の水災害把握に向けて、河川流量や氾濫面積割合の評 2012年9月16日 価を進めています。 しずく/AMSR2 ■ 日本域の高解像度陸面シミュレーションシステムの検討ーー2015年9月9日15時時点の鬼怒川氾濫の河川流量予測 (b) (c) 河川流量予測 (d) 雲を透過して、 その下の海氷分布や海面水温を観測可能なマイクロ波放射計は、1978年以降複数センサで観測を継続することで、 気候変動の影響把握に重要な情報を提供しています。 北極海氷面積の長期間(1978/11〜2016/1) の継続観測(a) により、2007年9月に地球観測衛星「Aqua」 のAMSR-Eセンサが観 空間解像度を10kmからより詳細な1kmにすることにより、 河川流量確率指標 モデル降水量 世界的にもまだ達成できていない、ローカルスケールの水災 害把握が可能な陸域モデルを構築しました。国内一級河川の 水災害把握に向けて、衛星と複合した水循環データセット及 び危険指標の提供を進めています。 測史上2番目(c) 、 2012年9月に水循環変動観測衛星 「しずく」 (GCOM-W) のAMSR2センサが史上最小の面積 (d) を観測しました。 東京大学/芳村准教授提供。Today s Japan(10km格子) での シミュレーション結果 ■ 静止衛星による高頻度観測 ■「全球合成降水マップ(GSMaP)just now version (GSMaP̲NOW)」 の開発と公開 http://sharaku.eorc.jaxa.jp/GSMaP̲NOW/index̲j.htm 静止気象衛星「ひまわり」の観測範囲内で、観測から30分以内に利 用可能なマイクロ波放射計データ(主に、GMIセンサ、日本付近の AMSR2センサ、AMSU直接受信データ)だけを利用して降雨分布 ©JAXA/JAMSTEC (a) ひまわり8号」 による海面水温の 観測 (b)「ひまわり8号」 によるクロロフィ ルの観測 ©JAXA/JAMSTEC (c)「ひまわり8号」 が観測した海面水温を3km (d) MODISセンサが観測した海面水温を11km 分解能日本南岸モデルにデータ同化した結 分解能日本南岸モデルにデータ同化した結 果(2015年12月16日) 果(2015年12月16日) 2015年7月に運用を開始した静止気象衛星「ひまわり8号」 は、0.5〜2kmの空間分解能で、10分毎にフルディスクの観測を行っています。 を作成しました。さらに静止気象衛星から計算した雲移動ベクトル による未来方向へ30分間の外挿を行うことで、毎時0分、30分頃 に、 「 実時間の」降雨分布を作成し、実利用ユーザから多かった、配 信時間短縮への要望に対応しました。 JAXAでは 「ひまわり8号」 から高頻度の海面水温(a) やクロロフィルa濃度(b) のデータを作成し、 さらに協力機関と共に高解像度の海洋モ デルにこれらのデータを同化することで (c、 d)、衛星とモデルを統合した、新たな海洋環境データセットの構築を目指しています。 6 7 課題分野研究 atomos phere 有益な情報のアウトプットを目指す 大気環境物質監視 ALOS-2 GPM/TRMM EarthCARE infra structure GCOM GOSAT ひまわり インフラ変位モニタリング ALOS-2 GPM/TRMM EarthCARE GCOM GOSAT ひまわり 黄砂、PM2.5等の大気汚染物質、火山灰、森林火災等によるエアロゾルは、視程の悪 陸域観測技術衛星「だいち」 (ALOS) ・陸域観測技術衛星2号「だいち2号」 (ALOS-2) に搭載のL 化、車や家屋、農作物への付着、健康被害など人々の生活環境に影響を及ぼしてい バンド合成開口レーダ(PALSAR-2)の観測データを用いて、広域かつ定期的に観測できる衛星 ます。 さまざまな衛星観測データからエアロゾルの光学的厚さ (どのくらい大気が 観測の特徴を活かした土木インフラの変位検出を行い、国や自治体が実施する土木インフラ管理 濁っているか表す指標となる) やオングストローム指数(エアロゾル粒子サイズの指 の高度化・効率化に資するための研究を行っています(図a)。JAXAでは、基盤となる干渉SAR時 標となる) を推定し、データや画 系列解析アルゴリズム開発を含め、可視化が困難な変動量推定手法の開発・検証を行っており、 像を研究者や一般利用者に提 これまでに、解析で検出した港湾施設の変状箇所確認(図b)、河川堤防の沈下量の計測を行って 供しています。外部機関と協力 して衛星データをエアロゾル輸 送モデルに組込むデータ同化シ 菊池 麻紀 村上 浩 第一宇宙技術部門 地球観測研究センター 研究員 第一宇宙技術部門 地球観測研究センター アソシエイトフェロー 主幹研究員 ステムを構築することにより、 ど ■ インフラ変位モニタ 広域・定期的なSAR衛星*での 一括スクリーニング こで発生したエアロゾルが、い つごろ、 どこに、 どのぐらいの濃 度で飛来するかを予測するシス テムの構築を目指しています。 土木業者による 詳細点検 (図a) 第一宇宙技術部門 ALOS-2プロジェクトチーム プロジェクトマネージャ 兼務地球観測研究センター 研究領域リーダ 無人機(空中) 風によって大気中に舞い上げられた黄砂は、大気中に浮遊 し、地球の気候に影響を及ぼしています。 特定異常箇所 ■ 人工衛星によるエアロゾルの観測 鈴木 新一 います(図c)。 ■ 自然環境や人間生活に影響を及ぼす大気微粒子エアロゾル 衛星で広域の観測を定期的に行 ソナー (水中) うことで、要点検箇所となる変状 箇所(赤丸)を抽出することが可能 となり、実地で詳細点検を行う箇 所の絞込みが可能となります。 *SAR衛星:陸域観測技術衛星「だいち」 (ALOS) ・陸域観測技術衛星2号「だいち2 号」 (ALOS-2) ■ 港湾施設の変状把握 (図b) 2015年11月17日に温室効果ガス観測技術衛星「いぶ き」 (GOSAT)のTANSO-CAIセンサが観測した阿蘇山 噴火の様子です。 (図c) 2015年4月27日に地球観測衛星「Aqua」 に搭載されたMODISセ ンサが観測したエアロゾル光学的厚さ。 中国大陸からの森林火災の煙が、東北地表上空を通過している様 子がわかります。 ■ 2015年4月15日における東アジア域の黄砂事例 現地写真 ALOSによる強度画像 (白黒) と変動量 (カラー) 画像の赤丸が、経年微小変化の大きい箇所を抽出したもの 0 で、施設管理者より変状の可能性が指摘されていた箇所と 一致しました。 5 10 (c) 「ひまわり8号」 から推定したエアロゾル光学的厚さを データ同化したエアロゾルシミュレーション 衛星による干渉SAR時系列解析で沈下傾向を定期的に把 「ひまわり衛星」 の観測データをシミュレーションに組込むことにより、中国内陸部(実線) の過大評価と日本の南側(破線) の過小評価が改善 立案等の意思決定に役立ちます。干渉SAR時系列解析結果 (a)静止衛星「ひまわり8号」 の観測データから導出 したエアロゾル光学的厚さ (b) 観測データを数値モデルに取り込むデータ同化を行っ ていないエアロゾルシミュレーション されていることがわかります。 ※エアロゾルシミュレーションは気象庁気象研究所のエアロゾル輸送モデル (MASINGAR) による結果 8 握し、管理者に情報提供することで補修計画や点検計画の が現場測量データに近い精度を得ており、沈下傾向を把握 するための高度化に向けた研究開発を実施しています。 沈下速度 [mm/年] ■ 河川堤防の変状把握 15 20 SAR解析結果 現場測量値 25 9 課題分野研究 climate 変容する地球の姿を詳細にとらえる eco system 気候システム・放射過程 ALOS-2 GPM/TRMM EarthCARE GCOM GOSAT ひまわり 生態系 ALOS-2 GPM/TRMM EarthCARE GCOM GOSAT ひまわり 地球観測衛星の高度利用に必要なソフトウェア (放射伝達コード・衛星データシミュレータ) 森林破壊や都市化、災害等により土地被覆変化が近年加速し、時々刻々と進行する土地被 を基盤的に整備し、 さらにそのソフトウェアを利用する研究を実施しています。例えば、東京 覆の変化をキャッチアップできる土地被覆図が求められています。 このために必要となる衛 大学との共同研究で、雲・降水過程をより現実的に表現しながら地球大気をシミュレーショ 星高次補正プロダクト、教師・検証情報データベース、分類アルゴリズムを開発し、大学や研 ンする世界最先端の全球雲解像数値大気モデル (NICAM) を、複数種類の衛星データを用 究機関などとの連携を通しての品質の向上に取り組んでいます。 いて検証する研究が進行しています。 また、気象庁気象研究所や理化学研究所との共同研 JAXAの過去・現在・将来の衛星データを活用し、光学・マイクロ波・能動・受動の多様なセン 究で、衛星雲・降水データを数値気象モデルに導入することで気象予報の精度向上に貢献 サを複合的に組み合わせた、世界初、総合的で高品質な土地被覆データセットを作成し、課題 久保田 拓志 する研究を進めています。 第一宇宙技術部門 地球観測研究センター 主任研究員 ■ 日本周辺のマイクロ波放射計シミュレーション結果の例 10.65 GHz (H) 10.65 GHz(V) 19.35 GHz (H) 19.35 GHz (V) 21.30 GHz (H) 解決に貢献しています。 ■ 高解像度土地被覆図の開発 土地被覆分類アルゴリズムv14.02 田殿 武雄 第一宇宙技術部門 地球観測研究センター 主任研究員 高解像度化(10m) 山影補正・除去 先験確率導入v16.02 筑波山 21.30 GHz (V) 37.00 GHz(H) 37.00 GHz (V) 85.50 GHz (H) 85.50 GHz (V) 主に陸域観測技術衛星「だいち」 ( ALOS)のAVNIR-2センサによる高次補正プロダクトを用いた高解像度土 地被覆図の作成及び検証を実施し、動的な土地被覆変化を追うことで、 これまでにない広域の10m解像度土 地被覆図を提供しています。農地の変化等の評価査定に活用されています。 ■ 土地被覆分類リファレンスデータベースの整備(SACLAJ) 長期的な土地被覆変化の追跡するため、研究者や学生がウェブ 衛星データシミュレータ (Joint-Simulator) による、 日本周辺の熱帯降雨観測衛星「TRMM」 マイクロ波観測装置(TMI) シミュレーション インタフェースから提供した地上情報踏査情報(現地写真など) 結果。計算には、気象庁気象研究所より提供された、気象庁非静力学モデルによる大気データを使用しています。 と、衛星画像や空中写真、モニタリング情報などを集約したデー TMIの観測周波数、偏波に対応した輝度温度の違いがシミュレーションされていることがわかります。 タベースを構築しています。 ■ 静止気象衛星データと シミュレーションデータの比較 (Hashino et al. 2013) (a) SACLAJ データベース (a) 静止気象衛星データ (IR 10.8 μm) ■ 全球25m分解能PALSAR-2/PALSARモザイクおよび森林・非森林マップ (b) 全球雲解像大気モデル (NICAM)3.5km 分解能シミュレーションデータに衛星データシ EORCで開発した高精度・高速大量処理の解析技 ミュレータJoint-Simulatorを適用して作成し 術を、陸域観測技術衛星「だいち」 ( ALOS)および陸 た疑似衛星データ (a)と(b)を比較することにより、NICAMが雲 の水平分布をよく再現ができていることが分 かります。 域観測技術衛星2号「だいち2号」 ( ALOS-2)搭載 (b) のLバンド合成開口レーダ(PALSAR・PALSAR-2) による、全世界のデータに適用して作成したデータ セットです。森林/非森林マップの分類精度は、現場 写真や高分解能の光学衛星画像などから取得した 参照データとの比較により、84%以上であることを 確認しています。 10 11 課題分野研究 agri culture 文化的で健康な暮らしを守る 農業 ALOS-2 GPM/TRMM EarthCARE public health GCOM GOSAT ひまわり 公衆衛生 ALOS-2 GPM/TRMM EarthCARE GCOM GOSAT ひまわり 日本では食料の多くを輸入に依存しており、世界に目を向けると世界人口の約1割の8億人 地球温暖化に伴う気温変化や降雨量などの環境変化は直接的(熱中症や循環器、呼吸器系疾患など)および、間接的(マラリア、 コレ が栄養不足の状態です。 このような食料問題に対して、地球観測を活用した科学的かつ客 ラ、 ポリオやその他感染症) に健康被害を与えることが懸念されています。 これらの健康被害は、早期に流行を予測して事前に対策を取 観的な作物の生育状況や収量予測情報に基づいて、各国政府や国際機関、民間企業などが れないことが、被害拡大の一因となっています。降水量や温度、地形などの環境情報と健康被害の発生には関連性が指摘されています 作物生産、輸出入、食糧援助などの意思決定を効果的かつ効率的にできる社会を目指して が、途上国ではこれらの環境情報の監視体制が不十分な状況です。衛星観測による環境情報を活用して、感染症発生の早期警戒を行 います。 どこで作物が栽培されており、 どのような生育状態で、 いつどれくらいの収穫が見込 うための研究開発を大学などの研究機関や国際機関などと共同で取り組んでいます。 めるかを常に監視・予測する研究開発を国内外の研究機関や政府機関等と連携して取り組 んでいます。 大吉 慶 第一宇宙技術部門 地球観測研究センター 開発員 ■ 合成開口レーダを活用した水稲の作付面積の推定 ーーソフトウェア 「INAHOR(稲穂)」 の開発 ■ ポリオウィルス伝播状況の把握への 数値標高モデルの活用 ■ コレラ早期警戒のためのビクトリア湖の監視 これまでのサンプリング点 推定された最適な サンプリング点 下水の流れ 推定された集水域 0 0.5 1 使用する合成開口データの選択 水稲作付け地域の推定結果(青色) 複数時期の陸域観測技術衛星2号「だいち2号」 (ALOS-2)搭載のLバンド合成開口レーダ(PALSAR-2) の観測データから、水稲の作付面積 を推定するソフトウェア 「INAHOR(稲穂)」(International Asian Harvest mOnitoring system for Rice)を開発しました。東南アジアで は主に水稲が作付けされる雨季は雲に覆われていることが多いですが、合成開口レーダは雲の有無に関係なく作付け状況を把握することが できます。 インドネシアやベトナムなどの研究機関との共同研究のほか、各国の農業統計官が本ソフトウェアを活用して農業統計データをよ り効率的に収集することを目的としたプロジェクトをアジア開発銀行と実施しています。 ■ 作物の作況判断のための農業気象情報提供システム 「JASMIN」 の構築 2 3 4 5 km ALOS AVNIR-2によるビクトリア湖面の画像 ALOS数値標高モデルを活用した集水域の推定結果 WHO(世界保健機関)では、定期的な下水サンプリングによる ビクトリア湖に生育する水草ホテイアオイはコレラ菌を媒介す ウィルス伝播の状況把握体制の構築を急務としており、そのた る 可 能 性 が 指 摘 され て おり、陸 域 観 測 技 術 衛 星「 だ い ち 」 めには下水の流れを考慮した効率的なサンプリング点の設定 (ALOS)のAVNIR2センサなどの衛星データからのホテイア が 重 要 です 。ナイジェリアにおいてW H Oと協 力し、A L O S オイの繁殖面積の拡大を推定することが期待されています。長 PRISM数値標高モデル(AW3D)を用いて水文解析をするこ 崎大学熱帯医学研究所と共同で衛星から推定したホテイアオ とで、集水域の特定(紫色)および 下水サンプリング 点(赤十 イの繁殖面積とコレラ患者数などの疫学的データとの関連性 字)選定を精緻化できることを示しました。 の研究を実施しています。 ■ 下痢症発生リスク解析のための都市熱環境監視 地表面温度(℃) 空間分布図 : 上段が現況、下段が平年差 各農業気象の時間変動の一覧 作物の生育は光、温度、水環境などの農業気象要素と大きく関係しており、農業気象を広域かつタイムリーに把握することができれば、国ス ケールでの作物の作況判断に役立ちます。衛星観測による降水量、土壌水分量、日射量などの最新状況をウェブ上で閲覧できるシステム 「JASMIN(JAXA's Satellite based MonItoring Network system for FAO AMIS outlook)」(http://suzaku.eorc.jaxa.jp /JASM/index.html)を構築しました。様々な農業気象情報について、現況や平年と比較してどれくらい異なるのかを俯瞰的に判断すること ができます。 また、 これらの情報と作物モデルを活用した主要穀物の短期収量予測手法の研究にも取り組んでいます。 12 空間解像度1km バングラデシュ ダッカの地表面温度の変化 急速な都市化により大都市のヒートアイランド化が進行し、都市の熱環境が大きく変化してきています。衛星観測による地表面温度から推 定される暑熱暴露量は、下痢症などの感染症などの発生の指標となる可能性が指摘されており、東京大学医学系研究科と共同で両者の 関連性の研究を実施しています。 13 EORCの貢献 ダイナミックに変動する、地球のさまざまな姿を 利用研究プロジェクト JAXAでは、宇宙から温室効果ガスを測定する温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」 (GOSAT)、 降水情報を観測する全球降雨観測計画/二周波降水レーダ「GPM/DPR」、 海水面の情報を測定する 「水循環変動観測衛星「しずく」 (GCOM-W)、 災害状況や地殻変動・森林分布の把握する陸域観測技術衛星2号「だいち2号」 (ALOS-2) などの衛星から、 膨大な観測データを取得しています。 衛星を活用して継続的に地球観測を行うことから地球環境の変動過程を解明し、 私たちの生活を支える精密で体系的な情報を提供しています。 解明するプロジェクト GOSATプロジェクト EarthCAREプロジェクト http://www.eorc.jaxa.jp/GOSAT/index̲j.html http://www.eorc.jaxa.jp/EARTHCARE/ja/index̲j.html eco atomos climate system phere atomos climate phere 世界初の温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」 (GOSAT)が観測し 日 本と欧 州 が 協 力して 開 発した 雲 エアロゾ ル 放 射ミッション たデータを解析し、地球温暖化の原因である二酸化炭素(CO2) やメ 「EarthCARE」 ( Earth Clouds, Aerosols and Radiation タンの、全球分布と時間変動などを明らかにしています。国立環境研 Explorer) の 4つのセンサにより、雲の動きやエアロゾルの働きを解 究所、環境省と協力して観測データの処理を行い、二酸化炭素・メタ き明かし、気候変動予測の精度を向上させます。 ンカラム量等の解析結果を一般に提供しています。 ALOS/ALOS-2プロジェクト http://www.eorc.jaxa.jp/ALOS/index̲j.htm eco agri public infra structure system culture health 陸域観測技術衛星「だいち」 (ALOS) で実証された技術や利用成果 GPMプロジェクト http://www.eorc.jaxa.jp/GPM/index̲j.htm ocean water eco agri public climate system culture health 「いぶき」 による人為起源メタン排出量の分布 「いぶき」 が取得した地球の全大気メタン濃度の観測データから、人間が活動するこ とによって発生するメタンの排出量(インベントリ) を監視したり、検証することが可能 になりました。 日本が開発した二周波降水レーダ(DPR)が搭載された主衛星と複 を発展させ、 より高分解能で広域の観測データを迅速に取得できる 数の衛星が連携し、3時間ごとの高頻度で地球大気中の降水を観測 陸域観測技術衛星2号「だいち2号」 (ALOS-2) の観測データを用い する、国際共同ミッション(GPM 計画:Global Precipitation て、災害状況把握・国土管理・農業・森林・海洋などの幅広い分野で Measurement)です。全球の降雨を正確に把握し、地球の水循環の 利用できる情報を提供しています。 影響を解析しています。 GCOM-W http://suzaku.eorc.jaxa.jp/GCOM/index̲j.html PALSAR-2モザイク ボルネオ島で2010年から2015年の間に発生した森林減少 14 water 雲の中の水粒子と氷粒子が上下方向に動く速度を計測する機能をもつ、初の高性 能センサ 「雲プロファイリングレーダ (CPR:Cloud Profiling Radar)」の開発を、 JAXAと情報通信研究機構(NICT) が共同で進めています。 GCOM-C GCOMプロジェクト ocean PALSAR モザイク 雲を3次元的にとらえる 温室効果ガスの濃度変化をとらえる eco agri public atomos climate system culture health phere TRMMプロジェクト http://www.eorc.jaxa.jp/TRMM/index̲j.htm ocean water eco agri public climate system culture health 地球の環境変動を長期間に渡って、 グローバルに観測している地球環 地球全体の降雨量のうち約3分の2を占める熱帯の降雨を観測す 境変動観測ミッションGCOM(Global Change Observation る、 日米共同プロジェクト熱帯降雨観測衛星「TRMM」 の観測データ Mission:GCOM)では、 水循環変動観測衛星 「しずく」 (GCOM-W) が から、台風の降雨の強さの立体分布、豪雨や大雪の観測 、水循環変 水蒸気、 植生、 雪氷面積などの水循環に関わるパラメータとその変化 動への利用など、地球規模の気象変動メカニズムを解明するための を、 GCOM-Cが大気や植生などについて、 全球規模で継続観測します。 多くのデータを取得しました。 二周波降水レーダ (DPR) による降水の3D分布図 小さな変化を広域で詳細にとらえる 3時間ごとの全球の降水をとらえる 全球25m分解能PALSAR-2/PALSARモザイクを元にして、主にHV偏波(水平偏 波送信―垂直偏波受信) の散乱の大きい所を森林(緑色で表示)、小さい所を非森 林(黄色で表示) として分類しています。赤色で示している2010年から2015年に現 象した森林の領域が、 より詳細に明らかになりました。 降水を平均的に観測するNASAが開発したGPMマイクロ波放射計(GMI) と、雲の 中の降水の構造を3次元で観測することが可能なDPRを組み合わせることで、熱帯 から高緯度までの範囲のさまざまな降水システムの構造を観測し、高度な雨の情報を 得ることができるようになりました。 【JASMES(JAXA地球環境モニター)】http://kuroshio.eorc.jaxa.jp/JASMES/index̲j.html 【JAXA/EORC台風速報】http://sharaku.eorc.jaxa.jp/TYPHOON̲RT/index̲j.html 海・空・陸の水分量を総合的にとらえる 降雨観測データの蓄積から気候変動解明 地球の気候形成に関わる、地表面日射量(光合成有効放射量)、曇天率、積雪・海 氷域、植生乾燥度(水ストレス)、土壌水分、森林火災、降水・可降水量、陸・海面水 温などについて、季節・経年変動と現在の状況に関する情報を提供しています。 TRMMの観測データを基に、JAXA/EORC台風速報、JAXA/EORC台風データ ベース、TRMM災害観測マップなどを提供しています。 15
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