滋賀大学大学院教育学研究科論文集 1 第 15 号,pp. 1-10,2012 原著論文 中学校における集団活動の役割と意義に関する一考察 ―― 「よさこい踊り」の心理的・社会的特性に注目して ―― 金 田 恵† 美 The Role and Significance of Group Activities in Junior High Schools ― Focusing on the Efficacy of “Yosakoi Dance” ― Mie KANEDA 要 旨 集団活動は,中学生の人間的成長に大きな影響を与える。特に集団演技は,生徒に大きな達成感を与 え,学校教育が期待している教育的効果を高める可能性があることがわかった。そこで,集団活動の 1 つとしてよさこい踊りに注目し,その教育的効果を検証した。よさこい活動は,学校・生徒・社会をつ なぐ役目を果たし,人間関係を築く力の育成につながる。また,学校を中心とした共同体社会の再構成 の契機になると考えられる。 キーワード:特別活動,集団活動,人間関係,よさこい踊り そこで,学校での集団活動として注目したの は じ め に が,よさこいやロックソーランである。少し前 であるが,ドラマでロックソーランが取り上げ めまぐるしく変化する社会の中で「生きる られ,生徒たちのエネルギーを集団演技の形で 力」を育成するために,学校が担う役割はます 集結したことで,集団としての連帯感や自尊感 ます多岐に渡っている。教育現場では,個別対 情を高めていく様子が映し出された。その影響 応や特別に支援の必要な生徒への対応など,教 を多分に受けたと考えられるのが,学校行事で 育の個別化が図られている。その一方で,人間 の扱いである。集団での活動が難しくなってい 関係の希薄化に対する懸念も大きく,平成 24 る現在にあって,そういった活動が続けられて 年度完全実施となる新学習指導要領では,特別 いる意味は何だろうか。 活動の目標に,よりよい人間関係を築くことが 授業時数の増加に伴い,行事の削減や内容変 追加され,「望ましい集団活動」を通してその 更をせざるを得ない状況にあり,学校ですら集 育成を図ることが求められている。 団で取り組む活動が減ってきている。学習指導 要領の改訂とともに,学校現場は様々な教育的 †学校教育専修 学校教育専攻 指導教員:紅林伸幸 課題に対応をせまられてきた。この節目の時期 こそ,現場での実践記録を残し,そこから教育 2 金 田 について見直すことが大切であろう。 美 恵 感が養われたりする。互いを認め合う場面を意 図的に組み込むことが大切であり,集団活動は, 今回の研究では,まず,集団活動が持つ現代 的意味を探るために,子どもたちの現状や,学 その有効な手だてとなるだろう。 学習指導要領によると,「望ましい集団活動」 習指導要領における集団活動の位置づけと学校 を通して,人間的成長と集団の向上を目指して 行事の果たす役割について迫る。その後,学校 い る。有 村 (2004) は,「望 ま し い 集 団 活 動」 の実態調査と中学校での集団活動の実践を行い の要件を「生産性」と「凝集性」に分けて捉え ながら,学校が果たすべき役割と集団活動がも ている。「生産性」とは,「よりよい活動をつく つ教育的意義の見直しを図り,学校が向かうべ りあげよう」とする「課題達成の機能」,「凝集 き方向について探っていく。また,本研究では, 性」とは,「みんなで楽しく充実した活動をし 集団活動の定義を,「特別活動 (学級活動,生 よう」とする「集団維持の機能」だとしている。 徒会活動,学校行事) に関わる活動で,ある単 そして,それぞれに不可欠な要素として 3 つず 位集団に属する生徒同士の協力が必要な活動」 つ挙げている。「生産性」は,① その集団目標 とした。また,「よさこい踊り」とは,高知市 の理解,② 役割の分担,③ 目標達成の活動, の「よさこい鳴子踊り」だけでなく,全国に広 「凝集性」は,① コミュニケーションの活性化, まったよさこい祭りで踊られている踊り,学校 ② 活 動 の 事 実 の 認 め 合 い,③ 民 主 的 な リ ー 現場で「よさこい」として踊られている踊りな ダーの存在である。教師は,この「生産性」と ど,本来の「よさこい鳴子踊り」にアレンジが 「凝集性」の 2 つを高めるよう,活動を組織し 加わった踊りや「よさこい」と解釈されて踊ら 指導・援助することが必要だと述べている2)。 れている踊り全てを総じて,本研究で用いるも 学校行事は,まさに望ましい集団活動を実践す のであり, 「よさこい活動」とは,よさこい踊 る場であり,生徒にとっても思い出深いもので りを使った学校現場での活動で,本番と本番を ある。学校では,行事を公開したり,競争的要 迎えるまでの過程を含めた活動を指す。 素を取り入れたりすることで,自主性や責任感 を育てたり,社会的スキルを身につけさせたり 1.集団活動に求められていること している。さらに,実証研究では,行事を通し て,生徒の人間関係が広がったり,学級が安心 子ども達が人間関係をうまく築けないことへ の懸念は大きい。新学習指導要領が示すように, できる居場所となって,いじめなどが起こりに くくなったりしたことを報告している。 教育現場において集団活動の重要性が高まって このように,集団活動によって,懸念されて いる。「望ましい集団活動」を行う上で,中学 いる人間関係を築く力や自主性,社会的スキル, 生の特徴や状況を捉えることが大切である。 精神的安定など,様々な効果が期待される。心 中学生にとっては,学級での人間関係や居心 理学の面からも,集団で活動することで,対人 地の良さが,精神的安定につながる。この時期 関係学習や集団凝集性,観察効果が見られるこ の子ども達は,仲のいい友達だけの,小さいグ とや,チームワークや目標設定が集合効力感に ループを作る傾向があるが,そのグループ集団 影響を与え,生産性に結びつくこと,そして, の閉鎖性はかえって子ども達を不安にさせてい 生産性の高さが,その後の集団凝集性を高める る。集団活動を通して,人間関係を広げること ことを指摘している。 で,より安定した仲間集団を築くことができる 以上のように,集団活動には,多くの教育的 だ ろ う。ま た,高 橋 (2010) は,2008 年 に 日 価値が含まれており,学校現場で意図的に組み 本青少年研究所が行った規範意識に関する調査 込んでいくことにより,大きな効果が期待され をもとに,日本の中学生が他者との協働感覚が ている。 希薄であり,自己肯定感が低いことを指摘して いる1)。他者との協同作業を通して,自己の存 在価値がわかったり,集団の一員としての責任 中学校における集団活動の役割と意義に関する一考察 3 補えない面も学校教育で育成する必要があると 2.教育現場における現状と課題 考えていることがわかる。また,人間関係を築 く力を育成するためには, 「集団で 1 つのこと 現場の教員が集団活動をどう捉えているのか, を行う活動」が効果的であると考えている管理 また,中学生自身が,学校での様々な活動にど 職は大変多い。まさに,集団活動である。そし のような意味を見いだしているのかを検証する て,集団活動を取り入れることで,人間関係を ことは,集団活動のあり方を考える上で不可欠 築く力の育成以外に,リーダーの育成や協調性 で あ る。本 研 究 で は,滋 賀 県 内 の 全 中 学 校 の育成が図れると考えている管理職も多い。 (106 校) の 学 校 長 を 対 象 と し た 質 問 紙 調 査 表 2 は,集団活動に対する考え方を尋ねたも (以下,管理職調査) と,同様に県内の 10 校の のであるが,集団活動のあり方については,ほ 中学生を対象とした質問紙調査 (以下,中学生 とんどの管理職が学級への所属感を得られる活 調査) を実施した。 動を取り入れるべきだと考えている。しかし, 人間関係を築く力の育成を期待しているものの, 2-1.管理職が考える集団活動 既にできあがった人間関係を,いい意味で崩す 管理職調査は,郵送で行い,回収率は 59.4% ほどの効果はさほど実感していないことがわか (63 サンプル) であった。この回収数は少ない る。ただし,多くの管理職が,集団活動を行う が,6 割近い回収率が得られたということでは, ことで一体感が生まれると感じている。 中学校現場が集団活動についてどのような考え 行事に充てる時間の確保や,特別な支援を必 を持っているかについての参考とすることは可 要とする生徒への配慮など,課題はたくさんあ 能だろう。以下に,その結果をまとめ,分析す るものの,社会性の育成や思いやりの心,自尊 る。 感情など,集団活動を行うことで,広く生徒の 人間的成長を促すことを期待していることが記 まず,学校教育に対する考えを尋ねた結果を 述からも明らかとなった。 まとめたものが表 1 である。7 割以上が,何よ りも学力をつけることが大切だと考えている。 その反面,学校には,学力以外の能力が発揮で 2-2.中学生に与える学校行事の影響 きる場が必要だという項目にも 7 割弱の反応が 中学生調査は,平成 23 年 3 月に,滋賀県内 あった。生活共同体としての学校の役割も無視 の 10 校に質問紙調査を依頼した。対象とした できないことがわかる。他にも,達成感を味わ 10 校は,よさこい活動を行っている学校 3 校, える活動や,失敗や問題と直面し,それを乗り 他の集団活動を行っている学校 2 校と,通常の 越える経験をさせることが大切だと考えている 集団活動に止まり,特別な集団活動を行ってい 管理職も大変多い。やはり,学習活動だけでは ない学校 5 校である。各学年から 2 クラスずつ 表1 中学校での学校教育に対する考え 項目 A.何よりも学力をつけることが大切だ。 B.教育相談などの個別対応を充実させるべきだ。 C.できるだけ生徒同士が関わる活動を入れるべきだ。 D.生徒が興味・関心を追求できる活動を取り入 れるべきだ。 E.社会とのつながりを感じる活動を取り入れるべきだ。 F.達成感を味わえる活動を取り入れるべきだ。 G.生徒には,失敗や問題と直面し,乗り越える 経験をさせることが大切だ。 H.学校には,学力以外の能力が発揮できる場が必要だ。 63 サンプル,NA を含む とても強く とても そう思う そう思う (%) そう思う あまりそう そう 思わない 思わない 33.3 9.5 11.1 41.3 36.5 50.8 20.6 49.2 38.1 4.8 4.8 0 0 0 0 6.3 47.6 44.4 1.6 0 15.9 36.5 49.2 50.8 31.7 12.7 3.2 0 0 0 19.0 54.0 23.8 3.2 0 28.6 41.3 28.6 1.6 0 4 金 表2 田 美 恵 集団活動に対する考え方 とても強く とても そう思う そう思う 項目 A.学級集団への所属感を感じられる活動を行う べきだ。 B.異なる興味・関心を持った生徒が集まって活 動することが望ましい。 C.異年齢集団の活動を行うべきだ。 D.みんなが同じことをすることが重要だ。 E.集団同士が競い合う取り組を入れるべきだ。 (%) あまりそう そう そう思う 思わない 思わない 43.5 43.5 11.3 1.6 3.2 21.6 45.2 25.8 4.8 8.1 1.6 1.6 24.2 6.6 32.3 48.4 17.7 1.6 26.2 40.3 59.0 24.2 6.6 1.6 0 F.集団になじめない生徒が,人間関係を築く機 会になる。 G.集団になじめない生徒には集団活動は負担が 大きすぎる。 H.集団活動では,生徒の個性を発揮することが できない。 6.5 32.3 40.3 17.7 3.2 4.8 16.1 51.6 22.6 4.8 1.6 3.2 56.5 38.7 J.集団活動は,固定化された人間関係を変える 機会になる。 3.2 22.6 48.4 25.8 0 0 63 サンプル,NA を含む 表3 学校での活動が印象に残っている理由と集団演技の有無による比較 項目 (%) 集団演技あり 集団演技なし 1.いい成績 (優勝・準優勝・ベスト○・最優 秀賞など) だったから 48.0 .51 .54 2.達成感があったから 3.楽しかったから 66.2 87.3 .71 .89 > .65 .86 4.仲間と協力できたから 74.9 .79 .74 5.自分が成長できたから 42.5 .45 .41 6.新しい発見があったから 7.リーダーだったから 8.自分たちの力でやったから 30.7 17.0 47.9 .30 .18 .50 9.自由に行動できたから 28.8 10.友だちや見ている人に感動してもらえたり, 30.9 喜んでもらえたりしたから .27 .31 .16 .49 .30 .35 .31 11.友だちやクラスの一体感があったから 12.人に自分が必要とされていると感じたから .63 .18 57.4 17.8 > .57 .16 T 検定の結果, 5 % 水準で有意差があったものに不等号を付けた。 印象に残っている活動として指摘されているものを 1 点,指摘されていないものを 0 点として T 検定を行った。 を抽出してもらい,印象に残っている行事とそ 気持ちを理解することの大切さ」「自分で責任 の理由,そして学校生活で学んだことについて, を持って行動することの大切さ」について,半 記述と選択法による質問紙調査を行った。 数以上が「すごく学べた」と回答している。そ 学校での活動が印象に残っている理由をまと の他の項目でも,9 割前後が「すごく学べた・ めたものが表 3 である。1 年間 (3 年生なら 3 ある程度学べた」を選んでおり,学校生活のね 年間) を終えて,印象に残っている行事の理由 らいが十分達成できていると考えられる。ただ として最も多かったのは, 「楽しかったから」 し,「自分の個性を大切にすること」という項 であり, 「仲間と協力できたから」「達成感が 目で「すごく学べた」を選んだ生徒は 38% で あったから」「一体感があったから」が次いで あり,学校現場ではまだまだ個性を生かす教育 多い。そして,学校生活で何を学んだかを尋ね ができていないということがわかる。 た結果を表 4 にまとめたところ, 「目標達成に 表 3,表 4 は,集団演技の有無による比較検 向けて努力することの大切さ」「相手の立場や 討の結果も示している。学校での活動が印象に 中学校における集団活動の役割と意義に関する一考察 表4 5 学校での活動を通して学んだことと集団演技の有無による比較 項目 すごく学べた ある程度 集団演技 (%) 学べた(%) あり 集団演技 なし ア.集団の一員として協力することの大切さ 48.9 41.3 2.45 ≫ 2.31 イ.社会でのルールやマナーを守ることの大切さ 49.0 40.9 2.44 ≫ 2.31 ウ.自分の個性を大切にすること エ.相手の立場や気持ちを理解することの大切さ オ.新しいことを知る喜び 38.0 50.4 43.0 44.5 38.9 39.8 2.23 2.44 2.28 ≫ > 2.15 2.32 2.19 カ.目標達成に向けて努力することの大切さ キ.自分で責任を持って行動することの大切さ ク.他人のために行動することの大切さ 55.5 50.4 45.6 33.3 37.7 40.4 2.47 2.42 2.34 > > 2.39 2.33 2.25 ケ.自分の力で考えることの大切さ 48.4 39.5 2.35 2.32 T 検定の結果, 5 % 水準で有意差があったものは不等号一つ, 1 % 水準で有意差があったものは不等号二つを付けた。 残っている理由として,「達成感」と「一体感」 表5 よさこいを終えて感じたこと の 2 点について,集団演技をしている学校の生 (まあ) そう思う (%) 徒の方が,平均値が有意に高いことがわかる。 また,学校生活で学んだことについては,9 項 目中 6 項目で,集団演技をしている学校の生徒 の 方 が,有 意 に 高 い 平 均 値 と な っ た。特 に, 「集団の一員として協力することの大切さ」「社 会でのルールやマナーを守ることの大切さ」 「相手の立場や気持ちを理解することの大切さ」 については,T 検定の結果 1 % 水準で有意差 が見られた。つまり,集団演技を取り入れるこ とで,達成感や一体感がより高まり,学校での 『よさこい』の練習を頑張ったと思う。 もっと『よさこい』の練習をしたかった と思う。 『よさこい』をしてよかったと思う。 『よさこい』をしてクラスがまとまったと思う。 次に『よさこい』をする機会があれば, リーダーになりたいと思う。 『よさこい』は本校の自慢だと思う。 他の学校でも『よさこい』をした方がい いと思う。 92.9 64.5 90.5 89.2 51.7 87.5 54.7 さまざまな教育的効果も高まる可能性があると 言えるだろう。 本番翌日の質問紙調査の結果である。よさこい 以上のことから,管理職は,集団活動を取り 活動を通して,生徒が大きな達成感を得ている 入れることで人間関係を築く力はもちろん,広 こと,リーダーとして成長していること,生徒 く人間的成長を促すことを期待していること, 同士につながりが生まれること,披露する緊張 中学生は,仲間と協力し達成感を得られた活動 感と心地よさで一体感がうまれることが観察で が強く思い出に残っていることが明らかとなっ きた。以下は,本番前日のリハーサルでの様子 た。 である。 3.集団活動としてのよさこい活動 入場位置に集合しているとき,2 カ所に分 かれてスタンバイをしている間を,団長が それでは,集団演技はそうした管理職の期待 「声大事やしな」と言いながら往復してい 通りに,教育的効果を持っているのだろうか。 る。女子のリーダーたちも,「みんな,行 ここでは,近年,多くの中学校で取り入れられ ているよさこい踊りに焦点をあて,よさこい踊 りが学校教育に与える効果について検証する。 H 中学校は,体育祭で縦割り集団によるよ さこい踊りを披露している。2010 年で 8 年目 の取り組みであった。グループは 3 つあり,そ のうちの 1 つに最優秀賞が贈られる。表 5 は, き も 帰 り も (入 退 場 の こ と) 真 剣 に な」 「踊り間違ってもいいから,声だそな」「み んな,もうすぐやでな。声だし続けてな」 など,最後の確認をしたり,励まし合った りしている。 6 金 田 美 恵 また,8 年目の取り組みなので,生徒の自主 査を行った。34 名の参加者のうち,約半数が 性が高められていること,伝統的な取り組みと 強制的に参加することになった生徒である。な して活動に誇りを持っていることも観察できた。 お,筆者は,学年発表担当として生徒とともに ある団長は,教師の関わりについて,「先生に 活動しながら,観察を行った。 は頼らず自分たちでやりたい。先生から練習中 アクション・リサーチとして,次の 4 つの点 に何かを言ってほしいとは思わない。」と話し に着目した。 ていた。どのグループも 3 年生に団長と副団長, ① 自主的参加者と強制的参加者との間で,取 それ以外のリーダーが 4,5 名いたのだが,ほ とんどが立候補であった。自分たちの先輩の姿 にあこがれていたことや中学校生活最後の活動 だから頑張りたいという気持ちがあって立候補 している。そして,練習の流れや踊りのアレン ジを考え,練習を進めるのは,そのリーダーた ちの役目となっている。また,3 年生に声をか けられることで,1,2 年生が練習の輪に入れ り組み姿勢や達成感に差が出るか。 ② 単発の取り組みでも,十分に達成感を与え る活動となるか。 ③ 参加生徒の人間関係に変化や深まりがある か。 ④ よさこい踊りの魅力とは何か。 以下では,この 4 点に関して観察結果を整理 し,分析を行う。 る場面もあり,異年齢での関わりがメリットと なっている。 H 中学校では,よさこい活動を通して学校 ① 自主的参加者と強制的参加者との間で, 取り組み姿勢や達成感に差が出るか。 と地域がつながっており,そういった面でも自 観察している限りでは,自主的参加者と強制 分たちの活動に誇りを持つことにつながってい 的参加者との間に,大きな差は見られなかった。 た。ただし,伝統性や縦割り活動といった面が, 夏休みの練習に参加できた生徒は,大学生から よさこい活動に対する生徒の思いを補強してい 直接指導を受け,その関わりが楽しかったこと る部分があると言える。本来,生徒の思いは, もあり,強制参加者でも積極的に取り組んでい その活動に取り組む過程で変化するものである。 た。9 月の練習は,夏休みに練習に参加した生 そこで,よさこい踊りを作り上げていくプロセ 徒が指導係になっていたので,説明が曖昧で踊 スに密着し,生徒たちがその活動にどのように りがわかりにくく,自主的参加者でもとまどっ 取り組み,その過程でどのような思いを抱き, ている様子であった。積極的な生徒は,踊るこ 実施当日に至るのか,そして,実施後にその体 と自体への抵抗が少ないと感じられた。例えば 験がどのように意味づけられるのかを観察し, プライベートでダンスを習っている生徒や,そ その教育的効果の現実に迫ることにした。 の生徒と仲のいい生徒たちである。また,普段 の生活から何事も前向きに真面目に取り組んで 4.よさこい活動のアクション・リサーチ いる生徒,教えてくれる生徒と仲のいい生徒な ども比較的積極的な姿勢であった。積極的とは 2011 年 9 月,A 中学校の文化祭で 1 年生の 言えない生徒は,やり始めたものの難しくてな 学年発表として,よさこい踊りを披露すること かなか覚えられない,できそうにないとあきら にした。授業時数の確保により,文化祭の準備 めているような生徒である。質問紙調査で, に充てられた時間は,6 時間の授業後で,しか 「やめたい」「嫌だ」などの否定的な感情を持っ も,有志による発表という形であった。夏休み た時はどんな時かを尋ねたところ,多くの生徒 に 4 回,9 月に 14 回,合計 18 回の練習を経て が「踊りを覚えられなくて,わからなかったと 本番を迎えた。実践を行うにあたり,滋賀県内 き」と回答しており,そのほとんどが,強制的 の大学生サークルに指導を依頼し,夏休みの 4 に参加した生徒であり,かつ 9 月からの参加者 回と本番直前の 2 回の練習で指導を受けた。参 であった。強制参加者の最後の感想を挙げる。 加生徒には,「よさこい日記」という練習日記 をつけさせた。そして,本番翌日には質問紙調 ・最初はいややったけど,踊っているうちに 中学校における集団活動の役割と意義に関する一考察 やっていてよかったと思いました。しかも, 「絆」が深められたし,もっとよかった。 7 よさこいの魅力となったと言える。そして,教 えることによってやりがいや自己の存在意義を ・はじめはめっちゃいやでした。恥ずかしかっ 感じられること,上達しているのが感じられる たけど,本番が近づくにつれて,大学生に教 こと,仲間とのふれあいや一体感が感じられる えてもらったりして楽しくなってきました。 ことである。以下は,「よさこい日記」にあっ 本番が終わったときは,みんなが拍手をして た生徒の感想である。 くれたからもう一回やりたいと思った。 ・はじめはちょっと嫌だったけど,やってみる とすごく楽しくて,やってよかったと思いま ・今日は用事があって帰るまで 10 分しか なかった。急いで三角形の形まで教えた。 した。また,何かの行事に参加できることを 「練習してきてくれる?」って言ったら やりたいと思いました。 「わ か ら ん か っ た ら 聞 き に い っ て い い?」って返ってきました。「うん」っ て言ったけど,心の中では「ドンとこ 最終的に,強制的に参加したもの全員が達成 感を感じることができたと言えるが,練習での い!!いつでも教えるでぇ!」でした。 様々な問題を乗り越えて本番を迎えた達成感と ・完成度が高くなってきた。みんなの協力 いうよりは,人前で披露することによる緊張感 で細かいところの振りがそろってきた。 と,本番で成功させようと必死になって踊った まとまってきてやりやすかった。今まで こと,終わった後の歓声や拍手が,達成感を高 はなかなかみんなが協力して教え合うっ めたと言える。本番を終えたあと,更衣室の中 てことがなかったけど,今日はいい時間 で,口々に「楽しかった」「もう一回やりたい」 の使い方ができたと思う。本番がヤバイ 「バレー部でよかった (強制的に参加すること になったから)」など大きな声で叫んでいた様 ほど楽しみです。 ・今日もグループに分かれて練習をしまし 子からも,直後の達成感はかなりのものだった た。また,いっぱい教えてもらいました。 と言える。また,ひとつ興味深いのが, 「はじ めはちょっと嫌だったけど,やってみるとすご 毎日ありがとう。楽しかったです。 ・覚えた!スッキリした!結構覚えられた く楽しくて,やってよかったと思いました。ま から自信が UP! た,何かの行事に参加できることをやりたいと 思いました。」という感想である。楽しかった よさこい活動は,他者との相互作用が生まれ 気持ちが,他のことへの興味や自主性につな やすい。相互作用によって,自己の存在意義を がっていくということであり,強制であっても 確認したり,自分が上達するのを感じたりする その中身の充実度によって,その後の行動に変 ことが,達成感を生むと言える。 化をもたらす可能性が期待できる。 ③ ② 単発の取り組みでも,十分に達成感を与 える活動となるか。 参加生徒の人間関係に変化や深まりがあ るか。 「よさこい日記」には,仲間どうしの教え合 よさこい活動が,伝統性や継続性のない状況 いについての記述が大変多い。そして,質問紙 で,かつ,取組時間も十分に確保できない中で, 調査からも,教え合うことの喜びや楽しみが大 生徒に達成感を与える活動となるためは,いく きいことが読み取れる。よさこい活動中,「楽 つかのポイントがあることがわかった。まず, しい」と感じた時として,「教え合いをしてい よさこい踊りの魅力を感じられることである。 るとき」「教えてもらったとき」「みんなと練習 例えば,踊りが楽しいと感じるだけでなく, し て た と き」 ,「嬉 し い」と 感 じ た 時 と し て, 踊っている人に親しみを感じたり,かっこいい 「教えているとき」「みんなで頑張ったあと」と と感じたりするのも魅力に含まれる。今回の実 いう記述があった。よさこいが踊れるように 践では,大学生との関わりが中学生にとっては なったことや本番に成功したことが,自分ひと 8 金 田 りの努力ではなく,人とのつながりや協力の結 果であると感じている。人とのつながりそのも 美 恵 と,踊り手として他者の踊りのイメージが自分 の踊りに反映されるという効果を生む。さらに, のが,「楽しい」「嬉しい」という感情につなが 「踊っている自分がかっこいい」と感じた生徒 ることや,そこから「みんなで」というつなが もおり,ここでも,集団美だけでない個人美を りを感じたときに「楽しい」「嬉しい」と感じ 追求する要素があることがわかる。今回の踊り ることがわかる。 は,中学生にはかなり難度の高いものであり, また,本番を迎えることも一体感を強固にす 覚えるのに苦労していたのだが,踊りの好きな る。本番直前,生徒のテンションは最高潮にな 部分を挙げさせたところ,スピードが速く必死 り,ステージ上で円陣を組むことになった。そ に体を動かす部分を選んだ生徒が多かった。そ の瞬間,自分たちが同じ緊張感を共有し,同じ の部分を自分が踊れるようになったことで自己 目的で集まり,今それを達成しようとしている 肯定感につながったと言える。また,所々で声 という強い一体感が生まれたと感じた。そして, を出すことや手拍子をそろえるところ,曲の明 ステージ上で踊りきった達成感との相乗効果で, るさや,曲調の変化なども生徒は楽しんでおり, 「自分のよさこい」ではなく,「自分たちのよさ こい」になったのだろう。また同じメンバーで 踊りたいという記述があったが,よさこいを通 このような要素が生徒を惹きつけていたと言え る。 踊っている時に「自分ではない感じがした」 してこのメンバーへの愛着が強まり,人間関係 という感想があったが,きれいでかっこいい踊 が深まったと言える。 りを自分が踊っているという自己のイメージの ただ,人間関係の広がりという点では,今回 強化が起きたと考えられる。そして,本番後は, の実践では効果が見られなかったと言える。観 「またやりたい」 「次の 1 年生にもやってほし 察をしている中では,部活単位で参加したこと い」などの感想が多く,この達成感が継続性を もあって,やはり部活単位やもともと仲のいい 生むものと推測される。 グループで集まって練習していることが多かっ 5.よさこい活動の可能性 た。踊りが難しくて本番直前まで教えてもらう 立場の生徒がほとんどであり,踊りができた上 で生徒同士の相互作用を生むという状況まで至 以上の調査をふまえ,学校教育に果たすよさ らなかったことや,リハーサル前の 2 日間大学 こい活動の可能性を整理したものが,図 1 であ 生に指導を受けたのだが,最後の詰めのところ る。 で大学生に頼らざるを得なかったことも人間関 よさこい活動は,地域に文化と歴史の再認識 係が広がらなかった要因であろう。また,人間 を促す。そして,学校では地域性や公開性が生 関係の深まりや広がりは,活動後の生徒の変化 まれ,生徒には,達成感や一体感を与え,創造 があってこそ意味があると言える。今回の実践 性や自主性,人間関係を築く力 (対人関係力) は,この活動のためだけに作られた集団だった や自己表現力が養われる。地域・学校・生徒に こともあり,この活動の経験を次につなげてい このような影響を与えるもとになっているのが, くことが難しい状況である。ただ,人とのつな よさこい踊りの持つ社会的・心理的特性である。 がりやふれあいを持つことが,楽しくて嬉しい 社会的特性として,和の要素を持ち,馴染みの ことだという経験ができたことは大きな意味を ある民謡が入っていることは,地域から受け入 持つだろう。 れられやすい。また,見せる演技であることが, 学校での取り組みに注目してもらえることにつ ④ よさこい踊りの魅力とは何か。 ながる。しかも,自由度が高く,中学生のレベ 既に述べてきたように,よさこい踊りには, ルに合わせることはもちろん,時代の流れや嗜 「教え合い」が成立しやすい面があると言える。 好に合わせて「自分たちのよさこい踊り」を作 また,大学生や友達の踊りを見てきれいだと感 ることが可能である。心理的特性として,生徒 じたという意見があり,踊りを見て楽しむ要素 に居場所を与え,そこで仲間との一体感を得ら 中学校における集団活動の役割と意義に関する一考察 ① 9 行事に充てる時間確保の問題 学習指導要領の改訂により学校行事に充てる 時間はさらに削減される方向にある。生徒の相 互作用が生まれるような時間をいかに捻出する かが課題である。 ② 指導者の問題 地域との人材・文化交流が図れたとしても, 踊りの指導をどうするかが問題である。学生な どの協力者がいればいいが,教師が踊りの指導 者となるのは負担も大きい。質の高さを求めな がら活動を継続していくためには人材の確保が 必要である。 ③ 全校体制作りの問題 学級集団の連帯感を高められるような集団活 動が求められているが,学級それぞれがよさこ い活動をするわけにもいかず,縦割り活動や全 図1 よさこい活動の可能性 校活動にして,学級集団も反映するような取り 組みにしていく必要がある。全校を動かすには, れることで,自己の存在意義を確認することに 全教職員の共通理解が不可欠である。活動時間 つながる。そして,自己イメージが強化される や指導体制など年間カリキュラムに位置づけた ことで,活動に対する自主性だけでなく,その 取り組みにしていく必要がある。 後の学校生活への自主性にもつながると考えら れる。 以上に挙げたように,学校でよさこい活動を このようなよさこい踊りの社会的・心理的特 するには大きな課題もあるが,それでもよさこ 性を生かしたよさこい活動が中心になって,学 い活動が持つ多くの可能性を理解し,学校の条 校・生徒・地域を結びつける。図の網掛けの部 件にあったよさこい活動の形を,各学校が主体 分は,両者の間で生まれるものである。つまり, 的に構想することが何よりも必要である。 地域−学校間では,人材・文化交流が生まれ, 文化の継承が行われる。地域−生徒間でも,人 お わ り に 材・文化交流から文化の継承が行われ,さらに, 地域の一員としての自覚が養われる。そして, 本研究では,中学校現場における集団活動の 学校−生徒間では,学校の伝統文化を作り,よ 意義として,よさこい踊りに注目して検証を進 さこい活動に誇りを持つだけでなく,学校その めてきた。社会の変化に伴って学校に期待され ものへの誇りにもつながる。このようなつなが る役割も変化してくるが,それでも,学校は, りを生むよさこい活動は,まさに集団活動の理 想の形と言えるだろう。 「学力をつける場所であり,学力以外の能力も 認められる場所である」という二つの,ある意 ただし,これほどの可能性を持っているにも 味矛盾した役割が期待されることはこれからも 関わらず,よさこい活動を継続して取り入れて 変わりないだろう。その中でやはり,学校が持 いる学校は多いとは言えない。それには,大き つ集団としての機能は大きいと言える。 く 3 つの問題があるからだと考えられる。 A 中学校での実践では,学校現場の様々な 制約を実感しながらも,やはり生徒達が大きな 達成感を味わったことで,よさこい活動の魅力 10 金 田 を感じられた。改善点はあるものの,総合的な 学習との連携,継続させることで見通しをもた せたる,生徒が誇りの持てる活動へと高めるな ど,今後の工夫次第でさらにいい形にすること が可能だろう。よさこい活動を行うことで,生 徒同士のつながりを生むだけでなく,地域との つながりを生み,さらに,社会が失ってきた共 同体を再構成する可能性を見いだせた。そのた めには,教育課程の中に,よさこい活動をうま く組み込んでいく必要があり,教員の共通理解 が不可欠である。付け焼き刃的に総合的な学習 の内容を考えたり,社会におけるさまざま事象 について広く浅く学んだりするのではなく,変 化する社会の中で生き抜くための基礎となる力 を育成することに重点を絞って教育内容を見直 す必要があるだろう。 研究上の課題としては,よさこい活動後の生 徒の変化を追うことである。今回は,実践直後 の生徒の感想を拾って検証してきたが,本当の 教育的効果は,その後の生徒にどのような変化 が見られたかで実証できるはずである。本研究 では,その点が不十分であったことは否めない。 今後さらに実践研究を積み重ね,生徒の変容を 丁寧に拾いながら,よさこい活動の持つ可能性 を実証していく必要がある。 本研究が,学校現場における集団活動の意義 を見直す一石を投じるものであることを期待し ている。 美 恵 引用文献 1 ) 高橋勝 (2010), 「子どもたちの協働感覚を育て る」 ,現代教育科学 10(649),8-10 2 ) 有村久春 (2004), 「特別活動に関する諸問題 (二) ― 集団活動の特性とその重要性 ―」 ,初 等教育学科紀要,(765),27-39 主要参考文献 相原次男・新富康央・南本長穂 編著 (2011), 「新 しい時代の特別活動 ― 個が生きる集団活動を 創造する ―」 ,ミネルヴァ書房 樽木靖夫 (2005), 「中学生の仲間集団どうしのつき 合い方を援助する学校行事の活用」 ,教育心理 学年報,44,156-165 藤田英典・伊藤茂樹・坂口里佳 (1996), 「小・中学 生の友人関係とアイデンティティに関する研 究」 ,東京大学大学院教育学研究科紀要,東京 大学大学院教育学研究科 本間道子 (2011), 「集団行動の心理学」,サイエン ス社 山田真紀 (2000), 「競争的行事における活動の編成 形態とその機能」 ,日本特別活動学会紀要 (8), 46-58,2000-03 日本特別活動学会 内田忠賢編 (2003), 「よさこい YOSAKOI 学リー ディングス」 ,開成出版
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