女性雇用と企業業績 - 日本経済研究センター

女性雇用と企業業績
児玉直美
経済産業省*
小滝一彦
金融庁
高橋陽子
学習院大学/経済産業研究所
女性雇用が企業利益に与える影響について、企業レベルのマイクロデータを用いて
分析したところ、クロスセクションデータによる回帰分析では正の相関、パネルデー
タを用いた固定効果推定では無相関となった。この結果は、女性労働者は労働市場に
おいて差別されているという「差別仮説」と整合的でない。むしろ、
「企業固有の要
因Jが女性労働者を増やし、かっ企業業績も高める可能性を示唆している。この「企
業固有要因」を企業内の人事・労務管理と想定し具体的に探索した。すると、
r
(
育
児後等の)再雇用制度の存在 j 、 「小さな男女勤続年数格差」などの男女均等活用型
の人事・労務管理が、女性比率も高め、かっ企業業績も高めていることが示された。
1
. はじめに
「女性労働者を多く雇用すれば企業の業績は向上するか j という命題は、女性の
社会進出の意義、また企業の経営戦略や社会的責任という観点からも重要なテーマ
である。 1990年代以降、労働需要が低迷している状況下でも、少なくない数の企業
が女性の採用・登用に積極的に取り組んでいる。こうした企業の女性採用動機とし
ては、将来の労働力減少への備え、優秀な人材の確保、あるいは企業イメージの向
上などが考えられるらしかしながら、これらの企業の業績が実際に向上しているの
本論文は、経済産業省「男女共同参画研究会 J における資料として著者らが行った分析作業の結果を
もとに執筆されたものである。研究会の大沢真知子座長、玄固有史先生ほか委員の先生方及び経済産業
省政策企画室森川正之前室長よりご指導を頂いたことに対して深く感謝する。また、本誌レフェリー、
日本経済研究
N
.
o5
2,2
0
0
5
.1
0
か、また向上しているとすれば、女性の積極活用がその一因を担っているかは明ら
かでない。
企業の女性積極活用に関する伝統的に有力な仮説は、 Becker(
19
7
1
)に代表される。
多数の企業が女性労働者を差別して採用に消極的であるなら、労働市場における女
性労働需要が抑えられ、賃金等の処遇相場が彼女たちの能力や貢献よりも低くなる。
その結果、進歩的な企業は女性を多く雇うことで、この能力と市場賃金率のギャッ
プを利益とすることができる。この仮説が日本において説得力を有する背景には、
他の先進国に比べ、日本の男女間賃金格差が大きいこと、女性の労働力率が低いこ
と、特に人的資本の留保価値が高い高学歴女性の労働力率が低いこと、などの事情
がある 2。仮に女性差別が現実に存在するとすれば、女性の社会進出促進のための義
q
u
o
t
a制度)は、差別という非効率を是正することで社会全体
務的な数量割り当て (
の厚生、より具体的には女性労働者の処遇を改善させ、かっ企業の利益も向上させ
る可能性がある
ecker
もし、女性比率の高い企業において利益率が高い傾向が確認できれば、 B
の仮説と整合的と考えられる。先行研究は非常に少ないが、それらでは女性比率の
e
l
l
e
r
s
t
e
i
neta
1
.(
2
0
0
2
)は
、
高い企業は売上高利益率が高いことが示されている。 H
0
0
0の企業・事業所のクロスセクションデータを使用し、企
アメリカの製造業の約 3
業年齢、労働者の構成(人種、年齢)等をコントロールした上で、女性比率の高い企
業・事業所ほど売上高利益率が高いことや、その傾向は市場支配力が強い企業ほど
awaguchi(
2
0
0
3
)が「企業活動
強く見られることを示している。日本については、 K
基本調査 Jの個票データを使用し、女性比率の高い企業ほど売上高利益率が高いが、
構造的に売上高利益率の高い企業では女性雇用に消極的な傾向があることを発見し
た。つまり、これらは Becker仮説と整合的な結果を得ている。
本稿は、女性比率と企業業績の関係について Beckerを含めた複数の仮説を、充
学習院大学脇坂明教授、一橋大学川口大司助教授、第 1
0回労働経済学コンファレンス参加者から有益な
コメントを頂いたことにこの場を借りて御礼申し上げる。本論文の内容及びあり得うべき誤りについて
は、著者らに帰すものである。
事連絡先 E
m
a
i
l
: kodama-naomi@meti.go.jp
1 W
平成 1
2年度女性雇用管理基本調査結果報告書n
.(厚生労働省 (2001))によると、ポジティブ・アク
ションを推進する理由 (
M
.
A
.
)は、「女性の能力の有効活用により経営の効率化を図るため (
81
.0%)J r
労
働者の職業意識や価値観の多様化に対応するため (45.9%)J r
職場全体としてのモラールを向上にする
ため (
31
.7%)J r
顧客ニーズに的確に対応するため (24.9%)J r
労働力人口の減少が見込まれているた
企業イメージの向上に資するため (15.4%)J r
社会的趨勢であり法律で規定されている
め(16.0%)J r
ため(15.0%)J となっている。
2 樋口・阿部・ W
oaldfogel(
1
9
9
7
)によれば、日本以外の先進国では高学歴になるほど労働力率が高くな
るが、日本ではこれが確認できない。
3 アメリカの数量割り当て制度については、樋口 (
2
0
0
1
)の 2節を参照。
2
日本経済研究協, 5
2,
2
0
0
5
.
1
0
実したパネルデータと人事・労務管理関連のデータを用いて検証し、女性比率と企
業業績を結びつけるメカニズムを明らかにする。
結論を先取りするならば、女性を多く雇う企業の業績が高いという正の相関は先
行研究同様に確認された。しかし、企業レベルの固有要因を除去すると、女性比率
と企業業績に有意な関係は見られない。女性比率と業績の聞に横断面で見かけ上の
相関が見られるのは、女性比率と企業業績の両方に関係する「企業固有要因 J が背
後に存在するためである。そこで雇用と利益に関係する「企業固有要因 J の候補と
して、人事・労務管理関連変数を追加して分析したところ、男女均等活用型の人事・
労務管理施策が、女性比率を高め、かっ企業業績も高めていることが示された。
本稿の構成は次のとおりである。まず、第 2節では女性比率と企業業績の関係に
ついての仮説を提起する。第 3節は、本稿の分析に用いたデータについて説明する。
第 4節では、推定方法と推定結果を示す。第 5節は、人事・労務管理が女性雇用と
企業利益に及ぼす影響について議論し、第 6節では分析結果についての考察を行う。
2
. 女性雇用と利益に関する仮説
女性比率の高い企業で利益率が高い、もしくは利益率が高い企業において女性が
多く雇用されているという相関関係は、 H
e
l
l
e
r
s
t
e
i
ne
ta
l
.(
2
0
0
2
)及び Kawaguchi
(
2
0
0
3
)で確認されている。もし、労働市場における賃金がそれぞれの労働者の限界
生産性に等しいならば、男女間賃金格差は実際の生産性の違いに見合っているので、
男性に代えて女性を多く雇う企業の利益率が高くなる必然性はないでは、仮に女
性比率と利益率に正の関係があるとしたら、それはどのようなメカニズムによるの
であろうか。ここでは女性比率と企業の利益率の関係について、次の 4つの仮説を
検証する。
a
s
t
e
第 1は伝統的に有力な「差別仮説 j である。前節でも紹介した Beckerの t
モデルで、は、企業の経営者や幹部の目的関数は、必ずしも企業利益だけでなく、個
人の差別的選好 (
t
a
s
t
e
) を反映しており、例えば
4 企業は資本
K 、男性労働者 Lm、女性労働者 Lf、中間投入 M を投入要素とする生産関数 F と、生産
財 1単位の価格で測った資本価格 r、男女の賃金丸、
Wf、原材料価格んを所与とし、利潤 πを最大
化する。
π=F(K,
Lm,
Lf,
M)-rK-WmLm一
肌 Lf-PMM
このとき労働市場で実現する男女の賃金は、男女それぞれの労働者の生産性、換言すれば男女の人的資
本の違いを反映している。
女性雇用と企業業績
3
唱
、、.,,,
EA
,,.‘、
U=tr-aL/
のように、女性が増えると係数。だけの不効用を受ける。このような企業が労働需
要サイドで多数を構成し、限界的な労働需要のオファーの担い手であるとすれば、
女性の市場賃金率は、限界生産性よりも αだけ低くなる 5。このように、差別的企業
は、女性が賃金よりも高い限界生産性を持つことを知りながら、女性を多く雇おう
とはしない。それに対し、差別的でない企業は、女性を多く雇うことで、女性労働
者の生産性と市場賃金のギャップを利益とすることができる。このように「差別仮
説」の下では、女性を多く雇うほど企業業績が高まることになる。
第 2の仮説では、業績の良い企業が(男性)従業員のアメニティーのために女性を
多く雇う、と考える。業績のよい企業では女性を多く雇っており、業績が高まると
より多くの女性を雇用する。ここではこの考えを「アメニティー仮説」と呼ぶ。こ
の仮説は前の「差別仮説」とは逆方向の因果関係を想定している。
第 3は
、
「ネガティブショック仮説」である。個別企業は、マクロレベル、産業
レベル、及び企業レベルのショック(例えば生産性ショックや需要ショックなど)に
晒されている。ネガティブショックに直面し、業績が悪化している局面では、企業
は多くの場合採用を抑制する 6。採用を抑制する際に男女間の差は無いとしても、女
性労働者は男性に比べて離職率が高く、男性に先行して減少するため、女性比率は
低下する 7。ゆえに低い業績の企業において低い女性比率が観測される。一方、業績
が回復すると企業は欠員を補充するため、女性比率は回復する。このようにネガテ
ィブショックが採用の抑制をもたらし、さらに採用の抑制が男女の離職率の違いと
相まって女性比率の低下をもたらすため、企業業績と女性比率の聞に正の相関が生
じると考えるものである。
第 4の仮説では、女性比率が企業業績を高めるわけでも、企業業績が女性比率を
高めるわけで、もなく、女性比率と企業業績の両方に影響を及ぼす「真の要因」が背
後に存在するために見かけ上の相関が生じている、と考える。企業には、女性比率
も利益率も上げるような「企業固有の要因 J が存在する可能性があり、特に人事・
労務管理はその有力な候補である。この「企業固有要因 j に優れる企業では女性比
a= (女性の市場賃金率)
ネガティプショックに対し解雇ではなくまず採用を抑制するという対応が、日本企業において顕著に
見られる傾向である。
7 厚生労働省「雇用動向調査」によれば、 2
003年の男性離職率は 13.7%、女性は 20.9%である。女性は
男性に比べ『個人的理由(結婚、出産、育児、介護等) Jによる離職が 16.5%多い(男性 56.7%、女性
73.2%) ため、女性離職率は常に高い。
5 差別的経営者の目的関数最適化において、(女性の限界生産性)6
4
日本経済研究
N
o
.5
2,
2
0
0
5
.1
0
率も利益率も高いが、
「企業固有要因」に変化のないまま、同一企業において単純
に女性比率を上げたとしても利益率は変化しない。
本稿は、以上の「差別仮説 j 、 「アメニティー仮説」、
説」、
「ネガティブショック仮
「企業固有要因仮説」を作業仮説として分析を進める。
3
. データ
r
3
.
1 企業活動基本調査」
本稿の分析では経済産業省の「企業活動基本調査 Jの 1992年及び 1995-2001年に
実施された計 8回分の個票データを利用する。この調査は、日本標準産業分類に掲
1ーその他の飲食庖
げる大分類の鉱業、製造業及び卸売・小売業、飲食業(中分類 6
を除く)に属する事業所を有する企業のうち、従業者 5
0人以上かっ資本金又は出資
2
0
0
0
金 3000万円以上の会社を対象とする全数調査である。標本数は各年 2万前後 (
年調査で 2万 5826企業)である。
本データを利用する利点は、企業業績のデータと男女別の従業員数が調査されて
いることと、正社員(常時従業者)とパートタイム従業者を分けて推定することが可
能なところにある 8。さらに、この調査では事業所番号を用いてクロスセクションデ
ータを結合し、最長で 8回分(タイムスパンとしては調査の行われなかった 2年分を
0年間)のパネルデータを作成することが可能である 9。同調査の各年の記述
含めて 1
統計量を表 1に示す。
3
.
2 W就職四季報女子学生版』データ
女性比率と企業業績の関係についての上述の仮説の一つで、ある「企業固有要因仮
説 j を検証するためには、
「企業固有要因 j の有力な候補である人事・労務管理関
連の変数、特に女性の雇用管理に関連する変数が必要となる。女性比率と企業業績
の関係を分析した先行研究は、人事・労務管理関連の変数を用いていないため、こ
れらの変数を追加して分析することは大きな意義を持つ。
そこで、本稿は、東洋経済新報社『就職四季報女子学生版~ (
1993年
、 98年
、 2003
r
企業活動基本調査」における常時従業者は有給役員と常時雇用者(正社員、準社員、アルバイト等の
呼称にかかわらず、 1ヶ月を超える雇用契約者及び当該年度末の前 2ヶ月においてそれぞれ 1
8日以上雇
用された者)を指す。また、パートタイム従業者とは、正社員、準社員、アルバイト等の呼称、にかかわ
らず、常時従業者のうち一般の社員より所定労働時聞が短い労働者を指す。この定義は厚生労働省の統
計である「毎月勤労統計 j の常用雇用者、パートタイム労働者の定義とほぼ同じである。
92
0
0
1年の「企業活動基本調査」では労働者数の性別内訳が得られないため、業績データのみ用いた。
8
J
女性雇用と企業業績
5
年版)から、育児休業制度、フレックス・タイム制度等の女性に利用される制度など
を含む人事・労務管理に関する諸変数を得ることとした。『就職四季報女子学生版』
3年版が 1
1
2
3企業、 98年が 834企業、 0
3年版は 8
6
3企業である。
の収録企業数は、 9
ここから今回の分析目的に合わせ、
「男女勤続年数格差」、
女
「再雇用制度 J 、 「
性管理職比率 J などの 1
1の変数を作成したへ
これらの人事・労務管理変数を、女性比率と企業業績の関係の分析に用いるため、
上述の「企業活動基本調査」のデータと個別企業レベルでマッチングを行い、 3 ヶ
年分で延べ 1
7
6
3サンプルのマッチングデータを得た。
表 1 記述統計量
安安~
サンプルサイズ
1
8
0,294
総資産経常利益率
女性比率(パートも含む)
1
8
0,
294
1
8
0,294
男性正社員比率
1
8
0,294
女性正社員比率
男性パートタイム比率
1
8
0,
294
女性パートタイム比率
1
8
0,294
常用雇用の自然対数値
1
8
0,294
1
8
0,294
外資比率
1
8
0,294
設立年
1
8
0,294
上場企業か否か(上場ダミー)
男女勤続年数格差
1
,
097
838
再雇用制度の有無
256
女性管理職比率
2
4
5
総合職採用に占める女性割合
1
,1
2
8
法定以上育児休業制度有無
1
8
2
男女計残業時間の対数値
869
フレックス・タイム制度有無
女性の転勤可能性有無
834
249
昇進均等度
2
3
5
育児休業取得率
802
女性既婚率
平明
0.028
0.322
0.660
0.229
0.018
0.093
5.017
0.013
.3
1
9
61
0.088
7
.1
2
0
0.331
0.046
0.212
0.262
2.660
0.358
0.836
0.203
0.028
0.200
霊童霊
O
.1
4
7
0.202
0.213
O
.1
5
7
0.054
O
.1
5
3
0.967
0.097
1
4
.
9
0.284
3.969
0.471
O
.1
0
3
0.210
0.440
0.628
0.480
0.371
0.710
0.028
O
.1
4
8
作成された 1
1の人事・労務管理変数は、「男女勤続年数格差 J(=男性の勤続年数一女性の勤続年数)、
「再雇用制度の有無J (=結婚・出産等による定年前退職者の再雇用制度の有無)、 「女性管理職比率 j
(=全管理職に占める女性管理職の割合)、 「総合職採用に占める女性割合 J、 「法定以上育児休業制度
の有無J (=91年においては育休制度の有無、 9
2年 4月に育児休業法が施行された後の 9
6年
、 0
1年に
おいては l年超の育休制度の有無)、 「残業時間 J 、 「フレックス・タイム制度の有無」、 「女性の転
勤可能性の有無 j 、 「昇進均等度 J(=女性管理職比率/女性社員比率)、 f育児休業取得率 j 、 「女性
社員既婚率J である。
1
0
6
日本経済研究
N
o
.5
2,
2
0
0
5
.1
0
4
. 推定方法と推定結果
4
.
1クロスセクション回帰分析
(
1)推定方法
女性比率と企業業績の相関の有無を確認するため、クロスセクションデータを用
いて回帰分析を行う。被説明変数となるべき利益率は、資本 K の生産性であること
から、総資産利益率を用いる 11 説明変数は、女性比率のほか、企業規模(従業員数(人)
の自然対数値)、上場ダミー、業種ダミー、外資比率、設立年を用いた。
(
2
) 推定結果
9
9
2
2
0
0
0 年のプールデータを用いた最小二乗法 (
p
a
n
e
l
表 2 の第 1 列に、 1
c
l
u
s
t
e
r
i
n
gr
o
b
u
s
tstandarde
r
r
o
r
)による推定結果を示す。パートを含む女性比率は
利益率に対し、有意に正の影響(係数=
0
.0
1
5
)を与えている九女性比率が 10%高い
9
9
2
2
0
0
0年のプールデータの
企業では、利益率が 0.15%高いという推定結果は、 1
企業の平均利益率が 2.80%であることを考えると相当に大きい値と言える。
なお、ここでの女性労働者にはパートタイマーも含まれるため、その人件費の安
さが企業業績にプラスの影響を与える主要因である可能性もある。そこで、説明変
数に全社員に占める女性パートタイム比率、全社員に占める男性パートタイム比率
を加え、女性比率は全社員に占める正社員女性の比率に変更し、総資産経常利益率
に回帰した(表 2第 2列)。この推定でも、正社員女性比率の係数は 0
.
0
1
2と有意に
正の値をとる 13
このように、クロスセクションデータによる回帰分析では、女性比率と利益率の
聞に正の関係が確認できた。この結果は先行研究と同様の傾向であり、差別されて
いる女性は生産性よりも賃金が低いと考える「差別仮説 J を支持しているように見
える。
1
1 株主資本利益率 (
ROE)が株主帰属分の資本の効率を示しているのに対し、総資産経常利益率 (ROA)
は、借入金に対応する部分も含めた総資産(=資本+負債)の効率を示す指標であり、企業の財務内容を
見るために広く使われる。先行研究で用いられている売上高利益率は、売上高の全構成要素である資本
費用、労働者賃金、中間財コストの構成比率 (
3者合計に占める資本費用シェア)であるため、企業業績
よりも、生産要素の投入比率を代理している可能性が高い。例えば、女性比率が生産活動の内製比率と
相関しているとすれば、女性比率の低い企業とは、工場を子会社化した電機メーカーのように、生産活
動を外注し、売上高の多くが中間財の仕入れ代金となっているため、売上高利益率が低い可能性がある。
1
2 総資産利益率の分子として、経常利益、事業利益、営業利益を用いた推定でも傾向に違いはなかった。
被説明変数が総資産事業利益率 (
E
B
I
T
) の場合も、総資産経常利益率と同様に有意に正の関係が確認で
きた(結果表省略)。
1
3 更に、クロスセクションデータによる最小二乗推定で、一人当たり人件費は利益率と相関がないこと
も確認できた。企業は競争的な労働市場で成立している賃金を支払わないことで利益を得ているのでは
なく、利益は労働と資本双方に分配されている可能性が高い。
女性雇用と企業業績
7
表 2 利益率と女性比率の関係
進説明率数:利益率
(
3
)
推定方法
最小二乗法
女性比率
0.015
(
0
.
0
0
3
)
最小二乗法
固定効果
m
固定効果
(
6
)
固定効果
-0.003
(
0
.
0
0
8
)
女性比率 (
t
1期)
0.007
(
0
.
0
0
7
)
女性比率 (
t
2期)
0.004
(
0
.
0
0
9
)
0.003
(
0
.
0
0
0
)
0.010
)
(
0
.
0
01
0.033
(
0
.
0
0
7
)
0.298
(
0
.
0
3
3
)
0
.5
7
8
(
0
.
0
6
7
)
0.012
(
0
.
0
0
5
)
O
.007
(
0
.
0
0
9
)
O
.019
(
0
.
0
0
4
)
0.004
(
0
.
0
0
0
)
0.010
(
0
.
0
01
)
O
.034
(
0
.
0
0
7
)
0.299
(
0
.
0
3
3
)
-0.580
(
0
.0
6
7
)
-0.006
(
0
.
0
0
7
)
ー0
.007
-0.002
(
0
.
0
1
0
)
ーO
.016
1
8
0,
294
3
7,
3
4
3
0.009
1
8
0,
294
3
7,
343
0.009
1
8
0,
294
3
7,
3
4
3
0.007
女性正社員比率
男性パートタイム比率
女性パートタイム比率
常用雇用の自然対数値
上場ダミー
外資比率
設立年
定数
サンプルサイズ
企業数
決定係数
固定効果
ー0
.022
0.005
(
0
.
0
0
2
)
(
0.
0
0
9
)
-0.012
(
0
.
0
1
2
)
0.0132
(
0
.
0
0
8
)
0.009
(
0
.
0
0
2
)
0.001
(
0
.
0
0
2
)
O
.000
(
0
.
0
0
2
)
-0.006
(
0
.
0
0
7
)
ー0
.002
(
0
.
0
1
0
)
0.021
(
0
.
0
1
0
)
0.029
(
0
.
0
1
3
)
1
8
0,
294
3
7,
343
0.007
736
1
3
2,
3
1,
366
0.003
1
0
3,
446
28,
574
0.003
(
0
.
0
0
7
)
(
0
.
0
0
8
)
注1) (
I
)(2)は最小二乗法 (
p
a
n
e
lc
l
u
s
t
e
r
i
n
gr
o
b
u
s
ts
t
a
n
d
a
r
de
r
r
o
r
)、
(
3
)ー(
6
)はパネル固定効果推定の結果である。
) 女性比率は、パートも含む女性がパートも含む全従業員に占める割合である。
注2
注3
) 男性正社員比率、女性パート比率、男性パート比率の分母は全社員である。
) 0 内は標準誤差である。
注4
注目全て年ダミーでコントロールしている。
注6
)(
I
)(
2
)は業種ダミーでコントロールしている。
注7
) 設立年の係数は 1
0
0
0
倍している。
4
.
2 パネル固定効果推定
(
1)推定方法
第4
.1節で行われた推定は、標本ごとの異質性が説明変数によって観測できずに
誤差項として一括されている可能性を考慮、していない。
r
企業活動基本調査 J の調
査単位が企業であるため、企業特異の観測できない異質性は相当大きく、かっ説明
変数と相関している可能性も高い。このような企業特性を「企業固有要因 J として
とらえ、パネルデータに固定効果推定を用いてこれを除去する。
(
2
) 推定結果
表 2の第 3、4列 は 1
9
9
2
2
0
0
0年の「企業活動基本調査」から作成したパネルデー
タを用い、年ダミーを加えることによりビジネスサイクルの影響を調整した上で、
8
日本経済研究陥 5
2,2
0
0
5
.
1
0
利益率を女性比率によって回帰した結果である。利益率に対する女性比率の係数は
有意ではない(表 2第 3列)。さらに、全社員に占める女性パートタイム比率、全社
員に占める男性パートタイム比率、全社員に占める正社員女性の比率を説明変数に
変えて、利益率を固定効果モデ、ルで、推定すると、正社員女性比率の係数は有意に負
になる(表 2第 4列)。これは、企業が正社員女性については、将来の戦力とみなし、
現時点で、は収益にマイナスであっても、先行投資として雇っている可能性を示唆し
ている。
パネル固定効果推定によって「企業固有要因 J を除去し、同一企業における変化
に着目すると、女性比率が高まっても利益率は変わらないへ女性比率が利益率に
影響を与えない、というこの結果は、女性の賃金と生産性にギャップがあるとする
「差別仮説」とは整合的でない。また、女性比率と利益率に(因果関係の方向はとも
かく)正の相関を予想する「アメニティー仮説」や「ネガティブショック仮説 Jとも
整合しない。
4.
3 タイムラグを考慮した推定
(
1)推定方法
上述のパネル固定効果分析に対し、
「差別仮説」の観点からは、女性比率の上昇
が実際に企業業績に貢献するまでには教育訓練期間などのタイムラグが存在するの
で、女性比率と企業業績の関係を同時点で推定することに問題が残る、といった反
論があり得る。そこで、推定モデ、ルを単純化した上で、次の式のようにタイムラグ
を考慮、した推定によって、因果関係の存在とその方向について再検証する。
九=α+s
X
;
I
_
m+
y
Z
i
t+8A;+
εt
i
(
2
)
ζ は企業 iの t期における利益率、 XIt は女性比率、 Z
i
tは企業規模、外資比率等の
企業属性、 A;は企業固有効果である。 (
2
)式は (-m期(年)の女性比率が、 t期の利
益率に与える影響を見る。女性労働者が戦力化するまでのタイムラグを考慮し、女
性比率と企業業績の関係を確認しようというものである。この式においても、企業
固有効果が存在するので、パネル固定効果推定によってこれを除去する。
1
4 法定以上育児休業制度の有無を識別変数とした操作変数法によって利益率を推定したところ、女性比
率の係数が有意でないとしづ結果が得られる(結果表省略)。このことからも、女性比率と利益率の関係
は見かけ上の相関であると考えられる。
女性雇用と企業業績
9
(
2
)推 定 結 果
表 2の 第 5、6列 に は l期、 2期 前 の 女 性 比 率 を 用 い た タ イ ム ラ グ 推 定 の 結 果 を 示
している。利益率に対する 1期前、 2期 前 の 女 性 比 率 の 係 数 の 符 号 は 統 計 学 的 に 有
意にゼロと異ならないへパネル固定効果推定の結果に加え、女性比率と利益率の
関係にタイムラグを想定した推定によっても両者が無相関であったことにより、「差
別 仮 説 J 、 「アメニティー仮説」、
「ネガティブショック仮説 j が 日 本 で 成 立 し て
いる可能性はほとんど無いと考えられる。
4.
4 r
企業固有要因」の探索
(
1)推定方法
利益率と女性労働者比率が、クロスセクションデータでの最小二乗推定では正の
相関、パネル固定効果推定とタイムラグ推定では無相関という結果は、
「企業固有
要 因 仮 説J と 整 合 的 で あ る 。 ク ロ ス セ ク シ ョ ン で 見 ら れ た 利 益 率 と 女 性 比 率 の 相 関
は 見 か け 上 の も の で 、 実 際 に は 「 企 業 固 有 要 因 Jが 企 業 業 績 を 高 め 、 か っ 女 性 比 率
も高めていると考えられる。そこで以下では、この「企業固有要因(真の要因)J の
探索を行うこととする。
本稿は、
「企業固有要因 J の候補として、企業の人事・労務管理施策を想定し、
これら諸施策のうち、利益率と女性比率双方に相関するものを探す。人事・労務施
策と女性比率、企業業績との関係について、先行研究はいくつか存在する。まず、
川口 (
2
0
0
2
)は 2000年 に 関 西 で 実 施 さ れ た ア ン ケ ー ト 調 査 を 用 い 、 人 事 ・ 労 務 管 理
施 策 が 女 性 の 雇 用 に は 影 響 を 与 え な い こ と を 示 し た 16。 ま た 、 人 事 ・ 労 務 管 理 の 諸
施策と企業業績との関係では、坂爪 (
2
0
0
2
)が
、 2
001 年 に 社 会 経 済 生 産 性 本 部 の 実
施した企業調査データとその対象企業の従業員データを用いて、人事・労務施策は
企業業績(経常利益の変化)に影響を与えていないと述べている九
推定結果は省略するが、 4期前までの女性比率も利益率に有意な影響は与えていなかった。
脇坂 (
2
0
01
)
は
、 1995、96、97年の「女子(女性)雇用管理基本調査 J を用い、育児休業制度と女性比
率について検証している。小規模事業所 (30 人以下)においては育児休業制度はコストが大き過ぎ、女
1
5
1
6
性の採用を抑制してしまうため、女性比率にマイナスの影響を与えるが、反対に、大規模事業所ではむ
しろ女性比率を有意に増やしていること、そして女性の勤続年数にプラスの影響を与えている。育児休
業制度については、森田・金子 (
1
9
9
8
)も、日本労働研究機構が 1
9
9
6年に実施した「女性の就業意識と
就業行動に関する調査 J のデータを用いて、育児休業制度が女性の勤続年数を伸ばすことを実証してお
り、滋野・大日 (
1
9
9
8
)も
、 「消費生活に関するパネル調査(家計経済研究所) Jの個票を用いて、育児
休業制度は就業継続を促す効果があることを示している。
1
7P
erry-Smith andBlum (
2
0
0
0
)は、様々なファミリー・フレンドリー施策を bundleで、行っている企
業は個別施策だけを行う企業よりも、女性比率も企業業績(売上高の伸び)も高いことを明らかにし、
Konrad andMangel (
2
0
0
0
)は、専門職比率、女性比率とキャリア・ラダーの有無、 WLI(
c
o
m
p
o
s
i
t
e
Work-LifeI
n
d
e
x
)が、企業業績(一人あたり売上高)に影響を与えていることを示している。
10
日本経済研究
N
o
.5
2,
2
0
0
5
.
1
0
「真の要因」の具体的な探索方法は、まず人事・労務管理の諸変数のうち、女性
比率と利益率双方に相関するものを探す。次に企業の利益率を、女性比率だけでな
く、この人事・労務管理変数も同時に用いて回帰分析する。女性比率と利益率との
関係が見かけ上の相関に過ぎないとすれば、
「企業固有要因 J を説明変数として加
えると、この変数が有意な説明力を持つ一方、女性比率の係数が有意でなくなる、
もしくは係数の絶対値が小さくなることが予想される。つまり、女性比率が利益率
に与える見かけ上の説明力は失われると考えられる。
なお、これらの推定に当たっては、女子学生の就職人気の高い企業が掲載される
『就職四季報女子学生版』データが「企業活動基本調査 j とマッチングが可能であ
った標本のみを用いることの性質上、企業属性に様々な偏りが生じるサンプル・セ
レクション・バイアスが発生している可能性がある。このため、 Heckman2段階
推定法によってこのバイアスの確認と補正を行う。
表 3 女性比率と人事・労務管理施策の関係
被説明変数:正社昌女性比率
男女勤続年数格差
m
r
Z
J
-0.003
(
0
.
0
0
1
)
0.018
(
0.
0
1
0
)
再雇用制度
女性管理職比率
m m w
(
6
)
m m
o
.588
(
0
.
0
8
0
)
総合職採用に占める女性の割合
0.359
(
0
.
0
5
4
)
法定以上育児休暇制度
0.026
(
0
.
0
1
0
)
残業時間の自然対数
-0.042
(
0
.
0
1
5
)
0
.034
(
0
.
0
1
0
)
フレックス制度の有無
0
.1
6
6
(
0
.
0
5
9
)
1
.096
(
0
.
3
1
0
)
1
.860
(
0
.
6
0
0
)
-0.028
(
0
.
0
0
9
)
-0.025
(
0
.
0
1
2
)
0
.2
0
1
(
0
.
6
2
0
)
1
.1
4
4
(
0
.
3
2
5
)
1
.940
(
0
.
6
3
1
)
-0.029
(
0
.
0
0
9
)
66,
634 66,
634 66,
634
2
8
1
8
2
869
1,1
ーo
.188 一o
.523 -0.228
66,
634
834
ー0
.231
女性の転勤可能性
外資比率
設立年
定数
逆ミルズ比
サンプルサイズ
セレクト数
p
-0.049
(
0
.
0
4
7
)
0
.1
3
6
(
0
.
2
7
8
)
0.4581
(
0
.
5
41
)
0.028
(
0
.
0
0
9
)
-0.204
(
0
.
0
6
2
)
1
.062
(
0.
3
2
3
)
0.256
(
0
.
0
1
4
)
-0.022
(
0
.
0
1
0
)
0
.180
0.
0
0
0
)
0.034
(
0
.
4
2
5
)
0.245
(
0
.
8
1
0
)
-0.07
(
0.
0
2
9
)
-0.271
(
0
.
1
0
5
)
0.378
(
0
.
4
7
3
)
-0.437
(
0
.
8
9
8
)
-0.091
(
0
.
0
3
3
)
634 66,
66,
634 66,
634 66,
634
1
,097
838
256
2
4
5
0.2253 -0.173 -0.535 -0.624
o
.126
(
0
.
0
4
6
)
o
.766
(
0
.
0
2
6
)
1
.253
(
0
.
5
0
7
)
ー0
.024
(
0
.
0
0
8
)
ー
0
.1
3
0
(
0.1
2
6
)
0.402
(
0
.
5
5
5
)
-0.324
(
1
.0
4
9
)
-0.074
(
0
.
0
4
7
)
注1) Heckman2
段階推定。 1
段階目の P
r
o
b
i
tは、外資比率、常用雇用の対数値、上場の有無、設立年で推定した。
注2
) 年ダミー、業種ダミーでコントロールした。
注3
) 0 内は標準誤差である。
注4
) 設立年の係数は 1
0
0
0倍している。
女性雇用と企業業績
n
(
2
) 推定結果
表 3には、女性比率に対して人事・労務管理施策が影響を持っかどうかを推定し
1の人事・労務管理変数のうち 8つが女性比率に有意に影響を
た結果を示した 18 1
持っている。また、人事・労務管理施策が利益率に対して影響を与えるかも推定し
た。推定結果は省略するが、
率」が高いこと、
「男女勤続年数格差 Jが小さいこと、
「女性管理職比
「再雇用制度 Jがあることの 3施策が利益率に対し有意に影響を
与 え て い る へ こ の 2つの推定結果から、上記の 3施策は、女性比率と利益率の双
方に有意に影響を及ぼしていることがわかる。
次に、これら 3つの人事・労務管理施策が、女性比率を高め、利益率も高める「企
業固有要因 J であるかどうかを確認するため、これらの人事・労務管理変数でコン
トロールすることによって、利益率を被説明変数とする推定式における女性比率の
説明力が失われるかどうかを検証する。
表 4の第 1、2列に、
『就職四季報女子学生版』と「企業活動基本調査 Jのマッチ
ングが可能で、あったデータのみを用い、利益率と女性比率の関係を、前述のバイア
スを補正しつつ推定した結果を示す。第 1列は、 Heckman2段階推定法の 2段階目
において除外される識別変数を設けず、識別は逆ミルズ比の非線形性に頼った推定
の結果である。ここで、対数常用雇用者数の係数が有意でないことから、第 2列で
は、この対数常用雇用者数を識別変数として除外することで識別の精度を確保して
.1節の結果と整合的で、有意に正(係
いる。利益率に対する女性比率の係数は、第 4
数 =0.016, 0.020)である。
表 4の第 3
5列は、各人事・労務管理変数と女性比率を同時に説明変数として用
いて利益率を推定した結果である。
I
男女勤続年数格差」、
「再雇用制度 J は、有
意に利益率に影響を与えており、女性比率は有意でない。一方で、利益率に対する
「女性管理職比率」の係数は、 10%の有意水準で正であるものの(係数 =0.057)、女
性比率の係数も 10%水準で有意に正であり、かっ値が大きくなることから(係数=
O
.0
5
0
)、 「真の要因 J である条件を満たしていない。このことから、
「男女勤続年
数格差 J、 「再雇用制度 J の 2変数が利益率と女性比率の双方を高め、かっ利益率
と女性比率の見かけ上の相関を背後で作り出している「真の要因」であると考えら
1
8 この探索においても、業種、外資比率等をコントローノレした上で、サンプル・セレクション・バイア
スを補正している。また、人事・労務管理施策の多くが、主に正社員に対してのみ適用されるため、こ
こでの「女性比率 J は、パートを除いた正社員女性比率を用いている。パートを含めた女性比率を用い
ても、残業時間の効果及び女性の転勤可能性が有意でなくなること以外は、同様の結果となっている。
1
9 ここでの「再雇用制度 J
は、結婚・出産等による若年女性退職者に対する再雇用の制度である。
12
日本経済研究
N
.
o5
2,
2
0
0
5
.
1
0
m
男女勤続年数格差
m
(
5
j
3
・
0
.
0
0
5
(
0
.
0
0
3
)
再雇用制度
女性管理職比率
正社員女性比率
外資比率
設立年
常用雇用の対数値
定数
逆ミルズ比
0
.
0
1
6
(
0
.
0
0
9
)
0
.
0
5
5
(
0
.
0
1
2
)
0
.
4
8
4
(
0
.
0
6
7
)
0
.
0
0
3
(
0
.
0
0
3
)
0
.
8
8
5
(
0
.1
3
2
)
0
.
0
0
5
(
0
.
0
0
7
)
ズ
ルト
イ
サ数
プク
ンレ
サセ ρ
6
6,6
3
4
1
,
7
6
3
o
.125
2ω 幻
Auω 仏ω
r
n
m
w 一閃ω
ω
ω
被説明変数:利益率
間
一
川
表 4 利益率と人事・労務管理施策の関係
0
.
0
5
7
(
0
.
0
0
3
)
0
.
0
5
0
(
0
.
0
2
5
)
o
.164
(
0
.
0
4
0
)
0
.
5
3
9
(
0
.
1
5
8
)
0
.
0
0
6
(
0
.
0
1
0
)
0
.
0
4
2
(
0
.
0
1
8
)
o
.257
(
0
.1
01
)
一0
.
4
4
9
0
.
0
2
0
(
0
.
0
0
8
)
0
.
0
5
7
(
0
.
0
1
2
)
0
.
4
8
3
(
0
.
0
6
7
)
0
.
0
0
5
(
0
.
0
0
9
)
0
.
0
4
9
(
0
.
0
1
4
)
0
.
3
5
0
(
0
.
0
8
4
)
0
.
0
0
5
(
0
.
0
1
1
)
0
.
0
3
5
(
0
.
0
1
9
)
0
.
4
9
3
(
0
.
0
9
9
)
一0
.
9
0
8
(
0
.1
2
9
)
0
.
0
1
1
(
0
.
0
0
2
)
0
.
6
2
6
(
0
.1
6
4
)
0
.
0
1
0
(
0
.
0
0
3
)
0
.
0
3
1
(
0
.
0
0
5
)
0
.
0
0
5
(
0
.
0
0
3
)
1
.1
0
3
(
0
.
3
01
)
0
.
0
5
2
(
0
.
0
1
2
)
(
0
.1
9
7
)
0
.
0
0
5
(
0
.
0
0
3
)
3
4
6
6,6
1
,7
6
3
0
.
2
6
9
6
6,6
3
4
1
,
0
9
7
0
.
2
5
3
6
6,
6
3
4
8
3
8
o
.146
6
6,6
3
4
2
5
6
0
.
8
2
8
3
4
6
6,6
8
2
6
o
.135
注1
) Heckman 2段階推定。 1
段階目の Probitは、女性比率、外資比率、
設立年、常用雇用の対数値、上場の有無で推定した。
注2
) 年ダミー、業種ダミーでコントロ}ルした。
注3
) 0 内は標準誤差である。
注4
) 設立年の係数は 1
0
0
0倍している。
れる。さらに、表 4の第 6列に、
「男女勤続年数格差 J、 「再雇用制度 J と女性比
率を同時に説明変数として用いて推定した結果を示す。 2 変数の係数が有意で、か
っ女性比率の係数は有意でないことから、
「男女勤続年数格差J、 「再雇用制度 J
は「真の要因 j であることが確認できた。
5
. 人事・労務管勤蹴ゆ魁と、女間翻・企業利益へ広場簿
5
.
1 男女均等施策と、ファミリ一・フレンドリー施策
.
4節の推定では、多数の人事・労務管理施策の変数が推定に用いられている
第4
が、これらの施策の個々の趣旨や性格に立ち返ってその効果に検証を加えることは、
人事・労務管理研究の観点からも重要な意義を持つであろう。
女性雇用に影響を与える企業内の人事・労務管理上の取り組みについて、脇坂
(
2
0
0
1、 2
0
0
2
)は、男女均等施策と、ファミリー・フレンドリー施策の 2つの類型に
女性雇用と企業業績
1
3
分けて議論している。男女均等施策は、採用、仕事内容、教育訓練、そして処遇等
で男女の差をできる限り撤廃しようという施策である。一方、ファミリー・フレン
ドリー施策は、従業員が家庭的責任を果たせるよう会社がサポートすることで、優
秀な従業員(特に女性)の採用や定着を促す効果があると考えられる 20
5
.
2施策の類型と、女性雇用・企業利益との関係
1の人事・労務管理施策が、女性比率や利益率に及ぼす影響を推
今回分析された 1
8までの施策は女性比率と、 1
3の施策は利益率と
定した結果を表 5にまとめた。 1
1
1の施策は女性比率とも利益率とも相関関係が確認でき
関係している。そして、 9
なかった。
女性比率と利益率の双方と相関する 1
3の施策は、男女問わず活用することを目
指す均等施策の色彩が強いと考えられる。
r
男女勤続年数格差(が小さい)J は、女
性が長く勤続可能な環境と、男女を問わず能力・成果に応じて処遇する住組みが重
要であることを示唆している。また、
「再雇用制度(がある )
J はファミリー・フレ
ンドリーな施策と見られがちだが、多くの場合、再雇用の可否は、退職前の勤務成
表5 1
1の人事・労務管理施策と女性比率、利益率の関係
女性
比率
l 男女勤続年度数格差大
2 再雇用制あり
3 女性管理職比率高い
4 総合職採用に占める女性割合
5 法定以上育児休業制度
6 男女計残業時間長い
7 フレックス・タイム制度あり
8 女性の転勤可能性なし
9 昇進均等度高い
1
0 育児休業取得率高い
1
1 女性の既婚率高い
利益
率
真の
要因
O(
ー
) O(ー
) O(一
)
0(+) 0(+) 0(+)
0(+) 0(+)
0(+)
均等
O
O
O
O
ファミ
フレ
O
O
施策についての先行研究
脇坂 (
2
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)
脇坂 (
2
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01
)
脇坂 (
2
0
0
1
)
O 森田・金子(1998)、滋野・大日 (1998)
O
0(+)
O(
ー
)
O(
ー
)
ム 脇坂 (2002)
O(ー
)
O
O
O 森田・金子 (1998)、滋野・大日(1998)
O
注1) 0は利益率、女性比率を被説明変数にしたときに、説明変数である各施策が有意に
影響を持っていたもの。(+)は正、 (-)は負の関係が確認されたことを示している。
注2
) 均等、ファミフレの行の Oは各施策が均等施策、もしくは
ファミリー・フレンドリー施策であることを示す。なお、各施策が均等施策か
ファミリー・フレンドリー施策かは、可能な限り先行研究によっている。
) 脇坂 (
2
0
0
2
) はフレックス・タイム制度はファミリー・フレンドリー施策
注3
ではないと指摘している。
2
0 例えば、育児休業制度を法定以上の期間に設定する、残業時間を短くする、女性は転勤させない、育
児休業を取りやすい雰囲気を作り育児休業取得率を高めるなど。
14
日本経済研究ト1
0
.
5
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0
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績を踏まえて企業が個別に決定できることから、結婚・出産を念頭に置く女性に対
しては、指名解雇に近い強力な管理効果を退職前にまで、遡って有しており、均等施
策でもあるヘ
次に、女性比率を向上させるが、企業業績に影響しない 5つの人事・労務管理変
数のうち、「総合職採用に占める女性割合 Jは均等施策であるものの、「残業時間(が
女性には転勤の
短い)J、 「法定以上の育休制度 J、 「フレックス・タイム制度 J r
可能性がない」の 4つはファミリー・フレンドリー施策と考えられる 22
以上のように、人事・労務管理施策を、均等施策とファミリー・フレンドリー施
策の機能面から評価すると、全体的には、均等施策が女性比率も上げ、かつ企業業
績も上げる場合が多いのに対し、ファミリー・フレンドリー施策は、女性比率を上
げるが、企業業績には影響しない場合が多いと総括することができる。
6
. おわりに
女性比率と利益率の聞には、クロスセクションデータによる回帰分析で、有意か
っ相当に大きな正の相関関係が存在する。これは、女性が差別されているために女
性の貢献と賃金にギャップがあり、女性を多く雇う企業はそのギャップのために利
益が多いという「差別仮説 j を支持しているように見える。しかし、パネル固定効
果推定で「企業固有要因 J を除去すると女性比率と利益率の相関は無くなり、タイ
ムラグを想定した推定でも相関を見いだすことはできない。この結果は、
「差別仮
説」だけでなく、代替的な仮説である「アメニティー仮説 J 、 「ネガティブショッ
ク仮説」とも矛盾する。推定結果は、
「企業固有要因 Jが存在し、それが利益を上
げ、女性比率も引き上げる結果、見かけ上の相関が生じているという「企業固有要
因仮説 j と整合的である。
人事・労務管理関連の変数を追加し、セレクション・バイアスを補正しつつ探索
したところ、
「男女勤続年数格差(が小さい)J、 「再雇用制度(がある)J という 2
つの変数が、女性比率と利益率を上げる「真の要因」であることが確認された。こ
れらが、女性を男性と同等に積極活用しようとする均等活用型の人事・労務管理施
r
再雇用制度 J は、育児休業制度が法定化された 1992年以降においては、その実質的意義の多くを失
っている可能性がある。それでも、この変数が重要な説明変数となった理由としては、育児休業制度で
カバーしきれない事情により離職する女性が存在することや、育児休業法施行前から女性を活用してい
たことの代理変数であることが考えられる。
2
2 女性比率に対するフレックス・タイム制度の係数は負である。これは、脇坂 (
2
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0
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)p
.1
1
9 が指摘す
るように、フレックス勤務者は定時出退勤者よりもかなり残業時聞が長いため、実際にはファミリー・
フレンドリー施策として機能していない場合があるためと考えられる。
2
1
女性雇用と企業業績
15
策の代理変数であるのに対し、家庭に優しいファミリー・フレンドリー的な人事・
労務管理施策は、女性比率を増加させるが利益率には影響しないものが多いことも
判明した。
性別に関係なく個人を遇する企業は、女性比率も高く、経営パフォーマンスも良
い。したがって、均等施策が企業業績にとってプラスであるという正しい認識が広
まれば、利潤拡大を目標とする企業において均等施策の採用・普及は自然に進み、
女性の活用も一層進展するであろう。そうした取り組みを行わない企業は、市場が
競争的であれば長期的には淘汰されていく。政策的合意としては、均等活用型の人
事・労務管理施策については、企業の利潤動機にも合致するため、女性採用の数値
目標のような強制や規制ではなく、統計整備や調査研究によって適切な情報提供が
行われることが適切であると考えられるロ
これに対し、ファミリー・フレンドリー施策に関しては、ある企業が充実させて
も、そのメリットはその社員の配偶者や、配偶者の働くファミリー・フレンドリー
でない企業に帰着するという外部性の問題が生じうる 23。このため、政策的にファ
ミリー・フレンドリー施策の充実を図るべきだとすれば、公的負担で社会全体とし
て進めていくことが望ましい。例えば、育児の様々なコストを企業ではなく社会全
体で負担する、あるいは、保育所等の公的インフラ整備を加速するといった政策が
有効であろう。また、社会全体として、残業時間を減らすなど、女性のみならず男
性も含めて、働き方の見直しを行うことも重要である。
今回の分析について、留保しておくべきことがいくつかある。まず、今回棄却さ
れた「差別仮説 J は、対象企業において男女の賃金格差が男女の生産性格差に見合
っているか否か、という単純な検証である。このため、統計的差別や顧客による差
別のような差別メカニズムは検証されていない。次に、女性比率と利益率の双方を
上げる「企業固有要因」の探索において、その候補を人事・労務管理施策に限定し
ていることにも留意すべきである。女性比率と利益率の双方に影響する「企業固有
要因 J として、生産技術、規制、経営者の属性やポリシー、地域の労働供給構造な
ど、さらに検討すべき変数が存在しているが、今回はデータ制約などの理由から分
析されていない。また、複数の人事・労務管理施策相互が関連して利益率や女性比
率に及ぼす影響については一応のデータ分析をしたものの、我々に十分な理論的枠
組みがなかったため、今回は結論に至っていない。企業と労働者についての理論モ
2
3 ファミリー・フレンドリー施策の外部性としては、育児をする妻の勤務先が残業を軽減する結果、他
社に勤める夫が心おきなく残業できるという例を考えることができる。
1
6
日本経済研究
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デ、ルを十分に踏まえた上で、機会を改めて報告したい。
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