DPM(ダイレクトパーツマーキング)の 必要性とバーコードリーダに求め

特集
製造現場に見る活用メリット
DPM(ダイレクトパーツマーキング)の
必要性とバーコードリーダに求められる能力
[
[ 北條 太郎
コグネックス㈱
BA1209-21 0915-1060/12/¥500/論文/JCOPY
はじめに
部品の製造、保管、配送などのサプライチェー
ンにおいて、生産物の追跡やトレーサビリティは
とても重要でなくてはならないものである。それ
に加えて近年では製造過程においても部品のトラ
ッキングが重要な役割を持ち始めている。
各製造工程において、正しい部品が正しいプロ
セスを介して処理されているか、部品のアッセン
ブリ工程において適切な部品同士が組み合わせら
れているかなど、日本の製造業を支える高度な品
質レベルを保つためにあらゆる場面でトレーサビ
リティが使われようとしている。
トレーサビリティの手法としてはラベル等を使
ったバーコードが広く使われていたが、環境が刻々
と変化して行く製造工程の中では使用されるマー
キング方式においても対環境性の高いものが要求
されてくる。また、自動車を始めとする製造業に
おいては偽造品防止の観点からもより厳密に個体
識別が可能なマーキング方法が要望されており、
それらを解決する印字方法としてDPMが積極的に導
入されている(写真1)
。
DPMはダイレクトパーツマーキングの略であり、
その名の通り部品に直接刻印することで対環境性
を高め偽造品の混入防止にも役立つ。DPMでは殆
どの場合、二次元コードが使用される。その理由
は、従来の一次元バーコードより小さいサイズで
より多くのデータを収納することができ、エラー
訂正機能も備わっているからである。
DPMの導入は自動車業界だけでなく電子部品、
太陽電池産業、航空宇宙、医療機器など、その適
用範囲は急激に拡大している。全ての業界に共通
する主な目的は、品質保証、工程管理などである
が、今後これらの分野においても偽造防止は重要
なテーマであり、DPM及びそれらの読み取り技術
も製造業におけるキーテクノロジの一つとして位
置付けられてきている。
DPMの種類と読み取りの難しさ
写真1 鋳造部品の加工面にDPMされたDataMatrixの例
一言でDPMと言っても、刻印する対象物の材質、
刻印方法、刻印スペース、使用環境等によってマ
ーキングの状況が大きく変わってくる。DPMのマ
ーキング方法としては次の様な方式がある。
(1)ドットピーン方式
材料の加工面に、先端がカーバイドまたはダイ
ヤモンド針でマークを打刻する。ライフサイクル
の要件が厳しい自動車産業と航空宇宙産業で幅広
く使用されているが、コントラストが出にくく、
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照明技術を駆使してシンボルのモジュールを形成
する凹みと部品の加工面の間にコントラストを生
成する必要がある。
(2)レーザーマーキング
部品の加工面を加熱して融解、気化などの表面
変化を起こすことでマークを生成する。自動車産
業だけでなく、エレクトロニクス産業、半導体産
業、医療機器産業まで幅広い分野で最も多く使用
されている。
(3)電気化学エッチング
(Electro Chemical Etching)
刻印する金属の加工面を、ステンシル型を通し
て酸化させる事によってマークを生成する。加工
面が湾曲した部品の少量マーキングや、ジェット
エンジン、自動車、医療機器などの応力に弱い部
品のマーキングに使用される。マーキングに時間
が掛かり、消耗品向けにはコストが高くなる。
(4)インクジェットプリンタ
移動する部品に高速にマーキングすることがで
き、良好なコントラストを実現する。部品の加工
面に下地の形成が必要になる場合がある。これは
部品の加工面とインクの化学的相互作用によっ
て、マークの耐久性とコントラストのレベルが決
まるからである。
一般的には対象物の小型化/複雑化に伴いより
小さくマーキングする傾向にあり、さらには“直
接刻印”であるが故に出来るだけ製品にダメージ
を与えないよう、肉眼では見えにくいほど薄い刻
印になることも多い(第1図)。
DPMにおいては刻印状況の変化、材質の状態、油
などの周囲環境などによってその見え方は個々の
ワーク毎に大きく違ってくることが多い。また、
製造装置の新旧に伴い同一部品への刻印に対して
も、マーキングの方法やコードの種類までもが変
化しているケースも稀ではない。さらにはマーキ
ング部分のバーコードリーダに対する微妙な角度
の変化によってもその状況は一変する。特に金属
表面に刻印してあるDPMの場合には、ちょっとし
た対象物の傾きに対しても見え方が大きく変化す
る。第2図は金属プレートにドットピーンで刻印
した例だが、角度の変化に対してその見え方が大
きく変化し最終的には反転(白地に黒、黒字に白)
してしまう例である。
その他の刻印方法においても刻印表面の微妙な
変化や、作業環境の時間的な変化により読み取り
条件が刻々と変化することが日常的に有り得る。
また、製造現場が日本国内に留まらず世界各国
に散らばっている現在の状況においては、刻印条
第1図 DPM刻印例
第2図 同一対象物での見え方の変化がある状態での読み取り
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第3図 設定変更なしで、あらゆる条件下で読み取りを行っている例
件を安定させることは難しく、むしろ個体ごとに
読み取り条件が異なると考えて良いであろう。
バーコードリーダに求められる能力
そのような不特定な条件のなかでバーコードリ
ーダに求められる性能は何であろうか。それは
読み取り能力の高さである。DPMが既に製造業の
キーテクノロジとなっていることは前述したが、
DPMを読み取るバーコードリーダも製造プロセス
の一端を担っていると言えよう。バーコードリー
ダの性能の低さはラインの停止につながり、即、
生産効率の低下につながってしまう。バーコード
リーダの使命は、刻々と変化する状況のなかで限
りなく安定した読み取り能力を発揮することであ
る。そこには生産技術者の介入や、オペレータに
よる調整等を必要としない事が理想的である。生
産現場においては“最終的に読み取れること”で
はなく、
“メンテナンス不要で安定した読み取りを
続行できる性能”が必要とされる。
第3図では対象物の傾きにより、マーキングの
見え方が極端に変化する例であるが、このような
場合にも当社のバーコードリーダであれば追従し
読み取りを続行することができる。図内で白く囲
われた状態は、読み取りが完了した状態を示し、
これらは設定の変更なしにひとつの設定で読み取
りを行っている。
コグネックスの
DPM読み取りアルゴリズム
当社のバーコードリーダ製品DataManには独自
の読み取りアルゴリズム1DMax+™、2DMax+™が搭
載されている。第2図の読み取りの様な極性が変
化する場合だけでなく、第3図の例の様に明るさ
の変化やシェーディング、ハレーションにも強く、
パラメータの変更や調整無しにアグレッシブに全
てのコードを読み取っていく。
コグネックスの
バーコードリーダ製品
DataManシリーズは当社のバーコードリーダ製
品群である(写真2)
。ユーザーの使用形態に合わ
せてハンドヘルド型から固定型まで、様々な種類
の製品を取り揃えているが一貫してその高い読み
取り率は変わらない。
特にDataMan® 300シリーズは、従来のバーコー
ドおよび二次元コード読み取りアルゴリズムであ
る1DMax™、2DMax™をさらに進化させた1DMax+™、
2DMax+™を搭載し、さらには対象物や設置条件に
合わせて交換可能な照明やレンズオプションを選
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写真2 コグネックスのバーコードリーダ製品群
択できる非常に柔軟かつ高性能なバーコードリー
ダである(第4図)
。
従来比4倍もの面積を誇る130万画素の撮像素子
は、読み取り能力をより高めることに貢献し、広
い領域から小さいコードを読み取ることを可能と
し、対象物の精密な位置合わせが不要となる。
また、DataMan 300ではバーコードリーダ導入時
のセッティング時間の短縮や、機械的な変更を伴
う段取り替えの負荷を軽減する機能が搭載されて
いる。
リキッドレンズは2種類の液体を一つのハウジ
ングに封入し、電圧の制御によって境界面の曲率
を変化させ焦点位置を可変とする技術である(第
5図)。これにより機械的な可動部なしにフォーカ
第4図 DataMan 300シリーズ
第5図 DataMan 300とリキッドレンズ
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第6図 DataMan 300のインテリジェントチューニング機能
スを瞬時に合わせることが可能で、対象物までの
距離が変化したり、ラインに流れる部品が変更に
なった場合でも、機械的な設置条件の変更なし、
すなわちラインを止めることなしに読み取りを続
行することが可能となる。
DataMan 300ではリキッドレンズに加え、さらに
簡単に最高の性能を発揮できるインテリジェント
チューニング機能を備えている(第6図)
。インテ
リジェントチューニング機能は、対象物に最適な
照明設定をDataMan 300が自動的に判別し設定す
る。この機能を用いることで、生産設備の施工者
は本来の性能を引き出すまでに掛る時間を大幅に
削減することが可能となり、さらには読み取り能
力のバラつきを減らすことでメンテナンス工数の
削減を図ることができる。リーダを設置し、本体
のTuneボタンを押すだけで即時に最高の読み取り
率を得ることができるのである。
おわりに
当社は1981年に米国マサチューセッツ州で設立
された画像処理システムを製造しているメーカー
である。フルラインナップの画像処理システムで
ユーザーをサポートできる唯一の画像処理専業メ
ーカーとして30年間世界のトップで有り続けた技
術の集大成がバーコードリーダ製品群である。当
社のバーコードリーダ製品は自動車、エレクトロ
ニクス、半導体産業をはじめ様々な製造現場で使
用され、日本の“ものづくり”に貢献してきた。
あらゆる業界で最高の読み取り率を誇る当社のバ
ーコードリーダを是非体感して頂きたい。
筆者紹介
北條 太郎
コグネックス㈱
プロダクトマーケティング部
プロダクトマーケティンググループ
次長
〒113-6591 東京都文京区本駒込2-28-8
文京グリーンコート23F
TEL:0120-005409(フリーダイヤル)
E-mail:infojapan@cognex.com
URL:www.cognex.co.jp
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