1 ウォーミングアップの強度とプレーの精度 テニス専門部 山形県立鶴岡南高等学校 今 崎 徹 郎 2 1.はじめに テニス競技に携わって 6 年目。自分自身が行なってきた専門競技はフィールドホッケーであり、顧問とし て今まで経験した競技はサッカー(2 年) 、バスケットボール(1 年)である。テニスは顧問になって初めて 経験するスポーツであり、団体競技と個人競技の違いやネット競技の難しさに戸惑いを感じつつも指導を行 ってきた。その中で特に、大会時のウォーミングアップの在り方については、常々難しさを感じており、自 信を持って生徒への方向付けを示せていない。理由としては次の 2 点が挙げられる。 理由の 1 点目は、選手が試合に入るタイミングを計るのが難しい点である。大会開始前には 20 分程度の 練習時間があるが、その後直ぐに試合が入る生徒もいれば、1,2 時間ほど開いてしまう生徒など試合の状況 によって、試合に入るタイミングが変わる。 2 点目は、一瞬の判断と持久性のバランス面でのウォーミングアップの強度の捉え難さがある。一瞬のタイ ミングのぶれがミスに繋がるという部分での一瞬の集中力と、競技時間が長くなれば 1 試合 1 時間以上に及 びそれを多い時には 1 日 5 試合程をこなさなければならないという持久性の部分で、ウォーミングアップで の適度な運動量が捉えにくい。そのため、現在は生徒各個人のタイミングや強度に任せている部分が大きい が、生徒にとってもどの程度が適当であるのか掴めていない状況もうかがえる。そこで、生徒各個人また、 指導の立場として”テニスにおける試合前のウォーミングアップについてはどれほどの強度が必要であり適 切であるのか”少しでも根拠となるデータがほしいと考え、研究の題材とした。 2.研究の方法 (1) 調査方法 強度の違う 4 種類のウォームアップを行った後、脈拍を取る。その後球出し練習をおこない、ボール がインにおさまる球数とアウトになる球数を調査する。さらに、インの球に関しては設定した枠内にお さまる球数も調査する。 (2) 調査対象 山形県立鶴岡南高等学校硬式テニス部員 (男子 1 年生 2 名、2 年生 7 名、 女子 2 年生 9 名、1 年生 5 名、計 23 名) (3) 調査期間 平成 23 年 8 月 1 日~4 日 (4) 調査内容 設定した 4 種類のウォームアップは下記の通り。 ① 軽いランニング→体操・ストレッチ ② 軽いランニング→ストレッチ→ミニテニス(現段階ではこれが多い) ③ 軽いランニング→ダイナミックストレッチ→ミニテニス ④ 軽いランニング→ストレッチ→アジリティ(ラダー)トレーニング→ミニテニス 1 日 1 種類の計 4 日間を使っておこなう。 球出しの送球間隔は、やや短めとする(試合同様に足を運ぶ要素を多くする) 。一人に左右 6 球の球 出しを行い、それを 5 セット行う。つまり一人合計 30 球打たせる(部員全員での球数は 690 球) 。1 セ ット毎にストレートとクロスのコースどちらを狙うのかを指定し、 コートの左端・右端にコーンを立て、 コーンの間(1m)に入る球数・コート内におさまる球数・アウトの球数を数える。また、前半 330 球 と後半 330 球に分け集計し、時間の経過とイン球数とアウト球数の違いについても調査する。 3 3.結果と考察 (1) 結果 ① 軽いランニング→体操・ストレッチ 91.8 平均心拍数 ストローク成功率 枠内成功 イン アウト 合計 球数 112 317 261 690 率 16.2% 45.9% 37.8% 100.0% 429 計 62.2% 前半 後半 枠内成功 イン アウト 合計 球数 58 156 131 345 率 16.8% 45.2% 38.0% 100.0% 枠内成功 イン アウト 合計 球数 53 161 131 345 率 15.4% 46.7% 38.0% 100.0% ② 軽いランニング→ストレッチ→ミニテニス(現段階ではこれが多い) 100.9 平均心拍数 ストローク成功率 枠内成功 イン アウト 合計 球数 101 348 241 690 率 14.6% 50.4% 34.9% 100.0% 449 計 65.1% 前半 後半 枠内成功 イン アウト 合計 球数 52 165 128 345 率 15.1% 47.8% 37.1% 100.0% 枠内成功 イン アウト 合計 球数 49 183 113 345 率 14.2% 53.0% 32.8% 100.0% 4 ③ 軽いランニング→ダイナミックストレッチ→ミニテニス 128.9 平均心拍数 ストローク成功率 枠内成功 イン アウト 合計 球数 88 328 274 690 率 12.8% 47.5% 39.7% 100.0% 416 計 60.3% 前半 後半 枠内成功 イン アウト 合計 球数 48 158 139 345 率 13.9% 45.8% 40.3% 100.0% 枠内成功 イン アウト 合計 球数 40 170 135 345 率 11.6% 49.3% 39.1% 100.0% ④ 軽いランニング→ストレッチ→アジリティ(ラダー)トレーニング→ミニテニス 135.3 平均心拍数 ストローク成功率 枠内成功 イン アウト 合計 球数 94 358 238 690 率 13.6% 51.9% 34.5% 100.0% 452 計 65.5% 前半 後半 枠内成功 イン アウト 合計 球数 53 166 126 345 率 15.4% 48.1% 36.5% 100.0% 枠内成功 イン アウト 合計 球数 41 192 112 345 率 11.9% 55.7% 32.5% 100.0% 5 (2) 考察 ①について 心拍数も 100 未満で体を軽く温めた程度である。ラケットとボールの感覚を体に馴染ませるためのミ ニテニス(短い距離での打ち合い)も行なわずに球出しを行なったため、打球も落ち着かないものにな ると予測していたが、④の結果よりもイン率が良かったのは意外な結果であった。枠内の成功率が 4 種 で最も良かったが、研究初日という点・またミニテニスを行なわなかった点で丁寧にボールを処理する 心理が働いたとも考えられる。アウト率が前半と後半変化がないのが特徴であったが、やはり体が温ま っていないという点が大きい。 ②について 試合の合間のウォーミンアップとしては各生徒このパターンが多いようである。結果としては①より はイン率が高く、また、前半と後半においてだんだんと打球の精度が上がっている様子が数値から判断 できる。枠内の成功率についても、①に続き 2 番目の好成績であり、また、前後半にわたって枠内成功 率が安定している様子がみられる。集中力も持続しながらボールに向かえている。 ③について ダイナミックストレッチは、軽く勢いを付けながら筋肉を伸ばすストレッチ法である。ウォーキング しながら膝を曲げ沈み込む動きやひねり、肩を回転させる動きを入れて上半身下半身万遍なくストレッ チ出来るよう心がけながら 9 種のストレッチを行なった。ストレッチの詳細は以下のようである。 1.一歩踏み出し、体を沈める 10 回 2.股を広げて体を沈める 10 回 3.右腕を上げて左腕を下げる を繰り返す 20 回 4.手のひらを下にして腕を前に伸ばし、 20 回 手のひらを上にしながら腕を後ろに下げる 5.右足を踏み出すと同時に体を右にひねり、 左足を出すと同時に体を左にひねる を繰り返す 10 回 6.腕伸ばし(右腕を左腕で抱え込むを左右交互に) 20 回 7.大きくスキップ 25m程度 8.かかとを尻に当てながらランニング 25m程度 9.右足、左手を地面についたらジャンプし、 10 回 左足、右手を地面につける を繰り返す 結果としては、4 種類の中で最も打球の精度に欠ける結果となった。生徒にとってはウォーミングアッ プとしては負荷が大きすぎたようである。特にじっくりと負荷をかける動作が逆効果になってしまった 様子がうかがえた。 ④について ラダ―トレーニング(ラダ―の長さは 6m程度)については、11 種のメニューを 2 セットでおこなっ た。ラダ―トレーニングの詳細は以下のようである。 1. 両足ジャンプ 2.片足ジャンプ 5. サイドでの 2 歩入れ 2 歩出し(前) 7. 1 歩入れ 2 歩出し(前) 10.2 歩入れ 1 歩出し(後ろ) 3.腿上げ 4.体をひねりながらジャンプ 6.サイドでの 2 歩入れ 2 歩出し(後ろ) 8.1 歩入れ 2 歩出し(後ろ) 9.2 歩入れ 1 歩出し(前) 11.両足を閉じて入れて開いて出す 結果は、②とほぼ同等であった。枠内の成功率は前半から後半にかけて大きく下がっているが、イン率 は最も高い結果となった。 6 4.まとめ 今回の研究で意外な結果であったのが①と③が同等であったという点である。特に、③の結果については 予想に反するものであった。この結果によって、ウォーミングアップの適度な負荷を考えることの大切さを さらに再確認することができた。また、競技の特性として、③のようなゆっくりとしたウォーミングアップ よりも④のように敏捷性を意識したウォーミングアップの方がより適しているようである。また、②と④の 結果が同等でありなおかつ、②の方が前後半の打球の精度(枠内成功率)が高かったことより、ウォーミン グアップには様々な方法や強度があるが、選手がより慣れ親しんだものが結果的に適切なものになるのでは ないかということも考えさせられた。つまり、より良いウォーミングアップとは選手の状態や体力、技術レ ベルに応じ設定し、そして何より大切なことは、それを習慣化させることではないかということが考えられ る。この研究結果から、今後指導者として、様々な強度のウォーミングアップの知識を得なければいけない ということを実感した。また、選手への習慣化の重要性についても話していかなければいけないと考える。 また、今回の研究により、選手にとってもどの程度の強度が自分に合っているのか考えるきっかけとなっ たようである。選手個々の競技力向上に向けた取り組みとしても効果があったのではないかと考える。 最後に、今回のこのような研究の機会をいただいたことで、研究した内容だけでなく、自分自身の指導の あり方や選手の考えなど、もう一度見つめ直すことができました。今回の機会を今後の指導に活かし、部活 動の充実、競技力の向上に努めていきたいと思います。
© Copyright 2024 Paperzz