no.22 - 東京文化財研究所

TOBUNKEN
NEWS
独立行政法人文化財研究所 東京文化財研究所
2005
no.22
National Research Institute for Cultural Properties, Tokyo
〒 110-8713 東京都台東区上野公園 13-43 http://www.tobunken.go.jp
芸能部所蔵写真の整理・調査―五代目尾上菊五郎の未紹介写真―
遊
び人の殿様金太、言わずと知れた「遠
山の金さん」こと町奉行遠山金四郎景
元。芸能部が所蔵する五代目尾上菊五郎
( 1844 - 1903 )の舞台扮装写真。明治 32 年
(1899)1 月歌舞伎座『敵討護持院ケ原』、大番
屋へ送られた金太が槍で試される場面。突き込
まれた槍を左腕で受ける正面からの写真は、こ
れまで未紹介だったものです。
五代目菊五郎は、九代目市川団十郎(1838-
1903 )と並び称される明治期の名優です。そ
の舞台扮装写真は、昭和 10 年(1935)刊の写
真集『五世尾上菊五郎』に集大成されています。
33 回忌追善にあわせて出版されたもので、収
録写真は約 1000 点(扮装写真は 980 点)。編纂
者のあとがきによれば、写真の収集には、尾上
菊五郎家のみならず、評論家や研究者、地方在
五代目尾上菊五郎の殿様金太
住の愛好家にまで広く協力を求めるなど、可能
な限りの努力がはらわれたといいます。一般に
した。戦災を経た今日、東京の古写真の残存数
知られてきた五代目の殿様金太は、この『五世
は戦前に比べ格段に減少しています。古書店等
尾上菊五郎』に収められた横顔の写真 1 点(次
で扱われる明治期の歌舞伎写真で、五代目のも
頁に掲出)だけでした。
のなどは、褪色して画像が不鮮明になっていて
も、1 枚で数千円の値が付くことがあります。
五代目菊五郎の活動の中心は東京にありまし
た。そのため、写真原版のほとんどが大正 12
芸能部が所蔵する五代目菊五郎の写真は 413
年( 1923 )の関東大震災で失われてしまいま
点(415 枚)、全て 85mm × 55mm 前後の手札
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的価値の高いものであれば、早急な対処が必要
となります。芸能部には、五代目菊五郎のほか
にも、大正期を中心とした歌舞伎ブロマイド
(絵葉書)約 1000 点が所蔵されています。現在、
その調査と整理も進行中です。
(芸能部・飯島 満)
保
存
処
置
に
つ
い
て
キ
ト
ラ
古
墳
壁
画
午
像
の
昨
年に引き続き今年もキトラ
古墳壁画の取り外し作業を
行っています。今年度は、白虎の
前足部分に続いて、朱雀の取り外
しを予定していました。朱雀本体
に着手する前に、朱雀下部など周
辺の取り外しを試みました。泥の
面には、接着剤が浸透しにくく表
『五世尾上菊五郎』に収められた殿様金太
打ちの効きが悪いために慎重にこの部分の取り
形です。保存状態は良好で、褪色が進行してし
外しを行い、無事にその作業を済ませることが
まったものは皆無です。413 点(415 枚)とい
できました。取り外した泥の層を裏返したとこ
う収集は、五代目の舞台扮装写真としては、他
ろ、下になっていた漆喰層の隙間から鮮やかな
の所蔵機関と比べても、相当な規模といえます。
朱の顔料が観察できました。描かれて以来空気
しかも、写真集『五世尾上菊五郎』には未収録
に触れていなかったためか、この朱色は非常に
だった 9 点を含んでいます。五代目菊五郎の未
鮮やかなものでした。顔料が漆喰表層から離れ
紹介写真が複数同時に確認されるのは、非常に
て泥の面に転写されていることが判明したの
珍しいことです。
で、この顔料層を崩すことのないような慎重な
近現代の芸能研究において、写真資料の重要
作業が求められました。前例のない処理でした
性が認められるようになったのは最近のことで
ので、漆喰層と顔料層および泥層をどのように
す。基礎的な調査・研究も、ようやくその緒に
分離するかについて様々な方法を検討しまし
就いたところです。浮世絵等の絵画資料が近世
た。観察の結果、像の顔料はほぼ大部分が緻密
芸能の資料として極めて重要であるように、写
な泥の表層に移っており、その顔料も粒子間の
真資料が近代歌舞伎の根本資料の一つであるこ
結合力を失い、極めて脆弱であることがわかり
とに、疑いの余地はありません。芸能部が進め
ました。そこで、午像の全体像を損なわずに明
ている「伝統芸能の画像・音声・映像資料のデ
らかにすることを第一目標として、漆喰層を薄
ジタル化」プロジェクトは、現在は音声資料が
く削りだし、数ミリ角の小片に分けながら取り
事業の中心となっていますが、今後はその対象
外すという極めて難易度の高い作業を行うこと
を写真資料にも拡げる予定です。年代の古い写
に致しました。その結果、逆像ではありますが、
真は、とくに褪色の懸念が大きいだけに、資料
朱ばかりか刻線や墨線も残る鮮やかな午像を皆
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さんにお見せすることが出来ました。現在は、
美術部研究会
この脆弱な顔料層に非常に細かな合成樹脂の霧
を吹きつけて徐々に強化しているところです。
顔料層をある程度強化した後、表打ちを行い、
術部では毎月、所内の美術史研究者を
裏側の泥の層を極力除去する予定です。これは、
美
泥層全体の強化が技術的に非常に難しいこと
じて日本および東アジアの美術についての考察
と、泥層が水分のわずかな変化で大きく体積変
を深めています。今年度はすでに三度の研究会
化することで像を傷めてしまうことが予想され
を下記の発表者と内容にて開きました。
るからです。泥の層を極薄くできれば、全体を
・ 4 月 27 日 中野照男(美術部)
強化し、裏打ちを行って、午の像を安定した状
中心に研究会を行い、発表と討議を通
「最近の西域壁画の調査から―顔料分析と蛍
態にできると思っています。これに成功すれば、
光撮影を中心に」
同じような状態にある巳像の部分や辰像の部分
・ 5 月 25 日 塩谷 純
についても安全な取り外しと像の検出方法につ
「在外研究報告―菊池容斎《観音経絵巻》と
いての材料と技法の開発に移る予定です。夏を
狩野勝川院雅信《龍田図屏風》について」
迎えてキトラの石室内は温度が上昇し、漆喰層
・ 6 月 29 日 田中 淳(美術部)
も固くなって取り外し作業には適しないように
「後期印象派・考―人見東明のネットワーク
なりました。また、寒い季節を迎えて石室内作
と受容されたイメージ」
ここではとくに筆者が 5 月に発表した内容
業ができるようになるまでに何とか午像の保存
も進めていきたいと思っています。
を、一寸紹介させていただきましょう。この発
表は筆者が昨年度、ヨーロッパで調査した二点
の日本絵画について報告したものです。菊池容
斎(1788-1878)筆《観音経絵巻》はパリにあ
るフランス国立図書館の所蔵品で、上下巻それ
ぞれ 12 m余りもある長大な巻物に、観音経
(法華経普門品)に基づいて観世音菩薩のさま
ざまな諸難救済の場面が描かれています。作者
の菊池容斎は幕末から明治初期にかけて活躍し
た画家で、とくに歴史人物画を得意とし、明治
時代の美術に大きな影響をあたえたことで知ら
れています。天保 9(1838)年の年記をもつこ
の絵巻では、おそらく円山応挙(1733-95)の
《難福図巻》などを念頭に置きながら、従来の
観音経図様の型にとらわれずに自由な構想で諸
場面を描いているのが特色といえるでしょう。
漆喰を取り除き現れた午の像
容斎の画業のなかでも最も油ののった時期であ
(修復技術部・川野邊渉)
るにもかかわらず、天保年間の作例はきわめて
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菊池容斎筆《観音経絵巻》釈迦説法の場面
少なく、その意味でも《観音経絵巻》は貴重な
で編集している雑誌『美術研究』であらためて
一点かと思われます。
紹介する予定です。
さてもう一点の《龍田図屏風》ですが、ジュ
ネーヴのボール・コレクションに所蔵されてい
るこの六曲屏風には、紅葉の名所である龍田川
の雄大な眺めが色あざやかに描かれています。
作者は江戸幕府の御用絵師をつとめた狩野勝川
院雅信(1823 -1880 )。明治期の日本画壇で活
躍した狩野芳崖や橋本雅邦を育てたことでも知
られています。この屏風で特筆すべきは、なん
といってもその大きさでしょう。高さ 2 mをこ
えるそのサイズは、ふつうの屏風よりも二まわ
りも大きなものです。じつは 1867 年にパリで
開催された万国博覧会に、徳川幕府が勝川院雅
信の描いた屏風を出品しており、記録にのこる
図様や寸法がボール・コレクションの屏風と一
致します。現在、屏風の所蔵先にはそうした由
来を示す資料は伝えられていないのですが、そ
の破格の大きさを思えば、今回調査した《龍田
図屏風》はまずパリ万博の出品作と考えてよさ
そうです。今年は愛知万博が開催され話題を呼
狩野勝川院雅信筆《龍田図屏風》の一部と筆者
びましたが、この大屏風が一世紀以上も前の万
(美術部・塩谷 純)
博会場をあでやかに飾ったのかと思うと、なか
なか感慨深いものがあります。
なおこれら二作品の詳細については、美術部
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ントへの参加は、伝承者にとって大きな励みに
愛・地球博における民俗芸能・
なっていますが、一方で文化財保護の観点から
祭礼関連イベントの調査
は、イベントへの参加やそこでの演出が地域の
伝承に与える影響について考慮することも忘れ
本
年 3 月より愛知県で開催されている
てはなりません。
愛・地球博では、多くのイベントに民
(芸能部・俵木 悟)
俗芸能や祭礼が参加しています。そもそも万博
におけるこうした趣向は、 1970 年の日本万国
イタリアの文化的景観保護制度
博覧会の「お祭り広場」以来続くもので、民俗
に関する研究会
芸能や祭礼のイベント化にも全国的に大きな影
響を与えたと考えられます。今回は、6 月 7 日
際文化財保存修復協力センターでは、
∼ 10 日までのジャパンウィークの中で行われ
国
たいくつかのイベントについて調査しました。
究会を継続していますが、今回はイタリアの文
期間中、EXPO ドームでは連日「日本音楽・伝
化的景観保護制度に関する研究会を 5 月 25 日、
統と今」と題した公演が行われ、とくに 8 日に
東京文化財研究所セミナー室で開催しました。
各国の文化財保護制度に関する公開研
行われた同シリーズの「踊」では、子どもたち
研究会のタイトルは「イタリアにおける文化
によって伝承されている各地の民俗芸能が出演
財保護の新たな試み:世界遺産マネージメント
しました。伝統文化の次代への継承という面が
プランの策定義務化に向けてその準備状況−文
強く意識された演出がなされていました。また
化的景観の保存管理に関する問題点を中心に」
長久手愛知県館の前には「あいち・おまつり広
とし、イタリアから 2 人、日伊比較の観点から
場」が設けられ、愛知県内の様々な民俗芸能や
日本から 1 人の専門家の方々に以下のタイトル
祭礼が紹介されていました。筆者が調査を行っ
で発表をお願いしました。
た日は「東栄町の日」で、同町に伝承される民
発表タイトル:マニュエル・グイド「イタリ
俗芸能「花祭」(国指定重要無形民俗文化財)
アの世界遺産マネージメントプラン策定プロジ
が演じられていました。このような大規模イベ
ェクト−構造と内容」及び「考古学的地区への
適用−チェルヴェテリとタルクィニアの例」、
パオラ・ファリーニ「都市マスタープランから
マネージメントプランへ−文化的景観への適
用・アッシジとオルチア渓谷の経験」、本中眞
「日本の文化的景観の保存管理−「紀伊山地の
霊場と参詣道」を例に」
マニュエル・グイド氏は、イタリア文化省で
景観文化財の保護を長く担当してこられた方で
すが、このほど新設された世界遺産担当課の初
代課長に就任され、今回の研究会のテーマであ
あいち・おまつり広場での花祭の実演
る世界遺産の保存管理のためのシステム作りに
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着手されたところです。またパオラ・ファリー
ニ氏はローマ大学教授で、都市・景観の保存の
研
修
の
開
催
分野で日本でも知られた研究者ですが、世界遺
産アッシジやオルチア渓谷などの申請書の作成
を担当された経験をお持ちです。本中眞氏は文
化庁文化財部記念物課主任文化財調査官として
フ
ォ
ロ
ー
ア
ッ
プ
博
物館・美術館の保存担当学
芸員研修は、 1984 (昭和
59 )年に第 1 回目が始まり、今年
で 22 年目を迎えます。しかし、昨
年末の臭化メチル全廃と関連して、
近年文化財害虫防除の考え方が新
文化財保護法への文化的景観制度の導入ほか、
しくなってきたのを見てもわかる
紀伊山地の霊場と参詣道の世界遺産申請にも尽
とおり、保存担当学芸員にも新しい知識が必要
力してこられました。
になってきています。そこで、本研究所の保存
イタリアという国の名、そして世界遺産と文
担当学芸員研修受講者を対象に、資料の保存に
化的景観という文化財保護の分野で最も注目さ
携わる学芸員がその職務に必要な最新の知識を
れているキーワードがすべてタイトルに含まれ
身につけていただくことを目的として、平成
ていたからでしょうか、多くの方々の参加を得
13 (2001 )年度より保存担当学芸員フォロー
ることができました。
アップ研修を開催してきました。
今回の研究会で主催者側が最も注目していた
今年は 5 月 14 日(土)、15 日(日)に東京芸
のは、イタリアで始まったマネージメントプラ
術大学にて文化財保存修復学会第 27 回大会が
ンすなわち保存管理計画策定義務化に向けての
開催されましたが、その翌日の 16 日(月)に
取り組みという政府内での新たな動きでした。
東京文化財研究所のセミナー室でフォローアッ
文化遺産の裾野が広がるにつれて、その保存管
プ研修を開催しました(参加者数 104 名)。
理に関わる関係者も多岐にわたるようになって
研修内容は、 1 .博物館内大気環境の調査
きています。保存の専門家だけではない様々な
法、 2 .展示ケース気密性の調査法、 3 .臭化
領域の関係者の参加を得ることが保存の出発点
メチル全廃後の生物被害対策でした。ここ数年
であるとの観点から、そのための合意形成の過
ほどの考え方の変化や学問・技術の進歩を考慮
程が重要になっています。保存管理計画とは、
し、最新の話題に焦点を絞ってプログラムを組
その合意の成果です。土地の意味、そして土地
みました。研修終了後のアンケートによります
利用のあり方に価値を見出す文化的景観は、無
と、臭化メチルに代わる薬剤、薬剤を用いない
形文化遺産と並んでこれからの文化遺産のあり
方を考えていく上で重要な分野であると同時
に、広域の土地を管理する必要から、遺産の保
存管理という観点からも貴重な素材を提供して
います。景観の保存で実績があるイタリアでそ
れがどこまで進んでいるか、特に公社や財団の
活用、住民参加の枠組み作りなどについて貴重
な情報を得ることができました。
(国際文化財保存修復協力センター・稲葉信子)
フォローアップ研修の様子
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燻蒸法、生物防除の新しい考え方(IPM)に関
当日は、文化財保護への IPM 導入の経緯と
する関心の度合いが非常に高いことがわかりま
背景から解き起こし、 IPM の基本的考え方、
した。
実際の作業、使用器材紹介、カビへの対処法な
(保存科学部・犬塚将英)
どの講義を行いました。これまでの燻蒸費等の
費目には殺虫殺菌処置のみを含む場合が多いの
文化財保護行政担当者のための
ですが、文化財の今後の維持管理のため、「調
IPM 入門
査なくして防除なし」、調査結果を受けての処
置や小規模の施設改善まで含めた総合的な「生
く文化財生物被害対処に用いられてき
物被害対策費」にまとめる等、考え方の枠組み
た臭化メチルは、2004 年末をもって生
そのものを転換していくことが必要、と生物科
産・消費全廃となりました。生物被害防止のた
学研究室では考えています。半日のスケジュー
めに、あらゆる有効な手段のうちその条件に適
ルに対して内容が多すぎるとのお叱りもござい
したものを、順序立てて合理的にかつ効率的に
ましたが、参加しやすい半日の研修で良かった、
行う方法、これが IPM(総合的有害生物管理)
考え方の全体を理解できて有益だったとの多数
です。 IPM はよく「薬剤に頼らない、環境に
のお声をいただきました。
永
優しい方法」と誤解されますが、大規模被害を
京都会場(京都国立博物館、9 月 6 日
抑制するには殺虫殺菌ガス燻蒸も行います。し
(火))、九州会場(九州国立博物館、11 月 2 日
かし同時にその原因を解明して二度と被害を受
(水)13 時半より、要申込)でも、同内容の研
けないように環境改善を行い、「生物被害に強
修を開催し、 IPM の普及に努める予定です。
い環境」に整えていく総合的な対策であり、
博物館協議会等の地域単位であれば、講習会講
「薬剤にのみ頼らない」ことを目指しています。
師として協力いたしますので、ご計画があれば
保存科学部( FAX: 03 - 3822 - 3247 、 TEL: 03 -
さて IPM 元年の今年は、文化財にも、地球
3823-4873)までご相談ください。
環境や人の健康にも負担の少ない生物被害防止
法に切り替えていく時であり、実際に IPM を
(保存科学部・佐野千絵)
実行するためには、被害をうけにくい環境に整
平成 16 年度自己点検評価終了
備し、点検体制を整え、また被害のあった場合
には多様な殺虫殺菌手法のうち被害状況に応じ
てどの手法を適用するか判断することが必要で
化財研究所は、中期計画や年度計画を
す。当所はこれまで、博物館等保存担当者向け
文
IPM 技術研修を開催しておりましたが、臭化
めに、かつ業務の質的向上を目指して、毎年、
メチル全廃の初年度にあたる今年度は、教育委
自己点検評価を実施しています。過日、 16 年
員会文化財係などの保護行政に携わる方々に向
度の自己点検評価が終わり、その報告書を刊行
けて、今後の生物被害対処のあり方についてご
しました。
順調に実施し、中期目標を達成するた
理解いただくために、標記研修を 6 月 28 日、
16 年度の研究・事業件数は、業務運営の効
当所セミナー室で開催いたしました(参加者
率化1件、東京文化財研究所関連 75 件、奈良
92 名、後援:文化庁)。
文化財研究所関連 55 件、計 131 件でした。例
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年通り、各部局が作成した業務実績書と自己点
賜りご寄付をいただいたことは、当研究所にと
検評価調書に基づき、5 月の連休後に外部評価
って大変有難いことであり、東京美術商協同組
委員から評価と意見をいただき、6 月 8 日に開
合のご厚情に報いますよう、研究所の出版事業
催された自己点検評価委員会代表者会議にて、
に役立てたいと思っております。
最終的な評価結果を確定しました。ほとんどす
べての事業が順調に実施され、目標通りの実績
を上げていることを確認しました。外部評価委
員からいただいた意見には、キトラ古墳や高松
塚古墳の調査・保存事業、西アジアへの保存修
復協力事業など、東京と奈良の研究所が一体と
なって進めている事業に関して、各研究所が果
たしている役割と業務実績について、両者から
ヒアリングしたいなどがありました。
自己点検評価の概要とその評価結果につきま
しては、例年通り、文化財研究所本部のサイト
浅木理事長(中央左)から寄付を受ける鈴木所長
(中央右)、吉田専務理事(左)、永井管理部長(右)
にて公開します。また、いただいた貴重なご意
見は、次期の中期計画に反映させたいと考えて
(管理部・池田広美)
います。
(美術部・中野照男)
高田修名誉研究員に感謝状贈呈
東京美術商協同組合から寄付金を受入
東
5
京美術商協同組合から、東京文化財研
月 19 日に高田修名誉研究員から本研究所
に対し、インドやアフガニスタンの仏蹟
究所が行っている文化財に関する調
の写真など、多くの研究資料を寄贈していただ
査・研究等の成果の公表にかかる出版事業に役
きました。このことに対して、この度、東京文
立てて欲しいとの趣旨で寄付金のお申し出があ
化財研究所長鈴木規夫より感謝状を贈呈いたし
りました。東京美術商協同組合からは、 2001
ました。高田名誉研究員は、現在は甲府市内に
年秋より毎年春と秋にご寄付をいただいてお
てご静養中でありますが、大変お元気でいらっ
り、今回で 8 回目となります。
しゃいます。6 月 21 日に当所の美術部・中野と
5 月 24 日、港区新橋の東京美術商協同組合に
管理部・伊藤が所長代理として、甲府市へ伺い、
おいて、鈴木所長が浅木正勝理事長から吉田誠
ご令嬢の立会いのもと、高田名誉研究員へ直接
之助専務理事、永井管理部長立会いの上、100
感謝状をお渡しいたしました。
万円のご寄付を受領いたしました。その後東京
高田名誉研究員は、 30 年程前、成城大学の
美術商協同組合役員の皆様と文化財保存・修復
「インド・イラン混成文化圏と大乗文化圏の源
並びに美術品等の展覧会に関する文化事業につ
流調査」隊の隊長として、インド、パキスタン、
いて懇談しました。当研究所の事業にご理解を
アフガニスタン等を調査されました。その折り
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TOBUNKENNEWS no.22, 2005
に、アフガニスタンのバーミヤーン遺跡へ探査
か(ともに保存科学部)が新たな連携教員とし
に入られて、破壊される以前の大仏を直に調査
て加わりました。
されておられます。
今年度の連携教員は次の通りですが、この他
今回、寄贈された研究資料の中には、多くの
に、客員教授鈴木規夫(所長)、非常勤講師大
貴重な記録写真が残されておりますので、本研
野彩、非常勤助手松島朝秀がいます。
究所が行っているバーミヤーン遺跡保存事業な
保存環境学
どに、今後は大いに活用されることが期待され
教授:三浦定俊、石崎武志
ます。
助教授:木川りか
(管理部・伊藤義雄)
修復材料学
教授:青木繁夫、加藤 寛
東京芸術大学連携大学院の教員交代
助教授:早川泰弘
なお昨年 4 月に大学が国立大学法人に移行し
東
京文化財研究所は東京芸術大学と連携
た際、新たな内容の協定書を結び、今年度から
大学院に関する協定書を結び、美術研
は学生は募集せず、講義・演習等を通じて大学
究科文化財保存学専攻(独立専攻)の中のシス
教育に協力を行うことになりました。
テム保存学を担当しています。この教室には、
(協力調整官・三浦定俊)
文化財の保存環境を研究する保存環境学講座
人事異動
と、保存や修復の材料を研究する修復材料学講
●平成17年3月31日付け
座があり、主に保存科学部と修復技術部の研究
辞職:管理部管理課企画渉外係長・渡邉仁之
員が連携教員となっています。
平成17年4月1日付け東京大学施設部施設企画課
東京芸術大学との連携大学院は、ちょうど
予算契約チーム係長に採用
10 年前の 1995 (平成 7 )年に始まりました。
辞職:管理部管理課予算係長・村岡 俊
この 4 月で新たな 10 年に入ったことから、発
平成17年4月1日付け東京大学農学系経理課契約
足当初からの川野邊渉(修復技術部)と佐野千
第一係長に採用
絵(保存科学部)に代わり、早川泰弘と木川り
●平成17年4月1日付け
就任:理事長(所長)・鈴木規夫(理事{所長})
転出:国立西洋美術館庶務課長・萩原寿郁(管理
部長)
転任:管理部長・永井義美(文化庁文化財部建造
物課課長補佐)
採用:管理部管理課企画渉外係長・佐野智典(東
京大学大学院農学系総務課附属水産実験所事務室係
長)
採用:管理部管理課予算係長・松本康男(東京大
学大学院教育学部・教育学研究科会計係主任)
昇任:美術部主任研究官・塩谷 純(美術部黒田
早川助教授による修復材料学特論の講義
記念近代現代美術研究室研究員)
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Column
コラム:文化財調査における透過X線撮影
X線とは紫外線より波長の短い光(電磁波)のことで、1895 年にドイツのレントゲン(Wilhelm
Konrad Roentgen 1845-1923)によって発見されました。強い透過力を持っているので、医療や
物質の構造調査などに広く利用されています。日本では、1934 年に阿武山古墳(大阪府高槻市)で
発掘された人骨のX線撮影を、京都大学で行ったのが、最初の文化財分野における応用例であるとさ
れています。 その後、1950 年代に東京国立文化財研究所(当時)の美術部や保存科学部を中心に
「光学研究班」が作られて精力的な研究が行われ、数々の成果を挙げました(「光学的方法による古美
術品の研究」、 吉川弘文館、1955、 増補版 1984)。最近では、 国宝源氏物語絵巻(徳川美術館、五
島美術館)や国宝紅白梅図屏風(MOA美術館)の調査にも利用されています。
ここでは、はじめになぜX線を利用すると物体の内部の構造が見えるのかを説明しましょう。X線
は透過力の強い光ですが、それでも物体の内部を通り抜ける時にいくらか吸収されます。吸収の割合
は、物体が鉛や金のように重い元素でできていて密度が大きいほどX線は物体に多く吸収され、 反対
側に出てくるX線(透過X線)の量は少なくなります。このため透過X線で撮影したフィルムには密
度の大きいところが淡く、逆に小さいところは濃く写ることになり、被写体の密度の違いに応じた濃
淡の分布がX線フィルム上に表されます(図1)
。
この結果、例えば同じ白であっても重い元素である鉛を含む鉛白と、軽い元素のカルシウムを含む
胡粉を区別することができます。もし絵に鉛白か胡粉のどちらかだけを用いたということがあらかじ
めわかっているなら、そのどちらであるかを判断することができます。しかしもう一つの白色顔料で
ある白土で描いてある可能性があるなら、 白土もやはり軽い元素のアルミニウムと珪素を主成分とし
ていますので、X線透過撮影の結果からだけでは胡粉と区別できず、どちらとも断定できません。
他の色の顔料でも、成分が異なると区別できる場合があります。例えば代表的な赤色顔料として、
水銀朱と鉄を主成分とするベンガラがあります。 水銀は重く、鉄が軽い元素ですので、X線透過撮影
で両者を区別できます。また青色顔料として古くから用いられている岩群青は銅が主成分で、珪素、
図 1. 密度差によるX線透過量の違いとX線フィルム濃度との関係
10
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アルミニウムなどの軽元素を主成分としたウルトラマリンと区別できます。しかしウルトラマリンと
コバルトガラスを粉末にしたスマルトを区別することは困難です。また藍などの染料については、 主
成分が炭素など軽元素ばかりですので、判別にX線透過撮影は利用できません。
X線の吸収には物体の厚みも関係してきます。 同じ密度の物質であっても、厚いほどX線が多く吸
収されてフィルム上では淡く写ります(図 2)。 この結果、実際のX線透過撮影では、X線フィルム
の濃淡が物体の密度によるものか、厚みの違いによるものか注意して、被写体をよく調査しながらフ
ィルムを観察する必要があります。
厚みが問題となる良い例が金箔や銀箔です。金は鉛と同様大変重い元素ですが、箔にするとその厚
みはおよそ 0.1 μ m ときわめて薄いため、フィルムを用いたX線透過撮影ではなかなか撮影できませ
ん。最近ではフィルムの代わりに感度の良いイメージングプレートを用いて撮影するようになって、
箔の撮影もできるようになりました。箔は互いの縁を重ねあわせるようにして画面に貼っていきます
ので、重なった部分が他より厚くなり、その厚みの違いがX線透過画面に現れます。 X線透過画面に
現れた濃淡のパターンと実際の画面とを比較することにより、金箔や銀箔を使用しているかどうかが
分かります。紅白梅図屏風の調査はそのようにして行われました。
X線透過撮影は以上述べた材質調査への応用だけでなく、外からは見えない内部構造の調査にも利
用されています。例えば木造彫刻の調査では、X線透過撮影により、彫刻内部が空洞になっているか、
中に何か入っているかといったことが、彫刻を解体せずにわかります。木目もよくわかるので、木目
のつながりから一つの材を割って内側をくりぬき、再び貼り合わせて作ったものか(一木造り)、異
なる材を組み合わせて作ったもの(寄木造り)か判定することができ、木造彫刻の調査にX線透過撮
影は欠かせない手段となっています。
X線透過撮影は、絵画、彫刻など美術工芸品の他、建造物や考古遺物などの調査にも利用されてい
ます。一例としてさきたま古墳群から出土した稲荷山鉄剣の金象嵌銘の発見をあげることができます。
さらにX線透過撮影と類似した調査方法として、 X線 CT やエミシオグラフィ(光電子撮影法)など
の非破壊調査手法もありますが、これらの手法についてはまた機会があればお話ししたいと思います。
図 2. 厚みの違いによるX線透過量の違いとX線フィルム濃度との関係
(協力調整官・三浦定俊)
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TOBUNKENNEWS no.22, 2005
黒田記念館公開日カレンダー
● 7 月 14 日∼ 9 月 8 日は徳島県立近代美術館で開催の
「近代日本洋画の巨匠 黒田清輝展」
(7月16日∼9月4日)
に出展のため閉館します。
● 10 月 31 日∼ 11 月 6 日は、上野の山文化ゾーンフェス
ティバル期間中につき、毎日開館します。
公開日:木曜・土曜 午後1時∼4時
入館料:無料
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ご案内
●芸能部・第8回民俗芸能研究協議会
●協力調整官―情報調整室・パネル展示
「民俗芸能の映像記録作成」(仮)
日時:11月24日(木)10:30∼17:30
会場:東京文化財研究所地下セミナー室
応募方法につきましては 10 月中に芸能部ホーム
ページ(http://www.tobunken.go.jp/~geino/)
に掲載いたします。
お問い合わせ先:Tel: 03-3823-4927(俵木)
E-Mail: hyoki@tobunken.go.jp
9 月 17 日(土)∼ 10 月 10 日(月)、ブリヂスト
ン美術館にて開催の「青木繁《海の幸》100 年」
展において、当研究所城野誠治撮影によるデジタ
ル画像展示を行います。また 10 月 8 日(土)に
は、 城野による講演「記録された虚像と真実―高
松塚から紅白梅図屏風、そして海の幸」がありま
す。詳細はホームページ(http://www.bridgest
one-museum.gr.jp/)または 03-3563-0241 ま
でお問い合わせ下さい。
●美術部・第39回オープンレクチャー
●芸能部・第36回公開学術講座
「中世の寺院芸能」(仮)
日程:12月1日(木)
会場:江戸東京博物館
お問い合わせ先:Tel 03-3823-4928(高桑)
「日本における外来美術の受容」
日時: 11月 4日、5 日、13:30 ∼ 16:00
会場:東京文化財研究所地下セミナー室
定員:各日 80 名 要事前申込み。詳細は、 美術
部ホームページ(http://www.tobunken.go.jp/
~bijutsu/)または 03-3823-4829 までお問い
合わせ下さい。
編集後記
には平仮名・片仮名・漢字・英字など最低でも約 7,000 字が含ま
協力調整官―情報調整室
れ、それらは1文字ずつ作られています。字とは、突き詰めれば線と
線の組み合わせに過ぎませんが、その太さ・角度などの違いから多様
●当研究所で行っている文化財に関する調査・研究や事業は、日常
な変化が生まれ、目的にかなった書体が生まれるところに「形」のお
的な基礎研究に裏付けられています。そうした面をご紹介できるよ
もしろさがあると思います。
(中村明子)
う、本号から「コラム」を設け、文化財に関する諸分野の研究の一
端を掲載することとしました。わかり易く、役に立つコラムにしたい
と考えております。また、本号以降、より速報性にも留意し、各四
TOBUNKENNEWS no. 22
発行日:2005年 8 月31日
発 行:独立行政法人文化財研究所
半期ごとの活動をより早くお知らせできるよう努めたいと思っていま
す。
(山梨絵美子)
東京文化財研究所
●デジタル書体には様々なデザインがあり、書体の選択には、伝達
印 刷:よ し み 工 産 株 式 会 社
編 集:協力調整官―情報調整室・中村明子
する媒体や内容に沿ったものを選ぶことが求められます。1 つの書体
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