国際標準化と産業界への期待

国際標準化と産業界への期待
平川秀治 Ph.D., IEEE Fellow
株式会社 東芝
IEC Technical Committee 100 (TC 100) 国際幹事
ITU-R Working Party 6M (WP 6M) 前副議長
Proceedings of the IEEE, 編集理事会委員
目次
国際標準化での経歴
ITU
IECとISO
対応する国内委員会
地域での国際標準化
国際標準化にかかるコスト
ポストを獲るのには時間がかかる
ITU-R、IECの活動から
国際標準化活動支援予算の矛盾
国際標準化3機関の特徴
地域での国際標準化
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国際標準化での経歴 (1)
ITU:
1991年: ITU-R TG 11/2 (digital studio interface)でレポート ITU-R 711
の改訂を提案。スタジオ内での高速データ伝送(10B1C方式)
1994年: NHK技術研究西澤所長(当時)が議長であったITU-R WP 11B
(Television System)で新勧告案ITU-R BT.1204 をラポータとして作成、
BTAで開発したアナログTVのDG/DP測定精度を向上する規格(勧告)。
1997年3月: ITU-T SG 9 (Cable television and primary & secondary
distribution) でITU-T勧告J.112(その後、ITU-T勧告中でベストストセラー
となるDOCSISケーブルモデムの規格)。
1997年9月:ITU-R TG 11/5 (interactive television)の副議長に。
2000年7月:モバイル放送が使う予定の移動受信用衛星放送方式を勧告
ITU-R BO.1130 にDigital System Eとして追加した勧告が発効した。
2000年9月:ITU-R SG 10(音声放送業務)とSG 11(テレビジョン放送業
務)の合併にともない、ITU-R WP 6M (interactive and multimedia
broadcasting)が設立され、副議長となる。
2007年12月:ラポータとして係わってきた「携帯受信機を使った移動受信
向けのマルチメディア放送システム」の勧告ITU-R BT.1833が発効した。
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国際標準化での経歴 (2)
IECとISO:
2000年11月: ISO/TC 204 (Intelligent Transport Systems)ナポリ会合に
参加、その後、ITU-R WP 6MはISO/TC 204の Category A liaisonとな
る。最近では、2008年4月18日のTC 204ミュンヘン総会に参加。
2003年6月: 日本NC (JP NC) が IEC/TC 100 (audio, video and
multimedia systems and equipment)国際幹事業務をオランダNCから受
け継ぐことを決定。October 2003年10月にIEC/TC 100国際幹事となる
QPがSMBで承認された。
2004年1月1日:IEC/TC 100国際幹事としての業務を開始。
対応する国内委員会:
MIC:
放送業務WG、衛星業務WG、番組伝送WG、
IPTV特別委員会
ARIB:
放送国際標準化WG SGW-M主任
TTC:
IPTV専門委員会
JEITA:
TC100国内委員会
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国際標準化での経歴 (3)
地域での国際標準化活動:
CJK-SITE (日中韓情報電子技術国際標準化フォーラム):

Steering Committee 委員
国内幹事会幹事長
 Home Network Ad-hoc のコンビナ

JISC/CENELEC情報交換会:

国内委員会幹事(JEITA)

ICT Working Group の日本側幹事
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国際標準化にかかるコスト
現在では「空気のよう」になっている標準を作ったのは、殆どが
西欧諸国であり、日本はその恩恵にあずかっている。
標準を作成し維持するためのコスト意識が日本企業には無い。
IEC活動に携わり、規格作成、維持にかなりのコストが必要であることを
体感している。
直接関係する話題ではないが、先日訪問したポルトガルNCの博物館で
は、度量衡などの計測システムの重要性を小学生に教えるコースが備わ
っていた。小さい頃から、標準の基本を教えている。
Siemensでは、売上高の0.1%を標準化の予算として、コストに
組み込んでいる
日本企業で、標準化予算を把握しているところは多くないので
は → 標準化にコストがかかっているという認識が希薄。
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例えば、PCはWintel主導で標準とは関係ない?
JEITAの中では、AV&ITや実装グループは国際標準化に関係
しているが、PCは関係ないか?
AV機器は、最近では日本メーカが先進的な機器を開発、国際標準化も主
導しており、IEC TC 100への寄与も含めて、しっかりした活動を行ってい
る。
それでは、同じJEITAの中で、PC部門は米国の de facto標準 を使ってい
るので、de duré型の国際標準化に関係ないか?
同じJEITAでは、実装部門などでの標準化の恩恵を十二分に受けてい
る。しかし、一部のメンバーのみが関係しているのみで、PC部門として
は強く認識していない。
 PCでもMPEGエンコーダ、デコーダが使われている。同じ会社内でそ
のMPEG規格化に係わっている人の寄与で、現在ではMPEG規格を
使える、という意識がない様だ。PC部門としては、MPEGのIPR対価を
支払っているから、それで十分との認識もある。特許収入と国際標準化
コストは、直接的には関係していない。

7
国際標準化要員は恵まれていない?
Samsungは、標準化部門(研究も含む)に150名を配置し、
72M$を使っている(一人0.5 M$程度)
Samsungの標準化部門は9年前に、会長の判断でスタート、携帯電話の
製造量が増えると予想し(昨年は10億台の世界生産量の15 %程度)、
IPR支払いが過大にならないように準備したとのこと。
数年前から、IPR収支がプラスになっているとのこと。
他の部門よりも恵まれている、という環境があれば、良い人が集まる可能
性が高い。
日本の企業は、Samsungの様な状況とはほど遠いというのが
現状。
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ポストを獲るには時間がかかる (1)
国際標準化の分野では、日本の活動は、英仏独に近づいてはいるが、まだ、
追いついていない。
高柳前IEC会長の講演会資料から:
TC/SC参加数:168(P:166、O:2)
米、英、独、仏、伊、北欧諸国、中、韓に比肩
TC/SC議長:9(第6位)
英29、独28、仏22、米21、伊13、スウェーデン9
TC/SC幹事国:13(第5位)
独28、仏25、米24、英22、伊12
NP提案数:131(2001~2006の合計)(第2位)
米153、独104、仏51、英47、スイス19
I EC大会3回、財政グループA、会長2、副会長1
米国は1995年1月にWTO協定に包含されたTBT、GPAに敏感に反応して
国際標準化の重要性を認識し、幹事国数では既に英国を追い越した
日本のGDPの額から考えて、もっと、貢献が必要 → マクロでは賛成だが、
個別の問題となると動きが鈍くなる。
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ポストを獲るには時間がかかる (2)
国際標準化は、陣取り合戦で、攻めと守りの両面がある。ポスト
は、直ぐには獲れない。
Siemensの様に、既に多くのポストを持っているところは「他の
会社、国にポストを獲られたら大変」として予算を確保している
まだ、ポストを持っていないところは、そのメリットが明確になら
ないことから、積極的に獲りに行かない。
ポストに見合った人材を確保することも、簡単ではない。
日本人の場合、ある程度の年齢から技術者が国際標準化に関係し始め
ることが必要。→ 言葉の問題を解決するには、50過ぎからでは難しい。
多くの日本人は、言葉の力での活動で会議をリードすることは難しく、その
分野での技術的な厚みが必須である。技術で信頼を獲得するのが普通。
英語が母国語の国では、ある程度の技術のバックグランドがあれば、標
準化の活動を勉強するのみで参加可能。技術力よりも、言葉のメリットで、
会議をリードできる。
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ITU-Rでの活動から (1)
ITU-R RA会合でSG議長人事が決まる
2000年イスタンブール、2003年ジュネーブ、2007年ジュネーブのRA会議
に出席した
De factoの権化と思われている米国はSG 1議長と、SG 1以外
の総てのSGに副議長を出し、RAG、CPMも含めて、合計7名
の副議長を出している。
SG 6議長選任では、ドイツと米国が最後までポストを争ったが、
最終的に下りて(SG 1議長は米国人で二期目なので無条件に
継続、SG 6議長ポストはもともと無理筋)貸しを作った。
ITUの活動は、殆どがNTT、KDDI、NHK等のオペレータがSG
議長、副議長を出している。
唯一の例外は、ITU-T SG 16副議長で、三菱電機から。
ITU-R WPレベルでは、WP 6Rでソニー、WP 6Mで東芝から副議長が出
ていたが、今期はゼロになる。ポストが減り、オペレータが占有。
体質的にも、メーカからの人材は育ちにくい。
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ITU-Rでの活動から (2)
中国、韓国がStudy Group副議長ポストを取りに来ている
2007年10月のRAでは、SG 8とSG 9が合併してSG 5となった。議長選任
では最終的に日本から議長を出すことができたが、難産であった。
Head of Delegations 会議で日本にほぼ決まったが、韓国とニュージーラ
ンドは翌日の総会では一転して譲らず(国から指令が出た?)、最終的に
ITU事務総長裁定で決定した。候補全員が第三地域のため、三地域間の
バランスで選任することが出来ない状況であった。
最終的な選任基準は、関連する分野での副議長経験の長さ、となった。
今回は、日本から議長を出すことができたが、次回の候補となる副議長は
2名のみ。議長の任期は2期まで。
日本は、前回の経験から副議長候補を絞り込んだため、結果的に2名に
なった。こんなに副議長が増えるという事前情報・現地判断が無かった。
中国、韓国はSG議長は出していないが、6つのSGで、韓国は5名、中国
は4名(CCV(6つのITU公用語の用語委員会)を含めると5名)のSG副議
長を出した。
両国はITUに限らず、空いたポスト、新ポスト獲得に積極的である。
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IEC活動での体験から
TC/SCのポストを増やすには、二つの場合:新設/既設
日本は新しいTCが新設される場合に、ポスト獲得で後手に回る
ことが多い。
IEC TC 111では、幹事国獲得を目指したがイタリアとなり、日
本は議長を獲得した。積極的に動けば、ポストが獲れる。
いずれにしても、新組織の話が出たら、設立に反対するという
立場では、ポストは廻ってこない。
TC新設の話が表面化する前に、水面下で話が進んでいる。この段階で日
本に相談があれば良いが。
IECでは会長、副会長にはある段階で必ずこの種の話が来る。このレベ
ルの上層ポストを確保しておくことは、TC/SCレベルでのポスト確保にも
重要である。
しかしながら、新TCで何ができるか不明な状況で、民間企業から人を出
すようにという誘いがあっても、対応できにくい状況である。
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プール制予算のジレンマ (1)
国際標準化活動を支援する活動の課題
活動目標の一つが、国際幹事、議長を増やすこと。→ 実現すると問題が
発生。
関係する団体では、次の二つの制度がある。
IEC活動委員会(APC)の国際幹事、議長活動支援制度
JEITAの国際標準化対応支援委員会(CisAP)の国際会議出席支援
活動の成果が出て、幹事国、議長が増えると、支援額が増加す
る。しかし、会員増は無いため、団体としての収入は増えない。
APCでは、今年から、援助額を一律5万円減額した。
JEITAについては、次ページに。更なる問題が。
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プール制予算のジレンマ (2)
最初の課題と関係するが、次ページの資料の様に、
JEITA/CisAP会員は漸減している
会員数がスタート時の約140社から、最近では90社強まで減少した。
何か理由があると退会し、新会員の募集は非常に難しい。→ ボランティア
のみでは、会員数維持は難しく、更に会員増は非常に難しい。
規格のメリットは享受しているが、作成、維持ためのコストは見えない。
JEITA関連でも、国際幹事、国際議長等の役員が増加し、活動は活発化
している。
会員減で収入源、役員増加で支出増で、最近では、毎年1000万円程度
の赤字となっている。
そのため、今年度から支出を大幅に見直し、国際幹事、議長を中心に補
助額を大幅に減額した。
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JEITA/CisAP活動の現状
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国際標準化3機関の特徴
ITU: 国連の専門機関
ジュネーブに三つの建物を占有。
Study Group Secretariat 業務もITU職員。Web、文書交換用のTIESシ
ステムも、ITU自身が管理。
各国のAdministrationが、Member Stateが正会員(勧告案採択前なら
Vetoできる)。
Sector Memberは、ITU-R, ITU-TのSector毎に参加。1/2ユニット以上の
会費を分担している団体で、採択前の勧告案に対するVetoはできないが、
その他の権限は同じ。
その下のAssociateメンバーはSG単位で参加。
ITU-RとITU-Tは、IECとISO以上に異なった作業方法を採用している。
→ 国際標準化4機関と言っても良いほど、ITU-TとITU-Rの作業手順は
異なっている。
ITU-Rは、最終的には周波数の割当を決める機関である。ITU-Tは無くな
っても、ITU-Rの機能を無くすことは不可能。
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ITU-T の A-Series 勧告は参考になる
4つの(ITU-R, ITU-T, ISO, IEC)の中では、ITU-T の作業手順
を決めている A-Series勧告がロジカルで参考になる
勧告A.5に準拠した団体であると認定されると、その団体が作成した規格
類を Normative Reference に記述できる。
勧告A.5 に適合するための条件を明示し、認定されるとリストに載せる。
関係する団体では日本のARIB、TTC、JCTEA、米国のSMPTE、TIAなど
がある。
特許のRAND条件、規格の最終承認のプロセスの公平性などが条件。
少なくとも、IECでは、Normative Reference として書くことができる団体
は、TCレベルで決めることができる。

TCの国際幹事としては、IECの方法は、やりやすいと言える。

しかし、ITUの勧告と、IEC、ISOの規格では、Normative Reference に
SDOの規格番号を書く意味合いが大きく異なることに注意が必要であ
る。
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ISO、IEC は CEN、CENELEC の影響が強い
IEC、ISOではCategory A Liaison 団体を優遇している。しか
し、条件は「国単位での投票」である。
ISOではCEN、IECではCENELECを優遇しており、国単位の投票が米国
系のIEEE、SMPTE、IETF等を格下と扱う根拠となっている。
例外は、ECMAで企業単位の会員であるが、Category A Liaison団
体に認定されており、規格の提案権がある。
 CEN、CENELECは、一国一票ではなく、ドイツ、フランス、UKなどの票
数が多い、重み付け投票である。
IEC TC 100では、ITU-TがA.5として認め、ITU-RがMoUで特別扱いして
いるSMPTEをCategory A Liaison団体に認めるように申請したが、個人
会員が投票権を持つことを理由に、中央事務局が申請を却下した。
ITUにはSector Member制度もあり、国単位の投票に拘っていない。

ETSIは企業会員であり、同じ欧州域内の標準化団体である CEN、
CENELECと異なる意志決定の仕組みを持つ。
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地域での標準化活動
JISC/CENELECでの体験から
欧州で大きなPJが構想先行になる理由 → 日本と違って「阿吽の呼吸」
で解りあえる環境ではない → 総て、話し合いから始まる → 準備段階
に多くの時間を使う → 構想で合意してからスタート
欧州発で成功したPJでは、既存の団体、少数の関係者が主導でプロジェ
クトを進める
 例えば、欧州のデジタル放送規格を主導したDVBは、EBU (European
Broadcast Union)が核となり、放送業界をまとめた。
 GSMでも、少数の関係者が下準備をして、固まった段階で一般参加を
求めたという話を聞いたことがある。
JISC/CENELEC ICT WG の欧州側責任者は、ITU-R WP 6S (当時は、
JWP 10-11S)で、DVB-RCSの勧告案をつくるキッカケになった人であり、
十年以上前からの知り合いである。この勧告案を最終的に新勧告としてと
りまとめたのが小職という、奇遇な間柄である。
 この会合で、久しぶりに顔を合わせることになった。
 現在は、CENELEC TC 206の議長で、DVB-RCSを使ったSMATVの
普及に熱心である。会議以外でも、NAB、IBCで必ず顔を合わせる。
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アジア地区は、欧州と異なる
アジア地区でも、地域標準化団体が必要という話はあるが、な
かなか難しいのが現状
TC 100のP-Memberは、いわゆるアジア地区は日本、大韓民
国、中華人民共和国の3ヶ国、オーストラリア、インドを含めて5
ヶ国、米国地区にはアメリカ合衆国、メキシコの2ヶ国、残りは欧
州で13ヶ国(トルコを含む)
IEC TC 100国際幹事の立場で、アジア地区のNCを訪問してい
る。
アジア地区のO-Memberのシンガポール、タイ王国
会員以外のマレーシア連邦、ベトナム共和国
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訪問したIEC国内委員会
P-メンバー:
Australia, Austria, Belgium, China, Denmark, Finland, France,
Germany, Italy, India, Japan, Rep. of Korea, Mexico, Netherlands,
Romania, Russian Federation, Turkey, Ukraine, United Kingdom and
United States
O-メンバー:
Belarus, Bulgaria, Croatia, Czech Republic, Egypt, Greece, Hungary,
Ireland, New Zealand, Norway, Poland (訪問当時はP-メンバー),
Portugal, Serbia, Singapore, Slovakia, Slovenia, South Africa, Spain,
Sweden and Thailand
その他:
Malaysia, Vietnam
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CJK-SITE
中国、韓国とも、CJK-SITEの枠組みには積極的に賛成
韓国は、IEC TC/SCの対応委員会は、民間機関に下ろされていない。

Samsung、LGなどの企業からの参加が活発にならない
中国は、CJK-SITEに関しては責任者が明確になっている

中国で「この件の責任者は誰ですか」と聞くと、必ず「私です」ということ
になるので、責任者を見つけることは、他国に較べて難しい。
企業からの参加も、現在までのところ、キーメンバーが参加している。
この案件は、三カ国のSMB委員のコネクションがあり、上手く立ち上がっ
た。

日本では、国際的な合意より、国内組織の立ち上げに時間を要
した。
23
ご清聴、ありがとうございました
平川 秀治
shuji.hirakawa@toshiba.co.jp