COP21(パリ協定)のもたらすもの

COP21(パリ協定)のもたらすもの
~ 実行計画(事務事業編)+CMS+IT活用の時代に ~
平成 27 年 11 月 30 日から 12 月 13 日まで、フランス・パリにおいて国連気候変
動枠組条約第 21 回締約国会議(COP21)が開催され、「パリ協定」が採択された。
日本は、いつにも増し積極的に発言し、環境大臣は次の演説で存在力を発揮した。
すべての国が参加する法的合意をできる限り実効性あるものとすることを改めて
強調し、長期目標の設定や目標の提出・見直しのサイクル、レビューの仕組みを法的
合意に位置付けることを主張した。
また、できるだけ早期に地球温暖化対策計画を策定し、排出削減への取組を着実に
実行していくこと、先日決定した適応計画に基づき具体的な適応策を実行していくこ
と、2020 年に官民あわせて年間約 1 兆 3 千億円の気候変動関連の途上国支援を行
うこと、革新的技術開発を強化していくこと等を発表した。
出所:http://www.mofa.go.jp/mofaj/ic/ch/page18_000435.html
パリ協定は、第 2 条及び第 3 条で、
「この協定は、世界的な平均気温上昇を産業革命
以前に比べて 2℃より十分低く保つとともに、1.5℃に抑える努力を追求すること、適
応能力を向上させること、資金の流れを低排出で気候に強靱な発展に向けた道筋に適合
させること等によって、気候変動の脅威への世界的な対応を強化することを目的とす
る。」としている。
これまで気温上昇を抑えることが出来なかったことを考慮すれば、2 度上昇までを許
容範囲に、1.5 度以内の上昇を目指すことは容易ではない。そして、この協定では、
「差
異のある責任」を旨とし、出来る人は出来るだけ、出来ない人もそれなりに努力するこ
とを示している。つまり、先進国で大量排出国のひとつである日本の地方公共団体にお
いても、規模や特性に応じて、これまで以上の地球温暖化対策の推進が求められること
だろう。
また、参加国は、長期目標達成に向けた全体的な進捗を評価するため、協定の実施を
定期的に確認することとしており、最初の世界全体の実施状況の確認を 2023 年に、
その後は 5 年ごとに行うこととしており、PDCAサイクルのマネジメントシステム
の併用が明確になった。
近々、国の地球温暖化対策計画も公表され、これに基づく地方公共団体での取組強化
は必須の状況だ。これまでも地方公共団体は、地球温暖化対策地方公共団体実行計画(事
務事業編)(以下、
「実行計画」という。)を策定することが温対法に基づき義務付けら
れており、地球温暖化対策を推進してきた。高い成果を発揮している団体もあれば、そ
うでない団体もある。
しかし、パリ協定により、2023 年(平成 35 年)には日本の成果が試されることにな
った。特にこれからの 5 年間程度の取組が重要になるだろう。
環境省では、既に 50 億円の事業費で「(新)地方公共団体カーボン・マネジメント
強化事業」を実施する段取りを整え、取組の強化を図ろうとしている。本事業の背景・
目的には、次の主旨が明記されている。
地方公共団体の公共施設を含む「業務その他部門」については、2013 年度比で
約 40%減が目標となっている。
その達成方策として、地球温暖化対策推進法に基づく「地方公共団体実行計画
事務事業編(以下単に「事務事業編」という。)に基づく取組の推進」が掲げられて
いるが、現行の事務事業編では上記のような高い目標が掲げられている例はな
い。
そこで、全ての地方公共団体に対し、事務事業編及びこれに基づく取組を大胆
に強化・拡充し、取組の企画・実行・評価・改善(以下「カーボン・マネジメント」とい
う。)について、組織を挙げて不断に施するよう促す必要がある。
出所:https://www.env.go.jp/guide/budget/h28/h28-gaiyo-2/018.pdf
ここでは、
① 業務部門目標の実現に向けた高い数値目標を設定した計画を策定すること
② 設定目標を実現できる取組を示した計画を策定すること
③ 計画に示した目標や取組を実現すること
※その手法として、マネジメント(進行管理)の強化が求められている
国が取り得る手段と地方公共団体で取り得る手段には、当然、かい離がある。予算も
規模も、何もかも違うのだから、国の示す目標値と同じ数値水準を設定できる自治体も
あるのかも知れないが、そうでない団体の方が多くなるのは当然だろう。
しかし、全ての地方公共団体は、業務部門の 40%削減目標の実現に向けて、何をな
すべきか、そして、具体的に何が出来るのか、を真剣に考え、計画に示し、その実現の
ために取組む必要がある。
ISO14001 では、計画づくりにおいて、
「技術上の選択肢、並びに財務上、運用上及
び事業上の要求事項を考慮すること」を基礎としている。簡単に言えば、
「計画を策定
する際は、最善を尽くす」ということ。これからの実行計画(事務事業編)では、このよ
うなスタンスが必要になってくる。
そして、最善最良の計画であっても、実現しなければ絵に描いた餅と同じ。実現させ
る手段であるマネジメント(進行管理)が重要であり、これが、カーボンマネジメント
システム(CMS)となる。CMSは、従来から進められてきたEMS(環境マネジメ
ントシステム)の地球温暖化対策に特化したものと考えれば分かり易い。
EMSからCMSに切り替えたとしても、地方公共団体の場合は、高度に分業が進ん
でいるので、部門任せの管理だけでなく、内部統制機能として内部監査や第三者評価の
ような客観的に評価する機能も必要だろう。今のところCMSに関するガイドラインは
ないけれど、EMSのガイドラインを参照しながら、効果的な仕組みをつくる必要があ
る。
さらに、多数の部局を束ねた仕組みになるため、IT(情報技術)の活用は不可欠だ。
エネルギーデータ等に基づく温室効果ガス排出量の算定だけでも、結構な作業負担が発
生するが、それだけでなく、各課・施設等での取組状況を管理していくにも、IT活用
は欠かせない。
つまり、これからの地方公共団体では、
「実行計画(事務事業編)+CMS(EMS)+
IT(情報技術)
」が必要不可欠になっていくだろう。
(平成 28 年 1 月 鈴木明彦)
株式会社 知識経営研究所
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すべての国・地域が参加して地球温暖化対策実施 「パリ協定」
― 国連気候変動枠組条約第 21 回締約国会議(COP21)で採択―
2020 年以降の地球温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」が、昨年 12 月 12 日夜、パリで開催
された国連気候変動枠組条約第 21 回締約国会議(COP21)で採択されました。条約に加盟する 196
か国・地域すべてが参加する初めての温暖化対策の国際的ルールとなります。
1.パリ協定の意義
パリ協定は、1997 年に採択された京都議定書以来、18 年ぶりの温暖化対策の国際枠組みです。
京都議定書は、先進国のみ温室効果ガスの排出削減を義務づけしました。
「温暖化の責任は先進
国にある」とする途上国の主張を反映した結果でしたが、アメリカは経済を損なうとして途中
から離脱、一方で削減義務がない中国やインドなどの排出は急拡大し、議定書は実効性を失っ
ていました。しかし、温暖化の脅威は人類にとって共通の課題であり、特定の国の努力だけで
は解決できません。パリ協定は、2 大排出国のアメリカや中国を含め条約に加盟しているすべ
ての国・地域の全員参加型の枠組みとなった点に最大の意義があります。
また、新枠組みの名称に京都議定書のような「議定書」を使わず「協定」としました。全て
の国・地域の参加を目指すため、削減目標の策定や 5 年毎に見直すことを義務付ける一方、名
称は「協定」とし目標達成の義務付けは盛り込まれませんでした。
2.パリ協定の要旨
以下はパリ協定の要約です。
<目的>
・世界の平均気温の上昇幅を産業革命前の水準に比べて「2℃」未満に抑えるとともに、
「1.5℃」未満に収まるよう努力する。
・食糧生産を脅かさない形で、気候変動の悪影響への適応能力を向上させ、温室効果ガスの
排出を低く抑えたままでの開発を促進させる。
<温室効果ガス削減>
・世界全体で出来るだけ早い時期に排出量増加を頭打ちにし、今世紀後半に人為的な排出量
と(森林などによる)吸収量とのバランスを取って実質的な排出をゼロにすることを目指
す。
・全ての国は、自主目標を作成・報告するとともに、目標を達成できるよう国内対策をとら
なければならない。
・各国の自主目標は、その国の過去の目標より向上させ、可能な限り最も高い野心を反映さ
せたものにする。
・全ての国は 5 年毎に各国で決めた自主目標を条約事務局に報告しなければならない。
<温暖化の被害軽減策と救済策>
・温暖化への適応能力や強靭性等を高めるような世界全体の目標を設定する。
・全ての国は、異常気象など温暖化の悪影響に関連した被害や損失を回避したり、最小限に
抑えたりすることの重要性を認識し、対策や支援を強化する。
<途上国への資金支援>
・先進国は途上国に対し、温室効果ガス削減、被害軽減策のための資金を拠出しなければな
らない。先進国以外の国も自主的な支援を行うことが推奨される。
<透明性の確保>
・相互の信頼醸成と対策の実効性を向上させるため、各国の対策や支援の中身について透明
性を高める枠組みを新たにつくる。
<世界全体の現状評価>
・締約国会議は、協定の履行状況を定期的に評価しなければならない。
・各国は 2023 年に現状評価を行い、その後も 5 年毎に現状評価を行わなければならない。
<発効要件>
・パリ協定は、少なくとも 55 か国が批准し、それらの国の排出量の合計が世界全体の 55%
に達した日から 30 日後に発効する。
なお、次回の COP22 は、今年 11 月にモロッコのマラケシュで開催されることになっています。
パリ協定では、削減目標達成のための国内対策をとることが義務づけられました。日本は昨
年 7 月、国連に「2030 年度に 2013 年比 20%減」の自主目標を提出しています。パリ協定を踏
まえ、日本政府の地球温暖化対策推進本部は、2030 年度までの温室効果ガス削減目標を達成す
るため、今春までに新たな「地球温暖化対策計画」の検討を始めました。対策計画の策定に際
しては、パリ協定が掲げた「今世紀後半の排出量実質ゼロ」に沿い、化石燃料に依存しない「脱
炭素」社会を目指した長期的な視点での対策を期待したいと思います。
以上
文責 黒柳 要次
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