持続的農業と提携にもとづく農山村地域の生存戦略の検討 ―岩手県

持続的農業と提携にもとづく農山村地域の生存戦略の検討
―岩手県久慈市を対象地として―
○岸岡健太(岩手大院)・伊藤幸男(岩手大)
1. 背景と目的・方法
3.11 大震災を契機に改めて都市、農山村ともどう持続可能な将来像を描くか問われている。そうした
中、岩手県北上山地の山村が過去に有していた、雑穀・牛・森林などの地域資源を複合的に有効活
用してリスク分散を図る生存戦略(岡惠介,2008)が注目される。また、有機農家と消費者間の「提携」の
ように、地域資源の有効活用と持続性・経済性を両立させる仕組みも必要である。
本研究の目的は北上山地北部に位置し山村の性格が強い久慈市山形町・山根町を対象に、持続
的農業と提携に基づく生存戦略の展望を考察する事である。方法としてまず地域農業の変遷を資料
や統計から確認する。次いで提携に適する作目として、無農薬栽培が一般的で健康食としても注目さ
れるが手間と価格の面から衰退しつつある雑穀に注目し、生産状況の聞き取り調査を行う。また、提携
消費者として当地の農産物や文化の価値を理解してくれる人を想定し、山形町の山村文化を活かした
体験交流拠点である「バッタリー村」の来訪者に対するアンケート調査を、イベント開催時に行なった。
2. 本論
対象地では戦後は開田が進行し、農業センサスによると対象地の蕎麦等も含む雑穀栽培面積は
1965 年の 384ha(収穫面積)から 2005 年に 15ha(販売面積)へ減少した。2005 年の当地の主作目は
肉用牛と施設野菜であるが牛肉輸入自由化・石油価格高騰・震災の影響を受けている。
雑穀生産者への聞き取り調査は、山形町の 14 戸、山根町の6戸で行なった。イナ黍は最も多い 13
戸で栽培され、戸数では高黍、稗、粟、ホウキ黍の順に多かった。雑穀は全戸で無農薬だが、化学肥
料の使用・他作目での農薬使用はある。収穫後の用途は山形町で自給用 13 戸:出荷用6戸で自給用
が多かった一方、山根町では4:5であった。販売先は山形町は道の駅(3戸)、市外業者(3)等で、山
根町では新山根温泉の産直(5)、月1回の市(2)などであった。道の駅や産直、市での価格は精白品
で 950 円~1,250 円/kg で、市外業者に売る未精白品は高黍で 300 円/kg である。価格について生産
者からは、「割には合わないがこの地域ではこの値段で無いと売れない」あるいは「(自給用の余りであ
るから)・(地域おこしの為でもあるから)値段は関係ない」などの感想があった。一方で道の駅での聞き
取りでは雑穀の売行きは好調であり、収穫期前の 8 月頃までに品物が少なくなるという回答もあった。
消費者に対するアンケートは、総回答 75 人中の 69%が久慈市民であった。雑穀を食べる頻度は月
数回が 37%、週数回以上が 31%で、食べ方は雑穀ご飯が 71%であった。購入する種類はブレンド品が
19%で最も多く、産地は市内産が 48%、購入場所は産直が 48%だった。購入タイミングは「気分次第」が
47%、「無くなり次第」が 32%であった。定期購入での生産者応援に対する興味は「興味が湧く」「中身次
第」を合わせ 52%で、仮に定期購入する際に重視する点は「信頼感」と「無農薬無化学肥料」が 17%で
最も多い。その中で価格については「安さ」が 4%であった一方、「持続可能な価格」は 8%であった。
今後の課題は、雑穀が過小評価されており地域で価値を高め共有する必要性、都市対象のマーケ
ティングの必要性等である。今後、多様な地域資源に着目し、その適正な価値を産消ともに共有する
互恵的な相互扶助関係を形成する事で、持続性・経済性を両立する事が可能であると考えられる。
3. 引用文献
(1) 岡惠介「視えざる森の暮らし 北上山地・村の民族生態史」大河書房,2008 年,192~194 頁
(連絡先:岸岡健太 kasayama_kenta@yahoo.co.jp)
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