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読書週間にちなんで、豊かな自然や風土の中で
育まれた、ふるさと とやまの文学作品をご紹介
します。
この機会に、富山を描いた文学作品に対する
理解をより一層深め、富山の魅力を再発見して
いただければ幸いです。
七夕の町・・・井上靖 「ふるさと文学館」
終戦翌年の昭和21年、死に場所を求めて富山駅に降りた主人公は、駅前の
粗末な喫茶店で店の娘に出会う。娘もまた、死を考えていた・・・。作家井上靖
は戦後、富山を訪れた折に高岡七夕まつりを見物し、自身の見聞も生かし、終
戦間もないころの富山と高岡を舞台に、戦争が人々にもたらした心の荒廃と回
復を描いている。
風の盆恋歌・・・高橋治 「風の盆恋歌」
直木賞作家、高橋治の「おわら風の盆」を舞台にした長編
恋愛小説。テレビドラマや歌にもなった。金沢での青春時代に
心を通わせながら、その後別々の人生を歩んだ男女が主人公。
パリでの再会をきっかけに、「風の盆」の夜、八尾で忍び会う。
沈める寺・・・木崎さと子 「沈める寺」
氷見市の浄土真宗の寺、光照寺を中心に、氷見の自然と歴史、信仰に生き
る人の営みを織り込んだ長編小説。少女時代を高岡で過ごした作家、木崎さ
と子のこの小説は、「青桐」で芥川賞を受賞した二年後に発表された。
街道をゆく・・・司馬遼太郎 「街道をゆく4」
五箇山の合掌造りの一つ南砺市平の村上家。築四百年
という伝統家屋に、ゆっくりと時間が流れていく。
五箇山の歴史や村上家の造りを的確な描写で記す。
もう一度会いたい・・・小杉健治 「もう一度会いたい」
南砺市の城端曳山祭を舞台にした書き下ろしミステリー。
ひきこもりから立ち直ろうとする青年と、昔の恋人に
「もう一度会いたい」と願う老人を軸に物語が展開する。
北国紀行・・・柳田国男 「定本 柳田国男集 第3巻」
日本の民俗学の祖、柳田国男が明治42年に行った旅の日記。1カ月あまり
かけて岐阜や富山、石川などを移動し、自然風土や暮らしぶりの違いなどを情
感あふれる文章につづっている。県内には五箇山から入り、城端に抜けると、
県庁や黒部峡谷なども訪ねている。
富山の薬と越後の毒消し・・・坂口安吾
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昭和30年に県内取材を行って書かれたエッセイ。広貫堂などを回り「越中売
薬」の状況を詳しく調べている。宇奈月温泉の延対寺荘には坂口安吾の直筆
色紙が展示されている。
立山の精霊市・・・辺見じゅん 「花子のくにの歳時記」
辺見じゅんは幼年期を富山で過ごし、立山の伝説や越中の
民話を聞かされて育った。父は角川書店創業者の角川源義。
各地の失われゆく民話を取材し、日本の四季の美しさや
人間の営みを描いたエッセイ集「花子のくにの歳時記」を、平成3年に刊行する。
その一編「立山の精霊市」で、奥深い立山信仰の魅力や、故郷を離れてなお
身近に感じる立山への思いをつづっている。
劍岳<点の記>・・・新田次郎 「劍岳<点の記>」
映画化にもなった新田次郎のこの小説は史実に基づく。
陸軍参謀本部陸地測量部の柴崎芳太郎らが明治40年、
日本地図の空白を埋めるために剱岳の初登頂と測量に
挑んだ日々をつづっている。
天の夕顔・・・中河与一 「天の夕顔」
京都の下宿で出会った男女の純愛を描いた中編小説。
映画やドラマになった。岐阜との県境に位置する有峰の
大多和峠にこの「天の夕顔」の文学碑がある。
高熱隧道・・・吉村昭 「高熱隧道」
北アルプスに降り注ぐ雤や雥解け水を集め、日本海へと流れ
込む黒部川。急流と豊富な水量を利用しようと多くの発電所が
建設されてきた。とりわけ昭和11年に始まった黒部川第三発電所の建設工事
は、過酷な自然に阻まれ、困難を極めたことで知られる。
作家、吉村昭はこの工事を徹底して取材し、ドキュメンタリー小説の名作「高熱
隧道」に仕上げた。
黒部の太陽・・・木本正次 「黒部の太陽」
昭和31年に関西電力が始めた黒部川第四発電所と
黒部ダムの建設は、7年の歳月を要した。
総工費は513億円、延べ1千万人が工事に投入され、171人の殉職者を出
した。「世紀の大事業」と言われたこの工事を克明に描いた小説。
映画化もされ、空前の大ヒットを飛ばした。
山と渓谷・・・田部重治 「新編山と渓谷」
レジャーとしての登山が広まった大正期、立山にも続々と人が
やってきた。富山市出身の英文学者、田部重治は、大正8年
山岳随想集「日本アルプスと秩父巟礼」を出版した。後に「山と渓谷」と改題さ
れ、戦後も延々と読み継がれてきた名作である。この名は、昭和5年に創刊さ
れ現在も発行を続けている山岳雑誌の名前としても知られる。
雲の子供・・・大井怜光 「天の一方より」
称名滝の滝つぼから立ち上る水煙をテーマにした童話。立山の自然美を变情
豊かに描き、幻想的な雰囲気を醸す。北日本新聞社の前身である高岡新報、
富山日報の記者であった大井怜光はのちに童話作家として名を残した。
恐怖の骨格・・・森村誠一 「恐怖の骨格」
山岳愛好者として知られる人気作家、森村誠一の立山連峰を
舞台にした推理小説。冬山という自然の巨大な密室の中で、
エゴをむき出しにした人間たちが生死を賭けて争う。
崩れ・・・幸田文 「崩れ」
72歳だった幸田文が1年余り、全国各地の「崩れ」の現場を
訪ねて書いたルポタージュ。立山カルデラなど9カ所を訪ねた。
オロロのいる村・・・遠藤和子 「オロロのいる村」
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南砺市福光地域の刀利ダムの建設により廃村になった中河内村を舞台のモ
デルにした児童文学。山あいの分校に、新米の女性教員が産休した教員の
代わりにやって来た。ダム建設に伴う離村問題の渦中にある村を背景に、新米
教員と児童たちの心の交流をつづる。著者は富山市の作家。
螢川・・・宮本輝 「螢川」
「泥の河」「道頓堀川」とともに川三部作として知られる。
思春期を迎えた少年の淡い恋や、父の死などを变情豊かに
描いた。背景には昭和30年代の富山市が、いたち川を中心に
描写されている。昭和53年に芥川賞を受賞した。
山椒大夫・・・森鴎外 「山椒大夫」
朝日町宮崎から境、新潟の市振を経て、天下の険「親丌知」
へと続く道筋は、かつて北陸道最大の難所といわれた。
断崖絶壁のわずかな波打ち際を通るとき、親は必死のあまり子を忘れ、子も親
を顧みる余裕がなかったという。旅人が命懸けで歩いたこの地は、安寿と厨子
王姉弟の伝説ゆかりの場所である。明治の文豪、森鴎外はこの伝説から「山
椒大夫」を書いた。
蜃気楼・・・柴田錬三郎 「わが青春無頼帖」
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富山湾に現れる蜃気楼。あやしく揺れ動き、常に変転する自然現象のイメージ
を鮮やかなストーリー運びによって作品に重ねていく。直木賞作家、柴田錬三
郎の短編小説。
押し絵と旅する男・・・江戸川乱歩 「江戸川乱歩全集 5」
探偵小説、推理小説作家、江戸川乱歩の短編小説。
乱歩が訪ねた魚津の蜃気楼をモチーフにしている。
越のむらさき・・・畷文兵 「越のむらさき」
天平時代の越中を舞台にした小説。都の役人墨麻呂は、越中奈呉の里の国
分寺の落慶式の副使に抜てきされるが、大失態を演じてしまい・・・。
漂民宇三郎・・・井伏鱒二 「漂民宇三郎」
日本海の荒波を越えて昆布やニシンを運び、巨額の富をもたら
した北前船交易。“倍倍”ともうかることからバイ船とも呼ばれた
北前船だが、繁栄の歴史の影には、死と隣り合わせの船乗りたちの悲劇があ
った。富山藩の能登屋が所有していた大型の北前船、長者丸。天保9年、松
前を出た長者丸は三陸沖で強風に遭い、太平洋に流された。漂流生活の中、
乗組員はのどの乾きと飢えで衰弱し、一人、また一人と絶命した。「漂民宇三
郎」は、井伏鱒二が長者丸漂流という史実を基に書いた長編小説。
日本之下層社会・・・横山源之助 「日本之下層社会」
魚津市出身のジャーナリスト、横山源之助が書いた、日本の
社会学の古典といわれる名著「日本之下層社会」。
低賃金・長時間労働を強いられた都市貧民や職人、小作人
らの悲惨さを伝える先駆的ルポタージュ。
埋れ井戸・・・三島霜川 「三島霜川選集 上」
運命を前にしてひたむきに生きる少年と少女を描いた变情的な物語。
黒百合・・・泉鏡花 「日本の文学 4」
佐々成政の愛妾・早百合姫の伝説を背景にした物語。黒百合の伝説は江戸
時代に広まり、今もよく知られている。前半は富山市内が舞台となり、総曲輪、
四十物町、旅篭町などが登場する。
蒼龍の系譜・・・木々康子 「蒼龍の系譜」
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幕末から明治に移る激動の時代を背景に、高岡の蘭方医・長崎浩斎、言定、
志藝二(林忠正)の三代とその周辺を描いた長編小説。
河原の対面・・・小寺菊子 「明治文学全集 82」
主人公の少女の視点で、父が招いた一家の悲劇を追う。湿り気を帯びた北陸
の自然の移ろいや、七夕流しなどの風習、仏教信仰に深く根差した家の風景
を重ねて描いている。
紋章・・・横光利一 「日本文学全集 32」
氷見沖で豊富に捕れるイワシから醤油を作る―名門家系の「紋章」を背負い、
研究に打ち込む男の奮闘と挫折を描く。
呉羽の羅漢山・・・水上勉 「呉羽の羅漢山」
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富山平野を見下ろす呉羽山の中腹、長慶寺の五百羅漢が舞台。仏教信仰
のあつい越中の風土、五百羅漢をモチーフに、人間の美しさと悲哀を描く。
鶴のいた庭・・・堀田善衛 「歯車・至福千年
堀田善衛作品集」
堀田善衛の古里、伏木を舞台に生家の没落を描いている。
生家は日本海側でも由緒ある回船問屋、「鶴屋」の屋号を
持っていた。曾祖父や下働き、庭で飼ったつがいの鶴の
エピソードをつづっている。
山の魂・・・三島由紀夫 「鍵のかかる部屋」
氷見市出身の実業家、浅野総一郎が庄川水力電気を
創業してダムの建設準備を始めると、流域の木材業者が
中心となって反対運動を起こした。当時は飛騨の山中から
切り出した木材を川に流して運ぶ「流送」が盛んで、町は流木の一大集散地と
してにぎわっていた。ダム建設は流送に携わる多くの住民にとって死活問題。争
いは訴訟に発展し、「庄川流木事件」として全国の注目を集めた。この事件に
関心を寄せた作家、三島由紀夫が事件をモデルに描いた短編小説。
無告の記・・・岩倉政治 「無告の記」
貧しい農家に生まれた男の半生を描いた物語で、主な舞台は架空の村「高
波」。岩倉が生まれ育った高瀬村(現南砺市高瀬)がモデルとなっている。
貴族の階段・・・武田泰淳 「現代日本の文学 37」
2・26事件を題材にした長編政治小説。華族の娘で17歳の主人公、西の丸
氷見子の冷徹な目を通し、政治の内幕で暗闘する華族や軍人らを生々しく描
く。
戦争の夏の日・・・吉本隆明 「戦争の夏の日」
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東京工業大の学生だった昭和20年、徴用動員されて魚津市の日本カーバイ
ト魚津工場で働いていたことを振り返ったエッセイ。
三夢三話・・・瀧口修造 「三夢三話」
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詩人で美術評論家、瀧口修造の作品。自身の富山市の生家が登場する。
美しき氷河・・・室生犀星 「現代日本の文学 14」
小矢部川の左岸に玉川町という歓楽街があった。小さな川が流れる通りには
料亭が軒を連ね、松並木につるされたちょうちんが町をあでやかに彩っていた。
往時の玉川町を舞台にした小説。
長い道・・・柏原兵三 「長い道」
作家の疎開体験を投影した長編小説。父の故郷、
入善町吉原に疎開した小学5年の主人公は、優等生ゆえ
同級生の丌興を買う。登下校の道で受ける仕打ちは、主人公の心に暗い影を
落とす。権力争いや友情の芽生えを通じて成長していく少年たちの人間模様
が、北陸の濃密な風土を背景に描かれている。「少年時代」の名で藤子丌二
A が漫画化し、篠田正浩監督が映画化した。
雄○
越中・井波-わが先祖の地・・・池波正太郎 「食卓のつぶやき」
父方の先祖が井波の宮大工だったことや、井波を訪れた
いきさつ、利賀の仕出し屋や井波の料亭、瑞泉寺などで地元
の人々と触れ合った体験をつづるエッセイ。
青桐・・・木崎さと子 「青桐」
少女時代を高岡で過ごした満州生まれの作家、木崎さと子は、高岡を舞台設
定の基にして書いたこの作品で、芥川賞を受賞した。
みだらな儀式・・・源氏鶏太 「みだらな儀式」
富山市出身の直木賞作家、源氏鶏太が、自身が生まれ育ったいたち川周
辺を舞台にした一編。
延段・・・須山ユキヱ 「延段」
北陸の雥を背景に、さまざまな別離や出会いを経てきた女性の情念を鮮やか
に描いた短編小説。
浮標燈・・・野村尚吾 「浮標燈」
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米軍占領下にある昭和20年代の混乱の中、東京と氷見を舞台に愛と死を描
いた長編小説。
好色の魂・・・野坂昭如 「好色の魂」
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富山市出身の出版人、梅原北明は、活字メディアが公権力の厳しい検閲下
にあった大正末期から昭和初期、弾圧に屈せず、わが道を貫いた。東京を中
心に編集者や翻訳家、作家として活躍した人物。没後、作家の野坂昭如が
「好色の魂」で反骨の越中人の生涯を描き出している。
時を呼ぶ声・・・久世光彦 「時を呼ぶ声」
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小学4年から高校卒業までの富山で過ごした日々を、その後の人生と重ねな
がらしたためた自伝的エッセイ。
愛の流刑地・・・渡辺淳一 「愛の流刑地」
書き出しから、越中八尾の風の盆がつづられる。
おわらの情景は人物造形のみならず、物語全体の印象と
鮮やかに結びついて熱く静かな余韻を残す。
ベストセラー作家、渡辺淳一の作品で、映画やドラマにもなった。
天の夜曲・・・宮本輝 「天の夜曲」
少年時代を過ごした昭和31年の富山市が舞台。
戦後社会を生きる父と子を描いた大河小説「流転の海」の
第4部。
※ ▲は現在出版されていない本です。