知的財産講議(第五回) 弁理士 高島敏郎 1.本日のTOPIC 2.新規性喪失の例外 3.先願及び拡大先願 4.その他の特許要件 5.特許出願の手続 特許庁のHPのフローチャートから 1.本日のTOPICS (1)デジタルカメラ関連技術で特許を有する米国A社が、米国Cd社に対す る侵害訴訟で敗訴した事件(平成18年11月5日) A社は、同社のデジタル画像の記録や検索に関する特許を侵害されたと して、2004年5月に日本のS電機をITC(米国際貿易委員会)とデラウェア 州連邦地裁に提訴、続いて日本のSO社及びCa社と米国のCd社など多 数のデジタルカメラとカメラ付携帯電話のメーカーを提訴した。その後、 2004年後半から2005年にかけて、日本企業はA社と和解しライセンス料を 支払ったが、Cd社に関しては訴訟が続いていた(読売新聞の記事より引 用)。 (2) ビートルズの曲を生演奏したスナックの経営者が著作権法違反で逮捕 された事件(平成18年11月10日) 著作物であるビートルズ等の音楽を、業として無許可で演奏したため、 著作権の侵害となった。 <著作権の侵害にならない場合> ・個人が楽しむ目的での複写や演奏(但し、他人に譲渡は禁止)(30条) ・学校における試験問題としての複製(36条) ・「引用」としての利用(32条) ・学校における複製利用(改正35条) → 教員の他、学生も一定条件下で著作物のコピーが可能になった 例;ダビングしたTV番組を授業で上映する行為 学生が新聞や論文の一部をコピーし発表する行為 学生が資料等を引用して論文を書く行為等 但し、サークル・研究会・学校のHP等に他人の著作物を複製利用する行為 や購入を前提としたテキストの一部をコピーして使う 行為は許諾が必要 <学園祭において、演奏・上映する行為> 非営利かつ無料の場合には、公に演奏・上映することができる。 2.新規性喪失の例外 ① 趣旨 法は、特許の要件として新規性(29条1項各号)を要求。しかし、この原則を厳 格に適用すると、発明者にとって酷となる場合がある。 そこで、法は、一定要件下で、新規性を喪失した発明について、例外的に、新規 性は喪失しなかったものとみなす規定を設けている(特許法30条) ② 対象となる行為 (i) 新聞、雑誌、論文等の刊行物への発表。インターネットを介した発表を含む) (ii) 学会での論文発表(指定学術団体の学会に限る) (iii) 展示会や博覧会への出展(私的なものは特許庁長官指定が必要) (iv) 意に反した公知 「意に反した」 → 窃盗や脅迫等が該当 但し、Eメールは注意が必要 ③ 手続き (i) 新規性を喪失するに至った日から6月以内に、適用を受けたい旨を主張して 特許する。 (ii) 法定の対象となる行為に該当することを証明する書面を、出願の日から30 日以内に特許庁長官に提出 「証明する書面」の例:刊行物発表の場合ならその記事(日付記載のあるも の) 学会発表なら、学会の証明書 展示会出展なら、開催事務局の証明書 ④ 効果 新規性は喪失しなかったと見なされ、対象行為を理由に新規性及び進 歩性で拒絶されることは原則としてない。但し、出願日遡及の例外ではない 新規性喪失の例外補足図 (図の引用:福井大学知財マニュアル) 新規性喪失の例外は、出願日の遡及を認めるものに非ず。例外の規定が あってもなるべく早期に出願をすることが必要 6ヶ月以内 論文等により拒 絶される 特許出願 他人 特許出願 論文等発表 本人 他人の出願と同一 であり、拒絶される 3.先願(39条)及び拡大先願(29条の2) ① 先願主義(同一発明が競合した場合の取り扱い) 我が国をはじめとするほとんどの国(米国除く)では、先に出願した正当な 発明者及びその承継人にのみ特許を付与する先願主義を採用する。 ∴ 発明日を巡る複雑な争いが生じない(立証容易) いち早く発明を開示した者に特許を付与するという法の趣旨に沿う (i) (ii) (iii) 「先に」 → 日で判断。同一発明について同日出願が複数ある場合、協議。 協議不成立ならいずれも特許不可(39条2項) 先願主義の例外 → 分割、変更出願のように、出願日遡及効が法律で認め られている特殊な出願については、基の出願の出願日が適用される。 「正当な発明者及びその承継人」 → 他人の発明を盗んで出願をした場合 (冒認出願)、正当な発明者から特許を受ける権利を譲渡されずになされた特 許出願は、「正当な発明者及びその承継人」ではなく、先願の適用なし。 ∴たとえ後願であっても、先願が冒認出願なら、正当な発明者による後の特 許出願に対して特許が付与されることがある。 (2) 拡大先願(29条の2) ① 趣旨 先願主義(39条)の規定は、特許請求の範囲(特許出願書類の中で、 出願人が特許権の付与を求める欄)に記載された発明についてのみ適用が ある。 そのため、出願書類の中の他の部分に記載された発明については、先願 主義(39条)の適用はない。 しかし、先人によって出願書類の中で既に開示された発明と同一の発 明について、後の出願人に特許を付与するのは、法の趣旨上妥当ではない。 そこで、法は、先の出願の出願書類の全体に先願の地位を与え、これ と同一の後願の特許化を排除するようにした。 ② 29条の2の規定の例外 (I) 先願の出願人と後願の出願人が同一の場合(出願人同一) (ii) 先願の書類(特許請求の範囲以外)の中に記載された発明の発明者が、 後の出願する場合 例:自己の発明を説明するのに、他人の発明を引用 して説明する必要がある場合において、当該他人がその発明について出願 する場合(発明者同一) 4.その他の特許要件 (1) 善良の風俗又は公衆の衛生を害するおそれのある発明でないこと 例:偽札印刷機 (2) 共同出願違反でないこと 例:共同発明者の一方が他方に無断で特許出願した場合 (3) 正当な発明者でない者又は正当な発明者から特許を受ける権利 を承継しない者の出願でないこと (4) 特許出願書類に実質的な不備がないこと 例:発明の開示が不十分であったり、当業者が容易に実施できるよ うに記載されていない場合は、拒絶される (5) 出願後にした補正が、新規な事項を追加するものでないこと ∵ 補正は原則出願日の遡及効あり。したがって、出願当初から開 示されていない新たな追加事項に補正を認めることは第三者の不利 益大 5.特許出願のフロー 特許出願後の流れ (1)特許出願 (2)出願公開(早期公開制度) (3)審査請求(中小企業等に対し、審査請求料の減免あり) (4)実体審査(早期審査制度有り) (5)拒絶理由通知(拒絶の予告,原則一回) (6)意見書,補正書(拒絶理由に対して出願人の取りうる措置, 審査官へのインタビューも効果的) (6)特許査定、設定登録(初回登録料に中小企業等の減免あり) (7)拒絶査定(審査官の最終結論) (8)審判(三人の審判官による合議制、早期審理制度有り) (9)審決(審判の最終結論) (10)審決取り消し訴訟(一審省略、知財高裁 → 最高裁)
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