ESCAPE FROM THE PLANET OF THE BREAKS 制作インタビュー この度、イギリスの大手サンプリングCDデベロッパーであるZero-G社から、「プラネ ット・オブ・ザ・ブレイクス」シリーズ第四作目にあたる『エスケープ・フロム・ ザ・プラネット・オブ・ザ・ブレイクス』がリリースされた。今回は、その制作にた ずさわったミュージシャン&クリエーターであるVinnie Zummo氏に、彼とShawn Pelton氏の制作時におけるアイデアやテクニック等をインタビューしてみた。 今までそのジャンルの音楽しかプレイしたこ とがありませんって感じで、それも、そのジャン ルの第一人者みたいにさ。で、彼が次にぜんぜん 違うジャンルの音楽をプレイすると、今度はそっ ちの道のプロみたいに聞こえちゃうんだから、す ごいよ。彼がプレイするサウンドとグルーヴは全 部こんな具合さ。こんな奴、めったにいないよ。」 「構想から完成までに約6ヶ月かかったよ。そ の上、最初の2ヶ月間はアイデアを練る事だけに 費やして、音を鳴らす事すらしなかったんだ。」 つまりVinnieは、テンポとイメージを掴むと いう準備作業を特に念入りに行ない、スタジオで は彼とShawnが各種グルーヴをプレイする事に 専念できるようにした訳だ。こうしてサウンドを 新鮮な状態で真空パックした後、編集と仕上げに たっぷりと時間をかけて調理する。これには相当 の忍耐力、構成力、そして完璧なものを作り上げ のだという揺るぎ無い決意が必要とされたであろ う。その甲斐あって、完成した作品には、 VinnieとShawn両者のアーティストとして才能 溢れるプレイと、Vinnieの詳細に至るまで妥協 を許さない姿勢が、そのままクオリティとなって 反映されている。 Vinnieの音楽趣向は限りなく広い。彼はまた、 音楽と彼の音楽にかける情熱についても、実に熱 心に話をする。そして、彼のこの音楽に対する幅 広い興味が、彼が制作するサウンド・ライブラリ ーをどんなジャンルにでも使うことのできる、多 彩なものへと押し広げていくのである。 「俺の好きな音楽とか俺が影響を受けた音楽な んて、もうめちゃくちゃさ(笑)。俺はビートルズ の熱狂的なファンだし、ビバップやクールジャズ をひっくるめてジャズなら何でも好きだし、ヒッ プホップにも夢中だ。その上、ウェスタン・スウ ィング、テジャノ(ラテン・ディスコ)、ポルカ・ ● 使用機材と制作テクニックの話題になった時、 Vinnieは収録に入る前の準備段階がいかに大切 であるかという事、そしてなぜそれに2ヶ月もの 時間がかかったかという話しを取り混ぜながら、 制作の様子を詳しく説明してくれた。 「Shawnは35種類のドラムキットと自作のパ ーカッション・デバイスを持ち込んでできてた よ。バラエティを増やす為には、マルチ・マイク でのレコーディング・システムを活用したんだ。 ルーム・マイク、ニア・マイク、ローファイ、ト ラッキング、サンプリング、コンプレッショ ン・・・という具合にね。」 彼等は、このプロジェクトに全身全霊を傾けて いたようだ。 「実際、CDに入っているのは全部”テイク1” さ。楽器を加えてオーバーダビングなんかもした けど、一番基本となってるギターやドラムは、ほ とんど1発勝負で演奏したものを収録したよ。だ から最初のセッションなんて11時間で終わった んだ!! みんな、一発クリアさ!」 これはかなりの離れ業だ。ただ、VinnieとShawn の2人とも、ニューヨークではお役立ちセッショ ン・プレイヤーだから、今まで何度も一緒にプレイ した経験があったし、それが今回のレコーディング をスピードアップさせる要因にもなったようだ。 「レコーディングの後、データを家に持ち帰っ て、オーバーダビング、そしてミックスするのさ。 これが、かなり込み入った作業でね。ミックスな んてホント、細部に至るまで注意を払わなくちゃ ならない。これというサウンドにするのに、最高 に気を使ったよ。適切な外部機器を借りることに も、耳を客観的にして聞くことにもね。このプロ ジェクトを引き受けた時に描いた全体のビジョン に、ひとつひとつが完璧に合致するようにさ。」 バンドなんかの、いかれたグルーヴを持つ音楽な んかも大好きさ。俺のサンプリングCDがカバー しているジャンルの数を見ればわかるだろ?これ はもう、音楽的精神分裂症みたいなもんだね!率 直で、気持ちのこもった音楽なら、なんでも好き なんだ。Shawnもそうさ。彼の持っている音楽 ● さて、アイデアが実現していく過程を見てき た訳だが、ここで、いよいよ『エスケープ・フロ ム・ザ・プラネット・オブ・ザ・ブレイクス』に ついて掘り下げてみよう。これはどんなCDなの だろうか? ジャンルの知識は百科事典並みだから、演奏する 時はいつも”本物”のテイストを織り込む事がで きるんだ。彼は本当にすごいよ。彼はプレイする グルーヴを自分のものにしてしまうんだ。まるで、 「Shawnのファンキー・グルーヴが、まずこの CDをすごく際立たせているんだ。多くの有名レ コードのグルーヴは彼が作ったみたいなものだし、 Shawn 以外に、こんな に最高のグルーヴを表 現できる奴はいないよ。」と、 Vinnieは熱く語る。 ● Shawnは現在、シェリル・クロウとの仕事に 携わっていて、スタジオで今までにないくらい忙 しく働いているが、我々は彼からも少しだけ話を 聞く事に成功した。 「数多くのセッションをこなしてきたから、俺 はたくさんのクレジットを受けている(Shawn は世界的にも有名なアーティスト達にもクレジッ トされている)し、Vinnieも、すごくファンキー で使い途豊富なサンプリングCDを作らせたらピ カイチの、とても才能あるプロデューサー兼ミュ ージシャンだ。彼が手がけた「N.Y.Cutz」シリ ーズが、数々の5つ星評価を受け、キーボード誌 からもキー・バイ・アウォードを受け取っている のを見れば、一目瞭然だろ?このCDを聞いた事 がある奴なら、Vinnieがどんなにファンキーで、 ” サンプラーをぶちのめす最高のファンキー・トラ ック”をプロデュースするセンスをもっているか、 わかるはずだ。そんな俺等の才能を合わせたとた んに、大爆発さ。最初のビートから、プロジェク トがまるで生きているかのような勢いで進んでい って、その勢いは終わるまで止む事が無かった。 セッション中はいつも最高のノリで、そいつもし っかりCDに収める事ができたと思っているよ。 」 Vinnieもこう付け加えている。 「今回のプロジェクトを通して、俺はShawn Peltonが”最高のドラマー“として様々なアー ティストにクレジットされる本当の意味が理解で きたよ。シェリル・クロウ、ブルース・スプリン グスティーン、ボブ・ディラン、エルトン・ジョ ン、ビリー・ジョエル、デビッド・バーン、ブレ 1 ッカー・ブラザーズ、ショーン・コルビン、ジョ ン・オズボーン、バディ・ガイ、ホール&オーツ、 セリーヌ・ディオン、ジュエル、ブルース・ホー ンズビー、・・・挙げればきりが無い!」 VinnieがShawnを”N.Y.フィールをドラムで表 現する究極のドラマー“と言うのが頷ける。 ● 世に出まわっているサンプリングCDに比べて、 Vinnieは今回の新作の長所をこう答えている。 「このCDの最大の売りは、”ライブ感満点の グルーヴ”ってとことさ。このグルーヴを実現す る為に、俺は相当力を入れてShawnと自分がプ レイしやすいような状態を完全に整えたんだ。バ ッキング・トラックの中には、家であらかじめ用 意しておいたものも少しはあるけど、それを除け ば後は全部Shawnと一緒に”初めて”生で音に したものばかりだから、本当の意味でのライブ感 たっぷりのドラム・グルーヴが収録できたと思っ ている。特にShawnは俺が用意しておいたトラ ックなんて一切聞いた事が無いわけだから、彼の パートは常に、俺と”初めて”のコラボレーショ ンか、そのトラックに”初めて”抱いた印象を形 にしたものか、どちらかという訳さ。 」 これに続けて、Shawnは次のように話をまと めている。 「このCDは、ただのドラムCDじゃなくて、生 のイケてるN.Y.ストリート・ドラムのエネルギー と最先端のバッキング・トラックが合体した、価 値の計り知れないものになっているんだ。キミの ニーズを満たす事間違いなしさ!」これについて、 我々が言葉を付け加える必要は無いだろう。 ● Vinnieはテクニックについても説明してくれた。 「ドラムを収録する時、ギターも合わせてプレ イしておくんだ。それからそのトラックを家に持 ちかえって、オーバーダビングするのさ。キーボ ードもギターも効果音も、CDに入っているサウ ンドは全て自分でプレイしたよ。基本的にハーモ ニーものは俺がプレイして、ドラム関係は Shawnがプレイした。中には俺の知り合いがプ レイしたサンプルも幾つか入っているけど(トラ ンペットとか、バイオリンとかね)、ほとんどは 俺とShawnだけでプレイしたものなんだ。 」 ● ライブ演奏を主としてきたアーティストとし て、Vinnieはいつの頃からかサンプリングCDへ の認識を変えた筈だ。そんな彼に、いわゆる一般 的な”サンプリング”に対する意見を聞いてみた。 「急いでいる時や、締切があって思うように時 間を費やせない時、それにちょっと聞いたループ が作っている曲にピッタリで耳から離れなくなっ た時なんか、サンプリングCDを使うよ。だけど、 基本的に俺は自分でループを作る方が好きだから、 結局自分でサンプリングCDを作る事にしたのさ。 」 Vinnieが前回Zero-G社からリリースしたの は、あの有名な「N.Y.Cutz」1&2で、両方とも 世界的にベストセラーとなり、各国の音楽雑誌で 賞を獲得している。 「締切が迫っている時なんか、サンプリング CDを全部通して聞いている暇なんてないだろ う?どっちかっていうと、ちょっと聞いてピ ン!とくるCDを見つけたら、その中に使えるサ ウンドがあるかどうか、次々とチェックしてい くって感じだと思うんだ。だから、『エスケー プ・フロム・ザ・プラネット・オブ・ザ・ブレ イクス』も聞く人の耳を即座にとらえる様な構 成になっていて、最初の何小節かを聞けば、そ のサンプルに対する全体のイメージが掴めるよ うにしてあるんだ。」 ●『エスケープ・フロム・ザ・プラネット・オ ブ・ザ・ブレイクス』は、VinneiがZero-G社の ために制作した第3番目のCDとなる訳だが、サ ンプリングは以前に比べて飛躍的に活用されるよ うになってきている。そこで彼に、どうやってミ ュージシャン達をサンプリング・ライブラリー作 りに誘っているのか、聞いてみた。 「いい質問だ(笑)。ミュージシャン達は、自分 がサンプリングされるって考えを嫌っているから ね。なにしろ、自分が曲の中でプレイしたフレー ズが他の曲に使われているのに、金が入ってこな いんだから、詐欺にあっているみたいだよな!た いてい、文句をつければ仕事が激減するから、黙 っているけれどね。」これは、ミュージシャンの 間でよく議論されている問題だが、Vinnieはサ ンプリングの利点をうまく取り入れて、自分のメ リットとしているようだ。 「俺は、曲に何が必要なのかいつもはっきりわ かっているから、自分で楽器をプレイするほうが 性にあっているんだ。でも、たまに他のミュージ シャンのの為に演奏したり、CDをあげたりして、 お返しに、彼等がプライベートに鳴らしたフレー ズを幾つかもらったりするんだ。」 本職はギタリストであるけれど、Vinnieは余 興でドラムとベースも演奏するし、それに長い間 キーボードもやってきたから、リズムの知識があ る。ジョー・ジャクソン・バンドにいた7年間も、 彼は看板ギタリストとしてだけではなく、シンセ、 ハモンド・オルガン、アコーディオン、グロッケ ンスピエル、ボンゴ、エレキ・シタールなど、 様々な楽器をステージで披露してきた。 最後にVinnieはこうまとめている。 「結局、俺はどれだけ多くの楽器が弾けて、ど うやってそれら全部をレコードの中に収めるかっ てことに情熱を傾けてきたんだ。だから、サンプ リングCD作りは俺にとって天国みたいなもん さ。Zero-Gはいつも自由に俺のサンプリング世 界を作らせてくれた。感謝しているよ。」 § このCDを通してVinnieとShawnのクリエイテ ィブな才能は、世界中のレコーディング・アーテ ィスト、エンジニア、プロデューサーに貢献する であろう。 Discography ESCAPE FROM THE PLANET OF THE BREAKS N.Y. 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