青森県獣医師会報 №164 2015 目 次 〔報告〕 1 (公社)青森県医師会・(公社)青森県獣 医師会連携講演会開催報告������…1 2 平成27年度東北地区獣医師大会・獣医学術 東北地区学会概要報告��������…3 ⑴ 東北地区獣医師大会���事 務 局…3 ⑵ 日本産業動物獣医学会(東北地区) ���������小笠原和弘…4 ⑶ 日本小動物獣医学会(東北地区) ���������伊藤 直之…9 ⑷ 日本獣医講習衛生学会(東北地区) ���������佐野 斉…18 〔会員だより〕 「はじめまして」 独立行政法人 家畜改良センター奥羽牧場 ���������有山 賢一…28 「獣医師の見たり・聞いたり・思ったり」 ���������工藤 洋一…30 青森県獣医師会ゴルフ愛好会コンペ2015 ���������沼宮内春雄…36 〔臨床ノート〕 第208号:慢 性下痢に続発した直腸および膣脱 の一症例�������富岡美千子…24 第209号:細 菌性関節炎により跛行を呈した犬 の一例��������前田 千尋…26 〔訃報〕������������������39 〔事務局だより〕��������������37 〔支部だより〕���������������39 〔訂正〕������������������39 〔編集後記〕����������������40 平成27年11月10日 第164号 公益社団法人 青 森 県 獣 医 師 会 平成27年11月10日 発行所 青森市松原二丁目8の2 公益社団法人 青森県獣医師会 TEL 017(722)5989 FAX 017(722)6010 Email ao-vet@smile. ocn. ne. jp 印刷所 青森市幸畑松元62-3 青森コロニー印刷 TEL 017(738)2021 FAX 017(738)6753 〔報 告〕 1 公益社団法人青森県医師会・公益社団法人青森県獣医師会連携講 演会開催報告 青森県医師会・青森県獣医師会による連携講演会を開催 公益社団法人青森県医師会と公益社団法人青森県獣医師会は、高病原性鳥インフルエンザをはじめとする動物 由来感染症対策等安全で安心な社会の構築に向けて、平成26年9月に学術協力の推進に関する協定を締結しまし た。 今回、その推進を図る第一歩として、平成27年9月12日土曜日14時からホテル青森3階「善知鳥の間」青森市 において公益社団法人青森県医師会と公益社団法人青森県獣医師会共催による「連携講演会」を開催しました。 講演会には、医師、獣医師、保健師、看護師など約90名が参加し、講演会場は満席となりました。 三八支部獣医師会原田会員の司会進行で開会し、最初に公益社団法人青森県医師会会長代理の藤野安弘常任理 事から挨拶があり、引き続き公益社団法人青森県獣医師会山内正孝会長から挨拶がありました。 ○講演内容 「人と動物の共通感染症を考える」をテーマに、2名の先生に講演をお願いしました。 ⑴ 「グローバル化と新興・再興感染症」 押谷 仁先生(東北大学大学院医学系研究科微生物学分野教授) 押谷先生は、エボラ出血熱等のウイルス学の第一人者で、今回、感染の中心地となった西アフリカのリベリア での支援活動等について御講演いただきました。 現地において、エボラ出血熱で亡くなった人から材料を採取し、感染の有無を検査するなど、緊迫した現場の 状況が伝わる内容でした。 また、グローバル化する社会の中で、SARSや新型インフルエンザ等の新興感染症に対し、どう立ち向かうの かを改めて考えさせられました。 ⑵ 「獣医学領域からの見た人獣共通感染症対策への貢献」 迫田義博先生(北海道大学大学院獣医学研究科動物疾病制御学講座微生物学教室教授) 迫田先生は、高病原性鳥インフルエンザ研究の第一人者で、今回、本病ウイルスに関する最新の知見やまん延 防止対策等について御講演いただきました。 講演では、海外における発生状況や感染の実態についての説明があり、本病ウイルスの変異による新型インフ ルエンザウイルス出現を防止するには、家きんや野鳥におけるサーベイランスと発生時の適切な封じ込めが重要 で、それを実行する家畜衛生サイドの獣医師を今以上に増やす必要があると熱弁されました。 質疑応答では、両講師に多くの参加者から質問があり、活発な討議が行われました。家畜保健衛生所職員から ― 1 ― の「今シーズンの高病原性鳥インフルエンザの発生予想を教えてください。」との問いに、迫田先生が「占い師 ではないので分かりません。」と答える一幕もあり、先生のユーモアに会場が和みました。しかし、海外の発生 状況を踏まえると、残念ながら今シーズンの発生リスクは高いと言わざるをえないようです。 講演の時間はあっという間に過ぎ、最後は大きな拍手で締めくくられました。押谷先生、迫田先生、貴重な御 講演ありがとうございました。 今後も青森県医師会と青森県獣医師会との連携強化に向けた取組を推進してまいりますので、会員の皆様方の 御協力をお願いします。 左から 青森県医師会会長代理の藤野安弘氏 公益社団法人青森県獣医師会長の山内正孝氏 会場には約90名の参加者が来場 東北大学大学院医学系研究科 微生物学分野教授 押谷仁氏 北海道大学大学院獣医学研究科 動物疾病制御学講座 微生物学教室教授 迫田義博氏 ― 2 ― 2 平成27年度東北地区獣医師大会並びに 平成27年度獣医学術東北地区大会概要報告 日時 平成27年10月8日、9日 場所 盛岡市 東日本ホテル ⑴ 平成27年度東北地区獣医師大会 平成27年度は、(一社)岩手県獣医師会の担当で、盛岡市の東日本ホテルで10月8日(木)9日(金)の2日 間にわたり盛大に開催されました。 大会は、恒例により大会会長であります岩手県獣医師会多田洋悦会長の挨拶に始まり、日本獣医師会長(代理: 砂原和文副会長)の挨拶、平成26年度三学会発表者への褒賞授与がありました。 続いて農林水産省消費・安全局長(代理:大石明子畜水産安全管理課課長補佐)、岩手県知事達増拓也氏祝辞 をはじめ関係機関地元関係者の祝辞がありました。 議事に入り、日本獣医師会への要望として、次の2つの提案がありました。 1.狂犬病対策の強化「狂犬病手帳の創設」(宮城県獣医師会提案) 2.行政・関係機関との連携による実行性のある人と動物の共生の推進(仙台市獣医師会提案) それぞれ提案獣医師会より説明がなされ、全会一致で日本獣医師会へ要望することに決定いたしました。 議事終了後、市民公開講座として、毛越寺貫主代行藤里明久先生による「平泉の浄土思想について」と題する 講演等がありました。 今回の大会への本県参加者は27名、学会参加者は42名でした。 全体では大会参加者343名、学会参加者331名でした。(事務局) ― 3 ― ⑵ 平成27年度獣医学術東北地区学会・日本産業動物獣医学会 (東北地区)の概要 日本産業動物獣医学会東北地区学会幹事 小笠原和弘(青森家畜保健衛生所) 平成27年度獣医学術東北地区学会日本産業動物獣医学会(東北地区)が、平成27年10月9日岩手県盛岡市のホ テル東日本において盛大に開催された。 例年のとおり産業動物獣医学会には三学会中最も大きな会場が準備され、今回も百数十名の参加があり、各発 表演題の終了後には定められた2分間を超える質疑応答が取り交わされ、大変活発な学会となりました。 発表演題は昨年度より6題多い29題であり、大~中家畜に対する基礎研究から臨床症例までの幅広い成果発表 のため、優良演題の選出には小形学会長ほか幹事一同大変苦労しました。受賞演題3題及び発表演題は以下のと おりです。 東北地区学会長賞・岩手県・いわて総合動物病院 演題番号2 「大腸菌群による甚急性乳房炎に対する乳房内冷却・消炎鎮痛剤局所投与療法の検討」 東北獣医師会連合会長賞・山形県・庄内家保 演題番号5 「市販LPSを抗原とした牛サルモネラ症(Salmonella Typhimurium )抗体検査法の検討」 東北地区学会奨励賞・岩手県・中央家保 演題番号14 「黒毛和種における牛白血病ウイルス(BLV)感染母牛の初乳摂取による感染リスクと母子分離時期の違い による感染率の調査」 ― 4 ― 【産業動物】平成27年度獣医学術東北地区学会発表演題 № 演 題 名 演 者 名 1 乳牛の甚急性乳房炎の臨床病理学的観察 ○山野辺浩ほか 大腸菌群による甚急性乳房炎に対する乳房内冷却・消炎 2 ○佐々木恒弥ほか 鎮痛剤局所投与療法の検討 3 春季に酪農場で発生した牛コロナウイルス病 ○富山美奈子ほか 4 高濃度カリウム飼料多給に伴うDCS多発事例 ○小代具毅 市 販LPSを 抗 原 と し た 牛 サ ル モ ネ ラ 症(Salmonella ○白鳥孝佳ほか Typhimurium )抗体検査法の検討 山形県乳牛のLeptospira Hardjo 抗体有病率とリスク 6 ○三山豪士ほか 因子調査 8 9 10 11 12 13 14 15 16 低品質ウシ胚への超急速ガラス化・直接融解法及びアシ ステッドハッチング処置の検討 ウシにおける血清アンチミューラリアンホルモン (AMH)濃度と採胚成績との関連性 フリーマーチンにおけるGTH負荷試験 改良プレカラム法HPLCを応用した大脳皮質壊死症発生 農場における育成牛の血中チアミン動態の調査 大転子移動術により治癒した黒毛和種新生子における股 関節脱臼の一例 皮下脂肪厚を用いた繁殖和牛の栄養度判定と繁殖成績の 関連性 県内肥育農場における牛RSウイルス感染事例 黒毛和種における牛白血病ウイルス感染母牛の初乳摂取 による感染リスクと母子分離時期の違いによる感染率の 調査 地方病性牛白血病へ進行していた持続性リンパ球増多症 の一症例 黒毛和種牛にみられた卵黄嚢腫瘍の1例 所属獣医師会 福島県 いわて総合動物病院 岩手県 青森県十和田家保 青森県 福島県酪農業協同組合県南酪 福島県 農指導所 山形県庄内家保 山形県 山形県農共連研修所 山形県 ○西宮弘ほか 秋田県南部家保 秋田県 ○金澤朋ほか 宮城県農共組中央家畜診 宮城県 ○原口 桜ほか 北里大 青森県 ○千葉由純ほか 岩手県中央家保 岩手県 ○田村倫也ほか 岩手県農業共済東南部地域セ 岩手県 ンター家畜診療所 ○前田まりかほか 山形県農共連最上家畜診 山形県 ○高橋千秋ほか 秋田県中央家保 秋田県 ○菅原 克ほか 岩手県中央家保 岩手県 ○竹田百合子ほか 宮城県仙台家保 宮城県 ○平野皓己ほか 5 7 所 属 名 福島県農共連白河家畜診 17 黒毛和種牛における好酸球性皮膚炎の一症例 ○若井美菜子ほか 18 胎児期の発生が疑われた頭部脂肪腫症例について 病理組織検査によって子牛の門脈体循環性脳症と診断し 19 た症例について 黒毛和種繁殖農場における呼吸器病低減に向けた取り組 20 み 黒毛和種子牛における非感染性下痢症への生菌剤の投与 21 効果 22 当診療所における子牛下痢症の原因に関する疫学調査 ○笠松一夫ほか 北里大 青森県 岩手県農業共済盛岡地域セン ター紫波・盛岡雫石家畜診療 岩手県 所 秋田県農共連県南家畜診 秋田県 ○稲見健司ほか 福島県県中家保 福島県 ○武田枝理ほか 福島県会津家保 福島県 ○福田達也ほか 宮城県農共組県北家畜診 宮城県 ○伊藤 遥ほか ○加藤里子ほか いわて総合動物病院 岩手県 岩手県中央家保 (現:岩手県農林水産部畜産 岩手県 課) 宮城県北部家保 宮城県 ○矢島りさ ほか 宮城県畜試 宮城県 ○佐藤敦子ほか ○平泉美栄子ほか 福島県県中家保 青森県むつ家保 福島県 青森県 ○窪田郁子ほか 岩手大学 岩手県 ○村松龍ノ助ほか 秋田県南部家保 秋田県 23 豚流行性下痢の診断及び対策への定量リアルタイムPCR ○福成和博ほか の応用 24 豚流行性下痢4例の発生に伴う防疫対応 豚大腸菌症由来O147における薬剤耐性と分子疫学的解 25 析 26 豚デルタコロナウイルスの関与を疑う子豚下痢の1症例 27 寒立馬における地域一丸となった衛生対策 ブロイラーで新たに見つかった神経病原性トリ白血病ウ 28 イルスの病理と疫学 比内地鶏種鶏場における鶏伝染性ファブリキウス嚢病ワ 29 クチンプログラムの再検討 ― 5 ― 演 題 番 号:3 演 題 名:春季に酪農場で発生した牛コロナウイルス病 発表者氏名:富山美奈子、小笠原清高、白戸 明 発表者所属:青森県十和田家保 1.はじめに:牛コロナウイルス病は水様性下痢や血便を呈する牛コロナウイルス(BCV)を原因とした感染 症であり、4つある遺伝子型のうち全国的な主流は4型である。BCV病は牛群内に急速にまん延し、泌乳牛で は急激な乳量低下をおこすため、経済被害も大きい感染症であり、冬期、寒暖差ストレス時に好発する。平成26 年4月末、成牛30頭を飼養する酪農家において血便・下痢等の集団発生や乳量低下が認められた。農場は4月21 日に妊娠牛1頭を導入し牛舎中央部で飼養していたところ、40℃の発熱を呈した搾乳牛1頭が死亡し5月1日に 家保が立入検査を実施した。 2.材料および方法:死亡牛を解剖、同居牛(導入牛を含む15頭)から糞便及び血液を採取した。⑴病理組織学 的検査:常法に従い実施した。⑵ウイルス学的検査:死亡牛主要臓器及び同居牛糞便を材料にウイルス分離検査、 下痢関連ウイルス遺伝子を検出するRT-PCR及びBCV遺伝子型別検査、ペア血清を用いてBCV抗体検査を実施し た。⑶細菌学的検査:死亡牛主要臓器、同居牛糞便を材料として分離、定量培養を実施した。 3.成績:⑴病理組織学的検査:剖検所見では肺気腫、結腸・盲腸の充出血が認められ、病理組織学的検査では 結腸陰窩減数、急性間質性肺炎が認められた。⑵ウイルス学的検査:ウイルス分離は死亡牛腸管・同居牛糞便と もに陰性であったが、BCV特異遺伝子が死亡牛の腸管及び同居牛15頭中8頭の糞便で検出され、死亡牛のBCV 遺伝子型は4型であった。導入牛と隣接牛のBCV抗体価は前血清で4,096倍以上となり、13頭の抗体価は後血清 で有意上昇した。⑶細菌学的検査:有意菌の分離はなかった。⑷疫学調査:周辺農場では同様の事例は認められ ず、平成26年4月下旬の気温低下と連動して集乳量低下と症状が認められた。 4.考察:本事例では、死亡牛腸管からBCV特異遺伝子は検出されたものの、死亡牛は間質性肺炎による呼吸 困難が死因であった。有症状のほぼ全ての同居牛からBCV特異遺伝子を検出し、同居牛15頭の抗体検査では全 頭からBCV抗体を検出した。導入牛・隣接牛の前血清BCV抗体価が高値であることから立入検査に近い時期に BCVと接触があったと推測された。導入後の平成26年4月下旬の気温低下と連動して集乳量低下と症状が認め られたことからも、導入牛がBCV感染源であった可能性が示唆された。 演 題 番 号:9 演 題 名:フリーマーチンにおけるGTH負荷試験 発表者氏名:○原口 桜、多賀谷美希、畑井 仁、三浦 弘、坂口 実、菊池 元宏 発表者所属:北里大 1.はじめに:牛異性多胎の雌胎子は92 ~ 93%が生殖器に先天性異常がみられるフリーマーチン(FM)であ るといわれている。FMの特徴として陰核の腫大、長い陰毛、不十分な膣長、様々な程度の内生殖器の発達不全 が報告されている。今回、FMが疑われて来院した3頭を診断する過程で、性腺刺激ホルモン(GTH)を用いた 内分泌学的検査を実施したところ、各々が特徴的な結果を示したため、生殖器の病理学的所見と合わせて報告す ― 6 ― る。 2.材料および方法:FMが疑われる4、8、11か月齢の雌牛3頭を対象にして、内視鏡による腟腔観察と膣長 測定(3か月間で2回実施)、超音波画像による内部生殖器の観察、GTH負荷試験による生殖腺機能検査、及び 病理解剖による内部生殖器の観察を実施した。 3.成績:⑴内視鏡検査:膣前庭と膣の種々の構造を観察できたが、外子宮口は観察されず全頭FMであると判 断された。さらに腟長も個体間で差があったが、3ヶ月後の検査では何れも伸長していた。⑵超音波検査:横断 画像の走査によって膣様及び子宮様構造物を描出できたが、生殖腺様構造物は観察できなかった。⑶GTH負荷 試験:eCGとhCG投与後にProgesterone(P 4)とTestosterone(T)を測定したところ、分泌量およびパター ンに差はあるが、どの個体でもP 4の分泌がみられた。またTに関しては2頭で分泌がみられた。⑷病理学的所 見:肉眼的に内生殖器の発達程度は様々であり、子宮が部分的に発達しているものから索状のものまで観察され た。全個体に7~ 15㎜の生殖腺が観察された。組織学的に生殖腺は精巣様組織を主体とし卵巣様細胞が混在す る不完全な器官であった。 4.考察:FMの生殖腺は小型で肉眼的に未熟であるにも関わらず組織学的には腺構造も観察され、GTH負荷試 験に反応してP 4及びTを分泌する個体の存在が確かめられた。T分泌量に関しては生殖腺に占める精巣様組織 の割合の多寡に依存する傾向が認められ、雄性化の指標になるものと考えられた。一方、幼弱な個体で診断の指 標として用いられている膣長に関しては、体発育に伴い膣長が伸長する可能性が示されたため、ある程度成長し た個体に対する診断では誤診を招く可能性が示された。しかし、今回の例では2回の観察の間にGTH負荷試験 によりP 4分泌が起きており、膣長の伸長が体発育に伴うものか、負荷後のP 4の影響によるものか判断ができ ず、異なる条件でさらに例数を重ねて観察を行う必要がある。 演 題 番 号:16 演 題 名:黒毛和種牛にみられた卵黄嚢腫瘍の1例 発表者氏名:○平野 皓己 、佐藤 将伍2)、富岡美千子1)、朴 天鎬1)、菊池 元宏1)、 1) 坂口 実 1) 発表者所属:1)北里大、2)NOSAI青森 家畜診療所 1.はじめに:牛における卵黄嚢腫瘍は非常に希な症例であり、生前に診断を確定する検査法は確立されておら ず、剖検所見から診断に至ることが多い。演者らは過去に遭遇した症例と異なるタイプの卵黄嚢腫瘍を観察する 機会を得たので、その概要を報告する。 2.症例:症例は黒毛和種(ET産子)雄子牛(家系:勝忠平-安平-隆桜)であり、来院時の月齢及び体重は2.8 ヶ 月齢、68㎏であった。本症例牛は臨床症状が現れる前から腹囲膨満が見られ、2ヶ月齢時にそれが顕著となり元 気消失、食欲不振を呈したため共済獣医師の診療を受けた。しかし、病態の重篤化が進行したため本学大動物診 療センターに来院した。大動物診療センターでは、一般臨床検査に加え超音波断層画像(USG)検査および腹水 の検査を実施したところ、腹腔内に腫瘍が存在することが確かめられたため、予後不良と判断し安楽殺処置の後 に病理解剖を行った。 3.成績及び考察:⑴血液生化学検査;TP(4.6g/dl)、ALB(2.0g/dl)、T-cho(66㎎ /dl)が低値で低栄養の状態であっ ― 7 ― た。また、白血球数(15,020個/μl)も上昇していた。⑵USG所見;多量の腹水が観察され、その中に液体を貯 留する大きな嚢胞の存在が確認された。嚢胞壁表面は粗造で、所により腫瘍塊様構造物が描出された。⑶肉眼所見; 腹腔には血様腹水が高度に貯留していた。腹腔壁内面、骨盤腔全体、腹腔臓器の漿膜面及び横隔膜臓側面のほぼ 全面に白色~黄褐色のフィブリン様物が絨毛状あるいは顆粒~瘤状に付着していた。また、USGで観察された嚢 胞は第一胃、第二胃および第四胃に接する位置に存在し、直径35㎝で内容は漿液性の液体であったが、嚢胞の内 側面にもフィブリン様の黄褐色の小結節性腫瘤がびまん性に付着していた。⑷組織学的検査;嚢胞壁には扁平な 細胞が胚盤(原腸)状配列を示す卵黄嚢腔がみられ、脂肪滴様に見える腫瘍性細胞である空胞細胞も確認された。 これらの細胞はα-フェトプロテイン(AFP)免疫染色に対して一様には染色されず、陽性反応は部分的であった。 なお、本症例の末梢血について人の測定系を用いてAFPの測定を行ったが、0.4ng/㎖以下の低値を示した。 以上の所見から本症例は卵黄嚢腫瘍と診断した。また、生前検査で最も有用な情報が得られたのはUSG検査で あったが、確定診断には至らなかった。今後、血中AFPが牛でも腫瘍マーカーとして利用可能か否かを検討し ていきたい。 演 題 番 号:27 演 題 名:寒立馬における地域一丸となった衛生対策 発表者氏名:平泉美栄子 佐怒賀香澄2) 須藤 隆史1) 野月 浩1) 1) 発表者所属:1)青森県むつ家保 2)青森県十和田家保 1.はじめに:平成26年7月、青森県の天然記念物に指定されている寒立馬の仔馬1頭が急死し、病性検査の結 果ダニの多数寄生による衰弱死と診断した。この事例をきっかけに寒立馬における地域一丸となった衛生対策を 講じたのでその概要を報告する。 2.対策の提示及び実施:管理者、地域畜産課、村役場、産業振興公社(以下、関係者)に以下の衛生対策を家 保が提示し、関係者一丸となって対策を実施した。⑴早急なダニ対策として1/2濃度のフルメトリン製剤の投与。 ⑵同居仔馬の健康検査。⑶内部寄生虫対策としてイベルメクチン製剤の経口投与。⑷放牧地内で多数の草地ダニ が確認されたこと、観光客が自由に出入りする放牧地であることから、ダニによる人体への影響を説明。⑸寒立 馬のマイナスイメージを払しょくするための情報発信。 3.成果:⑴フルメトリン製剤を月1回程度合計3回投与した結果、仔馬の貧血は改善され、群全体に見られた ダニ寄生による皮膚炎も改善した。⑵ダニによる人体への影響を説明した結果、ダニについての注意喚起用看板 を設置することが決定した。⑶地域県民局地域農林水産部ホームページに“寒立馬の1年”のページを作成し、 四季折々の寒立馬の情報、衛生対策実施状況を発信している。 4.まとめ:これまで管理者、産業振興公社及び村役場の助成主体で実施されていた寒立馬の管理に家保の衛生 対策、地域畜産課の情報発信が加わり、寒立馬を総合的に守る体制を形成することができ、今年度も継続されて いる。今後は、フルメトリン製剤の馬への影響も考慮しながら、青森県の天然記念物を守る取組としてこの体制 を維持していくとともに、草地ダニの根本的な削減も検討する必要があると考えている。 ― 8 ― ⑶ 平成27年度獣医学術東北地区学会・日本小動物獣医学会 (東北地区)の概要 日本産業動物獣医学会東北地区学会幹事 伊藤直之(北里大学獣医学部) 平成27年10月9日に岩手県獣医師会の担当で、盛岡市内のホテル東日本を会場に、平成27年度の日本小動物獣 医学会(東北地区)が開催されました。 例年通り、地区会長である岩手大学の佐藤先生から開会の挨拶と奨励賞の授与がなされた後、発表が行われま した。今年度の発表演題数は42題と過去最高の数であり、青森県からも9演題が発表されました。なお、各獣医 師会別の発表演題数は、下記の通りでした。 青森県:9題 岩手県:12題 秋田県:3題 山形県:2題 宮城県:6題 仙台市:4題 福島県:6題 講演終了後に審査会が開催され、厳正な審査の結果、受賞演題が以下のように決定されました。 東北地区学会長賞(2題) 日本小動物獣医学会(東北) ・副腎皮質機能亢進症を併発した犬の褐色細胞腫の一例 堤 弘夏 ほか (岩手大学・岩手県) ・超小型犬のアキレス腱断裂整復における長母趾屈筋腱の使用 小川慶也 ほか (岩手大学・岩手県) 東北獣医師会連合会長賞 日本小動物獣医学会(東北) ・ウサギの再発性下顎膿瘍の1例 澤田浩気 (ラビッツ動物病院・福島県) 奨励賞 日本小動物獣医学会(東北) ・末梢血中と脾臓にも著しい核異型および細胞質内顆粒を持つリンパ球がみられた 犬の上皮向性リンパ腫の一例 小山俊弘 ほか (岩手大学・岩手県) 今年の学会は、これまでになく多くの演題と参加者があり、盛会でした。一方で、時間の関係から十分な質疑・ 応答ができず、不完全燃焼の部分もありました。今後、演題の数がさらに多くなることも予想され、その際にど のように運営するかが検討課題として残されました。来年は、仙台市で開催されることになっています。青森県 からも今年同様に多くの発表があることを願っています。 ― 9 ― 【小動物】平成27年度獣医学術東北地区学会発表演題 № 演 題 名 1 犬の瞬目回数について 副腎皮質機能亢進症により重度の乾性角結膜炎を起こし 2 た犬の一例 人眼窩炎性偽腫瘍に類似した眼球突出を伴う眼窩腫瘤の 3 犬の一例 4 ウサギの再発性下顎膿瘍の1例 5 北里大学附属動物病院における抗菌薬感受性一覧 6 犬の口臭に対するツラスロマイシンの有効性の検討 イヌとネコの歯肉炎・口内炎に対するイヌインターフェ 7 ロンα(インターベリーα®)の効果 岩手県で発生した播種性ヒストプラズマ症が疑われたネ 8 コの1例 プレドニゾロンの投与により回復した全身型重症筋無力 9 症と診断された犬の一例 10 治療に苦慮した非再生性免疫介在性貧血の犬の1例 11 多発性骨髄腫の犬の1例 12 副腎皮質機能亢進症を併発した犬の褐色細胞腫の一例 13 犬の肥満細胞腫の7例 14 大型乳腺癌切除により著しいQOL改善を認めた犬の1例 15 外科手術を実施した犬乳腺腫瘍64症例の予後の検討 神経根より発生し超音波検査で再発を確認した犬の硬膜 16 外脊髄髄膜腫の1例 超音波乳化吸引+光線温熱化学療法を行った前肢手根部 17 非上皮性悪性腫瘍(T2bNOMO ステージⅢ)の犬の1 例 下顎吻側に発生した扁平上皮癌に吻側両側下顎切除を実 18 施した犬の1例 19 片側下顎切除を行った猫の扁平上皮癌の1症例 猫の大腿部に発生した注射部位肉腫に対し診断と治療立 20 案のためCT検査を行った1例 断脚術後早期に広範な皮膚転移を認めたBリンパ球由来 21 悪性腫瘍の犬の1例 末梢血液中と脾臓にも著しい核異型および細胞質内顆粒 22 を持つリンパ球がみられた犬の上皮向性リンパ腫の一例 23 腎臓型リンパ腫の猫の2例 リンパ腫の化学療法中に近位尿細管機能不全を発症した 24 猫の1例 25 胸腰椎をとばして頚椎に骨転移をした前立腺癌の犬の1例 膀胱頭側にできた化膿性肉芽腫により尿管狭窄を起こし 26 水腎症となった犬に尿管ステントを用いた1例 前立腺浸潤を伴う尿道移行上皮癌に対して下部尿路一括 27 全摘術および尿路変向術を実施した犬の3例 28 同側の腎欠損を伴った片側子宮角低形成の猫の1例 29 犬の仮性半陰陽の1例 夜間救急診療施設における犬の胃捻転51症例に関する傾 30 向と予後 31 内科および外科的治療を試みた犬の大腸血管拡張症の1例 動脈管開存症における短絡血流波形の肺高血圧程度によ 32 る変化の観察 当院における犬の僧帽弁閉鎖不全症例の犬種による傾向 33 のまとめ 34 犬糸状虫症感染犬で発咳がみられない犬の考察 35 動脈血栓塞栓症のネコの6例 36 拘束型心筋症と診断した猫の3例 37 心嚢水貯留により呼吸困難を呈した猫の1例 38 著しい骨病変を呈した犬の肺性肥大性骨関節症の1例 39 膝関節手術後に多発性靱帯損傷を認めた犬の一例 40 MRI検査により脊髄空洞症と診断された犬の3例 41 超小型犬のアキレス腱断裂整復における長母趾屈筋腱の使用 両側性後腹側股関節脱臼の整復にトグルピン法を適用し 42 た犬の一例 演 者 名 ◯岩城小百合ほか 所 属 名 ごとう動物病院 所属獣医師会 青森県 ○後藤晃伸ほか ごとう動物病院 青森県 ○山下洋平ほか ヱビス動物病院 仙台市 〇澤田浩気 ○木村祐哉ほか ○安住明彦 ラビッツ動物病院 北里大 ダック動物病院 福島県 青森県 宮城県 ○土田靖彦 ごり動物病院 青森県 ◯内田直宏ほか 岩手大学 岩手県 ○登米美雪ほか 岩手大学 岩手県 ○小松亮ほか ○小松亮ほか ○堤 弘夏ほか ○藤森康至 〇荻原直樹ほか ○安部あいほか あきたこまつ動物病院 あきたこまつ動物病院 岩手大学 やはばわんにゃんクリニック おぎわらペットクリニック秋田 大志田動物医院 秋田県 秋田県 岩手県 岩手県 秋田県 岩手県 ○簱野 剛 ハタノ犬猫病院 福島県 ○髙平篤志 たかひら動物病院 宮城県 ○中田朋孝ほか パセリ動物病院 宮城県 ○佐原達也 コスモス通り動物クリニック 福島県 ◯山口 喬 みたぞの動物病院 宮城県 ○立花由莉加ほか 北里大 青森県 ○小山峻弘ほか 岩手大学 岩手県 ○羽生尚史ほか 天童動物病院 山形県 ○松田祐二 はらのまち動物病院 仙台市 ○布川 寧 北の杜動物病院 仙台市 ○嶋 拓也 しま動物病院 福島県 ○渡辺雪乃ほか 岩手大学 岩手県 ○佐藤龍也 ○鈴木邦治 福島県 福島県 ○近澤征史朗ほか エスティー動物病院 希望ヶ丘ペットクリニック (協)仙台市獣医師会 夜間救急病院 北里大 青森県 ○信貴智子ほか グリーン動物病院 青森県 ○田口大介ほか グリーン動物病院 岩手県 ○國久 要ほか ○伊藤雄ほか ○川畑唯生ほか ○奥山尚明ほか ○竹原 律郎 ○古澤優介ほか ○高村広樹ほか ○小川慶也ほか グリーン動物病院 オノデラ動物病院 オノデラ動物病院 元町どうぶつ病院 ふれあい動物病院 岩手大学 岩手大学 岩手大学 青森県 宮城県 宮城県 山形県 青森県 岩手県 岩手県 岩手県 ○大髙理子ほか 岩手大学 岩手県 ○梶間卓朗ほか ― 10 ― 仙台市 演 題 番 号:1 演 題 名:犬の瞬目回数について 発表者氏名:◯岩城小百合 、後藤 晃伸1) 1) 発表者所属:1)ごとう動物病院・青森県 1.はじめに:瞬きの役割は、涙液の分泌と排泄を促す、異物を除去する、コミュニュケーションをとるなどで ある。瞬きが少ないと、乾性角結膜炎等が起きやすいと考えられる。犬の瞬きには、上下の眼瞼が完全に閉じる 「完全瞬目」と完全に閉じない「不完全瞬目」がある。犬の瞬目回数は平均14.5±5.63回/分であり、不完全瞬 目の割合が66%を占めるという報告があるが、本邦ではほとんど報告がないため、当院に来院した犬の瞬目回数 について調査することとした。 2.材料および方法:犬297頭について調査した。調査対象の犬の条件は、眼科の治療中でないことと、基礎疾 患があっても状態が安定していることとした。調査は午前中に行った。犬を診察台の上にのせ、1分間の瞬目回 数を測定し、そのうちの完全瞬目の回数も同時に測定した。得られた測定値と性別、年齢、体重、犬種、基礎疾 患(内分泌疾患、マイボーム腺機能不全)との関連について分析した。データは平均値±標準偏差で示す。 (P<0.05) 3.成績:犬の瞬目回数は、平均13.7±7.22回/分であった。完全瞬目回数は、平均2.9±2.18回/分で、不完全 瞬目の割合は、79%であった。性別による差は認められなかった。年齢と瞬目回数および完全瞬目回数に負の相 関が認められた。体重と瞬目回数にも負の相関が認められたが、完全瞬目回数との相関関係は認められなかった。 犬種については、小型犬と中大型犬を比較したところ、不完全瞬目回数が小型犬で有意に多かった。基礎疾患に ついては、内分泌疾患では有意な差が認められなかったが、マイボーム腺機能不全の既往歴がある犬では完全瞬 目回数が有意に少ないという結果が得られた。 4.考察:今回の調査では、報告よりも不完全瞬目の割合が多かった。これは、報告では大型犬が多いため、犬 種の違いが影響したものと考えられる。年齢が上がると瞬目回数が減少するという現象は人でも報告があり、原 因として神経の活動低下や眼瞼裂の狭小化などが考えられる。マイボーム腺機能不全の既往歴がある犬は、平常 時も完全瞬目回数が少なかったことから、日常的な瞬目マッサージや温罨法が重要と考える。 演 題 番 号:2 演 題 名:副腎皮質機能亢進症により重度の乾性角結膜炎を起こした犬の一例 発表者氏名:○後藤 晃伸 、岩城小百合1) 1) 発表者所属:1)ごとう動物病院・青森県 1.はじめに:犬の乾性角結膜炎(以下KCS)の原因は様々だが、最も多いのは免疫介在性疾患と考えられてい る。全身性疾患である甲状腺機能低下症、糖尿病および副腎皮質機能亢進症もKCSの原因となりうるが、その症 状は重度なものではない。今回、副腎皮質機能亢進症の犬における重度KCSに遭遇したので報告する。 2.症例:チワワ、8歳6ヶ月、未去勢雄、体重4.2㎏。僧房弁閉鎖不全症の既往歴あり。右眼が開かないとの 主訴で来院。初診時眼科検査により、右眼(以下OD)の縮瞳、角膜浮腫が認められ、シルマーティアテスト(以 下STT)0㎜ /minであった。左眼(以下OS)はSTT 8㎜ /minであった。フルオレセイン染色によりODに角 ― 11 ― 膜潰瘍を認めた。このため、重度のKCSと診断した。 3.治療および経過:オルビフロキサシン5㎎ /㎏ /day 8日間PO、オフロキサシン眼軟膏0.3% /BID(OD)、 ヒアルロン酸ナトリウム点眼液/QID(両眼)にて治療を開始した。第4病日、角膜病変が進行したため、免疫 介在性疾患を疑いシクロスポリン眼軟膏/SID(OD)およびヒアレインによる眼洗浄を追加。第37病日にはOS にも石灰沈着様の角膜病変が発現した。第75病日、治療への反応が悪いため全身性疾患を疑い、血液検査および ACTH刺激試験を実施した。血液検査では、白血球、血小板、GLU、GGT、ALP、GOT、GPT、TCHOの値が 高く、ACTH刺激試験でPre:3.4μg/dl、Post 1h:61.9μg/dlであった。検査結果より副腎皮質機能亢進症と診断 し、トリロスタン(SID)の内服を追加したところ、眼症状が改善し第163病日のSTTはOD:14㎜ /min、OS:17㎜ /minであった。 4.考察:本症例は重度のKCSを呈したが、免疫介在性疾患への治療には反応せず副腎皮質機能亢進症の治療に より症状が改善した。副腎皮質機能亢進症の犬は、その他の内分泌障害を持つ犬に比べて涙液の産生が減少する という報告がある。また、皮膚の石灰沈着と同様の機序で角膜に石灰沈着様病変が発現したと考えられる。この ため本症例が呈した涙液分泌抑制および角膜の石灰化は、過剰なコルチゾールが影響したものと考える。重度の KCSの鑑別として、副腎皮質機能亢進症も早期に検討すべきと考える。 演 題 番 号:5 演 題 名:北里大学附属動物病院における抗菌薬感受性一覧 発表者氏名:○木村 祐哉 、金井 一享1)、近澤征史朗1)、堀 泰智1)、星 史雄1)、 1) 伊藤 直之 1) 発表者所属:1)北里大・小動物内科 1.はじめに:各施設あるいは地域ごとに病原細菌の抗菌薬感受性パターンをまとめ把握することは、感染症に 対する早期治療や耐性菌の発生予防といった、抗菌薬の適正使用を目指すために必須とされるものである。今回、 北里大学獣医学部附属動物病院において2014年8月~ 2015年7月に実施した簡易感受性試験の成績から、採材 部位ごとの抗菌薬感受性一覧表(アンチバイオグラム)を作成した。 2.材料および方法:簡易感受性試験としてディスク拡散法を実施した。臨床症例から採取された各種検体は BHI培地により約1日増菌し、これを血液寒天培地に塗抹したものに対し、任意の薬剤感受性ディスクを載せ、 好気環境でさらに約1日培養した。このうち細菌の増殖を認めたものについて、阻止円の有無から感受性を判定 し、その結果を採取部位(呼吸器、口腔、耳、体表、整形、尿、子宮、肝胆、腹水)ごとにまとめた。 3.成績:計121検体が解析対象となり、感性率が90%を上回ったのはIPM、80-90%でTAZ/PIPCのみであった。 残る薬剤のうちAMPC/CVA、CEZ(CEX,CCL)、CMZ、FMOX、CTX、FRPM、MINO、CP、FOMの感性率 は50-80%であり、AMPC(ABPC)、CPDX、EM、ERFX(OBFX)、STは50%に及ばなかった。各部位ごとで 10検体以上を評価できたもののうち80%以上の感性率が保たれていたのは、体表に対するTAZ/PIPC、IPM、整 形 のTAZ/PIPC、IPM、FOM、 尿 のAMPC/CVA、TAZ/PIPC、FMOX、CTX、IPM、FRPM、MINO、CP、 FOMであり、耳では感性が保たれた薬剤はなかった。 4.考察:80%以上の感性率が保たれている抗菌薬については、初期治療として培養同定・感受性試験の結果を ― 12 ― 待たずに用いることが比較的許容されると考えられるが、当院における検体では、そのような薬剤は既に少なく、 耐性菌の拡大が大きな問題となっていることが示された。ただしこれは、既に他施設において基本的治療を経た 症例の集まる2次診療施設に特徴的なパターンとも言え、1次診療施設においては異なるパターンを示す可能性 も残されている。今後、施設ごとの特徴も踏まえ、さらに範囲を拡大した地域レベルでの耐性菌の動向を把握す ることも望まれる。 演 題 番 号:7 演 題 名:イヌとネコの歯肉炎・口内炎に対するイヌインターフェロン α(インターベリーα®)の効果 発表者氏名:○土田 靖彦 1) 発表者所属:1)ごり動物病院・青森県 1.はじめに:イヌインターフェロンαは歯周病原細菌数を減少させ、歯周病の初期症状の一つである歯周炎の 症状を軽減する効果がある。インターベリーα®はイヌインターフェロンαを産生するイチゴの果肉を原料とし た外用インターフェロンα製剤である。今回イヌ3頭、ネコ3頭に対しインターベリーα®を投与し良好な成績 を得たので報告する。 2.材料および方法:歯肉炎指数(表1)1以上のキャバリア・キングチャールズ・スパニエル(以下キャバリ ア)2頭、ミニチュアダックスフント1頭、日本ネコ2頭、雑種ネコ1頭に改変イヌインターフェロンα-4発 現イチゴ果実凍結乾燥粉末(1.0×103 〜 12×103LU/ 1g)を0.275gが1回分として3ないし4日おきに1回歯 肉部に塗布。ネコ3頭のうち2頭は0.55gの本剤を5㏄の精製水に溶いて点眼瓶に入れ、左右の口腔内口角、歯 肉に毎日自宅にて数滴滴下した。 3.成績:症例1;キャバリア・不妊メス・10歳 歯肉炎指数2 1週間後には指数1となった。症例2;キャ バリア・不妊メス・11歳 指数2 3週間後から炎症は軽減され指数は1となった。症例3;ミニチュアダック スフント・去勢オス・10歳 指数2はではあるが、左の上顎犬歯の歯肉は肉芽腫様に隆起していた。1週間後指 数は1となり、隆起は消失していた。症例4;日本ネコ・未去勢オス・10歳 難治性口内炎を理由に犬歯以外全 抜歯し、対症療法を継続してきたが、奏効せず疼痛と流涎を認めたため歯肉部に塗布。1週間後疼痛は軽減され、 投与期間中は疼痛と流涎は消失した。症例5;日本ネコ・去勢オス・6歳 歯周炎・口内炎 滴下。2週間後流 涎は消失し、口内炎は軽快した。症例6;雑種ネコ・不妊メス・13歳 歯周炎・口内炎 滴下。対症療法により 維持してきたが悪化したため投薬開始。2週間後には食欲良好となり口内炎は軽快した。 4.考察:1例を除き1週間(2回投与)でインターベリーα®は効果を発現した。ネコは治療対象で動物では ないが、ネコの難治性口内炎は治療に大変苦慮する疾患で、治療はこれまで全歯抜歯、ステロイド投与、ネコイ ンターフェロン局所治療など行われてきた。本来は直接塗布する製剤を、口腔内に滴下することで、投薬の簡便 化に成功し、奏効した。このことよりインターベリーα®はネコの口内炎にも有効であると考える。 ― 13 ― 演 題 番 号:21 演 題 名:断脚術後早期に広範な皮膚転移を認めたBリンパ球由来悪性腫 瘍の犬の1例 発表者氏名:○立花由莉加、近澤征史朗、前田 賢一、岩井 聡美、畑井 仁 発表者所属:北里大・青森県 1.はじめに:犬のBリンパ球を起源とする悪性腫瘍にはリンパ腫、白血病、多発性骨髄腫(形質細胞腫)が包 含され、特にリンパ腫における病理学的分類の細分化の流れは人医療における当該疾患の分類法の改訂を受けて 獣医療でも盛んな議論が行われてきた。その一方で、実際の診療では既存の情報に合致しない臨床挙動を示すな ど、臨床的な判断に苦慮する例がしばしば散見される。今回、我々は犬の左上腕骨に発生した骨病変を伴う造血 器系腫瘍において稀有な臨床経過を経験したので、その概要を報告する。 2.症例:7歳齢、体重33.7㎏、雄のゴールデン・レトリーバーが数日間続く左前肢跛行を主訴に近医を受診した。 X線検査にて左上腕骨遠位端に不透過性亢進領域が認められたため、本学附属動物病院を紹介受診した。 3.診療経過:初診時(第0病日)の身体検査では左前肢の挙上および左肘関節周囲の発熱・腫脹が認められ、 同部位に対する触診にて疼痛と思われる反応が認められた。また、X線検査にて左上腕骨外側上顆に透過性亢進 領域が認められた。第3病日、病変部に対して行った組織生検では肉腫と診断され、第20病日に左前肢断脚術を 実施、病理組織学的検査にてB細胞由来の悪性腫瘍、特に孤立性骨形質細胞腫が疑われた。術後経過観察を行っ ていたところ、第42病日に頚部皮膚に発赤を伴う微小な結節性病変が多数認められ、細胞診の結果転移病変であ ることが疑われた。プレドニゾロン、クロラムブシル、サイクロフォスファミドを用いた化学療法は奏功せず、 全身状態の悪化によって第115病日に死亡した。剖検の結果、腫瘍は全身皮膚、胸腔および腹腔内臓器、骨へ波 及しており、広範な全身転移が認められた。 4.考察:当該症例の左前肢に発生した腫瘍性疾患は免疫染色の結果、MUM1に対して陽性反応を示したこと からBリンパ球あるいは形質細胞由来の細胞集塊であると考えられた。また、原発巣は左上腕骨遠位端の骨ある いは骨髄と考えられたが確証は得られなかった。本症例に認められた腫瘍の極めて高い悪性度は、形質細胞腫や 一般的なB細胞性リンパ腫や白血病とも異なるものであった。剖検により、最終的な病理組織学的診断は人医療 における分類も参考にして「大細胞型免疫芽球性リンパ腫」と考えたが、獣医療におけるこれらの知見は不十分 であり今後の情報の集積が望まれる。 演 題 番 号:31 演 題 名:内科および外科的治療を試みた犬の大腸血管拡張症の1例 発表者氏名:○近澤征史朗、岩井 聡美、小谷野貴徳、畑井 仁 発表者所属:北里大・青森県 1.はじめに:大腸血管拡張症(Colonic Vascular Ectasia: CVE)は大腸の血管異常に起因する稀な出血性疾患 であり、人で一般的に、犬で稀に発生する。現在までに犬のCVEに関する情報は7例の症例報告に限られており、 外科的あるいは内科的治療の報告がなされているが、有効な治療法はよく分かっていない。今回、我々はCVE ― 14 ― と診断した犬に対して性ホルモン剤やソマトスタチン製剤を用いた内科的および外科的治療を行い、その効果に ついて一定の知見を得たのでここに報告する。 2.症例:7歳齢、体重6.0㎏、雌のミニチュア・ダックスフンドが重度貧血を主訴に近医より本学附属動物病 院小動物診療センターを紹介受診した。症例は重度の持続的な出血便を呈し、頻回の輸血処置を要した。下部消 化管内視鏡検査では粘膜面の血管走行の明らかな異常が認められ、腸粘膜の内視鏡下生検では腸粘膜下の血管 拡張が示唆された。それら所見からCVEが強く疑われたため、エストロジェン-プロジェステロン(EP)療法、 徐放性ソマトスタチン製剤の投与が行われたが十分な効果は認められず、初診から595日後に病変部の大半を含 む回腸遠位~結腸亜全摘手術を実施した。開腹時、回腸遠位端~大腸全域において明瞭な血管拡張が認められ、 病理組織学的検査においても粘膜下から腸間膜に至る血管の顕著な拡張を認めた。 3.臨床経過:術後早期から出血便および輸血処置の頻度は明らかに減少し、自宅管理に移行した。しかし、少 量且つ間欠的な出血便は持続し、第748病日においても慢性出血に起因すると考えられる再生性貧血が持続して いる。現在はEP療法を補助的に行いながら経過観察を行っている。 4.考察:本症例における下部消化管の異常な血管の拡張は過去に報告されているCVEの特徴と酷似するもの であり、それら血管異常が持続的且つ重度の下部消化管出血を引き起こしたと考えられた。飼い主の希望もあり 初期は内科治療を先行させたが、EP療法が一時的に効果を示したのみでソマトスタチンは効果的でなく、その 後外科的治療に踏み切った。若干の術後の出血が継続すると推測されたが、術後の便失禁を考慮して直腸の一部 を温存する方法で施術を行った。しかしながら、術後は輸血処置をほとんど行うことなく自宅管理を維持するこ とが可能となっている。従って、犬のCVEの治療には外科的治療を積極的に考慮する必要があると考えられた。 演 題 番 号:32 演 題 名:動脈管開存症における短絡血流波形の肺高血圧程度による変 化の観察 発表者氏名:○信貴 智子 、田口 大介2)、國久 要1)、金本 勇3) 1) 発表者所属:1)グリーン動物病院・青森、2)グリーン動物病院・岩手、3)茶屋が坂動物病院・名古屋 1.はじめに:動脈管開存症(PDA)では、動脈管を通じて、大動脈(左心系)から肺動脈(右心系)へ血液 が短絡する(左右短絡)。しかし、重度の肺高血圧(PH)を合併すると肺動脈(右心系)から大動脈(左心系) へ血液が短絡する(右左短絡)。今回、様々な程度のPHを合併する犬の動脈管血流波形を観察し、その治療も検 討した。 2.材料および方法:PDAと診断した犬5例。チワワ、3ヵ月齢、PHなし。マルチーズ、42日齢、PHだが左右短絡。 ミニチュア・ダックスフンド、1ヵ月齢、PHだが左右短絡、ミニチュア・ダックスフンド、1ヵ月齢、重度PH だが左右短絡。ポメラニアン、5歳、重度PHで右左短絡。ポメラニアン×ミニチュア・ダックスフンド、5歳、 重度PHで右左短絡。上記5症例の短絡血流波形と経過を観察した。 3.成績:短絡血流波形は、PHがなければ収縮期にピークのある典型的な連続性波形であった。左右短絡でも PHが強くなると連続性は消失していき、よりPHが強くなると収縮末期と拡張末期にピークがある二峰性波形と なった。さらにPHが強くなると左右短絡優位の両方向性短絡となった。右左短絡例では収縮初期と拡張初期に ― 15 ― 小さい左右血流があり、収縮期に大きな右左短絡波形となった。より強いPHの右左短絡例では、収縮初期に小 さい左右血流があり、収縮期に大きな右左短絡波形があった。左右短絡例は3例とも外科的治療を実施し、良好 な経過を経ている。右左短絡例は2例とも内科的治療を実施した。 4.考察:PDAにPHが合併する事は広く知られているが、その程度を短絡波形で分類、解説している成書はほ とんどない。今回の結果から、一概にPHといっても種々の短絡血流波形が得られた。短絡血流波形は血行動態 を表しており、治療指針の決定に重要な役割を果たしていると考えた。 演 題 番 号:34 演 題 名:犬糸状虫症感染犬で発咳がみられない犬の考察 発表者氏名:○國久 要 、田口 大介2) 1) 発表者所属:1)グリーン動物病院・青森、2)グリーン動物病院・岩手 1.はじめに:発咳は犬の犬糸状虫症における代表的臨床症状の一つとして広く知られているが、軽症の症例な どでは臨床症状を示さない事も知られている。今回、過去に当院を受診した犬糸状虫症で発咳がみられなかった 例の傾向と特徴を後ろ向き研究として検討した。 2.材料および方法:過去当院を受診した犬糸状虫感染犬480例の中で、何らかの治療を実施したあるいは経過 観察した248例について、心エコー検査で確認された犬糸状虫の寄生数と、肺高血圧(PH)の程度とX線検査、 血液検査所見を再検証した。 3.成績:①虫体寄生数が少なく、PHが軽度から中程度の症例は145 / 248例で、発咳のない症例は141例であった。 ②虫体寄生数が多く、PHが軽度から中程度の症例は17 / 248例で、発咳のない症例は13 / 17例であった。③虫 体寄生数が少なく、PHが重度の症例は25 / 248例で、発咳のない症例は12 / 25例であった。④虫体寄生数が多く、 PHが重度の症例は12 / 248例で、発咳のない症例は5/ 12例であった。⑤vena cava syndrome(VCS)症例は 49 / 248例で、発咳のない症例は3/ 49例であった。発咳がない例はX線検査では、肺実質病変が少なく、血液 検査における炎症指標が少ない傾向にあった。 4.考察:犬の犬糸状虫症における発咳はアレルギー性肺炎や死滅虫体の塞栓などにより生じるとされている。 今回検討した結果、①ではほとんどの症例で発咳は認められず、発咳がみられた症例もプレドニゾロンを使用し た内科治療に良く反応し、速やかに発咳が消失した。②でも発咳がみられない症例が多く、多数寄生でも必ずし も発咳がみられるとは限らないと思われた。肺高血圧が重度やVCS症例では発咳が認められない例は少なかった が、これらの咳がない例は既に慢性経過例であり、肺動脈病変も古く血流に乏しく、肺実質に現在進行中の病変 がない例であると考えられた。 以上から、重症例でも代表的臨床症状である発咳がみられない例があるということを再認識し、またそれはよ り肺病態が進行し、器質化した結果だと考えられた。 ― 16 ― 演 題 番 号:38 演 題 名:著しい骨病変を呈した犬の肺性肥大性骨関節症の1例 発表者氏名:○竹原 律郎 発表者所属:ふれあい動物病院・青森県 1.はじめに:肺性肥大性骨関節症(pulmonary hypertrophic osteoarthropathy:PHO)は、肺腫瘍、感染症な どの呼吸器疾患に伴い、長管骨の骨膜新生、関節炎などの病態を呈し、四肢の腫脹と跛行を主徴とする疾患であ る。犬の症例に遭遇し、5か月間経過を観察することができたので報告する。 2.材料および方法:症例:10歳の去勢雄のチワワで、後肢の跛行を主訴に来院した。 心雑音Levin 3/Ⅵ、四 肢骨の腫脹、軽度の疼痛、四肢周囲の拡大が認められ、特に足根部の可動が困難であった。 3.成績:X線検査所見:後肢は、趾骨から大腿骨まで、骨幹全体に及ぶ骨膜の増加、膝、足根関節周囲では骨 棘、脱灰が見られ、前肢でも、指骨から上腕骨まで骨膜の増加が認められた。腹部、膀胱後部にびまん性の不透 過像を認めた。右肺後葉に、ドーナツ状、2㎝大の濃淡のある不透過像の空洞様病変が観察された 。 血液検査所見:PCV37%、ALP192IU/l、Ca9.6㎎ /dl、P4.4㎎ /dl、T 4 1.3㎍ /dl、intactPTH(上皮小体ホル モン)22.5pg/㎖、BAP(骨型ALP)57.4IU/l、ANA(抗核抗体)(-)、RF(リウマトイド因子)(+)だった。 関節液検査所見:透明粘稠、細胞成分は少量、非炎症性であった。骨生検検査所見:骨梁は薄く、骨組織周囲は 線維性結合織や破骨細胞が認められ、異型性、炎症、腫瘍性病変は認められなかった。以上の所見より、肥大性 骨関節症(hypertrophic osteoarthropathy:HO)あるいは リウマチと仮診断した。 経過:疼痛緩和、骨病変、関節病変の抑制のため、プレドニゾロン、NSAIDs、メトトレキサート、ブシラミン、 ポリ硫酸ペントサンNaを適宜投与した。徐々に、骨の肥大、膀胱後部の石灰化が進み、肺病変が拡大、左側の 肺にも円形の複数のMassが観察され、起立が困難になり、発咳が増え、呼吸困難が進行し5か月後に死亡した。 4.考察:T 4、上皮小体ホルモン、副腎皮質ホルモン、エストラジオールは正常値で内分泌因子は一部否定で きたが、HOの原因は明らかにはならなかった。ALPは上昇傾向を示し、BAPは平均値の倍以上の高値で、骨増 生が示唆された。この症例では、肺の腫瘤の病理診断、早期の肺葉切除の実施が望まれた。発症機構の解明には、 単一の炎症惹起物質だけではなく、各種パラメーターの計測、腫瘍産生因子などの関連の可能性も考慮する必要 があると考えられた。 ― 17 ― ⑷ 平成27年度獣医学術東北地区学会・日本獣医公衆衛生学会 (東北地区)の概要 日本公衆衛生獣医学会東北地区学会幹事 佐野 斉(十和田食肉衛生検査所) 本学会は、平成27年10月9日に盛岡市(ホテル東日本)において盛大に開催されました。 開会に先立ち、学会実行委員会が開催され、事務局から進行上の注意や審査要領等についての全体説明が行わ れました。 その後、各学会に分かれ、当学会では、上野東北地区学会長挨拶、平成26年度褒賞(奨励賞)授与式、山田全 国副学会長挨拶の後、26題の演題が発表されました。食品衛生関係や食肉衛生検査関係、動物愛護関係まで幅広 い内容となり、本県からは5題の演題が発表されました。各県市の発表演題数は、次のとおりでした。 青森県 5題 岩手県 9題 秋田県 5題 宮城県 2題 山形県 3題 福島県 1題 仙台市 1題 発表終了後、評議員による審査会が開催され、いずれの演題も優秀で甲乙付けがたいものばかりでしたが、次 のとおり決定しました。 ○ 東北地区学会長賞 下痢性貝毒の機器分析法の検討-試験法改正に向けての対応- 岩手県食肉衛生検査所 梶田 弘子 ○ 東北地区獣医師会連合会長賞 豚疣贅性心内膜炎由来の疾病リスクの高いStreptococcus suis の解析 山形県庄内食肉衛生検査所 安藤 和宏ほか ○ 奨励賞 ウエルシュ菌新型下痢毒素産生動態の解析 岩手大学 塚田 滉巳ほか 最後に、日常業務が多忙の中、御協力いただいた皆様に感謝するとともに、今後とも本県から多くの発表がな されるよう、引き続き、会員の皆様の御協力をお願い申し上げます。 ― 18 ― 【公衆衛生】平成27年度獣医学術東北地区学会発表演題 № 演 題 名 1 飼い犬の所有者明示に関する調査について 2 譲渡事業の実施状況について 3 ふれあい活動に用いるミニチアホース体表の洗浄効果 の生体内生存因子の網羅的同定法の 4 Vibrio vulnificus 確立 5 Vibrio vulnificus の創傷感染による鞭毛運動の役割 Vibrio vulnificus は腸管内においてFumarate and 6 nitrate reduction regulatory protein依存的に増殖 する 7 ウエルシュ菌新型下痢毒素産生動態の解析 岩手県内で流行したA香港型インフルエンザウイルスの 8 HA遺伝子解析 カキ及び下水処理場放流水に含まれるノロウイルスの量 9 的関係の予備的検討 下痢性貝毒の機器分析法の検討-試験法改正に向けての 10 対応- 鶏舎の換気、温度および照度管理と食鳥検査成績等の関 11 連 食鳥処理場のHACCP導入型基準の導入に向けた検査員 12 の対応 比内地鶏におけるHACCP導入に向けた一取組み(第一 13 報) 14 牛肉における住肉胞子虫保有状況の定量解析 15 豚赤痢検査におけるPCR法の検討 16 豚丹毒菌の選択増菌法について 豚胸膜肺炎発生農場におけるActinobacillus 17 pleuropneumoniaeの分離とその血清型 豚疣贅性心内膜炎由来の疾病リスクの高い 18 Streptococcus suis の解析 牛糞便及び体表の腸管出血性大腸菌O157の保菌率と定 19 量 20 馬の腸管出血性大腸菌保有実態調査の実施について 所管と畜場において検出した牛白血病ウイルスの分子疫 21 学 馬パピローマウイルス1型遺伝子が検出された皮膚乳頭 22 腫症の1例 23 高齢黒毛和種に見られたT細胞性腫瘍の病理学的検索 24 めん羊の全身性メラノーシスの1例 長期保管したホルマリン固定パラフィン包埋組織におけ 25 る免疫組織化学染色の有効性について 26 ヘテロサイクリックアミンが発生しない豚肉の生産方法 演 者 名 ○岩崎ささ子ほか ○安田 理ほか ○進藤順治ほか 所 属 名 盛岡市保健所 釜石保健所 北里大学 所属獣医師会 岩手県 岩手県 青森県 ○柏本孝茂ほか 北里大学 青森県 ◯山﨑浩平ほか 北里大学 青森県 ○門 武宏ほか 北里大学 青森県 ○塚田滉巳ほか 岩手大学 岩手県 ○高橋雅輝ほか 岩手県環境保健研究センター 岩手県 ○佐藤直人ほか 岩手県環境保健研究センター 岩手県 ○梶田弘子ほか 岩手県食肉衛検 ○清宮幸男ほか ○岩井佳子ほか 岩手県 (一社)岩手県獣医師会食鳥 岩手県 検査センター (一社)岩手県獣医師会食鳥 岩手県 検査センター ○須田朋洋ほか 秋田県横手保健所 秋田県 ○藤森亜紀子ほか ○菊地美貴子ほか ○土家康太朗ほか 岩手県食肉衛検 秋田市食肉衛検 秋田県食肉衛検 岩手県 秋田県 秋田県 ○佐藤靖子ほか 山形県庄内食肉衛検 山形県 ○安藤知弘ほか 山形県庄内食肉衛検 山形県 ○市川祐輝ほか 宮城県食肉衛検 宮城県 ○佐藤敬弥ほか 福島県会津保健所 福島県 ○駒林賢一ほか 山形県内陸食肉衛検 山形県 ○小野寺恭子ほか 秋田市食肉衛検 秋田県 ○鈴木佳奈子ほか ○髙橋広志ほか 仙台市食肉衛検 秋田市食肉衛検 仙台市 秋田県 ○依藤大輔ほか 宮城県登米保健所 宮城県 〇上野俊治ほか 北里大学 青森県 ― 19 ― 演 題 番 号:3 演 題 名:ふれあい活動に用いるミニチアホース体表の洗浄効果 発表者氏名:進藤 順治 、成岡 正基1)、山谷 幸恵1)、安田 暁彦1)、岡田あゆみ1)、 1) 松浦 晶央 2) 発表者所属:1)北里大・野生動物学研究室、2)北里大・動物行動学研究室 1.はじめに:動物介在療法・介在活動は一般的にイヌやネコが用いられ、そのセラピー効果は主に心理面に限 られているが、ウマを用いる場合、ふれあいを通した介在活動の他に治療的乗馬が行われている。しかしながら、 このような動物介在療法・介在活動では常に感染症の問題が懸念されるため、実施するにあたりさまざまな対策 が取られている。対策の一つとして、体表の洗浄があるが、実際の有効性はあまり明確になっていない。そこで、 今回は、動物介在療法・介在活動に用いられるミニチアホースの体表の汚染度を把握し、洗浄による汚染の軽減 を検討した。 2.材料および方法:北里大学獣医学部で飼育しているウマ(ミニチアホース)3頭を用いた。洗浄方法は、温 水、炭酸水、シャンプーを用い、洗浄効果の経時的変化を見るため洗浄前、洗浄後、3、6、24時間後に体表の ATPふき取り検査と一般細菌数を測定した。また、洗浄効果を形態学的側面から走査型電子顕微鏡(SEM)を 用い観察を行った。計測部位は、ふれあい時に触りやすい鼻梁、頬、首、背、腹の計5ヶ所と設定した。 3.成績:体表のATP値(log10RLU/㎠ mean±SE)は、温水で洗浄した場合、洗浄前3.24±0.16が洗浄後1.64±0.20 に低下し、3時間後1.98±0.45、6時間後2.27±0.23、24時間後には3.18±0.50となっていた。炭酸水では洗浄前3.31 ±0.26、洗浄後1.29±0.17、3時間後2.51±0.32、6時間後2.60±0.24、24時間後3.16±0.41、シャンプーでは洗浄前3.27 ±0.32、洗浄後1.36±0.19、3時間 2.31±0.30、6時間2.40±0.30、24時間後3.21±0.56であった。いずれの洗浄方 法においてもATP値は洗浄後、3、6時間後で有意に低く(P<0.05)、24時間後には洗浄前の値に戻っていた。 体表の一般細菌数(CFU/㎠ mean±SE)は、洗浄前が温水19.2±5.8、炭酸水28.5±14.6、シャンプー 64.7± 29.2であったが洗浄直後は温水6.9±2.6、炭酸水5.5±3.8、シャンプー 15.1±10.3と著しく減少した。その後3、6 時間と徐々に増加し、24時間後には洗浄前の値に戻っていた。 洗浄前後の毛の状態をSEMで観察すると、洗浄前落屑物の付着や細菌の増殖が観察された。洗浄後には汚れ は落とされ、6時間後まで比較的同程度の汚れであったが、24時間後には増加していた。温水、炭酸水とシャン プーを比較すると、明らかにシャンプーの汚れ少ない。 4.考察:体表の清浄度を保つためには、洗浄は有効な方法であるが、24時間後には、洗浄前と同程度の状態に 戻っていた。清浄度が維持された状態での動物介在活動を行うには前日の洗浄ではなく、当日の洗浄を推奨する。 ― 20 ― 演 題 番 号:4 Vibrio vulnificus の生体内生存因子の網羅的同定法の確立 演 題 名: 発表者氏名:○柏本 孝茂、山﨑 浩平、大沼 孝詞、上野 俊治 発表者所属:北里大 獣医公衆衛生 1.はじめに:Vibrio vulnificus (以下V.v. とする)は、発熱等の初期症状の後、平均40時間という短時間内に感 染者を死に至らしめる。これまでに報告されているV.v. の病原因子(機構)には、莢膜、リポ多糖(LPS)、プロ テアーゼや鉄獲得機構があるが、これら因子のみでは本感染症の短時間内における高い致死率を説明できない。 また、これらが生体内で発現し、作用を発揮している証拠にも乏しい。そこで、感染時に生体内で機能し、V.v. の 生存に必須の因子を網羅的に探索するため、Signature tagged transposon basis mutagenesis(以下STMとする) 法を確立した。 2.材料および方法:識別可能な63種類の異なる塩基配列を付加したトランスポゾンを、V.v. (CMCP 6株)の ゲノムに転移させ、63株の変異体を作製した。これらをプール(Input pool)し、マウスの皮下に接種後、マウ スの脾臓をホモジナイズし、選択培地を使用して変異体を回収した(Output pool)。Input poolとOutput poolに 存在する変異株をTag特異的ドットブロットにより比較し、Input poolには存在するが、Output poolで欠落して いる変異株を選択した。これらの変異株は、V.v. がマウス体内で生存するのに必須の遺伝子がトランスポゾンに より破壊されている株と考えられた。そこで、トランスポゾンの挿入部位を決定するため、ランダムプライマー を用いたArbitrarily primed PCRによりトランスポゾンとV.v. ゲノムのジャンクション部分を含んだフラグメン トを増幅し、プラスミドベクターへクローニングして、シークエンス後、得られた配列をCMCP 6ゲノムデー タベースと照会してトランスポゾン挿入遺伝子と挿入部位を明らかにした。 3.成績:莢膜、LPSや鉄獲得機構の生合成遺伝子が同定された。 4.考察:これまでに病原因子と推定されている因子の生合成遺伝子が同定されたことから、確立したSTM法 により、V.v. がマウス体内での生存に必須とする遺伝子を網羅的に同定可能であることが証明された。今後、よ り多くの遺伝子を同定し、それらを機能によりグループ分けすることで、V.v. の生体内生存に必須のシステムを 明らかにして行く。 演 題 番 号:5 Vibrio vulnificus の創傷感染による鞭毛運動の役割 演 題 名: 発表者氏名:◯山﨑 浩平、柏本 孝茂、門 武宏、上野 俊治 発表者所属:北里大 獣医学系研究科 獣医公衆衛生 1.はじめに:ヒトがVibrio vulnificus(V.v.) に創傷感染すると、感染局所の激しい腫脹の後、四肢の疼痛や 壊死性筋膜炎を呈し、敗血症により死亡する。我々は、本菌の感染局所からの拡散、増殖及び侵入に必須となる 因子を同定するため、Signature tagged transposon basis mutagenesis法を用いて解析を行ってきた。その結果、 運動性及び化学走化性に関与する遺伝子が複数同定された。そこで、本研究では、 V.v. の創傷感染モデルを用いて、 鞭毛運動が感染局所で果たす役割を解析した。 ― 21 ― 2.材料および方法:鞭毛は発現しているが運動性の欠損しているPomA欠失変異株(ΔpomA )、鞭毛が反時 計回り(CCW)にのみ回転し、菌体が直進し続けるCheY欠失変異株(ΔcheY )、及び、鞭毛が高頻度で時計回 りに回転し、菌体が方向転換を繰り返すCheY点変異株(Q93R)を作製した。これら3種類の変異株と野生株(WT) をそれぞれマウスの皮下に接種し、1in vivo imaging systemを用いた皮下での拡散性、2筋肉中の菌数、及び 3マウスの致死性を比較した。 3.成績:1WTと比較し、ΔpomA のみ拡散範囲が極端に狭かった。また、WTは接種後4時間で増殖及び拡 散範囲がピークを迎えたが、ΔcheY とQ93Rは48時間後まで増殖及び拡散し続けた。これらのことから、鞭毛の 回転制御が感染局所での効率的な増殖と拡散に必須であることがわかった。2接種12時間後のWTの筋肉中の 菌数は、ΔpomA 、ΔcheY 及びQ93Rに比較して有意に多かった。変異株間の筋肉中の菌数を比較すると、接種 18時間後においてΔcheY がΔpomA 及びQ93Rに比べて多かった。このことから、筋肉中への侵入には適切な鞭 毛の回転制御が必要であり、特にCCW方向への回転が重要であると考えられた。3致死率は WT>ΔcheY > Q93R>ΔpomA となった。これにより筋肉中の菌数が致死性に反映されることが明らかとなった。 4.考察:V.v. の創傷感染においては、皮下での増殖、拡散、及び筋肉中への侵入に適切な鞭毛の回転制御が必 要であり、この筋肉中への侵入性の違いが、致死性につながることが明らかとなった。 演 題 番 号:6 Vibrio vulnificus は 腸 管 内 に お い てFumarate and nitrate 演 題 名: reduction regulatory protein依存的に増殖する 発表者氏名:○門 武宏、柏本 孝茂、山﨑 浩平、上野 俊二 発表者所属:北里大 獣医学系研究科 獣医公衆衛生 1.はじめに:Vibrio vulnificus(V.v.) は主に慢性肝疾患患者に経口感染し、敗血症を引き起こす。感染者は初 期症状の発現から平均40時間で死に至り、その致死率は50-70%にも及ぶ。経口感染によりV.v. が敗血症を引き 起こすには、腸管から門脈を介して肝臓へ到達し、全身循環に侵入する必要がある。我々のこれまでの研究結果 から、V.v. の経口接種により死亡したマウスの腸管内からは、生残したマウスの腸管内と比較して有意に多くの V.v. が検出されることが分かっている。この結果は、V.v. が敗血症を引き起こすための第一段階として、腸管内 での増殖が必要であることを示唆している。本研究では、腸管内におけるV.v. の適応・増殖機構の解析を試みた。 2.材料および方法:腸管内は嫌気環境に保たれていることから、V.v. が嫌気環境下で増殖するために必要なタ ンパク質をデータベースより検索した。その結果、代謝を好気呼吸から嫌気呼吸へとスイッチさせるFumarate and nitrate reduction regulatory protein(FNR)を有することが分かった。そこで、敗血症患者から分離され たV.v. (Wt)を親株として、FNR遺伝子とエリスロマイシン耐性遺伝子を置換した株(Δfnr )を作製した。Wt とΔfnr を1:1で混合してLB broth(好気または嫌気培養)に接種し、10時間後のWtとΔfnr の存在比を調査 した(競合アッセイ)。マウス腸管ループ内においても同様に競合アッセイを行った。 3.成績:競合アッセイの結果、LB brothでの好気培養におけるWtとΔfnr の存在比は1:1であったが、嫌気 培養と腸管ループ内におけるWtとΔfnr の存在比は、それぞれ20:1および2:1となった。 4.考察:競合アッセイの結果、好気培養ではΔfnr のWtに対する存在比は変化しなかったが、嫌気培養と腸管ルー ― 22 ― プ内ではΔfnr のWtに対する存在比が減少した。これらの結果から、V.v. は嫌気環境下でのみFNR依存的に増殖 していることが明らかとなった。すなわち、食物と共に摂取されたV.v. は、腸管内へ到達した際にFNRを活性化 して嫌気呼吸へと代謝をスイッチすることで適応、増殖した後、門脈を介して肝臓へ到達し、全身循環に侵入す ることで、感染者を敗血症により死に至らしめると考えられた。 演 題 番 号:26 演 題 名:ヘテロサイクリックアミンが発生しない豚肉の生産方法 発表者氏名:○上野 俊治 発表者所属:北里大 獣医公衆衛生 1.はじめに:食品の加熱調理で発生する発がん物質であるヘテロサイクリックアミンの中で、2-amino-1methyl-6-phenylimidazo[4,5-b] pyridine(PhIP)は発生量が最も多く、我が国の食生活欧米化に伴い増加してき た大腸・乳および前立腺がんとの関連性が疑われている。演者は昨年の発表で、ヒトへのPhIP暴露源としての 豚肉の重要性を指摘し、豚肉のPhIP発生量は加熱前食肉の遊離フェニルアラニン(Phe)濃度と正の相関関係を 示すことを明らかにした。本研究では、豚の生産段階での対応によって豚肉の遊離Phe濃度を低下させ、PhIPが 発生しない豚肉を生産する方法の開発を目指した。 2.材料および方法:北里大学フィールドサイエンスセンターで生産・飼育された6~7ヶ月齢の豚を出荷直前 の3または5日間Phe欠乏飼料で飼育した。これらの豚は十和田食肉センターでとさつ・解体し、十和田食肉衛 生検査所によると畜検査を受け、臓器等を実験に供した。枝肉は十和田食肉センター内冷蔵庫で5~6日間熟成 後、実験に供した。遊離Phe濃度測定法と加熱によるPhIP発生量の測定法は、昨年と同様である。 3.成績:熟成後豚肉における遊離Phe濃度は、Phe欠乏飼料給餌群で有意に低下した。豚肉を250℃、5あるい は10分間加熱することによるPhIP発生は、Phe欠乏飼料給餌豚肉(給餌3および5日間)でほぼ完全に抑制され た(下図)。生産された豚の臓器や筋肉その他に、と畜検査や病理組織学的検索等で感知できる影響はなかった。 4.考察:通常の方法で生産・飼育された出荷直前の 豚に、Phe欠乏飼料をごく短期間(3~5日間)給餌 することで、熟成後の遊離Phe濃度が低い豚肉を得る ことができた。 本方法で生産された豚肉は、過加熱された場合でも PhIP発生がほとんど無いことが証明され、発がん物 質であるPhIPが発生しない豚肉の生産方法が確立し た。(特許 第5757520号、H27.6.12) ― 23 ― KITASATO Univ. 臨床ノート 第208号 図1:来院時の外貌 直腸は、一部乾燥し肥厚した暗赤色の粘膜 が観察される.外子宮口が直視でき、膀胱 の脱出により拡張して還納できなくなって 図2:膣整復直後の様子 尿道口が重度に肥厚していた ため、軽減するまで導尿を継 続することにした. ― 24 ― 図4:乾燥した直腸粘膜が観察される. 術後5日目の努責により軽度の直超脱が 観察された. 図3:排便時 に直腸脱が見られる. 図5:直腸が徐々に還納していく様子が 観察される.最下段の写真は、術後28 日目の様子.浮腫はなく、尾の挙上も 見られない. ― 25 ― KITASATO Univ. 臨床ノート 第209号 北里大学附属小動物診療センター 動物種:犬 R 品 性 別:雄(去勢) 年 体 重:11.7 kg 種:コーギー 齢:6 歳 11 ヶ月 既往歴:なし 主訴および禀告:1ヶ月前から左後肢跛行 NSAIDs 内服で症状は治まるが、休薬す 図1:右膝関節の軽度の関節液貯留 ると再発 〈初診時〉 一般所見:触診では疼痛所見を認めなかったが、後肢筋肉量に左 右差が認められ、左後肢の筋萎縮が疑われた。 また、神経学的検査にて左後肢の LMN 兆候を認めた。 血液検査所見:軽度の低 ALB 血症 X 線検査所見:左股関節に軽度の股異形成、L6-7 腰椎椎間孔内 に不透過性陰影 図2:腰髄の膨隆と軽度中心管拡張 鑑別診断: 椎間板ヘルニア、変性性脊髄症などの神経疾患、股関 節亜脱臼、変形性関節症などの整形疾患 etc この時点での鑑別診断リストでは神経疾患を上位に考えており、 一般的な血液検査、レントゲン検査を行い、追加検査として CT、 MRI 検査を提示した。 追加検査:変性性脊髄症(DM)遺伝子検査→陰性 〈第2病日〉 主訴および禀告:左前肢、右後肢の跛行 院内歩行:走行時うさぎ跳び様 血液検査:CRP 5.2mg/dL 鑑別診断:関節炎、椎間板ヘルニアなどの神経疾患、股関節亜脱 臼、変形性関節症などの整形疾患 etc 追加検査:抗核抗体、リウマチ因子→陰性 図3:関節液検査〈左手根関節(上)右膝関節(下)〉 ― 26 ― 〈第4病日〉 CT/MRI 検査、関節液検査を実施 CT/MRI 検査所見:腰髄~馬尾への移行部に脊髄実質の膨化(造影増強なし)とその頭側 における中心管の拡大を認めた。右膝関節内に軽度の液体貯留を認め るが、その他骨関節に著変なし。 (CSF:異常なし) 関節液検査:右膝関節液→細胞数の著しい増加(35120/μL)が認められ未変性好中球 主体の炎症細胞が観察された。菌増殖所見(-)異常細胞(-) 無菌性関節炎を疑う所見 左手根関節液→マクロファージ/滑膜細胞を優位に未変性好中球が認められ た。細胞数(3470/μL) 、菌増殖所見(-)異常細胞(-) 反応性関節炎を疑う所見 これらの検査所見をあわせ、神経学的異常より関節疾患が症状の主体と考えられ、免疫介 在性多発性関節炎を鑑別診断リストの最上位と考えた。 追加検査:細菌感受性試験(院内/嫌気)→右膝関節液から菌発育を確認。ミノマイシン、 クロラムフェニコールのみ感受性(+)多剤耐性菌を疑う。 検査結果より、最終的に原因疾患を細菌性関節炎と診断し、第7病日よりミノマイシン 8.6 mg/kgBID、カルプロフェン 4.4mg/kgSID の投与を開始した。 追加検査:細菌同定/感受性検査→coagulase negative Staphylococcus(MRCNS) 複数の薬剤に対し耐性を示したが、ミノサイクリンへの感受性(+)であったため投薬内 容は変更せず継続とした。 〈第20病日〉 跛行は認められず、食欲も増進しているとのことだった。 〈第35病日〉 カルプロフェンを休薬後も、跛行は認められず経過良好 第35病日にミノサイクリンを休薬したが、再発は認めていない。 また、脊髄の膨隆部に関して症状が認められないため経過観察とした。 〈まとめ〉 本学において、関節炎を疑う症例に出会う機会は比較的多い。鑑別として関節液の細菌培 養をルーチンで行っているが、実際のところ細菌が検出されることはめったになく、免疫 介在性関節炎と診断され免疫抑制治療に反応するケースが多くを占めている。そういった 状況も踏まえ、外傷を除き、易感染性素因をもたない症例において他の部位に比べ栄養の 乏しい関節液内では細菌が増殖する可能性は低いのではないかと考えていた。しかし今回、 特に易感染性を疑う症状や血液検査、画像診断所見が認められないにもかかわらず関節液 内から細菌が検出され、認識を改める症例となった。 担当医:北里大学附属小動物診療センター ― 27 ― 研修医 前田千尋 〔会員だより〕 「は じ め ま し て」 独立行政法人 家畜改良センター奥羽牧場 有 山 賢 一 今年の4月に七戸町にあります独立行政法人家畜改良センター奥羽牧場に着任いたしました。事務局からは、 獣医事以外のテーマでも可、字数制限なし、締め切りも特に無しとのお話で、さて、何から書いたらいいもので しょうか。 略歴としては、1984年に修士課程積み上げ6年制獣医学教育を修了して、農林水産省に入省しました。畜産局、 農林水産技術会議事務局などでの行政の仕事を10年ほど、前身の種畜牧場を含めれば家畜改良センターでの仕事 が20年ほどになりました。他にJICAの長期専門家としてブータンに2年行っておりました。 出身は、神奈川県。 いわゆる全国転勤族ですけれども、現場の仕事場は北海道(浦河町、音更町、新ひだか町) の牧場3カ所でした。青森県で仕事をするのは初めてです。 1.独立行政法人家畜改良センター奥羽牧場について 家畜改良センター奥羽牧場は、全国に12カ所ある家畜改良センターの牧場の1つで、上北郡七戸町にあります。 2015年2月1日現在で約1,100頭の肉用牛(黒毛和種、日本短角種)を飼っております。 このうち約430頭の基礎雌牛を用いて受精卵移植等を活用した効率的な改良増殖を行い、遺伝的能力の高い繁 殖用雌牛を作出・供給しています。また、約400頭を肥育して優れた黒毛和種の肉用種雄牛を選抜するための現 場後代検定を行い、家畜改良センターの種雄牛生産の一翼を担っております。 歴史的には、1896年に軍用馬の改良増殖のために創設された奥羽種馬牧場を起源としています。創設当時は国 道4号線に面して正門があったと聞いております。現在の正門は国道から約1㎞西側に移動しました。来場され る際のランドマークとしては、東北新幹線の七戸十和田駅、道の駅七戸文化村になります。また、近隣の畜産関 係施設としては、日本軽種馬協会七戸種馬所、青森県家畜市場があります。 創設当時には、日清戦争(1894-1895)、日露戦争(1904-1905)が戦われておりますが、これらの戦争の反 省として軍用馬の改良増殖が国家的な重要課題として注目されたようです。1906年に「馬匹改良30 ヵ年計画(1906 -1935)」(=「馬政第一次計画」とも言われる)が策定されております。 余談ではありますが、「馬匹改良30 ヵ年計画」に関して、私個人の注目点としては、①北海道では、日高山脈 を境に西側の胆振日高地方を軽種馬生産、東側の十勝、釧路、根室地方を重種馬生産地域としたこと。これが、 今日の胆振日高地方の競走馬生産、帯広でのばんえい競馬に代表される道東地方の農用馬生産に引き継がれてお ります。②この計画に基づき、日高種馬牧場(1907)、十勝種馬牧場(1910)が設置されたこと。日高種馬牧場は、 家畜改良センター日高牧場を経て、現在は日本中央競馬会日高育成牧場となっております。また、十勝種馬牧場 は家畜改良センター十勝牧場となっております。 本題に戻りますと、戦前の軍用馬の時代に奥羽牧場は、ギドラン種などアラブ系種牡馬の導入牧場、騎乗技術 を訓練する牧場として役割を果たしたと聞いております。 戦後は、奥羽種畜牧場として1947年から役肉用牛向け家畜改良の基礎牛として日本短角種を導入しております。 ― 28 ― 1955年からショートホーン種を導入し日本短角種の肉用牛への改良を開始ししております。また、1966年から黒 毛和種を導入して肉用牛の改良増殖事業を開始し、種雄牛の生産・供給を行ってきました。2008年から、黒毛和 種の種雄牛を選抜するための現場後代検定として毎年約200頭常時400頭規模の肥育検定を実施しております。ま た、馬の改良増殖を1969年に廃止しております。 組織としては、1990年に家畜改良センター奥羽牧場と改称し、2001年に独立行政法人へと移行しました。2015 年10月現在の職員数は58名です。 2.衛生課の仕事 衛生課には4名(うち獣医師2名)の職員が配置され、奥羽牧場の防疫対応、繋養家畜の診療に当たっており ます。 奥羽牧場の防疫対応は、基礎雌牛群を管理する「繁殖ゾーン」と肥育牛群を管理する「肥育ゾーン」を衛生管 理区域に設定して「飼養衛生管理基準」に即した防疫対応を行うこととしております。「肥育ゾーン」には、奥 羽牧場生産牛の他に家畜改良センターの他の牧場等で生産された肥育素牛も導入されてきますので、「繁殖ゾー ン」への微生物的な移動がない様に作業者、作業車両の衛生管理を心がけております。 疾病の予防対策としては、モニタリング検査として、繁殖雌牛を中心にヨーネ病、牛白血病の検査、出荷牛を 対象にサルモネラ菌群の検査を行っております。また、ワクチン接種では、子牛の下痢、呼吸器病のコントロー ルのためのワクチンと吸血昆虫によって媒介される繁殖障害を予防するためにアカバネ病ワクチンの接種を行っ ております。 北海道から青森への転勤が決まったときに、アカバネウイルスに代表されるこのグループのウイルス病のリス クも考慮すべき土地に行くのだなと思ったものです。実際はアカバネウイルスの動きはほとんど見られないとこ ちらの家畜保健衛生所で聞いて一安心しております。ただし、対策としてアカバネ病のワクチンだけでいいの? という問題もあるのでこのグループのウイルスの動きを捕捉できる簡易なモニタリングの仕組みが必要だとは感 じております。 診療は、着任前の平成26年度には、診療頭数が580頭。斃死したり殺処分したものが21頭でした。「飼養頭数と 年間の診療頭数はほぼ等しい。」という経験則から言えば、診療頭数も少なく、いい状態で引き継いだといえる のではないでしょうか。 乳用牛を扱っていた前任地と比較すれば、違いの1点目は種雄牛がいないこと。前任地では「家畜改良センター では、種雄牛の管理が出来ることがセールスポイントの1つである。」と実習に来る学生さんなどには説明して いました。20年も種雄牛を扱っていると「現場に行くときには集中」という状態がすり込まれた状態になってい たので、いざ、種雄牛がいなくなってみると精神的には楽になったといえます。 2点目は肉用牛が、乳用牛に比べてゆったりと飼われていることから来る余裕でしょうか。乳用牛では泌乳初 期に飼料として食べた以上に泌乳してしまう負のエネルギーバランスに陥ることは常態化していますし、搾乳し ていれば、搾乳の前後で20-30㎏の負荷の変動が乳房から後肢にかかり続けます。 肉用牛では一生涯かけて摂取したエネルギーを増体として蓄積し、その体重を四肢で支えていくので、関連す る消化器病、運動器病、泌乳器病の発生も少なく、軽症で済んでいるように思います。 ― 29 ― 3.終わりに 青森県に来て半年ほど経過しました。青森県に住んでみて、体験し、考え、書いてみたいことは技術的な話題 も含めていろいろあります。しかしながら、まだ冬を経験していないので青森県についての話題は今回は割愛さ せていただきました。もう少し勉強して次の機会に備えたいと思います。 獣医師の見たり・聞いたり・思ったり 青森支部 工 藤 洋 一 「見たり」 八甲田牧場まつり 7月の台風としては多かったといのうことで、その影響もあるのか異常気象が続き、西南地域では台風の被害 で大雨たいへんであった。しかし東北に至っては猛暑が続き、特に青森県に至っては雨が中々降らず乾燥状態、 牧草の伸びが悪く早々と穂が出てしまって収量減少が懸念されている。畑の農作物も水分不足に悲鳴をあげ作柄 が心配である。 そんなこともあり八甲田牧場まつりの天候が心配であった。昨年は午後になったら突然の突風や雨のため時間 を繰り上げての早仕舞い、今年も台風の影響で崩れるのではないかと心配されたが、不安ながらも雨は降らず、 カラッとした天気ではないものの、そんなに蒸し暑くならず、牧場まつりとしては最高の日和であった。 そのこともあってか、今年は例年にないくらいの人出であったように思う。 次から次へと小さな子供づれの家族がやってくる。焼肉の匂い、牛の丸焼き状況がスピーカーで流れる。バン ド演奏のリズムが人々の心を浮き浮きさせる。大型バスの乗り入れもあり、年に一度の最大のイベントである。 広い芝草を子供達が走り回り、それを見守る大人たち、眼下に青森市街地がぼんやりと見えるのが、すばらしい。 ドンチャン騒ぎがなくなった 牧場まつりというと焼肉が定番、肉のコゲつくにおいと煙の中で酒を酌み交わし大声で笑い、生きていること を最大限に謳歌する光景がみられたものである。しかし最近はこのような騒ぎが見られなくなった。静かに焼肉 を食べながらノンアルコールを口にする。一升瓶が転がっているようなことはなくなった。自動車(くるま)社 会のためのこともあるのだが、仲間志向から家族志向になってきたことが大きな理由なのだろう。おにぎり、サ ンドイッチ、ジュースなどで軽く食事をし、棒パンを焼き、ちょっと何軒かの露店を覗き、イベントに顔をだし て2~3時間くらいで帰るというのがコースとなっているようである。 人気の獣医師会コーナー 牧場まつりの興味の中心となっているのが青森支部獣医師会の各種コーナー、ペットとの触れあい、ペットの 相談、楽しい動物クイズ、塗り絵、乳しぼりの体験、獣医さんゴッコで牛さんと仲良くしようなど、どのコーナー ― 30 ― も参加者が絶えることがない。 なんといっても動物クイズコーナーが人気の的、動物のことをいろいろと知って景品をもらう。満点になると 特別賞のオマケつき、毎年やっているので、それを楽しみにしてやってくる子供達も多い。就学前の子供さんに はお父さん、お母さんが問題を読んでやって丸をつけさせている。子供達の大きな声が聞こえてくる。お父さん お母さんも分からない問題も有り、どっちにしようかと悩んでいる。 不安顔で採点してもらい、満点になると「ヤッター」とすごく嬉しそう。 満点の景品のTシャツは「可愛いワンちゃん」がプリントされている。色はサイズはと嬉しさをかくしきれない。 参加賞はどれにしようかと悩んでいる子供達、ちょっとしたものでもご褒美にはドキドキのようである。 「やっぱり、うさぎはなくんだよね」 「ペンギンは飛べないけど鳥類なんだって」 「ママが間違っていたわ、いろんなこと覚えたわね」親と子の会話がはずんでいる。 乳しぼり体験コーナー 乳しぼり体験が出来る時間になると順番待ちの子供、親御さん達が行列をつくって並んでいる。手を消毒し、 係りの人の言うとおりにこわごわとオッパイに触れている。子供達は握力がないので中々しぼることができない ものの、一滴でも白い物が出てくると喜びの声をあげている。どうしてオッパイがでるのだろう。不思議そうで ある。 若いママ達が子供達よりも興味しんしんで乳しぼりに挑戦している。 「出た、出た」まるで子供達より喜んでいる。 牛さんのおッパイは弾力性があり、あの感触は忘れることができないものになるだろう。 一生のうちに、牛さんのオッパイに触れる機会はそんなにあるものではない。それなのにここでは体験できる、 すばらしいことだと思う。 「牛さん、おとなしいね」どんなに触られてもびくともしない牛さんにびっくりしている。 子牛が三頭、朝早くからの展示で疲れきって座り込んでしまっている。 「牛の赤ちゃん、可愛いね」ふわふわの毛並み、優しい目、夢中である。 「生まれて何日ぐらいなんですか」中々側を離れようとしない子供やママさん達。 聴診器を耳に獣医さんゴッコ、これも人気がある。 「なんか音がしているよ」「ね、ね、ママにも貸してよ」 「ほんとだ、ドッ、ドッ、ト、これが脈拍なんですか、感激」 子供達は不思議そうにしているが、若いママさん達は興奮気味。 「なんか、お腹、ぐう、ぐうしている、お腹空いたのかなぁ」 「これで、いろんなことが分かるんだ」白衣姿に憧れのような眼差しである。 係りの人に牛について、いろんなことを聞いている。 牛は何にも言わないけれど多くの人たちに触られて、幸せそうな顔をしていました。 ペットと遊び、牛さんに触れ最高潮 「皆んな友達だよね」「動物に触ったら、手を洗いましよう」皆んなお利口に係りの人たちの言うことを聞いて ― 31 ― いる。 ペットを可愛がり、牛さんに興味を持っていただき、将来は「獣医さん」に、「動物のお医者さん」にと心が 動いてくれたら、最高だね。 皆さんが、こんなに喜んでくれる「牧場まつり」、獣医師会としては大きな事業の一つ、これがほんとうの意 味の公共奉仕だと思う。公益社団法人としての獣医師会、このような行事に参画することこそ、開かれた獣医師 会、社会に貢献する獣医師会として理解されるようになるのでは、とちょっぴり感じたことである。 ぬいぐるみのワンちゃん、ご苦労様でした 今年初めての企画として、ワンちゃんのぬいぐるみ登場、ゆるキャラブームもあってか、子供達が側によって くる。握手をしたり、並んで写真を撮ったり、人気バッグン。 でも、暑かったこともあり、中に入っている人はたいへんのよう。 でも注目度は一番、よかった、非常によかった。 「聞いたり」 平成27年度 指定嘱託獣医師講習会 主 催 青森県農業共済組合連合会 開催時期 平成27年7月10日(金) 11時 開催場所 東北町 青森県原燃テクノロジーセンター 講習内容 ⑴ 平成26年度家畜共済実地検査結果(獣医師関連)について ⑵ 病傷事故診断書提出における留意事項について ⑶ 家畜共済事業進捗状況等について 家畜共済加入率(加入推進目標/加入実績) 乳用成牛・繁殖牛(15.8%) 乳用子牛等(9.5%) 肥育用成牛(81.4%) 肥育用子牛(63.4%) 他肉成牛・繁殖牛(10.4%) 他肉子牛等(9.2%) 加入率の低さが気になる。事故がないから加入が少ないのか、共済掛け金が高いので加入できないのか?定か ではないのだが、共済に対する認識の低さは否めない。 共済加入を保険と認識し、健康管理に力を注がなければ経営改善は難しいのではないのか、いつも思うことで ある。 「講 演」 牛白血病について 講師 青森県畜産課衛生・安全グループ 主幹 佐藤 尚人 氏 内 容 牛白血病の県内外・世界の発生状況 牛白血病の分類、症状、診断 牛白血病のまん延防止対策、県の取り組み 他県での取り組み事例等 指定嘱託獣医師の講習会であったが、生産者に聞いてもらいたい内容であった。 ― 32 ― 平成27年度 獣医師研修会 主 催 一般社団法人 青森県畜産協会 公益社団法人 青森県獣医師会 開催日時 平成27年8月3日(月) 開催場所 青森県原燃テクノロジーセンター 「講 演」 ⑴ IBR5種・ヘモフイルス混合ワクチンについて 「牛呼吸器病のワクチンプログラム」 ㈱微生物化学研究所 技術企画部 部長 函城 悦司 氏 ⑵ ・ア 牛白血病対策について「動物衛生研究所 小林創太郎氏の資料による」 イ 牛舎内環境の改善点を見つけるためには~カウシグナルと環境への視点~ 酪農学園大学 獣医学群 衛生・環境学分野 ハードヘルス学ユニット 教授 中田 健 氏 両講習会とも、今、話題の牛白血病についてであったが、生産者に不安が広がっているだけに関心が高く、ワ クチンの将来性やまん延防止対策等の質問が多かった。 「思ったり」 先日、大先輩の泉山さん(元県畜産試験場長・現在盛岡市在住)からCDを送って頂いた。 NHK-BCプレミアム H27.7.22放映 「うまいぞ、赤べご、岩手短角牛」 ~牧場で育まれた極上の赤身肉~のCDである。 牛肉(サシ)、一辺倒の牛肉事情に日本短角種の赤身肉、幻の牛肉として、その評価が高まっているという内 容である。 CDには日本短角種の夏山冬里方式で生産された子牛、それを若齢肥育により赤身肉の生産、「安心・安全・ おいしい」をキャッチフレーズに契約販売し、非常に好評を得ているということである。 日本短角種は岩手県でも減少してはいるものの、特性を生かして地域は限定されているのだが根強く頑張って いるようである。 本県の日本短角種は天然記念物にもならないくらいに減少してしまっている。しかし、このCDを見て、あら ためて地域に密着した牛飼いについて考えさせられることが多かった。 自然を利用した飼養管理 山林を活用しての放牧地にのんびりと親子で放たれている。堂々とした体型、草のみでりっぱに飼養できると いう。物怖じしないその姿を見て、シェフ(料理人)は、その牛肉の利用をイメージする。 夏山冬里方式、放牧によって鍛えられた筋肉、そして最後に舎内で赤身肉(健康肉)として大事に飼育される、 美味しいのは当たり前だという。 放牧看視人、76歳の現役、山の看視小屋で5ヶ月間、生活を共にして牛を見てまわる。 ― 33 ― 南部の曲がり屋の放牧版である。 体調の悪い牛はすぐ分かるという。耳を下げている、元気のない証拠である。 親牛のオッパイの状態を見て、子牛、親牛の気持ちを理解するという。 毎日の牛の観察記録を整理し、まだまだ知ることが多いという。すばらしい「牛見爺」である。牛も元気、老 いたりといえ、牛から元気をもらうとのことである。 牛舎での日本短角種は、放牧地で鍛えられた肢腰、草をいっぱいに食い込んだ腹は舎飼いでの飼養管理によっ て食べごろの牛肉となる。黒毛和種よりも肥育期間が短く濃厚飼料高騰の昨今では助かるという。 枝肉単価は安くても手にする所得は黒毛和種と遜色がないとのことである。契約単価が1㎏ 1,700円というか ら、放牧を取り入れた省力化、肥育期間の短縮など、一貫経営を取り入れると安定的な経営ができるという。 どうして、日本短角種なのか?生産者 繁殖農家にとっては、子牛価格が安くても生産費がかからない。なによりも生産率が良いことが魅力のようで ある。多頭化しても放牧を取り入れ、高齢者にしても楽しみの牛飼いとして手ごろなのかもしれない。 子牛価格は安くても肉牛は最終的には肉で勝負、安定的な収入が確保できればということになるようである。 黒毛和種になってから放牧頭数が減少しているという。 なぜなのか?高価なるが故に事故が恐い。高価なるが故に貴重品扱いになる。しかし、そのことがかえって事 故につながる結果になっているのではないのか。 高価なるが故に売りは良しとするが、更新用として買うこと、自家保留として残すことに躊躇する。日本短角 種は手に入れやすいし、飼いやすい、そんなところに、まだまだ日本短角種の信者がいるのだろう。 どうして、日本短角種なのか?販売業者、消費者 肉の味で勝負できる。手ごろな価格で手に入れば食べてもらうにもメニューにもいろいろとイメージが広がる。 赤身肉、自然に放たれ育てられる健康肉のイメージは通の人たちには魅力があるのだろう。 歴史の重みが、日本短角種を忘れさせない 本県でも、肉牛と言えば日本短角種の時代があった。山に放牧し、秋には妊娠し、子牛は市場に上場できるく らいになって帰ってきた。それがヘレフォード種の導入、乳用種の肉牛化、外国からの輸入牛肉に対抗策として の黒毛和種の飼養にかわってしまった。 一方、岩手県でもヘレフォードの導入もあり、本県と同じような変遷を経てきている。 しかし、本県のように徹底した日本短角種の減少に比べて限定された地域ではあるが今だに短角種に固執して いるところがある。岩手県北の山形村(現在は久慈市に合併)や岩泉町が日本短角種の本場である。 日本短角種は沿岸の野田村の塩や砂鉄の運搬などの主役、南部牛追い唄などにもあるように畜産の中心であっ た。今でも野田村の道の駅には荷物を背に運ぶ短角種のモニュメント(写真)が建っている。思い荷物を背に何 日も牛と共に山越えをする。共に苦労をした歴史が生き残ろうとする力になっているのだろう。 ― 34 ― 田舎なれども、南部の国は、べごと人とが添い寝する 重い荷物を、背中につんで、牛追い唄の名調子 日本短角種の肉は乳用種や輸入牛肉と競合する。競合はどうしようもないことである。しかし、この中で一番 になれば文句はないはずである。 TPP問題で、今、畜産は揺れ動いている。かたくなに守っている岩手の日本短角種、熊本県の褐毛和種、動 物福祉の点からも放牧を取り入れた歴史のある肉牛が魅力があると思った。 その昔、畜産試験場で日本短角種の活用をと、放牧利用、若齢肥育、受精卵による双子生産、代理牛としての 利用など取り組んだ日々がある、大先輩からの励ましの便りに、いろんなことを考えさせられたひと時であった。 広い視野で畜産を考える、目先のことにばかり目を向けず、これまでたどってきた歴史を踏まえて畜産を考え る、そのことが今求められているのではないのだろうか。 野田村 道の駅の塩ベゴのモニュメント ― 35 ― 青森県獣医師会ゴルフ愛好会コンペ2015 青森支部 沼宮内 春 雄 恒例の県獣医師会ゴルフコンペが、シルバーウィー クの9月22日(国民の祝日)いつもの八甲田山ビュー カントリークラブで今まで最多の会員友人など28名が 参加し賑やかな愛好会コンペとなりました。更に今年 は参加者3名(吉田隆一・真山隆・本堂敏さん)の還 暦祝いも兼ねたので全員に真赤なバスタオルのプレゼ ントがあり各自ゴルフバックに巻き付けカラフルな中 でのプレー進行となりました。 当日は穏やかな秋晴れと雄大な八甲田山の背景のも と会話も弾み皆さんスコアに一喜一憂しながらゴルフ を楽しんでいました。 その結果、NET76(GROSS88 / HDCP12)のスコアで横田真琴さんが優勝しカップと副賞の電子オーブンが 授与されました。おめでとうございます。 なお、賞品は他にもドラコン賞、ニアピン賞等のほか全参加者に還暦記念の日本酒や柿など各種景品が授与さ れました。2016年9月22日も同会場で開催を予定していますので会員皆様のご参加をお待ちしております。 ― 36 ― 〔事務局だより〕 ◎会員の動向 参集:委員7名、常務理事、事務局 1.会員数 ⑶ 辞令交付 4月1日~9月30日 平成27年 度 当 初 入会等 437 退会等 14 期日:平成27年9月2日(水) 平成27年 10月1日 現 在 13 場所:青森県獣医師会食鳥検査センター 内容:新採検査員に任用通知書交付及び研修 438 参集:新採用1名、会長、センター所長ほか ⑷ 食鳥検査センター検討委員会 ◎事務日誌 期日:平成27年10月19日(月) 1.事務関係 場所:青森市 県獣医師会館 ⑴ 理事会 内容:新食鳥検査センター竣工及び旧セン 期日:平成27年9月28日(月) ターの今後の活用等について 場所:青森市 県獣医師会館 参集:委員会委員、事務局 内容:業務執行状況、食鳥検査センター建 ⑸ 全国食鳥検査指定機関協議会 設進捗、検査員確保・待遇改善、会 期日:平成27年10月23日(金) 員状況等 場所:鳥取市 ホテルモナーク 参集:会長、役員、常務理事、事務局 内容:研究発表、各機関からの提出議題 ⑵ 公益法人協会特別セミナー 参集:会長、検査センター所長ほか 期日:平成27年10月27日(火) 場所:中央大学駿河台記念館 3 動物愛護関係 内容:公益法人財務基準関連、収支相償等 ⑴ 動物ふれあいフェスティバル2015 参加:事務局 期日:平成27年9月19日(土) 場所:青森市 青森県動物愛護センター 2 食鳥検査関係 内容:動物愛護ポスター県獣医師会長表彰等 ⑴ 食鳥検査事業打合せ会議 参集:会長、事務局 期日:平成27年8月26日(水) 場所:青森市 県獣医師会館 4 学校飼育動物関係 内容:検査員確保、待遇改善、センター建 ⑴ 八戸市学校飼育動物「ふれあい指導」研修会 設に係る関連業務、その他 期日:平成27年7月30日(木) 参集:センター次長・室長、常務理事ほか 場所:八戸市 八戸総合教育センター ⑵ 特定事業運営委員会 内容:八戸市内小学校飼育動物「ふれあい 期日:平成27年8月28日(金) 指導」に係る研修及び巡回日程調整 場所:青森市 県獣医師会館 参集:会長、事務局 内容:平成27年度事業進捗状況、検査員確 ⑵ 弘前支部学校飼育動物研修会 保及び待遇改善、落成式(案)、そ 期日:平成27年8月6日(木) の他 場所:弘前市 弘前プリンスホテル ― 37 ― 内容:八戸市における学校飼育動物活動・ 出席:会長、常務理事、事務局 学校飼育動物支援について ⑶ 2015動物感謝デーinJAPAN 9th 参集:八戸市教育委員会日向端指導主事、 期日:平成27年10月3日(土) 三八支部・妻神事務局長、弘前市小 場所:東京都 駒沢オリンピック公園 学校教諭、弘前支部会員、事務局ほ 参集:会長、常務理事、事務局 か 7 その他 5 東北獣医師会連合会関係 ⑴ 平成27年度地域自衛防疫体制整備事業及び ⑴ 平成27年度東北地区獣医師大会 PEDまん延防止強化対策事業検討会議 期日:平成27年10月8日(木) 期日:平成27年7月21日(火) 場所:盛岡市 ホテル東日本 場所:青森市 ラ・プラス青い森 内容:日本獣医師会に対する要望、特別講 内容:牛白血病対策・PEDまん延防止へ 演、教育講演 の対応 参集:会長、副会長、常務理事、事務局、 出席者:事務局次長 会員 ⑵ 獣医師研修会 ⑵ 日本獣医学術東北地区三学会 期日:平成27年8月3日(月) 期日:平成27年10月9日(金) 場所:東北町 原燃テクノロジーセンター 場所:盛岡市 ホテル東日本 内容:「牛白血病対策」、「IBRワクチ 内容:産業動物、小動物、獣医公衆衛生各 ン」等 学会における発表 出席者:事務局 参加:学会幹事6名、会長、副会長、常務 ⑶ 青森県装削蹄師会総会 理事、事務局、会員 期日:平成27年7月31日(金) ⑶ 北海道・東北地区獣医師会事務局会議 場所:十和田市 サン・ロイヤルとわだ 期日:平成27年10月29日(木) 内容:平成26年度事業報告及び収支決算承 場所:山形県赤湯温泉 認、役員選任等 内容:事業概要、日本獣医師会委託講習会 出席者:事務局次長 開催状況、各地方会の諸問題など ⑷ 動物用ワクチンバイオ医薬品研究会シンポ 参加:常務理事、事務局 ジウム 期日:平成27年9月9日(水) 6 日本獣医師会関係 場所:十和田市 北里大学 ⑴ 平成27年度第4回理事会 内容:再生獣医療研究の最前線、再生獣医 期日:平成27年9月10日(木) 療の進展をサポートする周辺体制に 場所:東京都港区 明治記念館 ついて 出席:会長 出席者:常務理事、事務局 ⑵ 平成27年度全国獣医師会会長会議 期日:平成27年10月2日(金) 場所:東京都港区 明治記念館 ― 38 ― 〔支部だより〕 [支 部 講 習 会 研 修 会 開 催 状 況] 【訃 報】 ◎青森支部 ◎弘前支部 ⑴ 小動物臨床講習会 熊谷 進先生 (平成27年7月逝去) 日時:平成27年8月16日(日) 場所:青森市 ラ・プラス青い森 内容:「小動物 腫瘍診断・治療」 【訂 正】 ◎下北支部 平成27年7月24日発行・会報第163号 ⑴ 産業動物研修会 日時:平成27年9月15日(火) 場所:むつ市 プラザホテルむつ ◎1頁中段【名誉会員称号記贈呈】所属 内容:「血液検査値を指標とした正常胚率・ 誤 (東青) → 正 (青森) 受胎率向上のための資料給与プログラ ◎53頁 三八支部獣医師会新役員氏名 ム」 誤 荻ノ沢敏明 → 正 荻ノ沢俊明 ◎三八支部 荻ノ沢先生には大変ご迷惑をお掛けしました。 ⑴ 小動物講習会 日時:平成27年10月18日(日) 場所:八戸市 グランドサンピア八戸 内容:「身近な心臓疾患アップデート」 [支部動物慰霊祭開催状況] (開催順) ◎西北支部 日時:平成27年9月13日(日) 場所:つがる市 木造斎場 ◎上十三支部 日時:平成27年9月15日(火) 場所:十和田市 観音寺 ◎三八支部 日時:平成27年9月18日(金) 場所:八戸市 大慈寺 ◎青森支部 日時:平成27年9月19日(土) 場所:青森市 青森県動物愛護センター (動物愛護センターと合同開催) ◎下北支部 日時:平成27年9月25日(金) 場所:むつ市 円通寺 (注:弘前支部は28年1~2月開催予定) ― 39 ― 〔編 集 後 記〕 この9月、県医師会と県獣医師会共催で「人獣共通感染症等」に係る連携講演会が初めて開催され二人の先生 から最新の知見が提供されました。今後とも両者の連携が進展し情報の共有化がより一層図られることを希望す るものであります。国内的には日本もTPP(環太平洋連携協定)に大筋合意し、今後、参加国の批准により協 定が発効されます。各方面への影響等について関係業界にとってその動向と対策に注視したいものです。 去る10月3・4日、ご当地グルメによる町おこしの祭典「第10回B-1グランプリin十和田」が開催され約32 万人強の来客があったとのこと。この運営には多数の市民ボランティアが活動していたが、特に中学生による「ゴ ミいただき隊」の活躍に感動した。空き容器等を客から頂くと「ゴミありがとうございました」との挨拶にはこ の街の美化作りと少年達の成長を大いに期待するものである。 今号から、長らく編集後記を精力的かつ多才に執筆した苦道(工藤洋一)さんの後任としてこの欄を担当する ことになりました。会員皆様の「会報」への読後感、原稿、ご意見等を賜り共に会報作りに参画頂ければ幸いで す。 〈h・n〉 原 稿 募 集 平成28年1月1日発行予定の会報第165号の原稿を募集いたします。 会員各位の投稿のほか、各支部獣医師会だよりの原稿もお願いいたします。 原稿は、投稿規程を参照して作成し、次の方法で青森県獣医師会にお送りください。 締切り日は11月30日です。期日までにお願いいたします。 〔原稿の提出方法〕 原稿は原則としてMicrosoft Wordで作成し、ファイルは電子メールに添付して本会事務局 に送信してください。なお、原稿ファイルがWord以外で作成された場合は、使用したソフ トをお知らせください。 手書きの原稿や、大容量(20MB以上)の写真を含む原稿ファイルはCD-R等に記録し、本 会事務局に郵送してください。 本 会 事 務 局 住 所:〒030-0813 青森市松原二丁目8の2 電子メールアドレス:ao-vet@smile.ocn.ne.jp ― 40 ― 13 124 19 20 41 15 11 13 ― 41 ― メディパルグループ 動物の健康はヒトの健康につながる ●動物用医薬品販売の全国ネットワークを駆使し、あらゆる動物の 健康を守ります。 ●安全な畜水産物の生産をサポートし、食の安全・安心と自給率の向 上に貢献できる会社を目指します。 本社 〒061-1274 北海道北広島市大曲工業団地6丁目2番地13 TEL 011(376)3860 FAX 011(376)2600 http://www.mpagro.co.jp/ 東北営業部 青森支店 TEL 0178-20-2011 FAX 0120-446902 事業所一覧 東京オフィス・岡山オフィス・福岡オフィス 札幌:旭川・北見・帯広・釧路・函館・東京 青森・秋田・盛岡・一関・山形・仙台・郡山 岡山・尾道・広島・山口・松江・鳥取・高松・徳島・松山・宇和島・京都・大阪・泉南・明石・和田山 福岡・鳥栖・鹿屋・熊本・唐津・鹿児島 札幌センター・帯広センター・盛岡センター・御津センター 検査センター リサーチセンター ― 42 ― ― 43 ― ― 44 ― 平成27年11月10日 発行所 青森市松原二丁目8の2 公益社団法人 青森県獣医師会 TEL 017(722)5989 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