企業価値最大化のためのタックスマネジメント -ビジネスストラクチャ

企業価値最大化のためのタックスマネジメント
―ビジネスストラクチャーの観点から―
坂本恒夫
坂本公認会計士事務所
sakamoto@office.email.ne.jp
境
桜美林大学
mutsumi@obirin.ac.jp
睦
日本企業の実効税率は欧米企業と比較するときわめて高く、国際競争力低下の要因とな
っている。そこで、わが国企業もサプライチェーンの見直しとビジネスストラクチャーの
再構築の観点からタックスマネジメントを実施し、企業価値の最大化を図る必要がある。
キーワード:タックスマネジメント、企業価値、ビジネスストラクチャー、サプライチェ
ーンマネジメント、無形資産
1
企業価値最大化のためのタックスマネジメント
―ビジネスストラクチャーの観点から―
1.
坂本公認会計士事務所
坂本恒夫
桜美林大学
境
睦
問題意識
欧米の多国籍企業は税務コストと税務リスクの最小化を意味するタックスマネジメント
の高度化を進展させている。理由としては、以下の2点が挙げられる。第一に経営のグロ
ーバル化が極限まで進展している中で、国際関連者取引が恒常的になっており、効果的な
タックスマネジメントを実施することにより実効税率を低めることが必要になっているた
めである。次に税引後利益を高めることにより、企業価値の最大化を図ることが株主から
も要請されていることも大きな要因の一つであると考えられる。
翻って日本企業の現状を鑑みると、タックスマネジメントに対する関心は相対的に低く
重要な経営戦略の一環としてそれを位置づけている企業はほとんどみられない。そのため
実効税率は外国企業よりも一般的に高く、国際競争力低下の要因の一つになっていると考
えられる。
具体的には日本とほぼ同じ法定実効税率の米国企業を例として挙げると、米国の多国籍
企業は企業価値最大化のために、タックスマネジメントの観点からビジネスストラクチャ
ーの構築を行っている。たとえばアップル社やグーグル社などの米国ハイテク企業はタッ
クスマネジメントの観点からビジネスストラクチャーを再構築することによって実効税率
を大幅に低下させている。これはハイテク企業に特有の現象ではなく、製造業である P&G
や GM も同様なタックスマネジメントで実効税率を引き下げている。これは米国企業が多
くの税務スタッフを税務部門におき、世界各国の法制度を研究し、タックスマネジメント
の高度化により企業価値の向上を常に意識していることによる。
日本においては、一般的に税務コストの削減は税務リスクの面が強調されてしまう傾向
にあり、また実際にプラスのイメージを市場に与えるわけではない。しかしながら、誤解
していけないのは、タックスマネジメントの大きな目的は税務コストの削減にあるが、そ
れが社会への貢献を低下させるものではないということである。効果的なタックスマネジ
メントは企業価値の向上に寄与し、それが最終的には納税額の増加をもたらす可能性があ
る事及び規模の拡大や新規事業の創出などにより雇用の面でも多大なメリットをもたらす
可能性があるからからである。また、経営環境の変化が劇的に大きくかつそのスピードが
速いグローバルな企業競争社会においては、当期の利益が来期以降も続くとは誰も保証で
きないため、投資資金の回収について中・長期間を見通す事は困難となり、短期間でのキ
ャッシュ・イン・フローの重要性が従来以上に高まっている。強調すべきことは、欧米諸
国の多国籍企業が積極的にタックスマネジメントを進めているなかで、わが国企業だけが
その重要性を認識せずに、国際競争力を低下させてしまうことが問題にならないかという
ことである。
2
今後は日本企業も世界展開を更に推進させていく必要がある状況で、タックスマネジメ
ントを積極的に実施し税引後利益の極大化を図って、企業価値の最大化を実現させていく
ことが重要となる。
なお企業価値に関して様々な定義がなされているが、本稿では「税引後利益の最大化」
という視点から考察する。リーマンショックに端を発した金融危機や欧州金融危機により
CSR 等の様々な観点からの企業価値が議論されているが、資本市場が企業評価の中心的な
役割を担っているという状況にさほど変化はなく、世界的な基準であると考えられるから
である。また税引き後利益の最大化は ROE の向上にも寄与し、企業価値最大化に大きく
寄与する。そこで本研究では、企業価値最大化のためのタックスマネジメントをビジネス
ストラクチャーの観点から考察するが、とくにタックスマネジメントのなかでも国際税務
戦略に焦点を絞る。
本稿においてビジネスストラクチャーとは、企業がグローバル経営を展開し推し進めて
いく上で様々なビジネスユニットやビジネスセグメントを配置するが、これら企業グルー
プの一連のサプライチェーンについて機能と実体をもつ企業経営活動のための組織と定義
する。
2.
タックスマネジメントと企業価値
タックスマネジメントは企業の税引後利益に大きな影響を与えるという点で、企業価値
の最大化に対しても大きな関連がある。本稿ではタックスマネジメントを渡辺(2009)の論
に依拠し、節税というタックスプラニングだけではなく、税務コストのコントロールや企
業経営全体としての効率性やリスクへの配慮も含めた企業戦略という意味で用いる1。
具体的にはタックスマネジメントは二つに分類される。
第一に税務コストの削減である。税務コストの削減も、実際に支払う税金コストと会計
上の税金コストに分類され、企業の事業戦略に応じて、どちらが重視されるのかが決定さ
れる。具体的には、手許キャッシュ・フローの極大化を目的とするならば実際に支払う税
金コストの最小化を志向することを意味し、実効税率の引き下げは会計上の税金コストの
最小化と同義である。
第二に、税務リスクマネジメントである。企業活動のグローバル化が進展しており、世
界各国の課税当局による課税強化の傾向がみられる。税務調査等による追徴課税及びそれ
らへの対応コストが発生する財務的リスクと企業のブランドイメージを毀損させてしまう
リスクをマネジメントする必要性が高まっている。これは内部統制にも関わる問題であり、
税務リスクを回避あるいは最小化することが重要となっている。
前者の税務コストの削減と企業価値との関連を分析した研究は多く存在する。とくに米
国においては、租税回避(tax avoidance)2と企業価値との関連を考察した研究が多くみられ
1
2
渡辺(2009) p2.
租税回避(tax avoidance)に関して定まった定義はなく、国や研究者によってそれは異な
る。一般的には、租税回避行動は、適法、違法、あるいはそのグレーゾーンにあるもの
を全て含んでいる。
3
る。とくに近年はエージェンシー理論の観点からの租税回避に関する実証分析や、コーポ
レート・ガバナンスならびに経営者報酬との関連で租税回避の検討が行われている。
Hanlon and Slemrod(2009)は、企業が税負担削減行動の一つであるタックス・シェルタ
ーの利用に関するニュースに対しての株式市場の反応を分析している。一般的にはこれら
の情報は、株価に対して負の影響を与えることを明らかにしている。とくに株価の下落は
小売企業や低い実効税率の企業で著しいことを発見し、租税回避が必ずしも企業価値を高
めるとは限らないと述べている。
Desai and Dharmapala(2009)は、会計利益と課税所得の差異(Book-Tax Differences、
以下 BTD)を租税回避の代理変数と捉えて、分析したところ、それと企業価値との関連性
を見出すことはできなかった。しかしながら機関投資家の持ち株比率が高い企業において
は、BTD と企業価値の関連が高いことを明らかにし、経営者への抑止力が効いているガバ
ナンスをもつ企業の租税回避は企業価値を高めると論じている。
また Wilson(2009)も同様に、ガバナンスの質が高い企業の租税回避は企業価値を高める
と説明している。
しかしながら、企業グループ全体のサプライチェーンの見直しやビジネスストラクチャ
ーの再構築と税金コスト削減が企業価値に及ぼす影響についての実証研究は、企業データ
の入手が制約されていることもあり殆んどみられない。そこで本稿では、サプライチェー
ンの見直し及びビジネスストラクチャーの再構築の観点からタックスマネジメントが企業
価値に及ぼす影響を分析する。
3.
各国の法定実効税率と実際の実効税率
法人にかかる税負担は、国税としての法人税と地方法人税である。日本は、諸外国と比
較し国と地方の法人税を合算した実効税率が高いとの指摘がなされる。表1で示されるよ
うに実際に日本の法人税は米国とともに主要国のなかで最も高い位置にある。国税である
法人税の水準については、他の主要国とほぼ同じ水準にあるが、地方法人税を加えるとそ
の実効税率はおよそ40%と最も高くなっている。
そこでわが国でも国際競争力の確保の観点から、平成 2012 年4月1日以降開始する事
業年度から普通法人の法人実効税率を5%引き下げ、国税と地方税を合算した法人税率が
40.69%から 35.64%に軽減された。
それでは実際に企業が負担している実効税率はどの程度なのであろうか。実効税率は企
業ごとに計算されており、財務データの入手の制約もあり正確に計測することは非常に困
難である。プライスウォーターハウスクーパース(PwC 米国)は、2011 年にフォーブスグロ
ーバル 2000 に含まれている企業を対象に国別の実効税率を分析した実効税率報告書
「Global Effective Tax Rates」を発表した。この実効税率は 2006 年から 2009 年の平均
値であり、主要国の実際の実効税率を表2に整理した。
4
表1
法人所得課税の実効税率の国際比較(2012年現在)
(出所)財務省ホームページ http://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/corporation/084.htm
表 2 実際の実効税率
実効税率
日本
38.8%
イタリア
29.1%
ドイツ
27.9%
米国
27.7%
オーストラリア
27.1%
ロシア
26.0%
インド
25.1%
韓国
24.3%
ブラジル
24.1%
イギリス
23.6%
フランス
23.1%
スウェーデン
22.0%
スペイン
21.8%
カナダ
21.6%
中国
21.5%
(出所)PwC(2011).p3 をもとに筆者が作成
5
この表から明らかなのが、日本企業の実際の実効税率の高さである。2009 年の日本の法
定実効税率は 39.54%であったが、実際の実効税率との差は 0.74%にすぎない。逆に米国
の 2009 年の法定実効税率は日本とほぼ変わらない 39.10%であったが、実際の実効税率は
27.7%と法定実効税率よりも 11.4%も低くなっている。この当時は両国とも後節で説明す
る全世界所得課税方式を採用しており、この差異は両国企業のタックスマネジメントの質
の差を示している。このデータを見る限り、日本企業の実効税率の高さは国際競争力低下
の要因の一つになっていると考えられる。
4.
国際課税の概要
国際税務戦略を理解するためには、日本を含めて諸外国の税制及び租税条約を理解する
必要がある。税制は各国の財政的事情,政治,経済,社会,歴史等を反映するものであり,
各国毎に異なる。とくに各国間における税制の違いが大きい場合や租税条約による優遇措
置が存在する場合,租税裁定の機会が生じ得る。
4.1
国際課税制度
企業が海外で経済活動を行う場合、企業の所在地国及び経済活動により生ずる所得につ
いては源泉地国において課税が行われる。各国がその国内法においてそれぞれ課税範囲を
定めるため、グローバルな経済活動を行っている企業においては国家間で課税範囲が重複
し、国際的な二重課税が発生する。このような二重課税を防止するため、各国は租税条約
を締結して国際的な二重課税解消を図っている。この二重課税制度を調整する方法は、国
際的に確立した制度として、
「外国税額控除」と「国外所得免除」という二つの制度がある。
これは海外での経済活動に対する課税権の行使に関する以下の2つの概念と併せて次のよ
うに整理出来る。
第1に全世界所得課税方式であり、納税者が居住している国がその納税者の全世界所得
に対して課税を行うという考え方である。もし外国において課せられた税額があればこれ
を控除(外国税額控除)することで国際的な二重課税を防止する。
第2にテリトリアル方式であり、所得の源泉のある国が、その国の居住者だけではなく、
非居住者に対しても源泉地国で発生した所得に対して課税するという考え方である。国際
的な二重課税を防止するという点で国外所得に対する課税免除を行う(国外所得免除)方
式が用いられる
わが国の税制は全世界所得課税方式を原則としつつも、その大きな例外(例えば後述す
る「外国子会社配当金益金不算入制度」)を設けてテリトリアル方式も一部採用しており、
実際には純粋に区別出来ない。
その他、国際税務戦略を議論するうえで特に重要な制度として「外国子会社合算税制」
及び「移転価格税制」がある。これらについては、「外国子会社配当金の益金不算入制度」
とともに以下に概略を説明する。
4-2
わが国における国際課税制度の概要とタックスマネジメントへの影響
(1)外国子会社から受ける配当に係る益金不算入制度
6
従来、わが国は外国子会社3から受ける配当に係る国際的二重課税の調整について、全世
界所得課税方式を採用し、外国税額控除方式を用いてきたが、2009 年の税制改正によって
国外所得免除(益金不算入)制度によって行うことに変更している。この制度は日本企業
が外国子会社から受け取った剰余金の配当等(以下「配当金等」という)を受けた場合に
は、一定の申告手続きを条件に、受け取った配当等の額からその配当金の額の5%相当額
を控除した金額については、その日本企業の各事業年度の所得の金額の計算上、益金の額
に算入しないというものである。
この外国子会社配当益金不算入制度の導入により、外国子会社がその剰余金を日本の親
会社に配当したとしても、当該子会社からの配当に係るみなし経費とされる部分(5%)
を除いて日本での課税所得にはならないため、課税関係については実質的に外国子会社の
所在地国における課税で終了することになる。その結果、日本企業の連結所得に対する法
人税の実効税率は、各国の所得にその国の税率を乗じたものの加重平均となる。つまり、
外国子会社配当益金不算入制度は、日本の法人税の実効税率よりも低い国で課税が終了す
る所得を増加させることにより、わが国企業の連結所得に対する法人税の実効税率を引き
下げることを可能とするものである。
(2) 外国子会社合算税制(タックスヘイブン対策税制)
外国子会社合算税制は、日本企業が軽課税国(タックスヘイブン)にある子会社・関連
会社を利用した租税回避を防止することを趣旨として導入された制度である。具体的には
「特定外国子会社等」4の所得をその特定子会社等の一定の持分を有する内国法人(および
居住者)の所得に合算して課税する仕組みである。言い換えると外国子会社の法人税負担
率がトリガー税率5を下回る場合に、その所得に相当する金額を日本の親会社の所得とみな
し、日本で課税する仕組みである。ただし、一定の要件を満たす場合には、所在する国に
おいて事業を行う経済実態があるものとして、その適用を除外することができる。
この外国子会社合算税制が日本企業のタックスマネジメントに与える影響については多
くの議論がある。例えば6節で説明する米国企業で積極的に行われている「ダブル・アイ
リッシュ・ウィズ・ア・ダッチ・サンドイッチ(DIDS)」等の議論などがそうである。
(3)移転価格税制
移転価格税制は、所得を他の国に移転することを防止することを趣旨として導入された
制度である。具体的には、企業が海外企業との移転価格を通常の価格と異なる金額に設定
すれば、一方の利益を他方に移転することが可能となる。そこでこれを防止するために、
海外の関連企業との取引が、通常の取引価格(独立企業間価格)で実施されたものとみな
25%以上の株式等を配当等の支払義務が確
定する日以前 6 月以上引き続き直接に有している外国会社をいう。
4外国法人のうち、居住者及び内国法人によって直接及び間接に 50%超の持分を保有され
ている会社(外国関係会社と定義されている)で、その本店又は主たる事務所の所在する国
又は地域におけるその所得に対する税負担が、わが国において課される税の負担に対して
著しく低い会社をいう。
5適用対象となるか否かを判断するための租税負担割合の基準のこと。平成 2010 年度税制
改正により、現在の日本のトリガー税率は従来の 25%以下から 20%以下へと引下げられ
た。
3具体的には、内国法人がその発行済株式等の
7
して所得を計算して、課税する制度である。近年、日本では移転価格税制を適用した追徴
課税が増加している。その理由として、国際ビジネスにおいて特許、ロイヤリティなどの無
形資産取引が年々増加しており、同時にそれに関して利益配分の予見性が困難であること
が挙げられる。このことからも移転価格税制に関しての税務リスクは年々高まっており、
日本企業の移転価格税制に対する意識は高まっている。
以上のような国際課税制度はグローバル化が進展しているわが国の企業行動を変えてき
たと思われる。わが国はこれまで外国税額控除方式を採用していたため、日本企業の法人
税の実効税率は、法定実効税率に近い水準であった。しかしながら、外国子会社配当益金
不算入制度の導入により、日本企業の法人税の実効税率は、わが国の法定実効税率とは関
係なく決まることになる。海外と比較するとタックスヘイブン対策税制などの制度の差異
による有利不利はあるものの、日本企業は、外国税額控除方式を採用している米国企業に
比べある意味で有利な状況になったと考えられる。また実際に本制度の導入後、わが国に
還流した配当金は、財務省と日本銀行が公表している「国際収支統計」6からみると 2008
年のおよそ 2.4 兆円から、2009 年にはおよそ3兆円になり、およそ 20%強の増加となっ
た。2010 年はおよそ 3.13 兆円、2011 年はおよそ 3.23 兆円と徐々にではあるが、わが国
に還流する国外からの配当金は依然として増加傾向にある。
また外国子会社合算税制は、経営効率化のためのサプライチェーンの再構築を可能にし、
後述するプリンシパル・ストラクチャーを用いたタックスマネジメントを促進させる可能
性が高い。
以上のことから、近年のわが国の国際課税制度の改正は、国際税務戦略による企業価値の
向上を促進させる可能性が高いと考えられる。
5.
タックスマネジメント
5-1
限界税率とタックス・クライアンテール
ここでタックスマネジメントを考察するにあたって重要な概念を導入する。先に述べた
ようにタックスマネジメントの目的は税引後利益の最大化であった。まず、税引後利益の
最大化は以下の式で示される。
Δπ=ΔΠ-ΔTAX
(1)
Δπ、ΔΠΔ、ΔTAX は、税務戦略を実施した後の税引後利益(π)、税引前利益(Π )、税負
担(TAX )から、その税務戦略を行う前の税引後利益、税引前利益、税負担を差し引い
たものである。ここで注意すべき点は、ΔTAX の最小化、つまり支払税額の最小化が必ず
しも最適な意思決定とならないことである。つまり支払税額の最小化は税引後利益の最大
化に結び付くとは限らないことであり、税担当部門は企業全体の事業戦略とタックスマネ
ジメントを整合化させる必要がある。具体的にはあるタックスマネジメントが場合によっ
ては、他の部門の効率的な運用を妨げて、追加コストを発生させることにより ΔTAX 以上
に ΔΠ を減少させてしまうケースも考えられる。この点に関して渡辺(2005)は、租税は、
企業活動、特に企業の行う経済取引をもとに課せられるものであるから、租税の問題だけ
を企業活動のあり方と独立に考えるのは不可能であると説明し、課税への対応は、企業の
6
財務省/日本銀行(各年)
「国際収支統計」
8
取引活動と不可分である。税務戦略を、企業戦略の一環として、企業戦略全体の中で位置
づけて考えることが重要であると述べている7。
そして税引前利益を単純に収入から費用を差し引いたものと考えると、収入に影響を与
える要素として「暗黙の税(implicit tax)」が、費用を増加させるものとして租税以外の「非
租税コスト」が考えられる。暗黙の税とは、課税される資産の税引き前収益率と、比較対
象とされる課税上優遇される代替資産の税引き前収益率の較差として定義される8。暗黙の
税に対して、実際に税金の額が算定されて税務署などに納税される税を、明示的な税
(explicit tax)と呼ぶ9。暗黙の税は、課税上優遇される資産の価格が上昇することによ
り発生し、課税上優遇される資産の税引き前収益率は、課税上不利な資産の税引き前収益
率よりも低下する。これにより、課税上優遇される資産に投資する場合に、税金は暗黙の
うちに低い投資収益率を通じて投資家が負担することになる。暗黙の税は支払総額の最小
化ではなく、税引後利益の最大化というタックマネジメントを遂行するうえで重要な概念
である。さらに、このような資産に対する課税上の仕組みが異なることにより、タックス・
クライアンテールという状況が発生する。すなわち、投資家はその課税属性に応じて、課
税上優遇される資産を志向する投資家グループか、課税上優遇されていない資産を志向す
る投資家集団のいずれかのクライアンテールに含まれることになる10。
タックス・クライアンテールの重要性について、渡辺(2005)は、税務戦略の策定にお
いて、自分がどのタックス・クライアンテールに属しているか、あるいは将来属すること
になるかを意識する必要があるからだと述べている。つまり、税引後利益の最大化のため
の効果的なタックスマネジメントを実施するためには、自己が属するタックス・クライア
ンテールを正確に認識する必要がある。
そして重要なことは先にも述べたが実行税率はタックスマネジメントを実施するうえで
必ずしも有効なベンチマークであるとはいえないことである11。たとえば今期の課税所得
が赤字であれば、実効税率はゼロとなり、これは将来のタックスマネジメントの効果につ
いて全く情報をもたらさない。また、実効税率は暗黙の税を考慮していない点でタックス・
クライアンテールを認識することができなくなる点で大きな問題となる。
そこでタックスマネジメントを高度化させるうえで重要なのが限界税率(marginal tax
rate)である。Sholes et al.(2008)は限界税率を、現時点で追加的に1ドルの課税所得
が発生することにより、現在あるいは将来において新たに生じる税額(暗黙の税および明
示的な税の両方を含む)の現在価値であると定義している。ここで注意すべきは限界税率
が将来の税額の現在価値を含めて定義されている点と、明示的な税だけではなく暗黙の税
も考慮に入れられていることである。先ほどのタックス・クライアンテールと関連づけて
説明すると、限界税率の相対的に高い投資家が、非課税資産のタックス・クライアンテー
ルを形成し、逆に限界税率の低い投資家は、課税資産についてのタックス・クライアンテ
ールを形成する。
7
渡辺(2005)p.11.
詳しくは渡辺(2005)を参照されたい。
9 渡辺(2005)p.18.
10 詳しくは Scholes et al.(2008)p.6 を参照されたい。
11 詳細は Scholes et al.(2008)pp.212-213 を参照されたい。
8
9
5-2
税務戦略の基本公式
渡辺(2009)は、タックスマネジメントにより税引後利益を最大化するための仕組みは、
高い限界税率の課せられる所得を低い限界税率の課せられる所得に変換することを通じて、
タックス・プランニングの実現に要するコストも考慮したうえで、税負担の軽減を図ると
論じており、これらを渡辺(2005)の「税務戦略の基本公式」に依拠して説明する12と以下
の式で示される。
t(-ΔY)+tcg(ΔY)+ΔC+ΔT[ΔC ]< 0
(2)
t は通常税率、tcg は軽減された税率であり、t >tcg> 0 であることが前提である。ΔY は、
通常の課税対象となる所得を税負担が削減された場合の所得に変化させた場合の所得額を
示すことから、t(-ΔY)+tcg(ΔY) < 0 となる。ΔT は、税務戦略を行った場合に、当該企
業が追加的に負担する費用を含んでいる。具体的に、ΔC には、t から tcg へ税負担を削減
させる所得に変換するための取引費用、その変換のために税引前の収益率が低下した場合
にはそれに相当する暗黙の税、さらに税務戦略を実施した場合に発生するあらゆる非租税
コスト13が含まれるものと想定する。また、ΔT[ΔC ]は、税務戦略の実施で生じるコス
トの増加によって、税負担が変化することを示した関数であり、一般的に、コストが増加
すれば、課税所得は減少するため、
ΔT[ΔC]≦ 0
であると考えられる。
また、この式は税引後利益の最大化の目的と合致するものである。つまり(1)式 Δπ
=ΔΠ-ΔTAX において、以下のような対応関係を考える。
ΔΠ=-ΔC
ΔTAX=t(-ΔY)+tcg(ΔY)+ΔC+ΔT[ΔC ]
その結果、Δπ>0と税務戦略の基本公式である(2)式が成立することは同じことに
なる。
次にタックスマネジメントを国際税務戦略の観点から考察する。タックスマネジメント
は所得の性質の変換によって税引後利益を高めることができるが、渡辺(2009)によると
所得の性質の変更に関しては、以下の3種類が考えられる。
① 所得の帰属主体の変更、および所得の種類の変化
② 所得の帰属時期(課税のタイミング)の変更
③ 所得の発生する場所(課税国、jurisdiction)の変更
これらの変更によりタックスマネジメントは有効なものとなるが、同時にコストも発生す
る。このコストと税務上のメリットを考慮に入れたうえで、所得の性質の変更を行う必要
がある。これらの概念は国際税務戦略を実施するうえでも変わることはない。
具体的には、tを本国における限界税率、tcgを外国における限界税率と考えると、tcg < t
が成立している限り、本国の所得を海外に移転することにより、税金コストの削減を実現
できると思われる。
12
13
渡辺(2005)pp.31-36.
詳細は Scholes et al.(2008)pp.170-172 を参照されたい。
10
6.サプライチェーンの観点からのビジネスストラクチャーの再構築
本節では、税引後利益最大化のための国際税務戦略に関するビジネスストラクチャーの
再構築をサプライチェーンの観点から検討する。グローバル化が極限にまで進展している
中で、多国籍企業のサプライチェーンは複数国にまたがって実施されており、関係する企
業間の製品やサービスの取引価格は、移転価格税制の理論により、サプライチェーンに関
与する企業それぞれの機能やリスクに応じて決定される。そのため多くの機能およびリス
クを負っている企業に多くの利益14が分配されることになるため、仮に低税率国の関係企
業に多くの利益とそれを産み出すための機能及びリスクをうまく分配させることが出来れ
ば多大な節税メリットが発生する。つまり、サプライチェーンが産み出す利益を高税率国
の関係企業には少なく、低税率国の関係企業には多く配分することによって、連結ベース
での実効税率引き下げにより税引後利益の最大化が可能になると考えられる。本節では国
際税務戦略の高度化を常に追求している米国企業の事例を紹介し分析することにより、日
本企業の現在の国際税務戦略のあり方について考察する。米国企業を取り上げる理由とし
て、企業経営における国際税務戦略の位置づけが高く株主からの期待に応えることを意識
しながらその高度化を常に図っている点と、法定実効税率において米国と日本はほぼ同じ
水準にあるからである。
6-1
米国企業に税制の概要
米国企業の事例を挙げる前に、最初に米国における国際課税制度を概観する必要がある。
なぜならば、タックスマネジメントを実施するためのビジネスストラクチャーの見直しは
その影響を大きく受けるからである。これは当然のことながら米国の企業行動と関連して
くる。
第4節で国際課税制度の概要について説明したとおり、海外の経済活動に対する課税権
行使には全世界所得課税方式とテリトリアル方式があるが、米国は全世界所得課税方式(外
国税額控除方式)に拠っており、外国で獲得する能動的利益については米国内に資金を還
流するまで課税を繰り延べる。
また、この全世界所得課税方式に関連して重要なのがCheck-the-Box規定である。
Check-the-Box規定とは、米国の税法で外国事業体が「法人」
(corporation)として取り扱
われるか、パス・スルーの支店またはパートナーシップとして取り扱われるかを納税者が
選択できる税制のことである。Check-the-Box規定においてパス・スルーの支店またはパー
トナーシップとして外国事業体を選択すれば、当該事業体の所在地がいわゆるタックスヘ
イブン国・地域であっても米国のタックスヘイブン対策税制(CFC税制)が適用されない
こととなる。
6-2
米国企業におけるビジネスストラクチャー
米国多国籍企業の税務戦略のなかで最も重要で一般的なコンセプトは、巨額な価値を産
み出す無形資産を低税率国に国外移転させることであり、これは米国両議院税制委員会
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課税関係を扱う場合、厳密には「利益」と「
(課税)所得」は区別しなければならない。
ここでは議論の単純化のため、便宜的に「利益」=「所得」として扱う。
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(Joint Committee of Taxation)のレポートでも指摘されている。このレポートでは国外
へ所得移転が起こるメカニズムを事業構造の特性、制度(移転価格税制)の欠陥およびこ
れら要因を背景に低税率国で所得を繰り延べる誘引15を明らかにしている。そして、所得
移転メカニズムの中核要素を、事例研究から以下の3つのテーマに要約して示している。
・ 低税率国に高収益事業を設置し、高課税国に低収益事業を設置する
・ 移転価格におけるバイ・イン支払16とコスト・シェアリング17
・ Check-the-Box 規定を利用した SubpartF 税制18の回避
ここで重要なのは、利益を生み出す無形資産を如何にして有利に国外移転するか、その無
形固定資産の使用料をどのように決めるのか(移転価格の問題)、利益発生国の限定、とい
う事である。
実際の事例で具体的に分析する。ここに紹介するのはマスコミ等で度々報道されている
グーグルやアップルがとっているダブル・アイリッシュ・ウィズ・ア・ダッチ・サンドイ
ッチ(DIDS)という手法である。概要は以下のとおりである。まず、オランダの子会社をは
さむ形でアイルランドに子会社 2 法人を配置する。この二つのアイルランド法人のうち1
社は持株会社でありバミューダから管理支配する。もう1社のアイルランド法人は従業員
を多く抱える電子商取引のサービス等を行う孫会社である。ここで、本国(米国)で開発
した特許やデザイン、ノウハウ等といった価値ある無形資産を米国からアイルランド持株
会社にライセンス契約により移転し、次にこれをオランダ法人を介してアイルランドの事
業会社にライセンスする。そして全世界からの特許使用料などはこの流れとは逆にオラン
ダ法人経由でアイルランド持株会社が吸い上げる。このようなスキームによって、全世界
顧客への売上からもたらされた莫大なグーグルの会計上の海外利益に対して、実際の税額
の割合は数パーセントで済んだと報告されている。
この原因を国際課税の観点から検討すると次の通りである。
まず、アイルランドでは企業を管理支配する場所がバミューダにあれば特許使用料など
の収入には課税しない。バミューダでも法人税が課せられない。また租税条約を利用すれ
ばオランダ法人からアイルランド法人への使用料に対して源泉税が課税されない。さらに
米国連邦税制との関係で、アイルランド会社もオランダ会社もCheck-the-Box規定によりパ
ス・スルー事業体にしておくことで、タックスヘイブン対策税制の適用を避ける。これら
外国で獲得する能動的利益については米国内に資金を還流するまで課税を繰り延べられる
のである。結果としてグーグルの海外利益に対する事項税率は数パーセントになる。
しかしながら低税率国に高収益企業を置き、高課税国に低収益企業を置くというやり方
誘引との関係で U.S.GAAP に触れられている。財務諸表上の数値をよくして1株あた
り利益関連情報を高めるためには、会計上、低税率国での課税が繰り延べられた所得を
米国外で恒久的に再投資するとしなければならない。
16 OECD に準拠すると、バイ・インは新規参加者のコスト・シェアリングに参加するにあ
たっての無形資産の移転を意味する。
17 複数の参加企業が、新規に開発する無形資産に係る特定の権利・利得を見返りとして、
その研究費用を配分する取決めのことである。
18 米国株主により支配されている外国子会社の所得を、彼らの株式所有割合に応じ、当該
米国株主等の所得に合算して課税することである。
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として、その原理は簡単に理解できるが、現実に実行するとなるとかなり複雑な事業構造
となることに留意する必要がある。
6-3
日本企業におけるビジネスストラクチャー
上記アメリカ企業の DIDS は節税の究極的な手法であるとも考えられるが、このスキー
ムを日本の企業にそのままの形で適用する事は難しい。なぜなら、日本にはパス・スルー
(「Check-The-Box」)規定がないため、上記のバミューダ事業体が受け取る利益について
は、わが国税法上、外国子会社合算税制(タックスヘイブン税制)の対象となる可能性が
高く日本の税率が課せられてしまうからである。即ち、日本企業が税引後利益を最大化す
るための合理的なストラクチャーはアメリカと同じではない。
しかしこれをサプライチェーンの観点から見た場合、製造業の多国籍企業が多い日本に
とっても重要な示唆を与える。具体的なストラクチャーは図1のように示される。
図1
サプライチェーンの再構築
【 現行のサプライチェーン 】
日本親会社
商品引渡
商品引渡
経営指導
製造会社
経営指導
地域統括会社
経営指導料
売買代金
販売会社
経営指導料
商品仕入
売買代金
サプライヤー
商品引渡
最終消費者
【 再構築後のサプライチェーン 】
日本親会社
加工賃
受託製造会社
販売手数料
プリンシパル
コミッショネア
商品引渡
商品(無償)
売買代金
売買代金
商品引渡
サプライヤー
最終消費者
複数の国または地域別に製造会社や販売会社を設立してきた日本企業においては、それ
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ぞれの関係会社毎にサプライチェーン(購買、製造、販売等)を確立し自己完結型の事業
を運営させてきた。しかし、複数の国・地域に多くの関係会社を抱えるに伴いこれら企業ご
とのサプライチェーンが重複し非効率性が発生する温床となった。一方、昨今の通信技術
の進展により、海外での事業運営の障壁が低くなり、ビジネス機能の再編成が可能になる
とサプライチェーンマネジメントも統合され得るようになった。つまり世界中に分散され
ていた経営活動を一箇所に集約することが可能となり、事業戦略を効果的かつ迅速に実施
できるようになったのである。このような国や地域ごとの購買や製造ならびに販売などの
ビジネス機能を統括/管理する事業体をプリンシパルと呼ぶ。そして、このプリンシパルを
用いたビジネススキームがプリンシパル・ストラクチャーである。プリンシパル・ストラ
クチャーはサプライチェーンモデルの一つである。
具体的に製造機能と販売機能の面からこれを考察すると以下のようになる。
まず製造機能の面からは、プリンシパル・ストラクチャーを実施すると、これまで自己
完結型の事業を行ってきた製造企業は受託製造会社になる。つまり製造業の場合に、プリ
ンシパルは、原材料を調達し、これを受託製造会社に無償で供給し、受託製造会社には加
工賃のみを支払う。プリンシパルは、在庫リスクを負担し、受託製造会社へは製造ノウハ
ウや特許権を提供する。受託製造会社はプリンシパルの管理のもとで製品の製造に特化し、
受託製造会社のリスクは低減する。
次に販売の面においては、プリンシパルは受託製造会社から製品を引き取り、あらゆる
国と地域で販売する。ここで、販売会社は受託販売会社あるいはコミッショネアに変換さ
せられる。販売ノウハウ等の販売機能はプリンシパルに集約させて、各販売会社は在庫リ
スクや売掛金回収リスク等の販売リスクを原則として負担しない。
以上のように、プリンシパルはサプライチェーンにおける利益を産み出すビジネス機能
を保持し一方で多くのリスクを引き受けることになる。このことは即ち、サプライチェー
ンの重要な機能とリスクを負担するプリンシパルはそこから産み出される大きな利益を享
受する事を意味する。それゆえ、プリンシパルは低税率国に置くことが合理的となる。
ところで、従来の日本の法制度下において、タックスヘイブン税制の対象となる懸念か
らプリンシパル・ストラクチャーの実施は困難であった。しかし、平成 22 年度の税制改
正により一定の要件充足を条件にこれが緩和された。今後は、このような税務面での懸念
事項がなくたったため、純粋に経済合理性の観点からビジネスストラクチャーを構築でき
る。すなわち、グローバルな中央集権型組織であるプリンシパル・ストラクチャーによる
機能とリスクの低税率国への集中化が可能となる。
また、4-2 で論じた「外国子会社配当益金不算入制度」を前提とした日本の税制度は、
課税関係については実質的に外国子会社の所在地国における課税で終了することを意味し
た。つまり軽課税国で課税関係が終了することから、プリンシパル・ストラクチャーには
親和的な制度であると考えられる。
7.
総括
日本企業のグローバル化の歴史は古いが、経営環境の変化が早くその程度も大きい状況
では、既存の海外ビジネスストラクチャーを抜本的に再構築する段階に差し掛かっている
と思われる。国内外のサプライチェーンの見直しは国際競争での優位性を確保するために
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も重要で、それに加えてタックスマネジメントの観点からも、ビジネスの実態と現時点で
の国内外の税制を踏まえてビジネスストラクチャーを再検討する必要に迫られている。
とくに外国人投資家の比率が高い状況で、企業価値の向上が依然として重視される中で、
それに大きく影響する実行税率への関心を外国人投資家は持っている。今後、他国と比較
して高い日本企業の実効税率が続くと、外国人投資家からの改善の要求や、場合によって
は株式が売られて企業価値の大幅な低下に繋がるかもしれない。
さらに海外展開がさらに進展すると、税務リスクも大きくなり、リスクマネジメントと
してのタックスマネジメントも重要度が増すであろう。
以上のことからも、日本企業はタックスマネジメントを事業戦略として捉えて、その位
置づけを高める必要がある。
本研究では企業価値最大化のためのタックスマネジメントをサプライチェーンの概念を
援用しながら、ビジネスストラクチャーの観点から検討した。そこでは実効税率の低減に
積極的なアメリカ企業と比較検討することによって、日本企業の置かれた国際課税環境の
特徴を明らかにした。特に「外国子会社配当益金不算入制度」の導入と「タックスヘイブ
ン税制の緩和」は、サプライチェーンとビジネスストラクチャーの再構築にむけて大きな
メリットである。また、研究開発やマザー工場を日本国内に留めて活動したい企業にとっ
ては「外国子会社配当益金不算入制度」は国内に資金を還流しやすいものであり、また、
株主に対する配当の原資としても活用の幅が広がる。今後のタックスマネジメントの動向
に注視していきたい。
また、サプライチェーンならびにビジネスストラクチャーの再構築に際しては税率の高
低だけではなく、限界税率やタックス・クライアンテールの概念を応用すると、もっと精緻
で現実的な分析が可能だと思われるので、今後の研究対象としたい。
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