GPC-IRによる潤滑油の解析

DiscovIR-SEC
Application Note 028
Deposition and Detection System
May 2008
GPC(SEC)/IRによる潤滑油の分析
DiscovIR-SECは、GPC(SEC)カラムを脱溶媒
和インターフェイスに接続してカラム溶離液から
溶媒を除去し、そのまま赤外透過測定を行
う。 溶離液はインターフェイスを通り抜け、
DiscovIRの真空チャンバに設置されたZnSeサ
ンプル・ディスク上に螺旋状の連続的なトラック
を描きながら、固相状態でデポジットしる。同
時に内蔵のFT-IRがデポジットしたトラックから
赤外スペクトルを順次収集する。結果、サンプ
ル全ての成分の分子構造に関する情報を得
ることが可能となる。
概 要
このアプリケーションノートでは、GPCとFTIRの複合装置を使用した潤滑剤の高分子添加剤の識別
と分子量分布の特徴づけについて述べる。ここに述べる方法は使用潤滑剤にも適用でき、以下の
測定が容易になる。
・添加剤の剪断劣化
・添加剤の消耗
・ポリマー成分の酸化などの化学変化
はじめに
鉱物系潤滑剤においても合成潤滑剤においても、潤滑剤の機能性能を高めるために添加剤パッ
ケージが配合されている。それぞれの添加剤は、腐食防止・抗酸化・酸性度の減少・粘度調整・
清浄分散・金属表面の摩耗保護など、さまざまな機能を果たす。添加剤はエンジン油の険しい環
境で消費されるので犠牲材料とされている。自動車エンジンのオイル交換は、オイルの分解よりも添
加剤パッケージの枯渇や消耗を避けるためである。
使用中の潤滑剤管理は、臨界状態で高価な設備を使用して定期的に行われる。使用油は、酸
化度・汚染度・添加剤機能の劣化などが定期的に点検される。場合によっては、更油ではなく特
定の添加剤が使用油に加えられる。一般的な添加剤の機能をTable1に示す。
粘度調整
分散剤
酸化防止剤
緩衝剤
耐摩耗剤
溶剤
清浄剤
腐食防止剤
Table1. Oil Additive package components
粘度指数向上剤(VII)と分散剤は両方とも高分子材料で、潤滑剤の約15%を占める。VIIは、温
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DiscovIR-SEC
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度変化に伴う潤滑油の粘度変化を低減する。エンジンオイルは、一定の粘度範囲内で最適に潤
滑し、必要以上な高温や低温になると潤滑作用をしない。VIIの消耗や機能の低下は、エンジンの
摩耗促進に繋がる。VIIは、モーターオイルを安全に使用できる温度範囲を広げる。
分散剤はエンジン運転中に生成または吸い込まれた粒状物質と作用して、それらがエンジン内部
の表面を覆うスラッジの原因となり、また目詰まりしてオイルの流れをふさぐ原因となる凝塊形成を防
ぐ。分散剤は、極性の鎖末端基と疎水性の末端基を持つ複雑で小さなポリマー鎖がある。ポリイソ
ブテニルスクシンイミドやその変種が一般的に使用されている。高分子材料であるVIIと分散剤はエ
ンジンなど油圧装置内部で高い剪断力を受けるため、剪断劣化しやすい。
このような潤滑剤のポリマー成分を識別しキャラクタリゼーションをする方法; クロマトグラフィと分光
法の組合せ分析について以下に述べる。新品および使用中の潤滑剤の両方の分析に適用できる。
実 験
サンプル
2種類の未使用のモーターオイルを使用した。
Petroleum oil: Shell Rotella® T SAE 15W-40 Heavy duty oil for diesel engines
Synthetic oil: Mobil SAE10W-30 Motor oil for gasoline engines
サンプルの前処理
サンプルの
前処理
サンプルは、それぞれ濃度90mg/mLでテトラヒドロフラン(THF)に溶解した。
GPC測定
測定条件
条件
Column:
25 x 1 cm Jordi Mixed Bed
Mobile phase: 100% THF, 1mL/min
Injection:
50µL
GPCカラムは、UV検出器に接続後DiscovIRシステムと接続。ポリマー成分は固相だが、オイル成
分は液相なのでサンプル・ディスク上で広がる傾向がある。オイルが溶出し始める前の時間に
DiscovIR-SECシステムに溶出液が流入しないように、ダイバータ・バルブで分岐した。
FT-IR測定
測定条件
条件
Nebulizer:
6W
Carrier gas:
380cc/min
Sample disc:
Speed 3mm/min, Temp. 20ºC,
Pressure:
Chamber/Cyclone 6.40/400 torr
Condenser temp: 5oC
Cyclone temp: 260oC
小分子の鉱油でサンプル・ディスクが汚れるのを避けるため、カラムフローを12.1分で終了した。
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結 果
Shell Rotella T 15W-40
このオイルは、ディーゼルエンジンや大型機関用に設計されている。
Figure1. UV detector trace of Rotella T polymer fraction
UVのクロマトグラム(Figure1)には、9.2分で一成分が溶出し、部分的に分離した溶出液のピーク
が10~12分に現れている。13分の大きなピークは基油である。
Figure2. Infrared chromatogram of Rotella T polymer fraction
GPC-IRクロマトグラムを生成するために、12.2分で溶出を終えた。これは、基油がサンプル・ディスク
に流れ込んで、既にデポジットしたポリマーと重るのを避けるためである。したがって赤外クロマトグラム
の溶出プロファイルに基油のピークはない(Figure2)。予想通り、溶出ピークの強度はUVクロマトグ
ラムとは異なる。しかし溶出の順序は良く一致している。赤外では、9.2分に大きなピークが現れ、
続いて10~12分にブロードなピークが現れている。
Figure3は、サンプルのスペクトル特性を表した3D表示である。サンプルから得たスペクトルを溶出し
た順番に、早い時間を手前にして表示した。ここには成分特有の化学構造がよく現れている。
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Figure3. Time-ordered spectra from the GPC-IR analysis of Rotella T
Figure4は、スペクトルバンドを特定して生成したクロマトグラムである。サンプルに2つの異なる化学
種が存在することを確認した。このクロマトグラムは、分離していないピークの溶出分布の特徴付け
に極めて有用である。
Figure4. Function group chromatograms of Rotella components
Figure5に、最初のピーク(RT9.2分)の赤外スペクトルを表示する。平均分子量が600Kあり、この
オイルの粘度指数向上剤である。芳香族とエステル両方の官能基が現れている。共役ジエンに由
来するバンドは存在しない。
・典型的な芳香族CH伸縮 (3082、3061、3027)
・Ring breathing mode (1601、1493)
・芳香環面外変角 (698、756)
・カルボニル (1735)
・C-O伸縮 (1200~1000)
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このピークの[700cm-1/1735cm-1]バンド比に明らかなドリフトは見られない。これは、大きな組成
変化がないことを示している。このスペクトルは、スチレン-アクリラート共重合体であるようだ。
Figure5. First elution peak spectrum
Figure6に10~12分のブロードな溶出プロファイルから得たスペクトルを表示する。この時間帯の
ピークのスペクトルは極僅かしか変化していないので、化学成分は均質で幅広い分子量(30,000
~8,000mW)であることを示している。このスペクトルは、分散剤ポリイソブテニルスクシンイミド
(PIBS)の特徴を示している。この物質のブロードな溶出プロファイルは、分子量が不均一であること
を示唆しているが、コモノマーに組成ドリフトが生じている明らかな証拠とはならない。[ジメチル
(1367cm-1)/イミド(1700cm-1)]バンド比は、10.5~12.2分の間で約10%しか減少していない。
Figure6. Spectrum of the 10 - 12 min eluant fraction
Mobile 1 10W-30 Synthetic
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合成潤滑油は乗用車のエンジンへの利用が増えている。鉱油系潤滑油よりも性能が優れていると
主張されている。
Figure7. Elution profile of polymer components of Mobile 1 synthetic oil
このサンプルには、はっきりと区別できる3つのポリマーのピークが現れた(Figure7)。同じピークに複
数のポリマー種が重なって溶出した可能性がある。
Figure8は、最初のピークの赤外スペクトルである。GPCの溶出時間は、このピークの分子量は約
250K Daltonに相当すると示唆している。これはエチレンプロピレン共重合体で、少量のスチレンも
含んでいる(700cm-1バンドと3023cm-1芳香族C-H伸縮バンドが観察される)。弱いエステルカルボ
ニル基の吸収も現れている。
Figure8. Mobile 1: first elution peak
Figure9は、2番目のピークの赤外スペクトルで複雑な波形をしている。機能性成分はポリオレフィン
系物質を示唆している; 水酸基(3625cm-1)、エステルカルボニル(1733cm-1、1151cm-1)、スチ
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レン系(1605cm-1 、1492cm-1 、700cm-1 )、C-H伸縮バンド(3000cm-1 ~)。このピークの平均分
子量は50K Daltonである。
Figure9. Mobil 1: 2nd elution peak
このピークの官能基クロマトグラムをFigure10に表示した。高分子材料の混合物(VII、流動点降
下剤)か、それとも激しい組成ドリフトを呈しているポリマーのどちらかであることを示唆している。
Figure10. Functional group chromatograms of Mobile 2nd elution peak
Figure10に示されているように、芳香族組成(緑のトレース)は溶出時間(分子量)とともに減少し
ている。これに対し、炭素-酸素(青のトレース)は増加している。この4本のクロマトグラムは、それぞ
れで選択したバンドの振動数値を、2926cm-1 C-H伸縮の振動数に対する比率で描いている。こ
れは、デポジットしたサンプルの溶出時間に応じて変化する質量を無効にし、官能基の濃度変化を
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反映している。3630cm-1を中心とするブロードな弱いバンドは、水酸基系と特定された(一番下の
トレース)。このピークの主成分は、PMA-PS共重合体であるように思われる。同時に溶出している
成分の混合物を無視することはできない。このフラクションを収集して吸着クロマトグラフで再測定す
れば、個々のポリマー種に分離できるだろう。
Figure11. Mobile 1: 3rd elution peak
10~12分に溶出した3番目のピークは、どの時間のスペクトルも全体的に同じである(Figre11参
照)。これもまたPIBSで、極めて多分散系である。ピーク3の後ろの溶出部分のC-H伸縮振動数の
相対強度変化は、このフラクションの鎖の末端基の影響が変化していることを示唆している。
解 説
GPC(SEC)/IRは、潤滑油のポリマー成分を分析する迅速で有効な手法である。 透析の予測でき
ない変化を回避し、従来のフラクションの手間を省く。使用オイルを分析する場合は、VIIや流動点
降下剤、分散剤の変化を明らかにできる。この分析方法は、製品の組成解明だけでなく、潤滑油
生産工場や品質管理にも応用できる。
潤滑剤のポリマー成分は、動作環境のもと必然的に剪断劣化する。そして剪断劣化は、添加剤
パッケージの特性を損失させる。剪断劣化および/または化学的に誘発された分解が生じると、ポリ
マー成分は溶出時間が増加して現れる。これについては、ここでの本来の主旨ではないので割愛す
るが、ポリマーの劣化はその成分の時間分布が変化するので明らかに認識できる。
ポリマーが酸化すると1160cm-1にC-O伸縮バンドが現れ、ニトロ化は1604cm-1に現れる。分散剤
は、複合するエンジン燃焼副産物に相関してスペクトル変化が生じる。
結 び
添加剤パッケージの多くは、特定の項目に応じて個別に化学検査することで分析できる。高分子
添加剤は複雑で湿式検査の影響を受けにくい。ゲル透過クロマトグラフィを赤外構造解析法と組
み合わせることで、ポリマー成分の複雑な組成解明が可能となり、また使用油の分析においては、
成分変化を明らかにすることが可能である。
お問合せ先: パンタレイテクノロジー株式会社 〒550-0006 大阪市西区江之子島1-7-3(奥内阿波座駅前ビル)
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