電子ガスの基本的性質 - rabbit.mns.kyutech.ac.jp

物性基礎特論ノート 自由電子ガスについての雑記
担当:岸根順一郎
このノートでは 授業の中で十分扱いきれなかった自由電子の基礎理論
というには細かい? についてまとめておきます あまり系統だっていな
いし 尻切れトンボに終わっています より進んで勉強したい人は専門書に
あたって下さい
目次
誘電関数と分極関数
関数
振動
静電ポテンシャルのフーリエ変換 振動
比熱と磁性
個別励起と集団励起
誘電関数と分極関数
自由電子ガス中に外から電荷分布
がつくる静電ポテンシャル を持ち込む この外部電荷分布
はポアソン方程式
で決まる
が持ち込まれたことによって周囲の電子ガスが分極を起こす こ
の結果 誘導電荷分布
が生じ これらを込みにした静電ポテンシャ
ル 繰り込まれた静電ポテンシャル は
£ たとえば高田康民『多体問題』
となる と
は非局所的に結ばれるはすで
と書ける これをフーリエ変換すると
つまり
が得られる は誘電関数と呼ばれる 外から持ち込まれた電荷分布に
よる静電ポテンシャル 裸の静電ポテンシャル は 分極によって だけ弱められる
外から電荷を持ち込むと 電子ガスは分極して裸の静電ポテンシャルを
弱めようとする このプロセスは 弱められた 繰り込まれた 静電ポテン
シャルと分極がうまく つりあった 時点で終了する 最終的な分極電荷分
布と繰り込まれた静電ポテンシャルの関係を
と書こう フーリエ変換すると
となる は分極関数と呼ばれる
誘電関数と分極関数を関連付けよう ポアソン方程式より
これに を代入すると
なので
が得られる
静電ポテンシャル 中に置かれた電子は シュレーディンガー方程式
に従う ここで が はフェルミ波数 に比べて緩やかに変
化すると仮定する この仮定は実際正しい この場合 イメージとして電
子はゆるやかな地形を波として滑走するので場所場所での波数はきちんと
定義できる その波数を とすると
である 場所
での電子密度は フェルミ分布関数を用いて
と書ける 外部電荷がない場合は
となる これより分極電荷は
すなわち
となる ここで
を導入した
これより 誘電関数が
£
Æ
と得られる
さて 電子ガス中に点電荷 をおく場合 裸の静電ポテンシャルのフー
リエ変換は
である こよれり繰り込まれた静電ポテンシャルは
となる これをフーリエ変換して実空間に戻すと
から になった
最後の変形によって についての積分区間が
ちょっ
としたトリックであるが これによって上記の積分がうまく複素積分の形
に持ち込める
Im
C
˜ik0
Re
より
となる
が原子距離程度より小さいことがわかる
を上図の経路に沿って積分し での留数を拾えば
関数
授業で示したように
次の摂動論を使うと自由電子ガスの分極関数は
と書ける(因子 はスピン自由度から来る)
次元の等方的電子ガスの場
合について 分極関数を計算してみよう
単純積分計算 だから
絶対零度では ここに出て来たのが 関数
である
1
Kohn anomaly
1
関数は 2
x
で連続であるが 微分係数は発散 する この発
散に起因する異常を 異常と呼ぶ
異常は
振動
!"
相互作用 フォノンモードのくぼみなどなどあちこちに顔を出す
振動
のフーリエ変換を計算しよう
上半平面で正則な複素関数
を考える この関数は に対数分岐点を持つので 下図の様に切断
カット を入れる
Im
C
C2
C1
Re
+1+iδ
−1+iδ
カットの両端をはう経路からの寄与はキャンセルしないので すると
#
ブランチの両端からの寄与は
Æ
Æ
Æ
Æ
Æ
Æ
$ Æ
Æ
$ これより
かくして
を得る 分極関数は 実空間では波数 で振動することがわかる 自由電
子を媒介とする局在スピン間の相互作用は に比例するので振動する
これが !" 振動である
問題 上記の積分を下記の経路 カットの入れ方が違う に沿って実行し
同じ結果が得られることを確認せよ
Im
KǸ
-1
+1
静電ポテンシャルのフーリエ変換 振動
繰り込まれた静電ポテンシャルを波数空間で書くと
となる こいつのフーリエ変換を計算しよう 計算すべきは
$
Re
である 先ほどの繰り返しになるが丁寧に行こう
所望の積分
を遂行するため 複素関数
を定義する
これよりまず 虚軸 の対数分岐を調べるため と極形式で書くと
上では対数項が消え 虚軸上に の単純極
が存在することがわかる この極が %&
る寄与を与える 次に対数的な分岐を考える 下図の様に
近似によ
Æ Æ は正
の無限小量 から虚軸に沿って上半平面に走る2本の分岐を入れることが
できる これらはもちろん 対数分岐線である
Im
C
C2
Thomas-Fermi pole
i/2α
˜
C1
+1+iδ
−1+iδ
Re
Æ から走る分岐線の両岸 ! にそった積分を考えよう ! の
右岸に対して左岸は対数の偏角が ずれている よって
まず
右岸
Æ
Æ
Æ
左岸
" " " " と置けば 被積分関数にダンピング項 が
現れる このため 積分への寄与としては Æ 付近が優勢となり のが
! に沿って 大きいところは効かない すると
" と近似できる これより
Æ
Æ
" " " Æ
$ $ 同様に ! の両岸の寄与を考えると
さらに
$ $ の寄与を忘れずに拾い上げると
%& 以上の結果より 電子ガス中に持ち込まれた点電荷が周囲に作る電場は振
動項 を含むことが判った これはフェルミ面の差し渡し に
起因する振動なので広く 振動と呼ばれる 伝導電子の分極を介した局
在スピン間相互作用の形として知られる
!"!'&((&
糟谷&
芳田 相互作用も典型的な 振動である
比熱と磁性
平面波波動関数とエネルギー
金属電子の最も単純なモデルとして長さ # の立方体状の系の自由電子
平面波 を考えよう.波動関数とエネルギーは
$
%
& ここで 系に周期的境界条件を課す これは巨視的体系の一部を取り出し
たとき 表面近傍でない限り
頭の中で どこで区画してもその性質は同一
であるとの期待に基づく取り扱いである.このように 表面効果によらな
い性質を バルクの性質 と呼ぶ.周期的境界条件は バルクの性質を調べる
上で簡便な処方である.このとき電子に許される波数は を整数
として
% % #
エネルギー & と & & の間にある状態数 '&& によって状態密度 '& を
定義すると (
をスピンによる縮重度として
'& (
Æ &
Æ &
& ($
が空間 次元に対応する.
&
次元の場合にこの積分を実行
すれば
'
&
' & '
&
($ &%
($
%
($ &
%
を得る.
フェルミ分布関数
有限温度での系の挙動を調べるため 量子統計の基礎に立ち戻ろう.系
の統計力学を調べるためにカノニカル分布に戻って分配関数を計算しよう
とするととたんに行き詰まる.
) で指定されるエネルギー準位を陣取る電子数を としよう 波数表
示では ) % * .このとき 系の全エネルギーは & % であ
る + は数分布 のセットを指定するインデックスなので シンボリッ
クに + と書いて混乱はないだろう.全粒子数は , であるから
, という拘束条件がつく.この拘束条件をつねに満たしながら
カノニカル分配関数
- % $% , を計算するのは至難である.そこで グランドカノニカル分布
の導入が必要になる.粒子数 , についての拘束条件を開放して
やり 異なる粒子数を含む系のコピー カノニカルコピー系 たくさん用意
するのである.対応するグランド分配関数 日本語では大分配関数とも呼
ぶ は
% $% , - % $% , %
となる. は粒子数 , でエネルギー に系を見出す相対確率と
解釈できる.
のご利益は
それが系の固有状態 )
% % % からの寄与の積に因
数分解できてしまう点である.つまり
% $% , & & & & & & & & & についての和は,各々の ) について独立にとることができる.
フェルミオンの場合 % ボゾンの場合 % % % だから
% $% & %
# # となる.グランドポテンシャル 自由エネルギー は
% $% )
% $% & %
化学ポテンシャル が与えられたときの粒子数の平均は
, )% $% & &
となる. 粒子状態 ) を占める粒子数の平均値 として フェルミ分布
関数
& &
が現れた.
(
&
%
%
ところで グランドカノニカル分布での粒子数の偏差の自乗平均は
, , , , $ なので , , , $
% $% $% で
一方 ,
である.体積 $ は巨視的な量だか
ら この右辺はほとんどゼロ つまりグランド・カノニカル分布では粒子数
の揺らぎがあるものの その平均値からのズレは巨視的系では問題になら
ず カノニカル分布から出てくる結果と一致するということになる.グラ
ンド・カノニカル分布は粒子数が変わるので気持が悪いという人がいるが
そういう人はカノニカルサンプリングを粒子数に対応する膨大な数だけ実
行せねばならない.これは無為な努力である.粒子数についての拘束条件
を緩くしておいて 巨視系で同じ結果を与える確率分布を考えるところが
グランド・カノニカルのミソである.
フェルミ球
絶対零度の極限で フェルミ分布関数は階段関数になる*
&
&
, 個の自由電子ガスの基底状態は 空間の格子点の各々を上向き下向き
スピンの二つの電子がエネルギーの低いほうから順に詰まった状態であ
る.つまり 半径 の球 フェルミ球 内の点を電子が占める.フェルミ
波数 と電子の最大運動エネルギーであるフェルミエネルギー は
,$
#
%
%
となる.全エネルギー は電子 個あたりのフェルミエネルギーの +
倍になる.つまり
例 えば
,'
&'&& , +
の場合 結 晶の原子配置か ら計算された自由電子密 度は
# # -. を用いると / 温度に換算して
# また フェルミ波数は # の程度となる.
ゾンマーフェルト展開
有限温度での計算にはゾンマーフェルト展開が有用である.
&
&
!
! !
!
%
が
の極限でデルタ関数になること および &
とに注意し 関数 & ! . を導入すると
の偶関数であるこ
#
&. & & & &&
&. & & 0
& !
&
& & ! 0
&
&
& &
& & ! 0
&
&
&
&
. & &
!
ここで
で / 0
/
はリーマンのツェータ関数.
/ %
/ に注意すると 低温の熱力学諸量が計算できる.
化学ポテンシャル
状態密度を '&
"$
&%
と有限温度の場合の式
"
"
"
"
&&
& & &
と書いておく.絶対零度
" %
の辺々を割ると
これより
$
&
&& エネルギーと比熱
同様に エネルギーは
+
, +
%
比熱が
!
,
0
と求まる.
ところで 温度に比例する比熱も 次に述べる温度によらないパウリ常磁
性磁化率も フェルミ温度 という有限でしかも 万度という高温堅牢な
エネルギースケールが存在することからの自然な帰結である.つまり 熱
によって電子は 程度のエネルギーをもらうが これによって熱擾乱を
受けるのはフェルミ球を構成する電子の全“人口”のうち 程度に過
ぎない.よって 外界の温度上昇による電子系のエネルギーの増加は
1
' %
である.これより直ちに温度に比例する低温電子比熱が得られる.外界か
らの擾乱に対して フェルミ面は電子系 フェルミオン系 社会の防波堤役
を果たしている と表現してもよい.しかし おいおい見るようにこの防波
堤付近の人口密度が急増するとフェルミ面はもはや防波堤の役目を果たさ
なくなる.フェルミ面が崩壊の憂き目に合うという自体が実際にあり得る
のだ.この曖昧な例えがゆくゆく体感できるようになるだろう.
パウリ常磁性
電子ガスに弱い静磁場 . をかける.電子の 粒子エネルギーは
& とゼーマン分裂する.
& .
1 23 #
4%
はボーア磁子で
ある.このズレは化学ポテンシャルのズレに吸収できるので ゼロ磁場で
のグランドポテンシャルを ) % $% として
)
% $% % . % $% . ) % $% .
)
) % $% % $% %
) . となる.これより 磁化は
2
) % $% .
)% $% % . .
2
.
.
,
磁化率は
,
' %
と求まる.
ところで ここでも数ファクターを別にすれば上の結果はもっと直感的に
出せる.スピン 3 の独立粒子ガスの常磁性磁化率が高温 ( .
で キュリー型
, 3 3 ( %
$
であったことを思い出そう.縮退フェルミガス系では 磁場による擾乱を
受けるのはフェルミ球を構成する電子の全“人口”のうち 程度に過
ぎない.よって
(
となる.
ランダウ反磁性
電子ガスへの磁場効果としては 上で見たゼーマン相互作用起源のパウ
リ常磁性の他に 電子がローレンツ力を受けて軌道運動することに由来す
る反磁性がある.これがランダウ反磁性である.
量子力学で習うように 軸方向を向いた磁場 . を受けた電子のハミル
トニアンは ゼーマン項を除くと
.
4 と書ける.ここで
5
"
1
4 5% 4 "
1
4
%
" % 4 " %
1
1
を作ると これらの交換関係は
4 % " 4 % " 1
"
1
"
.
1
ここで
4 % を使った.これより %
1. とおけば
% 5 %
となって と 5 は共役となり ハミルトニアンは
.
. 4
5 %
1
と書ける.第 項は調和振動子型なので固有値は直ちに
&
.
1
4
. 4
%
と決まる.つまり 磁場に垂直な面 面積 6 内の環状エネルギー帯
. ≦
4
4 ≦ .%
内のすべての連続準位がひとつのランダウ準位に束ねられる.ひとつのラ
ンダウ準位当たりの縮重度は
(#
6
$ ≦
% % ≦ 6.
6
. %
1
. の円と半径
4 4
. の円には
さまれた領域の面積を考えればよいだけ.よって 方向 4 と 4 4 間
の状態数は 方向のサイズを # 6# $ として
である 半径
$
(# #
4
$ .
4 %
1
である.これより グランド・ポテンシャルは
$ . . 4 ) 1 $ . 1 . 4
ここで オイラー・マクローリンの公式
( ( ( #%
を適用すると
$ .
) 1 . )
)
5
. . ゆえに ランダウ反磁性磁化率は
)
,
%
とパウリ常磁性の の大きさを持つ.
結局 ゼーマン効果と軌道効果をともに考慮した電子ガスの磁化率は
%
となる.
個別励起と集団励起
バンドを決定することは,電子の個別運動 個別励起 を記述することである.結晶内電子の個々の状態はバンド
指数 結晶波数 スピン * で指定される 電子状態
% % *%
で指定され,多電子系の基底状態としてバンドの底からフェルミ準位まで
満ちたフェルミ海が構成される.しかし,現実の金属電子達は長距離クー
ロン相互作用を及ぼしあいながらお互い避けあって運動している.金属結
晶を構成する原子は価電子を放出してイオン化しているため,イオン間に
もクーロン相互作用が働く.
多体系の相互作用効果として基本的で重要な現象が集団励起 の発現である.一般に低エネルギーの個別励起と集団励起を合わ
せて素励起 と呼ぶ.系の外場に対する応答を
議論するうえで,低エネルギー素励起の全貌を明らかにする必要がある.
また,一般に個別励起と集団励起は 人間社会現象と同様 互いに結合し,
互いの様相を変貌させる.これが多体問題の中心課題である.
格子振動
価電子を放出してイオン化した金属結晶中の原子は格子点に強く束縛さ
れてその周りを微小振動することしかできない.だから結晶内を自由に動
き回る 個別運動する ことは不可能である.このため,互いのクーロン斥
力の為に生じる集団運動 格子振動 が素励起となる.
格子振動を議論する最も簡単なモデルとして,質量 2 2& の質点がバ
ネ定数 7 のバネでつながれた 次元系を考える.
ハミルト二アンは
.
が奇数なら 2'
'
5'
2'
7
8'
2 が偶数なら 2'
2 8
6
' 7 9' 9'
2& 96' 7 8' 8'
8'
2& 運動方程式は
8' %
9' 8' 9' はそれぞれ 2 2& の平衡点からの変位である.波数 振動数 :
で集団運動するサザナミを取り出すためにフーリエ成分
8'
'( 8 % 9'
を運動方程式に代入すれば
2 : 8
(
(
9 79 7 8 7 2 : 7 7 7
2& : に帰着され,固有振動数として
:
'
78 7 9 %
2& : 9
これより固有値問題は
7
2 2&
#
%
!
%
ωoptical(q)
m=1
M =2
K=1
ωacoustic(q)
−π/a
−π/2a
π/2a
0
π/a
q
図 格子振動の固有モード 音響モードと光学モード
が得られる.
2 2& は換算質量.これを図示すると図 の
ようになる.
: に対応するモードは隣り合う
種の原子が同じ方向に変位する
モードで,長波長で粗密波つまり音波になる.このため音響モードと呼ば
れる.: に対応するモードは隣り合う 種の原子が重心周りで相対運
動するモードで, 種の原子がそれぞれ正負に帯電していれば電気双極子
モーメントが生じて光学活性となる.このため光学モードと呼ばれる.
電子間クーロン相互作用
次元空間に置かれた孤立点電荷 が作る電場を考えよう.電荷を 次元球面 6 で囲ってガウスの定理を適用する.
)
球対称性から は動径距離 のみに依存し 点電荷を湧き出し 吸い込み
として球対称に分布するので
ここで ) は )
6
) 次元の全立体角 次元単位球の表面積 で
)
7
これより直ちに
7 %
が得られる.対応するポテンシャルは
%
% %
%
%
7
; プラズマ振動
つぎは金属中を動き回る電子の集団運動を古典論で考えよう. 次元電
子ガスにクーロン相互作用を入れよう.ハミルト二アンは
.
%
運動方程式は
6
フーリエ変換
%
$ に注意すると,
6
ここで,電子密度
$
%
を導入した.
6 $
8
6 %
だから,運動方程式 は
¼ ¼
$ ¼ 6 $
となる.さて, の第 項は異なる波数 と 8
%
の密度波が結合す
ることを意味している.電子の分布はデタラメだから位相の揃わない密度
波同士は干渉しあって消えてしまうだろう.そこで位相の揃った密度波
の干渉のみを取り出せばコヒーレントな集団運動が取り出せること
になる.この近似,つまり乱雑な位相を捨てる近似を乱雑位相近似 と呼ぶ.これは 時間に依存する 平均場近似と同等であり,多体問題にお
ける近似法のなかで最も基本的なものである.
!9:
を施した結果,電子の集団運動は運動方程式
)
6 $
8
%
に 従 う こ と に な る .長 波 長 小 さ な を 考 え て 第
8
項
*
を落とせば,電子密度は振動数
%
) ,$ で集団的な調和振動をすることになる.この振動数をプラズ
マ振動数呼び,これを量子化したものがプラズモンになる.
ここで, の第
項を落としたことを思い出そう.この項があるとプ
ラズマ振動のコヒーレンスが壊れる.第 項と第 項が拮抗する条件は,
)%
である.
8
< 8
%
< はフェルミ面上の電子の速さ と平均化す
るとこの条件は
)%
<
+ =
%
となる.波数が増大して ; + となるとプラズモンは電子の個別励起の連
続スペクトルに重なり減衰する.= はトーマス・フェルミの遮蔽距離と呼
ばれる.,' のような典型的な金属で )
#/
のオーダーになる.
#
として =
#
基準座標と自由度の分離:朝永の方法
最後に陽イオンを背景に動き回る電子ガスの問題を考え,自由度の分離
問題を量子論的に考えよう 図 .体積 $ 中に電荷 質量 2 の , 個の
陽イオンと それをちょうど中和する ,
, 個の電子からなる 次元系
を考える.
図 陽イオンを背景に動き回る電子ガス
系のハミルトニアンは電子,イオン,電子イオン相互作用の項からなり,
.
.
!
.
.
!
.
! . .
! %
'
'
2
'
'
'
'
%
%
である.ここから出発して集団励起と個別励起に分離していこう 最も直
感的で気持ちのよい議論が朝永流の発見法的議論である.
背景の陽イオンは自由に動き回れないので長波長縦波集団モード 密度
波 だけが生きていると考えてよい この調和振動は
.
!
4 4 : の形にまとまる はず である.まず
'
に注意して基準座標
%
$
2 %
, '
を導入すると
'
'
:
となって基準振動の“位置エネルギー”部分が得られる.ここで
:
2
,$ はイオンのプラズマ振動数である.次に基準座標 4 に共役な
運動量を“発見”するため,4 は 8 であることが多いという経験から
ハイゼンベルク方程式および
'
%
' % % '
Æ' %
を使って
4
'
%
' 2
8 % '
2, '
"
#
' % ' % ' '
2, '
2,
' '
'
を作ってみる それから改めて % 4¼ を計算すると
¼ % 4¼ , '
Ƽ , となるので , の大きな極限で確かに と 4 は共役な座標と運動量となっ
ていることが判る さらに
'
2
'
4 4
はもはや 4 を含まず のみの関数であることが証明できる
かくして .
! .
! は
, .
! .
!
4 4 : $
2
%
と書けることが判った
つぎに電子の方を考えよう 電子は自由に動き回れるので個別運動と集
団運動 プラズマ振動 を両方考慮しなくてはならない 既に見たようにプ
ラズマ振動は長波長でのみ可能なので 臨界波数を + とし 電子の基準座
標として
, 5
%
を導入すれば
> + %
;
,
' %
% 5 , +
5
を使うと電子間クーロン相互作用項は
) %
, となり,長波長のプラズマ振動と,これを差し引くことによって残った遮
蔽されたクーロン相互作用
$! , = に分離される. より,
=
<
)
< + であったことを思い出そう.
#
で遮蔽距離はオングストロー
ムのオーダーであり,平均の電子間距離程度の非常に短い距離であること
がわかる.
; =
の距離で眺めれば,正孔の雲をまとった電子が電気的に中性な粒子として
自由に振舞って見えることになる.電子間の強いクーロン相互作用が隠れ
てしまうわけである.
0.8
0.6
0.4
1/2r
exp[−r/λTF]
2r
0.2
2
4
6
8
Vscreened(r)
r/λTF
10
図 長距離クーロン力の遮蔽
結局 は
.
$
+
, 5 5 ) ,
'
)
:
44 : %
3
となる.ここで
) ) はプラズマ振動の分散を与える.
+ 5
はフェルミエネルギー
で,電子の運動量の 乗をフェルミ分布を使って平均化したために現れる
この段階ではまだ電子のプラズマ振動とフォノンは結合しているが,線形
変換を施してこれら二つの集団運動を分離することができる こうしても
2
だから分離後の集団運動は依然イオンのプラズマ振動と電子の
プラズマ振動の性質を色濃く反映したものとなる.しかし遅いイオン振動
のほうは素早い電子振動によって著しく遮蔽され,振動数が大きく変化す
る.これを具体的に見よう.
=
: )
) を導入すれば 3 は
.
, 5 5 ) =
=
: +
, ) '
$
となる.変化したイオンの振動数は
:
:
= ) ) ? " 2 となって #
)
) )
44 :
= :
)
+ 5
の長波長極限でゼロとなる.?
? %
"
# >
となるが,これは実測値と近い.
最後に残った
,
,
$
の第
項が電子格子相互作用に対応する.
とすれば
.#
$
+
$
+
(
,
: )
? 2, $ :
= + ?
$
'
:
= となる.ここで,電子格子相互作用定数を
(
$
2,
で定義した.?
2 だから ( は 2 によらない定数である.
かくして系のハミルトニアン は
.
,
$ = 5 5 ) = ( := $ 44 :
= となり,自由度は 電子の個別運動 遮蔽されたクーロン力 プラズマ振動
格子振動
電子格子相互作用 に分離できたことになる.
得られたハミルトニアンを最後にまとめて生成消滅演算子で表しておこ
う.格子振動の量子 フォノン とプラズマ振動の量子 プラズモン の生
成消滅演算子を
$
%
%
&
@ @ %
:
= ) " "
%
4
5
:
= @
"
"
) @
%
%
で定義すれば,
.
'
電子の運動エネルギー
'
:
= @ @ (
()
フォノン
*
$ ,
' () *
()
*
$
@ ()
) " "
'
遮蔽されたクーロン相互作用
:
= ' ()
プラズモン
@
%
*
電子・フォノン相互作用
となる.これが 次元金属電子系のモデルハミルトニアンである.
つづく
*