マカク - SAGA

ヒト以外の霊長類のエンリッチメント
マカク
キャスリン・ベイン
小倉匡俊 山梨裕美
伊藤康世
須田直子
1
訳
Macaques
NIH Publication No. 05-5744
by Kathryn Bayne
[United States] Association for Assessment and Accreditation of Laboratory Animal
Care International
2005
In: Enrichment for nonhuman primates
NIH Publication Nos. 05-5745-05-5749
ed. by Kathryn Bayne
[United States] Department of Health and Human Services
2005
Original material available online:
http://grants.nih.gov/grants/olaw/request_publications.htm
Trans.: ヒト以外の霊長類のエンリッチメント: マカク
by キャスリン・ベイン
trans. & publ. by 小倉匡俊, 山梨裕美, 伊藤康世, 須田直子
※和名は「新しい霊長類学(京都大学霊長類研究所編・2009・講談社)
」による
1st ed. October 19, 2009
Affiliation:
キャスリン・ベイン M.S., Ph.D., D.V.M., DACLAM, CAAB, AAALAC International
小倉匡俊 京都大学霊長類研究所, JSPS
山梨裕美 京都大学霊長類研究所
伊藤康世 平成動物病院
須田直子 京都大学霊長類研究所
Contact (trans.):
小倉匡俊 京都大学霊長類研究所
ogura@pri.kyoto-u.ac.jp
2
背景
-生息地-
マカクとは、おおよそ 20 種類のサルのこ
とを指し、その多くがアジアに生息してい
る。マカクは、ヒトに次いで 2 番目に広い
範囲で生息している。またこの生息地は、
砂漠のようなところから熱帯雤林まで、ま
た海抜 0 メートルから雪山の頂までと幅広
い。マカクの中には樹上性の強い種もいれ
餌で頬袋をいっぱいにしたアカゲザル
ば、地上性の強い種もいる。多くのマカク
(Macaca mulatta)
。
(提供:K. Bayne)
がヒトと近い距離で生活している。たとえ
ばアカゲザルはヒンズーでは神聖な動物で、
している。性比に関しては、メスの方がオ
インドやネパールでは寺院の近くでよく見
スより多いのが通例だ。同種であっても、
られる。
ホームレンジが小さくなると(例えば人間
の活動によって制限された場合など)
、グル
ープサイズも小さくなる傾向にある。グル
-身体的特徴-
一般的にマカクは中型で、ずんぐりとし
ープ内では優位性に従って序列がついてお
た体格である。小さい種はおよそ 6kg で、
り(順位制)
、高順位個体は繁殖成功率が高
大きい種は 18kg ほどの重さだ。尾の長さ
く、また食物やその他望ましい資源を一番
は種ごとに異なる。すべてのマカクは長く
先に手に入れられる。たいてい、子供の順
鋭い犬歯と、爪をもっており、スタッフに
位を決定するのは父親の順位ではなく、母
咬み付いたり、ひっかいたりして怪我を負
親の順位である。若いオスは性成熟が近づ
わせる危険性がある。また、頬袋と対向性
くと出自グループから追い出されるなどし
の指ももっている。対向性の指のおかげで、
て、新しいグループに加わるまで一時的な
とても正確に物(ケージの鍵など)を操作
オスグループを作る。優位な個体に挑戦す
することができる。マカクは、動物性資源・
るときに、怪我を負うことがある。
植物性資源の両方からバラエティーに富ん
だ栄養をとる。マカクは、基本的には昼間
サルは視覚的なコミュニケーションに頼
活発に活動し、たいていの種が夜には樹上
る部分が大きく、威嚇や親和的交渉をおこ
で寝る。
なうときには、多くの場合音声を伴いなが
ら、たくさんの表情を使いわける。威嚇の
ディスプレイには、「O(オー)」の形に口
-行動-
概してマカクは社会的な動物で、複数の
を開ける、まっすぐ見据える、眉をすばや
オスと複数のメスからなるグループで生活
く何度も上げる、耳をピクピク動かす、ぐ
3
社会的グルーミングは親和を形成するための
不可欠なものである。
(提供:K. Rasmussen)
いと頭を動かす、木の枝やケージの扉など
周囲の環境にあるものを揺する、地面を何
度も叩く、ケンカをしようと突進するとい
った行動が含まれる。時には、単純に個体
同士が大きな物理的距離を保っていること
から、その個体間の親和性の欠如を推測で
きることもある。親和性の指標となる行動
は、社会的グルーミング、リップスマッキ
なわばりの社会的防衛。
(提供:K. Rasmussen)
ング、近い距離に座るなどの行動がある。
食べ物を分け合う行動(フードシェアリン
く、はっきりとした性皮を持っていない。
グ)も 2 個体間の親和性を測ることに用い
マカクには閉経があり、20 歳を過ぎると、
られる。
月経周期の数は年々減尐していく。
-交尾と繁殖-
一般的に、メスが積極的にオスとの交尾
マカクの繁殖周期は一年中存在する月経
を求める(ボンネットザルはまたもや例外
周期に加えて、季節的な発情期が特徴的だ。
である)。通常、群内の優位なオスがメスと
メスは通常約 2 歳半で月経周期を開始する
交尾することが多いが、下位のオスもメス
が、早い場合約 1 歳半で開始することが報
と交尾し、繁殖に成功することが報告され
告されている。マカクの多くの種は尻や会
ている。アカゲザルの妊娠期間は 5-6 ヶ月
陰部、場合によっては腕や足や顔といった
である。アカンボウは母親に依存しており、
部分(
「性皮」といわれる)が腫れ、赤くな
十分な社会的なスキル、特にアカンボウが
る。排卵周期のはじめから終わり頃に、も
母親としてのスキルを発達させるために、
っとも顕著に腫れあがり赤くなる。ボンネ
だいたい 1 歳になるまでは母親と一緒にし
ットザルとトクモンキーはこの限りではな
ておくことが現在の主流である。
4
社会環境
マカクに本来備わっている社会的性質か
位な個体から身を避けたいという欲求をも
ら、相性のよい個体でのペアあるいはグル
つ個体が完全に逃れるための場所はない。
ープ飼育は非常に重要である。同種他個体
これは、1 頭以上の個体に傷を負わせる(も
の仲間なしに単独で育てることによって、
しかしたら死に至らす)ことと同時に、個
結果的に自傷行動となりえる異常行動パタ
体間の争いに決着がつかず、激化していく
ーンを表出させてしまうということはよく
ことになる。
知られている。単独で飼育されているオト
ナ個体の行動レパートリーでさえも、繰り
それまで小さく安定したコホートで飼育
返す常同歩行・回転・宙返り、異常な攻撃
されていたサルたちを、より大きなグルー
性、うつ状態、脱毛・自咬といった自傷行
プにするべきではない。なぜならば、あら
動など、異常行動の誘発につながってしま
かじめ確立されていた小グループ間での闘
う(
「問題行動」を参照)
。
争が増加するかもしれないからである。新
しいエンクロージャーになじみのない個体
マカクにとってはグループあるいはペア
を同時に入れるというのが、よりよいアプ
飼育が強く推奨されると同時に、世話もそ
ローチである。この方法であれば、個体間
れにあわせてされるべきである。これらの
の連携がまだ形成されておらず、それぞれ
霊長類は優务の順位を確立することに加え
のマカクが他個体のサポートなしで自分の
て飼育下では空間が限られているため、優
順位を確立しなければならない。
マカクのペアを形成するアプローチにつ
いてはこの章の終わりに書かれている。ポ
イントとなる段階には以下のことを含む:
身体の無防備な部分を他個体にグルーミング
自傷行動(SIB)の一つである毛抜き行動の証
されるように差し出すことは、個体間の信頼や
拠が、このマカクの脚である。
(提供:K. Bayne)
親和性の指標となる。
(提供:K. Bayne)
5
・ サルが自分のなわばりとみなさない
場所へ導入すること
・ 顔の表情、姿勢、および個体間の物理
的距離を評価すること
・ ペアをつくるときはゆっくりと進め
ること
・ 闘争が激しくなることを想定し、個体
を隔離する方法を前もって計画して
おくこと(例えば、ケージ間をスライ
ドさせられるパネル、水を使うことな
ど)
・ 個体の導入をおこなう人たちの安全
Primahedrons を用いることでエンクロージャ
を確保すること
ーに三次元的な空間を提供する。
・ 個体間の関係は時間とともに変化す
(提供:K. Bayne)
るので、個体の相互関係を継続的に監
スグループをつくるため、オス同士をうま
視すること
くペア飼育することができる。若い個体と
年上の個体とのペア化の成功例も報告され
マカクの自然な社会構造を取り入れるこ
ている(優务の順位がはっきりしているの
とによって、親和的なペアやグループを作
で闘争が最小限に抑えられる)
。
ることが可能となる。例えば、マカクはオ
物理環境
-施設について-
走する傾向があるので、エンクロージャー
マカクは様々な種類の施設でうまく飼育
内の三次元空間を増やすための止まり木や
され続けている。例えば、島状の環境や囲
棚、その他の構築物も有用である。通常、
い、小屋、屋内・屋外に行き来の可能なエ
年老いたマカクほど固定型の棚や止まり木
ンクロージャー、おりやケージなどがある。
を好み、その一方で若い個体ほどブランコ
エンクロージャーのデザインや大きさに関
を喜んで用いる。鎖の長さによってはマカ
わらず、それらはサルに揺さぶられたり、
クの首が絞まってしまうので、ブランコは
咬まれたりしても耐えうるような頑丈なも
短いもの、もしくはポリ塩化ビニルチュー
のでなければならない。サルは、危険な存
ブなどの、首の周りに輪状にならない素材
在に気づき逃げようとする際に、上方に逃
を用いるべきである。同様に、ロープはバ
6
ラバラにされたり、咬まれたりして、胃閉
がなければならない。サルが泳ぐのに良質
塞の原因となりかねない。それゆえに、大
な水を提供するために、プールは定期的に
抵は綿やサイザルアサ、ジュートのロープ
きれいにされなければならない。
は避けるべきである。
-エンリッチメント-
一般に、マカクは体温を保つ方法がない
マカクは好奇心が強く、知能の高い動物
状態で、寒さや雤天に曝されるべきではな
である。自分たちの生活環境を調べたり探
い。日本の雪山に生息しているニホンザル
索したりする機会を与えることは、彼らの
は、自然の温泉につかることで暖かさを維
生活を豊かにする。これは、サルのエンク
持している。しかしながら、飼育下のマカ
ロージャー内にある玩具を維持することに
クの多くは、凍傷により尻尾の一部や 1 本
よって達成可能である。マカクは色覚を持
から数本の指を失っている。補助的な暖房
っているので、玩具(操作するもの、とし
装置や避難場所を用意することで、この問
ても知られているが)は、様々な色である
題を減らす、もしくは防止しなければなら
べきだ。玩具は様々な形や、質感であって
ない。
もよい。サルはこれらの玩具を咬むため、
イヌ用のきわめて頑丈な玩具のような、比
高温や多湿の状態下では、例えばエンク
較的耐久性の高いものでなければならない。
ロージャー内を追い掛け回されるなどの身
玩具がとても傷つき、サルがその欠片を飲
体的ストレスを経験した場合、マカクは体
み込んだり、それで窒息したりするかもし
温が高くなりすぎるかもしれない。泳いだ
れなくなった場合は、エンクロージャーか
り体を冷やしたりするための浅くて破壊で
ら取り除かなければならない。エンクロー
きないようなプールを与えることは、より
ジャー内で様々な玩具を交換することや、
暖かい気候下で屋外飼育されているマカク
定期的に取り除くことで、玩具に新奇さを
にとって有用であるに違いない。水泳用プ
保ち、サルたちの興味を増大させることが
ールは、サルの溺死を防ぐために底が浅く
できるだろう。
なければならず、咬まれることにも耐久性
ここに示したような水桶は、若いマカクにとって
ゆらゆら揺れる丸太を模そうと、エンクロージャ
泳ぐプールの役目を果たす。
(提供:K. Bayne)
ーに柔軟な塩化ビニルのチューブが設置される。
(提供:K. Bayne)
7
マカクに使われている様々な玩具
マカクに利用された後、玩具にダメージが与えら
(提供:K. Bayne & S. Dexter)
れた。小さな切れ端は動物に窒息の危険を引き起
こしうる。
(提供:K. Bayne & S. Dexter)
探索したり調べたり、といったこれらサ
ルの性向をみたすのにとても有効な方法は、
サルに採食、もしくは探索する機会を与え
ることである。多くの霊長類が彼らの起き
ている時間の最大 70%までを採食関連の
行動に費やしているので、飼育下の霊長類
にこの行動に没頭するような機会を提供す
ることは、異常行動の発達を妨げるには大
おいしいごちそうがパズルボールから出てくる
切となりうるだろう。食べ物を単に入れて
かもしれない。
(提供:K. Bayne & S. Dexter)
おく、あるいはサルに食べ物を引っ張り出
りして、人工芝や人工フリース製の採食ボ
したり押し出したりさせるような玩具など
ードの上に置いても良い。小粒サイズの食
非常に多くの手作りのものや、市販の装置
べ物は、器用に手を使うことを促すし、サ
が利用できる。同様に、食べものを取り出
ルが食べものを探索したり食べたりする時
すのに十分な大きさの穴にたどりつくまで、
迷路の中の食べものをサルが操作できるパ
間の合計を延長する。より栄養のある日常
の食べ物をサルが食べなくなってしまった
ズルボードだけでなく、指の入る穴や溝を
り、過体重になってしまったりするほど多
通してサルが食べものを動かせるような容
くの量の食べ物をエンリッチメントとして
器も利用できる。探索行動を促すためにエ
与えるべきではない。多くの市販されてい
ンクロージャーじゅうに食べ物を隠しても
る食べ物でのごちそうは、様々な香りがし、
良い。また、食べ物を細かく砕いたり、あ
栄養価も高い。
らかじめ粉々になっているものを購入した
8
この個体は、人工皮革の探索/グルーミングボー
ドに入った「粉々の」食べ物を探索している。
(提供:K. Bayne)
(右)コング®の中に詰め込まれたごちそうは、
「探索すること」に費やす時間を延長する手段に
もなりえる。
(提供:W. Brandon)
特別な事例
-年齢への考慮-
逆に、若い個体はとても活発で好奇心旺
マカクは長生きで、中には飼育下で 30 歳
盛だ。エンクロージャーは、身体的安全を
以上になっても生きている個体もいる。こ
犠牲にせず、彼らのこうした特長が発揮さ
の寿命ゆえに、生活史に合わせて変化する
れるように設計されるべきだ。また、若い
動物の本質的なニーズに見合った、長期の
個体は社会的隔離にとても影響されやすく、
飼育が必要となる。その他の霊長類と同様
できる限り同種他個体と一緒に生活させる
に、環境のデザインはマカクの年齢を考慮
べきである。
にいれるべきである。たとえば、高齢のサ
ルは止まり木に飛び乗ったり、スウィング
-個別飼育-
したり、エンクロージャー内を通り抜ける
前提として、マカクの単独での飼育は避
能力が制限されることで、関節炎になる。
けるべきである。もしも個別ケージで飼育
また、高齢個体は視力も落ちることから、
されているマカクが複数いるならば、お互
エンクロージャー内を動き回ったり、同種
いを見る、音声を聞く、匂いをかぐといっ
他個体や人間と関わったりする能力にさら
たことはできるようにするべきだ。できる
に制限がかかる。
ならば、個別ケージのサルたちが、他個体
から見られたくないときに隠れられるよう
9
な視覚的な障壁も得られるとよい。また、
染力をもち、旧世界ザルにとっては致死性
群飼育ができないときには、社会的な刺激
の病である。日常的にサルをチェックする
に代わるような、別の形のエンリッチメン
ことが強く勧められる。マカクは麻疹ウィ
ト(おもちゃや採食機会など)を用意する
ルスにもかかりやすく、人間が発病したと
ことが推奨される。
きに似た発疹がみられる。多くのマカク集
団では麻疹ウィルスのワクチンが注射され
-病気の感染性-
ている。多くの人(ボランティアを含む)
ヒトとの遺伝的距離が近いことから、ヒ
がエンリッチメントプログラムに関わって
ト以外の霊長類はヒトの病気に感染しやす
いることもあるので、ヒトからマカクへの
い。特に懸念されることには、結核のヒト
病気感染の可能性に関して慎重に注意をは
からマカクへの感染がある。結核は高い感
らうべきである。
問題行動
最も適切な行動管理プログラムは、充分
であることを反映している。重要なのは異
にエンリッチメントされた安全な環境でマ
常行動の発達を防ぐことである。なぜなら
カクを飼育し、異常行動の発達を防ぐこと
ば、異常行動はいったん始まってしまうと
である。一方で、マカクを飼育するスタッ
止めさせるのが難しいためだ。個体が社会
フは適切な訓練を受け、マカクの異常行動
的な環境になじむことができると推測され
の出現を認識できるようになるべきである。
る場合において、それまでは個別飼育され
重要なのは、すべてのマカク種が同じ種類
ていた個体を社会的な環境に置くことによ
の異常行動を同じだけ示す訳ではないこと
り異常行動の発現を減尐させることができ
だ。ある種類の異常行動は、最初はわずか
る。サルに毛皮で覆われたアクリル板やコ
にしか表れず、しだいによりはっきりした
コナッツを提供する、つまり、サルにむし
ものになり止めるのが難しくなりうる。常
ることができるものを与えることにより、
同歩行や回転、体の揺すり、旋回、宙返り、
脱毛行動の発生を抑制することができる。
上下動など、繰り返す動きを異常行動は含
しかし、異常行動を他の物に向けることは
む。ケージ舐めや自己抱きしめ、自己吸引、
「治療」ではなく、一時的な修正でしかな
自慰行動、「敬礼行動」、糞食なども異常な
いと考えるべきだ。まれに自咬行動をおも
繰り返し行動である。脱毛や自咬、頭部強
ちゃに向けさせることも可能だが、最近の
打など、マカクにおける異常行動は自分自
報告ではある種の薬剤によりこの行動の発
身を傷つけ怪我することもありうる。
生をより確実に減らすことができるようだ。
異常行動は飼育による望ましくない結果
この場合、獣医の指示に従うべきだ。
であり、サルを飼育するのに環境が不適切
10
安全性の問題
一般に、マカクを対象として働く場合、
がサルに捕まれたり、咬まれたり、ひっか
保定は作業をおこなうのに必要最低限にす
かれたりする危険が発生する。マカクはし
べきだ。しかし、マカクは作業者の安全を
ばしばヘルペス B ウィルスのキャリアであ
深刻に脅かすことがあるため、保定手法は
り、これはサルに対しては無症状だが、ヒ
スタッフとサルの両方にとって確実に安全
トに対しては致死性である。このウィルス
であるべきだ。保定は作業者の手(若い個
性の感染症は、サルによる咬みつきやひっ
体の場合)やケタミンなどさまざまな薬剤
かき、水かけ、針刺し事故、唾液や尿など
の使用、輸送ケージや竿と首輪のシステム
の体液を伴う粘膜や傷ついた皮膚との接触
(注:pole and collar system)
、ある場所
によりサルから感染することがある。これ
から別の場所へサルを移すためのトンネル
らに接触する可能性がある場合、スタッフ
などの装置の使用によっておこなうことが
は適切な保護用品を身に着けるべきだ。
できる。マカクはさまざまな手順に協力す
るよう訓練することができ、それにより必
要な保定の量を減らすことができる。たと
えば、ホームケージから一時的にサルを動
かすために輸送箱に移したり、血液試料を
得るために腕や脚を伸ばしたりするように
訓練できる。このような訓練は、状況に対
するコントロールをサルに与え、ストレス
を軽減するため、エンリッチメントプログ
ラムの重要な一部分である。基本的な飼
育・医療処置に積極的に協力しない場合に
は、サルはストレスを経験するかもしれな
い。マカクのそばで作業する際には、手袋
やマスク、目の保護具など適切な保護用品
を身に着けるべきだ。
さらに、たくさんの種類のエンリッチメ
ント装置を与えるためには、装置をケージ
につける、あるいはケージの中に装置を置
いたり、エンクロージャーの中に入ったり
人による保定や薬物の使用をせずに個体を移動
する必要がある。これにより、飼育担当者
するために、ホームケージを開けている。
(提供:S. Dexter)
11
参考文献
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Psychological Well-Being of Nonhuman
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Washington,
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U.S. Department of Agriculture. 1991.
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Part 3, Federal Register, Volume 56, No.
http://www.aphis.usda.gov/ac/eejuly15.
32.
html (Web site for the U.S. Department of
Agriculture’s
http://www.bioserv.com
supplying
food
treats
(a
company
and
“Final
Report
on
Environment Enhancement to Promote
other
the
enrichments)
Psychological
Nonhuman Primates”)
12
Well-Being
of
マカクの種類
ベニガオザル
カニクイザル
学名:Macaca arctoides
学名:Macaca fascicularis
英名:Stump-tailed macaque
英名:Crab-eating macaque
Bear macaque
Cyno
Brown stump-tailed macaque
Cynomolgus
Irus monkey
アッサムザル
Java monkey
学名:Macaca assamensis
Kra (or Kera)
英名:Assamese macaque
Long-tail macaque
Assam monkey
Philippine monkey
Mountain monkey
Himalayan macaque
ニホンザル
Montane Rhesus
学名:Macaca fuscata
英名:Japanese macaque
Snow monkey
ブトンザル
学名:Macaca brunnescens
英名:Muna-Butung monkey
ヘックザル
学名:Macaca heck
英名:Heck’s macaque
タイワンザル
学名:Macaca cyclopis
英名:Taiwan macaque
ムーアザル
Taiwanese macaque
学名:Macaca maura
Formosan macaque
英名:Moor macaque
Formosan rock macaque
アカゲザル
学名:Macaca mulatta
英名:Rhesus monkey
13
スンダブタオザル
ボンネットザル
学名:Macaca nemestrina
学名:Macaca radiate
英名:Pig-tail macaque
英名:Bonnet macaque
Pigtail macaque
Bonnet monkey
Pig-tailed macaque
Giant rhesus
シシオザル
学名:Macaca silenus
英名:Lion-tail macaque
クロザル
学名:Macaca nigra
Liontail macaque
英名:Sulawesi crested macaque
Lion-tailed macaque
Sulawesi black ape
Lionmaned macaque
Celebes black ape
Wanderoo
Celebes ape
Wanderu
Celebes crested macaque
Ouanderu
Black ape
トクモンキー
ゴロンタロザル
学名:Macaca sinica
学名:Macaca nigrescens
英名:Toque macaque
英名:Gorontalo macaque
Toque monkey
ブーツザル
バーバリーザル
学名:Macaca ochreata
学名:Macaca sylvanus
英名:Sulawesi booted macaque
英名:Barbary ape
Booted monkey
Barbary macaque
Booted macaque
Gibraltar ape
Gibraltar macaque
メンタワイブタオザル
学名:Macaca pagensis
チベットモンキー
英名:Mentawai macaque
学名:Macaca thibetana
英名:Pere David’s stump-tailed macaque
Tibetan stump-tailed macaque
Tibet monkey
トンケアンザル
学名:Macaca tonkeana
英名:Tonkean macaque
14
ペア飼育の標準作業手順の例 - マカク
ペア飼育:5 種類の異なったペア飼育の
仕切られたダブルケージにサルを入れるこ
組み合わせとそのペアリングの手順を以下
と。1 時間後に攻撃のサインが無くなれば、
に記述する。注意すべき点は、集団飼育プ
パネルを開く。もしグルーミングコンタク
ログラムを成功させるためには継続した注
トできるような仕切りが使えるのであれば、
意深い観察が必要であるということだ。サ
代わりにそちらを先に使うこと。ペアにし
ルが成長するにしたがって、関係は変化し、
て最初の 4 時間は 1 時間ごとに、最初の 1
個体を分離し新しいパートナーを見つける
週間は 1 日に 3 回はサルの様子を確認する
ことが必要となるかもしれない。
こと。はじめは、親和的な関係が確立され
るまで夜間はサルを分離すること。
コドモ同士:同性の 2 頭のコドモ(3 歳以
オトナオス同士: 2 頭のオトナオス(4 歳
下)をペアにする。
以上)をペアにする。
サルを適切なサイズのケージで飼育する
こと。ペアにして最初の 4 時間は 1 時間ご
透明なプレキシグラス®(アクリル)パ
とに、最初の 1 週間は 1 日に尐なくとも 3
ネルで仕切られたダブルケージにサルを入
回はサルの様子を確認すること。
れること。もしグルーミングコンタクトで
きるような仕切りが使えるのであれば、代
オトナとアカンボウかコドモ:性別を問わ
わりにそちらを先に使うこと。24 時間後に
ないオトナ(4 歳以上)を、性別を問わな
攻撃のサインが無くなれば、パネルで仕切
い離乳済みのアカンボウかコドモ(8 ヶ月
っていない新しいダブルケージにサルを移
齢から 3 歳まで)とペアにする。
す(縄張り攻撃を避けるため)。オスから繁
殖相手が確実に見えないようにすること。
オトナメス同士: 2 頭のオトナメス(一般
ペアにして最初の 4 時間は 1 時間ごとに、
にカニクイザルの場合、4 歳以上)を、ペ
最初の 1 週間は 1 日に 4 回はサルの様子を
ア飼育する。まだ離乳していないコドモ(1
確認すること。はじめは、親和的な関係が
歳以下)が一緒でも、ペア飼育は可能だ。
確立されるまで夜間はサルを分離すること。
オトナオスとオトナメス:繁殖目的、また
はエンリッチメントのために、オトナオス
(5 歳以上)をオトナメス(4 歳以上)とペ
アにする
透明なプレキシグラス®(アクリル)で
15